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変身ロワイアルその6

425HEART GOES ON ◆gry038wOvE:2015/07/21(火) 01:01:54 ID:RKdo8Dag0
 自分が助かると同時に、この戦いには助からない人もいた。
 それを実感する時が、ここに帰ってきて一番辛い時だった。──この世界が支配されていたと聞いた時よりも、彼女たちの死をここにいる人たちが見てしまった事の方が、遥かに辛い。そして、喪った仲間は誰もここに帰れない事も……。
 二人の妖精は口を噤んでいる。

「……今は、そっとしておきなさい」

 薫子が、優しい口調で言った。
 二人のケアは彼女が行っている。──ここにいる者で、一番老齢で落ち着いているのは他ならぬ彼女であった。
 かつて最強のプリキュアとして君臨した精神力に加え、今は長い人生経験ゆえの落ち着きまで持ち合わせている。彼女もこれまで、人生の中で自然と祖父、祖母、両親、夫──即ち、つぼみの祖父も亡くし、周りで友人が亡くなる事も珍しくないほど生きている身だ。
 人はだんだんと、親しい人が死んでも泣かなくなる。だが、泣く人間の気持ちや傷つく人間の気持ちがわからなくなるわけではない。だから、彼女が子供の面倒を見るのに丁度良い。

「つぼみ。この世界の事は、ちゃんと聞いてる?」
「ええ、オリヴィエに」
「そう。この世界が“ベリアル”によって侵略されている事は知っているのね」

 つぼみも洞窟の中でオリヴィエに全てを聞いていた。
 ただ、その事実を聞かされた事で精神が摩耗するような事はなかった。
 ここに来た時点で、何となく管理の事情は察していたし、正体不明の何かによって世界が侵されている気味の悪さが払拭された気分で、むしろ説明を受けた事は清々しいくらいだ。
 それに──、あの“管理”に対して、屈さずにこうして戦っている人々がいるという事実もまた、つぼみには心強い話である。

「……とにかく、私が何とかして……早くそのベリアルを、倒さなきゃ……」

 そう言ってつぼみはまた起き上がろうとする。──体は、ちゃんと起き上がるようだった。
 バトルロワイアルの終盤で身体の回復が起きたせいか、実質、彼女にはあかねとダークザギの二名との戦闘分の傷しかない。身体的には比較的健康な状態でもある。
 ここでその姿を見るつぼみの友人たちは思う。
 鶴崎先生は、「お前たちはこれからもつぼみとはいつも通り接しろ」と言ったが、これでも──つぼみにいつも以上の感謝をしてはならないのか……と。
 つぼみを哀れむような瞳が多くある中で、ただ一人、薫子は、険しい顔でつぼみに訊いた。

「つぼみ、一つ訊いてもいいかしら?」
「何ですか?」
「あなた……今、変身はできる?」
「え?」

 唐突に、薫子がそう訊いたのを、つぼみは怪訝に思った。
 しかし、そう言われて考えてみると、先ほど、ある異変が起きたのをつぼみは振り返ってしまう──。

「そういえば、さっき……何故か、変身ができなくて……」

 財団Xに襲われた際、何故かつぼみの姿はキュアブロッサムには変わらなかったのだ。
 それを聞いた時、──そこにいた全員の顔が暗く沈んだ。
 既に、薫子から何か嫌な予感の根源を聞いていたかのようである。

「そう、やっぱりね……」
「え?」

 薫子たちは、何故つぼみが変身しなくなったのか、知っているらしい。

「あなたは、この二日間、短い時間で花の力を使いすぎてしまった。妖精であるシプレを通さず、何度も何度も……。そのせいで、プリキュアの種にも限界が来ているわ」

 そう言う薫子の目を、つぼみは見続けずにはいられなかった。
 ただ、呆然と、薫子の瞳を眺め、次の言葉を待つばかりだった。
 そして、薫子は一泊だけ置いて、口を開く。



「あなたはもう、キュアブロッサムにはなれないかもしれないの」



 薫子は、その信じがたい事実を、ある意味では非常に冷徹に突きつけた。


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