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変身ロワイアルその6

432Tomorrow Song ◆gry038wOvE:2015/07/21(火) 01:04:40 ID:RKdo8Dag0

 ももか自身も、今つぼみに突きつけたその論理を変だと思っている。
 しかし、彼女が否定したいのは世界だ。世界は慈悲を持つ物ではない。だから、ももかの思うようにはならない。
 それでも彼女は、自分の思うようにならない世界への苛立ちを、その象徴である目の前の生還者に、今は向けていた。──彼女以外に、あのわけのわからない、正体不明で理不尽な殺し合いを知る者はいないのだ。
 だから、彼女を悪者にする。

「私の妹は、これまでずっと、私たちを守って来たのよ……? どうして死ななきゃならなかったの……? みんな……みんな……」

 えりかも。ゆりも。
 彼女の周りの人間が二人亡くなった。──彼女の両親や、明堂院家はつぼみの生還を喜ぶ心を持っていたが、彼女はそうではなかった。

「あなたが二人をプリキュアに誘ったんじゃないの……!?」

 そんな問いに、つぼみの全身の冷気が背中に集まった。拳を固く握る。
 つぼみは、確かにそんな事はしていないが、それでも──おそらく、あの殺し合いに招かれたのは、変身能力者ばかりであり、もし彼女たちをプリキュアにした者がいるならば、それが全ての原因であった。
 まさにその発端であるコフレとポプリが、その後ろで小さくなった。彼らも既に、そんな予感は持っていた。
 とはいえ──えりかとプリキュアの縁が生まれたのは、つぼみとの縁のせいでもある。
 かつて、えりかの目の前で変身する事がなければ、えりかは今、プリキュアではないかもしれない。
 こんなに早く命を落とす事はなかったのかもしれない。

 しかし、ももかは、ふと──その問いの醜さ、無意味さに気づき、それを問い詰めるのはやめた。
 だから、ここからは、自分の気持ちが出ないよう、あくまで目的だけを口に出すようにした。

「……あなたを捕えれば、全部やり直す事だって出来る。少なくとも、この世界にいる人間くらいは──」
「あんなの出鱈目に決まってるですぅ!」
「そうでしゅ! つぼみだって、生きて帰ったのにまた追われてしまっているでしゅ!」

 反論したのは、コフレとポプリだった。
 彼女の言葉で、どこか吹っ切れたのかもしれない。

「──出鱈目かどうかは、捕まえからわかればいいっ! これは最後のチャンスなのよ!」

 その発想は──ゆりと同じだった。
 追い詰められた人間は、時として、どんな幻想にでも縋るしかない。──大事な物を喪った者ほど、突拍子もない宗教や嘘のような詐欺の魔の手には引っかかり易いように。
 それがいかに怪しいからを知ったうえで、それでも、「もしかしたら」の希望に賭けている。彼女はそうして、戦おうとしている。

「駄目……っ! そんな理由で、つぼみは──渡さない……っ!」

 その時、そう言って、つぼみとももかの間に、割って入るように立つ者が現れた。
 震えた声だ──つぼみの後ろから、ゆっくりと、そこに現われ、目を瞑り、両手を広げて、「撃つなら自分を撃て」とばかりに、ももかにそんな言葉を突きつけたのだ。
 彼女は、つぼみと並ぶほどの引っ込み思案で、いつきと親しかった──沢井なおみだ。

「なおみ……!」

 弱気な彼女が、勇気を振り絞って、銃口の前に立とうとしていたのだ。
 つぼみでさえ、そんな姿に唖然とした。
 すると、その行動を引き金にして、つぼみと薫子の周りを、ただ黙って、志久ななみ、佐久間としこ、黒田るみこが、手を広げて囲んだ。

「つぼみは絶対渡さない……!」
「みんな……!」

 つぼみを守る壁が、つぼみの周囲全体を塞ぐ。コフレもポプリも……。
 彼女たちが危険を顧みず、つぼみを庇おうとする姿に、つぼみは、ただただ驚くしかなかった。衝撃ばかりが大きく、この感情を今説明するのは難しい。
 ただ、彼女たちは、日常を共に過ごすだけの友人ではなく──もっと深いところで繋がっている友達なのだと、つぼみは再確認した。


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