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変身ロワイアルその6

421HEART GOES ON ◆gry038wOvE:2015/07/21(火) 01:00:42 ID:RKdo8Dag0

 と、薫子は思い、微笑みかけた。全く彼女たちの事を知ろうとしていなければ、薫子の最初の言葉だけで何かに気づけるはずはない。

「鶴崎先生。私は、あなたが二人の担任で良かったと思います。だから、どうか……彼女たちが自分を守ってくれていたなんて思わないでいてください。彼女たちはあなたのヒーローじゃなくて、あなたの生徒でいたいんです」

 いつか、つぼみたちに関わった人たちには、これを教えていく必要があるだろう。
 彼女たちが本当に望んでいるもの──明日からの日常について。
 そして、ここにいる人たちは、また変わっていく。つぼみたちのように、誰かの心を知って、それを認めて前に進んでいく事ができるはずだ。

「そうでしたか……」
「ええ」
「……ありがとう、ございます」

 これが終わったら辞職する事も考えていたが、鶴崎はそれを取りやめる事にした。
 これからも教師を続けていかなければならない。えりかはいないかもしれないが、つぼみや、ここにいる彼女のクラスメイトたちとともに。
 今も、彼女のクラスだけは誰一人欠ける事なく、この学校に来ている。制服を着用している人までいるほどだ。

 鶴崎はハンカチを片手に、廊下へ出ていった。

「……えりかのバカ……そんな事ないって……みんな、お前にいつも通りに接してくれるって、……みんな、いつも通りに笑ってくれるお前を待ってるって……私が教えてやる前に、なんで死んじまうんだよ……」

 だが、鶴崎のこころはどこか救われたが、その一方で、そこで救われない感情も湧きで来るのだった。
 それでも……薫子は、そんな鶴崎の後ろ姿に目をやって、これで良いと思っている。
 薫子は、また、少し外を見た。僅かばかり視線を上にあげた。

(……えりか。あなた、本当に良い先生を持ったわね)

 だが、薫子の胸に、少し何とも拭いきれない気持ちが残るのも事実だ。
 そう。えりかの命を奪ったのが誰なのか、という事。──それは、この場においては一つの禁則事項となっていた。
 誰も、ここでそれについて多くは語らない。
 加害者の名前を全員が知っているはずでありながら、誰も口に出そうとはしなかった。

 もしかすると、多くの人にとっては事情を鑑みて許せる話であっても、誰かの胸には、“月影ゆり”への恨みが湧きでているのかもしれない……。
 鶴崎も──あるいは薫子自身もそうだが、ゆりに対して沈黙する態度に、どうも、尾を引くものを感じざるを得ないのだ。







 オリヴィエとつぼみは、学校から少し離れた裏山の小さな洞窟の中にいた。
 裏山はともかく、そこにこんな場所があるなど、つぼみも全く知らなかったが、オリヴィエは、まるで土地勘があるかのように、その洞窟の奥へと進んでいく。

「どうしてこんな所に……?」
「直接学校に行くのは無理だ。ここに抜け道があるからそれを通って行く」
「いつの間にそんな物を……」
「一週間前、この街に来て徹夜で作ったんだ。学校に集まる事は、この街のみんなにも伝えてあったから……」

 学校の周囲が隙間なく包囲されていた為、校庭に侵入するにはオリヴィエが掘り出した地下通路を通る必要がある。コッペの結界は悪意を持つ者だけを拒む為、つぼみやオリヴィエはそこから出入りできるらしいが、やはり地上からは無理だ。
 ただ、出入りの為に出来上がったその場所は、通路といっても、それはまるで脱獄囚が掘り出した抜け穴のような物だ。

 姿勢を低くして土の中を二十分這う事でしか目的地にたどり着けないという、女子中学生には非常にきつい場所だった。
 中は暗く、蒸し暑く、空気も悪い。場合によっては、虫が出る。当たり前に土だらけになるし、今のつぼみは髪留めをしていないので、髪の中に大量の泥が混ざるかもしれない。


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