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変身ロワイアルその6

436Tomorrow Song ◆gry038wOvE:2015/07/21(火) 01:05:48 ID:RKdo8Dag0

 ──自分を狙った人間を前に、どうしてこうもお人よしでいられるのだろう。

 銃は、薫子に没収されてしまい、それを彼女たちは抵抗する事もなく渡してしまったので、ももかに攻撃の術はない。だが、それでも……何をするかわからないし、たとえそうでなくても、堂々と目の前に顔を出すなんて、気が重くならないのだろうか。
 そんなももかの考えとは裏腹に、つぼみは、ももかの隣に座った。月明かりが照らす階段に、二人で座っていた。

「ねえ、ももかさん……。私、放送でえりかが死んだって言われた時、泣く事ができませんでした」

 つぼみは、ももかと同じく、外の月を見上げながら、えりかの事を口にした。
 えりか──その名前を聞くと、心拍数が上がる。
 実はそれは……つぼみも同じだった。

「実感がなかったんです。あのえりかが死んだなんて言われても、それは嘘だって思いました。でも……いつの間にか、じわじわと胸の中にそれは実感になって……だから──ずっと後になってから、泣きました」

 そう言われて、ももかは、少し意外に思った。
 放送直後のつぼみの反応を、ももかは見ていたが、彼女は泣いてなどいなかった。──だから、ももかは、少し、つぼみを冷たいと思ったのだった。それが、つぼみを憎む原因の一つでもあった。
 しかし、今こうして聞くと、そうではなかったらしい事がわかった。
 悲しい時の反応は涙を流すだけではない。──つぼみもまた、えりかの親友だ。悲しまないはずがないのだ。

 その事実を知った時、ももかは不意に左目から涙が流れたのを感じた。
 それで慌てて、つぼみに、少し砕けた言い方で、おどけたように返す。

「つぼみちゃんはおっとりしているから、ちょっと気づくのが遅れちゃう事があるのかもね……」
「そうかもしれません。──さっきも、ももかさんや、ここにいるみんなに大事な事を気づかせてもらいました」
「大事な事……?」

 訊かれて、つぼみは言った。

「ももかさんも、ゆりさんも……ずっと、何かを守る為に、自分なりの力を尽くして前に進んでいたんです。私は、プリキュアになれなければもう何もできないと──そう思って、進む事や、変わる事を忘れていました」

 ももかにとって、「つぼみがあれから、プリキュアになれない」という事実は初めて聞く事実だ。確かに、財団Xに襲われた時にキュアブロッサムにはなれなかったようだが、一時的な物だと思っていた。これからずっとそうらしいと聞いて、ももかは素直に驚いている。
 もし、先ほどまでのももかならば、それを一つのチャンスとして捉える事ができたかもしれない。だが、今は、そんな事はどうでもよかった。
 仮に、チャンスがあったとしても、自分には何も出来ないと知ってしまった。無防備な姿を晒すつぼみを見ても、そこに危害を加える事はできないのが自分の性格だ。

「ここにいるみんなは、変身なんてできません。でも、それでも……自分が絶対に勝てないような相手にも立ち向かおうとしていました。誰かの為に、自分の為に──」

 つぼみを、体を張って守っていたファッション部の仲間や薫子、デザトリアンやスナッキーに憮然と立ち向かった男子たち、プリキュアであるつぼみを捕えようとしたももかたち。決して、彼らは怖がっていないはずはなかった。
 それでも、やらなければならなかったから、彼らは立ち向かった。
 そんな彼女たちを見ていた時、つぼみの胸は熱くなっていった。

「私ももうプリキュアにはなれないかもしれません。でも、それは戦えないっていう事じゃないんです。……私は、この支配に立ち向かって、また元の日常を取り戻す為に──最後の戦いに挑みます。みんなと、同じように」
「……つぼみちゃん」

 そんなつぼみを見て、ももかの前には、かつてデザトリアンになった自分を救ってくれたキュアブロッサムの姿が重なる。
 キュアマリン、キュアサンシャイン、キュアムーンライト──彼ら、ハートキャッチプリキュアの持っていた意志。

 たとえ、変身できなくても、つぼみの中でそれは損なわれていなかった。
 いや、かつて以上に彼女は──プリキュアであるように見えた。
 だから──ももかは言った。


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