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変身ロワイアルその6
605
:
BRIGHT STREAM(3)
◆gry038wOvE
:2015/09/02(水) 18:22:20 ID:RQpuUNRs0
だが、はやての本心が隠しきれてないだけに、良牙はそこから先のアクションを起こす事が出来なかった。──勘の鈍い良牙であっても、その場に流れる空気と目の前の女性の表情が訴えるもどかしさくらいは感じ取る事が出来たのだろう。
そもそも、彼自身、元々、自分の怒りに任せて無抵抗の女性を殴るほど、強さと暴力をはき違えてはいない人間だ。
「……っ」
──良牙は、結局、はやての意図した通りにはやてを憎み切る事はしなかった。
むしろ、正反対だ。力を抜き、怒らず、少し竦んだように見えた。警告音が鳴りやまないが、その一刻を、良牙を哀れみ見つめる視線が鎮めた。
はやての考えは、どうやら裏目に出たようだ。結果的に彼の戦意を奪ってしまった。
はやては、それから少々ばかり優しい声で良牙の名前を呼んだ。
「……良牙くん。あなたたちに、世界が全部かかっているのを忘れないどいて」
「……」
だが、──そのすぐ後に、良牙は蚊の鳴くような声で一言呟いたのだ。
それは──「悪い」、という言葉のように、聞こえた。他の者にはどうだかわからないが、はやての耳にはその一言が聞こえた。
それが謝罪の意味であるのは確かだが、言葉通りの謝罪の意思であるようには聞こえなかった。
「──……っ! でも、それなら、悪いが、あんたたちとは一緒に行けねえ。あんたの気持ちはわかるが、俺は俺の道を行ってやる!」
良牙は、すぐに、険しい顔でそう宣言した。
立ち上がり、引き返す心を決めたのである。
──それは、良牙のお人よしな性格による物であった。そして、いざという時に自分の意思を最優先する、ある種身勝手な性格による物でもある。……彼は、周囲が見えなくなる事は多々あれど、小さな子供を見捨てるほど狭眼ではない。
「……!」
良牙のその時の剣幕に、はやても悪役でいる事を諦めそうになり、一瞬、反論の言葉を失った。──言葉が喉の奥で詰まったのだ。
その隙、だった。
また、誰かが、良牙の近くに添うようにゆっくりと歩きだした。革靴が床を踏む音が警告音をひとたび掻き消す。その男が、良牙に言う。
「──……よく言ったぜ。良牙……俺もそう思っていたところだ。それに、お前一人で行かせたんじゃ、迷子になるしな」
はやてが何か言う前にそう付け加えたのは、黙ってその様子を見ていた翔太郎であった。
彼も良牙の一言によって、何か決心がついたようであった。──彼もまた、はやての命令と自分自身の意思を天秤にかけ、自分の道を選ぼうとしたのだろう。
「……っ!」
このまま行けば、歯止めが効かなくなる──と、はやてはその時、察知した。
険しい顔で、良牙と翔太郎のもとまで詰め寄るはやて。
「駄目ですッ!」
今の彼らは、はやての権限よりも、個人の感情に傾き始めている。だからこそ、今度は、前に一歩出て、良牙と翔太郎の頬を、思い切り平手打ちした──。
────パンッ!、と。
渇いた音が鳴り響く。
良牙と翔太郎の頬に痛みが伝導する。
はやての右手の掌が赤くなる。
「はやてさんっ!」
──周囲がざわついた。
ここまで見てきたはやての性格と、少し異なった態度であったからであろう。責められる事を覚悟の上での行動であったが、はやての表情は、ここにいる全員に向けられた怒りのまなざしに変わった。
「……みなさんには、これからベリアルと戦いに行ってもらわなきゃなりません。敵の強さもわかっていないのに、こんな所で無駄骨を折らせるわけにはいかないんです」
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