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新西尾維新バトルロワイアルpart6

1名無しさん:2013/06/10(月) 21:34:44 ID:r8aCgNWo0
このスレは、西尾維新の作品に登場するキャラクター達でバトルロワイアルパロディを行う企画スレです。
性質上、登場人物の死亡・暴力描写が多々含まれすので、苦手な方は注意してください。


【バトルロワイアルパロディについて】
小説『バトルロワイアル』に登場した生徒同士の殺し合い『プログラム』を、他作品の登場人物で行う企画です。
詳しくは下の『2chパロロワ事典@wiki』を参照。
ttp://www11.atwiki.jp/row/


【ルール】
不知火袴の特別施設で最後の一人になるまで殺し合いを行い、最後まで生き残った一人は願いが叶う。
参加者は全員首輪を填められ、主催者への反抗、禁止エリアへの侵入が認められた場合、首輪が爆発しその参加者は死亡する。
六時間毎に会場に放送が流れ、死亡者、残り人数、禁止エリアの発表が行われる。


【参加作品について】
参加作品は「戯言シリーズ」「零崎一賊シリーズ」「世界シリーズ」「新本格魔法少女りすか」
「物語シリーズ」「刀語」「真庭語」「めだかボックス」の八作品です。


【参加者について】

■戯言シリーズ(7/7)
 戯言遣い / 玖渚友 / 西東天 / 哀川潤 / 想影真心 / 西条玉藻 / 時宮時刻
■人間シリーズ(6/6)
 零崎人識 / 無桐伊織 / 匂宮出夢 / 零崎双識 / 零崎軋識 / 零崎曲識
■世界シリーズ(4/4)
 櫃内様刻 / 病院坂迷路 / 串中弔士 / 病院坂黒猫
■新本格魔法少女りすか(3/3)
 供犠創貴 / 水倉りすか / ツナギ
■刀語(11/11)
 鑢七花 / とがめ / 否定姫 / 左右田右衛門左衛門 / 真庭鳳凰 / 真庭喰鮫 / 鑢七実 / 真庭蝙蝠
真庭狂犬 / 宇練銀閣 / 浮義待秋
■〈物語〉シリーズ(6/6)
 阿良々木暦 / 戦場ヶ原ひたぎ / 羽川翼 / 阿良々木火憐 / 八九寺真宵 / 貝木泥舟
■めだかボックス(8/8)
 人吉善吉 / 黒神めだか / 球磨川禊 / 宗像形 / 阿久根高貴 / 江迎怒江 / 黒神真黒 / 日之影空洞

以上45名で確定です。

【支給品について】
参加者には、主催者から食糧や武器等の入っている、何でも入るディパックが支給されます。
ディパックの中身は、地図、名簿、食糧、水、筆記用具、懐中電灯、コンパス、時計、ランダム支給品1〜3個です。
名簿は開始直後は白紙、第一放送の際に参加者の名前が浮かび上がる仕様となっています。


【時間表記について】
このロワでの時間表記は、以下のようになっています。
 0-2:深夜  .....6-8:朝     .12-14:真昼  .....18-20:夜
 2-4:黎明  .....8-10:午前  ....14-16:午後  .....20-22:夜中
 4-6:早朝  .....10-12:昼   ...16-18:夕方  .....22-24:真夜中


【関連サイト】
 まとめwiki  ttp://www44.atwiki.jp/sinnisioisinrowa/
 避難所    ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14274/

155『』 ◆mtws1YvfHQ:2013/10/12(土) 17:10:43 ID:WyfW4qFA0




教室らしき部屋の中。
その唯一無二の教卓の上。

「ニャオ」

と、鳥籠の中の真っ白な猫が鳴いた。
それを膝に置いた女は笑う。

「不安かい、ご主人様が?」
「ニャ」

何か不愉快に感じたのだろう。
猫は籠の隙間から、一心に女へと爪を伸ばす。
だが届かない。
近いはずの距離があたかも数千里以上あるかのように。
何れだけ腕を伸ばしても、ほんの僅かに届かない。
届きそうで届かない。
それを見て女は笑う。

「まったく――――下らねえ。誰も彼も有象無象も等しく平等なのに。何だってそんな執着するんだい? もし何だったらご主人になりそうな別の誰かくらい五万と紹介するぜ?」
「ニャオン!」

と声を張り上げなお爪で引っ掻こうとする様を見詰め、女はため息を吐いた。

「ま、これで多少動くだろうし、いいけどさ。それにそのご主人様が本当に君を必要とするなら、こんな鳥籠なんて意味ないぜ?」
「ナウ?」
「『無効脛』を適当に弄って作っただけの籠だ。設定的な話を言えば、『大嘘憑き』の効果と君の逃走の二つ防ぐ目的でした使ってない。どっちかって言うと過負荷寄りの君ならその内、抜け出せるかも知れないぜ?」
「ニャーン」
「かもだけどさ――しっかし今回の行動からして、わざわざする価値があったかどうか。良い結果になると良いなーと思ってやってるんだぜ、これでも。あ、いや違うか。こう言う時は」

猫を見る目はそのまま変わらず。
道端の石ころでも見ているように。
言った事すらもどうでもよさそうに。
何もかもどうでもよさそうに。
それでいて、

「悪い――んだったっけ? そう言えば良いか。いや、悪いか――それこそどっちも何も、変わらねえのになあ……」

悪そうに、笑った

156 ◆mtws1YvfHQ:2013/10/12(土) 17:13:26 ID:WyfW4qFA0


以上です。
特に問題ないと言う事なので所々増量して投下させて頂きました。
何時も通りにはなりますが、感想や妙な所などございましたらお願いします。

それと今回のこれは是非とも、新しく、と言う事でお願いします。
一旦区切った方が読み易い気がしますので。
お手数おかけします。

157名無しさん:2013/10/13(日) 00:19:29 ID:ISltf4YM0
投下乙です
括弧つけないクマー来た!と思ったらそんな理由で括弧つけるんですねw
とはいえ羽川は猫が消えたし八九寺は起きてるしでこれは一波乱ありそう
続きが楽しみです…と言いたいとこですがおいしく調理させていただきます
Wiki編集の件も了解しました

158名無しさん:2013/10/13(日) 15:38:35 ID:XDo7jMgE0
投下乙です

クマー、お前って奴はwww
さて、既に上で言われているが波乱が起きそうな予感がひしひしと

159 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:40:49 ID:6E.iE47s0
投下します

160 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:42:32 ID:6E.iE47s0



◆ 9 一日目/F8 市街地(夕方〜)  ◆


真庭鳳凰は焦りの色を浮かべていた。
否。直に浮かばせるほど、彼はしのびとしての素面を崩している訳ではないが
――それでも謂われのない焦燥感に駆られているのは事実である。

黄昏に煌く鋏状の『ソレ』を銜えた少女に銃口を向ける。
しかしそれまでと同様に、少女はその『殺意』を分かり切ったように身体の軸をずらす。
幾回か繰り返すうちに無駄だと悟った鳳凰は弾の節約、及び余計な銃声を鳴らさない意味合いを兼ねて、撃ちはしなかった。
それをいいことに、か。
少女は逃げる鳳凰を追いかける。
舌を打ちつつも、迎撃をしたりはせずに、大人しく鳳凰は退散に臨んだ。

「■■――■■■■■――……!!」

嘆きとも呻きともとれる叫びは、まさに『鬼』のようである。
塊のような殺意。誰がそう称したか。実に的確な殺気。
殺すためだけに存在し、殺すことだけを生業とする――零崎一賊の典型的な例。
無桐伊織、改め、零崎舞織はそれでも『鳥』を逃すまいと後を追う。
抑えつけていた反動。
殺し合いという絶好の舞台でなお、不殺を貫き通していた分の反動。
遺憾なく解放された――始まった『零崎』は止まる術を知らないかのように暴走を始める。

無桐伊織の暴走。
それは思いのほか長く続いた。
様々な要因が絡み合い、今なお暴走を抑えることが出来ないでいる。
――事の発端は西条玉藻の、惜しくも最期の言葉となってしまった『ひとしき』の四字だ。
この言葉により、――唯でさえ血の臭いで昂りつつあった伊織の衝動が、解放されてしまう。
そこまでが先の一連の流れ。
されど、本来であれば伊織の暴走とは一時的なものに過ぎなかった。
少なくとも西条玉藻を『殺した』ことで、正気に戻る可能性は十二分にあった。
――死色の真紅との約束を破ってしまったこと。
――対等でありたかった零崎人識との人間関係を崩してしまったこと。
それらによって、伊織の歯止めはつくはずである。

しかしそこに不幸なことに。
新たな魔の手が攻めの手を加えてきた。
この事によって、西条玉藻が零していた『ひとしき』の身に何かあったのでは? という疑念が引き続いてしまったのだ。
銃弾を撃ち放った人間はもしかしたらこの少女の味方なのかもしれない――。
零崎として、それを見過ごすわけにもいかなかった――それが零崎舞織の無意識下での思考回路。
故に今、彼女は鳳凰を追っている。
追うことで、何かがわかるのかもしれない。
分からずにいた人識の行方がつかめるかもしれない――。

鳳凰は、伊織の思いなどまるで知らず。
撒けるまで逃げ続ける。
彼はしのびとして、逃げることにはある程度の自負を抱いていた。
逃げに徹する。
そのことは決して恥ではない。
無茶かもしれないことに意味なく挑む奴の方が、よほど馬鹿だ。

こうして組まれた距離の縮まらない『鬼』ごっこ。
『鳳凰』と『鬼』。
仮想の生物を象った二人の、至極人間的でつまらない、駆けっこである。

161 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:42:54 ID:6E.iE47s0


◆ 11 一日目/F8 市街地(夕方〜)  ◆



真庭鳳凰が迎撃をしない理由は、突き詰めれば保身だ。
先の西条玉藻の時もそうであったが、強大な敵を無理して自分が倒す必要はない。
半ばそのために、実験開始当初、鑢七花と契約を結んだと言っても過言ではない。
七花がどれほど屠ってきたかは定かではないが、七花の確かな実力には、偽りなく一目置いている。
骨董アパートを倒壊させた橙色――想影真心にしろ、
スーパーマーケットで鮮魚コーナー貪りつくしていた口尽くしの少女――ツナギにしろ。
鳳凰では手を出せそうになかった輩だって、周りから勝手に滅んでいけば、それに越したことはない。
漁夫の利、まさしく彼が目指すものは、その通り。
尤も、生かすに値しない、他の者の手を煩わす必要もない――貝木泥舟のような非力な人間には、容赦なく鉄槌を下しにいくが。

実際、鳳凰からして手を出せずに詰まっていた西条玉藻だって呆気なく眼前で殺された。
望ましい結末である。そこまでは、何の批難も湧かなかった。

ただ、彼は一つ失敗を犯した。
西条玉藻が死に、『この隙に』、『こいつもついでに』程度に伊織に手を出したのは、些か軽率が過ぎる。
無論のこと、玉藻の力量、気迫とも言えようものを多いに越す伊織を、嘗めてかかった訳ではない。
警戒に警戒を重ね、ひっそりと影から討つように標準を定めた。

繰り返すが鳳凰は慢心をしていた訳ではない。
彼が彼女の正体を知っていたら、銃口の標準をむざむざと放しただろう。

殺意に目覚めて、殺気に目敏く、目を逸らしたくなるほどの気迫を有する、ニット帽の殺人鬼。
彼が手を加えようとしていたのは、まさにその人である。
ならば――銃口を向けた時の殺意に気付かないわけがない。
殺意ありきの弾丸、炎刀・『銃』なら尚更だ。

加えて言うのであれば、彼自身が仕組んだとはいえ、タイミングも悪かったのだろう。
図書館に着く前の彼女ならばいざしらず――暴走へ繰り出してしまった彼女には、手の施しようがない。
ベテランの殺し名だって、手を焼くに決まっている。
鳳凰は強い。
格段に強い。
『神』の名を欲しいままに頂戴するに値する人間だ。
しかしそうは言っても、相性というものは絶対にある。
僅かな殺意の機微を察知する『零崎』相手には、決め手になる攻撃が、まるで打てない。

「くぅ……!」

撒くに、撒き切れない。
中々に、しつこい。
そうは言っても始まらない――だからこそ、彼は飽くことなく逃げ続ける。
一瞬でも視界から外させることに成功すれば、しのびたるもの隠密に徹し、さながら影のように姿を眩ますことはできるのに!

だが。
唐突にその逃亡劇も終止符が打たれようとしていた。

メラメラ、と。
ゴウゴウ、と。
目の前の景色が真っ赤に染まる。

火事だった。
竹林が、音を立てて燃え盛っている。
火元が明らかでないほど広範囲にわたり燃えているようだ。
市街地から竹取山の境界は火を以て、これ以上なく厳格に引かれている。

どうするか、左右に逃げるか――そこまで考えて、改め直す。
迷っている時間は、もはやない。
背後を見ると、僅かに立ち止まったこの隙にも『鬼』は迫りくる。

――止むをえまい……か?

確かにこのまま逃げ続けたところで、堂々巡りには違いない。
彼は握っていた首輪探知機、及び銃の類を仕舞い、日本刀を取り出した。
使いなれた得物である。得物とするに不足はなかった。
構える。

見たところ、相手は口に銜えた鋏を得物としている。
間合いが極端に短い得物。
ならば、無防備に間合いに入れさせないようにすれば、問題はない。
短絡的な発想かもしれないが、正攻法。
卑怯卑劣を売りにしている忍者であろうとも、正攻法を取ってはならないという掟など存在しない。

162 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:43:52 ID:6E.iE47s0

「■■■■――■■■■■■■■■――――■■■■■■■■■■■■■――――!!!!!!!!」

立ち止まり、相手の動きを観察する。
文字にもならない叫びをあげている様子の通り、動きは直線的だ。
隙を突こう、或いは作ろうと思えば、近接武器であれば、決して不可能ではない。
禍々しいまでの気迫こそが気がかりであるが、見た限り唯一にして最大の気がかりに違いはないが、仕方あるまい、と呟いて。

「――――!」

無言のままに、薙ぐ。
その動作を分かり切ったように、伊織は避け、間合いに這入り込もうとする。
先ほどまでの動きとは比べものにならないほどの流動的な動きに、声を洩らさず驚嘆するが、しかしそれまで。

「はぁ!!」
「―――……■ ■■」

伊織を襲ったのは単純な膝蹴りだった。
鳳凰は予め、日本刀は避けられると想定し、
『一喰い(イーティングワン)』では間に合わないにせよ、蹴り易い体勢ならばを作ることは可能だった
ただ単にそれのこと、それだけに過ぎないが、思いのほか覿面に、攻撃は相手の懐に入る。

鳳凰にしてみれば偶然には違いないが、零崎とはあくまで対殺意に特化した殺し名だ。
『殺意なき弾丸』が『殺意なき弾丸』として零崎に通用する一因に、
『殺意なき弾丸』が直接的に相手を殺害する手段とはなりえないことが挙げられる
あれはあくまで、ゴム弾に過ぎない。何弾も当て続けたら、もしかすると内出血程度の傷を与えられるが、所詮その程度。
今回の鳳凰の蹴りとて、また同じ。この攻撃で相手を殺そうだなんて、端から思っていない。
まさか――虚刀流じゃあるまいし。
尤も、鳳凰からしてみれば、この蹴りだってまともに入るとは思ってもいなかったが。

「まあ、おぬしのように我を見失った輩を相手取るのは、初めてではないのでな」

一言零し。
吹き飛び地面に転がった伊織に追撃を喰らわそうと、駆ける。
斬、と刀を振り下げるも、どこに力を入れたらそうなるのか、腹から飛び跳ね、避けられた。
半ば予定調和とはいえ、しかしどうだ嘆息を禁じ得ない。
改めて、逃亡劇を続けていた頃から感じていたが――こいつはどうすれば『殺せる』のか。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――――■■■■■■!!!!!!!!!!

先の蹴りのように『攻撃』を加えるのは正直に言って作業にも等しいことだ。
同じ暴走にしたところで、同じ意味不明な咆哮にしたところで、橙――想影真心と比べると劣るというもの。
慣れるというには、あの時は一方的に弄ばれてしまったが、
それでも暴走している伊織を前に立ちはだかることが出来るのは骨董アパートでの一件が何かしら功を奏している。

しかし、だ。
『死』に至らせるまでの『致命傷』を与えるには、どうしたものか。
『殺意』を持ち合わせた『攻めの手』は全て感知されて、何かしらの対処を取られてしまう。
――現状、鳳凰には一つの考えしか、思い浮かばない。


「かくなるうえは――!!」


拷問。
しのびお得意の痛めつけ。
最終手段は、立てなくなるまで、避けられなくなるまで、その身の力を搾りきる。


鳳凰はこちらに襲いかかる伊織に向きあい、忍法『断罪円』を繰り出した。

163 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:44:46 ID:6E.iE47s0


◆ 12 一日目/F8 火災現場(夕方〜)  ◆



結論から言うと。
真庭鳳凰の甚振りは、見事成功する。

しかし、彼にも痛めつけを行使したくない理由があった。
鳳凰が、そのじり貧とも言える耐久戦に持ち込みたくなかった理由は明快。
あまりこの場において体力を使いたくなかったからだ。
無論無桐伊織一人に固執して体力を使うという馬鹿らしさ、というのもあるが、今彼らが戦っている場所は、火事場の前だ。
単純に、純粋に、暑い。
暑さというのは、ただそれだけで体力を奪う。
過酷な運動をしようものなら、体内の水分も枯渇し、意識が朦朧とする可能性だってある。
彼はしのび。
火事の最中であろうが、ある程度の時間ならば満足に動けるだろう。
が、それもある程度の話だ。
度が過ぎれば、幾ら『神』を冠しようが彼も人間。悪条件が続けば一層疲労は溜まるに違いない。
彼はそれを危惧した。
なにしろ、『決定打』を打てない相手である。
少しずつ、少しずつ――搾りとるようにしか、相手の体力を奪えない。
幾度か交えて分かった事だが、『断罪円』も『一喰い』も殺意を伴うために易々とまではいかないが避けられてしまう。
――二十番目の地獄が最期に発掘した殺人鬼は伊達ではないということか。

それでも、徐々に優勢は鳳凰に傾き始めた。
例え肉を抉ることはできなくとも、皮を剥ぐことができなくても、息を止めさせることはできなくとも。
キャリアの差、ともいうべきか。
本来あった圧倒的実力差を迫力で誤魔化すには、いよいよ伊織の気迫では物足りなくなってきたということか。
想影真心の殺意、西東天のカリスマとも換言できる佇まい。
奇しくも彼の心を鍛え直すには、あまりにも適役である。

「……ぅぐ――っ!」
「――――」

蹴飛ばす。
蹴飛ばす。
蹴って、蹴って、蹴った。
それ以上のことは何もない。
リーチも長く、より威力の高い蹴りを優先して浴びせ続けた。

『殺意』を抜いた鳳凰相手に、伊織の技術は未熟すぎる。
暴走して我をなくし、『鬼』としての才覚に身を任せて、一般人ならざる動きを見せた伊織もそこまでくればただのボロ雑巾だ。
一度型に嵌れば、彼が想像していたよりも容易く使命を全うできそうである。
かといって、気を抜くことはせず、あくまで冷徹に淡々と。

こちらの体力の消耗とて馬鹿には出来ないほどだが、伊織も既に満身創痍だ。
倒れこむ伊織の脇腹を蹴りつけ、なおも動けないのを見て、――如何ようにするか、思考する。
ここで刀を取り出して、彼女はどのように反応するだろうか。
殺意に呼応するように、それこそ文字通りの火事場の馬鹿力と言わんばかりに再駆動し始めたら、それはもはや手に負えない。

さすがにここまで痛めつけたら――とも考えたが、撤回する。
そもそも脚を折れば、反撃なんて不可能なのではないか。
その上で、背後の焔の中へ捨て入れればいい。

臥せこんだ伊織の脛の上から、踵を振りおろした。
所詮は元女子高校生の、若木の枝のように細い脚は、ぽっくりと折れる。
片側だけでなく、もう片側も。
しのびに容赦も情けもない。この程度の所業、わけもない。
悲鳴を上げる伊織の腕を片手でもちあげ、背後の炎と向きあい、いざ投げ込もうとしたその時。


「――――そこにいるおぬし。顔を出せ」


鳳凰は、恐ろしく冷たい声を出す。
後方の物影に向かい、静かで、『鬼』よりも冷酷な『不死鳥』の声を。

鳳凰の声を受け。
ガサゴソと物音を立てて、学生服の少年が現れる。
鳳凰に振り返る隙すらも与えず――少年は言葉を発した。


「……やれやれ、伊織さんは何をやってんだ――――かっ!!」


言葉尻を待たず、少年は何かを投げたのがわかった。
咄嗟に警戒を高め、いざとなったら左手に握った伊織を盾にしようかと思ったが、その心配はいらぬ心配だったようである。
まず、鳳凰の身体まで届いていなかった。
鳳凰の『影』に刺さっただけで、彼の肉体には傷一つ付いていない。蚊にも劣る『攻撃』――。

ふん、手練ではなかったか――。
だとしたら殺すだけだ、と内心ほくそ笑むように、伊織を炎の中に投げ入れた。



そこで物語は進む―――――――――――――或いは、止まる。

164 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:45:22 ID:6E.iE47s0



◆ 13 一日目/F8 火災現場(夕方〜)  ◆



鳳凰が伊織を炎の中へ投げ込むことはなかった。
違う。
投げ入れることが『できなかった』。
動けない。
動かせない。
まるで『縛られたように』、身体の自由が、或いは不自由すらも操作できない。


「お、おぬし――――何をっ!」


ここに来て初めて、苦悶とも言える表情を浮かべた。
『身体を動かせない』、この事実は、身体的よりも精神的に抉られる。
率直に言うなら、真庭鳳凰は焦りの色を浮かべて、焦燥感に駆られているのだ。


「炎っていうのはつまりは光なんだよ。光があれば影が出来る――小学生でも習うことだ。
 ……いや、習うまでもなく、もっと幼いころに理解をしてもいいことか」


対して、先ほどまでの鳳凰がそうだったように冷酷に、少年――『破片拾い』は常識を説いた。
太古より火は光としても用いられてきた。
その事実は、今だって、『バトル・ロワイアル』の最中であれ、変わらない。
影あるところに光があるように、光あるところ影にはある――――!

背面に炎を燃やしていた鳳凰から前、つまり様刻が対峙していた方面には、鳳凰の影が伸びている。
その影には一本。
たった一本の矢が刺さっていた。
影谷蛇之の魔法《属性『光』/種類『物体操作』》の『影縫い』。
どうしようもなく決定的に炸裂し、決着はついた。


「まあ、このタイミングを見計るのに随分と待ち構えてみたもんだが――伊織さんは見るも無残になって」


耽々と語りながら、様刻は鳳凰の背後に迫ってくる。
――どくん。
胸が鳴る。
――どくんどくん。
胸が高鳴る。
殺される、――殺されるのか?
我が今ここで? こんなにも呆気なく、それもこんなわけのわからないトリックで?

そんなの、
そんなのは――

「御免こうむる――――!!」
「……悪いけど、きみの意見をそのまま貫くほど、僕もお人好しじゃない」


様刻は鳳凰の腰に据えてあった日本刀を抜く。
妖し、と輝く日本刀の煌きをかざしながら――躊躇いもなく様刻は鳳凰の左手首を断つ。
かつては愛する妹の為にと平気で妹の骨を折った男。
その辺りの容赦は、捨てる時には、それこそしのびのように切り捨てる。
落とされた左手に握られていた伊織を抱きかかえるように手にとって、静かに地面に横たえさせた。それでも刃を収めない。

次いで、右足を切り落とす。
『魔法』の効果で、身体が傾くことはない。
これから伊織を背負って逃亡する際、追いつかれないようにするための予防策だった。

どうせだから、鳳凰が背負っているディパックも頂戴するかと思ったが、
魔法で固定されているため中々うまく引き抜くことが出来ない。
仕方ないか、と呟くと両腕を斬り落とす。するとディバックもパタンと音を立てて地へ落ちた。

様刻は右足、両手を拾い上げ、炎の中へ投げ込む。
余程の無茶をしない限り取りに行くのは不可能に思える。
実際その光景を見つめる鳳凰は歯を軋らせた。
不愉快を隠しきれずに、何度も何度も、幾度も幾度も歯を軋らせる。――そしてそれしかできない自分を忌む。
何か言いたげな鳳凰を意に介すことなく、静かに語る。


「別に今回は推理小説をやりたいわけでも、得意顔で語る探偵役を担いたいわけじゃないからね。
 ネタバレ編とか言って、きみに語る予定なんてないけれど、しかし一つ言えることは」

一言。
間を溜めてから、言い放つ。


「残念だったね。鳳凰さん――」


まあ、僕は殺人犯になってビデオに映りたくはないから殺しはしないけれど。
と、伊織を背負い、鳳凰のディバックを奪ってすたすたと歩き出す。
ただそれだけの邂逅。
酷く決定的で、酷く簡素な――物語の移行。
まるでこの物語に欠けていた破片を、様刻はつなぎ合わせたかのように――。
『辻褄合わせ(ピースメーカー)』――――――――!


こうして、『鬼』と『神』の駆けっこは。
『人間』の登場によって、さながら御伽話のように、泡沫に消える。

165 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:47:00 ID:6E.iE47s0


◆ 8 一日目/図書館(夕方〜)  ◆


櫃内様刻は恐れの色を浮かべていた。
目の前に放置されたそれは、紛れもなく死体である。
見慣れたというには病院坂の二人に対する口惜しさが湧いて出るが、ひとまず置いておく。

目の前にあるのは、頸動脈を的確に裂かれた少女の死体。
少女の外見は、緑がかった短髪にまだまだ未発達な肢体を包むあちこちが切り裂かれた何処かの制服。
無桐伊織に襲われたにしては首以外の外傷が目立たないが、これより前に何かしらあったのだろうと推察する。
一応様式美として、脈を測るも当然ながら脈打つものはなく、刑事ドラマでやっているように瞳孔が開いた瞳を、瞼で閉ざさせた。
こうして見ると可愛らしい顔をしているな――と思ったが、同じ年頃の妹、夜月に比べるとまだまだだ、と様刻は内心で思う。
どちらにしたところで、少女・西条玉藻は既に死んでおり、可愛い可愛くないの話をしている場合ではないのだが。

思いのほか、冷たく身体は動く。
あれほどの殺気にあてられて――その上死体までも眼前に臥せられているのに。
『破片拾い(ピースメーカー)』・櫃内様刻の脳内はするべき作業を淡々とこなそうと命令を下している。
自分でも可笑しくなるほどの――実際可笑しくて、こんな状況の中でも自嘲を含んだ崩れた笑みが浮き上がった。
人の死に悼むことが出来たら、どれほど気持ちが楽になるだろうに。そんなことを思い起こしながらも、それでもやはり、作業は続く。
こうすることで、いつもの自分を保とうとする。
『破片拾い』――『能力を最大限に使い最良の選択肢を選ぶ』――いつもの彼を、演じる。
冷静に、人死にが起こっても動じることなく、落ち着きを以て対応していた。

しかし。
恐れの色を浮かべていたこと自体は嘘ではない――。
分かり易い伊織の変貌に戸惑って、どうにもできない死の予感を感じたのは確かだ。
件のことは幾度と伊織は言っていた。
それでもここまでのものだったか――。
図書館で味わった、鮮明な『殺意』を噛みしめる。

それに、何よりも。
『好きな人』を殺してなお、生への欲求がここまであった自分にも、僅かな苛立ちと恐れが募る。
帰って妹に会いたい様刻がいる。帰って恋人に会いたい様刻がいる。
――だけどどこか、病院坂黒猫が死んだ今、殺してしまった今、
死んでしまってもしょうがないと諦観を帯びた様刻がいるのも間違いなかった。
それが彼が犯した殺人の重さ。――――人の命の重さ。持ちきれないほどの罪悪感。

様刻らをこんな場所に誘った主催は許せない。
決意自体は本物だ。斜道卿一郎研究施設で刻まれた決意は、本当なのだろう。
病院坂の為に生き残るという気持ちもまた然り。
第一彼はかなりシンプルに生きている人間だ。やると決めたからには、必ずやる人間である。
決意に嘘偽りを上乗せできるほど、彼は複雑に作られていない。

けれどその決意は――病院坂が死んだことに混乱したまま、表明されたものである。
あの時。
研究所にて声をあげて泣いたあの時。
胸中が如何ほどのものだったかは、それほど察するに難くない。
術中にはまったとはいえ、『好きな子』を殺し、それで研究所に居た女の子に八つ当たり紛いの行動に出るもいとも簡単に返り討にされ。
弱さを知り、何もできない、何もできなかった、誰も幸福にすることのできなかった
――希望の破片を拾うことなく粉々に砕かれた様刻の、無力感に伴う投げやりなものだったとしたら。

今の彼に、言うほど生きた心地はしない。
さながら推理小説のように、憎さと言う感情一つで人をあっさり殺してしまった彼に、今を生きる余裕など果たしてあるのか。
それこそ我が物顔で得意げに道徳を説きはじめる探偵がいなかっただけ、彼にとっては大いに救いだったのだろうが、人殺しは人殺し。
手に残るこの感触を忘れない。
ナイフで滅多刺しにした、あの瞬間を。
思い返すたびに、彼は自己嫌悪に陥るのだ。

それでもその時までは、それを抑え込むことがまだ可能であった。――第二回放送までは。
時宮時刻を殺せば、それできっと二人も彼自身も満足する。
それが彼の生きる証であり、唯一の動機だった。
――その思い込みは、解消させられもせず、わだかまりを残したまま、彼の暗闇の中へと消える。

166 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:47:24 ID:6E.iE47s0
今では仇討ちさえも許されない。
時宮時刻は死んだ。櫃内様刻の与り知らぬ場所で、ばっさりと殺されたのだ。
――彼は何を目標に生きていけばいい。何を選択して生きればいい。何を選択肢として挙げればいい。
分からない分からない分からない分からない――――。
それこそ病院坂黒猫の言い分に近いが――今の櫃内様刻は、この『分からない』が無性に怖くて仕方がなかった。
自分は何を道標に生きている?
どうして、それすらも『分からない』?
計画通りに。最良に生きることこそが彼の数ある生き様だったはずなのに。


――――――――果たしてこれが、最良か? ――――――――果たしてこれが、最善か?


返事が出来ない。
答えを出せない。
自己同一性が揺らぎ始める。
思えばそれは、第二回放送が終わった直後から今に至るまで続いている。
伊織の「時宮時刻を殺した人を突き止めて、それからどうするつもりなんですか?」
という問いに答えられなかった辺り、彼としてはあるまじき姿の片鱗は見せていた。
さながら、考えることさえも億劫になり、生きることさえも辛くなったかのように。
今の彼が『時宮時刻を殺した者』を探し回っているのは、恐らくは――否、確実に先の伊織の発言からきている。
伊織が単純に「これからどうしますか?」――とだけ訊ねたならば、様刻は何もしなかっただろう。

例えば仮に、病院坂黒猫を自らの手で殺してなかったならば、ここまですり減らすことなかっただろう。
例えば仮に、時宮時刻を自らの手で殺していれば、ここまで疲弊することはなかっただろう。
しかしそれも――現実が「自分が最良と思った選択肢の末路」であることを省みれば、
甚だ意味がない仮定であることは誰よりも様刻が理解しているつもりだ。

最良も何も、今の彼には存在しなかった。
彼自身が愚の骨頂と蔑む『徒労』に費やしていただけだった彼に、これ以上何が出来る? 何を求める?
頑張れば出来ないことはない――彼はそう信じていた。
しかしどうだ。
蓋を開けてみれば、病院坂を守ることも、仇を討つことも、何一つ満足にできない非力な彼に、これ以上何が出来る?
これは数沢六人を痛めつけることとは違う。
或いはそれを契機に起こってしまった殺人事件とも違う。
舞台も、環境も、彼の立ち位置も何もかもが違う――そんな中で、どうすれば、どうすればいいんだろう。

今の彼には、『今まで通りの櫃内様刻』を演じることが手一杯だった。
そうすることで、強制的に自らを雁字搦めにする――僕にはやるべきことがあるんだ、と。死ぬわけにはいかない、と。
一種の呪いのようなものだ。
確かにそれは、心を落ち着かせるにも最適だった。
住み慣れた家に居るように、心が沈静化し、空いた空洞を見て見ぬ振りが可能である。
「今の自分って何なんだ?」そんな空洞を。

改めて。
目の前の少女の遺体を見下ろして。
嗤った。
自らを。
動じない『いつも通りの自分』を。


嗤った。

167 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:47:48 ID:6E.iE47s0


◆ 10 一日目/F7 図書館(夕方〜)  ◆


櫃内様刻が無桐伊織を追いかけようとした理由は、突き詰めれば何もない。
伊織その人が忠告した通り、逃げたっていい。逃げることが、一番状況に適している。
だけど彼には、逃げて何かをしたいという、『選択肢』そのものが見つからなかった。
時宮時刻を殺した人間を突きとめたって、薬にも毒にもならないのは、彼自身頭では理解しているのだ。
見つけて、警察に送りつけることはできない。そもそも彼自身もまた殺人犯である。二人仲好く監獄行きなんて笑えない冗談である。
ならば八つ当たりを込めて殺害するか? ――しかしその殺害に、何の意味はない。
ただその様をビデオに撮られて自分の立場をより一層怪しめるだけだ。
彼があくまで『時宮時刻』に固執するのは――そうすることで、何もできない自分を有耶無耶にさせる。たったそれだけの、意図。
確かにこの『操想術』がかかったままの瞳は不便に違いないが、
だからといって時宮時刻を殺した人間を突きとめたって、事態は好転しない。

そして。
今の彼から『時宮時刻』という要素を抜いたら何が残るだろう。
守るべき存在は死んだ。愛する者はここにはいない。生き残ろうと努力したところで、彼の選択は空回りを続ける。
そもそも、伊織や人識、時刻を例に挙げるまでもなく、ここに居る中で自分が最弱であろうことは、なんとなく察しがついていた。
戦闘能力はなくとも、玖渚友には頭脳がある。
宗像形には暗器があって、阿良々木火憐には並はずれた格闘センスがあったようだ。
様刻にはそんなものはない。
部活動をやっている人間には敵わないだろうと自負している人間だ。
正直なところ、生き残れと言われて生き残れると思えるほど、環境はよろしくなかった。

だから彼は、『選んだ』。
無桐伊織を追うことを。
心の中ではごちゃごちゃとお誂えな御託を並べて。
それがさながら最良の選択肢であるかのように幻視させて――。

もしかしたら伊織――或いは襲撃者に殺されるかもしれない。
一抹の懸念が頭をよぎる。
よぎったが、それでも様刻は意に介すことはなかった。
「死んでもいいや」――さながらツタヤのレンタル延滞でもするかのような気軽さで、命を捨てようとしていたのである。
生きる目的が見えないのなら、死んだって変わらないんじゃないか――?
『破片拾い(ピースメーカー)』――もしくは、『自殺志願(マインドレンデル)』。


やると決めたら。
後は早かった。
携帯電話を見る。
と、画面が真っ暗だった。

――そういえば、と。
様刻らは図書館に主催者に関与する第三者がいないか怪しんでいた。
下手に関わるつもりは毛頭なかったし、関わっても良さそうな相手だったとしても、ある程度の観察を踏まえてからである。
影から窺うようにしている最中、電話が鳴られたら大変傍迷惑な話だった。
そんな漫画みたいな奇跡的タイミングで電話が鳴るとは思ってもいなかったものの、万が一の可能性がある。
様刻と伊織ともども、図書館に留まる間は携帯の電源を切っておこうという話に収まった。
だからこそ宗像の発信は届いていなかったのだ。尤も、図書館に第三者など見当たらなかったので無意味な行為だったと言えるが。

さて改めて電源をオンに切り替える。
掲示板には幾つか更新があるが、彼が見たのは目撃情報スレだ。
別段、何かを期待して開いたわけではない。
あくまで玖渚友との連絡を取ろうとしたついでに開いただけだったが、何やら有用な情報が載っていた。

168 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:48:13 ID:6E.iE47s0


『 4 名前:名無しさん 投稿日:1日目 夕方 ID:IJTLNUUEO
  E7で真庭法王という男におそわれた拳銃を持ている。危険
  鳥のよな福をきている、ものの乃記憶を読めるやしい
  黒髪めだかと組んん出いる可能性あり
  付近にいるのは注意されたしい               』


何やら誤字脱字が多量に含まれているが、読めなくはない。
要するにE7にて真庭鳳凰(名簿から察することが出来る)という鳥のような服を着た者が、銃を持って徘徊しているそうだ。
生憎様刻は襲撃者の姿を見たわけではないが、銃と言う点と位置関係上、彼が襲撃を仕掛けた可能性が重々にある。
それがわかっただけで、実際彼には対策と言う対策を持ち合わせていない――強いて言うならこの『矢』ぐらいなもの。

だからこそ、話は元の鞘に収まるように、玖渚友に電話しようということになる。
様刻が持っていない情報を、玖渚友は何処かからか持ち出した、と言う可能性は中々否めない。
眼前で、あれほど自由に電子の中で踊り狂っていた玖渚のことだ。
鳳凰――或いは違う襲撃者のことを何か掴んでいるかもしれない。
掴んでいなかったとしても、様刻が会うより前に伊織と行動を共にしていた玖渚ならば、
伊織が暴走していた時の対処法を、もしかしたら教えてもらっているかもしれない。
どちらとも、聞くだけ無駄と思えるほど、可能性の低い話であったが、万が一のことも考えて様刻は電話する。

そもそも。
元より図書館に着き、DVDを回収した時点で電話をする予定はあった。
DVDが有ったことの報告と、玖渚友、及び宗像形が無事に斜道卿一郎の研究施設を離れることが出来たかの確認。
そこらへんの雑多な目的を兼ねての、電話でもある。

アドレス帳から玖渚友へ電話を発信する。
PiPiPi、と暫しの機械音を聞いた後、直ぐに玖渚は電話に応じた。
彼は今の自分におかれた立場を報告しながら、即刻使える情報を交換しあう。

169 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:48:39 ID:6E.iE47s0



◆ 14 一日目/F8 市街地(夕方〜)  ◆


結論から言うと。
玖渚友は先ほど櫃内様刻が欲していた情報をほぼ有していた。

真庭鳳凰の情報――どころか全参加者の詳らかな情報。
それに伴い、無桐伊織の暴走の止め方こそわからなかったものの、暴走の主因となる要素は把握できた。
尤も、その情報を駆使ことはなかったものの。
しかしそのお陰もあり、櫃内様刻は真庭鳳凰を出し抜く――とはいかずとも無桐伊織を救出させるだけの行動を組み立てることが出来た。
彼は確かに死んでもいいとは考えたものの、わざとらしく死に急ぐわけではない。
便宜的に立てた『時宮時刻を殺した人間』を探すという目的がある。
――鳳凰から難を逃れたからには、その命を続けてすり減らしていこうと思う。
その辺りの考え方はシンプルで、極論「生きれるなら生きるが、死んだら死んだ。とやかく言うつもりはない」。そう言うことだ。

「ひどいですよぅ……なんでもっと早く出てきてくれなかったんだすかぁ……」
「それはきみが邪魔で中々この『矢』を投げれなかったからだろう」

無桐伊織を背負いながら、櫃内様刻は前を見て歩く。
『今は無桐伊織を運ぶ』という目的がある。
目的を見つけたならば、彼は動かないわけにはいかない。
その考えは、その場限りのものでしかないことに目を瞑りながら。

疲弊した様子の伊織を労わるというわけでなく。
耽々と、変わらぬ調子で下山しながら様刻は歩く。

「ていうかきみこそ、いつから正気に戻ってたんだよ」
「あんだけ蹴られたら嫌でも正気に戻りますって……様刻くんは女の子の気持ちがわかってないですねえ……」
「んなもんわかるか」

――そう。
伊織は途中で暴走から意識を戻した。
甚振りからのあまりの苦しさに、戻らざるを得なかった。
だからこそ、鳳凰は一方的な拷問をするに至れたのだが、結果的にどちらであったところで、こうなる結末は変わらなかっただろう。

「しかしどうしましょうねえ、両足。これじゃあお嫁にいけませんよ」
「他に心配することはあるだろう」
「いやまあ、なんかすでに両手が義手ですから。今更と言われればそれまでなんですよね」
「……まあ、なんだ。帰ったらまた義足、作ってもらえよ。なんだっけ、罪口商会――だっけ」
「人識くんに合わせる顔がありませんよ……。双識さんと人識さんしか残ってないない現状でこの様じゃあ」
「手がなくても、足がなくても、顔ならあるだろ。会ってやれよ。――それに僕と零崎……人識は顔馴染だぜ。何とか言ってやる」

力ない笑いで伊織は返すと。
苦痛を顔に表しながらも、様刻に問う。

「そういえば、どうして逃げなかったんですか?」
「ん?」
「わたし言いましたよね、確か。――わたしが暴走したら、気にせず逃げてくださいね、って」
「ああ、言われたな。人だって殺していた。僕だって逃げようかと思った――けど」
「けど?」
「――玖渚さんに電話して、勝てる試合だと確信したから」
「へえ? 玖渚さんはなんて?」
「掲示板と僕達の位置関係上、それはきっと『法王』――真庭鳳凰って奴の可能性が高くてね。
 そして僕の持っている『矢』と鳳凰さんは、決して相性が悪いわけではない。……ってね」
「随分とざっくらばんとした確信もあったもんです」

まあ、助かりましたよ……、と。
伊織は一言つぶやくと、まどろみに浸りはじめた。
伊織は知らない。
様刻が『逃げてもやるべき選択肢』がないと、まるで相手を眼中に入れてない考えで挑んだことを。
実際のところ、玖渚友は『勝てない相手ではない』と伝えたわけではない――『負けないかもしれない相手』と伝えている。
似ているようで、意味合いとしてはかなり違ってくる。
玖渚は「挑んだら高確率で返り討に遭うけれど、それでもいいなら挑むのもありだよ」その様な意図で伝えたはずだ。
その意図は、結論から言うと様刻は察している。察していて――鳳凰と対峙した。

170 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:49:02 ID:6E.iE47s0

知らぬが仏――知らぬが鬼と言うべきか。
今に限りは様刻の胸中を察してやれるほど伊織は万全ではない。
両足を折られ、自分のことをただ考えるしか彼女には出来なかった。


「すいませんが、ちょっと疲れちゃいました。背中借りますね……」


そう言って、やがて様刻の返事を待つことなく、伊織は穏やかな寝息をたてはじめる。
『鬼』には思えぬ可愛らしい『人間』のもの。
それを聞いて、様刻は一人、聞いていないであろうことを分かっていながら答える。


「……じゃあ、僕は治療なんてたいそれたことはできないけど、診療所か薬局に送ってみるよ」



それが今の様刻の『最良の選択肢』だからと――――――――




「伊織さん、これが僕のやるべきことなのか?」




「――なんてね。おやすみなさい」




【1日目/夕方/F−8】
【無桐伊織@人間シリーズ】
[状態]両足骨折、睡眠、様刻に背負われている
[装備]『自殺志願』@人間シリーズ、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×2、お守り@物語シリーズ、将棋セット@世界シリーズ、バトルロワイアル死亡者DVD(18〜27)@不明
[思考]
基本:零崎を開始する。
 0:……。
 1:曲識、軋識を殺した相手や人識君について情報を集める。
 2:そろそろ玖渚さん達と合流しましょうか。
 3:黒神めだかという方は危険な方みたいですねえ。
 4:宗像さんと玖渚さんがちょっと心配です。
[備考]
 ※時系列では「ネコソギラジカル」からの参戦です。
 ※黒神めだかについて阿良々木暦を殺したらしい以外のことは知りません。
 ※宗像形と一通りの情報交換を済ませました。
 ※携帯電話のアドレス帳には箱庭学園、ネットカフェ、斜道郷壱郎研究施設、ランドセルランド、図書館の他に櫃内様刻、玖渚友、宗像形が登録されています。


【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康 、『操想術』により視覚異常(詳しくは備考) 、伊織を背負っている
[装備] スマートフォン@現実
[道具]支給品一式、影谷蛇之のダーツ×9@新本格魔法少女りすか、バトルロワイアル死亡者DVD(11〜17、28)@不明
   炎刀・銃(回転式3/6、自動式7/11)@刀語、デザートイーグル(6/8)@めだかボックス
[道具]支給品一式×6(うち一つは食料と水なし)、名簿、懐中電灯×2、コンパス、時計、菓子類多数、輪ゴム(箱一つ分)、
   首輪×1、真庭鳳凰の元右腕×1、ノートパソコン@現実、けん玉@人間シリーズ、日本酒@物語シリーズ、トランプ@めだかボックス、鎌@めだかボックス、
   薙刀@人間シリーズ、シュシュ@物語シリーズ、アイアンステッキ@めだかボックス、蛮勇の刀@めだかボックス、拡声器(メガホン型)@現実、首輪探知機@不明、
   誠刀・銓@刀語、日本刀@刀語、狼牙棒@めだかボックス、金槌@世界シリーズ、デザートイーグルの予備弾(40/40)、
   「箱庭学園の鍵、風紀委員専用の手錠とその鍵、ノーマライズ・リキッド、チョウシのメガネ@オリジナル×13、小型なデジタルカメラ@不明、
   マンガ(複数)@不明、三徳包丁@現実、中華なべ@現実、虫よけスプレー@不明、応急処置セット@不明、鍋のふた@現実、出刃包丁@現実、
   食料(菓子パン、おにぎり、ジュース、お茶、etc.)@現実、おみやげ(複数)@オリジナル、『箱庭学園で見つけた貴重品諸々、骨董アパートと展望台で見つけた物』」
   (「」内は現地調達品です。『』の内容は後の書き手様方にお任せします)
[思考]
基本:死んだ二人のためにもこの殺し合いに抗う(瓦解寸前)
 0:伊織さんを診療所か薬局に連れていかせる
 1:玖渚さん達と合流するためランドセルランドへ向かう。
 2:時宮時刻を殺したのが誰か知りたい?
[備考]
 ※「ぼくときみの壊れた世界」からの参戦です。
 ※『操想術』により興奮などすると他人が時宮時刻に見えます。
 ※スマートフォンのアドレス帳には玖渚友、宗像形が登録されています。
 ※阿良々木火憐との会話については、次以降の書き手さんに任せます。
 ※支給品の食料は乾パン×5、バームクーヘン×3、メロンパン×3です。
 ※首輪探知機――円形のディスプレイに参加者の現在位置と名前、エリアの境界線が表示される。範囲は探知機を中心とする一エリア分。

171 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:49:34 ID:6E.iE47s0



◆ 15 一日目/F8 火災現場(夕方〜)  ◆



「――――我が――――我が!」


五分後。
真庭鳳凰を縛りつけた魔法が解け、自然と鳳凰の体は崩れた。
右足がなく、左足だけで立ち続けるには、些か難しい。
というよりも、自然解除されるとは思っていなかったので、心の準備が足りなかったという具合である。


     「こんな場所でくたばるわけには―――――!!」


地面の味を口に噛みしめ。
様刻たちが消えていった方に視線を向ける。
この五分の間に、淡々と離れてしまったようだ。
少なくとも、片足の鳳凰が追い付くには、随分と離れてしまっている。
這うように、左足を蹴ることで、身体を動かす。
屈辱で、ならなかった。


   「―――――ぅぅぅぅぅぅぅぅううううううううううううゔゔゔ」


何をするにしても、足が必要だ。
とはいえ今までの足は、様刻が燃やしてしまった。
まだ肉が残っているかもしれないが、這って炎の中を拾いに行くのは無理だ。
だから彼は、ここに来るまでに殺し、そして身体を残している否定姫のいるレストランへと身体を進めている。
コンパスなど諸共奪われてしまったが、なんとなくの方向や地図の図面は覚えている。
――こんなことなら、貝木泥舟の身体を残しておくべきだったかと後悔するも、後の祭り。


       「――――我は!!」


忍法『命結び』。
匂宮出夢の『一喰い』、真庭川獺の忍法『記憶辿り』を失った今。
彼に残された技はそれしか残らない。
まあ、それにより手足欠損による流血も、痛みも、慣れたものではあったが、苦しいには違いない。


              「死なぬ!!!!」

それでも彼は諦めない。
生を。
願いを。
しのびを。
どれだけ今が恥さらしな格好だとしても、手足をもがれても。
彼は『不死鳥』――幾度だって地獄の底から舞い戻ってみせよう。
羽ばたいてみせよう。
まだまだ時間はかかるかもしれないが、それでも彼は諦めない。
否定されても。
屈辱を浴びても。
なお、屈しない。
もう二度と、屈してやるものか。
――彼は謳う。


          「真庭を滅びさせたりはせん!!」


――彼は呪う。


     「いずれ借りは返すぞ――――――――少年ッッ!!」



立つ鳥。
巣に戻らん、と。



【1日目/夕方/F−8 火事場付近】
【真庭鳳凰@刀語】
[状態]身体的疲労(極大)、精神的疲労(極大)、左腕右腕右足欠損
[装備]矢@新本格魔法少女りすか
[思考]
基本:優勝し、真庭の里を復興する
 1:――――
 2:レストランまで這う。否定姫の身体を頂く
 2:虚刀流を見つけたら名簿を渡す
 3:余計な迷いは捨て、目的だけに専念する
[備考]
 ※時系列は死亡後です。
 ※首輪のおおよその構造は分かりましたが、それ以外(外す方法やどうやって爆発するかなど)はまるで分かっていません。
 ※記録辿りによって貝木の行動の記録を間接的に読み取りました。が、すべてを詳細に読み取れたわけではありません。

172 きみとぼくのずれた世界  ◆xR8DbSLW.w:2013/10/24(木) 00:51:40 ID:6E.iE47s0
以上、投下終了です。
このたびはご迷惑をおかけしたことを、最後にもう一度お詫び申し上げます。
それでは指摘感想等ありましたらよろしくお願いします。

173 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:11:39 ID:fnbUZSQ20
投下乙です
卑怯卑劣を売りにしている忍者であろうとも、正攻法を取ってはならないという掟など存在しないの一文に思わず納得
実際未熟な伊織ちゃんと鳳凰じゃあ鳳凰に分があるよなあ
このまま伊織ちゃん南無な流れかと思ったら登場した様刻がかっこよすぎる
図書館内での様刻の葛藤もすごくらしかったしやっと彼らしくなったというか
容赦なく手足切り落とすのはそれが必要なら躊躇いなくやる男だもんなあ、様刻
一方で鳳凰さんが大変なことになったけど…これレストランまで辿り着けるのかな

…ちなみに、氏の前回のSSでの腐敗と今回の山火事を現在地に反映させたらとんでもないことになりました(しろめ)
ということで自分も投下させていただきます

174君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:13:49 ID:fnbUZSQ20



真実は残酷だ。





折れず曲がらずよく切れる――それが虚刀流であり、おれであったはずだが今もそう胸を張って言えるかどうかとなると口ごもってしまう。
さっき被っちまった泥、否、ここははっきりと毒と言っちまった方がいいだろう。
それに侵されたおれはひたすら逃げた。
地図なんて見ていない、見る余裕なんて全くなかったが方向はこっちで間違いないはずだ。
あのとき否が応にも見えちまったからな。
周りの建物やら地面やら生えていた植物やらあらゆるものがどろどろになっていくのを。
それがおれに向かって押し寄せるように近づいてきたから背を向けて走った。
どろどろが広がるよりおれが走る方が速かったからなんとかなっているが全身に走る痛みはそうもいかない。
早い段階で水分を含んだ着物の大部分を脱ぎ捨てたことで身軽になれたのはよかったが、剥き出しだった手足は今もずきずきと痛む。
考えるのが苦手なおれでもわかる、こいつは致命的だ。
錆びるなんてものじゃない、腐食されているようなものだ。
草鞋や手甲――おれにとっての鞘があれば少しはましかもしれないがとうに脱ぎ捨てていたからな。
途中から固い地面がいつの間にか柔らかい土になり木々が生い茂っているのに気づいたおれは躊躇なく幹を駆け上った。
元々おれが島猿だってのもあるが、枝を飛び移っていった方が足にかかる負担は少ないだろうと思って。
とにかく『これ』をなんとかできる場所かものが欲しかった。
もちろん、『そこ』に人がいたときや『それ』を持つやつがいたら排除して奪い取るつもりで。
再びこみ上げてくるのを感じたおれは滑りそうになりながらも口の中のものを吐き出した。
全く、めんどうだ。

175君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:14:15 ID:fnbUZSQ20



忍者というものは強い。
つくづく実感させられた。
『魔法使い』にしろ『魔法』使いにしろ基本的には魔法の能力の尊大さにかまけているせいで肉体強度はそうでもないというパターンが多かった。
実際りすかも小学五年生という年齢であることを差し引いても体を鍛えているとは到底言えない。
僕が事件を持って行かなければ普段はコーヒーショップの二階に引き籠って魔導書の写しをしているようなやつだったしな。
探せば武闘派の魔法使いもいるかもしれないが。
そもそもどうして僕がこんなことを考えているかといえば。

「おい、今どの辺だ?」
「もうすぐ広い道に出るはずだから今はE-4とE-5の境目くらいだろう。半分は越えてるはずだ」
「お、その通りだな。見えてきたぞ」

こうやって忍者に担がれて移動しているからだ。
正確に言うなら、僕とりすかの二人を両肩に担いで、だ。
小柄な小学生二人と言ってもそれぞれ体重は30kgはある。
つまり、少なくとも60kgの荷物を持って移動している状態なのだ。
それも長時間担いだ状態でいて木々の間を走り抜けるのではなく跳び抜けているのだから。
忍者――真庭蝙蝠、全く、恐れ入る。

「僕たちを担いで疲れたりしてないのか?ランドセルランドに危険人物がいる可能性もゼロじゃないんだしここらで休んでもいいと思うが」
「きゃはきゃは、そんなんで疲れる程やわな作りはしてねえよ。それにこの身体はよくできてるようだしな」
「大したやつだよ。別に時間に余裕がないわけでもないし休んでも構わないんだが蝙蝠がそう言うなら――いや、少し止まる可能性が出てきた」

蝙蝠が小首をかしげるのも無理はない。
何故なら、僕のポケットに入れておいた携帯電話が振動を始めたからだ。
画面を開くが、表示されていたのは当然、僕の知らない番号だった。
左右に見通しの良い大通りで人影が見えないのを確認して僕は電話に出る。

「もしもし」
『もしもし』

知らない声だった。

176君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:14:31 ID:fnbUZSQ20



「情報を整理しておきたいのだけれど、零崎さんが目下探してるのは供犠創貴、水倉りすか、それに真庭忍軍の真庭蝙蝠、でいいのよね?」
「ああ、そうだが漢字が同じだからってさりげなく目下(もっか)を目下(めした)にしてんじゃねえ。何の意味があるんだよ」
「最近やっていなかった言葉遊びよ。そういえば私ったらシリアスモードに入っちゃったせいでこういう遊び全然やってなかったなって思い出して」
「今明らかにいらねえ場面だろ」
「でもやれるときにやっておかないと次がいつくるかわからないじゃない」
「少なくとも今はそういうことを求められる場面じゃねーと思うぞ」
「案外読者のニーズってわからないものよ」
「メタ発言が露骨すぎるぞ」

まあ、そんなわけでこの私、戦場ヶ原ひたぎの出番なのだけれど。
といってもできることなんて限られているし、今もっぱらやっているのは詳細な情報交換。
私のターゲットである黒神めだかの情報を仔細に伝えたり逆に零崎さんのターゲットが誰かを聞いたり。
また、放送で呼ばれていない知り合いの話をしたり。
正直な話、羽川さんが私の知ってる羽川さんならあんな書き込みをするとは思えなかったから、伝えるのに若干の抵抗があったのは事実だけれど。

「それにしても真庭忍軍って言いにくいわね、まにわにって呼んでもいいかしら」
「俺に聞くなよ……それにしてもなんだそのゆるキャラみたいな名前は」
「あら、案外こういう名前の方がウケがよかったりするのよ」
「さっきから思ってたんだがあんたはどこの業界人だ」
「しがない女子高生よ」
「俺の知ってる女子高生は……いや、小学生であんなんがいたからだめだな」
「ロリコンが」
「そんな趣味はねー」

阿良々木君ならもっとおもしろい返しをしてくれるんでしょうけれど、零崎さんに期待するのは酷というものね。
……なんて、何を期待しちゃっているんだか。
全く、私としたことが協力者を得たことで気が緩んでいたようね。
危ない危ない。
ああ、そういえば。

「零崎さんの携帯には誰の番号が登録されているんでしたっけ?」
「あんたからもらった電話がちゃんと兄貴のとこにいってるなら、兄貴と欠陥製品と伊織ちゃん、で終わりだな」
「……そう。ならそろそろ動き始めてもいい頃合いかもしれないわね」
「?何がだ?」

私は告げる。
有無を言わせぬようはっきりと。

「私がこれから電話で何を言っても決して声を出さないで。できれば物音も」

177君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:15:27 ID:fnbUZSQ20



「もしもし」
『もしもし』
「あなたは誰ですか?」
『そちらからは名乗らないのね』
「素性がわからない人に名前を明かすなんて愚の骨頂だとは思わないですか?」
『ええ、その通りよ。だからこそ私も名を明かしていないのだし』
「お互い懸命ですね」
『つまりは馬鹿ではないということがわかったわね』
「……何が言いたいんですか?」
『少なくとも組んで損をする相手ではなさそうということよ』
「なるほど、納得しましたよ」
『あら、協力してくれるのかしら?』
「馬鹿ではないとわかっただけで協力する価値があるかどうかは別ですよ。あなたがどちら側かすらわからないのに」
『まあ、それもそうね。少なくとも私は殺して回る側じゃあないわ』
「口ではなんとでも言えますからね。一応僕は第三回放送を目安にランドセルランドにいる予定ですが」
『そうやって堂々と居場所を言えるというからには簡単に死なない自信はあるようね。それに場所も好都合のようだし』
「好都合と言うと?」
『掲示板の書き込みを見ていただければわかるとは思うわ』
「掲示板とは?」
『あら、知らなかったの?携帯電話があるのなら誰でも接続できると思ったのだけれど』
「いや、事情があって接続する余裕がなくて……このままだと知らないでいたでしょうから助かりました」
『お礼を言われるほどのものじゃないわよ。そういえば私も2時間程チェックしていなかったし』
「ならばどうせ遅かれ早かれ知ることでしょうから、代わりと言ってはなんですが伝えておきますと僕はこの後黒神めだかという人と合流する手筈になっています」
『…………彼女、既に人を殺していたはずでは?』
「その情報は先程おっしゃっていた掲示板から?」
『ええ。誰かが第一回放送までに死んだ人の死に際の映像の一部をアップロードしてるみたいで』
「そうですか……ですが彼女は今はこの殺し合いを止めるために動いているはずです」
『……その口ぶり、確証はあるのかしら?』
「はい、僕は実際に彼女と会って話をしましたから」
『そういうことなら会っても大丈夫そうね。……ただ、時間はまだまだかかるかもしれないけれど』
「一応、この電話があるから連絡が取れないということはないでしょう。最後になりましたが名前を聞いても?」
『ここで拒否なんてできるわけがないでしょう。私の名前は羽川翼よ』
「僕は供犠創貴です。では後でお会いできるといいですね」
『供犠さんね、会えるのを楽しみにしていますわ』

通話終了。
友好的に見えて隙のない相手だったが……

「おい、今のはなんだったんだ?」
「電話だよ、見ればわかるだろ」
「その電話ってのが俺はよくわからねえんだが」
「離れたところにいる相手と話をする手段、ってなんでこんな常識未満のことすら知らないんだ」
「ああ、忍法音飛ばしと同じ原理か」
「こっちを無視するな」
「それで、さっき言ってた掲示板ってのは?」
「今から確認する。というかそれもお前が無駄な質問をしなければ確認し終わっていたことなんだが」

178君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:15:47 ID:fnbUZSQ20
まさか蝙蝠が電話を知らないとは思わなかったぞ……
戦術面では申し分ないのにどうしてこう知識が偏っているんだ。
ともかく、携帯電話からネットに繋げると件の掲示板のページが表示された。
こんな簡単に繋げられるならとっととやっておくべきだった……なんて暢気なことは言っていられなくなる。
羽川翼の書き込みは探し人・待ち合わせ総合スレのもので間違いないと見ていいが、そんなものは些細な問題に成り下がった。
よりにもよってりすかが零崎曲識を殺した映像が出回っているだなんてさすがに想定外だ。
しかもすぐ下のレス(零崎双識か零崎人識が書き込んだものだろう)でしっかりと僕と蝙蝠の名前まで入っている。
何も知らない者が見れば確実に僕たちが危険人物の集団に見られてしまうのは間違いない。
口ぶりからして映像しか見ていなかった羽川翼にも僕の名前を伝えてしまった以上合流するのは得策じゃないな……
使われているIDだけでも6つあったしそれぞれに同行者がいれば情報を見たものは二桁に及んでもおかしくはない。
更に性質が悪いのが、黒神めだかのことまで記載されていることだろう。
直接彼女から聞いた話から鑑みるに書き込んだのは戦場ヶ原ひたぎか?もうそれも些細な問題だが。
誤字だらけのレスの方は……

「なあ蝙蝠、真庭鳳凰について聞きたいんだが……」
「鳳凰?どうした藪から棒に」
「物の記憶が読めるらしいが本当か?」
「記憶が読める?そいつは川獺の野郎の忍法で鳳凰の忍法は断罪炎と命結び……ああ、ならできなくもないが……だとするとどういう状況で……」

一人で勝手に考え始めてしまった。
一応心当たりはあるみたいだが……実際物の記憶が読めるというのが本当ならかなり使える手段にはなるはずだ。
ただ、黒神めだかと組んでいるというのは十中八九ブラフだろう。
彼女には仲間がいないと言っていたし、場所がE-7となると遠すぎてあのあとにできた仲間だとは考えづらい。
それに何より、相手を襲うような人間と組むとも思えないしな。
彼女の手持ちは元々僕の手持ちだったから通信機器はないだろうし……

「キズタカ」
「どうした、りすか」

僕と蝙蝠のやり取りを終始見ていたりすかが突然黙り始めたことに怪訝に思ったのか僕に声をかけてきた。
いや違う。
視線は僕の後ろに向いている。
ぶつぶつと呟いていた蝙蝠もいつの間にか静かになりりすかと同じ方向を見据えている。
ようやく僕も気づく。
木々がざわめいていた。
それも不自然に。

179君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:16:06 ID:fnbUZSQ20



何か考えがあるんだろうからと言われた通り黙ってやった零崎人識クンだがさすがに最後のだけは聞き捨てならなかったぜ。

「おい、今の電話どういうことだ?」
「そう目くじらを立てないで頂戴。私も半分驚いているのよ」

驚いていてあの受け答えは咄嗟にできるもんじゃねーと思ったけどな。
肝の据わりっぷりは一般人の女子高生だっつーなら信じられないくらいだが。

「保険がてら聞いておくが、あいつらと繋がっていたわけじゃねーんだよな?」
「もちろんそんなわけないでしょう。あなたも最初に掛けなおしているところを見ていたじゃない」
「ならどうやってそいつらに繋がったのか聞きたいところなんだが」
「どうせこれからはできない方法だし、教えてあげるわよ」

しかしどうしてこう一々上から目線なんだか。
死んじまったらしい彼氏さんに同情したくもなるぜ。

「できれば電話番号教えてもらえると助かるんだがな」
「それくらい構わないわよ。で、種明かしをしてしまえば私の携帯にはランダムで繋がる番号が二つ登録されていただけの話よ」
「そのうちの一つが繋がったわけか」
「そういうこと。最初にかけた方はコール音すら鳴らなかったから電波が届かなかったか電源が切れていたか……」
「破壊されたって可能性もあるな」
「やはりそう考える?」
「こういうときは最悪の可能性を常に考えておくもんだろ」
「でしょうね」
「それで、話はまだ終わってないんだが」
「聞きたいことは大体想像できてるわよ。何から話せばいいのかしら」
「他は大体理由が想像できるから聞くのは一点だけだな」
「どうして羽川さんの名前を騙ったか、かしら?答えは簡単、彼らが黒神めだかと繋がっているかもしれないから。しかも彼女、今はどうやら正気に戻っているようなのよね」
「ああ、なるほどね……今は正気、ねえ……確かに映像のあれは正気じゃあなかったもんな」
「その彼女と繋がっているかもしれない彼らに私の名前なんて出したら一気に警戒されてしまったでしょうし。それに、目的地がちょうどランドセルランドのようだったから」
「そいつは確かに好都合だ。奴らを一網打尽にできるってことだからな」
「でしょう?できればこのままランドセルランドに向かいたいところなのだけれど……」
「そいつはちょっと俺の我儘を優先させてもらいたいね。診療所で待ち合わせてるやつは車持ちだから結果的には早く着けるだろーしよ」
「……なら診療所に向かいましょうか」
「それにしても大したもんだ、電話口でいきなり大胆な勝負に出られるなんてよ。他人の名前出したのだってとっさのことだったんだろ?」
「どちらともとれるようにあらかじめぼかしておいたから。それに、嘘をつくときはそれが嘘だとばれても貫き通せばいいだけの話よ」

ひたぎちゃん、師匠が詐欺師だって聞いても信じられるぞ……
おい、誰だ俺が名前呼びするのおかしいとか言ったやつは。
俺は基本的に名前呼びだぞ、原作参照してこい。
それにしても、と俺の考えていることを知ってか知らずか、いや知らねーんだろうけど、ひたぎちゃんは続ける。

――今更正気に戻ったところで許されるとでも思ってるのかしら

やれやれ、まだまだ油断はできそうにねーな。

180君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:17:37 ID:fnbUZSQ20



肩が軽いのは気のせいではないだろう、うん。
落ち着いて考えてみれば言いだしっぺはぼくではなく後部座席に座っている人間未満なのだったのだから。

――そういえば、裸えぷろんという単語を最初に出したのは禊さんでしたっけ

静まりかえった車内で七実ちゃんがぽつりと呟いたこの発言によりぼくには晴れて情状酌量の余地ができた。
推定有罪なことには変わりないけども。
一方で逃げ道を塞がれた人間未満はというと、

『………………………………』

顔面蒼白だった。
あーあ、かわいそうに。
こういうときはさっさと吐いてしまえばいいのに。
相手が哀川さんだったらとっくにボディブローを浴びてしまってるだろうからこんな考えができるのかもしれないが。
まあそういう状況じゃなければしぶといもんなあ、人間って。
しぶといというか往生際が悪いというか。

「禊さん、隠し通せるわけがないんですから今言ってしまった方が楽になれますよ」

うわー、七実ちゃんの言い方が完全に尋問だ。
真宵ちゃんを膝枕しているせいで七実ちゃんと球磨川はかなりつめて座っているけど、そのせいで余計に恐怖が増してるというか。
ぼくはそれをおくびにも出さないけど。
油断してガブリとかよくあるからね。
今は安全運転安全運転。

『……わかったよ』

お、ついに観念したか。

『僕がお手本を示せばいいんだね』
「ちょっと待て」

思わず言葉が漏れた。
お手本を示すってどういう意味だ。
お手本ってことは後々誰かにやらせるということであって……え?

「わかっているではないですか」

いや、七実ちゃんは何もわかっていない。
というかこんな狭い車内でやられても困る。
主にぼくが。
きっと七実ちゃんも。
そして真宵ちゃんが目を覚ましたら色んなショックで再び昏倒してしまう。
あと翼ちゃんに至っては目覚めた途端に見た光景がこれじゃ金切り声をあげてもおかしくない。
本人以外迷惑かかりまくりじゃねえか。
もしもぼくが運転ミスってそこらの木に激突でもしたらどうしてくれるんだ。
気づけ、人間未満。
って何エプロン取り出してるんだ。
支給されてたのかよ、それ。
普通なら外れ支給品とかいうやつになるんだろうけど、今のこの状況じゃ大外れもいいとこだぞ。
あ、まずい。
学ランのホックに手をかけてる。
このままじゃ誰得な光景の出来上がりだ。
やめろ。
やめてくれ。
やめてください。

181君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:18:23 ID:fnbUZSQ20

「禊さん、まずはえぷろんがどういうものかをまずは知りたいのですが」

服を脱ごうとしていいた球磨川を制止するかのように七実ちゃんが助け舟を出してくれた。
ぼくの考えなど知らない七実ちゃん本人は助け舟を出した自覚とかはないだろうけど。

『エプロンってのはね、料理をするときにつけるもので……』
「前掛けですね、見ればわかります。ですがその前に裸という文字をつけるだけでどうしてそう後ろめたいものになるのでしょうか」

甚だ尤もな疑問である。
この疑問にどう答えるか次第でぼくたちの命運が決まるわけだが、少しだけ寿命が延びたようだ。

「見えてきたよ、診療所だ」

今度は無事到着できたようだ。
車を近くにつける。

『よし、なら僕がまずは危険人物がいないか見てくるよ!』
「あからさますぎるぞ」
「いっきーさんも行っていいんですよ?もちろん彼女たちには何もしませんから」
『そう、ならよろしくね。さあ、行こうか欠陥製品』
「お、おい、勝手に決めるなよ」

もしもこのタイミングで真宵ちゃんが目を覚ましたら大変なことになるが、人間未満を一人でほっとくのも危ないし……
渋々、診療所に行くことに決めた。
できるだけ早く戻れば問題ないだろうと諦めて。

「どんな言い訳を考えてくるのか楽しみにしていますね」

車を降りるときに聞こえた声にぼくたちの背筋が震えたことは言うまでもない。





みなさんこんばんは。
みんなのヒロイン八九寺真宵です。
なんて言う余裕もなくなりました。
今私は大人のお姉さんに膝枕されています。
状況だけ聞けば羨ましいシチュエーションなのでしょうが、そうではないのです。
聡明な読者のみなさまならおわかりでしょうが、この方は既に二人の人間に手をかけていたのですから。
そんな方の着物(しかも返り血ついてるんですよ!)で膝枕とか心休まるわけがありません。
怖いです。
恐怖しか感じません。
しかも羽川さん(殺されてしまったはずなのに生き返ってます。わけがわかりません)が気絶しているようなので狭い車内で実質二人きりです。
密室で、二人きり。
……犯罪的な響きしかしません!
いえ、羽川さんもいるにはいますけども。
逃げられるものなら逃げたいです、というかとっくに逃げてます。
今こうやって膝枕に甘んじている以上、逃げられないのはお察しの通りなんですが。

「お二人もいなくなったことですし……真宵さん?」

急に呼びかけられました。
びっくりしましたけど我慢です。
悲鳴を上げそうにもなったし体が震えそうにもなりましたけど我慢です。
この方とお話ししてはいけないような気がしてならないのです。
私の一方的な思い込みかもしれませんが、とにかく怖いのには変わりありませんし。

「寝ているふりをしているのはわかってるんですよ。起きないと殺し……は駄目ですね、何もしないと言ってしまいましたし」

182君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:19:03 ID:fnbUZSQ20

今さらっと殺すって言いましたよ!
怖い怖い怖い怖い怖い!
幸か不幸かご自身の言ったことは守るつもりのようですので何かされるということはなさそうですけど。

「脅し……ても意味はなさそうですし、そうですね、こうしましょうか」

こちょこちょこちょこちょ。
言うが早いか私の太もも、スカートと靴下の間の地肌が露出している部分をくすぐってきました。
これには勝てるはずもなく。

「ひゃうっ!」
「あら、おはようございます」

……しまりました。
もう寝たふりはできません。
覚悟を決めました、腹を括ります。

「何もしないのではなかったのですか……?」
「言葉のあやですよ、現にわたしはあなたを傷つけてもいませんし殺してもいません。それに、話もちゃんと聞いてたようですしね」
「……あ」

括った矢先にほどかれました。
でも、何もしないというのが本当なら私にも立ち向かう余地があります。

「別にわたしはあなたが寝たふりをしていたことについては何も言うつもりはありませんから」
「なら、なんで私と話をしようと思ったんですか?」
「もちろん聞きたいことがあったからですよ。……裸えぷろんとは結局なんなのです?」
「それはさっき球磨川さんが取り出してたエプロン……七実さんは前掛けとおっしゃってましたっけ、それを他の衣服は着ないでエプロンだけをつけることですが」

身構えてたら拍子抜けです。
そんなに気になりますかね、裸エプロン。

「それだけですか?」
「それだけです」

裸体にエプロンをつけるだけでそれ以上の説明はしようがありません。
そもそもさっきからなんで裸エプロンで躍起になってるんでしょう、みなさん。
そして私の答えを聞いた七実さんはというと、

「…………はあ」

それはそれは物憂げでありながらとても彼女に似合いそうなため息をついていました。
それを見て私はどうしてでしょう、一瞬とはいえ美しいと思ってしまいました。

「たかがそれだけのものなのにどうしてお二人は必死に隠そうとしていたのでしょうか」

それはエロいものだからですよ、とはさすがに言えませんでした。
普通ならその答えを聞いた時点で察しがつくとは思うんですけどね。
まあ本人がそう思っているのならいいでしょう。
無理してイメージを植え付けるものではありません。
戯言さんのためにも。

「前置きはこれくらいにしておきまして」

そして七実さんは話を続けます。
やはり裸エプロンはワンクッション置くためのものだったんですね。
だって、たかが裸エプロンのために起こすのもおかしいではないですか。
あくまで私視点の考えですけども。

183君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:19:25 ID:fnbUZSQ20
「いっきーさんから聞きましたが真宵さん、あなたは幽霊だそうで」

……やはり本番はこれからのようです。





診療所の扉を開けた瞬間に襲ってきたのは異臭だった。
もっと突き詰めて言ってしまえば死臭だった。
少なくとも真宵ちゃんを連れてこなかったことだけは正解と言えるだろう。
もっともぼくは今更死体の一つや二つ見たところで動揺するようなことはないし、それはどうやら僕の方も同様らしかった。

「で、僕はこれをどう見るんだ?」
『別にどうも思わないね。人が死んだ、それだけの話だろう?僕にとってもぼくにとっても』
「全くもって同感だ。知り合いなら多少は話が違ってくるんだけどね」
『僕の知った顔でもないしねえ。というかこの人そこはかとなくモブの匂いしかしないんだけど』
「言っていいことと言ってはいけないことがあるぞ」

ぼくも考えていたけどそこは伏せておくべきところなんじゃないのか。
そもそもぼくらの目的は別にあるわけであって。

『……で、だ。僕たちはもう一蓮托生なわけだけど』
「割合でいえばきみの方が多いのは確実なんだ、諦めろ」
『そうはいかないよ。こうなったら君も道連れだ』
「させるか。そもそもなんで持ってたんだよ、エプロン」
『支給されていた理由を説明なんてできるわけないだろ』
「やっぱり支給されてたのか……他に何支給されたんだ、この後トラブルあったら困るから今のうちに出しておけ」
『他って言っても僕の趣味三点セットの残り二つを出すだなんて……』
「おいなんだその犯罪的な響きは」
『犯罪的だなんて失礼な。手ブラジーンズと全開パーカーは少年ジャンプの表紙だって狙えると思ってるんだぜ』
「みんなの少年ジャンプになんてものを載せるんだ貴様は。あがいても見開きカラーが限界だろ」
『ダメかな?』
「ダメだろ」

エプロンと違ってジーンズとパーカーそれ単体ならそこまで変じゃないというのが不幸中の幸いといったところか。
主催は何を思って支給したんだよ。
こんな場所で一人の性欲を満たしてどうするんだ。
ともかく、ぼくと僕による七実ちゃんへの対策議論がしばらく続いたがそこは割愛。
取っ組み合いにこそならなかったが不毛であったことだけは伝えておこう。
そして場面転換、死体があった場所とは違う部屋。
医療器具やら薬やらを調達しに来たぼくたちだったが、やっぱり同じことを考える人は当然いたわけで。

「根こそぎ持っていかれてないだけマシか……」

包帯や消毒薬の類は全て持ち去られていた。
危険人物が治療するのを阻止するためかはたまた逆か。
考えても仕方ないことではあるが。

『でも解熱剤はあったんだからよかったんじゃない。これから記憶を消すのに意味があるかはしらないけどさ』
「原因を消したところですぐ効果が出るかどうかは別だろう?持っておいて損はないと思うし」
『熱くらい僕がなかったことにしてあげるのにさ』
「やっぱりやってのけるのか、きみは」
『でもなかったことをなかったことにするのはできない、つまり消耗した体力とかは戻らない』
「……ならぼくは薬で済ませとくよ。疲れだけ残っててもかえってストレスを与えかねないし」

下手に熱があった方が風邪でもひいたのだろうと言い訳しやすいだろうという底の浅い考えもあったけれど。
一番はこれ以上こいつに借りを作りたくないから、だった。

184君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:20:48 ID:fnbUZSQ20
『あ、そうだ欠陥製品』
「なんだ人間未満」
『さっきから聞こうと思ってたんだけど、どうして君が僕の携帯を持ってるんだい?』
「え、これきみのなの?」
『僕の持ってるうちの一つなんだけど、それ』
「うち一つって……一応聞くが何台持ってるんだ?」
『全部』
「は?」
『だから全機種』
「キャリアも?」
『もちろん。全部揃えてないと気が済まなくてね』

おいおい。
全種類揃えるって酔狂な金持ちでもやらないぞ。
こいつ、過負荷過負荷言ってるけど背景が絶対恵まれてる側じゃねえか。
おかしいと思ってたんだよ、頭だって決して悪くないし身なりだって整ってないわけじゃないし。
……だからこその精神性の異常さ、否、過負荷さなのか。
ぼくと同じで。

「ああ、そういえば思い出した。ツナギちゃんに教えてもらった掲示板の存在」
『掲示板?』
「なんか参加者同士で情報交換できる掲示板を公開してる人がいるらしい……ぼくには心当たりしかないけど」
『ふーん』

そっけない態度とは裏腹に興味はあったようでネットに接続しようとポケットから取り出した携帯をぼくからひったくる。
自然な動きで。
くそっ、あまりにも自然すぎてしばらく取られたことに気づかなかったぞ。
まあ今となっては緊急性も低いし見たいというのなら先に見ても文句は言わないが。

『…………欠陥製品はまだ目を通してないんだっけ?』
「それがどうした」
『……なんていうか、さあ、本当に……どうしたらいいんだろうね』

ひと通り目を通したのか意味深なセリフと共に携帯をぼくに返してくる。
ぼくはそれを黙って受け取り、画面を見る。
トリップを見て、予想通り玖渚の仕業だったと息をついた。
博士のところというのは斜道郷壱郎研究施設のことだろうけど今あそこは禁止エリアになっているはず……
書き込みは朝だったし今頃は零崎の妹と共に避難しているはずだろう。
あいつのことだ、そうなった場合の対処法だって用意してるだろうし。
だが、人間未満があんな反応を示す理由はまだ見当たらない。
画面を下にスクロール。
……なるほど、おそらくはこれか。
操作していた時間からして動画を見る余裕まではなかったはずだから、読んだのは文字だけだろう。
となると……

「黒神めだか、彼女のことかい?」
「そうだよ。僕がずっと勝ちたいと思っている相手だ」
「思っている、ねえ」
「彼女ならこんなときでもどんなときでも僕とぶつかってくれると思ったのに、なんでこんなことしてるのさ」
「誤報の可能性……はないな。動画貼られてるし、全く玖渚もやってくれたな」
「別に事実なら遅かれ早かれ知られてたんだ、むしろ知れて助かったくらいだよ」
「それでどうするんだ?残念なことにぼくにはきみの気持ちはわからないからね。括弧をつけてもつけなくても。
 尤も、勝ち負けで言うなら既に殺してる彼女の方がきみよりは負けているように思えるけども」
「変わらないさ。僕は黒神めだかに勝つ。僕はいつも通りでめだかちゃんが変わってるだなんてがっかりだ。僕は認めないよ。
 こんなのでめだかちゃんに勝っただなんて言えるわけがない。めだかちゃんと直接対峙して初めて勝負になるんだ、今の段階で勝ち負けなんてつくわけない」
「ぼくも少なからず因縁できちゃったしなあ。会いに行くのならついていくぐらいはしてやってもいいけど」

暦君を殺してしまったとなるとぼくにも無関係とは言えなくなる。
どうやら、すっかり真宵ちゃんのことを他人とは思えなくなってしまったらしい、今更だけど。
しかしそうなると心配なのが真宵ちゃんと翼ちゃんなのだが。
……あれ?これぼく行かない方がいいんじゃないか?

『なら戻らないとね。いつまでも七実ちゃん待たせるのも悪いし』
「そうだな……覚悟決めないと」

とはいってもいつまでもここでぐだぐだと考えているわけにはいかない。
今この瞬間に真宵ちゃんが起きてたら大変なことになっているかもしれないし。
さすがに殺されはしないだろうけど、うん。
ただ、少しばかりの本音のやり取りでわかったことがある。
人間未満、球磨川禊。
彼は勝てないのではない。
価値を認めないし、勝ちを認められないのだ。
そこが、人類最弱でありながら勝つことはできるぼくとの最大の違いだろう。

185君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:21:42 ID:fnbUZSQ20



「最初に言っておきますが、話にちゃんと応じてくれる限りわたしはあなたを殺しませんし傷つけもしません。それが例えふざけた回答でもあなたの身の安全を保障します」

本人が真面目に答えたつもりでも傍から聞くとふざけているように聞こえるというのは古来からよくあることですからね。
わたしはそれについて怒るようなことはないですが。
どんな答えだろうとわたしにとっては同じでしょうから。
ですからわたしは真宵さんにあらかじめ説明しておきます。

「わたしにとって死も痛みも身近な友人です、とは前々から言っていることなんですが厳密には違います。
「痛みは常にわたしに付いて回ってますが、常に共にいますが、死は身近でしかありません。
「言ってしまえば、身近以上に近づくことができないのです。
「二度程死んだ身で言うのもなんですがね。
「この死にぞこないの体は、この生きぞこないの体は、常にわたしを死から一定の距離に置き続ける。
「近づこうと思っても死にぞこないの体が邪魔をし、
「遠ざかろうと思っても生きぞこないの体が妨げる。
「ですからわたしは弟に殺してもらうために島を出ました。
「国中を回り、あちこちを踏み躙り、虚刀流でありながら刀を手にしてまで、死のうとしました。
「結果どうなったか、ですか?
「死ねましたよ、ええ。
「一度目の死はそれによるものです。
「それで満足できたらよかったんですけどね。
「最期で噛んじゃったんですよ。
「心残りがよりにもよって最後の最期でできてしまって。
「それだけのことでと思うかもしれませんが、わたしにとっては重大な問題です。
「こうして生き返ったのもまたとない機会ですので再びわたしは弟探しを再開しました。
「もちろん再び殺してもらうためです。
「一度しかないはずの最期をやり直すためです。
「最初はそのつもりでした。
「今もそのつもりのはずです。
「ですがどうやらわたしは錆びされたようで。
「禊さんか、その前の人識さんか、はたまた最初の出夢さんか。
「あるいは三人全員か。
「そんなものは些細な問題ですがわたしはとにかくほだされました。
「ぬるい友情につかるのも悪くないと思ってしまっています。
「あら、話がずれてしまいましたね。
「長話はどうも苦手で。
「何を聞きたいのかわからない顔をされていますね。
「手っ取り早く言ってしまうなら、死んだ後とはどういう状況なのでしょうかということです。
「わたしがここに来る前も、ここに来て橙色に殺された後も、死んでいる間の記憶はありませんから。
「参考までに聞きたいのですよ。
「あなたは言ってしまえば死んだ後も死に続けているようなものですから。
「だってそうでしょう?
「死んで別の存在になったというわけではなく生き返ったわけでもないのなら死んでいるとしか言いようがないのですし。
「わからないというのでしたらそれで結構ですが、あなたから見た感想とか感触でいいから聞きたいのです。
「本来聞くのは専門分野ではないのですが、得られるものがあるなら得たいと思うのは当然です。
「今までも結局そうして得てしまいましたしね。
「もう一度言っておきますが、ちゃんと答えてくださるのならば、わたしはあなたに何もしません。
「ねえ、真宵さん。
「幽霊とはどういう心地ですか?」

186君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:22:33 ID:fnbUZSQ20

わたしは真宵さんに問いかけました。
真宵さんはわたしの言葉をゆっくりと咀嚼して、唸り、返します。

「始めに言っておきます。
「私は嘘をついています。
「どういう嘘かはわかってもいいしわからなくても構いません。
「その嘘だって今もつき続けている状態かどうかは怪しいですが。
「あなただから言うのではなく戯言さんには聞かれたくないから今話すのです。
「記憶を消されてしまっては話すことができなくなりますからね。
「もちろんあなたの質問に対しては真摯に答えますが。
「怖いですからね。
「まずは私の背景を説明させてもらいます。
「七実さん、あなたもしたのですから私もしてはいけない理由はないでしょう?
「と言ってもすぐ終わるとは思います。
「わからない単語もあるかもしれませんがあなたはそれを気にする人ではなさそうですし。
「ある年のこと、小学五年生、当時十歳だった八九寺真宵は母の日に離婚してしまった母親に会いに行こうと単身家を出ました。
「途中、ある交差点で青信号だったにも関わらずトラックに轢かれました。
「そして死にました。
「人間、八九寺真宵のお話はこれでおしまいです。
「それから、私は迷い牛という怪異となって彷徨い続けました。
「人を迷わせ、自分を迷わせ、いつまでも目的地に辿り着けませんでした。
「そんな日々も唐突に終わります。
「彷徨い始めてちょうど十一年後の母の日、とてもとてもお人よしな阿良々木暦という高校生のおかげで私はお母さんの家に辿り着くことができました。
「正確には戦場ヶ原ひたぎさんという立役者もいらっしゃいましたが阿良々木さんがいなければ解決することはありませんでした。
「その日を境に私は迷い牛という怪異ではなくなりました。
「幽霊であることには変わりませんが、人を迷わすことはなくなりましたし、また私も迷うことはなくなりました。
「阿良々木さんの家にお邪魔することだってできるようになりました。
「質問ですが、幽霊がどういう心地なのか、でしたっけ?
「はっきり言ってしまえば変わりませんよ。
「気づかれないことがほとんどですが、特定の何人かとお話するときはいつも通りです。
「喜びますし、怒りますし、哀しみますし、楽しみます。
「生きている人間となんら変わりありません。
「求めていた答えとは違うかもしれませんが、私にとってはこういうことです。
「幸せか不幸せか、ですか?
「間違いなく不幸せですよ。
「ただ、幽霊になったことで阿良々木さんに出会えたことは幸せです。
「同じようにこんな殺し合いの場に招かれたのは不幸せですね。
「その中であなたや球磨川さんのような方に出遭ってしまったことも不幸せです。
「ですが、最初に戯言さんに会えたことは幸せですし、その次にツナギさんに会えたことも幸せです。
「三人でいた間はとてもとても楽しかったですし。
「ですから、私の記憶を消させはしません、絶対に。
「以上が、私の結論です」

そう締めくくって真宵さんはまっすぐにわたしを見つめます。
当然ですが、聞いていますよね、記憶についても。

「……はあ」

わたしはため息をつきます。
真宵さんの話がつまらなかったからというわけではありません。
むしろ興味深く聞かせていただきましたよ。
役に立つ立たないは別として、ですがね。
原因はあれです、わたしの視界の中でちょこまかと動き回っている四季崎です。
わたしと真宵さんの話を聞いてそれに一喜一憂しているのがものすごく目障りです。
消そうとすると途端にかしこまるのにちょっとおもしろく思ってしまうのが癪ですが。

187君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:23:31 ID:fnbUZSQ20
「なるほどありがとうございました。記憶については当事者同士で話し合ってくださいな。わたしは誰の味方もしませんから」
「もちろんそのつもりです。きっと戯言さんは反対するでしょうが、私が決めたことですから」
「なら決断は早く済ませてしまいなさい。戻ってこられたようですし」

診療所の方を見れば二人とも凛々しいお顔。
そういえば裸えぷろんについて言い訳を期待してると言ってしまいましたね。
真宵さんから答えを聞いてしまったのですっかり忘れてしまっていました。
ここは再び出鼻を挫くとしましょうか。
おや、いっきーさんが慌てたように駆け寄ってきます。
ああ、真宵さんが起きてるからですね。
ですが、わたしは何も疚しいことはしていませんし真宵さんもそう証言してくれるでしょう。
それよりも問題は――

「真宵ちゃん!大丈夫!?」
「ぅうーーん……ここは……?」
「おいおいなんだ、こんな大所帯になってるなんて俺は聞いてなかったんだがよ、欠陥製品」

目を覚ました羽川さんと戻ってこられた人識さん(なぜか同行者がいるようですが)にどう対処するか、ですかね。


10


処理しなければいけない事態が一度に重なる中、ぼくが真っ先に選んだのは真宵ちゃんの容態の確認だった。
目が覚めてそこが七実ちゃんの膝の上でぼくがいないなんて状況じゃパニックを引き起こしてもおかしくない。
だからこそ、急いでドアを開けて呼びかけたのだけど、

「私は大丈夫ですよ、戯言さん」
「本当に……?」

真宵ちゃんは至極冷静だった。
今しがた起きたばかりとは思えないくらい。

「ええ、本当に大丈夫です。七実さんも私に何もしてませんから」

七実ちゃんを見ると目線で伝えてきた。
どうやら事実らしい。

「でも顔色は悪いままじゃないかっ……!」
「体調が優れないだけで思考は正常です」

はっきりと大丈夫だ、と意思表示してぼくを見つめてくる。
視線はしっかりとしているしているようだし、その思いは本物なのだろう。
だが、隠しきれていない焦燥が伝わってくる。
強がっているのがわかってしまう。
そもそも真宵ちゃんの態度だって起き抜けにしては異常すぎるのだ。
なんていうか、ある程度話、いや、状況を把握していたような……まさか――

「真宵ちゃん、いつから起きてたの……?」
「……やっぱりバレてしまいますか」
「まさかとは思うけど、最初から聞いていたなんてことは」
「さすがに最初からは無理ですよ。覚えてるのは球磨川さんの頭が吹き飛んだあたりから、ですかね」

そのあたりから、となると記憶云々についても聞いてしまってるわけで……

「あの、お取り込み中のところ悪いんですけれど、あなたがたは真宵ちゃんとはどういう関係で?」

考えを巡らせているうちにぼくが車のドアを開けた衝撃で目覚めたらしい翼ちゃんが話に割って入ってくる。
今の口ぶりからしてぼくのことを知らないみたいだけど……

188君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:24:06 ID:fnbUZSQ20
「真宵ちゃんとは知り合ったばかりで、そこまで説明できるような仲ではないですよ」

事実しか述べていない。
実際出会ってからまだ18時間も経過していないのだ。
それに、この関係を一言二言で説明できる間柄でもないし。

「わたしもつい先程知り合ったばかりですね。いっきーさんには及びませんが」

七実ちゃんも翼ちゃんの質問に答える。
そういえば、「あなたがたは」って聞いていたっけ。
質問の対象に七実ちゃんが含まれるのも当然か。
にしても、七実ちゃんが素直に答えるとは思わなかった。
さっきは文字通りの意味で殺し合いしてたのに。
ん、七実ちゃん、なんか迷惑そうにしてないか……?

「あ、ええと、申し遅れました。私、羽川翼と申します。初対面で不躾かとは思いますが、いくつか質問してもよろしいでしょうか?」

「初対面」
これはぼくの懸念は確定と見ていいだろう。
思わず真宵ちゃんと顔を見合わせるが、同じことを考えていたようだった。

「……別に構わないけど」
「ではお言葉に甘えさせていただきますね。まずはあなたがたの名前、次にここがどこか、最後に……私がどうしてこんな格好をしているのか」

尤もな質問だった。
ただ、この様子だとここが殺し合いの会場だということも認識していないらしいし、下着姿から装束に変わった理由だってぼくの与り知ることではない。
殺し合いのことを伝えるということは必然、思い人である暦君が死んでしまったことも伝えなくてはならないわけで……

「わたしは鑢七実といいます。ここがどこか、はわたしも知りません。服装……は元々の服が濡れてしまって中に入ってたそれを着たからだとか」

どうしたものかと考えている隙に七実ちゃんが答えていた。
おそらくは知り得ない情報を知っていることといい、やはりさっきから七実ちゃんの様子がおかしい。
ある種のうっとうしさみたいな感情が滲み出ているし。
例えるなら、周囲にまとわりつく小蝿を煙たがるような――

「鑢さんですね、ありがとうございます。それで、あなたは……?」
「名簿には戯言遣いの名で載っているけど、もちろん本名じゃない。まあ、気軽にいーさんとでも呼んでくれればいいよ」

「彼女」に呼ばせていた名を出すのに抵抗がなかったと言えば嘘になるけど、一番しっくり来るだろうとは思ったから提案させてもらった。
なに、実際にぼくのことをなんて呼ぶかは翼ちゃんの自由だ。
しかし、目のやり場に困る。
ただでさえサイズがでかいというのもあるが(何が、とは言わないでおこう。ぼく自身のために)、七実ちゃんが貫いた跡が生々しく残っているというのが……

「……そうだ。おーい、球磨が……わ?」

あいつの持っているジーンズとパーカーならまともな着替えにはなるだろうと今更のように思い出したぼくは振り返る。
振り返って、止まる。

「何やってんだよ、零崎」
「ただの八つ当たりだよ、かはは」

人間未満はのびていた。
位置関係からして、零崎に殴られたとみて間違いないが……
ぼくの知らないところで何かやってたんだろう、きっと。
十中八九人間未満の自業自得であるようなことを。
なら仕方ないな。

「とりあえずそいつの荷物もらっていいか」
「おうよ」

189君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:24:41 ID:fnbUZSQ20
零崎は仰向けの人間未満を乱暴にひっくり返して背中を出すと背負っていたデイパックを剥がし、ぼくに投げてよこした。
それをキャッチしてそのまま翼ちゃんに渡す。

「えーと、今は急ぎでもないし格好が気になるなら着替えてきたらどうかな?中にパーカーとジーンズはあるはずだし少なくともそれよりはマシだと思う」
「あ、はい。話は後で詳しくお伺いしますがよろしいですよね?」
「もちろん」

ぼくから返事とデイパックを受け取ると翼ちゃんは診療所へ一直線に向かって行った。
やはりあの格好は恥ずかしかったのだろう。
寝起きで周囲に気を配る余裕もなかったようだし、零崎たちよりも更に離れた距離から向かってくる視線にも気づいてないみたいだ。
さて。
診療所の扉が閉まる音を確認したぼくは一歩下がり、目線を車内から車の後ろへ飛ばす。

「きみが戦場ヶ原ひたぎさんだよね。違うかな」
「ええ、その通りよ。初めまして」

こっちは正真正銘の初対面だ。
……あ、診療所には死体があったの忘れてたけど翼ちゃん大丈夫かな。


11


とにかくわからないことが多すぎる。
建物の中に入ったはいいが、扉を閉めたあと座り込んでしまいそこから先へ進もうとは思えなかった。
私の記憶は阿良々木くんを公園に呼び出して学習塾跡に向かい、そこで忍野さんと共に教室に入ったところで途切れている。
あのとき頭に猫耳が生えていて……そうだった。
思わず頭に手をやる。
触れた頭の感触はさらさらとした髪の毛のものだけで鏡を見なくてもわかる。
どうやらひっこんでいるらしい。
いーさん(呼び名が妙にしっくりくる。なぜだろう)や鑢さんの反応がどうにもひっかかったので何か話していないかと扉に耳をつけてそばだててみる。
……距離があって音が聞こえてくるのもやっとのようだ。
確か扉の右側に窓があったはずだと思い出してすぐそばのドアを開けると記憶通り窓があった。
塀があったから外から簡単には見えないだろうとは思ったけど、用心してゆっくりと少しだけ窓を開ける。

『 去法    …………知り合いも  ……    ……零崎     ら敵………………    予想は    』

聞こえてきた音は集中すれば聞き取れる文章に昇華されていく。
今のは『消去法だよ。生憎ぼくの知り合いもここには結構いてね、零崎の態度から敵対してるわけじゃないと予想はついたし』といったところか。
ここがどこかわからないのに知り合いがいるとはどういうことだろうか?

『なる…………  ……    私……定でき    …………いはず 』

戦場ヶ原さんの声だ。
いつの間にいたのだろう。
いや、私が気付かなかっただけか。
『なるほどね、でもそれだけでは私を特定できる根拠にはならないはずよ』、そう言ったのかな?
耳が慣れてきたようで何を話しているかがわかるようになってきた。

『実際ヤマを張ったのは事実だよ。でも特徴がそうも被ることはないだろうと思ってね』
『そういえば彼女のことを真宵ちゃんと呼んでいたわね。つまりその子が八九寺真宵さんだと』
『おかしな言い方をするね。面識が一方的にしかないみたいだ』
『私にはあのとき見えなかったから……今はどうしてか見えるみたいだけれど』
『……ふうむ。話は変わるけど掲示板の書き込みはきみのものだよね?』
『ええ、そうよ。でもそれがどうかするのかしら?』
『別にどうもしないさ。ただ質問させてもらいたんだけどきみは黒神めだかをどうしたいんだい?』
『殺すのよ』

190君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:25:11 ID:fnbUZSQ20
「殺す」という単語を聞いて思わず体が強張る。
あの声色の戦場ヶ原さんは間違いなく本気だ。
しかし、何があったら戦場ヶ原さんをそこまで駆り立てるのだろう。

『それは暦君のためかい?それとも自分のためかい?』
『強いて言うなら両方かしら。阿良々木くんを殺した黒神めだかを――』

そこから先は聞き取れなかった。
腕が震えて持っていたデイパックを取り落す。
最初は何を話しているかさっぱりわからなかったけど、話を聞くにつれ理解した。
ただ一点、理解できてしまった。
阿良々木くんが死んでしまったことが。
殴られたような衝撃。
頭が真っ白になる。
呼吸が荒くなって再び壁を背に座り込んでしまう。
ふと右手と左手で触れた感覚が違うことに気づき見やると右手がデイパックから飛び出たタブレットに触れていた。
しかも電源スイッチを押してしまったようで、画面が光っている。
タブレットを持ち上げると掲示板という文字が飛び込んできた。
さっき聞こえたのはこれのことだろう。
恐る恐るスクロールしていくとどんどん情報が私の中に入ってくる。
その中で私にとって重要なのは、阿良々木くんが黒神めだかという人に殺されてしまったということ。
更に下のスレッドを見て息をのんでしまう。
脳が警鐘を鳴らしているのとは裏腹に私の指は阿良々木暦という文字列の隣にあるリンクに近づいていく。
指が画面に触れると同時に動画のダウンロードが始まり、10秒足らずで再生が始まった。





「――――はっ、はっ、はっ、はっ」

思わず息を止めていたらしく、今になって体が酸素を欲しがる。
阿良々木くんだけでない、忍ちゃんも殺されていただなんて。
あの姿が春休みに見たものと変わらない、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードであったことも私だからわかってしまう。
それを殺してしまうだなんて……彼女は一体どういう存在なのだ?
いや違う、今考えるべきはそれではない。
頭が混乱しているようで一度に襲い掛かってくる情報の波に対処しきれていない。

「……一度着替えよう」

今更のようにここに入った目的を思い出しタブレットが入っていなかった方、いーさんから渡された方のデイパックに手をつっこむ。
確かジーンズとパーカーはあると言っていたはずだから……
そう思った刹那、布の感触が伝わる。
取り出してみると手にはグレーのパーカーと無地のジーンズがあった。
ちゃんと着てみないことにはなんとも言えないが、サイズはなんとかなりそうだ。
暗い室内の中、部屋の電気も点けるのも忘れてタブレットの仄かな明かりだけを頼りに服を脱ぐ。
この行為は紛れもなく現実逃避であり。
それ以外の何物でもなかった。

191君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:26:28 ID:fnbUZSQ20
12


「うん、ぴーちゃんなら大丈夫だと思うから、舞ちゃんのこと頼むね。それから、後でメール送っておくよん」

ぴっ。
さてと。
潤ちゃんのデイパックの中に首輪も工具も入っていただなんてびっくりっていうかがっかりだったよ。
さすがに潤ちゃんに支給されたわけじゃないとは思うけどね。
だってそれじゃあ一発で終わっちゃうもん。
まあ何か道具を使わないと死体とはいえ首輪を外すのなんて僕様ちゃんの腕力じゃ不可能だしねえ。
もっと言っちゃえば首を切ろうとしても刀を持つのだって危ういし。
でも、サンプルが増えたことは助かったんだしポジティブに考えないとね。
いずれにしても外された状態の首輪があるだけでもかなり変わる。
やっぱりとは思ってたけど、この首輪は完全に閉じているわけじゃない。
ほんっとうに細くだけど線が入っている。
いくら素材が衝撃に強くてもその衝撃が首輪の内部だけで完結してしまっては意味がない。
そこで出口を一ヶ所だけ作ってしまえば生まれた衝撃は全てそこに集約される。
最初の場所で首が吹き飛んだのだって集まった衝撃の余波だと考えれば納得できるし。
水が入っても大丈夫なのは構造が二重になってるからかな?
衝撃には弱くても耐水はしっかりしている素材で爆薬や機械の部分を覆ってしまえば例え水中で爆発しても問題ないだろうしね。
むしろ入り込んだ水がカッターになって威力が上がりそう。
でもその場合電波の届かない水中でどうやって爆破するかなんだよなあ。
最初の放送で海があるエリアを禁止エリアに指定してきたってことは、海中でも爆破はできるってことなんだし。
それ以上の問題として、首輪のつなぎ目が見つからないってのがあるけどね。
通常じゃ見ることのできない内側から見てもそれらしいものは見当たらなかったし。
おかげで真庭狂犬の首輪を外すこともできなかったしさ。
巧妙にコーティングされている可能性もあるにはあるけどね。
使えそうな工具がマイナスドライバーとしかなかったから線に突っ込んでみたけど歪みもしないあたり僕様ちゃんにはこれ以上手出しはできなさそう。
ただ、わざと工具を支給してたりこうやってネット環境を整備してるあたり主催は僕様ちゃんたちが首輪を解除するのを当然と見ているのかな?
そうやって考えると案外どこかにそのまま首輪解除に繋がるような道具が支給されてるのかもね。
既に壊れてる可能性やマーダーが持ってる可能性は大いにあるから期待はするもんじゃないけど。
ぴーちゃんにしーちゃんの電話番号を書いたメールを送信っと。
あっ、いーちゃんから電話かかってきた!
もう、メールに気づくのが遅いんだよー。
いーちゃん僕様ちゃんの声聞いてどんな反応してくれるかなー。
通話ボタンをポチっとな。

『もしもし、友か?』
「ちぇー、いーちゃん驚いてくれると思ったのに」
『もっと早くメールを送ってくれれば驚いたかもな』
「それにしたっていーちゃん気づくのが遅いんだよ。ぶー」
『とりあえず教えて欲しいことはあるか?』
「んーっとね、まずはいーちゃんのいる場所、それからしーちゃんとひたぎちゃん以外に誰がいるか」
『診療所の前だよ。で、ここにいるのは零崎とひたぎちゃん以外だと八九寺真宵ちゃん、羽川翼ちゃん、鑢七実ちゃんと球磨川禊、以上四名だ』
「うわお。大所帯だねー、さすがはいーちゃん」
『零崎にも言われたよ。そもそもなんで零崎たちがいるってわかったんだ?』
「じゃないと開口一番僕様ちゃんの名前出さないでしょ。目の前に教えた本人がいるなら別だけど」
『……その通りだよ。零崎のにやにやした顔がすっごくむかついてたところだ』
「それで、今度はいーちゃんの番。僕様ちゃんに聞きたいことは?」
『まずはおまえと同じ質問にしておくよ』
「りょーかい。今僕様ちゃんがいるのはネットカフェで形ちゃん――宗像形と一緒にいるよ……って言っても形ちゃん頑張りすぎたみたいで今寝てるんだけどね」
『じゃあしばらく動けなさそうか?』
「そういうことになるねー、一応ランドセルランドでぴーちゃんや舞ちゃんと待ち合わせしてるんだけどさ。あ、しーちゃんに聞けば誰のことか教えてくれると思うよ」
『ランドセルランド……やっぱりぼくも向かった方がいいか』
「もちろんだよ。じゃないと僕様ちゃんいいかげん充電切れちゃうよ」
『車が小さいから詰め込んでも5人が限界なんだよ。そうでなくても翼ちゃんの様子がおかしいし――え、代われって?』
「何?どしたの?」
『ちょっと伝えるべき事柄ができたから代わっててもらったわ』
「あ、ひたぎちゃんか。それでその伝えるべき事柄って?」

192君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:27:17 ID:fnbUZSQ20
『信憑性は低いけれども、黒神めだかについて』
「……なるほどね。掲示板を経由しないで手に入れる手段があったのかな?」
『おそらくは特定の電話にしかない機能だとは思うけれど、無作為に繋がる機能があって』
「それで黒神めだかと繋がった――わけじゃなさそうだね」
『繋がったのは供犠創貴という人よ』
「ああ、『魔法使い』使いか」
『……?とにかく、偶然繋がった彼と話したのだけれど、これからランドセルランドで黒神めだかと合流する手筈になっているらしいわ』
「黒神めだかと合流?そんなことができるなんて本当?」
『どういうわけか正気に戻ってるらしいわ。――しかも抜け抜けと殺し合いを止めようとしているんだとか』
「それはどれくらい信用していいのかな?」
『半信半疑未満ね、身構えておくには損はないくらいの』
「まあそれが妥当だろうしねえ。あ、いーちゃんに聞くよりあなたに聞いた方がよさそうだから聞いておきたいんだけど、羽川翼さんについてなんだけど」
『羽川さん……?そういえばまだ着替えから戻って……あ、今出てきた――こっちの話よ。遠目からでしかわからなかったけれど、すごくおかしかったわ』
「もうちょっと具体的に言って欲しいんだけどね」
『警戒して接触を避けていたからね、いつもの彼女らしくなかったとでも言えばいいのかしら。……まああなたのいういーちゃんこと戯言さんに聞いた方が早そうね』
「いーちゃん翼ちゃんって呼んでたもんねえ。悪いけどもっかい代わってもらえる?」
『いいわよ。でもその前に一つ確認、あなたはランドセルランドに向かうつもりは?』
「あるよ、一応待ち合わせしてるしねー。形ちゃんに言えば連れてってくれるだろうし」
『了解したわ。それじゃあ代わるわね』
「ふふっ、ありがとうね」
『こちらこそ。……………………もしもし、代わったよ』
「それじゃさっきの続き、羽川さんはどこがおかしかったのかな?」
『一言で言うなら記憶喪失だ』
「それは全部?それともこの殺し合いが始まってから?」
『……多分後者だな。真宵ちゃんとは面識あったし』
「ふうむ。……ねえ、いーちゃん、白髪で猫耳の生えた羽川さんには会った?」
『なんで情報を持ってるかについてはもう聞かないでおくが……会ったよ、二回』
「それで戻るようなきっかけみたいなことってあった?」
『死んだよ』
「死んだ?」
『ああ、紛れもなく死んだ。胸を貫かれてたんだ、死んでない方がおかしい傷だった』
「で、生き返ったんだ」
『そこまでお見通しか』
「球磨川禊がいるってそういうことでしょ?」
『どこまで知ってるんだよ……』
「形ちゃん経由で詳細名簿見せてもらったからね。診療所の中で死体になってる浮義待秋のことまで全員」
『……恐れ入るよ。ところでわざわざ連絡するように仕向けたのも質問をしあうためじゃないだろう?』
「まあねー。いーちゃんはこれからどうするの?用がないならランドセルランドに来て欲しいんだけどさ」
『おまえに会えるなら向かうことに異論はないところなんだけどね。人間未満――球磨川も反対する理由はないだろうし……ただ』
「八九寺真宵と羽川翼が心配だ、と。阿良々木暦が死んじゃってるからね」
『そういうことだ』
「連れて来ちゃえば?」
『あっさり言うんだな』
「本当なら来ないでって言ってたくらいなんだけどね。正気に戻ってるんだっていうなら尚更」
『なら……』
「事情が変わったんだって。今のいーちゃんには味方かどうかは知らないけど敵に回らない人はいるでしょ?」
『いるにはいるが……敵に回らなくても十分迷惑なやつもいるんだが』
「いーちゃんだってそうじゃん」
『触れてほしくないことを』
「でも僕様ちゃんはそんないーちゃんが大好きなんだからねっ。それじゃランドセルランドで待ってるよん」

193君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:27:49 ID:fnbUZSQ20
ぴっ。
まさかひたぎちゃんから情報を貰えるとは思わなかったけどこれは大収穫かもね。
ぴーちゃんから聞いたDVDの本数が28だってことはその時点での生存者は17人。
うち7人がいーちゃんのとこにいて残り10人のうち5人が僕様ちゃん達と真庭鳳凰、そして供犠創貴、水倉りすか、真庭蝙蝠が行動を共にしていると考えていい。
そして所在が割れていない残り二人に黒神めだかが含まれていないなんて楽観的な考えはできないしねえ。
黒神めだかは生きていると仮定して、となると残り一人は誰でどこにいるのかなっと。
形ちゃんが起きたら連れてってもらわないとね。
黒神めだかに会えるよって焚きつければ大丈夫だろうし。
早くいーちゃんに会いたいなー。
……あ、そういえば形ちゃんから貰わなかったけどあのトランシーバーどこに繋がってたんだろ?


【1日目/夕方/D-6 ネットカフェ】
【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態]身体的疲労(小)
[装備]携帯電話@現実
[道具]支給品一式、ハードディスク@不明、麻酔スプレー@戯言シリーズ、工具セット@現実、首輪、ランダム支給品(0〜5)
[思考]
基本:いーちゃんに害なす者は許さない。
 1:形ちゃんが起きるのを待ってランドセルランドに連れてってもらう。
 2:もう黒神めだかの悪評を広めなくても大丈夫かな?
 3:黒神めだかと『魔法使い』使いに繋がり?
 4:形ちゃんはなるべく管理しておきたい。
[備考]
 ※『ネコソギラジカル』上巻からの参戦です
 ※箱庭学園の生徒に関する情報は入手しましたが、バトルロワイアルについての情報はまだ捜索途中です
 ※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを凡そ理解しました
 ※言った情報、聞いた情報の真偽(少なくとも吸血鬼、重し蟹、囲い火蜂については聞きました)、及びそれをどこまで理解したかは後続の書き手さんにお任せします
 ※掲示板のIDはkJMK0dyjが管理用PC、MIZPL6Zmが玖渚の支給品の携帯です
 ※携帯のアドレス帳には櫃内様刻、宗像形、無桐伊織、戦場ヶ原ひたぎ、戯言遣い(戯言遣いのみメールアドレス含む)が登録されています
 ※ハードディスクを解析して以下の情報を入手しました
  ・めだかボックス『不知火不知』編についての大まかな知識
  ・不知火袴の正体、および不知火の名字の意味
  ・主催側が時系列を超越する技術を持っている事実
 ※主催側に兎吊木垓輔、そして不知火袴が影武者を勤めている『黒幕』が存在する懸念を強めました
 ※ハードディスクの空き部分に必要な情報を記録してあります。どんな情報を入手したのかは後続の書き手様方にお任せします
 ※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。内容は完全に記憶してあります
 ※参加者全員の詳細な情報を把握しています
 ※首輪に関する情報を一部ながら入手しました
 ※浮義待秋の首輪からおおよその構造を把握しました。真庭狂犬の首輪は外せてはいません
 ※櫃内様刻に零崎人識の電話番号以外に何を送信したのかは後続の書き手にお任せします

【宗像形@めだかボックス】
[状態]睡眠中、身体的疲労(中) 、精神的疲労(中)、殺人衝動喪失、左腕(肘から先)欠損、腹部に切り傷、各部に打撲と擦過傷(怪我はすべて処置済み)
[装備]千刀・鎩(ツルギ)×536@刀語、スマートフォン@現実、ゴム紐@人間シリーズ
[道具]支給品一式×3(水一本消費)、薄刀・針@刀語、トランシーバー@現実、「包帯@現実、消毒用アルコール@現実(どちらも半分ほど消費済み)」(「」内は現地調達品です)
[思考]
基本:阿良々木火憐と共にあるため『正義そのもの』になる。
 0:…………。
 1:主催と敵対し、この実験を阻止する。
 2:伊織さんと様刻くんを助けに行かないと……
 3:『いーちゃん』を見つけて合流したい。
 4:黒神さんを止める。
 5:殺し合いに関する裏の情報が欲しい。
[備考]
※生徒会視察以降から
※めだかボックス、「十三組の十三人」編と「生徒会戦挙」編のことを玖渚から聞いた限りで理解しました
※阿良々木暦の情報はあまり見ていないので「吸血鬼」の名を冠する『異常』持ちだと思っています
※無桐伊織を除いた零崎四人の詳細な情報を把握しています
※参加者全員の顔と名前などの簡単な情報は把握しています
※携帯電話のアドレス帳には櫃内様刻、玖渚友が登録されています
※第一回放送までの死亡者DVDを見ました。誰が誰にどうやって殺されたのかは把握しています

194君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:28:21 ID:fnbUZSQ20
13


木々の間を掻き分けるようにして……ではなく、枝から飛び降りてその男は現れた。
僕には心当たりは一切なかったが、蝙蝠だけでなくりすかも反応したところを見ると相手が誰かは絞られる。
いや、一人に断定してしまってもいい。
鑢七花、で間違いないだろう。
だが、この身なりはなんだ?
男なのに女性ものの着物を着てる……のはまあいいが、泥水を全身に被ったかのように汚れているし漂う異臭が尋常ではない。
肩で息をしながらも放つ殺気とは別の理由で近づきがたいものがある。

「きゃはきゃは、やっと出会ったと思ったらそんななりになってるとはよお、虚刀流」
「誰かと思ったらその笑い方……真庭蝙蝠か。忍法骨肉細工でどこかの誰かに変態してるんだろ?」
「あ?なんでお前が俺の忍法を……」
「鳳凰との同盟におまえは入ってなかったし今ここで殺すのに理由はいらないんだよな。そこの女も血を出さないようにすればあんなことにはならないだろうし……」

まずい。
「あんなこと」が空間移動のことならまだいいが大人りすかのことを指してるならばこいつも掲示板の動画を見ている。
そして何気なく言った「殺す」という単語。
間違いなく殺して回っている側だ。
幸い手持ちの武器はそれなりにあるし、今ここで排除することになんら問題はないだろうとグロックに触れたそのときだった。

ぼたり、と鑢七花の背後の木の枝が折れた。

細い枝が折れるのならまだわかるが、それなりに太い枝だったし現れてから落ちるまでのタイムラグがありすぎる。
そもそも枝が落ちてぼたりだなんて音がするのもおかしい、と枝を見れば根本が溶けていた。
待て待て、枝が溶けるだなんてどうやったらそんなことになるんだ。
警戒が確信に変わる。

「逃げるぞ、蝙蝠!」
「キズタカ、逃げるのっ!」

そしてりすかも同じことを考えていたようで、声が重なった。
蝙蝠は少し逡巡したようだが、結局は僕とりすかを担いでくれた。

「理由は移動しながらでいいよな?」
「今でも構わねえぞ」
「その前にまずは確認だ。原因はあいつが被ってた泥、でいいよな?」
「だと、思うの」

逃げることを決めた理由を蝙蝠に説明するのと同時にりすかから確認を取る。
溶ける、ということは溶解か腐敗か。
なんであれ『分解』に類するものと見ていいだろう。
そうなるとりすかにとっては天敵だ。
この見立ては間違っていなかったらしく、付いていた血から魔力がなくなったとりすかが進言してくれた。
それでも蝙蝠はなぜ逃げるのかについては不服だったようだが。
時間が足りなかったのと被っていた泥のせいでうまく観察できず変態できなかったとぼやいていた。

「こっちには絶対に折れない曲がらない錆びないって刀があるんだから勝ち目はあったとは思うぜ?」
「確かにそうかもしれないが、それを使うお前は折れるし曲がるし錆びるだろう」
「……なんだ、俺を心配してくれてたのか?」
「そんなんじゃない」

195君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:29:02 ID:fnbUZSQ20
【1日目/夕方/E-5】
【供犠創貴@新本格魔法少女りすか】
[状態]健康
[装備]グロック@現実
[道具]支給品一式×3(名簿のみ2枚)、銃弾の予備多少、耳栓、書き掛けの紙×1枚、「診療所で見つけた物(0〜X)」、心渡@物語シリーズ、シャベル@現実、
   アンモニア一瓶@現実、携帯電話@現実、スーパーボール@めだかボックス、カスタネット@人間シリーズ、リコーダー@戯言シリーズ
[思考]
基本:みんなを幸せに。それを邪魔するなら容赦はしない
 0:今は鑢七花から逃げる
 1:ランドセルランドで黒神めだか、羽川翼と合流する、べきか……?
 2:ツナギ、行橋未造を探す
 3:このゲームを壊せるような情報を探す
 4:蝙蝠の目的をどう利用して駒として使おうか
 5:掲示板の情報にどう対処すべきか
[備考]
 ※九州ツアー中、地球木霙撃破後、水倉鍵と会う前からの参戦です
 ※蝙蝠と同盟を組んでいます
 ※診療所でなにか拾ったのかは後続の書き手様方にお任せします(少なくとも包帯や傷薬の類は全て持ち出しました)
 ※主催者の中に水倉神檎、もしくはそれに準ずる力の持ち主がいるかもしれないという可能性を考えています
 ※王刀の効果について半信半疑です
 ※黒神めだかと詳しく情報交換しましたが蝙蝠や魔法については全て話していません
 ※掲示板のレスは一通り読みましたが映像についてはりすかのものしか確認していません
 ※心渡がりすかに対し効果があるかどうかは後続の書き手にお任せします
 ※携帯電話に戦場ヶ原ひたぎの番号が入っていますが、相手を羽川翼だと思っています
 ※黒神めだかが掲示板を未だに見ていない可能性に気づいていません


【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】
[状態]出血(小)、零崎人識に対する恐怖
[装備]手錠@めだかボックス、無銘@戯言シリーズ
[道具]支給品一式
[思考]
基本:創貴に従う
 1:創貴と共にランドセルランドへ向かう
[備考]
 ※九州ツアー中、蠅村召香撃破直後からの参戦です。
 ※治癒時間、移動時間の『省略』の魔法は1時間のインターバルが必要なようです(現在使用可能)
  なお、移動時間魔法を使用する場合は、その場所の光景を思い浮かべなければいけません
 ※大人りすかについての制限はこれ以降の書き手にお任せします

196君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:29:33 ID:fnbUZSQ20
【真庭蝙蝠@刀語】
[状態]健康、零崎軋識に変身中
[装備]軋識の服全て、絶刀・鉋@刀語
[道具]支給品一式×2(片方名簿なし)、愚神礼賛@人間シリーズ、書き掛けの紙×1枚、ナース服@現実、諫早先輩のジャージ@めだかボックス、
   少女趣味@人間シリーズ、永劫鞭@刀語
[思考]
基本:生き残る
 0:今は七花から逃げる
 1:創貴とりすかと行動、ランドセルランドへ向かう
 2:双識を殺して悪刀を奪う
 3:強者がいれば観察しておく
 4:完成形変体刀の他十一作を探す
 5:行橋未造も探す
 6:危なくならない限りは供犠の目的を手伝っておくがそろそろ裏切ってもいい頃かもしれない
 7:黒神めだかに興味
 8:鳳凰が記録辿りを……?
[備考]
 ※創貴と同盟を組んでいます
 ※現在、変形できるのはとがめ、零崎双識、供犠創貴、阿久根高貴、都城王土、零崎軋識、零崎人識、水倉りすか、元の姿です
 ※都城王土の『異常』を使えるかは後の書き手の方にお任せします
 ※放送で流れた死亡者の中に嘘がいるかも知れないと思っています
 ※鑢七実の危険性について知りましたが、嘘の可能性も考えています
 ※絶刀は呑み込んでいます
 ※供犠創貴に変態してもりすかの『省略』で移動することはできません。また、水倉りすかに変態しても魔法が使えない可能性が高いです
 ※宇練銀閣の死体を確認しましたが銀閣であることは知りません


14


「ぅ……おぇっ」

顔を上げればそこには誰もいなかった。
遠くで枝が揺れる音だけが聞こえる。
あいつらが逃げようとしたところをすかさず追撃しようとしたおれだったが、運悪くと言うべきか、狙い澄ましたように吐き気が襲ってきた。
隙だらけになってたが襲われずに済んだのは逃げられたのとおあいこだろう。
蝙蝠が口を開けていたし、あれは呑み込んでいた絶刀を出そうとしてたんだろうから無防備なおれは餌食になっていたかもしれない。
まあ、今のおれでも絶刀を折るくらいは余裕だっただろうから逃げられた方が正直痛かったが。
……いや、この程度で痛いって言うもんじゃねえな。
その点では今のおれの体の方がよっぽど痛い。
とにかく、ここで止まるのだけは今やっちゃいけないことだ。
最後に倒れるにしてもこんな無意味な終わりだけはやっちゃいけねえ。
再び枝を跳び移りながらおれは毒づく。

「本当に、めんどうだ」

197君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:29:56 ID:fnbUZSQ20
【一日目/夕方/E-5】
【鑢七花@刀語】
[状態]『感染』、疲労(中)、覚悟完了、全身に無数の細かい切り傷、
    刺し傷(致命傷にはなっていない)、血塗れ、左手火傷(荒療治済み)、吐き気
[装備]なし
[道具]なし
[思考]
基本:優勝し、願いを叶える
 0:真庭蝙蝠達を追う
 1:放浪する
 2:名簿の中で知っている相手を探す。それ以外は斬る
 3:姉と戦うかどうかは、会ってみないと分からない
 4:変体刀(特に日和号)は壊したい
[備考]
 ※時系列は本編終了後です
 ※りすかの血が服に付いていますが『荒廃した過腐花』により腐敗されたようです
 ※不幸になる血(真偽不明)を浴びました。今後どうなるかは不明です
 ※掲示板の動画を確認しました
 ※江迎怒江の『荒廃した過腐花』の影響を受けました。身体にどの程度感染していくかは後続の書き手にお任せします
 ※着物の何枚かを途中で脱ぎ捨てました。どの地点に落ちているか、腐敗の影響があるかは後続の書き手にお任せします


15


俺の悩みを聞いてくれねえか?
いっそ悩みっつーか愚痴って言っちまった方が清々しいのかもしんねーけどよ。
愚痴っつっても至極単純、どうして俺が、気まぐれの権化でもあるようなこの俺が、こうして語り部をやってるかっつーことなんだが。
今までところどころやってたのは他にやってくれるのが一人しかいなかったからだが、今は俺よりも適任がいるだろうが。
自分のことで精一杯?
かはは、言うようになったじゃねーかよ、欠陥製品が。
ただまあ、自分のことで精一杯と言いたくなるような状況であることだけは間違いねーしそう言いたい気持ちもあるのかもな。
俺には全くわからないが。
尤も、この状況をなんとかしろと言われたら確かに俺でも匙を投げたくなるね。
むしろ俺ならこんな状況に陥る前に匙を放り捨てて逃げ出すか。
そもそもどんな状況なのかって?
……そうだな、口喧嘩が二ヶ所で勃発ってか?
どちらも口喧嘩で済んでるからまだ遠巻きに見ていられるんだけどな。
あー、組み合わせとしては欠陥製品と八九寺真宵、ひたぎちゃんとどうやら記憶喪失だったらしい羽川翼の二組。
なんつーか、言い争いに発展するのも仕方ない組み合わせっちゃ組み合わせだな。
そりゃ欠陥製品も周囲まで気が回らねーわけだ。
で、俺以外のやつらがどうしてるかというと、

「起きませんね、禊さん」
「一発キメただけなんだがな……」

こうやって球磨川クンが気絶してる横で仲良くおしゃべりってわけだ。
兄貴の視力を奪いやがったせいで兄貴から本人かどうか疑われかけるわその後ギスギスしまくってやりにくかったわえらく迷惑被ったからな。
そのお礼ってことでアッパーキメてやったらこの通り未だに目を回してる、というわけなんだが。
まだまだぶん殴るつもりでいたのに一発目でこうじゃ気が失せちまう。
そうなると手持ち無沙汰同士で雑談すんのもやむなしな流れになるわな。

「……はぁ」

息をつく音がする。
本当にこういうときだけは美人なんだよな。

198君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:30:31 ID:fnbUZSQ20
「で、これからどうするんだ?一応俺はあんたの弟探すっつー目的を忘れたわけじゃねーんだが」
「今もそのつもりではいるんですけどね。ちょっと他にやりたいこともできてしまいまして」
「ま、こいつと一緒にいたいってんなら反対はしねーよ。人探しも平行してできないってわけでもねーしな」
「あら、珍しい」
「あ?何が珍しいってんだ」
「人識さんなら無理矢理にでも引き剥がして行くかもと思っていましたので」
「だったら朝あの学園で別れたりしねーよ。それに、その間結構いい感じにやってたみたいだし今更やってもな」
「出夢さんは人識さんにとっては大事な方のように見えましたから。それこそわたしと七花の関係みたいに」
「姉弟関係ってか?……当たらずといえども遠からず、だな」
「おかしなことを言うものです。深く聞くのは……やめておきましょうか」
「かはは、人の事情につっこむのはやめとくのが懸命ってもんだ。下手すりゃ鬼が出るからな」
『あ、七実ちゃんおはよう』

話の途中で前触れもなく起きやがった。
予備動作くらい見せろってんだ。

「あら、おはようございます。もう夕方ですがね」
「空気読まずに起きるんだなテメーは」
『僕が素直に空気を読んで起きるとでも思ってるのかい?』
「あーそうだな、すまんかった」
『全く誠意が感じられないね。僕を殴っておいてそれで済まそうというのかい君は?』

そんでもって起き抜けでこんなこと言われると抜かれた毒気が戻ってきやがる。
よし、殴るか。

「そうそう、禊さん。裸えぷろんのことなんですが」
『ぎくっ』

おい。
裸エプロンって何があったらそんな話題になるんだ。
「結構いい感じにやってたみたいだ」っつったの撤回した方がいいかもな……

「真宵さんから聞きましたよ」
『えっ』
「なぜその程度のことを隠そうとしていたのですか?」
『えっえっ』
「禊さんができるということは大して恥ずかしいことでもないのでしょう?余計に隠そうとする理由がわからなくて」

199君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:31:13 ID:fnbUZSQ20
うわ……こいつ実演しようとしてたの?
引くわ。
素で引くわ。

『そ……そう、でも七実ちゃんが気にしないのなら問題ないよね!』
「ですが、隠していたことはいただけません。それについてはしっかりと罰を与えないと」
『……え?』
「どのような罰にしましょうかね……」

あ、これなんて言うか俺知ってる。
自業自得っつーんだよな。
こんな短時間でこいつ顔面蒼白にさせるってすげーな、汗ダラダラじゃん。

「待たせたな、ぜろりん」
「お、終わったのか、いーたん」
「まあ、そういうことだ」
「その様子だと折れたのはお前みたいだな、かはは」
「うるさい」

一方で欠陥製品も議論は終わったようだし向こうも決着が着いているみてーだ。
折れたのはひたぎちゃんの方か。
しかしあの羽川翼って子も末恐ろしいね。
これだけの短時間で殺し合いがあることやら掲示板の存在やら把握した上であの精神状態だってんだから。
支給品に助けられたってのも大きいんだろうけど最初に集められた空間すっ飛ばしていきなり知らない場所で殺し合い始まっててしかも知り合いが死んでるときたもんだ。
あの様子じゃ友人以上の存在だったかもしれねえが。
まあ、それについては俺が深入りするもんじゃねーな。

「んで、向かうのか?ランドセルランドに」
「友もいるし行くよ。それに、真宵ちゃんが黒神めだかと話したいってさ」
「羽川翼の方も多分そうだろうな」
「断片的に聞こえたけど多分そうだと思うよ」
「目覚めたばっかでそこが殺し合いの場で知り合い殺されててあんな反応取れるだなんて正直俺は恐ろしいね」
「珍しく気が合うな。その点についてはぼくも同感だ」
「それで、どうやって移動するのかしら?私はあなたが車を持ってるとは聞いていたし実際その通りだったけれど7人も載せるのは不可能じゃなくって?」
「そうなんだよな……零崎に電話した時点じゃ真宵ちゃんしかいなかったしまさか3人増えるとは思わなかったしなあ」
「それでしたらいい方法がありますが」
「え、まさか七実ちゃんが車もう一台持ってるとか?」
「いえ、そうではなくて。わたしたちが座っていた場所より後ろに空間があったではないですか」
「トランクのこと?でもあれは荷物を入れるところであって……」

いつの間にか全員集まって会議の様相を呈しているが、残念なことに俺には先が読めちまった。
……祈っておくか。
事故らないようには気をつけとくからよ。

「禊さん共々裸えぷろんについて黙っていた罰です。二人仲良く入っていただきましょう」
「えっ?」

やっぱりな。

「いっきーさんには言っていませんでしたっけ。真宵さんから聞いているのですよ、裸えぷろんについては」
「えーと、それは……つまり?」
「内容自体は別になんとも思いませんが、わたしに黙っていたことは別です」
「まあ、そういうことだから諦めろ、欠陥製品」
「ちょ、何言ってんだ、人間失格」

引き際がよくない男は嫌われるぞ、ってな。

「せいぜい事故んねーように安全運転心がけてやるからよ。で、誰が助手席座るんだ?」

200君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:31:54 ID:fnbUZSQ20
残った女子四人で議論……になるかと思ったら全会一致で七実ちゃんに決定した。
一番危ないのは間違いねーし、残り3人が元から知り合いだったみてーだしな。
ま、このメンツで会話が弾むとも思えねーし案外トランクに放り込まれる男二人はそれはそれで悪くはないんじゃねーのか。
……運転する俺が一番気が重いってことか、おい。

「異論はないようですし、いっきーさんと禊さんにはそのとらんくの中に入ってもらいましょうか。あら、なんですかその顔は」

つっても納得はできねえよなあ。
一応人間が入れない広さじゃあねーが二人詰め込むとなると。

「自分から行かないのであればわたしが無理矢理にでもあなたがたを詰め込みますが」
「『わかりました』」

折れるのはえー。
『まあいいさ、この後めだかちゃんに会えるのなら少しは我慢するよ』、とトランクのある後部に向かいながら球磨川がごちる。

『ついでとはいえめだかちゃんに善吉ちゃんの無念をぶつけるのも悪くはないしね』

ん?今ひたぎちゃんが『善吉』って言葉に反応しなかったか?
……気のせいか。


【一日目/夕方/F-4 診療所前】
【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]健康、車(トランク)の中
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス(現地調達)、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実、解熱剤
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 0:トランク……狭い。
 1:ランドセルランドに向かって玖渚と合流。
 2:真宵ちゃんの記憶を消してもらう……のは無理そうだね。
 3:掲示板を確認してツナギちゃんからの情報を書き込みたいけど今できるかな。
 4:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 5:展望台付近には出来るだけ近付かない。
 6:裸エプロンに関しては戯言で何とかしたかったのに……
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました
 ※夢は完全に忘れました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識、ツナギ、玖渚友のものが登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※八九寺真宵の記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします

201君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:32:27 ID:fnbUZSQ20
【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]ストレスによる体調不良(発熱、意識混濁、体力低下)、動揺 、一周回って一時的正気?、車で移動中
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:生きて帰る。
 1:戯言さんと行動……今はトランクの中ですけど。
 2:阿良々木さんを殺したらしい黒神めだかさんと話がしたい。
 3:記憶は消させません、絶対に。
 4:そういえば羽川さんの髪が長いのですが。
 5:戦場ヶ原さんが怖いです……
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です
 ※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします
 ※記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします


【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『健康だよ。お腹は満腹だ。それにしてもトランクって狭いね』
[装備]『大螺子が2個あるね』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックスがあるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
基本:「黒神めだかに勝つ」『あと疑似13組を作って理事長を抹殺しよう♪』
『0番は……僕は悪くない』
『1番はランドセルランドに向かうよ』
『2番はやっぱメンバー集めだよね』
『3番は七実ちゃんについていこう! 彼女は知らないことがいっぱいあるみたいだし僕がサポートしてあげないとね』
『4番は善吉ちゃんの無念をめだかちゃんにぶつけてあげよう』
『5番は宇練さんについてだけど、まあ保留かな』
『6番は裸エプロンに関しては欠陥製品に押し付けようと思ったのに……どうしてこうなったんだ!』
[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り1回
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています


【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中、車で移動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2〜6)、球磨川の首輪×1
[思考]
基本:弟である鑢七花を探すついでに、強さと弱さについて考える。
 1:七花以外は、殺しておく。
 2:もう面倒ですから適当に過ごしていましょう。
 3:気が向いたら骨董アパートにでも、と思っていましたが面倒になってきました。
 4:裸えぷろんについてどうしてひた隠しにしていたのでしょう?
 5:宇練さんは、次に会った時にはそれなりの対処をしましょう。
 6:四季崎は本当に役に立つんでしょうか?
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れる可能性が生じています
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします

202君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:32:57 ID:fnbUZSQ20


【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]健康、ノーマル羽川、混乱、車で移動中
[装備]パーカー@めだかボックス、ジーンズ@めだかボックス
[道具]支給品一式×2(食料は一人分)、携帯食料(4本入り×4箱)、タブレット型端末@めだかボックス、黒い箱@不明、トランシーバー@現実、
   「ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス」
[思考]
基本:? ? ?
 0:ランドセルランドへ。黒神めだかと話せるのなら話したい。
 1:阿良々木くんが死んでいるなんて……
 2:情報を集めたい。
 3:戦場ヶ原さん髪もそうだけど……いつもと違う?
 4:真宵ちゃんの様子もおかしい。
 5:どうして私がこんな物騒なものを。
[備考]
 ※ブラック羽川が解除されました
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です
 ※全身も道具も全て海水に浸かりましたが、水分はすべて乾きました
 ※トランシーバーの相手は玖渚友ですが、使い方がわからない可能性があります。また、当然ですが相手が玖渚友だということを知りません
 ※道具のうち「」で区切られたものは現地調達品です。他に現地調達品はありませんでした
 ※ブラック羽川でいた間の記憶は失われています
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得したか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします


【戦場ヶ原ひたぎ@物語シリーズ】
[状態]健康、強い罪悪感、しかし確かにある高揚感、車で移動中
[装備]
[道具]支給品一式×2、携帯電話@現実、文房具、包丁、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×6@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、斬刀・鈍@刀語、お菓子多数
[思考]
基本:優勝する、願いが叶わないならこんなことを考えた主催を殺して自分も死ぬ。
 0:ランドセルランドへ。今は折れるふりをしておきましょう。
 1:本格的に動く。協力者も得られたし頭を使ってうまく立ち回る。
 2:阿良々木君の仇を取るまでは優勝狙いと悟られないようにする。
 3:黒神めだかは自分が絶対に殺す。そのために玖渚さんからの情報を待つつもりだったけれど逆に自分から提供することになるなんてね。
 4:貝木は状況次第では手を組む。無理そうなら殺す。
 5:掲示板はこまめに覗いておきましょう。
 6:羽川さんがどうしてここにいるのかしら……?
[備考]
 ※つばさキャット終了後からの参戦です
 ※名簿にある程度の疑問を抱いています
 ※善吉を殺した罪悪感を元に、優勝への思いをより強くしています
 ※髪を切りました。偽物語以降の髪型になっています
 ※携帯電話の電話帳には零崎人識、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています。また、登録はしていませんが供犠創貴の電話番号を入手しました。
 ※ランダム1は貝木泥舟、ランダム2は供犠創貴のものでした
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得されたか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします

203君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:33:24 ID:fnbUZSQ20
【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康、車で移動中
[装備]小柄な日本刀 、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×6(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)、医療用の糸@現実、千刀・鎩×2@刀語、
   手榴弾×1@人間シリーズ、青酸カリ@現実、S&W M29(6/6)@めだかボックス、大型ハンマー@めだかボックス、デスサイズ@戯言シリーズ、
   彫刻刀@物語シリーズ
[思考]
基本:戯言遣いと合流する。
 0:ランドセルランドへ行きゃ真庭蝙蝠達をボコれるかねえ。
 1:戦場ヶ原ひたぎ達と行動。ひたぎは危なっかしいので色んな意味で注意。
 2:伊織ちゃんと連絡を取る。合流するかどうかは後から決める。
 3:兄貴には携帯置いておいたから何とかなるだろ。
 4:真庭蝙蝠、水倉りすか、供犠創貴、宇練銀閣を捕まえる。
 5:西東天に注意。
 6:哀川潤が放送で呼ばれれば殺人をしないつもりはない。
 7:欠陥製品と球磨川クンは……自業自得だろ。
[備考]
 ※曲絃糸の射程距離は2mです
 ※曲絃糸の殺傷能力(切断・絞殺など)は後の書き手さんにおまかせします
 ※りすかが曲識を殺したと考えています
 ※Bー6で発生した山火事を目撃しました
 ※携帯電話の電話帳には戯言遣い、ツナギ、戦場ヶ原ひたぎ、無桐伊織が登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※球磨川禊が気絶している間、鑢七実と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします



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支給品紹介

【工具セット@現実】
浮義待秋に支給。
ドライバーやレンチなど所謂日曜大工で使うような工具が入っている。
一般のホームセンターで買えるようなものしかないため、専門的なものは少ない。

【エプロン@めだかボックス】
球磨川禊に支給。
球磨川禊の趣味その1、裸エプロンで使うためのもの。
ジャンプの表紙はもらえなかったが見開きセンターカラーをもらえた。

【ジーンズ@めだかボックス】
球磨川禊に支給。
球磨川禊の趣味その2、手ブラジーンズで使うためのもの。
同じくジャンプの表紙はもらえなかったが見開きセンターカラーをもらえた。

【パーカー@めだかボックス】
球磨川禊に支給。
球磨川禊の趣味その3、全開パーカーで使うためのもの。
センターカラーすらもらえなかったがコミックスで登場。

204君の知らない物語 ◆ARe2lZhvho:2013/10/29(火) 10:40:49 ID:fnbUZSQ20
投下終了です
仮投下から
・指摘された部分についての描写の追加
・首輪の構造の部分の追加
・玖渚が様刻にメールを送ったことについて備考に追加
・戦場ヶ原ひたぎの状態表の備考に追加
・羽川翼の基本スタンスの変更(この話で決めるのは尚早に思えたので)
などいくつか変更点があります
それ以外の点についても誤字脱字指摘感想等ありましたらお願いします

また、この話が通しになったら放送に進んでもいいと思うのですがどうでしょうか?

あとあれですね、終物語のバサ姉かわいすぎますね!

205 ◆wUZst.K6uE:2013/10/30(水) 23:33:24 ID:wACqEO/gO
投下乙です!

>ぼくときみのずれた世界
様刻がヤバい。ていうかエグい。そして格好良い
ダーツの矢が決まったときは「あ、これ鳳凰終わったな」と思ったのに、殺さず生かしたままあんな状態で放置するとか様刻さんマジ鬼畜。戦う前に玖渚から冷静に情報収集したり一切の躊躇なく手足切り落としたり、何のプロだこの高校生
このところ主人公枠の野郎どもがいまいちパッとしない感じだったので、主人公&一般人(?)枠の様刻が強マーダーである鳳凰に勝利するという展開は実に痛快でした。もう様刻の二つ名『辻褄合わせ』(ピースメーカー)でいいなこれ
「今まで楽しかったぜ」以来ようやくまた一歩二歩前進した感じの様刻だけど、伊織はほぼ戦闘不能状態になってるし、むしろ苦労は増えそうな予感。一般人枠としてどこまで生き残れるのか楽しみ
鳳凰は、まあ大丈夫なんじゃないかな・・・なんかもう球磨川の次くらいに死にそうにない気がしてきたし・・・
あの惨状に至ってなお復活する余地が普通にあるってのが恐ろしいわ

>君の知らない物語
相変わらずというかいつも以上にというか、会話のテンポの良さと話のまとめ方が絶妙に上手い。14名という大型投下にもかかわらず、まったく長さを感じさせずに読ませるというのは本当に凄いと思う
携帯と掲示板のおかげで情報交換も潤滑に進んだし、放送直前の収束話としても納得の一作でした
しかし通信デバイスが無双してるせいで七花の孤立具合がより顕著に・・・いっそ蝙蝠たちと組めたら良かったんだろうけど、あの状態じゃそれもできないわけで
もはや「いつまで死なずにいられるか」状態の七花だけど、この先助かる術は見つかるんだろうか
一方で大所帯と化したフィアット500チーム。表面上は和気藹々としてるのがなんか微笑ましかった。目的も思惑もてんでバラバラなのに・・・
前回で元の姿に戻った羽川だけど、一番混乱していい立場にもかかわらず状況を察して冷静にガハラさんを説得してみせるところが羽川クオリティ。曲者揃いのこのチームの中で、戦場ヶ原や危険人物たちのストッパーとして調和をもたらすことはできるか?
まあいーちゃんと球磨川がいる時点で「調和」なんぞ至難の業だろうけど。ガハラさんも上っ面はおとなしくしてるけど全くブレないし
玖渚組も含めれば総勢11人にもなるチームだし、その気になれば主催も蹴散らせるはずの戦力なんだけどなあ・・・むしろ放送を皮切りに更なる波乱が巻き起こる予感しかしないわけで。次の舞台、ランドセルランドで各陣営がどんなアクションを起こすのか大いに期待
しかし球磨川の支給品ロクなもんじゃねえな・・・さすが天性の引きの悪さを持つ男だけのことはある
球磨川の性癖を考えると、むしろ異常に引きが強いと言うべきなのか・・・

以上、感想でした。自分もこれで放送に進んでいいと思います。

206名無しさん:2013/10/31(木) 13:35:42 ID:jeFYVq8o0
投下乙です

ここはずっと見てるよ
ただ感想が付けにくいというか下手な感想しずらい空気があるから感想が書きずらい
でも作品とかみんな凄いと思ってるよw

207名無しさん:2013/11/15(金) 00:49:22 ID:HuV2/Kt20
月報です
話数(前期比) 生存者(前期比) 生存率(前期比)
137話(+6) 17/45(-2+2) 37.7(-0.0)
生存者は二人死んで二人生き返ったのでこうさせてもらいました

208 ◆wUZst.K6uE:2013/11/19(火) 21:29:03 ID:ngPsfOQk0
投下開始します

209第三回放送 ◆wUZst.K6uE:2013/11/19(火) 21:30:26 ID:ngPsfOQk0
 「どうも皆さん。時間になりましたので、三回目の放送を始めさせていただきます。
 今回の放送を担当するのは、私不知火袴です。またこうして皆さんに声をお届けすることができるというのは、私に限らず主催一同、大変に喜ばしいことであると思っております。
 しかしながら。
 前回の放送から6時間、すでに私達の声を聞くことができない状態になってしまっている方、つまりは脱落者の数も、また新たに増えているご様子です。
 これは我々にとっては実験が滞りなく進行している証拠、すなわち喜ぶべき事実ではあるのですが、皆さんの中にはこれを悲しむべき事実、悼むべき現状として捉えられる方もいるかもしれません。
 ですが皆さん。改めて言いますが、この実験の内実は「殺し合い」であり、「最後の一人になるまで」続けられます。
 それ以外の終わりはありません。
 それ以外に終わらせる方法はありません。
 ゆえに皆さんがいくら悲哀に暮れようと、現状を嘆こうと、その事実を変えることはできません。皆さんのうち誰が、次の脱落者として名前を挙げられることになろうと何ら不思議なことではないのです。
 どんな気概を掲げようとも、どれほどの絶望を抱えようとも、最終的には殺す立場か殺される立場、どちらかに立つしか選択の余地は残されていないのです。
 それを自覚なさってください。
 前置きが過ぎましたかな? それでは本題、死者の発表に移りたいと思います。
 今回脱落したのは11名です。

 西東天。
 哀川潤。
 想影真心。
 西条玉藻。
 零崎双識。
 串中弔士。
 ツナギ。
 左右田右衛門左衛門。
 宇練銀閣。
 貝木泥舟。
 江迎怒江。

 以上です。
 11名、11名。この局面にしては悪くない数字ですね。皆さんの努力の賜物と言えましょう。
 続いて禁止エリアの発表です。毎度のことですが、くれぐれも聞き逃しのないように。
 よろしいですかな?

 一時間後の19時から、F-8。
 三時間後の21時から、E-3。
 五時間後の23時から、H-6。

 以上の三ヶ所です。
 本来ならば連絡事項はこれで終了なのですが、今回は少しばかり、会場内で通常ならぬ事態が発生しているため、加えて報告しておこうと思います。
 まずひとつ。
 すでにお気付きの方もいるかとは思いますが、会場北部、竹取山にて大規模な火災が発生しております。不用意に近づきさえしなければ危険はないかと思いますが、付近にいる方は念のため注意しておいてください。
 それからもうひとつ。
 会場西部、地図上におけるB-3を中心とし、禁止エリアとは別に、とある危険区域がその範囲を拡大させながら発生しております。
 誤解のないよう言っておきますが、これは我々の用意した舞台装置ではありません。
 どういった理由で危険であるかは言及を控えますが、ある意味では火災以上、禁止エリア以上の危険区域と捉えておいたほうが身のためです。生半可な気持ちでは近づかないことをお勧めします。
 実験にトラブルは付き物です。そのトラブルをいかに乗り越えるかというのも、皆さんの手腕が試されるところと言えましょう。
 もう一度言いますが、あなたがたが生き残れるか否かは、あなたがたの成す行動と決断に掛かっています。
 努々それをお忘れにならないよう。
 それではまた、次の放送でお会いしましょう。
 皆さんのご健闘を、心よりお祈りしています――」

210第三回放送 ◆wUZst.K6uE:2013/11/19(火) 21:31:03 ID:ngPsfOQk0
 


 ――かちり。

 マイクの電源を切ると、それに向けて喋り続けていた和服の老人――不知火袴は大きく息をつき、椅子に深く背をもたれる。

 「今回は随分と煽ってみせたな、不知火理事長」

 その隣に座る白衣の老人――斜道卿壱郎は、モニターに映る参加者たちの様子を眺めながら不知火に話しかける。誰の映像に目を向けているのかはわからないが。
 薄暗い部屋に、周囲を囲むモニター、隣り合って座る二人の老人。
 一回目の放送とほぼ同じ光景が、その部屋にはあった。

 「ええまあ、そろそろ状況も行き詰ってくるころかと思いましてね。報酬を目の前にぶら下げるだけでなく、後ろから尻を叩いてやるのも必要ですからな」
 「飴と鞭か。教育者のお前らしいやり方だな」
 「私なりの優しさというものですよ。一刻も早く、皆さんが良い結果を出されるように」

 湯飲みを口元で傾けながら、不知火は周囲のモニターをちらりと見やる。

 「……しかし、江迎さんの件はさすがに予想外でしたね」

 会場内の動向をリアルタイムで監視し、記録するためのモニター。
 それらは会場の風景や参加者の行動を、それぞれ映像として流し続けている。しかしいくつかの画面はなぜか映像を映さず、スノーノイズの状態となってしまっていた。
 しかもそれらの画面は復旧するどころか、ひとつ、またひとつと、時間が経過するごとに同じような画面が、次々に増えていくのがわかる。
 まるで何かが『感染』するかのように。

 「暴走を抑えるために制限をかけたというのに、その制限すら飛び越えて、元々以上の能力を開花させてしまうとはね……その上、死した後にも能力だけを遺して逝かれるとは。手に負えないとはまさにこのことですな」
 「げに恐ろしきは天才よりも過負荷、といったところか。予想外といえば予想外だが、しかし問題はあるまい。首輪が腐敗を免れている以上、この施設に施されている防護を越えるということもないのだからな」
 「まあ我々は大丈夫でしょうが……しかしこのまま放置すれば最悪、参加者全員が腐敗に飲み込まれてしまいかねませんぞ。こんな形で実験が破綻してしまうというのは、あなたとしても不本意なのでは?」
 「またやり直せば良いだけの話だ。望む結果が出るまで何度もな。何しろ連中は全員――」
 「おっと、皆まで言うのは無粋というものですぞ、博士」

 そう言って、二人の老人は互いに顔を見合わせることもなく、不敵な笑みをただ浮かべる。
 何かを再確認するかのような、それは笑みだった。

 「俺達の本分はあくまで研究者だ。些細なトラブルの処理など、参加者自身にどうにかさせるか、あの小娘にでも任せておけばいい。違うか?」
 「まあ、あなたが良いと言うのであればこれ以上は何も言いませんがね……そういえば、その萩原さんはどちらへ行かれたのですかな? 先程から姿が見えないようですが」
 「所用で外すと言っていた。後輩がどうとか吐かしておったから、おおかた『選外』の連中の様子でも見に行っているのだろう」


   ◇      ◇


 不知火袴が放送を終えたころ、萩原子荻は檻の前にいた。
 数時間前、具体的には二回目の放送後、兎吊木垓輔と面会したときと同じように、彼女はどことも知れぬ幽閉施設を訪れ、固く閉ざされた鉄格子の前に立っていた。
 ただし、その格子の向こうにいるのは兎吊木垓輔ではない――そもそも檻の雰囲気からして、兎吊木の幽閉されていたそれとは違う。幾重にも念入りに鍵が取り付けられているということもないし、広さもこちらのほうが一目でわかるほどに広い。
 内装もまた、あからさまなほどに異なっている。床にはカーペットが敷かれ、天井にはきちんとした照明、さらに書籍類やテレビ、コーヒーメーカーなどの設備も整えられていて、見たところ普通の居住空間のようである。
 鉄格子で区切られているという点を除けば。
 中にいる人間が、自分の意思では外に出られないという点を除けば。
 それでも置かれているのが情報処理のための機器のみという兎吊木の檻と比べれば、格段に人間らしい空間と言えるだろうけれど。

 「ご機嫌よう、お二人とも」

 檻の中へと、子荻は声をかける。
 言葉通り、中には二人の人物がいた。
 ひとりは高校の制服を着た、ボーイッシュな短髪の少女。カーペット敷きの床にもかかわらずスニーカー履き、左腕は怪我でもしているように、肘の辺りまで包帯でぐるぐるに覆われている。
 もうひとりは、こちらも高校の制服――ただし短髪の少女と比べてスタンダードと言える、ごく普通のセーラー服を着た小柄な少女。髪を束ねている大きな黄色のリボンが、トレードマークのようによく目立っている。

211第三回放送 ◆wUZst.K6uE:2013/11/19(火) 21:31:35 ID:ngPsfOQk0
 
 「……ご機嫌は別によろしくないがな、むしろはっきり悪い」

 二人のうち、子荻に近い位置に座っている短髪の少女が不快そうに返事をする。
 一見溌剌とした外見の少女ではあるが、その表情からは得も言えぬ疲労感が見て取れた。ストレスを和らげるために用意されたであろう設備が、まるで役に立っていないと主張するように。

 「何かご不満な点がございましたか? 神原駿河さん――相部屋がお気に召さないのでしたら、別途に部屋をご用意いたしますが」
 「いきなりどこかもわからないところに誘拐されて、檻の中に監禁されて、それで気分のいいはずがないだろう。それと別室など不要だ。むしろ可愛い女の子との相部屋でなかったら、問答無用で暴れているところだ」

 隠し切れないほどの疲労感を滲ませながらも、神原と呼ばれた少女は毅然とした態度で受け答える。
 子荻に対し、虚勢を張る。

 「待遇の悪さについては、やむを得ないこととはいえ非常に申し訳ないと思っております。私としては、できる限り要望にはお応えしたいと思っているのですけれど」
 「要望というなら、今すぐここから出して家に帰してもらいたいところだが」
 「残念ながらそれはできません」

 間髪入れず、子荻は言う。
 交渉の余地がないことを示す。

 「場合によってはそのままお帰りいただくことになるかもしれませんが、今はまだ実験の真っ最中ですから。それが終わるまでは、ご協力いただかなくてはなりません」
 「実験? ただの殺し合いだろう」
 「そうですね、そこについても否定はできません。あなたの先輩方も参加なさっている、殺し合いの実験です」
 「…………阿良々木先輩や、戦場ヶ原先輩は、無事なのだろうな」
 「それも残念ですが、実験の進捗状況を詳しくお教えするわけにはいきません。大事な先輩の生死に関わる情報とはいえ、極秘の実験ですから」

 ぎり、と、歯を食いしばる音が檻の中に小さく響く。

 「やはり、気が気ではありませんよね。親愛なる先輩たちが殺し合いの場に放り込まれ、命の危険に晒され、もしかしたら互いに殺しあう立場にいるかもしれないというのですから」
 「冗談は胸だけにしておけ。阿良々木先輩たちが、そんな愚かしい実験にそう諾々と乗せられるはずがない。おおかた今ごろ、皆で協力して誰も殺さずに終わらせる方法を画策しているに決まっている」
 「あらあら、信頼の厚い後輩をお持ちなのですね、その阿良々木というお方は」

 羨ましいです、と言って含み笑いをする子荻。
 その態度に気分を害したのか、神原はさらに表情を険しくする。

 「私もその実験――殺し合いに参加させるつもりなのか」
 「ええ、当初はその予定でした」
 「当初は?」
 「そもそもあなたには、あなたの言う先輩たちとともにこの実験に参加していただく予定だったんですよ。暫定というよりは、ほとんど決定済みのメンバーとしてね。
 しかしその後の調査において、あなたには『資格』がないことが判明しました。この実験に参加する上で最も重要な資格がね。そういった理由で、あなたたちには参加者の枠から外れていただくしかなかったのですよ。とても残念なことに」
 「『資格』……? いったい何の話だ」

 本当に残念です、と神原の問いを無視し、子荻はひとりごとのように呟く。

 「あなたたちほどの影響力を持つ者が『選外』というのは、非常に口惜しい事実です――しかしご安心ください。資格を持たないあなたたちも、別の形でこの実験に携わる機会を得られるよう、私が取り計らいました」
 「頼んだ覚えは一ミリもないが」
 「私はこの実験の結末を、大まかに分けて三つ、想定しています」

 もはや脈絡すら関係がない。
 演説でもするように、子荻は檻の前をゆっくりと歩き回りながら語り続ける。

212第三回放送 ◆wUZst.K6uE:2013/11/19(火) 21:32:13 ID:ngPsfOQk0
 
 「一つ目は、参加者が一人残らず全滅してしまうというケース。
  二つ目は、順当に一人だけが生き残り、優勝を手にするケース。
  三つ目、実験そのものが続行不可能な状況に陥り、強制終了を余儀なくされてしまうというケース。
 イレギュラーの可能性まで含めれば他にも無数に想定できますけど、オッカムの剃刀に従ってこの三つだけを考えるとするなら、私たちが最も警戒すべきなのは言うまでもなく三つ目のケースです。
 実験が何によって続行不可能となるかはこれまた色々と想定が可能ですけど、特に警戒しておくべきは参加者の反抗という可能性でしょう。
 参加者の誰かが何らかの方法で主催者の掛けた束縛を解除し、この施設に革命軍よろしく突入してくる、という私たちにとっては最悪のケース。逆に参加者の皆さんにとっては起死回生のクーデター、一発逆転の打開策といったところですか。
 もっとも参加者の反抗に関しては十重二十重に対策を講じていますから、このケースが実際に起こる可能性はまずないでしょうけどね。というか私もただでは済まないでしょうから、起こってもらっちゃ困るんですけど」
 「はん、私はむしろそのケースしか想定してはいないがな。阿良々木先輩ならそのくらいのことはやってのける」
 「ええ、私も実のところはそう思っています」

 急に同意を示され、怪訝な顔をする神原。

 「この実験の参加者たちについて、私は軽く見ているつもりはありません。最も困難な可能性こそを可能にする、百万分の一の確率を最初に引き当てる、そんな空前絶後の才能の持ち主を相手に、十や二十の対策で安心するほど私は楽観主義者ではありません」

 そこであなたたちです――と、子荻は歩みを止めて神原に向き直る。

 「あなたたちにはぜひ、衛兵としての役割を担っていただきたいのです」
 「え――衛兵?」
 「衛兵というよりはボディーガードと言ったほうが据わりは良いでしょうか? ともかく何者かがこの施設に侵入してきた場合、それを排撃するための護衛役になってほしいと、つまりはそういうお願いを、私はここにしにきたのですけれど」
 「ば、馬鹿を言うな。そんなもの、協力するはずがないだろう」

 もはや理解が追いつかないという風だった。
 気丈な振る舞いも忘れ、ただ困惑だけを顔に浮かべている。

 「か、仮に私がその役割を承諾したとして、実際に阿良々木先輩がここに攻め込んできたらどうする。どう考えたって、その場で阿良々木先輩に味方するに決まってるだろう」
 「いえ、むしろ『顔見知り』が相手のときこそ、あなたたちの出番だと私は考えています。『身内』にこそ弱点を晒してしまうような、そんな仲間思いの方たちが揃っていますからね。『知り合い』であることこそが、ここでは重要なのですよ」
 「だから、協力などしないと――」
 「自発的に協力の意を示してもらう必要はありません。こちらには洗脳のスペシャリストがいますから」

 対して子荻は、まるで姿勢を崩さない。
 表情も、口調も、まるで一切ぶれる様子を見せない。

 「黒神めだかの『調整』には少々手間取ったようですけど、あなたたち程度であればそう時間は必要としないでしょう。念のため、都城さんには早めに準備してもらうようお願いしておきますが」
 「ふざけるな、洗脳だかなんだか知らないが、私はお前らの味方なんてしないぞ、絶対に」
 「ご安心ください。先ほども言いましたが、場合によってはそのままお帰りいただくこともあります。
 例えばあなたの場合、阿良々木暦を中心とする数名のメンバーに対するカウンターとして使用するつもりでいますので、あなたの言う『先輩たち』が全員脱落――まあつまりは死亡した場合ですが、その時点であなたはほぼお役御免ということに――」
 「いい加減にしろ!!」

 がしゃん、と鋭い金属音が室内にこだまする。
 両手で鉄格子を握り締め、しかし言うべき言葉が見つからないのか、激しい表情で子荻をただ睨みつける。
 子荻はその視線を、冷め切った表情で受け流す。まるで興味のないものを見るような目で。

213第三回放送 ◆wUZst.K6uE:2013/11/19(火) 21:33:01 ID:ngPsfOQk0
 
 「……萩原さん、あなたはいったい、何を考えているんですか」

 そのとき、部屋の奥で二人のやりとりを黙って見ていた黄色いリボンの少女が恐る恐るといった感じに口を開く。
 スカートの端を握り締めるその両手は、目に見えて震えていた。

 「西条ちゃんはともかく、師匠や、あまつさえ潤さんまで巻き込むなんて――こんなのもう、どう転んだって普通じゃ済みませんよ。いくらあなたのやることでも、常軌を逸しすぎてます。
 あなたはいったい、何をやろうとしてるんですか。何のために、何の目的で、誰に何の得があって、こんなことをしているんですか」

 沈黙。
 神原は子荻を睨み続け、子荻は小柄な少女と視線を交錯させ続ける。
 檻の内と外で、三人の少女は沈黙のままに、ちぐはぐに向かい合っていた。

 「――この実験の真の目的は、私の知るところにはありません」

 ややあって、子荻が笑みを消した表情で誰ともなく言う。

 「私自身に目的があるとすれば、私が私であることを証明することでしょうね……今の私が、正真正銘の『萩原子荻』であること。それを証明するのは、おそらく不可能に近いのでしょうけど――」
 「……何の、話ですか」
 「他人に訊いてばかりいるというのは愚か者の証拠です。少しは自分の頭で考えなさい、紫木」

 そう言って、子荻は二人の少女に背を向ける。
 そのまま立ち去るかに見えたが、「ああ」と思い出したかのように足を止め、

 「先ほどの件ですが、護衛役といってもそう気負うものではありません。別に最後の砦というわけでもないですし、侵入者があった場合に限り、ほんの少しバリケードとして機能してくれればよいというだけの話です」

 それ以上の働きは期待していませんから。
 最後にそう言い捨てて、『策師』の少女は一度も振り返ることなくその場を後にする。
 がん、と鉄格子を殴りつける音だけが、檻の中に空しく響いた。


   ◇      ◇


 とぅるるるるるるる……

 ピッ。

 「もしもし、都城さん。偵察ご苦労様です。
 ――ええ、その『腐敗』を止めることは現時点では不可能ですから、巻き込まれないうちに一度こちらへ戻ってきていただけますか。こちらでひとつ、やっていただきたい仕事ができましたので。
 そうですね、例の『選外』の方たちについての――いえ、緊急にいうわけでもないのですが、その『腐敗』も含めて諸所で不穏な気配が見られるようなので、早めに準備していただこうかと。
 なにしろ、首輪の解除を補助しかねないような情報が一部とはいえ会場内に漏れ出てしまっているというのですからね……余裕を見せていられる状況ではありません。
 ――え? さあ、いったいどこから漏出したのでしょうね。私には皆目。
 都城さんも、道中は十分にお気をつけください。私の『策』の実行に、あなたはなくてはならない存在なのですから。
 ――あら失礼。それではまた、こちらでお会いしましょう」

 プツッ――ツーツーツー……

 「……この分だと、腐敗の波がこの施設を飲み込んでしまうのも時間の問題ですね。あの二人の言うとおり、ここの防護を越えることはまずないでしょうけど――」

 やれやれ、と通話を終えた子荻は困ったように首を振る。

 「いくら参加者の自主性を重んじるためとはいえ、あれほどの異常事態が発生しているのに放置したままでよいとは、あの二人は鷹揚と言うより、危機感が欠けているように見えますね……この施設内も、必ずしも安全という保証はないというのに」

 まあ一応、対策は考えていますけどね――言いながら、携帯電話を操作する子荻。
 画面に表示されているのは、電話帳に登録されている携帯電話の番号と、その持ち主の名前。
 『都城王土』をはじめとするいくつもの名前のうち、子荻はある人物の名前を確認する。
 一人の少女の名前を。
 主催者の一人である老人と同じ姓を持つ、その少女の名前を。

 「過負荷には過負荷――もしものときは、彼女に『喰い改めて』いただくのが得策ですか」

214 ◆wUZst.K6uE:2013/11/19(火) 21:34:28 ID:ngPsfOQk0
投下終了です

215名無しさん:2013/11/19(火) 22:34:20 ID:dypK2a3g0
投下乙です

放送とその裏側
主催らが策動ロワに出てないと思ったら捕まってた子もいて…

216名無しさん:2013/11/19(火) 23:09:56 ID:iBpiO1Vs0
投下乙です
改めて見ると戯言勢落ちすぎぃ!
いーちゃんの反応が心配になるレベルだなこりゃ…
それに全陣営から落ちてるのも初めて?
江迎ちゃんが落ちたことでクマーも何かしら反応示すだろうし、波乱は必至でしょうな
さすがに腐敗は主催陣もほっとくことはできなかったかー
範囲見るに禁止エリア()な状態ではあったから仕方ないと言えば仕方ないがw
そして神原キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!
姫ちゃんは自分でフラグ出してたけどまさか神原が来るとは思わなかったので歓喜
再現度凄くてみゆきちボイスで脳内再生余裕です、はい
子荻ちゃんもなんか生き生きしてるように見えるしこの子は何を考えているんだろうなぁ…w
さりげなく主催本部の場所もヒントが出てきたしあのキャラのフラグも立ったしで先が楽しみになる放送でした

217不問語〜四季崎記紀〜:2013/11/20(水) 17:24:08 ID:8mEXnFdk0
 どんな事にも目的はある。もちろん俺、四季崎記紀が変体刀を生み出したのにも理由はあった。
そして今回――こんな茶番に参加したのにも、理由がある。
そもそも俺が参加しようと思ったきっかけは「素材」にあった。
すべてを「完成」させる力を持った女――黒神めだか。
もしも、そんな「素材」で刀を、「完全形変体刀」をつくることができたなら。
さらに、その「素材」を鍛え上げるための「材料」もそろっていた。
例えば、人を殺さない殺人衝動を持った少年。
例えば、衝動もないのに殺す殺人鬼。
例えば、そんな殺人鬼の代用品。
例えば、努力をして「異常」についていくただの少年。
例えば、その才能ですべてを幸せにしようとする少年。
例えば、魔法少女。
例えば、破片を拾ってつなぎ合わせることのできる少年。
例えば、人類最強。人類最終。
例えば、勝ったことのない人間未満。
そして、「見稽古」を持つ俺の娘。
これ以上にない環境。参加しないわけにはいかないだろう。
人間最大の目標、「完全になること」をそのまま体現した女。
努力するのは完全になるため。
神に祈るのは完全なる神に近づくため。
何かを奪うのは足りないものを手に入れ、完全になるため。
他にもいろいろあるが、努力もせず祈ることもせず奪うこともせずに、ただ完全に近づく。
「変わりたいと思う気持ちは自殺なのか」なんて戯言使いは言っていたが、そんなことを思うまでもなく変わっていく。
俺は、完全な刀を、斬るも斬らぬも、生かすも殺すも、全てを体現できる、そんな刀を作りたい。
そのために、俺はこの場を利用しているし、俺自身も何かのために利用されているのだろう。
それが今回、この茶番に参加している理由だ。
以上、誰も聞いていないであろう独り言だった。

218他力本願:2013/11/20(水) 17:28:26 ID:8mEXnFdk0
217の者です。
すいませんどうしたらよいかわからなかったのでこのような形で書かせていただきました。
投稿ルール違反とかだったら消してください。
よろしくお願いします。

219 ◆ARe2lZhvho:2013/11/20(水) 17:56:10 ID:.gWDnkX2O
投下乙です
何分私がドラマCDを把握していないので対応については保留させていただきますがおもしろかったです
読んだ感じですと今までの話には全て目を通されている感じでしょうか?
もちろん今からでも書き手として参加されるなら歓迎しますし、チャットもありますので疑問等ございましたら気軽に質問してくださっても結構ですので

220 ◆xR8DbSLW.w:2013/11/21(木) 00:21:42 ID:oYQQgD5U0
投下乙ーと言いたいですが、
ひとまず、僕個人としては一度>>217の作品に関して破棄要請を出したいと思っています。
理由としてはこのロワの原則であるトリップと予約がないためです。
ルールなどを把握して再投下をしたい場合は、もう一度wikiなどでルールを確認して、
それでもわからなかった場合は>>219でおっしゃているように、誰かした入室している時にチャットなど訪れましたら、
教えてもらえると思いますのでご一考のほどを。
私としては以上です。


そして放送も乙でしたー。
うむうむ、役不足とのことらしいが、まだ他にもいるのかなー?
全貌はまだまだ分かりませんが、少しずつ主催者側も明らかになってきたなー
それはそうと主催者からも危険扱いされるラフライフラフレシア半端ない。やばい

221 ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:00:56 ID:ceqeL1pI0
投下します

222球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:03:37 ID:ceqeL1pI0
  ■  ■  ■



第−1槽『球磨川禊のままならない忘れ物』



  ■  ■  ■


結局ぼくは何がしたいのだろう。
それは人間未満・『球磨川禊』とスーパーマーケットで遭遇してから、なんだか歪み始めている気がする。
真宵ちゃんとの会話を経ることもなく、ぼくはそう考えた。

主人公になる。
と、あの狐面に対して宣言したはずだ。
かつてぼくがしたように。
正義の味方になると豪語した、あの時のように。
主人公談義、つまりは何が主人公なのかとは真宵ちゃんと散々話を詰めた。
まあ結局、これという定義付けをしたわけではないけれど、しかしどうだ。
今のぼくは主人公――誰かを守れる、何者かに成れているのだろうか。
ぼくは弱い。
七実ちゃんがどう言おうとも、ぼくは弱い。
伊達に人類最弱と謗られている訳でなく、正真正銘、碌でもない人間だ。
人間として成り立たない、欠けている製品としての存在。欠陥製品。

それでも、
そんなぼくでも、
人を守ることは出来るはずである。
誰がどう言おうとも、真宵ちゃんはそう言ってくれた。
ぼくはもう独りじゃない。
これまでたくさん殺してきた。
これまでたくさん壊してきた。
だけど、これからは生かす道を行く――そんな風に考えていた。

果たして。
真宵ちゃんの記憶を消すことは、本当に主人公、そうじゃなくとも彼女の為になるのだろうか。
七実ちゃんにはああ言ったけど。
ぼく自身、散々それでいいと言い聞かせてきたけれど。
未だ、ぼくは人間未満に話を持ちかけられずにいる。

――ずれている。
――揺れている。
ゆらりゆらりと。ぐらりぐらりと。
分からなかった。
何が最適な手段なのか。
ぼくは、――

223球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:04:27 ID:ceqeL1pI0


『そういえば欠陥製品』


不意に。
狭い、本当勘弁して欲しいぐらい狭いトランクの中で。
身を丸くした人間未満は、ぼくに話しかけた。
座席からは、特に雑談めいたものは感じない。
女三人寄れば姦しいとは言ったものの、それも各々旧知の仲だそうだが、そんなことはなかった。
ぼくの耳には零崎の話声と、相槌なのか溜息なのか判別しづらい七実ちゃんの短く息を吐く音が聞こえる。
そして今新しく、未満の声が届いたのだが。

「なんだ」
『いやさあ、僕も親友とじゃれあったら気絶してたり放送を聞いたり色々してたら、後へ後へと流しちゃったんだけどさ――』

未満は、特に感慨ぶったわけでもなく。
さながら今日の運勢でも述べるかのように適当な口調で。
問う。


『――結局、真宵ちゃんの記憶はどうしたいの?』


審判の時、とでもいうのか。
そこまで行くと明らかに大仰な事実には変わりないにしろ、ぼくは答えを返さなければならない。
今更、「もうちょっと待って」もないだろう。
真宵ちゃんは起きている。
引き返すことはできない。
引き戻ることはできない。
加えて、人間未満のこの質問も聞こえているのだろう。
だから。
ぼくは。
答える。
今、この場で。


「―― 」
「待ってください、球磨川さん」


そこで、ぼくが声を出す前に。
音が喉辺りまで迫っていたその時、座席から、声がした。
幼げな、この場に居る誰よりもロリィなボイスで。
八九寺真宵は、割り込んだ。
ぼくは何も言わなかった。

『ん?』
「わたしが起きる前に戯言さんに許可取って記憶を消すことは百歩譲って由としても、
 今、意識のあるわたしを差し置いて、わたしの記憶の行方を、わたしを介さずどのようにもして欲しくありません」

強い口調で。
拒絶するように、きっぱりと言い放つ。
ぼくは何も言わなかった。

「球磨川さん。もしかすると勘違いしているかもしれませんが、わたしが過ごしてきたこの一日は、決して辛いだけじゃないんです。
 少なくとも、わたしは戯言さんに良くしてもらいました。守って頂きました。
 それに身を呈して守ってくれた日之影さんを忘れたくなんてありません。最後まで心配してくれたツナギさんを忘れたくありません」

まるで反論させる隙をなくすかのように、埋め尽くすかのように。
言葉を垂れ流す。
切実で、真摯な、彼女の声。
ぼくは何も言わなかった。

「確かに辛いことも沢山ありました。なにより、阿良々木さんが死にました。
 きっと今後一生――なんて本来わたしが使う機会のない言葉ですが、それでも一生、代替の利かない人間でした」

トランクで同じく蹲っているぼくには、座席に居る三人の表情は窺えない。
けれどどこか、空気が張り詰めたのを肌で感じる。
何時の間にか、零崎の声も聞こえなくなっていた。
八九寺真宵はただ一人、車内で訴える。
ぼくは、何も言わなかった。

「だけど、それは戯言さんたちとの出会いだってそうなんです。代替のできない幸せなもので――」

ゴクン、と。
恐らく真宵ちゃんのものだろう。
唾を飲む音が聞こえる。
もしかしたらぼくが唾を飲んだのかもしれない。
ぼくは。
ぼくは、何も言わなかった。


「忘れさせてりなんか――記憶をなかったことになんか、させません!」

224球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:05:08 ID:ceqeL1pI0
一際強い声で。
喚くようで、訴えていて。
訴えるようで、喚いていた。
彼女の率直な思いである。
彼女の直情な気持ちである。
きっとそれは、ぼくがどれだけ戯言を並べても、揺るがない、彼女の本音。

ぼくは何も言わなかった。
僕が代わりに口を開く。


『うわぁ、格好いいなー』


真宵ちゃんとは対照的に。
極めて素っ気なく、どこか作り物めいた、嘘っぽい口調でそう言った。
その顔は、確かに感心してそうな表情を浮かべている。


『真黒ちゃんといい、そういう自分の罪って言うの? 一生懸命背負おうと刻苦するのって格好良くて憧れるんだよなー』


真宵ちゃんの言は、まあそういう罪の意識と言うのが少なからず混じっていて。
だからこそ日之影くんの話も出ていたし、だからこそぼくは、真宵ちゃんの記憶を消して欲しいと思っていた。
学習塾跡を去った辺りのこと、ぼくは彼女に現実を見つめろと言った。
あの時、彼女は現実逃避のあまり命の危機に晒された。故にぼくは注意を喚起した。
しかし結果として、現実を見つめすぎたあまり、彼女は体調不良へ陥ったのである。
紛れもなくぼくの観測不足であったことに変わりないが、彼女にこの現実は、あまりに重すぎた。

ぼくは何も言わなかった。
僕は引き続き括弧つけて、垂れ流す。




『けど、ごめーん。もうなくしちゃった』




「「「「「…………!」」」」」」


誰も。
何も。
言わなかった。
ただ再度、唾を飲む音が何処かから聞こえた。
これもまた、ぼくのものかもしれなかった。

彼は。
人間未満は。
特に何かをする素振りを見せず。
何時の間にか。
先ほどまで喋っていた人間の記憶を消した。
真宵ちゃんから、応答はない。

ぼくは何も言わなかった。
僕は続ける。


『思い入れとかー、心がけとか、誓いとかー。ごめーん、僕そう言うのよくわからないんだ―』


朗らかに。
何気なく。
悪げもなく。
乱す。
荒す。
壊す。
人間未満は、ただ言った。ただ――行使した。


『真宵ちゃん、大事なのは強がることじゃないんだぜ。弱さを受け入れることさ』


弱さを知り尽くした男は。


『不条理を』
 『理不尽を』
  『堕落を』
   『混雑を』
    『冤罪を』
     『流れ弾を』
      『見苦しさを』
       『みっともなさを』
        『嫉妬を』
         『格差を』
          『裏切りを』
           『虐待を』
           『嘘泣きを』
          『言い訳を』
         『偽善を』
        『偽悪を』
       『風評を』
      『密告を』
     『巻き添えを』
    『二次災害を』
   『いかがわしさを』
  『インチキを』
 『不幸せを』
『不都合を』


――『愛しい恋人のように受け入れることだ。』
坦々と。
嘘めいた言葉の羅列が続く。
ぼくはその言葉を聞き入れる。
まるでそれしか能がないみたいに。
黙って。
何も言わずに。


『結局答えを聞いてないけれど――これでよかった? 欠陥製品』
「…………」


ぼくは何も答えずに。
ぼくは何も頷かずに。
ただ、言葉として。


「――ああ、これで、よかったんだ」


知らない人が、ぼくの声で、用意された言葉を、呟いた。
ぼくは。
ぼくはぼくは、ぼくは。
ぼくは何も、言わなかった。

225球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:06:41 ID:ceqeL1pI0

  ■  ■  ■



「話しかけないでください、あなたのことが嫌いです」

記憶を失った彼女は。
しかし果たして、どうなったかと言うと、別にどうというわけではなかった。
この殺し合いの最中の記憶を失っただけだ。
そもそも。ぼくたちはこの殺し合いの会場まで何ら脈絡もなく連行されている。
記憶を失ったところで、別段ぼくたちと反応が異なるわけではない。
気が付いたら、ここにいた。
車の中に居た。
ただそれだけだ。
「……はて?」と。
間抜けな声が真っ先に上がったのも致し方ないことである。

ここはどこでしょう、と言いたげな雰囲気につられ、
ぼくは人間未満の身体を下敷きにしてトランクから顔を覘かせ、真宵ちゃんに話しかけた。
そして、先の一言だ。
リフレイン。
デジャブ。
まあ、なんだっていいのだけれど、およそ十八時間ぶりとなるのか、そんな真宵ちゃんの冷たい一蹴をぼくは浴びる。
さもありなん。
僕がやった事とはいえ、仕打ちとしては当然で。
ぼくは甘んじてその嫌悪を受け入れなければならない。
――そういった嫌悪は慣れている。

今は基本的に翼ちゃんが様々な質疑応答をしているが、彼女自身現状をよく把握していない。
あの白いネコミミ娘から通常モードへ、あるべき姿であろう彼女に戻った際に、記憶は吹き飛んでいる。
だからひたぎちゃんが時折、口を挿みながら、事情説明は進んでいく。
無論のこと、都合の悪い様々なことは隠蔽したままであるにしろ。

その際、翼ちゃんの思考回路がどのようなショートを起こしていたのかは定かではないが、
「――つまり、あなた方が私にとって不都合な記憶を消して下さったんですね?」と問うた。
彼女の気持ちが十全に伝わるわけではないが、確かに謂われない記憶喪失は恐怖を煽るものであろう。
だから何らかの理由づけ、理屈の継ぎ接ぎを欲したのかもしれない。
ぼくとしては好都合であり、そして翼ちゃんとしても好都合だったのだろう。
人間未満が何も言わなかったので、ぼくが代わりにそういうことにしておいた。

八九寺真宵の記憶喪失――もとい、記憶消失が行われて間もなく。
零崎曰く、中身は遊園地というランドセルランドにあと十分、十五分で到着するかと思われた。
まあ、言われてみればそれだけの距離を車を走らせている。
放送が有ったり、真宵ちゃんのことがあったりと、ぼくの胸中は終始落ち着きないものだったから、そうは感じなかったが。
どうであれ、これで予定通りいけば友とも合流できるな――と少しばかり安堵してしまった。

しかし。
忘れちゃいけなかった。
ぼくの辞書に――『予定通り』なんて都合のいい言葉が、あるはずもない。


「――っと、」

226球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:07:14 ID:ceqeL1pI0
運転席で、それまで比較的快適に車を走らせていた零崎が、唐突に急ブレーキをかける。
慣性の法則と言うものは殺し合いの場でも有用な模様で、ぼくや球磨川の体は後部座席に押し付けられた。
言いつつ、スローリィに走らせ、安全運転を心掛けていたからかそれほど痛くはない。
だとしても、あまりの急ブレーキに(急ブレーキとは大抵唐突なものであるにせよ)ぼくはその理由を問う。


「あー? そりゃあおめー」


どこか座りが悪そうに。
言葉を濁す様に、言葉尻を逃がす様に。
しかしその内諦めもついたのか、投げやりに――告げる。



「黒神めだか――お客様のご登場だぜ」



聞いたことある名前だ。
そう、阿良々木暦くんを殺した奴だ。
――だとしたら、だとしたら。
これから一体、どうすればいいのだろう?

ぼくが何らかの反応をする前に。
人間未満――過負荷――球磨川禊は、トランクを出て立ち上がる。
その瞳はとてもまっすぐだった。
その視線は彼女しか見ていない。
真新しい制服に身を包んだ黒神めだか。
球磨川禊の視線は、彼女にしか向いていない。


「――欠陥製品。とっとと車を出して」


球磨川禊はそう言った。
いつもみたいな口調でない、格好つけない、括弧付けない、揺るぎない言葉。
それがきっと彼の覚悟で。
それがきっと彼の思いだ。
診療所で言っていた。


――僕はずっと勝ちたいと思っていた。と


「彼女は人殺しだよ。早く逃げなきゃ殺されるぜ」


彼は言う。
早く何処かへ行け、と。
暗にそう告げている。
それを分からないぼくでは、なかった。


「ではわたしも、降りさせてもらいます」


七実ちゃんは車を降りた。
球磨川がいないのにいる意味なんてないと感じたのか――或いは。
何であれ、吸血鬼、不死身である阿良々木暦くんを殺したのは紛れもなく彼女、黒神めだかだ。
それだけのことが出来る人間である。
人間未満が死んで悲しむような間柄ではない気もするが、それでも強力な補佐がいるに越したことはない。
いざという時の為に付けておく。という意味では間違っちゃいないだろう。

――じゃあ零崎。引き続きランドセルランドへ
と、伝える。零崎はあっさりそれを承諾する。
七実ちゃんが出るのであれば、ぼくは空いた助手席に移動する。
少し急ぐように、ぼくは一度トランクから出て助手席に向かう、その際に一言だけ、呟いた。



「がんばれ」
「がんばる」



独り言だった。

227球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:07:43 ID:ceqeL1pI0
  ■  ■  ■



第−2槽『球磨川禊の負けてられない大勝負』



  ■  ■  ■




車が去っていく。
僕はそれを遠巻きに見送って、改めてめだかちゃんを見る。
箱庭学園の一般生徒用の学生服を着て、左腕には『庶務』の腕章をつけていた。
それは西東診療所で会った時善吉ちゃんがつけていたものと瓜二つ――というよりもそのものだろう。

「なんだ、めだかちゃんは善吉ちゃんにちゃんと会えたんだね」
「ああ。あやつには助けられたよ。善吉がいなければ、私は私でなかっただろう」
「なーんだ、会ってなかったら西東診療所で見かけたことを報告してあげようかと思ったけれど」

ははっ。
羨ましいことだ。
めだかちゃんにそう言ってもらえるのは善吉ちゃんぐらいだろうに。
少なくとも、僕には未来永劫掛けられる言葉じゃない。

「そういや善吉ちゃんも高貴ちゃんも真黒ちゃんも、そして江迎ちゃんもみぃーんな死んじゃったけどさ、誰が殺したか知らない?」
「善吉以外知らんよ」
「冷たいね。きみの大事な『仲間(チーム)』、だったんでしょ?」
「その通りだよ。私は自分の仲間さえも救えないのかと己の非力さを悔やんでおる――」

――だからこそ、と。
めだかちゃんは会話の流れを打ち切り、新たな話題を投げかけた。

「見たところ先の車には戦場ヶ原上級生がいたんだがな、
 私は少しばかり彼女に用事があるから、貴様に構っている暇は生憎今はないんだよ」
「つれないこと言うなよ。僕ときみの仲だろう。それに何だってさっきはスルーして見送ったんだい?」
「私と貴様の仲だからこそ――な気もするよ。
 そしてさっき見送った理由は簡単だ――そっちにいる貴様の連れが中々手強くてな」

彼女は顎で七実ちゃんを指す。
なるほど、彼女が車を守るようにしていたから、めだかちゃんも手が出せなかったのか。
七実ちゃんも律義なことだ。
刀だどうだと言っておきながら、僕の嘘泣きで戸惑うぐらいには、人間らしい。


「――まあ、そうだね。めだかちゃんは週刊少年ジャンプを読むかい?
 こういうとき、僕みたいな奴はこう言うのさ」


どうであったところで、
僕は今、彼女と戦う。
――過負荷として、僕として。
後回しだなんて、させやしない。



「ここを通りたければ、僕を倒してからにしろ――ってね」



だけど僕は勝つ。
きみに。
プラスに。
今まで負けだらけの人生だったけど。
これまで勝てなかった人生だったけど。
これから僕は勝つ。
めだかちゃんに――。


「成程――それは実にありがちだな」


彼女は腕を組みながら、うんうんと首を振る。
しばらくそうしている内に、彼女は徐々に歯を見せていく。
真っ白で、だけど好戦的な、素敵な笑みだった。


「面白いッ! この黒神めだか、貴様からの挑戦状――受けて立とうじゃないか!!」


――――ドガンッ!!


彼女が何か言っていたけれど。
受けて立つと言った以上、そこから交渉は成立している。
僕は彼女に先手必勝と言わんばかりに、相手の身体に大螺子を螺子込む。


「ありがとう、きみのそういうまっすぐな志が、一番嫌いだ」


彼女の体が吹き飛んで、コンクリートの外壁に激突する。
これで死ぬような魂じゃない。
それは誰よりも僕が知っている。


「まさかこれで終わりだなんて言わないよね」
「――勿論だ」

228球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:10:35 ID:ceqeL1pI0

コンクリートが崩れ、塵灰に包まれた向こうで声がする。
塵灰が晴れていくうちに、彼女の姿が鮮明になって行く。
僕の投げつけた螺子を受け止めていた。――そしてその顔は何処までも晴れやかな笑顔だった。


「……なんで奇襲をされたのに笑ってるのさ」
「いや、殺し合い中に――それも皆が死んでいっている中で不謹慎だとは思ってたんだが、
 しかしもう駄目だ。破顔せずにはいられない」

そして彼女は、僕の螺子を粉々に打ち砕き、
高らかに叫ぶ。




「こうしてまた貴様と戦える日を私は待っていた!!
 だからこそ、このような場でも戦いたいという私の性根共々、貴様の性根ももう一度叩いてやる!!」




いや。
さっきまでも笑っていたけれどね。
そう思いつつも、僕もまた、応える。


「江迎ちゃんはともかく、善吉ちゃんや高貴ちゃんが死んだというのに笑えるだなんて本当に変な子だ」


――そういうきみも、僕は嫌いだ。
僕は右手に螺子を持つ。
これまでのそれとは違う、マイナスの螺子。
安心院さんに返してもらった、過負荷。


「だから遠慮なく使わせてもらうぜ。僕の禁断(はじまり)の過負荷。――――『却本作り(ブックメーカー)』!!」




  ■  ■  ■



乱打戦だった。
僕はめだかちゃんに攻撃すると、めだかちゃんは仕返しとばかりに僕を殴る。
それを繰り返す。
泥臭い攻撃の応酬だった。

僕にこんな体力あっただろうか。
不思議だ。
ちょっと走れば疲れてしまうような体力なのに。
誰がそうさせているのだろうか。
めだかちゃんか。
或いはめだかちゃんと向きあいたいという僕自身か。
どちらであれ、僕らのドラクエみたいな単純な攻撃の繰り返しも、終わりを迎えそうだ。
僕の限界が近いからか。
多分、そうだ。
僕は既に限界なんて言うものを越している。
なのに彼女は、笑っている。
嬉しそうに。
幸せそうに。

僕は――今どんな表情を浮かべているのだろう。
分からないけれど、笑っているのかもしれない。
何に対してなのかも、分からないけれど。

229球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:11:13 ID:ceqeL1pI0
ああ。
ちくしょう。
やっぱり強いなあ、めだかちゃんは。

とことん強くて。
とにかく凄くて。
とりわけ気高く。
とびきり格好いい。
圧倒的に絶対的な、女の子だ。

せっかく返してもらった僕のはじまりの過負荷――『却本作り』を使う機会なんてまるでないでやんの。


「ははっ! 相変わらず楽しいなあ球磨川! 貴様と戦うのは楽しいなあ――さあ! もっともっと戦うぞ!!」


やれやれ。
こっちの気も知らずに嬉しそうに……。
本当に弱い奴の気持ちが、
がんばれない奴やできない奴の気持ちがわからない子だぜ。

彼女は笑顔だった。
僕は嘆息する。
やれやれ、勝負を吹っ掛けたのは僕だけれど、少しは弱い者の気持ちを分かってほしいところだ。



だから僕は、今も昔もそんなきみが大嫌いで、
だけど僕は、今も昔もそんなきみが大好きだったよ。



憧れた瞳先生より。
服うた安心院さんより。
お父さんより。
お母さんより。
大好きだ。

思えば初めてあったあの時から。
僕はきみの気を引くことに精一杯だったね。


「どうした、球磨川。まさか、もう負けを認めて通してくれる――というわけではあるまいな?」
「いやいや――ちょっと気付いたことがあっただけさ。わかんないもんだね、自分の気持ちなんて」


……だけどまあ。
気付いたからにはちゃんと伝えなきゃね。
その気持ちって奴を。
たとえ気持ち悪がられたりしても。


「めだかちゃん。僕からの相談を受けて欲しい」


めだかちゃんは面白そうに笑う。
僕は構わず話を進める。

「このまま戦い続けても、おそらく決着はつかないだろう。
 どれだけ叩き伏せられようと、僕は絶対に負けを認めないし、だけどそれはめだかちゃんだって同じことだと思う」
「そんなことはない。今回だって私は貴様に勝つために、最後まで全力でがんばるつもりだぞ」
「光栄な限りだけれど――まあ聞けよ。そこで相談だ」

僕は再度右手にマイナスの螺子を持つ。
その螺子の先端は伸びていく。
伸びて、伸びて、さながら刀剣の様な長さに成る。


「僕の始まりの過負荷、『却本作り』を避けずに受けてくれないか?」


これが僕の始まりの過負荷。
久々に使うわけだが、別に感慨深くもなんともない。


「『大嘘憑き(オールフィクション)』を現実(すべて)を虚構(なかったこと)にする過負荷だとするなら、
 『却本作り』は強さ(プラス)を弱さ(マイナス)にする過負荷だ。
 具体的には。
 この過負荷の被害を受けた者はみぃーんな! 不完全(ぼく)と完全に同じになる」


――あの安心院さんが封じぜらるを得なかった、曰くつきの過負荷だぜ。
そう言っても、彼女の表情が変わるわけではなかった。
ただ、真剣に僕のことを見つめている。

「肉体も精神も、技術も頭脳も才能も! ぜーんぶ僕と同じ弱さに落ちて、
 それでもきみの心が折れないのなら、そのときこそ僕は負けを認めるよ」

きっと彼女は分かっていない。
弱い者の気持ちがわからない彼女には、きっと分かりっこない。
僕たちの過負荷たる由縁の惨憺さを。
だからきっと、思わず彼女はこう言うだろう。
「『私の負けだ』『許してくれ』」――と。
そうなったら僕の勝ちだ。ひたぎちゃんをどうしようとも僕は構わないけれど、
律義な彼女のことだ、素直に退散していくのだろう。

まあ先のことはいい。
僕は、
僕は、言う。

230球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:11:53 ID:ceqeL1pI0



「さあ、決めてくれめだかちゃん。きみは僕の過負荷(きもち)を、受け止めてくれるかい?」



答えは決まっている。


「言うまでもない」


彼女はきっとこう宣言するだろう。



「24時間365日、私は誰からの相談でも受け付けるし、どのような気持ちでも受け止める!!」



凛ッ。
とでも漫画だったら擬音がつきそうなほど凛々しく。
彼女は僕の想像通りの言葉を吐きだした。
全く、やれやれ。
困ったものだ。
彼女はいつでも、まっすぐで、正しくて。
僕みたいな過負荷でも、受け入れて。
だからこそ僕は。


「…………愛してるぜ。めだかちゃん」
「そうか、もちろん私も、愛しておるぞ」


――ありがとう。
だけど。
だけど。『僕を』じゃなくて、『人を』、だろ?



そして僕は。
黒神めだかの胸に、マイナスの螺子を、螺子込んだ。

231球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:12:45 ID:ceqeL1pI0
  ■  ■  ■




「だったらあなたは、私の殺意(きもち)さえも受け止めてくれるのかしら」


唐突だった。
少なくとも僕からしたら唐突だった。
そこにはひたぎちゃんがいる。
刀を握り。
刀を翳し。
刀を振り。
めだかちゃんの――めだかちゃんだった遺体の傍に立っている。
彼女の首は、落とされた。
やけにスローモーションになって首輪が落ちていくのを、僕はただただ見つめるしかなかった。


「………………………………え?」


首輪が地面に落ちたその時。
めだかちゃんの首が落ちたその時。
僕は、知らず知らず、言葉を零していた。


「だとしたら――それはそれは嬉しいわ」


白髪に染まっためだかちゃんの髪が、再び元の色に染まっていく。
元通りに。
だけどそれはあまりに時遅く。
身体を貫いたマイナスの螺子もまた、めだかちゃんの心(いのち)が失われていくのと同調するように、崩れていく。

ひたぎちゃんが、膝をつく僕を見下しながら。
坦々と、まるで括弧付けるかのように――芝居がかった声で、僕に言う。


「よかったわね、神様モドキ。あなたの勝利よ。喜びなさい」


――違う。


「あなたの『却本作り(ブックメーカー)』のお陰で、黒神めだかは弱体化され――晴れて私に殺されるに至ったわ」


――違う。


『どれもこれもあなたのお陰――だからあなたの大勝利。ブイ』


――違う!
こんなの、勝利じゃない。
こんなの、何でもない。
こんな、台無し――僕は認めない。


「う、うう、うわああああああああああああああああっ!?」


叫んだ。
がむしゃらに。
わけのわからない、さっぱりわからない状態に。
叫ぶ。
叫んだ分だけ、喉が渇く。
それでも僕は叫ぶ。
頭を抱える。


僕は勝てなかったというのか。
僕はめだかちゃんに勝ち逃げされたのか?
違う。
違う。
――こんなの僕は認めない。
黒神めだかに僕はまだ勝っていない!
僕が勝つまで、黒神めだかに死と言う選択肢なんか与えない!
僕は、
僕は――黒神めだかの死を『なかったこと』にする!


「――……っ! 黒神めだかの『死』をなかったことにした!!」


と。
僕はそこで冷静さを欠かしていたことに、ようやく気付いた。
気付いた、というほど意識的じゃなく、多分それは無意識下のどこかで、僕は感じ取った。
駄目だ、今復活させても、生き返らせても――黒神めだかの傍にはひたぎちゃんが、いる。
きっと今復活させても、二の舞だ。
現に、彼女は今刀を振りかざしている。
いくらめだかちゃんでも、避けれないんじゃないか?
だとしたら――――僕は。


「何度だって殺してあげるわ、黒神めだか。あなたの気が晴れるまでね」


ざくりと、音がする。
ぐしゃりと、音がする。
僕の身体を、それは袈裟切する。
めだかちゃんの身体を押し飛ばし、僕は身代わりとなった。
だから僕は今、切り裂かれている。
だから僕は、死ぬ。
もう僕には命に関する『大嘘憑き(オールフィクション)』は使えない。
死ぬしかない。
これほどよく切れる刀――僕の身体を真っ二つに裂いた刀に斬られたのだ。
例え人吉先生の治療でも助かる見込むは薄いと言うより、皆無だろう。

今まで沢山死んできたけど。
なんだか。
なんていうんだろう。
今回の僕の死は、ほかならぬ僕のせいだったけれど。


めだかちゃんを守って死ねるだなんて、幸せだなあ!


奥で七実ちゃんが立ち尽くしているのが見えた。
あーあ、彼女とも仲良くなれたと思ったんだけど、これでお別れか。


辞世の句だなんて格好いいことを言いたい気分だけれど、
僕にそういうのは似つかわしくない。
だから最後は、極めてシンプルに、惨めたしく。
後悔の念を置いて、死んでいこうと思う。




――――勝ちたかったなあ。





『球磨川禊@めだかボックス 死亡』

232球磨川禊の人間関係――黒神めだかとの関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:13:16 ID:ceqeL1pI0
  ■  ■  ■



第−3槽『球磨川禊の愛した置き土産』



  ■  ■  ■




――おいおい、旧知の二人の決闘だぜ。まさか邪魔するだなんて言わねえよな――


そんな傍迷惑な、耳障りな、けれど真っ当なことを言われ、
わたしは車を降りたところまではよかったけれど、二人の決闘を傍から眺めることにした。
二人は楽しそうに、戦っている。
黒神めだかについてわたしが知っていることはほとんどないけれど、ただならぬ間柄であることは伝わってきた。
気持ちは分からないでもない。
わたしも七花と決闘をして死んだ身。
邪魔立てされるとなるならば、そんな雑草は早々に刈るべきだ。

だからわたしは静観していた。
静かに、
邪魔にならないようにひっそりと。
二人は泥臭く極めて乱暴な戦いを繰り広げている。


そもそもわたしはどうして車を降りたのでしょう。
分からない。
後ろの三人が煩わしかったというのはある。
確かにその通り。
わたしには雑草が群がっているようにしか見えない。
邪魔な雑草は刈り取りたくなる。
わたしの数少ない趣味の一つ。

しかしそれだけだろうか。
違う、と思う。
少なくとも、この一同と渡り歩くぐらいなら、と球磨川禊さんを選んだ。
まるで、わたしの心に何かが、『螺子込まれた』みたいに。
わたしと禊さんの人間関係――欠落関係。
未だ、よく分からない。
よく分からないが、付いてきている。
不思議だ。
――不思議よね。

七花はとがめさんと、日本中を練り歩いていた。
その結果、腑抜け、錆びていた。
だからわたしは七花の錆をふるい落としたのだけれど――今度はわたしが錆びているのかしら?
『ぬるい友情』で。
ぬるい水の入った、水槽の中で――。
それはとても可笑しいことだ。
くすくすと笑いだしてしまいそうだ。

七花はどうしてとがめさんと練り歩いていたのかしら――?
と、悩むまでもなく覚えている。
一目惚れと言っていた。
惚れっぽい子だ、と我が弟ながらに思うけれど、事実とがめさんと七花の相性は、そこそこによかったのでしょう。
だから一緒に居た。
所有者と刀、あるいは一組の男女として。
だとしたら。
だとしたら――わたしは、禊さんに惚れている?
いや、
考えておきながら、その理屈はおかしい。
七花は七花。
わたしはわたし。
同じ鑢家と言えども、そこまで同じと言うわけではない――とは思う。
思いたいのだけれど、どうなのかしら。

まあ。
どちらであれ、わたしが錆ついているのは不本意ながら――なのかしら、確実なのだろう。
球磨川さんが幸せそうに戦っている。
別にそのことはどうとも思わないけれど、仮にここで禊さんが殺されたら、わたしはどうするでしょう。
わたしが『見たところ』、殺人者扱いされておきながら、黒神めだかに殺意は窺えないけれど、
なんていうんでしたっけ? けーたい、そう、けーたいとやらで見させられた殺害映像に、確かに黒神めだかさんは映っていた。
だから、ここで禊さんが死んでもおかしくない。
その時、わたしはどういう行動を――どういう心情を、思い描く。

わたしの親は、死んでいる。
そのことに深い意味も、深い感慨も得られなかった。
他にわたしと近しい者は、今まで七花ぐらいなものだった。
だけど、本来わたしは七花よりも先に死んでいる。
七花が死んだ時の感情なんて知る由もない。
今もどこをほっつき歩いているのかは知らないけれど、ここでも死んでない様だし。(まあ簡単に死なれてもわたしだって困っちゃうわね)。

わたしは。
わたしは、死んでもらいたくない人間の死に立ち会った経験なんて、殊の外見てきていない。
分からない。
分からないけれど――うすら寒い。
この感情がもしも。
もしも、彼の言う『三つのモットー』の影響だとしたら、彼には責任を取ってもらわなきゃなりませんね――。


なんて考えていると。
車が去っていった方向から、人影が窺えた。
短く切りそろえた、ここに来て何度か見ているが相変わらず見慣れない構造の服をきた女――。
戦場ヶ原ひたぎさん、とおっしゃいましたか。
彼女が刀を持ち、駆けている。
――車の時でも感じていたけれど、必死で隠すよう努めていたらしいけれど。
めだかさんが現れてから、彼女の殺意が大きく肥大化したのは知っていました。

だから警戒した。
めだかさんが殺されて困ることは、生憎わたしにはありませんが
――ともあれ、決闘の邪魔立てをしてもらっちゃ、なんとなく困ります。
禊さんも楽しそうに戦っていますし。
外部からの干渉は出来る限り避けたいところ――

233球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:13:56 ID:ceqeL1pI0
と、動いた時。

――おれの娘――

また耳障りな声がする。
なんなんでしょうかこの人は。
肝心な時に役に立たない癖して――あなたに構っている場合ではないというのに。


――錆びるのは勝手だが――あまり支障をきたすようじゃあ――鑢の名が泣くぜ――


いきなり何を言い出すんでしょう。
あちらだって、今は動くべき場面であることは分かっていように。
ただ。
ここでわたしが失敗したというなら、四季崎の声に耳を傾けてしまったことに尽きるでしょう。
その尤もらしい、そして今しがたわたしが考えていたことに関することだったからといって、少し頭を働かせてしまったことだ。

その幾許か足を止めてしまった間に、ひたぎさんは――もう近くに居た。
禊さんは目を丸くしている。
何故彼女がここに居るんだろ言わんばかりに。
そして標的である黒神めだかさんの髪は、色素が抜け落ちたように真っ白で、胸には大きな螺子のが、貫かれている。

しまった。
なんて、思わなかったが四季崎の意図がなんとなく、見えてきた。
四季崎は、ひたぎさんの支援をしただけだ。
わたしが邪魔しないように――敢えて耳を傾けてしまうことを回りくどく婉曲に、もったいぶって、言ったのだろう。


――まあ一度は戦場ヶ原ひたぎも消えてほしいとは思っていたが――ここで登場するとは面白い――


不敵な声が。
耳障りな声が
またしてもわたしには聞こえる。


――完成(ジ・エンド)と完了――どちらに転んだとしてもおれにとっては興味深い――


あくまで四季崎記紀は刀鍛冶だ。
おそらくわたしのことも刀としか思っていないし、ひたぎさんやめだかさんも、実験道具の一部としか見ていないだろう。
それに憤慨をするわたしではないにせよ、四季崎の思惑通りに事が進んでしまったのは面白くなかった。

けど、思い上がらないでもらいたいわ。
この距離ならば、間に合わないことはない。
忍法足軽と虚刀流の足運びによる超接近。
もしくはとがめさんを切ったように、斬撃を飛ばして殺してしまいましょうか――どちらでもわたしは構いません。

だけど。
わたしには、一瞬何が起きたのか分からなかった。
正鵠を射るならば、『見えた』――『理解した』。
ひたぎさんはこちらを制するように、何かを投げる。――見たところ(といってもわたしの知るそれとは随分趣が異なりますが)火薬弾でしょう。
だから、地面に思い切りぶつけられた衝撃で、爆発した。
不承島で戦ったまにわに……蜜蜂さんでしたか、彼の使った忍法撒菱指弾に比べたら当然ですが精密性はない。
――でも、火薬弾にそこまでの精密性は問われない。
火薬弾で恐いのは、爆熱よりも爆風。
わたしの動きを止めるのには十分な爆風が、わたしを襲う。
肌が焼かれるようだ。
まあ、この程度の外傷ならば、放っておいてもすぐに治ってしまうんでしょうけれど。
この場合それは関係ないんです。
今、動きを止められたという事実が、大きいのです。

巻き起こされた爆風は、禊さん、めだかさん、めだかさんを襲わなかったらしい。
これが冷静な計算通りと言うのであれば、成程、とどのつまり雑草ごときとは言え、大したものです。
風が晴れて、わたしも顔を覆うようにしていた手を、降ろす。
視界が十全になった。
よく見える。――よく『見れる』。



目の前に広がる景色は、ますます面白くなかった。



わたしが何かを施せる時間もなく。
次々と物語は刻まれていき――――球磨川禊が、死んだ。

234球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:15:45 ID:ceqeL1pI0
  ■  ■  ■



「かはは――おお、人間未満よ死んでしまうとは情けねえ」


禊さんが死んだ直後というには間が空いたが、
ひたぎさんもめだかさんも、何も行動を起こさない硬直状態、膠着状態が続いた時。

――いきなり。

いきなり――いた。
戦場ヶ原ひたぎの目前に、黒神めだかの目前に――その奇妙な風体の少年は、零崎人識さんは、存在した。
何の予兆もなく、何の前兆もなく、唐突にとしか言いようのないタイミングで、
二人が同時に瞬きした瞬間を狙ったとしか説明のつかないようなタイミングで以もってして、人識さんは、存在した。


「いやはや全く、恐れ入るぜひたぎちゃん。
 てめーの殺意は確かに研ぎ澄まされていたけどよ、まさかこのバケモンばっかの魔窟ん中に飛び込むたあ、思わなかったぜ」


大して面白くはない状況ですけれど、人識さんは笑っております。
それを二人を見つめ、呆気に取られたように――少し、違いますね。
呆然と立ち尽くすしかないように、微動だにしません。
ひたぎさんは刀を握ったまま、黒神さんは蘇生されてから数分経ち体勢を整えつつあった状態から、ぴたりとも、微動だにしない。
ちなみにわたしはと言うと、本来の目的も達することが出来ず、今更動いてもしょうがない、
と禊さんとめだかさんとの戦いを観察していた場所に、座りなおしていました。
まあ、禊さんも程々になったら蘇生(かえって)こられるでしょう。


「まあ、一度寝とけよ」


そういって人識さんは、ひたぎさんの身体をしっかりと固定して、首筋に手刀を降ろす。
簡単に決まるものとは思えませんが――手口としては鮮やかなものでした。
ひたぎさんは、意識を失い、ぐったりし始めました。――身体が倒れることはなく。
まるで何かに支えられている……糸、ですかね。


「ふむ、雲仙二年生の鋼糸玉(スリリングボール)を思い出すが――原理は少し違うようだな」
「鋼糸玉ってのがわからねーが、しかし大方それとは別もんだと考えてもらえばいい。
 かはは――曲弦糸がそうそうある技術でたまるかってんだ」
「面白いな、今度私に教えて頂きたいものだ」
「生憎だが一子相伝門外不出なものでね」


戯言だけどよ――と、話を締めくくる。
見たところ、糸を使った拘束術、と言ったところでしょうか。
人識さんの言葉の正否はともかく、もう一度見ないと、完璧には真似できそうにありませんね。
難しそうです。

と人識さんが拘束を解いたのか、めだかさんは自由に身体を動かし始めた。
柔軟体操らしいです。
ふむ、距離として遠いというわけではありませんが、糸は近くで見ないと流石に分かり辛くはありますね。

「まあよ。ひたぎちゃんがこれじゃあ、おめーが幾ら呼びかけたって無駄だぜ。
 てめーら揃って一回落ち着けってんだ。正しいことやってりゃ許されるたぁ、思っちゃいけねーぜ」
「しかし後回しにしろ、いずれはしなくてはならんことだ。
 それに貴様零崎人識だろう? 聞いとるよ――勇あり少年・供犠創貴小学生から殺人鬼だから気をつけろとな」
「あぁ? なんだってまた――って供犠創貴ってあのやろーか……全く不都合っちゅーか不通っちゅーか」
「そんな輩にみすみす戦場ヶ原上級生の身体を貸すのは、私としては心苦しいばかりだ」
「   ――    」
「  ―――  ――」


まあ。
わたしにとってはどうでもいい会話の瑣末は置いておきましょう。
ひたぎさんがどうなろうとも、わたしの知る由ではありません――と。


――おれの娘よ――


またしても耳障りな、声がする。
四季崎記紀ですね。
……面倒臭い。

235球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:16:16 ID:ceqeL1pI0
「……はあ」
――ため息すると幸せが逃げるっていうぜ――ってのも今更かい――
「嫌味を言うためだけに喋ったのなら散りなさい、耳障りで目障りです」
――まあ、待てよ――これでもお得情報を持ちこんで来たつもりだぜ――

この方の言葉を鵜呑みするのも危うげですけれどまあ、一応聞いておきましょうか。

――人間未満――球磨川禊――どうしてあいつは、今になっても復活しないと思う?――
「さあ、先ほどだって随分と間を開けて復活なされましたけれど」
――じゃあ質問を変えようか――どうして球磨川禊は黒神めだかの盾になったんだと思う?――


それは。
そういえば、それはどうしてでしょう。
黒神めだかが何回殺されようと、その度に復活させればいい。
盾になってまで死ぬ必要が、どこにあるんでしょう?


――こういう考え方は出来ねえか――あいつはもう人の死を『なかったこと』には出来ない――もう蘇生は出来ない――と――


……。
…………。
………………。
それは、確かにそう言うことでしょう。


――第一、何回も何回も蘇生出来てちゃあ――バトルロワイアルの意味がまるでないだろうよ――


そう、だ。
改めて考えると、その通りです。
あまりに彼が何気なく使うものだから、そういったことを、一切考えていなかった。
けれど簡単なことです。
簡単すぎることです。
殺し合いで、ばんばんと蘇生されては――たまりません。



――だからよ――球磨川禊は――もう還って来ねえってことかもしれねえのさ――



どくん、と。
その時胸が鳴った。
大きく、
明確に。
どくん、どくん。
高鳴りが止まらない。
どうして、でしょう。

七花がとがめさんの死を知った時、どんな反応をとっていたんでしょう。
分からない。
けれど単純な七花のことです。
泣いたのでしょう。
声をあげて、
恥も外聞もなく、取り乱して。

わたしは、どうだ。
どうだ。
どうだ?


「戦場ヶ原――ひたぎ」


わたしは、ポツリと名前を零す。
彼を殺したのは、あの雑草だ。
殺してしまっても、いいだろう。
固よりわたしは全員を殺すつもりで、ここにいる。


む、と。
めだかさんがこちらを向く。
人を観察する様なその目は、わたしと似ているようで、正反対の様に思えます。
けれど、どうしてか、その顔が、徐々に滲んでいく。
……ん?


「どうした、貴様。泣いておるのか」


めだかさんに、そう言われる。
そう言われたら、そうなのかもしれない。
何故泣いているんだろう。
何故喚いているんだろう。
静かに――涙を流している。
気がつけば、わたしは駆けていた。
人識さんが背負った、その短髪の女に向かって。


「おい、人識殺人鬼。……一先ず戦場ヶ原上級生を何処かに避難させろ。貴様よりも、あやつの方が、危険そうだ」
「何処かって何処だよ」
「好きにするといい――!」


言いながら、わたしの貫手――虚刀流『蒲公英』を放ったその手を掴む。
その間に人識さんは、戦場ヶ原さんを背負って、人識さんは離脱する。
姿が見えなくなった頃、わたしの手首から、手を離す。


「退いていただけませんか?」
「断るよ。私もあやつにはまだ用が有るんでな」

それに。
と、めだかさんは言葉の末を継ぐ。

「貴様は球磨川と一緒に居たということはおよそ『過負荷』なのであろう――」

過負荷。
まいなす。
まいなす十三組。
禊さんは、そう言っていた。
三つのモットー『ぬるい友情』『無駄な努力』『むなしい勝利』。
――だとしたら、わたしは。


「そういうことかも、しれませんね」
「ふん、だとしたら。話は早い――貴様も週刊少年ジャンプは読むのであろう? こういうときは、こう言うものだ」


不敵な笑みを。
零す。
めだかさんは声高らかに。


「ここを通りたければ、私を倒してからしろっ!!」


声高らかに、そう言った。
――頭に乗らないでくださらないかしら。
雑草が。


「これこそまさに、めだ関門!!」
「五月蠅い」

236球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:16:47 ID:ceqeL1pI0
 ■  ■  ■



第−4槽『球磨川禊のもたらした歌詞が欠けている鎮魂歌』



  ■  ■  ■



戯言遣いくんたち一行から、戦場ヶ原ひたぎちゃんと零崎人識くんが抜け出している経緯について簡単に説明しよう。
それは球磨川くんたちが車を降りてから案外直ぐのことだった。

「車を止めなさい――さもないと、落とすわよ」

八九寺ちゃんの記憶をなかったことにしたのをまるで無碍にするように、
殺意を以て戦場ヶ原ちゃんは戯言遣いくんの首に、斬刀・鈍の刃を寄せたんだ。
まあ、戯言遣いくんに、勿論なす術はなかったし、人識くんは車を運転中だったから、その凶行を未然に防ぐことはできなかった。
そして成す術なく素直に戦場ヶ原ちゃんを降ろした。
羽川ちゃんも降りて話し合いをしたいと主張したけれど、戦場ヶ原ちゃんの気迫には屈せざるを得なかった。
そんでまあ、戦場ヶ原ちゃんは来た道引き戻り、いよいよもってめだかちゃんと球磨川くんを殺した訳だ。
最近の若者ってのは刃物をブンブンと振り回して危なかっしいねえ。

じゃあ次は人識くんに関してだが、察しの通りだろう。
気まぐれで戦場ヶ原ちゃんと行動を共にしていたが、彼は殺人鬼にして人が良すぎるみたいでね。
放っておくって選択肢をとれなかった。
まあ、彼の言葉を借りるとするなら――『傑作』というわけさ。
あるいは、『戯言』なのかもしれないね。

かくして男一人と女二人の三人旅。うち二人は記憶消失と言うおかしな事態になっているが。
その三人旅について、それでは焦点を当てていこうと思う。

といっても、特別語ることはない。
ランドセルランドに着いて、暇を弄ぶように迷子案内センターでくつろいでいる。
それだけだよ。
車はと言うと、勇気ある羽川翼ちゃんのお陰で仕舞えているぜ。
その時の戯言遣いの顔ときたら、確かに傑作だったにせよ、ここはさらなる蛇足だ。省かせてもらおうか。

真宵ちゃんと羽川ちゃんが遊んでいるのを、遠巻きに眺める戯言遣いくん。
記憶を消そうと嗾けたのは紛れもなく球磨川くんだが、それでも止めなかったのは戯言遣いくんだ。
思うところがあるんだろう、と僕は思っているよ。

第三回放送は、彼の心に疵をつけるのには十全だったというわけさ。
十分すぎて、十全すぎる。
人類最強・哀川潤。
人類最終・想影真心。
人類最悪・西東天。
――なるほど、彼を左右する重要人物がことごとく脱落したとなれば、彼の身に降り注ぐ心労も計り知れないというものだ。
死には慣れている。
関係人物が死んでいくのには慣れている。
そうはいっても、こうも同時に
――それに哀川潤ちゃんのような殺しても死なない様な人間が死んでしまったとなると、それはそれは厳しいものだぜ。

そう言う意味では球磨川くんも、江迎ちゃんと言う同じ過負荷の立場に立っていた人間を失った。
相当な苛立ちだったんだろうね。
彼はああ見えて人一倍他人に、身内に優しいからね。
実質、八九寺真宵ちゃんの記憶の件も、球磨川くんにとってはなんら無為となった八つ当たりなのかもしれない。
球磨川くんのメンタルと言うのは、外堀から攻めていくと、案外あっさり籠絡するもんだ。

そう言った話もさておいて。
いよいよ彼は青色サヴァンと合流を果たそうとしようとするわけなんだが――。

しかし分かんねえかなあ。
まあ分かんねえだろうけれど。
双識くんの視力が戻ったように――八九寺ちゃんの記憶が戻ってきてもおかしくないだなんて、どうして気付かねえかなあ。

237球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:17:14 ID:ceqeL1pI0
  ■  ■  ■


続いては人識くんと、戦場ヶ原ちゃんの二人に関してだけれど、
こちらに関してはよりシンプルだ。
戦場ヶ原ちゃんが人を殺し――人識くんは勝手に双識くんが死んだことにキレている。
尤もその怒りを表に出すほど、人識くんは腐っちゃいなかった。
というより、そっちも大事だけれど、彼の場合、もう一つ放送に関して話が湧く。

――人類最強が死んだってっことは俺は人を殺していいんかね。と

元々、基本的に人識くんが不殺を貫いていたのは、哀川ちゃん――潤ちゃんの約束があったからだ。
人を殺すなと言う、単純明快口約束。
彼女が死んだ今、彼にそれを守る義理はないんだろう。
守る義理はなく。
貫く意味もない。
だとするならば、彼はどうするだろう。
……いざとなったら、彼を再び零崎を始めるのかもしれないね。
殺して
解して
並べて
揃えて
晒してやる。
彼の前口上通りに、『零崎』として行動するのかもしれない。
どちらであれ、人類最強と言う、真っ赤な鎖はなくなって、彼は解き放たれた状態だ。
一歩間違えば、
一本踏み違えれば、
最後に残った零崎の片割れとしての才覚を――果たす。

まあ。
それも先の話だ。
先にもないかもしれない話だ。
――かもしれないなにかの話だ。

現に今、戦場ヶ原ちゃんを殺していない。
殺さず、運んでいる。
一旦戯言遣いたちがいるランドセルランドとは違う場所に。
こんな危険な、全身刃の様な危なっかしい女の子を、八九寺ちゃんたちの傍においておけないという風に感じたらしい。
大きなお世話だ。
少なからず殺人鬼がする心配じゃあない。
それでも、おそらくは戯言遣いくんたちにとっては、ありがたくはあるのだろう。
ガサツなようで細かい気配らせが出来る男の子ってのは魅力的だね。

今はまだ危険信号。
信号で言うなら黄色の状態。
それでも今はまだ、牙を剥かない。

238球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:17:41 ID:ceqeL1pI0
  ■  ■  ■



僕の予想通りと言うか。
まあ、大方の予想通り、鑢七実は大敗を喫した。
しょうがない話である。
彼女の主人公性――も勿論あるんだろうが、この場においては、このバトルロワイアルにおいてはいまいち説得力に欠けるだろう。
純粋に能力の、
単純に生様の、差。
プラスとマイナス。
プラスし続ける者と、マイナスし続ける者の差。
想影真心ちゃんに対してそうだったように、黒神めだかちゃんと鑢七実ちゃんの対戦カードでも、同じことが起こった。

そして鑢七実は最後まで、本気と言う本気を見せなかった。
さもありなん。
それはきっと、鑢七花に対してとっているのだから。
彼女はまだ鑢七花の現状を理解していないからね――そういうことを言える。
正直なところ、今の鑢七花は多少武芸に覚えがある人間ならば勝てるのではないかと言うほど、弱体化している――腐っている。
だから本来はそうした気遣いも無用なのだけれど、
無知と言うものは仕方がない。なんだかんだ、弟が好きなブラコンな姉には、
七花がここまでボロボロにされるヴィジョンが浮かばないのかもしれない。

話を戻そう。
鑢七実について。
というよりも、現在の彼女の身の回りについて。
現在からの近くには既に黒神めだかの姿はない。
めだかちゃんは一通りズタボロにしたあと、戦場ヶ原ちゃんを追いかけてった。
それをボロ雑巾のようになった七実ちゃんは、眺めるしかなかったみたいだね。

とはいえあんまりにも一方的だったかと言うと、そう言うわけではない。
七実ちゃんも幾度とめだかちゃんに、これまで習得してきた『強(よわ)さ』をぶつけていた。
めだかちゃんの姿も同じくボロボロだった。
そうは言っても両者とも、片や一億の病魔の副作用で、片や掠め取った吸血鬼性と持ち前の(制限されているとはいえ)再生力を活かして、
何事もなかったかのように完治させるんだろうけれど。
何とも末恐ろしい話だよ、まったく。

それでも、鑢七実ちゃんは負けた。
揺るぎようのないぐらいはっきりと、負けた。
詳細に関しては彼女の名誉のためにこの場では伏せさせてもらうが、激闘の末に彼女は負けた。
負けは負け。
それまでただ一度しか知らなかった敗北を、何処のものかもよく分からない通りすがりに負けた。

夢だった普通の敗北を知って、
念願だった苦汁をなめる行為をして、
それでも彼女、七実ちゃんは泣くしかなかった。
むせび泣いた。
七花くんがそうだったように、彼女もまた、近しい者の死が、純粋に悲しかった。
好きな相手と一緒に駄目になる。
愛する人と一緒に堕落する。
気に入った者と一緒に破滅を選ぶ。
――尽くしたい刀と、一緒に錆びていく。
これはめだかちゃんの球磨川くんに対する言のだが、結構じゃないか。

七実ちゃんは、球磨川くんの真っ二つにされた遺体に近寄って、
今か今かと還ってくるのを待っている――それは無駄だと分かっていながら。

第一、長く無人島生活をし、人慣れをしない――ロクな人間関係を作れなかった経緯(よわさ)をもつ七実ちゃんに対して、
人の弱さにつけこんで、螺子込んで、人心掌握をしてしまう球磨川くんのような人間に、人間未満に出遭ってしまっては、
こうなる結果も見えていようというのに。


と。
何やら七実ちゃんはひとりごちる。
違うなあ。
亡霊――四季崎記紀くんと対話をしているようだ。


「――弱さを、受け入れる」


生憎幽霊の声をなんのスキルもなしに聞くのは、流石の僕でも厳しいところがある。
だから、使わしてもらうとするぜ。


――そうだ――弱さを受け入れる――
「……」

239球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:18:03 ID:ceqeL1pI0

そういえば彼女は一度江迎ちゃんに会っているそうだが、
しかしその際、彼女は『荒廃した腐花(ラフラフレシア)』を習得することはなかった。
彼女はそれを、真似できないと判断した。
自らを制御するのに、負なるものは必要ないと判断した。

だがそれは、厳密に言うと違う。
彼女は真似できなかったのではない――真似をしなかった。
過負荷を習得することで、彼女の目指す『普通の生』は成しえないし、弱さを自らの長生きに繋げることはできないと考えた。
だから敢えて見なかった――江迎が施した目隠し、
つまりはドーム状に組み立てられた『柵(しがらみ)』を、彼女が立ち去るまで、かき消さなかった。
一度見れば大体は、二度見れば盤石に習得してします――だからこそ、一度だけで、七実ちゃんは済まそうとしたんだろうね。
僕から見たら、そう『見える』。


――球磨川の野郎も言っていただろう――


そう言えば、言っていたね。
こう。
相変わらず括弧つけた喋り方で。

『大事なのは強がることじゃないんだぜ。弱さを受け入れることさ』
『不条理を』
 『理不尽を』
  『堕落を』
   『混雑を』
    『冤罪を』
     『流れ弾を』
      『見苦しさを』
       『みっともなさを』
        『嫉妬を』
         『格差を』
          『裏切りを』
           『虐待を』
           『嘘泣きを』
          『言い訳を』
         『偽善を』
        『偽悪を』
       『風評を』
      『密告を』
     『巻き添えを』
    『二次災害を』
   『いかがわしさを』
  『インチキを』
 『不幸せを』
『不都合を』
『愛しい恋人のように受け入れることだ。』



――受け入れて――錆ついて――なにが悪い――
「………………」


七実ちゃんは、沈黙している。
考え込んでいる。
それは一本の錆びた刀として――過負荷の一人として


――固よりおれの完了形変態刀は最後の最期まで『錆』にしようか迷ってたんだ――
「………………」
――腐って――錆びて――あいつに勝てよ――おれの娘――鑢七実――


そこで。
七実ちゃんは立ち上がった。
その様は死人のようだ。
――死人と言うより、死体。
死体と言うより、物体のようだ。
人と言う気がしない。
虚ろにして、儚げ。

そんな僕の感じる彼女の雰囲気に、新たな項目が加わった。
そうだ。
これは。
これは球磨川くんたち、過負荷の――――



「受け入れて――錆ついて――なにが悪い――いえ、いいじゃないですか、それもまた」


七実ちゃんは。
零す。
過負荷として。
虚ろな刀の流れ――虚刀流としてではなく。
虚ろな構築の流れ――虚構流として。
虚刀『錆』として――正真正銘、弱さを受け入れて。



「おーるふぃくしょん――球磨川禊さんの死を、なかったことにした」





【球磨川禊@めだかボックス 復活】

240球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:18:38 ID:ceqeL1pI0
 ■  ■  ■








「禊さん。起きてもらって早々で悪いのですが――いいのですが」














「一つ言わせてもらわなければなりません」














「わたしはあなたに惚れることにしました」














「あなたの刀として、あなたの傍においてください」

241球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:19:07 ID:ceqeL1pI0
  ■  ■  ■





























「うん、任された。そういうことなら、僕も格好つけずには、括弧付けずにはいられないね。
 生き返らせてくれてありがとう――七実ちゃん。めだかちゃんに勝つことを僕はまだ、諦めない」











































  ■  ■  ■

242球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:20:39 ID:ceqeL1pI0






『また勝てなかった』





「――でも次は、勝つ」









  ■  ■  ■

243球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:21:34 ID:ceqeL1pI0
【一日目/夜/E-6 ランドセルランド】

【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]箱庭学園制服(日之影空洞用)@めだかボックス(現地調達)、巻菱指弾×3@刀語、ジェリコ941@戯言シリーズ
[道具]支給品一式×2(うち一つの地図にはメモがされている、水少し消費)、ウォーターボトル@めだかボックス、お菓子多数、缶詰数個、
   赤墨で何か書かれた札@物語シリーズ、ミスドの箱(中にドーナツ2個入り) 、錠開け道具@戯言シリーズ、
   タオル大量、飲料水やジュース大量、冷却ジェルシート余り、携帯電話@現実、解熱剤、車
[思考]
基本:「主人公」として行動したい。
 1:ランドセルランドで玖渚と合流。
 2:掲示板を確認してツナギちゃんからの情報を書き込みたいけど今できるかな。
 4:不知火理事長と接触する為に情報を集める。
 5:危険地域付近には出来るだけ近付かない。
[備考]
 ※ネコソギラジカルで西東天と決着をつけた後からの参戦です
 ※第一回放送を聞いていません。ですが内容は聞きました
 ※地図のメモの内容は、安心院なじみに関しての情報です
 ※携帯電話から掲示板にアクセスできることを知りましたが、まだ見てはいません
 ※携帯電話のアドレス帳には零崎人識、ツナギ、玖渚友のものが登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※八九寺真宵の記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします


【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態]ロワ中の記憶消失
[装備]人吉瞳の剪定バサミ@めだかボックス
[道具]支給品一式(水少し消費)、 柔球×2@刀語
[思考]
基本:? ? ?
[備考]
 ※傾物語終了後からの参戦です
 ※本当に迷い牛の特性が表れてるかはお任せします
 ※記憶を消すかどうかの議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします

【羽川翼@物語シリーズ】
[状態]健康、ノーマル羽川、混乱、車で移動中
[装備]パーカー@めだかボックス、ジーンズ@めだかボックス
[道具]支給品一式×2(食料は一人分)、携帯食料(4本入り×4箱)、タブレット型端末@めだかボックス、黒い箱@不明、トランシーバー@現実、
   「ブラウニングM2マシンガン×2@めだかボックス、マシンガンの弾丸@めだかボックス」
[思考]
基本:? ? ?
 0:ランドセルランドへ。黒神めだかと話せるのなら話したい。
 1:阿良々木くんが死んでいるなんて……
 2:情報を集めたい。
 3:戦場ヶ原さん髪もそうだけど……いつもと違う?
 4:真宵ちゃんの様子もおかしい。
 5:どうして私がこんな物騒なものを。
[備考]
 ※ブラック羽川が解除されました
 ※化物語本編のつばさキャット内のどこかからの参戦です
 ※全身も道具も全て海水に浸かりましたが、水分はすべて乾きました
 ※トランシーバーの相手は玖渚友ですが、使い方がわからない可能性があります。また、当然ですが相手が玖渚友だということを知りません
 ※道具のうち「」で区切られたものは現地調達品です。他に現地調達品はありませんでした
 ※ブラック羽川でいた間の記憶は失われています
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得したか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします

244球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:23:07 ID:ceqeL1pI0
【一日目/夜/E-5】

【戦場ヶ原ひたぎ@物語シリーズ】
[状態]健康、強い罪悪感、しかし確かにある高揚感、気絶中
[装備]
[道具]支給品一式×2、携帯電話@現実、文房具、包丁、炸裂弾「灰かぶり(シンデレラ)」×5@めだかボックス、賊刀・鎧@刀語、斬刀・鈍@刀語、お菓子多数
[思考]
基本:優勝する、願いが叶わないならこんなことを考えた主催を殺して自分も死ぬ。
 1:阿良々木君の仇を取るまでは優勝狙いと悟られないようにする。
 2:黒神めだかは自分が絶対に殺す。そのために玖渚さんからの情報を待つつもりだったけれど逆に自分から提供することになるなんてね。
 3:掲示板はこまめに覗いておきましょう。
 4:羽川さんがどうしてここにいるのかしら……?
[備考]
 ※つばさキャット終了後からの参戦です
 ※名簿にある程度の疑問を抱いています
 ※善吉を殺した罪悪感を元に、優勝への思いをより強くしています
 ※髪を切りました。偽物語以降の髪型になっています
 ※携帯電話の電話帳には零崎人識、戯言遣い、ツナギ、玖渚友が登録されています。また、登録はしていませんが供犠創貴の電話番号を入手しました。
 ※ランダム1は貝木泥舟、ランダム2は供犠創貴のものでした
 ※黒神めだかの扱いについてどう説得されたか、他の議論以外に何を話したのかは後続の書き手にお任せします


【零崎人識@人間シリーズ】
[状態]健康、戦場ヶ原ひたぎを背負っている
[装備]小柄な日本刀 、携帯電話@現実
[道具]支給品一式×6(内一つの食糧である乾パンを少し消費、一つの食糧はカップラーメン一箱12個入り、名簿のみ5枚)、医療用の糸@現実、千刀・?×2@刀語、
   手榴弾×1@人間シリーズ、青酸カリ@現実、S&W M29(6/6)@めだかボックス、大型ハンマー@めだかボックス、デスサイズ@戯言シリーズ、
   彫刻刀@物語シリーズ
[思考]
基本:戯言遣いと合流する。
 0:一先ずこいつをどうにかしてーな
 1:戦場ヶ原ひたぎ達と行動。ひたぎは危なっかしいので色んな意味で注意。
 2:伊織ちゃんと連絡を取る。合流するかどうかは後から決める。
 3:兄貴には携帯置いておいたから何とかなるだろ。
 4:真庭蝙蝠、水倉りすか、供犠創貴、宇練銀閣を捕まえる。
 6:哀川潤が放送で呼ばれれば殺人をしないつもりはない。
[備考]
 ※曲絃糸の射程距離は2mです
 ※曲絃糸の殺傷能力(切断・絞殺など)は後の書き手さんにおまかせします
 ※りすかが曲識を殺したと考えています
 ※Bー6で発生した山火事を目撃しました
 ※携帯電話の電話帳には戯言遣い、ツナギ、戦場ヶ原ひたぎ、無桐伊織が登録されています
 ※参加者が異なる時期から連れてこられたことに気付きました
 ※球磨川禊が気絶している間、鑢七実と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします

245球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:23:28 ID:ceqeL1pI0
【一日目/夜/E-5】

【球磨川禊@めだかボックス】
[状態]『健康だよ。お腹は満腹だ』
[装備]『七実ちゃんはああいったから、虚刀『錆』を持っているよ』
[道具]『支給品一式が2つ分とエプロン@めだかボックスがあるよ。後は食料品がいっぱいと洗剤のボトルが何本か』
[思考]
基本:「黒神めだかに勝つ」

今度こそ僕は、勝つ。
黒神めだかに、僕は勝つ。
――七実ちゃんもその気みたいだしさ

[備考]
 ※『大嘘憑き』に規制があります
  存在、能力をなかった事には出来ない
  自分の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  他人の生命にかかわる『大嘘憑き』:残り0回。もう復活は出来ません
  怪我を消す能力は再使用のために1時間のインターバルが必要。(現在使用可能)
  物質全般を消すための『大嘘憑き』はこれ以降の書き手さんにお任せします
 ※始まりの過負荷を返してもらっています
 ※首輪は外れています


【鑢七実@刀語】
[状態]健康、身体的疲労(小)、交霊術発動中
[装備]四季崎記紀の残留思念×1
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(2〜6)、球磨川の首輪×1
[思考]
基本:弟である鑢七花を探すついでに、強さと弱さについて考える。
 1:七花以外は、殺しておく。
 2:球磨川禊の刀として生きる。
[備考]
 ※支配の操想術、解放の操想術を不完全ですが見取りました
 ※真心の使った《一喰い》を不完全ですが見取りました
 ※宇練の「暗器術的なもの」(素早く物を取り出す技術)を不完全ですが見取りました
 ※弱さを見取れます。
 ※大嘘憑きの使用回数制限は後続に任せます。
 ※交霊術が発動しています。なので死体に近付くと何かしら聞けるかも知れません
 ※球磨川禊が気絶している間、零崎人識と何を話していたのかは後続の書き手にお任せします


【1日目/夜/E-5】

【黒神めだか@めだかボックス】
[状態]『不死身性(弱体化)』
[装備]『庶務』の腕章@めだかボックス、箱庭学園女子制服@めだかボックス、王刀・鋸@刀語
[道具]支給品一式、否定姫の鉄扇@刀語、A4ルーズリーフ×38枚、箱庭学園パンフレット@オリジナル
[思考]
基本:もう、狂わない
 1:戦場ヶ原ひたぎ上級生と再会し、更生させる
 2:話しても通じそうにない相手は動けない状態になってもらい、バトルロワイアルを止めることを優先
 3:哀しむのは後。まずはこの殺し合いを終わらせる
 4:再び供犠創貴と会ったら支給品を返す
 5:零崎一賊を警戒
 6:行橋未造を探す
[備考]
※参戦時期は、少なくとも善吉が『敵』である間からです。
※『完成』については制限が付いています。程度については後続の書き手さんにお任せします。
※『不死身性』は結構弱体化しました。(少なくとも、左右田右衛門左衛門から受けた攻撃に耐えられない程度には)
 ただあくまで不死身性での回復であり、素で骨折が九十秒前後で回復することはありません、少し強い一般人レベルです
※都城王土の『人心支配』は使えるようです。
※宗像形の暗器は不明です。
※黒神くじらの『凍る火柱』は、『炎や氷』が具現化しない程度には使えるようです。
※戦場ヶ原ひたぎの名前・容姿・声などほとんど記憶しています
※『五本の病爪』は症状と時間が反比例しています(詳細は後続の書き手さんにお任せします)。また、『五本の病爪』の制限についてめだかは気付いていません。
※軽傷ならば『五本の病爪』で治せるようです。
※左右田右衛門左衛門と戦場ヶ原ひたぎに繋がりがあると信じました
※供犠創貴とかなり詳しく情報交換をしましたが蝙蝠や魔法については全て聞いていません
※『大嘘憑き』は使えません

246球磨川禊の人間関係――鑢七実との関係  ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:28:03 ID:ceqeL1pI0
投下終了です。

>>224の多重括弧の部分は前後で数が異なりますが、五個で統一です。
>>232でタイトルが「黒神めだかとの関係」になっておりますが、「鑢七実との関係」に訂正します。

以上のこと以外にも、指摘感想等がありましたらよろしくお願いします

247 ◆xR8DbSLW.w:2013/11/29(金) 16:53:39 ID:ceqeL1pI0
追加で訂正。
状態表が全体的に修正出来ていない箇所があるのでwikiにて編集させていただきます。
重ね重ねお詫び申し上げます

248名無しさん:2013/11/29(金) 19:59:41 ID:7cJmfMyo0
投下乙です。
二転三転どころか、四転も五転もする展開にどっひぇー!ってなりました
球磨川とめだかの、参戦時期が大きく違うのに全く違和感のない
(球磨川が却本作りを手に入れたり色々あったからなんだけども)原作再現バトルに普通に見入っていたら
ヶ原さん乱入のタイミングに「そこか!!」と目からうろこが落ち、
人識の不殺の約束の破棄フラグやら、真宵の記憶やらと先が気になるフラグが次々に立って、
そして、『虚構流』には鳥肌たった。これぞまさに西尾×西尾だ。

球磨川はすげぇ腹の立つヤツだけど、七実との関係は本当に見ていたくなります

249名無しさん:2013/11/30(土) 22:26:59 ID:TfqMjiSA0
投下乙です
いきなりやらかしやがったよクマーwwwwwとか思ってたらそんなことで笑う余裕もないくらい状況がすんごいことになってた(しろめ)
クマーが味方側じゃないことに疑問を一切抱かず迎え撃つあたりさすがめだかちゃん!…と思ったのになぁ
ヶ原さんがターゲット目前にして我慢できるわけないのはわかってたことなのに
しかしまさか七実がこんなに墜ちる(輝く)のは予想外
過負荷まで見取っちゃったしどんどん強くなっちゃうよこの人
記憶喪失二人を抱えたいーちゃんもいーちゃんで大変そうだし、ヶ原さん抱え込んだ人識も一筋縄じゃいかなそうだしまだまだ大変そうだ…
ところで七実ねーちゃんの年齢は27歳とのことですがつまりそれはクマーと10歳近く離れてるということでそれは(削除されました)

250名無しさん:2013/11/30(土) 22:33:03 ID:Fl8Xq7dk0
アラサーか…

251名無しさん:2013/11/30(土) 23:01:15 ID:5./FWPLk0
投下乙です。

読んでる途中で三回くらい「ファッ!?」ってなった。ランドセルランドに着く前にこれほど波乱があるとは…
球磨川、七実、めだかのチートトリオの渦中で絶妙に隙を突くひたぎさんのアサシンっぷりとか、そのあとの球磨川の反応とか、
意表を突かれる割に「ああ、こういうのってこの人らしいな」としっくりくる感じがとにかく読んでいて気持ちよかった。
しかしまさか七実姉さんが(精神的にも能力的にも)ここまでの変遷を見せるとはなあ…
クマーのマイナス吸引力はいったいどこまで猛威を振るうのやら。

252 ◆wUZst.K6uE:2013/12/07(土) 12:33:29 ID:BCnupaGE0
投下します

253不死鳥(腐屍鳥) ◆wUZst.K6uE:2013/12/07(土) 12:36:09 ID:BCnupaGE0
 
 地面を蹴る。
 地面を蹴る。
 地面を蹴る。
 エリアG-8。地図における東端に程近いその場所で、真庭鳳凰はさらに東へと向かい、地面を蹴る。
 ひたすらに、がむしゃらに。
 さながら発条仕掛けの玩具のように、片足を曲げては蹴り、曲げては蹴りを延々と繰り返す。
 それ以外にすることがないというくらい、一心不乱に地面を蹴る――実際、今の鳳凰にとってそれ以外にやることはなかったし、それ以外にできることはなかった。
 四肢のうち三肢を奪われ、移動するのにも左足一本しか使用できない今の鳳凰にとっては。

 「はっ……はっ……」

 ざっ、ざっ、ざっ、と。
 鳳凰が地面を蹴るたび、身体と地面が擦れる音が不気味に響く。
 何百と地面に擦りつけられたであろう彼のしのび装束は、すでに襤褸切れ同然の状態だった。
 土にまみれ、泥にまみれ、彼自身の血にまみれ、汚れに汚れきったその装束にもはや頭領としての風格はない。
 這う這うの体、と言うにしてもあまりに凄惨な姿。
 最初のころは歯を軋ませ、悪罵混じりの雑言を独り吐き散らしていた鳳凰だったが、今は声を発する気力すら費えたのか、切れ切れに呼吸を漏らすのみである。
 当然といえば当然だろう。申し訳程度の止血を施されているとはいえ、両腕片足を切断された状態で長距離間を身体ひとつで移動するなど、狂気の沙汰以外の何物でもない。
 たとえ真庭忍軍の者だったとしても、他のしのびであれば確実に道中で力果てていたに違いない。
 真庭鳳凰だからこそ。
 こうして息も絶え絶えながら、動き続けることが可能なのだった。

 ――じゃり。

 顔が地面に擦れる際、土が口の中に入る。
 血混じりの唾液とともに、それを飲み下す。
 鉄の味と土の味を同時に噛みしめながら、ただ黙々と地面を蹴る。

 なぜ今、自分がこんな目に遭っているのか。
 鳳凰には、その一点がどうしても理解できなかった――決して油断をしていたわけでも、余裕を見せていたわけでもないはずなのに。
 なぜ自分があんな、手練でもなんでもない、人の殺し方すら知らぬようなただの子供に不覚を取ってしまったのか。
 不意討ちとはいえ、あの奇妙な『矢』による攻撃をみすみす喰らってしまったことも、鳳凰からすれば信じられないことだった。
 軌道が自分から外れていたことを見抜いていたにせよ、ああも堂々と放たれた武器に何か仕掛けがあるやもしれぬと、自分なら思い至ってしかるべしだったのに。
 ほんの少し、身体を半身にずらしていただけで、あの不可解な武器を回避できていたかもしれないというのに。
 不覚も不覚、一生の不覚である。

 ただ逆に考えれば、そんな一生の不覚を取ってなお九死に一生を得ることができたというのは、ある意味幸運だった。
 もしあの時、櫃内様刻が殺人者としての記録を残されることに頓着しなかったら、確実に鳳凰の命はあの場で終わりを迎えていたはずである。
 おそらく手足を切断すればいくらなんでも再起不能だと踏んでいたのだろうが、そこは様刻の見立てが甘かったと言うべきかもしれない。
 鳳凰の生命力と戦闘能力を正確に理解していたら、殺人者になるリスクを負ってでもあの場で止めを刺したほうがよいと、様刻なら判断しただろう。鳳凰が危険人物であることは、彼の所持するDVDを使えば容易に証明できるのだから。
 幸運といえばもうひとつ。手足以外の部位――たとえば両目や鼓膜といった主要な感覚器官を潰されなかったことも僥倖と言えた。
 片足と視覚が無事だからこそ、こうして無様ながらも這いずることができている。
 命あっての物種。
 しかし、だからといって、それを幸運と捉えられるほどに鳳凰は楽天家ではない。
 怨嗟、憤怒、悔恨、憎悪。
 さまざまな負の感情が、頭の中を目まぐるしく駆け巡る。

 いったい、自分に何が足りなかったというのか。
 あるいは、まだ何か余計なものを持ちすぎているとでもいうのだろうか。
 迷いはとうに捨てた。呪いも振り払ったし、この身を地に陥とす決意もした。
 いったいこれ以上、何を捨てればよいというのだろう?

 「――――畜生が」

 久方ぶりに発された言葉は、およそ鳳凰らしくもない、そんな意味のない罵言のみだった。
 その後はまた、一言も発しないままに同じ動作の繰り返し。
 坦々と、粛々と、目的の場所へと向けて。
 地面を蹴る。
 地面を蹴る。

254不死鳥(腐屍鳥) ◆wUZst.K6uE:2013/12/07(土) 12:39:05 ID:BCnupaGE0
 
   ◇     ◇



 鳳凰が地面を這いずり始めてから、およそ二時間。
 その間、一時たりとも休むことなく足を動かし続けた鳳凰はようやく無事に――と言えるほど満足な状態ではないが――目的地であるレストランにたどり着いた。
 暗澹とした雰囲気の建物は、陽が落ちて辺りが薄暗くなった今、より陰鬱な印象をかもしだしている。
 中も灯りは点いていないようで、窓からわずかに見える屋内もまた薄暗い。

 「はっ……はっ……はっ…………!」

 息を荒げてというより、呼吸する力すらもはや限界に達しているといった様子だった。
 それでも足の動きだけは、別の動力を使っているのかと思うくらいに一定の調子で動き続ける。
 機械か、あるいは人形のごとく。
 中に誰かが潜んでいるかもしれないと警戒することもなく、扉を蹴破るようにして開ける。涼しげな空気が外へと漏れ、頬をかすかに撫でた。
 建物内に入り、床の上をまっすぐに目的のものへと向けて這いよる。

 果たして、それは鳳凰が殺したときと同じ状態でそこに鎮座していた。
 鮮血に染まった豪華絢爛な衣装。
 テーブルの上に置かれた、穏やかな表情をした金髪の首。
 無惨に首を切り落とされた、否定姫の死体。
 それがあることを確認するや否や、鳳凰はそれを椅子ごと乱暴に蹴倒し、床の上へと転がす。
 自ら綺麗に整えたはずの遺体を、今度は不要物でも扱うかのように。

 「今だけは、おぬしが無抵抗で殺されたことに感謝するぞ――否定姫よ」

 心無い口調でそう言って。
 床に転がした死体のそばににじり寄ると、身にまとっている着物を口と足で無理矢理に剥ぎ取る。
 そして腹這いから仰向けの姿勢に転化し、残された左足を高々と振り上げ、
 否定姫の右腕、その肩口辺りに狙いを定め、踵から足を思いきり振り下ろす。

 ぶつん。

 あまり綺麗とは言えない音を立て、右腕が胴体から切り離される。
 続いて、左腕。
 同様に、右足と。
 順番に、否定姫の身体から腕と足をそれぞれ取り外していく。
 彼女に対する弔意など、微塵も感じさせない所作で。
 そして前置きも息つく間もなく、鳳凰は己の忍法を発動させた。



 「忍法、命結び――!」



 真庭忍法命結び。
 もはや説明は不要かもしれないが、他人の身体の部位と、そこに付随する能力を自らの身体に接合することができる技術。
 どれだけ肉体を失おうとも、命ある限りはいくらでも代用が効くという脅威の忍法。
 否定姫の身体から切り落とされた三つの手足は、瞬く間に鳳凰の身体へと「結合」される。
 糸で縫い合わせたかのように――否、それ以上にぴったりと、最初からそこに繋がっていたかのように。
 手足を失ってから、まだ三時間足らず。
 そのわずかな時間の間に鳳凰は、恐るべきことに己の力のみで、新たな手足を獲得してみせたのだった。

 しかし。

 目的を達成し、再び五体満足に立ち返れたはずの鳳凰の表情は、未だ晴れない。
 どころかようやく手に入れたはずのその四肢で立ち上がることすらせず、床の上に突っ伏したままの状態でいる。

 「ぐ…………くそ…………っ!」

 荒く息をつき、目を虚ろに泳がせる。その身体からは、血の気がほとんど感じられなかった。
 命結びがうまく効果を発揮しなかったのだろうか?
 それとも時間が経過したことで死体の劣化が進行し、手足としての機能を果たせなくなっていたのだろうか?
 あるいは鳳凰の傷口自体が、ここまで来るうちに感染症か何かに冒されていたのか?
 否、どれも違う。
 実際の問題はもっと単純明快で、しかし深刻と言えるものだった。

 空腹、である。
 極度の空腹が、鳳凰の身体の動きを阻害していたのだった。立ち上がることすら困難なほどに。
 ここへ来て最初、鑢七花と同盟を結んだ際に食料をすべて譲り渡したことからも分かるとおり、鳳凰にとって空腹はそれほど頻繁に訪れる危機ではない。
 二、三日は何も口にせずとも動ける程度の体力は、しのびとして当然に備わっている。
 しかしこのレストランにたどり着くまでに、さすがの鳳凰とて全身全霊を費やさなくてはならなかった。
 片足だけの匍匐前進という荒行に加え、傷口からの出血も少ないとは言えない。この数時間で、いったいどれほどのエネルギーが消費されたことだろう。
 空腹と言うよりは、燃料切れと言ったほうが正しいかもしれない。
 そもそも、生きてここまでたどり着いたこと自体が人間としてすでに無茶苦茶なのだ。いくら修行を積んだしのびとはいえ、身体が生物のそれである以上、燃料が尽きれば動けなくなるのは当然の道理である。


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