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変身ロワイアルその6

369崩壊─ゲームオーバー─(10) ◆gry038wOvE:2015/07/12(日) 13:59:16 ID:OT9PV3kg0


 しかし、自分の周りが平和に見えても、当然、死の病や自然の脅威や人間同士の戦争はあり、その時もどこかで誰かの命が消えようとしていた……。
 たまたま、そこにいた一人の少年も、今、まさに生命の危機に直面していたのである。

 彼は、足がつかない川の中で、必死にもがいていた。
 だが、その川の流れは驚異的に早く、今にも自分を容易に飲み込もうとしていた。
 足がひたすらに沈んで動かない。脱げた靴が一瞬でどこかに流れていった。

 助けてくれる人は周囲にはいなかった。
 だから、少年は、やがて、意識が薄れていく中で、死を覚悟した。
 少年の心を、絶望が埋め尽くしていく。
 父さん、母さん……ごめん……。

「────諦めるな!」

 しかし。
 しかし、その時──孤門一輝がレーテの中で蒼乃美希に差し伸べた手と、その言葉が、遠い昔……川で溺れ、死の恐怖を前に絶望していた一人の少年のもとに届く事になる。
 少年は、その手を掴み、その手に導かれ、濁流の中から抜け出す事ができた。



 その少年は、岸部で、孤門に礼を言い、聞いた。

「……お兄さん、誰……?」

 岸部にその男の後ろ姿が見えた。──どこか、人間らしくない、しかし──いつかこんな男になりたいと思えるような、男の背中。
 次の瞬間、その男の姿は、まるで銀色の流星のように、すぐに光の中に消えてしまった。

 少年は、その様子を不思議に思った。
 ……宇宙人?
 自分は宇宙人に助けられたのだろうか。……いや、そんなわけはないか。

 少年は、濡れた体で己の手を見た。
 あの名前もわからない誰かの誰かを救おうとする意志が、この腕の痛みに残っている。

 ────この手のぬくもりと、この言葉を忘れない

「諦めるな……」

 ただ一言、呟いた。
 いつまでも、この言葉を胸に生きていこう。
 どんな絶望の中でも、絶対にこの言葉を忘れないように……。



「諦めるな」



 そして、少年は、この時、誰かの命を救う人間になる事を決めた。
 この時、川に流され、奇跡的にも生還した少年の名前は───孤門一輝。
 後にウルトラマンの光を授かり、“自分を救う事になる”男の名前であった。



 “大人になった孤門一輝こそが、川で溺れた少年・孤門一輝を救った男だった”──。
 まるで仕組まれた運命のような、偶然だった。
 この奇怪な事実は、当人も含め、誰も知る事はない……。







(一体何が……、まさか……孤門さん!?)

 レーテの中では、巴マミの周囲を蝕んでいた闇が、一斉に晴れていった。


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