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新西尾維新バトルロワイアルpart6

213第三回放送 ◆wUZst.K6uE:2013/11/19(火) 21:33:01 ID:ngPsfOQk0
 
 「……萩原さん、あなたはいったい、何を考えているんですか」

 そのとき、部屋の奥で二人のやりとりを黙って見ていた黄色いリボンの少女が恐る恐るといった感じに口を開く。
 スカートの端を握り締めるその両手は、目に見えて震えていた。

 「西条ちゃんはともかく、師匠や、あまつさえ潤さんまで巻き込むなんて――こんなのもう、どう転んだって普通じゃ済みませんよ。いくらあなたのやることでも、常軌を逸しすぎてます。
 あなたはいったい、何をやろうとしてるんですか。何のために、何の目的で、誰に何の得があって、こんなことをしているんですか」

 沈黙。
 神原は子荻を睨み続け、子荻は小柄な少女と視線を交錯させ続ける。
 檻の内と外で、三人の少女は沈黙のままに、ちぐはぐに向かい合っていた。

 「――この実験の真の目的は、私の知るところにはありません」

 ややあって、子荻が笑みを消した表情で誰ともなく言う。

 「私自身に目的があるとすれば、私が私であることを証明することでしょうね……今の私が、正真正銘の『萩原子荻』であること。それを証明するのは、おそらく不可能に近いのでしょうけど――」
 「……何の、話ですか」
 「他人に訊いてばかりいるというのは愚か者の証拠です。少しは自分の頭で考えなさい、紫木」

 そう言って、子荻は二人の少女に背を向ける。
 そのまま立ち去るかに見えたが、「ああ」と思い出したかのように足を止め、

 「先ほどの件ですが、護衛役といってもそう気負うものではありません。別に最後の砦というわけでもないですし、侵入者があった場合に限り、ほんの少しバリケードとして機能してくれればよいというだけの話です」

 それ以上の働きは期待していませんから。
 最後にそう言い捨てて、『策師』の少女は一度も振り返ることなくその場を後にする。
 がん、と鉄格子を殴りつける音だけが、檻の中に空しく響いた。


   ◇      ◇


 とぅるるるるるるる……

 ピッ。

 「もしもし、都城さん。偵察ご苦労様です。
 ――ええ、その『腐敗』を止めることは現時点では不可能ですから、巻き込まれないうちに一度こちらへ戻ってきていただけますか。こちらでひとつ、やっていただきたい仕事ができましたので。
 そうですね、例の『選外』の方たちについての――いえ、緊急にいうわけでもないのですが、その『腐敗』も含めて諸所で不穏な気配が見られるようなので、早めに準備していただこうかと。
 なにしろ、首輪の解除を補助しかねないような情報が一部とはいえ会場内に漏れ出てしまっているというのですからね……余裕を見せていられる状況ではありません。
 ――え? さあ、いったいどこから漏出したのでしょうね。私には皆目。
 都城さんも、道中は十分にお気をつけください。私の『策』の実行に、あなたはなくてはならない存在なのですから。
 ――あら失礼。それではまた、こちらでお会いしましょう」

 プツッ――ツーツーツー……

 「……この分だと、腐敗の波がこの施設を飲み込んでしまうのも時間の問題ですね。あの二人の言うとおり、ここの防護を越えることはまずないでしょうけど――」

 やれやれ、と通話を終えた子荻は困ったように首を振る。

 「いくら参加者の自主性を重んじるためとはいえ、あれほどの異常事態が発生しているのに放置したままでよいとは、あの二人は鷹揚と言うより、危機感が欠けているように見えますね……この施設内も、必ずしも安全という保証はないというのに」

 まあ一応、対策は考えていますけどね――言いながら、携帯電話を操作する子荻。
 画面に表示されているのは、電話帳に登録されている携帯電話の番号と、その持ち主の名前。
 『都城王土』をはじめとするいくつもの名前のうち、子荻はある人物の名前を確認する。
 一人の少女の名前を。
 主催者の一人である老人と同じ姓を持つ、その少女の名前を。

 「過負荷には過負荷――もしものときは、彼女に『喰い改めて』いただくのが得策ですか」


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