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変身ロワイアルその6

576 ◆gry038wOvE:2015/08/11(火) 00:57:37 ID:yQqdBdkE0

 それは、長らく感情を顔に出せなかった彼が久々に見せた“表情”だった。
 しかし、だんだんと彼の中の意識がぼやけ始めた。強すぎる力を得たゆえに、肉体や精神が一時的に摩耗して、動かなくなっただろう。

 それから──加頭はしばらく、意識を失う事になった。
 再び、彼が地上を見た時、そこにベリアルの姿はなかったが、彼はにやりと笑った。







 ……また、しばらく時間が経った。


 もう灯りを付ける必要がなくなった暗い空きの一室。──相変わらず、そこは暗がりのまま、何も置かれず、何も飾られず、誰もいなかった。
 かつては、ここで八宝斎という男が処刑されたのだが、それもまるで遠い過去のようだった。彼のように軽い理由で戦いに参戦した者が早くに死亡したのは必然的事実だろう。加頭にとっては興味のない話だ。
 だが、たとえどんな理由であれ──一つの道を突き進むからには、その信念を曲げてはならない。
 ──ここにいる自分のように、逆らわず、曲げず、ただベリアルを信頼し続ける事が、願いを叶える最大の手段だと、八宝斎やサラマンダー男爵や吉良沢優や美国織莉子やレム・カンナギはもっと早くに気づくべきだっただろう。

「──────」

 一糸まとわぬ裸体の腰に、黒いガイアドライバーだけを一つ巻いて、真っ直ぐに歩いていく男がいた。
 ──それが、加頭順であった。

 もはや、財団Xに縛られていた一人のエージェントとしての白い詰襟の制服も脱ぎ捨て、培養液の中にいる今の冴子と同じ、一人の人間の男か女になった。
 加頭が目指すのは、言わばこの世界のアダムとイヴである。

 普段上げていた前髪は、先ほどのベリアルの闇によって、前に倒れていた。──或いは、更に制御不能な重力を発現する彼のメモリが暴走させ、整髪料を洗い落としてしまったのかもしれない。
 感情を自在に表す事が出来るようになった彼は、その時、ただ意味もなく、少し顔を歪ませた。
 細い瞳と白い歯は、普段わかりづらかった端正な彼の表情を自然に際立てていた。

 先ほど計測した加頭とユートピアメモリとの適合率は、「計測不能」。──これが最新鋭の機械が出した結論だ。
 これまで98パーセントだった「残り2パーセント」を埋め、余るほどになった。尚、98パーセントという数字も通常のガイアメモリの所有者ならばまず信じがたい数値であり、加頭自身も「運命」と称するほどだった物である。
 もはや、それは、彼の存在そのものが“人類”ではなく、ガイアメモリと同等に不可解な“ナニカ”へと変身したという事であった。

 加頭はその一室で、また表情を消した。

──UTOPIA!!──

 そのガイダンスボイスと共に、ユートピアメモリはガイアドライバーに装填され、加頭の身体はユートピア・ドーパントへと変身する。
 ──青い炎があがり、雷鳴が鳴り、一斉にこの一室の壁が崩壊していく。
 それが終わると、そこにあるのは、かつてエターナルやダブルに敗れた、崩れゆく理想郷の姿であった。

──BELIAL!!──
──DARK EXTREAM!!──

 追加の音声が鳴ったのは、加頭がベリアルウィルスの力を内部から発動した瞬間だ。
 ユートピアの姿は、だんだんと角ばっていき、崩れかけていたように見えた“理想郷”は、だんだんと彼の頭部で再生を始める。
 体色は一斉に黒みがかり、石堀光彦が発したような黒い闇のエネルギーが彼の外に纏われた。

「────ベリアル……エクストリィィィィィィィムッッ!!!!!!!!」


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