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平成仮面ライダーバトルロワイアルスレ2

1二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/02(木) 22:48:38 ID:HtbcufRI
当スレッドはTV放映された
平成仮面ライダーシリーズを題材とした、バトルロワイヤル企画スレです。
注意点として、バトルロワイアルという性質上
登場人物が死亡・敗北する、または残酷な描写が多数演出されます。
また、原作のネタバレも多く出ます。
閲覧の際は、その点をご理解の上でよろしくお願いします。


当ロワの信条は、初心者大歓迎。
執筆の条件は、仮面ライダーへの愛です。
荒らし・煽りは徹底的にスルー。


平成仮面ライダーバトルロワイアル@ウィキ
ttp://www43.atwiki.jp/heisei-rider/pages/1.html

前スレ
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1288082693

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/14262/

2chパロロワ事典@wiki
ttp://www11.atwiki.jp/row/

執筆の際は、以下のページを参照にしてください
ttp://www43.atwiki.jp/heisei-rider/pages/30.html

2二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/02(木) 22:49:10 ID:HtbcufRI
【参加者名簿】

【主催者】
大ショッカー@仮面ライダーディケイド

【仮面ライダークウガ】 5/5
○五代雄介/○一条薫/○ズ・ゴオマ・グ/○ゴ・ガドル・バ/○ン・ダグバ・ゼバ

【仮面ライダーアギト】 5/5
○津上翔一/○葦原涼/○木野薫/○北條 透/○小沢澄子

【仮面ライダー龍騎】 6/6
○城戸真司/○秋山 蓮/○北岡秀一/○浅倉威/○東條 悟/○霧島美穂

【仮面ライダー555】 5/7
○乾巧/○草加雅人/○三原修二/●木場勇治/●園田真理/○海堂直也/○村上峡児

【仮面ライダー剣】 6/6
○剣崎一真/○橘朔也/○相川始/○桐生豪/○金居/○志村純一

【仮面ライダー響鬼】 4/4
○響鬼(日高仁志)/○天美 あきら/○桐矢京介/○斬鬼

【仮面ライダーカブト】 6/6
○天道総司/○加賀美新/○矢車想/○擬態天道/○間宮 麗奈/○乃木怜司

【仮面ライダー電王】 5/5
○野上良太郎/○モモタロス/○リュウタロス/○牙王/○ネガタロス

【仮面ライダーキバ】 4/4
○紅渡/○名護啓介/○紅 音也/○キング

【仮面ライダーディケイド】 5/5
○門矢 士/○光 夏海/○小野寺 ユウスケ/○海東 大樹/○アポロガイスト

【仮面ライダーW】 7/7
○左翔太郎/○フィリップ/○照井竜/○鳴海亜樹子/○園咲 冴子/○園咲 霧彦/○井坂 深紅郎

58/60

3二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/02(木) 22:49:46 ID:HtbcufRI
【修正要求について】
・投下されたSSに前作と明らかに矛盾している点がある場合、避難所にある議論用スレにて指摘すること。それ以外はいっさいの不満不平は受け付けない。
・修正要求された場合、該当書き手が3日以内(実生活の都合を考慮)に同じく議論用スレにて返答。必要とあらば修正。問題無しならそのまま通し。
・修正要求者の主観的な意見の場合は一切通用しません。具体的な箇所の指摘のみお願いいたします。

【書き手参加について】
・当ロワは初心者の方でも大歓迎です。
・書き手参加をご希望の方は避難所にある予約スレにて予約をするべし。
・その他、書き手参加で不明な点、質問は本スレ、もしくは避難所の雑談スレにでも質問をお書きください。気づきしだい対応致します。

基本ルール
各ライダー世界から参加者を集め、世界別に分けたチーム戦を行う。
勝利条件は、他の世界の住民を全員殺害する。
参加者を全員殺害する必要はなく、自分の世界の住民が一人でも残っていればいい。
最後まで残った世界だけが残り、参加者は生還することが出来る。
全滅した参加者の世界は、消滅する。

4 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 19:53:57 ID:VTV3nv6A
そろそろ時間ですので
門矢士、北條透、牙王、アポロガイストを本投下します

5巡り会う世界 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 19:55:32 ID:VTV3nv6A
上から降り注ぐ太陽の光に、森は照らされていた。
青く広がる空では、白い雲が風で流されている。
微風は涼しく、浴びる者に心地よさを感じさせるかもしれない。
辺りを流れるそれは、木の葉を揺らしていく。
だが、青年はその音を聞いても、何とも思わなかった。
漆黒色のロングコートと赤いシャツ、デニム生地のズボンに身を包む彼、門矢士は歩いている。
その手に、力が失われてしまったライダーカードを持ちながら。

「やれやれ、こんな事になるなんてな」

溜息を吐きながら、士はぼやく。
彼はいつものように、仲間達と共に世界を巡る旅を行っている最中だった。
しかし突然、大ショッカーに知らない内に拉致され、こんな世界に放り込まれる。
そしてホールにいた死神博士は、見覚えのある映像を見せてきた。
様々な世界にいた仮面ライダー達が、怪人と戦う姿。
広大な宇宙に浮かぶ幾つもの銀河。
それらが衝突した結果、崩壊する世界。
無論、そこにいた存在全てもまた、消滅する。
歴史が、町が、人が、怪人が、仮面ライダーが。
何一つとて、残らない。
あの光景には、見覚えがあった。
かつて自分に世界を巡る旅を命じた男、紅渡と出会った際に見せられた物と、よく似ている。

「にしても、大ショッカーは潰した筈だ…………どうなってる?」

無意識の内に、疑問を口にした。
そう、数多の世界に魔の手を伸ばした秘密結社、大ショッカー。
奴らは仲間達と力を合わせて、潰したはず。
それなのに何故、再び結成されたのか。
スーパーショッカーのように新たに立て直したのか。
だがどんな理由にせよ、蘇ったのなら叩き潰せば良いだけ。

「カードの力が全て失われてる……まあ、あいつらの仕業か」

異世界に存在する仮面ライダーの力が込められた、ライダーカード。
ディケイドの物以外、全て灰色に染まっている。
ネガの世界でも起こった災難が、再び襲い掛かるとは。
加えて、ケータッチも手元には無い。
だが、無いなら取り戻せば良いだけだ。

6巡り会う世界 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 19:56:02 ID:VTV3nv6A
「しかし、アポロガイストや剣崎一真までいるとはな」

デイバッグの中に入っている、参加者の名簿。
その中には、信じられない名前が混ざっていた。
一人は、Xライダーの世界で脅威となった大ショッカーの幹部、アポロガイスト。
幾度と無く立ち向かってきたが、その度に返り討ちにし、最後には叩き潰した。
恐らく大ショッカーが、この殺し合いの為に蘇らせた可能性が高い。
そしてもう一人。
剣崎一真。
自分がかつて訪れたブレイドの世界。
そこを守っていた剣立カズマとは違う、もう一人の仮面ライダーブレイドだ。
ライダー大戦が始まった際、戦いを繰り広げた記憶がある。
その男までもが、連れてこられたとは。
だが、今はそれよりも気にする事態がある。
それは、自分と同じように連れてこられた三人の仲間達だ。

「死ぬなよ、お前ら…………」

仲間の身を案じながら、士は呟く。
光写真館で自分の帰りを待っていた女性、光夏海。
クウガの世界で始めて出会った仲間、小野寺ユウスケ。
財宝を求めて旅に同行するコソ泥、海東大樹。
何だかんだで、頼もしい仲間達だ。
こんな訳の分からない戦いで、犠牲にさせるわけにはいかない。
一人でも欠けてしまっては、残された爺さんが悲しむだろう。
大ショッカーは戦いに勝ち残れば、願いは何でも叶えると言った。
だが、あんな奴らが約束など守るわけが無い。
まずは仲間達との合流を目指し、大ショッカーへの対抗することが先決だ。
そう思う士は、木々の間を進み続ける。







「参りましたね……殺し合いなんて」

『アギトの世界』から連れてこられた、ビジネススーツに身を包んだ青年、北条透は溜息を吐いた。
警視庁捜査一課の警部補であり、本庁きってのエリートと呼ばれた彼は、雑草と土を踏みしめながら歩く。
北条は違和感を覚えながらも、現状を把握した。
まず、自分が今いる場所は、大ショッカーと名乗った集団が用意した殺し合いの場。
この戦いは、六十人もの人間が集められ、それぞれ世界ごとにグループで分けられている。
そして生き残らなければ、自分の生まれた世界は跡形も無く、消滅。
どこまでが本当なのか、疑問だった。
だがこの状況は、夢ではなく紛れも無い現実。
首から伝わる感触が、その証拠だ。
到底信じがたいが、現実逃避はしてはいけない。

「迷惑な話ですよ……私はこんな事で時間を潰している場合ではないのに」

大ショッカーと現状の不満を感じて、北条は愚痴を漏らす。
そもそも自分は、警察上層部からの命を受けて、アギト殲滅作戦を行っているはずだった。
その為に、G3システムを使い、アンノウンを保護する。

7巡り会う世界 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 19:56:36 ID:VTV3nv6A
しかしその最中に、得体の知れない連中によって、こんな戦いに繰り出されるとは。
しかも名簿を確認してみると、見覚えのある名前がいくつかある。
アギト殲滅作戦のターゲットとなった、津上翔一と葦原涼。
既に亡くなった筈の男、木野薫。
犬猿の仲とも呼べるライバル、小沢澄子。
翔一はともかく、他の三人とは合流したところで、上手く協力できるか。
特に小沢と葦原は、一悶着は避けられない。
だが、背に腹は変えられないだろう。
今だけは、何とか協力関係を持つしかない。

「しかし……『仮面ライダー』とは一体……?」

始まりのホールで、死神博士と名乗った老人の言葉を思い出す。
あそこから推測すると、別々の次元に存在する世界を引き寄せて、融合させてしまう存在らしい。
そして、仮面ライダーと敵対する組織や怪人とやらも、世界が崩壊する因子の一つ。
正直な所、これだけでは上手く概念が断定できない。
それにあの言葉が真実ではない可能性も、充分にある。
自分達を拉致して、殺し合いを強制させるような組織が、生贄に何を教えるのか。
だが何にせよ、情報があまりにも足りない。
大ショッカーについても、世界の崩壊に関しても。
ここは知り合いと一刻も早く合流し、戦場からの脱出を行うべき。
奴らは戦いに勝ち残れば、どんな願いでも叶えると言った。
しかし、そんな餌に釣られる訳が無い。
仮に殺し合いに乗って、生き残ったとしよう。
その後に、大ショッカーが約束を守る保障など、何処にあるのか。
最悪の場合、殺される可能性が高い。
北条が考えを巡らせていた、最中だった。

「おい、お前は『仮面ライダー』って奴か?」

突然、背後から声が聞こえる。
自分にとって、全く覚えの無い声が。
北条は、反射的に振り向く。
その瞬間、彼は金縛りにあったかのように、全身が硬直した。
目の前に立つ壮年の男から、あまりにも凄まじい威圧感が放たれていた為。
見た目は自分より、遥かに年上に見えた。
屈強な体格を、所々から棘が突き出た、鰐の皮みたいな模様の衣装で包んでいる。

「え…………?」
「聞いてるんだよ、お前は『仮面ライダー』なのか? とっとと答えろ」

男の低い声を聞いて、北条は思わず後ずさった。
しかし、こんな場所に連れてこられてから、初めて出会った人間。
だから質問には、答えなければならない。
恐怖を感じながらも、口を開く。

「いえ、私はそのような者ではありませんが——」
「チッ、ハズレかよ」

だが、北条の言葉はあっさりと遮られた。
男は舌打ちをしながら、不満の目線をこちらに向ける。
それを受けて、北条の頬から汗が流れた。
発せられるプレッシャーに、恐怖を感じたため。
本当なら、今すぐにでも逃げ出したかった。
しかし、初対面の人間に対して、それはあまりにも無礼な対応。
そう思った北条は、何とか対話を続けようとした。

8巡り会う世界 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 19:57:18 ID:VTV3nv6A

「まあ、こんな所に呼ばれたからには、少しは腹の足しにはなるか?」

だが、彼の思いは叶わない。
北条が言葉を紡ごうとした瞬間、男は語った。
その瞬間、腰に奇妙なベルトが現れる。
恐竜の顎を模したような、バックルが装着された。
あまりにも唐突過ぎる出来事に、北条は驚愕を覚える。
一方で男は、バックルの脇に付いたボタンを押した。
すると、パイプオルガンの演奏のような盛大な音が、発せられる。
北条には、何がなんだか分からない。
この男が一体、何をしようとしているのか。
混乱が生じていく中、男は懐に右手を入れる。
その中から、黄金のカードケースを取り出した。

「変身」
『GAOH−FORM』

そして、取り出したそれをバックルの前に翳す。
ベルトから電子音声が響くと同時に、カードケースが分解された。
破片は男の全身に纏わり付き、鎧を生み出す。
金色に輝く胸板、そこから上に伸びた二本の白い角、恐竜の頭を象った両肩の装甲、金と黒の二色で構成された強化スーツ。
金属の破片は最後に、顔面に集中する。
そのまま、恐竜の顔によく似た形を作り、仮面となった。
全ての過程を終えると、全身から真紅の波動を放つ。
こうして男は、変身を完了した。
それは『電王の世界』に存在する神の路線を奪い、全てを喰らおうと企んだ仮面ライダー。
時の列車、デンライナーを奪った狂える牙の王。
男の名は牙王。
またの名を、仮面ライダーガオウ。

「なっ…………!」

目の前から突き刺さる威圧感によって、北条は再び数歩だけ後退してしまう。
二メートルにまで達しそうな巨体に、凄まじいほどのプレッシャー。
この二つから北条は、男が危険人物であると判断した。
正体は全く分からないが、どう考えても殺し合いに乗っている。
アンノウンと同じで、話し合いなど通用する相手ではない。
何とか逃げ出そうとするが、身体が動かなかった。
まるで、蛇に睨まれた蛙のように。

「つまらねえな……」

ガオウは舌打ちをしながら、一歩一歩前に出る。
そして腰に備え付けられた二つのパーツを取り出し、装着した。
一瞬の内に、刃から棘が突き出た剣、ガオウガッシャーへと形を変える。
この時、北条は生きる事を諦めた。
渡されたデイバッグの中には、この状況を打破する物は何も無い。
今更逃げたところで、追いつかれるに決まっている。
ああ、自分の最後はこんなに呆気ないとは。
警察官になって人々を守るために、アンノウンと戦い続けた。
だがその結果が、これとは。
もしも神というのがいるのなら、呪ってやりたい。
そう思いながらも、せめてもの抵抗として北条は下がり続けた。
ガオウは無常にも剣を掲げ、振り下ろそうとする。
その時だった。

9巡り会う世界 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 19:58:14 ID:VTV3nv6A

「変身!」
『KAMEN RIDE』

突如、二つの声が聞こえる。
人間の肉声と、機械の電子音声。
その二つは、北条とガオウの鼓膜を刺激した。
反射的に、二人は同時に振り向く。
そこには見知らぬ青年が、悠然と佇んでいるのが見えた。
腰には、バックルに赤い石が埋め込まれた、ベルトが巻かれている。
青年、門矢士は両脇に手をつけて、押し込んだ。

『DECADE』

白銀に輝くベルト、ディケイドライバーから音声が再び響く。
直後、バックルから光が放たれ、紋章が浮かび上がった。
続いて、士の周りに九個のエンブレムが出現。
その場所を中心とするように、人型の残像が次々と作られた。
それらは、士の身体に装着される。
すると一瞬で、黒いアーマーに形を変えた。
それに伴い、ディケイドライバーから七つの板が、真紅の輝きを放ちながら吹き出す。
現れたプレートは、頭部の仮面に突き刺さった。
刹那、全身のアーマーにはマゼンタが彩られ、額と両眼から光を放つ。
いつものように、門矢士は変身を果たした。
仮面ライダーディケイドと呼ばれる、戦士へと。
そのまま彼は、動けなくなった北条の前に立った。

「ほう? 少しは喰いがいがありそうだな」

現れたディケイドを見て、ガオウは仮面の下で笑みを浮かべる。
そのまま、ガオウガッシャーの先端を突きつけた。
それに構わず、対するディケイドは脇腹からライドブッカーを手に取る。
取っ手を曲げると、反対から刃が飛び出した。
剣を構えるディケイドは、北条の方に振り向く。

「貴方は、一体」
「あんたは、ここでじっとしてろ」

疑問を遮ると、敵に顔を向けた。
ライドブッカーを構えて、ディケイドは地面を蹴る。
勢いよくガオウに突進すると、剣を振りかぶった。
直後、甲高い金属音が鳴り響く。
それは、ガオウの持つガオウガッシャーと、激突したことによって発生した音。
ガオウもまた、その手に持つ得物を振るったのだ。
互いの刃が激突したことで、火花が飛び散る。
しかし、一瞬で風に流された。
これを合図として、戦いのゴングが響く。
ディケイドとガオウは、互いに後ろへ飛んで距離を取った。
そして素早く、距離を詰める。

10巡り会う世界 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 19:59:01 ID:VTV3nv6A

「はあああぁぁぁっ!」

凄まじい勢いで、ディケイドはライドブッカーを横薙ぎに振るった。
しかし、ガオウはあっさりと払う。
そのまま、ガオウガッシャーで突きを繰り出した。
標的となったディケイドは、身体を捻って回避する。
その直後に、彼の後ろで佇んでいた木が、空気と共に貫かれた。
ガオウガッシャーを引き抜いた途端、音を立てながら折れていく。
そして地面に倒れて、振動を起こした。
数え切れない程の木の葉が舞い落ちる中、彼らは睨み合う。
視線が交錯する中、今度はガオウから突進を仕掛けた。

「フンッ!」

仮面の下から掛け声と共に、ガオウガッシャーを振るう。
その一撃は、大気を揺らしながら木の葉を次々と両断した。
対するディケイドは、咄嗟の判断でライドブッカーを掲げる。
彼らの得物は、再度激突した。

「ぐっ……!」

しかし、突如ディケイドの両腕に痺れを感じる。
衝撃でライドブッカーを落としそうになるが、何とか堪えた。
刃と刃が擦れ合い、鍔迫り合いが始まる。
だが、ディケイドは押し返すことが出来ない。
ガオウの攻撃が、あまりにも重すぎたのだ。
向こうが少しでも力を込めれば、こちらが一気に崩れる。
本能でディケイドは察すると、バックステップを取って後ろに下がった。
一瞬だけ、ガオウが怯む。
その隙を付いて、ディケイドは突進しながら斬りかかった。
風に揺れる木の葉と共に、ガオウの鎧を切断する。
火花が飛び散ったが、それだけ。
ディケイドは追撃を仕掛けようとする。
だが、それは届かない。

「効かねぇな」

ガオウの持つ剣に、一撃を阻まれる。
その瞬間、お返しとでも言うかのようにディケイドの胸が切り裂かれた。
先程の再現のように、身体が抉られる。
しかし、ガオウはそれだけで終わらない。
畳みかけるかのように、ガオウガッシャーを振るった。
右上から脇腹へ、斬り返すように右肩へ、横薙ぎに胴へ。
まるで血に飢えた猛獣のように、得物を振るっていた。
一見力任せと思われるが、それらは確実にダメージを与えている。
ディケイドは何とか対抗して、ライドブッカーで捌こうとした。
だが、最初の一撃が原因で、思うように動けない。
よって、いくら弾こうとしても意味が無かった。
ガオウが繰り広げる嵐のような連撃によって、次々と傷が刻まれていく。
血漿のように、鎧から火花が噴出し続けた。
数多の衝撃によって、ディケイドは蹌踉めいてしまう。
体勢を崩した隙を、ガオウは見逃さなかった。
彼は右足に、力を込める。
すると、その部分から真紅のオーラが放たれた。

11巡り会う世界 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 19:59:40 ID:VTV3nv6A

「でえいっ!」

渾身の力を込めて、鋭い前蹴りを繰り出す。
ガオウの足は、ディケイドの腹部にあっさりと沈み込んでいった。
凄まじい衝撃を受けてしまい、彼の身体は宙に浮かんでいく。
受け身を取ることも出来ず、そのまま地面に激突した。
数回ほど転がった後、何とか勢いを止める。
身体の節々に痛みを感じながらも、ディケイドは体勢を立て直した。

「お前、真面目にやってるのか? 全然喰い足りないぞ」

舌打ちしながら、ガオウが近づいてくる。
その姿を見て、ディケイドは危機感を覚えた。
目の前の仮面ライダーは、やはりこの戦いに乗っている。
襲われていた男を助けるために変身したが、逆に自分がピンチになるなんて。
認めたくないが、このままではやられる。
この状況を打破する為の方法は、一つしかない。

(一気に決めてやるか……!)

そう、一刻も早い勝負の決着。
ダラダラと長引かせても、消耗が激しくなるだけ。
この考えに至ったディケイドは、一旦ライドブッカーを元の位置に戻す。
そして、蓋を横に開いた。
彼はケースの中から、一枚のライダーカードを取り出す。
表面にディケイドの紋章が、金色で書かれているカードを。
相手との距離は、幸いにも空いている。
確信したディケイドは、カードをディケイドライバーの上部から挿入した。

『FINAL ATTACK RIDE』

バックルに、黄金色の紋章が浮かび上がる。
それはディケイドの仮面を、象っていた。
聞き慣れた音を耳にした彼は、ディケイドライバーのサイドハンドルを両手で押し込む。

『DE、DE、DE、DECADE』

再び、電子音声が空気を振るわせた。
その瞬間、バックルから放つ輝きが更に強くなり、カードに込められていた力が全身に流れ込む。
するとディケイドの前に、金の輝きを放つ十枚のエネルギーが、ゲートのように現れた。
彼は両足に力を込めて、跳躍する。
動きに合わせるかのように、ゲートも空に浮かんでいった。

「なるほどな」

自身の前に出現した光の門を見て、ガオウは呟く。
敵は、決着をつけようとしているのだ。
その為に、必殺の一撃を繰り出そうとしている。
戦士としての勘から、感じ取ることが出来た。
それならば、上等。
こちらも全力の一撃を使うだけだ。
そう思いながら、ガオウはマスターパスを取り出す。
手からそれを落とすと、バックルと交錯した。

12巡り会う世界 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 20:00:48 ID:VTV3nv6A

『FULL CHRAGE』

ディケイドライバーのように、ベルトから声が発せられる。
それによって、大量のエネルギーがそこから噴出された。
腰から右肩、そしてガオウガッシャーに伝わっていく。
すると、刃がドリルのように高速回転を始めた。
両手でガオウガッシャーを握り締め、ガオウは空を見上げる。
視界の先からは、光のゲートを通りながら右足を向ける、ディケイドの姿があった。

「はあああぁぁぁぁぁぁっ!」
「フンッ!」

仮面ライダー達の叫びが、森林に響く。
ガオウに目がけてディケイドが放つ必殺の蹴り、ディメンションキック。
ディケイドに目がけてガオウが放つ刃の一撃、タイラントクラッシュ。
上から下を目指した蹴りと、下から上を目指した刃が、徐々に迫る。
そこから一秒の時間もかからずに、激突した。
その瞬間、二つのエネルギーがぶつかったことによって、大爆発が起こる。
轟音と共に、衝撃波が空気を振るわせた。
次々に木が倒れ、木の葉は吹き飛ばされ、雑草に火が燃え移る。

「ぐあああっ!」

そんな中、ディケイドは吹き飛ばされてしまった。
悲鳴と共に、地面に叩きつけられる。
対するガオウは、まるで何事もなかったかのように佇んでいた。
これが示すのはたった一つ。
ディケイドの必殺技、ディメンションキックが通用しなかった事。
何故、こうなったのか。
その答えをディケイドは知っている。
ガオウの度重なる攻撃によって、身体が思うように動かなかったのだ。
戦闘では、受けたダメージが影響を及ぼすことがある。
故に、力を込めようとしても痛みが邪魔をして、威力が出なかったのだ。

「くっ…………!」

しかし、そんな事は関係ない。
例え効かなかったとしても、もう一度使えばいいだけ。
今は、この仮面ライダーを倒す事からだ。
痛みを堪えながら、ディケイドは何とか立ち上がる。
そしてライドブッカーを、構えた。
だが、彼の思いはすぐに裏切られてしまう。

「があっ!?」

突如、右肩に衝撃が走った。
それにより、仮面の下から絶叫を漏らしてしまう。
次の瞬間、ディケイドの全身から、大量の火花が吹き出してきた。
同時に、激痛を感じる。
何が起こったのか察知する前に、彼の体勢は崩れていった。
そのまま、背中から地面に倒れていく。
衝撃によって、ディケイドの鎧が限界を迎えた。
変身が解けてしまい、元の姿に戻る。

(な、何だ…………!?)

視界がぼやける中、士は思考を巡らせた。

13巡り会う世界 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 20:02:08 ID:VTV3nv6A
そして、周囲を見渡す。
次の瞬間、彼の目は衝撃によって見開かれた。
その理由は、木々の間から新たなる怪人が現れたため。
元は『Xライダーの世界』に存在する組織、GOD機関に所属する怪人だった大ショッカーの大幹部。
銅色の仮面、額に彩られているステンドグラスのような模様、首からかけられた白いマント、黒いスーツ。
幾度となく戦いを繰り広げた宇宙一迷惑な男、スーパーアポロガイストだった。
その手には巨大なマグナム銃が握られている。

「フッフッフ、まさかこんなにも早く貴様と再会できるとはな。ディケイド!」

銃口からは、煙が流れているのが見えた。
どうも、自分はあれで撃たれたらしい。
戦いの隙を付かれるとは、情けないにも程がある。
抵抗しようにも、身体が動かない。
焼かれるような激痛と、倦怠感が身体を支配していた。
それに伴って、眠気が襲いかかる。

(…………こんな所で、終わってたまるか!)

スーパーアポロガイストに、名前も知らない仮面ライダー。
こんな身体で、今の状況を打破できる訳が無い。
破壊者として生きてきた自分は、こんなにも呆気なく破壊されてしまうのか。
いや、あり得ない。
俺達の旅は、こんな事で終わるものではないからだ。
士は何とか足掻こうとするも、身体が言う事を聞かない。
瞼が閉じていき、次第に視界が暗くなる。
彼の意識が闇に沈むのに、時間は必要なかった。







無様に倒れた士を見て、スーパーアポロガイストは充足感を覚える。
今まで自分は、この男に何度も煮え湯を飲まされた。
殺し合いに来て早々、ディケイドが仮面ライダーと戦っている光景を目撃した。
そのシステムから見て、電王の世界から連れて来られたのかもしれない。
必殺技同士の激突後、ディケイドは吹き飛ばされた。
この隙を付いて変身し、アポロショットを使う。
結果、ディケイドは倒れた。

(ククク、無様だなディケイド。 さあ、私がトドメを————)
「おい」

スーパーアポロガイストの歩みは、突然止まる。
その目前に、輝きを放つ刃が現れたため。
振り向いた先では、ガオウがこちらに武器を向けているのが見えた。
邪魔をされた事に怒りを覚え、スーパーアポロガイストは口を開く。

14巡り会う世界 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 20:03:32 ID:VTV3nv6A
「何だ貴様、私の邪魔をする気か?」
「こっちの台詞だ。俺の獲物を横取りしようとするとは、いい度胸じゃねえか」

しかし、ガオウは質問に答えない。
彼もまた、怒りを覚えていたのだ。
勝負に水を差された事と、獲物を横取りしようとする馬鹿が現れた事。
この二つが、ガオウの逆鱗に触れたのだ。
それに気付いたのか、スーパーアポロガイストは新たなる武器を出現させる。
スーパーガイスカッターの名を持つ、鋼鉄のチャクラムを。

「フン、ならば貴様から始末するのみ!」
「面白い、やってみろよ!」

スーパーアポロガイストとガオウは、怒号を掛け合う。
そのまま、互いに武器を振るって、激突させた。
ガオウが剛剣を振り下ろし、スーパーアポロガイストがそれを受け止める。
狂える牙の王と、宇宙一迷惑な男の戦いが始まった一方で、木の陰から一人の男が現れた。
それは、戦いをずっと見守っていた北条。

(どうやら、今しかありませんね)

彼は、気絶した士の元へ向かう。
そのまま、彼の手とデイバッグを肩にかけて動きだした。
幸いにも、相手は戦いに集中しているようなので、気付かれていない。
バッグ二つと、男一人の身体。
総重量は凄まじいが、動けないほどでもない。
アンノウンと戦う為に、G3ユニットやV−1システムを扱った事があるので、それなりに体力はある。
今は、この場からの撤退が優先だった。
アギトとも、警視庁が作り出したシステムとも違う、謎の鎧。
突然現れた、アンノウンのような怪物。
そして、この殺し合い。
次から次へと謎が増えて、北条の頭は混乱しそうになる。
だが、それらの推理は後。

(まずは、この青年の安全を確保しなければ)

警察官としての正義が、彼を動かしている。
名前も知らないが、自分を助けてくれた。
少なくとも、あの男のような危険人物ではないと思われる。
まずは安全な場所まで避難し、青年の応急処置。
そして情報を聞いた後、地図に書かれていた病院までの移動。
幸運にも、自分のバッグには救急箱が存在している。
それでどこまでいけるか分からないが、やるしかない。
このまま放置していては、いつ死んでもおかしくないだろう。
北条は最後の力を振り絞って、木々の間を駆け抜けた。
その甲斐があってか数分後、森林からの脱出に成功する。
彼らのいく先に何が待つのかは、誰にも分からない。

15巡り会う世界 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 20:04:37 ID:VTV3nv6A
【1日目 昼】
【C−7 平原】

【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】気絶中、重傷、疲労(大)、 ディケイドに二時間変身不可
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式、不明支給品×2
【思考・状況】
1:…………(気絶中)
【備考】
※デイバッグの中身は確認しました
※現在、ライダーカードはディケイドの物以外、力を使う事が出来ません。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。

【北条透@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終盤 アギト殲滅作戦決行中
【状態】疲労(小)、士を背負っている
【装備】無し
【道具】支給品一式、救急箱@現実、不明支給品×2
【思考・状況】
1:まずは安全な場所に移動し、青年(士)を手当てする。
2:牙王、アポロガイストを警戒する。(両名とも、名前は知らない)
3:知人と合流し、情報を集める。

【備考】
※デイバッグの中身は確認しました
※その中には、彼にとって戦力になるような物はありません







士と北条の二人が逃走した事に気付かずに、戦士たちは戦いを繰り広げていた。
ガオウガッシャーとスーパーガイスカッターの激突は続き、金属音が響く。
時折、スーパーアポロガイストは、アポロショットの引き金を引いた。
しかし弾丸は、ガオウによって全て弾かれる。
そこから、ガオウガッシャーの刃が振るわれたが、スーパーアポロガイストはあっさりと回避。
哀れにもその結果、木々が次々に砕け散ってしまった。
まさに、一進一退と呼べる戦い。
そんな中、互いに大きく踏み出し、力強く武器を振るった。
激突の瞬間、彼らは密着する。
刃とチャクラムを使った、鍔迫り合いが始まった。
押し合うも、力はほぼ互角。
そんな中、ガオウは仮面の下で笑みを浮かべながら、呟いた。

「終わりだな」
「何?」

刹那、スーパーアポロガイストは気づく。
ガオウが、片手でしか武器を持っていないことを。
その意味を、一瞬で気づいた。

16巡り会う世界 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 20:05:11 ID:VTV3nv6A

(しまった! 初めからこれが狙いか!)

電王の世界にいる仮面ライダーは、必殺技を使う際にある物を使う。
それは、ライダーパス。
ベルトに翳して、エネルギーをチャージするのに。
そして自分は、至近距離で戦っている。

『FULL CHARGE』

悪い予感は、的中した。
案の定、目の前の仮面ライダーは取り出したパスを、ベルトに近づけている。
それを示す音声が響くと、刃が回転を始めた。
金属が削れるような、鋭い音が聞こえる。
こんなゼロ距離で受けては、いくら自分とて一溜りもない。
そう危惧すると、スーパーアポロガイストは後退した。
しかし、時は既に遅し。
タイラントクラッシュの一撃は、スーパーガイスカッターを砕き、持ち主の身体へ到達した。

「ぐおおぉぉぉっ!?」

悲痛な叫び声が、スーパーアポロガイストから漏れる。
その巨体は、必殺技の衝撃によってあっさりと吹き飛んだ。
そして地面に激突した瞬間、その変身が解かれてしまう。
白いスーツを身に纏った壮年の男性、ガイの姿に戻ってしまった。
彼は自分の姿を見て、驚愕の表情を浮かべる。

(バカな、何故この程度で元の姿に戻る!?)

ここに、ガイの知らない事実があった。
参加者全員を縛り付ける首輪。
その効果は、殺し合いのバランスをとる為、能力を抑える事がある。
スーパーアポロガイストとて、例外ではない。
それに加えて、ガオウの放った必殺の攻撃。
制限されているとはいえ、凄まじい威力を持つことは変わらない。
タイラントクラッシュを至近距離で受けた事で、ガイの変身は解除されたのだ。

「さて、そろそろ喰らわせてもらうか……」

ガオウは、パスを構えながら迫り来る。
それを見て、ガイはスーツのポケットに手を入れた。
その中から『龍騎の世界』に存在していた変身アイテム、シザースのカードデッキを取り出す。
ガイはそれを、すぐ近くの湖に翳した。
この動作によって、彼の腰に銀色のベルト、Vバックルが巻かれる。

「変身ッ!」

数多の仮面ライダーが口にした言葉を、ガイは告げた。
右手で掴んだカードデッキを、横からVバックルに差し込む。
ベルトから光が放たれ、ガイの周りに複数の虚像が現れた。
それは回転しながら、彼の身体に重なっていく。
瞬く間に、ガイは変身を完了した。
蟹を彷彿とさせる仮面、金色の輝きを放つ鎧、左右非対称の大きさを持つ鋏、下半身を守る黒いスーツ。
『龍騎の世界』で戦っていた仮面ライダーの一人、仮面ライダーシザースへと、ガイは姿を変える。
それを見て、ガオウは足を止めた。

「ほう、少しは喰いがいがありそうだな?」

ただの獲物だと思ってた敵が、まだ自分に抗おうとする。
その事実が、ガオウの神経を高ぶらせていた。
ならば、それに応えてやればいい。
ガオウガッシャーを構える一方で、シザースはカードデッキに手を伸ばす。
そこから一枚のカードを引いた。
彼はそのまま、左腕に装着された鋏、シザースバイザーに差し込む。

17巡り会う世界 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 20:05:46 ID:VTV3nv6A

『ADVENT』

電子音声が、発せられた。
刹那、近くの湖から巨大な影が出現する。
それは、龍騎の世界に存在する、魔物だった。
その世界では、ミラーワールドと呼ばれる、全ての物が反転した異世界が存在する。
ここには、ミラーモンスターの名を持つ人を喰らう怪物が、生息していた。
シザースが呼び出したのは、その一匹。
持ち主のように身体を金色に輝かせるミラーモンスター、ボルキャンサーだった。

「GYAAAAAAAAAA!」

蟹の魔獣は、咆哮を発して空気を揺らす。
そのまま、ボルキャンサーはガオウに突進を仕掛けた。
主に危害を加える敵を、潰す為に。
しかし、それをただ食らうほどガオウはお人よしではない。
ボルキャンサーの巨体を、身体を捻って軽々と避ける。
そのまま横腹に、鋭い蹴りを放った。
微かな悲鳴と共に、ボルキャンサーは吹き飛ぶ。
ガオウはそんな様子に目もくれず、シザースの方に振り向いた。
だが、敵の姿はない。

「チッ、逃がしたか…………」

舌打ちと共に、ガオウは呟く。
その瞬間、水が破裂するような音が聞こえた。
そちらに顔を向けたが、ボルキャンサーも既にいない。
湖を覗き込むが、気配はなかった。
直後、異変が起こる。
身に纏っていたガオウの鎧が、唐突に消えた。
恐竜の仮面ライダーから、元の壮年の男に戻ってしまう。
これは牙王の知らない、首輪の効力による現象。
十分間の時間制限が、訪れたのだ。

「次から次へと、どうなってやがる……?」

牙王の中で、苛立ちが募っていく。
大ショッカーに連れて来られてから、今の現状に期待した。
恐らく、こんな場所なら喰いがいのある奴らが、いくらでもいるはず。
だが、実際はどうだ。
出会った獲物は骨がないどころか、自分から逃げ出すような腰抜け揃い。
それに加えて、解除しようと思ってないのに、変身が終わった。
可能性としては、大ショッカーが何か下らない仕掛けでも、施したのだろう。

「つまらん事を…………」

牙王には、戦いの褒美も世界の崩壊もまるで興味がない。
心の中にあるのは、全てを喰らう事だけ。
それだけの、シンプルな欲望。
参加者を皆殺しにして、最後に大ショッカーも潰す。
ただ一つだけだった。
破壊の欲望に駆られた牙王のデイバッグの中に、あるアイテムが眠っている。
それは『Wの世界』に存在する、ガイアメモリの一つ。
ミュージアムに所属する処刑執行人、イナゴの女が使っていたメモリ。
ホッパー・ドーパントの力が封印されたガイアメモリは、牙王に何をもたらすのか。

18巡り会う世界 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 20:06:22 ID:VTV3nv6A

【1日目 昼】
【B−7 森】


【牙王@仮面ライダー電王】
【時間軸】:不明。
【状態】:健康、苛立ち、ガオウに二時間変身不可。
【装備】:ガオウベルト&マスターパス@仮面ライダー電王、ガイアメモリ(ホッパー) @仮面ライダーW
【道具】、支給品一式、不明支給品×2(確認済み)
【思考・状況】
1:全ての参加者を喰らい、最後に大ショッカーも喰う。
2:変身が解除されたことによる、疑問。


【備考】
※牙王がどの時間軸からやってきたかは、後続の書き手さんにお任せします。







シザースは、木々の間を全速力で駆け抜けている。
ボルキャンサーを召還した後、彼は戦場からの撤退を選んだ。
先程戦った仮面ライダーが、あまりにも強すぎたため。
ディケイドを易々と打ち破るからには、それなりの力は予想できた。
だが、まさかスーパーガイスカッターを砕くなんて。
戦いで消耗していると思ったが、そんな様子は見られない。
そして、いつもより発揮できない力。
恐らく大ショッカーが、自分に何らかのハンデを架したのかもしれない。
しかし真相の究明は、後だ。
まずは安全な場所までに撤退し、体勢を立て直すべき。

(もう少しでディケイドを始末できたのだが、あの仮面ライダーめ……!)

ガオウに対する苛立ちを覚え、仮面の下で歯軋りをする。
後ろからは、追ってくる気配はない。
それを察すると、彼は変身を解いて元の姿に戻った。
ふと、彼の中で疑問が芽生える。
ディケイドを狙撃した時、いつもより弾丸が発射されるペースが遅い気がした。
その原因は、恐らくこの首輪。
まさか、他にも何か影響が出ているのではないか。

「アポロ、チェンジ!」

ガイは全身に力を込めて、変身を行う。
しかし、何も起こらない。
その事実に驚愕するも、彼は確信した。
この首輪は普段の力だけでなく、変身を阻害する効果も持っている。
だが、それは一時的で時間が経てば、また変身は可能。
理由は、永続的に阻害しては殺し合いが進まないからだ。
だとすれば、変身道具は一つだけでは心許ない。
他のライダーのアイテムも、奪うことを考えに入れるべきだろう。

19巡り会う世界 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 20:07:00 ID:VTV3nv6A

(そして、これは逆にチャンスでもあるか)

首輪の効果は、何も自分だけではない。
参加者全員にも、届いているはずだ。
この首輪は自分を縛る枷だけではなく、時として武器にもなるだろう。
しかし何にせよ、まずは身体を休めることからだ。
ガイは息を整えながら、そんなことを考える。



【1日目 昼】
【B−6 平原】


【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】死亡後
【状態】疲労(小)、ダメージ(小)、怪人体及びシザースに二時間変身不可
【装備】シザースのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、ディスクアニマル(アカネタカ)@仮面ライダー響鬼
【思考・状況】
1:大ショッカーの意思通り、全ての敵を倒し、世界を破壊する。
2:まずは体勢を立て直す。
3:ディケイド、牙王はいずれ始末する。
4:全てのライダーと怪人にとって迷惑な存在となる。
【備考】
※スーパーアポロガイストの状態ですが、能力は抑えられています。
※能力が抑えられていることを、何となく把握しました。

20 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 20:08:33 ID:VTV3nv6A
以上、本投下を終了します

21 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/03(金) 22:13:31 ID:4qL7YOf6
投下乙です。
なんだかんだで結局、北條さんは良い人ですね
士はまさかの初戦敗退……まあ、脱落はしてないけど
牙王に関してはメモリの使いようが気になりますね
逆に変身を使い果たしたアポロガイストはどうなるのか……


別件ですが、自分も本投下するべきでしょうか?
昨日投下した時点では本スレもありませんし、一応本投下のつもりで投下したんですが

22 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/03(金) 22:16:25 ID:VTV3nv6A
いえ、氏は大丈夫です
昨日の段階では、仕方ありませんでしたし。
今後の本投下はこちらでお願いします

23 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/04(土) 13:29:30 ID:fadYM7uc
わかりました。
それでは、桐矢京介と間宮麗奈を投下します。

24差し伸べる手 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/04(土) 13:30:03 ID:fadYM7uc
 私の名前は間宮麗奈──。
 自分の名前を頭の中で反芻させる。それが自分の名前である、という実感を得るために。
 まるで他人の名前のように、その名前の響きは冷徹だった。気が狂いそうなほど、その名前は連鎖される。
 脳内で交錯する名前を、なんとか掴み取ろうとして──そのたびに素通りする感覚。


「私は──」


 麗奈は今、ウカワームではなく人間だった。
 確かに彼女はウカワームなのだが、その記憶の中では、彼女は間宮麗奈。
 間宮麗奈として生まれ、育ち、人に恋をする記憶がずっと頭の中を巡っていた。


 だから、今彼女の名前の中で固く結ばれたまま、解くことの出来ない男に助けを求めてどこかの民家のテーブルの下に隠れていた。
 もしかしたら、この家の主はここにいないのかもしれない。それでも、この家の主がここに来たとき、泥棒か何かと疑われるのは怖い。
 周りの人間に軽蔑され、叱咤されるのは、彼女の内に強いストレスを溜め込むだけだった。


(私の名前は間宮麗奈……私の名前は間宮麗奈……私の名前は……)


 彼女は歌うことも忘れて、脳内にその言葉をひたすらに連呼させた。

 すると、フローリングの床を踏む音が聞こえてきた。
 一閃の恐怖──。

 この家の主か、それとも殺し合いの参加者か。
 どちらにせよ、それが近づいてくることは恐怖以外の何物でもない。
 殺し合いの参加者ならば、きっと殺し合いに乗っている──何故なら、それぞれが自分の世界を背負っているのだから。
 世界がどうなってもいい、なんていう希少な人間と出会うことはないだろう。
 人間が凶暴な生物だ。人を殺すことに躊躇いなんてないんだ。だから、自分の世界を消さないためには、相手を殺すようなことも平気だろう。

 麗奈は自分に支給された道具を再び思い返す。
 今、敵を倒すのに使える支給品は何か。
 もはや、相手が同じ世界の住人であろうと関係はない。自分に害を及ぼすようなら、殺すしかない。


 デンカメンソードという胡散臭い剣が支給されていたが、剣として使うには重過ぎる。余計な装飾品がついているのがネックだろう。剣以上に、鈍器として使えるが、まずそこまで接近するのは彼女の恐怖とストレスを煽るだけだ。
 『長いお別れ』という本も支給されているが、これは武器ですらない。

 ここで一番使えるのは、ファンガイアバスターという銃。他の支給品は武器には向いていない。


 が、それを握ろうとしたとき────手が震える。
 人差し指を引き金にかけることさえできない。
 銃口は床に向いてしまう。


 人を殺す、或いは、人に殺される。
 そのどちらも恐ろしい。その、どこから溢れるかわからない恐怖が彼女の震源地だった。


 震える指からファンガイアバスターが解け、床に引かれていく。
 唯一使える武器は今、地面に落ちてしまった。震える手はそれを再び手に取ることを許さない。

25差し伸べる手 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/04(土) 13:31:32 ID:fadYM7uc
「誰か、いるのか……?」


 今の音が聞こえた──。
 そのせいで、誰か……近づいてくる。
 声から考えれば、相手は男だ。力では劣る。ならば、ファンガイアバスターを拾うしかない。
 だが、手が動いてくれない。


「いたら返事してください。俺は……誰かを殺すつもりはないから」


 麗奈が信用するはずがない。
 そんな甘い言葉があるわけない。自分に言い聞かせ、ただそれを拾うことに集中する。
 しかし、そこには何の障害もないというのに、拾うことはまだできなかった。
 そして、彼の言葉を信用したいという気持ちが彼女に武器を取らせる力を……完全に失わせた。


「……俺の名前は桐矢京介。あなたとは違う世界の人間かもしれないけど、俺は人は殺さない。
 何かの事情で動けなかったり、返事ができないなら俺が手を貸します。……それが、俺の仕事ですから」


 乗るな……っ!!
 そんな言葉、信用できるはずがない。
 ただ、近づいてきたらファンガイアバスターで仕留める……それでいいんだ。


「警戒しないでください。支給品は渡します」


 テーブルの下に、デイパックが滑り向かってきたことで、京介という少年が麗奈の居場所を把握していることに気づく。やはり、ファンガイアバスターを落としてしまったことに気づいたのだろうか。
 だが、一方で麗奈には収穫があった。デイパックとともに、ファンガイアバスターも滑り向かってきたのだ。
 これで、距離が近づきファンガイアバスターを手に取ることができた。

 ──が、彼女が取れた理由は単純に距離が近づいたからではない。
 どこか、相手を信用してしまったからである。そして、それは同時に相手を殺す気も完全に消え去ってしまったということだった。


「……私の名前は間宮麗奈」

「間宮さん、ですか……。デイパックはそちらで持っていて構いませんから、姿を現してくれませんか?」

「ええ……」


 テーブルの下から、ゆっくりと麗奈は日向に出る。
 ガラス越しから浴びせられる日当たりが心地よかった。
 二つのデイパックを両肩に背負い、指先にファンガイアバスターを絡めた麗奈は、久々に立ち上がった気分だった。


「ずっとここにいたんですか?」

「ええ……連れて来られた時から」

「もう、この殺し合いが始まってから、二時間も経ってますよ」

「! そんなに……?」


 それだけ長い間、麗奈はこの狭いテーブルの下で隠れていたというのか。
 そう思うと、だんだん足に痺れを感じてくる。


「……俺、これでも鍛えてますから、大ショッカーを倒すことはできなくても、あなたを守ることくらいならできます。
 人を守るのが、俺の仕事なんです。……だから、安心してください」


 京介はそう諭す。
 そんな京介が本当に何も持っていないことに気づいた麗奈は、慌ててデイパックを返した。


「あの……これ」

「ああ、持たせてしまってすみません」

「いえ……」

「しばらくは俺と一緒に行動しましょう。ここには本当に化け物がいるみたいです」


 京介はこの殺し合いが始まったときに見付けた、赤鬼や龍の化け物のことを忘れてはいない。
 彼らは魔化魍のような化け物なのかもしれないのだから。


「化け物……」


 麗奈は、本人も気づかぬうちに、そう呟いていた。

26差し伸べる手 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/04(土) 13:32:17 ID:fadYM7uc
【1日目 日中】
【E−1 民家】

【間宮麗奈@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第40話終了後
【状態】健康 人間不信 ワームの記憶喪失
【装備】ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式、デンカメンソード@仮面ライダー電王、『長いお別れ』ほかフィリップ・マーロウの小説@仮面ライダーW
【思考・状況】
0:化け物……?
1:とりあえず京介についていく。
2:他人が怖い。
3:殺さなければ殺される……。
【備考】
※ウカワームの記憶を失っているため、現状では変身することができませんが、何かの拍子で思い出すかもしれません。


【桐矢京介@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】最終回後
【状態】健康
【装備】変身音叉@仮面ライダー響鬼
【道具】支給品一式、不明支給品×0〜2
【思考・状況】
1:人を守る。
2:麗奈を守る。
3:化け物(イマジン)が気になる。

27 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/04(土) 13:33:57 ID:fadYM7uc
以上、投下終了です。
修正点、問題点などあれば指摘お願いします。

28 ◆yZO9tKZZhA:2010/12/04(土) 16:23:29 ID:Vmt2MlEQ
誤爆したorz
改めて修正版投下します

29代償 ◆yZO9tKZZhA:2010/12/04(土) 16:24:48 ID:Vmt2MlEQ
「リントグ ゲゲルゾ ジサブドパ バ(リントが、ゲゲルを開くとはな)」
 
 G−1の廃工場の中、丁寧にも彼らグロンギの言語で記されたルールブックを読みながら、黒いコートに身を包んだ男、ズ・ゴオマ・グは呟いた。
 ダグバのベルトの破片を体内へと埋め込み、究極体へと進化した彼は、クウガを容易くあしらい、ダグバの気配を感じて森へと向かった所、気付けばあの会場にいた。
 戦いの邪魔をされた事に関して激しかけた矢先、スクリーンに映る映像と爆発で機先を制された彼は、事の成り行きをおとなしく見ている事しかできなかった。
 そして、現在にいたる。以前に、ゴオマらグロンギの行なうゲゲルでルールに背き、ゲゲル参加権を剥奪されたばかりか、体のいい使い走りとしてこき使われた苦い思い出。
 ゲゲルの時は自ら率先して破った為自業自得なのだが、リントのゲゲルもどきで、ルールを破ったおかげでまた痛い目を見るのは御免だと考え、ゴオマはルールブックを熟読している。

「ギギバシビ バスボパ ギャブダガ ン リント スススパ スススバ (リントの言いなりになるのは癪だが、ルールはルールか)」

 時間経過ごとに増えて行く侵入禁止エリア、自身の行動を制限する首輪、何よりも、大ショッカーを名乗るリント――ゴオマはリントとグロンギの種族以外の知的生命体を知らず、グロンギとして面識のない死神博士が人間体であった事もありリントと見なしたのだが――に自分の命を握られる事には、かなりの屈辱を覚えている。
 だが同時に、時間制限こそないが、一定の実力を持った異世界の戦士を対象とする、特殊条件下での殺し合いは、彼がついぞ参加する事の無かったゲゲル、それも上位に位置するゲリザギバスゲゲルに似た所があり、奇妙な高揚感がゴオマを支配する。
 結論から言えば、自分の世界など関係なく、自分の欲望の赴くまま、参加の叶わなかった本来のゲゲルへの代償行動として、ゴオマはこの殺し合いに乗るつもりであった。
 一通りルールブックに目を通し、名簿へと目を移して、ゴオマは目を見開いた。

「ザド ダグバ……!?(ダグバ、だと……!?)」

 ゼギザリバスゲゲルを成功した先にあるザギバスゲゲルで戦う最強のグロンギであり、少し前に『整理』と称し、ズとメに属するグロンギを虐殺した究極の闇、そして、この場所へと飛ばされる前に戦おうと探していた存在がこの場にいる。
 ゴオマの体が震える。それが、恐怖から来る物か、歓喜から来る物かは、ゴオマ自身にもわからない。自分でも気付かぬ内に、ゴオマの口角が三日月型に吊り上がって行く。

「は、はは、はははははははははは!」

 一人しか残れぬ、この狭い空間にダグバがいる。生き残るにはダグバを殺す必要がある。だとすれば、これはゼギザリバスゲゲルなどではなく、実質ザギバスゲゲルと変わらない代物だ。
 引きつった笑顔でゴオマは笑い声を挙げる。ゲゲルにも参加できなかった彼が、ゲゲルの参加を剥奪され、他のグロンギから見下され続けてきた彼が、ザギバスゲゲルと同等の舞台へと参加する事ができた。その奇跡としか言い様の無い事実に、彼は文字通り狂喜する。
 ダグバを自分の手で倒せるならばそれで良し。万が一にでもダグバが倒されでもしたら、その倒した参加者を自分の手で倒せば、究極的には最後の一人になれれば、それは究極の闇よりも強者であると言っても過言ではない。
 ゴオマのテンションはあまりにも幸運な出来事に舞い上がっていた。所謂、最高にハイ!という状態に近いかもしれない。

30代償 ◆yZO9tKZZhA:2010/12/04(土) 16:25:27 ID:Vmt2MlEQ
「バヂボボス! ゴセパ バヂボボデデジャスゾ!(勝ち残る! 俺は勝ち残ってやるぞ!)」
「うるせぇ! 少しは静かにしやがれ!」

 ゴオマのいる部屋のドアが蹴破られ、耳障りな金属音が部屋に響いた。
 怒声を張り上げ、最高の気分に水を指したのは、赤い鬼の姿をした、片手に剣を持つ異形、モモタロスであった。

「おいテメェ、人がこんなふざけたモンに巻き込まれてイライラしてるのに、耳障りな笑い声を挙げるんじゃねぇ! しかもグギグギうるせぇんだよ、人にもわかる言葉で話やがれ!」

 モモタロスは憤慨していた。
 殺し合えなどと、高圧的かつ一方的な命令がモモタロスの気に障った、そして何よりも、自分や良太郎が世界を滅ぼすと聞いては怒らない方がおかしいといえる。
 そのぶつけようもない怒りでイライラしている所にゴオマの笑い声を聞き、八つ当たり気味にその怒りが爆発。直情的な性格が災いし、笑い声のしたこの部屋へと、文字通り殴り込んできたという次第である。

「リントでも、グロンギでも、ない、な」
「ああん? カリントウにブンドキだぁ? 何言ってんだテメェ」

 明らか異形である自身の姿を見ても、身構える事も怯える事もしない目の前の男の態度に、モモタロスは微かな疑問を覚え、そして、それが若干なりとも頭を冷やす機会となる。
 多少冷えた頭で考えると、この男が怪しいという事実に気付く。この殺し合いの場で、あんな高笑いをする時点で怪しくない訳が無いのだ。
 
「テメェ、まさか……」
「本当に、面白いゲゲルだ」

 ルールブックを、置いてあった自身のデイパックの方へと放り投げ、心底愉しそうに笑いながら、男が蝙蝠を彷彿とさせる異形へとその姿を変える。
 一瞬、良太郎と初めて出会った時に倒したイマジンを思い出す。別の世界のライダーの敵、そんな言葉が一瞬だけ脳裏をよぎる。
 そしてモモタロスは確信する。目の前の男はこの殺し合いに乗っていると。モモタロスもまた、デイパックを放り投げ、自分の愛剣モモタロスォ―ドを構えて、臨戦態勢に入る。

「へっ、そうかよ。そういう事なら、容赦はしねぇぜ!」
「ゼンギジョグゲンザ ン ダグバ ボソグ!(ダグバの前哨戦だ、殺す!)」

 モモタロスとゴオマは同時に相手に向かい飛びかかる。
 機先を制したのはモモタロス。武器の分だけリーチが伸びていたのが幸いした。ゴオマの胸元を斜め下に一閃、金属と金属がぶつかりあうような耳障りな音を響かせながら、ゴオマが一瞬怯む。
 ゴオマが怯んだ拍子に、更に横に一薙ぎ。生身の人間であれば今の時点で死んでいてもおかしくはない。だが、斬撃の際の接触音と、モモタロス自身が感じた手応えが、その結果を否定する。
 そして、それを証明するかの如く、特にダメージらしいダメージを受けた様子もなしに、ゴオマは斬撃を受けた部分を撫でながら薄く笑みを浮かべた。
 この程度では俺にダメージを与える事などできないと言外に語っていた。それが、モモタロスの神経を逆なでする。

「テメェ、余裕こいてるんじゃねぇ!」

 怒りの感情を力に変えて、全力でモモタロスォードを振り下ろす。が、ゴオマの頭部目がけて放たれたその一撃は当たる寸前にゴオマの左手に止められた。
 刀身を握ったせいで、手のひらから出血こそしている物の、モモタロスォードの刃はそこで止まり、ゴオマの手を切断し頭部へと到達する事は叶わない。
 押しても退いても動かないその剛力に、モモタロスは仲間であるキンタロスクラスの力があると感じる。

「こんのっ、放し、やがれ!」

 業をにやし、空いた片方の手で、顔面目がけてパンチを放つ。狙い過たず拳はゴオマの横っ面に入った。

31代償 ◆yZO9tKZZhA:2010/12/04(土) 16:25:59 ID:Vmt2MlEQ
(ッ……! 堅ぇ!)

 まるで分厚い鉄板の様な感触。これではモモタロスォードでも決定打が与えられなかった事に頷けよう物であった。
 拳を受けたまま、ゴオマの顔が歪む。正確には薄く浮かべていた笑みを残忍に歪め、拳を握りしめる。
 マズい。漠然とモモタロスが感じるのと、胸部に衝撃を受けて吹き飛ばされるたのは、ほぼ同時であった。

「マンヂ デデンパ ボグススンザジョ(パンチってのはこうすんだよ)」

 嘲り混じりの声を聞きながら、モモタロスは、もんどり打って転がる。
 咳き込むと同時にモモタロスの口から出た血代わりの砂を吐く。
 小物そうな見た目に反して強い。対峙した相手をモモタロスはそう判断する。
 決してモモタロスが弱い訳では無い。本来、ズやメのグロンギ程度であれば、モモタロスでも十分対処できるレベルであろう。
 だが、ゴオマは違う。究極の闇、ン・ダグバ・ゼバのベルトの破片を体内に取り込み、究極体となったゴオマは、金の力の状態のクウガですら圧倒する力を得ている。能力や精神はともかくとして、その身体能力はゴのグロンギに匹敵するのだ。
 
(クソッ、まさかこんな化け物までいるとはな)

 殴られた際にモモタロスが手放したモモタロスォードを片手に、ゴオマがにじり寄ってくる。一気に襲ってこないのは嬲って遊んでいるつもりなのだろう
 最初の攻防であまりにもはっきりと痛感した実力差。電王に変身できれば、まだ戦いようはあるかもしれないが、生憎と変身ベルトの類はモモタロスには支給されていなかった。
 勝ち目は薄い。だからといって逃げるという選択支は浮かばない。
 元々負けず嫌いな性質であるのだが、それ以上に宿主でもある良太郎の事があった。

(あいつは弱ぇ癖に根性が座ってやがるからな)

 ここで逃げれば、目の前の蝙蝠男は参加者を殺して回るだろう、もしもそんな人物に良太郎が出会ったら?
 軟弱そうに見えて、一度こうと決めたら梃子でも動かない。それも、誰かの命がかかっているとしたら絶対だ。実力差など関係なく、止めに入るだろう。
 だから、良太郎より腕っ節の強い自分がなんとかしなければならない。元々こういった荒事はキンタロスや自分の専門だったのだから。
 だが、戦おうにも唯一の武器は敵の手に渡り、武器らしい武器はない。
 どうしたものか、と考えるモモタロスの脳裏に、自分に支給された物が浮かんだ

(確かT2ガイアメモリとかいってたな)

 この部屋に向かう前、とりあえず使える物はないかと荷物を確認した時にあった、もう一つの支給品。首輪のコネクタを使ってドーパントという怪人に変身するツール。
 正直なところ胡散臭いと感じたモモタロスは、使う必要もないと、デイパックにしまっていた。そして、幸運な事にもそのデイパックは今自分の真後ろ、手の届く距離に転がっている。
 手を伸ばし、中身を探る。それらしい物を引き当てた。

(試して、みるか)

 なににしろ、このままでは待っているのは死。で、あるならば最後まで足掻いて足掻き抜く。
 モモタロスは、立ち上がりながら説明書通りにガイアメモリのスイッチを押す。

32代償 ◆yZO9tKZZhA:2010/12/04(土) 16:26:39 ID:Vmt2MlEQ
――メェタルゥ!――
「バビ?(何?)」

 急に鳴り響いた電子音に思わず身構えたゴオマを尻目に、モモタロスはメタルのT2メモリを首輪のコネクタへと接続する。
 まるで溶け込むように首輪とメモリが同化するのと同様にモモタロスの姿が変わって行く。
 燃える様な赤い体から鈍い光を放つ鋼の体。
 二本の角は消え、赤く光る単眼以外に特に装飾の無い頭部。
 そして、その左手には鋭く尖ったかぎ爪。
 メタル・ドーパント、かつて風都タワーを占拠したテロ組織の一員が変身したドーパントであった。

「へっ、さっきは遅れを取ったが、次はこうはいかねぇぞ。 第二ラウンドといこうじゃねえか、蝙蝠野郎!!」
「グガダグ バパダダバサ ゾグザド ギグボザ!(姿が変わったからどうだというのだ!)」

 モモタロスォードとメタル・ドーパントのかぎ爪がぶつかり合い、火花が散った。一合、二合、捌いては捌かれ、捌かれては捌く。
 ゴオマの戦闘スタイルは素手である。武器の類は使い慣れていない。武器を持ったまま攻撃を仕掛けた、ゴオマの失敗である。
 とはいえ、剣とかぎ爪ではリーチの差が存在する。不慣れな攻撃手段と、不利な攻撃手段。その結果、二人の攻防は拮抗している。
 このままではじり貧、どうするか、とモモタロスは思案する。そんな彼に幸運が舞い降りた。

「!?」

 突然、ゴオマの姿が異形の姿から、人の体へと戻っていく。突然の自体に驚くモモタロスであるが、驚いたのはゴオマも同じであった。
 青白く、不健康な肌を引きつらせ、ゴオマは驚愕に目を見開く。何が起こったのか。予想外の事態にゴオマはパニックを起こしかける。
 ルールブックには載っていない、一つの制限が存在する。変身時間の制限。
 ダグバのベルトの破片を取り込んだ事による強化。問題はそこだった。
 このバトルロワイアルにおいて、通常の変身は10分、強化形態には5分と、変身可能時間の制限が設けられている。
 だが、ゴオマが変身してから、まだ5分しか経っていない。何故変身が解けたのか?
 本来、ゴオマにモモタロスを圧倒できるような力はない。ダグバのベルトの破片を体内に取り込み、強化されたからこそ、今の強さがあるのは先にも述べた通りである。
 今のゴオマはダグバのベルトの破片により怪人体が強化されている。で、あるならば、この究極体への変身可能時間は5分間までとなってもおかしくはない。
 問題は、ゴオマの怪人体の強化が一歩通行。究極体にはなれても昔の怪人体には戻れず、またその形態には変身できない事。
 つまりゴオマは、この殺し合いにおいて、自身の怪人体への変身時間は5分間のみ、というハンデを背負ってしまったのだ。
 だが、そんな事情をしる由もないゴオマは混乱する事しかできない。そして、それは彼にとって致命的なミスとなる。

「オラァ!!」

 モモタロスが左手を振るう。咄嗟に構えたモモタロスォードが弾き飛ばされる。
 続けざま、かぎ爪でもう一撃、間一髪避ける事はできたが、その青白い頬に幾筋か紅い線が描かれる。
 
「さっきはよくもやってくれたじゃねぇか、ええ?」

 勝ち誇った調子のモモタロスを相手にゴオマは後ずさる事しかできない。
 悲しいかな、変身のできなくなった今、ゴオマには殺される以外の選択支が存在しない。

「テメェみたいなのを生かしておく理由はねえ、覚悟しやがれ」

 黒一色の瞳に確かな殺気を宿らせ、モモタロスが左手を握りしめる。
 絶体絶命の状況に、ゴオマは逃げようとする事しかできなかった。既に高揚感などという物は消し飛んでいる。
 不意に後ずさる足の踵に何かが触れる感触があった。
 視線を動かすと、何時の間にか戦闘に巻き込まれたのか、横倒しになっている彼のデイパックと倒れた時の衝撃か散らばっている荷物。
 そして、触れた物は、金色に輝く、Sの字が描かれたガイアメモリ。
 ここに来て望外の幸運。藁にもすがる思いでそれを掴み取る。変身の方法は先程間近で確認している。

33代償 ◆yZO9tKZZhA:2010/12/04(土) 16:27:16 ID:Vmt2MlEQ
「それは……! やらせるかよぉ!」
――スミロドン!――

 ゴオマが手にとった物を確認した、モモタロスは、そうはさせじと、ゴオマ目がけ駆けながら、かぎ爪を突き出す。
 だが、それは少しばかり遅かった。

「……ッ!!」
「これで、五分と五分だ」

 突き出されたカギ爪は、獣を思わせる体毛に覆われた両の腕から伸びる鋭く巨大な爪により止めていた。
 猫科の動物を連想させる頭部に、構内に収まりきらず外へと伸びる二本の犬歯。園崎家の始末人であるスミロドン・ドーパントへと、ゴオマは姿を変えていた。
 ゴオマはそのままモモタロスの左手を撥ね除ける。ゴオマの変身を許してしまった事に、一瞬だけでも動揺してしまったモモタロスは対応が遅れ、撥ね除けられた勢いで体勢を崩す。
 一瞬だった。腹部に衝撃。熱く痺れる様な感覚モモタロスの腹部には鋭い爪が深々と刺さっていた。
 ゴオマが突き刺していた爪を腹部から引き抜くと同時に、崩れるようにして、モモタロスが前のめりに倒れる。
 それを尻目に、ゴオマは引き抜いた爪に付着した砂を、しげしげと見つめる。
 倒れたモモタロスの腹部からは血が流れるかの様に砂が床に広がって行く。不思議な現象だが、恐らくそういう生体なのだとゴオマは納得した。

「まずは、一人目だ」

 自分が仕留めた相手への興味はすぐに失せる。まずは一人目、沸き上がる歓喜の情が抑えきれず、猛獣の顔は歪な笑みを浮かべる。
 勝利。負け続け、惨めな思いをしていたゴオマにとって、それは狂おしいまでに甘美な感覚。
 そしてそれは、元々散漫気味だったゴオマの注意力を更に散漫にさせていた。
 ゴオマの右足に激痛が走った。

「ガアッ!?」

 何事かと下を見ると、足に深々と突き刺さる、メタル・ドーパントのかぎ爪と左腕。無論、その先にあるのは、ゴオマが始末したと思われていたメタル・ドーパントことモモタロス。
 モモタロスが受けた腹部への攻撃は出血(?)量からして、明らかに致命傷。だからといって、すぐに死亡する訳でもない。
 致命傷を与え、倒れ伏したからといって勝利した気になったゴオマのミスであった。

「ビ、ガラァ……!!(き、さまぁ……!!)」
「だから……、何言ってるのか、わかんねぇ、よ。まあ、大体、予想は、つくけど、な……」

 怒りに打ち震えるゴオマに対し、得意気にモモタロスは笑ってみせる。
 とはいえ、現在進行形で命の火が消えているモモタロスにとって、今の不意打ちが精一杯のお返しであった。もはや、体は満足に動かす事もできず、意識も薄れ始めている。
 だが、そのイタチの最後っ屁はゴオマに屈辱を与えるには十分だったろう。

(チッ、全然殴り足りねぇってのに、これが精一杯かよ)
「ギベェェェェェ!!(死ねぇぇぇぇ!!)」

 モモタロスの頭部目がけて、スミロドン・ドーパントの爪が振り下ろされる。
 モモタロスには避ける手だてがない。
 脳裏に、良太郎や、デンライナーの仲間達が浮かんだ。

(すまねぇ、良太郎。俺はここまでみたいだ。亀、熊、小僧、良太郎の事、頼……)

 耳障りな音が響く。一拍おいて、モモタロスであった者の首輪から、役目を終えたガイアメモリが床に落ち、割れる音が響いた。

34代償 ◆yZO9tKZZhA:2010/12/04(土) 16:27:56 ID:Vmt2MlEQ
「グァァァァァァ!!」

 ゴオマは怒り狂っていた。優勢だった相手に究極体であれば圧勝していた相手に、右足を負傷させられた。それが何よりも腹立たしかった。
 当たり散らす様に暴れ回る事、数分。制限時間が来たのか、ガイアメモリが排出され、変身が解ける。
 突然、ゴオマは酷い疲労感に襲われた。立つ事すらままならず、思わず膝をつく。

「バビグ……!?(何が……!?)」

 そのまま、突っ伏す様にゴオマは倒れ込んでしまった。
 ゴオマも知らない事実。一部の人間にしか渡らない、金のガイアメモリ。絶大な力を持つ代わりに、この殺し合いには一つの制約を設けられていた。
 今、ゴオマが襲われている極度の疲労がその制約。フルタイムで力の限り暴れ続ければ、グロンギですらも倒れ込む程の消耗をしてしまう。
 ダグバの力、金のメモリ、自分の身の丈以上の力を手にしたゴオマのツケは払い終える事ができるのか、それは誰にもわからない。

【モモタロス@仮面ライダー電王 死亡確認】

【一日目 昼】
【G-1 廃工場の一室】

【ズ・ゴオマ・グ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第39話「強魔」、ダグバに殺害される前
【状態】疲労(極大)右頬に軽度の裂傷、左掌に軽度の裂傷、右足に重度の裂傷。スミロドン・ドーパント、ズ・ゴオマ・グ究極体に二時間変身不可
【装備】なし
【道具】支給品一式、ガイアメモリ(スミロドン)、不明支給品1〜2
【思考・状況】
基本思考:優勝する。できればダグバは自分が倒す。
1:とりあえず休む
【備考】
※怪人体には究極体にしかなれず、強化形態の制限時間に準じます。
※ルールブックは粗方読み終わりました。

【共通備考】
※G-1の廃工場の一室にモモタロスの死体(首輪付き)と、モモタロスォード、モモタロスのデイパック(不明支給品無し)があります。
※T2メモリ(メタル)は破壊されました。

35 ◆yZO9tKZZhA:2010/12/04(土) 16:30:32 ID:Vmt2MlEQ
以上で投下を終わります。
修正点としては

ルールブックから変身の時間制限のくだりを削除
血を砂に変えたので、それに関連した部分の修正
状態表に負傷箇所が抜けていたので追加

となっています。
遅れてしまった事、重ね重ね申し訳ありません。

36このレスは荒らしによって破壊されてしまった:このレスは荒らしによって破壊されてしまった
このレスは荒らしによって破壊されてしまった

37 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/04(土) 17:19:07 ID:fadYM7uc
投下乙です。
こちらも投下します。

38人を護るライダー ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/04(土) 17:19:48 ID:fadYM7uc
 城戸真司は、仮面ライダーである。
 彼に与えられた使命は、他のライダーを殺すこと。
 ──だが、その使命に背いていたのが彼の変身する龍騎というライダーだった。


 彼の住む龍騎の世界は、時間の巻き戻りによって幾つもの戦いの歴史を繰り返していた。
 今の彼が記憶する歴史は──残り6人のライダーが残り3日の死闘を繰り広げた世界である。
 しかし、彼の知る情報では現状での仮面ライダーの数は、4人。自ら戦いをやめた北岡までも参加している。
 そして──


「……浅倉威に東條悟。こいつは死んだはずなんだけどな……」


 ゲームが始まりを告げるときに見かけた東條・浅倉の姿も、名簿に載っている二人の名前も確かに死者のものであった。
 死んだはずの人間が生きているということは、やはり大ショッカーには不思議な力が備わっているということだろうか。
 そうだとして、大ショッカーは何故その力を世界崩壊の阻止に使わないのか。
 無数にある世界の人間たちが、阻止することはできないのか。


「止めてやる……止めてやるからな、こんな戦いも世界の崩壊も……絶対!」


 龍騎のデッキを、真司は強く握り締めた。
 真司はかつて、この力を殺しあうためではなく、守るために使うと決心していた。
 だから、この殺し合いで誰にも死んでほしくないし、世界も崩壊させたくない。

 そして、左手に握られたもう一つのデッキ──それは龍騎の知る残り5人のライダーでも、死んだライダーのものでもない謎のデッキだった。
 それは一体何なのか。真司の世界には存在すらしていないデッキだった。

 アビスのデッキ。契約モンスターはアビスハンマーとアビスラッシャー。
 かつて龍騎が倒したモンスターだったが、モンスターは同じ種が複数存在することもある。


「これが……最後のライダーなのか? 最後のライダーは、このデッキを使って……」


 現れていない最後のライダー。既に12人のライダーを見た彼が、そう誤解するのは仕方がないことだった。
 龍騎、ナイト、ファム──そして最後のたった一人のライダーが、アビス。


「この事を、蓮やあいつにも伝えないと……」


 秋山蓮と霧島美穂。彼らならば、きっと殺し合いをやめてくれる。
 彼らは、誰よりも人間に近い心を持っているライダーなのだから。
 北岡だって、今はライダーバトルをやめたのだから、きっと今回も殺し合いなんてしないだろう。

 彼らに、最後のライダーの事実を伝えなければならない。
 それが、今は「仲間」として互いに協力すべきライダーが共有するべき情報だ。


「そこのあなた……」


 真司は、突然かけられた背後からの女性の声に振り向いた。
 彼の知っている女性──霧島美穂の声とは違う。


「ほどけてるわよ」

「え?」

「靴紐」


 見下ろすと、確かに靴紐がほどけていた。まるで、美穂のようなことを言うのだな……と真司は思う。
 それが、こんな状況でもどこかマイペースな、しかし真司を警戒して銃を構える女性──小沢澄子との出会いだった。


△ ▽

39人を護るライダー ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/04(土) 17:20:21 ID:fadYM7uc
「随分と壮絶な世界に生きていたのね……あなた」


 龍騎の世界の事情を知った小沢の最初の感想は、そんな言葉だった。
 当然だが、絶句する。大ショッカーははっきりと、「ライダーと敵対する怪人・組織」と言ったが、彼らの世界にそれはないのだろう。
 ライダーの敵はライダーなのだから。


「お疲れ様、城戸くん……そんな世界で、よく生きてこれたわね。
 それだけ強いサバイバル能力があるなら、この場でもきっと生き残ることができるわ」

「いや、俺は……」

「まずは、生きること。それが最優先よ。でなきゃ、他人を守ることだってできないじゃない」


 小沢はそう諭すと、真司の背中を叩く。
 どうやら、真司の周りにはいないタイプの女性のようだ。姉御肌、というやつだろうか?
 真司も周りに比べれば、よく吠えがちだが、これほどエネルギッシュな女性も珍しい。


「こう見えても私だって警察なの。アンノウンに対抗する兵器だって開発してきたわ。まあ、今回の支給品は解析し難いものばかりだけど」


 彼女の支給品は、コルト・パイソンと呼ばれる銃のほかに、「狙撃手」の記憶を内包したメモリと青の胸像があった。
 説明書を読む限りでは、それらは真司や小沢のような人間には信じ難い能力が備わっているらしい。
 唯一、小沢が理解できるのはかつて未確認生命体との戦いに使われた「コルト・パイソン」のみだ。

 真司が小沢に見せた支給品も、龍騎とアビスのデッキは原理がわからず、天才的頭脳も混乱に陥ってしまう。
 もう一つの支給品である不ぞろいなトランプカードならばまだ理解できるが……。


「なんでスペードのカードの一部だけ支給されてるんだ?」

「それはきっと、カードを使って戦うあなたに対する宛てつけね。
 ……大ショッカーはきっと、ゲーム感覚で世界の存亡と人の命を操ってる。これで確信がもてたわ」

「じゃあ、ライダーのせいで世界が滅びるっていうのは嘘!?」

「それはわからないけど、ライダーたちを惑わせるための嘘っていうのも、可能性としてゼロじゃないわね」


 どちらにせよ、こういった形で「挑戦状」を寄越してきた大ショッカーがこの殺し合いを楽しんでいるのは事実だろう。
 真司はそんな大ショッカーに強い怒りの感情を覚える。


「……? ところで小沢さん」

「何かしら?」

「小沢さんって、もしかしてお好み焼屋で焼肉食べたりします」

「どうして?」

「ここに来るちょっと前に──ほら、さっき話した霧島美穂と一緒にお好み焼屋に行ったら、小沢さんに似た人に青海苔ぶつけちゃって」

「安心して。それは私じゃないわ。……ただ、やっぱりあなたって面白い人ね」


 氷川誠のような男だ──そう、小沢は思った。
 靴紐さえまともに結べず、お好み焼屋に行けば他の客に青海苔をぶつける。そんな不器用さ。
 そして、こうして大ショッカーに立ち向かおうとする勇気と正義感は確かに氷川に近いものがある。


「──となると、美穂さんって人も将来大変ね」

「え?」

「なんでもないわ」


 氷川という男を可愛いく思いつつも、彼が恋人に向かないタイプだというのは、小沢も熟知していた。


△ ▽

40人を護るライダー ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/04(土) 17:20:55 ID:fadYM7uc
「お。早速見つけたぞ、他の参加者」


 G−4エリアに向かったヒビキは、早速二人の参加者を遠目に発見していた。
 仮面ライダーの中でも、龍騎の世界とは違って「護りし者」という括りのなされた響鬼の世界の住人は、他者を護るために動くのが目的である。
 ヒビキは先ほど、津上翔一という参加者と出会い、その決意を確かなものにしたばかりだ。


「まあ、良い意味でのカモってわけか。仕事だもんな」


 報酬は受け取らないものの、「お得意様」になってもらうべく、ヒビキは軽快に動き始めた。
 二人一組というのは、同じ世界で協力したのだろうか。できればああして一緒にいるのが違う世界の人間であったほうが、色々とやりやすいものだが。


「おい、お二人さん!」


 ヒビキはなれなれしくも、そう声をかける。
 当然だが、返ってきたのは怪訝そうな表情であった。


「お互い厄介な事に巻き込まれたね」

「……あなたは?」

「俺はヒビキ。名簿には日高仁志で載ってるけど、そっちのほうが慣れてるからヒビキって呼んでくれ」


 胡散臭い上に、怪しい男・ヒビキに、二人──小沢と真司は警戒を隠せない。
 それだけでなく、日高仁志という名前とヒビキのあだ名の接点が見当たらないのだ。
 馴れ馴れしい口調といい、どうもこの男のペースには順応できない。

 そんなヒビキに、こちらが警戒しているという合図の意味で小沢はコルト・パイソンを向けた。


「ちょっと……やめろよ小沢さん!」


 真司の制止を無視して、小沢はコルト・パイソンの銃口をヒビキに向け続けた。
 そういえば、真司との出会いの瞬間もこれを向けていた。流石に、警戒心という武器は捨てきれないらしい。


「あ。ひどいな。同じ仮面ライダー仲間だろ?」

「残念だけど私は違うの。彼はそうみたいだけど」

「ほら、やっぱり同じライダーだ。なら話がしたいんだよ」

「小沢さん、話くらいさせてくれよ!」


 小沢は銃を降ろすも、その右手は銃を握ったまま離さない。
 咄嗟にヒビキに攻撃ができるようにはしてあるのだ。


「……俺はこれでも、人間を護るっていう使命を持ってるんだよ。だから、他のライダーにもその使命を受け取ってもらおうと思って」

「はい。それなら、俺も同じ考えです。俺だって、ライダーの力を誰かの為に使いたいから」

「お。やっぱりライダーはみんな良い心がけしてるから話が早いなぁ。
 今から12時間後──まあ、ド深夜だけど夜の12時に、E−4エリアの病院の屋上に来て欲しいんだ。俺が来てなくても、津上ってやつがいると思うから」


 ツガミ──その響きを、真司は知っていた。
 どこかで聞いたからだ。──そう、小沢から聞いた名前だった。
 真司は小沢の方を向いて、顔色を確かめる。小沢はこちらを向いて、頷いた。

41人を護るライダー ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/04(土) 17:21:26 ID:fadYM7uc
「……津上翔一、でしょ? 私の知り合いよ」

「え? 小沢さん、津上と知り合いだったの?」

「ええ。あの津上くんに間違いなさそうね。彼がどこに行ったか知らない?」

「津上ならE−2に向かったはずだよ。そうだな……今頃、E−2で助けるべき人を探してるはずだから、行ってやったらあいつも喜ぶと思うよ」

「じゃあ、ヒビキさん、小沢さん、俺と一緒に行きましょう!」


 真司はそう提案する。が、そう言った真司の屈託のない笑顔を破壊するかのように、駆ける足音が耳を通ってきた。
 一体、その足音の主はなぜ走っているのか──。そういう疑問と、不安がヒビキたちの中を駆け巡る。


「近くに誰かいるみたいだな」

「それも、俺たちの望む形じゃなさそうだ。何か物騒な奴から逃げてるんじゃないかな」

「なら、助けに行かなきゃ……」


 と、龍騎のデッキを構えた真司が走り出そうとする。
 ──が、ヒビキがそれを制止した。


「お前は、小沢さんと一緒に津上のところに行ってこい」

「え……? でも、大丈夫かよ、ヒビキさん」

「大丈夫大丈夫。鍛えてますから」

「それならいいけど……」

「うん。じゃあな──また、後で」


 そう言ったヒビキはもう走り出していた。


「行きましょう、城戸くん」

「……はい」


 橋を抜けようというヒビキに背を向けて、二人は走り出した。


△ ▽


「なんだ、じゃあ逃げ切った後だったわけか」


 と、ヒビキは目の前の男二人──海堂直也と小野寺ユウスケに言った。
 同じように駆け足で出会った三人だったが、海堂と違ってヒビキはほぼ息切れというものをしていない。


「津上と一緒にこっちに来てれば、もう仲間が五人もできてたんだけど」


 ヒビキは最初に津上翔一と別れたことを多少後悔していた。
 彼と一緒にこちらのエリアに来ていれば、ヒビキは五人の仲間と協力することができたのだ。
 それが惜しい事実だったのは確かだろう。


「どうだ? 落ち着いたか? 二人とも」

「……はぁ……はぁ……おっさん、なんでそんなに元気なんだよ。ちゅーか、なんで汗一つかいてないだろ……」

「鍛えてますから。それに、こう見えても俺、仮面ライダーだから」

「……仮面ライダー? 名前は?」


 とユウスケが反応する。


「ヒビキです」

「仮面ライダー響鬼……魔化魍と戦ってた音激戦士だ」

「……ん? 俺のこと知ってたのか?」

「……あなたの知ってること……そして、あなたが出会った残り三人の参加者のこと、聞かせてもらえませんか?
 俺も、知ってることは包み隠さず話しますから」


 彼らはそれぞれ、話すに充分なほど『仮面ライダー』と出会ってきた戦士であった。

42人を護るライダー ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/04(土) 17:22:13 ID:fadYM7uc
【一日目 昼】
【G−4 草原】

【日高仁志@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】本編第41話終了後
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、着替え(残り2着)、寝袋
【思考・状況】
1:打倒大ショッカー
2:殺し合いはさせない
3:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触
4:俺がしっかりしないと……
5:ユウスケ、海堂の話を聞く
【備考】
※カードセットの中身はカメンライド ライオトルーパー、アタックライド インビジブル、イリュージョン、ギガントです
※ライオトルーパーとイリュージョンはディエンド用です。
※インビジブルとギガントはディケイド用のカードですが激情態にならなければ使用できません。
※アギトの世界についての基本的な情報を得ました。アギト世界での『第四号』関連の情報を得ました。


【海堂直也@仮面ライダー555】
【時間軸】最終話 アークオルフェノク撃破後
【状態】疲労(小)、 スネークオルフェノクに二時間変身不可、ライオトルーパーに変身中
【装備】スマートバックル@仮面ライダー555
【道具】支給品一式、不明支給品×2
【思考・状況】
1:ヒビキ、ユウスケとの情報交換
【備考】
※デイバッグの中はまだきちんと調べていません。


【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】疲労(中) クウガに二時間変身不可
【装備】無し
【道具】支給品一式、不明支給品×3
【思考・状況】
1:海堂直也は信じてもいいのか?
2:殺し合いには絶対に乗らない
3:まずはヒビキに出会ってきた参加者のことを聞く
【備考】
※デイバッグの中身はまだ確認していません。



【一日目 昼】
【G−2 橋】

【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 霧島とお好み焼を食べた後
【状態】健康
【装備】龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎、アビスのデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式、ラウズカード(スペードの7,8,10〜K)@仮面ライダー剣
【思考・状況】
1:小沢と一緒に津上翔一に会いに行く
2:ヒビキが心配
3:絶対に戦いを止める
4:蓮、霧島、北岡にアビスのことを伝える
5:大ショッカーは許せない
【備考】
※支給品がトランプだったことを、カードを使って戦う龍騎に対する宛てつけだと認識しました。
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解しています。
※アギトの世界について認識しました。


【小沢澄子@仮面ライダーアギト】
【時間軸】劇場版 霧島とお好み焼を食べた後
【状態】健康
【装備】コルト・パイソン+神経断裂弾@仮面ライダークウガ
【道具】支給品一式、トリガーメモリ@仮面ライダーW、ガルルセイバー(胸像モード)@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
1:真司と一緒に津上翔一に会いに行く
2:殺し合いには乗らない
3:打倒大ショッカー
【備考】
※真司の支給品がトランプだったことを、カードを使って戦う龍騎に対する宛てつけだと認識しました。


【共通備考】
※1日目0時、E-4エリアの病院屋上で合流する予定です(ユウスケ、海堂にはまだ話していません)

43 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/04(土) 17:23:21 ID:fadYM7uc
以上、投下終了です。
問題点、修正点などありましたら報告お願いします。

44二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/04(土) 17:37:27 ID:pTTZZml.
投下乙です
問題はないですが一つだけ
小沢さんの時間軸が真司と被ってるので
そこは直した方がいいかと

45 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/04(土) 19:53:49 ID:fadYM7uc
すみません。真司の状態表をコピーして書き換えたため、ミスが生じてました。
正しくは、下の状態表です。

【小沢澄子@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終盤
【状態】健康
【装備】コルト・パイソン+神経断裂弾@仮面ライダークウガ
【道具】支給品一式、トリガーメモリ@仮面ライダーW、ガルルセイバー(胸像モード)@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
1:真司と一緒に津上翔一に会いに行く
2:殺し合いには乗らない
3:打倒大ショッカー
【備考】
※真司の支給品がトランプだったことを、カードを使って戦う龍騎に対する宛てつけだと認識しました。

46 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/05(日) 05:44:33 ID:yOy20F0I
特にご指摘無かったので本投下しておきます

47Sへの想い/踊る緑の怪人 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/05(日) 05:45:11 ID:yOy20F0I
木漏れ日を照明に、川のせせらぎをBGMに山道を歩く中年の男がいた。
頼れる男の雰囲気を纏い左手にはデイバッグ、背中にはギター。
いくつもの修羅場を潜り抜けてきた男を人はザンキと呼んだ。

(どういうつもりかは知らないが、ありがたく使わせてもらうぜ)

背中のギターの重みを感じながらザンキは歩く。

音撃真弦・烈斬

鬼として復帰したザンキに猛士が送った新たな剣。
彼が目覚めた時デイバッグと共に「使え」とばかりにそれは地面に突き刺さっていた。
他の支給品も確認したが当然のごとく烈斬を武器として選択し、背中に背負う。

(大ショッカーだかなんだか知らないが、俺の命は誰かと戦う為にあるんじゃない。
 護る為にあるんだ。お前達の好きにはさせねぇ……)

大ショッカー打倒を胸に歩き続け、やがて舗装された道が姿を現した。

「まずはヒビキ達と合流しないことには始まらんな……ここは、A-4辺りか?」

道路上で立ち止まり地図と睨めっこをするザンキの頭上が一瞬暗くなる。
予感を感じ空を見上げるが空は今までと変わりなく晴天だった。

(気のせいか?いかんな、思ったよりも限界が近いのか)

自らの肉体が既にボロボロであるのは覚悟の上での鬼への復帰だったが……
ザンキの脳裏にどこまでやれるのか、という不安が広がる。その時――


「助けてぇーーっ!!」


若い女性の悲鳴が静寂を破る。
迷うことなくザンキは声のした方へと走り出した。
手遅れにならない事を願いながら全力で走り続け、やがて視界が開けていく。
川を横切るように作られたコンクリートの通路。丁度中間ほどの位置で女性が腰を抜かすように座り込み、
すぐ近くには今にも襲わんとばかりに白鳥型のモンスターが羽ばたいていた。

走りながらデイバッグを投げ捨て、左腕の変身音源・音枷のカバーを開き弦を弾く。
空から降り注いだ落雷がザンキを包み込み――

「セヤッ!」

右手で雷を振り払い鉛色の仮面の鬼へと姿を変える。
大幅に強化された脚力で飛び上がり、白鳥型モンスターに不意打ちの飛び蹴りを浴びせ反転。
女性を護るように目の前に着地する。

「まさか魔化魍がこんな所にまでいるとはな、だがどんな場所であれ好きには……あ?」

不意打ちを受け吹き飛ばされた白鳥モンスターは反撃しようと斬鬼まで迫るが
唐突に体中から粒子を噴出しながら消滅してしまう。

「妙に手応えの無い奴だったな、まだいるんじゃねぇだろうな……」

周囲を警戒しつつも背後の女性の方に向き直り右手を差し出す。

「奴がまだどこかに潜んでいるかもしれねぇ、お前さんは早くここから逃げな」

恐怖とも驚きとも思える表情を見せた女性は一瞬目を泳がせた後、叫んだ。

「化け物ぉっ!近づかないでっ!!」
「おいおい、こんなナリしてるが俺は――」


「ウォォォオォォォッッ!!」


斬鬼の言葉は強烈な雄たけびにかき消され、
何事かと確認しようとした時には既に空へと吹き飛ばされていた。


  ◆  ◆  ◆

48Sへの想い/踊る緑の怪人 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/05(日) 05:45:49 ID:yOy20F0I
葦原涼が目覚めたのは木々生い茂る森の中だった。
起き上がった彼はまず首に巻かれた物体の感触を確かめ、次に諦めのため息をつく。

(夢、で済むわけもなかったか。大事に巻き込まれるのはもう慣れたが……)

立ち上がり、身体の汚れを軽く叩き落としディバッグの中身を確認しようとしたその時――


「助けてぇーーっ!!」


悲鳴が聞こえ、一瞬身体が硬直するがすぐにデイバッグを抱え駆け出していく。
少し走ると舗装された道路までたどり着き、道路に沿って走り続ける。
視界が開け、コンクリートの通路が姿を現し、その中間ほどの位置に悲鳴の持ち主であろう女性が座り込み、
鉛色と深緑のアギトやアンノウンとも異なる怪人が眼前に立ち尽くしていた。
怪人が女性に手を伸ばした時、再び悲鳴があがる。

「化け物ぉっ!近づかないでっ!!」

涼はデイバッグを投げ捨て両手を交差させ――

「ウォォォオォォォッッ!!」

腰に金色のベルトが浮かび上がり瞬時に緑色の異形の姿、ギルスへと変身する。
怪人の隙を突いて強引に蹴り飛ばし、通路から吹き飛ばす。

「お前は逃げろ!」

女性に一言だけ声をかけ、怪人を追う為ギルスも下に流れる川へと飛び降りた。

『俺の力で人を護ってみるのも悪くない』

この会場に来る少し前に思えた涼の素直な感情だった。
そしてそれは今も変わらない。

(大ショッカーの言葉に従う奴ら、人の命を脅かす奴らは全員俺が片っ端からぶっ潰す!)

確固たる意思を胸にギルスは着地し、フラフラとしながらも立ち上がった怪人と対峙する。


  ◆  ◆  ◆

49Sへの想い/踊る緑の怪人 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/05(日) 05:46:19 ID:yOy20F0I
(何が、起こった?)

不意を突かれた一撃と地上との激突の衝撃に身体を痺れさせながらも斬鬼はフラフラと立ち上がる。
彼の足元を流れる川は膝下程度の深さしかなく激突の衝撃を和らげてくれる事は無かった。
肩を震わせながら咆哮を上げる緑の怪人を見ながら先ほどのコンクリートの通路はダムの堤体上通路であった事を確認する。

(あの高さから落ちたのか、そりゃ効くわな……)

緑の怪人が両手を振りかぶりながら斬鬼に接近する。
それに応えるように斬鬼も構えを取るが思考が戦闘に集中できないでいた。

(あの白鳥の仲間?いや、違う。女はまだ無事のようだ、とするとまったく別の第三者なのか)

「ガァッ!」

雄叫びと共に緑の怪人が右手を振るい、左腕で受け止める。
次いで迫り来る蹴り上げを右手でいなし距離を取る。

(クソッ、左腕が痺れやがる!なんてパワーしてやがんだあの野郎!ってそうじゃねぇ、おい――)
「ガハッ……!?」

声を出そうとした斬鬼の口から出たのは言葉にならない異音、そして口中に広がる鉄の味。

「オォォォ!」

声を上げながら緑の怪人が再び距離を詰め再び右手を振るう。
先ほどと同じように左腕で受け止めよう振り上げ――寸前で身体を大きく屈め怪人の攻撃を避ける。
怪人の右腕にはいつの間にか鎌のような緑色の爪が生えていたのだ、先ほどと同じように受けていたら大きな痛手を受けていただろう。
追撃を狙う怪人を両手で突き飛ばして体勢を崩し、その間に再び僅かに距離を取る。

(冗談じゃねぇ、奴さん本気も本気だな。仕方ねぇ……)

背中に抱えた音撃真弦・烈斬を抜刀したかのようにゆっくりと構える。
緑の怪人はその異様な武器を警戒し、迂闊には攻め込んでこない。
お互いゆっくりと円を描くように動き、相手の出方を伺う。

「ガァァァッッッ!」

やがて痺れを切らした緑の怪人が一気に距離を詰めようと駆け寄った。
初手の右腕の爪を烈斬で捌きつつ懐に飛び込み、鳩尾へと肘うちを喰らわせる。
僅かに怯んだ隙を見逃さず蹴り飛ばし、大きく体勢を崩させる。
緑の怪人は踏みとどまろうとするがそれこそ斬鬼の狙い。
烈斬を使える距離を作り上げ、更に踏ん張る為に硬直した体を狙い横薙ぎに烈斬を振るう。

「グガァ!」

うめき声をあげ緑の怪人が吹き飛ぶ。しかしやられてばかりで終わるわけが無かった。

50Sへの想い/踊る緑の怪人 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/05(日) 05:47:09 ID:yOy20F0I
赤い触手が右腕から伸び、烈斬を振るい隙ができていた斬鬼の首に巻きついていく。
吹き飛ぶ勢いに引きずられ、斬鬼も前のめりに倒れこんでしまった。
元々の体力の差か、緑の怪人が先に立ち上がり立ち上がろうとしていた斬鬼の首を締め上げる。
そのまま強引に振り回し、更に締め付けを強化する。

(まずい、このまま、じゃっ!)

遠のきかけた意識を気合で呼び覚まし、烈斬で触手を斬りつけなんとか拘束を振りほどく。
勢い余った緑の怪人が体勢を崩し、斬鬼は追撃を狙うが――

「ゴホッ、ゴホッ!」

身体が思うように動かず片膝をつき、血反吐を吐く。
首を締め付けられたまま散々振り回され、既に斬鬼の体力は限界を超えたのだった。
それでも立ち上がろうと顔をあげた斬鬼の視界に右足を振り上げた緑の怪人が映りこむ。
踵の先から死神の鎌とも思えるような爪が伸び、それが徐々に迫り――

(こんな所でやられてたまるかよ……っ!)

烈斬を盾にするように緑の怪人の右足を押さえ込む。
それでも尚、踵の爪が斬鬼にジリジリと迫るが両手で烈斬を支えなんとか持ちこたえる。
しかし残った体力の差か、徐々にその均衡が崩れ少しずつ爪が斬鬼に近づいていく。

「オォォォッッッ!」
「ヌゥゥ……ッ!」

お互いうなり声をあげる。だが遂に力負けした斬鬼の背中に爪が食い込んでいく。
グチュリを何かをつぶすような音を出しながら爪が深く深く身体に突き刺さる。

「ウゥゥオォォォッッッ!」

勝利を確信した緑の怪人が咆哮を上げる。

「勝ち名乗りの……つもりか貴様ぁぁっ!!」

しかしそれ以上の声で血反吐を吐きながらも斬鬼が吼える。
ベルトのバックルから音撃震・斬撤を取り出し、烈斬に装着し怪人を支える左足に狙いを定めるが――

斬鬼自身の足元に烈斬を突き刺し斬撤に指を掛ける。

「音撃斬!雷電斬震!!」

掛け声と共に清めの音を次々とかき鳴らす。
清めの音が川に波紋を呼びそれがやがて波となる。
烈斬を突き刺した川底の地面に亀裂が走り亀裂から雷が噴出する。

「グゥ……ガァッ!」

斬鬼を中心にあふれ流れるエネルギーに耐え切れず緑の怪人が川から吹き飛ばされ、
川沿いの木々の中に突っ込んだ。

姿が見えなくなった事を確認した斬鬼は斬撤の弦から指を放し、空を見上げ息を一つ吐いた。


  ◆  ◆  ◆

51Sへの想い/踊る緑の怪人 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/05(日) 05:47:47 ID:yOy20F0I
葦原涼が再び目覚めたのは木々生い茂る地面の上だった。先ほどと違うのはすぐ近くに川が見えている事か。
鉛色と深緑の怪人の姿を探すが意識を失っている間に逃がしてしまったらしい。
涼は痛む体を気にしつつ堤体上まで戻り、デイバッグを回収しながら先ほどの女性の姿を探すがこちらも見つからなかった。

「無事逃げ切れたならいいが……」

女性が逃げるだけの時間稼ぎは十分出来たとは思うが怪人を仕留め損なった事が涼の心に不安を宿す。

「あいつ、次見つけたときにはこんどこそ逃がさない……っ!」

不安をかき消すように決意を口に出し、歩き出す。


【1日目 昼】
【A-5 ダムに繋がる道路】

【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】中程度の疲労、胸元にダメージ 、仮面ライダーギルスに2時間変身不可
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品×1〜3(未確認)
【思考・状況】
1:殺し合いに乗ってる奴らはぶっつぶす
2:人を護る
3:鉛色と深緑の怪人を警戒
【備考】
※支給品と共に名簿も確認していません。


  ◆  ◆  ◆

52Sへの想い/踊る緑の怪人 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/05(日) 05:48:34 ID:yOy20F0I
葦原涼が去った方向とは丁度逆の方向の堤体上通路の陰にザンキは潜んでいた。
涼が立ち去った事を確認し、疲れきったため息をつく。

「あんた、何であいつの身体にあのギター刺さなかったの?」

茂みの中から逃げたと思っていた女が姿を現し、ザンキは多少驚いた。

「お前、逃げたんじゃなかったのか?」
「答えてよ、あれだけすごい力だったら直接刺せばひょっとして倒せたんじゃないの?」
「かもな……だが、俺が倒すべき敵はあいつじゃない。少なくともあいつは良い奴だ。
 ああするのが一番と思ったからそうしたまでだ」

女の問いに答えつつもザンキは考えていた、何故女が残っているのかを。
そして女の雰囲気から答えを導き出し、薄く笑みを浮かべた。

「何笑ってるのよ」
「お前、このふざけた企画に『乗ってる』。そういうことか」

僅かに残していた弱気な女の仮面を捨て、女は髪をかき上げた。

「ご名答。よくわかったわね?」
「お前がもう隠そうとしなかったから、な。まったくたいしたタマだぜ……相打ちがお望みだったか?」
「別に……」
「はっ、そうかよ。……ガハッ!」

ザンキが血反吐を吐き身体を震わせる。

「トドメさしてあげようかと思ったけど、その様子じゃどっちみち長くはなさそうね」
「……元々長くはない、命だ。動けるうちは、動かすか。お前さんが『乗ってる』って言うなら見逃せないからな」

フラフラと立ち上がり音枷のカバーを開き、弦を弾く。
女が懐から何かを取り出そうと構えるが、そこで動きが止まる。
本来なら変わるはずのザンキの姿が変わらなかったのだ。
ザンキは自嘲の笑みを浮かべドサッと座り込む。

「チッ、変身するだけの体力すら残っちゃいねぇか。命の使いどころを誤ったな……」

女は興味を無くしたのか放り投げられていたザンキのデイバッグを拾い上げ、ザンキの傍らに置かれた烈斬を見つめる。

「悪いが、こいつは譲れねぇな。あとの物は好きにしな」
「そう」

短く返事を返し、自らのデイバッグとザンキの分をデイバッグを抱え女はその場を後にした。

誰もその場にいなくなった事を確認するとザンキは烈斬を杖代わりにフラフラと立ち上がる。
目の前にはダムによってできた水面が先ほどの衝撃の余波でゆらゆらと揺れていた。
ゆっくりと目を閉じ、ザンキはその身を通路から投げ捨てた。

(どちらにせよ、俺は死ぬ。それなら俺の死体は残したくねぇ。ヒビキやあきらが見つけちまった時の事を考えると、な……
 ヒビキ、お前にだけ背負わせちまう事になるが……後の事は頼む)

遠くなる水面を見つめ、やがてザンキの思考も閉ざされていった。
堤体上通路で烈斬だけがザンキの最期を見守った。

【財津原蔵王丸@仮面ライダー響鬼 死亡】
  残り56人


  ◆  ◆  ◆

53Sへの想い/踊る緑の怪人 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/05(日) 05:50:17 ID:yOy20F0I
ザンキのデイバッグを整理しながら女、霧島美穂は改めてこの戦いの事を考えていた。
たった一つの世界だけが勝ち残る世界。そして勝ち残った世界の参加者には望む物が手に入る。
結局の所は彼女の世界で行われたライダーバトルと同じである。
違う所は二つ、参加が強制である事と大ショッカーの言葉、少なくとも技術は確かなものである事。
死者を蘇生する、不可能な夢物語と思っていたが彼女自身の身体でもって証明されてしまった。
そう、霧島美穂は一度死んだ身だった。最期を誰に看取られること無く静かに死んだ、はずだった。
それがこうしてこの場で動いているのだから大ショッカーの技術は信じるほか無い。

(私の望みは変わらない、勝ち残って、大ショッカーにお姉ちゃんを生き返らせる)

彼女はそうして戦いに乗ることを決意した。手始めに自らの契約モンスターであるブランウイングを召喚し辺りを偵察させた。
近くに参加者が近くにいた事を確認すると彼女はブランウイングと共に自作自演のピンチを作り上げる。
悲鳴に誘われた参加者が傍観を決めたならブランウイングを使って逃走、もしも助けにきたなら自らとブランウイングでの挟み撃ち。
都合のいいことにやってきた男は助けに来るタイプであった。途中姿を変えた事には驚いたが。
想定外だったのはブランウイングが早々に消滅してしまった事だった。倒されたのかと彼女は一瞬焦ったが時間切れであったと判断した。
策が使えなくなり、さてどうしたものかと考えあぐねていた彼女の視界の隅にもう一人の参加者が映った。

ここで彼女は別の策を思いつく。といってもブランウイングを自分を助けにきた目の前の男に変えただけの策だが。
更なる悲鳴をあげ、新たにやってきた第三者が傍観を決めたら目の前の男と、逆に助けにきた場合は第三者の男と共闘する。
誤解を解く暇を与えずどちらかの参加者を始末するつもりだった。うれしい誤算だったのは第三者の男が妙に積極的だった事か。
自分がわざわざ加わる必要は無くなったと判断した彼女は身を隠し、事の顛末を見守ったのだった……

デイバッグの整理を終え、ここにきてから二度目となる名簿の確認を行う。

(秋山蓮、東條悟……名前は知らないけれど同じ世界の参加者なら、ライダーバトルに参加するほどの欲のある人間なら協力できるかな。
 北岡秀一は悔しいけれどこの場は協力するしかない、許すつもりは毛頭ないけれど……)

「浅倉……っ」

姉の仇である男の名前を見つめるたびに彼女の心に黒い炎が燃え上がる。

(私と同じようにアンタも生き返ったっていうなら殺してやる……何度でも、何度でも!)

そんな黒い炎も最後に見つめる名前の人物の事を思うと――

(真司……アンタはきっとこの戦いに乗らないんだろうね、バカだよね、ほんとう……
 でもさ、生き残るには戦わなきゃいけないんだよ?真司。だからさ、だから……
 アンタは変わらなくていい、私が、私達が他の世界を消してあげる。
 そうすれば真司も護れる、お姉ちゃんも生き返る。もうちょっとだけ、待ってて)

黒い炎が更に燃え上がる。様々な感情を燃料に強く、激しく。
その炎に感化された支給品の一つも強く、激しく燃え上がる。

    ―― SURVIVE ――

生き残る為、生き残らせる為、彼女は戦場へ向かう。

【1日目 昼】
【A-4 ダム付近】

【霧島美穂@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】映画死亡後
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式×2、ファムのデッキ@仮面ライダー龍騎、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、不明支給品×1〜4(確認済み)
【思考・状況】
1:あらゆる手を使い他の世界の参加者を倒す
2:秋山蓮、北岡秀一、東條悟と接触、協力。
3:浅倉威は許さない、見つけ次第倒す。
4:城戸真司とは会いたいけれど…

54Sへの想い/踊る緑の怪人 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/05(日) 05:55:09 ID:yOy20F0I
付け加えたかった文忘れてました

【1日目 昼】
【A-4 ダム付近】

【霧島美穂@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】映画死亡後
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式×2、ファムのデッキ@仮面ライダー龍騎、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、不明支給品×1〜4(確認済み)
【思考・状況】
1:あらゆる手を使い他の世界の参加者を倒す
2:秋山蓮、北岡秀一、東條悟と接触、協力。
3:浅倉威は許さない、見つけ次第倒す。
4:城戸真司とは会いたいけれど…

※ダムは仮面ライダーW第32話でビースト&ゾーンドーパントと対決した場所です

以上で投下終了です
実際のダムの名前は神水ダムという発電目的のダムだそうです。ロケ地調べる人達はすごいですね…

55 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/05(日) 13:24:00 ID:B31MKa72
乃木怜治を投下します

56魔王が 動き出す 日 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/05(日) 13:24:56 ID:B31MKa72

「とんだ目にあったな…………」

日の光に照らされた道を、一人の男が歩きながら呟いた。
その声からは、明らかな苛立ちが感じられる。
肩まで届く黒い長髪、暗闇のような色のロングコート、その下に纏われているスーツ。
全てが、漆黒で統一されている。
その格好からは、まるでこの世の全てを飲み込むような、禍々しい雰囲気を放っていた。
彼の名は、乃木怜司。
『カブトの世界』で猛威を振るっていた、宇宙より飛来した人間に擬態する生命体、ワームを率いる王。

「俺としたことが、油断したか……?」

自らと大ショッカーに対する苛立ちを感じ、舌打ちをする。
本来ならば、ワームの軍勢を率いて、人類に攻撃を仕掛けている最中だった。
忌々しいZECTが生み出した、マスクドライダーシステムの秘密を奪うために、エリアZに進撃。
そしてあと一歩の所で、勝利を収めるはずだった。
だが気がついたら、大ショッカーと名乗った連中に、拉致されるなんて。
そして訳の分からない殺し合いを強制された。
その目的は、自分が住む世界を崩壊から救うこと。
首から伝わる冷たい感触が、その証。
鋼鉄製の首輪には、どうやら爆弾が仕掛けられているようだ。
先程、その犠牲となった男がいる。
名前は確か、影山瞬と言った筈。
ZECTの一員として、ワームに何度も刃向かった。
そして、自分にも。
一度目は、仮面ライダーパンチホッパーとして、他のライダーと徒党を組んだ。
二度目は、エリアZに進撃した際に仮面ライダーザビーの姿で、仮面ライダーガタックと共に抗った。
だがどちらも、自分は掠り傷すらも負わずに勝利する。
それどころか後者の戦いでは、ザビーとガタックの必殺技を手に入れる事に、成功した。
そのままエリアZの最深部に突入しようとした矢先、こんな戦いに繰り出される羽目になるなんて。
しかし過ぎたことをこれ以上考えても、仕方がない。
やるべきことは、一刻も早く元の世界に帰還して、ZECTを潰すこと。

「さて、どうするか」

だが、まずはその方法を探ることからだ。
いくら行動方針を定めたところで、肝心の手段が無ければどうしようもない。
選択肢は、二つ。
一つ目はワームの王としての力を発揮し、参加者を皆殺しにする。
この選択を取ることは楽だ。
自分の力さえ用いれば、負けることは無い。
だが、それはあくまでも自分の世界の話。
大ショッカーはこの会場に、違う世界の住民を連れてきた。
それが、予想以上の力を持っている可能性は充分にある。
地球の人間は、井の中の蛙という諺を作った。

57魔王が 動き出す 日 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/05(日) 13:25:38 ID:B31MKa72
奴らの言葉を借りるのは癪だが、下手に喧嘩を仕掛けてもこうなる可能性がある。
そして何より、この選択を取ることは大ショッカーに屈したも同然。
ワームの王としての誇りが、それを許さなかった。
第一、生き残ったところで奴らが約束を守るとは思えない。
最後の一人になった瞬間、大ショッカーがこちらを始末しに来る事も、充分にあり得る。
返り討ちにしてやればいいが、そうもいかない。
敵は自分を拉致し、このような首輪を巻いた。
この事実からすると、大ショッカーは確実にこちらの手の内を、全て知っている。
そして何らかの対抗策も、既に固めているはずだ。
少なくとも自分が大ショッカーの立場なら、そうしている。
駒に反旗を翻させないために。

(奴らの駒になるだと…………考えただけでも反吐が出る)

怒りによって、腸が煮えくり返りそうになった。
だがそれを押さえて、乃木はもう一つの選択に思考を巡らせる。
二つ目は参加者と結託し、大ショッカーを打ち滅ぼす事。
人間と仲良く手を取り合うつもりなどない。
ワームの本領に応じて、利用する。
戦力となるなら引き入れて、駄目なら餌にするだけ。
そして首輪を解除できる環境も作り、この世界から脱出する方法を探る。
最後は、自らをこんな場所に放り込んだ愚か者への制裁だ。

「ここには、奴らがいるか」

自分に持たされたデイバッグを開いて、支給されていた名簿を確認する。
どうやらこの会場には、自分が知る者が少しはいるようだ。
ZECTが作り上げたマスクドライダーを使う人間と、ワームの同胞。
まず、天道総司。
仮面ライダーカブトの資格者として、我々ワームに何度も刃向かった愚かな男。
自分も、奴には煮え湯を飲まされた。
大ショッカーに啖呵を切ったところを見ると、反旗を翻そうとしているに違いない。
最も自分には、どうでもいいことだが。
潰そうとするのなら、勝手にすればいい。自分の邪魔になったときに、始末すればいいだけ。
次に、加賀美新。
仮面ライダーガタックの資格者として、カブト共に我々の邪魔をした、マスクドライダーの一人。
天道ほどではないが、この男も厄介だ。
そして、矢車想。
仮面ライダーキックホッパーの資格者であるこの男は、いまいち訳が分からない。
ワームの邪魔をしている。
かといってZECTの犬となっている訳でもない。
最後に、仮面ライダーダークカブトに選ばれた、あの男。
ZECTの手によってエリアXの最深部に幽閉され、天道総司に擬態したネイティブらしい。
あれの存在は最高機密らしいが、ワームの情報網さえあれば存在を知るなど、朝飯前。

「まさか、あの間宮麗奈までもがここにいるとはな」

名簿を見ながら、乃木は呟く。
そこには、意外な名前が書いてあったため。
間宮麗奈。
ワームの中でも高い地位に就いており、多くの仲間を率いてきた。
だがある時、カブトとの戦いで記憶を失ったと聞く。
その時に仮面ライダードレイクに選ばれた男、風間大介と恋に落ちて、最後には死んだらしい。
あの女が愚かな人間に愛を抱いたことに、多少ながら驚愕した。

58魔王 が 動き出す 日 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/05(日) 13:28:10 ID:B31MKa72
しかし、それだけ。
精々、駒が一つ減った程度にしか感じない。
無念を晴らそうとも、敵を取ろうとも思わなかった。
人間などに思いを寄せた愚か者など、仲間とは思わない。

「どうやら、奴らの言葉はあながち嘘ではないようだな…………」

間宮麗奈の名前を見て、乃木は思い出す。
最初の地で、死神博士と名乗った老人は言っていた。
戦いに勝ち残れば、願いを叶えると。
そしてそれには、不可能はないらしい。
無限の命、敵対組織の根絶、過去の改変。
恐らく、間宮麗奈も何らかの方法で蘇生させて、盤上の駒としたか。
もしくはハイパーゼクターのように、時を越えて死ぬ前から連れてきたか。
何にせよ、奴らの技術は本物の可能性が高い。
自分をこんな所に拉致することだ。
奪わない手はない。
これを上手く利用すれば、ZECTを潰すことも可能なはず。
乃木の行動方針は、ようやく決まった。
まずは大ショッカーに対抗出来る、人材の確保。
使える者を手駒に引き入れ、駄目な奴は餌にする。
ZECTのライダーも、視野に入れなければならない。
奴らと手を組むなど、本来なら反吐が出る行為だ。
しかし、今は堪えなければならない。
大ショッカーを打ち破るまでの辛抱だ。
その後に、自分の餌にする。

「愚かな大ショッカーの諸君、待っているがいい…………」

乃木は動き出した。
自らの信念に基づいて、大ショッカーを潰すために。
彼のバッグには、一本の剣が眠っていた。
それは『BLACKの世界』に君臨する創世王だけが、使うことを許された剣。
大ショッカーのトップ、大首領の座に君臨した男、月影ノブヒコ。
またの名を、シャドームーンが愛用していた、絶大なる力を持つ剣だった。
血のように赤く煌めく刃は、サタンサーベルと呼ばれる。
それが今、ワームを率いる魔王の手に渡った。
乃木怜司の行く先には、何が待つか。

59魔王 が 動き出す 日 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/05(日) 13:29:06 ID:B31MKa72

【1日目 昼】
【D−3 橋】



【乃木怜司@仮面ライダーカブト】
【時間軸】44話 ザビー&ガタック勝利後
【状態】健康
【装備】サタンサーベル@劇場版仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー
【道具】支給品一式、不明支給品×2(確認済み)
【思考・状況】
1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
【備考】
※カッシスワーム グラディウスの状態から参戦しました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダーカッティング、ライダースティング、ライダースラッシュの四つです。

60 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/05(日) 13:29:42 ID:B31MKa72
これにて、投下終了です
矛盾点・指摘などがありましたらお願いします

61二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/05(日) 15:35:49 ID:xfp24BcA
投下乙です。しかし、いくつか気になる点がありました。

・現時点で吸収した技を4つも覚えているのは、序盤の対主催キャラにしては戦力が大きすぎるような
・本来「仮面ライダーBLACK」出典のアイテムである筈のサタンサーベルを出すのはさすがに駄目じゃないでしょうか
 ディケイドに少しでも関わったもの全部OKにしたら、平成オンリーがコンセプトなのに実質全シリーズ許容になってしまうのでは

62 ◆N3gVt389NE:2010/12/05(日) 17:37:57 ID:kmsDnPrw
投下します

63止まらないB/もえるホテル ◆N3gVt389NE:2010/12/05(日) 17:41:34 ID:kmsDnPrw
-----私、天美 あきらは突然殺し合いに参加させられました。見知らぬホテルで目を覚ました私はそこで大変なものを見てしまう。今、私の目の前には…悪魔がいる! -----

---1時間前

「これより諸君には、己が世界の命運を賭けて殺し合ってもらう」

私には目の前の老人が何を言っているのか、すぐには理解出来ませんでした。
…世界の命運……殺し合い…何一つとして現実味を感じません。
ようやく理解出来たのは、それから間もなくのこと…弾けとんだ男性の首。吹き出す血潮。
まやかしではない…現実の死…
魔化魍に襲われたわけでもない…ただの悪意によって人の命が奪われた。
その事実が私の心に届いたとき、やっと老人の言葉が嘘ではないと理解することが出来ました。

「最後に生き残るのはどこの世界か――戦わなければ生き残れない。抗うがいい、仮面ライダーたちよ!」

頭上から迫り来る光の壁…それに飲み込まれた私は…その衝撃に意識を失いました…


-----気がついたとき、私は見知らぬベッドの上にいました。

普段の生活とは無縁な、明らかに高級感漂う純白のベールをどけ、起き上がった私の目の前には…一人の紳士がいました。

「お目覚めになられましたか…」
「あの…ここは…?」
「B-6…ホテルの一室。これが会場の地図です」

高級なホテルが醸し出す雰囲気に、その紳士の佇まいは非常に良く馴染んでいました。
彼が手渡してくれた地図は、殺し合いの舞台であるこの会場の地図…やはり、あの老人の言葉は嘘ではなかった。

「いきなり殺し合いを強要されては戸惑い、気を失うのも無理はありません。よろしかったらお水をどうぞ」
「どうも…」

私の戸惑いはまだ醒めず、手渡されたペットボトルを開けることも出来ず…ただ目の前の紳士の顔を眺めていました。

「申し遅れました…私はスマートブレイン代表取締役社長、村上峡児と申します。この参加者名簿では上から4つめの世界の参加者として書かれていますね」

丁寧に名刺を渡しながら、参加者名簿の名前と照らし合わせて自己紹介をする姿勢、先ほどまでの親切な振る舞い…それらに私はとても好感を覚えました。

「失礼ですが…お嬢さん。あなたのお名前は?」
「あ…天美 あきらです…」
「成る程…6つ目の世界の方ですか。参加者が4人とは大変少ないですね…どなたかお知り合いはいらっしゃいますか?」

名簿に目を通した私は知り合いの名前を見つけ、喜びと戸惑いが激しく混ざり合いました。
イブキさんは…いない。
ヒビキさん、ザンキさんはこんな状況でもきっと大丈夫…鬼として、殺し合いに巻き込まれた人たちを助けているはず。
桐谷くんは…まだまだ、ただの一般人。こんな殺し合いにいてはいけない。

「3人とも…知り合いです。そのうちの2人はとても強く、しっかりとしている方たちですが……」
「助けが必要な方もいらっしゃる…?」
「…はい!」

私は鬼にはなれない…これまでの修行を通して、そう実感した。
でも…安達くんと桐谷くんには未来がある。彼らならきっと鬼になれる。
だから、桐谷くんをここで死なせるわけにはいかない…私は鬼にはなれないが、人を助けるという道は…決して鬼になるということだけではない。

「私は…正直、誰かを守るために十分な力はありません。でも…それでも困っている方々の助けになりたいと思います…村上さん、手伝っていただけませんか?」
「…素晴らしい! いや、お若いのに実に崇高な精神の持ち主だ…まさに上の上と言ったところです……ただし………」

村上さんの笑顔が消え、その顔に暗い影が落ちるのを…私ははっきりと見ました。

「ここが戦場であることを考慮に入れるならば…その精神は下の下です…!」

-----私、天美 あきらは突然殺し合いに参加させられました。見知らぬホテルで目を覚ました私はそこで大変なものを見てしまう。今、私の目の前には…悪魔がいる! -----

64止まらないB/もえるホテル ◆N3gVt389NE:2010/12/05(日) 17:42:09 ID:kmsDnPrw
「戦場では力なき者から消えていく…あなたが力なき者で…非常に残念です」

目の目の紳士は一転、それは…まるでベッドのシーツのような、純白の悪魔へと姿を変えました。

「村上さん……まさか、殺し合いに乗るんですか!?」
「いいえ、大ショッカーのいいなりになるなど下の下…以下です」

白い悪魔の拳が眼前に迫るのを、思わず屈んで避けると、私はもう使うことなどないと思っていた…鬼笛を手に取りました。
甲高くもどこか清らかな音が鳴り響くと、私のカバンから出てきたのはディスクアニマル…ニビイロヘビ。

「何ですか…これは…?」

細長い体をくねらせ、必死で食らいつきにいくニビイロヘビ。それに村上さんが気を取られている隙に、私は自分のカバンを取り、中身を確認しました。
先ほどディスクアニマルが出てきたカバンです。他にも、何かこの場を切り抜けられるものが入っていると信じて……

「…煩わしい!」

村上さんはニビイロヘビをつかむと、苛立ちのあまりかそれを投げ捨てました。
窓ガラスを突き破って消えていくニビイロヘビを一瞥すると、村上さんは再びこちらに向かってきます。

「あなたの力は分かりました。どうです…? あのヘビを操る力について教えてくれませんか…? 共に大ショッカーと戦う力があるならば、ここで殺す必要もない。役立たずの下の下の命しか、私は奪うつもりはありませんから……」
「…お断りします!」

私は鬼笛を鳴らすと、それを額に翳す…完全な鬼にはなれないが…抗う力くらいならば……

「ハァッ…!」

風を纏い、風を切り裂く…以前にも感じた鬼へと変わるこの感覚…

「ほぉ…まだそんな力も持っていたとは…どうです…? 共に戦う気はありませんか…?」
「簡単に…人の命を奪おうとする人の言うことなど…聞けません…」
「そうですか…実に、残念です」

村上さんの拳には、これまで以上の殺意がこもっていました。鬼としての修行で鍛えた反射神経…胴体視力…それらを総動員しても避けるのがやっと……
カバンから取り出した不格好な剣を持ってはみたものの、とても反撃する暇がありません。

「異世界の戦士の力…この程度ですか…」

そう言うと、彼の頭から飛びだしたのは…薔薇の花びら…
紙吹雪のように舞う無数の花びらが、私の体の周りで爆発していく。為す術も無く爆発に巻き込まれていく私の視界に入ったのは、青白く輝く村上さんの掌…
そこから飛び出してきた光の球をまともに腹に受けた私は……そのまま、意識を失いました。

65止まらないB/もえるホテル ◆N3gVt389NE:2010/12/05(日) 17:43:27 ID:kmsDnPrw
-----1時間前

-----私、村上峡児は怒りを感じていた。上の上たる自分に訳の分からない殺し合いを強要した大ショッカーに対して…-----

B-6…ホテルの一室。
見るからに上の上たるスイートルーム。まさに私に相応しい部屋だ。ベッドに見知らぬ子供が寝ているのは気になるが……とりあえず、現状を整理しよう。
ここは殺し合いの場…異世界の住人を滅ぼさなければ、元の世界に帰れない…?
だから、大ショッカーのいいなりになって殺しあう…?
そんなの下の下以下の行動だ。
ならば、今後の方針は決まっている。大ショッカーを滅ぼす…それが上の上の選択。
戦力となる人材を集め、役立たずは始末する。
大ショッカーの言葉を信じるわけではないが、最終的に自分の世界だけが助かればいい。
他世界のお荷物まで面倒を見る必要はない。役に立たなければ消えればいい。
そして大ショッカーを滅ぼし、この世界から脱出する。

「そのためには…この首輪が邪魔ですね…」

名簿を確認するに、自分の知らぬ世界の住人が多数いる。
彼らから情報を集め、戦力を募り、目標を達成する……
まずは、支給品の確認…次に、目の前の少女から話を聞くとしますか。

------そして、今に至る。

オルフェノクでも、ライダーズギアを使ったわけでもなく、変身してみせた彼女の力に興味はあるが、仲間になるつもりがないならば仕方がない。

「他愛もない…とどめです」

変身が解け、ベッドの上でうつ伏せになって倒れこむ裸の少女に手を翳す。

「女の子に乱暴するなんて、関心しないな…」

そのとき、背後から聞こえた声に私はとっさに振り向いた。

「何者です…?」
「女の子の味方…かな…?」

青いメッシュの入った髪に、あくまでもおしゃれを装ったような眼鏡。
まさに、今時の若い男といった風貌だ。

「ド…ドーパント…!? その娘から…離れなさい!!」

その傍らには、これまた若い娘…あの男の連れだろう。
そんなことよりも、第一に感じた疑問がある……

「あなた…何故、この広いホテルで、私がここにいると分かったのです?」
「案内してもらったのさ…そこのヘビさんにね…」

男の指差したものは、先ほど投げ捨てたヘビのおもちゃ…成る程、主に仕える使いとしてはなかなか優秀だ。

「始めは何かの罠かとも思ったけど、他人の釣りを見極めてみるのも悪くないかと思ってね…でも、女の子が助けを呼んでいたとはね。来て正解だったわけだ」

男はそう言うとベルトを腰に巻き、こちらに歩み寄ってくる。

「良太郎くん…? そのベルトって…もしかして…私聞いてない…!!」
「亜樹子ちゃん、ここは僕に任せて。あの女の子をお願い…」
「…分かった。良太郎くんも気をつけて…!」

66止まらないB/もえるホテル ◆N3gVt389NE:2010/12/05(日) 17:44:04 ID:kmsDnPrw
女は少女をシーツで包んで担ぎ上げると、一目散に部屋から出て行く。
そして、男がベルトのボタンを押すと何やら賑やかな音楽が流れ出した。

「…変身」

-----Rod form-----

黒いスーツを纏い、さらにその上から宙を舞った装甲が装着された男。
彼は長い棒状の武器を器用に組み立てると、こちらに向かって軽く手を伸ばす。

「お前…僕に釣られてみる?」

長い棒を室内の空間目一杯に振り回し、こちらを打ち据えてくる。
だが、こちらも上の上だるオルフェノク。幸い相手の力はファイズたちとさほど変わらない…
この程度の攻撃ならばどうということはない。
もともと硬い装甲なのだ。まともに浴びても怖くない。
だが、いつまでも攻撃を浴びつづけるのも気にくわない。
落ち着いて一撃一撃を見切り、カウンターぎみに拳を一発叩き込むのみ。
正面から打ってきた…片手で竿を掴み、空いた片手でガラ空きの胴体を殴りつける。
横薙ぎに振るってきた…竿の進行方向に合わせてこちらも動く。そのまま相手の背後に回ってエルボーを叩き込む。
相手の体制が崩れた隙に追い討ちをかけるように背中を蹴り込む…!

「意外と硬いな…キンちゃん、交代…!」
---ほい、来た! 任せんかい…! ---

-----Axe form-----

再び、相手の装甲が宙を舞い、その姿を変えていく。それに合わせて手元の武器も長竿から斧へと変形されていく。

「俺の強さにお前が泣いた…!」

姿が変わったところで、先ほどと同じ戦士。その性能は推して知るべし。
余裕の姿勢を崩さずに立ち向かう…つもりだった。

「なに…!?」

急速に体から力が抜けていく…そして、オルフェノクの変身が解けていく…
まさか…変身に対する制限…? これも大ショッカーの仕業か…!?

「ここは…一旦引かざるをえませんね…」

支給品の確認を済ませておいて正解だった。スーツのポケットから取り出したメモリを首輪へと差し込む。

----バード-----

「成る程…これはいい…」

体中に染み渡るオルフェノクとはまた違った力…肉体の変質…高揚感さえ感じる……

「待て、逃すかい……」

斧を持った戦士が向かってくるが、羽の一振りが発する風圧で弾き飛ばす。
実にいい…素晴らしい力だ……このまま飛び立つ…あの窓から…!
先ほどヘビを投げ捨てた窓から、今度は私自身が飛び立つ…素晴らしい…
私は今…空を飛んでいる……!!

67止まらないB/もえるホテル ◆N3gVt389NE:2010/12/05(日) 17:44:45 ID:kmsDnPrw
-----10分前

-----僕、野上良太郎は今日も不運の真っ只中です。殺し合いに巻き込まれた僕の足元にいたのは、1匹のヘビでした-----

「それじゃあ、亜樹子ちゃん。とりあえずどこか落ち着けるところに行こうか…まずは今後のことをゆっくりと考えてみないかい?」
「うん…そうだね。ごめんね、良太郎くん…私、いきなりこんなところ連れてこられたから、何か…自分でもどうしたらいいのか、よくわかんなくて…」
「こんな状況じゃ当然さ…さぁ、行こう…」

-----ウラタロス、どこに向かうの?-----

「女性と休憩する場所といったら決まってるでしょ、良太郎…」

-----それって…もしかして…-----

「あったあった。地図の通りだ…立派なホテルじゃない…亜樹子ちゃん、ここに入るよ…って、うわっ…!」
足元に違和感を感じて思わず転ぶ…流石良太郎。不運全開……

-----ウラタロス、何かが足にまとわりついてる!-----

「分かってる…何だこれ…?」

-----ヘビ…やな-----
-----そう…みたいだね-----

「良太郎くん…大丈夫?」
「大丈夫だよ、亜樹子ちゃん。それより…あのヘビは?」
「ホテルの中に入っていったよ…」

-----ウラタロス、どうする?-----

「面白いじゃない…亜樹子ちゃん、あのヘビの後を追うよ…」
「え…ちょっと、良太郎くん!?」

------そして、今に至る。

「なんや、けったいな奴やったな…やたらと気分良く空飛んでったで」

-----何か危ない感じだったね。ああいうのがいっぱいいるとなると気をつけないと-----
-----そうだね…とりあえず、亜樹子さんたちのところに戻ろうか…-----

【1日目 昼】
【B−6 ホテル】

【鳴海亜樹子@仮面ライダーW】
【時間軸】番組後半
【状態】健康
【装備】ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式、不明支給品(0〜2)
【思考・状況】
1:風都のために戦うべきか、他の世界を守るべきか。結論が出せない。
2:知り合いと合流する。
3:良太郎のお笑い魂には関心。
4:良太郎くんが仮面ライダー? 私聞いてない!
【備考】
※ 良太郎について、職業:芸人、憑依は芸と誤認しています。

68止まらないB/もえるホテル ◆N3gVt389NE:2010/12/05(日) 17:45:39 ID:kmsDnPrw
【天美 あきら@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】 41話終了後
【状態】全裸 気絶中 全身に軽度の怪我 あきら変身体2時間変身不可
【装備】鬼笛@仮面ライダー響鬼
【道具】支給品一式、ニビイロヘビ@仮面ライダー響鬼、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト、不明支給品(0〜1 確認済)
【思考・状況】
1:人を助けるため、自分に出来ることをやる。
2:知り合いと合流する。

【野上良太郎@仮面ライダー電王】
【時間軸】第38話終了後
【状態】頭痛 キンタロス憑依中 電王2時間変身不可
【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、不明支給品
【思考・状況】
1:とりあえず、殺し合いには乗らない。
2:亜樹子、少女(あきら)と一緒に行動する。
3:モモタロス、リュウタロスを捜す。
4:殺し合いに乗っている人物に警戒
【備考】
※ ハナが劇中で述べていた「イマジンによって破壊された世界」は「ライダーによって破壊された世界」ではないかと考えています。確証はしていません。
※ キンタロス、ウラタロスが憑依しています。

【村上峡児@仮面ライダー555】
【時間軸】不明 少なくとも死亡前
【状態】健康  気分高揚 ローズオルフェノク2時間変身不可 バードドーパント変身中
【装備】なし
【道具】支給品一式、バードメモリ@仮面ライダーW 不明支給品×2(確認済み)
【思考・状況】
1:バードメモリの毒素で不安定。

69止まらないB/もえるホテル ◆N3gVt389NE:2010/12/05(日) 17:46:18 ID:kmsDnPrw
以上です

70 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/05(日) 19:01:33 ID:B31MKa72
投下乙です
あきら、良太郎と所長のコンビに合流できて一安心?
村上社長もこれからどう動くか期待できますね。

>>61
ご指摘ありがとうございます
それでは、問題点を直して修正スレに再度投下させて頂きます

71 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/05(日) 20:10:19 ID:.MtIuX.o
投下乙です。
ウラタロスにハーレムがw
女好きキャラはハーレム作っちゃうのがライダーロワなんでしょうか?ww
女性キャラは不安定な亜樹子と全裸のあきらの二人……色々心配かも……。


ところで、wikiに収録するときにタイトルを間違えたので、
「人を護るライダー」は「人を護るためのライダー」にタイトルを変えます。

72二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/06(月) 06:22:05 ID:XeiPdXaY
投下乙です
村上は最初いい人かと思ったけど、やっぱりそうなるかw
でも時間制限があったのは良かった。電王じゃ薔薇はきついからなぁ

ちょっと気になったんですが、首輪のコネクタは直挿しと違って使用者への害はないと思っていたのですが、どうなんでしょう
バードは元々コネクタの無い人間でも直挿し出来ていたし、首輪のコネクタ使ったならそれよりはマシなんじゃないかなと思ったので

73 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/06(月) 15:38:52 ID:SOKFk70k
投下開始します。

74Iは流れる/朽ち果てる ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/06(月) 15:40:41 ID:SOKFk70k
 どれだけの距離を歩いただろう。
 森を突き抜けた彼──鬼札・ジョーカーは更なる"貰い手"を探し、彷徨っていた。
 志村純一、その腕は既に一人の少女の生き血を奪い、その鼓動を消し去った。
 彼が自分の支配すべき世界にすること──
 それは──


「井坂さん、でしたか……あなたのような人と出会えて、安心していますよ」


 偽の笑顔を振りまき、相手を油断させることである。
 彼が次の鴨としたのは、井坂深紅郎という男で、「医者」というなかなか特殊な職業に就いている男であった。

 その仕事は、人の命を救うことであり、純一としては「面白い相手に出会えた」という気分であった。
 そんな人間がこの殺し合いに乗るか。答えはノーだ。

 ならば、真理の時と同じく最大限の情報を引き出した後、殺す。


「いえいえ、こちらこそ」


 井坂は社交辞令にしても、あまりに淡白な態度でそう答えた。純一を見ようともせず、その顔は終始無表情である。
 志村純一という男に一切の興味を示さない彼の態度に、流石に苛立ちを覚えるが、純一はそれでも表情を笑顔で固めて、情報を得ようと声をかける。


「あの……大ショッカーは『世界の選別』と言ってましたが、世界が無数に存在するのって本当なんでしょうか?」

「さあ。しかし、それなら私とあなたの世界には何か『相違点』があるはずだ。
 教えてもらいましょう、まずはあなたの世界について──」


 純一は、まるで逆手にとられたかのような表情で彼を一瞬──ほんの一瞬だけ鬼神のごとき表情で睨んだ。
 どうやら、目的はどうであれ井坂という男も同じことを望んでいたらしい。
 異世界に興味を持つのは仕方がないことだが、こうなると目の前の男がだんだんと怪しく見えてくる。
 目の前の人間が『黒』である可能性が出た瞬間、純一はその懐のグレイブバックルをさりげなく握った。


「──その体で」


 ──ウェザー──

 やはりか、と思いつつ純一はグレイブバックルを体に巻く。

 ──Open up──

 井坂の体が白のウェザー・ドーパントへ、純一の体が黒の仮面ライダーグレイブに変わる。
 変身はおよそ、同時であった。

75Iは流れる/朽ち果てる ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/06(月) 15:41:13 ID:SOKFk70k
「それがあなたの世界の仮面ライダーですか。では、実験させてもらいましょう」


 ウェザー・ドーパントの先手。
 その猛吹雪がグレイブの体に直撃し、その体の表面を凍らせる。内部に通ってくる冷気も、純一の体に早速深刻なダメージを与えた。
 機能を麻痺させたグレイブの装甲が、火花を散らす。


「……成る程、強度はこの程度ですか」


 グレイブは反撃を試みるが、関節部までも凍ったグレイブの体は動かなかった。
 アルビノジョーカーの姿だったならば、こんな風にグレイブの体が動かなくなることはない。だが、グレイブの姿を借りた以上、ここで躓いてしまうのは仕方のないことであった。
 なんとか変身解除してアルビノジョーカーの姿になろうとするが、変身を解除するということは殺す隙を与えることに他ならない。


「では、雷によるダメージを与えてみましょう」


 グレイブの真上に発生した小さな雲から、雷と豪雨が降り注ぐ。
 水の浸透したグレイブの体中を、雷が襲う。たった一閃の雷は、轟音で耳を一瞬殺すと同時に、グレイブの機能を潰していた。
 グレイブの体が、遥か後方へと吹き飛ばされる。


「……ウガァッッッ!!」


 そのあまりの衝撃に思わずアンデッドとしての声が漏れた。
 地面に叩きつけられた体が、グレイブの装甲の中で小さくバウンドする。体に強烈な痛みを感じつつも、自分が引いたジョーカーを純一は呪う。
 体は先ほどの落雷で一時的に痺れた体は、頭で考えるように動くことを忘れていた。
 どこから近づいてくるかもわからない井坂という男を、純一は恐れる。それを確認することさえできない恐怖。


「──異世界の仮面ライダー、どうやら取るに足らない存在というわけですね。
 ……しかし、世界の存亡のためにも死んでもらいましょう」


 急に舞い上がったグレイブの体。
 首に温度を感じる。目の前には薄っすらとウェザーの姿が見える。
 どうやら、首を掴まれ、持ち上がられたらしいというのを純一は感じた。
 ……が、それは好機でもあった。

76Iは流れる/朽ち果てる ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/06(月) 15:42:01 ID:SOKFk70k
 ──MIGHTY──

 自らの首元を掴むウェザー・ドーパントの胴に光剣の斬撃が飛び込む。
 高熱を帯びた剣が体表面を伝った。グレイブの首元を離さずに、しかし強大なダメージに体を支えきれずに膝がよろける。


「ウッ……!! 一撃でこれだけのダメージを与えるとは……攻撃力は並ではありませんね」


 ウェザーの体に確かな一撃の痕が残っている。
 深かった。
 溶けたような痕が、陰に隠れて見えないほどに遠い。
 ……ウェザーはその痛みに少しの焦りを感じる。この一撃は決定的とはならないものの、何度も食らえば致命傷となりかねない。
 戦闘を続けるか、続かないか。その迷い。

 折角、ここまで追い詰めた相手の息の根を止めずに放っておくのか。


(……いや、深追いすべき相手ではなさそうだ)


 相手の裂傷を見て、ウェザーはその男を投げ捨てるように放った。
 このままならば、放っておいても他の参加者にとって鴨となるのは間違いない。自分の行動は決して無駄ではなかったのだろう、とウェザーはグレイブが立ち上がる前に思考を飲み込んだ。


「良い実験になりましたよ、異世界の仮面ライダー」


 そう言ってウェザー──いや、井坂深紅郎となった彼はグレイブの元を後にする。

77Iは流れる/朽ち果てる ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/06(月) 15:42:33 ID:SOKFk70k
 ──だが、それは井坂の決定的なミスであった。
 草原に倒れていたのは志村純一でもなく、仮面ライダーグレイブでもなく、──アルビノジョーカーという白い悪魔だったのだから。


 自分を痛めつけた復讐。──そんな怨念に取り付かれたジョーカーは、鎌を掴んだまま井坂の下へと走る。


「……懲りないですね、あなたも」


 再び、振り向きもせずに井坂がウェザーメモリを耳に挿し込む。が、そのメモリが音を発することはなかった。
 そして、井坂の白衣も異形へは変わらない。
 そこにあるのはドーパントではなく、ただの医者の姿であった。


「!? どういうことだ……!?」


 一瞬焦ったアルビノジョーカーであったが、その変身が不可能となった井坂を前ににやけた。
 その鎌──デスサイズは、二人目の命を吸い尽くそうと、井坂の眼前で振り上げられた。


(どうして……一体どうして!?)


 井坂の脳裏に、一人の女性の姿が浮かんだ。
 どうやら、それが走馬灯というものらしいのは井坂にもわかった。
 その幻影を振りほどいて、対処方法を考えたいところだが、その女性の姿は頭の中から離れない。


 園咲冴子。
 今の井坂には、何故この女性の顔が浮かんでしまうのかわからなかった。
 ただ、彼女は園咲に近づくために利用したに過ぎないのに。


 そのとき、何故自分が世界の存亡などというものを理由に戦おうとしたのか、全てがわかった。


(成る程……。私は、あなたを愛していたんですね……冴子さん)


 デスサイズは重力に従うように、井坂の頭部に振り下ろされた。



△ ▽

78Iは流れる/朽ち果てる ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/06(月) 15:43:03 ID:SOKFk70k
 彼のいた世界が一体、どの世界だったかはわからない。
 ただ、井坂深紅郎という名前が名簿の下方にあるように、彼が別の世界の人間であるというのは間違いないだろう。
 この時だけ、純一の笑顔は心底から出てくるものだったのかもしれない。
 受けた屈辱を返した、その快感に顔も引きつるというものだ。


 そんな笑顔を隠せないまま、純一は井坂のデイパックにある必要物を自分と真理のデイパックに移していた。流石に、大量のデイパックを所持していれば怪しまれるからだ。
 その時、初めて純一はその支給品に『アタリ』と『ハズレ』があることに気づいた。


 自分自身の支給品は、言うならば『中間』。
 変身した相手を倒すことはまずできない道具である。
 ひとつは、『ステルス』というスタンスをとった純一にはうってつけのもので、ペンとライターに分離するZECT-GUNである。一見して、ただの日用道具にしか見えない二つのユニットを組み合わせることで銃になるという代物だ。
 もうひとつは、トライアクセラーという警棒である。どうやら、トライチェイサーあるいはビートチェイサーというバイクの始動キーともなるらしいが、そのバイクはどこにあるのかわからない。


 最初に殺した少女・真理の支給品は、早くして死んだ彼女にしては『アタリ』であったことも意外であった。  ゼクターの力を借りて強力な一撃を放つパーフェクトゼクターという剣。
 『オルタナティブ・ゼロ』という擬似ライダーに変身する道具。


 そして、今殺した男の支給品は『ハズレ』ばかりであった。
 インドネシアの魔除けのお面という、なんとも不気味な面が支給されている。
 もう一つは、人を殺す刃物にすらならない美容師用のハサミやそのセット一式である。
 当然、純一にこんなものは必要ない。デイパックと共に、井坂の死体に置いておくような代物である。


 全ての準備を終え、ジョーカーはいずこともなく歩いていった。



【井坂深紅郎@仮面ライダーW 死亡確認】
※井坂の支給品のうち、純一が不要と判断したものはデイパックと共にC-6に放置されています。
※ウェザーメモリと井坂のランダムアイテムである、インドネシアの魔除けのお面@仮面ライダークウガと真理の携帯美容師セット@仮面ライダー555はデイパックと一緒に放置されています。

79Iは流れる/朽ち果てる ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/06(月) 15:43:33 ID:SOKFk70k
【1日目 日中】
【C-6 草原】


【志村純一@仮面ライダー剣MISSING ACE】
【時間軸】不明
【状態】全身の各所に火傷と凍傷 アルビノジョーカー及びグレイブに二時間変身不可
【装備】グレイブバックル@仮面ライダー剣MISSING ACE、オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×3(ただし必要なもののみ入れてます)、ZECT-GUN(分離中)@仮面ライダーカブト、トライアクセラー@仮面ライダークウガ
【思考・状況】
1:自分が支配する世界を守る為、剣の世界を勝利へ導く。
2:人前では仮面ライダーグレイブとしての善良な自分を演じる。
3:誰も見て居なければアルビノジョーカーとなって少しずつ参加者を間引いていく。
【備考】
※園田真理のデイバッグを奪いました。
※555の世界の大まかな情報を得ました。

80 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/06(月) 15:44:04 ID:SOKFk70k
以上、投下終了です。
修正点、問題点があったら指摘お願いします。。

81二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/06(月) 16:57:58 ID:lUdEh23.
投下乙。
井坂さん・・・制限のこと知らなかったとはいえ間抜けすぎる。

82二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/06(月) 20:49:57 ID:05YrQC56
投下乙です
井坂はここで脱落か。世界対抗だと手軽に組むこともできないんだなぁ

ただ一つ気になるのですが、メモリブレイクしてないならウェザーメモリは無事ですよね?
使い方は井坂が実践したから志村には分かっているはずで(といっても井坂の方法では志村は変身できませんが)、
その上身をもって強力だと知っているので、放置していくとは考えにくいです

83 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/06(月) 22:00:00 ID:SOKFk70k
指摘ありがとうございます。

自分は書いているときは、逆にウェザーメモリを持ち帰るほうが不自然な感じがしました。
剣の世界におけるウェザードーパントのような怪人は人間に擬態していて道具を使わず直接変身しますから、志村としてはメモリが怪人の力になるものだということを認識できるとは思えません。
目の前でメモリを使ったとはいえ、それが「変身するもの」ではなく「井坂のみが怪人の姿に戻る道具」と認識するほうがありえる気がしました。
また、二度目は変身すら出来なかったので見ている側としてもメモリが信憑性に足る道具と感じることもできないでしょう。

本文には書きませんでしたが、やはりこういった思考も挿入しておくべきでしょうか?

84二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/06(月) 23:11:45 ID:B3MKMYTA
次のバトルで普通にメモリを手に入れるような展開になった場合矛盾するから入れといた方がいいんじゃない?
まぁみんな普通に他世界の変身アイテム使ってるのに、志村だけ気付かないっつーのも変な気もするけど

85 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/07(火) 17:50:39 ID:I26d0kos
>>84
確か支給品には説明書が付属してますし、そのお陰で変身方法を知っているのかと。
井坂の場合は説明書不要で変身方法がわかってますし。

では、>>78の本文を

 当然、純一にこんなものは必要ない。デイパックと共に、井坂の死体に置いておくような代物である。

 それから、──そう、井坂が変身に使用していた道具だ。
 純一の世界では、あのような怪人への変身は道具など使わず、直接姿を変える。
 だが、彼はそれぞれ一度の変身と変身未遂の際に、あの道具を使っている。


(力を発揮するための道具か……? どちらにせよ、ライダーシステムのようにはいかなそうだ)


 井坂の使っていた道具は、二度目の変身を拒んだ。
 井坂自体がウェザーとしての元の力を使い切ってしまった、ということだろうか。
 どちらにせよ、それがライダーシステムやアルビノジョーカーに比べて使い勝手の悪い道具であるというのは間違いない。
 肝心な部分で、井坂と同じ過ちで封印される可能性も考えられる。
 その思考が導き出した答えは、ウェザー・メモリを「ハズレ」とすることであった。

 全ての準備を終え、ジョーカーはいずこともなく歩いていく。
 強力であるはずの武器を後にして。


という風に修正します。
また、状態表の備考で、以下の文を追加します。

※ウェザードーパントはメモリの力ではなく、井坂自身の本当の姿であると勘違いしています。

86 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/10(金) 09:02:11 ID:nkwfRPrU
剣崎一真、東條悟、矢車想、光夏海、ネガタロス、擬態天道を投下します

87 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/10(金) 09:04:25 ID:nkwfRPrU

静寂に満ちていたはずの病院は、音が響いている。
急患が来たことによる騒ぎや、医師や患者の話し声などではない。
それは、金属と金属が激突することによって響き渡る、冷酷な音だった。
つやが輝いているリノリウムで出来た、長い通路。
その中で、二人の人影が駆け抜けていた。
片や、不死の生命体・アンデッドが生息する『ブレイドの世界』を象徴する、己の運命と戦い続ける戦士。
ヘラクレスオオカブトの如く伸びた、銀色に輝く角。
灼熱のように赤い輝きを放つ、二つの瞳。
スペードの紋章が大きく刻まれた、身体を守る鎧。
その下に存在する、群青のスーツ。
そして、腰に巻かれたベルトには、装甲と同じようにスペードのマークが健在していた。
『ブレイドの世界』には、アンデッドと戦うBOARDと呼ばれる組織が存在する。
ライダーシステム第二号機、仮面ライダーブレイド。
その装着者の名は、剣崎一真。

「でえぇぇぇぇぃっ!」

ブレイドに変身している剣崎は、醒剣ブレイラウザーを振るった。
殺し合いに乗った、目の前の仮面ライダーを止めるために。
ブレイラウザーの刃は、仮面ライダータイガの胸に、当たろうとした。
しかし、それは防がれる。
タイガの持つ、白召斧デストバイザーによって。
火花が飛び散り、薄暗い廊下がほんの少し照らされる。
その瞬間、タイガは後ろに飛んで距離をとった。
ブレイドから離れて、カードデッキから一枚のカードを取り出す。
そして、デストバイザーに差し込んだ。

『STRIKE VENT』

白召斧から、音声が発せられる。
刹那、タイガの両腕に巨大な爪が出現した。
デストクローと名付けられた獲物を見て、ブレイドは目を見開く。
自分の世界と同じように、この仮面ライダーもカードを使って戦うという事実に。
しかし、驚いている暇は無い。
巨大な爪を構えながら、タイガは迫る。
頭上に大きくデストクローを掲げて、振り下ろした。

「くっ!」

だが、ブレイドは後ろに飛んで、爪を避ける。
そのまま、ブレイラウザーを横に振るった。
刃は横一文字に、タイガの胸に傷を刻ませる。
痛みは中にいる東条にも伝わって、悲鳴が漏れた。
それを聞いた瞬間、ブレイドの中で罪悪感が芽生える。
相手はかつて、ライダー同士の戦いを止めようとしていた。
そんな立派な信念を持った彼を傷つけるのは、やはり心苦しいところがある。
だからこそ、止めなければならない。
彼はこの戦いに乗ってしまった。
これ以上、間違いを犯させたりはしない。
その為に今は、全力で戦う。

「はあぁぁぁぁっ!」

思いを胸に、ブレイドは剣を振るった。
だが、そう易々に通らない。
ブレイラウザーの刃は、右腕に装着されたデストクローの爪に遮られた。
この瞬間、ブレイドの勢いが止まる。
動き出そうとするが、遅かった。
タイガはもう片方の腕に装着されたデストクローで、ブレイドの腹を突き刺した。

88 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/10(金) 09:05:07 ID:nkwfRPrU

「がはっ!」

悲鳴と共に、彼の身体は吹き飛んでいく。
腹部から火花が迸って、痛みによる熱を感じた。
そのまま、背中から勢いよく床に叩きつけられる。
痛みと冷たさが伝わるが、感じている暇は無い。
ブレイドは瞬時に、顔を上げる。
目の前からは、タイガが迫っているからだ。
起き上がるのと同時に、ブレイドはブレイラウザーを振るった。
斜めより繰り出されたその一閃は、タイガの身体を切り裂く。
とっさの攻撃に対応しきれず、彼の体制は崩れてしまった。
よろめいた隙を突き、ブレイドは一歩前に踏み出す。
そして、ブレイラウザーを横に払った。

「でえいっ!」

仮面の下から、叫びが聞こえる。
タイガの右腕に装着されたデストクローを、弾き飛ばした。
続くようにブレイドは力を込めて、ブレイラウザーを振るう。
その一撃によって、もう片方のデストクローもまた、床へ落とされた。
二つの獲物が音を立てながら、転がっていく。
一度跳ねる度に、廊下の床に傷が付いた。
しかし、二人はそれに目を向けない。
互いに睨み合うだけだった。
そんな中、タイガは再びデストバイザーを手に取る。
続くようにデッキからカードを取り出して、斧に入れた。

『ADVENT』

広がるかと思われた静寂は、破られる。
デストバイザーから音声が響いて、ブレイドは反射的に構えた。
だが、それは意味を成さない。

『GAAAAAAッ!』
「なっ!?」

突如、不気味な咆吼が聞こえる。
それを耳にして、ブレイドはそちらへ振り向いた。
すると、白虎を思わせる巨大な魔獣が、窓ガラスから現れるのが見える。
『龍騎の世界』に存在するミラーモンスターの一種、デストワイルダーだった。
あまりにも唐突すぎる出来事に、ブレイドは対応することが出来ない。
鏡より現れたデストワイルダーの体当たりを、無惨に受けてしまう。

「ぐうっ!」

二八〇キロの巨体に、彼の身体は耐えられなかった。
受け身を取る暇すら無く、ブレイドは壁に叩きつけられる。
しかし、それだけでは止まらない。
突進の衝撃波は凄まじく、背中に位置するコンクリートに亀裂が走る。
そのまま、壁が粉々に砕け散ってしまい、ブレイドは隣の部屋に放り込まれた。
瓦礫となったコンクリートが、音を立てて落下する。
微かな粉塵が、辺りに広がった。

「痛ッ…………!」

身体の節々に痛みを感じながらも、ブレイドは立ち上がる。
空いた穴の向こうからは、タイガとデストワイルダーがこちらを見つめていた。
そして、一歩踏み出してくる。
ブレイドは、この部屋を見渡した。
白いシーツが敷かれたベッドが、いくつも見られる。
窓には、同じ色のカーテンが掛けられていた。
どうやら大人数用が共同で使える病室のようで、広さもそれなりにある。
だが、戦いに影響を与えるとは思えない。
唯一の出入り口は、敵に塞がれている。
追いつめられたと言っても、過言ではない。
だからといって、必殺技を無闇に使うことは出来なかった。

89 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/10(金) 09:06:21 ID:nkwfRPrU

(あいつも、俺の世界と同じようにカードを使うライダーか……!)

目の前に立つ異世界の仮面ライダーを見て、ブレイドは考える。
タイガも、自分の世界と同じように、カードを使った戦い方が特徴のようだ。
違いを挙げるなら、武器やモンスターの召喚。
だが、相手はまだ何か手を残してるかもしれない。
無理に突っ込んだところで、返り討ちになる可能性も充分にある。
こちらのラウズカードは七枚だけ。
スペードのAから6と、9のカードしか手元にない。
ブレイラウザーのAP5000を考えれば、必殺技を使えることには使える。
敵の数から、ライトニングブラストとライトニングスラッシュを、それぞれ一発ずつ使う事は出来た。
しかし万が一、あのような巨大な怪物がもう一体いたらどうする。
APが足りなくなった隙を付かれるのがオチだ。

(いや、そんなことは関係ない! 今は彼を止めることだけを考えろ!)

頭の中で芽生え始めた、後ろ向きな考えを振り払う。
自分が今やるべき事は何か。
こんな所で、不安に駆られていることではない。
東條を止めて、分かり合うことだ。
ブレイドは自らにそう言い聞かせると、地面を蹴る。
部屋に入ってきた敵に向かって、突進を開始した。

『GYAAAッ!』

耳を劈くような咆吼と共に、デストワイルダーもまた床を蹴る。
二メートルを超える巨体からは想像できないほど、素早い速度だ。
勢いに任せながら巨大な爪を掲げて、振り下ろす。
しかしブレイドは、身体を捻って紙一重の差で避けた。
かぎ爪は空を切ると、床に大きな傷を刻む。
その隙を付いて、ブレイドはデストワイルダーの懐に潜り込んだ。

「だあっ!」

掛け声と共に、ブレイラウザーを下腹部から縦に切り刻む。
硬質感の溢れるデストワイルダーの肌が、抉られた。
それに激痛を感じ、鈍い悲鳴を漏らす。
だが、ブレイドの攻撃はこれで終わらない。
彼は続けざまに、軌道を戻すように剣を振るった。
続いて一閃。左から右に薙ぎ払う。
そこから反撃の隙を与えないために、ブレイラウザーを振るい続けた。
左肩から右脇腹へ。右の胴から左の胴へ。返すように、胸部を一閃。続けるように、右肩から左脇腹へ。
合計六回の斬撃を受けて、デストワイルダーが硬直する。
その瞬間、ブレイドは左足を軸に一回転をした。
生じた勢いを利用して、デストワイルダーの腹部に蹴りを放つ。
すると、その巨体は大きく蹌踉めいた。
ブレイドが放つ一回のキック力は、480のAPを誇る。
数字で直すと、4.8トンの重さがあった。
いかにミラーモンスターといえども、何度も刃を浴びたことで腹部が脆くなっている。
加えて鋭い蹴りを受けては、吹き飛ぶのも当然だった。

『GU……ッ!』

数歩ほど、デストワイルダーは後退してしまう。
そのままベッドに足を躓かせてしまい、背中から大きく倒れた。
デストワイルダーの重量によって、床が音を立てながら僅かに沈む。
振動が部屋に伝わる中、ブレイドは後ろへ振り向いた。
視界の先からは、タイガが跳び上がりながらこちらに迫っているのが見える。
彼の両腕には、先程弾き飛ばした二つのデストクローが、顕在していた。

「ふんっ!」

迫り来る爪を前に、ブレイドはブレイラウザーを頭上に掲げる。
それによって、異なる二つの獲物が激突した。
接触面から鋭い音が響き、火花が散る。
刹那、ブレイドは剣を握る腕に力を込めて、一気に突き出した。
デストクローを装着するタイガは、押し合いに負けて体勢を崩す。
そして、ブレイドは空いた腹部を目指し、ブレイラウザーで突きを繰り出した。

90 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/10(金) 09:06:59 ID:nkwfRPrU
「うわあっ!」

タイガの胸に、輝きを放つ刃が突き刺さる。
ブレイラウザーの刃先を受けて、その身体が吹き飛んだ。
穴が空いた壁に激突し、廊下へ転がる。
床の上で転がるが、すぐに起きあがった。
そして、デストバイザーを手に取る。
続くように、デッキの中からカードを取り出して、白召斧にセットした。

『FINAL VENT』

デストバイザーより、声が発せられる。
瞬間、デストワイルダーが起きあがった。
ブレイドの後頭部を掴んで床に叩き付けられる。
そのままデストワイルダーは、獲物を引きずりながら主の方に向かった。
必殺の一撃である、クリスタルブレイクを決めるために。

「うわあぁぁっ!?」

ブレイドはそれに反応することが、出来なかった。
身体が床と擦れ合い、火花が飛び散る。
焼け付くような痛みを感じるが、ブレイドは耐えた。
そして、足掻き続ける。
しかしデストワイルダーの握力は凄まじく、振り解くことが出来ない。
視界の先では、タイガがデストクローを構えながら立ちはだかっているのが見えた。

(このままじゃ…………!)

ブレイドの中で、焦りが生じる。
両手に床を付けるが、魔獣の進行は止められない。
この状況では、ラウズカードを使うことも出来なかった。
かといって、放置していたら負けは確実。
何とか現状を打破しようと思考を巡らせるが、浮かばない。
タイガとの距離が徐々に縮んでいき、目前にまで迫ろうとした。

「なっ!?」

その瞬間。
首の裏に感じていた圧迫感が、急に消える。
同時に、ブレイドの進行が止まった。
何事かと思い、彼は後ろに顔を向ける。
先程まで自分を掴んでいたデストワイルダーが、姿を消していた。
身体に熱を感じながらも、ブレイドは立ち上がる。

「どういう事…………!?」

一方で、タイガは身体をわなわなと震わせていた。
戻した覚えもないのに、デストワイルダーが消えてしまった事実によって。
この殺し合いに参加させられたライダー達に科せられた、制限の影響だった。
『龍騎の世界』からやって来た戦士は、ミラーモンスターを使役している。
だが、制限の効果によって彼らは、この世界に一分間しかいることが出来ない。
タイガがデストワイルダーを召喚してから、既にそれだけの時間が経過している。
タイムリミットが訪れたことで、ミラーモンスターは消滅してしまったのだ。
無論、この事実を知る者は誰一人としていない。

「お前、こんなことはもう止めるんだ! こんな戦いを続けて、一体何になるんだ!」

ブレイドは、何とか説得を試みる。
人の尊厳を奪う巨悪に屈して、誰かを殺して何になるのか。
大ショッカーは願いを叶えると言っていたが、そんな事があり得るわけがない。
そもそも、こんな訳の分からない戦いを強要させる連中が、真実を言うのか。
否、可能性は限りなく低い。
例え世界の崩壊が真実だったとしても、奴らに何の権利があってこんな事をさせるのか。
こんな不条理に満ちた戦いを、認めるわけにはいかない。
その思いを胸に、ブレイドは叫ぶ。

91 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/10(金) 09:07:47 ID:nkwfRPrU

「言ったでしょ? 僕は英雄になるって。その為に、君は死んでよ!」

しかし、その言葉はタイガには届かなかった。
彼が戦う理由。
それは『英雄』という、称号を得る為。
彼は恩師である香川英行より、英雄の覚悟を学んだ。
『多くの者を救うためには、一つの者を犠牲にしなければならない勇気』が、必要であると。
つまり、自分の世界を救うために、参加者を皆殺しにする事だ。
そして英雄になって、皆から崇められる。
これがタイガを、動かす信念だった。
英雄への願望を胸に、デストクローを横薙ぎに振るう。

「ふざけるなっ!」

しかし、それは呆気なく弾かれた。
怒号と共にブレイラウザーを振るった、ブレイドによって。
激情によって放たれた一閃により、タイガは右腕に痺れを感じる。
それに構うことなく、ブレイドは獲物を振り続けた。
あまりにも身勝手極まりない、相手の言い分に怒りを覚えて。
同じように、タイガも両腕の爪を使って斬りかかる。

「英雄だと? 人を殺そうとする奴の、何処が英雄だっ!?」
「分からない? 英雄になるためにはね、大切な人を殺さなきゃいけないんだよ」
「バカなことを言うな!」
「そっちこそ!」

互いの意見は、平行線を辿っていた。
言葉と合わさるように、彼らの武器は激突を続ける。
ブレイドは、ブレイラウザーを縦一文字を描くように振るった。
タイガは、それを右腕に装着されたデストクローで、防ぐ。
金属音が鳴った瞬間、もう一つの爪をブレイドに突き出した。
だが、それが触れることはない。
命中する直前に、ブレイドは後ろに飛んだ。
それによって、デストクローは空振りに終わる。
空いた距離を詰めるために、ブレイドは勢いよく飛んだ。
そして、渾身の力を込めてブレイラウザーで突きを繰り出す。
迫り来る攻撃を防ごうと、タイガは両腕を交差させた。
瞬間、ブレイラウザーとデストクローが衝突。
その衝撃によって、タイガはほんの少しだけ後退してしまう。
足元はふらついてしまうが、すぐに整えた。
日の光が差し込む薄暗い廊下で、二人は睨み合う。
ブレイドは、その瞳に怒りを込めて。
タイガは、その瞳に野望を込めて。
それぞれの視線が、激突した。
しかし、それはすぐに中断されてしまう。

「「なっ――!?」」

突如、足元の床が沈んだ。
その直後、轟音と共に崩壊する。
あまりにも唐突すぎる現象に、ブレイドもタイガも対処できない。
彼らを支えていた床は、一気に瓦礫と化していく。
ブレイドとタイガは、崩落する通路と一緒に落下した。






92 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/10(金) 09:09:20 ID:nkwfRPrU
時間が、ほんの少しだけ遡る。
矢車想は、生気が感じられない暗い瞳で、この病室で戦う二人のライダーを眺めていた。
片や光夏海が変身する、正義を自称する白い仮面ライダー。
片や電王と呼ばれた、悪を自称する紫の仮面ライダー。
仮面ライダーキバーラと仮面ライダーネガ電王が、互いに剣を振るって戦っていた。
純白の刃と真紅の刃は、一度激突する度に金属音が、狭い部屋に響く。
敵意に満ちた戦いの空間で、矢車は生身を晒し続けていた。
先程、突然この病室に現れたライダー。
いきなり『善』か『悪』のどちらか、と訳の分からないことを聞いてきた挙げ句、仲間になれと言ってきた。
それを断ると、自分のことを殺そうとする。
自分は死の運命を受け入れた。
そうすることで、本当の地獄に堕ちる事が出来る。
だが夏海は、あの白いライダーに変身してそれを邪魔しようとした。

(…………何故、お前は戦う?)

キバーラが戦う姿を見つめながら、矢車は心の中で呟く。
あの女は何故、戦うのか。
こんな戦いをして、何の意味があるのか。
何故、自分の死を邪魔するのか。
『正義』とやらの為か。
高潔な名前を背負った自分に、酔っているのか。
そして薄汚い自分を救った、英雄を気取りたいのか。

(くだらない)

矢車は、鼻を鳴らす。
ライダーに変身した夏海の姿が、茶番にしか見えなかった。
いくら戦ったところで、何かが変わる訳ではない。
自分達は、大ショッカーに命を握られているのだから。
この首輪がある限り、死に抗うことなど出来るわけがない。
それでも生き残るのなら、方法は一つだけ。
大ショッカーの人形となって、殺戮者になること。
たった一つ。
そうすれば奴らは、願いを何でも叶えてくれると言っていた。
現に、自分に襲いかかったあのライダーは、戦いに乗っている。
その理由は、どうせ自分の願いを叶えるため。

(『仮面ライダー』なんてのは…………そんなもんだ)

仮面ライダー。
弟を殺した老人、死神博士は世界の象徴などと、大層な言葉を飾っていた。
だが実際は、願いという餌に釣られて他者を潰す、醜い存在。
自分の前で戦う黒いライダーが、その証拠だ。
ここに連れてこられた連中も、どうせそんな人間ばかりだろう。
矢車が空虚な視線を向けている一方で、剣戟はぶつかり続けていた。
それと同じように、持ち主であるライダー達の目線も、激突する。

「たあっ!」

キバーラは、純白の輝きを放つサーベルを振るった。
病院に現れた電王とよく似た、仮面ライダー。
しかし、その素性は自分の知る電王とは、似ても似つかない。
あの世界で出会った電王は、口は悪いが無意味に殺生をする者ではなかった。
だが、このライダーは明らかに危険人物。
放置していたら、犠牲者は必ず出る。
そんなことを、許すわけにはいかない。

93勝利か敗北か ◆LuuKRM2PEg:2010/12/10(金) 09:09:56 ID:nkwfRPrU

「遅いっ!」

正義に相応しい熱い感情を胸に、繰り出すキバーラサーベル。
それはネガ電王の一閃により、弾かれた。
続くように、ネガデンガッシャーで突きを放つ。
切っ先は、キバーラの華奢な身体に進んでいった。

「キャアッ!?」

甲高い悲鳴が、仮面から漏れる。
紫色の刃は、彼女の右肩に刺さった。
鋭い衝撃を感じて、身体が宙に吹き飛ばされる。
そのまま背中から、壁を突き破っていった。
勢いは止まらず、キバーラは床に叩き付けられてしまう。
しかし、瞬時に立ち上がった。
彼女の目前では、ネガ電王が得物の先端を向けているのが見える。

「ハッ、まるで話にならねぇ。やはり強いのは『悪』だな…………」

そう言うと、ネガデンガッシャーが一瞬だけ煌めいた。
刀身は、まるで血の色を思わせるくらいに赤い。
そこに刻まれている模様。鎧と合わさって、禍々しさを引き立たせるスパイスとなっていた。
『最強の悪』を自負するライダー、ネガ電王。
全身から放たれる覇気を感じて、キバーラは戦慄した。

(強い……!)

仮面の下で、夏海の頬から汗が流れる。
先程から何度もキバーラサーベルを振るったが、弾かれるばかりだ。
たまに鎧を切り裂く事はあるが、効き目があるように感じない。
むしろ、こちらが攻撃を喰らってばかりだ。
しかもその一撃は、あまりにも重い。
このままでは、負ける可能性が高かった。
でも、退くことはしない。

(士君も、ユウスケも、大樹さんも、みんな諦めなかった! だから私も……!)

諦めたりしない。
頼れる仲間達はみんな、どんな窮地に立たされても、その度に切り抜けてきた。
ここで目の前のライダーに屈することは、彼らへの裏切りに他ならない。
何より、矢車さんが後ろにいる。
あの人に生きる気力を取り戻させるため、今は戦わなければならない。
病院に空いた穴から、一陣の風が入り込む。
埃が舞い上がる中、キバーラは地面を蹴った。
両足に力を込めたことで、ネガ電王に向かって突き進んでいく。
そして、キバーラサーベルを横薙ぎに振るった。

「フンッ!」

ネガ電王は、それをネガデンガッシャーで受け止める。
激突し、鍔迫り合いが始まった。
二つの刃が擦れ、鋭い音が響いていく。
力が拮抗して、互いに睨み合った。
その最中、ネガ電王は後ろに飛んで距離を取る。
そして、ネガデンガッシャーの形を変えた。
近距離で戦うためのソードモードから、遠距離用のガンモードへと。

94勝利か敗北か ◆LuuKRM2PEg:2010/12/10(金) 09:10:43 ID:nkwfRPrU

(あれは…………!)

キバーラには、見覚えがあった。
『電王の世界』を代表するライダー、電王はフォームチェンジに合わせて、武器の形も変えている。
だがこの悪い電王は、フォームを変えなくてもそれを行った。
その理由はただ一つ。
察した彼女は、防御の構えを取った。
直後、ネガ電王はネガデンガッシャーの引き金を引く。
銃声が響くと同時に、弾丸が放たれた。
空気を引き裂きながら、凄まじい勢いで進んでいく。

「くっ!」

白い刃を振るって、弾丸を防ごうとした。
しかし完全に落とすことは出来ず、一部の弾丸が着弾する。
痛みを感じるも、彼女は堪えた。

『FULL CHARGE』

突如、電子音が響く。
それはライダーパスを手に取ったネガ電王が、ベルトに翳した事で鳴った音だった。
バックルからエネルギーが、紫色の輝きを放ちながら噴出していく。
そのまま、ネガデンガッシャーを握る右腕に流れていった。

「終わりだ」

ネガ電王は呟きながら、銃口を向ける。
キバーラはそれを目にすると、サーベルを握る腕に力を込めた。
相手の気配を感じて、反射的に。
本能で構えを取った。
その直後、彼女の背中から光り輝く翼が生じる。
それはまるで、天使のようだった。

「やあああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「くたばりやがれ!」

二人の叫び声が、同時に重なる。
キバーラは地面を蹴って突撃を行い、ネガ電王は銃のトリガーを引いた。
キバーラサーベルからは、翼のように眩い光が放たれて。
ネガデンガッシャーからは、真紅の光弾が放たれて。
それぞれ、敵に目掛けて突き進み、激突した。
キバーラの使うソニックスタンプの一撃と、ネガ電王の使うネガワイルドショットの一撃。
凄まじい威力を持つ二つの技は、病室という戦場で押し合っていた。
されど、それはすぐに終わりを告げる。
数秒の時間が経過すると、激突面で爆発が起こった。

「きゃあぁぁっ!?」
「ぐおおぉぉっ!?」

二つの悲鳴は、爆音に飲み込まれてしまう。
その衝撃によって大気は振るえ、キバーラとネガ電王は後ろに吹き飛んだ。
無論、余波は矢車にも及ぶ。
彼の身体は衝撃波で飛ばされてしまい、灰色の壁に叩き付けられた。
打ち所が悪かったのか、そのまま矢車の意識は消えていく。

「矢車さんっ!?」

気を失った彼の姿を見て、キバーラは狼狽した。
あの人を守るために戦っていたのに、巻き込んでしまうなんて。
彼女は急いで、倒れた矢車の元に駆け寄ろうとする。
誰も、気がつかなかった。
戦いの余波によって、天井に亀裂が走っていることを。
その影響で、コンクリートの粉が降り注いでいることを。
そして、限界が訪れていることを。
キバーラは前に一歩だけ、踏み出す。
その直後だった。

95勝利か敗北か ◆LuuKRM2PEg:2010/12/10(金) 09:11:19 ID:nkwfRPrU

「うあああぁぁぁぁぁぁっ!」

突如、轟音と共に天井が崩れ落ちる。
それに混じって、男の悲鳴も振ってきた。
天井を構成するコンクリートは瓦礫と化して、床を容赦なく砕く。
そして、粉塵が辺りの視界を包んでいった。

「えっ!?」
「何だっ!?」

キバーラとネガ電王は、突然の出来事に驚愕する。
そんな中、煙はすぐに晴れていった。
そして、来訪者の姿を二人に映し出す。

「痛っ…………どうなってるんだ?」

現れた存在は、キバーラにとって見覚えがある者だった。
赤い瞳、銀色と青の鎧、バックルに刻まれたスペードのマーク。
それは『ブレイドの世界』を代表する仮面ライダー、仮面ライダーブレイドだった。

「貴方は…………ブレイド!?」
「えっ?」

ブレイドと目線を合わせたキバーラは、思わず名前を呼んでしまう。
彼は、あのブレイドなのか。
自分達が旅の途中で出会った、剣立カズマ。
いや違う。名簿には、彼の名前は書かれていない。
だとすると、もう一人の仮面ライダーブレイドなのか。
かつて、世界の崩壊を防ぐために士を襲った、ライダーの一人。
剣崎一真なのか。
その推測はある意味では正解で、ある意味では間違いだった。
目の前に立つ仮面ライダーブレイドは、確かに『剣崎一真』が変身している。
しかしこの『剣崎一真』は、ディケイドの事は何も知らない、別の時間からやって来た存在。
同じように、キバーラもこの『剣崎一真』の正体を、全く知らない。
この事実が、一体どのような運命を導き出すか。











(何で俺のことを……? それに、このライダー達は一体?)

廊下からこの階に落下したブレイドの中に、疑問が広がっていく。
タイガと戦っていたら、いきなり床が崩れた。
その先に現れたのは、見知らぬ二人のライダーと倒れている男がいる。
そして、自分の名前を知っている白いライダー。
何がどうなってるのか、今の彼には分からなかった。
しかしやるべき事が、一つ出来る。

(あのライダー……どうして俺の名前を知ってるんだ?)

そう、ブレイドの名前を呼んだ白いライダー。
声からして、女性と思われる。
まさか、BOARDの関係者なのか。
だが、考えていても始まらない。
まずはタイガを止めて、このライダーから話を聞くべき。
ブレイドの行動方針は、こうして決まった。

96勝利か敗北か ◆LuuKRM2PEg:2010/12/10(金) 09:13:36 ID:nkwfRPrU









「おい、お前は『善』か? それとも『悪』か?」

ネガ電王は、目の前に現れたライダーへ声を掛ける。
白虎を思わせる姿のライダー、タイガに。
その理由はただ一つ、自分の戦力に加えるため。
もしも、正義を自称するなら叩き潰す。
もしも、悪を自称するなら迎え入れる。
二つに一つ。
シンプルで分かりやすい、望みだった。

「僕? 僕はどっちでもないよ…………だって『英雄』になるんだから」
「そうか」

タイガの答えを聞いて、ネガ電王は決める。
奴も、自分が潰さなければならない奴だ。
英雄。
自分にとって正義と同じくらい、憎むべき存在。
そんな奴を生かしておく理由など、全く無い。

「なら、てめえにも見せてやるよ! 最強の『悪』の力を!」
(ふふっ、僕は英雄に近づけるんだ…………!)

ネガ電王とタイガは、互いに武器を構える。
そして、彼らは地面を蹴った。
ネガデンガッシャーとデストクローは、金属音を鳴らしながら激突する。






97勝利か敗北か ◆LuuKRM2PEg:2010/12/10(金) 09:14:21 ID:nkwfRPrU
彼は、天に向かって真っ直ぐに伸びる、巨大な赤い塔から目を背けるように歩く。
日本に住む者なら、誰でも知っている東京タワー。
そして、空から降り注ぐ太陽の輝き。
それがまるで、自分の最も忌むべき男を象徴しているかのように見えた。
だから彼は、それら二つから目を背ける。
本当なら自分の姿も、反吐が出るような物だった。
自分が存在する『カブトの世界』を代表する男、天道総司をそのまま複製したような、この身体。
だが奴と自分の境遇には、天と地ほどの差がある。
奴は太陽の下、ぬくぬくと人生を過ごした。
だが自分は望んでもいないのに、こんな姿にされた挙げ句、あらゆる自由と尊厳を奪われた。
いつからこうなったのかは、もう覚えていない。
覚えたところで、何の意味もないからだ。

「天道、総司…………ッ!」

憎悪に満ちた声で、名前を呟く。
これは自分が潰そうとしている男の名。
これは自分から全てを奪った男の名。
これは自分の全てを否定した男の名。
何故奴が太陽の下を歩けて、自分が歩けない。
何故奴が全てを手に入れて、自分は何も手にすることが出来ない。
何故奴が人間として生きられて、自分は蛆虫同然の生き方しかできない。
何故世界は奴を受け入れて、自分を受け入れない。
自分と奴で、何が違う。
姿も声も身体も、全て同じだ。
奴が普通の人間で、自分がワームだからか。
それだけか。
たったそれだけの、小さな理由でか。

(僕は、好きでこんな姿になった訳じゃないのに?)

自分は、望んでこんな姿になった訳じゃない。
それなのに、世界は自分を受け入れないのか。
そういうことなら、そんな世界は必要ない。
壊してしまえばいいだけ。
本当なら、こんな姿でいることにも耐えられなかった。
出来るならば、この顔の皮膚を全て剥いでやりたい。
だが、自分の目的は違う。
この会場に集められた全ての命を潰し、全ての世界を滅ぼすことだ。
特にあの男、天道総司は徹底的に苦しめてから、殺す。
ただで殺すことはしない。
自分の受けた仕打ちを全て、味わわせても足りない。
手足を千切り、目を潰し、骨を砕く。
こうなってはあの男も、薄汚い本性を現すはずだ。
そして、惨めな姿で自分に命乞いをするだろう。
だがそうなっても、許すつもりはない。
血の一滴が枯れるまで、痛めつける。

「僕に与えた仕打ち…………そのまま返してあげるよ」

彼の瞳は、まるで幽鬼のようだった。
そのままゆっくりと、足を進める。
『天道総司』への、尽きることがない憎しみを全身に込めて。
やがて、彼は見つけた。
自分の犠牲となる、哀れな生け贄が集う場所を。
それは、病院。
耳を澄ませると、音が聞こえる。
どうやら、騒ぎが起こっているようだ。
なら、自分のやることは一つ。
彼は手に取った。
自分の相棒とも呼べる黒いカブト虫、ダークカブトゼクターを。
既に、銀色に輝くライダーベルトを腰に巻いていた。
いつものように、言葉を口にする。

98勝利か敗北か ◆LuuKRM2PEg:2010/12/10(金) 09:14:59 ID:nkwfRPrU

「変身」
『HENSIN』

ダークカブトゼクターから、鈍い声が発せられた。
その直後、ベルトからタキオン粒子が吹き出してくる。
一瞬で全身を包んで、ヒヒイロノカネと呼ばれる金属へと形を変えた。
そして、銀色に輝く重量感溢れる鎧に、変貌。
巨大な瞳は、金色の輝きを放った。
こうして、彼は変身を果たす。
仮面ライダーダークカブト マスクドフォームの名を持つ、マスクドライダーシステムが生み出した、戦士へと。
闇のカブトに選ばされた彼は、動き続けた。
全ての世界を、破壊するために。





【1日目 昼】
【E−4 病院/一階診察室】
※診察室の天井と壁が破壊されています。
※二階の廊下が破壊され、一階診察室と繋がっています。
※二階の病室の壁が、破壊されています。





【剣崎一真@仮面ライダー剣】
【時間軸】第40話終了後
【状態】疲労(小)、ダメージ(小)、仮面ライダーブレイドに変身中
【装備】ブレイバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(スペードA〜6.9)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式、ガイアメモリ(ヒート)@仮面ライダーW、ケータッチ@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本行動方針:人々を守り、大ショッカーを倒す。
0:キバーラから話を聞いて、東條を止める。
1:橘朔也、相川始と合流したい。
2:何故、桐生さんが?……
3:Wとディケイドが殺し合いに否定的ならアイテムを渡したい。
4:龍騎の世界で行われているライダーバトルを止めたい。
【備考】
※龍騎の世界について情報を得ました。
※ブレイドに変身してから、5分の時間が経過しました。


【矢車想@仮面ライダーカブト】
【時間軸】48話終了後
【状態】気絶中、弟たちを失った事による自己嫌悪、あらゆる物に関心がない
【装備】カードデッキ(リュウガ)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、不明支給品(0〜1)
0:…………(気絶中)
1:光夏海と行動するが、守る気はない。
2:殺し合いも、戦いの褒美もどうでもいい。
3:天道や加賀美と出会ったら……?
【備考】
※支給品は未だに確認していません。
※ディケイド世界の参加者と大ショッカーについて、大まかに把握しました。
※ゼクトバックルは床に放置しています。

99勝利か敗北か ◆LuuKRM2PEg:2010/12/10(金) 09:15:45 ID:nkwfRPrU


【光夏海@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、仮面ライダーキバーラに変身中
【装備】キバーラ@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式、不明支給品(0〜2)
【思考・状況】
0:まずは目の前の謎の電王を倒す。
1:矢車と行動する。放っておけない。
2:士、ユウスケ、大樹との合流。
3:おじいちゃんが心配。
4:キバーラに事情を説明する。
5:このブレイドは一体…………?
【備考】
※支給品は未だに確認していません。
※矢車にかつての士の姿を重ねています。
※矢車の名前しか知らないので、カブト世界の情報を知りません。
※大ショッカーに死神博士がいたことから、栄次郎が囚われの身になっていると考えています。
※キバーラは現状を把握していません。
※目の前にいるブレイドが、自分の知るブレイドとは別人であると知りません。
※キバーラに変身してから、5分の時間が経過しました。



【ネガタロス@仮面ライダー電王&キバ クライマックス刑事】
【時間軸】死亡後
【状態】疲労(小)、ダメージ(小)、強い怨念 仮面ライダーネガ電王に変身中
【装備】デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、不明支給品(0〜2)
【思考・状況】
1:最強の悪の組織を作る。
2:まずは目の前の正義と英雄を倒し、矢車を殺す。
3:キバに似てる……?
4:様々な世界の悪を捜す。
5:大ショッカーは潰すか、自分の組織に招き入れる。
6:電王、キバのほか善は全て倒す。
【備考】
※ネガ電王に変身してから、5分の時間が経過しました。


【東條悟@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】インペラー戦後(インペラーは自分が倒したと思ってます)
【状態】疲労(小)、ダメージ(小)、仮面ライダータイガに変身中(デストワイルダー二時間召還不可)
【装備】タイガのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、不明支給品0〜2
【思考・状況】
1:全ての参加者を犠牲にして、ただ一人生還。英雄になる。
2:自分の世界の相手も犠牲にする。
3:まずは剣崎と紫のライダー(ネガタロス)を犠牲にして強くなる。
4:基本的には病院で参加者を待ち伏せてから殺す(二階の廊下が気に入ってます)。
【備考】
※剣の世界について情報を得ました。
※タイガに変身してから、5分の時間が経過しました。


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】健康 情緒不安定気味 仮面ライダーダークカブトに変身中
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、不明支給品
【思考・状況】
0:病院にいる参加者達を、全員殺す。
1:天道総司を殺し、『天道総司』に成り代わる。
2:全ての世界を破壊するため、手当たり次第全員殺す。
3:特に優先的に『カブトの世界』の五人を殺害する(最終的には自分も死ぬ予定)。
4:僕はワームだった……。
【備考】
※ 名簿には本名が載っていますが、彼自身は天道総司を名乗るつもりです。
※ 参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。

100 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/10(金) 09:17:26 ID:nkwfRPrU
以上で、投下終了です
矛盾点や疑問点があれば、指摘をお願いします。

101二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/10(金) 09:18:38 ID:lj9nR65U
投下乙です

102二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/10(金) 15:08:24 ID:RX88goKE
投下乙
なんという混戦模様
しかもダブト接近中とか

103 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/10(金) 19:37:43 ID:Gy92slLI
えっと、状態表の【1日目 昼】 を
【1日目 日中】に修正します

104このロワは読み手様によって破壊されてしまった:2010/12/11(土) 20:24:04 ID:X61NvhYE
管理人も馬鹿だから仕方ないけどな
感想少ないとか嘆いてたら、実際よりも悲惨な状況に見えるんだよ

せめて、感想はこっちのスレに書いたら?
雑談と本スレを分ける意味なんて無いんだし、両方あわせりゃそれなりの書き込み数になるから
パッと見は今より盛り上がってるように見えるだろ
ま、根本的な解決にはならないけどなw

105 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/11(土) 22:43:09 ID:wmV5c6.U
只今より、ズ・ゴオマ・グ、津上翔一を投下します。

106『クウガ』と『アギト』 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/11(土) 22:43:53 ID:wmV5c6.U
 疲労が、ただゴオマの体の動騒を奪っていた。
 体の節々が自分のものではないかのように、立ち上がることもままならない苛つきを隠せなかった。
 彼の属するグロンギという集団は、戦いと殺しがその人生といっても過言ではない。
 そんな闘争本能に従えない彼に、価値は無いと言っていい。
 それを自覚している以上、ゴオマはその「価値」を取り戻すための思考を始めた。

 何をすべきか。
 周りを見渡すが、使えそうなものは何もない。
 外出の必需品である傘は手元にあるが──それを杖に立つことさえ、体は許さなかった。
 彼に立ち上がるだけの力を与えようというものは、この場には無い。
 そこで、デイパックの中を探る。先ほどの「ガイアメモリ」に体力を回復させる効果が無い──むしろ、それを奪うものであるというのは人でない彼にも理解ができた。

 そっとジッパーに手をかけ、中身を探っていく。
 一部の道具たちは、おそらく全員に支給されたものだろう。
 そんなものはいい、とゴオマは手を動かす速度を上げる。彼が探すのは、見たことのあるものではなく、個々に渡されたはずの道具なのだから。


「ボセグ ゴセン ヅビバ (これが おれの 武器か)」


 見覚えのない道具は、たったひとつ。
 眠りにつく、たった一匹の蝙蝠の寝息である。
 デイパックの闇から解放された赤と黒のそれは、漏れた光を不快がるように、目を開けた。

 蝙蝠──それは、ゴオマにとって近しい存在である。
 かといって、それと群れはしない。しかし、不思議とそれを見つけたことは彼の頬を緩ませた。


「コラッ! 昼間から起こすな。…………なんだ、お前は?」

「ボン ヅビパ ザバグボバ(この 武器は 話すのか)」

「日本人じゃないのか……?」


 蝙蝠は全身黒というゴオマの姿、そして言葉を警戒した。
 濁音にまみれた言葉の暴力性。それをなんとなく感じ取った。
 ……が、言葉の通じない相手に、ゴオマは咄嗟にリントの言葉で対応する。


「おまえに、用がある」

「……俺に何の用だ」

「誰かを、ここに連れて来い」

107『クウガ』と『アギト』 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/11(土) 22:44:25 ID:wmV5c6.U
 今の動けないゴオマにとって、必要なものは使える支給品と、人の屍だった。
 助けなどではなく、少しでも使える力を殺人に奮い、その支給品を奪う。逆に相手に殺されることは絶対に考えない。
 それがダグバの力を手に入れた今の彼の、自信というものだった。


「ふざけるな。……と言いたいところだが、お前の様子を見る限りでは助けがいるようだな」

「助けなど、いらん」

「無理するな。人が要るんだろう? ならば、呼んできてやる」


 ゴオマの考える意図とは違っているが、意思は伝わったらしい。
 人を呼んでもらえれば、それで大いに構わないのだ。目の前で起こる「死」に、この蝙蝠がどう反応するかはわからないが。


「お前は、俺が守ってやる。ありがたく思え」


 そう言い残して、蝙蝠は軽やかに空中を遊泳し、光の漏れる場所へと消えていく。
 彼の向かった先を、見つめようともせずにゴオマは笑みを浮かべた。
 ここに来る獲物を惨殺する未来を想像しているのか、それともその反動を忘れて強い力におぼれているのか──。
 工場の闇に黒服を溶かし、笑い声だけがそこに残っていた。



△ ▽



(長いな〜、やっぱり……)


 津上翔一は、ゆっくりと近づいてくる街並みを遠く見上げた。
 道路に立ち上がる彼は、この場所で「護るべきもの」を探している。
 戦場に怯える弱き人々を──その命を、護るために、長い道のりを歩いてきたのだ。
 この街並みの中に、怯える人間がいるかもしれない。隠れている人間がいるかもしれない。
 そんな人間が存在してしまう現実を呪いながら、彼は街へと近づいていった。


「……俺も、シャキッとしないと」


 ヒビキという男と出会った彼は、人を護る人がどんな顔をするのか──それを確かに知った気がした。
 微かな不安を帯びながら、しかし人の持つ大切なものを護ろうと、そんな気概を感じるまっすぐな瞳。
 それを、人の前に出たときも忘れてはいけないだろう。
 翔一は、その頬を意気込みとともに軽く叩いた。
 自分はアギトだ。そうである以上、人を殺させない。
 そんな、護りし者の気合。それを外に逃がさないため。


「おい、そこの男」


 翔一は背後からかけられた声に、顔を顰める。
 先ほどまでは、確かに四方のどこにも人間なんていなかった。だというのに、こんなに近くから聞こえる声は何か。
 足音も、気配さえも殺して近づいたそれは何か。

 後ろを向いたとき、そこにあったのは蝙蝠──と言うには、不自然な体をしているが、それ以上の呼び名を考えようもない生物が空中を浮遊していた。
 一秒ごとに揺れる羽。羽音は小さい。気づくはずも無いだろう。


「蝙蝠さん、ですか……?」

「ああ。俺の名前はキバットバットⅡ世だ」

「俺、蝙蝠と話すのは初めてですけど、……なんか、変わってますね」


 相手がアンノウンではない。それは翔一の顔を緩ませるに充分であった。
 通常の人間とは、真逆の対応で返す翔一は、その存在を特殊とは知りつつも、いつも通りのマイペースで返す。


「お前も随分変わっていると思うが……まあいい、簡単に言ってやろう。……助けが必要な奴がいる」

108『クウガ』と『アギト』 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/11(土) 22:45:03 ID:wmV5c6.U
 翔一はその一言を聞いて、顔色を変えた。
 今、翔一が護りたいと願っている存在が、助けを呼びに来たらしい。
 人が傷つくのは嫌いだが、もし傷ついた人間が助けを求めているときは、それに応じる。──それが津上翔一という男なのだから。


「ついて来られるか?」

「ええ。今すぐ助けに向かいます! で、場所は?」

「こっちだ!」


 キバットⅡ世の飛んでいく先は、翔一が向かってきた場所とは真逆である。
 翔一は、自分が向かおうとしていた場所の建物の群れを一瞬だけ、未練でもあるように振り替える。
 そこに助けを求めている人がいるかのような予感がして──。


(でも、俺が今やるべきことは人を助けることだから……俺、行かなくちゃ)


 翔一は草原を突っ切り、キバットの後を追っていった。



△ ▽



「おーい、助けを呼んできてやったぞ」


 やっとか、とゴオマは思う。
 キバットの向かった場所が非常に遠かったせいか、その時間の経過は非常に長かった。
 ゴオマにとっても、退屈しか呼ばない。節々の痛みも癒されぬまま長い時間が経過していたのだ。
 体中の痛みを我慢し続けるだけの一時間数十分──話す相手も、戦う相手もない、というのは我慢ならないものである。
 それは強いストレスであり、赤黒の蝙蝠に対する怒りにも繋がっていた。


「今、助けに行きますから!」

「こっちだ、翔一」


 遠くから聞こえてくるそんな声に、笑みを漏らす間もない。
 力を発動させる。そのためにゴオマは体に力を込める。

 ……が、彼はまだその姿を異形へと変えることができなかった。
 あとほんの数分、彼に与えられた時間は足りなかった。


「大丈夫ですか!?」


 と、ゴオマを見つけた翔一は瀕死の男に近づいた。
 ゴオマの姿は変わっていない。……そのため、翔一は相手を「人間」としたうえで近づいた。


「……大変だ、これだけの傷じゃあ歩けないでしょう……」


 ゴオマは、もう一度変身を狙う。が、またしてもその姿は人のまま変わることはない。
 蝙蝠としての自分を発揮できないのだ。


「……もしかして、こいつにやられたんですか?」


 そんなゴオマの思惑も知らない翔一は、先ほどから気になっていた「それ」に目をつける。
 赤い鬼の異形──その、ピクリとも動かない姿。
 それは、彼のいた世界で言うなら、アンノウンという存在に酷似していた。

 彼らは、アギトに覚醒する人間ばかりを狙う。
 決して人は殺さない。もし、この男がアンノウンに狙われたとしたなら。そして、そのアンノウンを倒したなら、きっと──


(この人はアギトだ。……それなら尚更、一緒にいてあげないと)


 この殺し合いにアンノウンが参加している以上、彼はまた狙われることになる。
 それを阻止する、それが彼の──仮面ライダーのやるべきことなのだから。

109『クウガ』と『アギト』 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/11(土) 22:45:44 ID:wmV5c6.U
「でも、この人の怪我、ここにあるものじゃ治せそうにないな……」


 アギトならば、ある程度治癒力は高いはずだが、現状の彼はアギトに変身したことによって逆に強い疲労感に陥っている。
 例えるなら、ギルス──。不完全なアギト。


 そんな思考の中に潜り込んだ翔一を、──彼が何を考えているかは知らないが、ゴオマは嘲笑った。
 ようやく、ようやくだろう。
 不思議な力が血潮とともに、ゴオマの中を駆け巡っている。
 その力が、解き放たれた。
 彼は、その究極の力を使い、再び黒の蝙蝠へと変身した。


「──やっぱり、アギトだったんですね」


 翔一は、変身したゴオマを前にしても、妙に達観した姿勢で見守る。
 そう、彼は目の前の男のアギトとしての不完全な姿を見守っているのだ。
 ゴオマが、湧き上がる力とともに立ち上がり、翔一に右の拳を送り込んだ。
 その受身を取りながら、翔一の腰にオルタリングが光る──変身。

 仮面ライダーアギト。
 完全なアギトである彼が、目の前の「不完全なアギト」を止めるためにその力を目覚めさせた。


「クウガ!?」


 ゴオマがそう誤解するのも無理はない。
 その複眼、そのベルト、その金色の角。全てがゴオマらグロンギの宿敵に酷似していた。
 ──ゴオマにとっては、都合の悪い相手に他ならない。


「とんでもない展開になってきたな……。俺は知らんぞ」


 キバットは天上にその足をつけて二人から距離を置く。
 戦いを避けつつも、蝙蝠の怪人には何か──キバの面影を思い出さざるを得ない。
 全く別の変身方法、全く別の形状とはいえ、蝙蝠のシルエットは同じである「それ」の姿を見つめる。


(この人、あんまり攻撃できないな……)


 傷だらけの体で攻撃をするゴオマに、アギトは防御の姿勢を固める。
 倒すのが目的でない戦いは、なかなか難しいものがあるのだ。
 一撃、一撃、一撃。突き刺さるように痛い──が、反撃はできない。


「クウガ ヂバサゾ ヅバパバギボバ(クウガ 力を 使わないのか)」


 アギトの耳に流れる、意味不明な言語。
 もう一度、「クウガ」という単語が聞こえている。
 そのフレーズが、頭のどこかでつっかかってくる。

 だが、ゴオマはその思考から何かを取り外す間も与えなかった。
 次の一撃。最早、グランドフォームの彼では防御し切れない攻撃であった。


「すみません!! 誰だか知らないけど──」


 ゴオマの傷を抉るような、アギトのパンチ。
 その、たった一撃でゴオマは全身にしびれるような痛みを帯び、その体を床に倒した。

110『クウガ』と『アギト』 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/11(土) 22:46:34 ID:wmV5c6.U
「少し痛いけど、我慢してもらいます」


 倒れた彼に、馬乗りになってその首筋に軽いチョップを見舞わせる。
 と、全身傷だらけに疲労という危機的状態であったゴオマは意識を失い、その体を人のものへと戻らせた。

 最早、彼にはモモタロスによって変身すらままならない傷を受けていたのだ。
 これから先の戦いに響く、重大な傷の数々を。


「容赦ないな」

「これくらいやらないと、この人は止まらないかもしれないから」

「まあ、妥当な判断だろうな」


 倒れたゴオマを、アギトの変身を解いた翔一が背負った。
 流石に重いようで、平均を保つには数秒の間をおくことになる。
 だが、彼を背負った翔一に迷いはなかった。


「キバット、俺、この人を連れて病院に行ってくる」


 病院のあるエリアは遠く、どれだけ時間がかかるかわからないが、このまま工場などにいてもまず彼は助からないだろう。


「なら、俺はバッグの中で昼寝をさせてもらう」

「ああ、キバットは休んでて」


 そのまま、キバットは翔一のデイパックの中へと消えて行った。
 津上翔一──彼はその遠い道程を越えて、不完全なアギトを救おうとしていた。


 それがかつて世間を騒がせた未確認生命体である、ということさえ知らずに──。


【一日目 日中】
【G-1 廃工場の一室】


【ズ・ゴオマ・グ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第39話「強魔」、ダグバに殺害される前
【状態】疲労(極大)右頬に軽度の裂傷、左掌に軽度の裂傷、右足に重度の裂傷。気絶中。翔一に背負われてます。ズ・ゴオマ・グ究極体に二時間変身不可
【装備】なし
【道具】支給品一式、ガイアメモリ(スミロドン)、不明支給品0〜1
【思考・状況】
※以下、気絶前の思考です。
基本思考:優勝する。できればダグバは自分が倒す。
1:とりあえず休む
2:クウガ……?
【備考】
※怪人体には究極体にしかなれず、強化形態の制限時間に準じます。
※ルールブックは粗方読み終わりました。


【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終了後
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ケータロス@仮面ライダー電王、ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
1:打倒大ショッカー
2:殺し合いはさせない
3:この男性(ゴオマ) を病院に連れて行く。
4:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触
5:木野さんと会ったらどうしよう?
【備考】
※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。
※響鬼の世界についての基本的な情報を得ました。
※ゴオマを「不完全なアギトに覚醒した男」、モモタロスを「アンノウン」と認識しています。


【共通備考】
※G-1の廃工場の一室にモモタロスの死体(首輪付き)と、モモタロスォード、モモタロスのデイパック(不明支給品無し)があります。

111『クウガ』と『アギト』 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/11(土) 22:47:14 ID:wmV5c6.U
以上、投下終了です。
問題点、修正点などあれば指摘お願いします。

112 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/12(日) 09:37:29 ID:kwYJVenA
投下乙です!
ゴオマにせよ翔一君にせよ、勘違いをするのは当然ですよね〜
お互いの存在を、詳しく知らないのですし
そしてⅡ世がここで登場ですか。
どうなるか楽しみです

あと、翔一君の状態表ですが
アギトの変身を解いたのですから、それも表記した方がいいかと

それではこれより、左翔太郎を投下させて頂きます

113Xの可能性/悲しみを背負い ◆LuuKRM2PEg:2010/12/12(日) 09:40:58 ID:kwYJVenA



太陽の光に照らされた、G−7エリア。
そこは数時間前に起こった戦いによって、荒れ果てていた。
ここの大地には、小さく盛り上がった土の山がある。
その前で、黒いハット帽を被った一人の青年が立っていた。
左翔太郎。
『Wの世界』を代表する仮面ライダーに変身する、青年の一人。
彼の手には、鋼鉄製の首輪が握られている。

「すまねぇ……木場さん。俺が不甲斐ないばっかりに…………!」

悔しげな表情を浮かべながら、拳を握り締める。
翔太郎は、先程の戦いを思い返していた。
この会場に連れてこられてから出会った優しい青年、木場勇治。
『ファイズの世界』で生まれた彼は、ドーパントのような異形の存在になった。
だが、絶対に悪ではない。
彼もまた、こんな戦いを止めようとしていたのだから。
だが、情けない自分を庇って、死んでしまった。

(これじゃあ、おやっさんの時と同じだ…………! 俺は、今まで何をやって来たんだよ!)

灰となった木場が眠る墓を見て、翔太郎は思い出す。
それは全ての始まりである、ビギンズ・ナイト。
相棒の母、シュラウドから受けた依頼。
恩師である鳴海荘吉と共に、ミュージアムからフィリップを奪還するため、とある施設に進入する。
初めは、順調だった。
だが、自分が不甲斐ないばっかりに、おやっさんを死なせてしまう。
それでも何とかフィリップだけでも助け出し、相乗りをした。
こうして、自分は仮面ライダーWとなって、風都を守るための戦いに身を投じる。
あれからもう、一年以上の時が経った。
あんな事は二度と、起こさないと誓ったのに。
木場さんを死なせてしまった。
見ず知らずの自分に、協力してくれたのに。

(ちくしょう…………俺は一人じゃ何も出来ねぇ能無しなのか? やっぱり、フィリップがいないと――――?)

その考えに至った途端、翔太郎はハッとしたような表情を浮かべた。
こんな時に、いない相棒にすがってどうする。
あいつだって、何処かで戦っているはずだ。
それに、ここには照井竜や鳴海亜樹子だっている。
恐らくあいつらは、この戦いを止めるために動いているはずだ。
なら、自分はこんな所で止まっている場合ではない。

――世界を救うために……行けよ、人類の味方……仮面ライダー……

最後の言葉を、思い出す。
そうだ。後悔に沈んで足を止めることは、木場さんに対する最大の侮辱になる。
あの人も、戦いを止めようとした。
だったら俺は、あの人の意志を継いで大ショッカーを倒す。
決意を新たに固めた翔太郎は、思いっきり頬を叩いた。

「木場さん、俺は情けねぇかもしれない。でも、こんな馬鹿な戦いだけは…………絶対に止めてみせるからな!」

その言葉は彼の真っ直ぐな気持ちを表すかのように、力強い。
ふと、一陣の微風を感じる。
それはとても心地よくて、まるで風都に吹きつける風のようだった。
一瞬だけ、気持ちが揺らぎそうになる。
しかし、今はそんな場合じゃない。

114Xの可能性/悲しみを背負い ◆LuuKRM2PEg:2010/12/12(日) 09:48:07 ID:kwYJVenA

「行ってくるぜ、木場さん」

木場の眠る墓標に、踵を返した。
仲間達と再会し、こんな戦いを強制させる連中を潰すため。
そして木場が死んだことを、同じ世界の住民に伝えなければならない。
行きつけのクリーニング店のバイト、乾巧と園田真理。
その友人である草加雅人と三原修二。
木場の頼れる仲間である、海堂直也。

(そして、気を付けるのはこの村上峡児って奴だな……)

村上峡児。
木場さんの話によると、悪の道に走ったオルフェノクはスマートブレインという会社で、人々を襲っているという。
そして、村上という男がそれを束ねているらしい。
もっとも詳しいところまでは、謎に包まれているらしいが。
だが何にせよ、警戒するべきだろう。

(にしても、どういうことだ? 霧彦や園崎冴子、それに井坂の野郎まで…………)

翔太郎の中で、疑問が増え続けていた。
その理由は、名簿に書かれていた参加者の名前。
既に潰した組織、ミュージアム幹部の名がいくつも書かれていた。
風都を愛していたガイアメモリの販売人、園崎霧彦。
その妻であり、フィリップの姉の一人でもある、園崎冴子。
そして、照井の家族を殺した男、井坂深紅郎。
全員既に死んだはずなのに、何故。

(まさか、ネクロオーバーとなって蘇ったのか……?)

一つの仮説を翔太郎は立てる。
かつて風都にT2ガイアメモリをばらまき、町のみんなをドーパントにさせた組織、NEVER。
その構成員は世界中で破壊活動を行う、傭兵集団だ。
しかしただの人間ではなく、様々な化学薬品を投与した結果、再び動き出したネクロオーバーと呼ばれる死体。
仮面ライダーエターナルに変身した、大道克己を筆頭としたあの組織ではなく、財団Xに所属していた加頭順もネクロオーバーだったらしい。
だとすると、あの大ショッカーとかいう組織に、財団Xが関わっている可能性がある。
目的は、自分達の存在を守るため。
大ショッカーに協力すれば、Wの世界の人間が全滅しても、財団Xは消滅しないようになっている。
その見返りとして、ネクロオーバーの技術を提供した。
財団Xが関連していないにしても、大ショッカーが自分の世界から技術を吸収した事は、充分にあり得る。
そして、この殺し合いを進めるために、ミュージアムの幹部達をネクロオーバーにして蘇らせた。
あるいは、違う世界にはネクロオーバーのように死者を復活させる技術があり、それを利用したか。
恐らくその際に、Wの弱点に関する情報を全て与えられてるかもしれない。

(それだけじゃない、下手すると大ショッカーの奴らがとんでもない事を、あいつらにしたかもしれねえな……)

次に彼は、主催者の方に思考を巡らせる。
大ショッカーは、多くの世界に存在する住民達を集めて、この戦場に放り込んだ。
この事実から察するに、技術力は本物と言ってもいいだろう。
恐らく、自分の世界で猛威を振るっていたミュージアムや財団Xと同等。
いや、それすらも上回る可能性は充分にある。

115Xの可能性/悲しみを背負い ◆LuuKRM2PEg:2010/12/12(日) 09:50:36 ID:kwYJVenA

(参ったな……こりゃ、こっちの手札は完全に読まれてるって考えた方がいいな)

多くの世界から人間を攫ってくるような組織だ。
仮にフィリップ達と再会し、エクストリームの力を取り戻したとしても、大ショッカーはその上を行っている。
いや、そもそもエクストリームメモリがこの会場にあるのかどうか。
自分の切り札を、わざわざご丁寧に用意するとも思えない。
仮に誰かの支給品に混ざっていたとすれば、それはそれで問題だ。
例え本来の力を取り戻しても、何の脅威にもならないという意思表示に他ならない。
それ以前に、手元に帰ってくる可能性自体が、そこまで期待できない。
先程戦ったあの黒いライダーのように、危険人物の手に渡っていたらどうなるか。
今の力では取り戻すことは、困難に近い。
最悪、メモリ自体を破壊される可能性もある。

(…………いけねぇ、また情けない事を考えてどうする。こんなんじゃ、フィリップ達と合流したって何も出来ないだろ)

翔太郎は、自分を叱咤した。
木場の死が原因で、思考が後ろ向きとなっている。
だがそんなことは許されない。
今は不安に駆られることではなく、行動することからだ。
おやっさんも、きっとそうするはず。
それならまずは、先程戦ったあの黒いライダーを探すことからだ。
妙なカードを使っていた、異世界の戦士。
どんな理由があるにしても、木場さんを殺したのは紛れもない事実。
必ずこの手で、ぶっ潰さなければならない。
このまま放置しては、犠牲者は増えるばかりだ。
涼しい風を身体で浴びながら、翔太郎は歩く。
木場勇治の意志を継いで。




そんな彼の姿を、物陰から見つめる存在があった。
とても小さく、緑と茶色という二色に彩られた身体が、太陽に照らされている。
彼は『カブトの世界』から連れてこられ、この戦いの見せしめにされた男。
影山瞬の相棒だった。
ワームと戦うために生み出された、マスクドライダーシステムの一つ。
仮面ライダーパンチホッパーに変身するための、バッタ型変身コアだった。
実は木場の荷物の中には、一つのベルトが眠っている。
それに呼応するように、彼もまたこの場所に現れたのだ。
目の前の男は絶望を味わったが、すぐに光を取り戻す。
しかし、まだ見限るのは早い。
もしかしたら、これから更なる暗闇が彼に襲いかかる事もあり得る。
だから今は見守ろう。
この男の行く末を。
翔太郎の後をついていくように、ホッパーゼクターは跳ね続けた。

116Xの可能性/悲しみを背負い ◆LuuKRM2PEg:2010/12/12(日) 09:51:54 ID:kwYJVenA
【1日目 日中】
【G−7】


【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】健康、悲しみと罪悪感、それ以上の決意、ライダージョーカーに1時間変身不能
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、翔太郎の不明支給品(0〜2)、木場の不明支給品(0〜2) 、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、首輪(木場)
【思考・状況】
1:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
2:カリス(名前を知らない)を絶対に倒す。
3:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
4:『ファイズの世界』の住民に、木場の死を伝える。(ただし、村上は警戒)
5:ミュージアムの幹部達を警戒。
【備考】
※ 木場のいた世界の仮面ライダー(ファイズ)は悪だと認識しています。
※ 555の世界について、木場の主観による詳細を知りました。
※ オルフェノクはドーパントに近いものだと思っています(人類が直接変貌したものだと思っていない)。
※ ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。
※ また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※ ホッパーゼクターにはまだ認められていません。

117 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/12(日) 09:52:41 ID:kwYJVenA
以上で投下終了です
疑問点及び矛盾点がありましたら、ご指摘をお願いします

118二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/12(日) 15:35:36 ID:fnOo2Mio
◆LQDxlRz1mQ氏のクウガとアギトなんですけど、2点ほど軽い突込みを
まずモモタロスを見て津上がすぐアンノウンと判断してますがモモの容姿はどう見ても鬼ですよね?
日高が鬼に変身する力を持ってるということを津上は把握してますがその実物はまだ見ていません
モモタロス=アンノウンよりもひょっとして鬼?と考える方が違和感はないかと
その後のゴオマの変身で鬼じゃなくてアンノウンだったのかな?という思考にたどり着くのはありえるとは思いますが…
ただ津上の知る限りのアギトの容姿とゴオマの姿はかなりかけ離れてるんですよね。アンノウンをアギトと勘違いした描写とか劇中にはないですし
アギトと感じるよりも他の世界の怪人と考える方がより自然だとは思います

それとこっちは本当軽い突っ込みなんですが時間軸的にズバットは津上よりも城戸、小沢コンビの方が見つける可能性は高いのでは?
このコンビ、日高から情報をもらって昼の時間のままG-2橋まできてますし
さらに言えばゴオマの変身制限が解除されてる事を考えると少なくとも津上はG-2に戻る際にコンビに気づくはずです
まぁズバットも津上も『視界が狭かった』で済みますがw
もしくはこのコンビがその時間帯にはG-2エリアにいなかった、とか。これは城戸、小沢コンビの今後の描写次第ですね

119二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/12(日) 15:48:58 ID:fnOo2Mio
◆LuuKRM2PEg氏投下乙です。細かい事ですが>>113の あれからもう、一年以上の時が経った。
W最終話で更に1年経過してますし二年以上は経過してますよね。別に一年以上のままでまったく問題ないのですが

どうでもいいけどホッパーゼクターってロワの中じゃ結構尻軽ビッチですよnうわ何をする(ry

120 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/12(日) 16:27:31 ID:oeVsRiWU
>>118
「代償」の描写を考えると、モモタロスはうつ伏せに倒れているので、それが角だと認識するのは難しいと思います。
また、工場の一室はあまり光が届いていない場所と描写したので、翔一は現状で「異形」以上の条件を把握できなかったというのが言い訳です。
彼にとっての異形っていったら、アギトやアンノウンですし、アンノウンと描写しました。
……実はヒビキさんと鬼についての情報交換してたのを忘れてたってのもありますけど……。
「鬼」だと認識したほうが展開的に美味しかったですね……反省します。誰か、今後の書き手さんにお願いしたいです。

ゴオマの変身に関しては、翔一もアギトについてかなり凄く詳しく知っているわけではないですし、アギトの外見の条件に「これ」という決めがあるというわけではないと思います。
まあ、翔一も不完全なアギトについては劇中でもギルス、アナザーアギトの2種類見ているので、不完全アギトの姿が何種類か存在しているというのは認識してると思うんです。
ゴオマの姿が彼の知るアギトの姿でないにしても、不完全なアギトだと認識するならば問題ないと思って書きました。
他の世界の怪人といっても、彼の場合は実際に見たことがあるわけではないですし、……まあ、未確認生命体が普段人間の姿をしていることなら知っているかもしれませんが。

2バットの視界は基本的に向かった先が人のいそうな街でしょうし、橋にいた小沢さんと真司は視界に入らなかったと思ってください(殺し合いを把握していない彼が街に向かうのは一応当然?)。
翔一は工場に向かう際、草原を突っ切って向かったと描写したので、道路を渡っているであろう小沢真司には気づかないと思います。
見晴らしの良い草原とはいえ、隣のエリアが見えるとするなら今までの作品にも矛盾ができてしまうでしょうし……。

121二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/12(日) 16:41:12 ID:fnOo2Mio
◆LQDxlRz1mQ氏が直すつもりはないようなのでこのままでも構わないと思います
人が姿を変える=アギトって考えがおかしいと私は思いますが
津上は日高の変身を実際に見たわけではないので変身の際に物を使う発想がまだ乏しいのでは
とすると他の参加者の変身=自分と同じように変身、という思考になるでしょうし
変身したからこの人はアギト!は無理じゃねー、とか
展開的にはほとんど変わりませんし他の世界の参加者と認識するだけでいいと思いますが
まー結局は個人の考えの違いですしね。◆LQDxlRz1mQ氏が直さなくてもいいと思うならもうそれでいいと思います

キバットはE2方向の街は見えて同じ距離のG4の街も見えたけどとりあえずE2に向かったんですね
もうちょい落ち着けば城戸小沢コンビ見えたのに、この慌てんぼさんめ

122 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/12(日) 17:04:47 ID:oeVsRiWU
色々と思うところも多いのかもしれませんが、直さないでいいというのなら、一応このまま通すつもりです。
ひとつ修正点を挙げるなら、>>108の「赤い鬼の異形」という部分を「赤い異形」と差し替えておきます。

では、北條透、門矢士を投下します。

123ただの人間 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/12(日) 17:05:37 ID:oeVsRiWU
 遂に、草ではなくアスファルトを踏むときが来た。
 自分でも、よくここまで来たと関心してしまう。
 私こと北條透は、それだけ険しい道を歩んできたのだから。
 私の背負ってきた青年──名は知らないが、彼はきっと仮面ライダーと呼ばれる存在なのだろう。
 大ショッカーなる組織が見せた映像と、彼の変身した姿はそれだけ酷似していた。

「……だというなら、私が保護する対象ではないでしょうに」

 自分でも呆れてしまう。
 仮面ライダーという存在が本当に世界を破壊するというのなら、私は彼を殺す。それだけ危険な存在だというのなら、生かしておけば人類にとってマイナスの存在としかなり得ないのだから。
 だが、彼のした行動は、言うならば──善。
 人間の善の心を信じる私としては、その「善人」という存在は極力保護したい。それに、この青年はアギトのように直接からだを変身させるわけではなく、特殊な器具を使って変身した……いわば、オーバーテクノロジーで作られたG-3システムのような存在だ。
 つまり、変身するのはただの人間。殺すのではなく、器具を破壊すれば済む話だ。

 ──それなら、アギトだけを狙えば良い話じゃないか……?

 私たちを狙った怪人は、アギトのようなタイプであったか。否だ。
 彼もまた、器具を使っての変身。──まあ、彼は決して善人では無かったが。
 アギトのようなタイプならば、仮面ライダーそのものを抹殺する必要がある。一方、器具を使って変身する仮面ライダーならば器具を破壊すれば終る話。
 それをせず、わざわざそれを渡して戦いを誘発するような真似をする必要はあるのだろうか?

「大ショッカー……やはり信用に足る組織では無さそうだ」

 本当に世界の破壊があるというのなら、私も自分の世界のために戦うだろう。
 そういった気持ちを逆手にとって、殺し合いを楽しむような意図が見え隠れしている。
 彼らの真意は世界の選別などではない。おそらく、それを餌にした殺人合戦を楽しむといったところだろう。

「その為に、この施設を借りるとは──いくら温厚な私でも、ブチギレてしまいそうだ」

 ──踏んだアスファルト。
 それが囲っているのは、警察署。私の職場であった。


△ ▽


 私は青年を、ソファに寝せると早速、人が身を守るための道具を探し始めた。
 私は彼と違って、仮面ライダーではない。この身一つで戦うというのは、いくらなんでも心細いだろう。
 ──まあ、デイパックの中に道具は配給されていたが、それは戦いの場で使うものではなかった。

 私の支給品を説明すると、ひとつは青年に応急処置を施した救急箱である。
 包帯、バンドエイド、消毒薬、ガーゼ、湿布……医薬品の類は少なく、道具の多くは傷を治すようなものばかり。
 大ショッカーとやらの義理だろうか。殺す道具で無かったのは、私としては気分が良かった。

 ふたつめは、ラウズアブゾーバーという器具。
 これは、仮面ライダーが使うものらしいが、もしかすれば青年のものかもしれない。私にとっては護身の武器にさえならないようなものだ。
 これと同時に、カードも必要なようだがそれは私には支給されていない。

 みっつめは、ファイズポインターとカイザポインターのセット。
 これもまた仮面ライダーの道具の一つであり、生身でもそれぞれ高性能ライト、双眼鏡として使うことができる。
 ライトは既に必需品として渡されているが、双眼鏡はまあ有難い道具といえる。

124ただの人間 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/12(日) 17:06:10 ID:oeVsRiWU
 ──だが、こんなものでは自分の身を守れるわけはない。
 これでは双眼鏡で敵が来るのを眺めて逃げるか、味わった傷を治すことしかできないのだ。
 当然だが、私も死にたくない。ましてや、こんなところで何もせず、誰にも知られずに死ぬというのは惜しいものがある。

 そのために、私の把握する限りの『武器のある場所』を片っ端から探していこうと私は歩いていた。

「……やはり、全て無くなっている」

 まるでコソ泥のような行動なので、気分が解せないが、警察のロッカーから銃があるはずの場所を漁っていく。
 厳重に鍵がかかっていたというのに、そこには何もない。監視カメラも起動していないように見える。どうやら、この殺し合いはそういうものらしい。
 この警察署も根本的に場所が違う。私の職場とは、窓からの情景が違うにも関わらず構造や壁の傷さえも同じ。

 これが、この世界における私の警察署なのだ。
 随分と見晴らしの良い場所に、私の警察署はある。そして、そんな世界が殺し合いに使われてたのだ。


 ふと、窓からちらりと映った『それ』に目が行った。
 見たことのあるものだ──あれは、そう。

「Gトレーラー……それに、あのバイクは……」

 トラックの銀と、傍らのバイク。
 私はその二つをよく知っている。それもまた、殺し合いの道具になったというのか。
 ──なんとも虚しい気分になる。
 私も、一度はそれに乗ってアンノウンと戦ったことがあったのだから。

 忘れはしない──憎らしい同僚が戦っていたGトレーラー。
 かつて警察が開発したバイク・トライチェイサー2000。
 その二つが、野に放置されている。
 下を見下げると、その二つの機械が確かに見える。

 その中身が果たして、G-3システムを装備したものなのかはわからない。──先ほどのロッカーのように、空ということもある。
 が、所謂凡人でしかない私は、G-3システムを積んでいるという可能性に賭けようと、その場へ向かっていた。


△ ▽


 ──私の求めていた可能性。
 それは、当たっていたのか間違っていたのか。

 警察署の思い当たる場所に、鍵はなかった。
 Gトレーラーの車体は、鍵無しで開くことを拒んでいた。
 もし、その鍵の在り処を挙げるとするなら──

「小沢さん、か……」

 彼女が持っているという可能性が高いだろう。
 このGトレーラーの全権を握る責任者は彼女だったのだから。
 私は折角、身を守れるだけのものを眼前にしながら、それを得ることができないもどかしさに、なんとかしてGトレーラーを開けようと何度もドアを開ける仕草をとった。
 ……が、駄目だった。

 もう片方。
 トライチェイサー2000は右のグリップが欠品している。──駆動キーでもあるトライアクセラーがないのだから、動くはずもない。
 仮に動いたとして、それをどう使うか。右グリップのないバイクを操縦する技術などあるはずがない。

 私は、一つ溜息をしてから二つの武器に背を向けた。
 ──が、ここで私は思い立つ。
 G3-Xと同系のシステムたちは、どこにあるのか。
 V-1システムやG3システムたちに関わった私は、一応その機密について知っている。

 ──地下だ。

125ただの人間 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/12(日) 17:06:58 ID:oeVsRiWU
 地下へ向かい、システムを回収すれば私にも勝機ができる。
 Gトレーラーなど使わなくても……。


「その前に……」


 あの青年、そろそろ目覚めた頃だろうか。
 システムが保管されているか確証のない私にとって、今武器と呼べるのは仮面ライダーだけなのだから。
 彼のことが、気にかかって仕方がなかった。


△ ▽


「まだ、目が覚めてはいないようですね……」


 私は門矢士の傷だらけの姿を横目に流した。見てみれば、少し位置がずれているような気もするが、寝相というやつだろう。
 彼の寝るソファを通り過ぎていく。


「落ち着かないな、あんた」


 私は、不意を突かれたように驚いた。
 どうやら、青年はもう、目を覚ましていたらしい。そうした上で私の行動を警戒していたのだろうか。
 まあ、無理もないだろう。我々は世界の存亡をかけて殺しあっていたのだから。


「起きていたんですか」

「ああ、少し前にな」


 青年は上半身を起こし、ソファに座ったような体勢になる。
 少し、傷はふさがってきたのだろうか。まあ、あれから何時間かになるのだから無理もない。
 私は彼と目をあわせる。それが、会話の第一歩だ。


「あんたが助けてくれたのか」

「お互い様ですよ。あなたも私を助けたんですから」

「確かにな、ギブアンドテイクってやつだ」


 ここで謙遜しないほど、態度の大きい男というのも珍しい。
 私より下の世代はこういう性格の者ばかりなのだろうか。
 事実とはいえ、社交辞令というものをわきまえたほうがいい。


「……私にはやるべきことがあるので、しばらくここで待っておいてもらいますが、念のためあなたの名前を聞いておきましょう」


 この男から解放されるためにも、私は適当に理屈をこねた上で名前を聞く。
 こんな男と一緒にいるとストレスで胃に穴が開いてしまいそうだ。
 ……助けてもらった手前、何もいえないのだが。


「門矢士だ、あんたは?」

「北條透。警察ですよ」

「警察か……俺と同じだな」

「は? まさか、あなた警察なんですか!?」


 私も流石に驚きを隠せない。
 警察にしては若く、その上に態度が大きすぎる。
 階級といった面倒臭いシステムのある社会で、こんな男が通用するのか。


「ああ、そうだったこともある。他にも色々やったが……俺の伝説を聞きたいか?」

「冗談として受け取っておきます」


 ──私はこの男が嫌いだ。

 そう、心の中で呟くと、私は警察署の地下へ向かった。


△ ▽

126ただの人間 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/12(日) 17:07:34 ID:oeVsRiWU
「……世界の破壊、か」

 俺は前にも何度か言ったような単語を呟く。
 仮面ライダーディケイドの存在による世界の破壊は止まったはずだ。
 それがまたしても、大ショッカーの手によって動いてしまったのか。
 どちらにせよ──

「大ショッカーは、俺が潰す!」

 そして、たとえ世界を破壊する存在だとしても、仮面ライダーを倒すというのはもう御免だ。
 かつて、敵になったことがあっても俺たちを支えてくれた戦士たち──仮面ライダー。

 1号、2号、V3、ライダーマン、X、アマゾン、ストロンガー、スカイライダー、スーパー1、ZX、BLACK、BLACK RX、シン、ZO、J。
 クウガ、アギト、龍騎、ファイズ、ブレイド、響鬼、カブト、電王、キバ。

 その名前を、姿をかつて俺は刻み込んだ。
 忘れもしない、世界を守る英雄たち。
 俺が出会ってきたその英雄たちが、世界を破壊する存在だとはもう言わせない。

 そして、誰よりも──


(俺が、仮面ライダーだ!!)


 「北條透」。その名を頭に刻み付けると、俺はディケイドライバーを強く握った。



【1日目 日中】
【E−6 警察署(警視庁)】
※外部にGトレーラーとトライチェイサー2000が並んで配置されています。


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】重傷(軽い応急処置済み)、疲労(大) 警察署のソファに座っています
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式、不明支給品×2
【思考・状況】
1:大ショッカーは、俺が潰す!
2:仲間との合流。
3:今はここで北條を待つ。
4:友好的な仮面ライダーと協力する。
【備考】
※デイバッグの中身は確認しました
※現在、ライダーカードはディケイドの物以外、力を使う事が出来ません。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。


【北条透@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終盤 アギト殲滅作戦決行中
【状態】疲労(小)
【装備】無し
【道具】支給品一式、救急箱@現実、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣、ファイズポインター&カイザポインター@仮面ライダー555
【思考・状況】
1:警視庁の地下で使えそうなものを探す。
2:牙王、アポロガイストを警戒する。(両名とも、名前は知らない)
3:知人と合流し、情報を集める。
4:小沢と合流して、Gトレーラーの鍵を渡してもらう。
5:士は嫌いだが、この場では一緒に行動するのも仕方がない。
【備考】
※Gトレーラーの鍵は小沢が持っていると考えています。

127 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/12(日) 17:08:15 ID:oeVsRiWU
以上、投下終了です。
修正点、問題点などあれば指摘お願いします。

128二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/12(日) 17:21:40 ID:fnOo2Mio
>>122
それでは津上がゴオマをアギトの異種と考えてる部分を異世界の怪人ないし参加者
という認識に修正お願いします。

129 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/12(日) 18:30:43 ID:kwYJVenA
>>119
ご指摘ありがとうございます
それでは、収録時にその様に修正させて頂きます

そして◆LQDxlRz1mQ氏、投下乙です
士はどうにか、一安心のようですね。
まだ、怪我が治ってないので分かりませんが
果たして、今後北条さんとはどうなるか…………?
今後が楽しみですね

130 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/14(火) 16:30:50 ID:/MFGFWLg
只今より、投下を開始します。

131カンタータ・オルビス ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/14(火) 16:31:26 ID:/MFGFWLg
 戦いの神──その異名を持つ戦士が、相刀を構えたまま二人の戦士を見つめる。
 自分の世界を守るために他人の命を消し去る覚悟を背負った二人の戦士。
 彼らの重い戦いを、彼は知らない。
 仮面ライダーが二人。怪人が一人。

 だが、これはダブルライダーが怪人と対峙する、という王道展開にはなり得ない。
 彼らは互いに敵なのだから。


 重力の赴くままに地を蹴ってエンジンブレードを振り下ろしたのは、仮面ライダーキバであった。
 その狙い目は、タブー・ドーパントである。
 が、その重力というものを無視するように、タブーは浮遊して後退する。振り下ろす間に、長い隙が出来るのは当然のことともいえる。
 小さな竜巻が、振り下ろした地面に一瞬だけ吹き乱れる。風の形を見えなくしたのは、地を焼いた火花だ。
 焦げの臭いすらもすき飛ばすように、紅の光がエンジンブレードを包み込んだ。


 それが、熱いと感じるまでにキバの脳はエンジンブレードを置いて後退するという手を考えさせなかった。
 その手は、自然と力を入れることを拒む。エンジンブレードの全てが、地面に落ちていた。
 手ぶらになったキバを、タブーの次の一撃が待つ。


「食らいなさい」


 キバの体の軋みはその命令に従順であった。意思がそうしているわけではないが、キバの体を赤いエネルギーが吹き飛ばす。
 宙を歩く目の前の敵に、強い重力の攻撃は効果が薄い。
 キバは立ち上がると、エンジンブレードを拾おうともせずにタブーを睨んだ。

 ──どうすべきか

 目の前の敵に適切な力は、ヒットが短く、刀身の重いエンジンブレードではない。
 飛び道具であるバッシャーマグナムだ。
 キバはそんな思考と共に、バッシャーのフエッスルを握る。


「バッシャーマグナム!」


 フエッスルを噛んだキバットは武器を喚ぶ。
 本来ならばキャッスルドランから排出されるはずのバッシャーの武器は、意外な場所から現われた。
 加賀美のデイパックである。デイパックから飛び出てきた胸像を、躊躇いながらもキバは握る。

 それはキバの能力を変える武器であった。
 バッシャーフォーム。緑を帯びたキバは、タブーの体に照準を合わせる。
 だが、それが銃の形をした以上、タブーがそう簡単にそれに当たるはずがなかった。

 銃口が向いていれば、弾丸を避けるのも難しいことではない。
 引き金を引く瞬間に、弾丸の軌道から体を反らせばいいだけなのだから。タイミングに問題さえなければ、当たらない。

 一発、二発、三発、四発。
 その全ての弾丸が虚空に消えていく。

 だが、飛び道具を使うのは彼だけではなかった。
 真横から受ける、五発、六発、七発、八発目の弾丸。それは、ガタックの肩に装備された、ガタックバルカンの雨である。
 まるで鴨が撃ち落されたかのように、タブーはふらふらと抵抗を続けながら重力に流されていく。

 それを、キバは見逃しはしなかった。
 彼の手は既に、先ほど地面に捨てたはずのエンジンブレードを握り、タブーの落下予測地点を捉えて走っていた。
 エンジンブレードの刃を天に向けたキバが、果たして何をしようというのか──ガタックは、加賀美は恐ろしい想像をする。

 ──串刺し。

132カンタータ・オルビス ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/14(火) 16:32:06 ID:/MFGFWLg
「渡君っ……!!」


 ガタックはそんなキバの行動に「狂気」を感じていた。
 彼がそれを望んで、楽しんでやっているわけではないというのは理解できる。──が、いくら敵が怪人といえど、そんな殺人に抵抗を見せない紅渡の行動を、肯定しようとは思わなかった。


 咄嗟に、そう、咄嗟に──

 ──CAST OFF──

 そんなキバを、止める。蛹から脱皮するように、そこから青いクワガタが姿を見せた。
 脱皮した「ぬけがら」はあと一秒で鴨を突き刺そうというキバを吹き飛ばす。
 それとほぼ同時に、キバの手から重量が離される。
 青い幻影が、キバの手から刃を奪っていた。抗う間もなく──それもまた、ガタックであった。


「ちょ、超加速……?」


 倒れ付すタブーは、その一瞬の出来事に戸惑いを覚える。
 知覚も難しいほどのスピードで地面を走った青い風。
 まるで、どこかのゴキブリのような力である。


 そんな戸惑いのタブーとは逆に、キバは立ち上がり、バッシャーマグナムをガタックに向ける。
 それは、あと一歩で敵を仕留めることができたキバの、怒りと嫉妬が込められていた。


「やめろ、渡君……っ!!」


 引き金を引いたキバも、それを当てた感触がないことに気づく。
 やはり、その──加速というシステムが厄介であった。
 一秒前のガタックを貫いたはずの弾丸は、今のガタックのいる場所を、ずっと前に過ぎ去っているのだから。


「渡、お前のやっていることは間違っちゃいない。だが……」


 ガタックに代わり、ベルトのバックルがキバに語りかけた。


「──お前らしくねえじゃねえか、こんなの」


 キバットは寂しそうに渡を諭す。
 キバの力を与える根源は、渡が残酷無比なやり方で敵を倒すことに、流石に抵抗を感じていたのだろう。
 黙っていたとしても、それは確かに彼の心の中に矛盾を生み出していた。

 敵を倒すことに、手段を選ぶ必要はない。相手が冷酷ならば尚更だ。
 ──だが、それは紅渡らしくはない。生き物を殺すことに抵抗を感じず、まして残酷にそれを殺めようというのは、人間の血を受け継いでいるものとして、間違っている気がするからだ。


「でも、僕はファンガイアを倒すんだ……大切な人の音楽を護るために──」

「それなら、それでやり方ってもんがあるだろうが……お前の、お前らしいやり方が」


 キバットの言葉に、一瞬だけ鼓音が高まる。
 もちろん、キバットは渡がどうやって世界を守ろうとしているかをまだ知らない。
 だが、そんな渡のスタンスをわかったうえで否定しているかのようなキバットの言葉。

133カンタータ・オルビス ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/14(火) 16:32:59 ID:/MFGFWLg
「──それでも」


 バッシャーマグナムの銃口がタブーを狙う。
 今のタブーは、身動きが苦手であった。立ち上がろうと、這い上がろうと、生き残ろうと、地面を押して足に力を込め、必死で戦おうとする彼女の姿に、何かが揺らぎかけた。
 が、渡の思いは変わらない。


「守りたい世界があるんだ!!」


 バッシャーマグナムの口が、次々と光を放つ。
 何発も、何発も。手加減などしない。死体になっていたとしても、撃ちつづける。
 そうでもないと、渡の精神が敵の攻撃を恐れ続けるのだ。

 世界を背負った彼を、プレッシャーが襲っている。
 渡の命は渡のものだけではないのだという、重さ。
 だから、敵の攻撃を食らってはいけないという精神的圧迫に見舞われる。

 もはや、何も見えてはいなかった。
 ただ、目の前で数え切れないほどの光が連射し続けられているというのは認識できた。

 それを止めたのは、ほかならぬキバ自身であった。
 渡ではない。キバットの羽がバッシャーマグナムを吹き飛ばしたのだ。


「なあ、もういいだろ、渡」


 キバの視界に、ようやく眼前の光景が見え始めていた。
 やはり、と渡もキバットも思っていた。
 ガタックがそこにいる。エンジンブレードを盾に、そこで弾丸を受け続けていたのだ。
 彼はただ、ひたすらにタブー・ドーパントという自分を襲った怪人を庇い続けていた。
 園咲冴子のためではなく、紅渡のために──。


「渡君……誰かの為に戦うことは、素晴らしいことだと思う。
 ……でも! そのために誰かを犠牲にするなんて、仮面ライダーのすることじゃない!」


 ガタックは、そう言い切る。
 仮面ライダーガタックは、その言葉と共にエンジンブレードを地面に突き刺した。
 いや、杖にしていたのだ。
 流石に、何発かの攻撃を彼は受けていたのだから。


「──隙あり、よ」


 タブー・ドーパントの声と、バッシャーのものではない乱射音。
 彼女の支給品は、GX-05 ケルベロスというガトリングガンであった。
 人間の手に開発されたとは思えないほどに、その威力は凄まじい。

 ガタックの背中を、幾度とない弾丸の嵐が突き刺した。
 クロックアップする間もない、怒涛の攻撃。
 タブーの持つ、強力な支給品とはこのケルベロスのことだったのだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 止まない悲鳴。
 仮面ライダーから発される、人間の声。
 わずか数秒で、そのガトリングガンは音を止む。しかし、その余韻としてガタックの背中に残った痛みは強かった。


 ガタックの力が消え、──加賀美新のうつ伏せがその場に残った。
 硝煙の臭い。背中を焦がすような熱。
 ガタックの力から解放された彼にも、その激痛が身を焦がす。

 一方、ケルベロスを構えているのもドーパントではなく、人間であった。
 それは園咲冴子に間違いない。
 息を切らした彼女もまた、硝煙の臭いを厄介に思っていた。
 ──それは、女として生理的に厭というだけだったが。


 そこにいる異形は、ただひとり。仮面ライダーキバ。
 好機といえる状況である。当然、人は仮面ライダーに勝てない。
 人の頭を潰すにかかる時間は、一秒もかからないだろう。

134カンタータ・オルビス ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/14(火) 16:34:03 ID:/MFGFWLg
 キバは加賀美に近づき、エンジンブレードを拾い上げた。
 重い。やはり、ずっしりとくる。


「おい、何をする気だ!? 渡ッ!!」


 キバットの声を、渡は聞こうともしない。
 ただ、それを高く振り上げるのみ。


 ──そのために誰かを犠牲にするなんて、仮面ライダーのすることじゃない!


 彼はそう言った。
 それが仮面ライダーなら、


「──僕は、仮面ライダーじゃない」


 そんなキバの前を、加賀美を庇うようにガタックゼクターが飛び回る。
 自らの選んだ相手を失いたくないと、キバの邪魔をするガタックゼクター──その心情は渡の殺し合いに乗った理由にも似ている。
 だが、加賀美を倒すうえでの障害となるのが確かであったそれを、キバは拳で叩き落とす。
 ガタックゼクターは羽音を鈍らせ、地面に落ちた。


「ガタックゼクター!!」


 そんな自分の相棒を見ると、加賀美も決して振り上げられようというエンジンブレードにこのまま殺されようとはしなかった。
 殺されてもいい。ただ、それが彼を止めることの手助けとなるのなら。
 だが、ここで殺しを覚えた彼はきっと、このまま止まることはない──

 加賀美は気合を振り絞り、震える足を立ち上がらせると、己の体ひとつでキバにタックルする。


(天道……お前なら、もっとマシなやり方ができたかもな……)


 無論、人の力は仮面ライダーを超えられはしない。キバは微動だにしなかった。
 だが、力が駄目なら、何か言葉をかけようと、加賀美は口を開く。


「お前はまだ、誰も殺してない! それなら──」


 その時──
 渡の体から、キバットが弾き出され、屈強な戦士・仮面ライダーキバは姿を消す。
 代わりにあったのは、非力な青年・紅渡である。

 変身制限。十分と定められていた時間を越えたキバは、渡へとその身を返した。
 加賀美も、渡もそれには驚きを隠せなかった。
 二人の口が自然と開く。目も見開く。

 渡の頭上。力加減を変えなければ持ち上げることのできないエンジンブレードの刀身が、バランスを崩す。
 止めようとしても止められない速度で、エンジンブレードはまっすぐ前に落ちていく。


 そう、エンジンブレードは加賀美新の頭めがけて、落ちていたのだ。
 それは、必然のように加賀美の頭を砕き、その中身を掘り出した。
 血飛沫だけではなく、何か嫌な固体までも、渡の体を触っていく。
 それが、人の死という事象だと渡は認識する。


「……うわ……うっ……うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

135カンタータ・オルビス ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/14(火) 16:34:49 ID:/MFGFWLg
 エンジンブレードは渡の手から滑り落ち、地面を撥ねた。
 血まみれの渡は、頭を抱えて座り込む。
 見たくない現実。そして、考えたくない未来。

 ファンガイアではない。
 人を、殺めた。
 それがどういうことなのか、この鉄の味がわからせようとしていた。

 キバットが何か、自分に向かって語らいかけているのが聞こえる。
 当然だが、それは叱咤の声。そんなもの、聞きたくは無い。

 ──心の底から加賀美をこんな風に殺めたかったわけではない。変身が急に解けてしまって、バランスを崩してしまったからこうなってしまった。
 湧き上がる言い訳。それが、恐ろしいほどに自分を責める。


「……たるっ!! 渡っ!!!!」


 キバットの怒号。
 それを聞きたくない、と渡はふさぎ込む。


「危ねえぞ、渡っ!!!!」


(────え?)


 キバットの声の真の意図をようやく悟った渡は顔を上げ、キバットの方に振り向いた。
 そこにあるのは、キバットだけの姿ではない。
 その後ろに見えるのは、ナイフを持った女性の姿であった。冴子である。


「戦え!! 渡!!」


 冴子の突き出してきたナイフを、渡はよろけながらも回避する。
 それを避けてもよろけたまま、渡は思うように動けない。
 喪失感。失望感。絶望感。嫌悪感。罪悪感。
 そして、強い恐怖感。
 あらゆるものが、渡の体をうまく動かさせてくれなかった。
 冴子が両手に持ち替えたナイフが振り上げられる。

 あの時──あの瞬間と同じ。
 こうして振り上げられた武器を、まっすぐに受けて加賀美は死んだ。
 その瞬間に見えた光景が、渡の脳裏をよぎる。

 ただ、何が起こったのかもわからずに刃先を見つめて驚愕の表情を浮かべた加賀美。
 死ぬ恐怖が、彼の思考を一瞬止めていたに違いない。

 そして今、渡は彼と同じ状況に陥っている。

 そのとき、渡は咄嗟にあの時の加賀美の行動を実行していた。
 効果的だと思ったからではない。この状況に加賀美の行動を連想させてしまったのだ。
 タックル。武器を持った相手に、生身でぶつかるという無謀なワザ。

 二人が、バランスを崩して地面に体をぶつけた。
 ナイフはどこか。
 渡は真っ先に、気になったものを探す。
 だが、そんな思考は不意の悲鳴にかき消された。


「いったああぁっ!!!」

136カンタータ・オルビス ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/14(火) 16:35:22 ID:/MFGFWLg
立ち上がると、冴子の左の太ももを血が汚しているのが見えた。見たところあまり深くはないが、ナイフが刺さったのだ。それでも充分、血が被服を染め上げていくのは早い。
 和らぐ恐怖感。だが、罪悪感だけは膨れ上がっていく。
 破裂してしまいそうなほどに、大きく膨れる。
 それはきっと、萎むことを知らない。

 悶える冴子。
 彼女の目には何も映っていない。
 渡の姿など、脇目にも映らず、ただその激痛と戦っている。

 それを見ると、恐ろしさが募っていく。
 他人にこれだけの痛みを与えないと誰かを守ることはできないというのだろうか……。


「僕は……それでも……」


 恐る恐る冴子の体に近づいていく渡。
 冴子はその姿をようやく認識する。自分が何度も殺そうとした相手であり、自分を殺そうとした相手。
 
 ──また、相手の番が回ってきた。

 そう、認識する。
 渡はそのナイフを抜き取ろうと、冴子の太ももをめがけて走り出す。
 一番手近な武器は間違いなく、それだった。

 加賀美のグロテスクな死体の傍らに落ちる重量の重すぎるエンジンブレード。
 弾丸の切れたケルベロス。
 胸像の姿になったバッシャーマグナム。

 それらより、今必要なのは抜き取って相手を仕留められるナイフ。
 それを目がけ、渡は飛び掛った。

 が、そんな渡の指先に痛みが走った。
 キバットの牙が、渡を静止するように渡の指を強く噛んでいる。
 力を与えるためではなく、失わせるために。


「いい加減にしろよ、渡!」

「うるさいっ!」


 渡はそんなキバットを振り払う。
 半泣きである。
 その表情が、純粋な痛みのものではないというのは、その場にいる誰もが気づいていた。


「なんだか知らねえが、お前がやってるのは、『人の音楽を奪う』ってことじゃないのか……!?
 あの兄ちゃんもお前の手で殺しちまって、これ以上罪を重ねるのか!? 渡!!」

「うるさいっ! うるさいよ、キバット!!
 これが僕の世界を守るためにやらなきゃいけないことで、名護さんや深央さん、太牙さん……みんなを護るためのことなんだ。
 だから──────」


 言いかけた、その渡の口を塞ぐように一言、誰かが割り込む言葉をかけた。


「──一時休戦、でどう?」

137カンタータ・オルビス ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/14(火) 16:36:04 ID:/MFGFWLg
 冴子である。冴子は左足を軽く曲げたまま、辛苦を噛む表情で立ち上がり、渡とキバットを睨むように見つめていた。
 彼女の形相は、終戦協定とは思えないほど──般若のように歪んでいる。


「私も私で、帰るべき世界がある。あなたにはあなたで、別の世界がある。
 残念ながら結果的に敵になるけど、このままじゃあお互い不完全でしょう?
 あなたは心が、私は体が不安定。このままゲームが進めば、二人とも脱落ね」

「……」

「あなたが戦って、私がトドメを刺す。それでどう? あなたは血を見なくていい……」

「やめろ、渡。こんなヤツの言うことを信用するんじゃないい!!」


 キバットが渡の顔を見ると、腑抜けになった彼は今にも冴子の話に呑まれてしまいそうな表情になっていた。


「口うるさい蝙蝠は私が預かるわ。互いに変身道具や武器を交換して、戦うときだけ元通りにする。
 そうすれば、私が裏切ってあなたを襲うこともないし、あなたが私を襲う心配もなくなる。
 どう? このまま私とあなたで争っても埒が明かないと思うけど」

「……ます」

「え?」

「やります。僕、しばらくはあなたと行動することにします」


 冴子はこのまま彼に殺されないという安心感で、笑みを浮かべる。


「じゃあ、早速私のガイアメモリとケルベロスをあなたに託すわ」

「僕の武器はエンジンブレードと加賀美さんのバッシャーマグナム、それにキバット……」


 二人は互いのデイパックを拾い上げ、武器を互いの手に渡す。
 無論、相手に明かされているものだけを渡して、都合の悪いものを渡そうとはしない。


「お、おい!! やめろ!! やめろ、渡!!」


 暴れるキバットを、渡はデイパックに放り込んだ。
 それを冴子に渡すと、渡は表情を引き締めた。


「契約完了ね。もし裏切ったときは、当然──死んでもらうわ」


 加賀美のようになる。──そんな身近な死が、渡の脳裏をよぎった。
 動いて、話していた人間が一瞬で脳の中身を撒き散らして死んだ。
 今も渡の背には凶器とともにその死体があるのだ。


「今までの事は一時お預けにする。この傷も、当然……ね」


 冴子は自らの傷口からナイフを抜き取っていく。
 深くなかったとはいえ、その表情は激痛との戦いを強制されていた。


「それから、あれも使わせてもらわないと」


 痛みの残留を押し殺しながら、冴子は渡の真横を通り過ぎる。
 彼女が手に取ろうとしているのは、エンジンブレードである。
 重々しいそれは、怪我人の──しかも女性の力で握ることは難しい。
 だが、ドーパントとして戦っていた彼女は苦汁を舐めながらもそれを握った。


「これじゃあ、色男も台無しね」


 加賀美の死体を見下ろして、彼女はそう呟いた。



△ ▽

138カンタータ・オルビス ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/14(火) 16:36:37 ID:/MFGFWLg
 主人を守ろうと身を張って、その結果として機能に一時的な障害を受けたガタックゼクターは、その羽を再び羽ばたかせた。
 だが、彼を待っていたのは加賀美新の物言わぬ姿である。

 悲しくは無い。
 そういう感情ではないが、何か大切なものを失ったようにガタックゼクターは加賀美という男を見つめていた。

 ガタックゼクターは、その男の腰を覆っている銀と、僅かな血色のベルトを取り外した。
 この男の表情はもう、潰れてしまってわからない。
 顔がない。
 それでも、その姿を見て、彼には何か未練があるような……そんな感じがしていた。


 仮面ライダーガタック。
 その最初の資格者はここに死んでしまったが、ガタックは死んではいない。
 彼の遣り残したことを果たす《ガタック》を探すために、ガタックゼクターは羽ばたいていった。


【加賀美新@仮面ライダーカブト 死亡確認】
※ガタックゼクターとライダーベルトは次の資格者を探してどこかへ行きました。



【1日目 昼】
【D-8 園咲邸の庭】

【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】身体的には健康 返り血 加賀美の死にトラウマ 精神が不安定 二時間変身不可(キバ)
【装備】ガイアメモリ(タブー)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト
【道具】支給品一式
【思考・状況】
1:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
2:今は冴子と協力して参加者を減らす。
3:加賀美の死への強いトラウマ。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。


【園咲冴子@仮面ライダーW】
【時間軸】第16話終了後
【状態】左の太ももに刺し傷 疲労と小程度のダメージ 二時間変身不可(タブー)
【装備】キバットバットⅢ世@仮面ライダーキバ、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、バッシャーマグナム@仮面ライダーキバ、ファンガイアスレイヤー@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2、加賀美の支給品0〜1
【思考・状況】
1:最後まで生き残り、元の世界に帰還する。
2:同じ世界の参加者に会った場合、価値がある者なら利用する。
3:今は渡と協力して参加者を減らす。
【備考】
※照井と井坂を知らない時期からの参戦です。
※ガイアドライバーを使って変身しているため、メモリの副作用がありません。

139 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/14(火) 16:37:28 ID:/MFGFWLg
以上、投下終了です。
修正点、問題点、矛盾点などあったら報告お願いします。

140二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/15(水) 01:07:25 ID:dkmzxl1o
投下乙

ゲェーッ!加賀美の脳天がばっさりと
折角説得したのにこれじゃあな…

141 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/15(水) 02:09:19 ID:XYjC6a2.
只今より、鳴海亜樹子、野上良太郎、天美あきら、村上峡児、葦原涼、鳴海亜樹子を投下します。

142そして、Xする思考 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/15(水) 02:10:32 ID:XYjC6a2.
 空を飛ぶのは緑の怪人。──バード・ドーパント。
 その姿を変えたのは、村上峡児である。

 空気を切って、空を飛ぶ高揚感に見舞われ、思わず自分が逃走をしていることさえ忘れている。
 異世界の怪人が使う、その不思議な力。オルフェノクには及ばないが、やはり人類の進歩・進化が生み出した快感に打ちひしがれてしまう。
 人の科学の進歩は人を異形に変え、空を飛ぶ力を生み出した!
 もしかすれば、開発したのは異世界で同じように進化を果たした人類の力なのかもしれない。
 だが、もはやそんなことは関係ない。空を飛ぶことなど、宙を浮くことのできる彼には難しいことではないはずなのに──不思議な快感が頭の中の、縫合されていた何かをほどいていく。


 ガイアメモリの力。
 地球の持つ記憶の素晴らしさ。
 表面上は、そんなものに溺れている感覚。
 ──内面を巡っているのは、そんな圧倒的な力。
 敵を吹き飛ばし、地面を離れたこの感動。


 そんなバードの真横を、白い障害が遮り、一瞬だがバードの飛行を妨害する。
 バードはバランスを崩すが、体勢を立て直してその敵を目で捕捉する。

 空を飛ぶ、もうひとつの何か。
 それは、白鳥──そう呼ぶには、巨大すぎる何かであった。
 ドーパントや、オルフェノクではない。そもそも、人の形をしていないのだから。

 ブランウイング。バードは知らないが、その白鳥にはそんな名前があった。
 バードの体を、ブランウイングの羽から放たれる突風が吹き飛ばす。
 その力を前に、バードの重みは簡単に地面に落とされた。真下は草原。土でなければ、バードがすぐに起き上がることはなかっただろう。
 そうして起き上がったバードを、ブランウイングが低空飛行のまま襲う。
 絶体絶命である。
 敵の正体を知らないままここで負けるというのは、村上のプライドが廃ってしまう。──だが、オルフェノクの時と同じ要領で真横に避けようとした彼は、それをうまくかわすことができなかった。
 力が足りない。
 上級オルフェノクという「強すぎる力」では、それに比べて弱い力を制御するのが難しかったのか。

 避けるのが一瞬遅れる。
 ブランウイングはそのクチバシをバードの腹に向けて突き出し、死を与えるために向かっていく。


「ぐっ……!」


 一瞬だけその腹に刺されたような痛みを感じるが、それは本当に一瞬の出来事であった。
 何が起こったか──彼の視界に、白鳥の姿は無かった。
 白鳥が向かってくるだけの威圧感もなく、恐ろしいほどに押し黙った空気だ。

 そんな村上の心境は、安心ではなく戸惑いである。
 何故、止めを刺さないままに、怪物はバードの前で消えたのか。
 あんな絶好の機会を逃して、眼前で消えた理由は何か。


「まだ近くにいるかもしれませんね……」


 バードは周囲をきょろきょろと見回す。
 だが、見渡しの良い平原のどこにも、その巨体は見受けられなかった。
 本当に、近くにもいないらしい。
 どれだけのスピードで空を飛べば、こんなに早く姿を消すことができるのかはわからないが、とにかく敵が姿を消したバードは、ようやく安心することができた。


「そこまでよ、ドーパント!」


 バードが後ろを振り向くと、そこにあるのは三人の男女の姿である。
 戦いの中で、逃避を忘れたバードは多少の焦りを感じながら、三人と対峙する。

 もしや、彼らがあの白鳥を出したのか。
 だとすると、やはり本来の敵である三人には策がある。
 村上はわざわざ白鳥を撤退させてまで、目の前に現れた三人にどんな意図があるのか──それを理解できないまま、その「理解できない」という恐ろしさをかみ締めた。

143そして、Xする思考 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/15(水) 02:11:06 ID:XYjC6a2.
「もう一回いくで! 変身!」


 デンオウベルトを撒いて、ライダーパスを通過させる良太郎。
 仮面ライダー電王としての姿を望んだキンタロスであったが、──その体は装甲が包んではくれない。
 彼の姿は、野上良太郎の姿を維持しているのである。
 滑稽にも、変身ポーズは取っただけで終ってしまう。


「どういうことや!?」

「なにやら、策が外れたようですね」


 バードは再び、羽根を交えた突風を三人に送る。
 変身していない彼らは、あっという間に風に押されてしまった。
 だが、村上の目的は彼らの殺害ではない。このまま放っておいても村上に害はなく、むしろ弱者に手を下すことの方が遥かに──上の上の者としては小物すぎる。
 彼らがこうして視界を奪われている間に逃げようと、バードは彼らに背を向け、翼を開いた。

 ──だが、そんな彼の眼前から駆けて来る一人の戦士。


「ウガァァァァァァッ!!!」


 そんな咆哮とともに、緑の仮面ライダー──ギルスが猛獣のようにバードに飛び掛った。
 その武器は己の体。それのみであった彼のパンチが突き刺さるように痛いのは当然であった。


(全く次から次へと……ついていないですね)


 反撃するには、バードの能力は少なすぎた。
 その腹、胸、顔を次々と殴打する緑の怪人に対抗する術を、バードは持っていないのだ。
 その体を突き刺す一撃、一撃を黙って食らうしかない。
 そのもどかしさを痛感する。


 その瞬間──。
 バードのメモリは、彼の首輪から落ちて行く。
 十分間。それだけの時間が、この戦いでは過ぎてしまったのだ。
 ギルスが殴ろうとしたのは、バード・ドーパントではなく村上という一人の男性。
 その体を、ギルスは一瞬の躊躇とともに殴り飛ばした。


 村上の体は軋むような痛みとともに、後方へ吹き飛んでいく。
 そこにいるのは二人の女性と一人の男性。
 ──絶体絶命だ、と村上は感じた。


「……村上さん」


 そんな村上に、あきらが一言声をかける。
 村上はその姿を見上げるが、そこにいるのは彼女だけである。
 よく見れば、彼女がいるのはギルスと村上の間。まるで、ギルスが村上を攻撃することに抵抗しているかのように。
 ギルスは村上に掴みかかろうとした足を止める。

 そういえば、始めは仲間になるつもりで彼女に近づいたんだったか。
 考えの違いから、激突する形になってしまったが。


「私、言いましたよね? 私は困ってる人を助けるって」

「言ったでしょう? それは、この場では下の下の考えだと」

「人を助けようという気持ちや、何かを護ろうという気持ちに、格なんてありません」


 あきらの言葉に感銘などは受けない。それが、オルフェノクとドーパントの二つの力に溺れた人間の性なのだから。
 だが、彼女の言葉に負の感情を抱くこともなかった。
 一理ある、と言えるからだ。それに、その思考が結果的にあきら自身も、村上も傷つけていない。
 人を守る精神などで、自分の身を犠牲にすれば愚かしい話で、笑ってしまうところだが、結果的にこの状況ではあきらこそが正しかったのだろう。


「礼を言いましょう、天美さん。あなたの考えはもしかしたら、正しいのかもしれません。
 ですが、念を押して忠告しておきましょう。……あなたは、いつかその考えで身を滅ぼすことになる」

「構いません。それに、私は死にません」


 そんなあきらに、緑の仮面ライダーは歩み寄った。
 一瞬、四人の人間がそれを警戒する。彼らはまだ、彼の目的を認識していないのだから。


「……よく言ったな」


 ギルス──いや、葦原涼はそう告げ、あきらの肩を軽く叩いて村上に向かっていく。
 屈み込み、倒れた村上に目線をあわせ、涼は一言だけ彼に言った。
 彼が今、本当にすべきことはそれなのだ。

144そして、Xする思考 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/15(水) 02:11:45 ID:XYjC6a2.
「もう、人を襲うなよ」

「さあ、それはわかりません」

「それなら、俺がお前を見張る。それだけの力を持ちながら、なんでお前は人を護ろうとしないんだ」

「私には私の、授かった使命というものがあるんですよ。それに殉じる為には、そんな馬鹿な考えは捨てなければならない」


 彼はオルフェノクとなったその日から、悪へと変わった。
 狡猾で、冷酷。人の死など気にも留めず、他人の命を奪うことは厭わない──むしろ、人の命と引き換えに僅かな確立で行われる使徒再生こそが村上の目的なのだから。


「これ以上、人を襲うというのなら、俺はお前を潰す」

「……とりあえず、もう人は襲わないと言っておきましょうか。真実とは限りませんが」

「それが真実じゃなかったときは……俺が、そんなことさせない」


 涼は村上を睨むが、堪える様子は無かった。村上の表情は真顔のまま、変わらない。
 ただ、彼は『必要とあれば』敵を潰すのみである。


「村上さん、あなたは私たちが支えます。人を襲ったりなんて、もうさせないようにさせてみせますから」

「支える、ですか……。面白い表現ですね」


 村上は自嘲するように笑って、痛んだ体を立ち上がらせる。
 できれば、情報交換や必要時の共闘以上の関係は築きたくは無かったが、彼らはそういう方針で自分を仲間に引き入れようとしているらしい──当然、村上の意思は彼らとは真逆のものとなっているのだが。


「あなた方の正義感には関心しますよ。ただ、これ以上私のように『信用できない人』を仲間に引き入れようとするのなら、私はここを抜けます」

「構いません。ただ、しばらくはあなたをみんなで監視します」

「なんか、うまく話がまとまったみたいやな」

「フッ……。多勢に無勢というところですか。
 大ショッカーは不愉快な人間ばかり、たくさん集める……」


 村上は今の状況を皮肉って、そう呟いた。



△ ▽



 ──人を助けようという気持ちや、何かを護ろうという気持ちに、格なんてありません

 亜樹子の中から離れない、あきらのそんな言葉。
 確かに良い言葉だと、亜樹子は思う。だが、亜樹子はこの言葉の宿る『別の意味』を心の中で探っていた。

 人の何かを護ろうという気持ちに格はないと言う。
 誰かを護ろうという気持ちにも、格はない。
 それを、彼女は『敵を守る』という形で果たした。誰の命も護りたいという気持ちの表れなのだろうか。

 人を護りたいという気持ちが人それぞれなら、今亜樹子が護りたいと思っているものは何なのか。

 良太郎たちか。──いや、これは護りたいんじゃなくて、『傷つけたくない』というだけの感情だった。


 亜樹子が本当に護りたいものを浮かべると、浮かんでくるのは会って間もない彼らの顔ではない。

 翔太郎。フィリップ。竜。そして父、壮吉。──彼らと、彼らが護ってきた風都という街の、気の良い住人たち。
 彼らとの楽しい思い出たち。
 おどけた住人たちとの、何気ない時間。

 それを浮かべたとき、再びあきらの言葉が思い浮かんでしまうのだ。


 個々の持つ、誰かを護ろうという気持ち。そういう気持ちに偽りはなく、格はない。
 みんなを護りたいというあきらの気持ちと、風都を護りたいという亜樹子の気持ちにも格差などないのだ。

 傷つけたくないという気持ちと、守りたい気持ちのジレンマが、彼女の中で交錯する。
 翔太郎やフィリップ、竜はどう行動しているのだろうか──。
 彼らに会ったとき、彼らの護りたいものは何か。最早、そんなものは関係ないのかもしれない。


 そして、彼らの顔を思い出すたびに膨らんでしまうのは決意であった。

 ──私はやっぱり、風都を護りたい──

 風都という街を、愛する人たち。亜樹子もまた、その一人であった。
 だから、その愛がどうしても、他の何かに勝らない。

 それでも、彼女に良太郎を傷つけることはできなかった。


「私、やっぱりみんなと一緒に行けないよ」


 亜樹子は、思わずそう呟いてしまった。



△ ▽

145そして、Xする思考 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/15(水) 02:12:23 ID:XYjC6a2.
「……え?」


 あきらは、亜樹子の言葉を聞いて振り返った。
 凍り付いていく時間。四人が、皆亜樹子を見ていた。
 その威圧感に、先ほどの言葉を撤回したくなるが、やはりそれが亜樹子の気持ちだったのだ。


「ほら、敵を仲間にすれば、チームは分裂するんですよ」


 状況が状況ならば、亜樹子の心境を知らずに「村上とは行動できない」と認識するのは無理もない話であった。
 勝手に村上を仲間に引き入れてしまったあきらと涼は、彼女にかける言葉が見当たらない。
 そんな二人の様子を察して、良太郎──キンタロスが聞く。


「亜樹子、やっぱりこの男が信用できんのか?」

「違う……違うよ良太郎くん。私が……私が悪いんだよ。やっぱり、私は風都を捨てられない」


 亜樹子がそう言うことで、誰も傷つかないで済むように場を去ろうとする。
 村上の名前を利用して、この場を抜けることもできたが──それはフェアじゃない。
 亜樹子は今、とにかく誰かと関わりたくなかった。
 誰かと関われば情が移ってしまう。風都を守ることが難しくなってしまうから。


「一体、何があったの? 亜樹子ちゃん。さっきから顔色が変だよ」


 それをウラタロスの憑依した良太郎が問い返す。
 女性に関しては、ウラタロスに任せるのが一番と思っての判断だろう。
 だが、彼の言葉を素直に受け取ることができない。彼が心配してこういう言葉をかけているのは、亜樹子にもわかっているのだが──


「こんなときにふざけないで!」


 そんなきつい言葉を返してしまう。
 こんなに迷っている亜樹子とは対照的に、『芸』をするだけの余裕がある良太郎に、苛立ちを隠せない。
 怒号は響き、さらにその場を重くする。


「……ばいばい、良太郎くん。こんな状況じゃなければ、良太郎くんの芸も楽しく笑えたかもしれないのにね」


 亜樹子の頬を、気づかぬうちに熱い液体が流れていく。
 そんな顔を見られたくないし、──それ以上に彼らを見ていたくなかった。

 彼らが同じ世界の住人だったなら、こうして戦うことにはならなかったのに……。
 そんな、どうしようもない悲しみを抱きながら、亜樹子は走り出した。


 この先で誰かを見かけたなら、亜樹子はその相手を殺さなければならない。
 たとえ、良太郎や翔太郎、フィリップや竜のような人間であったとしても。そんな性格を知る前に、殺すしかない。


 まっすぐ、まっすぐ、まっすぐ、亜樹子は走る。
 その右手には支給された、小さな剣を握りながら。


 少し走ると、亜樹子の目は女性の姿を捉えた。
 その女性もこちらを見ていて、こちらの様子に気づいているらしい。


「ごめんなさいっ!!」


 間合いを狭めて、亜樹子はその剣を女性に向けて振るう。
 が、その女性は身を翻してそれを避け、亜樹子のわき腹に鉄パイプの一撃を送る。
 刃先が自分の方を向いている以上、それを避けるのは難ではないのだ。
 亜樹子は剣を手放して腹を押さえ、倒れこむ。
 スピードを出して走ってきた彼女には、尚更重い一撃であった。


(人間が相手なら、案外使えるんだね)

「うぅっ……」


 倒れこむ亜樹子を、彼女──霧島美穂は黙って見つめていた。
 先ほど、鳥の怪人にブランウイングをけしかけたのは、紛れも無い彼女である。

146そして、Xする思考 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/15(水) 02:12:53 ID:XYjC6a2.
(戦う女は私だけじゃないんだね……。でも、私は勝たなきゃいけない。
 彼女に同情なんて、してる余裕はないんだ!)


 鉄パイプが、次の一撃を送ろうとする。
 ……が、その手が止まった。

 女性の姿をしているということが相手を騙すスキルだというのは、美穂の経験上、覚えのある話である。
 特に、この場によくいる『バカ』ならば当然、女性の姿に引っかかってしまう。
 この相手を、利用しない手はないだろう。


「……私と、手を組みましょう」


 美穂はそう、亜樹子にけしかけた。
 わき腹を押さえる亜樹子も、激痛と戦いながら美穂の言葉を聞く。


「女が二人もいれば、男はきっと食いついてくる。ここにはバカがいっぱいいるからさ」

「……私は……」

「そういう能力がないと、この場を渡っていくのは大変ね。どんな手を使っても勝つ……。
 そうでないと、ライダーバトルを生き残るなんて無理だ」

「殺せる……わけないよ、……親しくなった人を……」

「──大丈夫。私が全部、教えるから」


 用済みになったら、この女も殺す。
 そんな思惑を抱きながら、美穂は笑顔で亜樹子に近づいた。


(たとえ同じ女でも、絶対に同情なんてしない。私は、勝たなきゃいけないんだから!)


【1日目 日中】
【C−5 草原】

【霧島美穂@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】映画死亡後
【状態】健康。アドベント ブランウイング2時間使用不可
【装備】鉄パイプ@現実
【道具】支給品一式×2、ファムのデッキ@仮面ライダー龍騎、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、不明支給品×0〜3(確認済み)
【思考・状況】
1:あらゆる手を使い他の世界の参加者を倒す
2:秋山蓮、北岡秀一、東條悟と接触、協力。
3:浅倉威は許さない、見つけ次第倒す。
4:城戸真司とは会いたいけれど…
5:今は亜樹子を利用して、一緒にステルスとして参加者を減らす。


【鳴海亜樹子@仮面ライダーW】
【時間軸】番組後半
【状態】わき腹を打撲 精神に深い迷い
【装備】ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式、装甲声刃@仮面ライダー響鬼、不明支給品(0〜1)
【思考・状況】
1:風都を護るため、殺し合いに乗る。
2:情を移さないため、あまり人と接触しない。
3:美穂と行動する。人を騙す術を教えてくれるらしいが…
4:良太郎やあきらとはなるべく会いたくない。
5:知り合いと合流し、そのスタンスを知りたい。
【備考】
※ 良太郎について、職業:芸人、憑依は芸と誤認しています。


△ ▽

147そして、Xする思考 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/15(水) 02:13:47 ID:XYjC6a2.
「私を仲間にしたのは良いですが、仲間が一人減りましたよ? 彼女はきっと……死ぬ、でしょうね」


 こうして複数人で行動する村上、あきら、良太郎、涼はそれぞれ安全圏にいると言っていい。
 だが、ライダーの力も持たない少女が一人で行動するということは──それだけ殺されやすい状況にいるということである。


「私、やっぱり追ってきます」


 あきらは真っ先にそう言う。が、それを涼は制止した。
 彼はただ一言、彼女に問うた。


「……この男を、一人で止めることはできるか?」

「え?」

「できるなら、俺があいつを探してくる」


 あきらがこのまま行っても、同じように危険だというのを涼は理解していた。
 亜樹子もあきらも、見た目の年齢はあまり変わらない。それぞれが一人で行動することが、等しく危険なことだというのはわかり切っている。


「できます」

「わかった。また、近いうちにここで会おう。一応、名前を聞いておくがいいな?」

「天美あきらです」

「……野上良太郎だよ」

「あきらに良太郎か。俺は葦原涼。あいつの名前は?」

「鳴海亜樹子ちゃん、だよ。くれぐれも、女性の扱いには気をつけてね」


 涼はウラタロスの言葉を冗談と受け取ったのか、それとも本気と受け取ったうえでか、それを無視して彼らに背を向ける。
 涼にもかつて恋人はいたが……その女性の扱いというものが悪かったと自覚している。
 ほとんど、会うこともない時期があり……やがてギルスの姿を前に、彼女は涼を拒絶した。
 正直、そういうものは苦手だったが、だからこそ、今度こそ失いたくないと彼を突き動かすのだ。
 涼が走り出した。彼らはただ、それを見送るのみ。
 やがて、彼が帰ってくるときまで、ここで待ち続けることしかできない。


「……あの男、私を無視するとは、下の下ですね」


 村上は、そんな小さな苛立ちをかみ締めた。



【1日目 日中】
【B−6 ホテル付近】


【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】中程度の疲労、胸元にダメージ 、仮面ライダーギルスに2時間変身不可
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品×1〜3(未確認)
【思考・状況】
0:今は亜樹子を負う
1:殺し合いに乗ってる奴らはぶっつぶす
2:人を護る
3:あきらや良太郎の下に戻ったら、一緒に行動する
4:鉛色と深緑の怪人を警戒
【備考】
※支給品と共に名簿も確認していません。

148そして、Xする思考 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/15(水) 02:14:29 ID:XYjC6a2.
【天美 あきら@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】 41話終了後
【状態】全裸 気絶中 全身に軽度の怪我 あきら変身体2時間変身不可
【装備】鬼笛@仮面ライダー響鬼
【道具】支給品一式、ニビイロヘビ@仮面ライダー響鬼、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト、不明支給品(0〜1 確認済)
【思考・状況】
0:ホテルの付近で涼を待つ。
1:人を助けるため、自分に出来ることをやる。
2:知り合いと合流する。
3:村上が人を襲うことがあれば、止める。


【野上良太郎@仮面ライダー電王】
【時間軸】第38話終了後
【状態】頭痛 ウラタロス憑依中 電王2時間変身不可
【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、不明支給品
【思考・状況】
1:とりあえず、殺し合いには乗らない。
2:あきら、村上と一緒に行動する。涼が戻ってくるのを待つ。
3:亜樹子が心配。一体どうしたんだろう…
4:モモタロス、リュウタロスを捜す。
5:殺し合いに乗っている人物に警戒
6:電王に変身できなかったのは何故…?
【備考】
※ ハナが劇中で述べていた「イマジンによって破壊された世界」は「ライダーによって破壊された世界」ではないかと考えています。確証はしていません。
※ キンタロス、ウラタロスが憑依しています。


【村上峡児@仮面ライダー555】
【時間軸】不明 少なくとも死亡前
【状態】腹部に痛み 二時間変身不可(バード、ローズ) バードメモリに溺れ気味
【装備】なし
【道具】支給品一式、バードメモリ@仮面ライダーW 不明支給品×2(確認済み)
【思考・状況】
1:殺し合いには乗らないが、不要なものは殺す。
2:あきら、良太郎らと行動するが、彼らに情は移していない。
3:亜樹子の逃走や、それを追った涼にはあまり感心が沸かない。
4:白鳥(ブランウイング)がどうなったのか気にかかる。

149そして、Xする思考 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/15(水) 02:15:00 ID:XYjC6a2.
以上、投下を終了します。

150二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/15(水) 09:32:57 ID:xD0CKghk
投下乙です
ああ、所長が殺し合いに乗ってしまったか
果たして葦原さんは、彼女を止める事が出来るのか。


そういや、社長はバードの力に溺れ気味みたいですけど
その度合いはデルタみたいに、書き手任せと考えればいいでしょうか?

151二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/15(水) 12:39:17 ID:kbpzesz6
投下乙

誤字の修正で葦原の状態表の追うが負うになっています。

152 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/15(水) 14:04:44 ID:Rf14KRsY
乾巧、園咲霧彦、紅音也、浅倉威、木野薫、ン・ダグバ・ゼバ投下します

153動き出す闇 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/15(水) 14:05:15 ID:Rf14KRsY
窓が締め切られ、昼だと言うのに薄暗い室内。
その中に置かれたベッドの白いシーツに溶け込むようにうずくまる白い青年がいた。
テラー・ドーパントの力で恐怖という名の感情を植えつけられた魔王、ン・ダグバ・ゼバ。
初めて覚えた感情を全身で、全神経で噛みしめる。
身体が地震のように震え、身体中から雨のように冷や汗を流す。
それでいながら心は真冬よりも凍えている、そんな感覚。
カチカチと何かがぶつかる音が聞こえ、目だけを動かし辺りを伺い音の出所を探し、出所が自らの口元である事を理解する。
聴覚に続き視覚までも恐怖を伝え始める。部屋の片隅の暗闇に何かがいるように思える。
自らの吐く息がすぐ耳元で誰かが囁いているかのように錯覚してしまう。

恐怖

他人に与える事はあっても自分は知る事ができなかった恐怖。
初めての体験に彼は、ン・ダグバ・ゼバは――

「あは、あはは……っ!」

歓喜した。
背筋が震えゾクゾクする。何千何万の命を奪って得た快感を軽く上回る震え。
くだらない事に怯える滑稽な自分自身すら楽しい。
いつまでも味わっていたいとすら思える感情、恐怖。

だが何事にもやがて終わりは訪れる。
身体の震えは徐々に収まり、妙に高ぶっていた心も次第に落ち着いていく。
ぼやけた視界も鮮明になっていき、幻聴も幻覚も消えうせていく。
ダグバは自らを力強く抱きしめた。
まだ内部に残る僅かな恐怖を逃さないよう、少しでも長く味わえるよう。
しかし手で掬った水のように、恐怖も彼の心から完全に消え去ってしまった。

ゆっくりと起き上がり、気が抜けたようにダグバは動かない。
右の手の平を見つめる。先ほどの震えは幻のように消えうせていた。
どうしうようもない喪失感がダグバを包み、次いで激しい欲望が膨れ上がる。

楽しい

恐怖は楽しい

もっと味わいたい

もっと震えたい。もっともっと怯えたい

いつもいつまでも、今よりももっと上の、さらに上の、もっともっともっと…………

すぐ近くで何かがぶつかるような音が何度も聞こえる。
恐らく先ほどの連中がまだ戦闘を続けているのだろう。
なら間に合う、いけばまた恐怖を味わえる。今度はじっくり、長く、しっかりと味わいたい。

恐怖という名の麻薬を求めダグバは部屋を飛び出した。その手の中に黄金色に輝く理想郷を握り締め――


  ◆  ◆  ◆

154動き出す闇 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/15(水) 14:06:24 ID:Rf14KRsY
市街地の開けた一角で4人の男達が対峙していた。
青い王冠と黒いマントを身に付けたドーパントの王、テラー・ドーパント。
全身を青く染めた鋼の面を持つ戦士、ナスカ・ドーパント。
全てを喰らい尽くさんとする紫の大蛇、王蛇。
黒いスーツに赤いラインが映える仮面ライダー、ファイズ。
しばらく様子見とばかりに4人は動かなかったが痺れを切らした王蛇がテラー・ドーパントへと駆け出す。

――Sword Vent――

電子音声を合図に虚空から飛ばされたベノサーベルを受け取りそのまま飛び上がる。

「オラァ!」

強引に振り下ろされた剣をテラー・ドーパントは軽々と受け止め、空いた右手で王蛇を殴り飛ばす。
吹き飛ばされかけた王蛇だが地面にベノサーベルを突き刺し即座に体勢を整え再び襲い掛かる。
先程よりも僅かに距離を離した位置から何度もベノサーベルを振るいカウンターを許さない。
対するテラー・ドーパントも木野自身の戦闘能力とテラーフィールドを巧みに操り、王蛇の連続攻撃を完全に捌ききる。

「中々楽しませるじゃねぇか、アァッ!?」
「ふん……っ!」

その戦いに加わわらずファイズは気絶したままの音也の傍へと駆け寄る。

「おい、あいつらがあいつら同士やりあうってんならわざわざ立ち入る必要はねぇだろ。紅背負ってトンズラしようぜ」
「いや……あのメモリはお義父さんの物だ。アレを手にする事ができれば、冴子だって私を認めなおしてくれるはず!」

剣を構えたナスカは戦場へと向かい駆け出していく。

「あ!?あの馬鹿……ちっ」

ファイズは気絶した音也と離れていくナスカを交互に見つめ――

「仕方ねぇ!」

ナスカを追って駆け出した。
走りながら自らの装備を確かめる。

               あいつ
(ポインターがねぇ!?エッジはバジンのハンドルだしな……ついてねぇな)

それでも残されたファイズショットにミッションメモリー差込み、右腕に装備しナスカに追いついていく。

「覚悟したまえ!」

ナスカが剣を構えるがテラー・ドーパントから放出されたテラーフィールドがその動きを封じる。
怯んだナスカを飛び越えたファイズが右腕を突き出すが紙一重で避けられその身を受け止められてしまい

「ふん!」

王蛇へと投げ飛ばされる。二人はそのまま絡まるようにゴロゴロと転がり、なんとか起き上がった。

「祭りだな、楽しいじゃねぇか!」
「うわっ!て、てめぇ!」

起き上がると共に王蛇がファイズへとベノサーベルを振るい、胸部装甲に傷を付けられる。

「お前、あいつが狙いじゃねぇのかよ!」
「俺は戦えれば誰でもいいんだよ!」

王蛇の狂気を感じつつファイズは追撃を避けきり体勢を整え距離を取る。
一方、動きを封じられたナスカにテラー・ドーパントがゆっくりと近づいていく。

「貴様、覚悟しろだと?ふざけた言葉を……」
「ふざけてなどいない。私は大真面目だ!」
「それがふざけてると言うんだ!」

怒りを顕わにしながら拳をナスカへと打ち付ける。
殴られた衝撃で拘束から抜け出したナスカは剣を構え

「超加速!」

一瞬の超加速でテラー・ドーパントに不意打ちの一撃を与えこちらも距離を取る。
ファイズとナスカ、背中合わせになりながらそれぞれの相手の動きを伺い、隙を見てファイズが小声で話しかける。

「おい、紅の奴を巻き込む訳にはいかねぇ。少しでも離れるぞ」
「仕方が無いか……」
「あいつが気になるって言うなら始末してやるよ」

――AdVent――

二人の様子から気絶している音也を気にしている事を悟った王蛇がカードを使用する。
耳鳴りのような音と共に民家の窓から紫色の巨大毒蛇ベノスネイカーが飛び出し、未だ気絶中の音也へと襲い掛かった。
咄嗟に反応できたナスカが超加速を再び使い、ベノスネイカーの前に立ちふさがり斬りつける。
しかし一撃を喰らった程度でベノスネイカーの闘志は消えない。唸り声をあげナスカとの睨み合いが始まる。
王蛇はつまらなそうに声をあげ、ベノバイザーを振り上げファイズを狙う、が。
ファイズは左腕でベノバイザーを受け止め、王蛇の腹部を蹴りこみ奇襲を防ぐ。
よろけた隙を逃さず右腕のファイズショットで強引に殴り飛ばし王蛇を突き放す。

今の一撃は多少は効いたのか、王蛇がしばらくは立ち上がってきそうに無い事を確認すると、
ファイズはテラー・ドーパントに向かうため振り返り、自らの目を疑う。
右腕を押さえうずくまっていたのだ。

「雅人、何故なんだ……雅人ぉぉぉ……」
「どうなってやがんだよ……」

155動き出す闇 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/15(水) 14:07:02 ID:Rf14KRsY
呆然とするファイズとは対照的にナスカは苦戦を強いられていた。
ベノスネイカーの巨体をいかした尻尾の振り抜きを剣で受け止めたと思えば頭上からナスカを飲み込もうと大口が迫る。
反撃を与える暇が無く回避と防御に専念させられる。本当なら飛行能力を活かし上空からエネルギー弾の乱射を行いたいが……
背後で眠る音也の事を考えるとそれもできない。目の前の壁が無くなった途端ベノスネイカーは音也を狙うだろう。

「私がこんな男の為に戦わなければならないとはな……!」

知り合って間もない、しかも自分とは明らかに価値観の違う音也。
それでも見捨てる事ができないのは何故だろうか、ナスカはふと考える。
思考のせいで一瞬動きが鈍ったのか、いつの間にか右腕に握られていた剣の刃先が溶け始めていた。
驚きつつも剣を放り捨てる。主から離れた剣はぶすぶすと音をあげながら溶けていきその姿を消した。
ナスカが溶かした正体を見極めようと視線を上に向ける。ベノスネイカーの口元から紫色の液体が溢れ、今にも零れそうに……

危険を感じた時には既に毒液は発射されていた。しかしナスカは慌てない、彼には超加速があるのだから。
ナスカに避けられ、毒液は当然背後にいた音也へと向かう。

「しまった!」

再び超加速を行おうとするが身体が言う事を効かない、制限もあるが超加速は確実にナスカの体力を奪っていたのだ。
見ているしかないのかと諦めかけた時、救いの手が差し伸べられる。
王蛇を退けたファイズだ。いつの間にか握られていたデイバッグを盾に毒液を受け止める。

「乾君か、助かった」
「気にすんな、慣れてる。しかし直接受け止めてたらヤバかったな」

ドロドロとデイバッグが溶けていき、中に仕舞い込まれていた支給品が零れ落ちていく。
用済みとなったデイバッグを放り捨てベノスネイカーに駆け寄りながらファイズフォンへと手を伸ばす。

――Exceed Charge――

ファイズドライバーから右腕に装備されたファイズショットにエネルギーが送られ赤く発光する。
グランインパクトの準備が整い、拳を振り上げ後は打ち付けるのみという所でファイズは突然吹き飛ばされた。
ファイズを受け止めつつナスカは辺りを見渡しすぐ近くに突き刺さったベノサーベルに気がついた。

「あの野郎、もう回復してやがったか……」

左肩を抑えながら悔しそうにファイズが呟く。その視線の先にはベノサーベルを投げつけた王蛇の姿が。

「そこそこ楽しめたぜ……こいつは礼だ」

――Final Vent――

主の命に従いベノスネイカーが王蛇の背後に回る。
ナスカとファイズを狙うその視界の隅に異形が映る。

「おいおい、逃げれると思ってるのか……?」

王蛇が飛び上がり、ベノスネイカーの口から放たれたエネルギーを背中に受け獲物へと飛び込んでいく。
その狙いはナスカでもファイズでも音也でもなく、この場から逃げ出そうとしていたテラー・ドーパント。
奇襲に気がつき咄嗟にテラーフィールドを盾のように展開し王蛇の必殺技を受け止める、が。

「ハッハァ!」

お構いなしに王蛇は連続蹴りを続け、少しずつテラーフィールドを蹴り破っていく。
限界を悟りテラー・ドーパントが逃げ出そうとするが一足先に完全にテラーフィールドを破った王蛇のベノクラッシュが炸裂した。

「俺は、まだ死ねない……」

吹き飛ばされてもすぐに立ち上がれたのは防御が少しでもできたからであろう。テラー・ドーパントは住宅街の中へと逃げていく。

「逃がすかよ……」

蛇のようなしつこさで王蛇はその背中を追い、住宅街へと消えた。


  ◆  ◆  ◆

156動き出す闇 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/15(水) 14:08:18 ID:Rf14KRsY
残されたファイズとナスカは一息吐くと共に変身を解除し腰を落とす。

「まったく、開始早々やんなっちまうぜ。紅の奴は結局起きねぇしよ」
「テラー・ドーパントの力は強大だ、生身で受けてはしばらくは起きないだろう……ゴホッゴホッ」
「おい、大丈夫かよ!?」

心配する巧を霧彦は右手でそれを制す。

「大丈夫、癖なんだよ……」

ナスカに変身する事は霧彦の寿命が削られていく事に他ならない。再び死ぬまでどれだけの猶予があるのか、と霧彦は自らの身体に問いかける。

「お前がそう言うならそれ以上は詮索しないけどよ」

巧が立ち上がり、先ほどベノスネイカーの毒液を受けたデイバッグから零れ落ちた支給品の品々を回収していく。
霧彦も巧を手伝う為に辺りを見回す。どうやらデイバッグは音也の物だったらしく巧や霧彦の知らぬ物がいくつか落ちていた。
そんな中一つだけ見覚えのある物を見つける。先ほどの王蛇が使っていたのと同じ物らしきカードが詰められた箱。
巧は使えるかもしれないと判断し、説明書が無いか辺りを確認する。

「乾君、あいつらがまたやってくるかもしれない。お義父さんのメモリは惜しいが、ここは一度離れた方がいい」
「それもそうだけどよ……これの説明書がないんだ、探すの手伝え」
「大丈夫だ、それなら私が見つけた」

座り込んだままの霧彦の右手にヒラヒラと揺れる紙。巧は早く言えよとぶつぶつ呟きつつ回収し終えた支給品を自らのデイバッグに詰めていく。


「よかった、間に合った……」


静かだが妙に存在感のある声に二人は視線を向ける。
ここから最も早く抜け出した白服の青年がそこにはいた。
走ってきたのか身体を震わせ、遠目でも汗をかいている事がわかり、それでいて妙に笑顔で。

「お前……」
「びっくりしちゃうね、またここにくるだけでこんなにドキドキするなんて。すっごく怖かったんだ、本当に……」
「くそ、探知機を見張っているべきだったか……」

警戒する巧と霧彦、しかしそれを無視するかのように白服の青年ダグバは笑い声をあげる。

「ねぇ、もっと僕を怖がらせて、もっと恐怖を与えてよ。僕がリントにしてあげたようにさ。
 いいよ、大丈夫だよ。僕も怖がらせてあげるから……」

ガイアドライバーを取り出し腰に装着し、右手に黄金色に輝くメモリを握り締める。

「僕も、皆も恐怖する、それが――」

――ユートピア!――

ユートピアメモリを差込白服が錆びた黄金色に包まれていく。
繁栄の無い滅ぶだけの理想郷を目指すユートピア・ドーパントがこの場に誕生した。
即座に巧と霧彦もそれぞれの変身アイテムを取り出し変身を行おうとするが、叶わない。

「何だ?うんともすんとも言わねぇ!?」
「どういうことなんだ、頼むナスカ!」

二人はそれぞれ何度もボタンを押すがアイテム達は答えてくれない。

「いいね、その表情いいよ。でも足りないかな……もっともっと怯えようよ」

どこからか取り出した杖をつきながらゆっくりとユートピア・ドーパントが二人に迫る。

「……仕方が無い、乾君。君が先ほど拾ったカードデッキを私に」
「カードデッキって、これの事か!?」

巧が懐から取り出した赤紫色のそれを強引に奪い取りファイズドライバーに反射させる。
すると霧彦の腰にガイアドライバーとは異なる銀色のベルトが装着され――

「変身!」

赤紫色のカードデッキをバックルに装填し霧彦の身体に虚像が重なりやがて赤紫色の鎧を形成し、ライアへと変身を遂げる。

「私が時間を稼ぐ、乾君はそこの馬鹿を連れてこの場から逃げるんだ」
「お前一人だけに無茶なんかさせるかよ、これ使えるんだろ?」

巧が取り出した黄色のメモリを見つめライアが寂しそうに首を横に振る。

「それはルナメモリといって君や私には使えない。仮面ライダー君でなければ、な」
「なら、しょうがねぇ……」
「そうだ、君は……何!?」

ライアの横で巧の身体が全身銀色の怪物、ウルフオルフェノクへと変化する。

「君は……」
「あぁ、俺は人間じゃない、オルフェノクって化け物だ。軽蔑したか?」
「……驚きはしたよ、だが、今は君のその力にも頼らせてもらおう」

戦闘体勢を整えた二人の戦士を前にユートピア・ドーパントの心は躍る。

「あぁ、君達はどれだけ僕を怖がらせてくれる?お願いだから、すぐに壊れちゃいやだよ?」

157動き出す闇 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/15(水) 14:09:47 ID:Rf14KRsY
【1日目 日中】
【F-6 市街地】


【乾巧@仮面ライダー555】
【時間軸】原作終了後
【状態】恐怖(小)、疲労(中)、ウルフオルフェノクに変身中、仮面ライダーファイズに2時間変身不可
【装備】なし
【道具】支給品一式、ルナメモリ@仮面ライダーW、ファイズギア+ファイズショット@仮面ライダー555 不明支給品1〜2
【思考・状況】
1:打倒大ショッカー
2:仲間を探して協力を呼びかける
3:ユートピア・ドーパントへの対処
【備考】
不明支給品は元々は音也の物を回収したものです


【園咲霧彦@仮面ライダーW】
【時間軸】死の直前
【状態】恐怖(小)、疲労(大)、仮面ライダーライアに変身中、 ナスカ・ドーパントに2時間変身不可
【装備】ライアのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、首輪探知機、ガイアメモリ(ナスカ)+ガイアドライバー@仮面ライダーW
【思考・状況】
1:打倒大ショッカー
2:今度こそ冴子を説得し、帰還後共に風都を守る
3:ユートピア・ドーパントへの対処
4:テラーメモリを手に入れて冴子に認めなおしてもらいたい
5:人間ではなかった乾巧に若干驚き
【備考】
※ガイアドライバーを使って変身しているため、メモリの副作用がありません。


【紅音也@仮面ライダーキバ】
【時間軸】原作終盤(少なくとも渡を自分の息子と認識している時期)
【状態】気絶 恐怖(中) 疲労(大)
【装備】イクサナックル(プロトタイプ)@仮面ライダーキバ
【道具】なし
【思考・状況】
0:気絶中…
1:最後まで生き残り、元の世界に帰還する
2:女性を見たらとりあえず口説く


【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】不明
【状態】恐怖(小)、若干ハイ、ユートピア・ドーパントに変身中。怪人体に1時間40分変身不可
【装備】ガイアメモリ(ユートピア)+ガイアドライバー@仮面ライダーW
【道具】支給品一式
【思考・状況】
1:恐怖をもっと味わいたい。楽しみたい
2:目の前の二人が恐怖をもたらしてくれる事を期待
【備考】
※ガイアドライバーを使って変身しているため、メモリの副作用がありません。


  ◆  ◆  ◆

158動き出す闇 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/15(水) 14:10:43 ID:Rf14KRsY
テラー・ドーパントの変身も既に解けてしまった木野薫は住宅の陰の中へと隠れ潜んでいた。
変身が解けた途端に訪れた途方もない疲労感、そして未だに続く右腕の発作。
王蛇から受けたベノクラッシュの傷が疼き木野は思わずうめき声をあげる。

(なんだ、この疲労感は……こいつの、副作用か?今思えばあのスーツの男はベルトのような物をつけた上に使用していた、な)

震える手でテラーメモリを支え、見つめる。強大な力を持つこのメモリを使いこなす事ができるのだろうか。
アギトの力と共に自分は完全に飲み込まれてしまうのではないか、そんな不安に包まれる。
突然メモリが奪われる。木野が何事かと見上げると目の前には茶髪の青年が立っていた。その表情は陰になって伺う事はできない。

「探したぜぇ、大将……」
「その声、あのアンノウン!?人間だったのか……そのメモリを返せ!う、ぐっ……」

立ち上がりメモリを取り返そうとするがすぐに再び座り込んでしまう。

「おつかれかい?そんなにこいつが大切か……」

右手で玩んでいたテラーメモリを茶髪の青年、浅倉は力の限り握り締める。
木野の制止の言葉を無視して力を込め続け、やがてバキバキと音が鳴る。

「ざぁんねぇんでしたぁ……ハァ……」

粉々になったテラーメモリを浅倉は菓子でも食べるかのように口に入れバキボキと何度か噛み砕いた後、飲み込んだ。

「前菜はこんな所かぁ?」

口から口内裂傷による血を流しながら浅倉は呟く。ここにきて初めて木野は浅倉が笑っている事に気がついた。
その木野の眼前に暗闇が迫り、グシャッという音が聞こえる。浅倉の靴底が木野の顔面にめり込んだ。
赤い糸を引きながら靴が離れ、木野は咳き込みながら両腕を交差させ集中力を高めようとする。
だがそんな自由は許さないとばかりに交差させた両腕を浅倉は蹴り上げる。良い音が鳴った。折れたのかもしれない。
痛みに苦しむ木野うめき声を浅倉は笑顔で堪能する。
しかしそれにも飽きたのか拳を木野の顔面へと打ち込む。




何度か繰り返した所で反応が無くなった事に気がつき、つばを吐いて浅倉はその場を後にした。
力に呑み込まれ、過去に縛られた男の亡骸だけがその場に残された。

【木野薫@仮面ライダーアギト 死亡】
 残り54人
【A-7 市街地】付近に支給品一式と木野薫の撲殺死体が放置されています。

【1日目 日中】
【F-7 市街地】

【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】不明
【状態】疲労(中)、ちょっぴり満足感、仮面ライダー王蛇に2時間変身不可
【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済)
【思考・状況】
1:イライラするんだよ……
2:殴るか殴られるかしてないと落ち着かない
【備考】
※テラーメモリを美味しく食べました。恐らく副作用はありません

159 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/15(水) 14:13:36 ID:Rf14KRsY
投下終了です。天道総司を長期間縛ってしまい申し訳ございませんでした。
書くのも遅いですしご迷惑おかけしてばかりなのでしばらく予約控えます。
本当に申し訳ありませんでした。
ご指摘よろしくお願いします。

160二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/15(水) 16:58:44 ID:2TsKpCSE
投下乙です
浅倉、メモリを食べるなんて……この男は凄まじいなw
そしてたっくん達はダグバと戦えるのかぁ!?

最後に、予約は別に遠慮をしなくてもいいと思います
キャラを入れる事が出来なくなるのは仕方ないと思いますし
これからも、良作を待ってます

161 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/15(水) 18:11:39 ID:XYjC6a2.
投下乙です。
木野さんはやはり浅倉に殺される運命か…。
悪食すぎるだろ浅倉ww
さすが狂人www
たっくんと霧彦さんはなんだかんだで良いコンビになれそう。
やり取りがカッコよかったです。

162二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/15(水) 23:52:48 ID:WTUScPfg
投下乙です。
巧と霧彦も無事テラーを切り抜けて何より、と思いきや更にヤバイのがw
ヒーロー2人と未だいいとこ無しの音也の今後が少し怖いけど期待。
そして浅倉、初殺害はなんと生身。こいつはやばいやばすぎる。

あと、予約を自重しようなんて考えなくていいと思いますよ。
作品の執筆で必要なことなら何ら問題はありませんし。

163仮面ライダーになりたくない男 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/16(木) 14:02:36 ID:QHGPP42M
只今より、投下をします。

164仮面ライダーになりたくない男 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/16(木) 14:03:06 ID:QHGPP42M
「君は、俺に一体何をしたんだよ?」


 三原は目の前の異形にそう訊く。
 オルフェノクのような異形でありながら、殺人の意思を持たずに子供のように無邪気な神経を持つ目の前の怪人に、少しの恐れを抱きながらも、どこか安心しながらリュウタロスを眺める。


「何って、憑いただけだけど?」

「憑く?」

「うん、いつもは良太郎に憑いてるけど、お前弱っちいから早く良太郎に会いたいー」


 こうして、当人を前にしても失礼な事を言えるあたりが、やはり子供だと思える。
 そして──それが図星な以上、三原は何も反論することができなかった。
 こんな子供に「憑く」とかいう行為で助けられた三原は、情けなさを痛感する。


「お前はどうして戦わないの?」


 こんな言葉をかけられるほどだ。
 戦いたくないから──そう答えることへは、抵抗を感じる。三原はリュウタロスを「子供」としか見ていない。
 だから、大人としてそんな応答をするわけにはいかなかった。


「足が痛いんだ。それに、朝から熱っぽくて……」

「──お前、ふざけてるの?」


 リュウタロスの口調は、遊びの口調から本気へと変わる。
 三原の一言は、イマジンとの戦いを続けてきたリュウタロスを怒らせるに充分な言葉である。
 良太郎は、弱くても言い訳などしなかった。良太郎は、弱くても戦うための努力をした。
 三原は、自分の弱さから逃げている──いわば、本当の意味での弱虫なのだ。
 言い訳して逃げて、それで安全圏にいようとする三原をリュウタロスは許せなかった。


「お前、修正するけどいいよね?」

「え……?」

「答えは聞いてないけど」


 三原の頬を、リュウタロスの拳が殴った。
 そのまま、三原は地面に体をぶつける。彼にとっては、倒れた衝撃よりも、頬に残った痛みが強い。それだけリュウタロスの心は強い怒りに包まれていた。
 歯が折れてしまいそうなほどの強い拳を、三原は顔中で感じていた。唾に混じって、血が喉を通る。


「足が痛いんでしょ? 立ち上がれないんでしょ? それなら、ここでずっとしててよ。僕が、お前を潰しちゃうから」


 リュウタロスは明らかな怒りを、三原に向ける。
 リュウタロスは、そのままその手にリュウボルバーを握り、三原の眼前にその銃口を向ける。

 異形に銃を向けられた人間は、その体中に嫌な汗を感じていた。
 この怪物は、このまま自分を殺すかもしれない。この銃口から弾丸が放たれたとき──たったそれだけの動作で、三原は死んでしまうのだから。

165仮面ライダーになりたくない男 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/16(木) 14:03:38 ID:QHGPP42M
「や、やめてくれよ。おい……俺が何したって言うんだよ! 俺は関係ないんだ、俺は何もしてない!」

「あと、三秒で撃つよ」

「俺は世界の崩壊なんて関係ないんだ……! そうだ、バイトがあるから家に帰らないと……! だから──」

「──二秒」


 そんな、冷淡な一言に三原は狂気を感じた。
 このまま本当に、僅かな時間が過ぎるとともに三原は殺される。
 それなら、その僅かな時間で何ができるというのか。

 三原は震える足で地面を蹴り、立ち上がった。
 戦うためではなく、逃げるために──。

 そんな三原をリュウタロスは許さない。
 リュウボルバーで三原の体を強く、叩いた。痣になるほどの痛みが、三原の背中を襲う。
 その痛みに打ちひしがれて、三原は再び地面に倒れこんだ。
 今度は、リュウボルバーの銃口は三原に向かってはいない。……だだ、リュウタロスが険しい表情で三原の顔を見つめるだけである。


「お前、やっぱり本当はどこも痛くないんでしょ? 立って歩けるんでしょ? それだけの力があるのに、どうして戦わないの?」

「だって……俺は関係ないんだぞ!? 戦いたくなんてないのに、こんな場所に連れて来られて!」

「それならお前、どうして関係ない人を巻き込む大ショッカーを倒そうとしないの?」

「た……倒せるわけないだろ!? だって俺たちの首には──」


 首輪。逆らう者を一掃する鉄の凶器。
 それがあるうちは、誰も逆らうことはできない。
 そんな恐怖が、何よりも三原の心を占めている。


「──答えは、聞いてない!」


 リュウタロスが聞きたくなかったのは答えではなく言い訳である。
 これだけ痛めつけられてもわからない三原には、殺意さえ覚える。
 それでも、人は殺さないのがリュウタロスの今の信念である。
 だから、リュウタロスは彼を消さずに、修正しようとしたのだ。


「お前、ここで鍛えてもらうけどいいよね? 勿論、答えは聞いてないけど」


 広いサーキット会場。そこは、人を鍛えるには打ってつけの場所であった。



△ ▽

166仮面ライダーになりたくない男 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/16(木) 14:04:27 ID:QHGPP42M

「駄目だ……もう無理だ……」

「だめだめぇ〜!! やめたら、強くなれないじゃんか〜!! あと一周するくらい根性見せろ〜」


 本来ならばバイクが走るコースであるサーキットを、三原は足で走っていた。
 その腰にロープを巻き、さらにその先にタイヤを巻きつけた三原はもはや限界に近かった。
 喉は潤いを消し去り、しかし体の表面を汗が覆っている。
 特訓の中で、三原は死にそうなほど体の疲労感に見舞われていた。
 足は棒のようになり、腰にロープが食い込んでいる。視界はもはや、汗が入って歪んでいた。
 太陽が自分を見下しているのを、嫌というほど強く感じてしまうほどだ。


「足が……本当に動かない……」


 サーキットの僅かな傾斜も、三原の足はもう登ることができなかった。
 三原はそのまま倒れ伏す。
 土が、汗のせいで顔にくっついたが、土の冷たさが心地よかった。
 足の疲れも、そのお陰で少しずつ抜けていく。


「……もう仕方が無いなぁ。特訓おわり! これで戦えるよね?」

「……ああ、……とりあえず……やってみるさ……俺に何ができるかは……わからないけど……」


 息も切れきれの三原が、「もうどうにでもなれ」とばかりにリュウタロスにそう言う。
 次に他の参加者に会ったとき──彼は特訓の成果を見せることができるのだろうか。
 この一時、彼は決意と呼ぶには、あまりにも弱弱しい言葉を発した。



【1日目 昼】
【B-1 サーキット場】


【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】疲労(極大)、筋肉痛 、 地面に倒れてます
【装備】デルタドライバー、デルタフォン、デルタムーバー@仮面ライダー555
【道具】なし
1:疲れた……
2:草加や巧、真理と合流したい
3:戦いたくないが、とにかくやれるだけのことはやる
【備考】
※リュウタロスに憑依されていても変身カウントは三原自身のものです。


【リュウタロス@仮面ライダー電王】
【時間軸】本編終了後
【状態】胸にダメージ(小)
【装備】リュウボルバー@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式×、不明支給品(0〜2)
1:三原を鍛える
2:良太郎に会いたい
3:大ショッカーは倒す
【備考】
※人間への憑依は可能ですが対象に拒否されると強制的に追い出されます。

167 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/16(木) 14:06:39 ID:QHGPP42M
ごめんなさい、「昼」は「日中」の間違いです。
今回は短いですが、投下終了します。

168二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/16(木) 14:46:12 ID:Db4laqzg
投下乙です!
ああ、リュウタがカッコいい……
三原は成長出来るのか

169 ◆MiRaiTlHUI:2010/12/17(金) 02:47:15 ID:O7tiMMrk
投下乙です。
そういえば三原も良太郎も弱い者同士だったなぁ。
その弱さにどう立ち向かうかが良太郎と三原の違いか。
三原がこれからどう成長できるかに期待です。
何気にリュウタと三原はいいコンビ?



それでは、予約分の投下を開始します。

170二人のジョーカー ◆MiRaiTlHUI:2010/12/17(金) 02:48:19 ID:O7tiMMrk
 相川始の心は、揺れ動いていた。
 どんなに振り解こうとしても、罪悪感は消えない。
 自分は人を殺してしまった。罪も無い命を奪ってしまったのだ。
 間違いなくこの殺し合いを打倒しようとしていた男を、この手で。
 他の世界を消滅させてでも自分の世界を守らなければならない。
 その気持ちに嘘は無いし、その行動方針を変えるつもりもない。
 だけれど、それでも吹きつのる罪悪感は消えはしない。 

(剣崎……)

 始にとって唯一「友」と呼べる相手を、心中で思い描く。
 彼ならば、この殺し合いの場で、一体どんな行動を取るだろう。
 考え始めて一秒と経たず、簡単すぎる答えが思い浮かんだ。
 言い切ってもいい。あの男ならば、絶対に殺し合いに乗ったりはしない。
 何が何でも、他者を救って、大ショッカーを打倒しようとするだろう。
 だが、そんな剣崎を責めるつもりは無いし、寧ろ誇らしいとも思う。
 そんな立派な「友」を持てた事を、自分の誇りだとも思う。

(剣崎とは一緒に戦えないな)

 だが、だからこそ。
 一緒に戦う事は絶対に出来ない。
 自分の存在は間違いなく剣崎にとって重荷となる。
 当然だ。目的は同じ世界を守る事であっても、やり方は真逆なのだから。
 剣崎は他者と手を取り合い、共に大ショッカーを倒す事で世界を守る。
 自分は他者の命を奪い、大ショッカーに従う事で世界を守る。
 人の心が芽生え始めていた始にとって、それは苦渋の選択ではあるが、仕方がない。
 これも守る為なのだ。人として、守りたい世界を守る為に、命を奪う。
 剣崎とは真逆。それでも、求めるモノは、世界を守りたいという気持ちは同じ。

(どうせ辛い思いをする事になるんだろうな、剣崎は……なら、俺が汚れ役を買ってやる)

 それが始が考えた、戦う理由であった。
 あの御人好しの剣崎一真は、確かに強い。
 人としての心も、仮面ライダーとしても、だ。
 だけれど、それでも剣崎はこの戦いでは不利だと言える。
 剣崎は人が良すぎるのだ。きっと奴はどんな人間でも救おうとするだろう。
 例え自分の身が危険に晒されようと、どんなクズ人間であっても、見捨てないだろう。
 それが剣崎にとっての一番の弱点。死に繋がる一番の要因。
 なればこそ、汚れ仕事は自分が買おう。
 殺し合いに乗ったクズの様な相手は、率先してこの手で殺す。
 そうする事で、剣崎の目指そうとする道のりを少しでも楽にしてやる。

(そうだ……俺は俺のやり方で世界を守る。だから剣崎……お前はお前の道を行け)

 最終的に剣崎が大ショッカーを打倒し、世界を救えるならそれで善し。
 だが、そうでないなら自分が他の世界の参加者を皆殺しにする。
 こんなやり方でしか世界を救えない自分と剣崎は違う。
 だから、もう一つの可能性を剣崎に任せて、自分は狩りに没頭できる。
 それで感じる罪悪感は相当なものだろう。
 だけど、始の脚は止まらない。
 敵を求めて、ただ前へ歩く。

 そして見付けた。
 次の獲物を。

171二人のジョーカー ◆MiRaiTlHUI:2010/12/17(金) 02:48:49 ID:O7tiMMrk
 




 二人の間に、言葉などは必要なかった。
 否、正確には二言三言交わしたのだろうが、それは大きな問題では無い。
 重要なのは、目の前の相手が殺し合いに乗っている、という事実。
 お互いの命を賭けて、始まったのはやるかやられるかの殺し合い。

 黒の装甲に身を包んで、駆けるカリス。
 黒の外骨格に身を包んで、駆けるガドル。

 幾度かの激突の後で、二人はお互いの間合いを計り合っていた。
 そんな二人に訪れるチャンスは刹那的。踏み込み、飛び込むのもまた刹那。
 一瞬の隙を見付けた二人の剣は、甲高い金属音を打ち鳴らして激突した。
 歴戦の闘士二人の戦いに、舌舐めずりなんてものは存在しない。
 お互いの実力が分かっているからこそ、最初から全力で激突する。

「トゥッ!」

 掛け声を一声。
 弓とも剣ともつかない両刃の刃を、力一杯に振り上げる。
 対するガドルは、まるでその軌道を読んでいたかのような動き。
 巨大な大剣を、信じられない程に軽々しく持ち上げて、カリスの動きに対応したのだ。
 きぃん!と、鋭い金属音が辺りに響いて、手応えが無い事を悟る。
 醒弓を翻し、もう一方の刃で切りかかるが、結果は同じ。
 ガドルの大剣はそれにも難なく対応した。

「フンッ!」

 今度はガドルだった。
 カリスの装甲を斬らんと、その大剣を一気に振り下ろした。
 見るからに重量を持っているであろうその大剣を、正面から受け止めようとはしない。
 ハートの複眼に大剣を捉えた瞬間には、後方へと飛び退り、離脱。
 ゴウッ! と音を立てて、風を切り裂いたのは大剣。
 その威力の程を想像しながら、カリスは弓を引き絞り、光弾を放った。

「――ッ!」

 放たれた数発の光弾はガドルの胸部で爆ぜた。
 白い煙を立ち昇らせ、派手に火花を撒き散らすガドルの装甲。
 だけれど、それがさしたる意味を持たない事は、考えるまでも無かった。
 ガドルは痛みを感じて居ないのだ。全弾胸部に喰らおうとも、呻き一つ漏らさない。
 ただ、身構える際の声にすらならない吐息が聞こえただけだった。
 ならばとばかりにアスファルトを蹴って、間合いを詰める。

「トゥァッ!」
「ッ!」

 駆け出したカリスの速力たるや、まさに韋駄天の如く。
 一瞬のうちにガドルの懐に飛び込んで、俊敏な動きで醒弓を振り抜いた。
 カリスの見立てでは、この怪人は俊敏なタイプでは無い。
 一瞬で飛び込み攻撃を加え、すぐに離脱。後はそれの繰り返し。
 ヒット&アウェイの連続で体力を削り、トドメに必殺技を叩き込む。
 敵の情報をろくに知らぬカリスにとっては、それが正しい判断かと思えた。

 だけど、現実はそう甘くは行かず。
 横一閃に振り抜いた醒弓は、アスファルトに突き立てた剣によって阻まれていた。
 仮面の下で舌打ち一つ。すぐに体勢を立て直そうとしたカリスはしかし、目の前の変化に目を奪われてしまった。
 そして、それが間違いであった事に気付くのは、その直後の事だ。
 振り上げられた漆黒の槍が、カリスの胸部を強かに打ち付けた。

172二人のジョーカー ◆MiRaiTlHUI:2010/12/17(金) 02:49:20 ID:O7tiMMrk
 
「ぐぁっ……!」

 火花を舞い散らし、宙に舞うカリスの身体。
 アスファルトに打ち付けられる前に受身を取って、体勢を立て直す。
 見れば先程まで握って居た大剣は、禍々しい槍へとその姿を変えていた。
 先程懐に飛び込んだ瞬間に驚愕したのは、大剣が槍に変わった、この変化だ。
 どうやらあの敵はあらゆる状況に応じて武器を変える事が出来るらかった。

「技量だけはクウガよりも上、といった所か」

 ガドルが、何事かをのたまった。
 当然、カリスに敵の言葉の意味を考えてやる義理は無い。
 醒弓を引き絞り、再び光の弓を無数に発射。単なる牽制攻撃だ。
 これで弾幕を張り、その隙に懐に飛び込み、一撃を叩き込むのだ。
 今更そんな小細工が通じるとは思えないが、それならそれでやり様はある。

 ――CHOP――

 一枚のカードをラウズして、アンデッドの力を輝きと共に吸収した。
 ガドルの表面で光の弓が爆ぜて、真っ白の煙がその視界を覆う。
 狙いはこれだ。この一瞬で接近して、攻撃力を上げたチョップを叩き込む。
 輝きを放つ手刀を振り上げて、駆け出す。

 しかし、再び二人が肉薄するよりも早く、行動を起こしたのはガドルだ。
 未だ白い煙の晴れぬ視界の中、手に持った槍をカリスに向けて真っ直ぐに突き出した。
 同時、槍は奇妙な形状変化を伴って、漆黒のボウガンへと変化。
 次いで飛び出したのは、圧縮されたエネルギーの矢。

「何っ!」

 咄嗟の判断であった。
 目前まで迫り来る矢に向けて、手刀を振り下ろした。
 圧縮されたエネルギーはチョップの一撃に撃ち落とされ、掻き消える。
 だけど、それで終わらせてくれる訳がない。仮面を上げれば、次々と迫る矢が見えた。
 まだチョップのカードの輝きは消え去っては居ない。
 ガドルとの間合いを詰めながら、一発、また一発と矢を叩き落す。
 だけれど、その度にチョップの輝きは薄れ、その光を弱らせてゆき。

「ハッ!」

 ガドルに肉薄し、その手刀を振り下ろした時には、輝きは殆ど残っては居なかった。
 申し訳程度の輝きが現すのは、カードの効果を既に十分使い切った事による消耗。
 振り下ろした手刀はガドルの分厚い腕に阻まれて――次に感じたのは、衝撃。

173二人のジョーカー ◆MiRaiTlHUI:2010/12/17(金) 02:49:50 ID:O7tiMMrk
 
「グッ――!?」

 カリスの胸元に押し付けられたボウガン。光を放つ発射口。
 当然反応するだけの余裕など与えられる筈も無く、カリスの身体は吹き飛んでいた。
 一発、二発、三発、四発。止まる事の無い矢の嵐が、カリスの胸部を捉える。
 一撃命中する度、感じるのは装甲の上から身体を突き破る様な激痛。
 胸部から背中まで突き抜ける様な鋭い痛みが、カリスのあらゆる行動を封じる。
 やがて、黒の身体は後方のビルディングの壁に叩き付けられ、それ以上の後退を封じられた。
 最後の一撃はカリスの胸部で弾けて、その衝撃はコンクリートで出来た壁へ伝わる。
 みしっ、と音を立てて、亀裂を作ったコンクリート。
 同時に、崩れ落ちるカリスの身体。

 変身を保つ事すら出来なくなり、その身体が人間の物へと変わってゆく。
 どうやら、過度のダメージを受ければ変身は解除され、自動的にこの姿に戻ってしまうらしい。
 これではまるで仮面ライダーに変身する人間と同じだな、と始は思う。
 だけれども、今がそんな事を考えている場合では無い。

 このままでは、殺される。

 何も成す事無く、殺される。

 あの家族を守る事すら出来ないまま――。
 そう考えた瞬間、始の身体を、何かが突き破る様な錯覚を感じた。
 言うなれば、衝動。偽りの人の皮を突き破って、表に出ようとしている破壊の衝動だ。
 全身の血が沸き立ち、毛穴が開く。内に秘める闘争本能が、飛び出しそうになる。
 だけれど、すぐに理性が働いて、その衝動を抑えようとした。

 それは芽生え始めた人間としての理性。
 本来の“あの姿”を忌み嫌う、始としての心。
 だけど、目の前に迫るあの怪人は間違いなく自分を殺すだろう。
 一歩、また一歩と、死を招く異形がその歩を進める。
 始は何をするでもなく、ただガドルを睨むだけだった。

 もう、あの姿になって戦うしかないのか。
 目の前の敵を叩き潰し、全てを破壊するあの悪魔に。
 何もかもを終焉へと導く、あの死神――


 ――ジョォォカァァァッ!!!――


 しかし、始の耳朶を叩いたのは、自分の中の“それ”では無かった。
 野太く、だけど良く響き渡るその音声は、彼方から聞こえてくる。
 先程自分がこの目に焼き付けたばかりの男。
 あの時出会った、ジョーカーの男。

 名前すら知らない男が、真っ直ぐに走って来る。
 赤のベルトは紫の光を輝かせて、漆黒の欠片が男に集まってゆく。
 いくつもの黒い欠片は男の身を完全に覆い隠し、その姿をジョーカーへと変えていた。
 自分が忌み嫌う名前を持つ男が。あの時自分を相手に手も足も出なかった男が。
 赤の複眼を煌めかせて、目の前の怪人へと殴り掛ったのだ。

174二人のジョーカー ◆MiRaiTlHUI:2010/12/17(金) 02:50:21 ID:O7tiMMrk
 
「っらぁ!!」
「フンッ」

 漆黒の拳は、しかしその分厚い装甲へは届かない。
 ジョーカーの男の右のパンチは、ガドルの左の掌に収まった。
 ならばとばかりに左足を振り上げ、ガドルの顔面を打ち据える。
 だけど悲しいかな、威力が足りない。蹴りはガドルの首を多少傾けさせるだけに留まった。

「硬ぇ!?」
「お前はクウガよりも、今戦ったリントよりも弱い」
「……んだと!?」

 ジョーカーがそれ以上言葉を発する事は無かった。
 言葉にしろ、行動にしろ、次に何らかのアクションを起こす前に、届いたのはガドルのパンチだ。
 同じ漆黒の拳と言えど、敵のパンチとジョーカーのパンチの威力の差は段違い。
 漆黒の胸部装甲にガドルの拳は減り込んで、その身体を一気に後方へと吹っ飛ばした。
 始の眼前をごろごろと転がって、ジョーカーが再び起き上がる。

「ここは俺に任せて、アンタはとっとと逃げな」
「ジョーカーの男……奴と戦えば死ぬぞ」
「さあ、そいつはやってみないと分からねえぜ」
「……その自身は何処から来る」
「俺は仮面ライダーだからな」

 ジョーカーの男の言い分は、良く解る。
 仮面ライダーは人々を守らねばならない。故に逃げる訳には行かない。
 仮面ライダーが敵に背を向けてしまえば、人々は殺されてしまうからだ。
 長い時間を剣崎達と過ごしてきた始だからこそ、その心理は分かる。
 だから、ジョーカーの男の言い分を否定する気にはなれなかった。
 それを否定してしまう事は、剣崎を否定する事に繋がるから。

「無謀と勇気は違うぞ、仮面ライダー」
「ああ、分かってるぜそんな事。けどな、俺はもう、あんな犠牲は誰一人出したくねえんだ」

 刹那、始は、何処か心が締め付けられる様な感覚を覚えた。
 もしも目の前に居るのが剣崎であったなら、この男と同じ選択を選んだだろう。
 勝てるかどうか分からなくとも、命を守る為に、無謀でも立ち向かっていく。
 問題なのは、目の前の男の行動理念となった“あの男の死”についてだ。
 剣崎と似た仮面ライダーの戦う理由を作ったのは、自分でもある。
 自分があの木場という男を殺したから、この男はこうも必死になるのだろう。
 しかもタチが悪い事に、この男はその下手人が自分である事に気付いて居ない。
 だからこそ、自分を助けようとなんてするのだろう。

「……なら、勝手にしろ」
「ああ、そうするさ」

 言うが早いか、ジョーカーが駆け出した。
 それに伴い、始も立ち上がろうと腰に力を言える。
 瞬間、身体を突き刺す様な痛みが始の身体を襲った。
 先程連続で受け続けたあの矢によるダメージだ。
 不覚を取った、と。口惜しさに奥歯を噛み締める。

「さあ、行くぜマッチョメン!」

 今度は飛び蹴りだった。
 加速を付け、飛び上がったジョーカーは右の脚を真っ直ぐに突き出す。
 太陽の光を背に、ガドルに向かって真っ直ぐに飛び退るが、結果は同じだ。
 ジョーカーの脚の裏がガドルを捉える前に、ガドルが振り上げた右脚に叩き落される。
 ジョーカーの飛び蹴りも決して未熟だった訳ではない。
 だけど、ガドルの回し蹴りがそれ以上だったのだ。
 脚と脚の激突の末に、アスファルトを転がったのはジョーカーだ。
 始は思う。今のジョーカーに、あの敵を倒す術は皆無だと。
 どう頑張った所で、勝てる見込みが全く無いのだ。
 だけれど、あの男は絶対に諦めようとはしない。
 ただの馬鹿なのかとすら思える程に。

175二人のジョーカー ◆MiRaiTlHUI:2010/12/17(金) 02:52:06 ID:O7tiMMrk
 
「――ぁあっ!?」

 目の前で、立ち上がったジョーカーが殴られた。
 大仰な動きでその身を後退させて、それでも立ち向かう。
 そうなれば、待って居るのはガドルによる打撃攻撃だ。
 一撃受ける度に後退して、ボロボロになって、それでも立ち向かう事を止めはしない。
 仮面ライダーだから。仮面ライダーだから、どんな強敵にも背を向けてはならない。
 考えは立派だが、それでは殺されてしまう。殺し合いともなれば、尚更だ。
 いい加減苛立ちさえ覚え始めた時、変わった行動を起こしたのはジョーカーの方だった。

「……お前には、コイツで勝負だ」

 ――ジョォォカァァッ!!!――
 ――マキシマムドライブッ!!!――

 再び鳴り響いたのは、甲高い、だけど野太い男の声。
 ベルトの横に装着されたスロットに黒い箱を叩き込んで、両腕で構えを作る。
 ぐぐぐ、と。拳に力を込めて、限界まで引き絞り――やがてその拳を覆ったのは、漆黒の輝き。
 そのまま走り出した仮面ライダーは、疾風の如くガドルの間合いまで踏み込み。
 その拳を、振り抜いた。

「ライダーパンチッ……!」
「グッ……」

 ガドルも拳を振り抜くが、それは当たらなかった。
 ジョーカーが膝を落とし、上体を屈め、敵の拳を回避。
 カウンターの要領で、ガドルの顔面に、ライダーパンチを叩き込んだのだ。
 それが単なるまぐれなのか。それとも、この、ここ一番の勝負強さこそ、彼の才能なのか。
 それは始には分からなかったが、ジョーカーの拳が、ガドルの顔面を捉えた事だけは揺るがぬ事実。
 その攻撃が効いたのか、効いていないのか、それを判断するよりも先に、変化が訪れる。
 ガドルの身体を包んで居た外骨格が、突如として消え失せたのだ。
 ジョーカー相手に、生身を晒すは軍服の男。

「変身が……!」
「っらぁぁっ!!」
「――ッ!?」

 チャンスは一瞬。
 変身が解けた軍服に向けて放たれたのは、回し蹴り。
 見ていて心地が良い程に見事な軌道を描いて、漆黒の脛はガドルに叩き付けられた。
 当然ガドルはガドルで、受身に両腕を構えるが、生身の人間が仮面ライダーを止められる訳がない。
 軍服の腕はジョーカーの回し蹴りを受け止めきれずに、その身体が後方へと吹っ飛んだ。
 その身体をアスファルトへと強かに打ち付けて、それでもゆらりと立ち上がる。

「どうだ! マキシマムを受けたんだ、もう戦えねえだろ!?」

 それは、実質的な勝利宣言。
 高らかに宣言したジョーカーは、軍服の男を見据えて言った。
 だけどその問いに対する返事は無い。軍服は、何も言わずに駆け出した。
 今回は自分の敗北を悟ったのだろう。入り組む町並みの中へと消えて行った。

「あっ、待て!」

 咄嗟に追いかけようとするが、すぐにその脚を止める。
 ジョーカーの男は、その変身を解除し、始の眼前まで歩み寄った。
 探偵風のハットに、黒のベストと、カッターシャツ。
 何処からどう見ても「探偵です」と言っている様な外見であった。
 始の眼前へと突き出された掌を掴んで、ゆっくりと起き上がる。

「無事で良かった。あんた、名前は何て言うんだ?」
「……相川、始」
「相川始、か。俺の名前は左翔太郎。探偵だ」

 ここに再び、二人の“ジョーカーの男”が邂逅した。
 ジョーカーとは切り札であり、同時に鬼札でもある。
 出会ってしまったのは、切り札と鬼札。似て非なる二人の存在。
 それが、どんな未来を招く事になるのかは、誰も知らない。

176二人のジョーカー ◆MiRaiTlHUI:2010/12/17(金) 02:52:52 ID:O7tiMMrk
 

【1日目 日中】
【G-5 市街地】

【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり
【状態】疲労(大)、カリスに二時間変身不能、罪悪感
【装備】ラウズカード(ハートのA〜6)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式、不明支給品(0〜2)
【思考・状況】
1:栗原親子のいる世界を破壊させないため、殺し合いに乗る。
2:左翔太郎を殺すか? それとも……
【備考】
※ ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。
※ 時間内にヒューマンアンデッドに戻らなければならないため、変身制限を知っています。時間を過ぎても変身したままの場合、どうなるかは後の書き手さんにお任せします。
※ 左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。また、翔太郎の雄たけびで木場の名前を知りました。

【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、悲しみと罪悪感、それ以上の決意、仮面ライダージョーカーに二時間変身不能
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、翔太郎の不明支給品(0〜2)、木場の不明支給品(0〜2) 、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、首輪(木場)
【思考・状況】
1:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
2:出来れば相川始と協力したい。
2:カリス(名前を知らない)を絶対に倒す。
3:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
4:『ファイズの世界』の住民に、木場の死を伝える。(ただし、村上は警戒)
5:ミュージアムの幹部達を警戒。
【備考】
※ 木場のいた世界の仮面ライダー(ファイズ)は悪だと認識しています。
※ 555の世界について、木場の主観による詳細を知りました。
※ オルフェノクはドーパントに近いものだと思っています(人類が直接変貌したものだと思っていない)。
※ ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。
※ また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※ ホッパーゼクターにはまだ認められていません。

177二人のジョーカー ◆MiRaiTlHUI:2010/12/17(金) 02:54:35 ID:O7tiMMrk
 

 ガドルにとっては、不運としか言えなかった。
 この市街地内で、ガドルが探し歩いたのは他の参加者。
 だけれど、ここは元の世界と違って、そこら中にリントが歩いている訳ではない。
 探せども探せども一向に見つからず、苛立ちを覚え始めて来た所で、出会ったのは一人の男。
 トレンチコートを羽織ったその男を、ガドルは標的として見なし、戦闘を開始した。
 だけど、男の正体は只のリントではなく、何処かクウガにも似た漆黒の戦士。
 あれが、最初に言って居た仮面ライダーと呼ばれる存在なのだろうか。
 その実力、技量だけならガドルの敵・クウガ以上と言える。
 そんな戦闘に慣れた男との勝負は、ガドルの勝ちに終わった。
 しかし、いざトドメを刺そうと男に迫れば、突然現れたのは黒の仮面ライダー。
 男の実力はクウガどころか先程戦ったライダーにも及ばないものだった。
 だけどタフさはクウガと同等か、それ以上。そう簡単にはへたばらない。
 やがて奴が振り抜いた最後のパンチは、ガドルにも響いた。

「面白いな、仮面ライダー」

 僅かに腫れた頬を軽く触れて、ぽつりと呟いた。
 この会場には、まだまだ強い仮面ライダーが沢山居る。
 先程は原因不明の変身解除で撤退せざるを得なかったが、次からはそうはいかない。
 恐らくこの会場では、10分も戦えば強制的に変身が解除されるのだろう。
 先程の仮面ライダーとの戦いだって、あれは変身制限による変身解除だ。
 決してライダーパンチとやらを受けた事で変身状態を保って居られなくなった訳ではない。
 だけど、変身制限さえ知って居れば、やり様はいくらでもある。

 ガドルは決めた。
 この場に居る仮面ライダーを全て倒すと。
 そうして、いずれはダグバをも倒し――自分はグロンギの王となるのだ。
 その為に求めるのは、更なる戦い。更なる力を持った参加者。
 激闘を求めて、ガドルは歩き出した。


【1日目 日中】
【G-5 市街地】

【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第45話 クウガに勝利後
【状態】疲労(中)、怪人体に二時間変身不可
【装備】無し
【道具】支給品一式、不明支給品×3
【思考・状況】
1:ゲゲルを続行する
2:強い「仮面ライダー」に興味。
【備考】
※デイバッグの中はまだきちんと調べていません。
※変身制限がだいたい10分であると気付きました。

178 ◆MiRaiTlHUI:2010/12/17(金) 02:55:55 ID:O7tiMMrk
投下終了です。
何かあれば指摘などよろしくお願いします。

179二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/17(金) 03:32:49 ID:1AfijeDs
投下乙!
木場を殺した始を翔太郎が助けるのか…しかし始が変身するときこの関係は崩れることが決定してるんだよなぁ
ジョーカーはさすが低スペックで有名なライダーだけあって非力だが、翔太郎がガッツでカバーしてていい感じだ

180二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/17(金) 09:19:12 ID:ht8uIsrk
投下乙です!
まさか翔太郎が始を助けるなんて……
これでカリスだと知ったら、どうなるだろう

181 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/17(金) 16:20:54 ID:OQUNlSDQ
只今より、投下します。

182敵か味方か? ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/17(金) 16:21:59 ID:OQUNlSDQ
「──桐生豪か、同じ世界の住人だな」


 剣の世界の鍵言葉「運命」。──そんなものに導かれてか、二人の参加者は川沿いの平原で顔をあわせることとなった。
 顎鬚の男、桐生豪。眼鏡の男、金居。
 それぞれは互いの名前を問うと、相手が同じ世界の枠で囲われた相手だと知る。
 無論、偽名という可能性も否定はできないが。


「なら殺し合う必要はない。手をどけろ」


 桐生は金居の襟元を強く掴んでいた。
 それが人間のものではない、というのは金居はすぐに認識できたが、同じ世界にいるアンデッド──或いは、仮面ライダーの中にこんな男はいない。
 偽名という線も考えられないわけではない。
 だが、桐生の次の行動は、彼が同じ世界の人間であると確信させるものであった。


 ──Open Up──


 仮面ライダーレンゲル。その名を冠されたクラブの仮面ライダーの剛身が目の前で現われる。
 ほかならぬ、桐生が変身した姿である。
 金居は桐生を知らないが、この仮面ライダーならば知っている。

 わからないのは、何故この男が変身したのかである。
 同じ世界の人間だとわからせるためでもあるまい。金居はそれを怪訝に思う。

 或いは、金居が利用しようとしていた、「元の世界の因縁」というものがこの男に「目の前のアンデッドを倒せ」と語りかけているのだろうか。
 どういう理由であるにしろ、金居は目の前の仮面ライダーを相手に身構える。


「──どうした、人間の力では仮面ライダーには勝てないか?」


 成る程、と金居は思う。
 そういえば、レンゲルの力の源であるスパイダーアンデッドはこういう奴だったか。
 適合率が悪ければ、スパイダーアンデッドの力に屈し、己の理性を破壊する。
 いわば、麻薬のような中毒性と自己制御能力の破壊が、この男を殺人衝動から放さないのだ。


「……ただ、同じ世界の人間で戦う意味はないだけだ。不毛なことはしたくない」

「俺はこの場にいる人間全てを殺すまでだ。貴様もな!」


 レンゲルラウザーが金居に向けて一撃を見舞おうと、まっすぐに突き出される。
 その醒杖がある一点で、強い力をもって静止させられる。
 それを押さえるのは、異形の腕。ごてごてとした左腕は、それを掴んだまま離さない。

183敵か味方か? ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/17(金) 16:22:35 ID:OQUNlSDQ
「アンデッドか!」

「あまり使いたくはなかったんだがな」


 力を求める今の桐生の中では、目の前の敵を倒すという気概が強まっていく。
 アンデッドの力を得れば、仮面ライダーは尚更強くなっていく。
 ましてや、目の前のアンデッドは人間としての姿を持つ上級アンデッドなのだから。

 それだけの力を持っている相手を窘めるだけの力は、今の桐生にはない。
 藪を突いて出てきた蛇に対抗するため、レンゲルは一体のアンデッドを解放した。

 パラドキサアンデッド。
 桐生はまだ見たことが無かったが、ハートのカテゴリーキングである。
 このカードは元々、三原修二の支給品であったが、彼の支給品を頂戴した桐生はこのカードを持っていたことに歓喜した。
 一人の参加者との戦いは無駄ではなかったらしい。


「──カテゴリーキングを相手にはカテゴリーキング。単純な発想だな」


 仮面ライダーレンゲルとパラドキサアンデッド、対峙するのはギラファアンデッド。
 そんな不利を思しき状況に陥っても、ギラファはその剛とした態度を止めない。
 双剣を構え、それぞれ一つの刃が一人の敵を狙うように両腕を開いた。


「はぁっ!!」


 そのまま、ギラファアンデッドは二人との間合いを狭める。
 アンデッドの脚力は、一瞬でそれを零にした。
 刃と装甲が交わり、火花が散る。その二つの切っ先は、レンゲルに血反吐を吐かせるには充分なものであった。


「ぐっ!!」


 だが、もう一人のカテゴリーキングはその程度では体を痛めない。
 そこを過ぎ去ったギラファアンデッドは背後からの真空鎌に棘まみれの背中を切り裂かれた。
 ギラファアンデッドがその痛みに気づいたとき、そこに凶器はない。鎌はただの酸素の塊でしかないのだから。


「なるほど、確かに強い一撃だ」


 ギラファの二つの刃とは違い、遠くからでも放つことのできる一撃。
 その威力は、およそギラファの刃と同じと言っていい。
 ならば、武器を見れば戦況的に不利なのはギラファである。


「だが、間合いを狭めれば刃そのものの威力が弱まる」


 パラドキサの体を何度も斬りつける。
 その全てが、パラドキサの体に強大すぎる一撃を与えていく。
 連射性というものは、ギラファのほうが圧倒的である。

 だが、それを打ち破るもう一人の戦士がいるという点においては、パラドキサは有利である。

184敵か味方か? ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/17(金) 16:23:05 ID:OQUNlSDQ
「俺を忘れるな!」


 ──BITE──
 ──BLIZZARD──

 二つのカードをラウズしたレンゲルは、吹雪を帯びた両足でブリザードクラッシュを放つ。
 当然、ギラファもそれを回避する方法を見つけ、体を回転させる。
 レンゲルの前にあるのは、ギラファではなくパラドキサの体なのだ。


 ギラファに痛めつけられた体にブリザードクラッシュを受けたパラドキサは、そのまま何時目を覚ますとも知れない封印へとその身の在り処を戻す。
 だが、ギラファの狙い目は、必殺技を放って隙ができたレンゲルの方である。
 パラドキサが消えると同時に、其処に居るのはレンゲル。その身を、ギラファの双剣が×印に切り刻んだ。


「ぐぁっ!」

「──わかったか? 力の差が」


 ギラファはレンゲルに止めを刺そうとはせずに、しかし何かすれば殺すぞとばかりの威圧で詰め寄る。
 首元にその剣をかざして殺意を明確にすると、ギラファはレンゲルに一つだけ命令する。


「変身を解け」

「殺す気か?」

「同じ世界の相手なら、殺すのは後だ。この場においては仲間は極限まで利用するべきだ」

「なるほど」


 レンゲルは言われるがまま、変身を解く。
 桐生は物怖じしない態度で、ギラファの剣を突き放す。
 ギラファもまた、それを見て金居の姿へと戻る。


「──だが、俺は俺のやり方でこの戦いを制する。お前もいずれ、殺す」

「言ったろう、それは俺たちの世界がこのバトルファイトで勝ち残ってからだ」

「それは構わん。望む通り、他の参加者も消してやる。だが、橘朔也は俺が殺す」

「ああ、一人ぐらいなら大きな痛手にはならない。
 そいつからギャレンバックルを奪ってもらえば、俺が封印される可能性も減るしな」


 二人の戦士は背を向け、それから互いを再び見ることもなく、それぞれの戦い方を果たすために歩いていった。

185敵か味方か? ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/17(金) 16:23:40 ID:OQUNlSDQ
【1日目 日中】
【C−3 川沿いの草原】


【金居@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】健康 ギラファアンデッドに二時間変身不可
【装備】無し
【道具】支給品一式、不明支給品×3(確認済み)
【思考・状況】
1:自分の世界の勝利を目指す為、他の世界の参加者同士で潰し合わせる。能動的に戦うつもりはない。
2:他の世界、及び大ショッカーの情報を集める。
3:自分の世界の仮面ライダーは利用出来るなら利用する。アンデッドには遭遇したくない。
【備考】
※アンデッドが致命傷を受ければ封印(=カード化)されると考えています


【桐生豪@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編で橘と戦い敗れる直前
【状態】疲労(小)、スパイダーアンデッドに精神を支配されている、レンゲルに二時間変身不能
【装備】レンゲルバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(クラブA〜10、ハート7〜K)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×2、不明支給品(0〜3)
1:橘と決着を着ける
2:そのために邪魔になる者は全て倒す
【備考】
※変身制限に気づいています。

186 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/17(金) 16:35:09 ID:OQUNlSDQ
以上、投下終了です。

>>150
メモリは全部それでいいと思います。
劇中で社長がメモリを使ったわけではないですし、どの程度溺れるかは書き手の裁量で。

>>二人のジョーカー
因縁の相手である始と協力する意外な展開になりましたね
一応、他のアンデッドに変身すれば激突は回避できるか…?
何あれ、色々と心配なコンビですねww
ガドルが相手なだけに心配してましたが、なんとか翔太郎は死を免れた…。

187二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/17(金) 21:12:21 ID:Z0Zs5eik
投下乙です
ああ、金居は強いなぁ……
流石はカテゴリーキング

188 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/18(土) 20:18:11 ID:CiDpsiMQ
只今より投下を開始します。

189 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/18(土) 20:18:42 ID:CiDpsiMQ
一回上げます。

190 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/18(土) 20:19:26 ID:CiDpsiMQ
 天の道を往く男は、一時のみ天を外れて、ある建物で休息を取っていた。
 情報──まずは殺し合いの状況の有無よりも、それを探して。
 しばらく時間は経過しているが、現在のところ天道は他の参加者に会っていない。
 そのせいで戦いが行われているかの有無さえ、彼は未だ掴んではいないのだから。
 それならば、戦いに赴く前に出来うる限りの情報を得るが吉である。


(支給品は──どちらも他のライダーの強化アイテムか)


 天道に支給されたものは三つとも、カブトには関係のない──他の仮面ライダーたちのパワーアップアイテムである。
 仮面ライダーディエンドの強化道具・青のケータッチ。
 仮面ライダーナイトの強化道具・疾風のサバイブ。
 いずれも、対象ライダーが信用に足る存在だと知らなければ渡すことはできない道具だ。


(なら、ハイパーゼクターやパーフェクトゼクターも誰かに支給されているのか?)


 数時間前に一度、天道は「変身」をしている。
 あくまで、「変身したまま行動する」という行動ができるか否かを試しての行動である。戦闘行動は行われては居ない。
 だが、天道の予想した通り、それはできなかった。時計が指したのは丁度十分の経過と、そのときに急速にカブトの力を振り払うような強力すぎる力。
 参加者の変身時間を計って、その上で一定時間が過ぎたら変身が解けるようなシステムを持っているのだろうか。──時間自体も細かく、その可能性は非常に高い。
 ゼクターの能力を解析して、ゼクターの改造でもしたのだろうか──その行動も、ワームの乃木怜司や間宮麗奈には対処できない。
 ライダーの変身システムなら変身解除のシステムを作ることも可能かもしれないが、直接変身する相手にはおそらく不可能。──ということは、制限を行っているものは非常に身近にあるものと考えられる。


(この首輪とか、な……)


 その中でも、特に怪しいのはこの首輪である。
 参加者全員が共通して身につけているものといえば、首輪である。或いは、踏んでいる地だろうか。
 空を飛ぶような能力を持っていれば、それも不可能。首輪ならば、外すこともままならない道具であり、制限を付与するには最も有効だ。

 制限はおそらくこれだけではない。
 カブトゼクターが天道の元から離れないのも、おそらくその一つ。彼の資格者の元へのワープ能力も制限されている。
 また、カブトに変身したままパーフェクトゼクターやハイパーゼクターを呼ぶこともできなかった。
 空間そのものにも何らかのワープ制限を加えられているという可能性は高い。


(それなら、この場所は一体……?)

191 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/18(土) 20:20:07 ID:CiDpsiMQ
 建物は全て、天道の世界と同じ構造。てっきり、どこかの世界の街の人間を追い出して使っているのかと思っていたが、それならば何故、制限などを設けられるのか。
 どこかにそんな装置があるということか、それともその空間に街を運んできたのか。
 ここで考えられるのはやはり、前者である。街を空間に運ぶなど、たとえ仮面ライダーが怪人と戦う世界においても難易な話である。
 装置があると考えた方が、始めに天道が広間からワープをしたことに関しても、その装置を使ったと考えれば説明がつく。


(まずはその装置を破壊して、大ショッカーの元に向かいたいが……それは【禁止エリア】に抵触する可能性が高い)


 それだけ重要なエリアがあるなら、それはおそらく禁止エリア。
 主催者にとって都合の悪いエリアに参加者を入れさせないのは当然である。


(つまり、首輪からどうにかしなければならないということか)


 天道は首の巻かれたそれを触ると、ため息をついた。
 いくら天道であっても、見えもしないものを解除するのは不可能。
 誰かしらの協力者は必要となる。


(得られる限りの情報は得た。他の参加者を探しに行くか……できるなら加賀美──お前を)


 運命は、彼を親友とめぐり合わせてはくれない。



△ ▽



「はぁっ!」

「せやぁっ!」


 ウルフオルフェノク、仮面ライダーライア。形状の異なる二人の戦士が、目の前の敵にパンチ、キック、チョップ──多様な攻撃で攻める。
 だが、ユートピア・ドーパントはそれを軽々と避けていく。
 彼の持つ戦闘力が破格な以上、それは仕方のないことなのかもしれない。攻撃が一撃も当たらないもどかしさを感じながら、二人の戦士は退かずに攻撃を送り込む。
 無論、そのプレゼントは敵に届くことはないのだが。


「二人がかりで当たらないなんて……」

「全然怖くないなぁ。──もっと僕を怖がらせて、もっと僕を笑顔にしてよ」


 そのプレゼントを送り返すように、ユートピアの両手が二つの顔面に叩き込まれた。
 豪腕と呼ぶに相応しいその両腕は、二人の頭を重力に帰す。体ごと転がっていく二人は、再び目の前の敵を見据えた。
 そんなライアとウルフオルフェノクはユートピアの力で強制的に──見えない力に立ち上がらされる。


「ぐっ……」


 立ち上がった二人は、そのまま体をぶつけ合う。
 意思ではない。そんなものは最早、ユートピアの力を前には無意味であった。
 再び倒れこんだ二人に、ユートピアは余裕で、しかし不満そうに見つめながら向かっていた。

192 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/18(土) 20:20:37 ID:CiDpsiMQ
「メモリの能力が強すぎる……」


 流石はゴールドメモリというところである。一日に二度もそんな相手と戦う自分の不幸を呪ってしまう。
 テラー・フィールドの効果はおそらく働いていない。──それでも霧彦は、目の前の相手が怖かった。
 そう、この敵が予言したとおり、恐怖させられているのだ。
 近づいてくる目の前の相手に、ライアは一言呟く。


「接近戦では勝ち目がないな」

「だが、ファイズに変身できなきゃ、俺は──」


 ファイズならまだしも、ウルフオルフェノクには飛び道具がない。
 メリケンサックや刃物を武具とするウルフオルフェノクには勝率がないということになるだろう。
 そんなウルフオルフェノクにかけるべき言葉を、ライアはかける。


「私に任せろ」


 ──SWING VENT──

 ライアの手に空から落ちるのは、エビルダイバーの尾──エビルウィップである。
 このライダーもまた遠距離戦の道具ではないが、ライアはそれを振るい、ユートピアのヒットから外れて敵に確実に一撃を与えていく。
 まるでライア自身に跳ね返ってしまいそうなほどの勢いで振るわれる鞭の一撃がユートピアを一時翻弄する。


「少し、痛いけど──」


 エビルウィップを振るわれながらもそれが平常であるかのように、ユートピアは、ダグバの姿が自然発火をするときのように右手を翳した。
 そう、それは彼にとって最も出しやすい「炎」の出し方なのだ。
 ──ユートピアの能力にも、その力は在った。


「──怖くは、ないね」


 ライアの体を、突如炎が包む。
 装甲から伝わってきた霧彦の体を襲う熱。
 その力は強大すぎるためにユートピアの力は一定であったが──それは火達磨となったライアの中で戦う霧彦を苦しませるに充分な攻撃であった。


「霧彦!」

193 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/18(土) 20:21:39 ID:CiDpsiMQ
 ウルフオルフェノクは前線に出てライアを庇い戦おうとするが、そんな巧を制止するように、ライアが悲痛を堪えて堂々と立ち上がる。
 前に出てこようとする巧をどうこうしようというつもりはない。
 確かに霧彦は街を愛で、その中で何か大切なことを成し遂げようとし続けた男である。
 だが──


「待て……この方が……好都合だ……」


 ──今の彼を突き動かすのは、見知らぬ男の心配ではなく、街を汚す「園咲」の力への反抗であった。
 何が風都の未来を担う子供たちを狂わせてきたのか。
 何が風都を愛する霧彦の心を利用してきたのか。
 何が冴子や若菜を狂わせてしまったのか。
 そう、全ては園咲琉兵衛──彼のゴールドメモリによる暗躍である。


 ライアは、目の前の金色のドーパントを睨み、その体めがめて脚力の限界を発揮して走り出す。
 当然、体は燃え盛り、今にも全てを灰にしようと業火が攻めてくる。
 だが、もはや自分の体など近いうちに滅びる運命なのだ。
 それなら──


 彼がしようとしているのは、無茶な特攻である。
 炎に包まれた体で敵の体にその業火を移す。それが彼の目的である。


「おい、やめろ……! 霧彦!」

「ぐっ……! ぐぁっ……!」


 ──FINAL VENT──


 巧の呼びかけを拒否して、霧彦はカードをセットする。
 エビルダイバーの体に炎の体を移し、ライアは炎のハイドベノンを試みる。
 カードに準拠したエビルダイバーはファイナルベントの発動を拒むことはなかった。
 まっすぐ、まっすぐ、まっすぐ。加速していく炎のエビルダイバー。

 後悔しても、止まらない。
 そこから下りることもできない。
 たとえ下りたとしても、それが敵を倒すことはない。


 その体は望みどおり、ユートピアの体と接触──いや、激突と呼べる動作でユートピアの体に炎を移した。


「ぐあああああぁあぁあぁぁぁぁっぁぁぁぁぁあぁぁぁあ!!!!」


 ──それは、ン・ダグバ・ゼバのものではなく、これまで堪えていた園咲霧彦の雄たけびである。
 炎に痺れる彼の体が、強い力の中でこげたような臭いを発する。
 それは彼の装甲には耐え難く……中で熱に耐えていた霧彦をライアの中から解き放った。

194 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/18(土) 20:22:28 ID:CiDpsiMQ
「ふはっ……!! ふははははっ!! いいね……面白い攻撃だよ」


 クウガの放つ炎を思わせる、ダグバの体を焼く炎。
 その輝きに、ダグバはかつての戦いを映していた。
 それに──炎で目立たないが、激突の痛みも相当なものであった。


「狂人がぁっ!!」


 そんなユートピアに、突き刺さる一撃。
 一瞬で間合いを狭めたウルフオルフェノクは、その体に強く重い一撃を与える。
 その手の棘が突き刺さる。それはウルフオルフェノクの拳が感じているものよりも遥かに痛いはずなのに、ユートピアは笑っていた。
 体に痛みを与えないとしても、ウルフオルフェノクは確かに、敵に「痛手」を与えていた。


「壊してやったぜ、霧彦ぉ……! 諸悪の根源を……」


 ユートピアはその右腕を掴み、霧彦の元へと吹き飛ばした。
 ウルフオルフェノクは霧彦に傷をつけないため、霧彦に激突する直前に変身を解く。

 そして、目の前の敵もまた──


「もう終っちゃったんだ」


 ウルフオルフェノクの拳は、的確にゴールドメモリを破壊していたのだ。

 変身が解けたダグバは、白い服を汚しながらも笑顔で三つの体を見下ろしていた。
 その体が、ゆっくりと巧の下へと向かっていた。この中で戦えそうな相手は一人だけなのだから。
 巧の頬を、ダグバの右腕が殴り飛ばす。
 ダグバの頬を、巧の右腕が殴り飛ばす。
 あんなに力の差が開いているように見えていた二人は、今、互角の力で殴りあう。

 怪人と怪人。その戦いには違いない。
 だが、善と悪。二つがぶつかっていた。

 右。左。下。正面。
 あらゆる方向から顔に飛んでくる拳を、二人は真正面から受けた。
 ダグバは、食らうのが目的だった。
 巧は、体力が避けることを許してくれなかった。
 いずれにせよ、二人の攻撃は全て当たっていた。


「もっともっと……僕を笑顔にしてよ、リントの戦士……」

「ああ、させてやる……俺はお前を倒して、全部真っ白にしてやるさ……」

「あははっ……。真っ白に……ね!」

「今は、お前が、この、世界の、汚れだ!」


 二人のパンチは止まない。
 まっすぐに、あるいは真横から、あるいは下から、攻撃というものを飛ばしてくる。


 先に倒れてしまった方が、死ぬ。
 巧の視界は歪んで、敵の顔などもはや見えない。
 ただ、そこにある歪んだ肌色──あるいは赤色をひたすらに突いているだけである。


「どうしたの? もう弱いよ」


 ダグバはまっすぐ、巧の正面にジャブに近いパンチを打ち込んだ。
 ダウン──テンカウントはおろか、何カウントあったとしても立ち上がれないような体の疲労と激痛。
 そこに、ダグバが近づいていることに巧は気づけない。

 だが、ダグバは次の一瞬で「別のもの」に興味を示すことになった。
 今のダグバにとって大切なことは、人を殺すことではなく、自分を怖がらせる存在を探すことなのだから。

195 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/18(土) 20:23:06 ID:CiDpsiMQ
「穏やかじゃないな」


 天道総司。天の道を往く男が、その悪魔に近づいていたのだ。
 彼は血まみれの喧嘩で笑っている青年に、底知れぬ狂気を感じつつも、三つの倒れた体を眺めたうえで──介入すべきだと判断した。


「……他のリントだね。僕を笑顔にしてくれるかな?」

「ああ……俺が笑顔を教えてやる。
 ──お前はその体で二人連れて逃げられるか?」


 二つ目の問いは自分に向けられたものだと、巧は気づく。
 それに対する答えは──


「ああ、だが……少し……キツイな……」


 二人も運ぶのは、この体では至難。
 ただでさえ、二人は成人男性なのだから。


「俺を忘れてもらっては困るなぁ、巧」


 だが、そんな言葉とともに音也は立ち上がる。
 彼もまた、テラーの──ゴールドメモリの力に抗った男だったのか。
 その力を前に倒された人間としては、明らかに起き上がるのが早かった。


「音也! てめえいつの間に……」

「まあ、俺は男は助けないが」

「……んなこと言ってる場合かよ」

「だが、コイツの奏でる音楽だけは、俺が護ってやる」

「──決定だな」


 天道がダグバと対峙している間に、音也と巧は霧彦を担いで、よろよろと逃げていく。
 ダグバはもはや、そんな敗者たちに興味はなかった。
 見逃そうと、今のダグバのゲゲルにはあまり関係ないのだ。


「じゃあ、僕が君を殺してあげるよ」

「それは、不可能だ。──何故ならお前には、速さが足りない」


 ──HEN-SHIN──
 ──CAST OFF──

 天道はすぐに仮面ライダーカブト・ライダーフォームの姿に変身する。
 生身の人間が仮面ライダーに敵うはずはないのだ。
 ──だが

 ──CLOCK UP──

 一瞬でカブトの姿はダグバの前から消える。
 否、──逃げた。


「あいつ……っ!!」


△ ▽

196 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/18(土) 20:23:39 ID:CiDpsiMQ
「おばあちゃんが言っていた……戦いとは、逃げるが勝ち。足の速いやつが勝つ……と」

「説得力がねえな」


 建物の中で、四人の成人男性が休養をとっていた。
 深刻なのは、園咲霧彦と乾巧である。
 全身大火傷の霧彦は動くこともままならない。通常なら、全治何ヶ月という大怪我である。


「なあ、乾君、紅君、それに……天道君だったか」


 霧彦は簡易ベットの上で、無残な火傷の傷を晒したまま三人に語りかける。


「託したいものがある」

「おい、死ぬみたいなことを言うなよ!」

「良かった……これは、無事だったのか……」


 怒る巧を前に、霧彦は笑っていた。
 彼は自分の顔の前に、スカーフをかざしていた。それは燃え尽きては居ない。
 自分の体が今にもそうなろうとしているのに、そんな小さなものの安全を見て霧彦は満足そうに見つめていた。


「妹がくれたスカーフだ。これを、乾君……君に、洗濯してもらいたいんだ」


 そんな霧彦に、怒号をかけたくなったが──やめた。
 巧でもわかってしまう。──彼は本当に、これで最期なのだ。
 折角、こうして会うことのできた相手を最後に怒鳴ってしまうような真似はしたくなかった。


「…………ああ、わかったよ。これでもクリーニング屋だからな」

「ありがとう……」

「お前の嫁さんも、俺たちが代わりに護ってやるさ」

「ありがとう……」

「お前の街も護ってやる。お前の妹だって死なせやしない。お前の好きな風を、世界中に吹かせてやる」


 霧彦は、巧がそれだけ「人を幸せにするコツ」を知っていたことを思うと、笑顔が漏れてしまう。
 彼は不器用そうに見えてきっと、人を幸せにすることを誰よりも強く願い続けているのだろう。今まで与えた少ない情報で、これだけ霧彦の望みを考え出すことができたのだから。

197 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/18(土) 20:24:16 ID:CiDpsiMQ
「──それなら、早く行ったほうがいいんじゃないか? 世界に良い風を吹かせるために……」

「ああ、お前を看取ったらな……」

「──そんなことはいいんだ。行けよ、人類の味方・仮面ライダー君」


 それは、巧の親友である男が、霧彦の親友にかけた言葉と同じであった。
 この言葉は仮面ライダーを背負う親友への最期の言葉である。
 命令されたなら、逆らってその姿を看取ることなどできない。
 いや、本当はそんな理由で呑み込んだわけではないのだろう。
 何故なら、それは彼らの使命だったのだから──。


「また来るぜ。綺麗になった世界をあんたに見てもらうためにもな」


 それから、霧彦は何度か振り返る彼らに背を向けるように転がると、目を瞑った。
 ドアの開く音が聞こえると安心する。──彼らは行ったのだと。


(死に場所は選んだつもりだったんだが……いや、ここもいずれは良い風が吹く、か……
 その時が……楽しみだなぁ……早く、見せてくれよ……仮面、ライダー君……)


 先ほどまで燃え盛っていたはずの体は冷たくなっていく。
 本当の本当に、誰かと話すだけの力もなくなってしまった。拳を握る力も、立ち上がる力もない。
 無論、風都のために戦う力も、冴子を止める力もない。
 だが、それを代わりにやってくれる男たちがいる。ただそれだけで、園咲霧彦は満足だった。


 ──彼は仮面ライダーを押していく、「良い風」となれたのだから。



【園咲霧彦@仮面ライダーW 死亡確認】
残り52人

198 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/18(土) 20:25:10 ID:CiDpsiMQ
【1日目 日中】
【F-5 市街地】

【乾巧@仮面ライダー555】
【時間軸】原作終了後
【状態】顔中に複数の打撲、疲労(大)、ウルフオルフェノクに二時間変身不可、仮面ライダーファイズに一時間半程度変身不可
【装備】ファイズギア+ファイズショット@仮面ライダー555、
【道具】支給品一式×2、ルナメモリ@仮面ライダーW、首輪探知機、ガイアメモリ(ナスカ)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW
【思考・状況】
1:打倒大ショッカー。世界を守る。
2:仲間を探して協力を呼びかける。
3:霧彦のスカーフを洗濯する。
4:後でまた霧彦のいた場所に戻り、綺麗になった世界を見せたい。


【紅音也@仮面ライダーキバ】
【時間軸】原作終盤(少なくとも渡を自分の息子と認識している時期)
【状態】疲労(大)
【装備】イクサナックル(プロトタイプ)@仮面ライダーキバ、ライアのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、不明支給品0〜2
【思考・状況】
1:最後まで生き残り、元の世界に帰還する
2:女性を見たらとりあえず口説く


【天道総司@仮面ライダーカブト】
【時間軸】最終回後
【状態】健康 カブトの二時間変身不可
【装備】ライダーベルト(カブト)+カブトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、ディエンド用ケータッチ@仮面ライダー電王トリロジー、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
1:仲間達と合流して、この殺し合いを打破する。
2:首輪をどうにかする。
3:間宮麗奈、乃木怜司を警戒。
4:情報を集める。
【備考】
※首輪による制限が十分であることと、二時間〜三時間ほどで再変身が可能だと認識しました。
※空間自体にも制限があり、そのための装置がどこかにあると考えています。


【1日目 日中】
【F-6 市街地】

【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】不明
【状態】苛立ち、怪人体に1時間程度変身不可、一応ユートピアにも二時間変身不可
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW
【道具】支給品一式
【思考・状況】
1:恐怖をもっと味わいたい。楽しみたい
2:目の前の二人が恐怖をもたらしてくれる事を期待
【備考】
※ガイアドライバーを使って変身しているため、メモリの副作用がありません。
※ユートピアメモリは破壊されました。

199 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/18(土) 20:25:46 ID:CiDpsiMQ
以上、投下終了です。
問題点、矛盾点、修正点などあれば指摘お願いします。

200二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/18(土) 21:10:29 ID:GkFFJJJE
とりあえず、ユートピアメモリに発火能力はありません。修正をお願いします。

あと、ちょっと前の話になりますが、あきらが服着てないのは仕様ですか?

201 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/18(土) 21:28:52 ID:CiDpsiMQ
ユートピア・ドーパントは劇中でもアクセルに対して数回、手のひらから炎を発する攻撃をしていたはずです。
それとも、制限で使えないということでしょうか?
そういう描写は読み返しても見当たりませんが……。

あきらは「止まらないB/もえるホテル」でシーツを巻いている描写があります。
シーツをくるんだまま行動しているという解釈で書いてましたが。

202二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/18(土) 21:31:46 ID:FPQCThfs
>>200
あれ、確かユートピアって嵐や炎などウェザーと同じような
自然現象が起こせたような……

203 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/18(土) 21:35:58 ID:yABUedG.
ユートピアは発火と放電能力ありましたよね。あれ、放電はどうだったかな…
重力操作は杖の方だと思いますけど

◆LQDxlRz1mQ氏投下乙です

204二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/18(土) 22:02:42 ID:O3P5AB/M
あれってアクセルの力奪ったからアクセルを火だるまにしてたって設定じゃあなかったでしたっけ?
相手のメモリの力を使えるってのがユートピアメモリの能力ですから。
それと裸にシーツ一枚で平然としている女子高生や、そんな姿の女の子を気にかけず対応する登場人物達に違和感があります。
修正をお願いします。

205二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/18(土) 22:04:35 ID:O3P5AB/M
今確認したら「クウガとアギト」の修正要請も出てますね。
そちらにも対応お願いします。

206二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/18(土) 22:12:01 ID:jbC.Ecj6
ユートピアの力はメモリの能力を奪うんじゃなくてメモリの能力を無効化&気力と生気減少だよ
発火や竜巻は杖のデフォ技

207 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/18(土) 22:20:04 ID:yABUedG.
47話のサーキットでのユートピア初変身時アクセルとの対決で火炎放射と竜巻、放電を披露してますね
火炎放射と放電はアクセルとエンジンメモリから奪った力と解釈できますが竜巻は難しいかな…
スチームとジェットを組み合わせたという事も考えられなくはないのですが…

>>206
杖の能力は重力の操作で発火、竜巻放電はユートピア自身の能力かと
47話でわざわざ杖をどかして左手から火炎放射を行ってますから

ただ発火、放電、竜巻をアクセル及びエンジンから奪った力と解釈できなくもないです
48話でも離れた場所に放火してますがこれら全てアクセルメモリの力かも…
wikiなどには発火能力ありとされてますが肝心のテレビ朝日じゃそういうことは書かれてませんしね

208 ◆VbYNTlLnDE:2010/12/18(土) 22:26:03 ID:yABUedG.
肝心な所忘れてた

アクセル&エンジンメモリの力を奪って一度変身を解いても奪ったままだったとも考えられますし
重力(飛行や地割れもこれに含む)、メモリの力吸収の他に発火、竜巻、放電能力を有していてぶっちゃけウェザー涙目

とも考えられます。正直ユートピアメモリ壊れましたしこのままでもいいんじゃないかな、と私は思うのですが

209二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/18(土) 23:07:55 ID:Z2jvBdGo
このロワでは強姦はあり?なし?

210二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/18(土) 23:58:21 ID:wSab36eU
>>208
まあそうだよね。
完全に作中からそうと読みとれない能力使ったならともかく、見た人次第で判断が分かれるような能力なわけだし
ユートピアメモリはこの話限りで完結してるんだから特に修正の必要はないと思います

211二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/19(日) 00:03:33 ID:R/Lc5wIk
おっと、感想忘れてました
霧彦脱落か・・・しかし最後まで風のような男だった
ガイアドライバーとメモリは巧が受け継いだから、これはナスカ巧がくるかも知れんね

ただ、よくわからない点が一つ
天道が来た時点ではダグバは変身が解けていたんですよね?
カブトになれる天道がその状態のダグバから逃げる理由が少し不可解です
人間体のダグバを怪人とは認識していない、ということでしょうか?

212二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/19(日) 00:25:27 ID:t.ZRSnxU
・翔一のアギト認定基準(解釈は>>120-121
・あきらの裸シーツが全員に無視されてる件
・ユートピアの発火能力(修正必要なし?)
・明らかに勝てる状況で天道が逃走した理由

ここまで挙がった疑問点はこんなところでしょうか?
あと個人的には、巧の攻撃がどうやってメモリを破壊したのか少し解りづらかったです

213二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/19(日) 00:31:03 ID:t.ZRSnxU
もう一つ、ダグバの状態表に身体ダメージと疲労が記載されてないのが気になりました
必殺技被弾+生身の殴り合いまでやって何も無しってことはないのでは

214二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/19(日) 01:24:31 ID:R/Lc5wIk
っと、すみません
こういった疑問は本スレではなく議論スレで言うべきでしたね
投下しづらいレスを残してしまって申し訳ないです

215 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:25:36 ID:87zY5Vmc
五代雄介、海東大樹、草加雅人、フィリップ、秋山蓮、北岡秀一、キングを投下します

216究極の幕開け ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:26:18 ID:87zY5Vmc

エリア、B−8。
燦々とした太陽に照らされた、緑豊かな森林だった。
空より降り注ぐ光が、枝の間から次々と差し込んでいく。
本来ならば、小鳥の囀りや穏やかな風の音が、広がっているかもしれない。
だが今は、そのような癒しとも呼べるリズムは、一片たりともなかった。
辺りに響くのは、盛大な爆音。
闘争によって鳴り響く、戦場の音だった。

「フンッ!」

そんな中で、一つの異形が腕を前に向ける。
蝙蝠を連想させる醜悪な顔面、背中から生えた一対の翼、両腕に付属された手甲、そこに刻まれた髭を生やした男性の顔。
『キバの世界』には、人間のライフエナジーを狙おうとする、ファンガイアと呼ばれる闇の一族が猛威を振るっている。
その中でも頂点の座に君臨する四人は、チェックメイト・フォーの称号が与えられた。
ルーク、ビショップ、クイーン、キング。
その異形は、全てのファンガイアを統率する王だった。
キングと呼ばれる今の彼は、バットファンガイアの姿を取っている。
相対するのは別世界に存在する、二人の仮面ライダー。
仮面ライダーナイトと、仮面ライダーゾルダ。
自身が生まれた『龍騎の世界』を守るために、戦いを決意した戦士達。
バットファンガイアが翳した掌から、漆黒の波動が放たれる。
禍々しい闇は、ナイトとゾルダの身体を容赦なく飲み込んだ。

「「ぐああぁあああっ!?」」

仮面の下から絶叫が漏れる。
衝撃波は鎧など関係ないかのように、中にいる人間にダメージを与えた。
二人の全身からは、鮮血のように火花が飛び散る。
鎧が爆発していたのだ。
衝撃に耐えるも、痛みは容赦なく伝わってくる。
やがて、彼らの身体は大きく吹き飛ばされていった。
ナイトとゾルダは、勢いよく地面に叩き付けられていく。
激痛によって、二人は蹲った。
そんな彼らの元へと、バットファンガイアは足を進める。

「フン、まるで脆い…………『仮面ライダー』とやらはこの程度か?」

鼻を鳴らしながら、侮蔑の言葉を口にした。
それに構うことなく、ナイトとゾルダは立ち上がる。
彼らは武器を構えた。
ナイトは翼召剣ダークバイザーを掲げながら、地面を蹴る。
そして、勢いよく突きを放った。

「トウッ!」

掛け声と共に、刃は敵に突き進む。
しかしバットファンガイアは、右手で呆気なく防いだ。
それでも、続くようにダークバイザーを力強く振るい続ける。
だが、金属音と火花が拡散するだけで、それ以上の効果は期待できない。
これでは駄目だとナイトは判断して、一旦後ろに飛んだ。
その結果、距離が僅かに空く。
ナイトはカードデッキへと手を伸ばした。
そして、一枚のカードを取って、ダークバイザーに差し込む。

『SWORD VENT』

独特の音声が、武器より発せられた。
その直後、ナイトの頭上から黒い輝きを放つ、一本の槍が現れる。
ウイングランサーに手を伸ばして、掴んだ。

217究極の幕開け ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:27:06 ID:87zY5Vmc
一見、ダークバイザーより威力がありそうな武器。
しかしバットファンガイアは、何の反応も示さない。
たかが静寂な人間が、武器を持ち替えたところで何を驚く必要がある。
そう思いながら、バットファンガイアは足を進めた。
しかし、それは止まってしまう。

『SHOOT VENT』

突如、電子音声が響いた。
バットファンガイアは反応して、そちらに振り向く。
見ると、その先にいるゾルダの両肩には、巨大な大砲が乗っかっていた。
機召銃マグナバイザーに、シュートベントのカードを差し込んだことで使える武装、ギガキャノン。
ナイトの動作はゾルダへ意識を向けさせない為の、囮だった。
バットファンガイアは気づくが、もう遅い。
二つの砲口から、弾丸が発射される。
バットファンガイアの身体に一瞬で着弾して、盛大な爆発を起こした。
轟音が響き、エネルギーが周囲に拡散する。
その衝撃によって辺りの木々が吹き飛び、煙が広がった。
爆風によって、大気が震える。
しかしゾルダは、一切の安堵を感じていなかった。

「おいおい、嘘でしょ……」

仮面の下から、呆れたような声が漏れる。
充満する煙の中から、バットファンガイアが姿を現したため。
しかも、まるでダメージを追っているように見えない。

「下らん!」

その言葉と共に、バットファンガイアは走る。
一瞬でゾルダとの距離が埋まると、強靱な腕を振るった。
バットファンガイアの拳は、重厚な鎧を紙のように削っていく。
無論、ゾルダ自身も無事でいられなかった。

「があっ!?」

悲鳴と共に、再び地面に倒れる。
背中から叩き付けられ、仰向けの体勢にされた。
無様な姿を晒すゾルダだが、バットファンガイアは目を向けない。
まるで、興味がなかった。
そのまま、次の獲物であるナイトに振り向こうとする。

『FINAL VENT』

直後、電子音によってバットファンガイアの鼓膜が刺激された。
目の前からは、ナイトが姿勢を低くしながら駆け抜けているのが見える。
そんな彼の頭上に、巨大な蝙蝠が空からやってきた。
ナイトと契約を果たしたミラーモンスター、闇の翼ダークウイング。
蝙蝠はその大きな翼を広げると、主の身体を包み込む。
すると、一瞬の内にマントへと姿を変えていった。

218究極の幕開け ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:27:46 ID:87zY5Vmc

「フンッ!」

両足をばねにして、ナイトは跳躍する。
そのまま天高く飛びながら、身体を回転させた。
するとナイトは、背中に羽織る漆黒のマントに包まれていく。
そして、バットファンガイアをめがけて急降下を開始した。
必殺の一撃である飛翔斬を決めるために。
この勢いでは、回避は不可能。
そう判断したバットファンガイアは、両腕を交差させた。
刹那、彼らは激突を開始する。

「オオオオオォォォォォッ!」
「ヌウッ…………!」

ナイトの身体はまるでドリルのように、バットファンガイアの手を削った。
ガリガリと抉れるような音と、火花が周囲に拡散する。
飛翔斬の威力は、5000AP。
それだけの重さが、バットファンガイアに襲いかかっていた。
互いの力が、拮抗する。

「小賢しいッ!」

しかし、力比べはすぐに終わった。
バットファンガイアが腕に力を込めて、ナイトの攻撃を弾いたために。
重力による落下も利用した、飛翔斬。
だが、バットファンガイアにとっては子供騙しに過ぎない。
吹き飛ばすことなど、造作もなかった。
大した徒労もなく、バットファンガイアは両腕を横に広げる。
それだけでも、ナイトを吹き飛ばすには充分な力を誇っていた。

「ぐあぁぁっ!」

両足から衝撃を感じて、空中で体勢が崩れる。
激痛の感覚は神経を駆け巡り、一瞬で脳に到達。
反射的に、悲鳴を漏らした。
ほんの数秒ほど宙を漂った後で、ナイトの身体が地面に叩き付けられる。
受け身を取る暇ですらも、彼にはなかった。

「くっ…………やってくれたな」

一方で、バットファンガイアは両腕を見つめる。
たった今受けた飛翔斬によって、微かに痛みを感じていたのだ。
掠り傷にも満たないとはいえ、脆弱な人間からダメージを受ける。
ファンガイアの王としての誇りが、その事実を許さなかった。
そして自分に傷を負わせた愚か者は、目の前で無様な姿を晒している。
それを見逃すつもりは、毛頭ない。
ナイトとの距離は、十メートル以上離れている。
わざわざこちらから出向いて、捻り潰すのも面倒。
バットファンガイアはそう思いながら、トドメを刺すために腕を向けようとした。

219究極の幕開け ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:28:34 ID:87zY5Vmc

『FINAL VENT』

何度目になるか分からない人工音声が、戦場に響く。
それはゾルダが現状に危機感を感じ、マグナバイザーにカードを差し込んだことで鳴った音。
すると、地面に突き刺さったディスカリバーの刀身から、一匹の巨大な魔物が飛び出してきた。
空想のみに存在する生物、ミノタウロスが二足歩行の機械で出来ているような、ゾルダと契約した緑色のミラーモンスター。
鋼の巨人、マグナギガ。

「なっ!」

現れたマグナギガを見て、ナイトはすぐに立ち上がる。
ゾルダの戦い方を、この目で何度も見てきた。
だから何をするつもりなのかを、ナイトはすぐに予測できた。
彼の撤退を目にすると、ゾルダはマグナギガの背中に拳銃を刺す。
それによって、魔獣の四肢に存在する門が、一斉に開かれた。
直後、マグナギガのゲートに大気が集中していく。
そして、ゾルダはマグナバイザーの引き金を引いた。

『OOOOOOOOOッ!』

マグナギガは、大きく咆吼する。
それと共に、自分の中に蓄積された全ての砲弾が、発射された。
ゲートから放たれる攻撃は、バットファンガイアを目がけて進んでいく。
瞬く間に、爆音が森の中に響いた。
空気は振動し、大地は砕け、植物は次々と吹き飛ばされていく。
その様子はまるで、世界そのものが破壊されていくかのようだった。
ゾルダの必殺技である、エンド・オブ・ワールド。
それによって放たれる数多の爆撃は、バットファンガイアを容赦なく飲み込んでいく。
やがて、雷鳴が轟いたような轟音が響いた。
そして爆風が、周囲に広がっていく。











辺りに、粉塵が舞い上がっていた。
先程までの爆発が嘘のように、静寂が広がっている。
ゾルダは、徒労を感じて息を吐いた。
初めての戦いが、よりにもよってあんな化け物だったなんて。
浅倉とかの方が、ただの人間だった分まだ可愛げがある。

220究極の幕開け ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:29:57 ID:87zY5Vmc

(…………ま、あいつもあいつで怖いけどさ)

それはともかくとして、今後が心配だ。
あのような怪物が、他にいないとも限らない。
そんな連中ばかりを相手にしてたら、命がいくつあっても足りないだろう。
最も、不老不死になれたとしても戦う気は毛頭ないが。
そんなことを考えていると、ゾルダの耳が足音を察知する。
振り向くと、煙の中からナイトが姿を現していた。

「ああ、やっぱり無事だったのね」
「北岡…………俺を殺すつもりか」
「しょうがないでしょ、チャンスを逃すわけにもいかないし。それにあの距離なら、避けられたでしょ?」

あまり悪びれていないゾルダの態度に、ナイトは溜息を漏らす。
苛立ちを込めながら。
確かに奴が言うように、エンド・オブ・ワールドが来ることは予測できる。
そして、敵に吹き飛ばされた距離から見て、射程圏からも外れていた。
回避行動だって取ろうと思えば、充分に取れる。
規格外の強さを持つあの怪物と戦うには、一方が攻撃を仕掛けて、もう一方が準備をしなければならなかった。
よってゾルダの行動は、正しいかもしれない。
だが、それでも納得が出来なかった。
しかしこれ以上言及したところで、どうなるわけでもない。
ナイトはそう思う中、風が吹き続けている。
その瞬間、粉塵を掻き分けながら、二つの影が飛び出してきた。
それらは回転しながら、ナイトとゾルダに激突する。

「うっ!?」
「があっ!?」

あまりにも唐突すぎる出来事に、対応が出来なかった。
彼らの身体からは、同時に火花が吹き出していく。
凄まじい衝撃により、彼らは地面に叩き付けられた。
それによって、度重なるダメージがついに限界を迎える。
直後、ナイトとゾルダの変身が解除された。
鎧の下からは、秋山蓮と北岡秀一が姿を現す。
しかし、二人とも意識を失っていた。
そんな彼らの前に、バットファンガイアが煙を掻き分けながら姿を現す。
彼は両腕に装備している手甲から発したエネルギーを、二人に投げつけたのだ。
投げつけた武器は回転を重ねた後、手元に戻る。

「人間如きが、小癪な真似を…………!」

わなわなと体を震わせながら、怒りの言葉を口にした。
その直後、彼の瞳が怪しく輝きを放つ。
刹那、空中に四本の牙が生成された。
ファンガイア一族が人間のライフエナジーを吸い取るための、武器。
無慈悲にも、それは北岡の首筋に突き刺さった。
そしてバットファンガイアは、気絶した彼からライフエナジーを吸っていく。
瞬く間にその身体は色を無くして、ガラスのように呆気なく砕け散った。
後に残ったのは、銀色に輝く首輪だけ。

221究極の幕開け ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:31:35 ID:87zY5Vmc

「どういうことだ……?」

北岡から全てを吸い尽くしたバットファンガイアは、疑問の声を漏らす。
ライフエナジーを吸う為の牙が、一人分しか出てこなかったため。
加減をするつもりなど、まるでなかった。
気絶している蓮を見ながら、バットファンガイアは再び牙を出そうとする。
しかし、現れない。
これは彼に巻かれた、首輪の効果だった。
ファンガイアの中でも最高の実力者である、バットファンガイア。
一度に、多くのライフエナジーを吸うことなど、造作もない。
だが、それはこの戦いのバランスを崩す要因となる。
よって、牙が現れることはなかった。
無論、それを知る術はない。

(まあいい、この手で潰せばいいだけのこと…………)

バットファンガイアは、冷酷な決断をする。
面倒だが、塵にするだけ。
そう思いながら、バットファンガイアは足を進める。
その時だった。

「うおおりゃああああぁぁぁぁぁっ!」

突如、何処からともなく大声が聞こえる。
それに反応して、バットファンガイアは歩みを止めた。
振り向くと、こちらに足を向ける戦士の姿が見える。
全身と両眼が、赤く輝いていた。
『クウガの世界』を代表する、超古代より蘇ったリントの勇者、仮面ライダークウガ。
彼は必殺の蹴り、マイティキックを放つ。
バットファンガイアの胸板に叩きつけると、紋章が刻まれた。
衝撃によって怪人が後ずさる一方で、クウガは地面に着地する。
そして、蓮を庇うように立った。

(俺は…………間に合わなかったのかっ!)

クウガに変身した五代雄介の中に、罪悪感が芽生える。
命を守れなかったことに対して。
森の中に響く轟音を聞きつけ、すぐさま駆けつける。
そこで、目の前の怪物に男の人達が襲われているのが見えた。
助けに行こうとするが、一人は殺されてしまう。
バットファンガイアを見て、クウガの中に闇が芽生えた。
憎悪と怒りによって生み出される、どす黒い感情。
だが、それを必死に抑えた。
憎しみに負けて、戦ってはいけない。
だって俺は、クウガだから。

「雄介!」

後ろから、声が聞こえる。
振り向くと、先程出会ったフィリップという少年が、蓮を担いでいた。
その隣には、草加雅人もいる。

222究極の幕開け ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:34:07 ID:87zY5Vmc

「彼は僕達に任せてくれ!」
「ありがとう、フィリップ君!」

フィリップの言葉に、クウガは力強く頷いた。
そして、バットファンガイアに振り向く。
クウガの隣に、変身を果たした海東大樹が並んだ。
この殺し合いに乗った、バットファンガイアの邪魔をするために。
シアンと黒を基調とした鎧、マスクに付けられた仕切り、右手に握られているディエンドライバーと呼ばれる拳銃。
数多の世界を渡り、財宝を狙い続ける大泥棒、仮面ライダーディエンド。

「ファンガイア……『キバの世界』で人間のライフエナジーを狙っていた、闇の一族か」
「何だ貴様は、俺の世界を知っているのか…………?」
「まあね」

ディエンドは、軽々と答えた。
バットファンガイアはその態度を見て、疑問を抱く。
この仮面ライダーは、ファンガイアの事を知っている。
もしや、自分の世界の住民なのか。
だが、その姿はキバともイクサとも違う。
あの忌々しい『素晴らしき青空の会』とやらが、また新しい兵器を作り出したのか。

(…………いや、関係ないか)

どんな理由にせよ、自分の邪魔をしようとしている。
ならば塵にすればいいだけ。
そして、逃げ出した人間共のライフエナジーを奪えばいい。
行動を決めて、バットファンガイアは前に出た。
立ち向かう為に、クウガとディエンドも突撃を開始する。











「君、大丈夫かっ!?」

戦場から少し離れた位置で、フィリップは気絶した蓮に呼びかけた。
しかし、反応はない。
殺し合いに乗っているかは分からなかったが、助けなければならなかった。
そんなフィリップの姿を、草加は冷ややかな目で見ている。

(やれやれ、分かりやすい奴らだな。まあ、その方が助かるけど)

これは、五代雄介の提案だった。
何処の誰かも分からない奴を、迷わず助けた。
こんな場所では、付け入られる隙となる。
だが、逆を言えば自分にとっても利用しやすい。
このフィリップも、殺そうと思えば殺せる。
しかし今は、五代や海東を利用するために我慢だ。

223究極の幕開け ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:35:07 ID:87zY5Vmc

(そして、カイザが使えないとは…………)

三人と行動してから、隙を見てカイザギアを使おうとする。
だが、何の反応も示さなかった。
恐らく大ショッカーが、何か細工を仕掛けたのだろう。
殺し合いのバランスを取るために。
これはデメリットになるが、チャンスにもなる。
この細工は、何も自分だけに架せられた物ではないかもしれない。
異世界の仮面ライダーにも、同様の罠が仕掛けられているはず。
ならば、変身できない隙を突いて、殺すことも出来るかもしれない。
それは五代と海東にも、架せられているはず。
殺すことは出来るだろうが、今は我慢だ。

(フィリップといったか、良かったじゃないか。死ぬまでの時間を伸ばすことが出来て)

草加は心の中で呟きながら、フィリップを冷たく見つめる。
五代と海東という、邪魔者を潰すための戦力。
フィリップとは、草加にとってそれを確保するための手段に過ぎない。
もしも役に立たなくなったら、自分で始末する。
あるいは、いざという時の盾にすればいい。
不意に、草加は戦いが繰り広げられている場所に目を向ける。
そこではクウガとディエンドが、バットファンガイアと戦っているのが見えた。
見たところ、二人は不利な状況に追い込まれているように見える。
だが、どんな結果に終わろうと関係なかった。
勝てるのなら、それで良し。
奴らが負けるなら、見捨てれば良いだけ。
どんな結果になるにせよ、関係がなかった。

(待ってくれ、真理…………君は必ず、俺が生き返らせてみせるから)

既にこの世にいない愛しき少女、園田真理。
彼女への歪んだ思いを込めながら、草加は誰にも気づかれないように握り締める。
仮面ライダーナイトに変身するための、カードデッキを。
そして、北岡秀一の首輪も。
それは蓮を連れて行く際に、拾った物だった。
付属していた説明書によると、異世界の仮面ライダーに変身するための道具らしい。
だが、草加はこれを使うつもりはなかった。
今はクウガとディエンドが戦っている。
それなら別に、自分が無理に戦う必要はない。
こんな状況では、無闇に突っ込んだところで消耗するだけ。
それは馬鹿のすることだ。

(その為にも、君達にはうんと働いて貰わないとね…………)

草加の目には、同行する者達はただの捨て駒にしか映らない。
全ては真理を蘇らせるため。
その為に、草加は戦わなければならなかった。







224究極の幕開け ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:37:22 ID:87zY5Vmc
「ダアッ!」

バットファンガイアの剛拳が、クウガを目掛けて放たれる。
神速の勢いで、真っ直ぐに突き進んでいった。
巨大な拳を、クウガは身体を捻って回避しようと試みる。
それによって、肩を掠めるだけで終わった。
チャンスが出来たと確信して、クウガはカウンターのパンチを放つ。

「はあっ!」

赤い拳は、バットファンガイアの巨体に叩き込まれた。
しかし、微塵にも揺れない。
クウガの拳は、蚊を刺す程度の痛みすらも感じなかった。
それでも諦めるつもりは、微塵も無い。
一発で駄目なら、もっと叩き込めばいいだけ。
こんな奴に、これ以上誰かの奪わせたくないから。
クウガは力を込めて、パンチとキックを放ち続ける。
しかしバットファンガイアは、それら全てを体勢をずらして、いとも簡単に避けた。

「うわあぁっ!」

直後、何かが砕けるような鈍い音が、悲鳴と共に響く。
バットファンガイアが、クウガの胸を殴りつけた音だった。
その威力はとても凄まじく、赤い鎧に凹みが生じる。
クウガの身体は、後ろへ大きく吹き飛んでいった。
地面を転がる一方で、ディエンドは銃口を敵に向ける。
そして引き金を引いて、弾丸を放った。

「ぬっ!」

銃声と同時に、バットファンガイアに命中する。
だが乾いた音を鳴らしながら、弾かれるだけだった。
ディエンドライバーから弾丸が放たれる一方で、バットファンガイアは地面を蹴る。
痛みなど感じていないので、避ける必要はなかった。
ディエンドとの距離を一瞬で詰めると、バットファンガイアは拳を振るう。

「うっ!」

剛拳によって、鎧に亀裂が生じた。
悲鳴を漏らしながら、ディエンドは地面に叩き付けられる。
倒れた彼に追い打ちを掛けるように、バットファンガイアは接近。
そして右足を振り上げて、勢いよく叩き付けた。

「フンッ!」
「――――っ!」

その悲鳴は、声になっていない。
バットファンガイアは続けざまに、ディエンドの胸を潰そうと何度も踏みつける。
一度受けるたびに、悲痛な声が漏れた。
ディエンドは抵抗しようとするが、激痛によって身体が動かない。
圧倒的な暴力は、一切の反抗を許さなかった。
バットファンガイアはディエンドを踏みにじる事に、意識を集中している。
その為、失念していた。
自分に拳を向けようとする、もう一人の存在を。

225究極の幕開け ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:39:10 ID:87zY5Vmc

「ああああぁぁぁぁぁっ!」

咆吼と共に、視界の外から何かが近づいてくる。
それはバットファンガイアに激突して、衝撃が走った。
直後、異形の巨体は揺らいで、ディエンドから離れていく。
蹌踉めいた体勢を、バットファンガイアはすぐに立て直した。
そして、睨み付ける。
ディエンドと共に戦っている戦士、クウガを。
その姿は、先程とは少々異なっていた。
赤い鎧は黒く染まって、四肢の装飾品はボリュームを増し、ベルトの宝石が金色に輝いている。
それは放電を伴って会得した形態、ライジングフォームの最上位だった。
雷を司る、黒の金のクウガ。
アメイジングマイティフォームへと、クウガは姿を変えていた。

「うあぁっ!」

黒い戦士は、走る。
これ以上、この怪物に誰かの笑顔を奪わせないために。
これ以上、みんなを傷つけさせないために。
本当は、戦いなんて嫌だった。
殴るとは、相手の尊厳を傷つけることになる。
笑顔を壊すことになる。
それでも今は、戦わなければならない。
この怪物は、未確認生命体と同じだ。
人を何とも思わない、暴力の権化。
心が痛むのを感じるが、クウガは堪えた。
そして拳を握り締め、力強く振るう。
しかし、それをバットファンガイアは呆気なく止めた。
いくら上位形態とはいえ、相手はチェックメイトフォーのキング。
アメイジングマイティとなっても、差が開いたままだった。
反撃の一撃を、バットファンガイアは放つ。
それはクウガの頬に衝突して、体勢を崩した。
だが、すぐに立て直す。

(強い…………けど、ここで倒れちゃ駄目だ!)

クウガは、自分にそう言い聞かせた。
後ろには海東さん、草加さん、フィリップ君、そして名前も知らない男の人がいる。
そして、この世界には一条さんも何処かにいる。
ここで倒れたら、誰がみんなを守るのか。
絶対に諦めてはいけない。
絶対に倒れてはいけない。
痛みに堪えながら、クウガは拳を振るい続けた。
バットファンガイアも、殴り返してくる。
身体と胸が痛い。
でも、止まっては駄目だ。
こいつだけはここで倒さなければならない。
絶対に、許してはいけない。
殺された人は、もう戻ってこないのだから。
次第にクウガは、感情が高ぶっていく。

226究極の幕開け ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:42:25 ID:87zY5Vmc
その最中、彼の脳裏にある光景が浮かび上がった。
四本の角が金色に輝き、全身が黒い輝きを放つ凄まじき戦士。
究極の闇の中から、稲妻を身体に纏って現れるクウガが。
興奮と共に、アークルから電流が流れ出す。
それは、全身へと流れていった。
両腕に、両足に、頭部に。

「――――だああぁぁぁぁぁぁっ!」
「――――おおぉぉぉぉぉっ!」

クウガとバットファンガイアは、同時にストレートを放った。
そして、クロスカウンターの体勢で、互いの頬に入る。
だが、吹き飛んだのはクウガだけ。
バットファンガイアだけは、未だに佇んでいた。
まさに王の名を背負うに相応しいほど、威風堂々とした様子で。

「つまらん、この程度か」

あっさりとバットファンガイアは、言い放つ。
姿を変えたのだから、てっきり力を増したのかと思った。
現に、先程より一撃が重くなっている。
だが、所詮は人間。
致命傷と呼べるようなダメージを、自分に追わせるなど出来なかった。

「目障りだ」

バットファンガイアは、両腕を広げる。
すると、ようやく立ち上がったクウガに向かって、真紅のエネルギー波が放出された。
それはクウガだけでなく、ディエンドをも巻き込んでいく。
膨大な熱量によって、彼らの鎧が爆発を始めた。

「「うああぁぁぁぁっ!」」

クウガとディエンドは、絶叫を発する。
規格外とも呼べるような、攻撃によって。
いくら苦しんでも、エネルギーの暴走が止むことはない。
そんな中、ディエンドは後ろに吹き飛ばされていく。
横目でそれを見たクウガは、耐え続けていた。

(海東さん…………っ!)

刹那、彼の中である感情が沸き上がっていく。
人を殺して、海東を殺そうとするバットファンガイアへの怒り。
力が足りない、自分自身への怒り。
そしてこんな戦いを開いて、人々を犠牲にしようとする大ショッカーへの怒り。
全てが、憎悪へと変わった。
そしてアマダムから、力が流れる。
クウガの瞳は、バットファンガイアを真っ直ぐに見据えた。
そのまま、彼は地面を蹴って前へ走り出す。
衝撃波の痛みに耐えながら。

227究極の幕開け ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:44:02 ID:87zY5Vmc

「何…………?」

バットファンガイアは、疑問の声を漏らす。
クウガがエネルギー波を受けながら、未だ顕在していることに驚愕を抱いていた。
その黒い身体は、確かに損傷している。
だが、止まる気配が一向に見られなかった。
そして一歩進む度に、クウガの身体が変わっていくのが見える。
ベルトの石が黒く染まり、そこから電流が迸った。

「おおおあああああぁぁぁぁぁっ!」

咆吼と共に、クウガは超変身を続ける。
両肩と四肢から突起が飛び出し、装甲が厚みを増した。
血管のような筋が、全身に生まれていく。
最後に、瞳が鎧と同じ色に変貌した。
アマダムから、膨大なるエネルギーが噴出している。
『クウガの世界』に残された碑文には、ある伝説が書かれていた。
『聖なる泉枯れ果てし時、凄まじき戦士、雷の如く出で、太陽は闇に葬られん』と記された、究極の存在を示す一節。
それが今、再現されようとしていた。
凄まじき戦士と呼ばれる、仮面ライダークウガの究極形態。
全ての存在を破壊する暴力の化身、アルティメットフォーム。
そして、距離はゼロになる。
クウガは、拳を振るった。

「グウッ!?」

バットファンガイアは、呻き声を漏らす。
この一撃が、今までより圧倒的に重いため。
アルティメットフォームのパンチ力は、80トンもの威力がある。
いかにチェックメイトフォーのキングといえども、それを受けてはただで済まない。
だが、吹き飛ぶことはなかった。
王としての誇りが、それを許さない。

「おのれっ…………!」

負けじとバットファンガイアも、剛拳を放った。
クウガは揺らぐが、すぐに持ち直す。
吐息のかかる距離で、彼らは拳をぶつけ続けた。
一発、十発、五十発、百発。
一度激突する度に、大気と地面が轟音と共に震える。
達人とも呼べる戦士達が揃ったからこそ、起こる現象だった。
やがて互いの拳は、互いの頬に叩き込まれる。
すると、クウガとバットファンガイアは大きく後ろに吹き飛ばされた。
当たったヶ所に、鋭い痛みを感じる。

「くっ…………!」

バットファンガイアは嗚咽を漏らしながら、ふらふらと立ち上がった。
一方でクウガは地面に倒れると、変身が解除されてしまう。
首輪の制限によって生じる、タイムリミットを迎えたため。
本来ならば、それは来るまでまだ時間があるはずだった。
しかし、上位の形態に変身すると、半分になるという制限も付けられている。
アメイジングマイティフォームに変身し、クウガの変身時間が短縮された。
そこから最上級のアルティメットフォームに覚醒したため、更に減少してしまう。
結果、クウガの変身は解除されてしまった。
生身を晒した五代雄介は、起きあがる気配が見られない。
いくら強化形態になったとはいえ、相手はファンガイアの王。
その戦いで負った傷が、あまりにも深すぎた。
五代の命を奪おうと、バットファンガイアは歩く。

228究極の幕開け ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:46:20 ID:87zY5Vmc

「ぐっ!?」

その最中、身体に僅かな衝撃が走った。
ディエンドが放った、銃弾が命中したことによって。
バットファンガイアの足が止まった瞬間、その身体が変化していく。
それを好機と見たディエンドは、五代を抱えて走り出す。
そのまま全速力で仲間達の元に向かい、この場から離れることに成功した。
バットファンガイアは追おうとする。
直後、その身体が人間の姿に戻ってしまった。

「な、何……!?」

あまりに唐突すぎる現象に、キングは驚愕する。
彼もまた、この戦いで架せられた十分の制限時間が、訪れてしまった。
無論、それを知ることはない。
木どころか、雑草すらも残っていない荒れ地で、キングは佇む。
先程ライフエナジーを吸った男、北岡秀一の遺品を彼は手に取った。
仮面ライダーゾルダに変身するためのカードデッキと、デイバッグを。
そして、『カブトの世界』に存在するディスカビル家に伝わる名剣、ディスカリバーも。

(…………どうやら、大ショッカーとやらが下らん細工を仕掛けたか)

キングは、自分の力に制限が掛けられていると推測する。
その証拠に、再びバットファンガイアに変身しようとするが、出来なかった。
どうやら、ファンガイアの力だけでは生き残れそうにないだろう。
これだけでなく、他の仮面ライダーの力を奪うことも、考えるべき。

「真夜…………」

不意に、最愛の女性の名を呟く。
彼女はファンガイアである自分よりも、人間であるあの男を取った。
この会場の何処かにいる、忌まわしい紅音也。
そして未来から来たと言われる、奴の息子である紅渡も何処かにいる。
この二人は、絶対に潰さなければならない。
奴らはキバに変身して、自分を殺した。
息子である太牙に全てを託したが、その必要はない。
自分がここで、奴らを殺せばいいのだから。

(そして、願いを叶えてみせる…………)

大ショッカーは、自分の世界の住民と協力し、戦いに残れと言った。
だがそんな真似など、出来るわけがない。
何処の世界に、敵対する種族と手を取り合う馬鹿がいる。
他の世界の住民は当然のこと、奴らも始末する。
そして、再び真夜を自分の物にする。
ファンガイアの王は利己的な愛を抱きながら、前に進んだ。
自らの願いのために。
そんなキングのデイバッグには、ある物が眠っていた。
先程殺した北岡が住む『龍騎の世界』のアイテム。
ライダーバトルに勝ち残った戦士の前に、初めて姿を現す十三人目の仮面ライダー。
仮面ライダーオーディンに変身するためのカードデッキが、キングのデイバッグに眠っていた。
本来の時間なら彼は、チェックメイト・フォーの一角、ビショップの手によって心なき殺戮マシーンとなっている。
しかし、大ショッカーは彼に再び自我を与えた。
己を取り戻した、キングの行く末は果たして。

229究極の幕開け ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:48:39 ID:87zY5Vmc

【1日目 日中】
【B−8 森林】
※戦いの余波によって、ほぼ荒れ地となっています

【キング@仮面ライダーキバ】
【時間軸】現代編/復活後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、バッドファンガイアに二時間変身不可
【装備】ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎、オーディンのデッキ(タイムベント抜き)@仮面ライダー龍騎、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×2、不明支給品(1〜2)、北岡の不明支給品(0〜2)
【思考・状況】
1:ゲームに勝ち残り、真夜を再び自分の物にする。
2:先程戦った仮面ライダー達(クウガ、ディエンド、ナイト、草加、フィリップ)を殺す。
3:紅渡と紅音也を殺す。
【備考】
※ 制限によって、ライフエナジーを吸う牙は、一度に一人分しか現れません。
※ 再び現れるのに、時間が必要です(どの程度かは、後続の書き手さんにお任せします)










森林から脱出して数分後、五人は皆生きていた。
しかし、五代と蓮は未だに目を覚まさない。
バットファンガイアとの戦いの傷が、深かったのだ。
そんな中、ディエンドの変身を解いた海東は考えている。
この会場で出会った初めての男、五代雄介。
本人は自分のことを、クウガと言っていた。
クウガと言えば、旅の仲間である小野寺ユウスケしか知らない。

(まさか、彼は本当にクウガだったとは)

その姿は、確かに仮面ライダークウガだった。
しかも、自分の見慣れているのと寸分の違いもない、赤い戦士に。
異なる点があるとすれば、フォームチェンジの後だ。
全身が黒く染まった、禍々しい二つの形態。
あの時一瞬だけ、バットファンガイアに迫るほどの力を発揮していた。
これがユウスケのクウガとは、また違う証拠。
やはり、自分が知る以外にも『クウガの世界』はもう一つ存在するというのか。

(…………まぁ、これはあとでいいか。さて、問題はこっちかな)

海東は、フィリップの背負った男の方を見つめる。
何処の世界の誰かも知らない青年。
五代が草加とフィリップに頼んだから、ここまで連れてきた。
だが、この人物が何者なのかは不明。
もしかしたら、殺し合いに乗っている可能性もある。

230究極の幕開け ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:49:37 ID:87zY5Vmc

(いや、その時はその時かな。いざとなったら、あの恐竜君もいるしね)

フィリップの支給品であるファングメモリを見つめながら、海東は結論を付ける。
あれは自らの意志を持つようで、戦うことも出来る優れ物だ。
出来るならば、手に入れてみたい気持ちがある。



三人の警戒を浴びていることを、秋山蓮は知らない。
そして自分の世界の住民が既に死んでいることを、秋山蓮は知らない。
目覚めた彼に、どんな運命が待ち受けているか。


【北岡秀一@仮面ライダー龍騎 死亡確認】
 残り51人
※ライフエナジーを吸い取られたことにより、北岡の遺体は消滅しました。



【1日目 日中】
【C−8 草原】



【五代雄介@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後
【状態】気絶中、疲労(大)、ダメージ(大)、仮面ライダークウガに二時間変身不可
【装備】アマダム@仮面ライダークウガ
【道具】支給品一式、不明支給品1〜3
【思考・状況】
0:…………(気絶中)
1:人々の笑顔を守る。
2:みんなと共に行動する。
3:一条さんと合流したい。
4:仮面ライダーとは何だろう?
【備考】
※支給品はまだ確認していません



【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】最終話終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、仮面ライダーディエンドに二時間変身不可。
【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式、不明支給品1〜3(確認済み)
【思考・状況】
0:お宝を守る。
1:殺し合いに乗った奴の邪魔をする。
2:五代雄介、草加雅人、フィリップと共に行動
3:五代雄介の知り合いと合流
4:知らない世界はまだあるようだ
5:蓮(名前を知らない)を警戒
【備考】
※クウガの世界が別にあることを知りました。

231究極の幕開け ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:50:50 ID:87zY5Vmc

【草加雅人@仮面ライダー555】
【時間軸】原作中盤以降
【状態】健康、仮面ライダーカイザに三十分変身不可
【装備】カイザドライバー@仮面ライダー555、カイザブレイガン@仮面ライダー555、ナイトのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、首輪(北岡)、不明支給品1〜2
【思考・状況】
1:真理の居る世界を守る為に、555の世界を優勝させる。
2:勝ち残る為にも今は演技を続けるが、隙があれば異世界の参加者は殺す。
3:真理を殺した奴を見付け出し、この手で殺す。
4:出来る限り、戦いは他の奴に任せる。
5:蓮(名前を知らない)を警戒。
【備考】
※カイザドライバーに何処までツールが付属しているかは後続の書き手さんに任せます。



【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作中盤以降
【状態】健康
【装備】無し
【道具】支給品一式、ファングメモリ@仮面ライダーW、バットショット@仮面ライダーW、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン)@仮面ライダーW
【思考・状況】
1:大ショッカーは信用しない。
2:出来ればここに居る皆と情報を交換したい。
3:草加雅人は完全に信用しない方が良い。
4:真理を殺したのは白い化け物。
【備考】
※支給品の最後の一つはダブルドライバーでした。
※バットショットにアルビノジョーカーの鮮明な画像を保存しています。



【秋山蓮@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】第34話終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、仮面ライダーナイトに二時間変身不可
【装備】ナイトのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、不明支給品(0〜1)
【思考・状況】
0:…………(気絶中)
1:自分の世界のために他世界の人間を倒す。
2:まずは目の前の敵・バットファンガイアを倒す。
3:北岡と協力する。協力できるなら、同じ世界の人間と協力したい。
4:同じ世界の人間を捜す(城戸優先)。浅倉とは会いたくない。
5:北岡や協力者と決着をつけるのは元の世界に帰ってから。
【備考】
※ サバイブのカードは没収されています(蓮は気づいていない)。

232 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 09:53:09 ID:87zY5Vmc
以上で、投下終了です
矛盾点や疑問点などがありましたら、ご指摘をお願いします

そしてLQDxlRz1mQ氏、投下乙です
霧彦さん、お疲れ様…………
彼の意志を、たっくんが継いでくれることに期待したいです

233 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 10:16:52 ID:87zY5Vmc
あ、蓮の状態を以下のように修正します
【状態】気絶中、疲労(大)、ダメージ(大)、仮面ライダーナイトに二時間変身不可

234二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/19(日) 11:32:03 ID:KleOM/gg
投下乙

北岡さんやられてしまったか…
お疲れ様…
そしてデッキはキングへ。海東達や蓮の今後の行動も気になります。


そういえば初代でも剣の方のキングもゾルダのデッキを(ry

235二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/19(日) 11:35:58 ID:KleOM/gg
追記

まぁこっちも使用するかどうかですが

236二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/19(日) 12:17:45 ID:dRRLb8JY
投下乙です。
流石にキバのラスボス一筋縄にはいかないか(そうか、現代編復活時なら自我ないけど今回はある状態なのか)……北岡さんお疲れした。
で、地味にクウガがアルティメット化……しかも原作ではイメージでしか登場しなかった黒目状態……強化形態なのに素直に喜べないなぁ……
そういや上位形態制限ルールから察するとアルティメット化出来るのって最大2.5分だけなのか……それ恐ろしい程使いにくい気が(ただ、アルティメットはチートだから仕方ないか……ダグバは普通に10分変身出来るのに……)

しかしこの集団地味に危険すぎるなぁ……草加はステルス、蓮はマーダー……とりあえずフィリップ逃げてーそれは下手なドーパントよりも危険だー!

……あれ、そういやナイトのデッキは草加が持っているんだよな……蓮の状態表にもナイトのデッキがある気が……まぁ些細な修正で済む話か。

237 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 15:16:35 ID:87zY5Vmc
ご指摘ありがとうございます
それでは、状態表を以下のように修正します

【秋山蓮@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】第34話終了後
【状態】気絶中、疲労(大)、ダメージ(大)、仮面ライダーナイトに二時間変身不可
【装備】無し
【道具】支給品一式、不明支給品(0〜1)
【思考・状況】
0:…………(気絶中)
1:自分の世界のために他世界の人間を倒す。
2:まずは目の前の敵・バットファンガイアを倒す。
3:北岡と協力する。協力できるなら、同じ世界の人間と協力したい。
4:同じ世界の人間を捜す(城戸優先)。浅倉とは会いたくない。
5:北岡や協力者と決着をつけるのは元の世界に帰ってから。
【備考】
※ サバイブのカードは没収されています(蓮は気づいていない)。

238二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/19(日) 18:16:04 ID:hATqFkM.
投下乙です。
同世界の人間がいきなり合流すると起こるジンクスは未だ健在。
草加と蓮が早期合流、キングのゾルダなど過去ロワを彷彿させる展開もありという感じで、パロロワ的に王道なんでしょうか?w
五代以外はみんなサブライダーですねぇ。主役一人にしても、力は強大だから今後が楽しみです。

一つ気になったんですが、オーディンのデッキの文って必要でしょうか?
以前にもライダーロワNEXTでオーディンのデッキに関して議論になってましたから、あんまり意味なく出さない方がいいと思ったんですけど。

239 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/19(日) 19:15:34 ID:87zY5Vmc
分かりました オーディンに関する部分を全てカットさせていただきます

>>228を。以下のように修正しますがよろしいでしょうか?


大ショッカーは、自分の世界の住民と協力し、戦いに残れと言った。
だがそんな真似など、出来るわけがない。
何処の世界に、敵対する種族と手を取り合う馬鹿がいる。
他の世界の住民は当然のこと、奴らも始末する。
そして、再び真夜を自分の物にする。
ファンガイアの王は利己的な愛を抱きながら、前に進んだ。
自らの願いのために。
本来の時間なら彼は、チェックメイト・フォーの一角、ビショップの手によって心なき殺戮マシーンとなっている。
しかし、大ショッカーは彼に再び自我を与えた。
己を取り戻した、キングの行く末は果たして。

240 ◆7pf62HiyTE:2010/12/19(日) 20:58:00 ID:o0.EtqBI
三原修二、リュウタロス分投下します。

241Try-Action Delta form ◆7pf62HiyTE:2010/12/19(日) 20:59:50 ID:o0.EtqBI
 『過去』と『現在』、そして『未来』が1つに重なる瞬間、
 彼は何を思うのだろうか――
 考えなければならない、戦う理由を――
 そして彼は何をするべきなのか――





「じゃあ行こうよ」
「ちょ……ちょっと待ってくれ」



 そう言って息切れしている三原修二と共にB-1にあるサーキット場から出ようとするリュウタロスであったが、
 三原は先程リュウタロスによって強いられた特訓で疲労状態に陥っている為まともに動ける状態ではない。
 故に何とか断ろうとしたが、



「さっき『やってみるさ』って言ってたけど、それウソだったの?」
「本当に身体が痛……」



 先程、戦いを拒む際に『足が痛い』と口にしたのと違い今度は本当に特訓による筋肉痛になっている事を伝えようとした。
 しかしこのまま口にした所で先程と同じ事の繰り返しになると考え何とか踏みとどまった。
 だが、動ける状態では無い事は事実。
 幾ら(本音は戦いたくはないが)戦うと言った所でこんな状態では戦いにすらならないだろう。故に何とか身体を休めたいと考え、



「……そうだ、お前良太郎って知り合いがいたよな。もっと詳しい事聞かせてくれないか?」



 先程からリュウタロスは『良太郎に会いたい』と口にしていた。その事について詳しく聞く事で休む為の時間を稼ぐ事にした。
 戦うにせよ戦わないにせよ何もわからない状態では動き様がない。何か情報が得られればむしろ好都合だろう。



「んーいいけど」
「もしかしたら他にも仲間とかがいるかも知れないだろ、名簿見せてくれないか?」
「お前持ってないの?」
「俺のバックはアイツが……」



 三原のデイパックは中身毎数時間前に戦った桐生豪が持ち去っていった。故に三原の手元にあるのはデルタギア一式だけである。
 ともかく、リュウタロスも三原の話を了承し名簿を2人で見ながらリュウタロスの関係者についての話を聞いた。

 名簿にあったリュウタロスの関係者は3人、野上良太郎、モモタロス、牙王の3人だ。
 が、ここからの話が三原にとっては信じがたい話だった。
 リュウタロスの世界ではイマジンという未来の人類が自分達の都合の良い様に過去や現代を改変しようとしており、
 その時の運行を守る為時の列車デンライナーと電王がイマジンと戦っているという話だ。
 その電王に変身するのが良太郎でリュウタロスとモモタロス、そして名簿には載っていないがウラタロスとキンタロスの4人のイマジンが彼に力を貸しているという話だ。
 なお、牙王は“神の路線”を狙った際に戦い良太郎達が倒し『た』という話である。

 前述の通り三原にとってはあまりにも信じがたい話だ。だが、先程自分に憑依され身体を乗っ取られた事実を踏まえればそれは事実としか言いようがないだろう。



「とりあえず良太郎とモモタロスが仲間か……」
「でもモモは1人でも大丈夫だと思うけどね」
「……そういえばネガタロスっていうのは? お前達の仲間じゃないのか?」
「? そんなヤツ知らないけど?」



 名簿にはネガタロスというモモタロスやリュウタロスに名前が似た者がいた。しかしリュウタロスが知らない以上詳しい事はわからない。
 ネガという名前だから悪い奴……という事も一瞬だけ考えたが流石に名前だけでそこまで判断するのは早計だろう。



「(そういえば……モモにウラにキン……桃太郎に浦島太郎に金太郎か……じゃあコイツは……?)」



 リュウタロスの名前について少し疑問に思ったもののあまり考えても仕方ないと思い話を進める事にした。

242Try-Action Delta form ◆7pf62HiyTE:2010/12/19(日) 21:02:05 ID:o0.EtqBI



「ねぇねぇ、僕ばっかり話しているけどお前には仲間とかいないの?」



 そうリュウタロスが聞き返してきて三原は改めて名簿を確認する。
 三原の視点から見て知っている人物は4人だけ。
 まず、同じ流星塾出身の園田真理と草加雅人、
 真理が信頼しているらしい乾巧、
 そしてスマートブレイン社長の村上峡児、
 自分の世界の出身の人間が他にもいるかも知れないが三原が把握しているのはこの4人だけだ。

 三原自身が流星塾との関わり合いを断ちたがっていた為、詳しい状況を把握し切れていないが自身の置かれている状況は以下の通りだ。
 自分達の育ての親である先代社長が3つのライダーズギアを流星塾出身の仲間達に送ったらしい。だがそれを現社長にして進化した人類とも言うべきオルフェノクの村上が狙っており、配下のオルフェノクを差し向けている。
 ファイズとカイザのベルトは紆余曲折を経てそれぞれ巧と草加が所有しデルタは流星塾生の間を転々と……という話だ。
 そして巧と草加はそれぞれの意志を持ち人々の命を脅かすオルフェノク、そしてスマートブレインと戦っているというわけだ。

 そういう観点でいうならば巧と草加は頼れる味方で、真理もまた仲間といえる。そして村上は敵という事になる。

 ――だが、今回に限ってはそうとは言い切れないのが現状だ。
 勿論、真理と彼女が信頼する巧に関しては信頼出来るだろう。真理は恐らくこの状況なら大ショッカー打倒を考えるだろうし詳しくは知らないが彼女の信頼する巧も概ね信用出来るだろう。
 だが草加に関しては一抹の不安を感じる。いや、少なくても三原から見れば圧倒的に頼れる味方だ。
 しかし草加は敵と判断した相手に対してはどこまでも敵だと判断しているのが見てとれる。かつての仲間であった澤田に対しても容赦なく敵だと断じている。
 少なくても草加から見た場合、オルフェノクは絶対的な敵と考えて良い。

 もし、草加がリュウタロスを見た場合、オルフェノクの様な異形の怪物と断じて倒そうとする可能性が高い。
 いやそれ以前に、今回の殺し合いのルール上他の世界の連中を皆殺しにするだけで少なくても自分の世界は守れる。
 草加の場合、自分の世界や自分達仲間達を守る為、リュウタロス達他の世界の連中を皆殺しにする可能性は否定出来ない。
 だが、三原個人としては他の世界の連中全員を敵と断じて戦いたくはない。
 聞く限り良太郎は真理や巧同様頼れる味方だろうし、話してみて感じた事だがリュウタロスが倒される事に関しては良い気はしない。
 良くも悪くもリュウタロスは『子供』なのだ、見た目はどうあれ『悪人』とは思えないし実際良太郎と共に世界を守ってきている。

 故に同郷の出身の仲間といえ草加を頼れる味方と話すわけにはいかないのだ。

 ちなみにルール上は村上も味方だが彼を味方だとは全く思っていない。
 状況から考え村上と自分が出会ったらベルトを奪われ殺されるのがオチだろう。そんな奴を信用する気はない。
 無論、未知のオルフェノクに関してもほぼ同様の理由で警戒すべきだ。未知の人間に至ってはそもそも無力な人間に頼るのが間違いだ。



「味方は真理と巧さんだけだな……草加と村上は自分の世界を守る為だったら他の世界の奴等を皆殺しにするかもしれない」



 何にせよリュウタロスには詳しい事情は話さず、以上の事を伝えるに留める。勿論草加に関しては信じたいが否定しきれない以上はある意味仕方がない。



「友達少ないんだね」
「別にいいだろ……そういえば、お前その銃以外に何か無かったのか?」



 と、リュウボルバー以外に支給されたものは無いのか問う。
 真面目な話、デルタギアの様な変身ツールがあれば都合が良い。自分が変身して戦わなくて済むならそれにこした事は無いからだ。
 だがそれは望み薄だろう。あるならば先程の戦闘でわざわざ自分に憑依してデルタに変身する必要などないのだから。



「えーっとコレと……」



 そんな三原の思惑を余所にリュウタロスはデイパックから『あるもの』を取り出した。そしてそれを見て三原は驚愕した。

243Try-Action Delta form ◆7pf62HiyTE:2010/12/19(日) 21:03:00 ID:o0.EtqBI



「ちょっと待て! これは……」
「え? このデカイの何か知ってるの?」
「いや、俺も詳しい事は知らないけど……これ俺の世界のものだ」



 それは三原の世界に存在するスマートブレインが作り出したあるツール。
 そう、その世界に存在する仮面ライダーに最強の力を与えるツールだ。
 その名はファイズブラスター、ファイズをブラスターフォームに変身させ同時ファイズの武器となるものだ。
 勿論、三原自身そこまで把握しているわけではない。だが、スマートブレインのロゴと色合いから見てファイズに力を与えるツールである事は把握している。



「早速使って見てよ」



 しかし事情を知らないリュウタロスは目を輝かせて三原にせびる。



「無茶言うなよ、これはデルタの武器じゃないから使いようがない。ファイズじゃないと使えないんだ」
「じゃあ、ファイズだったら使えるんだ。アレみたいなものか」



 リュウタロスが言う『アレ』とは電王をライナーフォームへと変身させるデンカメンソードだ。だが、三原はそれを軽く聞き流す。



「多分……だけどどっちにしても俺やお前じゃ使えない。巧さんか草加じゃないと……」



 そう、仮にこの場にファイズのベルトがあっても適合しない者では変身する事すら出来ない。少なくとも三原に使う事は不可能と考えて良い。
 だが、ここまで考えて今更ながらにある疑問が浮かんだ。



「(ちょっと待て……そういえばどうして巧さんや草加が使えるんだ?)」



 そう、先代社長が流星塾の皆に送った3つのライダーズギアは基本的に普通の人間が扱う事は出来ない。
 真理に送られた筈のファイズギアは真理には扱えず結局巧が使用している。
 カイザギアに関しては流星塾の仲間が何人か使ったが草加以外は変身後灰となって死亡した。
 デルタギアについては一応使用は出来たがその力に溺れ醜い争いを繰り広げた事を聞いている。一応、今さっき自分が使った限りそういう影響は見られなかったが今後も大丈夫かは不明瞭だ。
 しかし、何れのベルトであってもオルフェノクは普通に扱えるらしい。

 これだけ見れば大きな謎である。しかし三原には心当たりが1つあった。



「(澤田は異常なまでに俺達流星塾の仲間を消したがっていた……それと何か関係があるのか?)」



 かつての流星塾の仲間でオルフェノクとなった澤田は何故か自分達を消したがっており、実際に何人もの仲間が彼に殺された。
 もしや流星塾の仲間達の間で自分の知りらない何かがあったとでもいうのか?
 澤田がオルフェノクになった事と関係があるのか?
 草加がベルトを扱える事と関係があるのか?
 自分達にベルトが送られた事と関係があるのか?

 草加だったら何か知っているかも知れないが前述の通り下手に接触も出来ない。
 更に言えば真相がわかった所で状況が好転するわけでもない。
 故にこの疑問はひとまず留めておく。

 だが、巧が変身出来る理由に関しては保留には仕切れない。
 巧は流星塾とは何の関わりも無く、たまたま真理を助けたからファイズになったに過ぎない。
 では何故巧がベルトの力をあつかえるのか?



「(まさか……巧さんはオルフェノクなのか……?)」



 それは巧が自分達の敵とも言うべきオルフェノクだったという仮説だ。確かにそれなら変身出来る理由に説明が付く。
 それ自体が驚愕だが同時に大きな疑問が生じる。
 何しろ巧は真理達人間を守る為に彼にとっての同胞とも言うべきオルフェノクを次々倒しているからだ。
 何故彼はそこまで出来るのだろうか?
 彼が真理達を騙している? 確かにそれも考えないではないが、自分よりもずっと付き合いの長い真理が信頼している限りその可能性は低いだろう。

244Try-Action Delta form ◆7pf62HiyTE:2010/12/19(日) 21:03:40 ID:o0.EtqBI



「ねぇねぇ、さっきから黙りこんでどうしたの?」



 と、リュウタロスが思考の渦に引きずり込まれそうになった三原に声をかける。



「あ、いや……何でもない……」



 と、リュウタロスの顔を見てその疑問の答えらしきものがわかった様な気がした。
 そう、リュウタロスはイマジンでありながら人間である良太郎に力を貸し悪いイマジンと戦っていった。
 もしかすると巧もリュウタロスと同じなのかも知れない。
 巧はオルフェノクでありながら人間である真理達を守る為、オルフェノクと戦っている。
 詳しい事情はわからないがそういう事なのだろう。
 全てのオルフェノクが巧の様に人間と敵対しないとまでは言う気は無いが全部が全部敵とは限らないのかもしれない。
 今はそれ以上の事を考えても仕方がないだろう。



「ともかく、コイツは何とかして巧さんに届ける」



 真相はどうあれファイズブラスターはファイズに変身する巧以外には使えない事に変わりはない。
 故にファイズブラスターは巧に届ける以外の選択肢はない。可能性は低いが巧が危険人物ならばファイズブラスターを壊せば済む話だ。
 三原としても巧との合流は望む所である。問題は何処にいるのかがわからないことだが。
 話が纏まり、ファイズブラスターは再びデイパックに仕舞われる。



「後はコレ」



 それは何かのグリップの様なものだった。



「デルタフォンみたいだな……」



 そこには『ZECT』と書かれていた事から、ゼクトなる組織か会社が作った武器……あるいは変身用のツールである事はわかる。
 それに『何か』を取り付ける、もしくはそれを『何か』に取り付ける事で変身出来る可能性が高い。
 だがその『何か』が無い以上、現状では無用の長物でしかない。
 使えない以上アテには出来ない為、それもデイパックに仕舞われた。










 そして暫くしてサーキット場から2人が出てきた。当面の目的地は南方向にある市街地だ。
 市街地まで行けば巧や良太郎といった仲間の情報が掴めるだろうし上手く行けば合流出来るかもしれない。



「そういえば良太郎には会いたいって言っていたけど、モモタロスの方には会いたくないのか?」
「モモだったら1人でも大丈夫だって、バカだけど強いし。でも、僕の方が強いけどね」



 そう口にするリュウタロスではあったが三原はそれについては懐疑的だ。
 参加させられている者は恐らくそれぞれの世界の仮面ライダーとそれと敵対するオルフェノクやイマジン、アンデッド等といった怪物、そしてその関係者だ。
 それから察するに仮面ライダーに匹敵する参加者も数多いという事になるのは言うまでもない。仮にモモタロスが強くても無事である保証は全く無い。
 しかも外見だけでいえばオルフェノクとは違うものの怪物と判断される可能性が高い。それは桐生がリュウタロスを見てアンデッドと呼んだ事からも明らかだ。
 そうなればモモタロスは仮面ライダーからも人間からも怪物だと認定され一方的に倒される側になるだろう。

 また、無事であるかの問題に関しては他の参加者についても同様だ。
 仮面ライダーやそれに匹敵する怪物が数多い以上、巧や草加、それに良太郎が無事である確証は何処にもない。
 先の戦いでも一歩間違えれば仮面ライダーである筈の桐生がリュウタロスに倒される可能性があった為有り得ないとは言えない。
 更に言えば真理に至っては変身する事の出来ない一般人、生き残れる道理は皆無だ。

245Try-Action Delta form ◆7pf62HiyTE:2010/12/19(日) 21:04:30 ID:o0.EtqBI



「(無理だよな……どう考えても……)」



 巧達でさえこの有様だ、『今の段階では』しがない一般人でしかない三原が戦い抜ける道理は全く無いだろう。

 『今の段階では』? そう、三原の脳裏にはある種の仮説が浮かんでいた。。
 それは先程リュウタロスから牙王の事について聞いた時に感じた疑問が発端だった。
 牙王は良太郎達が力を合わせて倒したと語られていた。つまり既に死亡している筈である。
 リュウタロスは別に疑問に感じていなかったみたいだがこれは明らかに奇妙な話だ。
 何しろ死んだ人間がこの世に蘇っているからだ。
 だが、三原の知る限りそういう人物はもう1人いる。
 そう、真理がそれに該当しているのだ。真理も三原の知る限り、澤田に襲われ死亡している筈である。
 この場に来た当初は動揺していた事に加え早々に桐生に襲われた為その事を思い返す余裕も無かった。
 だが、冷静に思い出せば真理は確かに死亡した筈なのだ、何故死亡した真理がこの場にいるのか?
 勿論、大ショッカーの技術力と結論付ける事で思考停止する事は簡単だ。
 しかし三原はリュウタロスから聞いた話からある仮説を導き出した。
 リュウタロス達の世界では過去や未来を行き来する事が出来るデンライナーが存在していた。過去や未来に干渉する技術が存在すると考えて良い。
 つまり、死亡した者に関しては死亡する前から連れて来れば説明がつくという事だ。
 勿論、あまりにも都合が良い仮説だ。だが十分に可能性はあるだろう。

 その仮説を推し進める事で、デルタギアを持った事がない自分の手元に何故かデルタギアがあった事にも一応の理由付けが出来る。
 最初は理不尽さしか感じなかったが、もしかすると以下の可能性が考えられる。
 恐らく少し未来の自分は何かしらの理由でデルタギアを手にしデルタに変身してオルフェノクと戦っていたのだろう。
 その時の自分が何故戦う気になったのかは知らないし知りたくもない。
 だが、それが確かならば自分の手元にデルタギアがある事に説明が付く。何故ならデルタギアは自分のベルトという事になるのだからだ。



「(だったら、少し未来の俺を巻き込めばいいだろ……何で今の俺なんだよ……)」



 自分でも理不尽な事を内心で呟きながらも自分が逃げられない状況に追い込まれている事だけは理解出来た。
 仮説が正しいという確証は無いが自分が巻き込まれた理由に関してはこれで説明出来るのだから。
 少なくても全くの無関係という事は無いのだろう。



「俺も戦わなければならないのかも知れない……」



 それは今まで逃げ続けた者にとっては非常に弱々しい決意、
 だが、今まで戦おうとしなかった者にとってはとても大きく、同時に小さな一歩であった。



 不安を感じさせないリュウタロスを余所に三原の不安は尽きない。
 2時間と少し後の放送で自分達の知り合いの名前が呼ばれればどうなるかわからないのだ。
 モモタロスや良太郎の名前が呼ばれればリュウタロスはどうするのだろうか?
 蘇らせる為に殺し合いに乗る可能性だって否定出来ない。
 同じ事は自分達にも言える、自分が死んだ所で大きな影響は無いだろうが真理が死ねば草加や巧がどう動くかは予想出来ない。
 もしかしたら優勝狙いに切り替えるかもしれない。



「大丈夫……だよな……?」
「修二、何か言った?」
「いや、何でもない」
「別にいいけど、それより早く行かないと置いてくよ」
「待ってくれリュウタ、まだ筋肉痛が……」
「答えは聞いてない」

246Try-Action Delta form ◆7pf62HiyTE:2010/12/19(日) 21:05:20 ID:o0.EtqBI







 ――その2人を上空から見つめる者がいた。

 それは青のドラゴンフライを模した機械、
 『彼』の名はドレイクゼクター、トンボ型昆虫コアだ。
 『彼』は資格を有する者がドレイクグリップをかざした時、その者の元に現れ仮面ライダードレイクに変身する力を与えてくれる。
 だが、本来の資格者はこの地にはいない。
 故に『彼』は今の所、ドレイクグリップを持つ者リュウタロスを上空から見つめるだけだ。
 『彼』がリュウタロス、あるいは三原を認めるかはわからない。
 『彼』は只、自由に空を舞いながら2人を見つめていた。

 それはさながら大空を自由に飛び回るトンボの様に――





 三者の旅は始まった。
 彼等の立ち位置はさながら三角形、TriangleあるいはDeltaの様であった。
 彼等の想いは未だ重ならない。だが仮に彼等の声が重なったならばその強さは――
 無論、そうそう都合良い話は無い。しかし挑まなければそれすら分からない。
 歩き出さなければ何も始まらないのだ。

 進むだけである、答えを聞かない間にも――





【1日目 日中】
【C-1】
【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】疲労(大)、筋肉痛
【装備】デルタドライバー、デルタフォン、デルタムーバー@仮面ライダー555
【道具】なし
1:リュウタロスと共に市街地に向かう。
2:巧、真理、良太郎、モモタロスと合流したい。草加、村上、牙王を警戒。
3:戦いたくないが、とにかくやれるだけのことはやる
4:オルフェノク等の中にも信用出来る者はいるのか?
【備考】
※リュウタロスに憑依されていても変身カウントは三原自身のものです。
※同一世界の仲間達であっても異なる時間軸から連れて来られている可能性に気付きました。同時に後の時間軸において自分がデルタギアを使っている可能性に気付きました。
※巧がオルフェノクの可能性に気付いたもののある程度信用しています。

【リュウタロス@仮面ライダー電王】
【時間軸】本編終了後
【状態】胸にダメージ(小)
【装備】リュウボルバー@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、ファイズブラスター@仮面ライダー555、ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト
1:三原と共に市街地へ向かう。
2:良太郎に会いたい
3:大ショッカーは倒す。
【備考】
※人間への憑依は可能ですが対象に拒否されると強制的に追い出されます。
※ドレイクゼクターがリュウタロスを認めているかは現状不明です。

247 ◆7pf62HiyTE:2010/12/19(日) 21:06:15 ID:o0.EtqBI
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

248二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/20(月) 03:04:41 ID:PtO6e4Aw
投下乙
察しがいいな三原
リュウタは自由だからドレイク似合うだろうな

249 ◆MiRaiTlHUI:2010/12/21(火) 19:14:27 ID:/6CcXFDc
投下乙です。
確かに自由奔放なリュウタロスならドレイクにも認められそう。
三原には何気にファイズブラスターを支給か。
上手くたっくんの手に渡ればいいけど……。


それでは、只今より予約分の投下を開始します。

250悪の組織は永遠に ◆MiRaiTlHUI:2010/12/21(火) 19:21:28 ID:/6CcXFDc
 病院内で鳴り響く、金属音の応酬。
 甲高い音は非常に耳触りで、まともな会話すらも掻き消されてしまう。
 それ以前に、この現状でまともな会話を交わす事自体が難易度の高い事であるのだが。
 タイガとネガ電王が打ち鳴らす金属音を背景に、それでも二人は言葉を交わした。

「ブレイド……貴方はやはり、剣崎一真なんですか!?」
「何っ!? なんで俺の名前を知ってるんだ!?」
「じゃあやっぱり、また私達の旅を終わらせる為に……!?」
「何言ってるんだアンタ一体!」

 だけど二人の意思はかみ合わない。
 お互いの知り得る常識が、かけ離れ過ぎているのだ。
 仕方のない事と言えば、仕方がない。

「第一、何でブレイドを知ってるんだ!?」
「貴方、私を覚えてないんですか!?」
「だから何の話をしてるんだ!」

 埒が明かないとばかりに、ブレイドが怒鳴った。
 光夏海が知る剣崎一真と、今ここに居る剣崎一真はイコールではない。
 別の時間軸の同一人物なのか。はたまた全く別の世界の存在なのか。
 その答えを知る術は残念ながら存在し得なかった。

「貴方はまた、士君を消す為に戦うつもりじゃないんですか……!?」
「その士って奴が誰なのかは知らないけど、俺は殺し合いに乗ったつもりはない!」
「えっ……、士君を、知らない……?」

 ここで夏海を襲うのは、壮絶な違和感。
 この剣崎一真という男、あの時出会った剣崎一真とは違い過ぎる。
 何よりも、あの時の様な余裕が感じられないし、あの時の様に嫌な感じもしない。
 どちらかと言うと、真っ直ぐに生きる剣立カズマに近いイメージであった。
 もしかしたら、あの剣崎一真とは別の剣崎一真なのかも知れない。
 ネガの世界に居た、自分とは異なるもう一人の自分の存在を思い出す。
 それを考えれば、同じ顔と名前をしているからと言って、同一人物と断定するのは早計だ。

「わかりました、剣崎さん。今は貴方を信じますっ……」
「……ああ、何が何だか分からないけど、話はアイツらを止めた後だ!」

 キバーラとブレイド。
 二人の視線が交差して、共に頷いた。
 話は目の前で戦う二人を止めてからでも遅くは無い。
 それぞれの剣を構えて、二人は戦場へと駆け出した。

251悪の組織は永遠に ◆MiRaiTlHUI:2010/12/21(火) 19:26:26 ID:/6CcXFDc
 




 視界を埋め尽くすのは、廃墟。
 何処までも続く、破壊され尽くした廃墟の山。
 地面には瓦礫が降り積もって、足場と呼べる場所は僅かしかない。
 乃木怜治率いるワーム軍団によって破壊されたエリアの一つであった。
 荒廃し、無秩序な世界となった大地を、矢車は踏み締める。

 全てを失った彼にとっては、別に世界がどうなろうが知った事では無かった。
 それこそ、ワームが人類を滅ぼして、地獄を創ろうと自分には関係ない。
 世界も他者も……それどころか、自分にすらも興味が沸かない。
 正直な所、矢車にとっては何もかもどうだって良かった。

 どうでもいい世界で、どうでもいい枠組みの中で。
 どうでもいい他人が、どうでもいい人間関係を築いて。
 どうでもいい諍いが、どうでもいい戦いを招いて、そしてどうでもいい結末を迎える。
 どうでもいい自分は、当然の様にどうでもいい他者と必要以上の接点を持とうとはしない。
 そんなどうでもいい枠組みの中で生きて行く事には苦痛しか感じない。
 だから矢車は、自分が死のうと、他人が死のうと、全く動じはしない。
 ――筈だった。

「兄貴……」

 だけど、そんなどうでもいい世界の中に、たった一人だけ。
 どうでもいいでは済ませなくなってしまった、大切な人が居たとしたら。
 何もかもを捨てた矢車が、たった一つだけ捨てる事が出来なかったもの――。
 人間らしい一切の感情を投げ捨てて、だけども人間を捨てられないたった一つの要因。
 大切な大切な、誰よりも大切な「弟」が、そこには居た。

「……相棒」
「お願いだよ兄貴」

 弟は、矢車にすがる。
 無様に跪いて、無様な泣き顔を見せて。
 それでも弟はすがった。たった一人の兄に。

「俺の仇を取ってくれよ……兄貴」
「はぁ……」

 最早、溜息を漏らす事しか出来なかった。
 こんな自分に何かを求めるのは、もうきっと彼だけなのだろう。
 矢車の存在だけを心の支えにして、矢車という拠り所にすがって生きて行く。
 結局の所、弟が誰かに敗北したとして、その無念を晴らすのはいつだって兄である矢車だった。

 嗚呼、これは夢だ。儚い夢でしかないのだ。
 死んでしまった弟への想いが、こんな下らない夢を矢車に見せるのだ。
 だけど、夢と分かって居ても、それをただの夢を切り捨てる事は出来ない。

 どうでもいい世界の中で、たった一人。
 どうでもいいとは言えない大切な人からの願い。

 それが兄による仇討ち。弟を笑った奴らへの復讐。
 ちっぽけで、陳腐な願いだけれど、それこそが死んでしまった彼の唯一の願い。
 そんな弟の最期の願いに報いる事が、自分に出来る唯一の兄らしい事だとするなら。
 矢車に、兄として弟にしてやれる事は、たった一つしか無いのではないか。

 結局の所、矢車は本当の意味で何もかもを捨てる事は出来なかった。

252悪の組織は永遠に ◆MiRaiTlHUI:2010/12/21(火) 19:28:06 ID:/6CcXFDc



 これで何度目になるだろうか。
 硬質な白虎の爪と、青白い炎を描いた紫の剣が激突した。
 振り下ろされた紫の刃を、左の爪で受け止めて、絡め取る。
 剣の自由を奪ってから、即座に右の爪でネガ電王の身体を切り裂いた。
 仰け反ったネガ電王は、しかし剣を離そうとはしない。
 紫の剣を叩き落して、タイガが再び爪を振り下ろす。

「君、弱いね」

 バランスを崩したまま後退する事も出来ずに、ネガ電王の装甲が爆ぜた。
 紫の装甲に、硬く鋭い爪に引き裂かれた傷跡を生々しく残して、火花と共に数歩後退。
 状況は現在、圧倒的にタイガの優勢。その理由は、二人の武器にあった。
 武器を両腕に装備したタイガと違い、ネガ電王の武器はあくまで一つ。
 斧や槍に変型させようが、銃にして距離を取ろうが、結局は武器の数で劣る。
 それこそが単純な力のぶつけ合いで、戦力を分かつ決定的な理由だった。

「チッ……お前、英雄にしちゃ中々『ワル』いオーラ放ってんじゃねえか」
「だから僕は、最終的に英雄になれるなら、正義だろうと悪だろうとどっちだって構わないんだってば」

 大仰な動きでタイガが振り抜いた爪を、紫の剣で受け止めた。
 手首一つで振るう剣と、肘から先の腕全体で振るう爪の重量の差。
 それがそのまま威力の差となって、ネガ電王の腕に振動を響かせる。
 すぐに剣を引き抜いて、矢継ぎ早に振り上げられた右の爪にぶつけ返す。

「英雄は英雄でも、悪の英雄でも構わねえって事か」
「まぁ……そういう事になるかも」

 振り下ろされた左の爪を剣で受け止めて、ネガ電王は笑った。
 こいつは強い。それも、目的の為に手段を選らばない辺り、悪としての素質は十分過ぎる。
 自分の組織に招き入れ、一から悪の魅力について教え込んでやるのも有りかも知れない。

「よし、気に入った。お前、俺の悪の組織に入らねえか? 幹部の椅子を用意するぜ?」
「別にいいけど、君の仲間になれば、僕がもっと英雄に近付けるって保証でもあるのかな」
「ああ、俺の組織は最後に勝てる悪の組織だからな。お前を最強の悪の英雄にしてやるよ」
「ふーん……」

 タイガの攻撃が止んだ。
 次いで、ネガ電王もその腕を引く。
 お互いの視線が交差して、一拍の間が流れた。

「それも、面白そうかも」
「なら、決まりだな?」

 お互いの意見が一致した。
 同時に、それぞれの武器を力一杯に振り下ろす。
 タイガの爪がブレイドを。ネガ電王の剣がキバーラを。
 この戦いを止める為、戦いに割り込もうと走り込んで来た二人を切り裂いた。

253悪の組織は永遠に ◆MiRaiTlHUI:2010/12/21(火) 19:28:42 ID:/6CcXFDc
 
「うわっ!?」
「きゃあっ!?」

 二人の正義が、もんどりうって病院の床を転がる。
 破壊する事に躊躇いを持たぬ悪の刃が、正義の装甲を抉ったのだ。
 装甲を突き抜ける痛みが二人の身体を蝕んで、すぐに体勢を立て直す事を困難とさせる。

「何やってんだお前……!」
「何って……僕は英雄になれればそれでいいから」
「ま、そういうこった。こいつは俺が立派な悪の英雄に育ててやるから、安心しな」

 そう言って嘲笑うネガ電王に、剣崎一真は怒りすら感じた。
 東條の願いは、元を辿ればライダーバトルを止めたい、という物だった筈。
 そんな彼の純粋な心を利用して、人の命を奪う悪の道へと引きずり込もうとする。
 元は剣崎と同じ「人を守る仮面ライダー」だった男が、道を踏み外すのが堪らなく嫌だった。

「何言ってんだ、ふざけるなっ! そいつに利用されてるってわからないのか!」
「利用でも何でもすればいいよ。僕もその悪の組織っていうのを利用するだけだから」
「ククク……益々気に入ったぜ、お前。コイツを正義の英雄なんかにするのは勿体ねえ」

 このネガ電王とかいう奴は、分かっていない。
 東條は、大切な人間を全て殺す事で英雄になろうとしている。
 悪の組織の一員として戦い、最後には仲間を皆殺しにするつもりなのだ。
 歪んだ考えだと思うし、そんな事で英雄になれるのだとしたら、絶対に間違っている。
 ブレイドの身体を突き動かすのは、命を守りたいというたった一つの願い。
 悪とは言え、こんな下らない事で命が奪われてたまるものか。
 醒剣を突き立てて、その身体を起こした。

「東條……俺はお前に、そんな間違った英雄になって欲しくない!」
「そうです……! 英雄になりたいなら、私達と一緒に大ショッカーを倒すべきです!」

 キバーラが身を起こし、言った。
 彼女の言う通りだと、剣崎一真は思う。
 死ぬ必要の無い無数の命を守り抜き、全ての世界を救う方法を見付ける。
 その方が遥かに困難で、だけど人として遥かに立派な行動。まさしく英雄と言える。

「わかんねえのか? そんな事言ってる奴らから食われるんだよ」
「うん。英雄になる前に、あの“見せしめの人”みたいに首輪を爆発されるのは御免だし」

 嘲笑う様に、タイガが言った。
 見せしめ……影山瞬という名の、一人の男の死。
 剣崎は知らない男だけど、それでも怒りを覚えずには居られない。
 彼がどんな人間かは知らないが、死んでいい命なんて有りはしないのだ。
 人間には一人一人違った人生があって、誰にだって、自分を待つ大切な人が居る。
 だからこそ命は尊いのに……それなのに奴らは、簡単に命を踏み躙った。
 その瞬間に、剣崎一真の行動は決まったと言っていい。
 大ショッカーには絶対に従わない。
 何があっても殺し合いを潰す。
 その為にも。

「これ以上あんな犠牲を出さない為にも、俺達仮面ライダーが戦うんだろ!」
「ごめん剣崎君……悪いけど、これ以上君と話しても時間の無駄っぽいかも」

 それ以上の言葉は必要なかった。
 タイガがその爪を振り上げて、走り出す。
 だけど、その道を塞いだのは、緑の閃光だった。
 何処からともなく現れた緑が、機械仕掛けのバッタが。
 病院の床を跳ね回って、その身体に体当たりを仕掛けたのだ。

254悪の組織は永遠に ◆MiRaiTlHUI:2010/12/21(火) 19:29:12 ID:/6CcXFDc
 
「あの“見せしめの人”みたいに……だとぉ?」

 その声には、怒りが含まれて居た。
 凍て付く様に冷たい、だけど燃え上る様に熱い感情。
 彼の怒りは、周囲の空気を凍て付かせて、誰も彼もが動きを止めた。
 黒のコートを翻して、床に転がった銀のベルトを腰に装着して――
 男は冷たい眼差しでもって、タイガを睨み付けた。

「笑ったな……? お前今……俺の弟を笑ったな?」
「……何言ってるの?」
「ククッ……ハハハッ……いいぜ、笑えよ……」

 ああ、そうだ。
 笑いたいなら笑えばいい。

「もっと笑えよ……?」

 その代わり。

「……変身」

 弟を笑った奴は、兄である自分が叩き潰すから。





 程なくして、戦況は大きく変わった。
 緑のライダー――キックホッパーの乱入。
 その、たった一人の男の行動が、場の流れを変えたのだ。

「はぁっ!」

 緑の右脚が、宙で弧を描いた。
 タイガは当然巨大な手甲でそれを受け止める。
 だけれど、それは所詮最初の一撃を防いだだけに過ぎない。
 キックホッパーの攻撃は、その名の通り良くも悪くもキックだけ。
 キックだけに特化したライダーの攻撃が、一撃で終わる訳が無かった。

「せやっ!」

 一撃目を防いでから、一秒と経過してはいない。
 右脚を一度も地面に着地させる事無く、繰り出されるのは次の蹴り。
 それが終わったら、また次。その次も、キック、キック、キック。
 目にも止まらぬキックの嵐が、タイガの身体を襲った。

「くっ……こんな攻撃……」

 呟くも、タイガは対処し切れない。
 そもそもタイガの攻撃は、一撃一撃が非常に重たい。
 それ故に予備動作も大きく、攻撃の速度も必然的に遅くなる。
 今まではテクニックで補っていたのだが、今回は状況が別だった。
 ホッパーの蹴りの連続が、あまりにも速過ぎるのだ。

「はぁっ! ふんっ! らぁっ!」
「ぐっ……」

 防ぎきれていたのも、最初の数発だけだ。
 戦いが長引けば長引く程に、隙が大きくなってゆく。
 直線的な打撃ならば、まだ対処のしようだってあっただろう。
 だけど、ホッパーの攻撃は読めない。何処から蹴りが飛んでくるか分からないのだ。
 それ故に防ごうにも防ぎ切れず、謝った方向でガードを出せば、突いて来るのはその隙。
 出来た隙に、一撃でもキックを叩き込まれれば、そこから全てが瓦解してゆく。

「つっ――」
「らぁぁっ!!」

 それでもタイガは手甲を構える。
 蹴り脚が見えた左方向へと、半ば反射的に。
 だけど、緑の回し蹴りは手甲の直前でその軌道を変えて。
 内側へと捻り込まれた膝によって、足全体の軌道が上部へ逸れた。
 結果、緑の脚は見事にタイガの仮面を打ち据えたのだ。

255悪の組織は永遠に ◆MiRaiTlHUI:2010/12/21(火) 19:29:44 ID:/6CcXFDc
 
「このっ……」

 ふらつく足元。
 頭が揺らされ、感じる目眩は軽い脳震盪。
 如何に仮面ライダーの仮面と言えど、その上からの揺さぶりには無意味。
 開いてしまった上半身へと連続的に叩き込まれるのは、次の蹴りだ。
 宙に掲げた膝を軸に、足先を自由に回転させ、打ち込まれる打撃。
 右から、左から、上部から、前方から。
 最早対処は完全に不能。

「……ライダージャンプ」

 ――RIDER JUMP――

 遠くなりかけた意識の中で、タイガが微かにその声を聞いた。
 霞んで見える視界の中で、目の前の緑の左脚が真っ赤に光輝いた。
 拙い。このままでは死ぬ、と。東條悟の本能が、警鐘を鳴らし立てる。
 対する判断は、両腕の手甲を前方で重ね、ガードの姿勢を作る事だった。

「ライダーキック……!!」

 ――RIDER KICK――

 電子音と共に、緑の身体が舞い上がった。
 病院の天井に触れるか触れないかの位置まで飛び上がって。
 緑とも赤ともつかない眩い光が、稲妻となって緑の脚を駆け廻る。
 後の事など考えている余裕は無い。今持てる全力であのキックを防ぐのだ。
 自分は既にアドベントもファイナルベントも使っているのだから、そうするしか生き残る術が無かった。
 二本の脚でリノリウムの床を踏み締めて、構える両腕に持てる全力を注ぎ込む。

「はぁっ――!!」
「うっ……!!」

 刹那、緑と赤の稲妻が、タイガの手甲で弾けた。
 爆発的な衝撃。両腕を吹き飛ばされてしまいそうな振動。
 踏ん張る脚に激烈な重みを感じて、その威力を身を持って知る。
 だけど、それでも、耐えた。デストクローの装甲は、敵のキックに耐え抜いたのだ。
 痺れる腕で何とか手甲を握り締めて、安心感と、一縷の希望を胸に抱く。
 だけども、そんな希望を打ち砕いたのは、目の前の“金色の脚”だった。

「えっ――」

 まるで、バッタの脚をそのまま模した様な金具。
 緑の左足に装着された金色の脚が、ガチャンと音を立てて動いた。
 何が起こったのかを理解するよりも先に、飛び跳ねたのは緑の身体。
 再びその左足にタキオンの稲妻を纏わせて、繰り出される第二の飛び蹴り。
 手甲を構えたままの状態で、その脚がもう一度手甲を捉えたのは一瞬の後。
 そして、そこから繰り出されるのは、連続でのライダーキック。
 二撃目で、手甲に僅かな亀裂が走った。
 三撃目で、手甲の亀裂が全体へと広がった。
 四撃目で、手甲は甲高い音を立てて砕け散った。

「嘘だっ……」

 輝く緑のライダーキック、その五撃目。
 今度の攻撃は、酷くスローモーションに見えた気がした。
 勝ち続けて英雄になる筈の自分が、こんな所で死んでしまうのか。
 そんな疑問が東條の頭を駆け廻って、これ以上の対処は不可能であった。
 何の対処も成さないタイガの銀の装甲に直撃するは、稲妻迸る必殺の蹴り。
 刹那、全身に響き渡る衝撃と振動。銀の胸部装甲が砕かれ、次いで全身の鎧が消失する。
 最早それが痛みと呼べる感覚であるのかを感知する暇すら無く、東條は意識を手放した。

256悪の組織は永遠に ◆MiRaiTlHUI:2010/12/21(火) 19:30:15 ID:/6CcXFDc
 




「チッ……こいつはやべえな」

 紫の剣で白銀のサーベルを受け止めて、ネガ電王はごちる。
 あの緑のライダーが現れた事で、戦況は大きく変わってしまった。
 タイガは緑のライダーにやられ、自分に課せられたのは二人の正義との戦い。
 たった一人で、白銀のライダーと、紫紺のライダーを相手にせねばならないのだ。
 先程まで圧倒的に有利だった筈の悪が、今では正義に屈しかけている。
 この現状を、ネガタロスは呪わずには居られなかった。

「ヴェイッ!」
「ぐっ……!」

 ブレイドの醒剣が、ネガ電王の身体に叩き付けられた。
 眩い火花が閃いて、電王の装甲を通して僅かな痛みがネガタロスを襲う。
 だけども、この程度で怯む事はない。すぐに体勢を立て直し、剣を振るった。
 紫の剣はブレイドの銀の装甲を切り裂いて、その身を後退させる。
 だけど、直後に待って居るのは、白銀のサーベルによる攻撃。

「チッ……!」

 何度も言うが、現状は一対二。
 例え片方に攻撃を仕掛けようと、その後で待って居るのはもう一方の攻撃。
 一方の攻撃を防いだところで、その隙を突いて来るのはもう一人の剣。
 認めたくは無いが、特に変わった武装でも無い限り、現状で勝利する事は難しい。
 どう考えたって、たった一人でそれなりに戦える二人を相手にするのは難しかった。

「またこの展開かよ……!」

 思えば、あの時だってそうだ。
 有利かと思っていた電王との戦い。現れたのは突然の乱入者。
 真っ赤に煌めくキバの鎧を身に纏い、名も知らぬ敵がネガ電王の邪魔をした。
 結果、二人の正義の仮面ライダーを相手に、ネガ電王は成す術もなく敗退した。
 だけどそれは、ネガタロスにとっても貴重な経験となった。
 今回は違う。今回は前の様には行かない。
 いざとなれば。

「仕方ねえっ!」

 ――FULL CHARGE――

 一瞬の隙を突いて、翳したのはライダーパス。
 紫の光を放つバックルが、必殺の電子音声を響かせる。
 だけど今回は、これを戦いの為に使用するつもりはない。
 そう、前回の戦いで学んだ事を活かす為に。

(無理な状況では、無理に戦わない……それが勝つ悪の賢さだ!)

 禍々しい光を伴った剣先を、横一閃に振り抜いた。
 飛び出した刃は、キバーラとブレイドの上体を切り裂いて、すぐに帰還する。
 ネガタロスの予想通り、二人は僅かな爆発と共に、一瞬ではあるが動きを止めた。
 一応こちらの必殺技なのだ。倒すつもりで使ったのでは無いとは言え、只で済む訳はない。
 相手が体勢を立て直すその前に、ネガ電王は病院の窓ガラスを突き破って、外へと躍り出た。

 ネガタロスが選んだ最後の手段とは、戦略的撤退であった。

257悪の組織は永遠に ◆MiRaiTlHUI:2010/12/21(火) 19:30:55 ID:/6CcXFDc
 




 黒のコートを翻して、矢車は大きく嘆息した。
 今し方自分が倒した男は、無様にリノリウムの床を転がっている。
 見ればこの男はまだ若い。自分よりも大幅に年下に見える。
 動かなくなった東條の顔を一瞥して、苛立ちを込めた嘆息を、また一つ。
 その場へ駆け付けて来たのは、先程まで一緒に居た夏海と、もう一人の男だった。
 夏海はすぐに横たわる東條を抱き起こし、その様態を確認する。

「……大丈夫です、気絶してますけど、まだ生きてます!」

 どうやら自分が倒した男はまだ生きていたらしい。
 別に命を奪うつもりも無かった。ただ腹が立ったから、潰しただけだ。
 それ故に男の安否に蚊程の興味も無かったし、これ以上その男の顔を見ている気にもなれなかった。
 だから何も言わずに、このまま立ち去ろう。
 そう思い、歩き出そうとした時であった。

「おい、待てよ! アンタ、さっきは助けてくれたんだよな?」
「……あ?」
「ありがとう」

 振り返った矢車を待ち受けていたのは、笑顔を浮かべる男であった。
 男は、剣崎一真は、何の裏も持たない笑みで、矢車を真っ直ぐに見詰める。
 その視線が眩しくて。その言葉が眩しくて。剣崎という男が、眩しくて。
 これ以上見てられないとばかりに、矢車は剣崎から視線を外した。
 そのまま何も言わずに立ち去ろうとするが、しかし剣崎はそれを許さない。

「お、おい、ちょっと待ってくれよ!」

 剣崎の手が、矢車の肩を掴んだ。
 行く手を阻まれた矢車は、ただ項垂れるように立ち止まる。
 溜息だけを微かに漏らして、矢車は何をするでもなく、その場で腕を組んだ。

「アンタ、味方なんだよな? 一緒に大ショッカーと戦ってくれるんだよな?」
「お願いします矢車さん……私達と一緒に大ショッカーと戦って下さい!」

 僅かに首を傾けて、様子を見遣る。
 東條から道具一式を預かった夏海が、またも眩しい瞳で自分を見詰めていた。
 地獄に落ちて、それでも白夜を目指そうとした、こんな自分に掛けられたのは、期待。
 下らない、ちっぽけな自分に、こいつらはまだ何かをさせようと言うのか。

「はぁ……気が変わった。弟を笑った大ショッカーは俺が叩き潰す……だが、お前らと行動する気は無い」
「なんでそんな事言うんですか! 目的が同じなら、一緒に戦えばいいじゃないですか!」

 夏海の言葉は尤もだ。
 大ショッカーの言う通りに戦う気にもなれないし、出来る事ならとっとと死にたかった。
 だけど、それ以前に矢車は、大切な事を忘れていた。忘れてはいけない、大切な事を――。
 そう。下らない理由で大切な弟を死に追いやったのは、他でも無い大ショッカーなのだ。
 奴らは勝手な基準で弟を不必要と決めつけ、何の抵抗も許さぬまま、弟を惨殺した。
 それを思い出した途端、込み上げて来る感情は、熱く、激しい怒り――愛憎。
 弟の待つあの世へ行くのは、大ショッカーを叩き潰してからでもいい。
 自分が仇を討つ事を、あの弟もきっと望むだろう。
 だから、矢車は行動を開始したのだ。

「今の俺にはまだ、お前らは眩しすぎる」
「またそんな訳の分からない事を……!」

 そう、まだ彼らは眩しすぎる。
 白夜を目指して旅を始めた矢車は、しかしまだ白夜を見付けては居ない。
 これから旅立とうとした矢先、弟を失って、自分はこんな所へ連れて来られたのだから。
 弟の居なくなってしまった世界で、自分一人白夜を目指した所で意味がない。
 それ故に、矢車はもう一度光から目を背け、生きる道を選んだのだ。
 だけど――それなのに。

「それでも、俺達はアンタと一緒に行くぞ。その方が安全だからな」

 今度は、剣崎だった。
 東條の身体をその背に抱えて、矢車に追随する。
 こいつらはどうあっても、自分を一人にはしてくれないらしかった。
 言っても聞かないなら、何を言っても無駄か。ならばもう、好きにするがいい。
 矢車はぽつりと、勝手にしろ、と呟き、その歩を進めるのであった。

258悪の組織は永遠に ◆MiRaiTlHUI:2010/12/21(火) 19:31:33 ID:/6CcXFDc
 

【1日目 日中】
【E−4 病院/一階診察室】
※診察室の天井と壁が破壊されています。
※二階の廊下が破壊され、一階診察室と繋がっています。
※二階の病室の壁が、破壊されています。


【剣崎一真@仮面ライダー剣】
【時間軸】第40話終了後
【状態】疲労(小)、ダメージ(小)、仮面ライダーブレイドに二時間変身不可
【装備】ブレイバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(スペードA〜6.9)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式、ガイアメモリ(ヒート)@仮面ライダーW、ケータッチ@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本行動方針:人々を守り、大ショッカーを倒す。
1:今は夏海、矢車と共に行動する。
1:橘朔也、相川始と合流したい。
2:何故、桐生さんが?……
3:Wとディケイドが殺し合いに否定的ならアイテムを渡したい。
4:龍騎の世界で行われているライダーバトルを止めたい。
【備考】
※龍騎の世界について情報を得ました。


【矢車想@仮面ライダーカブト】
【時間軸】48話終了後
【状態】気絶中、弟たちを失った事による自己嫌悪、キックホッパーに二時間変身不可
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、カードデッキ(リュウガ)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、不明支給品(0〜1)
基本行動方針:弟を殺した大ショッカーを潰す。
1:剣崎一真、光夏海と行動するが、守る気はない。
2:殺し合いも戦いの褒美もどうでもいいが、大ショッカーは許さない。
3:天道や加賀美と出会ったら……?
【備考】
※支給品は未だに確認していません。
※ディケイド世界の参加者と大ショッカーについて、大まかに把握しました。


【光夏海@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、仮面ライダーキバーラに二時間変身不可
【装備】キバーラ@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、不明支給品(0〜4)
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーを倒し、皆と共に帰還する。
1:剣崎と共に、矢車と行動する。放っておけない。
2:士、ユウスケ、大樹との合流。
3:おじいちゃんが心配。
4:キバーラに事情を説明する。
5:出来れば皆で情報交換もしたい。特にブレイドについて。
【備考】
※支給品は未だに確認していません。
※矢車にかつての士の姿を重ねています。
※矢車の名前しか知らないので、カブト世界の情報を知りません。
※大ショッカーに死神博士がいたことから、栄次郎が囚われの身になっていると考えています。
※キバーラは現状を把握していません。
※目の前にいるブレイドが、自分の知るブレイドとは別人であると知りません。
※キバーラに変身してから、5分の時間が経過しました。
※東條の道具を預かっています。


【東條悟@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】インペラー戦後(インペラーは自分が倒したと思ってます)
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、仮面ライダータイガに二時間変身不可
【装備】なし
【道具】なし
【思考・状況】
基本行動方針:全ての参加者を犠牲にして、ただ一人生還。英雄になる。
1:……………………(気絶中)。
2:自分の世界の相手も犠牲にする。
3:ネガタロスを利用し、悪の英雄になるのもいい。
4:基本的には病院で参加者を待ち伏せてから殺す(二階の廊下が気に入ってます)。
【備考】
※剣の世界について情報を得ました。
※タイガに変身してから、5分の時間が経過しました。

259悪の組織は永遠に ◆MiRaiTlHUI:2010/12/21(火) 19:32:03 ID:/6CcXFDc
 


 ぱりぃん!と。
 周囲に響き渡るガラスの破砕音。
 先程窓を突き破ったネガタロスが立てた音であった。
 漆黒の身体を太陽の下に晒して、ネガタロスは気付いた。

「……変身が解けてやがる」

 電王の紫のオーラアーマーが、消失していた。
 解除した覚えは無い。戦闘が終わって、病院から飛び出た時には既に、だ。
 一体どういう理由で電王の変身が解けてしまったのか。
 それについても思考しなければならない。

「その為にも、まずは仲間だ!」

 そう。何が何でも、まずは優秀な仲間を見付けなければならない。
 優秀な悪を見付けだして、幹部ないし兵隊として招き入れてやる。
 そうして、揺るがぬ確実な組織力を手にしてから、この殺し合いを蹂躙するのだ。
 最後まで勝ち残った自分の組織は、元締めである大ショッカーを潰しにかかる。
 それを締めとして、新たな悪の組織の真の旗揚げとなるのだ。
 その為にも、今はボスである自分の安全を確かなものとする。
 ボスさえ居れば組織は何度でも復活出来るのだから。

 しかし、物事はそう上手くは行かない。

「なっ――」

 突然自分を襲ったのは、銀の何か。
 無数の銀の塊が、弾丸の如く自分の身へ迫った。
 何の対処も出来ずに、ネガタロスの身体は飛び交う銀に打ち据えられた。
 思いもよらぬ出来事に体力を奪われ、それでもその場に踏ん張って、目を見張る。

「壊してやる……」
「あ? なんだ……お前」

 そこに居るのは、漆黒の戦士。
 まるでカブトムシの様な黒と赤の装甲。
 金色の瞳は不気味に揺らめいて、自分を真っ直ぐに見据える。
 スリムなそのボディは、太陽に背を向けて、不気味に歩を進める。
 それだけで、ネガタロスには分かった。
 こいつは悪だ。揺るぎなき悪だ。

「お前、悪だろ……! いいぜ、今なら俺の組織に入れてやる!」

 両手を高らかに広げ、宣言する。
 この男は、間違いなく立派な兵隊となる。
 強くて、揺るぎの無い悪。それが目の前の黒いカブト。
 こいつをここで引き込む事は、間違いなく自分の勝利に繋がるのだ。
 だけど、ネガタロスの申し出に対しての返答は、電子音であった。

 ――CLOCK UP――

 それからの事は、ネガタロスにも良く解らなかった。
 何が起こったのか。自分の身を何が襲ったのか。
 少なくとも、この時点では、何一つ。

「今なら幹部の椅子を用意してや――」

 言葉を言い終える前に、黒いカブトが消えた。
 それから一秒――一瞬すら待たずに、自分を襲ったのは激痛。
 黄色とも赤ともつかない稲妻が胴体で弾けて、大量の砂が噴き出した。
 何かに蹴られたのか? と、そんな疑問を抱く痛みだった。
 だけどもうこれ以上は、立って居る事すらも難しい。
 崩れゆく体制のまま、僅かに残った意識を向ける。
 そこに居たのは、漆黒の悪魔。

「やっぱ……最後に勝つのは、強い悪か」

 こいつは間違いなく、悪だった。
 有無を言わさぬ完全な悪だった。
 自分とは違う、仲間を必要としない悪だった。
 そう。勝つのは何時だって、強い悪なのだ。
 自論を証明するのは、皮肉にも自分自身の最期。

「潰れちゃえ」

 黒いライダーの短刀が、ネガタロスの首を掻き切った。
 こうしてネガタロスは、悪に生き、悪に散るという結末を迎える。
 最期まで悪として生きようとしたネガタロスにとっては、最高のクライマックスであったとも言えよう。
 しかし、それで死んでしまっては意味が無いのだが――そんな事は今更言っても遅過ぎる。



【ネガタロス@仮面ライダー電王&キバ クライマックス刑事 死亡確認】



 黒い悪魔は、先へ進む。
 大量の砂と、黒い死体を踏み躙って。
 彼が先程まで持って居た道具を全て奪い取って。
 病院の中に居るであろう参加者を、皆殺しにする為に。

260悪の組織は永遠に ◆MiRaiTlHUI:2010/12/21(火) 19:32:35 ID:/6CcXFDc
 

【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】健康 情緒不安定気味 仮面ライダーダークカブトに変身中
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、不明支給品(1〜3)、デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王
【思考・状況】
0:病院にいる参加者達を、全員殺す。
1:天道総司を殺し、『天道総司』に成り代わる。
2:全ての世界を破壊するため、手当たり次第全員殺す。
3:特に優先的に『カブトの世界』の五人を殺害する(最終的には自分も死ぬ予定)。
4:僕はワームだった……。
【備考】
※ 名簿には本名が載っていますが、彼自身は天道総司を名乗るつもりです。
※ 参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。
※ ネガタロスの支給品を全て奪いました。

261 ◆MiRaiTlHUI:2010/12/21(火) 19:33:19 ID:/6CcXFDc
投下完了です。
何かあればまた指摘などよろしくお願いします。

262二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/21(火) 19:56:46 ID:Ic1Jlyt.
投下乙です
ああ、ネガタロスが脱落したか…………
矢車さんはやる気になったけど、ダブトが接近してるっ!?
しかもみんな変身解いてるし
やばいよっ!?w

263 ◆7pf62HiyTE:2010/12/21(火) 21:14:00 ID:uLjmpZYg
投下乙でした。

ああ、東條……矢車兄貴の心に火を付けたのが最大の不幸か……
それにネガタロス……運悪くダークカブトに遭遇してしまったか……
って、ダークカブト迫っているが全員変身解除……ダークカブトの変身時間は残り何分? 変身ツールはどうする?

それでは自分もゴ・ガドル・バ、ン・ダグバ・ゼバ、ズ・ゴウマ・グ、津上翔一分投下します。

264三様 ◆7pf62HiyTE:2010/12/21(火) 21:15:06 ID:uLjmpZYg





 参加者に支給された物の中に名簿が存在する。
 そこには参加者の名前が描かれている事は言うまでもない。
 当然まず確認するべきは自分の知り合いあるいは身内の有無の確認だ。





 名簿をざっと確認しても五代雄介、一条薫等という風に日本人の名前が大半を占めるのは誰の目にも明らかだろう。
 片仮名の名前もあるがそれは極々一部だ。
 しかし、これらの名前の中に3つ程明らかに異質な名前が存在している。
 ズ・ゴオマ・グ、ゴ・ガドル・バ、ン・ダグバ・ゼバの3つの事だ。これらの名前は固有名詞の前後に1〜2文字の片仮名が付いている。
 これだけを見てもこの3人が関係者と推測する事が可能だろう。それは正解だ。
 彼等はある世界の超古代に存在し封印されたものの現代に蘇った種族グロンギである。
 彼等はリントという超古代に存在していた民族を標的としての殺人ゲームゲゲルを行っており、蘇った現代においても人間達をリントと見なし彼等を標的にしてゲゲルを行っている。
 そしてそのグロンギと戦うのがリントの戦士クウガであり、青年五代雄介が発掘されたベルトを身に着けた事で現代にクウガが蘇ったというわけだ。
 もっとも、現代社会においては彼等は異質な存在である。故にグロンギは一般には未確認生命体と呼称され当初はクウガも未確認生命体として扱われていた。
 未確認生命体は確認された順に第1号、第2号とナンバリングされていった。
 ズ・ゴオマ・グが第3号、ゴ・ガドル・バが第46号、そしてン・ダグバ・ゼバが第0号である。
 第0号というのは第1号が確認される前の映像において全ての未確認生命体を復活させた最初の存在故にそう呼称されている。
 ちなみにクウガは初めて確認された時の白い姿が第2号、赤い姿が第4号として世間一般では認知されている。

 今回の殺し合いは同一世界の参加者は同じチームとなっている。故にクウガこと五代雄介、彼をサポートする刑事一条薫、そして未確認生命体ことグロンギの3人は一応味方同士という扱いだ。
 しかし、彼等が組む事は有り得ない。五代にしても一条にしても殺し合いに乗るつもりは全く無いが、グロンギ3人は共にこの地でも各々殺し合いに乗りそれを楽しもうとしている。
 彼等が相容れる事は有り得ないという事だ。
 それ以前に、五代にしても一条にしても彼等の本名すら知らないのだ、名簿を見た所で3人が未確認生命体の誰かという所までしかわからないだろう。
 では、グロンギ3人同士ならばどうか? 結論から言えばそれも有り得ない。
 彼等には協力し合うという概念が存在しないのだ。グロンギ同士であってもゲゲルの中においては敵同士でしかない。
 彼等にとっては他のグロンギも最終的には倒すべき敵ということだ。
 気が狂っている? そう思う方も多いだろうが彼等にとってはゲゲルは神聖なものであり同時に極上の遊戯なのだ。理解出来ない者も多いだろうがそれがグロンギということなのだろう。
 ともかく、3者のグロンギにとっては他のグロンギも倒すべき敵でしかないという事だ。





 ガドル、ダグバ、ゴオマ、3人のグロンギはそれぞれの場所でそれぞれのゲゲルに挑んでいる。
 彼等の思惑は三者三様、リント――人間から見れば同じ様に見えてもグロンギである彼等にとっては大きく異なっている――

265三様 ◆7pf62HiyTE:2010/12/21(火) 21:15:55 ID:uLjmpZYg










【F-2 路上 03:14 p.m.】





「おい……」



 そう、津上翔一の背負うデイパックから声が響く。



「え? もしかして気が付きました?」



 翔一はその声の主が今現在背負っている男性だと思ったが、



「違う、俺だ」
「あ、キバット。起こしちゃったかな?」



 声の主はキバット族の名門、キバットバット家の二代目キバットバット二世だ。もっとも、傍目から見れば小型の蝙蝠型モンスターでしかない。
 彼は数十分程前、翔一のデイパックの中に入り昼寝をしていた筈である。



「そうではない。気になる事があってな」
「気になる事?」
「率直に言うぞ……今何が起こっている?」

266三様 ◆7pf62HiyTE:2010/12/21(火) 21:16:40 ID:uLjmpZYg











【G-6 路上 03:19 p.m.】





 軍服を着た男ゴ・ガドル・バはF-6にある市街地を目指し道路を歩いていた。
 数十分程前漆黒の戦士、そして黒の仮面ライダーとの戦いを終えた彼は更なる激闘を求め、粗方探索を終えた市街地を離れ、別の市街地へ向かっていたのだ。
 これまでに遭遇したのはクウガと灰色の怪人に変身しオレンジの甲冑を身に着けた男、そして前述の2人の黒の戦士だけだ。
 ガドルにとってのゲゲルは戦うリントを殺害する事、
 故に他の戦うリントや仮面ライダー、あるいは戦士を探す為に移動していたというわけだ。

 殺し合いに乗っているのはある意味では自分の世界を守る為ではある。だが、ガドルにとって重要なのはそこではない。
 最終的な目的はザギバスゲゲルに勝利し最強となる事だ。
 この殺し合いはその前哨戦でしか無いという事だ。



「クウガ……」



 だが、気になる事が無いではない。この地で出会ったクウガに違和感を覚えていたのだ。



「クウガバボバ、ガセパゾンドグビ」



 その時のクウガは何故か元の世界で戦った時よりもずっと弱体化していた。『あの力』を使う事もなく戦い方もずっと未熟だった。
 更に言えば声等にも何処か違和感を覚えていた。
 真面目な話をすればあのクウガが同じゴであるゴ・バベル・ダやゴ・ジャーザ・ギを倒したとは思えないのだ。
 クウガだがクウガではない、そう思えてならないのだ。



「ラガギギ、バンベキバギ、クウガザソグガババソグガ」



 だが、その事など些細な事でしかない。次に戦った時に殺せば良いだけの話だ。
 この地にはクウガ以外にも数多の戦士や仮面ライダーが存在する。クウガに拘る必要など皆無だ。
 それ以前に、クウガ自体ガドルにとっては前哨戦でしかない。
 クウガと戦う前にクウガが得た『あの力』をガドルが得たのも全てはその先の為、
 そうザギバスゲゲル、ン・ダグバ・ゼバとの戦いの為なのだ。



「ダグバ、ラデデギソ……」

267三様 ◆7pf62HiyTE:2010/12/21(火) 21:17:30 ID:uLjmpZYg










【F-2 路上 03:23 p.m.】





「世界を賭けた殺し合い……随分と悪趣味な話だな」



 キバットは翔一から今行われている殺し合いを聞きそう呟いた。



「本当ですよね、だから俺達がこの殺し合いを止める仲間を集めている所なんですよ」
「その為に街に向かおうとした所、俺が呼び止めたというわけだな。邪魔だったか?」
「いえ、むしろ感謝しています。だって、こうやって『アギト』を助ける事が出来ましたから。そうだ、キバットには誰か仲間とか知り合いとかいないんですか?」



 暫し間をおいて、



「……真夜」
「真夜さんですか? ちょっと待ってください……」



 と、翔一はデイパックから名簿を出し確認を行う。キバットもその時だけデイパックから出て後ろから名簿を覗き込む。



「いない……よかったですね、彼女は巻き込まれてないですよ。他に誰かいないんですか?」
「……」



 キバットからの答えはない。翔一は他に知り合いはいないと判断し名簿をデイパックに仕舞う。そのタイミングでキバットもデイパックの中に戻る。
 そして、再び歩き出す。



「せめて手当て出来る道具があれば良かったのに……」



 翔一が気にしているのは背負われている男性の事だ。彼の傷は見た目以上に深い。病院に行く前に応急処置を施したかったが自分と男性、そして廃工場にあった物ではそれすらままならなかった。



「……もう1つ聞かせろ、お前はこの男を『アギト』と呼んでいたな。『アギト』とは何だ?」

268三様 ◆7pf62HiyTE:2010/12/21(火) 21:18:15 ID:uLjmpZYg










【G-6 T字路 03:23 p.m.】





「ダグバ……」
「ガドル……」





 それは偶然の出会い、T字路をそのまま直進しようと前進していたら前方に白い服を着た少年が姿を見せたのだ。
 だが、ガドルはその少年を知っている。同時に少年もガドルを知っている。
 そう、少年こそがグロンギの王ン・ダグバ・ゼバだったのだ。





 予期せぬ遭遇にガドルの体に緊張が奔る。





「ドブゾビリガボパガサゲ、ギデブセスボバギゲガゴビ?」





 ダグバの表情からは笑みが零れているのが見て取れる。
 ガドルは理解した、ダグバは自分と戦おうとしているのだと。
 しかし同時に奇妙な話ではある。本来ならば自分のゲゲルの最中の筈だ。
 今まだダグバとの戦いザギバスゲゲルではない。
 つまり、今はまだ戦う時ではないはずだ。





 そう思考するガドルを余所にダグバは手を出して構える。それはダグバが戦闘態勢に入ったという事だ。





「ゾグギダボ? ボパガサゲジョ、ドブゾ」

269三様 ◆7pf62HiyTE:2010/12/21(火) 21:19:24 ID:uLjmpZYg





 ダグバは誘っている。自分と戦えと――
 確かにダグバと戦う事自体は望む所だ。少々時期尚早ではあるがそれ自体に異論はない。





「ギギザソグ……」





 故にガドルもまた戦闘態勢に入る。だが――





「バゼザ?」





 自身の姿が変化しない。そう、怪人態とも言うべき本来の姿に変化しないのだ。





「バゼバパサン! ラガバ……」





 ガドルの表情に焦りが現れる。
 大ショッカーが課した制限の影響か1回で変身出来る時間は10分という事は把握出来ている。
 だが、この様子では他にも制限が課せられていると考えて良い。1度変身すればある程度時間をおかなければ再変身出来ないという事だ。
 確か前に変身してからまだ1時間経過していない、1時間程度では変身不能は解除されないという事なのか?





 だが、今はそんな事などどうでも良い。重要なのは目の前のダグバだ。変身出来なければ『あの力』も使いようがない。
 このまま戦いにもならない蹂躙という形でダグバに殺されるしかないだろう。

270三様 ◆7pf62HiyTE:2010/12/21(火) 21:20:10 ID:uLjmpZYg





 だが――





「……バビ?」





 ダグバの方も本来の姿に変化していない。もしやダグバもつい数十分前に変身したばかりだというのか?
 しかしダグバの表情は変わらない。変わらず楽しそうな笑みを浮かべている。
 理解しているのか? ここで自分が変身すれば一方的に殺されるだけなのだぞ?





 そんな思惑を余所にダグバはゆっくりとガドルに近付きその距離を詰めていく、





 9――





 6――





 3――





 2――





 1――

271三様 ◆7pf62HiyTE:2010/12/21(火) 21:21:00 ID:uLjmpZYg















「……バゼザ?」




 ガドルは自分を通り過ぎたダグバに問う。何故、戦わないのかと――





「ドブゾボパガサゲダシ、ゲガゴビギダシ、ゾビバビドゴロダダバサ、ギラボビリジャ……ヅビビガダダドビ、ドブゾボパガサゲデゲガゴビギデジョ、ラドドヅジョブバドド」





 その答えで理解した。ガドルは見逃されたのだと。
 屈辱ではある。それでもこの場はそれを受け入れる事にした。





「バビガガドド?」





 ガドルはダグバにそう問いかける。
 ダグバの顔には誰かに殴られた跡があり、腹部には見慣れないベルトが巻かれていた。
 更に言えばダグバの言動を見る限り『恐怖』を求めている風に感じたのだ。





「バパダダリントバギダンザ。ゴギゲデブセダンザリントバ。『ボパギ』デデギグボドゾベ……ボボデスドロヅブダダロボザジョ、リントバ」
「ダグバビギパゲスドパバ、ゴボラゼ……」





 そう言ってガドルは再び歩き出す。目的地はダグバが向かってきた方向にある市街地だ。
 ダグバにすら影響を与えたリントの戦士に会えるかも知れないのだ。

272三様 ◆7pf62HiyTE:2010/12/21(火) 21:21:45 ID:uLjmpZYg





「ダグバ、マデデギソ」





 それがダグバに対するガドルの挨拶だった。そして、ダグバもまた





「マデデスジョ」





 自分達の言葉でそう答えた。





【1日目 日中】
【G-6 T字路】
【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】不明
【状態】疲労(小)、腹部にダメージ、顔面出血、苛立ち、5分変身不可(怪人体)、35分変身不可(ユートピアドーパント)
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW
【道具】支給品一式
【思考・状況】
1:恐怖をもっと味わいたい。楽しみたい。
2:ガドルやリントの戦士達が恐怖をもたらしてくれる事を期待。
【備考】
※ガイアドライバーを使って変身しているため、メモリの副作用がありません。
※ユートピアメモリは破壊されました。





 ダグバとの遭遇はほんの数分だった。しかしガドルの全身からは汗が流れ出ていた。
 別に戦いになったわけではない。故に体に受けたダメージは皆無だ。
 だが、ダグバの全身からは強大な威圧感を感じた。変身していなくても強大な力を持っている事は明らかだ。

 確かに戦いにならなかったのは自身が変身出来なかったからだ。しかし、変身出来たとしてダグバと戦いになっただろうか?
 わからない? そう、わからないのだ。ゴの中でも最強で、同時にクウガすらも凌駕する力を得た自分でもわからないのだ。
 『あの力』を使った所でどうなるかは全くわからないのだ。
 戦いになるかも知れないしならないかも知れない、それがわからないぐらい強大だったということだ。





「ゴゴセデギダ……ゴセバ……?」





 ダグバが口にしていた『恐怖』……それを自分は感じていたのだろうか?
 真相はどうあれダグバを甘く見ていた事だけは確かだ。
 『あの力』を得てクウガをも圧倒し、この地においても基本的には相手を凌駕し続けていたがそれは甘かったという事だ。
 言ってしまえば天狗になっていたのかも知れない。





「ゴオマザ、ボセゼパラスゼ」





 脳裏にはずっと格下の存在のグロンギが。そいつはダグバのベルトの欠片を得た事で自身を強化し最強の存在になったといってダグバを殺そうとした。
 しかし自分達ゴは最初からダグバに勝てるとは思っておらず、実際ダグバに瞬殺された。それが現実である。
 だが、今の自分の姿は力を得ただけで調子に乗っていた愚者でしかない。これではあの男を馬鹿にする事など出来ない。

 自分の愚かしさに怒りすら覚える。それでこものタイミングで気付けた事は幸運だ。この教訓を胸に進むだけである。





「ゴセパザバギンザシグラゴ・ガドル・バザ、ゴセパダグバンラゲビダヅ、ババサズ」

273三様 ◆7pf62HiyTE:2010/12/21(火) 21:22:45 ID:uLjmpZYg










【F-2 道路 03:36 p.m.】





「……というわけなんですよ」



 アギトとそれを狙うアンノウンに関する説明が大体終わった。



「それでこの男が『アギト』で、あそこにいた鬼が『アンノウン』だと思ったわけだな?」
「はい、アンノウンはアギトを狙いますから」
「……では『クウガ』は何だ?」
「え? 『クウガ』ですか?」
「この男がお前のあの姿を見てそう呼んでいた。もっとも俺にはお前もこの男も似た様なものに見えたがな」
「さぁ、『アギト』の親戚……じゃないんですかね?」
「俺にとってはどっちでも良いがな。もう一眠りさせてもらうぞ」

 キバットはそれきり黙り込んでしまった。そして翔一もまたキバット及び背負っている男性を起こさない様に再び病院へ向けて歩き出した。





 しかし、





「(全く……本当に悪趣味な話だ)」



 キバットは未だ眠りについてはいなかった。
 気が付いたら男性のデイパックの中にいて、起こされたと思ったらいきなり命令をされたのだ。誇り高きキバット家の主としては腹立たしいことこの上ない。
 一応は昼寝していたがその事が気になりまともに眠れずすぐに目が覚めた。故に翔一に事情を聞いたというわけだ。
 聞けば世界を懸けた殺し合いという話ではないか。恐らく自分の役割は自身が支給された先、即ち男性に『キバの鎧』を与える事なのだろう。
 確かにその男性は蝙蝠を模した怪人になっていた。そういう意味では『キバの鎧』が相応しい事は理解出来なくもない。



「(巫山戯るな……俺は連中の都合の良い道具ではない……)」



 キバットは道具ではない、立派な一つの生命体だ。道具扱いされて良い気などするわけがない。
 故に大ショッカーに対して強い怒りを感じていた。
 それ以前に、少なくてもこの男性に力を貸した所でキバットには何のメリットもない。
 この男性は自分の世界の人間ではない。つまり、この男が優勝した所で自分の世界が滅びるだけだ。
 何故に自分が自分の世界を滅ぼす為に戦わなければならないというのだ?
 少なくても真夜がいる世界を滅ぼしたいと思うわけがない。
 キバットが一番悪趣味に感じているのはそこなのだ。

274三様 ◆7pf62HiyTE:2010/12/21(火) 21:23:20 ID:uLjmpZYg

 とはいえ現状、大ショッカーを打倒すると口にしている翔一に全面的に協力するつもりもない。
 真夜の世界を守りたいとはいえわざわざ人間に協力する義理などないからだ。正面から敵対するつもりも無いが協力するつもりもない。
 当面は静観させてもらうつもりだ。

 真面目な話、キバットにとってはあまりにも分が悪い話だ。
 真夜のいる世界を守る方法は大ショッカーを打倒するか、自分の世界の優勝だ。
 だが、自分の世界の優勝に関しては少なくとも自分がすることなどない。
 翔一は気付いていなかったが名簿を後ろからのぞき見た所、知っている名前が3つあった。

 紅音也――真夜を愛し、同時に真夜に愛された人間の男
 紅渡――未来からやって来たという真夜と音也の間に生まれた男
 キング――かつての自分が仕えていたファンガイアの男

 もしかすると真夜にボタンをくれた男がこの地にいるかもと多少は考えたが流石にそれは無いだろう。
 何にせよ優勝を目指すのならばこの3人と合流すれば良い筈だ。
 だが、真夜に非情な仕打ちをしたキングに今更力を与えるつもりは全く無い。
 また、渡には恐らく自分の息子という事になっているキバットバットⅢ世がいるだろう。少なくても自分が力を貸す必要は皆無だ。
 そして、音也――確かにこの男に力を貸す事に関してはある程度考えても良い。

 だがそれもやはり避けるべきだろう。
 確かに自分は『闇のキバの鎧』を与える事が出来る。
 しかしそれは決して都合の良い力ではない。その力は確かに絶大だが装着者が受ける反動もまた非情に大きく資格のない者が身に纏えばそれだけで死に至る。
 扱えるのはそれこそ最強のファンガイアとも言うべきキングクラスぐらいなものだ。
 そう、少し強い程度のファンガイアや人間が扱えるわけがないのだ。
 音也はキングから真夜そして真夜とキングの子である太牙を助ける為に自分の力を使い闇のキバの鎧を纏い、渡と共に戦いキングに勝利した。
 音也はその精神力で何とか生き続けたが所詮は人間、近い内に死ぬ事は確定的だった。

 この戦いは1人だけを倒せば済む話ではない。その状況で自分が音也に力を与えた所で無駄に奴を死なせるだけだろう。
 それで戦いが終われば良いがそんな都合の良い話はない。故に自分が音也に力を与えるわけにはいかないという事だ。

 そもそもの話、何故倒した筈のキングがいるのかという根本的な疑問もあるわけだがあまり深く考えても仕方が無いだろう。

 何にせよ、自分がすべき事は特にない。故に今は只静観させてもらうだけだ。多少は口を出しても良いがそれはあくまで気紛れ程度の事だ。





 そんな中、自分が支給された男について考える。
 恐らく自分が寝ていた間に男は鬼みたいな奴と激闘を繰り広げ殺したのだろう。
 翔一は鬼がアンノウンでアギトである男を襲ったと言ったが果たしてその通りなのだろうか?



「(俺には『アギト』と『アンノウン』の戦いとは思えないがな……むしろあの男が殺し合いに乗り、あの鬼と戦い殺したといった所だろう)」



 少なくてもキバットはそう感じた。自分が接触した限り、あの男は異常なまでに好戦的だった。傷付いてもなお他者を殺したいという風に見えた。
 そして翔一が助けに来てやろうとした事は翔一を襲う事、客観的に見ればどう見ても危険人物だ。
 だが、キバットは敢えて口を出すつもりはない。実際に翔一の言う通りという可能性もあったし、全く別の真相もあるだろう。
 それ以前に翔一に対してそこまで助けてやる義理もないからだ。仮にこの男が再び翔一を襲い殺したとしても翔一が馬鹿を見るだけだ。



「(せいぜい寝首をかかれない様に気を付けろ)」



 そう内心で呟いた。
 そんな中、自分が支給された事について改めて考える。いうまでもなく、自分を支給した理由はこの男に『闇のキバの力』を与える為だ。
 だが、キバットにはこの男がその力に耐えられるとは思えなかった。
 むしろ、男自身の持つ力ですらも持て余している様に感じた。身の丈に合っていないと言っても良い。
 そんな男が自分の力を得た所でその先に待つのは死だけだ。
 大ショッカーは何を考えて自分をこの男に支給したのか? 蝙蝠繋がりというだけで支給したなら本当に悪趣味としか言いようがない。



「(本当に悪趣味な話だな……もっとも、同情はしないがな)」



 そう言って、今度こそキバットは眠りについていった。

275三様 ◆7pf62HiyTE:2010/12/21(火) 21:24:15 ID:uLjmpZYg





 その男はダグバのベルトの欠片を得た事で強大な力を得た。しかしそれは自身の体をも変質させる程の危険な強化であった。
 彼の支給品の1つであるスミロドンのガイアメモリ、強大な力を持つゴールドメモリのそれも彼に非常に強い負担を与えた。
 そして、もう1つの支給品であるキバットが与えし『闇のキバの鎧』は生命を脅かす危険な物だ。



 それらはグロンギの中でも下級のズの者であるズ・ゴオマ・グにとってはあまりにも身の丈に合わない者だった。
 だが、その事を当の本人だけは知らない。



「クウガ……ダグバ……ゴセガボソグ……」



 誰にもその寝言の意味を理解される事無く、ゴオマは静かに眠り続けていた。





【1日目 日中】
【F-2 道路】
【ズ・ゴオマ・グ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第39話「強魔」、ダグバに殺害される前
【状態】疲労(極大)右頬に軽度の裂傷、左掌に軽度の裂傷、右足に重度の裂傷。気絶中。翔一に背負われてます。1時間変身不能(ズ・ゴオマ・グ究極体)
【装備】なし
【道具】支給品一式、ガイアメモリ(スミロドン)、不明支給品0〜1
【思考・状況】
※以下、気絶前の思考です。
基本思考:優勝する。できればダグバは自分が倒す。
1:とりあえず休む
2:クウガ……?
【備考】
※怪人体には究極体にしかなれず、強化形態の制限時間に準じます。
※ルールブックは粗方読み終わりました。

【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終了後
【状態】健康 1時間変身不能(アギト)
【装備】なし
【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ケータロス@仮面ライダー電王、ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
1:打倒大ショッカー
2:殺し合いはさせない
3:この男性(ゴオマ) を病院に連れて行く。
4:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触
5:木野さんと会ったらどうしよう?
【備考】
※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。
※響鬼の世界についての基本的な情報を得ました。
※ゴオマを「不完全なアギトに覚醒した男」、モモタロスを「アンノウン」と認識しています。

276三様 ◆7pf62HiyTE:2010/12/21(火) 21:25:00 ID:uLjmpZYg










【F-6 市街地 03:45 p.m.】





 先に結論を言おう。
 ガドルとダグバが戦闘にならなかったのは幾つもの幸運と不運が重なったからだ。
 そう、ガドルが変身不能だったのと同様にダグバもその時点では変身不能だったのだ。
 しかしあと10数分遭遇が遅ければダグバは変身可能になっていた。そうなれば変身出来ないガドルはただ蹂躙されるだけだっただろう。
 が、実を言えば場合によってはガドルがここでダグバを仕留める事の出来る可能性もあった。
 ガドルの手元には未確認の支給品が幾つか存在していた。それらを使えば状況が変わるかも知れなかったという事だ。
 だが、ガドルはここに至るまで概ね順調だった事もありまともに支給品の確認をしていない。故に使い方も全く把握出来ていない。
 使えない道具など無いのと同じ、その失敗が今回の結果を引き起こしたというわけだ。

 しかし、ダグバとの遭遇で大きな収穫を得た。
 ダグバにも影響を与えた程のリントの存在と強力な道具の存在。
 屈辱的な敗北ではあったが、その事実は更なる闘争を予感させる為、ガドルの胸を大いに高ぶらせた。
 故にF-6の住宅地に入りガドルは遂にデイパックの中身を確認する事にしたのだ。
 ダグバが身に着けていたのは何かのベルト。そういえばあの灰色の怪物に変化した男も何かのベルトでオレンジの甲冑を身に着けていた。
 恐らく、リントの中にはそういう力を与える道具が支給されているのだろう。確か黒の戦士も何かのカードで体を変化させていた。



「ゴロギソギ……」



 そして自分にもそういう道具が支給されている可能性は否定出来ない。無論そういう道具に頼り切るつもりはないが、変身出来ない状況に陥る事も多い、あるに越した事はないだろう。

 ガドルはデイパックを開け中にある支給品の1つ『ある物』を取り出した。

 その『ある物』はキバットバットⅢ世が持つ『キバの鎧』を強化する為のもの、
 現状ではガドルにとっては無用の長物でしかない。
 だが、仮に『キバの鎧』を持つ者に渡せばその者は強化される事になる。
 普通の参加者にとっては望む事ではない。しかし強者との戦いを望むガドルにとってはむしろ好都合、当たりと言っても良い。

 そのモノとは――



「びゅんびゅーん! フィーバー♪」
「バンザ、ボセパ?」



 魔皇龍タツロットである。



【1日目 日中】
【F-6 市街地】
【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第45話 クウガに勝利後
【状態】疲労(中)、1時間変身不可(怪人態)
【装備】無し
【道具】支給品一式、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ、不明支給品×2
【思考・状況】
1:デイパックの中身を確認、その後ゲゲルを続行する。
2:強い「仮面ライダー」及びリントに興味。
【備考】
※デイバッグの中はまだきちんと調べていません。
※変身制限がだいたい10分であると気付きました。

277 ◆7pf62HiyTE:2010/12/21(火) 21:26:05 ID:uLjmpZYg
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

278二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/21(火) 21:41:59 ID:3ql496n2
投下乙

>悪の組織は永遠に
ネガタロスがここで脱落か…
それにしてもダブトがおっかないw
下手したら全滅じゃないか?
それと矢車と東條の状態表の方が前回と同じの部分がありますので修正してください。

279二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/21(火) 21:43:02 ID:4mXs4rZQ
投下乙です
閣下とダグバ、出会ったと思ったら制限で戦えなかったか……
まぁ、その方がいいかもしれないけど

280二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/22(水) 02:16:50 ID:Vz7y38.6
◆MiRaiTlHUIに◆7pf62HiyTE、投下乙です。

>悪の組織は永遠に
兄貴圧倒的じゃないか。タイガフルボッコww
こんな男が(微妙とはいえ)味方とは心強い
病院戦の死者はネガタロスか。こうなれば擬態天道は誰が止めるんだ?

>三様
これはやばい状況かな、と思ったが今回は血を見ずにすんだか
変身なしでガドルをビビらせるとはさすが究極の闇
ダキバの参戦時期は過去キング打倒後なんだな。しかしクールねこいつ

281二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/22(水) 07:43:31 ID:afmTLT.Y
投下乙です
グロンギ語の文法についてどうしても気になったので指摘させて頂きます。
まず、グロンギ語では相手の名前等の名詞は最後に来ます。「クウガ」や「ダグバ」を文中に入れる場合はそれぞれの名前を最後に持ってくるのが自然かと。
また、グロンギ語は長い台詞になると要所要所で区切られます。全て繋げて表現されると非常に読みにくいので、間に「・」か「、」等を挟むように修正お願いします。

282 ◆7pf62HiyTE:2010/12/22(水) 11:04:30 ID:G9WEIIas
了解です。修正が必要なグロンギ語の台詞を修正用スレに投下します。なお、区切りに関しては他の話では空白を開ける事で対応していたので、こちらもその形で修正します。
また問題があれば指摘の方お願いします。

283 ◆MiRaiTlHUI:2010/12/22(水) 14:21:33 ID:8vZUe3Bc
投下乙です。
ガドルにタツロットか……ガドルが相手じゃ全く話にならなさそうなw
ダグバを相手にして意識を改めたみたいだし、ガドルの今後に期待です。


指摘して頂いた状態表について、了解しました。
矢車・東條と、夏海の方にも不備を発見しましたので、修正用スレの方に修正稿を投下しておきます。

284 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/24(金) 10:30:05 ID:lWBci5K2
只今より、アポロガイストを投下します。

285太陽と天候 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/24(金) 10:30:53 ID:lWBci5K2
 東京タワーが周囲から見て目立つ建物であるのは間違いなかった。
 その中で痛んだ休めるというのは自殺行為に等しい。
 ガイが休んでいるのは、その脇にあるビル街である。

 東京タワーはあまりに目立ちすぎる。
 現実の巨大観を押さえつつも、やはりその高い搭は存在感を引っ込めない。
 仮面ライダーや怪人の力を持ってすれば、根元からへし折ることもできるかもしれない。
 だが、その脇の建物というのは案外盲点なのである。


「──二時間か」


 シザースの装甲が彼の身を纏っていた。
 時間制限は確かに気にかかるが、彼にはまだアポロガイストの姿が残っている。
 具体的な時間の経過を知るために、一度くらいは変身をしておいたほうがいいと考えた彼は今、シザースの殻を被ったのである。


「どうせこの力ではディケイドに届くまい」


 シザースの力はどちらかといえば軟弱である。
 彼の知りうる限りの仮面ライダーたちと比較してもおそらく、最底辺レベル。
 Xライダー、ディケイド、ディエンド、クウガ、ガオウ……彼の仇となる仮面ライダーたちに及ぶだけの能力を有さないライダーは正直、あまり有効性を持たない。

 だが、この状況では微力であっても相手を凌駕できる可能性を有しているのだ。


(仮面ライダーでなくなった相手ならば、いとも簡単に倒すことができるだろう)


 そう、ガイが把握すべきは変身制限である。
 これを完全に把握した上で、敵の知らぬ部分を突けばいい。
 十分の戦闘制限と、それから二時間の休憩。
 二つの事象を把握したアポロガイストは、相手の状況を見て「力を持たない敵」を殺すことができる。

286太陽と天候 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/24(金) 10:32:04 ID:lWBci5K2
(敵にとっては迷惑なシステムだが、それを究めた私にとっては好都合なのだ! 存分に利用させてもらう!)


 架せられた制限をどれだけ巧く利用するか──。
 その一点が勝負を左右することもある。
 変身は最後の手段としておいた方がいいというのも、よく理解したつもりである。

 シザースの変身は十分の経過とともに解ける。
 白いスーツに身を包んだ男は、カードデッキを懐に戻す。


(これで二時間、このデッキは使えない。しばらくは動かない方がいいか)


 これでは、現状で使える力はアポロガイストのみとなってしまう。
 例え弱弱しくても、この状況下でシザースの力が使えるのは事実なのだから、なるべく使用できる状態で戦いたいとは願っていた。


(シザースが使えるようになったときは、賭けに出るか……?)


 彼の言う「賭け」とは変身のバリエーションを増やすために戦闘に出て、敵から変身アイテムを奪うということである。
 シザースのように誰でも変身できるアイテムが好ましいが、本人のみ使用可能というアイテムも回収しておくべきだろう。
 要は、変身の数が他の参加者より勝っていれば勝機は見える。自分の変身数を増やす一方で、相手の変身数を減らすのも作戦の一つとなる。

 ならば、人間体からアイテム無しで変身できるアポロガイストは有利ともいえる。
 変身アイテムを奪われれば変身さえままらない参加者も何人か存在するのだから。
 それでも二段変身はまだ足りない。──参加者の数に等しく、変身の力はあるのだから。

287太陽と天候 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/24(金) 10:34:18 ID:lWBci5K2
あの死体に添えられていた道具も使えそうにはないな。……まあ、念のために所持しておこう)


 ガイがC−6の平原を通った際に出会った一つの死と、それに添えられていた「メモリ」。
 それがどんなものなのか、ガイは知らない。それは未知なる世界の変身アイテムだったのだから。
 自らの首輪を確認することができれば、それに気づくことはできたのかもしれないが、今の彼はまだ知らない。

 ウェザーメモリ。
 そのシザースとは比べ物にならない強力な力を。



【1日目 午後】
【B−6 平原】


【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】死亡後
【状態】ダメージ(小)、シザースに二時間変身不可
【装備】シザースのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、ディスクアニマル(アカネタカ)@仮面ライダー響鬼、インドネシアの魔除けのお面@仮面ライダークウガ、真理の携帯美容師セット@仮面ライダー555、ウェザーメモリ@仮面ライダーW
【思考・状況】
1:大ショッカーの意思通り、全ての敵を倒し、世界を破壊する。
2:参加者の変身アイテムを奪う(たとえ自分の力にならなくても)。
3:まずはここでシザースの制限が解けるのを気長に待つ。
4:ディケイド、牙王はいずれ始末する。
5:全てのライダーと怪人にとって迷惑な存在となる。
【備考】
※スーパーアポロガイストの状態ですが、能力は抑えられています。
※制限の詳細な時間設定と能力が抑えられていることを、何となく把握しました。
※メモリの使い方を知りません。

288 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/24(金) 10:34:54 ID:lWBci5K2
以上、投下終了です。

289二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/24(金) 11:24:26 ID:yfIRq5DA
投下乙です
ウェザーはアポロガイストの手に渡ったか……
照井がアポロガイストを見たら誤解しそうだw

290 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/25(土) 12:27:01 ID:LhEe/Lkk
現在地ミス。
C−5に修正します。

291 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/25(土) 23:35:15 ID:fO6dlGdo
照井竜、一条薫、間宮麗奈、桐矢京介を投下します

292Rの定義/心に響く声 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/25(土) 23:36:07 ID:fO6dlGdo
空より降り注ぐ輝きによって、辺りは暖かかった。
全ての生物が必要な、光という存在。
しかしそれを浴びても、道を歩く一組の男女は良い感情を抱かなかった。
とある民家で、つい先程出会った二人。
桐谷京介と間宮麗奈。
一見すると、年の離れた姉弟のように見える二人。
そんな中、麗奈の表情は恐怖に染まっていた。
彼女の脳裏に、ある光景が浮かんでいる為。

(化け物…………)

何度もフラッシュバックする、異形の姿。
昆虫のシオマネキと似ている、白い化け物。
何故かは知らないが、よく知っている気がした。
まるで、運命共同体であるかのように。
ここではない何処かから、まるで自分のことを見つめているような気がする。
もしかしたら今も、何処かで監視しているかもしれない。

『間宮麗奈』

頭の中で、自分のことを呼ぶ声がする。
黒装束を纏った女が、自分を見つめていた。
その視線には、明確な殺意が感じられる。

『お前は―――の心を失った、処刑する』

人形のように、暖かみが感じられない言葉。
その瞬間、女は化け物へと変わっていく。
自分のことを殺すために。
何故、ただの声楽家である自分を襲うのか。
何故、只の人間である自分を襲うのか。

(…………人間?)

不意に、疑問が芽生える。
自分は本当に、人間なのか。
この世界に連れてこられる前の、記憶がないのに。
もしかしたら、自分のあの怪物と同じ存在。

(違う…………私は間宮麗奈、間宮麗奈という人間)

頭の中で、必死に連呼した。
自分は何処にでもいる、普通の人間であると。
劇団で歌を歌い、多くの歌劇を奏でてきた。
仲間達から、支えて貰いながら。

(麗奈さん)

そして、そんな自分を支えてくれた大切な人。
風間大介。
風のように現れて、自分のことを守ってくれた。
その彼はここにはいない。
でも、あの人は自分を人間だと証明してくれている。

293Rの定義/心に響く声 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/25(土) 23:36:54 ID:fO6dlGdo

「あの、間宮さん……?」

耳に声が響いて、麗奈は顔を上げた。
見ると、その先には桐谷が怪訝な表情でこちらを見つめている。

「どうかしたんですか?」
「いえ、何でもないわ……」

麗奈はぎこちない笑みを浮かべながら、言葉を紡いだ。
このような年下の少年を、不安にさせないため。
彼女の意図を酌み取ったのか、桐谷も笑顔を浮かべる。
しかし彼は、麗奈が怯えていることが容易に読みとれた。
こんな戦場に放り込まれて、不安になるのは当然。
鬼としての修行を積んだ自分でも、怖くないと言えば嘘になる。
でも、怯えている場合じゃない。

(ここには、ヒビキさん達だっている…………俺がしっかりしないと)

大ショッカーという奴らに連れてこられたのは、自分だけではない。
配られた名簿には、知っている名前がいくつかあった。
自分や安達明日夢がヒビキと呼んでいる師匠、日高仁志。
イブキの弟子の少女、天美あきら。
二人が連れてこられたことに、桐谷は驚く。
そしてもう一つ、信じられない名前があったのだ。
財津原蔵王丸。
ザンキと呼ばれる彼もまた、鬼の一人だった。
響鬼の先輩であり、多くの人から尊敬を得ている。
しかし彼は、既に亡くなったはず。
もしかしたら、同名の他人か。

(…………いや、今はそんなことよりも、間宮さんを守らないと)

自分にそう言い聞かせながら、桐谷は周りに意識を向ける。
最初に連れてこられたホールには、魔化魍とよく似た化け物がいた。
そいつらが、この近くに彷徨いているかもしれない。
未熟な自分がどれだけやれるかは分からないが、麗奈だけは守ってみせる。
ヒビキさん達もきっと、同じ行動を取るはずだから。

「…………ん?」

麗奈の前を歩いていた桐谷は、声を漏らす。
目の前に、二人組の男性を見つけた為。
それぞれ炎のように赤いジャケットと、茶色のロングコートを身に纏っている。
どちらも自分より年上に見えた。
桐谷が声を掛けようとした途端、向こうと視界が合う。
どうやらあちらも自分達に、気づいたようだった。
恐らく、敵意はないと思われる。
そう判断した桐谷は、二人の方へ近づいた。






294Rの定義/心に響く声 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/25(土) 23:37:44 ID:fO6dlGdo
E−2地点の、とある民家。
そこでは、外で出会った四人が集まっていた。
『クウガの世界』より連れてこられた、一条薫。
『響鬼の世界』より連れてこられた、桐谷京介。
『カブトの世界』より連れてこられた、間宮麗奈。
『Wの世界』より連れてこられた、照井竜。
彼らは、互いの持つ情報を交換していた。
同じ世界に住む、知人達。
自分の世界にいる仮面ライダーと、人々に危害を加える怪人達。
そして互いに渡された支給品。
桐谷の話す情報を、一条と照井は受け取っていた。
しかし、怯えている麗奈からは、そういった情報はあまり得られていない。
最も、誰一人として聞くつもりはなかった。
精神が不安定な一般市民に、無理に話をさせてもどうにもならない。
怯えている麗奈を一条が落ち着かせている一方で、照井と桐谷は顔を合わせていた。

「つまり、君の世界では『鬼』と呼ばれる戦士が『仮面ライダー』…………なのか?」
「そうですね、ずっと昔から人を襲う『魔化魍』って化け物と戦っています」
「なるほどな……」

説明を受け止める。
そして照井は、これまでに得た『仮面ライダー』についての情報を、整理し始めた。
一条の住む世界では、人類に牙を向ける存在である『仮面ライダー』。
桐谷の住む世界では、古来より『魔化魍』から人々を守る『仮面ライダー』は『鬼』と呼ばれる。
そして、自分の住む世界では町を守るヒーローとされている『仮面ライダー』。

(…………やはり、定義はそれぞれの世界で違っているようだな)

これまでの情報を元に、仮説を立てる。
最初の場所で、死神博士という老人は『仮面ライダー』が、世界を崩壊させる原因と言った。
その言葉の通り、一条の世界の『仮面ライダー』とは『未確認生命体』と呼ばれる怪人らしい。
だが、桐谷という少年の世界では『仮面ライダー』は、人々のために戦っている。
自分の世界とほぼ定義が近い。
これらの事実から推測するに、世界によって意味が違うのかもしれない。
ある世界では『仮面ライダー』は人類の味方でも、ある世界では『仮面ライダー』は人類の敵。
そしてまた別の世界では、更に違う意味合いを持つ可能性も否定できない。
恐らく、世界ごとで『仮面ライダー』の認識に、それぞれ食い違いがあるだろう。

(どうやら、この単語を出すのに細心の注意を払う必要があるな)

先程、一条は『仮面ライダー』を警戒しているような事を言っていた。
それと同じように、他の世界では『仮面ライダー』に悪い感情を持っている人物も、いるかもしれない。
最悪のケースとしては、この単語を聞いただけで一悶着を起こす者も出てくる可能性がある。
その可能性を危惧した照井は、ここにいる三人に告げた。
『仮面ライダー』の単語は、無闇に口にするべきではないと。
そして『仮面ライダー』に関する認識が、世界ごとに違う可能性も。
照井の提案を、三人は頷いた。
そこから、彼らは今後の行動方針を決める。
自分と同じ世界にいる知人との合流。
一条薫のパートナー、五代雄介。
桐谷京介と同じ志を持つ二人、日高仁志と天美あきら。
照井竜の知人である、左翔太郎とフィリップと鳴海亜紀子の三人。
特にフィリップは、この首輪を外すのに大いに力になるかもしれない。
そう、照井は語った。

295Rの定義/心に響く声 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/25(土) 23:40:06 ID:fO6dlGdo

「間宮さん、大丈夫ですか……?」
「え、ええ……大丈夫です」

一条は、麗奈の身体を支えながら口を開く。
同行していた桐谷が言うには、彼女は一部の記憶を失っているようだ。
そんな一般人まで、こんな殺し合いに駆り出される事実に、一条は憤りを感じる。
何故、彼女を連れてくる必要があるのか。

(まさか、少しでも『仮面ライダー』に関与しただけで、この戦いに関与させられてしまったのか?)

先程麗奈から聞いたことを、一条は思い返す。
奇妙な機械を使って、不気味な化け物と戦う戦士達。
それが彼女の世界の『仮面ライダー』なのかもしれないが、信頼に当たる人物なのかは判別がつかない。
照井の言葉通り、人類に牙を向ける存在である可能性も充分にある。
だが、そちらにばかり気を向けていられない。
麗奈の言っていた『仮面ライダー』が、必ずこの世界にいる訳でもないからだ。
楽観的に考えるつもりはないが、いるか分からない者の事を考えていても仕方がない。
まずは五代、そして照井や桐谷の知り合いと合流を目指して、大ショッカーを打倒するための策を練ることからだ。
それぞれ違う世界から連れてこられた四人は、行動を開始する。









麗奈の脳裏に、浮かぶ光景。
それは始まりの地で、直面した悲劇だった。
大ショッカーによって、奪われた一つの命。
スーツを身に纏った、見知らぬ男性。
それでも、初めて見た気がしなかった。
まるで、何度も会った事がある気がする。

(あの人は一体…………?)

眠っている、ワームとしての本能が知っていたのだ。
影山瞬という人間を。
間宮麗奈という皮を被った、ウカワーム。
『カブトの世界』で人類を欺き続けた怪人、ワーム。
その本性を取り戻す時は来るのか。
誰にも分からない。




【1日目 日中】
【E−2 民家】

【全体事項】

※四人の間で、情報交換が行われました(どの程度かは、後続の書き手さんにお任せします)

296Rの定義/心に響く声 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/25(土) 23:41:18 ID:fO6dlGdo


【一条薫@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話 未確認生命体第46号(ゴ・ガドル・バ)撃破後
【状態】健康
【装備】AK-47 カラシニコフ(対オルフェノク用スパイラル弾入り)@仮面ライダー555
【道具】支給品一式、名護のボタンコレクション@仮面ライダーキバ、車の鍵@???
【思考・状況】
1:照井、桐谷、麗奈と行動を共にする。
2:鍵に合う車を探す。
3:『仮面ライダー』には気をつける。一般人は他世界の人間であっても危害は加えない。
4:五代、桐谷や照井の知り合いと合流したい。
5:未確認への対抗が世界を破壊に導いてしまった……?
6:麗奈を保護する。
【備考】
※ 『仮面ライダー』はグロンギのような存在のことだと誤認しています。
※ 『オルフェノク』は『ある世界の仮面ライダー≒グロンギのような存在』だと思っています。
※ 対オルフェノク用のスパイラル弾はオルフェノクにほぼ効きませんが、有効なものであると勘違いしいています。
※ 『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。


【照井竜@仮面ライダーW】
【時間軸】第20話終了あたり(初登場ごろ)
【状態】健康
【装備】アクセルドライバー&アクセルメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式、不明支給品
【思考・状況】
1:一条、桐谷、麗奈と行動を共にする。
2:知り合いとの合流。
3:『仮面ライダー』が敵……?
【備考】
※ 参戦時期が早いため、復讐心や他人に対する態度は安定していません。
※ 『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。


【間宮麗奈@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第40話終了後
【状態】健康 人間不信 ワームの記憶喪失
【装備】ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式、デンカメンソード@仮面ライダー電王、『長いお別れ』ほかフィリップ・マーロウの小説@仮面ライダーW
【思考・状況】
0:化け物……?
1:とりあえず一条、京介、照井についていく。
2:他人が怖い。
3:殺さなければ殺される……。
4:あの人(影山)は一体……?
【備考】
※ウカワームの記憶を失っているため、現状では変身することができませんが、何かの拍子で思い出すかもしれません。
※ 『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。


【桐矢京介@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】最終回後
【状態】健康
【装備】変身音叉@仮面ライダー響鬼
【道具】支給品一式、不明支給品×0〜2
【思考・状況】
1:人を守る。
2:麗奈を守る。
3:化け物(イマジン)が気になる。
4:一条、照井、麗奈と行動を共にする。
5:響鬼達との合流を目指す。
【備考】
※名簿に書かれた『財津原蔵王丸』の事を、同名の他人だと思っています。
※ 『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。

297 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/25(土) 23:42:18 ID:fO6dlGdo
投下終了です
問題点などがありましたら、ご指摘をお願いします

298二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/26(日) 11:07:01 ID:8BDZFbn6
シオマネキは昆虫ではなくカニです

299 ◆LuuKRM2PEg:2010/12/26(日) 11:14:42 ID:w5GH0vnM
ご指摘ありがとうございます
収録の際に修正します

300 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/26(日) 20:17:18 ID:pfvYO3fk
ただいまより、投下を開始します。

301パラダイス・ロスト ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/26(日) 20:20:06 ID:pfvYO3fk
 三人の仮面ライダーが病院の廊下を踏んでいく。
 もう一人、足を宙に浮かせて剣崎一真の背に体重を預けている男も仮面ライダーである。
 この場所には、既に四人の仮面ライダーが手を伸ばせば体が触れる距離で集まり、歩いているのだ。
 そして、その誰もが自分たちのパーティを脅かす危機に晒されているということに、毛ほども気付いてはいなかった。

 仮面ライダーブレイド/剣崎一真。
 仮面ライダーキバーラ/光夏海。
 仮面ライダーキックホッパー/矢車想。
 仮面ライダータイガ/東條悟。

 彼らは、その「変身」を封じられていること、──そして、変身した悪魔が近づいていることを知る由も無い。
 ただ、危機が来ても自分の力、そして他人の力──つまり、仮面ライダーの力がなんとかするだろうという意識のもと、彼らは矢車の後を追うように歩く。
 この場の主導権は、協力の意思のない男に委ねられている。
 その男を手放すまいと、剣崎や夏海が勝手についている。だから、矢車が休まない限り彼らも休めず、矢車が歩かない限り彼らも歩けない。
 今は、「休めない」という状況であった。

 剣崎の顔色は至って悪い。
 何故なら、その背に成人男性を背負っているのだから。
 それに対し、矢車はすたこらと早歩きをして剣崎に追いつく余地はない。

「変わりましょうか? 剣崎さん」

「いや……いい。それに、女の子じゃこいつの体重背負うなんて無理だ」

 確かに、意識を失った東條の体重を夏海が背負えるという自信はなかった。
 なら、夏海にできることは他に何があるだろうか。

「矢車さん、少し休みましょうよ」

 まずは、矢車に注意を呼びかけることである。
 剣崎に余計な苦労を背負わせているのは矢車の早歩きだ。もう少し彼がスピードを緩めてくれたなら、剣崎はもう少し軽い気持ちで歩いていくことができるだろう。

「お前らが勝手についてきているだけだ」

 これには反論の余地がない。
 実際、そうなのだから。
 しかし、剣崎の痛みをわかった上でもう少し気の利いた配慮をしてほしいとも思う。

「何ぃ〜、あの態度! 夏海、あんなの勝手に行かせちゃいましょ」

 キバーラは額に怒りのマークを浮かばせて、夏海にそう提案するが、彼と彼女の性格は、キバーラと同じようにはいかない。

「大ショッカーを倒すには、より大きい力が必要なんだ……!」

「それに、矢車さん一人じゃ……またああいう敵が来た時にどうなるかわかりません」

 目的は大ショッカーの打倒、そして参加者の保護。
 そんな仮面ライダーの正義感を破ることは難しい。
 キバーラもつい呆れてしまうような人間たちだ。
 とんでもないお人よし。自分たちを襲った東條までも一緒に行動させようと運んでいるのだ。

302パラダイス・ロスト ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/26(日) 20:21:10 ID:pfvYO3fk
 そんな彼らを見て、少しだけ目を瞑ってため息をつくと、そのまま瞼を開く。
 彼女はその瞳が、先ほどまでなかったものを映していたことに気がついた。
 何か。

「夏海、あれ……」

 その先に映っていたのは、こちらを見つめる黒い仮面ライダーの姿であった。
 カブト。
 矢車の住むカブトの世界、あるいは夏海の旅したネガの世界。
 そこに存在する黒いカブトである。
 名を、ダークカブト。

 ──CLOCK UP──

 彼の存在を意識ある者全員が認知すると、ダークカブトはあの厄介なシステムを発動させたのだった。


△ ▽


 同じ仮面ライダーでありながら、彼らは相手の持つ「闇の色」に危機を感じずにはいられない。
 夏海の知るダークカブトは、敵だった。
 そして、相手の持つ無情な気配──その右手に堂々と凶器を持った外見。
 全てが、彼らを「変身」へと誘導した。

「「「変身」」」

 その掛け声は同時。
 だが、目の前を切る黒い風がその声を掻き消す。
 夏海、矢車、剣崎、東條。四つの体が吹き飛ばされる。
 全員、どこかしら体の一部に痛みを感じ、全員、その風の正体を見るのは風が止んでからだった。

「……変身ができない」

303パラダイス・ロスト ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/26(日) 20:21:44 ID:pfvYO3fk
 決して妨害されたからではなく、ライダーシステム自体が仮面ライダーへの変身を拒んでいた。その事に、剣崎はいち早く気付く。
 目の前に青い壁が現れたなら、ダークカブトは剣崎を攻撃することができなかったはずなのだから。
 誰もが変身の掛け声をとりながら、そこにあるのは生身。
 どこかを傷つけ、立ち上がろうとする彼らの姿は、いずれも仮面ライダーではなく人間である。

「何か、変身を妨害する力が働いてるらしいな」

「やっぱり? 折角、かぁぷをしたのに……」

 三人とキバーラは息を呑む。
 目の前の鬼神にどう立ち向かうか……?
 変身した相手に立ち向かうだけの力を、彼らは有していない。
 勝ち目はない。
 絶体絶命。
 死ぬ。
 そんな負の感情と、恐怖が誰かの心を掴んでいた。



 ────だが、誰よりも「人を助けること」にこだわり続ける男が、その中にはいた。



 生身で、それでも立ち上がってダークカブトに立ち向かおうとする男。
 剣崎一真。
 仮面ライダーブレイドではない。
 一人の人間・剣崎一真は闇の仮面ライダーにタックルした。

「ウェェェェェェェイ!」

304パラダイス・ロスト ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/26(日) 20:26:29 ID:pfvYO3fk
 その攻撃を余地しないダークカブトは一瞬ながらバランスを崩す。
 剣崎一真はこういう男であった。
 たとえライダーに変身できなくても、目の前の敵に立ち向かうだけの勇気を持つ。
 そして、その勇気が彼の最大の武器なのであった。

「今のうちに東條を連れて逃げるんだ……!」

 ダークカブトは体勢を立て直すと、すぐに自分に掴みかかる男を弾き飛ばす。
 剣崎という男は、再び地面を蹴って目の前の敵に掴みかかっていく。

「早く行けよ……! このままじゃ全員助からない……! それなら……」

「でも……っ!」

 一度に何箇所の打撲を負っているだろうか。
 それが仮面ライダーと人間の差。
 だが、剣崎は何度跳ね返されようと、もう一度立ち上がる。
 ダークカブトはもう何度目かわからないが、再び剣崎を跳ね返す。──そして、剣崎もその体に限界を感じながら、ダークカブトに掴みかかっていく。

 その時、ダークカブトを押さえつけていた男は剣崎ひとりではなかった。


「その姿への借りを、今思い出した」


 かつてカブトの抹殺を企てた男──矢車想。
 二人の男に押さえつけられたダークカブトは、力の差がありながらも身動きを取るに難しい態勢であった。

305パラダイス・ロスト ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/26(日) 20:27:07 ID:pfvYO3fk
 最早、何も言うまい。
 夏海は自分に相応しくないウェイトを背負いながらも、必死で走った。
 振り向けば、痛めつけられていく二人の姿がある。
 そんなもの、見たくない。
 ただ前だけを見て、走っていくしかない。ただひたすら、前を向いて……。

 女に生まれた身を呪いながら、少女は泣いた。
 ────自らの首に、首輪とは違うもう一つの冷たさを感じていることに、光夏海はこの時まだ気付いていなかった。


△ ▽


「ふんっ!」

 二つの体が空中を旋回する。
 それは自らの意思によるものではなく、黒い悪魔に腕を放されてのものだった。
 壁にぶち当たった二人は、頭に血の川を作りながら、目の前の敵を睨む。

 その敵に立ち向かおうとはしている。
 だが、体は動かない。
 力が抜けていく。二人は互いが立ち上がろうとしているのかさえ、把握することができなかった。
 ただ、自分が立ち向かわなければならないということだけを認識しながら敵の存在を捕捉する。
 そいつがどう動くか。それに、彼らの生命は左右されていた。

 どちらにせよ、ダークカブトは敵。
 問題は、どちらが早くこの世を離れるのか。その一点である。
 早く離れることか、後に離れることか。彼らがどちらを望むのかは言うまでも無い。
 自分を捨てて他人の身を案じるだけの気概を持つ男と、誰よりも地獄を求めている男──そんな二人なのだから。

 それでも、そんな心配は無用であった。

「全部……壊れちゃえ」

 ──CLOCK UP──

 ダークカブトがゼクトクナイガンを構え、病院の壁に巨大な線を描いていく。
 その線の巨大さは、クロックアップが解けたときに崩れるものの巨大さも表していた。
 剣崎と矢車が倒れる頭上に描かれたのは不規則な線。
 不規則だからこそ恐ろしい。
 不規則だからこそ、どう崩れるかわからない。
 全ての破壊が目的であり、その為に自分の命さえも惜しまない男に、躊躇などなかった。

 気付かぬうちに、止まった時間が再び流れていく。
 上から落ちてくる何かを眺めながら、剣崎は呟く。

306パラダイス・ロスト ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/26(日) 20:27:44 ID:pfvYO3fk
「…………あの…………子…………うま、く…………逃げた、か、な………………」

「さあ、な…………」


 轟音が二人の聴覚を包んでいく。
 もう、ダークカブトの姿なんて彼らの目には映らない。
 きっと、クロックアップを使ったからこの場にはもういないのだろう。
 壁から降り注いでくる白い粉が、彼らの髪を汚していく。
 巨大な塊が落ちてくるのは、もう目に見えていた。


(あんな女、俺の知ったことじゃない……)


 それでも最後のとき、矢車の脳裏にはその顔が浮かんだ。

 仮面ライダーキバーラとは、闇に生息する蝙蝠の仮面ライダーである。
 しかし、彼女の姿は純白。闇に溶け込むにはいささか目立つ色合いであった。
 『光』夏海。
 闇を照らす光。彼は知らぬ間に、そんな名前の少女と出会っていた。

 もしかすれば、矢車想は彼女を妹のように大切に思っていたのかもしれない。
 もはや、彼が死んでしまった以上は、誰もそれを知ることはなかった。


△ ▽


 夏海の息は切れていた。
 錘を背負って、ある程度の距離を走ってきたのだから。
 夏海は、そんな自分の息が苦しいのが、単純にある程度の距離を走ったからではないということに気付いた。
 首を触られている──いや、掴まれているという感触。

「うっ……」

 やっと出た声が、それだった。
 自分が背負っている男。その手が夏海の首を押さえつける強い感触。
 唾が咽喉を通らない。酸素を取り込むことも、できない。

307パラダイス・ロスト ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/26(日) 20:28:50 ID:pfvYO3fk
 顔中に強い圧力がかかっているような感覚。
 頭が痛い。後ろの男がどんな表情をしているのか確かめる術もなく、夏海は苦しみの中で体力を失っていく。

(キバーラ……)

 朦朧とする意識の中、キバーラが自分の前を飛んでいるのが見える。
 そういえば、ここにも仲間はいたんだなと彼女に声をかけようとした。
 キバーラは気付かない。
 自分のパートナーが、ここで死にそうな目に遭っているということに。

(つかさ、く……)

 彼女に助けを求めることができないと知った夏海は、「世界の守護者」と信じる男に助けを求めた。
 それでも、彼は助けてくれない。

 ──安心しろ、夏みかん。お前は俺が助ける。

 病院の廊下を駆ける仮面ライダーディケイド。
 その声は、間違いなく門矢士のものであった。

 ──きみ、誰?
 ──通りすがりの仮面ライダーだ! 覚えておけ。

 虎の仮面ライダーを倒していくディケイド。
 その圧倒的な力が、きっと夏海を助けてくれる。

 ────そんな夢である。
 きっと助けてくれると信じた夏海は夢を見る。
 ようやく助かる……そんな幸せな夢だったが、長続きはしない。
 夏海は呼吸のできない苦しみとともに、意識をこの世から切り離した。
 魂の抜けた体は、東條の手を離れて地面に転がる。そこに生気など無かった。

308パラダイス・ロスト ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/26(日) 20:29:51 ID:pfvYO3fk
 彼女の錘──東條悟は、薄ら笑いを浮かべる。
 タイガの力なしで、東條はまず一人殺した。
 これで英雄に近づける。
 これで英雄になれる。
 世界を救った英雄になれる。

「ん……? 夏海……?」

 足音が聞えないことに気付き、キバーラは振り向く。
 そこに見えるのは、地面に倒れた夏海の姿と、それを見下ろして笑う東條の姿であった。
 夏海は死んだように倒れているとは思ったが、まさか本当に死んでいるとは気付くまい。
 ただ、東條が夏海に何かをしたことだけ、キバーラは認識する。

「ちょっとあんた、夏海に一体何────」

 言いかけたキバーラに、巨大な瓦礫が降り注いだ。
 最早、目の前の男に気をとられているような段階ではなかったのだ。
 そして、東條もまた、夏海を殺したことに気をとられている暇はなかった。

 東條は懐を探り、タイガのデッキを探す。その表情には余裕も含まれていた。
 タイガの力があれば、降り注ぐ瓦礫など問題ではない。だが、タイガのデッキはどこにもない。

「え……?」

 東條はそのまま、瓦礫に呑まれた。
 元の世界の彼と違ったのは、誰も救うことができなかったこと。
 そして、英雄になれなかったこと。
 だが、確かにひとつだけ同じことがあった。

(香川……先生………………次は、誰を…………)

 最後に彼が思うこと──それは、亡き香川教授への問いかけである。
 英雄になるにはどうすればいいか?

 ────英雄になるならば、彼はきっと、来る場所を間違えたのだ。


△ ▽

309パラダイス・ロスト ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/26(日) 20:30:37 ID:pfvYO3fk
 ダークカブトの変身は自然に解けた。
 瓦礫の山と変わり果てた病院を背にして、彼は全ての破壊を目的に歩き続ける。
 ネガタロス、剣崎一真、矢車想、光夏海、キバーラ、東條悟。
 病院に集った参加者たちは、戦いすぎた。
 それが仇となった。
 仮面ライダーだった者たちは、その本当の力を発揮することなく、仮面ライダーに倒されてしまったのだから。
 度重なる戦いの渦から開放されたのが、戦いしか知らぬ彼らにとって救済となりえたのかはわからない。
 ただ、まだ戦おうというものが、ここにはいた。


「まだだ……全部、壊してやる……こんな世界…………」


 それでも、悪の仮面ライダーダークカブトは止まらない。
 全てを破壊していくまで、彼の暴走は止まらないのだ。



【剣崎一真@仮面ライダー剣 死亡確認】
【矢車想@仮面ライダーカブト 死亡確認】
【光夏海@仮面ライダーディケイド 死亡確認】
【キバーラ@仮面ライダーディケイド 死亡確認】
【東條悟@仮面ライダー龍騎 死亡確認】
残り46人


【1日目 日中】
【E−4/元・病院前】
※病院は倒壊しました。剣崎一真、矢車想、光夏海、東條悟の死体と支給品は全て瓦礫の下にありますが、その状態は後続の書き手さんにお任せします。

【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】健康 情緒不安定気味 ダークカブトに二時間変身不可
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、不明支給品(0〜4)、デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王
【思考・状況】
1:天道総司を殺し、『天道総司』に成り代わる。
2:全ての世界を破壊するため、手当たり次第全員殺す。
3:特に優先的に『カブトの世界』の五人を殺害する(最終的には自分も死ぬ予定)。
4:僕はワームだった……。
【備考】
※ 名簿には本名が載っていますが、彼自身は天道総司を名乗るつもりです。
※ 参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。
※ ネガタロスの支給品を全て奪いました。後に彼の起こした病院の倒壊で死亡した参加者の支給品は回収し損なっています。

310パラダイス・ロスト ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/26(日) 20:31:19 ID:pfvYO3fk
以上、投下終了です。

311二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/26(日) 20:41:56 ID:kD4cWqes
まさか 剣崎が死ぬなんて

312二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/26(日) 20:52:53 ID:w5GH0vnM
投下乙です
ああ、擬態天道は殺しすぎだなw
そしてみんな、お疲れ様…………
特に士は夏海の死を知ったら、どうだるだろう……?

313二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/26(日) 20:53:49 ID:w5GH0vnM
どうなるだろう でした

314このレスは管理人によって破壊されてしまった:このレスは管理人によって破壊されてしまった
このレスは管理人によって破壊されてしまった

315二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/26(日) 22:13:47 ID:s4MjQxa.
修正要請すればいいじゃない

316 ◆Wy4qMnIQy2:2010/12/26(日) 23:32:55 ID:5EBJdFu2
◆LuuKRM2PEg氏投下乙です。
そっか、照井以外は『仮面ライダー』を知らないんだな。
こっちがテレビで見る分には簡単な構図なのに、ロワになると複雑なものだ。
あと麗奈の抱えるウカ爆弾に期待。いつ爆発するかなーw

◆LQDxlRz1mQ氏、投下乙です。
 凄 惨
その一言に尽きる。


それでは、自分も霧島美穂、鳴海亜樹子、乃木怜治を投下します。

317亜樹子オン・ザ・ライ ◆Wy4qMnIQy2:2010/12/26(日) 23:34:33 ID:5EBJdFu2
D−5エリア、平原。
今ここに二人の女性と一人の男性がいる。
「じゃあ、あなたはずっとバイクで走ってたってこと?」
二十歳という年齢の割には幼い顔つきで、少女と形容してもいい外見の女性、鳴海亜樹子。
「にもかかわらず、この何時間も誰一人会うことがなかったと」
すらっとした高身長に整った顔立ちの女性、霧島美穂。
「ああ。このやけに大掛かりな戦いが始まってから、やっと会えたのが君達というわけだ」
そして、黒いコートを羽織る長髪の男、乃木怜治。

風都『だけ』を守る決意を胸に良太郎たちから離反した亜樹子は、しばらく経って美穂と合流することとなった。
おそらく来るであろう追っ手を撒くためにどこかへ隠れる。
ついでに『馬鹿な参加者達』を意のままに扱うための術を教授する。こう切り出したのは美穂だ。
亜樹子からすれば利点の多い提案だ。すぐに受け入れ、話は目的地の選択へと移った。
とはいえ、近くにある建造物といえば限られてくる。
地図を見る必要も無しに存在が把握できる巨大な赤い塔、東京タワー。
または、その近くに陰になるようにそびえるビル。
「東京タワーの方にしましょう。展望台ってのがあるはずだから」
美穂曰く、地上100メートル以上のフロアに設置された望遠鏡を覗けば、周辺の参加者の位置が把握できるということだ。
追っ手も含めた他の参加者の様子を眺めて、誰と接触するか、誰と距離を置くかを考えたいらしい。
「うん、わかった」
と、ひとまずの行動方針をお互いで決め、歩き始めた。
そんな時だった。
「そこの女性諸君! このつまらないゲームを打破するために、少し話でもしないかね?」
高慢な台詞と共に、銀色に輝くバイクに跨った乃木怜治が現れたのは。

318亜樹子オン・ザ・ライ ◆Wy4qMnIQy2:2010/12/26(日) 23:35:25 ID:5EBJdFu2



「羨ましいわねあなた、そんな便利な移動手段貰っちゃって。支給品としては大当たりじゃない」
「まあな。けど、使える物といえばこのくらいで、後は外れだ」
そう言って乃木はディバッグから何かを取り出した。
「えっと…札?」
「みたいだな。正真正銘、ただの木の板だ」
片手で持てるほどの二枚の小さな木製プレート。それが彼の支給品だった。
材料と工具さえ揃えば子供でも数十分あれば作れそうな玩具にしか見えず、有効な使い道があるとは思えない。
貴重な枠の一部が役立たずとくれば、乃木も溜息を零さずにいられない。
「こんなものを何に使えというんだろうな」
「…メモリ?」
「何?」
板を見た亜樹子がぽつりと呟く。それを乃木は聞き逃さなかった。

「おい、まさかこれに心当たりでもあるのか」
「えっ、…」
亜樹子が反応を示すのも無理はない。板に書かれた二つの熟語の組み合わせが、言い方さえ変えれば何度も聞き慣れたものだからだ。
意識しない内にこちらの知る知識の片鱗を明かしてしまい、「しまった」と思うがもう遅い。
「丁度いい、これが何なのか早速教えてもらおうか。もしや当たりなのか、これは?
…できれば、下手に嘘はつかないでほしいものだが?」
「あ、あの…」
乃木に問い詰められ、亜樹子は口籠ってってしまう。
嘘をつくことで勝ち残ると決めた矢先の失敗で、脳は焦りに囚われる。
嘘をつくことに慣れていないから当然で、追求されることにも慣れていないのから当然だ。

319亜樹子オン・ザ・ライ ◆Wy4qMnIQy2:2010/12/26(日) 23:36:23 ID:5EBJdFu2
いや、そうでなくとも解説に困る代物なのだ。
ただ『疾風』『切札』と書かれただけの、名前が同じだけでどう見てもガイアメモリでない板など、どこからどう説明していいものなのか。

「あの、そういうの後にしてくれない?」
亜樹子の回答が得られず場の空気が悪くなろうというところで、美穂が口を挟んだ。
「実は私達、早いところ東京タワーに行きたいの。お互いの話をするにも落ち着ける場所がいいし」
「ああそうかい。だが、そういうことは早く言ってくれないかな?」
乃木が美穂を睨みつけてきた。少し険悪なことには変わりないが、とりあえず亜樹子への追求が逸れて一安心といったところだろう。
展望台を利用するつもりだと説明し終わったとき、亜樹子からすれば信じられない意見が持ちかけられた。
「折角だし、あなたも来る? 聞きたいことだって、絶対急ぎってわけでもないでしょう?」
「…ふむ、俺も丁度考えていたところだ。一度合流といこうじゃないか」
一安心でもなかった。美穂の言葉に亜樹子は思わず目を見開く。頭の中で「何それ、あたし聞いてない!」とも叫ぶ。
数分前に決定した行動の中には、二人以外に誰もいないことが前提となるものがある。
にも関わらず全くの赤の他人を引き入れたら、嘘の付き方を教えてもらう約束が無碍にされてしまう。
「それと、一つ頼みがあるの」
だが、そんな不安交じりの亜樹子に一瞬だけ目配せして、美穂はもう一つの提案をした。
「折角バイクに乗ってるんだし、ちょっとこの辺りを見回りして?」

「…俺を使い走りにしようというのか?」
乃木の眉が険しくなった。亜樹子の肝が冷えるが、美穂は涼しい顔で続ける。
「違うわよ。あなただからお願いできること。
もし近くに人がいたら、東京タワーに来てもらうように言ってほしいのよ。
『このゲームに反抗する人同士、手を組んで行動しよう』ってね」
「…成程な。つまりお前達は、正義のヒーローの一大チームを結成して、主催打倒のための力を蓄えよう、というわけか」
乃木は感心したように頷く。しかし美穂は頷かない。
「一部正解、だけど惜しい。
 確かにある程度味方が居た方が心強いけど、ただあそこでずっと待ってようってわけでもないの。私達も探したい人がいるから」
 探したい人。美穂がはっきりと名前を口にしなくても、乃木には何を指すのか解釈できた。

320亜樹子オン・ザ・ライ ◆Wy4qMnIQy2:2010/12/26(日) 23:37:41 ID:5EBJdFu2
「同じ世界出身の人間、か」
「…ま、一番確実な味方が望ましいからね」
ここまで話し終えてから乃木の様子を見る。
「素晴らしいよ! あのふざけた組織を潰すための正義に燃える者同士、力を合わせれば未来は掴めるはずだ!」…とはなってくれない。
まだ何かを考え込んでるようだ。そしてこちらを見つめる目は未だ信用していない感じがする。
このままでは、疑念をもたれたままこの男に付きまとわれることになるかもしれない。

「それとも、私にそのバイク貸す?」
突然のもう一つの申し出に、流石に乃木も驚きを露わにした。
「貴様、俺からこいつを奪おうというのか? バイクに乗っても逃げないと保障できるのか?」
「だって、人を集めるのにバイクは必要でしょう?」
少なくとも集合地点まで折り返すには歩く参加者に合わせなければならないが、その前はバイクでの移動で構わない。片道だけでも時間短縮にはもってこいだ。
また、万が一危険人物に出くわしたとしても逃走手段としても使える。
この二つの利点の説明をした上で、美穂は付け加えた。
「で、あなたが捜索を嫌がるなら、私が乗るほかに道はないの」
「…このまま俺と同行しながら手駒を探す、というのでは駄目なのか?」
「それだとあなたが私達に合わせなきゃ駄目じゃない。あなたがバイクでも私達は歩くのよ? 三人乗りなんてできないし」
対主催勢力の結集と迅速なメンバー探しの両立には、少なくとも誰かがバイクに乗って移動しなければならない。
東京タワーへ行くことを譲れない以上、二つの両立には誰かがバイクに乗るべきだ。
「どう? …もしかして、やっぱり信用できない?」
ほんの僅かに寂しそうな声を発する。
伝わるか伝わらないかくらいの辛さを目の辺りにした乃木が続けたのは。
「…まあ、いいだろう」
受諾の言葉。とりあえずは交渉成立ということだ。
「良かった…ありがとう」
ここで美穂は微笑みかける。大体の男は照れて目を逸らすものだが、あいにく乃木は仏頂面のままだった。

321亜樹子オン・ザ・ライ ◆Wy4qMnIQy2:2010/12/26(日) 23:39:05 ID:5EBJdFu2
「できれば早く来てね。長居したいわけでもないし。
 …そうね、一回目の放送が始まる前にはタワーを出たいから、それまで待つわ。いいよね?」
「え? あ、うん」
「6時までだな? わかった」
そう言い残し、乃木は二人のもとから走り去っていった。




「…あれで良かったの?」
再び二人きりになり、亜樹子が尋ねた。
「ごめんね、勝手に予定変えちゃって。でもあのウザい奴を引き離すのに手っ取り早いと思って」
「うん、そこは上手くいったけど。でも、なんで人を集めるにしても、なんであの条件をつけたの?」
味方を集めようという点に疑問はない。いずれ殺すとはいっても、暫くは身を守るための戦力になってくれる。
亜樹子にとっての疑問は、美穂の提示した約束の時間が午後6時前、今から約3時間後だという部分だ。
乃木がバイクで移動できるとはいっても、人数を集めるには時間が短いのではないか。
この亜樹子の問いに対して、美穂は特に悩むこともなく返答した。

「正直言うと、あんまりいっぱい来られても困るのよね。変な奴…私みたいに人を騙すのが得意な奴が混じってくるかもしれないのに」
バイクで二人を轢き殺そうとはせず、積極的に情報交換を持ちかけてきた乃木は『乗っていない』可能性が高い。
だが、彼が集める人間も同じく安全だとは限らない。彼が手当たり次第に協力を持ちかけたりしたら、品定めを一度に行う手間が出てくる。
「男なんてね、取っ換え引っ換えが一番楽なのよ。どうせその場限りの関係だし」

それともう一つ、合流を呼びかけることに良い効果がある。
「もしあなたを追いかけてきた奴が現れても信用してもらえるかもしれないじゃない」
忘れていた顔を思い出した。もしかしたら良太郎達の内の誰かが亜樹子を追ってくるかもしれないのだ。
しかし美穂はその誰かに追いつかれてもいいと言う。
「『殺し合いに乗るかと思われた鳴海亜樹子は、霧島美穂の説得を受けてもう一度大ショッカーに立ち向かう決意を固めた』ってことにしちゃいましょう。
 そのための行動も取ったわけだし」
そもそも他人を信用できない状況だし、ちょっとでも綺麗な姿に見せかけないとね。長く続いた解説を締めくくり、美穂は悪戯っぽく笑った。

322亜樹子オン・ザ・ライ ◆Wy4qMnIQy2:2010/12/26(日) 23:40:17 ID:5EBJdFu2
「でも、一回酷いこと言ったのに大丈夫かな…?」
「…亜樹子ちゃん、まだ誰も殺してないでしょう? だったら可能性はあるんじゃない?」

まだ罪を犯していない。フォローの言葉が亜樹子の心に冷たく響く。
現時点では言う通りだ。手は血に染まらず、真っ白だ。
だがこの清らかさが、罪を犯し、楽しいだけの日々を崩すための踏み台になるのだ。
「…ごめん。ちょっと励まし方間違えた」
辛さが表情に出ていたのだろうか。美穂がまた謝罪を口にする。
沈んだ気分が立ち直るよりも先に、亜樹子には一つの謎が生まれた。
「ねえ美穂さん」
「なに?」
「なんで、私に手を貸してくれるの? 私達も最後には敵なんだよ?」
美穂は何かと力になると言ってくれた。それは素直に嬉しい。
だが、全ての世界を救うヒーローだとは名乗らなかった。亜樹子と同じく、彼女には彼女の守りたい世界があるのだ。
だからこそ、ここまで亜樹子の世話を焼いてくれるのが気がかりだ。
なんだか優しいお姉さん(年下だけど)と呼びたくなるような彼女の態度が理解できない
無視できない矛盾への問いに対して、美穂の答えはあっさりとしていた。

「確かにバカがどうなるかなんてどうでもいいけど、あのお爺さんが嘘をついてる可能性もあるでしょ?
 もしもそうだった時、良い思いを共有する相手がいてもいいかなって。…ま、女の共感ってやつ?」
───嘘だ。
今更あの老人の言葉を信じない理由なんてどこにもない。
だから殺し合いに乗ることを決めたんだ。
仮に理由があったとしても、とっくに恐怖が希望に勝っているから考えたくない。
最早これは可能性ではなく覚悟の問題だ。
同じ道を選んだ美穂だってもうわかっているはずである。
けれど、優しさという仮面を顔に着けて、こうして割り切った関係を続けている。
虚構だとわかっているのに甘えたくなる愛情を与えながら。
素顔の美穂は冷酷であるはずなのに、憧れさえ感じてしまう。
たった少しの触れ合いで迷いが生じ、苦悩を抱えている自分とは大違いだ。
「…すごいね」
「そう?」
押し黙った亜樹子を見て、これで話は一段落と判断したらしい美穂は顔を前へ向き直した。

323亜樹子オン・ザ・ライ ◆Wy4qMnIQy2:2010/12/26(日) 23:41:03 ID:5EBJdFu2
(あたし駄目だな。親しくなるのが厭だから良太郎くんたちから逃げたのに)
決意を鈍らせると感じたから人との関わりを捨てたのに、美穂に会ってまた暖かい感情が生まれそうになっている。
最後には壊れる関係とわかっているのに、綺麗な想いを抱いてしまう。
けどこれじゃ駄目だ。風都のためにも甘さはいらない。
必要なのは、美穂のようなクールさ。良太郎やあきらの優しさを踏みにじられるような非情さだ。
それがもし翔太郎やフィリップ達に蔑まれるやり方だとしても、もう決めたのだから。

(ごめんね…みんな)
心の中で、誰にでもなく謝った。これが最後の弱音だと自分自身に言い聞かせながら。
ようやく東京タワーの真下まで辿り着いたとき、すぐに空に映える赤い三角を見上げた。
こうでもしないと、目から涙が零れそうだったから。





女に言いくるめられ、体よく利用された。
第三者から見れば、乃木怜治の行動は滑稽に見えるかもしれない。
しかし当の乃木本人の心中に不満は無い。実際の所、美穂の言葉に従っても乃木の考えていた行動方針は大して変わらないからだ。
「さて、この辺りの生存者はあと二人。どちらに会うべきかな?」
乃木は周辺にいる参加者の人数を断定した上での悩みを口にした。
周囲に目を向けたところで、小さな人影さえ見えない。だが、乃木にはわかる。
すでに高みから周辺を見渡して、情報を得た乃木にはわかるのだ。

先に言っておくと、乃木はこのゲームが始まってから数時間後、一度だけ東京タワーに立ち寄っていた。
そこで取った行動は美穂の持ちかけた案とほとんど同じ。周辺の参加者の配置を把握した上で、接触に値する人物を見定めていた。
市街地の方に目を向けてみた。人影がちらほらと見えたが、建造物に阻まれてなかなか様子を伺えなかった。
やはり近場からの方が手っ取り早いだろうとタワー周辺の平原に目を向けた。その結果見つけた参加者は五人。
いや、正確に言えば四人だろうか。
一人目と二人目は霧島美穂と鳴海亜樹子。
三人目は、革ジャケットの男。その男は何かを探そうとしているように見えた。走りながら周囲へ忙しく視線を動かしていたからだ。
四人目は、白いスーツを着た男。彼は真っ直ぐ東京タワーのある方角へと歩いている最中だった。
もっとも遠くから見ただけでは、目当ての場所が何処なのか確信できなかったが。
五人目、とカウントしていいのかわからない男が一人いた。その黒いスーツの男は赤い血溜りの中に横たわっていて、もう既に事切れてることが明らかだ。

324亜樹子オン・ザ・ライ ◆Wy4qMnIQy2:2010/12/26(日) 23:42:02 ID:5EBJdFu2
候補の中で真っ先に切り捨てたのは死体だ。
彼を殺害した何者かによって所持品が残らず持ち去られたことは容易に想像できる。
おまけに命まで失っているのだから『擬態』もできない。
ワームの特性である『擬態』は、対象となる人間の姿形や才能はもちろん、記憶までもワームのものにしてしまう。
そして人間に求められる最低限の条件は、どんな有様になっても生存していることだ。
天才だろうと凡人だろうと、死んでしまえば等しくただのモノでしかない。
彼が誰と会い誰に殺されたか、亡き者になった今では知る由もない。
顔くらい覚えていこうかとも考えたが、頭が潰されているのが見えたため不可能だ。
よって、わざわざただの亡骸を見に行ったところで大した収穫は無いと判断し、タワーから最も近くにいた美穂と亜樹子への接触を優先した。

美穂達と別れた現在の乃木が抱える問題はまず一つ。
二人の男のどちらに会いに行くべきかの選択だ。
高くから見ただけでは、どちらも『乗っている』か『乗っていない』か判別できない。
強いて言うなら白いスーツの男が死体の方向から歩いていったように見えたので、彼が殺人犯の可能性もあるが、断定するには証拠が無い。
どちらにしても確実なメリットもデメリットも見出せない以上、あまり悩むべきでないかもしれない。

「あと、あの女をどう扱うかも決めないとな」
加えて、美穂と亜樹子への対応も見極めなければならない。
両方とも『乗っていない』ような素振りを見せたが、気を許すことはできない。
鳴海亜樹子の方はただ平和ボケしただけの一般人のようにも見える。
あの動揺の仕方は命のやり取りに晒されることのない日々を甘受した人間そのものだ。
しかし、霧島美穂は用心するべきだろう。冷静さを備え機転も利き、何より戦闘が可能だ。
その彼女が万が一敵となったら。

325亜樹子オン・ザ・ライ ◆Wy4qMnIQy2:2010/12/26(日) 23:42:42 ID:5EBJdFu2
「だからこそ、まだ迂闊に信用できない」
彼女たちにはいくつか隠し事をした。
一つは東京タワーに行ったことを口にしなかったこと。
もう一つは腰掛けている銀のバイク、名はオートバシン。
割り振られた支給品として紹介したが、嘘だ。
東京タワーに立ち寄った際、駐車スペースにひっそりと隠すように置かれていたのを発見したのであって、いわば現地調達の品物だ。
だが彼女達の前では支給品扱いし、本来の支給品の中で最も価値のある一つを秘匿して、結局明らかにしなかった。

「仮面ライダーファム…敵になってほしくないものだがな」
参加者の解説が付いたルールブック。これが乃木の隠した支給品の正体である。
他とは異なるこのルールブックは、参加者名簿のページの後ろに全参加者の顔写真、性別、年齢、そして変身するライダーもしくは怪人の名前が記載されている。
使用するアイテムや変身のプロセスまで知ることができないが、やはり能力を先に把握できるのは有利だ。
現に霧島美穂───仮面ライダーファムを警戒する理由がひとつ得られたのだから。
鳴海亜樹子───変身能力の無い一般人がか弱き存在であることも既に知っていたのだ。

「…許せないものだよ。ここまで人間に気を遣わなければならないなど」
今この場には厄介な存在で溢れている。
因縁のマスクドライダー諸君、映像で見せられた異世界の異形達、そして霧島美穂のような知恵の回る女。
全員とまではいかずとも、いつか何らかの手段で牙を剥くかもしれない相手が何十人もいるのだ。
故に見極めは用心深く行わなければならない。
手駒として立派に働いてくれるか、有害な外敵となるかは会ってみないとわからないから。

「忘れるなよ? 俺に手間をかけさせた愚か者には、相応の報いがあることを」
これから出会うであろう者達に向けて、乃木は忌々しげに警告の言葉を呟いた。
その響きは、すぐにエンジン音にかき消された。


【1日目 日中】
【D−5 東京タワーの真下】

326亜樹子オン・ザ・ライ ◆Wy4qMnIQy2:2010/12/26(日) 23:43:51 ID:5EBJdFu2
【霧島美穂@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】映画死亡後
【状態】健康
【装備】鉄パイプ@現実
【道具】支給品一式×2、ファムのデッキ@仮面ライダー龍騎、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、不明支給品×0〜3(確認済み)
【思考・状況】
1:あらゆる手を使い他の世界の参加者を倒す。
2:秋山蓮、北岡秀一、東條悟と接触、協力。
3:浅倉威は許さない、見つけ次第倒す。
4:城戸真司とは会いたいけれど…
5:今は亜樹子を利用して、一緒にステルスとして参加者を減らす。
6:亜樹子と話しながら乃木を待つ。

【鳴海亜樹子@仮面ライダーW】
【時間軸】番組後半
【状態】わき腹を打撲 精神に深い迷い
【装備】ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式、装甲声刃@仮面ライダー響鬼、不明支給品(0〜1)
【思考・状況】
1:風都を護るため、殺し合いに乗る。
2:情を移さないため、あまり人と接触しない。
3:美穂と行動する。人を騙す術を教えてくれるらしいが…
4:良太郎やあきらとはなるべく会いたくない。
5:知り合いと合流し、そのスタンスを知りたい。
6:美穂と話しながら乃木を待つ。
【備考】
※ 良太郎について、職業:芸人、憑依は芸と誤認しています。

327亜樹子オン・ザ・ライ ◆Wy4qMnIQy2:2010/12/26(日) 23:44:29 ID:5EBJdFu2
【D−5 平原】

【乃木怜司@仮面ライダーカブト】
【時間軸】44話 エリアZ進撃直前
【状態】健康
【装備】オートバシン@仮面ライダー555
【道具】支給品一式、木製ガイアメモリ(疾風、切札)@仮面ライダーW、参加者の解説付きルールブック@現実
【思考・状況】
1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
4:C−5エリアで二人の男(葦原、アポロガイスト)のどちらかと接触する。
5:東京タワーに行き、美穂・亜樹子と合流する。
6:美穂には注意する。
【備考】
※カッシスワーム グラディウスの状態から参戦しました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュの二つです。
※現時点では、解説付きルールブックを他人と共有する気はありません。
※葦原とアポロガイストのどちらに接触するかは後続の書き手さんにお任せします。

【共通行動方針】
1:対主催勢力を東京タワーに結集し、チームを作る。
2:美穂と亜樹子は東京タワーで先に待機。乃木が参加者を集める。
3:第1回放送の前には東京タワーを離れる。乃木が帰ってこない場合も同様。

328亜樹子オン・ザ・ライ ◆Wy4qMnIQy2:2010/12/26(日) 23:46:06 ID:5EBJdFu2
【支給品の解説】
・木製ガイアメモリ@仮面ライダーW
本編第29話にて、翔太郎の夢の中で使用された木製のガイアメモリ。
夢の舞台が翔太郎の鑑賞していた時代劇「風の左平次 パニックリベンジャー」の世界観に近かったため、この影響を受けて和風の形状になったと思われる。
このロワでガイアメモリとしての効果は全く無い。正真正銘ただの木の板である。

・参加者の解説付きルールブック@現実
通常のルールブックとは異なり、参加者名簿のページの後ろに全参加者の顔写真、性別、年齢、変身するライダーまたは怪人の名前が記載されている。
ただし具体的な変身方法については書かれておらず、またこのロワで初めて他人の変身道具を支給された例は記述対象外となる。
仮面ライダーと怪人の二通りの姿を持つ場合は、仮面ライダーの名前のみが記載されている。
変身手段を持たない一般人については、「能力:なし」と記載される。
・記載例
名前:乾巧
性別:男
年齢:18歳
能力:仮面ライダーファイズに変身できる
※ウルフオルフェノクの記述は無い

329亜樹子オン・ザ・ライ ◆Wy4qMnIQy2:2010/12/26(日) 23:47:46 ID:5EBJdFu2
以上で投下を終了します。
問題点、矛盾点等があればご指摘お願いします。

330二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/26(日) 23:49:43 ID:.qlEmt7g
投下乙です
乃木さんにはとんでもないアイテムが支給されたか
まさかの木のガイアメモリw

331二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/26(日) 23:52:39 ID:s4MjQxa.
\疾風!/  \切札!/
投下乙です

332二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/27(月) 03:11:00 ID:cHSxgK06
パラダイス・ロストについて指摘します。
ダークカブトはゼクトクナイガンで病院を破壊したようですが、流石にそれは無理なのではないでしょうか?
この病院の規模は、エリア一つ分以上です。そんな大病院が、ゼクトクナイガンの弾丸だけで倒壊するとは思えません。
少なくとも、正直な感想として、こんなことで病院が倒壊し、こんなことで大勢の参加者が死亡する事に納得が出来ませんでした。
言い方は悪いかも知れませんが、「参加者を皆殺しにする為に無理矢理病院を倒壊させ、無理矢理全員死なせた」ようにしか見えません。
今まで書き手を続けて下さっていた実績があって、楽しみにしていただけに、今回の作品は本当に残念でなりませんです。
今回の件は恐らく今後にも影響し、恐らく以後は氏の予約に期待を持ってくれる読者は大幅に減ってしまうのではないかと。
少なくとも今回の作品に限って言えば、はっきり言って「つまらない」と思った読者は少なくない筈です。
どうか今後のロワ進行と、氏自身の評価の事も鑑みて、修正ないし破棄しては頂けないでしょうか?

333二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/27(月) 09:13:52 ID:HO5IFGKI
大量に死んだことについては驚愕しました、しかしたまにはこういうことも有ってもいいと私は思います。それから大病院の一部だけ破壊したのなら辻褄もあうのでは?

334 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/27(月) 09:46:36 ID:jhl.kYSI
自分個人としてもこの作品には全く納得していないので、破棄でも構わないんです。
短期間でこれだけの批判が来ることも投下前になんとなく想像はしていましたし。
はじめは「救う」目的で予約したんですが、当初の目的が矛盾する結果になってしまったので、こういう展開になってしまいました。
追加予約しようにも、周囲が自分の投下した作品が最終登場のキャラばかりだったので予約できませんし、そもそも彼らがロワ開始から二時間十五分しか経ってないことと矛盾することになりかねないと思いました。
異例ですが、これを破棄して「これ以外の結末」を議論するのも悪くないと思います。

335二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/27(月) 11:16:22 ID:xomw5zOs
>>334
投下乙です
今回は残念でしたが氏が破棄するならそれでよろしいかと思います
また、次に良作を投下してくれるのを期待しています

336 ◆Wy4qMnIQy2:2010/12/27(月) 15:19:35 ID:zRT.OTAI
>>334
そうですか。まあ破棄も一つの手かなと思います。
今回がどうであっても、次回の投下を期待しています。

あと昨夜投下した自分のSSについてですが、作中の流れでそれほど時間は経ってない気がしたので
美穂の状態表を以下のように修正しますが、よろしいでしょうか。
【霧島美穂@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】映画死亡後
【状態】健康、仮面ライダーファムに1時間変身不可
【装備】カードデッキ(ファム)@仮面ライダー龍騎、鉄パイプ@現実
【道具】支給品一式×2、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、不明支給品×0〜3(確認済み)
【思考・状況】
1:あらゆる手を使い他の世界の参加者を倒す。
2:秋山蓮、北岡秀一、東條悟と接触、協力。
3:浅倉威は許さない、見つけ次第倒す。
4:城戸真司とは会いたいけれど…
5:今は亜樹子を利用して、一緒にステルスとして参加者を減らす。
6:亜樹子と話しながら乃木を待つ。

337二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/27(月) 17:24:13 ID:QembEfDs
それで問題はないと思います

338二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/27(月) 20:02:04 ID:hkg1wpxM
>>334
破棄するかどうかはお任せしますが、自己リレーについては予約時に一言言い添えてもらえるなら構わないと思います。
層が厚いと言えるほど多くの書き手はいないように見受けられますし、その中で氏の投下数は最多です。
書きたい、書けると思われるならどんどん書いてほしいですね。

もちろん、一人の書き手が一つのパートだけを連続して進めていくというのはNGですけど。

339 ◆LQDxlRz1mQ:2010/12/27(月) 20:47:09 ID:jhl.kYSI
これはリレー企画なので、極力一人リレーはしたくないんですよねぇ……。
前回は表現が曖昧だとベノスレにあったので、今回は他の書き手・読み手さんがロワ離れする可能性も踏まえて正式に破棄します。
ただ、前に書いたとおり状況が状況なので、彼らのパートは繋ぎにくいかもしれません。
誰も予約をしないようなら、病院組をどうするかの議論も必要になると思います。

340二人で一人の/通りすがりの名無し:2010/12/28(火) 19:37:34 ID:VdrIfkf2
病院以前に他にもリレーされるまでに時間が掛かったパートは沢山あります
何もダブトが参加者を皆殺しにするだけが次の展開ではないし、繋ぎや回避などいくらでもリレーの方法はありますので、病院組だけそんなに気を遣って議論する必要はないのではと

ところで今回破棄になった作品に関しては、没ネタページに掲載という形でいいのでしょうか?

341Kの名を胸に刻め/闇に消える光 ◆/5Zb5jrQi2:2011/01/02(日) 12:13:37 ID:U/dZBcP.
あけましておめでとうございます
投下します

342Kの名を胸に刻め/闇に消える光 ◆/5Zb5jrQi2:2011/01/02(日) 12:15:39 ID:U/dZBcP.
「モモタロス……剣崎"カズマ"……天道"ソウジ"……成る程、だいたい分かった」
参加者名簿を見ながら門矢士は思考していた。
「何が分かったんですか……?」
地下から戻ってきた北条は開口一番問い掛ける。
士も気にするどころか、寧ろ得意げに語りだす。
「たいしたことじゃない……この殺し合いに参加している各世界の代表ライダーに当たりがついただけだ」
「それは十分にたいしたことだと思いますが……こちらはあまり好ましい収穫はありませんでした」
そう言うと北条は士へ一枚のカードを手渡す。
「地下倉庫も空っぽ……あったのはそれだけです」

ーーーKAMENRIDE G-3ーーー

「カード一枚とは……当てつけにも程がある」
愚痴を零す北条と対照的に、士は機嫌を良くする。
「北条、お前は警視庁の地下にG-3システムがあると思ってたのか?」
「……貴方、何故G-3を知っているのですか?」
「やはりそうか……これで参加者の大部分の出身世界が分かった」

士の仮説……それは異世界のライダーの名前の共通点
ブレイドに変身する人間の名前は"カズマ"、
G-3を知っている北条と同じ世界の参加者……"ショウイチ"。
"ユウスケ"、"ショウイチ"、"シンジ"、"タクミ"、"カズマ"、"ソウジ"、"ワタル"。
彼らは自分の知る仮面ライダーに変身する可能性が高いだろう。
そして、それを踏まえれば各参加者の出身世界もだいたい検討がつく。
名簿が世界別表記だったのは幸いである。
響鬼の世界は同姓同名の"あきら"、電王の世界はモモタロスで判別出来る。

「もっとも……検討もつかない世界が一つ残ったがな」
士の仮説では把握できない世界、仮面ライダーWの参戦を士はまだ知らない。

343Kの名を胸に刻め/闇に消える光 ◆/5Zb5jrQi2:2011/01/02(日) 12:19:47 ID:U/dZBcP.

「あなたは……剣崎一真なんですよね?」

最初に口を開いたのは夏海だった。

「ああ、そうだけど……君は何故俺のことを知っているんだ?」
「会ったことがあるんです。あなたそっくりのブレイドに……」

東條を背負い、矢車の後に続きながら病院の廊下を歩む剣崎に彼女は話を続けた。
仮面ライダーディケイドー門矢士ーと歩んだ旅の数々……

「お喋りはそこまでにしとけ……」
彼女の話の途中で矢車が遮った。

     コン……
         コン……

前方から近づく物音にその場の皆が警戒を強める。
「あいつは……」
悠然と歩を進める漆黒のカブト……ダークカブトが凶器を手に一歩ずつ、確かに歩み寄る。
そこから感じるは明らかな敵愾心……友好的な香りなど微塵もしない。

「「「変身!」」」

彼らが戦闘態勢に入るのと、ダークカブトが腰のスイッチを押したのは同時だった。

……しかし、戦場には何の変化も見られない。
三者三様の変身も見られなければ、ダークカブトもまた戸惑ったように立ち尽くすのみ。

「変身出来ない……なんで!?」
「……逃げるぞ」
困惑する夏海をよそに矢車は退避を始める。
ライダー相手に生身で逃げるのは無謀とも思える。
だが、制限を貸せられたのは自分たちだけではない。
その証拠にダークカブトはクロックアップを試みたものの、不発に終わったことに戸惑いを隠せていない。
何らかの能力制限があるのは明らかだ。
ならば、敵に自分たち同様の変身制限がかかるまで逃げ通す……
そして、そんな矢車の判断を理解した男がいた。

344Kの名を胸に刻め/闇に消える光 ◆/5Zb5jrQi2:2011/01/02(日) 12:21:24 ID:U/dZBcP.
「あんた、その娘と東條を頼む!!」
「……何?」
矢車の退避を薦める言葉を無視し、剣崎はダークカブトの進路に立ち塞がる。
「逃げきれるだけの時間は俺が稼ぐ……だから……」
言葉も途中で剣崎の体にダークカブトの拳が迫り、軽く吹き飛ばされる。

「剣崎さん……!?」
そこに近づこうとする夏海の肩を矢車が掴む。
「やめろ……ここは逃げるぞ……」
「でも、このままじゃ剣崎さんが……」
「だったらここで死ぬのか……奴の意思を無駄にする気か……?」
矢車の言葉に夏海は何も言えなくなる。
「行くぞ。死にたければ勝手にしろ……」
東條を担ぎ、走っていく矢車の後に夏海も続いた。

(よかった……やっと行ったか……)
頭を打ち付け、朦朧とする意識の中、剣崎は逃げていく仲間の姿を何とか確認した。
あとは少しでも時間を稼がなければ……
「ウェェェーイ!!」
先程の戦闘で撒き散らされた瓦礫の一つを手に殴り掛かる。
ぶつけた瓦礫は脆く崩れ、何の牽制にもならんと言わんばかりにダークカブトはクナイガンの刃を振りかざす。
咄嗟に身を屈めて刃を避けるも、続けて飛んできた蹴りが左腕に直撃する。
その衝撃は胴体まで響いていく。
骨が軋み、口から血が吹き出る。
点々と血痕を残しながら廊下を転がる剣崎の姿から、ダークカブトは彼の死を悟った。
総てを破壊する……その意思の下、次にすべきは、逃げた参加者を追いかけること。

「……待てよ」

細く弱々しい声……しかし、それでいて強い意思が感じられる。
その声にダークカブトは振り返った。

「お前……何で動ける?」
「俺は……仮面ライダーだから……」
痛む左腕、左脇腹を押さえながら、ふらつく足で何とか立ち上がる剣崎。
「たとえブレイドに変身出来なくたって……誰かを護れるはずだ。
俺に……仮面ライダーの資格があるならば!!」
「……死ね」
ダークカブトの返事はそれだけだった。
無情に降り注ぐクナイガンの銃撃が爆発を巻き起こし、剣崎の姿は瓦礫と煙の渦の中に消えた……

345Kの名を胸に刻め/闇に消える光 ◆/5Zb5jrQi2:2011/01/02(日) 12:22:49 ID:U/dZBcP.
「剣崎さん……」
病院の外まで移動した矢車たちは剣崎の方を見つめた。
自分たちはあの男を見殺しにした。言い訳はしない。
「また一つ……光が消えたか」
矢車は何処までも真っ直ぐな剣崎の姿に熱血漢な知人を思い出していた。
天道のようにずば抜けた才があるわけでもない。
ましてや自分のように地獄に堕ちたわけでもない。
ただ自分らしく闘い続けたあの男。
矢車は知らない……
その男、加賀美新は既にこの闘いで命を落としていることを……

粉塵漂う中、漆黒のカブトは更なる獲物を探していた。
「壊してやる……全部……」
「残念ながら、そいつは俺の役目だ」
ダークカブトの言葉を遮り、もはや荒れ果てた病院を気にも止めず、男は歩き続ける。

「変身!」

ーーーKAMENRIDE DECADEーーー

かつての世界の破壊者、ディケイドが総ての破壊者、ダークカブトと対峙する。

「あんたが……ディケイドか……」
そのとき、ダークカブトの背後から聞こえた声に二人揃って目を向けた。
「剣崎一真……!?」
「お前……何故まだ生きている!?」
理由は異なるが、驚きを隠せない両者に剣崎は答える。

「俺は……まだ闘える!」

剣崎の腰に巻かれた銀色のベルト、そして、彼の周囲を飛び回り、瓦礫と煙を吹き飛ばす青いクワガタムシ……!
そのクワガタに導かれるように、剣崎は自然とその手を動かす。

「変身!!」

ーーーHENSHINーーー

闘いの神、仮面ライダーガタックがその姿を再び現した。

「馬鹿な……」
ダークカブトには理解できない。
先程の銃撃時の瓦礫の波はあのクワガタが防いだのだろう。
だが、そんな程度では問題にならないほど剣崎の体はとっくに限界を迎えているはずだ。
「なんで……なんで壊れないんだよ!!」
「お前にその男は壊せない」
そう語るはディケイド。

346Kの名を胸に刻め/闇に消える光 ◆/5Zb5jrQi2:2011/01/02(日) 12:24:08 ID:U/dZBcP.
「その男は仲間の為、世界の為、護るべきものを護る為に……己一人でも闘い続ける。
たとえ、どんな困難な道でも、そいつは決して諦めない。
命ある限り闘う……それが仮面ライダーだ!!」
「お前……何者だ?」
ディケイドはダークカブトの正面に立ち、声高らかに宣言する。

「通りすがりの仮面ライダーだ……覚えておけ!!」

そのとき、ライドブッカーから光と共に飛びだしたのはライダーカード。

「一真、お前の力を借りるぞ」

ーーーKAMENRIDE BLADEーーー

「カブトムシにはカブトムシ……だな」

剣崎との交流は実に短いものだった。
だが、士の知る仮面ライダーの生き様に目の前の青年は一致していた。
一方の剣崎も、予め夏海から士の話を聞いていた。
だからこそ、彼の言葉をより深く聞きいった。

二人の心が通じあい、ここに仮面ライダー剣が甦った!!

「調子に乗るなぁ……!」
いつまでも制限がかかっているわけではない。
ダークカブトは苛立ちながら腰のスイッチに手をかざす。

ーーーATACKRIDE MACHーーー

そうはさせじと、ディケイドはマッハの名の通り、高速移動でダークカブトに斬りかかる。
「一真! クワガタの角を倒せ!!」
「角……?」

ーーーCAST OFFーーー

弾け飛ぶ装甲、現れる双剣。

ーーーCHANGE STAG BEETLEーーー

「よし……」
フォームチェンジの成功を確認すると、士は次のカードを取り出す。
「あとは奴に合わせろ。とどめはこっちでなんとかする」

ーーーATACKRIDE METALーーー

「あ……あぁ……分かった」
予想外の展開の連続で戸惑う剣崎。
だが、士の言葉を信じて敵の動きを良く見る。
だからこそ見のがさなかった。ダークカブトの手が腰に向かうのを。

ーーーCLOCK UPーーー
ーーーCLOCK UPーーー

制止する時の中、動き出すカブトとクワガタ。
ダークカブトはまず、目の前のディケイドを弾き飛ばそうと蹴りつける。
「……!?」
しかし、微動だにしない。
メタルで強化されたブレイドの超装甲。
ディケイドの堅さはそれほどまでに予想外だった。
その隙を剣崎は逃さない。
ディケイドの陰から飛び出すや否や、蹴るや殴るや打撃のラッシュ。
持てる力の全てを尽くし、ひたすらにダークカブトを壁際へ追いやる。
「ウェェェーイ!!」
渾身の一撃……さながらブレイドの必殺技のごとく跳び蹴りを浴びせる。
ガタックが力使い果たして倒れ込み、ダークカブトが壁に押し付けられたそのとき、

ーーーCLOCK OVERーーー
ーーーCLOCK OVERーーー

時は再び動き出す……!

ーーーFINAL ATACKRIDE B,B,B,BLADEーーー

「はぁ!!」
そこへ迫るは雷を帯びた跳び蹴り……
剣崎が、ブレイドが、数々の敵を葬ってきた必殺技……!
漆黒のカブトに迫る青い稲妻。
その一撃は病院の壁を砕き、ダークカブトを吹き飛ばす。
「やったか……」
敵の撃退に成功した士は剣崎の姿を探した。
彼の目に映ったのは既に変身が解け、血を吐き倒れ込むただの人間の姿だった。
「一真!!」

347Kの名を胸に刻め/闇に消える光 ◆/5Zb5jrQi2:2011/01/02(日) 12:25:13 ID:U/dZBcP.
混沌とする意識の中、剣崎の目に映るのはブレイドの勇姿。
「ディケイド……最期の頼み……聞いてくれ」
「……一真」
「ブレイドの……仮面ライダーの力で……みんなを護ってくれ……」
剣崎は自分の荷物、そしてブレイバックルを士に手渡すと、静かにその目を閉じた。
ダークカブトと生身でやり合った時点で既に剣崎の体は限界だったのだ。
それをここまで持たせたのは、誰かを護りたいという強い意思。
命ある限り闘う……
剣崎一真……そう、彼は正に仮面ライダーだった。


「くっ……」
ダークカブトの変身が解け、瓦礫の中からはい出てきたのは、ネイティブと呼ばれる異形。
士にこの姿を知られていないのが不幸中の幸いだった。
生身では致命傷だったであろう瓦礫の数々もこの姿ならばさほど苦にならない。
「仮面ライダー……必ず壊してやる!!」
破壊者は動き出す……新たな恨みを胸に抱き。



「大丈夫ですか!」
小休止していた矢車たちの下に駆け寄る男が一人。
「あなたは……?」
「北条透、警察の者です。病院の中には私の仲間の門矢士さんが向かっています」
士を病院へと連れていく途中、北条は双眼鏡で病院の異変を察知した。
結果、戦力外の北条は避難先の人々に合流。
士が一人で戦場に向かうこととなったのだ。

「士くんがいるんですか……!」
北条の言葉に夏海の顔に明るい笑みが浮かぶ。
戦場に咲いた一輪の花……まばゆい光。


……それは、一瞬にして黒龍の口に呑み込まれた。


「何!?」
「夏海!!」
矢車、キバーラの叫びが青空に響く。
その空を舞う黒龍は食事を楽しむかのように咀嚼をし続ける。

「駄目だよ……こんな便利なものをしまい込んでちゃ……」
「お前、起きてたのか……」
原因は明らかだ。
矢車の背中で寝ていた筈のあの男。
彼は矢車の荷物に手を突っ込み、黒龍宿る箱を見つけていた。
その男、東條は矢車の背中を蹴り、大地へと飛び降りた。
「さっきのお返しさせてもらうよ。英雄になる為にね……変身」
鏡像重なり、漆黒の鎧を纏い、黒龍従え君臨する悪魔。

「一難去って、また一難……ですか」
思わず北条は呟く。

漆黒の龍騎士は英雄を目指し、その牙を向けた。

【剣崎一真@仮面ライダー剣 死亡確認】

【光夏海@仮面ライダーディケイド 死亡確認】

348Kの名を胸に刻め/闇に消える光 ◆/5Zb5jrQi2:2011/01/02(日) 12:26:52 ID:U/dZBcP.
【1日目 午後】
【E−4 病院/外】
【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労大 全身打撲 情緒不安定気味 仮面ライダーダークカブト、ネイティブ2時間変身不可
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、不明支給品(1〜3)、デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王
【思考・状況】
0:仮面ライダーを全員殺す。
1:天道総司を殺し、『天道総司』に成り代わる。
2:全ての世界を破壊するため、手当たり次第全員殺す。
3:特に優先的に『カブトの世界』の五人を殺害する(最終的には自分も死ぬ予定)。
4:僕はワームだった……。
【備考】
※ 名簿には本名が載っていますが、彼自身は天道総司を名乗るつもりです。
※ 参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。
※ ネガタロスの支給品を全て奪いました。

【1日目 午後】
【E−4 病院/一階廊下】
※一階廊下の壁と、診察室の天井と壁が破壊されています。
※二階の廊下が破壊され、一階診察室と繋がっています。
※二階の病室の壁が破壊されています。

【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】重傷(軽い応急処置済み)、疲労(小)、ディケイド2時間変身不可
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、不明支給品×2、ブレイバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(スペードA〜6.9)@仮面ライダー剣、ガイアメモリ(ヒート)@仮面ライダーW、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、ライダーカード(G3)@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
1:大ショッカーは、俺が潰す!
2:仲間との合流。
3:友好的な仮面ライダーと協力する。
【備考】
※デイバッグの中身は確認しました
※現在、ライダーカードはディケイド、ブレイドの物以外、力を使う事が出来ません。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※カメンライドジースリーはディエンドのみ使えます。
※ガタックのライダーベルトは剣崎の腰に巻かれています。

【1日目 午後】
【E−4 住宅街】

【矢車想@仮面ライダーカブト】
【時間軸】48話終了後
【状態】キックホッパーに1時間50分変身不可
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、不明支給品(0〜1)
基本行動方針:弟を殺した大ショッカーを潰す。
1:目の前の敵をどうにかする。
2:殺し合いも戦いの褒美もどうでもいいが、大ショッカーは許さない。
3:天道や加賀美と出会ったら……?
【備考】
※支給品は未だに確認していません。
※ディケイド世界の参加者と大ショッカーについて、大まかに把握しました。

【東條悟@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】インペラー戦後(インペラーは自分が倒したと思ってます)
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、仮面ライダータイガ1時間50分変身不可
【装備】カードデッキ(リュウガ)@仮面ライダー龍騎
【道具】なし
【思考・状況】
基本行動方針:全ての参加者を犠牲にして、ただ一人生還。英雄になる。
1:自分の世界の相手も犠牲にする。
2:ネガタロスを利用し、悪の英雄になるのもいい。
3:基本的には病院で参加者を待ち伏せてから殺す(二階の廊下が気に入ってます)。
【備考】
※剣の世界について情報を得ました。
※キバーラ、タイガのデッキ、支給品一式×2、不明支給品(0〜4)は夏海が落としたまま放置されています。

【北条透@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終盤 アギト殲滅作戦決行中
【状態】疲労(小)
【装備】無し
【道具】支給品一式、救急箱@現実、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣、ファイズポインター&カイザポインター@仮面ライダー555
【思考・状況】
1:目の前の男をどうにかする。
2:牙王、アポロガイストを警戒する。(両名とも、名前は知らない)
3:知人と合流し、情報を集める。
4:小沢と合流して、Gトレーラーの鍵を渡してもらう。
5:士は嫌いだが、この場では一緒に行動するのも仕方がない。
【備考】
※Gトレーラーの鍵は小沢が持っていると考えています。

349Kの名を胸に刻め/闇に消える光 ◆/5Zb5jrQi2:2011/01/02(日) 12:27:35 ID:U/dZBcP.
以上です。

350二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/02(日) 13:15:04 ID:wa1Ohnj2
投下乙です
ああ、剣崎と夏みかん…………南無
士もやっと再会できると思ったのに
そして東條にリュウガが渡っちゃったなんてw

351二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/02(日) 13:26:52 ID:SOBOvl7Q
投下乙です
ケンジャキー!!!
お前はやっぱり序盤で退場したか…
けど熱かった!剣崎はやっぱり仮面ライダーだぜ!
今後ガタックが誰の手に渡るかが気掛かりだが…士は士で色々ゲットしたし、今後が楽しみだぜ
そしてどうなる矢車さん!

352二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/02(日) 19:24:39 ID:3Cg8memw
投下乙です
剣崎序盤退場のジンクスは覆らなかったか…でも、その姿は最期まで仮面ライダーそのものだ
友情の象徴カメンライドカードが出現する展開も燃える
あっ、東條が変身しちゃった… みんな変身解いちゃったし、誰がこいつを止めるんだ?

あと一つ、電子音声の部分で「ー」を使うのはちょっと違和感がありました
これは長音記号(ライダ"ー"、カ"ー"ド)なので、この使い方はあまり一般的ではないと思います
「ー」の変換例の中にダッシュ記号「―」があると思うので、そっちの方が望ましいかと

353二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/02(日) 19:32:45 ID:tbAZnukY
投下乙です!
剣崎……ジンクスに逆らわず、今回も逝ったか。
剣崎の早期退場は最早ネタとも思えるけど、その最期はやっぱり熱かったなあ。
最後の瞬間まで仮面ライダーらしくあり続け、その魂をディケイドに託した剣崎。
そんな彼にならガタックゼクターも喜んで力を貸したんだろうな……。
また主人を失ってしまったガタックだけど、今度は誰になるんだろう。
そしてまあ予想はしていたけど、東條はやっぱりやらかしたかw

354二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/04(火) 00:26:22 ID:v35VburU
ゲゲゲー!
泣けるでぇ・・・

355 ◆7pf62HiyTE:2011/01/04(火) 19:13:00 ID:136X3D0c
紅渡、キング、園咲冴子、牙王分投下します。

356加速度円舞曲♯王と牙の運命 ◆7pf62HiyTE:2011/01/04(火) 19:18:00 ID:136X3D0c
「みんな知ってるか? ワルツ王と呼ばれるヨハン・シュトラウス2世は生涯に3回結婚しており、その父ヨハン・シュトラウス1世は愛人……



 ってんなこと言っている場合じゃねぇぇぇぇ! 渡!! 頼むから考え直してくれぇぇぇぇぇ」







「さっきから五月蠅いわねこの蝙蝠……結婚とか愛人とか……」
「すみません……キバット、少し黙っててくれる? ところで、気になったんですけど……妙にここに詳しい気が……」
「当然よ、ここ私の家だもの」



 園崎邸のある部屋に園崎冴子、紅渡がいた。先程の戦闘で冴子が負った怪我の応急処置をする為だ。



「それじゃ、この場所は冴子さんの街……」
「とは限らないわ。私も最初は風都だと思ったけど……」



 と、窓から見える西数キロ先にある巨大なタワーを指す。



「東京タワー?」
「あそこには風都タワーがある筈だった……でも、実際には違う建物がある……それに、本当だったらこの場所から風都タワーなんて見えない筈なのよ」



 冴子によると2年程前に風都第三ビルが建てられ、それにより今いる冴子の妹である園崎若菜の部屋から風都タワーは見えなくなっていたのだ。
 ちなみに冴子がわざわざ若菜の部屋に入ったのは自分の部屋を渡に伏せる為、若菜の部屋に使える物があればそれを確保する為である。もっとも、若菜の部屋には冴子から見て使えるものは無かったが。



「恐らく、殺し合いの舞台として私達の住む風都をベースにして街を作ったって所ね。勿論、ベースはあくまでもベース、所々変えている部分があるから私をアテにしても無駄よ」



 地図を見ながら冴子は語る。風都をベースにしているとはいえ、建物の所在も元々の風都と同じとは限らず、全く違う場所に存在する可能性もあるという事だ。



「それよりも、貴方の世界の知り合いについて教えてくれるかしら?」
「え?」
「一応組んでいる以上は当面互いの世界の相手に手を出すわけにはいかないでしょ。まぁ、名簿の配置から大方見当は付くだろうけど」



 2人は互いの知り合いについて話し合う。
 冴子の世界の知り合いは4人、
 冴子の夫で園崎家の婿養子となった園崎霧彦、
 風都にある鳴海探偵事務所で探偵をしている左翔太郎、
 鳴海探偵事務所の所長である鳴海亜樹子、
 そして――



「名簿ではフィリップと書かれているけど――来人、私の弟よ」



 冴子の弟である園崎来人、以上について語られた。



「え? どうしてフィリップになって……?」



 と、渡は当然浮かぶ疑問を口にするものの、冴子としてもそこまで話すつもりはない。



「そこまで話す義……」
「この女の事情なんてどうだっていいだろうが……それより渡、考え直すなら今の……」
「……それより貴方の方は?」
「オィィィィィ!」

357加速度円舞曲♯王と牙の運命 ◆7pf62HiyTE:2011/01/04(火) 19:19:00 ID:136X3D0c



 キバットバットⅢ世の言葉に気を留める事無く2人は話を続ける。
 渡の世界の知り合いは2人、
 会った事のない渡の父親である紅音也、
 ファンガイアや犯罪者を許さない強い正義感の持ち主でイクサの変身者であり一時期渡の師匠でもあった名護啓介、



「……それだけ?」
「はい、僕の知っている人は……それに、冴子さんの方もそれだけですか?」
「もしかしたら1人か2人はいるかも知れないけど私の知っている人はこれで全部よ、それよりキングって名前に心当たりは無いの?」



 冴子が指摘するのは渡達の近くに書かれていたキングという名前だ。渡の世界の参加者である可能性が高いが――



「……無いです。」
「わかったわ、当面はお互いの世界の参加者には手を出さない。私も貴方のお父様や名護さんには手を出さないから、貴方も霧彦さんや来人に手を出さないってことで良いわね?」
「……左さんと鳴海さんは?」
「その2人なら別に構わないわ、まぁ今の貴方じゃトドメさせないだろうけどね。但し、霧彦さんや来人に手を出すなら……」
「……わかりました」

 本来ならば冴子にとって同じ世界の参加者である翔太郎と亜樹子は味方である。
 しかし、元々の世界で敵対している事を踏まえるとこの場でも敵対は避けられない。故にこの2人については排除しても構わないと判断した。
 もっとも、2人で1人の仮面ライダーである翔太郎が1人でどうにか出来るとは思えないし、亜樹子に至っては何の力も持たない人間だ。特別警戒する事もないだろう。





 その一方、




「(渡の奴……本気でこの女と組んで殺し合いに乗る気か……)」



 キバットは冴子のデイパックの中で苛立ちを感じていた。
 このままだと冴子に都合よく利用される事は確実だ。そして利用価値が無くなればゴミの様に捨てられるだろう。
 キバット自身、渡が殺し合いに乗る事を望んではいない。故に本来なら今の渡をキバに変身させたくはない。
 だが、今突っぱねればそのまま冴子に利用価値無しと見なされそのまま殺されるのがオチだ。
 確かに互いの変身道具や武器の殆どは交換しているから互いに手が出せない様に見える。だが実際はそうではない。
 冴子は自身に支給されていた武器の中で渡に渡していないものがあった。先の戦闘で冴子が使っていたナイフことファンガイアスレイヤーのことだ。
 つまり、今刃向かった所で武器を持つ冴子に殺されるだけという事だ。



「(完全に渡にとって不利な状況じゃねぇか……)」



 とはいえ、現状ではこのまま冴子に従う以外の選択肢は無い。隙を見てキバに変身した時に何とか渡を説得し冴子から離れるべきだろう。



「(最大の問題は、渡を説得出来るかって事だ……)」



 渡を説得出来る可能性について考える。諦めてはいないものの、今の渡には自分が何を言っても聞いてくれそうにない。
 原因についての心当たりはある。渡自身の手で最愛の女性である鈴木深央を結果として殺してしまったからだ。
 もう二度と大切な人を失わない為、自分の大事な人達のいる世界を守る為に殺し合いに乗り優勝を目指している。
 キバット自身、その想いを理解していないわけではないし、その決意をそう簡単に変えられるとは思っていない。
 だが、そんな渡の行動を名護や恵、静香、健吾達が望むわけがない。渡が他の世界の人々を悲しませてまで守られたいとは思わないはずだ。



「(けど俺じゃ無理だ……名護や渡の親父さんの声なら届くか……)」



 名護や音也ならば渡を説得出来るかもしれない。
 名護は色々奇行も目立ち何度も対立したが最近では何故か心境の変化があったせいか渡の正体を知っても尚、渡の味方をしてくれた。不安要素が無いではないが、彼ならば何とかなるかもしれない。
 音也は言うまでもなく渡の親父だ、きっと渡の暴走を止めてくれる筈だ。問題は――

358加速度円舞曲♯王と牙の運命 ◆7pf62HiyTE:2011/01/04(火) 19:19:45 ID:136X3D0c



「(でも、会った事ねぇんだよなぁ……父ちゃんから聞いた事はあ……いや)」



 実は、一度だけキバットは音也と出会っている。正確には渡に音也の魂が乗り移った時に出会ったわけだが、



『渡? 知らないなぁ、そんな奴』
『神様の悪戯だな、コイツの身体に俺の魂が宿っちまったらしい』



「(アイツじゃ無理な気がしてきたぁぁぁ! この女に騙されそうな気すらするんだけどよぉぉ!)」



 その時の言動を見る限り、音也に渡の説得は難しい気がしたキバットであった。



「(後は加賀美の兄ちゃんが言ってた『俺よりもすごい奴』か……せめて名前だけでも聞いていれば……)」



 そんな中、先の知り合いについて話していた時、キバットから見て1点だけ気になる点があったのだ。
 それは渡達の近くに書かれている『キング』の存在だ。
 渡は心当たりが無いと言っていたが厳密に言えばあるのだ。
 ファンガイアの中でも実力者とも言うべき『ルーク』、『ビショップ』、『クイーン』、そして『キング』と呼ばれるチェックメイトフォー、『キング』はその中でも頂点に君臨している。
 分かり易く言えばファンガイアの王と言っても良い。
 渡達の時代のキングは登太牙、しかし渡にとってはファンガイアのキングではなく、幼き頃からの親友あるいは父親違いの兄である。
 故にキングという名前だけで太牙の存在に結びつかなかったのだ。
 一方のキバットはキングが指し示しているのがファンガイアのキングの可能性が高い事に薄々気付いていた。
 だが、それならば奇妙な話なのだ。



「(だったら太牙って名簿に書けば良いだろ……その方が渡や名護が気付く筈だ……)」



 そう、登太牙ではなくキングという名前が名簿に書かれている事が奇妙なのだ。他の世界にとってはどちらであっても構わない。
 だが、自分達の世界、少なくても太牙の存在を知る渡や名護にとっては太牙という名前の方が都合が良いのだ。



「(待てよ……結局の所、『キング』ってのは称号だ……つまり……この『キング』は太牙の事じゃないって事か……)」



 キバットの脳裏にある仮説が浮かんだ。それが意味する事は通常はまず有り得ない事だ。だが、



「(いや、死んだ筈の渡の親父さんもいるんだ……有り得ないとは言い切れねぇ……)」



 とはいえ、



「(考えても仕方ねぇか、太牙じゃなければ渡の知らない人物でしかねぇ……太牙であってもアイツは渡を恨んでいる……どうにもならねぇか……くそっ……大ショッカーの奴等……悪趣味な事しやがって……)」

359加速度円舞曲♯王と牙の運命 ◆7pf62HiyTE:2011/01/04(火) 19:21:40 ID:136X3D0c















Interlude King & Fang





「随分と派手な事しやがって……」



 荒れ地となったB-8に1人の壮年の男性いた。彼の名は牙王、全てを喰らわんとする男だ。

 ディケイド及びアポロガイストとの戦闘直後、牙王はある事を確かめた。
 1つは支給品の中にあったガイアメモリ、ホッパーメモリの能力だ。
 説明書きによると首輪にあるコネクタに挿し込む事でホッパー・ドーパントなるものに変身出来るとあった。
 来た当初は使うつもりは無かったがある問題が起こったのだ。
 それは先程の戦闘時、突然変身が解除されたという問題だ。理由は不明だが長時間の変身は不可能ということだ。
 更に再変身を試みたがマスターパスは反応せず変身は出来なかった。どうやら1度変身した場合、ある程度時間をおかなければ変身出来ないらしい。
 これでは折角の獲物を見つけても喰らう事が出来ない。変身出来なくてもある程度渡り合える自信はあるが圧倒的に不利である事に違いはない。
 故に、得体は知れないもののガイアメモリを使う事にしたのだ。
 牙王は試しにメモリを首輪に挿し込みホッパー・ドーパントに変身した。その能力はホッパーの名の通り驚異的な跳躍力、単純ではあるが使う者次第では凶悪な力を発揮する。
 事実として本来の持ち主であるイナゴを食すゴシックロリータファッションの女は変身せずとも驚異的な身体能力を誇っていた。
 その彼女とホッパーの組み合わせは強大、ミュージアムにおいても処刑執行人としての重要な役割を与えられていた。

 その観点から考えれば牙王との相性も良いと言えよう。
 牙王はマスターパスを使いガオウへと変身し同じ世界の仮面ライダーである電王及びゼロノスを圧倒している。
 特に決戦においては桜井侑斗の機転により各フォームに変身した4人の電王とゼロノスが立ち塞がったにも関わらずそれらを圧倒、
 しかし、ガオウの能力は実の所同じ世界の仮面ライダーである電王の各フォーム及びゼロノスと比較して圧倒的に秀でているというわけではない。
 にもかかわらず圧倒出来たのはひとえに変身者である牙王自身の能力と言って良い。
 素の能力が優れているのであれば当然ホッパーの力も引き出せるのは容易に理解出来るだろう。

 変身解除後、暫くの間は食事をしつつ身体を休めていた。そしてB-8での戦いの音を聞き動こうとした。
 あわよくば戦場にいる連中を皆喰らうつもりではあった。
 が、結論から言えば戦闘に介入することは出来なかった。
 戦場に向かう前に変身しようとしたがその時点ではまだ変身出来なかったのだ。実の所再変身可能までにはほんの数分足りなかったというわけだ。
 故に牙王は戦闘に介入せずそのまま待ち続け戦闘が終わった後、変身する事無くゆっくりと戦地に駆けつけたというわけだ。

 戦闘が激しかったという事は容易に理解出来る。その激しい戦闘に介入出来なかった事が悔しかった。
 さぞかしその場所にいた連中は喰い甲斐のある連中であっただろう。自分が先に出会った獲物達とは比べものにならない位にだ。

360加速度円舞曲♯王と牙の運命 ◆7pf62HiyTE:2011/01/04(火) 19:22:20 ID:136X3D0c

 その最中、牙王の脳裏にある連中の姿が浮かび上がる。
 それは神の列車を巡る戦いで対立した相手、特異点1人を消す程度の意味しか持ち得ないある1日を消そうとした自分に対し、



『たった1日でも死んでも忘れたくない時間はあるんだ……無くしたくない時間が……』



 そう言い放った少年だ。その人物こそその時牙王が消そうとした特異点である。そして、



『モモタロス!』
『良太郎、思い出したか!』



 そう言って特異点こと野上良太郎、モモタロス他仲間のイマジン達が電王へと変身し自分へと立ち向かってきたのだ。
 前述の通り、4人の電王及びゼロノスをガオウは圧倒した。だが、それでも良太郎とモモタロスが変身した電王は立ち上がり、



『そういうのを往生際が悪いって言うんだ、知ってるか?』
『ああ、最後までクライマックスって意味だろ?』



 そう言って往生際悪くガオウへと挑み――遂にダメージを与えたのだ。そしてガオウライナーとデンライナー及びゼロライナーによる列車戦にすら敗北し、最後の一騎打ちの果てに――



『時間に喰われるのは……俺の方か……』



 そう言って牙王は砂になって消えた――と思ったが気が付いたら大ショッカー立ちのいる最初の場所にいたという事だ。
 何故自分が生きているのかについては別段気にしていない。時間に喰われたと思ったら喰われなかった程度の問題でしかない。
 生きているなら今度こそ全てを喰らえば良いだけの話だ。
 名簿には良太郎とモモタロス、それにリュウタロスの名前があった。あの時同様立ち向かってくるだろう、喰い甲斐のある連中である奴等は――



「喰ってやるさ……次こそな」



 向かってくるならば次こそ喰らう、同じ世界であっても組むつもりはない。
 彼等は先に出会った連中よりもずっと喰い甲斐があるだろう。何しろ自分を一度は喰らった奴等なのだから。

 無論、彼等に固着するつもりもない。喰い甲斐がある奴等がいるならばそいつらでも構わない。
 彼等を喰らえる事は期待しつつ牙の王の名を持つ男は往く――

361加速度円舞曲♯王と牙の運命 ◆7pf62HiyTE:2011/01/04(火) 19:23:00 ID:136X3D0c







 其処より少し離れた場所、1人の男性がアテもなく歩いていた。彼はキング、ファンガイアの頂点に君臨する男だ。
 B-8の惨状を引き起こした元凶の1人であるその男はその場所で自分に刃向かい逃げていった5人を追いかけようとしたが結局見失った。
 制限のせいか本来の姿であるバッドファンガイアに変身する事は出来ないが、戦闘後自身のデイパックを確認した所自分に相応しいものがあった。
 先の戦闘で殺した男の持つ変身道具も手元にあったがそれよりもずっと自分にとって都合の良いものだ。
 それはファンガイアの王を守護する為に作られたヘビ型人工モンスターサガークと専用武器のジャコーダー、腰に取り付く事でベルトに変形しジャコーダーを挿し込む事で運命の鎧とも呼ばれるサガの鎧を纏う事が出来るのだ。
 武装こそ少ないがキバに匹敵する潜在能力を持っている。
 この説明だけでもファンガイアの王であるキングに相応しいのは理解出来るだろう。
 サガークはキングから見て未来の世界のファンガイアの王にしてキングの息子である太牙が所持しているものだ。
 本来なら息子が持っているであろうサガの鎧が自分に支給されたという事実はその名の通り運命的なものを感じずにはいられない。
 仮にファンガイアの姿に戻れずとも、サガの力があれば十分に戦える。元々ファンガイアの王の為の武装なのだ、使わずとも戦い方は概ね把握出来ている。
 説明書によるとサガークの眷属であるククルカンやマザーサガークは制限の都合呼び出せないが問題は何もない。
 サガとファンガイアの力を以て他の世界の参加者を皆殺しにし、紅音也、紅渡の親子を殺しこの手に愛する真夜を取り戻すのだ。

 その名が示す通り、運命に導かれる様にかつてキバの鎧を纏っていたキングの称号を持つ男は往く――





Interlude out

362加速度円舞曲♯王と牙の運命 ◆7pf62HiyTE:2011/01/04(火) 19:24:30 ID:136X3D0c















「っぷ……」



 喉の奥から胃の中の物が湧き上がってくるのを感じた。
 冴子と渡は園崎邸を出た後、目的地をB-6のホテルに定め移動を行っていた。
 目的はホテルに集うであろう参加者を仕留める為である。ホテルは拠点にするには丁度良い場所だからだ。
 誰もいない可能性もあるがその時は其処で待ち伏せるなり自分達の拠点にするなりすればよい。

 その途中のC-6を通りかかった時に1人の頭部を割られた死体を見つけたのだ。渡はそれを見て先程自分が殺した加賀美の事を思い出し嘔吐感をもよおしたというわけだ。



「冴子さん……」



 早くこの場所から離れたい、そう言おうとした渡であったが、



「少し気になる事があるわ、気持ち悪いんだったら向こうに行っててくれる?」



 冴子は死体を調べるつもりだった為、渡の言葉に取り合わない。



「わかりました……」



 渡は渋々冴子と死体から距離を取って行く。そして残された冴子は死体の頭部を眺めあるものを見つけた。



「これはガイアメモリのコネクタ……」



 血塗れだったが故に識別しにくかったがこめかみの所にガイアメモリのコネクタを見つける事が出来た。
 それが意味する事は男が自分と同じ世界からの参加者という事だ。
 ガイアメモリを使いドーパントに変身したが敗北した? 真っ先に考え付くのはそれだ。しかし、仮にそうならあるものが無いのが妙だ。
 もしドーパントに変身して敗北し殺された場合、メモリブレイクされたガイアメモリが近くに無ければおかしい。
 仕留めた人物が確保する可能性は低いだろう、メモリブレイクされたメモリなど無用の長物以外の何物でもないからだ。
 だが、現場の近くにメモリはない。恐らく持ち去ったと考えるのが自然だ。

 では、何故メモリを持ち去ったのだろうか? ブレイクされたメモリなど必要無かろう?
 が、こうは考えられないだろうか? ブレイクされていなかったとしたら?
 つまりお粗末な話ではあるが、変身していない状態で襲われ殺されたという事だ。これならメモリはブレイクされずに残り、同時に持っていく意義も出てくるだろう。

 だが、それならそれで別の疑問が出てくる。ガイアメモリを持っていく事自体は別に良い。
 しかしガイアメモリは生体コネクタもしくはドライバーに挿して使う物だ。それ無しに使う事は不可能である。
 生体コネクタ自体は専用の道具があればすぐに付けられるがそんな都合良く生体コネクタを付ける道具が支給されるわけもないし、ドライバーにしても同じ事だろう。
 つまり、基本的にガイアメモリは自分の世界の人間以外にとっては無用の長物という事だ。何を考えてガイアメモリを持ち去ったのだろうか?

363加速度円舞曲♯王と牙の運命 ◆7pf62HiyTE:2011/01/04(火) 19:25:10 ID:136X3D0c



「使えないけど持っていく……確かにかさばる物じゃないから有り得なくはないけど……何か引っかかるわね……」



 そう口にしながら死体を眺めていった。
 それは只の死体、冴子にとっては何の意味も持たないものだ。
 自分の世界の人間であっても冴子にとってはとるに足らない人物でしかない筈だ。
 それでもだ、
 それでも冴子はその死体から目を逸らす事が出来なかった。
 心の奥底から何かが湧き上がってくる様な気すらしたのだ。



「悲しんでいる……? 馬鹿馬鹿しい、そんな事有り得ないわ……」



 それはきっと気のせいなのだろう。早々にこの場所から離れホテルで休んだ方が良いだろう。
 そう思い死体から目を逸らそうとした。が、その直前あるものが目に付いた。



「……!」



 そう、それは首輪だ。冴子の脳裏にある仮説が浮かび死体の首輪を注視した。そして、



「見つけたわ……」



 仮説通り、首輪にガイアメモリを挿し込むコネクタを見つける事が出来た。
 恐らく首輪にドライバーと同様の機能を持たせ、ガイアメモリを用いドーパントへと変身する事を可能にしたという事だろう。
 その気になって調べればコネクタを見つける事自体は難しくはない。恐らく仕留めた人物はドーパントに変身する力を得る為にメモリを奪ったという事だろう。
 そしてこの事実は2つの事を浮き彫りにする。
 1つは参加者に他のガイアメモリが支給されている可能性、わざわざ首輪にコネクタを付加したのだ。ドーパントに変身させる為にガイアメモリを支給する可能性は大いにあり得る。
 もう1つはガイアメモリの技術を手にしたという事実から大ショッカーの背後にガイアメモリの技術を与えた人物がいる可能性があるという事だ。
 真っ先に考え付くのは自身の父である園崎琉兵衛、それに園崎家を出て行ったシュラウドこと冴子の母園崎文音だ。
 だが必ずしも彼等とは限らない。ミュージアムの協力者は数多く存在するし個人レベルでもガイアメモリの改造や研究は一応可能だからだ。現状これ以上考えても仕方がないだろう。


 そして今一度死体を一瞥する。もし、何気なく少し眺めただけだったら首輪のコネクタの存在に気付く事はなかった。
 この死体に思う所が無ければ長々と注視する事など無かったという事だ。
 死体の人物が誰かを冴子は知らない。それ故に何故気になったか等知る事は無いだろう。


 その人物がほんの少し未来に冴子が出会う筈だった人物であったとしても今の冴子にそれを知る術など無い。



 安い言葉で言うならば運命――それが2人を引き合わせ重要な事に気付かせたのだろう。それで十分だ。



「さて……そろそろ行こうかしら」





 その一方、死体から十数メートル離れた渡は1人冴子を待っていた。
 冴子の様子を見る限り死体の人物に何か思う所があったのは渡にもわかる。
 もしかすると死体の人物は冴子にとって大切な人だったのだろうか?
 だが、少なくても霧彦や来人ではないのは確かだったし、それ以外に大切な人が参加させられているわけではないのは聞いている。勿論、隠していた可能性もあるだろうが。
 疑問は尽きないが、何にしても冴子が哀しみを感じていると渡は感じていた。そしてそれを感じる度、自分の心の奥底が締め付けられる気がした。
 守る為とはいえ、誰かを殺めるという事はその哀しみを他の皆に与える事、キバットや加賀美が何度も止めようとした事も理解出来ないわけではない。



「それでも……僕は……」



 だが、今更もう戻る事など許されない。自分の世界の皆を守る為に敢えて自分は修羅の道へ進むのだ――







 そして、運命の円舞曲は静かに奏でられる――

364加速度円舞曲♯王と牙の運命 ◆7pf62HiyTE:2011/01/04(火) 19:30:15 ID:136X3D0c







「待たせたわね、わた……」




 遠方から冴子が声をかけようとした時、何かが数回渡にぶつかっていった。



「え? サガーク……?」



 渡は何が起こったのか考えつつ振り向くと、



「こんなに早く会えるとは、紅渡……」



 眼前にはロックミュージシャンの服装をした男が立っていた。



「え、僕を知っているんですか……?」



 自分の世界からの参加者なら協力してくれるかもしれない。少なくとも敵対する理由は皆無だ。しかし、



「キング自ら貴様を地獄に送ってやる……絶滅せよ」



 目の前の人物が何を言っているのか理解出来なかった。



「サガーク」



 そして、太牙が持っていた筈のサガークがその男の腹部に取り付きベルトとなり、



「変身」



 その言葉と共にジャコーダーを挿し込みサガへと姿を変えた。サガは早々にジャコーダーを鞭状に変形し状況が理解出来ない渡を絡め取り数メートル先へと放り投げた。



「がばっ……」



 渡の全身に激痛が奔る。それでも何とか立ち上がり、



「どうした? キバに変身しないのか?」
「ちょ、ちょっと待ってください……どうして僕を殺そうとするんですか? 僕達が戦う理由なんて……」



 渡には理解出来なかった。ルール上、同じ世界の人間と敵対する必要は全く無い。だが、



「理由だと? 貴様と紅音也は俺から真夜を奪った、それだけあれば十分だろう」
「僕と父さんが……母さんを……?」



 目の前の男性の口ぶりから音也と渡の母である真夜、そして男の三者の間に何かがあった事はわかる。だが、何故自分もなのだろうか?
 少なくても自分は目の前の男とは初対面だ。渡の理解が追いつかないまま、



「キバに変身しないならばそれでも構わん。そのまま死ね」



 サガのジャコーダーによる攻撃が渡を襲おうとしていた――

365加速度円舞曲♯王と牙の運命 ◆7pf62HiyTE:2011/01/04(火) 19:31:00 ID:136X3D0c







「何が起こりやがった! 俺にわかるように事情を説明しろ!」



 冴子のデイパックの中で轟音を聞きつけたキバットが騒ぐ。



「口で言うより見た方が早いわね」



 そう言って冴子はデイパックからキバットを出す。キバットは外の様子を見て驚愕した。20数メートル先では渡が何度もサガによる行く度の攻撃を必死に回避していたのだ。



「なっ……サガだと!? まさかあのキングは太牙の事か!?」
「太牙? 誰なの?」
「渡の親友で兄……」
「それじゃ違うわね、少なくともあの子はあの男を知らなかったわ……そういえばあの子と音也が真夜を奪ったとかどうとか言っていたわね? その事について心当たりは無い?」
「あるぜ……そいつは恐らく太牙の親父さんだ。くっ、渡の親父さんがいたから可能性はあるとは思ったが……
 だが、それならおかしいじゃねぇか! 何で渡が渡のお袋さんを奪ったって事になるんだ!? 少なくとも渡は関係ねぇ筈だぜ!」
「さぁ、私はあの男の気持ちが全くわからないわけじゃないけど……それよりこの状況を何とかするのが先決よ」
「そうだ、早く渡を助けねぇと」



 と、すぐさま飛び立とうとしたが、冴子の手に掴まれ動けない。



「何しやがる!」
「状況を考えなさい、相手は貴方達の事を知っているのよ。変身する前に貴方を仕留めるに決まっているでしょ」



 キバへの変身はキバットが噛みつく事で行われる。つまりこのまま考え無しに向かっていった所で先にキバットを叩けば簡単に変身を阻止出来るという事だ。



「距離にして20メートル、相手の武器は中距離でも使える鞭……策も無しに向かっていっても潰されるのがオチね」
「じゃあどうするっていうんだ!? 渡を見捨てて逃げるっていうんじゃねぇんだろうな!?」
「あの子にタブーのメモリを預けているのよ? それを取り戻さないでこのまま逃げられるわけないでしょ」



 現状キングは渡に夢中で冴子の方には気付いていない。故にこのまま逃げる事自体は可能だ。
 だが、ここで逃げればほぼ確実にタブーのメモリを失う事になる。この殺し合いを勝ち抜く為にはそれは避けねばならない。
 かといって変身していない状況では手持ちの道具を使ってもサガに対抗する事は不可能だ。
 変身解除されるまで渡が逃げ切ってくれればまだ可能性はあるが望みは薄いだろう。



「言っておくが、奴がファンガイアのキングならファンガイアになれる筈だ、太牙が変身した所は見た事ねぇがアイツもそうだとは限らねぇ。変身するって考えた方が良い」
「ともかく、一端あの男と距離をとって互いの道具を戻して変身して戦うしかないわね……」
「……ていうかよ、どっちにしろ一度渡を助けなきゃならねぇだろうが」



 そう、距離を取る為には一度渡を助ける為戦闘に介入する必要がある。だが、サガを相手に生身で向かうのは自殺行為だ。



「こうなりゃ仕方ねぇ、俺は1人でも渡を助けに行く、テメェは何処へなりとも逃げやがれ!」



 と、強引に冴子の手から逃れようとしたが、

366加速度円舞曲♯王と牙の運命 ◆7pf62HiyTE:2011/01/04(火) 19:32:40 ID:136X3D0c



「……1つ方法があるわ」
「本当か!?」
「但し、その為には貴方の協力が必要よ」



 冴子はキバットにその方法を説明する。



「ちょっと待て、俺にそれをやれっていうのか!?」
「少なくても貴方1匹が無鉄砲に突っ込むより可能性はあるわよ。それで出来るの? 出来ないの?」



 キバットは躊躇するものの、今にもサガに殺されそうな渡を見て、



「出来なくはねぇが……どうなっても知らねぇぞ……」
「じゃあ決まりね、早くしなさいあの子を助けたいんでしょ?」
「……くっ、テメーはいけ好かねぇが渡を助ける為には仕方ねぇ、その代わり絶対に渡を助けろよ!」
「善処するわ。それにもし上手く行ったら共闘している間は今後私のする事には逆らわない、それで良いわね」
「あぁ……本当はイヤだが状況が状況だ、仕方ねぇ飲んでやる」





 そう言って冴子の手を離れ、





「キバっていくぜぇぇぇぇぇ!!」





 その言葉と共に冴子の手の甲へと噛みつき魔皇力を注入していく。それと共に冴子にベルトが巻かれ、





「変身」





 冴子はキバットを手に取りバックルへと取り付ける。するとキバットから波動が放たれると共に冴子の姿がキバへと変化したのだ。
 そしてすぐさま緑のフエッスルをバックルにセットし、





「バッシャーマグナム!」





 その声と共にデイパックからバッシャーマグナムが飛び出しキバの右手に収まると共に右腕に上半身、そして複眼が変化し色も緑色のバッシャーフォームとなった。

 冴子の考えた作戦は、冴子自身がキバへと変身しその力で渡を救出しすぐさま離脱し、その後互いの道具を戻して再度変身を行いサガを撃破するというものだ。
 バッシャーフォームとなったのはタブードーパント変身時における光球による遠距離攻撃を冴子が得意とする為、遠距離攻撃に適したフォームをとったという事だ。



「それでも、今のキバじゃサガとやり合える程の力はねぇし、普通の人間がキバの力に耐えられるかまではわからねぇ、死ぬ事は無いと思うが長時間戦うのは無理だぜ」



 サガのスペックは魔皇竜タツロットの力で真の姿となったエンペラーフォームと同等、つまりタツロットが無いが故エンペラーフォームとなれず力を抑制されたキバではサガとやり合うのは厳しい。
 また、その強大すぎる力故暴発の危険を抱えたかつてのキバであるダークキバの反省を生かし今のキバはダークキバと比較して安全性は向上したものの強大な力を持つ事に違いはない。
 資質を持たないものがそうそう簡単に扱える代物ではない。



「私の事を心配してくれているの? いけ好かないんじゃなかったの?」
「そんなんじゃねぇ、俺様の力を使って死なれちゃ目覚めが悪いだけだ! 後から文句言われるのもイヤだしな」
「ふっ、余計な心配は無用よ、仮にもミュージアムの頂点に立つことになる私がその力に耐えられないワケがないわ。さっさとあの子を助け出しあの男を倒す、異論は無いわね」
「ああ」

367加速度円舞曲♯王と牙の運命 ◆7pf62HiyTE:2011/01/04(火) 19:34:40 ID:136X3D0c





 そう言って、渡を助けに向かおうとし――





 ――たものの、背後から何かが迫ってくるのが見えた。フィッシュアイ効果により前方240度の視界を確保出来るバッシャーでなければ気付けなかっただろう。





 すぐさまデイパックからエンジンブレードを取り出し振り向き、





「ほう、なかなかやるじゃねぇか」





 迫る斬撃を防いだ――目の前には冴子が知らない謎の戦士がいた。



「誰……まさかあの男の仲間?」
「俺は牙王だ。別にあいつは仲間じゃねぇ……獲物だ」



 その戦士は牙王が変身したガオウだった。
 アテも無く歩いていたらサガが渡を襲っているのを見つけガオウに変身して仕掛けようとしたら冴子がキバに変身したのが見えた。故にまずは手近なキバを喰らおうと奇襲をしかけたという事だ。



「獲物……まさか貴方1人で私達全員を相手にするつもり?」
「そうだ、全員俺が喰ってやる」
「出来るものならやってみなさい」



 ガオウの言葉にもキバは決して怯まない。
 だが、内心では、



「(マズイわね……あの子が殺されるのは時間の問題……それ自体はともかくタブーも失いかねないわ……かといってこの男が一筋縄ではいかないのも確か……)」



 焦りを感じていた。当初考えていたプランが潰されそうになっているのだ、焦って当然と言えよう。

368加速度円舞曲♯王と牙の運命 ◆7pf62HiyTE:2011/01/04(火) 19:36:30 ID:136X3D0c







 一方、



「何時までも逃げられると思うな」



 何度も飛び交うジャコーダーによる攻撃を渡はかわし続けていた。最初の一撃以降は何とかかわし続けているが疲労は蓄積される。
 執拗な攻撃はキバットを持つ冴子に気を回す余裕すら与えてくれず、更にはキバットが来る様子もない。
 時間が来ればあの時同様変身が解除されるだろうが、それまで保つとは思えない。

 その最中、渡は目の前の男に襲われる理由を考えていた。
 あの男の話では音也が真夜を奪ったという事らしい。それが意味する事は1つ、男は太牙の父親で真夜と太牙の仲を音也が引き裂いたという事だろう。
 真夜と音也の間に自分が生まれた事を踏まえるならば自分が真夜を奪ったという事もある意味では正解だ。
 つまり――



「僕が――僕さえ生まれなければ誰も不幸にならなかったの――」



 自分の存在そのものが全ての元凶と考えたのだ。自分さえ生まれなければ、深央を殺す事も無かった筈で全てが上手く行っていただろう。
 しかし今更自分が死んだ所で起こった事は戻らない。



「だったら――僕はどうしたら良いの――?」



 自身の存在を自ら呪う者は目的を見失いながら踊り続ける――







 そして、彼を今でも救おうとする相棒は――



「(くっ、このままコイツに構っていたら渡が危ねぇ……それに……)」



 少し離れた場所にはホテルが見える。



「(このまま戦いが続けばホテルから誰かがやって来る……これ以上ややこしい事になればそれこそどうなるかわからねぇ……どうすりゃいいんだよ……)」





 更なる混乱と闘争の予感に不安を感じていた――





 時刻は4時よりほんの数分前、





 戦いの円舞曲は決して終わる事はなく――





 むしろそのテンポを加速度的に上げて行こうとしていた――

369加速度円舞曲♯王と牙の運命 ◆7pf62HiyTE:2011/01/04(火) 19:38:10 ID:136X3D0c





【1日目 午後】
【C−6 平原】


【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、返り血、加賀美の死にトラウマ、精神が不安定
【装備】ガイアメモリ(タブー)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト
【道具】支給品一式
【思考・状況】
1:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
2:今は冴子と協力して参加者を減らす。
3:加賀美の死への強いトラウマ。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。


【キング@仮面ライダーキバ】
【時間軸】現代編/復活後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、仮面ライダーサガに変身中、バッドファンガイアに5分変身不可
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×2、不明支給品(0〜1)、北岡の不明支給品(0〜2)
【思考・状況】
1:目の前の渡を殺す。
2:ゲームに勝ち残り、真夜を再び自分の物にする。
3:先程戦った仮面ライダー達(クウガ、ディエンド、ナイト、草加、フィリップ)を殺す。
4:紅渡と紅音也を殺す。
【備考】
※ 制限によって、ライフエナジーを吸う牙は、一度に一人分しか現れません。
※ 再び現れるのに、時間が必要です(どの程度かは、後続の書き手さんにお任せします)


【園咲冴子@仮面ライダーW】
【時間軸】第16話終了後
【状態】左の太ももに刺し傷(応急処置済)、ダメージ(小)、仮面ライダーキババッシャーフォームに変身中
【装備】キバットバットⅢ世@仮面ライダーキバ、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、バッシャーマグナム@仮面ライダーキバ、ファンガイアスレイヤー@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2、加賀美の支給品0〜1
【思考・状況】
1:この場を切り抜ける。
2:最後まで生き残り、元の世界に帰還する。
3:同じ世界の参加者に会った場合、価値がある者なら利用する。
4:今は渡と協力して参加者を減らす。
【備考】
※照井と井坂を知らない時期からの参戦です。
※ガイアドライバーを使って変身しているため、メモリの副作用がありません。


【牙王@仮面ライダー電王】
【時間軸】:死亡後
【状態】:健康、仮面ライダーガオウに変身中
【装備】:ガオウベルト&マスターパス@仮面ライダー電王、ガイアメモリ(ホッパー) @仮面ライダーW
【道具】、支給品一式、不明支給品×2(確認済み)
【思考・状況】
1:目の前の3人を喰らう。
2:全ての参加者を喰らい、最後に大ショッカーも喰う。
3:変身が解除されたことによる、疑問。

370 ◆7pf62HiyTE:2011/01/04(火) 19:39:00 ID:136X3D0c
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

371二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/04(火) 20:06:41 ID:mTDknBU.
投下乙です
ああ、サガークがキングに支給されてるなんて…………
しかも、冴子さんは牙王と出会す
どうなる、渡!?

372二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/05(水) 23:32:57 ID:okYnIWts
投下乙です。
やばい。頭の中で杉田のハイテンションな喋りが再生される
でも笑えるだけでなく、キバットと冴子の推測も読み応えがあるから面白い
戦闘では冴子キバ参上、しかしまさかの牙王乱入ときた
そして生身の渡の前にいるのはサガに変身中+ファンガイア制限解放間近のキング
…渡、これはマジでやばい

373 ◆7pf62HiyTE:2011/01/10(月) 21:47:00 ID:nCMy1mCI
城戸真司、小沢澄子、桐生豪分投下します。

374嘆きの龍騎 ◆7pf62HiyTE:2011/01/10(月) 21:47:45 ID:nCMy1mCI
 むかしむかし、あるところにひとりのおとこのこがいました。


 あるひ、おとこのこはこうえんでひとりであそんでいました。


 きがつくとみたことのないおんなのこがたっていて、ふたりはいっしょにあそぶことになりました。


 それはとてもたのしいじかんだったのです。


 おとこのこはおんなのことやくそくしました、またあしたもここであおうと。


 しかしつぎのひはあめ、そのためおとこのこはいきませんでした。


 ところがとつぜんおんなのこがへやにあらわれました。


 おとこのこはおどろいたもののまだこどもだったこともありとにかくあそぶことにしました。


 そのときにふたりはいっしょにてるてるぼうずをつくるなどしてあそびました。


 ところがきがつくとおんなのこはいなくなっていました。


 さよならをいうこともなく、けむりみたいに……


 それはそれはゆめみたいなふしぎなおはなしでしたとさ。





 ◇ ◇ ◇





「……で、これがFINAL VENTのカードね、大体わかったわ」



 仮面ライダーアビスに変身できるカードデッキの中身を確認し小沢澄子はそう口にした。
 城戸真司と小沢はG-4にてヒビキから小沢の知り合いである津上翔一が助けが必要な仲間を捜す為E-2の住宅地に向かったと聞きそこへ向かった。
 早足で移動したものの翔一と合流する事も他の参加者とも遭遇する事無く2人はE-2の住宅地に到着した。
 そして、2人は翔一達を探していたわけだが、その最中小沢がアビスのデッキを貸してと言いだした。
 大まかな説明自体は既に真司から聞いていたものの実際に手に持ったわけではないので詳しく手にとって調べたいというのが理由の1つ。
 もう1つはもし敵と出くわした時に変身する必要が出てくるかもしれないからだ。
 真司としてはライダーとは無関係な女性にデッキを持たせて変身させ戦わせたくはない為、躊躇はした。
 だが、真司が龍騎に変身している状況でアビスのデッキを遊ばせる理由は無いと小沢から説明を受け渋々デッキを渡したというわけだ。
 とはいえ、小沢自身は内心では、



「(貸してくれた事自体は良いけど流石に人が良すぎるわね……氷川君と似たタイプだから予想は付いたけど……
  でもこういうのって、他人に色々利用されるタイプなのよね……後でバカ見る事にならなきゃ良いけど……)」



 真司の人の良さを心配していた。
 真司が渋った理由は前述の通り小沢を戦わせたく無い為だ。だが、本来ならば自分の戦力をむやみに他人に渡す事は極力避けるべきだろう。
 しかし、真司はそういう理由で渋ってはいない。ある意味では小沢を信頼していると言って良いだろう。
 だが、もし小沢が悪人であればバカを見るのは真司だ。それ故に、安易に自分を信用した真司の人格を心配したのである。



「うーん……」



 一方の真司は自身のもう1つの支給品であるトランプのカードを見つめ何か考えていた。それ故に小沢の声も聞こえていない様だった。

375嘆きの龍騎 ◆7pf62HiyTE:2011/01/10(月) 21:48:30 ID:nCMy1mCI



「城戸君? 聞いているの?」
「あ、はい……」
「そのトランプに何か気になる事でもあったのかしら?」



 先程小沢はトランプがカードを使って戦う真司達に対する当てつけという推測し説明している。真司もそれについては納得していたものの、



「このトランプがモンスターになるのかなって考えて……」



 そのトランプは通常と違い牛や鷹、山羊など動物が描かれ『MAGNET』、『FUSION』、『ABSORB』などという英文が入っている。少なくても一般的なトランプとは違うのは誰の目にも明らかだ。
 しかし、真司が口にしたのはトランプがモンスター、小沢視点で言えばアンノウンになるのではという話だ。



「そんなバカな……と言いたい所だけど、そういうからには何か理由があるんでしょうね?」
「ちょっと優衣ちゃんの話を思い出して……」



 そう言って真司はこの場に連れて来られる前にライダーの戦いを取り仕切っている神崎士郎の妹である神崎優衣から聞いた話を小沢に説明する。



 幼き頃、両親を亡くし士郎とも離れ離れになった優衣は1人ずっと鏡の前でモンスターの絵を描いていた。
 モンスターが自分を守ってくれると願って――
 その後、1度だけ外に出た時にある少年と知り合いになり、また遊ぶ事を約束した。
 しかしその約束は果たされず、優衣は1人部屋で泣いていた。
 その時、鏡の中の優衣に誘われ鏡の世界に行きそこで楽しく遊んだ。
 そして2人はずっと楽しく遊んだが――



『もう帰れない、帰れる時間は過ぎちゃったから。元の世界に戻ったら死んじゃうよ』



 その言葉に泣き出す優衣に対し、もう1人の優衣が自分の命をあげると言った。その代わりとしてモンスターの絵を求めたのだが――

 そのモンスターの絵が実体化したものが人々を脅かすとともに、仮面ライダーのデッキの力の源になるモンスターとなっていた。
 優衣によるとモンスターが人を襲うのは彼等自身に命が無いから生きる為に襲っているらしいが――



「にわかには信じがたい話ね……」
「やっぱり?」



 小沢の反応も無理はない、小沢視点で言えばアンノウンや未確認生命体の様な怪物が年端もいかない少女の絵から生まれていたという事になるからだ。
 真面目な話、優衣もアギトの一種なんじゃないかと考えずにはいられない。



「その話が真実だとしたら、それが貴方の世界の戦いの切欠になっているのは間違いないわね」
「そりゃそうだろうけど……でも理由が……」



 そう、ここまでの話だけではモンスターが出没する理由はわかってもライダー同士の戦いが行われる理由にはなりえない。
 何故、神崎は優衣の絵を元にしたモンスターの力を宿したデッキで戦わせようとしているのだろうか?



「(でもなんだろう、何かひっかかるな……)」



 考える事が苦手な真司にはその理由がわからない。しかし、今の話に何処か引っかかる所があったのを感じていた。



「まぁ、その話の真偽がどうあれ、そのモンスターの様にトランプに書かれている動物も実体化して暴れるんじゃないかって考えているわけね。
 心配するのはわかるけど、そこまで気にしてもしょうがないわね」
「え?」
「モンスターが何処から出てくるにせよ、城戸君がする事が変わるわけじゃないでしょ」



 そう、モンスターの正体が如何なるものであっても、真司がすべき事はモンスターの脅威から人々を守り、仮面ライダー同士の戦いを止める事である事に変わりはない。
 故にトランプに描かれた動物が実体化した所で、それが人々に仇なすならば倒すという事に違いは無いということだ。
 それ以前に、真司の懸念自体が杞憂である可能性もある。最初の推測通り、真司に対する当てつけの為に大ショッカーがわざわざ動物の描かれたトランプを支給した可能性も否定出来ない。
 どちらにしても、長々と頭を抱える意味は無いという事だ。

376嘆きの龍騎 ◆7pf62HiyTE:2011/01/10(月) 21:49:50 ID:nCMy1mCI



「そんなモンスターよりも、ある意味では人間の方がよっぽど怖いかも知れないわよ」
「モンスターよりも……人間が?」



 小沢によると、アンノウンは超能力者……いや、アギトとなる可能性の高い人間を襲っている。また真司の知る通りモンスターは餌とする為に人間を襲っている。
 勿論、襲われる側から見ればたまったものではないが実体が分かればまだやりようはある。
 だが、人間はそうではない。



「善人ぶった様に見えるけど実は極悪人、そんな奴は幾らでもいるわよ」
「そりゃ……まぁ」



 真司にも心当たりはある。彼の出会った仮面ライダーの中にもそういった人物が数多くいたのだ。
 警察官だったにも拘わらず裏で悪事を働き殺人を犯した須藤雅史、
 普通の大学生だったのにゲーム感覚で人々を殺し合わせようとした芝浦淳、
 ここまで極端では無いが弁護士の北岡秀一も色々悪名が轟いていたし、霧島美穂に至っては幾度となく詐欺を繰り返し真司も何度も騙されていた。
 また浅倉威も家族の情に訴えた様に見せかけ弟を惨殺している。
 そういうのを目の当たりにしている以上、真司は小沢の言葉を否定する事は出来ない。



「それに、私や貴方の知り合いが殺し合いに乗っている可能性は否定出来ないわ」
「だからそれを止めて……」



 浅倉や東條悟はともかく、秋山蓮、美穂、北岡ならば自分の話に耳を傾け、戦いを止めて貰えると真司は考えている。しかし、



「仮にも1年の間延々と説得を続けたにも関わらず聞き届けてくれなかったんでしょ、そんな簡単に聞いて貰えるならこの1年は何だったの? って話になるでしょ」
「うっ……」



 出会って間もない美穂はともかく、蓮と北岡とは約1年の付き合いだ。それまでずっと戦いを止めないでいたのに、ここで止めるという確証は何処にもない。
 更に言えば蓮にはどうしても戦いに勝たなければならない理由が存在する事を真司は知っている。だからといって戦いを止めさせる事に違いはないものの、蓮の戦いの重みを知る以上、それが難しい事は理解している。
 もしかすると、北岡や美穂、果ては浅倉や東條にも同様にそういう理由があるのかも知れない。



「それでも俺は……ん、そういえば小沢さんの知り合いも殺し合いに乗っている可能性があるって……」
「津上君はまず大丈夫だろうけど、葦原涼に木野薫がどうするかはわからないわ」



 葦原涼と木野薫、両名とも翔一と同じくアギトの力を持つ者だ。
 ちなみに小沢の話では木野は少し前に死亡したらしいが、真司は浅倉や東條同様、大ショッカーの不思議な力で生き返っているのだろうと判断しそこまで気に留めていない。
 また、小沢もまた理由はどうあれ木野がいるらしいという事実を認識する程度に留めている。
 何にせよ、2人のアギトがどういう行動を取るかは小沢にも予測が不可能だ。アギトの力に溺れて暴れ回っている可能性は否定出来ない。



「……北條透って人は?」
「あのバカはね……きっとまたよからぬ事を考えているわよ。まぁ、それならそれで手痛いしっぺ返し喰らうだけだろうけど」



 とりあえず、北條透についてはそれ以上触れない事にした。

377嘆きの龍騎 ◆7pf62HiyTE:2011/01/10(月) 21:51:30 ID:nCMy1mCI



「でも、最後のライダーの事は伝えないと……もしかしたらこの場所にいるかも……」



 蓮達がこの地でも願いを叶える為殺し合いに乗っているとはいえ、最後のライダーがアビスという情報は伝えたいと考えている。



「ああ、それならいないわよ。仮にいたとしてもそこまで気にする必要は無いわ」
「え、どうして?」
「城戸君の手に貴方自身のデッキがある事が証拠よ」



 真司の手元に龍騎のデッキがある事が証拠? それを聞いても真司にはわからない。



「デッキはそれぞれの持ち主に支給されている可能性が高いわ。デッキが無かったら戦えない以上、当然よね」
「そりゃまぁ……」
「じゃあ、このアビスのデッキも本来の持ち主の手元にあるべきだと思わない?」
「あ!」
「それがここにあるという事は、アビスの持ち主はいないって事よ。仮にいた所でデッキが無ければ戦う力を持たない無力な人間でしかないわけだけど」



 真司の手元に龍騎のデッキがあるならば、恐らく蓮の手元にナイト、北岡の手元にゾルダ、そして美穂の手元にファムのデッキがあるだろう。
 つまりデッキは持ち主の手元にあるということだ。そこから考えるにアビスのデッキも本来ならば持ち主の手元にある筈だ。
 しかし実際は真司の手元にある。つまりこれはアビスのデッキの持ち主はいないという状況証拠になりうる。もし仮にいたとしてもデッキが無ければ戦えない普通の人間である。



「問題はどうして城戸君に2つもデッキを持たせたかよ……龍騎のデッキがある以上、使う必要性が低い筈よ……」
「予備とかじゃ……」
「城戸君を有利にする……大ショッカーがそんな殊勝な事するわけもないわね……」
「サバイブのカードも無かったしなぁ……」



 小沢に説明する際、カードの中身を見せながら説明した為、その際に強化形態であるサバイブ体に変身する為のサバイブのカードが無くなっている事を確認した。



「まぁ、長々と考えても仕方ないわね。とりあず今は津上君を探しましょう」



 気になる事が多いとはいえ、現状は翔一との合流を優先すべきだ。
 ヒビキの話ではE-2周辺の住宅地で仲間を集め、今から8時間半ぐらい後の深夜0時にE-4の病院で集まる手筈となっている。
 故に当面はこの辺り4エリアを散策し、時間が来ればE-4に向かえば良いだろう。
 仮に会えなくてもお互いに生きているならば最悪E-4で遭遇出来る可能性が高い。

378嘆きの龍騎 ◆7pf62HiyTE:2011/01/10(月) 21:53:00 ID:nCMy1mCI



 その最中、



「それにしても……妙に冷えるわね」
「そういえば……わっ!」



 と、真司が転倒し地面を滑りそのまま前方数メートル程滑っていった。



「何やっているのよ……」
「だって急に滑……」



 と、後方にいる小沢の方へ振り向きながら立ち上がろうとするが、白い怪物が小沢のすぐ横まで迫っているのが見えた。



「小沢さん、危ない!」



 真司はとっさにデイパックを怪物へと投げつけた。



「……!」



 怪物は真司の行動に気付き飛んできたデイパックをその手に掴む。
 そして、怪物の存在に気付いた小沢が距離を取ろうとするが、足元が滑り転倒した。



「……なっ……凍っているっていうの!?」



 怪物は転倒した小沢に迫るが、



「モンスターか……こうなったら……」



 真司は何とか立ち上がり、懐から龍の紋章が入ったデッキを取り出し、すぐ近くにある建物の窓ガラスに映す。
 すると、Vバックルが出現し真司に装着され、



「変身!」



 Vバックルにカードデッキを挿入、すると真司の全身に銀と赤の甲冑が纏われ、仮面ライダー龍騎へと変身した。

379嘆きの龍騎 ◆7pf62HiyTE:2011/01/10(月) 21:53:30 ID:nCMy1mCI



「ッシャァッ!」



 そう言って、足元に気を付けつつ、すぐさま怪物へと組み付く。



「小沢さん今の内に!」
「わかったわ!」



 そういって小沢も何とか2人から離れ建物の陰まで移動した。その間にも怪物は拘束を振り解き龍騎を地面に叩き付ける。



「くっ……」


 地面が凍結しているが為、龍騎の身体はそのまま滑っていく。その間にも怪物は龍騎に迫る。凍結した地面を滑る様に移動する為その速度は速い。



 ──SWORD VENT──



 龍騎は怪物が迫る前に1枚のカードを左手甲に装備されているドラグバイザーへと挿入した。
 その後、バイザーから音声が響くと同時に龍騎の右手に契約モンスター無双龍ドラグレッダーの尾を模した剣ドラグセイバーが装備される。
 そして迫る怪物をドラグセイバーで迎撃しようと――



 龍騎と怪物が戦いを繰り広げる中、少し離れた場所から小沢は戦いの様子を見ていた。
 その手には神経断裂弾が装填されたコルト・パイソンが握られている。
 だが、小沢は恐らく通用しないと考えている。
 神経断裂弾は未確認生命体に対し絶大な力を持っている。
 しかし、後に現れたアンノウンに対しては対未確認用の装備が殆ど通じなかった。
 そして目の前の凍結能力を持った怪物はアンノウンの可能性が高い、それを踏まえるならば銃弾は相手の気を逸らす程度の力しかないだろう。
 その一方で考える。


 あの怪物は本当にアンノウンなのか――?


 アンノウンが襲うのはアギト及びアギトに目覚めようとする超能力者その血縁関係者達だ。
 しかし少なくても小沢と真司は超能力者でもその血縁関係者でもない。アンノウンに一方的に襲撃される理由はない。
 何よりも、目の前の怪物がデイパックを所持しているのが見えた。アンノウンがデイパックを抱えて移動する知性を持っているとは思えない。
 故に小沢は怪物がアンノウンではなく、アギトの力に溺れた参加者である可能性が高いと判断した。
 外見上はこれまでのアギトと全く共通項が見られない為、断定は不可能。それでもアギトと同等の力を持っていると考えて良いだろう。
 なお、目の前の怪物がアギトであったとしてもアンノウンと同等以上の力を持っているのは確かなので、どちらにしても対未確認の装備は通用しないと考えて良い。



「あの怪物は物体を凍らせる力を持っているわ、気を付けて城戸君!」



 どちらにしても自分に出来る事は龍騎に変身している真司のサポートだ。アビスに変身して介入するよりもそれが適切な判断だろう。



「凍ったぁー!?」
「だからそう言っているでしょ! ちゃんと聞きなさい!」



 怪物が手から放出した冷気によりドラグセイバーの表面が凍結していた。
 幸い凍結部位は剣だけなので龍騎本体にはダメージはない。もし、ドラグクローを装備しての攻撃であれば恐らく腕そのものが凍り付いていただろう。



「これじゃ、ドラグクローは使えない……」



 その間にも怪物は冷気を放射しつつ龍騎に仕掛けていく。龍騎はその攻撃をかわしながらドラグセイバーで反撃を試みる。
 だが、足場を滑る様に移動する怪物に対し、不安定な足場で思う様に戦えない龍騎、その差は大きく龍騎は一方的に押されていく。

380嘆きの龍騎 ◆7pf62HiyTE:2011/01/10(月) 21:54:00 ID:nCMy1mCI



「その場所にいたら勝てないわ、凍結していない所まで下がって!」



 小沢が凍結していない場所で戦う様に指示を出す。
 これまでの戦いを見る限り龍騎に変身した真司の動き自体は1年戦ってきただけの事もあり、G-3Xを装着した氷川誠に負けるとも劣らないものだ。
 足場の不利さえ無くなれば目の前の怪物とも十分に渡り合える筈である。



「よし、なんとか……」



 転倒する事無く凍結していない場所まで下がり体勢を整えようとする龍騎だったが、すぐさま怪物が眼前まで迫り地面へと冷気を急速に放出する。



「あ、足が!?」



 すると、龍騎の足が地面ごと凍結し張り付けられた。



「う、動けない!?」



 その間にも怪物は龍騎を一気に凍り付かせようと迫る。



「くっ……」



 龍騎は何とかカードをバイザーに装填しようとするが、それよりも怪物の攻撃の方が早く間に合わない。



 故に――



 だが、それよりも早く1つの影が怪物から1つのデイパックを奪い去り――



 その直後もう1つの影が怪物へと水を放出した。



「城戸君、今の内に!」



 怪物が振り向くと小沢がデッキを片手に構えながら出てきていた。
 小沢はデッキの契約モンスターであるアビスラッシャーとアビスハンマーを召喚し怪物へと差し向ける事で自分へと注意を向けさせたのだ。
 なお、拳銃を使わなかったのは前述の通り通じない可能性が高かったから、アビスに変身しなかったのは変身する時間すら惜しかったからである。



 ──ADVENT──



 だが、すぐさま怪物は2体のモンスターをかわし、モンスターを召喚した小沢に迫る。
 小沢は変身しようとデッキを構えるようとするがそれよりも怪物の動きは早い。
 生身の人間が怪物の冷気を受ければどうなるかなど語るまでも無い。



 だが――

381嘆きの龍騎 ◆7pf62HiyTE:2011/01/10(月) 21:54:30 ID:nCMy1mCI



「どうやら間に合ったみたいね」



 それよりも早く、ドラグレッダーが両者の間へと割り込んでいった。怪物はすぐさま後ろを振り向く。



 そこには凍結した足を溶かした龍騎が1枚のカードを構えて立っていた。
 小沢の行動により怪物の注意が自分から外れた隙を突き、カードを装填しドラグレッダーを召喚しその炎で凍結した地面を溶かした。その後、小沢を助ける為にドラグレッダーを飛ばしたのだ。



 そして、1枚のカードをドラグバイザーへと挿入し、



 ──FINAL VENT──



「はぁぁぁぁぁぁっ!!」



 龍騎が雄叫びと共に構え、同時にドラグレッダーが舞う。



 その後ドラグレッダーと共に駆けだし飛び上がり、



 ドラグレッダーの吐き出す炎を纏いその勢いを以て――



 白き怪物へと炎の蹴りを叩き込んだ――



 ドラゴンライダーキック、それが龍騎の必殺技である――







 爆煙が収まる――残されたのは龍騎と小沢だけ、怪物も、2人が召喚したモンスター達も姿を消している。



「はぁ……はぁ……やったか?」


 そこそこ疲労しているもののダメージは殆ど無い。相手を撃退出来たか気にはなるものの、


「いいえ、逃げられたみたいね」



 と、小沢が残された氷の欠片を手に取る。



「氷で身代わりを作って本体は逃走したって所ね」
「そっか……それにしても何だったんだあのモンスター……」
「参加者である事は確かね、それも殺し合いに乗った凶悪な……」

382嘆きの龍騎 ◆7pf62HiyTE:2011/01/10(月) 21:58:00 ID:nCMy1mCI















「城戸真司に小沢澄子、そう簡単には倒せないか」



 そう口にする男性桐生豪の手にはあるものが握られていた。
 それはコネクタに挿し込む事でドーパントなる存在へと変身する力を与えるガイアメモリと呼ばれるものだ。
 桐生が手に持つのはその1つ、アイスエイジのメモリである。説明書きによると首輪にあるコネクタに挿し込むことでアイスエイジドーパントへと変身する事が出来るらしい。

 つい数十分程前金居との戦った後、桐生は単身住宅地へと入った。市街地へ向かえば決着を着けたい相手である橘朔也に出会える可能性もあると考えたのだ。

 いや、もしかすると彼の持つレンゲルに宿るスパイダーアンデッドの邪悪なる意志が参加者を皆殺しにしろと訴えていたのかも知れない――

 何はともあれ、桐生はD-2にて少し離れた所で真司と小沢が話しているのを見つけたのだ。
 そして2人に気付かれるよりも早くレンゲルに変身しようとしたがベルトは全く反応しなかった。
 これも大ショッカーが課した制限なのだろうと結論付けたが、このまま2人を放置するのも惜しかった。
 その時、ふと桐生は自分に支給されたガイアメモリの存在を思い出した。
 支給品そのものは三原修二及びリュウタロスと交戦後確認したが、今まで全く使う機会が無かったという事だ。
 説明書きを読み大まかな使い方は把握した。レンゲルも氷の技を使う事もあり、氷河期の記憶を宿したアイスエイジは自分に合っていると言えよう。

 そして、白き怪物アイスエイジドーパントへと変身しまずは2人に気付かれない様地面を凍結させた。
 相手の動きをある程度制限させ、その後奇襲を仕掛けるというものだ。
 もっとも、幸か不幸か真司が滑った事が切欠で奇襲は失敗に終わり戦闘になってしまったが。

 真司が自分達とは違うカードを使う仮面ライダーに変身した事に少し驚いたものの先に足場を押さえた事により戦闘は桐生が有利に進める事が出来た。
 見たところ真司の人格はどことなく橘の後輩である剣崎一真を彷彿させた。その動きは戦士としては未熟に思えたが、実際に戦い中々の強者に感じた。
 同時に炎の力を持つ龍騎は氷の力を持つレンゲル及びアイスエイジにとって相性の悪い相手だ。そういう意味でも厄介な相手だった。

 それだけではなく、小沢も真司と同じ様なデッキを所持し自分に仕掛けてきた。
 結果として2対1となり桐生が劣勢であるのは明らか、理想を言えば1人仕留めたかった所だが2人の連携によりそれは出来ず、逃走するしかなかった。

 だが、収穫が無いわけではない。
 最初に真司が小沢を守る為にデイパックを投げつけて来た事により真司のデイパックを手に入れる事が出来た。
 その代わり、小沢によって自身のデイパックが取られたが実の所影響はない。
 何しろ、レンゲルのベルトはデイパック内ではなくラウズカードと一緒に懐にいれており、同時にデイパックの中にある最後の支給品は完全に『ハズレ』だったからだ。
 更に三原から奪取したデイパックはそのまま手元にある。
 そして、真司のデイパックの中にはスペードのラウズカードが数枚あった。結果として更なる力を得る事が出来た事という事だ。



「さて、これからどうするか」



 戦おうにもレンゲルにもアイスエイジドーパントにも当分は変身出来ない。
 更に度重なる連戦やここまでの移動で疲労もそれなりに蓄積している。
 故に暫く何処かで休む事に決めた。地図を確認した所、現在位置はD-2、桐生が定めた目的地は――



「そうだな、病院にでも行くか」



 冷たい足取りのまま桐生は往く――



 アンデッドとガイアメモリの邪悪な毒に浸食されながら――



【1日目 午後】
【D−1 住宅街】
【桐生豪@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編で橘と戦い敗れる直前
【状態】疲労(中)、スパイダーアンデッドに精神を支配されている、仮面ライダーレンゲルに1時間変身不能、アイスエイジドーパントに2時間変身不能
【装備】レンゲルバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(クラブA〜10、ハート7〜K、スペードの7,8,10〜K)@仮面ライダー剣、ガイアメモリ(アイスエイジ)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2、三原の不明支給品(0〜1)
1:病院に向かい休む。
2:橘と決着を着ける
3:そのために邪魔になる者は全て倒す
【備考】
※変身制限に気づいています。

383嘆きの龍騎 ◆7pf62HiyTE:2011/01/10(月) 22:01:15 ID:nCMy1mCI















「城戸真司に小沢澄子、そう簡単には倒せないか」



 そう口にする男性桐生豪の手にはあるものが握られていた。
 それはコネクタに挿し込む事でドーパントなる存在へと変身する力を与えるガイアメモリと呼ばれるものだ。
 桐生が手に持つのはその1つ、アイスエイジのメモリである。説明書きによると首輪にあるコネクタに挿し込むことでアイスエイジドーパントへと変身する事が出来るらしい。

 つい数十分程前金居との戦った後、桐生は単身住宅地へと入った。市街地へ向かえば決着を着けたい相手である橘朔也に出会える可能性もあると考えたのだ。

 いや、もしかすると彼の持つレンゲルに宿るスパイダーアンデッドの邪悪なる意志が参加者を皆殺しにしろと訴えていたのかも知れない――

 何はともあれ、桐生はD-2にて少し離れた所で真司と小沢が話しているのを見つけたのだ。
 そして2人に気付かれるよりも早くレンゲルに変身しようとしたがベルトは全く反応しなかった。
 これも大ショッカーが課した制限なのだろうと結論付けたが、このまま2人を放置するのも惜しかった。
 その時、ふと桐生は自分に支給されたガイアメモリの存在を思い出した。
 支給品そのものは三原修二及びリュウタロスと交戦後確認したが、今まで全く使う機会が無かったという事だ。
 説明書きを読み大まかな使い方は把握した。レンゲルも氷の技を使う事もあり、氷河期の記憶を宿したアイスエイジは自分に合っていると言えよう。

 そして、白き怪物アイスエイジドーパントへと変身しまずは2人に気付かれない様地面を凍結させた。
 相手の動きをある程度制限させ、その後奇襲を仕掛けるというものだ。
 もっとも、幸か不幸か真司が滑った事が切欠で奇襲は失敗に終わり戦闘になってしまったが。

 真司が自分達とは違うカードを使う仮面ライダーに変身した事に少し驚いたものの先に足場を押さえた事により戦闘は桐生が有利に進める事が出来た。
 見たところ真司の人格はどことなく橘の後輩である剣崎一真を彷彿させた。その動きは戦士としては未熟に思えたが、実際に戦い中々の強者に感じた。
 同時に炎の力を持つ龍騎は氷の力を持つレンゲル及びアイスエイジにとって相性の悪い相手だ。そういう意味でも厄介な相手だった。

 それだけではなく、小沢も真司と同じ様なデッキを所持し自分に仕掛けてきた。
 結果として2対1となり桐生が劣勢であるのは明らか、理想を言えば1人仕留めたかった所だが2人の連携によりそれは出来ず、逃走するしかなかった。幸い凍結させれば高速で動ける為、逃走自体は容易だった。

 だが、収穫が無いわけではない。
 最初に真司が小沢を守る為にデイパックを投げつけて来た事により真司のデイパックを手に入れる事が出来た。
 その代わり、小沢によって自身のデイパックが取られたが実の所影響はない。
 何しろ、レンゲルのベルトはデイパック内ではなくラウズカードと一緒に懐にいれており、同時にデイパックの中にある最後の支給品は完全に『ハズレ』だったからだ。
 更に三原から奪取したデイパックはそのまま手元にある。
 そして、真司のデイパックの中にはスペードのラウズカードが数枚あった。結果として更なる力を得る事が出来た事という事だ。



「さて、これからどうするか」



 戦おうにもレンゲルにもアイスエイジドーパントにも当分は変身出来ない。
 更に度重なる連戦やここまでの移動で疲労もそれなりに蓄積している。
 故に暫く何処かで休む事に決めた。地図を確認した所、現在位置はD-1、桐生が定めた目的地は――



「そうだな、病院にでも行くか」



 冷たい足取りのまま桐生は行く――



 アンデッドとガイアメモリの邪悪な毒に浸食されながら――



【1日目 午後】
【D−1 住宅街】
【桐生豪@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編で橘と戦い敗れる直前
【状態】疲労(中)、スパイダーアンデッドに精神を支配されている、仮面ライダーレンゲルに1時間変身不能、アイスエイジドーパントに2時間変身不能
【装備】レンゲルバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(クラブA〜10、ハート7〜K、スペードの7,8,10〜K)@仮面ライダー剣、ガイアメモリ(アイスエイジ)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2、三原の不明支給品(0〜1)
1:病院に向かい休む。
2:橘と決着を着ける
3:そのために邪魔になる者は全て倒す
【備考】
※変身制限に気づいています。

384嘆きの龍騎 ◆7pf62HiyTE:2011/01/10(月) 22:03:00 ID:nCMy1mCI















「あれ? 変身が解けた?」



 龍騎は変身を解除しないまま暫く周囲を警戒していたが、突然変身が解除されたのだ。それを見た小沢は語る。



「モンスターもいきなり消えた所を見ると、何かしらの制限がかけられていると考えて良いわね。暫くは変身出来ないと考えて良いわね」
「どうして?」
「貴方ね、変身が解けてもすぐに変身出来るんだったら意味ないでしょ。1回に変身出来る時間は大体10分、それでも戦いたいなら別の変身手段を使えって事ね。
 良かったわね、2つもデッキが支給された理由がわかったわ」
「いや、あんまり嬉しくは……」



 その最中、小沢が真司にデイパックを渡し、



「それからこれ、貴方が投げたデイパック取り返しておいたわよ」
「あ、どうも……って、これ俺のデイパックじゃないぞ?」
「あら? そういえば3つ程持っていたわね……間違えたかしら?」
「まぁ、取られたのはあのトランプだけだから問題は……」



 そう言いながら真司はデイパックの中身を確かめる。トランプは無くなったものの名簿などはあるので今後の行動に影響はない。



「それにしても問題はあの怪物ね……アンノウンにせよアギトにせよ、城戸君の持つライダーの様なものにせよ、また襲ってこないとも限らないわ。他にいないとも限らないだろうし早く津上君と合流し……」



 今後の事に頭を抱え真司に同意を求める小沢だったが、真司が固まって動かないのを見て言葉に詰まる。



「どうした?」



 真司の手にはてるてる坊主が握られていた。更に説明書きも握られていたので小沢はそれを手に取り確認する。



「神崎優衣のてるてる坊主……城戸君が話していた子ね……ってこんなもの支給してどうしろっていうのよ……」



 それは本当になんの変哲もないてるてる坊主だ。何の力も持っていないのは誰の目にも明らか、故に完全なハズレといえる。



 しかし、真司はずっと俯いたままだ。小沢にはそれがわからないでいた。



 そして、震える声で真司は言葉を紡ぎ出す。

385嘆きの龍騎 ◆7pf62HiyTE:2011/01/10(月) 22:03:30 ID:nCMy1mCI



「優衣ちゃんだったんだ……俺が出会った……あの女の子……」



 幼き日、真司は1人の少女と仲良くなった。その際、その翌日も遊ぶ約束をしていた。
 しかし翌日は雨、故に真司は外へ行かなかった。
 だが、突然部屋に少女が現れたのだ。真司は驚いたもののまだ子供だったが故に一緒にてるてる坊主を作る等して遊んだ。
 が、いつの間にか少女はさよならも言わずに煙みたいに消えたのだ。
 それはまさしく不思議な話であり、夢だったと言われれば否定する事の出来ない話だ。

 さて、この話と繋がる話を何処かで聞いていないだろうか? 先程の優衣の話がそれだ。
 優衣の話に出てきた少年は真司だったというわけだ、優衣のてるてる坊主が真司がかつて優衣と一緒に作ったものと同じようなものだったというのがその証拠だ。

 つまり、真司と優衣は遊ぶ約束をしていながら真司がその約束を破ったが故に、優衣は鏡の中へ行き、代わりの命と引き換えにモンスターの絵を渡す事となった。
 そしてそのモンスターが関わるライダーの戦いが始まった。

 勿論、神崎が何故ライダー同士の戦いを行っているのかについて、真司の知り得ない部分はまだある。
 だがこの一件が無ければライダー同士の戦いは起こらなかったと言って良い。

 モンスターによって蓮の恋人が眠り続ける事になり蓮を戦わせる事になったのも――
 多くのライダー達やその関係者、そして何の罪もない人々が犠牲になったのも――
 そしてこの世界に仮面ライダーが誕生した事により、世界を懸けた殺し合いに巻き込まれる羽目になったのも――



「全部……俺のせいじゃないか……優衣ちゃんが鏡の中に行ったのも……



 ラ……ライダーの戦いが始まったのも、全部……俺が約束を守らなかったせいじゃないか……」



 全ての元凶が自分にある事を知った者は嘆く――



 その彼に吹き付ける風は――



 氷河期の様に冷たかった――





 ◇ ◇ ◇





 むかしむかしあるところにひとりのおんなのこがいました。


 おやをなくしあにともはなればなれになり、おんなのこはひとりさびしくかがみのまえでえをかいていました。


 そんなあるひ、そとにでたときにおとこのことしりあいになり、またあそぼうとやくそくしました。


 しかしおとこのこはやくそくをまもることなくきてくれませんでした。


 ずっとないていたおんなのこでしたが、かがみのなかのおんなのこがあそびにさそってくれました。


 おんなのこはかがみのなかのせかいでもうひとりのおんなのこといっしょにあそびました。


 それはとてもたのしいじかんでした。


 しかし、もうひとりのおんなのこからつたえられたのはざんこくなことばでした。


 もうかえれず、もどったらしんでしまうと、


 なきだしたおんなのこにもうひとりのおんなのこはじぶんのいのちをあげるといいました。


 そのかわり、おんなのこのかいたえをくれるとたのんだのでした。

386嘆きの龍騎 ◆7pf62HiyTE:2011/01/10(月) 22:04:00 ID:nCMy1mCI





 ですが、はなしはこれでおわりではありませんでした。


 そのいのちはおんなのこがおとなになったらきえるものでした。


 にじゅっかいめのたんじょうびがきたときにきえるいのちだったのです。


 しかし、おんなのこのおにいさんがあたらしいいのちをあたえようします。


 じゅうさんにんのかめんらいだーをたたかわせ、いちばんつよいいのちをえらびそれをおんなのこにあたえようと……


 それはまさしくじゅんすいなねがいだったのです。





 しかし、それがきっかけでせかいをかけたたたかいにまきこまれることとなりました。


 はたしてだれがわるいのでしょうか?


 ひとりさびしくえをかいたおんなのこでしょうか?


 おんなのこにいのちをあたえるべくたたかいをおこしたおにいさんでしょうか?


 それとも、おんなのことのやくそくをやぶったおとこのこでしょうか?





 そして、そのことにきづいたおとこのこはどうすればよいのでしょうか?


【D−2 住宅街】
【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 霧島とお好み焼を食べた後
【状態】疲労(小)、愕然、仮面ライダー龍騎に2時間変身不能
【装備】龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎、
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
1:俺のせいで……
2:小沢と一緒に津上翔一に会いに行く
3:ヒビキが心配
4:絶対に戦いを止める
5:蓮、霧島、北岡にアビスのことを伝える
6:大ショッカーは許せない
【備考】
※支給品がトランプだったことを、カードを使って戦う龍騎に対する宛てつけだと認識しました。
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解しています。
※アギトの世界について認識しました。


【小沢澄子@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終盤(第46話終了後以降)
【状態】健康、アビスハンマーとアビスラッシャー2時間召喚不可
【装備】コルト・パイソン+神経断裂弾@仮面ライダークウガ、アビスのデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式、トリガーメモリ@仮面ライダーW、ガルルセイバー(胸像モード)@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
1:真司と一緒に津上翔一に会いに行く
2:殺し合いには乗らない
3:打倒大ショッカー
【備考】
※真司の支給品がトランプだったことを、カードを使って戦う龍騎に対する宛てつけだと認識しました。
※龍騎の世界について大まかに把握しました。

【真司と小沢の共通備考】
※1日目0時、E-4エリアの病院屋上で合流する予定です。

387嘆きの龍騎 ◆7pf62HiyTE:2011/01/10(月) 22:05:40 ID:nCMy1mCI
投下完了しました。>>382は投下ミスなので>>383が正しい内容です(本文の現在位置が間違っていたので修正した)。
何か他に問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

388二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/10(月) 23:29:02 ID:bCufcgY2
投下乙です
アイスエイジの冷気は洒落にならんから下手したら真司君ここでリタイアだったなぁw
何も知らずにリタイアした方が案外幸せだったのかもしれないけれど。真相を知った真ちゃんどうする!?
それにしても桐生さんマーダー頑張るなぁ、今の所サラマンだけど。ズガン枠だと思ってましたごめんなさい

389二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/10(月) 23:30:57 ID:Lhps.6EU
投下乙です
ああ、桐生さんは頑張るなぁw
ここでアイスエイジが出てくるなんて
小沢さんと真司は、なにやら良いコンビになりそうだな

390 ◆LuuKRM2PEg:2011/01/11(火) 17:42:13 ID:r6mWHRtQ
投下乙です
おお、桐生さんにもガイアメモリが支給されてるとは
これは、絶好調ですね。
小沢さんと真司のコンビも、これからに期待できますね

それでは、自分も
日高仁志、小野寺ユウスケ、海堂直也、橘朔也、名護啓介分を投下します。

391メモリと勘違いと呪い ◆LuuKRM2PEg:2011/01/11(火) 17:42:59 ID:r6mWHRtQ


キバの世界には、凄まじき威力を誇る魔皇剣が存在する。
チェックメイト・フォーのキングによって、キャッスルドランに封印された剣。
それは、ファンガイア一族の中でも王の血を持つ者にしか、扱うことが許されない。
もしもそれを破れば、たちまち己の精神が剣に支配されてしまう。
現に、キバの鎧を持つ紅渡も、一度はそうなってしまったのだから。
しかし彼は、アームズモンスター達の力を借りた事によって、剣を己の物にする。
剣とキバの仲介人とも呼べる幻影怪物、ザンバットバット。
その力を借りたことでようやく、制御が出来る。
王だけが扱うことを許される命吸う妖剣、ザンバットソード。
大ショッカーの手によって、それもまたこの戦場に放り込まれた。
それは今、ある人物の手に渡っている。












「なるほど、君は凄い旅をしてきたんだな」

『響鬼の世界』を代表する仮面ライダー、響鬼に変身する日高仁志。
ヒビキは、頷いていた。
先程出会った、小野寺ユウスケと海堂直也の話を聞いて。
三人は合流してから、互いに情報交換を行っていた。
海堂直也が生きる、人とオルフェノクが共に生きる世界。
古来より人を喰らう魔化魍を、鬼となって倒してきたヒビキの世界。
仲間達と共にいくつもの世界を巡った、小野寺ユウスケの旅。
それらを、ヒビキは上手く纏めた。

「ん、ちゅうことはあれか? 小野寺の言葉が正しけりゃ、おっさんもその魔化魍って化け物になっちまうのか!?」
「おい、海堂!」

海堂の言葉を、ユウスケは咎める。
ここにいるヒビキとはまた違う、もう一人のヒビキ。
彼は世捨て人として、世間から離れて生きてきた。
しかしその真意は、鬼の力が制御できなくなってしまい、牛鬼という魔化魍になってしまったため。
そんな不安を抱いていると、ヒビキは感じた。
だが、彼はいつものように力強い笑みを浮かべる。

「大丈夫、俺は鍛えてますから」

二本の指を立てて、海堂とユウスケに向けた。
しかし、ヒビキの心中は少しだけ暗くなっている。
ユウスケが言っていた、もう一人の自分とも呼べる戦士。
人を守るはずの鬼なのに、その力に飲み込まれてしまった。
そんな彼を、アスムという名前の弟子が響鬼になって、ようやく止める。
ヒビキと明日夢。
偶然にしては、あまりにも出来すぎていた。

392メモリと勘違いと呪い ◆LuuKRM2PEg:2011/01/11(火) 17:43:37 ID:r6mWHRtQ

(きっと、向こうのヒビキさんも一生懸命に、少年君を鍛えてたんだろうな…………イブキやザンキさんやあきらがいるなら、京介ももう一人いたりして)

出来ることなら、彼らと会って話がしてみたい気持ちがある。
無理なことは、分かっているが。
もう一人のヒビキの気持ちが、ここにいるヒビキには共感できる。
そして、彼の背負った運命の辛さも。
本当なら、人を守りたいという気持ちで鬼になった。
それなのに、敵であるはずの魔化魍になってしまう。
一体どんな辛さだったか。
きっと、自分が想像している以上だろう。

(俺も、うかうかしていられないな。帰ったら、一から鍛え直さないとな…………)

これは決して、他人事なんかじゃない。
自分も油断していたら、鬼の力に飲み込まれて魔化魍にされてしまう事も、充分にあり得る。
いや、今だってそうなるかもしれない。
人を守るはずの鬼なのに、それでは本末転倒だ。
こう考えるのは失礼だろうが、向こうのヒビキさんと同じ事になってはいけない。

「…………ん?」

そんな中、ヒビキは気づいた。
海堂とユウスケの背後に、二人の男が立っていることに。
向こうもどうやら、こちらに気づいているようだ。
ヒビキの反応に気づき、海堂とユウスケも後ろを向く。
二人組の男は、既に目前にまで迫っていた。

「な、なんじゃいお前ら!?」
「ちょっと待て、海堂!」

海堂は反射的に身構えるが、ユウスケはそれを止める。
それを見て、黒いタートルネックとカーゴパンツに身を包んだ男、名護啓介は一歩だけ前に出た。

「驚かせてすまない、俺たちは敵じゃない」

そう言うと彼は、自分のデイバッグを道に落とす。
そして、両腕を上げた。
名護の行動を見て、傍らにいた橘朔也は、目を見開く。

「何をしている名護、まだ彼らが――!」
「いや、待ってくれ」

橘の言葉を、名護は遮った。
そのやり取りを見て、三人は確信する。
現れた二人組は、危険人物ではない事を。
しかし、誰一人として油断はしていない。

「あ、手を下げてください」

ヒビキも、一歩前に出ながら笑顔で口を開く。
それを聞いて、名護は言葉の通りに両腕を下げた。

393メモリと勘違いと呪い ◆LuuKRM2PEg:2011/01/11(火) 17:45:16 ID:r6mWHRtQ

「俺はヒビキ。名簿には日高仁志って書いてあるけど、こっちでよろしく!」
「そうか、俺は名護啓介。こっちは――」
「橘朔也だ」
「名護に橘か、よろしく」

三人は、互いに自己紹介をする。
続くように、海堂とユウスケも二人に名乗った。
そして、橘と名護を加えて、情報交換を再開する。
それぞれの世界について。
同じ世界より連れてこられた、親しい者達。


海堂が知るのは、乾巧と草加雅人と三原修二と木場勇治と園田真理と村上峡児の六人。
橘が知るのは、剣崎一真と相川始と桐生豪の三人。
ヒビキが知るのは、天美 あきらと桐矢京介と財津原蔵王丸の三人。
名護が知るのは、紅渡と紅音也とキングの三人。
ユウスケが知るのは、門矢士と光夏海と海東大樹とアポロガイストの四人。


この中で、友好的とそうでない人物について話し合われた。
まず友好的なのは、以下の人物。
乾巧、三原修二、木場勇治、園田真理。
剣崎一真、相川始。
天美あきら、桐谷京介、財津原蔵王丸。
紅渡、紅音也。
門矢士、光夏海、海東大樹。
この中で、真理とあきらと桐谷と夏海は、あまり強い戦力を持たない。
よって早急の保護が必要だと、結論が出た。
始に関しても、内面が分からないところがあるが、ひとまず信頼には値すると橘は語る。
そしてヒビキが出会った、友好的人物。
津上翔一と、小沢澄子と、城戸真司の三人。
彼らとはこの戦いを阻止する仲間を集めるため、別行動を取っている。
今日の0時に、E−4エリアの病院屋上で合流する予定となった。


次に危険なのは、以下の人物。
草加雅人、村上峡児。
キング。
アポロガイスト。
話し合いの最中で、書かれている名前に疑問の声をあげる者がいた。
名簿の中に、既に死んでいるはずの人物が何人もいるため。
それによって、彼らの中で疑惑が広がろうとしていた。

「まさか、大ショッカーの言っていた『願い』とは本当なのか…………?」

不意に、橘が口を開く。
四人の視線を浴びる中、彼は思い出した。
大ショッカーが、始まりの地で言った言葉を。
世界の選別という名目の、殺し合い。
それで生き残れば、あらゆる望みだろうと叶えてみせると。
そこから、彼はある仮説を立てた。

394メモリと勘違いと呪い ◆LuuKRM2PEg:2011/01/11(火) 17:45:59 ID:r6mWHRtQ

「みんな、これはただの仮説なんだが…………聞いて欲しいことがある」

橘は冷静に、考えを述べる。
名簿に書かれている、既に死んだはずの人間。
これは、大ショッカーが自分達の言葉が真実であると、証明する手段なのではないか。
いくら『どんな願いでも叶えてみせる』と言っても、信じない人物は必ず現れる。
そういった者を焚きつけるために、死者の名前が書かれているのではないか。
大ショッカーとは、別々の世界にいる自分達を一ヶ所に集めるほどの、技術を持つ輩だ。
それならば死人の一人や二人、生き返らせることが出来ても不思議ではないかもしれない。
その言葉に、誰もが驚愕の表情を浮かべた。

「死者を蘇らせるだと…………やはり、馬鹿げている!」

直後、名護の身体は震える。
彼の表情は、驚きから憤怒へと変わっていた。
命という尊い物を、冒涜する大ショッカーへの憤り。
いくらどれだけ高い技術を持っていようとも、何の権利があって犠牲者を出すのか。
まさか、神を気取っているつもりなのか。
名護の中で、大ショッカーへの怒りが強くなっていく。
だが、それに飲み込まれることはしなかった。
怒りに身を任せるのは、自分が弱いことの証明。
かつてならともかく、今はそれを知った。
紅渡を始めとする、多くの仲間達のお陰で。

「そしてだ、ここから本題に入りたい」
「本題?」
「ああ…………これはもしかしたら、俺たちに巻かれている首輪を解体するために、必要なことなんだ」

一方で橘は、怪訝な表情を浮かべるヒビキと目を合わせている。
そして、ポケットに手を入れた。
彼はそこから、ライアー・ドーパントの力が封印されたガイアメモリを取り出す。

「それは……?」
「ガイアメモリだ、あんたも持っているはずだ」
「えっ?」

橘は、首輪に関して立てた考案を語った。
このガイアメモリには、ドーパントという怪人の力が封印されている。
そして、首輪に付けられたコネクタに差し込めば、その怪人に変身することが出来るようだ。
それならば、自分達に巻かれた首輪は『ガイアメモリを知る世界の人間』ならば、解除することが出来るのではないか。
更にこのガイアメモリとは、参加者全員に配られている可能性だってある。
大勢に配って、誰が『ガイアメモリを知る世界の人間』であるかを、分からなくするために。
自分達は、その人間を捜している最中であると。

「なるほど、そういうことか…………ん、でもちょっと待って。俺にそんなの配られてなかったけど?」
「何?」
「ほら、これ見てよ」

驚く橘を前に、ヒビキは自分のデイバッグの中身を出す。
そこにあるのは、変身音叉・音角とアタックライドカードセットと、着替えの服が二着のみ。
ガイアメモリは存在していなかった。

「馬鹿な…………まさか、俺の考えはただの――」
「あ、もしかしてこれか?」

勘違いなのか。

395メモリと勘違いと呪い ◆LuuKRM2PEg:2011/01/11(火) 17:46:49 ID:r6mWHRtQ
そう続こうとした橘の言葉は、ユウスケによって阻まれる。
これまで、確認する暇の無かったデイバッグ。
その中から、ユウスケは見つけたのだ。
『Wの世界』を象徴するアイテム、ガイアメモリを。
『S』の文字が、骸骨のように書かれているそのメモリは、通常の物とは少し違う。
連動するのは首輪ではなく、ロストドライバーと呼ばれる機械。
仮面ライダースカルに変身するために使う、ガイアメモリだった。

「おっ、俺様にも配られてる」

同じように、海堂も見つける。
首輪のコネクタには使うことの出来ない、ガイアメモリを。
『闘士の記憶』が封印されている、仮面ライダーWのフォームチェンジに使用するためのメモリ。
メタルメモリが、海堂のデイバッグより現れたのだ。

「どういうことなんだ……」

二つのメモリを見て橘は、困惑する。
ガイアメモリはてっきり、全員に配られていると思った。
しかし、ヒビキは持っていないと言う。
その一方で、海堂とユウスケのデイバッグからは、ガイアメモリが出てきた。

「あ、もしかしたら……」

疑問が広がっていく一方で、ヒビキは口を開く。

「……もしかしたら?」
「俺のガイアメモリ、知らない間にどっかに落としちゃったんだと思う」

橘の疑問に、そう答えた。
ヒビキはこの地に連れてこられてから、津上翔一という青年と出会う。
その時に、互いに支給品を見せ合った。
もしかしたらその時、あるいは歩いている最中に落としてしまったのではないか。
そう、ヒビキは語る。
しかし、彼の推測は間違いだった。
そもそもガイアメモリ自体、ヒビキには支給されていない。
そして橘の考える、ガイアメモリが全員に支給されているという説も、ただの勘違いだ。
だがこの場には、それに気付く者は誰一人としていない。
その結果、不幸にも勘違いは広まることになってしまった。

「そうか、なら仕方がないか……そういえば、ヒビキが出会った三人はどうだった?」
「いや、津上も小沢さんも城戸からも、聞き出せなかったかな。多分、メモリを知ってる世界の人間じゃないと思うけど……」
「わかった、すまないな。とにかく今は、ガイアメモリを知る世界の人間を捜そう」
「そうだな。俺たちも手伝うよ、一緒にいる方が心強いし」

五人の行動方針は、ようやく決まる。
まず、この戦いを打破するために仲間を集める事と、ガイアメモリを知る世界の人間の捜索。
そして、0時までにE−4エリアに向かう。







396メモリと勘違いと呪い ◆LuuKRM2PEg:2011/01/11(火) 17:47:38 ID:r6mWHRtQ
やるべき事が決まった一方で、ユウスケはとある資料に目を通していた。
彼はヒビキから、アタックライドカードセットを受け取った後、橘と名護が見つけた『未確認生命体第4号』に関するファイル。
その内容が、ユウスケにとっては信じられない物だった。
ここには、人々の笑顔を奪う未確認生命体と、自分が変身する第4号の戦いの記録について書かれている。
恐らく『クウガの世界』の新聞記者が、記事として残していたと考えるのが筋。
だが、所々におかしい物も存在する。
『未確認生命体第41号』が、クウガによって倒された。
しかし、その影響によって半径3km全てが吹き飛ぶほどの、大爆発が発生。
幸いにも警察の対応が良かったため、死者は一人も出ていないが。

「ユウスケ君、君は本当に知らないのか?」
「ああ……俺は確かに『第4号』って呼ばれてた。でも、こんな事は起こしてない!」

名護の問いに、ユウスケは答える。
情報交換の際に、ユウスケが『第4号』である事を知った。
そしてホレボレで見つけた資料を見せる。
だが、名護は違和感を感じていた。
この資料に書かれている『第4号』と、ユウスケの話しに食い違いがあるため。
ここに書かれている『第4号』とは、クウガという名前の『仮面ライダー』らしい。
そして、小野寺ユウスケは自身が元いた世界で、未確認生命体と戦っていた。
しかし、このファイルに書かれていた出来事を知らないと言う。

「もしかしたら…………パラレルワールドか?」

名護が思考を巡らせている中、橘が割り込んだ。
そして困惑している二人に、自分の説を話す。
パラレルワールド。
自分達が生きている世界とはまた別に、平行して存在するもう一つの世界。
ここに集まっている、自分達のような物だ。

「恐らく、ここにいる『第4号』とは小野寺とはまた違う、もう一人の『第4号』なのだろう」
「それって、クウガの世界はもう一つあるって事か!?」
「有り得ない話ではない。この戦いの意義は、生き残る世界を決める事だ…………何よりこういうのは、君自身が一番よく知ってるんじゃないのか?」

橘の言葉を聞いて、ユウスケは思う。
自分とは違う、もう一人のクウガが何処かの世界にいるのか。
確かに、有り得ない話ではない。
かつて訪れた『響鬼の世界』にいたヒビキとは別の、もう一人のヒビキがここにいたくらいだ。
それなら、クウガがもう一人いてもおかしくないかもしれない。

(もう一人のクウガか…………)

その言葉に、ユウスケは不思議な心境に駆られる。
自分と同じように、みんなの笑顔のために未確認生命体達と戦う、もう一人のクウガ。
一体、どんな人物なのか。
そして、どんな思いを抱えて戦っているのか。
出来るなら、会って話をしてみたい。
でも今は士達と合流して、大ショッカーを倒すことが先決だ。
そう思ったユウスケは荷物をバッグに纏めて、移動しようとする。

「…………ん?」

そんな中、ユウスケは素っ頓狂な声を漏らした。
海堂が、呆然としたような表情で突っ立っていたため。
その手には、一本の剣が握られていた。
刃は銀色に輝き、黒い取っ手のすぐ上には、蝙蝠を象ったような金色の飾りが付けられている。

397メモリと勘違いと呪い ◆LuuKRM2PEg:2011/01/11(火) 17:48:21 ID:r6mWHRtQ

「おい海堂、何やってるんだよ!」
「…………んあ?」

ユウスケは怒鳴った。
それによって、海堂はハッと意識を取り戻す。
緊張感を感じられない様子にユウスケは呆れて、溜息を漏らした。

「そんな所で突っ立ってるなら、置いてくぞ!」

既に、他の三人は先に行っている。
彼らを追うために、ユウスケもまた足を進めた。

「あ、ちょっと待たんかい! 俺様を置いてくな!」

海堂も荷物を纏めると、四人の元に向かう。
そのデイバッグに仕舞った剣が、何であるかを知らずに。











海堂直也に支給された、一本の剣。
それこそが、魔皇剣ザンバットソードだった。
ファンガイアのキングでない者が握ると、たちまちその精神を剣に支配される。
オルフェノクである海堂とて、それは例外ではない。
しかしザンバットバットによって、剣が持つ意志は押さえられている。
そして海堂は、多くの戦いを乗り越えてきたことによって、それなりに強い精神を持つ。
よって、剣の支配に対抗することが出来た。
それでも、ザンバットソードは海堂の精神を蝕んでいく。
決して逃れることが出来ない、魔剣の呪い。
今は対抗できているが、無情にも時間は流れる。
海堂はこのまま、ザンバットソードに飲み込まれてしまうのか。





【1日目 午後】
【G−4 道路】

【チーム:考案! 勘違い5GOGO!】
【全体事項】


※五人の間で、情報交換が行われました。
※その結果、名簿に死人の名前が書かれている理由は、大ショッカーが自分達の技術が本物であると証明する手段であるという、仮説を立てました。
※現在の行動方針は、以下の通りです。

1:まずはこの五人で行動して、仲間を集める。
2:『ガイアメモリを知る世界の人間』を探して、首輪の手がかりを見つける。
3:午前0時までに、E−4エリアの病院屋上に行く。

398メモリと勘違いと呪い ◆LuuKRM2PEg:2011/01/11(火) 17:49:20 ID:r6mWHRtQ



【日高仁志@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】本編第41話終了後
【状態】健康
【装備】変身音叉・音角@仮面ライダー響鬼
【道具】支給品一式、着替え(残り2着)
【思考・状況】
1:打倒大ショッカー
2:殺し合いはさせない
3:大ショッカー、ガイアメモリを知る世界、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触
4:俺がしっかりしないと……
5:ガイアメモリ、どこかに落としちゃったのかな
【備考】
※アギトの世界についての基本的な情報を得ました。アギト世界での『第四号』関連の情報を得ました。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※ガイアメモリは自分にも支給されていたが、知らない間にどこかに落としてしまったと勘違いしています。


【海堂直也@仮面ライダー555】
【時間軸】最終話 アークオルフェノク撃破後
【状態】健康、ザンバットソードによる精神支配(小)
【装備】スマートバックル@仮面ライダー555、ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW
【思考・状況】
1:とりあえず、まずは五人で行動する
【備考】
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※ザンバットソードに精神を支配されています。
※ザンバットバットの力で、現状は対抗できていますが、時間の経過と共に変化するかもしれません。


【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】疲労(小)
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式、アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ガイアメモリ(スカル)@仮面ライダーW、おやっさんの4号スクラップ@仮面ライダークウガ 、不明支給品×2(確認済み)
【思考・状況】
1:海堂直也は、現状では信じている。
2:殺し合いには絶対に乗らない
3:まずは五人で行動する。
4:もう一人のクウガか…………
【備考】
※デイバッグの中身は確認しました。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※おやっさんの4号スクラップは、未確認生命体第41号を倒したときの記事が入っていますが、他にも何かあるかもしれません(具体的には、後続の書き手さんにお任せします)
※カードセットの中身はカメンライド ライオトルーパー、アタックライド インビジブル、イリュージョン、ギガントです
※ライオトルーパーとイリュージョンはディエンド用です。
※インビジブルとギガントはディケイド用のカードですが激情態にならなければ使用できません。


【橘朔也@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】健康
【装備】ギャレンバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(クローバーA〜?)@仮面ライダー剣、
    ガイアメモリ(ライアー)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式、ゼクトルーパースーツ&ヘルメット(マシンガンブレードはついてません)@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
1:とにかく首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間と接触する。
2:とりあえず、まずはこの五人で行動をする。
3:殺し合いで勝たなければ自分たちの世界が滅びる……。
【備考】
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。



【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】健康
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式
【思考・状況】
1:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
2:とにかく首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間と接触する。
3:まずはこの五人で行動する。
【備考】
※時間軸的にもライジングイクサに変身できますが、変身中は消費時間が倍になります。
※支給品の竜巻@仮面ライダー響鬼は自身の手で破壊しました。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。

399 ◆LuuKRM2PEg:2011/01/11(火) 17:50:06 ID:r6mWHRtQ
以上で、投下終了です
疑問点などがありましたら、ご指摘をお願いします

400二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/11(火) 19:01:49 ID:V8RyecnA
投下乙

てかタチバナサンの勘違いが伝染してプリキュア結成しちゃったよw

401二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/11(火) 19:17:25 ID:KJufivxk
投下乙です、

橘さぁーん! 気持ちはわかるけど、『あんたも持っているはずだ』って勘違い増長しちゃダメー!!
ていうかヒビキさん、翔一と支給品見せ合った時に翔一君が持っていない事は知っている筈でしょー! そこはもっと考えて鍛えてー!
それに海堂……まさかザンバットソードで外道堕ちフラグか!?

……そういや名護さん、今回マトモだったなぁ(まぁ原作終了後参戦だからマトモだろうけど。)

402二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/11(火) 19:35:24 ID:ZVBW6x5o
お二人とも投下乙です。

>嘆きの龍騎
今回の真司もまた過去の重すぎる失敗を知ってしまったか。
元の世界の罪さえも圧し掛かってくるとは非情な話だ。
龍騎世界唯一の対主催の城戸にも影が差すか、または…

>メモリと勘違いと呪い
ただの勘違いなのに信憑性アップ、不運は重なるものだなあ。
ユウスケと海堂のメモリはそのままじゃ使えないからまあ大丈夫だろう、
と思ったら妖刀ザンバットソードは海堂に渡っちゃった。
対主催チーム結成なのに、持ち物が爆弾だらけw 先行き不安すぎるww

403二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/11(火) 21:51:16 ID:vMXJgxIU
ザンバットソードって普段はタツロットに収納されてるんじゃ…

404二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/11(火) 23:29:23 ID:Wx2l91hw
最初は城の壁に埋まってた剣だから、素で出してもOKじゃないかと

405 ◆LuuKRM2PEg:2011/01/19(水) 17:45:47 ID:3i/MCtbc
天美 あきら、野上良太郎、村上峡児、金居、志村純一を投下します

406Round ZERO 〜KING AND JOKER ◆LuuKRM2PEg:2011/01/19(水) 17:52:51 ID:3i/MCtbc


『ブレイドの世界』における、あらゆる生命体の始祖たる怪人。
永劫の時を経て生きる不死の存在、アンデッド。
地球上で覇権を握るため、己と同属の存在を賭けて五十二体のアンデッドが、それぞれ戦いを繰り広げている。
統制者が管理する、バトルファイトという名目の戦い。
それはまるで、大ショッカーが生き残る世界を選定するこの殺し合いと似ていた。
しかし今は、二つのイレギュラーも存在する。
ジョーカーと言う名の、死神が。
そして、このライダーバトルにはたった一体だけ、アンデッドも参加させられている。
アンデッドの中でも、特に高い力と知恵を兼ね揃えている、十二体の上級アンデッド。
その中でも、王(キング)の称号が与えられた四人。
今ここにいるのは、その一角であるダイアスートのカテゴリーキング。
ギラファノコギリクワガタの始祖である、ギラファアンデッドの仮の姿。
金居の名を持つ男が、身体を休めている。

「……武器は、これだけか」

彼は、自分の支給品を再び見直していた。
この戦いに放り込んだ、忌々しい大ショッカー。
奴らの施しを受けるのは癪だが、今は状況が状況だ。
与えられた装備を把握しなければ、足元を掬われかねない。
デイバッグの中に入っていた、銀色の輝きを放つ一丁の拳銃。
説明書によると、人間が扱う物では世界最高の威力を誇るらしい。
デザートイーグルの名が与えられた、自動拳銃。
仮面ライダーやアンデッドのような怪人相手に効くとは思えないが、無いよりはマシだろう。
特に、力が制限されている今の状況では。

「どうやら、この首輪は力を抑える効果もあるようだな」

自信を縛り付ける首輪に指をつけながら、金居は呟く。
数時間前、戦いを繰り広げた同じ世界の住民と思われる男、桐生豪。
降りかかる火の粉を払うために、アンデッドの力を使って追い払う事に成功する。
だが、問題はそこからだ。
あの時の戦いで、いつもより攻撃の手ごたえが無いのを感じる。
そこで念の為、もう一度本来の姿に戻ろうとした。
しかし、何の変化も起こらない。
どうやら、一度力を発揮すると再び使えるまで、ある程度の時間がかかるようだ。
何故そのような事を。という疑問が芽生えたものの、ある仮説を立てる。
もしや、殺し合いにおけるパワーバランスを取るためではないか。
この会場には、幾つもの世界から参加者が連れて来られている。
その中には、恐らくカテゴリーキングやジョーカーと同等、あるいはそれらを軽く凌駕するような化け物もいるに違いない。
これでは、一方的なワンサイドゲームになってしまう。
そうしないために、隙を生んでいるのではないか。
圧倒的な差を埋めるほどの、首輪の効力。
一見すると魅力的だが、過度な期待も出来ない。

(これは、ここにいる全員に共通する事か……)

いくら圧倒的強者の隙を狙えると言っても、それは自分にも言えること。
今だって、力を封じられている隙を狙われて、不意を突かれる可能性がある。
こんな状況で襲撃者が現れたら、一溜まりも無い。
今のところは、そんな気配は感じられないが。

「やれやれ、前途多難だな」

407Round ZERO 〜KING AND JOKER ◆LuuKRM2PEg:2011/01/19(水) 17:53:49 ID:3i/MCtbc

金居は荷物をまとめると、溜息とともに愚痴を漏らす。
しかし、ここでぼやいた所で始まらない。
今やるべき事は、参加者同士の潰し合いと情報収集。
仮に参加者に出くわしても、まずは対話からだ。
利用出来る者なら、利用する。
殺し合いに乗った者なら始末する。
それだけの事。
やがて金居は立ち上がる。
世界を守り、種の絶対なる繁栄を目指して。



仮面ライダーと、それに仇なす怪人達が放り込まれた戦場。
その中では、あまり『当たり』の部類に入るとは呼べないデザートイーグル。
だが、金居に支給されたのはそれだけではない。
一つ目は、大ショッカーに利用された門矢小夜が、幼少の頃より身につけていた物。
地の石がデイバッグの中で、輝きを放っていた。
彼女は預言の大神官、大神官ビシュムに覚醒した際にそれを使って、仮面ライダークウガを己の手中に収める。
全てを破壊する邪悪なる雷神、ライジングアルティメットの力を与えて。
もう一つは『555の世界』を代表する仮面ライダー、ファイズの能力を解放するためのアイテム。
スマートブレイン社が開発した、腕時計型アタッチメント。
仮面ライダーファイズが、超高速に特化した形態であるアクセルフォームに変化するための装備、ファイズアクセル。
三つの支給品は、金居に何をもたらすのか。



【1日目 午後】
【B−5 道路】



【金居@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】健康 ギラファアンデッドに五分変身不可
【装備】デザートイーグル@現実
【道具】支給品一式、地の石@劇場版仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー、ファイズアクセル@仮面ライダー555
【思考・状況】
1:自分の世界の勝利を目指す為、他の世界の参加者同士で潰し合わせる。能動的に戦うつもりはない。
2:他の世界、及び大ショッカーの情報を集める。
3:自分の世界の仮面ライダーは利用出来るなら利用する。アンデッドには遭遇したくない。
【備考】
※アンデッドが致命傷を受ければ封印(=カード化)されると考えています
※首輪が自身の力に制限をかけていることに気づきました









エリアB−6に建てられた、巨大なホテル。
その一階ロビーに、四つの人影があった。
『電王の世界』を代表する仮面ライダー、電王に変身する野上良太郎。
『555の世界』に存在する企業、スマートブレインを束ねる村上峡児。
『響鬼の世界』で己を鍛えて鬼を目指す少女、天美あきら。
そして、もう一人。

408Round ZERO 〜KING AND JOKER ◆LuuKRM2PEg:2011/01/19(水) 17:54:49 ID:3i/MCtbc

「いや……ここに来て正解ですよ。まさか、野上さん達みたいな人がいるとは」
「僕達も心強いですよ。志村さんみたいな人と出会えるなんて」

良太郎はホテルに現れた人物に、笑顔を向けていた。
先程、殺し合いに乗ると宣言して飛び出した、鳴海亜紀子を葦原涼が追ってから、数時間後の事。
志村純一と名乗る青年が、三人の前に現れたのだ。
そして、互いに情報交換を行う。
ただし、ウラタロスの意志を借りて。
このような状況では、彼のように口の上手い者が前に出るのが、ベストだった。
いくら友好的な態度を見せても、それが仮の姿である可能性もある。
そのような人物に、考えも無しに全ての情報を渡しては、殺される可能性が高い。
だから、言うにしても相手が出すペースに合わせていた。
人の記憶を読み取り、過去を変えようとするイマジンという怪人。
時を越える列車、デンライナーとゼロライナー。
牙王という、危険人物。
精々、それに関する事しか話していない。
同じ世界の住民であるモモタロスやリュウタロス、電王の詳細な能力は、信頼できるまで話さないつもりだ。

「志村さんは、そのグレイブってライダーに変身して、アンデットという化け物と戦っていると」
「そうですね。そして僕の先輩である、剣崎さんと橘チーフもこんな戦いに連れてこられていて……」
「なるほど」

良太郎の身体に潜むウラタロスは、志村の言葉に頷く。
これまでの情報交換で、相手の世界についていくつか把握できた。
まず志村の世界には、アンデッドという不死の化け物が、互いに戦いながら人を襲っているらしい。
その脅威を少しでも防ぐために、ラウズカードというのを使う仮面ライダーが存在する。
自分の世界と似ているが、こちらではどうやら職業と似たような扱いらしい。
そして志村の先輩がこの戦場に、二人も連れてこられている。
剣崎一真と橘朔也。
もしも彼の情報が本当なら、合流を目指したい。

(そして、相川始って奴が世界を破滅させる化け物、ジョーカーって奴ね……)

志村と話している最中に、危険人物の存在を知る。
相川始という男。
表向きは、仮面ライダーと共にアンデッドを封印していた戦士の一人らしい。
しかしその本性は、世界を破滅寸前にまで追い込んだ、ジョーカーという怪物のようだ。
本来は既に封印されていたはずだが、名前が書かれている。
真実かどうかは分からないが、一応警戒だけはしておくべき。

「そういえば志村さん、貴方は確か白い怪物に襲われたんでしたっけ……?」
「ええ、いきなり不意を付かれて……何とか対抗したのですが、逃げられてしまい……申し訳ありません」

志村は暗い表情を浮かべながら、謝罪の言葉を告げる。
彼の話によると、いきなり襲いかかった白い怪物は、雷や嵐を呼び寄せるらしい。
戦闘力はかなりの物だったが、どうにかして追い払った。
そう語る志村に対して、あきらは真摯な瞳を向ける。

「志村さん、気を落としちゃ駄目です。無事だったから、それで充分ですよ」
「……ありがとう、あきらちゃん」

志村が笑うのに合わせて、あきらも柔らかい笑みを浮かべた。
その様子を、U良太郎は横目で見ている。
そうして、彼らの情報交換を終えた。
そして、これからのことも決める。
まず、亜紀子を追った涼が来るまでホテルに待つこと。
それまでは、周りの警戒のみ。
その最中、U良太郎は誰もいない部屋に、あきらを呼びつけた。
別に口説こうというわけではない。
本当はそうしたいが、今はそれよりも大事なことを教えるべきだ。

409Round ZERO 〜KING AND JOKER ◆LuuKRM2PEg:2011/01/19(水) 17:56:43 ID:3i/MCtbc
「あの、どうかしたんですか? 良太郎さん……」
「あきらちゃん。こういう所では、あまり自分のことをペラペラ喋るのは良くないよ?」
「えっ?」

唐突な発言に、あきらは目をパチクリとさせる。
その仕草を見て、U良太郎は愛嬌を感じたが
、本能を押さえた。

「あまり、人を信じすぎちゃいけないよ。 いいね?」
「はぁ……わかりました」

U良太郎は釘を刺すが、あきらは納得することができない。
空返事を返すことしか出来なかった。









(ウラタロス……一体どうしたの? 志村さんと話してから、ちょっと変だよ)
(そうやウラの字! お前、何考えとるん?)

良太郎とキンタロスは、意識の中でウラタロスに話しかける。
ホテルに志村が現れてから、様子がどうにもおかしいと感じたため。

(いや……どうにも、あの志村って人が胡散臭いなって思ってね)
(胡散臭い? お前がそれを言える立場か?)
(ハハッ、そうかもね)

疑問を口にするキンタロスに、ウラタロスは笑いながら返す。
しかし、今はふざけている場合ではない。

(……あの人から、血の臭いがしたんだよ)
(血の臭い? でも、志村さんはここに来る途中に白い化け物と戦ったって言ってたよ)
(そうだよ。でもね、僕の勘が言ってるんだよ……何か、やばそうってね)

良太郎の言い分は、もっともだった。
むしろ、そういう風に判断するのが普通かもしれない。
しかしそれでも、ウラタロスは志村を完全に信用していなかった。
彼はこれまで、詐欺師として多くの嘘をついてきている。
そして、数え切れないほどの嘘を見破ってきた。
その為か、嘘をつく人間が持つ、独特のオーラを読み取ることが出来るようになる。
先程から話した結果、志村はそれを持っているように見えた。

(……そんなん、ウラの字の勘違いやないのか?)
(だといいけどね)

キンタロスの言葉通りに、出来ることならただの勘違いであって欲しい。
そう願っているが、ここは生き残る世界を選定する戦場。
楽観的に考えることは、出来なかった。
そんな良太郎のデイバッグに、ある武器が眠っている。
『キバの世界』を代表する仮面ライダー、仮面ライダーキバがフォームチェンジをするのに必要な道具。
ドッガフォームの変身に必要な武器、魔鉄槌ドッガハンマー。
そして、本来の持ち主である紅渡も近くのエリアにいる。
一体、どのような運命を導き出すか。

410Round ZERO 〜KING AND JOKER ◆LuuKRM2PEg:2011/01/19(水) 17:59:14 ID:3i/MCtbc










「よろしくお願いします、村上さん」
「ええ、こちらこそ」

村上峡児は、ビジネスの取引をするときに浮かべるような笑みを、志村に向けている。
良太郎とあきらが、新しく仲間に引き入れたこの男。
あの二人は信用しているようだが、そんなのは下の下の考えだ。
油断していては、いつ寝首をかかれてもおかしくない。
まあ、精々利用させてもらおう。

(そして、まさかアレがこんな所にあるとは……)

村上の意識は、デイバッグの中に向いていた。
先程から、騒動が続いたせいで確認できなかった、支給品。
その一つに、スマートブレイン社の地下でまだ開発中だった、ベルトが存在していたのだ。
本来は『555の世界』の遠くない未来、どこかの国で使われているはずの、帝王のベルト。
スマートブレイン社が率いるオルフェノクによって、支配された世界で木場勇治が使用していた地のベルトだった。
仮面ライダーオーガへの変身を可能とさせる、比類無き力が封印されたオーガギア。

(開発中のこれを盗んだ挙げ句、勝手に完成させて戦場に放り込むとは……!)

大ショッカーに対する怒りが、村上の中で沸き上がってくる。
しかしその一方で、評価している部分もあった。
厳重な警備を固めているスマートブレイン社にこのような事が出来ることは、大ショッカーの技術は本物と言っても良い。
それこそ、スマートブレインを凌駕するほどだろう。
だが、関心ばかりもしていられない。
このままでは、大ショッカーの言いなりとなって本当に殺し合いに乗らざるを得ない状況が、来ることもあり得る。
別に下の下の存在を葬ることに抵抗はない。
しかし、それはプライドが許さなかった。
今はこの三人と、行動を共にするしかないだろう。
現状を打破するには、駒があまりにも足りない。

(まさか、こんな所で便利な奴らと三人も出会えるとはな……!)

一方で、志村も考えていた。
医者と自称した井坂深紅郎を殺してから、体を休めるためにホテルに入る。
だがそこで、戦いを打倒しようとしている三人の人間と出会った。
そして、可能な限りの情報を渡して、集団に取り入る。
ここにいる全員、最初に出会った園田真理とは違って、何かしらの戦力を持っているようだ。

(どうやら、ここに来て正解だったようだな。さて、精々お前達には頑張って貰わないとな!)

村上には爽やかな笑顔を見せながら、志村は心の中で大笑いをする。
これだけの手駒があるなら、戦闘は任せられる上にいざという時の盾としても便利。
使えなくなったら、葬ればいいだけだ。
オルフェノクを束ねる薔薇と、白の鬼札・ジョーカーは笑う。
その心の中に、闇を潜ませながら。



【1日目 午後】
【B−6 ホテル】

411Round ZERO 〜KING AND JOKER ◆LuuKRM2PEg:2011/01/19(水) 18:00:59 ID:3i/MCtbc



【天美 あきら@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】 41話終了後
【状態】全身に軽度の怪我 あきら変身体五分変身不可
【装備】鬼笛@仮面ライダー響鬼
【道具】支給品一式、ニビイロヘビ@仮面ライダー響鬼、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト、不明支給品(0〜1 確認済)
【思考・状況】
0:ホテルの付近で涼を待つ。
1:人を助けるため、自分に出来ることをやる。
2:知り合いと合流する。
3:村上が人を襲うことがあれば、止める。




【野上良太郎@仮面ライダー電王】
【時間軸】第38話終了後
【状態】健康 電王五分変身不可
【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、ドッガハンマー@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
1:とりあえず、殺し合いには乗らない。
2:あきら、村上、志村と一緒に行動する。涼が戻ってくるのを待つ。
3:亜樹子が心配。一体どうしたんだろう…
4:モモタロス、リュウタロスを捜す。
5:殺し合いに乗っている人物に警戒
6:電王に変身できなかったのは何故…?
7:剣崎一真、橘朔也との合流を目指したい。相川始を警戒。
【備考】
※ ハナが劇中で述べていた「イマジンによって破壊された世界」は「ライダーによって破壊された世界」ではないかと考えています。確証はしていません。
※ キンタロス、ウラタロスが憑依しています。
※ ウラタロスは志村に警戒を抱いています。
※ ブレイドの世界の大まかな情報を得ました。



【村上峡児@仮面ライダー555】
【時間軸】不明 少なくとも死亡前
【状態】腹部に痛み 五分変身不可(バード、ローズ) バードメモリに溺れ気味、大ショッカーへの怒り
【装備】オーガギア@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト
【道具】支給品一式、バードメモリ@仮面ライダーW 不明支給品×1(確認済み)
【思考・状況】
1:殺し合いには乗らないが、不要なものは殺す。
2:あきら、良太郎らと行動するが、彼らに情は移していない。
3:亜樹子の逃走や、それを追った涼にはあまり感心が沸かない。
4:志村に若干の警戒



【志村純一@仮面ライダー剣MISSING ACE】
【時間軸】不明
【状態】全身の各所に火傷と凍傷 アルビノジョーカー及びグレイブに五分変身不可
【装備】グレイブバックル@仮面ライダー剣MISSING ACE、オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×3(ただし必要なもののみ入れてます)、ZECT-GUN(分離中)@仮面ライダーカブト、トライアクセラー@仮面ライダークウガ
【思考・状況】
1:自分が支配する世界を守る為、剣の世界を勝利へ導く。
2:人前では仮面ライダーグレイブとしての善良な自分を演じる。
3:誰も見て居なければアルビノジョーカーとなって少しずつ参加者を間引いていく。
4:この集団の中に潜み、利用する。
【備考】
※555の世界の大まかな情報を得ました。
※電王世界の大まかな情報を得ました。
※ただし、同じ世界の仲間や電王の具体的な戦闘スタイルは、ウラタロスが意図的に伏せています。




本来の歴史なら、出会うはずが無かった王と死神。
彼らの距離は、確実に縮んでいく。
そして不死の存在達の近くでは、戦いが繰り広げられていた。
もしも、この戦場で出会ってしまったら、一体どうなるのか。
それはまだ、誰にも分からない。

412 ◆LuuKRM2PEg:2011/01/19(水) 18:01:42 ID:3i/MCtbc
以上で、投下終了です
疑問点などがありましたら、指摘をお願いします。

413二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/19(水) 20:30:16 ID:puiw4IE6
投下乙です。

志村はホテル組に接触……ウラと社長が警戒して良太郎(withキン)とあきらは信頼か……あきらが納得しないのはあきらの世界にはそういう騙し討ちする奴がいないからなぁ。
そして遂に出てきた000(オーズではありませんオーガと読みます)! となるとサイガもあるのか!? ……ぶっちゃけ社長専用アイテムだよなぁ(木場退場済)
ドッガハンマーが出てきたという事はもうじきドッガフォーム解禁か、後はガルル……って小沢は思いっきり離れているがな……

……で、すぐ傍で渡と冴子キバ、それに牙王他1名が戦っていて更に金居接近中……危険過ぎるだろJK……後、涼も戻ってくる頃だろうし……危なすぎじゃねーの。



ここからは気になった点ですが、各々の変身不能時間が全員5分となっているんですが。他の話の兼ね合いを考えた時、

ホテル組(良太郎、あきら、村上)、
大体13:20位に変身終了(故に可能時間は15:20以降)
詳しい事は議論スレ>>64にある通りです。

志村
昼『白の鬼札』でアルビノジョーカーに変身し真理殺害
午後『Iは流れる/朽ち果てる』でもアルビノジョーカーに変身し井坂殺害
『白の鬼札』開始1分後に真理を瞬殺変身解除しても変身可能時間はどんなに早くても14:01、
そして再変身可能になった直後に井坂瞬殺して変身解除して14:02となり変身可能時間は最短で16:02

桐生(金居の説明に必要)
昼『運命の適合者』でレンゲルに変身、10分時間いっぱいまで戦闘。
午後『敵か味方か?』でレンゲルに変身
『運命の適合者』で開始直後に変身した場合変身解除されたのは12:10なので変身可能時間はどんなに早くても14:10、

金居
午後『敵か味方か?』で変身
桐生がこの時レンゲルに変身したので変身した時刻は確実に14:10以降。1分で変身解除したとして再変身可能は16:11

纏めると再変身可能時刻は以下の通り、
ホテル組:15:20前後
志村:最短でも16:02以降
金居:最短でも16:11以降
更にこの話が午後、それも『加速度円舞曲♯王と牙の運命』と同時刻ならばこの話の時間は15:50代……

多少の誤差があったとしても変身不能時間が全員共5分というのは流石におかしい様な気が……恐らく次の話で渡組の戦闘に何の問題も無く参戦させる狙いがあっての事だと思いますが。

勿論、氏がそれぞれの変身時間とこの話の時間について違う認識をしているかも知れませんが、少なくても変身不能時間とこの話の時間のどちらか修正した方が良いのではと思います。
特にアンデッド2人の変身可能時間は最短の場合かなりタイトなのでもう少し多めかもしれません。

414 ◆LuuKRM2PEg:2011/01/19(水) 21:25:50 ID:3i/MCtbc
ご指摘ありがとうございます
細かい点を見逃してしまい、申し訳ありません。
それでは、変身時間を以下のように修正しますがよろしいでしょうか?

ホテル組 変身可能
志村 十分変身不可
金居 三十分変身不可

415二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/19(水) 22:14:16 ID:w0Rlz2v6
修正乙です、その修正ならば大丈夫だと思います。

416 ◆7pf62HiyTE:2011/01/22(土) 18:22:00 ID:m69pnI1k
紅音也、天道総司、乾巧、擬態天道、門矢士分投下します。

417綺想曲♭もう一人のカブトと音也 ◆7pf62HiyTE:2011/01/22(土) 18:25:50 ID:.MvDO9mk
The First Movement "Decade"



『ブレイドの……仮面ライダーの力で……みんなを護ってくれ……』



 そう言い残し事切れた仮面ライダーブレイド剣崎一真の遺体は病室のベッドに安置されている。
 その傍で仮面ライダーディケイド門矢士が身体を休めていた。その手には剣崎から託されたブレイバックルが握られている。
 E-4に位置する病院にて14時を回る直前から始まった激闘は約20分の時を経て終わりを迎え、病院は漸く元の静寂を取り戻していた。
 士は剣崎に言われるまでもなく仮面ライダーの力で皆を守るつもりだ。そしてすぐにでも別れた北條透の元に戻りたかった。
 しかし、殺し合いが始まって数分のタイミングで戦った牙王との戦いで受けたダメージ、更に先程戦ったダークカブト戦での疲労は決して無視出来るレベルではない。
 故に士はもう暫くこの場で身を休める事にしたのだ。



 だが、結論から言えば士の判断は間違いだったとしか言いようがない。
 士が到着した時にはダークカブトと剣崎だけだった為知り得ない話だが実は到着する前には他に3人の参加者がいたのだ。
 剣崎が命を懸けたお陰で3人は離脱する事が出来、士と入れ違いになる形で北條と合流していた。
 だが、その内の1人で士の仲間である光夏海が同じく3人の内の1人の東條悟によって殺されていた。
 IFの話に意味など無いが、ダークカブト戦後すぐにでも北條の所に戻れば夏海を助ける事が出来たかもしれなかっただろう。
 その残酷な事実を士は知らない――



 閑話休題、身体を休める傍ら士には気になる事があった。
 それは剣崎についてだ。
 ちなみに病室に運んだ時には、先の戦闘で剣崎が仮面ライダーガタックに変身した際に巻いていたベルトはガタックゼクター共々何処かへと消えていた。もっとも、士は別段その事をあまり気にしてはいない。
 さて、士にとって剣崎は決して知らない人物ではない。かつて剣崎は世界崩壊を防ぐ為に破壊者である自分を紅渡、そして仲間の仮面ライダーと共に排除しようとしていた。
 それについて思う事が無いではないがこの際それは考えない。重要な事は――



「あの時のアイツと何処か違う気がしたが――どういう事だ?」



 破壊者である自分を知っていた事については別に不思議はない。むしろ問題は自分の素性を知っているにも関わらず自分と友好的だった事だ。
 士の手元にはディケイドをコンプリートフォームに強化するツールケータッチがある。これも先程剣崎から託されたものだ。
 だが、仮にあの時の剣崎と同じであればディケイドを強化するツールの存在を許すわけなど無いだろう。そうしなかった事が不思議だったのだ。
 既に剣崎は物言わぬ骸となっている。故に彼の真意を確かめる事は最早不可能だ――だが、



「いや、真意がどうあれ一真が人々を守ろうとする仮面ライダーである事に変わりはない……」



 そう、剣崎の願いが人々を世界を守る事に違いはない。ならば自分のすべき事はその願いに応える事だろう。



 その一方、ダークカブトとケータッチについてそれに関係するもう1つ気になる事を思い出した。
 そもそもの話、ケータッチを手に入れたのは9つの世界を訪れた後に訪れたある世界だ。
 その世界は夏海の世界の裏の世界、写真にポジとネガがある事に例えられネガの世界と呼ばれていた。
 ネガの世界では人間が生きる事は許されずダークライダーによって怪人達が管理されていた。
 そしてネガの世界にある大切な宝物がケータッチだったのだ。

418綺想曲♭もう一人のカブトと音也 ◆7pf62HiyTE:2011/01/22(土) 18:27:50 ID:.MvDO9mk

 さて、先程ダークライダーについて触れたがその中にカブトのダーク版というべきダークカブトがいた。
 だが、重要なのはダークカブトそのものではない。
 キバのダーク版というべきダークキバに変身しダークカブトを含めた3人のダークライダーと共に士を試し立ち塞がってきたネガの世界の管理者がいたのだ。その男の名は――



「紅音也……」



 奇しくも音也は士達を旅へと導き、士を排除する時にはキバへと変身した渡と同じ姓を持っていた。
 キバに変身する渡、ダークキバに変身した音也、どちらもキバに変身した紅の性を持つ男だ。両者が関係者である可能性は非常に高い。
 それを裏付けるかの様に名簿においても渡と音也は近くに書かれている。十中八九両者は同じ世界……士達が行ったキバの世界とは別のキバの世界からの参加者だろう。
 無論、剣崎を見てもわかるように、この地にいる音也や渡が士の出会った両名と何処かしら違う可能性もある。とはいえ、どちらにしても無視は出来ないだろう。

 その最中、名簿を見る内に他にも気になる人物を見つけた。



「五代雄介……」



 それはクウガの世界で出会った旅の仲間、小野寺ユウスケと同じ名を持つ人物だ。
 渡や剣崎同様、五代もまたユウスケの世界とは違うクウガの世界出身でクウガに変身すると考えて良いだろう。
 とはいえ、彼については今はそれ以上触れる事も無いだろう。
 そして、



「志村純一……」



 士達の前に度々姿を現し『お宝』を手に入れる為に時に敵対時に共闘したもう1人の通りすがりの仮面ライダーディエンド海東大樹、その兄である海東純一と同じ名を持つ人物だ。
 海東純一は海東大樹の出身世界、言うなればディエンドの世界(但し、ディエンドがその世界で作られたわけではない)で出会った。
 その世界はローチおよびフォーティーンによって支配されていて海東大樹は彼等に従い、海東純一は仮面ライダーグレイブとなり仲間達と共にフォーティーンを打倒しようとしていた。
 しかし紆余曲折を経て海東純一がフォーティーンに操られる事になり、海東大樹は海東純一を取り戻す為ディエンドとなった。が、海東純一の真の目的こそ第2のフォーティーンとなり世界を支配する事だった。
 もっとも、海東純一自身は内心で人間の中で自由な意志を認めている為、彼がフォーティーンになる事は無いだろうが……

 さて、問題の志村純一の名前は剣崎から比較的近くに書かれている。それを踏まえるならば彼が剣崎と同じ世界、言うなればブレイドの世界からの出身の可能性が高い。
 考えてみればグレイブとブレイドのバックルの趣が似ていた。それから踏まえても同一世界の可能性が高いだろう。

 しかし、仮に志村純一が海東純一同様グレイブであったとしても全てが同じとは限らない。善良な人物か凶悪な人物かどうかすら判断がつかないという事だ。



「海東……お前は気付いているのか? こいつの存在に……?」



 海東大樹がディエンドになったのは海東純一を取り戻す為だった。それを踏まえるならば志村純一の存在を無視するとは思えない。
 海東大樹がどうしようが別に知った事では無いし海東純一と志村純一が同じグレイブであっても別人である以上そこまで気にする話ではない。
 しかし、海東大樹もまた仲間である以上どうしても気にせずにはいられなかった。

 とはいえ、気にした所ですぐにどうこうというわけでもない。故に、



「ユウスケ……海東……夏海……無事でいろよ……」



 今は只無事を祈るだけだ。もっとも、確実に1人には最早届く事は無いが――

419綺想曲♭もう一人のカブトと音也 ◆7pf62HiyTE:2011/01/22(土) 18:28:35 ID:.MvDO9mk







The Second Movement "Road"



「なぁ、おっさん……あんた何歳なんだ?」
「おっさん言うな。俺は23歳だ、おっさん言われる歳じゃない」
「いや、あんた息子いるって言っていたよな? それも立派な大人……どう考えても20代は有り得ないだろうが」
「言っていなかったか? 渡は22年後の未来から来ているらしい」



 そんなやり取りを音也と乾巧が繰り広げる中、傍では天道総司が名簿を見ていた。
 3人は先程、園崎霧彦を看取った後、改めて互いに情報交換を行っていた。
 まずは3人と先程死亡した霧彦の知り合いについてだ。

 霧彦の知り合いは4人、
 霧彦の妻の園崎冴子、
 探偵の左翔太郎と相棒のフィリップ、2人は1人で風都の仮面ライダーダブルでもある。
 翔太郎の事務所の所長の鳴海亜樹子の計4人だ。

 巧の知り合いは6人、
 巧と同じくベルトを所有しスマートブレインのオルフェノクと戦った草加雅人と三原修二、草加がカイザを、三原がデルタを所有している。
 巧同様オルフェノクだが巧と共に戦った木場勇治と海堂直也、
 戦う力は無いが巧の仲間である園田真理、
 そしてスマートブレインの社長で巧達の持つベルトを狙いオルフェノクを差し向け立ち塞がってきた村上峡児の計6人、

 天道の知り合いは4人、
 天道同様マスクドライダーでワームと戦った加賀美新と矢車想、加賀美がガタック、矢車がホッパーだ。
 ワームの幹部である間宮麗奈と乃木怜治の計4人、
 それとは別に最初に首輪を爆破された人物が紆余曲折を経て矢車の弟になった影山瞬である事を伝えた。

 音也の知り合いは3人
 22年後の未来からやってきた音也の息子でキバに変身する渡、
 22年後の未来でイクサをしていて、一時的に音也の時代を訪れた事のあるファンガイアと戦う戦士名護啓介、
 22年後の未来でイクサやっており、一度音也の所へやって来たファンガイアと戦う戦士である名護啓介、
 そしてファンガイアの王であるキングの計3人、

 更に各々の世界に現れる怪物ドーパント、オルフェノク、ワーム、ファンガイア、更にそれと戦う戦士についての情報交換を行った。
 これまでの話を総合し、巧の世界におけるファイズやカイザ等、天道の世界におけるカブト等のマスクドライダーシステム、音也の世界におけるイクサそしてキバが大ショッカーの語る仮面ライダーと考えて良いだろう。

 さて、ここまでの話から気になる部分が出てきた。
 巧によると草加、木場、村上が既に死亡しており、天道からも麗奈と乃木を倒しており、音也の話によれば既にキングは打倒したという話だ。
 既に死亡している筈の人物が何故参加しているのかという根本的な疑問が出てきたのだ。

 しかし、これに関しては2つの説がある。
 1つは大ショッカーが蘇生させた上で参加させた説、もう1つは死亡する前から参加させたという説だ。
 どちらも非現実的ではあるが、音也の話から時間移動の技術が存在する以上、後者の説の可能性が高いと考えて良いだろう。
 だが、霧彦の話から前者の可能性も否定出来ない。どちらにせよ大ショッカーが強大な力を持っている事に違いはない。

 何にせよ、強大である大ショッカーを打倒する為には仲間達と合流する必要がある。
 しかしその過程の上で警戒すべき人物はいる。
 元々の世界で敵対していた事を踏まえ村上、麗奈、乃木、キングに対してだ。彼等については警戒しておくべきだろう。

420綺想曲♭もう一人のカブトと音也 ◆7pf62HiyTE:2011/01/22(土) 18:29:40 ID:.MvDO9mk





「それじゃ、俺は行かせてもらうぞ」



 粗方の情報交換を終えた頃、そう言って音也が2人から離れようとする。



「何処へ行くつもりだ、紅?」



 音也に対し問いかけるのは天道、



「なんだ、まだ俺に聞きたい事があるのか?」
「いや、俺達と大ショッカーを倒すんじゃないのか?」



 そう聞き返すのは巧だ。



「悪いが俺に野郎共とつるむ趣味はない。俺は俺で勝手にやらせてもらおう」
「って、まさか女ナンパする気じゃねぇだろうな?」
「人聞きの悪い事を言うな、待っている俺の女達を助けに行くだけだ」
「俺の女達って、お前の知り合いの女いねぇだろうが……誰の事を言っているんだ……」



 と、ここで天道が口を開き、



「おばあちゃんが言っていた……」
「何をだ?」



「……全ての女性は等しく美しい」



「は?」



 その言葉にあっけに取られる巧の一方、



「……わかってるじゃないか、お前の婆さん」



 そう返すと共に歩き出す音也だった。



「っていいのかよ!? このまま行かせて……」
「想像以上にこのフィールドは広い、下手に固まるより別れて動くのも手だ……紅、もう1つ言っておく……間宮麗奈には気を付けろ」
「わかったわかった、お前達もキングには気を付けろよ」



 振り向くことなく去る音也だった。



「大丈夫か1人で……」
「変身時間の制限は伝えてある。それがわかっていて下手を打つ様な男じゃないだろう。そんなに気になるのならば乾、お前がついて行けば良い」
「天道の方は良いのか? 俺もそうだがお前だってまだ暫く変身出来ない筈だろ?」
「心配するな、俺が望みさえすれば運命は絶えず俺に味方する……この程度の障害など何て事はない」
「何処まで自信家なんだ……」

421綺想曲♭もう一人のカブトと音也 ◆7pf62HiyTE:2011/01/22(土) 18:30:15 ID:.MvDO9mk



 そう言って、2人もまた音也とは別方向へと歩き出す。
 ちなみに巧の手元に首輪探知機があったものの周囲に自分達と音也以外の反応が無い事を確認後電源を切りデイパックの奥へ仕舞った。
 説明書では周囲1キロメートルと驚異的な範囲を誇るとあったが、実質的には半径150〜160メートルまでしか効果がない(ちなみにその範囲の周囲は1キロなので説明書が間違っているというわけではない)。
 それ以前に、このフィールド自体がどれくらいの広さなのかすら不明瞭である以上その範囲が全体の割合と比較してどれぐらいなのかもわからない。もっとも、それでも十分な広さではある。
 しかしそれとは別に首輪探知機の電池の残り残量も気になる所だ。先の戦い以降ずっと電源を入れていた事から大分消耗した筈だ。
 十二分に使える道具であるからこそ、むやみやたらと使うわけにはいかない。
 首輪の反応をキャッチするという事は首輪解除の手掛かりにもなりうる、下手に無駄に使う事など愚の骨頂でしかないということだ。



 その最中、天道は巧にも音也にも話していないある事について考えていた。
 それは自分の世界からの参加者についてだ。前述の通り天道の知る人物は4人だ。
 だが、果たして本当にそれだけなのだろうか?
 名簿に知っている名前が無い以上、普通に考えれば一般人かそれに擬態したしがないワームだろう。一般人ならば守る、ワームならば倒せばいいのでそれならば問題はない。
 注意すべきはマスクドライダー資格者もしくはワームあるいはネイティブの幹部クラスだ。しかしそれなら天道が名前を知らない筈がない。
 此処とは微妙に異なる世界のマスクドライダーもしくはワーム? 確かにその可能性も僅かに考えたがそれ以上に可能性がある者がいるではないか。
 そう、天道自身が本名を知り得ないマスクドライダー資格者が1人いるではないか。

 それはダークカブトの資格者にして天道自身に擬態したワーム……いや、この言い方は正確ではない。
 ワームよりも早くこの地球へと飛来したワームとは別種のワームネイティブ、彼等の手により幼少時代に拉致され様々な人体実験によってネイティブへと変えられた人間だ。
 そしてネイティブとなっても尚、マスクドライダー計画等の為に様々な実験を受けその際に天道へと擬態した。
 つまり、ダークカブトの資格者であるその男が、擬態先である天道総司ではなく人間だった時の本来の名前で参加させられているという事だ。
 無論、本来ならばネイティブとの決戦でこの世界を自分達に託して散っていった筈だ。
 だが、麗奈や乃木が存在している事を踏まえるとその前から連れて来られている可能性が高い。
 そして恐らくはその場合、日下部ひよりを巡って争っていた時期、あるいはひよりに拒絶された後世界を破壊しようとした時期から連れて来られていると見て良いだろう。
 前者ならば自分を排除する事が目的だ、それならばまだ良い。だが後者の場合ならば確実に無差別に人を襲うだろう。何としてでも止めなければならない。
 しかしその男が参加させられているというのは只の仮説に過ぎない。断定仕切れない以上、現段階で他の参加者に伝えるわけにはいかないだろう。



「(名簿だけでは恐らく加賀美や矢車達は気付けない……奴が暴走するならば倒すのは……俺だ!)」



 その一方、天道は一瞬だけ巧の方を見る。実の所、巧が話した人物の中で1人気になる人物がいた。それが草加だ。
 巧によると対立もしたが力強い仲間だと語っていたが天道はそれを無条件に信用するつもりはない。
 そもそも最初の説明の時に草加は死神博士に同一世界の参加者だけになれば良い事を確認していた。
 これが単純な確認ならばそれでも良い。だが殺し合いを破壊するならばそんな確認すら必要ないだろう。
 もしや草加は殺し合いに乗るつもりでは無いのか? 優勝の際の褒美の話を聞いて眼の色を変えた事からも有り得ないとはいえない。



「(杞憂であれば良いがな……)」

422綺想曲♭もう一人のカブトと音也 ◆7pf62HiyTE:2011/01/22(土) 18:30:50 ID:.MvDO9mk



 一方の巧もある事について考えていた。
 天道や音也には村上以外は仲間だと伝えてはいる。だがどうしても気になる人物が3人いたのだ。
 1人は草加、オルフェノクを嫌悪する関係もあり何かと対立もしていたがスマートブレインとの戦いでは非常に頼れる仲間だった。
 だが、やはり最初の場での草加の口ぶりに引っかかる点があったのだ。草加の性格上、自分の世界を生き残らせる為に他の世界を排除する可能性は否定出来ない。だが、



「(いや、あの時だって……そんな筈ないよな、草加)」



 だが、巧はその可能性を否定する。
 かつての流星塾の仲間だった澤田によって真理が殺された際、草加はスマートブレインの技術を使えば蘇生出来ると語り一度は取引の為ベルトを渡そうとそこへ向かおうとした。
 しかし、草加はスマートブレインを打倒する為それを取りやめた。真理を犠牲にしてでも目的を果たそうとしたという事だ。
 大切な人を犠牲にしてでも倒すべき敵を倒そうとする草加なのだ、そんな奴が自分の世界可愛さに殺し合いに乗るとは思えない。

 次は木場だ。これまた仲間だと説明したものの、彼とは様々な行き違いで何度も対立し、決戦においてもスマートブレインの社長となりカイザに変身して立ち塞がってきた。
 最終的には味方になったわけだが一時的にでも敵になった事が問題なのだ。
 木場がスマートブレインの社長となって敵になっている時期から来たとしたら? その場合巧達の敵に回る可能性が高いだろう。



「(木場……お前は……)」



 草加の場合と違い此方は決して否定仕切れない。何しろ、木場がスマートブレイン側に付いた経緯自体はある程度理解出来るからだ。願わくば敵になって欲しくない。そう考えていた。



「(それに真理……無事でいろよ)」



 そして真理だ。他の仲間はベルトの所有者もしくはオルフェノクなので先に戦った白服の男等の様な奴等もいるため絶対ではないものの戦闘になってもそう簡単に倒される事はない。
 だが、真理だけは別だ。ベルトを扱えない普通の人間では戦いにすらならない。無論都合良く変身ツールが支給されている可能性もあるが、戦い慣れていない真理では厳しい。
 出来れば早く合流したい所だが――



 しかし、想いとは裏腹に木場と真理は既に死を迎え、草加は真理を生き返らせる為に優勝を目指そうとしてる――その非常なる現実が待つ事を今の巧に知る術はない――





 その2人がF-5の道路上で東に進む最中、



「あれは……!」



 天道は天を見上げるとそこにあるものを見つけた。



「ガタックゼクター……それにベルト……!」



 それはベルトを抱えたまま大空を舞うガタックゼクダーだ。ガタックゼクターはほんの一瞬天道の方を振り向いた様な仕草を見せたがすぐさま遙か遠くへと飛び去っていった。
 何故加賀美が持っている筈のゼクターとベルトが空を飛んでいたのか? いや、その答えなど容易に判る。



「そうか加賀美、お前は……」



 それが意味するのは加賀美の死、そして資格者を失ったゼクターは新たな資格者を求め飛び去っていったという事だ。
 加賀美はワームとの戦いの最中、時に対立する事もあったが心強い仲間であった。彼の存在がなければひよりを助け出す事は出来なかったと言って良いだろう。
 そして、天道にとって『友』と言える人物であった――

423綺想曲♭もう一人のカブトと音也 ◆7pf62HiyTE:2011/01/22(土) 18:32:00 ID:.MvDO9mk



 だが、天道は決して歩みを止めたりはしない。例え誰が敵になろうとも怯むことなく立ち向かうのと同様に、仲間が死んだからといって決して立ち止まるつもりはない。
 そして何より、加賀美自身も立ち止まる事等望まないだろう。



『アメンボから人間まで地球上のあらゆる生き物を守るんじゃなかったのか? お前がそんなでっかい奴だからこそ俺はお前を越えたいと思ったんだぞ!』



 ひよりを助ける為に自身を犠牲にし後を加賀美に託そうとした天道の暴走を止めた際、そう口にした奴の事だ。きっと、



『俺の事は気にするな、お前はお前の道、天の道を行け!』



 そう言っている気がしてならなかった。無論、本当の所は誰にもわからない、だが、



「お前に言われるまでもない……俺が道を拓く!」



 人が歩む道、それを拓く事こそが天の道、天道はその名の如くその道を行くだけだ。



「……おい、あのクワガタがどうかしたのか?」



 そんな天道に巧が問いかけるが、



「いや、別に大した事じゃない」



 そう返した天道だった。



「……変な奴」



【1日目 午後】
【F−5 道路】
【天道総司@仮面ライダーカブト】
【時間軸】最終回後
【状態】健康、仮面ライダーカブトに40分変身不能
【装備】ライダーベルト(カブト)+カブトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、ディエンド用ケータッチ@仮面ライダー電王トリロジー、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
1:仲間達と合流して、この殺し合いを打破する。
2:首輪をどうにかする。
3:間宮麗奈、乃木怜治、擬態天道、草加雅人、村上峡児、キングを警戒。
4:情報を集める。
【備考】
※首輪による制限が十分であることと、二時間〜三時間ほどで再変身が可能だと認識しました。
※空間自体にも制限があり、そのための装置がどこかにあると考えています。
※巧の世界、音也の世界、霧彦の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。


【乾巧@仮面ライダー555】
【時間軸】原作終了後
【状態】顔中に複数の打撲、疲労(中)、ウルフオルフェノクに40分変身不能、仮面ライダーファイズに20分変身不能
【装備】ファイズギア+ファイズショット@仮面ライダー555
【道具】支給品一式×2、ルナメモリ@仮面ライダーW、首輪探知機、ガイアメモリ(ナスカ)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW
【思考・状況】
1:打倒大ショッカー。世界を守る。
2:仲間を探して協力を呼びかける。
3:間宮麗奈、乃木怜治、村上峡児、キングを警戒。
4:霧彦のスカーフを洗濯する。
5:後でまた霧彦のいた場所に戻り、綺麗になった世界を見せたい。
【備考】
※変身制限について天道から聞いています。
※天道の世界、音也の世界、霧彦の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。

424綺想曲♭もう一人のカブトと音也 ◆7pf62HiyTE:2011/01/22(土) 18:34:15 ID:.MvDO9mk







The Third Movement "Destroyer"



 病院での戦闘後、『彼』は病院から離れそのまま移動を開始していた。
 その目的は全てを破壊する為――

 何故『彼』は全てを破壊するのだろうか?

 『彼』は世界の都合でその過去から現在、そして自分自身を都合の良い様に歪められたのだ。
 幼き頃に拉致され身体を弄られ人間からワームへと変えられそして別の人間に姿を変えられる羽目となった。
 それだけに留まらず長き時に渡り実験を繰り返され本来の姿だけではなく理性すら失ってしまった。
 希望無き絶望の中で出会えたひよりのお陰で世界の外へと解放され同時に理性も取り戻せた。
 『彼』にとってはひよりは何よりも大切な存在だったのだ。彼にとっては世界そのものと言っても良い。

 しかしそのひよりすらも自分の元から去っていった――またしても世界から拒絶されたという事だ。

 『彼』の心は再び絶望に満たされた。世界はまだ自分から奪うというのか?
 何故ここまで自分の全てが破壊されなければならないのだ?


 許せない――自分の人生を奪った世界が、
 許せない――人間としての自分を奪った世界が、
 許せない――本当の自分を奪った世界が、
 許せない――今の自分の姿にである『奴』が、
 許せない――自分を救ったひよりを奪った『奴』が、
 許せない――自分の元を去っていったひよりが、
 許せない――『奴』が守るであろう全ての世界が、


 だからこそ壊すのだ。自分以外の全てを――


 特に『奴』だけは確実に殺す。
 全てを失った自分に対して、全てを手に入れている『奴』、同じ姿をしているのにこの違いは理不尽以外の何者でもない。
 無論、好き好んで『奴』の姿と記憶を得たわけではなかったが――

 とはいえこの広いフィールド、そうそう簡単に出会えるわけもない。
 先の戦闘では『奴』の仲間に遭遇し、さらに別の『奴』の仲間が持っている筈のガタックが現れたがそんな都合の良い事が立て続けに起こるわけが――



「まさか……アレは……!」



 遠目に2人歩いているのが見えた。遠目だったが見間違えるわけもない。片方はよく知っている人物、今の自分自身と同じ姿、『奴』なのだから。



「天道総司……」



 『奴』こと天道がいたのだ。見つけたならば放置する理由は何処にもない、すぐさまダークカブトゼクターを構え、



「変身……」



 何時ものようにダークカブトへと変身しカブトに変身した天道を倒せば良――



「あれ……どういうことなんだ……?」



 しかしゼクターとベルトは応えてくれなかった。ダークカブトに変身するはずの姿は変わらなかったのだ。
 思えば先の戦闘でも何故か矢車は変身せず、自分のクロックアップも不発に終わっていた。
 もしかすると変身に関して何かしらの制限があるのかもしれない。
 だが、ダークカブトに変身出来ないのであれば別の姿に変身すれば良い。そう一瞬考えたが――

425綺想曲♭もう一人のカブトと音也 ◆7pf62HiyTE:2011/01/22(土) 18:36:50 ID:.MvDO9mk



「無理だ……ダークカブトでなければカブトに変身したあいつは倒せない……」



 ここで戦いになっても勝てないと判断した。
 ワームの姿であっても病院で殺した鬼が持っていたベルトを使って変身しても恐らくカブトには届かない。



『所詮お前は過去の俺に擬態しただけ、俺は既に未来も掴んでいる』



 いつだったか天道はそう口にしていた。
 腹立たしいがその言葉は一理ある。同じ姿でも勝てるかどうかわからないのに、それよりも弱い姿になって勝てる道理など何処にもない。
 実際、『彼』はワームとはいえサナギ体、サナギ体如きではマスクドライダーに勝てるわけがない。
 また『彼』は知らないものの鬼が持っていたベルトことデンオウベルトにしても特異点ではない『彼』では扱う事が出来ない。
 出来たとしても大した力のないプラットフォームにしか変身出来ないだろう。どちらにしてもカブトに勝てる筈がない。



「いいよ、今は見逃してあげる……今の内に好きなだけ天の道を往けばいいよ……でも……僕は2人もいらない……次に会った時は絶対に……」



 そう口にし、後ろ髪引かれる想いを抱きつつ天道に背を向け『彼』は去っていった。
 かくして天道が気付くことなく、『彼』との遭遇は終わったのであった。

426綺想曲♭もう一人のカブトと音也 ◆7pf62HiyTE:2011/01/22(土) 18:37:25 ID:.MvDO9mk





 そしてF-4の道路を南下する。その最中今後について考える。
 変身制限がある以上、変身出来ない間の対応を考える必要がある。とはいえ、表向きには『天道総司』と名乗れば何の問題も無い、この姿をしているのだから利用しない手はないだろう。

 が、理想を言えば他の変身手段も欲しい所だ。改めて『彼』は自身のデイパックと鬼が持っていたデイパックの中身を確認する。
 その結果、自分1つ、鬼2つの支給品を確認した。但し、変身に使える道具は1つだけだった。

 ちなみにそれの支給先は鬼ことネガタロスへの支給品だった。では、何故彼はそれを使わなかったのか?
 理由の1つは使い慣れたデンオウベルトを使えば済む話だからだ。変身制限に気付かない限り普通はそちらを使うだろう。
 理由のもう1つはネガタロスの背景事情に少し関わる。そもそもネガタロスはキバと電王に倒された後この場に来ていた。
 つまり、電王とキバに怨みがあるという事だ。
 先の戦闘の際、キバに似た姿であるキバーラを見てトラウマを呼び起こされた事からもそれはわかる。
 そして、その支給品もまた問題のキバを彷彿とさせるものであったのだ。故にネガタロスはすぐさまそれをデイパックの奥底へとしまい込んだ。
 その正体は――



「何者だお前?」



 対ファンガイア組織である素晴らしき青空の会と同様の目的を持つ組織ワールド・ワイド・ウィング・アソシエーション通称3WA、
 かつて名護も所属していたその組織がキバを研究し開発したライダーシステムレイの変身ツール、キバット族を模したデザインを持つそのツールの名はレイキバットである。
 余談だが、3WAで開発されたライダーシステムはレイ以外完成に至らずレイもまた普通の人間では扱えない代物だった。
 だが、支給先であるネガタロスはイマジン、扱う事は可能だ。
 そして、現在所持している『彼』もサナギ体とはいえネイティブワーム、人間よりも頑強である以上使用する事は可能だ。
 つまり、『彼』にとってダークカブトほどではないが使えるツールという事だ。

 そして、問いかけるレイキバットに対し、



「僕の名前は……天道総司……よろしくね」
「俺の名はレイキバット、行こうか? 華麗に激しく!」
「そうだね……行くよ、全てを壊しにね……」



【F−4 道路】
【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(中) 全身打撲 情緒不安定気味 仮面ライダーダークカブト40分変身不可 、ネイティブ40分変身不可
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+ダークカブトゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王
【道具】支給品一式、不明支給品×1、ネガタロスの不明支給品×1、デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王
【思考・状況】
0:仮面ライダーを全員殺す。
1:天道総司を殺し、『天道総司』に成り代わる。
2:全ての世界を破壊するため、手当たり次第全員殺す。
3:特に優先的に『カブトの世界』の五人を殺害する(最終的には自分も死ぬ予定)。
4:僕はワームだった……。
【備考】
※名簿には本名が載っていますが、彼自身は天道総司を名乗るつもりです。
※参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。
※残り不明支給品は何れも変身道具ではありません。

427綺想曲♭もう一人のカブトと音也 ◆7pf62HiyTE:2011/01/22(土) 18:41:45 ID:.MvDO9mk







The Fourth Movement "Music"



 ここで1つ思い出して欲しい事がある。霧彦によると冴子に撃たれ死亡したと思ったらこの地にいたという話だ。
 普通に考えればそれ自体異常事態だ、だが音也は別段その事について疑問は持たなかった。何故か?
 答えは単純、音也自身もまた似たようなものだからだ。



『聞こえるか、俺の音楽が……』
『聞こえるわ、貴方の音楽は私の胸の中でずっと鳴り響いている……』
『そうだ、それで良い……それが俺の本当の……音楽だ……』



 愛する女性である真夜に愛情を込めたオムライスを作り、そして真夜の腕の中で眠りについた……それが音也がこの地を訪れる前の最後の記憶だ。
 キングから真夜の息子である太牙を助け出す為に音也は命の危険も省みず闇のキバの鎧を纏った。結果、太牙を助け出しキングも打倒したものの度重なる変身により既に音也の死は不可避だった。
 つまり、本来であればあの瞬間永遠の眠りが訪れる筈だったという事だ。
 だが、実際はそうはならなかった。こうして五体万全で殺し合いに参加させられている状態だ。しかもキングとの戦いで紛失した筈のイクサナックルまで手元にある。
 大ショッカーの技術力によるものだろうが、音也自身は自分の日頃の行いが良かった程度の認識しかない。

 さて、音也自身生きているなら生き残り元の世界にいる真夜や麻生ゆりの元に戻りたい所だが、その為に殺し合いに乗るつもりは全く無い。
 音也に女性を殺す発想など無いし、人の心が奏でる音楽を冒涜する事を良しとしない音也が殺し合いを良しとするわけもない。人に流れる音楽を守る為戦うつもりだ。
 だからといって男と行動を共にする趣味は無い為、天道達と別行動を取ったわけだが。

 ちなみにこの地にいる知り合いについては別段気にするつもりはない。
 倒したはずのキングに関しては明らかに強敵だが立ち塞がるならまた倒せば良い話だ。
 未来のイクサである名護に関してもその実力は確かなもの、合流せずとも問題ないだろう。
 そして息子である渡、息子であるとはいえ既に大人だ、自分がとやかく構う必要は無い。
 無論、自分と出会う前から来た可能性もあるしそれが無くても悩み多き年頃だ、色々迷い苦しんでいるというのは十分にあり得る。
 とはいえそれは出会った時に考えれば良い。出会ってもいない状況で頭を抱えるつもりはない。
 それよりも他の女達を探し出して守る方がよっぽど有意義だろう。
 麗奈を警戒しろと天道から言われているものの、それについては会ってから判断すれば良いだろう。



「さしあたり、霧彦の妻……冴子でも探すか。都合良く渡か名護が出会っていれば良いが流石にそれはないだろう」



 流石の音也といえでもまさか渡と冴子が行動を共にし殺し合いに乗っており、渡が天道の仲間である加賀美を結果として殺しているという事は想像もつかなかった。

428綺想曲♭もう一人のカブトと音也 ◆7pf62HiyTE:2011/01/22(土) 18:42:40 ID:.MvDO9mk





 かくして、音也はE-4にある病院にたどり着く。そこを目的地に選んだのは只の気紛れ、その場所に誰か来ていると考えた程度の理由だ。
 丁度そのタイミングで病院から士が出てきた。気が付くと時計は3時半を過ぎており、何時まで経っても現れない北條の元へ戻ろうと考えたのだ。
 だが、目の前の士は音也の姿を見て驚いている。



「紅音也……」



 士にとって音也はネガの世界でダークライダーを纏めていた人物、その男が目の前にいる以上驚きを隠せないのは当然だ。
 しかし一方の音也にとって士は未知の人物だ、音也から見て士がどことなく警戒しているのはわかるがその理由はわからない。



「やれやれ、俺様のFAN……というわけではないようだな。お前、誰だ?」



 その音也の言葉で士は理解した。少なくても目の前の音也は剣崎同様自分が出会った音也とは別の存在だ。
 気になる事はあるが今は音也の問いかけに答えねばならないだろう。そう、何時ものように――



「通りすがりの仮面ライダーだ」



 士にとってはお決まりの台詞だ。だが音也にとってはそうではない。妙な事を口走っている為、少なくても関わり合いになりたいとは思えない相手だ。それ故に思わずこう応えた。



「何を言っている、お前?」



【E−4 病院前】
※剣崎の死体は病室に移されました。
※ガタックゼクターとライダーベルトは次の資格者を探してどこかへ行きました。


【紅音也@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第46話終了後
【状態】疲労(中)
【装備】イクサナックル(プロトタイプ)@仮面ライダーキバ、ライアのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、不明支給品0〜2
【思考・状況】
0:目の前の男(士)とあまり関わり合いになりたくない。
1:最後まで生き残り、元の世界に帰還する
2:女性を見たらとりあえず口説く。冴子辺り探してみる。
3:乃木怜治、村上峡児、キングを警戒。間宮麗奈については会ってから判断。
【備考】
※変身制限について天道から聞いています。
※天道の世界、巧の世界、霧彦の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】重傷(軽い応急処置済み)、疲労(小)、仮面ライダーディケイド50分変身不可
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、不明支給品×2、ブレイバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(スペードA〜6.9)@仮面ライダー剣、ガイアメモリ(ヒート)@仮面ライダーW、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、ライダーカード(G3)@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
0:音也から話を聞く。
1:大ショッカーは、俺が潰す!
2:仲間との合流。
3:友好的な仮面ライダーと協力する。
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、ブレイドの物以外、力を使う事が出来ません。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※ライダーカード(G3)はディエンド用です。

429 ◆7pf62HiyTE:2011/01/22(土) 18:44:15 ID:.MvDO9mk
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

430二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/22(土) 19:20:40 ID:h/PA0R7.
投下乙です
ここでレイキバットが出るとはw
そして巧&天道と分かれた音也が、もやしと合流するなんて……
もやしからすれば敵だったけど、どうなるだろうな

431 ◆7pf62HiyTE:2011/01/22(土) 20:33:05 ID:.MvDO9mk
>>419の一部に不備があったので修正します、

 音也の知り合いは3人
 22年後の未来からやってきた音也の息子でキバに変身する渡、
 22年後の未来でイクサをしていて、一時的に音也の時代を訪れた事のあるファンガイアと戦う戦士名護啓介、
 22年後の未来でイクサやっており、一度音也の所へやって来たファンガイアと戦う戦士である名護啓介、
 そしてファンガイアの王であるキングの計3人、

こちらの部分を以下の通りに、

 音也の知り合いは3人
 22年後の未来からやってきた音也の息子でキバに変身する渡、
 22年後の未来でイクサをしていて、一時的に音也の時代を訪れた事のあるファンガイアと戦う戦士名護啓介、
 そしてファンガイアの王であるキングの計3人、

432 ◆7pf62HiyTE:2011/01/24(月) 20:22:00 ID:wCPA3iDE
浅倉威分投下します。

433時(いま)を越えて… ◆7pf62HiyTE:2011/01/24(月) 20:24:00 ID:wCPA3iDE
『ライダーの戦いはこの3日の内に決着を付けなければ全て終わるという事だ、お前達は願いを叶える事は出来ない』



 神崎士郎は生き残った自分達にこう言い放った。元々仮面ライダーの戦いは願いを叶える為の戦いである。



『願いねぇ』



 だが、自分にとってはそもそも願いなど考えた事もない。戦える相手と戦うだけだ。



『残ったライダーはオーディンを除いてお前達3人だ』



 そう思った矢先、神崎は信じがたい事を口にした。



『待てよ、北岡はどうした?』



 自分はそう聞き返す。



『ここに来なければ脱落と見なす。3人いれば十分だろう、始めろ! 最後の1人を決めろ』



 だが、神崎は来なかった北岡秀一に構うことなく戦えと言い放つ。



『……やるか……戦いが終わるのはつまらんが……勝ち残って戦いを願うのも良い……』



 自分はそう口にした。結局神崎の妹が来たが為に戦いにはならなかった――
 だが、神崎の妹を追いかけた城戸真司や秋山連を追いかけて戦う気にはなれず――



『北岡……脱落だと……? させるかよ……』



 そう口にして自分は北岡の事務所に向かったが奴に会う事は出来ずイライラした。
 モンスターの群を倒しても倒してもイライラは決して晴れる事は無かった。
 その後残る2人である真司や蓮とも戦うことなく最後の1日を迎え、



『ははははっ……会いたかったぜ北岡……変身!』



 ようやく会えた北岡と戦う事が出来た――そして、



 ──FINAL VENT──



 その一撃を北岡が変身した仮面ライダーゾルダに叩き込む事が出来た。だが――



『北岡……北岡!』



 何かがおかしい、同時にどことなくイライラを感じた。そして、ゾルダの変身が解除された時現れたのは――



『先生……また……うまいもん買って帰ります……』



 北岡ではなかった――



 そして満たされぬままイライラを抱え鉄パイプ一本で外へ出た自分は――待ち伏せていた警察機動隊によって撃たれ――



 死んだ――

434時(いま)を越えて… ◆7pf62HiyTE:2011/01/24(月) 20:25:00 ID:wCPA3iDE










   ▽   ▲   ▽   ▲   ▽   ▲










「馬鹿馬鹿しい……イライラするぜ……」



 ゆっくりと浅倉威は意識を取り戻した。そして意識を手放す前の事を思い返していった。

 異常なまでにイライラした自分は見つけた5人の男と戦った。
 その中でも一番の獲物は冠とマントを付けたモンスターへと変身した男だった。
 だが、その男は突然逃げ出したので自分はそれを追いかけた。

 偶然にも男が逃げた方向は自分が元いた場所に近い方向だった。お陰で探す事自体は容易だった。
 そして見つけた男が持っていた見慣れないメモリを奪うと共に喰らい、そのまま男をボコボコに殴り倒した。

 イライラも少し晴れた所で元いた場所へ戻り休んだわけだが、どうやら思った以上に疲れていたらしくそのまま少し眠っていたらしい。

 そして先程の夢を見ていたのだろう。



「変な夢だ……」



 その夢は自分の体験した仮面ライダーの戦いの最後の3日間の事だった。
 一見すると自分の体験を夢という形で見たという事だろう。
 だが、明らかにおかしいのだ。



「何故、俺はあそこまで北岡に拘っていたんだ……?」



 夢の中の自分は異常なまでに北岡に執着していた。戦うだけなら真司や蓮で事足る。何故あそこまで北岡に執着していたというのだ?
 確かに北岡には色々と怨みはあるがあそこまで拘ってはいなかった。北岡に限らず誰でも構わず戦いイライラが晴れればそれで良かった筈だ。





 それ以前に、夢の経験は自分がこの地に来る前に起こった事と大分異なってるのだ。



 確かに現実でも神崎にタイムリミットは伝えられてはいた。
 だが自分の知る限りあの場には自分達3人だけではなく北岡も脱落する事無く来ていた。そして、神崎の話では残り6人という話だった。
 そして自分は北岡に拘る事無く何時ものように戦った。特に生き残りの1人であり自分が殺した女性の妹である霧島美穂が自分へ仇討ちすべく積極的に向かって来たので嬉々として奴と戦ったが、



「そうだ、あの時……」





 美穂が変身した仮面ライダーファムを追いつめ、自身の3体の契約モンスターを融合させたジェノサイダーのファイナルベントドゥームズデイを仕掛けようとした。
 だが別の仮面ライダーの横槍が入った事で失敗に終わり、奴のファイナルベントによってジェノサイダーは撃破された。
 モンスターを失った事で力を失い、美穂によってあっさりとデッキは破壊され変身が解除された。



『死ぬのか? 俺が? この……俺が……ははははは……』



 それでも、美穂を倒すべく喰らいついたがミラーワールド内部では長い間存在出来るわけもない。そのまま自身の身体は消滅――

435時(いま)を越えて… ◆7pf62HiyTE:2011/01/24(月) 20:26:30 ID:wCPA3iDE






「気が付いたら新たな戦いか……」



 意識を取り戻した時、目の前には死神博士なる老人がいて、そいつが戦えと言った。
 結局の所、取り仕切っているのが神崎ではなく大ショッカーに変わっていただけでやる事は今までと同じ、仮面ライダー同士で戦えという話だ。
 世界がどうこう言っていたがそんな事はどうでも良い。
 先の戦いでのイライラがあったが為、難しい話など頭に入っていない。戦いの場に送られた後はイライラを解消するべく戦いを求め彷徨った。
 そして、先の戦いを経て今に至るというわけだ。





 浅倉はパンを頬張りながら自身のカードデッキを確かめる。先の戦いでモンスターを失った筈だったがデッキにはモンスターのカードは収まっている。
 但し、後に契約した筈のメタルゲラス、エビルダイバーのカードは無くなってはいた。つまり、2体とは契約していない状態だが浅倉は別段気にしてはいない。
 続いて、名簿を眺め始める。もっとも浅倉にとっては基本誰でも構わない為只の気紛れでしかないが。
 名簿を見た所、真司と蓮、更に北岡の名前を確認した。連中がいるのは当然なので別に気にする必要はない。
 更に東條悟という小者もいたがコイツに関してはどうでも良いだろう。ちなみに本来ならば既に退場している筈なのだが浅倉はその事について全く気にしていない。

 そして――



「あの女ぁ……」



 自分を倒した美穂の名前を見つけた。奴を倒す事で一度倒されたイライラを晴らす。更に、



「そして奴をな……」



 あの時美穂を助けジェノサイダーを倒した仮面ライダー黒い龍騎も倒そうと考えていた。
 奴こそが神崎の言った最後の1人だろう。正体が誰かはわからないが間違いなく奴もここにいる筈だ。
 ちなみに浅倉は黒い龍騎の正体が龍騎に変身する城戸だとは全く考えていない。
 黒い龍騎の戦い振りが戦いを止める等とバカばかり言う城戸のやり口じゃない事は浅倉でもわかっているからだ。似たモンスターと契約した仮面ライダーというだけだろう。



 その最中、デイパックの中にからあるものを取り出す。



「インペラーか……何故ここに……?」



 それは13人いる仮面ライダーの1人インペラーのデッキだった。

 ちなみに浅倉に支給された支給品は3つ。この地に来てすぐに確認はしているが先に触れた通りイライラが頂点に達していた為、これまで全く思考が回らなかったのだ。

 さて、浅倉の知る限りインペラーは既に退場済み、ここにデッキがある筈が――と思ったものの破壊された筈の自身のデッキがある以上、あってもおかしくはないと結論付けた。
 それについて深く考える事もなくインペラーのデッキをデイパックの中に戻した。

436時(いま)を越えて… ◆7pf62HiyTE:2011/01/24(月) 20:30:00 ID:wCPA3iDE



「腹も膨れた……行くか……」



 そして浅倉は新たな戦いを求め行動を開始する。真司、蓮、北岡、霧島、黒い龍騎、そしてまだ見ぬ仮面ライダー共と戦う為に――



 自らの支給品の1つであるバイクのエンジンを起動させ走り出す。
 バイクは基本ミラーワールドでの移動手段であるライドシューターぐらいしか使っていないが、使う分には問題ないだろう。
 先に触れた通り、この場所は浅倉のスタート地点だ。そこに浅倉の支給品の1つが置かれていた。
 そう、浅倉の支給品の1つはデイパックには収まらない程大型のもの、それはバイクだ。浅倉には名護啓介同様バイクが支給されていたのだ。



 そのバイクはある街の探偵が駆る黒と緑のバイク。元々は街を泣かせる組織が開発したものだったがある一件で探偵が奪取、
 ハードボイルドに対する憧れから探偵はそのバイクに対しある名を付けた――


 その名はハードボイルダー、


 本来は人々を泣かせる邪悪を倒す探偵の仮面ライダーが所持する筈のそれを、人々を泣かせる邪悪な犯罪者の仮面ライダーに支給されたのはある種の皮肉かも知れない――



 なお、ハードボイルダーのスペックは従来のバイクを遙かに凌駕し常人では扱う事は困難。
 身体一つで警官達をなぎ倒せる程の身体能力を誇る浅倉であってもそう簡単に扱える代物ではない。
 それでも浅倉はそれを扱おうし、普通に走れる様になった。



「コイツ……イライラさせるなよ……」





 当然その足は速くいつしかF-7、F-6、E-6を越えE-5へと入っていった。





 時刻は4時より数分前――





 浅倉は向かい風の中を突き進む――





 OVER THE TIMES――





 時(いま)を越えるかの様に――





「待っていろ……仮面ライダァー!!」





【1日目 午後】
【E-5 道路】
【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 死亡後
【状態】疲労(小)、仮面ライダー王蛇に5分変身不可
【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダー龍騎、ハードボイルダー@仮面ライダーW
【道具】支給品一式、カードデッキ(インペラー)@仮面ライダー龍騎、ランダム支給品×1(確認済)
【思考・状況】
1:イライラを晴らすべく仮面ライダーと戦う。
2:特に美穂、黒い龍騎(リュウガ)は自分で倒す。
3:殴るか殴られるかしてないと落ち着かない、故に誰でも良いから戦いたい。

437 ◆7pf62HiyTE:2011/01/24(月) 20:33:00 ID:wCPA3iDE
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
最後に一言……燦然! これだけは言わなければならない気がした。

438二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/24(月) 20:39:10 ID:rsqSgHc6
投下乙ッス

439二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/01/24(月) 20:52:42 ID:E3H5ShK6
投下乙です
ああ、浅倉にハードボイルダー&インペラーが渡るなんてw
これからに期待が出来ますね!

440 ◆XEdZc54D6s:2011/02/09(水) 20:58:36 ID:PspzkWjI
おくれました、
只今より投下します

441 ◆XEdZc54D6s:2011/02/09(水) 21:00:06 ID:PspzkWjI

パラレルワールド論というものをご存じだろうか、
いま私たちが生きているこの世界とは別の世界が存在するという説である。
もちろん仮面ライダーにもパラレルワールドは存在する。
今回はそんなお話





相変わらず天道と巧の珍道中は続いていた

「なぁ、お前本当に猫舌なのか?」
と天道は半ば軽蔑するような眼で巧を見る。


「あぁ、そうだよわりぃかよ」

「おばあちゃんが言っていた、猫舌なものは
人生の3分の一を損しているとな」

「ならばあさんに言っておいてくれ・・・」

その言葉の続きを言おうとしたところで天道が立ち止まる

「なぁ、おいどうしたんだよ」

「静かにしろ、誰か来るぞ」

先程までのにぎやかさは消え去り二人は話声がした建物の影を
じっと見つめ、耳を澄ました。

良く聞くと片方はとてもテンションの高い様子で、もう片方は
とても低い男の声だった。
つるんでいるのなら殺しあいに乗っている可能性は低い、そう考え
巧は声をかけようとした。

・・・が天道がそれを制しもう少し様子を
見るように促し、首輪探知機を見ろといった。
巧には天道の言っている言葉の意味がよくわからなかったが
いわれるがまま探知機を見た、
しかしそこには信じられないことが映っていた。

「なっ?!」

反応が自分たちのほかに一人しかなかったのだ、
故障したか、がっくりと肩を落とす巧と違い天道の目は輝いていた。

「おい、天道、何がそんなうれしいんだ?探知機が
壊れちまったかもしんねぇんだぞ?」

「いや、探知機は壊れてない、影を見てみろ」

言われたままに地面に目を落とした巧の眼には顔が龍な以外には
普通な人が立っていた。

「あぁほんとだ、一人しかいないってえぇ?!」

442かぶと虫 ◆XEdZc54D6s:2011/02/09(水) 21:02:33 ID:PspzkWjI

思わず巧の口から出てしまった大声を人間より優れた耳を持つ
グロンギが聞き逃すはずもなかった。

「誰だ!出てこい」

低い男の声が街に響き、空気がびりびりと震える、
改めて物陰から出てきたその姿を見ると男と空を飛ぶ龍がいた。
龍がしゃべっていたことには驚いたが一人が普通の人間なら問題ない。

「俺たちは丸腰だ、戦う気はない、殺しあいに乗っていないなら
俺たちの仲間にならないか?」

しかしその言葉は逆に敵を逆なでしてしまった。

「つまらん」

「あ?」

「この世界はお前らのような腰抜けばかりか!」

がっかりだった、リンとの考えたゲゲルとは所詮この程度なのだろうか。
だが、それでも一戦士ならプライドぐらいあるはずだ。
そう言ってガドルは姿を変えた、黒の甲殻に身を包んだ怪人へ

そしてその姿を見た男たちもまたそれぞれ自分のベルトを構え腰に巻いた。
その次の瞬間巧はファイズフォンに「555」を打ち込み、
天道の手にはカブトゼクターが舞い降りた。

――STANDINGBY――

「「変身!!」」

二人は同時に声をあげ、一瞬のうちに二人の体を白銀の鎧が包んだ。

――COMPLETE――   ――HENSHIN――

二つの電子音声が鳴り響きそこには二人の仮面ライダーが立っていた。

「巧、あいつは間違いなく強い、気をつけろ」

(んなこと言われなくてもわかってんだよ)

巧は手をスナップさせ戦闘態勢をとる。
やがて三者は一斉に走りだし同時に接触する。
三者は皆強かった。拳と拳がまじりあい、それぞれの胸に敵の拳が当たった

(これだ、この戦いを待っていた!)

思わぬ強敵との遭遇にガドルの胸が躍った。

(どちらもクウガと同等、もしくはそれに匹敵するといったところか)

443かぶと虫 ◆XEdZc54D6s:2011/02/09(水) 21:04:06 ID:PspzkWjI

「だが」

「ぐはぁ!?」

「天道!」

「お前は速さが足りないな」

そういうガドルの拳は的確にカブトの急所を突き、建物の中へ吹っ飛ばした

「ヤロォ、よくも天道を!」

そう言い向かってくるファイズをガドルは剣で切った。

「ガハァ」

「お前にはパワーが足りない」

そう言いながら、ガドルはファイズを何度も切った。
やがて、ファイズの変身が解除されてしまう。

「終わりだな、リントの戦士よ」

自分の身をオルフェノクの姿に変える暇もなく剣が振り下ろされる。

「おい、」

「!?」

みると、ガドルの背後には先程とは姿が違うカブトが立っていた。
うかつだった、まだ建物の中で気絶しているとばかり思っていた。
油断した罰なのかガドルの頭に斧が振り下ろされた、
・・・がそれを危機一髪でかわし肩から火花が飛び散った。
今の一撃がガドルに効いていないことを知ったカブトは一旦距離を置く。

「さぁて第2ラウンドか、おい巧邪魔だからどいとけ」

「ふん、第2ラウンドか、俺も参加させてくれよ」

――ナスカ――


(霧彦、力を貸してくれ)

友から譲り受けたドライバーを腰に巻きメモリを刺す。
するとそこには青き鎧に身を包んだナスカドーパントが立っていた。

「いくぞ」

「あぁ」

444 ◆XEdZc54D6s:2011/02/09(水) 21:08:57 ID:PspzkWjI
あぁ、すいません、最初のレスの時点で
21時を過ぎてしまったようですね。
予約スレの方も相当頭にきているようですし、レスはここでやめます
最初に葬儀の話が出た時点であきらめるべきでした。
スレ汚し本当にすいませんでした。

445 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:32:51 ID:K0P1APO.
これより、予約分の投下を開始します

446強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:33:48 ID:K0P1APO.

EPISODE53 『強魔』


『クウガの世界』における、人類の脅威。
人々から未確認生命体と呼ばれた、戦闘民族グロンギ。
人類に極めて近い身体の構造を持つものの、決定的に違う部分を持つ。
極めて高い残虐性と、闘争本能。
それに従って、数え切れないほどの命をゲームのように、奪った。
暴力を好む、邪悪なるもの。
遥か古代、クウガによって封印されたが、王によって二百体余りのグロンギが現代に蘇った。
その中でも、特に高い能力を持つグロンギ達が、殺し合いの会場に呼び出される。
破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バ。
究極の闇をもたらす者、ン・ダグバ・ゼバ。
そしてもう一体、世界の命運を賭けた殺し合いに参加したグロンギがいる。
しかし、その者はこの二人と比べると、圧倒的に力が不足していた。
それどころか、グロンギ族の中でも戦闘能力は低い。
ズ一族のグロンギ、未確認生命体第3号。
ズ・ゴオマ・グ。
本来ならば、ズの中でも底辺に値するほどの、力しか持たない。
だがある時、ラ・バルバ・デからダグバのベルトの破片を回収するという、命を受けた。
その時、ゴオマは破片を己の身体に取り込んで、強大な力を手に入れる。
金の力を手に入れたクウガを、凌駕するほどの力を。
理由は、ダグバに反旗を翻すため。
王は『整理』と称して、メやズのグロンギを虐殺していた。
ゴ集団の中でも、相当の実力者であるゴ・バダー・バが、クウガに敗れたため。
ならば、それより弱いグロンギなど必要ない。
当然、ゴオマは納得など出来なかった。
故にダグバのベルトを己の身体に取り込み、王に挑もうとする。
しかしその矢先に、大ショッカーによってこの戦いに放り込まれた。
そんなゴオマの行く先は。







D−1エリアに存在する、病院。
清潔感溢れる建物の一室に、二つの人影があった。
床から天井、部屋を支えている柱、そして窓際にかけられたカーテンまでもが、白で構成されている。
無人であるはずなのに、汚れどころか埃一つたりとも見られない。

447強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:34:24 ID:K0P1APO.

「よし…………と!」

津上翔一は、背負っていた黒いコートを身に纏っている、屈強な男をベッドに下ろす。
赤い鬼を思わせる風貌のアンノウンとの戦いで、怪我をしたと思われる不完全なアギト。
逞しそうな体のあちこちに、酷い傷が刻まれている。
ここに男を連れてくるまでに、翔一に疲労が溜まっていた。
しかし、休んでいる暇など無い。

(この人も、姉さんや可奈さんと同じだ……)

翔一の脳裏に、二人の女性の姿が思い浮かぶ。
たった一人の姉、沢木雪菜。
本当の『津上翔一』である沢木哲也の恋人だった彼女は、望まないアギトの力を手に入れてしまった。
それが暴走して人を殺してしまい、自らに絶望して命を絶ってしまう。
そしてもう一人は、岡村可奈。
かつて、自分と同じレストランでアルバイトをしていた彼女もまた、アギトの力を持っていた。
無論、雪菜の時のように自殺を図ろうとする。
しかし今度は違った。
自分と哲也が力を合わせて、可奈に生きる希望を与えた。
だから今度も、アギトである自分がやらなければならない。

(それにしても酷いな……アンノウンから追われるだけじゃなくて、こんな戦いに連れてこられるなんて)

アギトの力を持つ人間は、アンノウンに命を狙われる。
そうなったら、恐怖でまともに毎日を過ごせない。
それだけでなく、この人はこんな殺し合いに放り込まれた。
ならば、錯乱状態になってもおかしくない。

「おい、翔一」

大ショッカーとアンノウンへの憤りを感じていると、渋みのある声が聞こえる。
翔一は振り向くと、黒い蝙蝠が羽根をばたつかせているのが見えた。
キバットバットⅡ世は、その赤い瞳を輝かせている。

「この男は俺が見ておこう……お前は早く探してこい」
「分かったよキバット、ありがとう!」

翔一は朗らかな笑みを見せた。
そのままキバットに背を向けて、病室から飛び出す。
廊下は薄暗く、太陽の光が窓から差し込んでも、不気味な雰囲気を醸し出したままだった。
しかし翔一には、この程度は何てこともない。
眠りにつくアギトを助けるため、彼はリノリウムの床を駆け抜ける。


この時、翔一は気づかなかった。
病院の中に、侵入者がいることを。
知らぬ間にその人物と、入れ違いになってしまったことを。









桐生豪は、人気のない病院の廊下を歩いている。
先程の戦いによる、疲労を癒していた時だった。
何処からか、足音のような物が聞こえてくる。
桐生は辺りに警戒しながら、ゆっくりと近づいた。

448強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:35:30 ID:K0P1APO.
すると、話し声と床を走るような音が連続で聞こえてくる。
それを耳にした直後、桐生の精神が一気に高ぶった。
この病院には、参加者がいる。
かつての後輩である橘朔也か、それとも違う奴か。
だがどちらにせよ関係ない。
参加者がいるなら、潰せば良いだけだ。

(…………やはり、不意打ちをするにしても使い慣れたレンゲルだな)

桐生は、同じ世界の参加者である金居との戦いを思い出す。
ただの優男かと思ったが、その正体は自分の敵であるアンデッド。
しかも、上級アンデッドの一体であるカテゴリーキングだった。
城戸真司と小沢澄子の時もそう。
初めて見るガイアメモリという道具を使って、不意打ちを仕掛けたが失敗に終わった。
やはりここは、慣れたレンゲルで戦うのが一番。
桐生はドアの前で止まり、懐に手を伸ばす。
右手には、クラブのカテゴリーAに値するアンデッド、スパイダーアンデッドが封印されているラウズカードを。
左手には、黄金色に輝くレンゲルバックルを。
それぞれ手にした。
レンゲルバックルの中にラウズカードを入れて、腰に添える。
濁った音が辺りに響く中、バックルよりカードが飛び出してきた。
それはベルトとなるように、桐生の腰へ巻き付いていく。
そのまま彼は、バックルのレバーを引きながら呟いた。

「変身」
『OPEN UP』

電子音と同時に、蜘蛛の紋章が刻まれた青いゲートが、桐生の前に現れる。
彼はその中を潜り、変身を果たした。
緑と金の二色に輝く装甲、紫色の双眼、額より伸びた銀色に煌めく二本の角。
ビーコックアンデッドである伊坂が、烏丸 啓を初めとした研究者達を操って、完成させた『究極のライダーシステム』
仮面ライダーレンゲルへと、桐生豪は姿を変えていた。







「………グッ」

ズ・ゴオマ・グは、呻き声を漏らす。
身体の節々に倦怠感を感じながら、瞼を開いた。
視界の先に見えるのは、純白の天井。
何事かと思いながら、ゴオマは体を起こす。
周囲を見渡した先には、白で満ちていた。
壁、カーテン、ドア。
そして、自分が寝ていたと思われるベッドまでもが、白かった。
直後、ゴオマの中で疑問が芽生える。
ここはどこなのか。
何故自分はこのようなところにいるのか。
ゴオマは自らの記憶を探る。
まず、あの廃工場で赤い鬼と戦い、殺した。
その後に、黒い蝙蝠が連れてきたグロンギの宿敵、クウガと戦った。
そこからの記憶が、全くない。

449強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:37:24 ID:K0P1APO.

「ほう、目覚めたようだな」
「ん?」

思案に耽っているところに、聞き覚えのある声がする。
振り向くと、一匹の蝙蝠が目の前で飛んでいた。
先程、廃工場までクウガを連れてきたキバットバットⅡ世。
そんな彼に対して、ゴオマは嫌いなリントの言葉で質問した。

「何処だ、ここは」
「ここは病院だ……お前はあの男によって、ここまで背負われていた」
「背負われていた…………だと?」

淡々と告げるキバットの言葉を聞いて、ゴオマは憤りを感じる。
その言葉が正しければ、自分はクウガに助けられた。
グロンギより圧倒的に劣る、リントに。
戦いに負けただけ無く、情けまでもかけられる。
その事実が、ゴオマの無駄に高いプライドを傷つけた。

「あの男に感謝するのだな……あのままでは、お前はのたれ死になっていただろう」
「何……ッ!?」

しかし、キバットはそんな心境など全く知らずに、言葉を続ける。
するとゴオマの中で、怒りが一気に沸き上がった。
いくら同じ蝙蝠とは言え、こうまで言われて黙っているわけにはいかない。
無論、キバットに侮辱するような意図は一切無かった。
だがゴオマは、それを酌み取る心を持ち合わせていない。
気がつくと、身体の疲れと痛みがある程度癒されていた。
体内に埋め込まれた、ベルトの破片による効果だが、彼は気にかけない。
キバットを捻り潰す為に、ゴオマはベッドより立ち上がろうとした。

『OPEN UP』

すると、何処からともなく声が聞こえる。
その直後、轟音と共に部屋のドアが破壊された。
それに反応し、ゴオマとキバットは振り向く。
ドアが床の上を跳ねる中、部屋の外から侵入者が現れる。
緑と金色の装甲に身を包んだ、謎の人物が立っていた。

「…………フン、やはり怪我人か」

二本の角が伸びた仮面から、男の声が聞こえる。
恐らく、それなりに高い年齢かもしれない。
レンゲルという名前を持つが、それを知るのは誰もいなかった。

「何だお前は? 俺達に…………グオッ!?」

キバットは講義しようとするが、途中で言葉が遮られてしまう。
レンゲルがその手に持っている杖、醒杖レンゲルラウザーによって横薙ぎに叩かれた為。
その衝撃を受けたキバットは、勢いよく顔面から壁に叩きつけられてしまった。
彼はそのまま、滑り落ちるように床へ落下する。
そんなキバットの様子など目もくれず、レンゲルは口を開いた。

450強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:38:04 ID:K0P1APO.
「誰だろうと構わん……俺と戦え」

刹那、ゴオマの感情は高ぶっていく。
リントに助けられたという屈辱も。
自身が蔑まれたことによる怒りも。
レンゲルが現れたことによって、全てが払拭された。

「いいだろう……!」

邪悪な笑みを、レンゲルに向ける。
するとゴオマの体は、音を立てながら形が変わり始めた。
輪郭は歪み、黒いスーツの下から肉体が盛り上がっていく。
瞬時に、その体は異形へと変わっていった。
蝙蝠を思わせるような不気味な顔面、後頭部より流れる長髪、異様に発達した黒い肉体、両腕に備わった巨大な翼。
警察から『未確認生命体第3号』と称された怪人、ズ・ゴオマ・グの真の姿。
究極体と呼ばれる形態に、なっていた。

「貴様……アンデッドか? ならば、俺が封印してやろう!」

姿を変えたゴオマを見て、レンゲルは巨大な杖を振るう。
その先端は、敵の巨体を吹き飛ばすかのように思えた。
だが、それは届かない。

「ッ!?」

レンゲルは目の前の光景を、疑っていた。
勢いよく振るったレンゲルラウザーが、ゴオマに止められている。
しかも、片手の指五本だけで。
レンゲルは力を込めて、ゴオマの手を振り解こうとした。
だが、全く動かない。
まるで拘束具で、固く縛り付けられたかのようだ。
やがてレンゲルは苛立ちを感じて、反対側の手で殴ろうとする。

「ジョパギ、バ (弱い、な)」

しかし、その一撃も届かなかった。
ゴオマの声が聞こえた瞬間、視界が大きく揺れる。
それと同時に、レンゲルの身体は勢いよく床に倒れた。
脳が大きく揺れるのを感じる。
敵に殴られたと察知するのに、時間は必要なかった。
レンゲルラウザーを支えにして、彼は立ち上がろうとする。
その瞬間、首が締め付けられるのを感じ、身体が浮かび上がった。

「グ…………アッ!」
「チョグゾ、ギギ (ちょうど、いい)」

仮面の下から、呻き声が漏れる。
ゴオマは片手一本だけで、レンゲルの巨体を持ち上げていたのだ。
その手に込める力を、次第に強くする。
首の下から、メリメリと奇妙な音が鳴り始めた。
レンゲルは抵抗しようとするも、地に足がついていない状態ではロクに出来ない。
そんな反応に満足感を感じて、ゴオマは笑みを浮かべる。
弱者を蹂躙する、自身の圧倒的な力。
それによって、悶え苦しむリント。
この男の命を握っているのは、自分。
生きるも死ぬも、自身の思うがままだ。
ならば、もっと苦しめてやるのも悪くない。
身の程を知らないリントには、当然の報いだ。
ゴオマは、部屋の窓ガラスに目を向ける。

451強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:38:59 ID:K0P1APO.

「ダアッ!」

そのまま勢いよく、レンゲルの身体を投げつけた。
凄まじい腕力に抗う事が出来ず、そのまま窓に激突する。
ガラスが割れる高い音と共に、レンゲルは外に放り込まれていった。

「うおおおぉぉぉぉぉっ!」

破片と共に、悲鳴が落下していく。
重力に引きつけられたレンゲルの身体は、勢いよく地面にぶつかった。
そんな彼を追うために、ゴオマも割れたガラスから飛び出す。
そのままレンゲルのすぐ近くに、着地した。
倒れた仮面ライダーを見下ろしながら、無防備な脇腹を目がけて蹴りを放つ。

「フンッ!」
「ぐおっ!」

レンゲルは悲鳴を漏らした。
その声にゴオマは充足感を感じて、追撃を加える。
一度蹴られるたびに、レンゲルの装甲に不自然な凹みが生じて、火花が飛び散った。
衝撃が鎧を通じて、中にいる桐生の身体に襲いかかる。
しかし、ゴオマの攻撃が止まる事はない。
異様に発達した足による蹴りが、レンゲルに反撃する余地を奪っていた。
やがてゴオマは、ボールのように彼の身体にキックを放つ。
それによって、レンゲルは軽々と吹き飛ばされ、背中からコンクリートの壁に叩き付けられた。
彼は固い地面に落下するも、すぐに体勢を立て直す。
そして脇腹に備え付けられたホルダーより、二枚のラウズカードを取り出した。
レンゲルはそれを、レンゲルラウザーに読み込ませる。

『BITE』

一枚目。コブラアンデッドが封印されたクラブのカード、バイト。

『BLIZZARD』

二枚目。ポーラーアンデッドが封印されたクラブのカード、ブリザード。

『BLIZZARD CRUSH』

カードコンボ、ブリザードクラッシュの準備は整った。
アンデッドの力が、レンゲルの中に駆け巡る。
それを知らせる音声が、レンゲルラウザーから発せられた。
レンゲルは、勢いよく跳躍する。
そして空中で両足を、ゴオマに向けた。
眼下の敵に向かって、足の裏から膨大なる吹雪が放出される。
自らの身体をドリルのように、レンゲルは高速回転させた。

「ヌオオオオォォォォォォッ!」

咆吼と共に、ゴオマとの距離は縮んでいく。
両足から発せられる冷気は、異形の皮膚に突き刺さった。
そして、回転するレンゲルの両足は、グロンギに到達しようとする。
対するゴオマは、両腕を目前で交錯させた。
回避行動も取ろうとせずに。
その様子に、動揺と言ったものは一切感じられなかった。
刹那、レンゲルの足とゴオマの腕が衝突する。
轟音が響き渡り、コンクリートの地面が沈み込んだ。

452強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:39:46 ID:K0P1APO.

「オオオオオオォォォォッ!」

勢いを保ったまま、レンゲルはゴオマを潰そうと体重をかける。
ブリザードクラッシュのAPは、2400。
重量に換算すると、24トンもの威力を誇っている。
これだけの重さならば、敵はひとたまりもない。
レンゲルは自らの勝利を、心中で確信する。
その直後だった。

「ハアアァァッ!」

突如、咆吼が聞こえる。
その直後、レンゲルの視界は揺らぎ、体勢が一気に崩れ落ちた。
回転の勢いが制止された途端、彼の身体は吹き飛ばされていく。
目の前に、赤みの増した空が見えた。
途端、レンゲルは地面へ叩き付けられていく。

「グハッ!」

痛々しい悲鳴が、仮面より漏れた。
レンゲルが力押しに負けた理由。
ゴオマの腕力が、ブリザードクラッシュを押し返す程に強い。
それはごく単純で、シンプルな物だった。
しかし、本来ならば同じ状況に陥ったとしても、レンゲルに分があったかもしれない。
だが、今のゴオマはごく一部とは言え、究極の力をその身に取り込んでいる。
それは金の力を手に入れたクウガすらも、圧倒するほど。
よって、ブリザードクラッシュを弾き返しても、何らおかしくはない。
無論、レンゲルにそれを知る由はなかった。
この怪物は強い。
先程戦った、カテゴリーキングに迫る程かもしれない。
微かな戦慄を覚える中、既にゴオマは目前にまで迫っていた。
レンゲルは反撃しようと見上げるが、もう遅い。

「ボンゾパ ゴセン ダンザ (今度は、俺の番だ)」

ゴオマは嘲笑うように呟く。
右足を彼は振り上げて、勢いよく下ろす。
立ち上がろうとしたレンゲルは、蹴りによって再び倒れた。
そんな彼に目がけて、ゴオマは攻撃を続ける。
一発目の蹴りは、胸板に。
二発目の蹴りは、脇腹に。
三発目の蹴りは、太股に。
四発目の蹴りは、腹部に。
五発目の蹴りは、肩に。
一度打ち込まれるたびに、レンゲルの装甲から血液のように、火花が飛び散った。
その度に抵抗が弱くなるのを見て、ゴオマは更に力を込める。
そしてレンゲルの上に馬乗りになって、顔面に握り拳を叩き込んだ。

「フンッ!」

ゴオマは、レンゲルを殴る。

「グウッ!」

レンゲルは、ゴオマに殴られる。

「ダアッ!」

ゴオマは、レンゲルに拳を振るう。

「ガアッ!」

レンゲルは、ゴオマに殴られて悲鳴を漏らす。
もはや、これは戦いと呼べる光景ではなかった。

453強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:41:00 ID:K0P1APO.
ここにあるのは、ただの一方的ななぶり殺し。
片方が憂さを晴らすために、もう片方に暴力を振るう。
古来より数え切れないほど行われた、残虐な所為。
グロンギという種族を象徴するような、凶暴性がそこに感じられた。
やがて何度目になるか分からない、暴力の後。
ついに、レンゲルの鎧が限界を迎えてしまった。
装甲を構成する物質は、分解する。
それによって、資格者である桐生豪の生身が晒されてしまった。
だが、ゴオマはそれに気を止めるようなお人好しではない。

「き、貴様…………ッ!」

蚊の鳴くように弱々しい声が、喉から漏れる。
それが桐生豪の、この世に残す最後の言葉となってしまった。
ゴオマは、顔面を目がけて拳を叩き込む。
肉が潰れる、鈍い音が響いた。
この一撃によって、鼻骨が一気に沈んでいく。
続くように、ゴオマは顔の各部を潰していった。
額、両眼、耳、頬、首、頭部。
グロンギの圧倒的力ならば、この程度は容易い。
ゴオマの攻撃によって、桐生の身体は痙攣を起こす。
しかしそれも、すぐに止まってしまった。

「ボセゼ、ズダシレバ (これで、二人目か……)」

両手に血の生暖かい感触を感じながら、ゴオマは笑みを浮かべる。
また一つ、ゲゲルのスコアを上げた。
吹雪を伴った先程の蹴りを受けて、ほんの少しだけ腕に痛みを感じる。
だが、それだけ。
究極の力を手に入れた自分には、敵ではなかった。
物言わぬ屍となった桐生から離れた途端、ゴオマの身体に変化が起こる。
瞬く間に、脆弱なリントを模したような姿に、変わってしまった。
しかし、ゴオマは特に気に止めない。
彼は、桐生の遺品であるデイバッグとレンゲルバックルを手に取った。
どうやら、このゲゲルでは自身の能力が思うように使えない、ルールがあるらしい。
数度に渡る戦いで、ゴオマはそれを感じ取った。
ならば、戦うための道具は多いに越した事がない。
そして、ゴオマの関心を引く支給品がもう一つあった。
廃工場で繰り広げた戦いの時に使った、スミドロン・ドーパントに変身する為の道具とよく似た物。
アイスエイジ・ドーパントの記憶が込められた、ガイアメモリが彼の手に握られていた。

「ガセド、ビダジョグバゾググバ  (あれと、似たような道具か)」

その形から、ゴオマは判断する。
強大なる力の代償に、凄まじい疲労を残すガイアメモリの一種。
戦えるのは有り難いが、使うタイミングを見極めなければならない。

(戦え……戦え)

その直後、ゴオマの脳裏に声が聞こえた。
地の底から響くような、低い声。
それによって、彼の思考は一瞬で彼方へと消え去った。
何事かと思い、ゴオマは周囲を見渡す。
しかし、敵の気配は感じられない。
気のせいだと感じたゴオマは、病院に目を向けた。
この中には、宿敵のクウガに酷似したリントの戦士がいる。
ならば、潰さないわけにはいかない。
ゴオマは、病院に戻ろうとした。

「…………ん?」

だが、その足はすぐに止まる。
すぐ近くで、話し声のような物が聞こえたため。
ここより少し距離が離れているが、グロンギの卓越した聴覚を持ってすれば、察知する事など容易い。
耳を澄ませれば、どうやら集団のようだ。
それを察したゴオマの行動は、決まる。
近くにいると思われる集団を、この手で潰すこと。

(戦え…………戦え!)

頭の中に、再びあの低い声が聞こえる。
だが、ゴオマはそれに気を止めない。
ガイアメモリを手にしながら、己の本能のまま足を進めた。
更なる参加者と戦い、ゲゲルに勝ち残るために。
自分自身が、レンゲルバックルに封印された、アンデッドに支配されている事を知らずに。
クラブスートのカテゴリーA、スパイダーアンデッドの猛毒は、ゴオマの精神を確実に蝕んでいた。

454強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:41:55 ID:K0P1APO.





微かな光だけが差し込む廊下を、翔一は駆け抜けている。
その手に、多数の医薬品が入ったケースを抱え込みながら。
飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブス。
人を助けるために用いられる、様々な道具が彼のデイバッグに収まっていた。
無論、足元や振動に気を配っている。
不用意なミスで、駄目にしてしまっては本末転倒だ。

(やっぱり、もっと持ってくればよかったかな……いや、足りなかったらまた取りに行けばいいか)

翔一に、医学の知識など一切持ち合わせていない。
同じ世界から呼び出されている木野薫なら、同じ状況に陥っても難なく解決するだろう。
しかしそれは、彼が一流の医者だからだ。
ただの料理人にすぎない自分では、出来る事は限られている。
それでも、放っておくことなど出来ない。
今はアギトの力を持ってしまった人を、助けることだけを考えよう。
その思いを胸に、翔一は病室を目指した。

「なっ…………!」

だが直後、彼は絶句したような表情を浮かべる。
先ほどまであった筈のドアが、無い。
それだけでなく、病室が荒れ果てていた。
窓ガラスは割られ、カーテンは千切れ、床には不自然な傷跡がいくつも刻まれている。
しかし、それらは翔一の関心を引き付けることは出来なかった。
彼がいない。
ここまで連れて来たはずの、アギトがいない。

「くう…………っ」

気づいた直後、微かな呻き声が聞こえる。
反射的に、翔一は振り向いた。
見ると、アギトを見守っていたはずのキバットが、床に倒れている。
すぐさま翔一は、彼の元に駆け寄った。

「キバット、キバット! 大丈夫ですか!?」
「翔一…………か?」
「しっかりしてください! 一体何が!?」

動揺したように、キバットへ訪ねる。
訪ねられた彼は、苦痛に耐えながら口を開いた。

「お前と入れ違うように、妙な奴が現れた……恐らく、この殺し合いに乗っているだろう」
「あのアギトの人は!?」
「分からない……俺としたことが、不覚を受けてしまった」
「そんなっ……!」

直後、翔一は愕然とした表情を浮かべて、両足が地面に落ちてしまう。
自分が手間取ったせいで、怪我をした人が消えてしまった。
この殺し合いに乗っている人が現れて、キバットが酷い目にあった。
自身の行動の愚かさを。
自分が遅れたせいで、同じアギトを助けられなかったことを。
罪悪感と自責の念が、彼の心に広がっていく。

455強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:42:36 ID:K0P1APO.

「おい、翔一!」

二つの思いに押し潰されそうになった途端、声が聞こえた。
振り向いた先では、キバットが目の前で羽ばたいている。

「恐らく、まだそう遠くまで行ってないはずだ! 探すぞ!」
「そうだった、早く探さないと!」

後悔に潰されそうになった翔一は、力が戻った。
今はここで潰れている場合じゃない。
攫われた男の人を、助けることだ。
あの怪我では、どうなるか分からない。
翔一は己に活を入れて、キバットと共に病室から出た。


【1日目 夕方】
【D−1】


【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終了後
【状態】健康、罪悪感 
【装備】なし
【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ケータロス@仮面ライダー電王、ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ、医療箱@現実
【思考・状況】
1:打倒大ショッカー
2:殺し合いはさせない
3:キバットと一緒にあの男性(ゴオマ) を探しに行く。
4:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触
5:木野さんと会ったらどうしよう?
【備考】
※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。
※響鬼の世界についての基本的な情報を得ました。
※ゴオマを「不完全なアギトに覚醒した男」、モモタロスを「アンノウン」と認識しています。
※医療箱の中には、飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブスと様々な道具が入っています。





D−2エリアの住宅街。
城戸真司の心は、未だに揺れ動いていた。
先程戦った、吹雪を放つ謎の怪物が持っていた、デイバッグ。
その中より出てきた、てるてる坊主を見た事によって、彼は動揺していた。
神崎士郎を主催としたライダーバトルの原因は、自分にある事。
神崎結衣との約束を反故した為、悲劇が生まれてしまった事。
全ての元凶は、自分である事。
真司の心に、罪悪感が広がっていく。
それによって彼の表情は、未だに暗いままだった。

456強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:44:12 ID:K0P1APO.

「城戸君」

そんな姿に見かねた小沢澄子は、溜息とともに口を開く。
顔を上げた真司に、彼女は厳しい視線を向けた。

「事情は分かったわ。貴方がライダーバトルとか言う奴の、元凶かもしれないって」
「かもしれないじゃなくて、本当に――」
「でも、今はそれを悔やんでいる場合?」

後悔に満ちた言葉を、小沢は遮る。

「落ち着いて。ここで後悔したって、何にもならないわ…………今やるべきことは、こんな馬鹿げた戦いを止めることよ」
「それはそうですけど……」
「なら、シャキッとしなさい。そんな状態だと、何も変える事は出来ないわ」

真摯な表情で、真司を咎めた。
後悔する気持ちは、小沢にも理解できる。
自分の行動によって、多くの悲劇が生まれてしまった。
そうなってしまっては、誰だって悲しみに沈む。
だが、今はそんな場合ではない。
過去を悔やむ事は、いつだって出来る。
そして、それをやり直す事も。
そんな小沢の思いを察したのか、真司の顔に覇気が戻る。
先程の暗い表情が、まるで嘘のように。

「そうですね……すいません、こんな時に」
「後悔する事なんて、いつだって出来るわ……大切なのは、これからどうやって生きるかを考える事よ」
「はい!」

真司は力強く、小沢に返した。
まだ、彼の心には罪悪感が残っている。
しかし小沢が言うように、今はそれに溺れている場合ではない。
そんなことでは、戦いを止める事は出来ないし、大ショッカーの思う壺だ。

「わかってくれれば…………ん?」

それでいい。
そう続けようとした小沢は、口を閉じた。

「どうしたんですか……」
「静かに」

怪訝に思った真司の言葉を、彼女は小声で遮る。
そのまま、耳を澄ませた。
どこからともなく、音が聞こえてくる。
金属同士がぶつかる、鋭い音。
男性の声と思われる、英単語。
そして、何かが砕けるような鈍い音。
それらは小沢だけでなく、真司の鼓膜にも入ってきた。
この近くで戦いが起こっている事を、二人は瞬時に察する。
直後、大きな叫びも聞こえてきた。

「城戸君!」
「わかりました!」

真司と小沢は、すぐに走り出す。
近くで起こっている戦いを止めるために。
そして、こんな悲劇を少しでも抑えるために。

457強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:45:03 ID:K0P1APO.





時計の針は、少しだけ戻る。
E−2エリアに位置する、とある住宅街。
人々の声や、車の交通による騒音は、一切聞こえてこない。
まるでゴーストタウンを思わせる程の静寂が、辺りに広がっていた。
加えて、夕暮れによって空の明るさは徐々に減っていく。
沈んでいく太陽も、不気味さを引き立てるスパイスとなっていた。
その中を、四人の人物が歩いている。
戦闘を進む照井竜は、周囲の警戒を強めていた。
時計の針は、既に夕方の時間を差している。
そして赤みがかった空も、段々と暗くなっていた。
こんな戦場で、視界が効かなくなるのは正直言って、拙い。
殺し合いに乗った奴に、暗闇から襲撃を受ける可能性もある。

(おまけに、戦力として期待できるのが俺を含めて二人とは……)

照井は、後ろを歩く三人の方に意識を向けた。
別世界の刑事である、一条薫。
鬼と呼ばれる『仮面ライダー』となって魔化魍という化け物と戦う少年、桐谷京介。
ただの一般人と思われる女性、間宮麗奈。
刑事である一条は、それなりの体力や戦術はあるだろう。
だが、この場ではあまり期待できない。
この狭い世界の中には、ドーパントのような超人的腕力を持つ者が、大勢いるだろう。
そんな奴の前では、普通の刑事では赤子に等しい。
京介は、話が本当ならそれなりに期待できる。
しかし彼は、まだ若い。
そんな少年に、大人である自分が縋ってどうする。
万が一戦う状況に陥ったとしても、そこまで前面に出させてはいけない。
麗奈は論外だ。
彼女は、自分達警察官が守るべき一市民。
何が何でも、守らなければならない。

「一条、後ろはどうだ?」
「今のところ、足音などは聞こえてきません」
「そうか」

照井は、一番後ろの警戒を固めている一条と、軽い質疑を交わす。
そんな彼らの間では、怯えている麗奈を京介が励ましていた。
一般市民二人を、刑事二人が守るような体勢で、四人は歩いている。
体勢としては、当然の物だった。

「…………ん?」

その最中、照井は前方から一つの人影が近づいてくるのを、見つける。
距離が迫るごとに、その姿がはっきりと見えてきた。
見たところ、高い背丈を黒いコートで包んでいる、男性。
その体格は、引き締まっているように見えた。
年齢は、二十代から三十代の間かもしれない。
照井がそんな事を推測していると、男は足を止める。
それに合わせるかのように、四人も足を止めた。

(…………何だ?)

不意に、照井の中で疑問が芽生える。
男の表情に、目を向けた事によって。
そこにあるのは、笑顔だった。

458強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:47:12 ID:K0P1APO.
獰猛な獣が、獲物を見つけたときに浮かべるような、不気味な笑み。
それを見た照井の中で、違和感が更に強くなった。
だが、考えても仕方がない。
照井は声をかけようと、一歩前に出ようとした。

「Bー2号!?」

その直後。
背後より、驚愕の声が聞こえる。
それを聞いて、照井は反射的に振り向いた。
見ると、一条がAK−47 カラシニコフを構えている。

「一条、何を――!」
『ICEAGE』

照井の声は、遮られた。
後ろから聞こえる、電子音声によって。
聞き覚えのあるそれを聞いて、照井は再び前を向いた。
直後、彼の目は驚愕で見開かれる。
男の手に、照井がよく知る道具が握られていたため。

「ガイアメモリ……だと!?」

そう。自身の世界で流通されている、USBメモリーの形をした町を泣かせる悪魔。
秘密結社ミュージアムが開発している、ガイアメモリ。
しかも、自分がつい最近破壊した、アイスエイジ・ドーパントの力が封印されたメモリだ。
男はそれを、自らの首筋に突き刺す。
照井の行動は、決まっていた。

「敵襲だ、一条!」

彼は無意識のうちに叫ぶ。
そのまま、後ろに立つ桐谷と麗奈の首筋を掴み、横へ飛んだ。
刹那、彼らが立っていた位置の道路に、急激な冷気が通り過ぎる。
それによって、辺りが一瞬で凍り付いた。

「うわっ!?」
「キャアッ!」

京介と麗奈の悲鳴が聞こえる。
それに構わず、照井はすぐさま民家のドアを突き破り、玄関へ飛び込んだ。
三人の後をついてきたかのように、一条も姿を現す。

「照井さん。ガイアメモリと言いますと、あれは貴方の世界で人々に危害を加えていた……」
「そう、ドーパントだ。一条、お前の反応からすると奴は未確認生命体とやらで間違えないのか?」
「ええ、奴は我々の世界では『B−2号』や『第3号』と呼ばれていました」

二人の刑事は、先程交換した情報から襲撃者の正体を、一瞬で推測した。
まず、現れた男の正体。
それは一条の住む『クウガの世界』で、人々をある一定の法則性に従って殺した、未確認生命体。
そして未確認が使ったのが、照井の生きる『Wの世界』に流通していた機械、ガイアメモリ。
現れた敵は、ガイアメモリを使ってドーパントとなり、自分達に襲いかかってきた。

「しかし妙だ……奴は既に死んだはずだ。まさか、よく似ている別人……?」
「その究明は後だ。ガイアメモリを使っているなら、奴が危険人物である事は間違いない」

一条が疑問を口にするが、照井は遮る。
しかし彼自身、腑に落ちない点があった。
あの未確認生命体が持っているガイアメモリは、既にブレイク済み。

459強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:48:12 ID:K0P1APO.
それなのに何故、ここにあるのか。
加えて、一条は未確認が既に死んでいると語っている。
疑惑が増えるが、今はそれどころではない。
照井はデイバッグから、バイクのスロットルを象ったようなベルト、アクセルドライバーを取り出す。
それを腰に添えると、ドライバーが一瞬で腰へ巻き付かれた。

「一体、何を……?」
「一条、お前はここで二人を守れ。奴は俺が倒す」

照井は一条に告げると、バッグからアクセルメモリを取り出す。
彼は敵に立ち向かうために、家の外へ出た。
目の前には案の定、白い異形が殺気を向けている。
顔面はホッケーマスクに酷似した形で、全身からヤマアラシのように体毛が突き出していた。
氷河期の記憶を持つドーパント、アイスエイジ・ドーパント。
戦いを経験したとはいえ、油断は禁物。
そう思いながら彼は、アクセルメモリを懐より取り出した。

『ACCEL』

スイッチを押すと、メモリから高い音声が発せられる。
それを耳に感じた彼は、腕に力を込めながら、口を開いた。

「変……身ッ!」

手に取ったアクセルメモリを、ドライバーの上部に差し込む。
すると、ベルトの中央が赤く輝いた。
照井はアクセルドライバーのパワースロットルを、手前に捻る。

『ACCEL』

それによって、乗り物のエンジンが轟くような音と共に、復唱された。
Wのメモリの持ち主に対する、復讐を果たす力の名前が。
アクセルメモリから、ドライバーを通じてパワーが流れ込むのを感じる。
直後、照井の目前に真紅の破片が現れ、身体を覆った。
それは、一瞬の内に鎧へと変貌する。
青い輝きを放つ両眼、額から伸びるAの形を象った銀色の角、炎のような赤さを持つ装甲。
謎の女、シュラウドよりもたらされた、疾走の名を持つ戦士。
仮面ライダーアクセルへと、照井竜は姿を変えた。

「さあ……振り切るぜ!」

アイスエイジ・ドーパントと対峙しながら、アクセルは力強く告げる。
そのまま、地面を蹴って疾走を開始した。
頼れる武器とも呼べるエンジンブレードは、この手にはない。
しかし、それでも負けるつもりはなかった。
この程度の危機を乗り越えられないようでは、目的を果たせない。
自分から全てを奪った、Wのメモリを持つ男への復讐。
その思いを胸に、アクセルは拳を振るった。

「ダアッ!」

顔も知らぬ者への、憎悪が込められた一撃。
真っ直ぐに突き進むそれは、敵の身体に強く当たった。
アイスエイジ・ドーパントは一撃を受けて、微かな呻き声を漏らす。
蹌踉めくが、すぐに足元を立て直した。
すぐさま反撃の為に、両腕を前に突き出す。
それを見て、アクセルは横に飛んだ。
直後、敵の掌から膨大なる冷気が煙のように噴出する。

460強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:49:18 ID:K0P1APO.

「チッ!」

アイスエイジ・ドーパントは舌打ちをしながら、腕の向きを変えた。
しかし、放たれる冷気はアクセルの身体に掠りもしない。
彼はこの会場に連れてこられる前、アイスエイジ・ドーパントを倒した事がある。
その経験があって、冷気への対処法が学ばれていた。
だが、それを『今』のアイスエイジ・ドーパントが知る由はない。
ここにある事実は、獲物が手にかからないと言う事のみ。
それに苛立ちを覚えて、煙の流れを止めて突進した。
先程のお返しをするように、アイスエイジ・ドーパントは剛拳を振るう。
しかしアクセルは、身体を捻って敵の横に回り込んで、回避に成功。
そのまま、カウンターの横蹴りをアイスエイジ・ドーパントの右足に向けて、勢いよく放った。

「フンッ!」
「ガアッ!?」

十二トンの衝撃を受けて、悲痛な叫びを口から漏らす。
それによって、体勢が一気に崩れ落ちた。
アクセルが、敵の動きを封じるために繰り出した、回し蹴り。
命中したのは奇しくも、ゴオマの手によって命を奪われた、メタル・ドーパントに変身したモモタロスが最後にダメージを負わせた場所。
ようやく癒えてきた傷が、今の一撃によって再び開いてしまった。
右足に激痛を感じ、アイスエイジ・ドーパントはその場に蹲ってしまう。
その隙を見逃さずに、アクセルは次の一撃を繰り出そうとした。
しかしアイスエイジ・ドーパントは、右腕を前に突き出す。

「ッ!?」

それを見たアクセルは、反射的に背後へ跳躍。
敵の手から噴出される冷気を、回避する事に成功した。
本来ならば、受けても特に問題はない。
アクセルメモリの力があるので、身体を凍らされても溶かせば良いだけ。
しかし、今はエンジンブレードがないので、戦力に若干の不安がある。
故に、ほんの僅かな攻撃でも油断は出来なかった。

「ボソグ……ボソギデジャス! (殺す……殺してやる!)」

地の底から響くような声で、アイスエイジ・ドーパントは叫ぶ。
アクセルには敵が何を言っているのか、解読出来ない。
しかし、明確な殺意が込められている事は、瞬時に理解できた。
互いに距離が空いた中、睨み合う。
視線が激突する中、二人は地面を蹴った。
一瞬で距離は縮むと、互いの拳は激突する。
そこから、取っ組み合いが再び始まった。





アクセルとアイスエイジ・ドーパントの戦いを、一条は見守っている。
同時に、自身に支給されたアサルトライフルを構えていた。
彼は現在、アイスエイジ・ドーパントを狙撃するための隙を見極めている。
この状況では、弾丸数に限りがある為、無闇に発砲する事は出来ない。
加えてこの中に装填されている「対オルフェノク用スパイラル弾」という弾丸。
それが目の前のドーパントという存在にも、通用するかどうか。

461強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:50:21 ID:K0P1APO.

(あれが……彼の世界における『仮面ライダー』の姿か)

そして、照井が姿を変えた異形の戦士。
恐らくあれが、仮面ライダーと呼ばれる存在なのだろう。
照井の世界では、町を守るヒーローという意味合いを持つらしい。
それを体現するかのように、彼は戦っている。
まるで、第四号として未確認生命体達と戦ってきた、五代雄介のようだった。

(だが、大ショッカーは彼らの事を、世界を崩壊に導く存在と言っていた……)

始まりのホールで、死神博士が語っていた言葉。
世界を崩壊に導く因子。
仮面ライダー。及び、敵対する組織と怪人。
それを再び、思い返す。

(……しかし、何故彼らがその原因なんだ?)

ここで不意に、一条の中で疑問が芽生えた。
何故、これらの存在が世界を崩壊へと導いてしまうのか。
その因果関係が、あまりにも不明すぎる。
大ショッカーは現象を言っただけで、理由は述べていなかった。
刑事であるならば、他者の意見だけでなく自らの頭を使って、原因を突き止めなければならない。
もしも彼らの言っていたことが、仮に真実だとしよう。
自分達が生きる世界の為とはいえ、他の数え切れないほどの命を犠牲にしていいはずがない。
警察官として。いや、人間としてあってはならない。

「あの、一条さん!」

思考に意識を向けていた一条の耳に、声が響く。
振り向くと、京介が狼狽したような表情を浮かべていた。

「やっぱり俺も、照井さんの手伝いを!」
「それは駄目だ。いくら戦えるとは言え、君のような若者を危険な目にあわせる訳にはいかない」
「でも!」

尚も、頑なに懇願する。
その瞳には、人々を守りたいという強い意志が感じられた。
憧れなどではなく、本当の意味で。
この若さでそのような強い意志を持つ若者に、一条は共感を覚えた。
自分も彼の立場なら、真っ先に助けに行くかもしれない。
しかし、だからこそだ。
刑事である自分が、年下をあてにするようでは本末転倒になってしまう。

「それに君には、間宮さんを守って欲しいんだ」
「俺が?」
「そうだ。もしも今、君が照井さんを助けに行ったとしよう……その時に、危険人物が現れるかもしれない」

麗奈の方に振り向きながら、一条は京介を諭した。
熱意を無駄にするのではなく、代案を示す形で。
無理に断っても、相手は納得しない。
それならば、別の良好な手段を与える。
対話における、基本的な方法だ。

462強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:51:32 ID:K0P1APO.

「俺は情けない事に、君のような力を持っていない。だから、君にはここにいて欲しいんだ」
「分かりました……すみません、勝手に突っ走ろうとして」

一条の言葉に納得したのか、京介は頷く。
それに安堵を覚えて、彼は改めて戦場に振り向いた。
アクセルとアイスエイジ・ドーパントが戦いを繰り広げている、舞台に。
そして、ライフルを構え直す。
まだ、互いに取っ組み合いをしているままだ。
しかし焦る事はない。
狙撃するための、隙を待てば良いだけだ。
こちらが狙撃して、アクセルが決める。
その為に、白い怪物を標準に定めた。

(まだだ……)

一条は、待っている。
アクセルを妨害せずに、アイスエイジ・ドーパントにダメージを与えられるチャンスを。
白い怪物が、剛拳を振るう。
赤い戦士が、後ろに飛んで回避した。
それによって、両者の間に距離が開く。

(今だ!)

チャンスが出来たと、確信した。
銃身を構えて、一条は引き金を引く。
それによって、銃声と共に弾丸が発射された。
一発だけでなく、何十発も。
7.62口径の弾丸が、嵐の如く怪物に向かっていった。
空気を裂きながら、一瞬の内にアイスエイジ・ドーパントの身体に着弾。
直後、敵の意識はこちらへ向いた。

「今です!」

一条は、アクセルに叫ぶ。
これが目的だった。
最初から、ダメージなど期待していない。
少しでも敵の意識を、アクセルから外させるため。
本題は、ここからだった。

「でかしたぞ、一条!」
『ACCEL MAXIMUM DRIVE』

ベルトのレバーを、握り締める。
直後、力強い電子音声がバックルより発せられた。
それを耳にしながら、アクセルはパワースロットルを何度も捻る。
そして、ドライバーより膨大なるエネルギーが、全身に纏われていった。
炎のような赤いオーラが、アクセルより発せられる。
身体の底から力が沸き上がるのを感じた彼は、勢いよく地面を蹴った。

「ああああああぁぁぁぁぁっっ!」
「ッ!?」

咆吼と共に、疾走するアクセルはアイスエイジ・ドーパントと距離を詰める。
目前にまで迫って跳躍し、渾身の力を込めて後ろ回し蹴りを放った。
アクセルグランツァーの名を持つ一撃によって、アイスエイジ・ドーパントの身体は一気に吹き飛ばされていく。
そのまま、轟音を鳴らしながら民家の壁を破壊していった。
瓦礫が崩れ落ち、粉塵が周囲に舞い上がっていく。

463強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:52:35 ID:K0P1APO.

「絶望が、お前のゴールだ」

そんな中、アクセルは呟いた。
ガイアメモリという悪魔に溺れた、愚か者への宣言を。
しかし、まだ気を抜けなかった。
メモリブレイクは果たしたが、それが完全な勝利に繋がる訳ではない。
吹き飛んだ敵の方に、アクセルが振り向こうとした。

『OPEN UP』
「何ッ!?」

突如、電子音声が鳴り響く。
その直後、煙の中から一本の長い影が、勢いよく飛び出してきた。
それはアクセルに激突して、後ろに吹き飛ばす。
あまりに唐突な出来事に、彼は対応が遅れてしまった。

「ぐあっ!?」

仮面の下から、悲鳴が漏れる。
コンクリートの地面に激突するが、すぐに体勢を立て直した。
そして、振り向く。
突然現れた、金と緑の煌めきを放つ異形の戦士、仮面ライダーレンゲルの方へと。

「ジャデデ、ブセダバ……! (やって、くれたな……!)」

レンゲルラウザーを構えながら、憤怒の声を漏らす。
アクセルによって吹き飛ばされたゴオマは、すぐさまレンゲルへの変身を行った。
自身に煮え湯を飲ませた、愚かなリント達を潰すために。
彼は気づかなかった。
レンゲルの力とガイアメモリを利用した時点で、自身の精神が砕かれている事を。

「ウガアアァァァァァッ!」

一切の理性が感じられない咆吼を発しながら、レンゲルは走る。
そして、レンゲルラウザーを横薙ぎに振るった。

「ぐっ!」

アクセルには、それを避ける手だてがない。
レンゲルは、その獲物を振るい続ける。
一発、また一発とアクセルの身体にレンゲルラウザーを打ち付けていった。
胸部、肩、腕、股、顔、腹部。
まるで、暴風雨のような勢いだった。
先程の不意打ちに加え、相手はリーチの長い武器を持っている。
エンジンブレードがあれば対応できたかもしれないが、ここにはない。
それら二つの要因があって、彼は次第に追い込まれていった。
攻撃を避けるにしても、武器の長さがそれを許さない。
アクセルのダメージは、徐々に蓄積されていった。

「ガアアァァッ!」
「ぐは――――っ!」

やがて、レンゲルは渾身の力を込めた一撃を放つ。
それを受けて、アクセルは背後の壁に激突。

464強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:53:46 ID:K0P1APO.
直後、変身のタイムリミットが限界を迎えてしまった。
装甲を作る破片は分解され、照井の身体を晒す。
同時に、アクセルドライバーも地面に転がってしまった。

「くっ……!」

身体の節々に痛みを感じながらも、照井は起きあがろうとする。
だが、ダメージがそれを許さない。
そんな中、レンゲルは照井の命を奪おうと歩いていた。
一歩、また一歩と進もうとする。

「やめろっ!」

突然声が響き、レンゲルの足が止まった。
振り向くと、京介が変身音叉を構えながら、走っているのが見える。
彼はそれを額に掲げると、鬼の紋章が浮かび上がった。
そして、京介の身体を青い炎が包み込む。
変化は、すぐに終わりを告げた。
桐谷京介の身体は、銀色に輝く鬼へと変わる。
音撃戦士を目指した彼が、数え切れないほどの修行の末に会得した力。
京介変身体。またの名を強鬼。

「はあっ!」

姿を変えた彼は、レンゲルに拳を打ち付ける。
それは頬に勢いよく激突し、衝撃で巨体を蹌踉めかせた。
しかし、レンゲルはすぐに立ち直る。
そして睨んだ。
標的にした照井を庇うように立つ、京介変身体を。

「バンザ、ビガラ……? (何だ、貴様……?)」
「俺が相手だ!」

その一言を聞いて、レンゲルの中で苛立ちが芽生えた。
たかがリントの分際で、自分の邪魔をするなんて。
ならば、望み通りに潰してやろう。
明確な殺意を抱きながら、レンゲルラウザーを構えた。
その一方で、倒れた照井の元に一条と麗奈が駆けつける。

「照井さん、大丈夫ですか!?」
「一条……何故、彼がここにいる……?」
「申し訳ありません……私の力不足です」

京介が戦場に飛び出した理由。
それは照井を助けるという、善意からだった。
その為に、一条の制止を振り切って変身する。
後悔の表情から、照井は本能的にそれを察した。

「……いや、こうなった以上仕方がない……くっ!」

彼はアクセルドライバーに手を伸ばそうとする。
しかし、痛みがそれを邪魔した。
そんな照井の変わりに、一条がアクセルドライバーとメモリを取る。

465強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:55:02 ID:K0P1APO.

「その怪我では無理です、すみませんがお借りします」
「何をするつもりだ……!」
「私が行きます」

その一言を残して、彼は振り向いた。
自分達の為に戦っている、京介の方へと。

「フンッ!」
「うわっ!」

彼は敵の長い杖に翻弄されて、攻撃を受けている。
それを見た一条は、急いでアクセルドライバーを腹部に添えた。
すると先程照井がやったように、腰に巻き付かれていく。

『ACCEL』

一条はもう片方の手で、アクセルメモリのボタンを押した。
疾走を意味する言葉を耳にしながら、彼は思う。
自分も、彼のように未確認と戦うときが来たのだと。

(五代……俺も、戦うぞ!)

一条の脳裏に、浮かぶ男の姿。
自らの笑顔を犠牲にして、みんなの笑顔のために戦ってきた2000の技を持つ男。
本当は戦いたくないのに、未確認生命体第4号となって何度も戦った。
五代雄介。
彼に任せてばかりの自分に、嫌悪感を覚えた。
本当ならば彼のような一般市民を、守るための立場なのに。
そして、今も桐谷京介という若者に頼っている。
このままで、いいわけがない。
一条は力強い視線を向けながら、その言葉を口にした。

「変身ッ!」

五代が何度も口にした、戦うための二文字。
その声と共に、メモリをアクセルドライバーに突き刺した。
そのまま、パワーハンドルを捻る。

『ACCEL』

電子音声が鳴り響いた瞬間、一条の周囲に赤い欠片が生成された。
一瞬の内に、それらは彼の身体に集束される。
真紅の輝きを放つ戦士、仮面ライダーアクセルへと一条薫は姿を変えた。
理不尽な暴力から、人々を守るために。
失われてはいけない、誰かの笑顔を守るために。
アクセルが持つその思いは、似ていた。
まるで、五代雄介が仮面ライダークウガとなる為に抱いた信念と。

「おおおおぉぉぉっ!」

変身を果たしたアクセルは、その名の通りに疾走を始めた。
京介変身体と戦っている、戦場へと。
彼は力を込めて、拳を握り締める。
そのまま、レンゲルにそれをぶつけた。
未確認と戦っている、五代のように。

466強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:56:16 ID:K0P1APO.
「グッ!?」

京介変身体をいたぶる事に集中していたレンゲルは、その一撃を無様に受けてしまった。
吹き飛ぶ相手に目を向けず、アクセルは手を伸ばす。
レンゲルの手によって傷を受けて、倒れてしまった京介変身体へと。

「桐谷君、大丈夫か!」
「その声は……一条さん!? 俺は大丈夫です!」
「気持ちは分かるが、無茶をしすぎだ。彼女を放ってはいけないだろう」

赤い戦士は銀色の戦士を支えて、立ち上がらせる。
そして、突っ走った事に対して咎めた。

「すみません、でも俺は――!」
「分かっている、人を守りたいんだろう。だがそれは後だ」

謝罪の言葉を遮って、アクセルは振り向く。
既に起きあがっている、レンゲルに。
照井との戦いでダメージを負ったにも関わらず、未だに顕在していた。

「奴は強い。少しでも油断したら、負けると思うんだ」
「分かりました!」

アクセルの言葉に、京介変身体は頷く。
金の力を手に入れたクウガすらも圧倒した、未確認生命体第3号。
怪物の姿でなくても、それは顕在だった。
レンゲルに戦慄を覚えるが、負けるわけにはいかない。
アクセルと京介変身体は、敵に特攻しようとした。

「チッ!」

そんな二人を前に、レンゲルは脇腹より四枚のラウズカードを取り出す。
ハートのキング。
スペードのキング。
スペードのクイーン。
それらのカードを放り投げて、最後の一枚をレンゲルラウザーに読み込ませた。
クラブの10、テイビアリモートのカードを。
それによってレンゲルラウザーの先端から、三つの光が発射される。
すると、三枚のラウズカードは徐々に形を変えていった。

「「なっ!?」」

アクセルと京介変身体は、反射的に足を止める。
目の前に、突然三体の異形が姿を現したため。
パラドキサカマキリの始祖たるカテゴリーキング、パラドキサアンデッド。
コーカサスオオカブトの始祖たるカテゴリーキング、コーカサスビートルアンデッド。
ヤギの始祖たるカテゴリークイーン、カプリコーンアンデッド。
それら全てが、テイビアリモートの効果によって封印が解かれた、レンゲルの傀儡となった上級アンデッド。
レンゲルは三体の先頭に立って、進撃を開始した。

467強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:57:05 ID:K0P1APO.

「ハハハハハハハッ!」

邪悪な笑い声が、仮面の下から聞こえる。
レンゲルとコーカサスビートルアンデッドはアクセルに、パラドキサアンデッドとカプリコーンアンデッドは京介変身体に。
それぞれ二手に分かれて、攻撃を仕掛けた。
アクセルと京介変身体は、何とか立ち向かう。
しかし、二対一という数の優劣。
加えて召喚された、三体の上級アンデッド。
それらの要因によって、二人の仮面ライダーは不利に追い込まれてしまう。

「うわあっ!」

やがて京介変身体は、アンデッド達から攻撃を受けて吹き飛ばされた。
凄まじい一撃を受けて、彼は地面に叩き付けられる。
その瞬間、カプリコーンアンデッドは視界を別の方に移した。
この場では、何の力も持たない一組の男女の方へと。
レンゲルからダメージを受けた、照井竜。
そんな彼の元にいる、間宮麗奈。
そんな二人の元に、カプリコーンアンデッドは歩みを進めた。





「しまった!」

照井と麗奈の方を見て、アクセルは狼狽する。
カプリコーンアンデッドが、京介変身体を振り切った事に。
彼はすぐさま、二人の元へ向かおうとする。
しかし、レンゲルがそれを許さなかった。

「フンッ!」
「ハアッ!」
「くっ!」

レンゲルラウザーと、コーカサスビートルアンデッドの持つオーバーオールが、立て続けに迫る。
何度も振るわれる二つの獲物を、アクセルは避けるので精一杯だった。
反撃を繰り出そうとしても、リーチの長さがそれを許さない。

「くそっ……!」

痛む身体を無理矢理起こしながら、照井は麗奈を庇うように立つ。
だが、カプリコーンアンデッドには関係ない。
相手はただの人間。しかも、負傷している。
あっさりと、横薙ぎに吹き飛ばした。

「ぐあっ!」

カプリコーンアンデッドによって、照井の身体は地面に叩き付けられる。
残ったのは、生身を晒す麗奈一人だけ。
アンデッドの殺意は、彼女に向いていた。

「間宮さんっ!」

京介変身体は、パラドキサアンデッドから何とか切り抜けようとする。
しかし、相手はカテゴリーキング。
鬼の中でも、実力の低い彼では勝てる相手ではない。
パラドキサアンデッドに京介変身体は拳を振るう。
だが、呆気なく止められてしまい、逆に投げ飛ばされた。

468強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:58:00 ID:K0P1APO.

「い、嫌……!」

怯えた麗奈は、後退ってしまう。
それでもカプリコーンアンデッドは、彼女を目がけて進んだ。
麗奈の中を支配する感情。
恐怖。
殺し合いと言う現状と、目の前の化け物に対して。

(殺される…………! そんなのは、嫌!)

このままでは、殺される。
自分と共にいる男達も、今はこれない。
風間大介も、ここにいない。
自分を守る者は、誰もいない。
ならば、このまま殺されるしかないのか。
そんなのは嫌だ。
殺されたくない。
でも、何も出来ない。
死にたくない。
ならば、どうするべきか。
自分も戦うべきなのか。
どうやって。
答えは簡単だ。

自分がこの手で、目の前の怪物を殺してしまえばいい。

麗奈の中で、その考えが芽生える。
そんな事など知らずに、カプリコーンアンデッドは腕を振るった。
それは、彼女の身体を両断しようと迫る。

「ッ!?」

だが、その腕は届かない。
勢いを、止められてしまった。
カプリコーンアンデッドが叩き潰そうとした、麗奈によって。
腕を振り解こうとするが、全く動かない。
まるで万力で押さえつけられているかのようだった。

「フンッ!」

やがて麗奈は、カプリコーンアンデッドを投げ飛ばす。
その華奢な体格からは想像できない程の、圧倒的な力で。
倒れた異形を、彼女は勢いよく踏みつけた。

「愚かな……」

先程とは一片、永久凍土の如く冷たい表情で告げる。
彼女の瞳からは、圧倒的な威圧感が感じられた。
上級アンデッドの一体である、カプリコーンアンデッドを恐縮させてしまうほどに。
無論、その出来事を疑う者達は他にもいる。
アクセルも、照井も、京介変身体も、レンゲルも、召喚されたアンデッド達も。
麗奈がカプリコーンアンデッドを叩き付けている事実が、信じられなかった。
やがて、彼女は戦場に目を向ける。

469強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:58:45 ID:K0P1APO.

「お前達にも聞かせてやろう……」

そして呟いた。

「私のレクイエムを」

死に行く者達への、鎮魂歌。
自分に刃向かった者への、制裁。
麗奈は、自身の顔に右手を添える。
その直後、彼女の身体は音を立てながら、変化を始めた。
不気味な光が麗奈を覆って、異形の骨格となる。
地球に生息するシオマネキの如く、硬質感溢れる装甲。
全身から飛び出す棘。
右腕に装着された、巨大な鋏。
『カブトの世界』に潜むワームを束ねる、圧倒的実力を誇る異形。
ウカワームに、間宮麗奈は姿を変えた。

「何っ……!?」

それは、誰の声かは分からない。
ここにいる全員が、信じられなかった。
ただの人間だと思っていた麗奈が、化け物へと変わった事に。
その直後、ウカワームの身体が唐突に消えた。
ワームが持つ高速移動の特性、クロックアップを使った事によって。
後に残ったのは、風によって舞う砂煙のみ。

「グアッ!」

そして、レンゲルの口から悲鳴が漏れた。
鎌鼬のように動くウカワームの攻撃を、受けた事によって。
続くように、レンゲルが召喚したアンデッド達も宙に吹き飛んだ。
それはまるで、風に舞う木の葉のように。
直後、ウカワームは再びその姿を現す。
レンゲルは仕返ししようと、レンゲルラウザーを振るった。

「小賢しい」

しかし、ウカワームは左手でそれを容易く弾く。
衝撃によって蹌踉めいたレンゲルに、更なる一撃を加えた。
その一撃を受けて、軽々と吹き飛ばされていく。
アンデッド達は、既にカードに戻っていた。
制限による、一分間が過ぎてしまったため。
地面へと倒れたレンゲルを潰そうと、ウカワームは進もうとした。

「うっ!?」

突如、頭に衝撃を感じる。
ウカワームは反射的に、左手で押さえ込んだ。
何処からともなく、声が聞こえる。

『麗奈さん』

『間宮麗奈』の記憶が、鳴り響いた。
自分の正体を知っても尚、愛を向けてきた男の顔。

470強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 12:59:38 ID:K0P1APO.

『俺がそばにいる、ずっとそばにいるから!』

風間大介。
仮面ライダードレイクとなって、かつて自分を葬った人間。
そして、最期を見取った男。
あの男の声が、頭の中で響く。
人間として生きていけるなどと、あの男は言った。
だが自分はワーム。そのような事が、出来るはずがない。
分かっているはずなのに。
心の何処かが、何かがそれを拒む。

「…………くっ!」

やがてウカワームは、その場から走り去った。
何故そうしたのかは、自分でも分からない。
『間宮麗奈』の記憶が、人殺しを拒んだのか。
風間大介の言葉が、人殺しを拒んだのか。
あるいはその両方なのか。
答えは、見つからない。

「待てっ!」
「ガアアァァァァァッ!」

走り行くウカワームを、アクセルは制止しようとする。
しかしそんな彼の前で、レンゲルが杖を振るいながら迫ってきた。
横薙ぎに払われるレンゲルラウザーを、アクセルは紙一重で回避する。
だがレンゲルは、矢継ぎ早に杖を突き出そうとした。

「一条さんっ!」

それを阻むかのように、京介変身体がレンゲルラウザーを掴む。
それを見たレンゲルは、ラウズカードを取り出した。
クラブの4。ラッシュライノセラスのカードを。

『RUSH』

カードをレンゲルラウザーに通した。
音声が発せられる中、レンゲルは京介変身体を振り解く。
そして、レンゲルラウザーを用いて突きを繰り出した。

「うわああぁぁっ!」

怒濤の勢いで、杖が肉体に突き刺さっていく。
カードの力を借りた連続攻撃、ライノセラスラッシュ。
それは京介変身体を吹き飛ばすのに、充分な威力を持っていた。
彼の身体は大地に叩き付けられた途端、変身が解除される。
レンゲルとアンデッド達との戦いで受けたダメージによって、限界を迎えたのだ。
後に残るのは、全裸を晒す桐谷京介のみ。
度重なる負傷によって、彼は気を失ってしまった。

471強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 13:00:37 ID:K0P1APO.

「ボボデギゾバ、ブザサン (この程度か、くだらん)」

侮蔑の言葉を、レンゲルは倒れた少年に投げつける。
果敢に立ち向かったが、所詮はリント。
究極の力を手に入れた、自分の敵ではない。
そのまま、京介の命を奪おうとレンゲルは進む。
しかし、その道をアクセルが阻んだ。

「彼に……手を出すなぁっ!」

咆吼と共に、彼は拳を振るう。
敵に向かって一直線に向かっていく、パンチ。
だが到達する直前に、レンゲルはそれを止めた。
何の苦労もせずに。
そのまま、仮面の下で笑みを浮かべながら、アクセルの拳に圧力をかけた。
赤い戦士の手が、メリメリと音を立てながら軋む。

「ぐ……あっ!」
「レザパシ、バンザジョ(目障り、なんだよ)」

呻き声を漏らすアクセルに、レンゲルは杖をぶつけた。
真紅の身体が弾き飛ばされるが、道路を転がる。
しかし、それでもすぐに立ち上がった。

「まだだ、まだだぁっ!」

再びアクセルは吼える。
ここで倒れるわけにはいかない。
五代はいつも、こんな戦いを乗り越えてきた。
そして今も、殺し合いをしろと言われて、辛い気持ちのはず。
ならば、自分も戦わずにどうする。
ここで倒れたら、誰がみんなを守るのか。
こんな不条理な戦いに巻き込まれた、多くの命。
絶対に守らなければならない。
その強い信念を胸に、アクセルはレンゲルに対峙した。

「はあっ!」

何度目になるか分からない、パンチを放つ。
しかしレンゲルラウザーによって、呆気なく弾かれた。
手に感じる痛みを無視して、今度は蹴りを繰り出す。
レンゲルは、腰を反らしてそれを避けた。
そこから、反撃の一撃を放つ。
レンゲルラウザーの先端は、アクセルに容赦なく突き刺さった。

「があっ!」

血液のように、胸板から火花が飛び散る。
受け身を取る事も出来ずに、背中から地面に倒れた。
直後、京介のように彼も限界を迎えてしまう。
アクセルの装甲を構成する分子は崩れ、一条薫の姿を晒した。
しかし、それでもまだ意識は保っている。
そして幸いにも、アクセルドライバーは吹き飛んでいない。
痛む身体に鞭を打ちながら、一条はメモリのボタンを押した。

472強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 13:01:40 ID:K0P1APO.

『ACCEL』
「変身!」

電子音声を耳にしながら、アクセルドライバーに突き刺す。
だが、何の反応も示さない。

「何!?」

一条は狼狽する。
この戦いに科せられている、参加者全員の変身制限。
一度変身を解いた後は、二時間経過しなければ不可能。
無論、彼がそれを知る由はない。
そんな一条の無様な姿を眺めながら、レンゲルは目前にまで迫った。

「ジャガバ (じゃあな)」

レンゲルラウザーを掲げながら、あっさりと言い放つ。
そのまま、一条の命を奪うために振り下ろそうとした。

「させるかぁっ!」

その直後。
レンゲルの動きは、突如として止まった。
敵の身体に、照井がしがみついたため。
アンデッドの攻撃によって、額からは血が流れていた。
服装も所々が千切れ、至る所から出血している。

「照井さん!?」
「何をしている一条! 彼を連れて早く逃げろ!」

痛々しい姿の照井は、一条と目を合わせながら叫んだ。
そんな彼を振り解こうと、レンゲルは藻掻く。
しかし、照井は耐えた。

「こいつはまだ何か隠し球を持っている可能性がある! このままでは、俺達は全滅だ!」
「ですが、貴方は……!」
「俺に質問をするな! お前は警察官だろう! ならば、命に代えても一般市民を守るのが使命のはずだ!」

一条に対して、必死に言い聞かせる。
照井の言い分は、理解出来た。
自分の後ろには、一般市民の少年が倒れている。
そして、目の前にいるのは既に死んだはずの未確認生命体第3号。
ならば優先すべきは、人の命を守る事。
それが警察の本文であり、使命だ。
それでも、一条は同じ志を持つ人間を、見捨てる事は出来ない。

「しかし!」
「これは命令だ! 一刻も早く、彼を連れてこの場から離れろ! そして――!」

照井は、真っ直ぐな瞳を向ける。
その中には、確固たる信念が宿っていた。
彼はそれを言魂に込めて、大きく叫ぶ。

473強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 13:03:15 ID:K0P1APO.

「警察官として……仮面ライダーとして、このふざけた戦いにゴールを迎えさせろ! 一条薫、行けぇぇぇぇぇぇ!」

そう、警察官が持つ信念。
人々を守る揺るぎない正義。
そして、かつて左翔太郎が自身に告げた、仮面ライダーの意義。
町を泣かす悪魔から、人々を守る事。
それら二つが込められた、照井の叫び。
彼の思いを聞いて、一条は立ち上がった。
すぐさま京介を背負い、三人分のデイバッグを回収する。

「……申し訳ありませんっ!」

照井を一瞥すると、一条は走り出した。
人間一人と、バッグ三つ。
それなり重さだが、動けない事もない。
彼は振り向く事はせずに、無我夢中で走った。
一刻も早くここから離れて、京介を助けるために。

(俺は……何をやっている! 警察官の俺が、人を見捨てるなんて……!)

同じ刑事である照井竜を見捨てた事実が、一条の心を責め付けた。
自分の力が足りなかったせいで、この選択を取ってしまう。
五代ならば、照井の事も救えたはずなのに。
自分は、無力だ。
警察官として、いや人間として最低だ。

(そして……間宮麗奈。まさか、彼女も未確認だったのか!?)

先程、異形の怪物に姿を変えた間宮麗奈。
ただの一般市民と思っていた。
だがその正体は、未確認生命体。もしくは、異世界の怪人。
しかし今は、この究明に時間をかけている場合ではない。
まずは安全な場所まで避難し、京介を介抱する事。
状況の整理は、それからだ。

(俺も……あの人のように『仮面ライダー』として戦わなければいけないのか?)

照井が残した言葉。
仮面ライダーとして、この戦いを終わらせる。
彼の世界では、町を守るヒーローと呼ばれているらしい。
しかし、第3号はその力を使って、自分達を襲った。
そして大ショッカーは、仮面ライダーを世界が崩壊する原因と語る。

(『仮面ライダー』とは……一体何なんだ!?)

この単語に関する疑問が、一条の中で広がっていく。
答えを見つける事が出来るのか。
それはまだ、誰にも分からない。


そして、二人は撤退に成功した。

474強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 13:04:13 ID:K0P1APO.



【1日目 夕方】
【D−2 市街地】


【一条薫@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話 未確認生命体第46号(ゴ・ガドル・バ)撃破後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、罪悪感、仮面ライダーアクセルに2時間変身不可
【装備】AK-47 カラシニコフ(対オルフェノク用スパイラル弾入り、残り15発)@仮面ライダー555、 アクセルドライバー&アクセルメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2、名護のボタンコレクション@仮面ライダーキバ、車の鍵@???、照井の不明支給品
【思考・状況】
1:桐谷と共に、安全な場所まで離れる。
2:鍵に合う車を探す。
3:『仮面ライダー』とは一体……?
4:一般人は他世界の人間であっても危害は加えない。
5:五代、桐谷や照井の知り合いと合流したい。
6:未確認への対抗が世界を破壊に導いてしまった……?
7:自身の無力さと、照井を見捨ててしまった事に嫌悪。
【備考】
※ 『仮面ライダー』はグロンギのような存在のことだと誤認しています。
※ 『オルフェノク』は『ある世界の仮面ライダー≒グロンギのような存在』だと思っています。
※ 対オルフェノク用のスパイラル弾はオルフェノクにほぼ効きませんが、有効なものであると勘違いしいています。
※ 『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。
※ 麗奈の事を未確認、あるいは異世界の怪人だと推測しています。


【桐矢京介@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】最終回後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、気絶中
【装備】変身音叉@仮面ライダー響鬼
【道具】支給品一式、不明支給品×0〜1、着替えの服(4着分)@現実
【思考・状況】
0:…………(気絶中)
1:人を守る。
2:麗奈を守る。
3:化け物(イマジン)が気になる。
4:一条、照井、麗奈と行動を共にする。
5:響鬼達との合流を目指す。
【備考】
※名簿に書かれた『財津原蔵王丸』の事を、同名の他人だと思っています。
※ 『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。








ウカワームは、力無くよろよろと走っている。
行くあてもなく、どこまでも。
自分の中の何かが、叫んでいる。
人を殺したくないと。

475強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 13:05:11 ID:K0P1APO.
これは、自分が擬態した人間の意志。
馬鹿な。何故今更、奴が出てくる。
もうとっくの昔に、消えたはずなのに。

「くっ……」

やがて、膝が地に落ちた。
答えは出てこない。
自分は一体、何がしたいのか。
人間達を何故、殺そうとしないのか。
疑念が広がる中、ウカワームの身体に変化が起こる。
瞬く間に、間宮麗奈の姿へと戻った。

「私は…………」

その直後、彼女の表情から覇気が消える。
間宮麗奈としての意識を、取り戻したため。
やがて、彼女は力無く倒れた。
その精神が、限界を迎えたため。
自らの運命に翻弄されたワームの意識は、闇へと消えた。





C−1エリア。
夕焼けに照らされた道に、二つの人影があった。
一人は、何処にでも見られそうな頼りなさげな雰囲気を放つ青年。
『555の世界』より連れてこられた、仮面ライダーデルタの資格者。
三原修二。
もう一人は、皮膚が紫色に染まった龍を思わせる外見の異形。
『電王の世界』で、時の運行を乱そうとするカイに反旗を翻した、イマジンの一人。
リュウタロス。

「ほらほら修二、遅いよ〜!」
「待ってくれって、リュウタ!」

彼らは今、赤みが増した空の元を歩いていた。
互いの仲間を捜すために。
走るリュウタロスを、三原が痛みを我慢して追う形となっていた。
ここで少しでも遅れたら、何をされるか分からない。
そんな思いで、三原は何とか走っている。

「あれ、あそこに誰か倒れてるや」

その最中、リュウタロスは突然足を止めた。
彼に合わせるように、三原も止まる。
そして、彼らは見つけた。
見知らぬ女性が、道端に倒れているのを。
二人はすぐさま、彼女の元に駆けつけた。

476強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 13:06:43 ID:K0P1APO.

「ねえ修二、このお姉ちゃんって知り合い?」
「いや、俺は知らないけど……」

リュウタロスの問いに、三原は首を横に振る。
この女性が、ただの一般人なのか。
それとも、最初の仮面ライダーのように戦いに乗ってるのか。
二人には判断がつかない。

「まあいいや、このお姉ちゃんを助けようよ」
「えっ? でも、もしかしたら……」
「答えは聞いてない」

気絶した女性を見て、リュウタロスはそう提案する。
一方的な決めつけだが、今回は三原も反対しなかった。
いくら彼でも、倒れている人間を助けるくらいの善意を持っている。
そして、もう一つ。

(……まあいっか、上手くいけば休めるかもしれないし)

三原を動かす理由。
それは、休む時間の確保。
危険人物にしてもそうでないにしても、建物の中に行かざるを得ない。
そうすれば、この女性が起きるまで休む事も出来るはずだ。
少し邪な考えを持ちながら、三原は背負う。


彼らは知らない。
自分達の支給品である、ドレイクグリップ。
それがかつて、間宮麗奈と恋に落ちた男の物である事を。
そして、ウカワームを葬った道具である事を。
奇妙な偶然によって巡り会った二つが、どんな運命を導き出すか。



【1日目 夕方】
【C−1】

【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】疲労(中)、筋肉痛
【装備】デルタドライバー、デルタフォン、デルタムーバー@仮面ライダー555
【道具】なし
1:リュウタロス、麗奈(名前を知らない)と共に市街地に向かう。
2:巧、真理、良太郎、モモタロスと合流したい。草加、村上、牙王を警戒。
3:戦いたくないが、とにかくやれるだけのことはやる
4:オルフェノク等の中にも信用出来る者はいるのか?
5:市街地に着いたら、建物に行って麗奈が起きるのを待つ。
【備考】
※リュウタロスに憑依されていても変身カウントは三原自身のものです。
※同一世界の仲間達であっても異なる時間軸から連れて来られている可能性に気付きました。同時に後の時間軸において自分がデルタギアを使っている可能性に気付きました。
※巧がオルフェノクの可能性に気付いたもののある程度信用しています。


【リュウタロス@仮面ライダー電王】
【時間軸】本編終了後
【状態】健康
【装備】リュウボルバー@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、ファイズブラスター@仮面ライダー555、ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト
1:三原、麗奈(名前を知らない)と共に市街地へ向かう。
2:良太郎に会いたい
3:大ショッカーは倒す。
【備考】
※人間への憑依は可能ですが対象に拒否されると強制的に追い出されます。
※ドレイクゼクターがリュウタロスを認めているかは現状不明です。

477強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 13:07:35 ID:K0P1APO.


【間宮麗奈@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第40話終了後
【状態】気絶中、精神的疲労(大)、人間不信 ワームの記憶喪失、ウカワームに二時間変身不可
【装備】ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式、デンカメンソード@仮面ライダー電王、『長いお別れ』ほかフィリップ・マーロウの小説@仮面ライダーW
【思考・状況】
0:…………(気絶中)
1:とりあえず一条、京介、照井についていく。
2:他人が怖い。
3:殺さなければ殺される……。
4:あの人(影山)は一体……?
【備考】
※ 『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。
※ 一時的にウカワームの記憶を取り戻しましたが、再び失いました。
※ ただし、何か強いショックがあれば取り戻すかもしれません。





「ぐあっ!」

照井の身体は、壁に叩き付けられる。
一条と京介を逃がすために押さえつけた、レンゲルによって。
その衝撃で、傷口からの出血がより一層激しくなる。
燃えるような激痛によって、照井の視界が徐々にぼやけてきた。
そんな彼の前に、レンゲルは立つ。

「ジョブロ、ジャラゾギデブセダバ……! (よくも、邪魔をしてくれたな……!)」

仮面の下から、憤怒の視線と言葉をぶつけた。
脆弱なリント如きが、ここまで自分の邪魔をする。
その事実が、レンゲルは溜まらなく屈辱だった。
怒りに任せて、レンゲルラウザーを振るう。

(これが、俺のゴールなのか……)

薄れていく意識の中で、照井は思った。
自分はもう、死ぬ事を。
愛する家族を皆殺しにした、Wのメモリを持つ男への復讐を果たしていないのに。
その為に、シュラウドと名乗る女から力を手に入れたのに。
無念が広がっていく。

(一条、お前は戦え……そして、俺から全てを奪ったあの男を……)

しかしその一方で、妙な充実感が生まれていた。
異世界の刑事である、一条薫。
仮面ライダーの力を持つ少年、桐谷京介。
彼らを逃がせた事。
それが出来ただけでも、穏やかな気分になれた。
何故かは分からない。
警察官としての理念を果たせたからなのか。

478強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 13:08:29 ID:K0P1APO.

(みんな、仇を取れなくてごめん。でも、これでいいんだよな)

やがて照井の瞳は、ゆっくりと閉じられる。
彼が思い浮かべる光景。
それは、幸せに満ちていた頃の日々。
父の雄治を目指して、警察官を目指した自分。
夢を応援してくれた、母と春子。
みんなとの、掛け替えのない思い出。
それが走馬燈のように、照井の中で浮かび上がっていった。

(今から、そっちに逝くよ…………)



瞳が閉じるのと同時に、彼の胸にレンゲルラウザーが容赦なく刺さる。
皮膚を、筋肉を、骨を、臓器を突き破って、背中を貫通した。
痛みを感じる暇も、もはやない。
復讐に身を任せた男、照井竜。
この時が、彼の戦いにおけるゴールだった。









「ゲハハ……ゲハハハハハ……ゲハハハハハハハァッ!」

狂った笑い声をあげながら、レンゲルは武器を振るう。
もう動く事のない、死体となった照井に目がけて。
激情と狂気に任せて、レンゲルラウザーを叩き付けた。
身体の至る部分を、杖で砕く。
その度に、鎧は血肉で汚れていった。
辺りに生臭い匂いが広がるが、そんなのは気に止めない。
弱いリントを嬲れるという、優越感。
ゲゲルのスコアを上げたという、充実感。
それら二つによる、勝利の美酒に酔いしれてる彼にとって。
スパイダーアンデッドとガイアメモリの毒に溺れた彼にとって、無い物に等しかった。

「止めろッ!」

そんな中、レンゲルの耳に男の声が響く。
それに反応して、攻撃を止めて振り向いた。
このエリアに現れた、一組の男女を。
声の主である茶髪の青年、城戸真司。
警察特有の制服に身を包む女性、小沢澄子。
これを意味するのは、ゲゲルのターゲットが増えた事。
そう確信したレンゲルは、笑みを更に強めた。

479強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 13:09:48 ID:K0P1APO.

「遅かった……!」

血にまみれた照井の屍を見て、小沢は愕然とした表情を浮かべる。
自分が間に合わなかった事。
そのせいで、人を死なせてしまった事。
レンゲルと自分自身に対する怒りが、小沢の中で沸き上がっていく。

「何でこんな事をっ……!」

一方で、真司も憤慨していた。
目の前の仮面ライダーは、こんな殺し合いに乗っている事に。
こんな戦いに乗っても、何も得られない。
浅倉威のように、人の命を無意味に奪う仮面ライダーを許すわけにはいかない。
真司と小沢は、デイバッグからカードデッキを取り出した。
足元には、ガラスの破片がいくつも散らばっているため。
彼らはそれに向けるように、カードデッキを構えた。
すると、それぞれの腰に銀色のベルトが巻かれる。

「「変身ッ!」」

二人は叫びながら、カードデッキをVバックルに装着。
刹那、人型の虚像が多数現れ、身体を包み込む。
変身は、一瞬で完了した。
平行して存在する、二つの『龍騎の世界』に存在する仮面ライダー。
龍の紋章が刻まれた仮面、その下で赤い輝きを放つ複眼、炎の如く真紅に彩られたスーツ、それを守る銀色の装甲、左腕に装着された龍の籠手。
『龍騎の世界』を代表する、無双龍ドラグレッダーを従える戦士、仮面ライダー龍騎へと城戸真司は姿を変える。
一方で、小沢も変化を果たした。
青と銀の二色に輝く鎧、その下で守られた黒いスーツ、右手に付けられた鮫の頭部を模した手甲。
本来はもう一つの『龍騎の世界』で、Atashiジャーナルの編集長を殺した鎌田が使用していた、アビスハンマーとアビスラッシャーの二体と契約した仮面ライダー。
仮面ライダーアビスへと、小沢澄子は姿を変えていた。

「キヒヒヒヒヒ……ヒヒヒヒヒハハハハハハッ!」

不気味な笑い声と共に、レンゲルはレンゲルラウザーを構える。
彼の感情は、非常に高ぶっていた。
弱い相手を殺した矢先に、また新たなリントが現れる。
それも二人も。
ならば望み通りに殺してやろう。
そして、逃げたリント達も殺す。
その後は、病院にいるクウガも殺す。
全ての参加者もダグバも、自分が殺す。
そうすれば、自分は並ぶ者のいない最強の存在であると証明出来る。
レンゲルは――ズ・ゴオマ・グは高笑いをしながら、仮面ライダー達に特攻していった。


【1日目 午後】
【E−2 住宅街】

480強魔 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 13:11:07 ID:K0P1APO.
【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 霧島とお好み焼を食べた後
【状態】健康、罪悪感、仮面ライダー龍騎に変身中
【装備】龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎、
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
1:目の前の仮面ライダー(レンゲル)を倒す。
2:小沢と一緒に津上翔一に会いに行く
3:ヒビキが心配
4:絶対に戦いを止める
5:蓮、霧島、北岡にアビスのことを伝える
6:大ショッカーは許せない
【備考】
※支給品がトランプだったことを、カードを使って戦う龍騎に対する宛てつけだと認識しました。
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解しています。
※アギトの世界について認識しました。



【小沢澄子@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終盤(第46話終了後以降)
【状態】健康、仮面ライダーアビスに変身中
【装備】コルト・パイソン+神経断裂弾@仮面ライダークウガ、アビスのデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式、トリガーメモリ@仮面ライダーW、ガルルセイバー(胸像モード)@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
0:目の前の敵(レンゲル)を倒す。
1:真司と一緒に津上翔一に会いに行く
2:殺し合いには乗らない
3:打倒大ショッカー
【備考】
※真司の支給品がトランプだったことを、カードを使って戦う龍騎に対する宛てつけだと認識しました。
※龍騎の世界について大まかに把握しました。


【ズ・ゴオマ・グ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第39話「強魔」、ダグバに殺害される前
【状態】疲労(中)、極度の興奮状態、スパイダーアンデッドに精神を支配されている、右足に痛み。仮面ライダーレンゲルに変身中、2時間変身不能(ズ・ゴオマ・グ究極体、アイスエイジ・ドーパント)
【装備】レンゲルバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(クラブA〜10、ハート7〜K、スペードの7,8,10〜K)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×3、ガイアメモリ(スミロドン)、不明支給品0〜1、三原の不明支給品(0〜1)
【思考・状況】
基本思考:優勝する。できればダグバは自分が倒す。
1:目の前のリント達を殺す。
2:それが終わったら逃げたリント(一条、桐谷)、病院にいたクウガ(アギト)を殺す。
【備考】
※怪人体には究極体にしかなれず、強化形態の制限時間に準じます。
※ルールブックは粗方読み終わりました。
※ガイアメモリ(アイスエイジ)は破壊されました
※コーカサスビートルアンデッド、パラドキサアンデッド、カプリコーンアンデッドが二時間召喚不可となりました
※レンゲルバックルとガイアメモリの影響により、精神に異常が起こっています
※レンゲルに変身してから、7分の時間が経過しました。



【真司と小沢の共通備考】
※1日目0時、E-4エリアの病院屋上で合流する予定です。



【桐生豪@仮面ライダー剣 死亡】
【照井竜@仮面ライダーW 死亡】
 残り46人



【全体備考】
※桐生豪の遺体はD−1エリアの何処かに放置されています。
※照井竜の遺体はE−2 住宅街に放置されています。

481 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 13:11:48 ID:K0P1APO.
これにて投下終了です
誤字脱字・矛盾点などがありましたらご指摘をお願いします。

482二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/02/23(水) 13:13:35 ID:c330pP3E
投下乙!

483 ◆LuuKRM2PEg:2011/02/23(水) 13:30:49 ID:K0P1APO.
>>479>>480の状態表を、一部修正します

【1日目 夕方】
【E−2 住宅街】

【ズ・ゴオマ・グ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第39話「強魔」、ダグバに殺害される前
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、極度の興奮状態、スパイダーアンデッドに精神を支配されている、右足に痛み。仮面ライダーレンゲルに変身中、2時間変身不能(ズ・ゴオマ・グ究極体、アイスエイジ・ドーパント)
【装備】レンゲルバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(クラブA〜10、ハート7〜K、スペードの7,8,10〜K)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式×3、ガイアメモリ(スミロドン)、不明支給品0〜1、三原の不明支給品(0〜1)
【思考・状況】
基本思考:優勝する。できればダグバは自分が倒す。
1:目の前のリント達を殺す。
2:それが終わったら逃げたリント(一条、桐谷)、病院にいたクウガ(アギト)を殺す。
【備考】
※怪人体には究極体にしかなれず、強化形態の制限時間に準じます。
※ルールブックは粗方読み終わりました。
※ガイアメモリ(アイスエイジ)は破壊されました
※コーカサスビートルアンデッド、パラドキサアンデッド、カプリコーンアンデッドが二時間召喚不可となりました
※レンゲルバックルとガイアメモリの影響により、精神に異常が起こっています
※レンゲルに変身してから、7分の時間が経過しました。

484二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/02/23(水) 20:38:59 ID:6sdF/0wg
投下乙です。

嘘だろ…あのゴオマが無双だと…
対桐生レンゲル戦に始まり、照井アクセルに一条アクセルとの戦いを生き抜いたゴオマすげえ
その過程でどんどん頭がイッちまうゴオマヤべえ
しかしそろそろ変身もネタ切れが近い。あとレンゲル3分と金メモリだけ?不明支給品次第か?さてどうなるか

桐生さんに黙祷。結局精神を支配されたまま、正義のライダーにはなれず終いったか…
照井にも黙祷。こちらは憎しみを振り切れないながらも、しかし立派に正義のヒーローだった
他にも数々の見せ場を作りながら多人数を動かした大作、見事でした!

485二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/02/23(水) 22:16:14 ID:aeuiEyLg
投下乙です。

予約のメンバー的に総勢11人による大乱戦かと思いきや別にそんな事は無く恐ろしいまでのゴオマ無双(サブタイ的に考えてゴオマ退場かと思ったらそれも無かった……いや、ボロボロだけどね。)
まず圧倒的パワーで桐生を潰し……桐生、この前の話まで比較的順調だったのに終わってみればキルスコア0……考えてみればリュウタ、金居、真司とずっと負け続きだったからなぁ(勝った相手が三原じゃ褒められた結果じゃあないね)……残念だ。
一方、同じく退場であんまり見せ場なかった様な気もする照井はしっかりアイスエイジを撃破し一条に後を託したのは格好良かった。
参戦時期的に復讐心持っていたけどそんな感じは無く見事な仮面ライダーだった。(まぁその復讐対象退場済みなわけですが)
が、自分的に印象に残ったのは一条仮面ライダーアクセル化。というか一番退場しやすい人物なのに思いっきり託されているぞー。
一方、麗奈もウカ化で一条と京介に衝撃を与えた……で、奇しくもドレイク所持のリュウタと三原に拾われる……運命的だなぁ。
そして、ノリノリゴオマと対峙した真司と小沢……とりあえず小沢のお陰で真司が持ち直したがゴオマに勝てるか……だがゴオマはまだスミドロンの変身を1回残している……これが示す意味は……


で、翔一……お前が探しているアギトはアギトじゃなくて超危険なマーダーだ。とりあえず早くそれに気付けぇーこのままじゃ道化やで!

486 ◆XEdZc54D6s:2011/02/24(木) 01:36:50 ID:aE/UFakY
初使用のレンゲルで無双するゴオマさんまじかっけぇ
では私も投下を開始します

487積み重なるJ/切り札は自分だけ ◆XEdZc54D6s:2011/02/24(木) 01:38:15 ID:aE/UFakY

「いやぁ、本当無事でよかったぜ、始さん」

あのカブトムシのドーパントに襲われてからどれくらいが立ったろう、
あの時から何度も口にした言葉を翔太郎はもう一度声にした。
先程から行動を共にしている始は仮面ライダーへの変身方法が無いただの
一般人のようだ、そう考えれば考えるほど翔太郎は嬉しかった。

(木場さん、俺はもうあんたのような犠牲は出させねぇ、
少なくとも俺とかかわった人間は必ず守りとおす!!)

翔太郎の心は強い決心に燃えていた、が皮肉にも木場という1人の犠牲が
なければここまで強い気持ちは生まれていなかっただろう。

「おい、ジョーカーの男」

さっきまで全く自分に口をきいてくれなかった始が口をきいてくれた、
それだけでも翔太郎には十分だった。

「なんだよ始さん、あとそのジョーカーの男っていうのやめてくれないかな
他人行儀みたいでいやなんだよ、」

「俺が好きなように呼ぶ、それより何故お前は俺にそこまで優しくするんだ?」

素朴な疑問であった、確かに自分はあの怪人に殺されそうに
なっていた所を助けてもらったが、ここまでする必要はないのではないか
すると、翔太郎は鼻で笑い、当然のように答えた。

「当たり前だろ、俺は自分と関わった人間は必ず守るって決めたからな、それに・・・」

「それに?」

「人を守るのが仮面ライダーの仕事だからな」

同じだ、言っていること、甘ちゃんなところ、翔太郎の言っていること
全てが自分の友、剣崎と重なって見えてしまった。
それは自分の決意を大きく揺るがした、世界を、栗原親子を守るために
他世界の人間を殺す、硬かったはずの自分の決意はもろく崩れそうになった。
自分も本当の甘ちゃんになってしまったのか。
そんなことを考えている間に自分たちの目の前に男達が現れた。

488積み重なるJ/切り札は自分だけ ◆XEdZc54D6s:2011/02/24(木) 01:39:07 ID:aE/UFakY

「やぁ、こんちは」

他のメンバーに何か合図をしリーダーらしき人物が話しかけてきた、
翔太郎は警戒を解かずじっと相手を見つめる。


「そんな怖い眼すんなって、俺らで協力してさ、
こんな殺しあいなんてぶちこわそうぜ」

男の眼は輝いていた、翔太郎は一瞬何を言われたかわからなかったが
自分の行動方針と同じなのを確認すると手を取り合った。

「おい、みんな!新しい仲間が増えたぞ!でてこいよ、」

その合図を機に男たちが木陰からぞろぞろと出てきた。
そしてその中の一人は始と知り合いらしく顔を見合わせると
少し驚いた顔をした。

「元の世界のお仲間さんがいたか、
おっとそんなことより自己紹介がまだだったな、
俺ヒビキ、名簿には日高仁志って乗ってるけどヒビキって呼んでくれ」

彼の名乗りを機に各々が自分の名前を名乗りだした。
小野寺ユウスケ、名護啓介、橘朔也・・・次は確実に横のボサボサ頭の
番なのだが下を向いたっきり黙っている。
ユウスケと名乗った男が何回か揺さぶるとようやく意識を取り戻した。

「んあ?おい小野寺こいつらは誰と誰だ?」

「それを今から聞こうとしとるんだろうが」

男は海堂と名乗ったがどこかボケているのではないかと思った。
次に始さんが名乗り、いよいよおれの番だ。

「俺は左翔太郎、Wの世界で探偵をやってる、よろしく!」

ヒビキさんたちは名前を聞いた瞬間顔を見合わせ決心したような顔をして
こちらへ向かってきた。

「君は本当にあのWの世界の人間なのか?」

そう聞いたのは橘さんだ。
俺は他世界の人間にも知られるほど有名な探偵になったのか
そう思い違いをしていると

「Wの世界の人間なら知っているはずだ!この首輪の外し方を!」

翔太郎は思わずきょとんとした、そんなこと俺が知るはずもない
そんなすごいことを知っていたら、そもそも俺が首輪をしているはずがない
そう述べた。

489積み重なるJ/切り札は自分だけ ◆XEdZc54D6s:2011/02/24(木) 01:40:34 ID:aE/UFakY

「そんな、俺の推測は全くの勘違いだったというのか」

頭を抱え、小刻みに震えている、よっぽどショックだったのだろう。

「俺の推測は全部的外れだったのか、メモリを全員が持っているという事も
死者の名前が書いてあるのは大ショッカ―の科学力を証明するためというのも・・・」

「おい橘、そんな状態で歩いてても危ないから、あの建物入って
ちょっと休もうぜ」

海堂の心遣いでビルの前まで来ると橘の様子が変わった。

「ここは・・・ボードじゃないか!!」

自分の世界では当の昔に壊滅してしまった
自分の所属組織の姿がそこにあった、橘は嬉しそうな様子でとっとと行ってしまった。
他のメンバーもほとほと呆れたようにあとについて行った。

「すごい!内装もほとんどあの頃のままだ!!」

喜び歓喜する橘、しかしそれはほんの一瞬であった。

「俺たちの思い出の建物をこんな殺しあいの場に建てやがって・・・」

その言葉には憎しみが含まれていた、自分や剣崎、桐生さんの
思い出の場所をこんな殺しあいの場の一部にしてほしくなかった。

「ふざけるな・・・大ショッカー!貴様は俺たちがぶっ潰す!
たとえ首輪が外れなくとも俺は仲間たちとともに
こんな殺しあいなんてすぐ打破してやる!!」

今ここに橘は仮面ライダーとして殺し合いをやめさせる決意を固めたのだった。




先程はしゃぎすぎたのか、橘はソファーの上でいびきをかきながら眠っていた

「あんな偉そうなこと言ってた割に、グーグーねてらぁ」

海堂があきれたような声を出す。

「にしてもどうしようか、こいつを置いてくわけにもいかないし・・・」

ヒビキが溜息をつきながらいう。
確かに一刻も早く仲間を集めたいという思いは皆にある、しかし・・・

「ヒビキさん、ちょっと急ぎすぎじゃねぇのかここで少し休んで
支給品の確認でもしようじゃねぇか」

490積み重なるJ/切り札は自分だけ ◆XEdZc54D6s:2011/02/24(木) 01:41:16 ID:aE/UFakY

そうかもしれないと溜息をもらしながらヒビキはデイパックを開け
支給品をテーブルの上に置いた。
それを境に各々がデイパックを開けだした。
彼らはまだ知らない、デイパックの中にどんなものがあり、
それがどのようにこの戦場に影響するのかを・・・



【1日目 夕方】
【G−5 ボード内部@仮面ライダー剣】


【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり
【状態】疲労(小)罪悪感(大)
【装備】ラウズカード(ハートのA〜6)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式、不明支給品(0〜2)
【思考・状況】
1:深い迷い
2:栗原親子のいる世界を破壊させないため、殺しあいに乗る?
3:左翔太郎を殺すか? それとも・・・
【備考】
※ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。
ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。
※時間内にヒューマンアンデッドに戻らなくてはいけないため変身制限を知っています。
時間をすぎても変身していた場合どうなるかは後続の書き手さんにお任せします。
※左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。
また翔太郎の雄たけびで木場の名前を知りました。

【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】健康 悲しみと罪悪感、それ以上の決意
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、翔太郎の不明支給品(0〜2)
 木場の不明支給品(0〜2)ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、首輪(木場)
【思考・状況】
1:仮面ライダーとして、世界の崩壊を止める。
2:カリス(名前を知らない)を絶対に倒す。
3:フィリップ達と合流する。
4:『ファイズの世界』の住人に、木場の死を伝える(ただし、村上は警戒)
5:ミュージアムの幹部たちを警戒。
【備考】
※木場のいた世界の仮面ライダー(ファイズ)は悪だと認識しています。
※555の世界について、木場の主観による詳細を知りました。
※オルフェノクはドーパントに近いものだと思っています(人類が直接変貌したものだと思っていない)。
※ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。
※また、大ショッカーと財団Ⅹに何らかのつながりがあると考えています。

491積み重なるJ/切り札は自分だけ ◆XEdZc54D6s:2011/02/24(木) 01:41:48 ID:aE/UFakY

【橘朔也@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】健康、睡眠中
【装備】ギャレンバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(クローバーA〜10)@仮面ライダー剣
    ガイアメモリ(ライアー)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式、ぜクトルーパースーツ&ヘルメット(マシンガンブレードは付いていません)@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
0:・・・(睡眠中)
1:俺は間違っていた?
2:ボード!、ボード!
3:殺し合いに勝たなければ自分たちの世界が滅びる・・・。
【備考】
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。

【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】健康
【装備】イクサナックル(ver,XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式
【思考・状況】
1:悪魔の集団大ショッカー・・・その命神に返しなさい!
2:とりあえず、まずはこの7人で行動し、支給品を整理する。
【備考】
※時間軸的にもライジングイクサに変身できますが、変身中は消費時間が倍になります。
※支給品の竜巻@仮面ライダー響鬼は自身の手で破壊しまいしました。
※ガイアメモリが全人に支給されていると勘違いしています。

492積み重なるJ/切り札は自分だけ ◆XEdZc54D6s:2011/02/24(木) 01:45:51 ID:aE/UFakY

【日高仁志@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】本編第41話終了後
【状態】健康
【装備】変身音叉・音角@仮面ライダー響鬼
【道具】支給品一式、着替え(残り2着)
【思考・状況】
1:とりあえず、7人で行動し支給品を整理する
2:打倒大ショッカー
3:殺し合いはさせない
4:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触
5:俺がしっかりしないと・・・
6:ガイアメモリ、どこかに落としちゃったのかな
【備考】
※アギトの世界についての大まかな情報を得ました。
アギト世界での『第4号』関連の情報を得ました。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※ガイアメモリは自分にも支給されていたが、
知らない間の落としてしまったと勘違いしています。

【海堂直也@仮面ライダー555】
【時間軸】最終話 アークオルフェノク撃破後
【状態】健康、ザンバットソードによる精神支配(中)
【装備】スマートバックル@仮面ライダー555、
    ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW
【思考・状況】
1:とりあえず、まずは7人で行動し、支給品を整理する
【備考】
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※ザンバットソードに精神を支配されています。
※ザンバットバットの力で現状は対抗出来ていますが、
時間の経過とともに変化するかもしれません。


【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】健康
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式、アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド
    ガイアメモリ(スカル)@仮面ライダーW、おやっさんの4号スクラップ@仮面ライダークウガ
    不明支給品×2(確認済み)
【思考・状況】
1:とりあえず7人で行動し、支給品の整理をする。
2:殺し合いには絶対に乗らない
3:もう一人のクウガか・・・・
【備考】
※デイバッグの中身は確認しました。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※おやっさんの4号スクラップは、未確認生命体第41号を倒した時の
記事が入っていますが、他にも何かあるかもしれません(具体的には
後続の書き手さんにお任せします)
※カードセットの中身はカメンライド ライオトルーパー、
アタックライド インビジブル、イリュージョン、ギガントです
※ライオトルーパーとイリュージョンはディエンド用です。
※インビジブルとギガントはディケイド用ですが
激情態にならなければ使用できません。

493 ◆XEdZc54D6s:2011/02/24(木) 01:46:28 ID:aE/UFakY
以上です。

494二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/02/24(木) 07:23:05 ID:A250f1Kk
投下乙です
現在地がG−5と書かれていましたが、マップのこの場所には何もありません
もしかしたら、Fー5じゃないでしょうか?

495二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/02/24(木) 09:46:58 ID:88mY058c
投下乙、何事も無く7人が合流か……

……あんまり言いたくないけど、なんか登場人物がみんながみんな馬鹿になっている様な気がするのは気のせい?

ちょっと気になる所あるんですが、
いきなり翔太郎が自分を『Wの世界で探偵をやってる』と自分のいる世界を『Wの世界』とは言わないと思うんですよね。
また、橘達が探しているのはあくまでも『ガイアメモリのある世界の人物』であってそれがイコール『Wの世界』とはなっていない筈なんですよね。
それに、橘組にしてもユウスケ自身が翔太郎達の世界(Wの世界)を知らない以上、それがWの世界という事は知り得ない筈なんですよ。

前々から思っている事ですが『○○の世界』というのはあくまでも読んでいる側だけが把握している部分、もしくはディケイド関係者(士、海東、ユウスケ、夏海、アポロ)だけが知る情報であってそれをダイレクトに本編に組み込んで良い内容じゃないんですよね。
客観的に言えば橘や始が自分の世界を『剣の世界』と言ったり、名護が自分の世界を『キバの世界』と言うのは不自然という事なんですよね。(敢えていうなら『ブレイド(キバ)が存在する世界』)

それに状態表を見ていても橘の道具の『ゼクトルーパー』が『ぜクトルーパー』という風にコピペで済む部分が変わっているのもおかしいですし。


だからこそ、自分としては先程指摘された場所に関する部分だけではなく上記の描写の部分は最低限修正すべきだと思っています。修正しなくて良いのであれば最低出てもそれに関する見識説明は必要ではないでしょうか?
書き手のルールでもある通り、

『2:原作設定からみて明らかに有り得ない展開で、それがストーリーに大きく影響を与えてしまっている』
『3:前のストーリーとの間で重大な矛盾が生じてしまっている(死んだキャラが普通に登場している等)』
『4:作品の中に矛盾がある、時間の進行が明らかにおかしい、重要な出来事の描写がない、状態表と本文が一致しないなど、内容的な不備がある』
『5:全体のバランスをこわしかねない展開やアイテムが含まれている(ただし、あらかじめ相談の上、住人や他書き手の許可を受けている場合を除きます)』

この部分に抵触している可能性があると思っています。正直、次の書き手がフォローを入れる事は可能だと思いますが、個人的には大きな展開縛りだと思いますし(個人的な意見だけど何事もなく7人合流は次の書き手への負担が大き過ぎるし、次の話であっさり崩壊させれば良いとしても正直興醒め過ぎる)




確かに前に『延長を使わず期限内に仕上げるのが本来の姿だ』と言われたから今回はそれで仕上げたというのはわからなくありません。
ですがそれは決して話の都合で設定無視や誤字脱字しても良いという免罪符にはなり得ません。

一応、ルール的には
『不安や疑問、質問などがある場合は、本スレに投下する前に 仮投下スレ に投下して意見を尋ねてみるのが吉です。 』
とあるわけですが、一度仮投下スレに投下して意見を扇ぐという方法だってあった筈です。というより今回の話は展開的にそれが必要だったと思います(ボート登場や7人合流)
それで問題があるなら修正してから本投下すれば良いわけですし。

氏に聞きたいのですが氏は今回のSSが『一字一句修正される事無く認められる。指摘は絶対に来ない』と思っていたのですか?
失礼を承知で言いますがそれは完全な間違いです。というより手慣れた書き手であっても『大丈夫だと思うけど、この展開で良かったのかなぁ?』と思う事は普通にあります。
完璧に見えるSSであっても何処かしらミス等、疑問点など引っかかる点はあります。ある程度は脳内保管でどうにか出来るとしてもそれは展開上の勢いで押し切れる場合です。読んでいる側を何かしらの理由で納得させられなければ何の意味もありません。

乱暴な言い方になりますが、氏の姿勢は何時か荒らしと取られる可能性があります。その辺をもう少し考えてください。

496二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/02/24(木) 15:11:48 ID:lZpgBlt2
投下乙。

>>495
言いたいことはわからんでもないがなげぇよ。3行にまとめなよ。

497二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/02/27(日) 00:15:41 ID:gezH71eA
・各キャラが「〜〜の世界」とか言い出すのがおかしい
・7人合流はキツい
・考え足らず

498 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:34:18 ID:kLWS2a9Y
これより矢車想、東條悟、北條透で投下を開始します。

499閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:35:01 ID:kLWS2a9Y
広い空から降り注ぐ暖かい日光が、大地に巨大な影を落としていた。
空を舞う黒龍、ドラグブラッカーの巨体によって。
その下の人影は三つ。その内の一人の姿は人間ではなく、龍の体色と同じ漆黒の鎧を纏っている。

「ふうん。デッキ見た時も思ったけど、やっぱり龍騎に似てる。じゃあ装備も同じかな」

東條悟は現在の自分の身体を眺め、そんな感想を口にした。
たった今、彼は目が覚めるとすぐに背負われていた男から一つのカードデッキを強奪、そのまま変身を果たしたのである。
彼が手にした鎧の名はリュウガ。彼の記憶にある赤い騎士、龍騎の全身を黒く染め上げたような外見である。
自分の姿を大体把握して、一度空を見上げると、ドラグブラッカーが咀嚼を終えて息を一つ吐き出すところだった。

「……とうとう一人消えちゃったね」

身体ごとその命を砕かれた女性、光夏海の死にリュウガは喜びを噛み締める。
他の人間を犠牲にすることが東條悟の願いを実現する唯一の手段。
他者から見れば酷く歪んだ、けれど彼にとっては純粋な理想にようやく一歩踏み出すことができたのだから。

「さあ、君達もすぐにあの子と同じになってほしいな」

リュウガが向けた舐めるような視線に、二人の男、北條透と矢車想は身を固める。
二人に共通して言えることは一つ。東條と違い生身を晒しているという点だ。

「不味いですね、今の私には彼に抗えるだけの力がありません」

北條は悔しげに毒づく。
これから騎士と怪物を相手にしなければならないというのに、今の北條は戦闘に使える道具を一切持っていないのだ。
だから今の頼みの綱は矢車想だけである。

「どうしたの? さっきみたいに飛蝗のライダーに変身したら?」

北條が矢車に声をかけようとしたとき、リュウガが挑発にも似た問いを投げかけてきた。
それを聞き、矢車へ向けられる北條の眼差しに淡い希望が混じる。
東條の言葉から察するに、矢車もまた「変身」の手段を持っていることになる。

500閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:35:47 ID:kLWS2a9Y
「……」

しかし、二人の視線を浴びてなお、矢車は一切の動きを見せない。
その態度は北條に違和感しか抱かせない。
今は敵に対抗する手段を使わなければ、一方的に命を奪われることが明らかな状況だ。
それにも関わらず、なぜ矢車は何もしないのか。

「……無理なのよ、今は」

矢車の代わりに答えたのは、北條の目の前に飛んできたキバーラだった。
なぜ蝙蝠が喋っているのかも不思議だが、それ以上に彼女の答えの方が気になった。

「どういうことです!? 今戦わないと我々は……」
「やっぱりね。モンスターみたいにライダーへの変身も制限つき、ってわけか」

声を荒げる北條だが、一方のリュウガは納得したような声を上げた。
仮面ライダーブレイドとの戦いの中で突然消えたデストワイルダーの謎と、キックホッパーに変身しない矢車の姿が一つの答えを導き出した。
ミラーモンスターの召喚、そして仮面ライダーへの変身には何らかの時間制限が課せられているのだと。
東條の言葉を聞き、ようやく北條の頭でも矢車の様子に合点がいった。
しかし今の北條にとって決して嬉しい事実にはならない。
陰湿な笑い声を零しながら接近するリュウガに対応する手段が無いことを意味するからだ。

「言っておくけど、あたしの魔皇力で変身できるのは夏海だけだから」
「……万事休す、ですかね」
「いや、まだ可能性はある」

矢車は小さく呟き、顎で東條の後方を指し示す。
そこには光夏海が遺した彼女自身のディバッグと東條のティバッグが落ちていた。

「あれの片方にはあいつのと似たようなデッキが入っている」

夏海のディバッグの中身は不明だが、少なくとも東條のディバッグについては存在を確認できたものが一つある。
仮面ライダータイガに変身するためのカードデッキだ。

501閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:36:41 ID:kLWS2a9Y
「あれを使えば、あの男にもある程度は……っ!?」

行動を指示しようとした矢車の言葉は突然遮られる。
これまでただ様子を眺めていただけのリュウガが一気に距離をつめてきて、遂に拳を向けてきた。
矢車は身体を捻り、顔面に向けられた拳をすんでの所で回避する。

「今度は僕の勝ちだよね。だって、君にはもう力がないから」
「はっ、どうだか……」

初撃をかわされながらも、勝利宣言に等しい言葉を聞かせてくる。
矢車もまた余裕の態度を見せ付けるが、それは見せかけだけなのは両者にわかっている。
人間対仮面ライダー、どちらが勝つかなど考えるまでもない。
リュウガは姿勢を整え、今度は左脚から蹴りが放たれる。

「くそっ、このままでは……」

北條は自分と矢車の間に立つリュウガを忌々しげに見つめる。
今はかわせているが、このまま戦い続ければ矢車が嬲られるのは目に見えている。
しかし、今の北條にできることといえば……

(あのディバッグの中身を回収すること、でしょうね)

矢車が示唆した一筋の光が、二つのディバッグのどちらかに隠されている。
幸いリュウガはこちら側に移動し、矢車の方に気を取られている。
少なくとも障害の一つは無くなったと見ていいだろう。

「GAAAAAAAAAA!!」
「くっ!!」

だが、あくまで一つ無くなっただけだ。
もう一つの障害、ドラグブラッカーは健在である。
北條がディバッグを狙っていることにも感づいているようで、ディバッグの間を埋めるように強靭な尾を地面に叩きつけた。
衝撃が地を揺るがし、思わず姿勢を崩す。
このままではディバッグを得られないどころか、怪物の餌になって終わりだ。

(向こうは仮面ライダー、こちらにはおまけのドラゴン。かわしつづけるだけじゃ埒が明かない。せめて私の方に何か援護でもくれたら……)

502閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:37:34 ID:kLWS2a9Y
「かわしてばかりじゃ辛くない?」

リュウガの攻撃は休むことなく続いていた。
拳を突き出し、脚を振り上げ、手を横に薙ぎ。
矢車は幾重もの攻めをどうにか回避しているが、全て当たる寸前で、といった状況だ。
これではただの消耗戦、いつかはこちらの身が捉えられる。
矢車のそんな不安に応じるように、とうとうリュウガの右膝が矢車の腹に当たった。

「ぐ……」
「ほらね」

ライダーの力で与えられた苦痛に呻きが漏れる。
さらにもう一発ダメージを負わせようとリュウガは拳を握り、叩きつけた。
矢車の身体が揺れたかと思った時、ついに矢車が回避以外の動作を見せる。

「ふんっ!!」

左脚での回し蹴りが放たれ、鮮やかな軌道を描く。
何に遮られることもなく、空気を切り裂き、リュウガの頭に吸い込まれる。
爪先が命中し、鈍い音が響いた。

「無理だよ」

結果、リュウガにダメージが与えられたかといえば……否。
いかに矢車の蹴りといえど、ただの人間の脚力で鉄仮面を破ることはできなかった。
リュウガは蔑みの目線を向け、右脚を矢車の腹に放つ。
こちらも命中し、吐瀉物が出そうな感覚がする。
だが、矢車は真っ直ぐにリュウガを見据え、諦めることをしない。

(まだ、死ねないんだよ)

警察官の肩書きを持つ北條や世界を守る旅を続けてきた夏海と違い、矢車には守りたい人がいなければ帰りたい場所もない。
それでも、あの夢の中で見つけた一つの目的を果たすまでは生きなければならない。
芽生えた意地はキックの応酬へと繋がる。
かわし続けるのがすでに困難なら、攻撃を続けるだけだ。
胸に、肩に、膝に、腕に。
前の戦いでキックホッパーとしてタイガに浴びせたように、矢車の蹴りがリュウガに隙を与えないほどに連続で叩き込まれる。
その中の一撃を受けて、リュウガが僅かに苦悶の声を漏らした。
装甲が薄く、なおかつ以前の闘いで傷を負った箇所に当たったようだ。

503閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:38:26 ID:kLWS2a9Y
「硬そうなのは頭だけか?」

チャンスを逃さず、追加で蹴りをお見舞いし続ける。
だからといってリュウガも黙って食らっているわけがない
またリュウガの拳が飛んできて、回避は叶わなかった。
再び受けたダメージに身体がよろめく。
仕返しのように続く、殴打、殴打、殴打。
この一方的な暴力が、いつまでも―――

「あああああっ!!」

―――続かず、キバーラの声に遮られた。
親指ほどの矮小な身体で、懸命にリュウガにタックルを仕掛ける。
リュウガへの嫌悪感と怒りがひしひしと伝わる叫びと共に、何度も何度も。
痛みは無くとも鬱陶しさはあったのか、リュウガの狙いは一度彼女へ向けられた。

「このっ」
「邪魔」

まるで蝿でも払いのけるかのように手を振るう。
その軽い一発を当てられただけで、キバーラは悲鳴を上げて吹き飛ばされてしまった。
それきりまた矢車へ顔を向けたが、ある変化に気付く。
何も持っていなかったはずの手にカギ爪のような奇妙な機械があった。
一体何だろうと思うより速く、その機械から小さな黄色い何かが飛び出す。
黄色い何かは真っ直ぐリュウガの身体へ突っ込み、衝突と同時に小さな爆発を起こした。

「何!?」

予想外の事態に、爆発が持つ矢車のキック以上の威力に驚きと苦痛の声を上げる。
その様子に矢車もまた驚き、しかし少し喜ぶ。
自分のディバッグの中から見つけ出した最後の支給品、ゼクトマイザーの攻撃力に。
幸運を味わう暇もなくそのまま数歩後退し、小型爆弾マイザーボマーを射出し続ける。

「くっ……調子に乗るな!」
―――SWORD VENT―――

504閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:38:56 ID:kLWS2a9Y
いくつもの爆発に耐えながら、リュウガは一枚のカードを左腕のバイザーにセットする。
直後、ドラグブラッカーの尾部を模した剣、ドラグセイバーが現れた。
柄を右手に握ると、向かって来た全てのマイザーボマーは一瞬の内に切り伏せられる。
それでも矢車は攻撃の手を緩めない。
一発、三発、五発とマイザーボマーを何発も撃ち続ける。
切り伏せられても、リュウガに当たることなく通り抜けていったとしても止めない。
少しでも、奴のいる方へ攻撃を与えねば。

「いい加減に!」

しかし最初に取った距離は詰められ、リュウガが振り上げた左手によってゼクトマイザーは弾かれ宙に弧を描く。
続けてリュウガの右拳が浴びせられ、矢車は地面に膝をついた。

「随分手を焼かされたけど、いよいよ終わりだね」

リュウガは満足気に矢車の身体を見下ろし、刃をつきつける。
この男には何度も痛い目に遭わされたが、それもここまで。
とうとう死を迎える矢車は顔を上げ、その両目はリュウガを―――



―――ではなく、その向こう側の光景を見つめていた。
その先では、黒龍ドラグブラッカーが苦悶の唸り声を漏らす様。

「やっと見つけましたよ」

そして、二つのディバッグの下に辿り着いた北條透の姿だった。
マイザーボマーは決してリュウガだけを狙っていたわけではない。
北條の動きを阻害するドラグブラッカーの巨体もまた攻撃対象だった。
だからこそ、マイザーボマーの何発かは敢えてリュウガが回避可能な方向に撃ったのだ。
そして傷を負ったドラグブラッカーが僅かでも動きを止めた隙に、北條は一気にディバッグの下へ駆けていった。

「……行け」

今、北條の手には東條のディバッグから取り出したタイガのカードデッキが握られている。
側の窓ガラスからVバックルが飛び出し、北條の腰に装着される。
この状況にふさわしい言葉は、ただ一つ。
北條は叫ぶ。



「変―――」

505閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:39:37 ID:kLWS2a9Y



「―――身、なんてさせないよ?」



リュウガの小さな呟き。
振り向くと共に北條めがけて投擲されるドラグセイバー。
一直線に、その鋭利な刃が北條の身体に迫る。

「まずい!?」

北條は変身のモーションを一旦取りやめ、後ろに飛び退いてドラグセイバーを回避する。
その隙を見逃すはずがないのはリュウガ、さらに。

「GAAAAA!!」

ドラグブラッカーだ。
太い尾を北條に向けて振り下ろしてきた。
地面を転がって直撃は免れるも、振動で身体が浮かび、地面に叩きつけられる。
今度こそドラグブラッカーは北條を仕留めようと、鋭い牙で噛み砕きにかかる。

「また消えた? ……時間制限か」

だが、北條の身体を捉える寸前でドラグブラッカーは消滅した。
どうやらデストワイルダーの時と同じく、召喚可能時間の限界が来たらしい。
だからといって、東條にとってさしたる問題はない。
リュウガは跳躍で一気に北條との距離を詰め、横たわる彼の手からタイガのデッキを奪い取る。
もう奪われることのないよう、デッキは回収した自分のディバッグに入れた。
これでもまだ北條が動きを見せるようなので、左手を踏みつけて痛めつける。

「残念だったね。これを使えばちょっとは抵抗できたかもしれないのに。」
「くうっ……ええ、残念です……」

506閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:40:15 ID:kLWS2a9Y
ついに諦めの言葉を口にした。
そうだ、二人は結局負けたのだ。
タイガのデッキを使うことは叶わず、ディバッグの中の他の支給品の中を手に入れたわけでもない。
それに、

(あれ、あの女のディバッグは……?)

少し気になって、夏海のディバッグに視線を移す。
ファスナーは、開いていた。

「残念ですよ。逆転劇を始めるのに、ここまで時間がかかったことが!!」

こちらを見る北條の目に、張り上げた北條の声に込められているのは、諦めではなく希望の光。
右手には、小さな青い箱が握られている。

「ちょっとそれって!?」

地面に落下したキバーラが驚愕している。
それが何故かなど北條に考える暇は無い。
今度こそ、逆転の一手は逃してたまるものか。



―――トリガァーーッ!!―――



青い箱、T2ガイアメモリを首輪に力強く挿し込む。
すると、北條に異変が起こる。
光と共に彼の身体は青く硬い皮膚に包まれる。
右手が細く長く伸び、先端は銃口になり、まるでライフルのような形になる。
呆気に取られるリュウガに向けて銃口から弾丸が放たれ、胸の装甲を抉り取った。
リュウガの拘束から解放された北條が立ち上がった時、姿は異形の狙撃手に変わっていた。
とある世界の技術により創り出された人類の新たなる姿、トリガー・ドーパントへと。

507閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:41:16 ID:kLWS2a9Y
「変身した!?」
「そのようですね!!」

トリガー・ドーパントは再びライフルから弾丸を連射し、同時にリュウガから離れていく。
近距離より中距離、中距離より遠距離。
自分の能力を発揮できる絶好の間隔を確保するために。

「この距離は、こちらのものです!」

リュウガの身体に弾丸の雨が容赦なく降り注ぐ。
小さくとも連続するダメージの中、対抗するにふさわしいカードは簡単に思いついた。
すぐにデッキから引き抜き、バイザーにセットする。

―――GUARD VENT―――

バイザーから低い電子音声が響き、ドラグブラッカーの腹部を模した盾、ドラグシールドが両肩に装着される。
二つの盾を前面に押し出して防御の体制を取ることで、弾丸は残らず弾かれた。
これを期に盾をかざして一気に距離を詰めていく。
銃撃以外の攻撃手段を持たないトリガー・ドーパントには最早打開策はないだろう。

「がっ!?」

しかし、その判断は迂闊だったと知らされることとなる。
リュウガの脛で何かが爆発した。
トリガー・ドーパントからでなければ一体どこから、という疑問が浮かぶが答えは明白だ。

「俺を忘れるな」

飛び道具を所持するもう一人の敵。
再びゼクトマイザーを手にした矢車だ。
突然の事態から冷静さを失い、片方のみに意識を集中していた己の不注意を呪った。
トリガー・ドーパントとゼクトマイザーの二方向からの射撃が続く。
防戦が続くリュウガの前で、矢車とトリガー・ドーパントは合流を果たした。

508閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:41:54 ID:kLWS2a9Y
「援護に感謝します。えっと……?」
「……矢車だ」
「矢車さん。一応彼女のディバッグからもう一つ持ってきました」

そう告げて矢車の前に『あるもの』を差し出す。
それを見た時、矢車は少しの溜息をついた。

「メモリの使い方がわかったのですが、こちらの方はさっぱりです。どうすれば……?」
「いや、十分だ」

(まずいな……ちょっと時間を使いすぎたかな?)

未だ狙撃を続けるトリガー・ドーパントを忌々しげに見つめながらも、東條の頭の中ではある懸念があった。
変身時間の制限である。
ブレイド達との交戦からわかったのは、変身の制限時間が少なくとも5分以上だということだけだ。
一方の矢車と北條は、東條に対して優位性を持っている。
一つ目は、矢車が変身時間の上限まで正確に把握している可能性があること。
二つ目は、北條の変身が東條より1分以上遅れていたこと。
前者はただの杞憂でしかないが、しばらく気を失っていた東條がそのことを知る由はない。
故に東條の頭は最悪の可能性を提示する。
矢車から変身時間の上限を聞き出した北條が東條の制限時間いっぱいまで逃げ切り、リュウガの変身が解けてから一気にこちらを制圧するつもりかもしれない、と。

(なんか、意外ときつい状況かな?)

東條がリュウガに変身してからもう3分は経つだろうか。
ここで東條が取れる選択肢は二つ、一気に勝負をかけるか、撤退するか。
ファイナルベント無しで怪人一体と人間一人を倒すのは可能か不可能か。
東條の頭が互いの勢力の力関係を検討し始める。

この時、東條の目に写るものがあった。
一心不乱にライフルを撃ち続けるトリガー・ドーパントの隣で、新たな動きを見せた矢車だ。

509閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:43:00 ID:kLWS2a9Y
彼は右手に銀色のブレスレットを持って。
ゆっくりと左腕に装着するような動きを見せて。
ただならぬ殺気を放ちながら、こちらを睨み付けていた。

「ここは、こうするべきか」
―――STRIKE VENT―――

リュウガは盾を放棄し、第三の装備を右手に着ける。
ドラグブラッカーの頭を思わせる武器、ドラグクローだ。
再び銃弾に襲われながら、ドラグクローを後ろに構える。
龍の口内で、紫炎が生まれる。

「これで終わりだ!」

腕を前に突き出し、火球を発射した。
火球は小さな銃弾をものともせずに進み、無色の空間を震わせて。
身を守るために回避運動を取ろうとしたトリガー・ドーパントの―――

―――少し前方の地面に着弾し、爆裂した。

「うっ!?」

爆発で生じた熱風に苦しむが、彼を苦しめるものがもう一つあった。
火球が炎の壁へ変わり、視界が阻まれてしまったのだ。
これではリュウガの姿が補足できず、リュウガを倒すのは困難だ。
せめてもの抵抗として、炎の壁を潜り抜けてくるだろうリュウガの襲来に備えた。

(……来ない?)

しかし、予期していた黒い鎧は現れない。
目眩ましを用意したのだから、この後の行動は奇襲ではないのか。
いや、もしかして奴は。

510閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:43:45 ID:kLWS2a9Y
(残念だけど、今回はここで終わりにするよ)

東條が選んだ選択は撤退だった。
彼にしては消極的な選択を決めた要因は矢車の行動にある。
こちらを向いた目から、矢車はあのブレスレットを使って何か反撃を試みようとしているかのような意志が感じられた。
もしも矢車があのブレスレットでライダーもしくは怪人に変身できるのだとしたら、こちらはかなり不利になるだろう。
迫るタイムリミットに加えて、2対1の戦いによる体力の浪費という負担。
戦いの続行は敗北の可能性の上昇に繋がると考え、逃亡を決断するに至った。

「まあ道具はそれなりに揃ったし、今回は一人殺せただけでも良しとするよ」

今回、身体に傷は負いながらも損失は無かった。
タイガのデッキと残り二つの支給品は奪還できて、さらにリュウガのデッキという収穫まであった。
自らの手で一人を殺す戦果だって挙げられたなら十分だろう。
満足感を胸に、東條は地面に落ちた自らのディバッグに手を伸ばした。

その瞬間、閃光が空を駆けた。
仮面の下で目を見開くリュウガの前で、それはディバッグに当たり、ぼん、と音を立てた。
えっ、という間の抜けた声を掻き消すように、二発、三発とディバッグに衝突し爆発する。
ディバッグの所々が焼き切れ、衝撃で中身が飛び散っていく。
四発、五発、六発と光は続き、宙を浮かぶタイガのデッキに命中する。
爆発に耐え切れなかったタイガのデッキに亀裂が生じ、全体に広がり、粉々に砕け散った。

「くそっ!!」

駄目押しとばかりに炎の壁を越えてくる脅威に苛立ちを覚えるが、今は反撃の時ではない。
リュウガはまだ無事な二つの支給品を掴み取ると、すぐに走り出しこの場を離れた。

こうして、英雄を目指す男と彼を阻む者達との闘いは、両者存命の引き分けという形で幕を閉じた。







「あの男、東條と言いましたか。結局逃げられてしまいました。申し訳ない」
「ああ。だが、別に構わないだろ」

511閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:44:31 ID:kLWS2a9Y
東條が去った後、トリガー・ドーパントの姿のまま北條は悔しげに言った。
北條は炎の壁が消えてからリュウガを追ったものの発見できなかったため、追撃を一旦断念し矢車のもとへと戻ってきたのだ。
報告を受けても特別悔しがっているように見えない矢車が、むしろ今の北條には不可解だった。

「しかし意外でしたよ。『十分だ』なんて言うからブレスレットで何かするのかと思ったら、結局何もしないんですから」
「そうよ。使い方知ってるなら使えばよかったじゃない」
「別に間違ったことは言ってない。使い方はわかるが、使えないってだけだ」

ザビーブレス。
それが光夏海への最後の支給品であり、現在矢車の左腕に巻かれているブレスレットの名前である。
矢車が妙な説明をしたのは、彼がこれを使えたのは世捨て人となる以前、ZECTの精鋭部隊シャドウの隊長を務めていた頃の話だからだ。

「ただ、あの時は使えるフリをした方がいいって思っただけだ」

トリガー・ドーパントの銃弾が盾で防がれる様を見た時、矢車の中で敗北の可能性が濃厚になっていた。
そこで、たとえ東條を倒せなくても戦いを終わらせることが先決だと考えた矢車は、差し出されたザビーブレスを見て一つの策を実行した。
まるでザビーブレスを使って反撃をするかのように装い、東條の方から逃げるよう恐怖心を煽ることだ。
成功はあまり期待できない策だったが無事に成功し、東條は自ら撤退した。
矢車は詳しい説明を省いているため、北條は腑に落ちない顔をするだけだが。

「それはともかく、さらに追い討ちをかけたのは見事でした。よくやりますよ」

炎の壁を作り出された時、もはや攻撃は不可能だと北條は考えていた。
だが、矢車は爆発の直前にゼクトマイザーを構え直し、東條のディバッグに狙いを定めた。
リュウガと違い、ディバッグは決して動くことはないから。
なにより、弟を嘲笑ったあの男に一矢報いなければ気が収まらないから。
矢車は炎の向こう側へマイザーボマーを何発も射出した。

「どうやらデッキを壊しただけで、残りは持っていかれたみたいだな」

矢車は残されたディバッグの残骸を眺める。
そこにあるのはボロボロのディバック、焼け焦げた食料やルールブックなどに加えてタイガのデッキの破片だけだった。
ふと横を見ると、トリガー・ドーパントは北條透の姿を取り戻した。
変身に課せられた時間の終わりが訪れたようだ。
どうやら10分が限界らしいと言って首輪から排出されたガイアメモリをキャッチする北條に、疑うような声がかけられる。

512閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:45:16 ID:kLWS2a9Y
「ねえ……あなた、何ともないの? かつての俺は死んだ〜、とか」

キバーラが聞きたいのは、ガイアメモリを使った北條がなぜ平然としているか、だ。
スーパーショッカーに囚われた光栄次郎がガイアメモリによって悪の大幹部死神博士になってしまい、今また同じ事態が起こっていることをキバーラは思い出す。
同じように北條もまたガイアメモリで姿を変えたが、栄次郎と違い元の人格を保っているようだ。

「いいえ、特に何ともないですが?」
「そう……」

北條がそう言うならそうなのだろうと、キバーラは自分を納得させるしかなかった。

「それで、あなたはこれからどうしますか」
「……動きたいが、流石に少し辛い」

話はこれからの行動方針へと移る。
矢車は生身で仮面ライダーと戦ったため、その苦痛と疲労は無視できない。
だから今は休息を申し出るほかなかった。

「そうですか。私はまだ余裕がありますから、彼の逃げた方へ向かいます。」
「えっ? ちょっと、私達は置いていくの? それに士がいるって……」

一方の北條といえば東條の追撃を決意したようだが、キバーラは異議を申し立てる。
矢車よりは体力に余裕があり、何より警察官ならこの場に残ってくれるだろうと考えていただけに心外でしかない。
黒いカブトの方へ向かったらしい門矢士さえ無視して離れようというのが余計に理解できない。

「確かに彼はまだ来ないようですが、危険な相手を放置するわけにもいきません」
「何よそれ……」
「それともう一つ、あなたのそのブレスレット、もしかして使うつもりはないのでしょうか?」

もっともらしい理由ではあるが、どうにも納得できない。
キバーラの不満をよそに、また北條は矢車に聞いてきた。
話題に挙げられたのは矢車のザビーブレスである。
北條の視線に気付いた矢車は、特に執着も見せずにザビーブレスを腕から外し放り投げる。

「ああ。俺には使えないし、別に使う気も起きない」
「それならこれは私が所持しましょう。もしかしたら何かに使えるかもしれません。では、門矢さんに会えたら宜しく言っておいてください」

それだけ言い残し、北條は矢車の下から立ち去っていった。

513閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:46:41 ID:kLWS2a9Y
「冷たすぎよあいつ。警察なのに怪我人ほっとくなんて」

再び病院の中に戻った矢車に向けて、キバーラは愚痴をこぼす。
5人のライダーが戦いを繰り広げた部屋とは別の診察室に入りベッドに腰掛けてもキバーラは口を休めず、非難対象は迎えに来ない士にまで及び始める。

「おいお前。何で俺について来るんだ?」

傷の手当てを終えた矢車が口を開き、キバーラの態度への疑問を投げかける。
門矢士とかいう男がすぐ側にいるのだから、これからしばらく動かない自分について回るよりそいつに会いにいけばいいものを。

「士なら大丈夫よ。……それに、夏海が気遣ってた男を私がほっとくわけにいかないでしょ。てゆーか、乙女に一人で出歩けなんて言う?」

キバーラの示した理由は気だるそうな言い方にしては律儀なものだった。
パートナーだった夏海が自分を気にしていたから、同じように構っているらしい。
亡くしてしまった大切な誰かの遺志を継いで、やり遂げられなかったことを受け継ぐ。
眩しいような心を見せる今の彼女は、まるで……

(俺とは違うか)

自分の欲望を弟の遺志にすり換えているに過ぎない自分とは別物だ。

「じゃあ俺はしばらく横になる。もし寝たら、誰か来た時には起こせ」
「はいはい。ゆっくり休みなさ〜い」

キバーラにはそれだけ言って、彼女から意識を外した。
休むついでにとりあえず当面の行動方針でも考えていよう。
キバーラがついてくるのは仕方が無いとして、当初のようにまた一人で動くか。
それとも、門矢士とかいう男が生きていたら会ってみようか。

【1日目 午後】
【E-4 病院/一階・診察室】

【矢車想@仮面ライダーカブト】
【時間軸】48話終了後
【状態】疲労(中)、全身に傷(手当て済)、仮面ライダーキックホッパーに1時間40分変身不可
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、ゼクトマイザー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、キバーラ@仮面ライダーディケイド
基本行動方針:弟を殺した大ショッカーを潰す。
1:休む。ついでに今後の方針を考える。
2:殺し合いも戦いの褒美もどうでもいいが、大ショッカーは許さない。
3:天道や加賀美と出会ったら……?
【備考】
※ディケイド世界の参加者と大ショッカーについて、大まかに把握しました。
※10分間の変身制限を把握しました。
※仮面ライダーキバーラへの変身は夏海以外には出来ないようです。

514閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:47:53 ID:kLWS2a9Y







東條は逃亡を続ける間、ずっとリュウガの変身を解かなかった。
理由の一つは仮面ライダーの脚力で逃げた方が速いから、もう一つは変身時間の上限の把握のため。

「ライダーが10分、モンスターが1分か。今度は忘れないようにしよう」

変身が強制的に解除されて、鉄仮面の下から現れた東條はほくそ笑む。
殺し合いで勝ち残るためには重要となるだろう情報を得たからだ。
今回の戦いでは情報不足からくる焦燥と、おそらく相手はただの人間だという油断もあって苦渋を嘗める結果となった。
だからこそ失敗から学習をした今は同じ失敗をするまい。

「でも、病院はせっかく良い場所だったのに離れちゃった」

矢車達から逃げるためには止むを得なかったとはいえ本拠地を離れた失敗にしおれる。
参加者が集まりやすい場所を確保するメリットを手離した以上、他に何か人が集まりそうな場所はないものか。
病院に置いてきてしまった地図を記憶から引っ張り出し、鮮明でない画から目的地を考えていく。

「ここから南に街があって……あの変な施設は、確かG-7だったっけ?」

【1日目 午後】
【F-4 草原】

【東條悟@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】インペラー戦後(インペラーは自分が倒したと思ってます)
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、仮面ライダーリュウガに2時間変身不可(ドラグブラッカー1時間50分召喚不可)、仮面ライダータイガに1時間40分変身不可
【装備】カードデッキ(リュウガ)@仮面ライダー龍騎
【道具】不明支給品0〜2
【思考・状況】
基本行動方針:全ての参加者を犠牲にして、ただ一人生還。英雄になる。
1:自分の世界の相手も犠牲にする。
2:ネガタロスを利用し、悪の英雄になるのもいい。
3:今は病院を離れて、再び変身できる時を待つ。
4:他にどこか人が集まりそうな場所を探す。G-7の施設に興味。
【備考】
※剣の世界について情報を得ました。
※10分間の変身制限、1分間のミラーモンスター召喚制限を把握しました。
※ディバッグ、支給品一式、カードデッキ(タイガ)は破壊されました。

515閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:48:58 ID:kLWS2a9Y







警察官である北條透が民間人の安全確保を放棄したことは実に奇怪な話である。
これには、北條自身には決して気付くことのできない不可避の理由がある。

「誰が開発したか知りませんが、なかなか優れた道具ですね。G3、いや、アギトにも引けを取らないかもしれない。」

北條は感心したようにT2ガイアメモリを眺める。
これまで戦う手段を持たない故に守られるしかなかったが、ついに力を手に入れたのだ。
弾丸の威力と命中精度を利用すれば、遠くからでも人に害なす悪を仕留めることが可能だろう。
結局使い方がわからなかったザビーブレスについては保留としても、当面はこのガイアメモリで十分に目的を全うできる筈だ。

「……犠牲が出るのを防げなかった以上、せめて光夏海という方の残したこれは大事にしなければいけませんね」

警察官の自分がやるべきは、もう二度と彼女のような犠牲を出さないこと。
人々を脅かす危険な存在にこの身を挺して立ち向かうこと。
……危険な存在を、何としても消し去ることだ。

【1日目 午後】
【F-4 草原】

【北條透@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終盤 アギト殲滅作戦決行中
【状態】疲労(中)、トリガー・ドーパントに2時間分変身不可、ガイアメモリの精神汚染(小)
【装備】T2ガイアメモリ(トリガー)
【道具】支給品一式×2、救急箱@現実、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣、ファイズポインター&カイザポインター@仮面ライダー555、ザビーブレス@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:人を探し、危険人物なら排除する。
1:東條を追う。
2:牙王、アポロガイストを警戒する。(両名とも、名前は知らない)
3:知人と合流し、情報を集める。
4:小沢と合流して、Gトレーラーの鍵を渡してもらう。
5:士は嫌いだが、無事ならいいとは思う。
【備考】
※10分間の変身制限を把握しました。
※Gトレーラーの鍵は小沢が持っていると考えています。
※ガイアメモリの精神汚染により正常な判断力が欠落しています。
※ザビーゼクターには認められていません。

516閃光の刻 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:49:52 ID:kLWS2a9Y







矢車が去り、東條が去り、北條が去り、誰もいなくなった戦いの跡地、E-4。
ここで破壊され、誰にも回収されずぽつりと残された、タイガのカードデッキの残骸。
だが、デッキを見つめる二つの光は確かに存在している。
二つの光は窓ガラスの向こう側で、カードデッキとは異なる空間で輝いている。

また一つ、唸り声が響く。
それはまだ誰に聞かれることもない。
光は窓ガラスから抜け出せる時を待ち続ける。
光は誰かがこの場に現れる時を待ち続ける。

現在の時刻は午後2時30分。
従うべき主を失くした獣が檻から解き放たれるのは、まだ少し先の話。

※カードデッキ(タイガ)が破壊されたため、デストワイルダーが暴走状態になりました。
※デストワイルダーはあと1時間35分現実世界に出現できません。

517 ◆Wy4qMnIQy2:2011/02/27(日) 23:51:55 ID:kLWS2a9Y
以上で投下を終了します。
疑問点、問題点などがありましたらご指摘お願いします。

518二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/02/28(月) 07:03:22 ID:X5e24ZHM
投下乙です
おお、矢車さんも北條さんも危機を脱したか……
と思ったら、北條さんがメモリの毒に浸食されてるー!?
それにザビーゼクター……果たして、このロワで再び輝けるのか。
デストワイルダーも、なにやら一騒動起こしそうな予感w

519二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/02/28(月) 10:12:41 ID:lfSH.s7k
投下乙です。
何とか東條を撃退出来たけど……北條がメモリの毒に……ア北條、何やっとるんねん。
更にデストワイルダーが野良状態……E-4及び周囲にいる皆様逃げてぇー。
しかし東條は東條でリュウガ持ったけど……確か浅倉と美穂がリュウガにヤラレテいるんだよなぁ……(美穂はわからんが浅倉は確実に根に持っている筈)
で、矢車は病院で休息か……この話の作中時間が2時半ぐらいだから思いっきり士とニアミス状態だなぁ(確か士は病室で休息していた筈)。
そして遂に出てきたザビーゼクター……でもメモリに侵される前ならともかく今のア北條には使えないよなぁ……

520 ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 06:55:29 ID:d6tnq/xE
天道総司、乾巧、ゴ・ガドル・バを投下します

521強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 06:56:13 ID:d6tnq/xE


燦々と輝く太陽は、時間と共に沈んでいく。
青い空は段々と赤みを増し、辺りに闇が広がっていた。
太陽が地平線に向かうのと同時に、星も徐々に見えてくる。
辺りに吹く風もまた、冷たくなっていた。
空気の流れと、木の葉が揺れる音以外何も聞こえてこない。
沈黙を突き破るかのように、足音が聞こえた。
F−6エリア。
一切の気配が感じられない町の中を、一人の男が進んでいる。
岩のように逞しい身体を、軍服で包んでいた。
険しい表情からは、数多の戦場を生き延びてきた豪傑という雰囲気を醸し出している。
『クウガの世界』でリントの戦士、警察を数え切れないほど殺し、自らを『破壊のカリスマ』と称したグロンギ。
ゴ集団の中でもトップクラスに値する実力者、ゴ・ガドル・バ。
彼はたった一人、人気の感じられない町を進んでいる。
元の世界で行っていた、強者を狩るゲゲルを続行するため。
この世界に連れてこられた、多くの『仮面ライダー』と戦うため。
そしてこの世界の何処かにいるグロンギの王、ン・ダグバ・ゼバと戦うため。

(恐怖か……)

先程の出来事を、ガドルは思い返した。
ダグバと遭遇して、戦おうとする。
しかしお互い力を発揮する事が出来なかった。
その時に、ダグバは言う。
リントによって、自分は恐怖を教わったと。
本来ならば与える側の筈な王が、脆弱たる一族に与えられた。
そのようなリントが、異世界にいるなんて。
ならば、戦わないわけにはいかない。
そして勝つ。
未知なる強者への興味が、ガドルを動かしていた。

「ガドルさぁ〜〜〜〜ん! みっつけましたよぉ〜〜〜!」

その最中、彼の耳に声が響く。
とても甲高く、陽気に満ちていた。
殺し合いという状況に、全く相応しくない明るい声。
ガドルはそちらに振り向く。
見ると、そこには一匹の龍が宙に浮かんでいた。
人の頭と同じサイズの全身が、眩い黄金に輝き、背中には彼の世界を象徴する赤い紋章が刻まれている。
それは『キバの世界』に存在する、仮面ライダーキバの力を解放する力を持つ龍。
大ショッカーの手によってガドルのデイバッグに封じ込められた、魔皇龍タツロット。

「お前か……」
「あっちにいたんですよ、参加者の人達が!」

淡々と呟くガドルとは対照的に、龍は歓喜したように身体を踊らせる。
先程デイバッグより飛び出してから、互いに情報を交換した。
この世界が戦場という、現状。
ダグバを初めとした、強者との戦いを求めるガドル。
元の世界の住民を捜すタツロット。
その際に、彼は語った。
自分は渡が変身する、キバの力を最大限に引き出す為のモンスターである事を。
紅渡、名護啓介、紅音也、キング。
同じ世界より連れてこられた四人はいずれも、鍛え抜かれた強者であると。
しかし音也とキングは、過去に飛んだ際に亡くなっている筈。
それがタツロットにとって、どうにも不可解だった。
だがガドルにとって、それは関心にない。
その四人が強者ならば、戦うだけだ。
加えて、タツロットは渡という男の力を発揮出来るらしい。
ならばそれまで、同行してもいいだろう。

522強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 06:57:07 ID:d6tnq/xE

「早く行きましょうよ! このままじゃ、遠くに行っちゃいますよ!」

タツロットは、ガドルを急き立てる。
彼は知らなかった。
ガドルが、この殺し合いに乗った危険人物であると。
自分が目の前の男に情報を与えた事で、渡の危険が増えてしまっていると。
ただ、勘違いをしてしまっていた。
ガドルは己を鍛えるために、戦いを望む気高き男である事を。
そして渡達と会うまで、この男の手伝いをしようと決意してしまった。
そんなタツロットを、ガドルは仏頂面で見つめている。

「わかった、行くぞ」
「了解です〜〜! 案内しますよ、びゅんびゅんびゅ〜〜〜んっ!」

空を飛ぶ龍の後ろを、男はついていった。
タツロットは、同行人の願いを叶えるため。
ガドルは、更なる参加者と戦うため。
それぞれ動き出した。

「ガドルさん、頑張ってくださいよ〜!」

タツロットの語りを無視して、ガドルは思う。
この先にいるのは、如何なるリントの戦士か。
自身を満足させるような強者か。
最初に戦った不自然なクウガのような弱者か。
だがどちらにしても、最後に殺せば良いだけだ。
もしも何も出来ない者ならば、無視すればいい。

「それにしても、ガドルさんみたいなお強い人を出会えるなんて……感激ですよ!」
(それにしても……)

足を進める中、ガドルは心の中で呟いた。
このタツロットとかいう奴は、甲高い声でやたらに喚く。
無視すれば良いだけだが、やかましい事には変わりはない。
始末する事も出来るが、参加者を捜すのにも役に立つ。
だから、我慢しなければならないが。

「ああっ、渡さん達にも会わせてみたいですねぇ〜! ガドルさん、私はあなたを応援してますよ〜!」
(こいつは黙る事は出来ないのか?)

ガドルは溜息を漏らす。
そんな彼の思いを知らずに、タツロットは飛び続けた。







日の光は徐々に薄くなり、闇が広がっていく。
規則的に並んでいる電柱柱から、次々と明かりが灯っていった。
そんな中を、二人の男が歩いている。

523強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 06:58:28 ID:d6tnq/xE
『555の世界』を代表する、ウルフオルフェノクとして覚醒し、人間とオルフェノクを守り抜いた仮面ライダーファイズに変身する青年。
乾巧。
『カブトの世界』を代表する、天の道を往き全てを司る男と自称する、仮面ライダーカブトに選ばれた男。
天道総司。
先程紅音也と別行動を取ってから、大ショッカーを打倒するために彼らは仲間を探していた。
同じ世界から連れてこられた住民達。
同じ志を持つ者達。
しかし、天道は最も信頼を寄せる男と出会えない事を、知ってしまった。

(加賀美……)

加賀美新の相棒である、ガタックゼクターがベルトと共に飛んでいるのを見て。
それが示すのは、資格者に何かがあった。
恐らく、既にこの世にいない可能性が高い。
それでも、挫ける事は許されなかった。
そんな事になってしまっては、何も守る事は出来ない。
不条理な殺し合いに巻き込まれた、多くの命。
平行して存在する、数多の世界。
みんなが生きる、自分の世界。
これ以上、何一つだろうと取りこぼすわけにはいかない。

(やれやれ、暗くなってきたな)

天道の隣を歩く巧は、辺りの警戒を強めていた。
時間からして、今はとても暗い。
こんな状況を利用して、汚い不意打ちを企む連中がいる可能性がある。
そうならないためにも、あまり気を抜けない。
オルフェノクの持つ驚異的な五感の内、二つを集中させた。
視覚と聴覚。
暗闇から誰かが現れる気配や、近づいてくる足音は感じられない。

(にしても、死人を生き返らせるか……ふざけんじゃねえよ)

その最中、巧は内心で毒を吐く。
こんな戦いを開いた大ショッカーは、優勝した暁には死者の蘇生も叶えると言った。
事実、それは真実かもしれない。
ここに来る前に、もう死んでしまったはずと言っていた音也や園崎霧彦。
木場勇治を初めとした、名簿に書かれている死者の名前。
しかし、巧にとってそれは悪趣味な行為にしか見えなかった。

(殺し合う為に生き返らせた……舐めてるのかあいつらは)

限られた命を、まるでゲームのリセットボタンを押すかのように、再び生き返らせる。
理由は、世界を救うという大義名分の、殺し合いをさせる為。
そう考えた途端、彼の中で憤りが生まれた。
死んだ人間が生き返ったところで、ロクな事にならない。
それはもう人ではなく、別の何かだ。
一度人間としての命を失い、オルフェノクとして覚醒してしまった自分には、一層そう感じられる。
事実それが原因で、自分の世界では数え切れないほどの悲劇が生まれた。
人間とオルフェノクの共存を目指したが、人間に絶望した末に命を落とした木場。
オルフェノクを研究しているという一部の警察に捕らわれて、最後には絶命してしまったと聞いた長田結花。
その強大な力に溺れて、数え切れないほどの命を奪った多くのオルフェノク。
道を踏み外したオルフェノクを利用して、悪事を働いたスマートブレイン。
結局、死者が蘇生したところで良い事などあるわけがない。

524強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 06:59:26 ID:d6tnq/xE

(気に入らねぇな……畜生)

過去の経験と今の状況にストレスを感じて、巧は道端の石ころを蹴った。
それで何かが解決するわけでも、苛立ちが晴れるわけでもない。
しかし、やらずにはいられなかった。

「…………ん?」

小石が地面を跳ねる中、巧は歩みを止める。
オルフェノクの発達した聴覚が、遠くより足音が響くのを察知した為。
方角は東。しかもかなり近い。
迫り来る気配に気づいたのか、天道もまた足を止める。

「乾」
「ああ……近いな」

一言、互いに声をかけた。
そして振り向く。
自分達に近づいてくる、存在の方へと。
薄暗い闇の中からは、軍服を身に纏った一人の男が現れる。
その瞳は鋭く、武人と呼ぶに相応しい雰囲気を醸し出していた。
男が放つ視線を浴びて、二人は反射的に構えを取る。

「何者だ」

天道は静かに口を開いた。
厳しく、警戒するような声で。
しかし男は、彼の言葉に眉一つたりとも動かさなかった。

「リントの戦士達か……」
「リント……だと?」

聞き覚えのある単語に、巧は疑問の表情を浮かべる。
リント。
それは霧彦を殺した、あの白い服を纏った男も口にした言葉。
あの時の戦いを思い出して、巧は確信する。
目の前の男は、奴と同じ世界の住民である事を。

「俺と戦え」

威圧感の籠もった声で、男は呟く。
その直後、鍛え抜かれた肉体が音を鳴らしながら、形を変えていった。
『クウガの世界』で人々を襲い続けた、暴力を振るう存在。
グロンギと呼ばれる戦闘民族。
カブト虫の物に酷似した角、鍛え抜かれた肉体を覆う外骨格、胸に飾られた銅の装飾品、金色に輝く腹部のバックル。
数え切れない程のゲゲルを乗り越えた破壊のカリスマ、ゴ・ガドル・バ。

「なるほどな……」

異形の姿へと変わった男を見て、天道は確信する。
異世界の住民である相手は、この戦いに乗っていると。
天道は傍らに飛ぶカブトゼクターを、右手で掴んだ。

525強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 07:00:32 ID:d6tnq/xE

「やれやれ……仕方ねえな」

同じように、巧も銀色の輝きを放つ携帯電話、ファイズフォンをバッグから取り出す。
その表面には、ファイズの仮面を思わせるような紋章が象られたカードキー、ミッションメモリーが装着されていた。
巧はその表面を開いて、コードを打ち込む。
自らの存在を証明する『5』の数字を、三回押した。
一度入力される度に、高い音が鳴る。
最後に、彼は『ENTER』のボタンを入力した。

『Standing by』

一連の動作によって、ファイズフォンから電子音声が発せられる。
巧はそれを耳にすると、握る腕を高く掲げた。
オルフェノクとは違う異世界の怪人と、戦うために。

「「変身ッ!」」

天道と巧は、同じ言葉を大声で紡ぐ。
今とは違う姿に、変身するために。
戦う姿への変身を、果たすために。
彼らの腰には、それを行うのに使うベルトが、銀色に輝いていた。
天道はカブトゼクターをライダーベルトに。
巧はファイズフォンをファイズギアに。
それぞれ、長い間共に戦ってきた相棒をセットした。

『Hensin』
『Complete』

カブトゼクターとファイズフォンから、異なる音声が発せられる。
そして、それぞれから内部に蓄積された物質が吹き出し、装着者の全身を駆け巡った。
カブトゼクターから噴出されるタキオン粒子が、天道の身体を包み込む。
ファイズフォンから流れ込むフォトンブラッドが、赤い線となって巧の全身を走り、輝きを放った。
ベルトから発せられる二つの光が、夜の闇を照らす。
それによって、ガドルは一瞬だけ目を細めた。
一方、中央にいる天道と巧の全身に、装甲が包まれていく。
光が収まる頃には、彼らは既に姿を変えていた。

「ほう……やはり仮面ライダーか」

そう、数多に存在する世界の象徴とも呼べる戦士。
仮面ライダーへと。
ガドルの前に立つ二人は、それぞれの世界を代表する戦士の姿となっていた。
片や天道が変身したのは、マスクドライダーシステム第1号である『カブトの世界』を象徴する仮面ライダー。
重厚感溢れる銀色の装甲と黒いスーツに身を覆い、単眼が青い輝きを放っている。
世界をワームから守り抜いた、太陽の神と呼ばれた戦士、仮面ライダーカブト・マスクドフォームへと天道総司は姿を変えていた。
片や巧が変身したのは、スマートブレイン社が開発したライダーズギアの一種である『555の世界』を象徴する仮面ライダー。
ギリシャ文字のφを象ったようなマスク、胸部と四肢を守る銀色の装甲、黒い強化スーツに走る赤いライン。
本来は、オルフェノクの王を守るために作られたベルトの戦士。
しかし巧は、人間を守るためにそれを使い戦った。
人間とオルフェノク。
種族の未来を守るために戦った戦士、仮面ライダーファイズへと乾巧は姿を変えていた。

「行くぞ」
「ああ」

変身を果たした彼らは、再び声をかけ合う。
カブトは、己の武器であるカブトクナイガンをアックスモードにして。
ファイズは、ファイズフォンからミッションメモリーを取り出し、ファイズショットに差し込んで。
それぞれの武器を握り締めながら、疾走を開始した。
彼らは二手に分かれ、左右から攻撃する事を選ぶ。
ガドルはそれを察すると、左手で胸の装飾品を一つ取り出す。
すると、飾りは肥大化して、一瞬の内に無骨な剣へと変わった。

526強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 07:01:35 ID:d6tnq/xE

「ハアッ!」
「ヤアッ!」

右からカブトが、左からファイズが。
それぞれ斧と拳を、力強く振るう。
対するガドルは、それを迎え撃った。
剣と右手を、掲げる事によって。
すると、互いの得物が激突し、金属音と火花を散らせた。
そのままガドルは、両腕に力を込めて二人を押し返す。

「くっ!」
「うわっ!」

カブトとファイズは、蹌踉めきながら後退した。
彼らは体勢を立て直すが、遅い。
その僅かな隙を付いて、ガドルは走りながら剣を振るった。
まずは、カブト。

「グッ!」

ガドルが横薙ぎに振るった剣を受けて、仮面の下から呻き声を漏らす。
そのまま、カブトの身体は地面に叩き付けられていった。
マスクドフォームの堅牢な鎧があってしても、身体に伝わる衝撃は凄まじい。
痛みのあまりに、中にいる天道の頬から汗が流れた。
倒れたカブトに目を向けず、ガドルはファイズに振り向く。
鋭い瞳を向けながら、剣を縦に振るった。

「フンッ!」

迫り来る、銅色の刃。
ファイズはそれを見て、体勢を一歩分ずらす。
それによって、剣先を掠ることなく回避に成功した。
しかし、続くようにガドルは獲物を振るう。
上から下、右から左、そして斜め。
縦横無尽に迫る刃を、ファイズは避ける事しかできなかった。
しかも完全には至らず、時折掠っている。

「ちっ!」

怒濤の勢いで振るわれる剣を見て、ファイズは舌打ちをするしかできない。
下手に反撃をする事も、出来なかった。
相手の剣は、重厚感溢れる鎧に包まれたカブトすらも、軽々と吹き飛ばした。
軽い装甲しかない自分があれを受けては、一溜まりもない。
今は致命傷を受けていないが、このままではどうなるか。
ガドルが振るう剣を、ファイズは避けながら考える。
反撃のチャンスを。
切り抜ける手段を。

527強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 07:02:51 ID:d6tnq/xE

「どうした、その程度か!?」

怒号と共に、ガドルは剣を掲げる。
そのまま勢いよく、ファイズに目がけて振り下ろした。
刃は彼の薄い装甲を、切り裂こうと迫る。
その直後、銃声が鳴り響いた。

「ヌッ!?」

ファイズに振り下ろされた剣は、届かない。
ガドルの動きが、唐突に止まったため。
それを見たファイズは、拳を強く握り締めた。

「ラアッ!」

勢いよく、ストレートの一撃をガドルに向けて放った。
鍛えられた胸板に叩き込まれ、巨体が少しだけ後退する。
しかし、手応えはあまり感じられない。
むしろ逆に、ファイズの拳が痛みを感じていた。

(硬え……何だよこいつの身体は!)

殴った手をぶらつかせながら、彼は舌打ちする。
分かっていた事だが、目の前の相手は強い。
スマートブレイン社にいる、ラッキークローバーにも匹敵するかもしれなかった。
特に、ドラゴンオルフェノクやこの会場の何処かにいるローズオルフェノク。
奴らと同等の力を、相手は持ってると確信した方が良い。
ファイズが戦慄する一方、ガドルは振り向いた。
先程吹き飛ばしたカブトの方へと。
銀色の鎧に包まれた戦士は、その手に拳銃を持っている。

「その程度か」

ガドルは何でもなさそうに、あっさりと言い放った。
熱と衝撃が、ほんの僅かだけ背中に感じる。
しかし、それだけ。
如何にカブトクナイガンから放たれるイオンビームでも、ガドルに傷を負わせる事は出来なかった。

「なるほどな」

仮面の下で、カブトは呟く。
先程吹き飛ばされた後、隙を見つけてクナイガンから弾丸を放った。
そして、ファイズは拳を叩き込む。
しかし効果はあまり見られない。
敵の骨格はそれほどまで、分厚いようだ。
加えて純粋な腕力は、マスクドフォームすらも上回る。

528強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 07:04:35 ID:d6tnq/xE

「オオオオオオォォォッ!」

カブトは考える中、ガドルは突貫してきた。
分厚く鋭い刃を、頭上に掲げる。
そのまま空気を震わすような勢いで、大剣を振り下ろした。
立ち向かうために、カブトもクナイガンを下から上に翳す。
刹那、異なる二つの刃が激突した。
金属音と、橙色の火花が周囲に広がる。
続くように、斧と剣が衝突を続けた。
一度ぶつかる度に、耳障りな音が闇の中で響く。
次々と生じる閃光が、微かに辺りを照らした。

「ハッ!」
「ダアッ!」

咆吼と共に、互いの武器が激突する。
一閃、二閃、三閃、四閃。
その度に、彼らの腕を衝撃が伝わっていた。
しかし、その勢いはガドルの方に傾いている。
相手の腕力は、規格外の物だ。
このまま真っ向からぶつかっても、勝てるわけがない。
数度に及ぶ刃の打ち合いの後、距離を取った。
三つの瞳が、互いに睨み合う。

(目には目を、歯には歯を、カブト虫にはカブト虫か)

敵意が激突する中、カブトは心の中で呟いた。
そして、腰に手を伸ばす。
赤い煌めきを放つゼクターの角を、掴んだ。

「キャストオフ!」
『Cast off』

宣言と共に、力強く反対側に倒す。
カブトゼクターは主人の言葉を復唱すると、中央から輝きを放った。
それによってベルトからは、電流が全身に流れていく。
すると、爆音と共に銀色の装甲が、カブトから吹き飛んでいった。
頭部、胴体、両腕。
装甲は弾丸の速度で、ガドルの肉体に激突する。
しかし、敵は微動だにしない。
蚊を差す程度の痛みすらも、感じなかった。
そんな中、カブトの顎から一本の角が、天に向かって伸びていく。
単眼を仕切るように、中央へ装着された。

『Change Beetle』

青い瞳の輝きが強くなった途端、ゼクターが強く叫ぶ。
カブトの姿は、先程とは大きく変わっていた。
軽量感溢れる鎧は、太陽のように赤く光っている。
『太陽の神』と呼ばれるに、相応しいほど。
そして何より、特徴的なのはその姿。
目の前で対峙するガドルと同じ、カブト虫をモチーフとしていた。
ライダーフォームと呼ばれる、仮面ライダーカブトのもう一つの姿。

529強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 07:06:34 ID:d6tnq/xE

「ほう」

姿を変えた敵を見て、ガドルは呟く。
一方でカブトは、クナイガンの持ち方を変えた。
銀色の斧は収納され、金色の刃が飛び出していく。
クナイモードとなった武器を、カブトは構えた。
そんな彼に向かって、ガドルは走る。
目前にまで迫った瞬間、刃と刃の激突が再び始まった。
しかし先程とは違い、カブトの速度が上がっている。
重厚な鎧を捨てた事で、その分身体が軽くなっていた。
故に、ガドルの攻撃を手数で捌く事や、回避する事が出来るようになる。

「「ハアッ!」」

二つの咆吼が、武器と共に激突。
ガドルが一度振るうのに対して、カブトは三度振るう事で相殺する。
相手の力を、手数で捌いていた。
しかし、だからといって有利になるわけではない。
速度が上がった分、防御力が下がっている。
故に、一度でも敵の攻撃を受けるわけにはいかなくなった。

「フンッ!」

ガドルは、巨大な得物を振り下ろす。
それをクナイガンで受け止める事を、カブトはしなかった。
頭部に到達しようとした瞬間、身体を横に捻る。
すると大剣は空振り、電柱を切り裂いた。
巨大な柱が倒れ、コンクリートで出来た道を少し砕く。
地面が震動する中、カブトは敵の左側に回り込んだ。
そして、脇腹に向かって蹴りを放つ。
7トンの力が、ガドルを微かに蹌踉めかせた。
すぐに体勢を立て直すも、遅い。

『Exceed charge』
「ッ!?」

直後、電子音声が響く。
その音源は、ファイズの方から鳴っていた。
ガドルはそちらに振り向く。
視界の先では、ファイズギアに蓄積させたフォトンブラッドが、赤い光を放ちながらフォトンストリームを通っているのが見えた。
エネルギーの行く先は、右手に握られたファイズショット。
拳から光が放たれた途端、ファイズは走り出した。

「ヤアアアアァァァァァッ!」

叫びながら姿勢を低くして、腰と右腕を軽く回す。
ファイズの拳は、更に輝いていた。
彼の右手が光って唸る。
敵を倒せと、輝き叫ぶ。
必殺、グランインパクトをファイズはガドルに叩き込んだ。

530強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 07:07:41 ID:d6tnq/xE

「グウッ……!」

胸部に、強い衝撃が走る。
フォトンブラッドが拳から流れ、敵の身体にφの紋章を刻んだ。
それでも、ガドルは呻くだけで大きなダメージにはなっていない。
鎖が縛られたかのように、四肢が動かない。
グランインパクトによって生じた、紋章の効果だとガドルは察した。
赤いマークを、力ずくで振り解こうとする。
しかし、それが隙となった。

『Rider kick』
「ムッ!」

力強く、機械で出来た男の声が鳴る。
ガドルは上を見上げた。
視界の先からは、跳躍したカブトが右足をこちらに迫っている。
彼はファイズがガドルの動きを止めている間に、全ての準備を整えていた。
この世の理はすなわち速さ。
物事を早く成し遂げれば、その分時間が有効に使える。
力に任せたガドルの戦法に対し、カブトとファイズは速度で立ち向かったのだ。
タキオン粒子を元とした、雷が纏われた必殺の蹴り。
ライダーキックが、ガドルに向かって放たれていった。

「ハアアァァァァァァァァァッ!」

咆吼と共に、カブトの一撃が到達する。
ファイズが刻んだ紋章の位置と、寸分の狂いも見せずに。
19トンもの重さが、ガドルの装甲に襲いかかった。
二重の必殺技を受けて、その巨体は轟音と共に吹き飛んでいく。
そのまま、家の壁を突き抜けていった。
すると、衝撃によって一軒家が崩れ落ちていく。
カブトとファイズは、瓦礫の山が出来る様子を見守っていた。

「乾」
「分かってるよ」

しかし彼らは、まだ気を抜いていない。
速さに任せたコンビネーションとは言え、これで勝てるのは有り得ないはず。
敵の力量は、それほど凄まじい。
数え切れないほどの戦いを乗り越えてきた彼らは、本能でそう感じ取っていた。

「オオオオオォォォォッ!」

瓦礫の中から叫びが聞こえる。
直後、その下からガドルが姿を現した。
そのまま、威風堂々とした雰囲気を放ちながら、佇む。
鋭い目線を向けられたカブトとファイズは、再び構えを取った。

「なるほど、な」

ガドルは呟く。
目の前の仮面ライダー達は、その速さを使って自身に傷を与えた。
クウガと最強最悪を自称した弱者。
二人の黒い仮面ライダー。
どちらの戦いで負ったダメージよりも、深かった。
その証拠として、胸の装甲に亀裂が走っている。
どうやら、下手に惜しむべき相手ではないかもしれない。

531強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 07:08:37 ID:d6tnq/xE

「いいだろう」

そして、ガドルは全身に力を込めた。
新たに得た力を、解放するため。
腰に輝くバックルから、電流がガドルの身体に迸る。
それに伴って、音を立てながら全身に変化が起こった。
瞳が金色に輝き、筋肉も同じ色に変わっていく。
身体に飾られた装飾品も、銅から黄金色に煌めいていった。

「ハアァァァァッ……」

変化が終わると同時に、ガドルは深く息を吐く。
本来は自身の世界で、ザギバスゲゲルに挑戦するために得た形態。
クウガが力を得る手段をヒントにして、ガドルは発電所の電気をその身に取り込んだ。
結果、更なる力を得るのに成功する。
電撃体と呼ばれる、金の力を。
姿を変えたガドルから、圧倒的な覇気が放たれる。
それはカブトとファイズにも突き刺さるが、彼らは気圧されない。

「行くぞ」

二人を目がけて、ガドルは突進する。
先程のカブトと同じように、跳び蹴りを放った。
ガドルの眼下に立つ二人は、瞬時に左右へ飛ぶ。
標的を失った蹴りは、地面に突き刺さった。
すると、轟音と共にコンクリートは砕かれていき、その下で守られた地面が陥没する。
ライジングマイティの力を手に入れた、クウガすらも打ち破る形態。
この程度の事など、造作もなかった。

「くっ!」
「うわっ!」

無論、その衝撃波も半端な物ではない。
直撃は避けられたが、余波はカブトとファイズを吹き飛ばした。
二人は地面を転がるも、すぐに立て直す。
すり鉢状の穴が道路に空いて、その中央でガドルは佇んだ。
一瞬の内に、五メートルものクレーターへと変貌する。

「なんて馬鹿力だよ……!」

ガドルが起こした破壊を見て、ファイズは呆れたように呟いた。
分かってはいたが、敵は強い。
その上、こんな隠し球まで持っていた。
最も、逃げるつもりは毛頭無い。

「奴の力が格段に上がっている……一発でも当たったら致命傷と思え」
「言われなくても、分かってる!」

カブトは冷静に語り、ファイズは強く返答する。
静と動。
対極に値する二つの感情を、それぞれ胸に秘めて進んだ。

532強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 07:09:40 ID:d6tnq/xE

「来い!」

ガドルもまた、クレーターの真ん中から地面を蹴る。
瞬時に、二人の目前まで迫った。
そして金色の拳を、勢いよく振るう。
ファイズは重い一撃を、体勢を低くして紙一重で避けた。
続くように、ガドルの拳はカブトへ迫る。
それも、回避されてしまった。
反撃の一撃を、カブトとファイズは放つ。
クナイガンの刃。
ファイズショットの拳。
金と銀の武器は音を鳴らしながら、ガドルの皮膚に傷を付ける。
しかし、手応えは感じられない。
矢継ぎ早に、二人は攻撃を続けた。
だがガドルは、それらを弾く。
そこから、カブトとファイズに拳を打ち込んだ。
だが、またしても避けられる。
ガドルから、二人は距離を取った。

「乾、俺が時間を稼ぐ。その隙にお前は準備をしろ」
「ああ」

カブトの提案に、ファイズは頷く。
この数秒間で、彼らは次のステップを立てていた。
やり取りを終えて、カブトはクナイガンを片手に疾走する。

「同じ手を、食うと思ったか!」

対するガドルも、怒号と共に走り出した。
その心中には、怒りが沸き上がっている。
先程のように赤い戦士が一人で、自分に向かった。
大方その間に、もう一人が必殺技の準備をするのだろう。
所詮、それ以外の戦いを知らない未熟者だったという事か。
微かな落胆を覚えながらも、ガドルは拳を振るう。

「誰が同じと言った?」

身体を横にずらして重い一撃を避けながら、カブトは呟いた。
そのまま全身を一回転しながら、ガドルに振り向く。
そして、腰に手を伸ばした。

「クロックアップ!」
『Clock up』

宣言と共に、ベルトの脇に備わったスイッチを叩く。
するとカブトゼクターが、復唱した。
『カブトの世界』に存在する全てのマスクドライダーに搭載された、超高速移動機能。
クロックアップシステムが、発動する。
カブトの周りで流れる時間の流れが、一気に減速する。
風が、流れる雲が、沈む太陽が、崩れ落ちる瓦礫の破片が、ガドルの拳が、ファイズの動きが。
全てが、スローモーションに映る。
誰もいない時間の中で一人、カブトはガドルの懐に潜り込んだ。

533強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 07:11:12 ID:d6tnq/xE

(クロックアップの時間は短い。ならば、一気に決めるべきか)
『One』

思案する中、カブトゼクターのボタンを叩く。
数時間前、負傷した巧達を連れて撤退した際、クロックアップを使った。
だがその効果が、途中で途切れる。
こちらから解除したわけでもないのに。
恐らく大ショッカーが、何らかの仕掛けを施したと見て間違いないだろう。
ならば、急がなければならない。

『Two』

二番目のスイッチを叩いて、クナイガンの刃を振るった。
一度だけでなく、二度三度と。
ガドルの皮膚から、火花が飛び散る。
相手は微かに揺らぐだけ。
しかし、それで充分だった。

『Three』

超高速の世界で、最後のカウントが響く。
そんな中、カブトはゼクターの角を反対側に倒した。
必殺の蹴りを、もう一度決めるために。

「ライダー……キック!」
『Rider Kick』

静かで、それでいて力強く口を開く。
再びゼクターホーンを、反転。
カブトゼクターから宣言と共に、大量のタキオン粒子が吹き出していった。
エネルギーは稲妻のように轟きながら、カブトの身体を流れる。
胴体から角に流れ、青い瞳を一層輝かせた。
そのままタキオン粒子の塊は、右足に到達する。

「ハアッ!」

左足を軸に、身体を回転させながら回し蹴りを放った。
その勢いによって、ガドルの身体は宙を舞う。
19トンの威力を持つ、ライダーキックによって。
ゆっくりとだが、進んでいった。
グランインパクトを放つ準備を終えた、ファイズの方へと。

『Clock over』

終焉を伝える音声が、ゼクターより響く。
瞬間、クロックアップが終わりを告げて、カブトの時間が元に戻った。
辺りの動きが、一気に上昇する。
無論、ライダーキックを受けたガドルも例外ではなかった。

「ぬうっ……!」

凄まじい速度で空中に浮かぶ。
呻き声を漏らすガドルに向かって、ファイズは駆けていた。
その手に、輝きを放つファイズショットを握って。

534強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 07:12:34 ID:d6tnq/xE

「オラアァァァァァッ!」

フォトンブラッドが纏われた拳を、ガドルに叩き込んだ。
無防備な肉体に、グランインパクトが炸裂する。
衝撃とエネルギーが、ガドルの中で暴走。
一瞬の内に、盛大な爆発を起こしていった。
耳を劈くような轟音が響き、薄闇が一瞬だけ晴れる。
ガドルの身体は建物に吹き飛び、再び瓦礫の山を生み出した。
建築材が崩れ落ち、粉塵が辺りに広がっていく。
敵は倒れたか。
ファイズがそう考えた瞬間、煙から一つのシルエットが飛び出してくる。
つい先程、吹き飛ばしたはずのガドルだった。

「何ッ!?」
「ゼンゲビ――」

跳躍する異形は、両足を驚愕するファイズに向ける。
そして、ドリルのように身体を高速回転させた。
ガドルの足に、電撃が纏われていく。
一度回転するたびに、その量は増していった。

「クッ!」

ファイズに迫るガドルを見て、反射的にカブトは走る。
本能が警告を発していた。
あの一撃は拙い、と。
クロックアップをしようとしたが、反応しない。
恐らく、大ショッカーが仕組んだ罠だろう。
ならば自力で走るしかない。

「――ビブブッ!」

雷のような速度で、ガドルはファイズに迫っていた。
横から半端に攻撃を仕掛けても、止められる物ではない。
そして、反撃を仕掛けられる隙も与えない。
凄まじい威力を誇る電撃キックが、敵を砕こうと迫った。
ファイズとガドルの距離が、徐々に縮む。
しかし、その蹴りが目標に当たる事はなかった。
カブトがファイズを突き飛ばしたため。

「なっ!」
「ムッ!」

驚愕の声が、二つ響く。
ファイズの瞳に、突き飛ばしたような体勢を作るカブトが見えた。
だが、それは一瞬で消える。
ガドルの蹴りが、赤い装甲に到達したため。
衝撃によって鎧が歪むと、カブトは吹き飛ばされていった。

「ガ……ハッ!」

悲痛な呻き声と共に、地面に叩き付けられる。
その直後、ダメージの限界を迎えて、ベルトからカブトゼクターが離れた。
ヒヒイロノカネがパラパラと崩れ落ち、カブトの鎧が崩壊。
変身が解けて、天道の姿を晒した。
身体に重い衝撃を感じるが、まだ意識は保っている。

535強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 07:13:20 ID:d6tnq/xE

「天道!」

ファイズは、倒れた天道の元に駆け寄ろうとした。
しかし、そのような行為は戦場において、致命的な隙となる。
それをガドルは見逃さず、拳をファイズに振るった。

「ぐあっ!」

重い一撃が、銀色の胸板に突き刺さる。
その衝撃によって、ファイズの身体は軽々と吹き飛ばされた。
ガドルの一撃を受けて、彼は割れた道路を転がる。
そして、カブトのようにファイズもダメージが蓄積されて、変身が限界を到達。
フォトンブラッドが霧散して、鎧が消滅する。
そのまま、巧は元の姿に戻ってしまった。
ここに立っているのは、ガドルただ一人だけ。
『仮面ライダー』達に勝ったという、証明だった。

「くっ……!」
「リントの戦士よ、見事だった」

天道は、何とかして立ち上がろうとする。
しかし身体の痛みが、それを邪魔していた。
そんな彼の元に、ガドルは近づいてくる。
完全なる勝利を得るため、トドメを刺そうとして。

「……待てよ」

それを止める声が、聞こえる。
ガドルは足を止めて、振り向いた。
蹌踉めきながらも立ち上がる、巧の方へと。
その瞳からは、未だに強い闘争心が感じられた。
なおかつ、狼のように鋭い。
しかし、ガドルはもう興味を無くしている。
満身創痍であるにも関わらず、立ち向かおうとする気概は感心した。
だが、相手はもう戦えない。
そのような敗者に、何が出来る。
ガドルは再び天道の方に、振り向こうとした。

「あああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

巧は両手を広げ、大きく咆吼する。
すると彼の顔面に、奇妙な黒い紋章が浮かび上がった。
それが意味するのは、本来の姿を発揮する事。
霧彦から託されたナスカメモリを、使っていては間に合わない。
ならば、こちらしかなかった。
数十年前に、人としての命を失ってから、手に入れた忌むべき力。
オルフェノクという、人類の進化系を。
巧の身体は、音を鳴らしながら変化を始めた。
顔が、肉体が、四肢が、形を変えていく。
最後に、全身が灰色に染まる事で、終わりを告げた。

「何……!?」

天道は、驚愕で目を見開く。
目の前で立っていた巧が、既に人の姿をしていなかった為。
異形と呼ぶに、相応しい外見だった。
狼を連想させる顔、かぎ爪に酷似した形の肩、四肢から大きく伸びた棘、両足で輝く三本爪、背中より生えた大量の白い毛。
『ファイズの世界』を存在する灰色の異形、オルフェノクの一種。
ウルフオルフェノクへと、乾巧は姿を変えていた。

536強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 07:15:24 ID:d6tnq/xE

「ほう……」

一方でガドルは、感嘆したような呟きを漏らす。
もう戦えないと思っていた男が、再び立ち上がった。
しかも、リントではない異形の姿を見せる。
この戦場に来てから初めて戦った、蛇の男とよく似た変化だった。
同じ世界の住民かもしれないが、今はどうでもいい。
相手がその気なら、それに答えるだけ。

「フンッ!」

ガドルは勢いよく、腕を振るう。
迫り来る拳を、ウルフオルフェノクは横に飛んで軽々と避けた。
背中から、毛が少しだけ落ちるが気に止めない。
続けざまに、ガドルは回し蹴りを放った。
それもウルフオルフェノクは、身体を反らして回避。
そこから反撃として、爪を振るう。
ガドルの皮膚に傷が付き、微かな火花が舞った。
だが、相手は揺らぎもしない。

(チッ、やっぱりこれでも勝てないか……)

ウルフオルフェノクは、心中で舌打ちする。
予想は出来ていたが、あまり効果はなかった。
このまま戦ったところで、勝てる可能性は低い。
二対一でも、相手に天秤が傾いていた。
加えて、天道は敵の蹴りを受けて傷を負っている。
悔しいが、選択は一つしかなかった。
迫るガドルの一撃を、ウルフオルフェノクは後ろに飛んで避ける。
そして、距離を取って天道の側に立った。

「乾……?」
「捕まってろよ、天道!」

ウルフオルフェノクの後ろに、巧の虚像が上半身だけ浮かび上がる。
そんな中、彼は倒れた天道とデイバッグを担いで、全速力で走り出した。
オルフェノクの力を持ってすれば、この程度は何て事もない。
その速度は、まさに狼を象徴するかの如く素早かった。

「貴様ッ!」

無論、それを放置するガドルではない。
逃走を図ったウルフオルフェノクを、追跡しようとした。
しかしその直後、ガドルの身体に異変が起きる。
異形の姿が、音を立てながら変貌。
一瞬で、その身体はリントの物へと戻ってしまった。

「何……ッ!?」

ガドルは驚愕の表情で、己の手を見つめる。
まだ十分の時間が経っていないのに、変身が強制的に解除された事に対して。
ガドルは仮面ライダージョーカーとの戦いで、己に課せられた制限について知った。
しかし、そこにはもう一つ罠が存在している。
己の力を高める形態になると、変身時間が半分になる事。
カブトとファイズに立ち向かうため、ガドルは電撃体となった。
その影響により、タイムリミットが早く訪れてしまう。
結果、変身は解除されてしまった。
そんな事をガドルはつゆ知らず、逃げた敵の方に目を向ける。
既に、ウルフオルフェノクの姿は見えない。
最初の戦いと同じように、逃げられてしまった。

537強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 07:16:09 ID:d6tnq/xE

「ガドルさん、大丈夫ですか〜〜?」

そんな中、陽気な声が聞こえる。
振り向くと、目の前にはタツロットが金色の身体を輝かせながら、飛んでいた。

「逃げちゃいましたね、私が追いましょうか?」
「必要ない」

ガドルはあっさりと言い放つと、歩みを進める。
逃げられた相手を、わざわざ追う気にはなれなかったのだ。
どうせ追いつけないだろうし、何より逃げ出す奴に興味が沸かない。
最も、次に会うときには確実に殺すが。
ガドルの抱く明確な殺意に気づかず、タツロットも飛ぶ。
渡達と再会するまで、この人を見守りたい。
善意も悪意もない、純粋な好奇心。
それが一体、どのような結果を招くのか。
まだ誰にもわからない。



【1日目 夕方】
【F-5 道路】
【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第45話 クウガに勝利後
【状態】疲労(中)、ダメージ(小)2時間変身不可(怪人態)
【装備】無し
【道具】支給品一式、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ、不明支給品×2(確認済み)
【思考・状況】
1:デイパックの中身を確認、その後ゲゲルを続行する。
2:強い「仮面ライダー」及びリントに興味。
3:タツロットの言っていた紅渡、紅音也、名護啓介、キングに興味。
【備考】
※変身制限がだいたい10分であると気付きました。
※『キバの世界』の情報を、大まかに把握しました。
※ガドルとタツロットは互いに情報交換しました。
※タツロットはガドルの事を『自分を鍛えるために戦う男』と勘違いしています。
※また、ガドルが殺し合いに乗っている事に気づいていません。








E−6エリア。
『アギトの世界』に存在する、アンノウンに対抗するための拠点とも呼べる警視庁。
その中で、天道総司と乾巧は休息を取っていた。
ガドルから撤退するために、ウルフオルフェノクの力を利用してから。

538強敵金カブ ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 07:16:49 ID:d6tnq/xE

「乾、さっきの姿がオルフェノクとやらか」
「何だ、幻滅したか?」

天道の問いに、巧は特に隠そうとせずに答える。
どうせ、いずれはこうなってたかもしれない。
ならばコソコソ隠しても、仕方ないだろう。

「こんな所に連れてこられる時点で、お前が徒者ではない事は分かっていた……それだけだ」
「そうかよ」

その一言を最後に、彼らの会話は終わった。
今は、休息を取る事が最優先のため。
だからこれ以上、余計な事に体力を使いたくなかったのだ。
交わした言葉は少ない。
それでも、彼らには充分だった。
『カブトの世界』を代表する仮面ライダーカブトとして戦う、天道総司。
『ファイズの世界』を代表する仮面ライダーファイズとして戦う、乾巧。
二人の戦いは、まだ始まったばかりだった。
そんな彼らの行く末は果たして。



【1日目 夕方】
【E-6 警察署(警視庁)】
※外部にGトレーラーとトライチェイサー2000が並んで配置されています。



【天道総司@仮面ライダーカブト】
【時間軸】最終回後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、仮面ライダーカブトに2時間変身不能
【装備】ライダーベルト(カブト)+カブトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、ディエンド用ケータッチ@仮面ライダー電王トリロジー、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
0:今は体を休める。
1:仲間達と合流して、この殺し合いを打破する。
2:首輪をどうにかする。
3:間宮麗奈、乃木怜治、擬態天道、草加雅人、村上峡児、キングを警戒。
4:情報を集める。
【備考】
※首輪による制限が十分であることと、二時間〜三時間ほどで再変身が可能だと認識しました。
※空間自体にも制限があり、そのための装置がどこかにあると考えています。
※巧の世界、音也の世界、霧彦の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。
※クロックアップにも制限がある事を知りました。



【乾巧@仮面ライダー555】
【時間軸】原作終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)ウルフオルフェノク、仮面ライダーファイズに2時間変身不能
【装備】ファイズギア+ファイズショット@仮面ライダー555
【道具】支給品一式×2、ルナメモリ@仮面ライダーW、首輪探知機、ガイアメモリ(ナスカ)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW
【思考・状況】
0:今は体を休める。
1:打倒大ショッカー。世界を守る。
2:仲間を探して協力を呼びかける。
3:間宮麗奈、乃木怜治、村上峡児、キングを警戒。
4:霧彦のスカーフを洗濯する。
5:後でまた霧彦のいた場所に戻り、綺麗になった世界を見せたい。
【備考】
※変身制限について天道から聞いています。
※天道の世界、音也の世界、霧彦の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。

539 ◆LuuKRM2PEg:2011/03/11(金) 07:17:26 ID:d6tnq/xE
これにて、投下完了です
矛盾点や疑問点などがありましたら、ご指摘をお願いします。

540二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/03/11(金) 12:32:06 ID:zGpeBldM
投下乙です。

流石の天道と巧でもガドル電撃体は厳しいか……でも、命があっただけでもまだ大丈夫か。
あとタツロット、目の前のガドルは思いっきり危険人物だお……渡と再会したら渡が危ないお……(但し、渡もエンペラーになれるけど……でも今キバット手元にねぇ)
……しかし気のせいかタツロットがゲキレンジャーの某ハエをほんの少し彷彿としたなぁ(これで実況したら間違いなく)。

541 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 17:50:00 ID:w9VFG2jI
小野寺ユウスケ、橘朔也、日高仁志、ン・ダグバ・ゼバ、東條悟、北条透、名護啓介、海堂直也、擬態天道分投下します。

5423人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 17:52:25 ID:w9VFG2jI
4.侵食――Erosion


 宙を1匹の蜂が舞う。彼は自身に相応しき人物に出会えないでいた。
 彼の名はハチ型昆虫コアザビーゼクター、彼の認めし者がザビーブレスを掲げ自身をセットする事で仮面ライダーザビーへと変身する力を与えてくれる。
 だが、本来の資格者である影山瞬は既に死亡している。
 故にザビーブレスは全く関係のない参加者の元に支給されていた。その人物が彼が認めるに値する人物であるかどうかなどおかまい無しに――


 が、幸か不幸か彼の支給先はある意味では都合が良かった。
 彼の支給先は光夏海、彼女はその人格的にザビーに相応しい人物である可能性はあった。もし、彼女がブレスの存在に気付きブレスを掲げたのであれば彼は力を貸したかも知れない。
 もっとも、彼女は自身の祖父が大ショッカー側にいた事や出会ったある人物への対応、その後に起こった戦いに対しての対処があったため支給品を調べる余裕がなかった。
 故にザビーブレスの存在に気付くことなくある参加者の凶刃によって倒された。
 仮の話だが予めザビーブレスの存在に気付いていたならもう少し違う結末もあったかもしれないがそれは最早後の祭りである。

 さて、都合が良かったという意味ではもう1つ理由が存在する。
 それは彼女が最初に出会った人物の存在だ。その人物は矢車想、かつてのザビーブレスの資格者であった男だ。
 無論『かつて』という以上は資格を失った人物であり、地獄の闇に堕ちた今の矢車にザビーを扱える筈もない。
 それでも、影山がいないならば――ザビーブレスが矢車を改めて選ぶ可能性は多分にあった。
 実の所、夏海を仕留めた相手との戦いにおいて矢車はブレスを装着していた。ここまで言えばおわかりだろう。その時にザビーゼクターは矢車を選ぼうとしていたのだ。
 が、ザビーゼクターが向かう前に戦いは終幕。更に矢車自身使う気は無いともう1人の参加者にブレスを渡したのだ。

 その人物は警察官、それもエリートと呼ばれる人の上に立つ人間である北條透。
 多少人格に問題は無いではないが組織に属し物事の中心に立って行動出来る人物である北條ならばザビーゼクターが認める可能性はあった。
 しかし、今の北條にその資格はない。先の戦いの前ならばまだ可能性があったが今の北條をザビーゼクターは認めない。
 負傷した矢車や先行していたはずの同行者を放置し危険人物の排除に執着する自己中心的な行動を取る北條をザビーゼクターが認めるわけがないだろう?
 かつての矢車も自己中心的な行動を取る事でザビーの資格を失ったのだから。

 故に只、彼は資格者無き舞台の上空を舞い続ける――現れるかどうかすらわからない資格者を待ちながら――

5433人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 17:54:00 ID:w9VFG2jI


 ザビーゼクターが舞う空の下では北條透は夏海を殺した青年を追跡していた。 
 前述の通り今の北條透は本来ならば保護及び再合流すべき負傷者や同行者を放置し危険人物の排除に執着している状態だ。
 その大きな原因は先の戦いで彼が手にすると共に使用した夏海の支給品の1つであるガイアメモリの副作用だ。

 ガイアメモリは使用者をドーパントと呼ばれる強大な力を持つ存在に変える力を持つ。
 だが、ガイアメモリは強力な薬の様なもの、言うなれば劇薬である。大きなリターンを得られる反面大きなリスクを伴うという事だ。
 ガイアメモリの毒素は感情に強く作用し使用者の精神を歪めるもの、ドライバーのフィルターを介さなければそれを止める事は出来ない。
 ガイアメモリを使って変身する仮面ライダー、そしてガイアメモリを牛耳るミュージアムの幹部がガイアメモリを使用しても基本問題が無いのはドライバーを介した上で変身しているからだ。
 特に仮面ライダーの使用するメモリは彼等の使うドライバー専用に開発されているが故に専用のドライバーでなければ使用する事が出来なくなっている。
 とはいえ、ドライバーというフィルターを介してはメモリの本来の力を発揮出来ないと語る者もおり、実際にドライバーのフィルタターを無力化し使用者の力を強化しようとしたという話もあるわけだが。
 ちなみにガイアメモリは本来ドライバーもしくは生体コネクタに挿入する事でその力を発揮する。
 コネクタもまたドライバーには遠く及ばないもののフィルターの役目を発揮する。それ故にコネクタ無しにガイアメモリを使用した場合は死に至る危険もある。
 なお、参加者の首輪には生体コネクタの役目を持つコネクタがある。故に参加者はガイアメモリを使用しドーパントへの変身を行う事が出来るのだ。もっとも生体コネクタの代替である以上メモリの毒に侵される可能性は非常に高いが。
 余談だが、北條に支給されているガイアメモリだがこのメモリはT2ガイアメモリと呼ばれる少し特殊なものだ。
 此方の方は通常のガイアメモリではなく仮面ライダーの使用するガイアメモリに酷似している。故に通常のコネクタのみならずT2ガイアメモリを仮面ライダーの使用するドライバーに挿入出来る事も出来る。

 長々とガイアメモリについて説明したが結局の所、今の北條はメモリの毒に侵されているという事だ。
 メモリの毒により危険人物に対処したいという感情が肥大化したという事だ。本来の責務である人々を守るという事を疎かにする程に。
 北條は戦う手段を欲していた。そして彼の手にしたガイアメモリは確かに戦う手段となった。
 が、それによりザビーゼクターに認められる可能性を自ら潰し戦う手段を1つ失った事はある意味皮肉な結末と言えよう。
 無論、北條はそれに気付く事は無い。

5443人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 17:54:35 ID:w9VFG2jI


「出来ればコレを元の世界に持ち帰りたい所ですね。この力さえあればアギト殲滅作戦も……」


 何故、北條はここまで危険人物を排除する事に執着するのだろうか? それは彼自身がこの場に連れて来られる直前の状況と関係している。
 北條はその時アギト殲滅作戦を行っていた。
 北條の世界ではアンノウンが人々を襲い、強力な力を持つ戦士であるアギトがそのアンノウンに立ち向かっていた。
 だが結局の所アンノウンが人々を脅かしていた真相はアギトあるいはアギトに覚醒しようとしている人間の排除でしかなかったのだ。
 また、アギトに覚醒しかけている人間は大小異なるものの人知を越えた超能力を持っている。
 もしその力が何の力も持たない人間に向けられたらどうなるだろうか?
 アギトである津上翔一や葦原涼は少なくてもそういう事はしなかった。だが、全てのアギトが同じとは限らない、その力に飲まれ暴走する者がいてもおかしくはない。
 つまり、ある意味アギトもアンノウンと同じく脅威でしかない。いや、基本アギトしか襲わないアンノウンよりも質の悪い存在と言えるかもしれない。
 故にアンノウンを保護しアギトを殲滅するという作戦が遂行されているのだ。
 北條がその作戦の先頭に立っているのは彼自身がアギトを恐れているからだが、その根底にあるのは自分を含めた人間達を守りたいという想いである事に違いはない。だからこそ北條はアギトを排除しようとしていたのだ。


「ですが、今はこの殺し合いを止める事が先決です……そう、この力で危険人物……そして、アギトを……」


 しかしその想いはガイアメモリによって歪められた。危険人物及びアギトへの恐怖を肥大化させる形で――


 ふと、北條は双眼鏡型のツール、カイザポインターを覗きG-5にある住宅地の様子を探る。ほんの一瞬ではあったが人影が見えた。


「彼……見つけましたよ」



 ――かつて、翔一がアギトである事を知って悩む氷川誠に北條はこう口にしていた。



『私に言わせれば貴方もまたアギトだ。G-3Xを装着した時の貴方はアギトに匹敵する力を持っている筈だ』



 北條自身の言葉で言えば、ガイアメモリを使用した時の北條もまたアギト、彼自身が排除すべき存在という事になる――



 そんな皮肉な事にすら今の北條は気付かない――

5453人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 17:55:15 ID:w9VFG2jI





5.遊戯――Game


 白い服を着た青年が名簿と地図を見ていた。
 青年は今更ながらに最初に集められた場所の事を思い返していた。
 世界を懸けた戦いと言われても、青年にしてみれば実の所そんな事に興味はなかった。


『リントが面白そうなゲゲルを開いた』


 そのプレイヤーとして自分が選ばれた程度の認識しかなかった。
 既に自分達にゲゲルは終わっており『究極の闇』を始めるだけだったが、リントのゲゲルに興味もあったが故に青年はそのゲゲルを楽しもうとした。

 だが、当初はそこまで過度な期待はしていなかった。究極の力を手にしたリントの戦士クウガならばともかく、他のリントが青年自身を笑顔にしてくれる程だとは思えなかった。

 しかしその認識は間違いだった。
 最初に遭遇した相手の内の1人が放った威圧感。リントの道具によるものだったがそれは強大なもの。青年に今まで体験した事のない『恐怖』という感情を与えたのだ。
 それは青年にとって只人を殺すだけでは味わえない大きな喜びを与えてくれた。それだけでも十分このゲゲルに参加した意義はあるだろう。

 それだけではなかった。その後、戻った時の戦いもまた青年を大いに喜ばせた。


『クウガ以外にも面白いリントが沢山いる』


 そう感じるのに十分だった。あの後逃げられた事に少々苛立ちを感じたもののそれでも構わない。ゲゲルを続ける内に何れ出会えるだろう、そう考えていた。


 その後、自分達と同族であるゴ・ガドル・バと遭遇した。気になる事が無いでもなかったがガドルと戦っても良いとは思っていた。
 どういうわけか本来の姿にはなれなかったが恐怖を感じ笑顔になれるのならばそれでも良かった。
 だが、ガドルの様子を見て気が変わった。ガドルは自分を恐れていたせいか戦おうとしなかった。
 殺しても良かったがそれでは自分は笑顔になれない。それにガドルはゴの中でも最強、更に強くなってくれれば自身を笑顔にしてくれるかも知れない。
 だからこそガドルを見逃したのだ。ガドルはもっと強くなって帰ってくるだろう。もし誰かに倒されてもガドルを倒したリントが自分を笑顔にしてくれる、そう考えたのだ。


 さて、このタイミングで青年が名簿を見ているのには先程のガドルとの遭遇が関係している。
 前述の通り、青年は『究極の闇』を始めようとしていた。つまり、既にガドルはクウガに倒されている筈なのだ。
 それだけではない。ガドル以外にも自身のベルトの破片を手に入れ自身を殺そうと目論んだものの返り討ちにしたズ・ゴオマ・グの名前も確認出来た。
 これだけの異常事態があったからこそ最初の場での話を思い返したという事だ。
 確か大ショッカーの話では死者の蘇生や過去の改竄が可能らしい。どれぐらいの力を持つかは知らないが自分達には想像の付かない技術で死んだ筈のガドルやゴオマを参加させた可能性は大いにあり得る。
 自身に恐怖を与えたガイアメモリが存在を知った今ならそれを信じられる。

 ならばこれからのゲゲルが非常に楽しみだ。最初の場ではクウガやそれに似た者達が自分達の様な者達と戦っている映像が流れていた。
 他の世界にもクウガの様な者や自分の様な者もいるという事だ。当然、その中には自分に匹敵する力を持つ者もいるだろう。これまでの戦いがその証拠でもある。


 そんな中、遠方に数人の集団が歩いているのが見えた。


「ねぇ……君達なら僕を笑顔にしてくれるのかな……?」


 リントの言葉でそう口にする青年、彼の名はン・ダグバ・ゼバ、グロンギの頂点に君臨する王である。

5463人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 17:55:55 ID:w9VFG2jI





6.世界――World


「小野寺……それは本当なのか……?」
「ええ、俺達が行った『剣(ブレイド)の世界』はさっき話した通りだけど……」


 橘とヒビキはユウスケから大ショッカーの事や彼の旅した世界について聞いていた。
 その中でも橘が特に気になったのは『剣の世界』の存在だ。ブレイドは橘の世界の仮面ライダー、その名を冠する世界である以上気になるのも道理だ。

 しかし、それはある意味、橘の想像を絶するものだった。
 アンデッドと戦うBOARDの仮面ライダーという構図こそ共通しているがその在りようは大幅に異なるものだった。
 例えば橘の世界のBOARDは研究所であったがユウスケの訪れた世界のBOARDは大企業という風にだ。
 レンゲルに関しても厳密に言えば橘の世界ではBOARDで作られたライダーシステムではない。そして何より――


「カリス……それにジョーカーに関する所が全然違うな……」
「え、それは一体……?」


 ユウスケの訪れた世界のカリスはブレイド同様のライダーシステムで、ジョーカーは更にカリスが変身した人造アンデッドだった。
 だが、橘の世界のカリス及びジョーカーはそうではない。
 どの生物の始祖にも属さない最強のアンデッドジョーカーがハートのカテゴリーAマンティスアンデッドを封印したカードをラウズする事で変身した姿がカリスだったのだ。
 そして、ジョーカーがハートのカテゴリー2ヒューマンアンデッドを封印したカードで変身したのが相川始である。


「ちょっと待ってくれ。それってつまり相川始はアンデッドって事か!?」
「その通りだ、奴がバトルファイトで優勝すれば世界が滅びる事になる……剣崎はアイツを信じているみたいだが……」


 橘は剣崎一真ほど始を信用していない。それでも、最近の行動を見る限りある程度は信用しても良いと考えている。故に、先の情報交換の時には友好的な人物だと説明していたのだ。
 アンデッドという事を今まで伏せていたのも下手に疑心を持たれない為である。


「だが、その始は世話になっている人達を守っているんだろ?」
「そうだ、それに今は人を襲っていないっていうなら信じても良いんじゃないか? 世界を滅ぼすって話も本当かどうかわからないんだ……それに、仮にそうだとしても何か方法はあるはずだ」


 始がアンデッドなる異形の存在という話を聞いても2人は信じても良いと考えている。
 ヒビキ自身が変身する鬼もまた異形の存在と言う事も出来る。現代ではそうではないが戦国時代では忌み嫌われていたという話がある。
 嫌悪された鬼達が現代に至るまでに受け入れられたのは、永きに渡り彼等が人々を守ってきた事により人々が彼等を信じ受け入れる様になったからだ。
 ならば、始が人々を守るのであればそれを信じるべきでは無いだろうか、ヒビキはそう思っている。
 ユウスケも様々な世界を旅する中で人間と共存しているファンガイアやオルフェノク等と出会っている。それを知るからこそ始を信じる事が出来るのだ。


「それに今はアンデッドとか人間とか言っている場合じゃないだろう。大ショッカーをどうにかしなければそれこそ世界が滅ぶ事になる。それでユウスケ、士や大樹だったらどうにか出来るのか?」
「はい。士や海東なら俺よりももっと大ショッカーに詳しい筈です」


 ユウスケにとって旅の仲間である門屋士、海東大樹はそれぞれディケイド、ディエンドと呼ばれる通りすがりの仮面ライダーだ。
 数多の世界の仮面ライダーの力を使える彼等ならば数多の世界に干渉をかける大ショッカーに対抗出来る可能性はある。
 そこまで都合良くはいかなくてもあの2人ならばユウスケよりも重要な事を知っている可能性はある。探してみる価値はあるだろう。


「それにしても……何故『剣の世界』なんだ? 『ギャレンの世界』じゃなく……」
「ああ、それは俺も思った。どうして『響鬼の世界』って呼ばれていたんだ? 別に俺の世界ってわけじゃないんだけどな……『威吹鬼の世界』や『斬鬼の世界』でも良いだろう……」
「俺は自分の世界が『クウガの世界』って言われても疑問には思わなかったけどな……ところで今何時かわかります?」


 と、橘とヒビキが時計を確認する。


「もうすぐ5時か……」
「放送まで後1時間といった所か……ザンキさんにあきら、それに京介……無事でいろよ……」

5473人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 17:56:35 ID:w9VFG2jI





7.笑顔――Smile


 その最中、突如3人は不穏な気配を感じた。


「「「!?」」」


 前方を見るとそこに白い服を着た青年がいた。気配の出所が彼なのは確実。


「お前……何者だ?」


 そう言いながらも3人は決して警戒を解く事はない。



「僕? 僕はダグバ……リントの君達が僕を怖がらせてくれるのかい? それとも――」



 そう言いながら青年ン・ダグバ・ゼバは姿を変えていく――



 服の色と同じ――



 白色の怪人へと――



「――笑顔にしてくれるのかい?」



 まだ戦いは始まってはいない。それでもダグバから放たれる威圧感は相当なものだ。



 それだけで3人は理解した。話し合うまでもない、目の前の相手はこの殺し合いに乗っている。



 そして奴を放置すれば確実に人々が殺されるだろう。ならば答えは簡単だ。



「笑顔だと――冗談じゃない、俺が戦うのは世界中の人々を笑顔にする為だ! お前の為なんかじゃない!」



 最初に動いたのはユウスケ――両手を腹部にかざす、すると腹部にアークルと呼ばれるベルトが出現する。



「そのベルト……まさか君も!?」



 今まで穏やかな口調で話していたダグバが初めて驚愕した。それに構うことなく、



「変身!」



 その言葉と共にユウスケの身体が赤色の戦士クウガの身体へと変化していく。

5483人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 17:58:25 ID:w9VFG2jI



「やっぱり……そうか、君もクウガだったんだね……」
「『も』……まさかダグバ……お前はもう1人の……俺以外のクウガを知っているのか!?」



 クウガが問いかける一方、ダグバは歓喜した。
 別の世界にもクウガに匹敵するリントの戦士がいる事を期待していたが、まさか別のクウガがいたとは予想外だった。
 無論、目の前のクウガが自分の知るクウガよりも大きく劣る可能性もある。
 それでも今はこのゲゲルを楽しもうと思った。



「僕と戦ってくれたら教えてあげるよ、さぁやろうよ……僕達のゲゲルを」
「巫山戯るな……」



 そう口では勇猛ではあっても内心では震えていた。ダグバは間違いなくこれまでに出会った相手の中でもトップクラスの強敵だ。


 思えば最初に遭遇したカブトムシの未確認生命体。奴が口にしたクウガも自分とは違うもう1人のクウガだったのだろう。
 その未確認の口ぶりだと、もう1人のクウガは自分よりもずっと強かったらしい。先程見たスクラップ記事の記述を踏まえても間違いないだろう。
 だが、そのクウガでもその未確認には勝ててはいないらしい。
 そして目の前のダグバは確実にカブトムシの未確認よりも強い。今の自分が戦って勝てるとは到底思えない。



 だが――



「(姐さんは言ってくれた……世界中の人の笑顔の為だったらもっと強くなれるって……)」



 脳裏に浮かぶのは自身をサポートしてくれた八代藍の言葉。それまでは彼女の笑顔の為だけに戦ってきたが、彼女の死後はその言葉を胸に様々な世界を旅し戦い続けてきた。



「(だから負けない――みんなの笑顔の為に――俺はコイツを――)」

5493人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 17:59:00 ID:w9VFG2jI





8.英雄――Hero



 ダグバの存在は彼等にとってあまりにも強烈だった。故に――



 もう1つの脅威が迫っていた事に気が付かなかった――



 東條悟が3人を見つけたのはほんの数分前だった。住宅街の建物の中で身を休めている時に偶然見かけたのだ。
 先の戦いから既に2時間以上経過している。もうそろそろ再変身が可能だろう。そう考え3人を襲撃――


 そう考えたもののそう簡単にはいかないと思った。
 先の戦いで受けたダメージが完全回復したわけではない。
 何より相手は3人だ。最悪3対1になれば勝てる道理は何処にもない。
 ならば自身が一番得意とする戦法を使えばよい。
 それは奇襲、隙を見せた所でリュウガの契約モンスターであるドラグブラッカーを差し向ければ良い。
 上手く行けば先程と同様に参加者を1人仕留める事が出来るだろう。


 故に東條は遠くから3人を尾行する事にしたのだ。もしも見つかった時は待避すれば良い話だ。
 あまりにも消極的な話ではあったが手元にある残りの支給品2つは東條から見て武器と言えない。それを踏まえるならば無茶は禁物だ。


 が、3人が東條の存在に気付く事はなかった。東條の尾行が上手かったという説もあったかも知れない。
 そして何より、もう1人の人物――ダグバの存在と威圧感が東條の存在感と気配を覆い隠してしまったのだろう――


 さて、東條が見ると3人は白服の青年と対峙していた。そして白服の青年は白の怪人へと姿を変えた。
 白の怪人――ダグバから放たれる威圧感は離れている東條にも伝わってくる。しかしまだ逃げるわけにはいかない。
 何よりダグバと対峙している3人は皆ダグバに気を取られている。この期を逃す理由はない。
 今いる場所は住宅地、鏡の様に映るガラス等は周囲に幾らでもある。



 故に東條はデッキを掲げドラグブラッカーを放った――

5503人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 17:59:45 ID:w9VFG2jI





9.恐怖――Fear



 本当に誰も気付けなかったのか?



 否――実は1人だけ気付いた者がいた。



 橘は目の前のダグバに恐怖していた。
 過去に遭遇したどのアンデッドよりも強いのは確実、奴が本気を出せば自分達が全滅する可能性もある。


 だからこそクウガに変身したユウスケ、音叉を構えるヒビキと違い動く事が出来なかった。


「(勝てるのか……俺達は……目の前の怪物に……?)」


 橘の持つライダーシステムギャレンは強力な力である。しかしライダーシステムには1つの問題があった。
 ブレイドやギャレンといったアンデッドの力を使う仮面ライダーの強さはアンデッドとの融合係数で決まる。
 そしてその融合係数は装着者の資質や精神状態にも左右され、特に恐怖心を抱く事で融合係数は低下する。
 更に問題なのは場合によっては恐怖心が増長するという問題点もある。
 橘は長い間それに悩まされ続け、仮面ライダーとして思うように戦えず、あるアンデッドにそんな自分を利用された。
 最終的にその恐怖を乗り越える事は出来たものの二度と取り戻す事の出来ない非常に大きな代償を払う事になった。


 ふと橘は手元にある1枚のカードを見る――それは自身にとって因縁の深いカードだ。


「(そうだ……ここで恐怖に負けたらアイツは何の為に……)」


 それでも一度感じた恐怖を消す事は簡単な事ではない。恐らく今の自分では十分な力を発揮する事は出来ないだろう。
 ならば考えろ。勝てなくても良い、最悪この場を切り抜ける方法を――周囲を探って突破口を見つけるのだ。



 幸運にもそれが迫る脅威の存在に気付かせてくれた。



 そう、ガラスの中から漆黒の龍が自分達を狙っているのを見つける事が出来たのだ。



「来るぞっ!」



 そう叫んだ瞬間、互いを注視していたクウガとヒビキそしてダグバは周囲を見回す。



 その時だった。漆黒の龍ドラグブラッカーが自分達を喰らおうと飛び込んできたのは。4人の反応が早かったが故にドラグブラッカーの強襲は外れた――そしてそのまま戻ろうと――



「くっ、もう1人いたか!」



 近くに殺し合いに乗った参加者がもう1人いる。もし、ダグバとの戦いを切り抜けられたとしても疲弊した所を襲撃されればその時点で自分達は終わりだ。
 ならば誰かがその人物に対処しなければならないだろう。



「俺が奴を追う! ヒビキさん、小野寺! そいつは任せた!」



 行くべき人物は自分だ。恐怖している状態では戦力的に足手纏い、それでももう1人の足止めぐらいは出来る筈だ。故に橘は漆黒の龍を放った者の追跡に入った。

5513人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 18:01:25 ID:w9VFG2jI





10.狙撃――Sniping


「お、おい橘!」


 漆黒の龍による奇襲と橘の迅速な行動にヒビキは驚いていた。
 情けない話だが橘が気付かなければ自分達の内誰かが龍の餌になっていただろう。
 奇襲に気付けなかったのはダグバの威圧感に圧されていたから?
 いや、そんなのは言い訳にもなりはしない。現実に橘は気付いていたではないか。
 結局の所まだまだ鍛え方が足りなかったという事だろう。ならば更に鍛えれば良いだけの話だ。

 それよりも今すべき事はこの場をどうするかだ。その為にはまずは――



 壁を叩く事で音叉を震わせ――



 それを額に当てて震動を伝え――



 鬼の紋章が出現すると共に自身の身体を炎が包み――



「ハッ!」



 かけ声と共に炎を振り払った時、ヒビキの姿は鬼としての姿響鬼へと変化した――



「さて、橘を追うか、それとも目の前の……」



 と、音撃棒を構えどうするか考えていた時――



 横から何かが飛んでくる気配を察知した。



「!?」



 響鬼の回避行動の方が早く銃弾は外れ壁に命中した。そして遠方に右手がライフルになっている青色の怪人を見つける。



「今のは……俺を狙ったのか?」



 と、青色の怪人は響鬼を狙い何発も発砲をする。

5523人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 18:02:50 ID:w9VFG2jI



「鬼の様なアギト……貴方の様な危険な存在を放置するわけにはいきません」



 北條は東條の姿を見つけ近付いたものの再び彼を見失ってしまった。
 だが近くにいるのは間違いないと思いカイザポインターを覗き捜索を続け――
 偶然にも鬼の様なアギトに変化する人間を見つけたのだ。
 わざわざこの状況でアギトに変身するという事は誰かを襲うという事、
 夏海の悲劇を繰り返すわけにはいかない、故に北條はすぐさま、



 ――Trigger!!――



 ガイアメモリをコネクターに挿入しトリガードーパントに変身した。
 そしてすぐさま鬼のアギトを狙撃したという事だ。
 それはまさしくガイアメモリの毒で増長したアギトを殲滅しなければならないという強迫概念だったのだろう。
 不幸にも北條の立ち位置からは鬼のアギト以外の存在は確認出来なかった。故にトリガードーパントは只、鬼のアギトを狙い発砲したというわけだ。


「ユウスケや橘を助ける所じゃないな……」


 このままダグバとの戦いに入った所でトリガードーパントの狙撃がある状況では自分達が生き残るのは厳しい。
 何よりトリガードーパントの狙いは響鬼だ。ならば、響鬼自身が狙撃手を迅速に止め、その後ダグバへの対処に戻るのが最善の策だろう。


「ユウスケ、俺は狙撃した奴を追う。無理はするな!」



 そう言って響鬼はトリガードーパントの方へと走り出した。
 しかしトリガードーパントは響鬼の真意に気付かない。只、危険人物の矛先が自分に向けられたとしか思っていない。故に――


「どうやら私を仕留めるつもりですか? 良いでしょう返り討ちにしてあげますよ」


 トリガードーパントもまた臨戦態勢に入った――


 アギトに対する恐怖によりガイアメモリの毒を加速度的に進行させながら――

5533人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 18:03:30 ID:w9VFG2jI





11.朔也――Garren



 ダグバ達のいる場所から数十メートル離れた地点、橘は東條を見つける事が出来た。ちなみに既に漆黒の龍の姿は消えている。


「さっきの龍はお前の仕業か?」
「うん、君が気付かなかったら誰か殺せたんだけどね。あの子……確か夏海って呼ばれていたかな……彼女みたいにね」


 橘の問いにあっけからんと東條は答える。


「夏海……まさか小野寺の……」


 奇しくもユウスケの仲間の夏海の消息を知る事が出来た。だがそれは既にこの世にはいないという最悪の結果だ。


「お前……乗っているのか?」
「そうだよ、英雄になる為にね」


 『英雄』――そのフレーズを聞いた橘の頭には疑問符しか浮かばなかった。


「お前は何を言っている? 何故、人を殺して英雄になれるんだ?」


 そう、東條のやろうとした事は英雄とは全く真逆の行為だ。
 勿論、悪人を仕留めたならば英雄と言えるだろう。しかし東條の仕留めた夏海は善良な人間だと聞いている。


「大体、お前が殺した夏海は悪い奴じゃ……」
「知っているよ。多分彼女は良い子だったんだと思う……」


 またしても意外な返事が飛び出した。


「でも仕方が無い事なんだ。英雄になる為には大切な人を犠牲にしなきゃならないんだ……」


 その言葉を聞いた橘の表情が強ばっていく。


「本気で言っているのか?」
「仲村君に佐野君……それに先生……みんな僕にとって大切な人だった……苦しかった……だけど、英雄は苦しいものだから仕方がないんだ……」


 東條が口にした人物が誰かは知らない。しかし、彼等が東條にとって大事な人であり、同時に東條自身が手にかけたのは間違いない。


「だから僕が英雄になる為に君も犠せ……」
「……戯るな」
「いに……?」

5543人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 18:04:50 ID:w9VFG2jI


 先程までと違い橘の言葉に強い感情が込められている。それ故に東條は思わず口を止めてしまう。


「巫山戯るな……お前が何人大切な人を犠牲にしようが英雄になんてなれない! 絶対にだ!」
「君も剣崎君と似た様な事言うんだね」


 思わぬ所で仲間の消息を聞く事が出来た。しかし恐らく剣崎と東條は戦う事となっただろう。


「剣崎に会ったのか? ……その様子だと剣崎とも戦ったんだろうな。それでお前がここにいるという事は……」
「いや、残念だけど彼を殺す事はできなかったよ。でももう死んでいると思うよ」
「どういう事だ?」


 東條は病院での戦いで矢車に倒され気を失っていた。しかし意識を取り戻した時に矢車達の会話から、もう1人の襲撃者を足止めする為に剣崎が犠牲になった事は推測出来た。


「詳しくは知らないけど病院に誰かが襲ってきたみたい……それで剣崎君はそれを足止めする為に残ったらしいけど」
「何、病院だと……名護達が……」
「あれ? 君の仲間が向かったんだ。気を付けた方がいいよ、あの辺りには僕が契約していたモンスターもいるからね」
「いや、名護達がそう簡単にやられるわけもないか……それよりも……剣崎が犠牲になったのに何も思わないのか!?」
「本当に馬鹿だと思うよ。英雄になる前に死んでも何の意味も無いのにね」


 剣崎の命を賭した行動を馬鹿だと嘲笑う東條であったが。


「いや、剣崎は英雄だ……もっとも、それを聞いて喜ぶ様な奴じゃないが」
「何を言っているの? 彼は犠牲にする勇気を持たなかったんだよ、彼が英雄なわけが……」
「わからないだろうな……大切な人を犠牲にすれば英雄になれると勘違いしているお前にはな」
「勘違いだって? 先生が言っていたんだ、犠牲に出来る勇気を持つのが英雄だって……」
「勘違いの原因はその先生か? とんでもない奴だな」
「先生を侮辱しないで、先生は世界を救う為なら家族だって犠牲に出来る人なんだ!」


 世界を救う為に家族を犠牲にする――最大公約数的に言えば99を救う為に1を殺すという意味だろう。
 それ自体は橘から見ても必ずしも間違っているとは思わない。
 何故なら、自分の世界でもジョーカーである始の封印という問題が付いて回っているからだ。
 始を封印すれば世界は救われる、だがジョーカーの正体を知らずに始を慕う栗原親子が悲しむ事だけは確実だ。
 今はまだ良くても何れは世界を救う為に栗原親子の想いを犠牲にする時が来るかも知れない。
 故に、先生こと香川英行の言葉自体はある意味では正しい――


 だが、それは決して犠牲を出して良いという免罪符にはなり得ない――


 剣崎が始を封印しないのは結局の所、栗原親子の想いも世界も救えると信じているからだ。
 それで誰も救えなければ意味はないが、犠牲が無いにこした事はない。


 そう、99を救い同時に1すらも救う事こそが理想なのだ――


 無論、それは甘すぎる幻想に過ぎない。だからこそ最低限の犠牲は必要という事になるが、少なく出来るのならばそれに越した事はない。


 橘は理解した。東條は香川の言動を自分に都合が良い風に曲解しているという事に。
 その一方で今でも東條は香川を尊敬している事から考えそれは絶対なのだろう。
 自身に都合良く歪めた香川の言葉を――
 恐らく、生半可な説得が通用する相手ではない。故に最早これ以上の口論に意味はない。


「……お前に何を言っても通じないだろうな」


 橘はAのカードをセットしたギャレンバックルを腹部に当てる。するとバックルからカード状のベルトが展開され橘に巻かれる。


「そうだね、英雄を理解出来ない君も死んで貰うよ、僕が英雄になる為に……変身」


 東條も横のガラスに自身を映しデッキを掲げVバックルを出現させ自身に装着させそこにデッキを挿入する。
 そして全身に黒と銀の甲冑を纏い仮面ライダーリュウガへの変身を完了した。

 すぐさま左腕に装備されているブラックドラグバイザーに1枚のカードを挿入し、



──STRIKE VENT──



 右手にドラグクローを装着し橘に仕掛けようとする。相手はまだ変身前、その前に仕留める事も可能な筈だ。

5553人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 18:07:15 ID:w9VFG2jI



 だが、東條は橘の言葉で感情的になっていたが故に致命的な事を失念していた。橘が巻いているバックルが剣崎のそれと酷似している事を。
 そう、病院での戦いで剣崎が変身した時の事を――



「変身」



──TURN UP──



 バックルのダイヤを回転させる。するとクワガタが描かれた青い壁が出現し、その壁に真正面からぶつかりリュウガは吹っ飛ばされる。
 そして橘はその壁を通過し全身に赤と銀の甲冑を纏い仮面ライダーギャレンへの変身を完了した。


「(俺の手にあるカードは8枚、戦うには十分だ――)」


 手元にあるラウズカードはA〜6に9、そして――


「(しかし、アブゾーバーもカテゴリーQも奪っておきながら……)」


 何故、橘は東條の言葉にここまで怒りを覚えていたのだろうか?
 単純に誰かを犠牲にする事が許せなかったからか?
 自身を犠牲にしてまで人々を守ったであろう剣崎の事を侮辱されたからか?


 それもあるかもしれない――だが、橘にとって重要な理由が別に存在していた――


「(カテゴリーJ、伊坂のカードがあるのは何の冗談だ――)」


 先程も触れた通り、橘は恐怖心により戦えなくなり、それを振り払おうと力を欲するあまりそれをアンデッドに利用された時期があった。
 そう、カテゴリーJのアンデッド伊坂によって――
 前述の通り、最終的に恐怖心を乗り越え伊坂を封印する事が出来た。だがそれを成し遂げる事ができたのは橘にとって最愛の人物である深澤小夜子が伊坂によって殺されたからだ。
 それだけではない。伊坂封印後、橘は一時期ギャレンを捨てようとした。
 しかし、彼が再びギャレンとなったのはこれまた橘にとって大事な先輩であった桐生豪がカテゴリーAの邪悪な意志によって暴走したからだ。何とか彼を止める事が出来たものの、結局桐生を死なせる結果となった。
 そんな桐生が何故か参加者に名を連ねているが敢えてこの場では触れない。

 つまり、橘が仮面ライダーとして戦える様になったのは小夜子と桐生の犠牲があったからだ。
 2人の犠牲があったからこそ橘は英雄とも言える仮面ライダーになれたと言って良い。
 だが、橘がそれを誇らしく思うわけもない。2人を犠牲にして嬉しく思うわけもない。死なせたくなかったと思うだろう。
 2人を犠牲にしてまで仮面ライダーになどなりたくなかっただろう。

 故に大切な人を当然の事の様に平然と犠牲にする東條が許せなかったのだ。
 彼の言動は自分の為に死んでいった小夜子や桐生に対する冒涜だ。
 人々を守るだけではない、剣崎や桐生、そして小夜子の為にも東條を止めなければならない。


「(だが、今はそれでも構わん――)」


 皮肉な話だが、東條への怒りがダグバに対する恐怖を払拭してくれた。故に十分にギャレンの力を引き出す事が出来る。


「お前が自身を英雄だと言うのなら――俺を倒してみろ」
「言われなくても……」

5563人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 18:11:50 ID:w9VFG2jI
12.三重――Triple



「2人とも行っちゃったね……もう1人のクウガ……君1人で十分かい?」
「やってやるさ……お前の為じゃない……人々の笑顔の為に!」


 クウガとダグバによる笑顔の為の戦い、



「距離を取る気か? 悪いが逃がすわけにはいかないな」
「距離を詰め仕留めるつもりですか? 狙い通りに行くとは思わないでください」


 響鬼とトリガードーパントによる強い意志で力を仰する者と強い力で意志を飲まれた者の戦い、



「……君を倒して僕は英雄になる」
「来い……異世界の仮面ライダー」


 ギャレンとリュウガによる犠牲と英雄を巡る戦い、



 時刻は丁度5時、かくしてG-5の半径100メートル以内の場所で3組の戦いが幕を開けた。



【1日目 夕方】
【G-5 住宅地】
【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】健康、仮面ライダークウガに変身中
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式、アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ガイアメモリ(スカル)@仮面ライダーW、おやっさんの4号スクラップ@仮面ライダークウガ 、不明支給品×2(確認済み)
【思考・状況】
1:ダグバを倒す。
2:海堂直也は、現状では信じている。
3:殺し合いには絶対に乗らない
4:もう1人のクウガか…………
【備考】
※デイバッグの中身は確認しました。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※おやっさんの4号スクラップは、未確認生命体第41号を倒したときの記事が入っていますが、他にも何かあるかもしれません(具体的には、後続の書き手さんにお任せします)
※カードセットの中身はカメンライド ライオトルーパー、アタックライド インビジブル、イリュージョン、ギガントです
※ライオトルーパーとイリュージョンはディエンド用です。
※インビジブルとギガントはディケイド用のカードですが激情態にならなければ使用できません。

【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後以降
【状態】腹部にダメージ、顔面出血、怪人態に変身中
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW
【道具】支給品一式
【思考・状況】
1:目の前のもう1人のクウガとの戦いを楽しむ。
2:恐怖をもっと味わいたい。楽しみたい。
3:ガドルやリントの戦士達が恐怖をもたらしてくれる事を期待。
【備考】
※ガイアドライバーを使って変身しているため、メモリの副作用がありません。

5573人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 18:12:30 ID:w9VFG2jI


【日高仁志@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】本編第41話終了後
【状態】健康、仮面ライダー響鬼に変身中
【装備】変身音叉・音角@仮面ライダー響鬼
【道具】支給品一式、着替え(残り2着)
【思考・状況】
1:青色の怪物(トリガードーパント)に対処し、その後ユウスケと橘の助けに戻る。
2:打倒大ショッカー
3:殺し合いはさせない
4:大ショッカー、ガイアメモリを知る世界、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触
5:俺がしっかりしないと……
6:ガイアメモリ、どこかに落としちゃったのかな
【備考】
※アギトの世界についての基本的な情報を得ました。アギト世界での『第四号』関連の情報を得ました。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※ガイアメモリは自分にも支給されていたが、知らない間にどこかに落としてしまったと勘違いしています。

【北條透@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終盤 アギト殲滅作戦決行中
【状態】疲労(小)、ガイアメモリの精神汚染(中)、トリガードーパントに変身中
【装備】T2ガイアメモリ(トリガー)
【道具】支給品一式×2、救急箱@現実、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣、ファイズポインター&カイザポインター@仮面ライダー555、ザビーブレス@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:人を探し、危険人物なら排除する。
1:鬼のアギト(響鬼)を排除し東條を探す。
2:牙王、アポロガイストを警戒する。(両名とも、名前は知らない)
3:知人と合流し、情報を集める。
4:小沢と合流して、Gトレーラーの鍵を渡してもらう。
5:士は嫌いだが、無事ならいいとは思う。
【備考】
※10分間の変身制限を把握しました。
※Gトレーラーの鍵は小沢が持っていると考えています。
※ガイアメモリの精神汚染により正常な判断力が欠落しています。
※ザビーゼクターには認められていません。


【橘朔也@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】健康、仮面ライダーギャレンに変身中
【装備】ギャレンバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(ダイヤA〜6、9、J)@仮面ライダー剣、ガイアメモリ(ライアー)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式、ゼクトルーパースーツ&ヘルメット(マシンガンブレードはついてません)@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
1:東條(名前は知らない)を倒す。
2:とにかく首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間と接触する。
3:殺し合いで勝たなければ自分たちの世界が滅びる……。
【備考】
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。

【東條悟@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】インペラー戦後(インペラーは自分が倒したと思ってます)
【状態】疲労(小)、ダメージ(大)、仮面ライダーリュウガに変身中(ドラグブラッカー2時間召喚不可)
【装備】カードデッキ(リュウガ)@仮面ライダー龍騎
【道具】不明支給品2(東條から見て武器ではない)
【思考・状況】
基本行動方針:全ての参加者を犠牲にして、ただ一人生還。英雄になる。
1:橘(名前は知らない)を倒して英雄に近付く。
2:自分の世界の相手も犠牲にする。
3:G-7の施設に興味。
【備考】
※剣の世界について情報を得ました。
※10分間の変身制限、1分間のミラーモンスター召喚制限を把握しました。

5583人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 18:13:40 ID:w9VFG2jI





1.分割――Division


 橘朔也、名護啓介、日高仁志ことヒビキ、小野寺ユウスケ、海堂直也、彼等5人は大ショッカー打倒の為、仲間達との合流、首輪を解除する手掛かりを得る為にガイアメモリを知る世界の人間の探索をしようとしていた。


「それで橘さん、これから何処へ向かいます?」


 と、ユウスケが橘に問う。橘は地図を見ながら、


「当面は南の住宅地をもう少し調べるつもりだ……その後はF-6方面に向かいたい所だが……」


 仲間にしろガイアメモリを知る人物にしろ見つける為には住宅地へ向かった方が都合がよい。


「東京タワーの方が人集まっているんじゃねぇか?」


 海堂がそう口を挟む。確かにD-5にある東京タワーは非常に目立つ故その場所に人が集まっている可能性も高い。


「D-8にある屋敷も気になるな」


 一方でユウスケもD-8に存在する屋敷の存在が気にかかっていた。


「左半分は津上に任せたが右半分も結構広いな……」


 ヒビキは今更ながらにフィールドの広さを痛感していた。
 津上翔一と話した際には住宅地ばかりに目が行っていたがよくよく考えてみれば目立つ建物は他にもある。
 それだけではなく、身を守る為敢えて山奥や森林に隠れるという可能性も否定出来ない。
 闇雲に探すだけでは仲間達と合流する事は難しいと言えるだろう。

 そう目的地が決まらない中、


「ならば2手に分かれた方が都合が良い」


 そう名護が提案してきた。しかし、


「本気で言っているのか? 迂闊な行動は大ショッカーの思う壺だ」


 橘は名護の提案に難色を示す。橘は名護と出会った時の奇行、周囲の被害を省みずイクサに変身しバイクを破壊した現場を見ている為それを受け入れられないでいる。
 それでなくても凶悪な敵が何人もいる可能性を踏まえるならば下手に人数を分ける事が良い判断とは思えない。


「いや、俺は名護の言い分にも一理あると思うな」


 そう言ってヒビキが名護の考えを支持した。
 ヒビキ自身も集団で固まった方が安全なのは確かなのは理解している。
 しかし自分達が合流すべき人数は決して少なくはなくその一方フィールドは非常に広い。
 5人が集団で固まって行動するより2〜3人のグループ2つに分けて行動した方がある程度都合が良いだろう。規模こそ違うが津上と別行動を取った時と同じ手段という事だ。
 幸いこの場にいる5人は全員何かしらの変身手段を有している。海堂とユウスケが遭遇したカブトムシの怪人クラスが相手なら厳しいかも知れないがそれでも2人以上ならばある程度対処は可能だろう。


「ヒビキさん……」


 ヒビキの考えを聞くものの橘は完全に納得出来ないでいる。その一方、


「俺様はおっさんの考えに賛成だな、ちゅうか5人一緒だとゴチャゴ……」
「俺は23だ、おっさんではない!」
「別に単独行動するってわけじゃないんだろ? だったら2つぐらいに分けても俺は良いと思うな」


 海堂とユウスケも2手に分ける案に賛同している。橘以外の4人が支持をしている以上、橘としてもそれを無碍にするわけにはいかなかった。

5593人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 18:14:10 ID:w9VFG2jI


「だが、グループをどう分け……」
「直也君、君は私と来なさい」


 と、橘が言い切る前に名護が口にした。


「え? 俺? 何で?」


 名護の突然の言葉に海堂のみならず他の3人も驚きを隠せない。


「さっき東京タワーが気になるって言っていただろう」
「ん……俺様そんな事言ったか……?」


 海堂としては何となく目立つ建物だから口にした程度でそこに深い意味はない。そんな海堂に構うことなく名護は話を続ける。


「私としてはE-4にある病院に向かいたい」


 今より約8時間程後の0時頃にE-4の病院に集まる手筈になってはいる。
 しかし、病院はその特性上参加者が集まりやすい場所でもある。早めに行き他の参加者と合流するのは決して悪い手段ではない。
 更に、東京タワーに向かうのならば病院は丁度通り道にある。病院に向かった後で東京タワーに向かうというのは位置関係から考え都合が良いと言えるだろう。


「君と私の目的地は近い、だから一緒に来なさい」
「別に俺、そこまで行きたいわけじゃ……別に良いけどよぉ……」


 渋々ながらも海堂は名護と同行する事を了承していた。その一方、


「ならば小野寺は俺と来てくれ。大ショッカーの事やお前の行った世界についてもう少し色々聞きたい」


 橘はユウスケに同行を求める。


「海堂……」


 ユウスケとしては当初ゲームに乗る様な事を口にしていた海堂が気にならないわけではない。だが、カブトムシの未確認生命体に追いつめられた時に助けてくれた事、こうして情報交換に参加してくれた事から恐らく信じても良いと考えている。
 また、主催である大ショッカーについて一番知っているのは5人の中では自分だ。自身の持つ情報が鍵を握る可能性がある以上橘の進言を断るわけにはいかない。


「小野寺ぁ、そんな顔すんなって。お前がいなくたって気にしねぇからよ」
「いや、別にそういうわけじゃ……」


 そして残るヒビキは、


「それじゃ俺は橘達と行こうか」


 橘達に同行する事となった。


「名護さん、海堂の事お願いします」
「わかっている、ユウス……」
「いや、実は……」



 かくして、名護達はE-4の病院方向へ先行し、橘達はF-6の市街地方向へ向かう事になった。


「それじゃユウスケ君、渡君と紅音也に会ったらよろしく頼む。それからキング……恐らく紅音也の時代のだろうが彼に気をつけてくれ」
「わかりました名護さん、士や夏海ちゃん、それに海東に会ったらよろしくお願いします。それからアポロガイストには気を付けてください」


 そう言って2組は分かれていった。時刻は4時少し前の事だ。

5603人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 18:14:40 ID:w9VFG2jI





3.魔剣――Curse


 橘達と分かれてから約40分、名護と海堂はF-4の道路を進んでいた。
 その道中、互いの世界の事について話し合っていた。無論、情報交換の際にもある程度話したが、2人きりという事でこれまで以上に詳しい事を話していく。


「ファンガイアねぇ……そんな怪物みたいのがいるなんて信じられねぇなぁ」
「私にしてみれば死人がオルフェノクになって蘇る方が信じられないが」
「言っておくが別に俺様だって気が付いたらオルフェノクになったんだからな、オルフェノクだから殺すなんて言うなよ」
「わかっている。君が人間達の敵にならないというなら私はそれを信じる」


 かつての自身であればオルフェノクもまたファンガイア同様人間の脅威と断じて有無を言わさず排除していただろう。
 だが、ファンガイアの血を引く紅渡、過去の世界で遭遇したファンガイアの女性真夜との出会いを経て名護は変わった。
 人間の敵にならないというのであれば名護はそれを信じるつもりだ。倒すべきは大ショッカーや自分達の敵となりうる者達だ。


「それよりも海堂君……君は我々に何か隠し事をしていないか?」
「んえ? 俺様が?」


 いきなりそんな事を言われても海堂には心当たりがない。


「(そりゃ木場が人間を滅ぼそうとしたって事は話してねぇけど……けどアイツだって最後には……)」


 が、名護の指摘は海堂の想像とは全く違うものだった。


「そのデイパックの中身を出しなさい!」


 と言って、強引に海堂のデイパックを掴み中を確かめる。


「まさかコレが君に支給されていたとは……」


 そして、そこから黄金の装飾があしらわれた剣魔皇剣ザンバットソードが出てきた。
 実はユウスケ達と別れる前、名護はユウスケから海堂の様子が何処かおかしかったから注意して欲しいと頼まれていた。
 その際に名護は何か変わった事が無かったのかどうかを聞いた所、その時何か剣らしき物を持っていた気がすると話していた。
 剣の特徴を聞いた時点で名護はその剣の正体に薄々気付いていた。故に名護は海堂のデイパックの中身を確かめたのだ。


「ちゅーかそれ俺の物だろ、返せって!!」
「違う、渡君のものだ。この剣は私が責任を持って渡君に渡す」


 そもそもザンバットソードは渡の変身するキバの武器だ。ならば渡の師匠である自分が責任を持って管理するのが筋というものだろう。


「けど、それ無くなったら俺武器ねぇんだけどよ……」
「俺がいる! だから君は何の心配もしなくて良い」



 そう話していると――



「こんにちは」



 1人の青年が名護と海堂に話しかけてきた。



「ん?」
「君は?」
「僕の名前は――」

5613人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 18:15:20 ID:w9VFG2jI





2.闇黒――Darkness


 本音を言えばすぐにでも他の参加者を襲いたかった。
 だが、先の戦闘で受けた疲労とダメージは決して小さくはない。ダークカブトの力が最強といえども全能ではないし、変身不能時間等の制限がある以上アテにし過ぎるわけにも行かない。


「今は休め。そんな状態で戦い続けでも勝てはしない」


 そう口にするレイキバットの助言もあり周囲の警戒をレイキバットに任せ『彼』は暫し身を休める事にした。
 誰かやって来たなら奇襲でもかけて仕留めれば良いと考えていた。


「天道総司……」


 『彼』の外見は天道総司そのものだ。だが、『彼』はそれを疎ましく感じる。
 奴が全ての者を惹きつける『光』であるならば、自分は誰からも認められない『闇』、
 自身の持つライダーシステムが奴のカブトに対するダークカブトというのはある意味壮大な皮肉とも言える。
 本来の姿を忘れた自分はもう元の姿に戻る事は出来ない。
 きっとこれから先も誰にも認められる事は無いのだろう――『奴』と違い――


 『彼』は深い闇の中にいた――


 そんな中、レイキバットが戻ってきた。誰か見つけたのだろうか? だったら今すぐにでもそいつ等を襲おう――そう思っていたが、


「待て、奴はそう簡単に倒せる相手ではない」


 レイキバットが見つけたのは2人組。更に言えば片方はレイキバットの知る人物だった。
 その人物は名護、レイキバットが作られた3WAにかつて所属していた人物でレイキバットの持ち主であった白峰天斗の知り合いだ。
 レジェンドルガの力を得た白峰はレイキバットの力でレイへと変身し名護や渡、そして過去からやって来た音也を圧倒した。
 だが、最終的には名護が変身したイクサによって敗れ去った。余談だがレイキバットは白峰が敗れ去ったと思ったら狭いデイパックの中にいたという話だ。

 さて、レジェンドルガの力を得た白峰が変身したレイすら打倒する強さを持つ名護を倒す事は容易ではない。その助言を聞いて『彼』は考える。
 真面目な話ダークカブトの力ならば問題なく倒せるだろう。
 だが病院での戦いを思い出せ、ダークカブトの力を持ってしても変身していない生身の男すら容易に仕留められなかったではないか。
 更に現れた通りすがりの仮面ライダーによって自身は敗北したではないか。
 慢心は禁物、無闇に襲撃するべきではないだろう。しかしこのまま放置するのは惜しい――


「待てよ……そうだ、僕にはもう1つ武器があるじゃないか……天道総司……利用させてもらうよ……」

5623人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 18:18:55 ID:w9VFG2jI





13.真実――Truth


「成る程……総司君、君も大変だったね」


 名護と海堂はやって来た青年、『天道総司』から病院で自分に擬態したワームの襲撃に遭い同行者を殺された事や自身の世界についての話を聞いていた。
 更に2人も自分達の世界の事を『天道』に話す。


「ちゅうかワームってオルフェノクやファンガイアよりも質が悪くねぇか?」
「全くだ、人間を餌にするファンガイアも大概だが、人間になりすまし殺戮を繰り返すワームはそれ以上に許されざる存在だ」
「ありがとう、名護さんに海堂君……」


 『天道』は無邪気な笑顔を2人に向ける。


「総司君、君に擬態したワームは我々が倒す。だから安心して付いてきてくれ」
「けどおっさん、天道の話が確かなら必ずしも天道に擬態しているとは限らないんじゃねぇか?」
「おっさんではないと何度も言わせ……とはいえ、確かにその懸念はある……どうしたものか……」


 他人に擬態出来るワームは一筋縄ではいかない相手、また考えなければならない問題が増えたと言えよう。


「それで……名護さん達はこれからどうするつもりだったの?」
「ああ、病い……」
「東京タワーに向かうつもりだ」


 海堂が答える前に名護がハッキリと口にした。


「って、病院に行くんじゃなかったのかよ?」
「考えてもみろ、総司君の話が確かなら病院は使える状態じゃないと考えて良い。それに彼に擬態したワームも長々と病院に留まるとは思えない……ならば、いっそ其処に向かうのを取りやめ君の目的地に向かうべきだ」
「ちゅうか別に行きたいわけじゃ……で、天道、お前はどうするつもりだ? 俺様に付いてきても構わねぇぜ」
「うん、僕も連れてってくれる」


 嬉しそうに『天道』はそう答えた――


 だが、それこそが『彼』の作戦だった――


 そう、『彼』は『天道総司』になりすまし、名護達と行動を共にする選択を選んだのだ。
 その真の狙いは本物の天道総司をワームが擬態した偽物であると言い、本物の天道総司を追いつめる作戦だ。
 記憶すらもコピー出来るワームなのだ、何も知らない者が真贋を見極められるわけがない。
 万が一、本物の天道や矢車達に遭遇する等で自分の正体が看破され目論見が露呈しても問題はない。その時は温存していたダークカブトの力で切り抜ければ良い。
 最悪ダークカブトが使えなくなっても(名護に知られると面倒なので隠れている)レイキバットの力でレイに変身すれば突破は可能だ。
 とはいえ当面は気にする事はないだろう。幸い名護も海堂も自分を『天道総司』だと思い込んでいる。
 彼等からは自分はこう見えるだろう。病院で『天道総司に擬態したワーム』に襲われ仲間を失った『天道総司』だと。
 故に2人は自分を気遣い同情している様に見える、それが微かに嬉しくは思う――


 しかし――


「(でも――君達が見ているのは『天道総司』なんだよね――『僕』じゃない――)」


 そう、あくまでも2人が自分を気遣うのは『天道総司』、ワームにされてしまい本当の自分を失った青年ではない――


 全てを手に入れた『奴』であって、全てを失った『彼』ではないのだ――


 恐らく、2人も何時かは自分を否定し去っていくだろう。自分を助けてくれた日下部ひよりの様に――


 だから『彼』は決して2人に心を許しはしない。2人は利用すべき駒、全ての参加者を殺し、『天道総司』を殺し、全ての世界を破壊する為の――


「(どうせ『僕』の事なんて誰も見てくれないんだ――だから『僕』が何を考えているのか気付くことなく、好きなだけ踊ってよ――名護さんに海堂君――)」

5633人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 18:22:20 ID:w9VFG2jI



 本当にそうだろうか? 本当に2人は『彼』を見ていないのか?



 否、断じて否、『彼』はとんでもない思い違いをしている。
 確かに2人は『彼』を『天道総司』だと思い込んでいる。しかしそれは『彼』が『天道総司』と名乗り振る舞ったからに過ぎないからだ。
 おわかりだろうか? 2人には他に『何を以て天道総司とするか』という情報を何1つ持っていないのだ。
 つまりはこういう事だ、2人にとっては『彼』こそが『天道総司』以外の何者でもないということだ。
 何に対しても強気で天の道を往く者ではなく、少年の様に無邪気な表情を見せる青年こそが2人にとっての『天道総司』なのだ。

 そう、2人はちゃんと『彼』という存在を認識していたのだ。『彼』が『天道総司』と名乗ったからこそ『天道総司』だと思っているだけなのだ。


「(総司君を見ているとどことなく渡君を思い出す――不思議な話だ)」


 名護は『彼』と渡がどことなく似ている気がすると感じていた。気弱で内気な渡は自身がファンガイアと人間の間に産まれた子故にファンガイアとの戦いの中でずっと悩み苦しんでいた。
 渡と同じ様に『彼』も内心の何処かで悩みや苦しみを抱えているのだろう。それを助けるのは自分の仕事、名護はそう感じていた。


「(なんでこんな時に照夫や木場達の事を思い出すんだよ……)」


 海堂も『彼』を見て自身が保護した鈴木照夫や仲間である木場勇治達の事を思い出していた。照夫はビル火災で家族を失い心を閉ざし、木場はオルフェノクと人間の間で揺れ動き内心で色々苦しみ続けていた。
 そんな2人も戦いの中で命を落とした(何故か木場が参加者にいるがひとまずそれは考えない)。
 『彼』の姿に彼等を重ねてしまった。だからなのだろうか、『彼』が何処か放っておけなかったのだ。もっとも、本人がそれを素直に認める事は無いだろうが。



「そんじゃ3人で東京タワーにでも行くか!」


 故に海堂はそんな想いを振り切るかの様に声を挙げた。それに従う様に『彼』も頷くが、


「……」


 名護だけは何故か心非ずな表情をしていた。


「おいおっさん、お前の方が東京タワー行きたかったんじゃねぇのかよ?」
「……すまない、少しボーっとし過ぎていた様だ」


 と言いながら、今までデイパックに入れる暇が無かったザンバットソードを自身のデイパックに入れた。
 それはもしかすると、先程海堂から取り上げたザンバットソードの影響だったのかもしれない。
 ファンガイアとの長い戦いで精神的に成長した名護だからこそ今はまだこの程度で済んではいるしデイパックに戻したから当面は大丈夫だろう。
 それでも今後も問題ないという保証は何処にも無い、一刻も早く本来の持ち主である渡に届けなければならないわけだが、その危険性に名護は気付いていない。



「……そうだ、もう1つ確認したい事があった。総司君、君のデイパックにガイアメモリは無かったか?」


 と、ガイアメモリを知る世界の人間ならば首輪解除出来る可能性があるという橘の仮説を説明する。


「でも、僕の手元にはそんなのは無いよ……」
「じゃあ、橘の仮説は間違いだったのかよ?」
「その可能性もあるが……それ自体が我々を欺く罠の可能性もある……断定は危険だ」


 全ての参加者にガイアメモリが支給されているわけではないとはいえ、これだけで橘の仮説が間違いだと断じる事は出来ない。
 どちらにしても今後もガイアメモリの情報を集めていった方が良いだろう。

5643人×3人×3人 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 18:25:10 ID:w9VFG2jI


「僕に支給されたのは変なTシャツとかだったし」


 そう言って、『彼』は自身の最後の支給品を取り出した。
 そこには白と青のTシャツ2着、帽子、スケッチブック、マイクに拡声器のセットだ。


「……ちゅーか大ショッカーは何考えてこれ支給したんだ?」
「それに753(ななひゃくごじゅうさん)っていう数字もよくわからないしね」


 海堂と『彼』からみれば明らかに謎の道具だ。だが、


「まさかこれがこんな所にあるとは……」


 名護は2人とは全く違う反応を示した。
 そう、その支給品は名護にとって縁深いものだ。一時期襟立健吾がイクサの装着員になっていた時期、名護は彼のコーチになると決めた。
 その際に用意したのがそのTシャツで、健吾がイクサとして戦っている時はTシャツのみならず帽子を被りスケッチブックやマイクに拡声器を駆使し彼をサポートした。
 ――その有様は周囲から見れば滑稽以外の何者でもないが少なくても名護本人は至って真面目である。もしかすると、名護が過去に行った際に音也から『遊び心』に関するアドバイスをされた影響なのかも知れない。



「これも何かの縁だ、総司君に海堂君、これを着なさい。俺がコーチになる」
「いや、おっさんもうすぐ夜なのにTシャツは寒いだろ!」
「そういう問題じゃ無いと思うけどなぁ……」



 2人の言葉等お構いなしに、



「大ショッカーは手強い、連中に対抗する為にも俺が1から鍛えてやる。ちなみにこの数字は名(7)護(5)さん(3)、常に俺の名前を胸に抱き正義を行いなさい」



 しかし、そんな名護に構うことなく、



「なぁ天道、今何時だ?」
「5時15分……あと45分で放送だね」
「放送までに東京タワーに着けっかなぁ……」
「ちょっと難しいと思う」



 2人は東京タワーへ向かう準備をしていた。


【F-4 道路】
【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】健康、ザンバットソードによる精神支配(小)
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW、ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式
【思考・状況】
1:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
2:東京タワーに向かう
3:天道(擬態天道)と海堂のコーチになる
4:首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間と接触する。

【備考】
※時間軸的にもライジングイクサに変身できますが、変身中は消費時間が倍になります。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ザンバットソードに精神を支配されています。
※ザンバットバットの力で、現状は対抗できていますが、時間の経過と共に変化するかもしれません。

【海堂直也@仮面ライダー555】
【時間軸】最終話 アークオルフェノク撃破後
【状態】健康
【装備】スマートバックル@仮面ライダー555、
【道具】支給品一式、ガイアメモリ(メタル)@仮面ライダーW
【思考・状況】
1:東京タワーに向かう
2:天道(擬態天道)が気になる
【備考】
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。

【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(小)、全身打撲、情緒不安定気味
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+ダークカブトゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王
【道具】支給品一式、ネガタロスの不明支給品×1(変身道具ではない)、デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
0:仮面ライダーを全員殺す。
1:当面は『天道総司』になりすまし名護と海堂を利用する。
2:天道総司を殺し、『天道総司』に成り代わる。
3:全ての世界を破壊するため、最終的には全員殺す。
4:特に優先的に『カブトの世界』の五人を殺害する(最終的には自分も死ぬ予定)。
5:僕はワームだった……。
【備考】
※名簿には本名が載っていますが、彼自身は天道総司を名乗るつもりです。
※参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。

565 ◆7pf62HiyTE:2011/03/11(金) 18:31:00 ID:w9VFG2jI
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
なお、今回容量が53KBと分割が必要になりますので分割点の指摘を。
>>542-555(4〜11)が前編(29KB)、>>556-564(12、1、3、2、13)が後編(24KB)となっています(シーン順が一部入れ代わっているのは作劇上の都合なので間違いではありません)

566二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/03/11(金) 18:33:04 ID:eJx306Yo
投下乙っした!

567二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/03/16(水) 23:22:13 ID:XidRW4c2
月報貼り付けておきます

平成ライダー 56話(+ 7) 46/60 (- 2) 76.7 (- 3.3)

568 ◆LuuKRM2PEg:2011/03/23(水) 07:54:01 ID:BOFvnTRM
霧島美穂、鳴海亜樹子、アポロガイスト、浅倉威を投下します

569仕掛けられたB/響き渡る声 ◆LuuKRM2PEg:2011/03/23(水) 07:55:23 ID:BOFvnTRM

D−5エリアより、空に向かって真っ直ぐと伸びる塔。
日本に住む者なら誰でも知っている建物。
東京タワー。
夕焼けに照らされた事によって、更に赤みを増していた。
天高くそびえ立つ塔。
その上から、声が響く。

『みんなぁーーーー! あたしの話を聞いてーーーーーー!』

機械を通したような、女の声。
それは殺し合いの会場で、広範囲に広がっていった。
声の主はそこから、大きく息を吸い込む。

『こんな戦いはもうやめて! 自分の世界を守りたいからって、他の人達を殺すなんておかしいよ!』

言葉には、熱い思いが感じられた。
この殺し合いを阻止しようと言う意志。
犠牲者を出さないと言う意志。

『仮面ライダーは、みんなのために戦うヒーローでしょ! 少なくとも、あたしの世界ではそうだった!』

塔から響く声は、徐々に荒くなってくる。
大声を出した事によって、肺から酸素が抜け出しているため。
それでも声の主は、叫び続けた。

『だからお願い、東京タワーまで来て! 大ショッカーの言いなりになって戦わないで、一緒に世界を救う方法を探そうよ!』

居場所の部分が、やけに強調される。
彼女の言葉が意味するのは、自分達の居場所を知らせる事。
それを察知させる為には、容易かもしれない。

『こんな戦いを仕組んだ奴らに負けないで! みんなの世界を救うために戦って! 人類の味方、仮面ライダアァァァァァァーーーッ!』

その叫びを最後に、言葉は途切れた。
誰かに妨害されたわけではなくて、自らの意志で。
それは奇しくも、この殺し合いの中で命を散らせた二人の男が、最後に残した言葉と似ていた。
木場勇治と、園崎霧彦。
彼らは大ショッカーによる殺し合いを打ち破り、世界の平和をもたらす事を信じて、この言葉を残した。
仮面ライダーは人類の味方であると。
しかし、ここで叫んだ人物には、そのような思いを持ち合わせていない。
鳴海亜樹子には。





「それにしても凄かったわね、貴方の演技」
「……ありがとう」

D−5エリアにそびえ立つ、東京タワーの真下。
霧島美穂は、感心したような笑みを浮かべていた。
対する亜樹子は、全ての力が抜けたような呟きを漏らす。
その手には、白い拡声器が握られていた。
亜樹子自身の支給品である、機械。

570仕掛けられたB/響き渡る声 ◆LuuKRM2PEg:2011/03/23(水) 07:56:06 ID:BOFvnTRM
それは通常のより音が大きく響いて、大ショッカーが作りだした物らしい。
何故、そのような支給品があるのかは、亜樹子には理解出来なかった。
こんなのを配ったって、殺し合いには何の役にも立たないのに。
しかし美穂は、それを使ってある計画を立てる。

「これで、後はここまで来た連中を、爆弾で吹き飛ばせばいいだけね」

彼女達は乃木怜司が去った後、互いに支給品を見せ合った。
これまで、騒動が重なったためまともに確認する暇がなかったため。
その際に亜樹子のデイバッグから、拡声器を見つける。
そして美穂のデイバッグからは、大ショッカーが生み出した爆弾が十個も出てきた。
説明書によると、リモコンで遠隔操作をするタイプらしい。
それで美穂は、あるプランを立てた。
まず、爆弾を東京タワーのあちこちに仕掛ける。
それから亜樹子が、装甲声刃を使って窓ガラスを割り、拡声器を使って参加者を誘導。
この戦いを阻止しようとする、正義の味方を装って。
最後にはやって来た者達を、隠れて爆弾で吹き飛ばすと言う計画だ。
これだけ大きな声なら、大勢の人間が聞いているはず。
運が良ければ乃木という男や、彼が連れてくると約束した参加者も、まとめて爆風で葬れるかもしれない。
もしも同じ世界の住民がいるなら、適当な理由を付けて爆発の範囲から離れる。
その後に、リモコンのスイッチを入れればいい。

「でも、本当に大丈夫かな……? こんな事したら、やばい奴らも来るんじゃ……」

亜樹子は不安を漏らす。
このプランは、リスクが高いのも確かだった。
拡声器など使って呼び込んだら、殺してくださいと言っているようなもの。
しかし美穂は特に落胆などしていない。
むしろ、チャンスだと考えていた。

「こんな所にいる時点で、今更そんなこと言ったって仕方ないわ」
「でも……」
「大丈夫、これはチャンスなんだから。上手くいけば、厄介な連中をまとめて出し抜けるかもしれないし」

亜樹子を励ますように、美穂は力強く助言する。
恐らく、今の声はほぼ広い範囲で響いているはずだ。
これを聞いて、殺し合いに乗った連中は来るに違いない。
なら、後は獲物が来るのを待てば良いだけだ。

「あ、帰ってきたわ」

美穂と亜樹子の前に、黒い翼と黄色い尾を持つ鳥が現れる。
否、厳密には鳥類のような機械だった。
それは『Wの世界』において、極限の名前を持つガイアメモリ。
仮面ライダーWに眠る、サイクロンジョーカーエクストリームの力を発揮するためのアイテム、エクストリームメモリだった。
元々は財津原蔵王丸に配られた支給品だったが、美穂の手に渡る。
その後は、放送を行っている最中に怪しい人物がいないか、監視を行っていた。

571仕掛けられたB/響き渡る声 ◆LuuKRM2PEg:2011/03/23(水) 07:57:22 ID:BOFvnTRM

「エクストリーム……」

エクストリームメモリを見て、亜樹子は自身の胸が痛むのを感じる。
自分は、仮面ライダーの名を悪用している事を。
誰かを殺すために、嘘をついた事を。
そしてエクストリームメモリに、それを伝えていない事を。
左翔太郎やフィリップや照井竜なら、こんな事はしないのに。
でも、自分はこんな選択を選んでしまった。
町を守るヒーローの名前を、汚している。

(ううん、こうしないとあたしの世界を守る事なんて出来ない……甘い事なんて、言っちゃ駄目)

それでも、亜樹子は自分にそう言い聞かせた。
風都のみんなを守るために。
ここに連れてこられた、自分の世界に生きる人達を助けるために。
ならば、どんな汚い手段でも使うつもりだ。
やるべき事は、それだけ。

「美穂さん、ちょっとエクストリームを使ってもいい?」
「別に良いけど……そんなのどうするの?」
「うん……ちょっとね。エクストリーム、おいでおいで」

そう言い残すと、亜樹子はエクストリームメモリを手招きした。
彼女はポケットから小さな紙を取り出して、足に括り付ける。

「翔太郎君か、フィリップ君か、竜君に届けて」

そして亜樹子はエクストリームメモリに告げた。
答えが言葉で返ってくる事はない。
その代わりのように、鳥の鳴き声のような音がエクストリームメモリから発せられる。
すると、亜樹子の元から離れていって、夕焼けの空に飛び去っていった。
それを見た美穂は、口を開く。

「もしかして、お友達へのメッセージ?」
「……うん」

言葉を交わすと、それっきり二人は黙った。
美穂は特に問いただすつもりはない。
今やるべきことは、獲物を待つ事。
これ以上の詮索は無用だと、察していた。





「ククク、なるほど……そういう事か」

同じ頃、東京タワーより少し離れた所では一人の男が笑みを浮かべている。
アポロガイストは仮面ライダーシザースに変身して、変身による時間制限の把握を知り、体を休めていた。
しかしその矢先、すぐ近くの東京タワーから人間の声が聞こえる。
偉大なる大ショッカーの思惑に逆らい、殺し合いを打倒しようと言う戯れ言が。
そのまま、ガイは二人組の女を始末しようとする。
だが、それをすぐに止めた。
女達の真意を、ここで盗み聞き出来たため。
奴らは爆弾を仕掛けて、仮面ライダー達を誘き出そうとしているのだ。
ならば、自分はそれを待てばいい。

572仕掛けられたB/響き渡る声 ◆LuuKRM2PEg:2011/03/23(水) 07:58:57 ID:BOFvnTRM

「女達よ、なかなかの案だな……ならばこの私も、それに乗らせて貰おうではないか」

放送を聞いたガイもまた、東京タワーの各所にある物を仕掛けていた。
C−5エリアの地下で見つけた、爆弾を。
先程、体を休めていたビルを捜索していたら、最下層にある物を見つけた。
『カブトの世界』に存在する機密組織、ZECTの秘密基地を模したような施設を。
そこで、ZECT製のリモコン式爆弾をいくつか見つけて回収したが、どうにも使い道が思いつかない。
だがその瞬間に、女達の呼びかけが聞こえた。
世界を守ろうとする仮面ライダー達なら、すぐに駆けつけるだろう。
チャンスが来た頃に、爆弾を起爆させればいい。
これだけの火薬ならば、範囲も凄まじいだろう。
もし生きていたとしても、相当のダメージを負っているはずだ。
その時に、自分が力を使って始末すればいい。

(さあ、来るがいい仮面ライダー達よ……お前達を待つ弱き人間を救うためにな!)

ガイは笑う。
大ショッカーとZECTという、高度な技術を持つ二つの組織。
その二つが生み出した殺戮の兵器。
一度に爆発させれば、東京タワーどころかエリアの殆どを吹き飛ばせるかもしれない。
それだけの数が、塔の中に仕掛けられていた。
幸いにも、女達には気づかれていない。
ガイは待った。
愚かな仮面ライダー達が、罠にかかるのを。





エクストリームメモリは、飛んでいた。
主人である左翔太郎やフィリップ。
もしくは彼らの盟友である照井竜。
彼らとの繋がりが深い、鳴海亜樹子のメッセージを届けるために。
彼の足に括り付けられたメモ。
その中には、こう書かれている。

『翔太郎君、フィリップ君、竜君。これを見ている誰かへ、あたしは今強い味方がいるから大丈夫。
だからみんなは、あたしの事を気にしないで他のみんなとの合流だけを考えて。
お願いだから、東京タワーには急がないで』

それが意味するのは、仲間達との合流。
しかし亜樹子の本意は、爆発に巻き込まないための時間稼ぎだった。
三人がこの放送を聞いた可能性は、充分にある。
だから、それに巻き込まないためにエクストリームメモリを使ったのだ。
彼女の真意を、知らない。
エクストリームメモリは、ただ飛んでいた。
主人達との合流を目指して。





「ウ……グッ!」

E−5エリアの道路。
そこで一人の男が、獣のような呻き声を漏らしながら蹲っていた。
浅倉威は、獰猛な笑みを浮かべている。

573仕掛けられたB/響き渡る声 ◆LuuKRM2PEg:2011/03/23(水) 08:00:24 ID:BOFvnTRM
身体の奥底から、焼き付くような熱を感じているため。
まるで、地肌を火で炙られているような激痛。
しかし浅倉は笑っていた。
痛みと同時に、快楽を感じているため。
彼はマゾヒストというわけではない。
痛みとは、誰かと戦っている際に感じられる至高の感覚。
いつ命を奪われるとも知らない、緊張感。
それを乗り越えた際の、例えようもない達成感。
だから浅倉は、痛みを求めていた。
最高の充実感を得るために。
彼はハードボイルダーを動かすのを止めて、ここで痛みを感じていた。

「ハハハッ……ハハハハハッ…………ハハハハハハハハッ!」

やがて、浅倉の瞳は淀む。
それに伴って、体の表面がボコボコと音を鳴らしながら、変化していた。
心臓が大きく鼓動する。
血液が早く流れる。
感情が高ぶる。
力が得られるのを感じる。
最高だ。
もっとだ。
もっとよこせ。
もっと自分に痛みを与えろ。
もっと力が得られる。
もっと生きる喜びを感じられる。
それさえあれば、もう何もいらない。
殺してやる。
全員殺してやる。
参加者も大ショッカーも。
全てを潰す。
そして、また新しい戦いをする。
だから誰でも良いから、俺と戦え!

「ヴヴヴヴゥゥゥゥゥゥヴヴヴヴァァァァァァァァァアアアアアアアアアァァッッ!」

浅倉は両腕を広げながら、大きく咆吼した。
すると彼の身体は、一気に歪んでいく。
その時、不思議な事が起こった。
浅倉の全身が、人の物では無くなる。
顔、身体、四肢、指、臓器。
全てが一瞬の内に、異形へと変化していったのだ。

「ハアッ、ハアッ…………ああっ?」

自分自身に違和感を感じた浅倉は、息を切らしながら両腕を見つめる。
それはいつも見慣れている腕では無く、黒く染まっていた。
彼は近くに備え付けられた、カーブミラーを見上げる。
鏡には、人間が映し出されていなかった。

「こいつは……!」

そこにいるのは、見覚えのある異形の存在。
竜の頭を象ったような青い王冠、そこから棚引く黒いマント、同じ色に染まった筋肉、腹部に刻まれた骸骨の紋章、下半身に覆われた赤いズボン。
それは『Wの世界』に存在する秘密結社、ミュージアムの当主である園咲琉兵衛が、ガイアメモリを使って変身する恐怖のドーパント。
彼はこの世界に放り込まれてから、最初に殺した男の事を思い出す。
USBメモリのような金色の機械を首輪に刺して、自分と戦った。
その際に、鏡に映っている怪物へと姿を変える。

574仕掛けられたB/響き渡る声 ◆LuuKRM2PEg:2011/03/23(水) 08:01:25 ID:BOFvnTRM

「ハハッ、面白え……!」

変わり果てた自分の姿を見ても、彼は一切悲観していない。
それどころか、喜んでいる。
何故、このような変化を果たしたのか。
浅倉は木野薫を殺す直前、テラーメモリを砕いて食す。
その直後、メモリの中に内蔵された記憶が、彼の全身を駆け巡った。
血管や神経を通じて、テラーの記憶が体内に染み込んでいく。
メモリに内蔵された恐怖は、浅倉という狂った人間に宿った事で、更に増幅。
結果、変身を果たしたのだ。
園崎家が所有するゴールドメモリの中でも、最も強力と呼ばれる存在。
テラー・ドーパントの力を、浅倉威は得る事に成功した。
しかし彼自身がその事実を知る事はないし、知ろうとも思わない。
ただ新たな力を得たという喜びが、テラー・ドーパントを満たしていた。

「ハハハハハ、ハハハハハ、ハハハハハハハッ!」

狂った怪物は笑う。
ただ笑う。
己の欲望のまま笑う。
そこに理性といった物は、一欠片も存在しない。
あるのは狂気。
この一つだった。
やがてテラー・ドーパントの変身は解除される。
一瞬の内に、浅倉の姿へと戻っていった。
彼は全身に流れた毒によって、感情が高ぶったままハードボイルダーに再び跨る。
そして、勢いよくエンジンを回した。
目指すは東京タワー。
先程、あそこからは随分とやかましい声が聞こえた。
これが意味するのは、あそこに参加者がいる事。
加えて他の連中が集まる可能性がある事。
二つの望みを信じて、浅倉はバイクに乗って駆け抜けていった。



本来ならば、ゴールドメモリはガイアドライバーを通さない限り、使用で膨大な疲労を負うリスクがある。
しかし浅倉は体内に取り込んだため、毒に対する免疫が出来ていた。
生物は古来より、体内で病原菌に対抗する機能を、生きるために持っている。
そうして、数多の種族は長い年月を過ごしてきた。
同じように浅倉も、ゴールドメモリに対する免疫機能が、体内で生産される。
結果、彼はテラー・ドーパントに変身するのに、何のリスクも背負う必要が無くなった。
しかしそれで、首輪による制限も無視出来るわけではない。
テラーフィールドが、本来より破れやすくなっている事。
もう一つ、テラー・ドーパントの中に封印された巨大な魔竜、テラードラゴン。
その召喚にもまた、制限が課せられていた。
ミラーモンスターや、仮面ライダーレンゲルの用いるリモートのカードによるアンデッドの出現。
現世に一分間しか姿を現せず、その後は二時間呼び出せない。
それと同様の効果が、テラー・ドーパントにも働いていた。
しかし浅倉がそれを知る事はない。
歪んだ力を得た、彼の往く道は果たして。

575仕掛けられたB/響き渡る声 ◆LuuKRM2PEg:2011/03/23(水) 08:02:29 ID:BOFvnTRM





鳴海亜樹子が自分の世界を救うために、行った呼びかけ。
それはこの広いフィールドに、大きく響いた。
彼女の声に気付く者もいれば、いないかもしれない。
これを聞いた人間が、何を思うのか。
そして罠が仕掛けられた塔に向かった者に、如何なる運命が待ち受けているのか。
まだ、誰にも分からない。



【1日目 夕方】
【D−5 東京タワーの真下】


【霧島美穂@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】映画死亡後
【状態】健康、仮面ライダーファムに1時間変身不可
【装備】カードデッキ(ファム)@仮面ライダー龍騎、鉄パイプ@現実
【道具】支給品一式×2、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、爆弾のリモコン@現実、不明支給品×1(確認済み)
【思考・状況】
1:あらゆる手を使い他の世界の参加者を倒す。
2:秋山蓮、北岡秀一、東條悟と接触、協力。
3:浅倉威は許さない、見つけ次第倒す。
4:城戸真司とは会いたいけれど…
5:今は亜樹子を利用して、一緒にステルスとして参加者を減らす。
6:亜樹子と話しながら乃木を待つ。


【鳴海亜樹子@仮面ライダーW】
【時間軸】番組後半
【状態】健康、精神に深い迷い
【装備】ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式、装甲声刃@仮面ライダー響鬼、大ショッカー製の拡声器@現実
【思考・状況】
1:風都を護るため、殺し合いに乗る。
2:情を移さないため、あまり人と接触しない。
3:美穂と行動する。人を騙す術を教えてくれるらしいが…
4:良太郎やあきらとはなるべく会いたくない。
5:知り合いと合流し、そのスタンスを知りたい。
6:美穂と話しながら乃木を待つ。
【備考】
※ 良太郎について、職業:芸人、憑依は芸と誤認しています。
※ 大ショッカー製の拡声器は、通常の拡声器より強く声が響きます。

【美穂と亜樹子の共通事項】
※ アポロガイストに気づいていません。
※ 東京タワーに大ショッカー製の爆弾@現実を仕掛け、参加者が大勢集まったら起爆させる予定です。
※ その際に、自分の世界の住民は爆風の範囲外まで誘導する予定です。

576仕掛けられたB/響き渡る声 ◆LuuKRM2PEg:2011/03/23(水) 08:03:15 ID:BOFvnTRM


【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】死亡後
【状態】健康、シザースに30分変身不可
【装備】シザースのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、ディスクアニマル(アカネタカ)@仮面ライダー響鬼、インドネシアの魔除けのお面@仮面ライダークウガ、真理の携帯美容師セット@仮面ライダー555、ウェザーメモリ@仮面ライダーW
【思考・状況】
1:大ショッカーの意思通り、全ての敵を倒し、世界を破壊する。
2:参加者の変身アイテムを奪う(たとえ自分の力にならなくても)。
3:まずはここでシザースの制限が解けるのを気長に待つ。
4:ディケイド、牙王はいずれ始末する。
5:全てのライダーと怪人にとって迷惑な存在となる。
6:大勢の参加者が集まったら、爆弾を起動させる。
【備考】
※スーパーアポロガイストの状態ですが、能力は抑えられています。
※制限の詳細な時間設定と能力が抑えられていることを、何となく把握しました。
※メモリの使い方を知りません。

【E-5 道路】
【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 死亡後
【状態】疲労(小)、興奮状態、テラー・ドーパントに二時間変身不可
【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダー龍騎、ハードボイルダー@仮面ライダーW
【道具】支給品一式、カードデッキ(インペラー)@仮面ライダー龍騎、ランダム支給品×1(確認済)
【思考・状況】
1:イライラを晴らすべく仮面ライダーと戦う。
2:特に美穂、黒い龍騎(リュウガ)は自分で倒す。
3:殴るか殴られるかしてないと落ち着かない、故に誰でも良いから戦いたい。
4:東京タワーに向かう。
【備考】
※テラーメモリを美味しく食べた事により、テラー・ドーパントに変身出来るようになりました。
※それによる疲労はありません
【制限】
テラーメモリのテラーフィールドの効果は、本来より意志力で破りやすくなっています。
また、受けたキャラの性格・覚悟・意志力によって効き目が大きく変わります。
テラードラゴンの制限は、ミラーモンスターやアンデッドと同じように
一分間しか現世にいられない&その後二時間召喚不可です。



【全体備考】
※エクストリームメモリ@仮面ライダーWが翔太郎、フィリップ、照井を探しに移動を始めました。
足に亜樹子からのメッセージが括り付けられています。
※エクストリームメモリがどこに向かうかは、後続の書き手さんにお任せします。

※D−5エリア 東京タワーには大ショッカー製の爆弾@現実とZECT製の爆弾@仮面ライダーカブトが仕掛けられました。
※C−5エリア 東京タワーに隣接するビルの地下には、ZECTの秘密基地@仮面ライダーディケイドが存在します。
※大ショッカー製の拡声器@現実の効果によって、亜樹子の声がかなり広い範囲で響きました。
※どの程度まで届いたのかは、後続の書き手さんにお任せします。

577 ◆LuuKRM2PEg:2011/03/23(水) 08:03:54 ID:BOFvnTRM
これにて、投下完了です
矛盾点や疑問点などがありましたら、ご指摘をお願いします

578 ◆LuuKRM2PEg:2011/03/23(水) 08:10:54 ID:BOFvnTRM
あ、アポロガイストの支給品を修正します
【道具】支給品一式、ディスクアニマル(アカネタカ)@仮面ライダー響鬼、インドネシアの魔除けのお面@仮面ライダークウガ、真理の携帯美容師セット@仮面ライダー555、ウェザーメモリ@仮面ライダーW、爆弾のリモコン@仮面ライダーカブト

579二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/03/23(水) 13:17:47 ID:/7aKM/uI
投下乙です。

拡声器発動きたぁー! 他にも拡声器機能ある支給品結構ある気もしたけど、大ショッカー製ならば広範囲にも使える……その発想は無かった。
で、それを利用して参加者一網打尽って……というか一応拡声器って仲間を呼ぶ為のものだよなぁ……

まぁ、そんな事よりもビックリなのが浅倉がテラーメモリを取り込んだ事(いや、原理的に有り得なくはないけどね)。早々に退場したテラーが再び日の目を浴びるのか……
……でもこのまま東京タワー爆破倒壊に巻き込まれて退場する危険もある罠。

1点だけ指摘ですが、美穂の変身不能時間が前回(『亜樹子オン・ザ・ライ』の時点で1時間)から全く変化していない気がするのですが、これは亜樹子・美穂サイドでは前作から殆ど時間が経過していないという解釈で良いんですか?

580 ◆LuuKRM2PEg:2011/03/23(水) 13:36:16 ID:BOFvnTRM
ご指摘ありがとうございます
美穂の変身時間に関しては、自分の見落としです
収録時に、変身可能な状態に修正させて頂きます。

581 ◆LuuKRM2PEg:2011/03/25(金) 17:02:32 ID:jxBgywvw
左翔太郎、相川始を投下します

582Jの男達/世界を守るために ◆LuuKRM2PEg:2011/03/25(金) 17:03:41 ID:jxBgywvw

F−5エリア。
ここには『555の世界』に存在する、高級マンションと酷似した建物が建てられていた。
オルフェノクで結成された世界的大複合企業、スマートブレインの所有物。
今は亡き木場勇治や、長田結花や海堂直也の住まいでもある。
そこのロビーで今、二人の男が体を休めていた。
戦いで蓄積された疲れを癒すために。

「本当に無事で良かったぜ、相川さん」

左翔太郎は、安堵の笑みを向けていた。
先程、カブト虫とよく似た怪人に襲われていた青年、相川始を助けた事で。
敵には逃げられたが、人の命を守れただけでも何よりだ。
こんな事を繰り返すなど、あってはならない。
木場勇治のように、誰かを守れないのは。

「……ジョーカーの男、何故俺を助けた?」

始は何処か警戒を含んだ瞳で、翔太郎を見つめる。
つい数時間前、異世界の怪物に狙われた自分を助けた、ジョーカーの男。
そして、この世界に放り込まれてから、初めて戦った戦士。

「言ったろ、俺はもう犠牲を出したくないって」

翔太郎は、少し寂しげな表情で呟く。
自分は救えなかった。
守らなければならない、人の命を。
後悔と悲しみで押し潰されそうになった。
それでも戦わなければならない。
だから、始を助けた。
そこに特別な理由など存在しない、シンプルな行動方針。

「甘いな、俺とお前は敵同士だ……お前は自分の世界を救う気はないのか?」
「救ってやるさ」

始の疑問を、翔太郎はあっさりと遮った。

「俺は仮面ライダーだからな」

仮面ライダージョーカーに変身して戦った時の言い分を、再び告げる。
そのまま、翔太郎は続けた。

「俺の世界だけじゃない。あんたや、こんな戦いに連れてこられたみんなの世界……俺は仮面ライダーとして、絶対に救ってみせる」

彼の抱く理想を聞いた事で、始は胸が痛むのを再び感じる。
やはり、この男は似ていた。
自分が一番信頼を寄せる親友、剣崎一真と。
恐らく彼も、この男と同じように戦うのだろう。
そして全てに救いの手を差し伸べて、戦うはずだ。
しかしだからこそ、始の中で罪悪感が広がっていく。
自分がやっている事は、剣崎が決して望まないからだ。
理由はどうあれ、他者の命を奪ったことに変わりはない。
それはつまり、彼を裏切っている事になる。

583Jの男達/世界を守るために ◆LuuKRM2PEg:2011/03/25(金) 17:05:07 ID:jxBgywvw

「…………やはり甘いな」

でも、もう決めたのだ。
どんな汚い手段を使ってでも、自分は戦いに勝ち残ると。
剣崎や栗原親子が生きる世界を、何としてでも救うために。
その為ならば、例え外道と罵られようとも一向に構わなかった。
そして、全ての甘い考えを捨てる。
冷たい思いを胸に、始は口を開いた。

「例え全ての世界を救うとして、お前はどうする? 運命を変える方法があるとでも言うのか」

大ショッカーはこの戦いを、世界をあるべき姿に戻すための選別と言う。
それを証明するための映像を、開幕の時に見せた。
衝突する数多の世界。
滅び行く生命。
そして、それを防ぐために自分達は戦わなければならない。
他の世界に生きる、命を踏み台にして。

「いや、それはまだ分からない……」

始の疑問に、翔太郎は憂いを含んだ言葉を告げる。
しかしそれでも、絶望はしていなかった。
彼は始の顔を見据えながら、口を開く。

「でも俺は、絶対にそれを見つけてみせる。そんなのが運命なら、絶対に変えなきゃいけねえからな」

翔太郎は真剣な表情で、力強く言った。
自分が生まれ育った、風都が存在する世界を守るのに嘘はない。
だが、それは誰だろうと同じ。
木場さんも自分が生きる世界を守るために、殺し合いを止めようとした。
きっとあの人が、故郷に対して抱いていた思いは自分と同じだろう。
始もきっと、自分が生きる世界を守りたいと思っているはずだ。
けれど、それが他者を犠牲にしていい理由にはならないし、なってはいけない。
木場さんもそう望んでいたはずだから。
それに対して、始は何も言う事が出来ない。
翔太郎の信念を聞けば聞くほど、剣崎の事を思い出してしまうのだから。
戦おうと思えば、この場でカリスに変身する事が出来た。
しかしそれをする気にはなれない。
始の中で、何かがそれを止めていた。
彼自身にも分からない、何かが。

『みんなぁーーーー! あたしの話を聞いてーーーーーー!』

翔太郎と始の間で、沈黙が広がっていく時。
突如として、耳を劈くような大きな声が、外より響いてきた。
まるで拡声器を使ったような、女の声。
それは翔太郎にとって、よく知る人物の物だった。

584Jの男達/世界を守るために ◆LuuKRM2PEg:2011/03/25(金) 17:05:41 ID:jxBgywvw
「この声は……亜樹子か!?」
『こんな戦いはもうやめて! 自分の世界を守りたいからって、他の人達を殺すなんておかしいよ!』

そう、鳴海探偵事務所の所長を自称する鳴海荘吉の娘、鳴海亜樹子。
彼女が今、宣言をしていた。
これ以上戦わないでと。
仮面ライダーは、みんなのために戦うヒーローだと。
東京タワーまで来て、一緒に世界を救う方法を探そうよと。

「やめろ、亜樹子!」
『こんな戦いを仕組んだ奴らに負けないで! みんなの世界を救うために戦って! 人類の味方、仮面ライダアァァァァァァーーーッ!』

翔太郎は止めようと叫ぶが、届くわけがない。
その叫びを最後に、亜樹子の言葉は終わった。
彼女の言葉を聞いて、翔太郎の顔に動揺が生まれている。
亜樹子もまた、世界を救うために戦おうとしていた。
その為に、参加者を呼びかける。

「亜樹子の奴……無茶しやがって!」

だが、翔太郎は喜ぶ事など出来なかった。
無事を確認出来たのは、何より嬉しい。
しかしあれだけ大声で叫ぶなんて、自殺行為だ。
この世界には木場さんを殺した黒いライダーや、先程戦った軍服を纏った怪人のような危険人物がたくさんいる。
加えて亜樹子は、自分がいる場所も教えた。
これでは、殺し合いに乗った連中の餌食にされるに決まってる。

「ジョーカーの男、行かないのか?」

不安に駆られている中、始の声が聞こえた。
翔太郎はそちらに振り向く。
気がつくと、始は既に荷物を纏めていた。

「その亜樹子とかいう女は、お前が生きる世界の住民だろう。このままだと、殺されるだろうな」
「相川さん……」
「お前は運命を変えると言ったな、それは嘘だったのか」
「いや、嘘じゃねえ!」
「嘘じゃないなら、早くしろ。お前が本当に世界を守るのか、見届けさせて貰う」

そう言い残すと、彼は翔太郎に背を向ける。
そのまま、出口に向かって歩いていった。
始を追うように翔太郎も、足を進める。
マンションから出た二人は、駐車場に停められていた乗り物に目を向けた。
黒と金の二色に彩られた、巨大なサイドカー。
側面には『SMAET BRAIN』の文字が、ロゴのように輝いている。
翔太郎も始も知らないが、それは『555の世界』に存在する、サイドバッシャーと呼ばれる高性能マシン。
乗り物の上には、説明書と鍵が置かれていた。

585Jの男達/世界を守るために ◆LuuKRM2PEg:2011/03/25(金) 17:06:31 ID:jxBgywvw

「スマートブレイン……か」

英語を読み上げる翔太郎は、暗い表情を浮かべる。
ここにあるのは、木場さんが言っていたスマートブレインに関係する物なのだろうか。
だが、今はそんな事を言っていられない。
このままでは、亜樹子が危険に晒されてしまう。
一刻も早く、東京タワーまで向かわなければならなかった。
既に始も、サイドカーに乗っている。
残された運転席に、翔太郎も乗り込んだ。
彼は鍵を差し込んで、勢いよく回す。
すると薄暗い道にライトが点滅して、エンジンが轟音を鳴らした。
そしてサイドバッシャーは、凄まじい勢いで進行を始める。
ジョーカーの名を背負う、男達を乗せて。



(やはり、この男は甘いな)

サイドカーに乗る相川始は、揺れを感じながら考えていた。
やはり、すぐ隣にいる左翔太郎は甘い。
この殺し合いに乗っている自分を、一切疑っていないようだ。
だが、逆を言えば自分にとっても利用しやすい。
ここには、先程戦った怪人のように、圧倒的強さを誇る敵がいる。
忌むべきジョーカーの姿で戦えばともかく、普通にやっても生き残れるとは思えない。
ならばここは、翔太郎を最大限に利用すべきだ。
恐らくこの男は、自分に心を許している。
だったら、戦力にもなるかもしれない。
強大な敵がいるなら、一時的に共闘する。
もしも途中で倒れたり、致命傷を負ったのならば、その時に殺せばいい。

(バッグの中には、幸いにもその為の道具がある……)

始は、デイバッグに目を移した。
最初に木場という男を殺した後に、中身を確認する。
先程はダメージが深かった故、戦いの中で存在を失念してしまったが、仮面ライダーの力が一つだけあった。
彼は知らないが、それは本来の時間とは違う『ブレイドの世界』で、新世代の仮面ライダーと呼べる物。
仮面ライダーラルクに変身するためのバックルが、始に配られていた。
本来ならば、彼がその存在を知る事はない。
理由は、剣崎一真と戦った末にジョーカーとして封印されたため。
カリスの姿を翔太郎に見せるわけにはいかない、始にとっては最高の代物だった。
現状では、彼がいる前ではラルクとして戦う。
本来の力を使うのは、チャンスが来てから。
それまではこの男に協力する。
卑怯な手段だが、死神と呼ばれる自分には相応しい。

586Jの男達/世界を守るために ◆LuuKRM2PEg:2011/03/25(金) 17:07:08 ID:jxBgywvw

(東京タワーには、恐らく大勢の参加者が来るだろうな……利用させて貰うぞ、ジョーカーの男)

自分のやるべき事を、始は改めて考えた。
まずは翔太郎と一緒に、東京タワーまで行く。
先程大声で叫んだ、少女を見つけるために。
恐らく、他の参加者も聞いている可能性が高いはずだ。
殺し合いに乗った連中も。
確実に東京タワーは、戦場になる。
そこに向かうため、あえて翔太郎を焚きつけた。
どれだけの人数が揃うにしても、負傷は避けられない。
潰し合いで疲弊したところを、狙えばいいだけだ。

『仮面ライダーは、みんなのために戦うヒーローでしょ! 少なくとも、あたしの世界ではそうだった!』
『こんな戦いを仕組んだ奴らに負けないで! みんなの世界を救うために戦って! 人類の味方、仮面ライダアァァァァァァーーーッ!』

思案を巡らせる中、不意に始は思い出す。
翔太郎と同じ世界の住民である、亜樹子と呼ばれた女の言葉を。
戦場ではただの綺麗事にかならない、理想。
だが、始はそれを聞き流す事は出来ない。
そして、決して忘れてはいけない言葉のようにも思えた。

(剣崎も、同じ事を言うだろうな……)

心の中でそう考える。
翔太郎も亜樹子とかいう女も、とんでもない馬鹿だ。
だが同時に、とんでもないお人好しでもあるかもしれない。
全ての世界を救おうとして、全ての参加者と手を取り合おうとする。
しかし、そこまで世界は都合良く出来ていない。
そんな甘さに付け込んで、襲いかかる奴など星の数ほどいる。
これでは、自殺するような物だ。

(いや、余計な事は考えるな……この戦いに勝ち残るためだけを、考えろ)

自分にそう言い聞かせるが、耳から離れない。
仮面ライダーはみんなのために戦うヒーローだと。
仮面ライダーは人類の味方であると。
仮面ライダーはみんなの世界を救うために戦わなければならないと。
これは、自分にも向けられた言葉。
翔太郎と亜樹子は、死神である自分を信じている。
そんな思いが、始の中で広がっていた。




(相川さん……あんた、こんな馬鹿な戦いに乗ってるのか?)

サイドバッシャーを運転する左翔太郎は、揺れを感じながら考えていた。
自分の事を『ジョーカーの男』と呼ぶ、すぐ隣にいる相川始。
ジョーカーの名を持つ仮面ライダーに変身するから、ジョーカーの男。
素晴らしいセンスだが、呑気な事は言っていられない。
まさか彼は、世界を守るために他者を犠牲にしようとしているのか。
だが、それではいけない。

587Jの男達/世界を守るために ◆LuuKRM2PEg:2011/03/25(金) 17:07:50 ID:jxBgywvw
きっと始の世界に生きる人々も、幸せな毎日を送っているのだろう。
自分だって、風都に住むみんなの為に他人を殺そうと、一時は思った。
だから、始が殺し合いに乗っても、気持ちは理解出来る。
しかし、納得してはいけない。
木場さんはそれを教えてくれたのだから。

(いや、例え誰かを殺そうとしても……俺が止めれば良いだけだ、仮面ライダーとして!)

仮面ライダーは、人類の味方。
誰かが危機に陥ったら、何としてでも助けるみんなのヒーロー。
亜樹子も木場さんも、それを教えてくれた。
ならば二人の思いに、答えなければならない。
今までだって、フィリップや照井と一緒に町を守るヒーローとして戦ってきた。
それと同じように、仮面ライダーとして誰かを守る。
フィリップも、亜樹子も、照井も、霧彦も、始も、始の世界に生きる人達も、木場の世界で生きる人達も、風都で生きるみんなも、こんな戦いに放り込まれた人達も。
みんな、この手で助けてみせる。
今までも、そしてこれからも。
だから始が誰かを殺そうとしても、それを全力で止めてみせる。
そんな思いが、翔太郎の中で広がっていた。



左翔太郎と相川始。
ジョーカーを背負う、二人の男。
人々を守る仮面ライダーとして戦う事を決めた、左翔太郎。
人々を襲う死神として戦う事を決めた、相川始。
自らが選んだ手段は正反対でも、思いは同じだった。
自分が生きる世界を守るために戦う。
そんなジョーカーの男達を乗せながら、サイドバッシャーは走った。
仮面ライダーを待つ、女の思いを叶えるために。
東京タワーへと。
そこに罠が仕掛けられているのを知らずに。
切り札と鬼札は、ただ走った。
彼らが一体、どのような運命を背負うのかは、誰にも分からない。



【1日目 夕方】
【F-4 平原】

588Jの男達/世界を守るために ◆LuuKRM2PEg:2011/03/25(金) 17:08:29 ID:jxBgywvw

【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(小)、悲しみと罪悪感、それ以上の決意
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、翔太郎の不明支給品(0〜2)、木場の不明支給品(0〜2) 、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、首輪(木場)、サイドバッシャー@仮面ライダー555
【思考・状況】
1:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
2:出来れば相川始と協力したい。
2:カリス(名前を知らない)を絶対に倒す。
3:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
4:『ファイズの世界』の住民に、木場の死を伝える。(ただし、村上は警戒)
5:ミュージアムの幹部達を警戒。
6:もしも始が殺し合いに乗っているのなら、全力で止める。
7:始と共に東京タワーに急ぐ。
【備考】
※ 木場のいた世界の仮面ライダー(ファイズ)は悪だと認識しています。
※ 555の世界について、木場の主観による詳細を知りました。
※ オルフェノクはドーパントに近いものだと思っています(人類が直接変貌したものだと思っていない)。
※ ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。
※ また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※ ホッパーゼクターにはまだ認められていません。
※ 東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。



【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり
【状態】疲労(小)、罪悪感、若干の迷い
【装備】ラウズカード(ハートのA〜6)@仮面ライダー剣、ラルクのバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式、不明支給品×1
【思考・状況】
1:栗原親子のいる世界を破壊させないため、殺し合いに乗る。
2:左翔太郎をこの戦いで利用する……?
3:当面は左翔太郎の前では、カリスに変身しない。
4:東京タワーに向かう。
【備考】
※ ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。
※ 時間内にヒューマンアンデッドに戻らなければならないため、変身制限を知っています。時間を過ぎても変身したままの場合、どうなるかは後の書き手さんにお任せします。
※ 左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。また、翔太郎の雄たけびで木場の名前を知りました。
※ 東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。



【全体備考】
※F−5エリアにある建物は、高級マンション@仮面ライダー555です。

589 ◆LuuKRM2PEg:2011/03/25(金) 17:09:13 ID:jxBgywvw
以上で、投下終了です。
矛盾点や疑問点などがありましたら、ご指摘をお願いします。

590二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/03/25(金) 19:16:27 ID:jqY4JNVg
投下乙です、
翔太郎、悪いがそれは罠だ。一応亜樹子は来るなというメッセージをエクストリームに飛ばしたが届いていないのか(確率は3分の1以下)……届いた所で同じ事な気もするが。
始の所にはラルク……カリス同様弓系だからピッタリと言えばピッタリか。

しかし、D-5からF-5となると2つ以上もエリアを越えているなぁ……想像以上に広すぎる気も……大ショッカーの技術は世界一ぃぃぃぃぃ! というわけだから大丈夫だと思うけどアリなんだろうか……

591 ◆LuuKRM2PEg:2011/03/25(金) 19:19:23 ID:jxBgywvw
感想ありがとうございます
申し訳ありませんが、現在地の【F-4 平原】 を
【F-5 平原】に修正させて頂きます。

592二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/03/25(金) 21:50:10 ID:oZCIbWx2
投下乙
翔太郎行ってはダメだまさか2マス分まで聞こえるとは
他にも
拡声器で聞こえる参加者はC−6にいるマーダー4人組、良太郎チーム、
金居、浅倉、名護チーム、矢車、涼、乃木、天道と乾、ガドルのこいつらだ
亜樹子と美穂のせいで東京タワーがやばくなるな
そう思うでしょう

593二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/03/26(土) 13:55:31 ID:lzqy/SYY
投下乙です。
ついにロワ名物の拡声器がきたか。
1stの真理を思わせる切実な言葉、けど狙いは迎撃。やはりロワはロワか…
しかし爆弾は危険すぎるぞw アポロガイストも勝手に協力して、どんな規模の爆発になるのやら
そしてエクストリームに託された言葉で誰がどう動くか、期待せずにはいられない

まずは翔太郎と始に放送が届いたが、まあ罠だと思うわけもなく
どこまでもヒーローであり続ける翔太郎と、悪役一直線を誓いながらもどこか揺らいでる始
二人のコンビは続いていくのか、それとも非情な別れが待っているのか
しかし開始5時間で3人死亡、2人が爆心地とかW世界は大丈夫なのか…

テラー浅倉はハードボイルダー、翔太郎&始がサイドバッシャー、多分戻ってくる乃木はオートバジン
そういえば動けるバイクが3台勢揃いになる感じかな。大爆発が予想されるだけに高速移動手段が貴重かも

594二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/03/29(火) 21:19:45 ID:flObcAiA
後、士も音也も拡声器届くな
特に音也は女目当てだから

595 ◆7pf62HiyTE:2011/03/30(水) 23:10:15 ID:AsJthpBw
金居、乃木怜司、葦原涼分投下します。

596Round ZERO 〜 WORM INVASIVE ◆7pf62HiyTE:2011/03/30(水) 23:14:15 ID:AsJthpBw
TURN-01 金居の場合


「あれが異世界の仮面ライダーか」


 眼鏡の青年がそう呟く中、少し離れた場所では4人の参加者が戦っているのが見える。
 呟いた青年は名簿上では金居と呼ばれている。しかし、彼は人間ではなくある世界においての生物の始祖たる不死の生命体アンデッド、その中でも上級であるカテゴリーK、ギラファノコギリクワガタの祖ギラファアンデッドだ。

 金居は他の参加者との接触を求めていた。潰し合いをさせるにせよ情報を得るにせよその対象がいなければやりようがない。
 金居のスタート地点である病院は治療施設という特性上人を集めやすい。だが、金居はそこに留まる事を良しとしなかった。
 その理由は単純明快、人が集まるという事は危険人物も集まってくる事を意味するからだ。
 誤解無き様言っておくが金居は自身が早々他の参加者に遅れを取るとは思っていない。相手が向かってくるならば返り討ちにするつもりではある。
 だが、無駄な消耗を良しとするわけもない。故に金居は早々に病院を後にして移動を始めたのだ。

 さて、移動するにしても市街地を散策するか市街地から離れるかを考えねばならない。
 人と接触するならば市街地を散策した方が都合が良いだろうが前述の通り戦いに遭遇しやすく、それに惹かれて新たな戦いを強いられるリスクもある。
 市街地から離れれば前述のリスクはある程度回避出来るものの、その場合は人と接触がしにくくなる。
 要するに一長一短、どちらが良いという話でも無いという事だ。

 その状況の中で金居が選択したのは市街地から離れるというものだ。だが、そんな彼がわざわざB-4に向かった理由は何故か?
 それはほんの気紛れによるものなのか?
 もしかすると、橋を越えたB-7辺りにある森を本能的に目的地として定めていたのかも知れない。
 さながらクワガタムシが樹の樹液に惹かれるが如く――

 閑話休題、そうして移動をしていたがその途中で遭遇したのは同じ世界からの参加者らしい桐生豪だけだった。
 が、面倒な事に桐生は自らの世界の参加者すらも無差別に殺そうとしており金居と戦いになった。
 桐生との戦闘自体は本来の姿に戻り戦う事で何事も無く対処出来たが2つの問題に気が付いた。
 何時もよりも力を発揮出来ない事と、直後の再変身が不可能だった点だ。
 以上の制限はパワーバランスを取り弱者であっても強者である自分を倒せる様にする為の仕掛けなのは容易に想像が付く。
 制限のかけられたアンデッドの力と拳銃を含めた手持ちの道具だけでは少々心許ない。そこから導き出した方針は――


「人が集まっている所に向かうか――」


 今までは割と成り行きに任せていたがここに来て能動的に他の参加者との接触を試みる事にした。
 好都合な事に金居のいる場所B-5からすこし近くのC-5にはホテルがある。ホテルもまた人が集まりやすい場所、当面の目的地としては適当と言えよう。
 だが、先の桐生同様危険人物と遭遇する可能性もある。この時点ではまだ変身出来ない事を踏まえるならば今はまだ待つべきかも知れないが――



「人間共の言葉にこんなのがあったな、『虎穴に入らずんば虎児を得ず』」


 その意味は危険を冒さなければ大きな成果は得られないというものだ。故に金居はホテルへと向かおうとした。


「何故『虎』なのかは知らんがな」


 金居の脳裏に虎の始祖のアンデッド、女性の人間体の姿を持つ彼女の姿が浮かび上がった。
 自身の眷属がネタにされた言葉が存在する事にあまり良い気はしないだろう。そんなどうでも良い事を考えていた。

597Round ZERO 〜 WORM INVASIVE ◆7pf62HiyTE:2011/03/30(水) 23:15:30 ID:AsJthpBw


 そして、ホテルの近くに来た所で遠目に見えたのが先の戦いが起ころうとした現場だった


 金居が確認した所、弱々しい青年の傍にロックミュージシャン風の服装をした青年が近付いていた。その後、ロック風の青年が青眼の仮面ライダーに変身し弱々しい青年に襲いかかった。
 詳しい事は解らないものの断片的に『キバ』、『サガ』、『キング』という単語が聞き取れ認識する事が出来た。


「そういえば参加者の中にキングという奴がいたな。そいつとは限らないだろうが……どちらにしても実力は相当なものだろうな」


 その言葉は自身もまたカテゴリーKであるが故の自信によるものなのかもしれない。その近くでは、


『キバっていくぜぇぇぇぇぇ!!』


 と、遠くにいる筈の金居にも認識出来る程の声が響くと共に1人の女性が赤い仮面ライダーに変身し、銃を装備してその色を緑色に変化しさせ青眼の仮面ライダーの所に向かうとしていた。
 が、それと同時に背後では壮年の男性が全身に牙があしらわれた仮面ライダーに変身し緑色の仮面ライダーを襲撃していた。

 ここまで見ていた金居ではあったが、それ以上は確認せず早々にこの場から離れホテルと距離を置こうとした。
 金居が介入しなかった理由の1つは前述の通り現時点ではまだ本来の姿に戻る事が出来なかったからだ。拳銃1つで仮面ライダーとやり合えると考える程自惚れてはいない。
 幾らリスク無しに何も得られないと言ってもあまりにもリスクが高すぎる、リスクが低いに越した事はないだろう。
 それ以前に金居の見たところ戦っている4人は何れも異世界の連中、連中が勝手に潰し合ってくれるのはむしろ金居の望む所だ。わざわざ無駄に力を振るう必要はない。

 ホテルから離れたのは位置関係から見て、ホテルにいる連中が戦いに巻き込まれる、あるいは介入する可能性が高かったからだ。前述の通りこの戦いを避けるのであれば現段階ではホテルに向かわない方が良いだろう。
 無論、ホテルには自分の世界からの参加者がいてこの戦いで退場する可能性も否定出来ない。だが、金居自身すら退場する可能性がある以上可能性程度の段階でそこまで面倒を見るつもりはない。
 そもそも、自分の知らぬ所で自分の世界の参加者が退場する可能性を想定できないほど金居も愚者ではない。今もこうして戦いが起こっている以上既に誰かが退場していても不思議ではないということだ。

 だが全く介入するつもりが無いわけではない。今は介入しないものの後々となれば話は違う。
 1〜2時間経つ頃には恐らく金居自身変身可能になる、その時に戻って疲弊した連中に仕掛ければよい。
 一方の相手側は戦いによって疲弊し、制限により恐らくは変身不能であろう。一転して金居が有利となる可能性が高い。
 話し合いをするにしても金居の方が圧倒的優位に進められるはずだ。
 何にせよ当面は少し離れた場所で周囲の様子を伺いつつ身を休めれば良いだろう。


「ま、俺の存在に気付かず戦ったお前達が悪いという事だ」


 そう呟く金居の視線は東京タワーに向いていた――

598Round ZERO 〜 WORM INVASIVE ◆7pf62HiyTE:2011/03/30(水) 23:16:15 ID:AsJthpBw





TURN-02 葦原涼の場合


 葦原涼は野上良太郎、天美あきら達の元から去っていった鳴海亜樹子を追跡していた。
 亜樹子の移動した方向はC-5方面、故に涼はその周囲を探索したものの彼女の足取りを掴む事は出来なかった。


『彼女はきっと……死ぬ、でしょうね』


 脳裏に浮かぶのは最悪の可能性。だが、そうそう都合良く、いや悪くというべきだろうが危険人物に――


「いや……」


 涼は足を止めて考える。あの時あの場所にいたのは自分達だけだったのかを。


 涼が良太郎達と合流した経緯は以下の通りだ。
 ダム近くからアテもなく移動していた所何かの戦いの音が響いてきた。少し離れていたものの涼はすぐさまその場所へと向かった。
 そして一瞬白い鎧を纏った戦士を見た様な気もしたが思考する余裕など無く、


『そこまでよ、ドーパント!』


 その声が響いた方向に振り向くと鳥の怪物が亜樹子、良太郎、あきらといった3人の男女に襲いかかろうとするのが見えた。
 詳しい事はわからない、だがこのまま放置すれば鳥の怪物が3人を殺す事は明白だった。
 涼にそれを享受出来るわけがない。すぐさま何時もの様にあの姿、アギトと呼ばれるものになろうとした。
 しかしどういうわけか姿は変わらなかった。今までその姿になる事で多くのものを失ってきたのに何故こういう時に変身出来ないのかと苛立ちを隠せない。
 が、そんな事はこの際どうでもよい、重要なのは目の前の怪物から3人を守る事だ。最悪3人が逃げるだけの時間を稼げれば良い、そう考えてデイパックの中から武器を取り出そうとした。
 そして取り出したのは何かの黒い箱、詳しい事は不明だがそれを使えば仮面ライダーなるものに変身出来るらしい。
 仮面ライダーが何かは知らない、アギトの様なものなのかそれとは別の何かなのか。だが細かい考察などする気は無い、重要なのはその力で何を成すかだ。
 故にすぐさま涼は近くの水溜まりにかざしベルトを出現させ仮面ライダーガイへと変身した。
 涼はガイの力を知らない、それでも何時も変身した時の様な戦い方で鳥の怪物を圧倒、一気に無力化する事ができた。

 その後鳥の怪物に変身した男性を説得したもののその直後、亜樹子が良太郎の元から去っていった。
 詳しい事は不明だが彼女は自分の街を守る為に殺し合いに乗ったのだろう。それ故に良太郎達の元から去っていったと――
 その彼女を連れ戻す為に涼が向かったというわけだ。


 かくして思い出す。今まで鳥の怪物に変身した男性村上峡児や亜樹子への対処に追われ失念していたある事項を、ほんの一瞬だったが故に殆ど記憶に残らなかった事を。
 そう、近くにはもう1人、白い鎧を纏った戦士がいたのだ。また、自身が最初に戦った鉛色と深緑の怪人も近くに来ていた可能性も否定出来ない。
 もし彼等に襲われたらどうなる? 考えるまでもない。
 しかしそれならそれで死体すら見つからないのはおかしい、ならば遭遇してはいないのだろうか? それなら亜樹子は何処へ行ったのだ?


「もしかすると……あそこか?」


 視線の先にはそびえ立つ東京タワー、亜樹子がそこに向かった可能性は否定出来ない。
 しかしそれはあくまで可能性に過ぎず向かったという確証はない。
 また、東京タワーに向かったとしても、亜樹子が去ってから数時間経過した現状を踏まえれば東京タワーに向かった所で既にそこを離れている可能性は多分にある。

 その一方、あきらが村上を抑える事になっており、あの場には良太もがいた事から村上が暴走しようとしてもある程度は大丈夫と考えて良い。
 しかし、何者かの襲撃等不測の事態が起こればどうなるかは解らない。村上が暴走する可能性もあり、それ以前に襲撃者によって皆殺しにされている可能性だってある。
 既に数時間も経過している事を踏まえ彼等が待機しているであろうホテルに戻る事も視野に入れた方が良いだろう。

 だが結論は出ない。涼はホテルとタワーの両方を交互に見る。


「どうする……どっちに向かうべきだ?」


 そう考えていると、


「そこの君、何かお探しかい? 良ければ私と情報交換でもしないか?」

599Round ZERO 〜 WORM INVASIVE ◆7pf62HiyTE:2011/03/30(水) 23:17:00 ID:AsJthpBw





TURN-03 乃木怜治の場合


 唐突だがここで読者諸兄に乃木怜治参加者の解説付きルールブックについて説明しておこう。
 その言葉通りそのルールブックには名簿のページの後ろに全参加者の顔写真、性別、年齢、変身する仮面ライダーあるいは怪人の名前が記載されている。


 と、簡単に述べたが具体的にどのように書かれているかは実際に見てもらった方が早いだろう。まず2例ほど見てみようか、


名前:天道総司
性別:男
年齢:21歳
能力:仮面ライダーカブトに変身できる


名前:間宮玲奈
性別:女
年齢:25歳
能力:ウカワームに変身できる


 この両名は乃木の世界からの参加者、故に乃木は当然この両名の事を把握している。
 さて、一見するとこの情報は正しい様に見える。少なくとも天道についての情報は正しいし大半の参加者については正しい情報が書かれていると考えて良い。
 だが、玲奈に関してはどうだろうか? 少なくてもこれをそのまま鵜呑みにして良いものではない。
 そもそもワームというものは7年前に宇宙外から隕石と共に飛来した異界生物であり、姿形のみならず記憶までも写し取り人間に擬態し人間を脅かす存在だ。
 そして解説にもある通り玲奈はワームである。となればこの解説の何処がおかしいかも容易に理解出来るだろう。
 そう、厳密に言えばこの間宮玲奈は『間宮玲奈』本人ではなく、ウカワームが『間宮玲奈』に擬態した存在でしかないという事だ。
 故にこの間宮玲奈が本当に25歳とは限らないし、女性ですらないのかも知れないという事だ。

 もう1点、別段間違いとは言えないものの注意すべき点がある為、こちらにも触れておこう。次の例を見てもらいたい。


名前:乾巧
性別:男
年齢:18歳
能力:仮面ライダーファイズに変身できる


 此方で注目すべきはその能力だ。実際、巧はファイズにに変身する。だが、これだけでは巧の情報を的確に描き切れたとは言えない。
 実際、巧は他にウルフオルフェノクに変身する能力を有している。だが、その事はこの解説には一切触れられていないのだ。
 つまり参加者の中には仮面ライダーとしての姿の他に怪人の姿を持つ者、複数の変身体を持つ者がいてもその内の片方しか書かれていないという事だ。

 また、他にも注意点として変身出来るとはあってもその変身方法には一切触れられていない。
 『仮面ライダーアギトに変身できる』、『仮面ライダー電王に変身できる』、『ローズオルフェノクに変身できる』、『ナスカドーパントに変身できる』etc...
 どれが誰の情報かについては此処では触れないが、これらの中には変身にツールを必要とするものあるいは必要としないものそれぞれ存在する。
 しかしそれらについての情報は一切描かれていない。
 少なくても乃木にとっての常識では仮面ライダーに変身するにはツールが必要で、ワームなど怪人に変身するのにツールは必要としないがそれをそのまま当て嵌めて良いものではないという事だ。

600Round ZERO 〜 WORM INVASIVE ◆7pf62HiyTE:2011/03/30(水) 23:17:48 ID:5L/x6j/A

 長々と説明したものの纏めるとこういう事だ、参加者の解説は非常に有用なものではあるが、それに依存しすぎると手痛いミスを犯しかねないという事だ。

 では何故不完全な解説として渡したのだろうか?
 結論から言えば、違和感を覚える情報を極力削除し最低限必要な情報だけを提示したからだ。
 これは一体どういう事なのだろうか?

 実は参加者の中には厄介な参加者が存在する。相川始等の様な参加者の事だ。
 結論だけ先に述べるが始の正体はアンデッドの1人ジョーカーである。しかし彼は仮面ライダーカリスにも変身する都合上能力欄には『仮面ライダーカリスに変身できる』とある。
 しかし、アンデッドは元来1万年前に行われた種の繁栄を懸けたバトルファイトで戦った存在だ。つまり極端な話であればその年齢は10000歳という非常識的な数字となる。
 折角、ジョーカーに変身するという情報は伏せられているというのにこの年齢情報だけで台無しになったといっても過言ではない。
 空欄にしても良かっただろうがそれならそれで何故空欄なんだという問題が生じる。
 故に、始など年齢だけで正体が看破されかねない参加者については差し障りの無い年齢が記載されている。

 何? 嘘を表記した時点で情報の意味が無いのではないか? 確かにその通りだが、年齢や性別に関する情報がこの場でそこまで重要だと思うか?
 この解説で重要な事はどの参加者がどのような仮面ライダーあるいは怪人に変身する、または能力を持たない一般人かどうかだ。
 少々乱暴な言い方になるが年齢や性別の情報など蛇足といっても過言ではない。そこまで目くじらを立てる様な事ではない。

 更に言えば結局の所情報というのはツールの一種でしかない。それが毒になるのか薬になるのか、あるいは無色透明な水になるのかどうかは使う者次第という事だ。
 それを生かすも殺すも呑むも呑まれるのもそれを持つ乃木自身次第だという事だ。



 乃木は考える。自身の持つ解説付きルールブックの持つ情報がどれだけ有用かどうかを。そして乃木自身は気付いた、ルールブックの解説だけでは不完全だという事を。
 玲奈に関する表記もそうだったが見逃す事が決して出来ない参加者が1人いた。
 その参加者の名前はこの際重要ではない。重要なのはその能力と顔写真だ。
 能力は『仮面ライダーダークカブトに変身できる』、その顔写真は天道に酷似――いや、同じものであった。
 天道に似た男が何者なのかはここでは余り重要ではない。重要な事は天道に酷似している事からその男がワーム、正確に言えばワームよりも先に飛来したワームの亜種ネイティブだという事だ。なお、この事は既に乃木は把握している。
 つまり、この男は他にもネイティブワームに変身する能力を有している筈だがそれについては一切触れられていない。

 そのダークカブトの資格者と同じ様にライダーと怪人、複数の姿を有する参加者がいても不思議ではないという事だ。

601Round ZERO 〜 WORM INVASIVE ◆7pf62HiyTE:2011/03/30(水) 23:18:45 ID:5L/x6j/A


「だからこそ見極めは重要という事だ」


 勿論、相手が何者であってもワームの中でも最強のワームと言っても過言ではない乃木が負けるつもりは全く無い。
 今の乃木のワームとしての姿であるカッシスワームグラディウスは相手のエネルギーを吸収しそれをコピーして返すという強力な特殊能力を有している。
 その能力の強大さを踏まえるならばいかに強力な仮面ライダーが相手であっても負ける事はないだろう。

 が――それではそもそもこの殺し合い自体が乃木の一人勝ちで終わってしまう。
 大体、超高速移動が使え同じ能力を使わなければ基本的に対処不可能なクロックアップを有する自身の世界の仮面ライダーやワームが他の世界よりも圧倒的に有利なのは明白だ。それでは勝負にすらならない。

 つまり――何かしらの方法でそれらの能力に制限がかけられている可能性は非常に高いという事だ。

 今のグラディウスの状態で使えるかは別にして、一度倒される前の形態としてディミディウスの時にはクロックアップ状態すらも止められるフリーズの能力があった。
 仮にその能力が使えたとしてもやはり無制限に使えるなんて都合の良い事は無いだろう。


「何れ確かめる必要があるか……」


 そう考えながら乃木は周辺にいた残る参加者2人に接触しようと考え周囲を探した。
 1人は革ジャケットの男、もう1人は白スーツの男だ。
 その2人から乃木が選んだのは――白スーツの男だ。その理由は単純明快、白スーツの男は乃木自身がいた東京タワーに向かっていた事から比較的簡単に接触出来ると考えたからだ。
 が、結論から言えばその白スーツの男は何処かで身を潜めたせいか見つける事は出来ず無駄に時間を浪費する結果に終わった。

 放送前には東京タワーを発つ事になっている霧島美穂達の所にこのまま戻っても良かったが何も成果を得られないまま戻るのは少々癪に障る。


「ならばもう1人の方か」


 乃木はオートバジンを走らせ革ジャケットの男がいたC-5方面へと急いだ。姿を確認してから大分時間が経過した事を考えると遭遇出来る可能性は低いと思ってはいたが、


「やってみるものだな、まさかまだこの辺を彷徨いていたとはな」


 革ジャケットの男を見つける事が出来た。密かにルールブックを確認した所、


「(仮面ライダーギルス葦原涼か……何かを探している様だが……)」


 革ジャケットの男こと涼が何かを探しているのは遠目からでも把握出来た。
 涼が何を探しているかは不明瞭、敵対するか利用出来るかどうかも不明、それでも接触してみる価値はあるだろう。故に、


「そこの君、何かお探しかい? 良ければ私と情報交換でもしないか?」


 そう高らかに声を挙げ涼に話しかけた。


「誰だ?」


 乃木に対し涼は警戒する。


「俺は乃木怜治だ、さっきも言ったが君は今何かを探しているのだろう? 俺としても情報が欲しいのでね、だからこそ……」


 そう明朗に語る中、


「ならば俺も混ぜてもらおうか?」


 そういって眼鏡の男性が現れた。


「何者だ?」
「金居とでも呼んでくれれば良い。情報が欲しいのは俺も一緒なんでね、情報交換に参加させて貰おうか。それでお前はどうなんだ?」
「……葦原涼だ」


 それは涼自身も情報交換に応じるという意思表示でもあった。

602Round ZERO 〜 WORM INVASIVE ◆7pf62HiyTE:2011/03/30(水) 23:19:45 ID:5L/x6j/A





TURN-04 WORM INVASIVE


「(乃木に葦原か、少なくとも俺の世界の仮面ライダー共とは毛色が違うのは確かだな)」


 実の所、金居が2人と接触したのは乃木がいたからだ。
 金居はC-5に潜みその時を待っていたが、その最中涼が近くまで来たのを確認していたのだ。涼が何かを探しているのは明白だったものの金居は接触すべきかどうか決めかねていた。
 戦闘になる事自体は問題ではない。問題はむしろ、戦闘を行った事で最低でも2時間変身不能になる事だ、本来の姿に戻る事は慎重に行いたい所だ。

 が、ここで乃木が意気揚々と涼に接触を試みた事で状況は一転する。涼は多少は警戒していたものの、すぐさま戦う様には見えなかった。
 つまり、ここで戦闘になる可能性は大幅に低くなったという事になる。それならば接触してみる意義はあるだろう。
 よしんば戦闘になりそうになっても乃木と涼を潰し合う形にすれば上手くいけば変身しないで済む。
 以上の目算が金居にあったという事だ。


「(金居……ギラファアンデッドらしいが不用意に戦う様な愚者ではないらしいな)」


 乃木の手元にある参加者の解説ではアンデッドは金居しかいなかった(実際には他にアンデッドは2人いるものの、両名とも能力欄には仮面ライダーに関する事しか書かれていない)。
 それ故に乃木は金居の情報が頭に入っていたのだ。
 とはいえアンデッドが何かは全く不明瞭、その名通りならば不死の存在でギラファノコギリクワガタの怪人という事になるだろう。
 本当に不死ならば面倒な存在だろうが、この場においては流石に死なないという事は無いだろう。


「(つくづくカブトやクワガタに縁が深いものだな)」


 カブトやガタックとの戦いを繰り広げる現状を踏まえると因縁を感じずにはいられない。


 情報交換という事だったが乃木と金居はまだ自らの有する情報を明かしていない。
 涼としては最優先で亜樹子の行方を掴みたかった、故に先に涼は自分が知るホテル近くでの村上との戦闘、そして亜樹子の離脱についての情報を話した。
 その際、金居と乃木は名簿を取り出して確認している。


「悪いが俺は亜樹子って奴には会っていないな。それにその白い鎧を着た……仮面ライダーもな」
「緑色の奴は?」
「緑色の仮面ライダーなら会った……が、お前が言っているのはそういう仮面ライダーじゃ無く怪物の事なんだろう? それなら会っていない」
「そうか……」

 涼の問いにそう答える金居であった。実際、金居の語った事に嘘はない。この場でわざわざ嘘を吐く理由は皆無だからだ。

603Round ZERO 〜 WORM INVASIVE ◆7pf62HiyTE:2011/03/30(水) 23:22:45 ID:5L/x6j/A


「それより葦原、名簿ぐらい見ろよ」


 そう金居に言われようやく涼は自身のデイパックから名簿を取り出した。ちなみに中には食料品等の共通した支給品以外に2つの道具が入っている。
 さて、名簿を確認した所、涼の知り合いは2人だけいた。


「(津上……アイツもいたか……)」


 1人は津上翔一、アギトの1人だ。奴の性格上殺し合いに乗るという事はまずないだろう、実力などを考えても別段気にかける必要はない。


「(それに木野……)」


 もう1人は木野薫、涼の父親が乗っていたあかつき号の乗客の1人で彼もまたアギトとなりその力を以て人々の為に戦おうとしていた。
 木野の言葉があったからこそ涼は自身の持つアギトの力で人を助けたいと考える様になったのだ。
 だが――


「(何故アイツは真島……それに俺を……)」


 木野は木野同様あかつき号の乗客でアギトの力に覚醒しようとしていた真島浩二、更には涼へと襲いかかってきたのだ。
 木野の口振りでは自分以外のアギトを排除しようとしていた。人間の為に戦おうとしていた奴が何故その様な凶行に及んだのかは不明だ。
 仮に木野が仮面ライダー全てをアギトだと考えたらどうだろうか? 誰が仮面ライダーあるいはアギトか解らない以上、無差別に人々を襲撃しかねないだろう。
 とはいえ、今はそれを考えても仕方がないだろう。木野と遭遇した時にでも考えれば良い。それよりも重要なのは――


「鳴海亜樹子だったら1時間半ぐらい前に会ったな。霧島美穂と行動を共にしていた」


 亜樹子の動向だ。乃木によると1時間半前――大体3時ぐらいに会ったという事らしい。
 乃木の話では2人は東京タワーでゲームに対抗する為の仲間を集めるべく待っているらしく、乃木に仲間集めを頼んだそうだ。


「葦原の話と違うな、その鳴海って奴は殺し合いに乗ったからこそお前達の元を去ったんじゃなかったのか?」


 そう金居が口を挟む。


「詳しい事は俺も知らないな、普通に考えれば霧島美穂に説得されたのだろうが……女心と秋の空という言葉もある」
「ならいいが……」
「あるいは2人で組んで他の参加者を抹殺しようと目論んでいる可能性もある。わざわざ自分が殺し合いに乗った事を宣伝する必要も無いだろう」


 そう口にする乃木の言葉を否定出来ないでいる。しかし、


「乃木……2人は東京タワーで待っているんだな?」


 亜樹子達の真意は不明、だが東京タワーで待っているという事だけは確実だ。実際に会って確かめれば良いだろう。


「ああ、だが急いだ方が良い。連中も同じ世界の仲間を捜す都合があるらしく放送……6時前には東京タワーを発つと言っていた」
「あと1時間半か……」


 涼は時計を確認しながら口にする。行方がわかったならば出来るだけ早く情報交換を切り上げタワーに向かった方が良いだろう。


「言っておくがバイクは貸さんぞ」


 そう乃木にした時、

604Round ZERO 〜 WORM INVASIVE ◆7pf62HiyTE:2011/03/30(水) 23:25:10 ID:5L/x6j/A



『みんなぁーーーー! あたしの話を聞いてーーーーーー!』



 突如として声が響き渡ってきた。



『こんな戦いはもうやめて! 自分の世界を守りたいからって、他の人達を殺すなんておかしいよ!』



「まさか……亜樹子……!」



 涼がそう呟く。その声は亜樹子のものであった。



『仮面ライダーは、みんなのために戦うヒーローでしょ! 少なくとも、あたしの世界ではそうだった!』



「そうだな、俺の世界でもそうだ」



 金居の口調は至って冷静だ。



『だからお願い、東京タワーまで来て! 大ショッカーの言いなりになって戦わないで、一緒に世界を救う方法を探そうよ!』



「あの女……!」



 乃木が忌々しそうに零す。



『こんな戦いを仕組んだ奴らに負けないで! みんなの世界を救うために戦って! 人類の味方、仮面ライダアァァァァァァーーーッ!』



 その叫びを最後に声は途絶えた。



 そして周囲に再び静寂が訪れる。その中で最初に動いたのは涼、しかし。



「何処に行くつもりだ葦原涼、君は今の放送が言葉通りの意味だと思っているのか?」


 乃木がそんな涼を呼び止める。


「どういう意味だ?」
「君の考えている事などわかる。ここまで響いた放送だ、恐らく相当広い範囲に届いたと考えて良いだろう。彼女の狙い通り人は集まる筈だ……殺し合いに乗った危険人物も含めてな」
「ああ、だから……」
「彼女達を危険から救う為、一刻も早く向かわなければならない――だが、果たして本当にそうだろうか?」
「何が言いたい?」


「それ自体が連中の狙いという事だろう」


 それに答えたのは金居だった。


「あいつらだって、今の放送で危険人物を呼び込む事は解っている筈だ。生き残る為ならばやるべきじゃない。だが――それは逆にチャンスでもある。危険人物同士潰し合う可能性もおおいに高まるからな」
「だが、それだと亜樹子達が……」
「その通りだ。しかし……鳴海達に連中を倒す算段があるとしたらどうだ?」
「!?」
「恐らく真の狙いは東京タワーに集まった連中を一網打尽にする事だろう。大方……爆弾か何かを仕掛け爆発させるんじゃないのか?」


 そう金居が語る。


「待て、放送を聞いた奴の中には……」
「その言葉を信じた馬鹿もいるだろうな。そいつらも含めて消し飛ばすつもりだろう」


 涼の言葉に応えたのは乃木だ。

605Round ZERO 〜 WORM INVASIVE ◆7pf62HiyTE:2011/03/30(水) 23:26:50 ID:5L/x6j/A


「少なくても俺が正義のヒーローを連れてくる算段になっていた。俺やそいつらも諸々殺すつもりだろう。これでハッキリした、2人は主催を打倒するつもりなど無い、俺達を出し抜き優勝を目論む悪女だという事だ」
「乃木……お前……」
「言っておくが俺はあいつらを信用していたわけじゃない。それに葦原だって言っていただろう、亜樹子は殺し合いに乗っていたと」


 乃木の言葉を返せない涼を余所に金居が言葉を続ける。


「ま、これはあくまでも状況からの推測、正しいとは言えないだろう。しかし、本当に馬鹿正直に参加者を集めるだけが目的ならば只の自殺行為だ、俺達が助けに行った所で無駄死にするだけだろうな。助けに向かうのは止めた方が良い」
「巫山戯るな!」


 金居の言葉に激しく反論する涼、


「おいおい、キレる相手が違うんじゃないのか? 悪いが俺もこんな所で死ぬつもりはないんでね、それに俺としてはそろそろホテルに向かいたいんでね」
「良太郎達に何か用があるのか?」
「ああ、そこには葦原の仲間がいるんだったな。それなら早く戻った方が良い、ついさっきその近くで殺し合いに乗った連中が戦っていたのを遠目で見た」
「何だと!?」
「もう戦いは終わっただろうが、そいつらがホテルに向かったかも知れないな」


 飄々と語る金居の襟首を涼が掴む。


「……それを黙って見ていたというのか!?」
「言った筈だ、こんな所で死ぬつもりはないと。大体、掴みかかる相手が違うんじゃないのか?」


 更に乃木が口を挟む、


「この規模だ、ホテル辺りに届いている可能性もあるだろう」


 が、実際の所ホテルまでは届いてはいない。
 幾ら効果範囲の広い大ショッカー製の拡声器とはいえど、確実に届く範囲は周囲1エリア程度、それより遠くに関しては周辺の状況などで大幅に変わってくる。
 D-5から発せられた声は2つ程エリアを越えたF-5にも大きな声で届いたという事実はある。だが、届いた人物は亜樹子の関係者及び人間ではない参加者、それ故に実際に聞こえた以上に大きな声で響いたと感じたのだろう。
 エリアを2つ越えるとなると状況次第で届かなくなり、更に離れた場所にはまず届かないと考えた方が良いだろう。幾ら通常よりも広範囲とはいえものには限度があるという事だ。

 もっとも、実際に聞こえている当事者にはそれは知り得ない話だ。故にホテルに届いた可能性は考えなければならない。


「ホテルあるいはその周辺にいた連中が向かう可能性もある。危険人物ならタワーに向かわれない様に俺達が止めるという事も考えた方が良いだろう」
「くっ……」
「それでもタワーに向かうならば勝手に行きたまえ。但し、君1人でだ」
「乃木は行かないのか? 連中と約束していたんじゃないのか?」
「罠だとわかっている場所にノコノコ向かう馬鹿もいないだろう、大体金居もそうじゃないのか?」
「ああ、その通りだ」


 その2人を余所に涼は悩む。


「(くっ……俺はどうすれば良い……あいつらの言葉はもっともだが……)」


 亜樹子の言葉は高確率で罠なのは涼にも理解出来る。だが、仮にそうでなければ彼女達を危険にさらすわけにはいかない。
 また、仮に罠だとしても無力な人々がやってくる可能性は高い、そういう人達を守る為には向かう必要があるだろう。


「(だが今タワーに向かえば……良太郎達は……)」


 しかし、タワーに向かった場合、ホテルにいるであろう良太郎達がすぐ近くの危険人物達の脅威にさらされる事になる。彼等との合流も考えねばならない。
 また、ホテル周辺の危険人物がタワーに向かわないとも限らない。それを阻止する選択もあるだろう。


「(俺は……)」


 カミキリムシを彷彿とする姿を持つアギト――いやギルスに変身する力を持つ涼は自身の力を向ける先を定められずにいた。

606Round ZERO 〜 WORM INVASIVE ◆7pf62HiyTE:2011/03/30(水) 23:28:55 ID:5L/x6j/A


 その一方、乃木と金居は互いに視線を合わせていた。


「(思った以上に喰えない奴か……敵には回したくないものだ)」
「(この乃木という奴……人間とは思えない立ち回りだな……油断ならないな)」


 少なくとも2人にはタワーに向かう選択肢はない。今向かった所で亜樹子達の罠で仕留められる可能性が高く、仮にそれがなくとも危険人物との乱戦は避けられない。
 本来の力が発揮出来ない状況ではそれは避けるべきだろう。


「(ならば奴の言う様にホテルに向かうべきか?)」
「(奴が口にした様にホテルからタワーに向かう奴と接触してみるか?)」


 奇しくも2人は虫あるいはワームの王とも言うべき存在、その思考は大いに似ていた。


「(さぁ金居……)」
「(乃木怜治……)」


 虫(ワーム)の王による世界を懸けた殺し合いにおける侵略――


「「((貴様はどう動く?))」」


 その矛先は何処に――?


【1日目 夕方】
【C-5 平原】

【金居@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】健康
【装備】デザートイーグル@現実
【道具】支給品一式、地の石@劇場版仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー、ファイズアクセル@仮面ライダー555
【思考・状況】
0:亜樹子達の言葉に乗り東京タワーに向かうつもりはない。ホテルに向かうか? 乃木はどう動く?
1:自分の世界の勝利を目指す為、他の世界の参加者同士で潰し合わせる。能動的に戦うつもりはない。
2:他の世界、及び大ショッカーの情報を集める。
3:自分の世界の仮面ライダーは利用出来るなら利用する。アンデッドには遭遇したくない。
【備考】
※アンデッドが致命傷を受ければ封印(=カード化)されると考えています
※首輪が自身の力に制限をかけていることに気づきました
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。

【乃木怜司@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】健康
【装備】オートバジン+ファイズエッジ@仮面ライダー555
【道具】支給品一式、木製ガイアメモリ(疾風、切札)@仮面ライダーW、参加者の解説付きルールブック@現実
【思考・状況】
0:亜樹子達の言葉に乗り東京タワーに戻るつもりはない。ホテルから来る参加者を待ち受けるか? 金居はどう動く?
1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
4:美穂には注意する。
【備考】
※カッシスワーム グラディウスの状態から参戦しました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュの二つです。
※現時点では、解説付きルールブックを他人と共有する気はありません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。

【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】疲労(小)、胸元にダメージ
【装備】カードデッキ(ガイ)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、不明支給品×2(確認済)
【思考・状況】
0:東京タワーに向かう? ホテルに戻る? それとも此処でホテルからタワーに向かう参加者を待ち受ける?
1:殺し合いに乗ってる奴らはぶっつぶす
2:人を護る
3:あきらや良太郎の下に戻ったら、一緒に行動する
4:鉛色と深緑の怪人、白い鎧の戦士を警戒
【備考】
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。

【全体備考】
※少なくてもB-6のホテルに亜樹子の放送が届く事はありません。

607 ◆7pf62HiyTE:2011/03/30(水) 23:31:05 ID:5L/x6j/A
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

608二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/03/31(木) 06:36:21 ID:P6UbMOrw
投下乙です
金居も乃木も鋭いな
確かに、タワーには爆弾が仕掛けられてるし
そして芦原さんはどう動くか

609二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/03/31(木) 21:57:02 ID:lWqQJ4zI
投下乙
頭いいな金居と乃木
拡声器にホテルまで聞こえないのが安心した
それに葦原ホテルに向かったほうがいいぞステルスマーダーが一人入って
しまったぞ

610 ◆LuuKRM2PEg:2011/04/03(日) 11:10:07 ID:UoTNAQOs
門矢士、紅音也、矢車想を投下します

611不屈の魂は、この胸に ◆LuuKRM2PEg:2011/04/03(日) 11:10:42 ID:UoTNAQOs

太陽の輝きは、既に落ち始めている。
眩しい光は薄れて、闇が広がっていた。
世界に、夜が近づいている。
いつもなら、この暗闇を喜んだかもしれない。
しかし矢車想に、そんな感情は芽生えなかった。
むしろ彼の中で、後悔が生まれている。
その脳裏に三人の人間の顔が浮かんだため。

始まりの部屋で見せしめにされた、影山瞬。
自分を逃がすために戦った、剣崎一真。
病院から抜け出した矢先に食われた、光夏海。

みんな死んでしまった。
剣崎は分からないが、生きている可能性は低い。
光を求めようとした者達はみんな、闇へと消えた。
自分だけを残して。
また、一人になった。
仮面ライダーザビーとして、ZECTのエリート部隊シャドウから追い出されて以来だろう。
信じていた者全てから裏切られ、信じていた者全てから見捨てられた。
そして、地獄のどん底にまで堕ちる事になる。
あの時は、周りにいる者達が光に残り、自分一人だけが闇に追い出された。
しかし今度は逆。
自分は光の世界に残されて、周りの奴らは落とされた。
死という名前を持つ、永遠の暗闇に。

(これが……罰って奴か)

ふと、矢車は思う。
自分は闇に堕ちる事すらも、許されない。
死んで楽になる事すらも、許されない。
眩しい光の中を、生きていかなければならない。
逃げる事も許されず、ただ孤独に世界を生きる。
後ろ指を指されて罵られながら。
それが光から与えられた、罰。
前なら、誰が死のうと生きようと関係なかった。
けれども、今は違う。
三人がいなくなった事で、ある感情が矢車の中で芽生えていた。
寂寥感と虚無感。
それだけが彼の心を満たしている。
生きようが死のうが、どうでもいいと思っていた筈だ。
何故、そう感じるのかは矢車自身も分からない。

(さて、どうするか……)

ふと、矢車は考えた。
これからたった一人で、どう動くのかを。
キバーラとかいう白い蝙蝠はいるが、戦えるとも思えない。
だから仲間も兄弟もいないまま、一人で動く可能性が高かった。
いくら大ショッカーを叩き潰すとはいえ、敵の戦力は未知数。
加えて、組織力も技術力もかつていたZECTと匹敵、あるいは容易に上回るだろう。
それに対して、自分の戦力はキックホッパーとゼクトマイザーのみ。
ザビープレスもあったが、今更自分を認めるわけがない。
しかもここは戦場。
天道や加賀美、夏海や剣崎のような人間とそうそう出会えるわけがない。
むしろ自分に襲いかかったライダー達や黒いカブトのように、危険な連中と出くわす可能性の方が、大いに上回る。
今の状況は、自分の生きる世界を助けるために、他者を蹴落とすという地獄。
ならば殺し合いに乗る奴らなど、いくらでも沸いてくるだろう。
これでは、大ショッカーを潰すどころの話ではない。

612不屈の魂は、この胸に ◆LuuKRM2PEg:2011/04/03(日) 11:11:24 ID:UoTNAQOs

(黒いカブト……か)

ふと、矢車は思い返す。
先程病院で自分達に襲いかかった、カブトによく似たライダーを。
身体が漆黒なのを除けば、寸分の違いもなかった。
幾度となく戦いを繰り広げた、天道総司が変身する仮面ライダーカブトと。
恐らく、自分と同じ世界の住民だろう。

(……しかし何故、俺を狙った?)

ふと、矢車は思案した。
ZECTが生み出したと思われる、見知らぬライダー。
何故自分を殺そうとしたのか。
そんな事をしては、世界が滅びる事に繋がるだけ。

(まさか、ワームがマスクドライダーシステムを奪ってそれを使ったのか……?)

ふと、矢車は一つの可能性を思いつく。
黒いカブトが自分達を襲った理由。
それは人類の敵であるワームが、あのゼクターとベルトを奪い取ってそれを使った。
人に擬態する能力を持って、社会に忍び込む連中ならあり得るかもしれない。
つまりあの黒いカブトが変身しているのは、ワーム。
例え自分の世界が滅亡の危機に陥ったとしても、ZECTのマスクドライダーシステムを使う資格者は、邪魔と思ったのだろう。
故に襲いかかった。
世界が救われたとしても、邪魔な存在はいらない。

(……もしかしたら、天道に擬態したワームなのか?)

ふと、矢車は結論に辿り着いた。
黒いカブトの正体がワームならば、誰かに擬態しているはず。
そして、赤いカブトに選ばれたのは天道総司。
この二つから、導き出される答え。
先程の黒いカブトは、天道総司に擬態したワーム。
だから殺し合いに乗っており、人間である自分を襲った。
だとすると、本物の天道総司や加賀美新も狙っているかもしれない。
ワームに擬態された人間の果てなど、たった一つ。
消される以外、何もない。

(この三人の中の、誰かか……?)

ふと、矢車は身体を起こして名簿を見る。
そこに書かれている、自分の世界から連れてこられた奴らの名前。
天道総司と加賀美新。
これ以外に、三つある。
間宮麗奈、乃木怜司、そして見慣れないもう一人。
麗奈はかつて恋心を抱いたが、あっさりと裏切られた。
その正体はワームだった為。
後の二人は知らない名前だが、恐らくこのどちらかが黒いカブトに変身したのだろう。
しかし何故、天道総司でないのか。
奴に擬態したのなら、その名前を名乗るのが筋の筈。
もしや本物の天道総司に、存在を知られないために偽名を使ったのか。
だがそれでは、天道総司に擬態した意味がない。

613不屈の魂は、この胸に ◆LuuKRM2PEg:2011/04/03(日) 11:13:32 ID:UoTNAQOs


様々な可能性を矢車は考えるが、真実に至る事は決してなかった。
矢車の見た黒いライダー、仮面ライダーダークカブト。
その正体は、確かに天道総司に擬態したワームだった。
しかし、厳密に言えば元は普通の人間。
ネイティブにより拉致されたとある少年が、過酷な人体実験によって人間で無くなってしまい、ダークカブトに選ばれてしまった。
その彼は、自暴自棄になった末に全ての参加者を殺そうとしている。
無論、自分の世界を助けようという思いは持ち合わせていない。
矢車はそんな事実を、決して知らなかった。


やがて彼は、考えるのを止める。
そんな事に気を向けていても、今はどうする事も出来ない。
また出くわしたときに、戦えば良いだけだ。

「…………ん?」

ふと、矢車の耳に声が聞こえる。
この部屋の外からで、距離は近いようだ。
耳を澄ませると、二人組の男が話している。
内容はここからでは聞き取れないが、無視するわけにはいかない。
この殺し合いに乗った、危険人物の可能性もある。

「この声って……もしかしたら、士!?」

矢車の傍らで飛ぶキバーラは、驚愕の表情を浮かべた。
声の主は、彼女にとってよく知る人物。
門矢士であること。
それを察した矢車は、ベッドから起きあがった。
士とかいう奴が何者かは知らないが、接触の余地はある。
夏海が知る参加者の一人で、大ショッカーについて知っている人物だ。
何かしらの情報は得られるだろう。
診察室から出た矢車は、キバーラと共にロビーを目指した。










E−4エリア、病院前。
門矢士は、いつまで経っても戻ってこない北條透の元に移動しようとして、ある男と遭遇した。
かつて旅の途中で訪れた、ダークライダー達によって支配されたネガの世界。
仮面ライダーダークキバとしてそこを率いた男、紅音也とよく似た男を。
しかし、髪の色や服装など異なる点がいくつかあった。
あの時出会った音也は茶髪だったのに対し、こっちは黒髪。
服装も派手だったが、この男は割とどこにでも見られる格好だ。
何より、病院で眠る剣崎一真のように、自分を知らないように見える。

614不屈の魂は、この胸に ◆LuuKRM2PEg:2011/04/03(日) 11:14:19 ID:UoTNAQOs
「……なるほど、あんたはもう一人の紅音也か」

士は自らの推測を、口に出した。
ネガの世界には、光夏海とよく似た人間が一人だけいる。
絶望に反抗しながら、戦った女。
それと同じように目の前の音也も、ネガの世界に生きる音也とはまた違うもう一人の音也。
恐らく剣崎も、自分の事を知らなかったのはそういう理由だろう。

「……訳が分からん。お前、どうかしてるのか?」

しかし音也は、溜息と共に悪態を吐いた。
病院に行こうと思った矢先に、妙な男と出くわす。
自分の名前を知っていると思いきや、変な事を次々と口走った。
通りすがりの仮面ライダーだの、もう一人の紅音也だの。
正直、頭のネジが緩んでいるのではないかと、疑ってしまう。
そんな彼の考えを知らずに、士は言葉を続けた。

「いや、あんたとよく似た男と出会った事があってな」
「何?」

音也はほんの少し、驚いたような表情を浮かべる。
それから、士は語り続けた。
自分が続けてきた世界を救う旅。
大ショッカーの悪行。
共に戦ってきた仲間達。
そして、旅の途中で訪れたネガの世界にいた、もう一人の紅音也。
音也は士の話を、半信半疑で聞いていた。

「なるほど、俺のような男前がもう一人いる……更に、えらーい人になっているとは。流石は俺様だ」

全てを聞き終えた後、彼は率直な感想を口にする。
目の前にいる門矢士とかいう男は、違う世界にいるもう一人の自分と戦った事があると言った。
そこにいる自分は世界の全てを、この手に収める王となっているらしい。
どうにも信じがたいが、嘘を言っているようにも見えなかった。
仮に真実だとすると、やはり自分は偉大という事になる。
例えどの世界で生まれようとも、神に愛された紅音也という男は、歴史に名を残すのだ。

「だが、そっちの俺はまるで駄目だな」
「何?」

先程と違って、今度は士が音也の言葉に驚いたような表情を浮かべる。

「この紅音也は、確かに世界を治める王の器を持つだろう。だが、人の音楽を奪うなど言語道断……」

力強く、そう言い放った。
王の称号を得たもう一人の自分の行為を、音也が喜ぶ事はない。
理由は、人類抹殺などという戯けた悪行を働いたため。
この紅音也は、人類全てに救いの手を差し伸べる愛の使者だ。
仮に気に入らない男がいたとしても、無意味に命を奪う事などしない。
ましてや、女に危害を加えるなど論外だ。
それはネガの世界という人間の、心の中にある音楽を壊しているに等しい。
故に、認める事など断じて許せなかった。

615不屈の魂は、この胸に ◆LuuKRM2PEg:2011/04/03(日) 11:14:52 ID:UoTNAQOs

「やれやれ、俺の顔に泥を塗るとは……もう一人の俺は随分、小物のようだな」

例え王になったとしても、それは何人もの犠牲の上で成り立っている。
それで偉くなるなど、こっちから願い下げだ。
どうやら王様になった自分は、天狗になっているに違いない。
ここは、自分が根性を叩き直す必要があるようだ。

「どうやら、そっちの俺は調子に乗りすぎているようだな。我ながら不甲斐ない」
「心配はないぞ? ネガの世界には、強く生きる奴がいる……」
「ほう、そっちでも音楽は残っているのか」

士の言葉に、音也は若干の安堵を覚える。
ネガの世界には、絶望に反抗する人間がまだ残っていると聞いた。
だとすると、音楽はまだ絶えていない。
ならばこれから先、調子に乗ったもう一人の自分を叩きのめす奴が出るだろう。
出来る事なら、その時は自分も殴りに行きたいが。

「士ああぁぁぁぁぁ〜〜!」

士と音也が互いに顔を向ける中、声が聞こえる。
やたらに高い女の叫びが。
それに反応して、二人は振り向く。
見ると、一匹の白い小さな蝙蝠がこちらに向かっていた。

「キバーラ!?」
「無事だったのね、士!」

現れたキバーラは、士の顔を見た途端に表情を明るくする。
そして羽根の動きを、一層激しくした。
一方で、病院の中から一人の男が姿を現す。
うらぶれた雰囲気を放ち、左袖のないコートを羽織っていた。

「門矢士……お前がそうか」
「何だお前は……?」

いきなり現れた男に名前を呼ばれて、士は少し困惑する。
恐らくキバーラが教えたのかもしれない。
しかし、それにしても外見からして胡散臭かった。
服装からして、信用ならない。
何よりも、瞳から覇気が感じられなかった。
まるで全てのライダー達から敵と見なされて、自暴自棄となった自分のように。

「なるほどな……お前も、闇を見てきたんだな」
「闇だと……?」

士の顔を見ながら、矢車は呟く。
まるで、全てを見透かしたような瞳を向けながら。
それに苛立ちを覚えて、士は苦虫を噛み潰したような顔をする。

616不屈の魂は、この胸に ◆LuuKRM2PEg:2011/04/03(日) 11:15:46 ID:UoTNAQOs
「何を訳の分からない事を……」
「ちょっとあんたら、待ちなさいよ!」

不穏な空気になりそうな所に、キバーラが仲裁に入った。
このまま放置していては、喧嘩になりかねない。
それを彼女は、本能で察していた。

「こんなことしたって、夏海が喜ぶわけないでしょ!」
「夏海?」
「あっ……!」

その瞬間、キバーラは気づく。
士は夏海が死んだ事を、知らない。
もう二度と会えないのだ。
後悔を覚えるが、もう遅い。

「そういえば、夏海はどうした? 一緒じゃないのか?」
「夏海は…………」

俯くキバーラの声は、震えていた。
本当はこんな現実など、言いたくない。
伝えるのが、怖い。
認めたくなんかない。
それでも、いつかは知られる事実。
キバーラはそれを、士に伝えた。
彼女は既に、殺されてしまった事を。

「な、夏海が…………死んだ?」

キバーラから突きつけられた事実によって、士は呆然とした表情を浮かべた。
その声は、震えている。
夏海が死んだという、真実を知ったため。

「嘘だろ……?」
「本当よっ! あたしだって認めたくないわ! でも、夏海はもういないのよっ!」
「何だと…………!?」

認める事は出来ない。
夏海がこの殺し合いの犠牲にされた事を。
彼女がもう、この世にいない事を。
それを知った瞬間、士から全ての力が消えていった。
彼はその場に、へたり込んでしまう。
これまで積み重ねてきた物全てが、崩れ落ちるような感じがした。
士の中で、絶望が広がっていく。

――士君!

彼の中で聞こえる、夏海の声。
ディケイドの力を手に入れたあの日、全てが始まった。
彼女や光栄次郎、小野寺ユウスケや海東大樹と繰り広げた旅。
夏海が危機に陥ったとき、幾度となく助けてきた自分。
自分の帰りを待ってくれていた、夏海。
全てのライダーから敵視されても尚、自分を救おうとした彼女。
そして、これからも誰一人欠けることなく、仲間達との旅は続くはずだった。
けれども、それはもう二度とない。
夏海に会う事はもう、出来ないのだ。
夏海の笑顔を見る事はもう、出来ないのだ。

617不屈の魂は、この胸に ◆LuuKRM2PEg:2011/04/03(日) 11:16:45 ID:UoTNAQOs


思い出が走馬燈のように蘇る中、士の中である感情が芽生える。
夏海が死んだきっかけを作ったのは、誰だ。
何の罪もない彼女が何故、犠牲にならなければならない。
そう、この戦いを開いた奴らが原因だ。
それは悪の組織、大ショッカー。
奴らだけでなく、餌に釣られて参加者を襲う連中も同類だ。
誰かを殺すような奴らなど、消えてしまえばいい。
夏海の命を奪った奴らなど、潰してしまえばいい。
破壊する。
全てを破壊してみせる。
果てしない憎悪が、士の中で広がっていた。

(俺は破壊者……全てを破壊する力を持つ。だったら、この殺し合いに乗った連中と大ショッカーを――――!)
「おい」

そんな中、彼の耳に音也の声が響く。
直後、士の頬に衝撃が走り、身体が地面に倒れた。

「士!」

キバーラは悲鳴を零した。
一方で士は汚れた床に叩き付けられるが、すぐに見上げる。
自分を殴りつけた音也の方を。

「てめえ、何しやがる!」
「根性注入」

怒鳴る士に対して、音也はあっさりと答える。

「やれやれ、惚れた女の願いもロクに叶えられない駄目男とはな」
「何だと!?」
「大方、ヤケになって復讐でもして、最後は後を追うつもりだったんだろ?」
「なっ……!?」

侮蔑が混じった言葉。
士はそれを聞いた途端、顔が驚愕に染まっていく。
自分の全てが、見破られていたから。

「お前、確か士と言ったな? そんな事をして、彼女の為になるとでも思ってるのか?」
「何……?」
「夏海ちゃんだっけか? その子は、お前がそんな道に歩くのを望むような子か? 他者を無意味に傷つけ、人の音楽を奪う事を」
「違う!」
「なら何故へこたれてる? お前は、その子と一緒に生きてきたんじゃないのか?」

音也は静かに、士へと問いかける。
父親が悩む子どもを、諭すかのように。
その瞳からは厳格でありながら、どこか優しさが放たれていた。

「彼女を幸せにしようと思うなら、お前が強く生きるしかない」
「何?」
「人は前に進むものだ。悲しみを乗り越え、大きくなった時……大切な人は隣にいる。お前は、前に進むしかない」

かつて未来からやってきた、悲しみに沈んだ息子、紅渡。
恋人が死んで、自暴自棄になっていた彼を諭すための言葉を、音也は士に告げた。
大切な人を守れなくなった男は、決まってヤケになる。
しかし、そんなのを望む女なんて、どこにもいない。
だから残された男はどれだけ苦しくても、どれだけ悲しくても、強く生きる。
そうやって、乗り越えるしかない。

618不屈の魂は、この胸に ◆LuuKRM2PEg:2011/04/03(日) 11:18:42 ID:UoTNAQOs

「音也、行くつもりか?」
「当然だ」
「罠かもしれないぞ」
「おいおい、か弱いレディーが助けを求めてるんだぞ? なら、男として行くに決まってるだろ」

士の疑問に、音也はあっさりと答える。
この男は、今の放送をまるで疑っていない。
ここは殺し合いの場であるから、何かしらの罠がある可能性も充分にある。
しかし音也は、そんなことなどまるで考えていないように見えた。
それに士は溜息を吐いて、キバーラは呆れた表情を浮かべる。

「紅音也……あんた、バカでしょ?」
「大きなお世話だ、コウモリ娘」
「はあ!?」
「お前、もしかしたらあのコウモリもどき……キバットバットⅡ世の仲間か?」

目の前で飛ぶ白い蝙蝠に、音也はデジャブを感じていた。
かつて渡や次狼達を助けるために、力を借りた喋るコウモリもどき。
キバットバットⅡ世の姿と、被って見えたのだ。

「……そうよ、あたしは娘のキバーラよ」
「やっぱりな……まあ、別にどうでもいいが」
「何よそれ!」

しかし、音也は特に驚きはしない。
予想が当たったところで、なんという事もないからだ。
傍若無人な態度の音也にキバーラは、怒りを覚える。
だがそれは、呆気なく無視された。

「そういうことだ、俺は失礼させて貰う」
「紅と言ったな……本当に、東京タワーに行って光が掴めると――」
「思ってる」

矢車の問いかけを、音也は遮る。
その瞳からは、力強い光が放たれているように見えた。
自分自身に絶対の自信を持ち、全ての言葉を真実にする。
そんな雰囲気を、音也は持っているような感じがした。
まるで幾度となく戦った、天道総司と似ている。
不意に彼は、そんな事を思った。

「何故そう言い切れる?」
「愚問だな、俺は紅音也…………全ての女性の味方だからだ。あそこにいる子は、俺を待ってる」

矢車の疑問に、はっきりと答える。

「俺は全ての女性を助ける為なら、命ある限り戦う……例え孤独になってもだ。戦うってのは、そういうことだからな」

音也は続けて、ここにいる全員に言い放った。
大切な人を亡くして悩む、士と矢車を立ち直らせるために。
それは、ある男が口にした言葉と似ていた。
とある世界、全てから見放されて絶望のどん底に落ちた門矢士の前に、一人の男が現れる。
大ショッカーによって片腕を奪われた、結城丈二。
彼もまた、士を奮い立たせるために、音也と似たような言葉を告げた。
例え孤独になろうとも、戦士は命ある限り戦い続けなければならない……と。
あまりにも似すぎている、二つの世界で起こった出来事。
しかしそれに気づく術を持つ者は、誰もいない。

619不屈の魂は、この胸に ◆LuuKRM2PEg:2011/04/03(日) 11:19:42 ID:UoTNAQOs

「じゃ、今度こそ俺は行くからな。着いてくんなよ」

そう言い残して、音也は去っていった。
一人で動くのは危険極まりないが、男とつるむ趣味はない。
何よりも、自分ならばどんな困難が来ようとも、容易に乗り越えられる。
それよりもまずは、東京タワーにいるレディーの元へ向かう事だ。
名前も知らない、異世界の女性。
彼女もまた、この戦いを止めるために動いている。
なら、自分のやる事は一つだけ。
東京タワーに向かって、彼女のサポートをする事だ。

(そういや、キングの事を言い忘れてたな……)

病院から離れてしばらくして、音也は思い出す。
先程出会った士に、危険人物であるキングの事を教えなかったのを。
別に言う義理は無いが、情報は大切。
せめて、互いの事くらいは話すべきだったか?
いくら男と関わり合いになりたくないとはいえ、焦りすぎたかもしれない。

(……あまり会いたくないが、次に話せばいいか)

しかし後悔したところで、もう遅い。
今更病院に戻っても、みっともないだけだ。
もしもまた奴らと出会うなら、その時にキングの事を話せばいいかもしれない。
それに士とかいう奴も、気持ちに変化があるだろう。

(まあ、精々頑張るんだな。応援くらいはしといてやるよ)

東京タワーに向かう音也は、心の中でそう呟いた。



【1日目 夕方】
【E−4 平原】


【紅音也@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第46話終了後
【状態】疲労(中)
【装備】イクサナックル(プロトタイプ)@仮面ライダーキバ、ライアのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、不明支給品0〜2
【思考・状況】
0:東京タワーに向かって、声の主を助ける。
1:最後まで生き残り、元の世界に帰還する
2:女性を見たらとりあえず口説く。冴子辺り探してみる。
3:乃木怜治、村上峡児、キングを警戒。間宮麗奈については会ってから判断。
4:もう一人の自分に嫌悪
【備考】
※変身制限について天道から聞いています。
※天道の世界、巧の世界、霧彦の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。

620不屈の魂は、この胸に ◆LuuKRM2PEg:2011/04/03(日) 11:22:22 ID:UoTNAQOs









紅音也が去った後の病院では、二人の男と白い蝙蝠が残っている。
門矢士と矢車想、そしてキバーラ。
あれから彼らは語り合った。
互いの事。
同じ世界から連れてこられた人物。
これまで起こった出来事。
そして、夏海に関して。

「夏海は、戦ってたんだよな……仮面ライダーとして」
「ええ、戦ってたわ。立派にね」
「そうか」

キバーラの声を聞いて、士はゆっくりと頷く。
彼の表情には、先程は存在していた物が、感じられなかった。
絶望や失意といった、マイナスの感情。
音也の言葉を聞いたからか。
東京タワーから発せられた放送を聞いたからか。
それは彼自身でも、分からない。

『こんな戦いを仕組んだ奴らに負けないで! みんなの世界を救うために戦って! 人類の味方、仮面ライダアァァァァァァーーーッ!』
『俺は全ての女性を助ける為なら、命ある限り戦う……例え孤独になってもだ。戦うってのは、そういうことだからな』

あの言葉が、彼の中で未だに響いていた。
もしも夏海が東京タワーにいたら、同じように殺し合いを止めようと呼びかけてたか。
夏海は自分が大ショッカーと戦う事を、望んでいるのか。
まだ生きているかもしれない、ユウスケや海東。
そして一真のように、正義の心を持つまだ見ぬ仮面ライダー。
彼らと、手を取り合って大ショッカーを潰す。

「夏海…………」

彼女の名前を、再び呼んだ。
それで何かが変わるわけではない。
もしも夏海が今の自分を見たら、どう思うか。
考えるまでもない。
いつものように笑いのツボを押して、自分を立ち上がらせてただろう。

「やっぱりお前も、暗い地獄を見てきたんだな……」

考える中、矢車の声が聞こえた。
士はそちらに振り向く。
目を合わせた途端、矢車は言葉を続けた。
彼は士に興味を見いだす。
夏海とキバーラが言っていた、士という男。
見てみれば、闇の世界の住民に必要な暗闇が、瞳の奥に宿っていた。
それを感じた矢車は、自然と感情が高ぶっていく。

「お前の瞳には闇が見えた。それも極上の……な」
「そういうあんたこそ、まるでどん底に落ちたような顔をしてるな」
「ああ、俺は堕ちたんだ……もう二度と抜け出せない、暗闇の果てへとな」
「ははっ、地べたを這い蹲ったのか」

彼らは知らぬ間に、饒舌となっていた。
大切な人を失った者同士、世界の全てから拒絶された者同士、孤独の闇を味わった者同士。
どこか、共感を感じていたのか。
生まれた世界は違えど、歩いてきた道は同じ。
それでも今の彼らは、心の底に残っている物があった。
かつて抱いていた『希望』の燃え滓。
知らぬ間に、士と矢車の奥底からはそれが沸き上がっていた。

621不屈の魂は、この胸に ◆LuuKRM2PEg:2011/04/03(日) 11:24:02 ID:UoTNAQOs

「それで、あんたはこれからどうするつもりだ?」
「さあな……俺も考えていたところだ」
「じゃあ、俺達も……ぐっ!」

士は立ち上がろうとした瞬間、全身に激痛を感じる。
度重なる戦いで負った、戦いの傷。
休んでいる内に少しは和らいだが、まだ彼の動きを阻害していた。
そんな士に、矢車は肩を貸す。

「やれやれ……世話が焼ける」
「悪かったな」
「とっとと治すぞ」

互いが乱暴な言葉をかけると、診察室に向かった。
まずは病室に向かい、本格的な手当をする。
北條透は応急処置をしたが、それだけでは心許ない。
今は彼を待ちながら、傷を治す事に専念すべきだ。
それから、音也が行った東京タワーへと向かう。
矢車が言うように、罠があるかもしれないが行くべきだ。

(そういや、この矢車とかいう男……あの時のライダーと声が似てるな)

行動方針が決まった直後、士は思い出す。
初めて訪れた『クウガの世界』で、クウガと戦った際に突然現れた飛蝗のライダー達。
その中の一人と、声が似ていたのだ。
だが、矢車は自分の事を知らないように思える。
恐らく音也や一真のように、別の世界にいるもう一人のライダーと考えるのが妥当か。
何にせよ今は、そこまで重要視する事でもないだろう。



かつては光の下を歩いていた、二人の男。
門矢士と矢車想。
再び闇を見た男と、今だ闇を彷徨う男。
彼らは二人とも、かつてはある思いを持っていた。
強い心(レイジングハート)という名の、不屈の魂。
果たして、それを取り戻すときが来るのか。
二人の行く道にあるのは、光か闇か。

622不屈の魂は、この胸に ◆LuuKRM2PEg:2011/04/03(日) 11:25:01 ID:UoTNAQOs

【1日目 夕方】
【E−4 病院/一階】


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】全身に大程度のダメージ(軽い応急処置済み)、悲しみ、疲労(小)
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、不明支給品×2、ブレイバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(スペードA〜6.9)@仮面ライダー剣、ガイアメモリ(ヒート)@仮面ライダーW、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、ライダーカード(G3)@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
0:北條を待ちながら、体を休める。
1:大ショッカーは、俺が潰す!
2:仲間との合流。
3:友好的な仮面ライダーと協力する。
4:少し休んだら、矢車やキバーラと共に東京タワーに向かう。
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、ブレイドの物以外、力を使う事が出来ません。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※ライダーカード(G3)はディエンド用です。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。



【矢車想@仮面ライダーカブト】
【時間軸】48話終了後
【状態】疲労(小)、全身に傷(手当て済)
【装備】ゼクトバックル+ホッパーゼクター@仮面ライダーカブト、ゼクトマイザー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、キバーラ@仮面ライダーディケイド
基本行動方針:弟を殺した大ショッカーを潰す。
1:士に若干の興味、手当てをしながら話をする。
2:殺し合いも戦いの褒美もどうでもいいが、大ショッカーは許さない。
3:天道や加賀美と出会ったら……?
4:音也の言葉が、少しだけ気がかり。
【備考】
※ディケイド世界の参加者と大ショッカーについて、大まかに把握しました。
※10分間の変身制限を把握しました。
※仮面ライダーキバーラへの変身は夏海以外には出来ないようです。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※黒いカブト(ダークカブト)の正体は、天道に擬態したワームだと思っています。

623 ◆LuuKRM2PEg:2011/04/03(日) 11:26:02 ID:UoTNAQOs
以上で、投下完了です。 
矛盾点などがありましたら、指摘をお願いします

624二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/04/03(日) 13:01:20 ID:yEonzdXA
投下乙です。
まず、レイジングハートって……某魔砲少女!?
とりあえず矢車と士のコンビが出来て、音也が先行か。ネガ世界の音也に対する反応と言い、夏海失ってブチキレかけた士を諭したり恰好ええのう……でも、東京タワーのアレは罠……でもなくても関係ないか音也の場合。
そうか、矢車の参戦時期は48話後だけど乃木と会話したわけじゃないから(戦いはしたけど)矢車の脳内では知らない人物なのか。

1つ気になったんですが、士説得シーン直後いきなり放送聞いた音也が移動しようとするシーンになっていますが、もしかして>>617>>618の間に1レス抜けてません?

625 ◆LuuKRM2PEg:2011/04/03(日) 13:06:08 ID:UoTNAQOs
ご感想ありがとうございます 
確かに、>>617>>618の間が抜け落ちていました 
それでは、投下します


「強く生きる……か」

音也の言葉は、傍観者でいた矢車の耳にも入っていた。
こんな戦場では、ただの綺麗事にしかならない。
しかし不思議と、悪いようには聞こえなかった。
闇の中で生きる自分には、戯言にしかならないはずなのに。
少し前ならば、無視していただろう。
でも今は、絶対に聞かなければならない気がした。

「悲しみを乗り越え、前に進む……」

一方で士は、音也の言葉を復唱する。
彼の言いたい事は正論だ。
例え憎しみに溺れ、大ショッカーと戦おうとしても、その果てには何も残らない。
夏海だって、戻ってこない。
士自身、頭ではよく分かっていた。
だけれど、それでも簡単に受け入れる事は出来ない。

『みんなぁーーーー! あたしの話を聞いてーーーーーー!』

悩みが広がっていた時だった。
突然、外から大きな声が聞こえてくる。
それは病院の中を容赦なく響いて、四人の意識を向けるには充分な威力を持っていた。

『こんな戦いはもうやめて! 自分の世界を守りたいからって、他の人達を殺すなんておかしいよ!』
「何……!?」

それは、誰の言葉かは分からない。
何らかの機械を通したような女の言葉に、皆は驚いていた。
士も、矢車も、キバーラも、音也も。

『仮面ライダーは、みんなのために戦うヒーローでしょ! 少なくとも、あたしの世界ではそうだった!』
『だからお願い、東京タワーまで来て! 大ショッカーの言いなりになって戦わないで、一緒に世界を救う方法を探そうよ!』
『こんな戦いを仕組んだ奴らに負けないで! みんなの世界を救うために戦って! 人類の味方、仮面ライダアァァァァァァーーーッ!』

名前も知らない声の主は、言葉を続けていた。
大ショッカーの言いなりになっても、何の意味がないと。
自分達は東京タワーに待つと。
そして、仮面ライダーは人類の味方であると。
四人の耳に、それは聞こえていた。

「なるほど……東京タワーか」

そんな中、音也は口を開く。
声からして、今の放送を行っていたのは恐らく女だ。
それもかなり若い。
ならば、何としてでも行くべきだろう。
あれだけの声では、野蛮な連中も引き寄せるに違いない。
そんな奴らからレディーを守るのは、男として当然だ。

626二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/04/03(日) 16:22:41 ID:BZuE7OtI
投下乙です。
音也は一切の自重をしないな。
ネガ世界の自分について聞いて余裕の態度を見せたり、いつもは説教する側の士にまさかの説教を浴びせたり。
後に激戦区になるだろう東京タワーに行くことも「女性のため」。音也の奔放な魅力がグッとくる。
その音也に導かれ新たな一歩を踏み出した士と矢車も良い感じのコンビになってくれて何より。

627予約状況:2011/04/03(日) 18:41:52 ID:JT5AgrUc
午後

【B-6 ホテル】 天美 あきら、野上良太郎、村上峡児、志村純一

【C-6 草原】 紅渡、キング、園咲冴子、牙王

【C-8 草原】 五代雄介、海東大樹、草加雅人、フィリップ、秋山蓮


夕方

【C-1 不明】 三原修二、リュウタロス、間宮麗奈

【C-5 平原】 金居、乃木怜司、葦原涼

【D-1 不明】 津上翔一

【D-2 市街地】 一条薫、桐矢京介

【D-5 東京タワーの真下】 霧島美穂、鳴海亜樹子、アポロガイスト

【E-2 住宅街】 城戸真司、小沢澄子、ズ・ゴオマ・グ

【E-4 平原】 紅音也

【E-4 病院/一階】 門矢士、矢車想

【E-5 警察署(警視庁)】 乾巧、天道総司

【E-5 道路】 浅倉威(予約済)

【F-4 道路】 擬態天道、海堂直也、名護啓介

【F-5 平原】 左翔太郎、相川始(予約済)

【F-5 道路】 ゴ・ガドル・バ(予約済)

【G-5 住宅地】 日高仁志、小野寺ユウスケ、橘朔也、北條透、東條悟、ン・ダグバ・ゼバ


【現在の予約状況まとめ】

◆NhPq7MGBgg氏
左翔太郎、相川始、ゴ・ガドル・バ、浅倉威(+デストワイルダー):2011/04/04(月) 20:36:12(延長済)

628二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/04/03(日) 18:43:11 ID:JT5AgrUc
誤爆

629 ◆v8zfG6NkJs:2011/04/12(火) 02:57:19 ID:o8X5T20k
一時投下スレにて大丈夫と言われたので細部を治し、只今より投下します。

630蘇るM/信頼 ◆v8zfG6NkJs:2011/04/12(火) 02:59:21 ID:o8X5T20k
D―8エリア。
この殺し合いの場に設けられた一つの建物であり、園崎若菜らの家、園崎鄭。
ここでは五人の戦士が身を休めていた。
そしてその中の一人であるフィリップは部屋の中央でこの場に連れてこられるまでの事を思い出していた。

△▽

『左翔太郎はもう使い物にならない、これからはあなたたち二人でWになりなさい』


オールドドーパントとの戦いで老人と化してしまった翔太郎を戦力外とし彼女、シュラウドは僕たち二人にそう言い放った。


『あなた、まだそんなことを…』


怒りのような、呆れたような感情で自分は言う。


『フィリップのパートナーは左以外有り得ない』


照井竜がそう続ける。


『それでは究極のWになれない』


その瞬間僕は自分の耳を疑った。


『究極のW?』


思わずそう聞き返す。


『サイクロンアクセルエクストリーム、そのパワーの源は強い憎しみ』


そう告げて彼女は立ち去った。
だが自分たちも憎しみの力が必要となる究極のWになる気は起きず…。


『見ておけシュラウド、俺はWではなく、仮面ライダー…アクセルだ!』


――トライアル!マキシマムドライブ!――

△▽

そうしてメモリは破壊され、翔太郎も元の姿に戻ることができた。
今も翔太郎以外の人間とWになる気は毛頭ないが、こんな戦場だ、もしかしたらということもありうる。

(いや、翔太郎も頑張っているはずだ、僕が諦めてどうする)

そうだ、あの時も自分たちは戻れたじゃないかいつもの平和な鳴海探偵事務所に。
しかしあの時、安心し安堵の言葉をもらした瞬間、ここに連れてこられたということである。
自分は何としてもあの事務所に帰らなければならない。
無論そのために人の命を奪うようなことはしない。
大ショッカーを倒し、皆で無事元の世界に帰るのだ。

そう強い決意を心に抱いた瞬間肩を叩かれた。

631蘇るM/信頼 ◆v8zfG6NkJs:2011/04/12(火) 03:02:43 ID:o8X5T20k
「フィリップ君、何か考え事?」

五代さんだ、その顔にあふれる笑顔は先程まであんなに激しい戦いをしていた者の物とは思えないほど輝いていた。

「えぇ、まぁ、それより五代さんの怪我の方は大丈夫なんですか?」
「うん、1,2時間寝たからね、もうぴんっぴんだよ」

陽気な動作を交えながら五代さんが言う。
だがフィリップは知っていた、あの戦いの傷が1,2時間休んだ程度で治らないことを。
そしてフィリップは知らなかった、五代雄介という人間の体内にはアマダムという古代のアイテムが埋めこまれていて、常人をはるかに超える回復力を誇ることを。
そんな時、他の部屋に何かないかと探しに行っていた海東さんと草加さんが帰ってきた。

「お疲れ様です、何か使えそうなものありました?」
「いいや、こんな広いお屋敷回って使えそうなものはこれだけさ」

ドンという音とともにテーブルに置かれるのは大きな救急箱。
その大きさからするとかなりいろんなものが入っていそうだ。

「よかった、これであの人治療できますね」

五代の言うあの人とは先程の戦いで倒れていた名も知らぬ青年である。
立ち上がろうとする五代に対し、

「雄介は休んでいて、僕が行ってきます」
「ありがとう、フィリップ君」

そう答え自分が立ちあがった。
『彼』は今自分たちがいる部屋とは違う部屋のベッドで寝かせられている。
そしてキィという音を立てながらドアを開き、中に入った。
そのままベッドに近づき毛布を剥ぐと突然頬を殴られた。

「おい、貴様は何者だ、デッキは…北岡はどうした」

起きていたのか、そう思う暇もなく彼は疑問をぶつけてきた。
デッキというものが何なのかはよく分からなかったが北岡というのは一緒にいた人間のことだろう。
それならば知っている、最も最悪の結果としてだが。
同伴者の死を聞いて彼がどんな反応を示すかは分からない、しかし言わなかったところで何か事が前進するわけでもない。

「デッキ…っていうのが何なのか分からないけど北岡は人物名だよね、だったら知ってるよ」
「…死んだか」
「彼は死…え?」

632蘇るM/信頼 ◆v8zfG6NkJs:2011/04/12(火) 03:04:19 ID:o8X5T20k

「まぁ、どっちが死んでも可笑しくなかったしな、それよりデッキはどうした」

そう淡々と答えるその男にフィリップは思わず身構える。
同伴者が死んだと知らされたのにここまで冷静にいられるというのは一種危ない人なのかとも思ってしまう。
しかしその時騒ぎを聞きつけてきたであろう草加さんがそこに立っていた。

「デッキっていうのはこれのことかなぁ?」

そう言う彼の手の内に収められているのは恐らく数枚のカードが入ったカードデッキ。

「それだ、早く返せ」
「駄目だ、君が信用に足る人物だと分かるまではこれは返せない、それとも俺たちと戦うかい?」

そう言いながら草加は挑戦的な眼差しで『彼』、秋山蓮を見ていた。
秋山からしても確かに自分がその立場ならそうしただろう。
デッキがない今、秋山はほぼ無力な人間だ。
無理に急いで返り討ちにあうのは目に見えていた。
故に彼がとった行動は。

「無理に戦う気はない」

状況は不利の為、戦う気は起きなかった。
しかし、全く持って戦う気がないわけはない、何としても自分の世界を優勝に導くため、今は演技を続ける。
隙を見出し、デッキを取り返せば、自分にも勝機がある。
そのためにも今は我慢だ。
この考えが今自分のデッキを持っている草加雅人と同じものとは彼はまだ知らない。

「そう、それはよかった、それより君の名前は何なのか聞いてもいいかな?」
「秋山…蓮」
「そうですか、それじゃ秋山さん向こうに僕の仲間がいるのでそちらに移動しましょうか」

言いながらフィリップはドアを開き移動した。
その背中を見ながら草加はデイパックの中の自分の支給品を確認する。
カイザドライバーについているのはブレイガンとカイザショット、中にカイザの武器の一つであるカイザポインターが入っていなかったが恐らく大ショッカーが仕組んだのだろうと考え別段気にしていない。
だが今はそれを特筆するべきではない。
彼が気にしているのはカイザドライバーとは違う白いドライバー。
白、といっても彼の知っているデルタドライバーではない。

(これは何だ?スマートブレイン製のベルトは三つしかなかったんじゃ?)

彼の知らない『555の世界』で彼、草加雅人を葬ったサイガのベルト、それが彼に支給されたものだった。
しかし、そんなことこの草加雅人は知らない。
だが、己の力になるならば細かいことは考えずその力を利用させてもらうだけ、『555の世界』を、真理を救うために。

(待っていてくれ真理、今に君を救うから)

歪んだ考えのまま、草加雅人は行く。
他世界の人間を殺すための演技を続けるために。

633蘇るM/信頼 ◆v8zfG6NkJs:2011/04/12(火) 03:06:54 ID:o8X5T20k


「やぁこんにちは秋山君、歓迎するよ」

そう言い、大袈裟な動作で新しい仲間である彼、秋山蓮を迎え入れながら海東は思考していた。
先程の戦いのときに感じた一種の違和感。
この屋敷に来てから自分の持っているカードを確かめていると、なんとカメンライドのカードがディエンドの物しかなかったのだ。
それにアタックライドのカードもイリュージョン、インビジブルの物がなく明らかに不足していた。
さっきの戦いを見ても分かる通りカメンライド、及びインビジブルのカードがなければ彼、仮面ライダーディエンドの能力はほとんど失われたと考えていい。

(まぁでもここに来て少し取り戻せたからよしとするか)

そう、先程秋山をベッドに運ぶ際一瞬彼を触る機会があった。
その瞬間彼は磨き抜かれた盗みのテクニックで誰にも気付かれることなく秋山のデイパックから数枚のカードを抜きとった。
しかし安心してほしい、彼が盗んだのは元々自分の物であるライダーカードである。

(どうやら、キバの世界のライダーのカードセットみたいだね)

そう、彼が取り戻したのはキバの世界のライダー達の力が込められたカードだったのだ。
サガ、イクサ、レイの3枚。
これだけあれば次の戦闘時には手数には困らないだろう。
そんなことを考えつつ支給品を頂戴したことも知らせずに笑顔で秋山を迎える世界の大泥棒、海東大樹の姿がそこにあった。



「それじゃ、秋山さんも起きたことですし、この屋敷から離れましょうか」

フィリップは少し暗くなり始めた空を見ながらそう言った。
確かにここにいれば雨や寒さを凌げるがそこを敵に襲われれば外よりも対応が鈍くなる。
しかし、そんな時だった。

「ごめんね、どうもこのお屋敷は怪しい気がするんだ、僕はまだここで探検ごっこでもさせてもらおうかな」

そう言いながら部屋を出ていく海東さんの言葉にフィリップは何かを感じた。
言い知れない感覚、もしかしたら海東さんの言う怪しい気というのがもし園崎来人に関することであるならば、そう思った瞬間彼は海東を追いかけていた。
人が自分以外に二人という状況は草加にとってうってつけの状況だったが、五代雄介という人間の力の大きさからして、真正面から当たっても敗北するのが落ちだろう。
それならば先程の戦い以上の激しい戦いで傷ついた時まで待って、その時に殺せばいい、そう考え、草加は思考をやめた。
そして部屋には五代と草加と秋山だけが残り部屋には沈黙が続いた。

【1日目 夕方】
【D―8 園崎邸】

【五代雄介@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後
【状態】健康
【装備】アマダム@仮面ライダークウガ
【道具】支給品一式、不明支給品1〜3
【思考・状況】
0:フィリップ君たちを待つ。
1:人々の笑顔を守る。
2:みんなと共に行動する。
3:一条さんと合流したい。
4:仮面ライダーとは何だろう?
【備考】
※支給品はまだ確認していません

634蘇るM/信頼 ◆v8zfG6NkJs:2011/04/12(火) 03:08:50 ID:o8X5T20k
【草加雅人@仮面ライダー555】
【時間軸】原作中盤以降
【状態】健康、
【装備】カイザドライバー@仮面ライダー555、カイザブレイガン@仮面ライダー555、カイザショット@仮面ライダー555、サイガドライバー@劇場版 仮面ライダー555パラダイスロスト、ナイトのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、首輪(北岡)、不明支給品1
【思考・状況】
1:真理の居る世界を守る為に、555の世界を優勝させる。
2:勝ち残る為にも今は演技を続けるが、隙があれば異世界の参加者は殺す。
3:真理を殺した奴を見付け出し、この手で殺す。
4:出来る限り、戦いは他の奴に任せる。
5:蓮を警戒。
【備考】
※オルフェノクの記号が強いため、カイザ及びサイガに変身できるようです。

【秋山蓮@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】第34話終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)
【装備】無し
【道具】支給品一式
【思考・状況】
1:デッキを返してもらうため今は演技をする。
2:自分の世界のために他世界の人間を倒す。
3:協力できるなら、同じ世界の人間と協力したい。
4:同じ世界の人間を捜す(城戸優先)。浅倉とは会いたくない。
5:協力者と決着をつけるのは元の世界に帰ってから。
【備考】
※ サバイブのカードは没収されています(蓮は気づいていない)。

635蘇るM/信頼 ◆v8zfG6NkJs:2011/04/12(火) 03:10:19 ID:o8X5T20k


「ここだ、やっぱりこの屋敷、危ない感じがするね」

隠し扉を開け、エレベーターが自分たちの前に姿を現す。
正直言って恐ろしかったが、ここまで来て後戻りはできないと覚悟を決め、エレベーターに乗り込む。
一つしかないボタンを押し、エレベータはそのまま地下に止まった。
そこには、暗い洞窟が広がっていた。
そして、その洞窟の中央にある緑色の井戸のようなものを見た瞬間、フィリップの脳裏に一つのビジョンが蘇ってきた。

――12年前、幼い自分が足を滑らせあの井戸に落ち死んだこと――
――その後自分は地球に選ばれ生き返ったこと――
――そして園崎来人としての全ての記憶――

「僕は、僕は死んでたんだ…」

それらすべてを思い出した時、彼は両膝を地面に落とし、泣き続けた。
海東はそれをずっと見つめていた。
彼が泣きやむまでずっと。
しかし、自分の驚くべき真実を知ってしまったフィリップが立ち直るのは、また別の話。

【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】最終話終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)
【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド、カメンライドカードセット(キバ)@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式、不明支給品1〜3(確認済み)
【思考・状況】
0:お宝を守る。
1:殺し合いに乗った奴の邪魔をする。
2:五代雄介、草加雅人、フィリップ、秋山蓮と共に行動
3:五代雄介の知り合いと合流
4:知らない世界はまだあるようだ
5:蓮を警戒
【備考】
※クウガの世界が別にあることを知りました。
※カメンライドカードセットの中身はカメンライドレイ、イクサ、サガ(全てディエンド用)です。

【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】本編第44話終了後
【状態】健康 、深い悲しみ
【装備】無し
【道具】支給品一式、ファングメモリ@仮面ライダーW、バットショット@仮面ライダーW、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン)@仮面ライダーW
【思考・状況】
1:僕は死んでたんだ…。
2:翔太郎以外とWになることは考えたくない。
3:大ショッカーは信用しない。
4:出来ればここに居る皆と情報を交換したい。
5:草加雅人は完全に信用しない方が良い。
6:真理を殺したのは白い化け物。
【備考】
※支給品の最後の一つはダブルドライバーでした。
※バットショットにアルビノジョーカーの鮮明な画像を保存しています。

636蘇るM/信頼 ◆v8zfG6NkJs:2011/04/12(火) 03:16:22 ID:o8X5T20k
これにて投下終了です。
一時投下スレの方々の感想で園崎邸の文字が間違っていると指摘されました。
それは当方のミスです。
後フィリップの口調ですが、

「えぇ、まぁ、それより五代さんの怪我の方は大丈夫なんですか?」

「うん、まあね、それより雄介の怪我、大丈夫?」
に変更します。
他にも修正点等ありましたらお願いします。

637 ◆v8zfG6NkJs:2011/04/12(火) 03:22:30 ID:o8X5T20k
かさねがさねすいません。
海東たちの状態表が一つ抜けていました。

【1日目 夕方】
【D―8 園崎邸地下の洞窟】

を彼らの状態表の上につけ忘れました。
本当に申し訳ありませんでした。

638二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/04/12(火) 08:17:22 ID:IUInAWb2
投下した所悪いが他の2人はともかく五代の回復力が強すぎる事に関する事が引っかかるのだが。
一時投下スレでの>>327の指摘でも回復力が強すぎるという指摘があった筈だ。
何故そこまで回復させなければならないのか個人的にはわからないのだが?

更に>>328の指摘では龍騎世界5枚は多すぎるから1,2枚で良いのではという指摘に関しても修正版ではキバ世界3枚になっている。
その辺の氏の考えも示さず何故多く入手させたのだ?

氏は対主催側を強く描きすぎ、マーダーを弱く描きすぎている。
何故、>>327>>328の意見を無視したのだ? 2人の意見は突き詰めれば『対主催側があっさり強化されるのはどうなの?』であろう。
ライダーの愛というが、それは対主催側のライダー側に都合良い展開を書く事ではない。氏のSSにはそんな愛情など全く感じない。

そして散々意見を求めていながら意見を聞かずに更には見解すら示さずに適当な修正で誤魔化そうとしている。
投下する前に一時投下スレで見解を示して、住民の意志を確認してから投下するべきではなかったのか?
一時投下スレで大丈夫と言う話だが、誰も大丈夫という事などハッキリと言ってはいない。それを自分に都合の良い様に解釈しないでもらいたい。『投下乙』というのはある意味社交辞令、それだけ判断しないでもらいたい。
意見を求めていて、質問されている以上それについて答えてから投下するべきではないのか?
大体投下したのは19時頃、本投下はそれからまだ12時間も経っていない。それだけで意見が通ったと判断するのは早計ではないだろうか?
厳し過ぎる? 氏は幾度と無く期限超過、SSの破棄、撤退詐欺、自演まがいの別トリ予約をしている。このまま何事もなくこのSSを通すのは個人的には反対だ。

639二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/04/12(火) 11:00:00 ID:iMnu9NhQ
同じく
氏はもっと周囲の意見を聞くべきだと思う

640 ◆v8zfG6NkJs:2011/04/12(火) 18:50:58 ID:o8X5T20k
申し訳ございません、事情により席をはずしていました。
それでは五代の状態表を
【状態】健康
から
【状態】ダメージ【小】、疲労【小】

にして海東の手に入れたカードを555の世界のライダーカードにし、
それに合わせて本編の文章を

(中略)

(どうやら、555の世界のライダーのカードセットみたいだね)

そう、彼が取り戻したのは555の世界のライダー達の力が込められたカードだったのだ。
サイガ、デルタの2枚。
これだけあれば次の戦闘時には手数には困らないだろう。
そんなことを考えつつ支給品を頂戴したことも知らせずに笑顔で秋山を迎える世界の大泥棒、海東大樹の姿がそこにあった。

という風に変更し、またそれに合わせて、海東の状態表の備考に

※アタックライドクロスアタックはデルタ、ドレイクを召喚した際しか使えません。

と付け加えます。
これからは皆さんの意見を聞きつつ書き手として頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。

641 ◆v8zfG6NkJs:2011/04/12(火) 19:02:28 ID:o8X5T20k
何度も何度も申し訳ありません、海東の状態表の道具の
カメンライドカードセット(キバ)

カメンライドカードセット(555)
という風に修正し、
備考の
※カメンライドカードセットの中身はカメンライドレイ、イクサ、サガ(全てディエンド用)です。

※カメンライドカードセットの中身はカメンライドサイガ、デルタ(全てディエンド用)です。
という風に修正します。

642二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/04/12(火) 19:24:21 ID:2jaVou2k
いや、最早氏の場合は修正すれば良いというレベルではない。

何故、今回意見をまともに聞かず投下に踏み切ったのか、今回対主催有利な描写をした理由を聞かなければ納得が出来ない。

また、修正スレの>>327の意見を見て『キングが(中)まで回復なら、(中)までにすれば良いんだな』と判断したのであればそれは大きな間違いだ。
キングの場合はファンガイアの王にしてマーダー、原作においてもラスボス、それと普通の人間である海東と蓮を同列に論じて良いわけないだろう。
この話でようやく手当てがされたならばダメージをそのまま回復させて良いとは思えない。
また、幾らアマダムの力があるとはいえ大きなダメージを受けていた筈の五代が2時間強程度で(小)まで回復するのはまだ回復量が大きすぎる。
この回復量ならば次の話で健康になっていてもおかしくない程だ、同等以上の力を持つと考えて良いダグバよりも回復するのは流石に不味くないだろうか?
参考までにダグバは、巧達との戦闘で受けた腹部ダメージが2時間以上経過した段階でも未だに記載されている。それを踏まえるならば五代の回復力はまだ強すぎる。

更に言えば、散々言われているにも拘わらず何故そこまで海東にライダーカードを確保させようとする? 2枚にした方が良いと言われながら3枚にした辺り無理矢理にでも支給させたいとしか思えない。

ライダーの愛とか偉そうに言うが、ゴオマを理性無きヘタレに変貌させようとしたり、(他の回復量を計算に入れず)五代をあっさり完治させようとしたり、人間なのに強靱な回復をさせたりと氏の描写は独りよがりが過ぎる。

『これからは皆さんの意見を聞きつつ〜』と言ったが、それは何度目だ? 今回、一時投下スレの意見を無視した以上それは全く信用出来ない。口先だけの謝罪でも管理人は許すだろうが、それに甘えすぎだ。少なくても今のままでは通させるわけにはいかない。
大体、こちらは『その展開にした理由を説明しろ』と言っているのに何故説明しない?

このまま通した場合、氏は別のパートを自身にとって都合の良い設定を持ち出し対主催に都合の良い展開ばかりを書きかねない。期限超過も平然とやる、住民から書けるかと聞かれても『何言ってんの?』とガン無視、意見を求める素振りを見せながらそれを聞かずに我を通す。
それをこのまま容認する事は出来ない。

643二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/04/12(火) 19:40:42 ID:EUuPrTag
>>642
ならあんたは何者だ?
偉そうにズラズラと書いてさ

不満があるならお前が書けよ

644二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/04/12(火) 19:57:13 ID:kKykf4Bo
これ以上は議論スレに行くべきじゃない? ここは作品投下用のスレ

645二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/04/23(土) 20:07:22 ID:uPeKn9zs
誰か書いてくれないかなあ〜

646 ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:12:34 ID:p5Ban5pE
日高仁志、小野寺ユウスケ、橘朔也、北條透、東條悟、ン・ダグバ・ゼバの投下を開始します

647究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:13:22 ID:p5Ban5pE

『クウガの世界』には、二つの種族が存在していた。
普通の人間たるリントと、残虐な怪物の姿を持つ戦闘民族グロンギ。
邪悪なる種族達は、何の力を持たない人間を次々に殺す。
しかし、リントには守護者がいた。
希望の霊石を身につける、クウガと呼ばれる勇者。
仮面ライダークウガは、グロンギ達と戦った。
そして人々の笑顔を守り抜く。
だが、彼にも存在していた。
グロンギに対して抱いた、憎悪という名の黒き感情。
優しき思いを忘れて、それに身が溺れた時、凄まじき戦士となる。
戦うだけの生物兵器へと。
その記録を、古代リントは石碑に残した。
決して忘れてはいけない、忌まわしき伝説として。



――聖なる泉枯れ果てし時 凄まじき戦士雷の如く出で 太陽は闇に葬られん――






「はあっ!」

何度拳を振るったか。
何度蹴りを繰り出したか。
何度攻撃を放ったか。
それは誰にも、分からない。
仮面ライダークウガは、先程から何度も殴りつけていた。
先程自分達の前で現れた、純白のグロンギを。
ン・ダグバ・ゼバという名を持つ、究極の闇を。

「おりゃあっ!」

そしてまた、クウガはハイキックを放つ。
彼の右足は凄まじい勢いで、ダグバの胸板に激突。
しかし、微塵にも揺れなかった。

648究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:14:43 ID:p5Ban5pE

「どうしたの、もう一人のクウガ?」

その直後、疑問の声が聞こえる。
どこにでも聞けるような、何てこともない言葉。
クウガは構わず、拳を放った。
だが、それは届かない。
同じように放たれた、ダグバの拳がクウガに叩き込まれたため。

「うわあぁっ!」

鈍い音が響く。
凄まじい衝撃によって、クウガの身体は吹き飛ばされた。
ダグバからすれば、蚊でも振り払うかのような動作。
しかし、究極の闇である彼が放ったその一撃は、規格外の威力を誇る。
故に、マイティフォームの姿であるクウガにとっては、あまりにも重い攻撃だった。
先程から何度も、このやり取りが繰り返されている。
クウガは必死に攻撃を繰り出すが、ダグバはそれを軽く回避。
そして反撃の一撃が放たれ、ダメージを負わせる。
もはやそれは戦いと呼べる物ではない、一方的な暴力だった。

「があっ!」

そしてまた、クウガの身体に剛拳が叩き込まれる。
ダグバの一撃によって、彼の意識が一瞬だけ闇に包まれた。
衝撃に伴って、足元が蹌踉めく。
しかし、クウガは何とかして立ち上がった。
身体が貫かれたような激痛が、至る所で感じる。
それでも、彼は耐えていた。

(こんな奴に……みんなの笑顔を奪わせたりなんかしない! ここで倒れたら、誰が笑顔を守るんだ!)

クウガは――否、小野寺ユウスケは自身にそう言い聞かせる。
こんな狂った未確認なんかに、誰かの笑顔を壊されて欲しくない。
この世界には大ショッカーによって、みんなが連れてこられた。
士、海東、夏海ちゃん。
だから自分が倒れたりしたら、仲間達の笑顔も犠牲にされる。
そんなのは、絶対に嫌だ。
もしそうなったら、死んでしまった姐さんに顔向け出来ない。
クウガの脳裏に浮かぶ、女性の顔。
元の世界にいた頃、幾度となく未熟な自分をサポートしてくれた八代藍。

(世界中のみんなが、笑顔でいられるために戦う……姐さんに、そう約束しただろ!)
「はあああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

心と口。
二つから力強い言葉を発しながら、クウガは突貫する。
しかし今度は、一歩進むごとに大地が燃えていた。
クウガの腰に埋め込まれた希望の霊石、アマダムから電流が迸っている。
雷は、彼の右足に流れていた。
やがてクウガはダグバの目前にまで迫ると、勢いよく跳び上がる。
そのまま、封印エネルギーを宿らせた跳び蹴りを放った。

649究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:15:29 ID:p5Ban5pE

「うおおおぉぉぉりゃあぁぁぁぁぁっ!」

そしてクウガは咆吼を発しながら、渾身の力でマイティキックをダグバに叩き込む。
避ける暇も与えずに。
必殺の蹴りは容赦なく命中して、衝撃と共にダグバの体内へ封印エネルギーを流し込んだ。
マイティキックの反動を利用して、クウガは飛び上がった末に着地する。
しかし、ダグバは何事もなかったかのように、佇んでいた。
蹴りを打ち込まれた胸を、埃でも払うかのように撫でている。

「何っ……!?」
「もっと頑張ってよ。そして、僕を怖がらせてもっと僕を笑顔にしてよ」

クウガが驚愕する一方で、ダグバはあっさりと呟いた。
その声には、失望が込められている。
宿敵と同じ姿を持つ異世界の戦士。
期待はしたが、まるで答えられていない。
ある程度予想はしていたが、まさかこれほど弱いとは。

「はああぁぁぁっ!」

ダグバの失望を余所に、クウガは突撃した。
開いていた距離は一瞬で詰めて、拳を放つ。
一撃だけではなく、何度も放った。
二発、三発と。
時折手刀や蹴りも叩き込む。
しかし、相手は全く揺らがない。
故にダグバはそれを捌くどころか、避ける事すらしなかった。
これだけやっても、このクウガは蚊ほどの痛みしか与えてくれない。

「ふんっ!」

やがてダグバは苛立ちを覚え、拳を薙ぎ払う。
それによってクウガの身体は吹き飛び、背中から地面に倒れた。
痛みで動きが止まった彼の元に、ダグバは近づく。
そのまま、クウガの身体を踏みつけた。
一度だけはなく、繰り返して足を振り上げる。
そして、叩き付けた。

「ぐあっ!?」

何度目になるか分からない悲鳴が、仮面の下から漏れる。
数度にも渡る蹴りによって、意識が闇に沈みかけた。
それでもクウガは痛みに耐えて、身体を横に転がす。
するとダグバの踏みつけは、空振りに終わった。

「くっ…………!」

そしてクウガは蹌踉めきながらも、何とかして立ち上がる。
その様子は、如何にも満身創痍と呼べた。
あと一撃でも加えれば、すぐに崩れ落ちてしまうだろう。
これでは、面白くとも何ともない。
怖くなる事も、笑顔になる事も出来ない。
別にこのままクウガを潰しても良いかもしれないが、それではつまらない。

650究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:16:14 ID:p5Ban5pE

「…………ん?」

そんな中、ダグバの耳に音が聞こえる。
男の怒号と、銃声と、金属音と、爆発音。
いくつもの音に反応した彼は、そちらに振り向く。
そちらでは、自分達と同じように戦いが繰り広げられていた。
クウガの仲間二人と、突然現れた襲撃者達。
向こうはこちらとは違い、それなりに互角の戦いを繰り広げているようだ。
最もその力量は、クウガとほぼ同じだろうが。

(あれ、使えそうかな……?)

不意にダグバの中で、ある考えが芽生える。
それは、クウガを少しでも面白くさせる方法。
もっと怖くさせて、もっと笑顔になれるために。
かつて『ゴ』のグロンギの中に、クウガの怒りを大いに買った者がいた。
ゴ・ジャラジ・ダ。
奴はゲゲルの中で数多のリントを怯えさせた事で、クウガを怒らせたと聞いた。

(だったらこのクウガも、怒れば怖くなるのかな……?)

それは、純粋な好奇心。
子どもが自由研究で、未知の物を知ろうとするのと何ら変わりはない。
ダグバが抱いた新たな興味。
もしもあそこで戦っているリント達を潰せば、怖くなるのか。
ジャラジを殺したクウガのように、怒りで自分に立ち向かってくれるのか。
そう思ったダグバは、相手の方に振り向く。

「もう一人のクウガ、今から僕は『整理』をするよ」
「『整理』…………だと!? 何を言って――――」
「君が怖くなるのを、僕は楽しみにしてるからね」

クウガの疑問は、あっさりと遮られた。
それをしたダグバは背を向けて、勢いよく走り出す。
その先には響鬼やギャレン、そして知らない戦士達がいた。

「待てっ…………ぐっ!」

嫌な予感がしたクウガは、後を追おうとする。
しかしダグバによって与えられた度重なるダメージが、彼の動きを遮っていた。
本来なら変身を保っているのも、やっとの状態。
それでも彼は、身体に鞭を打ってダグバを追った。




651究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:17:19 ID:p5Ban5pE
太陽が地平線に沈みかけて、夕焼けの光が空を満たしている。
赤みが増した空には、微かな星が見えていた。
その下では、未だに戦いが続いている。
ある者は、鬼の力を活用して相手との距離を必死に詰めようとしていた。
ある者は、悪魔の力による銃で相手を打ち抜こうとしていた。
ある者は、恐怖を振り払いながら銃弾を放っていた。
ある者は、英雄の名を得るためにその剣で全てを切り裂こうとしていた。
四者様々の攻撃によって、住宅街の建物は次々と破壊されていく。
それだけでなく、標識や電柱柱も戦いの余波で砕かれていった。
人の気配が感じられないゴーストタウンは、もはや廃墟と呼ぶに相応しい。

「はあっ!」

そんな中、夕日に照らされた一本の剣が、空気を切り裂いた。
ドラグセイバーを握る漆黒の戦士、仮面ライダーリュウガは得物を振りかぶる。
対する仮面ライダーギャレンは、その手に持つ醒銃ギャレンラウザーを掲げ、受け止めた。
銃と剣が激突する事によって、火花と金属音が生じる。
目前にまで接近したギャレンとリュウガは、互いに睨み合った。
そして、互いに押し合って距離を取る。

(拙いな、こんな奴に時間を取られている場合じゃない……)

先程から戦いは、一進一退となっていた。
ギャレンが弾丸を放ったら、リュウガはそれを弾く。
リュウガの振るった剣を、ギャレンは避ける。
そして攻撃が数度体に当たる。
互いにその繰り返しで、決定打を踏み出せずにいた。
カードコンボを用いた必殺技を、使おうと思えば使える。
しかし、相手はまだ何か隠し球を持っている可能性も否定出来ない。
加えてクウガと響鬼も、現在戦闘状態に入っている。
まだ知らないリュウガの能力、そして二人の援護も考えると、無闇にカードを使えなかった。
ギャレンの中で、次第に焦りが生まれていく。
その最中。
突如として、リュウガの体が炎に包まれていった。

「何っ!?」
「うわああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

あまりにも唐突な出来事に、ギャレンは驚愕する。
一方で、リュウガの仮面から凄まじい絶叫が響いていた。
それに伴うかのように、鎧を包む火炎は勢いを増していく。

「ぎいゃああああぁぁぁっ!」

リュウガの鎧に、熱が進入。
それに耐え切れなくなり、地面に倒れこむ。
耳にするのも苦痛となるような、東條の断末魔が続いた。
一方でギャレンは、後ろに気配を感じて振り向く。
見ると、変身した小野寺と戦っていたはずの、白い怪物がそこに立っていた。
圧倒的威圧感と恐怖を放つ存在、ン・ダグバ・ゼバはその腕をリュウガに向けている。

652究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:18:37 ID:p5Ban5pE

「お前はっ!?」
「…………おかしいな」

ダグバは独りごちた。
そんな様子を見て、ギャレンは推測する。
いきなり出てきたリュウガを包んだ炎は、こいつの仕業だ。
恐らく、射程範囲など関係ない回避不能の攻撃。
温度はどのくらいかは知らないが、当たったら致命傷は避けられない。

「くっ……やってくれたね!」

ギャレンがダグバに戦慄する一方で、リュウガはドラグセイバーを支えに立ち上がっていた。
そのまま剣を構えるも、足元はふらついている。
ダグバの放った超自然発火能力が、体力を奪っていたのだ。
それにも関わらずしてリュウガは、ドラグセイバーを振りかぶりながら走り出す。

「はあぁぁぁっ!」

刃は夕日に照らされて、煌きを放ちながら突き進んだ。
ダグバの皮膚に到達するまで、あと少し。
しかし、ドラグセイバーは届かなかった。

「何っ!?」
「…………」

刃先が辿り着こうとした瞬間、ダグバは右手を掲げる。
そのまま、何事もなかったかのように受け止めたのだ。
たった五本の指で。
目の前の光景を疑うも、リュウガは振りほどこうとする。
しかし、ドラグセイバーは微塵にもダグバの手から動かない。
まるで金縛りでもかけられたかのような圧力。
このままでは埒が明かないとリュウガは判断して、一旦手を離そうとした。
だが、そんな事が許されるわけがない。
ダグバは、零距離からリュウガの頬に拳を叩き込んだ。
一度だけではなく、数秒の間に十発近くも。

「ぐあっ!?」

悲鳴を漏らす黒き騎士の視界が、傾いていく。
重いパンチを受けて、リュウガは勢いよく地面に叩きつけられた。
その衝撃によって、限界を迎える。
リュウガの鎧が砕け散って、東條悟の生身を晒したのだ。
超自然発火能力と、ダグバの拳。
規格外の威力を誇っていた連続攻撃に加えて、ギャレンとの戦いでダメージを負っている。
故に、その変身は解除されてしまった。

「くっ……ま、まだだ…………!」

東條は地面を這い蹲りながらも、手を伸ばす。
遠くに落ちてしまった、リュウガのカードデッキを掴むために。
そんな東條に、ダグバは腕を向けていた。

653究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:19:47 ID:p5Ban5pE

「やめろっ!」

本能的にギャレンは、危機を察する。
こいつを動かしてはならない。
そう思いながら、ギャレンラウザーの引き金を引いた。
しかし、もう間に合わない。
ギャレンラウザーから弾丸が放たれるのと同時に、東條の身体が燃え上がった。

「ああああああ――――――――ッ!」

絶叫が発せられるが、すぐに声にならなくなる。
超自然発火能力による炎が、一瞬で東條の声を飲み込んでいた。
彼の身体は黒く焦げてしまい、鼻が曲がるような嫌な匂いが漂う。
一方でギャレンの放った銃弾は、無意味ながらもようやくダグバに命中。
それを合図とするかのように、東條悟の身体は呆気なく崩壊した。

「貴様あああぁぁぁぁぁぁっ!」

ギャレンは喉の奥から叫ぶ。
他者を虫螻のように殺したダグバに、怒りを覚えて。
いくら相手が光夏海の命を奪った危険人物でも、許す事は出来ない。
彼はギャレンラウザーをカードホルダーを、展開した。

『DROP』
『FIRE』
『GEMINI』

ダイヤの2、バレットアルマジロ。
ダイヤの6、ファイアフライ。
ダイヤの9、ジェミニゼブラ。
取り出した三枚のラウズカードを、ギャレンラウザーの側面に通す。
封印されたアンデッド達の力が、ギャレンの中に流れていった。

『BURNING DIVIDE』
「おおおぉぉぉぉぉぉっ!」

二つの声が重なる。
ギャレンラウザーと、持ち主である仮面ライダーギャレンの咆吼が。
彼は勢いよく跳躍する。
それによって、両足にファイアフライの炎が纏われた。
空中でギャレンは宙返りをする。
すると彼は、ジェミニゼブラの効果によって二人に分裂。

「ッ!?」
「ああああああぁぁぁぁぁっ!」

突如、数が増えたギャレンを見て、流石のダグバも驚愕する。
その僅かな瞬間が、致命的な隙となった。
二人のギャレンは爪先で、炎を纏ったダグバに必殺の蹴りを叩き込む。
バーニングディバイドと呼ばれる仮面ライダーギャレンの、コンボ技を。
人を殺された怒りの込められた蹴りは、相手の巨体を容赦なく吹き飛ばす。
反動を利用して、ギャレンは着地。
そのまま、敵に振り向いた。
すると仮面の下で、彼は大きく目を見開く。

654究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:21:39 ID:p5Ban5pE

「ふふっ、痛いよ…………リント」

たった今吹き飛ばした筈のダグバが、立っていたのだ。
しかも、まるで何事もなかったかのように。
恐らく声と態度からして、笑っていると思われる。

(馬鹿な……まともに当たったはず! それなのに、何故――――!?)
「でも、まだ怖くないな」

一瞬の戦慄が、仇となった。
立ちすくむギャレンを目がけて、ダグバは走る。
そのまま、拳を振るった。

「ぐ…………はっ!」

ダグバの一撃は、ギャレンの鳩尾に勢いよく叩き込まれる。
彼の肺から溜まった酸素が、無理矢理吐き出された。
衝撃によって、彼の身体はもんどり打って地面に倒れる。
蹲って咳き込むギャレンにダグバは、先程東條を焼き切ったように腕を向けた。
そのまま力を込めて、超自然発火能力を使おうとする。
その直後だった。
突如、右肩に衝撃と熱を感じる。
まるで、何かが命中して爆発したようだった。

「……ん?」

しかしダグバには、大したダメージにはなっていない。
それでも彼は、振り向いた。
ここより少し離れた、グロンギのような異形の存在を。
硬質感溢れる皮膚は青く、右手からは巨大なライフルが伸びていた。
恐らくあの銃で自分を射抜いたのだろう、とダグバは思う。

「第0号…………!」

『Wの世界』に存在する次世代ガイアメモリの産物、トリガー・ドーパントに対して。





時は、少しだけ遡る。
仮面ライダー響鬼は駆け抜けていた。
突然襲撃してきた、トリガー・ドーパントを倒すために。
魔化魍のような異形の怪物は、ライフル銃から弾丸を放ち続ける。
響鬼は左右に上手く飛び、時折跳躍しながらそれを避けていた。
避けた弾丸は、周りの建物を次々と破壊していく。
恐らく、一発でも当たればただでは済まない。
故に、力任せに突っ込む事は出来なかった。

655究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:24:54 ID:p5Ban5pE

(参ったな……これじゃあ全然近づけないな)

響鬼は心中で、溜息を吐く。
先程から何度も距離を詰めようとしても、相手はそれを許さなかった。
弾丸は音撃棒で弾く事も出来たが、追いつくような数ではない。
ここはどうすればいいか。
思案を巡らせていた、その時。

「ああああああ――――――――ッ!」

鼓膜を貫くような悲鳴が、辺りに響いた。
それに反応して、響鬼とトリガー・ドーパントは振り向く。
見ると、一人の青年が凄まじい炎に包まれていた。
彼は一瞬で、焼失してしまう。
その近くでは、ダグバとギャレンが立っていた。

「あれはまさか…………第0号!?」

トリガー・ドーパントは、驚愕の声を漏らす。
すぐ近くに立つ白い怪物に、見覚えがあったため。
かつて日本全国を恐怖のどん底にまで突き落とした、未確認生命体第0号。
その力で三万人もの人間を虐殺した、最凶最悪の生命体。
第0号を見つけた事で、トリガー・ドーパントは瞬時に視線を切り替えた。
奴はアギトとは比べ物にならないほどの、危険な存在。
ここで野放しにしては、数年前の悲劇がまた繰り返される。
そう思ったトリガー・ドーパントは、ダグバを目がけて銃弾を放った。

「第0号…………!」

向こうは別の戦士に注目していたため、難なく命中。
だが、全く揺らいでいなかった。
それでもトリガー・ドーパントはライフル銃を構えて、弾丸を放ち続ける。
しかし当たるものの、ダメージを受けているようには見えなかった。

(第0号…………? あいつの事、知ってるのか?)

一方で響鬼は、その光景に疑問を抱いている。
青い異形は、白い怪物を見た途端に攻撃を仕掛けた。
先程まで襲っていた、自分の事を無視して。
まさか、同じ世界に生きる存在なのか。
それも友好的ではなく、互いに敵対する関係。
『第0号』と呼ばれていたのは、こっちの世界で鬼をコードネームで呼んでいたような物か。

(いや、そんなことはどうでもいいか。 ここは、俺も手伝った方が良いな)

響鬼は音撃棒烈火を、両手で構え直す。
今は彼を援護する事を、考えるべき。
あそこでライフルを撃ってくれなかったら、橘がどうなっていたことか。
相手は自分を襲ってきたが、少なくとも悪い人ではないかもしれない。
そう思いながら響鬼も、地面を蹴って走り出した。

656究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:25:46 ID:p5Ban5pE

「たあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!」

そして、勢いよく跳び上がる。
ダグバはトリガー・ドーパントに意識を向けていた為、その接近に気づかなかった。
響鬼は両腕を頭上に掲げて、音撃棒を叩き込む。
一度打たれる度に、豪快で清らかな音が鳴り響いた。
するとダグバは、ほんの少しだけ後退る。
奇しくもその場所に、トリガー・ドーパントの弾丸が命中した為。
敵の動きが止まった隙に、響鬼は振り向いた。

「あんた、ここは一時休戦といこう?」
「一体何のつもりですか?」
「あいつやばいんだろ? だったら、手伝うよ」

その言葉に、トリガー・ドーパントは呆気にとられた表情を浮かべる。
しかし、それはほんの一瞬。

「…………ええ、いいでしょう」
「そっか、サンキュ!」

トリガー・ドーパントは、響鬼の提案に頷いた。
相手の反応を見て、心中で笑みを浮かべる。
この鬼は、あの津上翔一や氷川誠と同じような単純な性格だ。
憎むべきアギトと手を組むのは、正直抵抗がある。
しかし、相手はあの第0号。
この強い力を使っても、勝てるかどうかは分からない。
もっとも、負けるつもりはないが。

(それに、上手く行けばこのアギトを始末出来るかもしれません……精々、頑張ってください)

これこそが、真意。
第0号との戦いに乗じて、このアギトを撃てばいい。
戦闘の流れを利用すればその隙が出来る筈だ。
トリガー・ドーパントの毒に侵された北條透は、笑みを浮かべる。
しかし、それは異形の仮面に隠されていた為、誰も気づく事は出来なかった。





銃弾が暴風雨の如く飛び交い、辺りを無差別に破壊する。
戦いはより一層、激しさを増していた。
ギャレンとトリガー・ドーパントは、弾丸を放つ。
響鬼は音撃棒を力強く振るう。
しかし、ダグバはそれら全てを軽く避けていた。
むしろ逆に、反撃の一撃を放っている。
響鬼には拳を、ギャレンには手刀を、トリガー・ドーパントには蹴りを。
それぞれ正確に、重い攻撃を放っていた。

657究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:26:36 ID:p5Ban5pE

「ぐあっ!」

トリガー・ドーパントの口から、苦痛の声が発せられる。
また一度、ダグバの一撃が叩き込まれた為。
彼の身体は宙を漂った末、瓦礫の山に叩き付けられた。
鈍い痛みを感じるが、トリガー・ドーパントは起きあがる。
普段の身体ならば、とっくに崩壊していたかもしれない。
しかしガイアメモリという、未知の力を手に入れたからこそ生きていられた。
それでも、第0号との距離は一向に埋まらない。
未だに、天秤は相手に傾いていた。

(分かっていましたが、まさかこれほどとは…………!)

トリガー・ドーパントは、ダグバに戦慄する。
いくらライフル銃を撃っても、全く効いていない。
むしろ、逆に反撃を受ける始末。
これでは鬼のアギトを、戦いの隙を伺って始末するどころではなかった。
かといって、諦めては光夏海の無念を晴らす事など、出来ない。
そんな一瞬の迷いが、致命的な隙となった。

「ッ!」

いつの間にかダグバが、腕を向けている。
トリガー・ドーパントは気づくが、もう遅い。
このまま、奴の力によって火だるまにされる――――
そう思った、瞬間だった。
ダグバとトリガー・ドーパントの間に、響鬼が入り込む。
彼は腹部に装着された、三つ巴の紋章が刻まれた音撃鼓・火炎鼓を手に取り、白い身体に叩き付ける。
すると火炎鼓は一気に巨大化し、ダグバの動きは止まる。
その隙に響鬼は、全身に力を込めて音撃棒を振るった。

「ハアアアァァァァァァァッ!」
――ダンッ。

ダグバの身体が、衝撃によって揺れる。
清めの音を耳にしながら、響鬼は音撃棒を叩き続ける。

「音撃打!」
――ドン、ドン、ドドン、ドドン、ドドン。
――ドン、ドン、ドドン、ドドン、ドドン。

一心不乱に、両腕を力強く振り続けた。
本来ならば魔化魍を倒すために用いられる『響鬼の世界』の力、音撃。
それは、異世界の怪人であるグロンギにも、効き目があった。

「爆裂強打の型ああああぁぁぁぁぁぁっ!」
――ドドドン、ドドドン、ドドン、ドドン。
――ドドドン、ドドドン、ドドン、ドドン。

相手に反撃の暇を与えないよう、素早く振るう。
長きに渡る修行の末に、仮面ライダー響鬼が会得した音撃の一種。
火炎連打の型の派生技である、音撃打・爆裂強打の型。
一度振るわれる度、清めの音が強く響いた。
ダグバには、それを受けることしか出来ない。
誰もが、そう思っていた。
たった一人を除いて。

658究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:27:45 ID:p5Ban5pE

「ハアッ!」

やがて響鬼は、最後の一撃を打ち込む。
それは今まで放った中で、一番強い攻撃だった。
音撃打・爆裂強打の型による衝撃で、ダグバは吹き飛ばされる。
皮肉にもそれが、拘束が振り解かれる原因となった。
しかし、誰一人として気を抜いていない。
答えはあまりにも単純。
ダグバが、一瞬で起き上がったからだ。

「馬鹿な…………まだ、立ち上がれ―――」

ギャレンの言葉は、最後まで紡がれる事はない。
彼を目がけて、ダグバが腕を向けたため。
するとギャレンの身体に、先程東條を焼き尽くした紅蓮の炎が襲いかかった。

「ウワアアアアァァァァァァァ!?」

BOARDの生み出したライダーシステムは、ある程度の熱から装着者を守ることが出来る。
しかし、ダグバが放つ超自然発火能力の前では、そんなのは紙に等しい。
故に、灼熱はギャレンの鎧を通り抜けて、橘に襲い掛かった。
彼は叫ぶが、炎が止むことはない。
むしろそれを嘲笑うかのように、勢いが増していた。

「橘ぁっ――――!?」

響鬼はギャレンの元に、駆けつけようとする。
しかしその瞬間、彼の身体も炎に覆われた。
響鬼紅の力を発揮するのに使う強き炎ではない、万物を破壊する残虐な炎。
凄まじき熱量が、彼に襲い掛かる。
振り解こうと足掻くも、全く吹き飛ばない。
すると、響鬼とギャレンの立つ場所が、大爆発を起こす。
轟音と共に、彼らの身体が吹き飛ばされていった。
その衝撃によって、二人の変身は解除されてしまい、日高仁志と橘朔也の生身を晒してしまう。

「ふふっ…………」

惨めなリントの姿に、ダグバは嘲笑した。
いくら頑張って技を繰り出しても、自分には全くダメージを与えられていない現実。
わざと必殺技を受けてやったというのに。
しかも、鬼のような戦士に変身していた男は、何故か全裸だった。
笑われて、当然の光景。
だが、今はそんなことどうでもいい。
ダグバは残るトリガー・ドーパントにも、腕を向ける。
そのまま、超自然発火能力を放とうとした。

「はあああああああああぁぁぁぁっ!」

刹那。
この場にいる全員の鼓膜を刺激するような、咆吼が聞こえる。
すると、ダグバは見つけた。
トリガー・ドーパントを後ろから飛び越えて、右足を向けているクウガを。
灼熱を纏った蹴り、マイティキックはダグバの胸に叩き込まれた。
唐突な一撃を受けて、その身体は微かに蹌踉めく。
しかし、それだけ。
致命傷と呼ぶにはあまりにも遠い、ダメージだった。

659究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:28:21 ID:p5Ban5pE

「……なんだ、まだ怖くなってないの? クウガ」
「お前ッ…………!」

溜息を重ねたダグバの呟きを、クウガは聞いていない。
彼の関心は、別の方に向いていた。
ダグバと名乗った怪人の犠牲にされた、名も知らぬ青年。
そして、倒れてしまったヒビキと橘。
奴は自身の笑顔のために、たくさんの犠牲を出そうとしている。
そして自分が止まっていたせいで、こうなってしまった。

「こうまでしてあげたのに、何で怖くならないのかな? 早くしてよ」
「ふざけるなっ!」

二つの事実とダグバの身勝手な言葉に、クウガは怒鳴る。
そのまま、彼は殴りつけた。
しかし、ダグバはそれを呆気なく受け止める。
そこから反撃の一撃をクウガの頬に叩き込んだ。
衝撃によって、彼は後退る。
されどクウガは、瞬時に立て直した。

「はあっ!」

そしてまた、彼はダグバを殴る。
一度だけでなく、何度も。
その度に、拳に込める力が増していった。
憎しみという、負の感情によって。
クウガは拳を振るう度に、心の奥底から沸き上がっていた。
するとベルトに埋め込まれた、アマダムより電流が流れ出す。
されどダグバは、微塵にも揺るがない。
やがてクウガの脳裏に、ある光景が浮かび上がった。





――アークルが、警告を伝えている。


一切の光が差し込まない、究極の闇。
その中に佇むのは、凄まじき戦士。
世界全てに存在する万物を、一瞬で無にする力を持っていた。
辺りの闇と同化してしまう程の漆黒に染まった、瞳と肉体。
唯一、額から伸びた角だけが黄金に輝いていた。
凄まじき戦士は、腕を翳す。
すると、世界全てが一瞬の内に煉獄の炎に飲み込まれた。




660究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:29:35 ID:p5Ban5pE
憎悪のまま、クウガは拳を振るう。
敵の頬に当たるが、全く動じていない。
ダグバも、殴り返してくる。
あまりの重さに意識が落ちそうになるも、必死に堪えた。
クウガが殴る度、ダグバは耐える。
ダグバが殴る度、クウガは耐える。

(まさか、第4号までここにいるとは……!)

先程から繰り広げられる、殴り合い。
あまりにも凄惨な光景を、トリガー・ドーパントは見守っていた。
突如現れた、赤き戦士。
それは未確認生命体から人類を守り続けてきた、異形の存在。
未確認生命体第4号のコードネームを持つ戦士だった。
人々から英雄的扱いを受けていた第4号。
しかし、トリガー・ドーパントはその出現に喜ぶ事など出来なかった。
第4号の攻撃をいくら受けても、第0号がまるで揺れていないため。
あれだけの攻撃を受けても尚、五体満足。
だが、絶望している暇など無かった。
このまま静観していては、間違いなく皆殺しにされる。
第0号はそれほどまでの力を、誇っていた。
恐らく奴からすれば、自分達など蛆虫に等しい。
そう思いながら、トリガー・ドーパントはライフルを再び構えた。
少しでも、第0号にダメージを与えるため。
そして、瞬時に弾丸を放った。

「ん…………?」

ガイアメモリの力によって生み出された銃弾は、ダグバに着弾。
それに安心することはせずに、何発も放った。
凄まじい爆音と共に、火花が飛び散る。
しかし、それだけ。
ダグバを吹き飛ばすどころか、揺らがせることすらも出来なかった。
それでもトリガー・ドーパントは必死に力を込めて、ライフル弾を撃つ。
第0号を排除できるのを信じて。
だが、現実は無常。
いくら攻撃をしたところで、何も変わらなかった。

「そういえば、君もいたね」

ダグバはトリガー・ドーパントに気づいて、あっさりと呟く。
嵐のように襲い掛かる弾丸も、彼には蚊を刺す程度の痛みすら与えることも出来ない。
そんな弱者の存在価値など、ただ一つ。
自分が笑顔になるための、生贄に他ならない。
度重なる衝撃を受けながらも、ダグバは行動に移す。
ライフル銃を撃ち続ける愚者に、腕を向けた。
すると、何かが燃えるような音が響く。
それは超自然発火能力が発動したことの証。
一瞬の内に、トリガー・ドーパントの身体が灼熱に包まれていったのだ。

661究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:30:26 ID:p5Ban5pE

「ぐああああぁぁぁぁぁっ!?」
「お前っ!?」

炎に包まれた青い怪人を見て、クウガは仮面の下で目を見開く。
そのまま彼は、ダグバに向かって走った。

「やめろおおおおおぉぉぉぉぉっ!」

激情のまま、クウガは殴る。
白い頬に激突するが、蹌踉めきもしない。
ダグバも、放たれた炎も止まる事は無かった。
それでもクウガは止まらない、止まれない。
これ以上何も壊させないために、彼は拳を振るった。
その最中、バリバリと音が聞こえる。
クウガのベルトに埋め込まれたアマダムから、電流が迸っていた。
一度殴る度に、その量は徐々に増していく。

(これって…………?)

拳を受けるダグバは、それに気づいた。
アマダムから吹き出す雷。
その量に伴って、重みを増していく一撃。
やはりこのクウガも、怒りで力を上昇させていた。
今はそれほどでもないが、確実に威力が上がっている。

(あと一押しかな)

不意にダグバは、視線を別の所に移した。
超自然発火能力を受けて、変身が解けた男達の方を。
ライフル銃を持った青い異形はおらず、変わりに一人のリントが倒れていた。
何らかの道具を使ってあの姿になったのだろうが、別にどうでもいい。
ダグバは、襲いかかる拳を受け止める。
そのまま勢いよく、クウガの身体を投げ飛ばした。

「ぐっ!」

宿敵は無様に倒れる。
ダグバはそれを見届ける事はせず、腕を向けた。
すぐ近くで倒れている、リント達の方へと。

「くっ…………拙い!」

ようやく立ち上がった橘は、それに気づく。
ダグバが腕を向けている理由。
それは、自分達を殺そうとしている事だ。
あの炎で、焼かれる。
痛みは全く引いていないが、冗談ではない。
橘はギャレンバックルを、腰に据える。
そしてレバーを引いた。

「何ッ!?」

しかし、何も起こらない。
橘の顔から、焦りが生まれる。
これは参加者全員に括り付けられた、首輪の効果。
如何なる場合でも、一度変身を解除してしまえばその後、二時間変身不能となる。
よって橘は、ギャレンに変身する事が出来ない。
そんな彼を見たダグバは、侮蔑の笑みを浮かべる。
そして、腕に力を込めた。

662究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:31:34 ID:p5Ban5pE





トリガー・ドーパントの変身が解けた北條透は、見てしまう。
橘と呼ばれた男が、第0号に立ち向かおうとしているのを。
一方で第0号は、こちらに腕を向けている。
自分達を焼き切るために。
先程使ったガイアメモリは、戦いで粉々となってしまっている。
だから、北條は走った。

(このままでは…………!)

論理的な行動ではない。
合理的な判断に基づいていない。
普段とは違い、本能で動いていた。
体内に浸食したガイアメモリの毒によって、正常な思考力が奪われたからなのか。
それとも、警察官としての理念がそうさせたのか。
誰にも、北條自身にも分からない。
だけど彼は動く。
そのまま、呆然と立ちつくす橘を突き飛ばした。
第0号の炎から守るために。





「ああああああああぁぁぁぁぁぁっ!?」

北條の身体は一瞬で、火炎に覆われる。
皮膚は一瞬で黒焦げとなって、そこから体内に進入。
絶叫を発する彼の元に、橘と服を着たヒビキは駆けつけた。
すぐにペットボトルから水を流して、上着で必死に火を払おうとする。
しかし、それだけでは少し勢いが衰えるしかなかった。

「あ……あ…………」

人が焼かれていく光景を、クウガは呆然と見つめる。
間に合わなかった。
自分の力が足りなかったせいで、人が焼かれた。
助けようとしたのに、命が奪われた。
ダグバの手によって。
ふと、クウガは下手人の方に振り向く。
奴は笑っていた。
まるで、ゲームをクリアした子どものように。
それを見た瞬間、クウガの中にある思いが芽生えた。
その感情を胸にして、彼は駆ける。

「うわああああぁぁぁぁぁぁっ!」

どす黒い怒り、憎悪が渦巻いていた。
誰も守れなかった、自分自身への怒り。
他者をゴミ屑のように潰す、ダグバへの怒り。
全てが負の感情に塗り潰されていった。
それを乗せた一撃は、容赦なくダグバに突き刺さる。

663究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:33:49 ID:p5Ban5pE

「ッ!?」

その重さは、今までより遙かに重い。
予想外の衝撃で、ダグバはほんの少しだけ退いてしまう。
直後、アマダムから更に電流が迸った。
それだけでなく今度は、膨大なる闇も渦巻いていく。

「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

赤き仮面より、咆吼が響いた。
感情の高ぶりを乗せて、稲妻は全身に走り出す。
頭部に、身体に、四肢に、角に。
その影響によって、クウガの全身が形を変えていき、黒く染まる。






――アークルが、警告を伝えている。


脳裏に浮かぶ光景。
この世に存在するあらゆる闇を、遙かに凌駕する究極の闇。
数多の命を、一瞬で塵にする黒き戦士。
究極の白と対極に位置する魔神。
古代リントの碑文に残された、一節。
心優しき戦士、クウガの理性が闇に飲み込まれし時、起こる伝説。
凄まじき戦士の力を得られる代償に、戦うだけの生物兵器となってしまう運命を強いられる。


されど、彼は力を望んだ。
目の前の怪物は、誰かの笑顔を奪おうとしている。
自分では、まだ奴を倒せない。
力が欲しい。
例えこの身がどうなろうとも、力を手に入れたい。
このままでは、倒す事が出来ない。
目の前の悪魔を倒すためなら、外道にでもなってみせる。
闇に飲み込まれようとも構わない。
後悔なんて、あるわけない。
だから、究極の力を貸してくれ!
神秘の霊石、アマダムよ!


そうして、小野寺ユウスケは大きく叫んだ――





「あっ…………!」

目の前で繰り広げられる光景に、ダグバは目を見開く。

664究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:34:37 ID:p5Ban5pE
先程クウガが、自分に一撃を与えた。
今までのとは比べ物にならない程、重い攻撃。
そして奴の身体は、闇に包まれた。
エネルギーは暴風雨の如く、自分の肌に突き刺さる。
暴走した力は、周囲のあらゆる物を震撼させた。
大気を、大地を、廃墟を。
その中心地に立つクウガの姿は、瞬く間に変わっていった。
黄金色に輝く角は四本に増え、四肢と肩から突起が飛び出す。
厚みを増した鎧の至る所に、筋が生成。
そして最後に、瞳が漆黒に染まった。


――聖なる泉枯れ果てし時 凄まじき戦士雷の如く出で 太陽は闇に葬られん――


「…………君も、なれたんだね」

ダグバは呟く。
その声には、喜びが込められていた。
目前に立つクウガから、圧倒的存在感と負の感情が放たれていたため。
憎悪、憤怒、悲哀、殺意、激憤、怨恨――――
言葉では言い表す事が出来ないほど、多くの感情が黒き瞳から感じられる。
アルティメットフォームの名を持つ凄まじき戦士となった、仮面ライダークウガから。

「究極の力を、持つ者に!」

言葉と共に、ダグバは腕を向ける。
クウガの身体は、一瞬で炎に包まれていった。
全ての物を焼き切り、今でさえ二つの命を奪った超自然発火能力。
されど、今のクウガには通用しない。
究極の力に対して、究極の炎をぶつけても何の意味も持たなかった。
クウガは、ただ前を進む。
憎しみに飲まれたまま、怨敵を潰すために。

「ガアアアアァァァァッッ!」

猛獣のような咆吼と共に、クウガは疾走。
距離がゼロとなった瞬間に、剛拳を振るった。
その一撃によってダグバの身体は、容赦なく吹き飛んでいく。
衝撃によって、口から夥しい量の血液が飛び出した。
呻き声を漏らしながらも、すぐに立ち上がる。
そして頬を撫でて、自身の血を見つめた。

「ハハハッ…………ハハハハハハハハッ!」

ダグバはすぐに、クウガの方へ向く。
同じように、勢いよく拳を放った。
今までとは違って、正真正銘本気の一撃。
容赦なく、クウガに突き刺さった。
しかし、ほんの少し血が噴き出すだけ。
既に満身創痍であるはずなのに、まだ動けていた。
傷など構いもせずに、クウガは殴りかかる。

665究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:35:32 ID:p5Ban5pE

「アアアアアアアアァァァァァァッ!」
「ハハハハハハハハァァァァァァッ!」

激情に駆られた咆吼と、凶器に駆られた笑い声。
それらを乗せた、クウガとダグバの拳は激突し続けていた。
一度ぶつかる度に、血が飛び散る。
鎧を貫き、肉体にダメージを与えていた。
されど、クウガの方は次第に勢いが衰えていく。
いくら究極の形態に進化したからといって、それまでに蓄積されたダメージは深い。
故に、攻撃の速度を奪っていた。

(怖い……怖いよ、クウガ!)

一方で、ダグバは感情を高ぶらせている。
凄まじい程のプレッシャーを放つ、もう一人のクウガ。
奴から殴られる度に、どんどん血が流れる。
命が確実に、削られた。
殺すか殺されるか分からない、命のやり取り。
これこそが戦いだ。
今まではただ弱い命を、ただ無意味に潰し続けてただけ。
しかし今は違う。
恐怖という至高の感覚を、リント達は教えてくれた。
ならばそれを求めて、それを超える。
これこそが、真の理想郷だ。

「ダアアアアァァァァッ!」
「ハアアアアァァァァッ!」

何度目になるのか分からない、拳の激突。
それは、唐突に終わりを告げた。
互いが互いの頬を、勢いよく殴りつけたため。
クロスカウンターの衝撃によって、クウガとダグバは同時に倒れた。

「ふふふっ…………ふふふふふっ」

そんな中で、笑い声が聞こえる。
先に立ち上がったのは、ダグバの方からだった。
彼は己の痛みを認識しながら、喜びを感じている。
やはりこのクウガも、自分を笑顔にしてくれた。
ならば、これからも笑顔にしてくれるかもしれない。
もっともっと、そしてずっと――――
怖い思いをさせてくれて、笑顔にしてくれるはず。

「どうしてかな……?」

だから、ダグバは納得が出来なかった。

「何で、そんな所で倒れてるの?」

そう、クウガが倒れたまま起きてこないのに対して。
奴の姿は究極の力を持つ者ではなくて、ただのリント。
小野寺ユウスケの、生身だった。

666究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:37:49 ID:p5Ban5pE
変身を解除された彼には、起き上がる気配が見られない。
理由は、架せられたルールによる時間切れ。
上位形態に変身した場合に、変身出来る時間が半減してしまう制限で、タイムリミットが来てしまった事。
加えてアルティメットフォームになるまで、深いダメージを負ってしまう。
よって彼の変身は解除されてしまった。
しかしそんな事情など、ダグバは知るわけがない。
ただ、クウガとゲゲルの続きをやりたかった。
だから痛みを無視して歩き続ける。
けれど、その最中に気づいた。
視界の外から、何か音が聞こえてくるのに。

「ん…………?」

ダグバは振り向く。
見ると、巨大な鉄の塊が、自分を目がけて突き進んでいた。
反射的に彼は、横に飛んで回避。
襲いかかった物の正体をダグバは知る。
リントが扱う乗り物の一つ、車と呼ばれる物だった。





「おいっ、しっかりしろ! おいっ!」

橘は、ほぼ黒こげとなった北條の身体を揺さ振る。
ヒビキと一緒に消火作業を行ったおかげで、炎は何とか消えた。
しかし呼吸は低く、いつ死んでもおかしくない状態に見える。
人体に対する火傷は、通常40%を超えると死の危険に達してしまう。
彼の身体は、それを圧倒的に超えていた。

「ダメだ! こっちはもう使い物にならない!」

ヒビキの顔が、絶望に染まる。
北條が持っていた救急箱。
戦いに巻き込まれてしまったのか、中身が既に使い物にならなくなっていた。
唯一、命を救う事が出来たかもしれない道具。
それも壊れてしまった以上、希望は無いに等しかった。

「逃げて……くださ……い」

そんな中。
震えながらも、北條の口から声が聞こえる。

「奴は…………第0号………我々では……到底、太刀打ち出来る………相手では………ありま、せん」
「よせっ! それ以上喋るな!」

ヒビキは制止の言葉を発した。
第0号。
恐らくダグバと名乗った奴の事かもしれないが、そんなことはどうでもよかった。
こんな状態で喋らせる訳にはいかない。
どうみても助からないのは分かっているが、橘の本能がそうさせていた。

667究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:39:23 ID:p5Ban5pE

「小沢……澄子という方に会えたら、伝えて……ください……第0号が…………ここにいる、と」
「分かった! 分かったから、あんたはもう喋るな!」

北條はそう伝えると、満足したのか笑みを浮かべる。
しだいに、彼の全身から力が抜けていき、瞳が閉じられていった。
皮膚は焼け焦げてしまい、もう痛みの感覚すらない。
そのはずなのに、誰かが自分の事を必死に揺さ振っているのを感じる。
普段なら鬱陶しく感じるはずの物が、悪くないと思えた。

(門矢さん……申し訳ありません。どうやら、私は貴方の事を見捨てる事になりそうです)

北條の脳裏に浮かぶ、人物。
この世界に連れてこられてから、自分の事を助けた門矢士という青年。
妙に自信家で、態度が大きかった。
正直な所、あまり好感が持てる人物ではない。
しかし、それでも――――

(私がいなくても、どうかご無事でいてください…………)

こんな戦いの犠牲になる事だけは、嫌だった。
今更になって、あんな状態の彼を放置した事に、後悔を覚える。
でも、もう遅い。
せめてこの思いだけでも、残したかった。
やがて北條透の意識は、闇の中に沈んでいく。
そのまま、二度と戻る事はなかった。





「おいっ! おいっ! …………くっ!」

もう動く事のない、北條の身体。
ヒビキと橘にとっては、名前も知らない相手だった。
しかしそれでも、助けたかった事に変わりはない。
彼がいなければ橘は、ダグバの犠牲となっていたのだから。

「まさか、小沢さんの知り合いだったなんて……!」

ヒビキは思わず、地面に拳を叩き付けた。
彼が最後に残した、小沢澄子という名前。
それが意味するのは、彼女と同じ世界で生きる住民だった。
人を守るための鬼なのに、守る事が出来なかった。
その事が、ヒビキの中でより一層、後悔の念が大きくなっていく。

「ヒビキ……あれを見ろ!」

その最中、彼の耳に声が響いた。
橘の言葉で、ヒビキは顔を上げる。
見ると、倒れているユウスケの元に、ダグバが向かっていた。

「小野寺ッ!」
「まずい……このままでは!」

橘は悩む。
このままでは、小野寺どころか自分達も殺されるに違いない。
先程、黒い形態になった途端、凄まじいほどの力を発揮してダグバと同等に戦った。
しかし蓄積されたダメージが原因なのか、敗北してしまう。
かといって小野寺を見捨てて逃げたり、自分がガイアメモリを使って戦った所で、殺される結末しか見えない。

668究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:41:06 ID:p5Ban5pE

「……あれは!?」

どうすればいいのか。
苦悩する橘の目に、ある物体が飛び込んでくる。
廃墟となった町の中に放置されていたのは、一台の巨大な車だった。
橘は知らないが、それは『カブトの世界』に存在する、機密組織が扱う乗り物。
ワームと戦うZECTが、現場に駆けつける際に乗る装甲車だった。
それを見つけた彼の行動は、一瞬で決まる。

「ヒビキ、あれに乗るぞ! 小野寺の方を頼む!」
「わかった!」

彼らは三人分のデイバッグを手に取り、すぐさま車の中に飛び込んだ。
幸いにも扉はあっさりと開いて、キーも刺さっている。
しかも、運転方法の説明書まで付いてあった。
だが、有り難みなど感じている場合ではない。
橘はすぐさま、アクセルペダルを踏んで装甲車を走らせた。
エンジンが唸る音と共に、車体は突き進む。
その行く先には、ダグバが立っていた。
相手は横に飛んで回避する。
チャンスが出来た。
故に、装甲車は一時停止する。

「小野寺ぁっ!」

その間に、ヒビキは扉を開けて、ユウスケの身体とデイバッグを抱えた。
勢いよく車内へ戻り、ドアを閉める。
それを見計らって、橘は再び装甲車を走らせた。
このまま逃げ切れるのを信じて。
そんな願いが通じたのか、幸いにも追撃が来る事はなかった。

(くっ……俺は、何をやっている!)

しかし、橘は喜ぶ事など出来ない。
目の前で、ダグバの手によって二人も殺されてしまうのを、許してしまったから。
不意に彼は、最愛の人である深沢小夜子の事を思い出してしまう。
あの時も、自分のせいで彼女を死なせてしまった。
しかも今度は、もっと酷い結果になっている。
それでも後悔する事は、許されなかった。
小沢澄子に彼の遺言を伝えるまでは、倒れるわけにいかない。

「ヒビキ、予定変更だ……今からE−4地点の病院に向かって、小野寺を治療するぞ」
「わかった……」

橘とヒビキは声をかけ合う。
しかし、それに力はほとんどなく、憔悴しきっていたようだった。
肉体と精神。その両方が疲労していたため、当然の結果だ。
今やるべき事は、病院に向かって怪我の治療する事。
そして友好的な参加者と出会ったら、ダグバの危険性を伝える事だった。

669究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:47:18 ID:p5Ban5pE

(小沢さんに、何て言ったら良いんだろうな……)

気絶したユウスケを見守りながら、ヒビキは考える。
今ここにいる彼も心配だったが、遠くに離れた彼女はどうしているのか。
津上翔一と合流出来る可能性があり、城戸真司が一緒にいるとはいえ、安心は出来ない。
ダグバのような化け物が、他にいる可能性が高いからだ。
それでも自分に出来る事は、三人の無事を祈る事。
これ以外に、今は何もなかった。


【1日目 夕方】
【G-5 道路】

【全体事項】
※この三人は現在、ZECTの装甲車@仮面ライダーカブトに乗っています。
※これから、E−5地点の病院に向かう予定です

【日高仁志@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】本編第41話終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、全身に中程度の火傷、罪悪感、仮面ライダー響鬼に二時間変身不可
【装備】変身音叉・音角@仮面ライダー響鬼
【道具】支給品一式、着替え(残り1着)
【思考・状況】
1:今は病院に行って、怪我を治す。
2:打倒大ショッカー
3:殺し合いはさせない
4:大ショッカー、ガイアメモリを知る世界、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触
5:俺がしっかりしないと……
6:小沢さんに会ったら、北條(名前を知らない)からの遺言を伝える。
【備考】
※アギトの世界についての基本的な情報を得ました。アギト世界での『第四号』関連の情報を得ました。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※ガイアメモリは自分にも支給されていたが、知らない間にどこかに落としてしまったと勘違いしています。



【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、気絶中、ダグバへの激しい怒りと憎しみ、仮面ライダークウガに二時間変身不可
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式、アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ガイアメモリ(スカル)@仮面ライダーW、おやっさんの4号スクラップ@仮面ライダークウガ 、不明支給品×2(確認済み)
【思考・状況】
1:………………(気絶中)
2:海堂直也は、現状では信じている。
3:殺し合いには絶対に乗らない
4:もう1人のクウガか…………
【備考】
※デイバッグの中身は確認しました。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※おやっさんの4号スクラップは、未確認生命体第41号を倒したときの記事が入っていますが、他にも何かあるかもしれません(具体的には、後続の書き手さんにお任せします)
※カードセットの中身はカメンライド ライオトルーパー、アタックライド インビジブル、イリュージョン、ギガントです
※ライオトルーパーとイリュージョンはディエンド用です。
※インビジブルとギガントはディケイド用のカードですが激情態にならなければ使用できません。
※アルティメットフォームに変身出来るようになりました。

【橘朔也@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、全身に中程度の火傷、罪悪感、仮面ライダーギャレンに二時間変身不可、装甲車を運転中。
【装備】ギャレンバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(ダイヤA〜6、9、J)@仮面ライダー剣、ガイアメモリ(ライアー)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×3、ゼクトルーパースーツ&ヘルメット(マシンガンブレードはついてません)@仮面ライダーカブト、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣、ファイズポインター&カイザポインター@仮面ライダー555、ザビーブレス@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
1:今は病院に行って、怪我を治す。
2:とにかく首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間と接触する。
3:殺し合いで勝たなければ自分たちの世界が滅びる……。
【備考】
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※北條のデイバッグの中身は、まだ確認していません。

670究極の目覚め ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:48:35 ID:p5Ban5pE





「ふふっ、逃げられちゃったか……」

誰もいなくなったG−5地点で、ダグバはたった一人で呟く。
突然、自分に襲いかかった巨大な車。
恐らく、クウガの仲間達が乗ってたのだろう。
究極の闇を邪魔した愚か者達に苛立ちを覚えて、すぐさま焼き切ろうとした。
しかしその直後に、本来の姿からリントを模した姿へと急に変わる。
だから超自然発火能力を、使う事が出来なかった。
再びグロンギの姿になろうとしても、何も変わらない。
ダグバは知らないが、それは首輪の効果。
仮面ライダー及びそれに敵対する怪人が力を発揮出来るのは、十分間のみ。
制限時間が過ぎたせいで、変身が解けてしまったのだ。
加えて、超自然発火能力の範囲も、制限によって通常より狭い。
故に、一度に一人を飲み込むしかできなかった。

「まあいいよ、とっても怖かったから…………」

しかし、ダグバはそれに大して気を向けていない。
充分な程の恐怖に、浸る事が出来たため。
今はほんの少ししか経験出来なかったが、次はもっと長く味わえるかもしれない。
そんな期待を込めながら、彼は道に落ちていたカードデッキを拾う。
ダグバにとって名前も知らない男、東條悟が使っていた仮面ライダーリュウガの力が封印されているアイテム。
それが今、絶大なる恐怖をその身に潜めながら、絶大なる恐怖を求める魔王の元へと渡った。

「次はもっと、怖くなって僕を楽しませてね」

ダグバはもう一つ、自身にとって便利な道具を見つけている。
ZECTの装甲車と同じように、このエリアに放置されていた乗り物だった。
それはゴのグロンギの中でも、高い実力を誇る物がゲゲルで愛用していたバイク。
先端が歪な形状をしている、硬質感溢れるモンスターマシン。
バギブソンに、ダグバは跨っていた。

「もう一人のクウガ…………」

永久凍土の如く冷たい笑顔を、王は浮かべる。
その呟きは、バギブソンのエンジン音とタイヤの回転音に、かき消された。


【1日目 夕方】
【G-5 平原】


【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後以降
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、恐怖(中)、怪人態に二時間変身不可
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW、カードデッキ(リュウガ)
【道具】支給品一式、バギブソン@仮面ライダークウガ
【思考・状況】
1:もう1人のクウガとの戦いを、また楽しみたい。
2:恐怖をもっと味わいたい。楽しみたい。
3:ガドルやリントの戦士達が恐怖をもたらしてくれる事を期待。
【備考】
※ガイアドライバーを使って変身しているため、メモリの副作用がありません。
※制限によって、超自然発火能力の範囲が狭くなっています。


【北條透@仮面ライダーアギト 死亡】
【東條悟@仮面ライダー龍騎 死亡】
 残り44人


【全体事項】
※G−5エリア 市街地が戦いの余波によって、ほぼ廃墟となりました。
救急箱@現実、T2ガイアメモリ(トリガー)@仮面ライダーWが破壊されました。

671 ◆LuuKRM2PEg:2011/04/28(木) 22:49:13 ID:p5Ban5pE
以上で投下終了です
矛盾点などがありましたら、ご指摘をお願いします

672二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/04/28(木) 23:13:41 ID:t8Hs0VpE
ダグバは強いなあ。
自然発火能力怖すぎ。

自分は良いと思いますよ

673二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/04/28(木) 23:49:38 ID:cRMxto5Y
投下乙です。

グロンギの王らしく殺戮をやらかしましたなぁ。
そのお陰でユウスケを究極の闇にさせて。恐ろしや。

そしてマーダー2人…
1人は無謀に立ち向かい、1人は生身を晒しているダディを庇ったりと
同じ死に方でありましたが最期は明暗が分かれましたな。

674二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/04/29(金) 00:03:17 ID:kMBF2WV.
投下乙です。

予約の段階でマーダー側3人ファイヤー対主催側3人崩壊と思ったらダグバ無双……で、小野寺が凄まじき戦士化……五代じゃないから黒目でも仕方ない。
終わってみれば退場したのは東條と北條……ってどっちもマーダー側……まぁ、北條は危険対主催と考えれば実質マーダー1人、対主催1人退場、残り3人もボロボロだから問題ないのか。
何とか助かった3人は病院……ってそっちには名護組あるいは士&矢車がいるなぁ、誰に遭遇するかでまた一悶着あるかもなぁ。(というか流石にこの3人はタワーには行かない……よね?)

しかし東條……もっと暴れるかと思いきやダグバに消し炭にされるだけで英雄がどうこう言う事もなく……無惨や……一方の北條は何とか言葉を託せたのに……(でも小沢さん、北條が死んでもそこまで気にしない様な気がする)

……しかしダグバもゴオマも頑張るなぁ、グロンギ怖いッス……アレ、若干1名まだキルスコア無い人がいた様な(それなりに互角な戦いしているけど)

675二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/04/29(金) 00:35:12 ID:kMBF2WV.
ちょっと1点だけ気になった点があったので質問します。
東條が持っていた不明支給品2つはダグバの攻撃で一緒に破壊されたという解釈でよろしいのでしょうか?
装甲車とバギブソンはG-5に設置されていたものであって東條の支給品では無いと思いますし(これらが支給品だった場合、前の話の描写がおかしくなるから)
もしくは単純に書き漏らしでしょうか?(G-5に放置あるいはダグバが回収)

676二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/04/29(金) 06:28:25 ID:O3iR2SWk
すいません自分もほんっとうに細かい点なんですけどユウスケが本編で海東大樹のことを「海東」と呼んだ回数はとても少ないですし、
真司が怒ると「北岡さん」から「北岡」に言い方が変わるようにそれとほぼ変わらないと思うので、「海東さん」に変更したらどうでしょう。

677 ◆LuuKRM2PEg:2011/04/29(金) 07:29:29 ID:dbgMnmLo
ご指摘ありがとうございます
それでは、指摘を受けた点を収録時に修正及び描写を追加致します
(海東の呼び方、東條の不明支給品はダグバが回収という方面で)

678 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 13:44:54 ID:Wlpqlfk6
やっぱりダグバ怖いなぁ……。
北条さんの死に様は警察官らしく、胸にグッとくる物がありました。
やっぱりかっこいいよ北条さん。そしてユウスケはどうなるんだろう……。



これより小沢澄子、城戸真司、ズ・ゴオマ・グ、津上翔一分の投下を開始します。

679 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 13:48:10 ID:Wlpqlfk6
 目の前に広がる光景を見るや、背筋が凍りつく様な悪寒を覚えた。
 人の死の瞬間……或いは、人の死体を見たことが無い訳ではない。
 だけど、これはただの死体ではない。余りにも惨過ぎる、惨殺死体だ。
 遺体の頭蓋骨に当たる部分は、最早原形すら残していない。
 周囲にぶち撒けられている赤黒いモノは、この男の頭を形成していた器官。
 脳だったものとか、肉だったものとか、そんなものが滅茶苦茶になって飛散していた。
 例えどんな理由があったとしても、ここまで“壊す”必要性など無い筈だった。
 津上翔一の胸中で、目の前の現実に対しての義憤が渦を巻く。

「おい翔一、こいつはアギトの男を襲った奴だぞ」

 キバットが滅茶苦茶に潰された遺体の真上で羽ばたいた。
 翔一がこの遺体の存在に気付いたのは、病院を出てすぐの事だった。
 それはアギトの男が何処に向かって行ったのかを考えるよりも先に、目を引くもの。
 理不尽なまでの暴力の爪痕に、翔一は胸を震わせながら言った。

「何ですかそれ……一体どうして、その人がこんな目に!」
「その答え、お前はもう解ってるんじゃないのか、翔一?」

 キバットの声には、少なからず糾弾の色が含まれて居た。

「何故最初に出会った時、あの男が殺し合いに乗って居ると考えなかった」
「……まだあの人が殺し合いに乗ったと決まった訳じゃないじゃないですか!」
「これを見てもまだそう言えるのか?」

 翔一の視界に、徹底的に叩き潰された男の遺体が入る。
 キバットの言いたい事は解る。ただ暴走しているだけなら、こんな殺し方はしない。
 これを見るに、暴走というよりも明確な意思を持っての蹂躙と考える方が自然だ。
 頭だけがこうも執拗に潰されるなど、よっぽどの悪意がなければそうそうあり得ないからだ。
 だが、だとすればそれは自分の責でもある。
 殺された男が殺し合いに乗って居たからいい、なんて言い訳は通用しない。
 事実として、自分が助けた男がこの理不尽な殺戮を行った可能性が高いのだ。

「もしもあの人が人を殺す事を楽しんで居るのなら……その時は、俺があの人を止めてみせます」

 決意を胸に、拳を握り締める。
 それが、せめてもの責任の取り方だと思うから。
 だけど、まだそうと決まった訳ではないのはせめてもの救いか。
 出来る事なら、自分が助けた男は殺し合いに乗った化け物などではないと信じたい。
 ともすれば、全てが手遅れになる前に、何としてもあの男を見付けなければならないのだ。

「そうか。ならば俺はお前の覚悟を見届けさせて貰う」
「ありがとうございます。それじゃあ、急ぎましょうか……早くあの人を見付けないと!」

 遺体を放置するのは少し気が重たい、今は一刻を争う。
 殺し合いに乗って居るにせよ暴走中にせよ、早急に彼を見付けねばならない事に変わりはないのだ。
 病院を出て、市街地の街並みの中へ消えて行く翔一を追いかけるように、キバットもまた羽ばたくのだった。

680 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 13:48:51 ID:Wlpqlfk6
 




 精神なんかは、とっくに壊れていた。
 この身を突き動かすのは、本能的な破壊衝動と、妙に気持ちを高揚させる何か。
 そうなってしまっては、もう目の前にある獲物を喰らう事しか考えられない。





 肌が泡立つ様な、本能的な恐怖が目の前のライダーからは感じられた。
 そこに理性などは存在しない。ただ、障害となる者はその圧倒的な力で押し潰すのみ。
 それはまるで、無邪気な子供が虫や小動物を縊り殺すのにも似た、意志無き暴力の奔流。
 最早原形すら留めぬ程に破壊された男の遺体を見る限り、正真正銘、狂気の沙汰だと思う。
 城戸真司の知る範囲で語るなら、浅倉威なんかは奴に近いが……否、浅倉からはまだ、理性が感じられた。

「キヒ、キヒヒヒヒヒヒヒヒァッハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――」

 目の前のライダー(化け物)からは、最早それすらも感じられない。
 理性を持たぬ化け物程、人が本能的な恐怖心を掻き立てられるものはないのだ。

「何なんだよお前……なんでこんな事!」
「無駄よ、城戸君。こいつに私達の言葉は届かないわ」

 鮫の仮面と龍の仮面が、数瞬交差する。
 龍騎となった真司は、アビスとなった小沢の言葉に軽く頷く。
 こいつを放っておけば、きっともっと多くの人が危険に晒されるだろう。
 ぐちゃぐちゃに壊された目の前の遺体を見れば解る。こいつは人間じゃない。化け物だ。
 それがそのまま「だからこいつを殺してもいい」という結論になる訳ではないが、それでも戦う決意は出来た。

「小沢さん。俺、一つだけ思い出しましたよ」
「今話さなきゃいけない事かしら」
「はい、俺が戦う理由です」
「世界を、というより人々を守りたいからじゃないの?」
「いや、それはそうなんですけど……ちょっとだけ違ったっていうか」

 ここへ来てからは、ただ大ショッカーが許せなかった。
 人間同士で殺し合わせる為に、罪の無い男を見せしめに殺した奴らが許せなかった。
 当然それは今でも変わりないし、大ショッカーを許してやろうなんて気は更々ない。
 だが今は、精神的に、一つだけ変わった事がある。というよりも、思い出した決意がある。

「俺、最初はただ、目の前で誰かが死ぬのが嫌だったんだ。人を守りたいから、ライダーになったんだって」
「ええ、それは最初に会った時から聞いてるわよ」
「いやだから、それはそうですけど……ああああ、もうとにかくっ!」

 上手く言葉に出来ない自分がもどかしくて。
 それを紛らわす様に、一枚のカードをドラグバイザーに装填(ベント)した。

 ――SWORD VENT――

 具現化された龍の刀を握り締め、龍騎は眼前の蜘蛛のライダーを眇める。
 思い出したのだ。あんな滅茶苦茶になるまで壊されてしまった男の人を見て、最初にした決意を。
 真司がライダーとして戦う理由は、世界を守りたいからとか、そんな大仰な理由の為ではない。
 多くの人々を救える、小さい頃に憧れた「正義のヒーロー」になりたい訳でもない。
 ただこれ以上、目の前で傷つく人間を見たくなかった。
 誰かが傷付けられるのを、見過ごしたくなかった。
 せめてこの手の届く範囲の人間だけでもいい。
 弱い自分でも、この手で誰かを守り抜きたいと思ったのだ。
 そこに世界とか正義とか、そういう偉そうな大義名分なんかは存在しない。
 もっと言えば、そんな目に見えない物の為に戦える気もしない。

(俺……ライダー同士の戦いって、ずっと迷ってたけど……今なら戦えるよ)

 目の前の化け物(モンスター)を見逃せば、その悪意の矛先は次の参加者へと向けるだろう。
 それはきっと、遠い未来の話や、もしかしたらあり得るかも知れないIFの話なんかじゃない。
 奴は間違いなく、圧倒的な悪意の奔流となって、目の前で起こった悲劇を繰り返すだろう。
 そんな事は絶対に許せない。その想いを胸に、戦う決意は十分過ぎる程に固めた。
 そして、その心構えが出来た男は、強い。
 例え力は弱くとも、強いのだ。

681 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 13:49:51 ID:Wlpqlfk6
 
「よし……行くぞっ!!」
「――ヒヒヒヒハハハハハハハッ!」

 龍騎の青龍刀とレンゲルの錫杖が、音を立てて激突した。
 二度三度と、青龍刀の刃と錫杖の柄が激突して、お互いの技量を計り合う。
 龍騎が隙を見た場所へ刃を叩き込もうにも、それは全てレンゲルの錫杖に阻まれるのだ。
 幾度か金属音を響かせてお互いの獲物を激突させた後で、レンゲルの蹴りが龍騎の甲冑に叩き込まれた。
 龍騎がよろけて数歩後じさる。追撃をかけようと錫杖を振り上げたレンゲルの背部で、火花が弾けた。

「ヅギザ、ゴラゲバ(次は、お前か)」
「このっ!」

 仮面ライダーアビスが、鮫の牙を模した剣を振り下ろす。
 アビスのソードベントによって生成される武器、アビスセイバーだ。
 しかしながら、二度目の激突で鮫の牙は錫杖によって弾かれ、錫杖はそのままびゅんと音を立てて宙に弧を描く。
 緑の軌跡を描きながら迫るのは、展開されたクローバーの刃。
 それがアビスの胸部装甲を抉って、水色の身体を数歩後退させる。
 そのまま追撃に出ようとしたレンゲルであるが、そうは行かない。

「このっ、させるかよ!」

 龍騎がレンゲルの背中に飛びつき、そのまま押さえ付ける。
 その隙にアビスは体勢を立て直し、剣を構え直す。
 龍騎の拘束もいつまで続くか解らない。打撃を与えるなら、今しかない。
 仮面越しにアビスとアイコンタクトを交わせば、アビスはすぐに駆け出した。
 龍騎によって身動きが取れぬレンゲルへと、鮫の牙が急迫する。
 我武者羅に振り下ろされた攻撃は、レンゲルクロスを幾度となく斬り付けた。
 その度鮮やかな火花が舞うが、装甲に傷は付けられても、中身には届いていない様子。
 終始聞こえる不敵な笑い声は止む事無く、やがてレンゲルが龍騎の拘束を破った。

「ガゴヂパ、ゴパシザ(遊びは、終わりだ)」

 強引なやり方だった。
 何か新たな策を練るという訳でも無く、ただ力に任せて龍騎を振り解いたのだ。
 同時に強烈なレンゲルの肘打ちが龍騎の甲冑を叩いて、よろけた所へ錫杖が振り下ろされる。
 一撃目は大袈裟な火花を撒き散らし、グランメイルに灰色の傷跡を残した。
 二撃目は錫杖を振り上げると同時に、龍騎の脇腹を強かに殴った。
 三撃目に振り下ろされた一撃で、ようやく龍騎の青龍刀がそれを受け止めた。
 右手でグリップを握り締め、左手でサーベルの腹を支え、両手でレンゲルの圧力に耐える。
 力は拮抗しているかに見えたが、次第に龍騎が押されて行き、アスファルトに片膝を着いた。
 それでも頭上で構えたドラグセイバーは離さない。力を抜くこともしない。
 敵の攻撃は非常に重く、龍騎は身動きが取れない状況なのであった。

「城戸君から離れなさい!」

 一体二の戦闘で、片方にかまける事は、そのまま片方を放置する事に繋がる。
 龍騎との力比べの隙に懐まで飛び込んだアビスは、鮫の牙を思いきりレンゲルの背中へ叩き付けた。
 レンゲルの装甲を纏った男の、声にならない程の微かな呻きが漏れると同時、一瞬ではあるが力も弱まった。
 今が好機とばかりに、龍騎の脚が覆いかぶさる様に錫杖を構えていたレンゲルの胴を蹴り上げた。
 龍騎の前蹴りによって体勢を大幅に崩し、数歩よろめいた所へ、アビスの刃が迫る。
 振り下ろされた刃がレンゲルに触れるかと思われたが、その瞬間レンゲルは錫杖に一枚のカードを通した。

「あのカードは!」

 龍騎の仮面の下で、真司が叫ぶ。
 レンゲルが通したカードは、どう見ても当初自分に支給されていたカードと同規格だ。
 あのカードにはそんな意味があったのか、なんて思い知る前に、レンゲルに変化が起こった。

682 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 13:50:30 ID:Wlpqlfk6
 
 ――GEL――

 それはクラブの7、ゲルジェリーフィッシュのカードだった。
 宙に青白い海月の紋章が浮かび上がったかと思えば、それはレンゲルクロスへと吸い込まれてゆく。
 アビスの刃がレンゲルへと殺到する瞬間には、レンゲルの身体は無色透明の液体となって、空を舞っていた。
 一体何が起こったのか。それを理解するよりも早く、液状化したレンゲルは、龍騎とアビスを翻弄する。
 二人が如何に刃を振り下ろそうと、ゲルはそれをすり抜けるのだ。
 宙を舞う液が龍騎やアビスの装甲に触れる瞬間には、それは確かなダメージとなって二人を襲う。
 とんだチート能力があったものだと、真司は身を以て体感した。

「これじゃ攻撃も出来ないわ!」
「くそっ、斬って効かないなら!」

 カードにはカードだ。
 真司とて、元の世界ではカードを使うライダー同士で戦っていたのだ。
 それ故、力の応用については他の世界の住人よりも理解しているつもりだ。
 相手は液状化していて、剣や拳での肉弾攻撃は効かない。
 となれば、通用するのは恐らくエネルギー系の攻撃。
 ならば――!

 ――STRIKE VENT――

 左腕の龍召機甲によって、真司が選択した手札が読み上げられた。
 次いで、龍騎の右腕に、無双龍の頭部を模したドラグクローが形成される。
 腰を落とし、右腕をゆっくりと引いた。現れた無双龍が、龍騎の背後で華麗に舞う。
 そして拳を突き出すと同時、ドラグレッダーが吐き出した圧倒的な熱量が、液状化したレンゲルを焼き払った。
 これには流石のアビスも驚いたらしく、一歩身を引いて、焼かれるレンゲルを傍観する。

「成程、相手が液状なら、こっちは熱量で蒸発させてやればいいって訳。考えたわね、城戸君」
「え? あ、ああ、まぁ、俺もそんな感じになるとは思ってたんすよね!」
「……知らずにやったのね」

 アビスが軽く頭を支えながら、溜息と共にぽつりと呟いた。
 水は熱を加えれば蒸発する。それくらいは如何に馬鹿であろうとも知っている。
 だが真司は水だから蒸発させるとか、そういう考えを持ってこの手札を選んだ訳ではないのだが。
 やがて、ドラグブレスに焼かれたレンゲルが、堪らず原形を取り戻し、アスファルトに着地した。
 流石に消耗したのか、レンゲルは肩で息をしながら、

「――ハ、ハハ、ヒ、ヒヒィヒヒ、ヒヒヒッヒァハハッハハハハァッ!」

 しかし、声高らかに嗤う。
 蜘蛛の複眼がきらりと煌めいた。
 それはまさしく、手負いの野獣が見せる野生の輝き。
 ただ貪欲に、相手を狩る為に。ただ相手を殺す為に。
 一足跳びに龍騎の間合いまで飛び込んだレンゲルが、龍騎の首根っこを掴み上げた。
 刹那、圧倒的な息苦しさが、龍騎の装甲の中の真司を襲う。
 目眩さえする苦しさの中で、それでも龍騎はレンゲルを蹴る。
 されど、虫の息となった龍騎の悪足掻きがレンゲルに通用する訳が無い。
 霞む視界でレンゲルを見下ろせば、レンゲルの仮面には、三つ目の蜘蛛の顔が浮かび上がって居た。

683 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 13:51:36 ID:Wlpqlfk6
 
「ハハ、ハハハハハァハ、ゲェアハハハハハハッ!!」
「こいつっ……モンスター、かよっ……!」

 生物的な蜘蛛の表情は、まさしく獲物を狩る毒蜘蛛のようで。
 浮かび上がったスパイダーアンデッドの顔は、真司の目には確かなモンスターに見えた。
 すぐにアビスが龍騎を救おうと剣を片手に駆け付けるが……。
 レンゲルは掴み上げたままの龍騎の身体を、そのまま振り回し、ぶん投げた。
 ぶぉんと空を切り、龍騎の身体は鈍器となってアビスの身体に打ち付けられる。
 龍騎の身体がアビスの身体を巻き込んで、そのまま二人はアスファルトを無様に転がった。
 そして、追撃だ。体勢すら立て直していない二人を蹂躙するべく――

 ――STAB――

 レンゲルラウザーの切れ味を上げる、スタッブビーだ。
 蜂の紋章が錫杖に吸い込まれたかと思えば、三つ葉型の刃がしゃきんと音を立てて開いた。
 それを振り回しながら、レンゲルは数瞬の内に龍騎とアビスへ急迫。
 咄嗟に剣を構え直すアビスだったが、戦闘経験の未熟な小沢に完璧な対処など不可能。
 剣と錫杖、最初の一合でアビスの剣が掬い上げる様に弾かれて。
 二合目で、アビスのグランメイルを、三つ葉が切り裂いた。

 スタッブの威力は確かだった。
 ほんの一瞬の内に二度三度と装甲を斬り付けられたアビスは、水色の装甲に黒い傷跡を残しながら後退。
 身動きを取るだけの余裕すら与えられず、怒涛の勢いで連続攻撃を叩き込まれたアビスに蓄積したダメージは甚大だ。
 その場で思わず片膝を着いてしまったアビスに、錫杖による一撃が高らかな嗤いと共に迫る。

「させるかよ!」

 しかし、それを阻むべく、両者の間に割り込んだのは龍騎だ。
 アビスが連続攻撃を叩き込まれた一瞬の内に選択したカードは、ガードベント。
 龍の身体は、そのまま強固なる盾となって龍騎の両肩に装備されて居た。
 スタッブの一撃が、龍の盾と激突して、きぃん! と金属音を掻き鳴らす。
 錫杖を握った腕を引く際に、レンゲルは一瞬だけ無防備となった。
 そこに付け込む程の技術は持ち合わせてはいないが、それでも今は無我夢中。
 考えなしに叩き込んだ前蹴りは、レンゲルの装甲に減り込んで、数歩後退させるに至った。

「大丈夫ですか、小沢さん!」
「ええ、何とかね」

 既に小沢はアビスでは無くなって居た。
 ダメージの超過による変身解除。元の世界でも見受けられた現象だった。
 変身状態を保てなくなった小沢に肩を貸して立ち上がらせながら、龍騎は言う。

「俺が戦いますから、小沢さんは隠れてて下さい」
「無茶よ! 貴方一人で勝てる相手じゃないわ!」
「今の小沢さんが戦える相手でもないでしょ!」

 龍騎の怒声に、小沢は渋々ながらに後退した。
 それを確認するや、もう一度レンゲルに視線を向ける。
 殆どの手札を切ってしまった今、残ったカードはたったの二枚。
 アドベントと、ファイナルベント……どちらも、使い時を間違えれば勝ちは無くなるだろう。
 一方で、現在レンゲルが切る事が出来る手札がどれ程あるのかを、真司は知らない。
 もしかしたらまだまだ手数があるのかも知れないし、相手も龍騎と同じなのかも知れない。
 元々ライダー同士の戦いに否定的であった真司に、勝つ為の戦略性などは皆無だ。
 こんな時、どうすればいいのか思案するも、答えは一向に出ない。
 そうしてまごついている内に、先手を打ったのはレンゲルだった。
 高笑いと共に、龍騎目掛けて突貫を仕掛けて来たのだ。
 しかし――。

684 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 13:53:13 ID:Wlpqlfk6
 
「ゲェァハァハハァハハハハハアァァ――ハァッ?」

 気味の悪い嗤い声が、不意に疑問に歪んだ。
 何事かと頭を上げる龍騎の視界に入ったのは、レンゲルではなく、一人の男。
 黒のコートに身を包んだ、屈強な身体の男が、自分の両手を見詰めて戸惑っている様子だった。
 すぐにカシャンと音を立てて、レンゲルのベルトが表面の扉を閉鎖し、アスファルトに落下する。
 制限による強制的な変身解除だ。それはこの空間に設けられた、参加者を平等にする為の特殊ルール。
 何が何だか解らないが、とにかくこれはチャンスだ。今ならばこの男を無力化出来る。

「今ならこの人をっ――」
「城戸君! そいつは人じゃないわ……未確認よ!」
「へっ……?」

 龍騎の後方で、小沢が物陰から顔を出しながら叫んだ。
 小沢の話を聞く限りでは、未確認とは確か、既に全滅した異形の集団では無かったか。
 アンノウンが脅威とされている今、未確認生命体は既に過去の脅威である筈なのだ。
 何故こいつが未確認だと解ったのか。そして、何故未確認がここに居るのか。
 そんな疑問に答えもせずに、小沢は黒服の男にリボルバーの銃を向けた。
 デイバッグから取り出した、コルト・パイソンだ。

「ちょ、ちょっと小沢さん! あいつが未確認だって保証は!?」
「こいつが使った言語よ。あれは未確認生命体特有のものだし、何よりもこいつの姿は警察の資料で見覚えがある」

 これでほぼ確定だった。
 小沢は嘘を言う様な人間では無いという事くらい真司にも解る。
 その小沢がここまで言う以上、目の前の敵は未確認(モンスター)なのだろう。
 それならば、執拗異常に人の遺体を痛めつけるなどといった非人道的な行為にも説明が付く。
 なんて事はない。そもそもこいつには、最初から人間らしさとか、人間の常識や理性なんてものは無いのだ。
 そんなモンスターに引導を渡すべく、小沢がコルト・パイソンの引き金を引き絞った。

 ――SMILODON――

 瞬間、響き渡った野太い声(ガイアウィスパー)。
 放たれた神経断裂弾の一撃はしかし、野獣の爪によって阻まれた。
 変化したその姿を見て、誰が「仮面ライダー」なんて印象を抱こうものか。
 強靭に発達した、獣の怪人。血の様な赤い牙と、肥大化した腕が、気味悪く煌めく。
 先程まで蜘蛛のライダーだった男が変じたそれは、正真正銘の化け物(モンスター)だった。

685 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 13:54:28 ID:Wlpqlfk6
 




 まだ満足していない。
 目的は、自分が頂点に立つ事。
 それまで戦いをやめるつもりはないし、立ち止まるつもりもない。
 頭の中で響く声は、執拗に「戦え」と告げるが、そんな事は云われるまでも無かった。
 どうせこの高ぶりは、戦う事でしか押える事は出来ないのだから。





 今日という一日、既に何度も経験した事ではあるが、やはり誰も居ない市街地は寂しい。
 いつだって割と賑やかな生活を送って居た翔一にとっては、乾いた靴の音しか聞こえないこの空間は異質であった。
 だが、だからと言って立ち止まる訳でもなく。次の犠牲者が出る前に、何としてでもあのアギトの男を見付けねばならないのだ。
 翔一の足も、自然と走るか早歩きかのどちらかになっていた。
 病院から出て、何分くらいの時間が経過しただろう。
 恐らく、それ程の時間は経って居ない様に思う。
 頭を掻き毟りながら、翔一は呟いた。

「ああもう、どっちに行っちゃったかなぁ、あの人」
「こうなったのは自分の責任でもある。もう少し焦ったらどうだ」
「え、そう見えちゃいます……? これでも俺、結構焦ってるんだけどなぁ」
「悪いがお前が言う程焦っている様には見えないな」

 キバットの言葉に、翔一は歩を速めながらうーんと唸る。
 どうやら彼の目には、翔一は今それ程焦って居る様に見えないらしいのだ。
 これでも内心では結構焦って居る方だし、一刻も早く見付けたいと思っている。
 元来の明るさと軽妙さ故のあらぬ誤解だった。

「焦ったからって、俺がやるべき事を見失いやしません。やらなきゃいけない事は解ってるんですから」
「そうか……だとするなら、お前は俺が思っていたよりも強い人間なのだろうな」
「ええ。こう見えて俺、結構強いんですよ。アンノウンだって沢山やっつけましたし」
「……そういう強さの話をしてるんじゃない」
「えっ、そうなんですか?」
「お前と話していると疲れる」
「ははは、良く言われます」

 白い歯を見せて、にっかりと笑って見せる。
 本当は笑って居られる状況などではないが、だからと言って場の空気を暗くするつもりもなかった。
 戦う時が来れば、確固たる覚悟を持って戦うつもりだ。だが、そうでない時はせめて、笑顔で居たい。
 だから無口なキバットが相手であっても、自らのペースは乱さずに居たいと願うのであった。
 それが津上翔一という人間の在り方だし、そこに間違いがあるなんて思ってもいない。

686 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 13:55:02 ID:Wlpqlfk6
 
 不意に翔一が顔を上げた。
 元の世界に居た時は、アンノウンが行動を起こせばそれを察知する事が出来た。
 それと同じ能力がここでも使える訳ではないが、それでも起こった戦闘を察知する事は出来る。
 静謐である筈の市街地内で響き渡る、金属音の応酬と、気味の悪い狂った嗤い声。
 アギトであるが故か、いち早くそれを察知した翔一は、全速力で駆け出した。

「おい、どうした翔一!」
「誰かが戦ってます! もしかしたら、あのアギトの人かもしれません!」
「俺にはそんな音は聞こえなかったぞ」
「俺には解るんです。俺、これでもアギトなんで」
「ほう……それがお前が言っていた、アギトの持つ超能力とやらか」
「いや、今回はそういう訳じゃないですけど……まあ、そういう事でもいいです」

 たまたま翔一にだけ戦闘音が聞こえてしまったのだとしたら、単純な話だ。
 だが、仮にこれがアギトの超人的な五感によるものだとしたら、超能力と言っても差し支えない。
 翔一自身、アギトの力については完璧に理解している訳ではないのだから、説明が出来る訳も無かった。
 とりあえず、翔一にとってのアギトは「人が進化していく無限の可能性」なのである。
 それだけで十分だし、翔一だってそれ以上解明しようとも思わない。
 少なくとも自分にアギトの力があるのだから、自分は自分に出来る事をする。
 アギトの未来を否定する奴らが相手ならそいつらを倒すし、助けを求める声があれば助けに行く。
 アギトである以前に、それが津上翔一という人間だった。

 暫く走った所で、翔一は戦場となった市街地に辿り付いた。
 襲われて居るのは、翔一も良く知る小沢と、見知らぬ赤い戦士。
 襲っているのは、緑の戦士の変身を解いた――あのアギトの男だった。
 そして、考えるよりも先に両者の間に割り込もうとした翔一の耳朶を叩いたのは、小沢の言葉。

「城戸君! そいつは人じゃないわ……未確認よ!」

 それを聞いた途端、翔一の足が止まった。
 彼女が何を言っているのか、理解出来なかったのだ。
 だってそうだろう。あの人はアギトで、その力に苦しんでいる被害者では無かったのか。
 誰があの人を、既に滅んだ筈の未確認生命体だなどと思うだろう。
 アギトだと思っていた人が、肉食獣の化け物に変化したのを見るや、翔一は飛び出した。
 小沢と、赤い龍のアギト(?)と、野獣の未確認の間に割り込み、

「小沢さん! この人が未確認って、本当ですか!」
「津上君!? ええ、そいつは未確認生命体B-2号よ!」

 現状の確認をした。
 小沢が信頼に足る人間だと言う事は既に知って居るし、それを疑うつもりもない。
 つい今し方まで、自分がアギトだと思って助けていた男は、アギトではなかったのだ。
 それはかつて無作為に、或いは規則的なルールに従って、大勢の人間の命を奪った未確認生命体。
 アンノウンがアギトの未来を奪うのと同様に、未確認が誰かの未来を奪う事も、翔一は許せない。
 アギトだから殺すとか、ただのゲーム感覚だとか、そういう違いはあるが、その根底は変わらないのだ。
 理不尽な暴力で、平和に暮らしていた誰かの未来が奪われるのを、翔一は絶対に許すつもりはない。
 不意に、滅茶苦茶に破壊された赤いジャケットの男の遺体が視界に入った。

687 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 13:56:01 ID:Wlpqlfk6
 
「小沢さん、あの人は、まさか……」
「……B-2号に殺されたのよ。私達が来た時には、もう……」

 瞬間、翔一の表情が激変した。
 今までの明るい表情とは比べ物にならない程の険しい表情。
 背中を向けた小沢やキバットに、それが見られなかったのはせめてもの救いだろうか。
 何はともあれ、これで病院で死んだ人と、赤いジャケットの人が、奴に殺された事が発覚した。
 押し寄せて来るのは、激しい後悔。人を信じたい……そんな願いが生んだ悲劇。
 それを改めるつもりはないが、それでも自分の行動によって人が死んだのだ。
 重たい重圧が、翔一の心を押し潰さんと迫る。

「翔一」
「解ってる、キバット」

 その声に、今までの軽妙さなどは皆無だった。
 重たく鋭い声が、視線が、目の前の獣の未確認に向かって放たれる。
 翔一の腹部で発生した小さな金の竜巻は、そのまま金色のベルトへと変わった。
 オルタリングが、翔一の心に従い、変身の輝きを放つ。
 いつも通りのポーズを取った後、翔一は高らかに叫んだ。

「変身ッ!!!」

 ベルトとなったオルタリングの両脇を、勢いよく叩いた。
 黄金の輝きが、オルタフォースとなって翔一の身体を包み込む。
 赤い二つの複眼に、雄々しく聳える龍の冠。金の装甲に身を包んだ翔一は、アギトへと変じていた。
 金のアギトとなった翔一を見るや、未確認は狂った様な嗤いを上げる。

「ゴラゲロ、ボソグ! ボソギデジャス、クウガ!(お前も、殺す! 殺してやる、クウガ!)」
「こうなったのは俺の責任です。あいつは、俺が倒します!」

 出来る事なら、アギトとして救いたかった。
 だけど、奴が人の命を奪う未確認であるのなら、話は別だ。
 悔いる事は後でいくらでも出来る。今はまず、この未確認を倒さねばならない。
 それは、翔一が普段アンノウンと戦う事と何ら変わりのない、アギトと異形との戦いだった。

 数瞬ののち、スミロドンとアギトが、同時にアスファルトを蹴った。
 アギトとしてアンノウンと戦い抜いた翔一の技量は、先の二人とは比べ物にならない。
 その肉を引き裂こうと突き出された強靭な腕を片腕でいなし、カウンターの拳を叩き込む。
 しかしそれは、今や究極の片鱗を見た敵には蚊程のダメージすらも与えられない。
 その拳を減り込ませたまま、スミロドンの強烈な蹴りがアギトの胴を抉った。

688 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 13:57:09 ID:Wlpqlfk6
 
 アスファルトを転がりながら、これが未確認の力か、思う。
 まだ一合しかしていないが、こいつは並のアンノウンとはレベルが違う。
 それこそ、エルロードと同等くらいの力は持っているかもしれないと思う程。
 野獣は一瞬の動きで転がるアギトに急迫し、巨大な腕でその頭を掴み上げた。
 そのまま近場のビルの壁まで飛び付き、アギトの身体をコンクリートの壁に叩き付けた。
 圧倒的な怪力だった。どごん! と轟音が響いたかと思えば、コンクリートに亀裂が入る。
 強烈な物理ダメージを受けたアギトが、声にならない嗚咽を漏らした。

「ボンゾボゴ、ボソギデシャス、クウガッ!!(今度こそ、殺してやる、クウガッ!!)」
「ぐっ……このっ――」
「ゲェァァアハハハハハハハハハハァッ!!」

 巨大な腕に仮面ごと鷲掴みにされたアギトは、そのまま何度も頭を壁に叩き付けられる。
 未確認生命体の怪力で以て行われる暴力は、流石のアギトでも堪える。
 強烈な連続の打撃に、意識が飛びかけたその時だった。

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」

 咆哮が響いたかと思えば、赤い龍がスミロドンの身体を弾き飛ばしていた。
 その場でずるりと崩れ落ちたアギトの身体を、赤い龍のアギト(龍騎)が支えてくれる。
 何とか立ち上がったアギトは、龍騎に一言礼を告げた。

「ありがとうございます、貴方は?」
「ああ、俺は城戸真司、小沢さんの仲間だ! あんたこそ大丈夫かよ!」
「ええ……大丈夫、です。俺、もっとキツい戦いも……戦い抜いて来たんで」

 龍騎の腕から離れたアギトが、戦況を確認する。
 どうやらあの赤い龍は、龍騎の手によって呼び出された仲間らしい。
 空を自由に飛び回る赤龍には、流石のスミロドンもペースを乱されている様だった。
 得意の脚力で跳び回ろうにも、常に空を舞い、自由自在に尻尾の刀をぶつけて来る相手にはどうにも出来ない。
 次第にスミロドンも龍の動きに追い付く様になっているようだが、それでもこれはチャンスだ。

「城戸さん、貴方は小沢さんをお願いします」
「あんた一人であの化け物に勝てんのかよ!?」
「だから俺、こう見えても強いんですって。まだ見せて無い、とっておきの力もあるんですから」
「マジかよ……! あいつに勝てる保証は!?」
「マジです。勝てる保証は無い……っていうか、証明出来ませんけど、勝ちます」
「……わかったよ! 小沢さんは俺が守るから、あいつはあんたに任せていいんだな!?」
「はい、もう大船に乗ったつもりで居てくれて大丈夫です」

 相手を安心させようと、軽妙な口調で告げる。
 アギトの言葉を受けた龍騎は、わかったと告げて、小沢の元へと走り出した。
 これで後顧の憂いは断ち切った。あの人なら、多分小沢さんを守り抜いてくれる。
 この殺し合いの場では、力を持たない人間は何処に居たって危険なのだ。
 それを考えれば、あの人に守りを任せたのは、現状で最も安全を確保出来る手段である。
 すぐに体勢を立て直したアギトは、赤い龍と戦うスミロドンの元へと駆け出した。

689 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 13:59:19 ID:Wlpqlfk6
 
「ビダバ、クウガ!(来たか、クウガ!)」

 赤い龍の尻尾を回避し、そのまま飛び上がったスミロドンは、龍の背部にその巨大な爪を突き刺した。
 長い体躯を悶絶させながら、鼓膜を震わす絶叫を響かせる。そして、次の瞬間には龍の姿が掻き消えた。
 会場に掛けられたモンスターの時間制限を超過したのだ。当然、アギトにそれを知る術は無いが。
 何はともあれ、これで再びスミロドンとアギトの一対一の戦いであった。

「俺、貴方の事を信じたかったです。でも、貴方を放っておけば、またああやって人を殺す」
「ゴセグ、ドグギダ! ゴラゲロ、ボソギデジャスジョ!(それが、どうした! お前も、殺してやるよ!)」
「何言ってんのか、さっぱり分かんないですけど――」

 一瞬で間合いを詰めて来たスミロドンの爪を回避し、逆にアギトがアッパーを叩き込んだ。
 カウンターだ。スミロドンの強靭な腹筋に、アギトの拳がめきりと音を立てて減り込んだ。
 次いで、右脚のハイキックから左足のハイキック。連続でスミロドンの頭を蹴り飛ばし、スミロドンを吹っ飛ばす。
 しかしそんなもので大した致命傷を与えられはしない。すぐに立ち上がったスミロドンに対し、アギトは構えを取った。

「――お前が人の命を奪うっていうなら、俺がお前を倒す!」

 重く鋭い口調で、ハッキリとそう宣言した。
 そして同時に、翔一の中に残って居た「人に対する喋り方」も消え去った。
 もうこれ以上、病院で死んだ人や、あの赤いジャケットの人の様な犠牲を出さない為にも。
 津上翔一という一人の人間の中で、人としての義憤が、絶対的な怒りの炎となって燃え上る。
 こいつは、アンノウンよりも性質(タチ)の悪い悪魔だ。見境なしに人を殺す、最悪の敵だ。
 ならば自分は、アギトとして、人の命を守る為に戦って見せる。
 それがアギトとして覚醒した自分に課された使命でもあるのだ。

 それを再確認した時、心の炎はアギトの身体にまで燃え広がる。
 オルタリングの輝きが黄金から紫に変わると同時、全身を灼熱の炎が覆った。
 そして、それは一瞬。すぐに炎の中から、新たなアギトが現れた。
 当然、未確認にとっては初めて見る姿だ。目の前の敵が驚いているのが、手に取る様に解る。

 赤かったアギトの複眼は明るい黄色に。
 金色だった冠は赤く、常時クロスホーンを展開した状態に。
 上半身の筋肉組織は溶岩の如き熱量を放出しながら、更なる分厚さを体現する。
 燃え盛る業炎の姿。それが翔一が変じた、更なる進化を遂げたアギトの姿であった。
 それを見て何を思ったのか、スミロドンが狂った嗤いを上げながら飛び込んで来る。

 次の瞬間には、再び二人の拳が交差した。
 巨大な爪を持つ強靭な腕と、燃え盛る溶岩の如き腕が絡み合う。
 スミロドン放った拳を、アギトの腕が絡め取ったのだ。
 すぐにスミロドンは腕を引き、一瞬の内にもう一度爪を突き出す。
 その速度は並大抵ではない。スピードに劣るバーニングフォームでは完全に追い付くのは不可能だ。
 スミロドンの爪がアギトの溶岩の装甲に向けて振り下ろされ――その一撃を、まともに受ける。
 究極の一片を垣間見たスミロドンの力は相当。アギトの装甲を以てしても、翔一へのダメージは免れない。
 一瞬だけよろけそうになった足元を、それでも踏ん張って、アギトはその腕をがっしと掴んだ。

690 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 14:02:02 ID:Wlpqlfk6
 
「――ッ!?」

 これで逃げ道はない。絶好の好機だ――!
 右腕を思いきり振りかぶり、その赤の拳に、灼熱の炎を纏わせる。
 それは、どんなアンノウンをも打ち砕いて来た、必殺の炎の拳。
 燃え盛る灼熱が、ごごごと音を立てて、周囲の空気を熱くする。
 そして数瞬の後。

「ハアアッ!!!」

 炎の砲弾となったアギトの拳が、スミロドンの胸部を抉った。
 拳を叩き込んだ箇所から、膨大な熱量を持ったフレアが噴き出した。
 撒き散らされた灼熱の炎を浴びて、アギトの筋肉の亀裂から更に炎が溢れ出る。
 微動だにしないアギトをよそに、スミロドンは数メートル後方まで一気に吹っ飛ばされていた。





 ようやく宿敵と出会えたのだ。
 我らの一族を狩る、怨敵が目の前に居るのだ。
 ならばどうして止まっていられよう。
 例え変身する手段が尽きたとしても、倒すのだ。
 例えこの身が朽ち果ててでも、倒さねばならない敵がそこには居るのだ。

 ――或いは、“彼が”そんな事を考える様になった時点で、既に異常だったのかもしれない。





 戦いが終わっても、市街地から喧騒は消えなかった。
 金属音や、怒号が聞こえる訳ではない。ただ、異常な声だけが響いていた。
 男は黒いコートを脱ぎ棄てて、屈強な筋肉を夕日に晒す。
 足元で砕けた金色のガイアメモリを踏み躙って、獣の如き息遣いで唸った。
 剥き出しになった瞳は真っ直ぐに灼熱のアギトを捉え、

「キヒヒヒヒヒ、ヒヒハハハハ、キッヒッヒヒヒャハハハハ――」

 未確認は、人の姿を晒して尚も嗤い続けていた。
 その光景を見ているだけでも不愉快だと、小沢澄子は思う。
 やはり未確認生命体は、決して解り合う事のない、人類全体の明確な敵だ。
 奴は多分、まだ自分が戦いに敗れたなどとは思っていない。
 まだ戦える。まだ殺せる。そう言わんばかりに、嗤いを止めない。

「あ、あれっ!?」

 今度は、アギトだった。
 未確認の男と相対するアギトが、その変身を解除したのだ。
 否、解除したと言うよりも、身体を覆う灼熱が、勝手に抜け落ちたと言うべきか。
 人間としての姿を晒す津上翔一は、最早戦う力などは持たない一般人同然だ。
 狼狽した様子の津上翔一に、未確認の男は一足跳びに跳び掛かった。

「クウガッ! クウガァッ!」
「な……っ!?」

 飛び込んだ未確認の男が、翔一の首を掴んで、持ち上げる。
 その腕に力を込めて、ギリギリと締め上げ――翔一の命を奪わんとする。
 流石に戦闘直後、しかも完全な不意打ちとあっては、翔一も十全たる力は発揮できない。
 苦痛に悶えながら、何とか未確認の腕から逃れようと、何度も男の身体を蹴る。

691 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 14:03:00 ID:Wlpqlfk6
 
「城戸君!」
「駄目だ、俺ももう変身出来ない!」
「どうなってるの!?」

 見れば、城戸真司も既に龍騎の変身を解除“されていた”。
 強制的な変身解除は、この会場に設けられた時間制限によるもの。
 しかし、それを知らぬ小沢にとっては、不可解極まりない現象なのであった。
 何はともあれ、龍騎に変身出来ない真司などは、最早自分と同じ完全な一般人だ。
 恐らく肉弾戦でも一般人よりも圧倒的に強いであろう未確認には太刀打ち出来まい。
 ならばどうする。今まさに散らんとしている翔一を救う手段は――

「小沢さん!?」
「私が、奴を仕留めるわ」

 両手で拳銃を構え、狙いをしっかりと未確認へ定める。
 この銃に込められた神経断裂弾は、未確認生命体を排除する為のもの。
 全身に張り巡らされた神経を強制的に断裂させ、生命維持を不可能にする必殺の道具だ。
 残念ながらアンノウンにそれが通用する事は無かったが、目の前のあいつはアンノウンではない。
 ならばこの武器の使い時は、今を置いて他には無い筈だった。
 足腰を踏ん張らせ、寸分の違いなく狙いを付ける。
 そして。

 ――ばぁん。
 一発目の銃弾は、狙いを大きく逸れた。
 未確認の肩に命中したそれは、貫通までとは至らなかった。
 さが、肩口で止まった銃弾は、それでも未確認にとっては致命傷。
 よく見れば、今までの戦いの影響か、未確認の身体は元々傷だらけだ。
 本来ならば、戦い続ける事自体が難しいくらいの状況である筈なのだ。

「ウ、グゥッ……リントグッ……!(リントがッ……!)」

 呻きと共に呟いた言葉に、小沢は戦慄すら覚えた。
 剥き出しになった未確認の瞳が、ぎょろりとこちらを睨んだのだ。
 先程までの戦闘での圧倒的な力量差もあって、それは確かな恐怖心となって小沢の枷となる。
 だが、しかし。

「津上君、そいつから離れなさい!」
「うっ……は、はい!」

 腕の力が弱った未確認の身体を、翔一の爪先が思いきり蹴飛ばした。
 最早虫の息となった未確認は、堪らず翔一の首から手を離す。
 翔一は自らの首を押さえ、咳込みながらも小沢と合流した。
 そうだ。例え相手がどんなに恐ろしい敵であろうと、自分達は今まで恐れず立ち向かって来たのだ。
 同じ参加者とは言え、相手が未確認生命体で、見境なしに誰かを殺すのなら、小沢の中に容赦という言葉はあり得ない。
 スミロドンに防がれた一発と、今し方放った一発を考えるなら、残った弾丸は四発だ。
 四発あれば、確実に未確認を仕留める事が出来る筈だ。

 ――ばん、ばん、ばん。
 三発連続で放たれた弾丸は、それぞれが未確認の身体に命中する。
 実践的な拳銃の扱いとなれば、小沢は素人に等しい。
 それ故、発射の反動と、コルトパイソンの扱いにくさ故、上手く心臓を射る事は叶わない。
 一発は脇腹を掠め、二発目は胸部の筋肉に。三発目は鎖骨の周辺に命中した。
 命中した箇所から真っ赤な血を垂れ流しながらも、未確認は進む。
 こちらへ向かって、一歩、一歩と、歩みを止めはしない。

「キヒッ……ヒヒ、ハハハハ……リントグッ……ボソグ、ボソ、ギ……デ、ジャス!
 (リントがッ……殺す、殺、し……て、やる!)」

 真司はもう、未確認から視線を逸らしていた。
 翔一は、辛い現実を見る様に、顰めた表情で僅かに俯く。
 例え人を殺す化け物とは言え、敵が人の姿をしている以上は、そこに良心の呵責が生まれる。
 心優しい二人には、嬲り殺しも同然となった未確認生命体を、真っ直ぐに見る事が出来ないのだろう。
 人としては、それが普通だ。自分だって、不愉快極まりないのだから。
 だけど、警察官として、人間として、こいつを見逃す事は、もっと出来ない。
 だから。

「もう、いいでしょう」

 ――ばぁん。
 最後の一発は、未確認の腹部に命中した。
 一瞬だけ痙攣した未確認は、その場でばたりと倒れ込んだ。

692 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 14:05:23 ID:Wlpqlfk6
 




 全身から、血の気が引いて行く。
 これが死ぬ、という事なのだろうか。
 嫌だ。死にたくない。折角力を手に入れたのに――
 折角この力で、思う存分他者を蹂躙出来ると思ったのに。

「リントッ……クウガ……ッ!」

 ズ・ゴオマ・グが最後に見たのは三人のリントだった。
 忌々しく小賢しい技術力で、我らグロンギに楯突いたリントと。
 少し姿は違うが、我らグロンギを愚弄する宿敵、クウガに変じるリント。
 嗚呼、殺した。忌々しい奴らを、この手でブチ殺してやりたい。
 眼前の三人に向け、その腕をゆっくりと伸ばすが――
 伸ばされた腕は、誰にも届く事無く地へと堕ちた。

「ボソ、グ……クウ、ガ……ァ」

 狂人は、霞みゆく視界の中で、クウガの男へ呪詛の言葉を吐き出した。
 それが宿敵ではないという事を、ついぞ最後まで知る事はなく。
 それが、理性を失い狂い果てた男の最期だった。





 三人の間に、言葉は無かった。
 勝利したと言うのに、こんなにも気持ちが悪いのは初めてだと思う。
 津上翔一も、城戸真司も、小沢澄子も、各々に形容しがたい不快感を噛み締めて。
 それでも生き抜いて行かねばならないのが、バトルロワイアルの非情さ。
 小沢が未確認の男が持って居たデイバッグを拾い上げ、言った。

「行きましょう。結構派手に戦ったし、ここもすぐ誰かが来るかも知れないわ」
「小沢さん……俺、さっきは戦うって言ったけど、やっぱりこんなのって……」

 城戸真司は、今にも泣き出しそうな顔だった。
 怪人の姿をしたまま敵を倒せていたならばまだしも、あの男の最期は、あまりにも人らしかった。
 それも、最後の最期まで執着を見せつけ、憎しみに囚われたまま逝く姿など、人としては最悪の死に様だ。
 人ならざる未確認を最期の瞬間に人たらしめたのは、人だけが持つ、剥き出しにされた醜悪な感情だったのだから。
 それが真司という心優しい人間の心に、一体どれだけの影を落としたのかなど、小沢には計り知れない。
 だが、それでもここで立ち止まっている訳には行かないのだ。
 自分達は、生き残ってこの殺し合いを打破せねばならないのだから。

「今は無理に元気を出せとは言わないわ。でも、ここで立ち止まって居ても仕方ないのよ」

 デイバッグを抱えて歩き出した小沢の後を、二人の男が追随する。
 翔一は翔一で何か思う事があるらしく、嫌に元気が無い様子だった。
 これは立ち直るまで、何処かで休憩をした方がいいかもしれない。
 それに、出来るならここに居る三人の間での情報の共有も済ませておきたい。
 その為にも、まずは休める場所を探す事にしようと、小沢は判断したのだった。

693 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 14:06:10 ID:Wlpqlfk6
 

【1日目 夕方】
【E−2 住宅街】


【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 霧島とお好み焼を食べた後
【状態】健康、疲労(中)、罪悪感、仮面ライダー龍騎に二時間変身不可
【装備】龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:打倒大ショッカー、絶対に戦いを止める。
0:人の死による不快感
1:今は小沢に着いて行く
2:ヒビキが心配
3:蓮、霧島、北岡にアビスのことを伝える
4:何故変身が解除されたのか……?
【備考】
※支給品のトランプを使えるライダーが居る事に気付きました。
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解しています。
※アギトの世界について認識しました。


【小沢澄子@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終盤(第46話終了後以降)
【状態】健康、疲労(中)、不快感、仮面ライダーアビスに二時間変身不可
【装備】コルト・パイソン+神経断裂弾(弾数0)@仮面ライダークウガ、アビスのデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×4、トリガーメモリ@仮面ライダーW、ガルルセイバー(胸像モード)@仮面ライダーキバ
    レンゲルバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(クラブA〜10、ハート7〜K、スペードの7,8,10〜K)@仮面ライダー剣
    ゴオマの不明支給品0〜1、三原の不明支給品(0〜1)
【思考・状況】
基本行動方針:打倒大ショッカー、殺し合いを止める。
1:今は休める場所を探し、二人を落ち着かせる
2:真司と翔一の二人と情報の共有を図りたい
3:何故二人は突然変身を解除されたのかを調べたい
【備考】
※真司の支給品のトランプを使うライダーが居る事に気付きました。
※龍騎の世界について大まかに把握しました。


【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終了後
【状態】健康、罪悪感、仮面ライダーアギトに二時間変身不可
【装備】なし
【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ケータロス@仮面ライダー電王、ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ、医療箱@現実
【思考・状況】
基本行動方針:打倒大ショッカー、殺し合いはさせない。
0:自分の行動がゴオマの殺人に繋がった事による罪悪感
1:今は小沢さんに着いて行く
3:落ち着いたら、小沢さんや城戸さんと情報交換がしたい
4:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触
5:木野さんと会ったらどうしよう?
【備考】
※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。
※響鬼の世界についての基本的な情報を得ました。
※医療箱の中には、飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブスと様々な道具が入っています。


【全体備考】
※スミロドンメモリはバーニングライダーパンチによってブレイクされました。
※ズ・ゴオマ・グの遺体はE-2 住宅街に放置されています。
※ズ・ゴオマ・グの遺体には、ダグバのバックルの欠片が埋め込まれたままです。

【ズ・ゴオマ・グ@仮面ライダークウガ 死亡確認】
 残り43人

694 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 14:10:02 ID:Wlpqlfk6
投下終了です。
矛盾点や指摘などがあればよろしくお願いします。

695 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 14:12:52 ID:Wlpqlfk6
忘れてました、タイトルは「狂気の果てに」です。

696二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/05/01(日) 18:02:07 ID://ufcx6Y
投下乙です。
しかしキバットは桐生豪の声と仮面ライダーレンゲルの姿しか見ていない筈なので、
ほとんど顔がつぶされた生身の桐生さんを見て自分たちを襲った緑の仮面ライダー=桐生豪とはならない筈なんですよね。

697 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/01(日) 18:22:51 ID:Wlpqlfk6
>>696
ご指摘ありがとうございます。
台詞と地の文を少し弄り、該当部分を修正用スレに投下しておきます。

698二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/05/01(日) 18:52:12 ID:zOr3OJqk
投下乙でした。
ゴオマ退場……まぁボロボロな状態にアギトと龍騎、更にはアビスと3人のライダー相手だったしなぁ。
それでもトドメ役が小沢だったのは意外、劇場版での台詞を彷彿とさせたし。
でも、自身の行動で大量殺人をさせた翔一、外見上は人間の死を目の当たりにした真司のショックは大きいか……

後、1点気になった点として、真司と小沢は変身の時間制限を知っている(『嘆きの龍騎』で時間制限で解除されたのを把握している)から変身解除で驚くのは奇妙な気がします(とはいえ此処も些細な修正で済むかなぁ。)。

699二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/05/01(日) 23:00:15 ID:qXAZYDrU
投下乙です
各キャラの心理描写が丁寧で良かったです。やはり参加者とはいえ未確認は許せないか
それでもゴオマ退場によって城戸と津上はショックを受けたし、レンゲルは小沢さんの手に…
順調に仲間と合流出来てるように見えるけど本当に大丈夫かこのチームw

700 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/02(月) 01:34:29 ID:N/LEzkt.
感想&ご指摘ありがとうございます。
今回指摘された点と、それに伴う状態表の変化、また、状態表の不備も含めた
修正稿を修正スレの方に投下しておきましたので、確認して下さると幸いです。

701 ◆LuuKRM2PEg:2011/05/13(金) 06:13:48 ID:IH4j0Er6
五代雄介、海東大樹、草加雅人、フィリップ、秋山蓮
及びエクストリームメモリの投下を開始します

702草加雅人 の 仮面 ◆LuuKRM2PEg:2011/05/13(金) 06:15:15 ID:IH4j0Er6

D−8エリアに位置する巨大な建物。
『Wの世界』の象徴たるガイアメモリを販売する悪の組織、ミュージアムの拠点。
園崎邸の一室で、異世界より連れてこられた五人の男が身体を休めていた。
数時間前遭遇した、圧倒的戦闘力を誇るバットファンガイアとの戦いで負った、ダメージを癒すために。
そして、持っている荷物や自分自身についての情報交換も交わした。
このような戦場では、何が起こるか分からない。
だから不測の事態に備えて、お互いの事を知る必要があった。
その際に、五代雄介と海東大樹のデイバッグより、あるアイテムが現れる。
五代が持っていたのは、仮面ライダーディエンドが異世界のライダーを呼び出すために使うカード。
仮面ライダーコーカサス。そして仮面ライダーサイガの力が封印された、ライダーカード。
海東が持っていたのは、フィリップがよく知るメモリガジェットの一つ、スパイダーショックとスパイダーメモリ。
それぞれ、本来の持ち主の手に渡る事となる。

「それにしてもクウガ、君はもう大丈夫そうだね」
「はい、みんなが頑張っているのにいつまでも休んでいられませんから」

飄々とした海東の問いかけに、五代は眩い笑顔で答えた。
先程の戦いで負傷したとは、思えないほどの。
それは五代の体に埋め込まれた奇跡の霊石、アマダムの効果。
幾度となく繰り広げた未確認生命体との戦いで、彼の怪我を治していた。
最も、まだ完全とまではいかない。
それほど、バットファンガイアに負わされた傷は深かった。
しかし五代は、それを表に出す事はしない。

「草加雅人、これを見てくれ」

一方でフィリップは、自分が作り出した発明品の一つであるコウモリ型のカメラ、バットショットを取り出していた。
画面に映し出されているのは、白い死神のような怪物。
その手には、鮮血が滴り落ちる長いデスサイズが握られていた。

「恐らく、園田真理を殺害したのはこいつの可能性が高い……そして、今も何処かにいるはずだ」
「…………成る程な」

バットショットを握る草加雅人の手は、震えている。
大切な存在である、園田真理を殺された事による憎しみによって。
表情も、徐々に怒りで染まっていくのが見えた。
そんな草加の姿を見て、フィリップは不意に思い出す。
風都の為に、仮面ライダーアクセルに変身してドーパントと戦う盟友、照井竜。
彼もまた、大切な家族を井坂深紅朗によって、殺害されている。
出会った当時は、草加のように憎しみに心を支配されていた。
しかしそれを振り切って、仇を討った。

「君がこいつを憎むのは分かる。ただ、憎しみで動くのだけは止めるんだ」

照井の事を思い出しながら、フィリップは告げる。

「僕は園田真理がどんな人だったのかは知らない。でも、もしも君が憎しみに捕らわれているのを見たら、きっと悲しむはずだ……」

先程五代が言った事と、とても似ていた言葉。
フィリップも、出来る事なら草加を信じたかった。
しかし、彼は仮面ライダーカイザに変身して襲いかかっている。
だから完全に心を許すわけには、いかなかった。
そんなフィリップの心を知ってか知らずか、草加の顔から次第に毒が消えていく。

703草加雅人 の 仮面 ◆LuuKRM2PEg:2011/05/13(金) 06:16:22 ID:IH4j0Er6

「その通りだな……真理は常にみんなの事を考えていた。俺も彼女のようでいなくてはいけない」
「そうですね、草加さん。きっと、その人もそれを望んでいるはずですから!」

五代は笑顔で頷いた。
見たところ、彼は草加雅人に心を許しているように見える。
こんな状況でも、他者を信じる事を決して忘れない。
人間としてそれは素晴らしい心だ。
けれどフィリップには、それを素直に受け入れる事が出来ない。
草加雅人のような人間を信じ切ってしまえば、いつか取り返しのつかない事が起きる可能性がある。
唯一希望があるとすれば海東大樹だが、彼は彼で何を考えているのか分からない。
少なくとも敵ではないように見えるのが、せめてもの救いか。

「そしてみんな、これを見て欲しい」

フィリップは真摯な瞳で、デイバッグから複数の紙を取り出す。
そして、今は亡き北岡秀一に架せられていた銀色に輝く、首輪も。
それらをテーブルの上に広げた。
全員の視線がそちらに集中する中、フィリップはもう一枚懐から紙を取り出す。
そこには、ペンで書かれたような丁寧な字でこう書かれていた。

『出来るなら、これはみんなに回るまで無言で読んで欲しい』

他の3人はそれに従って、フィリップの出した書類に目を通した。
紙には、機械で記された事が窺わせる乱れのない文字と、機械の断面図。
円形の中に埋め込まれている複雑な機械。
それが首輪の内部構造であると、全員は察した。
その脇には、フィリップの丁寧な文字で各部分の解説が書かれている。


参加者達の命を速攻で奪う、起爆装置と思われる部分。
参加者達の動向を察知するために設置した、盗聴器と思われる部分。
ガイアメモリを差し込むコネクタと、その記憶を参加者に流し込む部分。
そして、大ショッカーが本拠地から、それらの機能を発揮するために付けたアンテナと思われる部分。


園崎邸に訪れてから、機械の内部構造を調べる事が出来る設備を見つけた。
フィリップはそれと北岡の首輪を利用して、断面図を把握。
それらに関する補足も、集めた情報を元に書かれていた。


ただし、解説に関しては絶対というわけではない。
そもそも何故、大ショッカーがあのような設備を用意したのか。
参加者が危機を脱するような物を、連中が何の考えも無しに設置するわけがない。
そしてこの殺し合い自体が、謎に包まれている。
海東大樹が話した大ショッカーという組織は、多くの世界で悪事を働いた連中だ。
ある世界では子どもを騙して手駒にし、ある世界では光夏海という女性に危害を加える。
何故そんな連中が、世界の選別などを取り仕切っているのか。
奴らの発言には、信憑性が無さすぎる。
そもそも、大ショッカー自体が殺し合いの主催を、自作自演で演じている可能性も否定出来ない。
例えば、異世界に存在する邪魔な存在である数多の仮面ライダー。
奴らを始末するために、バトルロワイヤルを開いた可能性。
あるいは実力の高い参加者達をこの世界に閉じこめた隙を付いて、その世界を支配する。
最悪のケースとして、大ショッカーがその科学力を使って、世界一つも軽く吹き飛ばす程の爆弾も、仕掛けている可能性がある。
理由は世界そのものを人質にして、強制的に殺し合いをさせるため。

704草加雅人 の 仮面 ◆LuuKRM2PEg:2011/05/13(金) 06:17:03 ID:IH4j0Er6

そして、自分達に巻き付けられた首輪という存在。
これらのメカニズムは、僕の世界に存在していたガイアメモリを差すガジェット達と、よく似ている。
故に、この屋敷から揃えた工具を使えば、解除自体は可能。
ただしこれは、現状での意見に過ぎない為、行動に移す事は出来ない。
下手に首輪を外したりなんかすれば、何らかの制裁を加えられる可能性がある。
例えば、最初のホールで見せしめにされた男性のように、外した瞬間に殺される。
それだけではなく、同じ世界から連れてこられた参加者達も、最悪の場合に首輪を破壊されるかもしれない。
それに首輪には、まだ構造を把握するために考える時間が必要だ。
もしかしたら、僕一人では分からない異世界の技術も投入されている可能性もある。
だから首輪を解除するのは、状況が整うまで待たなければならない。
異世界のテクノロジーを知る技術者との合流。
及び、大ショッカーに反旗を翻すための戦力が揃ってから、首輪の解除に踏み込まなければならない。



「…………なるほど、分かったよフィリップ君」

五代の言葉が、全員にファイルが回った合図となった。
ここにいる者達が、首輪を解体するための方法とタイミングを知る。
完全ではないにせよ、僅かな希望にはなった。
最も、気を緩める事など出来ない。

「でも少年君、例えこれをクリア出来たとしても、まだ課題はあるんじゃないかな?」
「その通りだ……海東大樹、君の話によると大ショッカーの拠点は確か、巨大な要塞と聞いた」
「ああ、でも今もそうとは限らないかもよ?」

フィリップの疑問に海東は軽く答える。
そう、バトルロワイヤルの仕切り役である大ショッカーの拠点。
例え首輪を解体して、友好的な人間を集められたとしよう。
問題はそこから、如何にしてこの世界から脱出するか。
エクストリームメモリが手元に戻ればいいが、そんなに都合よく行くとは思えない。
仮に取り戻したとしても、大ショッカーが何らかの細工を施している可能性が充分に高かった。
もしもエクストリームメモリで、参加者達を粒子化して世界の壁を越えるとしよう。
その隙を、大ショッカーが見逃すわけがない。
そして大ショッカーを倒すとしても、居所が分からなければ叩き潰しに行けるわけがない。
海東の話によれば、奴らの居所は巨大な要塞だった。
しかし、大ショッカーが拠点を変えていたらどうだろう。
例えば空中から参加者を見下ろせる、飛行戦艦。
それも凄まじい武装を持つほどの。

「君達、敵の居所を考えるのも良いが、こっちもどうにかした方が良いと思うよ?」

フィリップが思考を巡らせている最中。
草加の視線は、別の方に向いていた。
少し離れたソファーで眠っている、名も知らぬ青年。
先程の戦いで倒れたため、ここまで連れてきた。
だが彼がどんな人物なのか、あまりにも見当が付かない。
幸いにもデイバッグの中身は、草加がテーブルの前に出していた。
中身は参加者全員に配られている、基本的な物しか存在しない。

「一応、支給品はこのくらいだけど…………こいつが危険人物である可能性は充分にあるからね」

草加の言葉には、流石のフィリップも同意する。
あの時は命の危険に晒されていたため、この青年を助けた。
一応、アイテムは全て確保しているが油断はならない。

705草加雅人 の 仮面 ◆LuuKRM2PEg:2011/05/13(金) 06:18:32 ID:IH4j0Er6

「…………うっ」

四人の視線が集中している中。
呻き声が、青年の口から漏れた。
そのまま彼の瞼がゆっくりと開かれ、身体が起きあがっていく。
青年の下に、五代は真っ先に駆けつけた。

「大丈夫ですか?」
「何だ、お前達は? それに、ここは何処だ?」

あまりにも当然な疑問。
戦っていたはずなのに、目が覚めたときには見知らぬ部屋にいる。
そして目の前にいるのは、見知らぬ男達。
警戒を抱くのも、無理は無い。

「俺、五代雄介と言います…………貴方には、伝えないといけない事があるんです」
「何?」

怪訝な表情を浮かべる青年に、五代は沈んだ表情で口を開く。
そこから、互いに話し合った。
自分達の名前を。
自分達はこの戦いを、何とか止めようとしている事を。
そして、青年と一緒にいた男の人は蝙蝠の怪物に、殺されてしまった事を。

「本当にごめんなさい…………ッ!」
「そうか、北岡が……」

しかし青年――秋山蓮――はやけに落ち着いた様子だった。
まるで、人の死が当たり前として受け取っているような態度。
そんな態度を見た草加が、前に出た。

「おいおい、人が死んだのにやけに落ち着いてるね」
「何?」
「もしかしたら、君はこんな戦いに乗っているのかな? 我が身可愛さに、他者を蹴落とすことを良しとする……」
「何だと……ッ!」

とても冷たく、それでいて妙に挑発的な言葉。
それを聞いた蓮は、ソファーから立ち上がろうとする。
しかし、痛みが動きを阻害した。

「大丈夫ですか!?」
「触るな!」

五代は支えようとするが、蓮から手を振り払われる。
一方でフィリップは、草加に振り向いた。

「草加雅人、君は何を言ってるんだ!?」
「一緒にいる人が死んだのに、こんな態度を取っているような奴だ。信用できないのは当然だろう?」
「それでも、そんな事を言うのは止めるんだ!」

この状況で他人を疑うのは、ある程度は仕方がない。
現にフィリップ自身、青年が危険人物であるという可能性を考えた。
しかしだからと言って、不信を抱かれる発言をしていい理由にはならない。

706草加雅人 の 仮面 ◆LuuKRM2PEg:2011/05/13(金) 06:19:21 ID:IH4j0Er6

「ん…………何だいアレは?」

部屋の中で怒号が響き渡る中。
険悪な雰囲気をぶち壊すかのような、海東の声が聞こえた。
四人はそれに導かれて、振り向く。
見ると、部屋の窓を何かが叩くのが見えた。

「あれはまさか……エクストリーム!」

フィリップは両目を見開きながら、そちらに駆け寄る。
彼は窓を開けると、来訪者が部屋の中に入った。
まるで鳥を模したかのような機械。
フィリップの生きる『Wの世界』で、仮面ライダーWの力を極限にまで解放させるガイアメモリ。
エクストリームメモリが、彼の目前に現れた。

「フィリップ君、それは?」
「僕の切り札だ」

五代の問いかけに、フィリップは力強く答える。
切り札の一つが手元にやって来た事で、彼の心は微かながらに希望が芽生えていた。
しかし手に取った瞬間、エクストリームメモリの足元に紙が巻かれているのに気づく。
フィリップはそれを外して、テーブルの上に広げた。

『翔太郎君、フィリップ君、竜君。これを見ている誰かへ、あたしは今強い味方がいるから大丈夫。
だからみんなは、あたしの事を気にしないで他のみんなとの合流だけを考えて。
お願いだから、東京タワーには急がないで』
「これは……亜樹ちゃんの字!?」

紙に書かれている文字に、見覚えがある。
左翔太郎の恩師である鳴海荘吉の娘、鳴海亜樹子の文字だった。
それを見たフィリップは驚愕を抱くのと同時に、疑問が芽生える。

「東京タワーには急がないで……? 一体、どういう事なんだ?」
「その子は危険に陥ってるんじゃないかな?」

それに答えるのは、海東だった。

「確か鳴海亜樹子と言ったっけ? もしかしたら、東京タワーではとんでもない事が起こってるのかもしれないよ」
「どういう事なんだ?」
「東京タワーには急がないで……恐らく、それは戦いがあそこで起こっているか、何かとんでもない罠が仕掛けられている。彼女はそれを見つけて、少年君達が巻き込まれないようにメッセンジャーを頼んだんじゃないかな?」

ただの推測に過ぎないけどね、と最後に付け加える。
それでも、可能性としてはゼロではなかった。
彼女の言葉だから、嘘ではないと信じたい。

(それに強い味方がいる……なら亜樹ちゃんだって一生懸命に戦っているはずなんだ! 僕もここで頑張らないで、どうする!)

だが、フィリップは知らない。
鳴海亜樹子が、風都を守るために殺し合いに乗った事を。
その為に、東京タワーに罠を仕掛けた事を。
そんな残酷な真実を、彼はまだ知らなかった。

707草加雅人 の 仮面 ◆LuuKRM2PEg:2011/05/13(金) 06:20:19 ID:IH4j0Er6





「そういえば秋山君、君はこれからどうするつもりなのかな?」

草加は再度、蓮に訪ねる。
先程とは違い、今度はなるべく落ち着いた様子で。
挑発的な態度を取った理由は、集団の中に不和を植え付けるため。
こいつらは揃いも揃って、大ショッカーを倒すなどという戯言を言っている。
到底有り得ないだろうが、それでは真理を救うのに邪魔にしかならない。
故に、蓮を挑発してある程度不信を植え付けた。
無論やりすぎてはいけない。そうなっては、邪魔者を殺すのに困ってしまう。
そのバランスが、大事だった。

「どういう意味だ」
「一応、聞いておかないとね……さっきはすまない事を言ったが、もしも君がこの戦いに乗っているとしよう」

だから今は、演技をする。
仲間達の事を、心の底から思っているかのように。

「その時は、俺は君に容赦はしない……これだけは胸に叩き込んでおいてくれ」

真摯な表情で、はっきりとそう伝える。
一応、この言葉に嘘はなかった。
もしも奴が自分を裏切るようなら、引導を渡す。
最もその際、他の奴らがどうなろうとも知った事ではないが。

「そうか、分かった」

蓮は草加の言葉に頷く。

「俺も無闇に戦うつもりはない」
「それは良かったよ。なら、君に荷物を返せるな」

その答えに、笑みを浮かべながらデイバッグを取った。
蓮はそれを受け取るが、中身を確認した途端に顔が暗くなる。

「どうかしたのか?」
「俺の荷物…………これだけなのか?」
「それだけしか見てないが……すまない、さっきの戦いで撤退する際にもしかしたら、何処かに落としてしまったのかもしれない」

さも申し訳なさそうな表情で、草加は語る。
しかしその内心で、彼は笑っていた。
恐らく蓮の言っている荷物というのは、仮面ライダーナイトに変身するために使う、カードデッキという物の事だろう。
そして、奴のデイバッグの中に入っていたガイアメモリという道具。
付属していた説明書によると、仮面ライダーエターナルの名を持つ戦士に変身する事が出来るらしい。
自分の持っているロストドライバーという機械は、それに連動するようだ。
これはフィリップの世界に存在するアイテムだろうが、その存在は明かしていない。
下手に情報を与えては、自分の戦力が減ってしまう。
だからデイバッグの中に入れずに、懐の中に入れていた。
最もロストドライバーばかりは、流石に隠しようがなかったが。
だがフィリップの持っているメモリは、幸運にも連動しない。
故に自分が持つ事にした。
君の荷物を増やしてはいけないと、善人の言葉を使って。

708草加雅人 の 仮面 ◆LuuKRM2PEg:2011/05/13(金) 06:21:10 ID:IH4j0Er6

(秋山と言ったな。君も精々、真理を救うために頑張ってくれよ…………? いざとなったら、俺が盾にしてやるから)

武器を持たない男など、身代わりの価値しかない。
もしも途中で手に入れたとしても、その時は自分の世界を救うための捨て石にする。
自分の世界で生きる、化け物達もそうだ。
三原はともかく、オルフェノクどもはここで皆殺しにしてみせる。
だから、彼らには誤解を植え付ける必要があった。
しかし乾巧のような甘ちゃんは、自分を信頼しているに違いない。
ならばそれを最大限にまで、利用した末に殺せばいいだろう。

(オルフェノクどもは、こいつらを焚きつけて潰し合わせればいい…………真理を救うのは、それからだ)

新しく手に入れた駒、秋山蓮を見定めながら草加雅人は笑った。
捨て駒にしかならない男達へ、若干の期待を込めて。





仮面ライダーエターナル。
それは、かつて風都全域を震撼させたテロリスト集団NEVERのリーダー、大道克己のもう一つの姿。
凄まじい戦闘能力を誇るが、この戦いではある制限が架せられている。
『永遠の記憶』を宿したガイアメモリ、エターナルメモリの力を解放したときに使える必殺技、エターナルレクイエム。
その範囲が、この世界では一エリア分しか届かない事。
そして、その効力も一時間までしか持たず、ガイアメモリを使った変身の強制解除も不可能。
最も、メモリのマキシマムドライブを封印は可能だったが、草加はそれを知らない。





(この男…………確実に何かを隠しているな)

秋山蓮は、草加雅人の笑顔を見ながら考える。
奴の笑みは、偽物だと。
もしかしたら、ナイトのデッキを隠し持っているかもしれない。
だがそれを問いつめる事は出来なかった。
四体一な上に丸腰な状況では、圧倒的にこちらが不利。
こんな時に突っかかっても、自滅するだけだ。
だから今はこの集団に合わせて、殺し合いに乗らないという嘘をつく。
そして、まだ何とか話が分かりそうな他の三人から信頼を得る。
そうすれば、状況の脱却も可能かもしれない。

(それにしても、まさか北岡が死ぬとはな……)

同じ世界から連れてこられた弁護士、北岡秀一の死。
目覚めた時に、五代雄介から告げられた事実だ。
それが意味するのは、自分の世界が滅ぶ可能性が増えた事。
いくら気に入らないとはいえ、北岡がそれなりの実力を持っていた事は確かだ。
そんな奴があっさりと殺すほどの化け物が、この世界にはいる。
だったら、この集団に入り込む必要が尚更あった。
ならば、今はいくらでも協力をしてやる。
チャンスが訪れる、その時まで。

709草加雅人 の 仮面 ◆LuuKRM2PEg:2011/05/13(金) 06:21:42 ID:IH4j0Er6





蓮が加わってから、一同は改めて情報を交わす。
同じ世界から連れてこられた、参加者について。

五代雄介が知る、一条薫。
一条は、絶対に信頼出来る人物だと五代は語る。

秋山蓮が知る、城戸真司と浅倉威。
友好的なのは城戸の方で、自分の世界で凶悪犯罪者である浅倉は、信頼出来ないと蓮は語る。

草加雅人が知る、三原修二と木場勇治と海堂直也と村上峡児。
乾巧と三原は信頼出来るが、他の三人は人間に危害を加える怪物、オルフェノクであると草加は語る。
特に警戒するべきは、村上。
オルフェノクを束ねる大企業、スマートブレインの社長だから、特に強い警戒を持たなければならない。

海東大樹が知る、門矢士と光夏海と小野寺ユウスケとアポロガイスト。
信頼出来るのは士と夏海とユウスケの三人で、アポロガイストは大ショッカーの幹部の一人。
しかし、かつての戦いで自分達がとっくに倒した。
恐らく大ショッカーが、何かの手段を使って生き返らせたのかもしれない、と彼は推測する。

フィリップが知る、左翔太郎と照井竜と鳴海亜樹子と園咲冴子と園咲霧彦と井坂深紅郎。
信頼出来るのは、翔太郎と照井と亜樹子と霧彦の三人。
他の二人は、犯罪組織ミュージアムに所属する幹部のため、警戒しなければならない。
当初フィリップは、霧彦と井坂の二人が生きている事に疑問を抱いたが、海東の話を聞いてそれを払拭する。
死者を蘇らせたり世界を自由自在に越える程の、底知れない大ショッカーの科学力。
やはり、一切の油断は許されないと、フィリップは改めて認識した。


「それで、これからの行動についてだが、僕から提案がある」

情報交換を終えてから、フィリップは言う。

「この世界には、さっき戦ったファンガイアという怪物のような、規格外の強さを誇る奴がいる。だから、人数が整うまではなるべく固まって行動した方が、得策かもしれない」

彼の提案に、意を唱える者はいなかった。
大人数で行動するのは、行動範囲が狭まるデメリットがある。
しかし、ファンガイアのようにとてつもない強さを誇る参加者は、他にいる可能性が高かった。
そんな奴と出くわして全滅だけは、避けなければならない。
故に、別行動を取るにしても、もっと友好的な人物と出会ってからだ。

「それじゃあ、行こうか」

五代の言葉を合図として、部屋に集まった五人は荷物を纏める。
そのまま、屋敷の外に出て行った。
彼らはいずれも、世界を救うという思いを持っている。
最も、その為に取る手段は、全員が一致している訳ではないが。

710草加雅人 の 仮面 ◆LuuKRM2PEg:2011/05/13(金) 06:23:01 ID:IH4j0Er6

「それにしても、巧か…………」

不意に海東は、呟く。
草加はそれを聞いて、怪訝な表情を浮かべた。

「どうかしたのか?」
「いや、ずっと前に同じ名前の仮面ライダーと出会った事があるだけさ」
「そうか」

かつて海東が訪れた『555の世界』
そこでもオルフェノクがいて、尾上タクミという名前の少年がファイズに変身した。
しかし草加が生きる『555の世界』とは違う点がある。
大企業のはずのスマートブレインは高等学校となっていて、ラッキークローバーはそこのエリート集団。
その事実に草加は驚いたが、別段気に止めない。
オルフェノクは憎むべき敵だが、自分の知らない世界で何をしていようとも興味が沸かなかった。





時計の針は一秒、また一秒と確実に進む。
その針が六時を過ぎた瞬間、大ショッカーからの呼び声が聞こえる。
死者の名を告げる、残酷な宣言が。
それを聞いた者達は、如何なる思いを抱くのか。
まだ、誰にも分からない。



【1日目 夕方】
【C−8 道路】


【全体事項】
※この五人の間で、情報交換(自分の世界、同じ世界の参加者、支給品、アルビノジョーカーの姿について)が行われました。
※これから何処に向かうのかは、後続の書き手さんにお任せします。
※首輪の考案について纏めたファイルを、全員が見ました。


【五代雄介@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後
【状態】気絶中、疲労(中)、ダメージ(中)
【装備】アマダム@仮面ライダークウガ
【道具】支給品一式、不明支給品1〜2 (確認済み)
【思考・状況】
1:人々の笑顔を守る。
2:みんなと共に行動する。
3:一条さんや信頼出来る人達と合流したい。
4:仮面ライダーとは何だろう?

711草加雅人 の 仮面 ◆LuuKRM2PEg:2011/05/13(金) 06:23:53 ID:IH4j0Er6

【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】最終話終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)
【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード(サイガ、コーカサス)
【道具】支給品一式、不明支給品1〜2(確認済み)
【思考・状況】
0:お宝を守る。
1:殺し合いに乗った奴の邪魔をする。
2:五代雄介、草加雅人、フィリップと共に行動
3:五代雄介の知り合いと合流
4:知らない世界はまだあるようだ
5:蓮を警戒
【備考】
※クウガの世界が別にあることを知りました。




【草加雅人@仮面ライダー555】
【時間軸】原作中盤以降
【状態】健康
【装備】カイザドライバー@仮面ライダー555、カイザブレイガン@仮面ライダー555、ナイトのデッキ@仮面ライダー龍騎、ロストドライバー&エターナルメモリ@仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ
【道具】支給品一式、不明支給品×1
【思考・状況】
1:真理の居る世界を守る為に、555の世界を優勝させる。
2:勝ち残る為にも今は演技を続けるが、隙があれば異世界の参加者は殺す。
3:真理を殺した奴を見付け出し、この手で殺す。
4:出来る限り、戦いは他の奴に任せる。
5:蓮を警戒。
【備考】
※カイザドライバーに何処までツールが付属しているかは後続の書き手さんに任せます。
※現状では、ナイトのデッキとエターナルメモリを他者に見せるつもりはありません。
※真理を殺したのはアルビノジョーカーである事を知りました。

【エターナルの制限】
※エターナルレクイエムの効果は、同じエリアに存在するガイアメモリにしか届きません。
※また、その効果が持続するのは一時間だけです。
※ガイアメモリを使ったライダーや、ドーパントの変身を途中で解く事は出来ません(ただし、マキシマムドライブは封じ込まれます)


【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作中盤以降
【状態】健康
【装備】無し
【道具】支給品一式、ファングメモリ@仮面ライダーW、バットショット@仮面ライダーW、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW
エクストリームメモリ@仮面ライダーW、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン)@仮面ライダーW、首輪(北岡)、首輪の考案について纏めたファイル、工具箱@現実
【思考・状況】
1:大ショッカーは信用しない。
2:友好的な人物と出会い、情報を集めたい。
3:草加雅人は完全に信用しない方が良い。
4:真理を殺したのは白い化け物。
5:首輪の解除は、もっと情報と人数が揃ってから。
【備考】
※支給品の最後の一つはダブルドライバーでした。
※バットショットにアルビノジョーカーの鮮明な画像を保存しています。

【首輪の考案について纏めたファイルの内容】
※首輪の内部構造、それに関する考案が書かれています。
※首輪とこの殺し合いについて、以下の考案を立てました。

1:首輪には、自分の世界には無い未知の技術が使われている可能性がある。
2:無闇に解体しようとすれば、最悪自分の世界の住民が全滅される。
3:解体自体は可能だが、それには異世界の知識も必要。
4:大ショッカーは参加者の生きる世界を、一瞬で滅ぼせるほどの兵器を持っている。



【秋山蓮@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】第34話終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)
【装備】無し
【道具】支給品一式
【思考・状況】
1:自分の世界のために他世界の人間を倒す。
2:まずはこの集団に潜む。
3:協力できるなら、同じ世界の人間と協力したい。
4:同じ世界の人間を捜す(城戸優先)。浅倉とは会いたくない。
5:協力者と決着をつけるのは元の世界に帰ってから。
6:草加を警戒。
【備考】
※ サバイブのカードは没収されています(蓮は気づいていない)。
※ 基本支給品以外、草加に奪われています(蓮は気づいていない)。

712 ◆LuuKRM2PEg:2011/05/13(金) 06:27:00 ID:IH4j0Er6
以上で、投下完了です
矛盾点や疑問点などがありましたら、指摘をお願いします

713 ◆LuuKRM2PEg:2011/05/13(金) 06:31:23 ID:IH4j0Er6
草加の状態表を、訂正します。

【草加雅人@仮面ライダー555】
【時間軸】原作中盤以降
【状態】健康
【装備】カイザドライバー@仮面ライダー555、カイザブレイガン@仮面ライダー555、ナイトのデッキ@仮面ライダー龍騎、ロストドライバー&エターナルメモリ@仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ
【道具】支給品一式、不明支給品×1
【思考・状況】
1:真理の居る世界を守る為に、555の世界を優勝させる。
2:勝ち残る為にも今は演技を続けるが、隙があれば異世界の参加者は殺す。
3:真理を殺した奴を見付け出し、この手で殺す。
4:出来る限り、戦いは他の奴に任せる。
5:蓮を警戒。
6:もしも人数が集まったのなら、ある程度不信も植え付けて同士討ちを計る。
【備考】
※現状では、ナイトのデッキとエターナルメモリを他者に見せるつもりはありません。
※真理を殺したのはアルビノジョーカーである事を知りました。

714二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/05/13(金) 09:47:46 ID:HnUK2kRU
投下乙です。

修正点は、
五代の状態表に気絶中がまだ掲載されています。

715 ◆LuuKRM2PEg:2011/05/13(金) 21:48:50 ID:IH4j0Er6
ご指摘ありがとうございます
それでは、収録時に修正させていただきます

716二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/05/13(金) 23:44:50 ID:Tge7Ap/s
投下乙です。

とりあえず何事も無かったけど蓮と草加が不安要素だなぁ。(おかしい、海東もどちらかといえばそっち側なのに海東はめがっさキレイじゃねーの)
しかし草加原作的に考えて真理よりも大ショッカー打倒優先しそうなのに……何がそうさせたんだろう(しっかりオープニングで色々聞いていた筈だし)? その割にはオルフェノクも潰そうとしているし……ていうかオルフェノクいなくなったら後三原だけなんだが……それで大丈夫なのか?
それ以前に、フィリップや海東から大ショッカーの情報や仮説(信憑性が無い云々)聞いているのにそれをガン無視して優勝目指して……何か思う事はないのか?
一方の蓮は……キャラの方向性は草加に近いのに……どうにも動きづらい……そういやエターナルの支給されていたという事はエターナルに変身する可能性もあったんだなぁ。まぁエターナルなってもキング相手には厳しいだろうけど。

で、エクストリーム来たとはいってもとりあえず目的地については保留か。まぁ、移動方向がタワーとは逆みたいだから向かわないのかな(園崎邸はD−8、現在位置はC−8、タワーはD−5なので離れている事になる。)。

717二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/05/14(土) 17:21:07 ID:f3RdYlQg
投下乙です。
草加はやっぱ黒いなぁ。
戦力の多い草加はタイミングによっては集団全体を出しぬける可能性がある訳か……。
草加の方針についてだけど、原作で草加が真理よりもスマートブレイン打倒を優先したのは、
あくまでオルフェノクへの憎しみが強すぎたからである訳だし、今真理を唯一蘇らせる事が出来る可能性は
大ショッカーに頼る以外にはないんだから、草加が優勝狙いのスタンスを変えないのは別に自然だと思う。
草加によっては自分の世界の優勝さえ確保出来るのなら、他のオルフェノクも消したい敵である事は変わらないだろうし。

指摘とは違うかもしれませんが、少し意見を。
今回エターナルメモリの制限の話が出てますが、少し制限が厳しすぎるのではないかと思いました。
エターナルレクイエムの効果が1時間とかに関しては異論はありませんが(個人的には2時間くらいでも問題はないかと思いますが)、
メモリライダーの変身強制解除が出来ないのはエターナルの持ち味を大きく削ってしまう事になるのではないかと思いました。
そもそもガイアメモリで戦うキャラがそんなに滅茶苦茶多いという訳でもないですし(確かにドーパントは多い方ではあるけど)、
この制限だと戦闘中の、それも敵がメモリで変身していない時(例えば解除後など)にしか使用できない事になります。
元々この会場での変身には1時間の制限が掛かってるのだから、変身解除後の使用にあまり意味はありませんし、
メモリの天敵とも言えるエターナルの特性にそこまで制限を掛ける必要はないのでは、と思いました。
パワーバランスについても、エターナルがメモリキラーになった所で、メモリ以外の変身アイテムはいくらでもあるので大丈夫かと。

718二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/05/14(土) 17:23:09 ID:f3RdYlQg
すみません、>>717の指摘に関しては既に修正スレの方で修正されていました。
単なるこちらの見落しなので、>>717は忘れて下さい。
長々と失礼しました。

719二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/05/15(日) 22:01:46 ID:m2MqevuM
月報
ロワ/話数(前期比)/生存者(前期比)/生存率(前期比)
平成ライダー. 63話(+ 7) 43/60 (- 3) 71.7 (- 5.0)

720 ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:28:00 ID:fMhkbdoE
城戸真司、津上翔一、小沢澄子、小野寺ユウスケ、ン・ダグバ・ゼバ、橘朔也、日高仁志及びデストワイルダー、参加者7名野良ミラーモンスター1匹分投下します。

721いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:29:45 ID:fMhkbdoE
【P.M.05:55 F-2 住宅街】


 『それ』の動きは余りにも速く――

「がはっ……」

 更に変身しようにもデッキあるいはベルトも反応しなかった故に――

「ぐっ……」

 2人の身体は醒杖によるなぎ払いによって軽く宙を舞い――

「城戸……!」

 左右の壁へと叩き付けられた――

「間違いない、アレはあの時俺を襲った……」

 唯一『それ』の攻撃による直撃を免れたキバットは『それ』が病院での襲撃者である事に気が付いていた。
 緑と金の装甲に身を包んだ戦士――名はレンゲルであるがそれを知る者はこの場にはいない。

「そんな、キバットを襲ったのはあの人じゃ……」

 激痛で思う様に動かなくとも何とか立とうとする翔一が口を開く。
 仮に目の前のレンゲルがキバットと自身が保護し先程倒した未確認を襲撃したとしても、その人物は逆に未確認生命体によって返り討ちに遭った筈、
 死体を確認した時は仮説の域を出なかったものの、先程その未確認である事は断定した。
 ならば、目の前のレンゲルは一体誰なのだろうか?

「いや、奴の持っていた鎧をあの未確認……そいつが手に入れたならば……」

 キバットはあくまでも冷静に思考を纏める。
 襲撃者の持つレンゲルの鎧を襲撃者を仕留めた未確認が確保した可能性が高い。その未確認が死んだ今、彼の所持品を持つ人物は――

 だが、そんなキバットの思考よりも早く真司はレンゲルの正体に気が付いていた。
 翔一達が到着した時点で未確認はスミロドンドーパントに変身していた為気付くのがワンテンポ遅れていたが、真司達はレンゲルに変身していた未確認と交戦していた。
 故に、その未確認生命体の所持品の中にレンゲルのデッキに相当する物が存在する事に気が付いた。そしてそれを持っている人物についても――

「……さん……」

 だが、気付いたからと言ってそれは到底納得出来るものではない。
 何しろその人物は翔一の仲間であり、自分を助けてくれた人物なのだから――
 だから、唐突に自分達を襲った事が理解出来ないのだ――

「どうしたんだ……小沢さん……! やめてくれ……!」


 真司の悲痛な叫びを聞いても目の前のレンゲルは決して表情を変えはしない――



 小沢の心と躰は未知なる存在の手(アンノウンハンド)が繰り出す糸に絡め取られていたのだから――

722いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:30:25 ID:fMhkbdoE



【P.M.05:42 E-4 住宅街】


「おい橘、もう病院過ぎたんじゃないのか?」

 そう口にする日高仁志ことヒビキの声で装甲車のハンドルを握る橘朔也は我に返り急ブレーキを掛けた。

「はっ……すまない、少し考え事をしていた……」
「無理もないか……」

 約30分程前、橘達はある者達と交戦した。厳密に言えば橘、ヒビキ、そして今現在車の後部で気を失っている小野寺ユウスケの3人が各々1人ずつ計3人の危険人物とそれぞれ交戦した。
 が、結論を言えばその戦いはある1人の参加者による戦いとすら呼べやしない蹂躙というものであった。
 結果、その時に対峙していた2人の参加者が命を落とす事となった。危険人物ではあったものの死んで良いという事はない。
 だが、重要なのはそこではない。経緯はどうあれ流れを踏まえて考えれば5対1の戦いになったと考えて良い。
 しかし、5人――橘達は殆ど為す術無く倒された。
 数時間前、海藤直也と名護啓介の2人と別行動を取ったが彼等がいたならば結果は変わっていただろうか?
 答えはNOだろう、恐らく死体が増えるだけだったと考えて良い。
 あの戦いでは少なくても橘が変身した仮面ライダーギャレン、ヒビキが変身した鬼こと響鬼はその時点で自身の持ちうる全力で繰り出した必殺技を叩き込んだ。それぞれある程度疲弊したとしても並の相手ならば撃退出来た筈だ。
 しかし結果としては殆ど……いや、全く通用しなかった。
 逆に相手の攻撃は凄まじく、自分達では全く対応しきれなかった。それ程までに凶悪な相手だったという事だ。幾つかの幸運――いや、偶然が重ならなければ全滅していたといっても過言ではない。
 数多の激闘を経た2人であっても恐ろしい相手だったのだ。それ故、その事ばかり考えてしまい目的地を過ぎてしまうのもある意味仕方のない事だろう。

 2人は装甲車から外に出て周囲を見回す。病院に向かう為に改めて自身の現在位置を確かめる必要があったからだ。
 彼等の手には場所を確かめる為の地図が握られている。地図によると病院まではそう距離は離れていない様だ。

「この辺りでも戦いがあったみたいだな」

 周囲を見回した所、何かが壊れた痕跡やデイパックの破片らしき物があった。それから考えて近くで戦いが起きたと考えて良い。

723いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:31:00 ID:fMhkbdoE

「そういえば……」
「何か知っているのか橘?」
「ああ、俺が戦った相手だったんだが……」

 橘は先の戦いで自身が戦った相手の事について話した。
 橘は名前を知る事は無かったがその相手、東條悟は元々病院方面から来たらしく、そこで橘の後輩である剣崎一真達と戦い、更に危険人物も迫ってきたという話もある。それを踏まえて考えるならばこの辺りが戦場になってもおかしくはない。

「そうか……何とか剣崎や名護、それに海堂と合流しなきゃならないな」
「いえ、恐らく剣崎はもう……」

 東條の話では病院にやって来た危険人物を止めようとし命を落としたらしい。それだけで死んだと考えるのは早計だろうが、

「もし、あの時の様にライダーシステムが機能しなければ……奴の推測はほぼ確実だと考えて良い……」

 先程の戦いで橘は変身解除後もう一度変身しようとしたがそれは出来なかった。どういう経緯かは不明だが変身に関してはある種の制限があるらしい。
 その制限を剣崎が受け変身不能状態に陥ったならば戦いにすらならないだろう。

「それに夏海……小野寺の仲間も……」

 更に、東條がユウスケの仲間の光夏海を殺した事についても話した。2人の間に重い空気が流れる。
 今ユウスケが気絶していた事はある意味幸運だったのかもしれない。
 何れは知らされる事ではあったが、あれだけの無惨な戦いの後で伝えるよりもある程度落ち着いた時に知らせた方が良いからだ。
 数人の仲間の死亡を確認する意味も込め2人は名簿を確認する――だが、夏海と剣崎はともかく先の戦いで命を落とした2人の名前は知らない故確認しきれない。

「名簿の配置から考えて、小沢の近くの誰かだと思うけどな……」

 ヒビキが口にする人物は北條透の事だ。名簿上では自身の世界の関係者が近くに書かれていた事、北條が今際の際に小沢の名前を口にしていた事から小沢の近くにある名前の人物という事は推測が付く。

「……待てよ」
「どうした橘?」
「ヒビキ、確かあの未確認生命体はダグバと名乗っていたな?」
「ああ、そういえばわざわざ名乗って……それがどうかしたのか?」
「少し上を見てくれ、ン・ダグバ・ゼバ……コイツに間違いないだろう」

 名簿を確認した所、先に戦った人物はン・ダグバ・ゼバなる人物と考えて良い。
 あまりにも特徴的な名前ではあるが、それが未確認生命体の名前の特徴と考えるならば別段不思議はない。
 が、重要な事はそこではない。問題は同じ様な法則で着けられた名前が他に2つあるという事だ。
 しかもダグバを含めそれらは小沢や津上翔一達から見て比較的近くにある。同一世界からの参加者の可能性が高い。


 橘が導き出した仮説は新たな絶望を呼び込むもの、それは――


「未確認生命体は他に2人いる」

724いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:31:40 ID:fMhkbdoE



【P.M.05:50 F-2 住宅街】


「どういうことだよキバット……」
「言葉通りの意味だ、さっき倒した奴以外に……」
「未確認が他に2人いるってことですか?」

 橘が導き出した仮説と同様の事をキバットが翔一、そして城戸真司に対し述べられた。
 此処に至るまでにはほんの数分ほど時を遡る事になる――



【P.M.05:46 F-2 住宅街】


「それじゃ、近くで休めそうな所探してくるから2人とも待ってなさい」

 そう言って小沢澄子は弾が入っていない拳銃を構えつつ周囲を調べに向かった。
 彼女を待つ翔一と真司の表情は重く俯いたままだ。
 小沢が単身で向かったのはほんの数分前の戦いで精神的に疲弊した2人を気遣ってのものだったのだろう。

「未確認の所持品も確かめておかないとね……」

 そういって近くの建物の裏へと向かっていった。
 そして残された翔一の近くで赤と黒の蝙蝠キバットバットⅡ世が声を掛ける、

「翔一……俯くのは勝手だが、さっきまでの元気はどうした?」

 それは叱咤するでも慰めるでもなく淡々かつ荘厳とした口調である。もっともそれは彼が誇り高き名門キバットバット家の二代目としての自覚から発せられたものだろう。

「目の前で人が死んでいるのに元気なんて出るわけな……」

 確かに先程仕留めた相手は人間では無くモンスターと等しい未確認である。
 だがその死に様は怪人や怪物の類ではなくまさしく人間のそれそのもの。
 そのような陰惨な場を目の当たりにして平然としていられるわけもないだろう。
 故にキバットの言葉を耳にした真司は反発したわけだが、

「蝙蝠が喋ったぁー!?」
「あ、城戸さん、この人はキバットっていうんですよ」
「人間ではないがな……まぁいい、俺の名前はキバットバットⅡ世だ」
「Ⅱ世って……」

 先程からずっとキバットは傍にいたものの、色々な事があったが故に気付く余裕すら無く今更ながらに驚愕したのであった。

「ともかく、目の前であんな風に人が死んでいるのを見て平然としている方がどうかしているんだよ……」
「お前がどう考えていようが俺にとってはどうでも良い。だが、少なくても翔一が落ち込んでいる理由はお前が考えているのとは違うぞ」
「お前見てると蓮の事を思い出すなぁ……蝙蝠が絡むとみんなああなのか……大体違うって言われても……ん、そういえば……」

 真司は今更ながらに先の戦いの事を思い出す。確かあの戦いで翔一は未確認を見て何と言っていた?

『こうなったのは俺の責任です。あいつは、俺が倒します!』
『俺、貴方の事を信じたかったです。でも、貴方を放っておけば、またああやって人を殺す』

 確かそう言っていた様な気がする。未確認の凶行に翔一が関わっていたというのか?

725いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:32:20 ID:fMhkbdoE

「津上……」
「すみません。実は俺、あの未確認がアギトだと思って助けたんです……まさか未確認だとは思わなくて……」

 思えばその時点で致命的な勘違いをしていたのかも知れない。
 キバットに連れられ未確認と赤い鬼の怪人が倒れている現場を見た時、
 翔一は『赤い鬼のアンノウンに襲われ、不完全なアギトの力で撃退したものの自身も重傷を負った』と判断していた。
 だが、その仮説は正しかったのだろうか? そもそも赤い鬼の怪人はアンノウンだったのだろうか?
 確かにあの赤い鬼は怪人そのものだ。しかしそれがアンノウンという確証は何処にもない。
 人間では無くてもキバットの様な知性を持った生物という可能性は否定出来ない。
 当然、それが必ずしも危険人物だったとは断定しきれない。
 もしかすると、未確認の方が赤い鬼の怪人を襲撃した可能性だってあったのかも知れない。
 その可能性を全く考えに入れずに自身の常識だけで誤った結論を導き出したという事だ。

「だから、病院の人やあの赤いジャケットの人が死んだのは俺の所為でもあるんです……」

 その表情は何時もの明るく脳天気な翔一にしては珍しく真剣そのものだった。

「そ、そんな気にするなよ……俺だってもっと早く此処に来てたらあの人を助けられただろうし……」

 真司は赤いジャケットの人物が死んだ原因は自分にもあると言う。自身がもっと早く立ち直り現場に駆けつけていれば助けられていたはずだと。

 もっとも、実際の所その可能性は限りなく低かっただろう。
 真司達は気付いていないがあのタイミングこそが真司にとって丁度良いタイミングだったからだ。

 真司と小沢が氷の怪人に遭遇したのは大体の時間で3時半。いや、正確な時間で言えば3時18分だ。
 そのタイミングで真司は龍騎に変身し制限時間まで変身した。つまり変身解除時間は3時28分という事になる。
 更にこの場においては制限の関係上再変身が可能までには2時間待たなければならない。
 故に再変身が可能となる時間は5時28分という事になる。

 では、真司と小沢が未確認の所に辿り着いた正確な時刻は何時だったのか? 
 その時刻は5時29分――そう、再変身が可能となった直後なのだ。その時には既に赤いジャケットの男は事切れていて1分か2分早かった所で既に死は不可避だった。
 更に言えば数分早く駆けつけても真司は龍騎には変身不能、変身しようとして変身出来なかった時点でワンテンポ遅れる。戦いに置いては致命的な遅延だ。
 更に使い慣れていないアビスのデッキでは思う様に戦えない。故に結果が大きく変わる事は無かったという事だ。
 とはいえあくまでも仮説の話ではあるし、真司が知り得ない事である以上、責任を感じてもおかしい事ではない。

 そんな中、真司は更に言葉を続ける。

「それに、アイツが未確認だろうがなんだろうが助けたいと思ったんだろ、死なせたくなかったんだろ? 俺だってあの場にいたらそうするさ」

 真司は翔一の行動を責める事はしない。
 かつて餌を与えなかった事で自身のモンスターに喰われ自滅しそうになった浅倉威を真司は助けた事がある。
 浅倉威は凶悪な殺人犯で仮面ライダー同士の戦いにおいても何人ものライダーを仕留めた危険人物だ。
 客観的に言えばあのまま自滅した方が良かったという見方もある(もっとも、真司以外のライダーは敵が減る程度の意味で自滅を期待していたわけだが)。
 それでも真司は浅倉を必要とした少女がいた、浅倉でも死んで欲しくない人がいる。そう考え浅倉を助けたのだ。
 故に、真司も目の前で誰かが死にそうな現場に遭遇したならばそれが凶悪な人物であったとしても助けに入っていたと断言出来る。

 目の前で傷付き苦しんでいる人々を守る、それが城戸真司の戦う動機であり仮面ライダーとして戦う理由なのだから。

726いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:32:55 ID:fMhkbdoE


 その自身が選んだ行動により望まぬ結果を突き付けられる事もあるだろう。
 その先に辛い事や苦しい事は数多く待っているのだろう。
 真司自身も何度と無く迷う事もあるだろう。


 それでも根底にある本質――『願い』は決して揺るがない。


 他者から見れば愚かであろうとも、誤りであろうともそんな事は問題ではない。


 真司自身が長い長い戦いの果てに辿り着いた事なのだから――


「城戸さん……ありがとうございます」

 翔一が少し笑みを浮かべ真司に応えた――

「翔一、名簿を出してくれ」

 ――その流れを断ち切るかの如くキバットが口にする。

「何なんだいきなり……」
「キバット、急に何で……」
「少し気になる事があってな」

 と、翔一の出した名簿を確認する。
 キバットが気になったのは未確認の存在だ。詳しい事は知らないが恐らく自身の世界におけるファンガイアに相当する存在と考えて良い。
 基本的に戦いに関わる気は無い為、知ろうが知るまいがどうでも良いとも言える。
 とはいえこの戦いには一応真夜のいる世界が懸かっている。
 流れがどうなるか不明瞭ではあるし現状自身がやる事など殆ど無いわけだが、このまま未確認を野放しにするわけにもいかない。
 把握出来る所は把握しておくべきだろう。
 何よりこのまま大ショッカーの思惑通りにいくのは気に入らない、それがキバットの本心だ。

「(音也や渡、それにキングの位置関係から同じ世界の連中は固まって書かれているのは明白。そして、未確認は翔一の世界からの参加者……つまり翔一の近くに未確認の名前が書かれている)」

 勿論、普通に考えれば名前を見ただけでは誰が誰かなどわからない。しかし、

「(連中の言動から考え、奴等は人間とは違う文化形態を持っている……名前に関してもな)」

 突然だがここで名前に関しての解説をしよう。
 翔一達がアンノウンと呼ぶ異形の存在だがそれはあくまでも警察側が付けた呼称でしかない。
 彼等にはそれらとは別にちゃんとした名前がある。もっともそれが触れられる事は基本的に無いわけだが。
 また、キバットの世界に存在するファンガイアもそれぞれが固有の呼び名である真名を持っている。
 例えば真夜は『冷厳なる女鍋の血族』、キングは『暁が眠る、素晴らしき物語の果て』という真名を持っている。
 我々人間からすれば明らかに異質ではあるがそれが彼等の文化形態である以上とやかく言う事では無いだろう。
 閑話休題、つまり未確認生命体が人間達と違う文化を形成しているのであれば当然名前に関しても人間社会からは考え付かない様なものになっていても不思議ではないという事だ。

「(ズ・ゴオマ・グにゴ・ガドル・バ、そしてン・ダグバ・ゼバ……この特徴的な名前と翔一との位置関係から見て奴等が未確認と考えて良い。そして、その内の1人が死んだ時点で……)」
「おい、どうしたんだよ……」
「長々と説明する気はない。結論だけ言うぞ――」

727いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:33:30 ID:fMhkbdoE



【P.M.05:48 E-4 住宅街】


「ダグバ以外にも未確認が2人いるって言うのか……」
「ああ、名前から考えて間違いないだろう。ガドルとゴオマ、それがこの地にいるダグバとは別の未確認だ」
「だからと言って、ダグバよりも強いとは限らないだろう」
「いや、ダグバ程強くは無くても俺達が今まで戦ったアンデッドや魔化魍よりずっと強いと考えて良い」

 橘は名護達と見つけたクウガと未確認の戦いについて書かれた記事の事について話す。
 その記述によると『未確認生命体第41号』との戦いでは半径3km全てが吹き飛ぶ程の大爆発が発生したとあった。
 勿論、その記事以外にも大きな爆発が起こったという記述があった。
 それは未確認との戦いがそれだけ熾烈なものであるという事の証明だろう。

 少なくても橘達が経験した限り大量の被害は出ても周囲数キロを巻き込む程の大災害は殆ど無い。
 また、自分達の戦いは基本的に表沙汰にはならない。それを踏まえて考えればクウガと未確認の戦いの記事も氷山の一角でしかないと考えて良いだろう。
 つまり、実際の戦いは記事以上のものであり、それに関わるクウガと未確認の強さも相当なものと考えて良いだろう。
 アンデッドや魔化魍の戦いよりも大きな被害を出している事からその強さは自分達よりもずっと格上という事だ。

「どうしたものかな……」

 ヒビキは橘の仮説を神妙な面持ちで聞いていた。無論、橘の仮説が正しいというわけではないがダグバの実力は身を以て経験している。
 残る2人がそれより強いという確証は無いものの、逆に弱いという保証もない。相当な強さであると考えるべきだ。

 重要なのはダグバに手も足も出なかった現状でどうやって対抗するかだ。
 何時ものヒビキならば鍛えるだけだと答えれば済むし今もそう思っている。
 しかし、その鍛えている時間の間でダグバや他の未確認は多くの参加者を殺し回るのは明白。
 魔化魍ならばある程度対策が取れるが、ある程度知性のある未確認がどう行動するかは読み切れない以上対策も取りづらい。
 仲間達と力を合わせるとしても生半可の力では無駄に犠牲者を増やすだけだ。
 更に言えば弟子になって間もない桐谷京介や鬼の道を断念した天美あきらをその危険に巻き込む事など言語道断だ。

「橘には何か策はないのか?」
「俺の知る限り対抗出来る人物は2人だけだ」

 橘がいう2人の1人は相川始ことジョーカー、
 ジョーカーはアンデッドの中でも特異な存在で、彼がバトルファイトを勝ち残った場合世界が滅亡すると言われている。
 だがその実力はアンデッドの中でも最強、恐らくジョーカーならばダグバにも対抗出来る筈だ。
 とはいえ世界を滅ぼす危険人物をアテにはしたくはない。では、もう1人は――

「キングフォームになった剣崎なら対抗出来るだろう……」
「キングフォーム?」
「ええ、俺達のライダーシステムの強化形態……」

 先程北條のデイパックを確かめた際に見つけたラウズアブゾーバーと自身の持つギャレンバックル、そしてラウズカードを取り出し、

「コイツと13枚のカードを使って13体のアンデッドと融合した姿だ。ジョーカーになる危険を伴うがジョーカーに匹敵する力を持っている……」
「ちょっと待ってくれ、さっき剣崎は……」
「そうだ……だからもうアイツを頼るわけにはいかない……それにアイツが生きていても俺はアイツをジョーカーにはさせたくない」

 橘の表情は重く思わずアブゾーバーとバックルを落としてしまう。ヒビキはそれを拾い上げる。

「橘はなれないのか? そのキングフォームって奴に」

 と、ラウズカードを見ながら橘に問いかける。

「いや、本来のキングフォームはカテゴリーKのアンデッドとだけ融合した姿だ。恐らく俺じゃその姿にしか成れないだろう。それ以前に手元にカテゴリーKのカードが無い以上最初から無理な話だ……
 何より、アブゾーバーを起動させるにはカテゴリーQが必要だ。それが手元に無い今はカテゴリーJと融合したジャックフォームにすらなれない」
「打つ手無しか……」

 2人の間に流れる空気が重い。

「小野寺以外に太刀打ち出来る奴はいない……か」

 先の戦いで唯一ダグバに対抗出来たのは漆黒のクウガとなったユウスケだけである。
 途中で力尽きたもののダグバすらも圧倒していた事は2人にもわかる。
 無論、ユウスケだけに頼る事は心苦しいが他に有効な策が無いのが現状だ。

728いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:34:05 ID:fMhkbdoE

 しかし、

「果たしてそうだろうか?」

 橘はそれには否定的だ。

「どういう事だ橘、あの時の小野寺の力はお前だって見ただろう」
「それはわかっている。だが俺にはアレが恐ろしいものに見えた……」

 そう、あの時のクウガは何時もの赤い姿のそれとは違い全身が黒く、肩や両足そして両腕に突起物がある事からも非常に刺々しく、何も知らない見れば恐怖と破壊の象徴でしかないだろう。

「橘の言いたい事はわかる、だが実際はアイツのお陰で俺達は……」
「アイツがダグバと同じ力を持っている、それはつまりアイツもダグバと同じ事が出来るという事だ。その力が俺達に向けられたらどうする?」

 橘の危惧はその力がダグバ以外の他者に向けられた時の事を警戒する。それが意味する事など語るまでも無いだろう。

「そうさせない為に俺達がいるんじゃないのか?」

 強い力に呑まれる危険性はヒビキも理解している。理解しているからこそそうさせない為に自分達がいるとヒビキは応える。

「俺達にそれが出来るとは思えない」
「橘!」
「ヒビキ……ダグバの言動を思い出せ」

 先の戦いでのダグバの言動を思い返す。あの時、ダグバは対峙していたはずのクウガを放置して橘達の所に向かい殺戮を繰り返した。
 クウガなど歯牙にもかからない存在だったのか? いや――

『……なんだ、まだ怖くなってないの? クウガ』
『こうまでしてあげたのに、何で怖くならないのかな? 早くしてよ』

 その言葉から察するにダグバはクウガに何かをさせようとしていたのはわかる。

「まさか……」

『…………君も、なれたんだね』
『究極の力を、持つ者に!』

 度重なるダグバの凶行の果てにユウスケは漆黒のクウガとなった。ダグバはそれに驚く事無く、漆黒のクウガへと向かっていった。

「そうだ、ダグバにとって最初から俺達などユウスケをあのクウガにさせる為の生贄でしかなかったんだ……俺達を殺す事で小野寺の心を憎しみと怒りで満たす事が狙いだったんだろう……」
「憎しみと怒りか……」

 それを聞いた以上、あのクウガが望ましい存在とは言えなくなった。憎しみに囚われる事は自分達にとって一番あってはならない事だからだ。

「だが、そんな事やってダグバに何のメリットがあるんだ? 自分を倒しかねない相手じゃないのか?」
「ダグバにとってはそれでも構わないんだろう。あの時のダグバはそれを楽しんでいた様だったからな……それが目的だったんだろう」

 思えばダグバは自分達を殺そうとした時よりも漆黒のクウガと戦っている時の方が活き活きとしていた気がする。

「きっと、ダグバはこれからも小野寺を追いつめる為に他の参加者を殺し続けるだろう……今よりも憎しみと怒りに支配された小野寺と戦う為に……だが、その果ては……」

 未確認とクウガの戦いは周囲数kmに被害を及ぼす程のものだ。故に未確認の中でも最強と呼べるダグバとそれに匹敵する力を得たクウガの戦いの果ては――

「破滅しかない――ということか」


 そう話し合う2人を余所に――近くのガラスの破片の奥から彼等を見つめるモノがいた――


 『そいつ』はゆっくりと片方の男に狙いを定め――

729いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:34:45 ID:fMhkbdoE



【P.M.05:51 F-2 住宅街】


 『それ』は静かに時を待っていた。
 『それ』にとっては世界を懸けた戦いなど理解出来ないでいる。只『自身』が戦い勝ち残ればそれで良いと考えていた。
 とはいえ『それ』にとって状況は芳しくはなかった。宿主である男――桐生豪は意のままに戦ってくれたが何れも惨敗、
 カテゴリーKのみならず別の世界の仮面ライダーにすら勝てない体たらくだったからだ。
 そして最後に戦った相手は蝙蝠のアンデッドの様なもの。その力は強大で最強の仮面ライダーであるレンゲルの力を持ってしても為す術が無かった。
 とはいえ悲観する事は無いだろう。桐生が使えなくなったならば目の前の蝙蝠のアンデッドを利用すれば済む話だ、今度は奴を利用する事にした。
 奴自身もそれを望んでいた為か奴も『それ』にとって都合良く動いてくれた。レンゲルの力で数人の参加者を圧倒し1人仕留める事が出来た。
 だがまたしても一度桐生を撃退した仮面ライダーと女が現れた。『それ』はレンゲルの力で今度こそそいつ等を仕留めようとした。
 が、途中で変身は解除、それでも宿主は戦いたがっており『それ』も戦闘意欲を煽り、虎の怪物に変身させ仕留めさせようとした。
 しかし、別の仮面ライダーが現れそいつの攻撃で変身は解除され、女の銃弾によって奴は死に絶えた。
 これで『それ』の戦いは終わったのだろうか?
 否、バックルに装填されたままの『それ』の邪悪な意志は決して消えやしない。全てのアンデッドと仮面ライダーを倒し頂点に立つ為に戦うのだ。
 宿主がいなくなったならば別の宿主を探せば良い。そいつを自分の意のままに操れば済む話だ。

 そしてその標的はすぐ傍にいる――



 未確認生命体第3号あるいはB-2号と呼称されるズ・ゴオマ・グとの戦いで翔一と真司は大きなショックを受けていた。
 翔一は自身が彼を助けた事で死者を出した事について、
 真司は目の前で『人間』が『人間』によって殺された事について、
 落ち込む2人の一方で実際にズ・ゴオマ・グを仕留めた小沢は気丈に振る舞い2人を引っ張っていった。それこそ落ち込む素振りなど見せないかの様に――

 だが彼女は本当に何も感じていなかったのか? 未確認を自身の手で仕留めた事に何もショックを受けなかったのか?

 そんな筈はないだろう。彼女だって殆ど死に体となった未確認を一方的に射殺した事に不快感を覚えていた。
 そもそも彼女は開発や研究、あるいは後方からの支援が主な仕事で基本的に最前線に出たりしない。
 実際に怪人を仕留める事など慣れてはいない。
 それ以前に彼女自身も人間の感情や人格を持っている。同僚から見れば非常に意外だが学生時代は些細な事で落ち込んだりどうでも良い事で有頂天になった事もあると自身が語っている。
 彼女はG3を発展、進化させたシステムとしてG3-Xを造り出したが同時期にG4システムも造り出していた。
 だがG4システムは装着員に強大な力を与える反面、身体への強い負荷により死に至らしめるという根本的な欠陥を抱えていた。その危険性故に彼女はそのシステムを封印した。
 そう彼女自身も人が死ぬ事が良しとしていないのだ。そうでなければ人を死に至らしめる危険なシステムを封印する訳が無い。

 故に小沢自身もまた『人間の姿をした』未確認生命体を自ら射殺した事で精神的に疲弊していたのだ。
 それでも人々を率先して守る警察という立場もあり、落ち込む2人の前では何事もなかったかの様に気丈に振る舞わなければならない。そうでなければ人々など守れないのだから。
 だが、それが彼女の精神を加速度的にすり減らしていく――

 そう、迫る『糸』に気付く事も、振り払う事も出来ぬ程に――

730いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:35:20 ID:fMhkbdoE


「あいつみたいな奴がまだ2人もいるのかよ……」
「奴を見ても相当に危ないのは確かだ。信じるにしろ信じないにしろ警戒すべきだろう」
「冗談じゃない……」

 未確認が危険人物なのは真司にだって理解出来る。だが、先程戦った未確認の最期は人間のそれそのものだ。
 真司にとっては未確認も人間と同じだ。故に彼等と戦う事に戸惑いが生じるのはある意味仕方のない事だ。

「城戸さん、貴方の気持ちわかります。俺だって本当はあの人の事を信じたかったですし、倒さないで済むなら倒したくはありませんでした」

 翔一はそんな真司に対しこう口にする。

「でも、あの人が誰かの命を奪う以上は止めないと……」
「そんな事は言われ無くったって解っている! だけど俺には……」

 人を殺すならば倒す事も辞さない翔一に対し、真司は理解していても出来ないと訴える。

「それぐらいにしておけ、どちらにせよこの事はあの女に話しておいた方が良いだろう」

 言い争いになる前にキバットが2人を止める。確かにこの事は未確認に詳しい小沢を交えて話し合うべきだろう。


 その時、


──OPEN UP──


 電子音声が響いてきた。


「今の声……まさか!」


 前に1度同じ音声を聞いているキバットが周囲を見回す。


「おい、キバットどうしたんだ?」
「あれは!?」


 2人と1匹が振り向く先に『それ』はいた――


 金と緑に彩られ、クラブあるいはスパイダーをモチーフとした甲冑を身に纏った戦士――


 その名はレンゲル――


 レンゲルは醒杖レンゲラウザーを構えたまま翔一達へに迫る。


「くっ……!」


 レンゲルが敵か味方かは不明。しかし迫り来るならば応戦せねばならない。故に翔一は腰にオルタリングを出現させ――


「アレは……まさか……」


 一方の真司は目の前の相手の正体に薄々気付いていた。何故『彼女』が変身しているのか? 何故自分達を襲おうとしているのか?
 疑問が渦巻くものの迫り来る以上対処しなければならない。故に近くの建物のガラスにデッキを掲げVバックルを出現させ――


「「変身!!」」


 それぞれのもう1つの姿、アギトそして龍騎へと変身しようとした――が、


 ベルトは応えなかった――当然だろう、この地では1度変身解除されれば2時間は同じ姿には変身出来ない。
 翔一も真司もほんの数分前に変身して戦ったばかりだ。変身が出来る道理などないだろう。


「どうしたんだ?」
「やっぱり……」


 それを知らない翔一は疑問に感じ、ある程度話を聞いていた真司は表情を強ばらせる。


 だが、レンゲルは決して足を止めたりはしない――故に――


「翔一……!」


 見ているだけのキバットの呟きと共に――

731いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:38:05 ID:fMhkbdoE



【P.M.05:52 E-4 住宅街】


 ガラスから飛び出し背後から橘へと襲いかかってきた。


「橘ぁっ!」


 ヒビキが襲撃者の存在に気付き声を張り上げる。その声のお陰で橘は反応する事が出来――


 襲撃者が振り下ろした爪を寸前で回避する事が出来た。


「何!? コイツは……」
「参加者……じゃないよな」

 それは白い虎を模した怪人であった。両手にある爪を構えつつ2人を睨んでいる様であった。
 そしてすかさず再び橘へと飛びかかっていく。

「ぐっ……狙いは俺か!」

 橘は怪人にやられるまいと後方へと跳び距離を取る。それでも怪人の動きは人間よりも素早くすぐさま距離を詰めていく。

「不味いな……橘のベルトは俺が持っている……」

 橘の持つギャレンバックルはヒビキが所持している。故に今現在橘は変身する事が出来ない。

「ならば……」


 ヒビキはすぐさま音叉を震わせ額へと当てた。鬼としての姿に変化する為だ。だが――


「変わら……ない……」


 ヒビキの身体が変化する事は無かった。ヒビキは気付いていない、この地では一度変身が解除されれば2時間変身が不能となる事に。
 先の戦闘からまだ1時間も経過していない以上再変身出来ないのは当然の結果なのだ。

 ヒビキがいつになく動揺している間も怪人は橘へと迫る。
 何故、怪人はヒビキや装甲車にいるユウスケではなく橘を狙っているのだろうか?
 橘だけはその理由を薄々ながら推測出来ていた。

『気を付けた方がいいよ、あの辺りには僕が契約していたモンスターもいるからね』

 それは先の戦闘で橘と対峙していた東條が口にしていた言葉だ。彼によると病院近くには自身の契約モンスターがいたらしい。

「(恐らく、コイツが奴の言っていた契約モンスターだろう。もしや俺が奴を殺したと本能で察しているとでもいうのか……?)」

 彼を殺したのは厳密に言えばダグバだ。だが、その前に戦っていたのは橘である。つまり彼の死について橘が全く無関係では無いという事になる。
 その復讐の為に襲った――だがこれは余りにも突拍子のない妄想に近い仮説だ。

 橘を襲っているモンスターは推測通り橘が対峙した東條悟の契約モンスター『だった』デストワイルダー。
 しかし、契約を司るカードデッキが破壊された事でデストワイルダーは解放された。最早東條とは何の関係もない野良モンスターである。
 だが、契約が無くなってもモンスターとの絆が完全に消え失せるのかというとそうではない。
 契約モンスターの中には契約していたライダーが殺された後、そのライダーを仕留めたライダーに対し仇討ちを仕掛けたモンスターがいる。
 その事例から見ても、契約が切れたからといって必ずしても契約したライダーとの絆は断ち切れるわけではないという事だ。
 さて、前述の通り、橘は東條と対峙し交戦していた。恐らくデストワイルダーは五感あるいは本能で橘から東條の匂いを感じていたという可能性は否定出来ない。
 既に亡くなっている主に対する忠義がそこにあったのかもしれない。
 無論、これも只の仮説であり何の証拠もない。もしかすると単純に手近な相手として橘を選んだという身も蓋もない理由だったのかも知れない。

 真相はどうあれデストワイルダーが橘を狙っているのは事実。デストワイルダーは橘へと猛攻を仕掛ける。
 仮面ライダーに変身していない普通の人間にとってモンスターの一撃はそれだけで致命傷となる。故に橘は全力で回避を続けていく。
 変身道具であるガイアメモリはデイパックの奥、取り出し挿入する隙など与えてくれないだろう。

 もしかしたらダグバやクウガに対する恐怖心から変身して戦う意欲を奪っていたのかも知れない――

732いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:38:40 ID:fMhkbdoE

 だが、先の戦いでの疲労も抜けていない故に何時しか限界は訪れる。
 僅かに出来た隙を突かれデストワイルダーの左腕が橘の首を掴んだ。
 そして橘を持ち上げ右腕を構える。


「橘!!」


 変身が出来なくても、先の戦いでダメージを受けていてもこれ以上死者を出すわけにはいかない。
 ヒビキは橘を救うべくデストワイルダーに接近していく。その時、


「ヒビ……キ……Aのカードを入れて……変……」


 橘がヒビキを見てそう口にする。


「!? そうか」



 橘の意図に気づきヒビキは走りながらギャレンバックルにAのカードをセットし腹部へと当てる。すぐさまバックルからベルトが展開されヒビキに巻かれる。



 そしてそのままバックルを回転させ――


──TURN UP──


 バックルからクワガタが描かれた青い壁が展開され、それがデストワイルダーに直撃した。それによりデストワイルダーはバランスを崩し橘を手放してしまう。


「ハッ!!」


 そのままヒビキは青い壁を突き破り仮面ライダーギャレンへの変身を完了した。



「で、どうすれば良いんだ……?」


 銃を使う仲間に威吹鬼がいる為、同じ銃使いであるギャレンの戦い方はある程度理解出来る。
 だが、何時もと違う姿故に戸惑いがあって当然である。


「ぐふっ……6のカードを……ラウ……その銃に……」


 喉を押さえながら橘が口にする。


「コイツを……こうか?」


 ――FIRE――


 6のカードを醒銃ギャレンラウザーに読み込ませた。その力がギャレンへと流れ込み。


「ハァァアッッ!!」


 ギャレンは何発もラウザーの引き金を引き、炎の弾丸をデストワイルダーへと撃ち込んでいく。


――GAHOOOOOO!!――


 着弾して発生した爆煙と共にデストワイルダーの雄叫びが響き渡った――

733いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:39:15 ID:fMhkbdoE



【P.M.05:56 F-2 住宅街】


「(どうする……見たところ翔一も城戸も変身不能……)」

 キバットは少し上方から彼等の様子を眺める。双方それぞれのライダーに変身出来ない以上一方的に蹂躙されるだけだろう。
 無論、自身の力で2人の内のどちらかに闇のキバの鎧を纏わせればまだ対処は可能だ。しかし、


 ――TIME――


「(タイム……時……?)」


 1枚のカードがレンゲラウザーに読み込まれ電子音が響く。その直後、


「がはっ!」


 次の瞬間、キバットはレンゲルによって地面へと叩き落とされた。
 読み込んだカードはスペード10スカラベのカード、その能力は任意の範囲の時間を止める『スカラベタイム』、
 レンゲルはそれを発動する事で周囲の時間を止め空中で自身の様子を伺っているキバットの背後まで回り込み、
 時が動き出したタイミングで叩き落としたのだ。なお、時間停止中は他の物を一切傷付ける事が出来ない故に動き出してから仕掛けたのである。


「ぐっ……貴様……!」


 時が動き出した直後に攻撃を受けたが故にタイミングが少しずれた為、それ程大きなダメージではない。
 とはいえ、全身に激痛が奔りすぐに動く事は出来ない。故に闇のキバの鎧を纏わせる事は難しくなった。


「小沢さん! どうしてこんな事をするですか!」


 翔一が叫ぶ。何故、小沢がレンゲルに変身し自分達を襲っているのか?


「まさか……お前かモンスター!」


 真司は先の戦いでレンゲルの仮面に蜘蛛の顔が浮かび上がっていた事を思い出す。
 あの時はその動きがモンスターの様に見えた事もあってそう感じていただけだったが、今漸く確信した。


「蜘蛛のモンスター、お前が小沢さんやあの未確認を操っていたんだな!!」


 真司の叫びには強い怒りが込められていた。
 あのモンスターが何者かは知らないがレンゲルの中に潜んでいたのだろう。
 レンゲルを介し装着者を意のままに操りライダーに変身させ殺戮を繰り返させているのだろう、装着者の意志など関係なしに。
 そして、装着者が死ねば次の装着者を操り同じ事を繰り返す――
 許せないと思った。前に人を操りゲーム感覚で殺し合いをさせようとし自身も色々苦しめられた芝浦淳がいたがそいつに匹敵――
 いや、モンスター自身が直接出てこない分それ以上に質の悪い奴だと感じた。


「じゃあ、キバットを襲ったらしいあの人も……」


 レンゲルは一切表情を変えない――その代わりにほんの一瞬あの時同様蜘蛛の顔が浮かび上がった様に見えた。それはきっと肯定のサインだったのかも知れない。


「仮にそうだとしてどうする……このままでは俺達は全滅する事に変わりはない」


 翔一、真司は共に変身不能、キバットも動けない以上彼等に対処する手段はない。
 真司が自身のカードデッキを翔一に渡せばまだ可能性があるが真司自身その手段に気付いていない。
 また仮に気付いていても翔一と真司の間にはそれなりに距離がある。何とか渡そうとも再び時を止められれば失敗に終わるだろう。


「小沢さん! 声が聞こえているなら応えて下さい!」


 翔一は叫ぶ中、レンゲルは静かに1枚のカードを読み込ませた――

734いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:39:45 ID:fMhkbdoE



【P.M.05:53 E-4 住宅街】


「……やったか?」

 爆煙が晴れたそこに立っていたのはギャレン、そして橘だけであった。周囲を見回してもデストワイルダーの姿は――

「いや、どうやら逃げられた様だ」

 近くのガラスの破片の奥からデストワイルダーが2人を恨めしそうに見ていた。
 制限の関係上、モンスターが出現していられる時間は1分、炎の弾丸が着弾した丁度のタイミングで限界時間を迎えデストワイルダーはミラーワールドへと戻ったのだ。
 故にデストワイルダーは倒されることなく事なきを得た。もっとも数発着弾していたのでノーダメージというわけにはいかないが。
 それでもこれから2時間は現実世界に影響を及ぼす事は出来ない。かくしてデストワイルダーは2人の視線から去っていった。

「とりあえず何とかなったな」

 そう言ってギャレンの変身を解除し元のヒビキに戻った。

「ヒビキがバックルを拾っていたお陰で助かった……」
「ああ、済まなかったな」

 そう言ってヒビキはバックルとカード、そしてアブゾーバーを橘に返した。その時、

「ぐっ……」

 只でさえダメージが蓄積していた状況であれだけ動いたのだ。2人の身体に激痛が奔る。

「早く病院に行った方が良いな……ん?」


 と、周囲を見回した所、あるべき筈のものが無い事に気が付いた。


「車が無い……」
「何……?」


 そう、自分達が乗っていた装甲車が消えていたのだ。


「小野寺!? もう意識を取り戻したのか!?」
「アイツ……状況が解っているのか……」


 十中八九装甲車を動かしたのはユウスケだ。この状況下では愚行以外の何者でもない為、橘はそれに憤る。しかし、


「まさか、俺達の会話を聞いていたんじゃないのか?」
「何?」


 ヒビキは自分達の会話が聞かれた可能性を考えた。

 夏海が既に死んでいる事――
 ダグバがユウスケ1人の為に殺戮を繰り返すだろうという事――
 漆黒のクウガの危険性と恐怖――

 もし、それらが耳に入ったとするならば?
 ユウスケがショックを受け自分達の元から去っていく可能性は否定出来ない。

 今のユウスケを1人にするのは非常に危険なのは語るまでもない。
 だが、装甲車で移動するユウスケをダメージと疲労の激しい2人が追いかける事は難しい。
 それ以前に何処へ向かったのかも不明だ。現状はこのまま病院に向かうしかないだろう

「橘……」
「くっ……どうしてこんな事になったんだ……?」

735いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:40:20 ID:fMhkbdoE


【1日目 夕方】
【E-4 住宅街】
【橘朔也@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、全身に中程度の火傷、罪悪感、クウガとダグバに対する恐怖、仮面ライダーギャレンに1時間10分変身不可
【装備】ギャレンバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(ダイヤA〜6、9、J)@仮面ライダー剣、ラウズアブゾーバー@仮面ライダー剣、ガイアメモリ(ライアー)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×3、ゼクトルーパースーツ&ヘルメット(マシンガンブレードはついてません)@仮面ライダーカブト、ファイズポインター&カイザポインター@仮面ライダー555、ザビーブレス@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
0:小野寺、何故勝手に……
1:今は病院に行って、怪我を治す。
2:とにかく首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間と接触する。
3:殺し合いで勝たなければ自分たちの世界が滅びる……。
【備考】
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。

【日高仁志@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】本編第41話終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、全身に中程度の火傷、罪悪感、仮面ライダー響鬼に1時間10分変身不可、仮面ライダーギャレンに2時間変身不可
【装備】変身音叉・音角@仮面ライダー響鬼
【道具】支給品一式、着替え(残り1着)
【思考・状況】
0:小野寺……
1:今は病院に行って、怪我を治す。
2:打倒大ショッカー
3:殺し合いはさせない
4:大ショッカー、ガイアメモリを知る世界、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触
5:俺がしっかりしないと……
6:小沢さんに会ったら、北條(名前を知らない)からの遺言を伝える。
【備考】
※アギトの世界についての基本的な情報を得ました。アギト世界での『第四号』関連の情報を得ました。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※ガイアメモリは自分にも支給されていたが、知らない間にどこかに落としてしまったと勘違いしています。

736いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:40:55 ID:fMhkbdoE



【P.M.05:55 G-1 廃工場】


「赤いリント……違うか。こんなのもいるんだね」

 白い服の青年ダグバは赤い鬼の亡骸を見てそう呟いた。
 先の戦いの後手に入れたバイク、自分達グロンギの1人ゴ・バター・バのバイクバギブソンを駆りこの場所へと辿り着いた。
 バターは自らを『キョクギンサギザザ』、人間の言葉で言うと『脅威のライダー』と称した。
 その呼称に相応しく彼の駆るバギブソンのスペックは一般のバイクはおろかクウガの持つトライチェイサーを凌駕している。
 それ故にそのスピードは速くG-5からG-1まで十数分程度で辿り着く事が出来た。余りに速すぎたが故にG-2辺りで曲がらずそのまま直進してしまったという事実もあるわけだが。
 とはいえ、中のリントと戦うのも良いと考え工場へと入った。
 しかし見つける事が出来たのは赤い鬼の亡骸だけであった。近くにあった剣とデイパックを拾い上げ部屋を後にする。

「さて、どうしようかな?」

 このまま地図の上の方にある街に向かっても良かったがクウガと戦った際に受けたダメージや疲労も割と大きい。気に事も幾つかある為少し休むのも良いと考えた。

 ダグバが気になる事の1つは先程ガドルと遭遇した時に本来の姿に変身出来なかった事と先の戦いでいつの間にか変身が解除された事だ。
 時計を見ながら自身が変身した大体の時間を思い返す。それを踏まえて考え、一度変身が解除された後で同じ姿に再変身するには2〜3時間置く必要があり、同時に同じ姿には約10分程度しか変身出来ない事を把握した。

「大ショッカーも面倒なことをするなぁ」

 自身に変身制限が掛けられている事自体はそれ程気にしていない。
 しかし、自分が戦うクウガやリント達にも同様な条件が掛けられている事が問題なのだ。
 恐らくあの時ガドルが変身しなかったのも同様の理由だろうし、当分はクウガも変身が出来ないと考えて良いだろう。
 だが、ダグバにとってそれは面白くない。自分が戦いたい時に相手が変身してくれないと意味がないのだ。
 無力なリントを一方的に蹂躙するよりもあの時のクウガに追いつめられる方が自分にとってずっと楽しいのだ。

 とはいえ何時までも文句を言っても仕方がない。次に会った時に都合悪く変身不能状態に陥っていない事を期待するしかない。

 その最中、もう1つ気になる事について考える。
 理由はどうあれ死んだはずのガドルとゴオマが参加している事は確かだ。
 しかし、どうもガドルの反応を見る限り自身がクウガに仕留められた事を知らない様だった。

「ガドルはクウガに倒される前から来た……」

 それふと浮かび上がった突拍子もない仮説。とはいえガドルがクウガに倒されてから来ようが倒される前から来ようが別段どうだって良い。
 重要なのは同じ事がゴオマに適応される可能性があるという事だ。

「もし、ゴオマが僕のアレを持っている時から来ているんだったら……」

 ゴオマはグロンギの中でも下級のズだ。リントよりはずっと強いものの、クウガを相手にして勝てる筈がない。
 そう、普通に考えればダグバがこれまで出会った強いリントあるいは仮面ライダーや究極の姿となる前のクウガに勝てる道理が無い筈なのだ。
 しかし、それを可能にするタイミングが存在する。
 ゴオマはダグバのベルトの欠片回収の指示を受けた事がある。その時その一部を確保した上で自らの体内に埋め込み自身を強化あるいは進化させた。
 これによりゴオマの肉体は飛躍的に強化され金の力を得てゴのグロンギを数多く撃破している筈のクウガすら圧倒する力を得たのだ。
 もっともその力を以てしてもベルトが不完全であったダグバには全く歯が立たず返り討ちに遭い、欠片は奪還されてしまったわけだが。

 さて、仮に大ショッカーが参加者を任意のタイミングで参加させているのであれば、ゴオマもダグバのベルトの欠片を埋め込み強化された時期から参加させている可能性は否定出来ない。
 いや、むしろゲゲルを面白くする意味で考えればその方が都合が良いだろう。

737いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:41:25 ID:fMhkbdoE

「もし、今の僕が……」

 ダグバがゴオマから破片を取り返したのはベルトを修復し完全体となる為だ。そして今のダグバはゴオマを仕留めた時に破片を取り戻した事で完全体となった。では――


「アレを取り戻したらどうなるのかな……」


 完全体であるダグバがその欠片を手に入れたらどうなるのであろうか?


 それは本来では起こりえない事だ。だが既に死亡しているはずのガドルやゴオマが参加している以上それもまた起こりえない話ではない。


「ちょっとゴオマを探してみるのも面白いかな」

 早々都合良く見つかるとは考えていない。それでもゴオマが自身の欠片を持っているならばそれを入手するのも良いだろう。
 もし、それを手に入れて更なる力を得たならば究極の姿となったクウガとのゲゲルもより面白いものになるだろう。
 クウガに出会わないならば出会ったリントを殺していけばよい、そうすればクウガもその気になって遊んでくれる筈だ。

 だが変身出来ないならば遊びようが無い。ならば今は休ませようではないか、ダグバはそう考えていた。


 ここで1つの事例を紹介しよう。
 あるクウガがある世界において地の石と呼ばれるものの力で凄まじき戦士あるいはアルティメットを越えるライジングアルティメットの力を得た。
 なお、地の石はクウガがいた世界には存在しない物。つまりライジングアルティメットもまた本来では起こりえない現象である筈なのだ。

 さて、ここで完全体であるダグバがゴオマの持つ欠片の力を得たらどうなるのであろうか?
 ダグバは究極の闇をもたらす者、言うなればダグバもまたアルティメットと言って良い。
 つまり、クウガに置けるライジングアルティメットと同じ事が起こるのでは無かろうか?
 昇りゆく究極ライジングアルティメット(Raising Ultimate)と対となる存在、
 言うなれば沈みゆく究極セッティングアルティメット(Seting Ultimate)とでも呼ぶべきだろうか。

 いや、この際呼称などどうでも良いだろう。以上の事は所詮は机上の空論、妄想に近い暴論でしかないのだから――


 ――果たしてそうだろうか?


 つい先程、ゴオマはE-2にある住宅地での激闘で死を迎えた。しかしその体内にはダグバのベルトの破片が存在している。
 そして、ダグバは当面の目的地を地図で言えば上の方にある市街地に定めていた。そこにはゴオマの遺体がそのままある――
 そう、ダグバがゴオマの持つ欠片を手に入れる可能性は大いにあり得るという事だ――


 沈み行く太陽――それは、これから訪れるであろう究極の闇を暗示しているのかも知れない――


【G-1 廃工場の一室】
【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後以降
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、恐怖(中)、怪人態に1時間10分時間変身不可
【装備】ガイアドライバー@仮面ライダーW、カードデッキ(リュウガ)、モモタロスォード@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式×2、不明支給品×2(東條から見て武器ではない)、バギブソン@仮面ライダークウガ
【思考・状況】
1:もう1人のクウガとの戦いを、また楽しみたい。
2:恐怖をもっと味わいたい。楽しみたい。
3:ガドルやリントの戦士達が恐怖をもたらしてくれる事を期待。
4:ゴオマを探す。自身のベルトの欠片を持っていたら手に入れる。
【備考】
※ガイアドライバーを使って変身しているため、メモリの副作用がありません。
※制限によって、超自然発火能力の範囲が狭くなっています。
※変身時間の制限をある程度把握しました。

738いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:42:00 ID:fMhkbdoE



【P.M.05:54 D-4 橋】


 沈みゆく夕日が装甲車のハンドルを握るユウスケを照らす――


 それは自分の心を暗示するかの様に――


 光届かない闇へと沈んでいく様な気がした――



【P.M.05:43 E-4 住宅地】


 ユウスケの意識は急ブレーキによる衝撃と共にゆっくりと覚醒していった。
 全身に激痛が奔る、ダグバから受けたダメージが残っているのだろうか?
 きっとそれだけではないのだろう。自らの体内に宿るアマダムに願い力を求めた代償なのだろう。
 そう、急激な肉体の強化に身体が追いついていないという事だ。
 それでももう暫く休めば動ける様になると感じていた。不思議と身体の調子はそこまで悪くはない、いや良くなっているとすら感じている。どことなくだが感覚が鋭くなった様な気がする。

「そうだ、俺がこうしているってことはやったのか……?」

 記憶の糸を手繰り寄せる。あの時、アマダムに願い究極の姿となりダグバへと向かっていった事は覚えている。その後は無我夢中であったが故によく覚えていない。
 ふと、外の様子を見ると橘とヒビキが話しているのが見えた。2人が助かったという事はダグバを倒す事に成功したのだろうか? そうでなければ生きている筈もないが――

 嫌な予感がした――

 そっと装甲車のドアを開けた瞬間、ユウスケの耳に2人の会話が飛び込んできた。

『それに……夏海……小野寺の仲間も……』

 最初に耳にしたのは夏海があの場でダグバが仕留めた男によって殺されたという話だった。

「そんな……夏海ちゃんが……」

 そのショックのあまり、装甲車から出て橘達に話しかける気力は失せてしまった。そしてそのまま橘達の会話だけがユウスケの耳に入っていく。
 その言葉1つ1つがユウスケの奥へと刻み込まれていくかの様に感じた――
 ダグバが未だ健在で他にそれ以外に未確認生命体が2人いるという事実が耳に入る。

「やっぱりまだ……くっ、今度こそ俺が……」

 怒りに震えるユウスケではあったが、その後に飛び込んだ言葉を聞いた瞬間、

『俺にはアレが恐ろしいものに見えた……』

 目の前が真っ暗になったかのように感じた。

『アイツがダグバと同じ力を持っている、それはつまりアイツもダグバと同じ事が出来るという事だ。その力が俺達に向けられたらどうする?』

 あの時自分は何をしていた? 只、手に入れた力をダグバへとぶつけただけではなかったのか?
 そう、周りにいた橘達などお構い無しではなかったのか?
 自身の力に巻き込む可能性を失念していたのでは無かろうか?
 橘の指摘はもっともだ、あの時の自分はダグバと同じ存在、恐るるべき存在でしかない。
 いや、そんな事など解っていた筈だ。アークルはその可能性を警告し続けていた。
 それでも敢えてその姿となったのは皆の笑顔を守る為だった、その事については今でも後悔していない。だが、

『ダグバにとって最初から俺達などユウスケをあのクウガにさせる為の生贄でしかなかったんだ……』

 それはどういう意味なのか?
 いや、冷静に考えてみればダグバの行動は何処かおかしかった。自分に拘っている筈なのに他の人を虐殺していた。それで自分を怖がらせ様と――

『俺達を殺す事で小野寺の心を憎しみと怒りで満たす事が狙いだったんだろう……』
『あの時のダグバはそれを楽しんでいた様だったからな……それが目的だったんだろう』

 つまり、自分の意志であの姿になったと思っていたがそれは全てダグバの掌の上で踊らされていただけだというのか? 
 同時にあそこで2人死んだのは自分の所為という事だったのか?
 その重責がユウスケに――

『ダグバはこれからも小野寺を追いつめる為に他の参加者を殺し続けるだろう……今よりも憎しみと怒りに支配された小野寺と戦う為に……だが、その果ては……』

 重くのし掛かって行くのを感じた――

『破滅しかない――ということか』

 その直後、龍騎の世界で見たモンスターが2人に襲いかかるのを見てユウスケは助けに入ろうと思ったものの――出来なかった。
 どういうわけか変身出来なかった――それも理由にあるだろうがそれだけではない。
 自分の力に巻き込まれ橘達を傷付ける事を恐れたのだ。


 そして、ユウスケはある決意を胸に――装甲車でこの場を後にした。

739いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:42:35 ID:fMhkbdoE



【P.M.05:56 D-3 橋】


 ふと横のガラスを見ると純白の怪人、ダグバが映っているのが見えた。

『早く僕の所に来て笑顔にしてよ』

 そう聞こえた気がして思わずガラスを殴りつける。それは只の幻、何の意味もない。
 そしてフロントガラスを見ると今度はあの時の漆黒のクウガが映っていた。
 所詮は振り払えば消えてしまう幻でしかない。

 だが、幻であってもそれはユウスケの心に深く刻み込まれた。最早自分は戻る事は出来ないのだと――
 姐さんの笑顔の為に戦っていたあの頃に――
 仲間達と楽しく有意義な旅をしていたあの頃に――

 思い返せばあの場に何かのバイクがあった。ダグバが健在なら恐らくそれを回収しているだろう。
 自分達を追撃しなかったとすればダグバは何処へ向かったのか?
 恐らく地図上の左側――そこにある住宅地に向かう可能性が高い。
 ならば自分もそこに向かうべきだ。橘達の話から考えてもダグバを倒せるのは究極の力を得た自分だけだ。
 この地にはもう1人クウガがいるのは理解している。だが、究極の闇をもたらす危険人物は少ない方が良い、もう1人のクウガにそんな事をさせるわけにはいかない。
 ダグバは自分を更に怒らせるべく他の参加者を殺していくだろう。それを阻止する為にも急がなければならない。
 同時にこれは自分だけでやらなければならない。誰かが一緒にいればダグバはまずそっちを仕留めるだろうし、そうでなくても戦いに巻き込まれる危険があるのだ。
 もう自分1人の為に誰かの笑顔が消えるのは耐えられない――

「ははっ……」

 乾いた笑い声が零れる。

「夏海ちゃんが死んだ事を聞いたからかな……こんな気持ちになるのは……」

 ユウスケにここまでさせた事について夏海の死も無関係とは言えないだろう。
 夏海の死を聞かされた時点で心の奥底が暗くなるのを感じていたからだ。
 そう、そこまで長い付き合いではなかったが夏海の存在はユウスケ達にとって大きかったのだ。
 そんな彼女がいなくなっただけで世界が大きく変わった気がした――

「いや、夏海ちゃんが死んで一番辛いのは士の筈だ……」

 それでもユウスケはもう止まらないし止まるつもりもない。究極の力を以てダグバを仕留めなければならない。
 だが、その後はどうすれば良いだろうか? いや、もしかすると自分自身がダグバ同様に危険な存在に変貌する可能性は否定出来ない。
 しかし、ユウスケはその懸念について1つの答えを出していた。

「士……夏海ちゃんが死んで辛い中でこんな事頼むのは悪いけどさ……
 もし、俺がダグバみたいな存在になってみんなから笑顔を奪う存在になったら――」


 ユウスケが頼るは旅の仲間、門屋士――


「お前が俺を殺してくれ。お前なら出来る筈だから――
 世界の破壊者と呼ばれているお前なら――
 俺を殺してみんなの笑顔を守ってくれ――」


【D-3 橋】
【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、ダグバへの激しい怒りと憎しみ、仮面ライダークウガに1時間10分変身不可、装甲車を運転中
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式、アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ガイアメモリ(スカル)@仮面ライダーW、おやっさんの4号スクラップ@仮面ライダークウガ 、不明支給品×2(確認済み)
【思考・状況】
1:ダグバを倒す。誰も巻き込まない様にする為1人で行動する。
2:もしもの時は士に自分を殺して貰う。
3:海堂直也は、現状では信じている。
4:殺し合いには絶対に乗らない
5:もう1人のクウガか…………
【備考】
※デイバッグの中身は確認しました。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※おやっさんの4号スクラップは、未確認生命体第41号を倒したときの記事が入っていますが、他にも何かあるかもしれません(具体的には、後続の書き手さんにお任せします)
※カードセットの中身はカメンライド ライオトルーパー、アタックライド インビジブル、イリュージョン、ギガントです
※ライオトルーパーとイリュージョンはディエンド用です。
※インビジブルとギガントはディケイド用のカードですが激情態にならなければ使用できません。
※アルティメットフォームに変身出来るようになりました。

740いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:43:10 ID:fMhkbdoE



【P.M.05:58 D-2 住宅街】


 100mを5秒で走るスペックを持つレンゲルは早々にD-2に移動を完了していた。
 そして変身を解除し元の小沢の姿に戻る。
 だが、彼女の心は此処にはない。レンゲルバックルに装填されているカテゴリーAのカードに宿るスパイダーアンデッドの邪悪な意志が彼女を支配しているからだ。
 とはいえ、何時彼女が正気に戻るかは解らない。先の戦闘を踏まえてもそういう兆候を感じた。
 故に早々に戦場を離れたというわけだ。暫く変身が出来ない以上当面は何処かに潜み彼女の精神支配を強めておいた方が良いだろう。だがその後は――


 ――そう、このバトルファイトを制するのは人間でも仮面ライダーでもない。スパイダーアンデッドなのだ――


 世界が夜の闇に染まる――


 それに呼応するかの様に――


 闇に囚われた女性は――


 夜の闇の中に消えた――


【D-2 住宅街】
【小沢澄子@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終盤(第46話終了後以降)
【状態】健康、疲労(中)、不快感、仮面ライダーアビスに1時間40分変身不可、仮面ライダーレンゲルに2時間変身不可、スパイダーアンデッドに精神を支配されている
【装備】コルト・パイソン+神経断裂弾(弾数0)@仮面ライダークウガ、アビスのデッキ@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×4、トリガーメモリ@仮面ライダーW、ガルルセイバー(胸像モード)@仮面ライダーキバ
    レンゲルバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(クラブA〜10、ハート7〜K、スペードの7,8,10〜K)@仮面ライダー剣
    ゴオマの不明支給品0〜1、三原の不明支給品(0〜1)
【思考・状況】
1:身を休めつつ精神支配を強化する。その後、他の参加者を倒す。
【備考】
※真司の支給品のトランプを使うライダーが居る事に気付きました。
※龍騎の世界について大まかに把握しました。

741いつも心に太陽を ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:43:40 ID:fMhkbdoE



【P.M.05:58 E-2 住宅街】


「はぁ……はぁ……小沢さんは?」

 煙が晴れた――

「いないようだな……」

 そこにレンゲルの姿は消えていた――

「城戸さん、キバット……大丈夫ですか」
「ああ、何とか……」

 結局それぞれ一撃入れられた程度のダメージしかなかったのは不幸中の幸いだった。

「だが妙だな、その気になれば俺達を一網打尽に出来た筈だろうに……」

 あの時、レンゲルが使ったカードは――


 ――SMOG――


 『スキッドスモッグ』――煙幕を展開するカードだ。つまりレンゲルは煙幕を展開後、この場から去ったというわけだ。
 だがレンゲルの手元には他にも強力なカードが数多く存在していた。それこそリモートのカードで他のアンデッドを呼び出し彼等に戦わせる事だって出来ただろう。
 そう、レンゲルは何故か翔一達を見逃したという事だ。

「そんな事決まっている……」

 が、キバットの問いの答えなど考えるまでもない。

「まだ小沢さんの心が残っていたって事ですね」

 恐らくあの瞬間小沢が僅かに意識を取り戻しあのモンスターに抵抗したのだろう。
 その僅かな力を振り絞りモンスターの意志に沿わないカードを読み込ませた。
 勿論、真相が違うかもしれない。だが真司と翔一にとってはそうであるとしか思えなかったし信じたかった。

 真相はどうあれ自分達のすべき事は決まっている。モンスターの呪縛から小沢を助け出す事だ。
 小沢がモンスターに操られたまま誰かを殺せばもう戻れなくなる、一刻も早く彼女を見つけ出し対処せねばならない。

 何時までも自分の所為で誰かが死んだ事を悔やんではいられない、翔一はそう考えていた。
 戦いで誰かが死ぬのを見るのは辛いが俯いたままモンスターの暴挙を見逃すわけにはいかない、真司はそう考えていた。


 当分変身は出来ず色々助けてくれた小沢も去り状況は悪化の一途を辿る――だが、


 太陽が沈み世界が闇に包まれようとも彼等の心は赤く燃え盛る太陽の様に輝いていた――


「俺も奴には借りがあるからな、お前達に付き合ってやる、有難く思え――だが今は」
「少し休まないと……流石に身体が……そうそう、城戸さん1つ聞きたかったんですけど……」
「何だよ?」
「貴方もアギトですか?」
「は?」
「翔一にとっては何でもアギトなのか……」


【E-2 住宅街】
【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 霧島とお好み焼を食べた後
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)、罪悪感、仮面ライダー龍騎に1時間40分変身不可
【装備】龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:打倒大ショッカー、絶対に戦いを止める。
1:身を休めつつ、翔一と話す。
2:モンスターから小沢を助け出す
3:ヒビキが心配
4:蓮、霧島、北岡にアビスのことを伝える
【備考】
※支給品のトランプを使えるライダーが居る事に気付きました。
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解しています。
※アギトの世界について認識しました。

【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)、罪悪感、仮面ライダーアギトに1時間40分変身不可
【装備】なし
【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ケータロス@仮面ライダー電王、
    ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ、医療箱@現実
【思考・状況】
基本行動方針:打倒大ショッカー、殺し合いはさせない。
1:身を休めつつ城戸さんと情報交換
2:モンスターから小沢さんを助け出す
3:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触
4:木野さんと会ったらどうしよう?
5:何故突然変身を解除されたのだろう?
【備考】
※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。
※響鬼の世界についての基本的な情報を得ました。
※医療箱の中には、飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブスと様々な道具が入っています。

742 ◆7pf62HiyTE:2011/05/18(水) 21:46:30 ID:fMhkbdoE
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。
なお、今回容量が55KBと分割が必要になりますので分割点の指摘を。
>>721-730が前編(25KB)、>>731-741が後編(30KB)となっています。

743二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/05/18(水) 22:43:35 ID:kOAKre5E
投下乙です
激戦が終わったのに休む暇もなく、また一騒動か……
特にユウスケと小沢さんの今後が不安だなぁ

744二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/05/19(木) 08:28:09 ID:BNboYeIg
投下乙です
どこもかしこも安心出来ないなあ
橘は未だにデストワイルダーに狙われてるし、小沢さんは暴走しちゃうし。
かといって対主催組は割とみんなボロボロな状態だし、油断出来ないな。
そして何気にダグバは更なる強化フラグが。流石に外見の変化とかはないだろうけど、
これなら確かにライアルと戦う事になっても互角に戦うだけの理由付けが出来そう。
とりあえず今回書かれたパートはもう放送直前って感じかな?

745二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/05/19(木) 16:35:55 ID:uvZRWcyw
門屋ではなく門矢では?

そこだけ気になりました
あとはGJ

746 ◆7pf62HiyTE:2011/05/19(木) 17:45:27 ID:qMOaWDMg
>>745
これは此方のミスです。で、見直した所拙作『3人×3人×3人』でも同様のミスしている事が判明しました。
一応、展開上の問題は無い為(門屋→門矢に修正するだけ)、双方合わせてwiki上で修正を行うという形にしたいのですがよろしいでしょうか?
問題が無ければwiki収録次第修正致します。

747二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/05/20(金) 00:29:56 ID:hQk1YlnI
乙です
門矢についてはそれで大丈夫かと

疑問点が一つ
アギトキャラとクウガキャラで名前が近いから同じ世界という考察ですが、
過去の村上社長の登場話などでは、「上から○つ目の世界」など、世界毎に名簿の名前が別れている描写があります
過去のSSの描写に従うなら、アギトの世界とクウガの世界は名簿上では別の世界になるのでは

748 ◆7pf62HiyTE:2011/05/20(金) 02:02:02 ID:kuLlePTQ
>>746
確かに『止まらないB/もえるホテル』の記述に従えば考察が成り立ちませんね。
問題となるのは本スレ>>726のキバットの考察部分なので、修正したものを先程修正用スレに投下しました。

具体的には『区切られてはいるがゴオマ達のグループと翔一達のグループは近くにある』という風になっていて、『現時点では確証はない』という事も明文化しています。
『止まらないB/もえるホテル』の記述に従うならゴオマ達のグループ(クウガの世界)が上から1つ目、翔一達のグループ(アギトの世界)が上から2つ目と近くにあるので問題点は解消されたと思いますがどうでしょうか?

749 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:35:58 ID:cmGEtXZs
これより予約分の投下を開始します。

750 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:37:00 ID:cmGEtXZs
 圧縮された水の弾丸が戦場を駆け抜けて、次の瞬間にはその全てが弾けて消えた。
 それをやってのけたのは、「全てを喰らい尽くす牙」を体現する剣、ガオウガッシャ―。
 ガオウが振るった剣は寸分違わずに、キバの放った水の弾幕を全弾撃墜せしめたのだ。
 一発撃ち落とす度に急激にキバとの間合いを詰めたガオウは、肉薄した瞬間に一太刀を叩き込む。
 そうすればキバは左腕の剣でそれを受け止めるが、そんなものはただ反射的に剣を受けただけに過ぎない。
 熟練の牙王相手に、そのような付け焼刃……ましてや銃と剣の二刀流など、子供の遊びのようにも思えた。
 一合目でエンジンブレードを握る手を弾き落したガオウは、続けて二合目でキバの胸部を大きく切り裂く。
 声にならない嗚咽を漏らして、キバは大きく仰け反り、それでも銃口を構える。

「つまらねえな。こんなに喰い甲斐のねえ相手は初めてだ」

 放たれた銃弾をガオウガッシャーで叩き落しながら、嘆息と共に言った。
 その動きを見るに、どうやら目の前の“獲物”は片足を怪我しているらしい。
 その上変身したライダー自体の戦闘能力も矮小で、とてもガオウに叶う程ではない。
 そんな奴は素直に剣一本か、銃撃戦だけで戦うべきだと思うが、恐らくこいつはそれでも三下以下だ。
 もっと別な戦い方をすれば、それも補えるのかもしれないが、現状ではどうしようもない。
 既に目の前の敵の限界が見えてしまっていて、これ以上の興味も沸かなくなって居た。

 あっと言う間に再びキバの間合いまで急迫したガオウは、乱暴に刃を叩き付ける。
 二度三度と切り裂かれたキバの装甲からは派手な火花が舞い散って、その場で片膝をついた。
 ガオウの刃がキバの喉元に突き付けられて、キバはびくんと身体を強張らせた。
 ゲームセットだ。ガオウの完全勝利に、この戦いは終わる。
 ……が。

「くだらねえ」

 突き付けられた刃はしかし、キバにトドメは刺さず。
 ちゃき、と音を立ててゆっくりとキバの喉元に触れた。
 完全に身動きを封じられたキバの仮面を覗き込み、ガオウは問う。

「おい、お前はそれが全力か」
「……何ですって?」
「他に力はねえのかって聞いてんだよ、もっと使い慣れた奴だ」
「あるって言ったら、どうするのかしら」
「そいつを使ったお前を喰らう。今のままじゃ腹の足しにもならねえからな」

 ガオウの牙は、全てを喰い尽くす為だけに存在しているのだ。
 力を発揮出来ない敵を一方的にいたぶって殺した所で、それを喰い尽くしたとは言わない。
 言うなればそれは、まだ食える肉がびっしりとこびりついた骨をゴミ箱へ捨てる様なものだ。
 一拍の後、目の前で身動きを封じられたキバが、仮面の下でくすりと笑った。

751 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:37:31 ID:cmGEtXZs

「そうね、あの力さえ使えれば、貴方なんかに遅れは取らないんじゃないかしら」
「なら、その力ってのはどこにある?」
「あそこよ」

 キバの銃口が、彼方で戦う二人へと向けられた。
 片方は白い蛇の鎧を身に纏った仮面ライダーで、赤い鞭を振り回していた。
 片方は変身する事もせず、白い仮面ライダーの鞭捌きを回避し続けていた。
 あれじゃ嬲り殺しも良い所だ、とガオウは思う。
 白いライダーがその気になれば、あの程度の小僧一人なら軽く殺せるだろう。
 だが、奴は逃げ惑う獲物を追い込む様に振舞う事で、一種の優越感に浸って居る様子だった。

「どっちだ」
「変身していない方が私の力を持ってるわ」
「そうか……いいぜ、あの白いのなら喰い甲斐がありそうだ」

 つまり、襲われている方に加勢して、白いライダーを喰えば、後から残りの二人も食えるという訳だ。
 こんなに美味しい話は他にないと思ったし、この自分があの程度の敵に負ける訳がないという自信もあった。
 たったそれだけの単純な行動方針で、ガオウは剣を振り上げ、白いライダーへ向かって駆け出して言った。


 さて一方で、サガの鎧を身に纏ったキングは現在、圧倒的有利な状況にあった。
 鞭を振るえば紅渡はそれを回避するしかないし、回避する度にその動きは重たくなってゆく。
 渡と一緒に居た女がキバに変身して戦っている事を考えれば、今の渡はキバにはなれないらしい。
 となれば、これは積りに積もった鬱憤を晴らす為の絶好のチャンスだった。
 かつての仲間の口癖を借りるならば、これこそまさに「絶滅タイム」。
 恐怖と絶望でとことんまで追いつめて、最後にはこの手で縊り殺してくれる。

「どうした紅渡。キバが無ければろくに戦えないか」

 処刑人の鞭が唸りを上げて地面を抉る。
 渡はというと、地べたを転がる事で紙一重で回避。
 回避した所へ再び迫る赤の鞭を、渡は這々の体で何とかかわす。
 徐々にペースを上げていけば、いつかはこいつも回避が出来なくなる筈だ。
 これはその瞬間まで、渡の精神を追い詰める為の一種のゲーム。

「どうだ。嬲り殺しにされる気分は」
「やめて、下さいっ……! 僕達は、仲間じゃないですか!」
「一度は俺の命を奪ったお前が、どの面を下げてそんな事を言う」
「何の話をっ……!?」

 今にも泣き出しそうな表情で罪を逃れようとする渡に、更なる殺意が芽生えた。
 こいつは俺から真夜を奪うどころか、一度はキングたるこの俺を殺したのだ。
 その上でこいつは、あろう事かそれすらもとぼけようと言うのだ。
 ただの腑抜けに成り下がっただけではない。
 こいつにはもう、王の敵と成り得る資格すらない。
 一度は自分に勝利した男が、こうも惨めに命乞いをする姿を、これ以上見ていたくはなかった。
 もういい。もう終わりだ。これが本当の、絶滅タイムだ。

「王の判決を言い渡す」
「えっ……!?」
「死だ」

 ジャコーダービュートが空中でしなって、まるでフェンシングの剣の様に硬質化した。
 獲物を仕留めんとする長槍となったジャコーダーロッドが、神速で以て渡に急迫してゆく。
 ……しかし、この手に感じた手ごたえは、人の身体を貫く際のそれではなく。

「いいぜ、お前は美味そうだ」

 最早身動きの取れぬ紅渡の断末魔の叫びの代わりとなったのは、低い男の声だった。
 何事かと見遣れば、渡の前に立ち塞がる様にして現れたのは、銅色の仮面ライダー。
 全身に生えるは、牙、牙、牙。とにかくどこもかしこも、牙だらけ。
 仮面も装甲も、牙だけで出来た仮面ライダーが、その大剣で以て王の裁きを受け止めていたのだ。

「……貴様、何者だ」
「俺の名は牙王。全てを喰らう“牙”だ」
「貴様も“キバ”を名乗り、あまつさえこの俺に盾突こうと云うか」

 サガの仮面の下で、ぎり、と音を立てて歯噛みする。
 どいつもこいつも、キバの鎧を身に纏う者は自分の邪魔ばかりをする。
 この手を去った闇のキバも、未来から来た黄金のキバも――。
 そして今また現れた眼前の敵、全てを喰らう“キバ”もだ。
 最早この王に盾突くキバを、これ以上赦しておく事は出来ぬ。
 サガの握るジャコーダーのグリップに、力が込められた。

752 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:38:07 ID:cmGEtXZs

 神速で以て振るわれた連続でのジャコーダーの突き。
 しかしそれらを全て受けて、互角以上の力で打ち落とすのは牙の剣。
 一合、二合、三合、四合……激しい金属音を掻き鳴らして激突する二人の剣。
 一撃をぶつけ合う度に二人の距離は縮まって、ついには二人の腕が届く間合いに到達。

「俺の牙で、骨まで残らず喰い尽くしてやるよ」
「あろう事かこの王を喰らおうなどと吠えるとは……身の程を知らぬ狗だ」

 二人の言葉が交差して、一瞬の後には赤と銅の剣が激突した。
 巨大なソードを手にするガオウと、細身のロッドを手にするサガ。
 どちらの方が俊敏かと問われれば、答えは考えるまでもなくサガだった。
 一度目の激突でお互いを弾き合って、サガは突き刺す様にロッドを突き出した。
 赤の魔皇力迸る一撃を胸部で受けたガオウは、その身から火花を散らし、しかし引き下がりはしない。
 サガの一撃によるダメージを物ともせずに、ガオウは力任せに牙の剣を叩き付けた。

「グッ……!」

 運命の鎧が火花を上げて、堪らず数歩後退する。
 追撃を仕掛けようと迫るガオウに、サガはロッドを突き出した。
 ガオウの剣はそれを弾き返すが、構う事なくもう一撃。
 二度目も弾かれるなら、三度目。それでも駄目なら四度目だ。
 それはなるほどフェンシングのスタイルと表現するのが正しかった。
 連続で繰り出される攻撃は、ガオウの大振りな動きでいつまでも対処するのは不可能。
 たった一瞬の隙を見付ければ、サガはガオウの剣の弾幕を掻い潜って、そのオーラ―アーマーに一撃を叩き込む。

「チッ……!」

 仰け反ったガオウに出来た隙は、サガから見れば絶好過ぎる程の好機だった。
 怒涛の勢いで以て、連続で打ち出されるのはフェンシングの突き。
 片腕の力一つで、サガの猛烈なラッシュがガオウの装甲を突く、突く、突く。
 それでも対抗しようと剣を振り上げたガオウであるが。

「無駄だ!」

 びゅん、としなったジャコーダービュートが、ガオウガッシャーを絡め取った。
 そのままガオウの腕ごと思いきり弾き上げて、完全な隙となった懐へ飛び込む。
 しかし、そこに待ち受けていたのは、強烈なガオウの前蹴りだった。
 どすん! と音が響いて、サガの胴に重たいキックが抉りこまれた。

「剣がなきゃ戦えないとでも思ったか? 甘えんだよ」

 前のめりになったサガの襟を掴み上げたガオウは、嘲笑う様にそうのたまった。
 すぐにジャコーダービュートをしならせて、眼前のガオウを弾き飛ばそうとするが、既に手遅れ。
 ガオウの拳がサガの仮面を思いきり殴り付けたかと思えば、解放されたガオウガッシャーが振るわれていた。
 剣はまさしく、サガの鎧を噛み砕かんとする牙の様に、何度も何度も叩き付けられた。
 思わず姿勢を崩して倒れ込みかけた所で、今度はガオウに蹴り上げられる。

「ケッ、王様ってのはこの程度なのかよ」
「……貴様、ナメた真似をしてくれる……!」

 地べたを転がって距離を取ったサガが、立ち上がり様に叫んだ。
 二人の戦力は、現状で語るなら、ほぼ互角だった。
 そもそも純粋にスペックで語るなら、サガが圧倒的に上である筈なのだ。
 しかし、それを補ってあまりあるガオウの強さの秘密は、まず第一に変身者にある。
 牙王の純粋な戦闘スキルは、それこそキングと同等と言っても差支えはないレベルだ。
 そんな相手と戦えば、当然サガの鎧で得たアドバンテージも帳消しにされてしまう。
 おまけに、現状では先程戦った黒の金のクウガに与えられたダメージも蓄積されている状態だ。
 奴に与えられた数々のダメージは、キングの動きを掣肘する足枷となっているのだった。

「どうした? この程度じゃねえんだろう、王様よ?」

 そんな事実を知ってか知らずか、ガオウは迫る。
 当然の事、誇り高きファンガイアの王が舐められたままで良い訳が無い。
 自分は、ファンガイア族の未来を護る為、たった一人で他の十三魔族を滅ぼしてきた本物の王なのだ。
 装着者を選ぶ闇のキバを使いこなし、ゴブリン族も、レジェンドルガ族をも滅ぼして来た勇者なのだ。
 なればこど、こんな下らない戦いで負けていい筈がない。負ければファンガイア族の面汚しだ。
 戦力差だって、埋められない差ではないのだ。上手く立ち回れば、この程度の敵は十分に倒せる。
 軋む身体に鞭打って、サガはゆらりと立ち上がった。

753 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:38:41 ID:cmGEtXZs





 野上良太郎の身体を借りたウラタロスは、憂慮に満ちた溜息を零した。
 いつの間にか掛けられていた眼鏡をくいと押し上げ、状況を整理する。
 現状で仲間と呼べるのは、天美あきら、村上峡児、志村純一の三人だ。
 当然この馬鹿げた殺し合いを打破せんと動くチームではあるが……何分、不安要素が多い。
 まず天美あきらだ。彼女はろくな戦闘能力を持って居ないが、殺し合いには乗って居ないと断言出来る。
 次に村上峡児。こいつは一応は味方であるが、危険人物である事を隠しもしない危険人物。
 そして最後に、志村純一。表向きには善人だが、ウラタロスはこの男を信頼してはいない。

「さて、どうするかな」
「どうかしたんですか、良太郎さん」
「どうもしないよ。これからどうするかを考えていたのさ」

 人の良さそうな笑顔で尋ねて来る志村に、同じく笑顔で返す。
 志村とは違い、薄笑いとも取れる様な笑顔で、しかし爽やかに。
 再び眼鏡を押し上げれば、青の瞳は志村を真正面から捉えた。
 志村は屈託のない笑顔で居ながら、何処か信用ならない影を持っている。
 そのアンバランスさが不釣り合いで、妙に気持ち悪いとすら感じる笑顔だった。

「葦原さんを待つんじゃないんですか?」
「そのつもりなんだけど、あれからもう結構時間が経ったからね」
「もしかしたら、もう帰って来ないかも知れませんね」

 村上が、腕を組んだ姿勢のまま言った。

「忘れた訳ではないでしょうが、ここは殺し合いの場です。いつ敵に襲われるかは解りませんからね」
「葦原さんの身に何かあったって言いたい訳?」
「端的に言えば、もう死んでいるかもしれない。そう言いたいのです」

 村上の言葉を聞いたあきらが、その表情に影を落とした。
 葦原涼は、自分達を助けてくれた男なのだ。
 もしかしたらもう死んでいるかもしれない、なんて言われて虚心で居られる訳がなかった。
 そんなあきらの気持ちをすぐに察したU良太郎は、あきらに向き直る。

「大丈夫だよ、あきらちゃん。彼は強いんだから」
「そうだよ。俺はその人の事知らないけど、きっと帰って来てくれる。だから元気を出して」

 良太郎の言葉に、志村が続いた。
 この志村という男、善人ぶっているだけの事はある。
 一応は人格者らしく、落ち込む誰かを慰めるくらいの事はするようだ。
 もしかしたら勘繰り過ぎなのかも知れないが、それでもウラタロスは警戒を解きはしない。

(なあウラの字、やっぱりお前の考え過ぎなんちゃうんか?)
(僕の目には、志村さん、悪い人には見えないよ……)

 頭の中に響いて来る二人の声に、ウラタロスはうーむと唸って見せる。
 確かに現状では志村は絶対に尻尾を出さないだろうし、勘繰るだけ空気が悪くなる可能性だってある。
 しかし、志村を信用し味方として作戦を立てた場合、思いもよらぬ裏切りにあって破滅、なんてのは御免だ。
 出来る事なら、もう少しこのチームに動きが出るまでは志村を警戒しておきたいと思う。

 開け放たれた窓から、甲高い金属の激突音が聞こえてきたのは、そんな時だった。
 恐らくここから、距離にして数百メートルといった所か。少なくとも、それ程遠くではない。
 何者かの武器と武器が、何度も何度も激突する、ある意味では聞きなれた音だった。
 それを聞き付けたこの場の全員が、表情を変えてお互いの顔を見合せる。

「この音は……戦闘、ですか」
「そうみたいだね。さて……どうしたものかな」

 若干の不安さを持ったあきらに、U良太郎が答える。
 どうしようか、というのはつまり、自分達はどう動こうか、という意味である。
 今まさに警戒している通り、このチームの内半分は危険人物だ。
 そしてもう半分は、自分を抜いて考えると、戦力としては心許ない少女。
 葦原涼を待つ都合を考えても、普通に考えればチームを二つに割るのが得策だ。
 戦場に行くのが、戦える二人。残って待つのが、あきらと、もう一人。
 だけど、そんな分け方をすれば、あきらの身に危険が及ぶ可能性がある。
 かといって、女の子を戦場に向かわせたくはないとも思う。

754 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:39:11 ID:cmGEtXZs

「すぐに行きましょう! 俺達で、救える命があるかも知れない!」

 志村が、グレイブバックル片手に叫んだ。
 果たして何処までが演技で、何処からが本心なのか。
 未だに踏ん切りが付かなくて、ウラタロスの判断を鈍らせる。

(どうしたんやウラの字! はよ行かな、手遅れになってまうで!)
(そんな事は解ってるよ。今考えてるんだから、キンちゃんはちょっと黙ってて)

 顎に手を当て、再び唸る様に考える。
 志村は自分の意思で戦場に行くと言うが、それはそれで信用ならない。
 邪推が過ぎるかも知れないが、もしも志村が殺し合いに乗っていたなら、どうだろう。
 今戦っている奴らの変身が解除された瞬間を狙って、漁夫の利で仕留める……これは最悪のパターンだ。
 ならば自分も一緒に行こうかと思うが、それならそれで、あきらと村上を二人きりにする事になる。
 逆に村上と志村を一緒に行かせた場合も考えるが、危険人物二人の組み合わせは出来れば遠慮したい。
 何が起こるか、それこそウラタロスにも想像がつかないからだ。

「先程からこの戦闘に対する身の振り方を考えている様ですが……果たして、答えは出ましたか、野上さん?」
「一つ聞かせて貰いたいんだけど、いいかな? 村上さん」
「ええ、何でしょう」

 どんな嘘をも見破ると自負する青の瞳で、村上を見据え、問う。

「単刀直入に言うけど、生憎、僕はまだ貴方を完全に信用した訳じゃないんだよねぇ。
 仮に、もしあきらちゃんと二人きりになっても、絶対に手出しはしないって保証でもあるかな?」
「保証、ですか」
「何を言ってるんだ野上さん! 俺達は今、仲間割れなんかしてる場合じゃない筈だ!」

 必死の形相で怒鳴る志村に、U良太郎はさもありなんと言った様子で頷いた。

「だから聞いてるんだよ。彼が信用に足る人物かどうかをね」
「貴方も愚かな質問を繰り返す人だ。私は一度、言った筈です。
 もう人は襲わない、と……それが真実がどうかは解りませんが」
「大丈夫です。村上さんには、私がこれ以上は誰も襲わせませんから」
「あきらちゃん……」

 あきらの言葉に、U良太郎は困った様に額を押さえる。
 どうやらこの天美あきらという少女、それなりに村上を信用しているようだった。
 こんな危険人物をそこまで信用する要素が一体何処にあったのかは些か疑問だが。
 ともあれ、このまま尋問を繰り返していても、あきらの中での良太郎の評価が下がるだけだ。
 それはウラタロスにとって、非常に芳しくない事であった。

「わかった、僕が戦闘の様子を見に行ってくるから、皆は留守番をしていてくれるかな」
「そんな、野上さん一人じゃ危険だ! 俺も一緒に!」
「君はどうしてそんなに戦場に行きたがるのかな?」

 問われた志村が、突然表情に陰りを落とした。
 悲しそうな、今にも泣き出しそうな表情で俯いて、ゆっくりと語り出す。

「俺は……誰かが傷つくのを、これ以上見たくない。本当なら、こんな下らない殺し合いだって、する事ないんだ。
 だから俺は、この殺し合いでこれ以上誰かが犠牲になるのなら、例えこの命を投げ出してでも、その命を救いたいと思ってる」

 U良太郎は、内心で、ふぅんと頷いた。中々やるね、とも思う。
 泣き出しそうな表情で告げる志村の所為か、この場の空気が急にしんみりとした気もする。
 仮にこれが本当なのだとしたら、志村は正真正銘本物の聖人だ。
 だが、仮に演技だとしたら……尚更こいつを戦場に出す訳には行かなくなる。
 だってそうだろう。そこまでして嘘を吐いてでも、戦場に行きたい訳だから。
 相対するU良太郎もまた、悲しげな瞳で以て、志村を見詰め返した。

「やっぱり……君はそう言うだろうと思ってたよ」
「なら、俺の気持ちを解ってくれるなら、尚更――!」
「違うんだよ、志村……君がそんな考えだからこそ、僕は君に尚更戦って欲しくない」

 う、と息を飲んだのは、志村だった。
 構わずU良太郎は続ける。

「これ以上誰にも傷ついて欲しくない……その気持ちは僕だって同じさ。
 でも、だからこそ、僕はそんな気持ちで戦いに行って、君が傷つく姿も見たくない」
「それなら、その気持ちは俺だって同じだ! 俺は決めたんだ……人を護る為に仮面ライダーになるって!
 人を護るのなら、仮面ライダーを守ったっていい! 俺は、野上さんの事もこの手で護りたいんだ!」
「その為に自分を犠牲にしてもいいなんて思ってる人間を、僕は連れてはいけないな」
「俺は死なない! 必ず野上さんと一緒に帰って来ると約束する!」
「解らないかな……僕はね、それが軽いって言ってるんだよ」

 今度は語調を少し強めて続ける。

755 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:39:49 ID:cmGEtXZs

「君は賭ける命の重みを解ってない……僕は今の君とは、一緒に戦えないって言ってるんだ」

 そこまで言われた志村は、これ以上言い返す言葉も見当たらないのか、喋らなくなった。
 ただただ悲しげな表情のまま、志村は俯いて一歩身を引く。

「だから君には、村上さんと一緒に、ここであきらちゃんを守っていて欲しい
 ……それと、僕の帰る場所もね。帰って来た時に皆居なくちゃ、寂しいじゃない」
「解った……野上さんの帰る場所は、俺が必ず守ると約束する」

 志村純一の瞳には、再び先程までと同じ熱意が燃え上がって居た。
 これが本当であるなら、こんなに心強いものは無いと、ウラタロスも思う。
 だが、志村が喰えない男である以上、不本意ながらも今はこうするしかないのだ。
 あきらちゃんを頼むよ、と伝わるかも解らないアイコンタクトを送って、U良太郎は駆け出す。

「ちょっと待って下さい!」
「……まだ何かあるのかな、あきらちゃん?」
「行くなら、せめてコレを……無いよりは、心強いと思います」

 差し出されたのは、一振りの刀だった。
 紫と黒という毒々しい配色で、しかし無駄のない美しいデザインのそれは、如何にも機械らしかった。
 ただの刀ではなくて、何らかの技術が応用されていても可笑しくないその武器を、U良太郎は掴み取る。
 その場で軽く振ってみれば、刃がびゅんと音を立てて空気を切断する。
 なるほど刀としての切れ味も確かなようだった。

「こういうのは先輩の方が向いてる気がするけど、有り難く受け取っておくよ」

 あきらに対し、どんな女性をも虜にしてきた優しい笑みを浮かべると、U良太郎はそのまま駆けて行った。


 さてそんな野上良太郎を見送る志村純一は、やはり心中穏やかでなかった。
 志村純一にとって嘘を吐く事というのは、息を吸うのと同じくらいに慣れ親しんだ行為。
 今回もいつも通り、嘘で塗り固めた「志村純一」という疑似人格で良心に訴えるつもりだったのだ。
 大抵の場合は志村の迫真の演技に押され、そのままペースを持っていかれると言うのに、奴は違う。

(あの野上良太郎とか言う男……中々に喰えないな)

 心中で悪態を吐いた。
 それから一緒に居る二人を眇め見て、考える。
 天美あきらに関しては、別段考える事は何もない。
 チャンスさえ来れば、グレイブでも、ジョーカーでも、殺す手段は何だってある。
 問題は、もう一人の男――村上峡児だ。

(園田真理から聞いた情報だと、確かこいつは……)

 オルフェノクを影で操る、黒幕――とするならば、油断は出来ない。
 村上と自己紹介を交わしてから、何も知らない体は通しているのは、相手の情報が殆どないからだ。
 実際園田真理も、村上の事はそこまで知らなかったようだし、要注意人物くらいとしか聞いていない。
 少なくとも殺し合いには乗って居ないというが、言動がまるで読めないのが辛い。
 これはもう少し、探りを入れる必要があるか、と思う。
 少なくとも、行動を起こすのはそれからだ。

756 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:40:23 ID:cmGEtXZs
 


【1日目 夕方】
【B-6 ホテル】


【天美 あきら@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】 41話終了後
【状態】全身に軽度の怪我 
【装備】鬼笛@仮面ライダー響鬼
【道具】支給品一式、ニビイロヘビ@仮面ライダー響鬼、不明支給品(0〜1 確認済)
【思考・状況】
基本行動方針:人を助けるため、自分に出来ることをやる。
1:ホテルで涼と良太郎の帰りを待つ。
2:知り合いと合流する。
3:村上が人を襲うことがあれば、止める。


【村上峡児@仮面ライダー555】
【時間軸】不明 少なくとも死亡前
【状態】腹部に痛み バードメモリに溺れ気味
【装備】オーガギア@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト
【道具】支給品一式、バードメモリ@仮面ライダーW 不明支給品×1(確認済み)
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いには乗らないが、不要なものは殺す。
1:まずはホテルで良太郎の帰りを待つ。
2:あきら、良太郎らと行動するが、彼らに情は移していない。
3:亜樹子の逃走や、それを追った涼にはあまり感心が沸かない。
4:志村に若干の警戒。
【備考】
※少なくとも良太郎が帰って来るまでは現状維持を考えています。

【志村純一@仮面ライダー剣MISSING ACE】
【時間軸】不明
【状態】全身の各所に火傷と凍傷
【装備】グレイブバックル@仮面ライダー剣MISSING ACE、オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×3(ただし必要なもののみ入れてます)、ZECT-GUN(分離中)@仮面ライダーカブト、トライアクセラー@仮面ライダークウガ
【思考・状況】
基本行動方針:自分が支配する世界を守る為、剣の世界を勝利へ導く。
1:村上の目的や戦力から探りを入れて、次の行動を決める。
2:人前では仮面ライダーグレイブとしての善良な自分を演じる。
3:誰も見て居なければアルビノジョーカーとなって少しずつ参加者を間引いていく。
4:この集団の中に潜み、利用する。
【備考】
※555の世界の大まかな情報を得ました。
※電王世界の大まかな情報を得ました。
※ただし、ウラタロスの仲間や電王の具体的な戦闘スタイルは、意図的に伏せています。

757 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:41:10 ID:cmGEtXZs
 サガとガオウの戦いは、熾烈を極めていた。
 互いに一進一退。どちらかが攻めれば、どちらかが反撃する。
 それの繰り返しで、二人が戦い始めてからと言うもの、ほんの少しだが、余裕が出来た。
 ガオウは全力でサガを潰しに掛かるだろうし、サガはガオウを倒さぬ事には先へは進めない。
 これは想像以上に仕える当て馬になってくれたと、キバの仮面の下で園咲冴子はほくそ笑んだ。
 冴子は、ガオウを挑発すれば間違いなくこう動いてくれるという確証があった。
 ああいう単純な馬鹿は非常に解り易くて、だからこそ使いやすい。
 そんな男を冴子は嫌うが、それでも今回だけは感謝する。

「大丈夫、渡君?」
「は、はい……何とか」

 キバの肩に捕まった渡が、辛そうな表情で答えた。
 どうやら先程までのサガとの戦闘で、思いのほか消耗しているらしかった。
 無理もないと思う。紅渡自身はお世辞にも体力がありそうだとは思えない。
 キバとしての戦闘能力はそうではないのだろうが、生身ではそれも関係のない話だ。
 渡の存在もあって、中々に前進はしないが、それでも確実に狂人二人からは距離を取って居た。

「しっかししなさい、渡君。今の私には、貴方しか居ないんだから」
「はい……すみません。僕なんかの為に……」
「これでも頼りにしてるんだから、死ぬんじゃないわよ」

 男の使い方には、もう十分過ぎる程に慣れている。
 冴子に近付いて来る野心家な男達と、紅渡が違う事は解るが、それでも渡は男だ。
 男と言う生き物は非常に馬鹿な生き物で、女に頼りにされると戦わずには居られないのだ。
 少なくとも冴子は男をそういう便利な生き物だと思っている節がある。
 と言っても、片足を怪我した冴子にとって渡が必要というのは、あながち嘘ではないのだが。
 ともあれ今は何だって良い。この坊やに、何とかしてやる気になって貰わねばならないのだ。
 何にせよ今のままでは頼りなさ過ぎるし、これでは体の良い便利屋くらいにしかなりはしない。

(どうしたものかしらね……この男と組んだのは間違いだったかしら)

 そんな事を考え始める。
 出来れば、霧彦の様な、もっと使いやすい手駒が欲しい。
 こいつはキバにさえなれれば、多分、強いのだろうが……。
 一体何をすれば、こいつのスイッチを入れる事が出来るのかが解らない。
 参加者を皆殺しにするつもりだとは言うが、ハッキリ言って今のこいつには無理だとも思う。
 緑のキバのフィッシュアイが、後方から一直線に伸びる赤の鞭に気付いたのは、そんな時だった。
 ガオウとの戦闘途中で、逃げ遂せようとする自分達に気付いたサガが放った一撃だろう。
 それはサガにとっては容易な攻撃でも、渡にとっては決定打となり得る一撃だ。
 やらせる訳にはいかない、と思うが、しかし。

(これは、チャンスかもしれないわね)

 同時に、希望が芽生える。
 どうせこのまま逃げようとした所で、自分達はここで終わりだ。
 タブーを使ったとて、手負いの冴子があの化け物二人に勝てるとも思えない。
 渡は狙われているのだから真っ先に殺されるだろうし、何よりも渡には戦闘意欲がない。
 ならば、冴子がこの身を犠牲にする覚悟で、一つの可能性に賭けてみるのも一興。
 と言うよりも、そう考え始めれば、今はもうそれしか考えられなかった。
 勝利の可能性へと続く、そのシナリオが、頭の中で構築されて行く。
 次の瞬間には、渡を庇うように、キバはその身を投げ出していた。

758 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:41:41 ID:cmGEtXZs





 どうして自分は、いつもこうなんだろう。
 誰かに迷惑を掛けるしか出来なくって、いつだって不必要な存在だ。
 自分の所為で大切な人は死に、自分の所為で周囲が歪んでゆく。
 みんなみんな、自分の所為だ。全部全部、自分が悪いのだ。
 そんな事を考えていると、紅渡は、泣きそうになって来た。

(僕がなんとかしなくちゃいけないのに――)

 今も、一時的に手を組んだ冴子に助けられっぱなしだ。
 キバに変身した冴子が、サガから自分を救ってくれたのだ。
 今は疲労し切った身体をキバに委ねて、一緒に逃走を図っている最中だった。
 いつもは自分が変身しているキバも、こうして見ると頼り甲斐がある。
 傍らの緑の鎧を見て、渡はそんな印象を抱いた。

「渡く――」

 そんなキバが突然動いたのは、渡がそんな事を考え始めていた時だった。

「冴子さん!?」

 渡の絶叫が響き渡る。
 瞠目に目を見開いて、目の前で崩れ落ちる緑の鎧を見詰める。
 一体、何が起こったのか。それを理解するよりも早く、キバはその場へ崩れ落ちたのだ。
 そして、キバの後方で、サガの元へと戻って行く伸縮自在の鞭を見た時、渡の中での謎が解けた。
 キバに駆けよれば、背中の鎧には穴が穿たれて、そこから中の冴子にまでダメージが与えられたようだった。
 こんな事が出来るのは、奴しかいない。サガの鎧を持ち、自分を殺そうと迫って来たあの王しか。
 しかし、奴は紅渡の命を狙っていた筈だ。
 それが何故、冴子を――?

「無事で、良かったわ……渡、君」
「冴子さん……一体、どうして!」
「言ったでしょう……? 貴方を、頼りに、してるって」

 息も絶え絶えに、キバが言った。
 次の瞬間には、その鎧が弾けて消えて、冴子が生身を晒していた。
 それなりに美人の部類に入る冴子の表情は、しかし苦痛に歪んで居て。
 それが、自分を庇う為に盾になったからだと気付いた時には、渡の表情も苦痛に歪んで居た。
 同時に、どうして、と疑問が押し寄せてくる。一時的に手を組んだ仲間でしかない筈なのに。
 本当なら、自分の為なんかに死ぬ事なんてないし、自分の事なんて放っておけば良かった筈なのに。

「僕の所為で……! また、僕の所為で……今度は冴子さんが!」
「それは違うわ……渡君。私は私の為に、こうしたのよ」

 冴子の細い指が、今にも泣き出しそうな渡の頬をなぞった。
 だが、そんなものは慰めにもならない。今の渡には、絶望と恐慌しかないのだから。
 自分さえ生まれて来なければ。少なくとも今ここで自分と行動を共にしていなければ、冴子さんは助かったのに。
 一度はこの手で冴子を殺そうとしておいて、なんと都合のいい事だろうと、自分でも思う。
 だけれども、それでもそれが、不器用な渡にとっての精一杯の考え方だった。
 どんな考え方が合理的で、どう生きて行くか、何て考えた事も無かったから。
 だが、そんな渡の心中を知ってか知らずが、冴子は続ける。

759 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:42:13 ID:cmGEtXZs
 
「自身を持ちなさい、渡君……貴方は、やれば出来る子なのよ」
「僕に、何が出来るっていうんですか……何も出来ない……今だって……」
「何、言ってるの……さっきは、あんなに、強かったじゃない」

 冴子が、青褪めた顔でくすりと微笑んだ。
 優しい微笑みは、渡の絶望を少しだけ溶かしてくれる。
 そんな気がしたけれど、それは甘えだと、すぐにかぶりを振った。
 どんなに綺麗事を言った所で、お互いに利用し合おうとしていた関係である事に変わりは無い。
 だが、だからこそ冴子が命を賭してまで渡を庇ってくれた意味が、まるで理解出来なかった。
 そんな渡の気持ちを察したのか、冴子は最初のイメージとは打って変わった優しい口調で、告げる。

「いい、渡君……貴方は、私がここまでして生かそうとした男なのよ?」
「だから、何だっていうんですか……!?」
「これは、最期のお願い……私の代わりに、せめて、貴方が戦って、生き残って」
「嫌だ! 何でっ……、僕はもう、こんな世界で生きていたってどうしようもないじゃないか!」
「甘えた事、言わないで……」

 瞬間、渡は、身体に違和感を感じた。
 柔らかい何かに包まれている様な。
 ずっと昔に忘れてしまった様な感覚。
 それが何かと考えて、答えはすぐに解った。
 冴子が腕を伸ばし、渡をその身に抱き締めたのだ。
 長い間女性の身体との触れ合いを知らなかった渡は、不意に母を思い出してしまう。
 そうすれば、渡の瞳からは、どういう訳か涙が溢れ出て来た。
 こんな状況では、ずるい、と思ってしまう。

「一時的でも……私の、仲間、なんでしょ……なら、生きなさい。生きて、戦い抜きなさい」
「冴子……さん……」

 きっと、理屈ではないのだと思う。
 冴子の世界とか、渡の世界とか、そういう次元の話では最早ないのだと思う。
 彼女は今、全てを失った渡にだからこそ、全てを託そうとしているのだ。
 少なくとも渡はそう思った。そう思わないと、冴子に失礼だと思った。
 不意に、渡の頭を抱く腕の力が弱くなった事に気付いて、渡はそっと顔を上げた。

「冴子、さん……」
「お願い……最後に、タブーメモリと、ガイアドライバーを……
 あれが無くちゃ……寂しくて、地獄にも行けないわ……」

 言われてからは早かった。
 冴子の腕の拘束を振り解いて、涙を拭った渡は、一心不乱にデイバッグを漁った。
 銀のベルトと金のメモリを取り出して、それを冴子の手にぎゅっと握らせる。
 そうすれば、冴子は幸せそうな笑みを浮かべて……それきり、糸が切れた人形の様に動かなくなった。
 メモリとベルトを握った手が、すとん、と音を立てて、草むらの上へと力無く落ちてゆく。
 それが冴子の死だと感じた時、渡の中で堪えようのない何かが弾けた気がした。
 連鎖的に深央や加賀美の死に様を思い出して、堪らず発狂しそうになった自分を抑え込む。
 人の死に対する異常なまでの拒否反応が、渡の中で暴れ回っているのだ。
 悲しみとか、怒りとか、恐怖とか、絶望とか、憤りとか……そんな類の感情だとは思う
 だけれども、それが正確には如何なる感情であるのかは、渡自身にも解る筈がなかった。
 ただただ、どす黒い何かが身体の奥で弾けて、それが全身へと染み渡って行くのだ。

「キバットッ!!」
「渡……いいのか」

 一部始終を見守って居たキバットが、不安そうに尋ねるが、答えはしない。
 何がいいのか、なんて考えすらもしなかったけど、多分、どうだっていい事だ。
 そう、今はどうだっていい。今となっては、何だって、どうだっていいのだ。
 少なくとも、自分にすべき事だけは、許してはならない敵だけは、解った気がするから。
 神妙な面持ちで問い掛けてくる蝙蝠をむんずと掴んで、渡は立ち上がった。
 視界の先で再び戦闘を始めていたサガとガオウを、その瞳に焼き付ける。

760 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:42:45 ID:cmGEtXZs
 
 奴らは敵だ。
 同じ世界の仲間であろうと、最早関係ない。
 今までだってそうだったではないか。
 理由など解らずとも、キバは人の命を奪うファンガイアを倒し続けて来たのだ。
 例えここが殺し合いの場であっても、今から渡がやる事は、それと何ら変わる事はない。
 少なくとも、不明瞭な理由で戦い続けていたいつもの戦いよりは、身体がずっと軽く感じる。
 それは渡が、誰の導きでもなく、自分自身の力で戦いたいと願ったから。
 今まで悪を屠り続けて来たキバの力で、揺るがぬ“敵”をこの手で討ちたいと願ったから。
 こんなものは仇打ちでしかないと、渡自身も解ってはいるが……それでも、激情は止まらない。
 キバットに手を噛ませた事で、渡の全身に魔皇力と、激しい激情が駆け廻って行く。
 それそのものが絶対的な力の奔流となって、渡に一つの確信を持たせた。
 今ならば、どんな敵が相手だって負ける気はしない、と。

「変身」

 抑揚の無い冷たい声で、渡はぽつりと言い放った。





 サガは先程、逃げようとする渡と冴子に向かってジャコーダービュートを伸ばした。
 ガオウとしても二人が逃げるのは不本意らしく、サガの行動を掣肘しようとはしなかった。
 その結果としては、サガはキバの鎧を抉って、中の冴子を行動不能に追いやったというもの。
 その後すぐにガオウとの戦闘が再開したのだから、キングがそれに満足したかどうかはまた別の話であるのだが。

 さて、ここに戦況は一変した。
 今まではガオウとサガの一騎打ちであったのだが、今は違う。
 沸き出でる激情を力の源に、この戦場に乱入した一人の仮面ライダーが居たからだ。
 唸りを上げて大地を駆け、獣の様な俊敏な動きで以て戦う者の名は、キバ。
 猛烈な勢いで以て、冴子が最後に使っていた武器、エンジンブレードをサガへと振り下ろす。
 それをいなしつつも、サガは手にしたジャコーダーで突きを見舞うが、キバは腰を落としてそれを回避。

「ようやく戦う気になったか、紅渡」
「お前だけは、絶対に許さない」

 十分過ぎる程の殺意が籠った言葉を交わした二人は、お互いの剣を激突させる。
 きぃん! と甲高い音が響いて、激突したままのエンジンブレードとジャコーダーがぎりぎりと軋みを上げた。
 キバの仮面とサガの仮面が至近距離で睨み合って、すぐにお互いの剣を弾き合う。
 距離を取ったキバに襲い掛かったのは、同じく牙の名を持つ男だった。

「俺を忘れてんじゃねえよ!」

 背後から、ガオウが振り下ろす大剣の一撃を受けたキバが、うぐ、と嗚咽を漏らす。
 背中の鎧から、派手な火花が飛び散って、崩れそうになった姿勢を何とか持ち直す。
 両の脚で踏ん張って旋回し、エンジンブレ―ドを思いきり振りまわす。
 おっと、と言いながら、その身を斬り裂かれる前に、ガオウは後方へと跳び退った。
 安心したのも束の間、今度は別の咆哮から、サガの鞭がキバに向かって疾駆する。

「ぐっ……」

 魔皇力迸る必殺の鞭は、キバの首に巻き付いた。
 喉元を締め上げられる感覚を覚えながらも、キバの身がサガへと引き寄せられていく。
 じりじりと、じりじりと。蜘蛛に囚われた羽虫はこんな気持ちなのだろうか、と無意識に思う。
 このまま退き寄せられれば、待って居るのはサガの必殺の突きなのだろう。
 なんとかせねば、と考える中で、渡の代わりに叫んだのはキバットだった。

761 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:43:15 ID:cmGEtXZs
 
「こんな時は、コイツだ! バッシャー、マグナム!」

 こんな時、意思を持ったベルトと言うのは便利なものだ。
 キバットは自らの意思でフエッスロットから緑のフエッスルを取り出し、その音色を響かせた。
 デイバッグから飛び出した緑の胸像は、キバに握られると変型を開始し、銃の形を取った。
 バッシャーの魂が宿ったその右腕は、マーマンを思わせる形状に変化し、仮面も翠に変わる。
 バッシャーフォームへと変じたキバは、バッシャーマグナムをサガへと向ける。

「はぁっ!」

 掛け声と共に、引き金を引く。
 圧縮された水の弾丸が、弾幕となってサガに押し寄せる。
 ジャコーダーを握り締めていたサガには当然対処の間は与えられず、その装甲が派手に弾ける。
 弾丸が弾けると、数瞬上半身を仰け反らせるが、それだけだった。
 どうやらサガの装甲にはそれ程のダメージは与えられていないらしい。
 流石は正真正銘の王の鎧である。が、隙さえ出来れば、今はそれで十分だ。
 左手に持ったエンジンブレードで、赤の鞭を斬り払った。
 再びバッシャーマグナムをサガに向けるが、サガはまるで怯みもしない。

「ふん……この俺に封印されたモンスター風情が」

 言いながら、再びロッドとして構えたジャコーダーを突き立て、サガは駆ける。
 逃げも隠れもせず、威風堂々たる態度で、真正面からキバを叩き潰すつもりだ。
 反射的にキバは突き出したマグナムから無数の弾丸を放つが、やはり無意味。
 放たれた圧縮弾は、その全てがサガの剣によって叩き落され。
 数瞬の後には、サガはキバへと肉薄していた。
 一瞬反応が鈍ったキバへと、容赦なく突き出されるロッド。
 しかし。

「させるかよ! ドッガ、ハンマー!」

 キバットが叫んで、重厚な音色が鳴り響いた。
 サガとキバの間に、紫の彫像が飛び込んで来たかと思えば、それは巨大なハンマーへと変わる。
 突然出現したハンマーに掣肘され、サガが握るジャコーダーから、僅かに意識が抜けた。
 集中力を欠いたジャコーダーでは、紫の鎧に包まれたキバの鎧に傷一つ与えられなかった。
 サガの仮面の下で小さく舌を打ったキングなどお構いなしに、キバは巨大なハンマーを振るう。
 重く、巨大なそれは、横薙ぎに一度、二度とサガの鎧を殴り付けた。
 これにはたまらずサガも後じさって、キバはどすん!と音を立ててハンマーの柄を大地に降ろした。
 その姿は、また変わって居た。紫の鎧はキバの胸部と両腕を多い隠し、仮面は一面紫に染っていて。
 それは、フランケン族の生き残りたるドッガの魂を宿した姿……ドッガフォームという名だった。
 ドッガフォームのパワーはサガをも上回っており、この力を以てすれば王の鎧と言えどもタダでは済まない。
 しかしそこで疑問が浮かぶ。渡は確か、バッシャーマグナムしか持って居なかった筈だが?
 果たして、その答えはすぐ近くに居る参加者にあった。

762 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:43:46 ID:cmGEtXZs
 

 ガオウはキバとサガの二人の戦いに、苛立ちを覚えていた。
 今この瞬間まで、サガと戦っていたのは、他でもないこの自分だ。
 それなのに、突然現れたキバは、それが当たり前であるかのようにガオウの役割を奪った。
 別にそれならそれで構いはしない。自分はキバもサガも、二人纏めて喰えばいいのだから。
 そう考えてキバに攻撃を仕掛けたが、どうやらキバはサガにしか興味がないらしい。
 すぐにガオウを振り払えば、また二人の戦いが始まった。
 苛立ちを隠そうともせず、ガオウは再び二人の戦いに介入しようとするが。

「まさか、君がまだ生きていたなんてねぇ……牙王?」
「あん?」

 何処かで聞き覚えのある声だった。
 相手を小馬鹿にするような、糞腹立たしいその声の持ち主は。

「お前、電王か」
「覚えててくれたんだ、光栄だなあ」

 髪の毛を片側に寄せ、黒縁の眼鏡をかけたそいつは、薄ら笑みを浮かべた。
 確かこいつは、電王の四つのフォームの内、青い奴に変身するイマジン。
 その戦闘力は圧倒的に自分よりも下で、戦えばまず負けは無い。
 そんな奴が余裕綽々の態度で現れた事に、牙王は少なからず苛立ちを感じた。

「俺は今、忙しいんだ。お前みてえな小物を喰ってやってる暇はねえんだよ」
「それは酷いなぁ。メインディッシュの前には、前菜がなくちゃ締まらないじゃない」

 青いイマジンに憑依されたそいつは、取り出した銀のベルトを腰に巻き付けた。
 四つのボタンが備え付けられたそれを自ら押し込んで、電子音声を響かせる。

 「変身」

 ――ROD FORM――

 青い輝きと、奏でられる軽快な音楽。
 ライダーパスをベルトにセタッチすると、奴の身体はすぐに黒のスーツに覆われた。
 瞬時に形成されてゆく青い装甲と青い電仮面を見ながら、牙王は思う。
 これはまた面倒臭い事になったな、と。
 正直言って、自分はこんな小物よりも目の前の王様を喰らいたいのだ、と。
 しかし、電王にとって自分は時間を消す可能性を持った最悪の敵なのだろう。
 ここで何を言った所で、電王がガオウを見逃すとは思えない。
 なれば、もう戦うしかないのだ。
 勝敗は解り切って居るのだから、ガオウの力で以て電王を叩き潰してやればいいのだ。
 そうして邪魔ものが居なくなれば、後からゆっくりキバとサガを喰えばいい。
 何なら、キバとサガで潰し合わせて、生き残った方を喰う、というのでも構わない。
 つまりこれは、先程電王の男が言った通り、ただの前菜でしかないのだ。
 嘆息一つ落として、ガオウは大剣を肩に担ぎ、言った。

「テメエみたいな雑魚に興味はねえんだが、仕方ねえな……俺が喰ってやるよ」
「そう言ってくれると助かるよ」

 変身を完了した電王ロッドフォームは、デンガッシャーを組み変えながら笑う。
 ガシャン、ガシャンと音を立てて組み変えられたデンガッシャーは、一気に何倍もの長さに伸びた。
 ウラタロスのエネルギーを受けて、彼が最も戦いやすい形状へと変化を果たしたのだ。
 電王は、ロッドモードとなったデンガッシャーを突き付け、不敵にのたまう。

「まあ……三枚におろされるのは、そっちの方だと思うけどね?」
「はん、ほざけよ」

 その言葉を皮きりに、時の守護者と時の侵略者の戦いは幕を開けた。
 駆け出した二人の間の距離は、一瞬の内に無くなって、一拍の後に二人の武器が交差する。
 がきぃん! と音を立てて、ガオウの大剣と、電王のロッドが激突したのだ。
 勢いそのまま、二人はキバとサガの二人から離れるようにお互いに駆け出す。
 確実に邪魔の入らない場所まで来たガオウは、電王目掛けて思いきりその大剣を振り下ろした。




【1日目 夕方】
【C−6 平原】


【牙王@仮面ライダー電王】
【時間軸】:死亡後
【状態】:疲労(小)、仮面ライダーガオウに変身中
【装備】:ガオウベルト&マスターパス@仮面ライダー電王、ガイアメモリ(ホッパー) @仮面ライダーW
【道具】、支給品一式、不明支給品×2(確認済み)
【思考・状況】
基本行動方針:全ての参加者を喰らい、最後に大ショッカーも喰う。
1:電王を喰らい、その後でキバだかサガだかも喰らう。
2:変身が解除されたことによる、疑問。  
【備考】
※仮面ライダーガオウに変身してから7分が経過しました。

763 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:44:19 ID:cmGEtXZs
 


【野上良太郎@仮面ライダー電王】
【時間軸】第38話終了後
【状態】健康、ウラタロス憑依中、仮面ライダー電王に変身中
【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:とりあえず、殺し合いには乗らない。
1:まずは牙王を倒す。
2:亜樹子が心配。一体どうしたんだろう…
3:モモタロス、リュウタロスを捜す。
4:殺し合いに乗っている人物に警戒
5:電王に変身できなかったのは何故…?
6:剣崎一真、橘朔也との合流を目指したい。相川始を警戒。
【備考】
※ハナが劇中で述べていた「イマジンによって破壊された世界」は「ライダーによって破壊された世界」ではないかと考えています。確証はしていません。
※キンタロス、ウラタロスが憑依しています。
※ウラタロスは志村に警戒を抱いています。
※ブレイドの世界の大まかな情報を得ました。
※ドッガハンマーは紅渡の元へと召喚されました。本人は気付いていません。

764 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:45:15 ID:cmGEtXZs
 次第に日が傾き始めて来たこの平原では、未だに因縁の二人が戦いを続けていた。
 白銀の鎧を纏ったサガは、余裕の態度を崩す事無く、赤のロッドを敵へと突き付ける。
 されど、実際は余裕などでは無かった。如何にキングと言えど、蓄積されたダメージが大きすぎるのだ。
 まず、最初に戦った黒の金のクウガとのダメージが未だに尾を引いているのが大きい。
 その上で戦った相手は、圧倒的な技量を持った仮面ライダー、ガオウ。
 どちらとの戦いも、本来ならば最強クラスたるキングの体力を削るには十分過ぎた。
 そして、その上でキングが今、相手にしているのが。

「ンンンガアアアアッ!!」
「チィッ……!」

 仮面ライダーキバ・ドッガフォームが振り放ったハンマーの一撃に、堪らずキングは舌を打った。
 低い唸りと共に振るわれた紫のハンマーが、遠心力で以て更なる加速を得て、サガへと殺到する。
 身を捻って回避をしようとするも、ロッドを構えて飛び込んだ末のカウンターであるが故に、回避もままならない。
 結果として、紫の魔鉄槌は、サガの装甲を脇腹から大きく薙ぎ払った。
 どごん! と大きな音が響いて、派手な火花と共にサガが吹っ飛ぶ。
 地べたを二度三度転がって、それでも起き上がったサガは思考する。

(封印されても尚この俺に盾突くとは、忌々しい魔族共め)

 ドッガはかつて、キングがこの手で封印したアームドモンスターだ。
 ドッガ単体ならばキングの敵ですら無かったが、その命が丸ごと武器となったなら、また話は別だ。
 奴の生命は今や、どんな攻撃をも跳ね返し、どんな鉄壁をも打ち砕く魔鉄槌。
 それ以上でもそれ以下でもなく、それを使うのは王の鎧たるキバだ。
 王の力とアームドモンスターの力が合わされば、サガであろうとこんなにも苦戦を強いられる。
 だけれども、そんな現実は認めない。真の王は、こんな所で潰されはしないのだ。
 そして王は、ここまで自分をコケにしてくれた紅渡を赦す事も、もう出来はしない。

「キバ……紅渡ッ……貴様だけは、赦してはおけん!」

 その言葉に、キバは答える気すらないらしかった。
 返事の代わりに、ゆっくりと、ゆっくりと歩き出したキバへ、サガはジャコーダーを突き出す。
 赤の鞭となったそれは、再びキバへと急迫して、その魔鉄槌へと絡みついた。
 このまま身動きを封じてやろうと考えるが、やはりサガでは力不足。
 紫のキバが力一杯にハンマーを引けば、キバの元へと手繰り寄せられたのはサガの方だった。
 どれだけ馬鹿力なんだと胸中で毒吐きながらも、サガは眼前のキバへと拳を打ち込む。
 しかしそれは、重厚な手甲で覆われたキバの腕によって、容易に阻まれる。
 逆に紫の拳が、サガの胸部を思いきり殴り付けた。
 圧倒的な破壊力で以て繰り出される一撃は、再びサガを遥か後方へと吹っ飛ばす。

「一気に決めるぜ、渡! ドッガ! バイトォッ!!」

 自分を裏切った蝙蝠と、よく似た声が再び響いた。
 地べたを殴って無理矢理起き上がったサガは気付く。
 自分達二人を取り巻く周囲が、漆黒の闇に包まれている事に。
 まだ夕方の筈なのにどうして、なんて間抜けな事を考えはしない。
 キバの鎧を持つ者が、その魔皇力を解き放った時、周囲は昼夜関係無く闇に包まれるのだ。

765 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:45:48 ID:cmGEtXZs

「させるか……!」

 なれば、自分も同じ事をしてやればいい。
 ウェイクアップを発動し、この身に宿る本物の王の魔皇力を解き放ってやればいいのだ。
 姿勢を立て直し、ジャコーダーをベルトのサガークへと、挿入しようとするが。
 それよりも早く、どすん! と、響く重厚な音が、サガの耳朶を叩いた。
 前方を見遣れば、巨大な満月をバックに、キバが魔鉄槌を垂直に構えていた。
 それを見るや、サガの身体がぴくりとも動かなくなった。

「フンンンッ!!!」

 ゴゴゴ、とか、ギギギ、とか。
 それはそういう、如何にも重厚そうな鉄の音の様に聞こえた。
 サガの前方で、垂直に構えられた魔鉄槌が、ゆっくりと変形して行く。
 否、変型というよりも、拳を模したハンマーが、その拳を開いて行くと言った方が正しいか。
 それが完全に開き切った時、サガを見詰めて離さなかったのは、瞳だった。
 それは、赤くて、大きくて、異様なプレッシャーを放つ、異質過ぎる瞳。
 瞳から放たれた圧倒的な量の魔皇力が、サガの身体の動きを封じているのだと気付いた時には、もう遅かった。

(拙い……!!)

 キバが振るう魔鉄槌の動きに合わせて、巨大な魔皇力で出来たハンマーが宙を旋回する。
 ファンガイアの王をして圧倒的と言わしめる程の、膨大な魔皇力の量だった。
 目視できる程の波動となった魔皇力は、やはりサガに自由を与えはしない。
 そして、サガの鎧を押し潰さんと迫るは、巨大な雷の鉄槌。

 負けてなるものか、と強く思う。
 自分はファンガイアの王なのだ。誇り高き夜の一族の頂点に君臨する者なのだ。
 あんな紛い物の血族に、王たる自分が倒されるなど絶対にあってはならない。
 そう、絶対にだ。その想いが、キングの身に再び力を取り戻させる。
 無理矢理にでもここは回避しなければならないのだ。

「やれると……思うなっ!!」

 ぐぐぐ、と身体を動かし、ついにはサガの魔皇力が、キバの魔皇力を上回った。
 だけれども、それでも圧倒的な魔皇力に拘束されていたこの身体は、やはり思い。
 黒の金のクウガや、ガオウから刻み付けられた傷が足枷となって、キングの移動を妨げる。
 結果として、致命傷を避ける事は出来ても、キバの一撃を完全に回避する事は不可能だった。
 圧倒的な魔皇力の奔流となった鉄槌は、サガの身体を横薙ぎに吹っ飛ばした。

「――――――ッ!!?」

 今まで感じたことも無い程の、強烈な一撃だった。
 雷の鉄槌に薙ぎ払われたサガの身体は、後方の大木に激突して、ずり落ちる。
 サガークがベルトから弾かれるようにして離れた事で、サガの鎧は消失した。
 宿敵キバの目の前で生身を晒して、しかしキングも余裕の態度は崩さない。
 痛む身体に鞭打って、痩せ我慢で以て不敵な笑みを浮かべてみせる。

「紅渡……貴様では絶対にこの俺に勝てないという事を、教えてやる」

 デイバッグから取り出したディスカリバーを、キバへと突き付けた。
 恐らく奴は知らない。この場では、変身能力を多く残した者が最終的な勝者となるのだ。
 変身時間の制限だって限られている以上、既に変身後それなりに時間が経過したキバは不利。
 サガであれだけ傷つけてやったのに他の姿に変身しなかった事を考えると、恐らく別の姿もないのだろう。
 ならば、必勝法は、ある。

「まさかこの俺が、人間共が造った鎧を纏う事になるとは思わなかったがな」

 きらりと光を反射して煌めくディスカリバーの刀身に、緑のカードデッキを翳した。
 刹那、鏡から反射するようにして現れたベルトの形の胸像が、キングの胸部で形を作る。
 先程自分が殺した緑の銃撃手を真似れば、これの使い方も大体解るというもの。
 緑のカードデッキを、現れたVバックルに装填し、不敵に言い放った。

766 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:46:25 ID:cmGEtXZs
 
「変身」

 刹那、現れた虚像は幾重にもオーバーラップ。
 その身を緑の鎧で覆い隠し、キングは異世界の仮面ライダーへと変身を果たした。
 その名は仮面ライダーゾルダ。キングが勝利し、奪い取った力の名である。
 最初に戦った銃撃手よろしく、マグナバイザーを握り締め、ゾルダは構える。
 既に連戦で傷ついた身体ではあるが、変身時間の残り少ないキバを仕留めるには十分だ。
 ここにファンガイアの王族による戦いの、第二ラウンドが幕を開けた。

 最初に攻撃を仕掛けたのは、ゾルダだった。
 手にしたマグナバイザーで以て、紫のキバへと銃撃を仕掛ける。
 異世界のライダーの銃は、高速で弾丸を打ちだし、キバへと迫るが。
 その全ては、回避すらしようとしないキバの胸部に当たって、弾けて消えた。
 ゾルダの銃弾は、キバの鉄壁の鎧を破るには至らない。
 されど構わず、ゾルダは銃撃を続ける。
 この広い平原を縦横無尽に駆け回り、あらゆる方向から撃って撃って、撃ちまくる。
 キングとしては些か不本意な戦い方ではあるが、キバの変身時間制限を待つのが目的ならば十分だ。
 少なくとも、速度では圧倒的に劣る紫のキバは、接近しなければゾルダに攻撃を仕掛ける事は出来ない。
 つい今し方サガを打ち破ったあの攻撃だって、相手を補足出来なければ使い様がない筈だ。
 なれば、勝てる。この戦い、確実に王たる自分の作戦勝ちだ。
 そんな中、平原を駆け廻りながら銃撃を続けるキングは、不意に一つの事実を思い出した。

(……そういえばあの人間、カードを使っていたな)

 このデッキの元々の持ち主の戦い方や武器を思い出して、キングはベルトに手を伸ばした。
 どうせ勝利は確定しているのだ。今後の戦いの事も考えて、ここで使い方を覚えておくのも悪くはない。
 まずは手始めに、目の前のキバをもっと苦しめる事が出来る戦術は無いかと思考し、カードを引く。
 引いたカードに描かれていた図柄は、巨大なランチャーの絵だった。

 ――SHOOT VENT――

 電子音声が鳴り響いて、空から降って来たのは果たして、図柄通りのランチャーだった。
 両腕でギガランチャーを構え、紫のキバにしっかりと照準を定める。
 今まではまともなダメージを与えられぬ銃撃ばかりであったが、これならばどうか。
 さしもの鎧のキバと言えど、巨大な砲弾の一撃を受けては堪ったものではあるまい。
 真正面からギガランチャーを向け、キバ目掛けて砲弾を発射する。
 身体に伝わる振動は、それだけ砲弾の威力を物語っていた。

「フンンンッ!!」

 キバは自分目掛けて飛んでくる砲弾に向けて、紫の魔鉄槌を構え直した。
 鋼の魔鉄槌で以て、砲弾を受け切るつもりだ。それだけその防御力には自信があるのだろう。
 ならばとばかりに、ゾルダはギガランチャーの照準を再び合わせ、狙い過たずもう一度発射。
 二撃目に発射された砲弾に続けて、更に追撃のもう一撃。
 当然、いかな鉄壁の鎧と言えど、三連弾の砲撃を真正面から受け止めきれる筈も無く。

「ガアアアアアッ!?」

 この耳朶を打つのは、キバの絶叫。
 一撃目はキバが構えた魔鉄槌の守りを崩した。
 二撃目はキバの胸部の鎧に炸裂して、その身体を後方へと吹っ飛ばした。
 三撃目は吹っ飛ぶキバの鎧をさらに抉って、馬鹿でかい爆発で以てキバを襲った。
 巻き起こった爆煙は爆風によって煽られて、キバの周囲の何もかもをも覆い隠す。
 やったか、と思うが、しかしキバの亡骸はまだ見て居ないのだから、油断は出来ない。
 この手で敵を討ち取る勝利の感覚が掴めぬ銃器は、やはり扱い慣れぬものだと思う。
 なれば今はまず、爆煙が晴れるのを待つのが、王たる者に相応しい威厳と余裕だ。
 一秒、二秒、と沈黙が続いて、それを引き裂き現れたのは――緑色のキバだった。

767 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:47:11 ID:cmGEtXZs
 
「またマーマン族の生き残りの力か……小賢しい!」
「緑の銃には緑の銃だ! まだまだ勝負はこれからだぜ!」

 忌々しいキバット族が、キバの腹部で上機嫌そうに叫んだ。
 ゾルダは構わずギガランチャーの砲門を向けるが、最早キバの速度は先程までの比では無い。
 ちょこまかと動き回るキバを相手に、ギガランチャーは巨大過ぎた。
 それでも構わず数発の砲弾を放つが、銃器など使い慣れぬキングには扱い切れなかった。
 放たれた砲弾は全て明後日の方向へ飛んで行き、彼方で障害物に当たって炸裂するのみ。
 俊敏に走り回るキバに攻撃を当てるには、この武器は邪魔だ。
 すぐにギガランチャーを放り出して、マグナバイザーを構え直した。
 平原を駆ける二人が構えた緑の銃口が、互いに互いへと照準を合わせた。
 タイミングはほぼ同時。お互いに跳び退りながら、引き金を引いた。
 ゾルダの弾丸と、バッシャーの弾丸が空中で交差して、互いへと急迫する。
 しかし、直線軌道しか描かぬ二人の弾丸が、動き回る二人へと命中する事はない。
 縦横無尽に走り回り、距離を取り合い、時には木々を盾にして、激しく撃ち合う。
 銃撃戦には慣れぬとはいえ、キングの戦闘センスはズバ抜けている。ゾルダの使い方も、すぐに飲み込めた。
 されど、相手もさるものだ。バッシャーの魂を宿したキバは、言わば銃撃戦だけに特化した姿。
 言い方を変えれば、ゾルダは相手の土俵の上に上がってしまったようなものだった。

「はぁっ!!」

 キバが何処か軽妙な声色で叫びながら、銃弾の嵐を見舞った。
 受けて成るものかと、相対的に奔りこみながら、ゾルダも銃弾を発射する。
 されど、キバはすぐに木々の影へと隠れ、ゾルダの弾丸は全て木々で以て防がれる。
 小賢しい。そう感じたゾルダは、二枚目のカードをマグナバイザーへと装填した。

 ――SHOOT VENT――

 電子音声に次いで、具現化したのは巨大な二門の大砲だった。
 ギガキャノンと呼ばれるそれは、ゾルダの背部と接続され、両肩に背負われる。
 間髪入れずに、両肩の砲門は圧縮されたエネルギーの砲弾を発射した。
 轟音と共に放たれたそれは、キバが隠れた木々を丸ごと吹き飛ばした。
 爆風で木の破片が舞い上げられて、キバの身体も一緒に宙を舞うのが見えた。
 これは面白いとばかりに、ゾルダは続けて砲門からの射撃を続ける。

「うわぁああああああああああっ!!」

 キバの絶叫が響いて、周囲を爆風と爆炎が覆った。
 一面緑しかなかった平原は、今となっては過去の話。
 火の海となった戦場で、ゾルダは勝利を確信した。
 しかし。

「バッシャー、バイトッ!」
「――何!?」 

 爆炎と爆煙で覆い隠された視界から響いたのは、忌々しい絶叫だった。
 気付いた時には、再び周囲の夕焼けは夜の闇に掻き消されて居て、キングは歯噛みする。
 平原を燃やし尽くさんと拡がって居た炎は、足場を飲み尽くそうと拡がる水に掻き消された。
 素晴らしい暁も、心を焦がす炎も、何もかもがバッシャーのアクアフィールドに飲み込まれていた。
 相手はここで勝負に出るつもりだ。ならば、王はそれを正面から叩き潰すのみ。

 ――FINAL VENT――

 電子音が響いて、地中から、というよりも水面から、鋼の巨人が現れた。
 身の丈はライダーをも超える巨大さを誇る、グリーンメタリックのモンスター。
 こいつの使い方はもう知っている。先程戦っていた男と同じ様にやればいいのだ。
 ゾルダの真正面で佇むキバがマグナムを掲げれば、周囲の水が巻き上げられて、巨大な竜巻となっていた。
 眼前で待機する緑のモンスターの背中の穴に、マグナバイザーを挿入した。
 そうすれば、ゾルダの指示に応える様に、マグナギガの全身の砲門が一斉に開く。
 ミサイルやガトリング、レーザーにビーム。数え切れない程の重火器が、キバに照準を定めていた。
 一方で、キバが構える銃口で渦を巻くのは、巻き上げられた膨大な魔皇力。
 今にも弾けそうなエネルギーの塊を、後は発射するだけだった。

「終わりだ、キバ――!」

 仮面の下でそう嘲笑して、引き金を引く。
 緑のキバが引き金を引いたのも、調度同じタイミングだった。
 マグナギガの全身に備えられた圧倒的な量の重火器が、全てを破壊せんと火を放つ。
 数え切れないミサイルが轟音を伴って殺到する。収束されたビームが閃光となって押し寄せる。
 視界さえも覆い尽くす兵器の弾幕は、次の瞬間には巨大な魔皇力の塊とぶつかり合って――

768 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:47:46 ID:cmGEtXZs
 
 ――大爆発を巻き起こした。

 轟音は爆音となってゾルダの耳を劈き、爆風は颶風となってこの身体を煽る。
 圧倒的なまでの破壊の余波に、この身体全てを持っていかれそうな錯覚に陥る。
 アクアフィールドを蒸発させてあまりある爆炎は、容赦なくゾルダの装甲を嬲って、その威力の絶大さを誇示する様だった。
 莫大な数の重火器と、凝縮された魔皇力の衝突によって生じる爪痕は凄まじい。
 これにはさしものキバも一たまりもあるまい、と思うが、それでもゾルダは前へ踏み出す。
 油断など出来はしない。状況はどうなったのだと周囲を見遣るが、そこにキバの姿は無かった。
 この荒野に居るのはゾルダ只一人で、何処を見渡したって、そこには誰の姿もない。
 流石にこれは勝ったか、と思うが、そんな筈はない。
 そう。姿は無くとも、死んでいる訳がないのだ。
 何故なら……何故なら――!

「何故だっ……何故月が消えん!?」

 ゾルダの周囲を覆い尽くすのは、闇。
 何処までも拡がる、圧倒的な闇と、空気に解けて充満した魔皇力。
 そして、漆黒の夜空で怪しい輝きを放ち続けるそれは、有り得ない程に巨大な魔性の月。
 これは見まごう事なく、キバが生成する、ウェイクアップによる夜の空間だ。
 しかし、奴が死んだのであれば、それも一緒になって消失する筈だ。
 何故だ、どういう事なんだ。狼狽するキングの耳朶を叩いたのは。

「ウェイクッ!! アァァァァァァァップ!!!」
「何ィッ!?」

 空からの絶叫だった。力の限りの絶叫だった。
 見上げれば、月の輝きに浮かぶシルエットは、たった一人の宿敵、キバ。
 真っ赤な鎧を身に纏い、圧倒的な魔皇力を内包した地獄への門を開放したその姿は、例えるならば処刑人。
 キバの右脚で唸りを上げる三つの魔王石の輝きは、キングを死へと誘うギロチンの輝きに見えた。
 だが、キングとてここで終わろう筈もない。こんな所で、むざむざやられるつもりもない。
 一縷の望みを駆けてバイザーに装填したカードは、身を護る為の鉄壁の盾。

 ――GUARD VENT――

 マグナギガの胸部を模した巨大な盾だった。
 どんな攻撃をも防ぎ切らんばかりの銃口さを持った盾を、ゾルダは眼前で構え、待ち受ける。
 刹那、ヘルズゲートを解放したキバの必殺の蹴りは、マグナギガの盾へと叩き込まれていた。
 全身吹っ飛ばされそうな、暴力的なまでの衝撃を受けて、それでも倒れぬキングの意地。
 ダークネスムーンブレイクは、ゾルダの盾を大きく凹ませて、そのままゾルダの身体を蹴り飛ばした。
 それでも踏ん張ろうとするゾルダの身体は、ずざざざざ、と音を立てて、平原に二本の傷跡を抉る。
 ようやく遥か後方の大木へとゾルダの身体は激突して――。
 どん! と大きな音が響いて、ゾルダの背中へと突き抜けたキバの紋章が、大木を木端微塵に破壊した。
 だけれども、それでも――!

「まだだッ……! まだ、終わらん!」

 王の心を折る事は、出来ぬ。
 そうだ。王が負けて良い訳が無いのだ。
 こんな紛い物のキバに負ける王など、ファンガイアの面汚しだ。
 巨大な盾を投げ捨てて、悲鳴を上げる身体に鞭を打って、それでもマグナバイザーを構える。
 この至近距離からキバを撃ち抜いて、ライフエナジーを吸い尽くしてやる。
 そう考えて、銃口を突き付けたゾルダが見たのは。

 ――ENGINE MAXIMUM DRIVE――

「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
「なっ――」

 キバが振り上げた刃は、眩い程の赤の輝きを放っていた。
 それはさながら、王の命を焼き尽くさんと迫る灼熱の炎のようで。
 しかし、最早これ以上対抗し得る手段も持たず。
 持って居たとしても、間に合う筈もなく。

「グァァアアアアアアアアアアッ!!!」

 キバが振り抜いた刃は、ゾルダの装甲を灼熱の輝きで以て両断した。
 圧倒的なまでの力の奔流がこの身体に叩き込まれて、ゾルダは堪らず膝を地につく。
 眼前に浮かび上がった巨大な輝きは、アルファベットの「A」にも見えた。
 しかし、だからと言って、どうという事は無い。
 ゾルダの装甲は遂に限界を越えて、爆発四散した。

769 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:48:55 ID:cmGEtXZs
 




 紅渡の瞳は、何を考えているのかも読めぬ、無感動な色をしていた。
 目の前で緑のライダーの鎧を失って、それでも立ち上がろうとするキングを、冷静に見下ろす。
 この会場に仕掛けられた変身制限によって、キバの鎧が消失したのは、緑のライダーを撃破した直後だった。
 これだけの連続攻撃を受けてまだ生きて居られると言う事実に些か驚きはするが、もう終わりだ。
 確かに自分にもこれ以上の変身能力は無いが、キングにだってもう力は残されてはいない。
 ――少なくとも、紅渡は“勝手に”そう思い込んでいた。

「ハ、ハハ……ハハハ! 紅、渡……貴様の、負けだ!」
「何……?」

 不敵な笑みを浮かべるキングに、渡は僅かに焦慮する。
 こんなに全身をボロボロに痛めつけられて、それでもこれだけの自信を持つ理由はなんだ。
 と、そこまで考えて、ようやく渡は気が付いた。
 こいつがファンガイアの王だとするなら。

「まだ……ファンガイアの姿に、変身出来る……!?」
「そういう、事だ……!」

 眼前のキングの姿が、見る見るうちに変貌してゆく。
 強力な魔皇力がキングの身体を包みこんで、その姿は見た事もない凶悪な姿へと。
 蝙蝠を連想させるその姿から放たれる威圧感は、明らかに今まで戦って来た敵とは違う。
 一言で言うなら、異質だった。凶悪過ぎるその波動が、渡の肌を粟立てる様だった。
 次いで命の危険を感じた時には、もう遅い。
 渡の真上には、ライフエナジーを吸い尽くす為の吸命牙が二つ、浮かび上がっていた。
 吸命牙は、渡の命を吸収しようと、この身へと急迫する――が。

「んなろっ、させるか! 渡ぅぅっ!!」
「キバット――!?」

 言い終える前に、キバットが渡の襟に噛み付いて、その身を後方へと引き摺り出した。
 渡が居なくなった場所へ吸命牙は殺到し、何もない宙を裂いたそれは、地べたに突き当たる。
 程なくして消失した吸命牙を見た渡は、肝を冷やす思いで、瞠目に目を見開いた。
 このままでは、殺される。変身も出来ない脆弱な命など、すぐに吸い尽くされてしまう。
 今までずっとファンガイアを狩り続けて来て、その王に殺されるのならば、これはその裁きなのかとも思う。
 ファンガイア王族の血を引き継いでいながら、同族を殺し続けて来た自分に相応しい、裁き。
 どうせこの世界は、どうしようもなく辛い事しかない、最低な世界なのだ。
 加賀美も、冴子も、自分の為に死んでしまった。
 そして、彼女ももう――。

「深央さん……」

 しかし、そこまで考えた所で、もう一度渡の中で何かが燻るのを感じた。
 キバットが、口煩く何事かをまくし立てる。キングが、何事かを言いながら迫って来る。
 だけれども、もうそんな雑音は一片たりとも、この頭には入っては来なかった。
 そうだ。思い出せ。自分は何の為に戦うと決めたのかを。
 何の為に、冴子や加賀美を犠牲にしたのかを。

770 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:49:32 ID:cmGEtXZs
 
 深央さんが居ない世界に生きる価値は確かに無いが、それでもやらねばならぬ事はある。
 自分の存在が周りを不幸にするのなら、何としてでも自分が生き残って、自分自身の存在を消さねばならない。
 そして、その為には、他の世界の参加者を皆殺しにしなければならないのでは無かったのか。
 見失いかけた目的を、再度心中で燃やして、渡の瞳は再び強い輝きを放つ。
 それは、冴子を失った時の、冷酷な輝きであった。

「そうだ……僕は、生きる!」

 生きなければ、ならない。
 この悲願を成就する為には、生きて、戦わねばならない。
 自分一人が悪に堕ちる事で、全てを救う事が出来るのならば、喜んで悪にもなろう。
 自分一人が殺戮者になる事で、この世界の悪意を払拭出来るのであれば、喜んで業を引き受けよう。
 そうだ。それが今、たった一つ、紅渡を突き動かす、命の動力源なのだ。
 渡の胸にはまだ、戦うだけの決意が熱く燃え滾っているのだ。
 ならば、やらねばならない。ここで死んでは何にもならない。
 次の瞬間には、何を思ったのか、渡は高らかに絶叫した。

「サガークッ!!!」

 瞳は強く輝かせて、声は冷たく響かせて。
 王にのみ傅く僕(しもべ)の名を、高らかに呼ぶ。
 そうすれば、キングのデイバッグから、円盤型の小さな下僕が飛び出した。
 考えてやった訳ではない。こうすればサガークが現れると、渡が直感で感じたのだ。

「貴様……まさか!」
「お、おい渡ぅ、何言ってんだよ!?」
「来い、サガークッ!!!」

 二人の言葉など意にも介さず、渡はサガークを睨み付け、再度叫ぶ。
 サガークは困惑した様子で宙をふよふよと浮かび、渡とキングを眇め見た。
 運命の鎧サガは、王の為に造られし、王の為の鎧だと聞く。
 それがキバの鎧のプロトタイプとも呼べる存在であるなら、渡にだって変身は出来る筈だ。
 何せ、この身に流れているのは、どんなファンガイアをも黙らせる、冷酷無比な王族の血。
 渡は王族でしか使えぬ黄金のキバをも使いこなし、更にはファンガイアの王たるキングをもここまで追い詰めたのだ。
 資格は十分。覚悟も十分。なればこそ、この紅渡を「王」と認めずして何とする。
 渡の瞳からは、最早数時間前までの不甲斐なさなどは消え去っていた。
 たった一つの目的の為だけに輝くその眼光は、キングにも似た冷酷な輝きを放っていて。

「聞こえないのか、サガーク! 新たな『王』の命令だ!」
「貴様……言うに事欠いて、この俺の前で『新たな王』だと!?」

 憤慨するキング。
 狼狽するサガーク。
 この場に居るのはまさしく二人のキングだった。
 とはいっても、片方は変身制限で、最早変身すら出来ない。
 もう片方は、今でこそ生身であるが、その瞳に宿った意思は本物。
 それも、紅渡はサガを装着したキングを、それよりも劣るキバで撃破せしめたのだ。
 なれば、サガークはどちらの王の方が自分の鎧を有効に使ってくれるかを考えて――。

「サガークッ!!!」

 再三の渡の呼び声に、ついにサガークは動いた。
 円盤の身体を高速回転させ、キングのデイバッグを突き破った。
 飛散した幾つかの中身の内、かつて太牙が用いた専用武器を、渡の方向へと弾き飛ばした。
 ぱしっ、と音を立ててジャコーダーを掴み取った渡は、不敵に微笑んで、キングを睨み付ける。
 そんな渡の腰に張り付いたサガークは、そのまま黒いベルトで以て、渡の胴へと装着された。

771 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:50:31 ID:cmGEtXZs
 
「馬鹿なっ……!? 貴様まで、この俺を裏切ると云うのか!?」

 キングの声は震えていた。
 表情はわからないけれど、その事実がキングにとっては赦せぬ事だという事だけは解った。
 だが、なればこそだ。赦して貰う必要などないし、渡は望んで赦されぬ存在になろうとも思う。
 ここまで来れば、もう後に引き返す道など、何処にもないのだ。
 ジャコーダーをサガークに突き刺して、冷酷無比な声色は無感動に告げた。

「変身」

 瞬間、渡の身体を覆ったのは、白銀の鎧。
 揺るがぬ王(キング)の意思を持った者にのみ許される、運命の鎧。
 それはさながら、闇の色を集め纏うオーラの如き威圧感を放っていた。
 次第に闇に落ちて行くこの会場の中でも、サガの蒼い複眼は不気味に煌めいていた。
 こうして紅渡は、仮面ライダーサガへの変身を遂げた。
 それが意味する事は、つまり。

「今、この瞬間から――この僕がキングだ!」

 王の威厳を以て叫ばれたその言葉に、キバットとキングは狼狽する。
 しかしそれは一瞬で、キングはすぐに身を震わせて叫んだ。

「ふざけるなよ、貴様……俺をナメるのもいい加減にしろ!」
「ファンガイアの歴史は力の歴史。文句があるなら掛かって来い」

 サガの仮面を通じて淡々と告げられたその声に、遂にキングは感極まったらしい。
 怒りに震える両腕を突き出して、魔皇力で出来たエネルギーの塊をサガへと放った。
 相対するサガは、息一つ吐き出して、ジャコーダービュートを振るう。
 びゅん、と音を立ててしなったそれは、二つの光弾を真っ二つに引き裂いて、サガの後方へ飛んで行く。
 着弾したエネルギー弾は後方で派手な爆音を上げるが、サガはそれすらも追い風に、バットファンガイアの懐へと飛び込んだ。

「ハァッ!!」

 サガの勢いたるや、まさに怒涛。
 連戦で疲弊したファンガイアの王では読み切れぬ速度で、ジャコーダーロッドを振るう。
 魔皇力で彩られた剣が、バットファンガイアの赤い身体を突いて、裂いて、刺しまくる。
 最早後退するしか出来ぬバットファンガイアであるが、それでもお構いなしだった。
 暫くサガによる蹂躙が続いて、サガは渾身の力を込めて、ジャコーダーを正面へ突き出す。

「グァァ!?」

 後方へと吹っ飛んだバットファンガイアの王へ、更にサガは猛威を振るう。
 再び赤の鞭となったジャコーダーで、かつての王の身体を叩く。叩いて叩いて、叩きまくる。
 今までの鬱憤すら込められているのではと思う程の勢いで、赤い鞭は乾いた音と火花の音を響かせる。
 終いにはその鞭でバットファンガイアの身体を絡め取って、遥か後方の岩場へと叩き付けてやった。
 サガは流れる様な動きで、ジャコーダーの柄をサガークへと突き刺して、悠々とのたまう。

「王の判決を言い渡す」

 ジャコーダービュートに、再び絶大なる魔皇力が注ぎ込まれた。
 それは不気味な音色を掻き鳴らして、周囲を再び漆黒の闇で包んで行く。
 サガは最早立って居るのもやっと、という様子で立ち上がるバットファンガイアに、ジャコーダーを突き付けた。
 ちゃき、と音を立てて、ジャコーダーの切先が千鳥足のバットファンガイアに向けられるのを確認して、サガは言い放つ。

「死だ」

 それは、兄である登太牙の言葉。
 先程は目の前の元キングも告げた言葉である。
 処刑の代行人となったサガは、魔皇力迸るジャコーダーを力の限り突き出した。
 それは赤い輝きを振り撒きながら、バットファンガイアの胸部を確かに貫いて見せる。
 手応えアリだ。これで本当に、渡は戻っては来れぬ場所まで行ってしまうのだ。
 上空に現れた巨大なキバの紋章はまるで、そんな渡を受け入れる魔への扉の様だった。
 サガは構わず高らかに跳び上がり、紋章へと突入。
 ジャコーダービュートを紋章に通して、サガはすぐに着地した。
 赤き閃光に吊るし上げられたバットファンガイアが、それでも苦しげに呻くが、容赦はしない。
 まるで見せしめの様に敵を吊るし上げたサガは、魔皇力の漲るジャコーダーを、ついとなぞった。
 スネーキングデスブレイク。サガによる、最強にして最大の必殺技だった。
 バットファンガイアの身体は、ステンドグラスの様な輝きを放った。

772 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:52:37 ID:cmGEtXZs
 




 最早戦う力などは残って居ない。
 全身は軋んで、積み重なった疲労が今にも王の身体を突き破りそうだった。
 だけれども、キングはそれでも立ち上がった。
 例え変身能力も失っても、例え戦う力を失っても、これは最早、理屈では無かった。
 ファンガイアの英雄たるこのキングが、ただやられるだけであって言い訳がないではないか。
 そうだ。自分は王として、宿敵キバに最後の最後まで抗って見せねばならない。
 倒れる時は、前のめりだ。でなければ、幾千幾万の同胞達に、示しが付かない。
 それは例えちっぽけでも、本物の王であるが故の誇り(プライド)だった。
 それこそが、民に英雄と崇められた男の、誰にも譲れぬ誉れであった。

「紅……渡ッ――」

 眼前のサガへと、震える腕を突き出すが、それはもう誰にも届かない。
 紅渡にも、自分を裏切ったサガにも。愛する妻や、部下たちへさえも。
 敵対する種族を全て根絶やしにし、ファンガイアの誇りに生きた王は、ここで潰える。
 視界すらも朦朧としてゆく中で、キングの脳裏に蘇るのは、走馬灯の如き記憶の奔流。
 そしてキングは、忘れていた記憶も、忌々しい記憶も、全てを思い出した。
 嗚呼。これで、死ぬのは三度目になるのか、と思う。

 一度目は、愛する妻を奪い、闇のキバすらも奪った紅音也と、その息子、紅渡に。
 二度目は、忌々しい混血・紅渡と、この王が全てを託した純潔の息子・太牙によって。
 そして三度目は、またしても、赦されぬ存在である筈の紅渡によって、だ。

 ここまで紅の血を引く者は、ここまで王を愚弄するのか。
 愛する妻も、信じた息子も、闇のキバも、運命のサガも、何もかもが自分を見捨てる。
 なれば自分は、一体何の為に戦って来たのだ。何の為に、英雄と謳われたのだ。
 今まで必死にファンガイアの繁栄の為、働き続けて来た自分は何だったのだ。
 やり切れぬ思いを抱え、それでもキングは、眼前の新たな王に問うた。

「貴様は……王の力で、何を成す」
「世界を救う為、他の全ての世界を破壊する」
「ハ、ハハ……ハハハハハハ――」

 最早乾いた笑いしか生まれはしなかった。
 なるほど確かに、こいつは見まごう事なき王の風格だ。
 このファンガイアの王と同じ目的を以て、全ての世界を破壊しようと言うのだ。
 確かに忌々しい宿敵ではあったが、終わってみれば、紅渡も底知れぬ闇を抱えていたのだ。
 なればこそ、不本意ではあるが、世界を救う英雄は、世界を救う王の役目は、彼に任せてもいいのかも知れない。

「ならば……貴様に、キングとして、命令する」
「はい」
「俺達の、世界を……ファンガイアの世を、その力で救って見せろ!」

 キングの命令に、サガは、小さく頷いた。
 もう、声を出す事すらも苦痛に感じられる。
 されど、これだけは成さねばならない。王の力を持つ者として。
 我が世界に生きる、無数のファンガイアの民の未来を守り抜く為に。
 王は最後の最後で、忌々しい宿敵を認め、その身体をステンドグラスへと変えて行く。
 嗚呼、喜ぶがいい。悔しいが、どうやら紅渡が望んだ力を、王が認めてやらねばならぬらしい。
 故にこそ、最期の瞬間だけは、王としての威厳と風格を保たねばならない。
 王の名を名乗るに足る器を持った男に、王自らが宣言しなければならない。
 本来ならば出来る筈もない「襲名の儀」を、この王の最期の仕事とするのだ。

「新たな王は、貴様だ……紅、渡――」

 腹の底から、重く、鋭い声を響かせて。
 英雄キングは、硝子の欠片となって砕け散った。

773 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:55:07 ID:cmGEtXZs
 




 心の中は、不思議とからっぽだった。
 最期の瞬間まで、王であるが故の誇りを貫いて散った彼を、渡は立派な王だったと思う。
 渡はファンガイアの王を名乗る彼の事を知らないが、それでも彼は、本物の王だったのだ。
 何を考えていたのかだって、今となってはもう誰にもわからないけれど。
 彼が、王の配下の民を救おうとしていたその気持ちは、本物だった。
 だから渡は、彼の最期の瞬間で、彼に対して敬いを見せた。
 散りゆくキングの表情は、何処か満足げだったとも思う。

「貴方の意志は、この僕が継ぎます」

 ステンドグラスの破片を一つ手にとって、渡は祈る様に告げた。
 ファンガイアの世界の為だけに戦え、というのは無理かもしれないけれど。
 せめて世界を救う事くらいは、新たな王として、やってみせようと思う。
 自ら世界の悪意となって、世界を救った後で、自分を消せばいいのだ。
 そうして、ファンガイアと人間が共存出来る世界を創って――
 後は、太牙兄さんがきっと、全て上手くやってくれると思う。

「おい、渡、冗談だろ!? 冗談だって言ってくれよぉ!」
「ごめん、キバット。僕はやらなくちゃいけないから」

 それだけ言って、渡はキバットをむんずと掴んで、デイバッグに叩き込んだ。
 ずっと一緒に戦ってくれたキバットにも、申し訳ないと思う。
 だけれど、不器用な渡はこうするしかもう、思い付かなかった。
 先代キングが持って居た武器を回収して、渡は思考する。
 確か、牙王とか言う奴がまだ、この近くで戦っていた筈だと。
 全ての世界を破壊するのなら、手始めに新たな王に盾突いた奴から仕留めてやるべきだと思う。
 しかし、戦力は――

「これは」

 キングが所持していたデイバッグを漁って、一本のベルトを見付けた。
 緑と黒でデザインされたそれは、腰に当たるホルダーに、数枚のカードを忍ばせたデザインだった。
 ゼロノスベルトと呼ばれるそれは、変身する度に、変身者に関する記憶を消すベルトである。
 だけど、今この瞬間から世界の悪意となって、他の全てを滅ぼそうとする渡には、調度いいのかも知れない。
 どうせ最終的に世界と愛する人を救った後には、自分の存在を消滅させるつもりなのだから。
 紅渡は、瞳の色を無感動な黒色で塗りつぶして、歩を進める。
 新たな王の使命を得た渡に、もう迷いは無かった。



【1日目 夕方】
【C−6 平原】


【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)、返り血、キバ及びサガに二時間変身不可
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、キバットバットⅢ世@仮面ライダーキバ、
    エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、ゼロノスベルト+ゼロノスカード@仮面ライダー電王
    ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、
    バッシャーマグナム@仮面ライダーキバ、ドッガハンマー@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0〜2)
【思考・状況】
基本行動方針:王として、自らの世界を救う為に戦う。
1:手始めに牙王とか言う奴から倒すか……?
2:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
3:加賀美の死への強いトラウマ。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。
※キングの最後の支給品はゼロノスベルト+ゼロノスカードでした。
※ゼロノスカードが何枚付属しているかは、後続の書き手さんにお任せします。

774 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:55:43 ID:cmGEtXZs
 




 誰も居なくなった平原で、むくりと起き上がる影が一つ。
 夕闇に落ちた平原は、見渡してもあまり視界が良いとは言えなかった。
 それは起きたばかりで視界が今だ霞んで居るから、というのも理由としてはあるのだろう。
 園咲冴子は、痛む身体を起こして、周囲を見渡し、呟いた。

「どうやら、あの子がやってくれたようね」

 絶体絶命と言える状況であったが、園咲冴子は一つの賭けに出た。
 それは、端的に言うならば「死んだフリ」と呼ばれる、至って簡単な手段。
 されど、あの状況で紅渡は本当に園咲冴子が死んだのか、なんて確認をするとは思えなかった。
 仮にされたとしても、命からがら生きていたと言えば、あの甘ちゃんはきっと安心した事だろう。
 ともあれ、園咲冴子は見事に紅渡のスイッチを押すきっかけとなったのだった。

「さて、どうしようかしらね」

 歩き出そうとするが、やはり身体は重たい。
 それこそ、今すぐにでも再び倒れ伏してしまいそうな程。
 どうやら、一般人のキバへの変身というのは、やはりそれなりに疲労するらしかった。
 それが元々怪我人の冴子ともなれば、尚更だ。
 脚を引き摺りつつも、冴子は考える。
 今の状況で、殺し合いに乗った誰かに会うのは非常に拙い。
 タブードーパントに変身すれば、脚は使わないのでまだ応戦は出来るだろうが。
 それでも、無理は禁物だし、出来れば今は被害者側を演じた方が、殺し合いに反対する集団には上手く溶け込めると思う。
 その事についても、今後の身の振り方をじっくり考えねばならない。
 冴子は重たい身体を引き摺って、一先ずはホテルに向かおうと歩き出した。





【1日目 夕方】
【C−6 平原】


【園咲冴子@仮面ライダーW】
【時間軸】第16話終了後
【状態】左の太ももに刺し傷(応急処置済)、ダメージ(小)、疲労(極大) キバに一時間四十分変身不能
【装備】ガイアメモリ(タブー)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、ファンガイアスレイヤー@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2、加賀美の支給品0〜1
【思考・状況】
基本行動方針:最後まで生き残り、元の世界に帰還する
1:一先ずはホテルで休みながら今後の事を考えたい
2:もしも殺し合いに否定的な集団を見付ければ、被害者のフリをして取り入る。
3:同じ世界の参加者に会った場合、価値がある者なら利用する。
【備考】
※照井と井坂を知らない時期からの参戦です。
※ガイアドライバーを使って変身しているため、メモリの副作用がありません。





【キング@仮面ライダーキバ 死亡確認】
 残り42人

775 ◆MiRaiTlHUI:2011/05/23(月) 03:59:31 ID:cmGEtXZs
これにて投下終了です。
タイトルは「魔王新生 ルーツ・オブ・ザ・キング」です。
>>750->>756までが前編、>>757->>763までが中編、>>764-774までが後編です。
それでは、何か矛盾点や指摘などありましたらよろしくお願いいたします。

776二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/05/23(月) 08:08:29 ID:NhYWquqI
投下乙です
ああ、渡が遂に覚醒したか……過去キンさんお疲れ様
にしてもこの人は、バトルロワイヤルでも裏切られてしまう運命にあるのかw
因縁の電王VSガオウ、実は生きていた冴子さん、善人を演じる志村など今後が楽しくなりそうな
展開も盛りだくさんでした!

777二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/05/23(月) 16:55:28 ID:dK3QrzG.
投下乙!
因縁対決にふさわしい激闘だったなあ。
キングもあれだけ渡や音也のこと恨んでたけど、最期は潔くてかっこよかった。

778二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/05/23(月) 18:38:01 ID:SqzSIkqo
投下乙でした。

あの引きからどうなるかと思ったらまさかのザ・ニュー王(キング)誕生。でも思いっきりマイナス方向な気も……
過去キングはまさかサガークにまで……笑えねぇ……けど、最後は王として散れたから満足か。

でもまだ牙王vs電王と戦いが終わったわけじゃないんだよなぁ。しかもキング退場の段階でもう決着が着いている可能性も……渡の介入次第でどうなるかわからないし……
確か牙王はまだホッパーの変身を残していて、良太郎は……サソード……でもまだ認められてないし、認められても誰の状態で使うんだ(ウラは棒、キンは斧、良太郎じゃ弱いしなぁ)???
なるほど電王組最大の危機じゃねーの

一方のホテルは危険人物が普通に待機する中、冴子が向かうか……あきら……もうそろそろ真剣に警戒した方がええで。
ただ、志村vsウラの演技合戦は割とウラが優勢なのが個人的に面白かった(そういやウラの台詞回し『賭ける命の重みを解ってない』オーズで見た事ある様な気がする。)

そういえば渡の手にゼロノスが……中身のカードがどうなっているか解らない(赤が何枚、緑が何枚かも不明)けど記憶の扱いどうなるんだろう……
しかし、いきなりゼロノスが現れたら牙王も良太郎も驚くだろうなぁ(いや、ゾルダという選択もあるけど)。
なるほど電王組最大の危機じゃねーの

……そういや、キングあの状況では一応ゼロノスに変身出来たんだよなぁ。あの状況でファンガイアに変身したのは渡が『まだファンガイアに変身出来る?』って言ったから変身したんだろうけど……
もし、ゼロノスに変身していたら結果が違っていたかもわからないんだよなぁ(バッドファンガイアに追い込まれたからこそサガへ変身していたから)
まぁ、リスクもあること踏まえるとノーリスクなバッドファンガイアに変身する方が自然な流れだけどね。

779二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/05/23(月) 23:48:59 ID:zJW3LAu6
投下乙
そうかキングはファンガイア一族の中では英雄視されてたんだっけ
最期はあれだけ憎んでた渡にファンガイアの未来を託して散ったキングかっこよかったです

780二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/05/27(金) 00:28:28 ID:udCQ5Bwg
キング…全てに裏切られながらも王の矜持見せた最期はカッコ良かったぜ
バットファンガイア無双をもっと見たかったけど散り様が素敵過ぎて満足

781 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:23:31 ID:YtgtZe0M
これより、予約分の投下を開始します。

782 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:24:35 ID:YtgtZe0M
 夕方ともなれば、参加者を照らす太陽も、暁となって徐々に沈んで行く。
 天道総司と名乗った青年は、何処か虚ろな瞳で、沈みゆく太陽をぼんやりと眺めていた。
 海堂直也は別段何か下らない事を言う訳でもなく、黙々と歩を進めるだけだった。
 ここには車もなければ、人もいない。空っぽの街を染める夕焼けには、何処か寂しさを覚えるものだ。
 暁の不気味な寂しさと、妙な空気のざわつきが、名護啓介の心を焦らす。気は緩められない。ここは戦場なのだ。
 落ち着かない気持ちを宥めて、何ともない風を装って、名護は先陣を切って歩く。
 F-4から東京タワーへ向かうには、直線ルートでは不可能だ。例え迂回する事になっても、F-5を通らねばならない。
 人を率いる者として、自分が三人の代表となって先頭を歩くのは当然だと思うし、その行動自体に間違いは無かったと思う。
 例え何かがあったとしても、例えば、敵に襲われたとしても、自分が先陣を切って三人で共闘すれば、負けはないと思う。
 だけれども、名護の胸の奥で芽生えた、焦慮にも似た危機感は、そんな理屈で押し殺せるものではなかった。
 筆舌に尽くし難い、異様な圧迫感を肌で感じたのは、調度名護の眼前に一人の男が現れてからだ。

「君は」

 名護は脚を止め、前方に現れた軍服の男に一言、そう問うた。
 この質問に意味など無いと言う事に、既に本能で気付いていたのかも知れない。
 男の表情を見たその瞬間から、名護の胸中の警報はけたたましい程に鳴り響いていたのだから。
 だけれども、それが何故か、と問われても、上手な言葉で答える事など出来よう筈もない。
 超常の力などは一切持たぬ名護ですら感じ取れる程に、眼前の男が放つ気配は異様だった。
 下手に奴の間合いに踏み込めば、その殺気で以て縊り殺されるのだろうという確信が湧き上がる。
 戦うのであれば、一瞬たりとも気は抜けない。でなければ、自分達はこの戦いで生き残る事など出来やしないだろう。
 それは警戒心か、はたまた恐怖心か。何にせよ、それは圧倒的な危機感となって、名護にそんな確信を与えた。
 夕暮れの空を厚い雲が覆って、名護ら三人と、眼前の男、この場の全員に暗い影が落ちる。
 表情さえ窺い知る事が難しくなった仄暗い闇の中で、海堂が緊迫に満ちた声を発した。

「おいおっさん、あいつぁ、やべえぞ」
「おっさんと呼ぶのはやめなさい……不愉快だ」
「バッキャロー! んな事言ってる場合じゃねえんだよ!」

 先程までの余裕などはかなぐり捨てて、海堂が上ずった声で叫んだ。
 名護とて馬鹿ではない。海堂に言われずとも、目の前の男の気迫には気付いている。
 それが、殺し合いを否定するまともな男が発する筈のない、「殺気」の類である事にも、だ。
 名護らの不安と恐怖を煽る様に強風が吹いて、厚い雲は風に流され、再び日の光に照らされる。
 夕焼けに照らされた男の顔は、無表情に、しかし、その瞳は獣の様にギラついていた。
 懐から取り出した一本の小さな箱を、軍服の男は眼前で掲げ。

 ――ARMS――

 アームズ。兵器を意味する英単語が静寂の街中で鳴り響いた。
 ガイアメモリは男の首輪から男の体内へと取り込まれてゆき、見る間にその姿が変じてゆく。
 肥大化した筋肉はくすんだ血の様にどす黒い赤に染まり、その身体を銀色の鎧が包み込んでゆく。
 剣にナイフ、銃器といった単純な兵器が全身に纏わりついたその姿は、まさにアームズの名に相応しかった。
 赤い顔面を半透明の仮面が覆い隠して、仮面の下から露出した白の瞳が、ぎょろりと三人を睨んだ。





 疲れた身体を休めるのもそこそこに、天道総司と乾巧は警視庁の食堂に訪れていた。
 警視庁というと、東京の警察を総括する広大な施設だ。ともすれば、当然の様に食堂の規模も大きい。
 厨房に直接向き合う形のカウンター席と、いくつかの長テーブルや丸テーブルが規則的に並んでいた。
 カウンター席に座らされた巧の眼前に、大盛りのチキンオムライスが乗せられた皿がすっと差し出される。
 わざわざこの場所で巧を待たせ、その間に天道が腕によりを掛けて作った渾身のオムライスだった。
 巧はやや戸惑った表情を浮かべるが、天道に一言「食え」と言われると、何も言わずにスプーンを手に取り、食べ始める。
 恐る恐ると言った様子で最初の一口目を口に運び――二口目からは、ガツガツと食べ始める。
 そんな巧の姿を満足げに眺めながら、天道は自分の分のオムライスを一口食べて、自信ありげに頷いた。
 ふわふわのオムで包まれたチキンライスの味は、濃すぎず薄過ぎず、絶妙なバランスであった。
 相変わらず、完璧な料理だ。そんな自負を抱きながら、天道は巧に問うた。

783 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:25:32 ID:YtgtZe0M
 
「どうだ、美味いか」
「ああ」
「そうか」

 無愛想ではあるが、美味しそうにオムライスを頬張る巧を見ていると、何処か嬉しくなる。
 料理とは、誰かを幸せにする為のものだ。食べた人を笑顔にする料理こそ、天道が真に求める料理であるのだ。
 そして、自分が作った料理をこんなにも美味しそうに食べる奴が、悪人である訳がないというのも、天道の持論だった。
 考えても見れば、巧は半ば強制的に食堂まで連れてこられたが、嫌な顔はしていても、拒否はしなかった。
 終始「かったるい」だなんて言ってはいるけれど、天道にはそれが、ただ不器用なだけの様に思えた。
 表向きには人当たりの悪い無愛想な男ではあるが、根っこの所は、優しい男なのだろう。
 そんな乾巧に、天道は無意識の内に親近感を覚えていたのかもしれない。

「お前、こんな所に連れて来られてまで料理って、随分と図太い神経してるんだな」
「ああ、体調を整える上で、食事以上に優れた手段はないからな」

 そして何よりも、と続けて、天道は人差指で天井を差し、のたまった。

「おばあちゃんが言ってた。食べるという字は、人が良くなると書くってな」

 巧は何も言わずに、オムライスを食べ続けていた。
 天を差した指を降ろし、天道は自分のオムライスを食べながら考える。
 今ここで乾巧に食事を振舞ったのは、確かに体調の回復が一番の目的である。
 厨房の野菜はどれも厳選して選び、調理に使った食材も、栄養を第一に考えて作った。
 どういう訳か食材はどれも新鮮で、白米に至っては今朝炊かれたばかりとしか思えない輝きを放って居たのは幸いか。
 大ショッカーのせめてもの恵みか、それとも今朝まで普通に使われていた食堂なのか、それは結局分からず終いだが。

「美味かったぜ、ごちそうさん」

 やがてオムライスを綺麗に平らげた巧が告げたその言葉は、気持ちがいいくらいに爽やかだった。
 連戦続きの疲労や、殺し合いの不安すらも、忘れているのではないかと思う程、気持ちのいい表情だった。
 そんな表情も出来るんだな、と思いながら、天道は一言「ああ」と答え、自分のオムライスも平らげた。
 暫しの無言が続くが、やがて巧が、意を決したように天道へと振り返って、問う。

「なあ天道、お前には夢ってのは、あるか」
「何だ、藪から棒に……変な質問をする奴だ」
「悪かったな、変な質問をする奴で」

 あからさまに気分を害した様子で、巧は表情を顰めた。
 天道はやれやれと言った様子で嘆息一つ落とし、巧に向き直る。

「逆に聞くが、お前にはあるのか」
「ああ、あるね。とびっきりでっかい夢が」
「何だ、聞かせてみろ」
「世界中の洗濯物が真っ白になるみたいに、皆を幸せに出来たらいいと、思ってる」

 それを聞いた途端、天道は拍子抜けした気がした。
 大の大人が、自信ありげに大きな夢があると言うのだ。
 どんな野望かと思って問うてみれば、返って来たのは子供の様な夢。
 思わず返す言葉を失って、その大きな瞳で以て、巧をぼーっと見詰めてしまう。
 だけれども、それを告げる巧の表情には、やはり陰りはなかった。
 ポケットから取り出した、園咲霧彦のスカーフぐっと握り締めて。

784 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:26:30 ID:YtgtZe0M
 自信を持って、迷いもなく。心の底から、こいつはそう願っているのだ。
 なるほどこの男に料理を振舞ったのは、間違いなどでは無かったと思う。
 一拍の間をおいて、天道の表情にも元の冷静さが戻っていって、そんな天道に巧は再び問うた。

「お前は、どうなんだよ」
「俺も、お前と同じ様なものだ。友に誓った夢がある」
「そうか。聞かせて貰ってもいいか」

 胸中で、今はもう居ない加賀美新を思い描いて、小さく、しかしゆっくりと頷いた。
 今は亡き友との誓い。友の前で豪語した、天道総司の戦う目的。
 妹を守りたいという願い以前に、天道が希った、人としての強い想い。

「アメンボから人間まで、地球上のあらゆる生き物を守り抜いてみせる……俺が、この手でな」

 それを聞いた途端、巧がぽかんと口を開けっ放しにした。
 多分、こいつも先程の自分と同じ様な心境で、言葉を失ったのだろうと思う。
 やはり、天道総司と乾巧は似た者同士であるのだと心中で思いながら、天道は続けた。

「どうした。スケールがデカ過ぎて言葉すら失ったか」
「……お前、よくそんな臭い台詞を堂々と言えるな」
「お前に言われたらお終いだ」

 呆れた様に言う巧に、天道は憮然として言い返した。
 ともあれ、これで天道の中では一つの確信が持てた。
 この男は、信頼に足る男だ。どんな状況でも、自分の軸を見失わない強い男だ。
 仲間を集めて大ショッカーを打倒するのであれば、こんなにも心強い仲間はそうはいない。
 気に食わない点は多々あるが(主に自分に似ている所など)、それでもこいつは、揺るぎない仲間足り得る。
 それが分かったなら、これ以上の長居も、言葉すらも不要とばかりに二人は立ち上がった。
 最早十分休んだ。食事も摂った。ならば、こんな所で悠長に休んではいられない。
 命を護る為には、自分達が動き出さねばならないのだから。





 強さを数値に置き換える事が出来るのであれば、桁違いという言葉が真っ先に思い浮かぶ。
 それはそのまま、目の前の怪人と自分達の強さの桁が、一つくらい違っているという事だ。
 普通戦いと言うものは、何らかの目的があって、それを成す為に勝利を求めて力を振るう。
 精神的な拠り所となる強い何かが無ければ、戦う力など生まれよう筈もないからだ。
 天道総司の姿をした自分は、戦う理由としては十分過ぎる程の憎しみを掲げている。
 海堂直也と名護啓介は、多分、守る為だとか、そんな下らない理由の為だと思う。
 だけれども、目の前の怪人からは、そういう理由らしい理由が感じられなかった。
 憎しみによる破壊でもなく、守りたいが故の戦闘という訳でもない。
 ただ戦いたいから戦っている。ただ力を求めて戦っている。
 そんな気がして、彼は目の前の怪人の事を、狂っている、と思った。
 例え歪んでいようとも、明確な目的を以て行動している自分に、目の前の敵の事など理解出来る筈も無かった。

「駄目だ……今の僕らじゃ、こいつには勝てない」

 結果を悟ってしまったダークカブトが、ぽつりと呟いた。
 アームズドーパントの力を異様なまでに引き出し振るう奴は、今の自分の身の丈に合った敵ではない。
 海堂が変身したライオトルーパーは猛然と殴りかかるが、敵に碌な打撃すら与えられず、いなされ、カウンターを叩き込まれた。
 バーストモードとなったイクサも果敢に挑むが、その攻撃は全て左腕の巨大な剣で受け止められ、反撃の一撃を叩き込まれた。
 さっきからそれの繰り返しばかりで、どんなに頑張っても、状況はこちらに転びはしなかった。

「チックショウ、この野郎が!」

 ライオトルーパーが、右太腿に携行していたアクセレイガンを引き抜いて、踊り掛かった。
 我武者羅な軌道を描いて振り下ろされた一撃は、今度はアームズドーパントが握り締めた巨大なシールドソードに阻まれた。
 先程まで背に背負っていた巨大なそれは、盾としても申し分の無い、先端の砕けた大剣だった。

785 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:28:01 ID:YtgtZe0M
 アクセレイガンの一撃を容易く受け止めた大剣は、そのままライオトルーパーの胸部装甲を切り裂いて、数歩後退させる。
 間髪いれずに左腕の大剣を突き付ければ、それは巨大な機銃となって、圧倒的な速度で弾丸を打ち出した。
 ズガガガガガガ、と炸裂音を響かせて、ライオトルーパーの身体が遥か後方へと吹っ飛んでゆく。

「貴様……!」

 イクサが憤慨した様子で、口元から排出された形態電話を手に取った。
 すかさずそれのボタンを打ち込んで、変わった電子音声を響かせる。

 ――ラ・イ・ジ・ン・グ――

 青と白の携帯電話はけたたましい警報音を鳴らし、イクサが最後のボタンを押し込もうと指を伸ばす。
 しかし、それよりも早く動いたのは、それによる危機感を覚えたのであろう、アームズドーパントのだった。
 即座に突き出された機銃から放たれたのは、先程のガトリングとは違う、一発の銀色の弾丸。
 それはイクサの指が携帯電話のボタンに触れるよりも速く、携帯電話に着弾。そのまま液状に拡がった。

「何!?」

 それは溶かした鉄の様で、イクサの携帯電話を包み込むと、すぐに硬化した。
 狼狽するイクサを尻目に、アームズドーパントがガトリングを連射しながらイクサの間合いに飛び込む。
 太陽の紋章を描いた胸部装甲が超高速・高威力で以て放たれた機銃によって爆ぜ、抉られ、苦しげな呻きを上げる。
 されど容赦などしてくれよう筈もなく、懐に飛び込んだアームズドーパントは、右腕の大剣でイクサを上段から叩き斬り。
 左腕の機銃を再び大剣へと変化させて、よろめくイクサを横一閃に斬り裂いた。

「ぐあっ……!」

 倒れ伏したイクサを踏み躙って、今度は彼方で起き上がったライオトルーパーに再び銃口を向ける。

「……ンの野郎ぉぉ!!」

 猪突猛進。駆け出したライオトルーパーは、機銃など恐れぬ様子で突貫する。
 馬鹿かあいつは、と思って、ダークカブトはすかさずアームズドーパントの機銃をクナイガンで射撃した。
 高威力の機銃故、僅かなブレはそのまま大きなブレとなって、明後日の方向へとガトリングは放たれる。
 アームズドーパントはすぐに斉射をやめ、その機銃をダークカブトへと向けた。
 まずい、と思って、腰のスラップスイッチを叩こうとするが。

「でかした天道ぉぉぉぉぉ!!!」

 それには及ばず、敵の懐に飛び込んだライオトルーパーがアクセレイガンを叩き付けた。
 きぃん! と音を鳴らして、それはシールドソードに受け止められるが、攻撃はそれで終わりでは無い。
 踏み躙られたイクサが、脚の下からイクサカリバーの赤い刃をアームズドーパントに叩き付けたのだ。
 一瞬怯んで力が緩んだ隙に、ライオトルーパーが右上段からハイキックを叩き込む。
 それは左腕が変化した大剣によって弾き返されるが、今度はガンモードとなったイクサカリバーが下方から照準を定めていた。
 流石に対処し切れずに、イクサカリバーから放たれた銀の弾丸はガトリングの如き勢いでアームズドーパントの装甲を炸裂させる。
 たまらず後退したアームズドーパントに、イクサとライオトルーパーは、二人同時に正拳突きを叩き込んだ。
 しかしそれはさほど効いている様子でもなく、アームズドーパントは一歩後退しただけに過ぎない。

「仮面ライダーの力とはこの程度か」

 低く、唸る様な声に、この場の空気が緊迫する。
 やっとの思いで通した攻撃なのに、こいつには碌に効いてすらいないのだ。
 だというのに、イクサとライオトルーパーは、一歩も身を引かずに、構えを解こうともしない。

786 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:28:32 ID:YtgtZe0M
 そんな光景を見ていて、ダークカブトは、言い知れぬ不快感を覚えた。
 普通は戦わない。普通は逃げる。普通は命が惜しい筈だ。
 それなのに、何故にこいつら仮面ライダーは。

「どいつもこいつも……!」

 どれだけ傷め付けても立ち上がった剣崎一真を思い出して、ヒステリックな呻きを漏らした。
 気に入らない。こいつらはどういう訳か、どんなに傷ついても、逃げる道を選ぼうとはしない。
 命と引き換えに、自分よりも強い敵に立ち向かって行くこいつらが、どうしようもなく苛つくのだ。
 或いは、それは情緒不安定な彼の、一種の発作のようなものだったのかもしれない。
 何故、と問われても応える事など出来ないが、気付いた時には、クナイガンを携え、駆け出していた。
 そうだ、見せつけてやればいい。無意味だという事を、仮面ライダーの力などまやかしだと言う事を。

「うわあああああああああああああああっ!!!」

 絶叫と共に突貫して、まずは手始めに、クナイガンを一閃、二閃。
 直線射線上に佇んでいたイクサとライオトルーパーを、背中から叩き切った。
 後ろからの攻撃などに対処出来る筈も無く、二人は訳も解らぬ内にもんどりうって倒れた。
 そんな二人に、これ以上の興味は無いと言う様に返す刀でアームズドーパントへと斬り掛かる。
 勢いは怒涛。滅茶苦茶な動きで、無理矢理にクナイガンを叩き付ける。
 当然何度繰り返そうが、銅色の短剣は黒金の大剣に阻まれ、攻撃は通らない。
 終いには、ダークカブトの攻撃の合間を掻い潜って、アームズドーパントの大剣がその銅を抉った。
 めきりと嫌な音を立てて、ヒヒイロノカネが凹み、亀裂が走る。
 吹っ飛ばされた身体は、しかし、後方のイクサによって受け止められた。

「スタンドプレイは止めなさい! 一人では無理だ!」
「うるさい! 仮面ライダーが何だっていうんだ! どんなに足掻いたって無駄じゃないか!」

 ダークカブトの絶叫が響いて、その拳はイクサの顔面へと叩き込まれた。
 まさか味方に対するガードの姿勢など、万全である訳が無い。イクサは再び殴り倒された。
 そんな光景を見るや、呆れた様に息を吐いたアームズドーパントを見て、ダークカブトの頭に血が昇る。
 全てが不愉快だ。仮面ライダーも、意味のない破壊を撒き散らす戦闘狂(バトルマニア)の怪人も。
 どいつもこいつも壊してやりたい。滅ぼす為の、意味のある破壊を、この手で――!

「バッカお前、状況解ってんのかこのバカ、バカッ! バカタレが!」

 ライオトルーパーがダークカブトの肩を掴んで、口煩く罵詈雑言を吐き掛ける。
 煩わしい、と感じたダークカブトは、有無を言わさずに斧と片手に振り抜いた。
 イオンの刃を思いきり叩き付けられたライオトルーパーの胸部が派手に爆ぜて、仰け反る。
 更にもう一撃と、今度はその腹部のベルト目掛けて、横一閃に斧の一撃を叩き込んだ。
 ダークカブトのアックスは、誰にも阻まれる事無くライオトルーパーの腹部を抉り――

「テ、メェ……!」

 火花を噴き出しながら、バックルを叩き壊されたベルトがアスファルトへと落ちた。
 最早使い物にすらならなくなったスマートバックルが、ぶすぶすと黒い煙を上げる。
 生身を晒した海堂直也の頬を、ダークカブトの拳が打ち付けて、その身体を遥か後方へと吹っ飛ばした。
 仮にも仮面ライダーに殴られたのだ。ただで済む訳もなく、海堂直也の身体はそのままぐったりと動かなくなった。
 今がそんな事をしている場合ではないと言う事になどは、混乱したダークカブトではもう考える事すらも出来ない。
 元々彼は情緒不安定なのである。当初から全てを敵だと判断しているのだから、こうなるのも無理はなかった。
 いざとなったら、二人に仮面ライダーの無力さを知らしめた後で、クロックアップで逃げたっていい。
 どうとでもなるのだから、やりたいようにやればいいではないか。それは、そういった安直な判断であった。

787 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:29:13 ID:YtgtZe0M
 こうして苛立ちも最高潮に達した時、ダークカブトの眼前へと迫って居たのは、赤い体躯の怪人だ。
 思わず構えたダークカブトのアックスを、左腕の大剣で弾き返して、アームズドーパントは右の大剣でダークカブトを叩き伏せた。
 肩口から装甲が派手にひしゃげて、身体が壊れる嫌な音が響いたと思ったら、今度は左の大剣で掬い上げられた。
 ヒヒイロノカネなど容易く引き裂いて、ダークカブトの身体は宙へ舞う。

「仲間割れなどしている余裕は、無かった筈だが」

 その声には、静かで、しかし熱い、確かな怒りが感じられた。
 強者の誇りを持つが故、弱者に舐められたと感じた時には、きっと許せないのだろう。
 それがどれ程崇高な感情であるかなど、ダークカブトには理解出来なかったし、しようとも思わなかったが。
 宙を舞うダークカブトが、地面に叩き付けられようとした時、急迫したのは凄まじい連射性を誇る機銃の弾丸だ。
 ダークカブトを徹底的に破壊しようと構えられた銃口から、怒涛の勢いで放たれた弾丸は黒き装甲を派手に爆ぜさせる。
 アスファルトへしたたかに打ち付けられるが、そんな痛みも、機銃による痛みに比べればマシかと思った。
 圧倒的な斉射は収まらず、アスファルトに無数の穴を穿ちながらダークカブトの命を刈り取ろうと唸りを上げる。

「くっ、そぉ……!」

 何でこうなるんだよ、と心中で毒づきながら、歯噛みする。
 何もかもが上手くいかない。何をやっても自分は失敗する。
 それは、自分が世界にとっての邪魔者だからか?
 だから、世界はこうまでして自分を排除しようとするのか。
 そんな事を考えるとたまらなくなって、一滴の涙が頬を伝った。
 結局、何をしたってこの自分に居場所などはないのだ。
 ならば破壊するしかない。壊すしかない。滅ぼすしかない。
 それしか、残っていないというのに――

「ゴ・ガドル・バの力をたたえて死ね」

 死刑宣告と、ダークカブトの変身解除は同時だった。
 あまりの過負荷に耐えられなくなったヒヒイロノカネが、粒子となって消失したのだ。
 世界だけでなく、カブトの鎧までが、この自分を拒絶しているように思って、思わずアスファルトを殴る。
 そんな彼に向かって狙い定められるは、グレネードランチャーと化したアームズドーパントの左腕だった。
 ランチャーから放たれた砲弾は、どん! と音を響かせて、大気を震撼させる。
 これで終わりか、と流石の彼も死を覚悟して瞳を閉じるが。

「総司君っ!」

 そんな両者の間に割り込んで来たのは、イクサだった。
 両腕を広げ、その身体で以て、迫るグレネードランチャーを受け止めたのだ。
 派手な爆音と、灼熱の爆風が、イクサの装甲で巻き起こって、そのまま地へと崩れ落ちる。
 とうとうイクサの装甲も限界を迎え、生身を晒した名護啓介は、しかし満足そうな表情で振り向いた。
 口元からは僅かに血を流して、脚だって小刻みに震えている。平気で居られる訳が無い。辛いに決まっているのに。
 それなのに、こんなにボロボロになってまで、したり顔で微笑む彼が理解出来ずに、思わず声を荒げてしまう。

「何で……どうして僕なんかの為にっ!?」
「俺は、君と良く似た男を知っている。彼もまた、君と同じ様に、悩み、苦しんでいた」

 なんだよそれ、と思わずには居られなかった。
 何処の世界に、こんな自分程酷い人生を送った人間がいるというのだ。
 何も知らない癖に知った風な口を利く名護啓介に、どうしようもない怒りが込み上げる。
 だけれども、その怒りは不思議と、先程まで感じていた憎しみの怒りではなかった。
 この感情が理解出来なくて、それが新たな苛立ちを呼んで、もう一度アスファルトを殴る。
 ちゃき、と音がして、今度はそんな二人をアームズドーパントの機銃が狙いを定めていた。
 今度こそ、終わりだ。今からレイに変身したって、間に合う訳が無い。

788 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:29:51 ID:YtgtZe0M
 ここで名護と二人揃って死ぬのか、と思うと、心の奥底で、言い知れぬ恐怖心が芽生えた。
 まだ自分は何も成し遂げて居ないというのに、こんな所で死ぬのか、と歯噛みする。
 ――が。

「いけませんガドルさん! 勝敗は決しました! これ以上は最早、勝負ではありません!」
「――!?」

 今度は、金色の小さな龍だった。
 ガドルと呼ばれた男のデイバッグから飛び出したそれが、機銃を弾いて叫ぶ。
 しかしアームズドーパントは意に介した様子もなく、飛び出した金の龍を、右の大剣で殴り飛ばした。
 ぎゃふんと情けない声音を発して、吹っ飛んで来た金の龍を、名護がその手で掴み取る。

「君は、渡君の……!」

 呼び掛けるが、金の龍――タツロットは答えない。目を回して、気絶している様子だった。
 今度こそ邪魔者の居なくなったアームズドーパントは、再び機銃を二人へと向けるが、二度ある事は三度ある。
 イクサ、タツロットと続いて妨害され続けて来たアームズドーパントの行動を、三度目に掣肘するのは。

「らぁああああああああああああああああっ!!!」

 何処となく蛇らしい身体的特徴を持った、灰色の異形だった。
 見た事もない灰色の怪人は、後方からアームズドーパントへと組み付き、唸りを上げる。
 我武者羅に組み付いた灰色を、アームズドーパントは振り落とそうとするが、そう上手くは行かない。
 灰色は、しぶとくアームズドーパントにしがみついて、その行動を封じていた。

「おい、天道に、名護のおっさん! ここは俺様に任せて、お前らぁ逃げろ!」
「直也君!? 無謀な真似はやめなさい! 君一人で勝てる相手ではない!」
「いいか、俺様にかかりゃなぁ、足手纏い二人を助けるくれぇは朝飯前なんだよ!
 ここぁ大人しく俺様に任せて、お前らはすっこんでろっての、この役立たず共が!」

 海堂の声でそう叫んだ灰色が、アームズドーパントに振り払われ、大剣を叩き付けられる。
 ならばとばかりに、オルフェノクの力で具現化させたナイフを取り出して、海堂はそれを受け止める。
 だけれども、付け焼刃の戦術で歴戦のアームズドーパントの攻撃を裁き切れる訳が無かった。
 右のシールドソードで灰色のナイフを払われ、左の大剣で袈裟斬りに身を斬り裂かれる。
 大きく仰け反り、その場で倒れ伏した灰色には目もくれず、アームズドーパントは再び二人に機銃を向けた。

「ンのヤロ、させるかよぉおおおおおおおお!!!」

 しかし、海堂のしぶとさもさるもの。
 すぐに起き上がり、今度は我武者羅に機銃にしがみ付いて、その銃口を逸らさせる。
 そんな海堂の灰色の身体に、シールドソードが振り下ろされて、海堂の姿勢ががくりと落ちた。
 その痛みに、立つ事すらままならない様子だった。地に膝を付けて、それでも機銃を離そうとはしない。
 これでは無理だ。どう頑張ったって、勝てる訳がない。逃げなければ、海堂はこのまま死ぬだけだ。
 名護はそんな海堂を救おうとしたのだろう、もう一度立ち上がって、イクサナックルを構えた。
 イクサナックルを掌に打ち付けようとするが、そうやって構える名護自体が、既に満身創痍。
 馬鹿かこいつは、と思って、気付いた時には、そんな名護の肩を強引に引っ掴んでいた。

「馬鹿なの!? 勝てる訳ないじゃないかっ!!」
「それでも、直也君を見捨てる事は出来ない。離しなさい、総司君!」
「どうして! どうして君ら仮面ライダーは、どいつもこいつもそうやって!」

 苛立ちも頂点に達すれば、この身体も勝手に震えるものだ。
 名護の肩を掴んだ腕は、怒りと、理解し得ぬ憤りと、良く解らない感情とで、震えていた。
 名護といい海堂といい、さっき戦った剣崎とか言う奴も、だ。
 仮面ライダーはどいつもこいつも、自分の命を投げ出す様な真似ばかりする。
 別にそれ自体は構わない。死を望むというのなら、望み通り殺してやればいいだけだ。
 だけれどもこいつらは、そうやって牙を剥いた筈の自分をも救おうとしているのだ。
 それがどうにも理解出来なくて、彼はどうしていいのかわからなくなった。

789 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:30:45 ID:YtgtZe0M
 混乱する彼の気持ちを知ってか知らずが、今度は海堂が絶叫する。

「おい天道! お前今、どうしてっつったな!」

 元気そうに叫ぶが、本当なら、今の海堂にはこうして口を利く余裕だって無い筈なのだ。
 アームズドーパントの機銃を無理矢理上部へ向けるが、そんな海堂の身体を、右腕の大剣が弾き飛ばす。
 蛇の皮膚だか装甲だかは、大剣の刃に容易く切り裂かれて、爽快なくらいの打撃音と共に数メートル吹っ飛んだ。
 だけれども、海堂はすぐに立ち上がって、もう一度アームズドーパントに組み付いて、叫ぶ。

「俺様にもなぁ、天道、お前みてぇな、どうしようもねえ馬鹿な仲間が居たんだよ!」
「だから……!? それが何だっていうの……!?」
「そいつはなぁ、くっだらねえ事で悩んで、苦しんで、くっだらねえ戦いで死んじまった!」

 蛇の顔にも似た海堂の顔面に、重たいシールドソードが叩き込まれた。
 うぶっ、とか、そういう情けない声を上げて、海堂は思わず機銃から手を離した。
 そんな海堂目掛けて、今度はアームズドーパントの機銃による斉射が撃ち込まれる。
 今までは受け続けて来た攻撃はどれもライダーの装甲越しにだったが、今は違う。
 海堂は今、その身体に、直接弾丸を撃ち込まれて居るのだ。痛くない筈がない。
 弾丸の嵐は容赦なく海堂の身体を吹っ飛ばすが、しかし、それでも海堂は立ち上がる事をやめはしなかった。

「人類を滅ぼすだの何だの言っちゃ居たが、結局、あいつは……最後の最後まで、誰かの為に戦った!
 ……ほんとはなぁ……俺ぁ、そんなあいつが、ずっと羨ましかったんだよ! 憧れてたんだよ!」

 海堂直也の声は、一言紡ぎ出す度に、震えていた。
 怒りの震えか、武者震いかは、はたまたそのどちらもなのかは、解らないけれど。
 海堂が変じた灰色の異形は、人間よりもずっと逞しくなってしまった拳を握り締める。
 そんな海堂の姿に、言い知れぬ気迫を感じて、思わず黙ってしまった。
 尚も絶叫を続ける海堂の声は、先程とは打って変わって、重たく感じた。

「なのに、なのに俺ぁよぉ……そんなあいつの死に様に、なんっっっにもしてやれなかった!
 木場も、照夫も……俺ぁ結局、誰も守れちゃいねぇ。ただ、指を咥えて見てるだけしか出来なかった!」

 今にも泣き出しそうな声音で絶叫して、海堂はその身体を奮い立たせる。
 走り込んで行くが、今度はそんな海堂の腹に、巨大な大剣による一撃が叩き込まれた。
 言葉は最後まで告げられず、海堂は堪らず倒れ伏して、震える灰色の指を、ぐぐぐと握り締める。
 アスファルトと言えど、異形となった力の前にはただ蹂躙され、指の形に砕けてゆくだけだった。
 海堂は砕けたアスファルトで出来た砂利を、思いきりアームズドーパントへと放り投げる。
 目潰しのつもりだろうが、相手もまた異形。人間の喧嘩戦法などが通用しよう筈も無い。
 意にも介さず歩を進めるアームズドーパントに対して、海堂は再び立ち上がった。

「けどなぁ……そんなのはもう、終わりだ! 終わりにしてやる! 俺ぁここで、変わるんだよ!」
「直也君……」
「もうこれ以上、俺様の目の前で誰一人傷付けさせねぇ! 誰一人だって、殺させやしねぇ!
 嗚呼そうさ……俺ぁ守るんだ! 今度は俺が……みんな、この俺様が、守り抜いてやるんだよ!」

 それは海堂直也という一人の“人間”の、決意の絶叫だった。 
 そんな海堂に返されたのは、言葉でも何でもなく、大剣による袈裟斬りだ。
 思いきり振り下ろされた大剣を、しかし今度は、灰色のナイフで受け止める。
 僅かに驚愕した様子のアームズドーパントをよそに、海堂は我武者羅なキックを突き出した。
 それを受けて数歩後じさるアームズドーパントの懐へと、海堂は追撃とばかりに飛び込んだ。
 灰色のナイフと、シールドソードが激突して、がら空きになった胴へ、左腕が変じた大剣が叩き込まれる。
 よろめく身体を根性で支え、それでも海堂は、アームズドーパントに組み付いて、絶叫した。

「おい名護ぉ! 小野寺と、響鬼のおっさんは言ってたよな!? 仮面ライダーは、人を護る為に戦うって!」
「……ああ、そうだ! 俺達仮面ライダーは、人々を護る為、命を賭して戦う正義の戦士だ!」

 海堂の絶叫に応える為に、名護もまた、暑苦しい程の絶叫で返した。
 アームズドーパントに組み付いた海堂の影に、仄暗い光が浮かんで、その中に海堂の表情が見える。
 ぼんやりとしていて良くは見えないけれど、名護の答えを聞いた海堂は、不敵に口端を吊り上げていた。

790 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:31:23 ID:YtgtZe0M
 どうして。どうして海堂は、笑っていられるのだろう。今だって、痛くて、辛くて、苦しい筈だ。
 もう今にも倒れ伏して、殺されたって可笑しくないのに、それなのに海堂は、不敵に笑っているのだ。
 理解など、とうに越えている。不可解過ぎる事象に対する疑問が、津波の様に押し寄せる。
 だけれども、絶叫を続ける海堂と名護の間には、何の疑問も存在してはいない。
 それが余計に不可解で、また、不愉快でもあった。

「良く言ったぜ、名護ぉ……ああ、そうだよ……仮面ライダーってのぁつまり、正義の味方だ」

 満足げに鼻を鳴らした海堂は、しかしシールドソードによる一撃で吹っ飛ばされてしまう。
 だけれども、もう倒れはしない。二本の脚は強く大地を踏みしめて、しっかりと構える。
 言い知れぬ気迫が、これまで以上に海堂からは満ち溢れていて、思わず固唾を飲んだ。
 それは、アームズドーパントすらも黙って見守る程の、戦士たる圧倒的な気迫。

「なら、もうお前らだけに戦わせる訳には、行かねえよなぁ……だって、今から俺も、なるんだからよぉ――!」

 やがて海堂は、大きく息を吸い込んだ。脚は肩幅以上の感覚で踏ん張って、腰は据えて。
 右の腕は左肩よりも高く、指まで真っ直ぐに掲げ、左の腕は拳を作り、腰元まで引いて。
 子供時代に、誰もが憧れたヒーローのようなポーズを気取って、海堂は声高らかに宣言した。

「みんなを護って、世界だって救っちまう、誰よりもカッコ良い正義の味方に――仮面ライダーに!」

 仮面ライダーとは、つまり、そういうものだ。
 悪の魔の手から人々の命を救い、世界を覆う陰謀から、この世の平和を守ってみせる。
 理不尽な暴力を振るう悪が居る限り、彼らは何度だって蘇り、正義の心を炎と燃やして悪に立ち向かう。
 死ぬかもしれないし、負けるかもしれない。勝てる確証なんて、いつだって何処にだってありはしない。
 だけれども、護りたいという熱い願いが炎となって燃え滾る限り、そんな恐怖などはすぐに消し飛ぶ。
 それこそが、仮面ライダーだ。それこそが、護る為に力を震える、正義の戦士の有るべき姿だ。
 今この瞬間、海堂直也はまさしく仮面ライダーの名を名乗るに相応しい真の戦士となったのだ。
 そして、そんな海堂が取った構えは、奇しくも護る為に戦った、初代仮面ライダーと同じものであった。

「見ろ、総司君。あれが、きみが理解出来ないと言った、正義の仮面ライダーの姿だ」

 そう告げる名護の表情は、真剣そのものだった。
 こいつらは、本気で、何の冗談も無しに、正義の味方になるつもりなのだ。
 そんな馬鹿二人を見ていると、不思議と心の奥底で、何かが震えるような気がした。
 未だに仮面ライダーの名にしがみついて、馬鹿馬鹿しい行いを続ける愚者への怒りか。
 それとも、彼の狂行に感化されたこの心が、未だ感じた事もない感情を抱いているのか。
 今はまだ前者だと思う。だけれど、不思議と目の前に居る仮面ライダーを否定する気には、なれなかった。

「馬鹿ばっかりだ……どいつも、こいつも」

 消え居る様なか細い声で、ぽつりと呟いた。
 視線の先では、再び海堂とアームズドーパントが戦闘を再開している。
 どんな攻撃を繰り出したって、全身兵器の完璧な戦術が相手では通用しない。
 一撃叩き込まれる度に、海堂の身体は軋みを上げて、苦しそうな呻き声を漏らして。
 それなのに、海堂は何度だって立ち上がって、何度だって強大な敵に挑み掛かってゆく。
 
「お前らぁ、いつまで、突っ立ってやがんだ……とっとと、逃げろっちゅーとろーが……!
 折角、カッコつけたんだからよぉ……なぁ、最後まで、カッコ、付けさせてくれよぉ」

 紡がれる言葉は最早、息も絶え絶えといった様子だった。
 解って居た。いくら格好付けた所で、本当はもう限界なのだ。もう、戦える筈もないのだ。
 それなのに海堂直也は馬鹿みたいに格好付けて、自分達二人を逃がす為にたった一人で立ち上がる。
 馬鹿だ。馬鹿としか言いようがない。そんな行動の何処に、どんな意味があるというのだ。
 そこから理解出来ずに、最早言葉も失って、暫くはぼーっと眺めていた様に思う

791 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:31:53 ID:YtgtZe0M
 名護はそんな海堂に背を向け、立ちつくす自分の横に並ぶと、不意にその肩を掴んだ。

「行こう、総司君。ここは直也君に任せるんだ」
「へえ、直也君を見捨てる訳には行かないんじゃなかったんだ」
「……彼は今、その命の炎を燃やし、正義を行おうとしている」
「…………」

 そこで、気付く。
 この肩に置かれた名護の手は、震えていた。
 遥か遠くを見詰める名護の表情は、震えていた。
 悔しさに、怒りに、苛立ちに、そして、自分の無力に。
 打ちひしがれる気持ちを堪えて、それでも名護啓介は、この肩を掴む。
 ぐぐぐ、と、変な力が込められて、戦闘直後のこの身体が僅かに痛んだ。
 だけれど、そんな名護の姿を見てしまったからには、もう何も言えなかった。
 名護は、まるで自身に言い聞かせるように、ゆっくりと口を開いて。

「直也君は今……正義を、行おうとしているんだ……!」

 震える声で、ゆっくりと、しかし力強く、そう言った。
 夕陽の光を受けて、名護の頬に光が走った気がしたが、良くは見えなかった。
 頬を流れた光は、一滴の水滴となって、漆黒のアスファルトに落ちると、すぐに乾く。
 名護や海堂がどうしてこんな行動に出るのか、彼には理解出来なかった。
 結局、誰も彼の疑問には答えてくれていないではないか。
 仮面ライダーとは何だ。泣くくらいなら何故逃げ出す。
 数々の疑問は胸中で渦を巻いて、彼の精神が再び不安定になってゆく。
 何故だ、どうしてなんだ。頭を掻き毟って、荒く息を吐き出し、行き場の無い苛立ちを吐き出す。
 そんな彼の気持ちを察知したのか、デイバッグからは一匹の蝙蝠が飛び出した。
 彼の周囲を旋回するのは、最後に残った変身手段――レイキバットだ。

「どうやらこの俺の力が必要なようだな、総司」
「レイキバット……解って居るなら、僕に力を貸せ!」
「ふん……いいだろう。行こうか、華麗に、激しく」

 彼の腹部に巻かれた黒のベルトに、レイキバットは収まった。
 全てを凍て付かせる雪の結晶が、冷気を伴って彼の周囲を舞う。
 しかしそれも一瞬でだ。冷気と結晶は、すぐに白き装甲として再構成される。
 それは、未確認生物である雪男を、そのままライダーにしたような外見だった。
 名護の済むキバの世界とはまた異なるキバの世界に存在する戦士――仮面ライダーレイだ。
 レイは名護啓介の身体を担ぎ上げると、一瞬だけ海堂とアームズドーパントへと振り向いた。
 海堂は未だに勝ち目の無い戦いに興じて居て、今だって大剣に蹂躙されている最中だった。

「直也君……! 君の正義は、絶対に忘れない! 絶対にだ!」

 そんな海堂に向かって、レイに担がれた名護が、声を大にして叫んだ。
 恥ずかしいくらいの絶叫だけれど、名護はきっと、恥ずかしいなどとは思ってはいないのだろう。
 それはこれから散りゆく海堂への激励のように聞こえて、レイはやはり、言い知れぬ苛立ちを覚えた。
 自分達だけ逃げるというのに、これから死ににゆく仲間にそんな言葉を送る事に意味などある訳もない。
 先程まで仲間だの見捨てられないだの言っていた事を考えれば、全くもって不可解な連中だと思う。
 ともあれ、この姿になった以上、長居は無用だ。戦闘をしたって、勝てる見込みはないのだから。
 名護を抱えたレイは、向かう先などは考えず、我武者羅に駆け出した。

792 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:33:36 ID:YtgtZe0M
 海堂直也は、既に頭では理解していた。
 自分の力では、絶対にこの敵には敵わないのだろう、と。
 技量も、単純な腕力も、相手の方が圧倒的に上。勝っている要素など何一つない。
 オルフェノクとして強化された五感と、第六感までもが、海堂には勝ち目がないと悟らせる。
 それはこの会場に来て、初めて目の前の敵と戦った時から、とっくに解って居た事だった。
 それ程までに、今自分が相対している赤い怪人は、化け物過ぎる化け物なのだ。

 だけれども。
 それが何だ、と思う自分が居るのも、確かだった。
 頭では無理だと理解しても、この心は、この魂は未だ諦めてはいない。
 敵の圧倒的な強さに、この心は脅えるどころか、更なる熱を燈してさえいるのだ。
 地平線の向こうでギラギラと燃え盛る夕日は、そんな海堂の心を焚き付けている様だった。

 そうだ。最早、海堂に挫ける事などは許されない。
 海堂直也は。
 仮面ライダーは。
 今、暁に起ち上がったのだ。
 ならば、やらねばならない。
 この命尽きるまで、命を奪う悪と戦わねばならない。
 それが海堂の望む、仮面ライダーの姿。与えられた正義の使命。
 何よりも、海堂はまだ戦えるのだ。この心は熱く燃え滾っているのだ。
 なれば、例え儚くても、この命が尽きるまで、輝き続けずして何とする。
 赤く熱い鼓動は、この身を突き破らん勢いで激しく脈を打っているのだ。

「嗚呼、ならやるっきゃねぇよなぁ……だって俺は、仮面ライダーなんだからよぉ!」
「成程、どうやら貴様を戦士と認めざるを得ないらしいな……仮面ライダーよ」

 圧倒的な力を見せ付け、未だ顕在するアームズドーパントは悠々とのたもうた。
「そりゃどうも」と口先だけで返すが、悪にその力を認められた所で、何にも嬉しくは無い。
 仮面ライダーが喜びを感じていいのは、悪を倒せた時と、誰かを守り抜けた時、だけだ。
 海堂直也はそんなヒーローでありたいと思うし、今だって、そうあろうとしている。
 そんな海堂の心情を知ってか知らずか、眼前の敵は、一本のベルトを投げて寄越した。

「……こいつは!?」

 瞠目に目を見開き、投げ出されたそれを眇める。
 がしゃん、と音を立てて転がったのは、青と、銀色のベルトだった。
 中央のバックルには携帯電話が装着されていて、青いメモリーがセットされている。
 海堂は、携帯電話をバックルに装填して変身する仮面ライダーを、良く知っていた。
 多分、そんな仮面ライダーが居るのは、何処の世界を探したって自分の世界しかないと思うから。
 かつて装着したファイズギアの色違いとも呼べるそれを手に取った海堂は、眼前の怪人を眇め、問うた。

「おい、こいつぁ一体、どういうつもりだ」
「そのベルトは、オルフェノクとやらでなければ使えないらしい」
「ふざけんなよテメエ……この俺様に、情けを掛けようってつもりかよ!」
「吠えるのは勝手だが、今の貴様では、勝負にすらなるまい」

 痛い所を突かれた海堂は、言い返せなくなって歯噛みする。
 自分に使えぬ物であるなら、使える者に渡してでも戦うまで。そういうつもりなのだろう。
 誇りだが何だか知らないが、そうやって余裕ブッこいて武人を気取る悪に、海堂は嫌気が差した。

793 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:34:06 ID:YtgtZe0M
 上等じゃねえか、と思う。どの道不利な事には変わりないのだ。そっちがその気なら、乗ってやるまで。
 泣く子も黙る海堂直也様に、このベルトを与えてしまった事を、あの世で後悔させてやる。
 そして海堂直也は、この力で本当の仮面ライダーになって、皆を守り抜いてやるのだ。

「上等だ、見せてやろうじゃねえか……正義の仮面ライダーの力をなぁ!」

 人間の姿に戻った海堂は、青と銀のベルトを勢いよく腰に巻いて、携帯電話を開いた。
 変身コードは――3、1、5。液晶に表示されたマニュアル通りに、ボタンを打ち込んでゆく。
 こんなベルトは見た事がないし、どんな仮面ライダーであるのかも解りはしない。
 それどころか、これが何の為に造られたベルトなのかも、どんな奴が使っていたのかも。
 全く以て何もかもが解らないけれど、今となってはもう、そんな事はどうだって良かった。
 重要なのは、海堂直也が今、“正義であろうとする”その心ただ一つだからだ。

「変身ッ!!!」

 数多の世界の仮面ライダー達が唱えた言葉を、声高らかに宣言する。
 超高出力のフォトンブラッドが青い光となって全身を駆け廻って、この身を覆う。
 純白の装甲と、背部のバックパックが形成された瞬間に、この身体は凄まじい熱を感じた。
 全身が、焼ける様に熱いのだ。今にも灰となって崩れ落ちてしまいそうな程の、圧倒的熱量。
 この身を焼き尽くさん勢いの圧力は、満身創痍の海堂には少しばかりきつかった。
 だけれども、それが何だとばかりに脚を踏ん張り、拳を握り締めて耐える。
 この心は、こんなスーツよりも、もっと、ずっと、熱く、激しく燃え滾っているのだ。
 なれば、この海堂直也に、不可能などあろうものか。出来ぬ事などあろうものか。
 そうだ。何としてでも倒すのだ。目の前の悪を、命を奪う悪を――!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 それは、正義の雄叫びだった。
 赤く滾るこの情熱を、真っ赤に燃える暁の空に解き放ったのだ。
 身体を焼き尽くさん勢いの蒼き流動エネルギーが、漸く安定して、鮮やかな光を放つ。
 蒼の輝きは、海堂の心に応えるように眩い輝きを放って、灼熱の空へと溶けてゆく様だった。

 ――Complete――

 次いで、高らかに電子音が鳴り響く。
 暁に起ち上がるは、見まごう事なき正義の戦士。
 熱き魂を胸に刻んだ漢の称号は、仮面ライダー。
 正義の体現者に与えられたその名は、サイガ。
 そう。その名は――仮面ライダーサイガ!

 仮面ライダーサイガとなった海堂直也の魂(こころ)の炎が、この身へと燃え広がる。
 蒼い炎だった。サイガの関節から、身体中の節々から、蒼の炎は全身に火を点けてゆく。
 命を燃やす灯が、純白の装甲をも突き抜けて、熱く、熱く、燃え滾っているのだ。
 炎はサイガの魂と身体を震わせ、悪を許さぬ正義の灼熱となって大気をも焼いた。
 その気迫は凄まじく、さながらサイガが纏った、命のオーラの如く。

794 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:34:42 ID:YtgtZe0M
 
「見事な気迫だ、戦士・仮面ライダーよ」

 アームズドーパントが、何処か嬉しそうな声色で言った。
 サイガのスーツに流れる超高出力の流動体は、海堂の身体を今も蝕み続けていた。
 恰好付けて変身した手前、口に出しはしないが、この力は明らかに“過ぎた力”だ。
 他のギアなどの非ではなく、こいつは容赦なく装着者の身体を焼き尽くそうとする。
 こうして立っているだけでも、身体は全身が焼ける様に熱く、最早感覚すら感じはしない。
 だけれども、例えそんな業火に焼かれたとしても、海堂の闘志はそれ以上に熱く、激しかった。
 この身体を覆う炎すらも、熱き情熱へと変えて、ちっぽけな恐怖や不安をも、焼き尽くす。
 行ける。今ならば、何処までも、全速力で駆け抜ける事が出来る――!

「その力が何処まで通用するか、この破壊のカリスマが確かめてくれる」

 ――ほざいてろよ。今から俺が、テメエをブッ倒してやるからよ!
 背部のフライングアタッカーが、ジェットの唸りを上げた。
 轟音を掻き鳴らし、蒼き炎が蜃気楼となって虚空に揺らめく。
 純白の装甲がもたらした殺人的な加速は、風よりも速く飛び抜け、敵との距離をゼロにした。
 一瞬、本当に、一瞬だ。装着者である海堂すらも予想だにしなかった速度で、サイガは飛んでいた。
 この場の誰もが感知し得ぬ速度で懐へ飛び込んだサイガは、蒼き二刀を引き抜き、振るう。

「――ッ!!」

 きぃん! という金属音が、何重にも重なって絶え間なく鳴り響いていた。
 右の次は左、左の次は右、息を吐く隙すらも与えぬ連続攻撃は、言わば死への抵抗。
 一瞬でも気を緩めれば、満身創痍のこの身体はすぐに朽ち果て、物言わぬ骸となろう。
 誰も守れぬまま、悪をこの手で討ち取る事も出来ぬまま、そのまま全てがお終いだ。

 勝利に繋げる為の唯一無二の手段は、怒涛の連続攻撃以外には有り得なかった。
 この身を蝕む熱も、痛みも、苦しみも、限界すらも意に介さず、サイガは連撃を叩き込む。
 弱くても、強くても、どんな攻撃でもいい。敵に見動きを取る隙を与えてはならない。
 サイガの猛攻は、さながら白と蒼の嵐。圧倒的な風圧で以て蒼き炎を撒き散らす、暴風。
 守ったら負けだ。守勢に出れば詰みだ。後戻り出来る道など、もう何処にもないのだ。
 このままでは足りない。強敵を打倒するには、まだ少し、足りない。
 ならば、もっと速くだ――!
 力を振るうなら、もっと激しくだ――!
 この魂の炎を燃やすなら、もっと熱くだ――!

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 怒涛の進撃は、徐々に敵の勢いを押しつつあった。
 そこに、身体的スペックなどというものは、最早関係ない。
 とうに限界を迎えたこの身を動かすのは、たった一つの正義の炎。
 燃える灼熱がこの身体を突き動かし、サイガの打撃に力を与えてくれるのだ。
 ぬう、と。驚愕の呻きを漏らす声が聞こえて、サイガの攻勢に、更なる勢いが乗る。
 このまま押し切れば勝てる――! なればこのまま、勝利まで一気に突っ走るのみ――!

「ぬ……ッ、ぐぅぅぅぅぅッ!」
「らぁああああああああああああああ!!!」

 やがて、勢いに乗ったサイガのトンファーが、敵の守りを突き破った。
 返す刀でそれを弾き飛ばして、もう一方のトンファーで左腕の大剣を弾き飛ばす。
 その瞬間から、敵はサイガの攻撃を半分近くしか打ち落とせぬようになっていった。
 今この場で繰り広げられているのは、たった一つのシンプルな事実のみだ。

795 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:35:43 ID:YtgtZe0M
 
“正義が、悪を押している”。

 熱い正義の魂が、冷酷な悪の力を正面から押しやっているのだ。
 どんな世界だって、最後には正義がのさばる悪を打ち倒すものだ。
 少なくとも、仮面ライダーが守り抜いて来た数々の世界は、そうだった。 
 それは何十年経っても決して変わらない、正義の味方のあるべき勇姿なのだ。

 ――見てるか、木場ぁ! 照夫ぉ!

 雄叫びを上げる仮面の下で、再びこの心に火を点けてくれた二人を思い描く。
 あの二人が居てくれたから、海堂は夢を失い腐っても、再び使命を掲げる事が出来た。
 あの二人が居てくれたから、見失いかけた生きる意味を再び見出し、起ち上がる事が出来た。
 そしてこの使命感は、孤独や不安を引き摺るだけの、無力だった日々をブチ壊すだけの力をくれた。
 なればこそ、今の自分に出来る事はたった一つ。たった一つの正義で示す、償いと、酬いだ。
 これは彼らの想いに少しでも酬いる為。その為に、今ここで、揺るぎなき悪を倒すのだ。
 小野寺が言った、みんなの優しい笑顔を奪う悪魔を、この手で仕留めて見せるのだ。
 燃え上る決意がある限り、今の海堂は何処までも走ってゆける。
 そんな気がして、不可能なんかは無いとすら、思う。

 心の中で涙を流すだけしか出来なかった日々も。
 無力に打ちひしがれ、何をしていてもからっぽだった日々も。
 今日で全部、おしまいだ。後はただ、今この瞬間を、全速力で突き抜けるのみだ。
 命を賭けるだけの覚悟は、既に完了した。絡み付く迷いも、とうに振り切った。
 なれば、この身体を掣肘する足枷などは、最早何一つありはしない。
“限界”などと云う陳腐な概念も、最早何処にも存在しない――!

 ――さあ、行こうぜお前らぁ!

 そして、正義を背負って戦う海堂は、一人ではない。
 この胸には、今もみんなが生きている。
 熱い命が、今も強く脈を打ち続けているのだ。
 あの戦いで散ってしまった木場も、照夫も、結花も。
 今を必死に生きる乾。ここで出会った名護や、小野寺に天道。
 今まで出会ったみんなの想い。熱い正義の心に、強い決意の灯。
 それら全てを背負って戦う海堂に、みんなの想いが、力を与えてくれる。
 故にこそ、やらねばならぬ。どんな強敵にも、諦める事は許されないのだ。
 そうだ――海堂直也は今、正義の疾風(かぜ)となって、悪の炎を吹き消すのだ!

「だからよぉ! もっとだ! もっと! 熱く、燃え上がれぇええぇぇぇぇぇええええっ!!!!」

 身体を焼く蒼き灼熱は、この魂の炎と一緒になって、熱く、高く、燃え上がる。
 蒼の炎は、いよいよ以て身体全てを覆い尽くし、純白の装甲などは見えなくなった。
 周囲の大気が高熱過ぎる炎に熱せられて、二人の周囲だけが蜃気楼の如く歪んで見える。
 これは自分の命を焼く行為だ。そんな事は、一年間戦い続けた海堂には、嫌という程わかっていた。
 だけれども、海堂に止まるつもりはない。誰にだって、海堂を止める事など出来やしない。
 一度燃え盛った炎は、後は全て焼き尽くすまで燃え拡がるしかないのだから。

796 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:36:55 ID:YtgtZe0M
 
「何故だ。あれ程弱かった貴様が、何故ここまで強くなれる」
「さぁなぁ……んなこたぁ、俺は知らねぇ! けどなぁ、多分、理屈じゃねぇんだろうよ!」

 そう――理屈では、最早ないのだ。
 きっと一歩でも退けば、一瞬でもこの心の熱を冷ませば。
 この命の炎も、一緒になって燃え尽きるのだろうと、直感的にそう思う。
 驚く程に深く冷たい死の闇は、海堂のほんの数ミリ後方で、この身を追い立てているのだ。
 少しでも気を抜けば、この命はあっと言う間に死の闇に飲みこまれて、それで本当にお終いだ。
 なればこそ、だった。海堂はもう、立ち止まることも、振り返る事も出来ない。出来る訳がない。
 後はもう、全力でレッドゾーンすらもブチ抜いて、最期までフルスピードで駆け抜けるしかないのだ。

 ――嗚呼そうさ、イカれてる! イカれちまってるとしか言えねぇよなぁ!

 自分でも解るくらいに、この頭はイカれていた。 
 熱く滾る情熱が、まともな思考などは完全に焼き払っていた。
 だけれども、同時に海堂は、イカれた奴ほど恐ろしいという事も、理解している。
 語る言葉もなく、理解の及ばぬ理由でぶつけられる力ほど恐ろしいものは、他にないのだ。
 サイガの怒涛のラッシュはやがて、歴戦の勇士の守りを、その戦術を、完全に突破した。
 勝った、と。サイガの仮面の下、燃える蒼の炎に包まれながら、海堂は確信した。

「らぁあああああああっ!!!」
「ぐぅ……!?」

 最後の一撃は、強烈だった。
 渾身の力が込められた蒼きエッジは、その銀の胸部装甲を見事に抉る。
 豪快な打撃音が響いて、その屈強な身体がくの字に折れ曲がって、吹っ飛んだ。
 破壊のカリスマを自称した化け物は今ここに、正義の仮面ライダーサイガに敗れたのだ。

「はぁ……はぁっ、はぁ……っ、どう、だ……の、野郎っ!」

 同時に、サイガの身体にどっと疲労が押し寄せる。
 集中力の糸が切れるのと同時に、この脳を焼き切らんばかりの灼熱を感じる。
 全身が、燃えるように熱い。筋肉は徐々に灰化し、今ここに立っているだけでも苦痛を伴った。
 限界を突破して蓄積された疲労は、蒼の炎となって勢いを増し、今にもこの身を灰燼に帰さんとする。
 だけれども、仮面ライダーサイガは、海堂直也は、それでも倒れはしなかった。

 ――まだだ……まだ、倒れる訳にはいかねぇ!

 そう、まだだ。まだ海堂は、仮面ライダーとして、何の証も立ててはいない。
 何よりも怖いのは、証を立てず、何も成さないまま死に絶える事ではないのか。
 敵はまだ生きている。生きて居れば、また他の誰かの命を奪う為に、その力を振るう。
 そんな事は許せない。許せる訳がない。それでは、この命を燃やしてまで挑んだ戦いは無意味だ。
 なればこそ、せめて最期に、この海堂直也が正義に生きた証を立てねばならない。
 笑顔と命を奪う絶対的な悪を、この手で、この力で、完全に仕留めねばならない。
 嗚呼、そうだ。その為に、クズだった海堂直也は正義に目覚め、暁に起ち上がったのだ――!

「もう、決めちまったからなぁ……! 俺はせめて、俺の心にある正義の味方になるって、よぉ……!」

 そう。それこそが、海堂が求め、示した正義のカタチ。
 この命は、最期に向かうべき道標(みちしるべ)を見付けたのだ。
 そしてこの身に最期に残ったのは、それを貫く為の、強く、熱い意志と力。
 なれば、やる事はたった一つ。今ここに、示すのだ。
 命の証を。誰よりも熱い、一人の漢が生きた証を。
 それを、最期まで正義を貫く事で成し遂げる事が出来るのならば――!

797 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:40:03 ID:YtgtZe0M
 
「嗚呼、ここで死ぬのも、悪くはねぇよなぁ――!」

 悪くはない。悪くはないと、思う。
 何せ、自分は最期の力を振り絞って巨悪を討つのだ。
 今後襲われるかも知れない無数の命を救う事が出来るのだ。
 正義に生きて、正義に散る。熱い漢の生き様を貫いて、皆の命まで救えるのだから、上等だ。
 この海堂直也の最期を見届けてくれる人が誰も居ないのは、確かに少しばかり心残りだけれど。
 何、それも別段気にする事は無い。正義とは、誰かに見せ付ける為に行使するものではないのだから。
 少なくとも、それを理解出来るくらいには、海堂は真っ当に正義の味方を名乗ったつもりである。
 だから。最期に、仲間二人を救い、悪を打ち倒し、それが沢山の命を救う事に繋がるなら――
 それだけで、海堂直也にとっては、上等過ぎるくらいに、生きた証を立てた事になるのだと、思う。

 ――Exceed Charge――

 濃縮された超高圧力のフォトンブラッドが、サイガの身を駆け巡る。
 この身を包む蒼の炎の中、蒼き輝きが一点の眩き輝きとなって、両のトンファーへと集中してゆく。
 やがて蒼きエナジーブレードは、蒼の炎よりも熱く、圧倒的な熱量を放出して、激しく瞬いた。
 身体は重たい。指一つを動かすだけでも、全身がバラバラになりそうな苦痛に苛まれる、生き地獄。
 だけれども、決意を固めた男は強く、命が消え去ってしまいそうな痛みにも、一瞬たりとて止まりはしない。
 身体ごと持っていかれそうな、圧倒的過ぎる力の奔流を振り上げて、サイガは真っ直ぐに駆け出した。





 天道総司が、乾巧を引き連れて警視庁を出てから、既に数分が経過していた。
 まずは何処に行こう、なんて明確な目的があった訳ではないのは、彼らにとっては珍しい。
 ここは殺し合いの場なのだから、歩いて居れば自ずと誰かと出会うだろうと考えたのだ。
 第一、今も誰かの命が奪われて居るかもしれない中で、休み続けている気にもなれなかった。
 そんな中で、真っ先に表情を変えたのは、天道の仲間である巧だった。

「おい、天道」
「ああ、解って居る」

 巧の言葉に、天道は警戒心を強める。
 先程戦ったカブトムシの怪人の時と同じだ。
 何者かの足音が、こちらへ迫ってきている。
 それも急速に、真っ直ぐに走って、こちらへ向かっているのだ。
 表情を顰め、いつでも行動を起こせるように身構える。
 そんな二人の元へ現れたのは――。

「停まりなさい、総司君!」
「えっ……あ――」

 スーツを来た若い男を担いで走る、白い仮面ライダー。
 雪男をそのまま模した様なデザインのそれは、どうみても自分の世界のライダーではない。
 巨大な肩に乗った男は、自分達を見付けるなり、そのライダーに停まるように命令したが。
 問題は、男が呼んだ、その名前だ。奴は今、確かに「総司」と呼ばなかったか?
 天道の表情が険しくなって、嫌な予感が、頬に汗を滴らせる。

「お前は」

 天道がそう告げた瞬間、白い仮面ライダーの装甲が消失した。
 バックルから、ゼクターにも似た一匹の蝙蝠が強制的に弾き出されたようだった。
 十分間の変身時間を満了したライダースーツが、制限によって形を保てなくなったのだろう。
 そして、白の装甲の中から現れた男は、天道自身も良く知る顔であった。

798 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:43:07 ID:YtgtZe0M
 
「お、おい天道……こりゃ、一体どういうこったよ!?」

 乾巧が、狼狽した様子で声を荒げる。
 白いライダーの変身を解いた男は、長身の、天然パーマの男だった。
 それなりに整った顔立ちで、しかし、瞠目に目を見開くその表情は、些か子供らしい。
 だけれども、その顔は、その身体は、見まごう事無き天道総司のものである。
 今、この場に、天道総司が二人居るともなれば、何も知らない巧が驚かない訳がなかった。
 天道と巧の狼狽を知ってか知らずか、もう一人の天道は、息を荒げ、髪の毛を掻き毟る。
 今にも泣き出しそうな子供らしい表情で、しかし天道総司の事を、強く睨みつけて。

「どうしてっ……どうしてお前が! どうしてこんな事に! どうしてっ!?」
「落ち着くんだ総司君! 焦っては、殺し合いに乗った奴らの思う壺だ!」
「うるさい、黙れっ!」

 宥めようとしたスーツの男を、もう一人の天道が振り払った。
 これにはさしもの天道も困惑せずには居られない。
 どういう事だ、と心中で呟き、思考する。
 今の発言を聞く限り、恐らくスーツの男は殺し合いに乗ってはいないのだろう。
 だけれども、目の前に居るのが自分に擬態したワームであるなら、スーツの男は恰好の餌食である筈だ。
 にも関わらず、変身しない男を担いで、一緒に逃げて来た事を考えると、恐らく二人は仲間。
 だが、それは可笑しい。もしも擬態が未だ世界を怨んでいるのなら、そんな事はしない筈だからだ。
 ともすれば、こいつは殺し合いに乗って居ない――或いは、未だ悩んでいるのか?

「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!」

 そんな天道の思考を尻目に、擬態は絶叫し、駆け出した。
 何の武器も持たずに、生身で天道に挑み掛かろうと言うのだ。
 咄嗟に身を乗り出そうとした巧を片手で制し、天道は考える。
 こいつが悩みを抱えたまま殺し合いに放り込まれたのなら、自分にはやるべき事がある。
 そう、世界はお前の敵ではないという事を、もう一度教えてやらねばならない。
 だけれども、恐らく今の擬態は、天道の言葉に耳を貸したりはしないだろう。
 どうしたものか――そう考えている内に、擬態と天道の距離は、ゼロになっていた。


 【1日目 夕方(放送直前)】
【E-6 警察署(警視庁)前】
※外部にGトレーラーとトライチェイサー2000が並んで配置されています。


【天道総司@仮面ライダーカブト】
【時間軸】最終回後
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、仮面ライダーカブトに50分時間変身不能
【装備】ライダーベルト(カブト)+カブトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、ディエンド用ケータッチ@仮面ライダー電王トリロジー、サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仲間達と合流して、この殺し合いを打破する。
0:擬態天道を説得したいが……。
1:首輪をどうにかする。
2:間宮麗奈、乃木怜治、擬態天道、草加雅人、村上峡児、キングを警戒。
3:情報を集める。
【備考】
※首輪による制限が十分であることと、二時間〜三時間ほどで再変身が可能だと認識しました。
※空間自体にも制限があり、そのための装置がどこかにあると考えています。
※巧の世界、音也の世界、霧彦の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。
※クロックアップにも制限がある事を知りました。

799 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:43:37 ID:YtgtZe0M
 

【乾巧@仮面ライダー555】
【時間軸】原作終了後
【状態】疲労(小)、ダメージ(中)ウルフオルフェノク、仮面ライダーファイズに50分時間変身不能
【装備】ファイズギア+ファイズショット@仮面ライダー555
【道具】支給品一式×2、ルナメモリ@仮面ライダーW、首輪探知機、ガイアメモリ(ナスカ)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW
【思考・状況】
基本行動方針:打倒大ショッカー。世界を守る。
0:天道がもう一人……?
1:仲間を探して協力を呼びかける。
2:間宮麗奈、乃木怜治、村上峡児、キングを警戒。
3:霧彦のスカーフを洗濯する。
4:後でまた霧彦のいた場所に戻り、綺麗になった世界を見せたい。
【備考】
※変身制限について天道から聞いています。
※天道の世界、音也の世界、霧彦の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。


【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、ザンバットソードによる精神支配(小)、仮面ライダーイクサに1時間50分変身不可
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW、
    ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:総司君がもう一人……!?
1:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
2:東京タワーに向かいたかったが……。
3:総司君のコーチになる。
4:首輪を解除するため、『ガイアメモリのある世界』の人間と接触する。
5:後でタツロットから情報を聞く。
【備考】
※時間軸的にもライジングイクサに変身できますが、変身中は消費時間が倍になります。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ザンバットソードに精神を支配されています。
※ザンバットバットの力で、現状は対抗できていますが、時間の経過と共に変化するかもしれません。
※海堂直也の犠牲に、深い罪悪感を覚えると同時に、海堂の強い正義感に複雑な感情を抱いています。
※タツロットは気絶しています。


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、全身打撲、極度の情緒不安定気味
    仮面ライダーダークカブトに1時間50分変身不可、仮面ライダーレイに2時間変身不可
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+ダークカブトゼクター@仮面ライダーカブト、レイキバット@劇場版 仮面ライダーキバ 魔界城の王
【道具】支給品一式、ネガタロスの不明支給品×1(変身道具ではない)、デンオウベルト+ライダーパス@仮面ライダー電王、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:全ての世界を破壊するため、最終的には全員殺す。
0:極度の錯乱状態。
1:「仮面ライダー」という存在に対して極度の混乱。
2:当面は『天道総司』になりすまし名護を利用する。
3:天道総司を殺し、『天道総司』に成り代わる。
4:特に優先的に『カブトの世界』の五人を殺害する(最終的には自分も死ぬ予定)。
5:僕はワームだった……。
【備考】
※名簿には本名が載っていますが、彼自身は天道総司を名乗るつもりです。
※参戦時期ではまだ自分がワームだと認識していませんが、名簿の名前を見て『自分がワームにされた人間』だったことを思い出しました。詳しい過去は覚えていません。
※海堂直也の犠牲と、自分を救った名護の不可解な行動に対して複雑な感情を抱いています。
※仮面ライダーという存在に対して、複雑な感情を抱いています。

800 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:44:07 ID:YtgtZe0M
 




 アスファルトには、人間一人分の量に相当する灰燼が降り積もって居た。
 最初は蒼い炎がめらめらと燃え残って居たが、それもすぐに燃え尽きてしまった。
 よほど高熱だったのだろう。凄まじい勢いで、身体の全てを燃やし尽くして逝ったのだ。
 命を、魂を、そして身体すらも燃やして戦った男は、確かに強かった。
 この破壊のカリスマに打ち勝ったのだから、それは間違いない。

 しかし、ゴ・ガドル・バは死んではいない。
 この身体も、痛みはするが大きな問題は無い。
 少し休めば、また問題なく戦う事が出来るだろう。
 だけれども、ガドルがその心(プライド)に負った傷は、大きい。
 何せ、ガドルは敗れたのだ。弱者だと侮って居た仮面ライダーに、完全敗北したのだ。
 最後の瞬間だって、既にアームズドーパントの変身は解けて、後は死を待つだけだった。
 強き戦士と真っ向から戦い、散る事が出来るのであれば、それも悪くはない、と。
 例え一瞬であっても、ガドルはそう思ってしまったのだ。

 だけれども、サイガの最後の一撃は、ガドルには届かなかった。
 圧倒的な熱量を迸らせたブレードが、この首を掻き切ろうとした、その瞬間。
 あと、ほんの数ミリで、その攻撃は届いていたにも関わらず――サイガは、灰化した。
 最初に脚ががくんと崩れて灰になった。次に腕が、脚が灰になって、燃え尽きた。
 白い仮面と、全身の装甲から夥しい量の灰が零れ落ちて、サイガは散った。
 下らない死に方であるが、しかし、ガドルはそんな彼を笑おうとは思わなかった。

「見事だったぞ、仮面ライダー」

 ガドルは彼を、真の仮面ライダーであると認めた。
 というよりも、認めざるを得ない、と云った方が正しいか。
 結果はどうあれ、勝利したのは仮面ライダーだ。
 歴戦の勇士たるガドルに打ち勝ったのは、正義の仮面ライダーなのだ。
 なれば、その実力を認めない訳には行かない。情けない負け惜しみを言うつもりもない。
 名も知らぬ男は、最期まで仮面ライダーとして戦い、仮面ライダーとして気高く散った。
 彼は喜びはしないだろうが、彼こそが、真の戦士と名乗るに相応しいのだと、ガドルは思う。
 そんな事を考えて、ガドルは眼前の灰燼の中から、燃え残ったベルトの破片を拾い上げた。

「もう、使い物にならんか」

 焼け付いたベルトはもう、原形を留めてはいない。
 中央の携帯電話は、表面はどろどろに溶けて、中身も所々が焼け付いていた。
 しかし、別に構わないだろうと思う。恐らく、彼以上にこのベルトを使いこなせた男はいないだろう。
 名も知らぬ彼だけが、仮面ライダーサイガとして最高のポテンシャルを引き出す事が出来たのだ。
 彼がサイガギアを使いこなせるかどうかは、正直賭けだったが、今にして思えば、そう確信が持てる。
 サイガギアは、彼が当初使っていたベルトや、先程戦った狼の男が使っていたベルトと似ていた。
 その上で、蛇の男も、狼の男も、怪人態が似た様な姿をしていた事が、決定的な判断材料だった。
 そして、弱者だと思っていた蛇の男は、揺るぎなき強さを持った仮面ライダーであったと、今は思う。
 少なくとも、自分に勝利した男が、ただの弱者であるなどとは思いたく無かった。

801 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:44:37 ID:YtgtZe0M
 

 今はもう、彼の形見となったサイガギアの残骸を、降り積もった灰燼の中へと投げ捨てる。
 それは仮面ライダーを目指して戦い、仮面ライダーとして散った男の“夢のかけら”だった。
 ガドルが歩き始めれば、やがて静寂になった戦場に、冷たい夕闇の風が吹き抜けてゆく。
 静かな音楽を奏でるように吹き渡った風は、ベルトと首輪だけを残して、全てを運んでいった。
 風の音色は、まるで声を抑えて泣くように。静かに、静かに、海堂直也を運んで、消えてゆく。


 夢を描いた遠い空は、暁に染まっていた。
 茜色に照らされた雲は、何処までも、何処までも、続いていて。
 悲しくなるくらいに、空はやさしく煌めいていた。



【海堂直也@仮面ライダー555 死亡確認】
 残り41人













【1日目 夕方(放送直前)】
【F-5 道路】
【ゴ・ガドル・バ@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第45話 クウガに勝利後
【状態】疲労(中)、ダメージ(大)、怪人態に50分変身不可、アームズドーパントに2時間変身不可、悔しさ
【装備】ガイアメモリ(アームズ)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式
【思考・状況】
基本行動方針:ゲゲルを続行し、最終的にはダグバを倒す。
1:強い「仮面ライダー」及びリントに興味。
2:タツロットの言っていた紅渡、紅音也、名護啓介、キングに興味。
3:蛇の男は、真の仮面ライダー。彼のような男に勝たねばならない。
【備考】
※変身制限がだいたい10分であると気付きました。
※『キバの世界』の情報を、大まかに把握しました。
※ガドルとタツロットは互いに情報交換しました。
※タツロットはガドルの事を『自分を鍛えるために戦う男』と勘違いしています。
※また、ガドルが殺し合いに乗っている事に気づいていません。
※海堂直也のような男を真の仮面ライダーなのだと認識しました。

802 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 15:47:29 ID:YtgtZe0M
これにて投下終了です。
タイトルは「暁に起つ」です。
前編が>>782-791、後編が>>792-801までの二分割です。
もしも矛盾点などがあれば、今回もご指摘宜しくお願いします。

803二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/06/03(金) 16:16:22 ID:/OA3527A
投下乙!
ガドルと海堂がこんな形でまた戦うとは!
擬態天道も、本物の天道と出会ってどうなるのか、とても気になりますね!
海堂、本当の仮面ライダーですよ!


それと、サイガギアは壊れたのでしょうか?
でしたら、それも状態表に追加したほうがいいと思います

804二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/06/03(金) 16:51:05 ID:LqdkiCvw
投下乙です。

海堂ぉぉぉぉぉぉっ!!!
1話限定海堂inサイガでガドルに肉薄……余りにも熱い退場だった。
トータル的にはガドルを仕留められなかった意味では敗北だけど戦い的には勝利でしたなぁ。
思えば海堂とガドルは互いに最初に出会った相手同士、ある意味因縁の決着だなぁ。

そんな海堂の影響は名護及び天道(擬態)にも大きな……ってここで天道&巧と鉢合わせ……どうなるんだこりゃ?

既に指摘されている部分もそうなんですが、サイガギア、スマートバックルは破壊で良いとして、他の海堂の支給品はどうなったんですか?
ガドルが回収した様子も無いし、名護達が持っていった様子も……(中身でめぼしいものはメタルメモリ……)

805 ◆MiRaiTlHUI:2011/06/03(金) 16:56:47 ID:YtgtZe0M
早速の感想とご指摘ありがとうございます。
サイガギアは破壊、という事で大丈夫です。まとめへの収録時に、状態表に追加しておきます。
海堂の支給品についても、近い内に描写を加えて修正スレの方に修正稿を投下しておこうと思います。
他にも何かありましたらよろしくお願いいたします。

806二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/06/05(日) 21:22:23 ID:SZ1kOuCQ
海堂おおおおおおおおおおおおおおうっ!
正義だ、お前は確かに正義の味方だったよ!
そりゃ擬態天道の心をも震わすわ
名護さんもかっこよかった
間に挟まれてた天道と巧の会話も良かった
ガドルもすごかった
おもろい話だった!

807 ◆LuuKRM2PEg:2011/06/09(木) 19:35:05 ID:yVfZq1Yk
牙王、野上良太郎、紅渡、園咲冴子、天美 あきら、村上峡児、志村純一の投下を
これより始めます

808第二楽章& ◆QqeWwuu6eY:2011/06/09(木) 19:35:52 ID:yVfZq1Yk

 夕焼けも地平線に沈んでいき、辺りの光は徐々に闇へ飲み込まれていった。
太陽の輝きが薄くなっていく中、紅渡は歩く。先程の戦いを思い出しながら。
キングを自称した、とてつもない強さを誇ったファンガイア。何故、彼が自分のことを知っていたは分からない。そして、何故自分のことを憎んでいたのかも。
 しかし、それはもうどうだっていい事だ。彼は自分を新たなる王と認めてくれたのだから、それに答えなければならない。
 世界を、そしてファンガイア族が生きる世を滅びから救う。自分の力は、その為にあるのだから。
 第一、もう後戻りなどできない。自分の事を救おうとした青年、加賀美新を殺してしまった今となっては。
 それに協力してくれた園崎冴子も、もうこの世にいない。
 多くの命を奪ってきた自分に、もはや他の道など存在しないのだから。故に戦わなければならない。

「あれは……」

 やがて渡の冷たい瞳は、倒すべき敵の姿を見つけた。
 先程、冴子やキングに襲い掛かった全身より牙が生えた戦士、仮面ライダーガオウ。奴は今、杖を持った見知らぬ青い戦士と戦っている。
 ちょうど良かった。戦いの最中ならば、不意をつける。戦いで消耗しているだろうから、こちらが有利だ。
 渡はデイバッグの中に手を入れて、取り出す。キングに支給された変身アイテム、ゼロノスベルトを。
 それは目の前にいる者達が生きる『電王の世界』の物だったが、彼は知る由などない。
 自分の力になれば、それだけで良かった。
 ゼロノスベルトを腰に巻きつけ、脇腹に添えられたケースよりカードを取り出す。そして、バックルを開いた。

「変身」
『ALTAIR FORM』

 ベルトから発せられるのは、軽快な音楽と星を意味する電子音声。
 呟く渡の周りに、金属片が浮かび上がる。それらは彼の肉体に集中し、強化スーツへと形を変えた。
 黒一色だった鎧に、新たなる武装が装着される。最後に、後頭部から目の位置へと、牛を模したような二つの電仮面が移動する。
 そして、緑の戦士は姿を現した。本来は『電王の世界』で、悪のイマジンから時の流れを守ることを決意した青年、桜井侑斗が手に入れた力。
 仮面ライダーゼロノス・アルタイルフォームへと、紅渡は変身を果たした。
 ゼロノスはベルトの両腰に備え付けられた武装を外し、取り付ける。ゼロガッシャー・ボウガンモードを構えながら、フルチャージスイッチを押した。

『FULL CHARGE』 

 ゼロノスベルトは光を放ち、内部に込められたフリーエネルギーがカードにチャージされる。
 ゼロノスはバックルからカードを抜き取り、ガッシャースロットに差し込んだ。すると、ゼロガッシャーにエネルギーが流れ込む。
 彼は目の前で戦う戦士たちに、武器を向けた。





 視界が暗くなっていく中、槍と大剣が激突し続ける。仮面ライダー電王が握るデンガッシャーと、仮面ライダーガオウが握るガオウガッシャーが。
 夜の暗闇が濃さを増す平原で、戦士達は互いに得物を振り続けている。
 しかし次第に、電王が押されていった。かつて、四人の電王やゼロノスと同時に戦っても、圧倒的有利に立っていた実力者。
 加えて、今はたった一人で戦っている。故に、電王は不利に陥っていた。
 ガオウの戦い方は知っているものの、それだけで差を埋めることは出来ない。

809第二楽章& ◆QqeWwuu6eY:2011/06/09(木) 19:37:36 ID:yVfZq1Yk
上のトリはミスです 失礼



「どうした、威勢がいいのは口だけか?」
「さあねっ!」

 電王は不敵に告げるも、攻撃を捌くのがやっと。
 ガオウの勢いは暴風雨のように凄まじく、オーラアーマーの至る所に傷が生まれていく。
 相手も先程まで戦っていたが、その疲れといった物は一切感じられない。
 デンガッシャーの先端は時折ガオウに突き刺さるも、揺らぐ気配は全く見られなかった。
 
(ウラタロス、大丈夫!?)
(亀の字、無理をせんでいい! 俺と変われ!)
(良太郎もキンちゃんも、心配しすぎだよ!)

 ウラタロスは良太郎とキンタロスに、力強く告げる。
 だが、彼の言葉はただの強がりで、いつも言っている得意の嘘だった。
 分かりきったことだったが、ガオウは強い。
 加えて今は、先程起こった妙な出来事も気がかりだった。突然暗くなったと思ったら、雷のような轟音が聞こえる。
 その後は、辺りを覆っていた闇が急に消えた。
 近くで戦っている奴が何かしたのかもしれないが、考えている暇などない。
 電王はガオウの攻撃をひたすら受け流し続けて、ガオウは電王にひたすら攻撃を仕掛ける。
 優劣が圧倒的に決定している戦いが続く、その最中だった。
 
『FULL CHARGE』

 力の拮抗が始まる両者の耳に、電子音声が響く。彼らにとって、聞き覚えのある声。
 それに反応して、電王とガオウは振り向いた。視界の先では、緑の仮面ライダーがボウガンを構えているのが見える。
 彼らがよく知っている戦士、仮面ライダーゼロノスが。

「ゼ、ゼロノス!?」
「てめえは……!」

 それぞれ、仮面の下で驚愕の表情を浮かべる。その一瞬の隙が、仇となった。
 現れたゼロノスは、ゼロガッシャーの銃口を二人に向けて、引き金を引く。すると、巨大な光弾が勢いよく放たれた。
 弾丸をも上回る速度を持つ一撃、グランドストライクは密着していた電王とガオウに、容赦なく激突する。

「うわああぁぁぁぁっ!?」
「グッ……!」

 フリーエネルギーの塊が、オーラアーマーを纏う二人の身体を容赦なく吹き飛ばした。
 電王とガオウが地面に叩き付けられていく中、ゼロノスは走りながらゼロガッシャーを分解し、サーベルモードに切り替える。
 そのまま、大剣を頭上まで掲げて、勢いよく振り下ろした。
 しかし、瞬時に起き上がったガオウに、ガオウガッシャーで受け止められてしまう。

「ハッ、不意打ちとはいい度胸じゃねえか……」

 仮面の下で不敵な笑みを浮かべながら、ゼロガッシャーを弾いた。衝撃でゼロノスはふらつくも、すぐに体勢を立て直す。
 そのまま、彼らの剣が激突を始めた。得物を握る互いの手に、痺れが生じる。
 零と牙の打ち合いは、数と共に勢いを増していった。拡散する火花が、辺りを照らす。
 新たに始まったガオウとゼロノスの戦いを、電王は眺めていた。

(何でゼロノスがここにおるん!? まさか、侑斗が助けに来たんか!?)
(そんなはず無いよキンタロス! だって、侑斗の名前は名簿に書いてなかったよ!)

 その中で、良太郎とキンタロスは疑問を抱く。
 突然現れたゼロノスに対して。良太郎の姉、野上愛理の婚約者である若き頃の桜井侑斗が、イマジンと戦うために得た力。
 しかしその侑斗は、世界を賭けた殺し合いには存在していない。少なくとも、名前は書かれていなかった。

810第二楽章♪次のステージへ ◆LuuKRM2PEg:2011/06/09(木) 19:38:53 ID:yVfZq1Yk

(もしかしたら……ゼロノスベルトは他の誰かの手に渡ってたって事じゃないの? そうじゃないと、ゼロノスが僕達を巻き込んだ理由が説明出来ない)
(ウラタロス、でもあのベルトは侑斗がいつも持ってるはずだよ!)
(これは推測だけど……もしかしたら、侑斗の持ってるベルトは大ショッカーに奪われたって事じゃないかな)
(そんな、それじゃあ侑斗は……!)
(僕だって信じられないけど、大ショッカーにやられた可能性があるかもしれないよ)

 ウラタロスの言葉に、良太郎は絶句する。
 今まで何度も共に戦ってくれた彼が、大ショッカーの魔の手にかかったと思えば、落ち着いてなどいられない。
 最悪、既に殺されている可能性もある。それじゃあ、姉さんはどうなってしまうのか。
 納得など、出来るはずがない。

(でも、侑斗がそんな簡単にやられるはずなんて無いよ! デネブだっているし!)
(良太郎の言う通り、一緒に逃げてるかもしれないけどね……)

 ウラタロスの声からは、不安も感じられた。
 侑斗の生存を信じたいのは彼だって同じだが、相手は得体の知れない大ショッカー。異なる世界に生きる自分達を、一つの世界に放り込む技術を持つ連中だ。
 だから、楽観視することが出来ない。

「……ん?」

 そんな中、電王は呟く。
 ここから少し離れた場所で、一人の女性が歩いているのを見つけたため。
 その足取りは、おぼつかないように見える。
 ゼロノスもガオウも、戦いに集中しているせいで彼女には気付いていないようだ。
 だが、このままでは戦いに巻き込まれない。それにここを脱したとしても、他の危険人物に襲われる可能性だってある。
 
(ウラタロス!)
(分かってるよ良太郎。僕だって丁度、あの人を助けに行こうと思ってたところさ)

 奇しくも、良太郎とウラタロスの意見は合致していた。
 しかし、その中にある思いは少しだけ違う。良太郎は純粋な善意から。ウラタロスも善意はあるが、口説くターゲットを見つけたという喜びもある。
 良太郎がそれを知っているかは、定かではないが。

(ちょっと待たんかい、ウラの字! 牙王はどうするんや)
(あいつはゼロノスに任せておけばいいよ。それにあのゼロノスの正体が分からない以上、下手に動くのはまずいって)

 キンタロスの言葉は尤もだったが、この状況で戦場に飛び込むわけにはいかなかった。
 ガオウと戦っているゼロノスは、少なくとも友好的人物とは思えない。仮にここで一緒に戦っても、消耗した隙を付かれてしまう。
 危険な連中を放っておくのは不本意だが、まずはここから撤退する事が最優先だ。
 幸いにも、ゼロノスとガオウは戦いに集中していて既に離れている。電王は彼らに気付かれないように、ゆっくりとその場を後にした。
 そして、すぐに女性の元に駆け寄る。

「大丈夫ですか?」
「ッ!? 貴方は……?」
「野上良太郎……大丈夫です、僕は貴方に危害を加えるつもりはありませんよ」

 電王は優しい声色で告げるが、変身は解除しなかった。いくら女性が相手でも、一応最低限の警戒はしなければならない。
 万が一の場合、彼女が危険人物の可能性もある。
 しかし電王の懸念とは裏腹に、驚愕の表情を浮かべていた女性は、笑顔を向けてくれた。

811第二楽章♪次のステージへ ◆LuuKRM2PEg:2011/06/09(木) 19:39:28 ID:yVfZq1Yk

「そうですか……私は園崎冴子と言います。貴方のような人を、探してました」
「なるほど」
「助けてください……あの男に襲われたんです」

 冴子と名乗った彼女は、指を向ける。そこにいるのはガオウとゼロノス。
 その言葉が意味するのは、どちらかに襲われているところを命からがら逃げたという事だろう。

「分かりました、それじゃあホテルに行きましょう。あそこには、僕の仲間がたくさんいます」
「ええ」

 そのまま、電王が冴子をエスコートするように、C−6エリアのホテルに向かった。





 園崎冴子は、顔と心で二つの笑みを浮かべている。
 ホテルに向かおうとする最中、出会った青い仮面ライダー。一瞬だけ警戒したが、その必要はなかった。
 野上良太郎と名乗った彼は、自分に友好的態度を示している。しかも、自分の目的地であるホテルにも向かうと言った。
 加えて、そこには仲間がいるらしい。だとすれば、その集団に取り入って何かが出来る可能性もある。

(まさかこんな所で、彼みたいな人と出会えるなんてね……)

 妙なところで、幸運はやってくるものだ。
 先程切り捨てた、紅渡という駒。今の状況で出会った所で、殺される以外にない。
 ならば、精々危険人物を一人でも多く狩ってもらう事に、期待しよう。今はあの牙王と名乗った野蛮な男と、戦っている最中だ。
 もし自分の前に現れても、良太郎とその仲間達を上手く焚きつけてしまおう。
 
「大丈夫ですか、園崎さん?」
「ええ、大丈夫です」

 だから今は、少しでも警戒心を解くために笑顔を向ける事が、最優先だ。
 表面では友好的だが、その仮面の下では自分に疑惑を抱いている可能性もある。
 だが、その精神はこんな状況では当然だ。誰だろうと構わず信じるような馬鹿では、利用出来るだろうが共に行動するには頼りない。
 そう思えば、良太郎は信頼出来る。この身を潜ませるには、上出来だ。
 ふと気がつくと、身体もある程度軽くなっている。彼女の足取りもまた、ペースが少しずつ上がっていった。





 『電王の世界』に生まれた仮面ライダー達は、未だに刃を振るい続けている。
 ガオウが振り下ろすガオウガッシャーを、ゼロノスはゼロガッシャーで受け止めた。
 火花が拡散した瞬間、ゼロノスは勢いよくガオウガッシャーを弾く。衝撃でがら空きとなったガオウの身体に、サーベルを突き刺した。
 すると、その巨体は火花を散らしながら後ろに吹き飛んでしまう。

「テメェ……やるじゃねえか!」
 
 ガオウはすぐに起きあがり、怒りと共に大剣を振るった。だが、ゼロノスはそれを呆気なく受け止める。
 そのまま、反撃の一撃を放って再び吹き飛ばした。僅かな距離が空いた瞬間、ゼロノスは先程扱ったゼロノスカードをベルトに戻す。
 そして再び、フルチャージスイッチを押した。

812第二楽章♪次のステージへ ◆LuuKRM2PEg:2011/06/09(木) 19:40:11 ID:yVfZq1Yk

『FULL CHARGE』

 ベルトからフリーエネルギーが放出され、輝きを放つ。力が充填されたカードを、ゼロノスは再びサーベルに突き刺した。
 ゼロガッシャーに、凄まじいほどの力が流れ込む。眩い光を放つ刃を、ゼロノスは叩き付けようとした。
 しかし、ガオウは横に飛んでそれを呆気なく避ける。逆に反撃の一撃を、ゼロノスに与えた。
 強大な威力を誇るグランドストライクを、受けたとは思えないほど素早い動きだった。

「どうした、それで終わり――――ッ?」

 ガオウは不敵な笑みを浮かべるが、すぐに疑問に変わる。
 身に纏っていた強固な鎧が、突然消滅した為。そこにいたのは、一人の壮年の男だった。
 何事かと牙王は思うが、最初の戦いをすぐに思い出す。小物どもが逃げた瞬間、突然変身が解除された。
 時間が再び訪れただけだろう。
 無論、その隙をゼロノスが見逃すわけがない。勢いよく、ゼロガッシャーを振るった。
 しかし刃が、牙王の身体に沈む事はなかった。彼は跳躍して、ゼロノスの横に回る。

『HOPPER』

 次の瞬間、野太い機械音声が響いた。
 ゼロノスの鼓膜が刺激された瞬間、脇腹に凄まじい衝撃を感じる。鈍い音と共に、その身体が吹き飛ばされていき、地面に叩き付けられた。
 ゼロノスはすぐに起きあがろうとしたが、背中が踏みつけられるような振動が生じる。

「ぐっ……!」
「ハッ、さっきまでの威勢はどうした?」

 呻き声を漏らす彼の耳に、牙王の声が響いた。
 その姿は既に人の物では無くなっている。飛蝗を彷彿とさせるような、不気味な化け物となっていた。
 左腕からはかぎ爪が伸びており、全身は毒々しい茶色と紫に彩られている。
 ホッパー・ドーパントへと姿を変えた牙王は、ゼロノスの脇腹を蹴った。
 ゼロノスは体制を立て直し、ゼロガッシャーを縦に振るう。しかしホッパー・ドーパントは、鋭い蹴りで刃を弾いた。
 衝撃でゼロノスが蹌踉めいた瞬間、ホッパー・ドーパントの姿が視界から消滅する。
 直後、背中から再び衝撃を感じた。

「ぐあっ!?」

 呻き声を漏らすゼロノスは、目の前に一陣の影が横切るのを見つける。
 それがホッパー・ドーパントと気付く頃には、オーラアーマーに衝撃が走った。
 ゼロノスはゼロガッシャーを振るうが、空を切る。そこから蹴りを受けて、地面に激突した。
 ホッパー・ドーパントの脚力は、加速したアクセルトライアルとも互角の速度を持つ。
 故に、特別な加速を持たないゼロノスが追いつく事など、出来なかった。
 ようやく姿を現したホッパー・ドーパントは、ゼロノスを冷たく見下ろす。

「つまらねえな……」

 そして、侮蔑の呟きを漏らした。
 ホッパー・ドーパントは、ゼロノスにトドメを刺そうとゆっくり迫る。
 しかしその瞬間、足元の地面が爆発を起こして、辺りが粉塵に包まれた。
 唐突な出来事にホッパー・ドーパントは、足を止めてしまう。

「何?」

 目前から光弾がいくつも放たれるのが見え、ホッパー・ドーパントは左右に飛んだ。凄まじい速度だが、ホッパー・ドーパントの脚力ならば避けるのは容易。
 ただ、視界が遮られるだけだった。
 やがて数秒ほどの時間が経った後、光弾の勢いは止まる。

813第二楽章♪次のステージへ ◆LuuKRM2PEg:2011/06/09(木) 19:40:52 ID:yVfZq1Yk

「どうした、その程度か……っ?」

 辺りに静かな風が流れて、煙を振り払った。
 それによって視界が回復したが、既にゼロノスはいない。
 その直後、ホッパー・ドーパントは相手の意図に気付く。奴は攻撃ではなく、逃走のために光弾を放ったのだ。
 ゼロガッシャーをボウガンモードに切り替えて、視界を遮るために。
 また、獲物を逃がしてしまった。最初の森で戦った雑魚どもと同じように。
 戦いの最中に逃げるような小物を、今更追う気になれないが苛立ちは積もる。
 ホッパー・ドーパントは舌打ちと共に、変身を解いた。

「どいつもこいつも……くだらねえ」

 元の姿に戻った牙王は、ガイアメモリを手に呟く。
 そして、再び歩みを進めた。
 少しでもマシな獲物に出会える事を、願って。


【1日目 夕方】
【C−6 平原】


【牙王@仮面ライダー電王】
【時間軸】:死亡後
【状態】:疲労(中)、ダメージ(中)、苛立ち、仮面ライダーガオウ、ホッパー・ドーパントに二時間変身不可。
【装備】:ガオウベルト&マスターパス@仮面ライダー電王、ガイアメモリ(ホッパー) @仮面ライダーW
【道具】、支給品一式、不明支給品×2(確認済み)
【思考・状況】
基本行動方針:全ての参加者を喰らい、最後に大ショッカーも喰う。
1:次の参加者を捜す。
2:変身が解除されたことによる、疑問。  
【備考】
※何処に向かうのかは、次の書き手の方にお任せします。







「はぁっ……はぁっ……はぁっ」

 ゼロノスは息を切らしながらも、何とか撤退に成功した。
 その瞬間、制限時間を迎えた事によって、オーラアーマーが消滅する。
 変身をするのに使ったカードは、砂のように崩れ落ちていく。これで、残りは緑と赤がそれぞれ二枚ずつとなり、四枚。
 装備はまだ他にあるとはいえ、油断は出来ない。加賀美を殺した時、キバの変身が突然解除されたのだ。
 恐らくこれ以外にも、まだ何か謎があるかもしれない。だから少しでも多く、戦える手段を確保するべきだろう。
 そうしないと、世界を守る事など出来ない。先程遭遇した牙王という男以外にも、強大な戦力を持つ奴はいる可能性がある。
 他の世界に生きる者達を殺すのは当然だが、油断するわけにはいかない。
 この手で命を奪った彼だって、それを望んでいるのだから。
 最後に残った彼の言葉を思い出しながら、渡は歩く。

814第二楽章♪次のステージへ ◆LuuKRM2PEg:2011/06/09(木) 19:42:35 ID:yVfZq1Yk

――俺達の、世界を……ファンガイアの世を、その力で、救って見せろ!
 
 先程、自分に全てを託して逝ったファンガイアのキング。
 偉大なるファンガイアの王の位を、彼は認めたのだ。ならばするべきことは、たった一つだけ。
 全てを滅ぼす悪意となって、自分の生きる世界を救う。この世界には、尊敬する恩師である名護啓介と、紅音也という名前の人間がいる。
 名護さんはともかく、父の名前がある理由。疑問に思ったが、恐らく同姓同名の他人かもしれない。
 彼らも、守らなければならないのだ。

『みんなぁーーーー! あたしの話を聞いてーーーーーー!』

 そんな中、何処からともなく大きな声が聞こえてくる。それを聞いた渡は、一瞬だけ足を止めた。
 しかしすぐに、歩き直す。

『こんな戦いはもうやめて! 自分の世界を守りたいからって、他の人達を殺すなんておかしいよ!』

 声の意味は、参加者の方向を示す事だ。
 恐らく仲間を集めてたいのだろうが、この状況では無意味に過ぎない。
 所詮、自分の標的が増えただけだ。

『仮面ライダーは、みんなのために戦うヒーローでしょ! 少なくとも、あたしの世界ではそうだった!』

 その瞬間、渡の足は止まる。

『だからお願い、東京タワーまで来て! 大ショッカーの言いなりになって戦わないで、一緒に世界を救う方法を探そうよ!』
――渡君……誰かの為に戦うことは、素晴らしいことだと思う。
――……でも! そのために誰かを犠牲にするなんて、仮面ライダーのすることじゃない!

 続けられる声と共に、加賀美の言葉が脳裏に蘇った。
 彼はこの戦いを、止めようとしていた。だが自分は彼を殺してしまった。

『こんな戦いを仕組んだ奴らに負けないで! みんなの世界を救うために戦って! 人類の味方、仮面ライダアァァァァァァーーーッ!』

 気がつくと、彼の腕は震えている。
 名前も知らない声の主は、加賀美と同じように戦いを止めようとしている。
 なのに自分は、その思いを踏みにじった。
 
「……渡ッ、渡ッ!」

 デイバッグの中から、キバットバットⅢ世の声が聞こえてくる。

「今の言葉を聞いたろッ! こんな戦いを止めようとしてる奴らはいるんだ! お前がしっかりしないでどうするんだよ!」
「うるさいっ! 僕はもう決めたんだ!」

 それでも渡は、止まるわけにはいかなかった。
 世界を滅びから救うために、大切な人達を守るために。
 例えこの手がどれだけ血で染まろうとも、修羅の道を歩く。
 それ以外に、道はないのだから。

815第二楽章♪次のステージへ ◆LuuKRM2PEg:2011/06/09(木) 19:43:32 ID:yVfZq1Yk

『こんな戦いはもうやめて! 自分の世界を守りたいからって、他の人達を殺すなんておかしいよ!』
『仮面ライダーは、みんなのために戦うヒーローでしょ! 少なくとも、あたしの世界ではそうだった!』
『こんな戦いを仕組んだ奴らに負けないで! みんなの世界を救うために戦って! 人類の味方、仮面ライダアァァァァァァーーーッ!』
(違う……僕は違う! 仮面ライダーじゃないんだ!)

 東京タワーがある方向から聞こえてきた言葉。それは自分にも、向けられていた物かもしれない。
 しかしもう戻れないのだ。キングとなった自分には、世界を救う義務がある。
 だから今から東京タワーに向かって、声の主と集まった者達を全て殺さなければならない。
 それだけが、今の自分に課せられた最後の使命なのだから。


【1日目 夕方】
【D−6 平原】


【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、返り血、キバ及びサガに一時間五十分、ゼロノスに二時間変身不可
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、キバットバットⅢ世@仮面ライダーキバ、
    エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤二枚)@仮面ライダー電王
    ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×2、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、
    バッシャーマグナム@仮面ライダーキバ、ドッガハンマー@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0〜2)
【思考・状況】
基本行動方針:王として、自らの世界を救う為に戦う。
1:東京タワーへと向かい、参加者達を殺す……?
2:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
3:加賀美の死への強いトラウマ。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。






 
「本当に無事で良かったですよ、野上さん!」
「こっちこそ、志村さんが無事で良かったよ」

 B−6エリアのホテル。
 そのロビーで、志村純一は眩しい笑顔をU良太郎と冴子に向けていた。
 
「園崎さん……足の怪我は、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。貴方達みたいな人と出会えて幸運だったわ、ありがとう」

 一方で、天美あきらは冴子の足にホテルで見つけた包帯を巻き付けている。
 冴子がホテルに現れてから、メンバーの中で情報を交換した。同じ世界に住む住民と、ガイアメモリについて。
 それを聞いてから、村上峡児は自身に支給されたバードメモリを見つめていた。

816第二楽章♪次のステージへ ◆LuuKRM2PEg:2011/06/09(木) 19:44:29 ID:yVfZq1Yk

「なるほど……要するにこのガイアメモリというのは、人類を進化させる道具の一種であると」
「そういう事になりますね」
「だとすれば、この首輪もミュージアムという企業の技術が使われているのでしょうか」
「その可能性は高いですが、現状では何とも言えませんね……もしかしたら、ミュージアムの協力者が大ショッカーと繋がりを持っている事も考えられますし」

 冴子は事務的な口調で、村上に告げる。
 彼女は情報交換した際に、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』であり、ガイアメモリを人類の進化に役立てる道具であると告げた。
 婿養子である園崎霧彦と名簿でフィリップと書かれた弟、園崎来人。そして左翔太郎と鳴海亜樹子も、信頼における人物であると。
 これから行動を共にするのに、下手に疑心を持たれてはいけない。村上という男はバードのメモリを持っていたので、恐らくその力を信頼する筈だ。
 あれは確かに人類を進化させる道具かもしれないが、ガイアドライバーを通して使わなければメモリの毒で精神を砕かれる。
 その事を知らないまま使い続ければ、待っているのは破滅だ。捨て駒にするなら、丁度いい。

「そうだ、野上さんに園崎さん。ちょっとお話があります」

 そんな中、志村は口を開いた。

「お二人がここに来る前に、三人で話をしたんです。これからの事について」
「へぇ、どんな話?」

 U良太郎は、興味ありげに訪ねる。

「実はさっき、このホテルの駐車場で大型のワゴン車を見つけたんです。それを移動に使えないかと思って」
「そうなんだ、凄い掘り出し物だね」
「ですので、良太郎さん達が戻ってからみんなでそれに乗って、葦原涼さんの所に向かって、鳴海亜樹子を説得しようと思うんです。このままここで待っていても、何も始まらないでしょうし」

 柔らかな笑顔を向けながら、志村は語った。
 これから移動するなら、徒歩よりも乗り物を使った方が効率が良い。至極当然の事だった。

「……確かに、そっちのが足が速くなるだろうね」
「良いアイディアですね、私も賛成します」

 だから、二人も賛同する。
 こればかりは、志村の言い分の方が正しかったため。
 それを聞いた冴子は、内心で笑みを強めた。手駒だけでなく、移動手段までも確保する事に成功する。
 油断する事は出来ないが、これならば戦いに陥っても不安は減るはずだ。
 そう思いながら冴子は立ち上がり、心配げな表情を浮かべるあきらに笑顔を向ける。

「足……痛くありませんか?」
「ええ、貴方のおかげで大分楽になったわ」

 少しでも信頼を得るために、感謝の言葉を告げなければならなかった。あきらは簡単そうだが、他の三人はどうにも底が見えない。
 一見友好的に見える良太郎や志村も、どうも一筋縄ではいかない雰囲気を放っている。村上など、その良い例だ。
 だが急いては事をし損じるという諺があるように、無理をしてはいけない。
 まずはあきらから信頼を得る事を優先し、そこから時間をかけて三人と対話する。それが駄目なら、いずれ切り捨てるチャンスを見つければ良いだけだ。

「それにしても、冴子ですか……」

 そんな中、村上の声が聞こえてくる。

817第二楽章♪次のステージへ ◆LuuKRM2PEg:2011/06/09(木) 19:47:26 ID:yVfZq1Yk
「どうかしたのですか?」
「いえ、貴方を見てると思い出すのですよ……『上の上』と呼べる部下の事を」

 返ってきたのは、そんな言葉だった。
 確か彼は、スマートブレインという企業の社長をしていたと聞く。そこに、自分と似た部下がいる?
 やはり、村上も自分を警戒している可能性は高いかもしれない。もしもその部下が知恵を働く人物なら、連想させているのだろう。

「そうですか……それは嬉しいですね、そんな優秀な人の事を思い出していただけるなんて」

 だが今は、それを素直に受け入れるべきだ。
 ここで変に反論などしては、警戒されかねない。
 この集団に取り入るため、少しでも警戒心を解かせるためには、どんな事でもやる。
 それが、現状での最優先事項だった。





 ホテルから出た一同は、志村の言っていた白いワゴン車に乗っている。
 運転をしている志村は考えていた。先程良太郎が連れてきた女性、園崎冴子。
 彼女の言っていたガイアメモリには、見覚えがあった。数時間前に殺した井坂深紅朗。
 奴は怪人になる際に、ガイアメモリと思われる機械を使っていた。だとすると、あれも回収しておくべきだったかもしれない。
 しかし今更言ったところでもう遅かった。戻る事など出来るわけがないし、何者かが回収している可能性もある。

(まあいい……ガイアメモリに関する情報が手に入っただけでも良しとしよう。あれはまだこれから、手に入る可能性もある)

 ガイアメモリは村上も持っている事を考えれば、恐らく大半の参加者に配られているかもしれない。
 ならば、そいつから奪う事も出来る。いざとなれば、園崎冴子を殺してでもメモリを奪えばいい。
 それまでは、他の三人と一緒に利用させて貰おう。

(それよりも問題は、カテゴリーキングだな)

 志村は抱いているもう一つの懸念。
 それは名簿に書かれた、金居という名前。恐らく、かつてBOARDによって封印されたダイヤスートのキング、ギラファアンデッドの事かもしれない。
 同名の人物である可能性もあるが、大ショッカーの科学力ならラウズカードを持ち出す事も容易だろう。あるいは、封印される前から連れてきたか。
 どちらにせよ、警戒しなければならない。もしも遭遇する事になったら、どう対処すればいいか。
 奴が自分の存在を知っているにせよ知らないにせよ、ジョーカーである事は一瞬で知られかねない。取引を持ちかけるのも、一つの手かもしれないが通る相手かどうか。

(この金居という男が別人なら良いが、そう都合良くはいかないだろうな……)


 一方でU良太郎は、隣に座るあきらを見守りながら心の中で良太郎やキンタロスに意識を向けていた。

(ねえウラタロス、冴子さんは……牙王やあのゼロノスに襲われてただけじゃないかな?)
(そうや亀の字、志村という兄ちゃんだけでなく、あの姉ちゃんも疑っとるんか?)
(僕だって、出来るならレディーを疑いたくないよ……でも、油断は禁物だからね)

 ウラタロスとて、本心は二人と同じ。
 しかし、あきらと同じように心を許すわけにはいかなかった。
 村上や志村もそうだが、冴子は隙を見せてはいけない相手。
 あきらは恐らく信用してるかもしれないが。

818第二楽章♪次のステージへ ◆LuuKRM2PEg:2011/06/09(木) 19:47:58 ID:yVfZq1Yk
「良太郎さん、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

 そのあきらは、自分を心配してくれている。
 だから彼女を心配させずに、他の三人の内面を上手く読まなければならない。

(そういや亀の字、あのあきらっちゅう嬢ちゃんはさっき服をやたら持っとったが、どないしたんや?)
(……キンタロス)
(キンちゃん、そこは触れないのがマナーだよ)

 良太郎とウラタロスは、半場呆れた様子で呟いた。
 初めて会った時は、あきらは全裸だった。恐らくそれが関連していて、ホテルから服を持ち出したのかもしない。
 彼らは知らないが『響鬼の世界』に存在する仮面ライダーは、変身を強制的に解除されると全裸になる。
 あきらはそれで、服をある程度持ち出したのだ。


 ワゴン車の移動による振動を感じながら、村上は考えている。
 園崎冴子から聞かされた、ガイアメモリについて。
 何でもこれは、人類を進化させる道具の一種のようだ。あのドーパントという姿は、いわばオルフェノクに等しい存在。
 一見すると、魅力的な戦力となるかもしれない。現に使用しているときは、異常なまでに精神が高揚した。
 それは数時間経った今でも、ガイアメモリを使用したい衝動が麻薬のように残っている。
 しかしその一方で、妙な引っかかりも芽生えていた。

(この精神の不安定……まるで、デルタを使った弱い人間のようだ)

 今の彼は、時間の経過で少しばかり頭が冷えている。そのおかげか、この状態にデジャブを覚えていた。
 スマートブレインが、オルフェノクの王を守るために生み出したライダーズギアの一つ、デルタギア。
 それは使用者に強大なる力を約束するが、機械の中には闘争本能活性化装置・デモンズスレートが搭載されている。
 それによって、オルフェノクでない者が使えば凶暴的な性格に変貌させる効果を持ち、そういった報告もいくつか寄せられた。

(……どうやら、ガイアメモリには警戒しなければならないようだ。彼女がどこまで真実を明かしているか、分からない限りは)

 ガイアメモリについて、冴子がまだ伏せている部分がある可能性がある。
 理由は簡単。自分に信頼を寄せていないため。
 やはり彼女も、ラッキークローバーの一角である影山冴子とほぼ同類の人間か。だとすると、下手に気を許しては隙を付かれる可能性がある。
 尤も、初めから情など抱いていないが。



 異世界より集められた人物達を乗せたワゴン車は、ひたすら進む。
 闇に包まれた、戦場の中を。
 大ショッカーの放送が始まるまで、時間はそう遠くなかった。

819第二楽章♪次のステージへ ◆LuuKRM2PEg:2011/06/09(木) 19:48:42 ID:yVfZq1Yk
【1日目 夕方】
【B−6 平原】


【この五人の行動方針】
※現在、C−6エリアで発見したワゴン車@現実に乗っています。
※葦原涼と合流してから、亜樹子を探して説得しようと考えています。
※ワゴン車は、最大で九人まで乗れます。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。



【野上良太郎@仮面ライダー電王】
【時間軸】第38話終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、ウラタロス憑依中、仮面ライダー電王に二時間変身不可
【装備】デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト
【思考・状況】
基本行動方針:とりあえず、殺し合いには乗らない。
1:まずはみんなで涼を探して、亜樹子を説得する。
2:亜樹子が心配。一体どうしたんだろう…
3:モモタロス、リュウタロスを捜す。
4:殺し合いに乗っている人物に警戒
5:電王に変身できなかったのは何故…?
6:剣崎一真、橘朔也との合流を目指したい。相川始を警戒。
7:あのゼロノスは一体…?
【備考】
※ハナが劇中で述べていた「イマジンによって破壊された世界」は「ライダーによって破壊された世界」ではないかと考えています。確証はしていません。
※キンタロス、ウラタロスが憑依しています。
※ウラタロスは志村と冴子に警戒を抱いています。
※ブレイドの世界の大まかな情報を得ました。
※ドッガハンマーは紅渡の元へと召喚されました。本人は気付いていません。
※現れたゼロノスに関しては、桜井侑斗ではない危険人物が使っていると推測しています。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。


【天美 あきら@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】 41話終了後
【状態】健康 
【装備】鬼笛@仮面ライダー響鬼
【道具】支給品一式、ニビイロヘビ@仮面ライダー響鬼、着替えの服(三着)@現実、不明支給品(0〜1 確認済)
【思考・状況】
基本行動方針:人を助けるため、自分に出来ることをやる。
1:まずはみんなで涼を探して、亜樹子を説得する。
2:知り合いと合流する。
3:村上が人を襲うことがあれば、止める。
【備考】
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。


【村上峡児@仮面ライダー555】
【時間軸】不明 少なくとも死亡前
【状態】健康 バードメモリに溺れ気味
【装備】オーガギア@劇場版 仮面ライダー555 パラダイス・ロスト
【道具】支給品一式、バードメモリ@仮面ライダーW 不明支給品×1(確認済み)
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いには乗らないが、不要なものは殺す。
1:まずはこの集団で、行動する。
2:あきら、良太郎らと行動するが、彼らに情は移していない。
3:亜樹子の逃走や、それを追った涼にはあまり感心が沸かない。
4:志村と冴子、ガイアメモリに若干の警戒。
【備考】
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。

820第二楽章♪次のステージへ ◆LuuKRM2PEg:2011/06/09(木) 19:49:28 ID:yVfZq1Yk
【志村純一@仮面ライダー剣MISSING ACE】
【時間軸】不明
【状態】全身の各所に火傷と凍傷、ワゴン車を運転中
【装備】グレイブバックル@仮面ライダー剣MISSING ACE、オルタナティブ・ゼロのデッキ@仮面ライダー龍騎、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×3(ただし必要なもののみ入れてます)、ZECT-GUN(分離中)@仮面ライダーカブト、トライアクセラー@仮面ライダークウガ、ワゴン車@現実
【思考・状況】
基本行動方針:自分が支配する世界を守る為、剣の世界を勝利へ導く。
1:この集団で信頼を得る行動を取りながら、優勝を目指す。
2:人前では仮面ライダーグレイブとしての善良な自分を演じる。
3:誰も見て居なければアルビノジョーカーとなって少しずつ参加者を間引いていく。
4:村上、冴子、金居を警戒。
【備考】
※555の世界の大まかな情報を得ました。
※電王世界の大まかな情報を得ました。
※ただし、野上良太郎の仲間や電王の具体的な戦闘スタイルは、意図的に伏せられています。
※冴子から、ガイアメモリと『Wの世界』の人物に関する情報を得ました。
※ただし、ガイアメモリの毒性に関しては伏せられており、ミュージアムは『人類の繁栄のために動く組織』と嘘を流されています。
※名簿に書かれた金居の事を、ギラファアンデッドであると推測しています。


【園咲冴子@仮面ライダーW】
【時間軸】第16話終了後
【状態】左の太ももに刺し傷(応急処置済)、ダメージ(小)、疲労(中) キバに五十分変身不能
【装備】ガイアメモリ(タブー)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、ファンガイアスレイヤー@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2、加賀美の支給品0〜1
【思考・状況】
基本行動方針:最後まで生き残り、元の世界に帰還する
1:まずはこの集団の中に入り、信頼を得る。
2:良太郎、志村、村上に若干の警戒。
3:同じ世界の参加者に会った場合、価値がある者なら利用する。
【備考】
※照井と井坂を知らない時期からの参戦です。
※ガイアドライバーを使って変身しているため、メモリの副作用がありません。

821 ◆LuuKRM2PEg:2011/06/09(木) 19:50:46 ID:yVfZq1Yk
これにて投下終了ですが
>>816の一部を修正
「ですので、良太郎さん達が戻ってからみんなでそれに乗って、葦原涼さんの所に向かって、鳴海亜樹子を説得しようと思うんです。このままここで待っていても、何も始まらないでしょうし」

「ですので、良太郎さん達が戻ってからみんなでそれに乗って、葦原涼さんの所に向かって、鳴海亜樹子さんを説得しようと思うんです。このままここで待っていても、何も始まらないでしょうし」

以上です
矛盾点などがありましたら、ご指摘をお願いします

822二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/06/09(木) 20:29:25 ID:nr2z5fBk
投下乙です。

とりあえずこれ以上の犠牲者は無し……で、渡はタワー行き、ホテル組は6人になって移動開始か。
ああ、そういえばラッキークローバーのあの人も『冴子』やったなぁ。

ちょっと気になったんですが、9人乗りワゴン車がホテルにあったとあるんですが、どう考えても涼、金居、乃木を加えて移動させる為の狙いが透けて見えます。
バイクとかなら仮面ライダー的にまだアリなんですが、流石に9人乗りの車(しかも仮面ライダー出典ではなく現実の)を出すのはやりすぎな気がするんですが。
メタ的な話、まだ序盤である事も踏まえあんまり多人数を纏めて移動させるのは良くないと思います)。
バイク(頑張っても2人が限界)や普通の自動車(成人4〜5人が定員)だったらチーム分割させなきゃいけないからワゴン車にしたのでしょうが個人的にはワゴン車を登場させた部分については反対です。

823 ◆LuuKRM2PEg:2011/06/09(木) 21:58:45 ID:yVfZq1Yk
ご指摘&感想ありがとうございます
それでは指摘された部分を、後ほど修正スレに投下させていただきます
(ワゴン車は無し、全員徒歩という方向性で)

824二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/06/11(土) 19:23:37 ID:rSWxTwUE
投下乙です
今回は誰も死なず、電王は上手く戦いから離脱出来たか……
渡はタワーに向かったようだけど、今はゾルダにしかなれないぞ……大丈夫なのか渡。
6人チームはほとんどがステルス系のキャラで、全く安心出来ないのがなぁ……。

それと、一つだけ指摘を。「園崎」ではなく「園咲」です。

825 ◆LuuKRM2PEg:2011/06/11(土) 19:32:50 ID:QJu4wK6c
ご感想ありがとうございます
指摘された部分は、修正致します

826 ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:13:30 ID:ApQdx2gE
霧島美穂、浅倉威、鳴海亜樹子、アポロガイスト、紅渡分投下します。

827愚者の祭典への前奏曲(第一楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:15:30 ID:ApQdx2gE
【4:43】


「フランスの作曲家クロード・ドビュッシーは敬慕していたマラルメの詩である『半獣神の午後』に感銘を受け『牧神の午後への前奏曲』を作曲した。
 後にこの曲に基づき『牧神の午後』というバレエ作品が作られ……

 だからそんな事言っている場合じゃねぇぇぇぇぇぇ!!」

「キバット……さっきも似た様な事しなかったっけ?」







【4:55】

 東京タワー、その真下には展望台に繋がる4階建ての建物フットタウンがある。
 鳴海亜樹子、霧島美穂は各々の思惑を持ちながらその屋上から周囲の様子を伺っていた。
 約30分程前、拡声器で参加者達に集う様呼びかけ、それに導かれるままに集った参加者達を仕掛けた爆弾で一網打尽にする為に。
 殺し合いに乗った者、殺し合いを止めようとする者関係無しにだ。
 それは人道的に考えれば決して許されない所業である。それでも彼女達は自分の世界を守る、あるいは自分の願いを叶える為にそれを行うというのだ。
 勿論、自分達の仲間が来たならば上手く離れる様に言えば良い。だが、そうそう都合良くはいかないだろう。

(翔太郎君や竜君が大人しく引き下がってくれるとは思えない……だからお願い……来ないで……)
(真司……アンタはきっと危険だってわかっても助けようとする……だから放送を聞かないで……)

 故に最善は放送を聞かないでくれる事だ。その意味では拡声器の最大効果範囲が恨めしくも感じる。

「そろそろ下に戻……」

 何時までもここで様子を探っていても仕方がない、下に降りて待ちかまえた方が良いだろう。そう思い美穂は亜樹子に声をかけるが、

「ちょ……アレはまさか……」

 だが、亜樹子は何かを見つけた様だ。『アレ』の動きは非情に速くふらつきながらもタワーに迫っている事がわかる。

「!? 誰が来た!?」

 美穂も大急ぎで『アレ』を確認する。

「あのバイクは……まさか翔太郎君が!?」

 『アレ』は亜樹子にとって既知の存在。それもその筈、自身が所長を務める鳴海探偵事務所の探偵左翔太郎が駆るバイクハードボイルダーなのだから。
 それが来たという事は翔太郎が呼びかけを聞いて駆けつけたということなのだろうか? だが、

「違う……アイツは……」

 だが、美穂の様子がおかしい。どういう事なのだろうか?
 そう、バイクはハードボイルダーでも乗っている人物が違うのだ。ヘルメット越し更に言えば上方からの確認故に正確には確認出来なかった。
 それでも蛇側のジャケットを見ただけで誰が来たのかは解った。いや、解らないわけがないのだ。
 美穂にとっては決して忘れてはならない人物なのだから。

「浅倉……威……!!」

 自身の姉を惨殺した凶悪殺人鬼――自身を戦いへと引き込む全ての切欠となった人物――浅倉威だったのだ。

「え、でもバイクは……」
「バイクが浅倉に支給されたか誰かから奪ったか……」
「あ、そうか……エクストリームと同じ様に……って美穂さんの口振りだと知り合いみたいだけど……」
「知り合いといえば知り合いだけどアイツだったら別に気にしなくて良いよ。むしろアイツは此処で倒す」

 美穂の言動から恐らく浅倉は倒すべき敵なのだろう。どことなく井坂深紅郎に対しての照井竜の姿が重なって見えた気がした。詳しく聞いたわけではないもののそんな気がしたのだ。

「それにそれでなくてもアイツに話は通じない。アイツは戦えればそれだけで良い奴なんだ。少なくても倒して亜樹子には損は無い筈だよ」

828愚者の祭典への前奏曲(第一楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:17:15 ID:ApQdx2gE

 とはいえ、内心では焦りを感じていた。
 当初の予定では参加者がある程度集ってから爆破する手筈になっていた。
 だが、周囲の様子を見る限り浅倉以外の参加者がやって来る様子は未だ無い。
 つまり爆破するのはまだ時期尚早という事だ。
 更に言えば位置関係も良いとは言えない。フットタウンにいる段階で爆破するわけにはいかない。爆発と倒壊に巻き込まれて自滅するだけだ。
 そうなると下に降りて脱出する必要があるわけだが浅倉に見つかって戦いになれば爆破どころではなくなる。
 しかし見つからなければ良いというわけでもない。
 折角呼ばれたのに誰もいないとなれば浅倉はどうする? 思いのまま暴れ回るだろう。その最中に仕掛けていた爆弾を見つけられたら?
 幾ら戦闘狂の浅倉といえどここまで勝ち残った人物だ。最低限の危険を回避する為、タワーから離れる事は明白だろう。

(くっ……読みが甘かった……バイクが支給される事は計算に入れるべきだったか……)

 思案する美穂であった。その一方で亜樹子の身体が震えていた。

「どうしよう……」

 浅倉の凶暴性と危険性を身を以て感じていたのだろうか。何にせよ浅倉がやって来るまであと数分、それまでに迅速に方針を定め行動に移さなければならない。

(変身して飛び降りる……却下、待避する為だけに変身するのはマズイ……)
(ここで爆破……ってダメじゃん、それじゃ私達も巻き込まれる……)

 乃木怜治が仲間達と戻ってくる可能性については過度な期待は出来ない。放送に従ってくれる馬鹿なら良いが、そういう人物とは限らない。
 また、他の参加者がタイミング良く駆けつける事についても同じ事だ。バイクが都合良く支給されているならともかく、そうそう都合良く行くとは限らない。

(こうなったら浅倉だけしか巻き込めないけど、早々にここから――)

 浅倉が中を彷徨いている間に安全圏まで離脱し爆破する。その方向で進める事にして行動を起こそうとした。
 浅倉が爆弾に気付く前ならば仕留める事は可能、そういう判断ではあった。


 だが――美穂は自分の身体が震えているのを感じ――


(!! 何を考えているんだ! これじゃまるで浅倉との戦いを避けているみたいじゃないか!!)


 前述の通り浅倉との戦いは願いを叶える為のものだけではない。自身の姉を惨殺した浅倉に対する復讐の意味もあったのだ。
 それを踏まえるならば逃げる事は決して許されない。それは同時に自身のこれまでの戦いを否定する事と同義なのだ。
 それが絶対的に正しいとは思っていない。それでも姉が殺された無念を晴らす為には絶対に引く事は出来ないのだ。

「……さっきも言ったけど浅倉は此処で倒す」
「でもどうやって……爆弾を……」
「勿論、他に手が無かったら最悪それでいくけど……」

 それは爆弾ではなく、仮面ライダーの力で倒すという意思表示であった。
 だがそれは恐らく容易ではないだろう。美穂自身が持つファムの力では浅倉には及ばない。戦い慣れていない亜樹子が加わっても結果に大差は無いだろう。
 それに戦いが膠着する事を踏まえるならば変身手段は可能な限り温存しておく事に越した事はない。

 美穂は先の戦いの際にファムに変身し鳥の怪物……亜樹子によるとドーパント――そいつと戦ったわけだが、その約10分後変身が解除されてしまった。
 また、その戦いの際には契約モンスターであるブランウィングを展開する事は出来なかった。
 まさかと思ってその直後再変身を試みたもののそれは出来ずじまい。それらから考え恐らくこの地では変身やモンスターの召喚には時間的な制限がかけられているのだろう。

 それを踏まえて考え、

(待てよ……この東京タワーという場所、私のデッキの特性、それに浅倉の性格を最大限に生かせば……出来るかもしれない……)
「美穂……さん?」
「1つ私に作戦がある……」
「作戦……?」
「そう、ある意味悪魔の作戦……どう、悪魔と相乗りする勇気はある?」

 それは亜樹子がよく知る2人で1人の探偵が初めて出会った時に片方がもう片方に口にしたセリフに似ていた――

829愚者の祭典への前奏曲(第一楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:17:55 ID:ApQdx2gE







【4:58】


 カラダガアツイ――
 タタカイヲモトメテイル――


 ハードボイルダーの馬力に振り回されながらも浅倉の心は高ぶり続けていた。
 もうすぐ『祭り』が始まるのだ。高揚感は留まる事を知らない。
 それは自身の体内を駆けめぐる『力』によるものもあったのかも知れない――


 かくしてハードボイルダーの馬力にも慣れた頃、ようやく浅倉はその場所にたどり着いた。
 此処まで時間がかかったのはハードボイルダーの馬力になれた事や自身に起こった異変という要因があったから。
 それでも、幸か不幸か遅いとは感じなかった。


「祭りの場所は……此処か?」


 祭典の場所は東京タワー、浅倉はタワーの頂点を見つめる。


「来てやったぜぇ……望み通りになぁ……」


 笑顔のままハードボイルダーを降り、真下にある建物フットタウンへと足を踏み入れて行く。
 だが、内部は静寂が包み込んでいた。


「どうやら俺が一番乗りだった様だな」


 とはいえ、呼びかけた奴がいる事だけは確実。何処かに隠れているのか上にいるのかは知らないが他の連中がやって来るまでかくれんぼあるいは鬼ごっこをするのも良いだろう。


「何処だ……?」


 その時、


『アンタが二番乗りかい、浅倉』


 その声だけが響き立った。


「この声……まさか……あの女の妹かぁ!?」


 声の相手を浅倉はよく知っていた。自分が殺した女性の妹にして、一度自分を倒した女――


『言っておくけど、呼びかけした馬鹿な奴はもう私が倒したよ。で、どうする――』
「どうするかだと? そんなことはなぁ――」
『――聞くまでも無いね。下の建物の屋上で待ってるから』



 そう言って放送は途切れた。恐らく先の放送で使われた拡声器をあの女――美穂が奪って使用したのだろう。
 このフットタウンだけに響く様に音量を絞った上で――


「ははっ、まさかこんなに早く会えるとはなぁ……!」


 そう言って壁に頭を叩き付ける。血を流しかねないぐらい強いが浅倉にとっては知った事ではない。
 高ぶる気持ちを抑えられないのだ。数時間前の混戦も悪くはないが自身の仇敵と言える相手と戦うのも極上の悦びだ。


「行ってやるさ、お望み通りになぁ!!」


 そう言って浅倉は階段へと踏み込んだ。エレベーターを待つ時間も惜しい、そう考え足早に階段を上るのだ。

830愚者の祭典への前奏曲(第一楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:19:00 ID:ApQdx2gE







【5:01】



 沈みゆく太陽と共に闇が世界を包み込む――
 それはまさしく今の自分の心に似ていた――
 だがもう止まる事は許されない――
 自分の世界にいる仲間達を救う為、それ以外の全てを滅ぼさなければならないのだから――
 それがファンガイアの王を倒し新たな王となった紅渡の使命なのだから――

 目的地は東京タワー、先程の放送に導かれ集った参加者を――

「渡……」

 デイパックの中から小さくもはっきりと声が聞こえる。それは渡の相棒ともいうべきキバットバットⅢ世の声だ。
 キバットは渡が他者を皆殺しにする事など望まない、渡自身それは痛い程理解している。
 それでももう止まれない、だからこそキバットの声に応えたりはしない。

「聞こえてるなら黙って聞いてくれ……何故俺がお前が東京タワーに行くのを止めないかわかるか?」

 考えてもみればキバットは東京タワーに行く事を止めようとはしなかった。殺し合いに乗るのは止めていた筈なのに――

「あの姉ちゃんは仲間を集める為に声を張り上げた――」

 そう、故に自分はそこにいる者達を――

「だが、集まるのはそれだけじゃねぇ、恐らく殺し合いに乗った危ない奴等も来る筈だ……」

 言われなくてもわかっている、そもそも自分自身が――

「だからこそだ。渡、お前がそいつ等からみんなを守る為に戦ってくれると信じているんだよ俺は!」

 あぁ、未だにキバットは自分を信じているのか。それでも、

「何度も言わせないで……僕はもう……」
「何度だって言ってやる! 何度だって止めてやる! 渡、お前が間違った事するんだったらな! 大体、さっきの声聞いてお前だって迷っているんだろ? それでいいんだよ! お前だって本当は……」
「決めたんだ! もう……」

 もう止まるつもりはない。いや、止まるわけにはいかないのだ。
 ここで止まったら加賀美新や園崎冴子、そしてキングといった自分の為に死んでいった者達の犠牲がそれこそ無駄になる。
 彼等の犠牲の上に今の自分が立っているのだ、今更迷う事や引き下がる事など出来るわけも許されるわけも無いだろう。

「渡……名護や渡の親父さんだってきっと自分の世界も他の世界も全部守る為、大ショッカーの連中を倒す為に戦っている筈だ、お前だって……」
「父さんは僕が生まれる前に死んだ筈だよ……」

 名簿を見る限り自分の世界からの参加者は4人、分かり易く空白で区切られている事から間違いはないだろう。
 その4人は渡、ファンガイアの王キング、渡の師匠もしていた名護啓介、そして渡の父親である紅音也だ。既にキングを渡自身が倒した以上生き残っているのは名護と音也だけだ。
 だが、音也は渡が生まれる前に死んだ筈だ。名簿にあるのは同姓同名の別人かもしれないが、

831愚者の祭典への前奏曲(第一楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:21:00 ID:ApQdx2gE

「だが、あのキングだって前のキング……太牙の親父さんだ……つまり本当だったら既に死んでいる筈だ」

 渡の知る限り現在のファンガイアのキングは渡の異父兄弟である登太牙。だが、先程のキングは太牙の父親、つまり先代のキングでであった。
 しかし先代のキングは既に死亡済み、故に本来なら存在する筈がないのだ。
 何故こんな事が起こっているのかはわからない。しかしキングとは微妙に話が合わなかった事も踏まえ、何かがある事だけは確かだろう。

「だから実際の所、どうなっているかはわからねぇが渡の親父さん本人かも知れねぇって事だ」
「……何が言いたいの?」

 確かに名護や音也はきっと殺し合い打倒の為に戦うだろう。だが、それはあくまでも彼等の戦い。自分は自分の戦いをするだけではなかろうか。

「あの声はかなり遠くまで響く筈、名護の野郎や親父さんも聞いたかもしれねぇ……もし聞いていたら……」
「来ると思う……」

 同時にそれは自身と遭遇する可能性もあるという事だ。

「そうだろ、もしあいつらが今の渡を見たらどう思う? 悲しんだり怒ったりするに決まっている筈だ! なぁ、あいつらを悲しませたくはないだろう?」

 そんな事は言われなくてもわかっている。名護達が自分のする事を認めるわけがない。

「大体、もし名護達と出くわしたらどうするんだよ? まさか名護達まで倒してでも皆殺しにするなんて言わないよな?」
「そんなつもりはないよ……でも……」

 キバットの言い分はもっともだ。名護達があの場にいた場合、彼等は自身が殺そうとする他の参加者を守ろうとするのは明白。下手をすれば彼等と戦いになりかねない。
 だが、渡は名護達と戦うつもりはない。彼等を守る為に戦っているのにその彼等を倒しかねない状況など本末転倒以外の何者でもない。

「キバットがどう言っても僕はもう止まらない……」
「わかったぜ……だがな、俺は信じているぜ……」

 そう言いキバットは一旦黙り込んだ。だが恐らくまた数分後には止めるべく口を出すだろう。

 気を取り直し自身の手持ち道具を確かめる。恐らく東京タワーでは混戦となる。
 そうなると鍵を握るのは変身手段とその回数なのは明らかだ。
 しかし先の戦いでキバとサガ、そしてゼロノスに変身した以上それらにはまだ当分変身出来ない。
 現状利用出来る変身手段は先の戦闘でキングが変身したゾルダ、そして――

 後は変身せずとも利用出来る武器という事になるが幸い手元にはめぼしい物が幾つかある。これで仮面ライダー等の強者とやりあえるとは思えないが無いよりはマシである。
 その中でも特に使えると見て良いのはジャコーダー、本来はサガに変身する為に使用するものであり同時にサガの武器でもある。だが、変身していない状態でも剣及び鞭としての運用は可能だ。
 無論、これだけでは心許ないものの十分牽制には使えるだろう。

 しかし、幾らキングを継承したとはいえサガの鎧は本来太牙の物だ、それを利用する事に思う所が無いわけがない。

「太牙兄さん……深央さんを殺した僕を許してくれなくても構わない……それでも今だけはサガの力……兄さんの力を借りるよ……兄さん達の世界を守る為に……
 それで、もし全ての決着が着いて守る事ができたなら……
 その時は僕を……して……」

832愚者の祭典への前奏曲(第一楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:21:40 ID:ApQdx2gE







【5:03】


「待たせたなぁ!」

 そういって浅倉は屋上に到達した。だがそこは静けさが包み込んでおり、そこに美穂の姿はない。

「おい……待っているんじゃなかったのか……? 俺をイライラさせるな……」

 折角戦えると思ってきたのに戦えない事に苛立ちが募る。そして周囲に当たり散らそうとしたが――

 その時、ゆっくりと足音が響いてきた。
 足音がする方向、展望台に続く階段を見るとそこには仮面ライダーファムがゆっくりと降りて来ていた。

「ははっ、待っていると言っておきながら随分と遅いご到着じゃねぇかよ……」

 そう言いながら浅倉は懐からカードデッキを出して落ちているガラスの破片――浅倉は知らないが展望台から落ちてきたそれにかざす。
 それにより浅倉にVバックルが装着され、


「変身」


 その言葉と共にVバックルをデッキを挿入、紫の蛇の甲冑を纏い仮面ライダー王蛇へと変身した。


「やろうぜぇ――」


 牙召杖ベノバイザーを構えつつ1枚のカードを装填する。


 ――SWORD VENT――


 その電子音声と共に契約モンスターベノスネイカーの尾を模した突撃剣ベノサーベルが出現、王蛇は出現したそれを手に取る。


「仮面ライダーの戦いをな!!」


 そう言いながら、ファムへと仕掛けていく。
 一方のファムも召喚機羽召剣ブランバイザーに1枚のカードを装填し、


 ――SWORD VENT――


 同じ様に契約モンスターブランウイングの翼の一部を模した薙刀ウイングスラッシャーが出現、ファムはそれを手に取り構え、王蛇の斬撃を受け止める。


「ははっ、そうこなくてはな」


 そう口にする王蛇の一方、ファムは脇から飛び降り階段から屋上へと舞い降りる。
 王蛇もそれを追いかけるべく飛び降りる。
 しかし先に着地したファムは既に1枚のカードを装填し終えていた。


 ――GUARD VENT――


 ブランウイングの翼を模した盾ウイングシールドを出現させた上で左手に装備、同時に背中のマントから無数の白き羽根を展開する。
 羽根が王蛇の視界を阻む、それでも王蛇はファムへと仕掛けるが、


 ファムの姿は消え無数の白き羽根だけが舞い続ける。


「またこいつか……全く苛つかせる……」


 そう言えば、前も同じ様な手段で翻弄されたな。そう考えている中、


「とりゃ!」


 と、背後からファムがウイングスラッシャーで迫る。しかし、


「甘ぇんだよ!」


 と、ウイングスラッシャーを弾き飛ばした。
 そのまま王蛇はファムに仕掛けるが無数の羽根の影響で視界が悪くなっている為、ベノサーベルは宙を斬るだけだった。
 その間にファムは弾き飛ばされたウイングスラッシャーを拾おうと弾き飛ばされた地点である屋上の端近くへと向かう。
 だが、それを見逃す甘い王蛇ではない。ファムの姿を確認した王蛇はすぐさまファムの所に向かい仕掛けようとする。
 何とかウイングスラッシャーを拾ったもののすぐ傍まで王蛇が迫っていた。

833愚者の祭典への前奏曲(第一楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:22:20 ID:ApQdx2gE


「はっ!」


 そのかけ声と共にベノサーベルによる攻撃を防ぐ。しかし王蛇は間髪入れずもう一撃、更にもう一撃と攻撃を仕掛けていく。
 ファムはそれらを何とか防ぐものの結局の所何とか防いでいるだけだ。
 防戦だけではどうにもならない、そう考えウイングシールドを後方に投げウイングスラッシャーとブランバイザーの二刀流で王蛇に仕掛けていく。
 ファムは仮面ライダーの中でもパワーが弱い反面スピードに秀でている。パワーが足りないならばスピードで勝負するという作戦だ。
 1発で足りなければ10発、10発で足りなければ100発という風にだ。


「ぐっ……舐めるなぁ!」


 だが、思う様に行くものではない。確かに攻撃の手数自体はは王蛇よりもファムの方が上だ。しかし王蛇はこれまでの戦いの経験からそれらを全て捌き防いでいく。
 その間を縫うかの様に王蛇は一撃、また一撃と攻撃を仕掛けていく。
 前述の通り、スピードの上ではファムの方が秀でている。それ故に今の段階では攻撃は全て防ぐ事に成功している。しかしその一撃一撃は重く、ファムは徐々に後方へと追いやられていく。
 また後方に追いつめられるだけではなく王蛇のパワーに押された事でファムの攻撃も徐々に遅れていく。
 それでも攻撃のペースが遅れすぎれば押し切られる。故に何とか立て直しつつペースを上げていった。
 かくして双方何十発もの仕掛け合いの果てに、何時しかファムは屋上の端まで追いつめられていた。


「でぃっ!」


 何とか落とされまいとファムは全力でウイングスラッシャーを振り抜く。だが、王蛇は少し後方に下がりそれを回避。
 回避? いや、それは違う。王蛇は次の一撃で決めるべく一旦距離を取ったのだ。全力を込めた一撃をぶつける為に。
 ファムは丁度落ちていたウイングシールドを構え王蛇の攻撃に備え様とする。


「はぁっ!」


 ベノサーベルの一撃がウイングシールドに炸裂する。ファムは何とか落下しまいと踏みとどまろうとバランスを取る。
 だが、そのタイミングを見逃がさぬ様王蛇は更に蹴りを入れた――



 しかし次の瞬間、またしても無数の白き羽根が待った。



「またこいつか……」


 とはいえ先程の攻撃は確かに手ごたえがあった。状況から考えても自身の後ろに回り込めるとは思えない。


「いや……奴の狙いは!」


 だが、ファムの狙いに気付いた王蛇はすぐさま下を見下ろした。


 そう、ファムがゆっくりと地上へと降下していたのだ。


「ちっ、逃がすかよ!」


 折角の獲物を逃すつもりは毛頭無い、王蛇もすぐさま飛び降りる。
 マントと羽根を展開する事で落下の勢いを殺すファム、それに対して王蛇にはそういう気の利いた手段はない。
 流石の王蛇でもこのまま落下すれば多少なりともダメージは避けられない。

 しかし王蛇は、


「ふん!」


 ベノサーベルを壁に向けて突く。その一撃により壁にベノサーベルが刺さりこみ一旦落下は止まった。
 そして今度は壁を蹴る勢いを利用しベノサーベルを抜き再び降下した。そう、2度に分けて降下する事で降下の勢いを抑えたという事だ。

 そうして王蛇が地上に降りた時には既にファムも既に到達しており、同時に何処かへと移動しようとしていた。王蛇もファムの姿を確認しそれを追いかける。


「待ちやがれ……何!?」


 と、建物の角を曲がった先にはハードボイルダーに乗ったファムがいた。ファムは無言でハードボイルダーを駆り王蛇に突撃する。


「ちっ!」


 王蛇はベノサーベルを構え迎撃しようとする。だが、ファムはそのまま王蛇の横を走り過ぎて行った。


「!? まさか……」


 このまま逃げる? 一瞬そう考えたもののファムはハードボイルダーを扱いきれず近くの鉄塔まで行った所で止まった。
 逃がすまいと王蛇がファムへと迫る。

834愚者の祭典への前奏曲(第一楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:23:00 ID:ApQdx2gE


「とぅっ!」


 だが、ファムは東京タワーの鉄塔を登り始めた。仮面ライダーの跳躍力とパワーで数メートル数メートルと確実に登っていく。


「どこまでもちょろまかと……本当にイライラするぜ!!」


 王蛇も鉄塔をファムを追いかけるべく鉄塔を登る。
 フットタウンを越えてもなおファムは鉄塔を登り続け王蛇もそれに続いた。
 彼等の目的地は――そう、高度120メートルの位置にある展望台だ。



「はぁ……はぁ……」



 王蛇は割れた窓から展望台の中へ飛び込んだ。目の前にはファムがブランバイザーを構えて立っていた。



「ほう、どうやらやる気になった様だな」



 ファムが構えしカードを見て王蛇もまた1枚のカードを構え装填――




 ――FINAL VENT――



 その電子音声と共にベノスネイカーが現れ王蛇と共に走る――



 その後勢いを付けた王蛇は高く飛び上がりベノスネイカーの口元へ――



 それに応えるかの如くベノスネイカーが毒液を射出し――



 その勢いを受けた王蛇の蹴りがファムへと迫る――



 そこからの連続キック、それが仮面ライダー王蛇のファイナルベントベノクラッシュである――



 多くの仮面ライダー、そしてモンスターを仕留めた文字通り必殺技と言えよう――



 当然、この技の直撃を受ければファムの死亡はほぼ確定する――





 だが、それはあくまでも『決まれば』の話だ――





 ――FINAL VENT――



 電子音声と共に飛来するブランウイングが白き羽根と共に突風を巻き起こす――



 モンスターすらも軽く吹き飛ばすその勢いは空中にいる王蛇の姿勢も僅かに崩す――



 そして王蛇の向かう先ではファムがウイングスラッシャーを構えている――



 そう、ブランウイングが巻き起こした突風で飛ばされた敵をウイングスラッシャーで斬るこの技こそ仮面ライダーファムのファイナルベントミスティースラッシュである。



 この技1つで多くのモンスターを一度に撃破したやはり文字通り必殺技と言えよう――

835愚者の祭典への前奏曲(第一楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:23:35 ID:ApQdx2gE



 2つの技がぶつかり合おうとする。傍目から見る限りその結果を単純に予測する事は不可能。
 単純なパワーならば王蛇の方に分がある。しかし突風によりバランスが僅かに崩された以上、その威力とスピードは数段落ちる。
 故に、ファムが王蛇を仕留めるという可能性も多分にあると言える。



 それは言うなれば刹那の戦い、コンマ数秒とも言える限りなく短い時間だ。
 しかし、実際に戦う2人にとっては永遠ともいえる程果てなく長い時間に感じる。



 面白い、来るなら来い、返り討ちにしてやろう――



 王蛇はそう考え体勢を立て直しファムへと挑む――



 ウイングスラッシャーごと押し切りファムを仕留める、そう強い意志と共に仕掛け――



 が、王蛇の蹴りはファムの頭部より十数センチ横を掠めそのまま空を蹴る――



 外した? いや、かわされたとでもいうべきか? どちらにしても不発に終わった事だけは確かだ――



 だが、王蛇は考える。今の攻撃は自分を仕留める為の攻撃ではなかったのか――



 その時、王蛇の脳裏に前に自分が倒された時の記憶がフラッシュバックした――



 あの時、王蛇はファムにファイナルベントであるドゥームズデイを仕掛けたがそれは不発に終わった――
 それはその時黒い龍騎に妨害されたからだが問題はその後だ――
 その後、黒い龍騎は3体のモンスターを融合させたジェノサイダーを仕留め王蛇はモンスターの力を失いブランク体となった――
 ブランク体となった王蛇は殆ど無力、ファムに殆ど為す術なく倒されたのだ――



 そういうことか、それが狙いか――



 ふと後方を見るとベノスネイカーが宙を舞っているのが見える。ブランウイングが起こした突風によって吹き飛ばされたのだろう――



 そして飛ばされる先にはファムがウイングスラッシャーを構えている――



 なるほど、ファムの狙いは王蛇そのものではなく契約モンスターであるベノスネイカーだったということか――



 モンスターの力を失えば王蛇は無力、どうなるかなど語るまでも無いだろう――



 だが――



 王蛇はすぐさまベノサーベルを投げる。ベノスネイカーがファムに仕留められる前にファムを仕留めれば良い、単純な勝負だ――



 仕留める事が出来なくても命中さえすれば必殺の一撃は阻止出来る。そうすれば最悪の事態は回避出来、戦いは振り出しに戻る――



 ファムは気付かない、背後に迫るベノサーベルに。故に命中は不可避と言えよう――



 そう、それに気付いている存在が無ければ――



 その時、無数の白い羽根が戦場を包み込んだ――

836愚者の祭典への前奏曲(第二楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:29:30 ID:ApQdx2gE
【5:14】



「はぁ……はぁ……」


 戦場に残されたのは王蛇――いや、既にその鎧はもう無い――浅倉威だけだった。


「やるじゃねぇか……」


 変身が解除されたのはこの地における制限時間を超過したからだ。そういえば先に変身した時もいつの間にか変身が解除された。


「!! あの女は!?」


 だが、ここである事に気が付いた。見た限りファムの方が先に変身していた。つまりファムの方が先に変身解除される筈なのだ。


 その問いに答えるかの様に――


「無様だね、浅倉威……」


 美穂が浅倉の前に姿を現した。


「てめぇ……まさか最初から……」
「さぁ、どうだろうね。どっちにしてもあんたはもう変身不能、これで終わりだよ」
「何?」


 浅倉は再びデッキを構えVバックルに挿入する、しかし今度は王蛇に変身する事はない。


「ちっ……」


 だが、よくよく考えてみればそれは美穂にとっても同じ事の筈だ。故に条件は五分と――


「おい……なんだ、そのベルトは? まさか……」


 そう、美穂の腹部には見慣れないベルトが巻かれていた。


「他の世界の仮面ライダーのベルト……そう言えばわかるだろう」


 そのベルトはある世界の仮面ライダーのベルト――それを発展させた新世代ライダーに変身する為のベルト、仮面ライダーランスに変身する力を与えるランスバックルだ。
 なお、これは本来美穂に支給されていたものではない。
 美穂に支給されたものは自身のデッキを除くとサバイブのカードと鉄パイプ、そして爆弾及びそのリモコンである。
 そう、これはある参加者に支給されたものなのだ。
 その参加者に支給されたのはその参加者自身の武器を除くとエクストリームメモリ――そしてこのランスバックルなのだ。


「命乞いをしても無駄だよ……お姉ちゃんを殺したアンタを私は絶対に許さない……何度蘇って来たって同じ、何度でも殺してやる……」


 それは明らかな死刑宣告、だが――


「ふふふふふ……ははははははは……」


 浅倉は狂った様に笑い出す。別に泣き叫ぶ、あるいは土下座して許しを請う姿を期待していたわけではないが相変わらずの姿に苛立ちを隠せない。


「何がおかしい?」


 そう問う美穂であったが浅倉は只笑い続け――


「!! それは……」


 デイパックから王蛇の物とは違うデッキを出す事で答えを示した。そのデッキはインペラーに変身する為のデッキだ。
 美穂にとっては明らかに未知なる存在だ。彼女の知る限り生き残っていた6人は自分を除くと城戸真司、秋山蓮、北岡秀一、浅倉、そして自身を仕留めた黒い龍騎で全部だった筈。
 故にそれは本来ならば存在する筈のないデッキである。
 とはいえ驚いたのは一瞬だけ、よくよく考えてみれば破壊したはずの王蛇のデッキが存在する時点でそもそも有り得ない話なのだ。
 大方、既に倒されたライダーのデッキが浅倉に支給されていたか、浅倉が他のライダーを倒して手に入れたかのどちらかだろう。

837愚者の祭典への前奏曲(第二楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:30:05 ID:ApQdx2gE


「どうした? 震えているんじゃねぇか……怖いのか? 俺が」


 と、浅倉に自身の震えを指摘されるが、


「誰がアンタなんか……!」


 そう言って美穂はバックルに手をかける。それと同時に浅倉もインペラーのデッキを構え、


「「変身!!」」


 Vバックルにデッキを挿入――


 ――OPEN UP――


 ランスバックルからエネルギーフィールドが展開されそのまま美穂の身体を通過する。


 そして浅倉の身体に茶色のレイヨウを模した鎧を、美穂の身体に緑のダイヤとAを模した鎧をそれぞれ纏い仮面ライダーインペラー、そして仮面ライダーランスへの変身を完了した。

 そのままランスは醒杖ランスラウザーを構えインペラーに仕掛けていく。
 対するインペラーは右足を上げ右脛に装着されている召喚機ガゼルバイザーに1枚のカードを挿入、


 ――SPIN VENT――


 電子音声と共にインペラーの契約モンスターの1体であるギガゼールの角を模した二連ドリルガゼルスタッブを出現させ右腕に装着しランスラウザーの斬撃を捌く。

 そして僅かな隙を突かんとガゼルスタッブでランスを撃ち貫こうとする。だが、ランスもランスラウザーを振り回しガゼルスタッブをはね除ける。


(どうやら浅倉といえども使い慣れていないみたいだね……これなら十分戦える……)


 ランスを纏った美穂は内心で十分に戦える事を確信していた。ランスに慣れていないという意味であれば条件は五分と五分ではある。
 だが、数回打ち合った限り勝てない相手というわけではない。状況次第では十分倒す事は可能だ。


(それにどちらにしてももう浅倉は王蛇には変身出来ない……けれどこっちはまだファムに変身出来る……そう、私の方が圧倒的に有利……)


 無論、不安要素が無いわけではない。


(でも……浅倉の奴が何か隠していないとも限らない……)


 先程見た限り、浅倉の右腕に見慣れないブレスレットが装着されていた。もしかしたら何かの武器の可能性はある。十分に警戒するに越した事は無いだろう。


(それに……何なんだ……浅倉に感じるこの嫌な感じは……)


 元々浅倉は仇ではある。だが前に戦った時に感じた怒りや憎しみとは別の全く異質なものを感じていた。それは一言で言えば――
 だが美穂はそれを決して認めない。例えそれを感じても浅倉にだけは決して負けるわけにはいかないのだ。


(そうだ、これは世界を懸ける以前の私の戦い……絶対に引くわけにはいかない……どっちにしてもコイツは障害にしかならないしね……)


 負けるつもりは全く無い。それでも不測の事態は想定しなければならない。


(その時は亜樹子、託したアレを……頼んだよ……)


 その時は亜樹子に爆弾のスイッチを押させ東京タワーごと浅倉を葬れば済む話だ。存在を知る美穂と存在を知らない浅倉、どちらが生存する可能性が高いかなど語るまでもない。


(さぁ浅倉……私は死なないよ……私が死ぬ時はアンタを殺した後だって決まっているんだからね……)


 その確信を持って美穂――ランスは挑む。


「ははっ、いいぜ……これがライダーの戦いってやつだ」


 浅倉――インペラーは楽しそうに笑いランスを迎え撃とうとする。

838愚者の祭典への前奏曲(第二楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:30:40 ID:ApQdx2gE



 東京タワー展望台に激闘の音が響き続ける――



 そしてその上空、ある者が静かに戦いの様子を伺っていた。
 それはケンタウルスオオカブトムシを模した昆虫コア、
 ある世界――仮面ライダーとワームの戦いが繰り広げられた世界のもう1つの可能性ともかつてあった戦いともとれる世界の仮面ライダー――
 ライダーブレスを持つ資格者の元へと飛来し、装着する事で仮面ライダーケタロスに変身する力を与える存在、その名は――



 ケタロスゼクター――



 無論、『彼』が認めし資格者が都合良くこの場にいるわけもない。
 それでも只『彼』は静かに戦場を見つめていた――



【1日目 夕方】
【D-5 東京タワー大展望台1階】

【霧島美穂@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】映画死亡後
【状態】健康、恐怖(小)、仮面ライダーランスに変身中
【装備】カードデッキ(ファム)@仮面ライダー龍騎、鉄パイプ@現実、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式×2、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、大ショッカー製の拡声器@現実、
【思考・状況】
0:浅倉を倒す。
1:あらゆる手を使い他の世界の参加者を倒す。
2:秋山蓮、北岡秀一、東條悟と接触、協力。タワーに来た場合は範囲外に誘導する。
3:城戸真司とは会いたいけれど……タワーには来て欲しくない。
4:今は亜樹子を利用して、一緒にステルスとして参加者を減らす。
【備考】
※大ショッカー製の拡声器は、通常の拡声器より強く声が響きます。

【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 死亡後
【状態】疲労(中)、興奮状態、仮面ライダーインペラーに変身中、テラー・ドーパントに1時間15分変身不可、仮面ライダー王蛇に2時間変身不可
【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダー龍騎、カードデッキ(インペラー)@仮面ライダー龍騎、ライダーブレス(ケタロス)@劇場版仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVE
【道具】支給品一式、
【思考・状況】
0:美穂を倒す。
1:イライラを晴らすべく仮面ライダーと戦う。
2:特に美穂、黒い龍騎(リュウガ)は自分で倒す。
3:殴るか殴られるかしてないと落ち着かない、故に誰でも良いから戦いたい。
【備考】
※テラーメモリを美味しく食べた事により、テラー・ドーパントに変身出来るようになりました。
※それによる疲労はありません。
※ケタロスゼクターが浅倉を認めているかは現状不明です。

839愚者の祭典への前奏曲(第二楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:31:15 ID:ApQdx2gE







【5:15】


 大展望台とフットタウンを繋ぐ直通エレベーターの中に亜樹子はいた。


「美穂さん……大丈夫かな……」


 彼女は震える手でデイパックを握りしめる。その中には自身の手持ち道具、そして爆弾のスイッチが入っている――







【5:00】


「言っておくけど、呼びかけした馬鹿な奴はもう私が倒したよ。で、どうする――聞くまでも無いね。下の建物の屋上で待ってるから」

 そう言って美穂は東京タワー内部にしか届かない様に音量を調節した拡声器の電源を切る。

「それで、ファムのデッキの使い方はわかった?」
「うん……でも本当に良いの? これ美穂さんの大事な……」
「そりゃ私だって何時もだったら貸したりしないわよ。だけどこっちのベルトは私も使った事ないから説明のしようがないのよ。ともかく、何とかして10分時間を稼いで貰わないとならないんだから……」

 2人は大展望台に続く階段の中にいた。

 美穂が考えた作戦を纏めるとこういう事だ。
 亜樹子にファムのデッキを渡し、彼女をファムに変身させて浅倉と戦わせる。この際、浅倉には美穂がファムに変身していると極力錯覚させる。
 拡声器を使ったのは確実に浅倉を戦わせる為に誘導する為だ。
 勿論、美穂が変身したファムでも苦戦した事を踏まえると戦い慣れていない亜樹子では対応しきれる道理は無いのは理解している。
 しかし、あくまでも亜樹子には徹底的に防戦、あるいは退避させ続ける様に指示をした。勿論、浅倉が狙い続ける程度にだ。
 倒せるなら倒しても構わない――と言いたい所だが、実の所美穂は亜樹子にそれが出来るとは全く思っていなかった。実力的な面から見ても、殺し合いに迷いのある精神的な面から見てもまず不可能だと判断していた。
 ファムのスピードと相手を翻弄する能力を最大限に駆使すれば致命傷を避け続けた上である程度時間を稼げると判断したのだ。
 そして最終的には大展望台に誘導し、ファムの変身限界時間を迎える段階で白い羽根を展開し目くらましをさせた上で離脱しファムのデッキを美穂に返却。
 その後、入れ代わる様に爆弾のスイッチを渡して亜樹子を展望台から離脱させ、美穂自身は浅倉を仕留めるべく動くという事だ。
 美穂の手元にはランスとファムがある。浅倉が他に変身手段がなければランスだけで仕留める事が出来、美穂自身はファムを温存出来るという寸法だ。
 また、他に変身手段があり膠着したならば既に変身したと錯覚させたファムに変身する事で浅倉の虚を突く事も出来るという事だ。

 なお、もし亜樹子が下手を打った場合は美穂自身が直接介入、あるいは爆弾を爆破する算段であった。
 無論、これは亜樹子が裏切りデッキを持ち逃げしようとした時も同じ事である。
 もっとも、亜樹子に裏切りの意志など全く無かったわけではあるが。

「でも私に出来るかなぁ……」
「不安なのはわからないでもないけど遅かれ早かれ直接戦う必要は出てくるわよ。少なくても秋山蓮辺りは騙したり出来ないだろうし、アイツは敵に回せば厄介よ。言っておくけど、その時は流石に私もアイツに付くわよ」

 そう、今の所は組んではいるものの所詮これは一時的な共闘に過ぎない。最終的に亜樹子の世界と美穂の世界は決着を着けるべく互いを倒さなければならなくなる。
 その時2人は敵対するのは当然の流れといえよう。

「だから今の内に戦いに慣れた方が良いわよ。そもそも大事なデッキを貸してる時点で破格な話だと思うけど」

 実際問題、何れ敵に回る以上、貴重な戦力を分け与えるのは作戦とはいえリスクも大きい。
 と、2人が話している間に浅倉が迫る足音が響いてきた。

「ともかく、いざとなったら私が助けてあげるから。私だってここでファムのデッキを失うつもりは無いわけだからね」
「わかった……」

 そう言いながら美穂は少しずつ階段を上り大展望台へと向かう。

『待たせたなぁ!』

 浅倉の声が聞こえてくる。

840愚者の祭典への前奏曲(第二楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:33:05 ID:ApQdx2gE


「久しぶりだね……浅倉……でも……」


 美穂の背後では亜樹子が足元の硝子の破片にデッキをかざす事でVバックルを装着し、

「変身」

 浅倉に聞こえない程度の静かな声でデッキをVバックルに挿入し白鳥を模した純白の鎧を身に纏い仮面ライダーファムへの変身を完了、
 そしてゆっくりと静かに階段を降りていく、

『待っていると言っておきながら随分と遅いご到着じゃねぇかよ……』

 浅倉もまた王蛇へと変身しファムへと仕掛けていく。そして美穂は浅倉に気付かれない様に上へ向かう。


「既にアンタは私の策に嵌っているよ……」


 そしてファムと王蛇の戦いは進む。戦い慣れていない割にファムに変身している亜樹子は何とか王蛇の猛攻に耐えている。
 幾ら策とはいえど、戦力を貸し与えた事について自身の甘さを多少なりとも感じずにはいられない。

「ふぅ……私も甘いね……こうなったのも真司の影響か……いや、真司だったらそもそもあの子を戦わせたりしないか……」

 今更ながらに脳裏には城戸真司の姿が浮かぶ。だが自分のやっている事は真司とは似て非なるもの、所詮亜樹子を利用するだけ利用してボロ雑巾の様に捨てるだけでしかない。
 実の所、美穂は真司の存在だけは亜樹子には一切伝えていない。
 その理由は至極単純、真司の性格上亜樹子達他の参加者にとって都合の良い風に利用される事は明白。
 勿論、それ自体は真司がバカなだけだから同情の余地など全く無い。
 それでも、美穂は真司が亜樹子達に良い様に利用される事は極力避けたかったのだ。これは真司が自分の世界の貴重な戦力だからというだけではない。
 それはきっと、真司を正義無き悪意渦巻く戦いに巻き込みたく無かったからだろう。だからこそ、蓮や北岡等と接触する意志はあっても真司と接触する気は無かったというわけだ。
 とはいえ本音を言うならば、戦いが絡んでいない状況ならば会いたい所ではあった。

「全く……何でアイツみたいなのが仮面ライダーやっているんだろうね……」

 美穂は知らない。神崎士郎が催した仮面ライダーの戦いの理由に幼少時代の真司が犯したある過ちが関わっている事を――
 そして丁度その時真司はその事実を知り美穂や蓮達に対して責任を感じている事を――
 もっとも、仮にその真実を知った所で少なくとも美穂は真司を責める事はないだろう――
 自身の戦いの切欠である姉の死そのものには真司は一切関係ないのだから――


「それにしても……真司が仮面ライダーになった事は私達にとって良かったのか悪かったのか……」


 仮に真司がいなかったらどうなっていたのか――そんな疑問が不意に浮かぶ。


 何も変わらないだろう――そう断じる事は簡単だ。


 それでも、もしかしたら――


 いや、それはきっと気のせいだろう――振り払うかの様に大展望台へと急いだ――

841愚者の祭典への前奏曲(第二楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:33:45 ID:ApQdx2gE







【5:13】


 鳴海亜樹子は仮面ライダーではない。
 確かにドーパントであろうがミュージアムの幹部であろうが平然とスリッパを叩き付けてはいるが特別戦闘能力に秀でているわけではない。
 先程美穂に仕掛けたもののあっさり回避され返り討ちにあった事がその証明と言えよう。
 故に彼女が仮面ライダーの力を手に入れた所で戦える道理は全く無い。

 だが――それでもWとアクセル、風都を守る2人の仮面ライダーにとって大きな力になっていた事に違いはない。
 彼女の助言や行動が大きな助けになった事も度々あり、Wに変身している際に無力化するフィリップ、あるいは左翔太郎の肉体の安全を確保するのは彼女の役目だ。
 そう、仮面ライダーの戦いを間近で見続けてきているのだ。それこそ何回も何十回もだ。

 実戦経験は無くてもその動きそのものは亜樹子の中に刻み込まれている。
 夢の中に入り込むドーパント、ナイトメアドーパントが見せた夢の中にて彼女は翔太郎と共にWに変身し多彩なフォームを使いこなしドーパントと戦った。
 それは所詮は只の夢でしかなく、イメージの産物でしかない。だがイメージというのは亜樹子自身の記憶に刻まれているからこそ発現するものだ。
 Wの事を良く知るからこそ多彩なフォームを使いこなしていたと言えよう。

 つまり――亜樹子が見てきた経験、それこそが亜樹子の持つ武器という事だ。

 そう、ファムに変身した亜樹子は自身の持てる経験を生かしファムの能力を引き出し王蛇に対抗したのだ。
 だが、見ると実際に戦うのは大きく違う、一撃一撃が重く膝をつくかも知れない、倒れそうだと何度思った事か。
 何よりも感じた事が『怖い』という事だった。

 翔太郎君やフィリップ君、それに竜君は何時もこんな経験をしていたのか――

 しかし倒れるわけにはいかない。ここで倒れてしまえば作戦が潰れてしまう。そうすれば自分達の世界、風都を守る事は出来ない。
 野上良太郎達を裏切り此処にいる意味が無くなってしまう。それは決して許される事ではない。

 故に亜樹子は王蛇の猛攻に耐え作戦を実行した。
 何とかタイミングを見計らい一度地上に降りてハードボイルダーの位置を把握、
 その後、鉄塔を上り大展望台に移動、
 そして、変身解除のタイミングを見計らい姿をくらまし先行していた美穂と合流しデッキの返却――

 それは容易な事ではなかった――亜樹子にとってはギリギリの戦いであったと言えよう。
 最後のファイナルベントの撃ち合いも所詮は時間稼ぎの手段、モンスターを倒せるかもと思わなくも無かったがやはりそれは無理だった。
 あの時ブランウイングが今一度突風と羽根を展開してくれなければどうなっていたことだろうか?

 ともかく目くらましが出来たお陰で何とか離脱出来、美穂にデッキを返す事に成功したというわけだ。
 その後美穂から手筈通り爆弾のスイッチを受け取り、彼女が浅倉に接触している間にエレベーターで離脱したという事だ――

842愚者の祭典への前奏曲(第二楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:34:20 ID:ApQdx2gE







【5:17】


「はぁ……はぁ……」


 亜樹子はエレベーターから降りた後すぐさまフットタウンから出てハードボイルダーの元へ向かった。
 浅倉が乗っていたハードボイルダーを回収しタワーから距離を取る為だ。
 ハードボイルダーは元々風都を守る仮面ライダーにしてハーフボイルド探偵である翔太郎の物、凶悪犯罪者が持っていて良いものではない。それは亜樹子にとって絶対に譲れない事だった。
 また、ハードボイルダーを確保しておけば仮に翔太郎達の何れかがやって来た時に離脱の理由付けも出来る。
 戦闘力を持たない自分を早急に退避させる風に誘導する事はそう難しく無いだろう。後は適当な理由を付けて戻らせない様にし向ければ完璧だ。
 無論、この事はちゃんと美穂とも打ち合わせ済みだ。美穂は浅倉との決着、亜樹子はハードボイルダーの確保、それぞれの目的を果たせるならば問題はないだろう。
 後はどのタイミングで爆弾を爆破させるかだ。今はまだ時期尚早、もう少し参加者が集まるのを待たなければならない。

 とはいえ今は早々にタワーから離脱した方が良いだろう。亜樹子はそう思い足を急がせる――


 何故彼女はそこまで急いで離脱しようとしたのだろうか?
 爆弾を爆発させればタワーが倒壊するから?
 戦いに巻き込まれる事を避ける為?
 それ自体に間違いはない――だが、亜樹子は気付かない。自身がここまで離脱しようとする事にそれらとは別のある要因が関わっている事を――

 結論から言えば亜樹子は焦っていた。早急に離脱しなければならないという――
 そして同時に慢心もしていた。自分達の作戦を気付いている者は誰もいないと――


 故に亜樹子は気付かない。作戦の前提を根底から崩している者が存在している事を――



「急いでここから――」



 ハードボイルダーのハンドルに手をかけたその瞬間――



「離れ――」



 フロントカウルから突如、何かが飛びだし亜樹子の腹部に直撃――



「なっ……わたし……きいてな……」



 そしてそのまま亜樹子の意識は途切れた。
 その直後、物陰から1人の男性が現れる。



「聞いてないだと? 龍騎の世界のデッキを使っていたならば十分に予測出来る事だろうが」

 その男はガイ、その正体はGOD機関の幹部であったアポロガイスト、現在は全世界の秘密結社を結集した組織大ショッカーの幹部である。
 そう、ガイは亜樹子達の作戦を把握し、自身もまたそれに便乗し密かに爆弾を仕掛けたのだ。つまり、既に亜樹子達の作戦はガイによって出し抜かれている状態となっていたのだ。

 さて、ここに至るまで全く姿を見せなかったガイは何をしていたのだろうか?
 ガイもまた他の参加者がやって来るのを待っていた。但し、亜樹子達と違いガイは入口の辺りで隠れて待機していたわけだが。
 そう、彼も浅倉が入ってくるのを確認していたのだ。しかしガイは最初から浅倉と戦おうとは思わなかった。
 そもそも爆弾で爆破すれば済む話である以上、わざわざ無駄に戦力を浪費する必要性は皆無。故にガイは浅倉を黙認した。
 だが、ここである物が気になった。それは浅倉の乗っていたハードボイルダーだ。有用であれば自身の戦力にしたい所ではある。
 響いてきた美穂の声が確かならば戦場は屋上、距離は大分あると考え確保しようと動いたものの――
 屋上というキーワードからある可能性を考えた。そう、屋上から地上に降下する可能性だ。
 それに気付いた瞬間、ガイはハードボイルダーの確保を断念し、他の者に気付かれない様にしつつ様子を伺った。
 そしてその推測通りファムが降下しハードボイルダーを手に入れ少し移動し、ファムと王蛇が鉄塔を上っていくのを確認した。恐らく大展望台に戦場を移そうとした事は容易に予想がつく。
 そして空から白い羽根が一気に舞い降りるのを見て戦いが終わった事を確信。今度こそハードボイルダーを――

 が、ここである考えが浮かんだ。タワーから離脱しようとする者はハードボイルダーを使うのではないかと。
 そのタイミングで仕掛けるのは有効ではなかろうか?
 暫く待ってからでも遅くはないだろう。ガイはそう考えその時を待った。

843愚者の祭典への前奏曲(第二楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:35:50 ID:ApQdx2gE

 そして、亜樹子がやって来たというわけだ。ハードボイルダーのフロントカウルはガラスの様に透明な板状となっている。
 そこからならば自身の持つシザーズの契約モンスターであるボルキャンサーを呼び出す事が出来る。
 予期せぬ方向かつタイミングでの奇襲、回避する事は容易では無いという事だ。
 無論、避けられる可能性も無くは無かったがその時はその状況に応じて臨機応変に対処すれば良い話だ。

 とはいえ結果としてそれは杞憂に終わった。ものの見事に亜樹子はボルキャンサーの突撃を腹部に受け意識を失った。
 なお、少なくても今は命を奪うつもりはない。いざという時の為の盾、あるいは人質として大いに利用させて貰うつもりだ。
 宿敵とも言うべき仮面ライダーは人質に弱い、それを確保した時点で自身は大きく優位に立ったという事になる。

「響鬼の武器に爆弾のスイッチか、何と都合が良い」

 デイパックの中を確かめた所、響鬼の武器である装甲声刃、そして爆弾のスイッチを確認した。
 仮面ライダーの1人である響鬼の力を手中に収めたのはガイにとって都合が良かった。
 そして、亜樹子達の仕掛けた爆弾のリモコンは最も大きな成果だった。
 これで東京タワーの爆弾は全て自身の支配下に置かれた事になる。
 そう、東京タワーに集う参加者の命は全てガイが握ったという事になるのだ。
 ガイは装甲声刃を自身のデイパックに移し、自身の持つ爆弾のスイッチを亜樹子が持っていたデイパックに移した。
 亜樹子のデイパックに2つのリモコンを固めたのはスイッチを1つの場所に固めて置きたかったというのが理由だ。

「ならば最早此処に長居は無用、さらばだ愚かなる仮面ライダー共よ!」

 そう言いつつ亜樹子を背負いハードボイルダーに騎乗しタワーを後にした。
 爆弾の仕掛けてあるタワーに長居をした所でメリットは少ない、
 スイッチを押さなくとも戦いの余波に巻き込まれる事で爆弾が起爆しその爆発に巻き込まれる可能性はある。
 ガイ達が仕掛けた爆弾が互いに誘爆し合う事で発生する威力は非情に大きい。
 少なくても東京タワーを完全に倒壊させる事だけは確実。
 故に爆弾の有効射程外まで早急に退避する必要があるのだ。リモコンの有効射程ギリギリまで離れておく必要があるだろう。


 だが――ガイが早急にこの場を離れたのは本当に爆発による被害を回避する為だったのか?
 自身の戦闘を避けた上で戦力を温存する為だったのか?

 ガイは気付かない、自身が離れた理由の中に『恐怖』というものが存在していた事を――



 そう、亜樹子達には彼女達が知らぬ『恐怖』という感情が刻み込まれていたのだ。
 その発生源は浅倉、彼を見た瞬間にその呪いは刻み込まれたのだ。
 浅倉が凶悪な風貌をした犯罪者だから?
 否、断じて否、歴戦をくぐり抜けた亜樹子達が今更凶悪な風貌をした犯罪者というだけでそこまで恐怖するわけがない。



 ここで1つの事例を紹介しよう。
 亜樹子達の世界にて凶悪事件を引き起こすドーパント、その発生原因となっているのはガイアメモリと呼ばれるものだ。
 そのガイアメモリを流通させているのはミュージアムと呼ばれる組織、
 その組織の中心にいるのは園咲家の人間達、そしてその頂点に君臨するのは園咲琉兵衛である。
 ところで、ガイアメモリによる事件に園咲家の人間が関わる事が度々あった。
 にも関わらず、ガイアメモリ事件の核心とも言うべき園咲家そのものに迫る事に関しては殆ど無かった。
 捜査線上に上がらなかったというわけではない。
 園咲霧彦が幹部であったにも関わらず、
 フィリップが園咲来人である事が判明したにもかかわらず、
 園咲若菜がミュージアムの幹部に就いたにもかかわらず、
 園咲家そのものを直接調べるという行動に何故か至る事が出来なかった。
 ここまで事件の中心に何度と無く関わっているにしては些か不自然過ぎるのではなかろうか?
 警察という組織が動けなくても、フィリップの検索が封じられていたとしても、探偵である翔太郎が地道に調査する事は十分に可能だった筈だ。

844愚者の祭典への前奏曲(第二楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:36:25 ID:ApQdx2gE

 何故、調べなかったのか?

『初めて私の姿を見た時から君は既に負けていたのだよ、私の恐怖……テラーにね』

 そう、それは琉兵衛の持つテラーメモリの力によるものだ。
 その能力はテラーの名の通り『恐怖』、相手の恐怖心を増幅させるというものだ。
 故に翔太郎は知らず知らずの内に園咲家そのものへの接触を避けていたというわけだ。



 何故このことを長々と説明したのか?
 答えは簡単だ、浅倉は本人も知らず知らずの内にテラーの力を発揮しているという事だ。
 無論、幾らガイアメモリの力が絶大とはいえ変身していない状態、なおかつ種々様々な力が制限される状況でそれが発揮されるわけがない。
 だが、今の浅倉に関しては少々事情が違う。
 本来ガイアメモリはコネクタを介した上でそれに内蔵された記憶を引き出しその力を発揮する物だ。
 しかし浅倉はガイアメモリを直接喰らった事で直接記憶と力を取り込んだ。
 ある者が毒素等に対するフィルターの役目をするドライバーを介してはその力を十分に発揮出来ないと語り直挿しを推奨していた事がある。
 無論、それに伴うデメリットもあるわけだが、おおよそ理に適った話ではある。
 だが、浅倉の行った事は直挿しというレベルを遙かに超えている。数値的に言うならば直挿しの数倍の力を発揮出来ると考えて良い。
 そして記憶や力が直接体内を巡っているのであれば、変身せずともその力をある程度発揮出来るのも当然の理と言えよう。

 無論、浅倉はその事実を知らない。だが、浅倉は狂気や闘争心を隠す事なく普段から剥き出しにしている。野獣の本能が如く――
 当然、それと同時にテラーの力である『恐怖心の増幅』もある程度発揮されるのは自然の流れである。

 勿論、制限下である以上、精神力次第で容易に抵抗出来るささやかなものでしかない。ドーパントに変身しない限りは戦局を大きく変化させるということはまずない。
 実際、亜樹子や美穂は若干の震えを感じてはいたものの元々浅倉自体が恐ろしい存在でもあった事もあり大きな影響は無い。

 だが、それはあくまでもその事実を知っていればという話だ。
 その事実を知らない限り、相手にしてみれば『何が何だが解らないが恐ろしいものを感じる』という事でしかない。
 知らない故にその力は未知数、下手を打てば取り返しのつかない事になる。『未知への恐怖』に対する不安あるいは警戒心は決して拭い去れない。
 故に本能的にそれを避けるというのは至極当然の流れである。

 浅倉の発する『恐怖』――それは知らず知らずの内に周囲に影響を僅かに与えているという事だ。







【5:20】


 東京タワーを背にハードボイルダーは走る。
 その馬力故に早々に想定される爆発範囲からの離脱には成功している。
 このまま真っ直ぐ走ればD-6に、T字路で曲がればE-5に向かう事になるだろう。

「後はどのタイミングで爆破させるかだけだ」


 そう思い、T字路の辺りで速度を緩めようとした時『何か』が前方を横切る。


「何だ?」


 思わずガイは急ブレーキをかけようとした。その瞬間、


 別の『何か』か前輪に命中し、車体のバランスが崩れた――


 元々乗り慣れていないマシンとスピード故にバランスを立て直す事が出来ず――


 ハードボイルダーはスピンしガイと亜樹子、そして彼等の持つデイパックはそのまま周囲に放り出された――


「くっ、何だ今の奇襲は!?」


 それでもガイは大ショッカーの幹部怪人、放り出されようとも何とか体勢を立て直し自身が元々持っていたデイパックを手放さず抱え着地に成功する。
 それでも亜樹子本人や彼女の持っていたデイパック等幾つかのものはそのまま放り出され、その中身もぶち巻かれてしまったが。

 ガイは冷静に思考する、恐らく先程前方を横切ったのは急ブレーキを誘った『何か』、そしてブレーキをかけた事で一瞬速度が落ちた隙を狙い仕掛けられたという事だろう。
 ならば敵はすぐ近くにいる。だが相手は何者か? 人質である亜樹子を抱えている以上、仮面ライダーが仕掛けるとは思えない。

 その問いの応えるかの様に、道路の脇には――

845愚者の祭典への前奏曲(第三楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:38:50 ID:ApQdx2gE
【5:21】


「おい! 今の音は何だ!?」

 キバットが何とかデイパックの中から這い出る。そして周囲を見渡すと、ハードボイルダーと亜樹子が倒れているのが目に入る。

「渡! まさか今お前……」

 渡の傍ではサガークが飛んでいる。
 そう、渡はガイが走るのを見つけ奇襲を仕掛けたのだ。
 道路脇に潜みサガークを飛ばす、それに気を取られた隙を突いてジャコーダーによる鞭打を前輪に当てる。
 それだけでバイクはバランスを崩し、上手く行けば転倒させる事が出来るという算段だ。
 転倒しなくともバランスが崩れれば隙が出来る、そのまま畳み掛ければ良いという事だ。

「キバット族のキバットォ!」

 その一方、ガイはキバットに対し呼びつける。

「テメェ、誰だ!」
「ふん、キバットがいるということは貴様、仮面ライダーキバだな」
「違う……僕は仮面ライダーじゃない……キングだ!」

 ガイに対し言い放つ渡はゾルダのデッキとディスカリバーを構える。
 渡がどう言おうともキバットがいる以上渡がキバなのは明白。だがキバではなく別のライダーに変身する事から恐らく現状キバには変身不能ということだろう。
 無論、温存している可能性もあるがどちらにしてもこのままにしておくつもりはない。
 相手が龍騎の世界の仮面ライダーに変身するならば此方も龍騎の世界のライダーに変身して様子を見よう。
 そう考えガイはシザーズのデッキを構える。

 ガイがこの地で最初にシザーズに変身したのは大体12時10分頃、
 その後変身解除した後変身制限を確かめる為にシザーズへと再変身を行い、制限の1つである再変身までの時間制限を約2時間だと割り出した。
 故に、再変身を行ったのはどんなに遅くても3時前という事になる。それ以上の場合むしろ3時間、あるいは2時間半と割り出す可能性が出てくるからだ。
 そして現在時刻は既に5時20分を過ぎている。故にシザーズへの再変身は可能という事だ。


 渡とガイはそれぞれデッキをディスカリバー及びハードボイルダーにかざす。それにより双方の腹部にVバックルが装着される。


「「変身」」


 同時にデッキを挿入。渡が緑の装甲を、ガイが橙の蟹を模した装甲をそれぞれ纏いゾルダ、そしてシザーズへの変身を完了する。


――SHOOT VENT――


 ゾルダは召喚機である機召銃マグナバイザーに1枚のカードを装填し、契約モンスターマグナギガの下半身を模したキャノン砲ギガキャノンを出現させ両肩に装備、


 そして、ギガキャノンとマグナバイザーによる波状攻撃をシザーズへと仕掛けていく。


「おい渡! その武器じゃ姉ちゃんまで巻き込むぞ!」
「関係ない……」


 亜樹子の身を案じるキバットが口を挟むもののゾルダは構わず連射を続ける。


「ちっ……」


 こうなってはもう止められないと考え、キバットは砲撃を避けつつ亜樹子の所へと向かう。


「くっ……仮面ライダーの癖に人質もお構い無しだと……」
「僕は仮面ライダーじゃない!」


 人質作戦が通じない事にシザーズは僅かながら焦りを感じる。それでも、

846愚者の祭典への前奏曲(第三楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:39:35 ID:ApQdx2gE


(確かにシザーズは最弱クラスだ。だが、ゾルダは遠距離特化のライダー。懐に入り込めば勝機は十分にある!)


 ――GUARD VENT――


 自身の召喚機シザーズバイザーに1枚のカードを装填し、ボルキャンサーの背中を模した盾シェルディフェンスを出現させ装備しゾルダの方へと向かう。
 ゾルダの砲撃、その一撃一撃は決して軽くはない。それでもダイヤモンドに匹敵する硬度を持つシェルディフェンスならば直撃しない限りは十分に耐えられるものだ。


 ――STRIKE VENT――


 更に1枚のカードを装填しボルキャンサーの腕を模した鋏シザーズピンチを出現させ装備、そのままゾルダの懐に――


「終わりだ仮面ライダー!」


 その一撃を叩き込もうとした――が、


 エンジンブレードがそれを阻む。その重量による反撃によりシザーズピンチの突撃を弾き、シザーズは後方への後退を余儀なくされる。



「何ぃっ!?」



 まさか近距離用の武器を持っていたとは、想定外の事態に動揺しつつも何とか体勢を立て直す。それでも次は同じ手は喰わないと動こうとするが、


 今度はジャコーダーによる鞭がシザーズの腕に絡みつく。そしてそのまま遠方に放り投げられた。


「何だとぉっ!?」


 そして空中から落下するシザーズにギガキャノンが発射される。何とかシザーズはシェルディフェンスで防ぐものの衝撃を完全に殺しきれない。


「おのれ仮面ライダー!」


 着地そのものには成功してもゾルダとの距離は大きく開いてしまった。そこから再び仕掛けるのは大きな手間だ。
 無論、ゾルダもシザーズを近付けさせるつもりはない、無情なる砲撃を次々に撃ち込んでいく。


 遠距離からのギガキャノンとマグナバイザーの砲撃、
 中距離からはジャコーダーによる牽制、
 至近距離まで迫ってもエンジンブレードによる迎撃、


 距離面において今のゾルダに死角は殆ど無い。故にシザーズで対抗する事は非情に厳しいと言えよう。
 既に1度ボルキャンサーを召喚している以上単純に召喚する事は不可能、
 ファイナルベントならばまだ可能性もあるだろうが、それはゾルダにとっても同じ事、モンスター召喚を残しているゾルダの方に分がある事に変わりはない。

847愚者の祭典への前奏曲(第三楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:41:55 ID:ApQdx2gE


(ここまで最弱だとは思わなかったぞシザーズ!!)


 内心でそう叫んでいた。その一方、


「ちっくしょう……渡の奴本当にお構いなしだな……とりあえず命には別状ねぇみたいだが……全身を打ってやがる……骨も数本折れてるだろうなぁ……」


 キバットが亜樹子の様子を伺っていた。命には別状は無いものの重傷である事に違いはない。


「病院行くにせよ手当てするにせよ今の渡がそこまでやってくれるとも思えねぇし……とりあえず何か無いか……」


 早急に手当てすべき、そう考え周囲を見渡し治療に使えそうな道具を探す。


「つか、中身までぶちまけているじゃねぇか……大体スリッパなんて……ん?」


 と、地面に落ちている2つのリモコンを見つける。その内の1つは転倒した際の衝撃で壊れてしまい使用不能になっている。


「何かのリモコンか? カプッと」


 そう口にしつつまだ壊れていないリモコンを銜える。そして、近くに落ちていた1枚の紙を見つける。


「何々、大ショッカー特製爆だ……んだとぉ!?」


 その叫びが戦っているシザーズ達の耳にも届く。
 ゾルダの猛攻を防ぐので手一杯とはいえ、今のキバットの行動を見過ごすわけにはいかない。故にシザーズは声を張り上げる、


「おい貴様、そのリモコンを返すのだ!!」
「ふざけんなぁぁぁぁぁっ! ガブリ!!」


 と、思わず一気にリモコンを噛み砕く。


「いでででで……」


 と、口から破損したリモコンがこぼれ落ちる。衝動的な行動故に口の中が痛い。


「って、まさかコイツは……」
「そうだ、貴様が今破壊したのは爆弾の起爆スイッチだ! 何て事をしてくれたのだ……ちっ、もう1つも使えんか……」
「爆弾……それって……」


 シザーズの言葉にゾルダの動きが止まる。シザーズはその様子からある一計を案じ行動を移す。


「こうなっては仕方ない。貴様達の想像通り、我々が東京タワーに爆弾を仕掛けたのだ。少なくても確実にタワーを消し飛ばす程のな」


 シザーズはキバット達に東京タワーに爆弾を仕掛けた事をカミングアウトする。


「何だと!? ちょっと待て、それが確かなら……」


 先程東京タワーから響いた声により多くの参加者が集結しようとしている。
 つまり、狙いはその連中を一網打尽にする為だという事だ。


「ちっ、随分と迷惑な事をしやがるな……」
「私にとっては最大の褒め言葉だ」
「で、もしもの時はこの姉ちゃんを人質にするつもりだったって所か。あの姉ちゃんの善意を最悪な形で利用しやがって……」


 そう、シザーズに毒づくキバットだ。自分が言えた事ではない事もあり、口にはしないもののゾルダも同じ想いではある。だが、

848愚者の祭典への前奏曲(第三楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:43:15 ID:ApQdx2gE


「貴様等、何か勘違いしている様だな」
「それは……どういう事?」


 シザーズの返答にゾルダが応えた。


「もう1つ良い事を教えてやろう。そもそも私は便乗しただけに過ぎん」
「え?」
「便乗……ちょっと待て、それじゃあ……他にもいるってことか? 一体誰が……」


 が、2つあったスイッチを見て、考えられる最悪の可能性に思い当たった。


「まさか!? まずい! 渡、奴の戯言に耳を貸すな! さっさとコイツを倒せぇぇぇぇっ!」


 キバットが思い当たった可能性、信じたくは無い最悪なパターン。それが渡の耳に戻ったら渡はどうなるのか?
 しかしゾルダは動かない。その答えに薄々気付いていたのか、それともシザーズが言う事が気になったのか、どちらにせよシザーズの言葉を遮ろうとはしなかった。


「お前達仮面ライダーや無力な人間共を誘き寄せようとしたこの女共が爆弾を仕掛けたのだ。
 仮面ライダーなら自分達を守ってくれるという人間共の愚かなる信頼、
 貴様等仮面ライダーが弱者を守るという正義感を悪用してな。
 全く、私程では無いが迷惑な悪女共だ」
「出鱈目を言うんじゃねぇ! テメーが全部仕掛けた事だろうがぁぁぁ!!」


 キバットは反論する。だがそれは明確な理由のない感情論に過ぎない。


「冷静に考えてみろ。爆弾を仕掛けるならわざわざ2つもリモコンは必要無いだろう。それに私がこの女に罪を擦り付けるつもりならば私は仕掛けたとすら言わないのではないか?」
「くっ……」


 確かに2つのリモコンは種類が違う。普通に仕掛けるならば2種類も仕掛ける必要性は低い。
 また、1つは認めもう1つは否認していることもシザーズは嘘を言っていないと考えて良い。
 亜樹子に全ての罪を被せるならば最初から全てを否定すれば良いからだ。


「貴様等仮面ライダーや人間共はこの女に騙されていたという事だ」


 そんな中、亜樹子が意識を取り戻す。それでも激痛で身体が動かない。


「ううっ……あれ……ここは……」
「おい、姉ちゃん……」
「喋る蝙も……」


 キバットは込み上げる感情を抑えながら亜樹子に問う。


「今、アイツが言った事は本当か?」
「え……?」
「東京タワーに爆弾を仕掛けた事だ……」
「ちょ……どうし……はっ」

 何故それを知っているのか? 美穂と自分しか知らない筈の事を、それ故に思わず応えてしまった。
 しまったと思ったものの既にもう遅い、


「ちっ……最悪のパターンじゃねぇか……」


 ノーと言って欲しかった。嘘でも良いから否定して欲しかった。キバットのささやかな願いは脆くも崩れ去った。


「フハハハハ、私が立ち聞きしていたのだよ。全く、本当に愚かな女共だ」


 勝ち誇るシザーズ。先程ゾルダに良い様にやられていたとは思えない不貞不貞しさだ。


「テメェ、状況わかってんのか? 渡に手も足も出なかっただろうが。おい渡、さっさとコイツを倒し……」


 リモコンが失われたとはいえ爆弾そのものは健在。早急に仲間に伝え退避した方が良い。そう考え渡に声をかけたがゾルダは立ちつくしたままだ。


「渡! 何ぼさっとしてやが……わた……」


 叫ぶキバットを余所にゾルダはゆっくりと口を開く、

849愚者の祭典への前奏曲(第三楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:43:55 ID:ApQdx2gE


「どうして……名護さんや父さん達を騙す事をしたの……
 みんなを助けるんじゃなかったの……
 戦いを止めるんじゃなかったの……」


 それは亜樹子に対する言葉だ。
 亜樹子の声が聞こえたならば名護や音也は確実に向かう。
 今更自分が言えた事じゃないが、その善意を踏みにじった事がどうしても許せなかったのだ。


「それ……は……」


 自分達の世界、そして街である風都を守る為だ。しかしゾルダの声が怒りに震えているのを見てそれ以上言葉を紡げなかった。


「渡……そりゃアレだ、この姉ちゃんも自分の世界を守りたかっただけなんだ。渡や冴子の野郎と同じなんだ……だからつい……」
「キバットは黙ってて!」


 と、マグナバイザーを2発撃ち込んだ。銃弾はそれぞれリモコンの残骸に命中し修理不能な程に破壊された。


「冴子さんと同じ……? 違うよ、あの人は僕なんかを助ける為に死んだんだ……」
「え……若菜姫のお姉さん……と会ったの……死んだ……?」
「あの人も来人君や霧彦さんを守りたかった筈……それなのに僕を守って死んだんだよ、そんなあの人と一緒にしないで……!」


 何時しか制限時間が訪れゾルダの鎧は消失していた。そして現れた渡の眼からは止めどなく涙が流れていた。


「そんな……フィリップ君……」


 フィリップの姉である冴子が渡を守る為に死んだ事実を聞き驚きを隠せない亜樹子を余所に、


「テメェ……」


 何時もの陽気さはなりを潜めたキバットが静かな怒りの感情を込めて亜樹子に話しかける、


「渡はな……口では自分の世界を守る為に他の世界の連中を皆殺しにするって言っておきながらどこか迷っていたんだぜ……
 そこに聞こえたアンタの言葉を信じていたんだ……元の優しい渡に戻れた筈だったんだ……
 よくも渡の心を踏みにじってくれたな……
 渡だけじゃねぇ、アンタの言葉が助けになった人々が他にもいる筈だ……なんでそいつらを裏切る様な真似を……」


 亜樹子もそれを理解出来なくはない。それでも自分の世界を守る為には仕方のない事だと言い聞かせていた。
 甘い言葉に騙される方が悪いと言い聞かせてきた。
 だが、面と向かって突き付けられると辛い事に代わりはない。


「仮面ライダーの話も嘘だったって事だな……みんなのために戦うヒーローって話も……」
「違う……本当に仮面ライダーは……」


 自分の行動は幾ら侮辱されても構わない。だが仮面ライダー、つまりは翔太郎や竜を侮辱しては欲しくはない。


「じゃあ、アンタの世界の仮面ライダーがやって来たらどうするつもりだったんだ? アンタの言う通りなら名護達同様のこのこやって来て爆弾に吹っ飛ばされるんじゃないのか?」
「それは……適当に理由をつけて……」


 そう、翔太郎達がやって来てもそれで切り抜けるつもりだった。だが、それがキバットの逆鱗に触れた。

850愚者の祭典への前奏曲(第三楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:44:25 ID:ApQdx2gE


「はっ……何を言ってやがる、そんな適当な理由でみんなを見捨てる様な薄情な連中だっていうのかよ……
 テメーにとって仮面ライダーはそんな軽いものだったのかよ!?
 巫山戯んじゃねぇ! テメーが一番仮面ライダーを侮辱しているんじゃねぇか!!
 俺の知っている仮面ライダー……といえるかどうかは微妙だが名護の野郎はそんな安っぽい口車であっさり他人を見捨てる様な奴じゃねぇ!
 テメーに仮面ライダーを語る資格なんてねぇ!」


 キバットの怒号が亜樹子の胸に突き刺さる。
 よくよく考えてみればその通りだろう。
 あのハーフボイルドの翔太郎が泣いている人々がいる状況で見捨てるわけがない。
 竜が危機に脅かされている人々がいる状況で黙ってみているわけがない。
 自身の父である荘吉も守るべき人々がいる状況で動かない事など有り得ない。


 そう、適当な理由を付けて離れさせる事がそもそも無理な話なのだ。
 危機的状況にあるとわかっていてあっさり見捨てる様な者が仮面ライダーである筈がない。


 理解していたと思っていた――
 だが本当は全く理解出来ていなかった――
 亜樹子はキバットに指摘されるまで忘れていたのだ。
 仮面ライダーは決して皆を見捨てたりしないものだという事を――


 風都を守ると言っておきながら――
 風都が作り上げ守ってきた仮面ライダーを自ら否定してしまったのだ――


「テメーの言葉は渡にとっては希望だったんだ……まだ戻れるかもしれなかった……
 けどそれが嘘だとわかった以上もう渡は止まらねぇ……あんたの仲間達だって皆殺しにするだろうな……
 それにさっきも言ったがあんたの言う仮面ライダーもきっとタワーにやって来る……
 爆発に巻き込まれるってわかってもな……
 テメーのやった事は自分の世界すら守っちゃいねぇよ……
 只の……只の人殺しだ……」


 キバットの言葉が余りにも重く、亜樹子は何も返す事ができなかった。


「って、んな事言っている場合じゃねぇ! 渡の変身が解除されたって事は……」


 そう、前述の通り既に渡の変身は解除されている。つまりキバットの知る限り既に渡は戦闘手段を失ったという事だ。


「ハッハッハッハ、そういう事だ」


 同じ様に変身解除されているガイが笑っていた。


「時間稼ぎって随分セコイ真似するじゃねぇか……大体テメーだって変身解除されているんじゃねぇか!」
「元々シザーズなど小物、私の力はこんなものではない! 大ショッカーの幹部であるアポロガイストを舐めるな!」
「大ショッカー!? あいつらの仲間か!?」


 まさか主催者である大ショッカーの仲間だとは思わなかったので驚きを隠せない。だが、その事は今はどうでも良い。


「っつーことはまさか!? 渡、もう戦うのは無理だ、すぐに逃げるぞ!」


 ガイの言葉から察するに奴は変身を残している。故に変身手段を持たない今の渡に勝ち目はない。だが、渡は俯いたまま動けない。


「どうした? 裏切られたショックで動く事も出来んか?」
「渡!」


 だが、ゆっくりと顔を上げ、

851愚者の祭典への前奏曲(第三楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:46:20 ID:ApQdx2gE


「サガーク!」


 その言葉と共にサガークが渡の所に戻ってくる。


「いや……まだサガに変身出来ねぇ筈……何を考えて……」
「むっ! 貴様、それはまさか……」


 そう、サガークは渡にある物を持ってきていたのだ。


 ――Weather!!――


「うそ……どうしてウェザーのメモリが……」


 転倒した際、ガイの懐からウェザーのメモリも投げ出されていたのだ。
 戦いの最中、渡はウェザーメモリの存在に気付き密かにサガークに回収させたという事だ。


「いや、だがなんとかドライバーが無けりゃ使えねぇ筈……」


 そう、キバットが知る限りドライバーが無ければ変身は不能。
 亜樹子から見てもコネクタがついていない人間が使える筈がないと判断しており、ガイに至ってはそもそも使い方を知り得ない。
 しかし渡は構う事無く首輪のコネクタに挿入した。



 ――Weather!!――



 その瞬間、ウェザーメモリに内包された気象の記憶が渡の全身を駆けめぐる――



 それに呼応するかの様に全身に力が漲っていくのを感じる――



 何処からともなく雷鳴が轟いていく――



 ありとあらゆる方向から熱風はたまた冷風が吹き荒ぶ――



 突如として雨までもが降り注ぐ――



 その中心――



 魑魅魍魎跋扈するこの地獄――



 紅渡が此処にいる――



 ウェザー爆現――



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」



 ウェザーメモリ、それは数あるガイアメモリの中でも異質な存在となっていた。
 本来の持ち主である井坂深紅郎が長きに渡る研究の果てに進化を続け――
 渡した張本人である程のシュラウドの予測すら超える物となった――

 その力を以て変身したウェザードーパントの力は絶大。

「くっ……まさかこれ程の力を持つとは……!」

 利用出来ないと思っていた物が強大な牙となって自分に向けられガイは苦い顔をする。

「そんな……竜君がやっと倒した筈なのに……」

 特訓の果てに漸く竜が撃破した筈のウェザーを目の当たりにし亜樹子も俯く。

852愚者の祭典への前奏曲(第三楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:46:55 ID:ApQdx2gE


 だが、この状況下に置いてもキバットはまだ諦めなかった。
 槍の様に降りしきる雨が痛く感じる。それでも何とかウェザーの元に向かう。


「渡! もういいだろ! お前の勝ちだ、殺す事なんかねぇ!!」


 これ以上、渡に凶行を重ねさせない為説得をするのだ。


「裏切られて辛いかも知れねぇ……けど、殺したって誰も喜びはしねぇって解っている筈だろ」
「キバット……」
「なぁ、深央の事が原因だってんならアレはお前だけのせいじゃねぇ」


 キバットが考え付く最も大きな原因は鈴木深央を殺してしまった事だろう。実際、その時太牙にも大きく責められた。
 だが、アレは元々太牙との戦いに巻き込まれた事によるもの、ある意味では事故とも言える。


「俺や太牙にだって責任はあるんだ、お前1人が全てを背負い込む必要はねぇんだよ。
 加賀美の兄ちゃんの事にしたってそうだ、アレはいきなり変身が解けた事による事故だったし何より俺がもっとしっかり止めてりゃ避けられていた筈だ」


 加賀美の一件にしても変身制限による解除がなければ避けられるものだった。


「キングの時はそもそもやらなきゃやられていた、お前が新たなキングになって世界を救うにしても、もっと違うやり方がある筈だ。他人を音楽を奪わないで済む方法がある筈なんだ」


 新たな王としての使命だとしても皆殺しにするだけしか無いという事は無い筈だ。


「耳を澄ませてみろよ……聞こえてくるはずだ、みんなが奏でている音楽が……それを守る事こそが本当にやるべき事じゃねぇのかよ……なぁ……渡……素直になれよ……」


 ウェザーの力が圧倒的なのはキバットも理解している。此処をしくじれば渡をもう二度と取り戻せないだろう。故に必死になって渡を説得する。


 そして――


「キバット……キバットは僕にとって一番の相棒だと思っているよ」


 ウェザー、いや渡がそう応えた。


「渡……当たり前だろ、今までだってそうだったしこれからだって……」
「あの時はごめん……冴子さんと戦った時、キバットなら僕の危機を助けてくれると思ってそれを利用した……」


 渡が口にするのは冴子との戦闘時、あの時渡は自分の危機をキバットが見捨てられる筈がないとその良心を利用した。
 その時の事を謝罪する。


「何を今更、俺とお前の仲だろう? お前の為だったら幾らでも利用されてやるよ」
「ありがとう……だったら……僕のお願いを聞いてくれる?」
「おう、何でも言ってみろよ」


 説得が届いた、キバットは内心で安堵していた。だが、

853愚者の祭典への前奏曲(第三楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:47:30 ID:ApQdx2gE


「キバット……名護さんや父さんを守って……」
「え? 何を言っているんだ? いや、そりゃ当たり前だろうけどよ……」
「それで……全てが終わったら、キバット……太牙兄さんの力になって……僕を……殺して……」
「おい……冗談は顔だけにしろよ……」


 キバットに動揺が奔る、渡は何を言おうとしているのだろうか?


「僕はもう、キバットと共には行けない……」


 渡が口にしたのは明確なる訣別宣言だ。


「何でだよ! 何でそんな事を言うんだよ!! 渡!」
「きっと……キバットや名護さんはこれからも僕を助けてくれる……だけどもう僕はキバットや名護さんを都合良く利用するだけ利用して裏切りたくはないんだ……」
「なんだよそれ……」


 それは渡はこれからも他の参加者を皆殺しにする意思表示であった。
 当然、それはキバット達の願いとは真逆である。
 それでもキバット達は渡が危機に陥れば助けに入るだろう。
 だが、彼等の良心を利用する事は先程亜樹子が仮面ライダーの良心を利用した悪行と同じ事。
 幾ら目的を達する為とはいえ、それは余りにも辛く感じ、同時に醜く見えた。
 故に渡はキバット達を利用する事も、キバット達が良い様に利用される事も容認出来なかった。
 だからこそ渡はキバットと別れる事に決めたのだ。
 それは愚かな選択かもしれない。それでも渡は敢えて選ぶのだ。


「これから先はもうキバットを頼らない……だから……」


 ウェザーが繰り出す竜巻にキバットを飲み込ませ、


「渡! 頼む!! 考え直せ!! 早まるんじゃねぇ!!」
「さよなら……」


 そのまま突風で吹き飛ばした――


「わたるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅー!!!」


 キバットを飲み込んだ竜巻は一気にウェザー達のいる戦場から遠く離れていった――


「名護さんと父さん……それに太牙兄さんを頼んだよ……」


 長年の相棒に別れを告げ、ガイと亜樹子の方に向き直る。


「茶番は終わったか?」
「どうして待っててくれたの?」

 考えてもみれば、キバットが説得している間幾らでも仕掛ける隙はあった。にもかかわらずガイは静かに待っていた。

「貴様が説得に応じた所を狙うつもりだっただけだ」

 ガイ自身ウェザーの強大さは理解している。隙があると解っていても油断は出来ないと判断していた。
 だが、説得に応じ変身を解除したならば容易に倒せる。故にそのタイミングを待ったという事だ。
 仮に説得に応じなくても時間は稼げた。変身時間が少なくなればそれだけでも勝機は見える。
 渡さえ仕留めれば彼の持つ変身道具は総取り、その後はそのままタワーから離れれば良いだろう。
 自身の手で爆破出来ない以上、それに拘るつもりは全く無い。

「偉大なる大ショッカーの為、仮面ライダーキバ、まずは貴様から始末してやるのだ!」
「何度も言わせないで……僕はもう、仮面ライダーでもキバでもない……キングだ!」
「そんな事などどうでも良い……アポロチェンジ!」

 そう言ってガイは本来の姿であるスーパーアポロガイストに変身した。

(恐らく、アレが切り札……でも、僕にはまだ戦う手だてがある……)


 何故渡は何の迷いもなくウェザーメモリを使えたのだろうか?
 その答えは単純、渡の手元にはもう1つガイアメモリがあったからだ。その説明書きを見て首輪のコネクタの存在に気付いたという事だ。
 無論、このことはデイパックの中に閉じこめられていたキバットが知り得ない話だ。
 そのガイアメモリは本来は北岡に支給されていた物、
 それはT2ガイアメモリと呼ばれる次世代型ガイアメモリ、
 それはエターナルを持つ大道克己に重要な関わりを持つ者が持っていたメモリ、
 その名はT2ガイアメモリ・サイクロン、
 それを使う事により風の力を持つ緑の怪人サイクロンドーパントへと変身出来るのだ。

 余談だが先の戦いでキングが使わなかったのはキング自身その力よりも自身の持つファンガイアの力を信頼していたという理由がある。

854愚者の祭典への前奏曲(第三楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:50:15 ID:ApQdx2gE


(何にしてももうキバットには頼れない……でもこれで良いんだ……どんなに愚かであっても……みんなから蔑まれても僕は……)


 揺るぎない決意と共にウェザーは突風、雷、冷気を次々に繰り出していく。スーパーアポロガイストはそれらを回避しつつウェザーに迫る。


 その様子を亜樹子は見る事しか出来ない。全身の激痛から動く事が出来ないのだ。
 こうしている間にも翔太郎達はタワーに近付き、爆発に巻き込まれる瞬間が迫っている。それでも亜樹子にはどうする事も出来ない。

 助けを呼ぶ? 何を今更な話だろう。
 散々人の善意を踏みにじり裏切っておきながら困った時には助けて貰う、あまりにも虫が良すぎる。
 仮面ライダーを裏切りながらその仮面ライダーに助けられる等あまりにも都合が良すぎる話だ。
 仮に助けが来た所でタワーの爆発に巻き込まれる危険がある事に変わりはない。
 それは全て自分自身の愚かな行動が引き起こした結果でしかない。


 残酷な話だが来ない事を願う事が最善と言えよう。それでも――


「助けて……翔太郎君……フィリップ君……竜君……」


 どんなに醜く愚かであっても助けを願わずにはいられなかった――

855愚者の祭典への前奏曲(第三楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:50:50 ID:ApQdx2gE





 亜樹子の呼び声はまさしく祭典への招待――
 だがそれに拘わる者その全ては愚か者達だ――
 言うなればこれは愚者の祭典――
 そしてここまでの物語は未だ前奏曲(プレリュード)に過ぎない――



 無論、前奏曲だけで終わるかも知れない――
 だが破滅的な結末を奏でる輪舞曲(ロンド)に繋がるかも知れない――
 はたまた死者に捧げる鎮魂曲(レクイエム)へ続く事もあるだろう――



 前奏曲から繋がる物語の行方は――



【D-5 右T字路】

【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、返り血、ウェザードーパントに変身中、キバ及びサガに30分、ゼロノスに40分、ゾルダに1時間55分変身不可
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ウェザーメモリ@仮面ライダーW、
    エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤二枚)@仮面ライダー電王
    ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎、ディスカリバー@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×2、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、
    バッシャーマグナム@仮面ライダーキバ、ドッガハンマー@仮面ライダーキバ、T2ガイアメモリ(サイクロン)仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ、北岡の不明支給品(0〜1)
【思考・状況】
基本行動方針:王として、自らの世界を救う為に戦う。
0:アポロガイストと亜樹子を殺す。
1:爆発の危険のある東京タワーへ向かい皆殺し? それとも退避? あるいは……
2:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
3:加賀美の死への強いトラウマ。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。

【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】死亡後
【状態】ダメージ(小)、疲労(小)、恐怖(小)、怪人態に変身中、シザースに1時間55分変身不可、 ボルキャンサー1時間40分召喚不可
【装備】シザースのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、ディスクアニマル(アカネタカ)@仮面ライダー響鬼、インドネシアの魔除けのお面@仮面ライダークウガ、真理の携帯美容師セット@仮面ライダー555、装甲声刃@仮面ライダー響鬼、
【思考・状況】
0:キバ(渡)を倒す。その後はタワーから退避。
1:大ショッカーの意思通り、全ての敵を倒し、世界を破壊する。
2:参加者の変身アイテムを奪う(たとえ自分の力にならなくても)。
3:ディケイド、牙王はいずれ始末する。
4:全てのライダーと怪人にとって迷惑な存在となる。
【備考】
※スーパーアポロガイストの状態ですが、能力は抑えられています。
※制限の詳細な時間設定と能力が抑えられていることを、何となく把握しました。

【鳴海亜樹子@仮面ライダーW】
【時間軸】番組後半(少なくても第38話終了後以降)
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、恐怖(中)、精神的ショック(大)、ファムに変身不可1時間35分変身不可
【装備】無し
【道具】無し
【思考・状況】
0:今更仲間に会わせる顔はないけど助けて欲しい……
1:風都を護るため、殺し合いに乗る。
2:翔太郎や竜に東京タワーに来て欲しくないが……
【備考】
※ 良太郎について、職業:芸人、憑依は芸と誤認しています。

856愚者の祭典への前奏曲(第三楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:53:00 ID:ApQdx2gE















【5:35】



 あれだけ大きく見えていた筈の東京タワーが小さくなっていく――



 ウェザーの力によって吹き飛ばされたキバットは未だその動きを止めなかった――



「ちくしょう……なんでだよ渡……」



 無論、渡の真意がわからないわけではない。



 渡はキバットを守る為、ウェザーの持つ竜巻、及び突風でキバットを危険地帯であるタワー周辺から遠く離れた場所まで飛ばし安全を確保したのだ。
 キバットは度々軽々と投げ飛ばされている。その事実から考えてもウェザーの放つ強い突風を受ければ簡単に遠くまで吹き飛ぶのは自然の流れだ。
 更に言えばキバットはキバに変身時はバックル部となっている事もありその身体は割と頑強だ。ウェザーの突風程度ではダメージは殆ど無い。



 だが肉体的なダメージが無いとは言え精神的なダメージはとても大きかった。



「俺にとっては渡だって大事なんだよ……お前が誰かを傷付けたり傷付けられたりするのを黙って見ていられるわけなんてねぇよぉ……」



 渡の言い分はわかる。恐らく自分は渡が危機に陥ればきっと助けに入る。渡がどんな修羅の道に堕ちたとしてもだ。
 だがそれは本来キバットの望む事ではない。
 渡はキバット自身をこれ以上修羅の道に巻き込むまいと別れを告げたのだろう。
 人を殺す自分といるより、守ろうとする名護や音也と共にいた方が良いと――
 そして全ての決着が着けば太牙と共にキバとして渡を断罪してもらうと――


「だから違うんだよ……俺が渡と一緒にいたのは渡がキバだからじゃねぇ、王だからじゃねぇんだ……渡が渡だからじゃねぇかよぉ……俺に渡を殺す事何て出来るわけねぇに決まっているだろ……」



 だがキバットの言葉は渡には届かなかった。最早、渡を深い闇から助け出す事は出来ないのだろうか?



「もう……駄目なのか……俺達……」



 キバットの瞳から涙が止めどなく溢れ出す、それはさながら闇夜に降り注ぎ続ける雨の様だった――



 そんな時だった――何かにぶつかったのは。



「いてっ……なんだ?」



 何かにぶつかったお陰で漸く止まる事が出来た。だが、一体何にぶつかったのだろうか?



「って、お前は……!」

857愚者の祭典への前奏曲(第三楽章) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:55:40 ID:ApQdx2gE



 それは加賀美の相棒――ガタックゼクター



 そういえばあの戦いの後いつの間にかいなくなっていた。今まで全く気にも留めなかったが――



 そして、何故このタイミングでキバットの前に現れたのだろうか? 全くの偶然? あるいは――



『もしかしたら俺だって君の力になれるかもしれない。いや、俺よりもすごい奴に心当たりはあるんだ』



 キバットの脳裏に加賀美と出会った時の言葉が浮かぶ。
 あの時加賀美は渡を助けようとしてくれていた。その甲斐も空しく死を迎えたものの最後までそれは変わらなかった。
 しかし、加賀美の死は渡に暗い影を落とした。結局の所、加賀美の行動は無駄だったという事なのか――



「まさか……加賀美の兄ちゃん、死んでもまだ渡を助けたいって願っているのか?」



 だが、キバットにはそうとは思えなかった。加賀美が死すともその意志は未だ消えずガタックゼクターが受け継いでいる。



 ガタックゼクターは渡を助け出そうとしていたのだろう。



 それは都合の良い愚かな妄想かも知れないし実際そうかも知れない。



 それでもキバットにとってガタックゼクターは闇夜に惑う者を助ける月に見えた。



 キバットの思惑を余所にガタックゼクターは何処かへと向かおうとする。



「ついてこいって言うのか? 渡を助けてくれそうな奴の所に……」



 真意はわからない。だが、今は選択の余地等無いだろう。



 唯一の問題はその方向がタワーとは逆方向という事だ。とはいえ、現状渡の所に戻っても何も出来ない可能性が高い、



 ならば加賀美の遺志の宿るガタックゼクターに全てを懸けるのも1つの手だろう。



「わかったぜ……加賀美の兄ちゃん、俺はあんたに懸ける!」



 そして今一度タワーの方へ向き直り。



「渡……お前がどんなに修羅の道に堕ちても俺は諦めねぇ……絶対にそこから助け出してやる……だから……それまで死ぬんじゃねぇぞ……」


 かくして、キバットはガタックゼクターに導かれる様に何処かへと向かう。その目的地は未だ見えなくとも――



 心に降り注ぐ雨が上がり――



 月明かりで輝く虹が見えた気がした――



【全体備考】
※大ショッカー製の爆弾@現実及びZECT製の爆弾@仮面ライダーカブトのリモコンが破壊されました。但し、仕掛けられた爆弾そのものは健在です。
※亜樹子の支給品一式、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、ハードボイルダー@仮面ライダーWがD-5 右T字路に放置されています。
※キバットバットⅢ世@仮面ライダーキバがガタックゼクター(及びライダーベルト)と共に何処かに向かいました。何処へ向かうかは後続の書き手さんにお任せします。但し、少なくてもタワーとは逆方向です。

858 ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 16:57:25 ID:ApQdx2gE
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

ご覧の通り、今回容量が77KBとなるので3分割となります。分割点については以下の通り、
>>827-835が第一楽章(23KB)、>>836-844が第二楽章(25KB)、>>845-857が第三楽章(29KB)
ご覧の通り、前中後編ではなく第一〜三楽章という風になります(サブタイトルが『〜前奏曲』故に)。

859二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/06/18(土) 16:59:32 ID:s3BocajI
投下乙です
いやぁ、まさに激闘が始まるって感じの展開ですね
新たに登場したケタロスやサイクロンメモリがどんな展開を導くのか……
そしてキバットとガタックはどこに行くのか……
今後の展開が楽しみになるような大作でしたね!

860愚者の祭典への前奏曲(修正版) ◆7pf62HiyTE:2011/06/18(土) 17:39:53 ID:ApQdx2gE
ちょっと、調べ直した所、ケタロスとヘラクス間違えたので、該当部分である>>838を修正します。以下はその差し替えです。

#####





 東京タワー展望台に激闘の音が響き続ける――



 そしてその上空、ある者が静かに戦いの様子を伺っていた。
 それはヘラクレスオオカブトを模した昆虫コア、
 ある世界――仮面ライダーとワームの戦いが繰り広げられた世界のもう1つの可能性ともかつてあった戦いともとれる世界の仮面ライダー――
 ライダーブレスを持つ資格者の元へと飛来し、装着する事で仮面ライダーヘラクスに変身する力を与える存在、その名は――



 ヘラクスゼクター――



 無論、『彼』が認めし資格者が都合良くこの場にいるわけもない。
 それでも只『彼』は静かに戦場を見つめていた――



【1日目 夕方】
【D-5 東京タワー大展望台1階】

【霧島美穂@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】映画死亡後
【状態】健康、恐怖(小)、仮面ライダーランスに変身中
【装備】カードデッキ(ファム)@仮面ライダー龍騎、鉄パイプ@現実、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式×2、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、大ショッカー製の拡声器@現実、
【思考・状況】
0:浅倉を倒す。
1:あらゆる手を使い他の世界の参加者を倒す。
2:秋山蓮、北岡秀一、東條悟と接触、協力。タワーに来た場合は範囲外に誘導する。
3:城戸真司とは会いたいけれど……タワーには来て欲しくない。
4:今は亜樹子を利用して、一緒にステルスとして参加者を減らす。
【備考】
※大ショッカー製の拡声器は、通常の拡声器より強く声が響きます。

【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 死亡後
【状態】疲労(中)、興奮状態、仮面ライダーインペラーに変身中、テラー・ドーパントに1時間15分変身不可、仮面ライダー王蛇に2時間変身不可
【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダー龍騎、カードデッキ(インペラー)@仮面ライダー龍騎、ライダーブレス(ヘラクス)@劇場版仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVE
【道具】支給品一式、
【思考・状況】
0:美穂を倒す。
1:イライラを晴らすべく仮面ライダーと戦う。
2:特に美穂、黒い龍騎(リュウガ)は自分で倒す。
3:殴るか殴られるかしてないと落ち着かない、故に誰でも良いから戦いたい。
【備考】
※テラーメモリを美味しく食べた事により、テラー・ドーパントに変身出来るようになりました。
※それによる疲労はありません。
※ヘラクスゼクターが浅倉を認めているかは現状不明です。

861二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/06/18(土) 20:33:12 ID:MxH8I5lU
投下乙です。
この先の数々の展開の序章となるであろう大作の執筆、お疲れ様でした。

姿だけで3人もビビらせる浅倉おそろしすぎる。ついに琉兵衛の域に達したか
その後の戦いは手数で言えば美穂が有利、でも相手が浅倉だしなあ

亜樹子の方では、戦いの最中キバットに自らの罪を責められる様が痛ましい
アポロガイストと渡の標的になる結果に繋がったのは因果応報ではあるけれど、このまま死んでしまうのか…?
その渡に突き放されたキバットも、また渡に光をもたらすことは出来るのか
早くしないとやばいぞー!今の渡は装備がとんでもないことになってるぞー!

862 ◆7pf62HiyTE:2011/07/01(金) 21:23:00 ID:zXAeDIxU
牙王分投下します。

863究極の路線へのチケット ◆7pf62HiyTE:2011/07/01(金) 21:25:10 ID:zXAeDIxU



 ――其の牙はやがて全ての物を喰い尽くす為だけ存在している――



 一台のバイクが走る――


 そのバイクはマシンキバー――ファンガイアのキングの証たるキバの鎧を纏った戦士に与えられた『真紅の鉄馬』とも呼ばれているバイクだ。


 無論、今現在それは本来の持ち主が騎乗しているわけではない。
 だが、その者にそれが支給されたのは偶然ではなく必然だったのかも知れない――
 何故なら彼もある意味では『キバ』の『キング』なのだから――


 今まで話に出てこなかった事について不思議に思う方も多いだろう。
 その理由は至極単純、単純に今まで話に上がらなかったというだけなのだ。


 マシンキバーは彼の最初の地点の近くに置かれていた。
 無論、確認だけはすぐにしたがすぐにそれを使おうとはしなかった。
 近くにいた男性を喰らおうと戦いを仕掛けたからだ。
 その際に駆けつけた仮面ライダーや怪人と戦いの後、支給品であったメモリの確認を終えてからマシンキバーの元に戻ったという事だ。
 その後は戦いで疲弊した身体を休めつつ戦いの音を聞きつけマシンキバーの性能を確かめつつ激闘の跡地へ移動、
 それからアテもなくホテル近くまで移動し、そこで一旦マシンキバーを隠した。
 森の中ならともかく平野等では目立つ、目を離した隙に奪われる事は避けたい故である。
 その後は既に語られた通りアテもなく歩いていたら戦いの場に遭遇し、戦っている者達を喰らうべく乱入した。
 その戦いの後、隠してあったマシンキバーの元へ戻り再びアテのない移動を始めたという事だ――

864究極の路線へのチケット ◆7pf62HiyTE:2011/07/01(金) 21:26:25 ID:zXAeDIxU



 ――欲しい物は奪う主義――



 戦いの後、彼はその跡地にて1つの首輪を見つけていた。
 自身同様参加者の首に填められているものだ。無論、それだけでは誰のかは不明――
 だが、恐らくは先の戦いで散った者の首輪なのは想像に難くない。
 いや、彼はそれが誰の物かおおよそ気付いていた――
 それはあの場で戦った白い鎧を身に纏った『王』と自称した男――
 その者の首輪なのだろう。

 状況証拠は一応存在する。
 先の戦い『王』はある参加者に執着していた。詳しい事情に興味は無いが恐らく『王』にとっての『獲物』なのだろう。
 さて、彼と『王』が戦っている最中、『獲物』は最初に仕掛けた女が纏っていた鎧を纏って仕掛けてきた。
 そして『王』と『獲物』は彼を放置して戦い出す。放置された事に苛立ちつつも介入しようとしたがそれは出来なかった。
 彼自身にとっての因縁の相手、小物であり雑魚であるが決して油断のならない存在である特異点野上良太郎とそのイマジン達が現れたのだ。
 彼はイマジンが憑依している良太郎が変身した電王と戦った。
 その最中、ある者が介入してきたのだ。それはこれまた彼自身にとって因縁のあるゼロノス――
 だが、変身者は本来の所有者桜井侑斗ではない。
 それでも誰かについては声で判った。『王』が執着していた『獲物』という事が――
 その後は電王にも『獲物』にも逃げられいつの間にか最初に仕掛けた相手である女もいなくなり自分だけが残ったというわけだ。
 ここで1つ疑問が出てくる。一体『王』は何処に消えたのだろうか?
 いつの間にか逃げた? いや、『王』の執着具合から考え『獲物』を放置して逃げる等まず有り得ない。
 だとすれば考えられる可能性は1つ――

 彼と電王が戦っている間に『獲物』が『王』を仕留めたという事――
 その後、『獲物』は彼を倒すべく仕掛けたという事だ。

 ――と、長々と推測レベルの話をしたが実の所彼はそこまで考えてはいない。

 それは闘争の本能あるいは長年の経験から生じる直感――
 そこから『王』が『獲物』に喰われ首輪だけを残して消えたと判断したのだ。
 理屈などどうでもよい、彼自身がそう感じたという事だ。
 死体が残らなかった事も問題ではない、そもそも自分自身前に倒された時は砂になったわけだからそれと似たものだろう。

 彼が感じるのは悔しさ、
 『王』の実力は彼自身が戦った中でも最上級、それを知らない所で喰われたのが悔しかったのだ。
 上等な獲物は喰われ、それ以外の小物には逃げられてばかり、それ故に満たされない想いを感じていた。

 首輪を手に入れた事については特に理由はない。
 それで『王』が勝手に喰われた悔しさを慰められる等とは全く思っていない。
 只、拾っておこうと思っただけだ。

 逃げた電王達が何処に向かったかについてはある程度推測出来る。
 近くのホテルに向かえば遭遇出来る可能性は高いだ。
 だが、それがわかった所で乗り気にはならなかった。
 何時もならば乗り込んでも良かったが今回は事情が少々異なる。
 この戦いで変身手段を使い切った為、当面――少なくても2時間は戦えない。
 また、仮に1つ程度変身手段が残っていても、そこにいる連中は恐らく小物、そんな小物を喰らうのに変身するのは勿体ないと考えたのだ。
 柄にもない考えではある。だが大物と出会った時に変身出来ず喰らえないというのは面白くない。
 それ故にこの場ではホテルには向かわず、マシンキバーの元へ戻り移動を始めたという事だ。

865究極の路線へのチケット ◆7pf62HiyTE:2011/07/01(金) 21:27:00 ID:zXAeDIxU



 ――詰まらぬ物が多すぎる、相応しい獲物を此の手に――



 先の戦いから少し経った後、東京タワーからある女性の声が響き渡った。
 その範囲は非情に広く、その声を聞いた者達はそれぞれの思惑を胸に東京タワーへと着目し次のリアクションを起こしていた。
 彼は知る由も無いが、彼から逃げる事に成功した『獲物』もそれを聞きタワーへと向かっていた。
 だが、彼はその声を聞いてはいない。故に東京タワーに何の感慨も湧くことなく平原を直進し自身の定めた目的地へと向かった。
 彼が定めしその場所は病院、病院ともなれば良くも悪くも獲物が集う可能性が高いと考えたからだ。
 無論、彼に相応しい程の獲物がそうそう都合良くいるとは思えない。それでも彼は其処へと向かった。


 マシンキバーの性能は絶大、広いフィールドであっても迅速に移動する事が出来る。
 そう時間がかかる事無く病院のすぐ近くの住宅地に到達した。
 だが、彼はそこでマシンキバーを止め近くの家に入り冷蔵庫の中身を適当に物色し喰らい始めた。
 変身が可能となるまでまだ時間がかかる、病院に向かうとしても変身が可能になってからの方が良い。
 故にこの時間を利用して食事しつつ身を休める事にしたのだ。

 その最中、先の戦いで『王』を喰らいゼロノスに変身し彼をも喰らおうとした『獲物』の事を考える。
 あの時はあっさり逃げ出した事もあり下らぬ雑魚と断じてはいた。
 だが果たして『獲物』は下らぬ雑魚だったのであろうか?
 確かに『王』に比べて遙かに弱い。しかしそれは本来の姿では無かったからではなかったのか?
 前述の通りゼロノスの本来の変身者は侑斗、彼以外の者が扱った所でその力を十二分に発揮出来るわけがない。
 侑斗が変身したゼロノスを圧倒している以上、それ以外の者が変身したゼロノスが相手にならないのは当然の理だ。
 恐らく、あの『獲物』の本来の姿は『王』に向かっていった時のあの鎧姿なのだろう。
 そしてその姿を以て彼に匹敵する程の力を持つ『王』を喰らったという事だ。
 その実力は『王』に負けるとも劣らない――過大評価し過ぎだろうがそれでも電王と同等の力を持っていると考えて良い。
 電王如き――と侮ってはならない、彼自身が一度電王に喰われている事実がある以上油断は禁物だ。
 そう、あの時喰われていたのは彼自身だったのかも知れなかったのだ――
 名前は何と言っただろう――確か『王』は紅渡と呼んでいた。
 ならば次出会った時こそ逃がしはしない。今度こそ自身の手で紅渡なる獲物を喰らってやろう、彼はそう考えていた。

866究極の路線へのチケット ◆7pf62HiyTE:2011/07/01(金) 21:27:40 ID:zXAeDIxU



 ――乾いた牙が求める、絶対的な力――



 その時だった、何かが止まる音が響いたのだ。
 彼は誰か来たのかと思い見てみると装甲車、そしてそこから2人の男が降りるのが見えたのだ。
 見た所、何処かで戦ったらしく負傷しているのがわかる。
 喰らっても良かったがどうにも気が乗らなかった。
 まだ変身出来なかった事もあったが何より今小物を喰っても満たされないと感じていたのだ。
 何やら話しているみたいだったがそんな事に興味はない。此方に向かってくるならともかく、そうでないなら手を出す事も無いだろう。
 そう考え、建物に戻ろうとした――


『確かあの未確認生命体はダグバと名乗っていたな?』


 その言葉が耳に入り彼は足を止めた。
 何故その言葉で足を止めたのか? もしかするとその名前に何かを感じていたのかも知れない。
 自身に相応しい獲物である可能性を――

 2人の会話を聞いた所、未確認生命体なる相当な実力を持つ連中が3人いて、特に先程2人が戦ったらしいダグバが圧倒的な力を持っているとの事だった。
 詳しい事は不明だがそれなりに実力があるらしい2人が全く相手にならなかった事からも強大だという事は理解した。
 更にジョーカーこと相川始ならばダグバに対抗しうる力を持つ可能性がある事を聞いた。そして、


『小野寺以外に太刀打ち出来る奴はいない……か』


 小野寺と呼ばれる男――2人の会話によると今装甲車の車内で気絶しているらしい奴の名前を聞いた。
 詳しい事は不明だが小野寺はダグバと同等の力を持っているらしい。
 そして先の戦いにおいてダグバは小野寺の力を引き出す為に他の参加者を喰らったらしく、
 そのダグバの目論見通り小野寺はダグバに匹敵する――究極の力を得たクウガとなったとの事だった。
 その力を持ってしてもまだ足りなかったらしいが、


『きっと、ダグバはこれからも小野寺を追いつめる為に他の参加者を殺し続けるだろう……今よりも憎しみと怒りに支配された小野寺と戦う為に……』


 その言葉が確かならば小野寺は今よりも強くなるという事だろう。
 2人は何処か恐れている様だったがその事を聞いた彼は歓喜した。

 喰らい甲斐のある獲物が見つかった――

 その直後、虎のモンスターが2人に襲いかかったのが見えた。とはいえ、前述と同様の理由からその戦いに介入するつもりは無かった。
 とはいえ自分に飛び火しないとも限らない為何時でも動ける様に――

 と、突如装甲車が走り出した。2人の会話から小野寺が意識を取り戻し動いたという事だろう。
 それを見た瞬間、彼の方針は定まった。

 病院に向かった所で都合良く大物に出会えるとは限らない。
 目の前の2人を喰らった所で大して満たされない。
 ならば、今この場を去っていった大物――究極の獲物を追いかけ喰らうのも一興だろう。

 故にすぐさまマシンキバーへと騎乗し走り出した。装甲車を見失わない為に――

867究極の路線へのチケット ◆7pf62HiyTE:2011/07/01(金) 21:30:00 ID:zXAeDIxU



 ――究極の領域にあるなら、今すぐ奪いに行く――



 住宅地を抜けマシンキバーは草原に出る。
 遠目に装甲車が道路を走るのが見えた。
 進行方向には橋がある、橋を渡り川の向こうの市街地へ向かうのだろう。
 何故戦っている2人を放置し去っていったかについてはどうでも良いし興味もない。
 変身して戦わなかったのは既に変身して当面は変身出来ない程度の理由だろう。
 重要なのは究極の力を持つ獲物が彼の元から去っていく事だ。
 そのまま捨て置くつもりはない、故に追跡するのだ。

 この数時間彼の渇きは癒されなかった。
 喰い甲斐のある獲物になかなか出会えず、出会っても横取りされるか逃げられてばかり、それ故に苛立ちを感じていた。
 だがこの地には未だ見ぬ強大な――究極の力を持つ獲物が数多くいる。
 さぞかし喰い甲斐のある奴等だろう。
 ならばすべき事など簡単だ、今すぐに奪いに行けばよい、逆に喰われた時はそれまでだった程度の話だ。

 ダグバ、クウガ、ジョーカー、それに紅渡に電王よ待っていろ、
 この牙と力は誰にも止められない。必ず喰らい尽くしてやろう――

 今はまだ変身出来ない。それでもベルトとメモリは何時でも使える様にしてある。
 今更ながらにデイパックに入っていた妙なブレスレットも着けておいた。もっとも何に使うかまでは知らないが――

 視線を感じる――いや、この地に来てからずっと感じているが――
 その姿は見えない。だがそれが何であっても構わない、立ち塞がるなら喰らうだけなのだから――


 マシンキバーは道路に出てすぐさま橋へと突入した。
 前方では装甲車が橋を渡っている最中、見失わぬ様に走り続けた――


 その彼をコーカサスオオカブトを模した昆虫コアが見つめていた。
 仮面ライダーとワーム、その戦いが繰り広げられたかつての世界とももう1つの可能性ともとれる世界の仮面ライダー、
 ブレスを持つ資格者の元へと飛来し装着する事により、ある組織の最強戦士仮面ライダーコーカサスへと変身する力を与えるコーカサスゼクター、
 その者はずっと彼を見守っていた――最強、ある意味では究極の力を与える自身に相応しいかを確かめるかの様に――


 其の橋と道路はさながら列車の走る路線であった――


 其の路線は究極へと続く――


 其の列車の次なる停車駅は――


 支配か――


 死か――


【1日目 夕方】
【D-4 橋】
【牙王@仮面ライダー電王】
【時間軸】:死亡後
【状態】:疲労(小)、ダメージ(中)、苛立ち、仮面ライダーガオウに10分、ホッパー・ドーパントに20分変身不可。
【装備】:ガオウベルト&マスターパス@仮面ライダー電王、ガイアメモリ(ホッパー) @仮面ライダーW、ライダーブレス(コーカサス)@劇場版仮面ライダーカブト GOD SPEED、マシンキバー@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式、首輪(キング)
【思考・状況】
基本行動方針:全ての参加者を喰らい、最後に大ショッカーも喰う。
1:装甲車(ユウスケ)を追跡する。
2:クウガ(ユウスケ)、ダグバ、ジョーカー(始)、渡、電王を喰らう。
3:変身が解除されたことによる、疑問。
【備考】
※コーカサスゼクターが牙王を認めているかは現状不明です。

868 ◆7pf62HiyTE:2011/07/01(金) 21:31:00 ID:zXAeDIxU
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

869二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/07/01(金) 21:46:29 ID:yAwyoPYw
投下乙です
ああ、牙王にどんどんとんでもないアイテムが渡っていくなぁ……
そういや牙王って、NEXTでもダグバに興味を持ったな

870二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/07/01(金) 23:08:40 ID:/dT6olpY
投下乙
牙王は東京タワーに向かわずユウスケを追跡していったか
牙王がだんだんチートマーダーになってしまうな

871 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/09(土) 07:08:38 ID:a0iX9Yu6
霧島美穂、浅倉威を投下します

872愚者の祭典 狂える蛇の牙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/09(土) 07:12:38 ID:a0iX9Yu6
 現在時刻、17時20分。
 D−5エリアの中央に高くそびえ立つ、東京タワー大展望台一階にて甲高い金属音が響いていた。
 霧島美穂が変身する仮面ライダーランスと、浅倉威が変身する仮面ライダーインペラーが、それぞれ振るう獲物の激突によって。
 ランスは異様な長さを誇る醒槍ランスラウザーを振るうが、インペラーは右腕に装着したガゼルスタッブで受け止める。そこから、一気にはね除けて体勢を崩させた。
 足元がふらついたランスの胸部に、インペラーはガゼルスタッブを叩き付けた。神速の勢いで激突した事により、ランスは勢いよく床に叩き付けられる。

「ハッ、どうしたッ! その程度かァ!?」
「黙れぇっ!」

 嘲笑を吐くインペラーに怒りを覚え、ランスは起きあがりながらランスラウザーを横薙ぎに振るった。
 しかし、インペラーは背後に跳躍して軽々と避ける。ランスは力任せに振るい続けるが、どれも結果は同じ。
 むしろ回避される度に、インペラーの反撃を受けていた。ガゼルスタッブによって、ランスの鎧に傷が刻まれていく。
 インペラーが振るう攻撃の速度は、確実に増していた。ランスはそう確信する。
 いくらお互い、使い慣れてない代物を使っているとはいえ、戦闘の経験は浅倉の方に分があった。同じ世界に生まれた仮面ライダー達とはいえ、美穂は詐欺師。多くの殺人を犯してきた浅倉に、戦いで追いつく訳がない。

(一体何なんだ……こいつから感じる嫌な物は!?)

 そしてもう一つ。戦いの優劣を決している要素があった。
 先程からインペラー――否、浅倉より感じられる、何か。色で例えるならば、それは黒以外に表現など出来ない。
 生物全てを震え上がらせるような威圧感が、浅倉を見つけたときから肌に突き刺さっている。
 それによって、無意識の内にランスの動きも鈍くなっていた。どれだけ拭おうとしても、決して拭えない。それどころか、逆に強くなっていた。
 払拭に集中しようとしても、その隙を付かれて攻撃されてしまう。かといって、このまま戦っても威圧感が身体に浸食するだけ。
 完全なる悪循環となっていた。

「ああああぁぁぁっ!」

 それでもランスは、何とかランスラウザーを振るって、ガゼルスタッブを弾く。
 ここで負けたら、何の為に自分は生き返ったのか。お姉ちゃんを殺した憎い敵は、誰が討つのか。
 それに、ここで倒れたら自分達の世界は。そしてあのとんでもない馬鹿で、とんでもないお人好しは誰が支えるのか。
 霧島美穂の脳裏に浮かぶ、一人の男。詐欺師である自分の事をひたすら信じて、ライダーバトルを何としてでも止めようとしたあいつ。
 城戸真司。
 恐らくあいつは、この世界でも殺し合いを止めようと動くに違いない。そして、全ての人間を救おうとするだろう。
 でも、それでは駄目なんだ。そんな事をしたら世界を守る事なんて出来はしない。第一、ここには浅倉を死刑に追い込まなかった、北岡修一のような汚い奴だっている。
 そんな奴らと出会ったら、真司は間違いなく騙されるに違いない。だからそんなクズ達は、一人残らず殺す!
 思いを乗せた一撃は、インペラーに突き刺さった。この時、彼女自身は知らないが一瞬だけ、威圧感を振り払う事に成功する。

「ぐっ……!」

 仮面の下から呻き声が漏れ、インペラーは体勢を崩した。それを好機と見て、ランスは槍を握る力を更に込める。
 そして、同じ場所を狙うかのようにランスラウザーを横薙ぎに振るった。飛び散る火花を視界に捉えながら、鎧を切り裂こうとする。
 だがインペラーも、負けじとガゼルスタッブで槍を弾いた。衝撃が両腕に走り、それにつられてランスの足元がふらついてしまう。
 そこに先程のお返しとでも言うかのように、ガゼルスタッブが迫った。しかしランスは瞬時に体制を立て直し、背後に跳躍する。結果、ガゼルスタッブの先端は空振りに終わった。
 ランスとインペラーは距離を取り、互いに睨み合う。そんな中、インペラーはカードデッキから一枚のカードを取り出した。

「ククッ……行くぜぇ?」
「それはっ……!?」

 インペラーが不敵に笑うのを感じる中、ランスは仮面の下で目を見開く。
 相手がカードデッキより取り出したカードには『FINAL VENT』と書かれていたため。それが意味するのは、ミラーワールドで戦う仮面ライダー達が必殺技を使用するために必要なカード。
 それを手にしたインペラーは、右膝を掲げる。インナースーツの上に装着されている羚召膝甲ガゼルバイザーに、差し込んだ。

873愚者の祭典 狂える蛇の牙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/09(土) 07:13:49 ID:a0iX9Yu6

『FINAL VENT』

 そして響き渡る、電子音声。次の瞬間、部屋に張り巡らされている鏡の中から、ミラーモンスターが大量に現れた。
 レイヨウを模したような五種のモンスター。メガゼール、ギガゼール、マガゼール、ネガゼール、オメガゼールと、次々に部屋を埋め尽くしていく。
 その数は、三十を優に超えていた。皆ランスを睨み付けながら、突進する。
 一体のメガゼールは、その手に持つノコギリ状の刃を振るった。しかしランスラウザーによって弾かれ、逆に腹部を貫かれてしまう。
 そしてランスはメガゼールの身体を蹴り、槍を引き抜いた。そこから矢継ぎ早に、ゼール達の攻撃が迫る。
 だがランスはそれらを回避しながら、攻撃を弾いていた。

「くっ!」

 モンスター達の間を縫うように、体勢を低くしながら駆ける。
 このまま真っ正面から戦ったところで、自滅するだけ。例え全て倒したとしても、浅倉が姑息な手段を使って何かを仕掛けてくるかもしれない。
 それに、どうやらミラーモンスターはこの世界では長くいられないようだ。ブランウイングを召喚してから、すぐに消えたのがその証拠。
 ならばこのモンスター達も、時間が経てば消滅するかもしれない。だったら倒すのは必要最低限だけで、インペラーが現れるのを待つ。

(何処だ……浅倉は、何処だ!?)

 ランスラウザーで頭上から来るマガゼールの剣を弾きながら、ランスは辺りを見渡す。
 インペラーはモンスター達の中に隠れて、不意打ちを仕掛けるに違いない。だが、そうはさせるか。
 出来る限り、鏡のない壁や柱を背にして動きながら、インペラーを探す。そしてゼール達が振るう得物を弾いて、反撃を与えた。

「アアアアアアアァァァァァァッ!」

 ギガゼールの腹部を貫いた瞬間、モンスター達の声を掻き消すような咆吼が聞こえる。
 それは、憎きあの男の声である事を、ランスは一瞬で察した。左を振り向くと、案の定見つける。姿勢を低くしながら、ゼール達の間を駆け抜けるインペラーの姿を。
 その姿に、ランスは覚えがあった。あの地下駐車場で三体のミラーモンスターを融合させた後、放った蹴りに入るまでの体勢。
 それをまた、再現しようとしているのだ。

(同じ手を、何度も食わない……!)

 走るインペラーを睨みながら、ランスは脇腹のカードケースから一枚のラウズカードを取り出す。
 こちらの世界で戦うライダーで例えるなら、ファイナルベントに位置するカード。マイティインパクトのラウズカードを、ランスラウザーに読み込ませた。

『MIGHTY』

 電子音声が発せられると同時に、ラウズカードの力がランスに流れ込む。モンスター達の攻撃を避けながら、ランスラウザーを強く握って走り出した。
 ランスとインペラーの距離が、徐々に詰まっていく。ダイヤの形をしたバイザーから、美穂は憎悪の視線を向けていた。
 黒い龍騎の襲撃によって力を失った浅倉を、この手で確かに仕留めたがこうして今生きている。そして、死んだはずの自分も生きていた。
 だったら、何度でも殺す! 例え全てを失おうとも!

「ハァッ、ハッハッハッハッハッ!」
「浅倉ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 狂気と激情の声と共に、距離は近づいていく。やがてインペラーは、飛び膝蹴りを放つように右膝を振り上げた。
 恐らく奴は、必殺技を自分に叩き込もうとしている。しかし、そうはさせない。
 あと一歩の距離までに迫った瞬間、ランスは足を止める。そのまま、高く跳躍した。

「何ッ!?」

 足元から驚いたような声が聞こえる中、ランスはインペラーの背後に着地する。
 そして、振り向きながらランスラウザーを振るった。インペラーも同時にこちらを向くが、もう遅い。
 その手に握るランスラウザーは、眩い光を放っていた。

874愚者の祭典 狂える蛇の牙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/09(土) 07:19:17 ID:a0iX9Yu6

「あああああああぁぁぁぁぁぁっ!」

 お姉ちゃんの仇を取るために――
 全ての因縁に決着を付けるために――
 そして、真司を守るために――
 仮面ライダーランスの想いを乗せた一撃必殺の衝撃波、インパクトスタッブをインペラーに叩き込んだ。
 3400ものAPが、憎き仇に襲いかかる。その威力は凄まじく、インペラーの装甲を容赦なく砕く。やがて、勢いよく壁に激突して、身体が轟音と共に爆発した。
 それと同時に、時間が訪れたのか辺りを埋めていたミラーモンスター達が、ようやく消滅。辺りに残っていたのは、舞い上がる大量の粉塵だけだった。





(これで……また勝ったんだ)

 思わずランスは緊張を解いてしまい、一息ついてしまう。もっとも、まだ油断する事は出来ないが。
 それでも、今だけは勝利の余韻に浸りたい。お姉ちゃんの仇を、再び取れたんだから。
 仮に浅倉が生きていたとしても、必殺技を受けたのだからそう簡単に動けないはず。そう思いながら、ランスは浅倉の生死を確認しようと歩き出した。
 しかしその直後、軽い呻き声を漏らしながら足を止めてしまう。ランスもまた、膨大なダメージを戦いの中で負っていた。
 今すぐにでも休憩しなければならないが、そんな暇はない。何よりも、自分の作戦に付き合ってくれた鳴海亜樹子の事だって心配だ。無事に逃げ切れたなら良いが、危険人物に襲われる可能性だってある。
 頼りないが、この場では利用出来る貴重な存在だ。だからまだ、死なせるわけにはいかない。
 そんな事を考えながら、ランスは再び進もうとする。

「ハハッ……やっぱり戦いってのは、最高だなぁ?」

 直後、不気味な笑い声と共に、煙の中から一つの影が現れた。
 それを見た瞬間、ランスは思わず立ち止まる。仮面の下で、驚愕の表情を浮かべながら。

「浅倉……ッ!?」
「なぁ、もっと続けようぜ?」

 粉塵より、浅倉威が狂った笑顔を浮かべたまま、立ち上がったため。奴の瞳は未だ、血に飢えた猛獣のように獰猛で、それでいて迫力を増している。
 その左手首には、いつの間にか奇妙な黒いブレスレットが巻かれていた。そして反対側の手には、銀と黒に彩られたヘラクレスオオカブトのような機械が握られている。
 それが異世界の仮面ライダーに変身する道具であると、ランスは瞬時に察した。故に、浅倉が行おうとしている事はただ一つ。
 奴の行動を防がなければならない。ランスは痛む身体に鞭を打って、浅倉の行動を阻止しようとする。
 しかし、その動きにはキレと速度が欠けていた。
 一方で浅倉は、そんなランスを嘲笑うかのようにブレスレットの窪んでいる部分に、昆虫形の機械を填め込んだ。

「変身……!」
『HENSIN』

 そして、浅倉の口と機械から、変身を知らせる異なる声が発せられる。刹那、手首に巻くブレスレットから、眩い光と共に装甲が噴出した。
 腕から胴体、上半身と下半身を覆っていき、最後に顔面へと到達。変身の課程が一瞬で、全て終わった。

『CHANGE BEETLE』

 浅倉が変身したのは、地球へ衝突した巨大隕石によって、死の世界となった『カブトの世界』に存在する仮面ライダー。
 ヘラクレスオオカブトのように力強い角、角に仕切られた赤い輝きを帯びる瞳、眩い程の銀色に輝く装甲、左肩に付けられた三本角の突起。
 元々は、自由を求めるためにZECTへ反旗を翻した組織、NEO ZECTのリーダーである織田秀成が資格者として選ばれた戦士、仮面ライダーヘラクスへと浅倉威は変身した。
 ランスはランスラウザーを構え直して、ヘラクスを睨み付ける。しかしヘラクスはランスの事など、まるで意に介さないように脇腹に腰を伸ばし、叩いた。

『CLOCK UP』

 続いて聞こえるのは、機械音声。するとヘラクスの姿は一瞬で消えて、立っていた地面に粉塵を舞い上がらせる。
 何が起こったのか。そう思って身構えようとした瞬間、ランスは右肩に凄まじい衝撃を感じて、体勢が崩れた。続くように、胴体や背中に斬りつけられたような痛みが走る。
 前のめりに倒れようとした瞬間、ランスの胸部が鋭い衝撃に襲い掛かった。海老のように背中が曲がった所に、蹴りつけられた様な重い痛みが脇腹に走る。

875愚者の祭典 狂える蛇の牙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/09(土) 07:21:52 ID:a0iX9Yu6

「くっ……!」

 ランスは何とか全身に力を込めて、落ちそうになる意識を保っていた。
 視界に映っている銀色の影。暴風雨のように襲い掛かる膨大な痛みは、浅倉が引き起こしている。分かりきったことだが、どうしようもなかった。
 圧倒的な優劣が決している速度に加えて、そこから繰り出される猛攻。そして、これまでに蓄積されたダメージがヘラクスへの対抗を許さなかった。

『CLOCK OVER』

 激痛で視界が歪む中、電子音声がまた聞こえる。同時にランスは、崩れ落ちそうになる体をランスラウザーで支えた。
 そんな中、目の前にはヘラクスが姿を現す。奴の右手には手斧が握られていて、それで自分は切り裂かれた。ランスはそう認識するが、最早それに意味などない。
 銀色のライダーへと変身した仇は、一歩一歩と迫ってきた。

「浅、倉……ッ!」
「消えろ……そろそろ」
『RIDER BEAT』

 そして、ヘラクスはブレスレットに装着された機械を、右手で器用に180度回転させる。すると電子音声と共に、そこから膨大な電流が迸った。
 一瞬で右腕にまで流れ、手斧に到達する。直後、ヘラクスは走り出した。
 直後、ようやくランスは立ち上がり、ランスラウザーを振るう。だがヘラクスはそれを呆気なく弾いて、刃を一気に胸板へ叩きつけた。
 ライダービートの一撃は、ランスの装甲を容赦なく砕いて、中にいる美穂にまで到達してしまう。流れる電流はバリバリと豪音を鳴らしながら、彼女の体に流れ込む。

「アッ…………ガ、アッ!」
「ウラアアァァッ!」

 そのままヘラクスは、力任せに手斧を用いてランスの鎧を両断した。異常な程の衝撃によって、ランスは悲鳴と共に床に吹き飛んでいく。
 勢いよく叩きつけられた瞬間、ついに限界を迎えてしまったのか変身が解除された。生身を晒した美穂の胸部は、ライダービートの影響によって凄まじい傷が刻まれている。
 そこからは勿論のこと、全身のあらゆる所から大量の血液が流れていた。もはや重傷と呼ぶにも生温く、ただ死を待つだけの有様。
 それでも美穂は、何とかヘラクスを睨みつける。奴は、自分のことを見下ろしていた。

「ハハッ、今度は俺の勝ちみたいだなぁ……?」

 そして、あいつは手斧を振り上げる。このままでは、自分は殺されてしまう。
 こんな所で、死ぬわけにはいかない。ようやく見つけたお姉ちゃんの仇、浅倉を殺すまでは。
 でも、動かなかった。体は氷のように冷たくなっていくし、言うことを聞いてくれない。
 死にたくない。生きて、真司と一緒に元の世界に帰りたい。
 でも、もう無理なんだ。そんな思いが、彼女の仲で湧き上がっていく。
 そう思った瞬間、彼女は今も何処かで誰かを助けているはずの男を、思い浮かべた。
 あいつは靴紐がほどけてるのにも気づかないほど鈍臭いのに、誰かを守るために戦っている。しかも、一度騙した自分の事すらも信じた。

「お姉ちゃん……真司……」

 美穂の脳裏に浮かぶのは、最愛の姉とそんな馬鹿な真司の顔。今の自分の行動原理とも呼べる、大切な人達。
 二人の名前を呼んだ後、霧島美穂はかつて息を引き取る直前に残した言葉を、心の中で再び告げた。

(バカ真司……靴の紐くらい、ちゃんと結べよな……)

 不意に、彼女の視界は滲んでいく。瞳から、微かな涙が流れたため。
 次の瞬間、ヘラクスが霧島美穂の身体に手斧を叩き付けた事によって、大量の鮮血が吹き出す。
 そして、彼女はこの世界で二度目の死を迎えた。

876愚者の祭典 狂える蛇の牙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/09(土) 07:24:33 ID:a0iX9Yu6





「ハハハッ……呆気ねえなぁ? おい」

 もう二度と動く事のない霧島美穂を、浅倉威は嘲笑うように見下す。その身体には、既に仮面ライダーヘラクスの鎧は存在していなかった。
 ヘラクスのカブティックゼクターが彼を選んだ理由。元の世界で資格者である織田秀成の破天荒な戦い方と、浅倉の戦い方に既視感を感じたからなのか。
しかし、それを誰かに知られる事はない。ここにある事実は、カブティックゼクターが浅倉威を新しい資格者として認める。それだけだった。

「面白えじゃねえか、こいつも」

 浅倉は手首に巻いたライダープレスを、満足げに眺める。
 先程、あの女から必殺技を受けた事によって、インペラーのカードデッキが壊れたのは痛かった。しかしその直後に、あのカブト虫もどきが現れて変身を果たす。
 説明書を読んだ時からクロックアップとか言う能力に興味はあったが、まさかこれほどとは。

「ククッ……行くか」

 そして浅倉は疲れがある程度癒えたのを感じて、立ち上がる。美穂との戦いで、マイティインパクトをその身に受けた状態で戦えば、休息を余儀なくされていた。
 無論、途中で誰かが現れたのなら戦うつもりだったが、幸か不幸か誰もこの場に現れる事はない。もっとも、何よりも戦う事を好む浅倉にとっては、不運かもしれないが。
 何にせよ、これ以上ここに留まるつもりはない。彼は美穂の支給品も手に取り、大展望台を後にした。
 彼が手に入れた支給品の一つ。『SUVIVE』と書かれた仮面ライダー龍騎を、サバイブ形態へと進化させる為のカード。
 もしも彼が、本来の持ち主である城戸真司と出会ったら、どうなるか。そしてもしも、浅倉が霧島美穂を殺したという事実を、城戸真司が知ったらどうなるか。
 この戦いの行く末は、数多もの謎で包まれている。


 浅倉威が去っていった頃、鏡の世界で魔獣達が咆吼している。仮面ライダーインペラーが使役していた、ゼールの名を持つミラーモンスター達が。
 この場で命を奪われた霧島美穂が、カードデッキを破壊した結果。それは数時間前、今は亡き東條悟の持つ仮面ライダータイガに変身するためのカードデッキが、砕け散ったときと同じ現象。
 デストワイルダーが契約から開放された事で心なき獣へと成り下がったように、彼らもまた血に飢えた魔獣と化していた。しかも、今度は一体だけで無い以上、状態は更に悪化しているかもしれない。
 三体のメガゼール、二体のマガゼール、一体のネガゼール、三体のギガゼール、一体のオメガゼール。霧島美穂が変身した仮面ライダーランスによって、ある程度は減らされたものの多い事に変わりはない。
 彼らも、ミラーワールドで咆吼していた。


【霧島美穂@劇場版仮面ライダー龍騎 EPISODE FINAL 死亡】
 残り40人



【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 死亡後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、興奮状態、仮面ライダーインペラーに変身中、テラー・ドーパントに1時間5分変身不可、仮面ライダー王蛇に1時間50分変身不可、仮面ライダーインペラー、ヘラクスに2時間変身不可
【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダー龍騎、ライダーブレス(ヘラクス)@劇場版仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVE、カードデッキ(ファム)@仮面ライダー龍騎、鉄パイプ@現実、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式×3、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、大ショッカー製の拡声器@現実
【思考・状況】
0:次の獲物を探す。
1:イライラを晴らすべく仮面ライダーと戦う。
2:特に黒い龍騎(リュウガ)は自分で倒す。
3:殴るか殴られるかしてないと落ち着かない、故に誰でも良いから戦いたい。
【備考】
※テラーメモリを美味しく食べた事により、テラー・ドーパントに変身出来るようになりました。
※それによる疲労はありません。
※ヘラクスゼクターに認められました。
※ブランウイングは再召喚するのにあと1時間35分必要です。


※カードデッキ(インペラー)が破壊されたため、ゼール軍団が暴走状態になりました。
※メガゼール三体、マガゼール二体、ネガゼール一体、ギガゼール三体、オメガゼール一体、合計十体が残っています。
※ゼール軍団はあと1時間45分現実世界に出現できません。

877 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/09(土) 07:25:08 ID:a0iX9Yu6
これにて、投下終了です
矛盾点などがありましたら、ご指摘をお願いします

878二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/07/09(土) 11:10:13 ID:SgKuJ0ok
投下乙でした。
因縁の対決は浅倉の方に軍配が上がったか……やはりクロックアップ使えるカブト系ライダーは強敵……。
インペラー失ったとはいえ、ファムとランスを手に入れた事に違いは無いし、テラーD、王蛇、ヘラクスと変身数は豊富……こりゃ厄介だなぁ。
そしてゼール軍団暴走……って、タワーの爆弾は健在だからコイツラ暴れて爆発する危険性があるんじゃねぇか……(タイムリミットまで後1時間45分か……)
……確か30以上いた内10まで減らしたわけだから……地味に美穂頑張ったね……
とりあえず浅倉は一旦タワーから離れるのかな?
しかし龍騎系はもう3人か……浅倉が強化されているとはいえこのまま都合良く行くわけもないしなぁ。

指摘点ですが、場所表記(多分まだタワー内だろうけど)が抜けている事と状態票の『仮面ライダーインペラーに変身中』が記載されている(既に変身解除している筈)点ぐらいかな? (どちらもwiki収録時修正で良いかな?)

879 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/09(土) 11:21:24 ID:a0iX9Yu6
ご指摘ありがとうございます
場所に関しては、氏の言うように【D-5 東京タワー大展望台1階】 で大丈夫です
収録時に、修正致します。

880 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:38:19 ID:VW54G.5w
左翔太郎、紅音也、浅倉威、相川始分投下します。

881愚者のF/幕間劇 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:39:24 ID:VW54G.5w



【5:35】


「ちっ……」

 蛇革のジャケットを纏った男浅倉威が舌打ちをした。
 約10分程前、東京タワー展望台での戦いを済ませ、一旦身を休めるべく東京タワーから離れようとしていた。
 無論、このまま待っていれば新たな参加者が現れ更なる戦いとなる。それ自体は戦いを望む浅倉としては全く問題はない。
 しかし先の戦いでの疲労やダメージは思ったよりも大きい、向こうが戦いを挑むなら戦うつもりではあったが、少々休みたいと考えていた。
 故に東京タワーから離れるという判断を下したという事だ。

 だが、物事はそこまで都合良くいかない。いざ離れようと自身が乗ってきたバイクの所に向かったものの、誰かが持ち去っていったらしくそれは無かった。
 先程の舌打ちは折角の移動手段を奪われたが故のものであった。
 とはいえ何時までも苛立っていても仕方がない。浅倉は足早に移動を開始した。


 この後も戦いが繰り広げられるであろう東京タワーから離れるという選択、それは戦いを求め続けた浅倉にしてみれば意外な選択と感じる者も多いだろう。
 確かに人によっては浅倉を人間ではなくモンスターと断じる者もいる。しかし浅倉は知性のないモンスターではなくそれを有する人間だ。
 そもそも知性のないモンスターであるならばこれまでの仮面ライダーの戦いを戦い抜けるわけがない。特に戦いにおいては意外と知恵が回るのが浅倉威という人物なのだ。
 故に消耗した状況に陥った事を踏まえタワーからの退避を選んだという事も決して不思議では無いという事だ。

 更にもう1つ退避を選んだ決め手が存在する。それは先程手に入れたある道具だ。
 それは大ショッカー製の拡声器、先程のある女性の呼びかけに使われた物だ。つまり、適当なタイミングで拡声器を使い参加者を誘き寄せ戦うという事だ。
 絶対に来るという確証はない。だが放送が届きさえすればある程度の参加者……バカでお人好しの城戸真司辺りはほぼ確実にやって来るだろうし、少なくても自分の世界の仮面ライダーは来るだろう。
 だからこそ今というタイミングで退避という選択を選べたのである。

 どの道当分は自身のデッキである王蛇は使えない。先の戦いで使ったヘラクスの力は絶大でそれなりに気には入っているが、使い慣れた王蛇の方が合っている。
 故に王蛇を使えない今というタイミングは敢えて休む事にしたのだ。

 何処に行こうか? 別に深く考えているわけではない。しかしその進む方向は巨大な川へと向かっていた――

882愚者のF/幕間劇 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:40:00 ID:VW54G.5w



【5:03】


『だからお願い、東京タワーまで来て! 大ショッカーの言いなりになって戦わないで、一緒に世界を救う方法を探そうよ!』


 ――東京タワーから響いた亜樹子の呼びかけ、だがそれは危険人物を招き寄せる両刃の剣だ。俺達は亜樹子や集まった人々を守る為に東京タワーへと向かった――


 F-5のマンションからD-5にある東京タワーまでは距離がそれなりにある。
 無論、左翔太郎と相川始がマンションで手に入れたサイドカーサイドバッシャーの機動力ならばそこまで時間はかからないだろう。
 翔太郎達はある程度距離を短縮し他の参加者よりも早く迅速にタワーに辿り着く為に、大きな道路を通らず敢えて平原を突っ切るルートを選んで走り続けた。
 その最中――


「ジョーカーの男……」
「ああ、解っている」

 E-5を差し掛かった辺りにて1人の男が歩いているのが見えた。
 進行方向から見て目的地がタワーなのは明白、十中八九鳴海亜樹子の呼びかけを聞いた上で向かっているのだろう。
 問題は亜樹子の言葉に従い集おうとする善良な参加者なのか、呼びかけを利用して集った参加者を蹂躙する危険人物なのかだ。
 出来うるならばいち早くタワーに向かいたい。しかしこのまま放置するというわけにもいかないだろう。
 そう考えている中、バイクの音を聞きつけたのか男が此方を振り向いてきた。

「相川さん」
「わかっている」

 その男の思惑は不明、だが危険人物なら足止めすべきだろうし、善良な参加者ならば退避して貰う様話を付けておくべきだろう。
 タワーでの混戦を利用し参加者を減らそうと考えている始としても不確定要素は極力排除したいと考えている。故に翔太郎の考えに従う意を示した。
 そして男の近くまで来てサイドバッシャーを停止させる。

「アンタ、もしかしてタワーに向かっているのか?」
「ああ、お前等もそうなんだろう?」

 わかっていた事とは言え男の目的地もタワーだった。だが、戦場となるタワーにみすみす向かわせるわけにはいかない。

「これからタワーは戦いになる、だから……」
「レディー達を助けに向かわなければならないんだろう?」

 タワーに向かうな――そう言い切る前に男が答えた。
 真偽は不明だ。しかし男の言葉が真実であるならば恐らく亜樹子(をレディーと呼んで良いのかは正直微妙だが)を助ける為に向かうのだろう。
 無論、それをそのまま鵜呑みにするつもりは無いわけだが、

「お前は……」
「俺様は紅音也、千年に一度の天才だ。そういうお前達は何者だ?」
「……相川始」
「俺は左翔太郎、探偵だ」

 男が紅音也と名乗った事で2人も互いの名前を音也に伝える。すると、

「左……もしかして霧彦の野郎が言っていた仮面ライダーがアンタか?」
「!? アンタ霧彦に会ったのか?」
「ああ、女に捨てられた事を嘆いていたな」
「女に捨てられ……ああ、そういや……」

 翔太郎がミュージアムの幹部園咲霧彦と最後に会った時、彼はミュージアムの危険性を警告していた。
 その直後、霧彦は表向き事故死した――が、実際は彼の妻にしてミュージアムの幹部にしてフィリップこと園咲来人の姉である園崎冴子に始末されている。

「まぁそれでもアイツは冴子を取り戻そうと必死だったみたいだがな。その点は褒めてやっても良い」

 何にせよ、翔太郎の知り合いである霧彦がそこまで話していた事から敵対はしていなかったという事だろう。
 とはいえ裏切られても冴子を愛していたであろう霧彦にその後の彼女の動向は流石に伝えられないと思ったが。

「……霧彦は殺し合いに乗っていたのか?」
「いいや、アイツも大ショッカー打倒を考えていた」
「そうか……ん、ちょっと待て、霧彦の奴今何処にいるんだ?」

 一時期行動を共にしその後別行動を取ったのは明白、故に霧彦が何処に向かったのかを問う。

「アイツは……」

 音也は霧彦が先の戦いで致命傷を負い命を落とした事を話した。

883愚者のF/幕間劇 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:40:30 ID:VW54G.5w

「世界に良い風を吹かせるために――そう言って俺達を行かせた、人類の味方・仮面ライダーに後を託してな」
「霧彦……また、託されちまったな……」

 何故か生きていた霧彦が死亡した事に対しショックが無いわけではない。
 それでも変わらず風都のみならず多くの世界を守る為に戦った霧彦の遺志に応えなければならない。

「俺『達』?」

 そう聞き返したのは始だ。言われてみればその言葉から考えて他に同行者がいた事になる。

「ああ、言っていなかったな。アイツの持っていたメモリとスカーフは天道と乾の奴等が持っている筈だ。そういえば乾の奴がアイツのスカーフを洗濯するって約束していたな」
「乾……確か木場さんの知り合いだったな……」

 乾といえば今は亡き木場勇治が話していた乾巧だ。
 木場は彼の世界における仮面ライダーであるファイズに気を付けろと話していた。
 木場の世界に存在するドーパントの様な存在オルフェノク、その中でも人間の心を失った悪のオルフェノクが大企業スマートブレインと共に人間達や人間との共存を望むオルフェノクを襲っているらしい。
 そしてスマートブレインで開発されたファイズが木場達善なるオルフェノクを狩っているという話だ。
 音也が木場の知り合いである巧と行動を共にしていたならファイズについてもう少し詳しい話が聞けるかも知れない。そう考えたものの、

「……情報交換するのは勝手だがタワーに行かなくて良いのか?」

 始が口を挟んだ事で止められた。
 とはいえ始の言い分はもっともだ。音也から話を聞く事自体が無駄とはいわないが、こうしている間にも刻一刻と亜樹子に危機が迫っている。
 それを踏まえるならば必要最低限だけ話を聞いて落ち着いた際に今一度情報交換すべきだろう。

「そうだった、悠長に話している場合じゃねぇ……」
「そうだ、というわけで俺にそのバイクを貸してもらおうか」

 と、音也がサイドバッシャーを貸せと言いだしてきた。

「ちょっと待て、なんでそうなる!?」
「言ったはずだ、レディー達を助けに行くと。だからお前達は歩いて来い」
「それは俺も同じだ、乗せる分には構わねぇから後ろに……」
「巫山戯るな、何が悲しくて男の後ろに抱きつかなければならん」
「気持ち悪い事言うんじゃねぇ!!」
「……どっちでも良いから早くしろ」

 無駄な事で言い争う2人に対し呆れ気味な始であった。


 結局、男の後ろに乗りたくない音也がサイドカーに乗り、始が翔太郎の後ろに乗る形となり移動を再開した。


「……なるほど、あの呼びかけを行ったのは左の事務所の所長なんだな」
「ああ、亜樹子の奴無茶しやがって……」
「着いてくるなとは言ったが士や矢車の野郎が来るかも知れん。特に士の野郎は通りすがりの仮面ライダーとか抜かす変な奴だったからな」


 その道中、翔太郎が呼びかけを行ったのが亜樹子である事を説明すると共に、音也は病院で門屋士と矢車想の2人に会った事を話す。


「通りすがりの仮面ライダー……か」
「ん? 知り合いか?」
「ああ、ちょっとな」


 敢えて語らなかったが、翔太郎は士こと通りすがりの仮面ライダーディケイドと面識がある。
 特に『死人還り』事件の犯人であるダミードーパントを追跡した際にディケイドと共闘した時には印象深い出来事があった。
 戦いを終えた後、ディケイドは翔太郎に1枚のカードを渡した。それは翔太郎の師匠であり亜樹子の父でもある鳴海荘吉の変身する仮面ライダースカルのカード、
 そのカードの力で別世界の仮面ライダースカルが現れた。無論それに変身しているのは翔太郎の世界の荘吉とは別の存在のソウキチではある。
 だが、そのソウキチは翔太郎の事を認めてくれた。別世界の荘吉とはいえ翔太郎にとってそれは非情に嬉しかった。


「(そうだ……別世界とはいえおやっさんが俺を認めてくれたんだ……認められる程出来ているとは思ってねぇが……それでも、おやっさんの遺志は俺が……いや俺『達』が受け継いでいるんだ、それには応えねぇとな……)」


 そして程なくして3人を乗せたサイドバッシャーは東京タワー一帯へと入っていった。

884愚者のF/幕間劇 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:41:00 ID:VW54G.5w



【5:18】


 逃走した危険人物からの奪取を避ける為サイドバッシャーを東京タワー下部の建物の裏に止め、3人は内部に突入した。
 すぐさま3人は建物内部を探索し亜樹子他集った参加者を捜した。

 それから約10分、建物内を探索したものの他の参加者は誰も見つける事が出来なかった。

 実の所、亜樹子は彼等が建物の裏に回っている間に建物から離脱していた。だが、その際に潜んでいたアポロガイストの襲撃に遭遇。
 その後アポロガイストは亜樹子を連れそのままタワーより離脱――
 結論から言えば翔太郎達と亜樹子達は行き違いという形となったということだ。

 3人がすぐさま展望台に向かわず下部建物を探索したのは展望台は退路が限定される為いる可能性が低いと考えていたからだ。
 だが実際はこの時、展望台にて戦いが繰り広げられていた。いや、それどころかその前は鉄塔を上りながら戦っていた。
 仮の話だが、3人がその様子を目の当たりにしたのであればすぐさま展望台に向かうという選択をしただろう。
 しかし結論から言えばその様子を見る事は無かった。
 死角に入っていたのか、周囲に警戒を回しつつ移動していたが為にそこまで把握しきれなかったか、また別の理由があったか、それは不明ではあるが事実として確認はしていない。
 更に展望台は下部建物から上方100メートル強の高い場所にある。それ故、激闘の音は3人に届かなかった。
 もし3人が早々に展望台に向かっていたならば展望台での戦いの敗者が命を落とす事も無かったかもしれない。

 彼等の選択が多少なりとも違ったものであったならば、この祭典の行方も幾らか変わったものになっただろう。
 亜樹子と合流を果たす事も出来たであろうし、消えゆく命を1つ守る事も出来たかもしれない。

 結果的に彼等は舞台の一幕に上がる事が出来なかったというわけだ。
 今現在繰り広げられているのはいうなれば幕間劇(インテルメディオ)――

 だが、彼等の選択が間違っていたのかと断ずる事は出来ない。そう、彼等が下部建物を探索した事により――

885愚者のF/幕間劇 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:41:30 ID:VW54G.5w



【5:29】


 下部建物3階で3人は一旦集い互いの成果を話す。

「紅、亜樹子の奴は?」
「いや、俺は見ていない。それどころか人っ子1人見あたらないな、それに……」
「くっ、何処行きやがった……」

 未だ他の参加者を見つけられず翔太郎は焦りを感じる。そんな中、

「もうタワーから離れたのかも知れないな」

 始がそう口にする。

「ちょっと待ってくれ相川さん、確かにここにいるのは危険だ。だが、亜樹子自身が呼び出しておいて離れるとは……」

 勿論、早々に退避しているならばそれに越した事はない。だが亜樹子が他の参加者を危険にさらしたまま離れるとも思えない。

「少々厄介なものが見つかった。もしあの女がそれを見つけたならば……」

 そう言って始はその場所に案内した。そこにはある物が仕掛けられていた。

「こいつは……」
「爆弾だな」

 それは爆弾、それも大ショッカー製の爆弾だ。
 少し調べた程度だが時限爆弾ではなくリモコンの電波を受信して遠隔爆破するタイプである事まで把握出来た。詳細の火力までは把握し切れていないがそれなりの威力を持つ事だけは確実だろう。

「実は俺も同じ様な物を見つけた。もっとも俺のは大ショッカー製じゃないがな」

 と音也が別の場所に2人を案内する。そこには、

「ZECT……」

 そこにもリモコン製の爆弾が仕掛けられていた。但し始が呟いた通り、大ショッカー製ではなくZECT製ではあるが。

「天道の世界の組織で作られた奴だな」
「そういやあのバックルとアレにも同じ様なロゴがあったな……」

 翔太郎と音也がそれぞれ口にする中、

「他にも仕掛けられているかもしれない……」

 始が爆弾が大量に仕掛けられている可能性を指摘する。

「ちょっと待て、もしそれが一斉に爆発したら……」
「最悪この周囲一帯が消し飛ばされる、最低でも東京タワー倒壊は避けられないだろうな」

 その場合、ここに集おうとする参加者の命が一斉に奪われる事になる。

「解除する……そんな時間はねぇか」

 起爆装置の解除という手段は使えない。1つ解除出来た所で1つでも爆弾が爆発した時点で全てに誘爆してしまい同じ結果になる。
 全て解除するという手段も爆弾の総数が不明瞭であり、東京タワー一帯を全て調べるのは非現実的だ。その前に起爆装置のスイッチを入れられた時点で終わりである。

「それどころか戦いに巻き込まれて爆発するかも知れんな」
「……ん、アレは?」

 そんな中、窓ガラスの奥に何かの怪物が数匹映っているのが見える。

「アンデッド……いや違うな」
「もしや、コイツ絡みか?」

 と音也がカードデッキを取り出す。説明書によるとミラーモンスターの力を借りた仮面ライダーに変身出来るとあった。
 恐らく、映っている怪物はミラーモンスター絡みの存在だろう。

「……つまりこの近くにあの怪物を使う奴がいるって事か? だが、それなら何故仕掛けて来ねぇんだ?」
「仕掛けて来ない……いや、仕掛けられないのか?」

 怪物の正体は仮面ライダーインペラーの使役モンスターメガゼール等に代表されるゼール軍団だ。
 この直前の展望台での戦闘においてカードデッキが破壊された事で契約から解放され、東京タワー一帯で蠢いていたのだ。やって来た参加者を仕留めるべく――
 とはいえ、デッキの契約から解放されてもこの場における制限が存在する以上、今暫くの間は襲いたくても襲う事は出来ない。もっとも、今暫くである以上何れ解放される瞬間が訪れる事に違いはない。

「襲ってきた所で後れを取るつもりはない……が」
「下手に戦えば……いやそれどころか、あの怪物が下手に暴れた時点で……」

 もし、この場所が戦場になった場合、攻撃の余波に爆弾が巻き込まれる可能性は否定出来ない。
 その時点で爆弾が爆発しタワーが倒壊あるいは消滅する事はおわかり頂けるだろう。
 故に、この場所で戦う――それどころか駐留する事だけでも非情に危険だという事だ。

「冗談じゃねぇ! 早く亜樹子達を見つけねぇと……」
「……ジョーカーの男、お前は気付いていないのか?」

 焦る翔太郎に対し始が口を挟む。

「何だ相川さん、無駄話している時間は……」
「この爆弾は一体誰が何の目的で仕掛けたものだ?」

 始が指摘するは、爆弾を仕掛けた人物と目的だ。

「そりゃ東京タワーに集まった参加者を……ん、ちょっと待て……」

886愚者のF/幕間劇 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:42:25 ID:VW54G.5w

 爆弾を仕掛けた目的は十中八九、東京タワーに集った参加者を一網打尽にする為だ。
 だがこの仕込み具合から考えて準備には少々手間がかかるのは容易に予想が付く。
 しかし、そうそう都合良く東京タワーに参加者が集うとは限らない。
 タワー1つを犠牲にして1人か2人では少々お粗末な成果と言えよう。

 が、ここで都合良く亜樹子が参加者を集めるべく周囲数エリアに届くぐらいの呼びかけがあった。
 良くも悪くもこれで参加者が集うという条件はクリアされる。爆弾を爆発させる最良のタイミングが出来上がるというわけだ。
 では、爆弾を仕掛けた者は亜樹子の呼びかけを利用したという事なのだろうか?

 その可能性は確かにある。だが、亜樹子の呼びかけを耳にした後、この策を思いつき東京タワー一帯に仕掛けるには少々時間が足りない。
 そもそも仕掛けている間に他の参加者がやって来た時点で御破算となるだろう。
 つまり、爆弾を仕掛けるタイミングは亜樹子の声を耳にした直後の僅かな時間、約10数分程度という事になる。
 だが、その時間を拡張する方法が存在する。
 それは至極単純、亜樹子の呼びかけの前だ。
 しかし、呼びかけ前に爆弾を仕掛けた所で都合良く東京タワーに集める呼びかけが行われるとはならない筈だ。
 が、1人だけ事前に呼びかけが行われる事を把握している人物がいる。


「いや、そんな筈はねぇ……」

 その結論に思い至るものの翔太郎はそれを否定する。

「相川、お前が言いたい事はこういうことだな。
 呼びかけを行った亜樹子自身が爆弾をしかけたと――」

 だが、音也がその答えを明言する。

「そうだ。下手に呼びかけを行った所で殺し合いに乗った奴等に殺されるのがオチだ。
 だが、これを逆に利用して連中を仕留める機会を作る事が出来る」

 口にはしないが始自身この機会を利用して一網打尽にする事を考えていた。
 亜樹子が頭の回る女ならば同じ事を考えても不思議ではない。

「ちょっと待ってくれ、殺し合いに乗った連中だけが集まるわけじゃねぇ。亜樹子の言葉を信じた奴等だって来る筈だ……」
「あの女は自分の世界を救う為に他の世界の連中を倒そうとしているんだろう……(そう、俺と同じ様に……)」

 始は亜樹子が自分同様自身の世界を救うべく他の世界の参加者を倒そうとしていると指摘した。

「冗談でもそんな事口にするんじゃねぇ! 亜樹子が人を泣かせる事をする筈が……!」

 翔太郎は始の指摘を否定する。
 かつて風都と其処に住む人々を守ってきた荘吉の遺志を継ぎ翔太郎達と共に戦ってきた荘吉の娘である亜樹子が人々を泣かせる真似をする事など決して無い筈だと。
 しかし、内心では否定しきれないでいた。
 単純に他人を傷付ける訳ではない、自分の住む風都を守る為にやむなく他の世界の人々を倒すという事なのだ。
 翔太郎自身それを全く考えなかったわけではない。だからこそ仮に始の指摘通りだったとしても一方的に非難する事など出来はしない。
 指摘している始にしても彼女の言葉が嘘だとは思いたくはない。だが、自分と同じ結論に至り非情な選択を取る彼女の心中を理解出来なくはない。
 それでもここで倒れるわけにはいかない、故に危険性を指摘したという事だ。

 三者の間に緊張が奔る――


「――それで?」


 その緊張を破ったのは音也だった。


「紅……」
「左、お前言ったよな。亜樹子が人を泣かせる筈がないと、だったらお前がそれを信じないでどうする?」
「あ、あぁ……」
「紅音也、だが状況から見て……」
「だからどうした? 亜樹子にしても自分の仲間を守る為にやっているんだろう? 男だったらそれぐらい笑って許してやれ、まぁ後でデートを2回か3回ぐらいさせてもらうがな」
「いや、デートって……」
「それに、相川の仮説通りなら俺や左がいる状況で爆破する事も無いだろう」

 確かに亜樹子自身が爆弾のスイッチを握っているのであれば翔太郎を巻き込む事など有り得ない。それをする事は本末転倒でしかないからだ。

「ちょっと待て、ジョーカーの男はともかく紅は関係……」
「大ありだ、何しろ俺様が死ねば世界中の女が悲しむからな」
「亜樹子お前と面識ねぇ筈だろ……」

887愚者のF/幕間劇 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:42:55 ID:VW54G.5w

「大体だ、亜樹子1人でそれを行ったとは限らないだろうし、別の奴がスイッチを握っているかもしれないだろう」
「確かに亜樹子1人でそこまで出来るわけもねぇしな……」
「別の奴か……」

 一連の事を成す為には最低でも声を届かせる為の道具と爆弾が必要だ。しかし1人の参加者の手元にそれらが都合良く揃うとは限らない。
 また翔太郎から見ても亜樹子1人だけでここまで行う事は少々不自然だ。協力者の可能性は考えておくべきだろう。
 それに、事を成した直後に誰かに襲われスイッチを奪われた可能性も否定出来ない。

「真相はどうあれ急いで亜樹子を探し出してここから離れた方が良いだろう」
「そうだな、後探していないのは展望台か……ん?」

 そんな中、窓の外から1人の男がタワーから離れる様に足早に移動しているのが見えた。
 この状況でわざわざタワーから離れる所から見て、既にタワーで事を成し翔太郎達とは行き違う形で退避しようとしているのだろう。
 あの男が爆弾のスイッチを握っている可能性もある。仮にそうだとするならば早々に確保すべきだろう。

 いや、それだけではない。あの男を見た所一目見ただけでも異様な何かを感じたのだ。特に翔太郎と音也にとっては何処かで感じた何かを。
 その危険性から見ても殺し合いに乗っている可能性が高い。どちらにしても放置して良い存在ではない。

 だが、タワー内にいる可能性のある参加者の探索も急務だ。とはいえ、其方を優先するあまり退避している男を放置するわけにもいかない。
 どうすべきかと考える中、

「ジョーカーの男、紅音也、お前達はあの男を追え。あのバイクを使えばすぐに追いつけるはずだ」

 始がそう提案してきた。同時にそれはタワーにいるであろう参加者は自分が探す事を意味している。

「相川さん……」

 亜樹子の事も心配だが危険人物を放置するわけにはいかない。故に始の提案自体は悪いものではない。
 だが、翔太郎には懸念があった。始が自身の世界を守る為にタワーにいる参加者を殺すのではないかと。
 故に始の提案をそのまま受け入れられないでいる。

「俺が信用出来ないならさっさとあの男を止めて戻ってくればいいだけだろう?」

 躊躇する翔太郎にそう言い放つ始、その一方。

「相川、お前俺達をタワーから遠ざけるつもりか?」

 音也が口を挟む。

「スイッチ云々関係無しにタワーが危険である事に変わりはない。俺達を守る為に遠ざける……聞こえは良いがお前はどうするつもりだ? 死ぬつもりか?」
「死ぬつもりはない」

 音也の指摘に対し始はそう応えた。

「左、行くぞ。もしかしたらあの男が亜樹子達の行方を知っているかも知れん」
「わかった。相川さん、もし亜樹子や他の参加者を見つけても……」
「させたく無いのならば早く行け、ジョーカーの男」


 始の言葉が終わらない内に音也と翔太郎は走り出した。
 始が手を出さないでいてくれるだろうと完全に信じたわけではない。
 それでも始の言動を見る限り、他者を傷付ける為ではなく大切なものを守る為に戦っている事だけは確実だ。
 無論、その為に誰かを傷付けて良いという話ではないわけだが――

 だが翔太郎も音也も知っている。
 人々を脅かす側にいる者ではあっても、彼等の中にはそれぞれに守るべきものがありそれを守る為に戦っている者がいると――
 翔太郎の友であった霧彦はガイアメモリを流通させるミュージアムにいたが彼は彼なりに風都の未来の為に戦っていた。
 音也の仲間であった次狼、ラモン、力達はそれぞれ人間のライフエナジーを糧にするモンスターの一族であったが彼等もまた自分達の種族の存続の為に戦っていた。

 恐らくは始も同じなのだろう。彼にも彼なりに守るものがあるという事だ。少なくてもそれだけは信じられる。
 もし、害を為す存在ならばその時止めれば良い。故に今は守る為に行動を起こすべきだろう――

 2人は足早にサイドバッシャーの所まで戻り騎乗し、男の向かった方向へと走り出した――

888愚者のF/幕間劇 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:43:30 ID:VW54G.5w



【5:41】


 一方で残された始は展望台に続くエレベーターの中にいた。

「剣崎……」

 1人となった始が口にするのは今は亡き友剣崎一真の名だ。


 音也と士は病院で遭遇した矢車とキバット族のキバーラから彼等と同行していた光夏海の死を聞かされていた。
 士はその事で強いショックを受けていたが、その間音也はキバーラ達からもう少し話を聞いていた。
 詳しい事までは不明ではあったが、病院で黒いカブトの襲撃に遭い、変身不能状態に陥った矢車達4人(と1匹)は危機に陥ったらしい。
 その際に彼等と行動を共にしていた剣崎が命を懸けて矢車達を病院から退避させたという事だった。恐らくは最早死亡していると考えて良い。
 その直後、矢車達が連れていた男が凶行に及び夏海が殺されたという話である。

 音也はタワーまで移動する間に、何れ来るであろう士達の事を話す際にその事も翔太郎と始に話していた。
 表向き始は何事も無い様に振る舞っていたが内心では唯一『友』と呼べる人物である剣崎の死にショックを受けていた。

 とはいえ全くその可能性を考えていなかったわけではない。
 自分同様ラウズカードが揃っておらず全力の出せない状況、更にカリスに変身した自身を凌駕する参加者が存在する以上、敗北し命を落とす可能性は大いにある。
 聞けば変身不能という状況で襲撃されたというではないか。自分だってその状況に追い込まれれば同じ結果になるだろう。

 ショックを受けた以上に感じていた事はある。
 やはり剣崎は誰かを守る為に戦い、そして死んでいった――剣崎らしいと感じた。
 剣崎が剣崎らしく戦って散った事は自分としても非情に誇らしく思う。
 剣崎の戦いを侮辱する事は誰にもさせたくはない。

 だが――

「やはり俺はお前と同じ道は行けない――」

 本来ならば自分が剣崎の遺志を継ぐべきなのかもしれないし、きっとそれは剣崎自身も望んでいる事だろう。
 それでも、自分にとっては自分の世界、いやその世界に住む栗原親子を守りたいという想いが何よりも強い。
 だからこそ、殺し合いに乗り、そうして既に1人仕留めた。今更引き下がるつもりはない。
 理解を求めるつもりはない。それでも世界を滅ぼす存在であるジョーカーではなく、人の心を持った相川始として考えた末の結論だ。
 それは例え相手が剣崎であっても簡単に譲るつもりはない。

「それに、お前の遺志を継ぐ人間は他にいる」

 言うまでもなくそれはジョーカーの男こと翔太郎、そして音也達といった人々を守る為に戦う仮面ライダー達だ。
 異なる世界の仮面ライダーである翔太郎達が剣崎の遺志を受け継ぎ大ショッカーを打倒せんと動く筈だ。
 翔太郎達が大ショッカーを打倒出来るならばそれに越した事はない。自身の優勝はそれが困難だった時の話だ。

 だからこそ、翔太郎達を爆破及び倒壊の恐れのあるタワーから退避させたという事だ。
 剣崎達の遺志を継ぐ者達をそう簡単に死なせるわけにはいかない。それ故の提案だったのだ。死んだ時はそれだけの存在ではあるが死なせて良いという事にはならない。
 無論、タワーに残った自分自身死ぬつもりは全く無い。アンデッドである自身が爆破程度で死ぬとは思わないし、なるつもりは全く無いが最悪の場合は本来の姿に戻れば対処は可能。
 そういう意味で考えても自身が残り2人を行かせるという案は非情に理に適っていた。

 亜樹子達を見つけた時の対処については正直決めかねている。
 本来ならば殺すべきだろうが、自身の提案を受け入れてくれた翔太郎達の事を考えると多少なりとも思う所はある。
 どちらにしても殺し合いに乗っている危険人物ならば殺すつもりだ、そこを譲るつもりはない。
 仮に自分の世界を守る為という理由があったとしてもそれは始にとっても同じ事、それを理由に命を見逃すという話にはなり得ない。
 何にせよ、実際に遭遇しない事にはわからないだろう。

889愚者のF/幕間劇 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:44:40 ID:VW54G.5w

 そして何時しか展望台に辿り着く。
 結論から言えばそこには女性の死体が1つ残っていただけだった。それが誰のものかまでは不明、亜樹子のものかも知れないしそうでないかも知れない。
 恐らく下手人はタワーから出て行った男。恐らく今頃翔太郎達が戦っている筈だ。
 同時にそれは自分にとっても敵である。打倒しなければならない存在だ。


「負けるなよ、お前がジョーカーであるならばな――」


 そう呟いた――


 そして、始は死体から視線を逸らし足を進める――


 愚者達の踊る祭典劇、次なる幕へと――


【1日目 夕方】
【D-5 東京タワー大展望台1階】

【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり
【状態】罪悪感、若干の迷いと悲しみ
【装備】ラウズカード(ハートのA〜6)@仮面ライダー剣、ラルクのバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE
【道具】支給品一式、不明支給品×1
【思考・状況】
1:栗原親子のいる世界を破壊させないため、殺し合いに乗る。
2:タワー内の探索を続ける。発見した参加者については……
3:当面は左翔太郎の前では、カリスに変身しない。
【備考】
※ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。
※時間内にヒューマンアンデッドに戻らなければならないため、変身制限を知っています。時間を過ぎても変身したままの場合、どうなるかは後の書き手さんにお任せします。
※左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。また、翔太郎の雄たけびで木場の名前を知りました。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。

890愚者のF/野外劇 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:45:20 ID:VW54G.5w



【5:42】


 2人はサイドバッシャーで男の追跡を続ける。
 タワーを出た時には随分と小さく見える程遠くに見えたがバイクならば十分追いつく事は可能だ。
 迅速に男に接触し危険人物ならば無力化し早々に始のいるタワーに戻らなければならない。

(それにしてもなんだこの嫌な感じは……)

 その最中、翔太郎は男を見た時に感じた不可思議な感触を思い返していた。
 心の奥底に震えを感じる様な、出来うるならば避けたい様な、そういう嫌な感触だ。
 いや、それ以前に翔太郎はこの感触に覚えがある様な気がしていた。
 だが、確証には至らない。感じたとはいえそれは僅かなものでしかないからだ。
 が、それが何であれ男を放置するわけにはいかない。いち早く追いつこうと――

 その時、ほんの一瞬男が此方を振り向いてきた。そして向き直った後男は走り出す。

「左、あの野郎逃げるぞ!」
「わかってる!」

 逃がすつもりはない、スロットルを上げて加速する。相手が走り逃げようとしてもバイクの加速には遠く及ばない。
 追いつく事はそう難しくはない。


 そして、男が足を止めるのを確認し翔太郎達もすぐさま男の横に周りサイドバッシャーを止めた。
 その場所は丁度川の傍、想像以上にタワーより離れてしまった様だ。
 何はともあれ2人はサイドバッシャーから降り男――2人は名前を知らないが浅倉と対峙する。
 浅倉は2人を見ても不敵に笑みを浮かべるだけだ。
 緊張が奔る中――音也が最初に口を開く、

「面倒な話をするつもりはない、爆弾のスイッチを渡してもらおうか?」
「おい紅!?」

 もしそれでいきなりスイッチをちらつかせて来たらどうするつもりだと言いたげな表情を翔太郎が見せる。
 無論、音也もそれぐらいの事は考えている。奴が下手に動いた時はデッキの契約モンスターを川から召喚し奇襲を仕掛ける算段だった。
 だが、

「爆弾? 何の事だ?」
「爆弾を知らない……」

 浅倉は爆弾の事を知らない様だった。

「それより、お前達も仮面ライダーなんだろう? だったら戦え」

 そう言って白いカードデッキを取り出す。ある程度予想出来ていたがこれで確信した。
 この男は殺し合いに乗っているのだと。

「仮面ライダーだったら戦う……どういう意味だ?」

 だが、翔太郎は男の口にした言葉が気に掛かりそう問いかける。
 目の前の男は無差別に襲うというよりは仮面ライダーと優先して戦おうとしている様に見えたからだ。

「仮面ライダー同士は戦うものじゃないのか?」

 翔太郎の問いに対し浅倉は当然の様に仮面ライダーは互いに戦うものだと言い放った。
 が、翔太郎にとってそれは容認出来るものではない。
 自分達にとって仮面ライダーは風都の人々を守る戦士である自分達に対し風都の人々が自然と呼んだ呼称の事だ。
 言うなれば風都を守る象徴とも言える存在なのだ。
 翔太郎から見れば他の世界の仮面ライダーもそれぞれの世界と人々を守る存在であるべきだと考えている。
 木場の世界ではそうではないらしいから必ずしも当てはまるわけではない事は一応理解はしているし、
 先に出会った黒い仮面ライダーやNEVERとの戦いの際に現れたエターナルの様な悪の仮面ライダーの存在も知っている。
 だが、あくまでも仮面ライダーは人々を守る存在でなければならない。それを汚す存在を許すわけにはいかない。

「違う……仮面ライダーは人々を守る心そのものだ……人々を泣かせる様な奴が仮面ライダーであるわけがねぇ……その名を汚す奴は俺が許さねぇ!」

 メモリを取り出しつつ浅倉に言い放つ。

891愚者のF/野外劇 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:48:05 ID:VW54G.5w


 ――Joker!!――


「お前も変なメモリを持っていたのか?」
「そうだ、その声漸く思い出した。お前、あの蛇の仮面ライダーか?」

 メモリに反応を示す浅倉の声から、音也は最初の戦いで遭遇した蛇の仮面ライダーに変身した男だという事に気が付いた。

「そういやお前……すぐに寝た奴か」
「人聞きの悪い事を言うな。ちょっと油断しただけだ……それはそうと乾達に聞いたがアギなんとかやらアンなんとかやら口走る妙なメモリを持った男を追ってったらしいじゃないか?」

 音也は浅倉にそう問いかける。

「どういう事だ、紅?」

 翔太郎は音也の言おうとした事がわからず音也に聞き返す。

「ああ、言わなかったか? 確かテラとかいうメモリを使った男だったな。そいつを追っていったらしい」
「テラ……テラーだと!? そういう事か……」

 翔太郎は音也達がテラーメモリを支給された男の攻撃を受けた事に気付いた。
 テラーの能力は強い恐怖を植え付けるというもの、その直撃を受けたのであれば音也がすぐに気絶をしても不思議ではない。
 同時に目の前の男が発する威圧感の正体にも気が付いた。それはテラーが有する『恐怖』の力の事に間違いない。
 以上の事から1つの仮説が導き出される。恐らく浅倉はテラーメモリを支給された男を追跡し――

「まさかあんた……」
「ああ、奴は俺が倒した。で、そいつの持っていたメモリは……喰った、意外と美味かったぜ」

 倒されたという事自体は予想通りだ。だがその後の返答は翔太郎達に取って想像を絶するものであった。

「なっ……ガイアメモリを喰いやがったのか!?」
「なるほど、その力を取り込んだって所か」
「いや、そんな話聞いた事ねぇよ……ていうかそれが出来るとしたら厄介じゃねぇか……」

 仮にテラーメモリを普通に挿入したのではなく、直接喰う事で取り込み力を得たとするならば面倒な事になる。
 人間の姿のままでドーパントの力を使えるという事になり、同時にメモリそのものがすでに存在しない以上ブレイクする事も不可能という事になる。
 更にドーパントの姿に変身出来るならば本来の持ち主であった園咲琉兵衛に匹敵する脅威になる事は容易に推測出来る。

「どちらにしてもやるしかないようだな」

 と、音也もカードデッキを構える。自身の持つイクサの力を使わないのは後々の為に温存する為である。

「そのデッキは……面白い、やるか」


 三者はそれぞれメモリとデッキを構える。2つのデッキが近くの川に映る事により音也と浅倉にVバックルが装着され、翔太郎もロストドライバーを装着しメモリを挿入しメモリに印されし『J』を展開する。


「「「変身!!!」」」

 ほぼ同時に2人はデッキをバックルに挿入し、翔太郎はドライバーを展開する。
 それにより音也と浅倉にそれぞれエイ、白鳥を模した鎧が装着され、仮面ライダーライア、及びファムへの変身を完了し、


 ――Joker!!――


 メモリから漆黒の粒子が展開され翔太郎の躰へと集っていく。その末に翔太郎は漆黒の躰と赤の複眼を持つ仮面ライダージョーカーへの変身を完了した。

892愚者のF/野外劇 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:48:35 ID:VW54G.5w


「ハァッ!」


 最初に動いたのはジョーカー、すぐさま純白の戦士であるファムへと迫り拳による攻撃を仕掛けようとする。
 だがその前にファムは背中のマントから無数の白い羽根を展開する。それにより視界を阻まれたジョーカーの攻撃が一瞬遅れる。
 そして攻撃は空振り、白き羽根だけが舞い上がった。


「後ろだ」


 と、ジョーカーのすぐ背後にファムが回り込み召喚機羽召剣ブランバイザーで刺そうと迫っていた。


「くっ!」


 しかし何とかファムの動きに気付いたジョーカーはその腕でブランバイザーを弾く。


 ――SWING VENT――


 が、その僅かな隙を突きファムがジョーカーを蹴り飛ばした。


「がぁっ!」


 更に追い打ちをかけようとするファムだったが横から何かが飛んでくる。


「俺を忘れるな?」


 と、2人が戦っている間にライアがエイ型の召喚機飛召盾エビルバイザーに1枚のカードを挿入し契約モンスターエビルダイバーの尻尾を模した電磁鞭エビルウィップを出現させファムに仕掛けてきた。
 ファムは何とか攻撃を回避する。


「そういやそうだったな」
「それよりその鎧、どう見ても女物だな」

 そんな中、ライアがファムの姿について口を挟む。その指摘通りファムの姿は女性型である。少なくても男性が身に着けるものではない。

「蛇のライダーに変身しないのはどういう事だ? いや、もう変身して今は使えないって所か?」
「さぁな」

 そう言いつつファムは1枚のカードをブランバイザーに挿入し


 ――SWORD VENT――


 薙刀ウイングスラッシャーを出現させ構える。


「まぁそんな事はどうだって良い。お前……そのカードデッキを持っていた女をどうした?」
「紅、なんで女だと……」


 体勢を整え直しつつそう口を挟むジョーカーだが、


「この鎧の中身がむさいオッサンだったら気持ち悪いだけだろう。それに美しい鎧の中身は美しい女性と相場が決まっている」
「言いたい事はわかるけどよ……」
「で、どうなんだ?」
「倒したに決まっているだろう」


 ライアの問いを平然と応えるファムに対し、ライアは淡々と1枚のカードをエビルバイザーに挿入する。


 ――COPY VENT――


 電子音声と共にファムの持つウイングスラッシャーをコピーして出現させその手に構える。


「その女の為にも負けるわけにはいかないな」
「お前、あの女の何だ?」
「俺は全ての女の味方だ」


 そう言ってウイングスラッシャーでファムに仕掛けるが、ファムも自身のウイングスラッシャーで応戦する。


「俺を忘れるんじゃねぇ!」

893愚者のF/野外劇 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:49:05 ID:VW54G.5w


 その背後にジョーカーが飛び込んでくる。ファムはブランバイザーで貫く事で迎撃しようとする。
 しかし、ジョーカーは貫かれる前に躰をひねる事でそれを回避しそのまま回し蹴りを仕掛ける。
 同時にライアもエビルウィップをしならせつつファムへと飛ばす。
 その二段攻撃を――

 無数の白き羽根を展開し回避した。同時にウィップはジョーカーの足に絡みつき。


「ぐっ!」
「悪いな左」


 その隙を逃さぬ様にファムの攻撃が迫る。
 だが2人はファムの攻撃を回避し逆にファムに仕掛けようとする。
 それでもファムは2人の攻撃を回避し同じように2人に仕掛けていく。

 3者は共に歴戦をくぐり抜けた戦士だ。
 使い慣れないあるいはスペック的に低いライダーであっても積み上げた経験の高さが不足分を十分に補っている。

 2対1という状況に加え、既に度重なる激闘で疲弊しているファムに変身している浅倉にとっては圧倒的に不利な状況かも知れない。
 が、浅倉の取り込んだテラーの力がほんの僅かだが2人の精神に影響を与えていた。
 正体を把握出来ている以上、根本的に影響を及ぼすという事はない。
 しかし僅かに刻まれた恐怖心が攻撃をほんの一瞬遅らせている。
 浅倉にとっては一瞬だけで十分だ。白い羽根を展開し目眩ましが出来れば回避は出来る。
 故に状況を一言で纏めるならば一進一退と言えよう。


 そして戦いが進む毎に疲労が蓄積されるのは当然の理だ。


「はぁ……くっ、こいつ強ぇ……コイツを倒すには……」


 目の前のファムは出し惜しみ出来る相手ではない。マキシマムドライブで一気に決めるべきだろう。
 だが問題は折角発動したマキシマムドライブを回避される可能性だ。回避された場合は一転して危機に陥る。

 その最中、ライアが1枚のカードを装填しようとしていた。そのカードはファイナルベントハイドベノンを発動させる為のカードだ。


「させるかよ」


 ファムがウイングスラッシャーでエビルバイザーに強い一撃を叩き込む。その衝撃は強く左腕を痺れさせる程だ。


「ちぃっ!」


 しかしすぐさまライアの持つウイングスラッシャーで反撃をかける。
 だが、衝撃により攻撃がワンテンポ遅れている。故にファムは難なく自身の持つウイングスラッシャーの返す動きでライアの持つウイングスラッシャーを弾き飛ばした。


「紅!」


 だが、その僅かな間にライアは川のある後方へと後退しつつ持ち替えたエビルウィップを放ちファムの持つウイングすらシャーを絡め取る。


「脇が甘い!」


 全力でエビルウィップを引っ張りファムのバランスを僅かに崩す。


「! 今なら……」


 ジョーカーはメモリをマキシマムスロットに挿入し直しボタンを押す、


 ――Joker!! Maximum Drive!!――


「ライダーキック」


 高く飛び上がり漆黒の光を纏った飛び蹴りをファムへと仕掛けようとする。


「ぐっ……!」


 一方のファムもそれに気付き白き羽根を大量に展開し視界を阻む。
 だが、エビルウィップで絡め取られている状況ならばそう移動は出来ない筈、故にジョーカーはこのまま押し切ろうとした。

894愚者のF/野外劇 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:49:35 ID:VW54G.5w


 そして――


 白き羽根が舞い降りる中、ジョーカーは確かな手ごたえを感じてた。


「やったか……」


 そう思い視線をファムの方に向けるがそこにファムはなく、


「なっ……」


 白鳥を模した盾ウイングシールドが置かれていた。


「盾だと……まさか……」


 そして周囲を見回し見つけた――


 ファムのブランバイザーによって腹部のVバックルを貫かれているライアの姿を――


 その瞬間、何が起こっていたのだろうか? 今一度客観的に振り返ろうではないか。

 迫るジョーカーの攻撃を回避すべくファムは無数の羽根を展開する。
 だが、それは目眩ましには使えても回避に直接役立つわけではない。
 故に羽根はあくまでも次の行動の為の布石でしかない。
 その直後ファムは敢えてウイングスラッシャーを投げ捨てライアからの拘束から抜け出した。
 そのまま1枚のカードをブランバイザーに装填、そのカードは――


 ――GUARD VENT――


 ウイングシールドを出現させるガードベント、それを使いライダーキックを防ぐのか?
 いや、ウイングシールドの装甲をもってしてもライダーキックの直撃を受ければ只では済まない。
 故に――ファムはウイングシールドをジョーカー目掛けて投げ飛ばした。

 羽根により視界が阻んでいたジョーカーはそのままウイングシールドにライダーキックを命中させる。
 無論、このままではそのままの勢いでファムに命中する事だろう。
 しかし若干だが遅れが生じる。故にその僅かな間に今いる位置からある物の所に向かう。

 それは先程弾き飛ばしたライアのコピーしたウイングスラッシャー、それを拾い上げ今度はライアの方に投げ込む。
 羽根によって視界が遮られているとはいえ、素直に当たるライアではない。
 エビルバイザーでその攻撃を防ぐ。

 だが、それこそがフェイントであった。この瞬間、ライアに大きな隙が生じる。
 その隙を見逃す事無く――


 ブランバイザーでVバックルに装填されているデッキを貫いたのだ。


「ぐっ……」


 攻撃そのものはデッキを破壊したに過ぎない。故にダメージそのものは致命的なものではない。
 だが、デッキを破壊された事でその力を失い、音也を纏うライアの鎧は消失した。


「まずい!」


 ジョーカーが叫ぶ、しかしファムは攻撃の手を緩めず更なる追撃を懸けようとする。


「……思い通りにいくと思うなよ」


 だが、音也はすぐ後ろに飛び攻撃を回避する。
 が、背後には川がある。故に音也はそのまま川へと落ちていった。


「紅!!」
「まず1人か……」


 ファムはすぐさまジョーカーに向き直る。


「くっ……このままじゃ紅が……」


 川の流れは思ったよりも速く音也の消耗具合を考えればこのまま流され溺れ死ぬ可能性も否定出来ない。
 戦いの中で大分距離を開けられた事もありサイドバッシャーを回収する余裕も無い。
 それ以前にこのままファムが見逃すわけもない。
 どうすればいいのか思案していたが――

895愚者のF/野外劇 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:50:05 ID:VW54G.5w


 その瞬間、川からエイが飛び出してきた。ライアの契約モンスターだったエビルダイバーだ。
 エビルダイバーはそのままファムを襲撃しようとする。一方のファムはブランバイザーでエビルダイバーの攻撃を軽くいなす。


「あのモンスター……俺達を助けて……?」


 エビルダイバーにとってファムに変身している浅倉は宿敵である。
 本来のライアである手塚海之と浅倉が因縁深い相手だからだ。
 そしてその因縁はデッキの契約が切れても消失するわけではない。
 故にエビルダイバーは自らの意思で敵へと向かっていく。


「いや、そんな事はどうでもいい……待ってろ紅!」


 その事情をジョーカーは知る事はない。だがエビルダイバーがファムに仕掛けてくれたお陰でチャンスが出来た。
 ジョーカーは迷わず川に飛び込み音也を助けに向かった。


 その間にもエビルダイバーはファムに執拗な攻撃を仕掛けていく。
 ファムはそれを何とか凌いでいくが蓄積された疲労やダメージのお陰で動きは若干鈍い。
 そして遂に限界が訪れブランバイザーを落としてしまう。

 これはチャンスだと全力で体当たりを仕掛けようとする。
 それに対しファムは――何を思ったか別のカードデッキを構える。

 そしてそこから1枚のカードを取り出した。


「もう一度俺の物にしてやる……お前をな」


 ――CONTRACT――


 それは王蛇のデッキにあるベノスネイカー以外のモンスターと契約する為のカードだ。
 元々度重なる戦いの中で王蛇はエビルダイバーとメタルゲラスと契約をしていた。
 しかしこの地ではそのモンスターを失っており、その代わりとして契約のカードが入っていた。
 そして、奇しくもエビルダイバーを掌中に収める機会が訪れたというわけだ。
 無論、全てを計算していたわけではない。だがライアのデッキを見た瞬間、あわよくば程度には考えていた。

 契約のカードから放たれし光――
 体当たりしようとしていたエビルダイバーはそれを回避出来ずそのまま吸い込まれる様に――
 かくして契約のカードはエビルダイバーのカードへと変化した。

 そして変身を解除し元の浅倉の姿に戻る。
 度重なる激闘のせいかダメージと疲労は無視出来ないレベルまで蓄積していた。
 戦えというならまだ戦うが、正直暫く何処かで休息を取りたい所だ。

 そんな中、置き去りにされたサイドバッシャーを見つける。幸か不幸か移動手段が手に入った事に浅倉は笑みを浮かべる。


「あばよ仮面ライダー。こいつは貰っていくぜ」


 そう言って、サイドバッシャーに乗り込み何処かへと走り去っていった。


 かくして1つの野外劇(ページェント)はこれで幕を閉じる。
 それでもこの祭典(Festival)はまだ終わらない。


 舞台で踊り続ける愚か者達がいる限り――


 そして、次なる幕は既に何処かで上がっているのかも知れない――


【D-4 平原】

【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 死亡後
【状態】疲労(極大)、ダメージ(大)、興奮状態、テラー・ドーパントに35分変身不可、仮面ライダー王蛇に1時間10分変身不可、仮面ライダーインペラー、ヘラクスに1時間20分変身不可、仮面ライダーファムに2時間変身不可
【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダー龍騎、ライダーブレス(ヘラクス)@劇場版仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVE、カードデッキ(ファム)@仮面ライダー龍騎、鉄パイプ@現実、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE、サイドバッシャー@仮面ライダー555
【道具】支給品一式×3、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、大ショッカー製の拡声器@現実
【思考・状況】
0:移動し少し休息を取り、その後次の獲物を探す。
1:イライラを晴らすべく仮面ライダーと戦う。
2:特に黒い龍騎(リュウガ)は自分で倒す。
3:殴るか殴られるかしてないと落ち着かない、故に誰でも良いから戦いたい。
【備考】
※テラーメモリを美味しく食べた事により、テラー・ドーパントに変身出来るようになりました。またそれによる疲労はありません。
※ヘラクスゼクターに認められました。
※ブランウイングは再召喚するのにあと1時間10分必要です。またエビルダイバーを再召喚するのにあと2時間必要です。
※エビルダイバーが王蛇と契約しました。王蛇のデッキにはまだ契約のカードが存在します。

896愚者のF/野外劇 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:50:35 ID:VW54G.5w



【5:54】


 流れの速い川を何とか泳ぎジョーカーは音也を捕まえる事が出来た。

「紅、大丈夫か!?」
「ああ、何とかな……」

 音也の意識がハッキリしている事から命に別状は無い様だ。

「よし、後は向こう岸に……」

 そう思った瞬間、ジョーカーから漆黒の粒子がパージされ元の翔太郎の姿に戻った。

「なっ!? どういう事だ!?」

 変身が解除された事により急激に力を失い一気に流されていく。

「ああ、確か10分ぐらいしか変身出来ないらしい」
「って、そういう大事な事は先に言え!」

 川の勢いのまま流されていき、何時しかD-4に掛かる橋の下を通過していく。

「おい左、何か向こう岸に渡れる道具無いのか?」
「んな都合の良い物あるわけ……」

 そんな中、突如翔太郎のデイパックから銀色のカブトムシ型の何かが飛び出してきた。

「何だ? 天道の知り合いか何かか?」
「いや……こいつは……」

 それは翔太郎自身に支給されたカブトムシ型昆虫コアハイパーゼクターである。
 説明書きを見る限り、その世界のマスクドライダーに更なる力を与えるものらしい。
 その最中、ハイパーゼクターは何処かへと飛び去ろうとしていた。

「って、アイツ何処かにいっちまうぞ?」
「おい、何処行くんだ!?」

 ハイパーゼクターは応えない。
 近くに自身に相応しい者の存在を感じたのかも知れないし別の思惑もあるかも知れない。
 その真相はハイパーゼクターだけが知る事だろう。
 程なく、ハイパーゼクターは遙か上空へと飛び去っていった。


「って、このままじゃ海まで流されちまう!」
「おい左、あんまり抱きつくな。俺にそっちの趣味はない」
「俺だってねぇよ!」


 川の流れは強く気が付けばE-5に入っていた。振り向くとタワーが段々と小さくなっていく。


「くっ……亜樹子……フィリップ……無事でいてくれよ……」


 ――川の流れに逆らう事が出来ず俺と紅は流されていく。紅を助ける為とはいえ、結果的に亜樹子達を見捨てる事になってしまった。
 仮面ライダーに変身出来ない俺は亜樹子達の無事を祈る事しか出来なかった……そして、非情な現実を突き付ける放送が流れる瞬間は刻一刻と迫っていた――

897愚者のF/野外劇 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:51:05 ID:VW54G.5w


【E-5 川】

【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(小)、疲労(中)、悲しみと罪悪感、それ以上の決意、仮面ライダージョーカーに2時間変身不可
【装備】ロストドライバー&ジョーカーメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)、翔太郎の不明支給品(0〜1)、木場の不明支給品(0〜2) 、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト、首輪(木場)
【思考・状況】
0:何とか岸に上がり、東京タワーに戻る。出来れば音也と情報交換をしたい。
1:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
2:出来れば相川始と協力したい。
3:カリス(名前を知らない)、浅倉(名前を知らない)を絶対に倒す。
4:フィリップ達と合流し、木場のような仲間を集める。
5:『ファイズの世界』の住民に、木場の死を伝える。(ただし、村上は警戒)
6:ミュージアムの幹部達を警戒。
7:もしも始が殺し合いに乗っているのなら、全力で止める。
【備考】
※木場のいた世界の仮面ライダー(ファイズ)は悪だと認識しています。
※555の世界について、木場の主観による詳細を知りました。
※オルフェノクはドーパントに近いものだと思っています(人類が直接変貌したものだと思っていない)。
※ミュージアムの幹部達は、ネクロオーバーとなって蘇ったと推測しています。
※また、大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※ホッパーゼクターにはまだ認められていません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。

【紅音也@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第46話終了後
【状態】ダメージ(小)、疲労(大)、仮面ライダーライアに2時間変身不可
【装備】イクサナックル(プロトタイプ)@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式、不明支給品0〜2
【思考・状況】
0:何とか岸に上がり、東京タワーに戻る。
1:最後まで生き残り、元の世界に帰還する
2:女性を見たらとりあえず口説く。冴子辺り探してみる。
3:乃木怜治、村上峡児、キングを警戒。間宮麗奈については会ってから判断。
4:もう一人の自分に嫌悪
【備考】
※変身制限について天道から聞いています。
※天道の世界、巧の世界、霧彦の世界の大まかな情報を得ました。
※参加者達の時間軸に差異が出る可能性に気付きました。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。

【全体の備考】
※カードデッキ(ライア)@仮面ライダー龍騎が破壊されました。契約モンスターのエビルダイバーは王蛇と契約済です。
※ハイパーゼクター@仮面ライダーカブトが何処かに向かいました。何処へ向かうかは後続の書き手さんにお任せします。

898 ◆7pf62HiyTE:2011/07/16(土) 18:54:15 ID:VW54G.5w
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

ご覧の通り、今回容量が46KBとなるので前後編となりますとなります。分割点については以下の通り、
>>881-889(始の状態票まで)が『愚者のF/幕間劇』(25KB)、>>890-897が『愚者のF/野外劇』(21KB)となります。

899二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/07/16(土) 22:33:26 ID:9oRrVohw
投下乙です!
ああ、浅倉はまたしてもパワーアップしたか……
始の方も、これからどうなるか気になりますね

900二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/07/18(月) 18:31:16 ID:5azdEwDY
投下乙です。
翔太郎たちの情報交換の量に、ストーリーはどんどん進んでると実感。
その翔太郎&音也にファム戦後でも勝っちゃう浅倉が脅威すぎる。
さらにモンスターを一匹増やして、王蛇の本領発揮に一歩近づいたか。

一つ気になった点を。
川に流される翔太郎と音也の現在地点が【E-5 川】となっていますが、wikiのマップではE-5は平原です。
もしかしてどこか別の場所と間違えているのでは。

901 ◆7pf62HiyTE:2011/07/18(月) 19:28:06 ID:ufW5pDV.
>900
マップを見直して確認した所、ご指摘の通りどうやら勘違いしていました。
翔太郎&音也の最終的な位置は【E-3 川】です。
その為、只今wikiに収録された部分を修正致しました(ついでに一部誤字も修正致しましたので此方もご報告。)。

902 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/28(木) 09:03:48 ID:W3fd4Pf6
乃木怜司、金居、葦原涼、紅渡、アポロガイスト、鳴海亜樹子を投下します

903愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/28(木) 09:05:15 ID:W3fd4Pf6
 葦原涼は悩んでいた。
 自分が今、どうするべきなのかを。
 野上良太郎達を助けるために、ホテルに戻るべきなのか。
 ここでじっと待って、ホテルから東京タワーに向かう参加者に情報を伝えるか。
 それとも東京タワーに向かって、鳴海亜樹子を助けに行くか。
 つい先程出会った二人の男、乃木怜司と金居は東京タワーから発せられた亜樹子の放送が、罠だと語った。
 理由は、無力な善人を装って参加者を誘き寄せて、仕掛けた罠で一網打尽にする。
 確かにその言い分は理に適っていた。亜樹子は殺し合いに乗ると宣言し、良太郎達から去る。
 それでも、彼女を疑いたくはなかった。詳しい事は知らないが、良太郎達が行動を共にした女。
 だから根は悪い奴ではないはず。

(だが、それでは良太郎達が……)

 金居の言葉によると、ホテルの付近では戦いが起こっていたらしい。それが意味する事は、彼らに危険が迫っている事だ。
 東京タワーに向かう事は、彼らの事を見殺しにする意味も含んでいる。いくら三人が戦えるとはいえ、この世界には想像を絶するような実力者もいるはずだ。
 それでは彼らが無事でいられる可能性も、無くなってくる。

「それで乃木、あんたはこれからどうするつもりだ?」
「今更東京タワーに戻ったところで、馬鹿となるだけだ……ならば、一から戦力を集めるだけだ」
「あんたも大変だな……まあ、俺はさっきも言ったように情報集めの為に行動するが」

 悩む涼の耳に、金居と乃木の声が入り込んだ。それを聞いた彼は、ようやく意識を現実に戻す。
 そして乃木は涼に振り向いた。

「それで葦原涼、君はどうするつもりだ?」
「何?」
「あの女どもの元へ向かうのも、ホテルに戻るのも君の自由だ。勝手にすればいい……」

 何処か侮蔑の混じったような目線を向けながら、高圧的に語る。

「まあこのまま何一つ行動しないのならば、全てを失う事になるだろうな」
「……ッ!」

 その言葉はもっともだった。
 ここで悩んでいても、良太郎達も亜樹子の方も危険に晒されてしまうだけ。いや、良太郎達はまだ戦えるだけ良い。
 問題は亜樹子の方だった。いくら殺し合いに乗ったとはいえ、どう見てもただの女。自分のように戦える道具を持っていたとしても、生き残れるとは思えない。
 だったら優先するべきなのは、言うまでもない。

「そうだったな……」

 涼は乃木に頷いた。そのまま彼は、言葉を続ける。

「俺は今から、東京タワーに向かって亜樹子達を救う」
「……君は俺達の話を聞いていなかったのか? あの女どもは――」
「それでもだっ!」

 溜息と共に漏れた乃木の言葉を、涼は遮った。

「俺はあいつらと約束したんだ……亜樹子を止めてみせると、例え罠を仕掛けているとしてもだ」

 そう、ホテルの前で交わした約束。
 天海あきらは村上峡児に、誰も殺させたりしないと決意した。そして良太郎も、こんな馬鹿な戦いを止めるために戦っている。
 ならば自分は、彼らを信じて亜樹子を迎えに行かなければならない。今ここで戻っては、逆に彼らを侮辱する事になってしまう。
 それだけは、嫌だった。

904愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/28(木) 09:06:17 ID:W3fd4Pf6

「……お前らも、無事でいろよ」

 その言葉を残して、涼は走る。
 危険人物が迫る可能性がある東京タワーを目指して。亜樹子と、そして彼女と共にいる霧島美穂という女性も守るために。
 悩んでいて遅れた分、全力で駆け抜けた。





「おいおい、あいつは完全に信じ切ってるみたいだな」

 葦原涼が見えなくなった頃、金居は呆れたように呟く。乃木怜司にはそれが大いに理解出来た。
 殺し合いに乗ったと宣言した女を信じ、罠が仕掛けられている可能性がある場所に走る。しかも、あそこには危険人物が訪れる事が容易に想像出来た。
 もっとも、別に止めるつもりなど毛頭無い。あそこで止めたところで面倒なだけ。何よりも、あそこで葦原を行かせた方が今後行動の邪魔となる者達を、少しでも減らせる可能性もあった。

「別に構わないさ……自滅したいなら勝手にさせるだけだ。君だって、そうだろう?」
「ああ、その通りだな」

 どうやら金居も、同じ心境のようだ。
 やはりこの男は人間ではない分、一筋縄ではいかない。参加者の解説付きルールブックを確認したところ、異世界に存在するアンデッドとかいう不死の怪人だ。
 恐らくその戦闘力もかなりのものだろう。加えて、頭もそれなりに切れる。ここで行動を共にしても良いが、下手に隙を見せては足元を掬われかねない。
 利用出来るなら越した事はないが、隙を伺うのも難しい。

「そういえば君は情報が欲しいといったな、そこで一つ提案がある」
「ほう、それは何だ?」
「俺は大ショッカーの諸君を潰すために戦力を集めている……まずは友好的で有能な人物と接触し、一ヶ所に集める予定だ。もっとも、無能な者など引き入れるつもりはないが」
「なるほど、そこに俺が来れば情報もある程度集まるかもしれない……と」
「ご名答、察しが良くて助かるよ」

 故にまずは、相手の要望をある程度叶えるからだ。ワームの本領に従って、友好的態度で協力を持ちかける。
 そこから少しずつ、相手を上手く口車に乗せて策にはめる事。それこそが勝利に繋がる道だ。

「じゃああんたは、何処にいつ来るつもりだ?」
「プランとしてはE−5の病院地区へ、22時辺りに向かう予定だ。ここに留まっていたところで、収穫など得られない」
「確かに病院なら、人は集まる上に設備が整っているな……いいだろう、俺も間に合うならばそちらに向かおう」
「ならば、俺はこの辺で行こう。健闘を祈るよ、金居」

 そう言い残して、乃木はオートバジンに跨ってハンドルを捻る。エンジン音を鳴らしながら、バイクは勢いよく突き進んでいった。
 異世界の怪人、金居。潰せる事ならこの場で潰したいが、この状況で下手に戦いを仕掛けても消耗の可能性は高い。
 共にホテルに向かっても良かったかもしれないが、それでは収穫が少ない。二手の方が効率は良いだろうし、何よりホテルにいる連中は既に去っている可能性もある。

905愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/28(木) 09:07:31 ID:W3fd4Pf6

(そして、金居を警戒、或いは潰すように参加者の諸君に呼びかける……万が一の時に備えてな)

 一番大きな理由。それは、金居というイレギュラーがいつ何をしでかすかわからない。
 だから出会った者達に、ある程度の不信を植え付ける必要もある。
 それが殺し合いに乗ってない奴なら、不用意に情報を明かさない筈。もしもこの情報を与えたのが、狡猾な人物なら金居を始末しようと企むかもしれない。
 どちらにせよ、金居に対しての対策は早急に決めなければならなかった。





 乃木怜治が見えなくなった頃、金居もまた考えている。
 あの男は大ショッカーを潰す為に、戦力を集めていると言った。それ自体は別に構わないし、情報交換の場を与えるのは好都合。
 しかし奴は、そんな事を純粋な善意でやるような男か? 答えはどう考えてもNO。
 本当に善人ならば、葦原涼を何としてでも止めていたはず。仮に向かわせるにしても、何か労いの言葉をかけるはずだ。
 この二つから考えて、奴は腹の中に何かを潜めている。少なくとも、信頼出来るような男ではない。
 恐らく、自分の世界で言うアンデッドのような、異世界の怪人である可能性が充分にある。
 その上で、乃木のプランを否定する気はなかった。ここで下手に反論しても、面倒になるだけ。
 ならば今は、精々奴の計画とやらに乗ったように見せかけて、こちらはこちらで行動する。
 もしもその途中で利用できる相手と出会えたら、上手く焚きつけて乃木を潰す為の捨石にすればいい。

「それにしても、地の石か」

 金居の意識は、デイバッグの中で輝きを放つ黒い石に向いていた。
 地の石と呼ばれるそれは、説明書によると仮面ライダーを強化させる為のアイテムらしい。

『仮面ライダークウガを、地の石の波動によってライジングアルティメットフォームに進化させ、支配下に置く』
『その際、クウガは地の石を持つ者だけに従う』

 そう、付属していた説明書に書かれていた。ここに書かれていた人物が何者かは知らないが、恐らく仮面ライダーの一人だろう。
 聞いた話によると、忌々しいBOARDの仮面ライダー達もパワーアップをするのに、何らかのアイテムを使うらしい。
 恐らく地の石も、その一種だろう。しかも自分の意のままに操れる優れものだ。

「さて、これからどうするか……」

 一人となった金居は、無意識に呟く。
 ここから行動するにしても、何処に向かうべきか。
 まず東京タワーは論外。大声が発せられたあんな場所に行くのは、自殺するようなものだ。
 ホテルもどうか。向かうにしても、もしかしたらもう誰もいないかもしれない。最悪、殺し合いに乗った馬鹿者と鉢合わせする可能性がある。
 ここで参加者を待つのもいいかもしれないが、何時までも一箇所に留まる訳にはいかないかもしれない。
 地の石の説明に書かれていた『仮面ライダークウガ』とやらを探すのもいいが、アテが無いにも程がある。
 しかしだからといって、このまま放置していては殺害される可能性もあった。何より、ライジングアルティメットとやらは放置するには惜しい存在に思える。
 アルティメットが意味する言葉、それは究極。そんな大層な名前を持っているからには、さぞかし凄まじい力を持っているだろう。とはいえ、何の手がかり無しに物を探すなど愚行以外の何物でもない。
 だが、このまま悩んでいるばかりでもいられない。ここで待機するか? それとも動くか?
 彼の行く道は、幾つにも分かれていた。

906愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/28(木) 09:09:46 ID:W3fd4Pf6



【1日目 夕方】
【C-5 平原】


【乃木怜司@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第44話 エリアZ進撃直前
【状態】健康
【装備】オートバジン+ファイズエッジ@仮面ライダー555
【道具】支給品一式、木製ガイアメモリ(疾風、切札)@仮面ライダーW、参加者の解説付きルールブック@現実
【思考・状況】
0:亜樹子達の言葉に乗り東京タワーに戻るつもりはない。利用できる戦力を探す。
1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。
2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。
3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。
4:美穂には注意する。
5:利用できる参加者と接触したら、金居を警戒するように伝える。最悪、金居を潰させる。
【備考】
※カッシスワーム グラディウスの状態から参戦しました。
※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュの二つです。
※現時点では、解説付きルールブックを他人と共有する気はありません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※何処に向かうのかは、後続の書き手さんにお任せします。


【金居@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】健康
【装備】デザートイーグル@現実
【道具】支給品一式、地の石@劇場版仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー、ファイズアクセル@仮面ライダー555
【思考・状況】
0:亜樹子達の言葉に乗り東京タワーに向かうつもりはない。ホテルに向かうか? ここで参加者を待ち受けるか? 仮面ライダークウガを探すか?
1:自分の世界の勝利を目指す為、他の世界の参加者同士で潰し合わせる。能動的に戦うつもりはない。
2:他の世界、及び大ショッカーの情報を集める。
3:自分の世界の仮面ライダーは利用出来るなら利用する。アンデッドには遭遇したくない。
4:利用できる参加者と接触したら、乃木を潰す様に焚きつける。
5:地の石の効果、及び仮面ライダークウガに興味。
【備考】
※アンデッドが致命傷を受ければ封印(=カード化)されると考えています
※首輪が自身の力に制限をかけていることに気づきました
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※地の石の効果を知りました。
※何処に向かうのかは、後続の書き手さんにお任せします。


【共通事項】
※午後22時までにE−5地点の病院に向かうつもりです。

907愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/28(木) 09:10:58 ID:W3fd4Pf6






 辺りが闇に覆われ始めた頃、茫然自失となっている鳴海亜樹子の目前で、凄まじい戦いが起こっていた。
 照井竜がかつて倒したはずの、ウェザーメモリによって生まれたドーパント、ウェザードーパント。そして、アポロガイストと名乗ったドーパントのような怪人が繰り広げている戦い。
 ウェザードーパントが出す膨大な稲妻を、アポロガイストが回避し続ける。だが、自然現象の速度に対抗するには限界があり、その身体に何度も命中していた。
 呻き声を漏らすものの、それでも止まらない。むしろ、その手に持つライフル銃でウェザードーパントを撃ち続けていた。威力が凄まじいのか、ウェザードーパントも怯んでしまう。
 どちらも相当の実力者かもしれない。このままでは、自分も巻き添えを食らってしまう。
 だが、激痛によって身体が動かなかった。逃げようと思えば逃げられるかもしれないが、どう考えたって追いつかれる。

――どうして……名護さんや父さん達を騙す事をしたの……
――みんなを助けるんじゃなかったの……
――戦いを止めるんじゃなかったの……

 何よりも、突き付けられた事実が重かった。先程、真実を知られたウェザードーパントに変身した渡って人の言葉。

――渡はな……口では自分の世界を守る為に他の世界の連中を皆殺しにするって言っておきながらどこか迷っていたんだぜ……
――そこに聞こえたアンタの言葉を信じていたんだ……元の優しい渡に戻れた筈だったんだ……
――よくも渡の心を踏みにじってくれたな……
――渡だけじゃねぇ、アンタの言葉が助けになった人々が他にもいる筈だ……なんでそいつらを裏切る様な真似を……

 そして、彼の相棒と思われる蝙蝠の言葉がリピートされる。

――じゃあ、アンタの世界の仮面ライダーがやって来たらどうするつもりだったんだ? アンタの言う通りなら名護達同様のこのこやって来て爆弾に吹っ飛ばされるんじゃないのか?

――はっ……何を言ってやがる、そんな適当な理由でみんなを見捨てる様な薄情な連中だっていうのかよ……
――テメーにとって仮面ライダーはそんな軽いものだったのかよ!?
――巫山戯んじゃねぇ! テメーが一番仮面ライダーを侮辱しているんじゃねぇか!!
――俺の知っている仮面ライダー……といえるかどうかは微妙だが名護の野郎はそんな安っぽい口車であっさり他人を見捨てる様な奴じゃねぇ!
――テメーに仮面ライダーを語る資格なんてねぇ!

 この世に存在するとは思えないほど、鋭利な刃物に感じられた言葉。それは、亜樹子の心だけでなく身体にまで突き刺さっていた。

――テメーの言葉は渡にとっては希望だったんだ……まだ戻れるかもしれなかった……
――けどそれが嘘だとわかった以上もう渡は止まらねぇ……あんたの仲間達だって皆殺しにするだろうな……
――それにさっきも言ったがあんたの言う仮面ライダーもきっとタワーにやって来る……
――爆発に巻き込まれるってわかってもな……

 解っていた。自分のやっている事が、卑劣な悪行である事を。自分の取った選択が、親愛なる仲間達を裏切っている事を。
 でも、これ以外に解らなかった。みんなが生きる風都を救う方法を。翔太郎君や竜君みたいに強くないし、フィリップ君みたいに頭も良くない。
 だから、どんなに汚い手段だろうとも、それを貫くしかなかった。鬼畜や外道と罵られようとも、覚悟はある。
 筈だった。

――テメーのやった事は自分の世界すら守っちゃいねぇよ……
――只の……只の人殺しだ……

 それでも、その事実が重すぎる。分かっていたはずなのに、受け入れるのには辛すぎた。
 自分は、只の人殺し。もしもみんながそれを知ったら、一体どう思うのか。
 考えるまでもない。失望する以外の、何物でもなかった。
 でも、自分の世界を守る為には仕方がない。

908愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/28(木) 09:13:26 ID:W3fd4Pf6

(……仕方がないのよ、こうしないと風都を守れないんだから)

 そう言い聞かせて、霧島美穂と共に東京タワーに罠を仕掛けた。力を持たない弱者でしかない自分には、それ以外に無い。
 それが、野上良太郎や天海あきら達を騙す事になろうとも。それが、他の世界に生きる全ての命を犠牲にする事になろうとも。
 どれだけ手を汚す事になろうとも、やるしかなかった。みんなが誇りに思っていた存在、仮面ライダーを裏切る結果になろうとも。

(わかってたのに……わかってたのに……!)

 それでも、心が痛い。残酷な事実は亜樹子自身を、痛めつけていた。
 このままでは、殺されてしまう。それじゃあ、世界を守る事など出来ない。
 でもどうすればいいのか、まるでわからない。助けを呼ぶ事なんて出来るわけがない。
 それ以前に、本当に誰かが来る可能性も期待出来ない。翔太郎君達が、本当に聞いているのかどうかも。

(どうしたら……どうしたらいいの……っ!?)

 今の彼女は迷子の子どもと同じで、何も出来なかった。





 凄まじい轟音と共に、辺りの地面が砕けていく。頭上に浮かぶ暗雲から大雨が降り注いで、湿り気を帯びた所に稲妻が落下。
 足元が安定しない中で、スーパーアポロガイストはウェザーと呼ばれた異形を睨み付けた。
 手元にスーパーガイスカッターを出現させて、襲いかかる稲妻を何とか弾く。しかしその速度は当然凄まじく、全てを防ぐ事は不可能。
 先程から何度も、スーパーアポロガイストに着弾していた。

(くっ、何という力だ! まさか、あれがあそこまでの力を持っているとは……!)

 スーパーアポロガイストは、思わず歯軋りする。C−6エリアで発見した男の死体から見つけた、USBメモリのような機械。
 まさかあれが変身アイテムで、しかもあのような怪物に変わるとは。数多に存在する怪人達の中でも、トップクラスの実力者かもしれない。
 白い怪物に変身したキバの男が放つ稲妻を回避しながら、スーパーアポロガイストはスーパーマグナムショットから弾丸を放つ。
 激突して火花が飛び散り、僅かに後退。続けて引き金を引いて弾を発射させるが、敵は横に飛んで避ける。
 結果、背後に位置していた地面に激突し、盛大な爆発を起こした。

(だが……一体どこの世界の怪人だっ!? メモリを使って変身する怪人など、聞いたことがない!)

 それでもスーパーマグナムショットを放ちながら、思考を巡らせる。
 あのアイテムは一体、何処の世界の物なのか。そもそも、あんなメモリの存在など自分は知らない。
 大ショッカーが自分を蘇らせる前に、再び見つけた世界の物だろう。だがそれでは、対処のしようがない。
 見たところ、首輪にはあれを差し込む穴がある。穴の存在には知っていたが、まさかメモリと連動する機能を持っていたとは。
 だが、こうなった以上は仕方がない。キバの男を殺し、再び奪い取るだけ。

「中々の力だな……ならば、これならどうだ!」

 スーパーマグナムショットの銃口を斜め下に向けて、スーパーアポロガイストはトリガーを引く。銃声と共に、大量の弾丸が地面に激突。
 すると、爆音を鳴らしながら地面が砕け、周囲に大量の粉塵が舞い上がった。それにより、辺りの視界は一瞬で遮られる。
 爆弾を仕掛けた女もウェザーも飲み込まれ、姿が見えなくなった。スーパーアポロガイストはチャクラムを構えながら、疾走する。
 数歩駆け抜けた後、粉塵の中に一つのシルエットが見えた。それを見たスーパーアポロガイストは確信し、スーパーガイスカッターを勢いよく振るう。
 すると案の定、白い怪人に激突した。その巨体は呻き声と共に、微かに揺らぐ。血液のように飛び散る火花を見て、スーパーアポロガイストは笑みを浮かべた。
 そのまま、腕に渾身の力を込めてスーパーガイスカッターを振るい続ける。白い胴体にチャクラムを突き刺し、そこから皮膚を切り裂いた。

909愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/28(木) 09:14:47 ID:W3fd4Pf6

「ぐあっ……!」
「これを受けるが良い!」

 呻き声と共に後退る敵に、スーパーマグナムショットの銃口を向けて弾丸を放つ。嵐のように弾丸が放出され、ウェザーの巨体に着弾。
 だが、敵はその攻撃を意に介さないかの如く右腕を空に翳す。何事かと思った直後、雷鳴の轟音が響いた。
 そして、スーパーアポロガイストの視界が眩い光に包まれ、全身に凄まじい衝撃が走る。

「ぬおぉぉぉぉぉっ!?」

 絶叫と共に、身体が激痛によって硬直してしまった。それが隙となって、立て続けに稲妻が襲いかかる。
 しかも今のスーパーアポロガイストは、空から降り注ぐ雨粒によって体が濡れていた。それにより、電気の流れが強くなっている。
 強靱な身体となってもそれは同じだが、このまま負けるわけにはいかない。スーパーアポロガイストは閃光に耐えて、ウェザーのいる方角を見据える。
 そして、スーパーマグナムショットを向けて引き金を引いた。しかし、先程とは違って視界が雨粒と閃光によって遮られ、前がよく見えない。
 加えて吹き荒れる風によって、弾丸が当たっているかどうかも聴覚で捉えられなかった。それでも攻撃の手を緩めるわけにはいかない。
 そんな中、嵐の中から一本の赤い縄が飛び出し、スーパーアポロガイストの右手首に巻き付く。それを感じると同時に、身体が空に持ち上げられた。

『ENGINE MIXIMUM DRIVE』
「むうっ!?」

 宙を舞った直後に聞こえたのは、荒れ狂う台風を上回るような電子音声。そしてスーパーアポロガイストは、見た。
 ウェザーが先程まで攻撃に使っていた鞭と、深紅に染まった巨大な剣を構えているのを。
 その剣から、まるで燃え上がる炎のように凄まじい輝きを放ちだした。スーパーアポロガイストは落下する中、目を細めてしまう。
 このままでは、切り裂かれてしまう。どう考えても明らかだったが、重力に引かれるその身体は抵抗を許さない。
 スーパーガイスカッターで防ぐ事も、スーパーマグナムショットでウェザーを撃ち抜く事も出来なかった。

「はああぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うおおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 そしてスーパーアポロガイストの胸部は、ウェザーが振るう刃によって両断される。
 そこは奇しくも、仮面ライダーガオウによるタイラントクラッシュを叩き込まれた場所。狙うように大量のエネルギーが流れ、スーパーアポロガイストは吹き飛ぶ。
 そのまま勢いよく、地面に叩き付けられた。刃に宿るエネルギーがアルファベットの『A』を形作る。
 しかしそれはほんの一瞬で、深紅の力はすぐに盛大な爆発を起こした。ほぼ零距離の位置に存在する、スーパーアポロガイストを巻き込んで。





 空に浮かぶ濃い雷雲から降り注ぐ粒は、未だに衰える事がない。むしろ、時間と共に勢いを増していた。
 それを引き起こしているのは、ウェザードーパントに変身した紅渡。異形の姿を取った彼は、氷のように冷たい目線を向けていた。
 キングにも与えたエンジンブレードの必殺技、ダイナミックエースを放ったアポロガイストに対して。その姿はダメージによる影響か、怪人ではなく白いスーツを纏った壮年の男だった。

「ぐっ……おのれっ……!」

 アポロガイストは濡れた大地の上で、這い蹲りながら腕を伸ばす。その先にあるのは、先程変身するのに使った黄色いカードデッキ。
 既に変身してしまったので、その力を使うのにまだ時間が必要。だがそのチャンスを与えるつもりはない。
 ウェザードーパントはカードデッキに腕を向けて、雷鳴を放った。

910愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/28(木) 09:16:07 ID:W3fd4Pf6

「ぐおおぉぉっ!?」

 轟音と共に、アポロガイストの身体が飛ばされる。カードデッキが目的だったため直撃は出来なかったが、余波だけでも誰かを吹き飛ばすなど造作もなかった。
 しかし、これで終わるつもりは毛頭無い。ウェザードーパントはすぐそばに倒れるアポロガイストと、少し離れた位置にいる鳴海亜樹子に視線を向ける。
 そして空に浮かぶ雷雲に腕を向け、稲妻を落とそうとした。

「ヴァアアアアアアアアァァァァ!」

 その直後。
 何処からともなく、獰猛な獣が発するような咆吼が聞こえた。突然の出来事により、ウェザードーパントの動きは止まる。
 それが致命的な隙となった。ウェザードーパントが振り向こうとした瞬間、頬に衝撃が走る。予想外の一撃によって、その身体は地面に転がった。
 しかしすぐに回転は止まって、ウェザードーパントは視線を向ける。そこに立つのは、カミキリムシを思わせる姿をしており、皮膚が緑と黒に彩られた異形。
 その乱入者は赤く染まった瞳を、ウェザードーパントに向けていた。





 時間は少しだけ戻る。
 葦原涼が乃木怜司や金居と分かれてから、既に十分以上の時間が経過していた。鳴海亜樹子や霧島美穂という女を救うため、東京タワーへ向かう最中に異変を感じる。
 けたたましく聞こえてきた爆音。そしてその方角に浮かび上がるのは、巨大な雷雲。
 おかしい。周りには雲一つ浮かび上がっていなかったのに、何故あそこだけあんなのがあるのか。
 見るからに異常事態だと察した涼は、走る速度を上げる。途中、雨粒に身体が濡れるも気にしない。
 離れた場所からも、あそこで戦いが起こっている事が分かった。不完全ながらも、アギトに覚醒した彼が超人的五感を会得した故。

「あれは……っ!」

 やがて彼は見つけた。宿敵アンノウンによく似た白い怪物と、地面に横たわる白いスーツの男。そして先程、良太郎達の元から去った鳴海亜樹子が。
 それを見て、涼はあの白い怪物に二人が襲われていると察して、両腕を交差させる。それは彼がこの力を得た日から、アンノウンと戦うために何度も取った動作。
 そして、涼はその言葉を呟いた。

「変身ッ!」

 直後、彼の傍らに異形が浮かび上がる。涼と同じように、二つの腕を交差させて。それは彼の生きる『アギトの世界』に生きる、人間でもアンノウンでもない第三の存在。
 鎧のように分厚い緑色の皮膚、その下に見える漆黒の筋肉、額から左右に伸びたY字の角、血のように赤く煌めく二つの瞳、腰で金色に輝くベルト。
 やがて、涼の身体は現れた異形と重なり、変身を果たした。『アギトの世界』でアギトと同じ人間に宿る力だが、不完全な覚醒を果たした結果誕生した戦士。
 仮面ライダーギルスへと姿を変えた葦原涼は、その力をフルに発揮して走る。

「ヴァアアアアアアアアァァァァ!」

 そして、凄まじい咆吼と共に白い怪物を殴りつけた。相手が吹き飛ぶ中、ギルスは亜樹子を庇うように立つ。
 奴はすぐに起きあがり、殺意の視線を向けてくるのを感じる。しかしギルスはそれを気にせず、亜樹子の方に振り向いた。

「無事か、亜樹子!?」
「その声……まさか、涼君!?」
「ああ」

 亜樹子の声には怯えや驚愕が感じられる。しかしギルスにとっては、もう慣れた反応だった。
 この力に目覚めてから、真実を知った人間は全員自分から離れていく。水泳のコーチであった両野耕一やかつての恋人である片平真由美も。
 もっとも、当然かもしれない。こんな怪物のような姿を見れば、誰だって拒絶する。しかしだからといって、同じ反応を見せた亜樹子を見捨てて良い理由にはならない。
 自分は約束したのだ。良太郎達の元に戻るように、説得する事を。しかし今は、目の前の怪物をぶっ潰す事が最優先だ。

911愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/28(木) 09:17:01 ID:W3fd4Pf6

「ヴォオオオオォォォォォォォッ!」

 その思いを胸にギルスは、咆吼と共に地面を蹴る。一瞬で白い怪物との距離は詰まり、拳を振るった。
 一度だけでなく、目にも留まらぬ速さで数発も。しかしほんの少し揺れるだけで、ダメージは感じられない。
 そんな中、白い怪物は反撃の拳を放とうとしているのか、腕を引く。それを見て、一旦ギルスは背後に跳躍して距離を取る。しかし白い怪物は、続けざまに左ストレートを放った。
 その速度は凄まじく、一瞬でギルスの胸に叩き込まれる。

「グウッ!?」

 白い怪物の拳は異様に重く、思わず呻き声を漏らしながら吹き飛んだ。濡れた地面を転がった後、白い怪物がこちらに迫るのが見える。
 それを見たギルスは両腕に力を込めながら起きあがると、そこから鋭い爪が飛び出した。迫り来る重量感溢れる拳を、ギルスクロウで弾く。
 激突による金属音と共に火花が飛び散り、白い怪物が後退った。それを好機と見て、ギルスは相手の懐に飛び込んでいき、両腕のかぎ爪を振るう。
 袈裟斬りのように振るわれた一撃は、怪物の巨体に傷を刻んだ。
 二撃は左腕を使って居合い切りのように振るい、大量の火花を散らせる。
 三撃は突きの形で、敵の胸部を貫いた。
 ギルスはそのまま容赦なく、四撃を放とうと右腕を振るう。だがそれは残り数ミリという距離で、敵が腕を掴んで進行を止めた。
 そのまま彼は勢いよく持ち上げられ、背中から地面に叩き付けられていく。

「フンッ!」
「ガハ……ッ!」

 ギルスの口から漏れる悲鳴。しかし、それで終わる事は無い。
 倒れたところを狙うかのように、白い怪物は足を振り上げてギルスを踏み付けた。一度までならず、二度三度と。
 身体が押し潰されそうな衝撃に感じるが、ギルスは耐える。やがて再び足が上がったのを見て、彼は両腕を交錯させてそれを防いだ。
 相変わらず鈍い痛みが走るも、直撃を受けるよりはまだマシ。そのまま力比べに持ち込み、押し返せばいい。
 そう思ったギルスは実行に移そうとするも、直後に目を見開いてしまう。白い怪物の手には、深紅に煌めく剣が握られているのが見えたため。

『ENGINE MIXIMUM DRIVE』

 そして剣から放たれる、甲高い電子音声。すると得物から赤いオーラが放たれ、持ち主である怪物を覆っていった。
 怪物はその大剣を、雷雲に目がけて高く掲げる。まるで、地獄の業火を身に纏う悪魔のように。
 奴がこれから行おうとしている事は、必殺の一撃。それも、敵を確実に仕留められる類の。
 そんな技をほぼ零距離で受けたらどうなるかなんて、考えるまでもない。
 ギルスは渾身の力を込めて押し返そうとするが、ビクともしなかった。それほどまで、敵の力は凄まじい。

(まずい……このままでは!)
「ハッハッハッハッハ! 愚かな仮面ライダーども、貴様らの負けだ!」

 次第に焦りが生じてきたギルスの耳に、妙に大きな笑い声が響いた。何事かと思い、彼はそちらに振り向く。
 そこでは、あの白いスーツの男が嘲笑を浮かべながら、緑色のカードデッキを握っていた。直後、男の腰に銀色のバックルが巻かれる。
 ギルスはそれに見覚えがあった。村上峡児から良太郎達を守るために、仮面ライダーガイに変身した際の動作とまるで似ている。

「変身!」

 そして男は、カードデッキをVバックルに装填。すると周りに数多もの虚像が現れ、男の身に纏われる。
 一瞬で、それらは重量感溢れる銀色の装甲と緑のスーツに変化した。それはギルスが生きる世界とは違う『龍騎の世界』に存在する、仮面ライダーゾルダ。
 呆気にとられているギルスを余所に、男はカードデッキから一枚のカードを取り出す。そのまま、いつの間にか取り出した拳銃にカードを挿入させた。

912愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/28(木) 09:18:20 ID:W3fd4Pf6

『SHOOT VENT』
「消え果てろッ!」

 電子音声と共に、虚空から二つの大砲がゾルダの両肩に乗る。
 それを見たギルスは本能的な危機を察して、両腕に力を込めて白い怪物の足を退かした。相手も男に意識が向いていたのか、いとも簡単に脱出が出来る。
 しかし彼の関心は男にも白い怪物にも向いていない。ギルスの視界にあるのは、少し離れた場所で呆然としている亜樹子だけだった。

「亜樹子ォッ!」
「ッ!?」

 その脚力で瞬時に距離を詰めた彼は、亜樹子を守るように担ぐ。直後、背後から耳を劈くほどの爆音が響いて、凄まじい灼熱が襲いかかった。
 何が起こっているかなんて、考える必要はない。あの大砲から砲弾が放たれた事など、わざわざ確認しなくとも分かる。
 人間の身体なら、苦しむ暇もなく即死していた筈の痛みがその証拠だ。それも一度だけではない、立て続けに砲弾が放たれる音が響き、膨大な熱が襲いかかる。
 それでも、ここで足を止めるわけにはいかない。

「グッ……ヴォオオオオオォォォォォォォォォッ!」

 異形の顔面の中で、激痛で眉を歪ませる中に涼は駆け抜けた。膨大な灼熱と衝撃が襲いかかり、ギルスの皮膚が焦げていく。
 それでも、彼は走る勢いを一片も緩めなかった。ここで自分が倒れたら、良太郎達との約束を破る事になる。この世界に連れてこられるまで、守ろうとして何度も取りこぼした人がたくさんいた。
 これ以上そんな奴は、増やしたくない。その一心でギルスは走り続けていた。





「フハハハハハハハッ! どうやら、私の勝ちのようだな!」

 仮面ライダーゾルダに変身したアポロガイストは、仮面の下で大きく笑う。
 あのウェザーと呼ばれた怪物に追い込まれ、シザースのデッキが破壊された時は流石にもう駄目かと思った。しかしその矢先に『アギトの世界』に存在する不完全なアギト、仮面ライダーギルスが突然現れる。
 しかも奴は自分を無力な人間と勘違いしたらしく、一切敵意を向けずにウェザーに戦いを挑んだ。
 その隙を付いて、キバの男が持っていたゾルダのデッキを奪い、それをディスカリバーに翳して変身する。
 だからこそ、ギガキャノンを召喚してあの三人に砲撃出来た。奴らの姿は見えないので、恐らく逃げたかもしれない。
 だが別に生死はどうでも良かった。仮に生きていたとしてもそれなりのダメージを受けているはず。だから他の参加者と鉢合わせすれば、どうせ死ぬに違いない。

「フフフッ……戦利品も、それなりにあるようだな」

 やがて誰の気配も感じられなくなった頃、アポロガイストはゾルダの変身を解いた。
 彼の足元には、ウェザーメモリとよく似た緑色の機械が放置されている。それは紅渡が所持していた、T−2サイクロンメモリ。
 シザースのデッキが消えたのは残念だが、その代わりとなるなら文句はない。先程は扱い方を知らなかったが、今度はその力を発揮出来る。
 しかもシザースのデッキが壊れたという事は、契約モンスターの契約も解き放たれて、単なる野良ミラーモンスターと化した。
 それはつまり、上手く行けば奴が参加者を襲撃してくれるという事。邪魔者を排除する手段が、また一つ増えたのだ。

「……だが、今は休まねばならんな」

 しかし、だからといって全て良好な結果になったわけではない。ウェザーとの戦いで負ったダメージが、予想外に深かった。
 今の最優先事項は、何処か安全な場所に隠れて体力回復を優先させる事。このまま参加者と鉢合わせをして、襲撃を受けてはたまったものではない。
 アポロガイストは支給品を回収すると、先程東京タワーの前で見つけたバイクに跨る。そのままエンジンを勢いよく回し、タイヤを動かした。


 やがてアポロガイストは、この場から姿を消す。
 ここに一つ、彼にとってたった一つだけ誤算があった。D−5エリアの戦いによって壊れた、カードデッキ。
 それはシザースだけでなく、もう一つだけあった。それは乱入した葦原涼の支給品である、仮面ライダーガイに変身するためのカードデッキ。
 それもまた、ゾルダの装備したギガキャノンより放たれた砲弾によって破壊されていた。これが意味するのは、ガイの契約モンスターであるメタルゲラスが契約から解き放たれたという事。
 すなわち、参加者への脅威がまた一つ増えたという事になる。もっともそれは、まだ誰も知らない。破壊したアポロガイストも、持ち主である葦原涼も。
 ただ、それを証明する方法が一つだけある。それはミラーワールドで、ボルキャンサーとメタルゲラスが叫び続けているという事が、真実であると知らしめていた。

913愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/28(木) 09:19:44 ID:W3fd4Pf6


【1日目 夕方】
【D-5 右T字路】


【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】死亡後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、恐怖(小)、ゾルダ、怪人態に2時間変身不可、シザースに1時間45分変身不可、マグナギガ1時間召喚不可
【装備】ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎、ディスカリバー@仮面ライダーカブト、T2ガイアメモリ(サイクロン)仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ
【道具】支給品一式、ディスクアニマル(アカネタカ)@仮面ライダー響鬼、インドネシアの魔除けのお面@仮面ライダークウガ、真理の携帯美容師セット@仮面ライダー555、装甲声刃@仮面ライダー響鬼、
【思考・状況】
0:まずは何処かで体を休める。
1:大ショッカーの意思通り、全ての敵を倒し、世界を破壊する。
2:参加者の変身アイテムを奪う(たとえ自分の力にならなくても)。
3:ディケイド、牙王はいずれ始末する。
4:全てのライダーと怪人にとって迷惑な存在となる。
【備考】
※スーパーアポロガイストの状態ですが、能力は抑えられています。
※制限の詳細な時間設定と能力が抑えられていることを、何となく把握しました。
※何処に向かうのかは、後続の書き手さんにお任せします。


【全体備考】
※シザースのデッキ@仮面ライダー龍騎、ガイのデッキ@仮面ライダー龍騎が破壊されました。
※それによって、ボルキャンサーとメタルゲラスが暴走状態となりました。
※ボルキャンサーはあと1時間30分現実世界に姿を現せません。
※鳴海亜樹子の支給品一式、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーWはD-5 右T字路に放置されたままです。





「はぁっ……はぁっ……また、逃げてしまった」

 紅渡は息を切らしながら、重い身体を引きずりながら歩いている。その姿は既にウェザードーパントではなく、元の人間の姿だった。
 また、逃げてしまった。先程殺そうとした、牙王の時と同じように。
 いくら自分が死んだら世界を救えないとはいえ、こんなザマでは何も成し遂げられない。
 ギガキャノンをまともに受けては、ウェザードーパントの身体でも危ない可能性があった。しかも連戦によって、身体には疲労が蓄積されている。
 だからこの選択を取るしか、思いつかなかった。そんな自分の迂闊さと不甲斐なさを、呪う事しか渡には出来ない。
 とにかく今は、身体を休める事しかできなかった。ディスカリバーとゾルダのデッキ、更にはガイアメモリまで奪われた今となっては、体勢を立て直す必要がある。

「名護さん、父さん……どうか、無事でいて下さい」

 同じ世界から連れてこられた、大切な人達の無事を祈った。足元が安定しない中、渡はただ歩く。
 彼の道は、たった一つしか残っていない。決して先が見えない、孤独な修羅の道だけ。
 世界を守りたいという、ただ一つの信念を持って。

914愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/28(木) 09:20:34 ID:W3fd4Pf6

【1日目 夕方】
【D-5 平原】


【紅渡@仮面ライダーキバ】
【時間軸】第43話終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、返り血、ウェザードーパントに2時間変身不可、キバ及びサガに30分、ゼロノスに40分、ゾルダに1時間55分変身不可
【装備】サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ウェザーメモリ@仮面ライダーW、
    エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑二枚、赤二枚)@仮面ライダー電王
【道具】支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、
    バッシャーマグナム@仮面ライダーキバ、ドッガハンマー@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0〜1)
【思考・状況】
基本行動方針:王として、自らの世界を救う為に戦う。
0:まずは何処かで体を休める。
1:爆発の危険のある東京タワーへ向かい皆殺し? それとも退避? あるいは……
2:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。
3:加賀美の死への強いトラウマ。
【備考】
※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※何処に向かうのかは、後続の書き手さんにお任せします。





 何処まで走ったのかなんて、分からない。何処を目指しているかなんて、考えていない。
 亜樹子を守りたい。ただその思いを胸に、ギルスは走っていた。
 やがてあの爆音が聞こえなくなったのを感じると、走る勢いは弱まる。亜樹子を危険から遠ざける事が出来たと、確信して。
 すると、ギルスは限界を迎える。先程の戦いで受けたダメージが、予想以上に深かった。
 身体のあらゆるところが悲鳴をあげる中、変身が解除されて元の葦原涼へと戻る。その手から亜樹子が離れた直後、彼は地面に倒れた。
 雷雲の元から離れてるからか、この辺りは濡れていない。しかし彼にとってはそんな事、どうでもよかった。

「亜樹子……無事か?」

 徐々に薄れていく意識の中で、たった気がかりとなっている女。
 自分が助けた鳴海亜樹子が無事なのかどうかが、涼にとって一番重要だった。
 亜樹子が口を開いて、何か言っているのが見える。しかしそれも、ロクに聞こえない。
 ただ、無事である可能性はあった。そう思った瞬間、涼の心が一気に解れていく。
 そのまま彼は安堵すると、その意識は闇の中に沈んでいった。



「涼君、涼君、涼君ッ!?」

 瞳から大量の涙を流しながら、亜樹子は倒れた葦原涼の身体を揺らす。
 自分は彼を騙してしまったのに。自分は良太郎君や翔太郎君達の思いを裏切ったのに。自分はたくさんの人を騙したのに。
 なのに何故、彼は自分の事を助けてくれたのか。何故、彼は自分の事を案じてくれたのか。
 わからない。わからない。わからない。
 いくら考えても、答えが出なかった。変わりに出てくるのは、凄まじい自己嫌悪と罪悪感のみ。
 その答えを聞きたいからなのか。涼が無事である事を確信したいからなのか。
 亜樹子はただ、彼の身体を揺らし続けていた。

915愚者の祭典 涼の来訪に亜樹子の涙 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/28(木) 09:21:49 ID:W3fd4Pf6

「え……?」

 そんな中、彼女はある建物を見つける。それは、巨大な病院。
 亜樹子も涼も知らなかったが、ここはE−5エリアだった。故に、病院が見えたところで何の不思議もない。
 ギルスが走る内にここまで来たのかもしれないが、そんな事は今の亜樹子にはどうでもよかった。
 ただ、今の自分が何をするべきなのか。それだけが、彼女の思考を支配している。
 病院とは基本的に、人の傷を治すためにある素晴らしい施設。しかしそんな場所にも、人の命を奪いかねない物が存在する。
 それは手術で使われる、メスといった刃物だ。それを使えば、人を殺す事も出来る。
 無論、今この場で倒れている涼も、病院からメスを持ってくれば簡単に殺せるはずだ。

(あたし……今、なんて?)

 無意識の内に芽生えたその考えに、亜樹子は愕然とする。
 この殺し合いの場では、他者を踏みつけにするのは当たり前。自分の世界を救うために、他者を殺さなければならないのは当たり前。
 そんな事はとっくに分かっていたはずなのに、亜樹子の全身は震えてしまう。
 でも、涼君は自分の事を助けてくれた。そんな彼を自分は殺そうと考えた。覚悟はとっくに決めたはずなのに、身体が動かない。
 鳴海亜樹子はただ、葦原涼の傍らで涙を流す事しかできなかった。



 時間は迫っている。
 大ショッカーより告げられる、残酷な真実を知る時間が。
 それは、未来で結ばれるはずだった男、照井竜が既にこの世にいない事を意味する。それを耳にした亜樹子は一体、何を思うのか。



【1日目 夕方】
【E-5 病院付近】



【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編36話終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、背中に火傷、胸元にダメージ、気絶中、ギルスに2時間変身不可
【装備】無し
【道具】支給品一式、不明支給品×2(確認済)
【思考・状況】
0:……(気絶中)
1:殺し合いに乗ってる奴らはぶっつぶす
2:人を護る
3:あきらや良太郎の下に戻ったら、一緒に行動する
4:鉛色と深緑の怪人、白い鎧の戦士を警戒
5:亜樹子……
【備考】
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。



【鳴海亜樹子@仮面ライダーW】
【時間軸】番組後半(少なくても第38話終了後以降)
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、恐怖(中)、精神的ショック(大)、複雑な感情、ファムに変身不可1時間35分変身不可
【装備】無し
【道具】無し
【思考・状況】
0:どうすれば……?
1:風都を護るため、殺し合いに乗る。
2:翔太郎や竜に東京タワーに来て欲しくないが……
3:涼を殺すか? それとも……?
【備考】
※ 良太郎について、職業:芸人、憑依は芸と誤認しています。

916 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/28(木) 09:22:19 ID:W3fd4Pf6
以上で、投下終了です
矛盾点などがありましたら、ご指摘をお願いします。

917 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/28(木) 11:26:29 ID:W3fd4Pf6
あ、亜樹子の状態表で、ファムの制限を一部修正させて頂きます

【鳴海亜樹子@仮面ライダーW】
【時間軸】番組後半(少なくても第38話終了後以降)
【状態】ダメージ(大)、疲労(中)、恐怖(中)、精神的ショック(大)、複雑な感情、ファムに変身不可1時間25分変身不可
【装備】無し
【道具】無し
【思考・状況】
0:どうすれば……?
1:風都を護るため、殺し合いに乗る。
2:翔太郎や竜に東京タワーに来て欲しくないが……
3:涼を殺すか? それとも……?
【備考】
※ 良太郎について、職業:芸人、憑依は芸と誤認しています。

918二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/07/28(木) 19:01:17 ID:d2254m2c
投下乙です。
涼が助けに入ったけど最後に笑ったのはアポロか。シザーズとウェザーを失ったとはいえゾルダとT2サイクロンGETして差し引き的な損害はそこまで多くない。
でも、アポロ基本戦闘では負け続けで不意打ちや時間稼ぎで利を得ているんだけど……それで良いのか大ショッカー幹部?
ウェザーGETしたとはいえ当面変身出来ない渡……身体を休められれば良いけどそうそう都合良く行くか……
一方、涼は亜樹子を助ける為とはいえ重傷負って、亜樹子に殺されかねない状況……アレ、でもアギトの原作的に考えてむしろ亜樹子の方に死亡フラグじゃね(基本的に涼は不死身で彼と関わった女性にばかり不幸が及ぶ)?
さて、一方でコンファイン使うことなく破壊されたガイデッキ……アレ、もし王蛇来たらジェノサイダー爆現する?
一方の乃木と金居は互いにマイペース……果たしてどう動く?

……そういや涼と亜樹子の近くにいる参加者って……橘、ヒビキ、士、矢車……誰が最初に彼女と接触するか?

919二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/07/29(金) 12:39:11 ID:0jp0TKE.
……ちょっと今更ながらに疑問に感じたんですが、アポロが見つけたバイクはハードボイルダーですよね。
つまり、ハードボイルダーは今アポロが所持している? それとも跨ってエンジン回したけど確保しないでそのまま置き去りにしたんですか?

920 ◆LuuKRM2PEg:2011/07/29(金) 13:33:40 ID:30.eBhUk
ハードボイルダーに関しては、自分のミスです
まとめのページを、追加する方面で修正致します

921 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:17:00 ID:wLMT0wZI
五代雄介、草加雅人、秋山蓮、フィリップ、海東大樹、金居分投下します。

922 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:18:00 ID:wLMT0wZI
 無惨に惨殺された園田真理を救う――
 その為には自分の世界、いや自身が最後まで勝ち残る以外に手はない――
 故に他者は全て利用すべき手駒あるいは邪魔な敵でしかない――

 が、置かれている状況は決して芳しいと言えるものではない。
 自身の持つカイザを凌駕しかねない参加者が数多く存在し、自在に変身すら出来ない状況、当面は徒党を組む必要がある。

 今現在同行しているメンバーは五代雄介、フィリップ、海東大樹、そして秋山蓮の4人。
 見定めねばならない、草加雅人にとって使える手駒かどうかを――

「(まず五代、コイツは何の問題もない。純粋な程善良でフィリップを襲った俺を無事に説得出来たと思っている……甘過ぎるが俺にとっては都合が良い)」

 と、後方で蓮を気遣いながら進む五代に視線を向けた。
 五代は殺し合いに乗っている蓮に対しても気遣いを見せている。
 更に彼が変身したクウガの力の強大さは先の戦いでも把握済み。
 敵には回したくはないが、現状ではその心配は無いだろう。

「(だが、秋山……奴は使えない。殺し合いに乗っているという事もそうだが……コイツは乾巧と同じタイプの男だ)」

 そう思いながら2人から視線を外す。
 草加は蓮の姿に元の世界の一応の仲間(草加にとっては非情に不本意ではあるが)乾巧を彷彿とさせた。
 巧は彼自身と同じ様に戦える草加を真理達の様に受け入れようとせず一方的に拒絶し反発した。
 草加にとって自身を受け入れない存在など邪魔者以外の何者でもない。
 そして蓮の言動及び態度を見た限り巧に近いタイプと感じた。
 殺し合いに乗っていたであろう事も踏まえ、蓮の存在は下手すれば自分の計画の障害になりうる。

 もっとも彼の持つ仮面ライダーナイトに変身する力を与えるカードデッキ、
 そして仮面ライダーエターナルに変身する力を与えるガイアメモリは密かに手中に収めている。
 故に今の蓮は盾程度の役割しかないという事だ。
 場合によってはカイザギアを貸して戦わせれば良いだろう。

「(フィリップは理屈っぽい所はあるが概ね五代と同じタイプだ。ボロさえ出さなければ特別問題はない。せいぜい俺の為に働いてくれ)」

 続いて前方で海東と共に進むフィリップに視線を向ける。
 フィリップに関しては五代に近い善人だろう。真理を失った自分を気遣ってくれている部分からもそれは明らかだ。
 が、五代とは違い理論的に事を進める所が見受けられる為、五代程信頼を置くわけにはいかない。
 加えて、仕方がない部分があったとはいえ出会い頭に襲撃したのが痛い。恐らく今もある程度警戒をしているだろう。
 とはいえそれは自業自得による部分もある為、ある程度は仕方のない話ではあったが。
 それでも逆に理論的であり本質が五代と同じタイプであるならば、ボロを出さない限りは問題はないだろう。
 そういう相手に取り入る事は慣れている。今はその知識を最大限に利用させて貰う所だ。

923落ちた偶像 〜fool's festival〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:20:10 ID:wLMT0wZI

「(問題は奴だ。海東大樹……この男一体何を考えている?)」

 視線の矛先は海東に向く。
 他の3人と違い未だ推し量りきれなかった。
 殺し合いを止める側にはいるが、人々を守るというよりは奴自身が殺し合いが気に入らないからそうしているだけの様に見える。
 奴のスタンスなどどうだって良いが本心が見えないと此方としても対応が取りづらい。

 いや、実の所それだけならまだ良い。
 問題は海東という男が自分――いや、五代やフィリップにすら明かしていない情報があるという事だ。
 最初に交戦した時点で海東はカイザ及びライダーズギアの事を把握していた。
 が、それ以上に『帝王のベルト』なる存在を口にしていた。しかし草加の知る限りベルトはカイザ、ファイズ、デルタの3本だけ。
 そして3本の何れも『帝王のベルト』に属するものではないという事はその全てを使った草加自身が身を以て理解している。
 詳しくは知らないし別の世界がどうなっているかにそこまで関心がない為、話題に出た時は流したがどうも海東は前に『草加達の知るカイザとは別のカイザの世界』に行った事があるらしい。
 重要なのは『カイザの世界』の情報を持っているという事だ。自身が明かしていない重要な情報を握られているとなれば情報面での優位が消えるのは言うまでもない。
 例えばカイザのベルトの秘密が明かされれば少々面倒な事になる。
 勿論、今の所奴がそれを明かす様子はない。とはいえ、見透かされているというのは気に入らない。
 切り札を隠し持っている可能性も踏まえ、一番警戒すべきはこの男だろう。

「(後は俺の世界の連中か――)」

 当面の同行者についてはひとまずこれで良いだろう。
 次に考えるべきは自身の世界の参加者に関してだ。一応ルール的には仲間という事になっている。
 が、少なくても木場勇治、海堂直也、村上峡児といった3人のオルフェノクに関しては全く仲間だとは思っておらず、何処かで野垂れ死んでくれれば良いと考えている。
 とはいえ、人の心を失った怪物である彼等が都合良く他の世界の連中を潰してくれるという意味では一応役には立つ。
 もっとも、ベルトを手に入れる為に自分達を襲う可能性も否定出来ないわけだが。

 ファイズのベルトを持つ巧については前述の通り受け入れがたい存在ではあるがその実力だけは信頼に値する。
 前述の3人に襲われた所で今更ベルトを奪われる様なヘマもしないだろう。
 だが、奴もまたオルフェノク。人の心を持ったオルフェノク等という馬鹿げた事を抜かしオルフェノク同士馴れ合う唾棄すべき存在だ。
 それなのに――

「(何故、真理はわかってくれなかった――)」

 だが、真理はそんな巧を受け入れたのだ。
 いや、真理だけではない菊地啓太郎や三原修二に阿部里奈ですらも受け入れたのだ。
 思えば、木村沙耶が巧にデルタギアを託そうとしていたらしいという話もあった。
 草加自身はそんな事は絶対に有り得ない、奴の馬鹿げた思い込みだと断じていたわけだが真意は最早誰にもわからない。
 無論、木場勇治、海堂直也といったオルフェノクとも馴れ合っていた。
 奴は人当たりの悪く口下手さも目立っていた。更に言えば草加自身が仲間を作らない様に根回ししていたのにも関わらずだ。
 草加にはそれが理解出来なかった。何故あの男がああいう風に受け入れられるのか?
 何にせよ、オルフェノクである奴を認めるつもりは全く無い。戦力の都合もある故、当面は何時もの様に奴を信頼するなと触れ込む事は控えた方が良いだろうが、機会さえ訪れるならばあるいは――

924落ちた偶像 〜fool's festival〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:21:05 ID:wLMT0wZI

「(後は三原か――)」

 そして三原だ。最初は戦う事を拒否していたが最近はやる気になっている。
 更に彼は生き残った流星塾の仲間でもある。言うなればこの地における信頼の置ける唯一の仲間と言ってもよい。
 だが、彼は単純なスペックなら3つのベルトの中でも最強である筈のデルタの能力を十二分に引き出しているとは言い難い。
 正直な所、ラッキークローバーの北崎辺りが使っていた頃の方がずっと強いと言わざるを得ず、自分が使った方がまだマシな様な気すらする(とはいえ、カイザの方が使いやすいという実感もあるので三原に譲渡したわけだが)。
 つまり、三原の場合は戦闘力の乏しさが問題となる。下手すれば既に敗れ去っている可能性だって否定出来ない。
 敗れ去るだけならばまだ良い。むしろ重要なのは彼の持つデルタギアが奪われ利用される恐れがある事だ。
 他の2つと違いデルタギアは使用する『だけ』ならば誰にでも出来る。不適合者ならば危険人物になるわけだが敵の手に渡った時点で自分からみれば大差はない。
 カイザ以上のスペックを持つデルタが敵に回る事が問題なのだ。厄介な敵を増やす事は避けるべき、それをされる位ならば自分が使った方がまだマシだ。

「(とはいえ、三原を遊ばせるのも良くはないか……しかしどうしたものか……待てよ)」

 ここでふと草加はある事に気が付く。
 デルタギアを巡って流星塾の仲間達が醜い争いを繰り広げていた。
 その原因はデルタギアの不適合者であったが故に精神が変調したからであり、彼等は変身解除しても残留するパワーを駆使し牙を向けてきた。
 だが、オルフェノクや自分の様な適合者は使った所で全く影響はなく、パワーが残留するという事もなかった。
 では三原はどうなのか? 結論から言えば三原は良くも悪くも全く影響を受けなかった。
 これは三原の精神が強かったからなのか? いや、すぐに逃げ出す様な三原が精神の強い人間とは言えないだろう。
 恐らくは――自分同様ベルトに適合する肉体――そういう事なのだろう。

 つまり――三原ならばファイズやカイザのベルトを問題なく使える可能性があるという事だ。
 そう、デルタのベルトを自分が使い、カイザのベルトを三原に使わせるという事を考えたのだ――が、

「(……いや、幾ら何でもカイザのベルトを好き好んで使うわけもないか)」

 この仮説はあくまでも可能性に過ぎない。ファイズのベルトならば弾かれるだけなので問題はないが、カイザのベルトはそうはいかない。
 唯一とも言うべき元の世界の仲間である以上、そこまでリスクの高い事はさせられない。

「(カイザを使わせるかはともかく、どちらにしてもデルタは手元に置いておくべきだな……)」

 実は三原に関してはもう1つ問題がある。
 三原は良くも悪くも自分について把握している人物だ。
 下手をすれば自分にとって都合の悪い情報を振りまいている可能性もあるだろう。
 特に真理が死んだ事が解れば、自分が優勝狙いに切り替える可能性に容易に予想出来る筈だ。
 そうなると後々動きにくくなる事は言うまでもない。
 三原も優勝狙いになってくれるならそういう心配はないだろうが、彼の性格や実力から考えてそれはまず有り得ない。せいぜい生き残る為に必死になるだけだろう。
 何にせよ、三原が自分に都合の悪い事をする前に合流は目指した方が良いだろう。合流さえ出来れば幾らでもやりようはある。

「(全く、頭が痛い話だ……)」

 考えれば考える程頭の痛い話であり、本当に刺す様な痛みすら感じる。

「あの草加さん。大丈夫ですか?」

 と、頭を抱える草加を心配してか五代が声を掛ける。

「ああ、別に何でもない。それより、秋山の方を見張っていてくれないか」

 そう何事も無かったかの様に返す草加だった。
 何にせよ此処までの話は机上の空論でもある。今は目先の事に集中すべきだ。
 合流出来るか解らない同郷者よりも、目先の同行者に対する警戒の方が重要だ。
 故に再び海東へと視線を向けた。

925落ちた偶像 〜fool's festival〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:21:40 ID:wLMT0wZI


「(秋山蓮を警戒するとみせかけて――僕を警戒する、まぁ当然かな)」

 その海東は草加が自身を警戒している事に気付いていた。
 変身出来ない蓮とフィリップはさほど警戒すべき対象ではなく。強大な力を持つクウガとはいえお人好しで善良な五代もそこまで問題にはなり得ない。
 となれば、客観的に見ても真意を悟られにくく底が読めない自分を警戒するのは当然の帰結だろう。
 もっとも、それは常日頃から門矢士から何を企んでいるのかと言われている自分にとっては何時もの事なので別段気にしていない。

「(でも、それはお互い様だ。君が簡単に園田真理の蘇生――優勝を諦めているとは思っていない。今はともかく何れは僕達を出し抜くつもりなのは解っているよ)」

 一方で海東自身、草加が未だ優勝を狙っていると考えていた。
 フィリップを襲った時の態度と言動から、彼が真理1人の為に優勝を目指していたのは明白。その態度から察するに恋人か何かだったのだろう。
 言ってしまえば五代にとっての『人々の笑顔』、自身にとっての『お宝』に匹敵する程大切なものだろう。
 真面目な話、安っぽい説得等では止める事など不可能だ。
 しかし、あの時自分達が介入した事で引き下が――いや、改心した素振りを見せた、それも恐ろしい程あっさりと。
 それが些か奇妙に思えたのだ。そうそう簡単に大切なものを取り戻すのを諦めるだろうか? 少なくても自分だったら諦めたりはしない。
 むしろあの状況では、下手に戦ったところで返り討ちに遭う、ならば隙が出来るまで待つのが得策だと考えるだろう。
 その為に警戒心を解く為に自分達に協力する素振りを見せる。少なくても以後の彼はずっとそういう動きを見せていた。
 そして都合良く優勝を目指していたであろう蓮が現れ、彼に対し警戒心を向ける様にし向ける。
 そうする事により草加自身に向けられる注意が幾らか逸れ、動きやすくするという寸法だ。
 もしかしたら既に他にも何か仕掛けられている可能性もあるだろう。

「(ここまでの事は恐らくフィリップも気付いている筈、クウガ……五代雄介が気付いているかは正直微妙だけどね)」

 フィリップは未だ草加に対し完全に警戒を解いていない。襲われた事もあるわけだが、彼程の洞察力ならばある程度は見抜ける筈だ。
 五代に関しては解らない。洞察力に関しては海東自身の知るクウガである小野寺ユウスケよりもずっと秀でている為、気付けない事もない。
 だが、彼の場合は草加自身の悪意よりも深い悲しみの方に配慮するだろう。悪意を見落とすか、悪意を察してなお気遣おうとするか、そこまではわからないわけだが。

「(問題は今の段階では何の問題も無いという事だ。流石にこの状況でボロを出すわけもないしね)」

 此処までの仮説は只の推測に過ぎず決定的な証拠に欠ける。
 少なくても彼の言動そのものは状況を見る限りでは概ね問題が見られないからだ。
 今の段階で追求した所で容易に切り抜けられてしまうだろう。

「(オルフェノクに対する敵対心が気にならないでもないけど……ただそれにしてもね)」

 草加は木場、海堂、村上の3人を人間に危害を加える怪物オルフェノクだと断じていた。
 海東自身も行った事のある555の世界を踏まえて考えても、そことは違うとはいえ555の世界の出身である草加がそういう態度を取る事に疑問は無い。
 だが、彼は巧に関しては信頼出来ると語っていた。
 五代雄介が海東の知るクウガ小野寺ユウスケと同じ様にクウガであった事を踏まえるならば、
 乾巧が海東の知るファイズ尾上タクミ同様ファイズである可能性は高い。
 そしてそれを踏まえるならば乾巧もまた尾上タクミ同様オルフェノクである可能性が高い。
 しかし草加は何故かそれに触れず、信頼出来ると語った。
 草加は巧がオルフェノクである事を知らないのか? 知っているけど他のオルフェノクとは違うと考えているのか?
 それとも知っているけど自分達に対しては何かしらの思惑から伏せているのか? もしくはオルフェノクでは無いのか?

926落ちた偶像 〜fool's festival〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:22:30 ID:wLMT0wZI

「(ま、これに関しては正直どっちでも構わないけどね。それよりも……)」

 草加にばかり警戒を続けるわけにはいかない。他にも気になる事はある。
 その中でも気になるのは真理を殺した白い怪物だ。フィリップや草加達には語ってはいないものの実は海東はその正体をある程度推測出来ていた。

「(この怪物のバックルは仮面ライダーカリスのものに似ている……そこから考えてこの怪物はブレイドの世界に関係する者だと考えて良い)」

 ブレイドの世界の仮面ライダーカリス、そのバックルと白い怪物のバックルが酷似していた事から白い怪物がブレイドの世界の者だと考えていた。
 ちなみにいえば、白い怪物はむしろブレイドの世界で遭遇したジョーカーの色違いという方が正確ではあるものの、海東自身がジョーカーと遭遇していない為、そこまで把握は出来ていない。
 さて、白い怪物がブレイド世界に関係があるのであればその正体はまずブレイド世界からの参加者だろう。
 名簿に記載されていた名前と配置から判断してブレイド世界の関係者は剣崎一真ら6人、恐らくは彼等の内の誰かと考えて良いだろう。
 しかし、ここまで解っていながら何故それを語らないのか? 証拠としては弱いからか? 確かにそれもあるだろう。
 だがむしろ重要なのはブレイド世界からの参加者の中に海東にとって見逃してはならない名前があったのだ。

「(志村純一……兄さんと同じ名前を持つ男……か……)」

 海東大樹には海東純一という兄がいる。海東純一は海東大樹のいた世界にて仮面ライダーグレイブとして戦っている。
 その世界はフォーティーン及びローチによって支配されており海東純一は彼等に操られる事となった。
 海東大樹は大ショッカーからディエンドライバーを奪いディエンドとなり兄を取り戻そうとしたが、操られていた筈の海東純一の真の目的こそが世界を支配する事だった。
 最終的には戦いにはなったものの互いにトドメを刺す事はなく何とか収まったわけではあるが――

 さて、今更な話ではあるがその世界のグレイブ、ランス、ラルクのベルトはブレイドの世界のベルト、特にレンゲルに近い構造をしている。
 更に言えばローチの姿は白い怪物をどことなく彷彿とするものだ。
 それらから考えて海東兄弟の世界とブレイドの世界が似ている事がわかる。その流れを見れば『純一』の名を持つ者がブレイド世界にいる事自体は不思議でも何でもない。
 そしてユウスケ達の例から考え、志村純一が海東純一に相当する存在である事が推察出来る。
 言うなれば彼はもう1人の仮面ライダーグレイブとも言える。

「(ユウスケも五代雄介も『笑顔』の為に戦っていた……それから考えて、兄さんと同じ名前を持つこの男の目的は……)」

 前述の通り、海東純一の最終目的は世界を支配する事だった。ユウスケ達の例を考えるのであれば志村純一の最終目的が同じものである可能性は決して否定出来ない。

「(……いや、今はまだ結論を出すべきではないか)」

 が、所詮これは推測レベルの話でしかない。懸念はあるものの現状これ以上考えても仕方の無い事だ。
 とはいえ『純一』という名前はどうしても気になる。もしかしたら白い怪物の正体に関係している可能性も否定出来ない。
 本来ならばそれを今すぐにでも語るべきかも知れない。だが、海東はそれを語らない。
 もしかしたら、遠い世界にいる『兄』に対する複雑な感情があったのかも知れない。

「(どちらにしてもやるべき事は変わらない。そう、僕は『お宝』を手に入れる、そして守るだけだ)」

927落ちた偶像 〜fool's festival〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:23:15 ID:wLMT0wZI


   ◆


 色々話し合った結果、5人はE-6にある警察署を経由しE-4にある病院に向かう事にした。
 大ショッカー打倒の為には仲間を集め戦力を整える必要がある。
 故に、参加者の集いやすい警察署、そして病院に向かう事にしたのだ。
 なお、そのルート取りとしてはDエリアを横断する道路を通る事にした。
 理由としては鳴海亜樹子がいるであろう東京タワーにある程度の気を回せるからだ。
 一応先程の手紙には東京タワーに来るなとあった。
 彼女を信じてはいないわけではないが、いざという時に助けに動ける用意はしておいた方が良い。
 その為、臨機応変に対応すべく以上のルートを取る事にしたのだ。

 そしてD-7を横断する中――雷鳴の轟く音が耳に飛び込んできた。

「雷?」

 遠方を見ると東京タワーの近くに稲光が炸裂するのが見える。数秒遅れた後に音も響いている。
 晴れている筈なのに――奇妙な現象だと誰もが考える。
 だが、1人だけは違った。

「まさか……ウェザードーパント井坂深紅郎か?」

 フィリップはその雷を起こしている人物が気象の記憶が内包されたウェザーメモリ、その持ち主である井坂深紅郎であると考えていた。

「まずい……幾ら亜樹ちゃんの仲間が強い人物であったとしても井坂が相手では……」

 フィリップの表情に焦りが現れる。
 雷の起こっている場所は亜樹子達がいるであろう東京タワーのすぐ近く、彼女がその攻撃に遭っている可能性は非情に高い。
 それでなくても近くに危険人物がいる事だけは確実だ。
 井坂の変身したウェザードーパントの戦闘能力は絶大。通常のWやアクセルの力ではまず太刀打ち出来ない。余程の実力者じゃなければ対抗は不可能だ。
 故に、亜樹子達に危機が迫っているという事だ。

「(どうする……)」

 幾ら東京タワーに向かうなと言えど、相手が井坂ならば話は別だ。
 生半可な戦力ならば一方的に蹂躙されるだけ、早急に助けに向かうべきだろう。
 亜樹子以外の人物が襲われている可能性もある。何れにしても他者の危機を見過ごす事など論外だ。
 だが、現在位置のD-7から戦場となっているD-5までは少し遠い、負傷者もいる5人が纏まって向かった所で間に合う筈がない。
 それ以前に戦闘力を持たない蓮を連れて行く事は愚行以外の何物でもない。
 となると本来ならチームを分割するべきではないものの1〜2人だけを先行させるのが得策だろう。それでも距離から考えて戦いに間に合うとも思えないわけだが全員で向かうよりはマシだろう。

「(それでも井坂が相手では……)」

 井坂を撃退するにはツインマキシマムクラス以上の火力、あるいはトライアルで限界を超えた速度による連続攻撃を叩き込むしかない。
 果たしてディエンドとクウガ、そしてカイザにそれが可能なのだろうか?
 左翔太郎さえ近くにいればW、それもエクストリームの力で強化変身したサイクロンジョーカーエクストリームになれるわけだが彼がいない以上それは不可能だ。
 それにここで誰かを残した事がミスに繋がる恐れもある。故に草加と蓮の両名に目を光らせる者は必要だ。
 頭を悩ませるフィリップを余所に、

928落ちた偶像 〜fool's festival〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:23:55 ID:wLMT0wZI

「フィリップ君、俺が……」

 フィリップの心中を察した五代が自分が向かうと言い出そうとしたが、

「いや、タワーには僕とフィリップが向かう。クウガ、君は2人と一緒に向かってくれたまえ」

 海東がそう口を挟む。だが、それに異を唱える人物がいた。

「フィリップ君を向かわせるのは危ないんじゃないのかな?」

 草加がフィリップを連れて行く事については反論する。
 なお、これはフィリップを気遣っての言葉ではない。現状で一番やりにくい相手である海東だけを向かわせた方が色々都合が良いと考えたのだ。

「いや、もしあそこにいるのがフィリップの知り合いならばフィリップがいた方が色々話を通しやすいし色々対策も取れる」

 が、問題の場所にいるのが井坂及び亜樹子ならばフィリップがいる場合、知る相手という事で場を収める事が容易になる可能性が出る。

「海東大樹、井坂は強敵だ。ディエンドの力で太刀打ち出来るかは……」

 フィリップとしては海東の申し出は願ってもない話だ。だが、井坂が相手である以上、海東が仕留められる可能性も否定出来ない。
 故に向かいたいという感情を抑えつつ、敗退する懸念を口にするが、

「先程、クウガから受け取ったカードもあるから最低限僕達が無事に離脱する程度の自信はある。勿論、無理強いをするつもりはないけど、どうかな?」

 そう海東は返した。それに対しフィリップは、

「……わかった。それなら今すぐに向かおう」

 と、海東の提案を受け入れた。

「それじゃクウガ、2人の事は頼んだよ」
「わかりました。俺達も後から向かいますから」

 そう五代が言い切る前に海東とフィリップは走り出していた。

「……それで本当に海東を行かせて良かったのか?」

 これまで口を挟まなかった蓮がそう口にする。

「どういう意味かな?」
「例のファンガイアとの戦いでのダメージを考えれば草加が向かうべきじゃなかったのか?」

 実の所、蓮の言い分自体は理に適っている。
 先程のファンガイアの戦いにより五代、蓮、海東は大なり小なり疲弊している。
 それを踏まえるならば疲弊していなくてなおかつ戦闘能力を有する草加を向かわせる方が得策だろう。
 無論、それ自体は草加自身も理解している。
 だが、草加は自分自身が向かうつもりは全く無く、海東か五代のどちらかあるいは両方が向かえば良いと考えていた。
 とはいえ露骨な事は出来ない故に、あまり大きく口にはしなかったわけだが。

「俺もその方が良いと考えていたさ。だが海東君とフィリップ君の意見も尊重すべきだとも思った。あの2人は俺よりも頭が切れるみたいだからね」

 が、表向きには『自分が向かうつもりだったが、海東とフィリップが強く言ったから言わなかった』という風に見せる。

「ま、俺は誰が行こうが構わないがな。そういえば五代、あの戦いでダメージを受けた割には俺や海東よりも調子良さそうだが?」

 草加の思惑を余所に蓮は五代の状態が自分達よりも良さそうな事について疑問をぶつける。

「ああ、だって俺クウガだから」

 五代はそう笑顔で答えた。

「答えになってないな……クウガだから傷の治りが早いっていうのか?」
「ええ、まぁそんな所です」

929落ちた偶像 〜fool's festival〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:26:15 ID:wLMT0wZI


   ◆


 時刻にして5時45分を過ぎた頃、雷鳴の轟いた場所であるD-5のT字路に2人は到着した。
 出来るだけ早く移動したつもりだったが雷は何時しか止んでおりそれどころか辿り着く頃には戦いの音すら聞こえなくなっていた。
 D-7からD-5までの距離故に時間がかかってしまったという事だ。
 そして、その場所で――

「亜樹ちゃん……僕は……」

 フィリップは現場に残されていた亜樹子のスリッパを見つけ項垂れていた。
 スリッパの存在が意味するのは亜樹子がこの場所にいた可能性が非情に高いという事。
 もしかしたら既に彼女は井坂によって死体も残らない程に惨殺されたかも知れない。
 手紙の言葉を鵜呑みにせずにすぐさまタワーに向かうべきだったのかもしれない。
 そういう自責の念にかられなくもない。

「落ち着きたまえフィリップ、そのスリッパが彼女のものであったとしても此処にいた決定的な証拠にはなり得ない」

 落ち込むフィリップに対し海東が口を出す。
 確かにスリッパが別の参加者に支給された可能性もある故有り得ない話ではない。
 とはいえ、どちらにしても誰かが犠牲になったかもしれない以上素直に喜べるわけもないわけだが。

「それに仮にこの場にいたとしても何とか逃げ出した可能性もある」
「そうだ、亜樹ちゃんの事だからきっと……」

 そう言って更に周囲を見渡す。そして、

「……これは?」

 何かの黒い箱の破片を見つけた。

「興味深い……が、これは一体何なんだ?」

 何時もならば嬉々として調査する所ではあるが、今回は状況が状況故にそこまで喜んではいられない。

「それと同じ様なものなら僕もあそこで見つけたよ」

 と、海東が少し離れた場所に黒い箱の破片を見つけた事を話す。同じ黒とはいえ微妙に色合いが違っている。

「恐らくこれは龍騎の世界に存在するカードデッキ、その破片だね」
「龍騎の世界?」
「城戸真司と秋山蓮のいる世界といえばわかるかな?」
「前々から気になっていた事だが、何故君は他の世界の事にそこまで詳しいんだ?」
「お宝を求めて色々な世界を旅してきたから……と、それよりもそのカードデッキを使えば仮面ライダーに変身出来る。鏡か何かに翳す事で現れるベルトに挿入することでね」
「鏡に翳す事で現れるベルト……実に興味深い」

 と、周囲を見渡し鏡か何かを探す。

「いや、そこまで壊れていたらもう使えないよ」
「仕方な……!」

 そんな中、見つけたロードミラーに蟹の怪物が映っているのが見えた。

「これは……」
「仮面ライダーシザーズの契約モンスターか、どうやら片方はシザーズのデッキの様だ」
「契約?」
「ああ、言い忘れていたがそのカードデッキはモンスターと契約しなければ力を発揮しない」
「……待ってくれ、デッキが破壊されたという事は」
「契約は解除されモンスターは無差別に人を襲うだろうね。もっとも、基本的に鏡の中にしかいられないわけだけど……」

 何時鏡から出てくるかは不明瞭故に放置するわけにはいかない。とはいえ鏡の中に対し攻撃を仕掛ける事など不可能。それ故に手を出せずにいる。

 何にせよ、状況から考えてこの場にはデッキを使う仮面ライダーがいた事になる。
 デッキが支給されていたのが亜樹子という可能性もあるだろう。
 とはいえ、破壊されている以上は敗北したということなのだろうが――

 何にせよ、死体が残っていない以上、本当に惨殺されたかどうかは不明。
 また、亜樹子がここにいたという前提自体が仮説に過ぎない。
 それ故に下手に断定するわけにはいかないだろう。

930落ちた偶像 〜fool's festival〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:26:50 ID:wLMT0wZI

「さてフィリップ、もう少し此処を調べるかい? それともタワーに向かおうか? 僕はどちらでも構わないけど」

 問題はこれからどうするか、回収出来たのはデイパックとスリッパだけ。
 これ以上調査した所で時間に見合うだけの成果は期待出来ないだろう。
 亜樹子の行方も気になる所だ。タワーにいる可能性もあるが、戦いに巻き込まれた事でタワーから離れた可能性もある。
 単純にタワーに向かって良いというものでもないだろう。

「……ひとまず、五代雄介達の所に戻った方が良い」

 考えた結果、一旦3人の元に戻りそれから再度方針を検討し直す事にした。
 井坂等の強敵を相手にするのに海東だけをアテにするわけにはいかない。
 現状の戦力を結集する方が最善と言えよう。
 海東もその考えに賛同し一旦戻る事になった。

「……そういえば」
「どうした海東大樹」
「いや、デッキは2つあったのに確認できたモンスターが1体だけだったのが気になってね……倒されたんだったら別に構わないが」


   ◆


 D-5T字路での戦いで破壊されたデッキはシザーズとガイ、2つのデッキだ。
 デッキが破壊された事により2体のモンスターは野に放たれた。
 前述の通り、シザーズの契約モンスターボルキャンサーはT字路に残り参加者を喰らわんと待ち受けている。
 もっとも、制限上の都合により当面は襲撃することはないわけだが――

 ではガイの契約モンスター、メタルゲラスは何処に向かったのだろうか?
 結論を述べよう。今現在メタルゲラスは何処かへと走っている。
 『何処』? それ自体はメタルゲラスだけが知る話である。
 しかし、目的もなく走るわけもない。恐らくは自身に関わる人物の匂いを探知しそれを元に追跡しているのだろう。

 この場で自身のデッキを所持していた葦原涼?
 涼が変身したガイと交戦した村上?
 涼と激闘を繰り広げた紅渡?
 奇襲を仕掛けデッキを破壊したアポロガイスト?
 あるいは――元々の世界に置ける仇敵ともいうべき浅倉威?
 無論、全く別の可能性すらあるだろう。

 問題は今のメタルゲラスは何時でも現実世界に現れ攻撃を仕掛ける事が可能だという事だ。
 対処する方法は3つ、
 1つ、制限時間である1分を逃げ切る。
 2つ、襲撃してきたメタルゲラスを撃破する。
 3つ、カードを使い封印、あるいは契約を結ぶ。
 何れかの方法で対処せねばならないだろう。

 メタルゲラスは奔る――自らの『敵』の元へと――


  ◆


「それにしても……草加雅人が何か仕掛けていなければ良いけど……」

 その最中、草加の暴走を危惧するフィリップではあるが、

「その為にクウガを残したから大丈夫だろう」

 そう、海東はそれを見越した上で五代を残したのだ。
 仮に五代が単身で向かえば危険人物である草加と蓮の2人を相手取りつつフィリップを守らなければならなくなる。
 また草加と誰かを向かわせた場合もそこでの戦いに乗じて同行者を密かに排除する可能性があった。
 故に、海東は自身とフィリップが調査に向かい、五代に危険人物の監視をさせる形に話を運んだのだ。
 こうする事で自身はフィリップの護衛に尽力する事が出来、五代の方も守る負担を軽減させる事が出来るという事だ。
 海東の見立てでは五代の変身したクウガはユウスケの変身したそれよりもずっと強く精神的な面でもずっと信頼出来る。
 それがあったからこそ五代に危険人物2人を任せる事が出来たのだ。
 フィリップ自身も五代は他の3人よりも信頼に値すると考えている。それ故に海東の考えには異を唱えなかった。

 そうしてD-6に入った頃、

「……ん?」
「秋山……蓮……」

 2人の方に蓮が向かってきた。何故蓮が単身此方に向かってきたのか?
 もしや何者かが襲撃し、戦闘能力を持たない蓮が離脱したのだろうか?

「蓮、何かあったのかな?」
「ああ……」

 そう問いかける海東だったが。

「なっ……それは本当かな?」
「まさか……そんな馬鹿な……」

 それは2人の予想を超えた最悪の事態だった――

931落ちた偶像 〜kuuga vs χ〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:29:10 ID:wLMT0wZI
 海東達が向かってから数分後の事、突然、五代が何かを感じ周囲を見回す。

「どうした?」
「銃声……」
「俺には聞こえなかったが」

 五代の耳に飛び込んできた小さな銃声、だが草加と蓮には聞こえていない様だった。
 だが、もし遠くに狙撃手が潜んでいるのであれば迅速に対処しなければそのまま撃たれてしまう。
 今の一発でおおよその場所は推測出来る。ならば――

「俺が撃った人を探します。草加さんは秋山さんをお願いします」

 草加に蓮を任せ狙撃者を探しに向かった。
 2人に聞こえなかったという事は大分離れた所から狙撃してきたのだろう。
 自分にだけ聞こえたのはクウガになった事で変身せずとも身体が強化されているから、
 体内にあるアマダムの力により変身していない状態でも五代の肉体は大幅に強化されている。治癒能力が強化されているのもその為だ。
 クウガに変身している時よりは遙かに劣るものの身体能力や感知能力もまた強化されているという事だ。
 何にせよ対処出来るのは唯一聞こえた自分だけ、狙撃手を確保すべく五代は走る――

 その一方、蓮は草加から少し距離を取る。

「何のつもりかな?」
「五代の言う通りならいつ攻撃が来てもおかしくないからな」
「だったら何故俺から離れるのかな? 変身出来ない君は只の的じゃないのかな?」
「悪いが盾になるつもりはない」

 蓮は草加に対しそう言い切る。

「盾……冗談にしては笑えないな」
「『近くにいたお前が悪い』と言われたくもないんでな」

 蓮の態度は明らかに草加を警戒していた。

「良くないな、そういう態度は」
「馬鹿正直に信じて泣きを見るよりはマシだ」
「そんな態度ばかりだと友達が出来なくなる」
「欲しいとも思わん」

 先程も感じたが明らかに巧と同じタイプの人間だ、草加はそう思った。

「ところで……本当に俺の荷物は他に無かったのか?」
「……どういう意味かな?」
「いや、その中に大事なものがあったんでな」
「……知らないな。例え持っていても君には渡せない、理由は言わなくても解るだろう」
「もっともだ」

 奴の警戒心、そして五代達のいないタイミングで聞き返した事から自分がデッキとメモリを持っていると疑っているのだろう。
 その言動から見て奴が自分を警戒・敵視している事は確実だ。
 丸腰ではあるから今の所は放置しても構わないが、後々水面下で五代達と結託されると面倒だ。
 ならば連中が結託しない様に仕掛けてやれば良い。そう考え、

932落ちた偶像 〜kuuga vs χ〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:32:30 ID:wLMT0wZI

「とはいえ、持っていそうな奴に心当たりはあるけど」
「海東か?」
「ああ、彼は色々と隠し事をしている。もしかしたらあの戦いに乗じて君の大事な物を盗んでいった可能性もあるだろう」
「ほぅ」
「ただ気を付けた方が良い、フィリップ君と五代君は彼を信用している。更に言えば奴は口が上手い、今糾弾した所で君が窮地に陥るだけだ」

 そう言って、自身に向けられた疑いを海東に向けさせる様にし向ける。
 これで矛先が海東に向けば、蓮が五代達と組む可能性は低くなり、色々と動きやすくなる。
 無論、万が一蓮が自分がこう言ったからだとバラしたところで、今の話そのものには何の嘘もない為、自身が受けるダメージは殆ど無い。
 むしろ集団内で疑心暗鬼にかられる状況を作り出すという意味では都合が良い。

「なるほど、海東か。奴には気を付けておこう」
「ああ、彼は何処か自分の力を楽しんでいる節がある」

 これで蓮が下手を打って孤立してくれるのであれば万々歳、草加はそう考えて内心で笑みを浮かべる。

「……そう言って自分に対する疑いを逸らせるのが狙いか?」
「何?」

 蓮の反応に対し驚いた様な表情を見せる。

「お前に言われるまでもなく海東についても気を払うつもりだ。だが、それでお前を信用して良いかは全く別の話だ」

 そう返され動揺する草加である。

「わざわざそう言う所を見ると俺達を互いに潰し合わせて漁夫の利を得るのが狙いか?」
「……れ」
「お前、もしかして優勝を狙っているんじゃないか?」
「黙れ!」

 草加は今までの態度を一変させ声を荒げて言った。

「人を見透かした様な事を言うな……お前に何が……」
「わかりたいとは思わん」

 だが、蓮はあくまでも冷静に返す。

「……言っておくが君の話を信じて貰えるとは思わない方が良い」

 草加はそう言って蓮に釘を刺す。実際、蓮自身が完全に信用されていない以上、話した所で五分五分といった所だろう。
 それどころか、草加にはまだ真理を失った事情があるが故に同情される部分がある。
 それ故に蓮の方が不利だと言えよう。

「証拠もないからな……何よりお前は口が上手すぎる」

 蓮としても今の段階で草加を糾弾するつもりはない。草加を放置して良いとは思わないが決め手がない限りは手を出せないだろう。
 二者の間に不穏な空気が流れる――そして、

「……五代君か?」

 いつの間にか五代が戻ってきていた。だが、五代は物静かな様子で口を開こうとしない。

「撃った奴はどうした……ん……?」

 五代の様子が何かおかしい。そして五代は微かに口を開け、

「……加さん……まさん……逃げ……!」

933落ちた偶像 〜kuuga vs χ〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:33:05 ID:wLMT0wZI


 五代の腹部にはアークルが浮かび上がっている。


「「!!」」


 そしてアークルから禍々しき紫の波動が放たれ、五代の肉体が変化しクウガと成る――


 が、それは何時もの赤い戦士のものではなく――


 全身に刺々しく突起物を出した漆黒の肉体と金の装甲を身に纏い――


 二本である筈の角は四本となりそれらは他者を威嚇するかの如く高く伸び――


 本来ならば赤であるはずの大きな瞳すらも深い闇に沈んだ黒に染まっていた――


「なに……!?」
「おい五代、どういう事だ?」

 前に見た時とは全く違う姿に驚きを隠せない草加、間合いを取りつつ五代に呼びかける蓮、


 そんな2人を余所にクウガは右手に禍々しい紫色の波動を纏い――


 そのまま2人へと放った。その強烈なパワーにより2人はあっさりと吹き飛ばされる。


「ぐっ……何のつもりだ五代!」


 草加は痛みを堪え何とか立ち上がろうとする。少し後方では蓮も立ち上がりつつ距離を取ろうとする。


「盾にも出来ないか……使えないな……」


 そんな2人に構うことなくクウガがゆっくりと近付いていく。


「血迷ったか五代雄介! 良いだろう……」


 草加はすぐさまカイザのベルトを取り出し装着する。そして携帯電話型ツールカイザフォンを構え『9・1・3』の順に番号を押した後『ENTER』ボタンを押す。


 ――Standing By――


「変身」


 そう言いながら閉じたカイザフォンをベルトにセット、


 ――Complete――


 電子音声と共にベルトから黄色のフォトンストリームが展開され草加の肉体を覆い1つの装甲と成し、
 躰と頭部に『Χ』を刻んだ戦士カイザへの変身を完了した。


 そしてすぐさまクウガへと迫り胸部を殴りつける。
 一発入った事を確認した後、更に何発も殴りつける。

「ハァッ!」

 更に回し蹴りを入れる。カイザの波状攻撃は全てクウガに命中していた。
 一見するとカイザの方が押している様に見える。だが、

934落ちた偶像 〜kuuga vs χ〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:33:40 ID:wLMT0wZI


「(なんだ……この感じ……)」


 カイザはある種の違和感を覚えていた。それでもその違和感を振り払うが如く渾身の力を込めてクウガを殴り――


「なっ……」


 カイザの拳はクウガの左手によって完全に止められていた。そして、


「がばっ……」


 腹部に衝撃が奔る。クウガの拳がカイザの腹部にねじ込む様に打ち込まれていたのだ。その衝撃は非情に強くそのまま吹っ飛ばされ地面に強く叩き付けられた。


「ぐっ……」


 全身から悲鳴が聞こえるかの様に激痛を感じる。奴の攻撃を受けたのはたったの2度でしかない筈なのに既に限界を迎えたかの様だ。


 立ち上がろうとするカイザであったがクウガが立ち上がる前に仕掛けるべく近付いていく。


「(立ち上がるよりも奴の方が早いか……ならば)」


 すぐさまカイザはデジカメ型ツールカイザショットにカイザフォンに装填されていたミッションメモリーを挿入しパンチングユニットに変形させ右手に装備。
 そしてそのままカイザフォンの『ENTER』キーを押し、


 ――Exceed Charge――


 ベルトからフォトンストリームを流れるフォトンブラッドを通じエネルギーがカイザショットに装填される。


 そしてクウガが眼前まで迫った段階でカイザショットのミッションメモリーが光り、そのままクウガの下腹部を殴りつけた。
 その衝撃は非常に強く同時にフォトンブラッドのエネルギーも一斉に流れ込む。
 その証明かクウガに『Χ』の紋章が浮かび上がる。
 これで決まったか? カイザは一瞬そう思ったものの、


 次の瞬間には自身の躰が大空を舞っていた。


「がはっ……」


 何が起こったのだろうか?
 その瞬間、クウガはカイザを高く蹴り上げ、そのまま何回も殴りつけたのだ。それこそ一瞬の間で何発も。そして最後に紫の波動で吹き飛ばしたというわけだ。

 地面に叩き付けられながらも何とか立ち上がろうとする。
 しかし状況は悪い。このままではみすみす殺されるだけだろう。そうなれば真理を蘇らせる事も不可能だ。
 だがどうすれば良い? そもそもの話こちらの攻撃が通っているのだろうか?
 カイザショットを使った必殺技とも言うべきグランインパクトの直撃を受けても大きなダメージを受けた様には見えない。
 ダメージが通っていなければ戦いようがない。

「(いや……まだ手はある……)」

 ならばそれを越える攻撃を注ぎ込めば良い。そう思い『Χ』を模した武器カイザブレイガンに手を掛けようとしたが、


「!! カイザブレイガンが……」


 10数メートル離れた場所にブレイガンが落ちていた。どうやら先の攻撃で吹っ飛ばされた際に落としてしまった様だ。
 状況的には最悪――いや、先の攻撃でベルトそのものが外れて変身解除されなかっただけまだマシか。

935落ちた偶像 〜kuuga vs χ〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:35:00 ID:wLMT0wZI


「こうなったら……」


 と、カイザフォンを取り出しミッションメモリーを装填、そして銃形態に変形させ『1・0・6・ENTER』の順に押し、


 ――Burst Mode――


 とレーザー光線フォンブラスターを連続で発射しクウガを牽制する。
 放たれた3発の光線の内1発は命中したものの残り2発はかわされる。
 しかしすかさず動きながら次の3発を発射、クウガは今度は的確に全て回避していく。
 そして3発、また3発と発射し弾切れ音が響く。その後『2・7・9・ENTER』と押し、


 ――Charge――



 その電子音声と共にブラスターに弾が再装填される。そして今度は『1・0・3・ENTER』、


 ――Single Mode――


 単発ながらも命中精度の高いレーザーを発射、直撃こそしなかったが僅かに躰の表面をかする。
 そうしてクウガがレーザーへの対処に追われている間にカイザはブレイガンの所に到達しそれを拾い上げ、コッキングレバーを引きそのまま戻す。


 ――Burst Mode――


 そのままクウガにブレイガンを連続して発射する事で足を止めさせる。その隙にミッションメモリーをブレイガンにセットし、


 ――Ready――


 ブレイガンから刀身を展開しブレイドモードに変形、そのまま『Enter』を押し、


 ――Exceed Charge――


 電子音声と共に先程同様フォトンブラッドを通じエネルギーがブレイガンの刀身に流れていく、


 その間にコッキングレバーを引いた後に引き金を引きエネルギーネットを着弾させクウガの動きを封じる。そしてエネルギーがブレイガンの刀身に注ぎ込まれた事で発光し、


「終わりだ」


 そのままブレイガンを構え、黄色に輝くΧの光と共にクウガへと迫る――


 直撃させれば今度こそ仕留める事が出来る。


 園田真理を蘇らせる――


 その歪でありながらも純粋な願いを以てカイザ――草加雅人は挑む――

936落ちた偶像 〜kuuga vs χ〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:35:45 ID:wLMT0wZI


  ◆


「なるほどね……」
「海東大樹、五代雄介に何が起こったのかわかったのか?」

 蓮を通じて知らされた五代の暴走。フィリップは信じ難い表情をする一方、海東は何が起こったのかを概ね把握していた様だった。

「まぁね。細かい説明は後回しにするがクウガの暴走は彼の意思によるものじゃない」
「だろうな、奴も逃げろと口にしていたからな」
「一体彼に何が……」
「正直な所、雅人じゃあのクウガに勝つのは難しい。無事であれば良いけどね」

 確かに信用出来ない相手とはいえこのまま死んで良いという事にはならない。故に無事を祈りたい所ではある。
 その2人を余所に蓮はある物を取り出す。


 ――Eternal!!――


 それから響いた音声を聞いてフィリップが驚いた表情を見せる。


「それはエターナルのメモリ……何故君が?」


 かつて風都全体を震撼させたテロリスト不死身の傭兵集団NEVER、そのリーダーである大道克己が使ったT2ガイアメモリエターナル。
 それとロストドライバーを用いて変身した仮面ライダーエターナルはWの最強形態である筈のサイクロンジョーカーエクストリームを遙かに凌駕した。
 勝利を願う風都の人々の祈りの風を受けて更なる進化をすることが出来なければ勝てなかったであろうフィリップの知る限りの最強最悪の戦士だ。
 何故そのメモリが蓮の手元にあるのだろうか?

「元々これは俺に支給されたものだ。もっともロストドライバーだったか、そいつが無いから無用の長物だったがな」
「待ってくれ、君の支給品は僕達も確認している。その時には無かっ……まさか……」

 あの時、海東と五代がファンガイアと戦い、フィリップは蓮を保護、そして草加が近くにあった荷物を回収した。
 その後草加から首輪を受け取り園咲邸で解析を行い、荷物に関しても皆で確認し応急手当ての際に武器や変身道具を隠し持っていない事も確認した。
 この一連の中で他の皆に悟られることなくメモリを確保出来る者など1人しかいない。

「草加雅人……まさか彼が……」
「やられたね。お宝の確保という僕のお株を奪うとはね」


   ◆


 カイザとクウガの戦いを蓮は遠目に見ていた。
 状況から見てカイザの方が圧倒的に不利、敗北は時間の問題だろう。
 デッキが無い為変身出来ない今の状態では介入する気など全く無い。
 この場は早々にフィリップ達の所に向かい事のあらましを説明すべきだろう。
 そう考え蓮はこの場から立ち去ろうとしたが。

「ん……?」

 と、少し離れた場所自身が持っていた筈のデッキを見つけた。

「さっきの攻撃で落としたのか……やはり草加が持っていたか」

 早々にデッキを拾い上げる。これで変身能力を取り戻した事になるが介入するかどうかまでは考えていなかった。
 戦う事自体に異論は無いものの、デッキを盗んだ草加を助けてやる義理などない。
 それ以前に今のクウガと戦った所で勝てるかどうかは不明瞭。それ故、やはりフィリップ達の所に向かうべきだろう。
 そう思ったもののすぐ傍にエターナルのメモリを見つけそれも拾い上げる。

「エターナル……やはりコイツも……流石にディスカリバーはな……待てよ」

937落ちた偶像 〜kuuga vs χ〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:39:10 ID:wLMT0wZI

 ここである事に気が付く。
 草加が自分の武器を確保した事については危険人物の武器を取り上げる事自体は常套手段故にそれ自体は問題ない。
 だが、問題はそこではない。ロストドライバーを持っている草加が水面下でエターナルメモリを確保していた事が問題なのだ。

 先の情報交換の際、草加がロストドライバーを持っている事が判明した。
 フィリップの説明によれば連動するメモリが無ければ作動しないらしい。
 そして、現状の5人の手持ちに連動するメモリが無い為、現状では無用の長物となる。
 それ故に草加はフィリップに負担を掛けない様な態度を見せ自身の手元に置いた。

 だが、蓮はそれに連動するメモリの存在を知っていた。
 それは自身に支給されたエターナルメモリの事だ。エターナルのメモリがあるならばロストドライバーを使う事が可能だ。

 ここで草加が蓮の持っていたエターナルを確保しそれをフィリップ達に伏せていた事が問題になる。
 何故エターナルの力を使える事を仲間達にまで伏せる必要がある?
 しかもエターナルはフィリップの世界の物らしい、フィリップに持たせた方が色々都合が良い筈だ。
 単純に自分の手元に置くとしても『戦いは自分に任せろ』と言えば済む話だ、伏せておいて良いわけがない。

 つまり――草加はフィリップ達を出し抜こうとしている、そして最終的には――

 その結論を導き出した蓮は戦いに巻き込まれない様戦場を後にした――


  ◆


「……どうしてメモリが支給されていた事を黙っていたんだ?」
「本当に持っていなかったら無駄に手の内を明かすだけだからな。下手を打つつもりはない」
「わからなくはないね」
「全員で口裏を合わせていた可能性もあったがその口振りでは知らなかった様だな、草加がメモリを確保していた事をな」
「草加雅人……やはり君は……」

 フィリップがそう零す。
 草加が水面下で自分達を出し抜き優勝を目論んでいる頃が判明した以上、彼に対しても何らかの対策を取る必要がある。
 下手をすればこのまま大ショッカーの狙い通り事を運ばれる可能性もあるだろう。

「それで蓮、君はこれからどうするつもりだ?」
「そうだな……詳しい話でも聞かせて貰おうか。どうやらあのクウガの事も知っている様だしな」

 蓮の目的自体は自分の世界の優勝だ。
 だが、その為にはどのみちあのクウガを倒す必要がある。しかし今の自分の力ではそれは不可能に近い。サバイブの力で強化したとしてもだ。
 それ以前にサバイブのカード自体デッキを確認した所見当たらなかった。
 草加が未だ隠し持っている可能性も考えたが、自分で使うならばデッキに入れて保管した方が色々都合がよい。
 故に最初からデッキに入っていなかったと考える方が自然だ。
 何にせよ、サバイブのない現状では無駄死にするだけだ。ならば現状はこのまま海東達と共闘した方が良いと判断した。

938落ちた偶像 〜kuuga vs χ〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:40:45 ID:wLMT0wZI

「それ自体は構わない――ただ」

 海東達としても情報交換する事自体は吝かではない。だが、

「もう放送の時間だ――」

 既に時刻は放送まで数十秒というタイミングに迫っていた――


【1日目 夕方】
【D-6 道路】

【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】健康
【装備】無し
【道具】支給品一式×2、ファングメモリ@仮面ライダーW、バットショット@仮面ライダーW、スパイダーショック+スパイダーメモリ@仮面ライダーW、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、
エクストリームメモリ@仮面ライダーW、ダブルドライバー+ガイアメモリ(サイクロン)@仮面ライダーW、首輪(北岡)、首輪の考案について纏めたファイル、工具箱@現実
【思考・状況】
0:放送を聞き情報交換、その後は警察署経由して病院に向かう? あるいは……
1:大ショッカーは信用しない。
2:友好的な人物と出会い、情報を集めたい。
3:草加雅人は信用しない方が良い。
4:真理を殺したのは白い化け物。
5:首輪の解除は、もっと情報と人数が揃ってから。
【備考】
※バットショットにアルビノジョーカーの鮮明な画像を保存しています。
※首輪の考案について纏めたファイルを見ました。

【海東大樹@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】最終話終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)
【装備】ディエンドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード(サイガ、コーカサス)
【道具】支給品一式、不明支給品1〜2(確認済み)
【思考・状況】
0:お宝を守る。
1:放送を聞き情報交換、その後は警察署経由して病院に向かう? あるいは……
2:殺し合いに乗った奴の邪魔をする。
3:フィリップ、秋山蓮と共に行動。
4:五代雄介の知り合いと合流。
5:知らない世界はまだあるようだ。
6:志村純一……
7:蓮、草加を警戒。五代に対しては……。
【備考】
※クウガの世界が別にあることを知りました。
※首輪の考案について纏めたファイルを見ました。

【秋山蓮@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】第34話終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)
【装備】ナイトのデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、エターナルメモリ@仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ
【思考・状況】
0:放送を聞き情報交換、その後は警察署経由して病院に向かう? あるいは……
1:自分の世界のために他世界の人間を倒す。
2:まずはこの集団に潜む。
3:協力できるなら、同じ世界の人間と協力したい。
4:同じ世界の人間を捜す(城戸優先)。浅倉とは会いたくない。
5:協力者と決着をつけるのは元の世界に帰ってから。
6:草加、クウガを警戒。
【備考】
※首輪の考案について纏めたファイルを見ました。

【首輪の考案について纏めたファイルの内容】
※首輪の内部構造、それに関する考案が書かれています。
※首輪とこの殺し合いについて、以下の考案を立てました。
1:首輪には、自分の世界には無い未知の技術が使われている可能性がある。
2:無闇に解体しようとすれば、最悪自分の世界の住民が全滅される。
3:解体自体は可能だが、それには異世界の知識も必要。
4:大ショッカーは参加者の生きる世界を、一瞬で滅ぼせるほどの兵器を持っている。

939落ちた偶像 〜kuuga vs χ〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:41:30 ID:wLMT0wZI


「成る程、流石だなライジングアルティメットの力は」

 眼鏡の青年がそう口にした。名簿上では金居という名前ではあるがその正体はギラファノコギリクワガタの祖ギラファアンデッドである。
 その手には地の石、そして先の戦いで奪取したカイザブレイガンとカイザショットが握られている。
 そして金居のすぐ傍では五代が倒れている。

「だがここまで自分に都合良く事が運ぶと後が怖いな――」


  ◆


 乃木怜治、及び葦原涼と情報交換をしていた時、遠目にある物が飛んでいるのが見えていた。
 その正体は亜樹子が東京タワーから翔太郎、フィリップ、照井竜の元へと飛ばしたエターナルメモリだ。
 金居はその正体を知らない。だが、それを見た事が金居の行く先を決める切欠となった。

 情報交換を終え乃木と別れた後、何処へ向かうか決め倦ねていた。ホテルに向かう気もこのまま留まる気も起きなかったのだ。
 そんな時ふと先程見えた物体の事を思い出した。アレが何かしらの意図で飛んでいるものならばその行く先には何かがあるかも知れない。
 無論徒労に終わるかもしれないが元々アテの無い話だ。行ってみる価値はあるだろう。
 地図を確認した所D-8にある屋敷に向かったと推測出来る。故に目的地をそこに定め足早に移動を始めた。
 病院での乃木との待ち合わせは22時、それを踏まえるならば出来るだけ急いだ方が良い。

 そうしてD-6を横断する最中、2人の男性が急いで移動するのが見えた。2人の視線の方を見ると雷鳴が轟いているのが確認出来た。
 東京タワー近辺で誰かが戦っているのを知り助けに向かおうとしているのは容易に推測出来る。
 東京タワーの戦いに関わる気が無い以上、2人と接触する気はない。故に金居は2人に構う事無く足を進めた。

 そしてさらに足を進め3人の男性が話ながら移動するのが見えた。やはりタワーに向かっているのだろう。ならば接触しても仕方ないと考えたが――

『そういえば五代、あの戦いでダメージを受けた割には俺や海東よりも調子良さそうじゃないか?』
『ああ、だって俺クウガだから』

 そんな会話が耳に飛び込んできた。

「クウガだと……」

 金居の手元にはクウガをライジングアルティメットに強化した上で支配する力を持つ地の石と呼ばれる物がある。
 その為、機会さえあればクウガを探したいとは思ってはいた。
 まさかこの早いタイミングでクウガに遭遇出来るとは、そう思いつつ早速地の石を試してみようかと考えた。
 とはいえ、普通に接触して使わせて貰えるとも思えない。何しろ下手をすれば3人を相手取る必要が出る。負けるつもりは無いものの少々手間だろう。

「クウガ1人ならば不意打ちで出来るだろうが……さて、どうしたものか」

 思案を続ける――そして、ある1つの妙案を思いつき実行に移したのだ。

 先程立ち聞きした限りクウガは通常の人間よりも身体能力や五感が強化されているらしい。
 金居はそこに着目した。
 まず出来うる限り距離を取りデザートイーグルを発砲する。狙いは何処でも構わない。要するに人間には聞こえにくい程の狙撃音が発生すれば良いのだ。
 普通の人間には聞き取り難くとも五感が鋭いならば聞き取れる。そう、クウガだけに聞こえる様に狙撃の音を出すという事だ。
 他の人間で対処出来ない以上クウガだけが動かざるを得ない。そうしてクウガだけを自分の所へ向かわせる様にし向ける。そして――

940落ちた偶像 〜kuuga vs χ〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:42:05 ID:wLMT0wZI


「この辺りだと……」

 音の大きさと聞こえてきた方角から狙撃地点を割り出し五代は辿り着いた。
 だがその場所は草原、隠れる様な場所など無い。
 そんな中、五代は俯せに倒れている人を見つけた。

「あの、大丈夫ですか?」


 五代は何者かに襲われたのかと思い声を掛けるが――


 倒れていた男はその手を翻す――


 地の石を持った手を――


 そして地の石から放たれる禍々しい波動がそのまま五代に直撃し注ぎ込まれる。


「な……これは……!」


 波動が全身を駆けめぐる――


 アマダムが反応しているのか脳裏に強烈なヴィジョンが過ぎる――いや、刻み込まれると言った方が良い――


 それは以前見た『凄まじき戦士』の姿――


 いや、それよりもずっと禍々しい凶悪なる存在――


 太陽を葬り去る闇よりももっと強大な――


 駄目だ、その姿には成ってはいけない――


 そう強く思おうとも禍々しき波動は五代の躰を侵し続ける――


 そして、波動が収まった時、その肉体は五代の支配下を離れた――


「これで良いのか?」


 と、倒れていた男こと金居が立ち上がる。
 単身のこのこやって来た所を不意打ちの様に波動をぶつける。単純な方法だが思いの他上手く行った。
 なお、途中で気付かれる、他の2人が妨害に遭う可能性もあったが、その時は全力で撤退し別の方法を考えるつもりだった。
 真面目な話、上手く行けば良い程度の軽い気持ちで行ったものだ。失敗した所でクウガに固着するつもりはない。
 が、現実として手中には収めた。次にすべきは――


「試してみるか――ライジングアルティメット、あの2人を襲いその力を俺に示してみろ」


 その言葉に従うかの様に五代はゆっくりと立ち上がり2人の元へ戻っていった。


  ◆


 ライジングアルティメットとなったクウガは終始カイザを圧倒した。
 カイザの攻撃の殆どはダメージには至らずクウガの攻撃は一撃だけでもカイザに大きなダメージを与えている。
 それもその筈、単純なスペック自体数倍から十数倍の開きがあるのだ。まともにやりあって勝てる道理など無いだろう。
 それ以前に、カイザの攻撃を受けていたのも防御力を確かめる目的でしかない。かわそうと思えば幾らでもかわせたのだ。
 それでもカイザの放ったグランインパクトではそれなりのダメージが届いたわけだがその後にカイザが受けたダメージの方が圧倒的に大きい。
 そして、カイザは自身の最大の必殺技であるカイザブレイガン・ブレイドモードによる斬撃を仕掛けようとした。
 実際の所はともかくとして、その様子を見ていた金居の見立てではこの一撃が致命傷になる可能性もあると考えていた。故に――


 純粋な力だけでエネルギーネットを破り、カイザの攻撃が届く前に紫の波動を飛ばし勢いを殺し――


 そのまま連続で蹴りと拳を叩き込み返り討ちにした――


 それが決め手になりカイザの躰は再度宙を舞いそのまま地へと叩き付けられた。その衝撃でベルトが外れ変身が解除され元の草加に戻りそのまま草加は意識を手放した。


「さて、トドメをさ……いや、別に良い。今すぐ戻ってこい、但し足元の武器は持って帰ってこい」


 金居は草加を見逃しクウガを戻させた。
 クウガの力が絶大なのは理解した。だが、何かしらの制限が掛けられている可能性を踏まえると深追いは禁物だ。
 いつの間にかいなくなったもう1人が何か仕掛ける可能性がある。慌てて仕掛けて取り返しの付かない事になっても困る。
 とはいえ都合良くクウガの足元に落ちてくれたカイザショットとブレイガンは確保させてもらう。
 金居の見立てではカイザの強さは自分の世界の仮面ライダーに匹敵するものだ。
 負けるとは思わないがその強さでも自分と同じカテゴリーKを封印している事を踏まえるなら足元を救われる可能性は無くはない。
 故にその武器を奪い戦闘力を奪っておこうという事だ。

941落ちた偶像 〜kuuga vs χ〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:43:50 ID:wLMT0wZI


  ◆


 ライジングアルティメットの力は頼もしくはある。が、

「自分の手元にある時は良いが敵には回したくはないものだな……」

 逆に敵となった時は自分でもまず勝てないと断言出来る。
 それ故に事が上手く運びすぎている事も踏まえ素直に喜べないでいる。

「それに、この支配も完全とは思えないしな」

 先の戦いの際、クウガの動きには微かな違和感を覚えた。
 地の石の支配力にも制限が掛けられているのか、それとも五代自身が未だ抵抗しているのか、あるいは本当に只の気のせいか、
 それを裏付ける証拠かどうかはともかくクウガが金居の元に戻った瞬間、すぐさま元の五代に戻り倒れ込んだ。
 どちらにしてもこの力を過信し過ぎない方が良いだろう。

「ま、後の事はあの屋敷に向かってから考えるか」

 そう口走りながら、眠る五代を抱えつつ再び移動を開始した金居だった。

【D-7 道路】

【金居@仮面ライダー剣】
【時間軸】第42話終了後
【状態】健康
【装備】デザートイーグル(1発消費)@現実、カイザブレイガン@仮面ライダー555、カイザショット@仮面ライダー555
【道具】支給品一式、地の石@劇場版仮面ライダーディケイド オールライダー対大ショッカー、ファイズアクセル@仮面ライダー555、
【思考・状況】
0:D-8にある屋敷(園咲邸)に向かう。
1:自分の世界の勝利を目指す為、他の世界の参加者同士で潰し合わせる。能動的に戦うつもりはない。
2:他の世界、及び大ショッカーの情報を集める。
3:自分の世界の仮面ライダーは利用出来るなら利用する。アンデッドには遭遇したくない。
4:利用できる参加者と接触したら、乃木を潰す様に焚きつける。
5:地の石の力を使いクウガを支配・利用する(過度な信頼はしない)。
6:22時までにE-5の病院に向かう。
【備考】
※アンデッドが致命傷を受ければ封印(=カード化)されると考えています
※首輪が自身の力に制限をかけていることに気づきました
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※地の石の効果を知りました。


【五代雄介@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、地の石による支配、気絶、仮面ライダークウガに2時間変身不能
【装備】アマダム@仮面ライダークウガ
【道具】支給品一式、不明支給品1〜2 (確認済み)
【思考・状況】
1:???
【備考】
※首輪の考案について纏めたファイルを見ました。
※地の石による支配力がどれぐらいかは次の書き手以降に任せます。



「はぁ……はぁ……」

 何とか意識を取り戻した草加が感じたのは悔しさだった。
 クウガの力はあまりにも圧倒的、その力に為す術も無かった。いやそれどころか何処となく加減されていた様な気もする。
 激痛で動くのも辛い躰に鞭を打ち周囲を見回す。
 ミッションメモリーだけは攻撃を受けた際に上手くブレイガンから外れたお陰で無事だったがブレイガンもカイザショットもクウガに奪われた様だ。

「くっ……デッキもメモリもないか……」

 懐を探るが持っていたはずのデッキとメモリが無くなっていた。変身前の一撃で落としてしまったらしい。
 戦いの最中に蓮が持ち去ったか、戦いが終わった後クウガが持ち去ったのかはわからないが失った事だけは確かだ。
 何にせよ手元に残ったのはツールを失ったカイザギアとメモリのないロストドライバーぐらいで戦闘に使えそうな道具は他にない。
 何とかして態勢を立て直さなければならない。


「真理……ああっ……」


 と、突如頭部に鋭い頭痛を感じ頭を手で押さえる。先程よりも鋭い痛みだ。


「はぁ……はぁ……」


 痛みがある程度和らいだのかゆっくりと手を放してその手に視線を――


「なっ……」


 微かに掌から灰が滑り落ちているのが見えた――

942落ちた偶像 〜kuuga vs χ〜 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:45:50 ID:wLMT0wZI


「ああ……ああっ!!」


 雅人は何とかしてその手を拭う。皮膚が擦り切れても構わない程に――


 そして再び手に視線を向け、今度は灰が見えない事を確認する。そう、先程のは只の幻視なのだ。そう結論付けようと――


 が、再度激しい頭痛が草加を襲う――


「ああっ……ぐっ……」


 ライダーズギアと呼ばれるベルトは本来オルフェノクの王を守護するオルフェノクの武器として開発されたものだ。
 それ故ベルトが人間に使える構造になっているわけがない。
 適合しない人間がそれを無理に扱えばベルトの持つ強力な力に冒され取り返しのつかない事になる。
 デルタギアを使った者は精神が侵され――
 カイザギアを使った者は肉体そのものが灰となる――
 では人間である筈の草加や三原は何故巧の様にオルフェノクでないのにも関わらずベルトを扱う事が出来るのだろうか?

 草加達流星塾出身の者達は同窓会の日、オルフェノクによって一度は命を奪われた。
 しかし、スマートブレインの技術によりオルフェノクの記号を埋め込まれた事で蘇生された。
 その目的自体は人工的にオルフェノクを作り出す為の実験だったがそれ自体は失敗に終わった。
 が、失敗に終わったとはいえ記号を埋め込まれた者はその力により本来オルフェノクしか扱う事の出来ないライダーズギアを扱える様になったという事だ。
 だが記号の強弱自体は人それぞれ、ある者は適合する事すら出来ない程弱く、またある者は失敗作とはいえオルフェノクとなる程強くだ。
 結局の所草加の場合はその記号の強さが適度であったが故にオルフェノクとなる事もなく、ベルトを扱える様になったという事だ。

 しかし、所詮は失敗した実験の副産物に過ぎない。
 ベルトを使い続けた事で記号の力は消耗していった。
 前述の通り、記号の力が弱まればベルトに適合出来なくなる。
 このままベルトを使い続ければ草加自身がベルトの力によって滅びる事となる。
 先程見えた灰は頭痛から生じた只の幻で良いとしても頭痛の方は現実に起こっている。
 後何回で滅びるかまではわからない。次で終わりかも知れないし十数回変身してもまだ保つかもしれない。
 どちらにしてもその瞬間は着実に近付いている――

 草加の脳裏にカイザギアを装着した事で死んでいった流星塾生達の姿がフラッシュバックする――
 デルタギアを装着した事で醜い争いを繰り広げた流星塾生達の姿がフラッシュバックする――
 それは自分にとっては無縁の光景――その筈だった――
 だが、それは最早自分にとって無関係の光景ではない――
 そう遠くない未来の自分自身の姿なのだ――

 園田真理を取り戻す、その為には戦い続けなければならない――
 その為だったら何を犠牲にしたって構わない――
 だが、自分の命すら犠牲にしても届かないのであればどうすれば良いのだろうか――


「父さん……」


 全ての真相を知るであろう父を呼びながら――草加は意識を手放した。


【D-7 草原】

【草加雅人@仮面ライダー555】
【時間軸】原作第46話村上戦直前
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、オルフェノクの記号残り僅か、気絶、仮面ライダーカイザに2時間変身不能
【装備】カイザドライバー@仮面ライダー555、ロストドライバー@仮面ライダーW
【道具】支給品一式、不明支給品×1(戦闘に使える道具ではない)
【思考・状況】
0:???
1:真理の居る世界を守る為に、555の世界を優勝させる。
2:勝ち残る為にも今は演技を続けるが、隙があれば異世界の参加者は殺す。
3:三原を探しデルタギアを確保する?
4:真理を殺した奴を見付け出し、この手で殺す。
5:出来る限り、戦いは他の奴に任せる。
6:蓮を警戒。
【備考】
※カイザドライバーの付属品はカイザフォンとカイザショット、そしてカイザブレイガンです。
※真理を殺したのはアルビノジョーカーである事を知りました。
※首輪の考案について纏めたファイルを見ました。
※オルフェノクの記号を消耗している為、ファイズ系ベルトで変身し続ければ何れ適合出来なくなります。

【全体備考】
※メタルゲラスがD-5T字路から何処かに移動を始めました。何処に向かったかは何処へ向かうかは次の書き手以降に任せます。

943 ◆7pf62HiyTE:2011/08/02(火) 15:48:00 ID:wLMT0wZI
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

今回容量が57KBとなるので前後編となります。分割点については以下の通り、
>>922-930が『落ちた偶像 〜fool's festival〜』(26KB)、
>>931-942が『落ちた偶像 〜kuuga vs χ〜』(31KB)となります。

944二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/08/02(火) 17:03:00 ID:IUcIycw6
投下乙です 
ああ、五代さんがライアルになってしまったか……
そして草加も、装備を奪われた上にとんでもない死亡フラグが立ってる!
フィリップ達も、今後がとても気になりますね。

945二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/08/08(月) 19:30:17 ID:yXgpbehA
投下乙です
ささいな事ですが、>939で亜樹子が飛ばしたのはエクストリームメモリの間違いではないでしょうか

946 ◆7pf62HiyTE:2011/08/08(月) 19:35:15 ID:KnNZ.zxY
>>945
あ……
先程wiki上で修正致しました。

947 ◆MiRaiTlHUI:2011/08/13(土) 21:43:38 ID:2AXyqEk2
遅れてしまい申し訳ありませんでした。
これより第一回放送の本投下を開始します。

948 ◆MiRaiTlHUI:2011/08/13(土) 21:46:37 ID:2AXyqEk2
 夕方の会場の空を、数隻の巨大な飛行船がゆっくりと横切ってゆく。方向は縦横無尽だった。
 コンドルのマークが描かれたそれらの飛行船には、液晶の巨大モニターが幾つも取り付けられていた。
 屋外に居る限りは、何処に居る参加者にでもモニターの映像が見られる様にという主催側の配慮だろう。
 一方で、飛行船の姿が見えぬ参加者の為には、会場中の全ての映像機器にも同じ映像が配信されていた。
 全施設と民家、街中の大画面液晶、店先のテレビ。兎に角、種類を選ばず、ありとあらゆる媒体からである。
 それに伴い、音声も会場中のあらゆるスピーカーから……それのみならず、首輪からも発せられる仕組みだった。
 つまり、何処に居ても、意識を保っている限りは、大ショッカーからの情報を受けられる状態が、ここに完成したのである。

「やあ、仮面ライダーのみんな。……それから、怪人と一般人のみんなも、だね。
 今この放送を見れてるお前らは、とりあえず最初の六時間は生き延びれたって事さ。喜びなよ?
 ……っと、自己紹介がまだだったね。僕の名前はキング……一番強いって意味の、キング。宜しくね」

 映像の中で、ニュース番組を彷彿とさせるテーブルに着席した金髪の少年は、不敵にその名を名乗った。
 赤いジャケットを纏った彼の名はキング。ピアスやらネックレスやらを過多に装着した、軽薄そうな若者である。
 そんなキングの背後では、大ショッカーの戦闘員たる全身タイツに覆面の男が二人、物言わず直立していた。

「さて。世界の命運を賭けた、最っ高にハイレートなデスゲームの方は楽しんで貰えてるかな?
 これから皆お待ちかね、このゲームで死んじゃった参加者名と、今後の禁止エリアを発表するよ。
 当然、二度目はないからしっかり聞きなよ? メモを取っておくのもいいかもね?」

 嘲笑う様にそう告げて、キングはパチンと、乾いた指の音を鳴らした。
 背後にいた二人の戦闘員が、巨大なモニターを覆い隠していた垂れ幕を勢いよく払い除ける。
 キングの背後の巨大な液晶に所狭しと羅列されているのは、二十人にも及ぶ参加者の名前だった。
 やがて一人一人の名前がアップで映し出され、それに伴ってキングが順にその名を読み上げていく。

「ズ・ゴオマ・グ、木野薫、北条透、北岡秀一、東條悟、霧島美穂、木場勇治、園田真理、海堂直也、剣崎一真、
 桐生豪、財津原蔵王丸、加賀美新、モモタロス、ネガタロス、キング、光夏海、照井竜、園咲霧彦、井坂深紅朗
 以上、二十人。……いや、僕も死神博士もびっくりしたよ。まさか皆がここまで必死に殺し合ってくれるなんてさ?
 これからも僕らの期待に応えられる様に頑張ってね、みんな。死神博士もみんなの事、応援してるってさ」

 それから、何かに気付いた様に「あっ」と呟いて、

「そういえば、僕と同じ名前の奴が死んじゃったみたいだけど、そいつ僕とは何も関係ないから、勘違いしないでね。
 一応言っておかないと、誤解されたらムカつくからさ。ってか、僕だったら最初の六時間で死んだりしないし!」

 誰の激情を誘うかも考えず、キングはそう言って嘲笑った。
 だけれど、そんな上辺だけの笑いはすぐに止め、それに伴って映像も切り替わる。
 次に表示されたのは、それぞれの世界の名。その隣には、何らかの順位と数字が表示されていた。
 上から順に、クウガの世界、剣の世界、キバの世界、龍騎の世界、カブトの世界、アギトの世界、という並びである。
 それが一体何の順位であるかを説明するのは、やはり軽薄な笑みを浮かべるキングであった。
 
「ちなみにこれ、世界別の殺害数ランキングね。見ての通り、クウガの世界が七人殺害で断トツの一位!
 他の世界の皆ももうちょっと頑張ってくれないと……このままじゃクウガの世界が優勝しちゃうよ?
 ま、こっちは別にそれでもいいんだけど、ワンサイドゲームって見ててもあんまり面白くないからさ」

 一番上に書かれたクウガの世界の表記の隣には、「7」と表示されていた。
 その下に並んだ剣、キバ、龍騎の三世界の殺害数は「3」で、同率の二位である。
 これだけ見れば、クウガの世界の殺害数は二位の二倍以上という事になるのだから恐ろしい。

949 ◆MiRaiTlHUI:2011/08/13(土) 21:48:07 ID:2AXyqEk2
 
「それじゃ、続いて禁止エリアなんだけど……皆があんまり頑張り過ぎるから、二時間に一箇所ずつじゃ追い付かなくなっちゃった。
 これ、異例中の異例だからね。皆の頑張りはこっちにとってもそれだけ予想外だったって事さ。これ、褒め言葉だからね?」

 それは何者に対してだろうか。
 侮蔑すら感じられる笑みを浮かべたキングは、数秒間の間を置いて続ける。

「……メモの準備は出来た? それじゃ、発表するよ。

 19時から【G-1】エリアと、【A-4】エリア。
 21時から【D-5】エリアと、【E-7】エリア。
 23時から【E-4】エリアと、【H-3】エリア。

 これ聞き逃して、うっかり禁止エリアに入っちゃったりしたら、首輪ボン! だから。マジで気を付けてね。
 まあ、流石にそんな馬鹿みたいな死に方する奴は居ないと思うけど、これ結構洒落になんないからさ」

 言いたい事を一通り言い終えたキングは、最後にカメラを不敵に見据えた。

「それじゃ、最後になるけど、もう一つだけお前らにアドバイスしてやるよ。
 僕の知り合いに、戦えない全ての人々を守る、とか何とか言ってた御人好しな仮面ライダーが居るんだ。
 けど、そいつもこの六時間で呆気なく死んじゃった。多分、他にも似た様な事言ってる奴は居たんだろうけど。
 コレ、どういう事か分かる? ……簡単な話さ。所詮、口だけの正義の味方なんて何の役にも立ちはしないって事。
 結局最後まで生き残ってゲームクリア出来るのは、逸早くゲームの性質を理解し、その攻略法を見付けた奴だけなんだよ。
 ほら、ゲームのルールをイマイチ理解してない馬鹿なプレイヤーって、大体いつも最初に潰されちゃうだろ?
 つまり、そういう事さ。本気で自分の世界を救いたいなら、そろそろゲームの性質を見極めた方がいいよ。
 ま、生き残ってゲームクリアしたかったら、精々頑張って他の参加者を蹴落とす事だね。
 ……それじゃ、六時間後にまたね、みんな」





 大ショッカーの巨大なエンブレムが掲げられた広間に、一つの玉座があった。
 だけれども、その玉座に座るべき者――即ち大ショッカー大首領の姿は、ここにはない。
 広間に居るのは、玉座を守る数人の大幹部と、無数に居並ぶ各世界の雑兵怪人だけだった。
 やがて、放送を終えて戻って来たキングが、雑兵怪人の群れを掻き分けて、広間の中央へと歩み出る。
 大幹部の一人たる老紳士――死神博士は、そんなキングを労うべく、マントを翻してキングに歩み寄った。

「先の放送、御苦労であったぞ、コーカサスビートルアンデッド……否、キングよ」
「そりゃどうも……ま、これくらいで良ければ、いくらでもやってやるよ」

 心底面白そうにキングは笑っていた。
 死神博士は満足げに、しかし怪訝そうな表情で問う。

「貴様も変わり者よのう。自分の世界が滅びるやも知れぬというのに……惜しくはないのか?」
「ああ、もういいってそういうの、ウザいからさぁ。むしろ滅びてくれた方が清々するよ」
「敢えて世界の破滅を願うか……ふむ。それでこそ、我が大ショッカーの同士たり得る」

950 ◆MiRaiTlHUI:2011/08/13(土) 21:49:02 ID:2AXyqEk2
  
 死神博士は同士と言うが、元来キングは、大ショッカーの怪人ではない。
 剣の世界に生きる、カテゴリーキングと呼ばれる最上級のアンデッドの一人だ。
 アンデッドとはそもそも、基本的には自分の種族の繁栄を賭けて戦う不死の生物である。
 だけれども、キングは他のアンデッド達とは違い、自分の種族の繁栄には蚊程の興味も持ってはいない。
 ただ、何もかもが気に入らなくて、世界そのものが破滅してしまえばいい。そんな風に思っているだけだった。
 仮面ライダーとの戦いだって遊び感覚だったし、奴らに精一杯の嫌がらせをしてやれればそれで良かった。
 それさえ果たせば、後は再び封印されて、またカードの中で、悠久の時を生き続けなければならない。
 何よりも、面白い事、楽しい事だけを好むキングにとって、それは永遠に続く苦痛でしか無いのだった。
 だけれども、大ショッカーの誘いに乗れば、その永遠を終わらせる事だって出来るかもしれない。
 もしも世界が消滅すれば、本来消滅する事のない自分も、一緒になった消滅する事が出来るのだから。
 仮に剣の世界が生き残ったとしても、その時は大ショッカーに味方して、世界の全てを滅茶苦茶にしてやればいい。
 だからキングは、再び自分を封印から解き放ってくれた大ショッカーに味方すると決めたのだった。

「けど、一つだけ気に入らない事があるんだよね」
「ほう……何だ、言ってみるが良い」
「参加者に支給されてるスペードのキングさ、アレ何?」

 さも不服そうに、苛立たしげに、キングは問う。
 スペードのキングのカードとは即ち、コーカサスビートルアンデッドことキングを指す。
 だけれども、キングは今こうしてここに居るのだ。なれば、あのカードは一体何なのか。
 実質、自分がもう一人いる事になるのだから、それが気にならない筈がない。

「あれはもう一つの『剣の世界』に存在するスペードのキングだ」
「へえ……なら、あのスペードのキングを解放したら、一体どんな奴が出てくるんだろうね」
「それは誰にも分からぬ。貴様の様な人格やも知れぬし、全くの別人格やも知れぬ……気になるか?」
「べっつに……僕は一人で十分だし。ってか、どうせ剣の世界が消えたら僕もそいつも消えるんだろ?」
「そういう事になるが……いや、貴様にとってはそれが最も望むべき結末であったか」

 一拍の間をおいて、キングは「まあね」と答えると、満足げに笑った。
 聞きたい事も聞き終えたキングは、蠢く雑兵怪人達を掻き分けて、広間を後にした。
 果たして、本当に剣の世界が消滅すれば、キングもまた世界と共に消滅するのだろうか。
 大ショッカーの言う世界の選別、世界同士の殺し合いとは、本当に意味を成すのだろうか。
 もしかしたら、怪人同士で徒党を組んでも倒せないライダーを効率よく排除する為の狂言かも知れない。
 本当の所は誰にも分からないが、それでもキングにとってこのゲームは、十分過ぎる程に有意義だった。
 カードの中で過ごす、死んだも同然の無間地獄よりは、ずっと、生きている事を実感出来るから。
 尤も、当のキングにとっては「生きる」事すらもただの遊びでしかないのだが。



【全体備考】
※主催側には、【キング@仮面ライダー剣】が居ます。
※参加者に支給されたラウズカード(スペードのK)はリ・イマジネーションの剣の世界出展です。

951 ◆MiRaiTlHUI:2011/08/13(土) 21:50:17 ID:2AXyqEk2
これにて投下終了です。
反応が遅れたり、色々とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
また何か問題があれば報告して下さると幸いです。

952 ◆MiRaiTlHUI:2011/08/13(土) 21:51:19 ID:2AXyqEk2
あ、すみません、また言い忘れてました。
タイトルはそのまんま「第一回放送」で結構です。

953二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/08/13(土) 21:53:52 ID:pZoqIu.Y
投下乙です。
まさかキングが主催陣かよぉぉぉぉぉ!! というかリマジ世界のラウズカードって……
ていうか地味にキバ世界ディスってんじゃねぇ!
で、禁止エリアは1度に2つずつか……あれ、タワーと病院封殺ってあそこって人集まる算段になっていた筈じゃ……(いやそれ故か)

1つだけ質問なんですがタイトルは?

954二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/08/13(土) 21:54:31 ID:pZoqIu.Y
リロ忘れ……

955二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/08/20(土) 17:19:26 ID:esNnDtBI
あれ、予約過ぎているんじゃ・・・

956二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/08/20(土) 17:20:23 ID:esNnDtBI
すいません、延長されていましたね
見落とし失礼しました

957 ◆LuuKRM2PEg:2011/08/21(日) 10:59:42 ID:8ssh1o8o
一条薫、桐矢京介、小沢澄子、小野寺ユウスケ、相川始の投下を開始します

958交錯 ◆LuuKRM2PEg:2011/08/21(日) 11:00:23 ID:8ssh1o8o

 太陽が沈んだ夜空に飛ぶ、数多もの飛行船。それら全てに巨大なスクリーンが取り付けられており、デスゲームの途中経過を告げられる。
 それだけで無く、この世界に存在するパソコンのスクリーンやテレビ画面も、情報を伝える役割を担っていた。それはこの一軒家も例外ではない。
 そこに映し出されたのは、キングと名乗った金髪の少年。彼は、こちらを小馬鹿にしたような態度で、死人を読み上げていた。
 キングの表情からは、人の死に対する罪悪感や悲しみといった感情が一切感じられない。むしろ、楽しんでいるような気配すら感じられる。
 しかし、一条薫の中ではそれに対する憤りよりも、別の感情が強くなっていた。

(この六時間で、既に二十人もの命が奪われているとは……)

 彼は憤りを感じている。自信の無力さと、この戦いによる犠牲者を大勢出してしまった事に。
 その中には先程、未確認生命体第三号の暴虐から自分達を庇った照井竜も含まれている。かつて金の力を手に入れた五代すらも圧倒した三号と戦っては、こうなることは予測出来た。
 極めて当然の結果。しかし一条は、そんな言葉で割り切る事など出来なかった。
 警察という職業に就いている以上、人の死というのは数え切れないほど見ている。どれだけ頑張っても、救えない命や届かない思いもあった。故に、数え切れないほどの無念や罪悪感を抱いている。
 だが、それに溺れる事は決して許されない。ここで足を止めてしまっては、これから救えるかもしれない命が救えなくなる。
 何よりも、それは彼らに対する冒涜となる。

「アクセルドライバー……か」

 不意に一条は、照井の遺品であるアクセルドライバーとアクセルメモリを手に取った。彼の生きる世界では街を守るヒーローであった『仮面ライダー』になるための力。
 アクセルを象徴する深紅の色は、まるで照井の中に宿る熱い炎のようだった。これが今ここにあることは、自分が彼の意志を継いで戦わなければならない事。
 第三号との戦いでは、度重なるダメージによって変身が解除されてしまい、再度変身を行おうとした。だが、何の反応も示さない。
 一度しか使えない道具ではないはずだ。それならば、彼は平和を守る事など出来ない。大ショッカーが、何かしらの細工を仕掛けた可能性がある。
 何にせよ、使うにはタイミングが必要だった。
 思案を巡らせていると、部屋の扉が開く音が聞こえる。振り向くと、支給されていた服を纏っている桐谷京介が立っていた。

「桐谷君か」
「一条さん……大丈夫ですか?」
「ああ、俺なら大丈夫だ」
「そうですか……良かった」

 一条は、何処か浮かない表情をしている京介に、出来る限り強く答える。
 ここまで逃げ出してから、一条は京介に対して全てを伝えた。照井を見捨ててしまった事を、間宮麗奈が異形の怪物であった事を。
 そして、狙ったように訪れた大ショッカーの放送。それらの事実によって、京介は愕然としたような表情を浮かべる。しかし彼は気丈に立ち直った。
 ここには師匠であるヒビキ、同じ鬼であるあきらがいる。だから、挫けるわけにはいかないと告げて。
 しかし一条は、彼一人に無理をさせるつもりは無かった。彼はその若さ故に強がっている可能性もある。強い意志は感じられるが、ここにはあの第三号だっていた。
 だから、自分が頑張らなければならない。ここで倒れてしまっては、照井や五代雄介を侮辱する事になってしまう。彼らは未確認を前にしても、決して挫けたりはしなかった。

「一条さん……ごめんなさい、俺が弱いせいで」
「君が気を病む必要はない。生きていてくれた……それだけで、充分だ」
「でも、俺のせいで照井さんが……!」
「それは、俺にも責任がある」

 京介の言葉を一条は強く遮る。
 されど、その声には何処か優しさが込められていた。まるで五代雄介が、未確認によって笑顔を奪われた者を諭す為に告げる言葉のように。

959交錯 ◆LuuKRM2PEg:2011/08/21(日) 11:01:42 ID:8ssh1o8o
「俺には力が足りなかった……だから、あの人を死なせてしまう事になってしまった。だが、ここで止まっている場合ではない」
「そうですけど……」
「俺達がやるべき事は、これ以上犠牲を出さない事……そして、あの人の仲間に死を伝える事だ」

 照井と同じ世界から連れてこられた人々。
 私立探偵であり、仮面ライダーとなって多くの人々を守るために戦っている左翔太郎。
 多くの知識を持つ彼の相棒、フィリップ。
 二人が勤める事務所の所長、鳴海亜樹子。
 残されてしまったこの三人に、照井の事を伝えなければならない。彼の残した思いを、彼が抱いていた信念を。

「その為にも、俺達は生きなければならない……だからこそ、この命は残っているんだ」
「……そうですよね、一条さんの言うとおりです」
「ならば、その為にも行動をしなければならない。こうしている間にも、犠牲者は増えていくかもしれないからだ」
「はい!」

 それぞれ互いに、力強い言葉を交わし合う。
 それぞれの荷物を纏め、一条が先導する形で家を出た。ドアを開けた先では、辺りの暗闇が一層増している。
 規則的に並ぶ電灯は光を放つが、夜の中では圧倒的に足りない。B−2号の襲撃を再び受ける可能性は充分にある。
 しかも今はたった二人なので、一切の警戒を緩める事は許されなかった。

(照井警視長……私は、貴方が残してくれたこの命を絶対に無駄にはしません。桐谷君も、この命に代えても守ってみせます)

 夜空を見上げながら、一条は今は亡き照井竜にそう告げる。
 殉職の制度により、彼は『警視』から『警視長』に二階級特進する事になった。だからこそ、より一層の敬意を払わなければならない。
 彼の勇気ある行動で、自分達はこうして生きていられるのだから。

(貴方がやり残した事は……私が責任を持ってやり遂げてみせます。貴方が示してくれた『仮面ライダー』の道を歩いて)

 大ショッカーが世界崩壊の原因だと告げた存在である仮面ライダー。
 しかし照井と京介は、危険を顧みずにそれが人々を守る戦士であると教えてくれた。仮面ライダーとは、五代雄介のように心が清く強い戦士。
 そんな思いが芽生え始めた一条の懐では、アクセルドライバーとアクセルメモリが赤い輝きを放っている。





 小沢澄子の身体を乗っ取ったスパイダーアンデッドは、体を動かしていた。
 先程この女を支配して、同行者である男達を殺そうとする。しかし小沢はまだ意志が残っていたのか、スキッドスモッグのカードを読み込ませた後に戦場から去った。
 だが、抵抗もそれまで。既に小沢の四肢は自分の思うがままで、身体の疲れも癒えている。別に構いはしないが、宿主の肉体に不調があれば戦いで予想外の事態が起こりかねない。
 そして、辺りは夜の暗闇で覆われていた。参加者を襲うには格好の条件が揃っている。
 スパイダーアンデッドは闇の中を進む最中、二つの足音を捉えた。それを聞いて、反射的にレンゲルバックルを構えながら隠れる。
 物陰から見ると、先程戦場から逃げ出した二人組の男が歩いていた。赤い仮面ライダーに変身した男と、銀色の仮面ライダーに変身した小僧。
 まさか、こんなにも早く再び遭遇出来るとは。しかも一度戦った相手だから、戦闘スタイルの予測も容易。恐らく戦いの疲れも癒えているかもしれないが、闇討ちを仕掛ければ何の問題もない。
 スパイダーアンデッドは小沢の腰にレンゲルバックルを添えて、その中に自身が封印されているカードを挿入。待機音が響く中、レバーを引いた。

『OPEN UP』

 目前に現れた青いオリハルコンゲートを潜り抜ける。すると、仮面ライダーレンゲルへの変身が一瞬で完了した。
 そしてレンゲルは、脇腹から五枚のラウズカードを取り出す。ハートとスペードのキングとクイーンをそれぞれ二枚ずつ取り出し、宙に放り投げた。
 最後の一枚であるテイビアリモートをレンゲルラウザーに読み込ませると、杖から四つの光が飛び出す。それはアンデッドが描かれた絵柄と接触すると、カードの封印が解かれた。
 一瞬で、四枚のラウズカードに封印されていたカテゴリーキングとカテゴリークイーンがこの世界に姿を現す。

960交錯 ◆LuuKRM2PEg:2011/08/21(日) 11:02:27 ID:8ssh1o8o
 パラドキサカマキリの始祖たるカテゴリーキング、パラドキサアンデッド。
 コーカサスオオカブトの始祖たるカテゴリーキング、コーカサスビートルアンデッド。
 蘭の始祖たるカテゴリークイーン、オーキッドアンデッド。
 ヤギの祖たるカテゴリークイーン、カプリコーンアンデッド。
 この内三体には一度あの二人を襲わせて、圧倒的戦力差を思い知らせた。戦闘スタイルは読み取られているかもしれないが、それはお互い様。
 何より奴らも、ダメージがある程度残っているはずだ。それに加えて数と戦闘力における有利。一分経過すれば自動的に消滅するようだが、これで勝てない道理など無い。
 ふと、視線を感じる。どうやら、奴らはこちらに気付いたようだ。電子音声が原因かもしれないが、関係ない。
 一瞬で片を付ければ良いだけの話。そう思いながら、レンゲルはアンデッド達を率いて物陰から飛び出した。





 自分達を守るために、照井竜が死んだ。間宮麗奈が、未確認生命体や魔化魍のような化け物だった。
 その事実が、桐谷京介の心を責めている。自分の力が足りなかったせいで照井を始めとした、大勢の人が死んだ。自分が守ろうとした女性は怪物だった。
 それらの何もかもが、嘘だと思いたかった。しかし全ては夢ではなく、現実と受け止めなければならない。
 もしも師匠であるヒビキやザンキ、同じ鬼であるあきらだったらこんな事にならなかったはず。自分は無力だ。
 後悔してはならない事は分かっているが、それでも気持ちは沈んでしまう。でも、いつかは乗り越えなければならない。
 あの第三号って奴がまた現れた時、こんな気持ちのままでは一条さんの足を引っ張ってしまう。それはもっと嫌だった。

『OPEN UP』

 そう自分に言い聞かせて気持ちを奮い立たせようとした瞬間、京介の耳に電子音が響く。
 反射的に彼は、俯いていた顔を上げた。すると、その先には緑と金の装甲を輝かせている『仮面ライダー』が見える。
 それは記憶に新しい、照井を殺した相手。未確認生命体が変身したあいつだ。
 そう思った瞬間、奴の背後から四つのシルエットが飛び出してくる。それらの姿は一瞬で明らかになった。
 奇妙なカードから現れた、魔化魍のように醜悪な怪物。しかも今度は、植物の蘭を思わせるような装飾が全身に付いた怪物まで増えている。
 相手は同時に飛びかかってきた。それを見て、京介は反射的に変身音叉を懐から取り出す。
 その先端で壁を叩いて、清らかな音を鳴らした。そして、額に翳して全身を青い炎で包ませる。彼はそれを右腕で力強く払った。
 払われた火炎から現れた京介は、桐谷京介であり桐谷京介ではないもう一つの姿。仮面ライダー強鬼とも呼ばれる銀色の音撃戦士、京介変身体。
 不意に、彼は隣に視線を向けた。そこに立つ一条薫も既に、仮面ライダーアクセルに姿を変えている。
 それを確認した彼は、目の前より襲いかかる照井竜の仇を仮面の下で睨み付けた。





 小野寺ユウスケは、たった一人で悲しみに沈んでいた。
 現在地点、D−2エリア。ン・ダグバ・ゼバとの戦いで目覚めた、究極の力による厄災から橘朔也や日高仁志を巻き込まない為に単独行動を選んだ。
 そこからダグバを倒すために、行くアテもなく彷徨う。もうこれ以上、犠牲者を出さないと決意して。
 その最中、一旦装甲車から降りて、ユウスケは特に意味もなく空を見上げていた。
 そんな彼に突き付けられたのは、大ショッカーによる第一回放送。

「夏海ちゃん……海堂……ッ!」

961交錯 ◆LuuKRM2PEg:2011/08/21(日) 11:03:01 ID:8ssh1o8o
 彼の声は震えていた。この六時間もの間で、既に二十人もの犠牲者が出ている事に。
 その中には、旅の仲間である光夏海や橘の後輩である剣崎一真、ヒビキの先輩である財津原蔵王丸も含まれている。
 そしてもう一人、ユウスケに強い衝撃を与える名前があった。この世界で初めて出会った、もう一つの『555の世界』に生きるオルフェノクである海堂直也。
 奴は言動に一貫性が無く、どうにも胡散臭い雰囲気を感じさせる。しかし自分の事を助けに戻ったので、少なくとも悪い奴ではないはずだった。
 そんなあいつがもういない。海堂だけでなく、同じ世界に生きる木場勇治や園田真理も殺されている。
 信じたくない。嘘だと言って欲しい。無理だと分かっていても、そんな思いがユウスケの中で広がっていく。

「畜生……ッ!」

 みんなを守るために仮面ライダークウガとなったのに、誰も守る事が出来ない。むしろ、犠牲者を増やしている。
 その事実が、ユウスケの中に宿る憎悪を強くさせていた。殺し合いを仕組んだ大ショッカーやダグバを始めとした殺戮者達。そして、無力な自分自身に対して。
 不意にユウスケは、夜空を見上げる。そこに広がる闇が、まるで自分自身を象徴しているかのように見えた。
 憎しみに身を任せたまま暴力を振るう、忌むべき未確認生命体と全く変わらない自分。こんな身体となっては、誰かを守る事なんて出来るわけがない。

「俺は……何も出来ないのかよ」

 みんな頑張っているはずなのに、自分だけこんなザマだ。士も、海東さんも、ヒビキも、橘さんも、名護さんも、みんなの為に戦っているのに。
 世界に生きるみんなの笑顔を守ると、姐さんに誓ったのに。でも、大ショッカーの仕掛けた戦いの犠牲者が出てしまっている。
 それどころか、今でさえダグバの凶行を許しているのかもしれない。それがたまらなく嫌だった。

「……ん?」

 意気消沈している中、ユウスケの耳に音が聞こえる。金属同士の激突や、壁が破壊させる音。そして飛び交う怒号。
 それに反応して、ユウスケは振り向く。その先では、三人の仮面ライダーと『剣の世界』の怪人であるアンデッドが、戦いを繰り広げているのは見えた。
『剣の世界』に存在する仮面ライダーレンゲルがアンデッドを率いて、他の二人を襲っているように見える。『響鬼の世界』で戦っている銀色の鬼と、見知らぬ赤いライダー。
 ユウスケはそれを見て腰にアークルを出現させ、すぐさま駆けつけようとした。

――なんだ、まだ怖くなってないの? クウガ

 しかし、彼の動きは止まってしまう。あの凄惨な戦いの中で告げられた、ダグバの言葉を思い出してしまって。

――アイツがダグバと同じ力を持っている、それはつまりアイツもダグバと同じ事が出来るという事だ。その力が俺達に向けられたらどうする?
――きっと、ダグバはこれからも小野寺を追いつめる為に他の参加者を殺し続けるだろう……今よりも憎しみと怒りに支配された小野寺と戦う為に……だが、その果ては……
――破滅しかない――ということか

 そして究極の力を恐れていた、橘とヒビキ。そうだ、この力を使ってしまえば罪のない者も巻き込んでしまう。
 だからここでクウガになっても、獣のように暴れ回るだけ。今の自分は未確認となんら変わらない存在だからだ。
 横槍を入れた所で、あそこにいるみんなを殺す事になってしまうだけ。

(でも、ここで俺が行かなかったら……ッ!)

 赤と銀のライダー達は、次第に追い込まれていくのが見えた。
 このままではまた犠牲者が増えてしまう。今、自分の力が必要とされている。ここで行かなければ、彼らが殺されてしまう。
 しかし自分が行った所で何になるのか。確かにアンデッド達は倒せるかもしれないが、仮面ライダー達を巻き込むかもしれない。
 それで犠牲者が増えてしまっては、本末転倒だ。

(でも……でもっ!)

 本当の気持ちと自分に宿る脅威という現実が、心中で激突する。
 この力で、みんなを守りたい。この力で、みんなを犠牲にしたくない。そのどちらもが、ユウスケの中で強くなっていく揺るぎない思い。
 人々の事を思うからこそ生まれてくる二つの感情。それらがせめぎ合う中、レンゲルとアンデット達の攻撃が激しさを増す。
 自分は一体何をやっているのか。もしもここにいるのが仲間達なら、迷わず戦っているはずなのに。
 また、ダグバの時みたいに人々を死なせてしまうのか? 海堂だってあのカブト虫の怪人を相手に一歩も引かずに、戦った。
 なのに自分は、こうして言い訳して人々を死なせてしまうのか? そんなのは、絶対に嫌だ。

962交錯 ◆LuuKRM2PEg:2011/08/21(日) 11:06:26 ID:8ssh1o8o

「……あああああああああああああああ!」

 やがてユウスケは、叫びながら走り出す。罪のない人々の笑顔を守るために。
 ここで立ち止まっても、あそこで戦っているみんなが傷つくだけ。あのクウガの力は、何としてでも押さえながら戦わなければならない。
 難しいかもしれないが、やってみるしかなかった。

「変身ッ!」

 アークルに埋め込まれた霊石が、眩い輝きを放つ。すると、ユウスケの身体が一瞬で変化していった。
 古代より蘇った、グロンギと戦い続けた赤い装甲を纏うリントの勇者。仮面ライダークウガ マイティフォームへと。
 鎧と同じ色の瞳を輝かせながら、クウガは疾走した。





 力も数も、圧倒的に不利。それは前の戦いで明らかになっていたし、今だって変わらない。
 加えて今は、未確認のような怪物が一体だけ増えている。だがそれでも、ここで逃げる事は出来ないし逃げる事は許されなかった。
 何より照井警視長を殺した目の前の『仮面ライダー』から逃げるという事は、彼の侮辱に他ならない。
 だからアクセルの鎧を身に纏って戦うしかなかった。
 レンゲルの握るレンゲルラウザー、コーカサスビートルアンデッドが振るうオールオーバー、オーキッドアンデットが放つ蔦。アクセルはそれら全てを回避しながら、反撃の機会を窺っていた。
 まともに正面からぶつかっても、勝てる見込みは零。唯一の可能性は、あの司令塔と思われる『仮面ライダー』を叩けば怪物達にも何らかの影響が及ぶかもしれない。
 そう思ったアクセルは、勢いよく走り出した。途中、コーカサスビートルアンデッドとオーキッドアンデットの攻撃が迫るも、膝を低くして回避する。
 直後、彼の頭上でアンデッド同士の武器が激突する甲高い音が響いた。チャンスが芽生えたと確信したアクセルは、握り拳をそれぞれの鳩尾に叩き込む。
 10トンもの威力で、アンデッド達の身体は地面を転がる。そんな仲間達の事など見向きもせず、レンゲルは杖を構えながら走っていた。
 その手に一枚のカードを収めて。

『STAB』

 ラウズカードがレンゲルラウザーに読み込まれ、蜂の紋章が浮かぶ上がる。輝きを放つそれは一瞬で、杖の先端に吸い込まれた。
 レンゲルはそれを掲げて、上から叩き付けてくる。アクセルは横に飛んでそれを回避するも、敵の攻撃は止まらない。
 がら空きになったアクセルの脇腹に、二合目が叩き付けられる。鈍い轟音と共に鎧に傷が刻まれ、身体が吹き飛ばされた。
 道上を数回転がった後、何とか立ち上がろうとする。しかし、痛みがそれを阻害した。
 この一撃の威力は、先程までとは比べ物にならない。恐らくあのカードには、戦闘に役立つ効果があるのだろう。
 しかしそれが分かったところでどうにもならない。元々、優劣はあちらに傾いているのだ。その上でまだ装備を出されては、勝利への道が見えてこない。

「一条さん!」

 どうしたものかと考えていたアクセルの耳に、声が響く。振り向くと、京介変身体が自分の隣にいた。
 銀色の仮面で顔が見えないが、声からして狼狽している事が感じられる。

「大丈夫ですか!?」
「ああ、俺なら大丈夫だ!」

 そんな彼を不安にさせないようにアクセルは力強く答えて、敵に振り向いた。
 敵は五体。しかもその誰もが、二対一で戦っても絶対に勝てる相手ではない。
 このままでは、絶対に殺されてしまう。かといって、打破出来る状況がまるで浮かばない。
 ここで京介変身体を逃がそうとしても、彼の性格からして絶対に受け入れないだろう。何より自分一人など、奴らは簡単に突破出来るはずだ。
 しかも、レンゲルは怪物を更に召喚する可能性だって高い。それで強制的に数で押し切られたら終わりだ。
 一体どうすればいいのか。アクセルの中でそんな思いが強くなる中、敵は一歩ずつ迫り来る。
 その時だった。

963交錯 ◆LuuKRM2PEg:2011/08/21(日) 11:07:04 ID:8ssh1o8o
「おおおおおりゃあああああぁぁぁぁぁぁ!」

 突如として、戦場に響き渡る絶叫。それを耳にして、アクセルは反射的にそちらへ振り向く。
 すると、仮面の下で一条の目が見開いた。そこに現れたのは、自分と京介変身体を飛び越えて、炎を纏った跳び蹴りをレンゲルに放つ赤い戦士。
 昆虫のクワガタを模したような二本角、火炎のように赤く染まった瞳と全身、腰に輝くベルト。何から何まで、自分のよく知る存在だった。
 2000の技を持つ男、五代雄介が未確認生命体と戦うために得た姿、クウガ。警察から『未確認生命体第4号』のコードネームが与えられた勇士、仮面ライダークウガ。
 彼の蹴りは、相手を砕かんと一直線に進む。しかし、すんでの所でオーキッドアンデットが動き、レンゲルの盾になるように立つ。
 結果、マイティキックはオーキッドアンデットを吹き飛ばすだけに終わってしまった。
 蹴りの反動でクウガは僅かに宙を舞って、地面に着地する。そのまま、こちらに振り向いてきた。

「まさか……君は……!」
「逃げてください! あいつは俺がやります!」

 こちらの言葉に応えることなくクウガは前を向いて、勢いよく突進する。そんな彼に目がけて、アンデッド達は殺到。
 しかしクウガは、反撃に出た。コーカサスビートルアンデッドが振るうオーバーオールを避けて、頭部に握り拳を叩き付ける。
 パラドキサアンデッドの体当たりを回避し、がら空きになった脇腹にハイキックを繰り出す。
 オーキッドアンデットマイティキックを繰り出した場所を狙うように、ストレートを放つ。
 カプリコーンアンデッドの手刀を左手で受け止め、もう片方の手でアッパーを放って吹き飛ばす。
 全てが神速の勢いで行われていた。歴戦の戦士としての圧倒的な力、それでいて誰かを守ろうとする優しさ。それら二つを感じさせる戦闘スタイルは、まさに彼のものだった。

「一条さん、あの人は一体……?」
「五代だ」
「えっ?」
「俺と同じ世界に生きる奴だ……未確認生命体と今まで戦い続けてきた、五代雄介だ」

 クウガの勇姿を前に、アクセルは呟く。
 古代より蘇った、五代がクウガと呼ぶ戦士。自分が生きる世界における、唯一無二の存在。
 彼はレンゲルが振るう得物を、両手で押さえた。気がつくと、レンゲルが呼び出したアンデッド達は既に一人残らず消滅している。
 だが、それに構う事はせずに彼らは睨み合い、そこから背後に飛んで距離を取った。クウガは腰を低くし、レンゲルは二枚のカードを取り出す。

「はあああぁぁぁぁぁぁぁ……!」
『RUSH』
『BLIZZARD』
『BLIZZARD CRUSH』

 クウガの気合いを込める声と、レンゲルラウザーから発せられる電子音声が発せられる。そこから互いに勢いよく疾走し、同時に跳躍した。
 クウガの足に帯びた灼熱と、レンゲルの両足から放たれる吹雪が互いに激突しながら、両者の距離が縮んでいく。
 刹那、封印エネルギーとアンデッドの生み出すエネルギーが空中で衝突。そこから両者は拮抗し、轟音と共に大量のエネルギーが周囲に拡散する。
 しかしそれはほんの一瞬で、次の瞬間には凄まじい大爆発を起こした。圧倒的な爆風によって大気は揺らぎ、その衝撃がアクセルと京介変身体に襲いかかる。
 それでも彼らは吹き飛ばされないように、足元を踏ん張った。耳を劈くような轟音はすぐに止んで、辺りに静寂が戻る。
 周囲に大量の粉塵が舞い上がる中、アクセルは前に踏み出した。戦いは終わったのかもしれない。だが、五代と第三号は一体どうなったのか。
 五代が奴を倒したのかもしれないが、まだ生きている可能性もある。何よりも、ようやく合流出来た五代と話をしなければならない。
 そう思いながら進む彼の周りに漂う埃は、風によって流された。それを浴びるアクセルの装甲が分解され、一条は元の姿に戻る。
 数歩進んだ後、彼の足は止まってしまった。

「何……?」

 そこに倒れていたのは、一人の男。しかし自分がよく知る男ではない。自分や五代よりも、若々しい雰囲気を放つ青年だった。
 一条はその周りを見るが、五代の姿はない。だとすると、今の第四号はこの青年が変身していた?
 一瞬だけその可能性を思いつく。だが、戦士クウガがもう一人いたなどという話など、今まで聞いた事がない。

「一条さん! ちょっと見てください!」

 京介の声が聞こえてきて、アクセルは振り向く。そこに立つ彼は既に変身を解除しており、元の姿に戻っている。
 その背には、見知らぬ一人の女性が背負われていた。しかも、婦警の制服を身に纏っており、自分や照井と同じ警察官である事を証明している。

964交錯 ◆LuuKRM2PEg:2011/08/21(日) 11:08:21 ID:8ssh1o8o
「その方は一体……?」
「分かりません。この人、向こうに倒れてたんです。ちょうど、あの『仮面ライダー』が吹っ飛んだ辺りに」
「何……!?」

 一条の中で、更なる謎が芽生えた。
 五代と思われていたクウガに変身していた男が、五代ではない見知らぬ青年だった事に。第三号と思われていたレンゲルに変身していたのが、見知らぬ婦人警察官だった事に。
 この二人が一体何者なのか。クウガに変身していた青年はともかく、レンゲルに変身した彼女の素性はまるで分からない。一体何故、自分達を襲ったのか。
 出来るならば、危険人物でない事を信じたい。どうやら、二人には話を聞く必要があるようだ。
 
「とにかく、この二人から事情を聞かなければならない。桐谷君、いいかな?」
「はい、俺は大丈夫です!」
「すまないな……なら、これからD−1エリアの病院に向かおう。君はその女性を頼む、私はこの青年を背負おう」
「分かりました!」

 行動方針を決めた彼らは、現れた二人の荷物を纏める。一条はクウガに変身していた男の支給品を、京介はレンゲルに変身していた女性の支給品を、それぞれデイバッグに収めた。
 荷物が増えるが、鍛え上げた彼らにとっては大した事はない。しかしその最中、一条は疑念を抱く。
 それは、レンゲルに変身するための道具と思われるあのバックルが、無かった事だ。そして、あのカードも一枚たりとも見つからない。
 周りを見渡すが、全く見あたらなかった。

「あの、どうかしたのですか?」
「いや……あれが見あたらないんだ、あの『仮面ライダー』に変身するために使ったと思われる道具が」
「えっ……? あっ、本当だ」

 京介も辺りを探すが、見つからない。もしも破壊されているのならばいいが、あれが誰かの手に渡ったりなどしたら危険だ。
 だが、ここであまり探してばかりもいられない。この二人がもしも自分達に協力してくれるのであれば、このままにしてはいけなかった。
 何よりも、京介の疲れも癒す必要がある。

「……いや、今はこの二人を優先しよう。何とかして、事情を聞かなければならないからな」
「そうですね……」

 そして一条は、名前も知らぬ青年を背負って歩き出した。彼の後ろを付いていくように、京介も歩く。
 彼はまだ知らなかった。ここで見つけた二人が、ある意味では自分と深い関わりを持つ事を。
 一人は小沢澄子。未確認生命体が撲滅されてから、未来の世界より連れて来られた警察官の一人。
 もう一人は小野寺ユウスケ。一条がもっとも信頼を寄せる男と、同じ名前を持つ男。
 そんな彼らが一条の存在を気付いたら、どうなるのか。まだ誰にも分からなかった。

【1日目 夜】
【D−2 市街地】

【共通事項】
※D−1エリアの病院に向かい、小沢とユウスケから話を聞こうとしています。
※D−2エリア 市街地にZECTの装甲車@仮面ライダーカブトが放置されています。


【一条薫@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話 未確認生命体第46号(ゴ・ガドル・バ)撃破後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、罪悪感、仮面ライダーアクセルに2時間変身不可
【装備】AK-47 カラシニコフ(対オルフェノク用スパイラル弾入り、残り15発)@仮面ライダー555、 アクセルドライバー&アクセルメモリ@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×3、名護のボタンコレクション@仮面ライダーキバ、車の鍵@???、照井の不明支給品、アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ガイアメモリ(スカル)@仮面ライダーW、
 おやっさんの4号スクラップ@仮面ライダークウガ 、ユウスケの不明支給品×2(確認済み)
【思考・状況】
1:桐谷と共に、D−1エリアの病院に向かう。
2:鍵に合う車を探す。
3:照井の出来なかった事をやり遂げるため『仮面ライダー』として戦う。
4:一般人は他世界の人間であっても危害は加えない。
5:五代、桐谷や照井の知り合いと合流したい。
6:未確認への対抗が世界を破壊に導いてしまった……?
7:照井と同じ世界に生きる者に、照井の死を伝える。
8:この二人(小沢、ユウスケ)は一体……?
【備考】
※ 『仮面ライダー』はグロンギのような存在のことだと誤認しています。
※ 『オルフェノク』は『ある世界の仮面ライダー≒グロンギのような存在』だと思っています。
※ 対オルフェノク用のスパイラル弾はオルフェノクにほぼ効きませんが、有効なものであると勘違いしいています。
※ 『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。
※ 麗奈の事を未確認、あるいは異世界の怪人だと推測しています。

965交錯 ◆LuuKRM2PEg:2011/08/21(日) 11:09:39 ID:8ssh1o8o
【桐矢京介@仮面ライダー響鬼】
【時間軸】最終回後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、京介変身体に2時間変身不可、罪悪感
【装備】変身音叉@仮面ライダー響鬼、コルト・パイソン+神経断裂弾(弾数0)@仮面ライダークウガ、アビスのデッキ@仮面ライダーディケイド、トリガーメモリ@仮面ライダーW、ガルルセイバー(胸像モード)@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×5、不明支給品×0〜1、着替えの服(3着分)@現実
    ゴオマの不明支給品0〜1、三原の不明支給品(0〜1)
【思考・状況】
1:人を守る。
2:化け物(イマジン)が気になる。
3:一条と共にD−1エリアの病院に向かう。
4:響鬼達との合流を目指す。
5:照井を見捨ててしまった事に罪悪感。
6:麗奈が化け物だった事に愕然。
【備考】
※名簿に書かれた『財津原蔵王丸』の事を、同名の他人だと思っています。
※ 『仮面ライダー』の定義が世界ごとによって異なると、推測しています。



【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、気絶中、ダグバへの激しい怒りと憎しみ、仮面ライダークウガに2時間変身不可
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド
【道具】無し
【思考・状況】
0:…………(気絶中)
1:ダグバを倒す。誰も巻き込まない様にする為1人で行動する。
2:もしもの時は士に自分を殺して貰う。
3:海堂直也は、現状では信じている。
4:殺し合いには絶対に乗らない
5:もう1人のクウガか…………
【備考】
※デイバッグの中身は確認しました。
※『Wの世界』の人間が首輪の解除方法を知っているかもしれないと勘違いしています。
※ガイアメモリが全員に支給されていると勘違いしています。
※おやっさんの4号スクラップは、未確認生命体第41号を倒したときの記事が入っていますが、他にも何かあるかもしれません(具体的には、後続の書き手さんにお任せします)
※カードセットの中身はカメンライド ライオトルーパー、アタックライド インビジブル、イリュージョン、ギガントです
※ライオトルーパーとイリュージョンはディエンド用です。
※インビジブルとギガントはディケイド用のカードですが激情態にならなければ使用できません。
※アルティメットフォームに変身出来るようになりました


【小沢澄子@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終盤(第46話終了後以降)
【状態】健康、疲労(中)、不快感、仮面ライダーレンゲルに2時間変身不可
【装備】無し
【道具】無し
【思考・状況】
1:…………(気絶中)
【備考】
※真司の支給品のトランプを使うライダーが居る事に気付きました。
※龍騎の世界について大まかに把握しました。
※スパイダーアンデッドの精神支配から開放されました。





966交錯 ◆LuuKRM2PEg:2011/08/21(日) 11:10:44 ID:8ssh1o8o
 レンゲルバックルは、宙を飛んでいる。先程戦った仮面ライダー達から逃れるように。
 かつて上城睦月がスパイダーアンデッドの脅威から逃れようと、レンゲルバックルを捨てた事が何度もあった。
 しかしその度に、レンゲルバックルは彼の手元に戻っている。しかし今回はこれまでとは違い、人間達から逃げるために飛んだ。
 理由は、あの女を操って先程襲った二人を仕留めようとした瞬間、妙な赤いライダーが現れた故。しかもその戦闘力は高く、上級アンデッド達をいとも簡単に蹴散らした。
 これでは、あそこに留まっていても破壊されてしまう可能性があり、小沢の身体を捨てて逃亡を選ぶ。別に替え玉などいくらでもいるからだ。
 そう思いながら、スパイダーアンデッドはレンゲルバックルを動かして逃亡を続ける。しかし、それは一瞬で阻まれてしまった。
 視界の外から突如、何者かが自分の事を掴んだため。





「何かと思ってみたら……まさかお前だったとはな」

 辺りの暗闇が増した頃、D−4エリアで相川始は一人で立っていた。
 東京タワーで見知らぬ女の死体を見つけてから捜索を続けていたが何も見つからず、最終的には離れる事を選ぶ。
 その矢先に、近くの映像機器が突然起動して大ショッカーの放送が告げられた。しかも、そこに映し出されていたのはかつて自分を弄んだ、スペードのカテゴリーキング。
 何故、奴が大ショッカー側についているのか。恐らく大ショッカーが奴を解放したのだろうが、何のために。

――僕の知り合いに、戦えない全ての人々を守る、とか何とか言ってた御人好しな仮面ライダーが居るんだ。
――けど、そいつもこの六時間で呆気なく死んじゃった。多分、他にも似た様な事言ってる奴は居たんだろうけど。
――コレ、どういう事か分かる? ……簡単な話さ。所詮、口だけの正義の味方なんて何の役にも立ちはしないって事。

 疑問が増えていく中で告げられたのは、キングによる侮蔑。
 恐らく奴は、この世界で起きている戦いを見ている。それは自分は剣崎も例外ではない。剣崎は誰かを守るために、命を散らせたのだろう。
 それをキングは侮蔑した。奴の言葉は正しいのかもしれないが、到底許せる事ではない。
 上等だ。お前が自分達をゲームの駒としたいのなら、精々それに従ってやる。だが、例え自分が生き残ったとしても、その後は再び封印するまで。
 キングへの憎悪が芽生えていく中、彼は遠くから何かが飛ぶを見つける。目を凝らしてみれば、それはクローバーのカテゴリーAが封印されている、上城睦月が扱っていたレンゲルバックルだった。
 始はそれを掴んで、自分の物としていた。この場では、一つでも多くの戦力を持った方が良い。

「カテゴリーA……力を貸して貰うぞ、消えたくなければな」

 スパイダーアンデッドはその力で、多くの人間を操ってきた。しかし始はアンデッド、それも特に力が強いジョーカーであるため通用しない。
 それが分かっているのか、レンゲルバックルも特に抵抗はしなかった。不意に、始はレンゲルバックルを開いて中を確認する。
 すると、彼は微かに目を見開いた。

「これは……」

 レンゲルバックルの中に入っていたラウズカード。そこにはクラブだけでなく、剣崎の物であったスペードのラウズカードが含まれていた。
 それだけでなく、自分自身の切り札としていたハートのラウズカードも全て存在していた。それが意味するのは、彼がワイルドカリスへの変身を可能とさせる事。
 かつて剣崎一真がジョーカーとして暴走しようとしている始を救う為、集めたその力。それが今、再び一つに集まった。
 しかし始は、剣崎の願いを裏切る事になってしまう。だが、後悔はない。
 守らなければならないかけがえのない存在を、この手で何としても守るために、修羅の道を歩む。
 死神の道は未だに闇で覆われていた。

967交錯 ◆LuuKRM2PEg:2011/08/21(日) 11:11:22 ID:8ssh1o8o
【1日目 夜】
【D-4 道路】


【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり
【状態】罪悪感、若干の迷いと悲しみ、キングへの怒り。
【装備】ラウズカード(ハートのA〜6)@仮面ライダー剣、ラルクのバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE、レンゲルバックル@仮面ライダー剣、ラウズカード(クラブA〜10、ハート7〜K、スペードの7,8,10〜K)@仮面ライダー剣
【道具】支給品一式、不明支給品×1
【思考・状況】
1:栗原親子のいる世界を破壊させないため、殺し合いに乗る。
2:もしも優勝したら、キングを再び封印する。
3:当面は左翔太郎の前では、カリスに変身しない。
【備考】
※ラウズカードで変身する場合は、全てのラウズカードに制限がかかります。ただし、戦闘時間中に他のラウズカードで変身することは可能です。
※時間内にヒューマンアンデッドに戻らなければならないため、変身制限を知っています。時間を過ぎても変身したままの場合、どうなるかは後の書き手さんにお任せします。
※左翔太郎を『ジョーカーの男』として認識しています。また、翔太郎の雄たけびで木場の名前を知りました。
※東京タワーから発せられた、亜樹子の放送を聞きました。
※スパイダーアンデッドの精神支配は通用しません。



以上で、投下終了です
矛盾や疑問点などがありましたら、ご指摘をお願いします。

968二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/08/21(日) 13:10:37 ID:iF4c3bM6
投下乙です。
一条とクウガが遭遇か……今のユウスケはかなり精神的にキツイだろうけど吉と出るか凶と出るか。
そういや作品中時間的に8時少し前だと思うが2時間もの間ユウスケは落ち込みながらも牙王の追跡をかわしていたんだなぁ。
で、レンゲルことスパイダーは逃げたは良いけど始に確保されたか……

1つ気になったんですが、今回の戦闘した場所はD-2ですよね。
幾ら何でもカードに封印された状態のバックルがほんの一瞬でD-4まで移動というのは出来るものなんでしょうか?

969二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/08/21(日) 17:46:24 ID:l5CQyV3o
投下乙です。
五代がライアルになってしまった一方で、ユウスケは一条さんと合流か。
一条さんとの接触でユウスケが悩みを触れ切れるようになればいいけど……
ってあれ、牙王はユウスケを追跡してたのに今回ノータッチ……?

二点ほど気になる箇所が。
まず、放送に関してですが、「クウガの世界」という単語や、「クウガの世界の殺害数が断トツ」だとか言われて、
実際にクウガの居る世界の住人である一条さんが反応を示さないのは少し不自然かな……?と思いました。
もう一つは、>>968でも言われていますが、流石にレンゲルバックルが飛び過ぎではないかと。
もう少し言えば、ここで何の苦労も無く始がハートのカードを全て揃えて、大幅強化されるのもどうかな、というのが正直な感想です。

970 ◆LuuKRM2PEg:2011/08/21(日) 18:33:12 ID:8ssh1o8o
ご指摘ありがとうございます
それでは、指摘された点を修正して、修正スレに投下させて頂きますが、よろしいでしょうか?
一条さんのクウガの世界に関する反応、レンゲルバックルは逃走で話は終わり。始パートはカットの方向性で書く予定で

971 ◆7pf62HiyTE:2011/08/22(月) 13:02:30 ID:FX.HrqWY
アポロガイスト、浅倉威及びメタルゲラス分投下します。

972橋上の戦い ◆7pf62HiyTE:2011/08/22(月) 13:06:35 ID:FX.HrqWY
【C-5 ZECT秘密基地 06:21 p.m.】


 D-5での激闘を終えたアポロガイストことガイは自らの躰を休めようと考えていた。
 だが、憎き仮面ライダー共や殺し合いに乗った連中と遭遇すれば戦いになるのは必至、それは避けねばならない事だ。
 最低でも全ての変身手段が再び使える様になる8時頃まで。

 休息の場所として選んだのは少し前に見つけたC-5のビルの地下にあるZECT秘密基地。
 地図に載っていない場所という時点で他の参加者が訪れる可能性はさほど高くはない。
 また参加者が集結するであろうD-5の東京タワーの存在のお陰で盲点となりうる。
 なお、東京タワーにはエリア1つ吹き飛ばす可能性すらある爆弾が仕掛けられている。
 その威力が凄まじいものでC-5にすら届くとしてもビル地下に存在する秘密基地はシェルターの役目も果たしその被害を回避するには絶好の場所だ。
 故にガイは休息の場所として此処を選んだのだ。

 さて、秘密基地に到達したタイミングでモニターから我等が大ショッカーの有難い放送が流れてきた。
 それを踏まえた上で今後の方針を改めて纏めておく必要がある。

「消えたのは20人、概ね順調という所か……」

 ガイにしてみれば死者の名前自体はさほど重要ではない。
 仮面ライダーディケイド一行の仲間である光夏海の退場が確認されてはいるが彼女は所詮力を持たない弱者、ディケイド達に影響を与える程度の存在でしかないだろう。
 一方で世界別の殺害数のランキングも大きな情報であった。
 クウガの世界が7人、剣、龍騎、キバの世界が各3人、カブト、アギトの世界が各2人という事だ。
 偶然等を考慮してもクウガの世界が突出している事はわかる。
 名簿の並びと空欄を見る限り参加している世界は11、1世界に4〜7人参加していると考えて良い。
 クウガの世界からの参加者が最大人数である7人であればこの数字も納得――という事にはなり得ない。
 同じ様に7人参加している世界が存在する以上、その世界にすら大きく差を付ける理由が存在する事になるからだ。

 更にいえばクウガの世界からの参加者が7人という事すら確定情報ではないのだ。
 自身が知る仮面ライダークウガ小野寺ユウスケ、名簿の並びから考え(自分もそれに括られるのは忌々しいが)自身同様ディケイド一行と同じ扱いだろう。
 それを踏まえ、クウガの世界が別に存在する事になり、その可能性があるのはユウスケと同じ名前を持つ五代雄介の世界と考えて良いだろう。
 そしてその世界の参加者は5人。決して多いという数字ではないにも関わらず7人という成果を上げているという事は――
 その世界の怪人であろうズ・ゴオマ・グ、ゴ・ガドル・バ、ン・ダグバ・ゼバが1人平均2〜3人仕留めたという推測が成される。
 既にゴオマは退場したものの残る2人は健在。恐らく今後も働いてくれるだろう。
 とはいえ、五代の世界がクウガの世界という事自体確定情報ではない。
 それでも、クウガの世界の働きに関しては今後も念頭に置いておくべきだろう。

「しかし……何故小野寺ユウスケがクウガの世界ではなくディケイド達の仲間という扱いになっているのだ……」

 ふとそんな疑問を感じるもののひとまずそれは置いておく。
 一方で禁止エリアの確認も進める。
 ガイから見て特筆すべきは東京タワーのあるD-5が禁止エリアとなった事だ。
 参加者が集う上に爆弾まで仕掛けられているこの場所が禁止エリアとなる事が偶然によるものとは思えない。
 大ショッカーは参加者共の動きを逐一把握した上でこの場所を選んだのだろう。

973橋上の戦い ◆7pf62HiyTE:2011/08/22(月) 13:10:10 ID:FX.HrqWY

「となると……G-1の工場とE-4の病院にも大きな動きがあったと考えるべきだろう。仮面ライダー共の集結場所になっていたと考えるべきだ」

 それを踏まえ、G-1とE-4が禁止エリアになったのも参加者の動きによるものだとガイは考えた。

「だが、そうなるとあまり派手な真似は避けるべきかも知れんな」

 仮に今後長期的な計画で参加者を集める為の行動を起こしても放送の度に禁止エリアにされる可能性が高い。
 これは殺し合いの打倒する側だとしても、参加者を一網打尽する側だとしても同じ事だ。
 D-5が禁止エリアになった事で自身の策がほぼ潰された事を踏まえ、策を講じる時は先の事を考えた上でそうするべきだろう。

「仮に私が優勝……つまり忌々しいがディケイド達が優勝したらどうなるのだ?」

 ふとそんな疑問が浮かんでくる。
 他の世界が優勝した場合はその世界のみが存続し他の世界が消える――そこまでは良い。
 だが、自分を含めたディケイド達はそうはいかない。
 自分を含めたディケイド達5人は全員別の世界からの出身だ。それら5つの世界全てが存続する――という事にはなり得ない。

「私としてはディケイド達の世界を存続させる必要などないと思うのだが――」

 自分が勝ち残り優勝する分には一向に構わない。だがディケイド達の世界を存続させてやる必要もない。
 ガイとしてはそこの部分がどうにも引っかかったのだ。しかし、

「いや、恐らくは私如きでは考えも付かない深いお考えがあるのだろう。私は大ショッカーの意に従い事を成せば良い……」

 とはいえすべき事が変わるわけではない以上、考えても仕方がない事だ。今は成すべき事を成すべきだろう。

「それにしても……あのキングという奴は何者なのだ……?」

 放送を行ったキングについて考える。
 仮面ライダーを侮辱する姿自体は別段構わないがあの態度はどうにも自分すら侮辱されている様な気すらする。
 実際、この6時間成果を上げていない以上侮辱されても仕方がないがどうにも気に入らない。
 何故偉大なる大ショッカーはあの様な輩を同志に加えたのだろうか? 何処の世界の奴かはどうでも良いが少なくとも相容れる存在だとは思えない。
 大体、『一番強い』というフレーズ自体が問題だ。
 頂点に立つのは大ショッカーの大首領であるべきなのだ、奴の世界ではそうだったとしても大ショッカーの中で偉そうな事を口にするなと言いたい所だ。

「まさかとは思うが、大ショッカーの乗っ取りを目論んでないだろうか? 杞憂であれば良いが……」

 大ショッカーのする事に疑問を感じるわけではない。それでもキングという存在は獅子身中の虫としか思えない。
 少なくても大ショッカーに益をもたらす存在では無いだろう。
 現状どうこう出来るわけではないのは理解しているが気にせずにはいられない。

「そういえば……もう1人退場したキングがいたな」

 その一方、名簿上にある既に退場したキングについて考える。先に遭遇した仮面ライダーキバこと紅渡の存在を踏まえキバの世界からの参加者という事は把握している。
 だが、疑問を感じる。何故渡は自身の事をキングと名乗っていたのだろうか?
 名簿を見れば渡とキングが別の人物である事は一目瞭然。放送前の時点で健在である可能性が高い以上、少なくても渡に名乗る理由が――

「もしや……キバはキングが死ぬ所に遭遇したのか? その上でキングを受け継いだというのか?」

 ガイは、渡が死に際のキングに遭遇しキングの地位を受け継いだ可能性を考えた。
 この仮説ならばあの時点で渡がキングと名乗った事に説明が付く。
 また、サガークの存在も証拠の1つとなる。サガークはキバの世界に存在するものだと知っている。
 そうそう都合良い展開になるとは限らないがサガークがキバの世界の参加者であるキングに支給される可能性は決して低くはない。
 そのサガークをキングが渡に託したと考えればそれなりに筋は通るだろう。

「……が、そんな事などどうでも良い事か」

 そう、キングと渡の事情など実の所どうでも良い話だ。
 渡は仮面ライダーである事を捨て優勝を目指す為に戦っているのは理解した。
 少なくても大ショッカーの望む事を行っている以上、ガイが妨害する必要は全く無い。
 何れは倒す存在である事に違いはないものの、現状は奴に他の仮面ライダー共を倒させた方が色々都合が良いだろう。

974橋上の戦い ◆7pf62HiyTE:2011/08/22(月) 13:11:00 ID:FX.HrqWY

「ともかく現状はもう少し身を休め……」


 その時、何者かの殺気を感じた。


「なんだ? この気配……」


 周囲を見回すものの誰かが侵入してきた様子はない。


「いや、まさか……」


 と、あるものを取り出しつつ鏡を見る――


 鏡の中で犀の怪物が何かを探していたのが見えた――


「まさか……アレは龍騎の世界の……」


 考えられる可能性は1つ、龍騎の世界に存在するカードデッキの契約モンスターだ。
 そして周囲に参加者がいない事を踏まえればデッキが破壊された事により契約から解放された野良モンスターだろう。

「だが、どういう事だ。この近くで戦いが起こった形跡は無かった。何故、奴がここにいるのだ?」

 ZECT基地周辺で戦いが起こっていない事は確認済み。ならばここで契約が切れたのではなく、別の場所で契約が切れたモンスターがここまで移動したのだろう。
 だがそれなら別の疑問が浮かぶ。何故犀の怪物――メタルゲラスはわざわざ自分のいる場所に来たのだろうか?

「もしやあの時……」

 ガイは先の戦いの事を思い出す。
 あの時の戦いで自身の持っていたシザースのデッキが破壊されその契約モンスターであるボルキャンサーが解放された。
 だが、その時破壊されたデッキがもう1つあったのであれば?
 ガイはその戦いの際、運良く手に入れたゾルダのデッキで仮面ライダーゾルダに変身し渡を含む3人の参加者に砲撃を仕掛けた。
 その砲撃で未知のデッキを破壊したならばどうだろうか?
 そのデッキの契約モンスターがデッキを破壊した自分を敵視してずっと追跡していた可能性は否定出来ない。
 つまり、そのモンスターメタルゲラスは自分を襲撃せんとしているのではなかろうか?

「拙い……此方の変身手段があのメモリしか無い以上……」

 かくして状況が一変する。消耗した今というタイミングで貴重な拠点での戦闘を避けた方が良いのは言うまでもない。
 それ以上に可能であればモンスターは他の参加者にぶつけたい所だ。
 故にガイは早々に上に戻りビルを出ようとする。外に置いてあるハードボイルダーでこの場所から離れるのだ。
 そして、無事にビルに出てハードボイルダーのエンジンを回した時――


 後方からバイクの近付く音が聞こえてきた。
 視認こそ出来ていないが微かな威圧感を感じる。静かに後方へと視線を向けると――


「あの男……!」


 ハードボイルダーで東京タワーへとやってきた蛇革のジャケットの男浅倉威だ。


「あのバイクは555の世界のバイクか……」


 そう思うガイの思惑を余所に浅倉はガイへと迫っていく。


「奴め、ここで仕掛けるつもりか!」


 消耗している状況に加えモンスターに追われている状況、ここでの戦いはリスクが大きい。
 ガイは戦闘態勢に入らず、そのままハードボイルダーで離脱しようと走り出した――



 浅倉は先の戦いでサイドバッシャーを手に入れた後、休息に適した適当な場所を探していた。
 その途中で飛行艇が飛び回り放送が流れ出し、そのやかましさに苛立ちつつも耳を傾けていた。
 浅倉にしてみれば誰が死のうがどの世界が成果を挙げていようがそんな事は基本的にどうでも良い。
 ただ、禁止エリアだけは無視出来ない故にその場所を押さえておいた。
 そして再び休める場所を探すべくC-5に入った所で――偶然ビルから出てハードボイルダーに乗ろうとするガイを見つけたのだ。
 あのバイクは元々浅倉に支給されたもの、それに拘るつもりはないものの持ち逃げされている事を面白く思うわけもない。
 故に浅倉はガイに仕掛ける事にしたのだ。
 そんな浅倉の心中をガイが察する事もなく逃げ出そうとする、それが苛立ちの炎に油を注いだ。
 これまでの戦いで消耗は激しいものの黙っていられるわけもない。故にガイを追跡すべくサイドバッシャーを加速させた――

975橋上の戦い ◆7pf62HiyTE:2011/08/22(月) 13:11:50 ID:FX.HrqWY





【C-5 道路 06:38 p.m.】


「何とか振り切ったか……」

 ビルの間を走り抜けながら浅倉の死角に入る事に成功しガイはそのまま草原を走り道路に到達した。

「しかし何だ……あの嫌な感じ……む!?」

 そんな中、左斜め前方からサイドバッシャーが走ってくるのが見えた。

「くっ、まだ追ってくるか」

 再び離脱しようとアクセルを回そうとするが、サイドミラーの奥にメタルゲラスが小さく映っているのが見えた。

「ちっ、龍騎世界のモンスタァ……」

 バイクの速度は確かに早い。だが浅倉を振り切るべくビル街を右往左往したこともあり、メタルゲラスを大きく引き離す事は出来ないでいる。
 自身を狙っているのであれば振り切る事は容易では無いだろう。

「流石に逃げ続けるわけにもいかんか……あのモンスターが1度でも此方に出てくれれば良いが……」

 ミラーワールドにいるモンスターは一度現実世界に現れた場合、ある程度時間をおかなければ再び現れる事は出来ない。
 故に1度でも現れれば幾らでも撒くことは可能だ。
 だが、メタルゲラスの様子を見る限り此方を確実に襲えるタイミングを見計らっているのは明白。
 つまり、此方が足を止めない限り出てくる事は無いという事だ。

「だがモンスターを出す為とはいえわざわざ襲われたくはないが……くっ、そうこうしている間に奴が来るか……待てよ」

 この時、ガイの脳裏にある作戦が浮かび上がる。

「……モンスターを襲わせる相手なら目の前にいるではないか……後はそのタイミングを作る方法だが」

 頭の中に周囲の地形や手持ちの道具を浮かべ、その方法を纏める――
 その最中、サイドバッシャーに乗った浅倉が前方に現れる。

「貴様……何処の誰かは知らんが、我等大ショッカーに刃向かうつもりか?」
「お前等が誰かなんてどうだっていい……イライラするんだよぉ……」

 別に交渉や話し合いなどするつもりなど全く無い。ガイは再びアクセルを回し走り出し早々に浅倉を抜き去って行く。

「逃がすかよ」

 浅倉もまたガイを追いつめるべく再び走り出した。



 只ひたすらにハードボイルダーは道路をひた走る。
 一方のサイドバッシャーはその速さに追随――むしろ度々横に並び体当たりを仕掛けようとするが直撃する前に後方に下がるあるいは前方に進む為回避される。
 そして態勢を整える間に再びハードボイルダーは抜き去っていく。
 それを幾度か繰り返す内にカーブを曲がり更に2台は道路をひたすらに突き進む。


「そうだ、しっかりと付いてこい……貴様の墓場までな」


 ガイは密かにサイドミラーを確かめつつスピードを適度に調整しつつ足を進める。
 もう1匹の追跡者が見失わぬ様に自分達を追跡させるかの様に――


 そしてガイの前方に大きな川が見える。


「見えたか……」


 更にエリア1つを横断する程の長い橋も見える。
 スピードを緩める必要は無い、加速してその勢いのまま橋へと――


 だがその時、右横にサイドバッシャーが張り付いていた。此方が加速したのと同時に仕掛けてきたのだろう。


「!!」


 ガイはすぐさま回避しようとする。だが、行動が一瞬遅れ――


 サイドバッシャーの体当たりは見事に命中しハードボイルダーのバランスが崩れ道路から飛び出し――


 加速していたスピードはすぐには抑える事が出来ず――


 そのまま川へと飛び出していった――


 ――Cyclone!!――


 そんな声が一瞬響いて――

976橋上の戦い ◆7pf62HiyTE:2011/08/22(月) 13:12:40 ID:FX.HrqWY





【B-5 橋 06:43 p.m.】


 そのまま浅倉は橋上を走る。
 奴は川に落ちたのだろう。呆気なかったがそれでも少しは気が晴れ――


 が、何か違和感を覚える――


 何かがおかしい――
 何故、川に落ちる音が聞こえないのだろうか――


 そんな時だった――


 前方から風が吹き込んで来たのは――


「何っ!?」


 何かが飛び込んできた。直撃こそ避ける事が出来たが――
 吹き荒ぶ強風により車体のバランスが崩れスピンする――
 それでも何とかバランスを立て直す――


「今のは……あれは!?」


 そして、前方に先程川に落とした筈のハードボイルダーが――


 大空を舞っているのが見えた――


「何だ……アイツは……」


 だが乗っているのは白服の男性ではなく緑色――
 右上半身等一部に仮面ライダーを彷彿とさせ、同時に左上半身等一部に竜巻を彷彿とさせる怪人がいた――


「成る程、これがガイアメモリの力か!」


 ガイは川へと飛び出す直前、懐からガイアメモリを取り出しそのまま首輪のコネクタに挿入した。
 そのガイアメモリはT2ガイアメモリの1つサイクロン、
 ガイアメモリに込められた『疾風』の記憶はすぐさまガイの全身を巡り――
 ガイはサイクロン・ドーパントへと姿を変えたのだ。

 当初の予定では変身して強化された力で強引に態勢を立て直し岸に戻るつもりだったが、サイクロン・ドーパントの力を実感し方針を変えた。
 サイクロン・ドーパントの力で全身に強風を巻き起こし――ハードボイルダーごと空中を飛行したのだ。
 無論、長時間飛行出来るものではない。だが、川に着水する前に態勢を立て直し地上――橋の上に戻る事は十分に可能。
 かくして強風を全身に纏い浅倉へと突撃を仕掛けたのだ。本体の直撃を回避しようとも突風までは回避不能。その強風で浅倉の躰は大きく煽られるという事だ。


「ちぃっ……」


 浅倉は何とか変身しようとする。だが、現状で唯一使える変身手段であるランスバックルはデイパックの中、バイクに騎乗している状態では一手間掛かる。
 また、変身する隙など与えるわけもなくサイクロン・ドーパントは再度浅倉に突撃を仕掛けてくる。
 その突撃を紙一重でかわすがやはり強風によってバランスが大きく崩れる――
 いや、それだけではなくサイクロン・ドーパントが巻き起こす突風により川の水も巻き上げられ橋の上へと雨の様に降り注ぐ――
 それにより路面は濡れバイクで走るには余りにも悪条件となっていった。
 今はまだ良いが後数回仕掛けられれば限界が訪れる。
 前述の通り回避で手一杯である以上変身は不可能、生身で直撃を受ければ命など無い。
 更に言えば現在位置は橋の中間、岸までは大分距離がある事を踏まえると岸まで移動してから体制を整えるという事も難しい。
 『切り札』が無い事も無いが、奴の波状攻撃を避けながら使うには難しく、逆に回避されれば窮地に陥るのは此方だ。

977橋上の戦い ◆7pf62HiyTE:2011/08/22(月) 13:13:15 ID:FX.HrqWY


「手は無い……いや……」


 浅倉は躰の奥底から『力』が湧き上がるのを感じた――
 それは取り込んだ『恐怖』の『記憶』が生み出す強大な力――
 通常の人間を遙かに凌駕し、仮面ライダーにも匹敵あるいは圧倒する絶大なる力――


「あるじゃねぇか……力なら……」


 『記憶』は既に全身を巡っている。そのお陰で『それ』が持つ『力』は概ね理解した。後は――


「来い……」


 それは誰に対しての言葉なのだろう?


「終わりだ、大ショッカーに刃向かった事を後悔するが良い!」


 ハードボイルダーが浅倉へと向かっていく――


 浅倉は今度は回避しようともせず――


 ――Terror!!――


 躰の奥から声が響いた気がした――


「なんだ……今のは……?」


 一体何が起こったのだろうか?
 いや、冷静に思い出せ。今、自分は目の前の男に仕掛けようとしたが――
 無意識の内に風を弱めスピードを緩めた――が、それだけでは命中は必至だった筈だ。
 そう――気が付けば当たる筈だった標的が消え失せていたのだ。


「何処に消えたのだ……奴は?」


 と、振り向くとそこにはサイドバッシャーを駆る者がいた――
 但し乗っていたのは人間ではなく――
 黒と金のマントを纏い、青き龍を模した王冠を乗せた――
 帝王とも呼べる怪人がいた――


 その名はテラー・ドーパント、『恐怖』の記憶が封じ込められたガイアメモリ、それによって変身した怪物である――
 浅倉は本来の使い方ではなく、メモリを喰らう事で封じ込められた『記憶』と『力』を取り込み、その力を得たのである。
 サイクロン・ドーパントの突撃の直前、浅倉は体内の記憶の力を引き出しテラー・ドーパントへと変身、
 その瞬間に放たれる波動で一瞬サイクロン・ドーパントが怯み、同時にテラーフィールドを足元に展開しそれを通じほんの数メートル程移動する事で突撃を回避したのである。


「くっ……だがその力があっても……」


 確かに目の前のテラー・ドーパントに気圧されている所はある。それでもサイクロン・ドーパントの力により空中を高速で舞えるこちら側がまだ優勢だ。
 それに此方には『切り札』もあり、仕込みも済んでいる。
 故に再び全身に風を纏い突撃を仕掛けようとするが――


「……頭のコイツが只の飾りだと思うか?」


 テラー・ドーパントは念じる。それに応えるかの如く頭部の青い王冠が震え――
 青き龍テラードラゴンとなってテラー・ドーパントから放たれた。
 テラードラゴンは高速で飛翔、その勢いのままサイクロン・ドーパントへと向かっていく。


「なにぃっ!?」


 先程も述べた通り今のハードボイルダーは周囲全体に強力な風を纏わせる事で強引に飛ばしている状態だ。
 当然空中を自由自在というわけにはいかない。
 故に自在に空中を飛び回るテラードラゴンに対しては圧倒的に不利と言えよう。


「くっ来させるか!」


 それでも強風を展開する事で何とかテラードラゴンと距離を取ろうとする。
 その一方でテラー・ドーパントは態勢を整えようとする。


「少々予定と違うがやるしか無い様だな」

978橋上の戦い ◆7pf62HiyTE:2011/08/22(月) 13:13:50 ID:FX.HrqWY


 一方でテラー・ドーパントはサイクロン・ドーパントから視線を逸らす事無くテラードラゴンが捕まえるのを待つ。
 テラードラゴンが奴を捕まえ地上に降りた所で畳み掛ける。そう考えていたが――


 突如としてサイドバッシャーが持ち上がっていくのを感じ――


 そのまま倒されると共に放り出された――


 何が起こったのか、テラー・ドーパントが前方を見るとそこには――


「北岡のモンスター……」


 仮面ライダーゾルダの契約モンスターマグナギガが現れていた。


「だが……」


 脳裏に疑問が浮かぶ。ミラーワールドに生息するモンスターが現実世界に現れる為にはガラスなどの写るものが必要だ――
 しかし今マグナギガは何処から現れた?
 川やサイドミラー? いや、その場所から現れる事はある程度予想出来る故に対処は出来る。
 奴は不意打ちの様にサイドバッシャーの真下、あるいはすぐ傍から現れた。そんな所に写るものなど――


「そういうことか!」
「気付いた様だな愚か者め!」


 先に説明した通り、サイクロン・ドーパントが川の水を巻き上げ橋上へと降り注がせた。
 それにより路面が悪化した所までは説明した通り。が、意味はそれだけではない。
 橋に降り注いだ川の水は水溜まりとなり、そこは鏡の様に空を映す――

 そう、サイドバッシャーのすぐ前の水溜まりからマグナギガが現れそのままサイドバッシャーを持ち上げ倒させたのだ。


「おい、北岡をやったのはお前か!?」


 テラー・ドーパントの怒号が響く、マグナギガを扱えるのはゾルダのデッキを持つ北岡秀一だけの筈。にも関わらず別の男がそれを使っている。
 北岡が既に退場している事を踏まえると奴が北岡を倒しデッキを奪ったという推測は容易に出来る。
 故に問いつめたのだ。北岡を仕留めたのが奴なのかを――


「だったらどうする? 仲間の仇討ちでもするつもりか?」


 だがサイクロン・ドーパントは質問には答えず逆に質問を返す。


「奴は俺の獲物だった……それだけだ」


 浅倉にとって北岡は自身の弁護士であり仮面ライダーの戦い以前から続く因縁の相手であった。
 それ故に可能であれば自分が倒すつもりであった。
 無論、倒される可能性は多分にある故そこまで拘っていたわけではない。しかし、倒したであろう敵が現れたとあって思う所が無いわけもなかろう。


「ふん、貴様の都合など知った事か」


 そのやり取りの間もマグナギガはテラー・ドーパントに殴りかかる。
 テラー・ドーパントはその攻撃を的確に受け止めていくが、


「それに相手が奴だけだと思ったのか?」


 突如背後から別のモンスターがテラー・ドーパントに襲いかかってきた。
 テラー・ドーパントの背後にある水溜まりからメタルゲラスが飛び出してきたのだ。
 前方のマグナギガ、後方のメタルゲラスによって挟み撃ちにあいテラー・ドーパントは思う様に身動きが取れない。

 その間にハードボイルダーはテラードラゴンから距離を取る事に成功し地面を滑走する。
 そして加速を付け再び風を纏い空へと舞い上がり――


「これで終わりだ!」


 2体のモンスターに阻まれ動けないでいるテラー・ドーパントへと突撃をかける――


 直撃すればいかにテラー・ドーパントといえども只では済まない――


 そして――

979橋上の戦い ◆7pf62HiyTE:2011/08/22(月) 13:14:30 ID:FX.HrqWY


 だがまたしてもハードボイルダーの突撃は空振りに終わった。
 今度は怯むことなく仕掛けた筈、何が起こったのだろうか?


「むっ?」


 見るとマグナギガの姿は確認出来るがメタルゲラスとサイドバッシャーも消えている。
 いやそれどころか先程まで自分を追撃していたテラードラゴンの姿も見えない。


「何を惚けている?」


 と、聞き慣れた男の声がした。声の方を向くとそこにはテラー・ドーパントが――
 テラードラゴンが戻ったのか青い龍の冠も掲げている姿でそこにいた。
 その間に1分という限界時間を迎えたかマグナギガの姿も消える。


「そうか、そのドラゴンもモンスター同様……」


 テラードラゴンもミラーモンスター同様の制限が掛けられている事を察した。
 それ故に限界時間を迎えたテラードラゴンはテラー・ドーパントの元へと戻ったのだろう。
 そしてそのタイミングでテラーフィールドを展開しサイドバッシャー共々数メートル先に移動したのだろう。


「いや、だがそれならあのモンスターは何処に消えた?」


 しかしそれではメタルゲラスが消失した理由が説明付かない。
 出現した順番はテラードラゴン、マグナギガ、そしてメタルゲラスの順。
 つまりマグナギガが消える段階ではまだ存在していなければおかしい筈だ。


「捜し物はコイツか?」


 その問いに答えるかの様にテラー・ドーパントが1枚のカードを掲げる。
 それはメタルゲラスの絵柄が描かれたカードだ。


「まさか……」
「ああ契約させてもらった」


 その瞬間、テラー・ドーパントはサイドバッシャーと共にメタルゲラスもテラーフィールドに引きずり込み移動を行った。
 その移動先で怯んでいるメタルゲラスに自身の持つ王蛇のデッキから1枚のカードを取り出し向けた。そのカードは――


 ――CONTRACT――


 そのカードによってメタルゲラスは王蛇のデッキと契約を結ばされたという事だ。


「バカな……」
「コイツが俺を襲う事には気付いていたぜ。流石になかなか現れないからイライラさせられたがな」


 実の所、浅倉はメタルゲラスが自分達を追いかけている事に関しては気付いていた。
 元々メタルゲラスは浅倉が倒した仮面ライダーガイの契約モンスター、自分に復讐する為に襲う事ぐらい容易に推測が付く。
 それ故に襲撃して来たならばすぐさま契約するつもりだったというわけだ。


「だが何故都合良く契約のカードがあるのだ!?」
「俺の都合なんて知った事じゃなかったのか? 元々コイツは俺のモンスターだ、それを取り戻しただけだ」


 その言葉に、サイクロン・ドーパントは自身の失策を呪った。
 自分にとって都合良く進めていたと思いきや、むしろそれは逆の話だったのだ。
 結果的にそうなっただけかも知れないが、敵を強化してしまうなど迷惑な存在となる自分にとっては大きな過ちとしか言えない。

980橋上の戦い ◆7pf62HiyTE:2011/08/22(月) 13:15:05 ID:FX.HrqWY


「どうしてこうなったのだ……」


 目の前のテラー・ドーパントが余りにも恐ろしい存在に見える。
 だが、まだ戦いは終わっていない。
 相手は殺し合いに乗った人物、大ショッカーの目的を考えるならば捨て置いて良いだろう。
 相手は自分の事など逃がすつもりはないだろうが逃げるだけなら十分可能だ。
 だがそれで良いのか? 偉大なる大ショッカーの幹部たるアポロガイストがこんな体たらくで良いのか?
 宇宙一迷惑な存在になるのではなかったのか?


「我が名はアポロガイスト、貴様達を消し去る為にやって来た……参加者達にとっては迷惑な相手なのだ!」
「迷惑だと……」


 テラー・ドーパントの反応を待つ前にハードボイルダーが体当たりを駆けるべく奔る――


 この一撃が通じるかどうか――


 違う、通すのだ――


 それが迷惑な存在となる自分自身の存在証明であり――


 大ショッカーに対する忠義の証なのだから――


 だが、


「十分イライラさせられたぜ」


 溢れる程に毒々しい青い光をその手に込めて――


 迫り来るサイクロン・ドーパントへと向けた――



 その光でハードボイルダーごとサイクロン・ドーパントが吹き飛び橋上に叩き付けられる。


「ぐっ……」


 全身から冷や汗が吹き出しそうだ、それでもまだ戦える。しかし、


「コイツはお返しだ」


 と、青い龍の冠から青く禍々しいモノが溢れ出しサイクロン・ドーパントに注ぎ込まれる。


「がぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ありとあらゆる生命体が大なり小なり抱える『恐怖』という感情、
 それが非現実的な程強いレベルで躰に刻み込まれていくのを感じる――


「まだだ……ここで終わるわけには……」


 全身が震え立ち上がる事すら出来ないでいる。それでも何とかハードボイルダーに手を掛ける。


 そんな中、テラー・ドーパントがサイドバッシャーのコンソールを操作する。


 ――Battle Mode――


 電子音声と共にサイドカー形態から大型二足ロボ形態へと変形する。


「そうだ……アレは555の世界のバイク……そんな機能があったのは解っていた筈なのだ……」


 その言葉などお構いなしに――


 サイドバッシャーの左腕から無数のミサイルが――


 サイドバッシャーの右腕から無数のバルカンが――


 雨の様に降り注ぐ――

981橋上の戦い ◆7pf62HiyTE:2011/08/22(月) 13:18:25 ID:FX.HrqWY





【B-3 道路 06:59 p.m.】


「はぁ……はぁ……」

 おかしいとは思わなかったか?
 何故浅倉は『恐怖』を全身に浴びほぼ無力化したであろうサイクロン・ドーパントに対し直接殴りかからず、サイドバッシャーによる遠距離砲撃を仕掛けたのか――
 サイドバッシャーのバトルモードの試用? 野獣の様に獰猛な浅倉がそんな知的な理由だけで事に及ぶだろうか?
 そう、本当の理由は別にあった――

 浅倉の肉体は度重なる激闘で戦えない程に消耗していたのだ――
 無論、無理を通せば仕掛ける事自体は一応可能だ。
 それでも相手の能力を踏まえれば返り討ちに遭う可能性は無くはない。
 また、何時か黒い龍騎にしてやられた時も勝てると思った状況からの奇襲だった。
 それを踏まえて考えればわざわざ悲鳴を挙げている躰に鞭を打って仕掛けるよりバイクのミサイルを仕掛けた方が確実なのは当然の理だろう。

 橋を渡りきった浅倉はふと後ろを振り返る。橋の中間は戦いによって破壊されている。
 車やバイクの通行はまず不可能となったと考えて良いだろう。
 とはいえ、浅倉にとっては正直どうだって良い話ではある。


 そしてそのまま道路脇にサイドバッシャーを止め――


 そのまま草原に出て仰向けに大の字となって倒れた――


 前述の通り度重なる激闘で最早躰は限界だ。


 暫く休めば動けるだろうが、逆を言えば休息が必要という事だ。


 それでも浅倉は笑っていた――


 ふと、自身の持つ王蛇のデッキを取り出し中から4枚のカードを出す。
 その内の3枚はベノスネーカー、エビルダイバー、メタルゲラスのカード――
 紆余曲折を経てようやくこの手に自身の持つ3体のモンスターを取り戻した事になる。
 ヘラクスやテラー・ドーパント等が強大な力を持つのは使った自分自身がよく理解している。
 それでも自分には王蛇が一番合っている――
 それは自身が仮面ライダーになってから一番付き合いが長いからなのだろう――
 柄にもなくそんな事を思う――

 その最中――

 サイドバッシャーのミラーの奥ではメタルゲラスとエビルダイバーが何処か震えていた――
 それもそうだろう、彼等は浅倉を仕留めるべく逆襲を仕掛けた。
 が、それにも関わらず奴の持つ契約のカードによって契約させられた。
 だがその際に浅倉が取り込んだテラーの持つ恐怖の力に当てられたのだ――
 知性のないモンスターといえど生命体には違いない――
 最早浅倉に刃向かう気力など沸かなかった――

 そして――

 3体のモンスターを手に入れた事でようやく真の力を発揮するカードがある。
 それは3体のモンスターを融合させる力を持つカード。
 融合する事で出現するモンスター獣帝ジェノサイダーの力は絶大――
 無論、制限の掛けられているこの場ではそこまで使えるものではないが、それでも強力な切り札である事に違いはない――
 それを生み出すカードの名は――

982橋上の戦い ◆7pf62HiyTE:2011/08/22(月) 13:19:10 ID:FX.HrqWY


 ――UNITE VENT――


 それらのカードを眺めデッキに戻し、更なる激闘に胸を高鳴らせながら――


 何時しか浅倉の意識は途切れていた――


 満天に輝く夜空の星が眠る浅倉を照らし続けていた――


【1日目 夜】
【B-3 草原】
【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 死亡後
【状態】気絶、疲労(極大)、ダメージ(大)、興奮状態、仮面ライダー王蛇に5分変身不可、仮面ライダーインペラー、ヘラクスに15分変身不可、仮面ライダーファムに55分変身不可、テラー・ドーパントに1時間55分変身不可
【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダー龍騎、ライダーブレス(ヘラクス)@劇場版仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVE、カードデッキ(ファム)@仮面ライダー龍騎、鉄パイプ@現実、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE、サイドバッシャー@仮面ライダー555
【道具】支給品一式×3、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、大ショッカー製の拡声器@現実
【思考・状況】
0:(気絶中)
1:イライラを晴らすべく仮面ライダーと戦う。
2:特に黒い龍騎(リュウガ)は自分で倒す。
3:殴るか殴られるかしてないと落ち着かない、故に誰でも良いから戦いたい。
【備考】
※テラーメモリを美味しく食べた事により、テラー・ドーパントに変身出来るようになりました。またそれによる疲労はありません。
※ヘラクスゼクターに認められました。
※ベノスネイカー、ブランウイングを再召喚するのに後5分、エビルダイバーを再召喚するのにあと55分、メタルゲラスを再召喚するのに1時間55分必要です。
※エビルダイバー、メタルゲラスが王蛇と契約しました。これによりユナイトベントが使用可能になりました。





【B-5 ビル 07:01 p.m.】


 サイドバッシャーの集中砲撃を受ければサイクロン・ドーパントであっても命はない。
 だが、サイクロン・ドーパントは着弾する直前ハードボイルダーを含めて全身に出しうるだけの強力な風を纏い――
 そのまま戦場を離脱、いや逃走したと言って良いだろう――

 砲撃は風によって軌道が逸らされサイクロン・ドーパントには命中せず橋へと着弾、
 さらに巻き起こる竜巻とミサイルによって橋の破壊は連鎖的に進み――相当長い距離を破壊させる結果となった。

 その後、川を横断しB-5にあるビルまで飛び続けそこで変身は解除された。
 そして、ビルの中に入りガイは腰を抜かした。

「はぁ……はぁ……何なのだアレは……」


 そう零すガイの全身は未だに震えていた。吹き出してくる冷や汗は決して止まる事はない――


 一言で言えばそれは『恐怖』――


 そう、先に対峙したテラー・ドーパントに変身した浅倉が何よりも恐ろしい存在に感じたのだ――


「くっ……何故私が……あんな奴を恐れ……逃げ出してしまったのだ……」


 ガイにとって何よりも許せないのは大ショッカーの幹部足る自分が『恐怖』の感情のままに逃げ出してしまった事だ――
 確かにガイ自身敗北して逃げる事は度々あった。
 だがそれは体制を立て直す為の退避、言うなれば戦略的撤退というものだ。
 しかし今回はそれとは違う。戦略的撤退等という綺麗事など存在しない――


 只、怖くて逃げ出したのだ――


 勝ち目が無いから敢えて逃げ出した、捨て置いても良いと判断したから見逃したという言い訳が出来ない事もない。
 だが、今も震え続ける躰は正直だ。先に挙げた理由が真実を隠す為の言い訳に過ぎない事を証明したのだ。

 浅倉を見て東京タワーから離れる事を選んだ事すら実は恐怖によるものだったのかも知れない。
 それに気付いた瞬間、ガイの心の奥底から悔しさが溢れ出す。
 『恐怖』により――いや、『恐怖』というのは所詮は防衛本能、つまりは――

 自分の命惜しさの為に逃げ出した事が何よりも許せなかったのだ――


「違う! 私の命は大いなる大ショッカーのものの筈なのだ! それなのに己可愛さに逃げ出すなど……言語道断だ!!」


 荒げる怒号は止まらない。自分自身が許せない事もあるが何よりそれ以上に――


 そうでもしないと今にも『恐怖』で押し潰されてしまうと思ったのだ――

983橋上の戦い ◆7pf62HiyTE:2011/08/22(月) 13:19:55 ID:FX.HrqWY


 それでも――


「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 結局は自身を無理矢理奮い立たせる為の都合の良い言葉でしかない。


 心の奥底に刻み込まれた『恐怖』からそう簡単に解放されるわけがない。


「この屈辱……決して忘れんぞ……大ショッカーの為……そして何より私自身が迷惑な存在となる為に……このままで済むと思うな!!」


 だがガイの心は折れてはいない。
 制限による部分は多分にあるだろう。
 しかし一番の決め手は自身がGOD機関、そして大ショッカーの幹部であるという矜持なのだろう。
 それが無ければとっくに心砕けていても不思議は全く無い。


 それでも――再び動ける用になるまでには今暫く時間が掛かるだろう――


 今の彼は全ての存在にとって迷惑な存在ではなく――


 小さく震えるか弱き仔羊でしかなかった――


 窓の向こうで輝く夜空の星がガイを照らし続けていた――


【B-5 ビル】
【アポロガイスト@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】死亡後
【状態】ダメージ(中)、疲労(極大)、恐怖(極大)、ゾルダ、怪人態に45分変身不可、シザースに30分変身不可、マグナギガ1時間55分召喚不可、サイクロン・ドーパントに1時間55分
【装備】ゾルダのデッキ@仮面ライダー龍騎、ディスカリバー@仮面ライダーカブト、T2ガイアメモリ(サイクロン)仮面ライダーW FOREVER AtoZ/運命のガイアメモリ
【道具】支給品一式、ディスクアニマル(アカネタカ)@仮面ライダー響鬼、インドネシアの魔除けのお面@仮面ライダークウガ、真理の携帯美容師セット@仮面ライダー555、装甲声刃@仮面ライダー響鬼、ハードボイルダー@仮面ライダーW
【思考・状況】
0:今は躰を休める。
1:大ショッカーの意思通り、全ての敵を倒し、世界を破壊する。
2:参加者の変身アイテムを奪う(たとえ自分の力にならなくても)。
3:ディケイド、牙王、浅倉(名前は知らない)はいずれ始末する。
4:全てのライダーと怪人にとって迷惑な存在となる。
【備考】
※スーパーアポロガイストの状態ですが、能力は抑えられています。
※制限の詳細な時間設定と能力が抑えられていることを、何となく把握しました。

【全体備考】
※B-4に架けられている橋が破壊されました。

984 ◆7pf62HiyTE:2011/08/22(月) 13:21:10 ID:FX.HrqWY
投下完了しました。何か問題点や疑問点等があれば指摘の方お願いします。

985二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/08/22(月) 14:57:46 ID:lOuy56PI
投下乙です!
いや〜浅倉が暴れてますね
アポロを振るわせるとは……
橋は壊れたけど、あの場所なら問題ないかな

986二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/08/23(火) 09:25:22 ID:.3R.mEyI
投下乙です!
浅倉怖いなぁ……まさかアポロをビビらせるだけじゃなくて橋までも壊すとは
今後も暴れてくれそうですね
そしてアポロ……まあ、まだ何とか立ち直れるかな?

それと、次スレを立てておきました
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14759/1314058831/

987二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/08/23(火) 16:29:55 ID:ulkdkFPI
投下乙です
浅倉の暴れっぷりは止まることを知らないな

>>968
スレ立て乙です

988 ◆MiRaiTlHUI:2011/08/26(金) 15:39:20 ID:lxWSbRXo
投下乙です
浅倉はついにジェノサイダーまで到達したか……
何気にかなりの強マーダーになってる気がするなぁ。
アポロは次の出会いくらいで方向性が決まりそうですね。

>>986
スレ建て乙です

それでは予約分の投下を開始します。
こっちで足りると判断したのでこっちに投下しますね。

989 ◆MiRaiTlHUI:2011/08/26(金) 15:40:10 ID:lxWSbRXo
 もしかしたら、自分の仲間達はもう死んでしまっているのかもしれない。
 そんな予測は元来能天気な城戸真司にだって容易に出来ていた筈だった。
 だけども、起こり得るかもしれない予測と、実際に起こった事実とでは、全くの別物だ。
 非情な現実を素直に受け入れる事が出来るのかどうかは、また別の心構えが必要なのだ。
 実際、飛行船からの放送を聞いてから暫くの間、真司は何も考える事が出来なかった。
 というよりも、考える事があり過ぎて思考が停止していた、と言った方が正しいか。
 北岡の事。美穂の事。東條の事。それぞれ色んな出来事が思い浮かんで、辛くなる。
 例え彼らが、元々は敵とされた仲であったとしても、だ。
 人が死ぬのが嫌だから仮面ライダーになったのに、自分に出来た事は、余りにも少なすぎる。
 悪い奴だろうと、良い奴だろうと、人が死ぬ姿なんて見たくない。だから戦っていた筈なのに。
 無力に打ちひしがれて、後悔の念に押し潰されそうになるが、そんな真司を連れ出してくれたのは、津上翔一だった。
 津上は、決して多くは語ろうとせずに、ただ一言「行きましょう」と言った。強い目をしていたように思う。
 これからどうしようかとか、確かな考えがあった訳ではないけれど、真司は翔一と一緒に歩き出した。
 その時はとにかく、その場でじっとしているのが、余計に無力感を思い知らされるような気がして嫌だったのだ。
 それからやや歩いて、二人が訪れた場所は、少しばかり築年数の古そうな二階建てのアパートだった。
 曰く、このアパートの一室が津上の仲間の自宅だから、遠慮はいらないとの事らしい。
 二階の角部屋にある玄関ドアの表札には「葦原」と書かれていた。どういう訳か、ドアに鍵は掛かっていない。
 津上はまるで自分の家であるかのようにその部屋へ上がり込み、そして、今に至る。

「で、お前はさっきから何してんだよ」
「見ての通り、冷蔵庫の中身のチェックです」

 津上は、まるでそれが自分の物であるかのように、冷蔵庫の中身を漁っていた。
 居心地悪そうにそれを眺めていると、津上はさも不満そうに、それでいて心配するようにごちた。

「ああもう、葦原さんってば、やっぱりロクなもの食べてないんだから……」
「他所の家の冷蔵庫漁って何失礼な事言ってんだよ……っていうかいいのかよ、勝手に冷蔵庫漁ったりして」
「うーん、まあいいんじゃないですかね。俺と葦原さんの仲ですから、たぶん大丈夫です」
「本当かよ……」
 
 能天気な津上の様子を見ていると、その言葉も怪しいものである。
 どうにも真司には、津上が勝手な言い分で勝手に冷蔵庫を漁っているようにしか見えなかった。
 これを見ている限り、真司も馬鹿だとよく言われるが、津上はその上を行く馬鹿なのだろうと思う。
 自分には、死者が二十人も出たと知らされた直後に、こうも能天気に冷蔵庫を物色するのは不可能だからだ。

「ってか、それより城戸さん、晩御飯に何か食べたいものとかあります? ロクな食材ないですけど」
「晩御飯って……! お前なぁ、今がどんな時だかホントにわかってんのかよ!?」
「そりゃあ、分かってますけど……でもホラ、よく言うじゃないですか、腹が減っては戦は出来ぬって」
「そういう事じゃなくて! 二十人も人が死んだっていうのに、晩御飯なんか食べる気になれるかよ!」

 そう言われた津上が、悲しそうな、今にも泣き出しそうな子供のような目をした。
 ほんの一瞬だけ垣間見えたその表情に、真司は何か拙い事を言ったかと思うが、だとしたら一体何が。
 津上はすぐに何食わぬ表情に戻るが、続きを話す声のトーンは、先程よりもやや低かった。

「……だって嫌じゃないですか。お腹がすいて、いざという時に力が出なくて、それで悪い奴にやられたりしたら。
 俺、城戸さんがそんな風にやられちゃう姿なんて見たくないです。だからやっぱり、ここはしっかり食べておかないと」
「まあ、それは確かにそうだけど……ってお前、ふざけてるように見えて、そこまでちゃんと考えてたのかよ」
「いやあ、何となく」

 そう言って、津上は子供みたいにへへへと笑った。
 怒るのも馬鹿馬鹿しく思えて来て、真司は小さく嘆息する。

990 ◆MiRaiTlHUI:2011/08/26(金) 15:40:44 ID:lxWSbRXo
 
「だから、何か食べたいものがあるなら言って下さい。俺、何でも作っちゃいますよ」
「何でもって……ホントに何でも作れるのかよ。この偏った食材だけで」
「うーん、そうですね。じゃああんまり無茶なものは注文しないで下さい。いくら俺でも、ない食材はどうにも出来ません」
「お前なぁ……それは何でもとは言わないんだよ! ったく、期待して損したっつーの……」
「へへへ、それもそうですね、すみません。あっ、でも何だかんだ言いながら期待してくれてたんですね、嬉しいなあ」
「いや、それは、津上が何でも作るなんて言うから、ちょっと期待しただけで」
「まあまあ、そんな照れなくてもいいじゃないですか。俺も期待に応えられるように頑張りますから」
「照れてないっつーの……」

 何だかんだ言いながらも、気付いたら津上のペースに徐々に慣れつつある自分がいる事に気付く。
 人間の環境適応能力は大したものだなと肌で感じながらも、真司もまたうーんと唸る。
 確かに津上の言った通り、この家にはロクな食材がない。
 あるとしたら、いくつかのインスタント食品と惣菜、それから基本的な調味料くらいだ。
 生活をする分には問題はないのだろうが、栄養管理は優れているとは言い難い品揃えだった。
 何かないものかと、真司も冷蔵庫の中を見て――すぐに見付けた。真司の唯一の得意料理を。

「あっ、餃子あるじゃん、餃子!」
「……ニンニクは嫌いだ」

 嬉々として取り出した餃子のパックを見るや、今まで黙っていたキバットがぽつりと呟いた。
 何か思う事があったのだろうか。放送を聞いてからというもの、キバットもずっと黙っていたように思う。
 もしかすると、キバットの仲間も先の放送で呼ばれたのかも知れないが、その辺の事は真司には良く解らない。

「キバット、お前からも話を聞きたいからさ、とりあえず今は飯にしようぜ」
「俺はいい。キバット族はお前達人間のように、必ずしも食事を必要とはしないんだ」
「えっ、それってなんか寂しくないですか? ご飯って、美味しくてとても楽しいのに」

 津上が驚いた様子で、きょとんとして言った。

「楽しい? 食事を摂るという行為そのものが楽しいのか、人間は?」
「はい、美味しいものを食べていると、とても楽しい気持ちになります」

 言われたキバットはちらと真司を見た。
 津上翔一とは、こういう人間なのだ。何を言ったところで、もう仕方のないことなのだろう。
 最早諦めたような真司の表情に気付くや、キバットは「そうか」と言って、それ以上は何も言わなくなった。
 津上翔一から言わせれば、きっと何だって楽しいのだろう。こいつはこういう、子供みたいな人間なのだ。
 でも、そんな津上の事を、嫌いではない自分がいるのも確かで、真司は無意識のうちに津上に心を開いていた。

「じゃあ、とりあえず餃子でも作るか。インスタントだけどスタミナもつくだろ」
「おっ、いいですね餃子。料理らしい料理じゃないのが残念ですけど、無いよりはマシです」
「いや、俺も本当は中身の具から餃子作りたかったんだけどさ、この家何もないし」
「ってことは何です、もしかして城戸さん、餃子作るの得意なんですか?」
「おう、他に作れるものはあんまりないんだけど、餃子だけは負けたくないっていうか」

 これだけは、人に誇れる特徴の一つだった。
 あまり披露する事はないが、餃子の腕前だけはプロ“以上”であると自負している。

「おおー、凄いじゃないですか! いやぁ、こんな所で出会わなければ、俺も一緒に餃子作りたかったなぁ」
「そりゃ……大ショッカーを倒してからなら、またいつでも出来るだろ」
「でも俺達、別の世界の住人なんですよね……」

 数瞬、沈黙が流れる。
 仮に大ショッカーを打倒出来たとしても、そもそも二人は異世界の住人だ。
 世界が元通りになれば、もう会う事もないだろうし、もしかしたら、世界が消える可能性だってあるのだ。
 せっかくこうやって出会えて、一緒に戦って、一緒に話をしたのに、またすぐに離れ離れと考えると、少し寂しい。
 美穂や北岡との辛い別れもあったが、同時にここでの出会いも、真司にとってはどうでもいい事ではなかった。

991 ◆MiRaiTlHUI:2011/08/26(金) 15:41:15 ID:lxWSbRXo
 
「まあ、その時はその時だろ。今はそれよりも世界を守る事を考えないとさ」
「そうですね。やっぱり、こんな戦い間違ってると思います。それに、ここはみんなの居るべき場所じゃないし」
「居るべき場所……?」
「ええ、そうです。みんな“そこに居たら安心出来る”っていう、自分自身の居場所を持ってるんです。
 でも、ここには俺の居場所はありません。城戸さんの居場所も、小沢さんの居場所も、他のみんなの居場所もです。
 ここに連れて来られた誰も、自分の居るべき場所にいないから……だから俺、戦わなきゃって、さっき、もっと強く思いました」
「……さっき、って」

 キッチンを整理していた津上の手が止まった。
 さっきというのはやはり、放送の時、だろうか。

「ここで、俺の仲間が、二人も死にました」

 それから津上は、酷く不器用に、言葉を紡ぎ出した。

「木野さんっていうんですけど、俺と同じアギト仲間で、俺の事、何度も助けてくれて、とても、良い人でした。
 北条さんは、ちょっとつっけんどんですけど、警察官として、いつも真面目に働いていた、正義感の強い人でした。
 誰も、こんなところで死ぬ事なんてなかったんです。みんないい人で、殺される理由なんか、何にもなかったんです」

 表情は硬く、その目はやはり、今にも泣き出してしまいそうで。
 だけども、涙は流さない。ただ苦しそうに、言葉を続けるだけだった。

「今まで木野さんや北条さんが居た場所には、もう、誰も居なくて、誰も居ない席がぽっかり空いてるみたいで、
 でも、誰もその席には座れないんです。誰にも、二人の代わりになる事なんか、出来やしないんです、だから、俺……」
「お前……」

 絞り出す様に続ける津上は何処か痛々しくて、どんな言葉を掛ければいいのかも分からない。
 今まで津上の事を能天気で馬鹿な男だと思っていたけれど、それはどうやら違ったらしい。
 津上は津上で、この殺し合いに、仲間の死に、こんなにも憤懣を抱えていたのだ。

「……そう、だよな。お前も、辛いに決まってるよな。なのに俺、お前の事、ちょっと誤解してたよ」
「えっ、何です、誤解って、どういう事です?」
「いや、こんな時に晩御飯作ろうなんて言うから、何考えてんのかと思ってさ」
「何も特別な事なんて考えてませんよ。ただ、生きているとお腹が空くじゃないですか。俺達は、こうやって生きてるんです。
 まだ生きていて、美味しいものを、美味しいって思えるんです。だから、食べないと、俺達が、これからも頑張っていかないと」

 津上は消え入りそうな声でそう言った。その気持ちも、痛いくらいに良く分かった。
 馬鹿で、空気が読めない御人好しな真司だけれど、こんな津上を見ていると、胸が苦しくなる。
 きっと津上も辛くて、だけど落ち込むだけでは何も出来ないから、今の自分に出来る事をしようとしているのだろう。
 二人の仲間が死んだ事で哀しみながらも、それを自分自身の責任として背負って、これからも生きていこうとしているのだろう。
 今だって、美味しいご飯を作って、それを食べて体力をつけると同時に、落ち込んでいた真司にも元気を与えようとしていたに違いない。
 おめでたい考えではあるが、そうであると疑いなく信じてしまう御人好しなところは、ある意味真司にとっての長所の一つだった。

「そっか……うん、そうだよな。よし、ここは飯でも食べて、スタミナつけないとな!
 ここでしっかり食べて、体力付けて、俺達で悪い奴らからみんなを守ってやろうぜ!」

 元気よく津上の背中を叩くと、津上は嬉しそうに、やんわりと微笑んだ。

 それからややあって、食事の準備を終えた二人は食卓に着いていた。
 メニューは餃子に白いご飯、それから、簡単なサラダに冷たいお茶。
 あるもので作るしかなかったが故、組み合わせはそんなに宜しくはない。
 だけれども、白いご飯は炊きたてで、とても美味しそうだった。
 傷つき疲れた身体には、上等過ぎる晩御飯だと真司も思う。
 それぞれの情報交換は、食事と同時進行で行われていた。

「いやあ、それにしても困りましたね。俺、ヒビキさんって人とE-4の病院で夜の12時に会うって約束してたんですけど」
「ああ、その人なら俺もさっき会ったよ。けど、それがどうして困ったって事になるんだよ?」
「そのエリアは23時から禁止エリアだ」

 説明してくれたのは、キバットだった。
 キバット曰く、放送直後は真司も津上も、冷静に物事を考えるどころではなかったらしい。
 そんな二人に代わって、禁止エリアを暗記していてくれたというのだから有り難い。

992 ◆MiRaiTlHUI:2011/08/26(金) 15:41:46 ID:lxWSbRXo
 
「恐らく奴らは、こちらの動きを読んでその場所を禁止エリアに指定したんだろうな」
「そっか、大ショッカーの奴らにしてみりゃ、殺し合いに乗らない俺達が組むのは都合悪いもんな」
「そういう訳です。だから約束の場所でヒビキさんと合流するのは無理そうなんですよね」
「どうすりゃいいってんだよ……じゃあアレは、代わりの待ち合わせ場所とかは?」
「うーん、そういうのはないです、すみません」
「なら、ヒビキさんが他に行きそうな場所とかは?」
「そういうのも分かんないです……だからもういいです」
「もういいって、お前なあ……!」

 キッパリと言いきった津上には、流石に呆れるしかなかった。

「だって禁止エリアなんだから仕方ないじゃないですか。ヒビキさんだって自分で何とかするでしょ」
「そりゃそうだけどさ、もうちょっとこう……悩むとか、考えるとか、そういうのはないのかよ?」
「悩んだって一緒じゃないですか。会えないものは会えないんです。だから、俺達は俺達に出来る事をしましょう」
「ま、まぁ、それは確かに、その通りだけどさ……」

 津上の言い分は、一応は的を射ていた。
 出来ない物は出来ないのだ。無い物ねだりをしたところでどうしようもない。
 なれば、今の自分達に出来る事をした方がいいという考え方は、前向きでわかりやすい。
 考えてみれば、真司としてもそっちの方が考える事が少なくて楽で良いなと後から思った。

「じゃあ、これからどうする?」
「そうですね、とりあえず、小沢さんを助けましょう」
「そうだな。今の小沢さんは蜘蛛のモンスターに操られてる。何としても俺達で助け出さないと」
「……でも、あの蜘蛛のモンスターって一体何なんです? 俺の世界にはあんな奴居ませんでしたけど」
「俺の世界にだって居なかった。多分、別の世界のモンスター……お前の世界じゃアンノウン、だっけ? なんだろうな」
「なるほど、要するに悪い奴って事ですね。それなら俺も遠慮なくやっつける事が出来ます」

 津上の言い分には、迷いが感じられなかった。
 きっと津上は、人間同士、本気で殺し合った事がないのだろう。
 龍騎の世界の仮面ライダーの在り方は、先程津上にも語ったが、実感は沸かないのだろうと思う。
 悪い化け物がいるなら、そいつだけを倒せばいいと、そう思っているに違いない。

「お前ってそういうとこ前向きで分かり易くていいよな……俺達の世界は人間同士の殺し合いだからさ」
「俺の世界でも、色んな誤解や擦れ違いがあって、同じアギト同士で戦う事とかはありました。それでも、今ではみんな仲間です」
「そうやってみんなで仲間って言って、一つになって、悪い奴と戦うって世界ならどれだけ良かった事か」

 真司だって一度は夢見た事がある。
 蓮や北岡、浅倉が一丸となって、悪のモンスターに立ち向かっていく夢物語を。
 もしもそんな風にみんなで協力して助け合えたら、きっともっと素晴らしい世界だった筈だ。
 何処か遠い目で、ふっと窓の外を見遣った真司の様子に気付いたのか、津上は申し訳なさそうに言った。

「なんか、すみません。俺、また何か気に障ること言っちゃいました?」
「いや、いいんだよ……俺の世界とお前の世界は違うんだから、仕方ないしさ」
「そうですか……何はともあれ、今はまず、蜘蛛のモンスターをどうにかしなくちゃですね。
 罪のない人の心を操って殺し合いをさせようなんて、そういうの、やっぱり許せませんもん……まったくもう」

 ……それから、やや間を置いて、津上がぷぷぷと笑った。
 まるで笑いを堪えるように片手で口元を塞ぐが、笑った目は誤魔化せない。
 こんな状況下で、一体何処に笑う要素があったのか。真司は津上に問うた。

「お、おい、何だよこんな時に……何笑ってんだよ」
「あれっ、わかりませんでした? ほら、まったくもう……まったクモう、って。蜘蛛だけに」
「………………」

993 ◆MiRaiTlHUI:2011/08/26(金) 15:42:17 ID:lxWSbRXo
 
 笑っているのは、津上ただ一人だった。
 津上には悪いが、真司は全く笑う気にはなれない。
 周囲の冷ややかな視線もまるで気に留める様子もなく、津上は一人で笑っていた。
 これは本気で自分の洒落が面白いと思っているパターンだ。しかもまるで空気が読めていない。
 この真剣な場面でダジャレを言う津上の精神の図太さを疑うが、津上は一通り笑えばすぐに元通りになった。

「……すみません。なんか、しんみりしちゃったんで思わず。
 俺、どうにもこういうしんみりした空気って苦手なんですよね」
「いや、いいよ。いいよもう、わかったから、今は話を先に進めよう」
「そうですね……あっ、そうだ。そういえば一つ気になってたんですけど」
「何だよ。言っとくけど、次下らないダジャレとか言ったら無視するからな」
「ははははは、やだなぁ城戸さん、流石の俺でもそんなぽんぽん面白いネタは思い付きませんよ」
「ちっとも面白くねえよ! ってか自信あったのかよさっきの親父ギャグ!」
「ええっ!? 親父ギャグって……っ、ちょっと酷いんじゃないですか、それ。
 もう、城戸さんったら、落ち込んでるかと思ったらいきなり怒鳴ったり、喜怒哀楽が激しいんだから」
「お前っ……!」

 喜怒哀楽……城戸哀楽。
 これは最早挑発と捉えて良いのだろうか。
 もしかしたら真司の考え過ぎと言う可能性もあるが――

「えっ、どうかしました? 俺、何も言ってないじゃないですか……ぷぷっ」
「お前今笑っただろ!? 今のは絶対俺の勘違いとかじゃないよな!?」
「やだなあ城戸さん、訳のわからない事言わないで下さいよ。そういうの、“言いがかり”っていうんですよ」

 津上の笑顔は、まるで悪戯をした子供のようだった。
 本気で腹が立つという訳ではないが、やはりイラッと来るものはある。
 小学生にからかわれた大人は、きっとこういう気持ちになるのだろう。
 子供染みた言い争いを繰り広げる二人の間に、キバットがふわりと割って入った。

「いい加減にしないか。このままでは埒が明かん、そろそろ話を進めてくれ」

 よほど呆れ果てたのか、キバットの声はいつにも増して低く感じた。
 こんな小さな蝙蝠にまで注意される時点で、二人揃って十分に子供っぽかったのかもしれない。
 急に馬鹿馬鹿しくなってきて、真司は嘆息一つ落として、大人しく食べかけの餃子に箸を伸ばした。

「……で、気になってた事って、何だよ?」
「いや、あの未確認と戦ってる時、どうしていきなり変身が解けちゃったのかなって。
 さっきの蜘蛛みたいな奴と戦ってる時も変身出来なかったし……今までそんな事なかったのに、おかしいなあ」
「ああ、それは……詳しい事は俺にもわかんないけど、何か変身にも制限が掛けられてるらしい。
 この世界に居る限り、多分、十分くらいで変身は解けるんだと思う。で、それから暫くの間は変身が出来なくなるんだよ」
「何ですかそれ、何だってそんな訳のわからない制限を掛けたんです、奴ら。それじゃいざという時に困るじゃないですか」
「ゲームバランスを取る為だろうな。この制限があれば、力を持たない参加者でも、強者を仕留め得る可能性がある」

 果たして、キバットの言う通りなのだろう。
 大ショッカーの思惑など知らないし知りたくもないが、その理由なら納得出来る。
 変身制限で変身不可になった未確認を、小沢が仕留めた実績があるのだから、説得力もあるというものだ。

「でも、だったらおかしいですよ。俺、アギトに変身してから十分も戦ってませんよ」
「それに関して一つ訊くが……さっきの戦いで翔一が変身した、あの炎を纏った姿は何だ?」
「えっ、アレですか? さあ、何なんでしょう、俺にもわかりません」
「分からずに力を使っているのか……?」
「はい。なんか、何となく」
「何となく?」

 キバットは訝しげに問うた。

「ええ、何となくです。気付いたらなれるようになってたんで、なりました」
「……翔一自身もアギトの力の全容は把握出来ていないと言う事か」
「えへへ、そういう事になっちゃいますね、なんかすみません」

 申し訳なさそうに苦笑しながら、津上は軽く頭を下げた。
 神崎が作った龍騎と違って、津上のアギトは人が直接進化した姿なのだという。
 人が進化して行く無限の可能性、とか言ったか。津上自身も誰かの受け売りでそう言っているらしいが。
 アギトには、設計図も説明書もない。全く未知の力なのだから、分からないのも無理はないのだろう。

994 ◆MiRaiTlHUI:2011/08/26(金) 15:42:48 ID:lxWSbRXo
 
「……これは仮説だが、翔一がアギトの“より強い力”を使った事で、変身制限が通常より早く消費されたのではないか?」
「なんか分かんないですけど、そういうのってありそうですね。自慢じゃないですけど、あのアギト滅茶苦茶強いですもん」
「そういう事、自分で言うかよ……」
「いやあ、だって。あの時言ったじゃないですか、まだ見せてない“とっておき”があるって」
「そういやそんな事言ってたっけ……あれ、あの赤い姿の事だったんだな」

 虎の化け物になった未確認との戦いの時、そういえばそんな事を言っていた気がする。
 あの時はそれが一体どんな能力であるのかなど皆目見当が付かなかったが、どうやらあの炎の姿の事を言うらしい。
 言われてみれば、確かにあの炎のアギトが纏った気迫は相当なものだったと思う。
 最後に放った拳の一撃も、かなりの威力を秘めていた事は想像に難くない。
 だとすれば、津上は何気にとんでもない強者と言う事になる、が。

「ちなみにあれよりまだ上にもう一つ強いのがあります」
「って、お前あれ以上まだ変われるってのかよ……!」
「はい。銀ピカの、とてもかっこいい姿になります」
「マジかよ!」
「マジです」

 そう言って、津上は自慢げに胸を張った。
 自分でかっこいいとか言うのはどうかと思ったが、もう慣れた。
 元から真司は楽天的な性格なのだ。だんだん津上の感覚が普通に思えてくる自分が居て怖い。

「でも、それってつまり、俺もサバイブになったら変身出来る時間が短くなるって事だよな」
「サバイブ? 何です、それ。なんか、何となくかっこよさそうな雰囲気の名前じゃないですか」
「ああそうだよ。俺だってな、サバイブになったらあのアギトに負けないくらいかっこいいんだよ」
「おっと、これは大きく出ましたね城戸さん。じゃあどうです、どっちの方がかっこいいか、一つ勝負でも」
「望むところだっつーの! サバイブの方が絶対かっこい――」
「いい加減にしろ」

 キバットの冷ややかな声だった。
 流石に二度目ともなると申し訳なくて、面目次第もなく感じる。
 それは津上も同じようで、ここへ来て漸く、真司と津上が二人揃って静かになった。
 何はともあれ、強化変身は制限が強化されるという仮説を立てる事は出来たのだから、この話し合いだって無駄ではない。
 今後戦う事があれば、サバイブにしろ、アギトの炎の姿にしろ、使いどころは考え無ければならないのだ。
 では、次に問題になるのは、これから何処へ向かうかである。

「で、どうする。小沢さんがどっちに向かったかなんてわかんないけど」
「うーん、それも適当でいいんじゃないですかね。なるようになりますよ」
「お前は相変わらずだな……そういうのも嫌いじゃないけどさ。キバットはどう思う?」
「どうせ何処へ行っても殺し合いだ。行くべき場所もないのなら、何処へ行っても同じだろうな」

 確かにキバットの言う通りだと思って、真司はうんうんと頷いた。
 誰がどっちの方向に向かって行ったかなんて、考えたってどうせ分かりはしない。
 それならば、何処へでもいいからとにかく進んで、手当たり次第に戦いを止めさせる。
 作戦も何もない行き当たりばったりな考えであるが、単純な性格をした二人には調度いいと思われた。
 米粒一つ残さず完食した真司と津上は、食器をキッチンのシンクに纏めて置いて、簡単な片付けを済ませた。
 その間も、津上との間には常に子供みたいな他愛もないやり取りが続いていて、退屈はしなかった。
 こういうタイプの男と話す事はあまりないが、存外相性はいいのかもしれないな、と思う。

995 ◆MiRaiTlHUI:2011/08/26(金) 15:43:18 ID:lxWSbRXo
 
「じゃ、そろそろ行きますか。城戸さん、キバット」

 津上が壁に掛けられた時計をちらと見た。
 時刻は七時を回る少し前だった。結構な時間休んでいたなと、ここで初めて認識する。
 そう考えて、身体をぐっと伸ばしてみると、先程よりは随分と体調も良くなったように思う。
 受けた傷の痛みは癒えぬものの、溜まった疲労はほぼない。これならば、戦闘行為も問題はない筈だ。
 自分よりも津上の方が元気そうに動き回っているのは、恐らくアギト故に回復も早いのだろう。
 仲間の死による心の痛みも相当なものだけれど、それでも津上のお陰で幾分か楽にはなった。
 それに、津上だって表には出さないが、木野や北条の死に心を痛めているのだろう。
 なれば、自分だけが弱音を吐く事などは許されない。
 津上のように強く。仮面ライダーとして、誰かを守る為に戦い抜いてやろうと、先程よりも強く思う。
 新たな決意を胸に、先にアパートを出ようとしていた津上を呼び止めた。

「なあ……やっぱ俺、絶対こんな殺し合い止めさせたいって、改めて思ったよ。
 世界がどうなるのか何て分からないけど、それでも、目の前で人が死んで行くのは、止めたい。
 俺、こんなだからさ、もしかしたら無茶な事もするかも知れないけど……それでも、一緒に戦って欲しい」

 同じ志を持つ仲間として。守る為に戦う仮面ライダーとして。
 関わった時間は短いけれど、ここで繋いだ絆は、きっと深いものだと思うから。
 真司は、少しだけ気恥ずかしい気もしたけれど、強い目で以てそう告げた。
 津上はやや考えるような素振りを見せたが、すぐにニッと笑った。

「やだなあ城戸さん。今更何言ってるんです。俺達、もう仲間じゃないですか。
 俺も城戸さんも、同じアギト……じゃなくって、何ていうんでしたっけ」
「仮面ライダーの事か?」
「そうそう、それです。じゃあ、俺が仮面ライダーアギトで、城戸さんが仮面ライダー龍騎ですね。
 かっこいいじゃないですか、人を守る為に戦う仮面ライダーって。なんかヒーローみたいでいいなあ、こういうの」
「……ああ、そうだな、お前の言う通りだよ。誰かを守る為に戦う、かっこいい仮面ライダーなんだよな、俺達」

 津上の笑顔を見ていると、思わず微笑ましくなってしまう。
 子供が憧れるような本物のヒーローを、津上は自分達で体現しようというのだ。
 ずっと人間の汚い面だけを見て来た気がするが故、真司は久々に心が温かくなる気がした。
 こいつが一緒なら、こいつと力を合わせれば、こんな殺し合いだって今度こそ止められる。
 そう信じさせるだけの何かが、津上にはあった。

「ありがとな、翔一。お前のお陰で、俺はまた迷わずに済んだよ」
「何言ってるんです、俺は何もしてません。迷わずに済んだなら、それは城戸さんが強いからです」

 そう言ってくれるだけで、何処か激励されているような気がして、気が楽になる。
 自分よりも翔一の方がずっと強いと思うが、これ以上照れ臭い話をするのも気恥ずかしかった。
 それに、自分達はもう仲間だ。本当に伝えたい事は、もうお互い十分に伝わっているのだから問題ない。
 同時に、いつの間にか呼び方が「津上」から「翔一」へと変わっていた事に、自分自身、果たして気付いているのか。
 何はともあれ、仮面ライダーとしての使命を改めて認識した二人の心は、これまでよりもずっと強い。
 月の淡い光は、そんな二人を激励するように優しく降り注いでいた。

996 ◆MiRaiTlHUI:2011/08/26(金) 15:43:48 ID:lxWSbRXo
 



【1日目 夜】
【E-2 住宅街 葦原涼のアパート前】


【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版 霧島とお好み焼を食べた後
【状態】ダメージ(小)、満腹、強い決意、仮面ライダー龍騎に50分変身不可
【装備】龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。
1:翔一と共に誰かを守る為に戦う。
2:モンスターから小沢を助け出す。
3:ヒビキが心配。
4:蓮にアビスのことを伝える。
【備考】
※支給品のトランプを使えるライダーが居る事に気付きました。
※アビスこそが「現われていないライダー」だと誤解しています。
※アギトの世界についての基本的な情報を知りました。
※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。


【津上翔一@仮面ライダーアギト】
【時間軸】本編終了後
【状態】満腹、強い決意、仮面ライダーアギトに50分変身不可
【装備】なし
【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ケータロス@仮面ライダー電王、
    ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW、キバットバットⅡ世@仮面ライダーキバ、医療箱@現実
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの居場所を守る為に戦う。
1:城戸さんと一緒に誰かを守る為に戦う。
2:モンスターから小沢さんを助け出す。
3:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触。
4:木野さんと北条さんの分まで生きて、自分達でみんなの居場所を守ってみせる。
【備考】
※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。
※響鬼の世界についての基本的な情報を得ました。
※龍騎の世界についての基本的な情報を得ました。
※医療箱の中には、飲み薬、塗り薬、抗生物質、包帯、消毒薬、ギブスと様々な道具が入っています。
※強化形態は変身時間が短縮される事に気付きました。

997 ◆MiRaiTlHUI:2011/08/26(金) 15:46:11 ID:lxWSbRXo
投下終了です。
やっぱりアギトが大好きです。
それでは、何か不備や指摘などがあればよろしくお願いします。

998 ◆MiRaiTlHUI:2011/08/26(金) 15:47:32 ID:lxWSbRXo
またしても言い忘れました。
タイトルは「想いと願いと」でお願いします。

999二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/08/26(金) 16:27:51 ID:vUlAZTg.
投下乙です!
いやぁ……こんな状況でも普段のペースを忘れない翔一君は流石ですね!
真司やキバットとの絡みがほのぼのとしてて、清涼剤みたいでホッとしましたよ

1000二人で一人の/通りすがりの名無し:2011/08/26(金) 16:35:49 ID:CjDq6uHg
投下乙です。
相変わらずの翔一のスタンスに真司は癒されているのぅ……一緒に料理もして食事して。
真司の所の連中は恐ろしい程に殺伐としていたからなぁ、真司はむしろ翔一側のキャラの筈なのに……。
とはいえ変身時間の制限もある程度把握出来たのはある意味幸いだなぁと。
キバットⅡ世……そりゃ吸血鬼的に考えてニンニクは苦手だよなぁ。

ただ、この周囲にはダグバやら牙王やら浅倉やら危険人物が結構来そうな罠……本当に大丈夫何だろうか……

次スレのアドレスを今一度張っておきます。
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/14759/1314058831/




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