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変身ロワイアルその6
594
:
BRIGHT STREAM(2)
◆gry038wOvE
:2015/09/02(水) 18:16:09 ID:RQpuUNRs0
……となると、やはり良牙は“気”について彼らに教授するしかないようだ。もしかすると、魔力と似通った性質を持つかもしれないので、時間をかけてみれば彼らは素早く飲み込む事だって出来るかもしれない。
そう考えた上で、良牙は──再度、獅子咆哮弾について、目の前の人々に原理を伝え始めた。
◆
他の生還者のほとんどが外を出歩いている中、花咲つぼみの部屋を訪ねてきたのは、佐倉杏子であった。つぼみも今は特に外に用事がなかったので、部屋で惰眠の沼に陥りそうになりながら、ベッドに転がっていただけだ。
丁度良かった。──勉強どころではないし、アースラの乗員も殆どは知らない人で話しかけるのに勇気を要する。こうして、つぼみにしては珍しい「退屈」の時間を埋められる相手が訪問したのは、恰好の時間潰しになる。
「杏子さん、もう少しでお茶が入りますからのんびりしていてください」
今は、杏子の訪問に対して、つぼみはとりあえずお茶でも振る舞おうと、Tパックの入った湯呑に沸騰したお湯を注ぎ込んでいる。湯気が立ち、緑茶の香が彼女たちのいる一角に広まって来た。
ドーナツならば残っている分も結構多いので、二人はそれを少しずつ食べ始めていた。美味しいのは確かだが、既にクルーも空き始めている。──が、二人は、雑談でもしながら食べた。
これから向かう場所を踏まえなければ、何て事のない友達同士の訪問とさして変わらない光景だった。
「なぁ、美希って無事かなぁ」
杏子も、他のメンバーが揃いも揃って不在なのでここに来ただけで、別段、用事らしい用事もなく、ただとりあえず、何となく話題でも挙げてこの場を繋ぐ為にそんな事を呟いたのだ。漫画本の一冊でもあればそれを手に取って読みふけるかもしれない。──ただ、今口にしたように、美希の事が不安なのは事実だった。
そんな杏子の無意識の不安に対して、つぼみは、ドーナツをとりあえず平らげて、口の中のドーナツをお茶で流してから答えた。
「……無事を信じるしかありません。それに、きっと生きています。これだけ頑張って探しているんですから、きっといつか見つかるはずです」
「ああ。でも、こっちも探してるけど、ベリアルたちも探してるんだよな」
それは、杏子らしからぬ後ろ向きな発言に感じられた。──今の彼女は、もう少しポジティブであったと思う。
ただ、かつてのような心よりの心配というほどでもない。それは、やはりこうして、美希と孤門を除く生還者全員がそれぞれの世界で守られ、この場に帰ってきているという事実があるからだろう。
それでも心の中に不安が大なり小なり浮かんできてしまうのは仕方のないかもしれない。
「──それに、あたしたちも、美希ももう変身できないし」
その事実が、ネックであった。
つぼみと杏子と美希に共通するのは、元々持っていた変身能力も、あの場で得た変身能力も奪われているという事だろう。
唯一それを破る手段がT2ガイアメモリなどのアイテムであるが、それらの道具の危険性は高く、極力使うべきではないとされている。背に腹は代えられないとはいえ、それらは危機的状況に至ってようやく使用を許される者だと言えるだろう。
そして、美希の場合、最終時点でガイアメモリは所持しておらず、回収したメモリの殆どがアースラに保管されている以上、彼女は丸腰というわけだ。
そこを狙われれば一たまりもない。
「そう、ですね……」
「それに、孤門の兄ちゃんも気になる……あたしたちに、助けられるのか?」
「確かにそれも気になっていました。沖さんみたいに宇宙での活動が出来ればせめてどうにかできたかもしれませんが──」
こうしてお茶を飲んで落ち着きつつあるからこそ、却って死者の話題や今後の不安の話も出しやすいのかもしれない。沖一也の名前が出た事で大きく気分に不調が出る様子はなかった。プライベートな空間で、友人と些細な不安を語らうような物で、内面の心配を全て外に吐き出していくような効果があったのかもしれない。
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