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変身ロワイアルその6

499虹と太陽の丘(前編) ◆gry038wOvE:2015/07/31(金) 03:36:41 ID:didGUWPE0

「──どうせ、お前は帰ってきてすぐ道に迷っていると思ってな。おらたちは、それで先にここに来ていたんじゃ。他の奴らもお前を探して全国の名所に向かった。──それで、おらたちは偶々この富士山近辺を選んだが、お前が来たのはここだったわけじゃ……」

 彼は、シャンプーの事を幼少期から愛していた幼馴染だ。──結婚は、掟によって禁じられているが、彼は未だシャンプーを思い遣り続けている。頑なで一図な男だった。
 その感情を発端として、今のムースが抱いているであろう怒りは、その横顔からも察知する事ができた。

「ムース……」

 良牙はシャンプーの死に目には遭えなかったし、今のところ、この世界でも戦いばかりでモニターをちゃんと見ておらず、シャンプーがいつ死んだのかも全く良く知らない。
 しかし、彼らの場合は、おそらくその死に目をはっきりと見ているのだろう。
 ここしばらく、ずっと、その殺し合いを見させられていたのだ。──眼鏡を外すと何も見えなくなる超ど近眼の彼も、今は眼鏡をしていないながら、おそらく彼が命より大事にしている眼鏡(殺し合いの支給品として盗難されていたが、スペアがたくさんあるので平気だった)であの光景を直視したに違いない。

「……それは俺じゃなくて、ばあさんだ」

 もう一度言うが、ムースは近眼である。超ど近眼だ。眼鏡がなければ何も見えない。ムースが真剣に話していた相手は、コロンであった。コロンはジト目で冷や汗をかいている。
 ……気を取り直して、ムースは眼鏡をかけた。

「……っ! 良牙っ!」

 一見すると冷静にそこに立っていようとしたムースであったが、やはり良牙を前に感情を抑えられなかったようで、木に凭れるのを、不意にやめた。
 その怒りが自分に向けられた物なのではないかと思い、良牙は咄嗟に身構えた。

 ──だが、眼鏡の向こうから、ムースの真剣なまなざしが見えた。
 彼は、拳を振り下ろす事も、良牙を怒鳴りつける事も、ましてや、良牙に何かの責任を負わせようとする事もなかった。

「おらは、そこの砂かけババアと違って、シャンプーの事がもういいとは思っておらん……だがな、良牙。お前のせいだとも思っておらんし、お前を突きだして生き返らせようとも思わん! 出来る事ならおらもこの手で仇を取りたい……! 管理だの抜かしよるあのバカどもを全員、おらの手で倒したい!」

 ムースは、怒りを露わにそう言うが、決して良牙を責める風ではなかった。映像上で、良牙がどう行動しようとも彼にシャンプーを救えるシチュエーションがなかった事をちゃんと理解しているのだろう。
 だが、それは真に怒りのやり場がない虚しさも同時に彼に抱かせていた。せめて、良牙に僅かでも責任があったなら、彼は良牙を躊躇なく殴り、一週間分の怒りをどこかに少しでも発散できたかもしれない。
 拳を固く握り、今にも目の前の木々を薙ぎ倒さんばかりにわなわなと震えている。

「……しかし、残念ながら、おらたちにはそれができん。──だから、せめて」

 ムースはそう言って、その長い袖から何かを取りだした。
 彼は、全身に凶器を隠し持っている暗器の達人だ。今も確実に、百以上の武器を隠し持っているのだろう。
 彼の袖から光ったそれは、短剣だった。

「──この剣を受け取ってくれ! 良牙」

 彼はただ、何でもいいから、シャンプーの仇を取るのに協力したいのだろう──と、良牙は思った。
 全身にある凶器の一つでも、良牙に渡し、それがベリアルの打倒に繋がるのならば、彼はそれで少し気分が晴れると思っているのだ。

 ──だが、実際には、そんな事はないのだと、良牙は知っている。

 それは、天道あかねの仇であるダークザギとの戦いの時に思い知った話である。
 いまだに、あかねの死に直結しているダークザギの死に対して、変な未練が残り続けている良牙だ。その上で、まだ、殺し合いを開いたベリアルなる男も生き残っていた。
 少し、良牙の中に迷いが生まれた。

「……おらの代わりに、これで戦ってくれ、良牙! あのくだらん事の為に、シャンプーを殺した奴を叩きのめすんじゃ!」


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