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変身ロワイアルその6

486時(いま)を越えろ! ◆gry038wOvE:2015/07/27(月) 03:43:15 ID:OupDhxSw0

「……あなたの言った通り、今、ここにいるあなたは“本当の涼村暁”ではない。あなたの目の前にいる涼村暁こそが、本当の涼村暁なのです」

 そう、それが──、これまで忘れていた、あの殺し合いの中でも、暁が一切触れる事のなかった真実だった。
 暁も、今まで生きてきた中では全く気づいていなかったが── “ニードルと言葉を交わしている暁”こそが夢で、“ダークザイドとの戦いに挑んでいるこの暁”こそが現実の存在なのだ。
 自分自身は、誰かの空想の産物であり、本当の人間ではなかった。

 このニードルたちは、涼村暁の持つ「脳内世界」から、参加者を具現化し、それを殺し合いに投じたのである。
 それまでに暁に死なれた場合、殺し合いの終了を待たずして暁、黒岩、速水、ゴハットの四人が消滅してしまう為、ベリアルたちの力でこの世界の時間を止めているのだ。
 その為、この世界は他のあらゆる世界のように、「管理」はされていなかった──。

「──あなたは、この荒んだ世界にいた一人の“真面目な軍人”の涼村暁が、絶望的な戦場で望んだ儚い夢に過ぎないんですよ」

 ニードルが、これ以上ないほど残酷に、いま暁の認めたくない事実を告げた。
 それでも、まだ心のどこかで納得できないように、暁は言う。

「俺が……夢……?」

 この世界にいた男──涼村暁は、S.A.I.D.O.Cに属する軍人だった。
 地球を狙う侵略者・ダークザイドから地球を守る為、己の青春を犠牲にして訓練を続け、超光戦士シャンゼリオンとなってダークザイドを迎え撃とうとしたその人生に、ここの暁のような遊び心を挟む暇はない。
 彼は日々、過酷な訓練に耐え、地球の平和を守ろうとした。いわば、戦士になり、この世界に平和を齎す為に生まれてきたような人間だった。
 一人でも多くの人間を救い、人類にやがて希望の光を灯す為──彼はそれに耐え続け、実線でもシャンゼリオンとして、戦い、人々を守り続けた。

 しかし、ダークザイドの侵攻は日に日に強くなり、シャンゼリオンたちだけの力では戦えなくなり始めていた。
 毎日、街が壊れ、人が殺されていく。──それを見るたびに、自分は、何の為に青春を犠牲にしてあれだけ鍛えてきたのか、だんだんわからなくなる。
 やがて、宗方チーフは戦死し、仲間だった南エリは裏切った。
 そして、──暁と共にこの世界で戦ってきた唯一無二の親友、速水克彦は、死んだ。
 あるいは、橘朱美も、黒岩省吾も、ゴハットも、この世界に存在したモデルがいるのかもしれないが、仮にいたとしても、その全てが、この暁が知る彼女たちよりも残酷な真実を持っている事は、言うまでもない。
 この世界において、全ての人類の敗北は、もう目に見えていた。全てが終わろうとしている。

 それでも、戦いのない平和な世界を望み続けた一人の軍人は、終わりに近づいていく世界で──最後に夢を見た。


 こんな世界じゃなければ……。もっと、全部が楽しい世界なら……。
 実を言うと、せめて一度くらいは、女の子とデートがしたかった。
 子供の頃は、本当は戦士なんかじゃなくて、探偵に憧れていた。
 この犬、可愛いな。きっとお金を持った人に飼われていたんだろうな。
 真面目できつい訓練なんて、本当は嫌だった。何度も逃げ出したいと思った。
 でも、世界の為にそんな事は言えなかった。
 ここにいる速水たちと、終わる事のない楽しい日々を送りたい。
 エリは仲間だ。敵じゃない。エリが敵なんて嘘だ。
 僕はせめて、もっとバカになれたら楽しいかもしれないな……。


 その男のあらゆる理想が、ここにいる、不真面目な“もう一人の涼村暁”の世界──シャンゼリオンがふざけながらダークザイドと戦う世界という「夢」だったのだ。
 ──その夢は、どこまでも淡い色を灯していた。
 暁という破天荒な男たちの物語と、戦いと呼べぬふざけた戦いを繰り広げ続けるそんな世界の真実は、ただの一人の男の悲しい夢に過ぎない……いつか醒めるのが夢だった。

「速水克彦、黒岩省吾、ゴハット、橘朱美……あなたの世界の住民たちは全てそうです。そこに立っている“涼村暁”の夢の世界に存在している、彼のイメージや記憶、あるいは願望に過ぎません。──だから、この世界が動き出した時、この“涼村暁”の死と共に、全部が消滅します」


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