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変身ロワイアルその6

606BRIGHT STREAM(3) ◆gry038wOvE:2015/09/02(水) 18:22:38 ID:RQpuUNRs0

 敬語に変えたのは、翔太郎がはやてよりもおそらく年上であったからというだけではない。自分自身が折れない為でもあり、正式な命令である事を強調する為でもある。
 それが自分に出来る唯一の、権限の象徴化だった。翔太郎に力では勝てないが、この場での権威というならば別である。一時的にでも時空管理局の傘下に入ったからには、その組織の命令を逐次聞かなければならないはずだ。
 しかし、翔太郎は、赤みがかった左の頬を撫でながら、はやての瞳を見据えた。

「悪いけど……。俺ももう、小さい子供を置いて逃げるのは御免なんだ」
「……フェイトやユーノの事ですか」
「ああ。俺は、ガドルに負けて、あの二人に任せて逃げる事になっちまった」

 残念ながら、翔太郎は、「組織」に属する人間ではなかった。それどころか、私立探偵という至極自由な身である。自分で決め、自分で行動するハードボイルドを目指す男だ。
 だが、──そんなハードボイルドが、何度、この世界の子供を盾に生き残れば済む事になるだろうか。それは、翔太郎の悔いだ。
 結果的に、関わっただけでも、フェイト、ユーノ、アインハルトと三人も、未来ある子供を死に至らしめたわけだ。下手をすれば、はやても変身能力有者である以上、ベリアルに目を付けられていれば、あそこで死んだ少女たちと同じ運命を辿っていたかもしれないだろう。

「──あの事をこれ以上気に病んだってどうしようもないって事くらいはわかってる。だが、これ以上同じ過ちを繰り返すのは、もっとどうしようもない」
「なら、あたしも行くよ」

 杏子が少し前に出て、言う。
 ──思えば、翔太郎と杏子はあの時、共に行動していたのだ。

「……杏子」
「その理屈で言うなら、あたしだって同じだろ。いや、むしろあたしの方がその原因に近い。……戦えなくても、避難誘導くらいなら出来るだろ?」

 翔太郎同様、この状況にあの瞬間の事を重ねていたのだろう。不安げな表情というか、後悔の念を未だ捨てきれない表情で、袖を握って言う。脇を見て、視線を合わせる様子はなかった。──何故なら、翔太郎を逃がしたのは他ならぬ彼女なのだから。

 しかし、あの時、杏子に後悔の念が襲った事は、確かに今に繋がっている。杏子自身もあの判断によって助けられ、今に至るのだが、──それでも、誰かを餌に生き伸びる時の後悔に勝る痛みはない。
 拭い去れない過去。そして、フェイトという犠牲。年下の少女を利用し、戦いに連れ立った自分の卑屈さ。──それを思い知る。
 杏子には今、変身能力がない。だというのに、意志は固かった。

「いい加減にしてください! あなたたちが過去の自分に出来なかった判断を下したいのはわかります。でも、今はあなたたちにコロナやリオを信用してほしいんです! あの子たちが勝つ事を!」
「じゃあ負ければどうなるんだよ!」
「……それは」

 死ぬ。──そのリスクは充分にある。フェイトたちがそうであったように。
 現在はまだ死亡報告はないが、これは彼女たちがやって来たストライクアーツの領域を超える殺し合いである。参加者ではないが、その組織に巻き込まれてしまったわけだ。
 言うならば、一介のスポーツ選手が軍人との戦争に参戦するような物で、いかなる強さを持って居ようとも、それが必ずしも殺しを目的とする相手に通用するとは限らない。まして、彼女たちはまだ小学生、中学生相当の年齢だ。
 強さも判然としない敵に立ち向かわせるのは、決して正しい判断とは言えまい。
 だが、力の程度に関わらず、戦力となりうる物は全て足止めに使わなければならないのが今のこの艦の状況だったのだ。
 すると、──

「八神艦長、人は強くなけりゃ生きてはいけない。だけど、優しくなけりゃ生きている資格はない。──……あんたは生きてる資格がある奴だと思うぜ。でも、俺たちはあんたの想いを振り切って、行く。……だろ? 良牙、杏子」

 ──翔太郎は、そう訊いた。良牙と杏子は黙って頷いた。
 依然、警告音が鳴り響き続け、その場の沈黙を赤いサイレンランプが周回して彩り続けていた。

「翔太郎さん、良牙さん、杏子さん……」

 ヴィヴィオのような元の世界の知り合いは、コロナやリオを信頼してもいる。そして、はやての指示に抗うにも不相応な気分である事を理解している。


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