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変身ロワイアルその6

541時代 ◆gry038wOvE:2015/08/02(日) 11:35:46 ID:cMWgAZpE0
 そんな考え事をしていた時、彼らの目の前に山刀翼が現れた。

「雷牙、零。どうやら、奴の目的は人間界でのメシアの再臨だったらしい。思ったよりも早く俺たちが来てしまった為に、叶わなかったようだが」

 ガルムのいたビルの痕をまだ気にして調査していたのは翼だ。
 ビルにはもうホラーの陰はなかったが、かつてメシアを呼び出す為に使われたゲートが存在した。──ただ、生贄の女やバラゴの存在がなかった為、それは叶わず、別のエネルギーによってそれを実現しようとしていたらしい。

 果たして、一体、どんなエネルギーを代替に使おうとしていたのだろうか……?
 零や翼には、その事はまだ謎だったが、それがあの殺し合いの主催をする事で得られるエネルギーだったであろう事は想像に難くない。もしかすると、異世界から抽出したエネルギーか何かだろうか?
 確かに、魔戒騎士も驚くような変身機構が幾つも存在していたが、もしかすると異世界の魔法や科学が関わっている可能性もあるかもしれない。……が、残念ながら零の専門ではなさそうだ。

「──ただ、零。この世界の殆どは、また管理影響下に入ってしまう。いずれ、ベリアルを倒さなければ、人間は管理から逃れられない」
「零さんも一刻も早く、ベリアルを倒さなければなりませんね──」

 と、雷牙がそう言った時、彼の身体が突然、ぼやけた。
 彼の言葉が途切れるように余韻をなくし、彼の手から光の粒子が溢れていく。

「「──!?」」

 零と翼は、そんな雷牙の姿を見てぎょっとする。──雷牙自身も、自分の手を見て、少しばかり驚いているようであった。
 いや、少しではない。かなり予想外の出来事が起きたというような様子である。

「そんな……まだもう少し、この時代にいられるはず……!」
「……まさか……今になって、鋼牙の死が彼の存在に影響を与えているのか!?」

 翼が慌て、そんな事を言った。零が翼の方を睨むような目つきで見つめた。
 ──だが、ふと思った。確かに、翼の言う通りかもしれない。
 もしかすると、鋼牙は本来の時間軸では彼のような息子を作るはずで、それが、あのバトルロワイアルによって叶わなかったのだとすると……。

 そう、零も、あの殺し合いに参加した時点で、別の時間軸が生まれるはずだが、歴史の統合を受けて、あるはずのない記憶を有してここにいる。
 だとすれば、もしかすると──雷牙も、その影響を遅れて喰らってしまったのではないか。
 そう思った零は、眉を顰めて雷牙の方を見た。

「まさか……俺が、もう消えるっていうのか……?」
「もう……? まさか、お前、知ってて……!」
「──っ! すみません、零さん。……そうです……俺は、異世界の未来から来たわけじゃない。……この世界で本来生まれるはずだった、冴島雷牙の思念です……。だけど、俺にはまだ、元の歴史に帰らなきゃいけない理由が……!」

 雷牙自身も、その現象には怯えているようだ。
 未来への返還ではなく、これが消滅を意味しているとすれば……それを防ぐ方法は一つしかない。
 雷牙が将来、また再び生まれ、零に修行を付けてもらう方法は、零の中にもある。

「──……大丈夫だ、雷牙っ!」

 彼は、冷静に、怯える雷牙を見据え、そう言った。
 雷牙は、まだ安心感こそ覚えなかったが、零の方を見て呆然としている。零は、ただ現状を理解していないというわけでも、雷牙がどうでもいいというわけでもないらしいというのは、雷牙にもわかった。
 少なくとも、雷牙の知る零はそんな男ではなかった。

「……約束は約束だ! お前はこの世界のお前なんだろ? じゃあ、俺は必ず、ベリアルを倒し、その後、この世界に生まれるお前が十歳になったら、修行をつける!」

 腕まで消滅していた雷牙を見る零の目は、真剣そのものであった。
 何か、とてつもない意志の込められた瞳──その輝きは、未来も今も決して変わらない。
 優しく強い師匠のそれだっただろう。

 ……実は、雷牙の生まれるはずだった本来の時間軸において、雷牙の生きていた「今日」に、冴島鋼牙と冴島カオルと涼邑零の三人の姿は既にない。


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