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新西尾維新バトルロワイアルpart6

1名無しさん:2013/06/10(月) 21:34:44 ID:r8aCgNWo0
このスレは、西尾維新の作品に登場するキャラクター達でバトルロワイアルパロディを行う企画スレです。
性質上、登場人物の死亡・暴力描写が多々含まれすので、苦手な方は注意してください。


【バトルロワイアルパロディについて】
小説『バトルロワイアル』に登場した生徒同士の殺し合い『プログラム』を、他作品の登場人物で行う企画です。
詳しくは下の『2chパロロワ事典@wiki』を参照。
ttp://www11.atwiki.jp/row/


【ルール】
不知火袴の特別施設で最後の一人になるまで殺し合いを行い、最後まで生き残った一人は願いが叶う。
参加者は全員首輪を填められ、主催者への反抗、禁止エリアへの侵入が認められた場合、首輪が爆発しその参加者は死亡する。
六時間毎に会場に放送が流れ、死亡者、残り人数、禁止エリアの発表が行われる。


【参加作品について】
参加作品は「戯言シリーズ」「零崎一賊シリーズ」「世界シリーズ」「新本格魔法少女りすか」
「物語シリーズ」「刀語」「真庭語」「めだかボックス」の八作品です。


【参加者について】

■戯言シリーズ(7/7)
 戯言遣い / 玖渚友 / 西東天 / 哀川潤 / 想影真心 / 西条玉藻 / 時宮時刻
■人間シリーズ(6/6)
 零崎人識 / 無桐伊織 / 匂宮出夢 / 零崎双識 / 零崎軋識 / 零崎曲識
■世界シリーズ(4/4)
 櫃内様刻 / 病院坂迷路 / 串中弔士 / 病院坂黒猫
■新本格魔法少女りすか(3/3)
 供犠創貴 / 水倉りすか / ツナギ
■刀語(11/11)
 鑢七花 / とがめ / 否定姫 / 左右田右衛門左衛門 / 真庭鳳凰 / 真庭喰鮫 / 鑢七実 / 真庭蝙蝠
真庭狂犬 / 宇練銀閣 / 浮義待秋
■〈物語〉シリーズ(6/6)
 阿良々木暦 / 戦場ヶ原ひたぎ / 羽川翼 / 阿良々木火憐 / 八九寺真宵 / 貝木泥舟
■めだかボックス(8/8)
 人吉善吉 / 黒神めだか / 球磨川禊 / 宗像形 / 阿久根高貴 / 江迎怒江 / 黒神真黒 / 日之影空洞

以上45名で確定です。

【支給品について】
参加者には、主催者から食糧や武器等の入っている、何でも入るディパックが支給されます。
ディパックの中身は、地図、名簿、食糧、水、筆記用具、懐中電灯、コンパス、時計、ランダム支給品1〜3個です。
名簿は開始直後は白紙、第一放送の際に参加者の名前が浮かび上がる仕様となっています。


【時間表記について】
このロワでの時間表記は、以下のようになっています。
 0-2:深夜  .....6-8:朝     .12-14:真昼  .....18-20:夜
 2-4:黎明  .....8-10:午前  ....14-16:午後  .....20-22:夜中
 4-6:早朝  .....10-12:昼   ...16-18:夕方  .....22-24:真夜中


【関連サイト】
 まとめwiki  ttp://www44.atwiki.jp/sinnisioisinrowa/
 避難所    ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14274/

510三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 00:59:38 ID:IG39iMCA0

「私、ちょっと怒ってるの」
「ほ、ほぅ?」
「確かに私が人を殺す可能性はあるけど、真っ正面から言われちゃったから」
「……その節はどうも申し訳ありませんっ」
「いいの。気にしないで。だから頑張れるだけ頑張ろうと思えた訳だし」
「た、例えば?」
「使える手は使えるだけ使うって。多少のデメリットには目を瞑らないと。だからごめんね?」
「何がでしょうか?」
「巻き込む事になるかも知れないけど。いざとなったら逃げてね?」

そこまで言って、笑ったまま、電話のボタンを見せつけるように押しました。



 4−1



さて困った。
待つまでの間が実際手詰まりだった。
石の上にも三年居れるなんて言われた事はある。
でも同時に言われた事に、結果が分かってるから、なんて言われたな。
実際そうだし。
最大の理由でもある。
待てなくなった。
そうじゃなきゃ一人で歩き回ってないし。
いや別に気まずかったから逃げた訳じゃないし。
本当だし。

「やばいやばい」

友と合流さえ出来れば如何様にでもやりようはある。
だろう。
何せ友だし。
けども逆説、いなければどうしようもない。
待つのは慣れている。
結果が分かってるなら。
だけど何もしないで待つのは間違いはないけど待ち甲斐もない。
何か出来る事は有りはしないか。
ぼく一人で。
いや、あの二人に協力して貰ってでも構わない。
この状況。
今の情勢。
現状を少しでも好転させ得る材料は。
何処かで何かして見逃してる要素は。
向こうが見落としている何かないか。

511三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 01:01:12 ID:IG39iMCA0

「……あ」

あった。
一つだけあった。
忘れていただけの。
ぼくが見落としてるだけで。
向こうは見落としてないだろう要素。
それも好転させるのではなく、悪転させる方。
そしてそれはよくよく考えてみなくても潤さんと関わりの深い事柄だ。
殺人鬼。
零崎人識。
人間失格は何で殺しを止めていたんだった。
人間失格は何で殺人行動を収めていたんだ。
気付けば人間生物の殺害方法を考えていたなんて戯言をぼくに漏らしたあいつは、どう言う要素で殺人行動を納めていた。
潤さんだ。
潤さんが約束したからだ。
そう、あの診療所であいつ自身が言っていた。
その潤さんが死んだ今となってみればどうだ。
人間失格を抑える要素は意志以外存在しない。
よしこれだ。
あいつに電話するために一人で行動していたんですぼくは。
それにあいつが人殺しするなんて思えないし。
まあ、殺人鬼だけど。
殺人鬼だけど。
などと思いながら携帯電話を取り出す。

「人間認識」

まさにその時。
実際問題最悪の瞬間。
轟音鳴り響く中で無機質な声が、

「は?」
「即刻斬殺」

鉄塔の立ち並ぶ中。
鉄柱が聳え立つ中。
百メートルは離れているだろう向こう側で。
無機質な目が。
確かにぼくを捉えていた。

512三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 01:02:34 ID:IG39iMCA0



 4−2



『もしもし』
「もしもし」
『良かった、切られてるかと思って』
「いやまあ、この際ですから知れる事は知っておきたいので」
『じゃあ、教えて貰えるってことで良いのね?』
「はい、構いませんよこの際は。ただしそちらからと言う事ともしも違っていたら」

と。
わざと一度切って反応を見ます。
電話越しでも伺おうと言う雰囲気が知れます。

「殺します」
『……良いわ』
「随分あっさりと乗るんですね。もし誰かが嘘の名前を言ってる可能性がありますよ?」
『信じているから、なんて言葉じゃ甘いかな……』
「そうですか。では、お名前をどうぞ」
『私の名前は羽川翼。えーと、名前を言っても……良いのね? 八九寺真宵ちゃん。そして戯言使いさん』
「……例のふざけた名前の人がですか」
『あとはさっき言った零崎人……っ!』
「っ!」

妙な。
音が。
響いてきましたね。
軽やかな音。
聞こえた気がしました。

『悪いけどしばらくしたらまた連絡します。電話番号を』
「……」

早口。
今までの口調が完全に崩れた。
一瞬の間を置いてから電話番号を口にしました。
即座に切られた、音。
白けた音が響くのを聞きながら、耳を離しました。
何が起きたのか。
伸ばし掛けた手をそこで引き留めます。
起こしてすぐに向かい始めるべきか。
返事の連絡を待ってから動くべきか。
どうしましょうか。
一向に、様刻さんが起きる気配はありません。
しかし。

「ランドセルランド」

どうもそこが台風の目何でしょうか。
うわぁ。
行きたくない。

513三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 01:03:55 ID:IG39iMCA0




【一日目/夜中/E-6 ランドセルランド】
【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]精神的疲労(小)
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実、解熱剤、フィアット500@戯言シリーズ
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 0:あれ(日和号)は明らかに不味い。逃げる
 1:玖渚を待つ。待ってる間だけでも少し動く
 2:掲示板を確認しておこう。
 3:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 4:危険地域付近には出来るだけ近付かない。
  5:気まずいからって逃げるんじゃなかった。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識、ツナギ、玖渚友のものが登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※八九寺真宵の記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします
 ※日和号に向けて発砲しつつ逃走を始めました

【日和号@刀語】
[状態]損傷なし
[装備]刀×4@刀語
[思考]
基本:人間・斬殺
 1:上書き。内部巡回
  2:人間・認識。即刻・斬殺
[備考]
 ※戯言使いを発見しています



【一日目/夜中/E-6 ランドセルランド】
【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]ロワ中の記憶復活、それに伴う体調不良(微熱と若干の体力低下)
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:変わらない。絶対に帰るんです。なぜ発砲音が?!
 0:まったく、戯言さんは!
 1:羽川さんと共に戯言さんの待ち人を待ちましょう。
 2:黒神めだかさんと話ができればよいのですが。
 3:羽川さんの髪が長かったのはそういう事情でしたか。
 4:戦場ヶ原さんも無事だといいんですが……
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です
 ※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします
 ※戯言使いの「主人公」は、結果のために手段を問わないのではないかと言う危惧を覚えました
 ※拳銃の発砲音を聞きました

【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]健康、ノーマル羽川、大体の現状認識
[装備]パーカー@めだかボックス、ジーンズ@めだかボックス
[道具]支給品一式×2(食料は一人分)、携帯食料(4本入り×4箱)、毒刀・鍍@刀語、タブレット型端末@めだかボックス、黒い箱@不明、トランシーバー@現実、
   真庭忍軍の装束@刀語、「ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス」
[思考]
基本:出来る手を打ち使える手は使えるだけ使う。まず発砲音を確かめる
 0:殺し合いに乗らない方向で。ただし、手段がなければ……
 1:阿良々木くんに関しては感情の整理はつかない。落ち着くまで保留
 2:情報を集めたい。ブラック羽川でいた間に何をしていたのか……
 3:戦場ヶ原さんは大丈夫かなあ。
 4:真宵ちゃん無理しないでね。
[備考]
 ※ブラック羽川が解除されました
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です
 ※全身も道具も全て海水に浸かりましたが、水分はすべて乾きました
 ※トランシーバーの相手は玖渚友ですが、使い方がわからない可能性があります。また、相手が玖渚友だということを知りません
 ※ブラック羽川でいた間の記憶は失われています
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得したか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします
 ※拳銃の発砲音を聞きました
 ※零崎人識に関する事柄を無桐伊織から根掘り葉掘り聞きました
 ※無桐伊織の電話番号を聞きました。後ほど連絡ができればする予定です

514三魔六道 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 01:06:00 ID:IG39iMCA0


【1日目/夜中/G−6 薬局】
【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]両足骨折(添え木等の処置済み) 、眠気(小)
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ
[思考]
基本:零崎を開始する。
 0:曲識、軋識を殺した相手は分かりました。殺します。
  1:人識君について引き続き情報を集めます。
 2:様刻さんが起きたら玖渚さん達と合流しましょうか。
 3:黒神めだかという方は危険な方みたいですねえ。
 4:宗像さんと玖渚さんがちょっと心配です。
 5:ランドセルランドが台風の眼のようですけど、どうしましょうか?
 6:羽川さんはちょっと厄介そうな相手ですね……
[備考]
 ※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
 ※黒神めだかについて阿良々木暦を殺したらしい以外のことは知りません。
 ※宗像形と一通りの情報交換を済ませました。
 ※携帯電話のアドレス帳には箱庭学園、ネットカフェ、斜道郷壱郎研究施設、ランドセルランド、図書館の他に櫃内様刻、玖渚友、宗像形が登録されています。
 ※DVDの映像は匂宮出夢と零崎双識については確認しています。他の動画を全て、複数回確認しました。

【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康、睡眠、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備]スマートフォン@現実
[道具]支給品一式×7(うち一つは食料と水なし、名簿のみ8枚)、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜28)@不明
   炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、
   輪ゴム(箱一つ分)、首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、
   鎌@めだかボックス、薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、
   首輪探知機@不明、誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、
   「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、三徳包丁@現実、
   中華なべ@現実、マンガ(複数)@不明、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、
   食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」
   (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う(瓦解寸前)
 0:zzz……。
 1:休んだら玖渚さん達と合流するためランドセルランドへ向かう。
 2:時宮時刻を殺したのが誰かわかったが、さしたる感情はない。
 3:僕が伊織さんと共にいる理由は……?
[備考]
 ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形が登録されています。また、登録はしてありませんが玖渚友からのメールに零崎人識の電話番号とアドレスがあります。
 ※阿良々木火憐との会話については、以降の書き手さんにお任せします。
 ※支給品の食料の一つは乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。
 ※DVDの映像は全て確認しています。
 ※スマートフォンに冒頭の一部を除いた放送が録音してあります(カットされた範囲は以降の書き手さんにお任せします)。

515 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/02(金) 01:08:10 ID:IG39iMCA0
以上です。

久し振りの所為かいつも以上に突っ込みどころがありそうなので感想などよろしくお願いいたします。
疑心と強襲のお年魂ですとやりたかったのにマニアワナカッタ……

今年もよろしくお願いします

516名無しさん:2015/01/02(金) 18:50:54 ID:iDadAYkg0
投下乙です
危ない、危ないよどこもかしこも!
両脚折れてるのに伊織ちゃんがっつりロックオンしてるし羽川も不穏だし
何より、せっかく持ち直したいーちゃんに日和号来るとかほんとさあ
そういえば原作の扱いがああだったからなんとも言えないけど実際日和号の耐久ってどれくらいなんでしょうね…?
本体部分も金属だろうから銃弾も弾きそうですが、さてはて

いくつか指摘を
まず>>496
いーちゃんは日之影さんのことを覚えてないようですがいーちゃんが起きてる状態で対面したのは死亡後です
『知られざる英雄』が発動している状態で遭遇していた八九寺などはともかくいーちゃんに影響が残ってるのはいかがなものかな、と
もちろん何かしらの理由があるのならそれで構いません
次に>>501
>「では状況を整理しましょう。今現在の所の死人は何人でしょうか?」
>「 人ね」
と羽川のセリフから人数が抜けています
最後に>>507のいーちゃんのモノローグ
>ぼくの知る限りの死にそうにない三人衆が揃って死ぬなんて。
>それも僅か三時間の間にほぼ同時に。
これは6時間の間違いでしょうか?

細かいところばかりで申し訳ありませんがいずれもすぐ修正できる類のものかと

517 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/04(日) 22:46:06 ID:lzyVG9wo0
それぞれ修正していきます。

ただし、日之影に関しては他の方と相談のうえでまあ大丈夫そうなので放置の方向で

518 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/04(日) 22:49:57 ID:lzyVG9wo0
>>501


くっ。
流石は羽川翼さん。
思うように私のペースに持ち込めませんね。
ですがしかし。
それでこそ噛み甲斐があると言うものです。

「聴覚としてですね」
「……噛んだ?」
「しちゅれい、かみゅまむた」
「噛み過ぎよ」

くっ。

「ふっふっふ……お遊びは止めろと言うことですか……良いでしょう……」
「…………まあ、良いか」

おっと、何やら遠い目をされている気がしますね。
しかし私は気にしませんよ。
強い子ですから。

「んー、何からお話ししましょうか?」
「じゃあそもそも、なんでそう思ったかだけでも聞かせてもらえる?」
「それは簡単です。あなたは頭が良いからです」
「答えに」
「なっています」
「……聞かせてもらえる?」
「頭が良いあなたなら、きっと気付いているんじゃないかと。これの終わりを」
「………………」
「いえ、これはあらかじめ伏線を張って置く訳ですけども別に洒落言使いさんを否定したくて言う訳じゃありませんよ?」
「…………」
「長々と言うのもあれですから言ってしまいましょうか。この先の行方、と言いますかこのバトルロワイヤルとか言う大層ふざけた催しの結末ですが、

 トゥルーエンド以外にありえないでしょう。

 ああ、いえいえ、別に戯言使いさんを否定したいから言ってる訳じゃないんですよ?」
「えぇ、分かってる」
「えぇ、そうでしょう。なら、わたしの言おうとしていることも分かってますよね?」
「これの結末は、バットエンドはなりようがあってもハッピーエンドになりようがない。そう言うことよね?」
「はい。大変言い辛いことですから中々言えない事でしたけど、この際はあなたにだけぶっちゃけちゃおうかなーと」
「何で私に言うのかな?」
「んもー、そうやってはぐらかそうとする」
「そう言うつもりは、ないんだけどね」
「ぶっちゃけちゃいましょうよ。ズバリ言うわよしちゃいましょうよ。夜の女子会みたくーチョーヤバーイみたいな」
「残念だけど私、そう言うのに参加したことないから分からないかな」
「でも本心を晒すと言う意味ぐらいは分かりますよね?」
「……はぁ。分かった」
「と言うことですのでどうぞ」
「いーさんは、皆を幸せにしたい」
「はい。一気に思い出しましたから気付きました。ですがそれは、よくよく考えなくても不可能なんですよ」
「……言い換えればハッピーエンドを迎えたい。でももう死人が出た以上、どうやってもハッピーエンドにしようがないって言うんでしょう? 仮に限りなくそれに『近い』ものになったとしても、それはどうやっても『近い』以上には成り得ない」
「…………はい」
「……気が、重いことにね」
「……はい」
「最早どうやろうとも、ハッピーエンドに持って行きようはない」
「…………………………羽川翼さん」
「何かな、真宵ちゃん?」
「言いましたよね、本心を晒そうって?」
「言ったね」
「だったらなんで、嘘を付くんです?」
「嘘?」
「えぇ、嘘です。わたしでも思い付いたことを、あなたが思い付かないはずがないんですから」
「それはどうかしら? 別に私は何でも知ってる訳じゃないわ」
「知ってることだけ、ですか?」
「その通り。知らないことは知らないもの」
「では状況を整理しましょう。今現在の所の死人は何人でしょうか?」
「二十八人ね。えぇ、誰も死んでなければ、だけど」
「そうです、なんと全体の三分の二近くです。でしたらこの人達を何とかする方法がありますか?」
「ないわね」
「あります」
「ない」
「ある」
「無い」
「有る」
「無いわ。死んだ人をどうにかする方法なんて無いに決まってるじゃない」
「あるじゃあないですか。二人」
「二人も?」
「も、などと言ったのはまあ聞き逃しておきましょう。兎も角として二人。

 主催と球磨川禊。

 このお二人ならば可能でしょうね、死んだ人をどうにかするのも」
「だったら簡単ね。球磨川さんを説得して最後まで乗り越えた上で何とかして貰う。それが理想解でしょう?」
「はい、そうです。球磨川さんが、説得に乗って、皆を何とかしてくれる。これが理想解です。はい、理想です」
「そうね」
「はい。理想です。理想なんです。理想に過ぎません」
「……なにが言いたいのかしら?」
「お分かりでしょう? 第一に、あの人が説得に乗ってくれるかどうか。第二に、そもそも言う通りにしてくれるか。第三に、本当に当てになるのかどうか」

519 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/04(日) 22:52:05 ID:lzyVG9wo0
>>507


西東天。
彼の物語が終わりを告げたらしい。
死にそうにもない彼も死ぬ。
ぼくの知る限りの死にそうにない三人衆が揃って死ぬなんて。
それも僅か六時間の間にほぼ同時に。
もしも生きていたらなんと言うのやら。
物語が加速しているとでも。
それとも、物語が終わりを迎えようとしているとでも。
戯言だ。
これ以上なく。
でもどっちだって良い。
どっちだって構わない。
幕を引こうと彼に言った。
世界は終わらせないと彼に言った。
ならぼくがするのは簡単だ。
村人がやれそうなことじゃないけれど。
大言壮語も甚だしいけど。
やることに変わりはない。
変わりがあってたまるか。
最後にきっと笑ってやる。
手に届くだけ助けれたと。
言えるために。
あがいてやる。
もがいてやる。
今頃あの世とやらにでも居て、胡座をかいて読み進めているんだろう。
地獄。
天国。
監獄。
鎖国。
どれもあなたにとって変わらないんでしょうから、今も読んでいるんでしょう。

「あたなに」

この物語を。
ああ、そうだ。
前言を撤回しよう。
物語を終わらせよう。
でも物語は続くんだと。
思う存分知らせてやろう。
終わっても終われない漫画のように。
うだうだと続き続ける漫画のように。
読み終えても次巻のある本のように。
長々と書き続く、そんな本のように。
物語は終わらない。
物語は終われない。
だって物語は続き続けるんだから。
精々読んでいて下さい。
あの笑顔でも浮かべて。
飽きても読んで下さい。
犯しそうに笑ったまま。

520 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/04(日) 22:56:11 ID:lzyVG9wo0
>>509


相手の返事も聞かず、ボタンの一つを押しました。
保留でしょう。
音楽が流れ始めてすぐにわたしを見ます。

「今の残った人数と私達、それに向こうの二人の名前を知れればそれぞれの概ねの動向が分かるわ」
「なるほど、メリットはそれですか」
「デメリットはこっちの人の名前が知られること。当然、彼女達の口から主戦肯定派に情報が漏れる可能性もあるかな?」
「その彼女達ですか? 肯定派の可能性はないんですか?」
「あるわね」

平然とそう言われてしまいました。
いや、その答えは予想外なんですけど。
そう思ってみても笑ったままです。
わたしの反応はどうも予想通りのようです。
人が悪い。
悪い人。
どっちが正しいんでしょうか。
はてさて。

「その場合だと彼女達は反対派の中に飛び込んできた肯定派になる訳だけど、困った事に私達の中にそのどちらでもない人が二人紛れ込んでいるわ」
「……球磨川禊さんと、鑢七実さんですか」
「そう。あの二人は、まあ、変な言い方だけどどうあっても死にそうにない二人。そして球磨川さんといーさんは妙に繋がり有った所があるみたいね」
「問題点が二つ有ります。お分かりでしょうけど」
「えぇ。今話している二人が来るまでの間に戻ってくるのかどうか。戻ってきたとしてもその二人に対する対抗馬みたいに動いてくれるか」
「問題だらけじゃないですか!」

問題だらけじゃないですか!
とは言ったものの。
デメリットばかりを考えるのもどうかとも思います。
あの二人がきた場合のメリットを考えてみましょう。
いやまだ合流すると決まっている訳ではないですが。

「メリットは本当に先程の物だけですか?」
「……んー。言い辛い所では二人の関係者を説得し易くなる、とか?」
「説得の後に物理が付いてる気がするんですが」
「違うわよ」
「違うんですか?」
「物理じゃなくて脅迫よ」
「余計にタチが悪くなってますよそれ!」

え、何ですかこれ。
ここまでアグレッシブな人でしたっけ。
まるでわたしの心を読んでいたように、また小さく笑いました。
少しばかりぞっとするような。

521 ◆mtws1YvfHQ:2015/01/04(日) 22:57:20 ID:lzyVG9wo0



以上で修正を終わります。
Wiki編集のほうをよろしくお願いします

522 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:39:20 ID:sIP1vxS60
修正乙です
Wiki収録の際に細かい誤字なども訂正したので確認していただけると助かります
それではこちらも投下します

523玖渚友の利害関係 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:40:36 ID:sIP1vxS60

「「かんぱーい」」

真庭蝙蝠がいなければ宗像形の兇刃からまず逃れられなかったであろうぼく、供犠創貴はブースの扉を開けた先、女子二人が酌み交わす光景を見て、

「……………………」

しばらく沈黙していた。





「やっほー、おかえり創貴ちゃん」
「おかえりなさいなの、キズタカ」

無言で立ったままのぼくに玖渚友と水倉りすかは気さくに声をかける。
それほど席を外したつもりはなかったはずなのだが、その間に随分と仲を深めていたらしい。
このネットカフェの一階部分全域が戦場になる可能性がある以上二階に移動したいと玖渚が願い出たのは合理的な判断だったし、ぼくたちも好都合だと承諾した。
死体を移動させるのは容易なことではないが必要なのは首輪だけであり、頭を切り離せば済む問題だ──このときの蝙蝠の反応については今更述べるまでもない。
りすかを残さなければならない以上、ソファータイプの一人用ブースよりも複数で利用できるいわゆる座敷タイプの方がいいだろうという考えもなんらおかしくない。
……しかし、ドリンクバーで飲み物を取りに行った上ドーナツを広げるのはいくらなんでもくつろぎすぎではないだろうか。
剣戟の音は間違いなく聞こえていたはずだろうに。

「まあまあ、そんな顔しなくても大丈夫だって。創貴ちゃんの分もちゃんとあるからさ」
「そういうことが言いたいんじゃない」

悪態をつきながら腰を下ろし、ドーナツを一つ取る。
チョコレートがふんだんに練り込まれた生地の上から更にチョコレートで上半分をコーティングした、ダブルチョコレートだ。
頬張る。
うむ、甘い。

「じゃ、創貴ちゃんも戻ってきたことだしいいかな」
「何を」
「いーちゃんにメールを送りたいんだ。できれば一刻も早く送りたかったのにりすかちゃんが創貴ちゃんが戻るまでダメって言うから」
「それくらい別に……いや、いい心がけだ」

見張っていろ、との指示に対しちゃんと必要な意思を汲み取ってくれたのは上出来だ。
ドーナツを持っていない方の腕でりすかの頭を撫でてやる。

「ま、僕様ちゃんもせっかくの同盟を解消したくはなかったしね。そんじゃあお言葉に甘えて」

言うが早いか玖渚の手が携帯電話に伸び、淀みなくボタンを叩いていく。
その間にりすかに確認をとっておくか。
念のために。

「怪しい素振りはしていたか?」
「なかったの」
「ドリンクバーには二人で行ったか?」
「もちろん……でもすごくうるさかったのが下からなの」

というかその状況でよくドリンクバーに行けたな。
まあ、まだうるさいのは確かだし戦況が互角なら逆に安全と考えるのは悪くはない判断ではあるが……

「休憩しない? って提案したのは僕様ちゃんだよ。一々声を出すりすかちゃんはかわいかったねえ」

やっぱり玖渚の発案か……いくらなんでもりすかにしては度胸がありすぎると思ったんだ。
金属音が飛び交う中を共に乗り越えたと思えば親近感が湧くのもある意味仕方のないことか。
そうしているうちにメールを送り終えたようだ。
少しの間動きが止まる。

524玖渚友の利害関係 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:41:27 ID:sIP1vxS60
再び指を数回動かし、また止まった。
そしてまた操作したかと思えばぼくに画面を見せてきた。


 to:いーちゃん
 title:もしかして
 text:ランドセルランドに腕4本脚4本のロボットが襲ってくるかもしれないから気をつけてね
    なんなら僕様ちゃんたちがいるネットカフェに来てもいいけどその場合は教えてくれると嬉しいな
    案外いーちゃんのことだからこのメールを読んだときにはもう遭遇しちゃってるかもしれないけど、僕様ちゃんは対処法を知らないからそのときはそのとき!


「これなら問題はないよね?」

下手な情報は漏らしていないということらしい。
メールに記載してあったロボットは掲示板にあったあの動画でとがめとかいう女性を殺したものだろうか。
確か玖渚本人の話によれば詳細名簿にも載っておらず、誰かの支給品か主催が配置したかということもわかってないとのこと。
だが、宗像形らも遭遇していたことからあの地域一帯だけを徘徊しており、不要湖から出る可能性は低いだろうというのが玖渚の見立てだったはずだ。
なぜ今更。
そんなぼくの顔を見て、玖渚友は語り出した。

「疑問を浮かべてる顔をしてるね?
「もちろんちゃんと説明するよ。
「と言っても気づいたのはりすかちゃんのおかげだけどね。
「ほら、さっき都城王土の話をしたでしょ?
「それに創貴ちゃんがいなくなった後もりすかちゃんが興味を持ってね。
「電気もりすかちゃんの弱点の一つである以上、対策を練っておくのは殊勝だと思うし、主催側である彼についてはしっかり考えておくべきだと僕様ちゃんも思ったからさ。
「創貴ちゃんたちが会った後、彼がどうしていたかについては全く情報がないし。
「ないだけで、僕様ちゃんの知ってる誰かが、僕様ちゃんの知らない誰かが遭遇してることは十分に考えられるけどね。
「最悪の可能性というのは常に想像しておかないといけないもの。
「例えば、都城王土が言ったことは嘘で忠実な主催の手先だった、だから盗聴機もしっかり仕掛けられていてこの会話も主催に筒抜け、だとか。
「例えば、主催にとっては都城王土の行動すら想定内であり、今更僕様ちゃんたちがどんな反抗をしようと無意味に終わる、とかさ。
「それに比べたらあのロボットが都城王土に操作されてランドセルランドに向かうことなんてマシな部類でしょ?
「マシな部類って言っても襲われる人間はたまったもんじゃないと思うけど、それはそれ、これはこれ。
「あのDVDは会場の中全てを監視していると言ってるのと同義なんだし、それを踏まえれば多くの人間がランドセルランドに向かっていることは予想できただろうからね。
「創貴ちゃんたちにとって黒神めだかとの同盟のうまみも薄れてるだろうし、いーちゃんをこっちに呼んだことについては問題ないでしょ?
「これがただの僕様ちゃんの考えすぎ、だたの思い過ごし、杞憂ならいいけど本当に本当だったらいざランドセルランドに着いたら餌食になりました、じゃ冗談じゃ済まないし。
「創貴ちゃんたちが恐れてる零崎人識との邂逅だって、見つかる前に隠れるなりすればいいだろうしね。
「さすがにそれくらいは僕様ちゃんだって気遣うよ。
「見つかった場合?
「いや、さすがにそこまでは保証できないって。
「邪魔したら僕様ちゃんだって殺されちゃうかもしれないし。
「むしろランドセルランド行ったら出会い頭に問答無用で老若男女容赦なく、殺されて解されて並べられて揃えられて晒されるかもしれないんだから、それに比べたらね。
「ま、どっちにしてもまだ時間はあるはずだし続けようか」

……本当に油断できやしない。

525玖渚友の利害関係 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:41:52 ID:sIP1vxS60



「やっぱ電話の一つでもかけてやった方がいいかねえ」

「いやいや、だからと言って俺からかける必要性ってないだろ」

「『人識くんったらそんなに私のことが心配だったんですか? 余計なお世話ですよう』とかなんとか言って茶化すに決まってる」

「俺にだけ教えて向こうには教えてない、なんてこともねーだろうし」

「さすがにそれくらいの気遣いくらいはしてるだろ」

「仮に場所とかがわかったとしてどうにかなることでもねーしな」

「それで向こうからかけてこないってことはそれだけの理由がないってことだろ、うんうん」

「かといって欠陥製品にかけるのもなあ……あ、そういや」

「ってダメじゃん! ぜってー声聞かれた瞬間切られるのがオチだっつーの」

「ちぇっ、どうせなら全部聞き出しといてくれりゃーよかったのによ」

「あーあ、こんなときコナン君の蝶ネクタイがありゃ楽勝なんだが」

「ま、高望みしすぎなのはわかってるけどな」

「……ん? こいつは……」

「…………へえ」

526玖渚友の利害関係 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:42:36 ID:sIP1vxS60



「で、首輪に魔法、ないしはスキルが使われてるかもしれないってのが僕様ちゃんの考えなんだけど、どうかな?」
「難しいのが実行なの。考えるのが簡単なのが理論だけど、危険があるのが暴発」
「ぼくもりすかと同じ意見だ。『魔法使い』でも『魔法』使いでもそんな繊細な魔法式が使えるとは思えない」
「魔法陣の可能性は……もっとありえないか」
「あの影谷蛇之ですら二十本もダーツを作ってはいなかったのに、その倍以上となるといくらなんでも無理がありすぎる、とぼくは思うが」
「だよねえ。さっちゃんからの情報をもらう前に形ちゃんからそれとなく話を聞いてはみたけど、思い当たる人はいないって言ってたし」
「そうでなくとも便利ではないのが魔法なの」
「ファンタジーやメルヘンじゃあありません、ってことかなあ。さすがに他の世界にはこういう技術はないと思うんだけどなあ」

そして現在、静かになったブースでぼくも交えて主に首輪についての考察が広げられている。
しばらく経ってもどちらも上がって来ないということは相討ちか、大方重傷を負いつつも辛勝したというところだろう。
考えたくはないが宗像形が生きているかもしれない以上確認しに行くようなことはしない。
そこで死ぬようであれば蝙蝠はそこまでの駒だったということだ。
玖渚の考えによれば首輪の外殻には未知の物質が使われており、おそらくそれは魔法かスキルによって作られたのではないかとのことらしい。
顕現『化学変化』の魔法を使えばできなくはないかもしれないだろう。
だが、それを見せしめの分も含めて計四十六も作るとなると、さすがに無理があるのではないだろうかというのがぼくとりすかの考えだ。
そうでなくともそう都合よく目的に沿うような魔法があるとも思えない──水倉神檎でもあるまいし。

「普通に考えたらさ」

そう言って玖渚は箱からドーナツを一つ取り出した。
小さな球が八つ連なって一周しているポン・デ・リングだ。
八つの球を四つと四つに分ける。

「こんな風に二つのパーツを組み合わせて首に嵌めるものでしょ?」
「だろうな」
「いくら二重構造になってて内側はこのようになっているとしても、外側もこうなってないとおかしいと思うんだよね」
「ただ作るだけならできなくはないだろうな」
「問題なのが人間に嵌めるということ?」
「それなんだよねえ。内側を普通に嵌めたとしても綺麗にコーティングするのだって……あ、ちょっとごめんね」

雑音がないと着信音がよく響く。
電話ではなくメールか。
二つに分かれたポン・デ・リングが箱に戻される。
……口をつけてたわけでもないしいいか。
読み終えるとそのまま畳んでポケットにしまった。

「……返信しなくていいのか?」
「いーちゃんがこっち向かうってさ。それと創貴ちゃんたちには朗報かな、零崎人識は別行動になったからいないって」

ぼくが反応を返すより早く、りすかが大きく息を吐き出した。
さっきの話を聞いたとき随分と肩をこわばらせていたからもしやとは思っていたが、未だに恐怖心が消えていないらしい。
いざというときそれが妨げにならなければいいんだが……

「ところでさ、今こうして私は創貴ちゃんたちにありとあらゆる情報を提供してるわけだけど、これって大きく分けて三つのパターンがあると思うんだよね」

それを一瞥した玖渚がふいに話題を切り換えた。
不思議には思ったが返す意外の選択肢が浮かばない。

「パターン? 何のだ」
「情報を差し出す理由、とでも言えばいいのかな」
「わたしたちとクナギサさんみたいな?」
「それが一つめだね。利害の一致とか取り引き材料で情報交換したり一方的に渡したり」
「二つめはぼくとりすかのようなもの、か」
「うん、損得感情抜きでそれだけのことをする価値がある相手の場合だね。私といーちゃんみたいな、さ。

527玖渚友の利害関係 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:43:19 ID:sIP1vxS60
 それで最後、三つめ」





「目的が時間稼ぎの場合、だな。もしくは相手を動揺させるのが狙いだったりってのもあるか?
 いずれにせよ言えることは相手を消すためであり、渡してしまっても問題ないということ、だろ?」





ぼくのものでもなく、りすかのものでもない、もちろん玖渚友のものでもない第三者の声が割り込んだ。





「大正解! 言われた通り私は時間稼ぎに徹したし殺さないで欲しいな」
「ご心配なく。気まぐれをおこさなきゃな」

即座にぼくは立ち上がり、りすかの腕をつかんで体の向きを反転させる。
扉に背を向けたままでいるのは明らかにまずい。
直後、音もなく扉がこちらに向かって倒れ込んできた。
身構えたときにはぴたり、とぼくとりすかの首筋に刀が突きつけられる。
……あれは蝙蝠が持っていた刀だ、ということは蝙蝠は──などということは考えさせてはくれないらしい。

「さっき言ったメールの内容はほとんど嘘。
「いーちゃんからじゃなくてしーちゃんからだったんだよね。
「さっき言ったでしょ?
「『最悪の可能性は常に想像しておくもの』だって。
「創貴ちゃんが戻ってきたということは少なくとも圧倒的有利な状況ではないということ。
「だからあらかじめ手を打っといたんだよね。
「いーちゃんのメールには追伸を。
「『しーちゃんが探してる相手ならここにいるからしーちゃんがそこにいるなら一緒にいた方がいいかもねって伝えといて』って。
「そしていーちゃんと離れた可能性もあったからひたぎちゃんにも同時にメールした。
「『ネットカフェにしーちゃんが探してる人がいるよ。方向的に黒神めだかを殺せるかもしれないしあなたにとっても悪い話じゃないと思うけど』って。
「創貴ちゃんたちの前で二回手を休めたのはそのためだよ。
「携帯の操作権を渡さなかったとはいえ、いーちゃんへのメールをちゃんと最後まで読めばわかっただろうにね。
「仮にしようとしたところでさせなかったけど。
「あのとき直接しーちゃんの連絡先を取得してなかったから伝わるか不安ではあったんだけど、ひたぎちゃんを殺して携帯をちゃんと回収してくれたから結果オーライ。
「裏切った理由?
「そんなの決まってるじゃん。
「ぐっちゃんを、私の所有物を壊したからだよ。
「例え役立たずでも、捨てたものでも壊していい理由にはならないよ。
「拾われるだけでも不愉快なのにましてや壊されるなんて、ねえ?
「気づいてないとでも思ってた?
「真庭蝙蝠がぐっちゃんと『だいたい』同じ顔をして、私がカメラ越しで見たのと同じ服を血だらけで着ていて、わからないとでも思った?
「真似られるだけでも不快なのに、壊した相手を目前にしてそれを壊し返せるチャンスを逃がすような真似をするとでも?
「もちろん、打った布石が無駄に終わる可能性もあったからそのときはさっきまでの続きをやっていただろうけど、こうなってしまった今それはどうでもいいことだよね。
「という感じで、どうかな?」

528玖渚友の利害関係 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:44:16 ID:sIP1vxS60

「うんにゃ、解説ごくろーさん──ということでお終いの時間だ、ガキのお遊びにしてもやりすぎだぜ?

 殺して、
 解して、
 並べて、
 揃えて、
 晒して、
 刻んで、
 炒めて、
 千切って、
 潰して、
 引き伸ばして、
 刺して、
 抉って、
 剥がして、
 断じて、
 刳り、
 貫いて、
 壊して、
 歪めて、
 縊って、
 曲げて、
 転がして、
 沈めて、
 縛って、
 犯して、
 喰らって、
 辱めて、
 
 そして最後に殺して解して並べて揃えて晒してやんよ――老若男女、容赦なしだ」


そしてぼくに向けた。
闇を刻み込んだような、深い眼を。
神を使い込んだような、罪深い瞳を。
さて、この程度の『障害』をどう乗り越えるか。
ぼくは睨み返す。

529玖渚友の利害関係 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:44:55 ID:sIP1vxS60
【1日目/夜中/D-6 ネットカフェ】
【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]身体的疲労(小)
[装備]携帯電話@現実
[道具]支給品一式、ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ、工具セット@現実、首輪×2(浮義待秋、真庭狂犬)、ランダム支給品(0〜4)
[思考]
基本:いーちゃんに害なす者は許さない。
 0:とばっちりを受けないようにしないと。
 1:もう黒神めだかの悪評を広めなくても大丈夫かな?
 2:いーちゃんは大丈夫かなあ。
[備考]
 ※『ネコソギラジカル』上巻からの参戦です
 ※箱庭学園の生徒に関する情報は入手しましたが、バトルロワイアルについての情報はまだ捜索途中です
 ※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを凡そ理解しました
 ※言った情報、聞いた情報の真偽(少なくとも吸血鬼、重し蟹、囲い火蜂については聞きました)、及びそれをどこまで理解したかは後続の書き手さんにお任せします
 ※掲示板のIDはkJMK0dyjが管理用PC、MIZPL6Zmが玖渚の支給品の携帯です
 ※携帯のアドレス帳には櫃内様刻、宗像形、無桐伊織、戦場ヶ原ひたぎ、戯言遣い(戯言遣いのみメールアドレス含む)が登録されています
 ※ハードディスクを解析して以下の情報を入手しました
  ・めだかボックス『不知火不知』編についての大まかな知識
  ・不知火袴の正体、および不知火の名字の意味
  ・主催側が時系列を超越する技術を持っている事実
 ※主催側に兎吊木垓輔、そして不知火袴が影武者を勤めている『黒幕』が存在する懸念を強めました
 ※ハードディスクの空き部分に必要な情報を記録してあります。どんな情報を入手したのかは後続の書き手様方にお任せします
 ※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。内容は完全に記憶してあります
 ※参加者全員の詳細な情報を把握しています
 ※首輪に関する情報を一部ながら入手しました
 ※浮義待秋の首輪からおおよその構造を把握しました。また真庭蝙蝠たちの協力により真庭狂犬の首輪も入手しました
 ※櫃内様刻に零崎人識の電話番号以外に何を送信したのかは後続の書き手にお任せします
 ※本文中で提示された情報以外はメールしていません
 ※零崎人識からのメールにより以下の情報を入手しています
  ・戯言遣いと球磨川禊たちが高確率で離れている可能性
  ・戦場ヶ原ひたぎと宗像形の死亡および真庭蝙蝠の逃亡


【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康
[装備]斬刀・鈍@刀語、絶刀・鉋@刀語、携帯電話その1@現実
[道具]支給品一式×11(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
   千刀・ツルギ×6@刀語、 手榴弾×1@人間シリーズ、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
   大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
   携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数
[思考]
基本:戯言遣いと合流する。
 0:今度こそ逃がさねえ。
 1:いやはや、ちょうどいいタイミングでの情報提供に感謝だな。
 2:伊織ちゃんと連絡を取る。合流するかどうかは後から決める。
 3:零崎を始める。とりあえず戯言遣いと合流するまでは。
 4:哀川潤が生きてたら全力で謝る。そんで逃げる。
 5:黒神めだか? 会ったら過剰防衛したとでも言っときゃいいだろ。
[備考]
 ※曲絃糸に殺傷能力はありません。拘束できる程度です
 ※Bー6で発生した山火事を目撃しました
 ※携帯電話その1の電話帳には携帯電話その2、戯言遣い、ツナギ、無桐伊織が登録されています
 ※携帯電話その2の電話帳には携帯電話その1、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※球磨川禊が気絶している間、鑢七実と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします

530玖渚友の利害関係 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:45:28 ID:sIP1vxS60
【供犠創貴@新本格魔法少女りすか】
[状態]健康、人識に斬刀を突きつけられている
[装備]グロック@現実
[道具]支給品一式×3(名簿のみ2枚)、銃弾の予備多少、耳栓、書き掛けの紙×1枚、「診療所で見つけた物(0〜X)」、心渡@物語シリーズ、シャベル@現実、
   アンモニア一瓶@現実、携帯電話@現実、スーパーボール@めだかボックス、カスタネット@人間シリーズ、リコーダー@戯言シリーズ
[思考]
基本:みんなを幸せに。それを邪魔するなら容赦はしない
 0:玖渚友も排除せざるを得ない、か……
 1:ランドセルランドで黒神めだか、羽川翼と合流する、べきか……?
 2:行橋未造を探す
 3:このゲームを壊せるような情報を探す
 4:蝙蝠は残念だが……
 5:掲示板の情報にどう対処すべきか
[備考]
 ※九州ツアー中、地球木霙撃破後、水倉鍵と会う前からの参戦です
 ※蝙蝠と同盟を組んでいます
 ※診療所でなにか拾ったのかは後続の書き手様方にお任せします(少なくとも包帯や傷薬の類は全て持ち出しました)
 ※主催者の中に水倉神檎、もしくはそれに準ずる力の持ち主がいるかもしれないという可能性を考えています
 ※王刀の効果について半信半疑です
 ※黒神めだかと詳しく情報交換しましたが蝙蝠や魔法については全て話していません
 ※掲示板のレスは一通り読みましたが映像についてはりすかのものしか確認していません
 ※心渡がりすかに対し効果があるかどうかは後続の書き手にお任せします
 ※携帯電話に戦場ヶ原ひたぎの番号が入っていますが、相手を羽川翼だと思っています
 ※黒神めだかが掲示板を未だに見ていない可能性に気づいていません
 ※玖渚友から彼女の持つ情報のほとんどを入手しました
 ※真庭蝙蝠は死んだ可能性が高いと考えています


【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】
[状態]零崎人識に対する恐怖(大)、人識に絶刀を突きつけられている
[装備]手錠@めだかボックス、無銘@戯言シリーズ
[道具]支給品一式
[思考]
基本:キズタカに従う
 1:? ? ?
[備考]
 ※九州ツアー中、蠅村召香撃破直後からの参戦です。
 ※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです(現在使用可能)
  なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません
 ※大人りすかについての制限はこれ以降の書き手にお任せします


[備考]
玖渚友たちがいるブースの中央にミスタードーナツの詰め合わせ@物語シリーズが置いてあります
中身はエンゼルフレンチ、ストロベリーホイップフレンチ、二つに割れたポン・デ・リング、D−ポップです


----
支給品紹介
【ミスタードーナツの詰め合わせ@物語シリーズ】
想影真心に支給。
阿良々木暦が忍野メメに差し入れようとしていたものだったが結果はご存知の通りである。
中身はゴールデンチョコレート、フレンチクルーラー、エンゼルフレンチ、ストロベリーホイップフレンチ、ハニーチュロ、
ココナツクルーラー、ポン・デ・リング、D−ポップ、ダブルチョコレート、ココナツチョコレート。
劇伴の曲名にもなった忍野メメが好きなオールドファッションは入っていない。

531 ◆ARe2lZhvho:2015/01/08(木) 02:48:11 ID:sIP1vxS60
投下終了です
いつも通り誤字脱字指摘感想その他何かありましたらお願いします

今年も新西尾ロワをよろしくお願いします

532名無しさん:2015/01/09(金) 00:04:17 ID:lcPRYFYs0
投下乙です。

>三魔六道
羽川と対等にやりあおうとする八九寺に今までにないしたたかさを感じた。
「実は、優勝する気はないでしょうか?」
この質問に対する羽川の真意やいかに。
そしていーちゃんはやっぱりジョーカーを引く運命にあるのね……

>玖渚友の利害関係
誰か玖渚から携帯電話を取り上げろ!ww
殺人鬼とサヴァンの即興連係プレイが鮮やかすぎてキズタカたちが可哀想になるレベル。これもう詰んでますわ。
玖渚が裏切った理由のところはなるほどなと思った。図らずも共通の敵を持ってることになるんだなぁこの二人。
ブチ切れモードの二人を相手に、りすかチームに生き残る術はあるのか否か。

533名無しさん:2015/01/15(木) 09:50:47 ID:dbIbJO7g0
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
155話(+3) 14/45 (-1) 31.1(-2.2)

534名無しさん:2015/03/15(日) 00:28:21 ID:OmFWEF5g0
集計者さんいつも乙です
今期月報
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
155話(+0) 14/45 (-0) 31.1(-0.0)

来期は投下できるようにしたいですね…

535 ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:40:50 ID:dCRMcRFk0
お久しぶりです
予約分投下します

536鉛色のフィクション ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:42:34 ID:dCRMcRFk0




想像よりまず行動力



1-1



なんて厄日なんだと愚痴りたくもなるが、それは最初からだった。
突如襲い掛かってきた謎のロボット。
それから逃れるために、慌ててジェリコで発砲したものの。

「――――っ……」

腕に走ったずきりとした痛みに思わず顔をしかめる。
刀傷、ではない。
むしろそうだったらどんなによかったことか。
主にぼくの体面が。
頭か胴体か、それとも手足についた合計八本の刀のどれかはわからないが、それにぶつかった銃弾が跳ね返ってきたようで。
腕を掠っただけだから傷そのものは大したことはないけども。
そのときの衝撃でジェリコを落としてしまったのは失態だ。
拾うために生じる隙と見捨てることで僅かでも離れられる距離。
天秤にかけ、即座に後者を選び。
あとはただ、ひた走った。
救いだったのは、ぼくの疾走の速度がロボットの移動速度より速かったこと。
そして、さすがに建物は斬れなかったこと。
おかげでこうして安全圏で呼吸を整えることができる。
どうやらロックオンされてしまったみたいで、離れていってはくれないけれど。
なぜそれがわかるかというと、今も向かい合っているからだ。
窓越しに。
外の様子を見ようと近づいた瞬間に割られたときには驚いたけども。
突然刀が生えてきたように見えたときはたいそう驚きましたけれども。
それがぼくに届かないとわかれば、多少は余裕も生まれるというものだ。
窓が小さかったことと飛び道具が無かったことに感謝しよう。
さて。
狙われているとはいえ危機を凌いだとなると、考えることもできてくる。
真宵ちゃんと翼ちゃんは、無事なのだろうか。
ぼくが今こうしてロボットを引き付けてる間は大丈夫かもしれないが、それは目の前のこれ一体だけだったらの話だ。
一体だけとは限らないし、そうでなくとも他に危険人物がいないという保証はどこにもないのだ。
こんなことになるのなら真宵ちゃんからの目線に耐えてでも一緒にいるんだった。
せめて、もう一つ携帯でもあれば向こうの状態がわかるのに。
そう思って携帯を取り出してみれば。
あれ。
メールが届いている。
いつの間に。
と言っても、ぼくが逃げていた間だろう。
零崎に電話しようと思ったときにはなかったんだし。
どれ、内容は――


 from:玖渚
 title:もしかして
 text:ランドセルランドに腕4本脚4本のロボットが襲ってくるかもしれないから気をつけてね
    なんなら僕様ちゃんたちがいるネットカフェに来てもいいけどその場合は教えてくれると嬉しいな
    案外いーちゃんのことだからこのメールを読んだときにはもう遭遇しちゃってるかもしれないけど、僕様ちゃんは対処法を知らないからそのときはそのとき!

537鉛色のフィクション ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:43:47 ID:dCRMcRFk0


ああ、その通りだよ。
現在進行形で遭遇してるよ。
対処法が無理でもどうせなら攻略法くらいつけてくれてもよかったんじゃないか。
ん。
よく見たら続きがあるぞ。
もしかして――


P.S.しーちゃんが探してる相手ならここにいるからしーちゃんがそこにいるなら一緒にいた方がいいかもねって伝えといて


……零崎はいないんだよなあ。



1-2



どうしましょう。
いえね、迷ってるわけではないんですよ。
行きたくない、という感情にはそもそも行かなくてはならない、という前提があるわけでして。
行った方がいいというのはわかってるんですよ。
武器はそれなりにあるとはいえ、使う側である私たちが万全ではないですからね。
それに、戯言遣いさんって玖渚さんが探している方ですし。
そういった点である程度は信頼がおけます。
少なくとも損得で考えれば得の方が多くなるくらいには。
でも、そのためには様刻さんに連れていってもらわなければいけませんからねえ。
また私をおぶらせることになるのは気が引けます。
いくら私がやせ形で軽い義手をつけているといっても40kg後半強の荷物は重いでしょう、さすがに。
とはいえ、周囲に誰もいないうちはまだ大丈夫です。
便利ですねえ、首輪探知機。
『誰か』ではなく『誰が』いるかわかるのは心強い。
今も異常なし、っと。
こうなったら曲識さんや軋識さんを殺したのが誰かについて考えてみましょうと思いましたが、手がかりないんですよねえ。
いえ、DVDはじっくり見ましたから外見についてとかはわかりますが。
それにしたって曲識さんを殺したあの赤い女の子――掲示板の情報によると水倉りすかでしたか――、いくらなんでも強すぎません?
殺されたと思ったら血の海の中から復活するってなんですか。
殺しても死なないって、どうやって殺せばいいんですか。
よく聞く話ですと「死ぬまで殺し続ける」なんてのがありますが、殺すたびにあんな風になられちゃひとたまりもありませんよう。
それこそこちらの命がいくつあっても足りません。
玖渚さんなら弱点とかわかってたりするんですかねえ。
それとは関係ないところで気になるところがないでもないのですが。
映像見る限りですと、首輪、外れていませんよね?
普通に生き返る(というのもおかしな表現ですが)のならまだしも、途中完全に体の原型留めていないじゃないですか。
あれで外れない方がおかしいですよ、むしろ。
そもそもの話、人間じゃないですよね、あの子……
軋識さんを殺した人の方も色々考えなければなりませんし。
双識さんのお姿を騙ったことについては捨て置けません。
なぜ双識さんではないのかわかるのかですって?
あの家賊思いの双識さんです、まかり間違っても軋識さんを殺すなんてことはありえません。
それに、途中から総白髪の小柄な女性になっていたことを思えば変装でもしていたのでしょう。
あれを変装と言っていいのかどうかは語弊がありますが。
……なんか、人間業でできないことをやってのける方、多すぎませんかねえ。
挙句の果てには触れてもいないのに人体を腐らせるとか、何がどうなったらそうなるんですか。
哀川のおねーさんだって大概ではありましたけども、それでもできることに限度はありましたよう。

「……はあ」

538鉛色のフィクション ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:44:20 ID:dCRMcRFk0

ため息も漏れてしまうというものです。
って。
おっとっと。
手を滑らせてしまいました。
足を添え木で固定されていると拾うのも一苦労ですね。
まあ骨折というだけで色々大変なんですけど。
そう思って落とした探知機を拾おうとしてみれば。
端に光点が一つ。
どうやらかなり正確に探知できるようですねえ、なんて悠長なことは言ってられなくなりました。
だって表示されていたんですもの。

「真庭鳳凰」と。



1-3



真庭鳳凰は思索に耽っていた。

一言で表せば簡潔極まりないが、鳳凰本人にとってはただ事ではない。
鳳凰はただ、気付いただけだ。

――目指す先である薬局に櫃内様刻と無桐伊織の二人がいるのでは

と。
無桐伊織の怪我の治療のため、彼らも薬局を目的地にしていてもおかしくはない。
それだけならば何の問題もない。
元より櫃内様刻には借りを返すつもりであったのだ。
むしろ好都合である。
だがしかし。
鳳凰は更に考えを一歩進めた。
進めてしまった。

――二人が我を待ち構えている可能性を否定できぬ

そもそもなぜ鳳凰が出会う前から様刻と伊織の名前がわかったかといえば、首輪探知機があったからだ。
探知機が何を持って対象を判断しているかといえば、その名の通り首輪だろう。
つまり、いかな変装をしても首輪を他人のものと取り替えない限りは探知機の表示は変わらない。
そして彼らの手元には探知機がある。
鳳凰の名前を見て無反応でいられるわけがなく。
逃げ出すか迎撃するかそれとも他の手段を取るか、いずれにせよのうのうと殺されてくれるとは思えない。
元々鳳凰が持っていた数々の武器に加え、あの『矢』のような彼ら自身の武装もあるだろう。
更に、薬局にいるという仮定を捨てても、彼らが探知機を持っているという事実は変わらない。
別の場所から虎視眈々と鳳凰を狙っている可能性だってある。
現状、鳳凰が持つ武器のことごとくが近接用で、遠距離からの攻撃には為す術が無い。

――否、だからなんだというのだ

浮かんだ考えをそう否定して歩みを進めようとした鳳凰だったが、足が動くことはなかった。
真庭狂犬のような例外でもない限り寿命には抗いようがないように。
わかっていたとしても鳳凰にはどうしようもない罠が張られていたとしたら?
万一の可能性にいちかばちかで進むという考えが否定される。
楽観的な思考は全て否定され、否定的なものばかりが頭を占める。
一度認識してしまえば、振り払おうとしても脳裏に焼き付いたまま離れない。
思考の堂々巡りが始まって、はや数時間が経過していた。
ゆえに、傍から見ればこう表現するのもやむなしである。

539鉛色のフィクション ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:45:11 ID:dCRMcRFk0
真庭鳳凰は思索に耽っていた、と。



【1日目/真夜中/G-7】
【真庭鳳凰@刀語】
[状態]身体的疲労(中)、精神的疲労(小)
[装備]矢@新本格魔法少女りすか、否定姫の着物、顔・両腕・右足(命結びにより)、真庭鳳凰の顔(着物の中に収納)、
   「牛刀@現実、出刃包丁@現実、ナイフ×5@現実、フォーク×5@現実、ガスバーナー@現実」(「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する。
 0:否、否、否、否――
 1:真庭蝙蝠を捜し、合流する。
 2:櫃内様刻を見つけ出し、必ず復讐する。
 3:戦える身体が整うまでは鑢七花には接触しないよう注意する。
 4:まず薬局に行き、状況を見る。
 5:可能そうなら図書館に向かい、少女の体を頂く。
 6:否定する。
[備考]
 ※時系列は死亡後です。
 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません。
 ※記録辿りによって貝木の行動の記録を間接的に読み取りました。が、すべてを詳細に読み取れたわけではありません。
 ※首輪探知機により自身の居場所が特定されているのでは、といった可能性に気付きました。



2-1



「早く行きましょう!」

受話器を置いた羽川さんに私は呼びかけます。
聞き慣れないあの音は、おそらく銃声でしょう。
明らかに異常事態です。
だというのに。

「…………いいえ、ここで待ちましょう」

羽川さんはその場から動こうとしません。

「どうしてですか、今行かないと戯言さんが」
「真宵ちゃんが行ったところでどうにかなるの?」
「そ、それは……」

きつくない口調とはいえ、これは反論を許さないタイプのものです。
だからといってただ待つだけだなんて、できるわけがありません。
ですがそこは羽川さん、ちゃんと理由は説明してくださるようで。

「『敵』と遭遇したという前提で考えるとして、銃声が一発しか鳴らなかったのはどうしてだと思う? 理由としては一発で決着がついたか、つかなかったか。
 決着がついていーさんが勝ったのなら戻ってくるはずだし、そうでなかったら私たちは備えないといけないわ。
 つかなかった場合の状況は色々考えられるけれど、少なくとも『敵』がいるのは間違いないでしょうね。
 闇雲に探し回って、見境無く襲いかかってくるような相手と遭ってしまったらどうする? 私はともかく、真宵ちゃんの身体能力ではひとたまりもないわ。
 そもそもいーさんがどこにいるかもわからないのだから、二重遭難になってしまうことも考慮しないと。
 まあ、二重遭難という表現も大げさだけどね」

ぐうの音も出ない正論です。
それにあえて言わなかったのでしょうが、『決着がついていたとき』の事態を目撃させたくないというのもあるのでしょうね。
羽川さんはお優しいですから。
とはいえ、冷静に指摘してくださったおかげで少しは落ち着きました。

540鉛色のフィクション ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:45:53 ID:dCRMcRFk0

「言いたいことはわかりました。ですが」
「ええ、いーさんが心配なのは変わらないわ。それに何もせず待つとも言ってない。だからとりあえず、真宵ちゃんは周囲を警戒しておいて」
「はい?」

言うが早いか、羽川さんは受話器を取ります。
まさかこの状況で先程の方たちとお話するつもりですか!?

「さすがに話しながらじゃ周りに割く意識が甘くなっちゃうから。正直なところ出られる状況にいるとは思えないけど、もしかしたら……あ、


 もしもし、いーさん?」

……というのは私の早とちりでした。
それにしても、いつの間に戯言さんの携帯電話番号を覚えていたのでしょうか。
ぬかりなく抜け目なさすぎです。

「その声の大きさで話せるということは少なくとも隠れているという感じじゃなさそうですね」
「腕四本脚四本のロボット?」
「……ああ、日和号ですか」
「映像を見てません?」
「とがめさんって方の」
「名前は掲示板に書き込んでありましたよ」
「そういえば怪我とかしてます?」
「いえ、ひどい怪我をしてるようならもっと声に出てるはずでしょうから後回しにしても大丈夫でしょうと思って」
「腕を掠った程度……なら後で手当すれば平気ですね」
「いーさんの持ってた銃はなんでしたっけ」
「ジェリコ……ベビーイーグルですか」
「ロボットの武器は刀だけですか?」

そして手際もいい。
口しか使っていないのに手際というのはいかがなものでしょうけどね。

「速度はどれくらいでした?」
「……ふむ」
「いーさんはどの辺りにいます?」
「そうですか」
「じゃあ、引きつけながらこっちに戻ってきてください」

って、え!?
今なんとおっしゃいました?

「いーさんには対抗手段がないのでしょう?」
「いずれにせよこのままではジリ貧ですし」
「一蓮托生というやつです」
「あ、全力疾走は最後にとっておいてくださいね」
「見ればわかるはずですから」

その言葉を最後に受話器を置いてしまいました。
えっと、断片から推理するに戯言さんは日和号というロボットに狙われていて、それに追いかけられながら戻ってこいと、羽川さんはそう言ったんですよね……?
何をお考えなんですか。

「相手が人間ならそうもいかなかったけれど、そうではないとわかったし」

声が聞こえたかと思えばゴトリ、と重い音が。
これは、機関銃……?
てきぱきと羽川さんは準備を整えてます。
これはもしかしなくてもですね。
ああ、それで全力疾走は最後と言ったんですね。

541鉛色のフィクション ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:46:35 ID:dCRMcRFk0
「これはあまりうるさくない種類だったと思うけど、一応目と耳は塞いでおいた方がいいと思うわ」

それだけ言って羽川さんは体勢を整えます。
集中しているのでしょう。
失敗すれば全員が危なくなる以上、邪魔をするわけにはいきません。

「……はい」

短く答えて耳を塞ぎます。
こんなときに言うのもなんですが、銃を構える羽川さんキマってます。
お似合いです。
とかそんなことを考えていたら、角を曲がって人影が現れました。
もちろん戯言さんです。
狙いがわかったようで、スピードを上げています。
のんびり走っていたら巻き添えを喰らいかねませんしね。
そして戯言さんが銃口よりこちら側に入った瞬間。










「即―――」


ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!










何かを発しようとしていた日和号に向けてこれでもかと銃弾を浴びせ。
銃声が止んだときには全てが終わってました。
……お気付きのようですが私は目を閉じてませんよ。
生き物が相手でしたらそれはもうスプラッタな光景だったのでしょうがロボットでしたし。
羽川さんに限ってありえないことだとは思いますが、もしも失敗してしまったときは迅速に対応しないといけませんから。

「……ありがとう、翼ちゃん。助かったよ」

お礼を述べるのはこちらに着いたと同時に倒れ込んでいた戯言さんです。
倒れ込むというよりはもはやスライディングの様相でしたが。

「映像を見る限りそこまで重くないと思ったので。それに、日本刀が相手ならこのマシンガンは太刀打ちできるはずでしたし」
「はは……ぼくなんかとは大違いだ。翼ちゃんはなんでも知ってるんだね」

何の気なしに放った言葉なのでしょうが羽川さんは答えます。
律儀ですね。

「なんでもは知りません。知ってることだけです」

542鉛色のフィクション ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:47:12 ID:dCRMcRFk0

2-2



やあやあ、久しぶりだね様刻くん。
なんだい、その顔は。
僕はきみに会えてとても嬉しいというのに、そんな反応をされてはしらけてしまうじゃないか。
まるで死人に会ったとでも言うような、そんな顔をしているよ。
大事な友人に目の前でそういう表情をされると、僕のように気の小さな人間はどうしても臆病にならざるを得ないのだが。
僕が何か嫌われるようなことをしたのだろうか、今の言葉でまさか気分を害したのだろうか。
実は既にきみを傷つけてしまったのだろうか、本当は僕を嫌いになったんじゃないだろうか。


――それとも、きみが僕を殺したことを気に病んでいないだろうか、とかね。


図星かい?
よかった、どうやら僕はきみを傷つけたわけでも、きみに嫌われたわけでもないらしい。
ああ、僕のことは全く気に病む必要はないから安心したまえ。
きみがきみの意志でもって僕を殺したというのなら、それはそれは悲しみのあまり自殺したくなってしまうが、そうではないことは明らかだ。
推理小説でいう『後期クイーン問題』に似たようなものだね。
きみ、櫃内様刻が僕、病院坂黒猫を殺した。
その瞬間の事実だけを見ればそれだけなのだが、きみの後ろには時宮時刻がいた。
つまり、「時宮時刻に操られた櫃内様刻」が病院坂黒猫を殺したという図式が成り立つわけだね。
さすがに時宮時刻がまた別の誰かに操られていたという可能性もあるにはあるが、僕がしたいことは真犯人捜しじゃない。
「僕を殺したのがきみじゃない」ということがわかればそれで十分さ。
おや、随分不思議そうな顔をしているね。
もしや、僕が以前言った「操られるやつが悪いのだ」という発言を気にしてるのかい?
ははは、親愛なる様刻くんの前で僕がそんなこと言うはずないじゃないか。
確かに、アドバイスを受けていたにもかかわらずまんまとひっかかった様刻くんは無様という他なかったけど……待ってくれ、僕が悪かった。
謝るから、謝るから。
そもそもの話をするならば、僕と迷路ちゃんが一番の無様を晒しているんだから、怒らないでくれ、頼むから。
え、本気じゃない?
ああ、よかった。
本当にきみに嫌われてしまったかと思ったじゃないか。
からかってしまいたくなったとはいえ、今のは僕に非があった。
ごめんなさい。
そろそろ何をしに出てきたのか教えてほしいって?
せっかちだなあ。
僕がおしゃべりだということをよく知っているくせに。
まあそれもしかたないか。
なにせ、バトルロワイアルなんてものが繰り広げられているんだものね。
甚だ不本意だが、本題に移るとしよう。
一言で言うならきみが心配でたまらないのさ。
かつてきみに『世界に対し嘘をついた』と言ったが、今のきみはそのとき以上に見ていられない。
前提からして、こんな破綻している世界においてきみは世界を相手取ろうとしている。
きみが最も嫌う行為である、状況をただあるあままに受け入れる、ということを強要させるような場所だ。
さぞかし、居心地が悪いだろうね。
ゆえに、これからどうするのか決めあぐねているのだろうけども。
悪いが、僕はアドバイスなんてあげられないよ。
こういった重要な局面において、判断を他人に任すきみではないだろう?
『持てる最大の能力を発揮して最良の選択肢を選び最善の結果を収める』──聞こえはいいが、限界はある。
自身が持つ能力の範疇を越え、選択肢も限られており、どう足掻いても最悪の結果しかもたらさないとき、きみはどうするのかい?
……なあんてかっこよくきめてみたはいいが、そろそろのようだ。
答えを聞けないことが残念ではあるけれど、それは僕のものじゃなくてきみが持つべきものだ。
もっとも、あくまでこれは夢の中でのできごとで身も蓋もない話をするならば、きみの深層心理が勝手に僕の姿を借りてるというだけのことに過ぎないのだろうけどね。
思いを馳せるのは自由だよ。
願わくは、息災であらんことを──

543鉛色のフィクション ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:49:23 ID:dCRMcRFk0




「──さん! 様刻さん!」
「わぶっ!?」

そんな間抜けな声をあげながら唐突に僕の意識は夢の世界から引き戻された。
慌てて顔に手をやってみれば冷たい感触。
……どうやら、起こすために伊織さんが水をかけたということらしい。
そこまでしたということは緊急事態発生、ってとこか。
とりあえず今も滴る水をなんとかしようと袖で拭おうとして直前でやめた。
学ランの袖は血に染まったことで、異臭を放ち凝固している。
そんなもので顔を拭くわけにもいかないので、手で乱雑にこすった。
拭いきれずに残った分も時間が経てば乾くだろう。

「……すみません、様刻さん」
「いや、起こしてくれといったのは僕だし。それで?」

乱暴な起こし方をしてしまったことを気にしているようだったけど、別に怒るようなことでもない。
僕としてはさっきまで見てた夢の内容を思い出したくないでもないところだったが、それは後回しにする以前のことだ。
さっさと本題に移ろう。

「あれを見ればわかるかと。ですが正直に言って見たくはなかったですね」

伊織さんが指差したのは床に落ちた首輪探知機だ。
探知機、それに『正直に言って見たくはなかった』――その言葉から予想するに……やっぱり。
あのまま禁止エリアで爆死してくれれば願ったり叶ったりだったのだが、事はそううまくは運んでくれないらしい。
寝起きでまだはっきりしない頭で玖渚さんからもらった情報を思い出す。
確か……忍法命結び、だったか。
他人の体を自分のものにすることでその人の持つ能力も自分のものにすることができる――なんとも大概だ。
ということは、他人の死体から手足を奪ってきたのだろう。
いくらこの状況下とはいえ適当に探したところで死体を見つけられるのは容易ではない。
それならば場所がわかっている死体――つまり自分が手に掛けたものを求めるのが道理。
貝木泥舟の死体は見るも無惨な状態になっていたし、西東天と串中弔士の死体は斜面にあった上山火事に巻き込まれている。
脚の長さを鑑みるなら西条玉藻の死体は合わないだろうし、となると否定姫の死体、だろうか。
レストランという場所も――あの体ですんなり行けたかどうかは別として――そう遠くなかったし。
僕たちを狙ってきたのか、はたまた薬局というこの場所そのものが目的かはわからないが、留まるという選択は無しだろう。

「となると、さっさと出た方がよさそうだ。今ならまだ気付かれないだろうし……」

そう言いいながら伊織さんの代わりに探知機を拾い上げると、光点が二つに減っていた。
うん?
一歩前に進んでみた。
端に再び光点が現れる。
一歩後ろに下がってみた。
やはり光点は二つしかない。
伊織さんは鳳凰が近くにいることに気付いたから僕を起こした。
僕が起こされてからそれなりに時間が経過している。
それでいてこの探知機の表示……つまり。

「なぜ動いていないのか……これはどう、考えるべきなんでしょうね」
「遠くから監視しているのか……? でも開けた場所ならともかく障害物だらけで……?」
「そんな能力、いえ、忍法でしたか。ですがそれを玖渚さんが言わないとは思えませんし」
「だろうね。これは楽観的な考え方になってしまうけど、僕たちとは無関係な理由とか」
「そうだと大変嬉しいんですけどね……って、おっと」

このタイミングで伊織さんの持つ携帯が震えだした。
玖渚さんからだろうかと思ったが、ばつの悪そうな反応を見るにどうやら違うらしい。

544鉛色のフィクション ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:50:04 ID:dCRMcRFk0
「えっと、手短に話しますと、様刻さんが寝てる間に勝手にランドセルランドに電話をかけまして……」
「なんだ、そんなことか。こうやって返ってくるってことは危険な人間じゃないんだろう?」
「それはそうなんですけど、その、受話器の向こうにいる羽川翼さんという方がかなりの曲者でして」

洗いざらい情報を聞き出されちゃいましたよう、としょげている。
それにしても、羽川翼――どこかで聞いたような……ああ、そういえば。

「なら僕が出るよ。それでいいだろう? 待たせるのも悪いし」
「うー……ではお願いします。あ、向こうにはまだこちらの名前を伝えていないので」

携帯電話を受け取り、ボタンを押す。

「お待たせしました、櫃内様刻です」
『もしもし、羽川翼です。それと、一緒にいるのは無桐伊織さんでいいのかしら?』

……名乗っていないんじゃなかったのか。
そんな僕の疑問に答えるように羽川さんは続ける。

『腹の探り合いをしたいわけじゃないし、お互いかしこまる必要もないでしょう。
 ああ、無桐さんの名前がわかったのはちょっとした消去法よ。私たちは今は三人だけど、その前は七人いたから。
 そのとき一緒にいたのが、戦場ヶ原さん、球磨川禊、鑢七実、零崎人識。それと伝聞でネットカフェに宗像形と玖渚友。
 掲示板の情報を鵜呑みにするなら、場所はわからないけれど供犠創貴、水倉りすか、真庭蝙蝠が共にいる。
 真庭鳳凰も危険人物だというのなら徒党を組んでいるとは考えにくいし、黒神めだかとは先程一人でいるところに遭遇したわ。
 これで残りは三人――鑢七花とあなたたち二人ということになるのだけど』

……なるほど、これは伊織さんが苦手意識を抱くの無理はない。
ともあれ、

「間違いないよ。それで、一つ聞きたいことがあるんだけど」

他に言うべきことはあったのだが、僕は真っ先に口に出していた。

「阿良々木火憐さん、知ってますよね?」







その質問が飛んできて、動揺しなかったと言えば嘘になる。
よりによって「阿良々木」とは。

「ええ、一応ね。ただ、阿良々木くん、阿良々木暦くんの妹としてというくらいで詳しいことまでは……」
『………………そう、か……』

歯切れが悪い。
事実しか言っていないはずなのだけれど。

「櫃内さんは、火憐さんと……?」
『少しの間だけだったけど、まあ。羽川さん、あなたについても聞いてる。なんでも、「すっげー頭がよくて、すっげー美人で、すっげー胸がお……」ゲフンゲフン』

私はそこまで親交を深めた記憶はない。
知り合いですら認識の齟齬があるということは先程の真宵ちゃんとの会話で判明している。
つまり、櫃内さんが語る火憐さんは私と付き合い始めた後、ということになるのだろうか。
いずれにせよ、彼がどんなことを聞きたがっていたところで私には答えられそうにない。
ここは素直に。

「ご期待に添えなくてごめんなさい、今の私にとって阿良々木火憐さんは友人の妹という関係でしかないの」
『……いや、それならそれで構わない』

545鉛色のフィクション ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:50:46 ID:dCRMcRFk0
「残念だけど、知らないことには答えられないわ。……『少しの間』と言ってたけど、それは最期の瞬間も含んでいたりするのかしら」
『どんな思いでいたか、介錯した人、元凶、聞きたいのはこのあたりか?』
「いえ、なんとなくで聞いただけだから答えたくないのなら答える必要はないわ」

これは本心だったから、次の話題に移ってもよかったんだけど櫃内さんは簡単に説明してくれた。
それを聞いて思ったことは『やっぱり阿良々木くんの妹なんだな』というどこかふんわりとしたものだった。

「とりあえず、火憐さんに致命傷を負わせた日和号については、さっき壊したわよ」
『え……あれを?』
「運よく手元にマシンガンがあったの。少なくとも歩き回ることはもうないでしょうね」
『マシンガン……』
「どうかした?」
『いや、なんでもない』
「それで、あなたたちはどうするの? こっちに来てくれるのかしら?」
『そうしたいのはやまやまなんだけどね……足の骨が折れている人がいるから移動に時間がかかることと、割と近くに危険人物がいる』
「その危険人物の名前は?」
『真庭鳳凰』
「それに間違いは?」
『ありえないね。なにせ首輪探知機に表示されてるんだ』
「なるほど、それなら確かに間違いようがないわね」

怪我、それも足の骨折というデメリットに、首輪探知機という便利極まりない道具というメリット。
これらの手札を公開したということはこちらに対する警戒が薄れたととっていいでしょう。
その上でこれからのことを考えるならば……

「つまり、私たちに聞きたいのは『何らかの移動手段がないか』とかかしら?」
『ご名答。さっき七人でいたって言ってたけど、そんな大所帯でだらだら歩くとは思いにくかったし、乗り物も支給されてるようだからもしかしたらと思ってね』
「確かに私たちのもとには乗用車があるわ。あなたたちを乗せても五人だから不可能ではないでしょうね、ただ……」
『言いたいことはわかる。真庭鳳凰はなぜか動いていないようだけど何かのきっかけで矛先がそっちに向くかもわからないだろうし』
「さすがにこれは私の一存では決められないから、少し相談させてもらえるかしら」
『構わない。僕たちは薬局にいるから、どっちにせよ決まったら連絡してもらえると助かるんだけど』
「ええ、そのつもりよ。ではまた後で」

スピーカーモードを解除して、受話器を置く。

「ということになりましたけど、どうします?」
「真庭鳳凰がいるとなると気乗りしないのが正直なとこなんだけどね……」
「私も戯言さんと同じ意見です」

問いかけた先は怪我の処置をしていたいーさんと真宵ちゃんだ。
包帯を巻く程度でなんとかなったのと、長電話だったのもあってすっかり終わっている。
いーさんと真宵ちゃんは一度真庭鳳凰と遭遇したらしく、幸運にも無傷で済んだとはいえ会いたくないのは当然だろう。
だが、

「でも、無桐伊織って零崎の妹なんだよ。玖渚とも一緒にいたみたいだしわかってて放置するのも気が引ける」
「確かに、殺されるかもしれないというのに何もしないというのはいただけませんね」

二人の意見は一致していた。

「じゃあ、決まりですね。早いとこ行きましょうか」
「あれ、翼ちゃん、どこ行くの?」

そうと決まれば、と歩き出したところに呼び止める声。

「どこって……いーさんが落としたジェリコを回収しに行くんですけど」

意外そうな顔をしてるけど、そんなに不思議なことだったかしら?

546鉛色のフィクション ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:53:15 ID:dCRMcRFk0
【一日目/夜中/E-6 ランドセルランド】
【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]精神的疲労(小)、右腕に軽傷(処置済み)
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実、解熱剤、フィアット500@戯言シリーズ
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 0:翼ちゃんがしたたかだ……
 1:薬局で無桐伊織達と合流してから玖渚のところへ向かおう。
 2:掲示板を確認しておこう。
 3:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 4:危険地域付近には出来るだけ近付かない。
 5:さっきまでのことは……まあいいか。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識、ツナギ、玖渚友のものが登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※八九寺真宵の記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします


【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]ロワ中の記憶復活、それに伴う体調不良(微熱と若干の体力低下)
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:変わらない。絶対に帰るんです。
 0:なんかさっきまでのことがうやむやになった気もしますが、まあいいでしょう。
 1:羽川さんと共に戯言さんの待ち人を待ちましょう。
 2:黒神めだかさんと話ができればよいのですが。
 3:羽川さんの髪が長かったのはそういう事情でしたか。
 4:戦場ヶ原さんも無事だといいんですが……
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です
 ※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします
 ※戯言遣いの「主人公」は、結果のために手段を問わないのではないかと言う危惧を覚えました
 ※拳銃の発砲音を聞きました


【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]健康、ノーマル羽川、大体の現状認識
[装備]パーカー@めだかボックス、ジーンズ@めだかボックス
[道具]支給品一式×2(食料は一人分)、携帯食料(4本入り×4箱)、毒刀・鍍@刀語、タブレット型端末@めだかボックス、黒い箱@不明、トランシーバー@現実、
   真庭忍軍の装束@刀語、「ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス」
[思考]
基本:出来る手を打ち使える手は使えるだけ使う。とりあえずジェリコを回収しに行きましょう
 0:殺し合いに乗らない方向で。ただし、手段がなければ……
 1:阿良々木くんに関しては感情の整理はつかない。落ち着くまで保留
 2:情報を集めたい。ブラック羽川でいた間に何をしていたのか……
 3:戦場ヶ原さんは大丈夫かなあ。
 4:真宵ちゃん無理しないでね。
[備考]
 ※ブラック羽川が解除されました
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です
 ※全身も道具も全て海水に浸かりましたが、水分はすべて乾きました
 ※トランシーバーの相手は玖渚友ですが、使い方がわからない可能性があります。また、相手が玖渚友だということを知りません
 ※ブラック羽川でいた間の記憶は失われています
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得したか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします
 ※拳銃の発砲音を聞きました
 ※零崎人識に関する事柄を無桐伊織から根掘り葉掘り聞きました
 ※無桐伊織の電話番号を聞きました。後ほど連絡ができればする予定です

547鉛色のフィクション ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:54:16 ID:dCRMcRFk0
【日和号@刀語】
[状態]足部破壊
[装備]刀×4@刀語
[思考]
基本:人間・斬殺
 1:上書き。内部巡回
 2:人間・認識。即刻・斬殺
[備考]
 ※下部を徹底的に破壊されたため、歩行・飛行は不可能です。上部がどうなっているか(刀の損傷・駆動可能など)は後続の書き手にお任せします



【1日目/夜中/G-6 薬局】
【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]両足骨折(添え木等の処置済み) 、眠気(小)
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ
[思考]
基本:零崎を開始する。
 0:曲識、軋識を殺した相手は分かりました。殺します。
 1:人識君について引き続き情報を集めます。
 2:真庭鳳凰が動いていないのはなぜでしょう……羽川さんたちと合流できるなら心強いのですが。
 3:黒神めだかという方は危険な方みたいですねえ。
 4:宗像さんと玖渚さんがちょっと心配です。
 5:羽川さんはちょっと厄介そうな相手ですね……
[備考]
 ※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
 ※黒神めだかについて阿良々木暦を殺したらしい以外のことは知りません。
 ※宗像形と一通りの情報交換を済ませました。
 ※携帯電話のアドレス帳には箱庭学園、ネットカフェ、斜道郷壱郎研究施設、ランドセルランド、図書館の他に櫃内様刻、玖渚友、宗像形が登録されています。
 ※DVDの映像を全て、複数回確認しました。掲示板から水倉りすかの名前は把握しましたが真庭蝙蝠については把握できていません。

548鉛色のフィクション ◆ARe2lZhvho:2015/05/12(火) 00:59:54 ID:dCRMcRFk0
【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備]スマートフォン@現実
[道具]支給品一式×7(うち一つは食料と水なし、名簿のみ8枚)、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜28)@不明
   炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、
   輪ゴム(箱一つ分)、首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、
   鎌@めだかボックス、薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、
   首輪探知機@不明、誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、
   「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、三徳包丁@現実、
   中華なべ@現実、マンガ(複数)@不明、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、
   食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」
   (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う(瓦解寸前)
 0:連絡を待とう。
 1:探知機で鳳凰を警戒しつつ羽川たちと合流したい。
 2:時宮時刻を殺したのが誰かわかったが、さしたる感情はない。
 3:僕が伊織さんと共にいる理由は……?
 4:マシンガン……どこかで見たような。
 5:あの夢は……
[備考]
 ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形が登録されています。また、登録はしてありませんが玖渚友からのメールに零崎人識の電話番号とアドレスがあります。
 ※阿良々木火憐との会話については、以降の書き手さんにお任せします。
 ※支給品の食料の一つは乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。
 ※DVDの映像は全て確認しています。
 ※スマートフォンに冒頭の一部を除いた放送が録音してあります(カットされた範囲は以降の書き手さんにお任せします)。
 ※真庭鳳凰が否定姫の腕と脚を奪ったのではと推測しています(さすがに顔までは想定していません)。
 ※マシンガンについて羽川の発言から引っかかりを覚えてますが、様刻とは無関係だったのもあって印象が薄くまだブラック羽川と一致してません。
 ※夢は夢です。安心院さんが関わっていたりとかはありません。


――
投下終了です
この話を書くにあたってM2マシンガンについて調べたんですけど、スペックぱないですね(震え声)
何かありましたらお願いします

また、今頃気付いて不甲斐ない限りなのですが前話、玖渚友の利害関係で玖渚たちが日和号の名前がわからないのは描写的におかしいので次回Wikiを編集する際に修正させてもらいます…

549名無しさん:2015/05/13(水) 14:31:16 ID:3/8uirxY0
投下乙です

550名無しさん:2015/05/13(水) 18:42:36 ID:WFzABgr60
投下乙

551名無しさん:2015/05/14(木) 16:39:02 ID:CLE99dbM0
おお、久々の新作
投下乙です

552 ◆mtws1YvfHQ:2015/05/14(木) 20:30:21 ID:tf3HAjH.0
投下乙です。

久しぶりに物語が大幅に動く気配。
対主催勢力が揃おうとする中で佇む鳳凰。
動こうが動くまいがもはや絶体絶命は揺るがない状況で哀れ。
あっさり日和号も沈み全体的に丸くなりそうな中、マーダー希望の星はどうなるやら。

と思ったら生きとったんかいワレ(日和号)!



鑢七花投下します

553孤(虚) ◆mtws1YvfHQ:2015/05/14(木) 20:31:59 ID:tf3HAjH.0

「ぁ  ぁ」

そんな、か細い声しか出なかった。
何処までも遠ざかっていく背中に。
離れた所へと行ってしまう姉に。
言葉の一つ、投げ掛ける気力も湧いては来なかった。



その姿を誰がどう見るだろう。
一人、一個の彫像のように固まっているのだから。
無数の、巨大な螺子が突き立っている姿を見ればなおの事。
熱によって不気味に捻れた人形のようですらあった。
見開かれた目は空に向いてこそいるが、何を見ているかも知れない。
時折口から譫言のような言葉を漏らすだけで。
端から見れば、精魂尽き果てた姿としか見れない。
事実でもある。
何しろ突き立った螺子の特殊なこと、この上ない。
あらゆる物に苛まれながら、鑢七花が思うのは過去だった。



「  」

始まりの月。
二人暮らし。
ただ月日が過ぎ何時しか朽ちるのではないかとも思えた島暮らし。
修行の日々が過ぎて、やがては朽ちて、錆び尽きる。
受け止めていた。
そう思えていた。
そんな中で現れた。
刀を持って現れた。
とがめ。
奇策士。
そう名乗った彼女が。
家でねーちゃんとおれの前で、天下が欲しくないかと言った。
どうでも良いとか言ったような気がする。
次に現れたのはまにわにの蝙蝠。
よくも親父の建てた家を壊してくれたもんだ。
思わず追い掛けて出たのは砂浜で。
そこで、最初の一本を見た。
絶刀・鉋。
絶海の孤島に現れた忍者が持ってたのが絶刀なんて笑える話だ。
ともかくの内にとがめが現れて連れ去られて、向き合った。
父親の事と。
父親の事を知って、惚れる事を決めた。
それが。
それが全ての始まりだった。
終わりの始まりだった。
平穏の終わり。
悲劇の始まり。
あの時のおれは間違ってたのか。
あの時のおれが悪かったのか。
なんて。

554孤(虚) ◆mtws1YvfHQ:2015/05/14(木) 20:33:21 ID:tf3HAjH.0

「  」

砂漠を、歩いたんだった。
何とも無駄に長い歩き旅。
目的の物は決まってた。
斬刀・鈍。
砂漠。
蜃気楼の中の城。
確か三迷城だったか。
あとの二つってどんなのだよ。
それは置いといて、まにわにの誰だったかの死体もあったか。
その先の城。
一室で待っていた。
宇練銀閣。
見えない居合い。
鞘鳴りと同時の斬撃。
ことが居合いだけだったら、頂点だったろう。
もちろん、二つある頂点の内の片方、だけど。
それも弱点とは言えない弱点。
人間誰しもが苦手な頭上を突いて勝った。
ああそうだ。
あの時に言ってた言葉だ。
あんなのをおれも言いたかったけど、ダメって言われたんだ。
とがめに。
ちょっとだけど、羨ましいな。
ああ、言えたのが。

「  」

出雲。
神様がどうとか興味はないけど。
色んな所にいた巫女さんが持ってた刀。
全く同一の千本。
千刀。
階段の一番上で会ったのが一番最初か。
あいつは苦手だったなあ。
千刀流の使い手。
本当に、二枚貝を合わせたみたいに噛み合った武器と流派。
でも、あの性格が苦手だっただけだったんだけど、誰だったかに千刀流が苦手って勘違いされた。
誰だったっけ。
ま、どうだっていい。
とにかく刀の毒を治療に使う。
おれじゃあ思い付かない使い方をしてた。
盗賊の元頭領だとも言っていた。
強かった。
手強かった。
おれがもしもあの事に気付いてなけりゃ、負けてたかも知れない。
最後の最後に引き当てたからこそ、油断も何もなくなってた訳だけど。
そんでその後。
階段から転げ落ちて行ったんだった。
とがめが無事で本当に良かった。

555孤(虚) ◆mtws1YvfHQ:2015/05/14(木) 20:37:50 ID:tf3HAjH.0

「  」

決闘だった。
錆からすれば、血統を賭けた決闘だったのかもなあ。
何にも知らなかったから分からないけど。
今ならまた何かしら掛ける言葉があるのかな。
ともかく、刀。
薄刀。
恐るべき腕前。
唯一無二の使い手。
ってのはまさにあいつとねーちゃんのためだけにあるように思える。
一刀で海を割るは鮫を卸すはでやりたい放題。
空を斬るなんてのも強ちウソじゃなさそうだった。
日本最強。
あれは過言じゃなかった。
技、居合いだけでも銀閣とは趣を異にした頂点にあっただろう。
今思えばぞっとする。
もしもあの時に使ったのがあれだったら。
生きてるのはおれじゃなかった。
おれの命はなかったんだろうから。

「  」

日本最強。
そう呼ばれるようになってからの最初の刀。
海賊船長。
賊刀。
砂浜はまさに独壇場。
柵に囲まれた中での戦い。
一度見てた上でもあれは、危なかった。
奥義も利かないし、負けたとも思った。
錆には悪いけど。
でも勝てた。
技でも何でもない、力業で。
それこそ守るものを持つ奴が強かったんだろう。
とがめ。
もしも言葉を掛けてくれなかったらきっと負けてた。
諦めて大人しく引き下がってた。
ああ、でも。
今思い返せばその方が良かったのかも知れない。
その方が、ずっと良かったのかも知れない。
今更。
本当に、今更だけど。

「  」

凍空一族。
あの雪山で暮らしていたと言う一族の守っていた刀。
双刀・鎚。
過去の刀狩りが失敗した理由を考えると少し笑える。
重いのなんの。
それが理由だと思えば。
でもまあ確かに。
普通のやり方じゃ持つ方法なんてないし、見知ってる限りでも足軽かあの怪力がないと運ぶのも無理だ。
片方はまるで意味がない。
重さなくして何の意味があるって言うか。
でも。
とにかく思い返してみると、あの惨劇はおれの所為だったのかな。
おれがとがめに惚れてさえなければ。
おれがとがめと出て行かなかったら。
ああなりはしなかったんじゃないか。
そうすれば。
一人にならなくても済んでただろうに。
笑えてくる。
泣けてくる。
ふざけてる。

556孤(虚) ◆mtws1YvfHQ:2015/05/14(木) 20:39:31 ID:tf3HAjH.0

「  」

悪刀。
言うまでもない。
一度目はあっけなく。
あまりにもあっけなく。
負けた。
歯牙にも掛けられず。
軽くあしらわれた。
全部が全部、否定されたようにも思える。
ああ、強かった。
敵わない。
ああ、叶わない。
普通じゃどうやっても勝てなかっただろうし、今でもまるで勝てる気がしない。
それでももう一回、刀大仏を仰いで戦った。
いやまあ、その前のはあんまり思い出したくない。
遊ばれただとかそう言う話じゃない。
ただちょっと戯れた。
そんな感覚でしかなかったんじゃないかな。
とにかく。
とにかくあそこでおれは。
ねーちゃんを。
殺した。
望んでなのか。
望まずなのか。
勝てるはずもないのに。
勝てるはずもなかったのに。

「  」

七本目が終わった。
そして、あれと巡り会った。
ガラクタの中を歩く人形。
微刀。
あいつはおれだった。
おれはあいつだった。
どうしようもない程。
言い訳出来ない位に。
ただ命じられたことをやり続ける。
それだけの存在だった。
だからこそ気付かされた事があった。
今では思う。
会えて良かったと。
今は思う。
会いに行けなくて悪いとも。
微刀。
今は、どうしてる。
言われたことを変わらずやってるのか。
殺してるのか。
壊れてるのか。
不要湖の中を。

557孤(虚) ◆mtws1YvfHQ:2015/05/14(木) 20:40:52 ID:tf3HAjH.0

「  」

強いと言えば強かった。
手強いと言えば手強かった。
ちょっと苦手だった。
王刀。
看板娘、汽口慚愧。
卑怯な手で勝ったなあ。
それでも負けを認めてくれたんだから大した人だった。
真っ直ぐで混じりっ気のない。
もっとずっと握り続けてたら一体どんな人格になってたのやら。
どんな人間が出来上がってたのやら
錆ほどじゃないにしろ、相当やばい実力者にはなってただろう。
下手したらあんな手を使っても勝てたかどうか怪しいぐらいの。
終わった後でも変わらない修行をする姿。
それと一緒に思い出す。
呪いのことを。
血統のことを。
血刀のことを。
まるで、と言ったあの言葉。

「  」

厄介な奴だった。
仙人を自称するだけあって。
外見は確かおれの苦手意識が集まったって言ってたっけ。
内面はとがめの苦手意識が。
まさにこれ以上ない持ち主だったんじゃないかとも思う。
おれの浅知恵で、だけど。
誠刀。
あの刀の所有者とすれば。
これ以上ないぐらい、異常ないぐらいハマってたんじゃないか。
まあ持ち主としては良かったとしても。
外じゃなくて内を斬る刀なんて刀って言えるのか。
疑問に思ってもまさかケチ付ける訳にも行かない。
とがめはとがめで納得してたから別に良いけどさ。
実際の所はどうなんだろうな。
刀として。
あるいは、武器として。
殺せない武器に意味があるのか。
どうでもいいけど。

「  」

偶然だった。
偶然道端で見付けたのが切っ掛けだった。
毒刀。
それに精神を乗っ取られたって言う真庭鳳凰。
それに斬られたのに生き残ってられた真庭人鳥。
どっちもどっちでとんでもない奴だ。
果て。
最後には真庭の里の壊滅。
暗殺専門の忍者、まにわに。
何とも呆気ない終わり方だとも、何ともらしい終わり方だとも、どっちとも取れる。
少なくとも相応しい終わり方だとは誰も思わなかっただろうってことは確かだけど。
幸せな、ではあったかも知れない。
いや、不幸せか。
やった事を知ってしまった訳なんだし。
真庭鳳凰。
あいつとの約束はどうも、果たせそうにない。
まあ人鳥が生きてるんだろうから、何かあったり運が良ければそのまま復興もできるんじゃないか。
どうでもいいけど。

558孤(虚) ◆mtws1YvfHQ:2015/05/14(木) 20:42:54 ID:tf3HAjH.0

「  」

炎刀。
あれに、あの時に、気付いてれば良かった。
そうすればあんなことにはならなかったのに。
取り返しの付かない。
取り戻しようのない。
取って返せもしない。
終わったことに、なってた。
呆気なさ過ぎる。
なんだってあれは。
まるで意味がない。
だからこそ意味がない。
おれととがめのしてた旅に意味がない。
一年近い時間はまったくなんの価値も意味もなく。
とがめが終わっておれもただの刀になった。
だからあれは助長なだけだった。
持ち主のてを放れた刀が独りでに木に刺さったように。
空をとんで誰かを傷付けただけにすぎない。
誰が喜ぶようなものでもない。
しいて言えばあいつだけか。
まるで最初から決まった道筋をそうみたいに。
道具としてつかわれて、道具としてつかわれず、道具としておわっただけだった。
おれの心も、おれの家族も、何もかも。
無価値に。
おわった。

「  、    」

つかれた。
なにもかもおわったのに。
なんだってまだ続くんだよ。
なにもかもおわらされたのに。
なんだって、おわれないんだよ。
おれはわるくないだろう。
もういいじゃんか。
もう、なんだって。
とがめがおわったその時から、おれはとがめの望みとも言えないものだけで、惰性でつづいてるだけなのに。
無様につづく。
無意味につづく。
無惨につづく
無関係につづく。
無為につづく。
無価値につづく。
どうだっていいいはずの世界が、なんだって。

559孤(虚) ◆mtws1YvfHQ:2015/05/14(木) 20:44:27 ID:tf3HAjH.0

「  ちゃ 」

なんだってひどい。
なんだってくるしい。
なんだってうらめしい。
やりたくもないことをやるハメになったのに。
そのあげくがこれか。
これなのか。
ばかじゃねえか。
なんだこれ。
ふざけるな。
もうイヤだ。
なにもかも。

「あ 」

もういいじゃねえか。
かってにやってくれ。
おれは、わるくない。

「なにもかも――」

おれにかかわるな。
だれもちかよるな。
もうぜんぶいやだ。
だってなにもかも、

『――めんどうだ』

560孤(虚) ◆mtws1YvfHQ:2015/05/14(木) 20:45:45 ID:tf3HAjH.0



【一日目/真夜中/D-5】
【鑢七花@刀語】
[状態]睡眠、右手欠損、『却本作り』による封印×4(球磨川×2・七実×2)、病魔による激痛、『感染』?
[装備]袴@刀語
[道具]支給品一式
[思考]
基本:『おれは悪くない』
 0:『何もかも面倒だ』
 1:『寝る』
 2:『殺し合いとか、もーどうでもいい。勝手にやってろ』
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします
 ※着物は『大嘘憑き』で『なかったこと』になりました
 ※『大嘘憑き』により肉体の損傷は回復しました。また、参戦時期の都合上負っていた傷(左右田右衛門左衛門戦でのもの)も消えています
 ※寝ました。右手の治療していません

561 ◆mtws1YvfHQ:2015/05/14(木) 20:47:19 ID:tf3HAjH.0



死亡確認!


以上です。
何時も通りではありますが、感想や妙な所などがあればお願いします。

562 ◆ARe2lZhvho:2015/05/15(金) 09:19:18 ID:cDUMEXqA0
>>552
感想ありがとうございます&投下乙です

こなゆきや日和号に同情しつつもとがめについて段々マイナス思考になっていく七花がもう…
球磨川がめだかちゃんのことを忘れて多少は楽になってるはずなのに思考のメインを占める過負荷っぷり
それともねーちゃんの却本が実は不完全だったとか?
例え不完全だったとしても到底外せるとは思いませんけどね
いやあ、しかし、これで現時点でのマーダーが全員めんどくさいことになりましたね!

指摘としては>>557
>まあ人鳥が生きてるんだろうから、何かあったり運が良ければそのまま復興もできるんじゃないか。
原作十二巻で右衛門左衛門から人鳥が死んだことを聞いているので修正または一文を削除した方がいいかと。

それと拙作、鉛色のフィクションで日和号の刀が倍になってたり落としたはずのジェリコが状態表に入ってたりしたのでWiki収録の際に修正します

最後に月報です
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
157話(+2) 14/45 (-0) 31.1(-0.0)

563名無しさん:2015/05/16(土) 17:14:52 ID:bLL7/doU0
投下乙です×2

>鉛色のフィクション
相手が人間じゃないとわかった途端に一片の容赦もなくなるバサ姉流石っす。
ブラック羽川のときよりよっぽど怖いんですがそれは
一方で性格が否定的になったことで、鳳凰さんがただのネガティブな人に……
思考の方向が正しいだけに、戦闘能力が失われているのが残念でならない。
それさえ手に入れば立派なマーダーに返り咲けるのになあ……

>孤(虚)
死んだな(心が)
マイナス思考って言うか、もうほとんど走馬灯だよ!
刀としてじゃなく普通に人間として駄目になってるよ!
鳳凰と違ってこっちは再起可能かどうかすら怪しいレベルだけれど、さてどうなることやら。

564 ◆mtws1YvfHQ:2015/05/17(日) 18:27:29 ID:FZCeKiCg0
私です。
まずは感想をありがとうございます。
感想を頂けると書く気力が湧いてくるものでございます、最近書けていませんが。

ともあれ修正を。
>>557

>まあ人鳥が生きてるんだろうから、何かあったり運が良ければそのまま復興もできるんじゃないか。

ああいや、あいつが言ってたな。
殺したって。
だったらもう、どうしようもないか。


以上の文をWikiに掲載する際に追加して頂ければ幸いです。
それでは失礼します

565名無しさん:2015/05/19(火) 22:50:31 ID:GtSd/umM0
投下乙

566名無しさん:2015/05/19(火) 22:56:48 ID:lbF9xsaE0
投下乙です

567 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:22:40 ID:IXc1UhAM0
投下します

568禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:24:51 ID:IXc1UhAM0
【夜中】
『水倉りすか』 D-6 ネットカフェ


「教えてほしいのが、『零崎』の人たちについてなの」

キズタカが一階に降りてしばらくした後、わたしは玖渚さんにそう聞いた。

「うに? 『零崎』について? 参加者についてはさっき一通り説明したと思ったけど」
「パーソナリティについては何となくわかったけど……もう少し詳しく知りたいのが、『零崎』っていう集団そのものについてなの。
 どういう集まりで、どういう関係を持ってるのか、いまいちピンと来なかったから」
「あーなるほど。うん、『零崎』ってのはね、りすかちゃん。簡単に言うと殺人鬼の集まりなんだよ」
「殺人鬼……」
「D.L.L.Rシンドロームって知らないかな? 日本語で言うなら殺傷症候群。『誰彼構わず、とにかく殺してしまいたくなる』っていう、神経症の一種にしてハイエンド。
 表向きには日本での症例はないことになってるけど、そんな症状が、ごく当たり前の日常である集団が存在する。それが零崎一賊」
「病気――ってことなの?」
「そこがわからないのが難しいところでね。零崎が全員D.L.L.Rシンドロームの患者なのか、それともその二つは全くの別物なのか、未だにわかってない。
 多分『零崎』自身にもわかってないと思うよ。僕様ちゃんも『殺し名』についてはあんまり深入りしたくないから、それ以上のことはわからないけどさ」

玖渚さんの説明を聞きながら、頭の中に浮かんでくる三人の名前を思い出す。
零崎曲識、零崎双識、零崎人識。
わたしが直接この目で見た、三人の『零崎』。

「そういう症状――性質を持った者たちが徒党を組んでできたのが『零崎』っていうひとつの集団。
 同じ姓を名乗って、疑似的な家族を形成する。殺人衝動という共通項で互いに繋がりを持つ」
「……家族」
「血よりも濃い絆っていうのかな。だから『殺し名』の中でもとりわけ『零崎』は忌み嫌われてる。仲間意識が強すぎるからね。だーれも手を出したがらない。
 まあ中には別の名前を持ってまで家族以外に繋がりを求めちゃう『零崎』もいるんだけど――
 ああ、そういえば零崎のうちひとりを殺したのってりすかちゃんなんだっけ」

災難だったねぇ、と他人事のように言う玖渚さん。
家族――血の繋がりのない、疑似的な家族。
それは互いに『必要』とされているということなんだろうか――と思う。
異質ではあっても孤独ではないことを理解するため、同じ異質な者同士が、互いに互いを必要とし合う。
家族として、異質を共有し合う。
あの少年もそうなんだろうか――わたしを拉致した、頬に大きな刺青のあるあの少年。
その深い深い闇のような目を思い出して、わたしはまた、ぶるりと身震いした。

「ところでさ、りすかちゃん」

おもむろに、玖渚さんがデイパックから紙箱を抱えるようにして取り出した。
それを開けて、中身のドーナツをわたしに見せてくる。

「休憩しない? 喉渇いちゃったし、一緒にドリンクバー行こ」
「…………」

ひときわ大きな金属音が、階下から響いてきた。

569禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:28:39 ID:IXc1UhAM0
 


   ◇     ◇


 
『供犠創貴』 D-6 ネットカフェ


抜き身の日本刀を間近にしながら僕は、その刀身よりもそれを持つ男のほうに目を奪われていた。
零崎人識。
その目を見てなるほどと思う、これが「人殺しの目」か、と。
クラッシュクラシックで会ったときより、こうして真正面から向き合ってみるとよくわかる。自分に向けられた、その殺意の純粋さを。
宗像のように使命感にあふれているわけでもなく、蝙蝠のように愉悦に酔いしれているわけでもない。ただ「殺す」という、それだけの意思。
蝙蝠が殺したあの釘バットの男――零崎軋識に殺意を向けられたときよりも一層、それは僕の皮膚を粟立たせる。
りすかが大人しく拉致されていたわけだ……こんなもの、りすか一人じゃ対処しきれないのも無理はない。

「二度も逃げられると思うなうよ」

殺意の元が口を開く。

「お前らの『手品』は一度見せてもらったからな――同じ手にまた騙されてやるほど、俺は優しくねえぜ。そっちの女が手品のタネか?
 だったら見逃がさねえよう、じっと見ておかねえとなあ」

刺すような視線を受けて、りすかが「ひっ」と身をすくませる。

「あの動画のおかげで、曲識のにーちゃんを殺したのが誰なのかもはっきりした。これでもう保留の必要はねえ。そこんとこも感謝しとくぜ、『死線の蒼』さん」

どーいたしまして、と心底どうでもよさげに答える玖渚。
やはりあの動画は見られていたか……こいつが玖渚と繋がっていた以上、当然といえば当然なのだが。

「…………」

平静を装ってはいるものの、僕も内心穏やかではいられなかった。この状況、クラッシュクラシックの時よりも圧倒的に追い込まれている。
あのときはあらかじめ逃げる算段をつけておけたが、今回は事態が突発的すぎる。逃げる準備も、迎え討つ用意もできていない。
さらにこの場所が、狭い個室という袋小路にも似た空間であることがなによりまずい。
りすかの『省略』は言うまでもなく、新しく使えるようになったという『過去への跳躍』も、ここまで警戒された状態で発動させるのは難しいだろう。
魔法というのは、使用者の精神状態がその発動に大きく作用する。
特に『別の場所へ移動するイメージ』を必要とするりすかの魔法は、物理的に追い詰められた状態では実質使用不可能なのだ。
一度見せた手札は通用しない。OK、それならそれでいい。
ここからは一か八か、出たとこ勝負の博打といこう。

「……蝙蝠はどうした?」

少しでも時間を稼ごうと、人識に問いかける。訊かなくとも、絶刀をこいつが持っていることから返答は予想できているが……
しかし返ってきたのは、予想していたのとは少し違う反応だった。蝙蝠の名前を出した途端、人識の眉がぴくりと動くのが見えた。
突かれたくないところを突かれたとでもいうように。

「さぁな」

……さぁな?

「優雅に質問してんじゃねえよ、お坊ちゃん。お前が知りたいことを、俺が親切に教えてやるとでも思ったか?」
「…………」

うん?
この反応、ひょっとしてこいつ、蝙蝠を殺してきたわけじゃないのか?
絶刀を持っていることとメールの内容から考えて、こいつと蝙蝠がエンカウントしたことは確実だと思っていたのだけれど。
こいつが蝙蝠を見逃したとは考えにくい。
顔を合わせたのなら、即殺し合いになることは必死のはずだ。
……まさか蝙蝠のやつ、逃げたのか? 人識が逃がしたのでなく、蝙蝠のほうが戦闘を回避した?
ありえる話だ。
人識は蝙蝠を目の敵にしていたが、蝙蝠にとっては人識は危険人物のひとりでしかない。僕もりすかも一時的に手を組んでいただけの間柄で、あいつからしたら守る義理もない。
自分の命が危うくなれば、早々に逃げを選択するのは目に見えている。

570禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:30:09 ID:IXc1UhAM0
というか、蝙蝠とはもとからそういう取り決めのもと、協力関係を結んでいたはずだ。危なくなったら、逃げる。どちらが先に逃げても、禍根は残さない。
その言葉に、少なくとも僕のほうには偽りはない。あいつが逃げようと裏切ろうと、今となってはそんなことは些事だ。
むしろ、これはある意味好都合かもしれない。

「なんだ、もしかして逃げられたのか?」

鎌をかけるついでに挑発してみる。案の定、人識の眉がさらに吊りあがり、表情がぴきぴきと音を立てる。
案外扱いやすいかもしれないぞ、こいつ。

「本命に逃げられた腹いせに、子供に八つ当たりに来たか?
 ははっ! お笑い種だな。『二度も逃げられると思うなよ』とか大見得切ったわりに、すでに一人逃げられてるなんてな」
「……いい度胸だ」

にいぃ、と人識の口元が大きく歪んだ。
首筋に突きつけられている刀に力がこもる。皮膚一枚を通して伝わる、刃が肉に押し付けられる感触。

「度胸のあるガキは、嫌いじゃないぜ」
「そりゃどうも、素直に褒め言葉として受け取らせてもらう」

意図的に冷めた口調で言ってやる。もう僕にはこいつが脅威には見えていなかった。
最初に思った通り、こいつごときただの『障害』だ。ならば普段通り、僕とりすかで乗り越えてやるだけの話だ。

「正直失望したよ、零崎人識。もしお前が使えそうなやつだったら、僕の『駒』として使ってやらなくもなかったのに、蝙蝠一匹捕まえられないなんてとんだ期待外れだ。
 『零崎』ってのは、家族同士でつるんでないと何もできない連中なのか? だったらもう『駒』どころか、敵として認識するにも値しないな」

侮蔑的に、挑発的に、笑いながら僕は言う。



「零崎双識だっけ? あいつも死んだんだったな、たしか」



次の瞬間に何が起きたのか、正確に知覚することはできなかった。
ただ、いきなり顔面に強烈な衝撃を受け、後ろへ吹っ飛ばされたということはかろうじてわかった。人識の蹴りが炸裂したのだと、遅れて理解する。

「が……はっ!!」

僕とさほど変わりない体格にもかかわらず、その蹴りは僕の身体を完全に宙に浮かせる。
背後にあったパソコンやディスプレイを薙ぎ倒しながら、それらが置かれていた台の上へと受け身も取れずに落下した。

「キズタカっ!」
「ああっ、僕様ちゃんのパソコンが!」

お前のじゃないだろ、と突っ込む余裕もない。
鼻からはだくだくと血が流れているし、歯も何本か折れている。全身をしたたかに打ちつけていて、声を発するのもきつい。
りすかが一瞬、僕へと駆け寄る気配を見せたが、人識はすかさず僕に突き付けていたほうの刀をりすかの首筋に移動させ、右と左から刀で挟み込むようにする。

「う…………」

それでまた、りすかは動きを封じられてしまう。
やれやれ、新しい魔法を取得して、精神的にも少しは成長してくれたかと思っていたが……こういう時に敢然と構える胆力を、りすかには持ってほしいものだ。

「ちょっとばかしお喋りが過ぎるなぁ、キズタカくんよ。弁が立つのは、口から生まれた『あいつ』だけで十分だっつーの――
 俺は優しくねえって、最初に言っておいたはずだよなあ?」

顔は笑っているが、声に怒りが混じっているのがわかる。
所詮こんなものか、と僕は鼻で笑う。怒りなんて無駄なものにエネルギーを消費するだけでも愚かしいのに、それが子供の挑発に乗ってとなれば、まさしく愚の骨頂だ。
そんなことだから、刀を突き付け、あとは殺すだけというところまで追いつめておきながら、蹴りを入れるなんて余計な暴力を間に挟む愚行を犯すはめになる。

571禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:31:50 ID:IXc1UhAM0
優しくない? そうだろうな。だけどそれをいうなら――

「この僕だって、大人しく殺されてやるほど、優しくない」

そう呟いて僕は、ポケットから診療所で拾っておいたピンセットを取り出す。
そしてそれを、備え付けのコンセント差し込み口に躊躇なくぶっ込んだ。



 バ ァ ン――――ッ!!



火薬玉が破裂したような派手な音とともに、ピンセットと差し込み口から火花がほとばしる。
閃光が室内を照らしたのもつかの間、次に僕らを覆ったのは暗闇だった。店内の電気が一斉に消えて、あたり一面が真っ暗になる。
説明不要、ショートの際の過電流によるブレーカーの作動だ。

「な……っ!?」

暗闇の中、人識が声を上げる。驚くほどのことじゃない。こんなもの、子供の悪戯程度のことだ。こんな手に頼らざるを得ない自分が恥ずかしくなるくらい稚拙な策だ。
左手に焼けつくような痛みを感じる。ショートの際に散った火花で火傷したらしい。まあこのくらいは必要な代償だ。指が吹き飛ばなかっただけよしとしよう。
闇に乗じて、僕はまずグロックを取り出す。この停電が続くのはおそらく数秒くらいだ。この後すぐに停電用の非常灯がともることくらいは予想している。
部屋の外に逃げ出すのは不可能だ。意表を突いたとはいっても、人識は依然として入口の前にいるはず。下手に接近して気配を察知されてはかなわない。
グロックで狙い撃つのも難しい。
銃の扱いなんて素人同然の僕がこの暗闇の中で正確に撃てるとも思えないし、それ以前に僕と人識の射線上にはりすかがいる。
りすかが邪魔になって、人識には一発も命中しない公算が高い。
だから僕がやったのは、りすかに手を伸ばすことだった。停電前に位置を把握しておいたため、見えなくともその長い後ろ髪をつかむことに成功する。
そしてそのまま、つかんだ髪を思い切りこちらへ引っ張った。

「痛っ!?」

悲鳴みたいな声を上げるりすか。それに構わず自分の身体で抱きとめるように引き寄せ、すかさずその首に腕を回してホールドする。
「しばらくじっとしてろ」。耳元でそうささやいて、グロックの銃口をりすかのこめかみに押し付けた。
直後、予想通りに非常灯がぼうっと点灯し、店内に薄明るさが戻ってくる。
あっけにとられた表情の人識に対し、僕は宣言する。

「動いたら撃つ」

りすかを「人質」にとった形の僕に対し、「……チッ」と忌々しげに舌打ちする人識。

「どうせ僕らの『切り札』については把握しているんだろう。りすかに対して、いつまでも刀を振るわなかったのがいい証拠だ」

あの動画が配信されてしまっている以上、りすかの『変身』はもはや周知の事実と思っておいたほうがいい。動画を見たというこいつの場合は言うまでもない。。
そもそも人識がりすかの『変身』を知らなかったとしたら、僕たちはすでに殺されていてもおかしくはない。りすかを警戒していたからこそ、逆に刀を振るえなかったのだろう。
たとえ僕だけを殺そうとしたとしても、万が一りすかがそれを庇おうとして巻き添えにでもなれば、人識にとってアウトなのだ。
りすかを殺そうと思うなら、そのやり方には細心の注意を払わなければならない。
そしておそらく、こいつはまだ『殺し方』を決めあぐねている。
ただ、仮にそれを知っているやつがいるとしたら――

「気をつけたほうがいいよー、しーちゃん」

……やはりというべきか、完全に『観客』と化していたやつがしゃしゃりでてくる。

「その娘は『魔法使い』だからね。その身体に流れている血液が魔力の源。血を流させるような殺し方はまずいよ」

今度はこっちが舌打ちする番だった。
玖渚友――こいつは一体、どこからこんな情報を集めているんだ?
りすかの称号『赤き時の魔女』はまだしも、僕が「『魔法使い』使い」を自称していることさえ知っていたときから危機感はあったが……
敵に回すことで、ここまで厄介な相手だとは――

「その通り」

ならばと逆に開き直ってみせる。ここで弱みを見せたら負けだ。

「りすかは流血を伴う死に方をすることで『変身』する。刀で斬られても、拳銃で頭を撃ち抜かれても、だ。なんなら試してみるか?」

これ見よがしにトリガーに指をかけてみせる。虚勢であるとバレていたとしても、今はこうするしかない。

「変身後のりすかを甘く見ないほうがいいぜ。その性格は好戦的、そのスペックは空前絶後だ。ただの人間が太刀打ちできるようなものじゃない。
 なにしろこの僕が、唯一持て余している『駒』だからな」
「…………」

無言で答える人識。発される殺気は相変わらずだが、それ以上能動的に働きかける気配もない。

572禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:32:36 ID:IXc1UhAM0
とりあえず、ここまでは上首尾だ。
しかし決してイーブンに持ち込めたというわけでもない。膠着状態を作り出したとはいっても、まだ人識のほうが圧倒的に有利であることに変わりはないのだから。
たとえば僕の脅しを無視して、りすかと僕をまとめて一突きにし、そのまま一目散に逃走するという手も人識にはあるはずだ。
りすかの『変身』に死んでからのタイムラグがあることは、あの動画からも容易に知れる。
『詠唱』の間に逃げ切られたら、せっかくの切り札は無駄に終わるし、りすかは助かっても僕は死ぬ。
変身後のりすかなら僕の身体を『治療』することもできるが、致命傷レベルのダメージを負った僕を『蘇生』させることが『この場においての』りすかに可能かどうかはわからない。
りすかの『制限』について、僕はまだ正確に把握し切れていないのだ。
ただ、その選択肢をとらない理由も人識にはある。向こうからしたらこの状況は相手を完全に追い詰めている形で、言うなれば獲物を一網打尽にする絶好の機会なわけだ。
獲物のひとりを取り逃がす可能性のあるりすかの『変身』は、できれば発動させたくないはずだ。
その部分において、僕とこいつは利害が一致している。こちらにとっても『変身』は最終手段だ。易々と使えるものじゃない。
だからこその膠着状態。
だからこその駆け引き。

「…………」「…………」「…………」「…………」

僕とりすかと人識と玖渚、四人の視線が不揃いに交錯する。
依然として、僕らの足下は崖っぷちのままだ。
ならばどうするか。それを考えるのが、僕の役割だった。
 


   ◇     ◇


 
【真夜中】
『真庭鳳凰』 G-8


考えれば考えるほどに、思考がまとまらなくなる。
首輪探知機のことに思い当たってからずっとこの調子だ。足は動かず、思考だけが働き、しかして有用な考えは浮かばず、時間だけが無為に過ぎ行く。

――そもそも本当に、この先に様刻と伊織がいるのか?

否、そこを今から疑ってどうする。それを確かめるために向かうのが今すべきことだろう。
何のために、あの不愉快な女の姿まで借りたと思っているのだ。ここで臆していたらすべてが無意味ではないか。

――いや、すでに無意味ではないのか?
――我の名があの機械で割れている以上、この姿でいることに何の意味がある?

否、無意味と決め付けるな。この姿を、この顔をどう活かすかを今は考えるべきだ。
我が接近すれば、連中は我の存在に気がつくだろう。だがこの姿ならば、まだ言いくるめる余地はあるのではないだろうか。

――機械の誤作動ということにしてみたらどうだ?
――間違っているのは機械の表示で、我は鳳凰とは別人だと主張してみるか?

否、さすがに無理がある。すぐにばれる嘘だ。万が一、奴らが我の忍法命結びを知っていたとしたら尚のこと通じない。
そもそも別人と言い張るにしても誰の名を騙る? 吐かなければならない嘘が多すぎるだろう。
連中が我の名を警戒していることは確実なのだ。下手な嘘は逆効果でしかない。

――いっそ逆に、こちらから正体を明かして降伏の意を示すか?
――我はもう争うつもりはない、心を入れ替えたので同行させてほしいと言って、仲間になったふりをして機を待つか?

否、馬鹿か。それこそ通じるわけがない。
仮に通じたとしても、連中におもねるような真似など我の矜持が許さぬ。顔を捨てる覚悟はあっても、真庭忍軍の頭領としての誇りまでかなぐり捨てる気はない。
頭領……そうだ。

――蝙蝠に協力を仰ぐのはどうだ?
――この場を一度離れ、蝙蝠と合流してから改めて奴らを始末しに行くというのは?

否、手がかりも手段もなくどうやって探すというのだ。我はまだ、蝙蝠の影さえ捉えられていない。探そうと思えば当てずっぽうに頼るしかないのだ。
それにもし、あの二人が本当に傷の治療を目的として薬局に向かったのだとしたら、今この時こそ好機のはず。
時間が経てば経つほど奴らにとっては対策を練りやすくなり、逆にこちらは奴らの動向を探り難くなる。

573禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:33:53 ID:IXc1UhAM0
どこにいるのかもわからぬ仲間を探して右往左往している間に、不利に追い込まれてゆくのは我のほうだ。ならば危険を承知で、このまま乗り込んでいったほうが――

――勝てるとでも思っているのか? この身体で、たったひとりで。

否、何を考えている。臆していては何にもならぬと先刻言ったばかりではないか。

――奴らを追うのは諦めたほうが得策ではないのか?
――命を賭してまで奴らに復讐する意味が本当にあるのか?

否、何を馬鹿な! この期に及んで命を惜しむなど、それこそ頭領としての――否! しのびとしての誇りを捨てるも同然ではないか!

否、否、否、否、否、否、否。
否否否否否否否否否否否否否否――――

「なんだというのだ、一体!!」

たまらず叫ぶ。
ひそやかに行動すべきだと頭ではわかっているはずなのに、心が荒ぶるのを止められない。
否定、否定、否定、否定、否定ばかり!
あの女のしたたかさを、小賢しさを、得体の知れぬほどのしぶとさを得ようと、この顔を我が物にしたはずだった。
だというのに、なんだこの体たらくは。
行動も思考も、後ろ向きの否定ばかりで一歩も動けぬではないか!
誰に止められているわけでもないのに、誰に命じられているわけでもないのに。
信じられぬ。これがあの女の人格だとでもいうのか。
こんな人格を、こんな精神を、あの女は身の内に宿して生きていたとでもいうのか。
他人を、自分自身を、どころか世界そのものを否定するような精神を抱えてなお、あの女はああも高慢に、傲岸不遜に振舞っていたとでもいうのか。
常軌を逸している。
どんな器があれば、そんな人格が収まりきるというのだ。

「……落ち着け、己を見失うな」

そうだ、妄執にとらわれている場合ではない。いま為すべきことは、あの二人を抹殺することのはずだ。
着物の懐から包丁を取り出す。その柄を握りしめ、心を鎮めようと努める。
刃先を様刻の心臓に突き立てるのを想像する。
伊織の首筋を一文字に掻き切るのを思い浮かべる。
そうだ、それが我の為すべきことだ。
どれだけ否定されようと、その目的だけは必ず成し遂げて――


その時。
月明かりを背に、包丁を目の前にかざした、その瞬間。
磨き抜かれた、銀色に光る刃渡り七寸ほどの牛刀。
その刀身に、目が映った。
今現在の鳳凰の顔が、その碧色の瞳が。


否定姫の目が、鳳凰を見た。


「――――!!」


――あなたの夢を否定する。
――現実しかないと否定する。
――否定して否定して否定する。
――何も叶いやしないと否定する。
――ただ無意味なだけだと否定する。
――今のあなたの思考すべてを否定する。
――否定して――否定して否定して――否定して否定するわ。



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」



己の顔めがけて包丁を突き立てる。切っ先が頬を突き破り、口内まで貫通する。
それでも治まらず、顔の表皮を縦横無尽に切り刻んでゆく。鼻が千切れ、瞼が落ち、唇が裂け、顔面が満遍なく傷だらけになったところでようやく動きを止める。
ずたずたの顔で、血まみれの口で、言葉を発する。

「こうなったのもすべて、あ奴らが原因だ……あの小僧と、あの小娘。奴らさえ、あの二人さえいなければ――」

――奴らさえいなくなれば。
――奴らさえ殺すことができれば、我はこの呪縛から解放される。

今度こそ、否定の言葉はなかった。それこそが正解だと、それこそが真実だと、己に言い聞かせるように何度も反駁する。
根を張ったようだった足がいつの間にか動いているのを、どこか他人事のように感じていた。

574禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:34:23 ID:IXc1UhAM0
 


   ◇     ◇


 
『供犠創貴』 D-6 ネットカフェ


あれから数十分、いや一時間は経っただろうか。
僕たちは依然、この狭い個室の中でにらみ合いを続けていた。何の打開策も、何の妥協案も打ち出せないまま、四人とも無言のままに時間だけを無為に消費していた。
人識のほうから何か切り出してくればそれに合わせて交渉も可能なのだが、相手にこうも石になられると、何のカードもないこちらとしては相手の出方を窺うしかない。
いや、正確にはさっき玖渚が「外出ててもいい?」などとあくび混じりに言っていたのだが。いいわけないだろ。
下手の考え休むに似たりと言うが、この場合は休息にすらなっていない。蹴られた顔は相変わらず痛むし、拳銃を構えっぱなしの腕はすでに痺れてきている。気を抜くと取り落としかねない。
人識の殺気を受け続けて、りすかの精神もいつまで持つかわからない。錯乱でもされたら駆け引きも何もなくなる。
……もしかして、このまま僕たちが疲弊するのを待つつもりか?
持久戦もいいところだが、この場で生殺与奪の権を握っているのは実質人識のほうだ。効果的と言えば効果的な策かもしれない。
くそ、冷静にならなくてはいけないのに、こちらが先に焦れてしまいそうだ。相手が『待って』くれているだけ、まだ幸運と捉えるべきなのに。
人識とて、これ以上時間を浪費するのは望ましくないはずだ。僕たちがこの場所を突き止めたように、誰がいつ乱入してこないとも限らないのだから。
そういえば、蝙蝠と宗像は結局どうなったのだろう? 
こいつの言質が取れていない以上、あの二人が生きているかどうかは半々だと思うが――もし宗像が無事だったなら、ここに駆けつけてこないのは不自然に思える。
玖渚を屠ったという蝙蝠の嘘をあいつが信じていたとしても、だ。
問題は蝙蝠のほうだが、さっき考えた通り逃げた公算が高い。しかし逃げたということは、舞い戻ってくる可能性もまたゼロではない。ゼロでない以上、人識にはそれを警戒する理由がある。
例えば人識が今持っている絶刀。よくわからないが蝙蝠はこの刀に随分と執心している様子だった。この刀を奪還しに戻ってくるというのも考えられなくはない。
あいつがここに戻ってきたとして、それが僕たちにとって打開策になり得るだろうか?
膠着状態を打破することにはなるだろうが……今のこの、僕たちが置かれている状況を知ったとして、あいつはどういう行動をとるだろう?
もし僕が蝙蝠だったとしたらどうする?
僕だったら、わざわざ姿を見せて戦闘にもつれ込むような真似はしない。
四人まとめて皆殺しにする。
手持ちの武器に爆弾があったら迷いなく放り込むし、なければプロパンガスでもなんでも持ち出して、あわよくばネットカフェごと一掃する。
最終的に一人だけが生き残れるルールの上で、四人を同時に葬ることのできる状況というのはまさに絶好の機会だ。一人でも二人でも三人でもなく、四人。その数字は大きい。
多少の犠牲を出しても、僕ならそうするだろう――僕が思いつくくらいだ、卑怯卑劣が売りと自称するあいつならなおさらだ。もっとえげつない手段に訴えてくる可能性だってある。
少なくとも、わざわざ人識と対峙してまで僕たちを救い出すような仏心を見せるなんてことは、万に一つでもないだろう。たとえ僕たちにまだ利用価値を見出していたとしてもだ。
助けは期待できない。
かといって、この状態を維持するのも時間の問題だ。
考えれば考えるほど絶望的な状況に思えてくる。
せめて、何かひとつ。
八方塞がりのこの状況を変えるような何かさえあれば――

「……あなたは、」

え、と思う。
相手から目をそらしてはいけない状況にもかかわらず、意識を奪われそうになる。『人質』に取っている状態のりすかが、僕の腕の中で、沈黙を破って唐突に発言した。

「あなたは――『あなたたち』は、どうしてそんな目を、そんな目で、人間を、『生物』を見ることができるんですか……?」

緊張している様子ではあったが、声は震えていなかった。いつものように片言の日本語でもない。まっすぐに人識を見据え、一言一句はっきりと言葉を紡ぐ。

「あなたにとって、人殺しとはなんなんですか? あなたは人を殺すことで、何を感じているんですか? あなたは、あなたは本当に――」

――あなたは本当に、人間なんですか?

そう言って、また口をつぐむ。視線に耐えかねたのか、人識から目をそらすようにしてうつむいてしまう。

「…………」

人識は答えない。ただ一層、怪訝そうな視線をりすかに返しただけだった。
普段の僕なら余計な発言をするなと叱りつけていたかもしれなかったが、その質問の唐突さと脈絡のなさに反応し損ねてしまう。

575禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:35:01 ID:IXc1UhAM0
なぜ今、そんな質問をする?
りすかの話を聞いて、『零崎』との接触が僕より多かったことは知っている。目の前の人識には拉致までされているし、その『殺意』に触れた時間も相当長かっただろう。
だからといって、こんな質問に何の意味がある? だいたい人識からしたら僕もりすかも親の仇みたいなものだし、こっちからそんな質問をするほうが間違っているように思う。
それに、人殺しというなら僕もりすかも同様のはずだ。
僕たちは今まで、『魔法狩り』と称されるほど何人もの魔法使いを殺してきている。無論それは、自分たちの目的を達成するためという正当な理由に基づいての行為だが。
そもそも人間かどうかというなら、りすか自身が『魔法使い』という人間とは異なる種族なわけで……
何から何までずれている。
日本語として正しくはあるが、質問の向きが突っ込みどころ満載だ。
それでも、りすかの様子を見る限りその問いは真剣そのものだった。どうしても訊きたいことを、意を決して訊いたという風に。
『魔法使い』であるりすかが。
目の前の『殺人鬼』に、一体何を感じている……?


――prrrrrrrrrrrrrrrrr。


鳴り響いた電子音に一瞬、思考がストップする。
何かと思っていると、「うに?」と玖渚が目をこすりながら(この状況でうたた寝していやがった)音の発生源である携帯電話を取り出した。

「おい――」

電話に出ようとした玖渚を僕は制止しようとする。こちらからかけようとした場合は問答無用で止めるつもりだったが、かかってきた電話を取られるのもいただけない。
さっき聞いただけでも、こいつはすでにかなりの数の協力者を得ている。『人質』の手前動かないだけで、仲間を呼ぼうと思えばいつでもできるのだ。

「構わねぇ、出ろ」

しかしそれを、人識によってさらに制される。

「ただしこっちの状況については一切説明するな。この場所も教えるなよ。向こうの用件だけ聞いて、あとは適当にごまかせ」

そう言われ、「うい、了解」と電話に出る玖渚。

「…………」

今のは人識が言わなければ僕から切り出していた『妥協案』だったので、ある意味ではまあ良しなのだが……機先を制された感は否めない。
しかし、誰からの電話だ?
今までの玖渚の話から推測するなら戯言遣いか羽川翼が筆頭だろうけど、こいつの場合、もう誰と繋がっていても驚くに値しない。
僕が今一番危惧しているのは、りすかの魔法が通用しない、例えばツナギのような能力を持つ敵をこの場に呼ばれることだ。
増援を呼ぶような気配を見せたら、その時こそ本当に『変身』させるしか――

「あ、舞ちゃん?」

意表を突かれたような表情を、人識はした。
 


   ◇     ◇


 
『無桐伊織』 G-6 薬局


「伊織さん、羽川さんたちを待ってる間に玖渚さんに連絡を取っておくのはどうかな」

羽川さんとの交渉を終えて、相手からの返事を待ちながら首輪探知機で周囲の警戒をしていた様刻さんがそう言う。
唐突に、「今思いついた」みたいな感じで言ってきたので、「ふえ?」と間の抜けた反応を返してしまいます。

「向こうからメールは貰ったけど、ここに来てからまだ玖渚さんにこっちから連絡してないからさ。
 どのみちこれからランドセルランドで合流することになるんだろうけど、羽川さんたちのこともあるし電話の一本くらいは入れておいてもいいんじゃないかなって」
「ああ、そう言われればそうですね」

玖渚さんから送られてきたメールを読んだせいで何となく連絡し合ったような気になっていましたが、思えばこちらの近況を伝えたという話は様刻さんはしていませんでした。

「すっかり忘れていました! 玖渚さんたちのことを」

ぺちんと頭をたたいてみせると、様刻さんが呆れた表情を向けてきます。いや、冗談ですよ?

「まあ、何かあれば向こうから連絡してくるだろうけど……僕たちのほうに何かあった場合のために、なるだけ今のうちに情報を共有しておいたほうがいいと思ってね」

576禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:35:51 ID:IXc1UhAM0
「…………」

『何かあった』場合。
確かに、いくら首輪探知機で索敵できるといっても絶対の安全が保障されているわけでもないですし、もしもの事がいつ起こるとも限らないのは当然のことですけど。
これからここに来る羽川さんたちが、実は危険人物だったという可能性もなきにしもあらずですし。
そういう意味では、様刻さんが言っていることは理屈に合っています。
ただ、「自分が死んだ後」のことをこうも淡々と考えている様刻さんに、どこか妙な雰囲気を感じてしまいます。
私がいない間に何かあったんでしょうか?
まあ男子三日会わざればと言いますし、考えても詮無きことなんでしょうけど。

「わかりました。では私が電話するので、様刻さんはそのまま周囲の見張りをお願いします」

そう言って、携帯電話で玖渚さんの番号をプッシュします。
宗像さんも一緒にいるでしょうから、ついでに大事なかったか聞いておきましょう――あの人と玖渚さん、いったいどういう話をしているんでしょうね?
相性がよさそうには見えなかったので、そこが少し心配ですけど。
少し長い呼び出し音の後、「あ、舞ちゃん?」と溌剌とした声。よかった、とりあえずいつもの玖渚さんの声です。

『どーしたの? もしかしてもう待ち合わせ場所に着いちゃった? メールにも書いたけど、まだちょっと遅れそうなんだけど』
「いえそうではなくて、近況報告といいますか、こっちで色々あったので、合流前に連絡を入れておこうかと」
『今度は変な用件じゃないよね?』
「ええ、まあ、大丈夫です」

まだ根に持ってたんですか、あの事。

「えーと、その前に玖渚さんのほうには何もありませんでしたか? 宗像さんもいるんですよね? あ、まだ寝てるんだったら起こさなくてもいいですけど」
『ん? うんまあ、大丈夫。何もないよこっちは。平和平和、平和そのもの』

なんだか少し早口気味に言う玖渚さん。殺し合いの最中を平和と表現するのはどうなんでしょう。

『それで、色々あったってなに? 真庭鳳凰の問題は片付いたの?』
「そのことも含めてなんですけど、ええと、まず何から話しましょうか――」
『……え? 何? どうしたのしーちゃん。……代わるの? 代わっていいの? わかった――あ、ごめん舞ちゃん。ちょっと電話代わるね』
「はい?」

代わる? 誰と? 宗像さんとですか?
いやでも今、「しーちゃん」って――

『何やってんだお前……』
「……え?」

聞きなれた声に、一瞬耳を疑ってしまいます。
ひ……人識くん?
な、何故人識くんがそちらに?
いや、玖渚さんが人識くんの電話番号を知っていたということは、連絡を取り合ってはいたんでしょうけど……

「い、いつの間に玖渚さんと一緒に?」
『ついさっきの間にだよ。お前こそいつの間にこいつと仲良しになってんだ。舞ちゃんとか呼ばれて、女子高生かお前』
「し、失礼ですね。普通だったらまだ女子高生ですよう。人識くんこそ、しーちゃんって何ですか。愛称にしたって可愛らしすぎでしょう」
『黙れ。言っとくが俺は、こいつとは別に仲がいいわけじゃない』
「玖渚さんから聞いてますよ。戯言遣いって人の知り合いなんですよね? なら友達の友達みたいなものじゃないですか」
『あいつとも別に友達ってわけじゃねえ……つーかお前、相変わらず能天気に構えてんな。予想してたとおりじゃねえか』
「うふふ、人識くんったらそんなに私のことが心配だったんですか? 余計なお世話ですよう。心配性ですねーしーちゃんは」
『ぶっ殺すぞ!』

ああ、ついいつもの調子で会話してしまいます。こんなことしてる場合じゃないのに。
心が浮き足立つ。
安堵が押し寄せてくる。
生きててよかった。口には出しませんが、改めてそう思う。

『お前、真庭鳳凰ってやつと何かあったのか』
「へ? いやまあ、色々と」

577禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:36:33 ID:IXc1UhAM0
『詳しく聞かせろ』
「……んー」

いきなりそこを聞いてきますか。
いや、いずれわかることだし隠す意味もほとんどないんですけど、いちおう人識くんには「殺人衝動が溜まっている実感はない」ということにしてあるので、
約束を破ったこと以前に『暴走』してしまったことは、なんとなく直接には話しづらいというか……
でも、まあ、話さないといけませんよね。
逃げるのはもう、やめたんですから。
とりあえず、図書館から出る前あたりからのことをかいつまんで話します。
西条玉藻という女の子と出会った際に殺意を抑えきれなくなって暴走してしまったこと。その直後、鳳凰さんの襲撃にあって暴走したまま追っていったこと。
そこまで話すと、『はぁ〜』とうんざりした感じのため息が電話の向こうから聞こえてきます。

『そっちでも『真庭』の名前かよ……一体何の因縁があるっつーんだか。一勢力が零崎にここまでつっかかってくるなんざ、普通だったらありえねーぜ。兄貴や大将が黙ってねーだろうな』

まあどっちもすでに死んじまってるけどよ、と人識くん。
うーん。ちょっと心配してたんですけど、こうして笑いながら話しているのを聞く限り、双識さんや他の零崎の人たちが死んだのをあまり気にかけていないように感じます。
双識さんのことくらいは、少しくらいショックかなと思ってましたのに。

『ところで、図書館で会った玉藻ってやつから何か聞いたか?』
「いえ、自慢するわけではないですけど、先制で瞬殺だったので……あ、そういえば最初に人識くんの名前を読んでたような気がするんですけど」
『……そうか』

そう言って少し黙り込む。もしかして知り合いだったんでしょうか。
何を言ったらいいか迷っていると、『でもまあ』とすぐに気を取り直したような声が聞こえてくる。

『でもまあ、こうして暢気に話せてるってことは鳳凰ってやつも撃退できたってことだよな。結果オーライだ。無事に済んだんだったら気に病むことなんざひとつもねえよ』
「そう、ですね」

なんだか気遣われてるみたいですけど、正直ほっとしてしまいます。
もしかして、本当に私を心配して電話を代わってくれたんでしょうか。だとしたら普段の人識くんらしからざる振る舞いで、逆にちょっと不安になります。
悪い気はしないですけど。

「えーと、ただですね、まだ結果オーライというには早いというか、無事に済んだとは言えないというか」
『あん?』
「助かったことは助かったんですけど――その、両足折られちゃいまして」
『……何だと?』
「様刻さんがいてくれたから何とかここまで移動してこれましたけど……それと鳳凰さん、一度は撃退したんですけど、まだ生きてるみたいで。しかも割と近くまで来ちゃってるんです」

鳳凰さんと戦闘になったときのことからを、続けて話して聞かせます。首輪探知機のことや、様刻さんから聞いた鳳凰さんの忍法のことも含めて。

「今のところ動く気配はないみたいなので、様子見しているところです。
 あ、でも羽川さんって人に迎えに来てくれるよう交渉してみたので、移動する算段はついていますが。いざとなったら様刻さんにおぶってもらいますし」
『…………』
「あーそれとですね、羽川さんと電話した時、人識くんのこと根掘り葉掘り聞き出されちゃって。
 やり手というか、ごまかしが効かない人だったので洗いざらい話しちゃったんですが……まずかったですかね?」
『…………』
「……? もしもーし、人識くん?」

沈黙。
どうしたんでしょう、何か引っかかるようなこと言いましたっけ。

『お前、俺の電話番号知ったの、いつだ』
「へ?」
『この青髪娘と連絡取り合ってたっつーんなら、俺の連絡先知らされてなかったって事はまさかねーだろ。いつ教えてもらった』
「え、えーと、ここに着いてから貰ったメールで知ったので、三、四時間前くらいですかね」

あれ、何でしょうこの感じ。声のトーンが少し変わってます。

578禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:37:16 ID:IXc1UhAM0
なんか人識くん、怒ってません?
やっぱり羽川さんに色々話したのが駄目だったんでしょうか。それとも鳳凰さんをきっちり殺しておかなかったことを咎めてるとか?
でもあれは様刻さんも考えた上での選択だったわけですし、まさかあの状態から復活してくるなんて思わなかったわけで――

『何でもっと早く、俺に連絡しなかった』

え? そこですか?
確かに番号を知ってから、直接電話するのはずっとためらってましたけど……

「いや、そのう、わざわざ人識くんに連絡するほど切羽詰った状況というわけでもないと思いまして――」





『――ふざっっっっけんじゃねぇっ!!!!』





……携帯電話が爆発したかと思いました。
突然の大音声に、様刻さんも目を丸くしてこちらを見ています。
え? え? え? 何ですかこれ?

『どうせいつもみたく暢気に能天気にやってんのかと思ったら、本当に何やってやがんだお前は! 底の底から馬鹿かお前! そのニット帽の下には何も詰まってねーのか!?』
「に、ニット帽の下には髪の毛が詰まってると思うんですけど」
『両足折られただ!? お前それ、どう考えても非常事態だろうが! 何が『切羽詰ってない』だ! お気楽具合も大概にしろ! 終いにゃ殴るぞお前!』
「あ、あの――」

頭がついていきません。
心配されてるのはわかるんですけど、そんな急にキレることですか?

『そんな状況で、なんでさっさと俺を呼ばねーんだ! 逃げるのはやめたとか何とか言って、お前結局、俺から逃げてんじゃねーか! 俺に助けられるのがそんなに嫌か!』
「…………!!」

不意に、心に刺さる。
逃げてる? 私が? よりにもよって人識くんから?

『俺がうっとうしいっつーんなら別にいい。本気で助けがいらねーっつーんだったらそれで構わねえ。それなら俺がわざわざ助けに行く理由もねーからな。
 だがな、もしお前が俺に助けられることに負い目を感じてるだとか、『両手を失くした時にも散々迷惑をかけた、また同じ迷惑はかけられない』だとか、
 そんなくっだらねえ理由で俺を呼ばなかったってんなら、今すぐそっちに行ってその両足さらにもう一段階へし折んぞ!』
「ち、違います!」

思わず声が大きくなる。
違う、違う、そんなんじゃない。

「か、勝手に決め付けないでくださいよう――私がそんな、人識くんに気を使うなんてことあるわけないじゃないですか! 私の太平楽さを甘く見ないでください!
 さっきまで、人識くんの存在すら忘れてたくらいなんですから!」
『お前、殺人衝動が溜まってたこと俺に黙ってやがったな』
「…………う、」
『どうせお前、俺に合わせる顔がないだとか、約束破って怒られるだとか、そんなことごちゃごちゃ考えてたんだろうが。お前こそ俺の太平楽さ舐めんじゃねーぞ!
 あの赤女はもうくたばってんだ、約束なんざ無効だ無効! よしんば有効だったところで、俺がそんなことで怒るとでも思ってんのか!!』
「い、今怒ってるじゃないですかぁ……」
『平気だとか余計なお世話だとか切羽詰ってないとか、お前は自分の命が危ねーって時にすら同じこと言い続けてんのか!? どんだけ我慢するつもりだお前は!!
 だいたい鳳凰ってやつが近くまで来てるってんなら、今まさにやべえ状況だろうが!
 様子見? いざとなったら? アホか! 悠長に電話してる暇があったら、背負ってでも何でもしてもらって今すぐそこから離れるべきだろうが!
 そうしないのはその様刻ってやつに対する気遣いか!? ご立派なこったな! お前はそれを、自分が死ぬまで続けてるつもりかっ!!?』
「う、ううう……」

何ですか、何なんですかもう。
気遣ってくれたと思ったら、急に怒って、急に怒鳴って、意味わかんないですよう。
いつもは無関心なふりばかりしてるくせに、こんなのずるいです。
そもそも連絡くれなかったのは人識くんも一緒じゃないですか。私は最初から人識くんのことを探してたのに。ずっと心配していたのに。
どうせ、私のことなんて。
私のことなんて、人識くんは家族とも思っていないくせに――

『兄貴も大将も曲識のにーちゃんももういねーんだ、本気でやばい時くらい、俺を頼れ! 助けが必要な時くらい俺を呼べ!
 いいか、お前が本当に『零崎』として生きていこうってんならな――』



『“家族に頼る”ことから、いちいちもっともらしい理由つけて逃げてんじゃねえ!!』



…………え?
人識くん、今私のこと『家族』って言いました?

579禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:37:52 ID:IXc1UhAM0
私のことは『妹』とは思ってないって、自分の家族は双識さんだけだって、ずっと言ってたのに――

「――――伊織さん!」
「うわあ!」

いつの間にか、様刻さんが目の前に立っていました。首輪探知機を片手に、少し急いたような表情で。

「電話中に悪いけど、真庭鳳凰に動きがあった」

こちらに向けた画面の中で、確かに鳳凰さんの名前が動いていました。しかも、まっすぐこちらへ向かって。

「ごめん、少し目を離していた間に動いていたんだ。とりあえず、ここは離れたほうがいいと思う」
「あ、そ、そうですね」

電話はまだ繫がったままですけど、何を言ったらいいのかわからない。
えーと……

「あ、あの、人識くん。今の聞こえてましたよね? とりあえずここ、人識くんの言うとおり、移動しますから。話の続きはまた後で――」
『……悪かった』
「は、はい?」
『いきなり怒鳴って悪かった。謝る』
「は、い、いやその、私のほうこそ――」

反応に困る。
これ以上混乱させるのやめてくださいよもう。

「き、気にしないでください! 人識くんの言うことなんて私、全く気にも留めてませんから!」

また怒られるかと思いましたけど、『そうか』と一言だけ返してきます。逆に怖いんですけど。

『様刻ってやつは、今そこにいるんだな?』
「え、はい」
『そいつとちょっと代わってくれ。すぐに済むからよ』

様刻さんと?
そういえば様刻さんと人識くんって、一度顔を合わせてるんでしたっけ……。

「あの、人識くん」
『ん?』
「ええと――く、玖渚さんのこと、よろしくお願いしますね」

意味も分からず、そんな言葉が口を突いて出る。
何をどうお願いするのか聞かれても、自分でもよくわかりませんけど。

『ああ、任せとけ』

適当に言ったはずの私の言葉に、そんな確信的な返事が返ってくる。
よくわからないまま、私は様刻さんに携帯を渡してしまいます。

「…………」

ぼんやりとした頭の中で、今さらのように訊いておくべきだったことを思いつく。
明らかに、いつもと違う様子の人識くんに訊いておくべきだったことを。
人識くん。
そっちで何か、あったんですか……?
 


   ◇     ◇


 
『櫃内様刻』 G-6 薬局


「もしもし、電話代わったよ」

なんだか困惑したような表情の伊織さんから携帯を受け取る。
話に聞いていた零崎人識が玖渚さんと一緒にいると聞いたときは少し驚いたけど、考えてみれば別に不自然な事でもなかった。
玖渚さんは人識の連絡先を知っていたのだから、待ち合わせしようと思えば簡単にできただろう。
驚きというならむしろ、さっきの怒声だった。少し離れたところにいた僕にすら一言一句聞こえてきたほどの大声だった。
最初に会った人識とキャラが違いすぎる……伊織さんから聞いていた印象とも少し、いやだいぶ違う。
こんなストレートに、そして突発的に『妹』を叱責する『兄』というキャラクター像は全く浮かばなかった。
見た感じ、一番驚いているのは伊織さんのようだけど。

580禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:38:22 ID:IXc1UhAM0
まあ、両脚の怪我を心配しての叱咤だったようだし、そう考えたらいいお兄さんだよな……伊織さんと同じで、殺人鬼であることに変わりはないそうだけれど。

「斜道卿壱郎研究所で一度会ってるんだけど、覚えてないかな」
『研究所……ああ、あの時のあんたか。生きてたんだな。……あー、なんつーか、あのあと大丈夫だったか?』
「大丈夫だよ。僕の中では、あのことについては一応蹴りがついてるから」

思えば僕はあの時、人識のおかげで命を取りとめたのだった。零崎があそこにいなかったら、僕は時宮時刻に為す術なく殺されていただろう。
その後で、壊れかけた僕の目を覚まさせてくれたのは伊織さんだった。何の変哲もない一般人である僕がこうしてまだ生き残っていられるのは、大げさでなくこの二人のおかげだ。
玖渚さんにもずいぶん助けられているけど。
僕が伊織さんと一緒にいるのは、案外それが理由なのかもしれない。
恩義に報いるとかそういうことではないけれど、『伊織さんに協力する』という選択肢を選ぶ理由として、それが適切であるように思うから。

「あの時は世話になったね。そういえば礼も言えてなかったな、ありがとう」
『いいよ、あんなもん気まぐれだ。それよりあんた、真庭鳳凰ってやつは確かにそっちへ向かってんだな?』

もう一度探知機を見る。今度は立ち止まる気配もない。相変わらず、まっすぐこちらへ近づいてきている。

「ああ、狙いはたぶん僕だろうな……伊織さんの治療のために薬局に来たけど、その考えを鳳凰に読まれたのかもしれない」
『そうか、わかった。あんたはとりあえず伊織ちゃん連れて、そこから移動してくれ』
「了解。一応言っておくけどランドセルランドに向かうつもりだ」

あわよくば途中で羽川さんたちと合流できるだろうけど、向こうの通るルート次第ではすれ違いになるかもしれないから、向こうから返事が来たときに伝えておくべきかな。
下手すると、羽川さんたちが鳳凰と鉢合わせるなんて事態にもなりかねないし。
悪ぃな、と人識は言う。

『俺の身内が迷惑かける。すまねぇがしばらくの間、よろしく頼むわ』
「いいよ、助けられてるのはむしろ僕のほうさ」

僕は僕のやるべきことをやる。そう決めたのも僕自身だ。

「それに、妹を気遣うのは兄として当たり前だろう?」

若干冗談めかして言ったはずのそんな台詞だったが、それを受けて人識は『……あー、』と何かを言いよどむ。
もう一度伊織さんに代わったほうがいいだろうかか、と考えていると、『様刻』と急に名前を呼ばれ、

『伊織ちゃんのこと、よろしく頼んだ』

それ、さっきも言ったじゃないか――と言う間もなく通話が途切れる。ツーツーツー、と無機質な電子音だけが耳に響く。

「…………?」

少し不可解に思いながら、携帯を伊織さんに返す。

「人識くん、なんて言ってました?」

伊織さんが聞いてくる。叱られてしょげているということはなさそうだけど、まだ少しぼんやりしている感じだ。

「伊織さんのことよろしく頼むってさ。それだけだよ」

首輪探知機を持たせて、伊織さんを背負う。余計なことに気を取られている暇はない。今はまず、ここから移動しないと。
念のため、鳳凰が来ている方向と逆側の裏口から店外へと出る。当然だが、外はもう真っ暗だ。山火事で北の空だけが赤く燃えている。
遠くから察知される危険があるため、懐中電灯は点けないでおく。足元が不安だが、この暗闇の中なら明かりさえ点けなければ見つかりにくいし、むしろ好都合か。

「よろしく頼んだ――か」

歩き出しながら何となく呟く。言ってから、さっき感じた不可解さの正体に思い当たる。

――伊織ちゃんのこと、よろしく頼んだ。

あの言い方はまるで、遺言のようではなかったか。

581禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:38:52 ID:IXc1UhAM0
 


   ◇     ◇


 
『供犠創貴』 D-6 ネットカフェ


「…………」

何だったんだ今のは。
僕もりすかも、玖渚さえも人識の一連の行動に呆気にとられているようだった。さっきまでの緊張した空気もどこへやら、全員がぽかんと口を開けている。
人識が「俺に代われ」と携帯を受け取った時は正直肝が冷えた。
玖渚が電話に出たときの反応から相手が人識の知り合いだと予想できたし、何か考えがあって電話を代わったものだと思ったからだ。
それが突然、ネットカフェの外にまで響き渡るほどの怒号が放たれた時は何が起きたのかと思った。驚愕したと言うよりは、ただ反応に困った。
仲間を呼ぶチャンスにもかかわらず、いきなり大声で口論を始めたというのだから意味不明というより仕方ないが。
挙句に出た言葉が「助けが必要な時くらい俺を呼べ」だ。今助けを呼ぶべきは人識のほうじゃないのか?
当の人識はと言うと、電話を切ってからずっと何かを考えるように目を閉じ、ときおり「……ったく、何やってんだかなぁ……俺らしくもねえ」などとぶつぶつ呟いている。
刀を構えていた手もだらんと両脇に垂らし、まるで僕たちのことを忘れているかのような有様だ。
本当に何があった?
いやそれよりも、この状態は僕たちにとって好機なのか?
さっきまで親の仇を見るように(あながち比喩というわけでもない)僕たちに殺気を放っていた人識が、明らかに別の何かに意識を奪われているというこの状況は。
伊織、様刻、真庭鳳凰。
さっきの電話で出てきた名前と玖渚から聞いていた情報を統合して考えるに、伊織と様刻が人識と顔見知りで、その二人が鳳凰に追われている、といったところか?
ならば、人識がその二人のもとに救出に向かうよう仕向ける、というのはどうだろう。
『変身後』の水倉りすか。その能力の高さを多少大げさにでも印象付けさせ、僕を殺せば人識も必ず道連れになるということを強調し、目的を僕たちから一旦『仲間の救出』にシフトさせる。
一時しのぎではあるが、悪い策ではない。
問題は、玖渚がこの提案に乗ってくるかどうかだが――

「悪ぃんだけどよ」

不意に人識が僕へと話しかけてきた。思考に向いていた意識を慌てて持ち直す。

「もう一人話したいやつがいるんだが、いいか?」

話したいやつ?
今度は何をする気だ? ……いや、そもそもそんな申し出を許可できるわけがない。つい看過してしまったが、さっきの電話を許してしまったこと自体がすでに失敗だった。
聞いた限りここの場所を伝えたようなそぶりはなかったが、玖渚に一度してやられているだけに油断はできない。メールも電話も、こちらから連絡をとらせるのは一切却下だ。
僕がそう言おうとすると、人識は「時間はそんなに取らせねーからよ」と言って、持っていた携帯を玖渚に放って返した。
……電話をかけようとしたわけじゃないのか?
意図を図りかねている間に、人識の右腕と握られた刀が再び持ち上がる。
蝙蝠の持っていた日本刀、絶刀・鉋。
それをゆったりと、身体と垂直に構えなおし、



「曲識のにーちゃんを殺したやつと、ちょっとな」



その切っ先を、りすかの左胸に突き刺した。



「あ――――っ!!?」

素っ頓狂な叫び声を玖渚は上げた。さっきよりさらに唖然とした表情で「こいつは何をやっているんだ」みたいな目を人識に向けている。
声こそ上げなかったものの、僕も同じような表情をしていたに違いない。こいつは一体、何をやっているんだ?
ごぼ、とりすかの口から血が溢れ出る。悲鳴ひとつ上げさせる暇もない、鮮やかな瞬殺だった。
刀の先端はりすかの身体だけを正確に貫き、ほとんど密着していた僕の身体には触れてすらいない。完全にりすかだけを狙って殺している。
りすかの『変身』を、こいつは知っていたんじゃなかったのか?
わけのわからないまま、首に回していた腕を解く。支えを失ったりすかの身体は、当然ながらその場に崩れ落ちる。どくどくと大量の血を流し、あっという間に室内を真っ赤に染め上げた。

582禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:39:53 ID:IXc1UhAM0
りすかの身体が溶解を始める。腕が、足が、胴が、頭が、物理的な意味で崩れ落ちる。どろどろに、ぐちゃぐちゃに、室内に満ち溢れる血の海に混ざり合い、その一部になる。
扉が破壊されて開きっぱなしになった入り口から、廊下にまでその血液は流れ出る。ここが密室だったら、すでに天井近くまで『水位』は上がっていただろう。

『のんきり・のんきり・まぐなあど ろいきすろいきすろい・きしがぁるきしがぁず
 のんきり・のんきり・まぐなあど ろいきすろいきすろい・きしがぁるきしがぁず
 まるさこる・まるさこり・かいきりな る・りおち・りおち・りそな・ろいと・ろいと・まいと・かなぐいる――』

りすかの詠唱が始まっても、人識は逃げるどころか微動だにしない。何かを決意、いや覚悟したような眼差しで、その行く末をじっと見ている。
もはやその場にいる全員が、固まったように動けなかった。おそらく人識を除いて、誰もがこの展開についていけていない。

『かがかき・きかがか にゃもま・にゃもなぎ どいかいく・どいかいく・まいるず・まいるず にゃもむ・にゃもめ――』


『にゃるら!』


長い長い詠唱が終わり、血の海の中から『彼女』が現れる。
そのしなやかな肢体が姿を現すにつれて、室内を満たす血液が、廊下に流れ出していた血液が、彼女を中心として吸い込まれるように引いていく。
ネコ科の猛獣を連想させるすらりとした体格。
赤い髪、赤いマント、鋭角的なデザインのベルト、手袋、ボディーコンシャス。
燃え上がるような赤い瞳に、濡れたような唇。
十七年の時を『省略』し、二十七歳の姿となった水倉りすかが、今ここに顕現した。

「……よお」

先に言葉を発したのは人識だった。いまや大人と子供ほどの身長差となり、りすかを完全に見上げる形になってしまっている。
それでも、人識に臆したような気配は一切なかった。臨戦態勢を取るでもなく、まっすぐに『赤き時の魔女』と相対する。

「…………」

対して、りすかのほうは無言だった。いつものような高笑いもなく、不遜に腕を組み、目の前の相手を睥睨している。
手に握られているのはいつものカッターナイフでなく、黒神めだかのデイパックから手に入れた刀子型のナイフ『無銘』。
りすかの身長と相まって、まるでちっぽけに見える刃物だが、そんなことはもう関係ない。今となっては、人識の握る二振りの日本刀すら頼りなく見える。
にもかかわらず、りすかの表情にはなぜか余裕がなかった。
笑顔ではあるが、いつもの不敵さはない。目を細め、人識に対し鋭い視線を送っている。
警戒している?
『変身後』のりすかが、ただの人間である人識に対して?

「あんただったな、曲識のにーちゃんを殺したのは」
「……曲識ィ? 誰だよそいつ」

りすかがようやく人識に応じる。ドスの利いた、いかにも不機嫌そうな声色で。

「ああ、あいつか? 燕尾服着た長髪のやつ。おいおい、まさかわたしに恨み言連ねようってんじゃねーだろーな、ガキ」

零崎曲識――動画に出ていたあいつか。
りすかが最初に殺され、最初に殺した相手。

「先に手ェ出してきたのはあの燕尾服のほうだぜ。ただ道聞こうとしただけのわたしに対して、ロクな会話もなしで殺しにかかってきやがってよ。
 しかもあの野郎、殺したわたしの内臓首に巻き付けて恍惚としてやがったぞ。綺麗な顔して超ド級の変態じゃねーか。ネクロフィリアにしてもレベル高すぎんだろ」
「…………」

人識の表情がとても微妙なものになる。身内の恥を暴露されていたたまれないとでもいうような、苦々しい表情に。

「んで」

くいっ、と。
握ったナイフを、ステッキのように軽く振る。

「そのド変態の『家族』だっつーお前は、わたしをどうしてくれるってんだ? 人の心臓ぶっ刺して、その上でわたしに何の用だ?
 このわたしをわざわざ呼び出しておいて、まさか何もありませんなんて心底笑えねー冗談かますつもりじゃねーよな」

583禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:41:08 ID:IXc1UhAM0
「頼みがある」

おもむろに、両手に持っていた刀の先をすとんと足元に落とす。まるで害意がないことを示すように。

「あんたの使う『魔法』とやらについて、俺は正直さっぱりなんだがよ――前にあんた達がやったみたく、誰かを『別の場所へ移動させる』なんてことは、今この場でできるのかい?」

意図の読めない質問に、僕はただ困惑する。
何だ? 今度は何を言う気だ、こいつは?

「もし可能だってんなら、これから俺が言う場所に、その『魔法』を使って俺を飛ばしてくれねーかな。瞬間移動みてーに、ぱーっと」
「…………!?」

はあ!?

「ああ、ついでにこいつも一緒にな」

玖渚の襟首をつかんで、猫のように持ち上げてみせる。

「そうしてくれたら、俺はもうあんたらを付け狙うようなことはしない。二度と、金輪際あんたらの目の前には姿を現さないと約束する。こいつにも約束させる」

言われて、玖渚は「えぇ〜」とあからさまに不満そうな声を出したが、人識に頭を一発小突かれて静かになる。

「こいつが暴走しそうになったら、俺が責任を持って始末する。それでどうだ?」
「…………」

今度こそ、本当に何を言っているのかわからなかった。
いや、言葉としての意味は分かる。そして、可能かどうかで言ったら、おそらくは可能だ。
魔法による空間の移動。正確には、ある場所へ移動するまでの時間の『省略』。
りすかの魔法は、基本的に自身の内側にしか作用しない。
手順を踏めば他の人間の時間も一緒に『省略』することはできるが、相性の問題もあるし、必ず成功する保証はない。蝙蝠との実験で証明済みだ。
しかし、今の二十七歳の姿である水倉りすかの場合、魔力の高さや規模の大きさ以前に、使用できる魔法の範囲がまるで違う。
伝説の魔法使い、『ニャルラトテップ』水倉神檎の愛娘。
その身体に織り込まれた膨大な魔法式は、大げさでなくありとあらゆる『時間』への干渉を可能にする。
手順としてはこうだ。人識の身体のどこでもいい、傷をつけて血を流させ、そこをりすかの血液と『同着』させる。
あとは人識が「ある場所へたどり着く」という結果が未来として確定してさえいれば、その移動時間を『省略』してやることで、目的地まで『飛ばす』ことはできるはず。
その気になれば、物質を『時間軸から外す』ことで消滅させることもできるりすかだ――その程度のことは可能だろう。
可能だろう――が、
それはあくまで「できる」というだけで、「やる」理由がりすかには全くない。
この場における生殺与奪の権は、すでに人識からりすかに移っている。人識の出した『提案』も、今となっては何の意味もない。
約束するも何も、ここでりすかが人識を亡き者にしてしまえばいいだけの話なのだから。
取引としては成立していないし、頼みというには虫が良すぎる。
……ていうかこいつ、りすかの魔法をただの空間移動と勘違いしていないか?
そんなチャチなものだと思っている時点でおめでたいというか、認識の仕方が曖昧すぎだろう。
合理性がどうとか以前に、そんな認識で取引を持ちかけるなんて、もはやただの無為無策だ。
行き当たりばったりの、圧倒的に分の悪い賭け。
その申し出を聞いて、りすかは、

「あーっはっはっはっはっはっはっはっは!!」

哄笑した。
堪えきれなくなったという風に。

「ははは――どんな面白ぇ台詞謳ってくれんのかと思えば、予想以上に笑かしてくれんじゃねーか。これほどまでに愉快なやつだとはよもや思わなかったぜ、顔面刺青くんよ」

直後、りすかの両目が「くわっ」っと音が聞こえそうなほど大きく見開かれ、破顔から一転、凶暴な形相になる。

584禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:41:45 ID:IXc1UhAM0
瞳孔すら開いているようなその表情で、片手に構えたナイフを人識の右頬、刺青の上にぴたりと押し当てた。

「身の程知らずもここまで達するともはや称賛に値するな、駄人間。
 どうやら貴様は、自分がどんな罪を犯したのかわかってねーらしい。わたしが一から順に罪状読み上げてやっからよく聞いて理解しやがれ。
 ひとつ、わたしの大事なキズタカにその汚ねえ足で蹴りを入れやがったこと。
 ふたつ、無抵抗でか弱い魔法少女であるわたしを野蛮にも拉致監禁したあげく、その刀で貫いてくれやがったこと。
 みっつ、高貴で美しき魔法使いであるこのわたしの魔法を、こともあろうに『利用』しようとしやがったことだ」

ぐん、とりすかの顔が人識の顔に接近する。鼻と鼻が触れそうな間合いで視線を受けながら、なおも人識は身じろぎひとつしない。

「わたしたちにここまで無礼を働いておいて、まんまと逃げおおせようってのか? それもわたしの魔法を『使って』!
 ご都合主義にも程があるぞ、人間。それとも貴様は、わたしがその『お願い』に応じようと思うような何かを、今ここで提示してくれるってのか?」

ナイフが頬に食い込む。
そこに刻まれた刺青を両断するがごとく、すうっと一筋の傷がつけられ、そこから鮮やかに血が流れ出た。
実質、これが最後通牒だろう。
魔法を使うまでもない。そのままナイフを首筋に移動し、頸動脈を切り裂いてしまえばそれで終わりだ。
この場で人識が提示できる条件などあるわけがない。何か言ってきたとしてもハッタリだろう。

「あんたらにはわからねーだろうがよぉ――」

しかし、その認識は間違っていた。
人識はすでに提示していたのだった。何にも代えがたい条件を。

「零崎一賊に属する者が、家族に手ェ出したやつを目の前にして見逃してやるなんてことはよ、本来、天地がひっくり返ってもありえねーほどの破格の条件なんだぜ」
「…………」
「さっきの、ガキん時のあんたの質問に答えておくとよ――俺にとって、人殺しってのは何でもねーし、人を殺すことで何かを感じることもねーよ。
 この青髪娘から聞いてねーか? 『零崎』にとって、人殺しってのは『そういうもの』でしかない、ただの行為なんだよ」

僕も、りすかさえも人識の言葉に聞き入っていた。
聞く必要もない戯言を、不覚にも。

「だがな、それはあくまで『零崎』としての性質の話だ。『零崎一賊に属する者』という括りのほうで言えば、連中が人を殺す理由は『家族のため』だ。
 『家族のためならどんな行為にでも及ぶ』――そんなくだらねー信念背負った連中だ。ただの殺人鬼が、家族のためとなった途端いっとう目の色変えて馳せ参じるんだぜ。
 まあ俺にとっての家族なんざ、指折り数えられるくらいしかいねーが。ついさっきまで、指一本あれば足りたしな……ああ、一人はもう死んでるから今も一本で足りるか」

それはもう、何の意味もない独り言のように聞こえた。
しかしそれでも、りすかは動かない。

「そのたったひとりの家族が危険な目に遭ってるって時に駆けつけねーとか、そんなもん家族として失格だろ。兄貴にあの世からぶっ殺されるっつーの。
 いいか、よく聞け。『零崎』にとってはな――」



「家族を守るためなら、敵を信じることも、命を預けることも、何でもねーんだよ」



「…………っ」

一瞬。
ほんの一瞬だけ、りすかが気圧されたように見えた。
大人と子供、天才と凡人以上の開きがあるはずの人識に対して、今のりすかが。
称号持ちの魔法使いさえ赤子同然に扱える今のりすかが、魔法すら使えないはずの人識に対して。

「殺さば殺せよ。今さら逃げも隠れもしねー。ただし俺を殺したら、いずれ必ず俺の『妹』があんたらの前に現れるだろうぜ。大鋏口に銜えてよ。そこは精々覚悟しておくこったな」
「…………いい度胸じゃねえか」

りすかの持つナイフが、頬から首筋に移動される。

「このわたしを前に、ここまで舐めた態度取り続けたやつはそうそういねーぜ、駄人間」
「ありがとよ」

少年のようなさわやかな笑顔で、殺人鬼は言った。

「俺のことを殺人鬼と知ってなお『人間』と呼んでくれたやつは、多分あんたが初めてだぜ、お姉さん」

585禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:42:19 ID:IXc1UhAM0
 


   ◇     ◇


 
『真庭鳳凰』 G-6 薬局


「誰もおらぬ――か」

動き始めてからは早かった。
付け替えた足の感覚にもだいぶ慣れてきている。目的地の薬局にたどり着くまでに、それほどの時間は要しなかった。
建物に明かりは灯っていたが、中は蛻の殻だった。一通り店内を見回っては見たが、何者かが潜んでいる気配もない。

「しかしながら」

収穫がなかったというわけでもない。店内のそこかしこに、つい先刻まで人がいたと思しき痕跡が見られたのだ。血の匂いも微かに漂っているのがわかる。
伊織と様刻であると断定はできぬが、その可能性は高い。
やはり我の考えは間違ってはいなかった――自然、頬が緩む。
おそらく奴らは、我の想像通りここで怪我の治療と休息を取っていたのだろう。その最中に、あの機械で我の接近を知り、ここから逃走した。
この「逃走した」という部分が肝要だ。少なくとも奴らは、まだ我を迎え討つ用意ができていないということ、逃げなければいけない状態にあったということが読み取れる。
さらに、室内の痕跡の新しさからしても、まださほど遠くには行っていないはず。
奴らのうち、伊織のほうは両足を折っている。二人で移動しているとすれば、移動の速度も相当に遅いはずだ。
今の我の身体でも、居場所さえ知れれば容易に追いつける。

「……む?」

床に目を落とす。何か違和感を捉えたような気がしたのだが…………これは、水か? 床の上に水滴が落ちているのがあちこちに見える。
そういえば先程見た椅子にも、何者かが座った跡と水のこぼれたような跡があった。
よもやと思い、床の水滴をたどってみる。結果、それは店の裏口まで続いていた。扉は閉まっているが、施錠はされていない。
取っ手に触れてみると、そこにも水が付着していた。
思わず笑い出しそうになる。どうやら奴ら、故意か過失かはわからぬが身体を濡らした状態にあるらしい。水滴を落として放置するとは、追われている自覚がないのか?
裏口――すなわち、我が入ってきた入口と逆方向の出口。
我の来た方向と反対側からわざわざ出ていることからも、ここにいた者らがあの首輪探知機とかいう機械を所有していることは明らかだ。
明確に我を避け、我から逃げる動き。ここにいたのは、奴らで決まりだ。
扉を開ける。地面を注視すると、微かにではあるが水の滴った跡と、新しい足跡が残っていた。この暗闇の中でなら追えないと思っていたか。舐められたものだ。
再び地を這ってでも追うつもりではいたが、これほど新しい痕跡が残っているならばすぐにでも追跡できる。

「今度こそ――だ。今度こそ、奴らを殺す」

ぎり、と包丁を握りしめる。
我が近づけば奴らも逃げるだろうが、そんなことはもう関係ない。奴らが力尽きるまで追い続けるだけだ。
戦略はどうする? 必要ない。この包丁でただ刺すのみだ。
顔の傷はどうする? 問題ない。処置している時間が惜しい。
真庭の里の復興も、我らの悲願も、今はどうでもよい。奴らを殺すこと、今はそれのみに心血を注ぐ。

「せいぜい震えて逃げるがよい。櫃内様刻、無桐伊織」

扉の外に一歩、足を踏み出す。

「貴様らの首、必ず我の眼前に並べ揃えて晒してくれる――!」




「あー、悪ぃけどその無桐伊織っての、俺の身内なんだわ」




背後から、だった。
その声が背後から聞こえてくるまで、全く、何の気配も感じ取ることができなかった。足音も、扉が開く音も、衣擦れの音も、何一つ。

586禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:42:53 ID:IXc1UhAM0
まるでその存在が、我の背後に立つまでの一切の『時間』を、丸ごと『省略』してしまったかの如く。

「一応、俺はあいつの『兄』らしいからよ、見ず知らずの男に――いや女か? 声は男だな……
 まあどっちにしろ、どこの馬の骨とも知れん奴に、おいそれと『妹』の首やるわけにゃいかねーんだよ」

振り返ろうとするが、首が動かない。
何者だ、と問おうとする。声が出せない。
その理由は明白だった。振り返るまでもなく問うまでもなく、目の前にはっきりと示されていた。
刀が。
日本刀の刃が。
絶刀・鉋の刀身が、口から突き出していた。

「それとよぉ――『並べ揃えて晒してくれる』とか、人の決め台詞微妙にパクんじゃねーよ。俺がその台詞考えんのにどんだけ頭ひねったと思ってんだ」

蝙蝠の忍法のように体内から飛び出したわけではない。後頭部から口腔へ突き抜けるような形で、一本の刀が、我の頭を串刺しにしていたのだった。
馬鹿な、どうやって。
これほどの気配――これほどの『殺意』に、今の今まで気付かなかったなど!

「女子高生つけ狙うとか、世間じゃそういうのストーカーっつうんだぜ? いい大人なんだから、そのくらいの常識は身につけとけよな。
 そういやひとつ訊きてーんだが、ここ、薬局であってるか? 今回は道に迷ったっつーわけでもねーんだが――――あ」

背後の何かが、今ようやくそれに気付いたとでもいうように、はっとした声を出す。
溶暗する意識の中で我は、それが発する言葉を最後に、聞いた。

「悪ぃ、殺しちまったよ。死にぞこないの噛ませ犬さん」



【真庭鳳凰@刀語 死亡】
 


   ◇     ◇


 
『零崎人識』 G-6 薬局


「ああ、確かに薬局で間違いねーな、ここ。すげーな、本当に一瞬で移動したぜ」

店内から絆創膏だのガーゼだのを適当に手に取りながらそう呟く。

「あー痛ぇ――あの女、人の刺青(トレードマーク)わざわざ傷つけやがって。髪切られた方がまだましだっつーの」
「しーちゃん、僕様ちゃんの手も止血して」
「へいへい」

切られた頬と、同じように軽く切りつけられていた玖渚の手の甲を絆創膏やらで処置してやる。
どうやら俺と玖渚は、目的地への移動に無事成功したらしい。
実際に体験してみると、その異様さはよくわかる。『呪い名』の連中みてーな小細工とはまるで一線を画した能力。
なるほど、これが『魔法』ね――曲識のにーちゃんでも歯が立たねーわけだ。

「うええ、気持ち悪い…………頭がぐらぐらする」

玖渚の方はというと、乗り物に酔ったみたいに青い顔をしていた。移動するとき世界が歪むような感覚は確かにあったが、どうやらそれにあてられたらしい。
副作用みてーなもんか? 俺は平気だが、そこは個人差があるんだろうな。

「あのさぁ……しーちゃん」

玖渚が呆れたような目で俺を見てくる。

「情報提供したのは僕様ちゃんだし、来てもらったのもありがたかったけどさ……ああいう無茶に、僕様ちゃんを巻き込まないでもらえるかな。
 絶対死んだと思ったもん。あんな要求、普通に考えたら通るわけないって」

587禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:43:25 ID:IXc1UhAM0
「奇遇だな、俺も無理だと思ってたわ」
「だから一人でやってよそういうのは!」

ぎゃあぎゃあ喚く玖渚の頭を小突いて黙らせる。結果的に助かったんだからいいだろうが。
まあ、確かに無茶だったわな。
ていうか、あの女の胸に刀ぶっ刺した時に一番「やらかした」と思ってたのは多分俺だ。完全に勢いでやっちまったからな、あれ。
その後はもう、口八丁の連続だった。あることないこと、手当たり次第に口から出るに任せた結果だ。それでうまくいくってんだから、案外言ってみるもんだ。
今回ばかりは、『あいつ』に感謝すべきかもしれねーな。
本当に便利だぜ、あいつお得意の『戯言』ってのはよ。

「しーちゃんさ、本当に『魔法』について何も知らなかったの? よくぶっつけで『飛ばして』もらおうなんて思ったね。どこに飛ばされるかもわからないのに」
「一度目の前で披露されたことはあったぜ。あのときは意味不明だったけどな」

ある意味、零崎一賊の全員があの『魔法』に手玉に取られてたみてーなもんだ。そう思うと、とことん恐ろしい能力だと認めざるを得ねえ。

「それに、どこに飛ばされるかはともかく『ここ』に飛ぶ心構えだったら、少なくとも俺の中では出来ていた」
「そうなの?」
「知らねーか? 『零崎』の人間ってのは互いの居場所がある程度、感覚で把握できるんだよ」

伊織ちゃんがどこにいるのか電話があるまではおおよそにしか把握できていなかったが、『G-6の薬局にいる』と聞いた瞬間から、『この場所』は俺の中でイメージとして確立していた。
もともと空間把握は得意だからな、俺は。地図さえ見れば、距離や道筋まである程度なら構築できる。

「ふーん……案外、それが奏功したのかもね。僕様ちゃんたちがうまいことここに移動してこれたことにさ」
「あ? ここに移動させたのはあの女の能力なんだから、俺の心構えは関係ねーだろ」
「いや、僕様ちゃんもよく知らないけど、あの『魔法』は運命干渉系ってやつらしいからさ……しーちゃんがここに『来れる』って仮定が重要なのかもしれなかったってこと――
 ところで結局、しーちゃんが殺したこの人は誰だったんだろうね」

いつの間にか玖渚は、床にしゃがみ込んで俺がさっき刺した死体を検分していた。

「せめて名前くらい聞いてから殺そうよ。『零崎』にこんなこと言っても仕方ないだろーけど、利用できそうな人まで殺しちゃったら勿体ないじゃん」
「うるせーな。いきなり目の前にいたから反射的に刺しちまったんだよ」

なんかヤバい殺気放ってたし、包丁とか持ってたしな。
目の前であんな殺気出されたら、俺じゃなくても身体が動くっつーの。

「ていうか、どうせこいつが真庭鳳凰だろ。様刻と伊織ちゃんの首がどうとか口走ってたし」
「うーん、顔が滅茶苦茶だからなあ……着物はこれ、否定姫のだよね? 動画に映ってたのと一緒だし――あ、しーちゃん、見てこれ」

着物の懐から転がり出た何かを見せてくる。
……人の顔?

「何だそれ、面か?」
「真庭鳳凰の顔。理由は分からないけど、自分の顔切り取って他の人の顔をくっつけてたんだろーね。金髪ってことはやっぱり否定姫かな。何でズタズタになってるのかは不明だけど」
「ああ、忍法命結びだとか何とか聞いたっけな……」

あっちが魔法ならこっちは忍法か。全く、そんなんばっかだな。
何にせよ、狂人の考えなんざ考察するだけ時間の無駄だ。

「じゃーこいつが真庭鳳凰ってことでいいな。一件落着、お疲れさん」

鳳凰の顔をその辺に放り投げる。包丁やら何やら着物の中に隠し持ってたみたいだが、大した刃物はなかった。俺はこっちの日本刀で十分だ。
とりあえず、伊織ちゃんたちここに呼び戻しとくか……結果論とはいえ、あいつら移動させた意味ねーな。
携帯を取り出し、伊織ちゃんの番号にかける。戻ってきていいとだけ伝え、後はこっちで説明すると言って一方的に切った。

「はあ…………」

今になって急に、あの時の電話で自分が何を言ったのか記憶として蘇ってくる。自分がどんな風にキレていたのかまで鮮明に。
あー……やっちまった。あの魔女っ娘を刺した時よりよっぽど「やらかした」だ。マジで口が滑った。なんであんなことでキレたのか自分で理解に苦しむ。
なんか普通に落ち込む……うわーどうしよう、いらねえネタ提供しちまった。本気でどんな顔して会ったらいいのかわかんねえ。

588禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:44:31 ID:IXc1UhAM0
これだから『家族』とかいうのは面倒くせえんだ。
その言葉を盾にして説教してた俺も俺だが……

「ねえ、しーちゃんしーちゃん」
「お前はまず俺の呼び方をどうにかしろ」
「今さらだけどさー、本当によかったの? 供犠創貴と水倉りすか。一賊の敵なのに見逃しちゃって」
「あ? いいんだよ。そもそも俺は、他の一賊の連中と違って敵討ちとかどうでもいいんだっつーの。一応、兄貴への義理としてぶっ殺しておこうと思ってただけだ」

自分が手玉に取られたことに対する意趣返しの意味もあったが。

「舞ちゃんのことはあんなに心配してたのに?」
「今それを言うんじゃねえ……」

本当、過去の自分をぶん殴りたくなる。いらん言質与えてんじゃねーよ。
まあ、『零崎』の中で生き残ってんのはあいつだけだしな……この殺し合いごっこの最中くらい、家族ごっこに興じてやるのも悪くねぇとは思う。
一応、兄貴との約束もあるし。
俺の言葉に玖渚は「ふーん」と生返事で答える。自分から聞いといて興味なしかよ。

「んじゃあさ、僕様ちゃんを一緒に連れてきてくれたのは何で?」
「…………」

無視して店の奥へ歩いていくと、後ろから玖渚もとてとてついてくる。俺が殺人鬼だってこと理解してんのか、こいつ。

「しーちゃんが水倉りすかに提案持ちかけた時さ、僕様ちゃん、絶対に交換条件のネタにされると思ったんだよね。『玖渚は殺していいから、自分のことは見逃してくれ』みたいに」
「ああ、その方法もあったな。是非そうすべきだったわ」
「そっちのほうが成功率としては高かったでしょ? 危険度増やしてまで、僕様ちゃん連れてきてくれた理由はあるの?
 言っとくけど僕様ちゃん、あんな『約束』守る気なんてないよ。供犠創貴と水倉りすかのことだって全然許してないし。しーちゃんはそれでもいいの?」

そろそろうざくなってきたので、何となく、とか気まぐれだ、とか適当な言葉であしらおうと「そんなもん――」と言いかけたところで、玖渚のきょとんとした目に見つめられ、言葉に詰まる。
やれやれ……こいつといると調子が狂う。あの戯言遣いは何やってんだか。今度会ったら速攻で押し付けてやるからな。

「……伊織ちゃんに頼まれたからな、お前のことは」

全く、心底ダセェ役回りだ。
これじゃまるで、俺がいいやつみてーじゃねえかよ。

「お前のこと見捨てて俺だけ逃げてきた、なんて言ったらあいつに怒られるだろうが。『妹』に叱られるなんざ、俺は真っ平御免だっつーの」
 


   ◇     ◇


 
『供犠創貴』 D-6 ネットカフェ


「りすか、平気か?」
「……ん、大丈夫」

ネットカフェの一室。
さっきまで四人の男女がひしめいていたこの空間に、今は僕とりすかの二人しかいない。
りすかの『変身』はすでに解けている。少し疲弊した様子で、体を横たえている。
僕はそこから少し離れたところに、壁に背をつけて腰を下ろしていた。人識が破壊した扉が室内に倒れていて邪魔だが、片づける気力もない。僕も正直疲れていた。
服の袖で顔を拭う。蹴られた痛みはまだ引かない。りすかに『治療』してもらえればよかったのだが、あの後すぐに変身は解けてしまったので、その暇はなかった。
診療所から持ち出してきた諸々の応急処置品で事足りたので、さしたる問題でもなかったのだが。
それよりもりすかの消耗具合のほうが、僕には気がかりだった。『変身』が解けた後、りすかは軽い貧血のような症状を起こし、その場にへたり込んでしまった。
りすかにとって『血液』とは『魔力』そのものなので、『貧血』というのは実際問題として洒落にならないものがあるのだが……
ただしりすか自身は「少し休めば元に戻る」と言っていたので、精神的なものも少しあるのかもしれないと思い、今こうして休息を取っている。

「…………」

結局。
あの後りすかは、人識と玖渚を魔法によりこの場から移動させた。人識の頬の傷、さらに後から玖渚につけた傷からの血液を自身の血と『同着』させ、人識が玖渚を運ぶ形で。
『省略』の魔法を使ったのか、それとも別の時間操作を利用したのかは僕からは判然としなかったが、とりあえず二人とも、この空間からはいなくなった。
人識の要求を、完全に呑んだ形だ。

589禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:45:06 ID:IXc1UhAM0
ただし、人識たちが無事に目的地――人識が指定した『エリアG-6の薬局』――まで移動できたかどうかは定かではない。
二十七歳のりすかが行使した魔法とはいえ、『同着』はしても『固定』の段階は無視していたし、相性の問題もある。
もし『省略』の魔法を使ったのだとしたら、操作するのが人識の内在時間である以上、『目的地に着く』という『未来』が確定していなければ全く別の場所へ移動しているかもしれないし、
下手をすれば時空の狭間に永遠に放り出される可能性だってある。ほんの数時間程度の『省略』とはいえ、二人の肉体と脳が時間の加速についていけるかどうかもわからない。
それでも僕には、あいつらが移動に失敗したとは思えなかった。
りすかに対する信頼もあるが、魔法が発動する際の、人識のあの確信的な、成功することを全く疑っていない表情。
あれを思い出すと、どうしても『失敗した』という『未来』を想定することができない。

「キズタカ……本当に、これでよかったの?」

りすかの弱々しい問いに僕は「ああ、いいんだ」と短く答える。
人識たちを魔法でここから移動させたのはりすかだ。しかしそれは、りすかの独断というわけではない。
最終的には、僕が許可した。
そいつらの望むようにしてやれと、僕がりすかに言ったのだ。
今のりすかと違い、あの状態のりすかは僕の命令に従うほどのしおらしい性格は皆無だけれど、少し虚を突かれたような顔をしただけで、黙って魔法を発動させていた。
僕が指示したからそうしたのか、あるいは最初からそうするつもりでいたのか。
それを考えることに意味はない。僕が指示して、りすかがそうした。それがあの時のすべてだ。

「…………」

なぜあんな要求を呑んだのか、理由を聞かれても明確には答えられない。
あの状況で僕が下すべき指示は「殺せ」以外になかったとは思う。人識の言った約束を信じたわけでもないし、連中を助けてやる道理などひとつだってない。
あれでは本当に、こちらの切り札であり最終手段である大人りすかを、あいつらの手助けをするために使ってしまったのと同じだ。
千載一遇の好機を、完全に棒に振ってしまった。
しかしそれを言うなら、そもそもその千載一遇の好機を僕たちに与えたのは人識自身だった。
人識が自分を「飛ばせ」と頼んだのは、仲間を救うためだったというのはわかる。
ただ、ここから目的地であるエリアG-6までは会場全体でみればそう離れているというわけでもないし、禁止エリアによって分断されているわけでもない。
それに向こうには様刻という仲間もいたはずだ。電話での会話を聞く限り、あそこまで短兵急に駆けつける必要があったとはどうしても思えない。
追いつめられていた僕たちとは違い、人識のほうはこの場から立ち去ろうと思えばそのまま立ち去ることができた。「二度と僕たちの前に現れない」というあの約束をするまでもなく。
僕たちに人識を見逃す必要がなかったように、人識にりすかを『変身』させる必要などなかった。
ましてあんな分の悪い、しかも命を懸けた『要求』を提示する必要性など、どこにもなかった。
にもかかわらず、あいつはそうした。
何の迷いもなく、その選択肢を選んだ。
まるで「その方法が一番早く着くと思ったから」とでも言うかのように。
僕が攻略法を考えている間に、あいつはショートカットの方法を考えていた。
いや、考えてすらいない。あんなもの、思い付き以外の何物でもあるまい。計算が少しでも働いていたならあんな選択、逆にしないだろう。
仲間のために――いや、
『家族』のために?

「……零崎、人識」

ひとつだけ、確かに理解できたことがある。
僕はあいつを、魔法も使えないただの人間だと思っていたし、いつもと同じように排除するべき障害だと認識していた。
しかしそれは、どちらも間違いだった。あいつは『人間』ではないし、乗り越えるべき『障害』でもなかった。
あれは、忌避すべきものだ。
『駒』として使えるかどうかとか、『敵』として倒すべきか否かとか、そういう次元にすらない。あれを『殺す』とか、そういった意味での関係性すらこれ以上持ちたくはなかった。
零崎軋識と対峙した時、僕はあいつの中に『人間らしさ』を感じた。無差別殺人鬼、殺意の塊のようだと認識しながら、同時に人間ゆえの矛盾した感情を見出した。
だからこそ、『零崎』の放つ殺意には何か理由があるのだと僕は考えていた。
無差別な殺人、理由なき殺意にも、根源のところまで遡れば『零崎』としての性質を形成する何がしかの原初的な記憶や体験があるはずだと、そう思っていた。
それが間違いだということを、零崎人識という存在に触れて理解した。
『あれ』の殺意に、理由などない。

590禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:46:57 ID:IXc1UhAM0
人識だけが異質なのか、他の零崎もそうなのかはわからない。ただ、あいつに限っては嫌というほどに理解させられた。
『殺人鬼』として生まれ、『殺人鬼』として殺す。
真実、何の理由もなく。
そんなものを人間と呼べるはずがない。人間としての資格を有していない。
人間として――失格だ。
『あなたは本当に、人間なんですか?』――りすかのあの問いこそが、実のところ本質をついていたのだ。
りすかがあそこまで人識に恐怖していた理由が今ならわかる。あんな存在に何度も触れていたら、人間の定義を疑っても無理はない。
そして何よりも恐ろしいのが、その理由なきはずの殺意を『家族』のために行使できるというところだ。
四方八方に撒き散らすしかないはずの衝動を、血も繋がっていない他人のために、ひとつのベクトルへと向けて発揮できるという矛盾。
根柢のところでの精神が、普通の人間と違いすぎている。
行動にまるで予測が立たない。
人識が本当に僕たちの前に「二度と現れない」かどうかはわからない。ただ、もし人識があの約束を律儀に守ってくれるとしたら、それは僕にとって成果ではある。
殺すことは確かにできた。しかしその場合、人識が忠告していた通り『妹』だという無桐伊織が、確実に僕たちの前に現れるだろう。
あんなものにこれ以上付きまとわれたら、本当に取り返しのつかないことになる。
あれらと関係を持つことで、どれほどの歯車が狂い、どれほどの成果が台無しになるのか、考えるだけで怖気が走る。
何が間違いだったかというなら、僕らは始めから間違っていたようなものだ。
りすかは曲識と出会った時から、蝙蝠は双識に手を出した時から、僕はその蝙蝠と手を組もうとした時から。
あの連中と――『零崎』と『関係』を持ってしまった時点で、僕らの歯車は徹底的に狂っていた。
『零崎』と、ついでに蝙蝠ともこれで関係が切れたのだとしたら、それだけでもう万々歳の結果だ。そうでも思わなければやってられない。

「……ねえ、キズタカ」

りすかが軽く身を起こす。顔色は依然として良くはない。

「さっきわたしが『変身』した時なんだけど、いつもと違うのが、その『変身』した後の感じだったの」
「いつもと違う?」
「うん……そう思ったのが、一回目に『変身』した時からだったんだけど、より違和感があったのが、さっきの『変身』だったの」

りすかが言うには、大人バージョンになった際の魔力というか、性能そのものが大幅に弱体化していたのだという。
一回目は気のせいと流していたが、今回、二回目の『変身』にあたって、その弱体化はよりはっきりと違和感として現れたらしい。
おそらくそれも僕たちに課された『制限』のひとつなのだろうけど、考えてみればそれを抜きにしても、りすかの魔力が下がるのは当然のことと言えた。
この殺し合いが始まってそろそろ二十四時間が経つが、その間に使用した魔法、つまりは消費された魔力の量は『変身』にも影響を及ぼす。
りすかが魔法を使うたび、その身体を構成している血液もまた、段階的に消費されていく。そして消費された分だけ変身後のりすかは体の一部が欠けたり、魔力が低下していたりする。
出端に『変身』を一回、『省略』を二回使い、合間に『過去への跳躍』を一回。
ここまで魔力を消費すれば、変身後のりすかが弱体化するのも無理はないことだった。

「うん……でも、それだけじゃないの」

しかしその弱体化も、本来のりすかであれば問題ないことのはずだった。
かつて僕たちがツナギと闘ったとき、変身後のりすかは『魔力が尽きる前まで己の時間を戻す』という裏技で、魔力を全回復して見せた。
あれが、今回の『変身』ではできなかったという。
『失った魔力を元に戻す』という行為自体が、どんな魔法を行使しても不可能だったらしい。

「なるほどね……それこそが『制限』か」

魔法による魔力の回復、リカバリーが不可能となると、りすかの魔力を回復させるには時間の経過に任せるしかなくなる。それも相対的でなく、絶対的な意味での『時間』。
例えば『省略』で十日分の時間を飛ばしたとしても、十日で治る傷を完治させることはできても魔力源である血液はそのまま消費され、元には戻らない。
要するに今のりすかは『無限』であることを封じられている。魔法を使えば使うほど、血液を消費すればするほど、一方的にりすかの力は弱まる。
大人りすかに『変身』したところで、それをリセットすることはできない。どころかその間に使用した魔法の分さえ、魔力は消費される。
完全に魔力を回復させるつもりなら、一日単位で休息をとるしかないだろう。

591禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:48:23 ID:IXc1UhAM0
僕の血液を分け与えてやるという方法もあるが、りすかと違い、僕の身体には元から小学五年生並の量の血液しか詰まっていない。
僕が貧血で倒れては本末転倒だし、できる限り使いたくない手段だ。

「りすか、正直に答えてほしい」

りすかに向き直り、僕は言う。

「さっきの大人モードのりすかで零崎人識と闘っていたとしたら、勝てたか?」

りすかは少し考えるようにしてから、

「あの人があれ以上、何の切り札も隠し持ってなければ勝てたと思う……だけど」

言葉を選ぶようにして、りすかは言う。

「わたしが最初に殺した、零崎曲識。あの人くらいのレベルになると、正直勝てたかどうかわからないのが、さっきのわたしなの」
「…………」

そこまで弱体化しているか……しかも『二回目』でそれとなると、次の『三回目』では果たしてどこまで魔力が下がるか――
いや、そもそも『三回目』があるかどうかも疑わしい。『変身』の回数に制限がない保証はないのだ。最悪、今のが最後の『変身』だという可能性もある。
こうなると、『変身』を切り札として作戦に組み込むのも難しくなってくるな……元から危惧していた事とはいえ、『変身』を無駄撃ちさせてしまったことが心底、痛い。
手切れ金というには、少々高くつき過ぎだ。
りすかが不安そうに見ているのに気付き、僕は「大丈夫だ」と努めて前向きに言う。

「何も問題などない――今回は少しばかり、相手がイレギュラーだっただけの話さ。次からはこうはいかない」

そう、こうはいかない。
僕もりすかもまだ生きている。それは『次』があるということで、次がある以上、いつまでも拘泥しているわけにはいかない。

「今はともかく、りすかは身体を休めておけ。そろそろ放送も近い。それを聞いてから、改めて動きを決めよう」
「ん……わかった」

ランドセルランドで黒神めだかと落ち合う約束をしていたが、今からでは放送までにたどり着けそうにない。
新たな協力者を得るとしたら黒神めだかはその筆頭候補なので、何とか連絡を取りたいところではあるのだが――
と、その時。
突然、店内の明かりがぷつりと消えて、再び停電状態になる。何事かと一瞬警戒しかけたが、非常灯が消えただけだとすぐに思い当たる。
非常灯は基本的にバッテリー式のはずだから、点灯しっぱなしだと一時間かそこらで切れてしまうと聞いたことがある。
そういえばブレーカーを落としてそのままだったな……
僕はデイパックから懐中電灯を取り出し、立ち上がる。

「りすか、ここで少し待っててくれ。見つかるかわからないけど、ブレーカーを探してみる」
「一人で大丈夫なの?」
「すぐに戻る。他に誰かがいる気配もなさそうだし、平気さ」

念のため、グロックは持っていくが。
一階の様子がどうなっているのかも気がかりだし、それもついでに見ておくか……蝙蝠か宗像の死体が転がっていればひとつの朗報なのだが、もしどちらも逃げたとなると後々厄介になりそうだ。
まったく、情報収集に寄ったはずのネットカフェが、僕たちにとって思わぬ戦場になってしまった。
まあ、この殺し合いを攻略するまでの間はどこにいたって戦場には変わらないのだから、文句を言っても始まるまい。
それにしても――零崎人識。
二度と会いたいとは思わないし、他の誰かと殺し合ってさっさと死んでほしいとは思うけれど、僕はあいつのことを生涯忘れはしないだろう。

――家族を守るためなら、敵を信じることも、命を預けることも、何でもねーんだよ。

あんな言葉にほだされたなんて死んでも思いたくはないけれど、『家族』というワードに対して正直、思うところはあった。
あそこまでまっすぐに、いっそ狂信的と呼べるくらいに『家族』というものを重んじるあの姿勢に僕は不覚にも、本当に本当に不覚にも、ほんの少しだけ羨望を感じてしまった。
想像でしかないけれど、りすかも同じことを感じていたんじゃないかと思う。
そうでなければいくら僕が命じたとはいえ、あの好戦的な大人りすかが危険人物をみすみす逃がすようなことはしないだろう。

592禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:48:49 ID:IXc1UhAM0
……ああなりたいとは、さすがに思わないけれど。
ただ、連中が流血で繋がっているというのなら、僕とりすかも『血』という絆で結ばれてるようなものだ。
僕の身体は半分以上がりすかの身体でできている。りすかも時々、僕の血を必要とする。
零崎人識というどうしようもないものと関わってしまったせめてもの教訓として、僕は今一度、りすかとの関係について再確認してみようと、そんなことを思うのだった。
殺し合いの最中に感傷的になりすぎだと言われそうだけど、これは僕のためであり、りすかのためでもあることだ。場所も場合も関係ない。
これももしかしたら、あれと関わったことにより狂った歯車の結果なのかもしれないけれど、そこにはもう目をつぶろう。
とりあえず一階に下りるついでに、ドリンクバーに寄ってりすかのために飲み物でも持ってきてやるとするか――



――――ピィン。



「……ん?」

何だ今の音?
そう思うと同時に、足元に違和感を覚える。何かが引っかかったような、足で何かを引っ張っているような感覚。
懐中電灯で足元を照らす。
これは……糸?
扉が壊され、ぽっかり空いた部屋の入口。その床から少し上の位置に、見えないほどに細い糸が張られていた。
部屋から廊下へ出ようとした僕の足首のあたりに、ちょうど引っかかるような形で。
とっさに足を引く。警戒が一気に押し寄せてくる。
僕が一階からここに来たときには、間違いなくこんなものはなかった。そしてこれは、明らかに『人為的に』張られている。何者かが何らかの目的をもってここに仕掛けたのは明白だった。
では、仕掛けたのは誰だ?
この部屋に、最後に入ってきたのは一体誰だったか?

「あ」

背後でりすかが声を出したのを聞き、反射的に振り返って懐中電灯を向ける。りすかは座ったまま、ぼうっとした目で一点を見つめていた。
目線の先を照らし出す。
そこにあったのはドーナツの箱だった。
部屋の中央で、ドーナツの箱が横倒しになっている。中身をすべて、座敷の上に散乱させて。
エンゼルフレンチ、D-ポップ、ストロベリーホイップフレンチ、玖渚が二つに裂いたポン・デ・リング。
そしてもうひとつ。
色とりどりのドーナツの中に、ひとつだけ明らかに形状の異なるものが混じっていた。
拳銃と同じで『それ』についての詳しい知識は持っていないが、そのあまりに無粋な、あまりにわかりやすい形に、『それ』が何なのか考えるより先に理解する。
手榴弾。
戦争兵器としては割とポピュラーな、投擲型の爆弾。
その傍らに、ピンと思しきものが落ちている。『糸』の結わえつけられた、手榴弾から外れたピンが。
目の前にあるものが、瞬間的に頭の中で統合される。
人為的に張られた糸。
転がった手榴弾。
ピンの抜ける音。


――ブービー・トラップ。



「あの――野郎ォっっ!!」



全力で足を踏み出し、グロックを放り出して飛びかかるように室内に舞い戻る。
畜生、何が「約束する」だあの殺人鬼――ていうか出端に扉ぶった斬って入ってきたのはこれを仕込むための目くらましかよ!
りすかはまだ現状が把握できていないというようにただ目を丸くしている。硬直したまま動けていない。
爆破の規模はどれくらいだ? あと何秒で爆発する? ピンが抜けてから何秒経った?
たしか手榴弾の場合、ピンが抜けてから4〜5秒で爆発すると聞いたことがある。
何とか部屋の外に放り投げ――いや駄目だ間に合わない!

「キズタ――」
「りすか、どけっ!!」

駆け寄って、渾身の力でりすかを突き飛ばす。
とっさの判断で、そのまま手榴弾の上に覆いかぶさるようにして倒れ込んだ。

「――――!!」

スローモーション化する視界の中で、りすかと目が合ったような気がした。
驚いたような、泣き出しそうな、咎めるような、そんな表情。
それに対して僕は。
いつも通りに、自信ありげに、笑って見せた。



次の瞬間。
想像を絶する衝撃が、僕の全身を突き抜けた。

593禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:49:15 ID:IXc1UhAM0
 


   ◇     ◇


 
『零崎人識』 G-6 薬局


「さっきから何探してるの? しーちゃん」
「あ? 糸だよ糸。あるいは糸みてーなもん」

ソファに腰かけて完全にくつろいでいる玖渚を放って、陳列棚やらを物色する。
兄貴からパクった糸が尽きちまったからここで補充しとこうかと思ったが、俺が曲絃糸に使えるような糸となるとなかなか見つからねーな……
玖渚からメール貰ってネットカフェに取って返した後、一階で宗像に切断された糸のうちかろうじて使えそうなやつだけ回収しておいたが、結局あれも『置き土産』に使っちまったし。
あの『置き土産』がどう機能したのか、俺に知る術はない。うまいこと起爆したか、それとも不発に終わったか。今となってはどっちでも構わねえ。
そもそもあれは、いざとなった時の『自決用』あるいは『自爆テロ用』に仕掛けておいたものだしな。完全にヤバいと思ったら、自分から糸を引くつもりだった。
想定してた使い方をせずに済んだだけ御の字と言える。
一人殺せれば重畳、二人とも殺せてたらご喝采だ。
俺が約束したのは「二度と目の前に現れない」だったし、約束違反にはなってねーよな?
それにちゃんと忠告したはずだぜ? 『零崎』にとって、殺しとは何でもない、ただの行為だと。
あんな『忘れ物』にいちいち目くじら立てられても、俺には知ったこっちゃねーんだよ。

「『爆殺』ってのは俺の趣味じゃねーんだがな……かはは、まあそれはそれで傑作か」

一通り探したが、どうやら曲絃糸に耐えるだけの糸は見つかりそうにない。
まあ、俺はそもそも刃物がメインウエポンだし、曲絃糸にしたってあまり多用すべき技術でもねーから、ないならないで構わないんだが。
物探しを打ち切って玖渚のところに戻る。ソファに腰かけたまま、そこらに陳列されていたらしき携帯食をもしゃもしゃ食い散らかしていた。
気分悪いとか言ってなかったかこいつ。

「見つからなかったの?」
「真面目に探してもいねーがな」
「ふぅん。あ、糸なら僕様ちゃんも持ってるよ」
「は?」
「ほら」

デイパックからリールのようなものを三つ取り出す。それぞれに糸がぎちぎちに巻かれていて、ぱっと見ただけでも相当な長さがありそうだ。
持ってたんなら最初から出せよ……

「僕様ちゃんはひとつでいいから、しーちゃんにふたつあげるね」

はい、とリールのうちふたつを手渡してくる。ひとつでいいからって、こいつ自身は何に使うつもりなんだか。
軽く解いてみると、普通の糸と比べて明らかに頑丈な、いかにも特殊加工が施されていそうな糸だった。あたかも、曲絃師のためにあつらえたかのような。
助かるが……なんか俺、こいつに借りばっか作ってねーか?
動画の件といい、さっきの博打につき合わせちまったことといい……借りたからって律儀に返してやるほど俺はお人好しじゃねえが、すでにいいように使われている感があるのは気のせいか?
急にどっと疲れが来て、ソファに身を預ける。
様刻と伊織ちゃんもそろそろ戻ってくるだろう。何を言ったらいいのかさっぱり思いつかねーが、今度はせいぜい口を滑らせねーように気をつけとくか。
やれやれ……今回は玖渚に伊織ちゃんに、ついでにあの魔女っ娘に終始調子狂わされっぱなしだったぜ。俺を挑発してきたあのガキなんてまだ可愛い方だ。
ああ、そういえばこれも『あいつ』から得た教訓のひとつだったっけな。
曰く、『女は身を滅ぼす』ってな。

594禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:49:42 ID:IXc1UhAM0
【1日目/真夜中/G-6 薬局】

【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康、右頬に切り傷(処置済み)
[装備]斬刀・鈍@刀語、絶刀・鉋@刀語、携帯電話その1@現実、糸×2(ケブラー繊維、白銀製ワイヤー)@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×11(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)
   千刀・ツルギ×6@刀語、青酸カリ@現実、小柄な日本刀、S&W M29(6/6)@めだかボックス、
   大型ハンマー@めだかボックス、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、デスサイズ@戯言シリーズ、彫刻刀@物語シリーズ
   携帯電話その2@現実、文房具、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、お菓子多数
[思考]
基本:戯言遣いと合流する。
 0:伊織ちゃんと様刻を待つ。
 1:蝙蝠は探し出して必ずぶっ殺す。
 2:零崎を始める。とりあえず戯言遣いと合流するまでは。
 3:黒神めだか? 会ったら過剰防衛したとでも言っときゃいいだろ。
 4:ぐっちゃんって大将のことだよな? なんで役立たず呼ばわりとかされてんだ?
[備考]
 ※Bー6で発生した山火事を目撃しました
 ※携帯電話その1の電話帳には携帯電話その2、戯言遣い、ツナギ、無桐伊織が登録されています
 ※携帯電話その2の電話帳には携帯電話その1、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※球磨川禊が気絶している間、鑢七実と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします
 ※DVDの映像は、掲示板に載っているものだけ見ています


【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]精神的疲労(小)、右手甲に切り傷(処置済み)
[装備]携帯電話@現実
[道具]支給品一式、ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ、工具セット@現実、首輪×2(浮義待秋、真庭狂犬)、糸(ピアノ線)@戯言シリーズ、ランダム支給品(0〜3)
[思考]
基本:いーちゃんに害なす者は許さない。
 0:舞ちゃんとぴーちゃんが到着するのを待とう。
 1:もう黒神めだかの悪評を広めなくても大丈夫かな?
 2:いーちゃんは大丈夫かなあ。
 3:供犠創貴と水倉りすかの処遇は、放送を聴いてから決めようかな。
[備考]
 ※『ネコソギラジカル』上巻からの参戦です
 ※箱庭学園の生徒に関する情報は入手しましたが、バトルロワイアルについての情報はまだ捜索途中です
 ※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを凡そ理解しました
 ※言った情報、聞いた情報の真偽(少なくとも吸血鬼、重し蟹、囲い火蜂については聞きました)、及びそれをどこまで理解したかは後続の書き手さんにお任せします
 ※掲示板のIDはkJMK0dyjが管理用PC、MIZPL6Zmが玖渚の支給品の携帯です
 ※携帯のアドレス帳には櫃内様刻、宗像形、無桐伊織、戦場ヶ原ひたぎ、戯言遣い(戯言遣いのみメールアドレス含む)が登録されています
 ※ハードディスクを解析して以下の情報を入手しました
  ・めだかボックス『不知火不知』編についての大まかな知識
  ・不知火袴の正体、および不知火の名字の意味
  ・主催側が時系列を超越する技術を持っている事実
 ※主催側に兎吊木垓輔、そして不知火袴が影武者を勤めている『黒幕』が存在する懸念を強めました
 ※ハードディスクの空き部分に必要な情報を記録してあります。どんな情報を入手したのかは後続の書き手様方にお任せします
 ※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。内容は完全に記憶してあります
 ※参加者全員の詳細な情報を把握しています
 ※首輪に関する情報を一部ながら入手しました
 ※浮義待秋の首輪からおおよその構造を把握しました。また真庭蝙蝠たちの協力により真庭狂犬の首輪も入手しました
 ※櫃内様刻に零崎人識の電話番号以外に何を送信したのかは後続の書き手にお任せします
 ※本文中で提示された情報以外はメールしていません
 ※零崎人識からのメールにより以下の情報を入手しています
  ・戯言遣い、球磨川禊、黒神めだかたちの動向(球磨川禊の人間関係時点)
  ・戦場ヶ原ひたぎと宗像形の死亡および真庭蝙蝠の逃亡

595禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:50:28 ID:IXc1UhAM0
 


   ◇     ◇


 
『櫃内様刻』 G-6


「あれぇ!?」

背中の伊織さんが出し抜けに裏返った声を上げたので、僕は慌てて辺りを見回す。いきなりなんて声を出すんだ。真庭鳳凰に聞きつけられたらどうする。
追われている最中なんだから静かにするよう言っておいたのに――そう思いつつ伊織さんを見ると、

「こ、これ見てください」

と手にした首輪探知機を、首に腕を回すようにして見せてくる。
さっきまで『真庭鳳凰』の文字が記されていた場所に、別の名前が表示されていた。

『零崎人識』。
『玖渚友』。

何度見直しても間違いない。さっき電話の向こうにいた二人の名前が、僕たちがさっきまでいた薬局の中にいるとこの機械は示している。

「ど、どういうことなんでしょう」

僕と首輪探知機を交互に見る伊織さん。
そうしている間に、伊織さんの携帯電話が着信を知らせる。出ると、どうやら人識からのようだった。

「人識くんですか? あのですね、今――」
『もう大丈夫だ。こっちは片付いたから戻ってこい』
「は、はぁ?」
『薬局にいるから戻ってきていいっつってんだよ。真庭鳳凰ならもう心配ねえ。わざわざ歩かせて悪かったって様刻に言っといてくれ』
「あの、何を言ってるのかよく」
『こっちで説明する。もう切るぜ』

そう言って、本当に切ってしまったようだ。途方に暮れたような顔をして、もう一度僕を見る。

「……どうしましょう、様刻さん」
「どうも何も」伊織さんを背負いなおす。「人識が戻って大丈夫って言ったんだから、薬局に戻るべきじゃないかな」
「で、でもおかしいですよ。人識くんと玖渚さんの名前なんて、さっきまで絶対なかったじゃないですか。こんな突然現れるなんて、怪しいと思いませんか?」

確かに、普通だったらありえないとは思う。
人識たちがさっきまでどこにいたのかはわからないけど、エリアひとつ分より遠くにいたのは確実だ。
機械の誤作動という線を除けば、よっぽどのことでもない限り、こんな現象は起こり得ない。
だから、よっぽどのことがあったのだろう。
あんな遺言のような言葉まで吐いたくらいだ。よっぽどのことをして、よっぽどの無茶をして、律儀に玖渚さんまで連れて、ここへ来たのだろう。

「何を言ってるんだ? 伊織さんらしくもない」

踵を返し、もと来た道を歩きはじめる。

「伊織さんのことが心配で、急いで駆けつけてきたに決まってるだろう? 何もおかしいことなんてないじゃないか」

人識はきっと、『兄』としてやるべきことをやった。最良の選択で、最善の結果を収めた。
言ってしまえばただそれだけのことだ。多分。

596禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:50:47 ID:IXc1UhAM0
【1日目/真夜中/G-6】

【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]両足骨折(添え木等の処置済み)
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ、首輪探知機@不明
[思考]
基本:零崎を開始する。
 0:曲識、軋識を殺した相手は分かりました。殺します。
 1:人識くん、何があったんでしょうか……?
 2:羽川さんたちと合流できるなら心強いのですが。
 3:黒神めだかという方は危険な方みたいですねえ。
 4:宗像さんと玖渚さんがちょっと心配です。
 5:羽川さんはちょっと厄介そうな相手ですね……
[備考]
 ※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
 ※黒神めだかについて阿良々木暦を殺したらしい以外のことは知りません。
 ※宗像形と一通りの情報交換を済ませました。
 ※携帯電話のアドレス帳には箱庭学園、ネットカフェ、斜道郷壱郎研究施設、ランドセルランド、図書館の他に櫃内様刻、玖渚友、宗像形が登録されています。
 ※DVDの映像を全て、複数回確認しました。掲示板から水倉りすかの名前は把握しましたが真庭蝙蝠については把握できていません。


【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考)
[装備]スマートフォン@現実
[道具]支給品一式×7(うち一つは食料と水なし、名簿のみ8枚)、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜28)@不明
   炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、
   輪ゴム(箱一つ分)、首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、
   鎌@めだかボックス、薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、
   誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、
   「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、三徳包丁@現実、
   中華なべ@現実、マンガ(複数)@不明、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、
   食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」
   (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う(瓦解寸前)
 0:連絡を待とう。
 1:とりあえず薬局まで戻ろう。
 2:時宮時刻を殺したのが誰かわかったが、さしたる感情はない。
 3:僕が伊織さんと共にいる理由は……?
 4:マシンガン……どこかで見たような。
 5:あの夢は……
[備考]
 ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形が登録されています。また、登録はしてありませんが玖渚友からのメールに零崎人識の電話番号とアドレスがあります。
 ※阿良々木火憐との会話については、以降の書き手さんにお任せします。
 ※支給品の食料の一つは乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。
 ※DVDの映像は全て確認しています。
 ※スマートフォンに冒頭の一部を除いた放送が録音してあります(カットされた範囲は以降の書き手さんにお任せします)。
 ※真庭鳳凰が否定姫の腕と脚を奪ったのではと推測しています(さすがに顔までは想定していません)。
 ※マシンガンについて羽川の発言から引っかかりを覚えてますが、様刻とは無関係だったのもあって印象が薄くまだブラック羽川と一致してません。
 ※夢は夢です。安心院さんが関わっていたりとかはありません。

597禍賊の絆 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:51:26 ID:IXc1UhAM0
 


   ◇     ◇


 
『水倉りすか』 D-6 ネットカフェ


焼け焦げた臭い。
吐き気を催すほどの臭いが、部屋の中に充満していた。鼻の奥に脂がまとわりつくような、嫌な臭い。
耳鳴りが酷い。何の音も聞こえない。
真っ暗で臭いの元が見えない。すぐそばに、点けっぱなしの懐中電灯が転がっている。それを手に取り、目の前のものを照らし出す。
部屋の中央、うつ伏せに寝た姿勢の人影。
身体の下から、ぶすぶすと煙のようなものが漏れ出ている。臭いの元はそれだろう。

「…………キズタカ?」

名前を呼ぶ。返事はない。動く気配すらない。
腕にそっと触れてみる。冷たい。何かが抜け落ちてしまったかのように、軽い。
生命の気配を感じない。血が流れる気配を感じない。

「…………」

両手で身体を掴み、ごろりとひっくり返す。うつ伏せの姿勢から仰向けの姿勢に転じさせる。
途端、いっそう強烈な臭いが噴き出すように鼻を突く。
その身体には、あるべきものがなかった。
胴体の部分がごっそりと抜け落ちている。いや、混ざり合っていると言った方が正しいかもしれない。
焼け焦げた肉が、破裂した内臓が、粉々になった肋骨が、それぞれない交ぜになって、大きく開いた胴の穴からこぼれ落ちていた。
焼けた部分からは赤黒い煙が立ち上っている。蒸発して霧状になった血液だ。
何が起こったのか理解できない。
何を見ているのか認識できない。
ただ、目の前にあるものがすでに人間でなく、ただの肉塊だということはわかった。

「…………キズタカ?」

そうとわかっていても、その名前を呼ぶ。
肉塊からの返事は、ない。



【供犠創貴@りすかシリーズ 死亡】



【1日目/真夜中/D-6 ネットカフェ】

【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】
[状態]魔力消費による疲労(小)、爆音による一時的な聴覚異常
[装備]手錠@めだかボックス、無銘@戯言シリーズ、懐中電灯
[道具]支給品一式
[思考]
基本:(混乱中)
 1:? ? ?
[備考]
 ※九州ツアー中、蠅村召香撃破直後からの参戦です。
 ※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです(現在使用可能)
  なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません
 ※大人りすかの時に、時間操作による魔力の回復はできません
 ※それ以外の制限はこれ以降の書き手にお任せします



[備考]
ブース内にグロック@現実と供犠創貴のデイパックが残されています。中身は以下の通りです。

支給品一式×3(名簿と懐中電灯のみ×2)、銃弾の予備多少、耳栓、書き掛けの紙×1枚、「診療所で見つけた物(0〜X)」、心渡@物語シリーズ、シャベル@現実、
アンモニア一瓶@現実、携帯電話@現実、スーパーボール@めだかボックス、カスタネット@人間シリーズ、リコーダー@戯言シリーズ

 ※携帯電話には戦場ヶ原ひたぎの番号(現所有者は零崎人識)が入っています




支給品紹介
【糸@戯言シリーズ】
宇練銀閣に支給。
「クビツリハイスクール」にて紫木一姫が所持していた品。
ピアノ線、ケブラー繊維、白銀製ワイヤーの三つがそれぞれリールに巻かれている。

598 ◆wUZst.K6uE:2015/07/05(日) 10:54:31 ID:IXc1UhAM0
以上で投下終了です

>>572の真庭鳳凰の現在位置に誤りがありました。正しくは「G-7」です

599名無しさん:2015/07/06(月) 03:25:00 ID:skU8uzrk0
投下乙です!
せっかくリアルタイムで投下に立ち会えてたのにバイトがあったのと話がおもしろすぎて感想がまとまらなかったのとバイトのせいでこんな時間になってしまった…

どこを読んでもおもしろいし一言で言うなら最高ですね!
絶体絶命の状況だったのに傲岸不遜に挑発して切り抜けた創貴すげえ。こいつほんとに小学生か
決着ついたと思って安心してたらあれだもんなあ…読んでる側も油断してたからすっかりやられた
目の前で死なれちゃって残されたりすかのこの後が不安
鳳凰さんは目的があったのにそれも否定しちゃったのが裏目に出た印象
様刻も頼りがいのあるお兄ちゃんしてるし普通にかっこいいぞ
というか人識くんデレすぎじゃね?かわいい
伊織ちゃんにブチ切れと言う名の愛情見せるあたりとか大人りすか相手に一歩も引かず啖呵切るあたりとかなんなんですかもう
それでいてさっくり殺すあたりほんと零崎
しかしスタンスがマーダーじゃないのに今回でキルスコアトップに躍り出たけど負傷らしい負傷が頬の傷だけってどういうこと
曲絃糸もばっちり使えるようになって下手なマーダーより引っかき回してくれそう
そもそも考えてみれば残ってるマーダーは禄なのがいないんですけども…

指摘というには細かすぎるような気もしますが一点
>>940
>出端に『変身』を一回、『省略』を二回使い、合間に『過去への跳躍』を一回。
とありますが、省略は40話の「時、虚刀、学園にて」で一回、124話の「Daydreamers」で二回使っているので計三回になるのではないでしょうか

600名無しさん:2015/07/06(月) 03:30:12 ID:skU8uzrk0
ミス、>>590でした

601名無しさん:2015/07/06(月) 06:39:03 ID:5hL7pefg0
投下乙です

602 ◆wUZst.K6uE:2015/07/07(火) 00:39:42 ID:hFtZk4qQO
感想&指摘ありがとうございます。

>>599
「往復」だったということを忘れていた・・・「三回」に修正します。

603名無しさん:2015/07/07(火) 16:51:53 ID:VYjYq75E0
投下乙
ネットカフェ組のあの状況を捌いた上に薬局組も絡ませてこんなおもしろい話を書けるとは…
人識の「わけのわからなさ」の再現度もうまいし他のキャラの株を落としてないのもすごい
鳳凰は…否定した時点で終わりが決まってたんだろうな…

604名無しさん:2015/07/12(日) 17:17:45 ID:Tas5HHjw0
投下乙


ぜろりんの訳の分からなさもさることながら創貴。
見事な硬直状態を演出するまでの過程も実に鮮やかでした。
詰みとしか思えない状況からの転換は素晴らしいの一言です。
友もしっちゃかめっちゃかにした癖になんと言えばいいのか、なあ!
場面が変われば真庭鳳凰。
マーダーらしからぬ躊躇いと奪い取る忍法が仇となる展開。
それでも強者としての雰囲気はあった。
おどろおどろしく淵から何度でも這い上がって来る執念と言うべきか執心と言うべきか。
しかし、零崎を相手にしたのだけが本当に運のなかったとしか。
様刻はうん、良い人。
そして場面は移ろい。
なんでぜろりんが使わないのかなーと疑問には思ってましたよええ。
でもまさかああ仕込んでくるとは思いもよらず。
まさに零崎。
鬼の所業である。
以上が感想です面白かったです。

しかしそろそろ放送と終局もといお開きも近付いて来た感じで。
ほぼ大半が集まることが確定した中での遊撃手達が揃いも揃って不穏過ぎる件。

605名無しさん:2015/07/15(水) 00:15:59 ID:g92WqP4.0
月報です
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
158話(+1) 12/45 (-2) 26.7(-4.4)

606名無しさん:2015/07/17(金) 00:14:12 ID:uVL760t60
投下乙です。

同衆の蝙蝠が骨肉小細工という
何それ完全に我の忍法の上位互換じゃんな新技を覚え立つ瀬がなくなった法王さん。
思えば静まれ我の右腕してた辺りが最盛期だったんでしょうなー。
ことあるごとに彼との同盟を理由にしてた七花のニートっぷりに拍車がかかる予感。

そしてキズタカ君
原作が原作ですけどヒーローもヒロインも少し気を抜くとあぼんしてしまうイメージです。
メインカップルが生きている人間&戯言シリーズに乾杯(完敗)
しかしこの生存者数で約半数以上が少なくとも1キル稼いでいるというのはなんというかw

607 ◆ARe2lZhvho:2015/08/10(月) 09:53:24 ID:0psMLbkI0
告知age

避難所に放送案を投下しています
ご意見等あればお願いします

608 ◆ARe2lZhvho:2015/08/17(月) 21:22:55 ID:tFRdSwtQ0
第四回放送投下します

609 ◆ARe2lZhvho:2015/08/17(月) 21:24:13 ID:tFRdSwtQ0
「時間だ、放送を始める。
 見知っている者もいるだろうが名乗っておこう、俺は都城王土という。
 もっとも、覚えてもらう必要はない。
 ただの協力者の一人と思ってもらって結構だ。
 さて、理事長と違って俺は長話をする気はないのでな、死者の発表に移らせてもらう。

 供犠創貴。
 真庭鳳凰。
 戦場ヶ原ひたぎ。
 黒神めだか。
 宗像形。

 以上、五名だ。
 これまでの傾向からすると少ないのだろうな。
 前回頑張りすぎたか?
 俺には与り知らぬことだが。
 そして禁止エリアは以下の三ヶ所だ。

 一時間後の1時から、E-5。
 三時間後の3時から、F-7。
 五時間後の5時から、G-4。

 そして引き続き報告事項がある。
 まず、竹取山の火災だが、こちらについては収束しつつある。
 しかし、人が立ち入れる領域ではないのは変わりはない。
 熱気で踊山の雪が溶け、雪崩が発生する可能性もある。
 ここまで生き長らえたたのだ、くだらない死因で死にたくないのなら麓ですら近づかない方がいいだろう。
 そのような死に方をされるのはこちらとしても不本意なのでな。
 そして西部に発生した危険区域だが、こちらは被害拡大を食い止めただけに過ぎん。
 ただし、火災と同様に近づかなければお前たちには無関係のものだ。
 全員の現在位置を鑑みれば不必要なものかもしれんが、一応警告しておこう。

 今回の放送はこれで終了だ。
 失礼する」





「ご苦労様でした」

スイッチを切ると同時、ねぎらう声がかかる。

「こんなものに苦労も何もあるまい」
「あら、私と同じ反応をなさるんですね」

くすくすと笑うのは『策士』――萩原子荻。
その反応を見た都城王土はストレートに反応を返す。

「含みを持った言い方だな」
「他意はありません。それにしても、随分とあっさりした放送でしたね」
「問うに落ちず語るに落ちる、だ。無駄なことを漏らしてしまうのは貴様にとっても不利益だと考慮したのだが」
「ええ、聡明な判断です。とはいってもあなたが放送をしたという事実だけで、参加者には考察の材料をいくらか渡してしまったことにはなるのですが」
「その俺が放送をやることになった理由は? 俺の認識では『仕事』はまだ全て終わっていないはずなのだが」
「私ではなく理事長ですよ」

ちら、と子荻が目線を動かした先にいるのは一人の老人だ。
二人のやり取りを黙って見ていた不知火袴は、話題の主導権を自分に移されたことを察すると咳払いを一つし、口を開いた。

「お二人の意見を伺いたい用件ができてしまったものですので」


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