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変身ロワイアルその6

500虹と太陽の丘(前編) ◆gry038wOvE:2015/07/31(金) 03:37:01 ID:didGUWPE0

 その虚無感を知らないムースは、震える手で、その短剣を良牙に押し付けようとする。
 良牙は、ムースが構えるその短剣の光を見つめて、少し落ち込んだ気分にもなる。
 この短剣で何が出来るだろう。──良牙ですら、少し力を入れればこのくらいの剣は生身で折る事が出来るのではないかと思う。

「……」

 ムースも、この武器が無効な事くらいはわかっているはずだ。
 しかし、何も出来ないなりに、何かをしたいという願いだけがあって、そのやりきれなさがこの短剣に込められているような気がした。
 良牙は、それを汲み取りながらも、その短剣を受け取らずに、ただ、ムースの目を見つめ直して言った。

「……ムース。俺も、お前が思ってるのと同じくらい、あいつらが憎いぜ。お前がシャンプーを喪ったように、俺もあかねさんを喪ったんだ……」

 まるで諭すような口調で、それは、今までの良牙からは滅多に出てこないような言葉だった。
 だが、これまでの日常とは違い、もっと真剣に挑まなければならない事態と遭遇し、目の前で愛する人との戦いを強いられた彼は、これまでの彼よりもずっと重い言葉を投げかける事が出来た。

 自分自身でも、自分の口から出るのは変な、センチな言葉だと思っている。
 だが──彼は続けた。

「……乱馬もあかねさんもシャンプーも全部亡くして気づいた。──あいつらは、そして、お前も……! 俺にとっては、かけがえのないダチだって! だから、勿論、シャンプーの仇は取るし、お前の想いも奴らにぶつけるつもりだっ!」

 それが、たとえ心が晴れやかにならないとしても──良牙のムースへの本心だった。
 せめて、愛する者を奪った存在に、一撃を与えたいのが彼ら格闘家の想いだ。それはわかっている。復讐で心が満たされないとしても、満たされない理由を知る為に仇討ちに協力させるくらいは、させてやったっていい。
 そして、良牙はムースの差し出した短剣を一瞥した。

「──だがな、俺たちがこれから戦うのは、残念だが、こんな剣じゃ倒せないような相手なんだ。だから、この剣じゃなくて……お前も格闘家なら、お前の……お前の技を教えてくれっ! そいつを……そいつを、ベリアルとかいう奴に叩きこむ!! 約束するっ!!」

 彼も、元は一般人であるとはいえ、戦いへのプライドは持ち合わせている。
 この目の前の老婆や巻物から秘伝の技を受け継ぎ、それを使う事は多くなったが、元々はどの格闘系譜にも存在しない一般家庭の出身である為、「誰かに学ぶ」という事への免疫がなかったのかもしれない。
 ましてや、乱馬やムースのように、同世代の格闘家から技を教わる事など、これまでには絶対になかった事である。あくまで自分自身のセンスを活かして戦いをするのが良牙だった。──そして、乱馬は勿論、九能やムースにも負けたくはないとずっと思っている。
 そんな良牙が、ムースに対して、両手を地についた。

「──頼む。ムース」
「良牙……」

 コロンが、二人の様子を見守った。
 この老婆としては、何か重要な秘伝技を彼に送りたかったところだが、先にそれはムースに山籠もりで修行させて教えていたくらいである。それはムースが熱望しての事であり、彼自身もシャンプーを助けたいと思ってそれに耐えた。
 ただ、その後に、この世界に来た通りすがりの仮面ライダーが、彼らに「ベリアルを倒す事が出来るのはあの世界に入った事のある人間だけ」だと伝えた為、それは果たされない事がわかったのだ。
 ムースには無念であった事だろう。
 それに、実際のところ、あの画面上に映った巨体を破るのに適切な技など、コロンたち女傑族の持つ中国四千年の秘儀の中にもない。──ベリアルが、十五万歳ほど女傑族より長い歴史を持っている存在だというのがその理由の一つなのだが。

「大変あるっ! 街のモニターで──」

 ──と、そんな時、シャンプーの父が、取り乱した様子で良牙たちの前に駆けてきた。
 一応、ここは樹海とはいえ、遊歩道もあり、そこから見える距離に良牙たちがいたので、すぐに辿り着けたようである。
 彼によると、街のモニターに何か大変な物が映ったらしく、良牙たちは、話を中断し、慌てて街の方に向かった。


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