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変身ロワイアルその6

461あたしの、いくつものアヤマチ ◆gry038wOvE:2015/07/26(日) 18:15:39 ID:2QeaXfr60

「……ところで、そのメビウスという存在は一体何者だったんだ?」

 そこで、アンドローが口を挟んだ。
 ……すると、隼人は輝かせていた顔を少し曇らせ、そこから先を告げるのを少し躊躇う。その反応は、先ほど、城二がこの地球を汚したのが自分たちだと告げる前の躊躇に非常に似通っていた。
 しかし、やはり、情報交換の都合上、隼人は口に出した。

「……それは、管理される以前のラビリンスの住民たちが制作したコンピュータだ。文明が発展しすぎたラビリンスは、全ての情報管理や仕事をコンピュータに任せるようになってな……。そのコンピュータがやがて自我を持ち、俺たちを支配する事で苦しみと悲しみをなくそうと試みたんだ。それこそが、メビウスだ」

 ……どの世界も、等しく何らかの傷や罪を抱えているようだ。
 元はと言えば、メビウスの暴走とそれによる支配も、その世界の人間たちが引き起こした悲劇だったのである。
 ある意味では先人の行動のしっぺ返しを食らった世代なのかもしれない。
 とはいえ、やはり、自分の世界の人間の弱さが引き起こした事でもある以上、あまり口にしたくなかったのだろう。

「プリキュアは、メビウスに言った。……確かに、メビウスの支配を受ければ苦しみや悲しみはない。──その代わり、幸せもない、と」
「全く、その通りだな」
「俺たちはかつての過ちを乗り越え、今はラビリンスに幸せを取り戻す為に復興の作業をしていたんだ。……せつなと一緒に。だが巻き込まれた」

 杏子の同意は、ラブ、美希、せつな──あるいはもう一人の祈里──の言葉と思しきそれを噛みしめた為の物だった。確かに、彼女たちなら言いそうな言葉である。
 しかし、そんな杏子たちに向けて、突如として、キュゥべえが言葉をかけた。

「……わけがわからないよ。それだけ聞くと、メビウスによって管理された世界のデメリットはむしろ少ないじゃないか。ベリアルの管理と違って、統制された事によって不都合が起こる事はないと思うよ。ずっとそのままでも問題はなかったんじゃないかい?」
「なんだと……?」

 キュゥべえの言葉に眉を顰める隼人。
 しかし、ここでキュゥべえが反論するのも無理はない。彼には感情は理解できないのである。別段、世界を管理したところで彼にデメリットはないのだが、今回の場合、ベリアルの暴挙によって宇宙が滅びかねないので協力をしているだけに過ぎない。

「よせ。こいつにも感情がないんだよ。そのメビウスって奴とかと同じだ。気にすんな」

 杏子が止めに入った。キュゥべえと喧嘩しても意味がないのは、こうして客観的に見るとよくわかる。一緒にいると頻繁に怒りのボルテージが上がるような相手だ。
 杏子も、先に隼人が怒らなければキュゥべえに何か一言言っていたかもしれないが、隼人が同じく掴みかかろうとした時に、少し気分が晴れて、止めるつもりになった。

「……じゃあ、キュゥべえさん、試しにドーナツ食べてみます?」

 と、ヴィヴィオが言った。
 ここまでの話では、「ラビリンスの人間はドーナツで救われた」、「キュゥべえは感情がない」といった情報がある。試しにキュゥべえにドーナツを食べさせたらどうなのだろうと思ったのだ。

「そうだね。折角だから貰っておこうかな。この星の食べ物は別に嫌いじゃないよ」

 しかし、キュゥべえも、大なり小なり味覚はあるらしく、そんな事を言った。
 この星の食べ物がおいしいと思う感情はあるが、ラビリンスの住民たちと違い、これといって、食文化に対する執着や幸福感はないようである。

「……昔は地球にも随分美味い物があったらしいな。いずれ、この星の食べ物も食って見たいぜ……城二」

 アンドローが、そこで付け加えるように言った。
 何故か、その言葉に彼が地球人ではないような──そんな含みも感じられたが、杏子はそれをあくまで口に出さず、自分の中の違和感という程度にとどめた。


 と、その時──。
 突如、二度目の非常警告が艦内に響いた。──今度は、まだ攻撃を受けていない段階でそれが鳴った。


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