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【オリスタ】メゾン・ド・スタンドは埋まらない【SS】

1713話 ◆PprwU3zDn2:2018/04/19(木) 05:07:39 ID:VqShxZKQ0
「ハァ……ハァ……ゼヒ……ゼヒ……」

国綱はあれから体を起こすことすら出来なかった。
超高熱のスタンドが自分の目の前まで迫られたせいで彼の肌は真っ赤になり
汗が滝のように流れていた。この戦いで国綱は大量の水分を失っていたのである。
その状態で精神エネルギーを振り絞り圭を弾き飛ばした……国綱の体は今
大量のヘブンリーを維持することも出来ずにいた。先程まで国綱を守っていた
シャボンのバリアや圭の拳を包んでいたシャボンは消え、宙を漂っていた無数のシャボンも
半分が消滅していた。

(アホらし……なーにが『俺一人で十分』だよ、格好つけといて死にかけてるじゃん俺……
何?最近のガキってあんなに強いの?少し挑発すれば怒って無策に突撃してきて
そのまま返り討ちに出来るもんじゃあないの?まだ一回も『アレ』成功出来てないし
兄さんに援軍を呼んでくるように頼んでおいて良かったよブツブツ……)

国綱は圭の予想以上の強さに思わず心の中で愚痴っていた。
とにかく今は圭より先に行動しなければならない、故に国綱は息を整え体力を回復することに
専念していた。この調子なら数分あれば起き上がれる。そう思っていた矢先に。


圭の声が聞こえてきたのだ。


「おいシャボン玉使い!聞こえるかァ!?」

国綱は今起き上がることも出来ない。なので宙に漂うヘブンリーの一つを操り
圭が何処に居るかシャボンの目で探した。

すぐに見つけることが出来た。
圭は廃車の上に仁王立ちし国綱の方を向き叫んでいた。彼はもう回復していたのだ。

(最悪……)と国綱は半分負けを認めてしまっていた。
自分を守るバリアが消えてしまった今、最初のようなマグマ攻撃を喰らってしまったら
炭になって死んでしまうのは確実であった。
かといって今の疲労困憊の状態では降参の一言すら満足に言えない。国綱は今
どうしようもなくピンチなのであった。


「『3分』!3分待ってやる!それまでに立ち上がってシャボン玉を張り直しな!」


圭はどうやら直ぐには動かないつもりのようだ。3分という回復の猶予を貰い
目前の危機は脱したはずだったが、国綱の表情は晴れなかった。

(今でも十分トドメを刺せるはずなのに敵の回復を待てるほどの『余裕』……
これ絶対俺を充分回復させても確実に倒せる手段を持ってるってことじゃあないか……)

更にヘブンリーの目は悪いことに圭のスタンドの変化を見つけてしまった。

先程まで真っ黒だったはずの鎧が真っ赤に変色していたのだ。
さらに鎧の隙間からは白色の煙がモクモクと漏れ出ていた。

国綱は理解する。あれはスタンド鎧が急激に熱されたことによって赤くなっているのだと。
鎧の下では恐らく大量のマグマを生成しているのだろう、そこで生じた超高熱が
スタンドを熱し赤く見せ、鎧の間から大量の煙を出しているのだと。


そこまで大量にマグマを生成して『何に使うのだろうか』?

決まっている。最初に国綱達にお見舞いしたように『飛ばしてくる』。

それも最初の比ではない位に大量に……『降り注いで来る』!

1723話 ◆PprwU3zDn2:2018/04/21(土) 01:43:59 ID:/GQI2StI0
「見ろ時田!圭のスタンドが真っ赤になってる!」

「……火山突が効かなかったからですね。出しますよ……タマの正真正銘、本気の大技
『火山雨』を。どういう技か、タマから教えてもらってるでしょう?」


圭達から離れた場所に停まっている車の中では、時田と骸がいよいよ終盤に差し掛かった
決闘の様子を双眼鏡越しに観戦していた。

「聞いてるよ……要するに背中の火口から沢山の火山弾をいっぺんに発射して、
それが雨が降ってるみたいに大量に落ちてくるって技だろ?だから今そのために
スタンドの中でマグマを大量生産してるって訳だ……んで、いっぺんに何発くらい
ぶっ放せるんだっけか?20発くらい?」

「……確か最近、100発同時までいけるようになったとのことです」

骸は飲んでいたジュースを盛大に吹き出した。咳き込む骸の背中を時田が
優しくさする。

「ひゃ、ひゃひゃひゃ100発!?バカかアイツ、そんなことをしたら……」

「ええ、天下原様はただでは済まないでしょう。仮に距離を取ろうと離れても広範囲に
降ってくる火山弾からは決して逃れられません。恐らく駐車場の端から端まで火山雨の
射程範囲内……対策は先程のように自分の周りにシャボンのバリアを張って
雨が止むまで耐えるくらいですが今の天下原様にそれが出来るかどうか……」

そういうと時田は双眼鏡を国綱に向ける。国綱は今仰向けに倒れ身動き一つとれない有様だ。
時田曰く、この技を使用するにはスタンドの中にマグマを最大限まで貯める必要があるらしく、
空の状態からマグマを生成し満タンまで貯めるには最速でも3分の時間が必要とのことだ。
さらに一度この技を使ったら次に火山弾を使えるようになるまでに最短でも
5分はかかるという超ハイリスク・ハイリターンな大技なのである。

「発射までに復活してバリアを張り直せるかどうかが勝負の分かれ目って訳か……!!
それより時田、我等なんだが」

「分かってますお坊ちゃま。この戦い、ここまで来たら最後まで見届けましょう。
もしタマの本気をしのげるようなら、天下原様も幹部候補として視野に入れるべきなのかも
しれません……本人は絶対に拒否するでしょうけど」


「そうじゃなくて!駐車場全部が火山雨の射程範囲内なら我等の車も当然範囲に
入ってるだろ!この車マグマを大量に浴びても大丈夫なように作られてるのか!?」


「あ。」と時田が小さく呟いた。直後、時田はエンジンをかけハンドルを回すと
車を駐車場から出すために大急ぎで運転を開始した。


「……と、とりあえずアパートに戻りましょう!大丈夫です、あの戦いは後10分もすれば終わると
聞きましたからその後落ち着いて駐車場に戻りましょう!ね!」

「……結局誰の戦いも最後まで見れなかったではないか!なんのために早起きしたんだ我は!
こんなことなら今日は寝てればよかったわ畜生!!!」

骸の叫びが駐車場に響き、時田達の車は駐車場を後にした。

1733話 ◆PprwU3zDn2:2018/04/22(日) 23:21:29 ID:oiy.yoeA0
「(急いで立ち上がらないと……間違いなく炭になっちまう!)ゼェ……ゼェ……」

次に来る攻撃が恐ろしい物になることくらいは国綱も理解していた。
だが急いで回復しようにも体がついてこない。
呼吸を整えようと慌てて呼吸を早めても苦しくなるだけであった。こういう時は慌てず
ゆっくり呼吸して安静にしてれば自然に体力は戻るだろう。……だが今は時間が無い!



「あれから2分……もう2割ほどマグマを作れば準備完了だ!お前さんはどうだァ、
シャボン玉使い!」

圭のスタンドの色は更に赤くなり、赤とオレンジが混ざったような色の鎧に変貌していた。
恐らく彼のスタンドの内部はマグマで満たされかけているのだろう。

……国綱はまだ地に伏していた。
まだ動けないという訳ではない。今の状態ならフラつきながらも立ち上がることは出来るし
シャボンのバリアもサイズを一回り小さくすれば張る事も出来るはずだ。
だが彼はそうしなかった。それでは次の攻撃を『防ぎきれない』ことを予感していたのだ。

国綱が今先程と同様に出来る事といえば、今なお宙を漂っているシャボン玉の群れを
操ることくらいであった。だから彼は今、地に伏せながら人知れずシャボンの一つを操っている。
そのシャボンの目から圭を見て分かった事がある。

一つ、圭はマグマを貯めている間、廃車の上で立ったままそれ以外のことを
『何もしない』。腕を組んだり指の骨を鳴らしたりといった動作はしてることから、
チャージをしている間は一切動くことは出来ない、という訳では無いようだ。

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(……今のアイツなら小さいバリアくらい張れるだろうが……それじゃあダメだ。
それじゃあアイツを『倒したことにはならない』。万全の状態のアイツを倒してこそ
俺は『アイツより強い』って証明出来る……それで初めて最強に近づける)

火山突を防がれてから圭は国綱を自分より強い『強者』と認定していた。
そんな強者を『動けない内に攻撃』などというみっともない真似を
圭はしたくなかった。何なら時間を延長したっていい。体力をしっかり回復させ、
万全の状態にしてから万全の力を持って倒す。それが圭のケンカの仕方であった。
故に圭は今、マグマを溜めながら国綱の回復をただひたすらに待っている。それだけである。
もし圭が国綱の事を初めの頃のように天のオマケ扱いの『雑魚』と見たままだったら
彼の行動も違ったものになっただろう。倒れてる国綱に黒煙を浴びせて
回復を阻害したりといった卑怯なマネも平気でやっていたに違いない。
圭は生意気な雑魚には厳しいのだ。
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そしてもう一つ国綱が気付いたこと。
圭は今、シャボン玉の動向を『全く気にしていない』。
流石に人間サイズに膨らませた巨大なシャボンにはすぐ気付き警戒をするが、それ以外の、
圭の頭上に漂っているような野球ボールサイズのシャボンを動かしても何も反応しない。
試しにシャボンの一つを圭の肩に軽く接触させてみたが、圭は見向きもしなかった。
もしかしたらチャージに集中していて視野が狭くなっているのかもしれない。
シャボンがくっついても何も感じていない可能性もある。

(……コレなら『アレ』がイケるかもしれない)

国綱は何かを思い付いたらしく、ふらつきながらもその体を起こし立ち上がった。
そして宙を漂うシャボン達を操りはじめた。
……圭はそのことに気付いていない。

1743話 ◆PprwU3zDn2:2018/04/28(土) 19:04:39 ID:l3TLiPEY0
「3分、タイムリミットだ」

廃車の上で圭は静かに呟いた。正確に時間を計っていたわけではないが、スタンドの中の
マグマが頭のてっぺんからつま先まで満ちている事がその時が来た事を証明していた。

T-REXは今、溜まりに溜まったマグマの熱で鮮やかなオレンジ色の鎧と化し、
鎧からは白い煙が止まることなく立ち上っていた。


そして国綱はというと、廃車から少し離れた場所に『ただ立っていた』。
自身の周りにはシャボンは一個も無かった。頭上にも、彼を守るはずのバリアも
……シャボンは何一つ無くなっていた。


「……まさかのノーガードか。何時の間にか周囲のシャボンも消えて無くなってらァ」

圭は辺りを見回したが、あの沢山あったシャボン群は彼の視界からは全て消えていた。
彼は国綱に問うた。時間の延長は必要か、せめてシャボンを貼り直す時間は
くれてやってもいいぞ、と。だが国綱はそれを拒んだ。

「悪いけど時間が無くてね……花見やるんだ。そろそろアパートの人達が弁当を持って公園に
来る頃だから、お前みたいな奴と長々と戦ってる暇がないんだよ。だから頼む、
『さっさと済ませてくれ』、お前もこれが最後の攻撃なんだろう?」

国綱は大きく欠伸をかきながら余裕たっぷりに答えた。
天と国綱が駐車場に来てから1時間近く経過していた。太陽が上空に上り、気温も
春の訪れを感じさせるような暖かさになっていた。

アパートの人達が公園に来る時間にはまだ早かったが、国綱は敢えて
「予定があるから早めに終わらせろ」と言い放ち、圭に最後の攻撃を促したのだ。
無論挑発の意味も込められていたが、国綱の一番の目的は。

(アレの準備は出来た……さあ来い……アイツがアレに『気付く前に』!!)


「バリアを張っていないにも関わらずあの余裕……どうやらお前さんには
俺の火山雨を防ぎ、尚且つ俺の最強の鎧を打ち破れる秘策があるようだな!
そうかそうか!いいねぇ、楽しいねぇ!!!」

国綱の挑発とも取れる発言に対しそう言って返した圭の表情は実に嬉しそうであった。
国綱はまだ圭に勝てる算段を持っている。圭も当然国綱を倒せる技を持っている。
両者まだまだ存分に戦える。最後の最後まで渾身のケンカが出来る。
圭はそれが堪らなく嬉しかった。

(……本当に戦いづらい相手だよ、あのマグマ野郎)


「それじゃあ遠慮なくぶっ放させてもらうぜ!?その余裕の顔をしてられるのも
あと10秒までだ!行くぜ、Countdown...10!」

圭は身を屈め背中の火口を空へ向けると大きな声で数字を叫び始めた。
それに合わせて防御の姿勢をとる国綱。無論、スタンドも無しに防げる攻撃では
ないことは重々承知の上だ。

(……どうやら『気付いてない』ようだな。後は俺が巻き添えを喰らわない様にしなくては)



「…8!…7!…6!」

カウントダウンは進む。圭はまだ気付いていない。
あの沢山あったシャボン玉は実はまだ消えてはいないということを。


「…5!…4!…3!」


終わりの時が近づく。圭はまだ気付いていない。
T-REXの鎧は「触覚」に非常に鈍感で、鎧に軽く触られても圭には何も伝わらないこと、
そして今まさにT-REXに『触れている』モノが居ることに。


「…3!…2!…1!」
最後のカウントまで1秒を切った。



圭はカウントダウンと発射の準備に集中し、全く気付いていない。



T-REXの背中にある無数の火口。
その火口一つ一つに、先程まで宙を漂っていたシャボン玉が入り込み
火口からマグマが出ないよう、完全に『塞いでいる』ことを!



「0……溶岩装填完了・距離よし・角度よし!行くぜ火山弾最大出力……
『火 山 雨』!FIREEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!」


圭が大きく叫んだその直後、彼の体は凄まじい轟音と共に廃車の上から消えた。
同時に乗っていた廃車は粉々に砕け、コンクリートの地面には巨大な隕石が
落ちてきたかのような大きなクレーターが出来ていた。


そのクレーターの中心で、圭はコンクリートにめり込み倒れていた。

1753話 ◆PprwU3zDn2:2018/05/12(土) 02:23:33 ID:Y1e.dvlE0
圭が声高々に叫んだ瞬間!
鎧に蓄積されていたマグマは火口を通じて勢いよく空へ放たれ……る前に
火口を塞いでいたシャボンに衝突!圧縮されたマグマ=火山弾は
シャボンに弾き返され勢いそのまま元いた鎧の中へ!
先程までマグマを鎧の中に溜めていたT-REX、マグマの熱による火傷などのダメージは
皆無といえど、凄まじい勢いで放った火山弾(それも100発!)をほぼ零距離で受けた
その『衝撃』の大きさは無警戒のT-REXには防ぎきれなかったようで、
圭の体は背中からの予期せぬ衝撃に耐え切れず真下へと吹っ飛ばされることとなった!
結果、乗っていた廃車は圭に押し潰される形で崩壊、その下のコンクリートに
大きなクレーターを生成し、圭は無惨な姿で地に伏せることとなったのである。


「何とか上手くいってくれたようだ……ふぅ。だが流石に『効いた』ぜこれは……!」

コンクリートにめり込んだ圭を見て、国綱は膝をつき弱々しく呟いた。

一度に複数のスタンドを出現させる『群体型』スタンド。
数が多い分、スタンドを攻撃されても本体に送られるダメージは分散され
あまり被害を受けないのが群体型の特徴なのだが、流石に高熱の鎧の中に入り込み、
灼熱の塊である火山弾を100発分至近距離で受け止め、弾き返したのだ。
当然無傷では済まなかったようで、国綱の体には小さな火傷が100箇所に出来ていた。
後で小鳥遊さんの所へ行かなくては、と国綱は火傷の痛みに耐えながら考えていた。

「……それにコイツ。今のでくたばってくれりゃあいいんだけど……」

だが彼を覆うは無敵の鎧T-REX。そう思い通りには行かないようで。
一分も経たない内に圭の体はピクピクと震え始め、十数秒後には彼の腕が上がりだしたのだ。

「……まあそうだろうなあ。化け物め」

腕が動き、脚も動き出し……そしてとうとう圭の体は満身創痍になりながらも
なんとか立ち上がってしまったのだ。その顔に満面の笑みを浮かべて。

「まさか……シャボンを仕込んでたとはなぁ……おぉ……俺さァ……本当に……
ディザスターに入って……良かったと……思うぜェ……スタンド使いってぇのは……
こんなにも……強ェんだな……ハハハ……」

「……そんなボロボロになりながら言う台詞かそれ?自分を見ろよ、『無くなってる』ぞ」

国綱は呆れた顔で圭の体を指差した。圭の体を覆っているはずのT-REXが徐々に透明になり、
終いには消えてなくなってしまったのだ。

「……折角放った火山雨が……自分に返ってきてな……
流石に……スタンド出し続ける余裕……ねぇわ……ハハハ」

足をガクガク震わせながらそう言う圭の腕はスタンドを出さないまま、
『ファイティングポーズ』の体勢を取っていた。……どうやらまだ
この決闘を終わらせる気は圭にはないようだ。


「まさか素手で戦おうっての?嘘だろ?」

「……俺もお前も……もうスタンドは出せない……かといって……
今更『引き分け』なんて……ゴメンだろ……?ならやるこたぁ一つ……
拳で……語り合おうじゃあないか……へへへ……」

別に引き分けでもいいんだけどな、と国綱は思ったが、圭の目は真剣そのもの。
本気で『殴り合い』で決着を着ける気なのだと理解した。

圭はこの戦い本気でを楽しんでいる。強い者同士のケンカを
一秒でも長く味わおうとしているのだ。


(……これだから嫌なんだ、こういうタイプの輩は)

1763話 ◆PprwU3zDn2:2018/05/17(木) 00:06:34 ID:UQlTWHMk0
「行くぜシャボン玉使い……ファイナルラウンドだ!!!」

「いやどす」ピンッ
圭との最後の戦いを何故か京都弁で拒否した国綱は圭に親指を向けた。
直後、国綱の親指からパチンコ玉サイズの小さなシャボン玉が飛び出した。
そしてソレは……圭の『口の中』へと入り、そのまま喉へと入っていった。


「!!ゲホッゲホッ!てめえ、何しやがった!」

「……俺が今出せる、最後の『ヘブンリー』だよ。もうアレ以外のスタンドは
一個も出せない……けど、『決着をつける』には充分なんだよ……
分かってると思うが、ヘブンリーは今『お 前 の 体 内 に 入 っ た』」

圭はそれを聞くと、首を傾け自分の胴体をジッと見つめた……数秒後、彼の顔は
みるみる内に青ざめていった。その内、自分の体をまさぐったり、胸をドンドンと
叩く仕草を見せた。

「……何処だ!シャボンを何処へ送った!言え!」

「何処だっていいだろう?今送ったのは極小のスタンドだが、それを思いっきり
膨らませれば何処だろーとお前は負ける……『物理的』に、な」

「何……だと!?」

「簡単だろ?お前のマグマをもってしても割れないシャボンが止まることなく
一気に膨らむ……そしたらどうなるか分かるよな?」

「……!!!」

圭の顔から大量の汗が吹き出る。直後、右手の指を口に突っ込もうとしたので
国綱はそれを制止した。

「吐いてシャボン玉を出そうとしても無駄だ。スタンドだから自分の意思で動かせるんだ。
ゲロに巻き込まれない安全な場所にスタンドを避難させるけどいいか?ただの吐き損だぞ?」

「……クソッ!」

口から指を抜いた圭の体は小刻みに震えていた。
体の中で『絶対に割れないシャボン玉』が膨らみ続けると何が起こるか?圭にはその末路が
理解できてしまっていた。


「……マグマ使い、さっきも言っけど俺には花見しにココに来たんだ。場所も取ってある。
もうソコに戻りたいからさっさと終わらすぞ」パチンッ

国綱は右手を上げ、軽く指を鳴らした。その直後、圭が何かに気付いたようで、腹の辺りを
大慌てで弄り始めた。

「……さっきの問いに答えてやる。ヘブンリーは今、お前の胃の中に居る。
だから少しだけ膨らませた。『胃が少し張ってる』と実感出来る程度にな」

「や……やめろ!いますぐシャボンを出せ!」

「出したらまた拳で抵抗してくるだろうが。……これでラストだからな」

そう言うと国綱は疲れきった表情で再び右手を上げ、何時でも指を鳴らせるよう
親指と中指を合わせた。


「ま……まいった!降参、降参するから!お願いだからシャボン玉を
胃から出してくれえええええ!!!」

圭は声を震わせ、涙を浮かべながら懇願した。だが、披露困憊の国綱には
その声は届いていないようだった。


「……本当に嫌なんだよ、手加減せずに力の限り戦う、お前のような人間は!」

国綱はそう言うと右手の指を……パチンと鳴らした。



「や……やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

1773話 ◆PprwU3zDn2:2018/05/18(金) 03:40:46 ID:QBwt9cxg0
「そこまで」

指を鳴らしたその直後、国綱の背後から年老いた男性の声が届いた。
聞き覚えのある声に振り向こうとした瞬間、国綱は自分でも信じられない行動をしていた。

自分の脳内。そこでスタンドに『大きさを元に戻し、体内から脱出』するよう命じていたのだ。
そしてその指示通り、スタンドは元のパチンコ玉サイズに戻り、圭の口から飛び出した。

(……!?俺は本気で『膨らませる』つもりだった!なのに何故ヘブンリーを戻した!
俺は何でこんな……!……こいつは!?)

自分の行いを信じられないと驚愕しつつ振り返った国綱が目にした者。それは
金色のスタンドを背後に立たせ、穏やかな表情で微笑む時田潮であった。


その手には、黒く光ったオートマチック型の拳銃らしきモノが握られており、
その銃口は国綱の頭に向けられていた。


「……本物(モノホン)ッスか、それ」国綱は頬に一筋の汗を長し問うた。

「ふぉっふぉっ、悪の組織らしい『小物』でしょう?」潮は表情を変えず答えた。

圭は国綱の指パッチンに慄き、気絶してしまっていた。


「タマはこの通りもう戦えないでしょう。この爺に免じて、この辺りで
勘弁してやってもらえないでしょうか。といってももう既にスタンドを
タマの中から出してくれていますな。ふぉっふぉっ」

「……フン」
国綱は仕方ないといった表情でヘブンリーを消した。


……こうして駐車場で繰り広げられた決闘は、圭の気絶による戦闘不能をもって
静かに幕を閉じたのであった。


【ヘブンリー vs T-REX】
STAGE:門北自然公園 駐車場

勝者……天下原国綱/ヘブンリー



決着から数分後、潮と国綱の二人は圭のマグマ攻撃を免れたベンチに座り、缶コーヒーを飲んでいた。
その周りでは、どこからやってきたのか……生コンを乗せたトラックミキサや重機・
廃車を乗せるためのレッカー車などが十数台とそれに乗ってきた数十人の工事作業員らしき
人々が戦いの跡を消すが如く懸命に『作業』をしていた。

「……『彼ら』もディザスターのメンバーッスか?」

「いえいえ、彼らはディザスターとは別、この爺の知り合いの方々です。言わば
ディザスターの『協力者』と言った所でしょうか。こうしてディザスターが残した
傷跡を元通りに直してくれる優秀な人々です、ふぉっふぉっ」

(協力者とは、簡単に言ってくれる)と国綱は作業をする面々をみて思った。

圭の最後の大技こそ不発に終わったものの、此処には飛び散ったマグマや
ソレを浴びて炭になったベンチ、さらには粉々になった廃車や
圭がめり込んで出来たクレーターといった惨状が所々にあるのだ。
それを何の疑問も持たず何も聞かず、淡々・黙々と修復作業をするこの者どもは
一体何者なのか?

(……恐らくコイツらは裏社会の人間。こういう派手な争いが起こった現場を
速やかに『無かったことにする』その道のプロ。それを気軽に呼べるこの爺さんは)

「……坊ちゃまの周りには優秀なメンバーが集まりつつあります。しかし彼らは
『後始末』に弱い。特にタマの破壊力抜群のスタンドの後片付けは
お坊ちゃまやもう一人のメンバーには到底無理なのです。そこでこの爺の出番です。
爺が一声かければ修復は勿論、決闘場所の管理者や目撃者との『取引』も
この者達がしてくれるのです。……これらは今日中には終えてくれるでしょう」

(……やはりただ者ではない。コイツもまた裏社会の人間……それも
このような奴らを容易く操り、指揮出来る程の地位に立つ者……!)

国綱の顔から冷や汗が流れる。隣で穏やかな顔で缶コーヒーを熱そうに飲む老人。
その体からはドス黒いオーラが止め処なく溢れている……そう国綱は感じていた。

1783話 ◆PprwU3zDn2:2018/05/27(日) 23:49:16 ID:BlS8VeH.0
「さて天下原様。藤鳥様から聞いているかもしれませんが、タマを倒した貴方には
坊ちゃまやこの爺と戦う権利が与えられますが……」 「断る」

缶コーヒーを飲み干した潮が国綱に自分達との戦いを望むか聞いた……が
1秒もしない内にキッパリと拒否されてしまった。

「元々俺はケンカとかの争いごとは好きじゃあないんスよ……負けりゃ奪われ、
勝ってもそれを聞いた別の誰かが挑んでくる……キリがない。
そういう人生が嫌だから、普段から『絡まれるほど強くない男』っぽく見えるように
生きてるッス……正直言って、アンタらのような奴らとは極力関わりたくないんスよ」

国綱は露骨にうんざりとした表情を浮かべた。それを見た潮は
「……分かりました」と言い、立ち上がった。


「坊ちゃまにも伝えておきましょう……当分の間、天下原様にちょっかいを出すのは
控えるように、と。タマを倒した貴方にはそれを命じる権利がある」

潮はそういうとスタンドを操り、気絶している圭を担ぐと
駐車場の出口に向かって歩き出した。どうやらここを去るつもりのようだ。


「……ああ、そうそう。そういえば藤鳥様は今どちらですかな?」

「……兄さん!すっかり忘れてた」

国綱は潮に尋ねられたおかげで天の存在を思い出した。
万が一に備え、十本桜に居る雲雀を連れてここに戻るよう伝えていたのだった。
(自分と天、それに雲雀の3人なら2人相手でも対抗出来ると思ったからだ)

しかしあれから数十分以上経つというのに戻ってくる気配が全くない。


「……エレナ・マース」

「?何ですって?」


「今日の決闘に参加する『もうひとりのメンバー』ですよ。タマはスタンドの力でガシガシ
攻めてきますが、彼女はスタンドを使って『時間をかけてじっくり追い込む』戦い方を
好みます。エレナから連絡は来ていませんが、もしかしたら藤鳥様はもう……」

「!!どういうことだ!?兄さんはもう何だって!?」

国綱が潮を問いただそうと思った次の瞬間、潮と気絶していた圭は煙のように
消えてなくなってしまった。


(これもスタンド能力か……!?いや、今は兄さんの安否が先だ!ヘブンリー、
公園にいるはずの兄さんを探せ!)

国綱は右手を掲げると掌から数個のシャボン玉を空へ発射した。
天を探すために目を開いたシャボン玉は四方に拡散していった。



天を発見するのにそう時間はかからなかった。

天は走っていた。その方向には雲雀の居る十本桜はない。

その天の後ろを足早に歩く者達がいた。ソイツらは全員で天を『追っていた』。

ソイツらは体の至る所が腐り、傷んでいた。奴らには生気が全く感じられない。


天は今、複数の腐敗した動く死体……『ゾンビ』に追われていた!!


「!!!何でゾンビが……スタンド能力か!兄さんがヤバい!!」

国綱は立ち上がると大急ぎで天が居る公園へと走り出した。




―エレナ・マース 駐車場に現れなかったもう一人の決闘の相手。

その彼女が今、藤鳥天を追い詰めようとしていた。

179 ◆PprwU3zDn2:2018/05/27(日) 23:52:06 ID:BlS8VeH.0
長くなったのでここまでを前編と致します。
次回、天ともう一人のディザスター団員・エレナの戦いをお送り致します。


今回登場したスタンド

No.4219
スタンド名】T-REX
【本体】多摩圭(ディザスター所属)
【タイプ】纏衣装着型
【特徴】黒い岩石で構成された、火山をイメージさせる猛々しいフォルムのスーツ型スタンド
【能力】
『自身のスーツで火山活動を発生させ、その火山活動を自在に操ることができる』能力。
マグマを火山弾として猛烈な勢いで放ったり、
火山ガスや火山灰を発生させたりなど、多彩な攻撃方法を持つ。
また、スーツの耐久性は極めて高く、鋼鉄やダイヤモンドを凌ぐ硬度を誇る。
スーツの外面は超高温だが、スーツの中はポカポカあったかくて快適らしい。

破壊力-A スピード-B 射程距離-E
持続力-A 精密動作性-C 成長性-C

1803話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/06/06(水) 13:09:27 ID:SQtgLBXY0
国綱がヘブンリーで天を発見してから数分後――


天を追っていた腐敗した者・ゾンビ達は彼を見失ったらしく、標的を再び見つけるべく
「オアアアアアア……」とおぞましい声を上げながらそれぞれ別の方角へと歩き出した。

その光景を天は、公園の隅にある朽ち果てた公衆トイレの窓越しに見ていた。

「……やっと撒いたか」と外の安全を確認すると、天は息をゼェゼェと切らしながら
その場に座りこんでしまった。そしてポケットからスマホを取り出すと画面を捜査し、
ある1枚の画像を表示させた。

「……もう体力もヤバい。早いとこコイツを『見つけないと』……」


スマホに表示されていたのは青い髪の女の子であった。
-----------------------------------------------------------------------------------
話は国綱と分かれた時間まで遡る……


国綱の指示で十本桜の下で酔っている雲雀の元へ向かっていた天。その途中
猫の腐敗した死体を『何匹も』目撃してしまう。そのあまりにも異常な光景に
スタンドの関与を確信した天は自身のスタンド・ノープランを発現させ
これから始まるであろう戦いに備えた―――
備えたのだが。


………スタンドを出してから数分、特に何かが起こるでもなく、
ただ風の音が響くだけであった。

『コノママ何カガ起コルマデ待チマスカマスター?チュミミーン』

「うーむ」

天の脳内では、スタンドを出した瞬間に敵とスタンドが颯爽と現れ、何か恐ろしい能力で
自分を苦しめるが、最終的になんやかんやあって知恵と勇気で逆転し
敵をギャフンと言わせるといういい加減なシナリオが完成していたのだが、最初の段階でそのシナリオは
破綻してしまった。
……まさか何も起こらないとは。天は安堵と落胆が混じった溜息を吐いた。


「……とりあえずこのまま雲雀さんの所へ向かおう。猫の死体は踏まないように気を付けろ」

『ラジャー・チュミミーン』

天はこのまま待機しても仕方ないと判断し、雲雀の所へ向かうことにした。
道中に散乱していた死体には触れないようにと慎重に避けた。

5匹目の猫の死体を避けて通過したその時である。



『みーつけたっ!!!!』
天の真上で甲高い女の子の声が突如鳴り響いてきたのだ!

1813話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/06/06(水) 21:09:27 ID:SQtgLBXY0
「な、何だ何だ!?」
いきなりの大声に驚いた天はノープランを側に寄せ警戒しながら上空を見上げた。


そこにいたのは長い円柱型の尻尾を生やした、ピンク色の『異形』であった。


「人型の化け物(スタンド)!お前がもう一人の決闘の相手か!」

『ぴんぽ〜ん!だいせいかーい!』

ピンク色のスタンドはアニメに出てきそうな可愛らしい女の子の声を発すると
天の目の高さまで降りてきて、パチパチと大げさに拍手をしてみせた。

『ということは、アナタが対戦相手の……えーっと、藤鳥……てん?でいいんだよね?』

「ああ……って、スタンドだけか?本体もでてこいよ」

現れたのはスタンドだけで本体は何処にも見当たらなかった。
だが天の言葉にスタンドは何も答えず、ただ首を横に振るだけだった。
どうやらこのスタンドの本体は姿を現すつもりは無いらしい。


直後、天のスマホが振動した。天もスマホを取り出すと画面を確認する。
どうやらメッセージアプリにメッセージが届いたようだ。

今はそれどころではないとスマホをしまおうとする天。だが目の前のスタンドは
両腕をクロスさせて大声でダメ!と言ってきた。その声に驚く天に対し、スタンドは
天のスマホを指差し、操作してメッセージを確認するよう指示してきたのだ。
……どうやらメッセージの送り主はこのスタンドの本体のようである。


【えれにゃん☆:天くん初めましてー☆私が今回アナタと戦うディザスターの紅一点・
えれにゃん☆どぇ〜っす☆!よろしくね☆】

(!?何だこのメッセージは!?それにこの名前!えれにゃん☆って!)

無駄に可愛らしい文面・所々に散りばめられている星印、
明らかに本名でもスタンドの名前でもなさそうな名前での自己紹介。
その後何個も送られてくるピンク色のカバのイラストスタンプに自撮りと思われる
女の子の写真……

アプリに送られてきたメッセージの数々を見た天は少々……否、かなり戸惑っていた。

(また中々強烈なキャラがやってきたぞ……だがわかった。俺の決闘相手は女性!
骸から送られてきた写真に載ってた女の子だ!てことは国綱さんの相手はあの大きな奴か!)

マグマという凶悪な能力、本体は筋肉ムキムキの大男。中肉中背の国綱一人で戦うのは危険だ。
ここは急いで雲雀を呼び、国綱の元に急がねば!


「えれにゃん☆だっけか!悪いが俺にはやるべきことがある!速攻で倒させてもらうぞ、
行けノープラン!」

『チュミミーン!!!』

天の命に従い、ノープランの右腕ががえれにゃん☆のスタンドを殴ろうとした時である!


『だめーっ!!!』 「ッ!?」


スタンドの口からアニメ声の叫び声とノープランの目の前に突きつけられた円柱状の尻尾。
それにビビりノープランの拳はスタンドに触れる前に止まってしまった。

呆気に取られていると、天のスマホが再び震えた。画面には新着メッセージの通知が。


【えれにゃん☆:コラッ☆!レディにいきなり手をあげるなんて格好悪いぞ☆!
いい大人なんだから落ち着けってのこのスカタンが☆】


敵からの挑発的なメッセージだった。カチンときた天は目の前のスタンドではなく
スマホの向こうに居る本体の方へ反論のメッセージを送った。勿論アプリで。


【天:決闘なんだから攻撃するのは当たり前だろうが!あと一々スマホにメッセージを
送ってくるな!直接喋れ!】


メッセージを送って十数秒後、えれにゃん☆からアッカンベーをしたカバのスタンプが
送られてきた。……完全におちょくられている天であった。

1823話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/06/24(日) 19:46:47 ID:QHytJNJk0
どうやらえれにゃん☆と名乗る女の子はスマホにかなり依存している人物のようだ。
中毒と言っても良い。彼女は天に語る言葉の大半をスマホアプリを通じて発してきた。


【えれにゃん☆:私のスタンドはこの公園の隅々まで飛んだり、能力も強くて面白いのを
持ってるんだけど、その分パワーが無いから殴り合いは不向きなの☆天くんも
この手のバトルって初めてでしょ☆?さっき無警戒にスタンドを殴ろうとしたけど、
もしあのままスタンドの尻尾に触れてたら天くんもう『死んでた』よ☆?
そんなのであっさり勝っても私は面白くないの☆分かる☆?】


(あの尻尾に触れてたら死んでただぁ!?確かに自信満々にノープランに突きつけてたけど、
このスタンドもそんなヤバい能力を持ってるだなんて……どんだけだよあの組織)

悪の組織(自称)ディザスター。片やマグマを操る巨漢。片や接触即死能力(仮)を持つ女。
組織メンバー達の思わぬ『充実さ』に天の額から一筋の汗が流れる。

(……だったら組織の長である骸の能力はどうなるんだ……?まさか時を止めたり
パラレルワールドを行き来するんじゃあないだろうな……勝てないぞそんなスタンド)

天が骸の能力を考えている間にスマホには彼女からの新たなメッセージが届いていた。
その内容は「提案」であった。


【えれにゃん☆:そんな殴り合いが苦手な私とバトル初心者の天くんのために、
とっておきの決闘ルールを用意したよ☆どう☆?やってみない☆?】


決闘に不慣れな天に対する特殊ルールの提案。これにどう返答するかを天は思案した。

なにか目論みがあるのは明らかだし
スタンドに触れてたら……という話も彼女のハッタリの可能性もある。

だが先程、彼女のスタンドがノープランの拳に突きつけたあの尻尾に何かがあるのは
間違いないだろう。それくらい堂々とした、尻尾に絶対的な信頼を置いているかのような
立ち振る舞いだった。あの尻尾に触れたら最後、死なないとしても
『再起不能』に陥る可能性を天は拭いきれなかった。

1分程考えた後、天はえれにゃんに「OK」と書かれたスタンプを送った。
いくら考えてもキリの無いことだし、今の天には長考している時間はなかった。

その十数秒後、ありがとうとお辞儀をした例のカバのスタンプが送られてきた。
交渉成立である。


【えれにゃん☆:決まりだね☆……といっても別に小難しいことをする訳じゃあ
ないんだよ☆要するに……私と『かくれんぼ』しーましょ☆】

(……はぁ!?かくれんぼって……子供の頃やってたアレ!?)

特殊ルールというから何か頭を使う(天の超苦手分野)ゲームでもさせられるのかと
考えていた天はそのあまりにも子供じみた、頭をあまり使わなそうなゲームを提案され
少々拍子抜けしてしまった。彼女は天の返信を待たずにメッセージを続けた。


【えれにゃん☆:天くんの目の前にはスタンドしかいないでしょう☆?
これから1時間以内に、この公園のどこかに居る『本体の私』を見つけて捕まえたら
天くんの勝ち☆!出来なかったら私の勝ち☆!どう☆?簡単でしょう☆?】

(……確かに簡単だけど)と天は思った。これならえれにゃん☆も公園内で隠れるだけで
いいし、天も彼女を探し見つけるだけでいい。だが……


【天:いいけど、それってスタンド使う必要なくないか?】


そう、スタンドの関与が非常に薄い戦いになってしまうのだ。
天はえれにゃん☆を見つければ、えれにゃん☆は見つからなければ勝ち。
……そこにスタンドの関与できる隙はあまり無いように思える。……少なくとも、
ノープランの能力では介入の余地はあまりにも少ない。
……だが。


【えれにゃん☆:だいじょーぶ☆私はバリバリ使うつもりだし☆天くんも
対抗して使えばいいんだよ、てゆーか『使わざるを得ない』から☆】

どういうことだと天が思った直後であった。天の背後から、「オアアアアアア……」という
何者かの呻き声のような音が聞こえてきたのだ。


振り返るとそこには子猫が2匹……皮膚が剥がれ、蝿に集られた、
先ほどまで地面に斃れていたはずの可愛い子猫の死体が起き上がり、
天をじっと睨んでいたのだ!


「さっきまで死んでた猫が……何で」 「ニ゛ャアアアアア!!!」

天が異常な光景に唖然としていた……刹那、猫達は天めがけて襲いかかってきたのだ!!!

1833話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/07/06(金) 02:06:00 ID:/S6QtpY.0
「うわあああああ!ノープラン、何とかしろッ!」

『チュミッ!』

腐った猫の一匹が天の顔に飛びつき、彼の顔を引っ掻こうとした!だが
猫の爪が天の皮膚に触れる直前にノープランの掌が猫の胴体をビタァン!と
叩いた。猫は天の真横に吹っ飛び、公園の芝生の上に転がっていった。
猫は「アアア・・・」と痛そうな声を出してはいたが、骨や臓器が痛んだ訳では
無さそうであった。


【えれにゃん☆:どうよ、私の『キャント・ユー・セレブレイト』ちゃんの力は☆
尻尾に触れた者はみーんなゾンビになって私のいいなりになるんだから☆!】


キャント・ユー・セレブレイト……彼女のスタンドの名であろう。
スタンドの尾に触れた者をゾンビに変え、意のままに操る……
確かに触れたら最期、死んだも同然の状態になっていた。

「やっぱとんでもない能力を持ってたか……って!」

天は後方からまた例の呻き声を聞いた。振り向くと先程芝生に飛んでいったゾンビ猫に加え
新たに起き上がって来た新たなゾンビ猫……計5匹のゾンビ猫が天を威嚇していた。

『キャハハ!それじゃあゲームスタートだよッ!』

天がゾンビ猫に囲まれている隙に天の前にいたスタンド『キャント・ユー・セレブレイト』が
ゲーム開始を宣言すると空高く上昇し始めた。

「あっ待て!」とスタンドに呼びかけるも時既に遅し。スタンドは天の遥か上に舞い上がり
そのまま何処かへと飛んで行ってしまった。……恐らく本体の元へだろう。

急がなくてはならない。今から1時間以内に公園の何処かに居る本体を見つけ出さなくては。
だがその前に……

「「「「「オァアアアァァアアア……」」」」」

周囲に居るこの腐った猫の群れ……こいつらを何とかしなくてはいけなかった。
天は深い溜息を吐いた。


【ノープラン vs キャント・ユー・セレブレイト】
STAGE:門北自然公園


「「「「「シャアアアアアア!!!!」」」」」

天を囲っていた猫達が一斉に天に飛びかかってきた。天は身を屈めると迎撃の指示を送った。

「ノープラン、回転して薙ぎ払え!」

『チュミッ!』

ノープランは側に立ち両腕を横に広げると、グルっと勢い良く回転し始めた。
所謂「ダブルラリアット」である。

飛んできた猫は顔や胴体にノープランの腕が直撃し、次々に周囲の芝生や木の繁みに
吹っ飛ばされていった。

天のパワーは人より劣るが、ノープランのパワーは人以上。
飛びかかってくる猫達を追い払うことなど朝飯前であった……が。

「オ゛ァアアァアアァアアアァアァ……」
ノープランに吹っ飛ばされた猫が再び起き上がり天を睨みつける。
いくらパワーに優れているスタンドでも、倒しても倒してもすぐ復活する
不死のゾンビ相手では分が悪い。……ならば。

「悪いが猫にかまってる暇はないんだ……よッ!!!」

天は地面の砂利を手に取るとゾンビ達に向かって放り投げた。
ゾンビ猫が怯んだ一瞬の隙を突いて天は一目散に走り出した。すかさずゾンビ猫は
天の後を追った。

(えれにゃん☆とやらを探す前に……まずは雲雀さんの所に行こう!十本桜は近くだ!)


こうして、天とえれにゃん☆&ゾンビ達のかくれんぼは慌しく開始されたのだった。

1843話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/07/15(日) 22:41:16 ID:5Np2HQpI0
――公園内の何処か


「……戻ってきたわね、セレブレイト」

古びた自動販売機の横にあるベンチに座っていたえれにゃん☆ことエレナ・マースは
目線の先・上空から自身のスタンドが飛んでくるのを確認すると、手招きをして
スタンドを自身のすぐ近くまで接近させた。

「『かくれんぼ』でなんて言ったけど……天くんは今頃、猫ちゃんとの『鬼ごっこ』で
かくれんぼどころじゃあないはずよ。俊敏な猫ちゃん相手に何処まで逃げれるかしらね……
まずは高みの見物と行きましょうか……セレブレイト、例の『準備』の方お願いね」

エレナのスタンド、キャント・ユー・セレブレイトはエレナの指差す方向へと再び
飛んで行った。エレナもベンチから立ち上がると、手にしたスマホをいじりながら
公園の奥へと消えていった。

「……あ、このギター担いだ猿のスタンプ可愛いー☆!買っちゃお☆」ポチポチ


一方天はというと、ゾンビ猫5匹相手に鬼ごっこを繰り広げていた。
ゾンビになったとはいえ人より俊敏に動く猫相手に、天はあっという間に
距離を詰められていた……と思いきや、天と猫の間に空いた距離は
いくら経っても縮まることはなかった。『遅い』のだ。ゾンビ猫は全速力で
天を追っているが、猫のスピードは人並み……それも足の遅い小学生並の速度しか
出せていなかったのだ。


「『ノープラン』……さっき攻撃した時、猫全員に触れた。あいつらの速度は『俺と同じ』だ」


ゾンビの猫達の額や胴体には大きいバーコードがクッキリと現れていた。
天と猫達の速度は全く同じ……ならば、猫の隙を突いて先に行動した天の方が
猫よりも前に進めるし、天が転ばない限り猫達が天に追いつくことも出来ない。
更に猫達は天を追う前に攻撃を仕掛け、ダメージを受けているので
体力面でも差が出来ていた。なので……

「ニャ……ニャアアア……」

天に追いつく前に猫達のスタミナが無くなってしまったのだ。天と猫は体力も同格、
少し走っただけですぐに音を上げる程度の体力になった猫はその場に止まり
座りこんでしまった。

(……よし、今だ!)天はへばった猫達の視線が自分から逸れている事を確認すると、
側に生えていた大きな樹へ大急ぎでダッシュし、そのまま樹の後ろに身を隠した。


「ッ!?オアアァァアアアァアア……???」


体力が回復しきれていない猫達は天の全力の逃避に気付けなかったようで、
全ての猫が天を見失ってしまったようだ。猫達は辺りをしばらく見回すと、
互いの顔を合わせ何かを話し合い、そのまま散り散りになるよう移動を始めた。

(ゼェ……ゼェ……どうやらゾンビ達の行動には法則があるようだな。
目の前の標的を『攻撃』、少し距離が離れたら『追跡』、そして見失ったら『探索』
って所か……)

天はゾンビ猫が全て遠くへ行ったことを確認すると、息を整え大樹から離れ歩道へと戻った。
そしてそのまま歩道を進み、雲雀の待つ十本桜の元へ急いだ。

1853話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/07/16(月) 02:39:07 ID:NyCrr29Q0
天が雲雀の元へ急ぐ理由。
国綱からの指示を受けているのも勿論ある。国綱の窮地を救うためにも
雲雀の協力は必要不可欠だ。
更に雲雀は今回の『かくれんぼ対決』にはうってつけの助っ人になり得るのだ。
雲雀のスタンド、スター・キャスケット……その『飛行能力』を天は求めていた。

(空から公園を見下ろせばゾンビ猫達の動向も楽に分かるし、上手くいけば
本体も見つけられるかもしれない!……まあ木陰やトイレみたいな室内に隠れてると
上からじゃみつけられないだろうけど……お、着いたぞ!)


1分程歩いた所で天は目的地・雲雀が飲んだくれているはずの十本桜に辿り着いた……が。
そこには朝、天達が設置したシートや買ってきた酒やつまみが散乱しているだけで
肝心の雲雀の姿が何処にもない。

まさか酔っ払って何処かへ行ってしまったのか?えれにゃん☆だけではなく
雲雀も探しに公園を彷徨わなくてはいけないのかと天が危惧していると、
十本桜の中で一番太く大きい桜の樹の後ろから、高い声で誰かが泣いていることに気が付いた。

(……飲み過ぎると泣き出すって国綱さんが言ってたっけ……やれやれ)

天は雲雀の存在を確認し安堵した。
だがこれから天は雲雀の酔いを醒まさなければならない。酔ったままでは
駐車場に連れて行っても協力してくれるか分からないからだ。

「ひぐっ、ぐすぐす……」

「雲雀さん……大丈夫ッスか?……雲雀さん?」

天は樹の後ろへ回ると、泣いている雲雀に恐る恐る話かけた……が、様子がおかしい。
朝着ていた白と黒のTシャツに黒のハーフパンツ、横に転がっている酒の缶。
木の下で泣いているのは間違いなく雲雀のはずだ。だが……

背が低い。朝見た雲雀の身長は160cm程だったはずだ。
だがここに居る女性のは125cm……小学生程度の身長しかない。
着ている服も彼女には大きいようで、Tシャツの中に体全体が納まってしまいそうだった。


「ひぐっ……お腹空いたよぉ……食べたいよぉ……」

雲雀(のはず)は声をかけてきた天に自分の空腹を訴えてきた。
天は朝コンビ二で買ったお菓子を食べるよう薦めたが雲雀は首を横に振って拒否した。


……その時天は見た。見てしまった。
首を振った瞬間、雲雀の髪がなびき、髪の間から見えた首……その皮膚が

所々剥がれ、中から赤黒い肉とそこから湧き出た蛆が見えてしまったのだ。

天の目の前で泣いていた雲雀らしき小さな女性は……『腐っているのだ』!!!
まるでゾンビのように!!!


「ひ、雲雀さんッ!?」




「食べたいよォ……肉を……『お前のお肉』を食べたいよォ〜〜〜〜〜!!!」



「う、うわあああああああああああああ!!!」

雲雀は振り向き、天に顔を見せた。確かに雲雀の面影はあったが『幼かった』。
まるで小学生時代まで遡り若返ったようだった。
しかし顔の皮膚は剥がれ、腐敗した蛆まみれの血肉が露出していた。

(さっきの5匹の『子猫』、それに『子供のような』雲雀さん……やりやがった!
アイツのスタンド能力は尻尾で触れた者を『子供のゾンビ』に変え操る能力だったのか!
あの女、よりにもよって雲雀さんをゾンビに変えやがった……って痛え!)

雲雀が敵の毒牙にかかったことに戦慄している天の肩に激痛が走った。
噛まれたのだ。振り向いたゾンビ雲雀が天に飛びかかり、空腹を満たすため
天の左肩に思いっきり噛みついたのだ!

「し、しまった!ゾンビに噛まれたッ!ノープラン、どこでもいいから奴を『つねろ』!」

『チュ、チュミ!』

天の左肩から血が流れる。一刻の猶予も無かった。
ノープランの腕が天の左肩から出現すると、食事に夢中な雲雀の頬をギュっとつねった。
「痛い!」と雲雀が悲鳴をあげ、肩から口を離した。その隙に天は雲雀を突き飛ばし、
左肩を押さえながら大急ぎで逃げ出した。


「あーっ!待でー!食べがげのお肉が逃げだーッ!!!」

雲雀ゾンビの声が辺りに響いた。

1863話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/07/30(月) 03:41:31 ID:2D2POW8Y0
キャント・ユー・セレブレイトの能力はスタンドに触れた者を『ゾンビ化』し使役すること☆
スタンドの尻尾の部分で触れられた者は体が腐り、見た目や頭脳も子供になっちゃうのだ☆
更にゾンビはえれにゃん☆の命令で自在に操ることも可能なのだ☆すっごいでしょー☆!
でも安心して☆私が気絶するかスタンドに能力解除を命令すればゾンビは元の姿に戻るから☆
あとゾンビは人の肉や脳味噌が大好きなだけで噛まれたからってゾンビにはならないよ☆
デカい体で威張り散らしてる大人達ー、えれにゃん☆の能力で子供のゾンビにしてやろーか☆!
どーだ恐いだろー☆がおー☆

(以上、えれにゃん☆自身が作成したスタンド紹介文より引用☆近日公開予定の
ディザスター公式サイトに載せるつもりで書いたんだけど、リーダーに見せたら
書き直せって言われちゃった☆文体や語尾の『☆』がムカつくんだって☆余計なお世話だゾ☆)
--------------------------------------------------------------------------------
「な〜にが『がおー☆』だよ、ふざけやがって……」

十本桜を離れ、天は水道の水で傷口を洗いながらスマホの画面を睨み付けていた。

先程えれにゃん☆からスマホに彼女のスタンドに関する説明文が送られて来たのだが
その独特すぎる文体に天はいい加減イラついていた。
ゾンビになった者は元に戻せること、噛まれてもゾンビにはならない事を知って
ひとまず安堵はしたが、そんな人肉大好きモンスターが徘徊する公園内に隠れている
一人の女性を探さなくてはならない。更に駐車場で戦っている国綱に
『雲雀さんは敵の能力を受けて援軍にはこられない』と報告もしなければならない。

・・・・・・この2つの重い現実。肩に歯型の傷を負った天には受け入れ辛いものであった。


(さて……まずは国綱さんの所へ戻って二人であのマグマ野郎を倒してその後……ん!?)

ドグオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!

駐車場の方角から凄まじい轟音が聞こえて来た。
音源は察しが付く。あのマグマ使いだろう。駐車場で先程聞いたマグマの発射音の比ではない。
マグマ使いが『何かをした』のは間違いないだろう。それもとてつもない大技の類を。

(今の音は……!国綱さんが危ない!)
天は国綱の窮地を察すると大急ぎで駐車場へ続く道へ戻ろうとした……が。


「ウォォォアアア……ポチ……あそこに餌が歩いてるよ……」 「ヴヴヴ……ワ゛ンワン……」

「……おいでなすったか、『二人目』と『六匹目』……チクショウ」

1873話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/07/30(月) 03:45:47 ID:2D2POW8Y0
察するに『朝の散歩』の途中だったのだろう。
天の目の前にいたのは、犬用リードを握った子供のゾンビと、リードに繋がれた子犬のゾンビ。
その一組のゾンビが天を『美味しそうに』睨み付けていた。

(この道にはゾンビ……元は一般人と犬だから下手にスタンドを使う訳にもいかない……
仕方ない、別ルートで駐車場へ)「ヴォォアアァァオォァア」

背後で呻き声。振り返るとジャージを着用し、首にタオルをかけた子供のゾンビが
近寄ってきていた。恐らく『朝のジョギング』の最中にやられたのだろう。

「アアア……部活の練習に行がなぎゃアアァアァ……」
「ねえカズぐん……あぞこに美味そうなお肉がアアアア」


ジャージ姿のゾンビだけではない。公園の至る所からゾンビの呻き声が近づいてくる。
周りを見ると、制服を着たゾンビにカップルのゾンビ、ボールを持ったゾンビ。
その他諸々・20人以上の子供ゾンビが天を美味しそうに見つめながら迫って来ていたのだ!!!

(ううううう嘘だ嘘だ嘘だ!あのアマあああ!公園に来てる罪も無い人達を片っ端から!
いや公園だけじゃあない、公園の近くを歩いてた人にも能力を使ったな!
あいつには節操ってえもんがないのか!!!)

様々な理由で公園に来た人達を己の兵隊に変えたえれにゃん☆に天は怒りを覚えた。
……が、その感情はすぐに絶望へと変化してしまう。

「みんなー!お肉は駐車場に続ぐ道に居るよぉぉぉぉぉ!集まれえええええ!!」

天の真上から子供の声が聞こえてきた。えれにゃん☆の声では無い。しかし
『先程聞いた声』だ。

猛烈に嫌な予感がした天は大量の冷や汗をかきながら上を見上げると、そこにいたのは
スター・キャスケットに跨ったゾンビの雲雀であった!

「ハハハ……ゾンビになってもスタンドは使えるのな……おかげで俺の動きは
上から全部筒抜け……こんな……こんな状態でどうやって
アイツを探せばいいんだよおおおおおおおおおお!!!」

天の腹の底からで絶叫しながら今居る場所から全速力で走りだした。
ゾンビ達は一斉に天の後を追い、雲雀も空から追跡を開始した。


(……フフ、これで天くんは私を探すことは出来なくなった。
20体の『鬼』に追われて何時まで体力が持つのかしら?それに、ゾンビ達から逃げて
必死に私を探そうとしても、私は『絶対に見つけられない』……
残り時間半分、もう勝ちは決まったも同然ね。にひひ☆)
----------------------------------------------------------------------------------

――同時刻 門北地区センター 食堂

「おむすび良し・揚げ物類良し、煮物類・野菜類良しっと。料理は全部重箱にいれたぜ」

「ありがとう子猫ちゃん、これでお花見のお弁当は出来上がりね」

食堂内の厨房では管理人率いるアパートの女性陣が分担してお花見用の弁当を作っていた。
管理人と白雪が料理を作り、子猫が料理を重箱に綺麗に詰める。
猫のシャロンは足元で料理を物欲しそうに眺めていたが、猫が厨房に入ってはいけないと
食堂のおばちゃんに追い出されてしまった。
雲雀は「飲み物担当」ということで、酒やジュースを沢山買うよう
管理人に指示されていた。

「そういえば管理人さん、今日はウチら以外にも人が来るんだったよな?
藤鳥さんの彼女だっけ?確か……」

「咲良さんね。彼女なら先に公園に行って藤鳥さんと一緒に場所取りを
してくれるそうよ。もう公園に着いた頃じゃあないかしら」



そう。天の彼女・大河原咲良の来訪によって、天は最大のピンチを迎えようとしていた。


「全く天ったら、いくらメッセージを送っても全然反応しないんだから!十本桜というのは
何処にあるのかしら……しかし何か騒がしいわねえ……」



「……ああああ……新しいお肉……」

1883話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/08/20(月) 00:34:27 ID:k1r5P0Hs0
公園をあてもなく走る天。それを追いかけるゾンビ達。その数20体!
「オ゛アアァア゛アアァ゛ァァアア゛……」

その光景を宙に浮かぶシャボン玉を通して見ていた者がいた。
圭との戦いに勝利した国綱である。


「ゾンビを作り操る能力……兄さんが危ない!今助けに行くッス!」

国綱は天のピンチを察し駐車場を後にすると、大急ぎで天の元へ向かおうとした。
その時であった。


「キャアアアアアアアアアアアア!!!」


何処か遠くの方から、女性の悲鳴が小さく聞こえて来たのだ。

(今の悲鳴は……雲雀の姐さんじゃあない。別の誰かの声だ。
……まさかあのゾンビ共、無関係の人を!急がなくては!)

ゾンビが女性を襲おうとしている。国綱は自分の予感が外れている事を祈りながら
女性の声が聞こえた方へ走り出した。


その声はゾンビの群れからかろうじて逃れ、公園内の男子トイレの個室に隠れていた
天とノープランにも聞こえていた。

『……!女性ノ悲鳴デス。コノ町ノ人デショウカ?マズイデスヨ、公園ニゾンビガイルト
騒ギニナッタラモウ決闘ドコロデハ……マスター?』

「……咲良?」

天はこの悲鳴に聞き覚えがあった。
自分の彼女である咲良が上げる悲鳴によく似ていたのだ。

(……確かに咲良は今日花見のために来てくれる……が、咲良には昼頃来るよう
一昨日言っておいたからこの時間はまだ来ていないはずだが……?)

天はスマホを取り出すと咲良に電話で今何処に居るか確認しようとした。
すると画面に『新着メッセージが5件あります』と表示されていた。
どうせえれにゃん☆からだろう。残り時間も少ないから挑発メッセージでも送ったかと
アプリを起動すると、これらのメッセージはえれにゃん☆からでは無いことが分かった。
その送り主は……

「…………」

『マスター?手が震エテマスヨ?チュミミーン』


30分前
【咲良:おはよう天!本当はお昼ごろ門北に行くつもりだったんだけど、
私もお花見の場所取りをすることにしたから早めにそっち行くね!
(昨日管理人さんと電話で相談して決めたの)あと30分で門北に着くと思う】

10分前
【咲良:今門北に着いたから公園に向かうね!ところでお花見をする十本桜って
公園の何処にあるの?】

5分前
【咲良:そろそろ公園だけど……今までのメッセージちゃんと見てる?】

3分前
【咲良:通話着信あり】

1分前
【咲良:さては読んで無いわね天!しかたない、もう着いたから自分で調べるわ!
しかし何か公園が騒がしいけど公園で何かあったの?】


「咲良が……公園に来てる!あの悲鳴は咲良のモノだ!!!!!」
天が大きく叫んだ。その顔からは血の気は無く、真っ青に染まっていた。

「咲良ッ!まさかゾンビにッ!?」

天が再び叫ぶと個室のドアを大きく開けた。
扉を開けるとそこには数体の子供ゾンビが個室を囲んでいた。
既に数体のゾンビに居場所を気付かれていたのだ。
だが。

「そ こ を ど け !」『チュミッ!』

ゾンビの群れを見るや否や、天はノープランをゾンビの群れに思いっきり体当たりさせた。
ゾンビ共は当たった衝撃で吹っ飛ばされ、トイレの壁に激突した。

「お前らに構っている暇なんか無い!咲良アアアアアア!!」

天は公園のトイレを出ると、大急ぎで悲鳴の聞こえた方へ走り出した。

1893話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/09/11(火) 03:29:33 ID:JTrSu4G60
「キャアアアアアアア!子供のゾンビ可愛い!何コレ映画の撮影!?
ゾンビのメイクすごいリアル!蛆まで湧いて超ヤバいんですけど!
ちょっとキミたち写真撮って良い?あとで天にも見せよーっと♪(パシャパシャ)
キャアアアア!凄いたくさーーーーん!撮りきれなーい!」

「アアアァァァアァァ……何だごいづゥゥ……」

公園の入口近く。徘徊するゾンビ達を目撃してしまった咲良は悲鳴を上げた。
恐怖による悲鳴ではない。アイドルや映画俳優を生で見た時に発する
所謂『黄色い悲鳴』を咲良は上げていたのだ。(実に嬉しそうな表情で)

一方、予想外の光景にゾンビ達も少々戸惑っていた。
自分達を恐れず、むしろ会えて感激みたいなリアクションをする人間を食っていいのか?
子供の知能しか持ち合わせていないゾンビ達には判断が出来ずにいた。
結果、ゾンビは咲良の周りを囲み様子を見るだけでソレ以外のことは一切しなかった。


(何よコイツ……いい年して子供みたいにキャーキャー言っちゃって、みっともない。
私のゾンビを見てこんなリアクションしたのコイツが初めてじゃあないかしら……
でも面白いわね。今こいつ『天にも見せよう』って言わなかった?もしかして
天くんの知り合いかしら?まさか恋人だったりして?だったら……)

咲良とゾンビ達の様子を『どこかで』見ていたえれにゃん☆ことエレナ・マースは
何かを思い付くと自身のスタンド、キャント・ユー・セレブレイトを出現させ
咲良の背後に接近させた。……いつでも『尻尾で触れる』距離まで。

(天くんも必死に足掻いてるようだけど、大切な人ををゾンビなんかにされたら
心もポッキリ折れるんじゃあないかしら……それじゃあセレブレイト、
その心の幼いレディをゾンビに)


「ノープラン!!!」 『チュミッ!!!』


キャント・ユー・セレブレイトの尻尾が咲良の背中を突こうとした寸前、
エレナの臀部に激痛が走った。まるで誰かに殴られたような衝撃だった。

見ると、ノープランの拳がキャント・ユー・セレブレイトの臀部……つまり尻を
思いっきり殴っていたのだ。セレブレイトは殴られた衝撃で
数メートル程吹っ飛んでいった。

あまりの痛さに思わず声が出そうになるが、エレナは歯を食いしばってそれに耐えた。
……その形相は醜く歪んでいたが。


(危ない所だった……あのアマ、やっぱり騒ぎに乗じて咲良をゾンビにしようとしてやがった!
雲雀さんや他の人達……コイツには対象をゾンビに変えるという
恐ろしい能力を使う事に一切の『ためらい』が無いらしい!駐車場のマグマ野郎といい
ディザスターに属する奴らは『こんなの』しかいないのか……?まあとりあえず……
咲良が無事で良かった……ゼヒ……ゼヒ……)

エレナのスタンドを撃退した天は安堵の表情を浮かべた……砂利道にぶっ倒れながら。


咲良の悲鳴を聞き、大急ぎで自身の体力を一切考慮せず全速力で悲鳴の聞こえた方へ向かい
そこで咲良と彼女に尻尾を触れさせようとしているスタンドを発見、大急ぎで
スタンドの臀部をノープランで攻撃し、そこで体力が尽き現在に至る……という訳である。

1903話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/09/28(金) 00:29:57 ID:akra3omc0
「ちょっと天、大丈夫?いきなり走って来たかと思えば輪に入ってきて急に叫んだりぶっ倒れたり。
体力もロクにないのに全速力で走るもんじゃないわよ、はい冷たいお水」

咲良は満身創痍の天に水を渡すと彼の息が整うのを待った。その間
咲良はゾンビ達に囲まれ幸せそうな表情を浮かべていた。

(……咲良の奴、やっぱりゾンビ達相手にキャーキャー言って迷惑をかけてたか。
咲良のホラー映画好きにも困ったものだ。この手のモンスターを『可愛い』とか言って……)

「なんか言った天?いやいやそれより見てよこのゾンビ達!Jホラーもここまで来たのよ!
ほら、この子なんか蛆が可愛くウネウネと……」

「……咲良、そのことについてちょ〜っと話がある。とりあえずこの輪から出よう。
ここに居続けるのはマズいからな……ホレ」グイッ

「ああっ、急に引っ張らないでよ天!」

天は立ち上がると咲良の手を握り、ゾンビ達の輪から抜け出そうとした。
困惑の表情を浮かべていたゾンビ達も二人が輪から出たがっていることを理解すると
少しだけ移動して二人を輪の外へ出そうとした。


……それを『彼女』が許す筈もなく。


(なあ〜〜〜〜〜〜にボーッと逃がそうとしてんのよこの腐れ兵隊共があああ!
『食べる』のよッ!あの新鮮な肉を!図体ばかり大きくてトロそうな肉、
これを逃したらもうチャンスは無いんだからッ!!!)


「「「あ゛あぁ……分がっだ……あ゛の゛肉を゛……『食えばいいのがぁ』……」」」


二人が輪から出た時。天は彼らの声が聞こえたのか、ゾンビの群れの方に振り向くと
咲良に言った。


「………咲良、悪いけど俺の背後に回れ、俺から離れるな」

「??どったの天?まあそこまで言うなら従うけど」


咲良が天の指示に従って彼の背後に回った直後であった。

ゾンビ達が『何者か』の命を受けたかのように、天と咲良目掛けて
一斉に襲いかかって来たのは!!!

「キャアアアアア!あの子達ったらサービス旺盛!この演技なら観客も大満足よ!
てゆーか動きもすごく可愛い!キャー!」


(やっぱそうなるよなぁ……まあいいや、薫さんに教わった『あの技』を試してみるか!)


ゾンビ達が二人に迫ろうと飛びかかる。その時であった。

ボグォ!!
「ヴェエエエェエェ!?」

ゾンビ達の中の一匹、その顔面にノープランの右ストレートが直撃した。
ゾンビは衝撃で遠くへふっ飛んでいった。

直後、別のゾンビのボディにノープランの左ストレートが炸裂。地面に叩き付けられた。
そのまた直後、ゾンビの顔に右ストレート、別のゾンビに左ストレート……
ノープランの拳によって、ゾンビ達が凄まじい『速度』と『勢い』で殴られ、
次々にふっ飛んでいった!


「両拳を使っての高速の連続突き……成程、これが『ラッシュ』か!」

1913話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/09/28(金) 01:44:32 ID:akra3omc0
数日前。天はスタンド研究者である望月薫に『ラッシュ』の仕方を教わっていた。
薫曰く、これはパワーやスピードのあるスタンドが使う技の一つで
これを覚えれば工夫次第でどんな敵ともある程度は戦える、とのことだった。

ラッシュをしている間は何らかの『掛け声』を叫ぶのが効果的という
薫の言葉に従い、天も何らかの声を挙げようとした……が。
スタンドのことを知らない咲良が背後に居る。ここで大きな声で何かを叫ぶのは
恥ずかしい。なので自分ではなくノープランに掛け声を叫んでもらうことにした。


『ゾンビノ皆サン、シバラク寝テテクダサイ……チュミミミミミミミミミミミミミミミミミミミミ
ミミミミミミミミミミミミミmmmmmイテテテテテテ舌噛ンダ!
マスター、コノ掛ケ声ハ無理ガアリマス、チュミミーン!デモコレデ全員ッ!』


いつもチュミミーンと言ってるノープランだから、チュミミミ言いながらの
ラッシュも出来るのでは無いかと実践してみたが、『ミ』を連呼するのはキツかったらしい。
舌を噛んだ痛みが本体の天にもしっかりと伝わってきた。
「スタンドにも舌はあるんだな」と天は舌を出しながら痛そうな表情を浮かべていた。

だがゾンビ達への攻撃は無事完了したようで、襲いかかってきたゾンビは皆
ノープランの拳によって吹っ飛ばされ、公園の地面に呻き声を上げながら倒れていた。


「何とか倒したか……だけど相手はゾンビ、すぐに起き上がってくるだろうから
急いでここから離れないと……ん!?」

この場から離れようと試みる天のスマホが振動した。
画面を見るとえれにゃん☆から怒りのメッセージが届いていた。


【えれにゃん☆:このスカタンがああああああ☆!!!
よくも私の可愛いスタンドをブン殴ったわね☆!?もう許さないんだから☆
アンタもそこの彼女っぽい女も仲良くゾンビにしてやるんだから☆!!!】


文面から若干だが本性が見えて来ていた。それでも語尾に☆を付けるクセ(キャラ付け)は
徹底しているのに少し感心しながら、天はえれにゃん☆に返信した。

【天:テメーが咲良をゾンビにしようとしたからだ!お前を見つけて
絶対にギャフンと言わせてやるからな!】

天はメッセージを送信し終えると咲良を連れて再び公園の奥へ入っていった。
……決闘の終了時刻まで残り15分。天達はえれにゃん☆を見つけられるだろうか?


ブーッ
「……あら?何かしら、今の『音』?」


公園の入口から離れる最中、咲良がふと呟いた。

1923話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/10/10(水) 21:44:14 ID:iBu7knQ60
「えっ、町興しのイベント?あのゾンビ、近所の子供達のメイクなの!?」

「そうそう、ホラーで町を活性化ってことでね……」


よくもまあ、こんなデタラメを平然と言えるものだと天は心の中で自虐した。
だが流石に「スタンドという超能力で子供のゾンビにさせられている」なんて
(それが事実だとしても)何も知らない咲良に言える訳がない……言った所で
信じてもらえる訳もない。でもゾンビはしっかりと目撃されてしまった。
下手に騒ぎを拡大させず、穏便に済ませるにはこの言い訳しかないのだ。

更に天は咲良と離れることがないよう、エレナの捜索を咲良と一緒に行うことを考えた。
「今イベントの一環でかくれんぼゲームを開催していて、この画像の女の子を見つけたら
素敵な商品が貰える」とエレナの写真が映ったスマホを見せ、
咲良に「一緒に景品をいただこう!」と嘘に嘘を重ねたのだ。


急ごしらえの見え透いた嘘。だが
「素敵な商品!?参加する!不逞の輩をひっ捕らえよう!」とあっさり信じて貰えたのは
二人の絆の深さ故か、あるいは単に咲良が騙されやすい性格だからか?


「それで、この青い髪の女の子を探せばいいのね!?制限時間残り15分?
じゃあ私は女子トイレとかを探してみるわ……キャア!」

咲良がスマホを見ながら鼻息を荒くしていた時、公園の入口方面から
先ほど倒したばかりのゾンビの集団がこちらに向かってノロノロと歩いて来たのだ。
犬を連れた者、ボールを持った者、スマホをいじっている者……
それらを見た咲良は目を輝かせ黄色い悲鳴を上げた。


(やはりすぐに復活したかゾンビ共……だがノープランの能力で
俺以上の力は出ないから咲良でも抵抗は可能だろう。下手すりゃ倒せるかも。
……しかし『女子トイレ』か……確かにそこに隠れられたら男の俺では絶対に
見つけられない場所だ。一応アイツに問い質してみるか?ロクな返答は期待できないが)

天はスマホを操作するとえれにゃん☆にメッセージを送った。

【天:まさかとは思うが、女子トイレなんかに隠れてはいないだろうな?
せめて俺が堂々と立ち入れる場所に隠れて欲しいんだけど】

メッセージを送ると天は咲良に「ゾンビに捕まったら失格だからここを離れよう」といい
公園の奥へ進むよう促した。咲良は頷き、共に公園の奥へ移動しようとした。


ブーッ
「……まただ。なんの『音』なんだろう?」

1933話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/10/27(土) 02:04:49 ID:2ojY3GXw0
【えれにゃん☆:安心して☆そんな所には隠れてないから☆!でも大丈夫☆!
どう足掻いても天くんの頭では絶対見つけられないから☆!ほらほら、あと15分だよ☆
にぱー☆】


「なーにがにぱー☆だ、あのアマ……完全に勝ちを確信して挑発してやがる!」

「ところで天、さっきからスマホで何してるの?何か物凄い顔で画面を睨み付けてるけど」

咲良にそう言われた所で天は我に返った。聞けば鬼の形相でスマホを操作していたらしい。
例の女の子(ゾンビを操る黒幕という設定と咲良には言ってある)から定期的に送られてくる
挑発的なメッセージを見ていたと説明していると、ブーッという振動と共に
新着メッセージが送られてきた。またアイツからかと見てみると、
送信元はえれにゃん☆ではなく国綱からであった。

【クニツナ:兄さん大丈夫ッスか!?こっちはマグマ野郎を倒して
そっちに向かってたんスけど、途中で厄介な人?に襲われまして……
兄さん、この姐さん?どーすればいいッスかねえ? ( ;´Д`)】

メッセージには画像が添付されていた。見るとそこには、真っ赤な顔をして
スヤスヤと眠っているゾンビ雲雀の姿があった。なんでも、いきなり空から
「新しいお肉だ!」と叫びながら箒に乗って突進して来たので、咄嗟にヘブンリーで
雲雀を包み動きを封じ、シャボンの中で思う存分暴れさせた後、疲れてしまったのか
そのままシャボン玉の中で眠ってしまったとのことだ。

国綱の安否を確認出来たことに天はまずホッとした。そして
(そういえば国綱さんに雲雀さんのこと言ってなかったっけ)と考えながら
国綱に事情を説明し、【多分今も酔ってて、このこともすぐ忘れると思うんで
花見用のシートにでも置いといて下さい☆にぱー☆】というメッセージを送信した。
……送った後、えれにゃん☆の文体が自身に感染ってしまったことに気付き、苦笑した。



……あれから10分。

「咲良、そっちの自販機の裏はどうだ!?」

「ダメ、誰も隠れてない!」

「そうか……」

天と咲良はゾンビ達に追われながら公園の大半を探し尽くしていた。
ベンチ・自販機・木の繁み・遊具の中……
隠れられそうな場所は一通り見て回ったが、エレナはもちろん
猫や鳥の姿すら確認出来なかった。

(マズいぞ……残り5分!探せる所はあらかた探したがアイツの姿がどこにも無い!
奴のスタンド能力は姿を消す類のモノではないから何処かに隠れているはずなんだ!
なのに何故何処にもいない……ん?)

残り時間も僅かとなり焦りだす天のスマホがブーッブーッと振動しはじめた。
スマホを取り出すと管理人からの電話であった。

「もしもし……ええ、あと5分で公園に着く!?分かりました、お待ちしてます……
ハイ、では」

もうすぐアパートの面々が公園に来ることを知った天は更に焦った。
場所取り担当の一人がゾンビと化していたからだ。管理人達が来る前に
一刻も早くえれにゃん☆を見つけて決闘を終わらせ、雲雀の体を元に戻してもらわねば!

1943話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/11/17(土) 23:25:44 ID:ZsrNwD320

「あーっ!分かった!」

突然、咲良が大きな声を上げて何かに気付いたかのように手を叩いた。
何事かと聞いてみると、咲良は天の持っていたスマホを指差してこう言った。

「振動よ、バイブレーション!いやね、さっきから公園でブーッブーッって鳴ってたから
何の音かなーって思ってたんだけど、今天のスマホから聞こえた振動音と同じなのよ!
そっかそっか、『あの子』から聞こえて来たのね!あースッキリした!」

とびきりの笑顔で一人納得した咲良。天は「そ、そうか」と相槌を打った。
このご時勢スマホは老若男女に行き渡っており、門北にもスマホを持っている人は
沢山いる(と思う)。公園のどこかでスマホの音が鳴っていてもおかしくはない。

「ん?『あの子から』ってことは咲良、公園のどこかでスマホを持ってる奴を見たのか?」

「うん、ゾンビの中にスマホ持っていじってる子がいたの。いやよね、
イベントの最中だってのに演技もせずに自分のスマホを夢中でいじっちゃってさ」

(演技ではなく本当にゾンビにさせられた人なのだけど)と天は心の中で思った。
ホラー映画好きの咲良はその演技の出来ないゾンビに不満があるらしく、
えれにゃん☆捜索も忘れ愚痴を言い出してしまった。
こうなると語り尽くすまで止められないのは天も分かっていることなので
黙って聞いていたが、その途中で咲良は妙なことを言い出したのだ。


「……それでね、そのゾンビの子のメイクもダメだって私思う訳よ!
他の子は蛆とかも湧いてて超不気味なのに、その子だけメイクが適当というか
低クオリティなの!メイクさんが手を抜いたのかしら?ゾンビを舐めてるというか……」


……ゾンビの『メイク』が一人だけ下手。
これはどういうことだろうか?と天は思った。アレらが『ゾンビのメイクをした人間』
だという話は天が咲良に言った作り話でしかない。本当はスタンド能力で化物に変化させられた
『本物のゾンビ』なのである。故に、身体から湧く蛆も腐った肉も全てが本物で
断じて特殊メイクで変装している訳ではない。


「……そのゾンビ、どんな姿をしてるか分かるか?」

「分かる分かる!さっき写真撮ったもん!ほら、この黒髪の女の子!」

咲良は画面を指差しながら自分のスマホを天に見せた。
画面には困惑の表情を浮かべながらこちらを見つめるゾンビ達の姿があった。
その中で咲良が指差した所には、確かに背の小さい黒髪ロングヘアーの女の子がいた。

(……確かにこのゾンビだけ造詣が違う。彼女の顔には蛆や剥き出た肉は無く
目の周りがパンダのように黒くなっていて、口や額から血が流れているだけで済んでいる。
身体も蛆が湧いておらず、ボロボロの服が血液で汚れているのみだ。
逃げるのに夢中で気付かなかったが、こうして冷静に見てみると差は一目瞭然だ……
なんだ?ゾンビ達に生じたこの『差』は?)

天は画面の女の子をジッと見つめ考え込んでいた。かくれんぼには関係の無い事柄な上
残り時間も僅かで思案に暮れている暇などないのだが、そこは後先考えず生きる男・天。
自分の気になることをついつい最優先してしまうのであった。

「……!ちょっと天、またゾンビ達よ!早く逃げなきゃ……あ!」

咲良の声を聞き顔を上げると例のゾンビ達が迫ってきていた。

……その群れの中に、蛆の湧かない『スマホをいじる少女ゾンビ』もいた。

それと同時に、えれにゃん☆からのメッセージが届く。文面を見るに、
これが最後のメッセージのようだ。

【えれにゃん☆:残り5分☆もう私を見つけるのはもう無理だね☆今私の兵隊達を
天くんの所へ集めてるから、大人しくみんなに食べられてね☆バイバイ☆負け犬クン☆】

1953話後編 ◆PprwU3zDn2:2018/12/19(水) 00:59:36 ID:oGXhVmtA0
(マズいッ!あのアマ最後の仕上げにかかりやがった!このままだと俺ら
ゾンビに食べられちまう!……もう決闘ごっこはやめだ、さっさと逃げよう!)

ゾンビ達の主はこの場にゾンビを集結させ、ゾンビ達に『食事』をするよう命じたようだ。
命の危機を感じた天は咲良の手を掴むと一目散に公園から離れようと走り出した……が!

『ダメダメ!逃げようったってそうは行きませんよ〜だ!』

逃げる天達の上空からキャント・ユー・セレブレイトが甲高い声を上げ手を叩き笑っていた!
さらに前方・横からもスタンドに呼び寄せられたゾンビの群れ!
……天達は四方をゾンビ達に囲まれてしまった!
人間のゾンビの他に最初に戦った子猫のゾンビ、子犬のゾンビに鳥のヒナのゾンビまで
多種多様、様々な子供ゾンビが天達を味わおうと集結していたのだ!

「ちょ、ちょっと天!この猫や犬もメイクなの?鳥のヒナにまでゾンビのメイクなんてさせて
ちょっと引くんだけど……」

流石の咲良もこのゾンビの品揃えに違和感を覚えたようで、顔を青くしながら天の後ろに回る。
恐らくかくれんぼの制限時間を過ぎた瞬間、えれにゃん☆の指示でゾンビの群れが一斉に
天と咲良に襲いかかってくる仕組みなのだろう。

(こいつら、咲良を助けた時の数倍の数がいやがる!スタンドのラッシュで
ある程度は倒せても、こんな数に一斉に襲われたら攻撃が間に合わない!
おまけに後ろには咲良!守りながら戦うにも限界がある!クソッこうなったら……)

えれにゃん☆の放った人海戦術に対抗する術が無いことを悟った天は
スマホを手にすると大急ぎでメッセージアプリを起動し操作する。

【天:緊急事態ッス国綱さん!今ゾンビに取り囲まれて喰われそうッス!
今からじゃあ間に合わないかもしれないッスけど来て欲しいッス!
場所は十本桜の南、赤い自販機のある所ッス!】

国綱への緊急援軍要請である。かくれんぼ終了までもう3分もない。
それでも大急ぎで来てくれれば間に合うかもと天は考えたのだ。
国綱のマグマをも防ぐシャボンがあればゾンビ達の猛攻も凌げる。
少なくとも咲良は公園から逃がす事はできる……そう信じた。

ブーッ
天がメッセージを送った直後、例のスマホゾンビのスマホから大きな振動音が鳴った。
少女は画面を見ると素早い指の動きで何かを操作しているようだ。

ずいぶん大きなバイブ音が鳴るスマホだなと思いながら天はいつ襲ってきてもいいように
ノープランに迎撃の態勢をとらせていた。


ピロン♪
天のスマホから音がなる。メッセージが届いたらしい。国綱さんからの返事だろうかと
スマホを見るとスタンプが一つ送られてきたようだった。その絵は。


ピンク色のカバがアッカンベーをしているものであった。


(ちょっ、国綱さん!?)天は目を見開いた。
まるで『誰が助けになんか行くもんか』と言わんばかりのスタンプのチョイスに
天は怒りを覚えた……が、その感情は一瞬で引いていく。

差出人はえれにゃん☆からだったからだ。
何故急にこんなスタンプを?と確認してみると、天は自分がとんでもないミスを
してしまったことに気がついた。


(し、しまった!さっきの援軍要請……間違えて『えれにゃん☆』に送っちまってた!!)

1963話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/01/15(火) 03:14:51 ID:Y61lMXdg0
『キャハハハ、バーカ!慌てて送信相手もロクに見ないで送ったでしょ!カッコ悪〜い』

天達の上空でキャント・ユー・セレブレイトが手を叩きながら大声で笑っていた。
その甲高い声に加え、彼女の勝ち誇った……勝利を確信し安心しきったようなその声が、
今の天には非常に腹立たしく聞こえていた。

『コイツが幹部候補だなんてリーダーも見る目ないわねー!こんな奴問答無用で不合格よ
不合格!罰としてゾンビ達のごはんに……』

「……はぁ?」

突然出てきた『幹部候補』なる言葉に思わず天は反応してしまった。
そしてその後に続く『不合格』……自分は何か試されていたのだろうか?
不審に思った天は自然とメッセージアプリに率直な疑問をぶつけていた。

【天:待て待て待て!幹部候補って何の話だ!?】……返事はすぐに来た。

【えれにゃん☆:無論天くんの話だよ☆キミは今回の戦いぶり次第で
ディザスターの幹部になれるはずだったんだよ☆?でもこの様じゃあ合格は無理ね☆!】


……少しの間、天の口は開いたままになっていた。

骸が勝手に自分をディザスターに入れようとしていたこと。勝手に幹部候補に選ばれていたこと。
今日の決闘が自分の力を試す場であったこと。

色んな事をいっぺんに知らされた天は、戸惑いや怒り等の様々な感情を胸に抱きながら
えれにゃん☆にメッセージを返した。

【天:……アンタらのリーダーに直接言いたい事があるから
試合時間ちょーっとだけ止めてもらっていいかな?】
------------------------------------------------------------------------------------
「全く圭の奴、天下原相手に負けやがって……エレナはエレナで何処に居るんだか」

同時刻……門北自然公園にあるベンチの上でディザスターのボス・骸は
ジュース片手にボヤいていた。
圭と国綱の戦いを最後まで見る事ができず(圭の敗北は時田から聞かされた)、
天とエレナの戦いを見ようと再び公園に来てみればエレナの姿はなく、代わりに彼女が
スタンドで作った猫ゾンビ達に追われまくり、結果顔にはひっかき傷だらけ……
今日の骸は散々であった。

そんな骸のスマホに天から電話が来たのはついさっきのことであった。

「(天からだ。そういえばこないだ番号も教えてたんだった)はいもしも……」
『もしもしじゃあねーよこのガキ!!!』

電話に出た直後、スマホの向こう側から大声が響いてきた。どうやらお怒りのご様子。

『なんだ幹部って!人を面接試験みたいに試すマネしやがって!』

「ああそのことか……まあそのまんまだよ。お前はスタンド使いだし悪の素質もある。
もしエレナを倒すことが出来たら我等の組織に入る権利や我と戦う権利を……」

『そんな権利いらんって言ってるだろ!こっちは就活のせいで試験って概念が
嫌いになってんだ!今度組織に誘うマネをしたら……ん?何だ咲良……いや電話の相手に
言ったんだ。いいから俺の後ろに……』

天の怒鳴り声の後、小さな声で誰かと会話をする天の声が聞こえて来た。

「……?誰か近くにいんのか?サラ……お前のツレか?」

『……お前のおかげで無関係の咲良までゾンビに喰われそうになってんだよ!
どうしてくれるんだ!』

ああ、なるほどな。と、骸はスマホの向こうで何が起こっているかを理解した。
彼女の得意とする戦法にまんまと嵌ってしまっているのだな、と。


「なあ、今エレナとかくれんぼしてるんだろ?教えてやろうか?『今アイツが何処に居るか』」

1973話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/03/03(日) 04:19:45 ID:FSj9nKHE0
『なっ!?なんで分かった、今かくれんぼしてるって!?』

やはりな、と骸は思った。ゾンビが蠢く中でのかくれんぼ勝負……
それがえれにゃん☆ことエレナ・マースの得意とする戦術なのだ。
となると公園で今何が起こっているか骸には手に取るように分かる。

「今お前は……『エレナのスタンド』からかくれんぼ勝負を挑まれて
ゾンビに襲われながらも必死にエレナを探すも全く見つからず、現在敗北寸前……
って所だろ?」

受話器の向こうから『見てたのか?』と聞こえてくる。
エレナは『あの頃』から戦い方を変えていないのか、と骸は昔を思い出していた。
「ゾンビを操る子供が隣町の不良共を倒した」……その噂から
スタンド使いの匂いを感じ、組織にスカウトすべく噂の主に会いに行った数ヶ月前の事を。

何処に居るか教えてやろうか。その問いに天は沈黙していた。
窮地に追い込まれてはいるが、敵に答えを直接教わるのも借りを作ったようで癪だ。
そう考えているのだろう。

ならば、と骸は答えではなく『ヒント』を与えることにした。
「……いいか、エレナはかくれんぼをする度に毎回『同じ所』に隠れる。今は公園だが、
それが学校の校舎内でも家の中でも変わることはない。……極端な話、
『砂漠のド真ん中』でかくれんぼをしてもエレナは同じトコに隠れるだろうよ」

『はぁ?場所は違うのにいつも同じ所に隠れるだと?矛盾してないか?』

「それともう一つ。エレナは非常に往生際が悪い。例えエレナを見つけたとしても
奴は平気で『しらばっくれる』。確実にエレナを見つけたという証拠を見せつけてやれ」

『いやいやいや!見つけたらそれで終わりだろう!何でしらばっくれることで勝負が
長引くんだよ!?』

受話器の向こうから聞こえてくるツッコミに骸は気持ちは分かる、と心の中で思った。
だが今までのヒントは全て事実だ。これは数ヶ月前、入団前のエレナとのかくれんぼ勝負で
敗北寸前まで追い込まれた骸だからこそ出せる『ほぼ答えのヒント』なのだ。

「……長話するとエレナが怒るかもしれないからこれで最後だ。お前、今に至るまで
エレナ『本人』と会ったことないだろ?会話はスマホかスタンドを通じての二つのみ、
エレナの顔も我が送った画像か本人から送られてきたアプリで加工しまくりの自撮り写真でしか
確認できない、違うか?……何故奴はお前に姿を見せないのか、その理由を考えるんだ。
それじゃあ、健闘を祈る」

『おい、ちょっと待……』

天の言葉を待たず骸は通話を終了させた。

(組織に来る気がないと分かれば、試験も兼ねていた今回の決闘は
さっさと終わらせるに限る。奴の力量はいずれ我が直々に測るとしよう。
なあに、時間はまだ沢山ある……ん?また着信が?)

骸はスマホに来た着信を確認すると電話に出た。
「もしもし……え?花見用の弁当を運ぶの手伝え?何で我が……分かりました分かりました!
そんな大声でゴミ虫連呼しないで下さい!今すぐ行きますから!はいはいそれじゃ」

骸は通話を終えた後、電話の相手……白雪の命に従うべく、渋々アパートへ戻って行った。
「ままならないものだな、世の中」骸は不満そうにそう述べた。

1983話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/03/26(火) 00:25:18 ID:iIwyjmo20
(いつまで話してんだか、天くんったら)

えれにゃん☆は天が骸とスマホで話しているのを『その目』で見ていた。
彼女は天がこの場所に来てから、彼のことをスタンド越しではなく、『自分の目』で
じっと見つめていた。彼女は天のすぐ近くに居るのだ。
天が通話を終えたのはそのすぐ後であった。


「おい、ちょっと待て!……クソ、終わっちまった」

「どうしたの天、いきなりスマホで話しこんじゃって、誰に電話かけたのよ?」

「かくれんぼイベントの関係者だ……おかげでヒントを少々貰えたぜ」

「???」


えれにゃん☆は天と咲良の会話を聞き、こめかみに青筋を立てていた。

(ヒントぉ?さてはリーダーの奴、アイツに入れ知恵したわね!?ディザスターに
来る気がないからさっさと終わらせようってこと!?私の許可なく冗談じゃないわ!
リーダーは自分勝手で生意気なのよ、私より2つも『年下』の癖に!!!)

えれにゃん☆本名エレナ・マース。悪の組織(予定)ディザスターに所属。
幼い顔立ちと低めの身長で子供とよく間違われるが、実際は
Y市内の高校に通う17歳の高校生。組織のメンバー、骸・圭・エレナの三人の中では
一番の年上なのだ。


一方天は電話で貰ったヒントを咲良に伝えていた。
「フンフン……かくれんぼって今日みたいなイベントのことでしょ?
……なら簡単よ!えれにゃんだっけ?その子あそこに隠れているのよ!」

「ええ!?分かったのか!?俺聞いててもさっぱり分からなかったのに!」

「ったく、アンタって昔からこういう謎解き苦手だったもんねえ。ほら、耳貸して……
ゴニョゴニョ」


咲良が天に耳打ちで自分の考えを伝えている様子を見るエレナの顔からは
一筋の汗が流れていた。

(ほら見なさい!隣の頭良さそうな彼女に気付かれたじゃあないの!
……でも私には必勝法ならぬ『必不敗法』があるのよ!
残り時間も僅か……思い知るといいわ天くん、私の最後の秘策を……
今まで戦ってきた奴らが誰も破ることの出来なかったこの作戦の恐ろしさをね☆!)


エレナは心の中でスタンドを経由してゾンビ達に指示を送った。
『私を守れ』と。数秒後、天を囲っていたゾンビの群れはその包囲を解き
別の人物……スマホをいじっていた少女のゾンビの周りを行く手を塞ぐかのように
囲い始めたのだ。


咲良からの耳打ち、そしてゾンビ達の不自然な行動に流石の天も気が付いただろう。
自分が今まで避けてきた、なるべく会わないよう気を付けていたゾンビ達……その中に。
自分の前に立つ、スマホを無心にいじるゾンビの少女こそが。

今日自分が戦っていた決闘の相手、えれにゃん☆ことエレナ・マースだと!

1993話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/05/12(日) 02:07:27 ID:7py7NnqY0
(咲良の言った通りだ……『ゾンビに紛れて公園を徘徊していた』なんて分かるかっての)

何処だろうと隠れる場所が同じなのはゾンビ達という『隠れ場所』を用意していたから。
天が今までエレナと対面できなかったのは『かくれんぼ開始前に既に隠れていたから』
且つ『天と会うわけにはいかなかった』から。

恐らくエレナは公園に来る前、時間をかけて体中にゾンビ風のメイクを施したり
ホラーな服を着込む等をして万全の体制でここへ来たのだろう。
そんな格好で天の前に現れれば折角の作戦が一発でバレてしまう。
故に彼女は今まで天に姿を見せることが出来なかったのだ。

ではどのゾンビがエレナなのか?
咲良は『メイクのクオリティの差がヒントになっていた』と言っていたが
正確には『人間の力とスタンド能力の差がヒントになっていた』だろう。
『本物のゾンビに変える能力』の前ではどんな精巧なメイクでも差は出てしまう。
ましてや素人の女の子が自身に施したメイクでは差は広がる一方だ。


エレナの居場所が分かった以上、もう躊躇をしている暇も時間もない。
天は咲良に合図を送るとエレナに向かって歩き出した。
『時間内にエレナを見つけ捕まえたら勝ち、捕まえられなかったら負け』。
見つけるだけではダメなのだ。彼女を捕まえ、見つけたと宣言して
初めて決闘に勝ったといえるのだ。
だが。

「い゛……行がぜな゛い゛ぃぃぃぃぃ……『女』の゛方だ……女の゛方をおぉぉぉぉ」

天の合図でエレナの元に歩き出した咲良に向かってゾンビが数体襲ってきたのだ!
恐らくエレナの指示だろう。エレナを守っていたゾンビの輪の一部が
彼女めがけて飛びかかって来たのだ。

(へへーん☆私の兵隊達は子供な見た目に反してかなりのパワーがあるの☆
力のある近距離型のスタンドには劣るけど、ただの一般人な彼女さんは満足に抵抗できずに
『食べられる』んじゃあないかしら☆さあどうする天くん、恋人ならとーぜん
貴重な時間を彼女を守るために使ってそのままTIME OVER……)

「……!咲良!子役とは言えそいつらは本気で来る!
でもまあ適当にあしらってくれ!お前なら出来る!!」

「えっ!?う、うん、やってみる」

天は咲良にこう伝えた後、すぐにエレナの方へ顔を向け歩き出した。

(はああああ!?子役じゃなくって本物だってえの!!コイツ恋人を何だと思ってるワケ!?」もう頭来た、みんな遠慮なく食べちゃいなさい☆!)

自身に噛み付こうとするゾンビの一人の肩を咲良は掴んだ。そしてそのまま
勢いよく投げ飛ばす動作を行った。
ブゥン!!!という音と共に、ゾンビは近くの草むらへ飛んでいってしまった。

(……ええ!?何であっけなく飛ばされてるの!?)

咲良は向かってくるゾンビを次々に蹴散らしていった。
……といっても、咲良はただゾンビの身体を軽く小突いたり突き飛ばしたりしただけである。
ただそれだけでゾンビ達は悉く吹っ飛ばされるのだ。

無論、咲良が異常に強いわけではない。ゾンビが劣っているのだ。

身体のどこかに『バーコード』の紋様が現れたこのゾンビ達は咲良の力より劣っている!


(今咲良と戦ってる奴らは、ノープランのラッシュを喰らわせた連中の一部だ。
あの時、ノープランで攻撃した全てのゾンビ達にバーコードを付けておいたのさ……
今のお前らじゃあ咲良には勝てねえ……俺自身、咲良には全く勝てないんだからな!)

威張ることじゃない、寧ろ情けないことを考えながらエレナの元へ着実に近づく天。
咲良に人員を割いた分守りは薄くなり、残りのゾンビも身体にバーコードがある。
捕まえるのも容易だと天は考えていた。

だがその考えは、自分の足に生じた痛みによって甘い物だと知らされた。
「ヴヴヴ……ワ゛ン!ワ゛ン!」
「オ゛アァァァアァア……ニ゛ャア゛!」

皮の剥がれたゾンビの子犬数匹に噛みつかれ、ゾンビ子猫に足を引っ掛かれたからだ!

2003話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/06/02(日) 23:16:33 ID:KxXDTV0E0
「(まずい!この猫たちとは最初戦っていたからバーコードが付いているが、この犬達には
まだ攻撃をしていない……バーコードがついていないッ!)ノープラン、こいつらに
触れろ!引き剥がすぞ!」

『チュミッ!』

ゾンビ子犬数匹による足への噛撃。思わず体勢を崩しそうになるが何とか堪え、
発現させたノープランの素早い攻撃によってゾンビ犬達の身体に
バーコードを出現させ弱体化させた天は、足を素早く降り回し、ゾンビ犬達を
自分の足から離させることに成功した。

ホッとしたのも束の間、天の頭上からガザガザと葉が激しく揺れる音が聞こえて来た。
見るとエレナのスタンド、キャント・ユー・セレブレイトが木の枝を掴み
激しく揺らしていたのだ。直後、揺らしていた木から何かがポトポトと落ちてきて、
その内の十数個かが天の身体にくっついたのだ。

「何だ今の……細長い何かが肩や手に……痛ってぇ!」

身体に落ちてきたモノの正体を知る前に走った激痛。エレナからの攻撃と知った天は
急いで腕を確認する。そこにいたのは、天の腕を美味しそうに食べる
数匹の体の腐った『芋虫』であった!

(オイオイオイオイオイオイオイオイ何だこりゃあ……ゾンビな芋虫ってことは
元は蝶か蛾かぁ!?聞いた事がないぞ虫のゾンビなんて!葉を食べるみたいに
美味そうに俺の腕喰いやがって、急いで剥がさなきゃって痛でぇ!!!)

自分の体を貪る虫を排除すべく腕を振り回したり虫を一匹一匹摘んで
放り投げている時であった。隠していたのか、先程はいなかった犬種のゾンビ数匹に
再び足を噛まれたのだ。……足を2回も、更に腕の肉も喰われた天はたまらず
地面に膝をついてしまった。

「天!ちょっと、やりすぎよ!怪我してるじゃあないの!すぐに手当てしなきゃ……って
ちょっ、離しなさいってば!」

咲良は天の傷に気付きすぐに彼の元に行こうとするが、沢山の子供ゾンビ達に腕や足を捕まれた。
先程みたいに振り払おうとしたがここいたゾンビを総動員されては
多勢に無勢、身動きができずにいた。


【えれにゃん☆:私の勝ちね☆恋人はゾンビに捕まり、キミは手足がボロボロ
満身創痍☆そんなカラダじゃあもう私を捕まえられないでしょ☆
もう楽になりなよ☆みんなおんなじ……『ゾンビ(へいたい)』にさ☆】
(……送信っと☆)

天や咲良の姿を見ながら、ゾンビに扮したエレナは作ったメッセージを天に送った。
正体に気付かれた時は流石に焦ったが、いざという時のために造っておいた
腹ペコゾンビ犬やゾンビ虫が役に立った……間にあったのだ。
もう決闘の時間は終わり……正確にはあと1分あるのだがもうどうでもいい。

天の背後に浮かぶキャント・ユー・セレブレイトの尻尾が天に触れた瞬間、
ゲームは『天のゾンビ化』によるエンディングを迎えるのだ。

(それじゃあセレブレイト、終わらせてちょーだい☆)

キャント・ユー・セレブレイトの尻尾が天に迫る。天は痛みでそれに気付いていない。
決闘は終わりを迎えようとしていた。

2013話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/08/12(月) 21:03:33 ID:Ef5i7fZ.0
キャント・ユー・セレブレイトの尻尾が天に触れる……その直前!!

ボヨヨンッ

尻尾と天の間にある『何か』にぶつかり、弾き返される形で天との接触を阻まれたのだ!


『ちょっ……何よこの……膜!?シャボン玉のような壁……いつの間に!?』


『よっぽど兄さんの事で頭がいっぱいだったみたいッスねぇ……兄さんが倒れた時に
とっさに張ったシャボンのバリアに全く気付いてないんだから!』

尻尾をを弾かれ慌てた様子のセレブレイトの声と聞き覚えのある男性の声が
天の背後から聞こえてくる。振り返るとそこには、自分への攻撃を阻まれ
悔しそうな表情を浮かべるキャント・ユー・セレブレイトと
その周囲を浮遊する目玉のあるシャボン玉。そして自身を覆う
巨大なシャボンであった。

「大量のシャボン玉……国綱さんか!来てくれたんスね!」

『兄さん!危ない所だった、今兄さんの背後からスタンドが攻撃しようとしてたんで
咄嗟にシャボンの一つで兄さんを包ませてもらったッス!』

目のあるシャボン玉・ヘブンリーは自身の本体である国綱の声を発した。
国綱がスタンドを通してこの光景を見ていることを理解した天は
急いで自分に噛みつくゾンビ犬を先ほどの方法で引き離した。スタンドに触られたゾンビ犬は
『足を怪我した天』と同じ状態にまで弱体化し、全員その場に座りこんだ。

「油断も隙もないなあのアマ……急いでアイツの元へってマズい!逃げようとしてる!」

何回も噛まれ、沢山の血が流れる足をなんとか立たせようとする天の視界に
入ったのは、慌てた様子で手にしていたスマホをしまい、この場を離れようと
走り出したゾンビに扮したエレナであった。


「国綱さん!今逃げてる人を!」 

「!了解ッス、兄さんを覆っているシャボンを『膨らませる』ッ!」


天を守っていたシャボンが膨らみ、人間が二人以上入れるまでの大きさになったのは
国綱の発言の直後であった。

(ッ!アイツを包んでたシャボン玉が更にデカく!急いでこの場を……キャッ!)

シャボンがここまで大きく膨らむ……その速度は流石に一瞬という訳にはいかない。
今回の場合は数秒かかってしまった……天から逃げていたエレナなら
この膨らむシャボンからは余裕で逃げれるはず……だった。

エレナがうっかり自身の履いていたゾンビ扮装用オンボロロングスカートの端を踏んでしまい、
ド派手に地面にスッ転ばなければ……この勝負はエレナの逃げ切り勝利という形で
終わっていただろう。

だが彼女は転んでしまった。ヘヴンリーは膨らみ続け、シャボンの膜は
エレナに追いつき、天と一緒にシャボンの中にスッポリと閉じ込めることに成功した。


「ゾンビに追われたり囲まれたり噛まれたりと散々だった……
これがスタンド使い同士の戦いなんだな、学ばせてもらったよ、ふぅ」


血だらけの足をなんとか立たせ、ふらつきながら……天はエレナの目の前まで歩く。
そして自分の手を……ゾンビの格好をしたエレナの肩に置いた。


「これで決着だ……隠れていた【えれにゃん☆】……みーつけたッ!!!」

隠れているエレナを見つけ捕まえたら勝ち……天は自身の勝利条件を満たすことに成功したのであった。

2023話後編 ◆PprwU3zDn2:2019/10/20(日) 00:07:12 ID:vU84l70E0
「これでかくれんぼはおしまい……なあ、そろそろ雲雀さんや公園の人達を元に戻して」

「あ゛あ゛あ゛あ゛……人間……美味じぞう゛……」

「……へ?いやいや、もう決着は付いたんでゾンビにした人達を元に戻してねと」

「い……いだだぎまずぅぅぅぅぅ……(噛み噛み)」

「痛たたたたた!俺を肩を、やめろこのアマ!……まさかコイツ!」


天が勝利条件を満たし、戦いは終わった。はずだった。

だがエレナは自身の負けを認めなかった。それどころかまるで自分はエレナではない、
別のゾンビであると言わんばかりの行動をとりだしたのだ。
他のゾンビのような唸り声を出したり人肉を欲しそうに振る舞い、
終いには目の前の肉を噛もうと試みたり……。

そう、『目の前のゾンビがエレナである』と証明しない限り、この戦いは終わらないのだ。
だがエレナと天は直接対面したのが今が初めて。貰ったエレナの自画像と比べようにも
ゾンビ風メイクで顔を覆われて上手く判別出来ない。メイクを落とそうにもこの辺りには
水道も池もメイク落としも無い。この場に審判や立会人がいれば公平に判断を下してくれるが
ここにはそんな人材はいない……!

そう、これがエレナに残された最後の「必不敗法」……要するに『すっとぼけ』である!
自分が捕まりそうになった時、又は万が一捕まってしまった時。
「自分はエレナではありません、彼女に作られたただの子供ゾンビです。あ゛ー」
的なことを延々と言っていればいいのだ。彼女の身長がゾンビ達と同等の低さ
だからこそ出来る荒技である。あとは証明に手間取る相手にゾンビやスタンドをけしかければ
詮索は中断・試合続行。上手くいけば逆転勝利すらもぎ取れるだろうという算段だ。
……だが。

「これが骸の言っていた『しらばっくれ』か……けど見分ける方法なら思い付いてるぜ」


エレナが今まで行ってきたかくれんぼには無かったモノが今回二つある。


一つはエレナと天を覆うシャボン。これがあるおかげで、エレナは対戦相手に
ゾンビを送ることができなくなっている。現にゾンビ達はシャボンの壁を破ろうと
シャボンを爪で掻いたり両手で引っ張っているが……ヘブンリーは割れないシャボン。
どうしてもシャボン壁の向こう側へ行く事は出来ない。


そしてもう一つ。
「確か『アレ』は右側のポケットに入れてたよな……ノープラン行け!」

『チュミッ!』

ノープランはエレナに接近すると彼女が履いていたスカートに付いていた
ポケットに手を入れた。急に何をするのと叫びそうになるエレナをよそに
ノープランはポケットから手を抜くと天の元に帰っていた。
彼女は気付いた。右のポケットが軽くなったことに。慌ててポケットを調べると
中は空……無くなっていたのだ。さっきまでポケットに入れたはずのモノ……
彼女にとって命より大切なもの無くなっていたのだ。そして理解した。
ポケットの中のモノをノープランに『盗られてしまった』ことを!


『マスター、アリマシタヨ例ノモノ。チュミミーン』

「おーよくやった。ってコレこないだ発売されたばかりの新型じゃん、いいなー」


(ああああああああああああああ!私の『スマホ』!なんてことすんのよあの野郎!!!!)

厳格な両親の許しを貰い、必死にバイトをしてやっと手に入れた初めてのスマートフォン。
それを天のスタンド・ノープランに盗られてしまったのだ!

2033話後編 ◆PprwU3zDn2:2020/01/27(月) 02:08:18 ID:JZfZe87o0
『人のモノは盗んじゃダメなんだぞ!だからそのスマホはその子に返しなさい!
返せッ!返せッ!返せッ!返せッ!返せッ!返しなさあああああああい!!!』

シャボンの外側でキャント・ユー・セレブレイトが必死に天に呼びかける。
天は「分かってる!後で返すからちょっと待ってろ」と己の行為に
多少の罪悪感を感じながら、エレナのスマホを左手で持つと自身のスマホを
右手を使い取り出した。自身のスマホを片手で操作をし始め、メッセージアプリを開くと
【えれにゃん☆】に向けて短い文章やカニのような髪型の女の子の
イラストスタンプ等を数回送信した。

その直後。

ブーッという振動音が数回エレナのスマホから発せられた。

彼女のスマホの画面にはメッセージが届いた旨の通知が表示されていた。


【新着メッセージ  天:このメッセージはえれにゃん☆宛に送ったものだ】

【新着メッセージ  天:つまりこのメッセージを受け取ったスマホこそ】

【新着メッセージ  天:他ならぬえれにゃん☆のスマホだということだ】

【新着メッセージ  天:もはや言い逃れはできんぞ☆】

天はエレナに向けて彼女のスマホを見せつけた。
エレナの顔が青ざめ、大量の冷や汗が流れていた。

「ついさっきまで……ゾンビ犬に襲われて倒れてた時もこのアカウントからメッセージが
送られてきたからな。【えれにゃん☆】から急にスマホを渡された、なんて言い訳も通じない……
勝負あったな」

『そ、それは……そう!決闘前に事前に渡しておいたのよ!一定時間ごとにメッセージを
送るようにって!メッセージも前もって用意してたんだから!ねーっ☆』

「ぞ、ぞの゛通り゛……ごれ゛ば私の゛モ゛ノ゛でばな゛い゛……ね゛ーっ゛☆゛」


エレナとキャント・ユー・セレブレイトは最後の悪あがきを続ける。
メッセージは事前に用意していた物というが、天からの質問にはキッチリと答え
ノープランに攻撃された際には怒りのメッセージを直ぐに送ってきた。
ゾンビ化、しかも子供に戻された人間が咄嗟に出来ることとは思えない。
さらにディザスターに属していなければ分からない幹部云々という話も
メッセージで送られてきている。
彼女の最後の言い訳は明らかに嘘……だがそれを突っ込む時間はもうない!


「……こんな手、本当は使いたくなかったけど……仕方無い、か」

天はエレナのスマホをノープランに手渡した。ノープランは彼女をスマホを
キャント・ユー・セレブレイトに見えるように掲げ、片手で軽くギュッと握った。

「……兄さんまさか」と国綱は嫌な予感を胸に、苦笑いを浮かべていた。

『ちょっと、なにするつもり……ねえったら!』キャント・ユー・セレブレイトの声は
震えていた。


「数日前なんスけどね、薫さんにノープランのこと調べてもらったんスよ。
そしたらコイツのパワーは人並み以上なんですって。脆い壁なら拳で
壊せるらしくて……だったらコレも、リンゴみたいに軽く『握り潰せる』んじゃあ
ないッスかねぇ〜〜〜なんて」

その直後であった。
彼女のスマホから「ミシッ」という音が聞こえて来たのは。

2043話後編 ◆PprwU3zDn2:2020/01/27(月) 02:08:58 ID:JZfZe87o0
「やめてええええええええええええええええええええええ☆☆☆☆☆☆☆☆!!!!!!!」



天の鼓膜が破けそうな程の泣き叫ぶ声が響いたのはミシッという音のすぐ後であった。

直後、眼から大粒の涙を浮かべたエレナが天に向かって突撃してきた。
無警戒だった天は突撃をモロに食らい、コンクリートの地面めがけて吹っ飛ばされたのであった。



「私のスマホ……買ったばっかり……壊さないで……グスッグスッ……フエエエエエエン」

「あ、あのー……エレナさん……でいいんスよね?」

ノープランからスマホを取り戻し、それを抱きしめながら大泣きするエレナに
国綱はシャボンの外側から恐る恐る声をかけた。いくら敵同士だったとはいえ相手は女性、
しかもメイクが少し落ちて素顔が見えるほど泣いている相手に
乱暴な言葉遣いは出来ない。

「ヒック……何よ」

「えーっと、途中から来たんで確認なんスけど……アンタは『ゾンビに扮して隠れていた』
ってことで、それを捕まえた兄さんの勝ちってことでいいッスね?」

「ズルいわよアンタ達……途中から2対1になるなんて……大人のクセに卑怯者…‥グスッ」

「悪の組織相手にキレイゴトだけじゃ勝てないッスよ……それに今まで『1対1+ゾンビいっぱい』
だったじゃあないッスか」

「うるさいうるさい……大人なんて嫌いだぁ……」

やれやれ、と国綱は溜息を吐いた。エレナは認め、天は彼女を捕まえた。これで決着である。
部外者である自分が決闘の最後を決めるのはどうかと国綱自身思った……が、
エレナはスマホがちゃんと動くか半泣きで確認中でそれどころではなく。

(兄さんに至ってはアレだからなあ……これじゃあ俺が何とかしないと終わらないよなぁ。
しかし今日は災難でしたね……可哀想な兄さん)

「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
吹っ飛ばされた後コンクリートに頭を強く打った天は、頭の周りを
小さな天使と無数の☆マークがグルグルと回る幻を見て
(今日はやたらと☆に縁がある日だ)思いながら意識を失ったのであった。


【ノープラン vs キャント・ユー・セレブレイト】
STAGE:門北自然公園

勝者……藤鳥天/ノープラン




咲良(……どーなってるのコレ???)

2053話後編 ◆PprwU3zDn2:2020/07/17(金) 11:28:35 ID:QulsmiFM0
「ううん……ええっ!もう部活始まってんじゃん、急がなきゃ!」
「ポチや、そろそろ家に戻ろうか……なんでこんな所歩いてたんじゃろうかワシ?」
「いつの間にか1時間も経ってる!?何も覚えてないんだけど、カズくんは?」
「……記憶にねえ」

今日、門北自然公園では「朝の1時間の記憶の無い人」が何人も現れたようだが
彼らがその原因を知る事は無いだろう……「子供のゾンビにされ1時間も操られていた」
などという荒唐無稽な事実を。

そしてこの女性も……今は真実を知らない。


「……っち、藤っち!」
天が夢の中で存在しない兄としていた会話は雲雀の酔っ払った声で終わりを告げた。

「あ、あれ?雲雀さん?それに管理人さんたちも」

目を覚ました時、天の周りは桜の花びらが舞い、美味そうな料理が詰まった重箱・
酒やジュース等が並べられていた。そしてそれを飲み食いし、上機嫌で
歌を歌い歓談を楽しむアパートの住民達がそこにはいた。

「あ、やっと起きた!藤っち、どっかで転んで気絶してたらしいな?
あたしもさっきまで酔って寝てたんだけどさ、目が覚めたら国っちがでっかいタンコブを拵えた
藤っちを背負ってきたからビビったビビった!でも大したことなくてよかったよ。うーい♪」

どうやら雲雀はゾンビになっていた時のことを全く覚えていないようだ……安心した。
よく見ると天の手足……ゾンビ犬達に噛まれた箇所には包帯が巻かれていた。
気絶している間に手当てを受けていたらしい。聞けば国綱も火傷の治療を施され
花見の後で匠の元で治癒を受けるとの事だった。
雲雀は「藤っちも飲もうぜ!真由美っちが追加のビール持ってきてくれたんだ♪」と
天の頬に冷えた缶ビールを酔った勢いで押し付けた。

「冷たっ!……分かりました、飲みましょう。せっかくの花見ですもんね」
「そうこなくっちゃ!咲良っち、彼氏起きたよー、一緒に飲もう!」

雲雀は天の手を引っ張り、天が気絶している間に仲良くなった咲良の元へ走った。


……こうして。メゾン・ド・スタンドの面々は毎年恒例の花見を始めたのであった。

料理に舌鼓を打つ者。酒に酔いしれる者。歓談を楽しみ歌い踊る者。

姉の膝に頭を乗せる者にそいつを赤い顔で追い払う者。



そして。住民が花見を楽しむ様子を遠くから眺める者。

2063話後編 ◆PprwU3zDn2:2020/09/22(火) 23:29:25 ID:ABYI4mGg0

「……お二人とも、実にいい顔をしてらっしゃる」

十本桜から少し離れた場所から、時田潮は双眼鏡越しに花見に興じる天と国綱を見ていた。

「いい顔っつーか、呑気だよなあ……さっきまで俺らとガチで闘り合ってたってのによぉ」
「【悪い奴にスマホ壊されかけたー!☆朝からもう気分サイアク☆】と……くすん」

その横には先ほどまで天達と戦っていた圭とエレナがいた。
圭は同じく双眼鏡で花見の光景を覗き、先程の戦いなどすっかり忘れているような
二人の浮かれ顔を見て呆れ顔を浮かべていた。エレナに至っては花見など見もせず
スマホが壊れかけた愚痴を☆を散りばめてSNSに投稿していた。

「いいではありませんか。辛い出来事は出来るだけ早く忘れ、楽しめる時はしっかりと楽しむ……
それが長生きする秘訣ですぞ、ふぉっふぉっ」

潮は双眼鏡を細かに動かしアパートの住民達を眺めていく。
管理人の真由美と彼女の昔からの友人である雲雀は共に酒を楽しんでいた。
喫茶店のオーナー匠と弁当を食べながら会話しているのはスタンド研究家の薫。
子猫と犬人の白石姉弟はしょーもない言い争いを始め、側で見ていた白雪は
その様子をにこやかに眺めていた。骸はというと弁当に入っていたリンゴをかじりながら
シートに寝転がっていた。

そんな光景を見て、潮はフフっと穏やかに笑った。
そしてふと、こんな言葉を漏らしたのだった。

「……このアパートも良い面々が揃ってきてる……『クレハ』も喜んでることでしょう」

「……クレハ?誰だいそりゃあ」

潮の声をたまたま聞いた圭は聞き慣れない名前であるクレハについて
何の気なしに聞いてみた。その時、潮の顔が一瞬だけ強張ったが圭はその瞬間の顔を
見逃していた。圭が潮の顔を見た時、表情は既に元の穏やかなものに戻っていた。

「……いえいえ、爺の知り合いですじゃ。それより皆様、爺はこれから
花見に合流する予定ですがいかがですかな、皆さんも一緒に」

「花見か?俺は興味ないからパス。エレナは……(ピロン♪)
【メイク落としたり着替えたりで忙しくなるから行かない☆】だってよ」

圭はスマホに届いたえれにゃん☆のメッセージを潮に見せる。
こうしてディザスターの面々は朝の決闘を終え、一旦解散することとなった。



「クレハか……女みたいな名前だけど、もしかして爺さんの彼女かぁ!?
……まあどーでもいいけど」

圭は公園を出る前にふとこんなことを考えたが、すぐにその名を頭の片隅にしまい、
今朝の戦いの反省会を脳内で開きながら帰路に着いた。

どうせ明日になれば忘れることだ……圭はそう思っていた。
この時はまだ。


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