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渡来船2

1カサブタ:2012/03/06(火) 22:56:29
※注 この小話は、過去に愛璃さんが某サイトにて投稿したシリーズを私が脚色したものです。
オリジナルの渡来船2とは一部設定が異なります。

116カサブタ:2012/03/17(土) 20:46:19
「あの村で危機的状況に追い込まれ・・・、 仲間を殺され・・・、 あの真実までも知った後で、貴女が教会と共闘する気になるなんて正直言って予想外だった。
貴女のメンタルを甘く見すぎていたようだわ。これは大きなミスだったと認めざるをえないわね。

おまけに、貴女は感情的にならず冷静に私との戦い方を考えていたようね。
私は儀式のために必要なこの大講堂を死守しなければならないから、他の子達みたいに立ち回るわけにはいかない。 
私は棒立ちにならざるをえず、おまけに貴女が来ることを予測できていない。私はとても不利な状況に追い込まれてしまう。

貴女はこの状況をハンガリーにいる時点で予測し、接近戦を仕掛ける為に十分な武装を教会に用意させたのよ。

見事だわ・・・。 見事としか言いようがない・・・。 貴女達親子は愚かな人間の中で唯一私の敵と呼ぶに相応しい存在だったわ、ミユキ・ホズミ。」

ローズはみゆきを見下ろしながらくすくすと笑う・・・。

「でも、残念ながらお終いね。 これで貴女と遊べなくなると思うと名残惜しいわ・・・。
でも、安心なさい。私は貴女が好きになったわ。
だから殺さないであげる。儀式が終わったら貴女も私の眷属にしてあげるわ。 
今度は敵ではなく対等な友人として付き合いましょう。
手始めに今夜はそんな魅了の魔法ではなく私のカラダでたっぷり燃え上がらせてあげる・・・。」

「く・・・っ!!」

土にまみれたみゆきの顔は屈辱と悔しさで歪んでいた。これで私もこの魔女の物になってしまうのか・・・。 
吸血鬼と一度交わってしまえば、誰も堕落には逆らえない。私も怒りと誇りを忘れてこの女に快楽をねだる存在に成り下がってしまうのだ。

なんて屈辱的な・・・、そんなことになるくらいなら死んだ方がよっぽどマシだった。

「さて、そろそろアイを迎えにいくとしようかしら・・・。 そうそう・・・、貴女には感謝してるわよ。
私のアイをここまで強くしてくれてありがとう。」

ローズはみゆきのもとを離れると、藍を組み伏せているマリアの後ろに歩み寄ってくる。マリアは横目で彼女を伺った。

「うふっ、いよいよねお姉様・・・。私お役に立てた?」

「ええ、貴女はとっても良い働きをしたわ。今からアイを取り込むからそのまま抑えていてちょうだい。
ご褒美に種付けの時は貴女もたっぷり気持ちよくさせてあげるわね。」

マリアは藍の両手首を押えたまま、ローズに藍の顔を見せる。二人の目があった。

「さぁ、アイ・・・、私とひとつになりましょう・・・。」

ローズはマリアもろとも藍を包み込もうと、マントを広げた。 藍は満身創痍の顔でそれを見ながら押えられたままの右手を閉じる。そして、小さな声で言った。

「いやだ・・・。」

その言葉と同時に藍が握った右手を開くと、そこには一発の弾丸が握られていた。
藍は残ったわずかな魔力を込めてその弾丸を破裂させる。すると、破裂したその弾から眩い閃光が迸り出て、ローズを貫いた。

「っ!! ぎゃああああぁっ!!!??」

藍を包み込むために魔力の障壁を解除し、そのうえマントを広げて体を晒していたために、光をまともに浴びてしまったのだ。

「ああっ!!」

その光は、マリアにも襲いかかった。焼けるような熱さに表情が歪み彼女のマントも弾け飛ぶ。 
そして、彼女の身体にまでダメージが及ぶとたちまち半身が焼け焦げて灰になり、数メートル先に転がっていった。

117カサブタ:2012/03/17(土) 20:49:08
一方、ローズの艶やかな体は急速に年を取るように黒ずみ、あちこちから小さな火のような物が発生すると同時に焼け落ちていった。

「ああ・・・あ・・・、そんな・・・私の身体が・・・・・・、 美しい私の身体が・・・壊れる・・・・・・!!」

ローズは引きつった表情で自分の手を見る。 
何人もの男を狂わせ骨抜きにした美しいその手、そのしなやかな指も、彼女の目の前で萎み、枯れ木の様に崩れ落ちていく・・・。

「これで終わりよ・・・。 何人もの命で塗り固めた偽りの美貌なんて許される存在じゃないわ。」

藍は立ち上がり、ローズの方へ近づいていく。

「そん・・・な、 宝珠はさっき・・・・・・。」

「あの銃の弾倉は空っぽよ。 宝珠の弾丸だけを抜いて持っていたの。」

みゆきから銃を受け取った直後に彼女は弾丸だけを抜き出していた。
先程、みゆきの前で構えたり揉み合っている間に銃を落としたのはカムフラージュだったのだ。

藍はマリアに組み伏せられるふりをして地面に落ちると、袖の中に隠していた宝珠の弾を密かに手に持ち替えたのだ。

「藍・・・、あなたそれ・・・。」

「私も出来るようになったよ・・・、梨香さんの飴玉マジック・・・。」

藍はみゆきの方を見て少しだけ微笑む。みゆきもつられて安堵の表情を見せた。

「あぅ・・・あ・・・あぁ・・・、アイ・・・。」

ローズはもう立っていることもままならないようだった。片足が朽ち果て、地面に膝を落とす。
藍の方に手を伸ばすが、それも肘から先が落ちて灰になってしまった。

「もういいでしょう・・・。 貴女は間違いを犯しすぎた・・・。 ばいばい、お母さん・・・、 私を生んでくれたことだけは感謝してる・・・。」

藍は険しい顔で、ローズが朽ち果てるのを見ていた・・・。その顔に勝利の喜びは無く、色々な激しい感情が混ざったような表情をしていた。

「ふ・・・・・・ふふふ・・・。 私を滅ぼしたって、 何も変わらない・・・・・・。
貴女も私と同じ・・・・・・、いずれ、血を欲する衝動に耐えられなくなる・・・・・・。」

ローズは口を歪ませながら、最後の怨嗟の言葉を紡ぐ

「いくら、否定しても貴女は私と同じ真祖・・・・・・。 人間と共存するなんてできない・・・
だって貴女は・・・・・・、私の・・・・・・。」

そして藍の目の前でローズの身体は砕け散った。 マントだけを残し、地面に落ちた欠片は灰に代わりそのまま風に流されていった。

「・・・・・・・・・。」

藍はローズのマントを拾った。暫く何も言わずにそれを握り締めていたが、そのうち彼女の目から涙が一粒落ちた・・・。

118カサブタ:2012/03/17(土) 20:51:19
16

「藍・・・。」

「いいの、私は大丈夫。 それよりカズ君を助けなきゃ。 みゆきさんは立てる・・・?」

「・・・・・・、 ちょっときついな。 起こしてくれない?」

藍はみゆきの腕を肩に回して持ち上げた。 ローズが滅びて魅了の魔法も解けたとはいえ、反動と疲労で身体はまだガクガクだ。

「じゃあ・・・、いくよ。」

藍は持っていたマントを放り出し、呪文をかけた。マントに溜め込まれたローズの魔力を一気に解放したのだ。

すると、残されたローズのマントの表面がボコボコと沸騰するように蠢き初める、やがて、そこから溶け出すように大量の赤いスライムが流れ出てきた。
ローズのマントの中に収まっていたとは思えないほどのスライムのあちこちに、腐乱した人間の身体の一部と思しき物が混じっていた。

「みゆきさん・・・、これって・・・。」

「ローズに捕らわれた犠牲者達だわ・・・。
可哀想に・・・、たとえ肉体が滅びても魂はあいつに捕らえられたままだったのね。」

スライムの海に溺れる亡骸達はどれも絶望に歪んだ表情が張り付いている。おそらく、こうやって形が残っている者達の何十倍、何百倍もの魂がローズのマントの中に溶け込んでいるに違いない。

「あれは・・・っ!!」

藍はその赤い海の中に、一際歪な肉塊があるのを見つけた。

「カズくん!!」

藍はスライムの海を掻き分けて駆けていった。そして、服が汚れてしまうのも厭わずその塊を抱き上げた。 
それはまるで未成熟な胎児のような姿をしていた。手足は僅かにその痕跡を残すのみで不完全な形をしている。もはや藍でなければそれがカズだとわからなかっただろう。

「あぁ・・・カズくん。 ごめん、ごめんね・・・、私のせいでこんなことに・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「っ!! カズくん・・・、まだ魂は残っているのね・・・。 よかった・・・。」

藍は変わり果てたカズの姿を抱きしめた。 みゆきは心配そうにそれを見ている

「藍・・・、どうするの。 カズの魂が残っているとはいえ。 身体がその状態じゃ・・・。」

「・・・・・・・・。」

「・・・・・・、やるつもりなのね・・・?」

「いけないことだってわかってる・・・。 ハンターである以上みゆきさんも見過ごせないよね・・・。
でも許して・・・。 私のせいでこうなってしまったの。 せめてカズくんだけは助けたい・・・。」

カズの身体はもう原型を止めていない。 放っておいたら僅かに残っている魂も消えてしまう。
助かる方法があるとすれば一つだけ・・・。

「落ち度なら私にもある・・・。カズの守りは貴女の血に任せきりだったし、奴が日本に現れないとタカをくくっていたもの。
出かける前にカズに危険が及ぶ可能性に気付くべきだった。」

みゆきは静かに後ろを向いて藍から目を逸らす。

「私は何も見てない・・・。 貴女がこれからすることに私は一切関知していないわ。」

「ありがとう・・・、みゆきさん。」

藍はカズの身体を胸に抱きマントで包むと、もう片方の腕で、服の胸元をはだけた。
綺麗な形をした藍の胸が姿を現し、彼女はそのピンク色の乳首をカズの頭と思しき場所に押し当てた。

119カサブタ:2012/03/17(土) 20:56:26
「さぁ・・・、カズくん・・・。飲んで。」

藍の胸から、とろりと白い乳が溢れ出る。それはカズの顔を塗らし染みこんでいった。やがて、ドロドロに濡れた塊の中から新しい皮膚が生まれ、顔や四肢も徐々に形を成していく。
カズは幼児ほどの大きさになると、目を閉じたまま自分から藍の胸に吸い付いた。

「うん・・・、いいよ・・・。今日は特別。 満足するまでずっと抱きしめていてあげる。」

藍の乳は彼に新しい身体を与えた。 ホムンクルス・・・、かつてローズが病気のキルシュを救うために行ったのと同じ方法で彼女はカズを救おうというのだ。 
命を自在に操る真祖の血があるからこそできる呪われた秘術。 ヴァンパイアハンターであるみゆきにしてみれば当然、見過ごすことの出来ない邪悪な儀式なのだ。 
それでも、みゆきは藍の胸中を察して黙認した。

みゆきは胸のポケットからバージニアスリムを一本取り出し吸おうとしたが、そこで初めてライターを落としてしまったことに気付いた。

大きくため息をついた後、彼女はこっそりと藍の様子を伺う。 そこには幼子をマントに包み、優しい顔で乳を飲ませる藍がいた。 
その姿は慈愛に満ちていてまるで聖母のようであった。

「これでいい・・・。」

藍は静かにカズから胸を離す。 見ると彼はすぅすぅと寝息を立てていた。

「この身体が定着するまでまだ時間がかかるわ・・・。暫く眠っていてね・・・。」

すると、カズの身体は藍のマントの中に沈んでいった。
真っ赤な裏地はローズのそれのように彼を捕食することはなく、母胎の中の羊水のように優しく彼を受け入れたのだった。
 
藍は服を直すと、乱れたマントを整えた。 

「全部終わったのね・・・、これで全部・・・。」

みゆきも彼女に向き直る。

「藍さ〜んっ!!」

その時、遠くから小さな影が走ってきた。みゆきはその声の主を見てまた顔を強張らせる。
ローズが消えて眷属たちも力を失ったはずなのに、マントを着た少女がまっすぐこちらに走ってくるのだ。

「みゆきさん、安心して。あの子は味方よ。」

「えっ? でも・・・。」

「あの子は、小さいけど明るいお星さまよ・・・。 一人で迷っていた私を導いてくれた・・・。」

少女は藍の前までくると、息を切らして立ち止まった。

「やったのね、藍さん・・・。よかった・・・・・・。」

「ええ・・・、貴女のおかげよ・・・。さっきは励ましてくれてありがとう。
本当は私もすごく怖かったの。でも、おかげで最後まで諦めないでいられたわ・・・。」

藍は彼女に向けて精一杯の笑顔をしてみせた。七海もきっと辛い筈なのにそれに応えて笑ってくれた。

「みゆきさん・・・、この子は大原七海さんよ。 この子が私をここまで導いてくれたの。
この子がいなければきっと私はローズの手に堕ちていたわ。」

「そういえば藍・・・、ローズの血を奪ったっていったけど一体どうやって? それも、この子のおかげなの・・・?」

「うん・・・、実はね・・・。」

藍は七海と出会ってからこの学園に来るまでの経緯を詳しくみゆきに説明した。

120カサブタ:2012/03/17(土) 20:58:56
「え・・・? じゃあ、この子が今着てるのって黒百合のマントなの・・・?!」

「これもローズのマントの一部だからあいつから見たら他の眷属達と同じに見えるはずでしょ?
おかげで、キルシュの目も欺くことができたのよ。」

藍はマリアからの電話の後、厳重に保管してあった黒百合のマントを急いで取ってきたのだ。
流石に七海もそれを着ることは戸惑ったが、あの時はこれ以外に方法は無かったのだ。 

だが、この前封印した時点でこのマントとローズとの繋がりは無くなっていた。
つまり、ローズとつながって魔力が供給されなければ、これはやがてただの布に戻ってしまうはずだったのだ。

そこで藍は封印の一部を解除して、人間を吸血鬼に変える機能だけを復活させた。
七海はマントに残された魔力によって一時的にローズの眷属になったが、その魔力はキルシュの車の中にいるうちに徐々に弱まり、七海は人間に戻って藍からもローズからも独立したのだ。
そのおかげで彼女はキルシュを刺すことができた。

学園についてからは、今度は自由を取り戻した藍が魔力を付与することによって再び吸血鬼化した。
これで、まわりの吸血鬼からは仲間と認識され襲われることが無かったのだ。

「う・・・うぅ・・・。」

すぐ近くから聞こえる呻き声に3人は目を向ける。 みると、半身を失ったマリアがもがいていたのだ・・・。 動こうとする度に身体がひび割れて崩れ落ちていく。 
他の多くの眷属と違ってローズに直接血を吸われた彼女は、マントが無くなっても身体が吸血鬼のままだった。
藍とみゆきはマリアに近づく。七海はためらっていたが、二人に続いて彼女に近づいていった。

「あのとき、貴女が電話してくれなければ私は何の対処もできずにローズの物になっていたでしょうね・・・。 七海ちゃんもきっと無事ではなかった。」

「ふ・・・ふふ・・・。 自業自得ってわけ・・・・・・。 お姉様に、叱られちゃうわ・・・・・・。」

マリアは強がって見せたが苦しい表情は誤魔化すことはできず、身体の有様も手伝ってとても痛々しかった。

「貴女もローズの被害者・・・。 でも、わかるでしょう? 犯した罪も、奪った命も取り消すことはできない。 可哀想だけど貴女もここで滅びなければならない・・・・・・。」

「そんなの・・・、 言われなくてもわかってる・・・。 だって私、あの村の皆を襲っちゃったもの・・・
優しくしてくれた人も・・・、お姉ちゃんも血を吸っちゃった・・・。 たくさん殺した・・・

辛かったけど・・・、 悪いことだってわかってたけど・・・、それ以上に気持ちよくてどうでもよくなっちゃった・・・・・・。
今こんなに痛くて苦しいのに・・・ローズお姉様を恨む気にもなれない・・・。

もう、わかんない・・・・・・。 私おかしくなっちゃった・・・、 お姉様がいなきゃ、どうせもう生きてけない・・・・・・。」

顔は笑っていたけれど、マリアは涙を流していた。 

「藍さん・・・、私どうすればよかったのかな・・・・・・、 それもわかんない・・・、おしえてよ・・・。」

やがて、彼女の身体も乾いていき、ひび割れて砕けてしまった。 朽ち果てる直前まで泣いていた。
そして、藍はついに彼女の言葉に対して何も返すことができなかった・・・。

「あ・・・あれ・・・。」

七海は自分の目から溢れてきたものが信じられないという顔をした。

「どうして私泣いてるのかな・・・、金森くんの仇とったのに・・・・・・。
マリアのこと嫌いな筈だったのに・・・。」

「七海ちゃん・・・。」

「ひ・・・ひぃ・・・、 どうして・・・、どうしてぇ・・・、 あ・・・あ・・・、ああぁぁぁん!! うぁああああん!!!」

心につかえていたものが取れてしまったのか、張り詰めていた気持ちの糸が切れて、ついに彼女は大声で泣き崩れてしまった。

掛ける言葉が無いのは彼女に対しても同じだった・・・。 マリアを倒しても金森健二は戻ってこない。きっと優しい彼女のこと、マリアのことも心から恨みきれなかったのだ。
残ったのはただ無念だけ・・・、今はひたすら虚しいだけだった。

121カサブタ:2012/03/17(土) 21:01:36
上空では残り3機のヘリが待機し、彼女達を上空から伺っていた。

「隊長、どうすんです・・・? ミユキ・ホズミは自由に動けない。真祖の片割れも満身創痍。目撃者の生き残りもあの有様。 
おまけに禁忌の儀式を目の前で行われたとなりゃ、その場の判断で攻撃する理由にもなる。 これほどの好機はありませんぜ?」

操縦士はジェームスの方を振り返る。 彼は通信機に向かってバチカンと通話していた。

「見えてますか枢機卿? いかがいたします? 
・・・・・・・、 ええ・・・、そうですか。 わかりました。 直ちに・・・。」

ジェームスは黙って通信機を置く。

「もうすぐ、日本政府の特命で救急隊が派遣されてくるそうだ。
それまでの我々の任務は生存者の捜索および応急処置だ。他の2機にも直ちに伝えろ。」

「さっきから何か深刻な顔で話を聞いてましたね? 一体枢機卿は何て言ってたんです・・・?」  

「お前のような一兵卒が知るところではない・・・、と言いたい所だが・・・、まあいい。
あの糞爺には珍しく、筋を通したということだ・・・。」

ジェームスは再び地上のみゆきを見た。そして柄にもなく彼女に向かって敬礼をしたのだった。
間もなく3機のヘリはグラウンドの片隅に着陸し、救援活動を開始した。

122カサブタ:2012/03/17(土) 21:12:18
17

“今日未明、 八王子市にある私立紅葉台学園にて放火による物と思われる大規模な火災がありました。 焼け跡からは、同校に所属していた生徒や職員と思しき数十人を越える焼死体の他、火災以外の要因と思われる遺体が多く見つかりました。
同校の学生寮には数百人に登る生徒が生活しており、事件当時も多くの学校関係者と共に校内にいたとのことです。

警察の発表によれば、現場で見つかった遺体に特徴的な傷害の痕跡が見られることから、犯人は都内で多発している連続不審死事件と同一犯の可能性が高いと指摘。
当初は単独犯と思われていましたが、今回の被害の規模から見て、少なくとも十数名からなるグループであった可能性がある見方を示しています。

また、警察は焼け跡から学校関係者ではない複数名の男女の焼死体を発見したことから、自殺した犯人グループとみて司法解剖を行う予定です。
犯人の動機については不明ですが、警察では一連の事件の被害者に儀式殺人的な特徴が見られることや、ミッション系の同校を狙ったこと、一連の犯行の残虐性から、何らかの宗教的な思想を背景にした確信犯である可能性が高いとの指摘がなされています。

前例のない事態を受けて政府は今日、緊急の記者会見を行いました。 
吉川官房長官は、事件被害者への黙祷を捧げた後、これまで海外の物と思われていた宗教関係のテロリズムがついに日本で起こったとの見解をのべた上で、日本の対テロ政策を今まで以上に推し進める必要があるとの談話を発表しました。 
これに対し、野党側は現政権が国防問題を軽視し、対テロ政策が形骸化したことが今回の事態につながったとの意見を発表。関係閣僚の問責決議案を取りまとめる予定で・・・”

紅葉台学園の大惨事は速報で伝えられ、しばらくの間ニュースや新聞を騒がした。
何しろ数百人いた生徒の大半が死傷し、生存者も多くが幻覚を伴う精神的ショックから立ち直れないという前代未聞の惨事だったのだ。 
生存者の中には幻覚症状に陥って、吸血鬼に襲われたなどと叫ぶ者までいたことからもその現場がどれだけ凄惨な物だったかを思い知らされる。

そして、この事態に対する教会の動きも早かった。
今回の事態を受けて真っ先に現場の洗浄が行われ、事件から教会の影は念入りに取り払われた。架空の犯人がでっち上げられ、教会はあくまで一方的な被害者であることを演出。
ご丁寧にも、他の宗教団体による関与を臭わせることも忘れなかった。

紅葉台学園は廃校が決定。無事だった生徒達はそれぞれ別の学校で引き取られることになり、留学生達は母国への送還が決まる。 
その一切合切の手続きや被害者達のケアおよび賠償は全て教会が責任を持つことになった。教会にとって大きな負担であることには違いないが、事件の真相を社会に知られるわけにはいかないからだ。

犠牲者の大半が男子だったこと、それに半して生存者に女子達が多いことなど不審な点に対する指摘はあったものの、その多くは教会の圧力で黙殺された。
多くの人々に事件の真相が知らされることはなく、それは生徒や学校関係者らの遺族に対しても例外ではなかった。

実際には、公式に死亡が告げられた生徒の多くはまだ生存していたのである。
しかし、吸血鬼化が不可逆に進行しきった者も多く、中には人間に戻れたものの多くの殺人を犯した者たちもいた。
教会には立場上そのような被害者たちを引き取る大規模な施設もあり、彼女達は極秘裏に教会が受け入れを行ったのである。

それら、事態の収集に率先して当たったのはジョリオ・ローバックス枢機卿だった。
彼は事件に関する全責任を自ら負って、あらゆる事後処理に奔走した。全ては教会の権威を守るためだった。

123カサブタ:2012/03/17(土) 21:16:18
やがて、彼の仕事が一段落した頃を見計らって、みゆきは改めて枢機卿に思うところを述べようとしたが結局それは適わなかった。 連絡を入れた頃には既に、穂積みゆきの名は教会のブラックリストから削除され、当の彼も枢機卿の地位を自ら返上した後だったのだ。 

みゆきはその事実を知った後、身体の力が全て抜けたような気がした。

長い時を経て母の死の真相を知り、仇を討ち取り、宿敵を倒した・・・そのはずなのに。 
終わってみればなんと味気ない幕切れだろうか・・・。

多くの仲間を失い・・・、人々を危険に晒し・・・、
罪の無い人々がたくさん死んだ・・・ それだけ・・・。 後は何も残らない・・・・・・。

結局この戦いに勝利者など居なかった・・・。 残ったのはただ空しさだけ・・・・・・。

開店前の渡来船の店内で、みゆきは一人眠れない夜を明かした。
みゆきは店の外に出て改めてタバコを吸った・・・。なんだか、大分長い間吸っていなかったような気分だ。

「美味しいなぁ・・・・・・。」

彼女はふぅ、と煙を吐き出す。 その紫煙は早朝の賑わいを取り戻した下北沢の通りへと流れて消えていき、後に甘い香りだけを残した。

これからどうしよう・・・。 たぶん吸血鬼の恐怖はこれからも無くならないだろうが、大きな目的を失くしたあとで、今までどおりハンターを続けていけるのかどうかまだわからなかった。

「ま・・・っ、 なんとかなるでしょ・・・・・・。 そろそろ開店の準備しないとね・・・。」

みゆきは考えることを止めて再び店の中に戻ろうとして・・・。

「くしゅんっ!!」

この街は何もなかったかのように、またいつも通り廻り始める。

124カサブタ:2012/03/17(土) 21:19:55
“拝啓 大原七海 様

私は今、アメリカのオレゴン州にある修道院で生活しています。
もともと成績が良くなかったから英語で話さなければならない環境に最初は戸惑いました。
でも、だんだんと慣れてきて今では神父さんやシスターさんと少しだけ話せるようにもなってきました。

周りには、まだあの夜のことを吹っ切ることが出来ず、今でも夢に見てしまう子も多いようです。
私も、自分の手で傷付けてしまった彼のことを思い出して、眠れない夜を過ごす事がまだあります。

でも心配しないでください。私は大丈夫です。
修道院の人達はとっても優しく、おかげで私たちも少しずつ元気を取り戻しています。 
親友である貴女に会えないのは辛いけれど、こうやって手紙を書いている時は楽しかったあの頃の気分に戻ることができます。

いつか、アメリカにくる機会があったらぜひここに立ち寄ってみてください。
その時までにはきっと立派なシスターになって貴女を迎えてあげます。 

また、お手紙を送りますね。          

音無さやか   ”

七海の元に届いたエアメールには手紙と一緒に、修道服に身を包んださやかの写真が同梱されていた。 
同じく修道院に保護された友達と一緒に以前と変わらない元気そうな笑顔を浮かべる彼女の姿に七海も心なしか微笑んでしまう。

「七海ちゃ〜ん、 お料理運ぶの手伝ってくれない?」

休憩室の扉から美樹がひょっこり顔を出して七海を呼ぶ。

「は〜い、ただいま!!」

七海は手紙を封筒にしまうと、特注した小振りの水兵服をはためかせて出来立ての料理をお客の元へ運んでいた。

「いやはや・・・、巡り合わせとは不思議なもんですな・・・。」

渡来船のカウンター席では、仕事上がりの大原警部が部下を連れて酒を飲みに来ていた。
元気良く働く娘の姿を見る彼に、美樹は新しいビールを運んでくる。

「七海ちゃんは本当に働き者ですよぉ!! あんなに若いのに一生懸命で私たちも見習いたいくらいです!!」

「アメリカに留学したいからバイトをしてお金を貯めるなんて、耳を疑いましたよ。
先日18歳の誕生日だったんですが、そこで突然言われましたからね。
しかも、そのバイト先がよりによってこの店とは・・・。 あの時、藍さんが娘と並んで一緒に頭を下げに来なかったら認めてないところですね。 
それにしてもどこで藍さんと知り合ったのだか・・・。」 

「まぁまぁ、 女の子っていうのはいつの間にか大人になっちゃうものですよぉ!!
私も先日結婚しましたけど、親には最後まで反対されたんですよね。でも、きっと大丈夫です。
大体どうにかなっちゃうし、特に七海ちゃんはしっかりした子ですからねぇ。
よく言うでしょう? 親の心子知らずって。」

「それ・・・、ひょっとして慰めてるつもりですか?」

あの夜から既に2ヶ月が過ぎました。みゆきは渡来船のカウンターの後ろにある椅子に腰掛け、なにやら物思いに耽っている。
日本に帰ってきてからずっとこんな感じだった。経験豊富なみゆきも流石に今回は、どっと疲れたようだ。

「あの・・・、船長?」

「ん?」

自分を呼ぶ声に顔を上げると、そこにはみゆきの代わりに店番をする美樹が心配そうな顔で立っていた。

125カサブタ:2012/03/17(土) 21:28:24
「大丈夫ですか? この前の旅行から帰ってきてからずっと元気が無いって、みんなも心配していますよ?」

「ああ・・・、ごめんなさい。 なんだかね・・・最近ちょっと疲れちゃったんだ。 まだまだ若いと思ってたのに、時がたつのは早いな〜。」

「も〜、何言ってるんですか? 船長はまだ25歳じゃないですか!!
船長は頑張り過ぎなんですよ。 疲れたときは無理して店に出なくていいんです。私たちに任せてください。」

「ふふ・・・、ちょっと前まで失敗ばかりだった美樹ちゃんもすっかり一人前かぁ・・・、やっぱ時が立つのって早いわね。」

そして、みゆきはまた物思いに耽るのだった。 今回の戦いは自分がなぜヴァンパイアハンターを続けているのか、その意味を考えさせられる旅だった。 
人間とヴァンパイア、この二つは絶対に交わってはならない、交わらせてはいけない。それが本来ハンターの理念であるはず。

思えば私と私の母は昔、滅ぼすべき存在である筈の真祖の片割れである藍を救い、成長を見守ってきた。10数年前から私はずっと矛盾を抱えているのだ。

(なんだかな〜。 深刻に考えても仕方が無いことなのかな? 藍はいい子だし、カズも上手くやってるし。 今考えると最初から私が気を揉む必要なんて無かったのかも。 
あの頃は母さんのお節介にいつも嫌気がさしてたけど、いつのまにか私も他人に気を使うようになっちゃってたのね・・・。)

「船長、そういえば今日はカズ君とデートするんじゃなかったんですか? このまえ映画のチケットもらったじゃないですか」

美樹の質問にみゆきは微笑みながら答える。

「ああ、カズ? もう振っちゃったわ。 もちろん映画館デートは中止。」

「ええぇ〜〜?!」

「いやね、美樹ちゃんも私とアイツがぴったりって思ったの? 悪いけど私とは不釣り合いよ。あんな甘ちゃんボウヤは御免被りたいわ。」

「で・・・でも・・・、ちょっとカズ君かわいそう。 いつもならこの時間にはお店に来るのに最近見ないじゃないですか、ひょっとしてかなりショックだったんじゃ・・・。」

「も〜、美樹ちゃんたら優しいんだから。 あいつ単純なんだからすぐ立ち直るわよ。それに・・・。」

「それに・・・?」

みゆきは意味ありげに微笑むと椅子から立ち上がった。

「やっぱ言わないでおくわ・・・。 きっと明日あたりカズがひょっこり現れてゴキゲンに語ってくれるわよ。今日の映画とデートの感想。」

「え・・・、えええええぇぇぇ〜〜〜っ?!!」

美樹の叫び声に一瞬、店の中が騒然としました。

「だ・・・誰なんですか?! カズ君とデートしてるのって?
ひょっとして・・・、まさか・・・。」

みゆきはニコニコと笑うだけで、あえて答えることはしませんでした。きっと誰も大体予想はついていることが彼女にはわかるのです。

(こんなこと性に合わないけど、私もなんだかんだで信じたいのよ・・・、あなたたち二人が人間とヴァンパイアの新しい関係を作ってくれるって。 
だから頑張りなさい・・・、ずっと応援してあげるわ、カズ・・・。)

126カサブタ:2012/03/17(土) 21:30:50
場所は変わり、 ハンガリー、北西の森の中

「うひゃぁ・・・、どこまで歩いても森しかねえや。
川に沿って歩いてきゃ、いつか人間のいる所に着くと思ったんだけどなぁ・・・。
幸い、水と食料には困らねぇが自然が残りすぎてるのも中々考え物だぜ。 違えねぇだろ嬢ちゃん?」

土で汚れたボロボロの服を着て、トビーは木の枝を杖にして森の中を彷徨っていた。

彼の後ろには、同じくボロボロになったマントを纏った少女が一人、俯いたまま付いてきていた。
トビーを襲い、血を吸おうとした吸血少女、エレナだ。彼女の様子を見てトビーははぁっ、と息を吐く。

「なぁ、嬢ちゃん・・・。 いい加減元気をだしてくれよ。
そんな悲しそうな顔してると、俺まで暗い気分になっちまうぜ・・・。」

トビーは大げさな手振りを加えながら彼女に話しかける。すると、ずっと黙っていた彼女は静かな声で話し始める。

「なんで私にそんなに親切にしてくれるの・・・? 私、貴方を殺そうとしたのよ・・・?
貴方だけじゃなくて、たくさんの人を殺す原因を作った。 助けられる資格なんて私には無いのに・・・。」

「おいおい・・・またその話かい? あんたあの時言っただろう? 死にたくないって。
目の前で怖がってる女の子がいたら助けたくなるのが男の性分ってもんだろ・・・?」

隧道の中で落盤に巻き込まれそうになったあの時、死ぬ覚悟をしていたトビーは崩れた地面の間から見えた日の光に一筋の希望を見出した。
エレナに襲われて動けなかった彼は渾身の力を振り絞って、体を反転させ、エレナをかばう体勢になったのだ。

結果トビーはかなりのダメージを受けたが、落盤は奇跡的にも彼に致命傷を与えることはなかった。 
彼は土を掻き分けて地上をめざし、ついにエレナ共々脱出することに成功したのだった。 

また、既にエレナの眷属になっている為に怪我の直りは早く、今では杖を使えば歩けるほどにまで回復している。

「そんなこと・・・、 今ではあの時土に埋まっておけば良かったと思ってるわ・・・。
生き延びたって私にはもう何にも残ってない・・・。村は無くなっちゃったし、妹もきっと生きてない。
それにこの体じゃもう真っ当に生活することなんて無理よ・・・。」

「う〜ん・・・。」

エレナはまた辛そうな顔をして俯いてしまった。トビーはポリポリと頭を掻きながら、どうしたものかと困っていたが。
やがて、にんまりと笑って再び彼女に話しかけた。

127カサブタ:2012/03/17(土) 21:32:19
「そう、しけた面しなさんなって!! 俺も嬢ちゃんもこうやって生きてるじゃねぇか!!
生きてるってのはホントいいもんだぜ? ガサツな俺と違って嬢ちゃんはデリケートな性格だから心配ごとが多いのはわかるけどさぁ。 
俺に言わせりゃ大抵の悩みなんて笑ってりゃ何とかなるもんさ。

そこまで心配することないっての。 前向いて生きようぜ・・・
それにさぁ・・・。」

「きゃっ!!」

トビーはいきなりエレナの体を持ち上げて、お姫様抱っこのような体勢になった。

「な・・・なによ!!」

エレナは突然のことに驚くと同時に、少し恥ずかしいのか顔を赤くした。

「俺を見捨てて死にたいなんてそれこそ後生だぜ・・・。みての通り俺の体は既にあんたの眷属になっちまってる。 
つまりあんたがいなきゃもう生きていけないんだ・・・。 俺と嬢ちゃんは一心同体。せっかく俺が生きようとしても、あんたが死んだんじゃ意味ないんだぜ・・・。

生きる目的が無いっていうけどさ・・・。 ここはひとつ俺の為にも生きててくんないかな?
なぁ、頼むよ。 この通り!!」

トビーはわざとへりくだるような口調で、それでも冗談混じりにエレナに話しかける。
そんな彼を見る彼女の表情は不思議そうだった。

「私の事恨んでないの・・・? 貴方をそんな風にしたのは私なのに・・・?」

「あぁ・・・、まぁそうなんだけどさ・・・。 なんだかもうどうでもいいんだよな・・・。
俺もこんなじゃハンターなんて続けられそうもないし、お嬢ちゃんと同じでこれから何の予定も無いんだよな。
 でも、ものは考えようだぜ・・・。お互い肩の荷が下りたところで、これから気ままに生活してくのも悪くねえと思わないかい? 
俺にはこの身体があるから野良仕事くらいは出来るぜ。そうやって細々と稼いでさ・・・、とにかくゆっくり過ごすんだ・・・、やってみりゃ結構楽しいと思うぜ・・・。

そのうえ嬉しいことに、こんな可愛コちゃんまで付いてくると来たもんだ。
立場的にはあんたが上だけどよ・・・、こんなベッピンさんのお世話をいろいろできるならそれはそれで乙なもんだぜ。」

エレナはきょとんとした顔をしていたが、やがてやれやれといった風に小さく息を吐いた。

「変わった人・・・。」

一言だけ言うと、彼女はあれから初めてクスッ、と微笑んだのだった。
それに対してトビーも人懐こい笑顔を返した後、彼は空を見た。

(姐さん、どうやらまた死に損なっちまったようですぜ。
でも、悪いけどしばらくの間はカッコよく死んだことにしといてください。
もうハンターは続けられねぇし、ちょっと休まないと普通の仕事も出来そうにないんでさぁ・・・。

つうわけで、俺ぁ、しばらくおとなしくしときます。 いずれ機会があったらまた会いましょう・・・。)

・・・・・・・・
・・・・

128カサブタ:2012/03/17(土) 21:39:10
「映画・・・、よかったね・・・。」

「うん・・・。」

映画館から出た後、和也と藍は夜景が良く見える展望レストランで食事をしていた。街は既に夜の帳が降り、眼下には散りばめた星屑のような街明かりが広がっている。

その光景を藍は何も言わずにじっとみつめていた。 なんて不思議な表情なんだろうと和也はしばしの間彼女の横顔に見入っていた。

「わたし、この風景好き・・・。」

藍は静かな声でいう。

「ヴァンパイアは星も灯りもない闇を何よりも愛するの・・・。光は本来私たちにとって忌むべき物だから。 でも、私はそう思わない。 
この夜景は、人が作った闇を照らす光でできている。私はこの光のひとつひとつがとても愛おしくてたまらないの・・・。 

おかしいよね・・・、私には真祖の血が流れているのに。心はだんだん人間に近づいている気がする。」

「藍ちゃんは、人間になりたいと思うの?」

「そんなことないわ・・・、カズ君やみんなと一緒に生きるにはその方がいいのかもしれないって思うこともあるけど、
それが目的なら、ローズがやったようにその人達を吸血鬼に変えてしまうのだって手段は違えど本質は変わらないはずよ。その方がずっと長い間一緒にいられるもの。

でもね・・・、なんとなくそれじゃだめだって思うの。 もし、私が人間になったら私が私で無くなる気がする。カズ君のことは眷属にしちゃったのに勝手だよね・・・。」

カズはあのあと、藍のマントの中で完全な身体を取り戻した。ローズより優れた器であるためなのか、
藍が与えた彼の新しい身体は健康そのもので、ローズに襲われる前となんら変わりが無かったのだ。
しかし、その身体が藍の血肉で形成されたものであることには変わりないため、実質カズは藍の完全なる眷属と化してしまったのだった。

カズはさっきの映画のことを思い出した。 主人公は人間の娘に恋をした孤独なヴァンパイアの青年。
彼は彼女と永遠に生きる為に彼女を吸血鬼に変えてしまおうとするが、その愛故の行動のせいで彼女に拒まれてしまう。 

しかし、長い逡巡の末に結局二人はまた惹かれあい、種族の違いを背負ったまま愛を育むことを選んだのだ。 
ほんの一時の幸せに身を焦がす二人。しかし、時は無情にも過ぎ去り、娘は年老いてやがて青年に看取られて逝ってしまう。 
そして、青年は永遠の命を捨ててでも彼女と添い遂げる道を選び、眠る彼女の傍らで自らの心臓を突き刺し、死んでしまうのだった。

映画の最中、和也は横に座っている藍の頬を一筋の涙が伝っているのを見た。声を押し殺してはいるものの彼女の肩は小刻みに震えていたのだ。 
思わず和也は藍の腕をぎゅっと握る。彼女はぴくりと身体を震わせたが、やがて崩れ落ちるように和也にしなだれかかってきたのだった。 
肩にすがりつく彼女の身体を和也はそっと抱きしめた。

おそらく劇場にいる他の多くの人には現実味の無いお伽話。 でも藍にとってはこれから訪れるかもしれない悲しい未来なのだ。
藍はまだ若いけれどヴァンパイアである以上思い知っている。自分は生きるために和也の血を吸わなければならないこと。

そして、それが和也の寿命を少なからず縮めてしまうであろうこと。 自分はいつまでも若く美しいのに和也は年老いていく。
そしていつか自分が和也を看取った後も、また誰かの生き血を奪い悠久の時を生きていくと・・・。

129カサブタ:2012/03/17(土) 21:42:44
「私は吸血鬼・・・。私自身がそのことに誇りを持っているわ。だから人間になんてなりたくないの。
でもわかっているの、君と居ればいつかきっと君を殺すことになる。それがつらいの・・・。」

藍の目にはまた涙が溜まり始めていた。それを見たカズはしばらく黙っていたが、やがて穏やかに笑いながら藍に話しかけた。

「俺もさ、なんとなくわかったような気がする・・・。藍ちゃんと初めて会った時の事を思い出したよ・・・。」

そして彼は、藍の手の上に自分の手をそっと重ねて続ける。

「あのとき俺は、一目で君が普通の子じゃないってわかった。そして、そのことにすごくときめいたんだ。 
確かに、たぶん藍ちゃんが普通の人間でも俺は君を好きになったと思うよ。

でも、こうやって長い間付き合っているうちに分かってきたよ。  
可愛くて・・・、奥ゆかしくて・・・、純粋な今の藍ちゃんは吸血鬼として生きてきたからこそここに居る。

君が吸血鬼だから・・・、吸血鬼に生まれたからこそ今の素敵な藍ちゃんがいるんだ。 
だから俺は君を否定したりなんかしない。君がヴァンパイアであることを含めて俺は藍ちゃんが好きだよ。」

「カズ君・・・。」

藍の目からぽろぽろと涙が零れました。もうさっきのように嗚咽を抑えることはできません。あの戦い以来、心の中に淀んでいた物がすべて溢れ出てきたようでした。

「ありがとう・・・、私を好きになってくれてありがとう・・・。 わたしも・・・大好き・・・。」

藍は涙を流しながらも、今までで一番の幸せな笑顔をみせたのだった。


みゆきが特別に貸してくれた車を止めている立体駐車場の上に藍と和也は戻ってきた。

「寒くない・・・?」

「うん・・・、でもちょっとまって。 今からマントを着るから。」

肩から下げていたバッグから畳んであるマントを取り出す藍。 
彼女はそれを羽織り、前で紐を結ぶと、ヒールをコツコツと鳴らしながら屋上の端の方に歩いていった。
屋上は少し強い風が吹いていて、歩くたびに彼女のマントがゆらゆらと揺れていた。カズにはその後姿がとても優雅で妖艶だと感じられた。 

「ねぇ、カズくん!! こっちきて!!」

藍はちょっと悪戯っぽい顔で、思いっきりマントを翻すと、バサァっと心地良い音を立てて翻った。

カズはゴクッ、と息を呑みながら藍に近づいていく。

「藍ちゃん・・・。そっちは危ないよ。」

「いいから、いいからぁ・・・ はやく来てよ。」

藍は上目遣いでニコニコしていた。何かを企んでいるような顔だったが和也はその可愛さに負けて疑いもなく近づいてしまった。

「ほら、来たよ。 これでいい?」

「うんうん、いいよ。 きゃははっ!!」

そういうと、藍は彼の腰に腕を回し、しっかりと掴んだ。カズはその大胆な行動にドキッ、としたが
その次に彼女がやることは予測できなかった。

「いくよ、カズ君。 しっかり掴まっててね!!」

バサアアァッ!!

藍はもう片方の手でマントを大きく広げた。大きなマントが翼のように広がり風を受け止めて翻る。
そして、藍と和也の身体は地面を離れてふわりと浮き上がった。

「うわぁぁっ?!」

風を孕んではためくマントに持ち上げられて、藍の身体はぐんぐん夜空へと上昇していく。
立体駐車場は既に遥か下へ通り過ぎ、さっき食事をした展望レストランよりも高い空の上へと飛んでいった。

130カサブタ:2012/03/17(土) 21:44:27
「ちょ・・・ちょっと藍ちゃんっ!! 怖いよっ!! 頼むから下ろしてぇっ!!」

「まだまだ・・・、もうちょっとだけ我慢しててよ。」

それから暫く上昇した後、藍は空中に浮くように静止した。
カズは怖くて目を開けられず、藍の身体にしがみついている。

「ちょっとカズくん。 苦しいよ。 ほら、落ちることなんて無いから安心して。」

藍がそういうと、空中に広がっていた藍のマントが下からゆりかごのようにカズの身体を包んだ。
支えが出来てカズはようやく恐る恐る手を離すことが出来た。

「藍ちゃん・・・、飛ぶならそう言ってよ。 俺は初めてなんだからいきなりやられるとびっくりするよ。」

「ごめんごめん・・・。でも直前までこれは秘密にしておきたかったんだ。
ほら・・・、みてカズ君。」

藍が眼下を指差す。カズが顔を向けると、その先に広がっていた光景に息を呑んだ。

そこに広がっていたのは、見渡す限りの光の渦だった。 
赤、青、白 満点の星空をひっくり返したようにいくつもの光が散りばめられた東京の夜景が、視界いっぱいに広がっていたのだ。

真下には東京湾。その先には多摩丘陵まで、関東平野全体に広がる光の絨毯。和也はしばらく何も言葉を発せずにその美しさに見入っていた。

「やっぱり素敵だと思うな・・・、この綺麗な光たち・・・。」

藍は和也の隣で、同じように光を見ている。

「いつもは一人でこれを見てた・・・。 ずっとこれを誰かに見せてあげたいって思ってたの。
でも、誰でも良かったわけじゃない・・・。 ここには特別な人を連れてこようって前から決めてた・・・。」

藍は和也の方を向く。そのうっとりした目にもいくつもの光がキラキラと散りばめられていた。

(そうか、これが藍ちゃんに見えている風景なんだ。
俺たちはお店ではずっと一緒にいるように感じていても、普段見ている物がこんなにも違っている。

この街は嫌な思い出がたくさんある。 何か嫌なことがあって俺が地面を見ながらブラブラ歩いている街も、藍ちゃんにはこんなに綺麗に写っていたのか・・・。)

和也はようやく、藍と同じ場所に立てたような気がしていた。 
彼女が今日、この景色を自分に見せてくれた理由。 言葉が無くてもそれは何となくわかるような気がした。 

「ねぇ、藍ちゃん。 また、いつかこの空に連れてきてくれる?」

「うん、何度でも連れてきてあげる・・・。カズ君とずっと一緒にいるから、いつでも・・・。」

二人はお互いに顔を合わせて微笑みあう。
そして、どちらともなく自然に目を閉じ、 ゆっくりと顔を近づけていった。

やがて重なりあう二つの唇・・・・・・。

お互いを労るように抱き合う二人の身体をマントが優しく包み込む。
そして、二人は抱き締めあったままゆっくりと夜の街に落ちていったのだった・・・。

(終)

131カサブタ:2012/03/17(土) 21:49:29
愛璃さんの原作からはだいぶ変わってしまいましたがいかがだったでしょうか。

渡来船2は以上になります。長々と失礼しました。

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