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変身ロワイアルその6

480時(いま)を越えろ! ◆gry038wOvE:2015/07/27(月) 03:41:02 ID:OupDhxSw0
 ほとんどのコンパニオンが、フォムラ氏によるその言葉で静まり返る。辛うじて何らかの形で統一されていた物が崩壊し、どういうルールで続けるべきかよくわからなかったのだ。
 これはこのゲームも続行不可能だろうというレベルまで、その場はだんだんと陽気さを落としていった。
 フォムラなる外人コンパニオンだけ、その空気にきょろきょろと周囲を見渡し、自分がまずい事をしたのではないかというのを察し始めている。

「──ケーキは暁?」

 と、そんな時に、外国人コンパニオンへの助け船か、誰か、女性がその続きを詠唱した。
 暁もそこで出来てしまった変な空気が払拭されたのを感じ、満面の笑顔でその先を歌う。これであのフォムラという女の子も気に病まずに済むはずだ。

「ち〜が〜う〜!! 俺はクリスタル!! 丸いケーキは──ぼふっ!! べふぉっ!!」

 ──刹那、べろべろに酔っている暁の顔面に、ホールケーキが叩きつけられた。暁には、一瞬何が起きたのかわからなかった。
 とにかく、二秒後にわかったのは、バラエティ番組などで芸人が喰らうケーキを顔に叩きつけるアレであるという事。──暁の口に甘いイチゴケーキの味が広がるが、それと同時に鼻の穴にも瞼の上にも生クリームだらけであった。

「朱美ぃっ!」
「正解。まあるいケーキはア・タ・シ」

 ……ホールケーキを叩きつけたのは、いつの間にか湧いてきた暁の助手の橘朱美である。暁は、彼女のむくれた姿を生クリーム越しに見つめていた。

「ハイ、解散! 解散! 帰った帰った!!」

 朱美が、ぱんぱん、と手を叩きながら厳しく言った。すると、妙に物わかりの良いコンパニオンたちは、「つまんな〜い」など、本格的に士気を落としたように、それぞれ帰る準備を始め、五秒で帰ってしまっていった。
 ──朱美がたまたま事務所に来てみれば、この有様だったのである。
 ほんの一週間ほど前に暁が失踪した(とは言っても、どうせ借金取りから逃げるか、女遊びに夢中になっていたかしているのだろうと朱美は思っていたが──)きり、三日間ほど朱美も事務所に来なかったが、試しに来てみるとこんな状態だ。
 まあ、いつもの事だが、よく見るといつもよりずっと派手な気がした。

「……まったくもう。暁、一週間もどこ行ってたの!? 悪い物でも食べて入院でもしてたの? 拾い食い? 駄目だよ、落ちてるキノコ食べちゃ……」
「んな事してねえよ……」
「じゃあ何してたの? ──まさか、夜逃げしようとしたとか!?」

 勝手に朱美が決めつけるが、暁は、彼女に何かを語る事はしなかった。──殺し合いに巻き込まれたなどと言っても、誰にも信じてもらえるわけがない。
 だいたい、それを話してどうするのだろう。朱美に慰めてもらうのか? ……いや、あんな暗い事を暁自身も引きずりたくはなかった。いつまでも後遺症に悩まされるより、その出来事を忘れて、もっと楽しい記憶を刻んで進もうとしていたのだ。
 だから、自分が何故いなかったのかは教えなかった。

 朱美の「一週間」という言葉が少し引っかかったが、「へぇ、そんなに経ってたんだ」と適当に頭の中で流す。酔って正常な判断を失っているせいもあるが、そもそも暁はそんなに深く考えない性格だった。
 とにかく、暁は自分の失踪理由について問われても、「うん、ちょっと」とお茶を濁し、今はすぐに洗面所に行って、ケーキを洗い流す事にした。
 それで、ケーキを流すとともに、頭を冷やそうとしたのだが。

「──オヴェェェェェェェェ」

 ……それと共に、洗面所に向けて、何か描写しがたい物を吐き出した。
 思いっきり遊びまくった弊害だ。体力がもう尽きるレベルになったのにも関わらず、三日間ずっと遊んでいる。いくら暁でも、この姿は変だ──と、朱美は思う。
 眠る暇もなく遊ぶ事など、暁でも絶対にしない。眠たくなったら眠り、遊びたくなったら遊ぶのが暁だが、今は、とにかく何が何でも遊ぶ事に夢中になっているようだった。
 その異変に気付けるのは、いつも暁と一緒にいる朱美である。

 彼女は、すぐに暁の横に立ち、暁の背中をさする。

「大丈夫? 暁」
「ん? んー。大丈夫大丈夫。この三日間、一日三回は吐かないと気が済まないんだ」
「それ大丈夫じゃないよ? 暁」


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