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都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……代理投下スレ

1そろそろ建てなきゃって気づいた:2011/09/11(日) 14:05:25
規制中・本スレが落ちている、など本スレに書き込む事ができなかったり
ちょっと、みんなの反応伺いたいな〜…って時は、こちらにゆっくりと書き込んでいってね!
手の空いている人は、本スレへの転載をお願いいたします
転載の希望or転載しなくていいよー!って言うのは投下時に発言してくれると親切でよい

ぶっちゃけ、百レス以上溜まる前に転載できる状況にしないときついと思うんだぜー
ってか、50レス超えただけでもきっついです、マジで
規制されていない人は、そろそろヤバそうだと思ったら積極的に本スレ立ててね!
盟主様との約束だよ!!

2舞い降りた大王―σκανδαλια〜悪戯〜 ◆dj8.X64csA:2011/09/13(火) 19:08:54
???「さっきまでの威勢は何処に行ったのさ!?えいっ!」ヒュン、ヒュヒュン
正義「くっ!くぅ……。」ザッ、ザッ
奈海「ちょ、ちょっとぉ……、わっ!?」ササッ
コイン“「奈海ィ!気をつけないと当たっちゃうよぉ!」”
大王「(……何故、こんな事になってしまったんだ。)」

〜数分前〜

奈海「うぅん……これと、これと、これも……。」
正義「もう、それぐらいで良いだろ?」
奈海「いいじゃない。私が持つ訳じゃないんだもん。ところで、これ似合う?」
正義「……やっぱりオレなのか。そんなに買って何になるっていうんだよ。」
奈海「あら、私にそんな口聞いていいのかしら?どうなっても知らないわよ。これ追加ぁー♪」
正義「うぅ……。」
コイン「なんだかんだで楽しそうだね。」
大王「そうなのか?こういうのはよく分からん。」

ある夏の日、俺達はごく普通のショッピングセンターでごく普通の買い物をしていた。

コイン「待って、これってもしかして初デートにカウントされるのかな?」
大王「そんな小難しい事を俺に聞くな。」
奈海「ぅんと……よし。じゃあレジへレッツゴー!」
正義「あぁ、ちょ、待て!」

そして会計が終わり、俺達は店を出た。

奈海「あぁ〜買った買った。じゃ、帰ろっか。」
正義「お前も持てよ!2つぐらい!」

……と、その時だった。

???「まったく、イチャイチャしてんじゃねぇ!」
正義「ッ!?危ない!」
奈海「え?きゃあ!」

不意に前から銀に煌めく矢が飛んでくる。とっさに少年は少女を突き飛ばす。

正義「奈海ちゃ、“コホン”大丈夫か!」
奈海「え、えぇ、まぁ。あ!さっき買った服が!」
???「ふぅん……よくアレを避けたねぇ。関心関心。」
コイン「もぅ!いったい誰よ!」
大王「この気配……まさか!?」

3舞い降りた大王―σκανδαλια〜悪戯〜 ◆dj8.X64csA:2011/09/13(火) 19:09:32
気配の元を見ると、少年と同世代かそれより下ぐらいの、背中から羽の生えた子どもがいた。
おそらく少女には普通の人間に見えたのだろうが、俺にはその正体が分かった。

奈海「えっと、天使のコスプレをした、男の子、だね?危ないから弓矢は人に向けちゃダメ。分かった。」
???「子どもじゃねぇ!人間のくせに偉そうに!」
奈海「ダメね……完全に自分を天使だと思い込んでる。」
コイン「いつもだったら無視しようって言うところなんだけど、今日は奈海が思い込みをしているんだよ?」
大王「少年!」
正義「うん、間違いなく神話の都市伝説。キミは一体!?」

すると彼は、羽を羽ばたかせ、ポーズを決める。

エロス「ボクは【Ερωσ】。ギリシャの神の1柱さ!」
大王「ち、またお前達か!」
正義「(弓使いか……。遠距離戦は苦手なんだよなぁ。奈海がいるから大丈夫かな?)」
奈海「エ……ロス?ぇっと、その……か、可哀想な名前ね。」
エロス「あぁ!ボクの事バカにしただろ!お前達人間が意味を変えるからぁ!」
コイン「いや、多分日本人だけだと思うけど。でも、元々の意味もだいたいそうだし。」

すると、【エロス】は怒り、どこからか矢を束で出し、俺達を狙う。

エロス「ボクを侮辱するとは、許せない!叩きのめしてやる!」
大王「な……何故そうなるんだァアァァ!?」

〜数分前/終〜

正義「大王、ゴメン。でもあの状況ではどうしようも無かったし……。」
奈海「ほとんど私の責任だよね。大王さんゴメン!」
大王「……もういい、慣れた。」
コイン“「それよりどうするのよ!」”

そう会話している隙に、【エロス】は矢を取り出し、正義を狙う。

エロス「ゴチャゴチャ……うるさァい!」

連続で3本の矢が、正義達をめがけて飛んでいく。
正義と大王は自力で避け、奈海はコインの能力で突き動かされて避けた。

正義「わっ!」 大王「ちぃっ!」 奈海「きゃあ!」
エロス「ちぇ、全然当たらねぇ……。つまんねぇの。」
正義「くぅ……こうなったら、勇弥くんに助けを……。」
奈海「ぅ、わ、分かったわ。なら……こっち!」

奈海は目を瞑って考えた後、正義達を路地裏へと導く。

4舞い降りた大王―σκανδαλια〜悪戯〜 ◆dj8.X64csA:2011/09/13(火) 19:11:05
エロス「まさか、逃げられると」
大王「こいつは不意打ちの礼だ。釣りは要らんぞ!」
エロス「え?うわっ!?」

正義達を追いかけようとした瞬間、【エロス】の頭上から大量のゴミが降ってきた。
ゴミの山に【エロス】が埋もれた事を確認すると、大王は軽く笑みを浮かべてその場を去った。

エロス「……ゆっるさぁぁぁん!臭ッ!……仮にもボクは神だぞ、もう許さないッ!待っていろ……!」

とてつもない怒りを抱えて、【エロス】はゴミの山から出て、大空へと飛び立った。

奈海「―――もう、追ってこないわね。」はぁ、はぁ
コイン「“大丈夫。”ふぅ、私が検索したスーパー安全ルートだもん!」
正義「じゃあ、早速。……こちら正義、応答願います。」

正義は腕の『正義注入機』のボタンを押し、勇弥と無線を繋ぐ。

“勇弥「こちら勇弥。丁度いい、今亜空間を切り開く装置を」”
奈海「そんなのはどうでも良いから!えっと、ぇ、え、エロ……。」
“勇弥「はぁ?わざわざ無線で何のッ、まさかお前等……。」”
正義「たぶん違う!【エロス】ってギリシャ神話の神の話を聞きたいんだ。」
“勇弥「あぁなるほど。篭もるなよ、勘違いするから。」”
奈海「だってぇ……。充分変な名前じゃない。」

改めて、勇弥の解説が始まった。

“勇弥「『キューピッド』って言葉を聞いたら何を思い出す?」”
奈海「え?もしかして『恋のキューピッド』?」
“勇弥「実はある神話で【Cupid(クピド)】っていう奴がいてな。英語読みでキューピッド。んでそいつと同一視されやすいんだ。
    それっぽい要素は無かったか?弓を持っているとか……。」”
正義「うん、弓矢で攻撃してくるよ。」
“勇弥「ならそれで確定だな。『クピド』は自分の持つ金の矢と鉛の矢で悪戯をする、って話だったと思う。」”
奈海「金の矢で射抜いた人同士をカップルにさせる、ってやつ?」
“勇弥「いいや、金は恋愛への欲求が高まる、鉛は恋愛への関心を奪うって能力だ。
    男に金の矢を射て、女に鉛の矢を射て、それを傍から見物するのが趣味みたいな奴らしい。」”
コイン「なにそれ、悪い奴じゃん。」
“勇弥「時代が進むごとに、能力の良い所だけが切り取られて『キューピッド』が生まれたんだろうな。
    ちなみに、元々は力強い青年とかでイメージされてたんだけど、後に少年化してしまったらしい。
    さらに昔は原初の神の一員という結構偉大な奴だったんだが、時代と共に劣化していったみたいだ。」”

ふと、正義はある事に気がつく。彼が放った矢の色は金でも鉛でもなかったのだ。

5舞い降りた大王―σκανδαλια〜悪戯〜 ◆dj8.X64csA:2011/09/13(火) 19:11:35
正義「待って、あいつが射た矢の色は緑っぽかったよ。それはどんな矢?」
“勇弥「緑……もしかすると青銅か?だがそんな矢は文献には無い。」”
大王「という事は独自で作ったものだな。単純な攻撃用か。」
“勇弥「普通は契約者がいないとそんな事はできない筈なんだが……。神だからか?」”
奈海「で、弱点は何なの?」
コイン「あるんでしょ?呪文とかにんにくに弱いとかさぁ。」
“勇弥「ん、ねぇよ。」”
奈海&コイン「「えぇっ!?」」
正義「……じゃあどうすれば勝てるの?」
“勇弥「逆に聞くが、本当に勝てそうにないか?」”

その言葉を聞いた瞬間、今までの緊張と不安が吹き飛ぶ。
確かに、彼は神ではあるが、外見は子どもである。攻撃もそれほど怖いものではない。

正義「そう言われてみると……。」
奈海「遠距離なら私もいるし……。」
コイン「避けられない訳でもないもんね。」
“勇弥「そういう事。元々戦う神じゃないんだ。落ち着いて戦えば絶対に勝てる。もし困ったらまた連絡してくれ。」”

そして、正義が切ろうとした瞬間。

“勇弥「おっと、最後に。『エロス』の元の意味は『性愛』、恋愛とかだな。
    さらに、何故かいつの間にかその言葉はイデアの世界を志向する精神的な愛、とかいう
    綺麗なものになったらしい。あ、『イデア』についてはまたいつか話してやるよ。」”

と、言い終わると、通信が切れた。

正義「……じゃあ『エロい』って【エロス】から来てるの?」
奈海「わ、私に聞かないでよ。」
大王「おい、そろそろ戦闘の準備をしろ。」


エロス「誰がエロいって……?そんな設定をつくったのは人間だろ?」


声を頼りに上を向くと、そこには【エロス】の姿があった。

コイン「あれ……いつの間に。」
正義&奈海「「ごめんなさい。」」
エロス「許すかァ!絶対に殴り飛ばしてやる!」
大王「全く、こんなに怒らせるとは……。とにかくここは……。」

エロス「だからさっさと出てこい!」
大王「……は?」

彼の罠としか取れない発言に、全員驚きを隠せなかった。

6舞い降りた大王―σκανδαλια〜悪戯〜 ◆dj8.X64csA:2011/09/13(火) 19:14:16
正義「キミが来たらいいじゃん。」
エロス「偉そうに、ボクは神だぞ!」
大王「どう考えても罠だろ。なら、どこから出るか……。」
エロス「いいから普通に出ろ!別にいきなり殴る以外何もしないから!」
正義「……何を考えているんだ……?」

じっと【エロス】を見ていると、奈海はその理由に気付いた。

奈海「……もしかして、羽が邪魔でここに来れない?」
エロス「うっ。」
正義「なぁんだ。じゃあ大王。あいつの頭上に雲作って。」
大王「了解。」
コイン「正義くん鬼だ!」
エロス「くっそぉ、あ。なんだ、普通に弓で攻撃すれば良いんだ。」
正義「う、気付かれた。」
奈海「気付かないと思ったの!?」
大王「俺も気付かないまま勝てると思った。」
コイン「大王までナメだしちゃった!」

その会話と、なにより気付かなかった自分に腹が立ち、【エロス】は矢を束ねる。

エロス「じゃあ、さっさと終わらせるよ……。」
大王「流石に、ここではまともに喰らうな。逃げるか?」
奈海「こっくりさんこっくりさん……、っていうか、あれ避けれるの!?」
コイン「“……無理!狭すぎるよぉ!弾も限られてるしぃ。”」
正義「とにかくここから退避するよ。」
エロス「喰らえェ!」ヒュンッ!ヒュヒュンッ!
正義「ちぃッ!」“ウォール!”

青銅の矢が雨のように降り注ぐ。が、正義は勇弥から貰った札の1枚を『正義注入機』に読み込ませる。
するとかざした手のひらの前に半透明な壁ができ、降り注ぐ矢から正義を守る。

エロス「あ、逃げるな!」

正義達は急いで路地を抜ける。するとそこは人気の無い広い場所だった。

正義「ラッキー。安心して戦えそうだね。」
大王「では、どんな策で行くんだ?」
正義「色々考えたんだけど、矢に気をつける戦い方なら特別な事をしなくて良いんだよ。」
奈海「となると?」
正義「あいつには普通に戦うのがベスト。大王、剣出して。」
大王「なるほど、あんな奴を倒すためにいちいち難しい事を考えていた俺がバカだったという事か。」

大王は正義との間に黒雲を生成し、そこから剣を2本出す。奈海は『コインシューター』に十円玉を貯える。

7舞い降りた大王―σκανδαλια〜悪戯〜 ◆dj8.X64csA:2011/09/13(火) 19:15:01
正義「では。」 奈海「戦闘。」 大王「開始だ!」
エロス「おぉ前ェらァァァ!」ヒュヒュン!

急に上空から青銅の矢が束となって降ってくる。しかしよく考えれば、その手は何度も見ていた。

コイン「“カンタン、カンタン。奈海、あっちよ!そこから攻撃ィ!”」
奈海「OK!えぇい!」タタッ ティティーン

コインはあっさりと安全地帯を見つけて奈海を誘導し、奈海はそこから2枚の十円玉を打ち出す。

エロス「うわっ。何するんだよいきなり!」
奈海「……あっさり当たっちゃった。」
コイン「“あの子自信過剰だから、あんまり攻撃避けないんだよ。”」
エロス「またボクの悪口か!許さなッ、うわぁ!?」

【エロス】が急に叫んだと思うと、いきなり降下して地面に落ちた。どうやら羽が動かなくなったようだ。

エロス「ぎゃ!……痛ててて……。何をしたんだ!」
コイン「“呪い成功!今回は『体の一部が動かない呪い』でしたぁ。”」
奈海「っていうか、あの小さな羽で飛んでたんだ……。」
正義「ありがとうコインちゃん。これでボク達も攻撃に参加できる。」
大王「(奈海は誉めないのか……。やはりよく分からん。)」

正義と大王は【エロス】の前に立ち、剣を構える。【エロス】も引く気はなく、弓を構える。

正義「(弓をはたき落とせば勝ちだ!)てぇぇぇい!」
エロス「ぅ、ま、まだ負ける訳には!」

【エロス】は矢を束ねて弓を引く。散弾銃のごとく飛ぶ矢に、正義はなかなか近づけなかった。

正義「く、近寄れないな……。」
コイン「“呪いは長持ちしないよ!早く何とかしないと!”」
奈海「あぁ、もう!矢でも鉄砲でも降らせなさいよ!」
正義「だって矢は苦手だし……。」
大王「すまん、生物と複雑な物体は生成できない。」
奈海「あんなに修行がんばってるのにこんな所で弱点発見!?」
大王「遠距離は少女に任せていたんでな。」

その時、正義は閃いた。

正義「そうだ、いつかのあれで行こう。大王、羊雲!」
大王「羊……、成る程あれか。取りようによっては、これも遠距離攻撃か。」

8舞い降りた大王―σκανδαλια〜悪戯〜 ◆dj8.X64csA:2011/09/13(火) 19:16:15
瞬間、【エロス】の上空に黒雲がぽつぽつと生成される。

エロス「何を始める気だ……?」
奈海「あぁ、確かに羊雲。でもどうするの?」
正義「こうするんだよ。あ、危ないから遠くへいっててね。」

奈海が離れた時を見計らい、正義と大王は自分の知る多くの武器を思い浮かべる。すると、黒雲から大量の武器が降り注ぐ。

エロス「な、なんだこりゃ!?」
大王「仕掛けるぞ少年!」
正義「うん!」

【エロス】は頭上から降ってきたハンマーを避ける。と、次は頭上に槍が見えた。

エロス「ちょ、ちょ、ちょっと待てェェェ!」ズザァ!
大王「なかなか滑稽だな、愛の神様。」
エロス「ぐっ。」
正義「おぉい、気を抜いてると!」

正義は空から降ってきた武器を取り、思い切り振り下ろす。

正義「てえぇぇい!」
エロス「えっ、ぎぃやぁぁぁ!?」

正義の持つ武器が【エロス】の肩に当たると、“パァンッ!”と綺麗な音が鳴った。

正義「ハリセンだよ。びっくりした?」
エロス「……ぉ、ま、え……!」
大王「念のため言っておくが、危ないぞ。」

【エロス】の頭上に、斧が降ってきていた。

エロス「……うわぁぁぁあああ!」

【エロス】は全力で走った。途中で呪いが解けて飛べるようなったらしく、全力で飛んでいた。
やがて、雲のない所まで辿り着いたが、かなり疲れているようだ。

正義「そろそろ降参する?」
大王「流石にお前をいたぶるほど、俺も悪くは無いんだぞ?」
エロス「く、くっそぉ……。」
奈海「惨い気もするけど、あの子のためだと思って、心を鬼に。」
コイン「“鬼と言うより、もはや修羅じゃん。”」

しばらく、【エロス】は黙って落ち込んでいる。ように大王や奈海達には見えた。

9舞い降りた大王―σκανδαλια〜悪戯〜 ◆dj8.X64csA:2011/09/13(火) 19:17:32
エロス「(まぁ、『スケイディオ』さえ成功したらいいんだし。今日はここまでにするか。)」
正義「(『計画』?またその言葉が?)」
勇弥「おい正義ィ!大丈夫か!?」
楓「黄昏、助けに来たぞ!」

その時、後ろの方から勇弥と楓の声が聞こえた。

正義「あ、勇弥くんと十文字さんだ。」
大王「友、会長!こっちはもう片付いたぞ!」
勇弥「なんだ。まぁ、当たり前だよなぁ。」

すると、やっと【エロス】が立ち上がった。

エロス「とりあえず、この勝負は預けておくよ。」
大王「大人しく負けを認めろ。」
正義「大王、別に勝ち負けはいいじゃん。それよりも……。」

正義が話そうとした瞬間、遮るように【エロス】が怒りだす。

エロス「だが!ボクを侮辱する行為だけは許さない!ゴミとか武器とか降らせたり……。」
正義「ゴミ?」
大王「すまない、とっさの処置だったんだ。」
エロス「だから、この怒りだけはッ!ここで清算する!」

その瞬間、【エロス】は金色に煌めく矢を取り出し、それを射た―――

大王「なっ。」
正義「大王!」

ザシュッ

大王「く……。」
楓「大王……様?」
奈海「嘘、大王さんが……。」
正義「なんで、あれぐらいなら、いつも避けてたじゃん……。」

矢が当たった事を喜んだのか、【エロス】は飛んで喜ぶ。

エロス「ははは、流石のお前もボクの矢は避けられなかったかい!」
コイン「(……もしかして、でも……。)」
大王「ッ……しまったな……。」
エロス「ちなみにその矢は、恋愛感情を高める金の矢だ!さっさと愛に溺れろ!」

すると………………。

10舞い降りた大王―σκανδαλια〜悪戯〜 ◆dj8.X64csA:2011/09/13(火) 19:21:02
大王「…………?」
正義「…………?」
奈海「…………?」
コイン「…………?」
勇弥「…………?」
楓「…………?」
エロス「…………?」

……何も起きなかった。

エロス「あ、あれ?ほ、ほら!横の女とか後ろの女とか見ろよ!なんとも思わないか?」
勇弥「……金と鉄を間違えて・・・いないよな。」
奈海「じゃあなんで効いてないの?」
正義「……あ。」

正義はぽんと手を叩く。

正義「大王って、男なの?」
楓「は?何を言っているんだ黄昏。『大王様』なんだから男性だろう?」
勇弥「……いや待て、そもそも【恐怖の大王】って予言に、男性が降ってくるという解釈は無かったと思うぜ?」
奈海「あそっか、隕石とかだったもんね。【恐怖の大王】って。」

大王はゆっくりと矢を抜く。と同時に、上空に黒雲が生成され、そこから金色の矢が【エロス】を狙っていた。

エロス「あ、あのさぁ、ボクの金の矢は生き物に当たっても怪我ができないんだよ。だから」
正義「それは、キミの射た金の矢でしょ?あれは大王がつくった金色の、ただの矢だよ。」
エロス「ぅ……うわぁぁぁ!」

【エロス】は急に振り向き、矢を持たずに弦を弾く。するとその空間が裂け、言葉では表現できない暗くて禍々しい穴が空いた。

エロス「今日のところは、は言って、お前達なら、じゃなくて!ぅう、あぁもぉ!ごめんなさぁぁぁい!」

黒雲から矢が降ってくると同時に、【エロス】は穴の中へ飛び込んだ。

大王「待てガキィィィイイイ!」ブォン!

大王は穴の中目掛けて、手に持っていた矢を投げた。その矢が穴の中に入った瞬間、何事もなかったように穴は消えてしまった。

正義「おぉー。」パチパチ
奈海「ナイススロー。かな?」パチパチ
大王「あのガキ……次に有ったら覚えていろ……。」
勇弥「まぁ、一件落着、一件落着。」

しかし、喜んでいる正義達の後ろで、楓は1人悲しそうに大王を見つめていた。

11舞い降りた大王―σκανδαλια〜悪戯〜 ◆dj8.X64csA:2011/09/13(火) 19:21:56
楓「そんな、大王様は……。“ツンツン”ん?」

楓の横に、コインが笑顔でふわふわと飛んでいた。

コイン「十文字さんが落ち込んでるのってなんか珍しいね。」
楓「コインちゃんか。そうか?……そうかもしれないな……。」
コイン「皆はあぁ言ってたけどさ、私は違うと思うの。だって大王って鈍いところあるし、効果が出るのが遅いのかも。」
楓「でも、それだけでは……。」
コイン「あともう1つ。なんであの時、大王は矢を避けなかったか。」
楓「流石の大王様も、あの不意打ちは避けられなかったんじゃないのか?」
コイン「十文字さん。正義くんも大王も、その程度の訓練ならしているんだよ。」
楓「あ、そういえば……では何故?」

もう一度笑みを浮かべながら、コインは楓に耳打ちする。

コイン「自分が避けたら、十文字さんに当たってたんだよ。」
楓「え……?あ……。」
コイン「十文字さんの方が、いや十文字さんが油断していたからそう思ってたのかなぁ。
    大王に『こっちは片付いたぞ!』って言われたから?」
楓「……反射神経には、自信があったんだけど。」
コイン「まぁ、実際は傷もつかない矢だったんだけど。とにかく、大王は十文字さんの事を傷つけたくないと思っているんだよ。
    それが恋愛かどうかは、子どもだから分かんないけど……。」
楓「……コインちゃんありがとう。よし、では帰るか。」
コイン「うん!」















コイン「あ、相談料は十円玉10枚ね。」
楓「百円玉でいいか?」
コイン「十円玉!」


Σχεδιο編第2話「悪戯」―完―

12本スレへ 転 載 希 望:2011/09/17(土) 17:57:17

「うひゃあ!!」

昼休みの男子トイレ
一つの個室の中に突如現れた少女を前に、男子高生は弁当を突いている

「あのっあのあのっ‥‥!!」

焦っているのは少女だが、対する男子高生は無表情である
この男子、目の前に小学生程度の少女が現れたにも関わらず、驚いた様子を見せない

「ご、ごめんね‥‥いきなし、だったよね‥‥」

相手の顔色を窺うような少女の台詞に、彼は顔を上げて少女を見た
どうでもいい、と言わんばかりだ

「あ、あのね‥‥前々から気になってたんだけど‥ど、どうして、いつもトイレでお弁当、食べてる、の?」

「実に馬鹿だな君は
「食べて出す
「そして、出して食べる
「この臭い、たまらない
「そういうことだ」

口を開いたかと思えばその内容に唖然とする

「大体、都市伝説が俺に何の用だ
「大方トイレに出る系の怪談だろう
「その姿から推測するに花子さんかそこらか
「で、そんなのが俺に何の用だ( ・ω・)」

「花子さんかそこらって‥‥、そんなのって‥‥
 私、そんなのでも花子さんでもありませんっちゃんと闇子って名前があるんですっ
 私の名札くらい見てから言ってくださいっ」

「興味がない」

素っ気なく返される
闇子さんはうーだのあーだの何とも言えぬ声を出していたが
やがて口をへの字に曲げて言い放った

「でもトイレでお昼ご飯って変だよ」

「黙れ殺すぞ( ・ω・)」

「‥‥きょ、脅迫なんて怖くないもん。トイレでご飯って絶対おかし」

13本スレへ 転 載 希 望:2011/09/17(土) 17:57:55


                                     `ヽ、
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       ,,ヅ彡ニミ;;,,              ヅ彡ニミ;;,,          l
      ィ<"  , ‐ 、 ゙ミ、          ィ<"  , ‐ 、 ゙ミ、         ゙i
      ミミ、, ゝ_゚_,ノ,, イ           :ミミ、, ゝ_゚_,ノ,, イ           ゙i    黙れ殺すぞ
       ゙'ヾ三≡彡'"            ゙'ヾ三≡彡'             i!
                /        ヽ                    i!
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              、        ,' 、        ,'                i!
              ヽ . _ .. '  ヽ . _ .. '                 i!

14本スレへ 転 載 希 望:2011/09/17(土) 17:59:05
「ひっ‥ご、ごめんなさいっ‥」

「全く学校の怪談系の都市伝説は
「何故、こうもアグレッシブなのか」

器用に弁当を食べながら、無表情のまま男子高生は語り始めた

「学校の怪談系の最たるは花子さんだが
「例えば中央高校の生徒に花子さんと契約しているのがいる
「この狭い業界ではちょっとした有名人だ
「何せ家が家だからな、ヤクザの家の長男だ
「よくは知らんが
「さて、そこの花子さんは
「無邪気な顔で都市伝説を駆逐する
「ガキに特有の無邪気さで都市伝説を殺すのは
「別に花子さんに限った事じゃない
「おまけに悪戯好きな個体が多い
「本当に碌な連中ではない
「要はクソガキだ」

「わ、私は花子さんと違うもん‥‥私はお行儀いいもん‥‥」

闇子さんは涙目で抗議するが、男子高生が聞いている筈もない

「そんなクソガキどもを
「恐怖のどん底に叩き落とした契約者が居た
「童貞魔術師だ
「奴は夜な夜な学校に侵入し
「クソガキどもを血祭りに上げ、強姦し、殺戮し、強姦した
「契約者としては一流だっただろうが、人間としてはクズそのものだったろう
「ある日、あろう事か人間を殺してしまった
「西区で喫茶店を営んでいた男をだ
「その後この魔術師は男の契約していた都市伝説に倒された
「あくまで伝聞だがな
「ちなみにこの都市伝説は輪廻転生らしいが
「いやらしいまでに皮肉っぽい奴らしい
「要はクソガキだ」

「それって輪クンのことなのっ!?そうでしょっ!!
 輪クンのこと悪く言わないでっ
 ちょっと意地悪な所もあるけど‥‥ほんとは優しくて良い子なんだよっ」

15本スレへ 転 載 希 望:2011/09/17(土) 18:00:06

闇子さんの抗議の声に、男子高生は闇子さんを見た

「な、何?」

「お前
「あの喫茶店に行ったことがあるのか」

「うん‥あるよ‥‥?」

「よく行くのか」

「ハニーミルク、好きだから‥‥
 あと輪クンにも会いたいし‥‥」

「もののついでだ
「教えてやる
「あくまで聞いた話だが
「最近この町の様子がおかしいらしい
「具体的に何がおかしいのかは知らん
「実は
「同じクラスの『姫』さんが言っていた
「言葉の受け売りだ
「非常にどうでもいい」

そうしている内に彼はてきぱきと弁当箱を片付け始めた

「さて
「食事が終わったわけだが」

「全部、食べちゃったんだ‥‥トイレで‥‥」


「お前のせいで久し振りにまずい昼食になったぞ
「胃に来るこのフレーバー  うっ」

座っていた便座を即座に開くと、男子高生は盛大に嘔吐しだした
個室いっぱいに生暖かい酸気が立ちこめる
闇子さんは耐え切れず、とうとう涙目でそこから飛び出した


 【終】

16訂 正 希 望:2011/09/17(土) 18:03:11
>>15
×
「お前
「あの喫茶店に行ったことがあるのか」

「君は
「あの喫茶店に行ったことがあるのか」

×
「お前のせいで久し振りにまずい昼食になったぞ
「胃に来るこのフレーバー  うっ」

「君のせいで久し振りにまずい昼食になったぞ
「胃に来るこのフレーバー  うっ」

17笛 代理希望 ◆2PnxfuTa8.:2011/09/19(月) 23:23:14
【極光の紗綾(獄門寺龍一の世界 後編)】

「おいでなさい!高貴なる紅薔薇(アーテナルローズ)!」
「遅いわよ!」

 何本もの薔薇の手裏剣が陽子を襲う。
 しかし一つたりとも過たず撃ち落とすのはやはり陽子の銃の腕である。

「くっ……見た目以上の使い手ですね!」
「悪かったわね、私は私である為にここで負けるわけにはいかないの……。」

 その言葉を聞いて吉静は小さくため息をつく。

「ならば私も一緒ですよ。」
「え?」
「私は幼い頃、父や姉と生き別れ、兄と二人でこの街に暮らしていました。
 兄は無欲な人で人一倍働いておきながら困った人の為に余ったお金を使ってしまうような人でした。
 そんなある日のことです……」
「…………(えー、いきなり語り始まっちゃったよーコレ聞くの?聴かなきゃ駄目なの?)」

 さて一方その頃、サイレスは零人に追い詰められていた。
 決してサイレスが弱かったわけではない。
 ただ単に零人が予想以上に強くなっていてサイレスの予想を超えていただけだ。

「来いよサイレス、ぶちのめしてお前も世界を渡れる理由を聞かせてもらうぜ!」

 巨大な龍が零人を守るようにして宙を舞っている。

「龍撃拳!」

 零人が拳を繰り出すと同時に龍が牙を剥いてサイレスに襲いかかる。
 星の下に躍る夢が如く輝く焔。
 サイレスの繰りだす地獄の火炎をあっさりと飲み込み彼に強烈な一撃を与える。

「ぐあああああああああああ!」
「おっと!?」

 攻撃の反動によって彼の足元がわずかに崩れる。
 転ばないように彼は足をわずかに動かした。
 サイレスがニヤリと微笑む。
 この時、既にサイレスの“サブリミナル”が発動していた。

「あんたがどれだけ強かろうが関係のない処刑方法を思いついたッス。」
「は?」

 また足元が崩れた、そう思って零人は少し後ろに飛び退く。
 また足元が、また、また、また、また…………
 気づくと零人は何も無い場所でものすごい勢いで後ろ向きに走っていたのだ。

「これがサブリミナル、あんたの“転ばないようにしなくては”という意思に訴えかけさせて貰ったッス。
 これであんたは転ばないようにしつづける。
 それは即ち……どこまでも吹き飛び続けるってことっすよ。」
「う、うおおッ……!」
「アリーヴェ・デルチっす」
「うわああああああああああああああああ!」

 悲鳴と共に零人はどこか遠くに吹き飛んでいってしまった。

「くっくっく、これであとは妹の方だけっす。」

 不敵な笑みを浮かべ、サイレスは階段を降りる。
 そこでは龍一と明日、吉静と陽子が戦っていた。
 互いにかなりの傷を負い、弱っている様子だった。

18笛 代理希望 ◆2PnxfuTa8.:2011/09/19(月) 23:24:35
「って訳で、私は暗部の一員と戦うようになったの。
 貴方の“存在”は私の“世界”に匹敵するのかしら?
 聞いてあげるわ、この紫薔薇の悪魔(アルラウネ)の力で!」
「Zzz…………」
「戦いながら寝るとは……おのれ世界を破壊する悪魔ッス」

 陽子はなんと戦いながら寝ていた。
 長話に付き合う気は毛頭なかったのだろう。

「とりあえず……今がチャンスみたいっすね。」

 サイレスは自らが契約する“トゥールの雷霆”を呼び出して能力を発動した。

「キャアアアアアアアアアアアアアア!」

 陽子に直撃する。
 
「陽子さん!?」

 先ほどまで戦っていたにもかかわらず吉静は彼女の元に駆け寄る。

「大丈夫ですか?陽子さん!」
「な、なんとか生きてる……。」
「誰がこんなことを!?」
「そこをどいて欲しいッスよ、お嬢さん。」

 サイレスは吉静に雷霆をつきつける。

「サイレス貴様!」
「……どういうことだ?」

 明日は激昂してサイレスに跳びかかった。
 龍一は突然の闖入者に眼を丸くする。
 しばし迷った後、彼は一人でその場を逃げ出そうとした。
 が、その直後。

「これでトドメっすよ。」

 彼の目に入ってきたのはサイレスがいとも容易く明日を打ちのめし、
 二人の少女を血祭りにあげようとする姿だった。
 彼の記憶が揺さぶられる。
 そう、その姿は彼の最も嫌悪する人間の姿の一つだった。

「…………待て」

 迷うこと無くサイレスの首に刀を叩き込む。
 が、硬い。
 何故か刃物が通らない。

「あはは、心の綺麗な方ですからね。そう来ると思ったっすよ。」

 サイレスは刀を掴みとり龍一の腹に拳を叩き込む。

「哀れな役目から開放して差し上げるッスよ。
 ええ、死を以て。」

 その場に崩れ落ちた龍一にトドメを刺そうと雷霆を振り上げるサイレス。
 だがその手元に弾丸がぶち当たる。
 硬い音を立てて弾丸は弾かれる。

19笛 代理希望 ◆2PnxfuTa8.:2011/09/19(月) 23:25:12
「おんやぁ?生きてたみたいッスね。
 楽にしてあげようと思ってたのに。」
「あんたね、三人は関係ないでしょう!やるなら私だけやりなさい!」
「良いんスカ?ご家族とも会いたいでしょうに。」
「だからってこの人達を巻き添えになんかできないわよ!
 私だって確かに記憶は欲しいわ、でもそれ以上に守りたいの!
 この世界に居る沢山の人々を!美しい可能性を秘める全ての世界を!」
「ハッ、そんなボロボロの状態で言っても説得力無いッスよ?
 貴方のお友達ももうボロボロで立てないみたいッスし。」
「そんなことは無いぜ?」
「龍一さんとやら、一時休戦といきませんか」
「……やぶさかでない」
「な、何故!?そんな!何故そんな状況で立てる!」
「正義の為だ。」
「あんな熱いセリフを聞いたら私も契約に使った右腕が疼いちゃいます!」
「鬼は切る…………。」
「四対一だとしてもそんなボロボロで勝てるわけが!」

 陽子の懐から光の塊が空高く舞い上がる。
 爆音。
 天井に巨大な穴が開く。
 刀のマークが刻まれたカードが彼女の手の中に舞い降りてきた。

「それはどうかな!?」

 そして空高くから響く声。

「なっ……!?」
「人の妹をかわいがってくれたお返しだぁ!」

 文字通り、空から零人が降ってきた。
 彼は空中ならば転びようがないと判断して自らの都市伝説を使い自らの身体を空高く打ち上げたのだ。 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

 滅茶苦茶にサイレスを殴りつけて地面に着地する零人。
 足がしびれたらしくその場でこけた。
 
「龍一さん!今です!」

 サイレスの首、さっき龍一に切られていた場所に僅かな罅が入っていた。
 彼女はそこを切れと言うのだ。

20笛 代理希望 ◆2PnxfuTa8.:2011/09/19(月) 23:25:58
「私も援護します!」

 カードを自らの銃で撃ちぬく陽子。
 すると龍一の隣に彼と同じ姿のもう一人の龍一が現れた。

「貴方の動きを真似するので同時にその罅を切ってください!」
「ああ!」
「うわっ、やめっ……」

 煌めいた光はたった一つ。
 残る斬撃の跡は二つ。
 サイレスの首に十字の傷が深く刻まれる。

「きょ、今日はここまでにしておいてやるッス!」
「逃しは!」
「しない!」

 明日が空中から両足で蹴りを決める。
 吉静が薔薇の手裏剣を背中に突き立てる。
 しかしそれでもサイレスは走る。
 龍一がトドメに放った斬撃が空を切る。
 サイレスは逃げ切ったのだ。

「くそ……。」
「逃げちゃったみたいね。」
「さて、あいつも居なくなったことだし、やるか。」
「陽子さん、考えなおすなら今ですよ!」
「えー……困ったわねえ。」

 さて、共通の敵が居なくなって再び殺気立つ一同。
 しかしそこに再び闖入者が現れる。
 鉄仮面の男だ。

「へいエブリワン!俺のお手製満漢全席でも食べないか!」
「龍一、なんとか……脚本を手に入れられたぜ。」
「王様!?」
「なに料理作ってるんですか!」
「いやほら、客人用に。」
「真樹、在処、なんで二人ともそんな苦しそうなんだ……?」
「ハッハッハ!俺の料理を食わないと脚本を破壊すると脅したのだ!」
「えー…………。」
「毒が入ってないと信用してもらうまで大変だったぜ!
 俺が食ってみせても信用しないしさあ!」
「…………。」
「俺は……いらな」

 龍一のお腹から大きな音が鳴る。

「少なくとも毒は入ってなかった……。」

 生理痛が限界まで来ている女性のようなテンションで真樹は呟く。

「うますぎて食い過ぎた結果がこれなのだよ!」

 それにしてもこの鉄仮面うざい。

「まあ食うか食わぬかは別としてだ。
 俺は貴様らに聞いておかねばならない話がある。
 異世界の客人殿には関係ない話ではあるが……ついでに私の料理を食っていけ。」
「え?」
「拒否権はない。」
「え?」

 このあと兄妹共々激辛マーボー豆腐を飲み物にさせられることを……
 まだ陽子は知らない。
 とにもかくにも、こうして陽子の記憶の欠片は彼女の手元にまた一つ集まったのである。



【極光の紗綾(獄門寺龍一の世界 後編) おしまい】
【獄門寺龍一の世界編 おしまい】

21花子様の人たち:2011/09/19(月) 23:58:09
小梅ちゃんを泣かせた朝会から数週間後の昼休み
『ピンポンパンポーン』
『二年三組、錦戸君、築城君、鈴木君、大事な用件がありますので、放課後生徒会室に来てください。』

築「小梅ちゃんのお呼び出しか。鈴木はともかく、俺らなんかしたっけ?」
鈴「俺は【今は】何もしてねえぞ。」
駄「俺も問題起こした覚えはないけど、思いつくことといったら…」
鈴「契約者、か。」
築「でもそのことに関しちゃ口外しちゃいないと思うんだが。」
駄「まあ、放課後行ってみりゃわかるでしょ。」


放課後


小梅「えー、本日お三方に集まってもらったのは他でもない。」
腕組みし歩きながらそう言う様は、なんかの軍隊ものの洋画の陸軍高級将校のマネをする子供だ

小梅「また学区内にへんなのが現れたようなので、今度は先輩方に退治してもらいたいんだ。」
駄「ちょっと待ってよ、俺らより警察とかに任せたほうが」
小梅「隠さなくても大丈夫です、錦戸先輩。」

小梅「この町に都市伝説が現れてることも、先輩方がその契約者であることも、知っています。
   生徒会長を継ぎ、この学校を統べる役目を先代会長から任されたとき、聞かされましたから。
   といっても、ごくごく最近まで信じられませんでしたが。」

築「情報の流出元はお前の嫁かよ(ボソボソ
鈴「俺に言うな(ボソ

小梅「昨日の帰りに私自身の目で見てしまったんですが…その…ゾンビが群れをなして歩いてたんです。」

築「それは小梅ちゃんが映画見すぎたからとかじゃないの?」
小梅「小梅ちゃん言うなー!!」
築「へぶしッ!!」
 いまの一撃、手が見えなかった。身長を考えればアッパーか?

小梅「ごほん、口止めはしたものの学生の中でも目撃談もあります。
   それに今は各部活が大会を控え、練習にも熱が入り下校が遅くなっている時期…
   安全のためとはいえ部活を早く切り上げさせて水をさすのも…」

駄「そこで契約者で帰宅部の俺たちにゾンビ駆除を。」

小梅「もちろん生徒会としてできる限りの見返りは用意させてもらいます。
   たとえば学食年間フリーパスとか、購買割引とか学際の出店割引とか…」

鈴「まあ、小梅ちゃんの頼みとあったらなあ?」
駄・築「なあ?」

小梅「だから小梅ちゃんゆーなー!!あとありがとうございます。」

22花子様の人たち:2011/09/19(月) 23:59:09

帰宅後


花「それで私の同意なく引き受けてきたの?(ゴゴゴゴゴゴゴゴ」
駄「ひいッ!!でも小梅ちゃん直々に頼まれたし…」
花「小梅ちゃんの頼みなら仕方ないわね。それに新技を試したかったし、まあいいわ。」
花「でも、戦うのは私ってこと、今度からもっと考えてよね。…小梅ちゃんの頼みは仕方ないけど。」




こ「それでワシらの許可無く引き受けたと?」
り「ボクらの意見を聞いてからにして欲しかったなぁ」
くぅ「勝手…」
築「それは悪かったけどさ、だって小梅ちゃんの頼みだぜ?」
こ「まあ、こうめちゃんの頼みなら、仕方ないじゃろう。」
り「うん、しかたない」
くぅ「ない。」
き「あらあら」




鈴「つーわけだ。」
二宮「僕は構いませんけど、鈴木君はいいんですか?勉強の時間が削がれますよ?」
鈴「ああ、小梅ちゃんのお願いじゃあな。」

23花子様の人たち:2011/09/20(火) 00:01:21

作戦決行当日

下校時に小梅ちゃんから差し入れにレッドブルのドリンクを受け取り、進軍開始する。
三方に別れパトロールすること数時間…辺りは真っ暗

花「もー、全然出てこないじゃない!」

公園のベンチに腰掛け、半分サボっているときだった。

駄「霧…?」
花「来たわね。」

公園の入り口に面した道をゾンビ的な集団がゾロゾロと、学校の方へ向かっている。

駄「学校に近づかせるのはまずい。」

学校に近づくほど、生徒との遭遇率は上がる…

花「ここで止めるわ。ここならトイレも近くにあるし、周りの家も皆無。第一、あの数をトイレから離れてしとめるなんて無理よ!」

動きは遅いが、たしかに数はヤバイ。3桁はいる。


花「そこのゾンビども!!私が相手よ!!」

カーンと空き缶を蹴飛ばし、ゾンビ集団の注意をひく。

花「多分、他の箇所にも出てる…最初からとばすわ!!」

大量の水が花子様の手元に集まったかと思うと、消えた。いや、消えたように見えた。
よくみると花子様はクナイを持つようにして指と指の間に半透明な釘のようなものを持っていた。

駄「氷…つらら?」

花「夢の国戦で鞭使ったときは苦労させられたからね…
  喰らいなさい、ナショナルジオグラフィックの太陽系外惑星の番組を見て会得した技を!!」

まんまクナイを投げるようなモーションで投げられた小さなつららは、ゾンビの身体にぷすりと刺さった。
しかしまるで効いてない。

駄「効いてませんよ!?やっぱりつららなんかじゃ…」

花「まあ見てなさい」

つぎの瞬間、つららの刺さったゾンビが爆散した

花「水はね、私たちがよく知る冷たい氷のほかにもあるの。
  超高圧力をかけることでも固形になり、数百度の氷になるのよ。その硬さは通常の氷の比じゃない。
  そして、そんなふうになる高圧力をかけていた水から、急激に圧力を抜けば、瞬間的に膨張してあのとおりってわけ。
  大体、つめたい氷は、雪女の領分でしょ?」

なるほど、一撃で敵を粉々にするなら、今回のケースにはもって来いか。

24花子様の人たち:2011/09/20(火) 00:02:24

一方そのころ築城は

築「ちょっとこっくりさんなんとかしてよ!!」
こ「ワシらは室内じゃないと戦闘能力が出せないんじゃあ!!」
り「屋外なんて聞いてないよー!」
くぅ「ない。」

どどどどど
ひたすらゾンビから逃げ回る。相手の動きこそ遅いが、逃げた先にまた現れたりでてんてこ舞いだ。

築城「うおあ!」

曲がり角で誰かにぶつかる

こ「姉さま!」
き「あらあら。」
り「お姉ちゃん助けて!」
くぅ「けて。」

きつ姉ぇを見ると、近所のスーパーの袋を持っていた。買い物帰りか。
周りを見ると俺たちが来たほうからも、きつ姉ぇが来たほうからもゾンビの群れが

き「あらまあ、しかたないわねぇ。ちょっと持ってて?」

レジ袋を俺に持たせると

き「えいっ」

上品に腕を振ると、それぞれのゾンビ集団に一瞬風が吹き抜けた。
かと思ったら、ゾンビたちが青白い炎に包まれ瞬間的に燃け消えてしまった。これが狐火ってやつなのか?
腕を振ってわずか4秒、あたりは何も異常の無いいつもの状態になっていた。

俺たちはその圧倒的な力に唖然とするばかりだ。

き「あれはゾンビとはちょっと違うみたいねぇ。ただの幽霊が、強い力に煽られて中途半端に実体を持ちかけてるような。
  完全な液体を霊、固体を生体としたら、ジェルってかんじかしら?」

25花子様の人たち:2011/09/20(火) 00:02:58

さらにそのころ鈴木

鈴「ぬおりゃああああああ!!!」
道路標識を引き抜き振り回してなぎ倒したりの大暴れ。
鈴「こっちはなぁ、早く帰ってミレニアム懸賞問題を解きてえんだよ!!」
なんの心配もなかった

26花子様の人たち:2011/09/20(火) 00:04:06

さらにその頃小梅ちゃん

小梅「やばッ!ベルちゃん(生徒会室で飼育中のベルビアンオオムカデ:体長50㎝・有毒・凶暴・噛み付く)
   がいない!!逃げ出したんだ!!」

床を這って接近してくるような気がして、生徒会長用机に大急ぎでよじ登り、ケータイを取り出した

小梅「もしもし、みぃさん?ベルちゃんがまた逃げちゃったから捕まえて!!」

ピンチだった。

つづく

27DKGとファントムさん  ◆lzXMjKhUPM:2011/09/20(火) 00:15:44
花子様の方、乙です。

 どうも、本スレで『噂された人物が元から実在したら、その人に都市伝説パワーが得られるんでしょうか?』と質問した新参者です。

 それでもって、序章ですが書いてみました。

 誰もいないようなので、投下しようと思います。

 グロテスクな表現。長文。むちゃくちゃ設定なので、そういうのが苦手な人ゆーたーんをお願いします。

 それでは、『DKGとファントムさん』、投下します。

28DKGとファントムさん  ◆lzXMjKhUPM:2011/09/20(火) 00:16:33

 あるビルの廃墟に、一人の中学生ぐらいの少女がソファで寝ていた。
 彼女は『都市伝説』だ。
 いつだっただろうか、彼女が生まれたのは。


 三年前、アメリカの本州のどこかで、無残な死体が発見された。
 死体は34歳男性で、弾丸で鉢の巣にされ、さらには鋭利な刃物でズタズタにされていた。
 しかも、その男性はあるマフィアの殺し屋をしていたのだ。
 警察は彼に敵対する組織の仕業だと考え、その方針で捜査を進めた。
 だが、それはすぐに間違いだとわかった。
 その二日後、同じような遺体が捜査している間、アメリカのありとあらゆる地方に、ゴロゴロと出てきたのだ。彼らの接点は男性以外これといったものはなく、警察を混乱させた。

 そして、人々は囁いた。
 殺された人間は男なのだから、女から恨みを買われていたのではないか?
 きっとその女はありとあらゆる殺人道具を持っているに違いない。
 それだけではない。きっとありとあらゆる殺し方を考えているに違いない。
 まだ発見されていないのだから、怪しまれにくい未成年ではないか?
 それなら、その少女はよほど冷酷な心を持っているに違いない。
 ならこう呼ぼう。

 ――――ドライ・キラー・ガール(DKG)、と。

 そして彼女は存在を許された。人を殺すために、驚異の殺人能力と冷酷な心を持って。

29DKGとファントムさん  ◆lzXMjKhUPM:2011/09/20(火) 00:17:50

 彼女は忠実に人を殺していった。暇なときはマフィアの一つ一つを潰したりして、最速タイムを出すよう遊んだこともあった。もちろん都市伝説達とも殺し合ったりした。全ては彼女の圧勝だった。
 だが彼女は満たされない。どれだけどれほど殺しても、彼女は満たされることは無い。それが彼女のしたい事ではないからだ。

 前にDKGは、ある一人の男を殺した。新しい殺し方の実験だ。こういう事は考えが尽きるまでやめた事は無い。
 殺した男には、一人の娘がいた。面倒なので、その娘の心を恐怖で埋め尽くし、精神から魂を殺そうとした。
 その為には心を覗く必要がある。DKGは、この時初めて人の心に触れたのだ。
 娘は男の死を知らず、公園で遊んでいた。DKGは娘の頭に触れ、心に触れた。

 今思えば、その時心に触れてみようなんて考えなければ、ただ殺すだけの存在でいられたのだろうか?
 と、DKGはソファに転がりながら思う。

 死を知らない娘の心は温かかった。自分の冷酷な心が、溶けてしまうぐらいに。
 無を知らない娘の心は我がままだった。自分の顔が微笑んでしまうほどに。
 ばいばいを知っている娘の心はさみしそうだった。自分が罪悪感を覚えてしまうぐらいに。
 彼女は娘の心……人の心に恐れをなして、逃げ出してしまった。

30DKGとファントムさん  ◆lzXMjKhUPM:2011/09/20(火) 00:18:36
 それから、人を殺す事以外の事を考えるようになった。
 あの娘は父の死を知って、どう思うだろうか? どう変わるだろうか?
 自分は人を殺し続ける存在でいいのだろうか?
 娘一人の感情でここまで振り回される自分はとてももろいのだろうか?
 都市伝説のDGKは、人を観察する事にした。
 どう殺すのかを考えるのでは無い。どう生きるかを決めるためだ。
 人々は楽しそうに街を歩いている物もいたし、悲しそうに歩いている者もいた。
 DKGは一人一人の心に、恐る恐る触れて行った。

 そして、彼女は人に近い感情を手に入れた。手に入れてしまったのだ。

 それからというもの、人を殺す事にためらいを覚え、人の殺し方を考えているだけで気分が悪くなった。
 もう人を殺すのをやめよう。
 そう思い、今まで殺してきた人たちの金で人として生きて行く事にした。自分には、これしかないのだ。仕方がないと自分に言い聞かせる。
 許してもらえているだろうか? DKGには涙と共に謝まる事しかできないのだから。

 だが、許してもらえなかった事を、一ヶ月後に知る事になる。

 ある日、人として学校に通っていた時のことだ。
 突然、力が抜け倒れてしまった。誰もその事には気がつかない。人として生きて行こうと決めた時から、いや、それ以前から自分の姿は見えているというのに、誰も気がつかない。
 許してもらえなかったのか? やはり自分に人として生きて行くのは不可能なのか?
 そこで、彼女は一つの考えにたどり着いた。

 自分は人を殺すために存在を許された都市伝説。人を殺さなくなった今、自分の存在を許されなくなったのではないのか?

 恐怖した。懺悔して後悔して、やっと手に入れたのに、その幸せを失う。
 それどころか、存在さえ許されなくなり、再び無になる?
 いやだった。人の感情を手に入れたDKGは、自分が可愛くて仕方がなかった。人としての欲望を押さえる事は無かった。
 生きたい。だから殺す。本能に逆らわず、感情を消して、定められた通り殺す。
 その場にいた者は全員殺した。皆に気がつかれるまで殺し尽くした。

 それからだ。自分が存在するために、人を殺すようになったのは。
 自分が生きるために、ありとあらゆる殺し方を考えるようになったのは。

31DKGとファントムさん  ◆lzXMjKhUPM:2011/09/20(火) 00:19:31

 そんな事を、ぼんやりとソファの上で思いかえしていた。
「……人も都市伝説も、醜いな」
 ポツリ、と呟く、誰の返事も期待しないで。
「そうだな」
 ドアの方から、聞いた事の無い声が聞こえた。
 とても低く、恐ろしいと思える声だった。
 そしてそれは、見なくとも都市伝説だと分かった。
「何だ? 俺をお前の組織にでも入れるつもりか?」
「組織? いや、俺はフリーだ」
「なら俺を殺して強くなるつもりか?」
「お前を殺して何の得になる?」
 聞き捨てならない言葉だった。都市伝説としてのDKGは、アメリカの都市伝説の中でも最強と言われるほどだ。
 そんな自分を、殺しても仕方がないという都市伝説。どこまでも気に食わなかった。
 殺す前に、せめてどんな都市伝説かと確認しようと、その都市伝説を見る為立ち上がる。
 だが、DKGの怒りは驚きに変わった。
「……ファントム?」
 ファントム、リアルバットマンとも呼ばれる都市伝説だ。
 その顔は不安感を持たせる青い大きな目しか無い白いマスクを被り、特撮ヒーローのような白い姿の上に、黒いコートを着ているのが特徴だ。
 ファントムは国を問わず、困っている人のところに神出鬼没で現れ、悪人をやっつける正義の味方と言われている都市伝説だ。
 まさか、そんな子供のような都市伝説が、本当に存在するとは思わなかった。
「そうだ。俺がファントムだ」
 ファントムが名乗ると、その大きな青い目の光りが、フワァと人の心を不安げにさせるように光る。
「ヒーロー様が何の用だ? 俺みたいな都市伝説を殺しに来たのか?」
「違う。人を殺すのをやめてくれと、説得をしに来た」
 何だそれは、それは俺の存在を許さないのと同じじゃないか。
 DKGはファントムを睨めつけ、虚空から9mmベレットを取り出す。
 もちろん相手は都市伝説。発射されるのは鉛の塊ではなく、対都市伝説専用の弾丸だ。取り換える必要は無く、DKGの存在が許される限り、無限と出る事だろう。

32DKGとファントムさん  ◆lzXMjKhUPM:2011/09/20(火) 00:21:09
「俺はお前に殺せないよ」
 ターンターンターンと、三発程ファントム眉間に撃つ。
 だがファントムは視線と手の動きで読みとったのか、それを全てかわす。
「避けたな」
 ギラリ、とDKGの目は輝き、9mmべレットを左手に持ち替え、左手にM2重機関銃を取り出す。
「……確か固定しないとロクに当たらないんじゃなかったか?」
「お前みたいなちんけな都市伝説と一緒にするな」
 ターン、ターンと9mmべレットでファントムのまわりに撃ち込む。
 ファントムはそれをひょいひょいと避ける。
 面白いほどに引っかかった。ファントムは二つの弾丸を避け、大きな隙ができている。
 その大きな隙に、ダァン! とM2重機関銃で一発の弾丸を胸に撃ち込んだ。
「ガァ!?」
 ファントムは見事に宙を舞い、壁に叩きつけられる。
 死んだな、と思いソファに転がるDKG。死体をどこに捨てようかと考えていた時だった。
「……流石に、死んだかと思った」
 よっこいせ、と立ち上がり、ファントムは胸の汚れを落とすように右手ではらったのだ。
 薄く黒くはなっているが、無傷と言っても過言ではないだろう。
「死を味わいたいどMか?」
 ソファからサッと立ち上がり、ファントムを睨みつけるDKG。
「Sではないが、Mでもない。どちらかと言うとHだ」
「それは日本でしか通じないぞ? お前の言いたいHは恐らく『変態』って意味のHだろ?」
「違うな」
 バッと腰を低くし、いつでも攻撃できる姿勢に落ちつかせる。
「ヒーローのHさ」
 ファントムはDKGに、都市伝説でもトップと争えるであろうスピードで殴りかかってくる。
 それをDKGはいなし、腹に蹴りをお見舞いしてやる。
 ファントムの腹には当たったが、その腹は霧の様な物質に変わってしまい、DKGの体ごとすり抜けてしまう。
「流石は都市伝説ヒーロー。硬くなって攻撃を受け止めたり、水蒸気になって攻撃をすりぬけさせるって、どこのRXだ」
「ほう、こっちでもRXが有名か?」
「駄作としてな」
 二人は、背中を合わせながら話し合う。相手の隙を、手さぐりで探るかのように。
「確かに、アメリカのRXはZOが出ていたりとかで酷かったが、日本の光太郎は最強ライダーだぜ?」
「日本の作品なんて知るか」
「パワーレンジャーや侍戦隊だって、元をたどれば日本のヒーローだぜ?」
「まあ、ドラゴンライダーはいい出来だとほめてやるよ」
「日本では龍騎っていうんだ。覚えておいてくれよ」
 話し終わった瞬間、DKGは虚空から出したジャックブレードで、ファントムは霧で作り出した白い刀のような刃物で、互いの脇腹を刺す。
 グシャァ! 互いの脇腹から、大量の血が流れ出した。

33DKGとファントムさん  ◆lzXMjKhUPM:2011/09/20(火) 00:21:46
「……どっから出したその刀」
「……前こそ銃器だけじゃないのか」
 DGKはこの程度では死なない。何故ならと聞かれたら、これは作り物、ただの見た目だ。
 だが、ファントムの方が少しおかしい、確かに自慢の腕っ節でファントムのふざけた装甲を深々と刺してやったが、都市伝説では重傷にはならないはずだ。
 それに、ジャックブレードについたこの血、

 ――――都市伝説の見かけだけのものではなく、人間の血ではないか?

 あり得ない。吸血したり人を捕食する都市伝説からは人の血が流れる事がある。
 だが、だがこの都市伝説はヒーローという、人を食べるとは聞いたことが無い。相手が悪人だとしてもだ。
 ならなぜ? と頭をフル回転させて考える。
 ふとファントムは扉に向かってよろよろと歩いており、今にも逃げ出しそうだ。
 気になるのなら、アイツの体に聞く事にしよう。
 そう結論づけたDKGは、先程のファントムと並ぶスピードで勢いよく走りだす。
 この時、DKGは気が付いていなかった。ファントムの右足が、青く、怪しく光っている事に。

 DKGがファントムの頭を掴もうとした瞬間、DKGの頭はファントムの回し蹴りの餌食となり、そのまま壁に叩きつけられ(この時、壁は壊れた)、DKGは気絶した。

34DKGとファントムさん  ◆lzXMjKhUPM:2011/09/20(火) 00:22:38

 朝になると、DKGはいつものソファで起きた。まわりにファントムは見えない。
「……少女の顔を蹴るなんて、信じられないな」
 DKGが起きた時の一声は、とても皮肉な物だ。
「仕方がないでしょう」
 キッチンの方(廃墟だが、DKGの力を使ってなんとか使えるようにした)から、おいしそうな匂いとさわやかなな青年らしき声が聞こえる。昨日の男とは明らかに違うものだし、明らかに普通の人の声だ。
「あなたが大人しく私の話を聞いてくれなかったんですから」
 この廃墟の唯一のテーブルに、さわやかな青年が持ってきた、ブレックファーストと白いほっかほかのご飯が置かれる。
「……いやお前誰だよ。何でここで料理なんか作っている」
 人間なら発狂しかねないほどの殺気を込めて睨みつけるが、さわやかな青年はもろともしない。
「ひどいなー」
 と勝手にソファの手すりにすわり、ヘラヘラと手を振る。
 久々に罪悪感なく人を殺せそうだと確信したDKGは、強く強く拳を握る。
「昨日殺し合ったのに、もう忘れてるんですか? この忘れん坊さんめー☆」
 めー☆ でかなりイラついたが、その前の言葉に違和感を覚えた。
「待て、俺は昨日、人を軽く2000人ぐらいの人間と、都市伝説50体ぐらいしか覚えが無いが、お前みたいなのは初めてみたぞ?」
「ああ、そっかそっか」
 青年は何かを思い出したかのように、青年自身が着ている黒いコートの懐から、白いマスクを取り出す。それは、昨日初めて会った都市伝説――――ファントムの物だった。
「……お前、ファントムの契約者か」
 あの夜、近くに契約者の人間がいなかったので、野良だと勝手に思っていたが、契約者がいるなら、あの反則技と、『殺しても意味が無い』という発言に少しは頷ける。なぜなら契約者がいれば力を付けることも可能だし、無理して有名になろうとせずとも消える心配はないわけなのだから。
 だが、不思議とそのマスクからは都市伝説の気配がしない。
「まあまあ、見ててくださいって」
 右手に持ったマスクを右に突き出し、左手は軽いスナップをしながら前に突き出す。
「変身!」
 叫びながら、左手を握りその脇を締め、右手で大振りをしながらマスクを被る。
 ああ、日本でいう痛い人ってこういう奴の事をいうのか、と何か納得してしまった。
 だが、突如そこに大きな都市伝説が存在していた。
 その体は、昨日の都市伝説、ファントムと瓜二つ、いや、全く同じものだった。
「ファントム、参・上!」
 右手を『参』のところで左肩あたりに固定し、『上』のところで右手の人差指でどこかを指さす。
 一連の動作を終えると、そのマスクの大きな目が青く光った。

35DKGとファントムさん  ◆lzXMjKhUPM:2011/09/20(火) 00:23:38
 何からツッコミを入れようか、と頭がパニックになっているDKG。
 そんなDKGを見て、サッと頭を抱えている。
「……見るな。こうでもしないと都市伝説になれないんだよ」
「……都市伝説に、なる?」
 その言葉に違和感を覚えた。
 なんだそれは。まるで元々は人間のだったかのような口ぶりじゃないか。
「話せば長くなるが、聞くか?」
「……聞く」
 断って勝手に記憶でも覗いてやろうと思ったが、記憶のハッキングとか簡単にしでかしそうなので、聞くを選択した。
 ファントムは椅子に座ると(この椅子はいくつかある)、懐かしそうに話しだした。
「あれは二年前……俺が中学生の時だった」
「……って事はお前高校生か?」
「細かいところは気にするな。……あの時、俺はまだ子供だった」
「今も十分子供だろ?」
「三歳児のお前に言われたくは無い」
 気を取り直すように、ゴホン、と咳をする。
 実際にそういう仕草をする人っているのなと思ったが、話を進めるため受け流す。
「パルクールを知っているか?」
「ああ、確かフランス発祥の忍者みたいに街を駆け抜けるあれだろ?」
「そうだ。俺は面白そうだからと独学で習得した」
「暇だったんだな」
「中学生だったからな。それで、俺は夢を叶えるため、これを作った」
 そう言いながら、コンコンと白い体を指で叩く。
「これ、自前か」
「自分でもほれぼれしそうな出来だ」
 誇らしそうに胸を張る姿は、まるで少年だ。
「で、お前の夢ってのは何なんだ?」
 その言葉を聞くと、表情を隠すためのマスクがひきつった気がした。
「……笑わないか?」
「人の夢を笑う奴は死刑だと自負している」
 殺人鬼が言うにはおかしなセリフだと思うが、そう思っているのだから仕方がない。
「……そうか、なら言うぞ」
「おお、言え言え」
 ゴクリと喉を鳴らし、見えない唇を動かして、ファントムは言った。
「俺、特撮ヒーローになるのが夢なんだ」
 それを聞いた瞬間、
「あっっははっはっはっはは!!あっはっはっはっはっははは〜〜〜ッ!!」
 DKG思い切り笑っていた。

36DKGとファントムさん  ◆lzXMjKhUPM:2011/09/20(火) 00:24:18
「笑わないって言っただろうが……ッ!」
「笑わないなんて約束してないし、お前は都市伝説だろうが〜っ!」
 まだ笑いは収まらないらしく、腹を抱えてゴロゴロと床を転がりまくる。
 DKGの笑いが収まったのは、十分後だった。
「――――ああ、いい年をした男が特撮ヒーローだなんて、おかしいおかしい。久しぶりに盛大に笑っちまったぜ」
「……傷ついた。俺のガラスの心は傷ついた……ッ!!」
 ファントムは屈辱的だったらしく、頭を抱え床に額の部分をガンガンと叩きつけている。
「悪かった悪かった。もう笑わないから、続けてくれ」
「……俺はこの恰好で外に出た」
「――――ぶふぅ!?」
「今笑っただろ!? 絶対笑ったな! ゆるさんぞぉお!!」
「笑って無い! その刀をしまって話を続けろ!」
 ファントムはいつの間にか霧で作り出した刀を霧に戻し、落ちつきながら話す。
「路地裏を歩いていると、大の大人のはずの、明らかに不良だと一目でわかる連中が中学生一人囲んでいたのさ」
「定番だな」
「事実なのだから仕方がない。それで、俺はその中学生を助ける事にした。パルクールを利用して、アクロバティックな動きで裁いていった」
 DKGは人の視点で考えてみる。こんなのが宙を舞いながら人をぶっ飛ばしていたら、それはそれは不気味な光景だろう。
「正体はばれないで、段々と噂になっていった。……調子に乗ってさ、どんどんと活躍していったのさ」
「具体的には?」
「荷物が重くて動けなくなってるおばあちゃんから銀行強盗に拳銃突きつけられてるお姉さんまで、やれることはやった」
「……お前、友達いないだろ」
「いますよ。数えた事はありませんが」
 それは、数えられる数だが、絶対に少ないから数えたくないのだろうか?

37DKGとファントムさん  ◆lzXMjKhUPM:2011/09/20(火) 00:25:27
「それでさ、とうとう都市伝説って言われるぐらいになって、ファントムとか呼ばれてさ。浮かれてたんだよ」
 彼は歳は話を聞くに17歳辺りが最年長だろう。つまり未成年だ。よくそこまでになるまでやっていたなと、もう感心してしまうぐらいだ。
「その都市伝説って呼ばれたあたりかな。……ある日、俺はパルクールでいつものように日本を駆け巡っていた。気がつくと、俺はビル群を走りぬけていたんだ」
「落ちたら死ぬな。普通は」
「落ちました」
「そうか…………ってはぁあ!?」
 あまりにも普通に言うので、理解するまで数秒かかってしまった。
「……ああ、それで死んで都市伝説ってわけか。不幸な最期だな」
「それだと私が普通の人間でいられるわけがないでしょう?」
 もっともなところを指摘され、DKGはうぅ、と唸る。
「じゃあその後どうなったんだよ?」
「見事に着地できました」
「………………マジ?」
「マジマジ」
 ……重い沈黙が、場を制した。
「おっかっしぃぃいいいいいいいいいいいいいだろぉぉぉおおおおおおぉおおおおおぉぉぉおおぉおおッッッ、がぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「うきゃう!?」
 あまりに大きな声でツッコミを入れられてしまったので、ファントムの鼓膜が壊れかけてしまった。
「あのな! パルクールっていうのは難しい体操みたいなモンだろ!? それが本当の忍者みたいにそんな高いところから着地できるかっ!!」
「いやーもー驚きましたもん。自分だって『あ、死んだ』って定番みたいなセリフしか考えられませんでしたもん」
「何でそんな事ができるんだよ! 簡潔に説明しろ!」
「どっかの組織の都市伝説関連のなんやかんやに携わる人が教えてくれたんですが、都市伝説っていうのは人の噂から誕生するんですよね。でも、私の場合本当に存在して、生きていて、器がある……細かいところは覚えていないんですが、嘘と真が混ざって、都市伝説として語られ、その通りに行動しているこの姿に、都市伝説パワーが与えられたんですよ」
 成程とうなずき掛けたが、一つ大きな矛盾がある。
「……まあ確かにそんな例もあるかも知れない、少しの矛盾は許そう。だがお前自分の発言には大きすぎる矛盾がある」

38DKGとファントムさん  ◆lzXMjKhUPM:2011/09/20(火) 00:25:58
「え? どこら辺が?」
 マスク越しでも、ファントムがきょとんとしているのが手に取るように分かる
「お前は『この姿に』と言ったな」
「ええ、言いましたね」
「じゃあ人間の姿として……まあ都市伝説パワーと言っておくが……それはないだろ」
 うーん、とファントムは腕を組み、照れるように頭をかく。
「実は、都市伝説になる前に、何度かマスク取られているのを見られてまして……正体までは特定されてなかったんですが、人間がなっているんだといわれ、日本ではリアルライダー、ここら辺ではリアルバットマンとも呼ばれるんです、で、変身! とか言えば本当に変身するんじゃないか? とか、装着してるんだとか言われてまして……本来なら後者が正しいんですが、前者もできるらしい」
 ふと、DKGは思い出す。彼が変身する時に、ものすごく恥ずかしがっていたのを。
 ……そんな恰好で外に出れて、変身ポーズを見られただけであそこまで恥ずかしがるのはおかしいと思うが。
「……悔しいが、納得してやる」
「それはどうも」
 そう言いながらファントムはマスクを外し、黒いコートの下は普通の服に戻る。

39DKGとファントムさん  ◆lzXMjKhUPM:2011/09/20(火) 00:26:39
「それでは、本題に入らせて頂きましょうか」
 そう言いながら椅子に腰かけ、体を預けるファントムの媒体。
「本題?」
「そう、もうあなたに人を殺してほしくないんです」
「……そういやそうだったな」
「だからといって殺し合いに来たわけじゃないんですよ。それにあなたじゃ私に勝てません」
「……まあ、確かに、な」
 あれは不意打ちだが、それでも立派な策略。状況を利用するのは、DKGもしていた事だ。策にはまった自分が悪いのだし、何よりこうやって生かされるという事は、話し合いをしたいんだろう。
「前にも言った気がしたが、俺が人を殺すのをやめれば俺は消える。力では最強だが、存在としてはとても弱い。一か月もせずに消えるさ」
「でも、あなた人を殺したくないんでしょ?」
「――――ッ!?」
 なぜだ。なぜこの男はそれを知っている?
「見ていれば分かります。組織からは彼方の抹消を頼まれていたんです。でも私も人を殺すのは嫌なので……」
「俺は人じゃない。都市伝説だ」
「私からすれば人も都市伝説も一緒ですよ。……皮肉な事にね」
 やれやれー、と言いながら肩をすくめるファントム。
「それに、これは初めてあなたにあった時から思っていたんですが……」
 男は一息をつき、真剣な顔つきで言った。

「私と一生を共にするため、契約してください!」

 なるほど、と素直に思ったし、とてもうれしかった。
 契約、これさえあれば、この男が死なない限り、普通の人間の寿命で生きて、人生を謳歌できるかもしれない。
 だが、『私と一生をともにするため』というのはどうなんだろうか?
 どこかおかしいと思うのは、気のせいだろうか?

40DKGとファントムさん  ◆lzXMjKhUPM:2011/09/20(火) 00:27:28
「まあ別に契約なら条件を果たしてるし、俺は別にいいが」
 こういうのって、普通逆じゃないか? と聞こうとも思ったが、別の疑問を優先させる。
「一生を共にするためって、愛の告白じゃあるまいし……」
「本気です」
「はい?」
 本気の顔つきで、彼はDKGの手を握る。
「一目ぼれですが、私はあなたを一生幸せにします。好きです。大好きです。初めてアナタを見て足してしまいました」
 手から手を離し、彼女を抱きしめる。
「私と契約してください!」
「は!? はぁ!? はぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!??」
 DKGは驚きのあまり、顔を赤くしなが叫んでしまう。
 そして彼女は知らなかった。DKGの略称が、『デレデレ・キュート・ガール』のと噂されてしまうということは……。

 ……続くのだろうか?

41DKGとファントムさん  ◆lzXMjKhUPM:2011/09/20(火) 00:29:19

 初めてという事で勝手がわからず、こんな形になってしまいました。
 自分でも滅茶苦茶だと思いますが、なにとぞよろしくお願いします。

42 ◆2PnxfuTa8.:2011/09/20(火) 23:37:03
【電磁人の韻律詩67〜オシマイの向こう側〜】

 サクリサクリと土を踏みしめる音。
 夜露がはじけて宙に消える寸前の光。
 梟の声だけが暗夜の向こうに吸い込まれていって、それきり帰って来ない。
 死体を収めるにふさわしい無表情で立ち並ぶ石の群れ。
 その中に一人、男が立っていた。
 無言で手を合わせていた。

「何をしているんだ?」
「お前には解るまい。」
「分からないからといって答えない義務はない。」
「俺は奪ってきたものを背負っている。
 この重荷を帰す場所は無い。
 俺から奪われた人間が居たことを俺は忘れまいとしているだけだ。」
「……いまいちわからん。」
「お前はそれでいい。」

 男は、上田明也は一本の小刀を彼に向ける。
 殺気だけで大気が震えていた。

「今日は俺を倒しに来たんだったな。俺が理由を語らなかった以上、お前も俺に話す義務はない。」

 小刀の刃先が目にも留まらぬ速さで胸元まで伸びてくる幻が見えそうだった。

「俺も分からない。何故今になってあんたと戦わなきゃならないのかが。
 でも戦って、戦わないといけないと思ったんだ。」

 明日真が懐から仮面を取り出す。
 静かにそれをつける。
 
「俺もな、あの時何故お前を逃してしまったのか自分でもいまいちよく分からないんだ。
 お前ともう一度戦えばそれが解るのかもしれないとは思っていた。
 ただ分からなくても構わないとも思っていた。
 解らないままの事が有ったって良い、そう思って忘れていた。」

 ああ、そのことかもしれない、と明日真は得心する。
 あの時、自分は死んだのだ。
 上田明也、否、笛吹丁という殺人鬼の手によって明日真はあの時死んでいたのだ。
 あれ以来自分は自分でなく、名も無き正義の味方だったのだ。
 
「あんたに預けっぱなしだった俺の命、返してもらうぜ。」
「面白い、そういう理由で俺に挑むか。」

 今此処で真正面からこの男に立ち向えたならば、この先自分は何も恐れないで戦い続けられる。
 右手を高く掲げ、高らかに叫ぶ。

43 ◆2PnxfuTa8.:2011/09/20(火) 23:37:51
「――――――――――――――――変身!」

 骨で出来た装甲が隙無く彼の体を包み込む。
 強さとは、纏うもの。
 優しい青年は戦う為に姿を変えた。

「行くぞ!」

 対する上田は迷うこと無く小太刀を投げつける。
 明日真に向けて飛来する小太刀はその間に一つが二つ、二つが四つに分身を始める。
 村正には贋作が多いとされる故事来歴に基づいた拡大解釈だった。
 明日真の苦難に運命の都市伝説である狂骨が駆けつけたように、
 上田明也が孤独な戦いを続けていた時には村正が彼の手元へやってきた。
 明日は沢山の刀を紙一重で躱し、上田の元に迫る。
 だが上田との距離が5mほどになった時、突如として彼の身体が後ろへ引っ張られる。
 上田明也が誇る操作系最強能力“自然操作”の一つである重力操作だ。
 明日真が躱した大量の村正は彼の後方で球状になって集まり、強力な重力場を発生させていたのだ。
 
「月夜にさよなら」

 圧倒的な重力に引きずられのけぞる明日に槍となった村正・蜻蛉切を投げつける上田。
 蜻蛉切は重力場に引かれ、投げた時以上の速度で明日の胸へ飛ぶ。
 彼は即座に脚部の装甲をドリル状に変えて地面をしっかりと捕まえてから身体を真後ろに倒す。
 彼の顔の前を射ぬく蜻蛉切の刃。
 偶然にも明日の背後を飛んでいた一匹の蜻蛉を捉え逸話が如く真っ二つにした。
 蜻蛉は槍が自らを通過した事実に気付くこと無く少しだけ飛んで、命を散らした。

「良い的だ。」

 上田は懐から散弾銃を取り出して引き金を引く。
 無論この程度で都市伝説の鎧にダメージなど与えられない。
 が、しかし目の前で高速で動くものがあれば眼を閉じてしまうのが人間だ。
 この手の反射を克服する訓練を受けた訳ではない明日は目を閉じる。
 次の瞬間、彼の埋まっていた地面で大爆発が起きた。
 吹き飛ばされ、重力を持つ黒い玉に引っ張られる明日。
 無論引き込まれれば中は無数の刃物が舞う空間。
 只では済むまい。
 だが彼が球体に飲み込まれる寸前に狂骨はカタパルトへと変化して明日を上田に向けて射出する。
 上田の強烈な重力操作を超える力で撃ちだされた明日は上田に蹴りを浴びせかける。
 慌てること無く上田は蹴りを片手で受け止める。

44 ◆2PnxfuTa8.:2011/09/20(火) 23:39:12
「いつの間にこんな力を!」
「飲み込ませたのさ。」
「己を都市伝説に飲み込ませる!?」
「運命を受け入れた貴様には永遠に辿りつけない境地だ。」

 上田の服の袖から釘が現れて明日の喉笛へ射出される。
 しかし彼の装着していた仮面がその釘を噛み砕く。
 明日は上田の空いていた片腕を掌で横に逸らしながら彼の脇腹に肘打ちを叩き込む。
 肘にビリビリとした感覚が走る。
 骨の鎧を何かが貫いている。
 釘だった。
 赤い部屋の釘だった。

「俺は俺の選びとったモノと共に生きて行く。
 今までも、これからも。」
「誰かを犠牲にしてかよ。」
「犠牲の無い行動など無い。要はそれの大小だよ。
 俺は俺の選んだ道を行くが……大きな犠牲とは虚しいだけなんだ。」
「へえ。」
「欲望ってのはさ、一人で満たし続けたところでたかが知れているんだ。
 一人より二人、二人より三人、同じものを求める大事な人と共に幸せになることで……
 欲望を満たしたときの幸福感は何倍にも増していく。」
「沢山の人を犠牲にしてやっと得られた結論がそれか。」
「ああ。」
「道徳の教科書に書いてありそうだな。」
「俺みたいな奴が昔居たんだろうさ。」

 明日真の掌底が上田の顎を射ぬく。
 重力の制御により上田は一気に空へと吹き飛ぶ。
 こうすることによって衝撃が頭に行くのを防いでいるのだ。
 そしてこういう形で距離がとれたことにより、巻き添えの心配なしに上田は再び重力球を明日に向けて誘導できる。

「ぬおわああああああああ!?」

 大量の刃物の嵐の中に飲み込まれる明日。
 だが狂骨の力で地下から大量の骨を召喚、自らの盾にしてジッと耐える。

「ほう、凌ぐか。」

 刃物同士がぶつかり合ってしまうためどうしても破壊力に劣るこの攻撃の弱点を突いた良い戦術だ。
 上田は素直に称賛の声をあげた。

45 ◆2PnxfuTa8.:2011/09/20(火) 23:39:49
「だがしかし、それはやはり先ほどと同じように的ということだよ。」

 上田は再び蜻蛉切を構える。
 月が笑い、風が啼く、鳥は眠り、御霊が覗く、暗い墓場。
 完全に制御され支配された彼の世界。
 真夜中に墓参りに行っていたのは決して上田がセンチメンタルになっていたからではなかった。
 夜とは契約者にとって都市伝説の力を取り込む時間。
 そして人々の恐怖が集まるこの空間において上田はゆっくりとその器に力を満たしていたのだ。
 駆ける無情は銀の刃。
 遠く輝く明星の輝きに蜻蛉切から涙の如き光が零れる。
 実際、蜻蛉切に、村正に眠る戦士の記憶は涙を流していたのだろう。
 美しかったのだ。
 それほどまでに。
 上田が明日を貫く為に一瞬だけ開けた重力球の隙間から覗いた瞳が。
 一瞬の隙を狙い続けていた明日真の瞳が。


 雷となって重力球から飛び出る真。
 どこからともなく轟音を立ててやってきたバイクに跨り骨の道を使い宙に浮かぶ上田に襲いかかる。
 こうなってしまえば重力球の緩慢な動きで明日は捉えられない。

「うおおおおおおおおおおお!」
「はははははははははは!」

 白骨の道を駆け登ってくる明日の拳に合わせて上田は蜻蛉切を……繰り出さない。
 懐から取り出したのは釘のように長い投擲用の剣。
 それを三本投げつける。
 車体を真横に倒して明日はそれを華麗に躱す。
 そしてそのままその場で一回転。
 大量の骨の破片を上田に浴びせかける。
 その直後に、明日真のバイクの眼と鼻の先で村正が踊った。
 恐らく上田は直進してくるであろう明日を狙うつもりだったのだ。
 再び全力で加速して上田を狙うバイク。
 重力操作で逃げたところで追いかけていく。
 上田はある程度の高度まであがると自然落下を始めた。
 そうしながら上田は懐から戦闘機にでも積んでいそうな機関銃を取り出して撃ちまくる。
 真上に居る明日と彼のバイクを守る骨の鎧がすこしずつ砕ける。
 それでも押しつぶすような形でバイクの車輪が上田に迫る。
 機関銃を投げ捨てた上田は突如として姿を消す。
 明日は炎に包まれていた。

「なんだそれは!?」

 上田はロケットエンジンのような物を背中に背負っていた。
 あれで飛んだのだと明日は理解した。
 彼も薄々は理解していたのだ。
 上田明也という男にとって、都市伝説の能力とは武器にすぎない。
 使える武器の一つ。
 それ以外にも武器はあるしそれ一つに拘る必要はない。
 上田という男はそう思っているのだ。
 故にその戦法は無形。
 自分の動きにあわせて無限に姿を変えていく。
 赤い部屋という能力も対応力を極限まで上げる為の選択だったのだ。
 上田はロケットエンジンも投げ捨てて地面に着地する。

46 ◆2PnxfuTa8.:2011/09/20(火) 23:40:20
「……良い腕してるな。」
「褒められても嬉しくはないよ。」

 上田の手の中から真っ赤なコートが現れる。
 都市伝説だ。
 見たこともない。
 否、明日真はあれを見たことがある。
 上田が凶行に及ぶ時に常に着ていたコート。
 あれは只のコートではない。
 何が起きているのか、明日真は理解できなかった。

「お前はまだ気づいていない。」

 上田は纏った。
 その、赤いコートを。
 
「お前が今此処で人妖の境界を超えたことに。」

 時間が凍りつく。
 そして巻き戻る。
 明日は理解した。
 上田が自らを赤い部屋に飲み込ませた意味を。

「変身とは境界を超える儀礼なのだ。人と、それ以外の。」

 自らを都市伝説とすることで“都市伝説としての自分”に飲み込まれることを防いでいるのだ。
 逆に言えばそれはいくら強靭な精神を持っていたところで自分になら飲み込まれかねない危険性を示唆している。

「認めよう、お前が俺と同じく人間の境界を超える者だということを。」

 だから今までそれを使わなかったのだ。
 ならば今ここでそれを使った意味とは…………

「人間ではない、契約者として、全力で貴様と戦ってやる。」

 明日の真後ろから上田が現れる。
 居るのに、物音もするのに気配は感じられない。
 その姿はまさに都市伝説に語られる殺人鬼だった。
 姿を見せること無く、死体を残すこともなく、標的を決して逃さない殺人鬼。

 目の前の墓石が二回だけ同時に音を立てる。
 それが彼の動いた証だった。

 拳を振り抜く。
 頼りは直感のみ。

 空振った。

 装甲の隙間に突き刺さる貫手。

 今自分は何をされたのだ?
 まるでそう、時が止まったようだった。
 上田の姿が彼の目の前に現れる。
 明日は再び彼に向けてバイクを走らせる。

 次の瞬間、彼の目の前の地面に穴が開く。
 咄嗟にバイクから飛び降りた明日は一瞬だけ赤い影が走るのを見た。

 骨の弾丸を大量にばら撒く明日。
 まったく同時にはじけ飛ぶ弾丸。

 今度は蹴りが突き刺さる。

 明日真の脳内で一つの仮定が出来上がっていた。

47 ◆2PnxfuTa8.:2011/09/20(火) 23:41:07
「時間を……止めている?」
「予想外だよ、お前がここまで出来るとは本当に思ってなかったよ。」

 契約者の行使する都市伝説能力とは即ち無意識の精神的才能の発露だ。 
 都市伝説とはそれを引き出す為のツールにしか過ぎない。
 そのことを上田のように完全に認識できるならたとえ飲み込まれたところで“自我”を支配されることはないのだ。
 そして上田の精神は地獄のような戦いの中で確実に変質していた。
 歪んだ性的欲望などではない。
 もっと圧倒的で絶対的な支配。
 自らの求める限りの支配だった。
 人の心など所詮は電気信号の集合。
 彼が支配したかったのはそんな小さいものではなかった。

「今の俺は文字通り、“世界”の“支配者”だッ!」

 上田が明日の目の前に現れる。
 拳と拳がぶつかる。
 鎧で守られた筈の明日の拳に激痛が走る。
 赤い影のみが高速で揺らめいている。
 背中から打撃が、四肢に斬撃が、頭部に銃撃が、感知し得ない攻撃が何度も何度も叩き込まれる。

「うわあああ!」

 悲鳴をあげて吹き飛ぶ明日。
 激痛に耐えかねてその場に蹲る。

「弱いな、圧倒的に弱い。少し本気を出せばこんなものか。」
「ぐっ……くそ!まだだ!まだ……!」
「無駄無駄ァ!今の俺は“不可知不可触の殺人鬼”!
 能力としての“無敵”だ!ただの契約者であるお前に勝てる訳がない!
 俺が百回以上の殺人を一切の物理的証拠を残さずに行ったからこその力だ!」

 赤い朧な影のみが揺蕩っている。

「無敵……か。」
「その通り、無敵だ。」

 白刃が明日の首に突きつけられる。

「貴様の負けだ。」
「上田……いや委員長さんよ。」
「なんだ。」
「あんたはその力で何をするんだ。」
「俺の欲望を満たす。」
「ならまだ負けられないなあ、いくら最強でもいくら無敵でも……!
 奪うために戦う人間に負けるわけにはいかない!」
「抜かせ!」
 
 村正が明日の首に向けて振り下ろされる。
 派手な音を立てて真っ二つになった髑髏。

48 ◆2PnxfuTa8.:2011/09/20(火) 23:41:47
「ん?」

 そう、それは明日真ではない。
 上田が真っ二つにしたのは明日真の身体を守っていたスーツだった。
 明日真は狂骨のスーツを脱いで骨のドリルを使って地面に潜っていたのだ。

「空蝉……何処に消えた!?」

 上田は警戒して後ろを振り返った。
 なんの偶然だろう、その瞬間丁度朝日が山の上から姿を見せた。
 上田の目に直射日光が突き刺さる。
 だがその程度で上田は怯まない。

「上田明也!あんたは時間なんて止めてない!
 時間を止められたなら俺にトドメを刺す瞬間にもそれを使った筈だ!」

 上田の拳と明日の蹴りが交差する。
 明日はそのまま空中で回転しながら着地すると上田に向けて再び構える。

「あんたは俺の感覚に干渉して意識の空白を作った!
 その僅かな空白の間に高速移動をすることでさも時間が止まったような演出をしたんだろう!
 骨の弾丸を同時に弾き飛ばしたのは重力操作って所だろ?
 不可知不可食の殺人鬼なんて居ない!全てはあんたが演出したトリックだ!」
「パーフェクト!予想以上だ!」
「暗示の類ってのは一度見破られると効きづらいらしいな……!」
「それは食らって試すと良い。」

 村正の一太刀が明日に突き刺さる。
 
「どのみち彼我の実力差は変わっていないんだからな。」

 明日は自らに刺さった村正をつかんで不敵に笑う。
 
「どうかな?戦いはテンションらしいぜ?」

 彼は上田の腹に骨のドリルを突き刺した。

「俺のテンションは最高潮だぜ!」

 互いにこの至近距離ではろくに能力を使えない。
 能力の発動の隙がそのままダメージになるし、
 能力を発動したところで自らも巻き込んだ自爆になるからだ。
 故に最も原始的な戦い方、殴り合いで勝負は決着する。
 骨の砕ける音、肉の裂ける音、血の弾ける音。
 流れ続ける互いの血肉。
 上田の右ストレートが明日の頬を捉える。
 明日の掌底が上田の顎を撃ち脳を揺らす。
 ほぼ同時に互いの右拳から血が吹き出す。
 額と額がぶつかる。
 上田は壊れた筈の拳を振るって明日に殴りかかる。
 明日も骨が折れている筈の腕で掌底を繰り出す。
 明日が姿勢を低くしてローキックを出したかと思えば上田は跳躍して踵落としを決める。
 踵落としを外した上田に明日が肘打ちを繰り出せば上田は至近距離からの体当たりを叩き込む。
 動くたびに互いの血肉が傷口からこぼれ落ちる。
 崩れ落ちる。

「…………。」
「勝ったか。」

 最期に立っていたのは上田だった。
 体内にある血液の量から言えば順当な結果である。
 もっとも原始的な戦いはもっとも原始的な理由で決着がついたのだ。

49 ◆2PnxfuTa8.:2011/09/20(火) 23:43:02







「…………また負けたのかい。」
「返す言葉もございません……。」

 数日後、明日真は包帯ぐるぐる巻きで自宅療養とあいなっていた。
 無論看病しているのは恋路である。

「なーんで負けるかなあ、一回勝ったんでしょう?」
「いやだってあれはなんかさー、すげえ虹みたいなのがブァー!って!」
「訳がわからないよ……。」

 盛大に負けた明日は応急処置だけされて家に送り返されたのである。

「ま、これじゃあまだまだ正義の味方とは言えないね。」
「そんなあ……。」

 がっくりうなだれる明日真。
 それを見て微笑む恋路。
 
「どれ、後で改心して善良な市民になっている上田さんのお見舞いにでも行こうかね。」
「置いてかないで〜!」

 因果応報。
 全ての事象には原因があり、全てが原因で事象を生み出す。
 それがラプラスの悪魔を支えている理論。
 人を殺せば殺される。
 物を盗めば盗まれる。
 眼には眼を歯には歯を。
 誰もが納得できる単純で明快な理論。
 ラプラスの悪魔のみならずこの世に生きる大抵の存在がこの因果の中で生きているのだ。
 でも、それを超えて生きていける存在も居る。
 明日真、彼はそれを超えた。
 私の予想を超えて。
 この物語の語り部、橙・レイモンの予想を超えて。
 ラプラスの悪魔を支配する規律を超えて。
 正義の味方である筈の彼が、我欲の塊であり悪そのものだったあの男と同じように私の予知を超えていった。
 面白いものを見せてくれた、ありがとう、明日真。

【電磁人の韻律詩67〜オシマイの向こう側〜 fin】
【電磁人の韻律詩 完結】

50呪われた少女は鳥居を探す ◆12zUSOBYLQ:2011/09/21(水) 14:24:03
学校町のとあるカフェ。授業をサボったらしい少年以外に客はいない。
彼が冷たいココアと平和な昼下がりを満喫していると
「こんにちはー!」
子どもの声と共に、シャツを思い切り引っ張られて危うくココアごと後ろにひっくり返りそうになった。
すんでのところで踏みとどまり、後ろを振り返ると、そこには小柄な少女がひとり。
「えーと、ここに描いてある鳥居を知らないかな?」
顎のあたりで切り揃えられた黒髪に、薄青色の瞳。
来日して間もない外人の子どもが観光名所を探している。
そんなふうに判断した少年が口を開くより先に、一枚の画用紙が眼前に突きつけられた。
色鉛筆で描かれているどこかの神社らしい小さな鳥居と鎮守の森…のようなもの。
少女曰く、鳥居は「呪いのサイト」と云う都市伝説であり、
自分はサイトの写真にあるこの鳥居を見つけないと死ぬのだと言う。
「なあチビ、これお前が描いたのか」
「うん。ホントはプリントアウトしたかったけど」
少年は苦笑いした。
「絵が下手すぎてわかんねえよ」
その声が届いた瞬間、少女の眉は見る見るうちに吊り上がる。
顔は目に見えて赤くなり、瞳が水分過多になってゆくのがわかる。
ヤバい泣きそうと焦った少年が、でもお前日本語は上手だなと、フォローを入れたが
少女はふくれっ面で店を飛び出していった。
「あちゃー、失言だったな」
まあ目の前で泣きわめかれるよりいいか。
そう思い直して、氷の融けかかったココアをストローでかき回した。

51呪われた少女は鳥居を探す:2011/09/21(水) 14:25:31
「失礼しちゃう!」
店を出てからも尚、少女の機嫌は傾いたままだったが、何時までもふてくされていられない。
厳重な外出禁止令をかいくぐって出て来たのだ。
もたもたしていたら何の成果もあげられないまま連れ戻されてしまう。
周囲を見回した少女の瞳に映ったのは、ひとりの女の後ろ姿。
女の人なら良い。
大人の女の人ならさっきのあいつみたいに、絵を笑ったりしないで親切にしてくれるかもしれない。
そう考えた少女は小走りに女に近づいて声を掛ける
その前に
女の方が振り向いた。
「私…キレイ?」

52呪われた少女は鳥居を探す ◆12zUSOBYLQ:2011/09/21(水) 14:27:55
その女は大きなマスクで顔の半分ほども覆っている。
言うまでもなく「口裂け女」であり、
ここが学校町でなくてもまともに答えを返す人間などいないだろう。
知らないのか鈍いのか、少女は至って愛想よく返す。
「うん、キレイだよ!」
にっと笑った口裂け女の手が少女の襟首に伸び、そのまま締め上げた。
「な!やだっ」
振りほどこうと暴れる少女を地面に引き倒し鎌を振り上げたその瞬間

「エターナルフォースブリザードぉぉ!!」

叫び声と、口裂け女が両耳を押さえて吹っ飛んだのはほぼ同時だった。
もちろん“エターナルフォースブリザード”が実際に発動した訳ではない。
都市伝説『厨二病』と契約でもしていれば話は別だが。

この少女、ノイ・リリス・マリアツェルの契約している都市伝説は『地獄の声』
とある島にあるという「悪魔の山」
近づくと狂い死にするというその地に響く“悪魔の声”によって、アメリカの調査員二人が廃人同様となり…
彼らは生涯回復することはなかったという。
ノイの能力はその『地獄の声』を自らの声に乗せ、相手の聴覚を直接攻撃する力。
声が出る限り使えて、聴覚のある相手ならば人間、都市伝説を問わず効力がある。
威力も自在とあって
「命のやりとりまではしたくはないが自分の身は自分で守りたい」
というノイにはうってつけの都市伝説だった。

53呪われた少女は鳥居を探す ◆12zUSOBYLQ:2011/09/21(水) 14:31:45

「うう、とんだ災難」
呟きながら身を起こしたノイの視界に入ったのは、無断外出した彼女を連れ戻しに来た大人たち。
「ノイちゃん!」
「ノイ・リリス!このバカ者!」
こうなってみればありがたさ半分、煩わしさ半分といったところだ。
ノイはとりあえず笑顔でピースサインを示して見せた。
外出禁止なんてバカバカしい、あたしだってやれば出来る、と。
黒髪の青年、浅倉柳が駆け寄って抱え込むように抱きしめる。
「ノイちゃん、ケガはない?」
頷くノイのワンピースの埃を払ってやり、ずり落ちたベレーを直してやる。
強かったね、格好良かったよと頭を撫でてもらってご満悦のノイにもう一人歩み寄った人影があった。
それは柳より幾分か年長に見える赤毛の男で、柳に手を伸ばし、首根っこを掴むや否や投げ飛ばした。
「痛っ!」
「いかがわしい真似をするんじゃない!」
「いやまだちょっとハグしただけ…」
「柳!大丈夫?」
赤毛の男の手を振りきってノイが柳に駆け寄り、引っ張り起こした。
彼は背中から着地した痛みに呻きつつも笑って起きあがる。
「大丈夫だよ、ありがとう。ノイちゃんは優しいね」
「うん。だって柳が大好きだもん!」
「こっちに来てくれた日も言ったけど、一人で外に出ちゃダメだよ。
ここは都市伝説がとても多いけど、その分都市伝説と、人や契約者との揉め事が多いんだ」
みんな心配してたんだよ、ムーンストラックと飛縁魔にも後でちゃんと謝ること。
そう柳はノイを諭し、ノイは黒髪を揺らして頷いた。
「あとで…ふたりにも謝る。柳、ごめんなさい」
未だ手を繋いだままの二人を引きはがそうと再び柳に手を伸ばした男を、ロングヘアの女が制した。

54呪われた少女は鳥居を探す ◆12zUSOBYLQ:2011/09/21(水) 14:33:59
ロングヘアの女は「飛縁魔」
柳と契約している都市伝説で、「得意技は色仕掛け、趣味は何でも燃やす事」と公言してはばからない。
赤毛の男は「ムーンストラック」四歳で両親を失ったノイと契約し、それ以来彼女の親代わりをつとめている。
どちらも永く生きてきた都市伝説ではあるが、両者の価値観には大きな隔たりがある事を互いに認めている。
―特に彼らの契約者たちの関係については。
「いーじゃないの。将来を誓った男女の仲睦まじい光景。美しいと思わない?」
「オレは認めた覚えはない!」
常識的に考えて、八歳の少女が一回りも年上の男を連れて来て
「あたしこの人とけっこんする」
と言い出したところで、はいそうですかと本気で言える保護者がいたら、その方がどうかしている。
子どもによくある憧れのようなもので、どうせすぐに飽きると高をくくっていたが
それから四年が過ぎても彼の幼い契約者は「婚約」を取り消す様子はない。
率直に言えば、柳は気に入らない。
日本人にありがちな控えめな性分、と言えば聞こえはいいが、優柔不断としか思えない。
厳格な彼から見ればとにかくノイに甘い。
育ての親である自分の教育方針も差し置いて何でも聞いてやってしまう。頼りないこと夥しいではないか!
お前を疎んじている、とはっきり態度に出しても、奴は困ったような様子で苦笑いを浮かべるのみで何を考えているのか一向に知れたものではない…

どおぉぉぉぉん

派手な雷鳴と、きゃあという歓声に現実に意識が戻る。
いつの間にか水滴たちが落ちてきて、髪や服を湿らせつつあった。
「雨か…」
「ひどくなりそうねぇ。お嬢ちゃんも捕獲した事だし、早く帰りましょ」
「その前にコンビニで傘を買っていかない?」
ノイちゃんが濡れちゃうと柳がハンカチを取り出してノイの頭に被せる。
帽子を被ってるでしょーが、という飛縁魔のツッコミは華麗にスルーした。
帽子の上からハンカチを被せられた当人はと言えば、郷里のウィーンではほとんど見られない夕立が物珍しく、
シャワーみたいときゃあきゃあ歓声をあげている。
ほんの僅かの間に雨は激しくなり、全員があっと言う間に濡れ鼠になってしまった。

55呪われた少女は鳥居を探す ◆12zUSOBYLQ:2011/09/21(水) 14:40:19
「ここまで濡れたら、もう手遅れな気もするけど」
飛縁魔が肩をすくめた。白いシャツは既に水分を一杯に含んで素肌が透け、大いに目のやり場に困る…
否、大抵の男なら見たくて仕方ない姿をさらしている。
ともかく今からでも、傘とタオルでもあれば今よりマシにはなるだろう。
そう結論を出した一同は少し先に見えていたコンビニに向かって一斉に駆け出した。

「……」
雨の中、彼らの後ろ姿を眺める金髪の女。
背が高く、その容貌は美女と称して差し支えないのに、醸し出す雰囲気はどこか陰惨で。
その手には血塗れの斧が握られ、視線は冷たくノイの背中を見据えていた。





続く

56花子様の人たち:2011/09/23(金) 23:24:10
小梅ちゃんパートだけ続き

小梅「ま、まだベルちゃんはこの部屋にいるかもしれない…か、隠れなきや!」

生徒会室の隅に机や箱などを動かしバリケードとし、畳半分くらいの広さの避難所を作る。

小梅「最後は内側から…んしょっと。こ、これでしばらくは大丈夫…。」

最後の壁を内側から引き寄せ、自分の背丈ほどの壁が完成する。
あとはみぃさん率いる飼育委員に任せ、ベルちゃんを捕まえてもらうまで隠れていればいい。

小梅「我ながら良いできのバリケーd…ってぎにゃあああああ!!!!」

バリケードの隙間から体をくねらせ、無数の脚をワシワシと動かして侵入する物体。
脱走したベルちゃん本人(本蟲?)である

小梅「そ、そうだ、このこ達は少しの隙間から入ってこれるんだ…」

自慢のバリケードとその制作に費やした労力は無駄に終わる。
狭いスペース、少しでも距離をとろうと後ずさりしても、すぐに壁に背があたる。
なんど下がろうとしても、それ以上離れられない。
つかかかと硬いフローリングに足音を立てて這い寄るオオムカデ
その牙がうち履きのさきっちょに当たった
軽く蹴飛ばしてしのぐか、でも刺激したら怒らせて危ない、でも噛まれたらマズイ、でもでもでも…
頭が混乱する。
この狭い空間の外からは運動部の掛け声、吹奏楽部の演奏、平和な放課後の時間が流れているのに、自分ひとりここで修羅場…

小梅「あ…あ…だ…ダメ……。」

声にならない声が搾り出され、オオムカデは蛇のように鎌首をもたげ(攻撃モード)もうだめかと思ったとき、ふっと身体が軽くなった。

57花子様の人たち:2011/09/23(金) 23:32:54
???「小梅ちゃん、ヒミツ基地なんて作って楽しそうじゃない。」

身体が浮き上がり、目線がバリケードより高くなったとき目の前にいたのは

小梅「百里せんぱぁーい!!!」

副会長の百里先輩だった。ギリギリのところでバリケードの中から抱き上げてくれたのだった。
ちょっとした高い高い状態で、先輩はほとんど腕を伸ばしたまま私を持ち上げていた。男の人って力持ちだ(※小梅ちゃんが軽いだけです

バリケードの外に下ろしてもらってすぐ、先輩の胸(より低い)にとびつく

小梅「こわかった、こわかったです〜」

百「あ、ヒミツ基地じゃなかったのか。こんな狭いところにベルちゃんと一緒じゃ怖かっただろうね。」

バリケードの中を覗き込みながら、私の頭をなでてくれる。

百「よしよし、小梅ちゃん。もう大丈夫だよ〜」

先輩にくっついてるとすごく落ち着く。さっきまでの緊張が解け、急激に平静が取り戻されて…取り戻されて…

小梅「こ、子供扱いしないでください!!」

半ば突き飛ばすようにして距離をとった。
…つもりが、身体はまだ緊張していたらしくうまく動かず、先輩の足に自分の足がひっかかったりなんやかんやで、
身長140あるかも怪しい自分が、180数センチはある先輩をなんと押し倒していた。

小梅「すッすみません!先輩!!」
ばっと立ち上がろうとして先輩のスネを踏み、再び先輩の上に倒れこむ
百「ぐふっ」
しかし、ついてないときはとことんついていないことが連鎖するもので
ガチャ
みぃ「小梅ちゃーん、学校中探したけどいないよーってうわらば!!!」

押し倒された先輩、その上に身体を這わせるようにしている自分。
その事情を知らずに見たら不純異性交遊の現場そのものなところを目撃されてしまう

みぃ「小梅ちゃんと百里先輩はそういう仲じゃないって聞いてたけど、嘘だったのね!!」

言い訳する間もなく、きびすを返し、大変よーとか言いながら走り去るみぃさん。
入れ違いに更なる不幸登場

書記「遅れてすみませんだみつお!!!」

同じ現場を書記のいちご先輩にも目撃される。

い「わ、私、二人はそういう関係じゃないって聞いてましたけど、実はこういう仲だって信じてましたの!!」

その場で鼻血を噴出し気絶。ああ、もうどこからどう収拾つけたら良いのやら…
とりあえず…

小梅「せ、せんぱい?大丈夫ですか?」
百「小梅ちゃんは軽いから、乗っかられても平気だよ。」

そこの心配をしたわけじゃないんだけど、まあこの様子なら平気か。
小梅「小梅ちゃんって言わないでください…。」

申し訳なさで弱弱しい拳をぽふりと先輩の胸に一撃

百「あ、ごめんねこうm…会長。ところで…。」
小梅「はい?」
百「ベルちゃん逃げ出しちゃうよ?」

先輩の指差した先には、入り口で鼻血出して倒れてるいちご先輩を踏み越え、開け放たれたドアから校舎へ旅立とうとするベルちゃんが。

小梅「あ〜!またふりだしにぃい〜〜!!!」



いちご(それから脱走者の回収まで2時間。みぃさんが広めた誤解を完全に解くのに360時間。二人がむすばれるまで、あと、何時間?)

58舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/09/27(火) 20:27:09
???「Αμαρτωλοσ(アマルトロス)!今なお【モイラ】に抗うと言うのか!」カキィィン!
大王「……ッ!あぁ、抗うさ。」カンッ!
正義「大王……。」

〜数分前〜

ある夏も終わりに近づいていた日、俺達はごく普通の道路で普通に雑談をしていた。

奈海「夏休みも、あっという間よねぇ。」
正義「あと少し長くてもいいのにね。」
勇弥「ほんと、あと少しでハンドガンサイズのレーザーガンの開発に成功しそうなのに。」
大王「……友、また兵器を造っているのか?」

そう、勇弥の発明の多くは兵器なのだ。
正義が腕に付けている戦闘補助トランシーバー『正義注入機』も、
奈海がウェストポーチに入れている十円玉射出銃『コインシューター』も、
楓が腕に付けているカウントダウン腕時計『カウントタイマー』も、
全て勇弥の技術と、契約都市伝説、陰の力の結晶なのだ。

勇弥「ん、開発はだいたい月1個のペース。んで、夏入る前に良いのが見つかってな。
   夏休みが終わる前に、って造ってたんだけど、誤爆が・・・。」
大王「兵器の開発では、エネルギーの制御が1番の問題だからな。」
奈海「あんたもなんでそんなもの造るの?正義くんなら剣だけでも充分強いんだし。」
勇弥「分かってねぇなぁ……。兵器によって生まれる日常もあるわけよ。」
奈海「戦争で勝って云々とか?」
楓「そうじゃない。戦争に使われた兵器も、使いようによっては日常を支える製品となるという意味だ。」
正義&奈海「「兵器が日常を支える?」」

2人の脳裏に、イメージが浮かぶ。
正義は愛用の剣で食材を切り刻んでいるイメージで、奈海は火炎放射器で食材を焼いているイメージだ。
それを察したか、勇弥も楓も呆れるしぐさを取る。

コイン「ま、溶け込んでて分かりにくいのかもね。
    でも逆に、トンネル工事で使われているダイナマイトは戦争に使われたのよね。」
正義「えっ!ダイナマイトって兵器じゃなかったの!?」
勇弥「ん、戦争ってのはそういうものだからなぁ……。」
楓「身の回りにあるものは全て武器となる。だが逆に、全ての武器は日用品に変わるかもしれない……。」
奈海「ふぅん、武器1つでも色々あるのねぇ。」

59舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/09/27(火) 20:27:48
ふと、正義は振り返り。

正義「だから大王も」
大王「いい加減に諦めろ!そんな説得で俺の心が動くとでも思ったか!?」
コイン「えぇー、動くと思ったのにぃ。」
楓「お前たち、揺るがぬ信念をお持ちになっているからこそ大王様はかっこいいんだぞ。」
奈海「十文字さんの心も動かさないといけないわね。」
勇弥「難多き問題だ。」
大王「だいたい、俺から世界征服を奪ったらだな。」



……その時だった。



大王「俺はいったい何“ドクンッ!”の、ため……。」
勇弥「大王、さん……?」
大王「……少年、今の気配は……。」
正義「気配?都市伝説の気配なら、感じてないよ。」
楓「気のせい、な訳ないですよね、大王様ですし。黄昏、集中してみろ。」
コイン「今、私も探ってるんだけど……。とても弱い都市伝説なの?」
正義「……ダメ。ボクは全然分からない。」
大王「……そうか、少年はまだ直接会っていないのか。なら今すぐここから」

言い切る間もなく、全員の目に黒い人影のような何かが見えた。
同時に、全員はそこから何かを感じ取った。

正義「くっ……。」
大王「ちぃ……。」

コインはあっという間に奈海のお守り袋の中に隠れた。
その後すぐに、刃物の煌めきが見える。形状は、鎌。
正義は恐怖に怯える奈海と勇弥を突き飛ばし、大王は楓を抱いて退避する。

奈海「きゃあ!」 勇弥「うわぁ!」ドサァ!
正義「ごめん、緊急事態だったから。」
大王「ふぅ、大丈夫か会長?」
楓「え、は、はい!大王様!」

???「避けたか、Αμαρτωλοσ。」

大王「(こ、この気配、やはり……。)」
正義「き、キミは一体誰!?」

60舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/09/27(火) 20:28:50
正義が目を向けた先には、黒いローブを纏った男が立っていた。
男の手には鎌があり、何より気になるのは背中にはえている黒い翼だった。

奈海「コスプレ、な訳ないよね……。」
楓「明らかに神の類……だが。」

男は全員を睨みつけるかのように威圧する。

タナトス「我が名は【Θανατοσ】。ギリシャに伝わる死を司る神だ。」

その威圧により、また全員の脚がすくむ。

勇弥「【タナトス】……。確か名前が少し出ていただけの神のはず。それがなんでこんな力を……。」
楓「気迫だけで動けなくなりそうだ……。奈海は……?」
奈海「ご、ごめん……立てない……。」

コインもお守り袋から全く出てこない。この場で立っているのは3人だけだった。

正義「タナトス、罪人って、誰の事?」

いつもとは違う口調で、睨みつけながら話しかける。

大王「少年……?」
タナトス「アマルトロスはお前たち全員だ!モイラに抗ったαμαρτια、償ってもらう。」
奈海「何言ってるの!?全然分からない!」
勇弥「ギリシャ語か?とりあえず分かるのは『オレ達は罪人だ』って言った事だ。」
楓「ざ、罪人?私達が、何をしたって言うんだ……。」

【タナトス】は嘲笑し、怒りも混じったような声で語りだす

タナトス「簡単な話だ。まず十文字楓!もう数ヶ月前にお前は交通事故で『Νεκροσ(ネクロス)』!」
正義「し、死んでるって!?」
楓「交通事故……はっ!?」

楓はふと、【数秒ルール】と契約した時を思い出す。
契約した事も知らず、下校中に横断歩道を渡る時、信号無視でトラックが突っ込んできたのだ。
……もしあの時、契約していなかったら、確かに自分は死んでいた。

タナトス「次に日向勇弥!5年以上前に山の中でΝεκροσ!『κρυο(クリヨ)』でだ!」
正義「寒さで死亡?どういう事?」
勇弥「凍死って事か?山の中……あ!」

勇弥が思い出したのは、【電脳世界=自然界論】と契約した頃。
あの時契約していなかったら……。考えた事もなかった。

61舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/09/27(火) 20:29:27
タナトス「心星奈海!三年前にある人間の後を追って『αυτοκτονια(アフトコンニア)』!」
正義「自殺ッ!?奈海が!?」
奈海「後を追うって、……え?でも……。」

奈海は、小学4年生の時、ある人物とケンカをした事を思い出す。
そのケンカの後、居たたまれない気持ちでいた。あの時、後押ししてくれる人がいなければ、謝れなかっただろう。
……だが、そのケンカした人物とは・・・。

タナトス「そして最後に黄昏正義!お前は……三年前にαυτοκτονια!」
正義「ッ!?ボクは……死んでいた……?」
大王「今でもあの日は覚えている。そして……。」

【タナトス】は鎌で全員に向け、最後に大王で止める。

タナトス「モイラを無視し生き続ける人間、そしてモイラを掻き回す者達!
     もうモイラを悲しませないために……私は全てをあるべき形に戻す。」
正義「あるべき……形?」
大王「……来る!」

【タナトス】は思い切り後ろへ振りかぶり、大王の右側を風のように通り過ぎようとする。刃は、的確に大王の首を狙っていた。

タナトス「そう、私こそが『Θανατοσ』だ。」フッ

大王はいつの間にか出現していた黒雲より剣を降らせ、鎌を止める。

大王「悪いな。まだ、死ぬ気はない!」ギィィィ キィンッ!

火花を散らしながら、大王は鎌を払いのけた。

〜数分前/終〜

大王「お前もモイラモイラとしつこいな。そんなに決められたレールを走るのが好きか。」
タナトス「【モイラ】の決めた、絶対的なモイラを捨てる権利などない!」

【タナトス】が鎌の柄を引っ張ると、鎌が閉じて斧のような形となり、先端に鋭い刺が移動した。

正義「変形した!?」
勇弥「なんだありゃあ?!どんな変形機構だよ……!」

思い切り振りかぶり、【タナトス】は斧形となった鎌を力強く大王に叩きつけようとする。
大王は横へ飛び退いたため、それは地面に大きなひび割れをつくった。

タナトス「モイラを受け入れろ。」
大王「断わる。レールの上よりも、何もない道が好きでな。自分の道は自分で決める……。」
正義「だ、大……王……?」

62舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/09/27(火) 20:31:22
奈海「はやく、助けに……。」
勇弥「お、おい、奈海!?」
楓「闇雲に行くな!危険すぎるぞ!」

やっと立てるようになった奈海は、戦うために正義のもとへと走り出した。が、急に金縛りにあったように、動かなくなった。

奈海「あ、あれ?……まさか、コインちゃん!?」
コイン「だめよ奈海!逃げよう!あいつだけは相手にしちゃいけない!」
勇弥「ど、どういう意味だよ?」
コイン「お母さんが言ってたの!『【タナトス】は都市伝説を狩るためだけに生まれた死神』って……!」
楓「死神……確かに鎌を持っているが、いったいどんな神なんだ?」
コイン「分からない……。神とかの情報は、私には読めないし……勇弥くんは?」
勇弥「俺にも分からねぇよ……。ヘラクレスの話で少し出てたぐらいしか知らねぇ……。」


大王「なら、話を聞かせてやろうか?」


思いもよらない言葉が、大王の口から出た。しかしすぐ後に、、刃のぶつかり合う音が聞こえる。

タナトス「その余裕がどこにある?」
大王「まずは、この神に黙ってもらうか。(作戦を立てるためにも、話しておきたいが。)」
タナトス「……。」ピクッ

【タナトス】が後ろに飛び退いた瞬間、正義が大王の前に現れる。

正義「大王、行って!ここはボクが相手をする。」
大王「少年……!お前も聞かないと作戦も練れんぞ?」
正義「戦いながらでもある程度は聞ける。それよりしっかり説明できる方がいいと思う。」
大王「……腹の立つ奴だ。気をつけろよ!」

大王は背を向けて、全力で勇弥達のいる所へ向かった。
正義がそれを確認している時、上から大きな斧が落ちてきた。

タナトス「そんな貧弱な剣で受けられるか?」
正義「受けるんじゃない。受け流すんだよ。」

【タナトス】の振り下ろしたものに、正義は剣をぶつけ、わずかに軌道をずらす。
またその勢いを利用して、反対方向に大きく跳んだ。

正義「身軽な武器も、使いよう。」
タナトス「黄昏正義……お前も多くの人間のモイラを変えた、アマルトロスだぞ……?」

63舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/09/27(火) 20:32:14
その頃、大王は勇弥達に【タナトス】に関する話をしていた。

大王「少年1人で相手できる奴じゃない。可能な限り短くするぞ。」
奈海「大丈夫、早く言って!」
大王「まず【タナトス】について1番重要な事柄、奴は『死を神格化したもの』だ。」
奈海「……神格化?」
勇弥「死という現象・事柄を、神に具現化したって事だ。」
大王「そう、つまり奴は死、そのもの。故に死に関する多くの力が使える。」

と、説明されると、疑問が生まれる。

勇弥「それだけじゃあの鎌は説明できないよな?」
大王「それも問題の1つだ。元々、奴が持っていたのは『死を招く剣』と言われていた。」
楓「剣?では何故彼は鎌を?」


コイン「【死神】に、なりたかったんだよ……。」


コインの震える言葉に、三人に鳥肌が立つ。
正義と【タナトス】の刃が打ち合う音が響いた瞬間、またコインはお守り袋の中に隠れた。

大王「きっかけこそ分からないが、奴はより強くなりたいと願った。そこで考えたのさ。
   『【死神】のイメージを高める事で、【死神】の力さえも手に入れよう』とな。
   元々死神に近い存在、あっさりと奴は【死神】として、より強くなった。
   しかし、鎌は戦闘に向いていない。元は農耕の道具だからな。
   そこで【タナトス】は鎌の内部に鎖を仕込み、柄を引くとハルバートになる機構を組んだんだ。」
勇弥「ハルバートって……。」
大王「15世紀ぐらいに誕生した武器だ。斧の性質と槍の性質を併せ持ち、高い攻撃力を持っている。
   最低でも斬る・突く・鉤爪で引っかける、叩くという使い方が可能。
   だがそれ故に重量は重く、さらに性能を生かすためには迅速で適切な判断力を必要とする。
   つまり、よほどの者でない限り使いこなせず、宝の持ち腐れとなる。」

ふと【タナトス】を見ると、
まず思い切り斧部を叩きつけ、正義が後ろに避けるとすぐに踏み込み突きにかかる。
それを横に避けると、次は薙ぎ払い。正義はそれを剣で受けて大きく退く。

勇弥「すげぇ、あんな重たそうな物を振り回しているのに、正義を押してる……。」

おそらく何も知らない者がここにいるなら、【タナトス】の連撃を全て避ける正義に驚くだろう。
しかし長年正義と共にいる勇弥にとっては、未だに1度も攻撃を与えていない正義が珍しかったのだろう。

楓「と、ところで大王様、ハルバートってあんな物でしたっけ。」
大王「元が鎌だからな。攻撃力と近距離戦に有利とメリットはあるが、重量が問題だ。」
奈海「重いもの振り回してる、と。OK。じゃあ行こっか。」

64舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/09/27(火) 20:34:40
すくっ、と奈海は立ち上がる。その脚は、わずかに震えていた。

楓「行くって、まさか……?」
奈海「正義くんは戦っているのよ?それにいつかの神様とは違う、死神と。
   私達の命もかかってるのに、正義くんだけに任せる訳には行かないじゃない……。」

潤んだ目が物語っている事は、話を聞けば充分に分かった。勇弥と楓も立ち上がり、覚悟を決める。

奈海「コイン!」
コイン「(!?)」ビクッ
奈海「そんなところで隠れてても、どうせ私が死んだらあなたも死んじゃうのよ!」
勇弥「おい、流石にそれは・・・。」
奈海「もしそれが嫌なら、私と戦って。それで負けそうになったら、その時に逃げなさい。」
コイン「……奈海ぃ……。」ヒョコッ
奈海「大丈夫。私ができる限り、守ってあげるから。」

コインは頷き、涙を拭う。

勇弥「……奈海ってさ、時々たくましいよな。」
楓「時折、母親らしさを垣間見れるな。……誰かさんのおかげか。」







タナトス「友情ごっこは終わったか?」


突然後ろから聞こえた声に、思わず勇弥と楓は左右に飛び退く。
運良く、【タナトス】のハルバートの斧部は地面を割るだけだった。

勇弥「って、っと。せ、正義はッ!?」
奈海「……あ!正義くぅん!」

そこには、剣を折られ、火傷やなどで傷だらけとなった正義の姿があった。





正義「ごめん……止められ、なかっ、た……。」


Σχεδιο編第6話「死」―続―

65煉獄の時間 ◆DkTJZY1IGo:2011/09/27(火) 20:59:25
幾度となくこの煉獄の如き72時間を繰り返したことだろうか。
結末を変える為に、

時間は『視覚化』されている。
真理とは、呆れ帰る位に単純なものなのだ。
時間は、「視る」物なのだ。
機械時計、懐中時計、日時計……
人間は空間化された時間を見る。

幾度も繰り返される悲劇を見る、孤独な観測者。

そんな中、変化が、あった。

それは自らのドッペルゲンガーを迎えに
荒神先生の自宅に向かったときだったか。


「貴方は何故戦うの?
痛くて、辛いのに」

怯えた様子の自らのドッペルゲンガーにそう尋ねられた。

「確かに、痛いし、苦しいし、辛かった。
ワカンタンカは悪夢のような強さなんだもの。
何度心が折れそうになったか分からない。でもね……」

「じゃあどうしてそこまでして」

「世界も無論大事だけど、それ以上に……
……私は今の仲間を失いたくないと、思う。
人は決してわかりあうことは出来ない。
だけれども、共に同じ時間を過ごすことは出来る」

「だから、戦う。時間のループで失った『明日』を取り戻すために」

「例え相手が神であっても」

暦は力強く、そう言った。

to be……?

66ボタンプッシュシンドローム ◆DkTJZY1IGo:2011/10/03(月) 21:51:19

「押してはいけないボタンってさ、なんかさー。押したくなるよね?」
中央高校の美術部には割りと人が居たりする。
現在は二人の少女が居た。
その一人、ポニーテールの少女小島亜里沙(こじま ありさ)は
なぜかツボ押しの本を読みながらそんな風に呟いた。
「ヒャア!がまんできねぇ 0だ!とかポチッとな言いながらさー」
「ホントに亜里沙は押しボタンが大好きだよね」
鉛筆でデッサンをしていたショートボブの相方、如月風乃(きさらぎ かぜの)がそう答える。
「怖いのになんか押したくなるのよ。とっても怖いイメージがあるのにさ」

そういいながら小島亜里沙はツボ押しの本から眼を離し
他の部員の作品を眺め渡す。

「香介君のクレヨン画はクレヨンのイメージが変わるわよねー
クレヨンは色を合成することが難しいし、子供のイメージがあるから敬遠されがちなんだけど
香介君の食べ物の絵の模写は匂いさえも伝わってきそう
一年の暦ちゃんの油彩も凄いわねー。
あの子は実際にコンクールで幾つか賞も貰ってるはずだし。
凄い色彩感覚してる。
金閣寺炎上はまるでその場に居合わせたかのような臨場感と炎の赤の臨場感があったもの。
まさに芸術は爆発だ!見たいな感じでさ」

如月風乃が相槌をいれてくれる。

「そういえば最近暦ちゃん見ないねー」
「ねー活動日じゃない日でも来てる位熱心だったのに……」
小島亜里沙が心配そうに言った。

67ボタンプッシュシンドローム ◆DkTJZY1IGo:2011/10/03(月) 21:52:17
「でもま、暦ちゃんならそのうち戻ってくるでしょ」
「でさ、気になってたけど亜里沙なんの本読んでるの?」

「ん?これ?経絡とかツボってさ、スイッチみたいだとは思わない?
痛みに反応して対応した箇所に神経を伝って電気刺激が流れたり活性化するってさ
まんま人体に取り付けられたスイッチ見たいじゃない?」

「いや、別にいいけどちょっとは活動しようよ」
「活動してるよー」
小島亜里沙がいつの間にか書いていたのは火災報知器の非常ベルの絵だった。
如月風乃はため息をついて、そして思い出したようにこういった。
「はあ……このスイッチ押したがり女は……
あ、そういえばありさー
『バスの車内のとまりまスイッチを全て同時に押すと、バスが爆発する』
って噂、知ってる?」
「えっ」
「えっ?」
「なにそれ、怖い。
でもさーそんなことあるわけないじゃん。
ハッハー!如月はお茶目さんだなあ。
さて、あたしゃかえりますかねー」

小島亜里沙は荷物を纏めてそそくさと帰路に着く。

68ボタンプッシュシンドローム ◆DkTJZY1IGo:2011/10/03(月) 21:52:51

「ううーん、如月があんなこと言うからちょっと不安になるじゃないかー!」
小島亜里沙の自宅はちょっと離れた所にあるので帰りにはバスを使うのだ。
何時ものようにバスに乗って、当たり前のように自分の家の近くの停留所までたどり着く……
バスの車内は夕暮れの紅い光につつまれており
小島亜里沙の他の乗客七人は一言も発さない。
何時も見ている、バスの『止まります』のスイッチが酷く禍々しく見える。
何時も行っている行為に言いようのない不安と恐怖が忍び寄った妙な気分だ。
今日に限って他の乗客は誰もスイッチを押さない。
このままでは自らの家の近くの停留所を通り過ぎてしまう。
押さないわけには行かない
「ポチっと……」
こんなにスイッチを押すのに気が進まないのは初めてだ。

小島亜里沙は知らなかった。
この世に都市伝説というものが有るというこの世の真実を。
火災報知器、警報機、駅の緊急停止装置。
そして大統領が持っているというケースの中に在る核のスイッチ
押してはいけない、でもちょっと押したくなるような
非日常への禁断のスイッチ。
核兵器によってスイッチ一つで世界が滅ぶようなことが現実味を帯びたとき
人々のスイッチに対する塵のように小さな恐怖が噂によって収束し、一つの概念が実体化するなどということを。
だがそこまでの恐怖は人の器には中々収まらない。だから条件がつく。
核兵器のスイッチが二つの鍵を同時に回さないと起動しないように。
「全てのスイッチ」が押されないと……
「ま、考えてみればバスにはこんなに沢山スイッチがあるんだから全部同時に押せるわけないよねー」
小島亜里沙は笑いながらスイッチを押していた。

69ボタンプッシュシンドローム ◆DkTJZY1IGo:2011/10/03(月) 21:53:21

そしてその笑いは凍りついた。
バス座席「全て」のスイッチは押されなかったが
七人の乗客『全て』が「同時」にスイッチを押していた。
バスはキッ、と急停車し
言い知れぬ底抜けに嫌な予感が亜里沙の背筋を駆け抜ける。
偶々亜里沙は非常口の近くに座っていたため
座席を蹴り倒しレバーを引きドアを破る勢いで非常口をあけて外に出る……

「お、おいおじょうちゃんなにやって……!」
車掌が警告し他の乗客が何事かとこちらを見ていたが……
「ご、ごめんなさーい!で、でも」

……きっかり五秒後、停留所に止まったバスは
ハンドル操作を誤り対向車に突っ込まれた。
しかも、天然ガスを満載したタンクローリー
この時点ではまだ爆発は……起きない
「や、やばいやばいやばい、み、みんなーにげてー!」
亜里沙が全力で逃げ出し
バスとタンクローリーの長い車体が車道をふさぎ……
「ひっ……!」
バスの後続車のブレーキが間に合わなかった乗用車の運転手と目があった。
その乗用車の乗員はお葬式のような帰りのような黒服を着ていた。
その直後、バスとタンクローリーと乗用車は爆発した。

「きゃあ!」
眼が会った後、地面にしゃがみ込んでしまったことが亜里沙の命を救った。
運良く爆風の範囲と破片にやられることなく
爆風に煽られて地面をごろごろと転がって擦り傷を負うだけで済んだ。

「あわわわわ……な。何でこんなことに……」
がくがくと恐怖に震えながら小島亜里沙は呟いた。

to be……?

70魔法少女マジカルホーリー:2011/10/03(月) 22:03:04

「ワタシ、キレイ?」
「えっ?」

 夜道、背後からかけられた声に少年は振り返った。
 そこには真っ赤なコートを着て大きなマスクで口を隠した女性。

「ねぇ、ワタシ、キレイ?」
「う、ぁ……く、口裂け……。」

 少年はきびすを返して一目散にその場を逃げ出した。

「あら逃げちゃった。返事の出来ない悪い子は……切り刻んであげようねええええええ!」

 一瞬で少年を追い越し、その裂けた口で少年に笑いかける口裂け女。
 少年は小刻みに震えながらその場にへたりこんだ。

「つーかまーえた。」
「ぁ……こ、こないで……。」
「い、や、よ。バイバイ少年、この世の中からさようなら。」
「光よ彼を守れ!『ヴァノ・アルトフィア』!」

 口裂け女が鎌を振るうと同時にどこからか少女の声が響き、少年の周囲に光の壁が立ち上る。
 振り下ろされた鎌が光の壁に弾かれ、驚愕の表情を浮かべる口裂け女。
 その口裂け女の後方に、フリフリの衣装を纏った一人の少女が降り立った。

「なに、あんた……誰よ?」
「人に仇なす悪しき者よ、魔法少女マジカルホーリーの名の下に、あなたを聖裁いたします!」

 魔法少女。
 携えたステッキを口裂け女に向けながら、少女は高らかにそう言い放った。

71魔法少女マジカルホーリー:2011/10/03(月) 22:03:36

「魔法……ホーリー?なんか知らないけど、私の邪魔するんだ。……じゃああんたも切り刻んであげるよおおおおお!」
「高みへ導け!『ヒューエル・ルファ』!」

 口裂け女が魔法少女に襲い掛かるより早く、魔法少女の体は天へと舞い上がった。
 はるか上空へと消えた少女を地上から見上げる少年と口裂け女。

「え……逃げ、た?」
「逃げたわけじゃないよ。これがあの子の戦い方さ。」

 唐突にかけられた声に少年が視線を下げると、いつの間にか一匹の黒猫が足元に寄り添っていた。
 まさか猫が話すはずは、と唖然とする少年を見上げながら黒猫が口を開いた。

「どうしたんだい?ビックリして声も出ないのかい?」
「ね、猫がしゃべってる!?」
「うん、大丈夫そうだね。この中は安全だから安心して見てるといいよ。魔法少女の活躍を、ね。」

 そう言うと黒猫は視線を少年から天へと移し、少年もつられて天を仰ぐ。
 すると先ほど少女が消えた空から流れ星が降ってくるのが見えた。
 しかしよく見るとそれは、光を纏ったステッキを構えながら真っ逆さまに落下してくる魔法少女だった。

「数多を穿て!『ラクス・セ・パアト』!」

 目の前に無数の光の矢が降り注ぎ、口裂け女が光の雨に飲まれた。
 激しくも煌びやかで美しいその光景に少年は一瞬見蕩れる。
 そして光の雨がやんだときそこに残っていたものは、”無傷”の口裂け女の姿だった。

「はっ、見た目は派手だけど大したことないねぇ。遅すぎてあくびが出るよ。」
「あ、あれを全部避けられた!?」
「やっぱり100m3秒は伊達じゃないね。まぁ、マホの魔法精度にも問題があるんだけどね……まったく。」
「どうするの?攻撃が当たらないんじゃ負けちゃうよ!」
「当たらないなら当たらないなりの戦い方もあるのさ。」

72魔法少女マジカルホーリー:2011/10/03(月) 22:04:24

 落下する魔法少女は地上すれすれで急激に減速し、ふわりと着地した。
 口裂け女は余裕の表情で魔法少女に一瞥をくれる。

「ねえあんた、あんなのが当たると思ってんの?魔法少女か何だか知らないけど、あんまりなめんじゃないわよ!」
「だったらこれよ!『モノ・サンジェリカ』!」

 魔法少女の背後に無数の光の槍が現れ、次々と口裂け女に向けて放たれる。
 しかし口裂け女はそれらもステップでかわしつつ、魔法少女へと距離を詰めていく。
 光の槍が次々と地面に突き刺さるが、口裂け女には一つたりとて当たってはいない。

「まだわからないの?あんたの攻撃なんか当たらないのよ!」
「当てる気なんか最初からないわ。あなたはもう”囲われている”。」
「なにをわけのわからないことを……ッ!?」

 口裂け女が地面を蹴りだすと同時に、その体が見えない何かに弾かれた。
 予期せぬ現象に驚きながらも口裂け女は周りを見渡す。
 すると地面に突き刺さった光の槍から迸る閃光が槍同士を結んで口裂け女を囲っていたことに気付く。
 例えるならそれは光の檻。光の槍はその格子の一部にしか過ぎなかった。
 口裂け女は光の檻に向けて鎌を振るうが、それはことごとく弾かれる。

「あんた、最初からこれを狙って!?」
「あなたはもう動けない。そして、これで終わりよ。」

 魔法少女の体がゆっくりと宙に浮き、ステッキに青と白の光が灯る。
 ステッキの光が膨らんで魔法少女の体を包み込み、魔法少女の体が青白く眩い光を帯びる。

「断罪の神ハイゼンよ、わが呼び掛けに応え、悪しき輩に聖なる裁きを下したまえ!『アシュミダ・アル・ハイゼン』!」

 魔法少女の体から放たれた光条が空間を満たし、口裂け女は聖裁された。

73魔法少女マジカルホーリー:2011/10/03(月) 22:04:54

    ・
    ・
    ・


 魔法少女が少年に駆け寄ると、少年を覆っていた光の柱がふっと消えた。

「大丈夫?怪我は無い?」
「あ、ありがとう。あなたは一体……?」

 少女は少年に静かに微笑み、その額にそっと口付けた。

「『アルル・ヴェーラクト』。……キミは”こっち側”を知らなくていい。元の幸せな日常にお帰り。」

 少年はその言葉が聞こえていないかのように虚ろな目で宙を見ている。
 魔法少女は少年の頭を撫でたのちステッキに腰かけ、肩に乗せた黒猫と共に夜空へと飛び立った。

「……あれ?ボク、なんでこんなところでボーっとして……早く帰らなきゃ。」

 少年は頭に残る柔らかい感触に首をかしげながらも、急ぎ家に帰るために走り出した。


    ・
    ・
    ・

74魔法少女マジカルホーリー:2011/10/03(月) 22:05:38

 あああああ恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいっ!!!
 私は枕に顔を埋めてベッドの上でのた打ち回っていた。

「いやあ、今日も大活躍だったね、マホ。」

 黒猫が愉快そうな声で私の羞恥心を抉ってくる。
 この黒猫の名前はクノ。
 私が魔法少女マジカルホーリーになる羽目になった原因だ。
 私は涙目になりながらもクノをじっと睨んでやる。

「あんたの『キミには才能がある』なんて言葉に引っかかってなければ今頃こんなことには……ううううう。」
「何を言ってるんだいマホ。キミは生まれながらにして魔法少女となるべき宿命を背負っていたのさ!」

 ちなみに私の名前は「堀井真帆」。「ホリイ・マホ」。「ホーリー・マホウ」。……もうお分かりだろう。
 『名は体を現す』とはよく言うが、魔法的にも名前というものは重要らしく、私にこの名前がつけられたのも運命だとか何とか。
 この名前の由縁について両親にそれとなく聞いてみようとも思ったが、前述の理由を肯定されると立ち直れないような気がして結局聞けてない。
 多分一生聞くことはないだろう。

「ねえクノ……魔法の才能があるのはいいんだけどさ、魔法少女じゃなくてもっとこう……は、恥ずかしくない方法はないの?」
「いつも言ってるじゃないか。魔法の力は心の力。心が強く望めば、魔法はそれに応えてくれる。」
「だからって、『ノリノリになればなるほど魔法が強くなる』ってどういうことなのよ!」
「羞恥心は心のリミッターだよ、マホ。心を最大限に開放するには、羞恥心をなくすのが一番手っ取り早いのさ。」

 言ってることがなんとなく理解できてしまうのが悔しい。
 悔しいので再びクノをキッと睨んでやる。
 クノはそんな私を見てクスクスと笑っていたが、ピクリと髭を動かしたかと思うと、すっと私を見つめてきた。

「マホ、どうやらまた奴らが近くに出たみたいだよ。」
「またぁ!?ここ最近多いとは思ったけれど一晩で二体連続なんて……。」
「さあ早く!立ち上がるんだマジカルホーリー、町の皆を守るために!」
「わかってるわよもう……神よ、どうか私に、悪を討つ聖なる力を……『アシェック・マジカルホーリー』!」

 真帆の体が光に包まれ、その中からマジカルホーリーが姿を現す。
 そして魔法少女マジカルホーリーは黒猫を肩に乗せ、再び夜空へと飛び立った。



【終】

75彼の結末 ◆vQFK74H.x2:2011/10/05(水) 00:03:24
あの人の優しさが痛かった。


いくらかマシになってきた頬の痛みを感じながら、思う。

あんな風に殴られたのは初めてかもしれない。
あの人とは、ただのバイト先の人間という間柄だ。
友人という訳でも無いのにと、今はもう居ない親友の事を思い出した。


自分を完全に嫌っている訳では無い、とユキは言った。
身勝手な願いだとは思うが、ユキには新しい契約者と幸せになって欲しい。

自分が選んだ選択は、間違ってはいないと信じたい。
彼女が許したとしても、自分で自分を許す事など出来ない。


傍に居てくれていた人に気付きもせず、心身共に踏みにじって――

「――あぁ……本当に俺、疫病神だったんだな

やっと分かったよ、母さん」

この町を出て行くのもいいかもしれない。
ユキを傷つけて、その上従姉妹やあの人達まで傷つけたくは―――




視界がずれた。




疑問に思う暇も無く、崩れ落ちた。
上半身と下半身が、分かたれた状態で。

正確には、わき腹から腰にかけて、斜めに両断されていたのだ。
落下した衝撃で断面から中身が溢れ出て、じわじわと血溜まりを広げていく。


頭部は、まるで潰れた果実のようにひしゃげ、赤に塗れている。


「スクナさん、おつかれさま。今日の人も簡単だったね」
死体を作り出した剣の主――三つの顔と一つの胴、四つの手と四つの足を持った異形に声がかかる。
ビスクドールのような衣装を纏い、髪をゴシック風のレースのリボンで結った10歳程の少女が、ぱたぱたと異形の元へ駆け寄ってくる。

「行こう?頭は潰れちゃったけど、材料は手に入ったし、新しいお友達を作らなきゃ」

どこからともなく飛来した火の玉が死体に触れた瞬間、傍に居た異形と少女を包み込む程の炎と化した。
炎が消えた後には、少女達の姿は何処にも無かった。

続く…?

76ボタンプッシュシンドローム ◆DkTJZY1IGo:2011/10/05(水) 17:15:35
空野暦は思う。
起こらぬことを奇跡という。
或いは、大変に珍しい結果をそう呼んでいるに過ぎない。
後者の一つの奇跡を起こすためにどれだけの代償が存在するか
思慮の及ばぬ凡人ばかり。
想像力のない人間は人の行っていることが簡単に見えるだけだ。
しかも人一人の持てる物全てを差し出した所で必ず奇跡が起きるとは限らない。
「ん……?」
「おはよう・・・・・・・暦・・・・・・」
空野暦は蒼い顔をして廊下を歩いているポニーテールの少女小島亜里沙とすれ違った。
クラスは違えど美術部の活動で何度も会っている顔見知りだ。
しかし何時もアッパーテンションの彼女が葬式帰りの憂鬱っぷりを発揮していること自体が珍しい。
彼女の性格はごり押し大好きノリと勢いテンションと気合で解決するような
押せ押せイケイケでこっちが疲れるほどなのに……

(数秒限定瞬間出力の心の力なら私より上かもー……あれ?)

幸せな真実の奇跡などまず起こらない。
ただし……何事にも例外は存在する。

「なに……あれ……」
色と時間を見て取る暦の優れた霊視能力は小島亜里沙の異変を見て取った。
彼女の本来の気質は温かみある白。
だが亜里沙のほっそりとした繊細な白い指先に、どす黒いモノが絡み付いているのが見て取れる。
特に人差し指は酷い。
恐怖を色濃く示す、黒い硝煙に似た物が彼女の指を取り巻き
それから垂れ下がる時限爆弾の起爆配線コードのような不吉な青。
床には殺意を示す鮮血の真紅の影を落とす。
明らかに亜里沙自身から発せられたものではない。
そしてこの世のものでもない。
契約者や都市伝説でも気がつかないくらいに気配が薄い。
追いかけて何かいうべきか迷っているうちに亜里沙は行ってしまった。

招かれざる奇跡は安いのだ。
なぜならそれは悪夢と同質のものだから。

77ボタンプッシュシンドローム ◆DkTJZY1IGo:2011/10/05(水) 17:16:07
「亜里沙大丈夫?」
如月風乃が心配そうに亜里沙に話しかける
「昨日バスの爆発事故に巻き込まれたからね……
念のため病院いったり警察に事件の事情聴取受けたりで……」
「うわあ……大丈夫だったの?」
「私が降りた直後にバスとタンクローリーが激突してね……
そこに乗用車が突っ込んで大惨事に……」
「十二人死んでたって言うしね……
幸い中央高校の人には被害出てないみたいだけどよく生きてたよ
亜里沙が無事でよかった」
「うん……」
「病院に行ってきたって言うけど大丈夫だった?」
「特に大きな外傷はないって……
なんだか、随分風邪引いてる人多いね」
「インフルエンザが流行る時期にはちょっと早い気もするけど」
「……病院でエレベーターに乗らなきゃ良かったかな……
でも流石にこれは気のせいよね」
ぼそりと、亜里沙は呟いた。
「え、なんか言った?」
「何でもないよー!流石にあの噂と被っちゃったのは驚いたけどもう流石に打ち止めでしょー!!
バスのスイッチを全員同時に押すなんてことはもうありえないだろうしー!!
はっはっはー!風乃、学校終わったらゲーセンとかカラオケにいこうよー!」

亜里沙は知らない。都市伝説には拡大解釈というものがあるということなど。
彼女に纏わり憑く概念は人の恐怖と命を吸って成長し
もうバスという名詞の条件に囚われることなく
スイッチのついた壁や建物、或いは箱という『境界』が範囲となったことなど。
亜里沙は気がつかなかった。病院で彼女の乗ったエレベーターのスイッチに指を触れた瞬間
エレベーターのスイッチ全てにペンキのように真っ赤な血がぶちまけられたエフェクトが掛かり
後から来た病院の患者と医師がそれらを時間差で『全て』押していったことなど。
その結果、病院で起こっていたインフルエンザや感染症が
スイッチを押された病院という箱の境界中で現在進行形でパンデミック(爆発的感染)を引き起こしていることなど……

to be……?

78やる気なさそうな人:2011/10/05(水) 21:27:53

あったらいいなCOA編


退屈を感じた葉は他のメンバーから離れ、一人散策していた。
あまり離れるつもりではないから少しくらい大丈夫だろう、と判断したうえでの行動である。

「お、何かあるかな〜」

途中、採取ポイントを発見。
気の向くままに葉は、とりあえずそこで採取し始める。
雑草、雑草、石、雑草、雑草、干し草、雑草。

「むぅ。何故にゴミしか採れぬ」

なおも懲りずに採取を続けているが良い物は採れない。
ゴミばかりが貯まっていく。
ラックの値が足りなかったのか、
もしかしたらゴミしか出ない採取ポイントだったのかもしれない。
そんな採取ポイントに意味があるのかは知らないが。

………………
…………
……

普通、こういうゲームでは採取するときは無防備になりがちになる。
だから、安全を確かめてから採取を開始するし、途中にも周りに気を配るべきである。
一人で行動しているのならば、なおさらそうしなければならない。

したがって、周りを確認していなかった葉が顔を上げた時、
モンスターと目が合っても仕方ないことではあった。



――――――――――――――


「うにゃーーーー!!」
「あの声は…」

どこかから悲鳴が響いてきた。
何かあったのかと心配するものと、葉が何かやらかしたのかと思うものがいたが、
それでも放っておくわけにもいかないので、とりあえず様子を見に行くことに。

声の元に駆けつけた者が見た光景は、
1匹のモンスターと、そのモンスターからこちらへ逃げてきているカエルだった。
カエルには「葉」と名前が表示されており、「Help!」のアイコンが出ている。

「あれは……カエルの状態異常を喰らったのか」






駆け付けた者達によってモンスターはあっさり退治された。
やれやれといった調子で元居た場所に戻ってきた一同。
そこで葉(カエル)の状態異常を解除しようとしたのだが、なんと誰も回復薬を持っていなかったのである。
なので自然回復するまでそのまま待つことになった。

まぁ、持っていてもそのままの方が静かでいいと思って出さなかった者もいたかもしれないが。
事実、自由に動けないため葉(カエル)は大人しくしている。
そんな葉(カエル)の所へローゼが様子を見にやってきた。

「葉さん大丈夫で……っきゃあっ、カエルっ!」

どうやらローゼはカエルが苦手らしい。
葉がモンスターにやられたことを聞いて見に来たローゼ、
しかし葉がカエル状態になったことは聞いてなったようだ。

しばらく葉(カエル)はローゼをじっと見上げていたが、
突然ピョンッとローゼに向かって跳んだ。
悲鳴をあげて後ずさりするローゼ。
さらに距離を詰めていく葉(カエル)。

どうやら葉(カエル)は大人しくしていたのではなく、
カエル状態で出来ることが無かったためにじっとしていただけだったようだ。


どっかに続け

79けんけんぱ:2011/10/07(金) 20:26:42

 タイルの敷き詰められた商店街を、子供が飛び跳ねながら歩いている。
 『白いタイルだけを踏んで歩く』という、子供ならではの他愛もない遊びだ。
 子供達にとってそれはあくまで他愛もない遊びであって、ほかに何の意味も持たない。

 『兎歩』という歩法がある。
 独特の足捌きで地面を踏み抜くことで魔を祓う、というものだ。
 特段の鍛錬を必要とせず、正しい手順さえ”踏めば”誰にでも行えるらしい。

 もし。
 子供が白いタイルの上を飛び跳ね歩いていたとしたら。

 もし。
 その白いタイルが兎歩の足順に沿って敷かれていたとしたら。

 もし。
 それによって知らず知らずのうちに兎歩が踏まれているとしたら。

 その周辺は兎歩によって魔が祓われた、清浄な空間となっていることだろう。
 そして多くの害意ある都市伝説にとって、その空間は近寄りがたいものだろう。

 魔がいない安全なところには人が多く集まる。
 人が集まればそれに伴い子供の数が増える。
 そして子供が増えればより多くの兎歩が踏まれる。

「よっ、とっ、とっ、とっ……えいっ!ほらー、ゆーくんもはやくー!」

 商店街に子供の足音が響く。


【終】

80舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/08(土) 17:25:50
奈海「正義くん……そんな……。」
タナトス「ネクロスの分際で、私にあの技を使わせるとは。」
大王「(あの技?……しまった、まさかあれを!?)」

ふと、奈海が【タナトス】の所へ歩み寄り、【タナトス】を睨みつける。

タナトス「なんだ?」
奈海「あんたさ、何を怒ってるの?」
タナトス「お前たちがモイラに逆らって生き長らえているからだ。」
奈海「最初聞いた時から思ってたのよ。おかしな事を言ってるって。」
勇弥「お、おい、また……。」

仮にも神、それも死神に口答えは、と止めようとした時、楓が勇弥の肩を叩き首を振る。

奈海「なんで私達が生きてたらいけないの?私達が生き長らえようと努力しちゃいけないの?」
タナトス「……なに?」
奈海「例えば、死にそうな病気や怪我になった時、
   その人や周りの人ががんばって治ったとしたら、その人は祝福されるものじゃないの?
   『自分が死ぬ』という運命が分かるのなら、人は生きる為に努力するべきじゃないの!?」
タナトス「モイラに抗う事は愚かだ。モイラを受け入れネクロスとなれ。」

言い終わったと同時ぐらいに、奈海はコインシューターの引き金を引く。【タナトス】の頬に十円玉がぶつかった。

タナトス「……『ανοητοσ(アノイトス)』。」スゥ…
コイン「“な、奈海ィッ!”」

そして【タナトス】のハルバートが振り下ろされ……。

楓「1!」
タナトス「ッ?!」グググ…
コイン「“奈海、今よ!逃げて!”」
奈海「……あ、わ、分かった。」

とっさに【数秒ルール】を発動させて【タナトス】の攻撃を止める。

勇弥「お前、今日おかしいぞ!?何かあったのか?」
奈海「何?あいつに言いたい事言ってるだけじゃない。」
楓「2、3、っと。(お母さんモードが暴走気味だな……。)」
タナトス「また抗うか。恐れなき攻撃に敬意を評してやろう。」
奈海「敬意……?」
大王「まさかッ……!?おい気をつけろ!あれが出るぞ!」

【タナトス】はハルバートの柄を押し戻して鎌を展開する。

勇弥「何が始まるんだ……?」
大王「【タナトス】の死に関する能力だ。あれは鎌でないと発動できない。」
楓「いったいどんな能力なんですか?」
大王「すぐに分かる。伏せる準備をしておけ。」

81舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/08(土) 17:26:42
すると、【タナトス】は鎌を左から右へ振り……。

タナトス「『κηδεα(葬)』……『φλογα(炎)』。」

その瞬間、鎌から禍々しい色をした炎が発生する。

勇弥「ほ、炎!?」
コイン「“奈海、避けるよ!”」
奈海「うわっ!」

コインの対応のおかげで、奈海は炎を避け、操られるように勇弥の所へ突き動かされた。

奈海「いたた・・・ありがとう、コインちゃん」
勇弥「コインちゃんナイス!」
コイン「“そんなのどうでも良いから、勇弥くん、壁を作って!”」
勇弥「ん?あぁ、了解……。」

言われるままに、勇弥は空気を壁に変換した。

タナトス「『κηδεα』、『νερο(水)』。」

【タナトス】は鎌を右から左へ振ると、鎌から禍々しい色をした水が押し寄せてくる。

勇弥「今度は水か!」
楓「壁のおかげで助かった……。コインちゃん、それで壁を!」
コイン「“いいから!次は飛ぶ準備!”」
勇弥「飛ぶのかァ!?無茶言うなよ!」
奈海「まさか、次の攻撃って……。」

【タナトス】は鎌を天高く掲げ、勢いよく地面へ振り下ろす。

タナトス「『κηδεα』、『εδαφο(土)』。」

その瞬間、鎌が突き刺さった所から禍々しい光と共に地面に亀裂が走り、あっという間に勇弥たちの足元は……。

勇弥「今度は……生き埋めかよ!?」
楓「く、こればかりは……。」
奈海「え、ちょ……。きゃあああああ!」

そのまま勇弥達は、奈落の底へと落ちていった。

タナトス「アマルトロス、哀れなものだ。」
大王「隙あり……!」

突然、大王が懐に入り剣を振るう。【タナトス】は反応が遅く、皮1枚程度を斬られた。

82舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/08(土) 17:28:55
大王「ほぅ。お前という奴が、これを喰らうとはな。」
タナトス「ッ……!『κηδεα』、『ανεμοσ(風)』。」

鎌を下から上へ振り上げると、発生した風が禍々しい色と共に大王へと向かう。

大王「ぐっ……。」

その風を受けた地面も、周りにあったものも、まるで何百年も風に吹かれていたように、全てボロボロになっていく。
唯一大王だけ、比較的軽いダメージで済んだようだった。

タナトス「耐えたか。これを耐えたのは2人目だ。1人目はあそこにいるが。」
正義「……。」

【タナトス】が指差した先では正義が倒れていた。おそらく正義もこの技を、いや、あの4連撃を全て受けたのだろう。

大王「少年は、この攻撃を、耐えたのか……癇に障る奴だ……。」
タナトス「仲間を見捨ててまで私を攻撃した、その結果がこれとはな。アノイトス。」
大王「……見捨てた?」

その時大王は、体のの中で何かが弾けたような感覚を覚えた。

大王「【タナトス】、今『見捨てた』と言ったのか?」
タナトス「あぁ、友情ごっごに飽きたのか?」
大王「……そうか。聞き違えたかと思った……。」
タナトス「……?何を考えている?【恐怖の大王】。」

何を思ったのか、大王はにやりと笑った後、【タナトス】に疑問をぶつけた。

大王「【タナトス】、お前は『見捨てる事』は悪だと、本当は思っているんじゃないのか?」
タナトス「何……?」
大王「そうだろう?小学生ですら、目の前の人を救えなかったと悲嘆するんだからな。自分を襲った人物を、だ!
   ならお前とてそそう思っていても不思議ではない。」

少年は最初からそうだった。『目の前に困っている人がいたら助ける』『手が届くなら手を伸ばす』、そう言って聞かなかった。

俺にはその考えが邪魔だった。

世界征服をする以上、弱者を庇ったがために命を落とすなど、笑い話にもならない。忘れられるが落ちだろう。
だからその考えだけは捨てて貰うつもりだった。だが少年は今なお変わっていない。


……今なら、分かるかもしれない。大王は意を決する。

タナトス「それを認めたから、何だというんだ?私が消滅するでもない。」
大王「俺は見捨てた訳ではない。友と少女、会長もいる。なら俺が助ける必要はないと考えたんだ。」
タナトス「それは憶測に過ぎない。あの技をまともに受けて助かった者は1人といない。」
大王「そうだ。俺の予測は外れるかもしれない。未来を間違いなく知っていたなら、助けただろう。
   そんな人物がいるとしたなら、俺は1人しか知らない。」

83舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/08(土) 17:33:02





大王「     【モイラ】 だ。     」

84舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/08(土) 17:36:24
タナトス「……ッ!!」
大王「運命の神【モイラ】なら、全ての人間の死を予知し、救う事もできよう。
   もしそうなら……あいつらを見殺しにしたのは、俺でもお前でもなく、他でもない【モイラ】」

言い終わろうという瞬間、【タナトス】のハルバートが大王の腹部を切り裂いた。

大王「……流石に効いたな。死の神。」
タナトス「【モイラ】様に責任をなすりつけるとは……アマルトロスに何が分かる!
     私は【モイラ】様の紡ぐモイラに従えば良いと言っているのだ!」
大王「俺が問いたいのはお前の存在だ。ある考えを持ちながら、何故それを貫こうとしない?
   自分の考えを押し殺してまで、こんな事をするのに意味があるのか?」
タナトス「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!貴様に何が分かる!?所詮世界征服を企む者の口が、何を言っても無駄だ!」

大王「【タナトス】、俺と少年の唯一の共通点を教えてやろう。」

―――その顔は、笑顔のようにも見え、何かに満足しているようにも取れた―――

大王「俺も、少年も……自分の考えが正しいかを証明するために行動しているんだ。」
タナトス「は……!?」
大王「意外だろ?俺は世界征服のため、少年は人を助けるため。目的は違うのに同じ修行をしている。
   俺達が間違っているかなど、まだ分からない。だが確かめるためには、動くしかないだろう?」


しばらくそのまま全てが動かなくなった。最初に動いたのは【タナトス】だった。


タナトス「戯言は終わりか?」
大王「動じず、か。」
タナトス「そんな事だろうと思った。そうやって私の戦意を削ぎ落として、その隙を狙ったのだろう?」
大王「ニアピン賞。戦意を失ったら、帰って反省会でも開いてくれると思ったんだが、そう上手く行かなかった。」
タナトス「どれだけ人を舐めれば気が済む?【恐怖の大王】。」
大王「あと1回だ。【タナトス】、お前が本当に迷い、或いは自己の考えを持たないというのなら
   どうやらお前は、俺が思っていたよりも弱いかもしれん。」

【タナトス】はゆっくりハルバートを振り上げた。

タナトス「どうやら、もう一度味わって貰うしかないようだな。」
大王「あぁ、来い……!」

その時、【タナトス】が横へよろめく。同時に、刃の煌めきが【タナトス】のいた場所を駆け抜けた。

正義「だ、大王……雲、もう少し、近くに……。」はぁ、はぁ……
大王「……!それはすまなかったな。以後気をつける。」

いつの間にか、正義は立ち上がって剣を握っていた。。

タナトス「……まだ諦める気は無いのか。」
大王「まだだ、まだ動ける……。まだ足掻ける……!」

ふらつく足を踏ん張り、大王は目を【タナトス】に向ける。

85舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/08(土) 17:37:00
大王「少年、もっと寝ていた方が良いんじゃないか?」
正義「休みすぎたぐらいだよ。おかげでだいぶ楽になった。」
大王「そうか。なら安心だ。」

不意に、地面から四角い透明な何かが浮かび上がってきた。よく見ると、0と1の線でできており、中には勇弥達が入っていた。

勇弥「お待たせしました、1階です。っと。」
楓「……。せっかく遠回りしたのに、奇襲はできなかったな。」
奈海「正義くん、大王さん、大丈夫!?」
正義「奈海、勇弥くん!」
大王「会長、無事だったか!」

改めて全員揃い、喜んでいる正義達だったが、快く思わないものもいた。

タナトス「せっかく葬ってやったのに、出てくるとは……。」
勇弥「あ、じゃあオレ達って今ゾンビみたいな状態か?」
奈海「やめてよ、なんだか気持ち悪いじゃない。」
楓「しぶとさは、この会の誇りだからな。ですよね、大王様?」
大王「あぁ。で、アンデッドを目の前にしたお前はどうする?お前こそ諦めたらどうだ?」

【タナトス】は怒りに震えていた。しかし、急に表情を戻し、ゆっくり鎌を下ろした。

タナトス「遊びが過ぎた……。終わりにしよう。」
勇弥「お、【タナトス】の試練もクリアって事か。」
楓「厳しい戦いだったが……、大王様が極めて下さったんですね。」
コイン「ねぇ、いい加減『すけいでぃお』について訊こうよぉ。」
奈海「そうね。こっちもスケジュール空いてないかもしれないし。」












正義「大王伏せて!」

86舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/08(土) 17:37:32
急に正義の表情が変わり、叫びだす。
しかし間に合わなかった。すでに【タナトス】の姿が消え、急に大王の後ろに現れる。
大王はとっさに勇弥・奈海・楓を突き飛ばした。

勇弥「うおっとぁ!?」
奈海「きゃあっ!?」
楓「うわっ、だ、大王様!?」

楓が振り返ると、大王と【タナトス】の周りから禍々しい色の霧が発生していた。

奈海「なによこれ……。信じられない……。」
勇弥「なんだ、近寄れねぇ……。どうなっているんだ……?」
正義「皆!いったいどうしたの!?」
楓「た、黄昏はあれを見ても大丈夫なのか……?とにかく、あれはいったい……。」

正義以外、震えた声で喋っている。

奈海「コ、コインちゃん、分かる?」
コイン「……うそ、これ、私達があいつに会った時からずっと出てたの……!?」
勇弥「はぁ?!あの時は、たしか普通だったぞ!?」
楓「私達が、ずっと気付かなかったという事になるな……」

すると、はっとしたようにコインが顔を上げ、すぐに頭を抱える。

コイン「……そうだ、大変だ!お母さんが言っていたの。この霧が出たら……。」
楓「た、対処法があるのか……?」

全員が期待する中、コインが口を開く。

コイン「諦めろ、って……。」
勇弥「お、おい、それって、もう逃げられないって事かよ……!」
楓「つまり、あれが【タナトス】の必殺技か。文字通り……。」
コイン「そうみたい……。あれに近づいたら、大人も子どもも、獣も鳥も恐怖すると言われているの。」

全員が霧の様子を窺っている中、奈海はキョロキョロと辺りを見回していた。

奈海「……正義くんは……?」

87舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/08(土) 17:40:51
―――その頃、霧の中では……。

タナトス「アマルトロス、これで終わりだ。せめて死ぬ瞬間ぐらい見せないでおいてやろう。」
大王「き、貴様……何を……?」

【タナトス】の鎌に大王の首がかけられている。今、大王の命が狩られようとしていた。

タナトス「私の能力だ。お前達の言う『恐怖』で動けなくした。」
大王「恐怖……?俺が?」
タナトス「恐怖など、所詮ただ1つのものを指しているに過ぎない。」
大王「恐怖の、根源……だと?」

大王は、始めて【タナトス】に遭遇した時を思い出す。確かあの時も同じ感覚を覚えた。
【恐怖の大王】と呼ばれる存在が恐怖を覚える?少し疑問ではあった。

タナトス「そう、『Θανατοσ(死)』だ」
大王「な……?」
タナトス「兵器、病気、飢餓……。それを恐れるのはタナトスを恐れるからだ……。
     ゆえに人は不死を望む。私から逃れようとする。
     だがそれは無意味だ。望みはかなわない。逃れようとしてもつまずくだけだ。
     モイラを受け入れろ。そして私を恐れろ。」
大王「ッ……。(契約は果たせそうにない、か。)」




それもいい、そうも思った。

その程度の存在だったのだ。


生を受け、自分の存在を誇示せんとし―――気が付くと1人の子どもと命を共にしている。

とても変わった人生だったと思う。


都市伝説なのに、生き物の性を持ち合わせていたという疑問もあるが、それ以前に……。






……まぁいい。もう終わる。大王はゆっくり目を閉じた。

88舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/08(土) 17:41:47

タナトス「遅かれ、早かれ、避けられぬ別れ……。」




タナトス「そう、我こそが……『Θανατοσ』!」









―――モイラ、あなたが命を与え続けるためなら―――









―――私は―――









タナトス「……『ευθανασια(エウタナジア)』。」

89舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/08(土) 17:42:24













             正義「大王ォォォォォォォ!!!!!!!」

















Σχεδιο編第6話「死」―続―

90本の虫:2011/10/08(土) 21:57:05

「ねえ、私、きれい?」
「悪いけどあんまり好みじゃないなぁ。君、本とか読んでなさそうな顔してるもの。」

 夜の路上、本屋帰りと思わしき袋を携えた青年はさらりと応える。

「そう……あんたも私の顔を醜いっていうんだ……。そんな奴……殺してしまおう。」

 すらり、とどこからか鎌を取り出して、マスクを外した口裂け女は青年を睨む。

「それは困るなぁ。まだ読みたい本がいっぱいあるんだ。」

 その言葉と同時に、青年の体に墨文字のような模様が浮かび上がる。
 それは青年の体表の上をぞわぞわと蠢き、まるで無数の虫が這っている様にも見えた。

「おいで、僕の『紙魚』たち。食事の時間だ、いっぱいお食べ。」

 青年の言葉を契機に紙魚と呼ばれた墨文字たちが地面に流れ落ち、一斉に口裂け女へと向かっていった。

「虫を操るなんて悪趣味な……近寄るな気持ち悪い!」

 口裂け女は地面を薙いで紙魚を払い、足元に近づいた紙魚を踏み潰す。
 それだけで紙魚は水に濡れたインクのように、地面で、あるいは空中で滲んで消えた。

「何だ……?随分と弱い都市伝説だな。」
「乱暴にしないでくれよ。彼らはとても脆いんだから。」
「そんなもので私を止められるとでも?……切り殺す。」

 相手の都市伝説は大した力を持たないと踏んだ口裂け女は無数の紙魚を踏み潰しつつ、100m3秒の俊足をもって青年に肉薄する。
 そして手に持っていた鎌を青年の胴体目掛けて水平に振るった。

 だが、口裂け女の鎌は青年の胴体を切り裂かなかった。
 その手に握り締めていた鎌が、いつの間にか消えうせていたのだ。
 代わりに口裂け女の体、本人からは見えない位置では無数の墨文字……紙魚が蠢いていた。

91本の虫:2011/10/08(土) 21:57:41

「なっ、なんで私の……私の……何?私は……何かを持ってた、はず……何、を持って……いた?」
「君の鎌なら、僕の紙魚が食べちゃったよ。」

 本とは、文字を媒介とした『情報』の塊だ。
 紙魚は本を構成する文字、すなわち本の『情報』を食う。
 都市伝説とは、噂を媒介とした『情報』の塊だ。
 青年と契約した紙魚は都市伝説を構成する噂……すなわち、都市伝説の『情報』を食う。

「正確には『口裂け女は鎌を持っている』という『情報』を食べた。ゆえに君は鎌を持たない。」
「鎌、だと?そんなもの無くともお前を……お前を?お前は、いや、私はお前に、何かをしなけれ、ば……何、を……。」
「それと、『容姿を否定された者を切り殺す』という情報も食べさせてもらったよ。」
「ううっ……私は、何のために……何を……。考えがまとまら……一度、逃げ……。」

 口裂け女はその場から走り去ろうとするが、足に、体に、力が入らない。
 いつもならもっと……と口裂け女は思うが、いつもなら何がどうなのかは思い出せない。

「『100mを3秒で走る』という情報もすでに食べた。
 というか、人間で言えば臓器をいくつか奪われてるようなものだから、動くこともままならないはずだよ。」

 うずくまる口裂け女の口が、普通の女性のそれに変化していく。
 それと同時に赤いコートが色あせ、徐々に白く透き通っていく。

「『口が耳まで裂けている』『赤いコートを纏って現れる』『べっこう飴が好き』『ポマードが苦手』。君が君たる君の全て、食べさせてもらう。」

 もはや口裂け女は抵抗する意思さえ見せず、うずくまってぶつぶつと断片的な言葉を呟くだけだ。

「わ……私は……なぜ……何を……。私は…………私とは……何、だ?」
「口裂け女、読了。」

 『口裂け女』を構成する情報を根こそぎ喰らい尽くされた『何か』は、光の粒となって消滅した。
 その跡には黒い水溜りのように蠢く墨文字……紙魚の姿があった。
 その様子は心なしか悦んでいるかのようにも見える。

「さあ帰るよ。折角探してた本が買えたんだ。早く読まなきゃもったいないだろう。」

 くるりときびすを返した青年に慌てたように追いすがった紙魚は、そのまま青年の体に溶け込むようにして消えた。


【終】

92花子様の人たち:2011/10/11(火) 00:29:48
長い文書く元気が無いからこっくりさん短編をこっちに

ある日の夕方、築城家

築「ん…いい具合だな。あとはしばらく待つだけだ。」

小皿で出汁を少し口に含み、その出来を確認。具材は全部入れたし、後はこのまま少し火にかければ完成だ。
そこまで考えてふと洗濯物を取り込んでいないことに気づき、二階のベランダに駆け上がる。
入れ違いに台所に入るものが一人

こ「築城よ、腹が減ったぞ…っておらんではないか。」

弱火にかけられている鍋、その蓋を開ける。

こ「あやつ、一番大事なものを入れ忘れとるじゃないか…」

ここでひとつひらめく。入れ忘れたものを入れてやろう。
いつも食事を作ってもらう恩返しもかねて、この料理に加担しよう。

こ「あれはたしか戸棚にあったはずじゃ〜♪」

鼻歌交じり、狐耳をピコピコさせて戸棚から取り出したものを適量投入、少しかき回して蓋を閉める。

こ「これで完璧じゃ。ヤツも感謝するに違いない。」

恩を少しは返した喜びにほくそ笑んでいると、台所に少年が戻ってきた。

こ「おお、築城よ。お主大事なものを入れ忘r
築「ああああ!!!なにしてんだよこっくりさん!!!!??」
こ「!?」

・・
・・・
・・・・
きつ姉ぇ「あら、今日のカレーは変わってるわね。糸コンニャクが入ってるわ。
     それに和風なお出汁も効いてるし…和風カレー?」
築「ええ、まあ。こっくりさんのアイディアで…ね?コックリサン?(笑顔)」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
こ「う…て、手伝おうと…思ったんじゃぁ…」

おわり
こっくりさんが何に何をやらかしたか、想像に難くないはず

93舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/16(日) 21:31:46
正義「大王ォォォ!!!」
タナトス「ッ!!!??」
大王「少年……?」

突如、霧の向こうから正義の姿が現れる。
正義は剣を切り上げ、【タナトス】の鎌を弾き飛ばす。同時に、衝撃波が放たれたように霧が晴れていった。

奈海「あっ!正義くん!」
楓「大王様ぁ!」

霧から開放された大王は、その場で膝から崩れ落ちた。
【タナトス】は落ちてきた鎌を空で取り、正義を見る。

タナトス「どういう事だ……何故お前は私を恐れない?」
正義「さぁね。でも、キミは恐くないよ。全く。」
タナトス「……まず【恐怖の大王】よりもお前を優先するか……!」

【タナトス】は鎌をハルバートに変形させて、正義に標的を変える。

タナトス「アマストロス、死を受け入れよ!」
正義「残念だけど、ボクも大王と同じ意見さ!」

【タナトス】はハルバートをぶつけるように大きく振りかぶり、正義はそれを受け止める。

勇弥「くそ、正義を助けに行きたいのに……動けねぇ。」
楓「……何故かカウントの能力も発動しない。このままでは……。」
コイン「“そ、そんなぁ……。”」

陰「(ユウヤ……すみません。実体を持たない私も、恐怖を覚えてしまうようです……。)」
伯爵「(楓さん。あなたとお友達を守るために私がいるのに……。自分の不甲斐なさを恨みます……!)」

声の出せない都市伝説もまた、己の無力さを噛み締めていた。
たった1人、正義だけ戦っている、その状況ほど苦しいものは無かった。

奈海「脚に、力が入らない……。……ッ!」
コイン「“……奈海、どうしたの?”」



奈海「コインちゃん、私を呪って。」

94舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/16(日) 21:35:21
急に奈海が悲観的になったと思い、コインは慌てて慰めようとする。

コイン「“え……いや、私だって好きで奈海と契約したのよ。こんな事になったって奈海を”」
奈海「そうじゃなくて!……そういう意味なのかもしれないけど……。」
コイン「“……まさか、能力の話?”」
奈海「……昔さ、コインちゃんの呪いにかかった人がすごい事になってたでしょ?もしそれが出たら……と思って。
   でもコインちゃんの呪いはランダムなんでしょ?だからもしかすると失敗するかも。」
コイン「(……。)」
奈海「でも正義くんも、大王さんまで命懸けで戦ってるのに、私だけ何もしないのは良くないよね。たまには、私だって戦わないと……。」

すぅっと、コインが並みのそばに現れて耳打ちする。

コイン「奈海、なんで私の呪いがランダムか、説明したっけ?」
奈海「……?ううん、聞いてないわよ。」
コイン「それはね、その時の気分で、私が決めるから。……言いたい事、分かる?」ニッ
奈海「……あ……。」


その時、正義と【タナトス】は。

正義「く、たぁ!」カンッ キィンッ
タナトス「そろそろ受け入れ始めたか、モイラを!」キィンッキィンッ!

既に1度倒れている正義にとって、本気で攻める【タナトス】の相手は困難だった。
だんだんと体力を消耗し、ついにその剣を弾き飛ばされる。

正義「あっ!?」
タナトス「隙あり。」

ハルバートを突き刺そうとした瞬間、正義はその場に倒れる。
【タナトス】はそのままハルバートを地面に下ろす。とっさに正義は寝返って、立ち上がっ―――

正義「え……!?」ズッ

もう、正義の腕に力は残っていなかった。或いは【タナトス】の能力も関係していたのだろう。

タナトス「精神は抗えども、肉体はモイラを受け入れたようだな。」
正義「く、動けッ……動け……!!」

その体も、よく【タナトス】の連撃を耐えたものだった。しかしとうとう言う事を聞かなくなった。
【タナトス】はハルバートを大きく振り上げる。

95舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/16(日) 21:36:51
タナトス「『Ματ(マット:チェックメイト)』。」
奈海「いっけぇぇぇえええ!」

いつの間にかそこにいた奈海が、【タナトス】の顔を目掛けて信じられない勢いで跳び上がる。
そのまま跳び膝蹴りが炸裂し、【タナトス】は思わずのけぞる。

奈海「ッ……、痛ったぁぁぁ!」
コイン「“だから危ないって言ったのよ。”」
正義「奈海……いったい何を……?」

その声を聞き、奈海は笑顔を作って正義の前に屈む。

奈海「ふふん、コインちゃんのお呪いよ。」
正義「おまじない・・・?」
コイン「“私の呪いの1つに、『リミッター解除』っていうのがあるの。
    ほら、人の体って100%の力を使うと筋肉断裂しちゃうでしょ?
    だからそうならないように、普通は脳が筋肉を抑制しているの。
    それで、脳のそのあたりの活動を呪いで止めちゃうと……。”」
奈海「無駄に怖い事を……。昔、それを相手に使用して動けなくした事があったの。
   だけど動けなくなる前にすっごく強くなって大変だったのを思い出して……。」
正義「え!という事は、奈海ちゃん……!?」
奈海「あ、そうなのよ。いたた、膝が……。」
コイン「“大丈夫よ。痛くなるなら脚の筋肉だし。めいっぱい加減したから助かったのかも。”」
奈海「あ、そうなの?なら痛くない、かな。」
コイン「“あぁー。滅多にやらない事したから疲れちゃった。帰ったらケーキね。”」
奈海「りょーかい。まったく現金な娘……ね、正義くん。」

ふと正義の方を見ると、正義は辛そうな顔をしていた。

正義「ごめん、奈海……。ボクが守らないといけないのに……。」
奈海「ぇ、えっ?あの、その、わ、私だってほら、正義くんの保護者なんだから。」
正義「……ありがとう。」
奈海「……どういたしまして。」カァァ
コイン「(へぇ……呼び捨てモードなのに『ボク』なんだ。変なの。)」

しばらく微笑んでいた2人だったが、改めて表情が硬くなる。

奈海「正義くん、もう立てる?」
正義「……無理だ。大王には悪いけど、さすがに今回だけは逃げた方がいいかも。」
奈海「そうね。えっと、勇弥くんは自力で使えるから、カードはある?」
正義「確かポケットに。でも勝手に逃げるとまずいよ。勇弥くんに言わないと……。」
奈海「勝手に逃げたら嫌でもテレポートするんじゃない?今は正義くんの安全の方が大」
正義「奈海ッ!逃げろ!!!」

96舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/16(日) 21:37:34
気付く間もなく、奈海の首に鎌がかかる。
すると奈海の周りにわずかだが禍々しい霧が発生する。霧が奈海の四肢を包むと、奈海がゆっくりと宙に浮く。

タナトス「さっきの攻撃は素直に賞賛してやろう。」
正義「奈海ッ!」
奈海「正義、く……ん……。」

奈海が手を開くと、十円玉が転がり落ちた。

奈海「コイン、ちゃんを……よろしく……。」
正義「ッ……!タナトス!」
タナトス「喜べ、このアマルトロスはお前の目の前でネクロスにする。これでお前も知ることができよう。私を。」
正義「……ッ!」
タナトス「恐れろ。そして己のアマルティアを悔やめ。そうする事によってこそ、【モイラ】様も……!」

正義の後ろでは、勇弥と楓が動けなくなっていた。

勇弥「(くそ……体が、口すら動かねぇ……!陰は……?)」
陰「(ユウヤ、私はもう、あなたを救う事はできないみたいです……。)」

楓「(カウント!頼む、奈海を助けてくれ……!)」
伯爵「(すみません、楓さん……。死に怯えて動けないとは、紳士失格です。)」

コイン「(そんな、うそでしょ!?奈海!奈海ぃぃぃ!!!)」

大王は、怯えながらもゆっくりと進んでいたが、おそらく間に合わない。
この状況でまともに動けるはずの正義は、すでに体力を失っていた。

奈海「(もっと、正義くんの傍にいたかったかな……。)コイン、ちゃん、けい、や、く……。」





タナトス「『ευθανασια』……!」



――――――

97舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/16(日) 21:39:00











「やめろぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!」

98舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/16(日) 21:41:33
―――止まった。叫びが爆風と共に広がり、その場の全員の動きを止めた。

全員、その声の主が分からなかった。しかしすぐに、声の主が分かった。





正義「お前なんかに奈海の何が分かる!?奈海は罪人なんかじゃない!
   危険を省みずに僕を助けてくれた、そんな優しい奈海を罪人とは呼ばせない!
   勇弥くんも、十文字さんも、コインちゃんも、大王も……。
   皆がいたから、今のボクがいるんだ!
   これ以上皆を傷つけるのなら、ボクが絶対許さない! 覚悟しろ!!!」





―――しばらく静寂が続き、最初に動いたのは奈海だった。
急に地面に落ちた奈海は尻餅をつき、すぐに正義の側らに戻った。

奈海「えっと……正義くん、ありがとう。」
正義「奈海、だいじょうぶ……だね。」

次に、金属が落ちる音がする。奈海が振り返ると、【タナトス】が鎌を落としていた。
【タナトス】はしばらく固まっていたが、やっと事態に気付き、鎌を拾って後退する。

大王「【タナトス】が鎌を落とした……?さっきの少年の発言のせいか?」
勇弥「せ、正義ィ!」
楓「黄昏、心星!」

勇弥と楓が正義の方へ駆け寄る。

勇弥「正義、今のはいったい……?」
正義「あ、勇弥くん、十文字さんも、動けるようになったんだ。」
楓「動ける……?あ。本当だ。体が軽い。」
奈海「私も。正義くんのおかげなのかなぁ?コインちゃんは?……あ、あそこだ。」
勇弥「ははは、契約解除、ってならずに済んだな。」
コイン「“ぷはぁ”まったくよ。びっくりしたじゃない!」
楓「(今回ばかりは、私も全滅を覚悟したが……。黄昏には驚かされるよ。)」

少し離れた所で、大王は訳の分からない状況を分析していた。

大王「あれは俺の能力のはず……。いや、少年は黒雲から物を生成できる。同じように契約によって得たのだろう。」

99舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/16(日) 21:46:25
しかし問題はもう1つある。【タナトス】が少年に怯えたのだ。死こそが恐怖の根源であると言った【タナトス】がだ。
死を超越する恐怖があるというのか?



死……?恐怖……?……なるほど、そういう事か。全てが繋がった。



タナトス「な、なんだ、これは……?体が勝手に、震え、硬直し、寒気もする……。」
大王「【タナトス】、それが恐怖だ。」
タナトス「【恐怖の大王】……。ふ、ふざけるな!私が恐怖などッ!」

その言葉を受け、大王は不敵な笑みを浮かべる。

大王「【タナトス】、お前は『死こそが恐怖の根源』といったな。だがそれは違う。死もある恐怖の一種に過ぎない。」
タナトス「死を上回る恐怖……だと?」


大王「『未知』だ。」


タナトス「ミチ……『αγνωστο』?」
大王「人間は知らない事を恐れる。それ故、多くのものに名をつけ、全ての事象を研究・証明したがる。
   そしていつか、分からない事象を説明するために誕生したのが【神】。俺達都市伝説の祖先になるのだろうか。」
タナトス「それと、死が、どう関係している……?」
大王「まだ分からないのか?何故都市伝説が怖いのか。『分からないから』だ。
   いつ何処にいるか、何をしてくるのか、どうして生まれたのか……。人はそれに恐怖する。
   しかし知らない事を知るためか、知らない事を作るためか、それは生まれる。
   死だけではない。」
タナトス「俺も恐れるほどのミチを持っている、と言うのか。ならなんだ?」

怯え震える【タナトス】を見て、大王は既に勝利を悟っていた。

大王「お前の恐れるものは、少年の未来だ。」
タナトス「ミラ……『Μοιρα』……?」
大王「未来もまた未知。それは無限の可能性を秘めていると言っても過言ではない。
   それを予測できるのは、一部の都市伝説だけだ。」
タナトス「……。」
大王「そしてお前は【死神】の力を持つ死の神【タナトス】。言い換えれば人の未来を奪う者だ。
   お前は人の未来を奪ううちに、人の未来を恐れるようになったんじゃないのか?」
タナトス「うるさい!根拠も無い事を……。」
大王「あぁそうだ。この意味不明な現実を受け入れるための、根拠もない推測だ。だが1つだけ断言できる。
   今なら俺は……お前を恐れない!」

大王が剣を振るう。【タナトス】は鎌をハルバートに変形させて防御する。
そのまま大王の連撃が続く。しかし【タナトス】は少し前までの技の切れを失っていた。

100舞い降りた大王―Θανατοσ〜死〜 ◆dj8.X64csA:2011/10/16(日) 21:47:01
正義「だ、大王!く……うわっ!?」
勇弥「正義、お前はもう休んでいろ。」
楓「今までずっと戦ってくれていたからな。」
奈海「わ、私も!うッ……。」ガクッ
コイン「わぁ、奈海も充分戦ったよ。勇弥くん達に任せよう。」
楓「あとは任せてくれ。私は都市伝説研究同好会の、会長だからな。」

勇弥と楓が一斉に走りだす。

勇弥「大王さん、剣1本!」
大王「了解、会長は不要か?」
楓「気持ちだけ受け取ります。しかし素手で充分です。」
タナトス「調子に、乗るなァ!」

【タナトス】のハルバートが勇弥に向けられる。

大王「友、あれを受け止められるとは思うな。」
勇弥「自分と正義の違いぐらい分かってるぜ?だから俺の戦い方で。」
タナトス「うっ!?」

勇弥にあと少しで届くというところで、【タナトス】の動きが止まる。

勇弥「空気の抵抗を上げたせいで、動き辛くなったのさ。水の中では走りにくいのと一緒だ。」
タナトス「く、空気を操作する都市伝説か……。」
勇弥「操作できるものは全て。さぁ、いっくぜぇ!」

勇弥の剣が【タナトス】のハルバートを叩き落とそうとする。しかし思った以上に握力が残っていた。

勇弥「あら?」
タナトス「面白い能力だが、器の力が伴っていないな!」
大王「友!伏せていろ!」

大王の掛け声と共に勇弥が伏せると、勇弥の後ろから大王の突きをする。【タナトス】はハルバートで大王の突きを防ぐ。

タナトス「くっ!」
大王「ちっ、これは効くと思ったがな。」
楓「大王様、次は私が!」
タナトス「ッ……。素手で戦えると思うか!?」

【タナトス】は楓にハルバートを突きつける。

勇弥「ちょっ、大丈夫なのかよ!?」
大王「会長なら可能だ。会長にはあの能力がある。」
勇弥「オレの時と対応がおかしい……。まぁいいけど。」


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