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新西尾維新バトルロワイアルpart6

1名無しさん:2013/06/10(月) 21:34:44 ID:r8aCgNWo0
このスレは、西尾維新の作品に登場するキャラクター達でバトルロワイアルパロディを行う企画スレです。
性質上、登場人物の死亡・暴力描写が多々含まれすので、苦手な方は注意してください。


【バトルロワイアルパロディについて】
小説『バトルロワイアル』に登場した生徒同士の殺し合い『プログラム』を、他作品の登場人物で行う企画です。
詳しくは下の『2chパロロワ事典@wiki』を参照。
ttp://www11.atwiki.jp/row/


【ルール】
不知火袴の特別施設で最後の一人になるまで殺し合いを行い、最後まで生き残った一人は願いが叶う。
参加者は全員首輪を填められ、主催者への反抗、禁止エリアへの侵入が認められた場合、首輪が爆発しその参加者は死亡する。
六時間毎に会場に放送が流れ、死亡者、残り人数、禁止エリアの発表が行われる。


【参加作品について】
参加作品は「戯言シリーズ」「零崎一賊シリーズ」「世界シリーズ」「新本格魔法少女りすか」
「物語シリーズ」「刀語」「真庭語」「めだかボックス」の八作品です。


【参加者について】

■戯言シリーズ(7/7)
 戯言遣い / 玖渚友 / 西東天 / 哀川潤 / 想影真心 / 西条玉藻 / 時宮時刻
■人間シリーズ(6/6)
 零崎人識 / 無桐伊織 / 匂宮出夢 / 零崎双識 / 零崎軋識 / 零崎曲識
■世界シリーズ(4/4)
 櫃内様刻 / 病院坂迷路 / 串中弔士 / 病院坂黒猫
■新本格魔法少女りすか(3/3)
 供犠創貴 / 水倉りすか / ツナギ
■刀語(11/11)
 鑢七花 / とがめ / 否定姫 / 左右田右衛門左衛門 / 真庭鳳凰 / 真庭喰鮫 / 鑢七実 / 真庭蝙蝠
真庭狂犬 / 宇練銀閣 / 浮義待秋
■〈物語〉シリーズ(6/6)
 阿良々木暦 / 戦場ヶ原ひたぎ / 羽川翼 / 阿良々木火憐 / 八九寺真宵 / 貝木泥舟
■めだかボックス(8/8)
 人吉善吉 / 黒神めだか / 球磨川禊 / 宗像形 / 阿久根高貴 / 江迎怒江 / 黒神真黒 / 日之影空洞

以上45名で確定です。

【支給品について】
参加者には、主催者から食糧や武器等の入っている、何でも入るディパックが支給されます。
ディパックの中身は、地図、名簿、食糧、水、筆記用具、懐中電灯、コンパス、時計、ランダム支給品1〜3個です。
名簿は開始直後は白紙、第一放送の際に参加者の名前が浮かび上がる仕様となっています。


【時間表記について】
このロワでの時間表記は、以下のようになっています。
 0-2:深夜  .....6-8:朝     .12-14:真昼  .....18-20:夜
 2-4:黎明  .....8-10:午前  ....14-16:午後  .....20-22:夜中
 4-6:早朝  .....10-12:昼   ...16-18:夕方  .....22-24:真夜中


【関連サイト】
 まとめwiki  ttp://www44.atwiki.jp/sinnisioisinrowa/
 避難所    ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14274/

639 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/06(金) 22:53:07 ID:aUdM2l2E0


   ★    ★



 ソファへと座り込んだまだら髪の男は、放送を聞くと意味もなく息をつく。
 やはりそこに転がっている金髪の死骸は『真庭鳳凰』であり、重畳なことに『供犠創貴』も爆殺――おそらくは爆殺だろう――ができた。
 しかし、零崎人識の顔色は優れない。水倉りすかの『魔法』による影響も少なかれあるだろうが、それ以上に、これから起こるであろう展開が憂鬱で仕方がないとい

った調子である。

「しーちゃんはいつまでそんな顔してるのさ。舞ちゃんたちはもう来るんじゃない?」
「……ふう」

 群青の小言にも息を零すばかりだ。
 脱力し、一層とソファに背を預けると、天井を見つめる。
 血の匂いが充満していた。鼻をひくつかせる。
 勿論真庭鳳凰の血潮が満ちている今とは、その臭いの濃度は全く異なっていただろうが、
 無桐伊織はこんな血の満ちた診療所に閉じこもっていたらしい。そう思うと、同行していた櫃内様刻の豪運さも甚だと言ったところか。
 直前に西条玉藻を屠ることである種のストレスを解消していたこと、それが功を奏していたのだろう。
 両足が骨折したいたことも要因の一つではあろうが、いざとなればそのぐらいの些事など彼女は意に介さない。
 逆立ちしたって対象を殺しにかかるに決まっている。そのことは最初の出会い、彼女の手首が切断されていた場面を思い返せば容易に想像ついた。

「やれやれ」

 言葉を零す。
 哀川潤も死に、次いで懸念していた黒神めだかもどこぞの馬の骨に殺されたらしい。
 だから彼を悩ませるのは、『妹』である無桐伊織に他ならない。
 あの叱責のような数々も『戯言』と済ませられたらどれだけよかったか。
 頭を抱える要素は諸々と挙げられるけれど、ひとまず開き直るとして目先の問題を投げかける。

「実際、両足骨折したままでこの先やってけると思うか?
 いっそのこと切断しちまえば俺もやりやすいが、しかしそんな達磨じゃあ生き残れねえだろ」

 似たような経験なら以前にもしている。
 綺麗に両足を切断さえできれば、処置するのも難しくない。
 ただし、そのあとの世話まで見切れるかというと厳しい面は否めなかった。
 真庭蝙蝠、鑢七実、球磨川禊、加え主催陣の数々。ぱっと思い浮かぶ限りでも、障害はそれだけいるというのに。
 玖渚友は携帯電話から目を離し、虚脱したままの人識に目を向ける。

「ふぃーん? 見てみないことには視診することもできないけど、話を聞く限りどの道歩くのは厳しそうだよね。
 生還した後、あの義足作った人に頼めるのなら切り落としちゃってもいいとは思うけど。……でもたかだか骨折なんでしょ?」
「ま、そうなんだけどよ。変に後遺症残されちゃあどうにもな。結構骨折って動かすと痛(いて)ーし」

 骨折できるだけありがてー話なんだけどな。
 と、義足の話から連想してか、武器職人の『拷問』のことを回顧しつつ呟く。
 あの時は社会的な面からあの時は曲識、そして『呪い名』に頼らざるを得なくなったが、今にしたってその状況は大差ない。

「曲識のにーちゃんまで死んじまった以上、俺の人脈は完全に断たれたといってもいい。
 それこそおめー、『玖渚』なんだろ? 手数料ってことでちったぁ面倒見てくれよ」

 『壱外』、『弐栞』、『参榊』、『肆屍』、『伍砦』、『陸枷』、シチの名を飛ばして『捌限』。
 西日本のあちこちを陣取る組織を束ねる、怪物のようなコミュニティの、その頂点、『玖渚機関』。
 大抵のことならば、『玖渚機関』の手にかかればどうとにでもなる。『四神一鏡』に比べれば劣るが財政力も尋常ではない。
 玖渚友も(復縁可能となったとはいえ形式上は)部外者ではあるものの、『機関』の方に少なくない影響を与えることはできる。
 人識にしてみればそこらの裏事情を知るべくもないけれど、『玖渚』と聞いて『玖渚機関』に思い至るのは自然なことだった。

640 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/06(金) 22:54:03 ID:aUdM2l2E0

「んー」

 友は人差し指を唇に付け、何か思案するような様相を見せる。
 『玖渚』にとって――というよりも、『表の世界』、『政治力の世界』、『財政力の世界』の住人にとって、
 『零崎』を含む『暴力の世界』の住人との接触は極力忌避すべき事態だ。かつての友をして「怖い」と言わしめる住人たちである。
 本来であれば、人識、それに伊織とも深い関わりを持つべきではなかった。

「助けてもらってるのも事実だしね。なんとなったらなんとかしてあげる」

 その点「部外者」という位置づけは融通が利くのか、友はあっさりと二人ともを受け入れている。
 『殺人鬼』の申し出も殊の外すんなりと承諾し、協力関係を維持することを選んだ。
 これまで色々と綱渡りをして生きてきた彼女であるが、今度は人識を当面の便りとするらしい。
 暗黙の内に相互の利害関係を一致させると、人識は力なく笑う。

「かはは、しかしよ。手筈は整ってるのか? 一人だけじゃなくて全員脱出できるようなやり方は」

 じゃなきゃ、どんな約束も意味がない。
 暗に告げる人識の物言いも、友は迷うことなく答えた。

「いんや? 全然? 首輪も解除できてない時点でお察しだよね」

 思わずソファからずっこける人識を他所に、青色サヴァンは至って変わらぬ調子で言葉を続ける。
 手には、いつの間にか何時間前まで解析していた首輪が握られていた。
 解析が進んでいる様子には見えない。
 されど、不敵な形相を浮かべたまま。

「でもさ、そんなこと関係がないんだよ」
「どういうこった?」
「私が何をしようがしまいが、あの博士(ぼんさい)たちがどれだけ策に策を重ね、奇策を弄そうと、
 そんなの関係なく、向うの陣営は遠からず自壊するよ。間違いなく」
「首輪を外せもしねーのに、何の根拠があるんだよ」

 呆れの入り混じる人識にも意を介さず。
 疑念や不安など一切抱いていない、混じり気のない様子で、問い返す。

「だって、この私を、なによりいーちゃんを巻き込んだんだよ?」
「……なるほど、それは違いねえ」

 無為式。
 なるようにならない最悪。
 イフナッシングイズバッド。
 限りない『弱さ』ゆえに、周囲の人間をことごとく破滅させる体質。
 この場合において、これ以上なく説得力の伴う証左であった。
 人間失格は息を漏らし首を振ると、意識を切り替える。

「じゃあとりわけ、まずは伊織ちゃんをどうにかしねえとなあ」

 首輪が現状どうにもならないのなら、どうにもならないまま、これからをどうにかしなければならない。
 出来ないことに頭を悩ませるぐらいなら、『家族』のこれからのことで頭をひねるほうが幾分かマシだ。
 視線を落とし、リノリウムの床に目を遣る。漫然と床を見つめながら、漠然と思考を走らせていると。

「……………………」
 
 青色から熱烈な視線を注がれていることに気づく。
 なんだ、と言わんばかりに睨みを利かせながらもう一度視線を向けると、ぽつねんとした声色で、零す。

「しーちゃんは、変わっちゃったの?」
「あ?」

 玖渚友の要領の得ない物言い。
 判然としない言い分に不快を露わにしながら人識は窺う。
 対する友は而して態度を改めることもなく、静かに続けた。
 懐かしむようにして、慈しむようにして、かの戯言遣いに想いを馳せながら、続ける。

641 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/06(金) 22:54:51 ID:aUdM2l2E0


「いーちゃんはね、変わらない」


 砂場で出逢ったあの時から。


「いーちゃんは本当に変わらない」


 六年前のあの時から。


「いーちゃんは変われないんだよ、ずっと、永遠にね」


 四月の鴉の濡れ場島の時も、五月の通り魔事件の時も――今に至るまで、未来永劫、『彼』と友は何も変わらない。
 はずだった。
 友は問う。


「しーちゃんはさ、変わっちゃうの」


 そういえば。
 クラッシュクラシックで戯言遣いと会話をしたのはいつのことだったか。
 あの時人識は戯言遣いの言葉を盛大に笑い飛ばしたが、あれは、もしかすると、彼なりの『変化』ではなかったか。
 らしくもない笑い種というのであれば、先の『兄』の叱咤と何が違うというのだろう。
 欠陥製品は変わった。
 鏡映しである人間失格もまた、変わったと言えるのか。
 

「さあな、傍から見てそう見えるんならそうなのかもな」


 自らの頬を撫でる。
 トレードマークの上から刻まれた傷口をなぞった。
 『妹』のために受けた傷。己の象徴を汚してまで守り抜いた絆。
 実に分かりやすい、理解に容易い存在になってしまった。『家族』のために、だなんて。
 顔面刺青の言葉を受けると、友は興味深そうに頷いて。

「ふぅーん。なら、いーちゃんが『ああ』なっちゃうのも、然るべきことなのかもね」

 あの戯言遣いが変わろうとしている。
 兆候はバトルロワイアルに招かれる前から、確認していた。
 「すっげえ嬉しい」って喜んでくれた、喜んでしまった戯言遣いを、玖渚友は見てしまった。
 なればこそ、友は解き放たなければならない。
 戯言遣いを己が束縛から。
 すべてがどうにもならなくなるけれど、『彼』の人生は回りだせるというのなら。
 

「僕様ちゃんも言わなきゃいけないよね。いーちゃんが歩き始めるってんなら。ちゃんと」


 人識からしたら、なんのことだかさっぱり分からない。
 『死線の蒼(デッドブルー)』と戯言遣い――欠陥製品の間にのっぴきならない事情があることだけが推測立つ。
 晴れやかに笑う、やけに既視感を覚える、つい最近見たばかりなような気もする玖渚友の笑顔を認めると。


「傑作だぜ」


 静かに呟いた。
 そして時間が『進む』。




「――――っはっはっはっは! それっぽいフラグは立て終えたか! 駄人間どもッ!!」




 進む――進む。進む。
 めまぐるしい早さで、赤く、『進む』。

642 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/06(金) 22:56:13 ID:aUdM2l2E0


   ★    ★



 そもそも、『制限』とは何か。
 何故、『十七年後』の水倉りすかに未だそんな『制限』が纏わりついているのだろう。
 彼女が『魔法陣』を使ってなお、首輪をつけている影響か。
 否、首輪に原因があるのならばところ変わって球磨川禊の『大嘘憑き』あたりの制限もなくなって然るべきである。

 しかしながら、事実として『十七年後』のりすかは『制限』の縄に囚われたままであった。
 『制限』が解呪されているのであれば、かつて廃病院でツナギを相手取った時にしたような、『魔力回復』もできたはずである。
 『現在』の水倉りすかと、『十七年後』の水倉りすかは同人でありながらも、同時に、別人であるにも関わらず、『変身』した赤色もまた力を抑制されていた。
 前提に基づいて考えるならば、水倉りすかは今後十七年間、制限という呪いに蝕まれ続けることとなる、という見解が妥当なところだ。

 では、どのような場合においてそのような事態に陥ることが想定されるだろうか。 
 一つに、主だった支障もなくこの『会場』から脱出した場合。
 一つに、優勝、それに準ずる『勝利』を収めたとしても、主催陣営が『制限』を解かなかった場合。
 この二つが、およそ誰にでも考えられるケースであろう。
 詳らかに考察するならば、もう少しばかり数を挙げられるだろうが、必要がないので割愛とする。

 前者においては、確かに揺るぎようのない。
 どのように『制限』をかけられたか不明瞭なため、自ら解法を導き出すのは困難だ。
 日に当ててたら氷が解けるように、時間経過とともに解呪されるような『制限』でもない限り、解放されるのは難しい。
 そして、十年以上の月日をかけても解けないようじゃあ、その可能性も望みは薄い。

 だが、後者においてはどうだろう。

 不知火袴の言葉を借りるのであれば――『これ』は『実験』だ。
 闇雲に肉体的及び精神的苦痛を与えたいがための『殺し合い』ではないことは推察できる。
 『実験』が終了し次第、『優勝者』を解放するのが、希望的観測を交えるとはいえ考えられる筋だ。
 むしろ、主催者たちである彼らが、最終的に『完全な人間』を創造するのが目的である以上、最終的に『制限』などというのは邪魔になるのではないだろうか。
 彼らが『完全な人間』を何を以てして指すのか寡聞にしていよいよ分からなかったが、如何せんちぐはぐとした感は否めない。

 彼らの言葉を素直に受け止めるのであれば、『優勝』した場合、『制限』は排除されるのではなかろうか。

 具体的な物証がない以上、憶測の域を出ない。
 あるいは、玖渚友ならば何かしらの情報を得ていたのだろうが、初めから決裂していた以上望むべくもなかろう。
 あくまで憶測による可能性の一つでしかないのだ。



 ――――十分だ。
 『可能性がある』というだけでも、十全だ。
 可能性があるのであれば、その『可能性の未来』を手繰り寄せるのは、他ならぬ水倉りすかの仕事なのだから。


 りすかが『優勝』することを確と目標にしたその時。
 『制限』のない、全力の『十七年後』の水倉りすかに『変身』するのは、不可能なことじゃあ、ない!


 出来ないとは言わせない。
 供犠創貴は、唯一持て余している『駒』を、見くびっちゃあ、いなかった。

643 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/06(金) 22:57:05 ID:aUdM2l2E0


   ★    ★



 宗像形が死んだ。
 なるほど。
 真庭鳳凰が死んだ。
 なるほど。
 そして、近いうちに図書館が禁止エリアになるらしい。
 なるほど。

 櫃内様刻の放送に対する所感は実にあっさりとしたものだった。
 先ほどまで大いに頭を悩ませていた鳳凰に対してでさえ、死んだと分かれば、「ああ、死んだのか」と話が終わってしまう。
 彼の思考回路は、極々シンプルな構造にできている。
 彼が何かに対して迷うことがあるのならば、それは直面している物事から逃げているだけだ。
 背負うニット帽の少女と同様に。悩んでいる振りを、しているだけだった。

「さーまとーきさーん」
「ん?」

 ふと、耳元から声がかかる。
 いつの間にか進む速度が緩まっていたようだ。

「どうしたんですか、さっきからボーっとして」
「別にどうもしないさ。ちょっと煩悩が湧いてきただけ」
「女子高生の胸に欲情しましたか!」
「僕が発情するのは妹に対してだけだぜ。それに肩甲骨フェチなんだ」
「人識くんはおねーさんタイプが好きらしいですけど、まちまちなんですねえ」

 よく分からないところに話の結論を付け、今度は伊織が溜息を落とす。
 何ともなしに様刻は尋ねる。

「そういう伊織さんこそさっきから溜息ばっかじゃないか」
「え? そうですか? そんなことはないと思いますけど。
 じゃあ、『女子高生』と『女子校生』、どっちが煽情的に聞こえるかって話でもします?」
「……本当にそれは楽しいのか?」
「いいじゃないですか。人識くんはあんまりセクシャルな話には付き合ってくれないんですよ」

 そこで話を区切ると、またも溜息。
 様刻も段々と分かってくる。
 乙女心など妹のことしか把握できない彼ではあるが、こうも大胆に大雑把に大盤振る舞いされると、わかるなというのが無理な話だ。
 要するに彼女は気がかりなのだろう。彼のことが。
 今から会う、零崎人識のことが。『兄』のことが。

「人識に会うのが、怖い?」
「…………ええ、まあ多少は。だって、あんな風に人識くんから言われたの、初めてでしたから」

 確かに様刻からしても意外な反応だった。
 あの飄々とした、掴み所のない人間からああもまともな叱咤が飛んでくるとは、思わなかった。
 わずか数時間しか行動を共にしていない様刻でさえそう思えるのだから、当事者であるところの伊織からしたら猶更のことであろう。
 でも、様刻から一つだけ、断言できることがある。
 同じ『兄』として。

「別に、人識の言うことは何も間違っちゃいないさ。ただ、妹を心配する正しいお兄ちゃんの言葉だよ」

 今の伊織の様相も、様刻の妹、櫃内夜月と何ら変わらない。
 普段と違う兄の姿を見て、単純に動転しているだけだ。
 様刻が夜月を初めて拒絶した時、夜月が泣き出してしまったように、
 人識から初めて、『家族』としての寵愛を受けた伊織はきっと今にも泣きだしそうなのだろう。

「そうですかねえ」

 様刻の言葉を受け、伊織は而して曖昧に頷く。
 『家族』とはそんないいものであっただろうか――。
 『流血』ならぬ『血統』で結びついた『元々の家族』を思い起こすもあまりいい記憶はない。
 それこそ、今みたいに、『兄』が嫌味のような小言を投げかけるような光景しか思い浮かばない。
 黙する伊織を認めると、様刻は言葉を継ぐ。


「とりあえず、人識に会ってみなよ」


 伊織の脳裏に、先ほどの人識の激怒がよぎる。
 今の自分はかつての自分をなぞるように、「逃げていた」。
 厳しくも、図星を突かれたような指摘に何も言えずにいる。

「…………」
「…………」

 様刻はこれ以上、何も言わなかった。
 黙々と、歩を進める。
 薬局の影ももう間近だ。
 目先の目的地が確認できたことでひとまず息をつく。

「とりあえず伊織さん、首輪探知機でどうなってるか見てくれる?」
「うなー」

 歩きながらだとバランスの都合上、常時首輪探知機を見るわけにはいかない。
 様刻の両手は伊織を背負うことで塞がっているし、伊織の両手も、振り落とされないように様刻にしがみついているため実質塞がっている。
 だから首輪探知機を見るためには一回止まらなければならない。
 様刻が足を止めると、伊織はガサゴソと首輪探知機を取り出して、現状を再確認するため覗き込む。
 その内容を確認すると、伊織の顔色が変わった。

644 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/06(金) 22:57:52 ID:aUdM2l2E0


「様刻さん、ちょっと」


 深刻なトーンで伊織が告ぐ。
 先と同様に、手にした首輪探知機を、首に腕を回すようにして見せてくる。
 『真庭鳳凰』、『零崎人識』、『玖渚友』の名前に並んで、名前が二つ。
 片や『真庭狂犬』は死んだ。青色サヴァンが首輪の解析用に持ち出したものだろう。
 もう片方は――。


「『水倉りすか』……?」


 脈絡もなく、されどはっきりとそこに明示されている名前を、読み上げる。
 冷静に考えれば、『こいつ』は協力者の可能性が高い。
 『水倉りすか』がもつ、なんらかの能力を使って零崎人識と玖渚友を転移させたのだろうことは想像に難くない。
 伊織にとってはともかく、人識にとって、零崎曲識の復讐とは必須ではないのだろう。どうとでも説明はつく。

 しかし、本当にそうだろうか?
 培ってきた勘や本能が、「何かがまずい」と訴えてならない。

 様刻は伊織を背負ったまま、急ぎ足で薬局まで駆け寄った。
 扉は締まっている。様刻たちが出て行った時から、何かが変わった様子はない。

「…………」
「…………」

 この扉の向こう。
 静かだ。少なくとも、この壁越しでは何も聞こえない。
 話し声の一つでさえも。異質だ。
 あまりに薄弱な壁を挟んだ空間で、いったい何が行われているのだろう。


「伊織さ」
「行きましょう」


 様刻はどうすべきか問い掛けようと、声をかける。
 伊織の反応は早かった。女子高生でも女子校生でもないような、鬼のような声色で。


「わたしは逃げちゃダメですから。しっかりと、人識くんと向き合うんですから」


 伊織の己を鼓舞するような一言を聞くと、様刻は迷うことなく扉を引いた。
 慎重に、奥へと進むと、つい先刻まで様刻たちがいた場所へと辿りつく。
 人影がある。
 赤い、赤い。
 どうしようもなく赤い、幼げな人影があった。


「どちら様なのが、あなたたちなの」


 幼女の足元を見ると、あからさまな死体が一つ転がっている。
 状況証拠から判断するに、『あれ』は『真庭鳳凰』だ。
 じゃあ。

「じゃあ」

 零崎人識と玖渚友は?
 あの二人はどこへ消えた?
 かくれんぼをしているわけじゃああるまいし。
 神隠しに遭ったわけでもあるまいし。



「まあ、誰でもいいの」



 意味深に落ちている、あの三つの首輪はなんだっていうんだ。
 まるで、『先ほど』まで零崎人識と玖渚友は、『そこ』にいたと言ってるようなものではないか。
 零崎人識と玖渚友はもはや、この世には存在しないと言っているようなものではないか。


 ふと、懸念が蘇る。
 真庭鳳凰を片付けたことで『終わった』とてっきり思った、あの懸念が。


 ――伊織ちゃんのこと、よろしく頼んだ。


 あの言い方はまるで、遺言のようではなかったか。

645 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/06(金) 23:00:22 ID:aUdM2l2E0
   ★    ★



 だからいざという時は、ぼくはりすかを全幅の信頼を寄せて、『優勝』させなければならない。
 そしていざという時は、ぼくはきっと『一度』死んでいることだろう。


 自らの身を挺し、失敗すれば『犬死』、成功すれば、着実に『攻略』へと前進する、一か八かの賭けに臨むか。
 創嗣さんならば、そんな『いざという時』なんて念を押さず、迷わず後者へベットをするだろうが、生憎ぼくは、まだあの人のようには成れない。
 今や半分以上はりすかの血液が流れているぼくではあるけれど、極力死ぬわけにはいかない。
 自らの命を、そんな不確定要素の中に好き好んでには、まだまだぼくも悟っちゃあいない。


 先んじて、他の方法を模索するほうが建設的だ。
 しかし、賭けるとなった時、いざという時がやってきた時、ぼくはこう言い張ってやる。


 ぼくとりすかを甘く見るなよ。
 あとは好きにやっちまえ、りすか。
 ――ってね。





   ★    ★







 さあ、『魔法』を始めよう。







   ★    ★









【玖渚友@戯言シリーズ 死亡】
【零崎人識@人間シリーズ 死亡】

646 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/06(金) 23:03:32 ID:aUdM2l2E0


【2日目/深夜/G-6 薬局】


【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】
[状態]魔力全快、十歳
[装備]手錠@めだかボックス、無銘@戯言シリーズ
[道具]支給品一式
[思考]
基本:優勝する
[備考]
 ※九州ツアー中、蠅村召香撃破直後からの参戦です。
 ※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです(現在使用可能)
  なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません
 ※大人りすかの時に限り、制限がなくなりました
 ※それ以外の制限はこれ以降の書き手にお任せします


【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]両足骨折(添え木等の処置済み)
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ、首輪探知機@不明
[思考]
基本:零崎を開始する。
 0:? ? ?
[備考]
 ※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
 ※携帯電話のアドレス帳には箱庭学園、ネットカフェ、斜道郷壱郎研究施設、ランドセルランド、図書館の他に櫃内様刻、玖渚友、宗像形が登録されています。
 ※DVDの映像を全て、複数回確認しました。掲示板から水倉りすかの名前は把握しましたが真庭蝙蝠については把握できていません。


【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備]スマートフォン@現実
[道具]支給品一式×7(うち一つは食料と水なし、名簿のみ8枚)、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜28)@不明
   炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、
   輪ゴム(箱一つ分)、首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、
   鎌@めだかボックス、薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@

現実、
   誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、
   「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、三徳包丁@現実


   中華なべ@現実、マンガ(複数)@不明、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、
   食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」
   (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う(瓦解寸前)
 0:? ? ?
[備考]
 ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形が登録されています。また、登録はしてありませんが玖渚友からのメールに零崎人識の電話番号とアドレスがあり

ます。
 ※阿良々木火憐との会話については、以降の書き手さんにお任せします。
 ※支給品の食料の一つは乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。
 ※DVDの映像は全て確認しています。
 ※スマートフォンに冒頭の一部を除いた放送が録音してあります(カットされた範囲は以降の書き手さんにお任せします)。

647 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/06(金) 23:06:42 ID:aUdM2l2E0
以上で投下終了です。
指摘感想などありましたら、遠慮なくお願いします。

タイトルはwiki収録までに考えておきます……!
及び>>639に薬局と表記すべき点を診療所と誤記してしまった箇所がありました。
こちらで訂正とお詫びを申し上げます。

648 ◆ARe2lZhvho:2015/11/08(日) 02:36:41 ID:IymzsrkI0
投下乙です…がこれを素直に通しにできるかは正直微妙なところです
問題を大きく二つ挙げるなら、

・玖渚が退場したことによる考察担当の不在および情報の未共有
・りすかの大幅すぎる戦力強化と制限の解除

これらが修正されない場合リレー小説として成立するかどうか疑問が生じるところです
個人的な意見を述べますと、私はこの話をリレーするのは無理だと思いました
あくまで私個人の意見ですので他の書き手さんがたがリレーできるというのであれば取り下げます
ですので、できればトリ付きでここかもしくは避難所の議論スレに意見をいただけると助かります

649 ◆wUZst.K6uE:2015/11/11(水) 21:10:06 ID:xD.WLTYs0
トリ付きで失礼
今回の投下、内容的にはとても面白かったです。続きが気になるし、自分で続きを書きたいという思いもあります。
その反面、リレー小説として賛同が得られるだけの続きを書ける自信があるかと問われれば、正直なところ自信はないです。
なので申し訳ありませんが、現時点では◆ARe2lZhvho氏と同意見とさせていただきます。
もし修正案などがあれば、そちらをお待ちしています。

650 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/11(水) 21:51:53 ID:M4eweJoY0
お二方、ありがとうございます。
あまりこういったことは公にすべきではないかもしれませんが、
先日、チャットにて◆mtws1YvfHQ氏にも拙作対するご反応は頂いております。

それを踏まえたうえで、今しばらく修正の猶予を頂けると幸いです。
及び、展開の都合上追加予約(あるいは別の話と扱い別個予約という形式)をとりますが、予めご了承ください。

修正の内容に関しましては、>>648の指摘を念頭に置いたうえで
1.大人りすかになることで、子供りすかに戻る際に過剰な体調不良を与えるなどのデメリットの付与
2.玖渚友の解析の進展、および情報の共有。及び、ディパックの残存

をひとまず予定しております。
申し訳ございませんが、しばしお待ちいただけると幸いでございます。
また、投下する際は避難所の仮投下スレをお借りする予定です。

651名無しさん:2015/11/15(日) 10:43:09 ID:hr0GXKPw0
月報です
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
160話(+1) 12/45 (-0) 26.7(-0.0)

最新話は議論・修正中のため今期のカウントはお控えください

652 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/23(月) 22:33:04 ID:pzCMG7lc0
投下します

653解体サーキュレーション  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/23(月) 22:34:44 ID:pzCMG7lc0
   0


 愛は魔法だ。
 十二時でも解けない魔法。



  001



 阿良々木暦、阿良々木くんが死んだことが意外だったかと言えば、しかしそうではないだろうと思う。
 明日には死んでいたかもしれない彼だ。今日死ぬのだって、それはきっと起こるべくして起こったこと。
 ともすれば、彼はずっとずっと前に死んでいる。私の一時的な臨死体験なんて目じゃないほどに、元人間の彼は死を体験していた。
 地獄のような春休み。聞くところによると阿良々木くんはあのナイトウォーカーとしての生活をかように表現しているそうだ。
 事実、あれは地獄のような日々である。他人の目から見ても、それこそ私が殺されたことを抜きにして、公明正大に判断を下したうえでそう思えるぐらいなのだから。
 阿良々木くんからしてみても、忍ちゃん、いや、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードからしてみても地獄に違いなかったろう。
 生き地獄であり、死に地獄。生ききれなく死にきれない、傷を分け合う傷物の話。傷物語。

 とにかく、彼は春休みの間に少なく見積もっても、限りなく絶対的に一度死んでいる。
 四肢を失くしていた彼女のために、彼女を助けるために、自分の命を投げ出した。
 無謀だと言えば、そうだろう。無鉄砲と言えば、そうだろう。無茶苦茶と言えば、そうだろう。
 およそ考えられないほど優しく強かな彼が、今日死んだというのであれば、私は納得するしかない。
 私から見て、阿良々木くんの死というのは、それほどまでに身近なのだろう、と今更ながらに感じ入る。

 阿良々木くんは時折私のことを天使、あるいは神様のように語るときがあるけれど、勿論私、羽川翼は天使や神様ではない。
 今の私の名前には「羽」も「翼」もあるにしたって、生憎私は人間だ。……人間なのかな? まあ、人間なのだ。
 受容の心を、諦念の心を、残念ながら有している。

 怪異は名により己が存在を縛られるというけれど、そういう意味では私は自由奔放だ。
 さながら私の名前になんて、意味がないと言わんばかりである。実際、私の名前になんて意味がないのだ。
 名字は一旦脇に置いておくとして、名前でさえも私にはあまりに不釣り合いである。
 「翼」。広義的には言うまでもなく、鳥などの持つあの翼だ。羽搏(はばた)くための、器官。
 そこから派生して、親鳥が、卵や雛を、その羽で守るようにすることから『たすける』という意味をもつらしい。
 どの面を下げて、私はそんなことをくっちゃべらなくてはいけないのだろう。舌先三寸もいいところだ。
 阿良々木くんは私のことを聖人君子のように崇め、美辞麗句を並べるけれど、そうではない。
 私はただの人間である。
 ずっと助けられてばかりだった。
 私が誰かを助けたことなんて、きっと一度たりともない。
 だって私には阿良々木くんの真似することさえできない。
 あんな家庭でも、こんな私でも、いざ命を捨てろと言われても、無理だ。
 私は何よりも自分が可愛い。
 怪異に魅せられるぐらいに、私はどうしようもない奴なのだから。

 そして、そんな私だからこそ、きっと私は阿良々木くん、阿良々木暦くんのことが気になっていたのだ。
 いつ死ぬかもわからない、人を助けたがるお人よし。
 とても人間らしからぬ、いよいよ純正の人間ではなくなった半人半鬼の阿良々木くん。
 自分よりも他人が恋しい、優しい阿良々木くんに、私の興味は向いている。

 彼を慕う、私の恋心にも似たこの心は、失恋することさえも叶わず、破れに破れ、敗れていた。
 未練もわだかまりも残して、私の身体を残留する。
 爽やかさとは無縁の沈痛する思いは、死せず、なくならず、私の中でずっと。

 そうして私は恋に恋する女の子になるのだ。
 予測するにこれはそういうお話だ。
 しかし私はその物語を語ることができない。
 羽川翼という私の物語を、私は、語ることができない。
 

   2

 
 物語の起点は玖渚から電話だった。
 ぼくたち三人仲良くお手てをつないで、というのが理想であったけれど、
 現実は微妙な距離感の空いたトライアングルを形成しつつランドセルランドを徘徊していた時のことである。

 放送も間もなく、あと十五分ぐらいだろうか?
 時間が無駄に長く感じるため、体感時間というのもあてにならないだろう。
 ジェリコは見つかった。何の変哲もなく落ちている。
 少しばかりぼくの血が付着しているけれど、支障はない。
 二人に訊いたけれど、拳銃はぼくに預けてもいいということで、いよいよ慣れてきてしまったぶかぶかの制服の内ポケットに仕舞う。
 その時に、玖渚からの一報は何の前触れもなくやってきた。

654解体サーキュレーション  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/23(月) 22:35:39 ID:pzCMG7lc0
『いーちゃん生きてるー?』
「…………」

 抜け抜けと。
 案外監視カメラでもハッキングしてるんじゃないか、と疑い周囲を見渡すも、無意味さを悟り項垂れる。
 真宵ちゃんから不審な目で睨まれたけれど、今に始まったことじゃない。嫌われることには慣れている。なんて。

『いーちゃん?』
「……大丈夫だよ、まだ健常さ」

 玖渚の言葉に遅れて頷く。
 監視カメラのハッキングというのは言い過ぎとしても、しかし要領がいいというか、タイミングに優れているというか。
 こうも見透かされていると恐怖を感じるのだな、と内心にしたためながら言葉を続ける。

「しかし、今度はどうした? ぼくたちはこれでも可及的速やかに済ませなければならない火急の用事があるんだ」
『そうなの? 頑張ってね。でもこっちも伝えなきゃいけない用事があったからね』
「用事?」
『そそ。いやさ、僕様ちゃん実は今薬局に居るからネットカフェに行くんだったらやめといた方がいいよっていう用事がとりあえず一件』
「そうか、薬局に、わかっ……ん?」

 あんまりにもすんなりと言うものだから、一瞬スルーしそうになったけれど、おかしくないか?
 薬局に『向かう』じゃなくて、『居る』だなんて、あまりに不自然だ。
 この違和感を解消すべく、電話を繋げたまま地図を取り出して確認するように凝視する。
 やっぱりそうだ。このランドセルランドとネットカフェと薬局とは、ランドセルランドを真ん中に据えるようにしてほぼ一直線上に位置していた。
 寄らなかったと言えばそれまでにしろ、せっかくの合流の機会を逃すだろうか。せめてぼくに一報をくれてもよかったのに。
 よもや日和号の脅威に怯えていたわけじゃあ、あるまいし。あるまいし? どうだろう。
 加えて言うなら、体力面では足手まとい他ならない玖渚を片手に、この短時間で薬局まで行けるだろうか。

「はいはい、いーちゃんの言わんとすることは分かるから順を追って説明するけどね。
 結論から纏めて言うなら、一、『しーちゃん……零崎人識が協力してくれた』。二、『供犠創貴や水倉りすかも協力してくれた、けど絶対的に敵対した』」

 零崎人識。
 ひたぎちゃんを追って袂を分かつ結果となったが、玖渚と一緒にいたのか。
 まあ、そこはいい。あいつの放蕩癖を今更指摘するのも馬鹿らしいし、あいつのために時間を費やすのも阿呆らしい。
 だから、触れるべきは後者だ。
 このバトル・ロワイアルが始まってから幾度も名前を聞いている、その二人。

「……敵対?」
『ん。端的に説明するとね』

 と、本当に端的に説明してくれたが、つまりはこうである。
 供犠創貴らが『仲間(チーム)』の一員である式岸軋騎を。そして『零崎一賊』である零崎軋識を手に掛けたから攻撃をしてしまった。
 しかし紆余曲折あり、敵対したところの水倉りすかの力を借りて、ぼくたちが本来迎えに行くはずだった櫃内様刻らのもとへひとっ飛び。
 そのまま有耶無耶のまま終われば、ぼくからしてみれば御の字であったが、最後の最後で人間失格が供犠創貴らに攻撃を加えたため、和解は無理、と。

「全部あいつが悪いじゃないか」

 ろくでもねえことするな、あいつ。
 確かにクラッシュクラシックでそんな話はしていたけれど。

『まあまあ、おかげで僕様ちゃんが生き残れたんだからいいじゃん』
「……そうかもね」

 何気なく呟かれた玖渚の言葉に一瞬息を詰まらせるも、辛うじて答えることが出来る。
 戯言だ。それで。

「ちなみに真庭鳳凰は?」
『多分死んだ。っていうかそれっぽいのは薬局に転がってる』
「へえ」

 これに関しては素直に驚嘆する。
 あの人も、なかなか一筋縄ではいかなそうな人ではあったけれど、そんなざっくりと死んでしまったのか。
 思えばあの人と出会ったのも約一日前か。男子三日会わざれば、とはいうけれど、よもや一日でそこまで落ちぶれるとは。
 可哀想に。
 心の中でせめてもの哀悼の意を表していると、お気楽な玖渚の声が飛んでくる。

655解体サーキュレーション  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/23(月) 22:36:10 ID:pzCMG7lc0
『いーちゃん、それでさあ。水倉りすかだけどさ、二人とも巻き添えか、あるいは供犠創貴が生きていればまだしも、
 水倉りすかだけ生き残ったら、ちょ――――っっっとだけ、まずいんだよね。僕様ちゃんもさ、彼女から色々話は聞いたんだけどさ、彼女何しでかすか分からないし』
「ふーん?」
『暴走しだしたら、いーちゃんとかも見境なく襲ってくるだろうし、あとから対処法……っていうかしちゃいけないこととかメールで送っておくから、確認しといてねん。
 所詮いーちゃんの敵じゃないだろうけど、多少の搦め手が必要な相手だし……「赤」ってのは少し不味いよねえ』
「赤、か」

 玖渚の言葉を反芻する。
 赤、と聞いて、勿論ぼくが連想するのは哀川さん。
 人類最強の請負人こと、今は亡き哀川潤だ。
 単なるイメージの問題ではあるけれど、確かに「赤」は不味い。

 そして何より。
 ツナギちゃんのことを思うと、安直にりすかちゃんと敵対するのも気が引けるところではあるけれど。
 大きな口を携えた魔法使いを思い出す。いや、ずっと忘れていたりなんかしていない。
 どうした事情からか分からないけれど、ぼくたちを最期の最期まで慮ってくれた彼女を忘れるわけがない。
 なんて。
 真宵ちゃんの記憶を消したぼくが言うのも極めて滑稽だ。

 ぼくの気持ちを知ってから知らずか。
 玖渚は話題を次へ進めようとする。

『で、いーちゃん。ここからがある意味大事な話なんだけどさ』

 いやいやここまでも大事な話だったと思うけれど。
 それを敢えて口に出すほどのテンションでもなかったため、玖渚の言葉を待つ。
 するとやたらと落ち着いたトーンの声が返ってくる。

『いーちゃんは生き残りたい?』

 不思議な問いだった。
 同時に答え難い問題でもある。
 少し前のぼくならば。

「生きたいよ。どうしようもなく、生きたい。もがき苦しんででも、ぼくは生きていたい」

 こんな単純なことを、ぼくはずっと前まではっきりと言えないでいた。
 戯言で濁して、傑作だと誤魔化して、大嘘で塗り固めてきた。
 でも、今ならはっきり言える。ぼくは生きたい。
 押し寄せるように、玖渚が言の葉を繋ぐ。

『優勝してでも?』
「いや」
『じゃあ、僕様ちゃんと生きたい?』
「うん」

 簡単なやり取りだった。
 質素な掛け合いだった。
 ずっと分かっていたことだった。
 ぼくが逃げていただけで、答えはすぐ傍にあったんだ。

「友、おまえが今、どんな時系列で生きているか知らないけれど、何度だって言ってやる」

 始まりは復讐だった。
 いつからだろう。
 こんなに愛おしくなったのは。
 憎たらしいほど彼女を愛してしまったのは――愛せるようになったのは。

 ぼくの掛ける言葉は簡単だった。 


「友、一緒に生きよう」


 たったそれだけでよかった。
 ぼくが彼女に掛けてあげるべき言葉は、ただそれだけでよくて、それ以外になかった。
 散々悩んで、滔々と紡いで、何をやっていたんだろうとさえ感じる。
 ぼくが遣うべき言葉は、たったこれだけだというのに。

『……………………』

 友は黙す。
 それはとても長い時間のようにだった。
 でも、きっとそれは刹那にも満たないほどの僅かな隙間だったのだろう。

『うにっ』

 友はそんな風に笑うと。
 続けざまに、こんなことを言った。

656解体サーキュレーション  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/23(月) 22:36:30 ID:pzCMG7lc0

『実のところさあ、首輪の解析の目途がついたっていうか、一回実践へと踏み込みたいんだよね』
「首輪の解析、問題なかったのか?」
『うん』

 驚きがなかったといえば、紛れもなく嘘になる。
 ただ、同時に納得し、受け入れられる面が大きいのも確かに事実であった。
 彼女が未だ『青色』であるならば、こんなことは何ら不思議なことでもない。
 ただ、その身を酷使をするというのであれば、とても歓迎できたものではないけれど。

『だから、その報告と思って。万事うまくいけばいーちゃんの首輪も外せるしね』

 それでも、ぼくは友を頼りにしなければ、首輪を外すことさえも出来ない。
 情けないことながら、彼女の『才能』に頼ることが、出口への入口なのだ。


「待って、いーさん」


 ふと。
 横から声がする。
 羽川翼ちゃん。
 真摯な瞳をこちらに向けていた。
 その腰のあたりには真宵ちゃんがいる。
 玖渚に断りを入れると、一回電話を耳から遠ざけた。

「申し訳ありません。聞き耳を立てていた、というわけではないですけど、ちょっと今の言葉が気になりまして」
「ああ、首輪の解析の話?」
「そう、それ。その、玖渚さん? からよろしければ解析結果について聞きたいと思いまして。
 こちらでどうにかなるものでしたら、先に首輪を外しておいた方が、皆さんも安心できるとんじゃないかなって僭越ながら」

 賢い発言である。
 聡明な翼ちゃんのことだ。
 きっと並大抵のことならば、その通りにできるのだろう。
 言われた通りにやることで、問題を解決に至らしめることも、あるいはできたのだろう。

 だが。
 身内贔屓と言われたらそれまでなのだろうが、玖渚は並大抵じゃあない。
 極上も極上、特上という言葉を十回使っても足りないぐらいの異常(アブノーマル)である。
 つまるところの結論がどうしようもなくしょうもない手法なのだとしても、彼女のスペックを前に、翼ちゃんはパンクしないだろうか。

「ダメ、でしょうか」

 ぼくの不安な心象でも察知したのだろうか。
 翼ちゃんはぼくの顔色を窺っている。

「本当に、大丈夫?」
「……ええ、聞くだけならばとりあえずなんとかなると思います」

 静かに、されど力強く頷く翼ちゃんを見て、ぼくもまた頷いた。
 確かに玖渚の力を濫用したくないというのは事実である。
 翼ちゃんが代理して解除を行使できるのであれば、それに越したことはない。
 ぼくはその旨を玖渚に伝えた。

『いーちゃんがそういうならさ』

 答えはあっけらかんとしていたが、いいだろう。
 時計を見れば放送まで残り十分を切っていた。

「じゃあ翼ちゃんによろしく」
『うん』

 そうして、翼ちゃんに電話を手渡そうとする。
 不意に、玖渚友にこんな言葉を投げかけたくなった。
 ぼくは尋ねる。

「友はさ、『主人公』ってなんだと思う?」
「なにそれ」
「なんでもいいからさ」
「んー、いーちゃんが何を言いたいかよくわからないけどさ、
 私にとって、『主人公』はいーちゃん、ずばりきみのことだよ。愛してるぜい、いーちゃん」

657解体サーキュレーション  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/23(月) 22:37:01 ID:pzCMG7lc0



  003



 玖渚さんの戦績、もとい解析を聞き終えた。
 聞き終えた、であり、決して飲み込み終えた、ではないことを最初に断っておきたい。
 私は相槌に終始するばかりで、質問を考える余裕さえもなかったとも告白しよう。
 プログラミングを専攻してたりしてないから、と言い訳を考えていたぐらいである。

「……………………ふう」

 電話を終えて、最初に漏れ出したのは盛大な溜息だった。
 ふと時計を見遣る。十一時五十九分。実に濃密な十分だ。
 あの密度の披露会を、丁度放送一分前に語り終えれるあたりに、彼女の並々ならぬアブノーマルさを感じる。
 放送に合わせたのはこちらを慮ったのか、向う側の事情なのか察するにはいささか情報が足りない。
 というよりも、私なんかが、いわく『死線の蒼(デッドブルー)』の思考を掠めることができるのかさえ今となっては不安だ。
 私、それに櫃内さんとか無桐さんとかとは文字通りステージが違うのだと、貴族と平民のように、住んでいる世界が違うのだと打ちのめされた。
 正直なところ。本当に正直なところ。

「…………さっぱり意味が分からない」

 玖渚さんの言葉を多く見積もっても五割ほどしか理解できなかった。
 単語単位で見れば、分からないもののほうが少ないとは思う。
 ただ、天才ゆえの話術とでもいうのだろうか、相手が理解できないことを一切考慮していない演説に私は辟易している。
 それこそ、ストレスを解消してくれる、みたいな怪異がいるのだとしたら、今にも発現してしまいそうなほどに、私の頭はオーバーヒートしていた。
 当然と言えば当然。私が色々とやっている間にも、彼女は丸一日掛けて調査をしていたのだ。
 紛れもないプロパーが丸一日掛けた研究結果を、即座に理解しようというのがどだいおかしい。笑い種である。
 阿良々木くんにおだてられたから、と天狗になっていたつもりはなかった。
 けれど、こうも圧倒的な純正の天才というものを見ると、多少へこんでしまう。
 本当に私は「知っていること」しか知らないのだと、改めて痛感する。

「でもなあ」

 放送に合わせるために、説明を多少巻いていただろうし、何より、理解できない私に非があるのだ。
 気持ちを引き締めて、彼女の説明をもう幾層か噛み砕けるようにしなければならない。
 それが、私を信用してくれた彼女の、いやそうじゃないだろう。玖渚さんは私のことなんて見ていない。
 私を私と、羽川翼として見做してさえもいないだろう。だから、この場合はこういうべきだ。
 それが、私を信用してくれたいーさんへの、せめてもの贖いなのだ、と。

 見ると、少し離れたところで、いーさんと八九寺ちゃんとは話し込んでいる。
 これまでの旅路がどうであったかは、寡聞にして私は知らないけれど、二人きりで話すのは、『あれ』以来かなり久しいのではないだろうか。
 どの道もう放送だ。
 それに、私も一回頭の整理をしたい。
 玖渚さんの話をもっと体系的に解し、かつ実践できるまでに持ち込みたい。
 落ち着いて整理さえできれば、もしかすると何ら難しいことは話していなかったかもしれない。

 もう少し時間が欲しい。
 どれだけでも時間が欲しい。
 切実な気持ちを吐露するも、しかし時間は待ってくれない。
 定時放送。
 私にとって二回目でもある、事務的な声が降ってくる。
 「戦場ヶ原ひたぎ」と「黒神めだか」。
 二人の訃報を添えて。

658解体サーキュレーション  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/23(月) 22:37:43 ID:pzCMG7lc0


   4



 ぼくと真宵ちゃんは、翼ちゃんを視界に入る程度に離れたベンチに座っている。
 周囲には、山ほど高いジェットコースターやら、狂気じみたコーヒーカップなどがあった。
 先ほど玖渚から教わったけれど、このランドセルランドは有名な観光スポットらしい。
 記憶を掘り起こしてみると、そんな名前の遊園地もあったかも。
 曰く、「天国に一番近い遊園地」とのことだが果たして褒め言葉なのか疑問である。
 
 遊園地に縁のないぼくとは違い、真宵ちゃんのロリィな外見は実に馴染む。
 カップに入ったドリンクを、ストローを使いちゅーちゅーと吸う姿も様になっていた。
 ちなみにこのドリンクは路上に転がっていた屋台から頂戴している。
 お金は生憎奪われているので、心苦しい限りではあるけれど、無銭飲食だ。
 ぼくは小腹を満たすようにポップコーンをつまむ。
 玖渚に一拉ぎにもみつぶされているであろう翼ちゃんを遠巻きに見ながら。

「……」
「……」

 会話はなかった。
 今に限ったことじゃない。
 あれから。
 約六時間前のあの時から、ずっと。
 『人間未満』の気まぐれから今に至るまで。
 ぼくが彼女に負い目があるからだろうか。
 ぼくが彼女に引け目があるからだろうか。
 何も言えない。
 今、ぼくたちが会話へと発展するには。

「戯言さん」

 真宵ちゃんからのアプローチが必要だった。
 控えめな物腰で、ぼくに話しかける。

「ごめんなさい、戯言さん。わたしはあなたを正直疑っておりました」

 謝られた。
 そんな義理はない。
 むしろ、謝れと叱咤されるべきはぼくであるはずだ。
 構わず真宵ちゃんは紡ぐ。

「あなたは、いざとなったら全員を殺して、優勝を目指すんじゃないかなって思ってました」
「……どうしてまた」

 言葉を濁すけれど、実のところ彼女が言わんとすることは伝わる。
 ずっと前から思いついてはいたことだから。
 優勝することは決して愚策ではないことは認知していた。

「いえ、戯言さん。分からないだなんて言わせません」

 現に彼女にもぼくの胸中は見抜かれている。
 並んで座ったままではあるけれど、瞳は確とこちらを射抜いていた。
 まったく、翼ちゃんといい人の顔をそんなじろじろと見て。
 観念してぼくは真宵ちゃんの言葉を継ぐ。

「つまり、優勝して、元通りにしてもらうってことだろ」

 この作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一切関係ありません。
 主催者たちに頭を下げて、この『実験』の、『物語』の末尾にその常套句を挿入させる。
 芥の理を突き破る超絶理論。万の理を捻じ曲る超越理論。
 未満と出遭ってしまったことで、当初よりも幾分か信頼性が増したような、信憑性が足されたような、虚構推理(オールフィクション)。
 現実的であるかと問われれば、迷わず答えよう。答えはノゥだ。
 それでも。

「正直なところ、今でも有用な結末だと思うよ。でも、それをどうしてぼくが」
「戯言さんはハッピーエンドを目指すのでしょう。でしたら」

 でしたら。
 その先に続くはずの科白を遮る。

「生憎だけど、ぼくは誰かを殺すことでハッピーになったりしないさ。ぼくがハッピーじゃなきゃ意味がない。ぼくは臆病者だから」

 これは本当。
 ぼくは、もう誰かを殺したくなんてない。
 今までたくさん殺してきたし、壊してきたけれど、今でも贖いきれないほどの償いが残留しているけれど。

659解体サーキュレーション  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/23(月) 22:38:29 ID:pzCMG7lc0

「もう無自覚で無意識で他人を踏みつけていく人間には、善意で正義で他人を踏み砕いていく人間には、なりたくないかな」

 これも本当。
 ぼくの場合は「なる」とか「ならない」という問題じゃない。
 「そういうもの」である以上、ぼくの言葉は言葉以上の意味を持たない。
 けれど。
 それでもぼくは。

「本当ですか?」
「本当」
「じゃあ訊き方を変えましょう。それだけですか?」
「……」

 あー、うん。
 そっか、あの時真宵ちゃんは翼ちゃんの隣にいたはずである。
 玖渚の発言そのものは聞こえていなかっただろうけれど、ぼくの発言はちゃっかりと聞いていたようだ。
 なんだか気恥ずかしいような思いもあるけれど、ここで逃げるわけにも行かない。
 真宵ちゃんの目を見つめ、ゆっくりとなぞるように、告げる。

「友がいるから。友がいるなら、ぼくは優勝なんてそもそもできない」

 ぼくの告白に満足がいったのか、真宵ちゃんは強張らせていた表情を和らげた。
 真宵ちゃんのそんな顔を、ぼくは久しぶりなように感じる。
 いつ以来だろうか。思えば、第一回放送後に醸していた気丈さよりも、よほど自然な気丈さを、今の真宵ちゃんからは窺えた。

「ええ、ちゃんと戯言さんはおっしゃいました。玖渚さんと生きたいと。そんなあなたを、わたしは疑うわけには参りません」

 生前は、家族と一緒に暮らせなかった。
 そして今、彼女は阿良々木暦くんと過ごせなくなった。
 きっと大切であったろう人たちと生きれなかった彼女、八九寺真宵ちゃんはぼくの言葉をまっすぐに受け止める。
 疑うわけにはいかない、と。戯言遣いであるぼくに、そう、励ましてくれた。

「大丈夫ですよ。あなたは、あなたが思っている以上に強く、お優しいです」

 ぼくは今、どんな顔をしているだろう。
 ただ一つ、笑っていないことだけは確かである。
 微笑む真宵ちゃんを傍目にぼくは、ポップコーンを頬張った。

「あなたは無自覚で無意識で他人を踏みつけていく人間ではありません。
 あなたは無自覚で無意識で、きっと誰かを救い上げようとしていたはずです。わたしは、あなたと最初に出会えてよかったと思います」

 ぼくは彼女の記憶を消した。
 それでもなお、こんなことを言う。
 甘いんだと思う。緩いんだと断ずる。
 しかし反してぼくは、黙って受け入れる。受け止める。

「あなたは強かで脆く、弱いけれど強情で、素知らぬ顔して人を救おうとする人間であると断言しますけれど、
 だからこそ、なんです。わたしはあなたをそういう人間だと理解したからこそ、怖いんです。懸念してしまうんです」

 真宵ちゃんが声を潜める。
 浮かべていた微笑はなりを隠し、深刻なかんばせを覗かせた。
 
「あなたは、誰かのために、あるいは誰でもない誰かのために、身を粉にできる人ですから」

 果たしてそうだろうか。
 ぼくは、そんな立派な人間だったのだろうか。
 喉を潤すように、真宵ちゃんは一度ジュースを口に運ぶ。
 ごくんと喉を鳴らしてから、ふうと彼女は息をつく。

「今まで、ずっと不思議だったんです。
 どうして戯言遣いさん、あなたと阿良々木さんが似ているように思えたのか」

 そんな風に思っていたんだ。
 だとしたら、光栄だ。ひたぎちゃんとか翼ちゃんとか、暦くんをよく知る人たちを観察した今、なおさら痛感する。
 あんなに愛されて、頼りにされている彼とぼくを重ねてくれるのなら、これ以上僥倖なことはないだろう。
 一種の感動さえ覚える。

「いえ、初めは変態って側面からだと断定していたんですけどね」
「…………」

 台無しだった。
 断定するな。
 思わず三点リーダーが出てしまう。
 シリアスなんだからギャグ挟むなよ。
 ぼくのしょげるモチベーションを無視して、彼女は話題を戻す。
 切り替えが早すぎて、ぼくは着いていくのに精一杯だが、彼女の芸風なのだと諦めて、素直に聞き入れる――聞き入れようとするも。


「でも、簡単だったんですよ。あなたたちがそういう人間だから。
 無自覚に無意識に、すべての責任を一人で背負い込んでしまう人間だから。――だから」


 真宵ちゃんへ割って入るように、鳴り響く。
 放送だ。死者の宣告。禁止区域の制定。
 もう六時間か。
 流石のぼくも真宵ちゃんも口を噤み、放送をじっくりと聞いていた。
 遠目で確認すると、翼ちゃんも電話を切っている。

660解体サーキュレーション  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/23(月) 22:39:06 ID:pzCMG7lc0
「…………」
「…………」

 供犠創貴。
 真庭鳳凰。
 戦場ヶ原ひたぎ。
 黒神めだか。
 宗像形。

 以上五名。
 これまでと対比したら、控えめな人数だ。
 しかし、決して絶対的に少ないわけではない。
 そのいずれもが、これまで何かしらの形で関わりをもった人間たちである。

 宗像形。
 玖渚を守っていたらしい。お勤めご苦労様。きみの生涯はきっと意味のあるものだ。
 真庭鳳凰。
 本当に死んだのか。スーパーマーケットで口戦を広げたときは溜まったものではなかった。
 供犠創貴。
 ツナギちゃんのお知り合い。この子が死んだとなると、いよいよ件のりすかちゃんとも向き合わなければいけない。
 黒神めだか。
 阿良々木暦くんを手に掛けた人物。元凶。彼女が死んだということは、未満は勝利を収めたのだろうか。分からない。

 そして。
 戦場ヶ原ひたぎ。

「……あの人も、お亡くなりになられたんですね」
「そうみたいだね」
「わたしはあの人からあまり好かれてはいませんでしたが……いえ、事情を考えれば当然なのですが、
 わたしはあの人のこと、決して嫌いではありませんでした。憎んでも妬んでもおりませんでした」

 ひたぎちゃんのことを思って喋っているのか、暦くんのことを思って話しているのか。
 ぼくに彼女の気持ちを推し測ることはできない。ただ、彼女の言葉を受け入れる。

「だから、とても悲しいです」
「そうなんだ」
「戯言さんは、どうですか」
「……どうだろうね」

 肩を竦める。
 実際のところは悲しくなんてなかった。
 よっぽど、なんていう言い方もどうかと思うけれど、よっぽどツナギちゃんの死の方が衝撃的だ。
 敵意をぎらつかせていたひたぎちゃんであるけれど、殺意で過剰な存在感を放っていたひたぎちゃんだけれど、そりゃあ死ぬ。
 誰に殺されたのか。黒神めだかに返り討ちにでもあったのだろうか。今となっては知る由もない。けれど、死ぬ。
 倫理の欠陥。道徳の欠落。感情の欠損。つまるところ、ぼくとはそういう人間で、欠けて欠けて欠けている。

「そうですか」

 ぼくの戯言に満ちた反応を一瞥し。
 それでも真宵ちゃんは精一杯に笑った。

「ですが、あなたは、それでいいのかもしれません」

 対してぼくは笑わない。
 どうやって笑うんだっけ?
 真宵ちゃんはベンチから立ち上がる。
 ディパックを下ろしているため、彼女の小さい背が見えた。

「しかし戯言さん。わたしに言う義理があるかは分かりませんけれど……、いや、わたしだからこそ、戯言さんに忠言する義務があるはずです」

 義理、義務。
 一度は何のことだろうととぼけてみたものの。
 察するにはあまりに容易い。
 真宵ちゃんは振り返る。


「玖渚さんだってこの殺し合いに参加している以上、少なくない確率で死にます」


 そんなことはさせない。
 口で言うにはあまりに安っぽい。
 戯言も甚だしい――暦くんも真心も狐さんも、あの潤さんでさえ死んでいるんだ。
 常に死と隣り合わせの友が、死なないだなんて保証はどこにもない。

 真宵ちゃんは人差し指でぼくを指す。


「そうなった時でも、戯言さんは同じことが言えますか?」


 ぼくはその指先をじっと見つめながら、ポップコーンの入ったカップを握りしめる。

661解体サーキュレーション  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/23(月) 22:39:29 ID:pzCMG7lc0


  005


 私は一度死んだことがある。
 なんていうのは今更語るまでもないし、誇らしげに語れることでもない。
 私の間抜けが及ぼした腑抜けたさまを、しかしどうやって誇らしげに語ることができようか。

 加え、厳密に言えば死んだわけではない。限りなくアウトに近い瀕死だ。
 春休み。真夜中の学校で、私はエピソードさんという吸血鬼ハンターの一人に、腹をぶち抜かれた。
 ひどく乱暴な表現だということは承知の上で使わせてもらうけれど、あれは「ぶち抜かれた」と言わざるを得ない。
 貫かれたでも足りないし、穿たれたでも補えない。正しくあれこそ「ぶち抜く」なのだと勉強になる。
 い、嫌だ。そんな学習方法……。
 しかし学習効率という意味ではずば抜けているものだから、体罰的指導というのも中々侮れなかった。
 身体が記憶してしまっているのか今でも思い出しては、腹が疼く。瞳とかならともかくお腹ではまるで格好がつかない。

 さておき。
 私が言いたいのは、もしかすると明るいかもしれないスパルタ教育の未来ではなく。
 人の命のお話だ。人間の生命のお話である。
 為せば成る、為さねば成らぬ何事も。といったことわざは有名だけれど、そんなものだ。

 阿良々木くんが何か――吸血鬼の血を私に与えてくれたから、私はどうにかなった。
 どれだけ致命傷を負っても。
 どれだけ死に近づこうとも。
 どれだけ、どれだけ、死んだように見えようとも。
 人は息を吹き返す。作為的でも、ご都合主義でも構わない。

 どうにかなるんじゃないか。
 どうにでもなってしまうんじゃないか。
 そんな風に思ってしまう私がいるのは事実であり、真実。
 希望的観測なのは、切望的感想なのは、重々承知であるけれど、それでも、と。


「はあ……」


 深い深い溜息を落とす。
 放送が流れ終わり、かれこれ一分。
 そろそろ向かい合わなければ。私自身が。――曰くブラック羽川ではない、私が。

 黒神めだかさんがお亡くなりになったと聞いて、果たして私が何を思ったかというと、何も思えなかった。
 黒神さんは阿良々木くんの仇であるけれど、だからといって、燃えるような思いは、正直なところなかった。
 そりゃあ、人間として最低限の悲しみはある。人が死ぬのは悲しいことだ。
 ただ、私にとっては紙上の事件、新聞の向こう側とでも言おうか。
 街頭で流される報道番組で『××市在住の黒神めだか(16)が何者かによって殺されました』と伝えられるのと、何も変わらない。
 私は彼女のことを何も知らないし、だからこそ対話を望んでいたけれど、もう終わっている。閉じている。

 だからこの場合。
 戦場ヶ原ひたぎさん。
 阿良々木くんの恋人である彼女も、死んでしまったらしい。
 これに関しては白状しよう。素直に驚いた。

 そんな、彼女ともう会えないなんて。

 あまりにありきたりすぎる一節を呟こうとした時、私は気付く。
 殴られたような衝撃が再来する。
 繰り返すように頭が真っ白になる。

 けれど。
 一つ。
 阿良々木くんが死んだと聞いたときと違うものがあった。


 これは、なんだろう。
 どう表現すべきか――欠けている感じ。
 これはいーさんを見ている時の、感覚と似ている。

 欠けている感じ。
 欠落している感じ。
 ――喪失している、感じ。

 そう。
 喪失感だ。
 つい先ほどまでいた、旧知の仲であった戦場ヶ原さんが死んだのだと知らされ。
 もう二度と会えないのだと教えられ、私の胸の中でぽっかりと、大きな穴が開けられる。

 小説では往々にして散見する悲観的描写であるけれど、しかし小説も侮れない。
 実体験してみて、心理描写の巧みさを理解する。やはり世の中はスパルタ教育に優しい。


 私の中で戦場ヶ原さんの存在は、殊の外大きかったようだ。
 親しくなったばかりであるけれど。
 阿良々木くんの――恋敵ではあるけれど。

 ここまで思い至り。
 気付かされる。


 じゃあ、阿良々木くんは?
 阿良々木くんの分の穴はどこにいった?

662解体サーキュレーション  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/23(月) 22:39:55 ID:pzCMG7lc0

 私は知っている。
 残念ながら、私は答えを知っている。

 ああ、そうだ。
 阿良々木くんが死んで、驚きはしない。
 なんでか。
 阿良々木くんは明日死んでもおかしくないような人だから。

 違う。それだけじゃない。

 私は知っている。
 残念ながら、私は答えを知っている。

 私の中ではつまり、『死んだ』ということと『いなくなった』――『会えなくなった』ということが一致していなかったのだろう。
 ノットイコールの関係性を築いている。ゆえに、私の認識では、彼が『死んだ』ことは衝撃的なことであれ、絶望的なことに至らずにいた。
 阿良々木くんはずっと前に死んで、生き返って、あまつさえ私を蘇らせてくれた人だから。
 心のどこかで、また会えるって信じたかった節があったのだ。
 ――私が困っているところに、すかさず阿良々木くんが『たすけ』に、駆けつけてくれると、疑ってないんじゃないか?

 情けない話だ。
 自分の矮小さに泣けてくる。
 自身を猫可愛がりすることしか、私にはできないのか。


「……………………ふう」


 この世の中には目玉焼きに醤油をかけるか、ソースをかけるか、あるいはケチャップをかけるか、そんな三つ巴の争いが勃発しているらしい。
 しかし私はこう呈したい。いやいや、目玉焼きは何もかけなくたって美味しいじゃないか、と。
 別に目玉焼きに限らない。ないならないで、すべてのものは普通に美味しく頂戴できる。多分誰しもが同じだと思う。


 じゃあ。
 阿良々木暦がいない世界は、阿良々木暦くんともう会えない物語は――果たして綺麗だろうか。
 いないならいないで、普通に、綺麗に、映るだろうか。


「翼ちゃん」


 いーさんが、それに真宵ちゃんもいつの間にか傍にいた。
 溢れだしそうな、抱えきれないような感情を胸の奥底へと仕舞い込んで、向かい合う。

「何でしょう」
「……。えーと、玖渚から色々と聞き終えた?」

 ああ。
 そうだ、私は、そのことについて解析しなければ。
 悲しんでいる場合じゃない。苦しんでいる事態じゃない。
 玖渚さんからの聞き及んだことを、なるたけ脳内で再生する。
 先ほどよりも、随分と脳内にノイズが走っていた。
 …………。

「聞き終えたことには聞き終えたのですが、正直整理の時間が欲しいところかな」
「そっか。じゃあ、これから先のことを決めなきゃね」
「黒神めだかさんがお亡くなりになったということは、あの方々もランドセルランドに戻ってくるんじゃないでしょうか」

 真宵ちゃんは『あの方』という部分をやたらと強調して告ぐ。
 極力出遭いたくはないのだろう。確かにあの人、球磨川くんがしたことは手放しで褒められたものじゃあない。
 苦手意識を持つのもむべなるかな。いーさんは真宵ちゃんの主張をどう捉えたのか。
 しかし、この場合においていーさんの反応は、判明しなかった。

 バイブ音が鳴る。
 いーさんが発信源だ。

「あ、ごめん、メール」

 咎める理由も諫める事情もない。
 私たちはいーさんがメールを確認するのを静観する。
 いーさんは上から下へとメールへ目を通す。私はそんな彼を呆然と眺めていた。

663解体サーキュレーション  ◆xR8DbSLW.w:2015/11/23(月) 22:40:23 ID:pzCMG7lc0
【二日目/深夜/E-6 ランドセルランド】

【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]精神的疲労(小)、右腕に軽傷(処置済み)
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実、解熱剤、フィアット500@戯言シリーズ
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 1:これからどうするかを考える。
 2:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 3:危険地域付近には出来るだけ近付かない。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識、ツナギ、玖渚友のものが登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※八九寺真宵の記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします


【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]体調不良(微熱と若干の体力低下)
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:変わらない。絶対に帰るんです。
 1:これからどうするかを考える。
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です


【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]健康、ノーマル羽川、大体の現状認識
[装備]パーカー@めだかボックス、ジーンズ@めだかボックス
[道具]支給品一式×2(食料は一人分)、携帯食料(4本入り×4箱)、毒刀・鍍@刀語、タブレット型端末@めだかボックス、黒い箱@不明、トランシーバー@現実、
   真庭忍軍の装束@刀語、「ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス」
[思考]
基本:出来る手を打ち使える手は使えるだけ使う。
 0:殺し合いに乗らない方向で。ただし、手段がなければ……
 1:情報を集めたい。ブラック羽川でいた間に何をしていたのか……
[備考]
 ※ブラック羽川が解除されました
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です
 ※トランシーバーの相手は玖渚友ですが、使い方がわからない可能性があります。また、相手が玖渚友だということを知りません
 ※ブラック羽川でいた間の記憶は失われています
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得したか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします
 ※零崎人識に関する事柄を無桐伊織から根掘り葉掘り聞きました
 ※無桐伊織の電話番号を聞きました。

664 ◆xR8DbSLW.w:2015/11/23(月) 22:42:56 ID:pzCMG7lc0
以上で投下終了です。
指摘感想などありましたらよろしくお願いします。
また、先日の玖渚友、零崎人識、無桐伊織、水倉りすか、櫃内様刻の話は破棄となりました。
本スレでもその報告を。この度はご迷惑をおかけしました。

665名無しさん:2015/11/23(月) 23:24:24 ID:cqBZ32Kc0
投下乙です
阿良々木さんへ思いを募らせる羽川が切ない…
安心院さんが絡んでることは無自覚のようだけどその辺り気付いたら羽川だし化けそう(どう化けるかは知らない)で不穏
来るかわからないとはいえクマーたちと合流したらどう転ぶかわからないしここでの選択が正念場か
八九寺の理解者ぶりが板についてて伊達に幽霊経験積んでないんだなということを実感させる
比較的安定してる組だけに不安が見え隠れしてるのがなあ…

改めて、投下乙でした

666名無しさん:2015/11/25(水) 22:30:56 ID:Yi1UnW3s0
投下乙です
タイトルで玖渚が「せーのっ♪(バキーン)」的な感じに首輪解体する話かと思ったけどそんなことはなかった
首輪の解体はいま生き残ってる面子の中では玖渚しか無理っぽかったけど、それでも羽川なら…羽川なら何とかしてくれる…!!
そして八九寺が天使すぎる。いーちゃんはもう最悪玖渚がいなくなっても暴走することはない気がしてきた
逆に八九寺が脱落したときの反応が怖いが…

667<削除>:<削除>
<削除>

668名無しさん:2015/12/12(土) 23:40:12 ID:KWn4NqhU0
遅ばせながら、投下乙でした!
羽川の阿良々木さんに対する心情がほんと切ないなぁ。どこか受け入れられてないからこそ、喪失感が襲ってこないというのは、またなんとも……
そしていーちゃんがとても格好いいし、そんな彼の傍に寄り添う八九寺ちゃんの女神っぷりが本当にいい。ああ、今まで一緒にいただけあるなーと、そんな感慨すら抱きました

669 ◆ARe2lZhvho:2016/01/09(土) 17:20:37 ID:uCTf/sGU0
傷物語鉄血編おもしろかったです

それでは予約分投下します

670border ◆ARe2lZhvho:2016/01/09(土) 17:21:38 ID:uCTf/sGU0

 ◆   ◆


「はぁ〜〜〜〜〜」

大仰なため息を零崎人識の隣に座ってた玖渚友が吐いた。
放送にそこまで落胆させるような要素はあっただろうかと、人識は怪訝な顔をする。

「最悪の結果になっちゃったね」
「最悪?」
「いーちゃんへの電話、聞いてたでしょ」
「そりゃまあな」

零崎曲識の直接の仇である水倉りすかを殺せなかったのは惜しかったが、及第点はもらえたのではないだろうか。
供犠創貴だって大将こと零崎軋識の仇の一人ではあったんだし、とごちるが玖渚は不満げな表情だ。

「呼ばれなかっただけで実は瀕死の重傷を負ってるってなら話は別だけど、そんなおいしい話がこの局面で来るわけないだろうしねえ」
「俺のせいだって言いてーのか? 呼んだのはそっちだろ、何の準備もしないで行くほど俺は驕っちゃいねーよ」

そもそも、玖渚が掲示板に上げた映像を見た上で襲撃したのだ。
手筈を整えるのは当然である。
手榴弾をドーナツの箱に放り込むところだって、玖渚も見て見ぬ振りをしていたのだから同罪だろうと主張する。

「そういうわけじゃないんだけどさ、愚痴の一つも言わせてくれたっていーじゃん。実際問題、被害が出ない方がマシだったと思うし」
「そこまで言うか」
「うん、そこまで言うよ。規模こそ違えど、奇策士がいなくなった虚刀流みたいなもの。それにしたって城攻めを完遂したのは並外れたことだし。
 手綱のなくなった道具の暴走なんてたいていろくでもないことになる。ましてや、それが自分で考えることのできる道具だったら尚更。
 正直な話、この一瞬後に水倉りすかが来てもおかしくないよ。もちろん、僕様ちゃんたちが太刀打ちできるわけもないし」
「……怖いこと言うなよ」

思わず身構えるも、変化はない。
そんなことが起きたところで自業自得、因果応報というものなのだが。
零崎が始まった以上、零崎を始めてしまった以上、滅ぼすか滅ぼされるかの二択しか選択肢は残されていない。
あくまで人識の気まぐれが続く限りという前提が成り立っているなら、ではあるが。
そういう意味では、「金輪際目の前に姿を現さない」という約束もいつまで守れるか疑問だが、とりあえずは守っておくことにした。
向こうから来ない限り当分は遭うことはないのだ、勝手に進行してくれる。

「そんなあるかどうかもわからない未来より、この後ほぼ100パーやってくる未来の方が俺はめんどくせえ」
「舞ちゃんと会うのが? 兄妹なんだから普通にしてればいーじゃん」
「俺に普通を説くか」
「そうだったね。取り消す」

俺は普通よりも不通の方があってるだろ、そう放たれた軽口は、さすがにそれは通らないんじゃない?とあっさり否定された。

「とりあえず僕様ちゃんはいーちゃんにバックアップを残しておくとして、ここまでのこと整理しておこっか」
「整理?」
「首輪については舞ちゃんたちが戻ってからの方がいいっていうか二度手間だし」
「まあ、いいけどよ。何を整理するんだ?」
「ここにいる人たちの違和感、偏り、バランスってとこかな」
「妙な言い方するじゃねーか」
「どうしても妙な言い方になっちゃうんだよね」

そう話しつつ、玖渚の手が休まることはない。
ぽちぽち、などという擬音では収まらない速さでボタンが叩かれていく。
処理能力が追いついているのか心配になるレベルだったが、打鍵が止まらないということはなんとかなってるのだろう。
特別製なのだろうか。
ぼんやりとそんなことを考える人識の傍らで玖渚は続ける。

671border ◆ARe2lZhvho:2016/01/09(土) 17:22:55 ID:uCTf/sGU0
「世界観の違いには気付いてるでしょ?」
「一応はな。仮にも色んなやつらとといたんだし」
「それが全部でいくつになるかはわかる? めんどくさかったら知り合い同士の繋がりでもいいよ」

何気なく投げかけられた問い。
すぐに答えられるようなものではなかったため、考え込むような仕草をして、

「この場合時系列の違いってやつは無視していいんだろ? ってことは……まずは俺たちの世界、ざっと10人ちょいってとこか。
 水倉りすかと供犠創貴、それとツナギは繋がりがあったはずだ。で、鑢七実と七花が姉弟でとがめってのも知り合いのようだった。
 そういや真庭のやつらのこと、『まにわに』って呼んでたんだよな……もしかしたら知ってたのかもな。
 阿良々木暦と火憐も兄妹、そしてそいつらの知り合いが戦場ヶ原ひたぎ、羽川翼、八九寺真宵、か。
 反応からして阿良々木火憐と宗像くんは元からの知り合いって感じはしなかったが、そこんところどうなのかねえ。それと病院坂の二人と様刻は元々付き合いあった側か。
 あと名字繋がりなら黒神もか、あと球磨川のやつも黒神めだかに執着してたところを見ると因縁あったと思っていいよな。
 あ、黒神めだかと言えばさっき放送やってた都城王土も知り合いぽかったんだよな。……俺が持つ情報じゃこの辺りが限界だな。
 残りのやつらは名前だけじゃさすがにわかんねーわ、九州の地名がやたらあるけどそれだけで括るのは無理あるしな」

見解を一気に述べていく。
それを聞いた玖渚は少しだけ目を丸くし、

「ほぼ正解、すごいやしーちゃん」

素直に賞賛した。

「そうか? 情報があれば誰でもできるだろ、こんなの」
「その情報を得るのが普通は大変なんだよ? しーちゃんほぼコンプリートしてるもん」
「コンプリート、なあ」
「どうかした? 僕様ちゃんがしーちゃんが京都でかつて解したカードの中に入ってないこととか?」
「……お前、性格悪いって言われたことねえの?」

人識本人以外では哀川潤しか知らないはずの動機なのだが、今更突っ込むのは野暮だった。
哀川潤が話すとも思えないし、情報の出所が気にならないでもなかったが。

「そういえば」
「無視かよ」
「都城王土のこと、どこで知ったの?」
「あん? 昼過ぎに会ったんだよ。ついでにこの斬刀を置いてったんだけどな」

もっとも、俺じゃなくて戦場ヶ原ひたぎに渡したもんなんだけど、という備考までは言わなかったが重要なことではあるまい。

「都城王土が? よりによって斬刀を? ふうん……」
「なんかわかったのか?」
「仮説レベルのなんとなくでだけどね。まあそれは後にして答え合わせしよっか」

たったそれだけで仮説レベルでもわかったのなら大したものだと思うのだが。
そう人識が口にする前に、のべつ幕無しに玖渚が話し出す。

672border ◆ARe2lZhvho:2016/01/09(土) 17:23:25 ID:uCTf/sGU0
「参加者45人中、見せしめの皿場工舎も入れたら46人中かな? うち13人が僕様ちゃんやしーちゃんと同じ世界観出身だね。
 もっと詳しく分けると暴力の世界が零崎5人、匂宮1人、時宮1人。権力の世界は僕様ちゃん1人、西条玉藻を檻神の一員に入れていいなら財力の世界もいるのかな。
 で、あとはいーちゃん潤ちゃん想影真心と西東天が一般人だね。ああ、うん、異論は大いに認めるけどさ、潤ちゃんを一般人と形容するのに抵抗するのはわかるけどさ。
 人数が多い順だと次は12人か。しーちゃんには予備知識がそこまでないだろうからここからは全員フルネームで言ってあげる。
 鑢七花、鑢七実、とがめ、真庭狂犬、真庭喰鮫、真庭蝙蝠、真庭鳳凰、この7人はしーちゃんが考えた通り同じ世界出身だよ。
 それと宇練銀閣、左右田右衛門左衛門、否定姫、浮義待秋と皿場工舎がプラスされるね。ここだけ世界観がかなり異質なんだよなあ。
 他はみんな現代なのにここだけいわゆる江戸時代なんだよね。いわゆるってつけたのはその世界における江戸幕府が尾張幕府だったから。
 完成形変体刀といい、色々とめんどくさそうなんだけどこれも後回しでいいか。それで次が一番重要になるのかな。
 どうして一番重要かわかるのかって、そりゃあの不知火袴と同じ世界だからだよ。誰か彼のこと『理事長』って呼んでなかった?
 黒神めだか、黒神真黒、球磨川禊、後は阿久根高貴、江迎怒江、人吉善吉、日之影空洞、形ちゃんこと宗像形の以上8人。あとは都城王土もここに加えていいよ。
 九州の地名で引っかかりを覚えたしーちゃんの勘は正しかったんだよ、お見事。ここからはほぼ消化試合みたいなもの。
 阿良々木暦、阿良々木火憐、戦場ヶ原ひたぎ、羽川翼、八九寺真宵、その5人と貝木泥舟で計6人。忍野忍がなぜ名簿にいなかったか疑問を覚えるところではあるんだけど。
 あとは病院坂黒猫、病院坂迷路、ぴーちゃんこと櫃内様刻と串中弔士の4人。最後に『魔法の国』長崎がある世界の供犠創貴、水倉りすか、ツナギの3人。
 これで46人のグループ分けが完了したんだけど、しーちゃんはどう思う?」
「……どうって言われてもな」

立て板に水とはまさにこのことかと感嘆するより他にない。
先程自分で整理したとはいえ、新たにこの情報量を加えるとなると考える時間が必要だ。
そうしてしばらく経ったのち。

「ありきたりなとこを突くなら、最初二つのグループが人数多すぎってとこか。それとも最後二つが少なすぎとでも言うべきか?」
「多すぎってのは同意だけど少なすぎってのは微妙かな。「魔法」使いにせよ「魔法使い」にせよ増やすのは得策じゃなさそうだし」
「そうか? 殺し合いやらすんだったら一般人よりはそういった戦闘力あったやつらのがよさそうに思えるが」
「そもそもこの殺し合いは『実験』だってこと忘れてない?」
「あー、そういやそんなこと言ってたっけな」
「しかも『完全な人間を作る』という目標つき。定義にもよるけど『完全な人間』に『魔法』なんて不純物を持ち込んでいいのかは疑問が残るところだよ」
「んなこと言ったら俺たち殺人鬼が5人もいる時点でおかしいだろ」
「まあね。だから舞ちゃんぴーちゃんの意見も聞きたいところだったんだけど……それにしても遅いね、二人」
「言われてみれば……電話してからそれなりに経ってるよな」

人識が最後に伊織と通話をしてから優に30分は経過している。
逃げるときは走っていただろうことを考慮しても、いいかげん戻って来ないとおかしい頃合いだ。
「まさかとは思うけれど」とおいた上で玖渚がある可能性を事も無げに言う。

「電話する猶予すらなく襲われちゃってるとか? 案外――あっ、しーちゃん!?」

話を最後まで聞くことなく人識は駆け出していた。
ぽつんと取り残されるような形になった玖渚は収まりも悪かったので言いかけていた残りを言う。

「……舞ちゃんもしーちゃんと同じで会うのが気まずくて入る勇気がないだけ、ってのが真相だと思うんだけどなあ」

それから思い出したかのように、ぴっ、とメールの送信ボタンを押した。

673border ◆ARe2lZhvho:2016/01/09(土) 17:23:56 ID:uCTf/sGU0
 ◆   ◆


「開けるよ」
「あっ、ま、まだ開けないでください」
「放送で真庭鳳凰の死が確定した以上、入らない理由はないと思うけれど?」
「その、心の準備というものがですね……」

真下から響く櫃内様刻の声に無桐伊織はしどろもどろになって答える。
伊織の手には首輪探知機が抱えられており、その画面には5人の名前が表示されていた。
中心に「無桐伊織」そしてほぼ重なるように「櫃内様刻」、ほんの少しだけ離れて「真庭鳳凰」「玖渚友」「零崎人識」とある。
目の前の扉一枚さえなければ目視だって可能な距離だ(建物の構造上中に入ってもすぐには見れないだろうが)。
つい先程まで最大の懸念であった真庭鳳凰の脅威が放送によって払拭されたため、伊織たちは中に入ることを躊躇する必要はどこにもない。
しかし、伊織はまだ入ることができないでいた。

「……そんなに怖いのかい?」
「そういうわけじゃないんですが……」
「じゃあ『どんな顔をすればいいかわからない』とか?」
「そんな感じですかね……」
「なら、『笑えばいいと思うよ』って返すのが定石になるけど」
「質問の時点でその答えが返ってくるだろうことは予測できましたよう、ええ」

ため息まじりに訊く様刻だがめんどくさそうな素振りは見せていない。
元々『妹』の扱いは手慣れているのだ。
それがギリギリの均衡を保つような綱渡りの連続だったとはいえ。

「家族と会うだけだろう? 普通にしていればいいだけのことじゃないか」
「そんなこと言われましても、私のこと家族って言ったのさっきが初めてなんですよ? どうしたらいいのかすらわかりませんよう……」
「零崎になる前だってお兄さんがいたんだから、そのときみたいに接すれば済むことじゃないのかい」
「あのときは逃げてばっかりでしたし尚更参考にはなりません……」

そこまで言って、様刻に『無桐伊織』であったときの家族構成まで話していただろうかと疑問がよぎったが、それは頭の片隅に追いやった。
眠る前後に話していたかもしれないし、今は目前の問題をなんとかしたい。

「じゃ、じゃあ様刻さんだったらどうするんですか」
「今の状況だったら放送なんか待たずにさっさと入っているよ」
「まあ、そうでしょうね……なら、もしもの話ですけど、ここに妹さんがいたらどうしてました?」

それでも、矛先を逸らしてしまう。
逃げているのではない、立ち止まっているだけだからと自分に言い聞かせているが、そうしている時点で逃避同然であることは否めない。

「そんなの簡単すぎる。もしも夜月が死んでいたら全員殺す。殺して、優勝して、生き返らせる。それができないのであれば主催も全員殺して僕も死ぬ」
「ありきたりですけど、『そんなことをして生き返っても妹さんは喜ばない』とか言われても?」
「生き返るまでわからないだろ、それって。仮の話に仮を重ねるけど、夜月がそう言ったって僕が『じゃあ責任を取って死ぬ』って言えば全力で引き留めるだろうし」
「では、生き残っておられた場合は」
「真っ先に夜月を保護して、こんなことに夜月を巻き込んだ落とし前をつけさせる。ついでに僕を巻き込んで夜月を心配させた落とし前も。
 それから、二人で脱出する方法を探して、それが無理ならさっき言った方法を採る。そのためには僕が夜月を一度殺さなきゃいけないのが本当に辛いけれど。
 でも、夜月に僕を殺させる苦痛をかけるくらいなら、そして僕が生き返らない恐怖を味わわせるくらいならそうする。そんなところだ」
「そ、そうですか……」

自分から話を振っておいてなんだが、少し引いていた。

674名無しさん:2016/01/09(土) 17:24:32 ID:uCTf/sGU0
「何かおかしいこと言ったかな」
「様刻さん、シスコンって言われたことないんですか?」
「シスコンと呼ばれた程度でたじろぐような兄妹愛はシスコンとは言えない」
「否定しないんですね」
「残念なことに僕達の兄妹愛を表現する言葉が他にないだけだ」
「そんな言葉があったら逆に怖いですよう……でも、そこまで思ってもらえる妹さんがいるのは羨ましいですね」
「目に入れても痛くない、自慢の妹だよ」
「妹さんのこと、大切ですか?」
「家族なんだ、当たり前だろ」
「当たり前ですか」
「当たり前だ」
「…………」

黙り込む。
そして「よし!」というかけ声と共にぱちんと両頬をはたいた。

「伊織さん?」
「すみません、お手間を取らせました。もう大丈夫です」
「そいつは何よりだ」
「今までさんざん人識くんに家族だーって言っておいて、いざ自分が言われたら縮こまるなんておかしすぎます。こんな姿見られたらまた心配かけてしまいますよ。
 それに以前『もてあました性欲の解消にも協力してもらうことができます』なんて言っちゃいましたし――うおぅっ!?」

突如、勢いよく扉が開かれる。
その向こうにいたのは伊織の『兄』である人識で、

「……………………」
「……………………」
「……………………」

しばし、無言で向かい合う。
人識と伊織は完全に固まっている。
特に伊織は直前に話していたことがことだったため、不意打ちを食らったかのようだ。
どうやら膠着を打開できるのは自分しかいないと気付いた様刻は、軽くため息をつくと気さくに話しかける。

「よう、人識――」


 ◆   ◆


「おかえり、舞ちゃん、ぴーちゃん」
「あ、ただいまです」
「ただいま……でいいのか、この場合?」

無事(?)薬局に戻った二人を、ソファーに座ったまま手を振って玖渚は迎え入れる。
伊織を玖渚の隣に下ろすと、玖渚を挟み込むように様刻も腰かけた。

「…………」

一方、終始無言でいた人識は様刻から人一人分の間を空けてばつが悪そうに乱暴に腰を下ろす。

「しーちゃん、それはないんじゃない? せっかくぴーちゃんが気を遣ってくれたのに」
「そうですよう、わざわざ空けてくれたんですからこっち側に座るものでしょう」

途端、女性陣からの猛口撃が始まった。
女三人寄れば姦しいと言うが、二人でも十分姦しかった。
様刻は我関せずと言った表情で瞼を閉じていたが、耳元で騒ぎ立てられるのはいい気分ではないだろう。
うるささに耐えかねたのか、人識は「あー、わかったわかった」とめんどくさそうに言い放つと諦めて伊織の横に座る。
微妙に隙間を空けていた。

675名無しさん:2016/01/09(土) 17:25:06 ID:uCTf/sGU0

「じゃ、早速だけど首輪探知機ってやつ見せてもらってもいい?」
「あ、はい、どうぞ」

四方山話に花を咲かせる間もなく、玖渚が本題に入っていく。
伊織から手渡された首輪探知機を検分すると、一分もしないうちに返した。

「もう済んだんですか?」
「とりあえず死人の首輪も反応するか確かめたかったんだよね。真庭鳳凰と真庭狂犬は表示されたけど浮義待秋は無し」
「……今玖渚さんが持ってる首輪は二つだけだし、つまり、デイパックに入った首輪には反応しない、ということでいいのか?」
「そういうこと、かな。ぴーちゃんたちは首輪持ってたりしないよね?」
「お察しの通り。回収しようって発想がなかったというか、首を切ろうって発想には至れなかったというか」
「鳳凰さんに遭うまではそれらしいものもありませんでしたからねえ。『自殺志願』もそういうのには向いてませんし」
「じゃあ使えるのは3つだけだね。まあ2つは条件満たしてるしいいか」

そう言って持っていた首輪をデイパックにしまう。
首輪探知機を見遣れば、表示されている名前は四人分に減っていた。

「条件? どういう意味ですかそれ」
「後々説明するよ。とりあえず何でもいいから気付いたことない?」
「え、気付いたことですか? そんな急に言われましても……」
「そもそも、僕たちが気付く程度のこと、玖渚さんが気付かないわけがないと思うんだけど」
「それがそうでもないんだって。それに、被りでもいいから情報は集めておいて損はないよ。被るってことは情報の精度が上がるってことでもあるし」
「……そういえば」

様刻がふと言葉を漏らした。
それを聞き逃さず玖渚が反応する。

「何か思い出したの、ぴーちゃん?」
「もしかしたら、ってくらいのものなんだけど、満月だったなあって」
「満月? それって今もってこと?」
「昨日、って言い方もどうかと思うけど、24時間前も満月だったような気がするんだ」
「うん、合ってるよ。僕様ちゃんもネットカフェから研究所に移動するとき見たし。でしょ、舞ちゃん」
「うなー、そうでしたっけ? 私は覚えてないです」
「そうなの?」
「玖渚さんを運ぶのが大変だったのでそんなの気にする余裕なんてありませんでしたし」
「話を戻すけど、一日経っても満月のまま……ということになるよな」
「そういうことだね。ありがと、おかげで一つわかったよ。いや、一つ潰れたってことになるのかな」
「「潰れた?」」

怪訝な顔をする二人に挟まれながら、玖渚は滔々と語り出す。
ちなみに、人識はといえばいつの間にやら船を漕いでいた。


 ◆   ◆

676border ◆ARe2lZhvho:2016/01/09(土) 17:26:25 ID:uCTf/sGU0
「ぴーちゃんが教えてくれたことで、この会場について可能性が二つに絞り込めたよ。
「元々、僕様ちゃんは大きく分けて二つ、ひとまずは三つで考えてたんだよね。
「現実空間か、非現実空間か。
「現実空間だった場合、開放空間か、閉鎖空間か。
「隔離空間ではあるけれど、それが建造物の中か外かでまた変わってくるからね。
「他に生物が見当たらなかったから開放空間の可能性はかなり低いと踏んではいたけど。
「ぴーちゃんは馴染みが薄いかもしれないけど、舞ちゃんは地図に違和感持ってたでしょ?
「ピアノバー・クラッシュクラシック。
「北海道にあったはずのそれがここにあるなんて、詳しい場所を知らなくてもおかしいと思うよね?
「……え?
「言われて初めて気付いた?
「……そう。
「しーちゃんなら早い段階で気付いてたとは思うけど。
「あ、別に起こさなくていいよ。
「ああ見えて結構頑張ってたみたいだし、少しは労ってあげないと。
「話を戻すね。
「クラッシュクラシック以外にも骨董アパートやランドセルランド、それに西東診療所に卿壱郎博士の施設が一ヶ所に集まってるのはわかる人なら一発でわかるし。
「あとは竹取山。
「正確には雀の竹取山。
「これも山頂に登ったことのあるしーちゃんならわかる――っていうかしーちゃん色んなフラグ持ちすぎ。
「引きこもってた僕様ちゃんが言うことでもないけどさ。
「まあ僕様ちゃんも掲示板とかで色んな人とフラグ作ったりしたけど。
「で、竹取山の山頂は本来はただの山頂でしかないはずなんだよね。
「僕様ちゃんが登ったことがあるわけでもないし、そもそも雀の竹取山は四神一鏡のものだから疎いんだけど。
「でも、少なくとも踊山なんて山なんてないし。
「他にも箱庭学園だったり、学習塾跡の廃墟だったり、不要湖だったり。
「特定の人間が見れば引っかかる施設や地名ばかり。
「違和感を抱かない方がおかしいよ。
「というよりも――そうなるように仕組まれているのかな?
「昼に舞ちゃんと電話でDVDの話したでしょ。
「それ以外にも、何かしらの疑問を覚えさせるようなのがあちこちに散らかってる。
「そうなると、どうしてこんな風にしたのかって当然思うよね。
「どうやって、は今更だよ。
「閉鎖空間だったとしても、普通に作っただけだろうし。
「箱庭学園の地下に『あんなもの』を作れるくらいの技術力はあるんだから、条件さえ整えばできなくはないだろうね。
「非現実空間――わかりやすい例えだとヴァーチャル空間ってやつ?
「それなら舞台の構築は容易だろうね。
「その場合、僕様ちゃんとしてはお手上げに近くなるからそうであって欲しくはないんだけど。
「それに、『完全な人間の創造』という目的に沿うものじゃないように思えるんだよね。
「あくまで希望的観測だけどさ。
「ああ、そうだ。
「この殺し合いの目的である『完全な人間の創造』ってなんなんだろうね?
「そもそも、『完全な人間』って何――って言った方がいいか。
「どういう定義でもって完全とするかにもよるけど、果たしてそれが殺し合いで実現できるものかな?
「優勝者が出たとして、その人が無条件で『完全な人間』と認められる、いくらなんでもそんな簡単な話はないでしょ。
「その優勝者が完全な人間と呼ぶにふさわしい、立派な人間だったとして、この殺し合いを肯定する?
「相打ちで終わって優勝者が出ない可能性だってあるよね。
「そうなればせっかくの人材の浪費だよ。
「『実験』と銘打っている以上、失敗は織込み済みだろうけどさ。
「それにしたって実験の『材料』は唯一無二のはず。
「基本的に実験なんて成功するのは大学生レベルまでだし。
「いけないいけない、話が逸れちゃった。
「僕様ちゃんがこの点でも疑問を覚えるのは、主に3つのアプローチがあるからなんだよね。
「一つ目が元から高すぎると言っても過言ではないスペックを持つ人たち。
「人類最強の潤ちゃん、人類最終の想影真心、フラスコ計画の最初の成功例である人吉善吉。
「黒神めだかや羽川翼だってここに当てはめてもいい。
「生き残ってるのは翼ちゃんだけだけどさ。
「逆に言えば『完全な人間』へのスタートラインが他よりもゴールに近い人が既に四人も死んでいる。
「率直に言ってもったいないと僕様ちゃんは考えるね。
「二つ目はいーちゃんや球磨川禊のような反対にスタートラインが遠い人間。

677border ◆ARe2lZhvho:2016/01/09(土) 17:27:11 ID:uCTf/sGU0
「不完全ならぬ負完全な人間と言ってもいいかな。
「絶対値が同じなら次善の策としてはなくもないけど……やっぱり釈然としないんだよね。
「それと、一緒くたにするのはやや失礼な面もあるけどカテゴリ分けするなら他にも当てはまるのはいるし。
「僕様ちゃんとか舞ちゃんたち殺人鬼である零崎、日本刀として育てられた鑢、第十三期イクスパーラメントの功罪の仔・匂宮出夢。
「この辺りなんかは人間として振る舞うにも欠陥は抱えてるようなもの。
「ついでに重箱の隅をつつくようなことを言うけど、病院坂の二人だってここに入れたくなるし。
「いや、ぴーちゃんならわかるでしょ。
「迷路ちゃんは表情だけでコミュニケーションをとれるほどだそうだけど、声で会話ができたわけじゃなかったんだよね?
「黒猫ちゃんだって一対一ならともかく、大勢の前に出れば発作を起こすほどの人見知りだったんだし。
「日常生活を送ることすら困難だったのは否定できないでしょ?
「他にも疑問は尽きないけど、突き詰めたところで時間の無駄でしかないから次に移ろうか。
「三つ目はそもそも人間じゃない参加者。
「もどきとはいえ吸血鬼の阿良々木暦、忍法で意志を刺青に移した真庭狂犬、『赤き時の魔女』水倉りすか。
「ちょっと判断に困るけれど、幽霊の八九寺真宵、元人間の「魔法」使い繫場いたちことツナギもどちらかといえばこっちかな。
「この辺は明らかに異物でしょ。
「そもそも人間じゃないんだもの。
「『化け物を倒すのはいつだって人間』なんて言葉を実践しようとしたわけじゃあるまいし。
「それにしたって、最初から暴れてくれそうなのは真庭狂犬くらいじゃないかな。
「規模だってたかが知れてるし。
「実際、舞ちゃんに返り討ちされたくらいだもんね。
「僕様ちゃんとしてはこの点について特に考えたいところではあるんだけど、資料が足りないんだよなあ。
「まさかここまで見越してたのかなあ……うーん、仕方ないや。
「ごめんね舞ちゃん、しーちゃん起こしてもらってもいい?」


 ◆   ◆


「ひーとしきくーん。起きてくださいよー」


肩を揺すりながら伊織は思考する。
思い出すのは絶体絶命の状況での出会いだ。
双識と二人、死を待つことしかできなかったところに、突如として現れて。
そうするのが当たり前かのように言いたい放題戯言を並べ立てて。
相手からは「最悪だ」と捨て台詞を言われたけれど、それは零崎なんだから当然だ。
今の伊織が気にかけるのは、最初にだれにともなしに言っていたこと。
『対して――俺は全然優しくなんかない。優しさのかけらも持ち合わせちゃいない、それがこの俺だ』
『だが俺はその『優しくない』という、自身の『強さ』がどうしても許せない――孤独でもまるで平気であるという自身の『強さ』がどうしても許すことができない』
『優しくないってのはつまり、優しくされなくてもいいってことだからな。あらゆる他者を友人としても家族としても必要としないこの俺を、どうして人間だなどと言える?』
今にして思えばひどい言い草もあったものだが、実際のところはどうなのだろうか。
人識は強い、それは確かだろう(人類最強には負けたが、あれは規格外だ)。
だが、本人の言に則るならば、それはもう過去のことになってしまっているのではないか。
義手を手に入れるまでの一ヶ月間、身の回りの世話をほとんど全て人識にやってもらっていたが、あれだって投げ出そうと思えば投げ出せたはずだ。
双識への義理もあっただろうが、それを抜きにしても人識は優しかった、ように思う。
優しくされたいというわけではないだろうし、孤独に耐えられないというわけでもなかっただろうが、優しかった。
そうなってしまった原因は考えるまでもなく、伊織にあるだろう。
伊織のせいで人識が弱くなってしまうのはともかく、伊織が人識の弱点になってしまうのは嫌だった。
だからこそ、これまで殺人衝動が溜まっていたこともひた隠しにしていたのだが、それもさっきの件で露呈してしまった。
糸が切れたかのように眠っていたのも、先程までずっと緊迫していたことの裏返しだろう。
改めて、とんでもないことをさせてしまったと実感する。
自分のためにそこまでしてくれたということ自体は、嬉しくないと言えば嘘になるけれど。

678border ◆ARe2lZhvho:2016/01/09(土) 17:28:07 ID:uCTf/sGU0


「……ん、……寝てたのか」
「あ、おはようございます……じゃなくて、えーと、お休みのところすみませんが、玖渚さんが用があるみたいでして」

考えていることを悟られたくなくて、事務的な返答をしてしまう。
慌てて顔をそむけたが寝起きでぼんやりしていたためか、気づかれずに済んだようだ。

「ねえ、起きたばかりで悪いんだけど、しーちゃん」
「あん?」

加えて、玖渚が早速切り込んだのもあって、人識の意識は伊織から完全に移っている。

「斬刀、僕様ちゃんの前に突き刺してくれない? あ、倒れないように固定してもらえると助かるんだけど」
「どういう意味だよ、そりゃ」
「見てればわかるって」
「……まあ、いいけどよ」

言われた通り玖渚の前まで動いた人識は持っていた日本刀のうち、一振りを鞘から抜いて突き刺した。
その姿を見て、中々様になっているなと、そんなことをぼんやりと考える。
人識が生まれたときからずっと兄だった双識とは違い、伊織はたった数ヶ月前に妹になったばかりだ。
厳密に言えば、人識の方から妹と認めてもらったのだって一時間前かそこらだ。
無理をしてもらった引け目がある。
殺人衝動を隠してた負い目がある。
だけど、それでも。

(今の人識くんだって家族は私しかいないんです。やっとそういう関係になれたんですから、私も人識くんに頼られるようにならないと)

やはり伊織はマインドレンデルの妹として、マインドレンデルの弟である人識とは対等な関係でいたかった。


 ◆   ◆


「で、伊織ちゃん」
「はい、なんでしょう。人識くん」
「どうしてさっきのパートの締めで今こうなってるんだ?」
「こうとは?」
「二人乗りでバイク乗ってこのあと禁止エリアになるはずの図書館に向かってることを言ってるんだよ」
「成り行きでしょうかねえ」
「どんな成り行きだ」
「説明しますと、玖渚さんが人識くんの持っていた斬刀とやらを使って首輪の外殻だけを切断したはいいですが、
 中身を見ても万全に解除ができるかどうか自信がないので、その間に少しでも情報収集をしようという算段です」
「いやそれだけじゃわかんなくね?」
「更に詳しく説明しますと、『人間じゃない参加者』である真庭狂犬の首輪の中身を見ても能力を制限させるようなものは見当たらなかったということ、
 斬刀を使えば首輪の切断自体は可能ですが、生きた人間の場合だと首輪の爆破機能が起動したままなのでそれを止める方法が必要なこと、
 詳細名簿やDVDが図書館にあった以上、他にも有用な資料が図書館にあるかもしれないということ。
 移動手段として玖渚さんがバイクをお持ちでしたが、それを乗りこなせるのが人識くんしかいなかったこと、
 人識くん一人では心配な点があるのと、水倉りすかに恨まれてるかもしれないので、リスク的に玖渚さんとは分断した方が良いだろうということ、
 私が残るよりは様刻さんが残った方が機動力があるだろうということ、人識くんが戦場ヶ原さんとやらを殺したので羽川さんとはお会いにならない方がいいということ。
 ……あとは少しくらい兄妹水入らずで過ごしたらどうかという、様刻さんからの提案もありましたけど」
「最後は置いといて、納得はできなくはねえけどよ……やっぱりおかしくねえか?」
「どこがですか?」
「首輪の構造はあいつの言うことを鵜呑みにするしかないとしてもよ、図書館に手がかりがあるかもしれないってのはできすぎじゃねえの?」
「わからなくもないですけど、実際」
「名簿やらDVDがあった、だろ? それだって普通用意しとくか? この殺し合いの打破に直接繋がらないとしても、置く理由にはなんねーだろ」
「まあ、そうですよね……逆に理由があったとか?」
「そう考えるのが妥当だろうけどよ……狙いはなんだったんだろうな」
「狙いですか……正直さっぱりです」
「いや、そっちじゃなくて」

679border ◆ARe2lZhvho:2016/01/09(土) 17:28:54 ID:uCTf/sGU0
「そっちじゃないとは」
「俺たちをわざわざ行かせた理由だよ」
「それならさっき説明したじゃないですか」
「あるとは限らないし下手すりゃお陀仏になるのにか? 俺たちを遠ざけたかったのか、それとも……いや、言わなくてもいいか」
「どうしましたか?」
「なんでもねえよ」
「そうですかー。では」
「おい、何しやがる」
「少し風除けになってもらいますね。こんなときでもないとできなさそうですし、『お兄ちゃん』」
「ここぞとばかりにお前なあ……まあいいか」
「えへへー」
「……ったく」


【2日目/深夜/G-7】
【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康、右頬に切り傷(処置済み)
[装備]斬刀・鈍@刀語、絶刀・鉋@刀語、携帯電話その1@現実、糸×2(ケブラー繊維、白銀製ワイヤー)@戯言シリーズ、ベスパ@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×11(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
   千刀・ツルギ×6@刀語、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
   大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
   携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数
[思考]
基本:戯言遣いと合流する。
 0:一応図書館に向かってはやるけど……
 1:蝙蝠は探し出して必ずぶっ殺す。
 2:零崎を始める。とりあえず戯言遣いと合流するまでは。
 3:黒神めだか? 会ったら過剰防衛したとでも言っときゃいいだろ。
 4:ぐっちゃんって大将のことだよな? なんで役立たず呼ばわりとかされてんだ?
[備考]
 ※Bー6で発生した山火事を目撃しました
 ※携帯電話その1の電話帳には携帯電話その2、戯言遣い、ツナギ、無桐伊織が登録されています
 ※携帯電話その2の電話帳には携帯電話その1、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※球磨川禊が気絶している間、鑢七実と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※DVDの映像は、掲示板に載っているものだけ見ています

680border ◆ARe2lZhvho:2016/01/09(土) 17:29:53 ID:uCTf/sGU0
【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]両足骨折(添え木等の処置済み)
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ
[思考]
基本:零崎を開始する。
 0:曲識、軋識を殺した相手は分かりました。殺します。
 1:人識くんが無事で、本当によかったです。
 2:羽川さんたちと合流できるなら心強いのですが。
 3:玖渚さんと様刻さん、何事もないといいんですが。
 5:羽川さんはちょっと厄介そうな相手ですね……
[備考]
 ※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
 ※黒神めだかについて阿良々木暦を殺したらしい以外のことは知りません。
 ※宗像形と一通りの情報交換を済ませました。
 ※携帯電話のアドレス帳には箱庭学園、ネットカフェ、斜道郷壱郎研究施設、ランドセルランド、図書館の他に櫃内様刻、玖渚友、宗像形が登録されています。
 ※DVDの映像を全て、複数回確認しました。掲示板から水倉りすかの名前は把握しましたが真庭蝙蝠については把握できていません。



 ◆   ◆


「うん、一応は真っ直ぐ向かってくれてるみたいだね」
「よかったのかい?」
「もちろん、しーちゃんが気まぐれ起こしても構わないつもりで送り出したんだし。じゃ、続きを始めようか。同時再生っていくつが限界?」
「試してないからわからないけど…………3つが限界かな。あくまで再生するだけなら、だけど」
「じゃあ僕様ちゃんなら大丈夫。読み込みは全部終わってるんでしょ、再生して」
「了解。それで、その首輪の中身だけど新しい発見はできそうかな」
「正直微妙。僕様ちゃんの目論見通り外殻はただの金属。おそらく絶刀と同じかな。つまり加工手段があったってことだから逆もまた然り。
 中身は起爆装置と位置情報を知らせる発信器以外はめぼしいのは見つからないね、それに結構デリケート。
 生きてる首輪も外せなくはないけど、斬刀を使う以上少しでもずれたら頸動脈切れちゃうし、誤爆だって起こらないとは到底言えない。
 つまり、必要なのは起爆装置を外からでもオフにできる何か、ってところかな。そんな都合のいいものあるとは思わないけどさ。
 3つとも構造に違いがなかったのは予想と外れたけど、刺青が本体だった真庭狂犬といえど、体がないとどうしようもないってのはあったし……
 そういう意味じゃ、阿良々木暦の首輪が欲しかったなあ。全盛期なら頭を吹っ飛ばしてもすぐ再生したらしいし。
 爆薬の代わりに聖水が詰まってたとしても下手すれば時間をかけて再生しちゃうかもしれないしなあ……そうなる可能性がほとんど無かったとはいえ。
 水倉りすかの場合は『魔法封じ』に類する何かがあったとか、水倉りすか本人の魔法式に細工がされていたとかで殺すことは可能だろうけど。
 不可解なのはキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードが黒神めだかごときに殺されたってところかな。
 形ちゃんが名簿と一緒に持ってきてくれたあのレポート、読んだ限りじゃ弱点が弱点にならないレベルでほんと規格外だし」
「そのための『制限』だったと思うけどな、僕は」
「あくまで『制限』されてたのは参加者でしょ? 忍野忍には首輪がついてなかったし、阿良々木暦が死んだ直後にハートアンダーブレードに戻ってたし。
 殺したくらいじゃ死なない筆頭だよ。そもそも不死身なんだけどさ」
「……ごめん、僕にはさっぱりだ」
「ぶっちゃけ僕様ちゃんもそこについてはさっぱりだから気にしなくていいよ。ん、ぴーちゃん、次再生して」
「あ、うん」

681border ◆ARe2lZhvho:2016/01/09(土) 17:30:27 ID:uCTf/sGU0
「考えてみれば最初の時点でおかしいところはあったんだよね。僕様ちゃんのスタート地点がパソコンに囲まれたネットカフェで、近くには舞ちゃんがいて。
 お互い潤ちゃんという共通の知人がいて穏やかな関係は結びやすかっただろうし。舞ちゃんがいたからこそというのもあったけど同じくお誂え向きの研究所もあったし。
 そこにやってきたのが真庭狂犬だったのもちょっと思うところはあるよね。僕様ちゃんの体を乗っ取ればその知識を使えた可能性もあるにはあるし。無理だろうけど。
 ぐっちゃんのところに現れたのが真庭喰鮫で、零崎双識のところには真庭蝙蝠。零崎と真庭で因縁を作らせたかったんじゃないかって考えちゃう。
 穿った見方になるけれど、零崎曲識を殺した水倉りすかと彼女を駒にしてる供犠創貴が真庭蝙蝠と同盟を結んだのだって計算して配置したのかもしれない。
 そうなると、しーちゃんだけそういうのがなかったのに疑念を抱くところではあるんだけど」
「そう言われると、僕も心当たりはないでもないんだよな。病院坂と彼女の親戚の迷路ちゃんと早くから合流できたってのはやっぱりできすぎだと思う。
 電話を持ってたにも係わらず、伊織さんだって人識と再会できたのはついさっきだったんだしさ」
「もしかするとしーちゃんはそっちに宛がわれたのかもね。裏切同盟を撃退した経験もあったし繰想術にも耐性はあっただろうし」
「それであの結果じゃ様は無いけどな。……はい、次の動画」
「ありがと。でも正真正銘ただの一般人が呪い名に関わって五体満足でいられてるんだからそう悲観する必要はないと思うよ?」
「割り切れるものじゃないさ。ほとんど影響ないとはいえまだかけられた繰想術は解けてないんだし」
「目を合わせただけなら、遠からず解けると思うけどね。即効性があるゆえに持続性を犠牲にしてるはずだから」
「そうは言ってもなあ」
「なら頼めば? すぐやってもらえるんじゃない」
「いや、やめとくよ。……そういえば聞きたかったんだけどさ」
「何?」
「どうして玖渚さんは『そう』したんだ? そんなの必要なさそうに思うんだけど」
「うーん、唯一踏み込んじゃったから、ってのはあるけど一番の理由にはならないかな。まあ、ぴーちゃんと同じ感じ。
 私がいーちゃん以外のものになるなんて私が許さないけど、もしもそうしなかったせいでいーちゃんに何かあったらもっと許せない。
 単純に、優先順位の問題で合理的だった、それだけの話だよ。それに、忘れたわけじゃないでしょ?
 悪平等(ぼく)の前に自由(わたし)であれ。それが変わらないからこそ、しーちゃんと翼ちゃんを遭わないように僕様ちゃんはああいう計らいをしたんだもの。
 僕様ちゃんは僕様ちゃん、ぴーちゃんはぴーちゃんなんだから」
「それはどうも。なあ、悪平等(ぼく)」
「なんだい、悪平等(ぼく)?」
「この後、どうするんだい?」
「そうだね、どうしようかなあ」

682border ◆ARe2lZhvho:2016/01/09(土) 17:31:03 ID:uCTf/sGU0
【2日目/深夜/G-6 薬局】
【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]右手甲に切り傷(処置済み)
[装備]携帯電話@現実、首輪探知機@不明
[道具]支給品一式、ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ、工具セット@現実、首輪×3(浮義待秋、真庭狂犬、真庭鳳凰)、
   糸(ピアノ線)@戯言シリーズ、ランダム支給品(0〜2)
[思考]
基本:いーちゃんに害なす者は許さない。
 0:首輪の解析。
 1:いーちゃんは大丈夫かなあ。
 2:水倉りすかだけ生き残るなんてめんどくさいことになっちゃったなあ。
 3:しーちゃんが翼ちゃんと遭っちゃうのはよした方がいいよね。
[備考]
 ※『ネコソギラジカル』上巻からの参戦です
 ※箱庭学園の生徒に関する情報は入手しましたが、バトルロワイアルについての情報はまだ捜索途中です
 ※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを凡そ理解しました
 ※言った情報、聞いた情報の真偽(少なくとも吸血鬼、重し蟹、囲い火蜂については聞きました)、及びそれをどこまで理解したかは後続の書き手さんにお任せします
 ※掲示板のIDはkJMK0dyjが管理用PC、MIZPL6Zmが玖渚の支給品の携帯です
 ※携帯のアドレス帳には櫃内様刻、宗像形、無桐伊織、戦場ヶ原ひたぎ、戯言遣い(戯言遣いのみメールアドレス含む)が登録されています
 ※ハードディスクを解析して以下の情報を入手しました
  ・めだかボックス『不知火不知』編についての大まかな知識
  ・不知火袴の正体、および不知火の名字の意味
  ・主催側が時系列を超越する技術を持っている事実
 ※主催側に兎吊木垓輔、そして不知火袴が影武者を勤めている『黒幕』が存在する懸念を強めました
 ※ハードディスクの空き部分に必要な情報を記録してあります。どんな情報を入手したのかは後続の書き手様方にお任せします
 ※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。内容は完全に記憶してあります
 ※参加者全員の詳細な情報を把握しています
 ※首輪に関する情報を一部ながら入手しました
 ※浮義待秋の首輪からおおよその構造を把握しました。また真庭蝙蝠たちの協力により真庭狂犬の首輪も入手しました
 ※櫃内様刻に零崎人識の電話番号以外に何を送信したのかは後続の書き手にお任せします
 ※本文中で提示された情報以外はメールしていません
 ※零崎人識からのメールにより以下の情報を入手しています
  ・戯言遣い、球磨川禊、黒神めだかたちの動向(球磨川禊の人間関係時点)
  ・戦場ヶ原ひたぎと宗像形の死亡および真庭蝙蝠の逃亡
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。
 ※作中で語ったのとほぼ同じ内容のメールを戯言遣いに送信しました。他に何を送信したのかは後続の書き手にお任せします
 ※悪平等(ぼく)です

683border ◆ARe2lZhvho:2016/01/09(土) 17:31:37 ID:uCTf/sGU0
【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備]スマートフォン@現実
[道具]支給品一式×7(うち一つは食料と水なし、名簿のみ8枚)、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜28)@不明
   炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、
   輪ゴム(箱一つ分)、首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、
   鎌@めだかボックス、薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、
   誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、
   「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、三徳包丁@現実、
   中華なべ@現実、マンガ(複数)@不明、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、
   食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」
   (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う(瓦解寸前)
 1:玖渚さんに付き合う。
 2:時宮時刻を殺したのが誰かわかったが、さしたる感情はない。
 3:僕が伊織さんと共にいる理由は……?
 4:マシンガン……どこかで見たような。
[備考]
 ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形が登録されています。また、登録はしてありませんが玖渚友からのメールに零崎人識の電話番号とアドレスがあります。
 ※阿良々木火憐との会話については、以降の書き手さんにお任せします。
 ※支給品の食料の一つは乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※DVDの映像は全て確認しています。
 ※スマートフォンに冒頭の一部を除いた放送が録音してあります(カットされた範囲は以降の書き手さんにお任せします)。
 ※マシンガンについて羽川の発言から引っかかりを覚えてますが、様刻とは無関係だったのもあって印象が薄くまだブラック羽川と一致してません。
 ※悪平等(ぼく)です


[共通備考・首輪について]
・耐熱、耐水、耐衝撃などの防護機能が施されており、外からの刺激で故障、爆発することはまずない
・首輪から発信される信号によって主催はそれぞれの現在位置を知ることができる。禁止エリアに侵入した場合、30秒の警告ののち爆発する
・主催に反抗した場合、首輪は手動で爆破される(どんな行動が反抗と見なされるかは不明)
・一定の手順を踏めば解体することは可能。ただし生存している者が首輪をはずそうとした場合、自動的に爆発する
・装着している者が死亡した場合、爆破の機能は失われる。ただし信号の発信・受信機能は失われない
・二重構造で外殻には特別な仕掛けはない。中身は爆薬・起爆装置・発信器のみで(今のところ)能力を制限するようなものは見当たらない


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支給品紹介
【ベスパ@戯言シリーズ】
想影真心に支給。
戯言遣いが葵井巫女子から譲り受けた白のヴィンテージモデル。
ラッタッタと呼んではいけない。

684 ◆ARe2lZhvho:2016/01/09(土) 17:33:50 ID:uCTf/sGU0
投下終了です

情報をまとめようとしたらここまでセリフだらけになってしまった…
キスショットに触れておいて来週業物語が出るのが不安でしかないですが何か指摘等あったらお願いします

それと、本日は交流雑談所にてロワ語りが実施されてるのでよろしければそちらもお願いします

685名無しさん:2016/01/09(土) 22:15:36 ID:vO2VFQqI0
投下乙です!
ヘタレ伊織ちゃん可愛い……と思ったのもつかの間、流れるような考察の嵐で話が核心に近づいてくる感が素晴らしかったです
とはいえまだまだ謎は山積みだし、人識と伊織がどんな情報をゲットできるかが気になるところ
そしてとうとう明らかになった悪平等(ぼく)の一端。ここ終盤にきてまだまだ安心院さんの影響が話をかき回してくれそうで楽しみ

686名無しさん:2016/01/09(土) 22:37:36 ID:ztVwrZkI0
投下乙でした。
考案がどんどん進む中、まだまだ課題はたくさんあってこの先がどうなるのかわからなくなりますね……
そんな中でも、人識くんを起こすシーンとかで伊織ちゃんの愛らしさが出ていて、癒されました!

687名無しさん:2016/01/16(土) 00:04:59 ID:aoAMqKd60
集計者様いつも乙です

月報です
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
162話(+2) 12/45 (-0) 26.7(-0.0)

688 ◆wUZst.K6uE:2016/01/16(土) 23:13:25 ID:Gs4DdeGg0
投下します

689狂信症(恐心傷) ◆wUZst.K6uE:2016/01/16(土) 23:14:51 ID:Gs4DdeGg0
 

   ◇     ◇

 
嘘でもいいので騙されてください。
 


   ◆     ◆


 
さて、さて、さて、さて。
久方ぶりにこのおれ、真庭蝙蝠の手番であり出番と相なったわけだが、のっけからどうにも厄介な状況に遭遇しちまったらしい。
と言っても、別に窮地に立たされてるってわけじゃあねえ。むしろこれ以上ないほど好機に立たされてるって具合だ。
好機すぎて、どういう選択を取ろうか迷っちまうくらいにな。
なにせ、あの虚刀流が。
先の大乱の英雄、鑢六枝の実子であり虚刀流の正統なる後継者、鑢七花が、こともあろうにおれの目の前で無防備におねんねこいてるってんだからよ。
思わず自分の普段の行いを顧みちまう勢いだぜ。
善行を積んだ覚えはとんとねえからな。きゃはきゃは。
なぜこいつがこんなことになってるのかは知らんが、おれがこの場所に偶然にもたどり着いたのは、ある意味こいつの「お姉ちゃん」のおかげだ。
鑢七実、と言ったか。
次の行き先はどうするかと考えていた矢先に通りがかった、着物の女と学生服の男。
始めて見る面だったから誰かと一瞬いぶかしんだが、あのやたらと尊大な態度のがき(都城だったか?)から聞いていた特徴と一致したからすぐにぴんときた。
それにあのお姉ちゃんの声は、おれがあの島にいたときに盗み聞きしていたからな。
頭の悪そうな弟とは対照的に、聡明そうなお姉ちゃんだったから記憶にはよく残っている。
性悪そうなところも含めてな。
都城の野郎からの忠告を思い出したことと、おれの体調がまだ万全の状態じゃねえってことからとりあえず様子見に徹していたが、どうやら正解だったようだ。
あまりにぶっとんだ会話に動揺しちまったとはいえ、潜んでいたこのおれの気配を察知するなんざ只者じゃねえ。
さすがは虚刀流の血筋、といったところか。
あの時おれの手裏剣砲にいち早く対応したのも、幸運や偶然のたぐいじゃねえってわけだ。
学生服のほうも、雰囲気こそ確かに人畜無害そうなそれだったが、むしろこいつのほうが底知れねえ。死んでも生き返るだとか、首輪を自力で外したようなことを平然と喋ってやがった。
いやはや、若人の忠告ってのも当てにしておくものだぜ。
くわばらくわばら。
ともあれ、確実に勝てねえ相手にゃ正々堂々とは挑まねえってのがおれの流儀だ。さっさと踵を返して、連中と反対方向に足を進めたわけだが――
その先に、虚刀流がいた。
寝ていた。堂々と。
それを見たとき、おれは最初「死体が寝ている」と思った。
「死んでいる」と思ったわけじゃねえ。ぐーすかと寝息を立てていたし、遠目でも息があるということは判断できたからな。
それでもなお、それは「死体」に見えた。
ちぎれた右手。
全身から漂う腐敗臭。
そしてなにより、生きている者特有の気配――活力みたいなもんが、一切合財感じ取れねえ。
魂が抜け落ちてしまったかのごとく。
そんなものが寝息を立ててるってんだから、これはもう「死体が寝ている」としか表現しようがねえぜ。
……いや、強いて言うなら、あいつらに似ているのか?
ついさっきすれ違ったばかりの、あの二人。
作り物か何かのように儚げな雰囲気をまとったあの女と、無気力を体現したかのようなあの男。
例えばあの二人の「弱さ」をひとつにまとめ上げでもしたら、それこそ「生きた死体」としか言いようのない――――おっと。
そんなことを考察してる場合じゃねえ。まずはこのでくの坊の処遇を決めることを優先しねえと。
最終的にぶっ殺すことは変わらねえんだが……というか、こいつが本当にただ寝ているだけだったら、一も二もなく息の根を止めていただろう。
寝首は掻くものと相場は決まってるからな。

690狂信症(恐心傷) ◆wUZst.K6uE:2016/01/16(土) 23:16:17 ID:Gs4DdeGg0
しかし、だ。
先にも言ったとおり、今のこいつは死体に見えちまうほど衰弱しきっている。気迫のかけらも感じ取れねえし、おまけに右手首から先が欠けているって有様だ。
これを見て、「なにも急いて殺す必要はない」と考えるのを、おれは油断や慢心とは呼ばねえ。
さらに「どうせ殺すなら、可能な限り情報を聞き出してから殺すべきだ」と考えるのも、正しい判断だとおれは思う。
思うよな?
だからおれは、おれが知っている限りこいつの目を覚まさせるのに一番適していると思しき手段として、


「なに寝ておるのだ。起きぬか、七花!」


と、あの奇策士ちゃんの声で、活を入れてやったってわけさ。

 
「とがめ……?」

効果は抜群。あれだけ死んだように眠っていたにもかかわらず、一発で目を覚ましやがった。
どんだけ飼いならされてんだって話だ。まあおれにとっちゃ好都合だが。

「とがめ……とがめか?」

のっそりと、そのでかい図体を起こそうとする虚刀流。
目を覚ましてもまるで活気の湧く気配のねえことを確認したおれは、そこにつかつかと歩み寄って足を大きく振り上げ、

「おら」

起き上がりかけたその頭を、ぐしゃりと踏みつけにした。

「ああそうだ、とがめさんだ。奇策士とがめのお姉さんだぜ?」

そう言って、地面にこすりつけるように後頭部をぐりぐりと踏みにじる。
声と顔だけはあの奇策士のまま、上から下へ言葉を投げかける。

「きゃはきゃは、また一段とひでえ有様になっちまってるじゃねーか、虚刀流よ。犬の死体の真似事でもしてるのかと思ったぜ。寝すぎて腐っちまったか?
 でもまあ、性根まで腐ってやがる『この女』とはお似合いかもしれねーな。うっかり惚れ直してしまったぞ、七花よ――なーんつってなぁ!」

おれの足の下で、虚刀流はぴくりとも動かない。抵抗するそぶりすら一切見せない。
されるがままに、げしげしと頭を踏みつけられている。
おいおい。まさかおれが、あの子猫ちゃんの真似をしたまま、文字通り猫をかぶってやさしーく情報を聞き出してやるとでも思ってたか?
そんなまどろっこしいことをしてやるほど、おれは優しくねえし愚かでもねえ。
目ぇさえ覚ましてくれりゃあ、もうあの女のふりをする必要はねえのよ。
ここから先は、拷問と虐殺の時間だ。しのびらしく、力ずくで情報を引き出させてもらうぜ。
今のこいつだったら、『何でも差し上げますから命だけは助けてください』――おれの大好きなそんな台詞も口にしてくれるんじゃねーのか?
そしておれはこう返すのさ。『もらうのは命だけでいい』ってな。きゃはきゃは。
……とまあ、そんな感じにこの後のお楽しみについて、おれは考えを巡らしていたわけなんだが――


「…………ああ」


虚刀流は。
頭の上におれの足を乗っけたままの虚刀流は、平然とした口調で。
どころか、どこか安堵を感じさせるような声音で。




「よかった、無事だったんだな、とがめ」




と、言った。
は?

691狂信症(恐心傷) ◆wUZst.K6uE:2016/01/16(土) 23:17:37 ID:Gs4DdeGg0
 

   ◇     ◇

 
話をぶった切って悪いが、ここらでさっきの放送とやらについて語ってみたいと思う。
すなわち、おれが鳳凰さまの死を知らされたときの話だ。
今さら言うまでもないことかもしれねえが、しのびにとって仲間の死なんてものは日常茶飯事でしかない。
そこにいちいち余計な感情を差し挟むような奴なんてのは、狂犬みたいな例外中の例外くらいのもんだ。
しのびは生きて、死ぬだけ。
鳳凰さま自身が、散々言っていた言葉だ。
とはいえ、意外ではあった。あの鳳凰さまが、どこの誰に、どうやって殺されたのか興味としてはある。
仇討ちなんざこれっぽっちも考えちゃいねえが、それはおれが生き残るために必要な情報ではあるからな。
そう、生き残るために、だ。
狂犬、喰鮫、鳳凰さま。
仲間の死に対してこそ特別な感情は抱かねえが、おれ以外の頭領が全員この殺し合いから脱落しちまったことについて、何の危機感も抱かねえほど楽天家であるつもりはねえ。
おれが真庭忍軍最後の参加者であり、真実もう後がないという現状。
すなわち、真庭の里の命運が、もはや風前の灯火に等しいということ。
救いがあるとすれば、この殺し合いに参加している――名簿に名を連ねているのが、十二頭領のうちおれを含めて四人だけという点だ。
おれがここで命果てたとしても、真庭の頭領はまだ八人残っている。おれの死が、即座に真庭の里の崩壊に繋がるってわけじゃねえ。
と、初めのうちは思っていた。
おれ以外の頭領が、そもそもの目的である「刀集め」を首尾よく成功させてくれればいいだけだと。
しかし現状、それも怪しくなってきている。あの奇策士がくたばって、厄介な競争相手がひとり減ったことを差し引いた上でもだ。
なにせ、刀は「こっち」にあるのだ。
まだ全ての刀を確認したわけではないが、あのがき、都城の口ぶりからすると、連中はおれら頭領をここへ拉致ってきただけでなく、完成形変体刀十二本すべてを揃え上げていると考えておいたほうがいい。
この殺し合いを牛耳る「主催者」とやらが。
ならば。
おれがこの殺し合いを制することしか、もう真庭の里を救う手立てはない。
そしてそれを成したときこそ、初めて他の頭領の死は、無駄死にではなくなる。
おれひとりが、ではない。「我ら頭領が」真庭の里を救ったのだと、そう胸を張って言うことができる。
真庭の里のしのびとして、いくさの場で戦い、いくさの場で死んだのだと。
しのびとして最後まで生きたのだと、そう伝えることができる。
そのために、自分が死ぬわけにわいかない。この殺し合いの場に残された最後の頭領として、絶対の勝利を獲得せねばならない。
――と、そこまで考えて、ふと気づく。
おれが仲間の死を、他の頭領の死を画然たる事実として受け入れていることに。
おれはこの殺し合いの中で、一度も仲間の死体を目にしてはいない。いや死体どころか、生きているうちに会うことのできた者すら一人もいない。
にもかかわらず、名簿と放送という単なる情報だけを受けて、それを鵜呑みにしちまっている。
いや、流石にすべてをまるっと信じ込むほど間抜けではねえ。疑うところはしっかり疑っているつもりだ。
むしろ嘘が混じっていてくれたほうが、おれの忍法もより有効になると言える。疑心暗鬼につけ込んでこその忍法だからな。
ただ、おれ自身が疑いすぎるのもよくねえ。
いくら主催連中がろくでなしであっても、疑うべきでない一線というものは引いておく必要がある。
戦場とは決して無法地帯というわけではない。命の取り合いという極限状態においてこそ、最低限の規律や取り決めがなければ成り立たないものなのだ。
それがなければ、双方が無駄に血を流し疲弊するだけの、不毛な殺し合いになりかねない。
そしてここの主催には、この殺し合いを律するだけの力がある。
おれら頭領を拉致ってきただけでも十分な証明だ。
もちろん、放送で名を呼ばれた者が実は生きていたという可能性を端から否定するつもりはない。
つもりはないが、もし今、おれの目の前に鳳凰さまが生きて現れたとしたら、おれはそれを「偽物ではないか」と完全に疑ってかかるだろう。
いや、おれだけではあるまい。まともな思考をもってさえいれば、疑わないほうがどうかしている。
『放送で名を呼ばれたものは死んでおり、生き返ることもない』。
この一文をまず前提として留めておくべきだということは、この殺し合いの参加者であるなら、とっくに理解できていることのはずだ。
だから、仮に。
放送を漏らさず聞いていてなお、誰かの死を認めぬ者がいたとしたら。
死んだはずの者が目の前に現れたとき、一片の疑いもなくそれを本物と信じてしまう者がいたとしたら。
そいつはいったい、どれほどの大馬鹿者であると言えるだろう?

692狂信症(恐心傷) ◆wUZst.K6uE:2016/01/16(土) 23:18:48 ID:Gs4DdeGg0
 

   ◇     ◇

 
「とがめ……生きててくれたんだな。心配したんだぜ。よかった、本当に、よかった――」

「……………………」

待て待て待て待て。
こいつは何を言ってる? 何の冗談だこれは?
あの奇策士の名前が放送で呼ばれたのは最初の放送の時、半日以上も前のことだぞ?
受け入れるのに足らんほどの時間でもないし、忘れるほど昔のことでもあるまいに。
……いや、放送を聞き逃していたという可能性はあるか。
何らかの理由で放送を聞き逃し、人づてに聞くこともできず、死体を見つけることもできていなかったとしたら、あの女の死を知らないのも無理はない――

「放送とかいうので、とがめの名前が呼ばれたときにはちょっとびっくりしたけどさ――そうだよな、とがめがそう簡単に、易々と死ぬわけがないもんな」

前言撤回。
撤回も撤回、徹頭徹尾、徹底的に撤回だ。
こいつ、あの放送の意義について未だに理解できてねえってのか? 嘘だろ?
頭の悪そうな小僧だとは思っていたが、まさかここまで理解力がねえとは……いや待て、それ以前にだ。
たとえ「この女」の死を知らなかったとしても、おれをとがめと認識するのはおかしいだろう。
最初は確かに、あの女の顔と声を完璧に真似してやった。こいつを起こすために、あの女を抜かりなく演じたつもりだ。
だが、その後はどうだ?
声こそあの女のままだったが、容赦なく罵声を浴びせながら、頭をげしげしと足蹴に――するのはあの女でもやりかねないが、喋り口調については完全に素のおれのままだった。
騙すどころか、むしろおれが誰なのかを理解させ、絶望させた上で拷問へと移るつもりでいた。
ましてや、確かこいつは(何故かは知らんが)おれの忍法について把握していたはずだ。
現に、数時間前にこいつと遭遇した際には、姿を変えていたおれのことを真庭蝙蝠だと看過していたではないか。
理屈に合わない。
あのときから今の間に、こいつの身にいったい何があった?

「ああ……ごめんな、とがめ。せっかく生きて、おれを見つけてくれたってのに……おれはまた、とがめとの約束を守れなかったよ……」

おれが黙っているうちに、「この女」に向けて勝手に喋りだす虚刀流。
約束? また? 何のことだ?

「『刀を守れ』、『とがめを守れ』、『おれ自身を守れ』――とがめからそう言われてたのに、ひとつだって守れちゃいねえ…………。
 刀は見つからねえし、とがめのことも、正直死んだと思って諦めてたし……おれ自身に至ってはご覧のざまだ。こんな体じゃあ、守るどころか、もう何ひとつできやしねえよ――」

――姉ちゃんにも。
――また、勝てなかった。

「勝てなかったってか、そもそも戦いにすらなってねえか……はは、情けねえ…………」

……姉ちゃん? 勝てなかった?
こいつ、鑢七実とやりあったのか?
じゃあひょっとすると、こいつのこの惨状はあのお姉ちゃんの仕業か?

「姉ちゃんは、おれにはもう興味がないってさ……弱いおれには、生きぞこないのおれには興味がないって…………酷えよな。
 おれだって、好き好んでこんな身体になったわけじゃねえのに……この痛みだって、苦しみだって、元は姉ちゃんのものだってのに……
 おれがどんな気持ちでいたか、とがめならわかるよなあ……? とがめ……なあ、とがめ、とがめ、とがめ――――」

693狂信症(恐心傷) ◆wUZst.K6uE:2016/01/16(土) 23:20:18 ID:Gs4DdeGg0
 
思わず、頭を踏みつけにしていた足をどける。
逆に踏み潰してしまわなかった自分を褒めたい。真庭の里が窮地に瀕しているということが頭をよぎらなければ、反射的にそうしていただろう。
嫌悪感。
おれにしちゃあ珍しい感情だが……しかし、弱者をなぶりものにするのを得意とするおれをしてさえ、無意識に身を離しちまうほどの気味の悪さを感じた。
こいつとは一度、あの島でやりあっているからわかる。こいつは頭は悪いし経験も圧倒的に不足しているが、素質だけは一級品だったはずだ。
鍛え上げられた肉体、磨き上げられた技術、忍者相手にも物怖じしない闘争心。
今のこいつには、その内のひとかけらすらも見当たらない。
それこそ別人かと見紛うくらいに、だ。

「だけど、仕方ねえよなあ」

聞いてもいないのに一人語りを続ける虚刀流。
気持ちの悪い声で。

「だって相手は、あの姉ちゃんだぜ。とがめの奇策があって、ようやくぎりぎり勝てた相手だってのに、おれ一人で太刀打ちできるわけがないって……
 とがめがおれのそばにいないって時点で、おれなんかに――おれごときに、守れる約束なんてないし、守れる相手だっているはずがなかったんだ――」



「だからおれは、悪くない」



「おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。
 おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。
 おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。
 おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない。おれは悪くない」







『おれは――悪くない』







「……………………」

白状しよう。
おれが「この女」を演じてまでこいつを起こし、情報を得ようとしたのは「どうせ殺すのだからついでに」なんて気まぐれに似た理由ではない。
予感があった。
こいつからは、生かして聞かねばならないことがあると。
おれ自身が生き残るために、聞いておくべき情報があると。
正直な話、こいつが起きる前から気づいてはいた。こいつの身体の異変、まるで別人かと思うほどの肉体の弱化に。
加えて、あえて言及しないようにはしていたが、こいつの身体のど真ん中に突き刺さっている、四本の大螺子。
完全に身体を貫いているにもかかわらず、生きているどころか、血の一滴も流れてはいないし、刺さっている部分の肉に損傷のあとすら見られない。
物理的な力ではない、何かを超越した力。
すべてが不自然。すべてへの違和感。
そして今、こいつの話を聞いて、おれがこいつを起こした理由が明確になった。

「虚刀りゅ――いや、七花よ」

おれは再び、あの奇策士の声で話しかける。今度は声だけでなく、口調も真似て。
今、おれがこいつに対して感じているのは、恐怖だ。
強すぎる相手、勝ち目のない相手と対峙するのとはまったく逆の恐怖。
『自分もこうなるかもしれない』という、圧倒的な弱者に対する恐怖。

「わたしに会うまでに、そなたの身に何があったのか、詳しく話して聞かせよ」

何がこいつをここまで堕落させたのか。
ここではっきり知っておかねば、取り返しのつかないことになる。

694狂信症(恐心傷) ◆wUZst.K6uE:2016/01/16(土) 23:21:12 ID:Gs4DdeGg0
 

   ◇     ◇

 
虚刀流から話を聞き出すのは至極簡単だった。
本当におれのことをとがめと思い込んでいるらしく、警戒心のかけらもありゃしねえ。聞いたぶんだけすらすらと返ってくる。
この殺し合いの中での話はもちろんのこと、それ以前の話に至るまで根掘り葉掘り話させたからかなり時間は食っちまったがな。
「この女」が当然知っているだろうことも含め、かなり露骨に聞き出してみたが、おれの正体についてはまったく疑うそぶりすらない。
張り合いがなさ過ぎて退屈なくらいだったぜ。きゃはきゃは。

(……しかし実際、余裕ぶって笑っていられる話じゃねえな、こりゃ)

『却本作り』。
『大嘘憑き』。
そして鑢七実の『見稽古』。
改めて、こいつから話を聞き出しておこうという判断が正解だったことを知る。さっきの二人に絡まず逃げたことも含めてな。
いやはや、あのお姉ちゃん、只者じゃねえとは思っていたが、予想以上の化け物じゃねえか。
見た瞬間にすべてを見通し、あまつさえ己が能力として呑み込んじまう目。そんなもんにどうやって対処しろってんだ?
おれの使う忍法骨肉細工や、鳳凰さまの使う忍法命結びと属性の似ているところはあるが、やばさで言えば桁が違う。
なにせ骨肉細工も命結びも、どころかおそらく真庭の里に伝わる忍法のほとんどが、お姉ちゃんの目にかかれば一発で見取られちまうってんだから。
考えるだにぞっとする話だ。
で、肝心のこいつに刺さってた大螺子だが、案の定、お姉ちゃんとその連れの仕業だったようだ。
ただ予想と違ったのは、どうやらこの螺子、もともとは虚刀流を攻撃する目的でなく、命を救うためにぶっ刺したものらしい。
『却本作り』。
相手を弱くする――というよりは、相手を自分の弱さまで引きずり下ろす能力、といった感じか。
肉体も精神も技術も頭脳も才能も。
すべて同一に等価にする。
それだけ聞きゃあ確かに恐ろしい能力だが、あのお姉ちゃんはそれを利用して、自らの『生き損ない』という弱さ――病魔による苦痛と異常な回復力を虚刀流に植え付けてやったらしい。
弟の『腐敗』を抑制するために。
前に虚刀流と遭遇したとき、全身に泥みてーな物をかぶっていたのが見えたが、あれも相当やばい代物だったようだ。とっさに逃げを選んだあのがきどもの判断は大正解だったようだな。
見ると、虚刀流の身体にはまだあの泥がこびりついている。これには触れないよう要注意か。
要するにこいつは、腐って死ぬか弱体化して生き延びるかの二択を自分では選ぶことさえできず、お姉ちゃんとその連れに強制的に生きる方向を選ばされたってことだ。
しかもその後、お姉ちゃんとの姉弟喧嘩の末に右手をちぎり取られ、ろくに戦うこともできない状態にされた挙句、やる気をなくして不貞寝していたんだと。
いやもう、呆れて物も言えねえってのはまさにこのことだ。
見事なまでに救いようがねえ。
それともここは、素直にこいつのお姉ちゃんを脅威に思っておくべきなのかね。生かさず殺さず捨て置くたあ、えげつない真似をしやがる。
負荷に負荷を上書きし、負荷をもって負荷を抑え込む。
これはお姉ちゃんでなくその連れの発案らしいが……結果的に命を救ったとはいえ、まあ残酷なんだろうな。
いい趣味してるぜ。

695狂信症(恐心傷) ◆wUZst.K6uE:2016/01/16(土) 23:22:20 ID:Gs4DdeGg0
 
ああ、そういやもうひとつ興味深い話を聞くことができたんだった。おれと虚刀流の、時間のずれに関することだ。
おれがここに連れてこられたのは、睦月の頃、あの島で奇策士ちゃんの姿に化けて虚刀流を討ちに行く途中のことだったんだが、虚刀流も当然、同じようにあの島からここへ拉致られてきたのだと思っていた。
しかし話を聞くに、元いた場所はおろか、年月すらおれの認識とは相当なずれがある。
それもこいつが来た時期は、おれから見て未来のことだという。
まったくわけがわからねえ。
無論、こいつが本当のことを言っているって証拠はなにひとつないわけだが……でたらめにしちゃあ詳細がはっきりし過ぎている。
こいつがこんな凝った嘘をつけるほど利口だとは思えねえ。
刀を求めての全国放浪、変体刀の所有者との闘い、奇策士の死、果ては現将軍を相手取っての、たったひとりでの謀反――

(……まるで、よくできた物語を聞いている心地だ)

その物語の中では、おれ自身も噛ませ犬同然に斬り捨てられてるわけなんだが、それすら実感として湧いてこねえ。
こいつが妙な妄想にとらわれちまったとでも考えたほうがよっぽど現実味がある。
要するに、だ。
この件について、ここで深く考える意味はないってこった。
証拠も何もないうえに、いつどんな場所から来たなんざ自己申告に頼るしかねえんだから、検証のしようもねえ。
考えるだけ無駄だし、必要ならこの殺し合いが終わった後でじっくり調べるか、主催連中に直接聞きゃあいい。力ずくででもな。
だから当面の問題はやはり、鑢七実とその連れだ。
おれはあのお姉ちゃんに面割れはしていないが、あのとき小屋に手裏剣砲をぶっ放したのが真庭のしのびだってことは「この女」から聞いているだろう。
さっきは見逃されたようだが、二度目はないかもしれない。たとえ骨肉細工で姿を変えていたとしても、あのお姉ちゃんの目を欺くのはおそらく無理だ。
そのくらいの眼力を持っていると考えたほうがいい。
球磨川って奴のほうも油断はならねえ。むしろあいつのほうが、お姉ちゃんと比べて情報がないぶん対処法を講じにくい。
『大嘘憑き』とかいう能力のほうも、虚刀流からから聞いた話だけではいまひとつ呑み込めねえところがある。
虚刀流の怪我を直したのがその能力ってことらしいが……言われてみりゃ、あのときのこいつはもっと火傷やらなにやら、今より酷い怪我を負っていたような気がする。
単なる治療のための能力……ってわけでもねえんだろうな。

(『首輪をなかったことに』――か)

思い返してみりゃ、おれがついさっき盗み聞きしていた会話がまさに『大嘘憑き』なる能力についての話だった。
『死んでも生き返る』云々ってのもその内か?
……まさか「死んだことをなかったことにする」とか言うんじゃねえだろうな? おいおい、そんなもんがまかり通ろうもんなら殺し合いもへったくれもなくなるぜ?
しかし、そう考えると辻褄が合っちまうのも事実だ。
球磨川禊は『首輪をなかったことにはできない』と言っていた。にもかかわらず、球磨川の首輪は外れていた。
仮に死んでも生き返れる奴がいたとしたら、首輪を外すのは簡単だ。首ごと外してしまえばいい。
力技だが、これ以上なく理に適っている。
とはいえ、本当にそんなことができていいのか? 反則どころの話じゃねえだろうが。
回数制限とか時間制限とか言ってたから完全に万能ってわけでもねえんだろうが……いやはや。
化け物はとことん化け物ってことかね。
とはいえ、逃げ続けていても埒は明かねえ。最も危険な存在だからこそ、早めに潰しておくのが得策だ。

696狂信症(恐心傷) ◆wUZst.K6uE:2016/01/16(土) 23:23:20 ID:Gs4DdeGg0
正面からやり合うのは論外。下手な小細工は逆効果。
ならばあの化け物に、どうやって対処する?
何を利用し、どんな策を弄する?

「どうした? とがめ、急に黙っちまって。もう質問はないのか?」

……こいつは利用できるか? おれの目の前で胡坐をかいて座っているこの間抜け面は。
戦力としてはまったく使いようはねえだろうが……しかし。

(こいつは、なぜ生きている?)

正確には「なぜ生かされている」と言うべきか。
身体能力は削弱させられ、右手はちぎり取られているものの、鑢七実と正面から対峙してなお、こいつは生かされている。
おれが今のこいつを容易に殺せるように、お姉ちゃんにとっても、こいつを殺すことは息を吸うより簡単だったはずだ。
むしろこいつを生かすために施したあれこれのほうが、よっぽど手間がかかっている。

(殺せなかった――と考えるのは、はたして曲解か?)

鑢七実にとって、たったひとりの身内であり弟。
その事実が、あのお姉ちゃんの刃を鈍らせたのだとしたら。

「……七花よ、そなた――」

おれは今、首から上は奇策士に化けている。長い白髪までしっかり再現済みだ。
しかし首から下は、元のおれの身体のままだ。服装も軋識とかいう奴のものだし、遠目から見ても均衡を欠いた見た目になっていることだろう。
そのおれの姿を、虚刀流は間近で見ている。
両目が潰れてるってわけでもねえし、おれのこの不自然ななりもはっきり視認できているはずだ。
にもかかわらず、こいつはおれを奇策士と信じて疑わない。
騙す騙さざるにかかわらず。

(おかしくなっているのは、ならば目でなく頭――か)

いかれている、というやつだ。
それもこの大螺子の効果なのかどうかは知らんが、ともかく今のこいつを利用するのは犬に芸を仕込むより簡単そうだ。

「もう一度、鑢七実に挑む気はあるか?」

おれの言葉にきょとんとする虚刀流。
返答を待つことなく、おれは畳みかける。

「七花、わたしはこの殺し合いで優勝を狙っておる。主催とやらに、願いを叶えてもらうために」

これはまあ嘘じゃねえ。本当に何でも願いが叶うってんなら、優勝を狙わない理由はねえからな。
主催に媚びるつもりは毛頭ねえが。

「今現在生き残っている全員を亡き者にしてでも、わたしは最後の一人にならねばならない。無論、鑢七実も最終的には殺すつもりだ。
 そなたにもう一度、七実と戦うつもりがあるなら――七実を殺す覚悟があるというなら、またわたしに力を貸してはくれぬか、七花」

そう言って、おれは手を差し出す。
まあ返事がどうあれ、無理矢理にでも協力させるつもりでいるのだが。
あくまで拒否するというのであれば、この場でさっさとぶっ殺すだけだ。

697狂信症(恐心傷) ◆wUZst.K6uE:2016/01/16(土) 23:24:22 ID:Gs4DdeGg0
 
「いや、でも――いいのか、とがめ」

戸惑ったように目を泳がせる虚刀流。
めんどくせえ。

「まあ、とがめの力になりたいのは山々なんだけどさ……おれはもう、とがめの期待に沿えるような刀じゃねえよ……
 身体はご覧の有様だし……刀として、とがめのために振るえる力なんて、おれにはもう――」

「馬鹿者!」

差し出した手で、虚刀流の頬に平手打ちを喰らわす。
頬骨を砕く勢いでいってやろうかと思ったが、そこは我慢だ。

「そなたが刀としてどうかなど、どうでもよい!」

本当にどうでもいい。
今さらこいつに刀としての力なんざ期待するものか。

「そなたが鑢七花でさえあれば! それだけでわたしにとっては十分なのだ!」

こいつが鑢七花であること。すなわち鑢七実の弟であること。おれが必要としているのはそれのみだ。
身内に対する甘さ、弟に対する情。そんなもんがあのお姉ちゃんにあるかどうかは微妙なところだが、少なくともこいつが今、鑢七実によって生かされていることは事実だ。
あの化け物を殺すためには、まず外堀から埋めておく必要がある。
鑢七実は決して一匹狼ってわけじゃねえ。どころか今は、球磨川禊にべったりの状態だ。見ていて胸やけがするくらいにな。
だからまずは、周囲の人間から懐柔する。
鑢七実の弱みとなりそうな人間。それを手駒として引き入れていく。

「刀として駄目だというなら、人としてわたしのそばにいろ! 役立たずでもよいからわたしに使われていろ! 
 つべこべ言わず、わたしに従っておればよいのだ! 今のそなたにそれ以上の価値などないのだからな!」

だいぶ本音が混じっちまった気がするが、まあ「この女」ならこのくらいのことは言いそうだ。
「この女」だってどうせ、こいつのことを利用するだけ利用して捨てちまうつもりだったんだろうぜ。「この女」の出自を知っているおれにとっては火を見るよりも明らかだ。
ならばおれが、「この女」に代わってこいつを利用してやるってのも面白い試みだろう?
どうせ死にかけの負け犬、捨て駒程度には使ってやるさ。

「…………ん?」

虚刀流から何の反応もないことに不審を感じ、その顔を覗き込む。
泣いていた。
無言で。
呆けた顔のまま、はらはらと涙を流している。

「……………………」

このときのおれの心情を事細かに描写するのはやめておく。いくら言葉で説明しようとも、絶対に伝わらねえと思うからだ。
一言でいうなら、引いた。
どん引きだ。
惚れた女(と思い込んでいるおれの姿)を見つめながら落涙している大の男を目の前にしたおれの心情が想像できるか? できるもんならしてみやがれ。

698狂信症(恐心傷) ◆wUZst.K6uE:2016/01/16(土) 23:25:24 ID:Gs4DdeGg0
 
「……ああ、悪い、とがめ。つい嬉しくなっちまって」

嬉しい? 何がだ?
何かこいつを喜ばせるようなことをしたっけか?

「もうおれにできることなんてないと思ってたのに……こんなおれでも、とがめは必要としてくれるんだなって……
 何もかも面倒で、全部諦めちまおうって、そう思ってたけど……そうだな、とがめがおれを頼ってくれるってんなら、括弧――格好つけないわけにはいかないもんな」

おもむろに立ち上がる虚刀流。
こちらに向けられた両の目は、死人のそれよりも濁り切って見えた。

「殺せるよ、相手が姉ちゃんでも、誰でも。とがめが一緒にいてくれるならさ――だから」


だからおれを。
ひとりじゃ誰にも勝てないこのおれを。
刀としてはもう何の役に立たない、このおれを。





『おれを、勝たせてくれよ』





そう言って、虚刀流は笑った。
死体のような笑顔で。

「…………成る程な」
「え? 何か言ったか? とがめ」
「……いや、なんでもない」

なぜこいつがおれを頑なに奇策士と思い込んでいるのか、その理由がわかったような気がする。
こいつにはもう、「この女」しか縋れるものがないのだ。
姉に見限られ、武人としての強さは失われ、守るべき者はすでに亡く、必要としてくれる者は誰一人としていない。
絶望と孤独。
そこに現れた奇策士の声を模倣したおれという存在は、こいつにとってはさながらお釈迦さまが垂らした蜘蛛の糸だったのだろう。
だからこいつは、それに必死にしがみついている。
おれが殺した軋識って奴と同じだ。死に際の、絶望の淵にいたあいつが、「零崎曲識は生きている」というおれの虚言に縋ったように。
はじめから、こいつの目におれの姿なんぞ映ってはいなかったのだ。
『とがめが生きていてくれたら』。こいつが見ているのは、そんな願望が作り出した儚き幻想だ。
愚かしい。
この愚かしさが、こいつに刺さった四本の大螺子によって人為的に植え付けられたものだったとしたら、これほど恐ろしいことはあるまい。
改めて思う。
鑢七実と球磨川禊、この二人の存在を軽視すべきではないと。
殺されるならまだましと言えるかもしれん。
こんな『弱さ』をこの身に刻まれるくらいなら。
こいつと同じものに堕ちてしまうくらいなら。

「よろしくな、とがめ。とがめのためなら、おれは何でもするぜ」

虚刀流は言う。すでに死んだ女へと向けて。

「……ああ、よろしく頼む、七花よ」

おれは言う。すでに死んだ女の声で。
侮蔑の感情を隠すことなく。


「わたしのために、存分に戦え」


そして死ね。
心の中で、おれはそう吐き捨てた。

699狂信症(恐心傷) ◆wUZst.K6uE:2016/01/16(土) 23:27:32 ID:Gs4DdeGg0
 
【二日目/黎明/D-5】
【鑢七花@刀語】
[状態]右手欠損、『却本作り』による封印×4(球磨川×2・七実×2)、病魔による激痛、『感染』?
[装備]袴@刀語
[道具]支給品一式
[思考]
基本:『おれは悪くない』
 0:『とがめの言う通りにやる』
 1:『とがめが命じるなら、誰とでも戦う』
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします
 ※着物は『大嘘憑き』で『なかったこと』になりました
 ※『大嘘憑き』により肉体の損傷は回復しました。また、参戦時期の都合上負っていた傷(左右田右衛門左衛門戦でのもの)も消えています
 ※寝てる間に右手がかなり腐りました。今更くっつけても治らないでしょう



【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]身体的疲労(小)、頭部のみとがめに変態中
[装備]軋識の服全て(切り目多数)
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、愚神礼賛@人間シリーズ、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、諫早先輩のジャージ@めだかボックス、
   少女趣味@人間シリーズ、永劫鞭@刀語
[思考]
基本:生き残り、優勝を狙う
 1:虚刀流を利用する
 2:強者がいれば観察しておく
 3:鑢七実は早めに始末しておきたい
 4:行橋未造は……
[備考]
 ※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識、供犠創貴、阿久根高貴、都城王土、
  零崎軋識、零崎人識、水倉りすか、宗像形(144話以降)、鑢七花(『却本作り』×4)、元の姿です
 ※放送で流れた死亡者の中に嘘がいるかも知れないと思っています
 ※鑢七実と球磨川禊の危険性を認識しました。
 ※供犠創貴に変態してもりすかの『省略』で移動することはできません。また、水倉りすかに変態しても魔法が使えない可能性が高いです
 ※宇練銀閣の死体を確認しましたが銀閣であることは知りません
 ※体の一部だけ別の人間の物に作り替える『忍法・骨肉小細工』を習得しました

700 ◆wUZst.K6uE:2016/01/16(土) 23:28:29 ID:Gs4DdeGg0
以上で投下終了です
指摘などあればお待ちしています

701名無しさん:2016/01/17(日) 00:58:26 ID:TTH4WrNQ0
投下乙です
うわあ…更に七花が壊れた…
二つ前の時点で戻れそうになかったけどこれで完全に修復不可能に
蝙蝠がまともな感性してる分七花の過負荷っぷりが余計に際立つ
ねーちゃんと球磨川の悪いとこどりだけど蝙蝠はそんなのと一緒に行動して大丈夫か?
あとねーちゃんが七花殺さなかったのってそんなまともな理由じゃないんですよ蝙蝠さん…

702名無しさん:2016/01/17(日) 16:01:43 ID:d5xwxZRQ0
投下乙です
正直に言って七花から気持ち悪さを感じずにはいられなかった
過負荷っぷりがやばすぎてよく蝙蝠は我慢しきれたな…
括弧──格好つけないわけにはいかない、という原作からのセリフもシチュが違うだけでこんなにおぞましくなるとは
これで完全に折れちゃったんだなあと思うとやるせないものがある

指摘ですが、>>691
おれはこの殺し合いの中で、一度も仲間の死体を目にしてはいない
とありますが155話に狂犬の首輪を外したのが蝙蝠と言及されてますのでその一文はそぐわないかと
細かいところではございますが修正ご一考お願いします

703 ◆wUZst.K6uE:2016/01/17(日) 22:43:56 ID:hZUQ3d260
>>702
指摘ありがとうございます
当該箇所を以下のように修正します

>おれがこの殺し合いの中で発見できた仲間といえば、狂犬の死体だけだ。あとは死体どころか、生きてるうちに会うことすら一度もできていない。

704名無しさん:2016/01/20(水) 23:02:10 ID:FswJHHOo0
投下乙です!
蝙蝠はとんでもないことをしてくれましたね……まさか七花をここまで狂わせるとは
嘘って怖いよ……

705 ◆xR8DbSLW.w:2016/02/03(水) 03:20:47 ID:WdrTr5720
投下お疲れ様です。
とりあえず投下させていただきます。

706 ◆xR8DbSLW.w:2016/02/03(水) 03:22:50 ID:WdrTr5720




   ★    ★



 さあ、『魔法』を始めよう。



   ★    ★



 水倉りすか。
 彼女のなんたるかを改めて語るのは、些か時間の無駄と言えよう。
 語るにしては時間が経ちすぎた。彼女の性格は言うに及ばず。彼女の性能は語るに落ちる。
 いくら彼女が時をつかさどる『魔法少女』とはいえ、時間と労力を意味もなく浪費をするほどぼくは優しくない。
 それだけの時間があれば、ぼくはどれだけのことを考え得るか――どれだけの人間を幸せに出来るだろう。
 無駄というものはあまり好きではない。ぼくがりすかの『省略』を敬遠する理由でもあるのだが。
 だけど、仮に語るという行為に意味があるとするならば。必要があるとするならば。
 その程度の些事、喜んで請け負うことにしよう。


『のんきり・のんきり・まぐなあど ろいきすろいきすろい・きしがぁるきしがぁず』


 水倉りすか。
 ぼくが初めて会った魔法使い、『魔法使い』。
 外見特徴は、「赤」という一言に尽きるだろう。なだらかな波を打つ髪も、幼さに見合った丸い瞳も、飾る服装に至るまで。
 全身が、赤く、この上なく赤い。露出する肌色と、右手首に備わっている銀色の手錠以外は、本当に赤い。
 さながら血液のように。己の称号や魔法を誇らんとするばかりに。


『のんきり・のんきり・まぐなあど ろいきすろいきすろい・きしがぁるきしがぁず』


 水倉りすか。
 馬鹿みたいに赤色で己を飾るりすかであるが、その実力たるや馬鹿には出来ない。
 この年齢では珍しいらしい乙種魔法技能免許を取得済みという驚嘆に値する経歴の持ち主。
 ついこの間まで、ぼくと一緒に、とある目的の元、『魔法狩り』なる行為に勤しんでいた。
 結局のところ、その行為の多くに大した成果は得られなかったのだが、ここでは置いておこう。
 とある目的というのは――乙種を習得できるほどの魔法技能に関してもだが――彼女の父親が絡んでいる。
 彼女のバックボーンを語るにあたり、父親を語らないわけにはいくまい。
 『ニャルラトホテプ』を始めとする、現在六百六十五の称号を有する魔法使い、水倉神檎。
 高次元という言葉すら足りない、魔法使いのハイエンド。全能という言葉は、彼のために存在するのだろうと思わせるほどの存在、であるらしい。
 語らないわけにもいかない、とは言え、ぼくが彼について知っていることはそのぐらいのこと。一度話を戻す。

707 ◆xR8DbSLW.w:2016/02/03(水) 03:23:21 ID:WdrTr5720

『まるさこる・まるさこり・かいきりな る・りおち・りおち・りそな・ろいと・ろいと・まいと・かなぐいる――』


 水倉りすか。
 彼女の魔法は『属性(パターン)』を『水』、『種類(カテゴリ)』を『時間』とする。
 父親から受け継いだ『赤き時の魔女』という称号が、彼女の魔法形式を端的に表していると言えよう。
 平たく言えば、時間操作を行使する『魔法使い』だ。
 これだけ聞くと、使い勝手もよさげで、全能ならぬ万能な魔法に思えるだろうが、その実そうではない。
 『現在』のりすかでは、その魔法の全てを使いこなすことはできない。時間操作の対象が、自分の内にしか原則向かない。
 加え、日常的にやれることと言えば『省略』ぐらい……いや、『過去への跳躍』も可能になったのか。
 それでも、いまいち使い勝手が悪いのには変わりがない。
 有能さ、優秀さにおいては右に出るもののない、ツナギの『変態』を比較対象に挙げずとも、だ。
 使い勝手が悪いならな悪いで、悪いなりに使えばいいので、その点を深く責めることはしないけれども。


『かがかき・きかがか にゃもま・にゃもなぎ どいかいく・どいかいく・まいるず・まいるず にゃもむ・にゃもめ――』


 水倉りすか。
 彼女の魔法は確かに使い勝手が悪い。とはいえ、一元的な見方で判断する訳にはいかない。
 彼女が乙種を取得できるまでの『魔法使い』である要因の一つ――父親によってりすかの血液に織り込まれた『魔法式』、
 軽く血を流せば、それで魔法を唱えることができる。大抵の魔法使いが『呪文』の『詠唱』を必要とする中、りすかは多くの場合それを省略できる。
 そして何より。
 その『魔法式』によって編まれた、常識外れの『魔法陣』。
 致死量と思しき出血をした時発現する、りすかの切り札にして、もはや代名詞的な『魔法』。
 およそ『十七年』の時間を『省略』して、『現在』のりすかから『大人』のりすかへ『変身』する、ジョーカーカード。
 これを挙げなければ、りすかの全てを語ったとは言えないだろう――。
 そう、りすかの『変身』について、正しくぼくらは理解する必要があった。



『――――にゃるら!』



  (魔法『属性・水/種類・時間/顕現・操作』――――証明開始)





    ★    ★

708 ◆xR8DbSLW.w:2016/02/03(水) 03:23:42 ID:WdrTr5720


「…………キズタカ?」

 仰向け、いや、最早この状態を仰向けと呼べるのかも定かではないほど破壊された遺体を前に、水倉りすかは動けなかった。
 きっとそれは動けなかったでもあり、同時に動きたくなかった、とも言えるだろう。

「……………………」

 鼓膜を破らんと耳をつんざいた爆音からどれだけ経ったのか。
 焼き付いた脂の匂いを感知してからどれだけ経ったのか。
 意味もなく面影のなくなった相方の名前を呟いては、どこか視線を遠くに向ける。
 
「……………………」

 りすかも愚かではない。
 否、訂正しよう。愚かと言えば間違いなくりすかは愚かであったけれど、馬鹿ではなかった。
 何が起こったのか、何が起きてしまったのか、どうしようもない現実をとうに把握できている。

「……………………」

 推測するまでもない。零崎人識がいつの間にか設置していたブービー・トラップにまんまと引っ掛かった。
 言葉にしてみればそれだけの話であり、それまでの話である。

「……………………」

 しかしながら、現実を理解できているからと言って、認識できているからと言って。
 解りたくもなければ、認めなくもない。本当に、本当に本当に、あの不敵で、頼もしい供犠創貴という人間は終わってしまったのか?

「……………………」

 傲慢で強情で手前勝手で自己中心的で、我儘で冷血漢で唯我独尊で徹底的で、
 とにかく直接的で短絡的で、意味がないほど前向きで、容赦なく躊躇なくどこまでも勝利至上主義で、
 傍若無人で自分さえ良ければそれでよくて、卑怯で姑息で狡猾で最悪の性格の、あの供犠創貴が、たかだか、『この程度』のことで――思わずにはいられない。

「……………………」

 おもむろに、付近に散乱していた創貴の『肉』の一片を拾い上げる。
 くちゃり、と不気味なまでに瑞々しい音が鳴った。
 りすかは意に介さない。ただただ、独りきりの世界の中で『肉』を握りしめる。

「……………………」


 丁度その時、第四回放送が辺り一帯へと響き渡り――。


『供犠創貴』


 その名も呼ばれた。
 かれこれ一年以上も死線を供にした、己が王であり我が主であったかけがえのない名前が。
 何の感慨もなく、ただ事実は事実だと言わんばかりの義務的な報知として流れる。
 続けて幾つかの名前が呼ばれたが、りすかの耳には届いていなかった。
 掌に宿る温かさは、未だこうして冷めてはいないのに、呼ばれてしまった名を反芻する。


「――――――――」


 震える手元は彼女の意思を代弁するかのように小刻みながらに強い主張を放つ。
 


「――――――――」



 さもありなん。

709 ◆xR8DbSLW.w:2016/02/03(水) 03:24:03 ID:WdrTr5720



「ふ――――っっっざっけるなっ!」




 水倉りすかはどうしようもないほどに、怒りに身を焦がしていたのだから。


「キズタカ!」

 手にしていた懐中電灯を叩き落とす。
 衝撃で電池でも外れたのか、懐中電灯の光さえも消え、周辺が暗澹たる色合いに染まる。
 本来怖くてしょうがないはずの暗闇の中、浮かび上がる赤色はヒステリーを起こしたかのように、喚く。


「キズタカ! キズタカはみんなを幸せにするんじゃなかったのか!
 そんな自己犠牲で自己満足で、わたしが――わたしが幸せになるとでも思ったのか!」


 身を挺して供犠創貴は水倉りすかを庇うように死んだけれど、りすかからしてみれば甚だ不本意だ。
 コンマ単位での判断だったから仕方がない?
 あの爆発ではりすかの血さえも蒸発し、およそ『変身』なんて出来ないだろうから仕方がない?
 ふざけるな。『駒』はそこまで『主』を見くびっちゃいない。『そんなこと』さえもどうにかするのが『主』たる供犠創貴なのだから。


「許さない、許さないよ、キズタカ。わたしを惨めに死ぬ理由なんかに利用して許せるわけがないっ!」


 この場合、誰かが見くびったと言うのなら、創貴がりすかの忠烈さを見くびっていたのだろう。
 何故庇った。庇われなければならないほど、りすかは創貴に甘えたつもりなんて、ない。


「命もかけずに戦っているつもりなんてない。その程度のものもかけずに――戦いに臨むほど、わたしは幼くなんてないの。
 命がけじゃなければ、戦いじゃない。守りながら戦おうだなんて――そんなのは滑稽千万なの」


 創貴が命じてさえいれば、例え『魔法』が使えなかったところで、この身を賭すだけの覚悟はあった。
 命令を下さなかった、そのこと自体を責めているのではない。りすかが自主的に犠牲になればよかっただけなのだから、そうじゃない。
 りすかを庇ってまでその命を無駄にした、まったく考えられない彼の愚行を、彼女は許せない。


「逃げたのか、キズタカ! 臆したのか、キズタカ!? 笑わせないでほしいのが、わたしなの!」


 正直、『このまま』では先が見えないのはりすかからも分かっていた。
 きっとりすかには及びもつかない筋道を幾つも考え巡らせていたことだろう。
 それらすべてを放棄して、創貴は死ぬことを選び取ったのだ。
 これを現実から逃げたと言わずなんという。
 これを臆病者と言わずなんという!


「自分だけが幸せに逝きやがって。そんなキズタカを――わたしは許さない」


 語気を荒らげたこれまでとは一転。
 つかつかと、創貴の元へと歩み寄る。
 今もなお、手には『肉』が握りしめられていた。



「だから、キズタカはわたしに謝らなきゃいけない。わたしの覚悟を見くびらないでほしいの」



 りすかは手にした『肉』を口へと乱暴に頬張る。
 例えようもなくそれは、『血』の味がした。



  (水倉りすか――――証明実行)

710 ◆xR8DbSLW.w:2016/02/03(水) 03:24:24 ID:WdrTr5720



   ★    ★


 思えば、『死亡者ビデオ』に映っていた『彼女』――そして、つい先ほど零崎人識と対峙した『彼女』は一体全体、誰だったのだろう。
 勿論個体名は『水倉りすか』という『魔法使い』なのだろうが、しかし、どう行った経路を辿ったりすかなのか、判然としない。
 これまでだって、どういった経緯を辿れば今のりすかから、あのような攻撃的かつ刺激的な大人へと至るのか甚だ疑問ではあるけれど。
 今回の場合は、殊更事情を異にしている。

 先に述べられていた通り、玖渚友らが目を通した『名簿』からも分かるように、あくまでりすかの『魔法』は『省略』による『変身』だ。
 真庭蝙蝠のような『変態』とは一線を画する。『十七年』の時間を刳り貫いて、『大人』へと『変身』する。
 『十七年後』、りすかが存命しているという事実さえあれば、りすかはその『過程』を『省略』することが可能なのだ。
 逆に言えば、『十七年後』までにりすかは絶対的に死ぬ、ということが確定しているのであれば、この『魔法』はそもそも使うことさえ叶わない。
 例えば、不治の病を患ったとして、その病気で余命三年と確定したならば、出血しても『変身』できない。
 例えば、『魔法』によりとある一室に閉じ込められてしまえば、りすかは『変身』できない。
 極論、『属性(パターン)』は『獣』、『種類(カテゴリ)』は『知覚』、
 『未来視』をもつ『魔法使い』に近年中には死ぬと宣告されたら、きっとそれだけでりすかは希少なだけの『魔法使い』に陥る。
 
 平時において、その条件はまるで意識しなくてもいい前提だ。
 りすかは病気を患ってもいないし、そのような『占い師』のような人種とも関わりがない。
 どれだけピンチであろうとも、『赤き時の魔女』は思い描くことができる。
 ――立ちふさがる敵々を創貴と打破していく姿は、いとも簡単に、頭に思い浮かべることができた。
 しかし今回の場合は事情が異なる。ここは『バトルロワイアル』、たった一人しか生還できない空間なのだ。
 最初の不知火袴の演説の時より、りすかも把握している。

 ならば。
 ならば――あの『大人』になったりすかは、創貴を切り捨て、優勝した未来と言えるのだろうか。
 ならば――あの『大人』になったりすかは、創貴と助け合い、この島から脱出した未来と言えるのだろうか。

 水倉りすか。
 この島に招かれてからの彼女の基本方針は一律して主体性が窺えなかった。
 さもありなん。彼女自身どうしていいのか分からなかっただろう。
 零崎曲識と遭遇するまでは、己が『変身』出来るのかさえも不明瞭だったからだ。
 創貴がりすかを徹底的に駒として扱い、優勝するために切り捨てることも想像しなかった、と言えばそれは嘘である。
 仮にそうでなくとも、『脱出』する具体的な手筈も見当たらず、かといって創貴を殺して優勝するような結末も想像できないでいた。

 『魔法』とは精神に左右される側面が強い。
 『十七年後』までりすかが存命しているという事実をりすかがはっきりと認識できなければ、魔法が不完全な形と相成るのも頷ける。
 りすかが鳴らした、「一回目に『変身』した時からだったんだけど、より違和感があったのが、さっきの『変身』」という警句も、
 『制限』という意味合いだけではなく、りすかの精神に左右された面も大きいだろう。彼女たちの『魔法』とは、とどのつまり『イメージ』の具象なのだから。

 玖渚友という『異常(アブノーマル)』を見て、それでも首輪を解除できない現状を踏まえ、創貴と脱出する『未来』がより不鮮明になった。
 無自覚的ながらもこれは、りすかにとってかなりの衝撃を与えたことだろう。
 『未来』は物語が進むにつれ想像が困難になっていく。だからこそ、『魔法』も違和感を残してしまう。


 翻して。
 なれば今。
 供犠創貴が死して、もはや『脱出』という形に拘らなくてもよくなった今。
 そして、次なる目的がもっと明瞭に、明確に、あからさまに明示されている今、りすかの想起する未来はもはや揺るがない。
 彼女に示された道は、一つである。
 その時、彼女の『魔法』はどうなるのだろう。


  (魔法『属性・水/種類・時間/顕現・操作』――――証明続行)

711 ◆xR8DbSLW.w:2016/02/03(水) 03:24:49 ID:WdrTr5720



   ★    ★



 櫃内様刻は歩いている。
 もう何度も歩いた、見知った光景をてくてくと。
 先ほどは無桐伊織を背負っていた。今度はディパックを背負い、ランドセルランドへと歩みを進める。
 玖渚友が戯言遣いに連絡をしているかは定かでないが、何の問題もなく戯言遣い一行と合流を果たせたのであれば幸いだ。

「……リスク、ねえ」

 今こうして様刻が友と行動を別にしているのは、『青色サヴァン』、彼女からの申し出が理由である。
 リスクの分散。それは零崎人識や無桐伊織――否、零崎舞織に告げたのと同等のものだ。
 様刻と友とが悪平等(ぼく)であったとしても、人識と舞織とは違い、別段共同作業を行う必然性もさしてない。
 仮に水倉りすかが、仇敵であるところの玖渚友に急襲を仕掛けてきたとして二人共々死んでしまうのはあまりに無様かつ無策と言える。
 ならば、先んじて様刻が友から離れればいい。この場合、様刻は戯言遣いらを迎えに行くという任を託された。
 故にここにいる。先ほどと同じ道を、感慨もなく、淡々と。

「うーん……」

 とはいえ解せないところもある。
 リスクを避けるという意味においては、まずはあの薬局を離れるところから始めるべきではなかろうか?
 聞くところによると、友らを薬局に『転移』させたのは誰でもない水倉りすかだ。
 すなわち、りすかが復讐をしようと目論むならば、真っ先に立ち寄るのが薬局になるだろう。
 あの『青色』はそれが分からないほど愚かでないはずだ。
 彼女は上下運動ができない。様刻が知らないだけで今頃は薬局を離れている――ということもないはずである。
 いくらリスクの分散とはいえ、どこかに運び出すぐらいなら付き合えただろうに。

「あるいは『それでも』、か」

 呟いてから、様刻は首を振る。
 意味深長なことを述べたはいいものの、益体のないものだ。
 様刻には何ら思い当たる節はない。根拠もなく、妄想を広げすぎるのも無駄だ。
 彼に『青色』のことは何も解らない。何を考えているかさえも、想像もつかない。
 いや、もはや理解することを放棄している。放棄したうえで活用し合う。これが健全な関係性だ。

「ま、これに相応の意味があるってことなんだろうけれども」

 懐から封筒を取り出す。
 青色から手渡されたもので、『条件が揃ったら』戯言遣いに渡してほしいと頼まれたものだ。
 とはいえ、現状、あの矮躯の天才が『脱出』ないしは『王手』への鍵である。この手紙を渡す機会が訪れなければ、きっとそれに越したことはない。

「死んだら、なんてね」

 手紙を渡す条件。
 それは戯言遣いと合流時に玖渚友の死が確認できたら――この場合具体的には、電話に応じなかったら、と見るべきだろう―――というものだ。
 だから、この手紙のことをこうとも呼ぶ。――『遺書』、と。
 だとしたら、様刻は存外大役を背負っていることとなる。最期の言葉を託されているのだ。
 歩調は変わらず淡々としている。火事現場とのあわいで『しのび』と対峙した時から、彼の足取りはまるで変わらない。

「ふうん……」

 様刻は手紙を懐に仕舞う。
 どの道、今思い浮かぶ限りではこの行動こそが最良の選択肢であろう。
 人間、死ぬときは死ぬんだろう。そこに貴賤は関係ない。
 あの『群青』のことだ。意味もなく、当てもなく『遺書』なんかを書いたりはしまい。
 自分の死ぬ予感(ビジョン)が見えるからこそ、こうして様刻を頼っている。
 そしてその事実は、様刻程度には揺るがすことはできないのだ。友の頼みは暗に告げている。
 なればこそ、自分はやるべきことをしよう。最大の能力を行使して、最良の選択肢を。
 この手紙を、そして授かった首輪諸々のアイテムを届けるとしよう。
 今はシンプルに、そう考えるべきだ。
 余計な感傷は捨てよう。
 余分な干渉は要らない。
 歩こう。今はただ。

「歩こう」

 今は、ただ。


  (櫃内様刻――――証明失敗)

712 ◆xR8DbSLW.w:2016/02/03(水) 03:25:11 ID:WdrTr5720



   ★    ★



 そもそも、『制限』とは何か。
 何故、『十七年後』の水倉りすかに未だそんな『制限』が纏わりついているのだろう。
 彼女が『魔法陣』を使ってなお、首輪をつけている影響か。
 否、首輪に原因があるのならばところ変わって球磨川禊の『大嘘憑き』あたりの制限もなくなって然るべきである。

 しかしながら、事実として『十七年後』のりすかは『制限』の縄に囚われたままであった。
 『制限』が解呪されているのであれば、かつて廃病院でツナギを相手取った時にしたような、『魔力回復』もできたはずである。
 『現在』の水倉りすかと、『十七年後』の水倉りすかは同人でありながらも、同時に、別人であるにも関わらず、『変身』した赤色もまた力を抑制されていた。
 前提に基づいて考えるならば、水倉りすかは今後十七年間、制限という呪いに蝕まれ続けることとなる、という見解が妥当なところだ。

 では、どのような場合においてそのような事態に陥ることが想定されるだろうか。 
 一つに、主だった支障もなくこの『会場』から脱出した場合。
 一つに、優勝、それに準ずる『勝利』を収めたとしても、主催陣営が『制限』を解かなかった場合。
 この二つが、およそ誰にでも考えられるケースであろう。
 詳らかに考察するならば、もう少しばかり数を挙げられるだろうが、必要がないので割愛とする。

 前者においては、確かに揺るぎようのない。
 どのように『制限』をかけられたか不明瞭なため、自ら解法を導き出すのは困難だ。
 日に当ててたら氷が解けるように、時間経過とともに解呪されるような『制限』でもない限り、解放されるのは難しい。
 そして、十年以上の月日をかけても解けないようじゃあ、その可能性も望みは薄い。

 だが、後者においてはどうだろう。

 不知火袴の言葉を借りるのであれば――『これ』は『実験』だ。
 闇雲に肉体的及び精神的苦痛を与えたいがための『殺し合い』ではないことは推察できる。
 『実験』が終了し次第、『優勝者』を解放するのが、希望的観測を交えるとはいえ考えられる筋だ。
 むしろ、主催者たちである彼らが、最終的に『完全な人間』を創造するのが目的である以上、最終的に『制限』などというのは邪魔になるのではないだろうか。
 彼らが『完全な人間』を何を以てして指すのか寡聞にしていよいよ分からなかったが、如何せんちぐはぐとした感は否めない。

 彼らの言葉を素直に受け止めるのであれば、『優勝』した場合、『制限』は排除されるのではなかろうか。

 具体的な物証がない以上、憶測の域を出ない。
 あるいは、玖渚友ならば何かしらの情報を得ていたのだろうが、初めから決裂していた以上望むべくもなかろう。
 あくまで憶測による可能性の一つでしかないのだ。



 ――――十分だ。
 『可能性がある』というだけでも、十全だ。
 可能性があるのであれば、その『可能性の未来』を手繰り寄せるのは、他ならぬ水倉りすかの仕事なのだから。


 りすかが『優勝』することを確と目標にしたその時。
 『制限』のない、全力の『十七年後』の水倉りすかに『変身』するのは、不可能なことじゃあ、ない!
 出来ないとは言わせない。
 供犠創貴は、唯一持て余している『駒』を、見くびっちゃあ、いなかった。



  (魔法『属性・水/種類・時間/顕現・操作』――――証明続行)

713 ◆xR8DbSLW.w:2016/02/03(水) 03:25:33 ID:WdrTr5720


   ★    ★



 カチ。カチ。カチ。

 薬局の一室。
 蒼色は座っていた。
 ここは院長室だろうか。背もたれもひじ掛けもある、やけに高級そうな椅子に身体を預ける。
 携帯電話以外の装備品が一切合切、見当たらない。
 にも拘わらず、彼女は綽々とした振る舞いで、これ以上なく傲慢に構えていた。

 カチ。カチ。カチ。

 視線の先にあった壁掛け時計を見遣る。
 時刻は放送から四十分を超えようというところにまで迫った。
 今のところは問題ない。支障ない。
 解析もしないで『時間』を無駄に過ごしていることを差し引いても、この『時間』を無駄だったと思える結末は、もう間近だ。

 カチ。カチ。カチ。

 櫃内様刻は今頃どこにいるだろうか。
 電話がないということは、おそらくはまだ戯言遣い――いーちゃんたちと合流出来ているわけではないようだが。
 あるいは、すでに誰かに襲撃され事切れているのだろうか。
 同じく悪平等(ぼく)であれ、群青は彼の力量を信用してはいない。むしろ、かなり低く見積もっている。
 何分彼は本当に、紛れもなく、どうしようもないほどに、『普通(ノーマル)』――否、『無能(ユースレス)』なのだから。

 カチ。カチ。カチ。

 それでも。
 彼女は、玖渚友は、彼を頼らざるを得ない。
 状況はかなり切迫している。ともすれば一秒先の命だって確約は出来ないまでに、差し迫っている。
 逆に言えば、『ビデオ』を見ている間に襲撃を受けなかっただけ幸運だったかもしれない。
 それをやられていたら、まず間違いなく『詰み』であった。

 カチ。カチ。カチ。

 いや。
 と、彼女はかぶりを振る。
 あんな平々凡々たる有象無象のことは、この際捨て置こう。
 無事でなければならないけれど、暴君直々に心配するには役不足だ。『時間』の浪費も甚だしい。

 カチ。カチ。カチ。

 思考を切り替える。
 いーちゃんは無事であろうか。
 友は思いを馳せる。愛おしくて愛おしくて憎たらしいほど愛おしい彼は、どうしているだろうか。
 しかし、電話を掛けるわけにはいかない。――投げかけるべき言葉はすでに、様刻に渡している。
 だから、彼からの電話も着信拒否にまでしていた。何事もなければ解除しよう。友は漫然と考える。
 無事だったらいいな、いや、いーちゃんのことだから無事なんだろうけれど。そんなことを思いつつ。

 カチ。カチ。カチ。

 思えば、頭を休めるのは久しい気がする。
 『死線の蒼(デッドブルー)』たる彼女に休息などあまり必要性はないものの、心地はいいものだ。
 斜道卿壱郎の研究施設での調査――貝木泥舟との論争――ネットカフェでの考察――そして、掲示板諸々の手回し。
 思えば『くだらない』ことも多くしてしまった気がするけれど、それがいーちゃんのためになるのであれば、満更でもない。
 友は微笑を零すと、身体を伸ばす。風呂にも入らずにべたついた青髪を掻き上げ、改めて背もたれに身体を投げ出した。

 カチ。カ――z___チ。カチ。



「――――今度はお前の番だぜ、駄人間」



 背後から、赤色が降り注ぐ。
 見えないけれど――『見れない』けれど、よく分かる。
 ああ、やはり『この時』は来てしまったのだと、悟ったような表情で前を見つめた。
 長針が指し示す位置は、先ほどから三十度ほどしか変わらない。

 カチ。カチ。

 この『時間』を無駄だったと思える結末は、もう間近だった。
 それでもやはり、その結末は迎えられそうにもない。



 カチ。



  (玖渚友――――証明開始)

714 ◆xR8DbSLW.w:2016/02/03(水) 03:25:59 ID:WdrTr5720


   ★    ★



 思えば慣れ親しんだ『味』だ。
 『十七年後』の彼女は、よくよくこの『味』を味わっている。
 なじむ。実によくなじむ。これまで二回の『変身』で消費した『魔力』が見る見るうちに回復していくようだ。

「はむっ……ゃ……くちゃ」

 喰らいつく。
 『大人』の彼女とは違い、その所作はひどく乱雑で不格好で、見苦しい。
 しゃりんしゃりん、と手錠を鳴らしながら、くちゃり、と食む。
 飛び散った『肉塊』を可能な限りかき集め、両手でかぶりつく。
 口元を赤黒く染め上げながらも無我夢中で食らう。その内、飛散した惨憺たる『肉』はなくなった。

「…………」

 手首で口元を拭いながら、『それ』を凝視する。
 『それ』は抜け殻のように物言わず臥していた。
 穴が開かんばかりに爆散した腹が、事切れた物体でしかないことを簡潔に表している。
 おもむろに、ナイフを――無銘を――構えた。

「わたしは『覚悟』している。キズタカも――『覚悟』してきてるんだよね?」

 問い掛けるようでもあり、言い聞かすようでもあり、何よりも確かめるようだった。
 一拍の後、とうに露見しているはらわたを、無銘で切り落とす。
 『本体』とくっついていたために切り落とした、はいいものの、えらく中身はぐちゃぐちゃにされていた。
 切り落とした部位が内臓なのか小腸なのか、あるいは別の臓腑なのかもはや判然としなかったが、やはりそれも口に含む。

「……ちゃ……んむ……」

 『肉』を食べているとはいえ、そのほとんどは『魔力(けつえき)』として体内に消化――そして昇華されていく。
 さもありなん、『それ』の半分は、『同じ血液』で構成されている。同化するのに問題なんてありはしない。
 多少胃にたまるものの、満腹までには程遠い。食する手が休まることはなかった。
 か細い白い手は次から次へと、『肉』を削ぎ落とし、口へと運ぶ。

「……んぅ」

 多少の食い散らかしはあるものの、着々と食事は進んでいく。
 そもそも、食事をする確固たる目的は二つほどある。
 一つに、魔力の回復だ。
 魔力の具象化に過ぎない『十七年後』は、魔力を枯らした時に『血液』を求め、啜る。
 突き詰めれば同じことだ。『魔力(けつえき)』が足りないから『肉』を食らう。至極合理的かつ明瞭なものだった。
 流石に、魔力分解型の頂点に立つツナギよりは効率は劣るものの、着実にりすかの『魔力』は回復していく。
 都合よく――いや、あるいは当然のことながら、今現在咀嚼しているその『血液』がこの世で一番食事に適している。

「あむっ……んん……ぐ……ぁぶ」

 二つに、『肉体そのものを消す』ことだ。
 これから行うことに、その『肉塊』は不要――どころか邪魔でさえある。
 なにせ、その『肉袋』は己と『同じ血液』をおよそ半分以上含んでいた。
 おかげで『匂い』による『探知』はしやすくある半面、『匂い』が強烈すぎるあまり、他の人物を『探知』するのを阻害してしまう。
 期せずして『種』は蒔かれている。探し出さなくてはならない。『今』ならともかく、『十七年後』の彼女ならやってのけるだろう。
 半分どころか一%しか体内に残っていないかもしれないけれど、今なら確実に『種』は残っているはずだから。
 だから、この『肉体』を自分のものとして消化しなおさなければいけなかった。少しでも『猶予』を作るために。

「……ちゅ、ぅぁ」

 ともあれ。
 彼女の腕は、『肉塊』へと伸びる。
 彼女の判断で行動を起こしたのはいつぶりだろうか。
 思考の片隅で奇妙な違和感を覚えながらも、粗暴にむしゃぶりつく。
 顔以外の上半身は粗方食べ尽くした。顔もいずれは手に掛けるとは言え、先に足腰を食べてしまおう。
 そう下し、邪魔な半ズボンを脱がそうと、纏っていた衣服に掴む。くしゃりと、乾いた音が微かに鳴ったのはその時だった。

「…………?」

 ズボンの衣擦れにしては妙にざらついた音である。
 もっと何か違う――そう、紙がひしゃげた時の音によく似ていた。
 ポケットに何か入っていたのだろうか。なんともなしに半ズボンのポケットを探る。
 目的のもの、かどうかは定かではないが、確かに折りたたまれたルーズリーフが一枚あった。

715 ◆xR8DbSLW.w:2016/02/03(水) 03:26:19 ID:WdrTr5720

「んぐ……」

 足の指を無銘で切り落とし、つまみ食いをしつつ、ルーズリーフを開く。
 煤で汚れていたり、書かれていることが血塗れていたりと、何分読みづらくてたまらなかったが、一応は目を通す。
 表には『ぼくの目的は■■■った事、それとバトル■■イヤルを壊す■だ。まあ、人探しを■は優先し■■がな』などと書かれている。
 誰に対してか定かではないけれど、筆談の痕跡だと推測できた。一通り目で追った後、紙を裏返す。
 そこにもまた、同一の字体で文章が成されている。しかし今度は筆談とは思えない、何か『手紙』のような――違う、そうでもない。これは。


「…………『遺書』?」


 口腔内に含んでいた足の小指を噛み砕き嚥下してから、反芻する。
 一度食事をやめ、『遺書』を視線で突き破らんほどにじっと黙読していく。
 いや、本来『遺書』なんてありえない。この執筆者たる彼が、死ぬ前提で行動を起こすはずがない。
 どれだけ災難に見舞われようとも、どれだけ窮地に立たされようとも、傲岸不遜の極みである彼が、諦めるはずもない。
 だからこそ、彼女は『怒って』いる。なればこそ、この『遺書』はありえない。
 それでも。
 この宛てられた『手紙』は確かに存在していて、『遺書』として書かれていて、疑う余地もなく『彼』の言葉だった。

「…………言ったよね、キズタカ。命を張る必要がないのがキズタカだって。こんなもの書いてるぐらいなら、攻略法を考えるべきだったのがあの時だったのに」

 いつ、書いたのだろう。
 正義を標榜する、愚かなる殺人鬼の目覚めを待っている頃合いだろうか。
 覚えのある限り、それぐらいしか機会はなかったであろうけれど――と、要所要所を補完しながらも、ようやく読み終える。
 いつの間にか、手に力が張っていたらしく、ルーズリーフは読まれる前よりも数倍皺くちゃになっていた。

「…………ねえ、キズタカ、死んだらおしまいなんだよ? ねえ。ねえって」

 呼びかけるも、無為なことははっきりしている。
 繋がるべき上半身を失い、行き先も知れず転がる首は、ただ黙した。
 彼女は首を拾い上げ、抱きかかえる。
 
「…………」

 ああ、結局のところ。
 彼は彼なのだと――供犠創貴は供犠創貴なのだと。
 信頼できていなかったのは、むしろ自分の方だったのだと。
 創貴はとっくに『覚悟』している。見誤ったのは自分の方だ。

「…………」

 創貴はやはり優しくない。
 あれほど釘を打ったのに、この水倉りすかをおいて死んでしまった。
 けれど、弱さではない。
 誰にも優しくせず、誰にも揺らされず――誰にも威張って、胸を張って生きて、死んだのだ。
 強くある義務を全うした彼は死してなお、水倉りすかの『主』である。



「…………」


 『いつも通り』だ。
 為すべきことは変わらない。
 だとすれば、思い描くべき『未来』は一つだ。
 


「――――あはっ」



 赤い涙をぽろぽろと零しながら、思わず彼女は綻ぶ。
 その『手紙』には、なんて書いてあったと思う?





  (供犠創貴――――証明終了)

716 ◆xR8DbSLW.w:2016/02/03(水) 03:26:59 ID:WdrTr5720



   ★    ★



「人識くん! 不肖わたくしトイレを致したいです!」
「知るか」

 零崎一行はベスパに跨り図書館へと向かっていた。
 零崎人識が前――ハンドルを握り、無桐伊織、もとい零崎舞織がその後ろで、人識の腹に手を回して抱き着いている。
 騒がしい道中に若干辟易としてきた人識であったものの、突っぱねることだけは決してしなかった。
 図書館までは、まだ少し距離があるようである。

「人識くん、わたし、足が折れてるんですよ。洋式トイレじゃなきゃ座ることも出来ないんですけど!?」
「ならどっちにしても図書館着くまで施設はなにもねえぞ」
「ですからこう、人識くんがわたしの膝を抱えてですね……グフッ」

 人識はブレーキを思い切り握る。いわゆる急ブレーキだった。
 衝撃で伊織の身体にも負荷がかかり、続くはずだった言葉は切れる。
 身体は自然と前のめりに倒れていき、人識の後頭部に勢いよく鼻をぶつけた。

「痛ったいですよう。急ブレーキなんてマナーがなってません、マナーが。本当に漏れたらどうするんですか」
「まずはお前が学んで来い」

 人識はほとほと呆れた様子で、後ろを睨む。
 悪びれも羞恥もなさそうに、舞織は唇を尖らせる。

「今更恥ずかしがってるんですか? 止してくださいよ、わたしたち兄妹じゃないですか!」
「悪ぃな、兄妹というものがそんなに歪なものだとは寡聞にして知らなかった。俺、お兄ちゃん止めていいか」
「もっと言葉には責任持ってくださいよう。お兄ちゃんになるって言ったばっかりじゃないですか。もっと様刻さんを見習ってください」
「俺に言葉の責任を求めるな……っていうか、え? あいつ妹にそういうことするの?」

 筆舌しがたい拒否感を曝け出しつつ、人識は再びアクセルを回す。
 確かに過去にも風呂や食事、排泄に至るまで世話していたこともあったけれど、だからといって進んでやりたくないというのが、人の摂理だ。
 本当に様刻が妹にそのような所業を成しているのであれば、向うが傷つく程度には軽蔑しよう。などと心中したためつつ、ゆったりとベスパは進行する。
 ちなみに舞織から様刻に対するフォローはこれといってなかった。
 少し間をおいてから、人識が仕切りなおす。

「で、トイレすんだったらちったぁ急ぐけど」
「え? いえ、別に構いません。したいわけじゃないですし」
「じゃあさっきの一連の流れはなんだったんだよ!」
「コミュニケーションです」
「お前は相変わらず横文字に弱い野郎だな!」
「人識くん体調悪いんですか? ツッコミが機能していませんねぇ。今回ばかりは間違いなく正しい英単語を使いましたよう」
「俺の体調が悪いんだったら疑いようもなく伊織ちゃんのせいだし、
 俺の認識が間違ってなければ、コミュニケーションというのは相手を苛立たせるためのものじゃあない」
「ふむ、では改めましょう」
「おう」
「さっきの一連の流れは、人識くんをいじり倒したかっただけですね!」
「振り落とすぞ!」
「元気がいいですね、人識くん。何かいいことでもあったのですか」
「生まれてこの方いいことなんて一個もねえよ……はあ」
「ふふ、可愛いです」

 大仰な嘆息をつく人識を傍目に、舞織は朗らかに笑う。
 そんな様を見ていたら、人識も自然と怪訝な顔色は失せていく。
 こういうのが、『家族』なのだろうかと、得も言われぬやるせなさに襲われる。
 やはり一番最初に出遭ったのが零崎双識だったという事実は殊の外大きいのかもしれないと、しみじみ感じ入るのだった。

717 ◆xR8DbSLW.w:2016/02/03(水) 03:27:21 ID:WdrTr5720

「ところで、急ぐと言ってましたけど、どうしてゆっくり走ってたんですか?」
「あ? まさかお前、俺が伊織ちゃんを振り落とさないようにだとか、足に響かないように低速にしているだとか、
 猛スピードで駆け抜けたら腕が疲れるだろうからな、とかそういう配慮をしているとでもいいたいのか?」
「人識くん、だからダダ漏れですって」
「やめろ、人を本当はいいやつみたいに言うな。優しい声を出すな」
「はあ、人識くんのいいところなんですけど」
「だからちげーって、さっき兄貴が車で人を轢いちまったから、俺は同じ過ちを繰り返さないようにだな」
「随分と不条理なことやってたんですねぇ」

 そうこうしている内に目的地の図書館に到着した。
 理由の成否はともかくとして、人識が徐行運転していたのは事実だ。
 当初の予定よりも幾分か遅れてはいるものの、それでも猶予は二時間以上ある。
 道中、「絶対にびっくりしますって!」って念を押された割には、存外普通の外観に見えるが、内装は奇想天外博覧会の様相を呈しているのだろうか。

「ともあれ、だ。その、なんだっけか。手がかりのようなものをここで探すって話だったな」
「ええ、模範的とは言えませんが説明台詞ありがとうございます」 

 バイクを降りると人識は舞織を背負う。
 こうして世話を施すのも少なくないが、『妹』を背負っていると改めて自覚すると思うところもある。

「人識くんは相変わらず小っちゃいですね」
「殺すぞ」

 殺人鬼が言うにはおっかないセリフであったが、背負われた者もまた、殺人鬼だった。
 小さく咳ばらいをしながら、「別に身長をのことを考えていたわけじゃねえ」と小言のように零す。
 舞織も「はいはい」と軽くいなせば、しっかりと人識に抱き着く。何物にも代えがたい、誇らしい『兄』の背中だった。

「じゃあ行くぞ」

 小さくうなずくと、舞織は腕に力を込める。
 歩くことさえままならないというのはやはり不便なものだと今一度痛感しながら、それはそれとして人識のうなじを凝視していた。
 とても綺麗なうなじだ。暇つぶしの一環程度に見始めていたが中々趣深くて結構じゃないか。なんて漫然と耽っていたらようやくのこと異常に気づく。
 動いていない。――「行く」と言ってから、一歩たりとも『動いていない』。さながら『時間』が『停止』したかのように!

「身体が……動かねえ!?」

 現状を認識できた『直後』のことだった。
 そう、その『瞬間』、つい一秒前までは何も感じなかったのに。
 異様な存在感、そして殺意が殺人鬼たちの背中を貫く。
 近づいてくる『殺意』に気が付かない――舞織からしてこんなことは『零崎』になってから滅多になかった。
 だからこそ、断定も容易い。
 この気配が誰のものであるかは。


「水倉、りすか!」

 
 仇敵同士の相互関係。
 舞織にとっては手段手法について未だ実感がわかないけれど――あの、薬局への転移を探知機越しながらも目撃している。
 敵を討ち取りに馳せ参じたのであれば、なるほど、納得するしかない。
 罪口製の精巧なる義手を握っては開き、己の正常さを確かめていると、口以外は不動のまま、人識は苦い声色で呈した。

「動けるんだろ、伊織ちゃん。逃げろ」
「え、でも」
「いいからそのラッタッタで逃げろってんだ!」
「わたし運転免許もってません!」
「うるせえ! 俺も持ってねえよ!」

 何故だかマイペースを崩さない舞織に、高まりつつあった怒りを一度鎮める。
 落ち着かなればいけない。焦ったところで、自分の命はもはや決まっていた。
 言葉を選ぶように検算し、未来を掴むように計算する。なんとしてでも、舞織だけでは生き残らせなければ。
 時間にしてみれば一秒にも満たないほどの思案の果て、人識が織りなしたのは、実にストレートなものだった。

718 ◆xR8DbSLW.w:2016/02/03(水) 03:27:44 ID:WdrTr5720

「あいつの狙いは俺なんだ、だから逃げてくれ、頼む」

 人識が懇願する。
 『家族』は双識以外にはいないと断じていた、あの気ままな人識が、舞織に嘆願した。
 ひどく不器用ながらも実直な頼みを、あの零崎人識がしている。
 素直に驚いた。
 そして素直にむかついたので、舞織は人識の頭にチョップをかます。
 
「あだっ」
「何をらしくもなく格好いいこと言ってるんですか、人識くん」

 堅牢な義手で後頭部を殴られる。
 普通に真面目に有効的な打撃に思わず声を挙げた。
 一方の舞織は人識の悲鳴を意に介さず、今度は慈しむように、斑模様に染められた白髪を撫でる。
 友達のようでもあり、好敵手のようでもあり、なによりも家族のような深愛を乗せて。


「決めたんです。わたしは逃げません。人識くんと戦います。家族ですから」


 舞織は優しく微笑みかけると、腰に据えていた『自殺志願(マインドレンデル)』を右手に持った。
 ちゃきん、と確かに音が鳴り、人識の背中に強烈な力が圧し掛かる。舞織が、手を使って人識の背中から強引に降りようとしたのだろう。
 その『瞬間』、人識の背中から、舞織の重さが消失した。


「……? …………っ!?」


 振り返ることもできずにいる。
 ただ、はっきりと分かる。舞織は背中から飛び降り、背後のりすかへ勇みかかったわけではない。
 なにせ、声はもとより、地面を這いつくばり、真紅へ這い寄らん音もないのだ。
 仮に今の人識と同じように身体の『時間』を『停止』させられただけだとしても、それはもはや『死』と同義であった。
 もう、零崎舞織は、無桐伊織は、今を流れゆくこの『時間』から排除されたのだと、あまりに明確に感じ取る。
 この立ち合いの結末は、既に語るまでもないのだと。

「……ここまで十五秒。茶番は、終わったかい」
「これから始まるところだったんだよ」
「そうかい、そりゃあ重畳だ――ただ、生憎わたしにも『時間』がなくてね。残り十秒で片を付けてやるよ。
 はっ! 何を思った知らねーが、図書館なんて分かりやすい『座標』にいてくれて大変助かった。駄人間にしちゃあ、気が利くじゃねえか!」

 『どこにいるかは分からなくとも、そこにいることは分かる』――とは、りすかの従兄の言だ。
 『零崎』の共感覚とよく似たそれは、具体的な『座標』を特定することは難しい。けれども、おおよそのあたりをつけることは出来る。
 さらに言えば供犠創貴よりも遥かに『濃度の低い』人識を見つけるのは並々ならぬものじゃあない。『十歳』のりすかでは、感知することさえ叶わないだろう。
 ともあれ、近しい具体的な『座標』、つまりは図書館へと『省略』したわけだが、単なる偶然かそうではないのか、人識たちはそこにいた。 

「一ついいことを教えてやるぜ、『流血』の殺人鬼」

 気まぐれだろうか。
 いや、『時間』がないと言っている以上、単なる暇つぶしではなかろう。
 人識からしてみれば意図の汲めない提言であったが、『流血』の魔法使いは嘯いた。
 
「お前に自覚はないだろうが――、わたしと『同着』した時点で、一時間程度、てめーの『血液』は、『流血』は、改竄されてんだよ」

 そう。
 原則として水倉りすかの『魔法』は、『自分の内側』にしか向かない。
 故に、誰かと一緒に『省略』の『魔法』を使いたいのであれば、少なからず十歳当時のりすかでは、対象者と『同着』をしなければならない。
 『同着』することで対象者に『りすかの血』を『馴染ませる』。
 一時的に『対象者の血流』を『りすかの血流』へと強制的に上書き――改竄するのだ。
 そうすることで対象者もまた『りすかの一部』として見做し、同じく『省略』を可能とする。

 真庭蝙蝠で行った実験からも分かるように、『同着』を行うには本来、様々な『制約』や『手間』を求められる。
 だが、――『同着』を行ったのもまた、『大人』の彼女であった。あの一瞬で、万象の障害を乗り越えて事を成したのだろう。

 心臓を代えられた供犠創貴とは違い、血が馴染んでいけば自然と元の『血流』へと戻れるが、そうなるまでには、あまりに期間は短かった。
 結果的に言えば、ネットカフェから薬局へ『魔法』で移動したあの瞬間、およそ一時間は『マーキング』されていたも同然だった。

719 ◆xR8DbSLW.w:2016/02/03(水) 03:28:23 ID:WdrTr5720


「で、わたしの『流血』で生きているてめーは本当に、あの嬢ちゃんの『お兄ちゃん』と言えるわけぇ?」


 そしてその事実は、人識にとってはかなり致命的な矛盾を孕ませる。
 『マーキング』なんか、この場合の人識にとっては些末な問題であろう。
 何せ、零崎人識の『零崎一賊』たる所以は『血統』が第一に挙げられる。
 『零崎』の父と母から生まれた忌み子――それが零崎人識だ。
 では、その『血統』を奪われたら、そして『流血』までも奪われたら、彼は一体何者になるのだろう。
 命を賭してまで守ろうとした『妹』との『絆』の在処は、証は、どこにある。
 

「さあな、別に俺はもとより自分になんか興味ねえからわかんねえよ」


 ――残り三秒。
 宣告された死刑執行まで刻々と迫る。
 何ら実感を得られなかった。舞織だって何かの冗談で、今もなお生きている心地さえする。 
 だからだろうか。危機的状況にも拘わらず、飄々と言葉が溢れ出た。

「ああ、でも、こんな俺にも『人間』っつってくれたおねーさんに、俺からも一つ教えてやる」

 ――残り、零秒。
 ネットカフェの時のあの時と同様の『戯言』なのだろうか。
 あるいは、とてつもない『傑作』だろうか。
 どういう原理かは解らないが、今もなお動く『口』は、よく動く。鏡の向う側、『欠陥製品』のように。


「人類……『人間』はみな、きょーだい、ってな」


 なんて。
 らしくもねえな、と。
 胸中、独り言つ。
 途端襲い掛かるは、身体の奥底から歪んでいく奇妙な感覚だった。
 意識も半ば引き剥がされる中、振り向けない後方から、ククッ、と嘲るような笑い声を聞く。


「そいつぁー傑作だなッ! じゃあ家族を愛して溺死しな、『駄人間』!!」


 赤色はさぞかしシニカルに笑ったのだろう。
 人識はそんな思いを馳せた。




  (零崎舞織――――証明開始)
  (零崎人識――――証明開始)

720名無しさん:2016/02/03(水) 03:28:44 ID:WdrTr5720



   ★    ★



 水倉りすかは薬局の院長室で倒れている。
 変身は既に解かれており、姿は十歳時のものだった。
 閉ざされた瞳から血涙をほろほろと流しつつ、昏倒している。

 結局のところ、身体を――『魔法』を酷使しすぎたのだ。
 魔法使いである限り、能力(スペック)には限界がある。
 これは誰にとっても同じことで、あのツナギをしてでさえ、容量(キャパシティ)には限度があった。
 つまりはそういうことで、『魔法』を使うというには、一定の対価/代償を伴う。
 対価が『魔力』のみで補えるのならば越したことはないけれど、
 能力(スペック)を超える能力(アビリティ)には肉体的負荷がついて回る。
 よもや『今』のりすかは『制限』の中にあり、能力(スペック)は落とされた状態にあった。
 『制限』から解き放たれた『二十七歳』の『魔力』に身体が耐え切れないというのも、ある意味では妥当な落としどころである。

 さもありなん。
 一分間という中で殺人鬼二人と死線の蒼を下したのだ。
 並々ならぬ『魔力』を割かれたことだろう。
 『今』のりすかにフィードバックしたのが、むしろこのぐらいで済まされて幸運だったと見てもいい。
 供犠創貴がどれほど予測していたかは定かでないけれど、それほどまでに、依然として『変身』の対価は大きい。
 今回はともあれ、これからは慎重な立ち回りも、やはり要求される。
 先の『探知』で従兄の『血液』も観測できたのが気になりはしたものの、流石にそこまでは『時間』が足りなかった。


 今は体を休める時だ。
 彼女がこれから執り行うのは、虐殺なのだから。
 もはや誰かと協力をする必要もない――彼女の目指すべき道は一つ、『優勝』であった。



  (水倉りすか――――証明中断) 




   ★    ★





  《murderer family》 is Q.E.D
  《Dead Blue》 is Q.E.D
                    (証明終了)






【無桐伊織@人間シリーズ 死亡】
【零崎人識@人間シリーズ 死亡】
【玖渚友@戯言シリーズ 死亡】

721水倉りすかの駄人間証明  ◆xR8DbSLW.w:2016/02/03(水) 03:29:59 ID:WdrTr5720

【2日目/深夜/G-6 薬局】


【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】
[状態]魔力回復、十歳、睡眠
[装備]手錠@めだかボックス、無銘@戯言シリーズ
[道具]支給品一式
[思考]
基本:優勝する
[備考]
 ※九州ツアー中、蠅村召香撃破直後からの参戦です。
 ※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです(現在使用可能)
  なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません
 ※大人りすかの時に限り、制限がなくなりました
 ※それ以外の制限はこれ以降の書き手にお任せします
 ※大人りすかから戻ると肉体に過剰な負荷が生じる(?)


【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備]スマートフォン@現実
[道具]支給品一式×8(うち一つは食料と水なし、名簿のみ8枚)、玖渚友の手紙、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜28)@不明
   炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、懐中電灯×2、首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、
   ノートパソコン@現実、鎌@めだかボックス、薙刀@人間シリーズ、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、
   誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、 ノーマライズ・リキッド
   ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ、工具セット@現実、首輪×2(浮義待秋)、糸(ピアノ線)@戯言シリーズ、ランダム支給品(0〜2)
   (あとは下記参照)
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う(瓦解寸前)
 0:歩こう
[備考]
 ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形が登録されています。また、登録はしてありませんが玖渚友からのメールに零崎人識の電話番号とアドレスがあります。
 ※阿良々木火憐との会話については、以降の書き手さんにお任せします。
 ※支給品の食料の一つは乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。
 ※DVDの映像は全て確認しています。
 ※スマートフォンに冒頭の一部を除いた放送が録音してあります(カットされた範囲は以降の書き手さんにお任せします)。


【その他(櫃内様刻の支給品)】
 懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、
 シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵チョウシのメガネ@オリジナル×13、
 小型なデジタルカメラ@不明、三徳包丁@現実、 中華なべ@現実、マンガ(複数)@不明、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、
 鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、
 『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』(「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)


【F-7 図書館前】

・零崎人識のデイパックが落ちています。中身は以下の通りです。
斬刀・鈍@刀語、絶刀・鉋@刀語、携帯電話その1@現実、糸×2(ケブラー繊維、白銀製ワイヤー)@戯言シリーズ、ベスパ@戯言シリーズ
支給品一式×11(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
千刀・ツルギ×6@刀語、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数

・無桐伊織のディパックが落ちています。中身は以下の通りです。
支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ


その他諸々はお任せします

722 ◆xR8DbSLW.w:2016/02/03(水) 03:30:35 ID:WdrTr5720
投下終了します

723名無しさん:2016/02/04(木) 18:57:47 ID:rC5V5Kt20
投下乙です
人喰い(カーニバル)再び
運良く、ではなく意図されて祭に参加せずに済んだ様刻もそう遠くないうちに知るだろうしどうなることやら

揚げ足を取るような指摘で恐縮ですが、調剤薬局にせよドラッグストアにせよ院長室は存在するものでしょうか?
検索した感じでは局長または店長が適切なようでしたので…
それと様刻の状態表から現在地表記と首輪探知機が抜けているように思います

724 ◆xR8DbSLW.w:2016/02/12(金) 22:12:43 ID:CTSF3h8.0
反応が遅れ失礼しました。
諸々と、wikiでは修正しておきます。
様刻はG-6にいるということでお願いします

725名無しさん:2016/03/15(火) 23:25:11 ID:mAkNQJqY0
集計者様いつも乙です
月報です
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
164話(+2) 9/45 (-3) 20.0(-6.7)

726名無しさん:2016/05/15(日) 00:29:39 ID:WYJSb9Yw0
集計者様いつも乙です
月報です
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
164話(+0) 9/45 (-0) 20.0(-0.0)

727名無しさん:2016/07/15(金) 10:15:38 ID:uvx1R3BU0
月報落ちになるかと思いますが置いておきます
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
164話(+0) 9/45 (-0) 20.0(-0.0)

728名無しさん:2016/09/19(月) 03:48:08 ID:zMz6N.SE0
久し振りに来たらしばらく投下がなかった
それならそれでと溜まってた分追いついたので感想残しておきます


>>狂信症(恐心傷)
あかん、これあかん、めっちゃあかん
くまー以外がくまーになるってこういうことなのか……
あかんとしか言いようがない。そりゃ蝙蝠もドン引きだし、こんなのにされるのを恐れるわ
盾にしようと切り替えて、とがめのふりする蝙蝠の言ってることが言葉だけならまともでいいことのように聞こえちゃうのが余計に始末悪い
蝙蝠の抱いた侮蔑が伝わってきて面白かったです

>>水倉りすかの駄人間証明
>「ふ――――っっっざっけるなっ!」

これ、ここがすげえ好き。そしてここからの激昂もすげえ好き
りすかへの制限と言うかなんというかの実態にはなるほど、って思った
前にりすからをはめる時に利用した同着が逆用されるとは皮肉な
赤が蒼を飲み込み流血さえも改ざんしてこえーよ、ホラーだ
人識の最後のセリフに哀川さんの持ってくるのはニヤリとした

729 ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:37:24 ID:LVJNO3B60
鑢七実、球磨川禊、四季崎記紀を投下します

730着包み/気狂い ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:38:40 ID:LVJNO3B60

少し、前の話です。

『ねえ七実ちゃん。髪切ってみない?』

まったく唐突な言葉。
当時の、それに対するわたしの答えは決まっていました。

「いえ、別に」

理由も言われなかったもので、そう答えたのを覚えています。
何か拘りがあれば、もっと言ってくるでしょう。
その時は風に考えていたのですが特に思うところはなかったようで、と言うよりかは今なんとなく思い付いたから言っただけのようで、少し顔を動かすだけでこの話は終わりました。
そもそもの話。
いえ、別に今も特別な何かを期待していた訳ではありませんしこの先も特に期待することはないでしょうけれど。
良いのか悪いのか。
わたしとしては悪いのでしょうけど。
まあともかくきっとこの時、禊さんとしては会話の取っ掛かりになる何かさえ有れば良かったのでしょう。
話が一気に訳の分からない方に進んでいましたから。
今は興味を持って頭を働かせますけど、それで考えてみても全く分かりませんから。

『と、言う訳なんだよ七実ちゃん!』
「あ、すみません。聞いていませんでした」
『おおっと。イジメとは酷いんじゃないかい?』
「いえ、イジメ? とやらではありませんよ多分」
『差別? 差別?』
「いいえ区別です」
『はい! はい七実ちゃん!』
「却下します」
『それはそれで酷いと思います!』
「却下します」

横を窺って見た。
そんな覚えがあります。
確か、ですけど。
するとどうでしょう。
何やら愕然と、片手で口元を抑えながら白目を剥いています。
ですがそれでも普通に横を着いて歩いているのですから器用なものです。
然程見る価値を感じませんけれど。
さて。
何時までもそんな顔をされていても鬱陶しいので話を進めて頂きました。

「冗談ですので何の話だったか教えていただけます?」
『……うん』
「早く」
『はい』

731着包み/気狂い ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:40:47 ID:LVJNO3B60

『何だか七実ちゃんからの当たりが強いここ最近だなぁ』などと呟いているのは聞いていないこととして。
いえ、特に何も言いません。
少しばかり顔を見続けるだけです。
目が合ってから逸らされるまで、微笑んで差し上げながら見続けるだけです。
やがて来た微かな達成感。
ああ、こう言うのもなかなか良い。
いえ、悪いものでしたが。

「まだですか?」
「はい」
 ――不憫だな、おい。

黙殺。

『いやね。
 とてもとても単純な話なんだけどさ。
 だから前置きはあんまりしておくのも何だとは思うんだけど、大人しく聞いてくれよ。
 前置き、予定調和、与太話――その手の物があって不足はないしさ。
 さて、フェチ――そう、フェチって奴は案外侮れないものだと思うんだよ。
 いやフェティシズムって言い方でも構わない。
 萌え、とはまた違うやつ?
 股座がいきり立つとかそんな感じにさ。
 足先から足首に腓で膝、太股、まとめて足ときて尻、腰からくびれ、上がって胸から肩で少し下がって腋、二の腕からなぞって肘に手首ときたら指先だろ、戻ると鎖骨で喉でしょ、それで顎の下に歯で鼻を通って目元、耳におっとうなじもだ。
 あ、別にぼくとしては部位に限らないぜ?
 格好って言うのも良いものだからね。
 コスプレは良い文化だよ、七実ちゃん!
 今の王道と言えば巫女にナースさん、OL更には着物に追加でバニー、いやいやギャル、おっと神官とか制服、あとは天使と悪魔とか?
 ちょっとした背徳感が、いい。
 おいおい、制服とギャルが一緒じゃないかって?
 君は実に馬鹿だなぁ……それは剣と刀は一緒の物って言ってるようなものだよそれ?
 ともかく邪道とか言われるかも知れない辺りは騎士に他意はないけどビキニ、鋭く軍服、忍者でしょう、十二単でしょう、嗚呼お姫様、ちょっとした所では宇宙服とかゾンビ、追加で石器時代に着ぐるみとかかな?
 着ぐるみがコスプレに入るかだって?
 細かいことはいいんだよ!
 それよりマンガやアニメ物、ラノベなんかも悪くない。
 大定番のマミる魔法少女はもちろん、近未来的な身体に張り付いたようなのもあるし妖怪(笑)物の衣装、異世界物も素晴らしい。
 最終兵器な彼女とかセーラーな土星にロリな紐神様だとか、ゲームでいくと如何にもあかんコレな奴もあるしね。
 スリングショットとか実在するんだって感動すら覚えたよ!
 スリングショットは実在するんだよ!
 魔物に負けるためだけに存在するような忍も悪くはないけど、ああ言う元ネタがどうやってどうしたらこうなったって言うのも、良い。
 いやぁ、日本人は発想が狂ってるって言うのは真実だろうさ。
 船に城に刀って。
 ま、やってるけど意味が分からないのは何でああ言う奴は脱がしちゃうんだろうね?
 いやいや何のためのコスプレだよって感じ?

732着包み/気狂い ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:41:48 ID:LVJNO3B60
 あ。
 少し話が外れることだけど、コスプレって言うのはその存在に成り切るって言うのが重要な要素としてあると思うんだ。
 成り切る……いや、成り代わると言ってもいい。
 誰かに成ることで「自分ではない」安心感を得る。
 分かるようん分かる分かる。
 『自分じゃないから』『私ではないから』『僕じゃないから』大丈夫。
 不幸も、不運も、良心も、良識も、転倒も、転落も、不明も、不抜も、悪意も、悪気も、失態も、失敗も、全部全部全部全部全部僕は悪くない。
 彼が、彼女が、あの人が、悪い。
 悪い悪い悪い悪い悪いだから悪くない悪いのは向こうでこっちは悪くない。
 押し付けだって良いじゃないか、だってそんな人間いないんだから。
 そうさ、全部全責任全関与全良悪全部全部全部が全てさ。
 おおっとだとしたら、着ぐるみを着てる人は押し付けてるんじゃなくて身を守ってるって解釈になるのかな?
 普通のコスプレが身代わり人形なら着ぐるみは鎧、かなぁ?
 確かにあれだけの分厚さがあれば多少殴ったり蹴ったりする程度じゃあビクともしないだろうけど、うーん。
 謎だ、どうでもいいけど。
 これまた凄くどうでも良い話だけど本来のフェティシズム――フェチって言うのはかなり深い拘りを指す言葉らしいんだ。
 神仏崇拝だとか最早そう言うぐらいの、一種の信仰の域さ。
 だからフェチとか簡単に言えるものじゃないらしいぜ。
 本来の意味で使うとなると「それ以外にはどうあっても認められない」とか言うレヴェルじゃないと認められないそうだ。
 あ、別にぼくとしては別にどうでも良い話なんだけどね? 
 じゃあどう言えばいいんだよとか突っ込まれても困るからフェチを使い続けるべきだと思う。
 おっと。
 更にどうでも良い話を言わせて貰うぜ?
 単純に二つに分けると部分だとか物に対する執着をフェティシズムで、状態に対する執着はパラフィリアってことらしい。
 この理論で行くと背筋とか舌とか臍とか、あああとは髪もだね。
 その辺りに興奮するのはフェティシズムだ。
 あと巨乳は正義だ。
 七実ちゃんは――うん。
 対してサドだとかマゾだとかはパラフィリアになるみたいだ。
 一応言っておくべきことだと思うけどぼくは別にマゾじゃないぜ?
 ただ単純にボロクソにされる機会が多いだけの善良な一般人なんだから。
 七実ちゃんはーーうん。
 うん!
 あ、濡れ透けで興奮したらパラフィリアってことなんだけどぼく的に悩ましいんだよなぁ。
 濡れ透けは良いと思うよ?
 だけど裸エプロンに水をかけて胸に張り付いたのに興奮する場合ってどうなるんだろうってさ――そう言う訳でどう思う?』
「あ、はい、削げば良いんですね?」

733着包み/気狂い ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:43:55 ID:LVJNO3B60
『…………え?』
「大丈夫です、痛くしませんので」
『あ、ごめん。ちょっと命の危機を感じるのは気のせいかい?』
「ええ、大丈夫です。気のせいです。ちょっと子供を作れなくなるだけですから」
『いやいや、割と大問題だと思うんだけどそれ?』
「このためのおーるふぃくしょん」
『おっと気合いの入った握り拳……クルミぐらいなら軽く握り潰せそうだ。うーん…………これは、本格的にヤバい気配がムンムンとしてきやがったーーーー!』

と、まあ。
わたしにとってまるで意味の分からない言葉が立て板に水の如くスラスラとその口から流れ出していたのを聞き流しておりました。
聞き流していた。
聞き流していても、覚えてはいます。
ですのでこの通り、一言一句に至る子細まで思い出せているわけですし。

「…………それで、ええ、何を言いたかったんでしょうか?」
『んォ…………ちょ……っとカヒュ…………エヴッ……待……ヴッ……って、ね』

遊び過ぎて若干吐きかけているのを見ないようにしながら待ちました。
ああ、この時は実に時間を無駄にしたものです。
ともあれこの後も時間の無駄だったと、今をしても、言わざるを得ませんが。

『七実ちゃん!』
「はい、なんでしょう」
『着物の下は履いてないって本当かいッ?!』
「お死になさい」
『グワーッ!』

爆発四散南無三。

734着包み/気狂い ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:46:52 ID:LVJNO3B60



「……いえ、四散していたら生きてはいませんし」
『うん? なになに七実ちゃん?』
 ――……時々、娘のことが分からなくなります。四季崎です……
「いいえ別に何も」

あ、失礼しました。
今までの全て回想です。
その辺で浮いていた四季崎含めて全部。

「少し思い出していただけです――それで、何でしょうか?」

いえ、わざわざ少し前のことを思い返していたのですから。
全く無意味な質問でした。
聞かれるのが怖かった。
と言うわけではありません。
もちろん聞き逃していたわけではありません。
見逃していたわけでももちろんあるはずがありません。
このわたしに限って。
だからこれは。
そう。
逃避だったのでしょう。
一時はもちろん一刻ですらない。
たった一瞬に満たない逃避。
訳も分からず思わずした、逃げ。
まあ。
どうでも良いことだけれど。
どうでも悪いことだけれど。
わたしの出す答えは決まっているのだから。
わたしの返す言葉は決まっているのだから。
わたしは既に行動を決めて、いるのだから。

『ねえ、七実ちゃん……七実ちゃんは、あ、見えてきたね!』
「はい、そうですね」
『じゃ、中の探検といこうか!』
「はい、ですが」

少し足を早め掛けた所を、失礼ではありますけれど先回りさせていただいて。
踵を返して、目を、合わせます。
見る。
視る。
観る。
見ているのか、見られているのか。
真っ黒な目の底は見通すことが出来ないように深く遠く。
対するわたしの目は果たしてと、思わずには居られません。
このわたしの、

735着包み/気狂い ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:48:52 ID:LVJNO3B60

「先にお聞きします――――何でしょうか?」

底の知れた想いを見られては、いないのか。
と。
草染みた矮小なこの思いを、視られてはいないのか。
と。
禊さんに対する重いと黒神めだかに対する重いが、願いが観られてはいないのか。
見えないように。
視えないように。
観えないように。
後ろに、なぜか震えの止まない手を隠しながら。
何でもないように首を、小さく傾げて診せて。
その様子を、反応を、行動を、仕草を、視線を、看る。
一瞬。
次の時には、

『聞いていいの?』
「っ――はい、どうぞ」

常と変わらない笑っている顔が、目と鼻の先にありました。
見ていたのに。
瞬きした僅かな間に失せた姿を追って目を動かせば背後。
数歩にも満たない、間。

『ねぇ、七実ちゃん』

手をまた隠そうとして、動きが止まる。
有ったから。
三日月のように割れた口が。

『君は………………』

満月のような二つの目が。
遭ったから。
知らず固まろうとする身体を叱咤して。
何でもないように頬に片手を当てて。
隠した手のひらに爪を立てて。
ただ、次の言葉を。
待つ。
待つ。
待つ。
やがて。
月が。

『…………』

崩れる。

『………………着物の下に下着って着けてる?』
「…………見ます?」
『マジで!









 えっ、マジで!?!」

736着包み/気狂い ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:50:25 ID:LVJNO3B60

【二日目/黎明/?-?】
【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『少し頭がぼーっとするけど、健康だよ』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックス、クロスボウ(5/6)@戯言シリーズと予備の矢18本があるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
『基本は疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『0番はやっぱメンバー集めだよね』
『1番は七実ちゃんは知らないことがいっぱいあるみたいだし、僕がサポートしてあげないとね』
『2番は……何か忘れてるような気がするけど、何だっけ?』
[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています
 ※黒神めだかに関する記憶を失っています。どの程度の範囲で記憶を失ったかは後続にお任せします

【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、勇者の剣@めだかボックス、白い鍵@不明、ランダム支給品(0〜2)、球磨川の首輪、否定姫の鉄扇@刀語、
   『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:球磨川禊の刀として生きる
 0:禊さんと一緒に行く
 1:禊さんはわたしが必ず守る
 2:邪魔をしないのならば、今は草むしりはやめておきましょう
 3:繰想術が使えないかと思ったのですけれど、残念
 4:八九寺さんの記憶が戻っていて、鬱陶しい態度を取るようであれば……
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※黒神めだかの戦いの詳細は後続にお任せします



 ※現在二人ともランドセルランドかネットカフェの前に到着しています。どちらかは後続の書き手の方にお任せします。

737着包み/気狂い ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:51:58 ID:LVJNO3B60









『ねえ七実ちゃん』





「髪、切らない?」

738 ◆mtws1YvfHQ:2016/11/12(土) 19:54:59 ID:LVJNO3B60
以上です。
久しぶりの投下の上、書いた期間がツギハギのため妙な所があると思われます。
いつも通り妙な所へのご意見などよろしくお願いいたします。

失礼いたします。


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