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変身ロワイアルその6

604BRIGHT STREAM(3) ◆gry038wOvE:2015/09/02(水) 18:21:58 ID:RQpuUNRs0

「ただ、ニードルだけとは限りません。しかし、確認が取れているのはただ一人。何らかの方法でこちらの座標を見つけ、この時空に立ち入った可能性が高いです」
「そうか……」

 暁は溜息を吐く。何か、後ろ暗い事でもあるのだろうか。
 彼がニードルに固執する理由は、バトルロワイアルの真っ最中では特にない。同一世界出身というわけでもないので、一層不可解であった。
 しかし、この状況下、そんな細かい暁の所作を気にした者は少なく、すぐに杏子が横から口を挟んで言った。

「だけど、これだけの数に来られたらリーダーが誰だろうと関係ないな、もう。敵のリーダーを倒せば終わるってわけでもないし……」

 圧倒的な物量を前にしては、多勢に無勢である。
 ヴォルケンリッター、元ナンバーズ、エリオ、キャロ、ウエスター、サウラーなどはともかくとして、学院の初等部クラスの年齢のストライクアーツ選手までも戦場に駆り出さなければならないというほどの、アースラ側の逆境は覆される様子がなかった。
 世界の平和の為にも死ぬわけにはならない生還者たちは、彼らに全てを任せて逃げ惑うのみで、不甲斐ない想いを噛みしめる。当面の敵とまだ遭遇してさえいないのが余計に胸を悪くした。
 中でも、変身さえできない状況にある佐倉杏子と花咲つぼみは、こうして実戦の場に来てしまうと、「自分たちにこれから何が出来るか」という問題に頭を悩ませる事になってしまうわけだ。
 ──いや、もしかすると、なまじ大きすぎる力を持っているばかりに、それを使わせてもらえない者の方が猛り立っているようでもあったのかもしれないが。

「──くそっ、俺たちは戦えないのかよっ! 元気はあり余ってるってのに!」

 良牙は苦渋を噛みしめて壁を殴った。
 それは先ほどまでのような小さな配慮は一切なく、固い壁に巨大な罅を入れるほど強く殴られる。──彼自身が持っているもどかしさだった。
 コンクリートよりも遥かに硬いアースラの内壁を生身で破壊できるのは彼くらいの物だろう。
 だが、全員がそれと同様の気持ちを抱えているが、良牙のこの一撃を黙って見つめた事でどこか吹っ切れたのかもしれない。その極端な力で表象された怒りは、他の者の頭を少し冷やさせた。

「万が一の事があったらあかんからな……」
「……だからって! 戻るわけにはいかねえのか……!」

 万が一の事があるかもしれない──そんな状況に、自分より弱い少女を立たせている現実に良牙は気づき、憔悴する。
 先ほど、リオやコロナといったヴィヴィオと同年代の少女にも格闘について教える羽目になったが、そこでの実力を見るに彼女たちを怪人軍団と戦わせるというのは酷な話だ。それならば、まだ良牙一人が戦いに出た方がずっと意味があると思える。
 いや、実際のところ、良牙が行ったところで返り討ちのリスクなど少ない。全世界中見回しても、彼やその世界の人間ほど鍛えられた人間はそうそういないほどだ。──怪人を相手にしても、これまで善戦してきた。
 リオやコロナはそれに対し、リスクもある。死んでしまった場合、無駄死にだ。

「そんなに元気があり余ってるなら、それを目いっぱい、ベリアルの方にぶつけてや」

 だが、はやては、良牙を少しでも危険な場に出す判断を下すわけにはいかなかった。良牙にも、臆する事なくそう言った。
 こういう状態になってしまったからには、生還者の命がこの場では最優先になる。──そう、たとえ、秤に乗せられたもう一方が、彼女たちのような小さな少女であるとしても。
 この船に乗りかかった以上、彼女たちもそれを覚悟の上でヴィヴィオに付き添おうとしているのだから。
 はやて自身も、こんな判断は下したくはない。熱い魂を持つ一人の女性として、冷徹で不合理な決定も躊躇いは捨てきれないのだが、仕方がない話だった。

「……っ!」

 だが、もし、それを一言謝れば、良牙も気は緩む。
 悪役のいないもどかしさを良牙が感じ続けるよりは、自分が悪役になる事で彼の気分を落ち着かせておこうと思った。
 だから、この場ははやては、冷たく無責任な言葉を投げかけて、彼らが持つ恨みや無力さは全て自分の胸で受け止めようとした。

「……くっ!」

 良牙ははやてを殴りかからん勢いで、両手の拳を強く握る。


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