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変身ロワイアルその6

484時(いま)を越えろ! ◆gry038wOvE:2015/07/27(月) 03:42:20 ID:OupDhxSw0
 暁は、その緑の車が自分の愛車と同じ、「シトロエン2CV」だと気づき、触れようとする。──が、暁の手は、その中を幻のようにすり抜け、触れる事はできなかった。

 ……一体、何がどうなっているのだろう。

「はぁ……はぁ……」

 この場所を歩きながら、そこで時間が止まっている人々や街の中を──ただ無意識に彷徨いながら、暁はだんだんと自分がどこにいるのかを察し始める。
 何故か、異常な疲労を感じた。体はそこまで疲れていないはずだが、ここに来た時から、心が蝕まれようとしている。ここにいると心が苦しく、今すぐにでも逃げ出したくなる。
 いくら歩いても、足や体は全然疲れないのに、──それなのに、息切れだけは起きた。

「──なんなんだよ、ちくしょう……!」

 いつもの夢の中のはずなのに、そこで見られる全てが立体になっている。これまで見た事のない角度、見た事のない場所、見た事のない光景もまた、今、暁の歩いている中には確かにあった。
 暁はここまで強いイメージを持たない。

 ──だとすれば……ここは、現実……?

「くそっ……!! どこだ、朱美!! おいっ!! 返事してくれっ!!」

 暁も、はっきり言えば、ここにあるのは、「夢の中の世界」などではないと、わかり始めている。この光景が、だんだんと懐かしく見えてきたからだ。
 これが何なのか。ここが一体、何の世界なのか。今日まで生きてきた自分が一体何なのか。──あらゆる答えが、暁の脳裏に提示される。
 暁はそれを必死にかき消した。

「はぁ……はぁ……」

 暁は、ただ、何かに惹かれるように歩いていく。
 足を進めたくはないが、足は勝手に進んでしまう。
 多くの廃墟を、多くの戦火を、多くの死体を横目にしながら、それを乗り越えて、暁は、歩いていく。
 だんだんと動悸が早まっていく。この足を止めようと抗おうとする。
 それでも足は前に出てしまう。

「はぁ……はぁ……」

 どこかで見た奇妙な病院。
 採石場。
 見覚えのある男の死体。
 敵の攻撃で燃え上がる炎。
 飼い主を失い、戦場に取り残された犬。


 そして──

「──……嘘だろ」

 そんな暁がその歩みの果てに辿り着いた場所が、“此処”なのだ。
 暁は、大きく口を開け、“それ”を見ていた。──そんな物が、現実にあるはずはないのだ。
 目の前の光景を否定する。


『誰に向かって物を言っている!! 俺は選ばれた戦士──超光戦士シャンゼリオンだぞ!!』


 夢のラストシーンがリプレイされる。
 先ほどの暁の夢の終わり──この人類が敗北する世界で、まだ戦う意志を止めず、人類の意地をかけて、ただ立ち向かおうとする男の立体。
 その後ろ姿を、暁は直にその瞳で見る事になった。


『────燦然!!!』



 まさしく、その瞬間。
 涼村暁が燦然する瞬間に、この世界は止まったのだと、暁は理解した。


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