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変身ロワイアルその6

578 ◆gry038wOvE:2015/08/11(火) 00:58:16 ID:yQqdBdkE0



 加頭は、それから、変身を解き、別室で白いタキシードを着用し、また冴子のいる場所へと向かった。何度この部屋に通った事だろう。
 培養液に浸かっている冴子は、だんだんと加頭の知る彼女を取り戻しつつある。両腕や両足が再生され、頭部には産毛らしき物も見え始めていた。
 加頭は、初めて、冴子の姿を見て笑顔を見せた。それは、愛娘を見る父親のように優しく──それゆえにどこか不気味にも見える笑みだった。

「──冴子さん。私にも、ようやく、感情のこもった言葉が言えるようになりましたよ」

 薔薇のブーケを透明な硝子の上に乗せ、寄り添うように、冴子の眠るプールに腕をかけてみた。
 その裸身を眺めると、そこには加頭がこれまで知らなかったような黒子や傷までもが復元されている事がわかった。
 ──自分が知る以上に、正確に復元されている冴子の身体。

 そう、ずっとこれが欲しかった。
 だが、身体が繋がったとしても、心が繋がらなければ意味はない。
 かつて手にかけた園咲冴子への愛を必ず証明し、彼女にも愛されたいのだ。
 ──だから、彼は、その想いの全てを込めた満面の笑みで告げる。

「好きです。愛しています、冴子さん。……どうですか?」

 かつて拒絶され、本気にされなかった言葉だ。
 それを聞き届けたのか、不完全な冴子が、ふと、再び目を開けた。──彼女の意思が蘇ったのだろうか。まだ生者の顔色ではないので、あまりに不気味であった。
 加頭もまた、喜ぶより、驚いてしまったほどだ。
 何せこの数日、一度も見られなかった光景である。

「い…………せ…………」
「……」

 冴子の意識や脳組織、声帯が蘇り始めているのか、彼女は、口元で何かの言葉を形づくったようだった。声に出たといえるのは、二音ほど。
 ……しかし、それだけで充分だった。彼女の唇の微かな動きと、その二音だけでも、加頭にはその言葉の意味する事がわかってしまったのだから。
 それでも、──加頭は感情を抑え、余裕ぶって笑みを見せた。

「……少しショックです、冴子さん。ですが、その人はもういません。井坂深紅郎も、園咲霧彦ももういないんです。……だから、私だけを見てください、冴子さん」

 彼女は、井坂の名前を呼んだのだろう。──「井坂先生」と。
 それが、あの時間軸の冴子の最も頼る人であるのは加頭も知っている。
 殺し合いの場でも、冴子はずっと井坂の事を話していたので、その時ばかりは心苦しくも思っていた。

 だが、──今は、違う。
 井坂はいない。そんな人間の事は、この先の二人だけの世界の中で忘れさせてみせる。
 かつての婿であった霧彦の事も、彼女の頭にないように。

「最後のゲームを見ていてください……これを終えて──」

 間もなく、冴子は復活するはずだ。
 それより先に彼らに来られてしまったら、ベリアルから授かった力で、すぐに返り討ちにしてみせよう。
 全ての障害がなくなれば、加頭順と園咲冴子はきっと結ばれる。

「──そうしたら、今度こそ作りましょう、“二人”だけの理想郷を──」

 冴子の傍らに飾られたウェディングドレスは、純白の生地に砕いて散りばめた七色の宝石を不気味に輝かせた。
 そして、冴子の身体は、再度眠りにつき、それから一人で喋り続けた加頭の声には、それ以上、反応しなかった。

 ────彼が、感情の籠った愛を投げかけない限り。



【加頭順@仮面ライダーW GAME Re;START】


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