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変身ロワイアルその6
496
:
虹と太陽の丘(前編)
◆gry038wOvE
:2015/07/31(金) 03:35:36 ID:didGUWPE0
学校の門に凭れて座っている一人の者がいた。頭にバンダナを巻き、中華風の衣装を見に纏った、体格の良い少年。そうしているだけで、どこか風格があるような独特のオーラを持っていたが、今、ここに彼の姿を見ている者はいなかった。
彼の名は、響良牙。
変身ロワイアルを生還した、生き残りである。
幸いにも、こうして生きて元の世界に帰還する事を果たしていた彼は、あのブラックホールにより、彼自身もよく知っている風林館高校の正門に転送されていた。全ての学校は管理の影響で一時休校になっている為、そこに人気は一切なかった。
彼も、気が付くと、こうして門に凭れて目を閉じていたのである。
そして、この場に帰って来た今は、まるで、これまで長く眠っていた状態から目を覚ました気分であった。
「帰って来たのか……俺は……」
良牙は、そこから、無意識に立ち上がり、すぐに、暗く淀んだ顔で俯いた。
……確かにこうして無事に元の世界に帰って来た事自体は喜ぶべき事なのだろうが、到底そんな気分にはなれなかった。
自分が帰って来たこの場所には、もう何もない。──早乙女乱馬もいなければ、天道あかねもいない。シャンプーもいない。あと、誰だか忘れたが、あいつ……あの……えっと……あいつもいない。
帰って来た人間は、親しい人のいない世界にやって来た空っぽな感情を噛みしめなければならない。この寂しさを胸に宿さなければならないのだ。
良牙に限らず、つぼみも、翔太郎も、杏子も、零も、暁も、美希も……きっと、生還者たちは、帰って来た時にこの無情感に晒されたに違いない。例外といえば、あの血祭ドウコクくらいの物だろう。
少しだけこのまま立ち止まっていようかと思ったが、彼はそれからすぐ後に、大事な事を思い出した。
「そうだ……早く、天道道場に行かなくちゃ……」
良牙は、考えた事を呟いた。
そう、彼は今から、あそこで出た死者の事を、その親族や友人たちに伝えなければならない。それを──できれば、このまましばらく隠し通したいくらいだが、今それを有耶無耶にしてしまえば、一生伝えきれないまま終わってしまう気がした。
あかねに結局、大事な事を伝えられないまま終わってしまったように、だ。
「……」
ただ、今、彼は、何かを伝えていく重さを噛みしめると同時に──ほんの僅かにだけ、ある期待もしていた。
天道道場に行けば、昨日までの全てが嘘のように、あの天道あかねや早乙女乱馬がいるのではないか、と。
また、進んでは戻るようなあの途方もない長い日常が待っているのではないか、と。
あれは、本当に別の世界・別の時間軸の彼らなのではないか、と。
そんな事を少し期待する気持ちはまだどこかにあった。
(そんなバカな話……あるわけねえのにな……)
それはあくまで、淡い期待で、現実は甘くないとは知っている。だが、現実の通りだとしても、その時は、大事な事を二人の家族に伝える為に行かなければならないのは確かだ。
見れば、良牙の手には、ロストドライバーやエターナルメモリ、そして、あの殺し合いの証明となるデイパックがあった。
やはり、あれは全て現実で──このエターナルのメモリの中には、天道あかねとの戦いまで刻まれている事を、良牙は受け止めなければならないだろう。
いくら方向音痴の彼であっても、この景色にはどこか見覚えがあったので、ここにさえ来れば、後は、天道道場まで僅かだろうとわかった。──流石に、この場所にいればそこから先は、誰の案内もなしに何とかたどり着く事ができるだろう。
「……そうだよな。今度ばかりは、ちゃんと行かなきゃな」
そう、大丈夫だ。
これまで、何度も何度も通った道である。風林館高校に辿り着くまでに一週間かかった事もあるが、なんだかんだで良牙はここに何度も来ている。
下手をすると、この頃、自宅よりこの風林館高校にいる事の方が多いのではないかと良牙は思った。
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