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仮投下・修正用スレ

138リリカル名無し:2010/01/27(水) 00:16:28 ID:rcDIN5Sk0
>>134>>135ではありませんが、少なくても自分はOKです。(実は雑談スレでスタンス纏め出したんですが、この話通った前提で出しています)

>>134
正直、ヘルシング未把握なのであまり語れませんが自分の見解ではある程度強化されても問題は無いんですよね。
それに、幾ら強化されてもアーカード以上というのはまず有り得ないわけですし、そのアーカードもボロボロである以上極端なバランスブレーカーにはなりえないと思いますけどね。
……さらに、Qp氏も指摘している通り実際どうなるかはわからないわけですし(極端な話次で退場する可能性もある)。

139リリカル名無し:2010/01/27(水) 00:26:43 ID:rBzm2IQI0
解決したと考えて良いですよ

140 ◆Qpd0JbP8YI:2010/01/27(水) 00:38:10 ID:1a9cKkOc0
丁寧な返信ありがとうございます。
これでやっと息をつけます。

それでは本スレのほうに投下してきます。

141 ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 17:53:52 ID:pNHdHYB60
一通りの修正が済んだので投下します。

14213人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 17:55:01 ID:pNHdHYB60
     ●

「……………………………………」

     ●

 太陽の光が強くなり、空は赤色に輝いた。
 一辺倒の赤色ではない。金色ともいえる白い太陽を中心にした朱、だが上方を占めているのは水色から次第に変色していった藍色、そして赤と水色の緩衝となるのは黄緑色だ。
 俗に言うマジックアワー、晴天の早朝と夕暮れ時にしか現れない天然のグラデーションだ。
 全天が虹になったようですらあるこの時間帯は、蝋燭が燃え尽きる寸然のように全てを輝かせている。
 川面、草木の表面、大地、あらゆるものが強い光によって照らし出され、何もかもが熱を帯びたように火照った色合いとして映る。比例して濃くなる影との対比は、それこそ地に降りた太陽を焚き火にして囲んでいなければ浮かびようがないほどの強い落差だった。
 そんな中、一際強く光り輝くものがある。
 窓硝子、そしてそれが密集した市街地だった。
 一棟につき何百枚もの窓硝子、市街地では何百万枚用いられているのだろうか。これだけの数がある市街地なのだから、夕暮れ時に至っては、水晶の柱が乱立しているような光景である。
 そんな市街地の外れにあるガソリンスタンド、何本かの支柱で板きれのような天井を支え、その下に給油機と申し訳程度の部屋を作った施設がある。それはほとんど市街地と平野の境界線に建っている建造物なのであるが、柊かがみの所在地を示す上で、それは分かりやすい目印となる。
 かがみの靴裏は草を踏み始めていた。
 小柄な体躯を支柱に紫の長いツインテールが揺れている。胸元に大きな白い十字架を描いた赤のタートルネック、短いプリーツスカートから伸びるか細い足は、ニーソックスと焦茶の革靴が守っている。手首まですっぽりと長袖に隠された腋にはベルトが通り、背中にデイバックを乗せている。
 そして首からは環状の紐が下がり、落差のほとんどどない胸に金色の装飾品を下げていた。単眼の彫り物をした三角形を輪の内側に連結し、外縁には四角錐の飾りをたてがみのように吊るす。形状としてはペンダントに似ていたが一般的な物より随分大きい。
「は」
 草を何度か踏み、不規則に並び立つ木々の陰りに入った頃、かがみの唇から息が漏れた。
 骨が抜けたような有様で背中から幹にもたれかかり、デイバックを挟んでいるのを良いことに、ずるずると引き摺るように座り込む。両膝を地に着けてスカートの中身を隠す、普段の習慣すら忘れた動きだった。
「ううぅ」
 俯いた口から呻きが漏れる。それは隠しようのない本音を、それでも隠そうとするごまかしだった。
(お風呂、入りたい)
 照った髪、照った肌は夕陽の強さだけが原因ではない。
 早朝0時、朝とも夜ともつかない時間から動き続け、叫び続け、戦い続けた肉体には避けようのない、しかし性別的に忌避してやまない劣化と汚染の結果だった。
 早い話が、全身全霊がくたびれていて、汗やら油やらで垢が大量に生じているのだった。
(うううううぅ)
 おまけあの“移動力”を使った直後から、夕暮れの下で1km近い荒野を革靴で横断したのがいけなかった。日中最後の暑さと運動で汗は滝のごとく流れ、体臭をより強めてしまった。
 この衣服がバリアジャケットという特別な防護服でなかったら、その濃度はより高まっていただろう。
『……神経ぶっといご主人サマだな、オイ』
 かがみの面が急上昇する。
 脳裏に響く声は、自分のそれとは異なる野太い声色だ。空気を振るわせない音色に違和感を覚えるが、今となってはそれも慣れたものだ。
 というよりも、違和感を感じてはいけない。
 この声の主、胸元に下がる装飾品は、今や自分が頼れる唯一の存在なのだから。
『俺が肉体持ってた頃は、風呂なんて王族と金持ちの馬鹿騒ぎだって思ってたがなぁ』
「わ」
 どう話せば良いんだろうか、と一瞬どもって、
「私達の時代と、その、貴方達の時代を一緒にしないでよ。……千年ぐらい間があるん、でしょ?」
『ま、そうだけどな』
 しかし、と口調が改まり、
『ご主人サマ、解ってんのかよ? アンタ今、結構死にそうなんだぜ?』
「……ん」
 解っている。

14313人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 17:57:00 ID:pNHdHYB60
 早朝0時から叫んだのも、嘆いたのも、走ったのも、戦ったのも、そして誰も彼も憎んだのも、全てはこの状況が起こさせるものだったのだ。
 プレシア・テスタロッサに喚び出された者達が絡み合う、殺し合いに。
『そんな中で、そんだけ悠長やってられりゃぁ問題ねぇかなぁ。??俺がいなくても』
「ぇ」
 漏れた声は生理的なものだ。
 頭が、胸の奥が凍りついて、意識的に何かをするなんて出来やしない。
「や、やだ」
 見捨てるの、という思いだけがある。
「行かないでよ。私から離れないで……!」
 えずくような息遣いで、
「バクラぁ……!」
『だったら』
 自分と相手の声色の違いに、いっそ笑ってしまいたくなる。
『ちゃっちゃと動いた方が良いんじゃねぇかなぁ』
 バクラはそれが言いたかったのだろう。
 上がり、しかし胸元の装飾品を見下ろした顔が、今度は一際の高さを見上げる。
 かがみに木陰を提供すべく展開した枝葉だったが、未だ末端であるこの位置では木漏れ日も注ぐ。そんな葉と葉、枝と枝、木と木の間から、しかし樹木ならざるものが覗いている。
 今や遠くにある市街地のそれらと同じく、白亜の外壁に光り輝く正方形を等間隔で埋め込んだ巨体。
 高層ビル、それも市街地にあるものとは一線を画す、趣きのある意匠だった。
「ホテル・アグスタ」
 その名前をかがみは知っている。
『あっち通りゃあちょっとは楽だったろぉによぉ』
「あれって……何か、抉ったみないなやつじゃない。嫌よ、薄気味悪くて」
 そう言ってから見たのは真っ正面にしばらく行った区域だ。
 唐突に木々が途絶えた場所、そこはまるで整地されたように綺麗な濠が刻まれていた。かがみが知る限り、森林の根と湿気で固まった土をここまで綺麗に掘り下げる技術は存在しない。
 ならば、
「多分、そういう参加者の攻撃が抉ったのよ」
 言ってから身震いした。
 これまで“そういう参加者”に会わなかった事の安堵、そして、居たという事実への恐怖だった。
「なんか怪しいじゃない」
『怪しいのはここも一緒だろぉが』
 バクラの言うことは正しい。
 未だ木々に紛れてすらいないこの場所は、周囲からまだ目視できる。これだけの平野ならこちらも気付くかもしれないが、視界に入らないような遠方、もしくは透明になる能力を持つ参加者がいたならその限りではない。
 それを思い至れる程度には柊かがみの思考は柔軟になっていた。
『目と鼻の先だろぉがよ、とっとと行こーぜ? あそこ行きゃスイートルームで豪遊だろぉが。水だって浴びるほどあるぜ』
 何たって風呂もシャワーも完備だからな、とバクラは甲高い声で笑う。時折自分の体を借用するくせに、この男は人の苦労や疲労というものを全く考慮してくれない。
「……解ってるわよ」
『この千年リングに入ってる限り、俺は自分自身で動けねぇんだ。頼むぜオイ』
 それっきりバクラは声を送ってこなくなった。
 そっぽを向いたような変化にかがみは心細くなり、だがそれも、あのホテル・アグスタに行ってバクラの望みを叶えれば、すぐに解消できるだろう。
(そうだと良いな)
 そしてかがみは背後の木に手をついて立ち上がった。
 太ももが引き攣るような、デイバックがずっと重くなったような感覚があるが、しかし、今は我慢するしかない。ここでまたへたりこめば、今度こそバクラは自分を見捨てる。
(見捨てないで。見捨てないで)
 もう他に誰も助けてくれないの。
 自分以外の誰かを憎むだけでは動けない。
 柊かがみの体を動かしているのは、もはや自分の意思ではなく、付き添う誰かがいるという、その受動的な現実だけだった。



 疲弊したかがみの顔を、夕陽に照った千年リングが歪めて映している。

14413人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 17:57:45 ID:pNHdHYB60
     ●

「……あぁ」

     ●

「うわぁ」
 市街地に入るなり、新庄・運切が感嘆を漏らす。
 これまでの平野とは一転した、鉱物と直線が支配する光景だった。地は黒い鉱物で道が敷かれ、左右には長大な立方体が整列している。一体何なのだろうか、その表面には幾つもの透明な板が嵌め込まれている。
 それにしても巨大だ。背を反らせてようやく天辺が見えるかどうかの高さは、何か見下ろされているような気がして、やけに腹立たしい。
 エネルにはこんなものを建てた覚えも、建てるように命じた覚えもなかった。
 つまりこれらは、人間が自分達の手で建てたということになる。
(虫どもの所業にしては不届き。……崩すのが神の責務か)
 思いに腕を掲げた。“自然系”ゴロゴロの実の能力、雷に変ずる能力をもってすれば、大きいだけの物など挫くのは容易い。
 しかし、
「ぬっ」
 壁面に等間隔で埋め込まれた正方形の群が、エネルの目に光を撃ち込む。
 網膜が痛み、思わず瞼が眼球を抱き込んでしまう。
(生意気な……!)
 思わず顔も背け、ようやく痛みが引いたところで視覚を解放する。しかし逸らされた視界の先にあったのは、のぼせ上がったようにあちこちの長方形を見上げる、新庄の後ろ姿だった。
 自分が見上げられなかったものを、砕けなかった物を、安心しきったようにこちらに背を向けて。
「……おい」
「は、はいっ?」
 声を掛けられると思っていなかったのだろう。こちらにしたところで、声をかけるつもりなどなかったのだから当然だ。肩と長髪が大きく跳ね上がり、振り返った新庄の目は気まずそうにこちらを見返す。
「変わり種だなぁ、貴様は」
 言われて、新庄はどこかが痛んだような顔をする。
 今の言葉にどうしてそこまで傷付くのか解らなかったが、傷付いてくれる分には一向に構わなかった。
「無知をひけらかすのが趣味なのか? 大きいだけの墓石を見上げるのがそんなに楽しいか」
 新庄はきょとんとした顔をする。
「こ、これみんな、墓石なんですか?」
「当たり前だろう」
 やはり新庄という男は無知極まりない虫けらだったらしい。
「私のいた島にも居たよ、やたらと先祖先祖と羽音をたてる虫の群がな。ああいう手合いがあるのだ、ご丁寧に先祖全員のために巨大な墓石をたてる奴がいても可笑しくない」
「へぇ……先祖思いの昆虫っているんだね。変わってるなぁ」
「ああ全くだ。変節漢どもの群で、煩わしくてたまらなかったよ」
 顎に手を当てて回想していると、ふと、新庄が感心したようにこちらを見ているのに気付いた。その緩みきった態度に、どうにか下がりかけていた溜飲が、再び上ってきてしまった。
(この私が、神であるおれが、ここまでナメられるとはなぁ……!)
 そもそもあの赤い服を着た優男に出会ってしまったのが始まりだ。
 思い出すだけでも忌々しい、箒のように金髪を逆立てた男。ひょろ長で、何もかもを諦めたような顔をしていた癖に、あんな途方もない力を見せつけた男。
 あんな力を。
(……ッ)
 胃袋の内側に鳥肌がたつ。
 かつて雷を無効化した“ゴムの男”とは違う、根本的な力量差で自分を圧倒した男に植えつけられたこの感覚。夕陽を受けて肌が火照るのは条理であろうに、しかしエネルの体は氷が伝ったように冷える。
「あ、あの」
「………………」
 何時の間にか口元を撫でていた指、その向こうに、こちらを覗き込む新庄が見えた。
「大丈夫ですか?」
「何が、だ」
「だって凄い顔色が悪くて」
 女と見紛うばかりの新庄の細い指先が、だらんと吊り下げられた左手に触れる。
 それが、ひどく暖かく感じる。胸の奥がゆるみ、絹のような手を握り返したくなって、
「ーーッ!!」
 気がついた時には払いのけていた。
「ぁ」

14513人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 17:58:23 ID:pNHdHYB60
 新庄は、何が起こったのか解らない、といった風に目を丸くしていた。肌が肌を打つ甲高い音が響き、真っ白だった新庄の掌がかすかに赤みを増して腫れる。
 その事に、より一層の寒気が過った。
 は、とした動きでエネルは振り向く。冷や汗が飛び散り、血走った瞳が歩いてきた平野を見渡す。しかし、それだけで満足を得る事はできない。右を見て左を見て、上も見て、再び目が光に撃たれようとも最早背けることはない。
 もし恐れが本当になってしまったら、眩しい程度のことではすまないのだ。
 何も変化はない。
 その事をようやく肯定して息をつく。そして、歯を剥き出した表情で新庄を見た。
「変わり種だけではなく、陰険な性格をしているのだなぁ、貴様は。……自ら傷付きに来て、私が“奴”に追い回される未来がそんなに欲しいか?」
「ちがっ」
 何かを言いかけて、しかし新庄は頭を振った。おおかた隠謀が失敗したので歯を軋ませたのだろう。
 そして再びこちらに背を向けた。
「……行きます」
 命令形、絞り出したような声色で歩み出す。
 背を向ける、それが出来るという現状に、再び怒りが沸く。
 新庄は解っているのだ、後ろから強襲されれば必ず死ぬ事が。そして、その結果として赤服の男がすぐさま察知し、自分を追いかけてくるのが。
(結局挑発も継続、なんと陰険なことか)
 舌打ちをして、エネルは新庄に倣って両足を動かした。
 『参加者の現在地と生死を把握する能力』、それが赤服の男が持つ能力だった。まさか、と笑うことは出来ない。似て非なる能力、“心網”を他ならぬエネル自身が持っているのだから。それがある限り自分は新庄を傷つけられない。未だに障る、背後から睨まれているような錯覚を拭うことができない。
 何より皮肉なのは、それによってエネルの“心網”が封じられただった。
 赤服の男と会って以来、エネルは“心網”が使えない。
(あの感情のせいだ)
 使えなくなった理由をエネルは理解してる。
 雷を裁断したあの攻撃、未だに続く監視の力、それらに疼く感情が、“心網”に必要不可欠な平常心を侵している。プレシア・テスタロッサの制限によってゴロゴロの実の能力も削がれた今、周囲を探る能力は生まれ持った五感のみとなってしまった。
(不届き)
 不届きにもほどがある、エネルはそう思った。
 歯が軋んで、最も力が入りやすい奥歯が砕けてしまいそうになる。それさえも“心網”を乱しているのだと自覚して、また一層の怒りとなる。
 “心網”とはエネルが誇る双璧の片割だった。三千世界を把握する無形の耳と、どこに隠れようとも狙い撃つ腕、それこそがエネルをエネルたらしめる、神としての力だったのだ。
 それが欠く形となり、まるで自分が神から降ろされてしまったような気になって、
(……不届きッ!!)
 エネルの胸中は、まさに雷が吹き荒れる乱気流だった。“雷迎”のように黒く、激情を押し留めようと胸筋が張り詰める。
 いっそ新庄を殺してしまおうか、いかに奴とて雷には追いつけまい、そうも思う。しかしそれは、生涯をたった1匹の虫けらから逃げるのに費やすことを意味する。とてもではないが我慢できないものだ。
(どうにかせねばならん)
 殺すのか、逃げるのか。
 赤くなった新庄の掌を見るたびに胸が疼くのを、数少ない反撃に成功した喜びなのだと思って。



 建ち並ぶ市街地の窓硝子はエネルを映し、激情に表情を歪めた同一人物が歩を進めていく。



     ●

「まただ」

14613人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 17:59:09 ID:pNHdHYB60
     ●

 時空管理局地上本部、そう銘打たれた石碑に一閃が走る。
 字を浮き彫りにした鉄のレリーフは、植え込みの中から突き立つ石材に取りつけられている。施設の威厳を示すべく、看板としては破格の資金が投じられたのは明白だった。
 そんな石碑が、右上から左下に向かう直線で切断される。
 レリーフも石材も分け隔てない分割、石碑の左上半分が斜面のままに滑り落ち、植え込みの植物をへし折り、隠れた土へ沈んだ。露になった石碑の切断面に粗はなく、さながら鏡のような一面だった。
 全てはARMS“グリフォン”、超振動の刃が成せる所業だ。
 両腕を刃の生えた異形に変じさせるキース・レッドは、膝をつく姿勢で道路に着地した。飛び退いた際にグリフォンの刃がうっかり石碑に当たり、切断してしまったのだった。
 そして石碑を見ようとすれば、是が非を問わず地上本部ビルの戦禍を見る羽目になる。
(随分派手にやったな)
 キース・レッドは感想を思う。
 ロビーとなっている1階、そこで無事に残っている窓硝子など1つも無い。施設の内外に破片となって散らばっており、正面玄関である自動扉ですらもそれは免れない。外壁も虫食い状に破れ、へし折れた骨子を断面から覗かせる。どうにか残る壁も蔦が這うようにひび割れていた。覗ける内装に至っては見る影も無い。
 だが見るべき影はそこにある。
 廃墟もかくやの地上本部ロビー、キース・レッドはその中に人影を見た。
 全力で右へ跳ぶには、それだけで十分だった。
「……!!」
 ほんの少し前までいた空間を極太の閃光が貫く。収束された熱量は赤色を越えてもはや白色に見えた。
 貫いた空気を陽炎に変え、ご、という威圧を吹かせる。分たれた石碑は一瞬で溶解し、植木は燃える間もなく炭化して散り、ガードレールと道路は水のように弾け、通り道に濠という弾道を遺す。
 向かいの高層ビルは破片を散乱させる事もなく、高熱によって穿たれた。
 光線はエネルギー、光速の攻撃だ。光線と認知できたのは、一閃を真横から見れる位置取りに至ったこと、光速でありながら視認できるほど長時間攻撃が維持されたからに過ぎない。
 避けるためには撃つまでのモーションを絶対に見逃さず、その段階で動く必要がある。陽が赤くなる以前より戦うキース・レッドが死んでいないのは、視覚と反射神経と、それを持続させる執念の賜物であった。
「む」
 光線、荷電粒子砲の熱気に頬がひりひりと痛む。眼球が乾き、自然と瞼は絞られた。
 そこで、か、という音がする。連発するそれは足音だ。
 方向にして地上本部、荷電粒子砲に赤に輝く濠の側を、規則正しい速度で2本の足が歩いてくる。
 見るまでもなく、見たくもなく、しかしキース・レッドは見ざるをえない。“奴”の攻撃が光速である以上、観察こそが唯一の防衛策なのだ。
「ーーーーーー」
 それは1人の青年だった。
 色白の肌は個人差の域を越えた人種的なもの、金髪に碧眼をたたえた長身は、彼の血筋がアーリア人のそれである事を伺わせる。あえて言うのだとしたら、それは自分の外見にも通じるものなのだが。
 無遠慮に視界の隅に入る高層ビルの窓硝子、夕陽に照って鏡の性質を持ったそれは、全く同じ顔をした2人の男を映している。
 目の前の自分と全く同じ顔をした“奴”、キース・シルバーは自分の、否、モデルを同じくするクローンの1体だった。
 キース・シリーズと呼ばれる、生体兵器ARMSを宿すべく生まれながらに調整された人工の人間。自分と奴は、両手で数えるほどにも存在しない、数少ない同胞である。だがそれも、今となっては唾棄すべき現実だ。
(そう、その目だ)
 荷電粒子砲から逃れて再びしゃがんでいたこちらを、キース・シルバーは見下す。
 歩道と地上本部の正面玄関を分ける階段の上にいるから、という訳ではない。クローンである以上奴の方が背が高いから、という事はない。それに例え奴は低所に居たとしても、背が低くても、あの目つきは変えないだろう。
 奴は、奴等は、キース・レッドを不良品として切り捨てたのだ。
 ARMSを本当の意味で使いこなせない、そう言って。
「……糞が」
 唾を吐くようにて憎悪が漏れた。
 全く同じ顔をした同胞達が満場一致でそう言った時の事を、キース・レッドは忘れない。
 貴様等を殺してやる、そう思ったし、むしろ貴様等こそが下等なのだ、と証明したいとも思った。
 故に、こうして対峙している。
「キース・レッド」

14713人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:03:28 ID:pNHdHYB60
 不意に、キース・シルバーが唇を開いた。
 仇敵の声は、ただそれだけで神経を逆撫でする。奴の声は汚泥の香り、声は便器に反響する放屁だ。奴の胃袋には昼過ぎに喰った下痢で満たされているに違いない。
「もうやめろ」
「何故」
「お前が失敗作だからだ」
(そう言うと思ったよ)
 言うや否や、思うとともにキース・レッドは駆け出していた。装備していた2丁の拳銃はすでに弾丸を使い果たして捨ててしまった。砲撃型ARMS相手に、弾を補充する暇はなかったのだ。
 やはり自分の武器は両腕の刃、直角に立てれば、風を裂いて笛のような音が耳朶に叩き付けられる。
「おぉ……!」
 正面からの突撃。懐に入りさえすれば、砲撃型である奴のARMS“マッドハッター”は、最大の特徴が無用の長物に変じる。
 しかしそれは向こうととて知り尽くしている。
 攻撃に本来欠かすことの出来ない、充填、構え、発動、命中、放熱という5つの段階を、光速という攻撃が発動から命中までのセンテンスを限りなく0に短縮する。
 高熱の光が正面から迫る。
「ーーふッ」
 それを、キース・レッドは飛び越えた。
 もちろん如何に光速といえど、自分がARMSを持つ身であっても、ただの跳躍で光線を飛び越えられるはずはない。通り過ぎる前に落下して、両足を焼かれるのがオチだ。
 だから直上には跳ばない。着地するのはキース・シルバーがいる正面玄関を囲む植え込みだ。
 長蛇のプランターとして玄関前の階段を囲うそれは、階段の最上段よりも若干高い。そこに着地することで少しでも高度を稼ぎ、次いでどうにか残されていた1階外壁の窓枠へと跳ぶ。
 ほんの僅かに外壁から迫り出していた窓枠に爪先を掛け、外壁に手を当てて一瞬の安定。そして崩れる前に三度目の跳躍を行う。飛び移った足場の縁を掴み、懸垂のように飛び乗ったのは正面玄関を陰らせる大型のひさしだ。
 キース・シルバーの直上を隠すそれは、上に乗れば広くて平たい良質の足場となる。その1枚下ではキース・シルバーが荷電粒子砲を放ち終えた頃だろう。
 その隙をつく。
「はぁ……!」
 光速で微小に振動する刃は、ARMSでさえも切り裂く事が出来る切断力だ。
 それでひさしを滅多切りにすれば、キース・シルバーへ降り注ぐ瓦礫の群だ。崩れ落ちる直前で跳躍し、あるいはその衝撃によってひさしは分断されキース・シルバーへ落下する。
 普通の人間ならば骨折、当たりどころが悪ければ打撲による死を得て当然の攻撃だ。だがそれも、ARMS保有者同士の戦いでは牽制程度にしかならない。
 ひさしの上はほとんど2階の高さと変わらない。2階の窓枠に足をかけ、ARMSと化した強固な五指を外壁に食い込ませて立つキース・レッドは見る。
 キース・シルバーが砲門の腕を振り上げ、瓦礫の群を一気に蒸発させたのを。
 じ、と瓦礫は煙と悪臭に変化し、その延長線上にある向かいのビル何棟かの屋上が破壊された。ついでにキース・レッドの前髪も何本かが焦がされてしまった。
 ひさしが無くなった今、キース・シルバーの澄まし顔は眼下に見える。
(待っていろ。すぐにその顔を歪ませてやる)
 思いを遂行する力はすでにキース・レッドの手の内にある。
 ベガルタ。ARMS殺しと呼ばれる、最強の兵器であるARMSに修復不能の損傷を与える兵器の1つを。



 キース・レッドが牙を剥いて笑む姿を、飛び移った窓枠に嵌る硝子は克明に映していた。



     ●

「まだ、苛々は消えてねぇ……」

14813人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:04:02 ID:pNHdHYB60
     ●

 写真家として生計をたてていた相川始には、行ったことはなくとも情景は知っている、そういう場所が多い。
 多くの先達が撮影した風景写真を幾つも見てきたからだ。腕の立つ写真家が撮った写真というものは単なる一枚絵では終わらない。その向こうが本当にその場所と繋がっているかのような、そう思わせる窓となるのだ。
 そんな中でも、恐山という場所の風景写真は始の心を捉えた。
 煙立ち、匂い立ち、ただ石の群のみが積もって山を形成する地域。石の砂漠とも言うべき情景には、見る者の胸中に真空を作る。
 無情、そこにはいかなる感情もない。
 ただ見る者が、そこに寂寥を見出すのだ。
 そんな取り留めもない事を思い出してしまうのは、きっとここがそれを彷彿とさせるからだ。
「…………」
 始が踏みしめた瓦礫が割れ、破断する乾いた音が響く。
 だから何をするということもなく、機械的に足を前後させ、掲げた左脚でまた別の瓦礫を踏みつける。そうやって始は、この瓦礫地帯を横断していた。
 派手にやったな、と思う。
 鉱物の塊が積もり、あちこちで薄い煙が立ちのぼる様子は恐山を彷彿とさせるが、こちらにそのような年季はない。この惨状は、つい先ほど自分と浅倉威の交戦によって生じたものだからだ。生まれてから半日も経たない情景に、見る者を感傷させるような爪はまだなかった。
 コンクリートかアスファルトか、もしくは始の知り得ない何かなのか、とにかく人為的に作られた鉱物の断片は、かつてはビルや家屋を形成していたものだ。今や瓦礫の砂漠と化しているが、少し前まではここも市街地だったのだ。
 誰1人住んでいない、ゴーストタウンの様相ではあったが。
「…………」
 拓いてしまったかつての市街地に障害物はなく、背後にしたレストランや進む先にあるガソリンスタンドが、遠目にではあっても確かに視認することができた。
 そして音も。
 未だ辛くも残り、しかし破壊されつつある建造物の向こうで破砕音が轟く。
(誰か、戦っているのか)
 戦闘が行われているのは明白だった。人と人との戦いにしてはやけに大きな効果音だが、始が持つアンデットの活動を悟る能力に反応はない。強大な兵器か、あるいはそれ以外の異能を使って戦っているのだろう。
「…………」
 始は立ち止まり、轟く方を見た。家屋群の先に見える巨大な長方形達が砕かれ、打ち抜かれ、または切断される。
 行くべきなのだろう、否、行っていただろうな、と始は思う。それまでの自分だったならば。
 しかし始は遠目にも解る戦場に背を向け、再びガソリンスタンドの方に向かって瓦礫を踏み始めた。だからといってガソリンスタンドに用があったわけではない。ただ単に、それまで進んでいた方に戻っただけだ。
 あるいは、戦場に背を向けたかっただけだ。
(どうするのが、正解なのだろうな)
 思い、そうと再確認することによって、これは迷いなのだと理解した。
 ジョーカーというアンデットとして、そしてカリスとして戦い続けた相川始は、行動を迷うという経験がそれほど多くなかった。行動の選択肢を得る時は多くが戦場であり、日常にあったとしても、かつて定めたものに固執すれば選択肢を排除できたからだ。
 一に、あの小さな家族を護る事。
 二に、アンデットを封印する事。
 それだけをこなしていれば、自分が迷うことなどないと思っていた。
 だが相川始には予想外なことに、ひょっとしたら誰かにとっては全く当然なことに、今は思い迷うまま、行動の上でも迷っている。
 あれからどれほど時間が経っているのか解らないが、少なくとも確固たる意思を持って歩けば、こうして陽が朱に染まる頃にはガソリンスタンドに着いていただろうに、今も始は瓦礫の上を歩き続けている。
 これまでの法則に従っていれば、選ぶべき答えはすぐに導けた。
 遠くに聞こえる戦場へ駆け、争う者共に奇襲をかけて殺し、そんなことを続けて最後まで生き残ればいい。そうすればプレシア・テスタロッサが自分のいた場所に戻してくれる。護るべき小さな家族のいる場所へ。
「…………」
 なのに、今、始は迷っている。
 何の為に戦えば良いのだろうか、と思い始めている。
 ほんの少し前までは、そんな感傷的なことは、考えもしなかったのに。
 変わったな、もしくは、変わってしまったな、そう思い、始は前を見るでもなく歩いていく。



 俯いた視界で所々に散らばる光、それは、砕け散った窓硝子の破片であることを始は知らない。

14913人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:04:32 ID:pNHdHYB60
     ●

「……お前等もだろ?」

     ●

「思うに、なのだが」
 不意に金居はそう切り出してきた。
 よもや向こうから話しかけてくると思っていなかったヴィータは目を丸くし、長身の後ろ姿を見る。
「……何だよ」
 目つきを絞り、声の調子を落としたのは彼に対する不信感の現れだった。内心を悟られることは不利を呼ぶが、しかし腹芸はヴィータの得意とするところではないし、向こうもこちらの印象ぐらい既に悟っているだろうから、隠すことはない。
 限りなく黒に近いジャケットとズボンは、癇に障るほど長い手足にあつらえられている。襟首からは黄色いタートルネックが覗き、切り揃えた髪から見える耳の根元には、眼鏡の蔓がかかっている。
 どんな表情をしているのだろうか、思っても、金居の背後を歩くヴィータにはそれが確認できない。
 ただ、離れるか見上げるかしなければ捉えきることが出来ない、そんな身長差の青年から目を離さないことだけが、ヴィータに出来る唯一の対抗策だった。
 そうして見つめる先で金居は小さく頷き、
「ーー短い足とはこういう時に不便なのだな」
「うるせぇよ!!」
 感心するような言い振りにヴィータは叫んでしまう。
 肉体的な年齢差もあって、金居とヴィータの足の長さは絶望的なまでの隔たりがある。というよりも、例えヴィータが背伸びしたとしても、金居の腰元まで頭頂が届くかどうかという身長差である。そんな風だから、こうして瓦礫の山を踏み越えていく時はどうしても背後に回ってしまうのであった。
 ほんの少し前まで確かにあった市街地は、たった2人の戦いによって焦土と化した。瓦解したビル群の残骸は不規則に並ぶ階段、いやさ階段というのもおこがましい乱立と不安定で、横断するのも苦心する。
「おぶろうと言っているが」
「出来るか、んな事」
 金居の申し出をヴィータは即決で断る。
 “本物のはやて”以外にそんなことはされたくない、というよりも、触れられたくもなかった。
 しかしそこへ異見が入る。
「でもよぉ」
 金居の声色とは違う、やや甲高い少女の声だ。
 頬に指を当てて考えるような口ぶりはヴィータの耳元で生じている。
「実際、少しでも移動のペースは上がった方が良いんじゃねぇの?」
 何だと、と言いつつも、しかしその理由を理解しているが故に、声の主を見るヴィータの目はどこか自信が無さげだ。振り向いた先でヴィータの双眸は小さな人形を見る。
 否、それは人形ではなく、人形のように小さい少女だった。
 赤い髪に幼い体躯、黒い羽と尾、そして同色の露出度が高い衣服は、小悪魔といった類を連想させる。
 アギトと名乗った彼女は、かつて絶えたはずのユニゾンデバイスの生き残りだという。
 ヴィータから見て左手、肩よりも少し高い位置を浮遊している彼女は、やはり考え込むように頬へ指を当て、眉間に皺を寄せていた。
「だってよぉ」
「そいつの言う通りだ」
 アギトが続けようとした言葉を金居が引き継いだ。
 そうする意図のなかったアギトは唇でへの字を結び、眉間に皺を寄せる理由を金居へシフトしたようだった。それに感づいているのかいないのか、何にせよこちらを見ることもなく金居は続ける。
「好機の足は速い。あれだけの戦闘の後とはいえ、油断していれば何の機を逃すか解らないぞ」
 まるでシグナムのような口ぶりが、それを気取っているような気がして、やけに不快だ。
「だからてめぇにおぶされってか」
「私情を挟める立場か」
 状況か、とも金居は言った。
「お前が文句を言う間に3歩進んだら、俺と並ぶくらいはできたかもな」
「……っ」
 皮肉に、三つ編みに結わえたヴィータの髪が逆立った。
 駆け足で瓦礫を踏みつけ、時々砕いたり転びかけたりするものの、急速に金居に迫る。アギトの、待てよ、という声も今や置き去りだ。金居の左横に並んで、そして遂に男の顔を見る。
 生まれてこの方まばたきをしたことがありません、とでも言いたげな無情の顔が、並走したこちらを見ることさえなく前を見ていた。
 ち、とヴィータは外見にそぐわぬ舌打ちをした。
 追い付いて、どうだよ、とヴィータは金居に言ってやりたかった。しかし当の金居は、こちらの事など歯牙にもかけず、図らずも望みを叶えてやったこちらに見向きもしない。
 ただ背後を見ていた時と同じように、こちらを見ることもなく話しかけてくるだけだ。
「無駄な体力を使うな」

15013人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:05:23 ID:pNHdHYB60
 表情に相応の、感情の欠片もない声だった。思わず足を止めてしまい、再び背中を晒した金居は言う。
「我々の目的は散策ではない。駆け出して足でも挫いたらどうする。目先に捕われるな」
 言いたいことだけを言い放つ奴の背に、これを突き立ててやれたら、とヴィータは握力を強めた。
 五指が締めつけるのは、ヴィータの背格好に似合わない長大な槍だった。幅広の刃を無骨なフレームで固めるアームドデバイス。しかしヴィータの相棒であるグラーフアイゼンと異なり、この槍が話しかけてきたことは一度もなかった。
「お、おい」
 追い付いてきたアギトが、こちらの思うことを悟ったのか制止を呼びかける。その声に、解ってるよ、とヴィータは短く答え、再び金居の後を追って歩き始めた。
(アイツとの約束だ。……殺し合いに乗った奴しか、殺さない)
 金居は自分がそうだと言わなかったし、ヴィータの価値観においてそうだと断定するような行動もとっていない。一線を越えていない以上、誓いをたてた太古の騎士はそれに準ずるしかない。
 と、まるで自分が奴を殺したいと思っているかのようだ、そう思って、ヴィータは頭を振った。
 殺したい奴はいるが、それは金居ではない。
 そして自分は、そいつを殺すために歩いているのだ。
(アーカード)
 その男の名前を思い返し、思考の中で呟けば、それだけで胸中が泡立った。
 怒りと恨みと恐怖、そういったものどもがない交ぜになって新たな感情となり、平たいヴィータの胸を突き破ろうとする。槍を握る五指が更に強ばり、もしも得物が獲物だったなら、すでに絞殺していただろう。
 赤い服を着た長身の男、黒いサングラスから覗く目は、明らかに人間以外の思考を持って相手を見る。
 その逸脱した戦闘力は、“偽者のはやて”を追いかけやってきたセフィロスという男と戦い、こうして眼前に広がる焦土を造った。奴の超人的な身体能力と十字架のような火器、それに拮抗するだけの戦闘力を持っている参加者との出会いが生んだ、最悪の結果だった。
 だがその中にも好機は隠れていた。
(あんだけの戦闘で生きてんなら……もう生き物じゃねぇよ)
 しかしアーカードなら、生き物ならざる戦いを見せる奴ならば、生きているのではないだろうか、とさえ思ってしまう。だがそれでも、何らかの重傷を負う程度の被害は受けている筈だ、と言い出したのは金居だった。
 今のヴィータと金居は、その極細い蜘蛛の糸に望みを託す巡礼者に等しい。
 アーカードには凄まじい治癒力があるらしかった。今こうしている間にも、先の戦いで喰らった傷を癒しているのであろう。それどころか既に移動してしまっている可能性がある。だからこそ金居は、より一層の速度を求めているのだ。
「…………」
 それが理解出来るから、全く順当の考えだから、それを果たせない自分の体が忌々しい。飛行魔法を使えば簡単なのだが、強襲のために魔力は少しでも温存しておきたい。こうして見晴らしの良くなってしまった場所で、飛行魔法を使うわけにはいかなかった。
 だからヴィータは歩調を速める。
 金居に対する対抗意識を右脚に、アーカードに対する敵意を左脚に込め、挑みかかるまで瓦礫に八つ当りをしながら。



 ヴィータが持つ槍は、その様から激情を授かろうと言うかのように、3人の姿を刃に映している。



     ●

「さっきからうるせぇんだよ」

     ●

 前後2つの車輪は止まっている。しかし、ど、ど、という唸りが止まることはない。
 後輪を支える左右一対のフレーム、それに添うようにして設置された角張ったマフラーは振動し、大口の噴射口からとは言わず、その過程で幾つも穿たれた小穴からも排気ガスを吹かしている。マフラーの延長線上には搭乗者の足を置くステップが、後輪フレームから迫り出している。
 後輪のカバーはなく、荷物を仕舞い込むためのバケットがその代わりを果たしている。バケットとハンドルグリップの間には小さな背もたれがあり、搭乗者のためのスペースが設けられていた。
 こうした後ろ半分が無骨で鈍色のフレームを剥き出しているのに対し、前半分は赤い装甲で覆われていた。流線型でくびれた形状だ。さながらイルカを思わせる流麗な造形だったが、しかしヘッドライトを左右に分ける丁の字の突起がある限り、見る者が最初に連想するのはカブト虫で固定されるだろう。
 丁の字、とは表するものの、支柱から左右に伸びる横一線はV字に折れ曲がっている。その合間からは操縦席を守る黒い遮光硝子が設けられ、その直下にはフレームにサスペンションを食い込ませた前輪がある。
 他に類を見ない特徴的な機体だった。

15113人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:06:30 ID:pNHdHYB60
 カブト虫を模したデザインのそれが、こうしてコーカサスカブトのアンデットの物になったのは、自分はキングだというのに、全くをもって成り行きと偶然の結果なのだから非常に驚くべきことだった。
 前後で2色で分かれるこの機体の中央に跨がるキングは、中間にあることが全く相応しく思えるような、3色目の色で全身を覆い隠していた。
 黒色、否、正確には“黒装束”という印象を受けるよう統一された、幾つかの色だった。
 実際のところ黒いのは手袋マントの外側、そして青い単眼を描くフルフェイス式の仮面だけだ。内側は血に塗れたような深紅、そこには紫色の下地に金色の線を引いた燕尾服が包み込まれている。ズボンの柄はそれにあつらえてあったが、裾と靴が一体化しているという奇抜なデザインだ。
 貴族を嘲ったような怪人の衣装、それがとある者達には英雄と尊ばれているのだとキングは知っている。
 ゼロ、そう呼ばれているのだと。
 尤もそんな事はどうでも良い。ゼロという存在が広く知られていないこの状況において、こうした格好は先制を奪うための驚かし、さもなければ正体の露見を隠すための張り子に過ぎないのだから。
 ただ張り子としてはそれなりに優秀だ。全身を包むタイプの衣服に柔軟なマント、極めつけの人面ですらない仮面は変声機能を搭載しているので、装束を剥がされるか、あるいはこちらから悟られるような事をしなれば、基本的に正体が露見することはないだろう。
 キングとしては、こうして強烈な夕陽に目をくらませずに済むのだから、それだけで十分だった。キングが跨がるカブトエクステンダーの更に下には、ぎらぎらと夕陽の恩恵をはねつける水面があるのだから、この働きは大きい。
 ちらつく流水にいちいち目を痛めていたら、折角の情景も台無しにされてしまおうというものだ。
「誰だか知らないけど、やるなぁ」
 フルフェイスの仮面ゆえに声がくぐもり、外以上に自分の耳が声を良く聞いた。
 とはいっても仮面の外にキングの声を聞くような相手はいない。
 右を見ても左を見ても、あるのは等間隔に隙間を作る欄干だけ、その向こうにあるのは眼下を流れていく川面だけだ。夕陽を受けて赤味が増し、流れと風に波とも呼べぬような細波ばかりがたち、小さな乱反射を頻発させて辺りを照らしている。鋪装された濠の縁には、波を再現する光の波紋が浮かんでいた。
 左右の斜線を仕切る白線にバイクを止めるという交通法を無視した暴挙も、当りに咎める人が居ないのだから気にしない。仮にいても、キングは気にしなかったが。
 浅い弧を描いた板状の道でキングは駐車している。見るべきものがそこにあるからだ。
 否、ない。無かった。
 見るべきものがあるのは橋ではなかったし、見るべきものは無いなのだ。
 橋から見えてしかるべきものが見えない、その情景をキングは見ているのだ。
(言葉遊び、言葉遊び〜)
 ふふん、と仮面の内側で鼻を鳴らし、仮面越しの双眸にキングは夕陽を眺めている。キングの顔を包み込む仮面、ゼロマスクとまるで対比を描くような形で、真っ赤な単眼が茜色の空に灯っている。
 まるで地上の焦土を嘲るように。
(思わぬ収穫だよねぇ)
 橋の下を流れる川水の行く先、巨大な長方形が乱立する地域に、しかしそれはない。枝葉を失った竹林か、さもなければ巨大な霜柱のようですらあった界隈は、いまや瓦礫を積み重ねる砂漠の様相だ。
 キングの目は、その崩れ往く様を見ていた。
 我ながら迂闊なことに驚いてしまって、あやうく走行中のカブトエクステンダーを転倒させるところだった。
 これまで出会った中でも生え抜きの参加者、浅倉威を求めて二輪を走らせたのは随分前の事だ。番う車輪が駆けるのに裏打ちされた排気音を市街地に響かせ、当時はまだ残っていたビル密集地へとキングは向かっていた。
 そしてようやく橋を渡ろうかというところで轟音が響き、何かと横目にすれば、ビルが紅茶に沈んだ角砂糖のように崩れ落ちたのだ。

15213人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:07:11 ID:pNHdHYB60
 幾度も断続的に倒壊するビルの群が面白くて、キングはカブトエクステンダーを橋の上で駐車した。そして携帯電話に搭載される撮影機能で、肉眼で、その情景を矯めつ眇めつ観察し、今に至る。
(浅倉の奴、何かベルトでも取り戻したのかなぁ)
 キングがこれまであった参加者というのもそう多くはないが、その知り得る中であっても、浅倉威はああした大破壊を生み出す人間であるように思えた。
 だとすれば都合が良い。
(浅倉威に戦闘力を足してやる手間が省けるもんね)
 キングは天道総司という、浅倉威とは相反するような人間を知っている。
 仮面ライダーだったというあの青年と浅倉威はすでに面識があるらしいが、そんな事実も、ただ単に都合が良いだけの符合だ。浅倉威もまた仮面ライダーらしかったし、かつてのライダーが潰し合う様を見られるのは愉悦だった。
(でも、それだけじゃねぇ)
 かつて、では駄目だった。今、仮面ライダーでなければ派手さに欠ける。それに1対1で参加者が潰し合う程度では、あの女の意表をつくことは出来ない。
 プレシア・テスタロッサ、自分達を殺し合わせるあの女の計画を引っ掻き回してやるためには、もっと趣向を凝らさなければならないだろう。
 どーしたもんかねぇ、とキングはカブトエクステンダーの計器類を机代わりに、頬杖をついた。といっても掌は頬の代わりに仮面をつき、これじゃ頬杖って言わねぇよ、と笑った。
「ま、あの市街地を破壊したのが浅倉と決まった訳じゃないしね」
 自分も今出しうるアンデットとしての力を全壊し、それに拮抗しうる誰かと戦ったならば、ああした戦禍は起こせるだろう。それを根拠に、強い戦闘力を持った奴はまだ何人かいるんだろうさ、とキングは類推する。それに浅倉が力を得ていたとしたなら、それと戦う誰かがいた筈だ。
(浅倉を見つける前に、そういう奴等を何人か見つけられたら良いなぁ)
 キングはそう思う。
 そいつら全員を戦わせれば、少なくとも自分が愉悦を得る程度のお遊びを見れるだろうから。
「……そんな感じでやってみようかな」
 とりあえずに思いついた計略を当座の目的として定め、キングは猫を模していた背筋を正した。仮面を支えていた腕を解き、片割とともにカブトエクステンダーのグリップを握る。
 グリップは黒いゴムで滑り止めがなされ、計器類を埋め込んだ基部から左右へ伸びている。当然のことに右手は右の、左手は左のグリップを握り込み、しかし右手が握るグリップは可動式だった。ゴムの付着が緩いのではない。グリップを捻り込むことによって、カブトエクステンダーは指令を理解するのだ。
 キングはアクセルを意味する捻りを小刻みに行う。それはエンジンや機体を少し暖めたいから、という理由がある訳でもなく、ただ単にそうした方が格好良く見えるからだ。
 グリップの捻りに呼応してマフラーが排気を吹かす。
 ど、ど、という唸り声がカブトエクステンダーの後部から放たれ、今や虫食い状に砕けた市街地に轟く。
「さて、と」
 じゃあ行きますかねぇ、そう思い、キングは強くグリップを捻った。
 走れ、キングの意思を代弁する指令はエンジンに走り、エンジンは燃料の続くままにそれを果たそうとする。
 格別に大きな排気音が鳴った。不細工なファンファーレのようでもあるそれに後押しされ、カブトエクステンダーは、弧を描いた頂点から向こう岸に続く下がり調子を行こうとする。
 渡り終えるには1秒と満たない、距離ともいえないような間だ。そこで転倒するようなことは、仮に搭乗者が自分でなかったとしてもありえないだろう、キングはそう思っていた。



 流々とした川面は、自らをまたぐ橋を恨めしく思うかのように、その姿を歪めて映している。



     ●

「そんなに腹が減ったんなら……」

15313人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:07:51 ID:pNHdHYB60
     ●

 未だ動力の灯らない“聖王のゆりかご”の内部は暗い。
 船艦であるそれに窓硝子というものは殆どなく、そもそもあまりに巨大であるために深部ともなれば外界に通じる場所がないのだ。後付けなのか非常電源があるのか、通路と床が接する隅に蛍光灯のような光源があり、しかしそれも頭を垂れるように眼下を照らす程度で、足下の安全を見定める程度にしか役立たない。
 だが暗がりで視覚がはっきりしないことは、密閉空間の内部という閉塞感を紛らわしてくれるので、不幸中の幸いと言えないこともない。
 と、“聖王のゆりかご”の名もない通路に音が響いた。
 足音だ。鉄製の通路を鉄管楽器のように反響させ、足音は幾重にも重複した和音となって響いていく。だが、あるいは当然のことに、それを音楽に仕立てようという気は足音の主にはないようだったが。
 やがて薄暗い通路に、光源とは異なる光が浮かび上がる。
 金色だ。か細い黄金の群は頭髪、それも右の側頭部で結わえられたサイドポニーの型を成している。歩くたびに揺れる大きな一房は、まさしく馬の尾っぽと呼ぶに相応しい。
 だがそこで、金色は自ら発光しているのが解った。暗闇に我が身を主張する髪は、床の非常灯を最大限活かしたとしても有り得ない光量だったし、何よりそれは単純な光の色合いではなかった。
 プリズムによって解かれた光のそれ、絶えず7色に変動する虹色だった。淡い虹色が金髪にまとわりついている。
 そして現代社会において、虹色の光を従えられる人間は1人しかいない。
 ヴィヴィオだ。
 しかしその姿は、本来あるべき彼女の幼い形ではない。成人、少なくとも子を成すには十分な成熟度を見せる麗人の姿となっている。彼女がこの先健やかに育つのならばこうなっただろう、そういう結果を具現化したような姿が、虹の向こうに浮き上がる。
 緑と赤というオッドアイは相変わらず、しかしその手足は幼女に比べてあまりに長い。肌は色白であったが幼さ特有の青白さはなく、成熟によって血行が良くなった上での、美麗としての色白だった。
 胸には、それこそ幼かったヴィヴィオの頭ほどはある乳房を吊り下げ、反して腰だけは幼いままであるかのように細く、くびれている。カモシカのようにしなやかな足を支える尻は歩くたびに擦れ合い蠱惑的だ。
 身に纏うものも、そうした肉体美を主張しているかのようだ。
 淡い青紫色のラインを引いたボディスーツ、胸下と両足首には同じ青紫色の装甲が付与され、それらの上にはボディスーツよりも黒いジャケットを羽織っている。大きな胸に丈が足りないのか開衿されたジャケットは長袖、その先から装甲で固めた掌がある。
 そうした姿は、彼女の養母である高町なのはのバリアジャケットを思わせた。
 しかしここまでくると、余りに出来過ぎた容姿に思えてしまう。男を扇情し、女を魅了し、そして老若男女を崇拝させるその美貌は洗脳の域に踏み入っている。まさしく、偶像崇拝の化身のようだった。
 そう、偶像。
 まるでヴィヴィオが胸に抱く、憧れと夢で自らを糊塗しているかのように。
 しかし、その表情は苦悶に満ちていた。
 顰められた眉、絞られた瞼、中毒のように震える瞳は狂気を宿し、目元は窪んでいるかのようだ。白い歯も歯茎が見えるほどに剥き出していては魅力が半減する。ぬらぬらと照る唾液に塗れた口内を晒し、熟れた唇から垂れる唾液は、情事に漏らした欲情と取り繕うにはあまりにも穢らわしい。
 姿勢は猫背、だらりと垂れた背筋からは両腕が垂れ下がり、枯れて剥がれつつある蔦のようだ。こうなっては熟れた乳房も、どうにか枝に残ったもののそれが惨めを喧伝することになってしまった腐りかけの梨のようだった。
 よくよく聞いてみれば、足音も聞こえの良いものではない。爪先を擦り付けるようにした歩き方は、床に接するたびに角材を鑢がけするような雑音をたてる。時には引き摺るような音さえした。
 浮浪者か、中毒者か、はたまた幽鬼なのか。
 見ず知らずの者からすれば、美貌を台無しにする、或は美貌ゆえに全てを失いうらぶれた女であるかのように見えただろう。

……うぅ

 と、唸る声がした。
 まさかヴィヴィオの喉が作った音なのだろうか。しかしそうは思いたくない。これほど麗しい外見をした女性が、かくも醜く、憎悪と怨恨を孕んだ低音を、その白く麗しい細首から響くなどとは。

……うううううううぅ

 しかし残念なことに、その唸りはヴィヴィオの喉から響いていた。
 正に千年の恋も冷める唸り。一度聞けば全人類は諦観に涙を流し、海は溢れ世界全土が水没するだろう。

15413人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:08:22 ID:pNHdHYB60
……ママぁ……

 背筋の凍る思いだった。
 唸るだけならばまだ良かったのだ。しかしこの声色で人語を話した時、かくもおぞましい印象を受けるとは思いも寄らないことだった。
 麗しい、赤く膨らんだ唇は唾液に濡れて声を作っている。

……ママぁ……マぁマぁ……

 それは子宮に閉じ込められる恐怖に、思わず母親の腹を裂いて現れてしまった悪鬼のような声だった。そして這い出した悪鬼は泣くのだ。自ら殺した母親の亡骸を、生まれてきてしまった赤子を睨むその形相を抱きしめて。
 今やヴィヴィオは、そこから更に亡骸を取り上げられて悶える悪鬼の胎児だった。
 生まれたての鳥のように細く惨めな胴と不細工に大きな頭、薄過ぎる瞼にぎょろりと大きな瞳を透かし、全身を羊水と母の血に濡らして、金切り声をあげて胎児は涙を流すのだ。
 ママを返せ。
 僕の殺したママを返して。

……フェイトぉ……ママぁ……

……なのはぁ……マぁマぁ〜……

 ふとヴィヴィオの瞳から一筋の涙が流れた。
 虹色の光を映した涙は頬を伝い、顎にいたって零れ落ちる。
 たったそれだけが、今ヴィヴィオに対して、心の底から綺麗だと思えるものだった。



 涙の弾ける鉄の床はヴィヴィオの姿を映す。だがその様に目を背けたのか、多くは暗がりに隠れていた。



     ●

「……どっか適当に……見つけた奴を喰ってりゃいいだろぉが」

     ●
「……ん」
 誰かに呼ばれたような気がして、高町なのはは目を開けた。
 上下を瞼の影に隠した視界は狭く横長で、くわえて長期間暗闇に浸っていたのでぼやけている。どうやら半ば眠っていたらしい。確かな視界が戻るまでに僅かながら時間を要し、その間の気怠さは寝起き特有だ。しかも体育座りのような姿勢でいたために、体のあちらこちらに痛みがある。
(ちがう)
 ぼんやりとだが、しかし確かに解る。体の節々で鈍く痛むのは、風邪をひいて発熱した時の感覚に似ていた。
 最後に風邪をひいたのは何時頃だっただろうか、となのはは思う。
 ユーノとの邂逅から始まる出会いの中で、傷付くことはあっても病を患うことは無かったように思う。それはきっと、目の前の出来事や仕事に夢中で病にかかる暇もなかったからなのだろう。
「………………」
 ようやく戻った視覚で辺りを見回す。
 そこは無骨で簡素な小部屋だ。タイル状の床から直角に生えるうらぶれた壁、それを床とで挟む天井は、相対する床と同じタイル状のものでしかない。等間隔で取り付けられた蛍光灯も曇り、埃が積もってる。
 壁の一角は大型の窓によって費やされ、その手前にはPCを置いた鉄製の作業机が構え、左右にはプラスチックのラックや、所々がへこんだアルミ製の本棚が配置されている。本棚の中には、頭から不揃いのプリントや付箋を生やすファイルケースが所狭しと詰め込まれていた。
 飾り気も何もない事務室のようだった。
 と、なのはにとっての左手側で物音がする。大窓と向かい合う先で鳴ったのは、扉の閉まる音。
「起こしたか」
 曇り硝子を埋め込んだ扉を背後にして、1人の青年が立っていた。

15513人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:09:16 ID:pNHdHYB60
 癖っ毛なのか渦巻いた黒髪に静観な顔立ち、鋭い眉と目つきは鷹を思わせる。体型はしなやかな長身だ。おそらくは絞ったのであろう細くも確かな輪郭は、真新しいシャツとジーンズに隠していたが、教導官として多くの人間達を指導してきたなのはに見抜けぬ事ではない。
 と、シャツの上に羽織る上着の袖から覗く手が、紙コップを持っているのが目に入った。対する右手は2リットル級の大型ペットボトルの首を掴んでいる。親指と人差し指の間からは、白いプラスチックのキャップが覗いていた。
 なのはは、ううん、と青年の問いに首を振り、
「……天道さん、それは?」
「ああ」
 青年、天道総司は右手に持つ紙コップを揺らした。すると、その中で何かが波打つのが薄らと透けて見える。
「欲しいだろう?」
「……ありがとうございます」
 無骨な親切に笑みと感謝を返したが、天道はそれを心地よく受け取ってくれただろうか。
 発熱に腫れぼったく引き攣る頬が表情と声を歪め、なのは自身にはそれらが不出来なものであるように思えた。天道の表情から探れれば良かったのだが、鼻が詰まった時のように思考はぼんやりとしていたし、天道は表情を余り出さない質だったので、悟ることはできなかった。
 かくいう間にも天道は近寄り、壁際の床に座り込んだなのはに視線を合わせた。
 安っぽいスニーカーを覗かせながら天道は座り込み、一升瓶のようにペットボトルを脇において、こちらへと紙コップを差し出す。
「飲めるか」
「それぐらいは」
 受け取り、笑んでみるものの、やはりそれはふやけ緩んだものであるように思えた。
 まずは紙コップを左手で受け取り、胸元に持ってきたところで右手も合わせ、最後に膝を立てて太ももも紙コップの保持に費やす。覗けるようになった紙コップの内側は薄らと白濁した液体、スポーツ飲料の類らしかった。吸水率を考慮したのだろう、と思い、実用的で天道らしい考えだ、とも思った。
 そしてなのはは左右から挟み込む紙コップを持ち上げ、解放した下唇に縁を添え、口内へと飲料を注いだ。
(喉、乾いてたのかな)
 自覚以上の速度で喉と舌は飲料を嚥下していく。1秒もすれば、小さな紙コップの中身など空っぽになってしまっていた。
 なのはは紙コップを下ろし、ほ、息をついた。何時の間にか額が汗ばんでいるのに気付き、給水の効果が出たのかな、と冗談混じりに思う。
 その横で、天道はペットボトルを持ち上げる。
「まだ飲むか?」
「うん、お願いしても、いいかな」
「天の道を往く男に酌を頼むとは良い度胸だ」
 彼なりのジョークだったのだ、となのはは思うことにした。
 それが一体どれぐらい続いただろうか。少なくとも大容量のペットボトルが半分を切るぐらいになって、ようやくなのはは喉の潤いを自覚した。その時、紙コップの中身は最新の継ぎ足しで満ちていた。
 飲まないのか、そういう視線を天道が向けてくるが、ある程度の満ち足りに思考の余裕が出て来たなのはは、これ以上の給水を行う気にはなれなかった。
 天道を見返し、そして視線は彼の脇腹へと突き刺さる。しかしそこには、突き刺さって天道を痛ませる傷口は残っていない。残っていれば、真新しいシャツを赤黒く固めてしまうからだ。
「ーー礼を言う」
 なのはの視線の意味に気付いたのだろう、天道はペットボトルを下ろし、あぐらに曲げた両膝に掌をついて頭を下げた。
 何度目になるだろうか、なのはは不出来な笑みを浮かべる。
「気にしないで下さい」
「それはしない」
 出来ない、とは言わないのが天道の変わったところだった。どんな事も出来る、その上で、あえてやらないのだ、そういうアピールを言外にしているのだろう。
「お前は俺を万全とする為に我が身を犠牲にした。その結果として倒れた女性を捨てる俺ではない」
「……何かその言い方、私が死んだみたいなんですけど」
 思わず半眼になってしまうが、ここまで率直に感謝されて嬉しくない筈はない。
 ここにきて自分の行動がやっと報われたような気がして、胸の奥が少し軽くなる。こころなしか熱も引いたような気さえした。
 このスーパーマーケットに流れ着いてから随分な時間が過ぎた。
 その多くは天道の傷と疲労の補いに費やされていたが、完治以降の時間はなのはの休養に用いられた。魔法に制限がかけられていたのは把握していたが、よもや発熱に至るまでの疲労を強いられるとは思っても見なかった。

15613人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:09:54 ID:pNHdHYB60
 そしてその事が、なのはの胸中に影を落とす。
「結局」
 漏れ出すように呟いた。
「結局、ゼロの言う通りになっちゃいましたね」
「………………」
 天道はそれに答えない。沈黙が事務室に注がれ、犬かきをするようになのはの視線は泳いだ。
 そして事務机の上に置かれる旧式のPCに2つの瞳が定まり、スリープ状態に画面を暗くしたその手前、キーボードの上にメモが乗っていることを思い起こす。
 曰く、天道以外の仲間は彼によって連れ去られ、なのはが再会を望むなら天道の傷を癒してこの場に留まれ、という文面。それを記した人物の名として、文末にはゼロという名が刻まれていた。
 天道の傷を癒すため、そして発熱した自分が体力を取り戻すために時間は浪費され、結局仲間を探しに行くことも、ゼロが何者であるかと考えることも出来なかった。
 少なくとも敵対者であるゼロの言う通りになってしまったことが、その結果如何せんではなく、ただ漠然とした不安として心の陰りになる。
「問題はない」
 と、天道は断言した。
 唐突な発言になのはは急な動きで天道を見直し、彼の慄然とした表情を見る。
「お婆ちゃんは言っていた。……天井を支えるには柱を立てよ、一本の柱は千本の小枝が立つより頑丈だ」
「……その心は?」
「有能な人間が1人いれば、たとえ弱者が千人いても護る事が出来るということだ」
 高町、とここで天道はこちらを見据えて、
「お前は崩れかけていた1本の柱を修復したのだ。ならば、後は心配する必要がない。思い悩む必要はない」
 一息。
「ーー後は俺に任せろ」
「…………」
 言われて、任せたくなってしまうのは、自分が弱っているからだろうか。
(今までそんな風に言ってくれる人は……まあ、いたけど)
 でも、
(良いなぁ)
 タイミングが良いなぁ、と思う。
 今、こんな状況で言われてしまったら、“発熱した自分は何も出来ないのだから任せざるを得ない”という理性的判断と、“弱った自分を護るとこうも断言した貴方に頼りたい”という情緒的判断が重なり、感情にブレーキがかけられなくなってしまう。
 ずるいなぁ、と思い、本当にずるい、と繰り返す。
 だから、天道に答えるのだ。
「御願い、します」
 そう頼んだ自分の顔は、やはり締まりのない笑みだったのだろう。



 なのはが思うほどその笑みは悪くない、その事は、景色を僅かに映す紙コップの中身が証明していた。



     ●

「……………………………………」

     ●

 単なる瓦礫の積み重ねに過ぎなかったそれは、アーカードを迎え入れることで玉座となる。屋内をそうした張本人、セフィロスとの戦いでこの状況を生み出したアーカードの存在感が、単なる積み重ねをあつらえたものであるかのように感じさせるのだ。
 かつてはここも清潔感の漂うオフィスだったのだろうに、哀れにも粉塵と硝子の破片にまみれ、瓦礫の断面からは鉄骨や窓のフレーム、ポスターの切れ端などを張り付かせ、今や惨めな様だ。自らの身で外壁に穿たれた大穴からは夕陽が差し込み、霞のような粉塵を目立たせる。
「………………」
 それだけの存在感を放出しているにも関わらず、そのいたるところに重傷を刻んでいた。
 真っ赤な衣服は泥と埃にまみれ、あちらこちらで解れと破けを起こしている。そこから覗く肉体もまた、内容液を漏らし破れていた。皮膚は削げ、血管は漏洩し、肉はその繊維を解れさせて毛羽立ち、純白の骨格すらも晒されている。血液に混じって流れる脂質やリンパ液は公害の源を思わせる。
 これらの傷を刻んだのはそれなのだろう、左胸には一振りの日本刀が突き刺さっていた。
 しかし刻み付けられた数々の傷も、常軌を逸した速度で埋まろうとしていた。
 映像を巻き戻しているように、といえば過言だが、しかし肉眼で理解するには少し遅いだけで、その通りのことがアーカードの肉体では起きている。

15713人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:10:27 ID:pNHdHYB60
 再生というには余りに実直、空いた穴を塞ぐような手軽さで、捲れ上がった皮や肉が肉体の内層に覆いかぶさり、断面と密着することによって癒着を始めている。肉と肉の融合はむず痒く、少しだけ熱く感じる。
 こうした感覚は今までに味わったことがない。
 プレシア・テスタロッサが押し付けてきた再生力の制限、それによって再生が間延びしたことで感じるようになったのだと、アーカードは思っていた。
「む」
 と、不意にアーカードが唇を尖らせる。
 ごろ、と眼球が瞼の内側で回り、本来白一色であるはずのそこに這う毛細血管が覗ける。その中央にある金色の瞳は左右で一対、それらは揃ってある一点を見つめていた。
 自らの右肩だ。
 アーカードの胴体を左右で挟み込むようにして積もる瓦礫、そこに腕が乗せられているために、右から突き出した瓦礫は手摺か何かのように見える。その指先には爪がなく、腐敗した苺のような、本来爪に隠れている部位を露出させている。
 腕はどうにか形を取り持っていたが、肘からは尺骨が突き出し、貫いた筋肉は彼岸花のように捲れている。二の腕に皮はなく、赤地に白い筋を引いた筋肉が剥き出しとなり、血流の度に小さく鼓動する。所々は削げて血を零し、最も深い陥没では白亜の骨が見えた。
 アーカードの双眸が見定めているのは、ほんの僅かに、しかし不自然に膨らむ肩の一部分だった。
(……混じったようだな)
 思った直後、アーカードは左腕をもたげた。
 右腕とは違ってほぼ完治しつつある左腕の肘を曲げ、しかし五指は伸びきって揃えられている。それらの先端には黒ずんだ爪があり、鋭い先端は刃物のように光ってすらいた。
 その先端を右肩の膨らみに向け、アーカードは何躊躇うような仕草も見せず、鎌を振り抜くようにして左腕を右肩へ走らせる。ぶぷ、と泥沼に勢い良く蹴りを埋め込んだような音がして、五つの爪は肩の肉を切り開き、五指が侵入する先駆けとなった。
 筋肉が指を締め付けて密着しているために、血は流れない。それでも神経は激烈な勢いで脳に助けを買うている筈なのに、アーカードの表情は動かず、他人事のように左腕が右肩を抉る様を見ていた。
 そして、不意に五指の動きが止まった。
 薄皮一枚下を寄生虫が這っているかのように、露骨に浮かび上がった五指は握り拳を作るかのように窄まり、より一層大きな膨らみを右肩に作っている。それは、何かを掴んでいるような形だった。
 事実、治りつつあった右肩の肉と皮を内側から引裂いた左の手は、人体ならぬものを抱き込んでいた。
 石ころだ。
 掌に収まってしまう程度の小さな瓦礫は、血やら油やらに塗れて汚泥の塊のようだ。
「何時潜り込んだんだかな」
 それだけ言って、アーカードは石ころを放り投げた。
 飛んでいく最中にまとわりついた血や肉片を飛び散らせ、少し離れたところで瓦礫にぶつかる音がした。
 それを目で追うこともせず、再びアーカードは感情のない瞳で茫洋とした表情となる。視界の端では、左肩によって傷口を広げた右肩は、波打つようにして結び合い、癒着して傷を塞ぎつつあるのが解った。
 人間の治癒速度ではない。
 吸血鬼、しかもその頂点としての再生力であった。
 瞼は開いているのに、アーカードの目からは何かを見るという集中力が欠落していた。茫洋とした視線は周囲の焦土を映さず、空を赤く染める夕陽を見ず、さりとて何かを見ている訳でもない。漂白されてしまった表情のように、何かを思うこともなく視界を開いているだけだった。
 ただ、聴くともなし戦闘の音が耳朶を叩き続けている。
 待ち望むもの、戦闘だ。
「………………」
 いまだ癒え切らない両腕をもたげて、アーカードは左胸に突き刺さる柄を掴んだ。
 づ、と鈍い音がして、刃が吸血鬼の肉体から抜かれていく。それまで左胸に埋め込まれていた刀身は血にぬめっており、その全容を現すと、切先は断続的に赤い水滴を零して床に斑点を打った。
 ああ、とアーカードは思う。
 龍を従えた少年を、人間の身で自分に拮抗したアンデルセンを、この焦土を創るに至った戦場の伴侶、セフィロスを。
 その誰も彼もが強かったが、しかしアーカードの心が満たされる決着はつかなかった。
 だからこそ、周囲で起こる戦いを狂おしく思う。
「今度こそ私を、ーー殺すか、殺されるかをしてれるのだろうか」



 立てられた曇りのない刀身は、きらめきの向こうにアーカードの姿を映している。



     ●

「……そうか」

15813人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:10:58 ID:pNHdHYB60
     ●

 誰かのものかもしれないし、誰のものではないかもしれないその家から出た時、柊つかさの視界に入ってきたのは、夕陽が溶け込んだ視界いっぱいの海辺だった。
 緩い傾斜に道を開けてくれた家屋の先、もはや金色に輝く海がつかさの感情を刺激する。
「わぁ」
 感嘆の言葉に手を合わせ、大きく開いた瞳は海にも負けず劣らず輝いた。
 青い平原は金色と白色に煌めき、遠く微かに聞こえる細波の音は聴覚からもつかさの中へ入っていく。
 夕陽という巨大な円が水平線に降り立ち、溶けて滲んだように辺りの水面は真っ白に光っている。
 その光に周囲の家屋は陰り、半ば黄色いほどに明々と照らされる一面との対比で、どこか感傷的な印象を受けた。遠くにうっすらと煙を上げる施設や、港にとまる船舶なども風景に合っている。
 空も夕陽に照らされて真っ赤に染まり、しかしその域から外れつつある天上は藍色となりつつあった。
「わわ」
 今度は感嘆とは違う、慌てとしての声だった。
 中世を思わせる鎧でか細い体を守り、走り出せば背中のデイバックと帯剣が揺れる。肩の根元から脇へと伸びるデイバックのベルトを掴み、なるべく揺れないようにして、つかさは夕陽を横目に走る。
 緩いながらも下り坂だ。
 若干の制動をかけながら、つかさは跳ねるようにして、家屋と家屋の合間を行く。
「急がなきゃ、夜に、なっちゃうっ」
 跳ねながらの運動に喋りが乱れ、途切れ途切れになってしまう。
 だがそんな事を気にしていたら真夜中の街を歩くことになる。それはとても怖い事だとつかさは思った。
 だから視界の先、夕陽が沈んだ側から回り込んできた最も近い浜辺に急ぐのだ。そこにある施設までいけば、とりあえずの安全は確保出来ると、そう考えているから。
「……大っきいなぁ」
 近づくに連れて目的地の巨大さが目につく。
 藍色と金色で塗装された四角錐状の施設は船のようにも見える。船底を砂浜に食い込ませる様は、まるで難破船か、漁を待つ漁業船のようだ。
 だがそういった船の事情に精通しないつかさとしては、
(何か、こなちゃんがいつも言ってるお台場のアレみたい)
 という思いしかなかった。ここで固有名詞が出てこないのもまた、つかさがつかさたる由縁だ。
 もしこの場に、自分と同じ顔をしたあの少女がいたならば、語彙が貧困だ、と声を荒げるだろうな、とつかさは思った。
 自分と同じ顔、同じ対格なのに、まるで違う性格と能力を持った、双子の姉。
(お姉ちゃん)
 柊かがみ、そういう名前だった。
 長い髪を左右で結わえツインテールにした彼女は、いつもそれを振るって動き回る。のんびり屋の自分や、マイペースな泉こなたの腕を引っ張り、頻繁に脱線する自分達を牽引してくれるしっかり者だ。
 それでいてどこか間が抜けているというか、頑張り過ぎて空回りする事もあって、だからとっても可愛い。
 つかさはそんな姉の事が大好きだった。
「お姉ちゃん」
 今頃は何をしているだろうか。
 どうやら自分と同じくこの殺し合いに巻き込まれてしまったようだが、プレシアというあのおばさんの放送を聞く限り、まだ生きていてくれているようだ。その事が、体躯よりもか細いつかさの心を支えてくれる。

ーーーーーーもう、折れているのに?

「お姉ちゃん」
 一息、
「ーー助けに来てくれないかなぁ」
 つかさは呟いた。
 そう考えているのは、あの三角形の建物、地図の上では“聖王のゆりかご”へと向かう理由と重なる。
 あの中に立て篭れば当面の危機は回避出来るだろう、そこから更に、誰か自分達を護ってくれるが来てくれるも知れない、その事につかさは望みをかけて走っている。
 少なくとも、市街地の中で竦み隠れるよりかは、ああいう地図の端っこにあって、しかも隠れるところの多そうな施設の方が安全に思えた。
 その上でつかさは思う。
 かがみのことだから、きっと頑張ってるんだろうなぁ、と。
(お姉ちゃん、私と違うもんね)
 自分は鈍くて怯えて竦んで勉強も運動も出来ない、不出来な人間だが、その分かがみは有能な人間だった。
 まるで母親の中で良いところと悪いところが双子に別れたみたい、と思い、一時期はかがみを羨んだ事もある。

15913人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:11:59 ID:pNHdHYB60
 そんな姉の事だから、ひょっとしたら何か大きな力を手に入れて、みんなを護る為に走っているのではないだろうか。
 どうやら殺し合いに参加させられた人間には、それぞれ凄い力を持った武器が与えられているみたいだし。

ーーーーーー○○○○○○○を殺したあの龍みたいに?


「助けて欲しいなぁ」
 かがみに助けて欲しい、つかさはそう思った。



 自分の良いところを全て持っていったというのなら。




 あんなに優秀な能力を持っているのだというのなら。





 その上更にスゴい力をたくさん与えられてるんなら。






 この殺し合いにあってみんなに感謝されているなら。







 わたしが欲しくても手に入らないものを持っているんなら。








 まず最初にわたしをたすけてよ。









ーーーーーー私が○○○を殺す前に助けてよ










 たすけなさいよ











ーーーーーーーーーープつんーーーーーーーーーー

16013人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:12:44 ID:pNHdHYB60
「わあ」
 緩い傾斜に家屋が開けてくれた道の先、もはや金色に輝く海につかさは感嘆の言葉で手を合わせ、大きく開いた瞳は海にも負けず劣らず輝いた。
 もはや目前となった防波堤の先には浜辺があり、その先に光り輝く海原があり、そして目的地がある。
 “聖王のゆりかご”だ。
 金色と藍色の塗装がなされた巨大な建造物は、この位置からであってもその巨体が良く解る。底部で砂浜を貫いた様は船のようで、だとすれば難破船か待機中の漁業船といった風だ。もっとも、それにしては非常に大きいのだが。
「よぉし、もうひと頑張りだっ」
 両手に拳をつくり、ふんっ、と息を巻いたつかさは、防波堤に刻まれた階段を駆け登る。
 それを越え、浜辺を超えれば安全地帯である“聖王のゆりかご”に辿り着ける。
 そうすれば自分は誰かに危害を加えられる心配もなく、安全に助けが来るのを待っていられる。それだけを体躯よりか細い心の支えにして、つかさは防波堤から浜辺へと駆け下りていった。



 心を患うつかさは、忌避の思いで記憶を削る。それは海のように揺れ、だが太陽光を反射する煌めきはなかった。



     ●

「……そうだよなぁ」

     ●

 この戦いにおいて与えられた地図は、アルファベットと数字によって81の区域に分ける。
 つまりA-1という区域は順繰りに見ていったとすれば最初に見るべき区域であり、従って地図を見る者は、その中央に点で示された施設の印を目にする事になるだろう。
 点の上に記された施設の名は、軍事基地。
 その場所に行こうと思ったとき、
(きっとあの女は、人が一番集まり易い市街地から特に遠いから……この場所に軍事基地を置いたんだ)
 そう思った。
 軍事の名を冠するからには兵装の類が溢れる場所なのだろう。自分自身では強い戦闘力を持っていない、そして戦闘力のある支給品を持っていない万丈目準としては、そこに行って武器を得る事はこの殺し合いで生き残る為に必要な行動だった。
 だからこそ長い時間をかけて2本の足を動かしてきた。アスファルトの地面から平野へと至り、空が紅から青に変わりつつこの時間になるまで、万丈目は歩き続けてきた。
 その成果が、今目の前にある。
「すごいな」
 荒涼とした平野の外れに突き立てられたフェンスの円陣、緑の塗装は所々が剥げ、天辺には渦を巻いた有刺鉄線が取り付けられている。その向こう側には、無骨で実用性を重視した造形の立方体が建ち並んでいた。
 鉄と加工鉱物で建造されるそれらに窓はない。万丈目は自分の背丈の十倍はある扉というものを、初めて見る事となった。両開きなのであろうそれらは、接合のない分厚い鉄の一枚板なのだと解る。
 これが軍事基地か、と万丈目は思う。
「……って感動している場合ではない!」
 惚けるには、この平野は見晴らしが良過ぎる。フェンスの内側に入らなければ、安全性も目的も得られない。
 よじ登って入るには有刺鉄線が邪魔をする。しかし万丈目には有刺鉄線を取り除くペンチも、金網に足をかけたままで有刺鉄線を解体するという軽業の経験もなかった。
 だから左右を見渡し、扉がないか確かめる。
 足も使って探しまわれば、開閉するためのフレームを設けた一角が見つかった。
 空くだろうか、と心配になるが、空くに決まっている、とも思った。
「開かなければ……施設として設ける意味がない」
 “この世界”にある以上、施設や道具類は全て自分達参加者のために設けられているのだろう。自分達がよりスムーズに殺し合えるように。
「ち」
 小さく舌を打ち、万丈目は角張った取っ手に手をかけた。

16113人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:13:29 ID:pNHdHYB60
 掌でそれを押せば、ぎ、と耳障りな金属音をたてて扉が開いていく。
 その事が自分の予測を裏付ける結果となったのだが、それが万丈目に喜びや嬉しさをもたらす事はなかった。そして、それでもその意図に乗らなければ殺されてしまう自分の弱さが、腹立たしかった。
「…………」
 それを紛らわすように、万丈目は荒い足取りで敷地の中に入る。後ろ手に扉を閉めると、まるで閉じ込められたような気がして、気構えが据わろうというものだ。
 周囲をフェンスで囲まれた軍事基地の施設は、幾つもの建造物に分かれている。万丈目はその中で最も手近にあった、かまぼこ型の倉庫へと向かう。外見から差異が見つからない以上、しらみつぶしにしていくしかないのだから、迷う必要はない。
 だが、
「どうやって開けろというのだぁーーーー!!」
 眼前にした倉庫の扉は、フェンスの向こうから見た時よりもずっと大きく感じられた。見上げなければ頂点の見えない扉に何の意味があるというのだろうか。当然、それは人力で道を開けるような素直さは持ち合わせていないだろう。
「スイッチ!」
 思わず叫んだ。
「人力で開かないのは誰でも同じ筈だ! ならば何処かに開閉のスイッチがある筈……!!」
 フェンスの時よりも、ずっと鬼気迫る様相で万丈目は左右を睨んだ。
 怒りに裏打ちされた挙動は荒く攻撃的で、そして、
「………………」
 万丈目から見て右手、巨大な扉が動くために刻まれたスリットの先にある人間大の扉を見た。曇り硝子を嵌め込み、塗装もないアルミ製にドアノブを生やしたそれは、仮設住宅の扉に用いられるような安物だった。
 数拍ばかり万丈目は停止して、
「……オぅリャァぁーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 三歩の跳躍で扉の正面に走り込み、利き足を突き出すとび蹴りによって扉の向こうへ突入した。
「おちょくるのもいい加減にしろぉ?????!!」
 叫び、苛立ちのままに倉庫の内壁を殴りつけた。
 と、どうやらそこには照明装置のスイッチが合ったらしい。何かを押んだような手応えの直後に、扉よりも高い位置に張り付く蛍光灯の群が一斉に光を灯す。
 そして万丈目は、倉庫の内側に並ぶそれらを目にした。
「…………!」
 それはまるでスーパーマーケットで商品を並べるように鉄の棚に並べられた、火器の群だった。埃とカビと、そして鉄の臭いが充満して霞のようだ。だがそれでも、蛍光灯に照らされた鉄器の群は鈍く輝いて自己主張を止めない。
 小銃、長銃、散弾銃にボーガン、その脇には弾薬を連ねた帯びまである。だがそれらに留まらず、バズーカやロケットランチャー、手榴弾、パンツァーファウスト、スリングショット、バルカン砲にガトリング砲、所によってはサバイバルナイフや折畳式の携帯刀剣まで揃っていた。
 おあつらえ向きに、倉庫の最奥にあるのは装甲車だ。
 全体を鈍い鉄板で包み込み、天井に備えられた機関銃は走りながら敵を撃つためだろう。タイヤや硝子は防弾のために加工されているに違いない。撃たれる事なく敵を撃つための、凶悪な兵器だった。
「…………」
 目つきも鋭く、万丈目はゆっくりとした足取りで銃器の並ぶ棚へと歩み寄った。指紋が埃に隠れるのも構わず、万丈目の五指は棚に並べられた小銃の一つを手に取る。それはプラモデルなどにも見られるような典型的な拳銃で、むしろプラモデルよりも陳腐にすら思えた。
 しかしそれを持ち上げた途端、重力に従順な鉄の塊は地面が恋しいと万丈目の手を引っ張った。
 ずしり、と微動だにしない硬さを有した小銃を支えられない腕ではないが、それでも、自分が感じている重さは実際の重さ以上なのではないか、と万丈目は思う。
「これで、戦うのか」
 目前にして万丈目の胸中に過るのは、この倉庫にある火器を用いた先にある未来の情景だった。
 弾丸を受けて全身を粉々に弾けさせる人体、それを行うのは、自分の両腕。
「……………………」
 この場にいる奴等の一体どれほどに火器が通じるかは解らない。だが、通じる奴等だっているだろうし、通じなかったからと言って自分は引き金を引いて良いものなのか。
 そして何より、万丈目には効く奴と効かない奴の区別がつかない。
 もしも撃った奴が効く奴で、しかも自分に害意を持っていない奴だとしたら、しかしそれでも万丈目にはそれが解らないだろう。効く奴ならば、喰らった直後に死んでしまっているだろうから。
「…………」
 相手にものを言わせない暴力、それが万丈目の前に整列している。
 そのことに、胸中のどこかで震えるような思いがある。

16213人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:14:39 ID:pNHdHYB60
 だが、それでも、
「俺はこれらを得ない訳にはいかないんだ……」
 殺すのと殺さないのがまるで違うように、戦う力があるのとないのとではまるで違う。
 先は自分が殺す可能性に悩んだが、ではそれが効かない奴だったら、そして殺意を始めから持っている奴だったらどうすればいい。そうなった時、抵抗するための力はどうしても必要だ。そして今、万丈目が得られる力は、目の前の火器しかない。
 万丈目は肩にかけたデイバックを下ろし、開いた中身へと小銃を押し入れた。そして持ち得る限りの銃器を、次々とデイバックの中に突っ込んでいく。重くて持ち上がらないものは、逆にデイバックを持ち上げて被せ、内部へと収納した。こういう時にこのデイバックの機能は役に立つ。
「……見分ければ良い、軽々しく使わなければ良いんだ」
 要は使い手の問題だ、と万丈目は自らに言い聞かせる。そして俺ならば問題などないのだ、と。
 そう思わなければならなかった。
 そう思わなければ、万丈目は生き残るための力を手に入れることが出来ないのだから。



 しゃにむににに火器を回収する万丈目の姿を、装甲車は黙ってフロントガラスに捉え続けていた。



     ●

「そういう……事なんだよなぁ!?」
 起き上がった拍子に、下敷きにしていた瓦礫の群が僅かに崩れた。
 くすんだ藍色が占める空にほんの少しだけ星が瞬く空を眺めるのはもうお終いだ。今から始めるべきなのは、残されたビルや家屋の向こうに沈み始めた夕陽のように、周囲を真っ赤に染めるような闘争だ。
 浅倉の周囲に無事な建造物は1つもなかった。何もかもが瓦解し、巨大な石の塊となって降り積もっている。
 瓦礫に横たえていた衣服は泥と粉塵がへばりついて汚れていたが、そうするまでもなくズタボロになっていた。上も下もそこかしこが破れて解れ、剥き出しの皮膚は擦り剥けて真っ赤に濡れた肉を露出している。傷口には砂が混じり込み、重度の日焼けをしたようにひりひりと痛む。
 だが、浅倉威は意に介さない。
 バネ仕掛けを連想させる勢いで立ち上がり、その勢いを殺し切れずによろめく。
 だが浅倉の容態は、本来立ち上がることが許されないような満身創痍だった。致命傷にはいたらないというだけで、擦過傷や打撲、火傷やら切傷やら、服も皮の一部であるように千切れさせている。
 この場に意思がいたならば絶対安静を求めてきただろう。
 そしてその横っ面に拳をくれてやっただろう、と浅倉は思う。
 この高揚を邪魔するものは、すべからく皆殺しにしてやろうとさえ思っていたのだ。
「はは」
 喉が引き攣ったように嗤いを弾き出し、その表情は蛇というよりも野犬のそれに近い。噛み付けるものを見つけたように、その牙から狂犬病を注いで狂気を伝染させようと、口角泡吹いて興奮しているのだ。
「お前等も」
 不意に浅倉は視線を下げた。
 二つの目線が向かうのは足下、瓦礫の上のそこかしこに散らばっている窓硝子の破片だ。夕陽に照って僅かに景色を映すそれらには、しかし景色の中に姿のないものが潜んでいる。
 2体の怪物だ。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA…………』
 かたや大蛇。
 ウワバミと表現しても良い紫色の巨体は長大に長大を極め、そこら中に散らばっている硝子のあちこちに長胴の一部を垣間見せていた。浅倉に最も近い硝子の破片からは、瞳のない黄色い目が浅倉を見返している。
『VOOOOOOOOOOOOOOOO…………!!』
 かたや犀。
 犀とはいっても四つ足の姿ではない。極太ではあったが、2本の足で立ち、4本の指を生やす両腕は人間のシルエットに近い。しかし全身を銀色の鎧が覆い、金色の角や爪を生やす形は、犀の怪物以外の何ものでもなかった。
 前者をベノスネーカー、後者をメタルゲラスというこれらの怪物は、浅倉の手に戻ってきた王蛇のカードデッキに縛られる2体の契約モンスターである。ベノスネーカーとは最も古い間柄で、メタルゲラスとはしばらくしてから契約した。王蛇のカードデッキには契約のカードが3枚存在しているからだ。
 メタルゲラスは本来別の契約モンスターだった。どうやらその持主を慕っていたらしく、事ある毎に強固な肩を怒らせる。今もまた、蒸気機関車のように野太い鼻息を吹いて、浅倉を睨みつけている。
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOーーーーーー!!!』

16313人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:15:14 ID:pNHdHYB60
「あぁ?」
 しかし浅倉も、それに動じることなく睨み返した。
「お前、まだやってんのか」
 は、と嘲笑うように浅倉は喉を鼻を鳴らす。
 そして、メタルゲラスの映る硝子の破片を踏み潰した。
『VOOOOOOOOOO!!』
 硝子の破片は単なる窓口に過ぎない。砕いたからといってメタルゲラスが傷付く筈もなく、別の破片にその姿を映した。
 浅倉も勿論それを把握している。踏み砕いたのは単なる意思表示だ。
「てめぇも化物なら、何時までも人間に懐いてんじゃねぇよ」
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーーーー!!!』
 その通りだ、と言わんばかりにベノスネーカーが甲高い鳴き声を上げる。応じるようにメタルゲラスも雄叫びを上げ、太い左腕を掲げようとして、
「オイ」
 そこに浅倉の声が入った。
「やるつもりなら、別の獲物をやったらどうだ?」
 その言葉を理解したのだろうか、2体の怪物は一様に浅倉を見た。それから辺りを見回すような仕草を経て、再び浅倉を見据える。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーー!!』
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO……!!』
 それは抗議の声のようだった。
 事実、この周囲に浅倉以外の人間は存在しない。どこまでも続く瓦礫の積み重ねだけが広がっているだけだ。
 よもや浅倉を襲えということなのか、と怪物達は浅倉の体躯を見る。
「忘れたかよ、お前等自身の力」
 浅倉は獰猛に笑み、破れかかったポケットからカードデッキを取り出した。
 紫を気色に金色のレリーフが上乗せされている。その形状はコブラ、いやさベノスネーカーを模している。
「本当の使い方を忘れちまった奴が、ずっと使ってたのか?」
 にしても馬鹿だよなぁ、と呟くと、講義するように雄叫びが重複した。
 く、とその音に浅倉は喉を鳴らした。
「お前等がいるんだ……。“あれ”だって在るんだろう?」
 言って、浅倉は歩き出した。
 埃に塗れ、所々が剥げた蛇柄の革靴で瓦礫を踏みしめ、足音をたてて焦土の上を横断していく。ベノスネーカーもメタルゲラスもその意図を図りかねているようだった。そこかしこに散らばる窓硝子の向こうで、2体の怪物は浅倉に追随する。
 そうしてどれほど歩いただろうか、浅倉が立ち止まったのは、どうにか無事に残っていたビルのショーウィンドウだった。
 浅倉の背丈よりも大きな窓硝子、その向こうには表彰台のような形をした土台に、高級そうな鞄やサンダルが乗せられている。どうやら女性用の小道具を販売する店を1階に持つビルだったらしい。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA…………!!』
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO…………』
 その窓硝子にベノスネーカーとメタルゲラスが映る。4つの目が浅倉を見下ろし、答えを教えろ、と脅すように唸っている。
 だが浅倉の笑みが、今に解る、と言外に伝えるばかりで、声を持って教えることはなかった。
 それだけに行動は雄弁だ。急な動きで、浅倉は携えていたカードデッキをショーウィンドウへと突き出した。そうして起こるのは出現、どこからともなく現れた機械のベルトが腰に装着される。そのバックルには、カードデッキを装填するためのスロットがある。
 構え、そして浅倉は叫んだ。
「ーー変身!!」
 空気を裂く叫びを追って、カードデッキはベルトに装填される。
 直後、鏡で出来た人のシルエットが幾つも出現し、浅倉の体と重なる。それが砕ける時、浅倉の体は戦闘者としての鎧で全身をまとう、仮面ライダーの1人となるのだ。
 王蛇、そう呼ばれる仮面ライダーだ。
「良いなぁ……、良いよなぁ、やっぱり」
 掲げた腕の先で掌を何度構わして、鎧の感触を確かめる。
 戦うためだけに設計されつつも装着者の動きを妨げないこの作りは、何度味わっても飽きることのない歓喜の感触だった。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA……』
『VOOOOOOOOOOOOOOOOO…………』

16413人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:15:50 ID:pNHdHYB60
 主の戦闘態勢を前にして、いよいよ怪物共の困惑は極まったらしい。
 戦闘狂の主が戦闘態勢になったというのに、その周囲には獲物となるような存在は1人もいない。だというのに何故浅倉は変身したのだろうか、言葉を持たない化物の精一杯の問いかけが視線で届く。
「はは、はははは」
 そこで、浅倉は笑う。
 難しい話じゃねぇ、と続けて、
「本当の。ーー俺達の“仮面ライダー同士の戦い”をやろうってだけさ」
 浅倉は知っている。
 この鎧が、戦闘のためのものであるという以上に、人知れず戦うため潜水服に似た機能も持ち合わせているのだという事を。
 そして浅倉は号令した。
 怪物達を、開戦の使者とするために。



「引きずり込め、ーーーーミラーワールドに!!!」



     ●

 きぃん、と唐突になった耳鳴り。それはARMS同士の激突による聴覚の痛みかと思った。
 しかし違った。それは化物が現れる前兆だったのだ。
 そのことにアレックスが気付いたのは、見上げる先で2階の窓に捕まっていたキース・レッドが、何か長大な触手のようなものによって胴を縛られてからだった。
「何!?」
 キース・レッドが驚く間にその体は牽引され、僅かに光を放って窓硝子へ吸い込まれる。
 だが驚いたのはキース・シルバーも同じだった。
(あれは……!!)
 突如として現れキース・レッドを連れ去った触手に、アレックスには見覚えがあった。あれはまだ太陽が頂上を極める前のこと、突如としてLを襲った化物の片割だ。巨体な猛威を前にして自分やLが生き残れたのは、一重にザフィーラが奴等を引き連れたお陰だったが、
(やはり仕留め切れなかったか……!!)
 見えたのは一瞬だったが、それは同時に動きが鈍くなるような傷を負っていないことの裏返しだ。
 ならばザフィーラは犬死にしてしまったのか。
 犬だけに。
「どこへ……!!」
 仇を撃とうとマッドハッターの砲門が辺りを見回す。
 だがその仇は、すでにアレックスの背後に忍び寄っていた。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA…………!!』
 キース・レッドを連れ去ったのは、奴の尾だったのだ。
 怪物の片割、コブラ型のモンスターがその頭部を、丁度アレックスの両足の間に落ちていた硝子の破片から出現させた。巨大な口はアレックスを胸まで飲み込み、鋭い牙はシートベルトのようにアレックスの両肩を捕捉する。
「……!!」
 荷電粒子砲を打ち込む暇もなかった。
 唐突に現れたのと同じような速さを持って、大蛇の頭はアレックスを窓硝子へと引きずり込んだ。



【全体の備考】
 ※時空管理局地上本部付近に対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル、454カスール カスタムオートマチックが落ちています。どちらも残弾はありません。


     ●

「……? ……!? ……!!!?」
 ようやくホテル・アグスタの正面玄関に辿り着こうとした瞬間、柊かがみの視界は闇に閉ざされた。
 頭を鷲掴みにされる感触、視界が途切れる前に見たものは、胸元の千年リングから突如として豪腕が生えるという、脅威の様だった。
 かがみはかつての主として、その腕の持主を知っている。
(……メタルゲラス!?)
 犀の怪物を支配するためのカードデッキは奪われた。だというのに何故今になって現れたというのか。
 唐突と予想外、二重の驚愕にかがみの行動は遅れてしまう。
 しかしメタルゲラスが待つ事はない。だからこその、こうした結果だった。
『ご主人サ……!!』

16513人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:16:35 ID:pNHdHYB60
 千年リングにより聞こえるバクラの声が途絶える。
 当然だ、ミラーワールドからの干渉によって肉体が流体化したかがみの体は、首にかかる千年リングの輪を潜り、その黄金に照った表面へと引きずり込まれていくのだから。
(……バクラぁ!)
 助けて、という言葉も顎ごと握られたのでは紡げない。
 時にして一瞬、かがみは千年リングが映す情景の向こうへと消える。
 後にはホテル入口前の草むらに千年リングが落ちる、その音だけが作られた。



【全体の備考】
 ※F-9 ホテル・アグスタ正面玄関前に千年リングが落ちています。





 ミラーモンスターが現れる前兆、その耳鳴りに相川始が反応出来なかったのは、一重に迷いのせいだ。始に出来た事は、通り過ぎた窓硝子の破片から伸びる極太の腕が、自分の足を掴むところを見るのが精一杯だった。
「貴様!」
 腕に続いて這い出してくるのはもう片方の腕、そして金色の一角を頂く怪物の頭だ。掌ほどしかない窓硝子からかくも大きな体躯が出現する様は、怪奇以外のなにものでもない。
 しかし、その怪物は全身の外殻を夕陽に照らして、確かにそこにいるのだ。
「変しーー」
 懐からラウズカードを出すのと同時進攻でベルトを発現、カリスの姿に変じて迎撃を果たそうとする。
 しかしそれは、相手がこちらの足を掴んでいる以上、どうしようもなく時間のかかる挙動だった。
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOーーーーーーーー!!!』
 成人男性の中でも体格のいい始の身体を、一本角の怪物は事もげに振り回す。
 足を掴んだ怪物は腕を引き、始の直立を崩した。圧倒的な牽引力によって足は払われ、受身をとる事も出来ずに、瓦礫で波立つ地面へ肩と側頭部を激突させる。
「が……ッ!!」
 肩と腕の境目に突起がめり込み、骨と骨の接合部が押し広げられる感覚は想像を絶する。加えて側頭を打つ打撃は、下手をすれば眼球を貫きかねたい攻撃だ。始といえども、生理的な苦悶は禁じ得ない。
「ぐ、ぅ」
 そして始は同じ轍を踏む事になる。
 痛みに悶えている間に、窓硝子へと沈んでいく怪物に引き摺られて、始もまたその中へと吸い込まれた。

     ●

 新庄の背後で、ざ、という物音が唐突に生じる。
「……?」
 自分を追随するエネルがどうかしたのだろうか、と振り向き、
「え……!?」
 そこには誰もいなかった。
 影も形もなく、分ける草の根もない市街地の中で、エネルの巨躯は消え失せている。
「そんな!」
 確かにエネルは一瞬で移動するような能力を持っている。しかし、ヴァッシュの驚異的な戦闘力を裏付けにしたハッタリを信じ込ませたエネルが、それを行うことは全くの予想外だった。
 それも、携えていた武器まで落として。
「一体どこに……!!」
 急いた動きで辺りを見回す新庄の様を、路上に放置された剣が、その細い刀身に映していることに、彼はまだ気付いていなかった。



【1日目 夕方】
【現在地 C-4 市街地・北端】 

【新庄・運切@なのは×終わクロ】
【状態】全身火傷(軽)、全身打撲(軽)、全身生乾き、男性体
【装備】ストームレイダー(15/15)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】なし
【思考】
 基本:極力多数の参加者とともに生還する
 1.ヴァッシュを死なせない為にも生き残る
 2.エネルが消えた……!?
 3.レイ、フェイトが心配
 4.ヘリコプターに代わる乗物を探す
 5.弱者および殺し合いを望まない者を探す
 6.殺し合いに乗った者は極力足止め、相手次第ではスルー
 7.自分の体質に関しては問題が生じない範囲で極力隠す
【備考】
 ※特異体質により、「朝〜夕方は男性体」「夜〜早朝は女性体」になります
 ※スマートブレイン本社ビルを中心にして半径2マス分の立地を大まかに把握しています
 ※ストームレイダーの弾丸は全て魔力弾です。非殺傷設定の解除も可能です
 ※ストームレイダーには地図のコピーデータ(禁止エリアチェック済み)が記録さています
 ※エリアの端と端が繋がっている事に気付いています
 ※目の前にジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使 が落ちています

16613人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:17:09 ID:pNHdHYB60
 まるで床が水か何かであるかのように現れた影は、成熟した外見となった自分さえも超える巨躯だった。影はやや背を曲げた姿勢だというにも関わらず、ヴィヴィオの目線は影の胸元ほどしかない。荒い息遣いに首と肩を揺らし、今、両腕がもたげられる。
 そして、五指ならざる指が生やす金色の爪が迫った。
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO…………!!』
「うううううううううううううう……ッ!!」
 雄叫びに振り抜かれた2つの巨大な掌を、しかしヴィヴィオの細腕は確かに受け止める。
 適性の問題があるとはいえ、レリックを身の内に秘めた聖王の器は怪物を片手間に払う戦闘力を発揮する。狂気に支配されたヴィヴィオは右脚で巨躯の胸をつき、掌を掴んだまま両腕をもぎ取ろうとする。
 だがそれが出来ないことこそが、ヴィヴィオがこの対峙に敗北する理由だった。
「ううううう……っ!?」
 怪物、メタルゲラスが現れたのは床からだ。誰もいないこの“聖王のゆりかご”でありながら磨き上げたように綺麗な廊下は、淡い非常灯によって鏡に似た性質を発揮しているからこそ、メタルゲラスは床を出入り口にした。
 それはつまり廊下全体が境界線ということ。すでにヴィヴィオの両足は入口と化した床に沈んでいた。
「あ、ぅぅぅぅ……!!!」
 理解不能の生理的な恐怖に顔は引き攣り、抜け出そうと両足がもがく。
 しかしカードデッキ式仮面ライダーを装備しないヴィヴィオに脱出は不可能、飛行魔法もメタルゲラスの腕力を前にしては拮抗することも出来ない。
 そして、
『VOOOOOOOOOOOOOOOOーーーー!!!』
 一気呵成の叫びのもと、ヴィヴィオは鏡と化した廊下に叩き込まれた。

     ●

 砂浜を走る事は想像以上の困難を伴った。
 踏みつけるたびに砂の群は散り散りとなり、一歩ごとに身体のバランスを調整しなければならない。おまけに改めて踏み出そうとすれば、潜り込んだ深度に比例して砂が足にのしかかり、脱出させまいとまとわりついてくるのだ。それでいて蹴散らせばあっという間に散る軽さ、手応えの変動し易さは無意識に足を疲労させる。
 だというのに、
「何これーーーーーっ!」
 叫んだ柊つかさが目にしたのは、もはや海と呼んでも良いような河川だった。
 市街地から流れてくる河川は砂浜を両断して海に流れている。流水に削られた砂の崖はもろく、近付こうものなら足場から崩れ、つかさの小さな体は水没して海に押しやられてしまうだろう。とてもではないが泳げるような水流ではなく、飛び越えるような足場でもない。
 迂回しようにも右手は海辺の浜、左手から流れてくる水流は市街地まで届き、その果てを見せない。
 川を渡るには、大きく迂回しなくてはならないようだ。
「そんなぁ」
 荒い息に肺と喉が痛み、短い髪の毛は振り乱れた。
 頭髪の合間をぬって流れてくる汗に濡れたつかさの顔は、目と鼻の先にある“聖王のゆりかご”を見る。沈みつつある夕陽の中でもその巨体を誇る建造物は、まるで自分を嘲笑っているようにさえ思えた。
(何とかして渡れないかなぁ)
 目の前の河川を越えるだけで良い、その思いが、つかさに川面を覗かせた。
 そして、
「……ぇ?」
 き、という耳障りな耳鳴り。
 そして揺らいだ水面に映っていたのは自分の顔ではなく、見たことも無い異形の面構えだった。金色の角を鼻先から直角に早し、瞳のない双眸はこちらを眺めている。まるで犀のような姿だったが、だとしたら両腕が人間のようになっているのは変だ。
 怪物だった。
「なん、で」
 戸惑いがつかさに行動の行動を遅らせた。尤も、つかさの反射神経では対応できなかっただろうが。
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!!』
 拳が水面から生えてきた、そう思った時には、水面は赤く濁った。
「……ぷふっ」
 鼻と前歯、そして顎が砕ける痛みに舌鼓を打ち、そして広げられた掌がつかさの頭を鷲掴みにする。頭部の下半分が砕かれた直後だというのに、次の瞬間には上半分が握りつぶされそうな圧力がかかる。
「ぁ、が」
 現実離れした事実と痛みに、つかさの双眸は、掌に覆われた暗闇から瞼による暗闇を見るようになった。

ーーーーーーーーーープつんーーーーーーーーーー

16713人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:17:39 ID:pNHdHYB60
     ●

 夕陽に陰る事務室の中で、天道総司の耳朶は不意の高音に痛んだ。
(……これは)
 覚えのある感覚に、壁にもたれて腕を組んでいた天道は面を上げる。思わずジーンズのポケットに手を突っ込み、その奥に仕舞い込んだ黒いカードデッキに指先を触れさせた。
 現在進行形で黒いカードデッキが縛る龍、ドラグレッダーを統べる天道には、この耳鳴りの正体が何であるかを知っている。ミラーワールドの誰かが現実世界側の誰かへ干渉しようとした時、カードデッキの如何せんを問わず発生する前兆だった。
 ドラグレッダーだろうか、と天道は思う。
 何かの規則を破ったのか、それとも自分がそうと知らずと破ったのか、どちらにせよ何らかのアプローチが来る。
「天道、さん?」
 と、眼下で高町が潤んだ瞳にこちらの姿を映していた。
 薄く開いた唇からは吐息が漏れ、両手で握る紙コップはスポーツ飲料に満ちている。それとは対極に、空っぽになった大型のペットボトルが脇に放置されている。飲みきったのだ。
 まずいな、と天道は相互を崩した。
 高町の熱はまだ引いていないようだ。額は汗ばみ、僅かに荒い呼吸を証明するように豊かな膨らみが絶えず伸縮を繰り返す。壁に背をもたれて床に座り込む彼女は、体調の不備を訴えて止まない。
 だがそれでも、ここから離れる必要があった。
「高町、動けるか」
 かがみ込んで高町との目線を合わせ、天道は張り詰めた表情を作る。
「何が……?」
「ミラーモンスターが狙っている」
 彼女には前兆がこなかったらしい、緩み潤んでいた瞳が見開かれ、天道の顔を見返した。
「お前には耳鳴りがしなかったのか」
「私、は、全然、聞こえませんでし、た」
 ということは、ミラーモンスターに狙われているのは自分だけということになる。
 ならば自分が移動すれば高町の安全は確保出来るか、と思い、しかし今1人にすることが高町の安全になるのか、とも思う。
 どれほどの猶予があるのか、それすらも解らない逡巡の時間に一筋の汗が頬を撫で、
「…………!!」
 天道は見る。
 顎先から放たれた汗の注ぐ先、高町が携える紙コップの中身に巨大な獣の頭部が見えたのを。
 しまった、そう言うだけの暇もなく、紙コップに満ち満ちたスポーツ飲料を出入り口にして巨大な舌が出現した。
「なーー!?」
「がぁ……!!」
 驚愕に固まった高町の目前で、天道の首を支柱にして舌が何十にも巻き付いた。
 首を始点にしての牽引、くわえて膝立ちで前のめりという踏ん張りの利かない態勢では、スポーツ飲料の向こう側にいるモンスターに抵抗することは出来ない。ドラグレッダーを喚び出す命令さえも思う暇がなかった。
 底辺に空いた穴へ水が渦巻いて流れ込むように、天道は紙コップの小さな陥没の中へと飲み込まれる。
 靴裏まで取り込まれる直前、現実世界との繋がりが途絶える直前に、高町の声を聞きながら。
「天道さん……!!」



【現在地 D-2 スーパー 事務室】 

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】発熱、魔力消費(大)、驚愕、キングへの疑念と困惑
【装備】とがめの着物@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。絶対にヴィヴィオを救出する
 1.天道さんが消えた……!?
 2.極力全ての戦えない人を保護して仲間を集める
 3.フェイトちゃんもはやてちゃんも……本当にゲームに乗ったの?
 4早く騎士ゼストの誤解を解かないと……
【備考】
 ※金居とキングを警戒しています。紫髪の少女(柊かがみ)を気にかけています。
 ※フェイトとはやて(StS)に僅かな疑念を持っています。きちんとお話して確認したいと考えています





「貴様は」
 かかげた刃の中に、アーカードは化物の姿を見た。

16813人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:18:14 ID:pNHdHYB60
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOーーーーーー!!』
 背後には何者もいない。まるで鏡のように光る刀身が窓口だというかのように、そこには人型の犀が映っている。野太い腕を肩ごと上下させ、瞳のない双眸はアーカードを見返している。
 耳鳴りに顔をしかめるアーカードは、視線だけで怪物の意図を悟る。
「私を、狙っているのか」
 肯定するように怪物は鳴いた。まるで汽笛のような咆哮は耳鳴りとの重奏となり、アーカードは更に頭を痛めることとなる。
 だがそれでも、表情は笑みだったのだ。
「面白い」
 思いは一言に尽きる。
「やってみろ化物。私に、修羅場というものを見せろ」
 応じたことが切っ掛けだったのだろうか。
 怪物はこちらへと両手を差し出し、8本の指が刀身から生えてきた。
 一体どういう原理なのか、アーカードには解らない。ただ目前で、携えた日本刀から化物の巨腕が伸びてきて、そして自らの頭を両側から鷲掴みにしたことだけは、実体験として信じていた。
 引きずり込まれたのは、直後のことである。

     ●

「う、うわぁっ!!」
 腰砕けの悲鳴をあげ、デイバック片手に万丈目は装甲車へと駆け込んだ。
 ドアに鍵はかかっていなかった。それどころか運転席の鍵穴にその先端を挿入し、何か認識票のようなものをキーホルダーとして垂らしている。後部座席に滑り込んだ万丈目の目は、運転席と助手席の合間からその事実を覗いていた。
「な、何なのだアイツは!?」
 閉じた後部座席の扉、その一部をくり抜いて埋め込まれた強化硝子越しに見えたのは、紫色をした巨大な蛇だった。瞳の無い眼球で窓硝子を覗き込み、身体をすくませる万丈目の姿を睨みつける。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA……!!!』
 凶悪な目を一端に遠ざけ、直後に迫った再接近は突進と呼べるものだった。
 横殴りの一撃が装甲車を万丈目ごと揺るがす。
「わああああああああああぁぁぁッ!!」
 化物の突進に装甲車が吹っ飛ばなかったのは、一重に装甲車自身の重量と幸運によるものだ。だが激突によって確かな被害はある。万丈目が急いで閉じた扉は、いまや内側に大きく陥没している。突進の被害であることは、そして二度目を受ければ弾け跳ぶことは明白だった。
「に、逃げなければ」
 化物が再び身を引いたうちに、万丈目は這うようにして前部座席へと身を映す。もとより狭い前後座席を行き来するスペースは、武装車両の中とあってはよりせまいもののような気がした。
 辿るように手を添えたのは操縦席のクッションだ。軍用の分厚く角張った座席に座れば、ハンドルと2枚のペダル、そしてエンジンを始動させるための鍵が備わっている。運転経験どころか免許も持っていない万丈目であったが、この状況にあってはどうこう言う訳にはいかない。
(早く、早く鍵を……!)
 座席の陥没に尻を収め、右手をスロットに挿入された鍵穴へと伸ばす。と、そこで万丈目は、フロントガラス越しに1つの行動を見た。
 右のサイドミラーがへし折れており、そこに嵌め込まれた小さな鏡に怪物の尾先が埋まっているのだ。
 刺さっているのとは違う。まるで鏡が水か何かであるように、そこから這い出すようにして尾先がサイドミラーに埋まっている。
「な、何だ? あんな小さな鏡の中から這い出してきたというのか!?」
 小事であった。それそのものは何の危機ももたらさない、ただ、危機の準備だった。
 だからこそ万丈目は、その狼狽えている間に鍵を捻ってエンジンを起こし、しゃにむにでもアクセルペダルを踏み抜くべきだったのだ。
 だがそれも、もはや間に合わないことであったが。
「!!?」
 がくん、と装甲車が揺れた。
 何だろうか、また体当たりを仕掛けてきたのだろうか、と万丈目は思う。だがそれにしては揺れが小さく、また断続的だ。ぎし、ぎし、と装甲車全体が耳障りな軋みをあげている。
 そしてフロントガラスから見える景色が浮上した時、装甲車そのものが持ち上がっているのだと気付いた。
「う、うわ……!!」
 長大な胴をした蛇の怪物は装甲車に巻き付き、万丈目ごと捕らえたのだ。
 螺旋を描くように巻き付いた胴体により、もはや前後の扉は開かない。踏みつける地面がないのでは、エンジンを駆動させてタイヤを回しても何の意味は無かった。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
「ひぃ……っ!」
 フロントガラスから怪物が覗き込んできた。
 目前に迫る凶暴な顔に、思わずデイバックを盾にして身を小さくする。
 そんな風に目を硬く閉じていたから、万丈目は自分や装甲車が流動状に変形し、怪物の尾先についたサイドミラーへ吸い込まれる奇怪な情景を見ることはなかった。

16913人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:18:52 ID:pNHdHYB60
     ●

「「「何!?」」」
 それはヴィータの驚愕でありアギトの驚愕であり、同時に金居の驚愕でもあった。
 赤いドレスから覗くか細い両腕、それが携える槍の刀身より長大な舌が出現して金居の胴を縛ったのだ。
「ぐ」
 金居の姿が陽炎のように揺らぐ。
 何かの特殊能力なのだろうか、ヴィータは思う。それはこの場を逃れうる力だったのかもしれないが、しかし、変化が完了するよりも先に舌は動く。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーー!!』
 どこか聞き覚えのある雄叫びの後、牽引された舌によって金居は引きずり込まれてしまう。
 槍の矛先、鏡面のように光る小さな刃へと。
「……金居!?」
 まるで手品か幻のように、刃よりも遥かに大きな金居の体躯は引かれる胴体を先頭にして輪郭を歪め、まるで穴に流れ込む水のような有様となって刀身の中に消えてしまった。後に残されるのは、武器を持ったヴィータと、傍らのアギトだけ。
 すでにヴィータの平常心は完全に転覆している。額から頬へと流れる冷や汗は幾筋も顎から伝い落ち、足下の瓦礫は通り雨でもあったかのように黒い斑点に彩られる。
 白昼夢というにはあまりにも時間が遅い。だが夢でなければ大の男が一度に2人も消えた事になる。そんなことは、転移魔法かそれに準ずる能力がなければ不可能なように思えた。
 一体どこへ、そう呟こうとして、
「……まさか」
 憶測の言葉が口をついた。
 思い起こすのは牽引とともに聴こえた雄叫びだ。合成音声のような2重の声は聞き覚えのあるものだったが、それをどこで聞いたのか、今ようやく思い出す。
 それはかつて、アーカードと戦ったクロノ・ハラオウンが従える獣のそれに似ていたのだ。
「鏡から出てくる化物」
 糸口を見つけてしまえば、あとは芋づる式で言葉が出てきた。
「誰かが、……あの化物で奇襲をかけてんのか!?」 



【現在地 E-5 市街地】 

【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
【状態】疲労(中)、奇襲に対する危機感(大)
【装備】ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で数時間使用不可、核鉄状態)@なのは×錬金、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F
【思考】
 基本:はやての元へ帰る。脱出するために当面ははやて(StS)と協力する
 1.はやて(StS)は様子見、当分同行するが不審点があれば戦闘も辞さない
 2.やべぇぞ……どこから敵が来るか解らねぇ……!
 3.ヴィヴィオ、ミライ、ゼスト、ルーテシアを探す
 4.アーカード、アンジール、紫髪の少女(かがみ)は殺す
 5.グラーフアイゼンはどこにいるんだ……?
【備考】
 ※ヘルメスドライブの使用者として登録されています
 ※セフィロスの遭遇以前の動向をある程度把握しています
 ※はやて(StS)、甲虫の怪人(キング)、アーカード、アレックス、紫髪の少女(かがみ)、アンジール、セフィロスを警戒しています
 ※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表
【思考】
 基本:ゼスト&ルーテシアと合流して脱出する
 1.とりあえずヴィータやはやてと協力
 2.この状況ってやべぇんじゃねぇの!?
 3.ゼストとルーテシアが自分の知る2人か疑問
 4.金居の事を非常に警戒しています
【備考】
 ※アギトの参戦次期はシグナムとともにゼストの所へ向かう途中(23話)です
 ※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。ただし具体的には解っていないので現状誰かに話す気はありません
 ※デイバックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています
 ※ヴィータがはやてを『偽者』とする事に否定的です





 キングがミラーモンスターの奇襲を回避出来た理由は幾つかあるが、その中でも得に重要だったのが、戦うために生まれてきた怪物としての、驚異的なまでの精度を持つ勘によるものだった。

17013人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:19:28 ID:pNHdHYB60
(何か、来る……!?)
 耳鳴りが聞こえたことも、橋の下を流れる川面が不自然に揺らいだことも二の次だ。生理的な危機感だけでけで動くに足る。
 左脚を回してカブトエクステンダーの右手に降りる動き、だが足裏は橋を踏むことはなく、車体の横腹を蹴倒してキングの身体を宙へ押し上げた。背後に重量のある機械が倒れる音、しかしそれを気にする間はない。跳躍から降り立った欄干、そこから見下ろせる水面に異形の顔を見たからだ。
「うぉうっ!!?」
 欄干を蹴ってキングは再び跳躍、ゼロの黒装束をはためかせて川の上空へと自身を打ち出す。
 直後、橋はミラーモンスターの顎によって粉砕された。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーー!!!』
 現れたのは巨大な蛇だった。エラの張った頭部はコブラを思わせ、紫色の長胴は弧を描いて橋を穿った。
 上下二対の鋭い牙が橋を貫き、倒れ伏したカブトエクステンダーは牙に続く口蓋の圧迫に圧迫されて粉砕、おそらくは巨大コブラに嚥下されてしまっただろう。
 自らの眷属を模した乗物を失ったことに欠片も同情を抱かないキングは、その巨大な蛇を見ていた。
 『CROSS-NANOHA』、とある次元世界に存在する様々な物語を記すインターネットサイトを見たキングには、その大蛇がなんという名前であり、いかなる存在なのかが解る。
 名はベノスネーカー。その存在は、浅倉威が使うカードデッキの奴隷だ。
「は」
 その時、我知らずと喉が震えていた。
「はははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」
 キングの胸中を満たしていたのは歓喜だった。
 竜巻のように激しく渦巻く感情を体内に収めておくことが出来ず、気がついた時には哄笑として口から漏れ出していた。ゼロマスクのせいで籠った声は耳を叩くが、それさえも気にならない。
 何故なら、ベノスネーカーの奇襲が面白くてたまらないからだ。
「さすが! さすがだよ浅倉威!!」
 ベノスネーカーの主は道具、その使い手に制限はないため、必ずしもこの奇襲が浅倉の命令だとは限らない。だがそれでも、キングは浅倉が命令したのだろう、と考えている。
 こんなことを思いつくのは、カードデッキの本来の使い方を理解していて、なおかつ死に意を介さぬ狂人でなければ出し得ない。
 かつて出会った浅倉威からは、それらの条件を満たす人格がありありと見とれた。
 だから、キングは心の底から浅倉威を賞賛する。
「僕が何かする前から! お前はこの戦いを引っ掻き回してくれるんだね!! 良いね、良いね、良いよ! 乗ってやろうじゃないか!!」
 そうして、落下を始めていたキングは腕を伸ばしてあるものを掴んだ。
 ベノスネーカーが首から生やす長胴の末だ。
 掴んだ途端に全身を襲う牽引力に肩が痛んだ。しかしそれさえも楽しみの一環としてキングは受け入れる。万感の娯楽を前にしては、多少の障害では単なるゲームクリアを阻む敵キャラクターに過ぎない。美味を引き立てるためには、それを引き立てるものとして対極の味が求められるのだ。
 ベノスネーカーの頭部は、すでに鏡面化した川面へと潜っている。
 あ、という間にもゼロマスクの目前に川面が迫り、その下にキングは狂気の笑みを刻んだ。
「さぁ、祭りの場所はどこだい!?」



【全体の備考】
 ※D-5の橋が破壊されました。瓦礫にはカブトエクステンダー@魔法少女リリカルなのは マスカレードの残骸も混じっています。
 ※瓦礫伝いに川を横断することは可能です。ただし対岸に登るには相応の身体能力か工夫が必要です。





 相川始が目を覚ました時、視界一杯を埋めるのは灰色の連山だ。
 中央に敷かれた色黒の一直線を挟む左右の建造物は、多少の個体差はあるものの、一様に薄い灰色で統一されている。壁面には透明な窓硝子が埋め込まれ、多くは地続きの基部に大きめの硝子を備え付けている。ものによっては植え込みやそこから生える植物、2〜3段程度の小さな階段を備えるものもあった。
 連山と色黒の一直線の間には煉瓦が敷き詰められた歩道があり、その緩衝地帯と一直線の間には白く塗られたガードレールが立っている。始の立つ一直線の側に裏側を見せるそれは、こちらからの襲撃を歩道側に出さないために設けられているのが解った。

17113人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:20:14 ID:pNHdHYB60
「どういう事だ」
 詳細にこそ覚えていないものの、始にはこのビル街が記憶にある。
 先刻に浅倉威との戦いで焦土に帰した、瓦礫の砂漠の本来の姿だったのだ。見る影もなく瓦解したそれらは、しかし隆盛を誇るようにして天へと自らの屋上を伸ばし、競い合っているようですらある。そう考えると、ここは連山というよりも竹林のようにも思う。
 自分と浅倉の戦いが無に帰したように、もしくは時間が巻き戻ったかのような情景だ。
「…………」 
 だがそれよりも、始の目を引くものがある。
 壁面の窓硝子や外壁そのものに取り付けられた看板、そこに記された文字だ。
「何だ……?」
 おそらくは1棟全て、あるいは1つの階層に間借りする企業や組織の名を記されているのであろうが、どういうことだろう、どれもこれも一様に同じ誤記がされていた。
 鏡移しに、全くの真逆に定着している。
 一語に思い起こされる記憶がある。自分を襲った化物の事だ。
 金色の一本角をたたえ、灰色の鎧に身を包んだミラーモンスター、そちらは思い出すまでもなく、浅倉が従えていた化物だ。自分との戦いの後に浅倉が奪われた可能性もあるが、あれの人柄を思えば、むしろそれを危機ならざる喜々として、返り討ちにしてしまう情景しか思い浮かばない。
 犀のようにも見えた化物は窓硝子から出現した。夕陽によって周囲の情景をうっすらと反射していた窓硝子は、さながら鏡だ、と表現することが出来るだろう。
(キーワードは鏡か)
 よもやここは怪物達の潜む鏡の向こうの世界なのだろうか、と冗談混じりに思い、
「…………」
 笑い飛ばすことが出来なかった。
 鏡から出入りする化物がいるのだ。別に鏡の中に世界があるとまで言う気は無いが、鏡を出入り口にして行き来できる異次元ぐらいはあっても可笑しくはない。
 それを思える程度に、自分は常軌を逸した化物だった。
(だが、何のために)
 化物を支配する自分とは違う意味での化物、浅倉威は、こういうまどろっこしいことをする人間ではない。殺すのに失敗した、と考えるのも矛盾だ。そもそも怪物に殺させるという間接的な手段自体、浅倉は好まないだろう。
「何のつもりだ、浅倉威……!」
 ひょっとしたら復讐、再戦が望みなのだろうか。だとすれば奴もこの鏡移しな世界にいる筈だ。
 プレシアのように殺し合いを高みから見下ろすような奴でもあるまい、と思い、始は移動しようと自らに命じた。路上の真ん中に座り込んでいた足に働きかけ、手をついて身を起こし、
「……?」
 その時、始は足音を聞いた。
 見上げた視線の先、まっすぐに続く道路の先から人影が現れ、次第に大きくなってくる。その速度と足並み、小刻みな上下運動は、人影の人物が走っているのだと理解出来た。
 それは一人の少年だ。
 つり目に逆立った髪は好戦的な印象を受けるが、今の彼の様相は、何かから逃げ続ける逃亡者の姿だった。顔一杯に恐怖を貼付け、汗を降り散らし、視線は一定しない。荒い息遣いすら聴こえてきそうだ。
 と、そこに至って少年の方も始に気がついたらしい。
 嵐の中に太陽を見たような顔をして、助けを求めるように手を伸ばす。実際彼は助けを求めていた。
「あ、あんた! 助け……」
 喉を痛めたような声は、しかし言葉を言い切ることも出来ずに途絶えることとなる。
 少年の背後に長大な影を見た時、始はそれを確信した。
「ーー避けろ!」
 始の呼びかけを、しかし少年はこなすことが出来なかった。急な命令に心身が反応出来なかったのだ。それは、夕陽を背後にして影に染まる長大な化物、ベノスネーカーの攻撃を受けることとなる。
 とは言っても、ベノスネーカーが放ったのは体当たりでも牙でもない。
 喉の奥から放つ白濁した液体の放出だ。清潔感の欠片もない攻撃は一直線に少年の背後に迫り、
「ひ……ッ!」
 うっかり振り返ってしまった少年は、顔面にいたるまでその液体を浴びる結果となった。
「ぁ、ぶっ!?」
 水圧に跳ばされ、全身が液体に包まれた少年の身体が路上に転がる。
 体躯にまとわりついた液体は粘質でゼリーのようだ。もはや少年のシルエットは見えず、彼の姿は路上に打ち捨てられたクラゲといった風だ。
 そこで、少年は立ち上がろうとした。震える腕を路上についてよろめきながら、
「……ぇ?」

17213人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:21:00 ID:pNHdHYB60
 不意に疑問の声を漏らして、とまった。その理由も始は理解している。
 怪物が人間に向けて放ったもので、人間が得をすることなど、全くと言っていいほどありはしない。その証明は、少年が転がったことで路上に付着した粘液が煙を上げていることに他ならない。
 直後、
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーー!!」
 粘液に小さな一点が穿たれた。
 少年が全力の悲鳴をあげるために開いた口腔だ。
 だがそれは流れ落ちる粘液によって塞がれ、恒常的に放たれる叫びによって泡立ち弾けて、しかし次々と垂れてくる粘液によってまた塞がれ、の繰り返しを起こす。
(……ゼリーのようだった粘液が、今になって垂れてくるのか?)
 始の疑問はすぐに解消する。
 口腔へと注ぐ粘液が本来合った場所、少年の頭部が爛れているのだ。否、頭だけではない、肩と言わず背中と言わず、全身の至るところがぐずぐずと崩れ、衣服と混ざって路上に水溜りをつくる。
 それが次第に赤味を増すのは、恐らく少年の体液が混ざっているからだ。
「痛ェッ!! 何ダこれッ!! 苦ぢぃ、苦ぢいっ!! 熱ぃ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」
 もはや姿勢を維持することもままならず、少年は路上を転げ回った。それで少しは粘液を剥がそうとしているのかもしれないが、もう間に合わない。むしろ全身に粘液を塗ったくってしまうだけだ。
「どっ、ドクっ、毒か!!! 畜生ぉおおおおおおぉぉぉぉォォーーーーーー!!!」
 毒、毒には違いないが、より正確に言えば酸の類なのだろう。
 それも、人体を崩すほどに凶悪な濃度を誇る、強酸の。
「おっ! おおぉっ! おおぉぉぉ……ッ! おぉっ、おっ、おお……っ」
 やがて少年の身体からほとんどの粘液が崩れ落ちた時、そこにあったのは、人間かどうかも疑わしいものだった。
 形状の上では、学問の上では人と分類出来ただろう。
 だがそれは、学校の保健室に置かれている人体模型の実物が目の前に合ったなら、ピラミッドの最奥に眠るミイラを分析したら人体だったと、そう言う類の判別でしかないのだ。
「……ゅーー……ゅーー……ゅーー……」
 赤い淀みに濁る粘液の真ん中で、小刻みに痙攣する肉塊があった。
 シルエットとしては赤色の珊瑚に似る。皮膚はなく、露出した真っ赤な肉はぼろぼろに毛羽立って、さながらミンチを塗ったくったようだ。特に深く崩れた場所からは骨が覗き、リンパ液や脂質が零れ落ちている様子は、油の張った海に漂う蛆虫の屍骸を思わせる。
 唇や陰嚢は破れ、内部に秘めた体液を垂れ流しにしている。単なる穴となった口腔を縁取る歯は軒並み零れ落ち、そこら中に落ちている。だがそれにも増して多いのは頭髪だ。豊かな髪を持っていただけに抜け落ちる髪の量も一入だったのだ。粘液の溜りに頭髪が揺らぎ、微細な穴が残った頭皮は崩れて頭蓋を晒す。
 眼球など残っているはずがない。口腔とで三角形の頂点を描く、単なる陥没に成り下がっていた。
 夕空に晒す腹は貫通していた。肋骨を浮き彫りにする胸の下、胃袋の内側は暴露され、半ば消化されて崩れた飲食物を見せつける。生涯で始めて晒した腹腔は、類稀な悪臭を秘めていた。もっとも、今の彼自体悪臭の塊だったが。
 頭、と思しき部位が始の側に向いているので解り辛かったが、どうやら苦悶の中にあってはあらゆる我慢がならなかったらしい。肉体の向こう側に溜まる粘液は気味が強く、黒ずんだ固形物が少しずつ溶けていく。全身が爛れる痛みに排泄を堪える余裕はない。失禁と脱糞をしたのだ。
「……ゅーー……ゅーー……ゅーー……」
 さっきから聴こえる出来損ないの笛の音は、どうやら穿たれた喉が放つ呼吸音らしい。
 あの様相で生きているとは驚愕の至りだったが、もう半死半生、いや九分九厘で死ぬ手前に過ぎない。
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA…………』
 それまで少年が転がり回るを見下ろしていたベノスネーカーが動いた。
 開いた口に長い舌をうねらせ、そして一気呵成の勢いで少年だった肉塊を地面ごとの飲み込む。
 ごくり、と嚥下される様を見て、限界まで生きる苦しみを味合わなかったことはむしろ幸いだったのではないか、と始は思った。



【万丈目準@リリカル遊戯王GX 死亡】
【残り 26人】

17313人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:21:36 ID:pNHdHYB60
 驚きはない。
 むしろこれまでの戦いの中でこう言った事態を見なかった方が、幸いだったのだ。
 誰かを死なせ、自らは死ぬこともないアンデットとしての相川始は、無防備に走ってきた見ず知らずの人間の少年が目の前で無惨に腐食し、怪物に飲み込まれた程度のことで怒りはしない。
 ただ、人間としての心が義憤するだけだ。
「…………」
 何一つ語ることもなく始はベルトを出現させる。バックルにハート型の紋章を刻み、縦一線のスリットを刻んだベルトだ。それこそは始が生来に持つアンデットとしての能力、ジョーカーの片鱗だった。
 懐から取り出した1枚のカード、チェンジマンティスを構え、
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーー!!!』
「何!?」
 ベノスネーカーはこちらに背を向け、やってきた道の先へ滑っていってしまった。
 可笑しい、と始は思う。
 あれだけの好戦的な化物が、しかも浅倉威に隷属する怪物が、補食した獲物よりも遥かに強い自分を前にして闘争するとは考えられない。強者を前にして怯える性格でもあるまいに。
(やはり、何か企んでいるのか)
 どちらにせよ今出来ることはそう多くない。
 カードをズボンのポケットに押し込み、始は健脚に働きかけた。
 巨体に反してベノスネーカーの動きは素早い。
 しかし家屋によって前後以外の道を塞がれた現状、化物の長胴は後を追う分には困らない。うねりの最後尾として左右に振り乱される数珠のような尾先に視線を結び、始は長い両足で道路を蹴り付ける。
 そうしてどれほどの家屋を過ぎた頃だろうか、やがて景色は高層ビルの谷底となり、どれほど走ったのか、開けた場所に出た。そこには姿を失った筈の建造物が現存している。
 レストランだ。
 浅倉威によって炎上した筈のそれは、全くの完備といった風に、その外壁を夕陽に照らしている。
「…………!!」
 飲食店を前にして広がる大通りの中央には、いったいどういう訳か武装した装甲車が駐車されていた。しかも車体の上には口を開けたデイバックが打ち捨てられ、装甲車の周囲に大量の火器を散らしている。
 道路の広がりには幾人かが立っていた。見覚えのある者、無い者、歳格好も様々だったが、皆一様にレストランの方を見ている。レストラン入口の手前、スロープと階段が刻まれた段差の上には人影がある。
 レストランに放火した張本人だ。
 紫と黒によって身を固める鎧はコブラの装い。屈強な足は階段の段差を踏み、左腕は小物か何かを握り込み、そして右腕は1人の青年の首を握り締めていた。
 確かあの青年は殺し合いが始まった直後に見つけて強襲した人間だ、とも思うが、そんな事はどうでも良い。
 鎧の人物こそが、この茶番を仕組んだ犯人だからだ。
「ーー浅倉ぁッ!!!」
 始の叫びに、紫の兜がこちらを見た。自分の存在に気付いたのだ。
 頭部ならず全身まで鎧で包んでいるというのに、奴の鼻で笑う声が聴こえる。
「来たか」
 それどころか、今奴が浮かべている表情すら透けて見えるようだ。
 笑んでいる、始にはそれが解った。
「もう少し待ってろ。今、コイツを片付けるからよ」
 言って、浅倉は鎧越しに握る青年の首への圧力を強めた。
「……か、ふっ」
 首で全身を支えるという苦行に青年は息を乱し、しかし握り締める腕を掴み返すという反撃に出た。しかし呼吸を制限され、首以外に身を支えのない腕で一体どれほどの握力が生み出せるものか。
 結果、より一層の威圧を首に受けることになったようだ。
「ぐ、ぉ」
「ははは……っ!!」
 煮え立つような哄笑を漏らして、浅倉は青年を掴んだまま身を翻した。
 右腕で戦陣を切った上半身からの旋回、鎧による身体能力の強化を受けた筋力は青年の胴体を遠心力にたなびかせ、そして、背後に並び立つレストランの大窓へと青年を叩き込んだ。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 破砕の音はやけに高音で、連鎖して起こるものだから断続的に響いた。
 窓というよりもショーウィンドウに等しい大きな窓硝子は、砕けるともなれば破片の量も凄まじい。青年は破片によって身と言わず服と言わず切り裂かれながら、店内の机を割って床に叩き付けられた。
 青年を放り投げた浅倉は姿勢を再び直立へ戻し、そして左手に握っていた小物を見る。
「あれは」

17413人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:22:10 ID:pNHdHYB60
 遠目であったが、始にはそれが薄っぺらい箱のように見えた。
 真黒に着色されたそれは、浅倉がまとう鎧の腰に巻き付いたベルト、そのバックルに装填されているものと同系統であるように思われる。そして浅倉は箱を握ったまま左手を浅く掲げ、
「ふん」
 鼻で笑うとともに、握りつぶした。
 石版が割れるような音がして、大小無数の黒い破片はレストラン前の階段を跳ねながら下っていく。
 それとともに、
「ーーむ」
 始の視界に新しい影が生じた。
 レストランの脇に拓かれた小道から誰かが歩いてくる。それも、何か大きなものを引き摺る、砂をかき分けて進むような効果音を引き連れながら、だ。
「…………」
 睨んだ先にあるのは人影、しかし影を払ったそれは、人というには余りにも手足は太く巨体だ。
 銀色の外殻に身を固めた怪物、浅倉の従えていたもう1匹の怪物だった。名をメタルゲラスといったか。人型の犀とも言うべき様相をしたメタルゲラスがその右腕に握り締めたものは、靴にくるまった足。
 そして大通りに出て夕陽に照らされた足の主は、
「つかさ!!」
 突如として名が叫ばれ、そして何者かが駆け出した。
 始の左手から現れた声の主は小柄、デイバックを放り捨ててツインテールをなびかせるのは、先の浅倉との戦いで助けた少女だった。通り過ぎ様に見た少女の顔は、いつになく焦りに濡れている。
(知り合い、否、肉親か)
 メタルゲラスへ向かう少女の周囲に変化が生じた。
 少女の細い腰には何時の間にかベルトが装着され、その左脇に小さな影が並走していたのだ。大きく跳ねて並ぶ影はバッタを思わせる動き、少女は小さい影が高く跳ねたところをつかみ取る。
 それを構えて、
「変しーーーーーー」
 やはりあのベルトは仮面ライダーとなるための器具だったらしい。
 だが、
(駄目だ)
 始は少女の行動にダメ出しを入れる。変身するのが遅過ぎる、と。
 今のメタルゲラスの手には、つかさというらしい少女が握られているのだから。
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOーーーーーーーー!!!』
 少女の接近に滾ったのだろうか、メタルゲラスは咆哮とともに腕を振るった。太い4本の指で少女の足を締めつける、その右腕を。
 浅倉が青年をレストランに叩き込んだ時と同じ要領だ。足を起点にして振るわれたつかさの身体は、風圧と遠心力によって伸びきり、さながら棍棒かバットの様相を描いて振り抜かれる。
 その延長線上にあるのはツインテールの少女。
「あぅっ!!」
 遠心力の恩恵を受けたつかさの頭が、少女の頬を殴りつけた。
 抜き放たれたつかさの頭が遠心力を失って道路に叩き付けられるその前で、頬を赤く痛めた少女は背中から道路へと倒れていく。このまま倒れれば、少女もまた頭部を路上に叩き付けるだろう。
 だがそれを、スロープを駆け下りた浅倉が受け止めた。
 しかしそこに親切心や温情などあろう筈がない。そのことは、浅倉が掴んだ部位が少女のツインテールであったあたりで察しがついた。始としては、察する以前から解っていたようなものだが。
「ひぃう……!」
 左右のツインテールを牽引される痛みに少女の顔が歪んだ。引っ張られるだけでは収まらず、彼女は倒れかけた拍子で半分路上に座っているような姿勢なのだ、牽引のリーチは長い。
 浅倉は、そこでも笑っているように見えた。
「お前等」
 浅倉は言葉を発した。
「顔、似てんな」
「双子よ!」
 髪を引っ張られた姿で、少女は浅倉を睨みつける。
「だったら」
 また、嗤った。
「行ってやれよ……!」
 直後に浅倉がとった行動は、少女の後頭部に足裏を乗せる事。両腕によって引っ張られたツインテールの間に、鎧によって包まれた黒い足が出張ってくる。
 意図を察したのか、少女の顔が青ざめた。
「やめーー」
 それがスタートとなったのだろうか。
 ぶ、と糸を引き千切るような音がして、少女のツインテールは頭皮から剥離した。
「ああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーッ!?」

17513人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:22:48 ID:pNHdHYB60
 後頭部を踏みつけた足で頭部を踏み抜いたのだ。しかし両手によって掴まれたツインテールはそのまま、握力よりも接合の弱かった毛根は、皮膚と血液と、幾許かの肉片を散らして路上に散った。
 そして、悲鳴を上げる少女の顔は踏みつけられるままに路上へ激突する。ごき、と鈍い音がする。あの様子なら、鼻と言わず前歯と言わず、顔を構成する骨格は幾らでもへし折る事が出来ただろう。
 だが、
「うぅぅ……!!」
 それでも少女は動いた。
 浅倉が足を離してから少しの間を置いて、少女は這いつくばった姿勢から匍匐前進に進んでいく。顔はこちらから見る事は出来ないが、おそらくは暴力による整形で骨格の一部は完膚なきまでに破壊されている筈だ。
 蜥蜴かなにかのように、頭部に2つの丸い脱毛を刻んだ姿が、路上を這う。
「づか、さぁ……」
 意外だな、と始は思う。
 邂逅した時の彼女は自分以外の何もかもを憎んだような目をして、それらを死なせる事に躊躇をしない人間のように思われた。しかし今、彼女はこうした姿になったというにも関わらず、つかさの救助を諦めていなかった。
 だが目の前で起こる事実は無情だ。
 首をもたげた少女の頭上に、メタルゲラスはつかさを掲げた。掴んだ右脚を天に向け、逆さ吊りにされた彼女は腹やら下着やらを露出させるが、今この場にいる中でそれに欲情するものはいない。
「つ、か……!」
 吊り下げられた少女の顔を見て、少女は息を飲んだ。
 怪物に足を掴まれて引き摺られた少女の顔がいかなるものだったのか、始は想像する事を止める。どうしたって不快にしかならなかったからだ。
 その時、
「ぉ、ねへ、ちゃん」
 逆さ吊りのつかさが唇を動かした。生きているらしい。
 か細く歪んだ声で、だがそれは肉体の損傷による歪みだけではないように思えた。
(あの娘、どんな性根をして……)
 心を病んだか、それも当然の状況だと思いつつ、メタルゲラスの動きに始は眉をひそめた。
 大きな左手が放り出されるつかさの左脚を鷲掴みにする。怪物の両腕に足を掴まれた人間の行き着く先は古今東西決まりきっている。
「たすけてょ」
 それが病んだ少女の遺言となった。
 右半身を留めながら左脚は強引に牽引され、つかさという少女は股から左右に引裂かれた。



【柊つかさ@なの☆すた 死亡】
【残り 25人】



「ああ」
 双子と言うからには、元々はほとんど同じ顔をしていたに違いない。自分と瓜二つの顔が目の前で断裂されるのはいかなる気分なのだろうか、始にその思いが解る筈はなかった。
 ただ、少女の声からそれを察するだけだ。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
 始まりは左脚の付け根が鳴るところからだ。
 ご、と岩が砕けるような音がして太ももが有り得ない方向へ曲がり、続けて内股を裂いて大腿骨の骨盤との接合部分が突出した。下着とスカートを引き裂き、尿道から尿を飛び散らせ、子宮を晒しものにして、しかし強靭な人肉はそこで千切れてはくれなかった。
 それどころか下腹部で剥離は広がり、避けた服の中から腹筋を露出させる。始には見えなかったが、メタルゲラスは少女の背筋を目にしていただろう。それでも肉は引き剥がされ続け、遂には胸部に至る。
 女性体として平たいながらも精一杯の自己主張をしていた乳房は、その片割を永久に失う事となる。次代を育てるために蓄えられようとしていた脂質は飛び散り、乳腺や血管は引き延ばされて千切れ、胸壁を痛めつけ、血液の花を無数に裂かせる。
 左腕、逆さまになった現状では右腕なのかもしれないが、始から見て左側の腕は肩が砕けたらしい。肩甲骨との絆を失った腕は単なる枝分かれした肉だ、その重みに振り乱れながら、引き剥がされていく肉体に持っていかれてしまった。
 そうしていよいよ剥離は頭部に迫る。
 まずは首の破壊、引き剥がしは薄っぺらな喉を完全に切断し、食道、気管、頸椎を支える背骨の末端を覗かせ、脳に繋がる神経の束は次々と弾裂していく。ひゅ、と耳を掠めたのは生理的な呼吸の音だったのか。
 頬はもぎ取られて上下の歯茎を露見させ、舌が痙攣する口内に風が注がれる。左側の鼻の穴は失われ、瞼を失った眼球は滑り落ち、頭頂部に至ってようやく剥離は終える。頭髪の半分は千切れた方の肉に持っていかれていた。

17613人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:23:26 ID:pNHdHYB60
 今やつかさは、否、つかさだったものは、人体模型を我が身で実演していた。
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO…………』
 つかさを引き裂いたのは、おそらくメタルゲラスの口がベノスネーカーほどに大きくなかったからだろう。細くなったつかさの肉体は、まるで麺を啜るようにしてメタルゲラスに吸い上げられていく。
 その様子に、剥離によって大量発生した血液を少女に浴びせている事を気付いた風は、全くなかった。
「……ばっ! がっ、はぁっ、……ぷふっ!!」
 位置が悪かった。
 つかさを見上げる形となっていた少女は、つかさが秘めていた体液をその顔に浴びる形となってしまったのだ。しかも叫んでいたのが悪い。めいいっぱいに開いた口はさながら餌を求める雛の様相、少女は双子の片割から溢れ出した血や体液を嚥下する羽目になったのだ。
「……はっ」
 そして血の滝は途絶え、左の眼球を嚥下したところで少女は息をついた。
 直後、
「おおおおぇぇぇぁぁぁぁぁ……」
 吐瀉される液体は真っ赤だった。
 喉と口を全開にして放たれた嘔吐物に顔を埋めて、少女はそれっきり動かなくなった。
 レストラン前の大通りの音は死に絶えた。
 両手の指の数に等しい人数がいるであろうに、誰1人として喋るものはいない。目の前の暴力を前にして何れもが言葉と心を失い、語るものがいなければ器物はそれに応えない。人に始まり物で終わる静寂に鼓膜は寂しいと叫び、耳鳴りだけがおわす者共の耳を苛む。
 だがその中にあって声を作れる者がいる。
 加害者だ。
「はは……っ」
 紫の鎧を身に包んだ浅倉は、鎧に守られた肩を小刻みに上下させる。幾度となく連呼する、は、という哄笑が大気を叩き、仰け反った首は見ている筈もない空へと向けられた。
 その嗤いが、酷く気に障る。
「貴様ーー」
 カードを仕舞い込んだポケットに手を滑らせ、始は浅倉へ1歩を踏み出す。
 掲げた足裏が路上を踏んだ、直後、
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーーーー!!!!』
 哄笑を掻き消す咆哮が大通りを揺らした。
「!!?」
 大音量は重力に似ている。あらゆる物体を透過し、全てに与えられる衝撃を受け、何人かの人影が膝をつく。そうでないものであっても、思わず耳を抑えざるを得ない猛りだ。
 ビルは窓という窓を口にして、しゃ、という大合唱を唄う合唱隊に早変わりだ。1棟につき何十個はあるであろう窓口は硝子を打ち砕くことを歌声とし、路上にたむろする小人どもへ形ある歌声の雨を降らせる。
 誰も彼もが耳を塞ぎうずくまるところに注いだ硝子の雨は、まさしく弱り目に祟り目を表現する。
「……ぐ」
 咆哮に降り注ぐ雨がどれほど降り注いだだろうか。硝子の破片は積雪のように始へのしかかり、重さこそないものの、硬質な痛みが突き刺さる。右膝をついて頭を垂れていた始は震える足を奮い立たせ、体中に乗る硝子を手で払った。
 そして、周囲がいやに影っている事に気付く。
 何であろうか、と見上げ、
「…………!!」
 太陽を遮る赤龍の姿に目を見開いた。
 見やる余裕もなく、しかし見るまでもなく周囲の者共は自分と同じなのだと理解する。これに気付けないほどの愚か者は有り得ない、という事だろう。
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA…………!!』
 唸り声をあげる龍は、先から少年や少女を喰らい続ける化物の同類らしかった。
 光沢で何処か無機質な身体と瞳のない双眸は、ベノスネーカーやメタルゲラスに通じる様相だ。ベノスネーカーのように長い胴を持つが身体は赤く、爪もあれば牙もある。顎を縁取る牙や細長い髭は、東洋の龍を再現していた。
 極めつけはその威圧感だ。
 空中に長胴をうねらせた姿が重力を強めているかのようだ。たった1回の咆哮で周囲一体の窓硝子を粉砕した龍は、まさしく鏡写しの世界の支配者といった風体、この世界に2体といない覇王の存在感だった。
 だがそれを前にして尚、浅倉は哄笑の姿勢を変えようとはしない。
「来たか、ドラグレッダー」
 浅倉は龍の名を、そして到来を予期していたらしかった。
 何故解ったのだろうか、と始は思い、
(あの時砕いた箱……!)

17713人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:26:23 ID:pNHdHYB60
 レストランへ青年を叩き込んだ直後に、浅倉の左手は何か黒い箱を握りつぶしていた。やはりあれは、ベノスネーカーやメタルゲラスを支配する道具と同じものだったのだ。あの赤い龍、ドラグレッダーなるモンスターもまた箱に隷属する怪物の1体。それが砕かれた事で、今現れた。
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA…………』
 ドラグレッダーの凶貌は浅倉を見据えて離さない。
 さながら箱を砕いた主を、青年を害した浅倉を許すまじと怒っているかのようだ。
(だが)
 まずい、と始は思う。
 浅倉があの箱で変身する仮面ライダーのいた世界の人間だったならば、箱を砕いたことによって、それに隷属するモンスターが現れることは予想してしかるべきだ。現にドラグレッダーが現れた今も、浅倉は微塵も揺るがない。
(何か、企んでいる……!!)
 何を企んでいる、反復するように始は思い、しかし目の前にしてドラグレッダーは動いた。
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーーーー!!!』
 巨体を軽やかにうねらせ、ドラグレッダーの開かれた牙が強襲する。
 空気を穿って向かう先に立つのは、紫の鎧を纏う浅倉威。
 バックルに装填した箱から取り出した1枚のカードをドラグレッダーに掲げる、浅倉威だ。
(あれは)
 思う言葉を音にする間もなかった。
 それほどまでの須臾であったし、何より、掲げられたカードとドラグレッダーが接触する寸然に起きた強烈な発光が始の網膜を貫いたからだ。
「ぐ、ぅ」
 腕を交差して両目を守り、だがそれも10秒と満たない短時間。しかし取り戻された視界は劇的な光景を描いている。
 ドラグレッダーの姿がないのだ。
 龍の姿は今や浅倉が掲げるカードの中にある。
「契約完了、だ」
 告げる浅倉は、どこに隠していたのだろうか、ベノスネーカーを模す杖を取り出した。
 コブラの形相を象る杖の先端はやや平らに広がっている。カードを親指と人差し指で摘んだ掌は形相の後頭部に触れ、するとその部位がスライドしてスロットが飛び出す。
 丁度手にしたカードが嵌るような大きさだ、と始が思った通りに浅倉はカードをスロットに挿入、叩き付けられた五指によってスロットはカードごと杖内部に送り込まれる。
 直後に杖の双眸が発光、電子音声が響く。
『ADVENT』
 それは契約を意味する言葉であり、どうやらカードそのものの種名でもあったらしい。そして同時に、契約の履行を求める命令でも、あったらしい。
 姿を消していたドラグレッダーが、ビルの合間からその長胴を出現させる。
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーーーー!!!』
 浅倉の頭上でとぐろを巻いたドラグレッダーの姿は、先ほどまでとは違ってどこか意図的だ。
「支配、されたのか」
 それは始の言葉ではなかった。
 この場にいる十数人の人影、そのうちのどれか1つが紡いだ声である。だがそこに込められた感情は始のそれと同種のものであり、また、この場にいる浅倉以外の全員が抱いている思いでもあっただろう。
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーーーー!!』
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOーー!!』
 上空のドラグレッダーに対抗するかのように、ベノスネーカーとメタルゲラスも浅倉の背後に現れた。
 赤い龍、紫の大蛇、銀鎧の犀、3体の異形を従える浅倉の哄笑は、いよいよをもって堪え切れないところまで来たらしい。咆哮の中にあって、その耳障りな愉悦は確かに聴こえる。
「はは……! はははははははははっ!!」
 身を仰け反らせ、腕を、顔を、喜悦を辺りへ撒き散らすかのように振り回す。狂人じみた振る舞いだ。
「……これで!」
 不意に、哄笑混じりの言葉が紡がれた。
「これでっ! ようやくっ!! 始められるよなぁ!!!」
「何をだ」
 始は問い返さずにいられなかった。
「我々を攫い、惨殺した人間を怪物に喰わせ、ーーこの上何を望んでいる!!?」
「戦いだ!!! それ以外に何がある!!!」
 断言は響く。
「カードデッキを手に入れた今、我慢する必要はねぇんだ!! 距離も場所も関係ねぇ、このミラーワールドがある限り、鏡がある限り、どこに至って化物共で引きずり込めるんだからなぁ!!!」
 一息。
「あのババアの言う事聞くこたぁねぇんだ……!! 俺達は!! 俺達で!! 殺し合おうぜ!!!」

17813人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:27:11 ID:pNHdHYB60
     ●

「あの男!」
 視界の一切を黒く染めるその中に立つプレシア・テスタロッサの衣装は黒い。
 ローブともドレスともつかない軟質の布地、大きく開いた胸元からは病的に色白な肌が覗けている。首筋や手首をか細くやつれ、狂気に打ち込まれた瞳の色は、病的な印象に拍車をかける。
 かくもプレシアの姿を捉えられるのは、彼女が周囲に空間モニタを展開しているからだ。
 青白い光の長方形は、まるで虚空がPC画面であるかのように表示される。大きさはプレシアの上半身程度、それが腰ほどの高さに映し出されているのだから、プレシアの顎は若干引かれる形だ。
「やってくれたわね……!!」
 怒りに揺れるプレシアの瞳は、空間モニタに映し出される動画を睨んで離れない。
 映し出されているのは大通りを敷いた市街地、看板として大きく印刷された文字はいずれも鏡移しとなっており、そこはプレシアが用意した世界とは違う、ミラーワールドであえる事が伺い知れた。
 その中には黒い影が幾つも浮いていた。数にして両手の指を全て折る程度、五体に輪郭を隆起させるそれは人影だ。その誰もが、そこに含まれないたった1人によって引きずり込まれた被害者である。
 全ての元凶であるたった1人の男、操作を受けた空間モニタはその姿をクローズアップする。
 紫の鎧を持つ仮面ライダー、個体名を王蛇とするそれで本来の姿を隠しているが、彼を監視し続けるプレシアには正体が知れている。
 名を浅倉威、凶悪な殺人犯として社会全体から追われていた男だ。
 野獣のような男だが、その常軌を逸した戦闘欲求とカードデッキを使いこなす経験が、このバトルロワイヤルにおいて生き残る参加者の半数近くを一点に集中させるという暴挙を組み立てた。
(カードデッキ無しでも生きられるように調整したのが裏目に出たわね)
 本来のミラーワールドならば、現実世界側から来たあらゆる物体は5分と待たずに霧散し消滅する。
 しかしカードデッキの個数が限られている以上、消滅までにかかる時間をそのままにしておけば、引きずり込まれる事が死ぬ事に直結する広大な武器となってしまう。だからこそプレシアはミラーワールドに働きかけ、猶予の時間を12時間程度にまで引き延ばした。
 だが生存可能時間を引き延ばしたために、今やミラーワールドは強者が集う闘技場と化した。
 まさか理解していたのか、と思うが、今までミラーワールドに侵入した参加社はいない。浅倉でさえも今回が始めてなのだから、知っている筈がない。
(完全に、考え無しに片っ端から引きずり込んだわね……!!)
 あまりにも愚かな所業であったが、とにもかくにも、それは最悪の状況に至ってしまったのだ。
「くぅ……!」
 白い歯が唇を噛んだ。
「バトルロワイヤルの横取り!! ーー戦闘狂の野獣が、ありもしない頭を使って!!」
 紫色の口紅が溶け、皮膚が破れて一筋の血が顎を伝う。しかし胸中で渦巻く憤怒はこれで収まるようなものではない。流血が怒りに比例していたら、既にプレシアは辺りを赤く染めて失血死している。
 だがいつまでも手をこまねいている訳にはいかない。
 殺し合いによってなし得る望みがある以上、この争いには介入する必要があった。
 その時、プレシアの背後で光が生じた。
 2つの光点は水平に走り、弧を描いて正円を描いた。内側に灯った光点はインコース、若干小さめである。二重の円が闇に浮かび上がり、次いでそこに幾何学模様の羅列が走る。文字のようにも見えるそれは円に倣って環状となり、始点に繋がった後は回転を始めた。
 そしてインコースの円の中央に正方形を重ねたような図形が現れ、その中にも文字を挟んだ二重円が入る。
 それらも回転し始めれば、ミッドチルダ式の空間転移魔法が発動する。
「プレシア!」
 魔法陣の中、水中から出てくるかのように現れたのは1人の女性だ。茶髪に白亜の西洋風法衣を纏う風貌は、賢げな印象をまとっている。しかし今は端麗な顔を焦りに濡らし、足が現出するとともに駆け出す慌てぶりを見せた。
 消えゆく魔法陣を見返すこともなく、茶髪の女性はプレシアの後ろに立つ。
「セフィロスの死についてお話ししたい事が……!!」
「どうでも良いわ」
 女性、リニスの言葉をプレシアは断ち切る。しかしリニスの唇はそれに従わなかった。

17913人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:27:43 ID:pNHdHYB60
「ですが!」
「どうでも良いって言ってるでしょう!!」
 振り向き様の平手が、リニスの白い頬を打った。
 あぅ、と短い悲鳴をあげてリニスはよろめき、その拍子に頭頂部を隠していた帽子が飛んだ。法衣にあつらえた白い帽子は闇の上に落ち、その内側に隠していたもの、リニスの頭部に生える山猫の耳が露見した。
 頬を抑えるリニスに、プレシアは烈火の表情で言葉を浴びせかける。
「使い魔風情が主の命令に背くというの!? 身分を知りなさい、魔力で動く死体如きが!!」
「………………っ」
 震える唇を噛み締め、俯いたリニスの肩が震えた。
「答えなさい道具! 貴方は何? 貴方の主は? 貴方の存在意義は!?」
「……私は」
 引き攣る喉で、しかし声は紡がれる。
「私は、プレシアの道具です。プレシアだけを主とします。……プレシアの目的の為だけに使い捨てられる、F計画の技術で幾らでも代えの効く、人の皮をかぶった山猫の死体です」
「解っているなら、私の気を患わせないで!」
 俯くことすらもプレシアは許さない。
 リニスの左耳を掴み、捻り上げるようにして面を上げさせる。
 涙の滲んだ双眸が目前となり、そんなに濡らしたいなら唾を吐きかけてやろうか、という思いでプレシアは自らの顔を突き付ける。文字通り、目と鼻の先にリニスの顔が迫った。
「“貴方”に次はないわ、次にやったらは新しい“貴方”を起動させて交替させる! 全身の随意筋を意思と切り離して、虚数空間に叩き込んでやる!! 解ったら命令に従いなさい!!」
 そこまで言って、リニスの表情は、一瞬で目が打ちくぼんでしまったような色合いとなった。
「……は、ぃ」
 雨天に放浪する野良猫のような様相に怒りを僅かばかりに諌め、放り捨てるようにリニスの耳を離す。
 猫の死体に触っていたのかと思うと、ばい菌がべっとりと掌に移り住んだ気がして、洗浄魔法を発動させて無菌状態にした。
 もはや振り向かず、プレシアはリニスに命令した。
「今すぐ“アレ”を連れてミラーワールドに行きなさい」
 その言葉に、え、とリニスが息を飲むのを聞く。
「“アレ”とは……彼女達の事を言っているのですか」
「何、もう私の命令に逆らうの?」
「……いえ、ですが彼女達を連れ出す前に、あのカードを使ったら宜しいのでは」
「所詮は猫畜生ね、それともボケが始まったのかしら? あれは効果が特殊過ぎて複製が効かないの。それ以外はどうにかなってもね。解りきったことに口を開かないで。死臭がするのよ、貴方の息」
「……すみません」
「こういう時のための量産型でしょう? 脳髄まで腐ったかしら? 死体だものね、貴方」
 ふん、とプレシアは鼻を鳴らし、僅かばかりに加虐心を満たす。
 それでも、消滅を恐れて言葉を引っ込める癖に一端の口を、と思うと、埋まりかけていた苛立ちも再び疼くような心持ちがした。
「ミラーワールドに引きずり込まれたのは、いずれもが高い戦闘力を持つ者ばかり。それを狙ったんでしょうが、このまま潰し合われたのでは、パワーバランスが崩れるのよ」
 彼等には殺し合ってもらわなければならない。だが異なる勢力がもう一方の勢力を圧倒的に踏み潰したのでは意味がないのだ。拮抗して泥沼となり、血に塗れてむせび泣いてもらわなくてはならない。
 今の状況は、穏健派を穏健派で、過激派を過激派でまとめているようなものだ。これはプレシアにとって非常に都合が悪い。
 急ぎミラーワールドに連れ込まれた参加者を現実世界へ戻す必要があった。
「奴等を現実世界に戻しなさい。ああ、でも浅倉威は……殺すのよ」
「やはり、そうしますか」
「当たり前でしょう。奴にカードデッキを持たせ続ければ同じ事が何度も繰り返される。そしてあの男は、圧力や制限で御せるような人種ではないわ。ーー殺すのが妥当なところね」
「はい」
 答えが来て、背後に魔力の気配が生じる。リニスが転移魔法を再び発動させたのだ。
 解れば良いのよ、という思いで、プレシアは再び言葉を紡いだ。
「ーー行くのよ。馬鹿共のらんちき騒ぎを、とっとと収めてきなさい!」

     ●

 宣言の直後、大きな破砕が発生した。
 起点はレストランの向かいに並ぶビルの一つ、硝子の自動扉を壁ごと内側から砕くものだ。衝撃は渦を巻いてレストラン側まで届き、瓦礫は硝子の破片は粉塵を引き連れて道路へ飛来する。そうした中には、ベルトの千切れたデイバックも混じっている。
 誰もが息を飲み、そして粉塵の中から一際大きな影が現れた。

18013人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:28:17 ID:pNHdHYB60
 人影だ。
 体を折り畳むように小さくまとめ、大きくバックステップするようにして道路上空を横断する。着地したのは砕かれたビルの対向車線側に並ぶガードレールを越えた先、つまりは浅倉が立つレストランの側に拓かれた駐車場だ。人影の靴底がアスファルトを擦り、耳障りな音をたてる。
 移動の止まった人影を浅倉は見る。
(男か)
 金髪に色白な肌をする典型的な白人だった。厳つい顔に碧眼を秘め、髪と同色の眉は合間に皺を寄せた厳しいもの。太い首から広がる肩幅は広く、軍服の上からでも筋骨隆々である事が解る。
 そして左右の袖を引裂いた両腕は、体格に不相応に大きい。それどころか人体ですらなかったのだ。
 黒みの強い灰色に染まる岩のような腕は、それぞれに1枚づつ刃を伸ばしている。
「…………………」
 異形の腕を持つ男は浅倉を見ない。
 まるで狩りを現在進行形で行う豹か何かのように、身を低く屈めた姿勢を維持している。青い双眸は自らが飛び出してきたビルの大穴にだけ注がれ、
「おぅ?」
 大穴から新しい人影が歩いてきた。
 それは刃を生やす男と同じように異形の腕をした、同じ顔を持つ白人だった。ただし新たに現れた方の男に刃はなく、砲門のように深く穿たれた穴が空いていた。
 晴れ始めた粉塵を蹴散らし、持っていて邪魔になったのか、デイバックを放り捨てた。ガードレールに足をかけて男もまた路上に出る。
 その視線もまた、1人目の刃を持つ男を捉えて離さない。
 空気が張り詰め、しかしそれを意に介す事もなく浅倉は声を紡いだ。
「解ってる奴がいるじゃねぇか」
 笑いに首を浅く傾げ、
「お前、名は」
「キース・レッド」
 軍服の方の白人は短く答える。
 獰猛さを滲ませつつも笑んだ声に対し、その答えは非常に事務的で色がない。しかし浅倉は気分を害することもなくそれを受け止めた。むしろ、それでぐらいでなければ可笑しい、とさえ思っていた。
 争いに従事する者は、かくあらねばならない、と。
 個人的にはもう少し絡んでくれると楽しみが増すのではあるが。
「イケる口だな」
「勘違いするなよ」
 答える男、キース・レッドの声はやはりつっけんどんだ。
 視線を揺るがさず、しかし意識を浅倉に向け、キース・レッドの分厚い唇が蠢く。
「ここに来る前からやっていた戦いを再開しただけだ、貴様の下らない自殺願望に付き合う気は無い」
 だが、
「……そんなに死にたければ、後で気が向いたら殺してやる」
 それだけ言って、キース・レッドはアスファルトを蹴撃した。
(速ぇな)
 瞬いた後、軍服の姿は浅倉と同基軸、歩道の上にある。
 一体どれほど地を蹴っただろうか、跳躍のごとき歩幅は人知を越えている。
 だが道路に立つ砲の男もまた動いている。異形の腕を突き出し、暗闇をたたえる穿ちは、今やガードレールの手前で腰を落としたキース・レッドを見つめる単眼だ。
 穴の奥で僅かに光が灯り、何かが来る、という短い一語が浅倉の本能を支配する。
「ーー散れ!」
 浅倉の号令に3匹の怪物はめいめいの方向へと走る。浅倉はベノスネーカーの胴に両足を置き、どうしても足りない移動距離を補った。
浅倉の動きに誰もが身を動かす中、移動をモンスター任せにした浅倉はキース・レッドへ振り向いた。
 奴はどうしただろうか、その思いを乗せた視覚は須臾の応酬を見る。
「ふ……っ!」
 キース・レッドの両腕を疾く振られ、一対の刃は光線となって閃いた。
 ぴ、という耳の奥が痺れるような効果音をたて、その軌道上にあるガードレールの一端は切断、連結の軛を解かれた鉄塊に送られるのは、振り抜かれた分厚い靴裏だ。
 かぁん、甲高い音。
 風を破る先にあるのは男が構えた巨腕の砲門。
「……!!」
 鉄塊が男とキース・レッドの丁度中間まで飛んでいく。
 そして、光。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー…………!!!」
 穴から放たれる光は空気を焼き、鉄塊を飲み込んで影に変え、消し飛ばす。
 周囲に熱気の圧力が波となって押し寄せ、窓硝子や鉄を僅かに歪める。

18113人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:28:56 ID:pNHdHYB60
 だがそうした被害の中にキース・レッドの死はない。
「……滑り込み!」
 男が直立姿勢で砲撃する以上、地上とは胸丈までと同じだけの隙間が空いている。キース・レッドがいるのはその空白地帯、姿勢は右半身でアスファルトを擦るスライディング姿勢だ。
 ガードレールを切り飛ばしたのは攻撃ではない。初動を紛らわす陽動、そして飛び越えることなく路上に出るための障害除去だ。
 腕からの光が尾を見せた。
 そうなればキース・レッドに分がある。
 頭上を光線が通り過ぎたのを確認して巨腕が起立、楔となったそれに身が止まり、動きは弧を描く。
 それを利用しての起立は、蹴り上げとして男の顎を狙う。
「キース・シルバぁああああああああああああぁぁぁーーーーーーーー!!」
 それが片割の男の名前だろうか。
 怨恨まざまざといった口ぶりの強襲は、しかし背が仰け反らされた事で回避された。
 続けてキース・シルバーなる男はバック転へ動きを接続、更にサマーソルトキックへと昇華する。
 だが回避と連動した攻撃は狙いが甘い。だからこそ余裕のあったキース・レッドは膝を曲げ、打ち上がるキース・シルバーの爪先を踏みつけた。
 かたや勢いのある逆立ち、かたや浮いた身を落としつつある踏みつけ。地に着く分、動力はキース・シルバーの方に分がある。
 故にキース・レッドの足は空に打ち上げられ、彼もまたバック転を打った。
 互いに全身をバネにした幾度かの回転、それが止まるのはそえぞれが背後にしていたガードレールの手前まで辿り着いてから。刹那の攻防を見せた同形の男達は、再び道路と同じだけの幅を挟んで対峙する。
「ここで」
 空白の後に口を開いたのはキース・レッドだった。
「ーーここでこそ、ケリをつけてやる」
「やってみろ」
 応さ、とキース・レッドは再び瞬発、相対するキース・シルバーもまた、構えた腕から光を放った。



【現在地 F-6(ミラーワールド) レストラン前の大通り】

【キース・レッド@ARMSクロス】
【状態】疲労(中)、グリフォン起動中
【装備】核鉄「サンライトハート改」(待機状態)@なのは×錬金
【道具】ベガルタ@ARMSクロス『シルバー』
【思考】
 基本:キース・シルバー(アレックス)を倒して自分が高位だと証明する
 1.キース・シルバーと決着をつける
 2.紫の仮面ライダー(浅倉威)を殺してミラーワールドから脱出する
 3.極力早く首輪を外したい
【備考】
 ※キース・シルバーがアレックスと名乗っている事を知っていますが呼ぶ気はありません
 ※神崎優衣の出身世界(仮面ライダーリリカル龍騎)について大まかに把握しています
 ※白刃の主をヴァッシュだと思っています
 ※サンライトハート改は極力使うつもりはありません
 ※ルーテシアの話の真偽に興味はありません

【アレックス@ARMSクロス】
【状態】疲労(中)、マッドハッター起動中
【装備】なし
【道具】なし
【思考】
 基本:自分の意思で戦い、この殺し合いを管理局の勝利で収める
 1.キース・レッドと決着をつける
 2.キース・レッドに勝って彼が所属する組織を尋問、その後首輪を破壊する
 3.六課メンバーと合流する
【備考】
 ※セフィロスは殺し合いに乗っていると思っています
 ※はやて(A's)は管理局員であり、セフィロスに騙されて同行していると思っています
 ※キース・レッド、管理局員以外の生死に興味はありません
 ※参加者に配られた武器にはARMS殺しに似た機能があると思っています
 ※殺し合いにキース・レッドやサイボーグのいた組織が関与していると思っています
 ※他の参加者が異なる時間軸や世界から来ている可能性を考慮しています
 ※市街地東部に医療施設が偏っている事から、西部にプレシアにとって都合が悪いものがある可能性を考えています

18213人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:29:30 ID:pNHdHYB60
 2人の男を中央として熱気が渦巻く。
 波濤にして怒濤の威圧は夕暮れの街をより赤く染め上げ、路上に散らばる窓硝子の破片を巻き込んだ様はさながら吹雪、誰もが危機の回避に眼を閉じる中、煌めく群は遥か彼方へと飛ばされる。
 金居が立つのはショーウィンドウを失ったビルの内側、椅子とベンチ、カウンターが隆起する内装は軽食店の作りだ。事実、カウンターの向こうに立付けられた棚には皿が並んでいた。今や軒並み破片の憂き目だが。
「………………」
 さすがの威圧も建造物までは砕きえない。だからこそ金居は、2度目の激突が起こる前にこの中へ飛び込んだ。
 そして今、影から覗くようにして両者の戦いを盗み見る。
「浅薄」
 金居は路上に巻く争いを、そう評した。
 男達がいかなる関係であるかはあずかり知るところではなかったが、見る限りにおいて拮抗しているようだ。仮に片方が倒れても残りは半死半生、生とつけば殺と続ける狂人どもが渦巻くこの場においては漁父の利で殺されるだけだ。場を読まぬこと甚だしい。
 それでなくとも、このミラーワールドという世界が自分達にどれほどの影響を与えるのか解らないのに。
(所詮アレらも狂人ということだな)
 種族の代表として常に生き残らねばならないアンデットとして、金居は愚挙を軽蔑の眼差しで捉える。
 だからこそ金居はミラーワールドの脱出を最大唯一の目的とする。幸いにして自分には脱出できる手段を持ち合わせているのだ。
 肩にかけていたデイバックを下ろし、取り出したるは青色の平たい箱。虎を象る紋章のそれは、紫色の仮面ライダーが身に付け、また握りつぶしたものとも同種のものであるようだった。
(これが何ほどのものかは知らないが、……大方これが“あの種のライダー”の変身を為す物なのだろう)
 そしてミラーワールドの出入りを為す鍵でもある筈だ。
 金居はこれまでの体験を思い出す。
「入口は鏡となった硝子、この世界の文字は鏡移し、……ここが鏡の世ならば」
 だとしたら、
「ーー出口もまた鏡、というのが打倒か」
 告げて、金居は壁に押し当てていた背を離して振り返る。
 そこにあるものは、一面の壁を形作る、鏡。
(視覚効果、店内をより広く見せるための工夫だろうか)
 この殺し合いに引きずり込まれる前、人間の街を歩いている最中に幾度となく見受けられた内装だ。さすがに無傷とはいかなかったが、屋内の、それも威圧を防ぐ壁の裏に張り付いていたお陰で全損は免れていた。
 小さなヒビを這わせ、埃に塗れつつも、しかし鏡は金居の姿を映す。
「出られるか、な」
 金居はそう呟いて、片手にした青い小箱を鏡に掲げようとして、
「ーーそうか」
 聞き覚えのある声が耳朶に注ぐ。
 無意識の動きで小箱を懐に仕舞い込み、振り向きによって金居は人影を見る。全身を黒くした人型は硝子を失ったショーウィンドウの向こう側、建造物の際で歩道を踏んでいる位置取りだ。
 だが、金居は一つの思い違いをしていた。それは影をまとうから身を黒くしているのではない。その人物そのものが、黒い姿に包まれているのだ。
 その姿が目の前まで迫ったことで、それは一目瞭然だ。
「!!」
 不意をつかれて金居は反応出来ない。したのは黒尽くめに胸ぐらを掴まれ、路上へ投げられてからだ。
 デイバックを店内に取り残してしまった、それすらどうでも良い。執着して注意を乱せば死へと直結する。今や自分達アンデットの不死性は失われているのかもしれないのだ。
 放物線を描く金居の姿が歪んだ。
 人の姿が、鈍く光り輝く黄金の外殻をした双角の異形へと。
「ふ……ッ!」
 空中で身を翻して着地、重量の増した身体を両足は支えきるも、引き換えにアスファルトが陥没した。
 そうして異形の面構えとなった金居は、店内から戻ってきた黒い人物を睨む。
「……カリス」
 黒い流線型の外殻に茨のような紋様、胸板と目元にあるハート形の隆起は、奴がハートスーツのアンデットを支配する仮面ライダーであることを暗に主張している。
 だがその正体はカリスではない。
「ジョーカーか」
「その名で呼ぶな」
 自分と同じアンデットの一種、しかしその存在は全てを絶滅させる最悪の切り札だ。
 醜悪な本性をカテゴリーAで押し隠し、ジョーカーは金居を指差す。
「……渡してもらおう」

18313人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:30:05 ID:pNHdHYB60
 ジョーカーが何を望んでいるのかが解らない金居ではない。奴もまたアンデット、そして人間を模倣する心の持主、この場から離脱したいと考えるのは同じだ。
 だが小箱は1つしかなく、互いに手を取って仲睦まじく帰還するような性根も持ち合わせていない。
「渡すと思うか?」
「頼んでると思うか?」
 会話が結ぶ火蓋、それを切らんとして互いの手は武器を創造する。
 カリスが現すのは弦のない弓、しかし中央から上下に伸びる弧は刃の閃き、もはやそれは柄のない鎌だ。
 対する金居は反りを向き合わせた双刃を1つの鍔から生やす剣、その柄は左右の五指がそれぞれに1つずつ握り締めている。名をヘルターとスケルター、アンデットに与えられた武器創造能力によって金居が生み出しうる、種族の権威を顕現する武器だ。
「あの時つかなかった決着をつけるか」
 金居、いやさギラファアンデットと表すべき自分は、右の大剣の切先でジョーカーを指す。
 応じるようにジョーカーは、身を深くして両腕を開く独特の構えだ。アンデットが顔を合わせた時、言葉を交わすまでもなく意思は通う。それを敢えてした自分は、ひょっとしたら人間に感化でもしたのだろうか。
 そして互いの脚が力み、
「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
 突然の哄笑が空を貫き、穿たれた道を通って影が路上を破砕した。
「「…………!!」」
 道路が断片として隆起するのは、丁度ジョーカーと金居が相対する直線の中央だ。さながら噴煙する火口といった風に、アスファルトのクレーターは土埃を舞い上げている。
 その中央に踞る影は、まるで隕石を真似ているかのようだ。しかしそれは、自ら輪郭を崩すことでそれを否定する。
「……ククククク」
 黒色の正体はマントだ。クレーターの底部に起立し、声の主はマントを払うことで土埃を蹴散らす。
 立ち上がるのは紫紺のスーツに黒い単眼の仮面で全身を隠す、体格的に見て、男だった。
「貴様は……」
「我が名はゼロ」
 仮面の男は宣言する。
「ーー魔王ゼロだ!!!」
 その男に対して抱くべき一語を、金居は胸中において絶叫することとなった。
(変態だぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!?)
 激情に精神と五体は支配されて金居は動けない。ジョーカーもそうだったのだろう、体を強ばらせたままにゼロなる男の宣言を容認する。
 それを良いことに、ゼロは一歩を踏み出した。
『貴様等、戦いに背を向けるのか』
 二歩目。
『逃げ出す負犬か』
 三歩目。
『ならば』
 三歩目を踏み出し、
『ーー死ぬがいい』
 四歩目には、金居の懐に立っている。
「!!!」
 地を蹴る暇もない。
 腹部に触れた黒い拳、しかし訪れる衝撃は全身に対する。
「あぐ……ッ!!」
 さながら突風を受けたような感覚、しかし大重量のアンデット体である金居を飛ばす風はどれほどか。黄金の体は白いガードレールに叩き込まれ、幾つかの支柱をもぎ取り、鉄の帯を巻き込み変形させた。
 強化された体は人類の作る器物程度で痛まない。だからこそ、今得られる痛みはゼロの拳によるものだ。
(有り得ない……!) 
 器物にも痛まない外殻が、何をして人体の一撃に痛みを得るというのか。
(そもそもどうやれば拳で体躯の前面全てに衝撃が来る!?)
「考える必要があるのか?」
 は、とした動きで金居はゼロを見た。
 細く小柄な体に据えられる大きな単眼に表情は無く、しかしこちらを見透かしているような気がする。
 事実ゼロは、嗤っている。
 両腕を深く広げ、左右の五指に虚空を握り、機械的に加工された声は第二の宣言を響かせる。
「私は魔王! 虫けらの王者風情が届くと思うか!? 貴様が圧倒されるのも驚愕するのもこれから敗北するのも!! ーー全ては私が魔王であるが故なのだ!!!」

18413人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:40:46 ID:pNHdHYB60
     ●

(やっべーーーー超ぉーーーーーーーー楽しぃーーーーーーーーーーーーーー!!!)
 仮面に表情を、服に歓喜を押し隠してキングの胸中は狂喜乱舞する。
 今ならばこの仮面という人間文化も理解出来る。自分を曝け出さないということは責任からの解放、違う誰かを演じることを無意識の深度にまで根付かせ、普段は出来ないようなことも声を大にできる。
 途方もない開放感だった。
 そして謝辞と賛辞をない交ぜにして、仮面に隠した視線は紫の鎧姿を見る。
(浅倉威! やっぱお前サイコーだよっ!!)
 ベノスネーカーから降り立つその姿はミラーワールドを出入りする仮面ライダー、その1体である王蛇の装いだ。それでもあの言動は、浅倉以外のものである筈がない。
(ミラーワールドで巻き起こるオールスター総当たり戦! ジョーカーもダイヤのカテゴリーKもいるとはね!!)
 そして何より、
(この状況っ! プレシアだってマヂギレってもんだろー!!)
 それが何よりも楽しかった。
 神様面をしてふんぞり返ったあの女が口角泡吹かして青筋たてているのかと思うと、腹筋が崩壊しそうだ。
 ざまぁみろ、という思う。より正確に表すならば、ざまぁwww、って感じだ。
「……ぐ」
 と、視界の端でカテゴリーKが動いた。
 腰を落とした巨体に応じて折れ曲がったガードレールに手をつき、二本角の下に埋め込んだ双眸がキングを見る。だが、その目に映るのは黒尽くめの怪人、ゼロの姿だ。
 吹き飛んだ拍子に離れて落ちた双剣が消失、直後にカテゴリーKの手中に現れる。転移した訳ではない。顕現を解き、しかる後に再び創造したのだ。
 両手の剣で身構える異形の目にあるのは警戒、そして少しばかりの怯え。
(ビビってるビビってる! 戦いはやっぱイニシアチブだよね!!)
 まさか本当にカテゴリーKの重量を吹き飛ばしのが、純粋な腕力だと信じ込んでいるのだろうか。
 ただ単に、殴ると同時に念動力で全身を突き飛ばしてやっただけだというのに。
 使用後に訪れる疲労感も今や快感だ。苦労の伴う娯楽は比較対象となり、純粋な娯楽以上の愉快を与えてくれる。むしろ疲れるほどに楽しくなっていくのだ。
(ブラフかかってゴクローさん! もぅちょい僕の“魔王サマごっこ”に付き合って欲しぃなぁ!)
 折角巡り巡ってきたアンデット同士の戦場、極めつけにこの格好なのだ、超人のフリをして場を引っ掻き回してやりたい。精一杯自分の掌の上で踊り狂ってもらおうではないか。
(さて)
 と、キングはゼロの姿を振り向かせた。カテゴリーKが立つ延長線上、キングを越えた先に立つのはカリスの姿だ。今や彼はある意味自分の同類だ。別人の姿に変装して戦っているのだから。
『貴様はどうする?』
 仮面の変声機能がキングのそれを歪めて響かせる。
 思わぬところで役に立ったな、とキングは思う。この2人を前にしてしまえば、声で正体が悟られただろう。
 『CROSS-NANOHA』で見たゼロの口調に多大な尊大さを加味する調子で、ゼロの単眼に黒い姿が映る。
 その姿は、
「うぅ」
 苦悶の声を漏らす様だった。
 鎌とも弓ともつかない武器を取り落とし、外殻に膨らんだ胸を抱きしめるようにして身をよじっている。胸の内で何かが蠢くかのように、それが身を破って現れようとしているかのように、その有様をジョーカーの膝は大笑いをする。
 だがキングにはそれを笑う気にはなれなかった。
 楽しくはある。しかし、いよいよか、という緊張感に仮面の中で汗が伝う。
(僕の正体が解らなくても、本能的にアンデットがいるのだと理解しているんだね)
 変貌こそしていないが、そうした力の片鱗を発揮したのだ。本能的に感づいても可笑しくはない。
 そして、最強のアンデット2体を前にして、絶滅の象徴は本能を抑え切れない。
「おおおおおぉ……ッ!!!」
 月に吼えるように、仰け反ったカリスは身を反り返す。
 直後、
「ぉアァぁ……!!」
 全身が水を放った。
 人の輪郭をした水流は、内側に秘めたカリスの姿をもやに変える。
 そして現れたのは、ジョーカーの本当の姿だ。
「……ハぁーーーーーー……カぁーーーーーー……」

18513人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:41:31 ID:pNHdHYB60
 全身に牙を生やしているかのような、凶悪な姿だった。黒い頑強な外殻に埋め込まれた緑色の結晶は、キング達アンデットにとっての血潮の色だ。額から伸びる長い触覚と口角の牙は、あたかもカミキリムシを思わせる。もっとも、黒光りする外殻と合わせれば、ゴキブリのようにも思われたが。
 バックルの意匠は形を変えていない。しかし中央に断層を刻んだハートの紋章は緑色に変色していた。 
 姿勢は大きく背を曲げた猫背、だらしなく腕を垂らし、唾液を零す様は野獣の様相だ。
「ぉおおおおうるるるぁあああああああぁぁぁぁーーーーーー!!!」
 吼えて、煩わしいデイバックを引裂いてしまう。周囲に散らばった道具の輪を作るその様には、知性の欠片もなかった。
(本気で覚醒したんだね)
 狂気を発散する有様に、キングはそう思う。
 切り札たるアンデットの出現は本来危機的なものであったが、しかし今のキングには幸運だ。ただのカリスでは、カテゴリーKである自分の戦闘力には決して敵わないからだ。
 互角以上の戦闘力が三竦み、否応もなく感情が高揚する。
『さぁ!!』
 ジョーカーとギラファアンデット、その両者を左右にしてキングは告げた。
『ーー戦え、化物共!!』



【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】ジョーカー形態、暴走
【装備】ラウズカード(ハートのA〜10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】なし
【思考】
 基本:目に入るものは皆殺し
 1.……ぐるるる……
【備考】
 ※自身の制限にある程度気付いています
 ※ジョーカー化の欲求に抗っています
 ※首輪の解除は不可能と考えています
 ※「他のアンデットが封印されると、自分はバトルファイト勝利者となるのではないか」と考えています
 ※特殊能力により、アンデットが怪人体で戦闘するとおおよその位置が察知できます
 ※エネルとの遭遇からこのバトルファイトに疑念を抱き始めました
 ※赤いコートの男(アーカード)がギンガを殺したと思っています
 ※主要施設のメールアドレスを把握しました(図書館以外のアドレスがどの場所のものかは不明)
 ※カードデッキの複製(タイガ)@魔法少女リリカル竜騎でミラーワールドから出られると考えています
 ※ハートスーツのラウズカードを揃えた場合、ジョーカー形態を解除できます

【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、ハイテンション、ゴジラへの若干の興味
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】なし
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする
 1.カリスとギラファアンデット(金居)の戦いを引っ掻き回す
 2.ギラファアンデット(金居)からタイガのカードデッキ(複製)@魔法少女リリカル龍騎を奪う
 3.浅倉と手を組んでこの戦いを更に引っ掻き回す
 4.浅倉以外のこの場にいる参加者を皆殺しにする
 5.『魔人ゼロ』を演じてみる
 5.はやての挑戦に乗ってやる
 6.浅倉とキャロに期待
 7.シャーリーに会ったらゼロがルルーシュだと教える
【備考】
 ※自身の制限にある程度気付きました
 ※キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレードには以下の画像が記録されています
  ・相川始がカリスに変身する瞬間の動画
  ・八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像
  ・高町なのは、天道総司、の偽装死体の画像
  ・C.C.、シェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像
 ※首輪に名前が書かれている事を知っています
 ※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています
 ※ゼロの正体がルルーシュだと知っています
 ※八神はやて(StS)はゲームの相手プレイヤーだと考えています
 ※カードデッキの複製(タイガ)@魔法少女リリカル龍騎でミラーワールドから出られると考えています

18613人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:42:15 ID:pNHdHYB60
【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】ギラファアンデット形態、腹部に痛み、ゼロ(キング)への警戒
【装備】ヘルター&スケルター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】カードデッキの複製(タイガ)@仮面ライダーリリカル龍騎、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのは STS OF HUNTER
【思考】
 基本:プレシアの殺害
 1.カードデッキの複製(タイガ)@仮面ライダーリリカル龍騎でミラーワールドから離脱する
 2.ジョーカー(相川始)とゼロ(キング)を退ける(可能なら倒す)
 3.利用できるものは利用し、邪魔者は排除する
 4.隙を見てアーカードを殺害する
 5.アーカードの隙を見てUSBメモリ@オリジナルの内容を確認する
 7.時間停止の対抗手段を手に入れたらキングを殺す
【備考】
 ※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています
 ※最終目的はバトルファイトの優勝なのでジョーカーやキングも封印したいと考えています
 ※カードデッキ(龍騎)@魔法少女リリカル龍騎の説明書をほぼ暗記しています
 ※殺し合いが難航すればプレシアの介入があると考えています
 ※首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています
 ※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています
 ※ジョーカーがインテグラと組んでいた場合、アーカードを止められる可能性があると考えています
 ※自身の制限に気付いています。変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています
 ※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれない、と考えています
 ※カードデッキの複製(タイガ)@魔法少女リリカル龍騎でミラーワールドから出られると考えています





 路上で宣言を轟かせる黒尽くめの男、しかし彼は、自分が飛び降りたビルより更に高いところに、もう1つの視点があったことに気付いていないようだった。
 高さにして10の階層を数えるほどの建造物を足場として、アーカードの視覚は路上を見下ろす。
 暴風を吹き起こす対決と、異形が直線で三竦みを描く対決が始まるそこで、足を止めているものなどありはしない。誰も彼もが自らの命と敵対者の命をぶつけ、奪うか奪うまいかの攻守を交換している。
 実際その通りなのであるが、アーカードには、それらがとても遠くの情景に思えた。
「………………」
 薄らとヒビの浮かんだビルの屋上、鉄柵を超え、僅かばかりの段差に足をかけるアーカードの視線は乾いている。耳になる空洞を風が走るような音は、背後にした大型ダクトの音か、それとも心境ゆえに聞こえる幻聴だったのか。
 どうでも良いか、とアーカードは思う。
(……少年)
 思い起こすのはこれまで戦ってきた者達の姿だ。
(アンデルセン。……セフィロス)
 その誰も彼もがアーカードに血を吹かせ、心を血によって潤し、しかる後に濡れる寒さを味合わせる者共だった。強い戦闘力と、そして精神力を持っていながら、それを持って立ち向かいながら、しかしアーカードの満足感を徹頭徹尾で維持してくれた者はいない。
(少年は私を見ずして死に、アンデルセンは知らぬ間に殺され、セフィロスもまた同様……)
 退屈とは違う。
 憤りとも違う。
 ただ、全ての敵対者に置いてけぼりにされたような、寂寥だけが胸を満たす。
 眼下で争う者どもの一体どれほどがセフィロス並みの戦闘力を持っているだろうか。アンデルセンの再生力と狂信を抱いているだろうか。少年の使命感を持っているだろうか。
(闘争)
 欲しい、そう思った。
 血を吹きたい。
 血を吹かせたい。
 血を啜りたい。
 血に浸りたい。
 血を喰らいたい。
 血、血、血、吸血鬼故なのか自分がアーカードたる故なのか、そんな事はどうでも良い。ただ、血に塗れる闘争だけが欲しい。
 故にアーカードは屋上の縁取りを踏む脚に力を込め、黒装束の男に倣って飛び降りようと思った。
 その時だ。突如として背後に気配が生まれ、空気が震えたのは。
「アーカード氏ですね」
 呼びかけにアーカードは動きを止める。
 音色は女性のものだ。だが油断することはない。“第三の目”によって周囲一帯を把握するアーカードの特殊能力をかいくぐり、唐突に背後に立つことが出来た人物が、正常な人間であるはずがない。

18713人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:42:47 ID:pNHdHYB60
「参加者No.20、種族は吸血鬼。類稀な戦闘力と闘争意欲を持ち、バトルロワイヤルを円滑に進行させる勢力ーーつまりは“マーダー”」
「不躾だな、レディ」
 アーカードは脚を揃え、そこに至って振り向いた。
 鉄柵の向こう、ビルに合わせて奥行きのある長方形を描く屋上の中央に、1人の女性が立っている。褪せた茶髪、白と焦茶は法衣を思わせる装いだが、胸の谷間を覗かせる法衣はこの世に存在しない。付属品なのだろう、衣服に合わせたデザインの帽子が頭頂部を隠している。
 彼女には、自分達にあるものが欠落している。
 首輪だ。
 何者にも遮られない首はあんなにも白かったか、アーカードは言外に感嘆する。
「プレシアの眷属か」
「はい、リニスと申します」
 アーカードの誰何に女性は一礼した。
 帽子を取って胸に当てる一連の動作は瀟酒の一語、しかしその時に露見した頭部には、山猫を思わせる三角形の耳が生えていた。
 純粋な人間ではないらしい、そう思った目線は、リニスのそれと向かい合う。
「プレシアはこの戦いを望んでいません」
 冷えきった表情だった。
「貴方達を、元々いた世界に戻します」
「元々? 笑わせる、さっきまで殺し合っていたあの世界だろう?」
 思いの欠片もない、それこそ道具の作業音のような声を、アーカードは嘲笑う。
 そこには微かな怒りが漂っていた。
「私をこの戦場から離すと?」
「この世界に生物は存在し得ません、長時間いれば肉体が消滅します。例え貴方といえども……」
「私から、闘争を、取り上げようと言うのだな?」
 そこで始めてリニスの顔が動いた。伏し目がちだった瞳は大きく剥かれ、薄らと汗の滲んだ顔は、青ざめ引き攣っている。
 賢い娘だ、とアーカードは思う。もはや遅いが。
「ーー宜しい、ならば戦争だ」
 携えた抜き身の日本刀を向け、後ろ手にデイバックを放り捨てた。10階分はある下方の大地へと落ちていくデイバックを見ることもなく、その双眸はリニスを捉えて離さない。
「都合の悪い争いはさせない、と? つくづく業腹な連中だ」
「私は望んでいません。……というのは、欺瞞ですね」
 解りました、と浅く俯いたリニスは呟く。
 日本刀を迎えるようにして差し出されたリニスの掌、そこには金色の三角形が乗っていた。ブローチか何かであろうか、一片の三角形の上に一回り小さな同形を乗せたそれは、台座のようにも見える。
 リニスの麗しい唇が、音を紡いだ。
「バルディッシュ、セットアップ」
『ーーYes,sir』
 単語の羅列を口ずさむとともに、金色の三角形は強く閃いた。
 やがて光は収束、先端に角張った板を備え付ける棒のような形となった。柄の長い斧のようだ、と思うが、実際光が失われてみれば、それはまさしくその通りの姿となる。
 鈍色の柄に黒い刃、基部には黄色い獣の瞳のような球が埋め込まれており、武器というよりは武器型の機械と言った風だ。
「バルデッシュ・レプリカ、……転移魔法を」
 Yes、その返答も終えぬうちに新たな光が放たれる。
 それはリニスと自分の間、どちらかといえばリニスよりの位置からだ。円と文字、図形を交えて回転するそれは、さながらオカルトの魔法陣といったところか。
 しかし円陣の中から人が現れた時、アーカードはそれが本当の魔法陣だったのだと知った。
「……貴様は」
 水からせり上がるようにして屋上に立ったのは、1人の女性だった。
 金髪に赤い瞳、若々しい顔立ちは長身でグラマラスな体躯を誇示している。だがそれも、分厚い軍服のような黒衣の下にあっては、いささか興ざめな感も諌めない。
 そんな彼女は、見覚えのあるベルトをつけていた。まるで機械で構成されているような黄金色の装甲、脇には何かを接続するためのジョイントが設けられている。バックルだけは、鳳を模した紋章を浮き彫りにする茶色いレリーフが嵌め込まれている。だがそれは、楔のようなものでバックルに縫い付けられていた。
 そこだけが、アーカードの記憶との相違点だった。
(かつて少年が身に付けていた物の同種か)
 だとすれば、あの金髪の女も何らかの怪物を従えているのだろうか。
「リニス」
 ふいに、金髪の女がリニスの方へと振り向いた。

18813人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:43:33 ID:pNHdHYB60
「あの人を捕まえれば、良いんだよね」
「そうです、フェイト」
 フェイト、そう言うらしい金髪の女に向けるリニスの表情は笑み。
 しかしそれはどこか軋むような、引き攣ったような感情だった。
「そうすれば、きっとプレシアは貴方を褒めてくれますよ」
「……うん」
 その言葉にフェイトは表情を締めた。生気のない瞳に意欲が宿り、一直線にアーカードを見つめる。
 そして、一語を紡いだ。
「ーー変身」
 途端にどこからともなく人影が出現、しかし黒ならざる鏡色の影はあちらこちらから現れ、そしてフェイトの体に重なって覆い尽くす。それらが割れた時、そこに立っていたのは、それまでの姿ではない。
 茶色と金色に彩られた、荒鷲を思わせる鎧の戦士だ。
『ーー戦え』
 放たれる声までもがフェイトのものではない。
 腕を組み、威厳を漂わせるように、高圧的な声が響き渡る。
『最後の1人になるまでーー戦え』
 アーカードはその様に違和感を覚え、戦士の背後に立つリニスへと声を飛ばす。
「訊かせてもらおうかレディ、何だコイツは」
「仮面ライダーオーディン」
 リニスは答えた。
 そこにはさっきまで見せていた笑みはない。それどころか、初対面以上に感情は失われていた。
「とある世界において最も強く、また心の伴わない戦士」
 そして、
「変ずるのは、ーー量産型フェイトです」
 正体を明かすリニスの言葉には、苦渋の臭いが伴っている。
「このバトルロワイヤルにおいてフェイト・T・ハラオウンと記された人物、彼女はそもそも、かつて存在した人間の複製としてプレシアが造ったものなのです。そして彼女は今回のバトルロワイヤルにおいて、作業の人手として新たに創造した」
 つまり、
「フェイト・T・ハラオウンは2番目のアリシア。……だから今貴女の目の前にいるのは3番目のアリシア、フェイト3号です」
 なるほどな、とアーカードは頷く。
(よもや人間を建造する技術が存在したとはな)
 言うほどでもない驚きを胸に秘め、続けて予想のついた問いと確認してみた。
「それを本人の目の前で言って良いのか? さっきの会話を聞いたところ、彼女にその自覚はないようだが?」
「問題ありません。オーディンに変身した今、彼女はカードデッキに入力された人格に動かされる肉の人形ですから」
 やはりな、とアーカードは思う。
「加えて言うなら、このオーディンは主催仕様です。貴方達の鎮圧用に造られたものなのでベルトから取り出すことは出来ませんし、戦闘力や使用に関する制限もかけられていない代物。……制限の下で重傷を負った貴方に勝機はないと思われますが?」
「言うじゃないか」
 く、と喉を鳴らして嘲る。
「ミス・リニス、お前は……人でなしと呼ばれることに抵抗が?」
「心にもないことを言うんですね、心もない癖に」
「違いない」
「そもそも私は獣です」
「なるほど」
 ならば、
「化けの皮を剥がす楽しみができた訳だ」
 その言葉が、アーカードのリニスに対する返答となった。
 一度何かを思うように目を伏せ、改めて開くとともにリニスは命令を下した。
「オーディン、彼を鎮圧しなさい」
 翼を思わせる兜が僅かに首肯する。
 その直後、オーディンはその姿を失った。それまで立っていた場所に舞い落ちるのは金色の羽毛、そして今やオーディンの体は、アーカードの目前にある。
「!」
 腕の引きはすでに終わっている。振り抜かれたオーディンの拳がアーカードの顔面に迫り、
「ははっ」
 何の手間取りもなく、アーカードに受け止められた。
「な……!?」

18913人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:44:44 ID:pNHdHYB60
 驚愕したのはリニスだ。
 押し殺していた感情が止められなくなったのか、それまでの冷徹な振る舞いを崩して目を見張る。だがどんなに目を剥いても、オーディンのバックルに縫い付けられた紋章を撫でるアーカードの指は、影になっていて見えない。
「取れないんだったな。ーーならば要らん」
 柔らかな手付きは一瞬にして硬直、抜き手となった手は、紋章をオーディンの胴体ごと貫いた。
『……ォッ!』
 短い苦悶の後、ベルトが砕かれたためだろうか、変身が解けて再び金髪の美貌が現れる。
 痛みと驚きに震える瞳が愛らしい。さくらんぼ色の唇は吐血によって濡れて照り、とても美味しそうに思えた。
「は」
 不意の動きで、アーカードは口付けをした。
 歯を舐め、歯茎をなぞり、舌を絡め、唾液を交換し、そしていつまでも溢れ続ける吐血を啜る。携えていた日本刀を床に突き立て、空いた掌で抱きしめるようにフェイトのうなじを撫でる。
 そして、千切る。
「……ぁ」
 リニスの声がどこか遠い。
 それほどまでに自分は興奮しているのだろうか。
 頭部と胴体の繋がりは断たれ、フェイトの体を支えるのはアーカードの腕だけだ。それも抜き放れば、ご、と鈍い音をたてて屋上に倒れるのもまた道理。遺るフェイトの頭は、その麗しい下唇に食いついたアーカードの唇によって宙ぶらりんだ。尤も、ぶぢり、と喰い千切られて胴体の二の舞を見るのだが。
 くちゃ、くちゃ、と水の滴る音をたててアーカードはフェイトの唇を咀嚼する。味わうように何度も反芻し、嚥下して、血を口紅にしたアーカードは一言、
「やはり処女だったか。……良い味だ」
 血の残り香を口臭に、そうまとめるのだった。
「……化物め」
「解り切った事を」
 リニスの憎悪を受け止めるようなアーカードではない。この程度の視線、今まで何度も受けてきた。同様に虚ろな眼球でこちらを見上げるフェイトの生首を踏み潰し、脳と頭蓋の感触を味わう。
「何が最強の戦士。化物ですらないコイツ等が、何の足しになる」
 突き刺しておいた日本刀を再び手に取り、軽く振ってフェイトの胴体を斬りつけてみた。何の抵抗もなく屍骸は切断、どろり、と黒い血液を垂れ流して、上半身と下半身とが更に分けられる。
 切れ味に問題はないようだ、と確認し、リニスを見やる。
「次はどうする? お前が戦うか、ミス・リニス」
「……いえ」
 若干の竦みを含んだ声だった。
 しかしその目は未だにアーカードへの憎悪をたたえている。
「所詮は戻れぬ道、……ならば、外道に徹しましょう」
 リニスはバルデッシュを掲げ、
「ーー来なさい」
 突如として屋上全体を魔法陣が埋め尽くした。
 数にして百に至る数はアーカードとリニスが立つ屋上だけでは面積が足らず、左右に隣接するビルの屋上にまで展開される。
 そしてその何れもが、円の中央よりオーディンを出現させる。
「これは……」
「単体の強さで敵わない以上、人海戦術でいきます」
 リニスの目は据わっている。だがその姿すらも、一面を埋め尽くすオーディンによって遮られた。
「全てがアリシアの複製とやらか」
「量産型と言った筈です。ーープレシアは少しでもアリシアの面影を消すために成人体で量産しましたが、図らずもそれは個々の戦闘力を高めることになっているのですよ」
 どうですか、という声がする。
「これでもまだ抵抗しますか」
「ようやく面白くなってきた、というところだな」
 もはやオーディンが立っていないのは背後、眼下に大通りを敷いた虚空だけだ。前も右も左も、金色と茶色の鎧に身を固めた兵隊で埋め尽くされてしまった。
「“最後の軍隊(ラスト・バタリオン)”ならぬ“空っぽのブリキの兵隊”。ーーどれほど通用するのか、試そうではないか」
 しかる後に、
「手足をもいでやろう、ミス・リニス。そして泣きわめくお前の髪を引っ掴んで持ち運び、プレシアに至る道を開けてもらうとしよう」

19013人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:45:25 ID:pNHdHYB60
【アーカード@NANOSING】
【状態】ダメージ・疲労(中)、左胸に刺傷(大)、怒り・戦意(大)、
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】なし
【思考】
 基本:インテグラの命令(オーダー)に従い、プレシアを打倒する。
 1.リニスに自分をプレシアの元まで連れていかせる
 2.邪魔をするなら量産型フェイトを皆殺しにする
 3.首輪解除の技能者を探してみる?
 4.アンデルセンを殺した参加者を殺す
【備考】
 ※スバルやヴィータが自分の知る者とは別人だと気付いています。
 ※パニッシャーは相当の強者にしか使うつもりがありません。
 ※第1回放送を聞き逃しました。
 ※ヘルメスドライブに関する情報を把握しています。
 ※セフィロスを自分と同等の化物だと認識しています。
 ※ゲーム運行にはプレシア以外の協力者ないし部下がいると考えています。
 ※首輪解除時の主催の対応は「刺客による排除」だと考えています。

【リニス@魔法少女リリカルなのは】
【状態】健康
【装備】複製バルデッシュ@オリジナル
【道具】なし
【思考】
 基本:使い魔として創造主であるプレシアに従う
 1.プレシアの命令に従いバトルロワイヤルを円滑に進める
 2.量産型フェイトを率いてミラーワールドにいる参加者を現実側の世界に戻す
 3.浅倉威からカードデッキを剥奪、もしくは殺害する
 4.アーカードを鎮圧して現実側の世界に送り返す
 5.プレシアにバトルロワイヤルを中止して欲しい
【備考】
 ※バトロワ会場の世界、主催のいる空間、ミラーワールドを行き来する空間転移魔法が使えます





 ゼロとか名乗る変態と同様に、上空からデイバックが落ちてきた。
 内容物はそれほど多くもなかったのだろうか、内部で砕けたり潰れたりするような音はするものの、デイバックそのものに大きな損壊は見られなかった。
 誰が落としたのだろうか、と見上げる摩天楼で撃音が連鎖する。
 誰かが戦っているのだ。
(……最高だ)
 見えるところでも見えないところでも、至るところに争乱が満ちている。これこそが浅倉が今まで望んでいたもの、何度でも繰り返したいと思う情景だった。
「はは……っ!」
 哄笑に王蛇の鎧が揺れ、しかし浅倉自身に苛みを与えない。それが苛々を募らせなくて、そこまた浅倉が仮面ライダーによる戦いを好んでいる理由の1つであった。
「ご機嫌だな」
 と、体を振るわせる身にかかる声がある。
 あぁん、と横一線の左右に幾つも刻まれる顔を向け、その先に1人の姿を見た。
 男だ。頭に布を巻き、眠たげな瞳とやたらに長い耳たぶを持つ顔は野太い首に支えられ、曝け出された筋骨隆々の肉体へと続く。下半身はエジプトで見られるようなたるみのあるものを履いていたが、2つの穴を貫いているのは素足だ。広い肩幅の後ろには、大きな輪に連ねられた幾つもの太鼓が背負われている。
 声の主の異様に、しかし浅倉は笑みを刻んだ。その男が、再会したくて仕方がなかった相手だからだ。
「久しぶりだなぁ」
「不遜」
 こちらの挨拶を、しかし男は3つの音で断ち切る。
 双眸の瞼はやる気もなくたるんでいたが、しかし僅かばかりに引き攣っているのは、怒り故か。

19113人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:45:57 ID:pNHdHYB60
「虫けら風情がこの私に話しかけるなど、何と不届きな行い」
「…………」
「よりにもよって珍獣を使って私を貶めるなど、第一級犯罪も鼻で笑う咎だなぁ」
「…………」
「とっとと私を元いた場所に戻れ。……否、貴様の力は有用だな……。そうだ、あの男を殺す為に使おう。その力を寄越すか、それとも我が配下となるか、どちらかを選べ」
「…………」
 男の言葉に浅倉は答えない。そして喋ることに夢中な男は、兜から滲む浅倉の気配にも気付かない。
 だがそれもここまでだ。
「何だ、何故なにも答えない。竦んだか?」
 ようやく問われて、満を持して、という気分で浅倉は答える。
「どうした? 今は随分、余裕が無ぇじゃねぇか」
 答えに、男は気配と表情を一変させる。
「不届き……!!」
 振り抜かれた男の両腕が閃光に変じる。
 ゴロゴロ、とどこからともなく空気の揺れる音。
「私に祈れ……!」
「俺は生涯誰にも頭を垂れねぇ」
 もはや声もなく、男の輝く腕が振り抜かれる。
 背後で契約モンスター達が動き、しかしその様に哄笑が轟いた。
「馬鹿め! 雷より早く動けるものか!!」
 雷、それがお前の力か、浅倉が言う間もなく、輝く腕はもはや眼前。
 響きと閃きに霞むエネルの声は、
「!!!?」
 音もない、いやさ音を潰された驚愕だ。
 ご、という衝撃、それを受けたのは浅倉ではなく男の方だった。顎がたわませて首を晒し、エビ反りの姿勢となって空中で仰向け姿勢、かと思った時には浅倉とは正反対の方向へ吹っ飛んでビルの外壁を貫く。
 両腕の輝きは仰け反った拍子にあらぬ方へ放たれしまった。
「………」
 何だろうか、とは思わない。未だ知り得ぬ力を持っている奴等は、まだ何人もいるからだ。
『CLOCK OVER』
 どこからか機械の声が聴こえた。
 そして男の姿が失われた空間で1つの影が浮かび上がる。それは、布を摘まみ上げたような造形の一本角を生やす仮面ライダーだった。側頭部には背後へ伸びる一対の角、取り付けられた赤い双眸の下には黒い隈のような彫り込みがあり、まるで削れるほどに流した涙の痕のようですらあった。
「……あんた」
 だらしなく両手を垂らした姿には精神力の欠片も無い。
 何もかもに絶望した穴ぐらのような声は、その印象に反して若々しい女のものだった。浅倉はその声に聞き覚えがある。
「あぁ、さっきのガキか」
 その声は、目の前で双子の片割を殺してやった少女のものだった。仮面ライダーだとは思っていたが、しかし自分の知らない種類の仮面ライダーに変身するとは思っていなかった。
 意外、といった口ぶりで浅倉は話しかける。
「何だ、復讐に来たのか?」
「どうでも良いわ、そんなの」
 緑色の仮面ライダーが返した返事は、やはり予想外だった。

19213人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:47:24 ID:pNHdHYB60
「……皆して私に文句言うばっかり…………折角助けてやってるのに……何よ……何よ…………なんで私ばっかりこんな目に遭うのよ…………バクラもつかさもこなたもみゆきも……誰も……彼も……誰も彼もよ? ……みんなして私をいぢめないでよ……なんで私なのよ……誰だっていいじゃない……男だって女だって子供だって年寄りだって動物だって植物だって物だってミミズだってオケラだってアメンボだって空き缶だって生ゴミだって死体だって何だっていいじゃない! 何で私なのよ!! 何で私? 何の権限で私? 一体どこの誰に私をいぢめる権利があるっていうのよ!! 何で私がこんなに不幸? 勉強だって出来るし運動だって出来るしみんなに好かれてだっている……優等生じゃない! 勝ち組よ勝ち組!! この世の不幸なんてそこら中にいる屑共に押し付ければいいじゃない! 何で私なのよ! 家族だっているのに! まだ若いのに!! 将来有望なのよ……? これからなのよ……? それが何でこんな目に遭うの……? 人殺したり人に操られたり妹殺されたり妹の全身の血飲んじゃったり妹の目玉呑み込んじゃったりさぁ……もうやぁよこんなの…………1秒だっていたくないこんな場所……殺し合い……? バトルロワイヤル……? 何だっていいわよそんなの…………私を巻き込まないでよ……私は善良な市民なのよ……無力で無辜で護られなきゃ行けない子羊じゃない……それがどうしてこんな目に遭うのよ……どうしてこんな目に遭うのかって訊いてるじゃない!! ああ良いわ良いわ答えなくていいわそうよね馬鹿で屑で塵で芥で変態で阿呆で生きるゴミと書いて生ゴミと略すあんた達の脳みそなんかで答えが出る訳ないもの……え……違う? そうじゃない? ……私が馬鹿で屑で塵で芥で変態で阿呆で生きるゴミと書いて生ゴミと略す底辺中の底辺だっていうの……だから皆私をいぢめるの……? だから私を傷付けるの……? ひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどいよぉーーーーーーっ!! 私だって好きでこんなんじゃないのに! 私だってもっと良くなりたいのに! こなたみたいに正直になりたいしつかさみたいにみんなになんも考えないでいたいしみゆきみたいにスタイルだって良くなりたいのに……ひどいよぉ……ぐす……それみんな……馬鹿で屑で塵で芥で変態で阿呆で生きるゴミと書いて生ゴミと略す底辺中の底辺でもだえる蛆虫の鳴き声だって言うんだ……そうなんでしょ……そうだって言いなさいよ!! 顔に書いてんのよみんなして!! 私を馬鹿にしてるんでしょ!!? いいわよ好きなだけ言ってなさいよ!! アンタ達なんてもう知らない……知らないわよ……もう好きにしなさいよ……知らないわよアンタ達なんて……何してても良いから私に関わらないでよ……こなたでもつかさでもみゆきでも好きにすれば良いじゃない……殴ろうが蹴ろうが犯そうが知ったこっちゃないわよ…………もう……もうやだぁ……もうやだああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!! うぇっ! ぐぇっ! ぇぐっ! ひぁ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーん!! もういぢめないでよぉ〜〜〜〜……もう痛いのやだぁ……もういぢめられるのやだぁ……ひっ……ひぐ……もうやだぁ……私を見ないで触らないで話しかけないで…………どうせ私は馬鹿で屑で塵で芥で変態で阿呆で生きるゴミと書いて生ゴミと略す底辺中の底辺でもだえる蛆虫の鳴き声に見せかけた下痢の効果音よ…………底辺中の底辺なんだから……それでいいからぁ……もう私に関わらないでぇ……もう来ないでよぉ……帰してぇ…………おうちに帰してよぉ…………なによぉ……見てんじゃないわよ!! 見せ物じゃねぇんだよ!! 金とんぞビチグソが!! ぁぁ……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……もう何も言いませんからぁ………御願いですからぁ………………!!」
 狂気、それを垣間見た。
 やり過ぎたか、とは思わない。どうでもいい、とそう思った。
 ぶつぶつと呟きながら、ぐるぐると身を回して、どれ程経ったのか不意に動きの一切を断つ。
 そして絞首死体のような立ち姿で、
「……もぉーーーーーーどぉーーーーーーでもぃーーーーーーーーーーーーーーーー…………」
 一言。
「ーーみんなしんだらいい」

19313人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:48:02 ID:pNHdHYB60
 そのたった一言に、少女の心は費やされた。
 浅倉は言葉を紡がない。
 だから、次に響く声は男のものであったが、浅倉のものではなかったのだ。
「どうだ」
 それは背後からの声だった。それもまた聞き覚えのあるもので、誰であろうか、と浅倉は見る。
 立っていたのは青年だ。安物の衣服をところどころ解れさせ、皮膚に切傷を持つ姿には硝子の破片をそこかしこに乗せている。髪と髪の間から流血し、しかし濡れる瞳はそれらに動じたところが無い。
 浅倉は彼の名を知っている。
「それがお前の生んだ遺恨だ」
「天道、総司」
「そうだ」
 青年、天道総司は答えた。
「俺は天道総司。ーー天の道を往き、全てを司る男」
 浅く指を曲げた掌は空へと掲げられ、全ての後ろで落ちつつある夕陽を逆光とした。
 そして、その掌目掛けて迫るものが空気を裂いた。
「……?」
 羽音だ。
 高速で空気を叩く音は、び、とも、ぶ、ともつかない超速連鎖によって浅倉の耳朶に届く。次第に音は大きくなり、そして赤色の一閃という形で浅倉の右手にある空間を貫いた。
 それはカブト虫だ。
 ただのカブト虫ではない、赤い楕円形に丁の字の角を伸ばす、鋼作りのカブト虫である。
「ここにいたんだな、……カブトゼクター」
 告げる天道を主と崇めるかのように、掲げられる掌へ鋼の甲虫は自ら突っ込んだ。
 五指が赤い機体を鷲掴みにする。
 そうして、いつの間に巻いていたのであろうか、腰にはベルトが装着されている。自分達カードデッキ式の仮面ライダーとは異なる装いのベルトは、バックル全体が平たいジョイントとなっている。
 続く動きは簡単なもので、浅倉も予期していた。呟きをもってカブトゼクターをバックルに接続させたのだ。
 口ずさむ単語は簡潔明瞭、たったの一言、
「ーー変身」
 たったそれだけのことで、天道の姿は六角形をした光の羅列に包み込まれる。
 それらが消えた時こそ、この場における最後の仮面ライダーが現れる瞬間となった。
「……それがてめぇの仮面ライダーか」
 光の中から身を表したのは、灰色の分厚い外殻を持つ戦士だった。潜水服か宇宙服のようでもあるそれは随分と不格好に思え、浅倉の印象に影を落とす。
 だがそれに感づいた風もなく、左右に一回ずつ首を回して、鎧のうちより天道の声がした。
「どうやらこの場にいる人間のほとんどは、殺し合いに乗っている輩らしいな」
 続くは、やはり一言。
「都合が良い」
「それは、お前もこの場で殺し合うって意味だよなぁ?」
「貴様等全員この世界に閉じ込めるって意味だよ」
 外殻の仮面ライダーは拳を構えた。
「おばあちゃんは言っていた。ーー“臭いものには蓋をしろ”」
 浅倉は首を傾げた。
「……何言ってんだ、お前」
「阿呆には理解出来ない高尚な言葉だ。貴様らの毒牙を、高町なのはや数多の非力で戦意のない者達に向けさせない」
 そう言って、
「俺は天の道を往き全てを司る男。ーー全ての命は、俺無くして健やかなることはない」
 溜め息を一つ。
「全く、俺が死んだ後の世が心配だ。死ぬ気は毛頭無いが」
「大層な自信だ」
 しかし、
「俺に勝てる計算をしちゃいねぇか?」
「何だ、俺に勝てると思ってるのか?」

19413人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:48:40 ID:pNHdHYB60
 天道の即答に、ほんの少しだけ遅れて、いつしか哄笑していた。
 召喚器であるベノバイザーを取り出してスロットを起こし、バックルから取り出したカードを装填する。叩き付けるようにして装填すれば、コブラを模す杖は目を輝かせた。
『SWORD VENT』
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーー!!』
 背後でベノスネーカーが雄叫びをあげる。
 長い胴の末尾を振り抜き、それによって弧を描いた影が尾の先端から放たれた。影は浅倉の足下に音をたてて突き刺さり、さながら岩に突き刺さる剣といった風体をとる。
 ベノサーベル、浅倉にとっては使いなれば武器だった。
 は、と浅倉は笑う。
「嫌いじゃねぇ」
 天道の態度は、
「嫌いじゃねぇなぁそういうのは。だからよぉ……」
 もたれるように喋って、急激な動きを見せるのは浅倉特有の戦闘スタイルだった。
「苛々に変わる前に死ね……!!」
「……!!」
 振り抜かれたベノサーベルに対し、天道は幾重にも防護された拳で応じる。
 向かっていた2人だけに接触も一瞬、高音の響きにお互いの猛りは弾かれ合い。
「!!!?」
 一瞬にして天道の姿が消えることとなった。
 ご、という音がして並び立つビルの外壁が倒壊する。瓦礫となったそこには、今しがたまで浅倉の目前にいた天道の着膨れした鎧が倒れている。
「ぐ」
 苦悶の声、天道は移動したのではない、攻撃によって吹っ飛ばされたのだ。
 加害者は緑色の仮面ライダー、ではなかった。彼女は未だに自分の背後にいたし、何より、その攻撃は速かったものの肉眼で捉える事ができた。そして何より、その姿はそれまで天道が立っていた場所、つまりは浅倉の目前にある。
「うううううううううううううううううううううううううううううぅ」
 唸り声をあげる女だった。
 黒いボディスーツのような服装、豊満な体型を惜しげもなく晒すその姿には、金色のサイドポニーという風にまとめられた髪の束がかかっている。中でも特徴的だったのは、女の双眸だ。左右で異なる色合いの瞳、いわゆるオッドアイという体質を、その女は持っている。
(……何だ?)
 見覚えがあるな、と浅倉は思う。
 そんなに古い記憶ではない。つい最近、どこかでこの女に会ったことがあっただろうか、と思い、無い筈だ、と改めた。では、この記憶のくすぐりは一体どうしたことであろうか。
 対する女の方は浅倉に見向きもしない。
 まるで狂犬病を患った犬のように、怯えとも敵意ともつかない感情に瞳を痙攣させている。
「高町ぃ……なのはぁ……」
 ふと、女は名を呟いた。
 それはつい先ほど天道総司が告げた名前だ。
「お前えぇーーーーーーーーーー!!」
 女は跳んだ。
 常軌を逸した跳躍力だ。仮面ライダーですらも、たった一度地を蹴っただけであれほどまでの移動は出来ない。
 一拍で天道まで辿り着いた女は、左脚を天に掲げる踵下ろしの態勢。
「なのはママに何をしたぁーーーーーー!!!」
 掠れて見える蹴撃はギロチンのようだ。
 それが一直線に分厚い装甲を叩き割ろうと迫り、
『CAST OFF』
 出迎えたのは、解き放たれた装甲の連打だった。
「!?」
 あたかも天道が破砕したかのような光景だ。全身を覆う装甲があらゆる方向に弾けて飛び、その幾つかは近接していた女の全身に打ちつけられる。片足立ちとなっていた女は姿勢を崩し、対応するために距離を開けざるを得ない。
 そして装甲が消失した今、瓦礫の上にあるのは、赤い装甲の仮面ライダーだった。
『CHANGE BEELE』
 鎧そのものが音声を放つ中、顎を起点にして丁の字の角が起立、ゆっくりとした動きで眉間に収められ、額に角を生やす様相となった。
(あれが本当の姿か)
 二段変身とは愉快な仕様だな、と浅倉は思う。
「お前」
 と、天道が喋った。
「高町の関係者か」
 高町、その名前に少女は再び反応した。俯いたことでせり上がった肩が痙攣し、
「俺は……」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
 意思も意味もない雄叫びを一声し、天道の言葉を遮る。
 そして、先ほど与えられなかった分の打撃を今与えようというかのように、再び天道へ挑みかかった。

19513人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:49:17 ID:pNHdHYB60
【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】仮面ライダーカブト(C.OFF)、疲労(小)
【装備】カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ライダーベルト(カブト)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、『SEALー封印ー』@仮面ライダーリリカル龍騎、『CONTRACTー契約ー』@仮面ライダーリリカル龍騎
【思考】
 基本:極力多数の参加者とともに帰還する
 1.オッドアイの少女(ヴィヴィオ)の誤解を解く
 2.王蛇のカードデッキを破壊して全マーダーをミラーワールドに閉じ込める
 3.天の道を往く者として、ゲームに反発する参加者の未来を切り開く
 4.『封印』と『契約』のカードでミラーモンスター(ジェノサイダーA)に対処する
 5.キングを警戒する
 5.このゲームに存在する全ゼクターを回収する
【備考】
 ※参戦次期はACT.10冒頭、クロックアップでフェイト達の前から立ち去った直後
 ※自信の制限に気付いています
 ※首輪に名前が書かれている事に気付いています
 ※ドラグレッダーはなのはと天道に城戸真司の面影を重ねています
 ※SEALのカードを持つ限り、モンスターは現実世界にいる天道総司を攻撃できません
 ※C.C.からカードデッキの説明書を受け取っています

【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康、聖王モード@、洗脳による怒り(極)
【装備】レリック(ルーテシアのシリアルNo.、融合中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、憑神鎌(スケィス)@.hack//Lightning
【道具】なし
【思考】
 基本:ママ(なのは(StS))の敵を皆殺しにする
 1.一本角(仮面ライダーカブト=天道総司)を叩きのめす
 2.なのはママとフェイトママを殺した参加者を優先的に殺す
 2.頃合いを見て聖王のゆりかごにを動かすべく戻る
【備考】
 ※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています
 ※浅倉はまだ信頼しています。殴ったのは何らかの理由があるからだと考えています
 ※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています
 ※キングは天道総司を助ける善人だと考えています
 ※クラールヴィントは浅倉を警戒しています
 ※ヴィヴィオに適合しないレリックが融合しています。弊害の有無・内容は後続の書き手さんにお任せします





 持っていかれたな、というのが正直なところの感想だった。
 浅倉の見やる先で巻き起こる新たな戦い、それは赤と黒の高速戦闘だ。さながらルーレットのように両者は旋回し、しかしながらルーレットならざる身ゆえに、幾度となくぶつかり合う。
「うううううううううううううううううううぅぅぅぅぅ!!」
「ぐ……!」
 圧倒的な猛攻を加える女に対し、天道を秘める赤い仮面ライダーが攻勢に転じることはない。
 専守防衛だ。過剰なほどの外殻を切り離し、スマートな体格となった姿だからこそ攻撃に応じることが出来るが、同時に衝撃をもろに受けることになっているのか、その挙動と声には苦しみが滲んでいた。
(馬鹿が……)
 攻めれば良いものを、と麻倉は思う。精々俺が行くまで生き延びろ、とも。
「浅倉ぁ……!」
 名を呼んで振り向き、眼前に迫る靴裏をベノサーベルで払いのけた。
 どれほど強固にして強靭な脚なのだろう、斬れることも削れることもなく、迫る脚は弾かれただけで終わってしまった。だがそうした動きの乱れさえも利用して、蹴りの連続は発動する。

19613人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:49:53 ID:pNHdHYB60
「死ね!」
「ダラぁ!」
 右に払い、
「消えろ!!」
「ウラぁ!!」
 左に払い、
「潰れろ!!!」
「オラぁ!!!」
 受け止めて、
「「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーー!!」」 
 重複する叫びに互いを弾き合った。
 じゃ、というアスファルトを擦る音を引き、2人の仮面ライダーは距離を開ける。
「殺してやるぅ……」
 ベノサーベルを構える浅倉に対し、緑の仮面ライダーがとる姿勢はまるで野獣のようだ。
 中腰の姿勢で腰を折り、尻を高々と掲げる態勢。両肘はだらりと路上につき、掌はアスファルトを愛撫するかのようだ。全てを睨み上げるようにひねられた首には、死体に睨まれているような心地がする。
 まさしく幽鬼といった風情だ。
「悪くねぇ」
 考え無しに加虐したものの、ここまで形になるのは予想外だった。てっきりあのまま、地と嘔吐の中に倒れ、適当に誰かに踏み潰されて終わるものだと浅倉は思っていたのだ。
 しかし今、少女は仮面ライダーとして自分と拮抗する。
 悪いのは自分の体調だった。
(……っ)
 ミラーワールドに引きずり込む以前のこと、相川との戦いで受けた傷が痛む。今の応酬で傷が開きつつあるのだろうか、しかし鎧の上からでは自覚症状以外に被害を把握する術はない。
(だせぇなぁオイ)
 せっかく盛り上がってきたというのに、始めた自分がこれでは楽しめない。
 もっと滾れよ、と浅倉は自らの体に思う。
 と、
「……当たり前よぉ」
 聴こえたのは相変わらずの陰気な声だった。緑の仮面ライダーが、姿勢を一定させることもなく、ゆらゆらと揺れながら声を吐き出している。
「悪いのはぁ……全部あんたぁ…………私は清廉潔白良い子ちゃんなんだからぁ…………」
「言ってろ」
 高揚しつつある感情を剣に込め、踏み出した脚で緑色の頭を狙う。
 対する緑の仮面ライダーも急激な動き、猫背を戦闘にした跳躍はまるで烏賊か蛸のようだ。そのままもんどりうって前転、ベノサーベルの刀身と交差するようにして、踵をこちらの顔面へと振り下ろす。
 そして、
「……!!!?」
 強烈な閃きに目が眩み、怯んだためにお互いの攻撃を受ける形となった。
「がっ!」
 浅倉は顔面から吹っ飛び、
「ぎゃんっ!」
 緑の仮面ライダーは胸を斬りつけられて火花を散らす。
 転げ回る2人の姿の姿は白と黒の二色刷り、余りにも強い光が有色を殺し、光当るところを白、当らぬところを黒と明瞭簡潔に切り分けたのだ。
 2人だけではない、大通りの一角は、まるで太陽が降り立ったように輝いている。
 否、降り立ったのは雷か。
 それとも、神か。
「……溶解だと!?」
 それは浅倉だったかもしれないし、緑の仮面ライダーだったかもしれないし、他の誰かかも知れなかった。しかし言われた通りの事実が発生している。
 大通りに並ぶビルの1つが、突如として融解したのだ。
 じゅ、と蒸気をあげるコンクリートはまるで溶岩といった風体、瓦礫を呑み込み、手前の歩道を伝って、大通りのアスファルトにまで生コンを垂れ流す。
 そして、コンクリートの泥から現れるのは巨大な、
「野犬?」
 違う。それは流動によって野犬の形をとりつつある、ビルの鉄骨だ。1棟分の鉄材は帯電によって光を迸らせ、表面を真っ赤に灯らせた溶岩のように変形していく。ビルの4隅は4脚となり、天に向かって伸びる長方形は高さを落とし、引き換えに前後へと太くまとまる。
「……ふっ! とっ! どっ! きィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 声がしたのは、鋼の巨犬の頭部辺りだ。人間で言うならばうなじ、頭部と首の境目あたりに、長い耳たぶを振り乱す雷の男がいる。
 いる、というよりも、合一している。
 四肢を雷電に変化させた男は四つん這いにも似た姿勢だ。4つの雷電は巨犬の内部へと浸透し、未だにそれを赤く輝かせる力の原動力となっているようだ。

19713人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:50:44 ID:pNHdHYB60
「“雷治金”応用版ーー“雷獣・鉄”!! 雷なる我が手足を通わすことで鋼鉄は現在進行形で形を変える!! その重量! その高熱!! その高圧電流で!!! 路上にこびりつく炭となるがいい!!!」
 ベノスネーカーに匹敵する巨体で、赤熱する鉄犬は遂に歩き出す。歩くたびに道路は赤く変色し、足裏のままに硬度を緩めて陥没していく。男の言う通り、度を超えた熱量と重量が為せる業だ。
『…………!!!』
 鉄犬が音もなく吼える。
 生物ではないそれに声帯や肺などある筈はなく、四肢を踏ん張らせて顎を開いたところで、浅倉達はそよ風一つ感じることはない。
 ただし、巨体が発散する熱気と稲妻はその限りではない。鉄犬の出現とともに周囲の気温は上昇し、体毛のように迸る電気は頻繁に弾け、変動する明度と炸裂する電気の末尾が視覚と聴覚は撹乱する。
 鉄犬よりも遥かに小さな浅倉としては、鉄犬の首に乗っている雷の男の姿は見ることができない。
 しかし、その声は明確に聞き取れた。
「まずは貴様からだ“紫鎧”! 愚考と愚挙に全身の体液を流して詫びるが良い!!」
 芸も細かく、鉄犬の凶暴な顔が浅倉を見据えた。
「人を鎧の色で呼びやがって……」
 文句を漏らすが、しかし内心ではそれほど悪い気持ちではない。
 何故なら、未だ出さずにいる力を発動する機会を得られたからだ。
「お前等ぁ!」
 浅倉の呼びかけに答えたのは、怪物達だった。
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーー!!』
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーーーー!!』
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』
 深紅、紫紺、燻銀、それぞれにそれぞれの色を持つ怪物達が一斉に並び立つ。浅倉に、正確には浅倉が使うカードデッキに隷属するミラーモンスター達だ。
 だがそれさえも雷の男は嘲笑う。
「ヤハハハハハ! 珍獣を並べたところで私に敵うと思ったか!?」
 彼我の戦闘力の差が解るのだろう。浅倉ですら解るのだ、雷の男に解るのもまた道理。
 だから、浅倉は三たびにベノバイザーを現してスリットを起こす。
 バックルのカードデッキから抜き放たれるカード、その名は、ベノバイザーが眼光を点滅させて告げる。
『UNITE VENT』
 それは王蛇のカードデッキだけが持つ、特殊なカードだった。
『『『OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOーーーーーーーーーー!!!!』』』
「……!!?」
 バイザーの宣言に呼応して同時に叫ぶ化物、それに気圧されたのか、雷の男は一歩たじろいだ。
 それは、カードの効力が果たされるには十分過ぎる時間となる。
『VOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!』
 変化の始まりはメタルゲラスだった。
 もがくようにして外殻を掻き毟り、人型の犀が唐突に倒れる。だがそれは立てないほどの痛みや苦しみがあるからではない。犀として本来の姿、4脚によって体躯を支えることを目的としていたのだ。野太い両腕が道路に突き刺さる。
 続いての変化は体積だ。
 お、と吐瀉を寸然にしたような呻きを幾度も零し、メタルゲラスの体がどんどんと膨れていく。まるで空気を吸い込んでいく風船のように、外殻同士の接続を解き、赤紫の体色を露出させる。
 今やメタルゲラスの体躯は、ビルの2階辺りまで肩が届く大きさだ。
 それを待ち受けて動いたのは雷の男、ではなく、天地からメタルゲラスへと迫る2つの長胴だった。
 地にはベノスネーカー。
 天にはドラグレッダー。
 それらは一様にメタルゲラスの背後へと回り込み、そして背中へと飛び込んだ。
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
『SYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーー!!!』
 メタルゲラスの背中と頭部が発光し、いかなる変容がなっているのかは把握出来ない。しかし光の中を大蛇と飛龍が左右に並列しながら進み、野太いうなじへと至り、遂にはメタルゲラスの顎より上を削ったのだった。
 消えてしまったメタルゲラスの頭はどこにいったのか。答えはドラグレッダーとベノスネーカー、いやさそれらであったものの頭部にある。
 ドラグレッダーだったもののに右半分を、ベノスネーカーだったものに左半分を分ち、覆い隠してたのだ。今やメタルゲラスの頭部は龍と蛇の顔を半分だけ隠す仮面となっていた。
 そして2体の化物を“だった”と過去形にする理由は一つ。

19813人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:51:32 ID:pNHdHYB60
 発光が止んだ今、メタルゲラスの背へと突っ込んだそれらは、メタルゲラスの体と融合しているからだ。
 最早そこに立つのは3体のミラーモンスターではない。最強と、最悪と、最硬を兼ね揃える、帝の名を冠する化物だ。
『『ZYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーーーー!!!!』』
 巨大化したメタルゲラスの体を胴体とし、右にドラグレッダー、左にベノスネーカーの首を生やす四足の地龍は、歓喜のままに2本の尾を振り回して周囲のビルを抉り裂いている。
 今や轡を並べる龍に、無双の名は失われた。
 番う頭の龍を表すは又を並べた双の一語、虚無は無として新たなる契約モンスターが生まれた。
 双帝ジェノサイダー・アレンジ、浅倉はそれをそう呼ぶことにした。
『『ZYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーー!!』』
「……小賢しい!!!」
 もはや力も体躯も鉄犬と同等以上になった化物が、2つ並んだ顎を先駆けにして突撃する。
『『ZYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーー!!!』』
「…………!!!」
 双頭の化物と、異形の巨犬が正面から激突した。
 轟音と火花が2体の設置面より弾け、大きく開けた大通りを震撼させる。
「ぬうぅ……!!」
『『ZYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAーーーーーーーーーー!!!』』
 猛牛など比べるべくもない突撃力の応酬、しかし分はジェノサイダーの方にある。
 鉄犬の重量、熱量、帯電を受けてなお拮抗しうるジェノサイダーを前にして、それだけの特殊効果を満足に通用させられなかった鉄犬が、いつまでも拮抗を維持することなど出来るはずがなかったのだ。
「がぁあああああああぁぁぁぁぁぁーーーー!!」
 雄叫びも虚しく、ジェノサイダーに押された鉄犬は、首に乗せた雷の男ごと背後のビル群に押し倒される。
 舞い上がる粉塵と蒸気、鉄もコンクリートもアスファルトも、ジェノサイダーの圧力と鉄犬の熱量が蒸発させた。噴煙と悪臭が路上を包み、だがその中で剣戟は再開される。
 浅倉もだ。舞い上がる土埃を貫いて、緑の仮面ライダーが飛び蹴りとともに現れる。
「浅倉ぁーーーーーー!!!」
「はははっ!!」
 憎悪に答えるのは歓喜、武器としての靴裏をベノサーベルが迎え撃つ。
(……楽しい!! 楽しくて仕方がないなぁ!!!)
 浅倉の胸中は歓喜で渦巻いていた。
 何もかものが望み通りだ。本来ならばもう仮面ライダーならざる者は全て消滅しているだろうに、それが起こらない不思議も気にならない。というよりも、思い浮かぶことさえない。
 ただ浅倉威は、自らが開いた修羅の庭を堪能するだけだった。



【浅倉威@仮面ライダーリリカル竜騎】
【状態】仮面ライダー王蛇、疲労(中)、全身ダメージ(中)、右手に火傷
【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダーリリカル竜騎、ベノサーベル
【道具】サバイブ“烈火”のカード@仮面ライダーリリカル竜騎、カードデッキ(ベルデ・ブランク体)@仮面ライダーリリカル竜騎
【思考】
 基本:戦いを楽しむ。戦える奴は全員獲物
 1.紫髪のガキ(柊かがみ=仮面ライダーキックホッパー)を手始めに殺す
 2.エネル→天道→キング、相川始、金居→その他手近な参加者、の順で戦う
 3.鎌を持った奴(キャロ)、フェイト、はやて、ヴィータ、シャマル、ユーノと戦う
 4.首輪を外したい
 5.プレシアに「規定人数を殺害した参加者には希望した人間の居場所を教える」という特典を採用してほしい
【備考】
 ※プレシアは殺し合いを監視しており、参加者の動向を暗に放送で伝えていると考えています
 ※ヴィンテルシャフトのカートリッジシステムに気付いています
 ※カブトに変身できる資格があるかは不明です
 ※なのは、フェイト、はやては自分の知る9歳の彼女達(A's)とヴィヴィオの言っていた大人の彼女達(StS)の2人がいると考えています
 ※カードデッキの使用制限時間が極端に短縮している事に気付いていません

19913人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:53:01 ID:pNHdHYB60
【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】仮面ライダーキックホッパー、ツインテール剥離・頭皮出血、肋骨数本骨折、やさぐれ(極)
【装備】ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ホッパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ホテルの従業員の制服、ストラーダ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】なし
【思考】
 基本:みんな死ねばいいのに
 1.浅倉威を最優先で殺す
 2.他の参加者を皆殺しにして最後に自殺する
【備考】
 ※デルタギア装着により放電能力を得ました
 ※心身に対するショックで、一部の参加者やそれに関する知識が戻っている可能性があります
 ※極度の錯乱状態です。自分以外の生物全てを分け隔てなく憎んでいます
 ※変身時間の制限にある程度気付いています(1〜1時間30分程度の間隔が必要という事まで把握)
 ※エリアの端と端が繋がっている事に気付いています

【エネル@小話メドレー】
【状態】“雷治金”発動中、疲労(中)、胸に打撲痕(大)、全身に切傷(小)、『死』に対する恐怖、激怒
【装備】巨大な犬型鉄像(“雷治金”により形態操作中)
【道具】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ランダム支給品0〜2
【思考】
 基本:主催含めて皆殺し。この世界を支配する
 1.この珍獣(ジェノサイダーA)めがぁ〜〜!!!
 2.この場にいる全参加者を皆殺しにする
 3.浅倉威からカードデッキ(王蛇)を奪う
 4.ヴァッシュに復讐したい
【備考】
 ※心網の策敵範囲がおよそ1エリア分だと気付いています
 ※黒い鎧の戦士(カリス=相川始)、はやてと女2人(=シャマルとクアットロ)を殺したと思っています
 ※自身の制限およびゴロゴロの実の能力を使っても首輪が外せないと気付いています
 ※なのは(StS)のことはうろ覚えです
 ※なのは、フェイト、はやてがそれぞれ2人ずついることに気付いていません
 ※背中の太鼓を2つ失い、雷龍(ジャムブウル)を使えなくなりました
 ※ヴァッシュに『参加者の現在地と生死を把握する能力』があると思っています
 ※ヴァッシュに対する恐怖と怒りで“心網”が使えなくなりました。払拭された場合のみ使用可能になります



【ジェノサイダー・アレンジについて】
 ・ベノスネーカー、メタルゲラス、ドラグレッダーがユナイトベントで融合した形態。10000AP
 ・四つん這いのメタルゲラスの背中が、ベノスネーカーとドラグレッダーと癒着している。メタルゲラスの頭部は左右で分断され、それぞれベノスネーカーの顔左半分とドラグレッダーの顔右半分を覆っている
 ・ベノスネーカーの口から強酸を、ドラグレッダーの口から火炎を吐く。どちらも単体でのものより強い
 ・極度のダメージを受けると3体に分解する。各個体はジェノサイダーAと同等のダメージを維持する
 ・ファイナルベント:ストームスディ(11000AP)
  アクション順序
   €ジェノサイダーAの背を駆け登り、敵の直上へ跳ぶ
    2つの頭部が吐き出した火炎と硫酸を脚に巻き付ける
   ¡敵に垂直からの蹴りをぶつける
   ¤衝撃で火炎と硫酸が解放され、大規模な粉砕・灼熱・溶解の渦が発生する
   ¦ジェノサイダーAの胸部にブラックホールが開き、舞い上がった全てを呑み込む

20013人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:53:49 ID:pNHdHYB60
【共通の備考】
 ※F-6 レストラン前(ミラーワールド)に以下のものが落ちています
  €相川始のデイバック(ベルト破損)
   収納:支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
   浅倉威のデイバック
   収納:支給品一式×2、ヴィンデルシャフト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、肉×10kg、魚×10kg、包丁×3、フライパン×2、食事用ナイフ×12、フォーク×12、レヴァンティン(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
  ¡柊かがみのデイバック
   収納:支給品一式、Ex-st(残弾なし)@なのは×終わクロ、柊かがみの制服(ボロボロ)、スーパーの制服、ナンバーズスーツ(クアットロ)
  ¤キース・レッドのデイバック
   収納:支給品一式、ヴァッシュのコート@リリカルTRIGUNA's、首輪×2(優衣、なのは@A's)、優衣のデイバック【収納:レリック(No.Ş)@魔法少女リリカルなのはStrikerS】、カレンのデイバック【収納:支給品一式、ランダム支給品0〜2】、アンデルセンのデイバック【収納:各種弾薬30発ずつ、カートリッジ×13、レイトウ本マグロ@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、杖@ゲッターロボ昴】
  ¦アレックスのデイバック
   収納:支給品一式、Lのデイバック【収納:首輪探知機(電池切れで使用不能)、ガムテープ@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、レリック(No.Š、幻術魔法により花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察を記したメモ】、ザフィーラのデイバック【収納:支給品一式、ランダム支給品1〜3】
  ©金居のデイバック(ビル内部)
   収納:支給品×2、トランプ@なの魂、いにしえの秘薬(残り7割)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル
  ªキングのデイバック
   収納:支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ギルモンのデイバック【収納:支給品一式、RPG-7+各種弾頭(榴弾5/照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル】、アグモンのデイバック【支給品一式、菓子セット@L chenge the world after story】、C.C.のデイバック【支給品一式、スティンガー×5@魔法少女リリカルなのはStrikerS、デュエルディスク@リリカル遊戯王GX、治療の神 ディアン・ケト(ディスクにセットした状態)@リリカル遊戯王GX】
  «アーカードのデイバック
   収納:支給品一式、拡声器@現実、首輪(アグモン)、ヘルメスドライブの説明書
  ­ヴィヴィオのデイバック
   収納:支給品一式、フェルの衣装、クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レークイヴェムゼンゼ@なのは×終わクロ、ヴィヴィオのぬいぐるみ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
  ®エネルのデイバック(ベルト炭化による消失)
   収納:支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ランダム支給品0〜2
  ¯天道総司とヴィヴィオが争うビルの側に爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸が突き刺さっています
  ²万丈目準のデイバック
   収納:支給品一式、考察などを書いたノート
 ※レストラン前に装甲車@現実 が駐車しています。鍵はすでに入っている状態です
 ※多種多様な火器が装甲車の周囲に散逸しています(全て人間が所持して使用するタイプのものです)
 ※アーカードがいるビル屋上、および左右2棟に量産型フェイトが変身する仮面ライダーオーディンが100体います。


【ミラーワールドについて】
 カードデッキによって鏡(景色を反射するもの)から出入りできる異世界。その中に生物はなく、現実世界側の被害は受けず、またミラーワールド側の被害も影響しない。カードデッキを持つ者は鏡越しに出来事を見ることが出来る。
 以下、本バトルロワイヤルにおける制限
 €ミラーワールドにいる参加者は、カードデッキ系仮面ライダーを装着していない場合、12時間後に消滅します
 ※ミラーワールドから脱出すると、あらゆる変身状態は解除されます

20113人の超新星(修正版) ◆WslPJpzlnU:2010/01/31(日) 18:55:56 ID:pNHdHYB60
【ミラーワールドサバイバル戦・現在の状況】
 対戦カードa:キースレッドvsアレックス
  ※ARMS同士のタイマン勝負。どちらも被害を増やしやすい武器の為、余波が他の戦いに影響する?
 対戦カードb:ジョーカー(相川)vsギラファ(金居)vs魔王ゼロ(キング)
  ※同郷の三つ巴戦。キングはゼロを演じており、この場にいる参加者には正体が知れていないのがミソ
 対戦カードc:カブト(天道)vs聖王ヴィヴィオ
  ※豪快に誤解で始まった戦い。天道の説得力次第ではヴィヴィオと協力する事が可能かも?
 対戦カードd:アーカードvsリニス&量産型フェイト2〜5号体
  ※遂に始まった参加者と主催側の戦闘。主催側の武装は協力だが、殺意がないのが逆転の秘訣?
 対戦カードe:王蛇(浅倉)&ジェノサイダーAvsキックホッパー(かがみ)vs“雷神”エネル
  ※2対1対1の変則戦。王蛇とジェノサイダーAに対してかがみとエネルは協力していないのがミソ
 ※ミラーワールド内部からの離脱手段
  €カードデッキ(王蛇)…浅倉威が使用中
   カードデッキ(ベルデ・ブランク体)…浅倉威が所持中
  ¡主催仕様カードデッキ(オーディン)…量産型フェイトが使用中
  ¤専用の転移魔法…ミラーワールドではリニスのみが使用可能

【ミラーワールド生存者 残り12人と1匹と1種(合計100体)】



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投下終了。
>>161は申し訳ありません、見落としていました。wiki掲載時には修正します。
ご指摘頂いた部分に関しては人通り修正したつもりなのですが、如何でしょうか。

202リリカル名無し:2010/01/31(日) 23:05:50 ID:3y/s61ao0
修正乙です
これで大丈夫だと思います

203 ◆WslPJpzlnU:2010/02/01(月) 09:33:18 ID:9.fOUVG.0
ありがとうございます。
とりあえず投下終了から約24時間後の本日19時頃を過ぎてもご指摘を頂くようでなければ、これを本決まりとしてwikiの方に入れたいと思います。

204リリカル名無し:2010/02/01(月) 10:19:51 ID:.2pSKNkA0
収録の際には分割になるのでそこだけ気を付けてください
(こちらで概算したところ約198KBでギリギリ6分割≪wiki1ページの限界が33KBなので≫という結果が出たので)

205リリカル名無し:2010/02/01(月) 12:30:07 ID:6SKSMN8o0
対戦カードd:アーカードvsリニス&量産型フェイト2〜5号体
  ※遂に始まった参加者と主催側の戦闘。主催側の武装は協力だが、殺意がないのが逆転の秘訣?
↑の
「協力」って強力じゃないですか?

206リリカル名無し:2010/02/01(月) 14:51:55 ID:b5xk4rCYO
WIKI収録の際に直せば大丈夫ですね

207 ◆WslPJpzlnU:2010/02/01(月) 19:29:42 ID:9.fOUVG.0
>>205の方、ご指摘ありがとうございます。収録時に修正させていただきます。
これよりwikiの方に収録したいと思います。

208 ◆WslPJpzlnU:2010/02/01(月) 19:54:31 ID:9.fOUVG.0
申し訳ありません、どういう訳かwikiを編集しようとするとSafariが強制終了してしまい、自分の手で本作を収録することができません。Internet Explorerでも文字化けしてしまい、設定を変えてみてもそれは直せませんでした。
自分でやると言った手前でかような長文をお願いするのは非常に心苦しいのですが、どなたか、お手隙の時でけっこうですので収録を代行して頂けないでしょうか。お願いします。

209 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/01(月) 21:56:14 ID:b5xk4rCYO
ではやってみます
ですが>>204の通りだと6分割か7分割かはっきりとは分からないので
とりあえずこちらで収録してその後で◆WslPJpzlnU氏に分割点を指定していただくという形でいいでしょうか
あとエネルの荷物が二つ(エネルの状態表と共通備考)あるのですが、落とした描写がないのでエネル持ちでいいのでしょうか

210リリカル名無し:2010/02/01(月) 21:58:35 ID:b5xk4rCYO
トリ消すの忘れていた…

211 ◆WslPJpzlnU:2010/02/01(月) 22:19:44 ID:9.fOUVG.0
はい、エネルについては仰るように状態表の方を残して下さい。幾つも見落としていてすみません。
分割点の方も仰るような形でお願いします。「おおよそどの辺りで文量が限界なのか」というのが解るようでしたら、参考にしたいので後に教えて頂ければ幸いです。

212D.C. ?ダ・カーポ? ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:41:44 ID:tbOWS/YE0
これより予約分を投下します

213 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:42:46 ID:tbOWS/YE0
「――ッ、使えないわね」

デスゲームの首謀者プレシア・テスタロッサは黒の装束に身を包んで薄暗い部屋の中にいた。
天井と周囲に展開された無数の空間モニターだけがこの部屋に明るさを提供しているために薄暗いのは仕方ない。
ともすれば部屋の闇と同化してしまいそうな雰囲気さえある。
だがそれがより一層プレシアの表情に浮かぶ影を濃くしていた。
その顔を仄かに照らすのは正面に展開された空間モニター。
そこには最強の吸血鬼・アーカードをリニスに率いられた最強の仮面ライダー・オーディンが囲んでいる様子が映し出されていた。
現在プレシアを囲むモニターは正面を含んで約7割がミラーワールドの様子を逐一映し出していた。
そしてそのいずれにおいても大規模な戦闘が繰り広げられていた。

「やはり連れ込まれた参加者はどれも一筋縄ではいかないようね」

実際にこの状況になってプレシアは改めてミラーワールドの厄介さを実感していた。
実は事前の調査でプレシアはこの事態が起きる可能性を知っていた。
だが現実問題としてこの状況を作り出せる条件が限られていたために元より軽視していた経緯がある。

その条件とはミラーワールドと仮面ライダーの情報に精通して且つ実際にカードデッキを手に入れる事。

実のところ前者の人物に該当する参加者は浅倉威だけだった。
他に同じ世界から連れてきた八神はやてと神崎優衣はその性格から実行するとは考えられなかった。
しかも今回のような状況を考え付くのはそれこそ仮面ライダーとしてライダーバトルに参加していた者ならではの発想なのでなおさら無理だと考えた。
後者に関しても大多数の参加者は強大な力を持つカードデッキを易々と浅倉に渡すはずがなかった。
しかもあの必要最小限しか記載されていない説明書だけで『ミラーワールドに参加者を引きずり込む』という戦法を確立できるとは思えなかった。
実際に頭脳明晰な者は何人かいたが、結局気づく事はなかった。

当初カードデッキを支給品から外すという案もあったが、殺し合いを促進させる道具として最適だったので結局は採用したのだ。
さらに万が一という事も考えてミラーワールド内には脱出用として大量にタイガのデッキの複製を説明書付きで散りばめておいた。
元々複製のデッキにはミラーワールドを出入りする機能はないが、今回のデスゲームに際して可能にしておいた。
ただしこのデッキはミラーワールド内でしか存在を保てないように調整しておいたので、もしこれで脱出してもさらにデッキを奪い合うという面での殺し合いを加速させる事が期待できた。

「それなのに浅倉のせいで全てが台無しね」

このような仕掛けを用意したのは、全てミラーワールドから参加者を早期に脱出させて『とある事実』に気付かせないため。
その危惧も含んでのカードデッキ投入だった。
だが数人程度なら想定はしていたが、今回の浅倉の戦法はさすがに予想外だった。
一気に12人しかも各々戦闘を繰り広げる始末。
これでは複製のデッキを探すどころか、いつ誰が『とある事実』に勘付いてしまうかもしれない。

「放送の時間も近いのね……ったく、この状態で放送とかできるわけないわ」

ふと時刻を確認すると、もうそろそろ放送の時間に近づいている事に気が付いた。
あまり悠長な事も言っていられない。
早期にこの浅倉による茶番を終わらせなければデスゲームの存続が危うい。

「背に腹は代えられないわね」

そしてデスゲームの主催者は静かに決断を下した。


     ▼     ▼     ▼

214 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:43:24 ID:tbOWS/YE0


「喉が……渇く、血が……」

吸血鬼の眷族になったLの口から洩れる言葉はおよそいつもの彼とは思えないものだった。
今のLは最早聡明だった頃のLではない。
もうすでに喉の渇きを自覚してからどれほどの時間が経ったのか定かではない。
何にも増して身体の奥から湧き上がる吸血衝動を止めるべく必死だった。
だが天才的な頭脳を持つ探偵でも吸血衝動を止める術に心当たりがあるはずもなかった。
一つ分かっている事はこのまま外に出て人に会えばもう自分を抑える事は出来ないという事だけ。
だからLは必死に自分を抑えて地上本部内に身を留めているのだ。
あるいは怪我による出血多量でなければこの事態を回避できたのだろうが、そんな事を考えても詮無き事だ。
さすがにL一人でどうにかできる事ではない。

「……どんな天才でも一人では、世界を変えられません……ですか」

それは確か『救うべき人のそばにいられるように』と願って名付けた少年に言った言葉だ。
そして確かあの時はこう続けたはずだ。

――しかしそれこそ素晴らしいところなんですね。


     ▼     ▼     ▼

215 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:44:36 ID:tbOWS/YE0


「このっ! なんでっ! 当たらっ! ないのよっ!」
「はぁ……イライラさせんなよ……」

つかさの死の元凶である浅倉の呆れ具合はひどく癇に障るものだった。
だが妹の仇を前にして姉の柊かがみの攻撃は全く掠る気配すらなかった。
怒りや憎しみは往々として冷静な判断力を削ぎ、元々のかがみのスペックと相まって攻撃は単調でしかなかった。
しかも蹴りが主体であるはずのキックホッパーでパンチを主体で戦っているのだからなおさらだ。
第一に冷静さを失ったかがみ自身は先程のパンチホッパーではなくキックホッパーに変身している事に気付いていない。
これに関してはホッパーの特性を理解していない今のかがみにしてみれば仕方のない事だが。

「お膳立てしてやって結局その程度か」
「ふざけないでよ! それなら――」

不遜な言動による明らかな挑発。
だが今のかがみは当然のように乗ってしまった。
そして一気に勝負を付けようと意気込んでクロックアップを発動させようとしたが――。

――Clock up――
――CONFINE VENT――

――無効化の効果を持つ浅倉のカードがそれを阻んだ。
実のところ浅倉はかがみが何をするのかはっきりとは知らない。
だが事前にクロックアップでエネルを吹き飛ばす場面を見た事、挑発に乗って勝負を付けようと意気込む様子。
その二つの要素から判断して先手を打ってコンファインベントを使ったまでの事だ。
浅倉に宿る戦闘の勘恐るべし。

「え、な、なんでよ!?」

だが当然ながらかがみがその事実を知る事はなく、ただ狼狽える事しかできなかった。
それは浅倉に失望を抱かせるには十分すぎる反応だった。

「まだまだ俺を楽しませてくれる奴はいるんだ。貴様の相手は終わりだ」

そして浅倉はデッキから1枚のカードを取り出しベノバイザーに装填して。

――STRANGE VENT――

別の姿を変えたカードを一度取り出して再び装填する。
それは先程かがみが行おうとしていた行動。

――ACCELE VENT――

超加速のカード。
当然未だに混乱しているかがみにまともな対応ができるはずもなく。

「グハ――ッ!!」

ただ反射的に拾ったデイパックを盾にするしかできなかった。
だがそれもあっさりと切り裂かれて盾にすらならずに何の役にも立たなかった。
超加速で走るベノサーベルの斬撃の威力は計り知れない。
デイパックを間に挟んでも尚衰えない一撃はヒヒイロノカネの装甲に一筋の大きな傷痕を付けた。
自分の呻き声とビルの壁が崩れる音を聞きながらかがみは背後のビルへと吹き飛ばされた。
その衝撃はキックホッパーへの変身を強制解除させる程のものだった。

「――ッ……ガァ……あ、あいつだけは……」

既にかがみの身体は先程の斬撃で限界に近かった。
いくら仮面ライダーに変身したからといって中身は普通の女子高校生。
だがそんな事は関係ない。
つかさを残酷に殺した浅倉を殺すまで止まる気はなかった。

「そうよ、私には、もう――え、これって……」

その時、立ち上がろうと床に手を付けたかがみは手元にデイパックが転がっているのに気づいた。
そして中から零れ出た瓶がかがみの目を引いた。


     ▼     ▼     ▼

216 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:45:17 ID:tbOWS/YE0


「どうした、貴様らの実力はその程度なのか?」

キングは今しがた吹き飛ばした同じくアンデッドであるギラファアンデッドの行方を見守っていた。
彼方に聳えるビルにまた一つ穴が空いてしまった。
もうこれでいくつになるだろうか。
そんな疑問を抱くはずもなくゼロを演じるキングは相変わらず悦に入っていた。
何も分からないままに手探り状態で実力を発揮できないギラファとジョーカー。
それを体よくあしらう自身に大いに満足していた。

本来ならキング一人でギラファとジョーカーの二人を相手にするのはさすがに難しいものがある。
だがそれはお互いに万全の状態である事が前提だ。
人は未知のものに怯えると云うが、それは万物に通じるものがある。
相手の正体が分からなければどういう対処が適切か判断できず、結果それは迷いとして行動を鈍らせる。
金居ことギラファアンデッドはまさにその状態だ。
そのギラファも何かに気付いたのか、大きなダメージは受けないように立ち回っていた。
それに対してジョーカーはゼロを演じるキングがアンデッドであるとジョーカーの勘で悟っている。
だがここでもキングは巧妙だった。
ジョーカーは元々アンデッドを殺す存在。
当然ギラファアンデッドも例外ではない。
キングは戦っている最中にギラファとジョーカーが争う形に誘導して共倒れに仕向けていた。

(それにしても調子が良いね、今なら何でもできそうな気がするよ! ヤベッ、これ楽しすぎるって!!)


     ▼     ▼     ▼

217 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:47:12 ID:tbOWS/YE0


(……奇妙だな)

アレックスは何発目かのブリューナクの槍を放ちながら考えていた。
荷電粒子の光に貫かれたビルが倒壊しているが、その影から見知った人影が飛び出してくるのが見えた。
どうやら肝心のキース・レッドには避けられたらしい。
もうこれでいくつビルが倒壊しただろうか。

(そうだ、俺はもう何度もARMSを使用しているのに――)

おそらくキース・レッドも同じ事を考えているのだろう。

(――以前よりも疲れない。それに気のせいか身体が軽い)

きっかけはふとした疑問だった。
お互いこれが最期とばかりにARMSを駆使して戦っている。
だが今回ばかりは何かが違った。
デスゲーム開始から感じていた身体の鈍さや疲れが軽くなっている気がする。
これまでアレックスは自身の不調はプレシアによる制限だと考えていた。
そしてその元凶は自身を戒める首輪だと。

だがこれではまるで――。

(――もしや、力の制限の元凶は首輪ではないのか!?)

自分と同じように探りを多分に交えた失敗作を横目にアレックスは思案を巡らせていた。


     ▼     ▼     ▼

218 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:48:07 ID:tbOWS/YE0


「なのはママを返せ! 返せ! 返せ! 返せ! 返せ! 返せ! 返せ! 返せ! 返せ! 返せぇぇえええ!!!」
「くっ……!!」

天道とヴィヴィオの死闘もまた熾烈を極めていた。
かたや天の道を往き総てを司る仮面ライダー。
かたや古代ベルカ時代の最強と謳われた聖王。
その戦闘が穏便であるはずがない。
だがその戦闘はヴィヴィオが猛攻を仕掛け、カブトが防ぐという一方的なものだった。
聖王の力に目覚めたヴィヴィオが繰り出す魔力を帯びた打撃のラッシュは一発一発の威力は相当なものだ。
だがそれをカブトはただ避けて、時にはクロックアップで距離を空けて、極力ヴィヴィオに攻撃を加えないように対応していた。

(金髪にオッドアイ、そして高町なのはを『ママ』と呼ぶ少女。やはりこいつは……)

天道にはその人物に一人心当たりがあった。
ヴィヴィオ。
高町なのはが保護したいと言っていた女の子だが、なのはの話によればヴィヴィオは幼い子供のはず。
どう見ても年齢が合わない。

「貴様ぁぁぁ、なのはママを……返せぇぇぇ……」
「俺の名前は貴様ではない。天の道を往き総てを司る男、天道総司。お前の名前は?」
「……ヴィヴィオ」

戦闘の最中にできた空隙。
お互い距離を置いて次のステップに進むためのチャージの時。
そこで聞いた答えは半ば天道の予想したものだった。

「やはりそうか、いいかよく聞け。高町なのはは――」
「うるさぁぁぁあああぃぃぃぃぃいいいいい!!!!!」
「……駄々っ子め」

だが悠長に説得もしていられない。
一番厄介なのは常に展開されている虹色のオーラ。
牽制のつもりで投擲したスティンガーがあっさり破壊されたところからかなり高エネルギーのバリアである事が分かる。
しかも浅倉に投げ飛ばされた時に負った傷がここにきてじわじわと天道の体力を奪っている。
今こうしている間も特に頭部に負った傷からの流血で視界が霞んでくる。
時間が経てばますます不利になる。
この後には事前に抜いておいた『SEAL-封印-』と『CONTRACT-契約-』で王蛇のミラーモンスターに対処しなければいけないというのに。

「これでぇぇぇえええええ!!!!!」

他の事に気を取られた一瞬の隙を突いてヴィヴィオは勝負を付けに来た。
セイクリッドクラスター。
一つの塊にして撃ち出した魔力弾が天道の付近で爆散してショットガンの如く縦横無尽に襲いかかる。

「チッ、プットオン!」
――Put On――

それに対して天道が取った行動はライダーフォームからマスクドフォームへと戻るプットオン。
大抵の攻撃を避けるだけならクロックアップで十分だ。
だが今回のような範囲攻撃の場合、クロックアップしても避ける事は出来ずにむしろ自ら突っ込んでダメージを倍加させてしまう。
だからプットオンでマスクドアーマーを再構築して防御力を上げて凌ごうという考えだ。

「終わりだ――ッ!!」

だがヴィヴィオの攻撃はそれで終わりではなかった。
セイクリッドクラスターが降り注ぐ中、ヴィヴィオは追撃を仕掛けてきた。
プラズマアーム。
電撃を帯びた一撃がカブトを吹っ飛ばした。

「ぐ、ぉ」

頑強なヒヒイロノカネの装甲しかも蛹を模したマスクドフォームにヒビが走っている事が一撃の重さを物語っていた。
もしもライダーフォームなら防げたかどうか分からない。

「まだま――ガァ――ッ……!?」

だがそれでも傷ついた身体には負担が大きかったらしい。
既に頭部からの出血は致命的なものにまで達しようとしていた。
だが意識を保とうとするが、その努力は虚しく潰える事になる。

「く……っ……ぁ……」

天道に近くにあった中身が半分ほど減った瓶の入ったデイパックを見つけたところで意識を手放してしまった。

219 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:48:57 ID:tbOWS/YE0


     ▼     ▼     ▼


「さてと、次はあいつだな」

キックホッパーを倒して次なる獲物を求める浅倉の目に映るのはジェノサイダー・アレンジと対峙している黄金犬の主、神エネル。
当然かがみとは違って存分に楽しめる事は確実だ。

「それならこっちも相応の姿でやらせてもらうぜ」

浅倉の手がデッキに伸びて自然と1枚のカードを抜き去る。
そのカードが司る力は『強化』、属性は『烈火』――神崎士郎が特別に作った3種のカードの1つ。
そのカードを手にした瞬間、左手の杖型召喚機・牙召杖ベノバイザーはコブラの顔を模した銃型のベノバイザーツバイへと姿を変えた。

――SURVIVE――

そして新たな召喚機にサバイブのカードを挿入すると、王蛇の身体は炎に包まれて、姿を変えていった。
王蛇の顔はより残虐さを増し、肩は後ろへと大きく張り出し、鋭利な棘を見せつけている。
さらに腹部に現れたベノスネーカーを模した恐ろしげな貌がこれから向かう戦場を睨みつけていた。
視線を戻してみればエネルは自身が操る雷治金による大型犬像と戦うジェノサイダー・アレンジに苦戦していた。
先程までは両者共に五分五分という形で一歩も引かなかったが、サバイブの影響でさらに禍々しい姿に強化されたジェノサイダーにおされ始めていた。
ここからでも原因が分からずに焦るエネルの顔がチラチラと見える。

「分からないんなら教えてやろうか、景気付けだ! 受け取りな!」

――FINAL VENT――

王蛇サバイブがカードをベイトインさせると、今まで黄金犬と組み合っていたジェノサイダー・Aは距離を作って主を待った。
その主たる王蛇サバイブは双帝の背を一気に駆け上がり、黄金犬を遥か上に飛び上がり、エネルを見下ろしていた。
次の瞬間、元ドラグレッダーの頭部から火炎が、元ベノスネーカーの頭部から毒液が、それぞれ吐き出された。
王蛇サバイブは急降下しながら、右足に火炎を、左足に毒液を巻き付けてエネルに垂直蹴りを浴びせようとする。
エネルも当然対応しようとした。
四肢のうち両手を黄金犬から離してエール・トールを王蛇サバイブ目がけて放ったのだ。

だがエネルは知らない。
このファイナルベント『ストームスディ』の恐ろしさはこの後に待ち構えている事に。
蹴りを受け止めれば最期、その衝撃で解放された火炎と毒液は大規模な粉砕と灼熱と溶解が合わさった地獄の渦を発生させる。
さらにジェノサイダー・Aの胸部に全てを飲み込むブラックホールが姿を現して、舞い上がった一切合財を無に帰すのだ。

この技が放たれたら最期、逃れる術などあるはずがない。

(ハハハ、やっぱりここは祭りの会場だな……)

220 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:50:16 ID:tbOWS/YE0


     ▼     ▼     ▼


「……もう数えるのも億劫だな」

そう呟いたアーカードは何人目かのオーディンを屠っていた。
腹から背に突き抜ける貫手が変身の解けた量産型フェイトに死を与えている。
だが量産型フェイト一人死んだところで他のオーディンに大した変化はない。
なぜならオーディンに変身した時点で量産型フェイトの人格は既にない。
そこにあるのはオーディンのカードデッキに入力された人格を元に動く人形に過ぎない。
主であるプレシア及びリニスの命令を聞く事はあっても、それ以外の出来事に心を動かされる事はない。

「つまらんな」

確かにオーディンは強いが、無敵というわけではない。
実際に他の仮面ライダーに倒された事もある。
その原因が今まさに量産型フェイトがアーカードに殺されている理由である。
すなわちバトル経験の不足。
それがオーディンの唯一にして無二の弱点だ。

(このような“空っぽのブリキの兵隊”で本気で私を止められると考えたのか? 興醒めだ――ん?)

あれだけの大軍を相手にしていて注意が逸れたが、いつのまにかリニスの姿が見当たらない。
だが姿を消して奇襲を仕掛けるなら、それはそれで構わない。
逆に返り討ちにしてやろうという気になる。

だがその直後、オーディン達の動きに変化があった。

――ADVENT――

「ほう……これは……」

――ADVENT――――ADVENT――
――ADVENT――――ADVENT――

「いやはや、なんとも……」

――ADVENT――――ADVENT――――ADVENT――――ADVENT――
――ADVENT――――ADVENT――――ADVENT――――ADVENT――
――ADVENT――――ADVENT――――ADVENT――――ADVENT――
――ADVENT――――ADVENT――――ADVENT――――ADVENT――

「……荘厳な光景だな」

不死鳥ゴルトフェニックス。
生き残っているオーディン全てが呼び出したその群れは輝いていた。
そして不死鳥を背に合体したオーディンはまさに黄金の天使だった。

『GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO―――――!!!!!』


     ▼     ▼     ▼

221 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:51:26 ID:tbOWS/YE0


不死鳥が天を舞う中、エネルはただ目の前に転がる物体に視線を向けていた。
既に黄金犬の姿はない。
視線を移動させると近くにそのなれの果てである残骸が異臭を放って広がっている様子が映る。
それもジェノサイダー・Aがいなくなって雷治金を解除したから当然だ。
エネルはもう一度目の前に転がる物体に視線を向けた。


それは首と胴体が分かれた浅倉威の死体だった。


エネルは首輪の爆破で死亡した浅倉威の死体を見ながらなぜこうなったのか考えていた。
だがいくら考えても答えは一つしか浮かばなかった。
そしてエネルが浅倉の死体からカードデッキを奪おうとした瞬間。

『待ちなさい。カードデッキを奪う事は許さないわ』
「プレシアか」

恐れ多くも神に枷を嵌めた愚か者の声がエネルの行動を妨げた。
だがそれで『はいそうですか』とエネルが引き下がるわけなかった。
神が他人の願いをそう易々と聞く事はまずあり得ない。

「神に指図するとは良い度胸だな」
『もちろんただとは言わないわ。ヴァッシュ・ザ・スタンピードについての情報で手を打たない?』

だが神が願いを聞く場合がある。
生贄や作物を備える場合だ。
そしてその情報はエネルにとって供物となるのに十分であった。


     ▼     ▼     ▼

222 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:52:45 ID:tbOWS/YE0


「ああ、承知した。ここに置いておけばいいんだな」

プレシアからの申し出を聞いた時、金居は好機だと思った。
すでに不死鳥の大軍がミラーワールドに連れて来られた参加者を元の会場に戻すべく奔走している。
その真っ只中で金居だけが不死鳥に避けられている事に疑問を抱いたが、それも首輪から発せられるプレシアからの要求で納得した。
たしかに今回のようなカードデッキの使用法はなかなか有効だ。
だが主催者に目を付けられてまで実行しようとは金居は考えなかった。

『随分と素直なのね。もう一人は最初渋っていたんだけど』
「その口振りだと最終的には納得したのだろう。それに代価として情報をくれるとか。俺にはそっちの方がいい。
 俺はこのデスゲームで優勝したいと思っている、それがあんたの思惑だとしても構わないさ。
 むしろ利害が一致すれば手先になってもいいぐらいだ」

金居の最終目的はプレシアの殺害。
そのために大前提が殺し合いを円滑に進めるスタンスを見せてプレシアの信用を得る事だ。
それが思いもかけないところで叶うのだ。
金居に異論はなかった。

『殊勝な心がけね。いいわ、これからもデスゲームを円滑に進める事を期待するわ』
「了解した」
『それで代価の情報だけど、やっぱりジョーカーかキングのものでいいかしら?』
「いや、敢えて希望が通るならゼロの正体だけ教えてくれるだけで構わない。名簿に載っていない名前だが、あれはあんた達の側の人物なのか?」

いまさら手の内を知っているジョーカーやキングの情報を聞く事にあまり意味はない。
それよりもここは再戦に備えて正体不明のゼロについての情報を手に入れたかった。
だが一応ゼロの正体に目星は付いているが。

『そんな事でいいの。いいわ、教えてあげる。あれの正体はキングよ、仮面と衣装で正体を誤魔化しているのよ。
 聡明なあなたならもうカラクリにも気づいたでしょう』
「そうか、念動力と時間操作か」
『時間操作? ああ、元の世界だとそんな事も出来たのだったわね』
「ん? ほう、なるほど。つまりはそういう事か。貴重な情報感謝します」
『さて何の事かしら』

これは故意か偶然か思いもかけない収穫だった。
ゼロの正体がキングと断定しただけでなく、今のキングは時間操作ができないという事実も判明した。
まだプレシアの嘘という可能性もあるが、自ら協力すると申し出た参加者の不快を買うような行動はしないはず。
つまりプレシアの発言は真実であると判断できた。

(……良い流れだな)

プレシアに感謝しながら金居はほくそ笑んでいた。


     ▼     ▼     ▼

223 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:53:52 ID:tbOWS/YE0


「エネルさん、いったいどこに行っちゃたんだろう」

ありとあらゆるゴミが集約されるゴミ処理場。
だがその場所に似つかわしくない可愛らしい人物が一人事務室で心配そうな表情を浮かべていた。
新庄・運切。
特殊な身体を持つ新庄の悩みは目の前に迫った身体が変化する時刻に対するものではない。
もちろん変化に不安がないというのは嘘だが、今新庄の心中にあるのは先程まで同行していたエネルがいきなり失踪した事だ。
エネルはおそらくこの会場内でも五指に入るほどの非常に危険な人物である。
だからこそギリギリの嘘を付いてまで新庄自ら暴虐な神の枷となったのだ。
無論ヴァッシュの生きる意味となる事もあったが。
そのエネルが少し目を離した隙に紅く禍々しいレイピアのみ残して居なくなっていた。
すぐに周辺を探してみたが、何も手がかりは得られなかった。
文字通りエネルは影も形も綺麗さっぱり新庄の前から消えてしまったのだ。

「どうしよう……もしかして僕を放っておいて誰かを殺しに行ったんじゃ……」

だがエネルはヴァッシュに対して並々ならぬ恐怖を抱いていたはずだ。
そのエネルがヴァッシュとの約束を反故にするとは到底思えない。
もしもここで自分が死ねばすぐさまヴァッシュが飛んできてエネルに制裁を加えるとエネル自身は信じこんでいる。
実際は嘘だが、今までばれる気配は全く無かったし、新庄自身も嘘が露見するような言動はしなかった。

「ここで考え込んでいても仕方ないよね。放送までもう少し時間あるから、ここの探索でも――ッ!?」

突如身体に起こる変化。
白い霧のようなものが新庄の身体を包み始めていた。
男の身体である『切』から女の身体である『運』に変わる予兆だ。

「くぅ……んぁ……」

もうこの変化にも慣れてきた。
いつものように身体が変わっていく感じ。
そして胸を貫く――痛み。

「――え?」

それはいつもと違う感触だった。
だがそれは確かに痛みだった。
一瞬新庄の頭は真っ白になった。
何が起こったのか理解できなかったからだ。
しかし認めなくてはならない。
そこに痛みは確かにある。

「うそ、なんで……!?」

胸から背に貫通した紅いレイピア。
それが痛みの正体。
机の上に置いていたはずの紅いレイピアは新庄の血を吸ったかのように禍々しいまでにより一層深紅に染まっていた。

そして恐る恐る振り返ると剣を突き立てた張本人がいた。

「エ、エネル、さん……なんで……」

いくら探しても影一つなかったはずの神がそこに降臨していた。

224 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:54:44 ID:tbOWS/YE0

「ボクが死んだらヴァッシュさんが来るんだよ、それなのに――」
「そうだな」

その時のエネルの顔は酷く歪んでいた。

「――そういう嘘を付いて我を騙していたんだな。この痴れ者めが!!!」

その言葉で新庄は全て理解した。
あれだけヴァッシュを恐れていたエネルがいとも簡単に態度を翻した理由。
それは単純だった。
『ヴァッシュには「参加者の現在地と生死を把握する能力」がある』という嘘がばれたのだ。

「がはっ」

無造作に抜かれた剣と共に命を繋ぎ止める紅い血がごっそりと零れ出る。
すぐに全身から力が抜けて立っているだけで精一杯になる。
だがただ黙って殺されはしない。

「……貴方は間違っているよ」
「ほう……」
「そんな風に間違っている人に、ボクは、負け――」
「目障りだ」

一閃。
雷撃を帯びた袈裟斬りが刹那の間に放たれた。
それは構えていたストームレイダーを真っ二つにして、新庄の身体に新たな紅い線を引いていた。
そこからまた紅い血が噴き出していた。
もう立っている事は出来ず、重くなった身体は床に倒れ伏した。
倒れる間際にいつも自分を励ましてくれたストームレイダーがエネルの電撃で破壊されるのが見えた。
偶然だがその最期は同じ銃の形を取るインテリジェントデバイス・クロスミラージュと酷似したものだった。
同じ下手人に、同じように致命的なダメージを負わされて、同じように止めの電撃で破壊された。
そしてもう二度と動く事はない。

(ストームレイダーも、ごめん……)

もう神を縛る鎖はなくなった。

「さあ、ヴァッシュよ。私は逃げも隠れもしない。次に会った時が、貴様の最期だ」
(ヴァッシュさん、ごめん。ボクの分まで、生きて……)

もしかしたらこれは嘘を付いて騙してきた自分への罰だろうか。
新庄は死に際そのような事を考えていた。
そういえばここに来る直前も一人の少年に嘘を付くところだった。
それがこうして騙さずに済む事は果たして良い事だったのだろうか。

(……佐山君)

神の証である裁きの雷をその身に受けながら新庄の脳裏に浮かんだ最期の映像はここへ来る直前に別れたあの悪役の少年の顔だった。


【1日目 夕方】
【現在地 C-4 ゴミ処理場】
【エネル@小話メドレー】
【状態】疲労(中)、胸に大きな打撲痕、全身に浅い切傷、『死』に対する恐怖、激怒
【装備】ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ランダム支給品0〜2
【思考】
 基本:主催含めて皆殺し。この世界を支配する。
 1.もう油断しない。
 2.ヴァッシュに復讐したい。
【備考】
※黒い鎧の戦士(=相川始)、はやてと女2人(=シャマルとクアットロ)を殺したと思っています。
※なのは(StS)の事はうろ覚えです。
※なのは、フェイト、はやてがそれぞれ2人ずついる事に気付いていません。
※背中の太鼓を2つ失い、雷龍(ジャムブウル)を使えなくなりました。


     ▼     ▼     ▼

225 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:55:47 ID:tbOWS/YE0


「とりあえずは大丈夫みたいだな」
「いやまだ安心できねえぞ」

金居がミラーモンスターに連れ去られてから早数十分。
残されたヴィータはアギトと共に瓦礫と化した市街地を一層の警戒を払いながら移動していた。
あれから何も起きてないが用心するに越した事はない。
ほとんど廃墟と化したせいで至る所に鏡やそれに類する物が散らばっている。
いつミラーモンスターが襲ってくるか分かったものではない。

「くそっ! はやてだけじゃなくて金居まで――」
「俺がどうした?」
「「金居?」」

後ろから声を掛けられて振り返ると、そこにはミラーワールドに連れ去られたはずの金居がいた。
少し服装が乱れて疲れているみたいだが、大きな怪我はなかった。

「おい、お前大丈夫だったのか?」
「いろいろあったが、この通りだ」
「そうか。でもいったい何があったんだよ?」
「ああ、今から話すさ」

ヴィータの質問に答える金居の顔には笑みが浮かんでいた。
当然ヴィータ達は生還できた喜びから来る笑みだと思った。
だがその笑みの本当の意味にヴィータ達が気づく事はなかった。

226 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:56:28 ID:tbOWS/YE0


【1日目 夕方】
【現在地 E-5 市街地北部】

【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】疲労小、腹部に軽い痛み、ゼロ(キング)への警戒、1時間変身不可(アンデッド)
【装備】なし
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.とりあえずヴィータに何があったか説明しつつ今後の事について話し合う。
 2.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 3.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
 4.上手く状況を動かして隙を見てアーカードを殺害する。
 5.同行者の隙を見てUSBメモリの内容を確認する。
 6.工場に向かい、首輪を解除する手がかりを探す振りをする。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※最終目的はバトルファイトの優勝なのでジョーカーやキングも封印したいと考えています
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※ジョーカーがインテグラと組んでいた場合、アーカードを止められる可能性があると考えています。
※自身の制限に気付いています。変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。

【ヴィータ@魔法少女リリカルなのはA's】
【状態】疲労小、奇襲に対する危機感大、セフィロスとアーカードへの恐怖
【装備】ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で数時間使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、セフィロスのデイパック(支給品一式)
【思考】
 基本:はやての元へ帰る。脱出するために当面ははやて(StS)と協力する。
 1.はやて(StS)は様子見、当分同行するが不審点があれば戦闘も辞さない。
 2.とりあえず金居から話を聞く。
 3.ヴィヴィオ、ミライ、ゼスト、ルーテシアを探す。
 4.アーカード、アンジール、紫髪の少女(かがみ)は殺す。
 5.グラーフアイゼンはどこにあるんだ……?
【備考】
※ヘルメスドライブの使用者として登録されています。
※セフィロスの遭遇以前の動向をある程度把握しています。
※今のところ信用できるのはミライ、なのは、フェイト、ユーノ、ルーテシア、ゼストのみ。
※はやて(StS)、甲虫の怪人(キング)、アーカード、アレックス、紫髪の少女(かがみ)、アンジール、セフィロスを警戒しています。
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
 基本:ゼスト&ルーテシアと合流して脱出する。
 1.とりあえずヴィータやはやてと協力。
 2.この状況ってやべぇんじゃねぇの!?
 3.ゼストとルーテシアが自分の知る2人か疑問。
 4.金居の事を非常に警戒しています。
【備考】
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。ただし具体的には解っていないので現状誰かに話す気はありません。
※デイパックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています。
※ヴィータがはやてを『偽者』とする事に否定的です。


     ▼     ▼     ▼

227 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:57:27 ID:tbOWS/YE0


「俺は、いったい――ッ!?」

始が我に返った時には全ては終わっていた。
周りを見渡せばそこは自分が元いた場所。
浅倉との戦闘で崩壊した市街地の風景が目に痛い。
なぜか拾い直した記憶のないデイパックがあったが、とりあえずベルトが切れた方を捨てて一つにまとめておいた。
そして不意に怒りに身を任せてジョーカーとして戦った記憶が蘇ってくる。
おそらく今は制限のおかげでジョーカーへの変身が解けているのだろう。
だが制限はいつまでも続かない。
今度またジョーカーの欲求が強くなれば――。

「――俺は……」

――正気を保つ自信などありはしない。


【1日目 夕方】
【現在地 F-7】
【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】疲労大、背中がギンガの血で濡れている、言葉に出来ない感情、一時間変身不可(ジョーカー)
【装備】ラウズカード(ハートのA〜10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】ギンガのデイパック、支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
【思考】
 基本:皆殺し?
 1.生きる為に戦う?
 2.アンデッドの反応があった場所、もしくは他の施設に向かう。
 3.アンデッド、エネル、赤いコートの男(=アーカード)を優先的に殺す。
 4.アーカードに録音機を渡す?
 5.どこかにあるのならハートのJ、Q、Kが欲しい。
 6.ギンガの言っていたスバルや他の4人(なのは、フェイト、はやて、キャロ)が少し気になる。彼女達に会ったら……?
 7.ギンガの死をこのまま無駄に終わらせたくはない。
 8.浅倉が再び戦いを挑んでくるなら受けて立つ。
【備考】
※ジョーカー化の欲求に抗っています。
※首輪の解除は不可能と考えています。
※「他のアンデットが封印されると、自分はバトルファイト勝利者となるのではないか」と考えています。
※特殊能力により、アンデットが怪人体で戦闘するとおおよその位置が察知できます。
※エネルとの遭遇からこのバトルファイトに疑念を抱き始めました。
※赤いコートの男(アーカード)がギンガを殺したと思っています。
※主要施設のメールアドレスを把握しました(図書館以外のアドレスがどの場所のものかは不明)。
※相川始のデイバック(ベルト破損)は放置しました。


     ▼     ▼     ▼

228 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:58:28 ID:tbOWS/YE0


「天道、総司……」

それは愛する母を奪った者の名前。

「これは……」

ふと床に目をやるといつのまにかなくなっていたデイパックがあった。
そしてその口からウサギのぬいぐるみが顔を覗かせていた。
それはなのはママとの思い出のぬいぐるみ。

「なのはママ……待っていてね……」

天道がなのはママの居場所を知っている事は確かだ。
素直に教えないようだから今度こそ倒してお話を聞かせてもらう。
母を求める聖王の決意は固かった。


【1日目 夕方】
【現在地 I-5 聖王のゆりかご内の通路】
【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労小、魔力消費小、聖王モード、洗脳による怒り極大
【装備】レリック(刻印ナンバー不明/融合中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、憑神鎌(スケィス)@.hack//Lightning
【道具】支給品一式、フェルの衣装、クラールヴィント@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レークイヴェムゼンゼ@なのは×終わクロ、ヴィヴィオのぬいぐるみ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:なのはママとフェイトママの敵を皆殺しにする。
 1.天道総司を倒してなのはママを助ける。
 2.なのはママとフェイトママを殺した人は優先的に殺す。
 3.頃合を見て、再びゆりかごを動かすために戻ってくる。
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています(一応まだ信頼しています。殴ったのは何らかの理由があるからだと考えています)。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。キングは天道総司を助ける善人だと考えています。
※クラールヴィントは浅倉を警戒しています。
※ヴィヴィオに適合しないレリックが融合しています。弊害の有無・内容は後続の書き手さんにお任せします。


     ▼     ▼     ▼

229 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 17:59:26 ID:tbOWS/YE0


「天道さん! しっかりして下さい、天道さん!!」

夕日が差し込むスーパーの事務室になのはの悲痛の叫びが木霊する。
だが部屋の中に赤が目に付くのは決して夕陽のせいばかりではない。

(いったい向こうで何が!?)

何もかも分からない事だらけだった。
いきなりコップから蛇が顔をのぞかせてその毒々しい舌で天道を引きずり込んだ。
そして何とか追いかけようと四苦八苦しているうちに天道がいきなり窓から飛び出してきた。
その時窓の向こうで親友の姿を見た気がするが、戻ってきた天道の姿でそれどころではなかった。
天道は頭から血を流して息も絶え絶えの状態だった。
すぐに回復魔法を掛けようとしたが思うように捗らない。
まだほとんど魔力が回復していないのだから当然だ。
なんとか起死回生の策はないかと辺りを見渡したなのはの目に留まったのは天道が手にしていたデイパック。
それはあらかじめ金居がすぐ使えるように分けておいたものだった。
そこからある支給品が零れ落ちていた。
いにしえの秘薬。
説明書が正しければ万事解決だが、さすがに話が上手すぎるので逆に怪しく思える。

(天道さんは私を庇って怪我をしたんだ。それなら今度は私が身を張って……)

なのはが選んだ方法は毒見。
だが一応最初は少しずつ口に含むように飲んでみたところ、すぐに杞憂だと分かった。
身体に浸透していくにつれて魔力や体力が満ちていき、身体の不調も解消されていくのを感じたからだ。
これなら大丈夫だと判断して天道にも服用させたところ、効果は覿面。
程なく天道の傷は癒えて、すぐに起き上がれるようになった。
そして起き上がれるようになった天道が開口一番に告げた事は――。

「高町、さっそくだが伝える事がある」
「なんですか?」
「ヴィヴィオに会った」

――ずっと探してきた娘の消息だった。

230 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 18:00:07 ID:tbOWS/YE0


【1日目 夕方】
【現在地 D-2 スーパーの事務室】

【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】健康、驚愕、キングへの疑念と困惑
【装備】とがめの着物@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式(クロノ)
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。絶対にヴィヴィオを救出する。
 1.ヴィヴィオに会った!?
 2.極力全ての戦えない人を保護して仲間を集める。
 3.フェイトちゃんもはやてちゃんも……本当にゲームに乗ったの?
 4.早く騎士ゼストの誤解を解かないと……。
【備考】
※金居とキングを警戒しています。紫髪の少女(柊かがみ)を気にかけています。
※フェイトとはやて(StS)に僅かな疑念を持っています。きちんとお話して確認したいと考えています。

【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、悔恨
【装備】ライダーベルト(カブト)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、『SEAL-封印-』『CONTRACT-契約-』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸、弁慶のデイパック(支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER)
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.高町にヴィヴィオについて話す。
 2.天の道を往く者として、ゲームに反発する参加者達の未来を切り拓く。
 3.カードデッキとモンスターについて調べる必要がある。
 4.エネルを捜して、他の参加者に危害を加える前に止める。
 5.キングは信用できない。常に警戒し、見張っていたが……。
 6.カブトセクターを始めとする各ゼクターを取り戻す。
【備考】
※首輪に名前が書かれていると知りました。
※SEALのカードがある限り、ミラーモンスターは現実世界に居る天道総司を襲う事は出来ません。
※天道自身は“集団の仲間になった”のではなく、“集団を自分の仲間にした”感覚です。
※PT事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。

【チーム:スターズチーム】
【共通思考】
 基本:出来る限り全ての命を保護した上で、殺し合いから脱出する。
 1.これからどうするか?
 2.協力して首輪を解除、脱出の手がかりを探す。
 3.出来る限り戦えない全ての参加者を保護。
 4.工場に向かい首輪を解析する。
【備考】
※それぞれが違う世界から呼ばれたという事に気付きました。
※チーム内で、ある程度の共通見解が生まれました。
 友好的:なのは、(もう一人のなのは)、フェイト、(もう一人のフェイト)、(もう一人のはやて)、ユーノ、(クロノ)、(シグナム)、ヴィータ、シャマル、(ザフィーラ)、スバル、(ティアナ)、(エリオ)、キャロ、(ギンガ)、ヴィヴィオ、ペンウッド、天道、(弁慶)、ゼスト、(インテグラル)、C.C.、ルルーシュ、(カレン)、シャーリー
 敵対的:アーカード、(アンデルセン)、浅倉、相川始、エネル
 要注意:クアットロ、はやて、銀色の鬼?、金居、(矢車)、キング
 それ以外:チンク・(ディエチ)・ルーテシア、紫髪の女子高校生、ギルモン・アグモン


     ▼     ▼     ▼

231 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 18:00:58 ID:tbOWS/YE0


「浅倉ァァァ!!! あいつだけはァァァ、あいつだけはァァアアアアア!!!!!」
『おい、ご主人様。落ちつけよ。いったい何があったんだよ?』

バクラは状況がまるでつかめていなかった。
それもそのはずだ。
かがみが連れ去られた事でバクラが宿る千年リングはホテルのロビーに放置されていたのだから。
そして再びかがみが手にするまで誰の手にも渡る事なく沈黙していたのだ。

「浅倉が、浅倉が、つかさを、つかさを……」
『つかさ? 確かご主人様の双子の妹だな』
「つかさぁぁぁ……つかさぁぁああ……つかさああああああああ」
『(こりゃあ、時間がかかりそうだな。だが……)』

バクラは見抜いていた。
かがみの心に以前とは比べ物にならない程の負の感情が宿っている事に。
それはバクラにとっては何よりも好むものだった。


【1日目 夕方】
【現在地 F-9 ホテル1階ロビー】
【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】バリアジャケット、つかさの死への悲しみ、サイドポニー、自分以外の生物に対する激しい憎悪、極度の錯乱&やさぐれ、1時間変身不可(キックホッパー)
【装備】ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ホッパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです、ホテルの従業員の制服、ストラーダ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】エリオのデイパック、支給品一式、レヴァンティン(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:みんな死ねばいいのに……。
 1.浅倉威を最優先で殺す。
 2.他の参加者を皆殺しにして最後に自殺する。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※バリアジャケットのデザインは【●坂凛@某有名アダルトゲーム】の服装です。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
 基本:このデスゲームを思いっきり楽しんだ上で相棒の世界へ帰還する。
 1.何があったか聞き出す。
 2.当面はかがみをサポート及び誘導して優勝に導くつもりだが、場合によっては新しい宿主を捜す事も視野に入れる。
 3.万丈目に対して……?(恨んではいない)
 4.こなたに興味。
 5.可能ならばキャロを探したいが、自分の世界のキャロと同一人物かどうかは若干の疑問。仮にかがみが自分の世界のキャロと出会った時殺しそうになったら時間を稼いで憑依してどうにかする。
 6.メビウス(ヒビノ・ミライ)は万丈目と同じくこのデスゲームにおいては邪魔な存在。
 7.パラサイトマインドは使用できるのか? もしも出来るのならば……。
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません(少なくとも2時間以上必要である事は把握)。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました(もしも自分の知らないキャロなら殺す事に躊躇いはありません)。
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません(別に訂正する気はないようです)。


     ▼     ▼     ▼

232 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 18:03:20 ID:tbOWS/YE0


「また水を差されてしまったが、もう誰にも邪魔はさせん……」

地上本部前の惨状の中でキース・レッドは高揚していた。
一度目と二度目はミラーモンスターの介入で図らずも決着は付かなかった。
これで三度目。
今度こそ因縁に蹴りを付ける。
長年の願いが叶う時が刻一刻と近づく事に嬉しさを感じていた。

「ふん、ここにあったか」

先程の戦闘では探りが入ったとはいえ決定打が出なかった。
今の状態で膠着なら外部の道具できっかけを作るしかない。
そのためにジャッカルとカスールは回収しておきたかったが、それは早々に叶った。
だがあくまできっかけ、最期の止めは自らの手で付ける。

そして川で拾ったデイパックの中にあった予備弾の中から合うものを選んで弾を込めながら、ある推測を立てていた。
意外にもそれは同じころ、アレックスも考えていた事だった。

(こっちに戻ってからだと身体が少し重く感じる。やはり力の制限は首輪ではないのか? こういう事はクアットロに――ん?)

キース・レッドはそこで思考を中断した。
コツコツという足音と共に浮浪者のような人物が近付いてきたからだ。
首輪を付けている事から参加者である事は明白だ。
そしてどこか生気がなく不気味な雰囲気だった。

「死ね」

それをキース・レッドは何の躊躇いもなく一閃して殺した。
そこに何の感情もない。
ただ邪魔だった、ただそれだけだ。

だがその現場を見ていた者がいた。

「キース・レッド、貴様ァァァ!!!」
「その様子だと知り合いか、随分と丸くなったなァァァ!!!」

こうして二人は三度目の邂逅を果たした。

233 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 18:04:10 ID:tbOWS/YE0


【1日目 夕方】
【現在地 E-5 地上本部1階ロビー】

【キース・レッド@ARMSクロス『シルバー』】
【状態】健康、疲労(中)
【装備】ベガルタ@ARMSクロス『シルバー』、核鉄「サンライトハート改」(待機状態)@なのは×錬金、対化物戦闘用13mm拳銃ジャッカル(6/6)@NANOSING、.454カスール カスタムオートマチック(6/6)@NANOSING
【道具】支給品一式、ヴァッシュのコート@リリカルTRIGUNA's、首輪×2(優衣、なのは@A’s)、優衣とカレンとアンデルセンのデイパック(道具①と②と③)
【道具①】支給品一式、レリック(刻印ナンバーⅦ)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具②】支給品一式、ランダム支給品(元カレン:0〜2)
【道具③】支給品一式、各種弾薬(各30発ずつ/ジャッカルとカスール共に6発消費)、カートリッジ(残り13発)、レイトウ本マグロ@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、杖@ゲッターロボ昴
【思考】
 基本:キース・シルバー(アレックス)と戦い、自分の方が高みにある事を証明する。
 1.キース・シルバーと決着を付ける。
 2.できるだけ早く首輪を外したい。
【備考】
※今のキース・シルバーの名がアレックスだと知りましたが、アレックスと呼ぶ気はありません。
※神崎優衣の出身世界(仮面ライダーリリカル龍騎)について大まかな説明を聞きました。
※白刃の主をヴァッシュだと思っています。
※サンライトハート改は余程の事がない限り使う気はありません。
※ルーテシアの話の真偽についてはどうでもいいみたいです。
※特別な力の制限は首輪以外のもので行っていると考えています。

【アレックス@ARMSクロス『シルバー』】
【状態】疲労(中)、激しい怒り
【装備】なし
【道具】支給品一式、Lとザフィーラのデイパック(道具①と②)
【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3)
【思考】
 基本:自分の意思による闘争を行い、この殺し合いを管理局の勝利という形で終わらせる。
 1.キース・レッドと決着を付ける。
 2.決着が付いた後にキース・レッドに彼が所属する組織の事を尋問する。その後に首輪を破壊する。
 3.六課メンバーと合流する。
【備考】
※セフィロスはデスゲームに乗っていると思っています。
※はやて@仮面ライダーリリカル龍騎は管理局員であり、セフィロスに騙されて一緒にいると思っています。
※キース・レッド、管理局員以外の生死にはあまり興味がありません。
※参加者に配られた武器にはARMS殺しに似たプログラムが組み込まれていると思っています。
※殺し合いにキース・レッドやサイボーグのいた組織が関与していると思っています。
※他の参加者が平行世界から集められたという可能性を考慮に入れました。
※市街地東側に医療設備が偏っている事から、西側にプレシアにとって都合の悪いものがあるかもしれないと推測しています。
※特別な力の制限は首輪以外のもので行っていると考えています。


     ▼     ▼     ▼

234 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 18:06:30 ID:tbOWS/YE0


「おかえりなさい、リニス。カードデッキは?」
「はい、ここに」

リニスは返事をしながら主であるプレシア3つのカードデッキを差し出した。
王蛇、元々ベルデで今はブランク、タイガの複製。

「確かに。ご苦労様」
「え?」

リニスは耳を疑った。
あのプレシアが使い魔である自分に労いの言葉を掛けたのだ。
少し前は汚い死体扱いも同然だったのに明らかにおかしい。

「それとさっきは少し言いすぎたわ。こんな主だけど、これからもよろしくね」
「え、あ、はい」

そんな言葉を掛けられても素直に喜べず、申し訳ないが正直気味が悪かった。

「あの、プレシア。カードデッキを回収して良かったのですか? それと浅倉威をこちらで始末したりして……」
「背に腹は代えられないわ。デスゲームを円滑に進めるためにはこれしかなかったのよ」
「そう、ですか」

そう説明するプレシアの顔はどこか憂鬱気だった。
エネルに対しては『ヴァッシュには「参加者の現在地と生死を把握する能力」という能力はない』『エンジェルアームは過度に連発すると身体が持たない』の2つ。
金居に対しては『ゼロの正体はキングである』『キングはここでは時間操作は行えない』の2つ。
それぞれ2つの情報を与える事でカードデッキは回収しなければならなかった。
やはり苦渋の選択だったのだろう。

浅倉の祭りに巻き込まれた参加者は全員ゴルトフェニックスで元の会場に戻して、各自のデイパックもそれぞれの持ち主の元へ転移魔法で戻された。
ただし柊かがみには元々彼女が所持していたものが宛がわれた。
参加者に対してこの方法が取られなかったのは動いている物体だと一度にできないために手間が掛かるからだ。

「本来なら首輪を外す参加者が出た時点で手を出すのが最初だと思っていたのにちょっと予定外だったわ」
「これからどうなさるんですか?」
「計画に変更はないわ。今回のような直接制裁も数人までならなんとかできるわ」
「…………」

やはり中止はないのだと改めて思い知らされた。

235 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 18:07:54 ID:tbOWS/YE0

「ところであの偽者達は何人生き残ったのかしら?」
「まだ詳しくは分かりません。あなたの命令で魔法構築の礎になった者がかなりいましたから……」

実際アーカードとの戦闘で死亡した量産型フェイトの数は約30にも上った。
やはり慣れないカードデッキでの戦闘で経験の無さを突かれた事が死因の一つだ。
だが残りの死者はプレシアの命令によるものだ。
プレシアは浅倉の首輪を爆破すると同時にフェイトにある命令を下していた。
一つはゴルトフェニックスを使って参加者を強引に拉致して可能な限り元いた場所に返す事。
もう一つはミラーワールドと会場との自由な出入りを封じるための魔法を行使するために魔力の礎となれというもの。
元々この魔法はその特殊性ゆえに大規模な魔力を必要とするために急に使えるものではなかった。
だがそれをプレシアは量産型フェイトに魔力を限界まで放出させて補った。
当然そんな無茶をした者が無事でいるはずがなく過剰な魔力の放出に耐えられずに大多数のフェイトは最期には塵となった。
それをリニスはモニター越しに黙って見ているしかなかった。
それでも奇跡的に生き残った者もいたが、10には至らない事は確認していた。

「納得いかない、みたいな様子ね」
「いえ、私は……」
「生き残った偽者への対応はあなたに任せるわ。ただしまた用があるかもしれないから戦闘の教育はしっかりしておきなさい」
「はい、分かりました」

曲りなりとはいえ量産型フェイトがむざむざ死んでいく事はやるせない。
出来る限りの事はするつもりだ。
それが例えあのフェイト達を死地に追いやる事だとしても。
そこから生きて帰ってくる可能性は少しでも高めたかった。

「そういえばここに転移してきた時にセフィロスに何かあったと言っていたけど、詳しく聞かせなさい」
「はい、実は――」

それを最後にリニスは退室する事になった。

(やはりおかしい……)

部屋を出るなりリニスが思った事がそれだった。
リニスはプレシアの命で出撃するまでは散々な言われようだった。
それが帰還してみれば掌を返したような態度だ。
疑問に思って当然だ。
今までの経緯から考えて改心したとは思えない。
それに何より――。

(――精神リンクは切断されたまま。プレシア、あなたは何を考えているのです)

主の想いを窺う事も許されない身ゆえにリニスの表情が晴れる事はない。

(しかし逆にこれは良い機会かもしれません。この間に参加者の行動を再度調べ直して信頼できる者を一人でも多く探しましょう。
 リインフォースⅡやハイパーゼクターを託すに相応しい者を……)

そしてリニスは自分に宛がわれた部屋へと戻っていった――自分が為すべき事を為すために。


【1日目 夕方】
【現在地 ???】
【リニス@魔法少女リリカルなのは】
【状態】健康、困惑
【装備】複製バルデッシュ@オリジナル
【道具】?
【思考】
 基本:使い魔として創造主であるプレシアに従う。
 1.プレシアの命令に従いバトルロワイヤルを円滑に進める。
 2.プレシアにバトルロワイヤルを中止して欲しい
【備考】
※バトロワ会場の世界、主催のいる空間、ミラーワールドを行き来する空間転移魔法が使えます。


     ▼     ▼     ▼

236 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 18:09:02 ID:tbOWS/YE0


(我ながら寒い芝居。まあ、それもこれも、余興に過ぎないわ)

リニスの想像通り、プレシアの態度は善意からのものではない。
寧ろ悪意から来るものだ。
実はプレシアは前々からリニスがデスゲームを快く思っていない事は知っていた。
それでも傍に置いているのは直接自分を裏切るような行動を取れないような契約を結んでいるからだ。
ただこの契約内容で禁じているのは直接的な行動なので間接的なものに対する拘束は弱かった。
だから支給品にこちらに不利になるような物を混ぜる事が可能だった――ただしそれでも数個が限界だったようだが。

(でも甘いのよ。やるならもっと上手く誤魔化さないとダメね)

リニスが望みを託した支給品が何かはすぐに分かった。
だがそこで排除する事はしないで、その支給品にはあらかじめ仕掛けを施しておいた。
例えば自律行動を取るものには参加者と同じように違反行為を取れば作動する首輪を付けておいた。
なぜわざわざそのような手間を掛けたのか。
それはリニスの反応を楽しみためだ。
あの反抗的なところがある使い魔に余計な事をしたらどうなるか知らしめるには実に効果的な方法だ。
今から自分が託した物が実はプレシアの手の中で踊っていたと知ったリニスの顔を見るのが楽しみだ。

(この問題はこれでいいとして他にもいくつか気になる点はあるわね)

まずはセフィロスの件。
しかしこれは然程心配する事ではない。
プレシアは参加者を集める際に一応一通りの背後関係を調べていた。
当然ながらセフィロスに目を付けていたカオスなる存在についての知識も少々ならあった。
その知識と【案ずることはない。貴様達の戯れを邪魔するつもりはない】という去り際のセリフからして今後カオスがデスゲームに関わる可能性はゼロに等しい。
プレシアの知る限りこのデスゲームに関わっている人物でカオスと多少なりとも関係があるのはセフィロスだけのはず。
それゆえにこの件については深く考えなくていい。

次に天上院明日香が所持するジュエルシードと夜天の書。
この時までプレシアはミラーワールドに掛かりきりで天上院明日香と八神はやての戦闘に気付いていなかった。
二人の戦闘、及びジュエルシードと夜天の書の相乗効果の進行具合に気付いたのはついさっきだ。
しかし気づくのが遅れたからと言って別に慌てる事はない。
改めて調べてみればジュエルシードが夜天の書に及ぼしている影響は十分想定範囲内。
寧ろ現在の使用者である天上院明日香に元々魔力資質がないために予想の値よりかなり低い。
一応事前に保険としてジュエルシードにはある一定値以上の力は発揮できないように細工はしておいた。
そのため仮にジュエルシード付きの夜天の書が本来の持ち主である八神はやてに渡っても次元災害が起きる程の威力は出ない。
これに関してはデスゲームを開く際の懸念の最重要事項の一つだったので特に念入りに検査したので100%保障出来る。

だが不測の事態という事もある。
金居が新たな協力者として名乗りを上げてくれたが、どこまで信用していいのか甚だ疑問だ。
これも新たな懸念材料になり得る。

「やはり奥の手は用意しておくものね……そっちの調整はどこまで進んでいるのかしら?」

237 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 18:10:27 ID:tbOWS/YE0

いつのまにか正面の空間モニターに映す出された人物に対してプレシアが問いかけていた。
その人物は如何にも事務系を仕事に向いているという雰囲気を漂わせていた。
今もプレシアとの通信をしている最中も両手は作業を止める事はなかった。

『はい、約八割方調整完了しました。おそらく後2時間ほどで完全に調整は完了する予定です』
「分かったわ。引き続きガレアの冥王とその配下の屍兵器の調整は任せたわ、ウーノ」
『はい、了解しました』

そう戦闘機人ナンバーズの最古参が返答するのを確認してからプレシアは通信を切った。
イクスヴェリアとマリアージュに関しては一応大部分を任せてあるが、念のため根幹の部分のプログラムはこちらで設定してある。
万が一に備えて屍兵器が刃向かう心配はなくしておきたいからだ。
さらにこちらの戦力はまだ他にもある。
時の庭園で使用した傀儡兵、元々ルーテシアの使役していた召喚虫、そして――。

「――まあ、あの子を投入する事は来ないでしょうね」

プレシアは空間モニターに映る二人の参加者を見ながらデスゲームの進行を見守っていた。
一人はこちらから唯一コンタクトが取れる王の位を持つ不死のアンデッド、キング。
もう一人は唯一こちら側の人員であるリニスと接触した不死王と謳われた吸血鬼、アーカード。
純粋な力なら最強クラスである二人の肩書きはどこか似ていて――。

『なんだよ、もう終わりかよ』
『結局、闘争は取り上げられたか』

――ゴルトフェニックスの群れによって元の会場に戻された反応もどこか似ていた。

『さて、次は何をして楽しもうかな』
『さあ、次は誰が私を殺しに来る』

そしてどこか求めるものも似ていた。


【浅倉威@仮面ライダーリリカル龍騎  死亡確認】
【新庄・運切@なのは×終わクロ  死亡確認】
【L@L change the world after story  死亡確認】

238 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 18:12:09 ID:tbOWS/YE0


【1日目 夕方】

【現在地 D-5 橋付近】
【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、わくわく感、ゴジラへの若干の興味
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式(ペンウッド)、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ギルモンとアグモンとC.C.のデイパック(道具①②③)
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(榴弾5/照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、スティンガー×5@魔法少女リリカルなのはStrikerS、デュエルディスク@リリカル遊戯王GX、治療の神 ディアン・ケト(ディスクにセットした状態)@リリカル遊戯王GX
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
 1.浅倉と手を組んでこの戦いを更に引っ掻き回す。
 2.浅倉と天道の戦いを見られるようにする。
 3.『魔人ゼロ』を演じてみる(飽きたらやめる)。
 4.はやての挑戦に乗ってやる。
 5.浅倉とキャロに期待。
 6.シャーリーに会ったらゼロがルルーシュだと教える。
 7.ヴィヴィオをネタになのはと遊ぶ。
【備考】
※キングの携帯電話には以下の画像が記録されています。
・相川始がカリスに変身する瞬間の動画。
・八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像。
・高町なのはと天道総司の偽装死体の画像。
・C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※ゼロの正体がルルーシュだと知っています。
※八神はやて(StS)はゲームの相手プレイヤーだと考えています。
※PT事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。

【現在地 E-5 地上本部10階】
【アーカード@NANOSING】
【状態】疲労小、ダメージ小、「命」小程度回復
【装備】正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【道具】支給品一式、拡声器@現実、首輪(アグモン)、ヘルメスドライブの説明書
【思考】
 基本:インテグラの命令(オーダー)に従い、プレシアを打倒する。
 1.再度プレシアの下僕を誘き寄せるために、工場に向かい首輪を解除する。
 2.積極的に殺し合いに乗っている暇はないが、向かってくる敵には容赦しない
 3.首輪解除の技能者を探してみる?
 4.アンデルセンを殺した参加者を殺す。
【備考】
※スバルやヴィータが自分の知る者とは別人だと気付いています。
※第一回放送を聞き逃しました。
※デスゲーム運行にはプレシア以外の協力者ないし部下がいると考えています。
※首輪解除時の主催の対応は「刺客による排除」だと考えています。

239 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 18:12:44 ID:tbOWS/YE0

【現在地 ???】
【プレシア・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは】
【状態】健康、ルーテシアの召喚虫の使役主
【装備】?
【道具】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダーリリカル龍騎、サバイブ“烈火”(王蛇のデッキに収納)@仮面ライダーリリカル龍騎、カードデッキ(ベルデ・ブランク体)@仮面ライダーリリカル龍騎、カードデッキの複製(タイガ)@仮面ライダーリリカル龍騎
【思考】
 基本:デスゲームを遂行させる。
1.デスゲームの進行を妨げる事態が起きたら時と場合に応じて対処していく。
【備考】
※デスゲームの進行を著しく妨げる事態(首輪の解除etc)が起きた場合、躊躇いなく首輪を爆破する気でいます。

【全体備考】
※ミラーワールド(【F-6 レストラン前】付近)に以下のものが落ちています。
・浅倉威の死体(首なし)、柊つかさの死体(パピヨンマスク、シーナのバリアジャケットを装備)。
・浅倉威のデイパック【支給品一式、ヴィンデルシャフト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、肉×10kg、魚×10kg、包丁×3、フライパン×2、食事用ナイフ×12、フォーク×12】
・万丈目準のデイバック【支給品一式、考察などを書いたノート】
・つかさのデイパック【支給品一式、電話帳@オリジナル、デパートで回収したもの、十代のデイパック(支給品一式、バヨネット@NANOSING、んまい棒×4@なの魂、ヴァイスのバイク@魔法少女リリカルなのはStrikerS、リビングデッドの呼び声@リリカル遊戯王GX、木製バット、エアガン、パン×2、キャベツ半玉、十代のメモ)】
・柊かがみのデイバック(中身ごと真っ二つに破壊されました)【支給品一式(なのは大)、Ex-st(残弾なし)@なのは×終わクロ、柊かがみの制服(ボロボロ)、スーパーの制服、ナンバーズスーツ(クアットロ)】
・S2U@リリカルTRIGUNA's
・装甲車(鍵付き)及び多種多様な火器(全て人間が所持して使用するタイプ)。
※【C-4 ゴミ処理場内の事務室】にストームレイダー(破壊/修復は不可能)が放置されています。
※プレシアによりミラーワールドへ入る事が不可能になりました。

240 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/11(木) 18:15:41 ID:tbOWS/YE0
仮投下終了です
今回仮投下した理由はイクスヴェリアとマリアージュをこのまま正式に出していいのか迷ったためです
自分としてはこれぐらい出してもいいと思うのですが、意見があれば言ってください

他に誤字・脱字、疑問、矛盾などあれば指摘して下さい

241リリカル名無し:2010/02/12(金) 20:56:49 ID:17qv4I5EO
仮投下乙です
イクスとマリアージュですが特に意見はないです
敢えて言うならもうすぐ放送なのでそこまで待つ案もありますが放送を氏が書くこと前提になるのであまり強くは言いません

242リリカル名無し:2010/02/12(金) 21:22:51 ID:8543W4N.0
もうしばらく待って問題無ければ本投下でいいと思うよ

243リリカル名無し:2010/02/12(金) 22:20:30 ID:9gOzH0/6O
一応ですが正式に新キャラ登場させるなら、状態表が有った方が良いかと思います。
あと展開自体は問題ないと思うんで本投下しちゃっても良いかと。投下してから時間も経ってますし

244 ◆HlLdWe.oBM:2010/02/12(金) 23:50:24 ID:b3.lv6Z60
ご意見ありがとうございました
本投下ですが状態表などいくつかこちらでおかしな部分を見つけたのでその辺りを修正加筆して明日には本投下します
なお新キャラの状態表ですがモニター越しの登場、
また今まで話に何度か登場しているにもかかわらずプレシアやリニスが前回と今回からようやく本格的に状態表が付いた例から
すいませんが今回は新キャラの状態表は見送らせてもらいます。

245第二回人気投票・テンプレ案:2010/02/22(月) 17:54:09 ID:DMJzmB5E0
第二回・リリカルなのはクロス作品バトルロワイアル人気投票

      ,. '´:::: ̄::::::`ヽ、        ,. -
     /::::::::::::::::::::::::::::::::::\      /
    /:::::/::::/::::::::/:::::::/:::/^ーヘ∠、
.  /l::::/:/::::::, イ::::::::::/:::/:ヽ::::::::ヽ ::\
  l::|:::l:/l::::/l//7.‐-//,イ|::l:|:::ヽ::::::ヽ :::\
  l:::V|l::l::/i,ィぅ示V // l:|::l:|:::l::l::::i:::::', ::::::ヽ
  V゙{ミYl:l { {:::rリ /  l_!:ハ!::l:::l::::l:::l::lヽ::::::::ヽ
   ヽVl:N ヾニク     ,佇i〉l::::l:::l::::|l::l::l \::::::::',
    V|:l    _  、 ヒダ/l: /Y7_l:::ハ:l   ヽ::::::',  帰ってきました第二回!
      l:l丶  〈::::::::::>  ,.'ノ l ///l   ll     ',::l::l  意中のあのお話やあのキャラは、
 , -r={Vll \  ー'′ /::/ l l l l l  /     ',:N  果たして何位になるのかな?
./: l: l \lー‐v` ー < /:/ r 、 | l l l |        リ  なのはロワ人気投票、再びスタート!
;V〈:l: l  l ̄l〈ニミ、  〃  i lノ-- l│
;;;Vハl l `ー 、   _.K^i>i^ヽ| 〈  ‐/│
;;;;;;;l : l      |: : l : l;;;;; ! )/ │
;;;;;;;l: : lヽ.    |: :/: /;;;;;八    ハ
;;;;;;;l: l: l//7ハア^ l //;;;;;/;;;; VZzzz彡ハ
;;;;;;;l: l: l/ { /  l/;;;;;;;/;;;;;;;;; V三三三ハ
;;;;;;ハl: l  }{  l;;;/;;;;;;;;;;;;;;;;l V三三彡ヽ
;;;;;;;;;;;V:} :::::ii::::::: Vi;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;l  ヽ    ヽ
;;;;;;;;// ::::ノl::::::::: Vi;;;;;;;;;;;;;;;;;;;l   l     ヽ
;;// .....:::::::::::::::::: Vi;;;;;;;;;;;;;;;;;l、  l        |
_/ ...:::::::::::::::::::::::::::: Vi;;;;;;;;;;;;;/ \ヽ     |


≪開催期間≫ 03/01(月)0:00〜03/10(水)0:00
≪対象≫000「それは最悪の始まりなの」〜123「第二回放送」(台詞部門)
    069「アナタハマタマモレナイカモネ」〜123「第二回放送」(SS部門・キャラクター部門)

246リリカル名無し:2010/02/22(月) 17:57:00 ID:DMJzmB5E0
≪ルール≫
投票者には一名につき、各部門に五票ずつの持ち点が与えられます。
それを振り分ける形で投票してください。
好きなキャラ・SSに平等に振り分けるもよし、一番好きなものだけに全部注ぐもよし。自由に持ち点を割り振ってください。
また、そのキャラ・SSを選んだ理由も書いていただけると、結果発表の際に参考になります。

【例】
・SS部門
「絶望の罪人」に三票、「第二回放送」に一票、「バイバイ/サイカイ」に一票
・キャラクター部門
フェイト・T・ハラオウン(A's)に二票、ヒビノ・ミライに二票、泉こなたに一票
・台詞部門
プレシア「さぁ、デスゲームの始まりよ」に二票、
アーカード「さぁ、戦端は開かれたぞ! 贄は今ここに捧げられた! 闘争の儀の始まりだ!
 私に抗う覚悟ができたものは、この私を求めるがいい。最高の礼儀と苦痛と悦楽をもって、最高の闘争でもてなしてやろう。
 私を恐れる心を抱いたものは、すぐに退散するがいい。私直々に、地の果てまでも追いかけて、その息の根を絶ってやろう。
 歌い踊れ人間達よ。挑み、挑まれ、殺し、殺され、豪華絢爛の限りを尽くした宴を上げろ。
 この私をもてなすがいい。最高の狂気と殺意と暴力に満ちたフルコースによって。
 私を退屈させないことだ。私を苛立たせないことだ。
 戦うなら早く戦うがいい。逃げるなら早く逃げるがいい。さっさと諸君の行動を見せてみろ。
 Hurry! Hurry! Hurry! Hurry! Hurry!」に二票、
なのは(StS)「確かに私たちは、自分一人の為だけに戦う時もある……この手で……」
「でも、この手で相手の手を握る事も出来る。その時は私たちは、弱くても、愚かでも――一人じゃない。」
「例えキャロと再会するまででも……今は私とフリードが、パートナーなんだよ……!」 に一票


≪部門≫
・SS部門
・キャラクター部門

・台詞部門
  そして二回目となる今回からは、新たに「台詞部門」が用意されます。
  物語とキャラクターを彩る、強い啖呵に冷たい言葉、時には笑いを誘う一言など、貴方の好きな台詞に票を投じてください。
  ≪ルール≫の【例】におけるなのは(StS)の台詞のように、複数行に渡る台詞に投じられた票は、
  全て最も範囲の広い台詞に統合されます。
【例】

「でも、この手で相手の手を握る事も出来る。その時は私たちは、弱くても、愚かでも――一人じゃない。」
「例えキャロと再会するまででも……今は私とフリードが、パートナーなんだよ……!」


「確かに私たちは、自分一人の為だけに戦う時もある……この手で……」
「でも、この手で相手の手を握る事も出来る。その時は私たちは、弱くても、愚かでも――一人じゃない。」
「例えキャロと再会するまででも……今は私とフリードが、パートナーなんだよ……!」


「例えキャロと再会するまででも……今は私とフリードが、パートナーなんだよ……!」

これら3つの台詞に投じられた票は、全て②への投票として扱われます。

   なお、この台詞部門の投票対象は、SS部門・キャラクター部門の対象と異なり、
   第一回放送までの68話分も含まれます。間違いのないようにご確認ください。


≪おまけ≫
こちらは強制ではありませんが、日頃SSを手がけている書き手の方々への、応援のメッセージもご一緒にどうぞ。
たった一レスの言葉でも、書き手様方には大きな励みとなります。
好きなSSの感想から単純な声援まで、それぞれ思い思いの形でメッセージをお贈りください。

247リリカル名無し:2010/02/22(月) 17:59:04 ID:DMJzmB5E0
テンプレ案は以上です。
今回は投票期間の3日間の延長、および台詞部門追加の2点の変更を加えました。
投票期間の方は、前回1名あぶれてしまった人がいましたので、延長しようかなと思った次第です。
問題や改善してほしい点がありましたら、どうかご指摘くださいませ。

248リリカル名無し:2010/02/23(火) 09:25:02 ID:Nf2I6LNs0
テンプレ案乙です。

台詞部門追加及び投票期間延長に関して自分的には問題ないと思います。
只、投票期間延長に関しては前回同様投票期間中全スレでID固定しなければならなかった筈なので、したらば管理人からの意見は必要だと思います。
この期間中ならば放送前のSS投下は無い可能性が高いので大きな影響は無いとは思いますが。

249 ◆Vj6e1anjAc:2010/02/25(木) 19:54:54 ID:j5DBXWeA0
第三回放送の案ができましたので、こちらに投下させていただきます

250第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/02/25(木) 19:56:12 ID:j5DBXWeA0
 それは、小さな願いだった。

 ■の■の名を授けられ、世界に滅びの力を振りまき、忌み嫌われること数世紀……
 けれど、悲しい時間はもう終わり。
 最後に出会った■■の主は、私に名前を与えてくれた。
 強く■■■■もの……幸運の■い■……
 忌まわしき呪いの名前ではなく、祝福の■■■の意を冠した名前――■■■■■■■。

 名前を呼ばれたその夜に、私は戦うことを決めた。
 運命という名の鎖を砕く力を、この手に主と共に掴むため……私は自らに課せられた宿命と戦うことを、その時初めて決心した。
 別に、大層な正義があったわけじゃない。
 世界全てを守る力も、世界全てを牛耳る力も、私は欲していたわけじゃない。
 ただ、ほんのささやかな願いのために……心優しき家族と過ごす、暖かい日々を手に入れるために……
 私は自らの運命と戦い――運命に、打ち克ったのだ。

 願ったものは、手に入れた。
 手にした日常はありふれていて、本当になんてことのない日々だったけれど。
 ただ命令にだけ従い、破壊と殺戮を生むだけだった生涯の中では、最も心穏やかでいられる、尊く愛しい時間だった。

 ああ――本当に。

 それで全てが終わりなら、本当に幸福だっただろうに――。

251第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/02/25(木) 19:56:49 ID:j5DBXWeA0


 こんばんは。
 これより18時をお伝えすると同時に、第3回目の定期放送を行いたいと思います。
 今回も過去の2回同様、禁止エリアから発表させていただきますので、メモの用意をお願いします。
 ……なお今回の放送ですが、現在プレシア・テスタロッサ氏がお疲れのため就寝中ですので、
 今回に限り、僕が代役を務めさせていただきます。
 ゲームの進行には何ら問題はありませんので、ご了承ください。

 それでは、禁止エリアの発表です。

 19時から○-○
 21時から○-○
 23時から○-○

 以上、3箇所となります。
 これまでの禁止エリア同様、場所と時間をお忘れなきよう、十分にご注意ください。
 ……では続きまして、前回放送から現在までの間に出た死者の名前を発表させていただきます。

 浅倉威
 L
 キャロ・ル・ルシエ
 早乙女レイ
 C.C.
 シェルビー・M・ペンウッド
 シャマル
 シャーリー・フェネット
 新庄・運切
 ゼスト・グランガイツ
 セフィロス
 チンク
 柊つかさ
 フェイト・T・ハラオウン
 万丈目準
 ルーテシア・アルピーノ
 ルルーシュ・ランペルージ

 以上、17名となります。
 プレシア氏からは、
 「前回が9名だったという点を考慮すると、非常に素晴らしい戦績だと思う。今後も頑張ってほしい」との伝言を預かっております。
 僕の目から見ても、今回の結果は非常に優秀なものだったと思います。
 この分ならば、あるいは次の日の出よりも早くゲームが終了するかもしれません。
 早めにゲームが終わるのは、我々管理する側も楽ができることに繋がりますので、これからも頑張ってゲームに臨んでください。

 最後に、ボーナスの発表です。
 この放送が終了した瞬間から、皆様が他の参加者を殺害する度に、お手持ちのデイパックの中に、1つずつ支給品を転送させていただきます。
 デイパックをお持ちでない方の場合は、その場に転送させていただきますので、回収忘れのないようにご注意ください。
 さすがに極端に強力な支給品を提供することはできませんが、
 少なくとも一定以上の有用性のある武器をご用意させていただきますので、有効にご活用ください。

 それでは、今回の放送はこれにて終了です。
 放送は僕――オットーが担当させていただきました。

252第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/02/25(木) 19:57:32 ID:j5DBXWeA0


 かつ、かつ、かつ、と。
 薄暗い廊下を叩くブーツの足音。
 硬質な床を鳴らすたびに、腰から生える尻尾がゆらゆらと揺れる。
 白と茶色を基調とした衣装を纏う、ショートヘアの女性は、プレシア・テスタロッサが使い魔――リニスだ。
(さすがに、そう上手くはいかないか……)
 ふぅ、と軽くため息を漏らす。
 その顔立ちに浮かぶのは憂い。
 その感情の矛先は、つい先ほど流れたばかりの放送だ。

 さかのぼること10分前。
 少し疲れたから仮眠を取る――主君プレシアは、不意にそんなことを口にした。
 無理もない。かれこれ18時間一睡もしておらず、おまけに先ほどは浅倉の手によって、あのような事件まで起こされている。
 体調の優れないプレシアにとっては、そろそろ疲労もピークといったところだろう。
 リニスはこれを快諾し、ベッドで休むように勧めた。
 彼女を裏切るような真似に出ようとしている身が、そんなことを思うのも妙な話だが、確かに彼女の体調を案じてはいた。
 だがその一方で、これはチャンスでもあった。
 このタイミングでプレシアが眠るというのならば、誰かが代わりに放送を行う必要がある。
 いつぞやに彼女が漏らしたように、自分に放送の代役が回ってくる。
 殺し合いを止めたいと願い、いくつかの支給品に希望を託した彼女にとっては、まさに千載一遇の好機。
 直接的な言い回しをすれば、後々でプレシアに意図を悟られてしまうだろうが、
 遠まわしな表現で、それとなく支給品の存在を匂わせることはできるだろう。
 そのためにも、この放送代役は何としても引き受けなければならない。
 リニスは前述の勧めの後、放送の役目を自分に任せるよう、進言するつもりだった。

 だが、しかし。
 そう思った後がよくなかった。

 ――では次の放送は、代わりに僕が担当させていただきます。

 そう割り込んでくる声があったのだ。
 短い茶髪/中性的な顔立ち/華奢な体躯/パンツルック。
 ぱっと見では男とも女とも分からぬ、しかしどちらでもありそうな容姿をした、戦闘機人ナンバーⅧ――オットー。
 ガレアの冥王の調整を担当しているウーノの妹であり、同時に会場にいるクアットロの妹でもある男装の少女。
 そのオットーに先を越されてしまった。
 自分が放送をやると言い出す直前に、彼女がどこからともなく現れ、放送をやらせてほしいと言い出したのだ。
 プレシアの返答は、是。
 断る理由などなかった。
 ただ死者と禁止エリアとボーナスを読み上げるだけの放送担当など、誰に任せても同じことだったのだろう。
 一応、こんな腹の知れぬ者に任せていいのか、とだけプレシアに尋ねた。
 こういう仕事には貴方よりも向いている人材だと思う、という返事が返ってきた。
 なるほど確かに、的を射ている。
 お人よしな自分よりも、冷徹な機械人形そのもののようなこの娘の方が、メッセンジャーには向いているように見える。
 悔しいが、そう返されては仕方がない。
 それ以上言い募ることがあれば、違和感を覚え怪しまれてしまうことに繋がるだろう。
 あるいはオットーを選びリニスを遠ざけたことが、大なり小なり疑われていることの表れなのかもしれないが。

 そうしてリニスは放送を行うことを断念し、現在の状況に至っていた。
 放送役に選ばれなければ、彼女がやることは決まっている。元の通り、参加者達の監視だ。
 新ルールの適応は、リニスにとっては有利とも不利とも言えない、といったところ。
 武器を与えるとは言っても、他人を殺せる人間は、大体既に武器を所有している者か、武器をも必要としない超人くらいだ。
 よほどのものが支給されない限り、そうそう脅威の度合いは変わらない。
 主催に抗う立場の者に奪わせるにしても、自分が忍ばせた支給品のような、脱出の糸口になるようなものにはなりえないだろう。
 これが浅倉の提言した通り、「知りたい参加者の居場所を教える」というものだったならば、もう少しまずかったかもしれない。
 だがそれは却下された。プレシアのプライドが、あの男の望みを叶えることを拒んだのだ。

253第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/02/25(木) 19:58:09 ID:j5DBXWeA0
 ふと、足を止め。
 すぐ左側の階段へと目をやる。
 地下へと繋がるその先にあるのは、デスゲームの会場を覆う結界維持を担うもの。
 否――“その性質を考慮すれば”、ある意味デスゲームの会場そのものの根幹といっていいだろう。
 ぴ、ぴ、ぴ、と。
 手元の端末を操作し、空間モニターを投影する。
 淡い光を伴って、虚空に浮かび上がったのは、光を放つ一冊の本。
(異なる世界から奪い取った、もう1つの夜天の書……)
 古びた茶色の表紙に、黄金の剣十字をあしらった魔導書。
 かつて闇の書と呼ばれ恐れられた、古代ベルカのロストロギアの成れの果て。
 あれがデスゲームの会場を、会場たらしめる仕掛けだった。
 殺し合いのフィールドを展開する魔法そのものは、“この地”に足を踏み入れてしばらくの後に入手している。
 だが、その構成式は極めて難解で、必要となる魔力も膨大。
 いかな大魔導師プレシアと言えど、すぐにその式を物にするのは不可能であったし、
 よしんば術を完全に修得したとしても、一個人が何時間も何日も展開し続けられるようなものではなかった。
 そこで、前者の問題の解決のため、白羽の矢が立ったのが夜天の書だ。
 かつて強力な蒐集能力を有していたそれは、闇の書の闇が消え去った今となっては、当時ほど強大な力を持ってはいないものの、
 魔導の演算・実行装置としては、未だ優秀な性能を有している。
 管理外世界のものでたとえるならば、スーパーコンピューターのようなものだ。
 おまけにその術式の性質は、目的の魔法とも相性がいい。
 闇の書の闇が存在しないということも、裏を返せば、暴走を避けられるということに繋がる。
 自力では術を発動するための魔力を発揮できないという難点もあったが、それもジュエルシードによって補うことができた。
 次元干渉型ロストロギアのエネルギーも、この手の魔法とは親和性が高い。
 カメラをもう少しズームアウトすれば、合計10個のジュエルシードが、夜天の書を取り囲むように円を描いている様が見えるだろう。
(でも……そのためにも、犠牲を払ってしまった)
 リニスの表情に影が差す。
 この夜天の魔導書も、ただで手に入れたわけではない。
 その世界に住む持ち主から、無理やり取り上げることで手に入れたものだ。
 夜天の書強奪――“この地”で手に入れた技術の実験運用を兼ねた戦いの結果は、まさに凄惨を極めたものだった。
 招かれた結果は、海鳴市と呼ばれる付近一帯の壊滅。
 大勢の人間が命を落とし、プレシアに立ち向かった魔導師・騎士達は、1人残らず、一方的に虐殺された。
 当然その世界でもまた、フェイト・テスタロッサが命を落とした。
(私達は、一体どれほどの罪を重ねれば……)
 たどり着くことができるのだろう。
 あるいは、止まることができるのだろう。
 未だ暗い面持ちのまま、映像を切り足を進める。
 何もかもが、自分に罪を思い出させた。
 3人ものフェイト・テスタロッサを、助けることも止めることもできず、無惨に死なせてしまった罪。
 幾人ものフェイトを作り上げ、死地へと追いやり殺してしまった罪。
 それ以外にも大勢の人間を巻き込み、命を奪ってしまった罪。
 この道を歩んだその先で、いつか贖罪することはできるのだろうか。
 殺し合いを止めることができれば、それは罪を償ったことになるのだろうか。
 歩みを止めるわけにはいかない。
 されど、それで許されるとは限らない。
 厳然とした事実が、彼女の心を憂鬱にさせた。

254第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/02/25(木) 19:59:50 ID:j5DBXWeA0


 悪夢なら、何度も見てきたつもりだった。
 自ら悪夢を振りまく存在となって、何度も滅びを招いてきた。
 だが、それでも。
 こうしてこの光景を見ることで、得も知れぬ悲しみが胸に染みるのは何故だろう。
 見慣れたはずの光景が、この胸を絶え間なく苛むのは何故なのだろう。

 天空より暗雲を切り裂き迸る、次元跳躍砲撃魔法。
 圧倒的な暴力を前に、成す術なく倒壊するビルの数々。
 燃え盛る大地を覆い尽くすのは、見たこともないおぞましき軍勢。
 放つ魔法の数々は、得体の知れないフィールドに無効化された。
 数の暴力と天雷の猛威が、みるみるうちに自分達を追い詰めた。

 紅の鉄騎の小さな身体が、巨獣の前足に踏み潰される。
 風の癒し手の騎士甲冑が、膨大な弾幕に蜂の巣にされる。
 蒼き狼の盾の硬い守りも、その先の身体ごと八つ裂きにされた。
 烈火の将の突撃も通らず、散り一つ残すことなく蒸発した。

 年若き黒衣の執務官も、緑の防壁の使い手も。
 心優しき金の閃光も、不屈の心を抱いた砲手も。
 全てが例外も容赦もなく、等しく赤い海へと沈んでいく。
 涙と鮮血が海を成し、天空を照らす炎と共に、街と屍を飲み込んでいく。

 ああ――そうか。
 私はただ見てきただけだった。
 見ているだけで、知らなかったのだ。
 加害者として見てきた悪夢は、全て自身が一方的に押し付け、一方的に俯瞰するだけで。
 加害者故に苦しむことはあったとしても、被害者として苦しむことなどなかったのだ。
 苦しみをただ見ているだけで、実際に味わったことなどなかったから。
 慣れも風化もないままに、全く未知の悲しみに、こうして純粋に苦悶しているのだ。

「主……■■■……」

 頬を伝う悲しみの涙を、無理に止めようとはしなかった。
 仮に止めようとしたとしても、止められないことは分かっていた。

「■■■、■■■■……」

 生き残った主の口から漏れる声は、あまりにも小さく弱々しい。
 五体を苛む苦しみが、根こそぎ体力を奪っていったに違いなかった。

「みんな……死んで、しもたんやな……」
「はい。主のご友人達も、守護騎士達も……全て残らず、逝ってしまいました……」
「そうか……」

 アスファルトの上に倒れたまま、目の前の主君は微動だにしない。
 飛べるだけの魔力はある。だが、身体の負傷がそうさせないのだろう。
 地に落ちされた■■の主の姿は、ひどく痛ましいものだった。
 無数の銃創と切り傷が、幼い肌と肉を抉り、穴の空いていない部分も、ほとんど痣で埋め尽くされていた。
 特にひどいのが両足だ。
 いずれも激しい戦闘の果てに、膝から下が潰されて、さながらミンチのごとき有様を晒している。
 なんと皮肉で残酷なことか。
 立って歩く力を奪われ、それでもそれを取り戻す兆しを見せた矢先に、その希望が打ち砕かれるとは。
 否、もはや足だけではない。
 これだけの失血だ。骨折や内臓破裂も多い。
 立つだの歩くだの以前に――生きていられる時間すら、もはや残り僅かしかない。

255第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/02/25(木) 20:01:08 ID:j5DBXWeA0
 
「■■■■■■■……私の、命を吸って……」
「……何を、おっしゃるのですか」

 声は、揺れていた。
 それでも、それは驚愕故のものではなかった。
 なまじ意味が分かってたからこそ、驚きとは異なる想いに声が揺らいだ。

「私のリンカーコアと、1つに、なれば……■■■■■■■は、生きることができる……
 でも……このまま私が死んでしもうたら……■■■■■■■まで、消えてしまうやん……そんなの……共倒れやん……」

 かつて闇の書と呼ばれていた時、目の前の主と、今は亡き金の閃光を取り込んだ理屈の応用だ。
 主のリンカーコアを蒐集し、主の命を吸い尽くしてしまえば、私は生きながらえることができるだろう。
 そうしなければ、自分まで死ぬ。
 恐らくあの守護騎士達同様、主と■■の■を介して繋がっている自分の寿命は、主の死と同時に尽きることになる。
 そうでなかったとしても、■の■の■を切り捨てた時点で、私に残された命などごく僅かしかないのだ。
 だが、しかし。
 そうして主を好みに取り込み、生きながらえることができたとしても。

「私の愛した者達は、1人残らず命を落としました……その上貴方まで逝ってしまえば……」

 そんな生涯に何の意味がある。
 愛すべき最後の主の命を、自らのパーツにまで貶めてまで生きる理由が、一体この世のどこにある。
 私にとっての命とは、主達との日常そのものだった。
 たった独りで生きる意味も覚悟も、私はまるで見出していなかった。
 騎士を喪い、友を喪い、母なる主さえも喪った未来に、一体どれほどの価値があるというのだ。

「……私の大切なものも……もう……ほとんど全部、なくなってしもうた……」

 虚ろな瞳が、天を仰ぐ。
 鈍い灰色の曇り空を、主の瞳がぼんやりと見据える。
 いつの間にか、雪が降っていた。
 灰色だけの空の中に、柔らかな白が舞っていた。
 ゆらゆらと舞い降りる冷たさが、私の肌に落ちていく。
 涙で濡れた頬に触れて、心の奥底まで冷やしていく。

「でも……だからこそ、■■■■■■■だけは……最後に残った……■■■■■■■だけは……手放したく、ないんよ……」

 ああ、それでも私の命を望むというのか。
 それでもなお私の主は、私に生きることを願うというのか。
 まったくもって、ずるい人だ。主君にそんな風に言われては、嫌でも拒むわけにはいかないではないか。
 主の望みを叶えるということは、主の肉体の尊厳を損ねることに他ならない。
 しかしその望みを拒んでしまえば、主の精神の尊厳までも損ねてしまう。
 そんな言い方をされてしまっては、どんな絶望的な未来であろうと、行き続けなければならないではないか。
 まったく、こんな私などに、こんなずるい言い回しをしてまで、生きることを望むだなんて。
 あるいはそんな優しさがあったからこそ、私はあの日に救われたというのか。

「私の、命……■■■、■■■■に……全部、あげる……せやから……」

 神がこの世にいるというのなら、私はその神を恨む。
 運命が定められているというのなら、私はその運命を憎む。
 こんなあんまりな結末しか、私達には用意されていなかっただなんて。
 手を伸ばして掴んだかと思えば、こんなにもあっさりと奪われてしまうだなんて。

「私の……分まで……」

 ああ。
 本当に。

「強く、生きてや……リインフォース――」

 全てがあの日のままに、幸せに終わっていたならば――本当に幸福だっただろうに。

256第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/02/25(木) 20:02:08 ID:j5DBXWeA0


 時の庭園。
 かつてミッドチルダの魔法技術によって建造された、次元航行可能な移動庭園である。
 プレシア・テスタロッサの買い取ったそれは、彼女の研究のために、随所に様々な改修がなされていた。
 長き次元航行の果てに草木を枯らせ、醜い岩肌を晒したその姿は、
 彼女が召喚した傀儡兵の存在もあいまって、今や庭園というよりは、要塞と呼ぶ方が相応しい存在であろう。
「その外観を相変わらず使いまわしてるってのは、どんな未練なんだろうねぇ……」
 ぽつり、と響く女の声。
 いつしか庭園のすぐ傍には、2つの人影が立っていた。
 片やオレンジ色の髪を生やした、グラマラスな肢体を露出した女性。
 髪色と同じ色の耳と尻尾は、犬かはたまた狼か。人ならざる魔導師の尖兵――いわゆる使い魔と呼ばれる存在であろう。
「それで、どうするんだい? やっぱりまずは、夜天の書を取り戻すとこから?」
 どうやら先ほどの声は、この狼風の女性のものだったようだ。
 さばさばとした気の強い声が、傍らの人影へと問いかける。
「いや……ここにあることは分かっているが、どこに隠されているのかは検討もつかない。
 奴の動向や目的を探るためにも、まずは内部の構造を調べるべきだろう」
「だね。外見が同じだからって、中身も同じとは限らないわけだし」
 狼女の問いに答えたのは、全身黒ずくめの衣装を纏った女性だ。
 ところどころに彫金が施された、ドレスのような装束は、古代ベルカ騎士の装備する騎士甲冑。
 背中の4枚2対の翼まで漆黒な中、雪のごとき銀色の長髪と、血のごとき真紅の双眸が、ひどく鮮やかに輝いていた。
「すまなかったな、使い魔アルフ……こんなことに付き合わせてしまって」
「いいってことさ」
 銀髪の女の言葉に、アルフと呼ばれた使い魔が笑顔で返す。
「あんたが助けてくれなかったら、あたしはあのまま何もできずに死んでいた……
 最後に残されたこの命で、せめてフェイトの仇が討てるっていうなら、安いもんだよ」
 このオレンジの毛並みの使い魔もまた、かの世界の海鳴の生き残りだった。
 否。
 正確には、到底生き残りと言えるようなものではなかったのだが
 あの日プレシア・テスタロッサに敗北し、主フェイト・テスタロッサを喪ったアルフは、比喩も誇張なしに死の淵に立たされていた。
 主君との魔力バイパスを断たれ、肉体にも甚大なダメージを負った獣は、数秒遅れるだけで命を落としていただろう。
 それを強引に救ってみせたのが、この銀髪の女だった。
 使い魔たる彼女の身体を「蒐集」し、術式を強制的に書き換えることで、使い魔契約をやり直したのだ。
 つまりこの女こそが、フェイトに代わるアルフの新たなマスターなのである。
「……さ、そうと決まれば、早速いこうか。今度こそプレシアの性根を叩き直してやるために、さ」
 かつての主が身に着けていたものに似た、漆黒のマントを翻し。
 かつ、かつ、かつ、と靴音を立て、アルフが庭園へと進んでいく。
 銀髪の女もまたそれにならい、彼女の後に続いて進んだ。
(主の仇を討つために……か)
 ふと、想いを馳せる。
 女の赤き瞳に浮かぶのは、かつて喪われた主君の姿だ。
 茶色い髪を短く切りそろえ、特徴的な髪留めをつけた主の屈託のない笑顔は、今でもありありと思い出すことができる。
 今や彼女にとって確かなものは、その頃の記憶とアルフくらいのものだ。
(我ながら滑稽なものだな)
 内心で、自嘲気味に苦笑した。
 かつて夜天の書の管制人格として生み出され、忌まわしき闇の書へと作り変えられ。
 命を奪う災厄として、数多の命を屠った果てに。
 最後の夜天の主に出会い、血と涙を塗りたくられた呪いの身体に、新たな名前を与えられて。
 そうして忌むべき過去と決別し、穏やかな日常を手に入れたはずなのに、結局自分は最期の時をこんなことに費やしている。
 これではまるで、復讐のようだ。
 結局デバイスとして生まれた自分には、武器らしく戦って散る末路がお似合いだったということか。

257第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/02/25(木) 20:03:03 ID:j5DBXWeA0
(それでも構わないさ)
 胸の中で呟きながら、眼前の時の庭園を仰ぐ。
 プレシア・テスタロッサは危険な女だ。
 戦いの中、彼女が口にしていた言葉を信じるならば、彼女は間違いなく災いを呼ぶ。
 闇の書の闇をも駆逐した英雄達が、何もできず、一方的に叩き潰されたほどの相手だ。
 この身でどこまで追いすがれるかは分からない。だが、このまま野放しにしておくわけにはいかない。
 きっと生き残ったのが自分ではなく、我が主であったとしたならば。
 今自分がしているのと同じように、プレシアの悪意を止めるために戦うだろう。
 ならば、自分もまたそれでいい。
 残されたこの僅かな命を賭してでも、あの女の目論見を止めてみせる。
 多くの犠牲を踏み砕いてきた自分が、最期に大勢の人々を守れるというのなら、きっと主も報われるだろう。
 私は生きる。
 生きて戦う。
 最後の夜天の主――八神はやての命と誇りを、この身に背負って戦ってみせる。
「誤算だったな、プレシア・テスタロッサ……この私が生きている限り、どこにもお前の逃げ場所はないぞ」
 この場所へとたどり着くことは困難を極めた。
 撃沈したアースラの炉の魔力を丸々使い、アルフと2人がかりで転送魔法を行使しても、ここまで来るのに何週間もかかってしまった。
 それでも、どうにかここまでたどり着けた。
 彼女の身体と夜天の書は、未だ魔力で繋がっている。
 何百年もの歴史の中を、次元空間を漂いながら過ごしてきた彼女らだ。
 古代ベルカの記憶に従い、相応の努力と執念を支払えば、たとえそこが未知の座標であろうと、こうして追い着くことができる。
 そう。
 彼女を生かしてしまったことは、確かにプレシア・テスタロッサの誤算だった。
「これ以上――お前の好きなようにはさせない」
 祝福の風・リインフォース――ここに参戦。

258第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/02/25(木) 20:03:47 ID:j5DBXWeA0
【1日目・夜(第三回放送直後)】
【現在地:??? 時の庭園前】

【リインフォース@魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE−THE BATTLE OF ACES−】
【状態】健康
【装備】騎士甲冑(魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE−THE BATTLE OF ACES−におけるデザイン)
【道具】?
【思考】
 基本:プレシアを打倒する
 1.直接戦闘を避け、なるべく身を隠しながら時の庭園に潜入する
 2.プレシアが何を目的に、何をしているのかを知りたい
【備考】
※ゲームシナリオ開始前、闇の書の闇を撃破した数日後からの参戦です
※アルフのマスターとなっています
※彼女の世界の八神はやてを取り込んだことで、元の力を部分的に取り戻しました。
 単独での戦闘能力は、A's本編中で闇の書の闇から切り離された時点のレベルまで回復しています。

【アルフ@魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE−THE BATTLE OF ACES−】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】?
【思考】
 基本:プレシアを打倒する
 1.リインフォースに従い、彼女の身を守る
【備考】
※ゲームシナリオ開始前、闇の書の闇を撃破した数日後からの参戦です
※リインフォースの使い魔となっています

【全体の備考】
※プレシアの現在地の外観は、時の庭園と同じであることが判明しました
※殺し合いの会場は、夜天の書@魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE−THE BATTLE OF ACES− および
 ジュエルシード魔法少女リリカルなのは によって展開された結界魔法に覆われています。


【追加ルール】
 第三回放送以降、他の参加者を1人殺すたびに、新たな武器が1つずつ支給されます。
 支給対象は現実の銃器やデバイスなど、一般的な武器の範疇に収まるものであり、極端に強力なものや変身アイテムは支給されません。

259第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/02/25(木) 20:05:17 ID:j5DBXWeA0
放送案は以上です。
もう残り3分の1くらいの人数になってるし、そろそろ第三戦力が出てきてもいい頃かと思いまして、リインⅠとアルフを出してみました。
問題点や矛盾などがありましたら、ご指摘ください

260リリカル名無し:2010/02/26(金) 04:54:52 ID:S7THdU6E0
仮投下乙です。
見た感じ特に問題は無さそうなので、他に案が無ければこれで採用でいいのかな?
ボーナスに関してのみ、もうちょっと何かあった方がいいかも?とは思いました。
とりあえず他の意見も待ってみて、問題が無さそうなら放送案候補で問題無いかと。

261リリカル名無し:2010/02/26(金) 10:08:50 ID:Bts/ahv60
放送案投下乙です。
リインⅠ&アルフ参戦! そういやアルフに限っては何故ハブられたんだ的なキャラだからなぁ……地味にオイシイかも。

自分としてはボーナスに関しては自分はこれで良いとは思います。第2放送時と状況が変わり今更マーダーを活気づけさせる必要性を感じませんので。
個人的に気になったのが出典がPSP版のゲームという事ですね(多分大丈夫だとは思うけど)……原作A'sとの違いがあるのであれば、未把握の人が大変かもとは思います。
勿論、ここの書き手ならば問題なく書けると思いますが、一方ですぐに退場させられる可能性も否定出来ないのが気になる所です。

262 ◆Vj6e1anjAc:2010/02/26(金) 13:08:59 ID:Nw/s7GYE0
>PSP版のゲーム
あ、それなら多分大丈夫です。
①闇の書の闇を倒す→②奇跡的にリインフォースが助かる→③八神家で平和に暮らす→④ゲームシナリオが始まる
おおまかなこの流れのうち、③からの参戦という形にしましたので、
原作との違いはリインが生きているということだけですし、ゲーム版独自の展開も絡まないようにしてあります。
戦闘能力も原作と同じものに戻しましたので、せいぜいゲーム公式サイトのあらすじを読むだけで、十分書けるんじゃないんでしょうか

263リリカル名無し:2010/02/26(金) 22:23:42 ID:55mTzp7s0
放送案投下乙です
私もゲーム出典という点で危惧を抱きましたが時期がそのようでしたら問題もあまりないでしょう
(そもそも外部勢力を書く機会なんて外伝と本当に終盤でしかないから書き手の負担もこれなら何とかなると思われます)
ただ一つ気になる点。
もしこれが正式に採用されるならリインとアルフの状態表は削った方がいいと思います
リインもアルフもバトルロワイアルの観点から見ればただの部外者でしかありません
基本的にロワ進行とは関係ないところにあるべきです
だから状態表は付けずに備考欄で軽く説明する程度に収める方がいいと思います

264 ◆Vj6e1anjAc:2010/03/18(木) 19:13:08 ID:3/RUOXyE0
えー、◆jiPkKgmerY氏の修正も来ましたので、放送SSを投下します。
まだ早すぎるんじゃね?って声もあるかもしれないので、一応投下はこっちに。
これでいいというのでしたら、このままwikiに収録しちゃってください

265第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/03/18(木) 19:14:20 ID:3/RUOXyE0
 それは、小さな願いだった。

 ■の■の名を授けられ、世界に滅びの力を振りまき、忌み嫌われること数世紀……
 けれど、悲しい時間はもう終わり。
 最後に出会った■■の主は、私に名前を与えてくれた。
 強く■■■■もの……幸運の■い■……
 忌まわしき呪いの名前ではなく、祝福の■■■の意を冠した名前――■■■■■■■。

 名前を呼ばれたその夜に、私は戦うことを決めた。
 運命という名の鎖を砕く力を、この手に主と共に掴むため……私は自らに課せられた宿命と戦うことを、その時初めて決心した。
 別に、大層な正義があったわけじゃない。
 世界全てを守る力も、世界全てを牛耳る力も、私は欲していたわけじゃない。
 ただ、ほんのささやかな願いのために……心優しき家族と過ごす、暖かい日々を手に入れるために……
 私は自らの運命と戦い――運命に、打ち克ったのだ。

 願ったものは、手に入れた。
 ほんの僅かな時間ではあっても、求めていたものを手に入れることができた。
 手にした日常はありふれていて、本当になんてことのない日々だったけれど。
 ただ命令にだけ従い、破壊と殺戮を生むだけだった生涯の中では、最も心穏やかでいられる、尊く愛しい時間だった。

 ああ――本当に。

 それで全てが終わりなら、本当に幸福だっただろうに――。

266第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/03/18(木) 19:15:07 ID:3/RUOXyE0


 こんばんは。
 これより18時をお伝えすると同時に、第3回目の定期放送を行いたいと思います。
 今回も過去の2回同様、禁止エリアから発表させていただきますので、メモの用意をお願いします。
 ……なお今回の放送ですが、現在プレシア・テスタロッサ氏がお疲れのため就寝中ですので、
 今回に限り、僕が代役を務めさせていただきます。
 ゲームの進行には何ら問題はありませんので、ご了承ください。

 それでは、禁止エリアの発表です。

 19時から○-○
 21時から○-○
 23時から○-○

 以上、3箇所となります。
 これまでの禁止エリア同様、場所と時間をお忘れなきよう、十分にご注意ください。
 ……では続きまして、前回放送から現在までの間に出た死者の名前を発表させていただきます。

 浅倉威
 L
 キース・レッド
 キャロ・ル・ルシエ
 早乙女レイ
 C.C.
 シェルビー・M・ペンウッド
 シャマル
 シャーリー・フェネット
 新庄・運切
 ゼスト・グランガイツ
 セフィロス
 チンク
 天上院明日香
 柊つかさ
 フェイト・T・ハラオウン
 万丈目準
 ルーテシア・アルピーノ
 ルルーシュ・ランペルージ

 以上、19名となります。
 プレシア氏からは、
 「前回が9名だったという点を考慮すると、非常に素晴らしい戦績だと思う。今後も頑張ってほしい」との伝言を預かっております。
 僕の目から見ても、今回の結果は非常に優秀なものだったと思います。
 この分ならば、あるいは次の日の出よりも早くゲームが終了するかもしれません。
 早めにゲームが終わるのは、我々管理する側も楽ができることに繋がりますので、これからも頑張ってゲームに臨んでください。

 最後に、ボーナスの発表です。
 この放送が終了した瞬間から、皆様が他の参加者を殺害する度に、お手持ちのデイパックの中に、1つずつ支給品を転送させていただきます。
 デイパックをお持ちでない方の場合は、その場に転送させていただきますので、回収忘れのないようにご注意ください。
 さすがに極端に強力な支給品を提供することはできませんが、
 少なくとも一定以上の有用性のある武器をご用意させていただきますので、有効にご活用ください。

 それでは、今回の放送はこれにて終了です。
 放送は僕――オットーが担当させていただきました。

267第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/03/18(木) 19:16:44 ID:3/RUOXyE0


 かつ、かつ、かつ、と。
 薄暗い廊下を叩くブーツの足音。
 硬質な床を鳴らすたびに、腰から生える尻尾がゆらゆらと揺れる。
 白と茶色を基調とした衣装を纏う、ショートヘアの女性は、プレシア・テスタロッサが使い魔――リニスだ。
(さすがに、そう上手くはいかないか……)
 ふぅ、と軽くため息を漏らす。
 その顔立ちに浮かぶのは憂い。
 その感情の矛先は、つい先ほど流れたばかりの放送だ。

 さかのぼること10分前。
 少し疲れたから仮眠を取る――主君プレシアは、不意にそんなことを口にした。
 無理もない。かれこれ18時間一睡もしておらず、おまけに先ほどは浅倉の手によって、あのような事件まで起こされている。
 体調の優れないプレシアにとっては、そろそろ疲労もピークといったところだろう。
 リニスはこれを快諾し、ベッドで休むように勧めた。
 彼女を裏切るような真似に出ようとしている身が、そんなことを思うのも妙な話だが、確かに彼女の体調を案じてはいた。
 だがその一方で、これはチャンスでもあった。
 このタイミングでプレシアが眠るというのならば、誰かが代わりに放送を行う必要がある。
 いつぞやに彼女が漏らしたように、自分に放送の代役が回ってくる。
 殺し合いを止めたいと願い、いくつかの支給品に希望を託した彼女にとっては、まさに千載一遇の好機。
 直接的な言い回しをすれば、後々でプレシアに意図を悟られてしまうだろうが、
 遠まわしな表現で、それとなく支給品の存在を匂わせることはできるだろう。
 そのためにも、この放送代役は何としても引き受けなければならない。
 リニスは前述の勧めの後、放送の役目を自分に任せるよう、進言するつもりだった。

 だが、しかし。
 そう思った後がよくなかった。

 ――では次の放送は、代わりに僕が担当させていただきます。

 そう割り込んでくる声があったのだ。
 短い茶髪/中性的な顔立ち/華奢な体躯/パンツルック。
 ぱっと見では男とも女とも分からぬ、しかしどちらでもありそうな容姿をした、戦闘機人ナンバーⅧ――オットー。
 ガレアの冥王の調整を担当しているウーノの妹であり、同時に会場にいるクアットロの妹でもある男装の少女。
 そのオットーに先を越されてしまった。
 自分が放送をやると言い出す直前に、彼女がどこからともなく現れ、放送をやらせてほしいと言い出したのだ。
 プレシアの返答は、是。
 断る理由などなかった。
 ただ死者と禁止エリアとボーナスを読み上げるだけの放送担当など、誰に任せても同じことだったのだろう。
 一応、こんな腹の知れぬ者に任せていいのか、とだけプレシアに尋ねた。
 こういう仕事には貴方よりも向いている人材だと思う、という返事が返ってきた。
 なるほど確かに、的を射ている。
 お人よしな自分よりも、冷徹な機械人形そのもののようなこの娘の方が、メッセンジャーには向いているように見える。
 悔しいが、そう返されては仕方がない。
 それ以上言い募ることがあれば、違和感を覚え怪しまれてしまうことに繋がるだろう。
 あるいはオットーを選びリニスを遠ざけたことが、大なり小なり疑われていることの表れなのかもしれないが。

 そうしてリニスは放送を行うことを断念し、現在の状況に至っていた。
 放送役に選ばれなければ、彼女がやることは決まっている。元の通り、参加者達の監視だ。
 新ルールの適応は、リニスにとっては有利とも不利とも言えない、といったところ。
 武器を与えるとは言っても、他人を殺せる人間は、大体既に武器を所有している者か、武器をも必要としない超人くらいだ。
 よほどのものが支給されない限り、そうそう脅威の度合いは変わらない。
 主催に抗う立場の者に奪わせるにしても、自分が忍ばせた支給品のような、脱出の糸口になるようなものにはなりえないだろう。
 これが浅倉の提言した通り、「知りたい参加者の居場所を教える」というものだったならば、もう少しまずかったかもしれない。
 だがそれは却下された。プレシアのプライドが、あの男の望みを叶えることを拒んだのだ。

268第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/03/18(木) 19:18:03 ID:3/RUOXyE0
 ふと、足を止め。
 すぐ左側の階段へと目をやる。
 地下へと繋がるその先にあるのは、デスゲームの会場を覆う結界維持を担うもの。
 否――“その性質を考慮すれば”、ある意味デスゲームの会場そのものの根幹といっていいだろう。
 ぴ、ぴ、ぴ、と。
 手元の端末を操作し、空間モニターを投影する。
 淡い光を伴って、虚空に浮かび上がったのは、光を放つ一冊の本。
(異なる世界から奪い取った、もう1つの夜天の書……)
 古びた茶色の表紙に、黄金の剣十字をあしらった魔導書。
 かつて闇の書と呼ばれ恐れられた、古代ベルカのロストロギアの成れの果て。
 あれがデスゲームの会場を、会場たらしめる仕掛けだった。
 殺し合いのフィールドを展開する魔法そのものは、“この地”に足を踏み入れてしばらくの後に入手している。
 だが、その構成式は極めて難解で、必要となる魔力も膨大。
 いかな大魔導師プレシアと言えど、すぐにその式を物にするのは不可能であったし、
 よしんば術を完全に修得したとしても、一個人が何時間も何日も展開し続けられるようなものではなかった。
 そこで、前者の問題の解決のため、白羽の矢が立ったのが夜天の書だ。
 かつて強力な蒐集能力を有していたそれは、闇の書の闇が消え去った今となっては、当時ほど強大な力を持ってはいないものの、
 魔導の演算・実行装置としては、未だ優秀な性能を有している。
 管理外世界のものでたとえるならば、スーパーコンピューターのようなものだ。
 おまけにその術式の性質は、目的の魔法とも相性がいい。
 闇の書の闇が存在しないということも、裏を返せば、暴走を避けられるということに繋がる。
 自力では術を発動するための魔力を発揮できないという難点もあったが、それもジュエルシードによって補うことができた。
 次元干渉型ロストロギアのエネルギーも、この手の魔法とは親和性が高い。
 カメラをもう少しズームアウトすれば、合計10個のジュエルシードが、夜天の書を取り囲むように円を描いている様が見えるだろう。
(でも……そのためにも、犠牲を払ってしまった)
 リニスの表情に影が差す。
 この夜天の魔導書も、ただで手に入れたわけではない。
 その世界に住む持ち主から、無理やり取り上げることで手に入れたものだ。
 夜天の書強奪――“この地”で手に入れた技術の実験運用を兼ねた戦いの結果は、まさに凄惨を極めたものだった。
 招かれた結果は、海鳴市と呼ばれる付近一帯の壊滅。
 大勢の人間が命を落とし、プレシアに立ち向かった魔導師・騎士達は、1人残らず、一方的に虐殺された。
 当然その世界でもまた、フェイト・テスタロッサが命を落とした。
(私達は、一体どれほどの罪を重ねれば……)
 たどり着くことができるのだろう。
 あるいは、止まることができるのだろう。
 未だ暗い面持ちのまま、映像を切り足を進める。
 何もかもが、自分に罪を思い出させた。
 3人ものフェイト・テスタロッサを、助けることも止めることもできず、無惨に死なせてしまった罪。
 幾人ものフェイトを作り上げ、死地へと追いやり殺してしまった罪。
 それ以外にも大勢の人間を巻き込み、命を奪ってしまった罪。
 この道を歩んだその先で、いつか贖罪することはできるのだろうか。
 殺し合いを止めることができれば、それは罪を償ったことになるのだろうか。
 歩みを止めるわけにはいかない。
 されど、それで許されるとは限らない。
 厳然とした事実が、彼女の心を憂鬱にさせた。

269第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/03/18(木) 19:19:28 ID:3/RUOXyE0


 悪夢なら、何度も見てきたつもりだった。
 自ら悪夢を振りまく存在となって、何度も滅びを招いてきた。
 だが、それでも。
 こうしてこの光景を見ることで、得も知れぬ悲しみが胸に染みるのは何故だろう。
 見慣れたはずの光景が、この胸を絶え間なく苛むのは何故なのだろう。

 天空より暗雲を切り裂き迸る、次元跳躍砲撃魔法。
 圧倒的な暴力を前に、成す術なく倒壊するビルの数々。
 燃え盛る大地を覆い尽くすのは、見たこともないおぞましき軍勢。
 放つ魔法の数々は、得体の知れないフィールドに無効化された。
 数の暴力と天雷の猛威が、みるみるうちに自分達を追い詰めた。

 紅の鉄騎の小さな身体が、巨獣の前足に踏み潰される。
 風の癒し手の騎士甲冑が、膨大な弾幕に蜂の巣にされる。
 蒼き狼の盾の硬い守りも、その先の身体ごと八つ裂きにされた。
 烈火の将の突撃も通らず、散り一つ残すことなく蒸発した。

 年若き黒衣の執務官も、緑の防壁の使い手も。
 心優しき金の閃光も、不屈の心を抱いた砲手も。
 全てが例外も容赦もなく、等しく赤い海へと沈んでいく。
 涙と鮮血が海を成し、天空を照らす炎と共に、街と屍を飲み込んでいく。

 ああ――そうか。
 私はただ見てきただけだった。
 見ているだけで、知らなかったのだ。
 加害者として見てきた悪夢は、全て自身が一方的に押し付け、一方的に俯瞰するだけで。
 加害者故に苦しむことはあったとしても、被害者として苦しむことなどなかったのだ。
 苦しみをただ見ているだけで、実際に味わったことなどなかったから。
 慣れも風化もないままに、全く未知の悲しみに、こうして純粋に苦悶しているのだ。

「主……■■■……」

 頬を伝う悲しみの涙を、無理に止めようとはしなかった。
 仮に止めようとしたとしても、止められないことは分かっていた。

「■■■、■■■■……」

 生き残った主の口から漏れる声は、あまりにも小さく弱々しい。
 五体を苛む苦しみが、根こそぎ体力を奪っていったに違いなかった。

「みんな……死んで、しもたんやな……」
「はい。主のご友人達も、守護騎士達も……全て残らず、逝ってしまいました……」
「そうか……」

 アスファルトの上に倒れたまま、目の前の主君は微動だにしない。
 飛べるだけの魔力はある。だが、身体の負傷がそうさせないのだろう。
 地に落ちされた■■の主の姿は、ひどく痛ましいものだった。
 無数の銃創と切り傷が、幼い肌と肉を抉り、穴の空いていない部分も、ほとんど痣で埋め尽くされていた。
 特にひどいのが両足だ。
 いずれも激しい戦闘の果てに、膝から下が潰されて、さながらミンチのごとき有様を晒している。
 なんと皮肉で残酷なことか。
 立って歩く力を奪われ、それでもそれを取り戻す兆しを見せた矢先に、その希望が打ち砕かれるとは。
 否、もはや足だけではない。
 これだけの失血だ。骨折や内臓破裂も多い。
 立つだの歩くだの以前に――生きていられる時間すら、もはや残り僅かしかない。

270第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/03/18(木) 19:20:20 ID:3/RUOXyE0
「■■■■■■■……私の、命を吸って……」
「……何を、おっしゃるのですか」

 声は、揺れていた。
 それでも、それは驚愕故のものではなかった。
 なまじ意味が分かってたからこそ、驚きとは異なる想いに声が揺らいだ。

「私のリンカーコアと、1つに、なれば……■■■■■■■は、生きることができる……
 でも……このまま私が死んでしもうたら……■■■■■■■まで、消えてしまうやん……そんなの……共倒れやん……」

 かつて闇の書と呼ばれていた時、目の前の主と、今は亡き金の閃光を取り込んだ理屈の応用だ。
 主のリンカーコアを蒐集し、主の命を吸い尽くしてしまえば、私は生きながらえることができるだろう。
 そうしなければ、自分まで死ぬ。
 恐らくあの守護騎士達同様、主と■■の■を介して繋がっている自分の寿命は、主の死と同時に尽きることになる。
 そうでなかったとしても、■の■の■を切り捨てた時点で、私に残された命など、よくて半年程度しかないのだ。
 だが、しかし。
 そうして主をこの身に取り込み、生きながらえることができたとしても。

「私の愛した者達は、1人残らず命を落としました……その上貴方まで逝ってしまえば……」

 そんな生涯に何の意味がある。
 愛すべき最後の主の命を、自らのパーツにまで貶めてまで生きる理由が、一体この世のどこにある。
 私にとっての命とは、主達との日常そのものだった。
 たった独りで生きる意味も覚悟も、私はまるで見出していなかった。
 騎士を喪い、友を喪い、母なる主さえも喪った未来に、一体どれほどの価値があるというのだ。

「……私の大切なものも……もう……ほとんど全部、なくなってしもうた……」

 虚ろな瞳が、天を仰ぐ。
 鈍い灰色の曇り空を、主の瞳がぼんやりと見据える。
 いつの間にか、雪が降っていた。
 灰色だけの空の中に、柔らかな白が舞っていた。
 ゆらゆらと舞い降りる冷たさが、私の肌に落ちていく。
 涙で濡れた頬に触れて、心の奥底まで冷やしていく。

「でも……だからこそ、■■■■■■■だけは……最後に残った……■■■■■■■だけは……手放したく、ないんよ……」

 ああ、それでも私の命を望むというのか。
 それでもなお私の主は、私に生きることを願うというのか。
 まったくもって、ずるい人だ。主君にそんな風に言われては、嫌でも拒むわけにはいかないではないか。
 主の望みを叶えるということは、主の肉体の尊厳を損ねることに他ならない。
 しかしその望みを拒んでしまえば、主の精神の尊厳までも損ねてしまう。
 そんな言い方をされてしまっては、どんな絶望的な未来であろうと、行き続けなければならないではないか。
 まったく、こんな私などに、こんなずるい言い回しをしてまで、生きることを望むだなんて。
 あるいはそんな優しさがあったからこそ、私はあの日に救われたというのか。

「私の、命……■■■、■■■■に……全部、あげる……せやから……」

 神がこの世にいるというのなら、私はその神を恨む。
 運命が定められているというのなら、私はその運命を憎む。
 こんなあんまりな結末しか、私達には用意されていなかっただなんて。
 手を伸ばして掴んだかと思えば、こんなにもあっさりと奪われてしまうだなんて。

「私の……分まで……」

 ああ。
 本当に。

「強く、生きてや……リインフォース――」

 全てがあの日のままに、幸せに終わっていたならば――本当に幸福だっただろうに。

271第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/03/18(木) 19:22:00 ID:3/RUOXyE0


 時の庭園。
 かつてミッドチルダの魔法技術によって建造された、次元航行可能な移動庭園である。
 プレシア・テスタロッサの買い取ったそれは、彼女の研究のために、随所に様々な改修がなされていた。
 長き次元航行の果てに草木を枯らせ、醜い岩肌を晒したその姿は、
 彼女が召喚した傀儡兵の存在もあいまって、今や庭園というよりは、要塞と呼ぶ方が相応しい存在であろう。
「その外観を相変わらず使いまわしてるってのは、どんな未練なんだろうねぇ……」
 ぽつり、と響く女の声。
 いつしか庭園のすぐ傍には、2つの人影が立っていた。
 片やオレンジ色の髪を生やした、グラマラスな肢体を露出した女性。
 髪色と同じ色の耳と尻尾は、犬かはたまた狼か。人ならざる魔導師の尖兵――いわゆる使い魔と呼ばれる存在であろう。
「それで、どうするんだい? やっぱりまずは、夜天の書を取り戻すとこから?」
 どうやら先ほどの声は、この狼風の女性のものだったようだ。
 さばさばとした気の強い声が、傍らの人影へと問いかける。
「いや……ここにあることは分かっているが、どこに隠されているのかは検討もつかない。
 奴の動向や目的を探るためにも、まずは内部の構造を調べるべきだろう」
「だね。外見が同じだからって、中身も同じとは限らないわけだし」
 狼女の問いに答えたのは、全身黒ずくめの衣装を纏った女性だ。
 ところどころに彫金が施された、ドレスのような装束は、古代ベルカ騎士の装備する騎士甲冑。
 背中の4枚2対の翼まで漆黒な中、雪のごとき銀色の長髪と、血のごとき真紅の双眸が、ひどく鮮やかに輝いていた。
「すまなかったな、使い魔アルフ……こんなことに付き合わせてしまって」
「いいってことさ」
 銀髪の女の言葉に、アルフと呼ばれた使い魔が笑顔で返す。
「あんたが助けてくれなかったら、あたしはあのまま何もできずに死んでいた……
 最後に残されたこの命で、せめてフェイトの仇が討てるっていうなら、安いもんだよ」
 このオレンジの毛並みの使い魔もまた、かの世界の海鳴の生き残りだった。
 否。
 正確には、到底生き残りと言えるようなものではなかったのだが
 あの日プレシア・テスタロッサに敗北し、主フェイト・テスタロッサを喪ったアルフは、比喩も誇張なしに死の淵に立たされていた。
 主君との魔力バイパスを断たれ、肉体にも甚大なダメージを負った獣は、数秒遅れるだけで命を落としていただろう。
 それを強引に救ってみせたのが、この銀髪の女だった。
 使い魔たる彼女の身体を「蒐集」し、術式を強制的に書き換えることで、使い魔契約をやり直したのだ。
 つまりこの女こそが、フェイトに代わるアルフの新たなマスターなのである。
「……さ、そうと決まれば、早速いこうか。今度こそプレシアの性根を叩き直してやるために、さ」
 かつての主が身に着けていたものに似た、漆黒のマントを翻し。
 かつ、かつ、かつ、と靴音を立て、アルフが庭園へと進んでいく。
 銀髪の女もまたそれにならい、彼女の後に続いて進んだ。
(主の仇を討つために……か)
 ふと、想いを馳せる。
 女の赤き瞳に浮かぶのは、かつて喪われた主君の姿だ。
 茶色い髪を短く切りそろえ、特徴的な髪留めをつけた主の屈託のない笑顔は、今でもありありと思い出すことができる。
 今や彼女にとって確かなものは、その頃の記憶とアルフくらいのものだ。
(我ながら滑稽なものだな)
 内心で、自嘲気味に苦笑した。
 かつて夜天の書の管制人格として生み出され、忌まわしき闇の書へと作り変えられ。
 命を奪う災厄として、数多の命を屠った果てに。
 最後の夜天の主に出会い、血と涙を塗りたくられた呪いの身体に、新たな名前を与えられて。
 そうして忌むべき過去と決別し、穏やかな日常を手に入れたはずなのに、結局自分は最期の時をこんなことに費やしている。
 これではまるで、復讐のようだ。
 結局デバイスとして生まれた自分には、武器らしく戦って散る末路がお似合いだったということか。

272第三回放送 ◆Vj6e1anjAc:2010/03/18(木) 19:23:53 ID:3/RUOXyE0
(それでも構わないさ)
 胸の中で呟きながら、眼前の時の庭園を仰ぐ。
 プレシア・テスタロッサは危険な女だ。
 戦いの中、彼女が口にしていた言葉を信じるならば、彼女は間違いなく災いを呼ぶ。
 闇の書の闇をも駆逐した英雄達が、何もできず、一方的に叩き潰されたほどの相手だ。
 この身でどこまで追いすがれるかは分からない。だが、このまま野放しにしておくわけにはいかない。
 きっと生き残ったのが自分ではなく、我が主であったとしたならば。
 今自分がしているのと同じように、プレシアの悪意を止めるために戦うだろう。
 ならば、自分もまたそれでいい。
 残されたこの僅かな命を賭してでも、あの女の目論見を止めてみせる。
 多くの犠牲を踏み砕いてきた自分が、最期に大勢の人々を守れるというのなら、きっと主も報われるだろう。
 私は生きる。
 生きて戦う。
 最後の夜天の主――八神はやての命と誇りを、この身に背負って戦ってみせる。
「誤算だったな、プレシア・テスタロッサ……この私が生きている限り、どこにもお前の逃げ場所はないぞ」
 この場所へとたどり着くことは困難を極めた。
 撃沈したアースラの炉の魔力を丸々使い、アルフと2人がかりで転送魔法を行使しても、ここまで来るのに何週間もかかってしまった。
 それでも、どうにかここまでたどり着けた。
 彼女の身体と夜天の書は、未だ魔力で繋がっている。
 何百年もの歴史の中を、次元空間を漂いながら過ごしてきた彼女らだ。
 古代ベルカの記憶に従い、相応の努力と執念を支払えば、たとえそこが未知の座標であろうと、こうして追い着くことができる。
 そう。
 彼女を生かしてしまったことは、確かにプレシア・テスタロッサの誤算だった。
「これ以上――お前の好きなようにはさせない」
 祝福の風・リインフォース――ここに参戦。




【リインフォース@魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE−THE BATTLE OF ACES−】
【アルフ@魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE−THE BATTLE OF ACES−】
※いずれもゲームシナリオ開始前、闇の書の闇を撃破した数日後からの参戦です
※リインフォースは、彼女の世界の八神はやてを取り込んだことで、元の力を部分的に取り戻しました。
 単独での戦闘能力は、A's本編中で闇の書の闇から切り離された時点のレベルまで回復しています。


【全体の備考】
※プレシアの現在地の外観は、時の庭園@魔法少女リリカルなのは と同じであることが判明しました
※殺し合いの会場は、夜天の書@魔法少女リリカルなのはA's PORTABLE−THE BATTLE OF ACES− および
 ジュエルシード魔法少女リリカルなのは によって展開された結界魔法に覆われています。


【追加ルール】
 第三回放送以降、他の参加者を1人殺すたびに、新たな武器が1つずつ支給されます。
 支給対象は現実の銃器やデバイスなど、一般的な武器の範疇に収まるものであり、極端に強力なものや変身アイテムは支給されません。

273 ◆Vj6e1anjAc:2010/03/18(木) 19:26:34 ID:3/RUOXyE0
以上、投下終了。
ちょくちょくと微調整と、それから前に言われた、「状態表は使わないでほしい」というご意見を反映してみました。

274リリカル名無し:2010/03/18(木) 21:46:43 ID:A53L9.hgO
投下乙です
このままウィキ収録しても大丈夫かと

ただ個人的には状態表はあった方がいいと思います
その為に「参加者以外のキャラ」の追跡表がある訳ですし、以降リイン達が本格的に絡んで来たらやっぱり最初に登場したSSから追跡表に加えた方が便利ですし

275リリカル名無し:2010/03/18(木) 22:19:35 ID:3BWFTTwE0
投下乙です
同じくこれでwiki収録していいと思います

>>274
リインⅠとアルフは「部外者(しかも外からの)」、本来ロワ進行には関係ないキャラです
それを準正式キャラのように扱うのは反対です

276リリカル名無し:2010/03/19(金) 02:10:37 ID:MAFOuIvAO
完全に関わりのない部外者なら要らないだろうけど、リインはこれからロワに絡もうとしてるんだから「完全な部外者」って訳ではないと思う
別に状態表あってもなくてもどっちでもいいけど、話の中に(単発キャラとしてではなく)出て来たからには状態表あった方が分かりやすいし
もっと言えば状態表がある事で分かりやすくなる事はあれど、別段デメリットがあるってわけでもないし
まぁこれについては氏の判断に任せるか、他の人の意見も聞いてみるかかな

277リリカル名無し:2010/03/19(金) 08:05:05 ID:XIIs6nFw0
これまでの話の流れを鑑みるに「今は無し、今後投下作品内で登場した時に表記」が妥当かと

278リリカル名無し:2010/03/19(金) 10:13:00 ID:SbKQd1Ag0
>>275の準正式キャラのように扱うのは反対という意見に関しては、ロワのバックグラウンドに関わっており>>276もコメントしている通りこれから関わろうとしている以上、『正式』ではなくても既に『準正式』として扱っても良いとは思います。
それに、これから終盤に入るに辺り状況次第ではありますが関わってくる可能性もある以上、全くの部外者としてシャットアウト(絶対に関わらせない)するのもどうかと思うんですよね。
とはいえ、現状ではさほど関われないでしょうからやはり>>277の通り『今は無し、但し今後の関わり次第で表記』で良いと思います。

279 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/06(木) 23:57:33 ID:jpnXmxK.0
柊かがみ、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、スバル・ナカジマ、泉こなた、相川始で投下します
いくつか不安な点があるので一度仮投下します

280リリカル名無しA's:2010/05/06(木) 23:58:30 ID:jpnXmxK.0
(……俺は何がしたいんだ?)

相川始は悩んでいた。

きっかけは先程あった3回目の定時放送。
参加者をミラーワールドに引きずり込み、二人の生贄を無残に殺して新たな殺し合いを目論んだ、浅倉威。
彼の死に僅かな安堵を。
ギンガが気にかけていたキャロ・ル・ルシエと、天音の友人だったかもしれないフェイト・T・ハラオウン。
彼女達の死にはいささかの哀悼を。
それぞれいつのまにか抱いている自分に気付いたのだ。
気のせいかそれは前回の放送よりも強い感情のように思えた。

(……俺はジョーカーだぞ!?)

最初はここにいる全員を殺して栗原親子の元へ帰る事が唯一の目的だった。
だからこそ出会った参加者を次々と襲い続けていた。
だがあの神を自称するエネルという参加者の存在を知った時、このバトルファイトに疑問を抱いた。
いや、それがそもそも間違いだったのか。
これはバトルファイトの延長ではなく、ただプレシアが引き起こしたイレギュラーな事態。
それなら別にここで優勝しようがどうしようが、本来のバトルファイトに影響はないのではないか。
本当はそれを口実にしていただけではないか。

(それがどうした! もう俺は……)

だが今の始は傍目からは分からないが、とても危うい状態だ。
ミラーワールドでのジョーカー化はこちらに戻った事で事なきを得たが、もしもあのまま戦い続けていれば今の始はいなくなっていただろう。
それほどまでにジョーカー化の欲求を抑えるのが苦しくなっているのだ。
今も放送を聞いただけで胸の奥でどす黒い感情が蠢いている。

もし今この状態で誰かに会えば自分を抑えきれるか自信がなかった。
だから一度ホテルから離れてこうして心を静めているのだ。


だが、そんな状態だからこそ始は気づく事ができなかった。


「――――ッ!?」

自らに迫り来る鋼鉄の脅威に――。


【1日目 夜】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタから伸びる道路上】
【相川始@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】疲労(小)、背中がギンガの血で濡れている、言葉に出来ない感情、苦悩
【装備】ラウズカード(ハートのA〜10)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
【思考】
 基本:皆殺し?
 0.――――。
 1.生きる為に戦う?
 2.アンデッドの反応があった場所は避けて東に向かう。
 3.エネル、赤いコートの男(=アーカード)を優先的に殺す。アンデッドは……。
 4.アーカードに録音機を渡す?
 5.どこかにあるのならハートのJ、Q、Kが欲しい。
 6.ギンガの言っていたスバルや他の4人(なのは、フェイト、はやて、キャロ)が少し気になる。彼女達に会ったら……?
 7.ギンガの死をこのまま無駄に終わらせたくはない。
【備考】
※ジョーカー化の欲求に抗っています。しかし再びジョーカーになれば自分を抑える自信はありません。
※首輪の解除は不可能と考えています。
※「他のアンデットが封印されると、自分はバトルファイト勝利者となるのではないか」と考えています。
※赤いコートの男(=アーカード)がギンガを殺したと思っています。
※主要施設のメールアドレスを把握しました(図書館以外のアドレスがどの場所のものかは不明)。

281 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/06(木) 23:59:25 ID:jpnXmxK.0


     ▼     ▼     ▼


「もうすぐ放送か……今度もまた……」

放送まで後数分という時。
緊張した空気が漂う薄暗いホテルのロビーに1組の赤い服を身に付けた男女、金髪トンガリ頭に真紅のコートのヴァッシュ・ザ・スタンピードと紫髪サイドポニーに真紅のセーターのかがみはいた。
ロビーに漂う空気と同じように暗くなり気味のヴァッシュとは対照的にかがみの心中は穏やかではなかった。

(浅倉の奴、絶対私が殺してやるんだから!!!)

自らの片割れとも言うべき双子の妹である柊つかさを目の前で殺された今のかがみの心中にあるのは『復讐』の二文字のみ。
残念ながら今はまともに戦う術がないので大人しくしているが、そうでなければ今頃憎き仇を探して回っていただろう。

(それにしてもさっきまでのこいつ誰かに似ていたような……ああ、騒がしいところがゆいさんに似ているのね)

かがみはソファーに座って顔を落としているヴァッシュの様子を見ながら一人で納得していた。

成実ゆい。
かがみの親友である泉こなたの従姉であり、後輩の小早川ゆたかの実姉に当たる。
苗字が違うのは既婚者だからである。
いつも騒がしくテンションが高い人だが、そういうところがどこかヴァッシュと似ているのだ。

(どこにでもいるのね、こういう人って。そういえばこなたは今どこで何しているのかしら……)


     ▼     ▼     ▼


整然と立ち並ぶ林の中で綺麗にホテルまで続いている不自然な一本道。
その道が不自然に思えるのはそこだけ何か得体のしれない力で消されたかのようになっているからだろう。
道と林の境界付近の木々は揃って普通ではありえないほど綺麗な切断面があったので尚更だった。
そんな不自然な道に最大限の注意を払って進む二人の青髪の少女、背が高く短髪なスバル・ナカジマと背が低く長髪な泉こなたがいた。

「スバル、あの天使さんも参加者なのかな?」
「…………」
「ん? スバル?」
「あ、ああ、たぶんそうじゃないかな……」

スバルはホテル・アグスタの屋上に降り立った天使の姿を知っていた。
正確にはチンクから聞いただけなので直接は知らないが、金髪のトンガリ頭で赤いコートは遠目からでもなんとか分かった。
ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
チンク曰く、危険人物。
もし本当ならこれからスバル達の向かうは安全ではなく、危険な場所である可能性が極めて高い。
そのホテルにこなたを連れて向かう事にスバルは若干危惧を抱いていた。
戦場になるかもしれない場所にこなたを連れて行って、こなたまで危険な目に遭わせるんじゃないかと。
道すがらクロスミラージュの状態を念入りに調べていたリインからは「基礎構造部分に致命的な破損があり、専門の場所で修理すれば修復できるかもしれないが、今のままだと自動修復もままならず、もし万が一この状態で使用すればそれがクロスミラージュの最期になるだろう」という診断結果を聞かされた。
つまり今のスバルの力は相変わらず満足に発揮できない状態だ。
スバルとこなたが調べた範囲でデュエルアカデミアに気になる物はなかった事はすでにお互い確認済みだったが、あそこにはまだ幾つか荷物が放置したままだ。
それを取りに戻るという選択肢もありだ。
だがそんなスバルの心の内を察したのかこなたは声をかけてきた。

「大丈夫だよ」
「え?」
「自分の身は自分で守るからさ。スバルは自分がするべき事をすればいいと思うよ」
「……うん!」

迷いは晴れた。


     ▼     ▼     ▼


そして運命の悪戯と共に出会いはいつも突然に。

「かがみさん!?」
「ス、スバルッ……ヴァッシュ、あいつが私を! いや、た、助けて!!!」
「――ッ、こんな時に!」

そして銃声と共に別れもまた唐突に。

282 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/07(金) 00:00:08 ID:Jv8kAxDU0


     ▼     ▼     ▼


ロビーに立ち並ぶ数本の柱を挟んでスバルとヴァッシュは膠着状態にあった。

(こなたを待たせておいて正解だったよ。まさかかがみさんがいて、その上危険人物のヴァッシュと手を組んでいたなんて……)

いくらスバルでも二人相手ではこなたを守りきる自信はない。
今まで別行動で良い経験がなかったが、今回に限っては別行動にして正解と言えよう。

(でもこのままの状態が続くのは好ましくない。どこかで隙を見て一度戻った方がいいかな)

スバルが離脱の隙を窺っていた時を同じくして、ヴァッシュもまた転機を窺っていた。

(かがみさんには避難してもらったから、あとはスバルを抑えるだけか)

既に念のため保護対象であるかがみには装甲車の鍵を渡して地下の駐車場に避難してもらっておいた。
あそこに駐車してあった装甲車の中なら万が一の事態でも安全だと考えたからだ。

(威嚇のつもりだったけど、あの初撃を避けた動作は大したものだった。でも怪我していたみたいだからなんとかなるかな)

あとはタイミングを見計らって相手を制圧するだけ。

だが突然の邂逅に対処するあまりスバルもヴァッシュも大事な事を忘れていた。

そしてそれを思いださせるかのように時計の針は12と6を指す。

『こんばんは。これより18時をお伝えすると同時に、第3回目の定期放送を行いたいと思います』

二人の膠着状態を破るかの如く無慈悲な放送は始まった。


     ▼     ▼     ▼


新庄・運切の訃報。

それはヴァッシュにとってまさしく青天の霹靂だった。
その知らせを聞いた瞬間、ヴァッシュの頭は真っ白になった。
絶対安全とは言えないが、きっと大丈夫だと思っていた。
新庄君からの提案だったとはいえエネルは自分の力に恐怖を覚えていたはずだ。
だから新庄君の身は自分が生きている間は大丈夫だと思い込んでいた。

だがそんなある意味楽観的な考えはあっけなく砕かれてしまった。

「……ぁ……ぅあ」

誰のせいだ?
誰のせいでもない。
全てはヴァッシュ自身のせいだ。
ヴァッシュの甘い考えが新庄運切という一つの命が散る原因となった。
少なくともヴァッシュ自身はこの時そう思っていた。

「……っ……え?」

そして、そんなヴァッシュの姿を嘲笑うかのように一つの人影がヴァッシュの前にあった。
失意に沈みそうな気力を奮い立たせてヴァッシュが顔を上げると、そこにはヴァッシュとよく似た顔立ちの男がいた。

「――ナ、ナイブズッ!?」

そこには死んだはずの兄がいた。
だがヴァッシュが驚いたのはそれだけではない。
いつのまにか自分の周りは闇に覆われて、周囲には何人もの人が立っていたのだ。
ミリオンズ・ナイブズ、新庄・運切、フェイト・T・ハラオウン、アンジール・ヒューレー、エネル、そして――。


――あの忌まわしき事件で消え去ったジェライの人々がそこにいた。

そしてその全員が黙ってヴァッシュを見ていた。
ただ静かに見つめていた。

皆の瞳にはただヴァッシュの姿が映るのみ。

「          」

そして、その瞳にヴァッシュは――。

283リリカル名無しA's:2010/05/07(金) 00:01:39 ID:Jv8kAxDU0


     ▼     ▼     ▼


「浅倉の奴、なに勝手に死んでいるのよ! あいつは、この手で殺さないといけないのよ! つかさを殺しておいて、あいつめ……!!」

照明も疎らな地下駐車場。
その何台も駐車してある車の中にかがみの乗っている装甲車はあった。
ヴァッシュに言われた通り安全のためにここに来たが、黙って待つ気はなかった。
その理由は先程から上の方から響いてくる不気味な振動。
どうやら激しい戦闘が始まっているらしい。
しかも徐々に駐車場に天井にヒビが走り始めていた。
どちらが勝つにせよこのままここにいれば生き埋めになるのは必定。
なんとしても一刻も早くここから脱出する必要があった。
キャロが死んだせいかバクラが静かだったので、とりあえず一人でなんとかするしかなかった。

「でも万丈目はいい気味ね。きっと私を殺そうとした報いよ」

憎き相手の死を知って悦になりながらかがみは必死に最低限の運転技術を覚えていた。
実際歩いた方が早いかもしれないが、この装甲車の頑丈さを考えればここで最低限の運転をできるようになっておくほうが後々便利だ。
それにこの装甲車にも他の車と同様に取扱書が付いていたし、実際の運転なら親やゆいなどと見る機会も何回かあった。
そのためなんとか発進の仕方はぎこちないながらも理解できた。

「えっと、まずはエンジンを掛けて、アクセルをおおおおお!!!」

ついに小気味いいエンジン音と共に無骨な装甲車は走り始めた。
ただしかがみがアクセルペダルを一気に踏み込んだためいきなりトップスピードで発進するはめになったが。
だが車線上に出口があったのですぐに外に出る事が出来て結果的に良かったとも言える。
ただ当のかがみはそのスピードに面食らっていた。

「うそ、ちょっと、早すぎ――って!?」

ふと前を見ると、車線上に誰かが飛び出してきた。
それは数時間前に仮面ライダーと怪物に変身して浅倉と戦っていた奴だった。
ひどく苦しそうにしていてこちらに気付いていないようだったが、それを見てもかがみは車を止める気はなかった。
むしろ――。

「轢いちゃえ」

――そのまま速度を緩めず、クラックションも鳴らさず、その勢いのまま突き進んだ。


ドン!!!!!

284 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/07(金) 00:02:41 ID:Jv8kAxDU0


【1日目 夜】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタから伸びる道路上】
【柊かがみ@なの☆すた】
【状態】バリアジャケット、つかさの死への悲しみ、サイドポニー、自分以外の生物に対する激しい憎悪、やさぐれ、装甲車に乗車中
【装備】ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ホッパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、千年リング@キャロが千年リングを見つけたそうです、ホテルの従業員の制服、ストラーダ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、装甲車@アンリミテッド・エンドライン
【道具】支給品一式、レヴァンティン(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【思考】
 基本:みんな死ねばいいのに……。
 1.まず目の前でふらついている奴を轢き殺す。
 2.他の参加者を皆殺しにして最後に自殺する。
【備考】
※一部の参加者やそれに関する知識が消されています(たびかさなる心身に対するショックで思い出す可能性があります)。
※デルタギアを装着した事により電気を放つ能力を得ました。
※「自分は間違っていない」という強い自己暗示のよって怪我の痛みや身体の疲労をある程度感じていません。
※周りのせいで自分が辛い目に遭っていると思っています。
※変身時間の制限にある程度気付きました(1時間〜1時間30分程時間を空ける必要がある事まで把握)。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付きました。
※千年リングを装備した事でバクラの人格が目覚めました。以下【バクラ@キャロが千年リングを見つけたそうです】の簡易状態表。
【思考】
 基本:このデスゲームを思いっきり楽しんだ上で相棒の世界へ帰還する。
 1.…………。
 2.当面はかがみをサポート及び誘導して優勝に導くつもりだが、場合によっては新しい宿主を捜す事も視野に入れる。
 3.万丈目に対して……?(恨んではいない)
 4.こなたに興味。
 5.メビウス(ヒビノ・ミライ)は万丈目と同じくこのデスゲームにおいては邪魔な存在。
 6.パラサイトマインドは使用できるのか? もしも出来るのならば……。
【備考】
※千年リングの制限について大まかに気付きましたが、再憑依に必要な正確な時間は分かっていません(少なくとも2時間以上必要である事は把握)。
※キャロが自分の知るキャロと別人である可能性に気が付きました(もしも自分の知らないキャロなら殺す事に躊躇いはありません)。
※かがみのいる世界が参加者に関係するものが大量に存在する世界だと考えています。
※かがみの悪い事を全て周りのせいにする考え方を気に入っていません(別に訂正する気はないようです)。


     ▼     ▼     ▼


スバルはヴァッシュからの突然の攻撃に驚いていた。
放送の途中で繰り出された刃の一撃の威力は驚くべきものだったが、スバルが驚いた原因は別にあった。
一瞬前まで居た場所に刻まれた斬撃の痕。
普通ではありえないほど綺麗に刻まれた傷痕にスバルは見覚えがあった。
ここに来るまでの林で同じような切り口で切られた木が数本。

そしてルルーシュの右腕の傷痕も似ていた。

「ヴァッシュさん、あなたがルルーシュの左腕を……」

あの傷さえなければルルーシュが絶望する事もなかった。
あの傷さえなければルルーシュが死ぬ事もなかった。

「あなたのせいで!!!!!」

スバルは知らない。
ヴァッシュが幻を見る程に精神が不安定になったせいで突発的な暴走状態にある事に。
今までヴァッシュの暴走状態が止まっているのは左腕つまりナイブズと向き合ったからだ。
だが同じプラント同士とはいえその左腕は元からヴァッシュの物ではない。
だから最初のうちは暴走していたのだ。
もちろんある程度精神が安定して落ち着く事ができれば今の暴走も止まるだろう。

だが果たしてそれまでホテルが無事であるかは確証は持てない。

285 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/07(金) 00:06:34 ID:Jv8kAxDU0


【1日目 夜】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ1階ロビー】

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身ダメージ小、左腕骨折(処置済み)、ワイシャツ姿、質量兵器に対する不安、若干の不安と決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容は[[せめて哀しみとともに]]参照)、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.あなたのせいでルルーシュは!!!
 2.スカリエッティのアジトへ向かう。
 3.六課のメンバーとの合流とつかさの保護。しかし自分やこなたの知る彼女達かどうかについては若干の疑問。
 4.準備が整ったらゆりかごに向かいヴィヴィオを救出する。
 5.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。
 6.かがみを止める。
 7.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
 8.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
【備考】
※仲間(特にキャロやフェイト)がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※アーカード(名前は知らない)を警戒しています。
※万丈目とヴァッシュが殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。
※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。

【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@リリカルTRIGUNA's】
【状態】疲労(大)、融合、黒髪化九割
【装備】ダンテの赤コート@魔法少女リリカルなのはStylish、アイボリー(5/10)@Devil never strikers
【道具】なし
【思考】
 基本:殺し合いを止める。誰も殺さないし殺させない。
 0.新庄君が……死んだ……。
 1.かがみを守りつつ殺し合いを止めつつ、仲間を探す。
 2.首輪の解除方法を探す。
 3.アーカード、ティアナを警戒。
 4.アンジールと再び出会ったら……。
【備考】
※制限に気付いていません。
※なのは達が別世界から連れて来られている事を知りません。
※ティアナの事を吸血鬼だと思っています。
※ナイブズの記憶を把握しました。またジュライの記憶も取り戻しました。
※エリアの端と端が繋がっている事に気が付いていません。

286 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/07(金) 00:08:58 ID:Jv8kAxDU0


     ▼     ▼     ▼


柊つかさの死。
それは泉こなたにとって大きな衝撃となった。
だがこなたもここが殺し合いの場であり、親友が殺し合いに乗る事まで覚悟した身だ。
当然自分の知らない間に死んでしまう可能性も考えて、覚悟はしていた。

だがこなたは幸運であり、不幸であった。

大した力も知識もない女子高校生が並み居る猛者が死んでいく中で生き残っていた。
だから心の底で淡い希望を抱いてしまった。

『もしかしてこのまま生きて再会できるんじゃないか』

かがみは殺し合いに乗ってしまったが、裏を返せばそれだけの力が手に入ったという事は逆に自分の身を守れる事でもある。
つかさにしても保護者がいなくなっても6時間生き延びたのだから大丈夫なのではないかと思った。

だがそんな幻想は呆気なく砕かれてしまった。

そしてこなたはまだ誰かの死、さらに誰かの死体さえ見ていなかった。
駅の時でさえスバルの配慮によってスバルがクロスミラージュを持って出てくるまで待っていた。
確かに心の中では覚悟はしていた。
だが思うだけでは実際に物事に直面した時には足りない。

だからこそこなたは前に進むと決めた足を止めてしまった。

「う、そ、つ、つかさ……」


【泉こなた@なの☆すた】
【状態】健康、つかさの死に対する強いショック
【装備】涼宮ハル○の制服(カチューシャ+腕章付き)、リインフォースⅡ(疲労小)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS
【道具】支給品一式、投げナイフ(9/10)@リリカル・パニック、バスターブレイダー@リリカル遊戯王GX、レッド・デーモンズ・ドラゴン@遊戯王5D's ―LYRICAL KING―、救急箱
【思考】
 基本:かがみん達と『明日』を迎える為、自分の出来る事をする。
 0.つかさがしんじゃった――。
 1.スバルやリイン達の足を引っ張らない。
 2.かがみんが心配、これ以上間違いを起こさないで欲しい。
 3.おばさん(プレシア)……アリシアちゃんを生き返らせたいんじゃなくてアリシアちゃんがいた頃に戻りたいんじゃないの?
【備考】
※参加者に関するこなたのオタク知識が消されています。ただし何らかのきっかけで思い出すかもしれません。
※いくつかオタク知識が消されているという事実に気が付きました。また、下手に思い出せば首輪を爆破される可能性があると考えています。
※かがみ達が自分を知らない可能性に気が付きましたが、彼女達も変わらない友達だと考える事にしました。
※ルルーシュの世界に関する情報を知りました。
※この場所には様々なアニメやマンガ等に出てくる様な世界の人物や物が集まっていると考えています。
※PT事件の概要をリインから聞きました。
※アーカードとエネル(共に名前は知らない)、キングを警戒しています(特にアーカードには二度と会いたくないと思っています)。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。矢車(名前は知らない)と天道についての評価は保留にしています。
【リインフォースⅡ:思考】
 基本:スバル達と協力し、この殺し合いから脱出する。
 1.周辺を警戒しいざとなったらすぐに対応する。
 2.はやて(StS)や他の世界の守護騎士達と合流したい。殺し合いに乗っているならそれを止める。
【備考】
※自分の力が制限されている事に気付きました。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。

287 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/07(金) 00:09:28 ID:Jv8kAxDU0


【チーム:黒の騎士団】
【共通思考】
 基本:このゲームから脱出する。
 1.首輪解除の手段とハイパーゼクターを使用するためのベルトを探す。
 2.首輪を機動六課、地上本部、スカリエッティのアジト等で解析する。
 3.それぞれの仲間と合流する。
 4.ゆりかごの起動を阻止しヴィヴィオを救出する。
【備考】
※それぞれが違う世界の出身であると気付きました。また異なる時間軸から連れて来られている可能性に気付いています。
※デュエルモンスターズのカードが武器として扱える事に気付きました。
※デュエルアカデミアにて情報交換を行いました。内容は[[守りたいもの]]本文参照。
※「月村すずかの友人」からのメールを読みました。送り主はフェイトかはやてのどちらかだと思っています。
※チーム内で、以下の共通見解が生まれました。
 要救助者:万丈目、明日香、つかさ、ヴィヴィオ/(万丈目は注意の必要あり)
 合流すべき戦力:なのは、フェイト、はやて、キャロ、ヴィータ、シャマル、ユーノ、クアットロ、アンジール、ルーテシア、C.C./(フェイト、はやて、キャロ、ヴィータ、シャマル、クアットロ、アンジール、ルーテシアには注意の必要あり)
 危険人物:赤いコートとサングラスの男(=アーカード)、金髪で右腕が腐った男(=ナイブズ)、炎の巨人を操る参加者(=ルーテシアorキャロ?)、ヴァッシュ、かがみ、半裸の男(=エネル)、浅倉
 判断保留:キング、天道、スーツの男(=矢車)
 以上の見解がそれぞれの名簿(スバル、こなた)に各々が分かるような形で書き込まれています。
※アニメイトを襲いヴィヴィオを浚った人物がゆりかごを起動させようとしていると考えています。

288 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/07(金) 00:12:13 ID:Jv8kAxDU0
仮投下終了です
こちらで気に掛かっている点は以下の二点
・ヴァッシュの状態 と ・かがみが車を運転している点

それ以外でも誤字・脱字、疑問、矛盾などありましたら指摘して下さい

タイトルは「突っ走るオンナ」です(今後の流れで変更の可能性あり)

289リリカル名無しA's:2010/05/07(金) 13:26:28 ID:P3hW9sTs0
仮投下乙です、

指摘されている2点に関してはヴァッシュの状態に関しては自分では判断が付けられません。他の人の意見が欲しい所。
かがみがいきなり車を運転しきっている事に関しては、普通の車ならともかく装甲車がいきなり爆走するかどうかは……一般的な装甲車なら安全装置が働くかエンストしそうな気が……有り得ないとも言い切れないわけですが。
また、幾ら親の運転を見ていたからって普通の少女がいきなり運転出来るのかも疑問が……爆走し出したらパニックに陥りそうな気も……とはいえ、基本的な操作ならば放送前にバクラが口添えさえすればある程度なんとか出来るのでその点に関しては恐らく大丈夫だと。
何にせよ、此方の他の人の意見が欲しい所。

290リリカル名無しA's:2010/05/07(金) 15:06:34 ID:c.q3/4FM0
仮投下乙です。
2点のうちかがみの方は、どうってことないと思うのですが、ちょっと問題に思うのはヴァッシュの件。
個人的主観になってしまうのですが、今回の仮投下案のヴァッシュは、ちょっと彼らしくないんじゃないかと思います。
原作での彼の精神力を考えれば、ジュライの過去を克服した現状では、ナイブズの腕の暴走を許すのも、新庄の死に動揺するのすらも、らしくないのではないのかと。
どちらかといえば、新庄のような犠牲を出さないようにするためにと、より決意を強める方が、ヴァッシュらしくはあると思うのですが、どうでしょうか。

291リリカル名無しA's:2010/05/07(金) 21:29:03 ID:jFDc8rkAO
仮投下乙です
ヴァッシュに関しては少し描写が薄いと思われるのでそこを改善すれば問題はないと思います
かがみに関してはATなら急発車もありうるので特に問題はないかと

292リリカル名無しA's:2010/05/07(金) 22:36:35 ID:P3hW9sTs0
仮投下乙です、
気にしていた点以外で今回の本筋には絡まないものの1点気になる点があったので指摘します。

かがみと始の状態表に変身不能に関する記述が無くなっていたのですが、既に両名とも変身可能になっているという解釈でいいんですか?
確か、放送のタイミングで30分変身不可(『余波』より)でしたので、両名のパートに関しては放送から約30分経過しているという解釈で良いんですね?

293 ◆HlLdWe.oBM:2010/05/08(土) 00:23:40 ID:QiOqNlyw0
意見ありがとうございます
かがみの方はATということを書き加えておきます
ヴァッシュに関してはその辺りの描写を加筆する方向で修正します
修正が済み次第本投下します

>>292
そのつもりです

294 ◆Vj6e1anjAc:2010/07/24(土) 10:26:31 ID:z4pbXA3c0
お待たせしました。「散る―――」の修正分をこちらに投下します。

295 ◆Vj6e1anjAc:2010/07/24(土) 10:27:41 ID:z4pbXA3c0
 銃口からたなびく硝煙が、男の顔を静かに撫でる。
 脳天を真上からぶち抜かれ、物言わぬ死体となったエネルを、冷淡な視線が見下ろしている。
 いつからそこにいたのだろうか。
 そこにいつから立っていて、いつから神を見下ろしていたのか。
「怒りってのはよくないな。気が散って危機管理が疎かになる」
 スマートな体型を有した青年――金居が、デザートイーグルを構えてそこに立っていた。
 四つ巴の激闘から、真っ先に尻尾を巻いて逃げだしたこの男が、エネル達の生死を確かめるために戻って来たのだ。
(ボーナスは……これだな)
 がさごそとデイパックを漁ってみれば、新たな手ごたえをその手に感じた。
 鞄から引き抜かれた御褒美は、長大な柄を持った鉄槌だ。
 殴打する部分には痛々しげな刺が連なっており、凶悪な破壊力を醸し出している。
 重量こそあるものの、アーカードの持っていた、やたら長い刀よりは使い勝手がいいだろう。
 当面はこれを得物としようと判断し、デザートイーグルをデイパックにしまうと、そのまま左手にハンマーを持つ。
 ついでにエネルの手から剣をひったくると、本人のデイパックに詰め、それも奪った。
「それにしても、とんでもない被害だな」
 そこで思い出したように、高みから周囲を見回し、呟いた。
 数分前に起こった大災害には、さしものカテゴリーキングも肝を冷やした。
 何せ逃げのびたかと思えば、いきなり目の前で虹色の大爆発が起きたのだ。
 あの時真南のG-9ではなく、F-9エリアに留まったままだったら、巻き込まれ消し炭になっていたかもしれない。
 これまでの情報を整理すれば、あのカラミティを巻き起こしたのは、間違いなくあのヴィヴィオだろう。
 何にせよ、厄介な2人が共倒れになってくれたのは幸いだった。
 死んだのか否かはまだ調べていないが、ヴィヴィオも小さな子供の姿になって倒れている。もはや脅威となることはあるまい。
(さて、これからどうするか)
 ともあれ、これで当面の目的は果たした。
 であれば、次の目的はどうすべきか。
 エネル達という不安要素が排除され、はやて達とも別れた今、自分がすべきことは何か。
 同行者が1人もいなくなったのだから、工場に立ち寄る理由もない。つまり、やることがなくなってしまったのだ。
 そこまで考えたところで、ふと、デイパックに入れたきりになっていたアイテムの存在を思い出した。
 学校で見つけ、それきり調べる機会のなかったUSBメモリだ。
 せっかく1人になったのだから、いい加減こいつの中身を調べてみよう。
 とりあえずは市街地に行って、適当なパソコンを調達し、こいつを開いてみることにしよう。
 そうと決まれば善は急げだ。
 コンクリートの山を滑り降り、倒れ伏す人影のすぐ横を、悠然と歩き去っていく。
 乾いた夜風が吹き抜けた。
 瞬間、金居の視界の中でちらついたのは、見覚えのある10枚のカード。
「……感謝するよ、お嬢ちゃん」
 ふと。
 不意に、にやり、と口元を歪め。
 すたすたと歩いていた足を止め、首だけを背後へと振り向かせる。
「本当に厄介な奴を始末してくれたことを、さ」
 キングの視線の先にあるものは――

296 ◆Vj6e1anjAc:2010/07/24(土) 10:29:45 ID:z4pbXA3c0
【1日目 真夜中】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ跡】
【金居@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状況】疲労(小)、1時間変身不可(アンデッド)、ゼロ(キング)への警戒
【装備】バベルのハンマー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜
【道具】支給品一式、トランプ@なの魂、砂糖1kg×8、USBメモリ@オリジナル、イカリクラッシャー@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER、
    首輪(アグモン、アーカード)、正宗@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、デザートイーグル@オリジナル(4/7)、
    アレックスのデイパック(支給品一式、L、ザフィーラ、エネルデイパック(道具①・②・③)
    【道具①】支給品一式、首輪探知機(電源が切れたため使用不能)、ガムテープ@オリジナル、
    ラウズカード(ハートのJ、Q、K)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、
    レリック(刻印ナンバーⅥ、幻術魔法で花に偽装中)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、首輪(シグナム)、首輪の考察に関するメモ
    【道具②】支給品一式、ランダム支給品(ザフィーラ:1〜3))
    【道具③】支給品一式、顔写真一覧表@オリジナル、ジェネシスの剣@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使、ランダム支給品(エネル:0〜2)
【思考】
 基本:プレシアの殺害。
 1.USBメモリの内容を確認するために市街地に戻る。
 2.基本的に集団内に潜んで参加者を利用or攪乱する。強力な参加者には集団をぶつけて消耗を図る(状況次第では自らも戦う)。
 3.利用できるものは利用して、邪魔者は排除する。
【備考】
※この戦いにおいてアンデットの死亡=封印だと考えています。
※殺し合いが難航すればプレシアの介入があり、また首輪が解除できてもその後にプレシアとの戦いがあると考えています。
※参加者が異なる世界・時間から来ている可能性に気付いています。
※変身から最低50分は再変身できない程度に把握しています。
※プレシアが思考を制限する能力を持っているかもしれないと考えています。


「う……」
 呻き声と共に、目を覚ます。
 未だがんがんと痛む頭を振り、ぼやけた瞳を指先で擦る。
 ヴィヴィオにやられた鈍痛の残る身体を、片腕でのそのそとと起こした。
 あれから一体どうなったのだろう。
 いいや、あれだけのことがあって、何故自分は生き残ることができたのだろう。
 徐々に冴えてきた脳内で、スバル・ナカジマは思考する。
 最後に記憶したものは、聖王の背後で吼える死神の姿と、網膜を蒸発させんばかりの魔力光だ。
 前後の状況から推察するに、恐らくはヴィヴィオの身体から発せられた魔力が、とんでもない規模の爆発を引き起こしたのだろう。
 あまりの光量と音量に、意識が吹っ飛んだほどの破壊力だ。
 まともに考えるのならば、今ここで自分が生きているのはおかしい。
 何が死期を遅めたのか。
 あの圧倒的な火力の中、一体何が自分を救ったのか。
「……ッ!」
 そして。
 次の瞬間、見てしまった。
 上へと持ち上げた視線に、その存在を捉えてしまった。

 自分が倒れている目の前に、異形の怪物の死体が立っていた。

「あ……ああ……!」
 見覚えのない、禍々しい背中。
 頭部から伸びた触角に、おぞましく歪んだ甲殻から覗く緑色の肌。
 全身を煤けさせながらも、倒れることなく逝った立ち往生の死に様。
 いかにも怪物らしいこの怪物の背中を、自分はこれまでに見たことがない。
 それでも、確かに悟ってしまった。
 否応なしにも、理解させられてしまった。
「始、さん……!」
 これは相川始だと。
 あの素顔も知らない仮面ライダーカリスが、自分をここで庇っていたのだと。
 圧倒的な魔力に身を焼かれても、それでも決して引き下がることなく、そしてそのまま最期を迎えたのだと。
 不意に、死体が光る。
 おぞましい昆虫の亡骸が光に包まれ、縮小し、一枚の紙切れへと変わった。
 トランプのようなカードの意匠は、生前彼が使っていたのと同じものか。
 それで本当に何もかもが終わってしまったのだと、何となく理解していた自分がいた。
 また、目の前で人が死んだ。
 死なせないと誓った人を、結局救えず死なせてしまった。
 皆を守ると約束したのに、結局守られてしまった。
 その厳然とした事実はスバルを苛み、涙腺に熱いものを込み上げさせる。
 きりきりと胸を締め上げる悔しさと情けなさが、瞳から涙を落とさせようとする。

297 ◆Vj6e1anjAc:2010/07/24(土) 10:31:05 ID:z4pbXA3c0
「………」
 それでも。
 だとしても、泣くことはしなかった。
 静かに身体を起き上がらせ、視線を左側へと逸らす。
 始の死体の向こう側にいたのは、焼け焦げた大地の中心で倒れ伏す、元の小さな姿のヴィヴィオだ。
 すぐ近くに突き刺さっていたナイフは、始を殺したことで手にしたボーナス支給品だろうか。
 無言で立ち上がり、歩み寄る。未だ真新しいナイフを回収し、気絶した少女の身体を抱き上げる。
 ひゅーひゅーと響く呼吸音は驚くほど小さく、心臓の鼓動はあまりにもか細い。
 誰の目にも明らかな、満身創痍の有り様だった。
「……あたし、泣きませんから」
 ぼそり、と。
 消え入るような声で、呟いた。
 そうだ。こんな所で泣いている暇はない。
 こうして立ち止まっているうちにも、目の前の命はどんどん蝕まれていく。
 今ここで涙し膝をつけば、せっかくレリックの呪縛から解き放たれたヴィヴィオの命が消えてしまう。
「ヴィヴィオを死なせないためにも、前を向いて歩きますから」
 振り返ることはしなかった。
 始の遺したカードを拾い上げると同時に、すっぱりと思考を切り替えた。
 落ちていたデイパックを自分のバッグへと詰め、ジェットエッジのローラーを回転させ、北へ北へと進んでいく。
 今は涙を流せない。
 始の死を悲しんでやることも、弔ってやることさえもできない。
 今目の前で死にかけているヴィヴィオを、スカリエッティのアジトへと運び、その命を救うこと――それがスバルの使命なのだから。
「だから、もう行きます」
 白のバリアジャケットがはためく。緑の瞳が光り輝く。
 胸にこみ上げる悲しみよりも、なおも大きな決意を抱いて、満月の下を進んでいく。
「ありがとうございました――始さん」
 それが相川始との、最期の別れの言葉だった。


【1日目 真夜中】
【現在地 F-9 ホテル・アグスタ跡】
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】バリアジャケット、魔力消費(中)、全身ダメージ中、左腕骨折(処置済み)、悲しみとそれ以上の決意
【装備】添え木に使えそうな棒(左腕に包帯で固定)、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レヴァンティン(カートリッジ0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具①】支給品一式(一食分消費)、スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、救急道具、炭化したチンクの左腕、ハイパーゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、チンクの名簿(内容はせめて哀しみとともに参照)、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、黒のナイフ@LYLICAL THAN BLACK、ラウズカード(ジョーカー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、首輪×2(ルルーシュ、シャーリー)
【道具②】支給品一式、ライディングボード@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ゼクトバックル(ホッパー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具③】支給品一式×2、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、録音機@なのは×終わクロ
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.ヴィヴィオを連れてスカリエッティのアジトへ向かう。
 2.六課のメンバーとの合流。つかさとかがみの事はこなたに任せる。
 3.こなたを守る(こなたには絶対に戦闘をさせない)。
 4.状況次第だが、駅の車庫の中身の確保の事も考えておく。
 5.もしも仲間が殺し合いに乗っていたとしたら……。
 6.ヴァッシュの件については保留。あまり悪い人ではなさそうだが……?
【備考】
※仲間がご褒美に乗って殺し合いに乗るかもしれないと思っています。
※アーカード(名前は知らない)を警戒しています。
※万丈目が殺し合いに乗っていると思っています。
※アンジールが味方かどうか判断しかねています。
※千年リングの中に、バクラの人格が存在している事に気付きました。また、かがみが殺し合いに乗ったのはバクラに唆されたためだと思っています。但し、殺し合いの過酷な環境及び並行世界の話も要因としてあると考えています。
※15人以下になれば開ける事の出来る駅の車庫の存在を把握しました。
※こなたの記憶が操作されている事を知りました。下手に思い出せばこなたの首輪が爆破される可能性があると考えています。

298 ◆Vj6e1anjAc:2010/07/24(土) 10:32:01 ID:z4pbXA3c0
【全体の備考】
※F-8にて大規模な火災と魔力爆発が発生し、以下の被害が生じました。
 ・F-8が壊滅状態となりました
 ・ホテル・アグスタがほとんど全壊状態となりました。
 ・装甲車@アンリミテッド・エンドラインが大破しました。
 ・ヴィヴィオの支給品一式が消滅しました。
 また、火災は魔力爆発によって鎮火しています。
※F-8に落ちていたラウズカード(ハートのA〜10)@魔法少女リリカルなのは マスカレードが、風に吹かれて飛ばされました。
 どこに飛んでいったのかは、後続の書き手さんにお任せします。


【ラウズカード(ジョーカー)@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
不死の怪物「アンデット」のうち、4つのどのスーツにも属さない「ジョーカー」を封印したカード。ラウザーに通す事により、カードが持つ能力を使用者や武器に付加させる事が出来る。
あらゆるラウズカードの能力を有しており、使用者が望むカードの代用として使用することができる。

299 ◆Vj6e1anjAc:2010/07/24(土) 10:32:42 ID:z4pbXA3c0
修正箇所の投下は以上です

300 ◆Vj6e1anjAc:2010/07/25(日) 00:18:38 ID:8WlPnYS.0
えーっと、雑談スレで挙がっているストラーダの件ですが、
ごめんなさい、アレ装甲車を状態表から外す時に、間違えて一緒に消しちゃっただけです。
一応あの後も持ち歩いていること前提で書いてたので、そのように修正しておきます。

301 ◆7pf62HiyTE:2010/07/25(日) 00:50:23 ID:tmm6g6FM0
ストラーダの件についてですが、拙作『Yな戦慄』ではやてに回収させる風に修正するつもりなんですが、『誕生、Hカイザー』でかがみが所持したまま(スバルが回収していない)という前提になるのでgF氏の連絡を待ちたいのですがどうしましょうか?
勿論、回収したとしても此方としてはそれでも構いません

302リリカル名無しA's:2010/07/27(火) 01:32:52 ID:C9TL8mOc0
age

303 ◆gFOqjEuBs6:2010/07/30(金) 06:14:11 ID:LxNAktTs0
反応が遅れてしまい、申し訳ありません。
後日自分で「誕生、Hカイザー」を修正し、ストラーダの描写を追加しておきます。

304Yな戦慄(修正版) ◆7pf62HiyTE:2010/07/30(金) 09:46:37 ID:7Onj68Ho0
gF氏、修正乙です。それでは、自分もストラーダ回収関係の修正を、

本レス285より、

###

 そして、適当な場所にたどり着いたらかがみの服を全て脱がせ隠している武器が無い事を確かめる。勿論、武器が無くても不思議な力がある可能性があった為、決して警戒は怠らない。
 かがみを丸裸にした後、着ていた服で両手と両足を拘束し下手に叫ばれない様下着をその口に詰め込んだ。

###

この部分を以下の様に修正、

###

 そして、適当な場所にたどり着いたらかがみの服を全て脱がせ隠している武器が無い事を確かめる。勿論、武器が無くても不思議な力がある可能性があった為、決して警戒は怠らない。
 かがみを丸裸にした後、着ていた服で両手と両足を拘束し下手に叫ばれない様下着をその口に詰め込んだ。なお、彼女が身に着けていたストラーダは回収し自身のデイパックに入れておいた。

###

 そしてはやての状態表を以下の様に修正、

###

【八神はやて(StS)@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】
【状態】疲労(中)、魔力消費(大)、肋骨数本骨折、内臓にダメージ(小)、複雑な感情、スマートブレイン社への興味、胸に裂傷(浅め)
【装備】憑神刀(マハ)@.hack//Lightning、夜天の書@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ジュエルシード@魔法少女リリカルなのは、ヘルメスドライブ(破損自己修復中で使用不可/核鉄状態)@なのは×錬金、
【道具】支給品一式×3、コルト・ガバメント(5/7)@魔法少女リリカルなのは 闇の王女、
    トライアクセラー@仮面ライダークウガA’s 〜おかえり〜、S&W M500(5/5)@ゲッターロボ昴、
    デジヴァイスic@デジモン・ザ・リリカルS&F、アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    ゼストの槍@魔法少女リリカルなのはStrikerS、虚空ノ双牙@魔法少女リリカルなのはsts//音が聞こえる、
    首輪(セフィロス)、ストラーダ(待機状態)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、デイパック(ヴィータ、セフィロス)
【思考】
 基本:プレシアの持っている技術を手に入れる。
 1.スカリエッティのアジトへ向かい、そこで夜天の書の安全を確かめたい。
 2.バクラを警戒、ヴァッシュを乗っ取るか?
 3.手に入れた駒は切り捨てるまでは二度と手放さない。
 4.キング、クアットロの危険性を伝え彼等を排除する。自分が再会したならば確実に殺す。
 5.以上の道のりを邪魔する者は排除する。
 6.メールの返信をそろそろ確かめたいが……
 7.自分の世界のリインがいるなら彼女を探したい……が、正直この場にいない方が良い。
 9.ヴィータの遺言に従い、ヴィヴィオを保護する?
 10.金居及び始は警戒しておくものの、キング対策として利用したい。
【備考】
※プレシアの持つ技術が時間と平行世界に干渉できるものだと考えています。
※ヴィータ達守護騎士に心の底から優しくするのは自分の本当の家族に対する裏切りだと思っています。
※キングはプレシアから殺し合いを促進させる役割を与えられていると考えています(同時に携帯にも何かあると思っています)。
※自分の知り合いの殆どは違う世界から呼び出されていると考えています。
※放送でのアリサ復活は嘘だと判断しました(現状プレシアに蘇生させる力はないと考えています)。
※エネルは海楼石を恐れていると思っています。
※放送の御褒美に釣られて殺し合いに乗った参加者を説得するつもりは全くありません。
※この殺し合いにはタイムリミットが存在し恐らく48時間程度だと考えています(もっと短い可能性も考えている)。
※「皆の知る別の世界の八神はやてなら」を行動基準にするつもりです。
※夜天の書が改変されている可能性に気付きました。安全確認及び修復は専門の施設でなければ出来ないと考えています。
【アギト@魔法少女リリカルなのはStrikerS】の簡易状態表。
【思考】
 基本:ゼストに恥じない行動を取る
 1.これで……良かったのか……?
 2.はやて(StS)らと共に殺し合いを打開する
 3.金居を警戒
【備考】
※参加者が異なる時間軸や世界から来ている事を把握しています。
※デイパックの中から観察していたのでヴィータと遭遇する前のセフィロスをある程度知っています。

###

 かがみの状態表については投下分で既にストラーダがなかったのでそのままです。これで修正版は以上です。

305 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/07(土) 09:05:02 ID:TmD6XFRE0
拙作「Mの姿」の修正案を投下致します。
まずは本スレ351からの、アンジールの修正から。

306 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/07(土) 09:05:35 ID:TmD6XFRE0
 




 一瞬で、カブトの姿が掻き消えた。
 なのはの姿も一緒に掻き消えて、残されたのは二人きり。
 炎上するスーパーの炎に照らされながら、キングは再び漆黒の仮面で顔を隠した。

「やれやれ……逃げるなんて、仮面ライダーとしてはどうかと思うんだけど、なぁ?」

 全てを言い終えるまでもなく、キングの眼前にソリッドシールドが形成された。
 言うまでもなく、ソリッドシールドを出す要因となったのは、アンジールの剣だ。
 有無を言わさずに、アンジールはキングへと斬り掛かって来たのだ。

「あぁ、そういう事。アンジールと僕をぶつけようって? 甘い甘い! それじゃ甘いよカブト!」
「何をごちゃごちゃと……!」

 今度は、真っ赤な火球だ。
 だけど、それもキングの元へと届く前に現れた盾によって掻き消された。
 アンジールもそろそろ気付く頃だろう。自分の攻撃はキングには通用しない、と。
 それを理解できるまで、キングは防戦一方というスタンスを貫く。
 そして、幾度かアンジールの攻撃を防いだ後で、キングが口を開いた。

「今のアンジールを、ザックスが見たらどう思うかな」

 キングは知っている。
 アンジールに、愛弟子が居る事を。
 夢と誇りの全てを託した者が居る事を。
 それをネタに揺さぶりを掛けるが……どうやら少し軽かったらしく。
 アンジールの剣による剣戟が止む事は無かった。
 流石にこの程度では決意を揺らす事は出来ないか。

「バスターソードはどうした? 父の形見では無かったのか?」

 アンジールが振るう剣の軌道が、ほんの少しだけズレた。
 ザックスに、バスターソード。流石に「何故コイツがそんな事を知っている」とか思い始めても可笑しくは無い。
 だけど、それだけならば誰かからの伝聞で知ったと言う可能性もあり得る。
 故にアンジールの剣は止まらない。
 さて、ここで働くのが現代で学んだキングの知恵だ。
 人間の心を揺さぶる為の――相手をを騙す上での基本。
 簡単な事だ。まずは、相手を信用させる為の地盤を築く。
 今回キングがその地盤として選んだのは、普通なら知り得ない情報を知っているというアドバンテージ。
 存外アンジールの心は動かなかったようで、あまり面白くは無かったが、とりあえずはこの辺りでいいだろう。

「クアットロに、チンク、ディエチ。戦闘機人、ナンバー4、5、10……お前の大切な妹達だな?」
「だから、どうした!」

 マスクのお陰で、キングの声は低く響くような声へと変声される。
 それがアンジールに異様な迫力を与え……アンジールの表情が、変わった。
 流石にそろそろ疑念を抱き始めたのだろうか。キングの言葉に耳を貸した。
 これはチャンスだ。こいつはやはり妹ネタに弱いらしい。

307 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/07(土) 09:06:44 ID:TmD6XFRE0
 
「他の者は知り得ない情報を何故私が知っていると思う? そして何故私に攻撃が通用しないと思う?」

 あの携帯サイトを見れば全ての参加者の情報を得る事なんて容易い。
 攻撃が通用しない……これに至っては、キングの元々の能力だ。
 だけど、こうやって考えさせる事には確かな意味がある。
 アンジールの剣戟を盾で弾き返して、その両腕を大きく広げた。

「単刀直入に言おう。私は主催側の手の者だ……故に、私を殺す事は不可能!」
「なん……だと……!?」
「そして、私と手を組むと言うのであれば、貴様の妹達を特別に生き返らせてやる事も出来るが」
「何……!? それは本当か……!?」

 動きが停まった。表情が、固まった。
 まだ疑ってはいるようだが、ここまで来れば成功したも同然だ。
 あとはそれらしい理由を並べてこいつを自分の駒にすればいい。
 カブトは自分達を潰し合わせる腹積もりだったのだろうが、そうは問屋が降ろさない。
 カブトが考えた想像よりも、遥かに楽しい展開に持ち込んでやろう。

「未だに殺し合いに乗ろうとしない輩が多い事は想像に難くないだろう。
 私はそう言った参加者達を扇動する為にプレシアによって遣わされた者」
「そんな事はどうでもいい! どうすれば、妹達を生き返らせてくれる!?」
「私はこれから市街地へ向かい、他の参加者達に追加条件でゲームを持ちかける。
 君には逆らう者を黙らせる為の、私の兵隊になって貰いたく思うのだが」
「兵隊……だと?」
「ああ、勿論……私の申し出を聞かずに他の参加者を皆殺しにして、自力で妹達を生き返らせるのも結構。
 ただし、たった一人で戦って皆殺しにするか、主催側の私と繋がりを持った上で他の参加者を皆殺しにするか……
 妹達を生き返らせると言う一つの目的の上で行動するなら、どちらの方がより確率が高いかは考えるまでもなかろう」
「……俺、は……」

 嗚呼もう完璧だ。ニヤけが止まらない。
 このソルジャー、完全に自分の事を信じているらしい。
 やはり何よりも大切な妹が関われば、こいつはその考えを揺らしてしまう。
 ゼロのマスクが無ければ、仮面の下で笑っていた事が一発でバレていただろう。
 声だって多少笑いが込められて居ても、それはこの変声機のお陰で誤魔化せる。
 逆に嘲笑とも取れるし、余裕を見せつける上ではかえってプラスかも知れない。

(さあ、どうするアンジール?)

 従わないなら従わないで、ここで殺してしまえばいい。
 この男程度のレベルならば、変身すれば問題無く倒せるだろう。
 だけどそれでは面白くない。何よりもカブトの思い通りになるのが気に入らない。
 キングはただ、全て自分の思い通りなのだと言う事を知らしめてやりたいのだ。
 そしてもう一つ。高町なのはに渡した仮面ライダーデルタのベルトについてだ。
 デルタギア、恐らく自分ならば問題無く使いこなせるだろう。だが、それではつまらない。
 だから高町なのはに渡した。アレを使えば、如何になのはと言えど暴走は免れないだろうから。
 別にゲームに乗ってくれなくたって構わないし、その時はその時でフリードを殺せばいい話だ。
 そう……キングが何よりも楽しみにして居たのは、ゲームなどでは無い。
 なのはにデルタを使わせる事自体が、キングの楽しみだったのだ。

 ――されど一つだけ、キングも気付いていない事がある。
 それは、開け放たれたままのキングのデイバッグの中身についてだ。
 カブトが離脱する瞬間、クロックアップ空間の中でキングとカブトは一度だけ接触した。
 キングが知覚するよりも早く、ソリッドシールドが形成されるよりも早く。
 そう。カブトは一瞬よりもさらに短い刹那の内に、キングのデイバッグに掴み掛った。
 そして、無造作に掴んだデイバッグが二つ――ごっそりと、キングのデイバッグの中から消えていた。
 しかし、キングがそれに気付くのは、まだもう少し先のお話なのであった。

308 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/07(土) 09:07:16 ID:TmD6XFRE0
 


【1日目 真夜中】
【現在地 D-2 スーパー前】

【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具④】支給品一式、フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具⑤】支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
 1.まずはアンジールを駒にする。
 2.他の参加者にもゲームを持ちかけてみる。
 3.上手く行けば、他の参加者も同じように騙して手駒にするのもいいかも?
 4.『魔人ゼロ』を演じてみる(飽きたらやめる)。
 5.はやての挑戦に乗ってやる。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※八神はやて(StS)はゲームの相手プレイヤーだと考えています。
※PT事件のあらましを知りました(フェイトの出自は伏せられたので知りません)。
※天道総司と高町なのはのデイバッグを奪いました。

【アンジール・ヒューレー@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】
【状態】疲労(大)、深い悲しみと罪悪感、脇腹・右腕・左腕に中程度の切り傷、全身に小程度の切り傷、願いを遂行せんとする強い使命感
【装備】リベリオン@Devil never Strikers、チンクの眼帯
【道具】無し
【思考】
 基本:最後の一人になって亡き妹達の願い(妹達の復活)を叶える。
 1.本当に妹達を生き返らせる事が出来るのか……?
 2.参加者の殲滅。
【備考】
※ナンバーズが違う世界から来ているとは思っていません。もし態度に不審な点があればプレシアによる記憶操作だと思っています。
※『月村すずかの友人』のメールを確認しました。一応内容は読んだ程度です。
※オットーが放送を読み上げた事に付いてはひとまず保留。
※キングが主催側の人間だと思っています。

309 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/07(土) 09:09:09 ID:TmD6XFRE0
ここからは本スレ356の修正分です。

/////////////////////////////////////////
 
「わたし……私は、柊……かがみ……お願い、なのは……私を、殺して……もう、嫌なの……」
「かがみ……かがみだね? 悪いけど、そのお願いは聞けないよ。嫌って言われても、私はかがみを助ける」
「エリオ……シグナム……それから、眼帯の女の子……私が、殺した……だから、私は……もう……」
「その話なら後で聞くから……だから、生きることを諦めないで。辛い事があったなら、一人で背負い込まないで……」

 どんなにヒーリングを続けても、そんな物はその場凌ぎにしかならなかった。
 腹部から、手足から、止めどなく溢れ続ける血液を止めるには、回復量が少なすぎる。
 この少女、既に完全に諦めきっている。完全に絶望してしまっている。
 だけど高町なのはという人間は、まだ諦めてはいない。
 そんな時だった。

「そいつを助ける手段、無い訳じゃ無い」

 背後から声を掛けたのは、天道だった。
 手に持っているのは、見覚えのない機械。
 そんな機械に何が出来るのかと訝しむが、天道の表情は真剣そのものだった。

 なのはがかがみに手当をしている間、天道は今自分に出来る事を考えていた。
 魔法が使えない自分に、かがみを救う事は出来ない。あと一応裸である事も尊重した。
 全ての女性は等しく美しいと考える天道は、意外とフェミニストなのであった。
 さて、そんな事はどうでもいい。なのはがかがみの手当てをしている間に、天道が探るものは、二つのデイバッグ。
 つい先程、クロックアップで離脱する直前にキングから奪い取ったデイバッグだ。
 この中に何か回復の手段が入って居ればいいのだが、それらしいものは出て来ない。
 デバイスらしきものは見当たるのだが……と、そんな時であった。

「これは……」

 ガチャリと音を立てて取り出したのは、白い腕輪。
 どうやら腕に装着する機会らしく、大げさなディスクがくっついていた。
 これはリリカル遊戯王GXの世界に登場するデュエルディスクと呼ばれる機械なのだが、天道はそれを知らない。
 何の機械なのかは解らないが、危なそうな気配は無い。好奇心からか、天道はそれを左腕に装着した。
 瞬間、身体に残った疲労が消えて行くのを感じた。
 カブトとしての戦闘による疲労、クロックアップによる疲労。
 それらの疲労が溜まっていた筈の身体が、一気に軽くなるようだった。
 どういう訳かとデイバッグを探るが、説明書の類は見当たらない。
 次にデュエルディスクの盤上を見るが……そこで天道は、一枚のカードを見付けた。

「治療の神、ディアン・ケト、か……成程な」

 セットされた緑のカード。効果は、ライフポイントを1000回復するというもの。
 ライフポイントの基準がいくらなのかは解らないが、これは使えるかもしれない。
 一度天道は仮面ライダー龍騎に変身したが、このカードも恐らくはあの時と同じ手合いだろう。
 龍騎だって、デッキからカードを引き抜いてドラグバイザーに装填しなければならなかった。
 見たところ、カードを収納するケースは見当たらない。
 そして、腕輪を装着した瞬間に天道の体力は回復した。
 以上の事から考えるに、このカードは既にセットされた状態。
 かといってカードが無くならない事を考えると、誰か――恐らくキングが一度回復に使ったのだろう。
 回復量から考えても、恐らく1000という数字はそう小さいものでもない。
 ちらとかがみを見れば、今にも死にそうな表情であった。

 そんな理由があって、現在に至る。
 天道の言葉に期待したなのはであったが、天道は期待を裏切る言葉を発した。

「だが、そいつに使ってやる義理は無いな」
「そんな……!」
「そいつは三人も人を殺してる。そんな奴を仲間に入れてどうするんだ」
「それは……罪は償う事は出来ます……この子だって――」
「そいつには無理だ。生きる気が無い人間を助けた所で、また同じ事を繰り返すだけだからな」

 確かに、天道の言う事は正しい。
 死にたがっているかがみを無理に生き返らせても、逆に今度は世界を憎むかも知れない。
 何故自分を殺してくれなかった。何故こんな辛い世界で、自分を生き長らえさせた、と。
 事実、かがみはこれまでも周囲を呪い続けて、その結果として三人も殺してしまったのだろう。
 そんな状態のかがみを助ける事は、確かに得策とは思えない。
 だけど……

310 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/07(土) 09:17:08 ID:TmD6XFRE0
以上です。
続きは本スレの分に続きます。
修正案としては、天道の描写を間に挟んだ事になります。
これで通るようなら、直前の話が収録され次第、wikiの方には自分で収録しておこうと思います。
多分本スレ投下分と修正案とを両方コピーしながら編集するのは面倒くさいだろうし、
今回もいつも通り所々細かい描写なんかを修正したいと思ってますので。

……ああ、やっぱりちょっと説明不足かと感じましたので、修正案の一部分を更に修正。
以上の修正案の中の一部を、以下の描写に変更したいと思います。
(もっとちゃんと推敲すれば良かったorz)

 セットされた緑のカード。効果は、ライフポイントを1000回復するというもの。
 ライフポイントの基準がいくらなのかは解らないが、これは使えるかもしれない。
 一度天道は仮面ライダー龍騎に変身したが、このカードも恐らくはあの時と同じ手合いだろう。
 龍騎だって、デッキからカードを引き抜いてドラグバイザーに装填しなければならなかった。
 だが見たところ、龍騎の様にカードを収納するデッキケースは見当たらない。
 そして、カードがセットされた腕輪を装着した瞬間に、天道の体力は回復した。
 以上の事から考えるに、このカードは既にセットされた使用状態にあったのだろう。
 かといってカードが無くならない事を考えると、誰か――
 恐らくキングが一度回復に使って、そのままデイバッグに放り込んでいた可能性が高い。
 回復量から考えても、恐らく1000という数字はそう小さいものでもない。
 ちらとかがみを見れば、今にも死にそうな表情であった。

311リリカル名無しA's:2010/08/08(日) 09:10:23 ID:VnvikyhwO
修正乙です
特に問題も見当たらないので、このまま収録しても大丈夫かと。

312リリカル名無しA's:2010/08/08(日) 10:50:32 ID:siW2Wrp20
修正乙です
一点だけ
確かカードはカード名を宣言しないと発動しなかったはずですから一声かけるシーン追加した方がいいと思います
(そうでなかったらモンスターカードとか出した瞬間に暴れてしまいますから)

313 ◆gFOqjEuBs6:2010/08/13(金) 03:20:44 ID:RlZxK/co0
毎度ながら返事が遅れてしまい申し訳ありません。
ではwiki編集時に、人声かけるシーンと、それにともなった適当な描写を追加しておきます。

314 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/04(土) 17:18:31 ID:bkv9kGrE0
これよりユーノ・スクライア、泉こなたの分を仮投下します

315 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/04(土) 17:19:34 ID:bkv9kGrE0

辺りは闇に包まれ、真冬のように風が冷たくなっていた。
殺し合いという、異様な現実を象徴するかのように。
その中で、デイバッグを肩に掲げる一人の少年が、足を進めていた。
ランタンで闇を照らしながら、ユーノ・スクライアは地図を見ている。

「えっと、今はD−8……だね」
『それで合っていると思われます』

ユーノの呟きを、無機質な電子音声が返答する。
それは、今は亡きフェイト・T・ハラオウンの相棒と呼べるインテリジェントデバイス、バルディッシュ・アサルトの声だった。
彼らは今、D−8地点にいる。
何かが封印されていると思われる車庫の前で、今後の行動方針について考えた後に、移動を開始したのだ。
その目的地は、C−9地点に存在するスカリエッティのアジト。
理由は、自分達の命を握っている首輪を解析するため。
あれから考えた末に、まずはこの問題の解決に専念することにした。
首輪がある以上、参加者全員の行動が制限される。
特にあと数時間経つと、四回目の放送が行われる時間だ。
そうなっては、禁止エリアが増えて命の危険が増す。
それらの問題を解決するために、まずは首輪の解析を急がなければならないと、ユーノは判断した。
これから行く施設はバルディッシュが言うには、ミッドチルダを震撼させたJS事件の首謀者である科学者、ジェイル・スカリエッティの拠点らしい。
そのような場所ならば、首輪を解析するための設備も、ある程度は整っている可能性はある。

(でも、あまり楽観的には考えられないな……)

ユーノは、心の中で呟いた。
この施設が、完全な物とは考えられない。
地図には『スカリエッティのアジト』という名前が書かれていたが、実際の内部はどうなっているか。
元の世界に存在する設備が、全て揃っているのか。
いや、その可能性はあまり期待できない。
主催者であるプレシア・テスタロッサが、参加者に脱出のヒントを与えるような真似をするだろうか。
そうなると、施設の名前を借りただけの全くの別物、という可能性も充分にある。
外装だけを真似て、実際の建物に設置されていた設備は全く存在しない。
もし存在していたとしても、起動しない可能性だってある。
万が一、全ての施設が揃っていたとして、使用できたとしてもだ。
安心は全く出来ない。

(この施設の存在が、罠かもしれないし……)

316 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/04(土) 17:25:01 ID:bkv9kGrE0
理由は、工場やアジトと言った設備の整っている施設が、他の場所以上に厳重な監視が敷かれている可能性があるからだ。
これらの施設には、参加者には見つけることの出来ない大量の監視カメラが置かれていて、主催側に情報が送られる。
その結果、首輪を外した者はすぐさま命を奪われるに違いない。
そうでなければ、ゲームを続けることは不可能だ。
だからこそ、プレシアはアリサ・バニンクスを見せしめに殺したのだろう。
参加者に恐怖を植え付けるために。
それだけではない。最悪のケースとしては、殺し合いの続行が困難と判断した主催側が、会場を破棄することも考えられる。
無論参加者は、ゲームの証拠を残さないために、一人残らず皆殺しだ。
考案の結果、首輪の解除とゲームオーバーは、隣り合わせにある。
故に、これからスカリエッティのアジトへ向かい、首輪の解析をすることは、大きなリスクを伴う行為だ。
こちらが勝てる可能性が全く期待できない、危険極まりないギャンブル。
仮に解除に成功したとしても、制限から解放されるとはとは限らない。
それでも、長きに渡る友人である高町なのはや八神はやてを初めとした、殺し合いに巻き込まれた人間を救うために、やるべきだ。
この会場に連れてこられてから、逆転に繋がるような行動はほとんど行ってなかった。
これ以上、時間を無駄に消費するわけにはいかない。
それに、危険を犯す覚悟はとうに決めている。
自分を守るために死んだ、ブレンヒルト・シルトにもそう言ったのだから、今更引き下がるわけにはいかない。
ユーノは自分にそう言い聞かせて、ランタンで道を照らしながら漆黒の中を進む。
彼の周りを覆うそれは、この世の中に存在する物ではなく、まるで冥府の闇のようだった。
参加者を、死後の世界に引きずり込むような。



余談だが、彼の考案はとてもよく似ていた。
今はもうこの世にいない、戦闘機人No.4・クアットロの考えと。
これは、偶然に過ぎない。
それを彼が気付くことはないし、何より気付いたところでどうなるわけでもないだろう。
そんなユーノは、バルディッシュと共に先の見えない闇の中を進み続けた――








鬱蒼と生い茂った森林の中に、洞窟があった。
その中は、微かな明かりだけに照らされていて、薄暗い。
歩く者の気分を害するような環境だが、二人は周囲を警戒しながら歩いている。

317 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/04(土) 17:26:16 ID:bkv9kGrE0
視界の先がはっきりしない道の中を、泉こなたは進んでいた。
彼女の脇では、ユニゾンデバイスのリインフォースIIが宙を漂っている。
あれから、入り口の前で待っていても何も始まらないとこなたが提案して、リインは悩みながらもそれを受け入れた。
自分達を縛り付けている、首輪を解除するための手がかりを見つけるために。
このような施設ならば、そういった機材が存在する可能性がある。
今、別行動を取っているスバル・ナカジマの為に、それを見つける必要があった。
幸いにも、この施設には自分達以外の参加者や、罠のような物は見られない。

「う〜ん、ここにある部屋ってもうみんな調べたんだよね?」
「そうですよ、さっきの部屋で最後になりますね」

こなたの疑問に、リインは答えた。
突如、戦いの始まったホテルを離れてから、既に数時間が経つ。
スバルの足を引っ張らないように、目的地であるこのアジトに来た。
ここでは、自分の見たことが無い電子機器を見つける。
特撮作品に出てきそうな、実験用と思われる巨大なテーブル。
怪しげな黄色い液体が入った、巨大な試験管。
様々なデータが入っていると思われる、複数のパソコン。
どれも、怪しげな実験場という雰囲気を醸し出す物だった。
だが、それを見つけたところでこなたにはどうすることも出来ない。
多くのネットゲームをしてきたので、ここに置かれているパソコンの操作自体は可能だろう。
だからといって、それを使って複雑な機械の解析など、出来るはずがなかった。
ましてや、この首輪にはこなたの知らない、魔法という技術によって作られている可能性もある。
そうなっては、手の出しようがない。
やがて彼女は体を休めるために、備え付けられた椅子に目を向けた。
念のために、外から持ち出した木の棒でそれを突く。
何も起こらないことを知り、それが普通の椅子であると判断した。

「ちょっと、この辺で休もうか」
「そうですね」

溜息を吐きながら、こなたは呟く。
彼女は、休憩を取りたかった。
殺し合いと言う場において、泉こなたという存在は、何の力を持たない女子高生に過ぎない。
故に、そのような異常な場所にいては、精神が不安定となりつつある。
今は何も起こっていないが、油断は出来ない。
平穏な毎日を過ごしていたはずの彼女が、突然殺し合いの場に放り込まれた。
それから、様々な異常事態が起こり、何度も命の危機に脅かされる。
ついには、毎日を共に過ごしていた親友までもが、死んだと告げられた。

318 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/04(土) 17:27:42 ID:bkv9kGrE0
(つかさ……何で死んじゃったの……?)

三度目の放送でその名が呼ばれてしまった、柊つかさ。
柊かがみの妹であり、調理師を夢見ていた彼女。
本当なら、今日も彼女たちや高良みゆきと一緒に、何気ない毎日を過ごすはずだったのに。
それがどうして、こんなことになってしまったのか。
思い出されるのは、四人で過ごしていた毎日。
春、新しい気持ちを胸に、一つ上の学年に上がった。
夏、コミケや夏祭りと言ったイベントに心を躍らせながら、みんなで旅行にも行った。
秋、食欲が増す季節となって、おいしい物をたくさん食べた。
冬、一年の終わりと新年の始まりを感じて、みんなで初詣に行った。
どれも楽しかった思い出の日々。
そんな毎日が、これからもずっと続くと信じていたが、もう二度と戻ることはない。
だって、つかさはもういないのだから。

(つかさがいなくなったら、かがみんやみゆきさんが悲しむよ……? みさきちや峰岸さんだって、みんな悲しむよ……?)

こなたは、再びその目から涙を流しそうになる。
もしも、ここで全てを忘れることが出来るのならどれだけ楽になれるか。
アニメや漫画や特撮の登場人物のように、記憶喪失になれたら。
だが、弱音を吐くようなことはしない。
もしもここで逃げ出したりしたら、自分のために頑張ってるスバルやリインの足を引っ張ることになる。
ここで悲しみに溺れることは、二人に対する侮辱に他ならない。
そう思い、こなたは今の現実に耐えた。
少なくともスバルやリインには、今の気持ちを知られてはならない。
だからこそ、このアジトに向かう途中に森を歩いていたとき、わざとふざけた言動をして悲しみを紛らわせたのだ。
死人が出ているのに、このような行為をするのは不謹慎と分かっている。

「ス、スクライア司書長!?」

悲しみに耽っていたこなたの耳に、リインの声が響いた。
その瞬間、意識が覚醒する。
そのまま彼女は、驚いたような表情を浮かべながら振り向いた。
その先には、見知らぬ一人の青年が立っている。

「君はもしかして……リイン!?」







ユーノ・スクライアがこの施設に現れてから、一同はある一室に集まっていた。
そこは複数の電子機器が起動している影響か、外に比べて室温が高く感じる。
三人は、互いに情報を交換した。
その際に、ユーノは提案する。

319 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/04(土) 17:28:40 ID:bkv9kGrE0
この話し合いの内容が、プレシアに聞かれないように文章で対話をするのが望ましいと。

(そういや、ルルーシュの時にもこういうのあったな……)

突如、ルルーシュ・ランペルージとシャーリー・フェネットの姿が、こなたの脳裏に蘇る。
亡くなった二人のことを思い出し、胸の奥から悲しみが沸き上がりそうになるが、それを堪えた。
今やるべき事は、別にある。
そして、白紙の紙とペンを三人は手に取った。



この会場に連れてこられたから起こった、様々な出来事。
この殺し合いの参加者は、それぞれ別々の世界から連れてこられた可能性。
リインのいた、ゴジラという怪物が暴れている世界。
ユーノのいた、管理外世界よりLという名の名探偵が現れた世界。
別行動を取っている、首輪を所持しているスバル・ナカジマについて。
脱出の手がかりとなる可能性のある機械、ハイパーゼクター。
残り人数が一五人を切ったとき、開くとされる謎の車庫。
首輪だけでなく、この会場には結界が張られていて、それも制限となっている説。
殺し合いの促進のため、参加者の感情に異常を与える装置。
そして、ユーノとリインがデスゲームに関して立てた仮説。



奇しくも、互いの考案には酷似する内容が多数あった。
情報交換を終えた彼らは、黒いテーブルの上に置かれている銀色の輪っかと睨めっこをしている。
それは殺し合いを強制させる道具とも言える、首輪。
隕石によって、海が枯れ果ててしまった地球に存在する組織に所属する男、矢車想に巻かれていた首輪。
これの解析を今から進めようとしている。
無論、ユーノはそれによって生じる危険性を二人に説明した。
解除した瞬間が、自分達の最後になるかもしれないことを。
その事実を聞かされたこなたとリインは、ほんの一瞬だけ戸惑った。
ようやく生まれてきた希望が、死という最悪の絶望と繋がっている可能性を知って。
それでも、先を進むために二人は提案を受け入れた。









時計の針は、ただ進み続けている。
ユーノとリインは、この施設で見つけたドライバーなどの工具を持ち、首輪の解析を進めていた。

320 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/04(土) 17:30:58 ID:bkv9kGrE0
だが、その場にこなたはいない。
解除の途中で、首輪が爆発する可能性も充分にある。
それに巻き込まれないため、彼女は部屋の前で待っていることになった。
何か異常事態が起こったら、大声で叫ぶという条件を持って。

(かがみんやスバル……大丈夫かな)

薄暗い廊下の中で、こなたは溜息を吐く。
二人は無事なのだろうか。
未だに名前を呼ばれていないとはいえ、特にかがみの方が心配だった。
しっかり者の彼女とはいえ、妹を失ってはどうなるか分からない。
ただ、出来ることならプレシア・テスタロッサの言うまま、これ以上殺し合いに乗って欲しくなかった。
こんな綺麗事が言える立場ではないのは分かっている。
自分はかがみと違い、スバルやリインやユーノに頼ってばかりだ。
しかも、何も出来ない。
スバルは自分のために、戦っている。
リインやユーノは、首輪の解析を頑張っている。
なのに、自分は何だ。
何の力も持たない、ただの人間。
分かっている。
でも、それは何もしていない事への免罪符にならない。

(何やってんだろ……あたし)

部屋の中にいる二人に聞こえないように、溜息を吐いた。
それと同時に、部屋の扉が音を立てて開く。
中からは、ユーノとリインの二人が姿を現した。
ユーノは無言で、手招きをしている。
その導きのまま、こなたは再び部屋に入った。









三人のいる薄暗い部屋は、未だに沈黙が広がっている。
彼らが集まっているテーブルの上には、複雑な金属回路や部品がいくつも散らばっていた。
それを見て、二人は首輪の解析に成功したとこなたは察する。
しかし、彼女の表情は晴れていない。
その手には、一枚の書類が握られている。
そこには、ユーノとリインの物と思われる綺麗な文字が書かれていた。

321 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/04(土) 17:32:19 ID:bkv9kGrE0

この首輪のことで分かったことがいくつかある。

まず一つ目、この首輪の構成はいくつかの部品で構成されている。

参加者を殺害するための起爆装置
参加者の情報を伝えるための盗聴装置
この二つの動力源と思われる装置
それらを守る枠の部分

外装自体は、工具さえ使えば表面だけは外せる。
でも、その下には金属回路が張り巡らされていて、その先には動力源と見られる装置があった。
この部分は、魔力を流し込めば無効化することだけは出来る。
そこから、パズルを分解するような要領で、慎重に魔力を流し込めば、解除することだけは可能。

ただし、これは対象が『既に死んだ参加者の首輪』だから、成立する可能性がある。
説明したように、首輪の解除とゲームオーバーは隣り合わせの危険性が高い。
ここにいる自分達が殺されない理由は、まだ『生きている参加者の首輪』に手を付けていないから。
故に、首輪の構図と解除の方法を知っただけでは、まだ主催者に殺させるわけではない。
その段階に入る基準は、恐らく『生きている参加者の首輪』を解除したとき。
だから、自分達の首輪は現段階では解除するべきではない。
脱出の手段、仲間達全員の首輪を解除できる状況になったとき、メンバーの集合。
この三つの条件が整うまでは、これ以上動くことは出来ない。
そして、ここに書かれた内容は信頼できる人物以外には、決して見せてはいけない。



「うん、だいたい分かったよ……ユーノ君」

それら全てを読み終えたこなたは、二人の方に顔を向けた。
黙然とした部屋にようやく声が響くと、ユーノもまた口を開く。

「とにかく、今は一旦外に出てスバルを待つしかないよ。それから、情報をまた集めて……まとめ直す。まずはそこからだよ」

その提案に、二人は頷いた。
今はまだ、行動に移すときではない。
信頼する仲間を待ち、そこからプランを立てる。
こなたは書類を返した。
それを受け取ったユーノは、解体の終えた首輪と書類をデイバッグに入れる。
自分達の役割を察した三人は、部屋から出て行った。

322 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/04(土) 17:36:15 ID:bkv9kGrE0
【1日目 真夜中】
【現在地 C-9 スカリエッティのアジト前】

【共通認識】

※アジトの内部は、全て捜索しました。
※三人の間で情報交換(自分達のいた世界、仲間達、これまで起こった出来事、このデスゲームに関する仮説、車庫の存在)をしました
※首輪の内部構造、及び解除方法を把握しました
※それに関して、二つの仮説を立てています
※首輪の解除自体は魔法を用いれば、解除は可能
※ただし、これは死んだ参加者の首輪だから成立することで、生きている参加者の首輪を解除するとゲームオーバーの危険が高い
※現状では、スバルと合流してから再び行動しようと考えています。


【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、腹に刺し傷(ほぼ完治)、決意
【装備】バルディッシュ・アサルト(待機状態/カートリッジ4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、
    双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣、セロハンテープ、分解済みの首輪(矢車)、首輪について考えた書類
【思考】
 基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊。プレシアを止める。
 1.こなたやリインと共に、スバルを待つ。
 2.なのは、はやて、ヴィータ、スバル、クアットロ等、共に戦う仲間を集める。
 3.ヴィヴィオの保護
 4.ジュエルシード、夜天の書、レリックの探索。
 5.首輪の解除は、状況が整うまで待つ
 6.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。
【備考】
※バルディッシュからJS事件の概要及び関係者の事を聞き、それについておおむね把握しました。
※プレシアの存在に少し疑問を持っています。
※平行世界について知りました(ただしなのは×終わクロの世界の事はほとんど知りません)。
※会場のループについて知りました。
※E-7・駅の車庫前にあった立て札に書かれた内容を把握しました。
※明日香によって夜天の書が改変されている可能性に気付きました。但し、それによりデスゲームが瓦解する可能性は低いと考えています。
※このデスゲームに関し以下の仮説を立てました。
 ・この会場はプレシア(もしくは黒幕)の魔法によって構築され周囲は強い結界で覆われている。制限やループもこれによるもの。
 ・その魔法は大量のジュエルシードと夜天の書、もしくはそれに相当するロストロギアで維持されている。
 ・その為、ジュエルシード1,2個程度のエネルギーで結界を破る事は不可能。
 ・また、管理局がそれを察知する可能性はあるが、その場所に駆けつけるまで2,3日はかかる。
 ・それがこのデスゲームのタイムリミットで会場が維持される時間も約2日(48時間)、それを過ぎれば会場がどうなるかは不明、無事で済む保証は無い。
 ・今回失敗に終わっても、プレシア(もしくは黒幕)自身は同じ事を行うだろうが。準備等のリスクが高まる可能性が高い為、今回で成功させる可能性が非常に高い。
 ・同時に次行う際、対策はより強固になっている為、プレシア(もしくは黒幕)を止められるのは恐らく今回だけ。
 ・主催陣にはスカリエッティ達がいる。但し、参加者のクアットロ達とは別の平行世界の彼等である。
 ・プレシアが本物かどうかは不明、但し偽物だとしてもプレシアの存在を利用している事は確か。
 ・大抵の手段は対策済み。ジュエルシード、夜天の書、ゆりかご等には細工が施されそのままでは脱出には使えない。

323 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/04(土) 17:37:03 ID:bkv9kGrE0
【泉こなた@なの☆すた】
【状態】健康、悲しみ
【装備】涼宮ハル○の制服(カチューシャ+腕章付き)、リインフォースⅡ@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS
【道具】支給品一式、投げナイフ(9/10)@リリカル・パニック、バスターブレイダー@リリカル遊戯王GX、レッド・デーモンズ・ドラゴン@遊戯王5D's ―LYRICAL KING―、救急箱
【思考】
 基本:かがみん達と『明日』を迎える為、自分の出来る事をする。
 0.ユーノと共に、スバルの到着を待つ。
 1.スバルやリイン達の足を引っ張らない。
 2.かがみんが心配、これ以上間違いを起こさないで欲しい。
 3.おばさん(プレシア)……アリシアちゃんを生き返らせたいんじゃなくてアリシアちゃんがいた頃に戻りたいんじゃないの?
【備考】
※参加者に関するこなたのオタク知識が消されています。ただし何らかのきっかけで思い出すかもしれません。
※いくつかオタク知識が消されているという事実に気が付きました。また、下手に思い出せば首輪を爆破される可能性があると考えています。
※かがみ達が自分を知らない可能性に気が付きましたが、彼女達も変わらない友達だと考える事にしました。
※ルルーシュの世界に関する情報を知りました。
※この場所には様々なアニメやマンガ等に出てくる様な世界の人物や物が集まっていると考えています。
※PT事件の概要をリインから聞きました。
※アーカードとエネル(共に名前は知らない)、キングを警戒しています。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。矢車(名前は知らない)と天道についての評価は保留にしています。
※リインと話し合いこのデスゲームに関し以下の仮説を立てました。
 ・通常ではまずわからない程度に殺し合いに都合の良い思考や感情になりやすくする装置が仕掛けられている。
 ・フィールドは幾つかのロストロギアを使い人為的に作られたもの。
 ・ループ、制限、殺し合いに都合の良い思考や感情の誘導はフィールドに仕掛けられた装置によるもの。
 ・タイムリミットは約2日(48時間)、管理局の救出が間に合う可能性は非常に低い。
 ・主催側にスカリエッティ達がいる。但し、参加者のクアットロ達とは別世界の可能性が高い。仮にフィールドを突破してもその後は彼等との戦いが待っている。
 ・現状使える手段ではこのフィールドを瓦解する事はまず不可能。だが、本当に方法は無いのだろうか?
※ヴィヴィオにルーテシアのレリックが埋め込まれ洗脳状態に陥っている可能性に気付きました。また命の危険にも気付いています。

【リインフォースⅡ:思考】
 基本:スバル達と協力し、この殺し合いから脱出する。
 1.ユーノやこなたと共に、スバルの到着を待つ
 2.周辺を警戒しいざとなったらすぐに対応する。
 3.はやて(StS)やアギト、他の世界の守護騎士達と合流したい。殺し合いに乗っているならそれを止める。
【備考】
※自分の力が制限されている事に気付きました。
※ヴィヴィオ及びクラールヴィントからヴィヴィオとの合流までの経緯を聞きました。
※ヴィヴィオにルーテシアのレリックが埋め込まれ洗脳状態に陥っている可能性に気付きました。また命の危険にも気付いています

324 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/04(土) 17:37:45 ID:bkv9kGrE0
空調の整っていたアジトの外から出た三人は、冷たい空気を浴びていた。
不意に、こなたの中で疑問が生まれる。

「ねえ、そういえばユーノ君。聞きたいことがあるんだけど」
「ん? どうしたの、こなた」
「ユーノ君って、本当に男の子だよね」

あまりにも突拍子もない発言に、ユーノとリインは怪訝な表情を浮かべた。

「……こなた、あなたは一体何を言ってるんですか」
「え? だってそうじゃん」

そこから数秒の間が空いた後、こなたは口を開く。

「こんな可愛い顔をした人が、男の子のはずないじゃん。もしかして、ユーノ君って男の娘?」

ユーノとリインは盛大にすっ転んだ。

325 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/04(土) 17:39:52 ID:bkv9kGrE0
これにて、仮投下は終了です。
誤字脱字及び、展開に矛盾や指摘する点がありましたら
ご指摘をお願いします

326リリカル名無しA's:2010/09/05(日) 09:35:26 ID:UrvBvPS60
仮投下乙です。感想は本投下の際に。
特に問題はないと思いますので、このまま本投下しても大丈夫かと。

327 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/05(日) 10:00:23 ID:c0xEP7k60
意見ありがとうございます
それでは、この後に本投下をさせて頂きます

328 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/25(土) 00:32:14 ID:UCdNfzXI0
第四回放送の案が出来ましたので、これより投下させて頂きます

329 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/25(土) 00:33:12 ID:UCdNfzXI0
遥か昔に滅びたとされる古代文明、アルハザード。
その世界を舞台としたデスゲームも、既に24時間が経過していた。
恐怖、憤怒、憎悪、悲哀、絶望、疑心――
様々な不の感情が参加者たちの間で生まれ、交錯した。
既に太陽の光は一切差し込まず、辺りは闇で支配されている。
深夜の空には、無数の星が煌いていた。
だが、それを見上げたところで安心を抱く存在は誰1人としていないだろう。
むしろ、恐怖や嫌悪感すらも抱くかもしれない。
まるでその輝きは、この殺し合いで散った命たちが、亡霊となって現れているかのようだったからだ。
そして、4度目になる闇よりの呼び声が、聞こえる。
残酷に満ちた、ゲームマスターからの伝言が。
誰も望まないかもしれない。誰も聞きたくないかもしれない。
しかし無常にも、時が動き続ける。
時計の針は、12時の時間を再び示した。




参加者の皆様、こんばんは。
これより、0時をお伝えすると同時に、第4回目の定時放送を行います。
今までどおり、今回の放送も禁止エリアから発表させていただきますので、メモのご用意をお願いします。
なお、この放送を聞き逃したからといって、もう1度伝えることは行いませんので、ご注意ください。
放送は前回に引き続いてこの僕、オットーが行います。

330 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/25(土) 00:35:00 ID:UCdNfzXI0
一切の温度が感じられない言葉が、淡々と告げられる。
その音質は、この世に存在するとは思えないほど、冷たい。
またそれを告げる者の表情も、全くの感情が感じられなかった。
まるで、人形のように。



それでは、禁止エリアを発表します。
1時よりH−2
3時よりG−8
5時よりB−7



以上、3箇所となります。
これまでの禁止エリアと同様、時間と場所をお忘れなきよう、よろしくお願いします。
続きまして、前回放送からこの放送までに出た死者の名前を発表させて頂きます。





ここで呼ばれるのは、この捻じ曲げられた運命の犠牲となった者たち。
元々は、別々の世界に存在していた住民。
皆それぞれ、自らの役割に奮闘していたはずだった。
しかしある時、意思と関係なくこの戦いに呼び出された。
そして、命を散らした。





アレックス
アーカード
ヴィータ
クアットロ
ヒビノ・ミライ
エネル
相川始

331 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/25(土) 00:35:40 ID:UCdNfzXI0
以上、7名。
残り12人となります。
プレシア氏からは「前回と比べるとややペースは落ちたものの、まだまだ及第点。このペースで頑張ってほしい」との、伝言を預かっております。
そして僕の目からも、今回の結果は素晴らしいと思います。
このペースで行けば、次の放送までにはゲームが終了するかもしれません。
前回も仰ったように早期にゲームが終われば、我々も管理が楽に済むことに繋がります。
そして、皆様の中の誰か一人が恐怖から開放されて、願いが適える事もできます。
今後とも気を抜かず、ゲームに励んでください。



それでは、今回の放送を終了します。
皆様のご武運を、お祈りします。





現時点で確認されている主催者は、4人。
出演者は、60人。
予知せぬ乱入者は、2人。
この世界を舞台に開かれた『バトルロワイヤル』という題名の演劇。
その結末は、未だ見えない。
殺し合いの末に残った誰かが、優勝するか。
それとも殺し合いの末に誰一人残らず、全滅という結果に終わるか。
それとも、どちらでもない全く別の結末を迎えるか。
この先の未来は、未だに闇で覆われていた。
その闇は、誰にも覗くことはできない。


この演劇に参加させられた役者の人数は――――残り、12人。





青白い蛍光灯に照らされた薄暗い部屋に、透明な円柱が立っていた。
緑色の液体で満ちたその容器の中には、一人の少女が眠りについている。
その長髪は鮮やかな金色で輝き、まるで部屋を僅かに照らしそうだった。
未だに目覚める気配のない少女の姿を、プレシア・テスタロッサは悲しみに満ちた瞳で見つめている。
容器の中では、5歳の頃に亡くなってしまった最愛の娘、アリシア・テスタロッサ。

332 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/25(土) 00:36:35 ID:UCdNfzXI0
「アリシア……もう少しだから、待っててね」

プレシアは、右手で容器を撫でながら呟く。
次元振を起こした後、このアルハザードに流れ着き、愛娘を蘇生させる手段をようやく見つけた。
だが、それだけでは駄目だ。
このままではいくら命を取り戻したからと言って、アリシアが本当に幸せになれるとは限らない。
世界には、娘が死ぬ原因となったあのプロジェクトを命じた、屑に等しい存在が大勢いる。
奴らを罰しなかった管理局も同類だ。
そして自分の知らない世界に、アリシアの平穏を脅かす存在がいる可能性もある。
そのような者達を排除し、アリシアの理想となる世界を作れるようになるまでは、まだ目覚めさせるわけにはいかない。
彼女の脳裏に思い浮かぶのは、笑顔を浮かべるアリシアの姿。
そして、幸せに満ちた毎日。
出来るなら、今すぐにでもここから出して、自由にあげたい。
けれども、まだその時ではない。
今はこのデスゲームの進行が、最優先だ。
そしてこれが終わり、理想の世界が出来上がったときが、アリシアを目覚めさせる時。
自分にそう言い聞かせたプレシアは、アリシアに別れの言葉を告げると、部屋から出て行った。




「残るはあと12人……」

金色の瞳を輝かせながら、ウーノは1人でパネルを叩いている。
目前の画面に書かれているのは、数え切れないほどの文字と上下し続ける波紋。
たった今、オットーが行った放送の中では、クアットロの名前が呼ばれていた。
だが、それに気を止めている場合ではない。
ディエチとチンクに続いて、妹が3人も失われた。
しかし、それはパラレルワールドに存在する、自分の知らない姉妹達。
故に、消えたところで何の感情も抱かない。
それに自分のいた世界にいた3人は、既にプレシアによって殺されているのだから。

「ドクター…………」

ぽつりと、呟く。
不意に、今は亡き創造主、ジェイル・スカリエッティの姿を思い出した。
そして、姉妹達がプレシアの手によって殺されてしまった、あの日のことを。
突然現れたあの女が率いる軍団の襲撃を受けて、数多くあるアジトは壊滅。
抵抗の暇すらもなく。
残された自分とオットーは、プレシアが開くこのデスゲームに協力するという条件で、命だけは助かった。
あの女は言った。
このゲームに協力するのなら、ドクター達を生き返らせると。
そしてもしも断るのなら、自分達二人を殺すと。
その提案を、受け入れざるを得なかった。

333 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/25(土) 00:37:52 ID:UCdNfzXI0

(プレシア、果たして貴方の願いがそうそう上手く適うかしら……?)

胸の中に、自身に対する憤慨とプレシアへの憎悪が蠢いている。
けれど、それを表に出すことはしなかった。
オットーの言葉通りに『次の放送までにゲームを終了させる』ため。
そして、その為の手段も整っている。
最後に必要なのは、それを行うタイミングだけ。
コンソールを打ち続けているウーノは、視界を脇に移した。
そこに置かれているのは、一枚のディスク。
これが意味することは、自分とオットーの逆転の鍵。

「貴方の思い通り、ゲームを早めに終わらせてあげるわ……早めにね」

ウーノは再び画面を見つめながら、呟いた。
そこに映し出されているのは、逆転に繋がる二つの存在。
一つは、プレシアとのコンタクトを取った参加者、金居。
そしてもう一つは、アルザスと呼ばれる世界で古くより存在する守護竜。
頭部より伸びた二本の角、高層ビルすらも上回る黒き巨体、胸部と四肢を守る赤い骨格、収められている両翼。
正しき時間の流れなら、もうこの世にいないキャロ・ル・ルシエが使役していた、真竜と謳われていた神に等しい存在。
主が消えては、元々の凶暴性によって全てのものを、破壊しようと暴れるはずだった。
しかしその竜は、未だに眠りについている。
いや、眠らされていると言った方が正しかった。
その際、本来の契約は既に無かったことになっている。




この空間は、知る者は僅かしかいない秘密の部屋。
そこに封印された守護竜、ヴォルテールは未だに動かない。
それが今、何処にいるのか。
また、ここはどこにあるのか。
ヴォルテールの存在と在処を知っているのは、ウーノ只一人のみ。
これは、プレシアとリニスですら把握していない、事実だった。



【全体の備考】
※ウーノとオットーの知るスカリエッティとナンバーズは全員、既にプレシアによって殺害されています。
※アリシアは現在、プレシアによってコールドスリープの状態になっています。
※現在ウーノは、ヴォルテールを封印しています。なお、その存在はプレシアとリニスには知られていません。

334 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/25(土) 00:42:05 ID:UCdNfzXI0
放送案は、以上です
「放送は予約の必要がない」というルールを知らずに、申し訳ありませんでした。
今後、このようなミスがないように気を付けます。
そして、問題点や矛盾がありましたら、ご指摘をお願いします。

335 ◆HlLdWe.oBM:2010/09/26(日) 01:42:46 ID:mGStIFBc0
LuuKRM2PEg氏放送案投下乙です
一つ気になったのは死者の発表順
今まで五十音順だったので、もし採用された場合はその部分の修正お願いします

では自分も放送案投下します

336第四回放送案:2010/09/26(日) 01:43:38 ID:mGStIFBc0

その発言がされた瞬間、○○○は途轍もなく嫌な予感に襲われた。

これから何か良くない事が自分達の身に降りかかる。

そんな第六感や虫の知らせめいた考えが頭を過ったのだ。

だから急いで皆にこの不安を伝えようと口を開こうとした。

だけど、それはもう叶わなかった。

337第四回放送案 ◆HlLdWe.oBM:2010/09/26(日) 01:44:44 ID:mGStIFBc0


     ▼     ▼     ▼


さあ、6時間ぶり、いえ私に限っては12時間ぶりの放送になるわね。
さて私が今回放送を取り行う理由は後から説明するとして、まずは禁止エリアとこの6時間で脱落した死者を発表するわ。
もう残りの参加者も少なくなっているとはいえ、聞き逃さないようにしなさい。

では今回の禁止エリアよ。

1時から
3時から
5時から

以上の3エリアになるわ。

そして続いてこの6時間で死んだ者は以下の7人。

アーカード
相川始
アレックス
ヴィータ
エネル
クアットロ
ヒビノ・ミライ

以上よ。

前回よりも減っているとはいえ、残りの人数を考えると悪くはないペースね。
ところでボーナスは有効に活用してもらえているかしら。
あなた達にはぜひこの調子で頑張ってほしいものね。

338第四回放送案 ◆HlLdWe.oBM:2010/09/26(日) 01:52:55 ID:mGStIFBc0

さて、今回は一つ重大な報告があるわ。
それこそが私が今回わざわざ自ら放送をしている理由よ。

それは『首輪を分解して解析した者が現れた』事よ。

あなた達にとっては朗報でしょうね。
その忌々しい首輪さえ解除できれば堂々と私に反旗を翻せるのだから。

でも私は確か1回目の放送でこう言ったはずよ。

『それと何人か殺し合いを止めようとしているみたいだけど、頑張っても無駄よ。なぜならそんな事をし続けても、いずれは――』
『――こうなるからよ』
『別にすぐにとは言わないわ。でも殺し合いが進まないと困るから、しかるべき時には……』

私は言ったわ。
性懲りもなく殺し合いを止める行為を続ければ、いずれはあの時のアリサ・バニングスのようになると。
口だけでなくきちんと実演までしてみせたはずよ。

だけど私は寛容よ。

今まで何人かが私への反抗を企てて行動していたけど、いつかその行動の無意味さに気付くと信じて見て見ぬふりをしてきたわ。
でもどうも分かっていなかったようね。
だから今回のように調子に乗った者が現れた。
さすがにこれはもう私も見て見ぬふりは出来ないわ。
残念だけど宣言通り制裁を加えるしかないようね。

でも今回使われたのは死者の首輪。
未だにあなた達の首輪はちゃんと首に嵌っているわ。



ダ カ ラ コ ン カ イ ハ ケ イ コ ク ニ ト ド メ テ ア ゲ ル。



ふふふ、当事者は今頃身を持って知ったでしょうね。
首輪を分析して解除しようとする愚かしさを! 私に反抗する無意味さを!
そして後悔しなさい、自分達が仕出かした過ちにね!!!

そうね、当事者の身に何が起こったのか知りたければ急いで北東に向かうといいわ。

さあ、みんなこれを肝に銘じてさらに殺し合いに奮起してくれる事を期待するわ。
なんと言っても残り12人、あと11人死ねば、あなたは勝者になれるのよ。
そうすれば私がその功績を称えて望みを叶えてあげる。
ふふ、その時が来るのを私も楽しみに待っているわ。

それじゃあ今回の放送はここまで。
次の放送は……果たしてあるのかしらね……。

339第四回放送案 ◆HlLdWe.oBM:2010/09/26(日) 01:56:53 ID:mGStIFBc0


     ▼     ▼     ▼


結局○○○は何も伝える事ができないまま短い生涯を終える事になった。

その細い首に嵌った首輪の爆発は誰にも防ぐ事は出来なかった。

なぜ皆と同じく首輪を付けられた者の中で○○○が選ばれたのか。

それは○○○が、リインが正式な参加者ではなく、参加者に配られた支給品であるため。

だからプレシアも気兼ねなく警告の実演に起用したのだろう。

こうして小さな祝福の風は無慈悲な爆風にかき消されたのだった。


【リインフォースⅡ@魔法少女リリカルなのはFINAL WARS  死亡確認】

340 ◆HlLdWe.oBM:2010/09/26(日) 01:59:15 ID:mGStIFBc0
投下終了です
禁止エリアですけど、今すぐに適当なものが思いつかないので採用された場合にまた改めて考えます
雑談スレとかで意見出してもらえると助かります

341 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:04:38 ID:CSh9VCWc0
お待たせしました。これより放送案を投下します

342 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:05:10 ID:CSh9VCWc0
 ――おはよう、みんな。0時の放送の時間よ。
 仮眠も取ったことだし、ここからは今まで通り、私が放送を行うわ。
 まぁもっとも、この放送もあと何度続くことになるか、分かったものじゃないのだけど……
 ……フフ、ではまず、禁止エリアを発表させてもらうわね。
 メモの準備はいい? こんなところまで来ておいて、自滅なんてされたら困ってしまうわ。
 ……では、読み上げるわよ。

 7時から○-×
 9時から○-×
 11時から○-×

 以上の3か所よ。

 では続いて、これまでの死者を発表するわ。

 アーカード
 相川始
 アレックス
 ヴィータ
 エネル
 クアットロ
 ヒビノ・ミライ

 以上、7名。
 この24時間を生き抜いたのは、合計12名よ。
 ……まぁ、きっかり10名にならなかったのは、キリの悪い数字だと思ったけれど。
 ペースとしては上々。さすがに1日で終わるなんてことはなかったようだけど、
 これなら順調に終わってくれるかしら? 貴方達には、本当に感心させられるわね。

 ……今回はここまででいいわ。
 私が用意してあげたご褒美も、十分機能しているようだし。
 じゃあ、せいぜい最後まで頑張ってちょうだいね。
 貴方達の願い、そして私の目指すもの……どちらも成就するまであと一歩。
 フフ……期待させてもらうわよ。

343第四回放送案 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:05:56 ID:CSh9VCWc0


 かくして4度目の放送は流れた。
 最悪の1日は終わりを告げ、最悪の2日目が始まった。
 24時間目の時報を耳にしたのは、合計12人の生存者。
 僅か24時間のうちに、60人の参加者達は、実にその8割を喪っていた。

 誰もが耳を傾ける。
 誰もが放送を耳にする。
 安堵、悲嘆、希望、絶望。
 それぞれの思惑を胸に宿し、それぞれの感想を胸に抱く。



 しかし此度の放送は、それまでに繰り返されたものとは、ある1点において違っていた。



 ある者は全く気付かなかった。
 ある者は気付いていたのかもしれない。
 この放送に隠されたものに。
 この放送が意味するものに。

 そこに時計を持つ者がいて、その者が時計を見ていたのなら、容易に気付くことができたであろう。





 現在時刻、0:10。





 今回の放送は、これまでの放送とは異なり、予定より10分遅れて流れていた。





 ――――――異変は、この時既に始まっていた。

344第四回放送案 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:06:37 ID:CSh9VCWc0


「もう間もなく放送の時間か……」
 ぽつり、と呟いた女の声が、狭い一室に木霊する。
 巨大なモニターとコンソールを前に、1人座っていた者は、プレシア・テスタロッサの使い魔・リニス。
 青く澄んだ猫の瞳は、しかし今この瞬間は、失意の陰りに満ちていた。
 第3回目の放送から、色々と試してみたものの、その結果は芳しくない。
 彼女の有する権限の大多数は、主君によって凍結されていた。
 部屋から出て問い詰めに向かおうにも、ドアにまでロックがかけられている。
 とどのつまりは、完全なる手詰まり。
 何もできず、どこへも行けず。
 籠の中のカナリアのごとく。
 プレシアの下した制裁は、リニスからこの殺し合いに介入する、あらゆる術を奪っていた。
(何が希望だ)
 歯を軋ませる。
 苦虫を噛み潰したような表情で、己自身を嘲笑う。
 所詮自分の力などこんなものか。
 こんなにもあっさりと、何もできなくなってしまうものなのか。
 その程度の力しかない私に、一体どんな希望が与えられるものか。
 何もできない。
 何も変えられない。
 こんな矮小な私などには、殺し合いを止めることも、参加者を救うこともできはしない。
 広がりゆくのは心の暗黒。
 自分の弱さと情けなさが、自身の心を苛んでいく。
 罪を償うこともできないという事実が、自らの罪を思い起こさせ、良心の重荷を思い出させる。
 何ができる。
 何をすればいい。
 私にできることがあるなら、今すぐにでも示してほしい。
 籠の中のカナリアごときに、何かが変えられるというのなら――



 ――がこん。



 その、時だ。
「……?」
 リニスの座るすぐ背後で、何かの音が鳴った気がしたのは。
 聞き間違いでなかったとするなら、金具が落ちたような音だったはずだ。
 否、自分に限って聞き違いはあるまい。猫の聴力は人間よりも高い。
 ほとんど確信を持ちながら、ゆっくりとその身を振り返らせる。
 分かっているのに振り返ったのは、音の主を知らないから。
 音の質こそ分かっていたものの、その音が何によって奏でられたのかを知らなかったから。
 故にそれを確かめるために、視線を音の方へと向け、
「よう」
 その女と、対峙した。
 そこに立っていた者は、燃えるようなオレンジの女。
 橙色の長髪をたなびかせ、青い瞳を光らせる者。
 そのコスチュームの露出度は高く、すらりと伸びた四肢の皮下には、くっきりと筋肉が浮かび上がる。
 顔に浮かべるは不敵な笑み。左手に持つのは通気孔の金網。
 そしてその頭には――リニスと同じ、獣の耳が生えていた。
「貴方は……アルフ!?」
 は、としたような顔になり。
 ほとんど反射的に椅子を蹴る。
 額にじわりと冷や汗を浮かべ、後ずさるようにして立ち上がる。
 どういうことだ。何故アルフがここにいるのだ。
 フェイト・テスタロッサ諸共、自分達が殺してしまったはずの犬の使い魔が、何故こんなところに現れるのだ。

345第四回放送案 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:07:13 ID:CSh9VCWc0
「何故貴方が――」
 そこまで言いかけた瞬間。
「……っ!?」
 身に感じたのは、物理的衝撃。
 ぐわん、と視界が落下する。
 膝が強制的に曲げられ、身体が勢いよく倒れる。
 強引に押さえつけられた五体が、床に叩きつけられる硬質な感触。
 巻き添えを食らった足元の椅子が、空中に放り出されたのを見た。
 がたん、と椅子が落ちるのと同時に。
 己の視界に差す影を認知し。
 己を押さえこんだ者の正体を、目にした。
 それはかの使い魔ではない。そこに眩しいオレンジ色はない。
 そこに現れた者は――漆黒。
 全身を黒ずくめの騎士甲冑で固めた女が、リニスの身体に馬乗りになって、首筋と右肩を押さえていた。
 背中に生えていたものは、烏を彷彿とさせる艶やかな羽。
 色素の抜け落ちたかのような銀髪と、血濡れのごとき深紅の瞳。
「リイン……フォース……!?」
 やはり自らの手で殺したはずの、夜天の魔導書の管制プログラムが、目の前に姿を現していた。



 時は数分前にさかのぼる。
 その時彼女らはその場所にいた。
 リインフォースとアルフの2名は、相変わらず四つん這いの態勢で、時の庭園の屋根裏を移動していた。
《ホント、地図でも手に入ればよかったんだけどねぇ……》
 溜息混じりに、アルフが念話でぼやく。
 先ほどリインフォースがハッキングを行った時に閲覧できたデータは、爆発物の制御装置と謎の名簿。
 地図などの有用なものが得られなかったばかりか、得たものも得たもので意味不明の代物。
 そしてそのまま再び降りることもできず、こうしてただひたすらに、薄暗い屋根裏を徘徊している。
《もう一度降りられるといいのだが、これでは無理だな》
《そもそも2回目は向こうも警戒を強めてるだろうし……やっぱり別の方法を探るしかなさそうだね》
 金網から眼下を覗くリインフォースに、アルフが言う。
 彼女らがハッキングを途中で切り上げたのは、今まさに廊下を巡回しているものが原因だ。
 元いた世界の海鳴市を滅ぼした、プレシアの軍勢に加わっていた卵型の機動兵器――ガジェットドローン。
 あれさえいなければ下に降りることも可能なのだが、
 いなくなるどころか、どうにも先ほどから少し数が増えたようにも見える。
 とてもじゃないが、監視の目を盗んで端末にアクセスを……などと言っていられる状況ではなかった。
《一度どこかの部屋に入ってみるか? 何か使えるものがあるかもしれん》
 そう提案したのはリインフォースだ。
《あー、それもいいかもね。そこならあの機械もいないかもしれないし》
 言いながら、アルフの視界が眼下を探る。
 近くに確認できる廊下の扉は、隣り合うようにして配置された2つ。
 ひとまずは近い方の金網を目指すことにして、両者は移動を再開した。
 そして数歩のうちに目的地へとたどり着き、2人のうちアルフが様子を窺う。
 仮に中にガジェットや人がいた場合、降りた途端に見つかって、増援を呼ばれてしまう可能性があるからだ。
 実際、そこには人が1人いたのだが、
《っ!? そんな……あれは、リニス……!?》
 それがいるはずのない知り合いであったということは、さすがに予想だにしていなかった。
《知った顔か?》
《フェイトを教育してた、プレシアの使い魔だよ。でも何でだ? リニスは死んだはずじゃ……》
 忘れがちだが、本来ならばリニスは故人である。
 彼女はプレシアとの短い契約期間を満了し、元の屍へと戻ったはずなのだ。
 にもかかわらず、彼女はここにいた。
 生前と一切変わらぬ姿で、時の庭園の中に存在していた。
 これは大いなる矛盾だ。まさかリーゼ姉妹のように、双子がいたというわけではあるまい。
《……リインフォース。情報を手に入れる方法が、もう1つあるよ》
《何だ?》
 故にアルフはこう提案した。
《尋問》
 リニスと向き合い、問い詰めることを。
 彼女の生存とプレシアの意図、どちらも纏めて聞き出さねばならない、と。

346第四回放送案 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:07:48 ID:CSh9VCWc0


 かくして時間は現在へと戻る。
「久しぶりだね、リニス。こんな形で再会することになるとは思わなかったけど」
 床に仰向けに押さえつけられた猫の使い魔へと、犬の使い魔が切り出した。
 本当に、こんなはずではなかったことばかりだ。
 死んだとばかり思っていたリニスと、こうして再会することになったことも。
 その美しくも優しい教育係と、敵として対峙しなければならなくなったことも。
「あんた、何で生きてるんだ? 契約を完了した使い魔は、そのまま死ぬ宿命だったはずだ」
「私はリニス本人ではありません。
 プロジェクトFの技術を応用して作られた、同じ容姿と技術を持ったクローンに過ぎません」
「……そうかい」
 寂しげに目を伏せ、それだけを呟く。
 もしかしたら、とは思っていたが、どうやらそうも都合のいい話は存在しないらしい。
 プロジェクトF――フェイトが生まれるきっかけともなった、記憶転写クローン技術。
 その末に生まれたのがこのリニスだというのならば、
 オリジナルのリニスは、やはりこの世にはいないということになる。
「いくつか聞かせてもらいたいことがある」
 複雑な心境にあるであろう、アルフへの配慮だったのだろうか。
 ちら、とアルフに目配せした後、リインフォースが問いかける。
 そこからの尋問の主導権は、リインフォースが引き継ぐこととなった。
「まずは貴方の主人――プレシアについてのことだ。彼女はここで何かを行っているようだが……一体何を企んでいる?」
 第一に確認すべきは、そこだ。
 アルハザードへの到達を目的としていたプレシア・テスタロッサは、恐らくその悲願を達成した。
 だとしたら、己の都合以外に一切の執着を持たないはずの彼女が、今更海鳴に攻撃を仕掛けるはずもない。
 しかし現実として海鳴は滅び、高町なのはとのその関係者は、今ここにいる2名を除いて全滅した。
 ならば、まだ何かある。
 プレシアが何かしらの目的を持って、未だに暗躍していることになる。
 最初に問いただすべきは、それであった。
「………」
 返ってきたのは、沈黙。
 微かな逡巡を湛えた表情と共に訪れる、静寂。
 数瞬の間、その状態が続き、
《……私に話を合わせてください。この部屋もプレシアに監視されているでしょうから》
 返ってきたのは、言葉ではなく念話だった。
《話を合わせる、ってのは、どういうことだい?》
 不可解な言い回しに、アルフが問いかける。
 監視されている可能性がある、という言葉には、さほど驚きは感じなかった。
 ここが敵の本拠地であるのなら、ある程度は仕方がないと割り切れるからだ。
 故にそれ以上に不可解なのは、リニスの持ちかけてきた提案。
 話を合わせろということは、演技をしろということだ。
 プレシアに従う身であるはずの彼女が、何故そのプレシアに本音を隠そうとするのか。
《私にはこれ以上、この件に干渉することはできません……ですから、貴方達に託そうと思います》
 答えが返ってくるまでには、さほど時間はかからなかった。
《お願いです――彼女を、プレシアを止めてください》

347第四回放送案 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:08:20 ID:CSh9VCWc0


 そして真実は語られた。
 伏せられていた情報の全ては、今ここに白日のもとに晒された。
 プレシアがたどり着いたこの場所は、間違いなくアルハザードであったということ。
 そこにたどり着いたにもかかわらず、未だアリシアは蘇っていないということ。
 そのアリシアの復活のために、プレシアが今動いているということ。
 そしてその手段として夜天の書を奪い、そのためにあの海鳴市を滅ぼしたということ。
「そんな……」
 そして。
「アリシアを復活させるために、大勢の人間が殺し合わされているだって……!?」
 それらの犠牲を払った末に、今まさに実行されていることさえも。
「何でだよ……どういうことなんだよ! そんな残酷なことが、死んだ人間の復活に繋がるのかよ!?」
 しばし呆然としていたアルフが、一転し、激昂の様相を見せた。
 今にも掴みかからんばかりの勢いで、リニスに向かって問いかける。
 敵を尋問しているように見せるための演技――ではない。この怒りは彼女の真意だ。
 まっとうな蘇生実験のために、フェイト達が犠牲になったというのなら、この際まだマシな方と言っていい。
 だがその犠牲が、そんな無駄な殺し合いのために払われたというのなら話は別だ。
 何故だ。
 何故そんなことのために、フェイト達が殺されなければならなかった。
 そんな無軌道な殺戮のために、何故愛しい主と仲間達の命が――
「それが、繋がるんです。彼女が行っているのは、そういう儀式ですから」
「儀式?」
 リニスの返事に反応を返したのは、やはりアルフではなくリインフォースだった。
 基本的に、この場で一番平静を保っているように見えるのは常に彼女だ。
 もっともその彼女自身もまた、プレシアの暴挙を許したわけではないのだが。
「今あの結界の中で行われている殺し合いこそが、アルハザードで確立されていた、死者を復活させるための儀式なのです。
 60人の人間を戦わせ、敗れた59人分の生命エネルギーを利用することで……勝ち残った1人の肉体に魂を降ろす。
 同時に肉体が生前のそれへと再構成されることで、完全なる死者蘇生は実現される」
「蟲毒だな、まるで」
 古代中国の呪術の名を例に挙げ、言った。
 もっともそちらの方は、虫や小動物を食い合わせて怨念を集め、猛毒を持った生物兵器を生み出すための呪法なのだが。
「そんなむちゃくちゃな……ここは仮にも、魔法の聖地なんて言われた場所なんだろう!?」
 それでもなお納得できないといった様子で、アルフが反論する。
 否、その感情の様相は、先ほどとはまた異なるものとなっていた。
 プレシアの暴挙に対して抱いたものが怒りなら、今この瞬間抱くものは困惑の二文字。
 優れた魔法技術を有したアルハザードの様式にしては、その方法はあまりにも野蛮で、あまりにも前時代的だ。
 魔法のまの字すら見えないこの儀式が、アルハザードの正統な技術であるなどと、一体誰が信じられるものか。
「だからこそ、なのです。
 リインフォース……蟲毒などという術を知っているのならば、地球に存在する生け贄の儀式のことも、聞いたことがあるのでしょう?」
「ああ。アステカ、インカ、中国……日本でも行われていた時期があったようだな」
「地球の場合、多くは神への貢物として行われていたようですが……
 あの世界を含む、リンカーコアを制御する術を持たない世界のうちのいくつかでは、超常の力を発揮するために、
 生け贄という形で肉体を損壊することで、強引に生命エネルギーを流出させる手段を取っていたのです」
「成る程……言わばあれらの風習もまた、超原始的な魔法だったということか」
 アステカの生け贄が、神を動かす力となったように。
 蟲毒の生き残りが、怨念を猛毒へと昇華させたように。
「にしたって60人って数は……あまりにも、多すぎる」
「完全な死者蘇生のためには、それほどの途方もない力が必要だったということか」
 そもそも死者を復活させるということは、あの世から死者の魂を連れ戻すということだ。
 そしていかに科学や魔術が発展した世界であっても、少なくともアルフ達管理世界の住民が知る限りでは、
 現世から冥界へと至る術を発見した世界は、未だない。
 彼岸と此岸の境界とは、それほどに強固なものなのだ。
 途方もないほどに強固な壁を越えるには、途方もないほどの代償を払わければならないということだ。

348第四回放送案 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:09:08 ID:CSh9VCWc0
《……事情は分かったよ。理解したくないけど、理解しなけりゃいけないってことが分かった》
 眉間に皺を寄せながら、毛髪の奥の頭皮を掻く。
 不機嫌そうな表情のまま、アルフがリニスへと念話を送る。
《では……》
《もちろん、最初からそのつもりさ。プレシアはあたし達が止めてくる》
 全て納得したと言えば、嘘になるだろう。
 正直な話、未だに唐突感はぬぐい去れない。あまりにも荒唐無稽すぎる話には、未だ理解が追いつかない。
 それでも、自分達はここに理解をしに来たのではないのだ。
 自分達がここに来たのは、プレシアの真意を問いただし、ろくでもないことを企んでいるのなら、それを止めるためなのだ。
 そして今まさに行われていたことが、そのろくでもないことであることは理解できる。
 ならば、この際細かいことはどうだっていい。
 今すぐプレシアの所へ殴り込み、このふざけた儀式とやらを止めるしかない。
 既に何人もの人間が犠牲になっているというのなら、なおさらのことだ。
《使い魔リニス。この施設の見取り図があったら、見せていただけないだろうか》
「この施設の見取り図がほしい。今すぐそのモニターに映せ」
 念話による本音では、穏便に。
 肉声による演技では、威圧的に。
 2つの言語を同時に駆使して、リインフォースが要求した。
「分かりました」
 その両方に、いっぺんに応じる。
 銀髪の融合騎の要求に、山猫の使い魔が応答を返す。
《窮屈だろうが、我慢してくれ》
 念話で前置きをしながら、リインフォースがリニスを強引に立たせる。
 首元に添えた手はそのままだ。建前上は脅迫している身なのだから、拘束を解くわけにはいかない。
 かくして彼女らはモニターへと向かう。
 倒れた椅子はそのままに、立った状態でコンソールを叩いた。
 かちかち、とキーボードを弾く音が響いた後、モニターに映し出されたのは時の庭園の見取り図。
 リインフォース達にとっては、実に6時間もの長きに渡って待ち望んだ代物だ。
「確認した」
 言うと同時に、リインフォースの手が伸びる。
 細く滑らかな指先が、コンソールの端子へと触れる。
 一瞬、ぴか、とその肌が光った。
 魔力光が瞬くと同時に、モニターに新たなウィンドウが開く。
 コピー完了――魔法術式タイプのコンピューターの特性を利用し、自らの内にデータを取り込んだ結果だった。
 もちろん、それだけではアルフが地図を使えない。
 故に適当な棚から、リニスに携帯端末を取り出させデータを出力し、それをアルフに投げて渡す。
「あとは……そうだな。参加者を拘束している首輪の制御装置はどこにある?」
 残された問題は、例の爆発物管理プログラムの正体――参加者に架せられた爆弾首輪だ。
 先ほどのハッキングではプログラムの存在こそ確認できたものの、それをどうこうすることは不可能だった。
 そしてあれをどうにかしない限りは、参加者をフィールドから逃がすことなど、不可能と言っていい。
 地図にそれらしきもののある部屋の名前が確認できなかった以上、その所在を問いただす必要があった。
「首輪はプレシア自身が管理しています。制御システムも、彼女の部屋に――」



 ――その、刹那。


.

349第四回放送案 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:09:53 ID:CSh9VCWc0
「ッ!?」
 世界の様相は一変した。
 視界は赤一色に満たされ、静寂は爆音に塗り潰された。
 ちかちかと点滅する非常灯。
 けたたましく鳴り響くサイレンの音。
 話声以外の音もなかった一室が、一瞬にして音と光の嵐へとぶち込まれた。
「これは……!?」
 誰が口にしたのかも分からぬ、戸惑いの声が上がるのも束の間。
「!」
 ぷしゅっ、と短く鳴る音と共に、部屋の自動ドアが開く。
 中から開いたのではない。扉はプレシアによってロックされている。
 であれば、答えは簡単だ。
 外から強制的に開けさせられたのだ。
「こいつら……!」
 扉の向こうに並ぶのは、見渡すばかりの鉄、鉄、鉄。
 卵を彷彿とさせる楕円形に、触手のごとく伸びた赤いケーブル。中央に光る黄金の瞳は、瞬きするかのように明滅する。
 ガジェットドローンの大軍だ。
 巡回を行っていた機動兵器達が、一斉にこの部屋へと押しかけてきたのだ。
「――バルディッシュ!」
 刹那、咆哮。
 凛とした雄叫びが上がると共に、黄金の光が赤を切り裂く。
 稲妻を宿した魔力光が、一瞬非常ライトを上から塗り潰した。
 声の主――使い魔リニスの手に握られていたのは、漆黒の煌めきを放つ長柄の斧。
 アルフの主人が生前用いていたものと、寸分違わぬ姿を持った、閃光の戦斧・バルディッシュ。
「はぁっ!」
 声を上げている暇などなかった。
 姿を知覚した瞬間には、既に動作に移っていた。
 跳躍。疾駆。接近。斬撃。
 カモシカのごとく両足をしならせ、敵に飛びかかりデバイスを振るう。
「リニス!?」
 アルフが声を上げた時には、既に1機のガジェットが破壊されていた。
 返す刃で次なる標的を切り裂き、改めてバルディッシュを構え直す。
 黒光りする切っ先越しに、山猫の双眸が機械兵を睨む。
「ここは私が引き受けます! 貴方達は隣の部屋に!」
「えっ……!?」
「この兵器達の放つフィールドには、魔力結合を阻害する効力があります。
 遠距離攻撃は不利です。隣の武器庫から、リインフォースの武器を調達して行ってください!」
 もはや演技をしている余裕はなかった。
 否、リニスの安否を無視して兵力を送った以上、大方プレシアにはばれていたのだろう。
 取り繕っていた体裁をかなぐり捨て、リニスがリインフォースらに向かって叫ぶ。
 そしてその言葉を聞いて、彼女らは一瞬忘れかけていた、敵の特性をようやく思い出した。
 あの金眼の兵器には、魔法を無力化させる能力が備わっていた。
 どういうからくりなのかが今までずっと気がかりだったが、なるほどそういうことだったのか。
「でも、1人で大丈夫なのかい? バルディッシュが近接戦タイプだからって……」
「見くびらないでくださいよ。これでも、フェイトの先生だったんですから」
 不安げなアルフを笑い飛ばすように。
 無粋なことを、と言いたげに、リニスが強気な笑みを浮かべる。
 それでも、未だ不安は消えない。
 いくら敵がガジェットだけでなかったからとはいえ、そのフェイトの敗北を目の当たりにしたからには、安心できるはずもない。
 確かにこのロボットそのものの耐久力はそう高くない。自分で殴り壊したからこそ分かることだ。
 だがそれでも、いくら何でもこれほどの数を前に、1人で戦えるものなのだろうか。
「やむを得ないか……ここは頼む。行くぞ、アルフ」
「……ああ」
 それでも、今は行くしかない。
 でなければせっかく足止めを買って出てくれた、リニスの意志が無駄になる。
 ここでまごついているうちにも、更なる犠牲者が出てしまうかもしれないのだ。
 無理やりに自分を納得させ、アルフはリインフォースの後に続いた。

350第四回放送案 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:10:46 ID:CSh9VCWc0
 部屋を出て、すぐ隣にあったドアを開く。
 先ほどちらと見た地図によれば、この部屋は殺し合いを行う際に必要となる、支給品とやらの転送室らしい。
 転送する武器の選別は、現在はランダムかつオートとなっているらしく、人の影は見当たらない。
 障害がないことを幸いとし、室内に並べられた武器を物色。
「……これがよさそうだな」
 そう言ってリインフォースが手にしたのは、一振りの日本刀だった。
 剣を選んだのは、ヴォルケンリッターの烈火の将・シグナムが剣の使い手だったからだ。
 彼女の魔法・紫電一閃は、純粋魔力ではなく、魔力変換によって生じた火力を纏うものである。
 魔力結合を阻害するガジェット相手には、ただの斬撃よりも有効と言えるだろう。
 故にシグナムの技を再現すべく、数ある武器の中からそれを選んだというわけだ。
 ただの刀が紫電一閃の火力に耐えられるのか、とも思ったが、どうやらこの刀、見た目以上に頑丈らしい。
 元々の持主たる異界の戦国武将・片倉小十郎が、この刀に雷を纏わせて戦っていたのだから、当然と言えば当然なのだが。
「よし、行くぞ」
「分かってる。……リニス! あたしらが戻るまで持ちこたえてくれよ!」
 部屋を出たアルフが最初に口にしたのは、ガジェットの大軍と戦うリニスへの呼びかけだった。
 そしてそれに対して返されたのは、彼女の無言の頷きだった。
 今はそれで納得するしかない。
 リインフォースらは彼女に背を向けると、すぐさま戦線を離脱する。
 硬質な廊下の床を蹴り、傍らの見取り図を見やりながら、時の庭園内部を走っていく。
 目標は2つ。
 今回の事件の首謀者であり、首輪の制御装置を保有しているプレシアの部屋。
 奪われた夜天の書が利用されているという、殺し合いのフィールドを生成する動力室。
 それぞれ最上階と最下層――PT事件を体験したアルフにとっては、一種懐かしささえ思わせる状況だった。
「リインフォース。ここは二手に分かれよう」
 そしてそのアルフが切り出したのは、またしても当時を想起させる提案だった。
「二手に……?」
「今は一分一秒が惜しい。あんたが地下の動力室を目指して、あたしがプレシアの部屋に向かうってのでどうだ」
「正気か? プレシア・テスタロッサの実力は、あの機械の比ではないのだろう……?」
 不可解な進言に、リインフォースが眉をひそめる。
 本業は科学者であるとはいえ、プレシアはSランクの魔力を有した大魔導師だ。
 まさかガジェット同様のフィールドを張るなんてことはないだろうが、それ以上に地力の差が桁違いである。
 事実として、アルフは以前プレシアに反旗を翻した際に、完膚なきまでに叩きのめされていた。
 理論上はその方が手っ取り早いとはいえ、どう考えても自殺行為としか思えない判断だ。
「夜天の書を取り返すことができれば、あんたもいくらか本調子を取り戻せるんだろ?
 心配なら、早く夜天の書を取り戻してきて、あたしを助けに来ておくれよ」
 返ってきたのは、不敵な笑み。
 にっと笑った表情は、先ほどのリニスのそれとも似通っていた。
 なるほど確かに、言われてみれば、リインフォースは夜天の書を奪われたことで、未だ本力を発揮できずにいる。
 その調子で2人がかり挑んだとしても、確実に勝利できるとは言い難いだろう。
 とはいえ2人で夜天の書の奪還に向かえば、その隙に参加者達を殺されてしまう。
 ならばここはアルフが注意を引きつけることで、本命のリインフォースに繋ぐのが最も確実だ。
「分かった……お前も、それまで死なないでいてくれよ」
「おうともさ」
 それが最後のやりとりとなった。
 階段にさしかかったところで、両者はそれぞれの道へと別れる。
 犬の使い魔は上を目指し。
 銀の融合騎は下を目指す。
 互いの目的を達成し、再び共に戦うために。
 あの忌まわしき魔女を打倒し、最期の悲願を果たすために。

351第四回放送案 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:11:25 ID:CSh9VCWc0


 身体強化術式を行使。
 速度強化と、腕力強化を最優先。
 AMFによる強化阻害の影響は、無視できるほど小さくはない。
 普段より数段重く遅い身体を、それでも懸命に力を込め、振るう。
『Scythe Form.』
 排気音と機械音を伴い、デバイスを近接攻撃形態へと移行。
 どうせ魔力弾は通用しないのだ。ならばこそ、接近戦に特化したフォームを選択するのは必然。
 振るう。振るう。薙ぎ払う。
 斬る。斬る。斬り刻む。
 迫る攻撃は全てかわした。
 普段より労力がかかる分、防御のタイミングはよりシビアだ。なればバリアになど頼っていられない。
 360度全方位に視線を配り、一心不乱に立ちまわる。
「はああぁぁっ!」
 柄にもなく気合の叫びを上げながら、リニスはひたすらに戦斧を振るった。
 我ながら大した出来だ――自らの手に握りしめた得物に、そんな感想を抱き、笑みを浮かべる。
 このバルディッシュは完璧だ。
 攻撃力も、魔力効率も、演算速度も申し分ない。さすがにフェイトのために、大枚をはたいて作っただけはある。
 フェイトはこの力作を気に行ってくれただろうか。
 オリジナルの私が最期に残したものを、喜んでくれていたのだろうか。それだけが気がかりだった。
(今の私にはこうすることしかできない……でも、彼女達にはできることがある)
 今のリニスを突き動かすのは、その一心だ。
 自分には何もできなかった。
 面と向かって立ち向かうこともできず、陰でこそこそと動くことしかできず、
 結局できたことといえば、参加者への可能性の丸投げだけだ。
 やがてプレシアに手足をもがれ、それすらも不可能となっていた。
 そして訪れた結末は、侵入者ごと抹殺対象となるという有り様。
 まったくもって不甲斐ない。大魔導師の使い魔とまで言われておきながら、情けないことこの上なかった。
「たぁっ!」
 しかし、彼女達は違う。
 彼女達はあの戦いを生き延びた。
 自分達を追うことに命を懸け、遂にはこのアルハザードにまでたどり着いた。
 何かを変えられるのは自分ではない――あの娘達だ。彼女達にこそ、希望があるのだ。
 ならば自分は捨て石ともなろう。
 こうして囮役を引き受けることで、希望を繋ぐことができるなら、喜んでここに屍をさらそう。
 犯してしまった罪を償う術が、こうする他にないのなら――
『――まったく、困った使い魔ね』
 その、瞬間。
 ぶんっ、と空気を揺らす音。
 不意に目の前に表れたのは、通信端末の空間モニター。
 画面越しに語りかけるのは、ウェーブのかかった黒髪と、冷たく射抜くような紫の視線。
『見え見えなのよ、あんな臭い芝居は。命を惜しむような柄でもないでしょう、貴方は』
「プレシア……」
 プレシア・テスタロッサ。
 全ての元凶たる大魔導師にして、山猫の使い魔リニスの主君。
 実子アリシアを蘇らせるために、大勢の命を犠牲にし、フェイトさえも手にかけた魔女。
 これまで沈黙を続けていた彼女が、遂にこうして回線を開き、再び姿を現していた。
 そしてそれに呼応するようにして、これまで戦っていたガジェット達もまた、一斉にその動作を止めた。
『本当に困った使い魔だわ……お仕置きされて反省するどころか、敵と結託するだなんて』
 ふぅ、とため息をつきながら、呆れた様子でプレシアが言う。
 自らが犯した大罪も、目の前で起きている反乱すらも、まるでに歯牙にもかけぬように。
「……私は間違っていました……
 貴方を止めたいというのなら、こそこそ隠れるのではなく、こうして戦うべきだった」
 何が悪かったというのなら、最初から何もかもが悪かった。
 本当に主の暴挙を制するのなら。
 本当に己が罪を償いたいのなら。
 黙ってその命に従って、この手を汚すべきではなかった。
 可能性だけを参加者に与え、解決を委ねるべきではなかった。
 たとえ相手が主君であろうと、あの2人の娘達のように、真っ向から立ち向かうべきだった。
 自分はそれに気付くのが、途方もないほどに遅すぎたのだ。

352第四回放送案 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:12:01 ID:CSh9VCWc0
『どっちにしても間違いよ』
 ぎろり、と。
 刹那、冷たく輝く紫の双眸。
 纏う気配は絶対零度。肌を切り裂き臓腑を射抜き、血肉を凍てつかせる氷雪の殺意。
 気だるげな様相が一転し、威圧的な形相へと姿を変える。
 やはり、そうか。
 プレシアは己の意に背く者は、誰であっても許しはしない。
 利用価値のない者ならばなおさらだ。間違いなく自分はここで殺されるだろう。
『馬鹿げたことをしてくれたわね……それとも何? まだフェイトを切り捨てたことを根に持っているの?』
 ぴくん、と。
 帽子の下の耳が、一瞬揺れた。
『貴方があの子をどう思おうと、あんなのは所詮アリシアの出来そこないなのよ。私にとっては――』
 ああ、そうか。
 やはり、そうなのか。
 どれほどの経験を重ねても、結局貴方はそうなのか。
 あの子にどれだけ尽くされようとも、貴方にはまるで届かないのか。
 あの子をどれだけ傷つけようとも、貴方にはまるで響かないのか。
 貴方にとってのあの子とは、そんなものでしかないのか――!
「――黙れ」
 自分でも驚くほどに、冷たく低い声音だった。
 これほどに冷酷な声が出せるのかと、一瞬自分で自分が信じられなかった。
 画面の奥のプレシアも、さすがにこれには驚いたらしい。
 氷の刃のごとき視線が、一瞬丸くなったのがその証拠だ。
「私は貴方達家族のことは、ほとんど何も覚えていない……
 貴方とアリシアがどんな親子だったのかは、私には知る由もない……それでも、これだけははっきりと言える……!」
 肩がわなわなと震える。
 バルディッシュがかたかたと鳴く。
 使い魔となる前の記憶は、ほとんど頭の中に残されていない。
 自分がアリシアに懐いていたことも、アリシアが自分を拾ってくれたことも、主体として実感することはできない。
 故に、プレシアとアリシアの関係について、とやかく言うつもりはない。
 それでも。
 だとしても。

「私にとってのフェイトは本物だ!
 紛い物でも出来そこないでもない……あの子を否定することは、私が許さないっ!!」

 遂に私は絶叫した。
 己の胸にこみ上げる怒りを、ありのままにぶちまけた。
 プレシアのアリシアへの愛が、本物だというのなら。
 私のフェイトへの愛もまた、本物であるのは間違いないのだ。
 彼女と出会って、魔法を教えて、笑い合う日々を幸せだと思った。
 彼女がいかなる生まれの人間だったかなど、自分には何の関係もなかった。
 フェイトと積み重ねた想い出も。
 フェイトからもらった信頼も。
 フェイトへと向ける愛情も。
 それら全てが本物だから。紛い物でもなんでもない、確かなものであると言い切れるから。
 だからこそ、私はプレシアを許さない。
 誰かの勝手な悲しみに、誰かを巻き込んでいい権利は、どこの誰にもありはしない。
 自分のエゴで作ったフェイトを、自分のエゴで殺す愚を、私は決して許さない。
『……もういいわ。お前はもう死になさい』
 一拍の間を置いて、一言。
 それを最後通告として、プレシアの顔は目の前から消えた。
 通信の終了と同時に、静まり返っていたガジェット達が、再び駆動音の唸りを上げる。
 これが終わりの始まりなのだろう。
 ここからが、本当の最期の戦いなのだろう。
 随分と魔力を無駄遣いしてしまった。まだまだ半分くらいは残っているが、それではこの数相手には心もとない。
 それでも、自分は決して絶望しない。最後の最後まで抗うことをやめない。
 囮としての戦いは終わった。十分に時間は稼げたはずだ。
 だからこれから始めるのは、自分の個人的な戦い。
 プレシアに叩きつけたこの想いを、最期の瞬間まで示し続けるためだけの、自分勝手なプライドを懸けた戦いだ。

353第四回放送案 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:12:42 ID:CSh9VCWc0
「バルディッシュ」
 右手のデバイスへと語りかける。
「こんな身勝手に付き合わせてごめんなさい」
 結局は自分も、プレシアと何ら変わらないのかもしれない。
 自分で複製したこのバルディッシュを、本来担うべきだった目的すら果たさせずに、
 自分の勝手なエゴに巻き込んで、ここで果てさせてしまおうとしている。
 己の欲望の果てにフェイトを死なせた彼女と、変わらないことをしようとしているのかもしれない。
「それでも……貴方が私を、まだマスターだと認めてくれるなら……最後の力を、貸してください」
 祈りのような言葉だった。
 それがリニスの口にした、最後の言葉と呼べる言葉だった。
 両の手で長柄を強く握る。
 サイズフォームの光刃を輝かせ、眼前のターゲットを見据える。
 意識は怖ろしいほどにクリアーだ。
 もう何も怖くはない。死でさえも自分を怖れさせはしない。
 ただ、刃を振るうのみ。
 最期に事切れる瞬間まで、前に進み続けるのみだ。
「……うおおおおぉぉぉぉぉーっ!!」
 咆哮と共に、山猫は駆ける。
 黄金と漆黒のデスサイズを携え、大魔導師の使い魔は疾駆する。
 間合いを取ると共に、切り裂き。
 間合いを詰めると共に、薙ぎ払った。
 AMFの壁に阻まれようとも、ひたすらに刃を叩き込んだ。
 全身をレーザーに焼き焦がされ、五体を触手に貫かれようとも、一心不乱に斧を振るった。
《アルフ》
 心残りがないと言えば、嘘になる。
 しかしそれらを叶える機会は、当に自身の手で投げ捨ててしまった。
 それでも、最後の1つだけは、どうにか叶えることができた。
 故に最後の力を振り絞り、猫の使い魔は言葉を紡ぐ。
 声ではなく思念通話を通して、願いの先へと想いを伝える。
《大きく……なりましたね》
 フェイトと共に面倒を見てきた、小さな狼の娘・アルフ。
 フェイトに会うことはできなくとも。
 フェイトの成長した姿は見れなくとも。
 その愛らしい使い魔は、大きく勇敢に育ってくれた。
 その姿を見られただけでも、彼女は十分に幸せだった。
 記憶を引き継いだクローンとして、蘇った意味はあったのだと。
 最期の瞬間に、そう実感することができた。

354第四回放送案 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:13:18 ID:CSh9VCWc0


 上へ、ただに上へ。
 延々と続く階段を、上り続ける女がいる。
 漆黒のマントとオレンジの髪を、走る勢いにたなびかせ、ひたすらに駆け抜ける者がいる。
 ひく、と獣の耳が揺れた。
 ぴく、とマントの肩が揺れた。
「……ばかやろうっ……」
 瞳を光らせる獣の女が、震えた声で呟いていた。










【リニス@魔法少女リリカルなのは 死亡確認】












「まったく……使い魔風情が偉そうなことを」
 はぁ、とため息をつきながら。
 リニスの死亡を確認した主君――大魔導師プレシア・テスタロッサは、うんざりとした様子でそう呟いた。
 腰掛ける椅子に右肘をつき、己の頬を手のひらに預ける。
 これで彼女は独りきりだ。
 たった1人の協力者を、自らの手で切り捨てたプレシアは、本当に独りになってしまった。
 もはや周りにいる者は、得体の知れないあの男から借りてきた、いかがわしい機械人形達だけしかいない。
 それでもプレシアは、それで別に構わないとさえ思っていた。
 どうせもうすぐ片はつく。あとたった11人の人間が死ぬだけだ。
 そうなれば儀式は完遂し、冥府の扉を開くための59人の生け贄が揃う。
 最後の1人の身体に魂が宿り、アリシア・テスタロッサの完全な復活は完了される。
 自分には、ただアリシアさえいればいい。
 そしてその時は、もう目前にまで迫ってきている。

355第四回放送案 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:13:50 ID:CSh9VCWc0
「ミズ・プレシア。動力炉への兵員の配備、完了しました」
 その時。
 かつ、かつ、かつ、と靴音を立て。
 機械人形のうちの1人――ボーイッシュなナンバーⅧ・オットーが姿を現した。
「ああ、そう」
 まったくもって面白味のない奴だ。
 せっかくいい気分に浸っていたのに、余計な水を差すなんて。
 無粋な来訪者の報告に、興味なさげな発音で返す。
 裏切り者のリニスを排除した今、残された問題はあと2つ。
 夜天の融合騎・リインフォースと、犬の使い魔・アルフの2名である。
 そのうちアルフに対しては、ほとんど無視に近い対応を取っている。
 どの道あの使い魔程度の実力では、この部屋に入ることなど不可能だと分かりきっているからだ。
 となると、残る問題はリインフォース。
 こちらへまっすぐ向かってくるならまだしも、夜天の魔導書を狙われるのはまずい。
 さすがにこちらは無視できないということで、オットーに兵力の派遣を指示しておいたのだ。
 ナンバーⅦ・セッテと、ナンバーⅩⅡ・ディード――最後発組2名が相手とあれば、
 欠陥を抱えた融合騎など、ひとたまりもなく消し飛ぶだろう。
 そうなれば、全てはチェックメイト。
 このプレシア・テスタロッサを邪魔できる者は、広大な次元世界の海に、誰1人として存在しなくなる。
 今度こそ誰にも邪魔されることなく、アリシアと再会することができるのだ。
 込み上げる笑いをこらえきれず、我知らぬままに口元がにやけた。
「……あら?」
 そして、その時。
 ふと、ほんの僅かな違和感を覚えた。
「貴方、さっきまで羽織っていたジャケットはどこにやったの?」
 それはオットーの身なりへの違和感。
 中性的な容姿をした彼女は、その胸元を隠すように、グレーの上着を羽織っていた。
 しかし今、彼女の身体にそれは確認できない。
 ナンバーズスーツの上には長ズボンだけ。慎ましやかな胸の隆起が、スーツ越しに見受けられるようになっている。
「それはですね……」
 そして。
 プレシアがその返答を聞くよりも早く。




 ――ぐさり。




「ッ……!?」
 腹部へと激痛が襲いかかった。

356第四回放送案 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:14:23 ID:CSh9VCWc0
 焼けつくような痛覚が、腹と脳髄を苛み焦がす。
 久しく味わうことのなかった鉄の味が、口の中へと満たされていく。
 アルハザードの叡智を用い、己が病を克服して以来、久方ぶりに感じる吐血の感触。
「あ……ァあ……」
 喉から漏れる声は、言葉にならず。
 震える両手は、傷口へと届かず。
「――こういうことなんですよ」
 それらが意味をなすよりも早く、何者かの声が耳朶を打った。
 聞き覚えのない女の声。
 嘲笑うような不愉快な声。
 のろまと言っても差し支えない動作で、声の方へと首を向ける。
「オットーの上着は、正式名称をステルスジャケットと言いまして……
 その名の通り、あらゆるセンサーの索敵から、身を隠すことができるんです」
 そこに立っていた者は、プレシアの知らない女の姿。
 全身をフィットスーツで覆った容姿は、オットーら戦闘機人と共通したもの。
 しっとりと光るブロンドを、腰まで伸ばした妖艶な女性。
 そしてその胸元には――ナンバーⅡの刻印が施されていた。
「ばか、な……まるで……気配、が……」
「あらあら、こちらは隠密が仕事なんですよ? 科学者ごときに、私を気配を捉えられるはずがないじゃないですか」
 にぃ、と笑う女の顔。
 同時に腹を襲ったのは、ずぷ、という音を伴う更なる苦痛。
「ぅううッ……!」
 目の前が一気に真っ赤に染まった。
 何かしらの得物でせき止められていたらしい血液が、一挙に傷口から噴き出した。
 ぶしゅう、と響く音と共に、勢いよく噴き出される紅色の噴水。
 患部から吐き出される赤色は、プレシアの身体の体力さえも、根こそぎ流し出していく。
「申し遅れました。私は戦闘機人のナンバーⅡ・ドゥーエでございます。以後、お見知りおきを……」
 意味深な響きと共に放たれた言葉を、どこまで明瞭に聞けたのかは分からない。
 もはや椅子に座ることすらも、プレシアには不可能な動作であった。
 ごろごろ、と豪快な音が上がる。
 深紅に染まった黒のドレスが、椅子から転げ落ちて床へと横たわる。
「そん……な……」
 何だこれは。
 何だというのだ、この有り様は。
 信じられないといった形相で、うつ伏せのプレシアが声を漏らした。
 一体何が起こっている。
 どうしてこんなことが起きている。
 あと一歩のところまで来たのに。
 アルハザードへと到達し、その上悲願達成の目前までたどり着いたのに。
 何故だ。何故こうも上手くいかない。
 何故誰もかれもが立ちはだかる。何故こうも誰もが邪魔をする。
 私の行いがそんなに悪いのか。
 幸せを求めるのがそんなに間違っているのか。
 私は。
 私は、ただ。
「ア、リ……シア……――」
 ただ――――――娘の笑顔が見たかっただけなのに。

357第四回放送案 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:15:03 ID:CSh9VCWc0


 ぱっ、と右手を軽く振る。
 ピアッシングネイルにこびりついた血糊を、床に目掛けて振り払う。
 ふぅ、と軽く息をついて、戦闘機人の次女・ドゥーエは、左手で金の長髪を梳いた。
「これにてお仕事完了、と……悪いわね、貴方の服を汚しちゃって」
「いえ。お疲れ様でした、ドゥーエ姉様」
 微かに返り血の付着したジャケットを脱ぎ、それをオットーへと投げて渡す。
 右手を束縛する得物をも外すと、両手を頭の上で組み、んっと背伸びする姿勢を取る。
「っ、とぉ……やれやれ、本当にお疲れだったわ」
 まったく、創造主も無茶を言ってくれる。内心でそう毒づいた。
 これまでにも様々な潜入任務を行ってきたが、丸々1週間何もしないで待ち続けたのは初めてのことだ。
 他のナンバーズ達と共に時の庭園に入り、しかし自身はプレシア達と接触せず、誰にも存在を気取られず施設内に潜伏。
 そして指示が下ると同時に、デバイスの探知を免れられるオットーと共にプレシアに接触、これを殺害する。
 これこそが、彼女の受け持った任務の全容である。
『――やぁ、ドゥーエ。どうやら滞りなく終わったようだね』
 そして、その時。
 室内のモニターに浮かんだのは、通信機能のカメラ映像。
 スクリーンに大映しになったのは、1人の男の顔だった。
「これはドクター。お達しの通り、つつがなくお仕事を終わらせましたわ」
 そう。
 この男こそ。
 ドゥーエがかしずくこの男こそが、彼女達を束ねる創造主。
 紫色の長髪と、爬虫類のような黄金の瞳に、白衣がトレードマークの男。
 無限の欲望とあだ名される、広域次元犯罪者。
 Dr.ジェイル・スカリエッティ。
 プレシア・テスタロッサの協力者にして、今まさに彼女を裏切った、最悪のマッド・サイエンティストである。
『実に結構。……ウーノ、いるかい?』
『はい、ドクター。ここに』
 同時に2つ目のウィンドウが開き、ウーノの顔が映し出される。
 彼女は今、別の仕事を行うために、次元航行船用のドックで作業をしているはずだ。
『プレシアの研究成果の全てを持ち出すまでに、あとどれくらいの時間がかかる?』
『今から約6時間ほどかかります』
『では、脱出艇の調整にあとどれくらいの時間がかかる?』
『そちらも6時間ほどかかります』
『結構』
 にぃ、とスカリエッティが笑った。
 それこそがウーノの請け負った仕事であり、同時にこの稀代の科学者が、プレシアに接近した最大の理由である。
 アルハザードに存在する、優れた文明の遺産の強奪――それが彼らの目的だ。
 誰よりも旺盛な知識欲を持ち、貪欲なまでに未知を求めるスカリエッティにとって、
 その故郷とでも言うべきアルハザードは、何物にも勝る宝の山に他ならなかった。
『ではウーノ。参加者達に架せられた首輪の爆破装置を、誰にも気づかれないようにオフにしてくれたまえ』
『爆破装置をオフに、ですか?』
『時間制限という新たな制約がついたんだ。それ以上に制約を設けるのは、アンフェアというものだろう?』
『……ドクター、貴方また遊ばれるおつもりですね?』
 はぁ、とウーノが呆れたように溜息をついた。
『せっかくプレシアが始めたゲームだ。まだ終わっていないのだし、我々も乗らせてもらおうじゃないか』
 モニターの向こうのスカリエッティは、くつくつと愉快そうに笑っている。
 それに呼応するようにして、ドゥーエもまた苦笑した。
 目的はこれで十中八九果たされたも同然だが、どうやら創造主の退屈は、未だ満たされてはいないらしい。

358第四回放送案 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:15:48 ID:CSh9VCWc0
『……ではドゥーエ、君はプレシアの代役を。0時10分頃を目途に、彼女に代って放送を行ってくれたまえ』
「分かりました」
『オットーはディード達と合流し、夜天の融合騎の迎撃を』
「了解です」
 頷くと同時に、オットーは部屋を去っていった。
 ディードやセッテもそうだが、クアットロが教育したという最後発組は、どうにも感情表現が希薄だ。
 戦闘においてはそれでも構わないが、日常生活を送るにはどうにも面白味が薄い。
 これが終わってラボへと帰ったら、その辺りをクアットロにツッコんでおかねば。
 そんなことを思いながら、遠ざかる短髪の背中を見送った。
『クク……さぁ、それではゲームを再開しよう。
 彼らが勝てば全て終わり。負ければアルハザードからの脱出手段を我々に奪われ、二度とここから帰れなくなる。
 タイムリミットは次の放送を迎えるまでだ。そしてそれを過ぎた時点で――』
 かくして新たな幕は開いた。
 当事者達の知らぬ裏側で、異変は着々と侵攻していた。
 魔女は塔から引きずり降ろされ、第一楽章は終了する。
 新たなゲームマスターは、不敵に笑う金眼の道化師(クラウン)。
 ここに戦争の時代は終わり、世界の終わりが始まった。
 最悪の24時間が終了し、最悪の6時間が始まった。
 第二楽章はここから始まる。
 語り部が力尽き倒れてもなお、狂気の綴る悪夢の詩は、未だ終わることはない。










『――バトルロワイアルは、中止だ』










【プレシア・テスタロッサ@魔法少女リリカルなのは 死亡確認】



【参加者勝利条件変更:ナンバーズ一派の、時の庭園からの脱出阻止】
 ※参加者の首輪の爆破装置が、全てオフになりました。
 ※リインフォースに強奪されたため、
  黒龍@魔法少女リリカルBASARAStS 〜その地に降り立つは戦国の鉄の城〜が支給不可能となりました。
 ※セッテ、オットー、ディードの3名が、時の庭園最深部の動力炉に配置されました。



【バトルロワイアル終了まで――――――05:59:50】

359第四回放送案 ◆Vj6e1anjAc:2010/09/29(水) 05:16:55 ID:CSh9VCWc0
放送案の投下は以上です

360 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/29(水) 06:23:45 ID:bpvnp68Y0
◆Vj6e1anjAc氏放送案投下乙です
それでは、これより自分も修正版を投下させて頂きます

361 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/29(水) 06:25:07 ID:bpvnp68Y0
遥か昔に滅びたとされる古代文明、アルハザード。
その世界を舞台としたデスゲームも、既に24時間が経過していた。
恐怖、憤怒、憎悪、悲哀、絶望、疑心――
様々な不の感情が参加者たちの間で生まれ、交錯した。
既に太陽の光は一切差し込まず、辺りは闇で支配されている。
深夜の空には、無数の星が煌いていた。
だが、それを見上げたところで安心を抱く存在は誰1人としていないだろう。
むしろ、恐怖や嫌悪感すらも抱くかもしれない。
まるでその輝きは、この殺し合いで散った命たちが、亡霊となって現れているかのようだったからだ。
そして、4度目になる闇よりの呼び声が、聞こえる。
残酷に満ちた、ゲームマスターからの伝言が。
誰も望まないかもしれない。誰も聞きたくないかもしれない。
しかし無常にも、時が動き続ける。
時計の針は、12時の時間を再び示した。




参加者の皆様、こんばんは。
これより、0時をお伝えすると同時に、第4回目の定時放送を行います。
今までどおり、今回の放送も禁止エリアから発表させていただきますので、メモのご用意をお願いします。
なお、この放送を聞き逃したからといって、もう1度伝えることは行いませんので、ご注意ください。
放送は前回に引き続いてこの僕、オットーが行います。



一切の温度が感じられない言葉が、淡々と告げられる。
その音質は、この世に存在するとは思えないほど、冷たい。
またそれを告げる者の表情も、全くの感情が感じられなかった。
まるで、人形のように。



それでは、禁止エリアを発表します。
1時より
3時より
5時より

362 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/29(水) 06:25:41 ID:bpvnp68Y0
以上、3箇所となります。
これまでの禁止エリアと同様、時間と場所をお忘れなきよう、よろしくお願いします。
続きまして、前回放送からこの放送までに出た死者の名前を発表させて頂きます。





ここで呼ばれるのは、この捻じ曲げられた運命の犠牲となった者たち。
元々は、別々の世界に存在していた住民。
皆それぞれ、自らの役割に奮闘していたはずだった。
しかしある時、意思と関係なくこの戦いに呼び出された。
そして、命を散らした。




アーカード
相川始
アレックス
ヴィータ
エネル
クアットロ
ヒビノ・ミライ





以上、7名。
残り12人となります。
プレシア氏からは「前回と比べるとややペースは落ちたものの、まだまだ及第点。このペースで頑張ってほしい」との、伝言を預かっております。
そして僕の目からも、今回の結果は素晴らしいと思います。
このペースで行けば、次の放送までにはゲームが終了するかもしれません。
前回も仰ったように早期にゲームが終われば、我々も管理が楽に済むことに繋がります。
そして、皆様の中の誰か一人が恐怖から開放されて、願いが適える事もできます。
今後とも気を抜かず、ゲームに励んでください。



それでは、今回の放送を終了します。
皆様のご武運を、お祈りします。





現時点で確認されている主催者は、4人。
出演者は、60人。
予知せぬ乱入者は、2人。
この世界を舞台に開かれた『バトルロワイヤル』という題名の演劇。
その結末は、未だ見えない。
殺し合いの末に残った誰かが、優勝するか。
それとも殺し合いの末に誰一人残らず、全滅という結果に終わるか。
それとも、どちらでもない全く別の結末を迎えるか。
この先の未来は、未だに闇で覆われていた。
その闇は、誰にも覗くことはできない。


この演劇に参加させられた役者の人数は――――残り、12人。

363 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/29(水) 06:26:21 ID:bpvnp68Y0
青白い蛍光灯に照らされた薄暗い部屋に、透明な円柱が立っていた。
緑色の液体で満ちたその容器の中には、一人の少女が眠りについている。
その長髪は鮮やかな金色で輝き、まるで部屋を僅かに照らしそうだった。
未だに目覚める気配のない少女の姿を、プレシア・テスタロッサは悲しみに満ちた瞳で見つめている。
容器の中では、5歳の頃に亡くなってしまった最愛の娘、アリシア・テスタロッサ。

「アリシア……もう少しだから、待っててね」

プレシアは、右手で容器を撫でながら呟く。
次元振を起こした後、このアルハザードに流れ着き、愛娘を蘇生させる手段をようやく見つけた。
そして、この戦いを開いた。
プレシアの脳裏に思い浮かぶのは、笑顔を浮かべるアリシアの姿。
そして、幸せに満ちた毎日。
出来るなら、今すぐにでもここから出して、自由にあげたい。
けれども、まだそれは出来ない。
今はこのデスゲームの進行が、最優先だ。
そしてこれが終わり、条件が整った時にようやく、アリシアを目覚めさせることが出来る。
自分にそう言い聞かせたプレシアは、アリシアに別れの言葉を告げると、部屋から出て行った。
その瞳は悲しみから一変、狂気に染まっていく。

「そういえば、首輪を解除出来たのね……無駄なことを」

先程、首輪を解除した参加者がいた。
だがプレシアはその事実に対して、何の感情も抱いていない。
理由はただ1つ、60個ある首輪の内部構造は同一の物ではないからだ。
参加者に巻かれた首輪の一つ一つ全てが、解除の方法が異なっている。
仮に首輪を一つだけ解除したとしても、それは脱出に繋がらない。
あれらの首輪には、それぞれ解体の方法が異なっているように作っているからだ。
集合住宅に設置されている部屋の鍵が、全て形状が違うように。
何も知らない参加者は、すぐさま他の首輪も同じ方法で無力化するに違いない。
それを行った結果、首輪が爆発するように作っている。
故に、首輪を解除されたとしても、何の行動も起こす必要はなかった。

(精々ぬか喜びでもしてるのね……そうすれば、このゲームはすぐに終わるのだから)




「残るはあと12人……」

金色の瞳を輝かせながら、ウーノは1人でパネルを叩いている。
目前の画面に書かれているのは、数え切れないほどの文字と上下し続ける波紋。
たった今、オットーが行った放送の中では、クアットロの名前が呼ばれていた。
だが、それに気を止めている場合ではない。
ディエチとチンクに続いて、妹が3人も失われた。
しかし、それはパラレルワールドに存在する、自分の知らない姉妹達。
故に、消えたところで何の感情も抱かない。
それに自分のいた世界にいた3人は、既にプレシアによって殺されているのだから。

364 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/29(水) 06:27:12 ID:bpvnp68Y0

「ドクター…………」

ぽつりと、呟く。
不意に、今は亡き創造主、ジェイル・スカリエッティの姿を思い出した。
そして、姉妹達がプレシアの手によって殺されてしまった、あの日のことを。
突然現れたあの女が率いる軍団の襲撃を受けて、数多くあるアジトは壊滅。
抵抗の暇すらもなく。
残された自分とオットーは、プレシアが開くこのデスゲームに協力するという条件で、命だけは助かった。
あの女は言った。
このゲームに協力するのなら、ドクター達を生き返らせると。
そしてもしも断るのなら、自分達二人を殺すと。
その提案を、受け入れざるを得なかった。

(プレシア、果たして貴方の願いがそうそう上手く適うかしら……?)

胸の中に、自身に対する憤慨とプレシアへの憎悪が蠢いている。
けれど、それを表に出すことはしなかった。
オットーの言葉通りに『次の放送までにゲームを終了させる』ため。
そして、その為の手段も整っている。
最後に必要なのは、それを行うタイミングだけ。
コンソールを打ち続けているウーノは、視界を脇に移した。
そこに置かれているのは、一枚のディスク。
これが意味することは、自分とオットーの逆転の鍵。

「貴方の思い通り、ゲームを早めに終わらせてあげるわ……早めにね」

ウーノは再び画面を見つめながら、呟いた。
そこに映し出されているのは、逆転に繋がる二つの存在。
一つは、プレシアとのコンタクトを取った参加者、金居。
そしてもう一つは、アルザスと呼ばれる世界で古くより存在する守護竜。
頭部より伸びた二本の角、高層ビルすらも上回る黒き巨体、胸部と四肢を守る赤い骨格、収められている両翼。
正しき時間の流れなら、もうこの世にいないキャロ・ル・ルシエが使役していた、真竜と謳われていた神に等しい存在。
主が消えては、元々の凶暴性によって全てのものを、破壊しようと暴れるはずだった。
しかしその竜は、未だに眠りについている。
いや、眠らされていると言った方が正しかった。
その際、本来の契約は既に無かったことになっている。




この空間は、知る者は僅かしかいない秘密の部屋。
そこに封印された守護竜、ヴォルテールは未だに動かない。
それが今、何処にいるのか。
また、ここはどこにあるのか。
ヴォルテールの存在と在処を知っているのは、ウーノ只一人のみ。
これは、プレシアとリニスですら把握していない、事実だった。



【全体の備考】
※ウーノとオットーの知るスカリエッティとナンバーズは全員、既にプレシアによって殺害されています。
※アリシアは現在、死亡状態のままで生体ポットの中で収容されています。
※現在ウーノは、ヴォルテールを封印しています。なお、その存在はプレシアとリニスには知られていません。
※参加者全員に巻かれた首輪の内部構造及び解除方法は全て、異なっています。
※また、解除方法を誤ると首輪が爆発します。

365 ◆LuuKRM2PEg:2010/09/29(水) 06:28:10 ID:bpvnp68Y0
修正案は、以上です
禁止エリアに関しては、やっぱり採用されてから改めて考え直すことにします。

366 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/22(月) 08:49:54 ID:mUQqziWs0
昨日、投下した最新話の状態表を訂正します

【キング@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】健康、コーカサスビートルアンデッドに変身中
【装備】ゼロの仮面@コードギアス 反目のスバル、ゼロの衣装(予備)@【ナイトメア・オブ・リリカル】白き魔女と黒き魔法と魔法少女たち、キングの携帯電話@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】支給品一式、おにぎり×10、ハンドグレネード×4@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ラウズカード(ハートの1、3〜10)、ボーナス支給品(未確認)、ギルモンとアグモンと天道とクロノのデイパック(道具①②③④)
【道具①】支給品一式、RPG-7+各種弾頭(照明弾2/スモーク弾2)@ACE COMBAT04 THE OPERATION LYRICAL、トランシーバー×2@オリジナル
【道具②】支給品一式、菓子セット@L change the world after story
【道具③】支給品一式、『SEAL―封印―』『CONTRACT―契約―』@仮面ライダーリリカル龍騎、爆砕牙@魔法妖怪リリカル殺生丸
【道具④】支給品一式、いにしえの秘薬(空)@魔法少女リリカルなのはSTS OF HUNTER
【思考】
 基本:この戦いを全て無茶苦茶にする。
 1.アンジールと共に、カブトを叩き潰す。
 2.先程の紅い旋風が何か調べる。
 3.他の参加者にもゲームを持ちかけてみたり、騙して手駒にするのもいいかも?
 4.『魔人ゼロ』を演じてみる(そろそろ飽きてきた)。
【備考】
※キングの携帯電話には『相川始がカリスに変身する瞬間の動画』『八神はやて(StS)がギルモンを刺殺する瞬間の画像』『高町なのはと天道総司の偽装死体の画像』『C.C.とシェルビー・M・ペンウッドが死ぬ瞬間の画像』が記録されています。
※全参加者の性格と大まかな戦闘スタイルを把握しています。特に天道総司を念入りに調べています。
※十分だけ放送の時間が遅れた事に気付き、疑問を抱いています。
※首輪が外れたので、制限からある程度解放されました。

以降、首輪の解除についての修正

【全体備考】
※フリードリヒ@魔法少女リリカルなのはStrikerSがC−9地点に向かっています。
※戦いの余波によって、D−9地点が荒れ地となりました。
※アンジールのデイバッグ(中身は支給品一式)がD−9地点に放置されています。

【首輪の解除について】
※解除しても、爆死が無くなっただけで全ての制限から解放されません
※どの程度まで解放させるかは、後続の書き手さんにお任せします

以上のように修正しますが、よろしいでしょうか
ご意見を、お待ちします

367リリカル名無しStrikerS:2010/11/22(月) 13:49:49 ID:3f685MVY0
修正乙です
なるほど、ある程度か
他の人もそれでいいならそれでいいと思います

それと、本文もそれに準じて修正がなされるということでしょうか(キングの首輪が外れる場面とか)

368 ◆LuuKRM2PEg:2010/11/22(月) 14:17:49 ID:mUQqziWs0
その辺りは、収録時に修正する予定です
あと、他の3人の首輪に関する状態表も

369 ◆LuuKRM2PEg:2011/01/01(土) 13:07:17 ID:4mru2hTw0
先日投下した『Revolution』で指摘された部分の描写追加及び状態表を修正します


「あ、そういえばみんな。もう一つだけ、言いたいことがあるんだ」

ユーノは、アジトの前ではやてと出会った際に聞いたことを話す。
この会場の中央に位置するエリア、E−5。
既に禁止エリアとなったそこは、参加者の望む場所に転送する魔法陣が存在するらしい。
恐らくそのような場所なら、何か特別な施設が設置されているかもしれない。
例えば、会場全体を覆うほどの巨大な結界を作る、魔力の元となる装置。
それを見つければ、何かの手がかりが得られる可能性がある。
E−5地点に存在する魔力を利用すれば、逆転のきっかけも掴めるかもしれない。
しかし、可能性としてはあまりにも低かった。
そこにある転送魔法陣が、残っているとは限らない。
仮にあったとしても、それが脱出に繋がるかどうかも不確定。
そもそも主催者が、参加者を助けるようなことがするはずがない。
それにそのような場所なら、制限の影響も強く出る上に、何か凶悪な罠も仕掛けられているはず。

370 ◆LuuKRM2PEg:2011/01/01(土) 13:10:56 ID:4mru2hTw0
続いて、状態表を



【天道総司@魔法少女リリカルなのは マスカレード】
【状態】疲労(小)、全身にダメージ(小)
【装備】ライダーベルト(カブト)&カブトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード、パーフェクトゼクター@魔法少女リリカルなのは マスカレード
【道具】アンジールの羽根@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使
【思考】
 基本:出来る限り全ての命を救い、帰還する。
 1.ここにいる全員を先導して、アルハザードから脱出する。
 2.主催側に警戒。
【備考】
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。
※ハイパーフォームになれないので、通常形態でパーフェクトゼクターの必殺技を使うと反動が来ます。


【高町なのは@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】全身にダメージ(小)、疲労(中)、魔力消費(中)、首筋に擦り傷、バリアジャケット展開中
【装備】とがめの着物(上着無し、ボロボロ)@小話メドレー、すずかのヘアバンド@魔法少女リリカルなのは、レイジングハート・エクセリオン(0/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 、ケリュケイオン@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2、ホテル従業員の制服
【思考】
 基本:誰も犠牲にせず極力多数の仲間と脱出する。
 1.これ以上誰も死なせずに、脱出する。
【備考】
※キングは最悪の相手だと判断しています。また金居に関しても危険人物である可能性を考えています。
※放送の異変から主催側に何かが起こりプレシアが退場した可能性を考えています。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。


【ユーノ・スクライア@L change the world after story】
【状態】全身に擦り傷、疲労(小)、魔力消費(中)、強い決意
【装備】バルディッシュ・アサルト(スタンバイフォーム、4/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】支給品一式×2(内1つ食料無し)、ガオーブレス(ウィルナイフ無し)@フェレットゾンダー出現!、双眼鏡@仮面ライダーリリカル龍騎、ブレンヒルトの絵@なのは×終わクロ、浴衣(帯びなし)、セロハンテープ、分解済みの首輪(矢車、ユーノ、ヴィヴィオ、フリードリヒ)、首輪について考えた書類
【思考】
 基本:なのはの支えになる。ジュエルシードを回収する。フィールドを覆う結界の破壊。
 1.ここにいる全員を何としても支えて、脱出する。
 2.ヴィヴィオを守る。
 3.ジュエルシード、レリックの探索。
 4.E−5地点の転送魔法陣を調べ、脱出方法を模索する。
 5.ここから脱出したらブレンヒルトの手伝いをする。
【備考】
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。
※プレシアが退場した可能性に気付きました。同時にこのデスゲームのタイムリミットが2日目6時前後だと考えています。

371 ◆LuuKRM2PEg:2011/01/01(土) 13:11:38 ID:4mru2hTw0

【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】疲労(小)、魔力消費(小)、全身ダメージ(小)、悲しみとそれ以上の決意、バリアジャケット展開中
【装備】リボルバーナックル(右手用、0/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 、リボルバーナックル(左手用、6/6)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、ジェットエッジ@魔法少女リリカルなのはStrikerS、レヴァンティン(0/3)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、
    スバルの指環@コードギアス 反目のスバル、クロスミラージュ(破損)@魔法少女リリカルなのはStrikerS、治療の神 ディアン・ケト@リリカル遊戯王GX
    ラウズカード(ジョーカー、ハートの2)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ジェットスライガー(ミサイル残弾数0)@魔法少女リリカルなのは マスカレード、ボーナス支給品(確認済、回復アイテムではない)
【道具】なし
【思考】
 基本:殺し合いを止める。できる限り相手を殺さない。
 1.ここにいる全員と一緒に、脱出する。
【備考】
※金居とキングを警戒しています。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。



【ヴィヴィオ@魔法少女リリカルなのはStrikerS】
【状態】リンカーコア消失、疲労(小)、肉体内部にダメージ(小)、血塗れ
【装備】フェルの衣装、フリードリヒ(首輪無し)@魔法少女リリカルなのはStrikerS
【道具】なし
【思考】
 基本:みんなの為にももう少しがんばってみる。
 1.みんなと一緒に、生きて帰る。
【備考】
※浅倉威は矢車想(名前は知らない)から自分を守ったヒーローだと思っています。
※矢車とエネル(名前は知らない)を危険視しています。
※ゼロはルルーシュではなく天道だと考えています。
※首輪を外したので、制限からある程度解放されました。
※天道に対する誤解を解きました。

372 ◆LuuKRM2PEg:2011/01/01(土) 13:13:07 ID:4mru2hTw0
以上です
疑問点などがありましたら、ご指摘をお願いします

373リリカル名無しStrikerS:2011/01/01(土) 14:07:48 ID:FCZyZ8.I0
道具移動は状態表だけで済ますのではなく本文に明記するべきだと思います
あくまで状態表は付随的なものなので

それと装置云々への推測はこれだと突拍子がないので、これにするなら直さない方がいいと思いました

374リリカル名無しStrikerS:2011/01/01(土) 18:32:45 ID:z1dAClqoO
私も373の意見と同じです

375 ◆LuuKRM2PEg:2011/01/01(土) 21:38:24 ID:4mru2hTw0
失礼しました
もう一度、修正させていただきます

376 ◆LuuKRM2PEg:2011/01/02(日) 13:21:11 ID:7nDu9SLU0
もう一度、本文の描写追加及び修正版を投下します
まず、リボルバーナックルの描写追加からで


「……なるほどな」

天道は頷く。
続くように彼も、自分に起こった出来事を話した。
キングやアンジール・ヒューレーと、戦いを繰り広げた事。
その最中に、捕らわれたフリードリヒを解放した事。
突然現れた謎のアンデットが、キングを連れ去った事。
キングの裏切りを受けたアンジールが、殺されてしまった事。
そして、キングは未だ自分達に襲いかかる可能性がある事。
戦いの余波によって、外すことが出来た正確無比の爆弾。
全てを伝えた後、なのははスバルにリボルバーナックルを渡した。
はやてとの戦いの末で取り戻した、スバルの母であるクイント・ナカジマの遺品。
それがようやく二つとも取り戻したことで、スバルは力が沸き上がっていく気分を感じた。
しかし、感慨に浸ることは出来ない。

「そういえば、なのはさんに天道さん。首輪は…………?」

スバルは気づいていた。
天道となのはの首に、首輪が巻かれていないことに。
何故爆発しなかったのかは、当の二人も詳しくは知らなかった。
しかし壊しても何も起こらないことを、天道となのははスバルに伝える。
恐る恐る、スバルも首輪に手を掛けた。
渾身の力を込めて外したが、何も起こらない。

377 ◆LuuKRM2PEg:2011/01/02(日) 13:24:00 ID:7nDu9SLU0
続いて、魔法陣部分の描写追加で



「あ、そういえばみんな。もう一つだけ、言いたいことがあるんだ」

ユーノは、アジトの前ではやてと出会った際に聞いたことを話す。
この会場の中央に位置するエリア、E−5。
既に禁止エリアとなったそこは、参加者の望む場所に転送する魔法陣が存在するらしい。
それを使えば、脱出が出来るのではないか。
理由は首輪から解放されたため。
恐らくその魔法陣は、首輪が存在する限りは脱出に使うことが出来ない。
首輪は参加者だけではなく魔法陣も制限して、会場内の転送だけに効果を留めている。
そうでなければ、参加者に反逆されてしまうため。
だが、全員の首輪が解除された今ならそれを使って、何かが出来るのではないか。
そうユーノは語る。
しかし、可能性としてはあまりにも低かった。
そこにある転送魔法陣が、まだ残っているとは限らない。
仮にあったとしても、それが脱出に繋がるかどうかも不確定。
そもそも主催者が、参加者を助けるようなことがするはずがない。
それに首輪が外された今となっては、何か危険な罠も仕掛けられているはず。



以上です、何度もスレを消費して申し訳ありません
疑問点などがありましたら、指摘をお願いします。

378リリカル名無しStrikerS:2011/01/03(月) 01:34:12 ID:1alKK3KU0
修正乙です

379 ◆19OIuwPQTE:2011/02/05(土) 01:54:06 ID:JL1dJoyU0
本スレで指摘された部分の修正を投稿します。

380 ◆19OIuwPQTE:2011/02/05(土) 01:54:49 ID:JL1dJoyU0
まず>>873の修正です。

それはその魔法陣とこの会場、そして参加者に関係があった。
魔法陣があるエリアは【E-5】。つまり会場の中央に存在する。
そして会場の端と端はループしている。言い換えれば、端から端へ転移しているのだ。
この時点で魔法陣が会場のループに関係がある事は、容易に想像がつく。
そこから発展させれば、会場の構成そのものにもだ。
もし魔法陣が会場を構成する上で重要な機構であるならば、会場の中であるならばどこへ転移させるのも容易い事だろう。
なにしろ会場そのものだ。何処に何があるかなど、容易に把握できる。
後は使用者のイメージを受け取り、その人の望んだ場所、あるいは物の近くへと転移させればいいだけだ。

381 ◆19OIuwPQTE:2011/02/05(土) 01:55:56 ID:JL1dJoyU0
次に>>876の修正です。

足元には淡く光る魔法陣。
その光は小さく明滅し、今にも消えそうだった。
この魔法陣が会場の維持に関係しているのなら、この魔法陣が消えた時にこの
会場も完全に崩壊するのだろう。

「みんな、準備はいい?
 だいぶ荒い転送になると思うから、気をつけて」

ユーノ君が魔法陣に手を当て、魔力を流し込みながら言った。
その言葉に私とヴィヴィオは頷く。

「僕が転送のサポートをするから、ヴィヴィオはゆりかごを強く思い浮かべて。
 一度行った事のある君の方が、座標の特定がしやすいんだ」

その言葉に従い、ヴィヴィオはゆりかごを強くイメージした。
それと同時に、あの場所で死んだ、まだ幼かったフェイトを思い出した。
自分に、嫌いにならないで、と言った少女。

今の自分なら、彼女を助けられたのだろうかと考えて、首を振る。
助けられるかどうかじゃなくて、絶対に助けだすんだと。

会場の崩壊と共に罅割れていく空を見上げる。
もう二度と、あんな思いはしたくない。
そして同時に、誰にもさせたくないとも思う。

だから、全てを救う事は出来なくても、この手の届くところにいる人たちは、守って見せる。
そう心に誓う。


魔法陣の淡い魔力光が次第に強く輝き出す。
それはまるで、消える寸前の蝋燭の輝きのようだった。

「行くよ、みんな! しっかり掴まってて!
 座標確認! 場所、聖王のゆりかご!
 転送、開始―――!!」

その声の直後、魔法陣が一際強く輝き、光が私達三人を飲み込んだ――――

382 ◆19OIuwPQTE:2011/02/05(土) 01:57:42 ID:JL1dJoyU0
以上です。
他にも問題点や、修正すべき点などがありましたら、指摘をお願いします。

383とりあえず第3回の説明部分のテンプレ:2011/02/27(日) 11:54:36 ID:kO4t4jLQ0
≪開催期間≫ 2/28(月)00:00〜3/13(日)23:59
≪対象≫ 124「狼煙」〜163「第三回放送」(SS部門・キャラクター部門)
     000「それは最悪の始まりなの」〜163「第三回放送」(コンビ・チーム部門)

≪ルール≫
投票者一人につき、各部門に五票ずつの持ち点が与えられます。
それを振り分ける形で投票してください。
好きなSS・キャラ・コンビorチームに平等に振り分けるも良し、一番好きなものだけに全部注ぐも良し。自由に持ち点を割り振ってください。
また、そのSS・キャラ・コンビorチームを選んだ理由も書いていただけると、結果発表の際に参考になります。

【例】
・SS部門
「機動六課部隊長斬り捨て事件〜バトルロワイアル放浪ツアー、街角に待ち受ける幻惑の罠、鉄槌の騎士と烈火の剣精は聞いていた〜」に一票、「がんばれ! ウルトラマンメビウス」に一票、「貴重な貴重なサービスシーン・なのはロワ出張編」に二票、「波紋 - a divine messenger of the two.」に一票
・キャラクター部門
金居に二票、Lに二票、プレシア・テスタロッサに一票
・コンビ・チーム部門
ユーノ・スクライア&ルーテシア・アルピーノ&チンク&天上院明日香(ユーノとハーレム)に二票、ヴィータ&アギトに二票、新庄・運切&エネルに一票

≪部門≫
・SS部門
・キャラクター部門

・コンビ・チーム部門
3回目となる今回は「コンビ・チーム部門」が設けられます。
あのキャラとそのキャラの異色のコンビ、またあいつらによる夢のドリームチームなど、ロワ内で結成されたあなたの気に入ったコンビorチームに票を投じてください。
なお≪ルール≫の【例】にある「ユーノとハーレム」のように時期によってメンバーが異なるチームは全部別で集計します。

【例】
①ユーノ&ルーテシア ②ユーノ&ルーテシア&チンク&明日香
この場合①と②で別々に集計されます。

またこのコンビ・チーム部門の対象期間はSS部門・キャラクター部門の対象と異なり、第二回放送までの123話分も含まれます。間違いのないようにご確認ください。

≪おまけ≫
こちらは強制ではありませんが、日頃SSを手がけている書き手の方々への、応援のメッセージもご一緒にどうぞ。
たった一レスの言葉でも、書き手様方には大きな励みとなります。
好きなSSの感想から単純な声援または完結を祝しての一言まで、それぞれ思い思いの形でメッセージをお贈りください。


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