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変身ロワイアルその6
592
:
BRIGHT STREAM(2)
◆gry038wOvE
:2015/09/02(水) 18:15:23 ID:RQpuUNRs0
ヴィヴィオが、良牙を促すように言った。
良牙は、指をぽきぽきと鳴らした後で、首をまた横に振るって、少し低い音を鳴らした。そんな風に体中の鈍りを確かめる動作をしながら、彼は言う。
「任せとけ。とりあえず教えられる事は全部教えてやる。……出来ない奴は、今の自分の戦法をそのままに。──ここで教えた事は全部忘れた方がいい」
──ひとまずは、ヴィヴィオに良牙の持っている技を伝授する所から初めていこう。
教える対象は、とにかく、ヴィヴィオに絞るつもりで教えてみる事にした。──他の者たちは、参考程度に二人の話を聞きながら、真似てみるのが良いだろう。
ヴィヴィオは、一也の使う赤心少林拳も早くにその型に近い物を修得するなど、良牙の目から見ても格闘に関するセンスは非常に高いといえる少女だ。ベリアル戦までに完成させるのは難しいかもしれないが、どうやら変身ロワイアル終了後も精力的に梅花の型の修練をしてみているらしい。
彼女の場合は、己のスタイルを忘れず、あくまで技の一つのバリエーションとして覚えておいた方が良さそうだ。
「──まず、獅子咆哮弾の使い方だ。ただし、これは不幸になるほど強くなる禁断の技だ。強さを求めて不幸を追わないように気を付けろ」
「「「はい!」」」
それは、誰もが最も気にしていた技だろう。
本来、リンカーコアを持たず、魔術の適性もないはずの彼が、あんな衝撃波を掌から出す事に違和感を持たない人間はいない。彼らの世界の人間は総じて神がかり的な戦闘能力を持っているようだが、その中でもとりわけ不思議な原理だ。
「じゃあ、とにかく基本から。……最初に、自分の中で嫌だった事を考えてみたり、思い出したりしてみろ」
「「「は……はい!」」」
それぞれが良牙の言葉と共に、全身に力を溜めながら、それぞれ嫌な事を考えてみた。
頭を唸らせ、友人の死や、己の過去の過ちを再度、鮮明に思い出す。──気分は曇っていく。まさしく、タイミング的にはこの獅子咆哮弾に向いた時期だったのだろう。
気が重くならない人間は、この状況下、どこにもいない。ただし、ある種集中力が試される場面でもあった。
「──そして、獅子咆哮弾!!」
「おおっ!」
良牙が叫ぶなり、良牙の組み合わさった掌から、小さな光が発射された。
不幸の技が良牙の手から表れ、周囲から歓声が上がる。ヴィヴィオ以外、生の獅子咆哮弾を見たのは初めてだった。
ただ、威力を弱めに調整し、考えた不幸も、「チャーシュー麺を目の前で食われた事」くらいに抑えておいたので、この場に被害はなく、獅子咆哮弾も何にも当たらず空中で消える。まるで空気の束が一斉に外に放出されたように、透けた音が聞こえた。
「……と、叫ぶ。ほらできた」
歓声は止んでいなかったが、良牙がそう教えると、続けて、それぞれが外壁に向けて固く構え始めた。──真剣な声で、それぞれが叫ぶ。
「「「獅子咆哮弾!!」」」
………ヴィヴィオを含む全員が声を重ねて、獅子咆哮弾を放とうとするが、その後にあったのは、何も起きない静寂だった。
全員が掌を外に向けたまま、あるポーズのまま止まって、数秒が経過する。
「……」
誰もが、良牙の方を不安そうに見つめた。
ヴィヴィオやコロナはまだしも、ノーヴェやザフィーラですら全く出来る様子がないのだ。そうなると、自分たちより指導者の良牙に問題があるのではないかと思ってしまう。
ノーヴェやザフィーラはあまり気にしていないようだが、至極真面目な弟子たちの様子に少し照れているようだった。
「……あの。できませんけど」
ヴィヴィオが、その場の凍った空気を暖める為に、良牙に訊いた。
良牙の言った獅子咆哮弾が出来る人間がこの場には一人もいない。
だいたいが、考えてみると、嫌な事を考えて獅子咆哮弾と叫んだだけで発動してくれるのなら、今までに彼以外の習得者が出てもおかしくないはずである。
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