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変身ロワイアルその6

487時(いま)を越えろ! ◆gry038wOvE:2015/07/27(月) 03:43:32 ID:OupDhxSw0

 ニードルは、全てを明かし、ニタリと笑った。

 ──この世界の人類の敗北は、夢の中で見た通り、もはや明白だ。
 このまま、元通り時が動きだしてしまえば、暁の命はあと十分と保たないだろう。
 すると、今度は彼の脳内にあった世界も、崩壊の予兆さえなく、一瞬で消滅していってしまう事になる──。

「……ッ!」

 ──だが、暁は、そんな現実に、必死で抵抗しようとする。
 勿論、現実はどうしても覆らない。それでも、何としてでも否定しようとした。

「……そんなバカな話があるわけないだろ!? 俺は、ちゃんとここにいる! ずっと、俺は生きてきた──俺は誰かの夢の中の住人なんかじゃない!! これはあんたの使う変な術かなんかに決まってんだ……!」

 暁は、奥歯を震わせながら、自分の身体を殴るように触れてそう言った。
 お前が生きていた毎日は、全部誰かの頭の中で繰り広げられていた妄想なのだ──そう言われて、簡単に受け入れられる人間がいるはずはない。
 心臓の鼓動も確かにある。自分自身が触れているものは、幻や夢じゃないはずだ。今日までの人生は誰かが思い描いたシナリオじゃない……。

「……あなた自身にも、もう全部わかっているでしょう? まあ、自分が虚構の存在だと認めたくないのは、当然の事ですが──」
「うるせえッッ!!!!」

 平然と喋り続けるニードルに、暁は怒号で返した。
 それは、それ以外に返す言葉が全くない証だった。──ニードルの言葉を頭の中に入れたくないのだ。

「……だいたい、なんなんだよオマエ! ──人を勝手に殺し合いに巻き込んで、みんな殺しちまいやがって! それで、今更、人の事を夢だとか何だとか偉そうに!!」

 ちゃんとした反論が、頭の中から引きだせなかった。
 それは、この止まっている暁の意識が、今の暁の中にも微弱ながら存在しているからだ。──それは、暁自身が本当は夢なのだと告げているという事である。
 自分が本当は、ダークザイドとの戦いに絶望した軍人の見た、儚い幻なのだと……。
 しかし、それは、どうあっても簡単に認めるわけにはいかない真実なのだった。

「あなたは本当に、自分の立場がわかっていないようですね……」

 ニードルは、肩を竦ませる。
 暁に対する同情心など、彼の中には微塵もない。むしろ、彼に全てを教え、その心をもてあそんでいるのが楽しくて仕方がないといった様子だ。
 眼鏡を光らせたニードルは、暁にその先を告げる。

「──言ってみればあなたがこれから先、生き残るには我々に協力し、忠誠を誓うしかないんですよ。私が来たのは、ただあなたに真実を教えて絶望させる為じゃありません」
「何っ!?」

 ニードルの言葉に、一瞬、何故か希望のような物さえ感じた暁であった。
 ただ真実を教えて絶望させる為に来たわけではない──それならば、彼らに忠誠を誓えば、このまま生きていけるのだろうか。と。
 そんな、下種のような希望を抱き、縋ろうとする。

 ──消えたくない。
 ──一人の人間として生きていたい。
 ──この夢を終わらせたくない。
 ──夢のまま終わりたくない。

 そんな気持ちは、暁の中にも確かにある。夢や幻の存在は、もし消えたら、人々の記憶からもなくなってしまうのだろうか。
 速水克彦も、黒岩省吾も、ゴハットも、橘朱美も……全部、存在が消えて、このまま人々の中から忘れられてしまうのだろうか。

「あなたにはこれから三つ、未来の選択肢があります。一つ目は、我々に仇なし、あなたたちが負ける事。そこに待っているのは死です。二つ目、あなたたちが万が一勝った場合。あなたは、この世界の進行と共に消滅する。三つ目、我々の仲間になれば、この世界は永久に時を止め、守られ続ける──あなたたちの世界は、半永久的に動き続けられる」

 ニードルは、暁の未来の三つの選択肢を伝えた。ただ、暁はこれを半分も聞いていなかった。頭の中が真っ白になり、ニードルの言葉を解する事ができないのだ。


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