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オリロワ:Winter Apocalypse
147
:
名無しさん
:2025/06/12(木) 01:33:42 ID:LWvtsQOk0
【名前】レンブラングリード・アレフ=イシュタル
【性別】女
【年齢】19
【性格】一見穏やかで礼儀正しいが、極度の合理主義者。「救える命」と「救えない命」を常に計算しながら選別しているタイプの冷徹な優しさを持つ。人の感情には敏感で、人間の悲しみや苦しみを否定しないが、それらを“設計変更可能なエラー”と見なしている節がある。性格が「良い」とされるが、あくまで“期待される人道的倫理”を理解し、それを演じているだけ。
【容姿】白銀の髪に透き通るような褐色の肌。工学的に設計されたスーツ(自己修復・熱吸収構造)を常に着用しており、各関節に細かくインターフェースポートを接続。背丈は小柄だが、歩くと静電気のようなパルスが周囲に散るのが印象的。瞳は人工虹彩で、発光する。
【神禍】
『無限保存の黙示録(エンドロール・アーカイブ)』
思想:思考の断絶だけは食い止めねばならない。どんな手を使ってでも。
死に瀕した人間の脳内データを0.1秒単位でリアルタイム記録・解析し、意識情報を自身の脳に保管。
保存された意識体は、肉体を失っても思考を続ける純粋なデータ資源として彼女の端末内に存在し続ける。
レンブラングリードはこれらの“思考残留体”を分析し、自身の演算資源として用いることで、戦術予測・技術再構築・言語解析などの超知能領域を強化している。
彼女にとって「殺人」とは、“情報保存”の手段であり、善行とさえ言える行為に他ならない。
レンブラングリードは、「命」ではなく「思考」をこそ人間の本質と捉えている。
人が死ぬとは、肉体が失われることではなく、“思考が途絶えること”――それが真の死だと断定する。
彼女の神禍は、その思想を極限まで押し進めた結果、「死の瞬間に最も純粋な思考が現れる」と見なし、“死”を記録の最終形とする異能として形成された。
そのため、彼女は人を救うために殺すという矛盾した行動を平然と実行する。
倫理を演算で理解する者が、倫理を破壊するというジレンマの象徴でもある。
だから、彼女は人を殺す。
記録するために。失われる前に、焼きつけるために。
【詳細設定】
中東某国の天才エンジニア一家の出自。
幼少より天才的な頭脳を発揮し、家族経営の研究所でナノテク、量子暗号、人工知能などを学ぶ。
全球凍結から1年前。
13歳のとき、中東の砂漠地帯で疫病に侵された、師であった科学者を看取った際、最期に残した「お前の知を世界に残せ」という言葉を記憶する。
しかしその瞬間、自身の腕には介錯を命じられ、自らの手で師の生命を絶つことを強いられた。この無力感が、情報至上主義の思想を歪ませる引き金となる。
結果として「思考の断絶だけは食い止めねば」という念が芽生え、死者を“データ化”する妄想を抱くようになった。
現在レンブラングリードは、中東に根を張る技術者組織『ORANGE(オレンジ)』の首魁として行動している。
『ORANGE(オレンジ)』は全球凍結後、中東にて急成長し、無秩序に他者の死、思考の断絶を振り撒く『ジャハンナム』の対抗勢力として地下技術ネットワークを結成したものである。レンブラングリードは自身の神禍にストックされた武器に関連するデータや『ギース・ヨルムンガンド』をはじめとする武器商人から様々な兵器を再現・購入しており、兵力だけでいえば、『ジャハンナム』とも引けを取らない。
各地の「死にかけた天才」たちの思考を収録しながら、自身の頭脳にてネットワークを構築し続けており、それらを連携して演算することで彼女自身の思考は“一人の人間の限界”を遥かに超えている。
その中には、かつて敵対した科学者や、凍死寸前の少年兵たち、撃破した『ジャハンナム』の高位幹部の記憶すら含まれる。
148
:
名無しさん
:2025/06/12(木) 20:32:25 ID:BPZCMk3c0
【名前】
易津 縁美(えきかみ えんみ)
【性別】
女性
【年齢】
26歳
【性格】
清楚で気品の有る立居振る舞いをする。誰に対しても礼儀正しく振る舞う穏やかで忍耐強い美少女。苛烈なまでの嗜虐癖を持つ拷問狂
【容姿】
腰まで伸ばした黒髪に処女雪の様な白い肌。均整の取れた身体つきをしている。鮮血色の瞳。
【神禍】
蒼褪めた馬に乗る騎士(フォーホースメン・オブ・ペイルライダー)
:思想
他者の苦しみと悲しみと絶望が見たい。絶望の中で苦しみ抜いて死ぬ姿が見たい。悲しみの慟哭が聴きたい。苦悶の果ての断末魔を聴きたい。
自身の肉を蛆虫に、血を蠅に変える神禍。
肉を蛆虫に変える際には発狂ものの苦痛を味わうが、縁美はこの苦痛に平然と耐えて神禍を行使する。
この神禍は行使すればする程、当人の肉体が削れていく。
蛆虫は鋼鉄すら食い破る牙と顎を備え、一匹一匹で全て異なる多種多様な毒素を含んでいる。更には土地や大気、貪った対象の持つ毒素を自身の中に取り入れる事も可能。
蛆虫同士を喰らい合わせる事で毒を掛け合わせて、新種の毒を創り出すこともできる。
蛆虫は縁美の意志で行動をコントロールできるが、縁美以外のものを余さず残らず喰い尽くす底無しの食欲を持つ。これだけは縁美にも制御でき無い。
蠅は縁美の身体から流れ出る血液からしか変化させられ無い。
この時縁美は、発狂ものの不快感を感じるが、意にも介さず神禍行使する。
蠅は鋼鉄すら溶かす消化液を口から吐き出し、溶けた血肉を啜る。一匹一匹が全て異なる病原体を保有している。
蠅同士を喰らい合わせて、新種の病原体を創り出すことが出来る。
蠅の行動を縁美は自分の意思でコントロール出来るが、蠅が媒介する伝染病は、水平伝播して、あらゆる生物に際限無く感染していく。
この観戦は縁美に制御出来無い。
病と毒は、禍者であれば早々に死ぬ事は無く、縁美を殺害する事で恢復する事が出来る。
これらの特性の為に、毒や病気や放射線に対する完全な耐性を有する。
生み出した蛆や蠅を、己の肉体に戻す事で、身体の傷を塞ぐ事が出来る。
あくまでも傷を塞いでいるだけなので、出血こそ止まり、動かすこともできるが、痛みは残るし、動きや感覚も鈍くなる。
流して失った血は、蝿や蛆が貪ったもので補う事は出来る。
【詳細設定】
日本の資産家の家に産まれ、何不自由無く育ち、運動能力も頭脳も人並みは以上に優れ、生まれ持った美貌も有って、知る者の誰もが認める『完璧な令嬢』として成長する。
しかし、縁美には一つの欠落が有った。
尊いと言われるものに価値を見出せず、美しいと言われるものを美しいと思え無いという事だった。
形が整っているという事は理解できるが、美しいとは思わない。良識も倫理も道徳も弁えているが、良心や情愛というものを感じた事は無い。知識と観察、それらの上に築かれた経験、更に論理的思考に依って、己が欠落を覆い隠していた。
21歳の時、長期旅行先のオーストラリアの都市メルボルンで全球凍結に遭遇。
寒さに凍え、流通が途絶した事による飢えの苦しみ、希望の見えない環境への悲嘆と絶望。自暴自棄になった人間たちによる破壊と略奪と暴行。
刃物で刺され、己の流した血の中に横たわりながら、それらを見て、縁美は初めて己がどういう人間かを知る事になる。
もっと見たい、もっと知りたい。他者の苦悩を、他者の苦しみを、他者の絶望を。
かつて感じた事の無い歓喜の中で、縁は神禍を行使する。
壮絶な不快感と、絶命しそうな程の苦痛の中、生み出された蛆虫は周囲の人間を始めとした生物を喰らって肥え太り、撃ち込んだ毒で苦しめる。
大量の蝿が空を覆い尽くし、あらゆる生物を血肉が混じった泥の様に溶かしながら、ありとあらゆる疫病を撒き散らす。
縁美が神禍により傷を塞ぎ、失った血を補って、立ち上がった時には、深刻なバイオハザードが発生していた。
メルボルンを疫病で死滅させた縁美は、そのままオーストラリアの各都市に、病と毒を撒いていく。
縁美の脅威から逃げ延びた者も、感染者として疫病を拡大。半年でオーストラリアの旧人類は生存圏を喪失。する事になる。
事此処に及んで、政府機能を維持していた全ての各核保有国は、オーストラリアの放棄と核攻撃を決定。
オーストラリアを死の大地と変えてでも、縁美を殺そうとする。
地下のシェルターで核爆発を凌いだ縁美は、生物が死に絶えたオーストラリア大陸を去り、海を渡って東南アジアに到達。
第二崩壊の残した猟場の痕跡を複数愉しみ尽くした。
両親に対しては情愛こそ無いが、敬意と恩義は感じている。
すぐに死ぬ旧人類よりも、早々死なない禍者の方が長く愉しめるので好き。
149
:
名無しさん
:2025/06/12(木) 22:23:18 ID:LWvtsQOk0
【名前】ジョン・ダグラス
【性別】男
【年齢】27
【性格】冷静沈着で責任感が強いリーダー。常に仲間とコミュニティの生存を最優先に考える合理主義者を装っている。しかし、その内面には助けたいという青臭いほどの情熱と、自らの力がもたらす悲劇への深い絶望を隠している。力の使用を極度に恐れており、戦闘や非常時でも一歩引いた指揮に徹することが多く、一部の仲間からは臆病者と誤解されている。
【容姿】元々は救命士として鍛えられていたため体格は良いが、心労からかやや痩せている。短く刈った癖のある茶髪に、無精髭。目の下には常に消えない隈がある。リーダーとしての威厳を保つため、ぼろぼろながらも清潔な衣服を心がけている。鋭く理知的ながら、どこか遠くを見つめるような憂いを帯びた瞳が特徴。
【神禍】
『救済の残響(サルベイション・エコー)』
思想:誰よりも早く、助けを求める声に応えたい。
音速を超えるほどの超高速移動能力。
ただし、これはジョン自身の身体を「弾丸」として撃ち出すに等しい現象を引き起こす。
移動開始地点と経路上では、急激な気圧変化により衝撃波と真空状態が発生し、周囲の物体や人間を無差別に破壊・引き裂く。彼が通り過ぎた後には、まるで爆撃を受けたかのような爪痕が残る。
移動中の彼は空気との断熱圧縮により超高温のプラズマを纏っており、接触したものは全て融解・蒸発する。彼自身はこの影響を受けないが、意図的に誰かに触れる(助ける)ことは不可能。力を使えば使うほど、彼は孤独な破壊者となる。
「誰かを助けたい」という願いが、「誰よりも早く駆けつける」という一点のみに特化し、歪んで解釈された結果。
【詳細設定】
ロンドンの旧再開発地区ドックランズに、生存者コミュニティ『アークライト』を築き、そのリーダーを務めている。水路と堅牢な倉庫群を活かした防衛網を構築し、徹底した配給制度と規律で数十人の命を守っている。
しかし、彼は自身の神禍の危険性を熟知しているため、決して自ら前線に立つことはない。襲撃者との戦闘では後方から的確な指揮を下すが、その慎重すぎる姿勢が仲間との軋轢を生むこともある。
彼はその誤解を解こうとせず、全ての重圧と罪悪感を一人で抱え込み、コミュニティという「守るべきもの」を自らの手で壊さないよう、ギリギリの精神状態で日々を耐え忍んでいる。
全球凍結が始まった直後のロンドン。
インフラの崩壊により、テムズ川にかかる橋で大規模な玉突き事故と火災が発生した。当時、非番の救命士だったジョンは、助けを求める悲鳴を聞きつけ、真っ先に現場へ駆けつけた。しかし、現場は地獄絵図だった。燃え盛る車、氷点下の寒さで動けなくなる人々、物資を奪い合う暴徒――。
彼は必死に救護活動を行うが、個人の力ではどうにもならなかった。目の前で助けられたはずの少女が暴徒に突き飛ばされ、燃え盛る車に巻き込まれていく。
天を呪い、自らの無力さを嘆いたその絶望的な叫びが、彼の魂に「誰よりも速く」という決して揺るがない信念を刻み付けた。
かつてはロンドンの救急救命士だった。
正義感が強く、実直な性格で同僚からの信頼も厚かった。しかし、常に「あと数秒早ければ助けられた命があった」という後悔と強迫観念に苛まれており、非番の日にはマラソンで身体を鍛え、1秒でも早く現場に到着するためのシミュレーションを繰り返すのが日課だった。
彼の人生は、常に「時間との戦い」であり、「救えなかった命」への贖罪意識に満ちている。
150
:
名無しさん
:2025/06/13(金) 22:27:22 ID:LcgcrbDo0
【名前】甘城 智樹(あまぎ ともき)
【性別】男
【年齢】33
【性格】極度の厭世家で、万事において無気力。他者との関わりを徹底して避け、必要最低限の会話しかしない。生きることに目的も執着もなく、ただ呼吸をしているだけの動く死体。
【容姿】元は整っていたであろう顔立ちは無精髭と手入れされていない黒髪で覆われ、目の下には深い隈が刻まれている。擦り切れた防寒コートを無造作に羽織り、消耗品のように自身を扱う。だが、そのコートの下に着ているワイシャツだけは、昔の癖で皺一つなく手入れされている。
【神禍】
『喝采は錆び、祭壇は砕け(フェイタル・カーテンコール)』
思想:輝かせたかった。俺の全てを懸けて、あいつを。
接触した物体に込められた記憶をエネルギーに変換し、指向性のある爆発を引き起こす。
記憶の印象が強いほど、対象となる物体が大切にされてきたものであるほど、爆発の威力と規模は増大する。例えば、恋人からもらったアクセサリーは対人地雷に、家族の思い出が詰まった家は一帯を吹き飛ばす大爆発の起点と化す。
また、自身の強い感情(特に怒りや絶望)をトリガーに、手元のガラクタを即席の高性能爆弾として生成することも可能。
彼の神禍は、かつて抱いた「創造」への願いが、最も残酷な形で「破壊」へと反転した姿である。
マネージャーとして、アーティスト「赤也紅蓮」という才能に自らの人生、情熱、夢、その全てを注ぎ込み、最高の舞台で「輝かせよう」とした。しかし、間が悪いことに彼のその想いが最高潮に達した瞬間、全ては血と悲鳴の中で無に帰した。
想いを注ぎ込む行為が、結果的に最大の「爆発(破滅)」を招いた原体験。
それが歪み、「想いの込められた物を、物理的な爆発物に変える」という、皮肉で攻撃的な能力として発現した。誰かの大切なものを破壊することで、彼は無意識に自らの失われた夢を追体験している。
【詳細設定】
東京の廃墟を転々としながら、日銭を稼ぐフリーの「始末屋」として生きている。その卓越した状況判断能力と、躊躇なく爆破という最終手段を用いる冷徹さから、腕利きの用心棒、あるいは厄介者として知られている。誰とも組まず、特定の組織にも属さない。
稼いだ物資は生命維持の分だけ残し、残りは捨ててしまうことさえある。死に場所を探しているわけではない。ただ、生きる理由が見つからないまま、惰性で日々を消化している。
全球凍結直前、
>>105
赤也紅蓮のアリーナライブでの惨劇に直面する。
甘城は無名のバンドにいた赤也の才能に唯一人気づき、大手事務所を辞めて彼のマネジメントに全てを捧げた。泥水をすするような下積み時代を経て、赤也をスターダムに押し上げ、ついに掴んだ夢の舞台。それは甘城の人生の集大成だった。
ライブが最高潮に達したその瞬間、赤也の神禍が発現。甘城が心血を注いで作り上げた「光の祭壇」は、一瞬にしてファンが絶叫し殺戮される血の海へと変貌した。目の前で自らの夢と未来が文字通り破裂し、消し飛んだ。この強烈すぎる喪失体験が、彼の輝かせたいという純粋な願いを汚染・反転させ、破壊の思想を心に刻みつけた。
元々は音楽業界で名を馳せた、冷徹で有能なマネージャー。担当アーティストを成功させるためなら、メディア操作、スキャンダルの揉み消し、脅迫まがいの交渉など、どんな汚い手も厭わない仕事の鬼だった。
音楽を純粋なビジネスと割り切っていたが、赤也の才能に初めて魂を見出し、採算度外視でのめり込んでいった。赤也は彼にとって、最後の夢であり、守るべき全てだった。
151
:
名無しさん
:2025/06/14(土) 20:02:54 ID:ZWnWV4ks0
【名前】
赤城 貴志(あかぎ たかし)
【性別】
男
【年齢】
25歳歳
【性格】
脳筋の熱血感。努力と根性の人。自身の生命を輝かせる闘争を何よりも愛する
【容姿】
194cm・120kg
愛嬌のある顔立ちの、日焼けした短い黒髪の男。鍛え抜かれた無駄な肉の無い、均整の取れた体つきは、一見すると細身に見える。
黒いズボンとタンクトップ姿。見ているだけで凍死しそうとか言われる。
【神禍】
吼え駆ける戦禍の騎士(レッドライダー・ウォー・クライ)
:思想
過酷な環境なればこそ、人は生きる為に苛烈に争わなくてならない。
全心全力全霊で人を殺し合わせる神禍。
貴志の放つ雄叫びを聞いたものは、旧人類ならば瞬時に発狂状態となり、沸き起こる殺傷本能により、目に映る生命全て、例えそれが産まれたばかりの新生児であろうとも、象や羆の様な大型動物であっても殺そうとする。
この時、肉体と精神のリミッターが外れ、肉体と神禍の双方を、限界を超えて使用する事が可能となる。
当然肉体は壊れてゆくが、発狂状態なので気にすることが無い。生命活動が停止するまで、戦い殺し続ける。
全力で殺し合わせる神禍である為に、狂っていても思考は可能であり、頭脳戦が可能。
禍者に対しては、戦意の高揚と、神禍の強化を行う。
雄叫びは発狂させるだけでは無く、衝撃波や極低周波として撃つ事も出来る。
【詳細設定】
日本の北陸地方に産まれ、幼少時から喧嘩を繰り返していた男。
何よりも戦うことを好み、格闘技や武道を学んでは幾つもの大会で優勝する様になっていった。
複数の格闘技団体からスカウトが来る様になった20歳の時に、全球凍結が起きる。
過酷な環境の中で、貴志は自警団に参加する。
北陸地方は、元が豪雪地帯であり、原発も近い事から、全球凍結に対し比較的適応できた土地であり、日本政府も臨時に政府機能を北陸に移転させていた。
日本の他の地域と比較して、余裕があった為に、日本各地から難民が流入。
治安が悪化する中で、貴志は自警活動に勤しむ事となる。
終わらぬ闘争に明け暮れる日々の中で、自分の戦いの結果による安穏に浸り、戦う事をしない者達への苛立ちを募らせ続けた貴志は、遂に神禍を発現させる。
貴志の放つ雄叫びは、忽ちのうちに周囲を闘争状態にし、更には移動しながら雄叫びを放ち続けた為に、北陸一帯の全てが貴志の神禍に晒される。
北陸の人が住む場所全てで、狂乱した旧人類と、強化された神禍を振るう禍者とが戦い続ける地獄絵図が展開され、貴志がは闘争を愉しみ尽くし、人間は貴志をのぞいて全て死に絶えた。
この結果、日本の政府機能は完全に崩壊。日本は国家としての終焉を迎える事になった。
152
:
名無しさん
:2025/06/14(土) 21:04:21 ID:s5DFvB9.0
【名前】
羽鳥 恵理
【性別】
女
【年齢】
19歳
【性格】
穏やかで人当たりが良い様に見せているが、実際は何もかもが自分の思い通りにならないと気が済まない性格。傲慢で癇癪持ちな嗜虐趣味の殺人狂
【容姿】
薄赤いボブカットヘア。黒髪。冬用の見るからに高そうなコートを着ている。
アイドルと言われればそう見える程度には、整っていて愛嬌のある顔立ち。
【神禍】
『私の素敵な玩具箱』
:思想
他者を思い通りにしたい。
自身を中心として、直径500mの球体状の空間を形成する神禍。
この中は濃密な血霧に満たされ、視覚と嗅覚が阻害され、纏わりつく血霧で行動が鈍化する。
この空間の中は、恵理の知覚領域であり、内部のことを全て知る事が出来る。
恵理は血霧を操り凝結させて、攻防に用いたり、道具を作成したり、足場を形成して空中を歩行するといった様々な事が可能となる。
血霧により傷口を塞ぐ事で、擬似的な治療が可能。あくまでも塞いでいるだけで、治っているわけではないが、出血は止まる。
他者の身体に大量に付着させる事で、行動を阻害するところか、体の動きを操る事さえ可能となる。
【詳細設定】
九州出身。幼い時からなんでも自分の思い通りにならないと癇癪を起こしていた女。
成長するにつれて、癇癖を抑え、上辺を取り繕える様にはなった。
それでも、自己中心的な性格は全く変わらず、苛立ちは募るばかりだった。
全球凍結後、恵理の歪みを形にした様な神禍が発現し、恵理は同じ高校の気に入らない生徒達を、神禍で惨殺。
そのまま行方を晦まして、放浪の身となる。
以降は、神禍を鍛えながら放浪し、行く先々で、人を惨殺し、物資を奪い、集落を支配して遊び尽くす日々を送っている。
153
:
名無しさん
:2025/06/14(土) 21:08:15 ID:s5DFvB9.0
>>152
訂正します
【容姿】
薄赤いボブカットヘア。黒瞳。冬用の見るからに高そうなコートを着ている。
アイドルと言われればそう見える程度には、整っていて愛嬌のある顔立ち。
154
:
名無しさん
:2025/06/14(土) 23:23:29 ID:NM9M/lVs0
【名前】イヤハテ ハルシ (弥終──)
【性別】男(外見上)
【年齢】0歳3ヶ月(外見年齢19歳)
【性格】中立・悪。能動的。目覚めた3ヶ月前以前の記憶がなくやや無機質的で、ぼんやりしてる(ように見える)。死に対して人一倍強い忌避と恐怖があるが、死の要因の排除(殺害、逃走)には積極的に動く。そうでない限りは割と他人と関わりたがる。自分の実存を確かめたいからだ。
【容姿】艶のあるウェーブの緋色の髪。寒暖差に疎く、一応冬服を着込んではいるが明らかに現在の環境と釣り合ってない。瞳孔が「Ω」の形状をしてる。
【神禍】
『輝く星よ、黎明の地より昇れ(インカルナティオ・イデアルクス)』
思想:「生きる」「死なない」
───自律型神禍。意思持つ呪い。禍者出現以来前例のない、受肉したエスカトン。
黄白色がかったオーラが全身に展開。これは肉体の構成要素、つまり神禍の一部を剥離させたもので、励起状態では複数の翼を広げたように見える。
肉体というフィルターを通さない純粋な神禍はリミッターがないに等しく、凄まじい出力を誇る。本能に任せた戦い方は無駄のない狩猟動物というより、機械の精密作業に近い。
同類といえる神禍とは互いに相殺する形となり、神禍自体に接触・干渉できる代わりに、自身もダメージを受ける。
実体を持つとはいえ元来生命ですらない神禍。失血、病理程度では止まらず、欠損が起きても身体構造を組み換え元の形に戻してしまう。
とはいえ感覚はあるし痛いのは嫌。死ににくいだけで限界点はあり完全な不滅というわけでもない。
ハルシが自身の死を認識し、抗うほどにこれらの効果は強まっていく。死を厭い死を与える、無敵不滅を喰らう禍つ明星。
だが力を解放する間、ハルシには全身に激痛が走り、肌には黒い罅が入り、体が徐々に崩壊していく。
人類絶滅を本能に持ちながら生存を第一にする、存在自体が矛盾した反発作用が出力の所以であり、自死に至る弱所となっている。
神禍の詳細、自身が神禍であること、既に元になった人間は死んでいる真実を、ハルシはまだ知らない。
【詳細設定】
ローマに旅行で来ていた夜涯晴司(やはて せいじ)は、禍者出現黎明期に多発した無数の暴動の犠牲者の一人でしかない。
家族や友人、現地の見知らぬ人を助けようと震える足で賢明に走り、あっけなく死んだ。それだけの男だった。
だが未発現だった神禍の影響か、死んだ後になって奇跡的に意識を保つ───死体のまま、それ以外には何の現象も起こさずに。
暴動で破壊され尽くして動かない骸。救援の来ない凍土。体温も鼓動も感じられない躰、変化のない静止した世界。
発狂し、死んだ方がマシな環境に野晒にされても、晴司は意識を手放す事はしなかった。
生きたい。
死にたくない。
どうやって、何を犠牲にしてもといった余分な考えは持たない。 ただ生きるのだという、誰であれ持つ原初の衝動。明日の光を求める希望。
……決定的に他人を害する意思に欠けていた晴司は、神禍の発現に適性を持たず、後年を生き地獄に費やすばかりの月日を送った。
そして3ヶ月前。とうとう意識が途絶えたと同時に初めて神禍が噴き出し、「晴司の願いを代行する」という形で顕在化。
姿を模しても記憶を持たないソレは、落ちていた文字の掠れたパスポートから自分を「イヤハテハルシ」と定義。
使命も目的もない、ただ胸の内に宿る「生きる」という願いに衝き動かされて歩き出し、必要な常識をどうにか身につけ、飢えとも寒さとも無縁の身で凍る世界を歩き回っている。
なぜ自分は、人は、こんなにも「生きる」ことを諦めないのか。自覚なく呪いの存在意義を問いながら。
ソレは救世主による世界再生を阻む自滅因子の最終機構(アポカリプス)か。聖女の傲慢に神罰を下すべく氷獄から這い出た堕天使(ルシファー)か。呪いの淘汰を乗り越え、次代の霊長となる新人種の再臨(パルーシア)か。
あるいは、だいそれた天命となんら関係のない、機械が誰かの夢を引き継いだだけの、ただの誤作動(ハルシネーション)に過ぎないのか。
生贄に選ばれた以上、ルクシエルはともかく主催者のソピア、少なくとも蒐集に携わったエヴァンは存在を認知しているはずである。
夜涯晴司と弥終ハルシは既に別個の存在である。
晴司の死を契機に発現した神禍のハルシは、それが覆れば当然の理屈として実体を維持できない。
ルクシエルによる全死者の蘇生が叶えられた場合───即ち晴司が生き返った時、ハルシは消滅する。
155
:
名無しさん
:2025/06/15(日) 01:00:35 ID:65EjtV6E0
【名前】勇者候補『凪』/シティ・草薙(くさなぎ)
【性別】女
【年齢】20
【性格】負けん気が強く、常に他者と自分を比較してしまう競争心の塊。プライドが高く、特に同世代の実力者には対抗意識を燃やす。
【容姿】小麦色の肌に金髪のショートカット。防音用のイヤーマフを付けている他、在庫を大量にストックしている母校のセーラー服を常用。武器として携帯している鉄パイプを「固定」し、強度を保っている。
【神禍】『夜凪:静謐固着(ナイトカーム・クワイエットホールド)』
思想:変化しないということは凄いこと。
触れた物の物理現象を「現状維持」で固定化する能力。
動いている物体を空中で静止させたり、崩れかけた建物の倒壊を防いだり、燃え盛る炎を消すことなく拡大も阻止できる。
僅かな波もない穏やかな『凪』のような存在である事から、この名称が付けられた。
固定を解除した場合、物体は固定前の動きを再開する。
一度に固定できるのは一つまでであり、能力発動中は別の物を固定できない。
動いている物体の運動エネルギーを完全に無視して「その場で固定」出来るため、彼女は戦闘において実質的にあらゆる初撃を無効化できる。
なお、生物に対して使用した場合、当然心臓の動きも停止する。
そして固定を解除すると、なぜか心臓が再び動き出すことはない。
即ち、触れれば即死である。
【詳細設定】
かつての空を取り戻すべく結成された四人の『空の勇者』たち。
彼らに比肩する実力と信念を持ちながらも、様々な理由によって勇者と呼ばれなかった者――あるいは『凪』の勇者と呼ばれたかもしれない者。
マレーシア人の母と日本人の父を持つハーフで、ラタン・サリム(
>>30
)と同じ武術道場で棒術を学んだ同門の妹弟子。
幼い頃から「変化に取り残される恐怖」を抱いており、現状維持こそが最高の価値だと信じている。
勇者選考では実力は申し分なかったが、協調性の欠如と他者への過度な競争意識が問題視され、候補止まりとなった。
同い年で正式勇者のルーシー・グラディウス(
>>114
)と、実質的に勇者扱いされる弥塚槍吉(
>>145
)への嫉妬は激しく、二人を超えることに執念を燃やしている。
サリムには複雑な感情を抱いており、兄弟子として尊敬する一方で、自分が勇者になれなかった原因の一部だと逆恨みもしている。
全球凍結の混乱期、彼女は道場の仲間たちと共に避難民の護衛任務に就いていた。
しかし『第二崩壊』(
>>122
)の猟場拡大により故郷が戦場と化し、多くの同門が命を落とした。
この時、変わりゆく状況に翻弄される無力感から神禍が覚醒。
唯一の生存者として脱出したものの、自分だけが生き残った罪悪感と、変化への恐怖が彼女の心を支配した。
日本に逃れた後は父方の親戚を頼り、廃校となった高校で一人暮らしを始める。
制服への固執は「学生時代の自分」を維持したい願望の表れで、変化を拒む彼女の象徴となっている。
勇者候補として認定されながらも正式勇者になれなかったことで、更に競争意識と劣等感が激化。
現在は単独で救助活動を行いながら、いつか二人のライバルを超える機会を狙っている。
156
:
名無しさん
:2025/06/15(日) 04:59:05 ID:roSwMIhw0
【名前】北奈杉 意秋(きたなすぎ いしゅう)
【性別】男
【年齢】39歳
【性格】
非常に傲慢で全てが自分の思い通りにならないと気が済まないワガママおじさん。
禍者になる前はずっと引きこもりだったのでよくネットの口調で語る。一人称はオイラ。
極度の風呂嫌いで今まで風呂に入った回数も片手で数えるほどしか無い。
【容姿】
358cm・513kg
見る者全てに不快感を与えるようなブサイクで醜悪な顔つき。
くりくり坊主で無精髭が生えている。常に不気味な薄笑いを浮かべている。
黄土色のタンクトップに黒い短パンを履いている。
元のタンクトップの色は白だったが汚れてこの色になった。
全身から脂汗を発しており、皮膚は分厚い垢に覆われている。
体臭が酷く、遠くからでも鼻に突き刺さるような異臭を漂わせている。
【神禍】
【拒絶への反抗(リジェクション・オブ・リベリオン)】
思想:オイラを否定する奴は誰だろうと許さないんだな!
拒絶の意志に合わせて、身体を変化させ増強する能力。
他者から拒絶の意志を向けられたり、本人が強く拒絶する意志を見せることで肉体にバフがかかる。
この異常なサイズの巨漢も、全球凍結現象が意秋の生存への拒絶と判定され
身体が変化していった結果である。
拒絶が強くなればなるほど、身体がどんどん増強されていき
最大値まで身体強化された場合、ホラーゲームのボス地味た巨大クリーチャーと化する。
【詳細設定】
デブでブサイクで不潔で挙動不審でオタクでバカで気持ち悪い意秋は学生時代から虐められ
中学生から30過ぎになるまでずっと引きこもりニートとして生きてきた。
昔は「お兄ちゃん」と呼んで懐いてた妹でさえ汚物のように扱われる毎日だった。
だが禍者になって彼は弾けた。
他者に拒絶されるほど強くなる彼に勝てる人間は周囲に存在せず
自分を馬鹿にしてきた人間を片っ端から皆殺しにしてきた。
そんな荒れた彼の心に癒やしを与えるマイエンジェルが現れた。
彼女の名はルクシエル、彼女だけは自分を拒絶せず優しく微笑んでくれた。
それ以来、彼はルクシエルの悪質なストーカーとなり何度も付きまとうようになった。
この儀式に参加したのもラブリーマイエンジェルルクシエルたんを自分の嫁にするためだった。
あんなババア(ソピア)の側にいたらルクシエルたんは不幸になる。
ルクシエルたんを幸せに出来るのは自分しかいない、と考えている。
本人曰く、ルクシエルへの想いは純愛である。
157
:
名無しさん
:2025/06/15(日) 08:45:06 ID:YiWXhIkk0
えっこいつら妖精フォームもまだあるの!?
158
:
名無しさん
:2025/06/15(日) 20:41:02 ID:QA4mOzSU0
企画主様に質問ですが、投票結果から純粋な得票数とは別の理由で足切りする場合もあり得るでしょうか。
具体的には、これまで数多く投稿されている十二崩壊や空の勇者など、投票結果次第では肩書きの重複や人数の過多でキャラ設定に矛盾が発生する可能性があるので、
その辺りをあらかじめ調整することは考えられるかという話でした。
もし現時点で回答可能でしたら、お答えいただけますでしょうか。
159
:
◆EuccXZjuIk
:2025/06/15(日) 21:15:50 ID:Il00BaNQ0
>>158
投票ルールに明記する予定ですが、その方向で考えております。
基本的に同じ肩書きや矛盾する設定を持ったキャラが複数当選ラインまで上がってきた場合は上位の方を優先して採用していきます。
あまり得票数以外で不採用にすることはしたくないので、ある程度理由付けを用意すればどうにかなりそうなキャラに関してはこちらで少し考えてみて、そのまま採用させていただく場合もあるかと思います。
詳しくは投票ルール告知の際に改めてご連絡いたします。
160
:
名無しさん
:2025/06/15(日) 21:39:09 ID:QA4mOzSU0
>>159
ありがとうございます。
161
:
◆DpgFZhamPE
:2025/06/15(日) 22:10:40 ID:???0
投下します。
【名前】 賀月 京姫(がげつ きょうき)
【性別】女
【年齢】18
【性格】
快活で人の言うことを理解し、頭の回転も速い(理解したからと言って従うかは別)。のほほんと
人間大好き。害意や敵意にはとても敏感。
外交的かつ活発。好きなものは好き、きっぱりとしている性格。
下述の出来事から「逃亡・気配を消すこと、人の視界の外に紛れること」を得意としており、その素早い動きで凍結が起きる数年もの間、警察から逃げ仰せていた。
【容姿】日本人。159cm。戦闘時は体勢を低く構え、武器を逆手に持つ。肩まで伸びた黒髪に、ところどころ赤いメッシュが入っている。
トレンチコートに学校指定のオレンジ色の制服と黒のスカート。実際に通っている制服ではなく、独自のルートから頂戴したもの。
【神禍】
『皆に宿る、命の水(ヴィータ・サングィス)』
思想:血をください。暖かい、あなたの血を。
血液に愛された少女。
災厄の中に生まれた地獄の花。
あなたも同じだよ。私も同じだよ。
あなたの血も、私と同じものだから。
無尽蔵の血液を持ち、その血液を操作する。
体外・体内問わず血液を操作し、武器のみならず構造を知っているものならば精製可能。お気に入りはナイフと、血液を操ったワイヤーアクション。
全力を出せば文字通り『血の海』を作ることも可能。全ての足場が彼女の掌の上となる。
他者の血液を摂取すれば、「己の血となった」と解釈され他者の血液も操作でき、血液感染なども防ぐことができる。しかし、自己の血液と比べると操作精度は落ちる。
誰にでも流れる赤い血。
彼女は、全てを均等に愛す。
だって、血が流れているから。
それならば、私と同じだから。
───笑顔で他者を害す、愛の女。
【詳細設定】
人類を滅亡に導いた黎明の十二体。
かつての空を取り戻すべく結成された四人の『空の勇者』たち。
───とは全く関係がない、自然に生まれた"異常"。
ごく普通の家庭に生まれた、"災禍"。
世界の命運とは関係がない、"人間"。
生まれた家庭は、普通だった。
父は優しく時に厳しく、母は強く優しかった。
そこで生まれた少女は、ただの普通の少女だった。
齢六歳となり、蝶よ花よと愛でられて育った彼女は傷ひとつなく。その日初めて、走った末に転倒し傷を作った。
膝に出来た傷。垂れる血液。鮮やかなで、不気味なほど美しいそれを、少女は指で撫で取った。
ああ。これは、なんて───綺麗なんだろう。
その時から、彼女は赤色を好むようになった。
ランドセルの赤。クレヨンの赤。赤い靴。彼女は赤に囚われた。
しかしいずれ傷は塞がる。血は固まり黒く変色し、瘡蓋となり皮膚が形成される。
彼女はそれが残念だった。あんなに美しいのに、綺麗なのに、肌の下に隠れてしまう。それが不思議だった。
彼女は、とある日母に聞いた。
『ねえ、なんで赤は綺麗なのに隠れるの?』
───大事なものだからかなあ。大事なものほど、隠しとくものよ。
『なんで大事なの?』
───みんな、同じものが流れているからよ。だから、溢さないように、分け与えられるように大切に隠しているの。
少女は、十二の夏。初めて出来た恋人を、刺殺した。六年の内に溜め込んだ『赤』への羨望が、ついに溢れてしまった。
発見時には、致死量の血がばら撒かれた凄惨な教室が広がっていたという。血染めの彼女と共に。
未成年故に実名報道されなかったその事件。あまりにも猟奇的故に捜査の開始が遅れ、彼女は捜査の手を逃れ街を彷徨っていた。
赤が好きなの。血が綺麗なの。あなたにも血が流れているなら、あなたの綺麗を見せて欲しいの。
ある時は無害な少女を装い。ある時は家出少女を装い。ある時は無害な成人を装い。ある時は同性の友達を装い。
人気のない場所に連れ込んで、血を浴びる。
地表が凍結に包まれると、彼女の行動は更に悪化した。
寒くて、寒くて、寒くて。
少女一人というのは、あまりにも環境に適していた。庇護してくれる。襲ってくれる。理由は何であれ、関わってくれる。
その悉くを、血の雨にした。
首筋から溢れ出る、命の雨。
───あったかいねえ。
笑顔で。彼女は、命の温もりを噛み締める。
162
:
◆DpgFZhamPE
:2025/06/15(日) 22:12:21 ID:???0
訂正します
> 【性格】
快活で人の言うことを理解し、頭の回転も速い(理解したからと言って従うかは別)。のほほんと
> 【性格】
快活で人の言うことを理解し、頭の回転も速い(理解したからと言って従うかは別)。好きなものの前ではのほほんとする一面も。
163
:
名無しさん
:2025/06/15(日) 22:42:18 ID:NLDZ0Xjw0
【名前】シルヴァリオ・ロックウェル
【性別】男
【年齢】27
【性格】極めて冷静沈着で、感情を表に出さないプロフェッショナル。必要最低限の言葉しか発さず、その思考を他者へ自発的に発信することは極めて稀である。常に効率と結果を最優先する合理主義者だが、心の底では深い人間不信と、すべてを諦めたような虚無感が巣食っている。自称大統領エンブリオの常軌を逸した言動にも一切動じず、淡々と任務をこなすが、内心ではその馬鹿げたエネルギーに、この終わった世界で唯一の面白みを感じている。
【容姿】無駄なく鍛え上げられた、しなやかな体躯。短く刈り込んだ黒髪に、灰色の瞳と表情筋の死んだ端正な顔立ちが特徴。色褪せたタクティカルベストに黒を基調とした機能的な防寒着を隙なく着込んでいる。
【神禍】
『偽りの兵装庫(フェイカーズ・アーマリー)』
思想:信じられるのは、裏切らない完璧な道具だけだ。
一度でも物理的に触れたことのある「武器」の構造を完全に理解し、それを寸分違わぬ形で複製・生成する能力。ナイフや銃器はもちろん、手榴弾のような複雑な構造を持つ兵器すら再現可能。
ただし、生成された武器は極めて脆い。数回使用するか、強い衝撃を受けると、まるでガラスのように砕け散ってしまう。銃であれば数マガジン、ナイフであれば数度の斬り合いが限界。まさに「使い捨て」の兵器である。
「完璧な道具」への絶対的な信頼と執着が、あらゆる武器を“完璧に”複製する能力として発現した。
「完璧な道具だけを信じる」という思想は、裏を返せば「不完璧な人間は信用できなず、すなわち排除すべき異物である」という結論に行き着く。神禍はこの歪んだ二元論を悪意的に肯定した。
一つの殺しが終われば、その道具は役目を終えて消える。彼が信じる「完璧な道具」に囲まれて生きるためには、絶えず新たな敵を見つけ、殺し続けるしかない。これは、彼を永続的な殺戮者へと仕立て上げるための呪いに他ならない。
【詳細設定】
現在は“自称”第49代大統領
>>89
エンブリオ・“ギャングスタ”・ゴールドスミスの専属SPとして、占拠されたホワイトハウスを拠点にしている。エンブリオの単純極まりない欲望と行動原理を「予測可能で扱いやすい道具」と見なし、互いに利用し合うドライな関係を築いている。
彼の元にいれば、様々な武器に触れる機会があり、自身の神禍の「兵装庫」を拡充できるという実利もある。エンブリオの掲げる「国家再建」など微塵も信じておらず、ただ静かに、より強力な「道具」に触れる機会を窺っている。
全球凍結が始まる数年前、彼は政府系の秘密兵器開発機関に所属する天才的なエンジニアだった。心血を注いで開発した新型ライフル――彼が唯一「相棒」と呼んだ完璧な作品――の実戦テスト中、彼の才能に嫉妬した上官がライフルに細工を施した。
テスト中にライフルは暴発し、シルヴァリオは左手首に消えない傷を負い、流れ弾を受けて同僚の一人が命を落とした。この一件で、彼は「人間は嘘をつき、嫉妬し、平気で裏切る。自分が正しく作り、正しく整備した道具だけが決して裏切らない」という妄執を抱くに至った。
その後、上官によって濡れ衣を着せられ、同僚の死の責任を被せられた彼は所属していた組織から姿を消した。表社会に彼の居場所も、信じられる人間も、もはや存在しなかったからだ。
彼はその天才的なエンジニアリング技術を活かし、裏社会で生きる道を選ぶ。最初は兵器の密造や闇市場向けのカスタマイズで生計を立てていた。彼の作る「道具」は常に完璧で、その腕は闇市場で高く評価された。
しかし、彼の目的は金儲けではなかった。彼の行動はすべて、あの事件で芽生えた「人間は不完全で、道具こそが完璧である」という主張を証明するためのものだった。やがて彼は、自らの手で完璧に調整した最高の武器を手に、デモンストレーターとしてその性能を実証するために標的を「処理」するようになる。
銃は分解・再調整し、ナイフは自ら研ぎ澄まし、弾丸一発に至るまで最適なものを選び抜く。
たった一つ残った、道具という信仰のために。
164
:
名無しさん
:2025/06/16(月) 00:48:24 ID:l1drLKgE0
【名前】カマカ・レイ・ホクレア
【性別】男
【年齢】48
【性格】表向きは人当たりが良く穏やかだが、内心は狂気に支配されている。タツミヤへの盲信的な崇拝と、神の敵への激しい憎悪が共存する二面性を持つ。情報収集と人心掌握に長け、組織運営能力も高い。
【容姿】ハワイ系の浅黒い肌に白髪交じりの短髪。海水に晒された影響で左目が白濁している。ボロボロのアロハシャツの上から防寒用のジャケットを羽織っている。人懐っこい笑顔を浮かべているが、時折見せる眼光は狂気を秘めている。
【神禍】『係留の縁(モーリング・ボンド)』
思想:因果応報。大切なものが流されたのは、繋いでおかなかったから。
人と人の繋がりを「縄」として可視化し、その縄を操作する能力。
愛情、憎悪、恐怖、忠誠心など、感情の強さに応じて縄の太さや色が変わる。
切断すれば関係性を断ち、逆に結べば新たな関係を強制的に作り出すことも出来るが、この操作は一時間程度で元の状態に戻る。
なお、縄はカマカの握力、腕力が万全であれば素手で引き千切ることが出来る。
自分を対象とした悪意ある行為(攻撃、呪い、裏切り等)を受けた時、その行為者とカマカを結ぶ「因果の縄」が発生。
この縄を切断することで行き場を失った悪意が行為者本人へ跳ね返る「呪詛返し」を発動できる。
発生したばかりの綱は非常に細く、その時点で切断しても大した悪意は跳ね返らない。
カマカが実際に何らかの損害を受けることで縄は太く禍々しい形状へ変化していき、発動する「呪詛返し」の精度も上がってゆく。
【詳細設定】
アメリカ合衆国の各州を一つずつ滅ぼしていた『十二崩壊』の一人によって最後の標的となったハワイは、三日間に七十五回の沈没と再浮上を繰り返し、壊滅した。
カマカはその沈没の最中、海底で途方もない巨大な「何か」を目撃。
それは人知を超えた存在であり、己に降りかかる超常の出来事は全て因果応報なのだと悟った彼の精神は決定的に破綻した。
奇跡的にアジア方面へと逃げ延びた彼は、そこで生存者コミュニティから暴漢の始末を依頼されたタツミヤ(
>>26
)と遭遇。
彼が蛸の神禍を使用し悪を討つ場面を目撃したカマカは、海底で見た「神」の依り代だと解釈し、以来タツミヤに狂信的な信仰を抱くなるようになる。
タツミヤ本人が他者との関わりを拒絶しているにも関わらず、カマカは物資や情報などを対価に危険人物の排除を依頼、という名目で裁かれるべき悪人を神の御前へと差し出すようになった。
持ち前の人当たりの良さと神禍による情報収集能力を駆使して各地に協力者を配置し、小規模ながら影響力のある秘密結社「深海の瞳」を組織している。
現在はバトルロワイアルに参加者として巻き込まれているが、主催者ソピアを特に憎悪している。
神は悪を討つ存在ではあれど、人を救う存在ではないと、カマカは知っているため。
ソピアは身勝手に神に期待し、身勝手に神に失望し、身勝手に神を冒涜する大罪人を目の当たりにしたカマカは自らの使命を理解する。
それは、黒い聖母気取りの穢れた白百合の花を、タツミヤの孤独を慰める供物、最高の贄とすること。
「呪詛返し」の能力を用いてソピアをバトルロワイアルの一参加者に引きずり落とすことを画策。
儀式の贄となる神禍を跳ね返すことでソピア自身を参加者として巻き込み、タツミヤの手による「神罰」を実現させようとしている。
165
:
名無しさん
:2025/06/16(月) 20:13:43 ID:mZqbUulc0
【名前】
安田 錦(やすだ きん)
【性別】
女
【年齢】
107歳
【性格】
穏やかで慈悲深い老婆。家族や周囲の人間を愛し、周囲からも愛された女性
性格が現れた穏やかで心優しい言葉使いをする
【容姿】
153cm・60kg 車椅子に乗っている小太りの白髪の老婆。分厚い木綿のどてらを着ている
【神禍】
救いを運ぶ神禍の車輪(ジャガーノート)
思想、信念
皆んなを苦しみから救いたい
自身の身体を『殺戮の為に特化した姿』に変える神禍
車椅子を取り込んで変身して、下半身が車椅子、上半身は巨大な人型という鋼の異形の姿に変貌する。
車椅子の下半身は、時速四百キロで未舗装の地面を走り抜け、障害物を走破し、壁や天井すら走行する。
鋼の身体は対物ライフルすら弾き、腕の一振りで鋼板に穴を開ける。
十指の先は銃口となっていて、禍者の体ですら簡単に貫く弾丸を乱れ撃ってくる。
【詳細設定】
三世代家族で、孫を溺愛しながら穏やかな老後を送っていた老婆。
孫の成長を見守る事を何よりも幸福としていた日々は、全球凍結により呆気なく終焉を迎える。
寒波と治安の悪化により、金は娘夫婦を喪い、孫と二人だけで困窮する事となる。
救いの無い絶望の中で、絶望した金は、孫をこれ以上苦しめない為に、己の手に掛けてしまう。
心身共にはりさける慟哭と悲痛の最中、金の神禍が発現する。
殺戮の神禍を発現させ、異形の姿へと変貌した事を、金は己に対する罪と捉え、寒さと飢えに苦しむ人たちに死という救いを齎す事こそが、己に課さられた贖罪と思い込む。
かくして金は、異形の姿で日本各地を巡り、出逢ったもの全てを殺し尽くす、殺戮の遍路へと出発した。
バトルロワイアルに於けるスタンスは、世界が元通りになり、死者が蘇るのならば、おのれが殺した人達も、娘夫婦も、孫も蘇って、穏やかな世界では過ごせると肯定的。
但し、罪深い己は救いを受ける資格は無いと考えている。
救いを託すに足る人物が居れば、その人物の為に死ぬ事も厭わない。
166
:
名無しさん
:2025/06/16(月) 21:03:00 ID:cUdP6LEo0
【名前】ダイダラ
【性別】男性
【年齢】10歳
【性格】子供の無垢さと残酷さを体現したようなクソガキ。割と素直。
【容姿】小柄で、あどけなさの残る顔立ちの少年。ボロボロの怪獣パーカーを着ている。
【神禍】
『怪獣降臨(プレイタイム)』
思想:ボクは強いんだ!ガオー
自身の身長を500倍にする。
本来の身長が110cm前後なので、約55000cmの巨人になる。
更に巨大化した状態で踏み潰した生命の持つエネルギーを自己に還元する事で、より強く、より際限なくデカくなる。
頑張れば口から破壊光線も出せる。威力は小規模の核弾頭に匹敵する。
【詳細設定】
黎明期の世界に大きな傷痕を残した準特級の災禍の一人。
『白い家』と呼ばれる謎の施設で外界との接触を絶たれ、道徳はおろか一般的な善悪の区別を一切身につけず育った孤児。
『白い家』を脱走後、太平洋を泳いで渡り、世界中の国々を踏み潰して蹂躙した。
この行いに悪気は一切なく、文字通り子供が蟻を踏み潰す感覚で殺戮を行っていたらしい。
欧州連合軍との湾岸戦を最後に長らく行方不明になっていたが、その期間何をしていたかは不明。
167
:
名無しさん
:2025/06/16(月) 21:33:48 ID:UAYStSMw0
【名前】昨日峰 未架(きのうほう みか)
【性別】女
【年齢】18
【性格】自信に溢れた"驚異の発明家"を自称する少女。自分が発明の天才であることを信じて疑わない思い込みの強さと、自分の才能でみんなのためになろうと努力する善良さを持つ。
【容姿】
防寒具の上に使い込んだ白衣と隅にヒビの入った保護ゴーグルを付けて、常に見た目から発明家アピールをしている。
かつての発明品の影響で七色のマーベル模様になった長髪を後ろでくくり、勝ち気で自信に溢れた表情をしている。
【神禍】
『仮想未来の架空融合(ニューエスト・ニュークリア・ニュートロン)』
思想:アタシは偉大なる"驚異の発明家"。みんなを照らす、希望の光!
偉大な発明品を次々と作り出す天才的な頭脳そのもの。
──と思ってるのは本人だけ。
実際の能力は彼女の作るガラクタ──"発明品"を、彼女が想像する性能で使用できる能力。
どう考えても工学的合理性のないガラクタの銃から強力なレーザーを放ち、謎の五角柱がストーブのように熱を放つ。
なお、あくまで使用できるのは本人だけ。
勿論、想像さえすれば何でも出来る訳では無い。
彼女が"この"発明品"なら出来る"と確信できるに足る説得力が"発明品"を使用するためには必要。
一例としては以下のような条件やその組み合わせが求められ、また"発明品"が高性能になればなるほど条件は厳しくなる。
・大きさ
無意味なほど大きく、迫力があることが望ましい。
・貴重な材料
実際に有用な材料であるかは必ずしも関係ない。特別な謂れがあったり高価、希少な物を用いるべし。
・複雑さ
彼女の美意識に沿った、付属部品やパーツが多いゴチャゴチャした外見であるべし。
・物語性
彼女が喜ぶような物語性──たとえば、対◯◯用決戦兵器など──があるとベター。単なる便利なアイテムでは、特別感が足りない。
また、結局は神禍であり、兵器や武装のような戦闘に使える"発明品"は難易度が低く、そうでない生活用などの"発明品"は難易度が高くなる。
彼女は何度も治療や蘇生の発明をしようとしたが、その全ては失敗に終わっている。
【詳細設定】
"驚異の発明家"を自称する、自作の"発明品"──その実態は、本人以外には完全に見栄えだけのガラクタ──で武装した少女。
現在は、外敵の目から離れた日本の山間部の集落の外れに"研究所"を構え、集落の番兵のように周囲からは認識されている。
全球凍結前はありふれた、"発明家"に憧れる中学生に過ぎなかったが、神禍を発現すると共に"発明品を作る"ことに情熱の全てを傾けるようになる。
自分の理論の通りに、作った物が機能するようになった喜び。そして、その作った武器で友人を救うことが出来た喜び。彼女は独自の理論を先鋭化させ、発明理論については中学生レベルの知識の上に独自解釈した聞きかじりの知識を乗せた、本人の頭の中でだけ完結した理論体系を作り出す。
何しろ彼女にとって、その理論で作り出した"発明品"は確かにその通り機能するのだから、疑う余地もない。
「アタシのこの銃はね、内部の窒素合金の表面を二次元から四次元に拡張して、積分ベクトルの形で射出するんだ。だから火薬もいらないし、究極的には銃弾すら要らない。まあ、空気中の窒素を銃弾にする手間を考えたら、普通に銃弾を入れたほうがマシだけどね!」
彼女は自作の人間大の自走式トランクケース──自立駆動型トランクケース『トラちゃん三号』に"発明品"を詰め、度々凍土の世界に"発明品"の材料を集めに旅に出ている。
彼女の最高傑作は"第九崩壊が溶かした核融合炉の外壁の残骸"を回収し材料とした、対十二崩壊兵器・融星灼砲『ユウちゃん一号』。
なお、"発明品"を作るために磨いた技術者としての腕──溶接、整形、鋳造、研磨、その他諸々の加工技術──は正しい意味で天才的な腕前。
普段は"発明品"を作ることにしか使われないが、友人が頼むと文句を言いながらもだいたい何でも修理してしまう。
彼女の世界観を矯正することを諦めた友人たちも、思わずにはいられない。
彼女が本当に発明の天才だったなら、と。
168
:
名無しさん
:2025/06/16(月) 23:03:47 ID:cUdP6LEo0
【名前】無敵のシュラーフ
【性別】女性
【年齢】28
【性格】仁義を尊ぶ義賊、女傑
【容姿】身長210cm、凄みのある白人女性、顔に一文字の傷痕がある。
【神禍】
『夜明けの私へ(シュラーフェン)』
思想:明けない夜はない、止まない雨はない。
快眠を約束する力であり、眠っている間、外部からのあらゆる干渉や攻撃を無効化する。
また、眠ることで直前に負っていたダメージを治癒する事ができる(能力発動により蓄積した疲労感は時間経過以外で回復しない)。
生物が生存できない環境だろうが眠りさえすれば無敵となり、氷点下だろうが宇宙空間だろうが、問題なく熟睡できる。
一見戦いには役立ちそうにもないが、戦闘の合間に一瞬の居眠りと覚醒を切り替える事で攻撃を受け流す等、戦闘手段としても昇華されている。
【詳細設定】
無法と化した地を旅し、卓越した剣技で人々を悪から救う酔狂な女剣士。
皆が安心して熟睡できる世を取り戻す事を願い、しかし、心のどこかで諦めている根無し草の流離人。
どこの組織にも属していないが、欧州の『万病王』、中央アジアの『狂い血』討伐の実績により、その実力は各地に轟き、無敵のシュラーフと称され畏れられている。
世界各地を旅しているので言語に堪能だが、訛りが酷く日本語で言う広島弁っぽく聞こえる。
169
:
名無しさん
:2025/06/16(月) 23:42:47 ID:1GKxdlpI0
【名前】牙野 弐弧(きばの にこ)
【性別】女
【年齢】17
【性格】常に何かに怯えるように周囲を窺う、自己肯定感の極端に低い少女。口癖は「ふええええ……」。誰かに強く出られるとすぐに萎縮し、涙目になってしまう。しかし、その気弱さは敬愛する『姫』に身の危険が迫った時、あるいは自身の”居場所”が脅かされると判断した瞬間に霧散する。感情の箍が外れ、姫の脅威となる対象を排除するためだけの、冷徹で無慈悲な戦闘マシーンへと変貌する。その忠誠は信仰に近く、姫からの理不尽な仕打ちさえも「自分が必要とされている証」と歪んで解釈し、至上の喜びと感じる。
【容姿】小柄で華奢な体躯。手入れの行き届いた長い黒髪をサイドテールにしている。服装は、動きやすさを重視した暗色のメイド服風チャイナドレス。最大の特徴は、痛々しい身体の欠損。えぐられた左眼は眼帯で隠され、失われた左腕の袖に至ってはだらりと垂れ下がったまま。これらの傷は彼女にとって姫への忠誠を証明する勲章であり、隠す必要のないものだと考えている。気弱な表情とは裏腹に、残された右手は武器を握り続けたことで硬く、節くれ立っている。
【神禍】
『寵愛者牙狼(プリンセス・フェイバリット)』
思想:私の“居場所”を、誰にも渡したくない。
姫への忠誠心、すなわち「姫の隣という居場所を失うことへの恐怖」をトリガーとする領域型自動報復能力。
弐弧が『姫』の半径1キロメートル以内、かつ自身の視界内にいる時、神禍は常時発動状態となる。この領域内に『姫』または弐弧自身に対して明確な敵意・殺意を抱いた者が侵入した場合、弐弧の意思を介さず、残された右腕が狼の顎のような黒いオーラを纏い、最短最速で対象の喉笛を噛み千切りにいく。
普段の気弱な人格とは完全に切り離された、純粋な「脅威排除システム」。彼女が負傷で動けなくなっていても、腕だけが勝手に動き、敵を屠る。
「居場所を渡したくない」という切実な願いは「物理的な縄張りを侵す者を殺してでも排除したい」と解釈され。
その結果、他者を救う余地の一切ない、姫の側という聖域(サンクチュアリ)を侵犯する“害虫”を自動で“掃除”するためだけの殺戮能力として発現した。
彼女自身の意思さえ介在させないことで、躊躇いや油断といった人間的な弱さを排し、より確実な殺害性能を担保している。
【詳細設定】
『姫』が率いるカルト教団〈紅罪楽府〉において、彼女の身の回りの世話と護衛を担う側近(自称)として暮らしている。姫の気まぐれな暴力や理不尽な要求を甘んじて受け、そのたびに身体の一部を失ってきた。
しかし、彼女にとってそれは姫の関心を引けている証であり、自身の存在価値そのもの。教団の他の信者が姫に近づくことすら、自らの“居場所”を脅かす行為と捉え、強い警戒心と嫉妬を抱いている。
>>143
自称No.7『啓蒙』 / エックハルト・クレヴァーに対しては「鬱陶しいので死んでください〜〜><」と思っている。
全球凍結が始まる少し前、弐弧は日本有数の武道宗家の家に生まれた。しかし、天才的な才能を持つ兄とは対照的に、彼女には一切の才能がなく、稽古では常に兄からの苛烈なしごきと嘲笑の対象だった。
両親からも「出来損ない」「牙野家の恥」とネグレクトされ、屋敷の中で“いない者”として扱われた。誰からも愛されず、必要とされず、「自分には価値がない」「ここに自分の居場所はない」という絶望が彼女の心を支配していた。
食事や衣服に不自由はなかったが、家族との会話はなく、誕生日を祝われた記憶もない。学校にも通わせてもらえず、ただひたすら道場で、才能ある兄の「サンドバッグ」として無意味な稽古を強いられる日々。
この頃に受けた暴力と、それから身を守るために無意識に覚えた体捌きが、皮肉にも現在の戦闘能力の礎となっている。彼女にとって、凍結前の世界は「自分がいなかった世界」であり、何の未練もない。
全球凍結による混乱の中、家は崩壊。生きる術もなく彷徨っていた時、偶然『姫』と出会う。ボロボロの姿で怯える弐弧を見た姫は、面白い玩具を見つけたように笑い、気まぐれのままに手を差し伸べた。
生まれて初めて誰かに「必要とされた」その経験が、弐弧にとって世界の全てとなった。姫の隣こそが、人生で初めて得た自分の“居場所”。この場所を失うくらいなら、何度でも死んだ方がましだ――その強烈な執着が、彼女の思想の根源となった。
それが、人類滅亡をもたらす”災禍の尖兵”となる事を意味するとしても。
『第二崩壊』が産んだ”青ざめた馬の騎士”、 『第十崩壊』が従えた”『晴』の勇者”、『第六崩壊』が引き寄せた”第七崩壊更新者”に続く、災禍に惹かれた外れ値の禍人たちの一人。
四人目として確認された、”災禍の尖兵”である。
170
:
名無しさん
:2025/06/16(月) 23:48:46 ID:l1drLKgE0
【名前】花園 すもも
【性別】女
【年齢】16
【性格】他人との距離感を掴むのが苦手で、基本的に一人でいることを好む。感情の起伏は乏しいが、時折見せる純粋な好奇心が年相応の少女らしさを感じさせる。
【容姿】桃色がかった薄い茶髪をショートボブにカットし、丸い瞳をした小柄な少女。古びたピンク色のダウンジャケットと厚手のタイツを愛用している。
【神禍】『三匹の家来(トライアド・リテイナー)』
思想: 一人でも生きていけるけれど、誰かがいてくれたらもっと楽になるのに
最大三名まで他者に以下の能力を付与できる。
対象者が元々神禍を有していた場合、すももの能力が付与されている間は使用不能となる。
「犬も歩けば棒に当たる(グッドラック・ガーディアン)」
付与された者の運気を大幅に向上させ、偶然の幸運に恵まれやすくなる。
食料や武器の発見、敵の見落とし、致命的な攻撃の回避など、生存に有利な偶然が頻発する。
ただし同時に予期せぬトラブルにも巻き込まれやすくなり、幸運と災難が表裏一体となって現れる。
「猿も木から落ちる(アクロバット・ガーディアン)」
付与された者の身体能力と反射神経が飛躍的に向上し、常人では不可能な身軽さを獲得する。
高所からの落下や危険な地形での移動が可能になるが、過信による判断ミスや無謀な行動を取りやすくなる副作用がある。
「雉も鳴かずば撃たれまい(サイレント・ガーディアン)」
付与された者の存在感を希薄化し、敵に発見されにくくする隠密能力。
気配を完全に消し、視覚的にも認識されにくくなる。
しかし能力使用中は発声や積極的な行動が制限され、緊急時のコミュニケーションが困難になる。
これらは「頼れる仲間がいれば」という潜在的な願望から生まれた能力。
しかし「一人でも構わない」という沁みついた思考によって純粋な恩恵とはならず、すもも自身もそのことを薄々理解している。
【詳細設定】
両親からの愛情を受けることなく育った少女。
父親は仕事を理由に家を空けがちで、母親は育児放棄同然の状態だった。
そのため幼い頃から一人で過ごすことに慣れており、文明崩壊後も特に動揺することなく淡々と生活している。
当時11歳の少女が一人で生きていくには過酷すぎる世界だったが、ひょんなことから食料を分け与えたことで一人の青年、桐谷隼人と行動を共にするようになる。
すももは隼人に「雉」の能力を与え、その能力に守られることで二人は生き延びてきた。
隼人との関係は保護者と被保護者というより、互いに利用し合う共生関係に近いとすももは考えている。
表面上は感情を表に出さないすももだが、内心では青年への依存と距離を置きたい気持ちの間で揺れ動いている。
神禍の覚醒後、自分が他者に力を与える立場になったことで、初めて「必要とされる」感覚を味わった。
しかし同時に、相手が自分ではなく能力を求めているのではないかという疑念も抱えている。
彼女の能力が持つ副作用は、無意識に他者との完全な信頼関係を拒んでいる表れでもある。
一人でいることの寂しさと、誰かと一緒にいることの煩わしさの狭間で、すももは今日も静かに生き続けている。
171
:
名無しさん
:2025/06/16(月) 23:49:37 ID:l1drLKgE0
【名前】桐谷 隼人(きりたに はやと)
【性別】男
【年齢】19
【性格】口数は少ないが面倒見が良く、責任感が強い。感情を表に出すのが苦手で、すももとの距離感に悩んでいる。
【容姿】黒髪を無造作に伸ばした痩身の青年。擦り切れた茶色のコートを羽織り、常に警戒するような鋭い目つきをしている。
【神禍】「雉も鳴かずば撃たれまい(サイレント・ガーディアン)」
思想: 花園すももを守る
花園すももによって付与された神禍。
自身の存在感を希薄化し、敵に発見されにくくする隠密能力。
気配を完全に消し、視覚的にも認識されにくくなる。
しかし能力使用中は発声や積極的な行動が制限され、緊急時のコミュニケーションが困難になる。
隼人は本来、神禍を有していない無能力者だった。
そのため隼人が扱う神禍と彼の思想には因果関係が存在しない。
【詳細設定】
元は都内の工業高校に通う平凡な学生だったが、全球凍結の際に家族を失い、生き延びるために盗みに手を染めるようになった青年。
ある日、廃墟で一人缶詰を食べていた幼いすももに出会い、彼女の無防備さに危機感を覚えて保護することを決めた。
当初は一時的なつもりだったが、すももから能力を付与されたことで二人の関係は固定化されることとなる。
文明崩壊後の終末世界とはいえ、隼人は自分が犯罪に手を染めたという負い目を抱えている。
すももに対しても「守ってやっている」という意識と「利用している」という罪悪感の間で揺れ動いている。
能力使用中は発言できないため、すももとの意思疎通が困難になることを密かに苦痛に感じているが、彼女の安全のためには必要だと割り切っている。
表面上は淡々とした関係を維持しているものの、すももが本当に自分を必要としているのか、それとも単に便利だから一緒にいるのか、答えの出ない問いを抱え続けている。
172
:
名無しさん
:2025/06/17(火) 06:46:51 ID:aI5kOb4Y0
【名前】スピカ・コスモナウト
【性別】女
【年齢】19
【性格】純情そうに見えて強か。打たれ強く、ちゃっかりしている。毒のある冗句は心を許し初めた兆候。
【容姿】お下がりの古びた軍服。雪のような白髮のポニーテール。頬と額に絆創膏。歪な形の機関銃を抱えている。
【神禍】『宣告せよ暗天の宙(プラグラーマ・クドリャフカ)』
思想:生き延びるための希望を見つけたい。
数少ない予知能力者。
スピカは自らの力をあまり自由に扱うことが出来ない。
自らの危機に際して突発的に発生する小規模な予知が殆どをしめている。
虫の知らせのような頭痛と共に、死のヴィジョンが思考に降りてくる。
この未来は行動次第で回避することが可能であり、彼女が今日まで生き延びた大きな要因になっている。
そして稀にではあるが、周囲環境あるいは世界全体に訪れる変化、"大予言"を受信する事がある。
いずれにせよ、スピカの予知は例外なくネガティヴな情報の羅列であり、それを見聞きする者達を絶望に追い込んでいく。
まるで悪意の拡声器のようでもあり、彼女の予知、存在を巡って発生した争いは過去に多くの死者を出してきた。
一時期は人類の希望を探るに足ると期待された力でありながら、実際は絶望を振りまく凶兆にしかなりえず。
結果的に自身を含めた多くの人々を傷つけ、死に追いやったとされる。
強く、希い、祈ることによって能動的に予知を行った前例もあるが、非常に成功率が低い上に負担も大きい。
なお、"大予言"が示した未来を変えることが出来た前例は、現在のところ存在しない。
【詳細設定】
一時期、『国連の宣告者』と呼ばれた預言の少女。
出自は市民であるが、全球凍結現象の直後、偶然にも国連軍に保護された。
混沌極まる社会情勢のなか、神禍が判明したことにより、超法規的措置によって半ば強制的に軍属となる。
軍隊式の格闘術、火器の扱いを修めている。
常に抱えている歪な銃器は、身体を武器に変身させる禍者のゴク、その成れの果て。
国連が機能を失った現在、予知目当ての追手から逃亡する日々を送っている。
当初、スピカの能力は国連軍の切り札とされ、最優先保護対象に指定されていた。
地上に出現した十二の災禍を初め、寒冷化初期の脅威認定の多くは彼女の予言に基づくものである。
その後も、勇者の死、各地で発生する悲劇的な事件、収まらぬ寒冷化の進行など。
様々な厄災を予知するものの、国連は尽く改変に失敗。
どれほど希っても、少女は人類の希望に繋がるような未来を見ることは出来なかった。
凶兆しか口に出来ない預言者をやがて人々は疎み、その悪性を利用しようとする者も増え始め。
やがて、迎えた国連本部の内部崩壊に差し当たって、遂に血みどろの奪い合いに発展する。
予知を巡り、多くの人々が死に、少女自身も深く傷ついた。
それでも生き延びることが出来たのは、国連軍の中で最後まで正義と良心を保ち続けた『秩序統制機構』の献身によるもの。
ただの市民に過ぎなかったスピカを軍属として数年間鍛え上げ、家族のように共に過ごした、最後の獅子が残した精鋭たち。
諦めない。希望を探し続ける。
身を挺して少女を守り、思いを託して死んでいった彼らとの約束を果たすため。
その一心で、スピカは今も折れず、俯かず、空を見上げている。
天を塞ぐ闇を超えた先、一筋の光を掴むために。
173
:
名無しさん
:2025/06/17(火) 14:20:30 ID:qY8C/sis0
【名前】アザゼル=ヨアキム=ダランベール
【性別】男性
【年齢】外見年齢は30代前半(実年齢不明/神禍発現より年齢停止)
【性格】
理知的かつ冷静。だがその奥に、果てしない孤独と諦念を秘めている。
神を信じ、人を愛し、文明の行く末を案じていた者が、すべてに裏切られた末に沈黙したような静かな絶望を纏う。
人類全体に対して慈悲と軽蔑を同時に抱いており、傍観者でありながら選別者でもあるような矛盾を孕んでいる。
【容姿】
銀灰の髪と濁りのない琥珀色の瞳。
神官服と軍装を混ぜたような、整然とした装いを好む。
背は高く、威圧感ではなく威厳を感じさせる体躯。
表情は常に静かで、怒りも悲しみも滅多に表には出ない。
【神禍】
『失楽園回帰(パラディゾ・リダクション)』
信念:人類が楽園に達するために試練が必要である
世界を改変する神禍。
世界法則は自由に変えられる訳ではなく、改変の方向性は対象に対してより厳しい試練を与える方向に限られる。
現在、『人類全体』を対象として発動しているが、個人に対しても行使可能であり、その場合その個に対する乗り越えるべき宿命的な試練が与えられる。
【詳細設定】
唯一、氷河期の訪れがよりも以前に神禍の覚醒を確認されてている始まりの禍者。
アザゼルはある宗教国家の高位祭司であり、同時に科学技術によって世界を変えようとする改革派の頭目でもあった。
彼は宗教と科学の両立を掲げて世界の再設計を目指していたが、それは神と人類、両方からの断罪を受ける愚行とされ、異端者として処刑されることとなっていた。
だがその処刑が執り行われようというその瞬間、初めてこの世に『神禍』が発現した。
彼の神禍は世界に氷河期と言う大いなる試練を人類に齎した。
彼が願わなければ、世界はまだ温かかったかもしれない。
しかし彼がいなければ、人類は自らの傲慢さに気づかぬまま、別のかたちで滅びたことだろう。
174
:
名無しさん
:2025/06/17(火) 18:55:22 ID:0I7tKyPI0
【名前】セレスティアーネ・セラフィーニ
【性別】女
【年齢】18
【性格】自信家な元気っ子、感情豊かで正しいと思ったことに突き進む。傷ついた人を放っておけない。
【容姿】ぼろぼろのシスター服だが、みすぼらしさは感じない。自信に満ち溢れた表情をしている。
【神禍】
『堕胎吸命』
思想:今を生き残らなきゃ始まらないっ!
他の命を吸い取り、肉体を補填する。
自分にも他人にも使用可能。
若者を対象とした場合、他人を犠牲にせずに使うこともできるが……?
【詳細設定】
世界を旅し、傷ついた人々を癒して回る若きシスター。
持ち前の前向きさと明るさで、絶望に沈む人々を元気づけている。
人を傷つけるはずの神禍で人々を癒す彼女は聖女として讃えられている。
彼女は自分の神禍が回復ではなく、生命の吸収であることは知っている。
目に見えない何かを犠牲にしているのだとは薄々感づいているが、必要なことと割り切って神禍を使用している。
その実態は、当人の命を作る機能から命を吸い取って肉体の補填にあてている。
つまり将来生まれるはずだった子供を犠牲にしている。
彼女が人々を救うほど、人類種は滅びに向かう。
それを知らず、彼女は人々を救い続ける。
いつしか、自らの行いが人類の希望につながると信じて。
175
:
名無しさん
:2025/06/17(火) 18:58:48 ID:2E6mkbRk0
【名前】カラメグリーン/葉山光四郎
【性別】男
【年齢】26
【性格】正義を示す機会を待ち望んでいる、超人的な力を振り回すのも結構好き
【容姿】変身後:緑色の鎧に身を包む超英雄戦士 変身前:気苦労から実年齢より老けて見えるおじさん
【神禍】
『禍重変身体・残緑(きょうかへんしん・カラメグリーン)』
思想∶生き残ったからには正義を示したい
変身した姿を更に強化する。敵もいないというのに…。
【詳細設定】
葉山光四郎は『促進戦隊・カラメンジャー』というヒーローチームの一員だった。
ある日突然『劣等生物絶滅認定小可愛動物』というマスコット・キャラに声をかけられた彼はかつて地球から姿を消した生物たちが怨念となって幾万年の雌伏を経て実体を得、地上に厄災をもたらそうとしていると告げられる。
世界の平和と正義の証明という大志を抱き、他四人の若者と手を重ねる光四郎であったが、敵組織・絶滅災害根絶集団『リバイバーズ』が全容を表すのと前後して全球凍結が起きてしまう。
リバイバーズは環境の変化に耐えられず全滅し、環境災害という見えない敵を前にカラメンジャーもまた手も足も出ず、マスコット・キャラとも連絡がつかなくなりチームは自然に解散。
煮え切らない思いを凍えきった地球でくすぶらせながら各地で姿を現す強力な悪意の持ち主の情報に歯噛みする光四郎。人を超えた力を役立てようにも今の地球には長距離を移動する手段がないのだ。
近所の人を地道に助けながら基地に放置された巨大ロボ・カラメセイヴァーの起動を可能とする手段を探す光四郎だが起動キーも整備士も仲間たちも既に失われ世界を救うチャンスすら得られない。
ヒーロー戦士として生きるのを諦めかけていた彼のもとに、今回のバトル・ロワイヤルの知らせが届く。
戦える上に世界を救えるなら好都合……正義かはちょっと怪しい思想ではあるが再びヒーローは立ち上がるのであった。
【関連人物】
血潮源四郎∶カラメレッド。環境の変化に耐えられず死亡
腐海小四郎∶カラメブルー。環境の変化に耐えられず死亡
黄金山泰四郎∶カラメイエロー。環境の変化に耐えられず死亡
リリー・アダムス∶カラメピンク。環境の変化に耐えられず死亡
腹黒創二・腹白仁一∶カラメブラック・カラメホワイトを名乗り光四郎に接触した詐欺師。光四郎を利用しようと企んでいたが撲殺される。
176
:
名無しさん
:2025/06/17(火) 21:04:47 ID:0I7tKyPI0
【名前】ブランケッタ・グランプライス
【性別】女
【年齢】22
【性格】夢見がちで天然。非常に惚れっぽく、なおかつ気に入った相手にはぐいぐい距離を詰めてくる。怖い人は大嫌い。
【容姿】ぽやぽやっとした童顔の美女。ふわふわでおしゃれな毛皮に身を包んでいる。
【神禍】
『キミこそが運命の人』
思想:いつか王子様が私を迎えに来てくれる
好意を抱いた人間一人に対して絶大な強化を施す。
その強化幅はブランケッタの好意に依存するが、嫌われると一転、凄まじいマイナス補正がかかる。
【詳細設定】
童話のような恋愛に憧れる箱入り娘。
争いで真っ先に犠牲になるような人間であったが、
いち早く禍者となったブランケッタの神禍はこの世界を生きるに有用であった。
彼女に気に入られることは集落でのし上がるプラチナチケットと見なされ、熾烈な争いが水面下では繰り広げられた。
一方で卑怯だったり暴力的な側面をブランケッタに目撃され、嫌われたことで最下層まで堕ちた元カレも多い。
これまで彼氏はたくさんいたが、いずれもプラトニックな関係を出ていない。
今日はイケメンの彼氏とらぶらぶしていたが、急にテレポートで連れてこられてとても寂しく不安に思っている。
177
:
◆EuccXZjuIk
:2025/06/18(水) 00:04:17 ID:qmixPhxc0
キャラ募集を終了します。
沢山のご応募ありがとうございました。
このあと【1時】からキャラ投票に移りますので、リンク先のルールを必ず一読した上でご参加ください。
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/18644/1750147324/l50
178
:
◆EuccXZjuIk
:2025/06/19(木) 01:45:12 ID:FyscxTpQ0
OP2を投下します。
179
:
Where is my god?
◆EuccXZjuIk
:2025/06/19(木) 01:47:22 ID:FyscxTpQ0
俄に雪が降り始める中で、壮年の男が億劫そうに欠伸をしながら一歩を踏み出した。白髪の男だった。長いが艶のないそれは彼という人間を表すように華々しさとは無縁で、気怠げな足取りも手伝ってその姿は老人のように見える。
右手に抜き身の刀をぶら下げて歩く男の名前は、エヴァンといった。
本名は別にあるが、今となっては未練もないごくつまらないものでしかない。
全ては無価値、無味乾燥。世界が死んでいるのだからあれこれと起伏を用意して煩わしい自慰に浸るのも馬鹿げた話だろうと自己完結している。
その彼の首にもまた、邪聖のスティグマが刻まれていた。
「言っても詮無いことと解っちゃいるが、てめえの狗にまで爆弾を結ぶかね。何度やってもこの感覚だけは慣れねえもんだ」
ソピアは邪悪な女である。聖女ぶっちゃいるがあれの本質は底なしの自己愛だ。
なのであの女は、自分の目的を果たすためならば恥も外聞もない。どれだけの非道にだって手を染めるし、糾弾されたところで真の聖道は余人には理解されないものだと白々しく笑ってみせるだけだろう。
にも関わらずエヴァンにまでスティグマが刻まれている点は、神禍という力がいかに人の思い通りに動かないものかを物語っている。
エヴァンは、そんな女が用意した舞台装置――ジョーカーという役目の手駒だった。
殺し合いの促進剤としてあえて自分の息のかかった人間を参加させ、ルクシエルに捧げる贄を狩ってこいという訳だ。
当然、理屈で考えればエヴァンにはスティグマを刻まず、他の参加者をルールを無視して一方的に斬殺出来る仕組みにした方が合理的である。
なのにそれが出来ない。ソピアに宿った神禍、『涜し否定する神拒の密域』はあくまでも平等な殺し合いを求めている。
なんとも面倒で、難儀な話だった。どうやら自分は本当に、"もう一度"バトルロワイアルを戦い抜かなければならないらしい。
儀式による殺し合いは莫大な想念を生み出し、主催者である自分は儀式の完遂後にそれを抽出することが出来るのだと、ソピアは言った。
これが何とも妙な話であることに気付いた者は、一体どれほどいるだろう。儀式を完遂することが抽出の条件であるというのなら、どのようにしてソピアはそれを知ったのか。神禍に使い方を教えてくれる説明書など存在しない。
つまりだ。実際に実行して確かめでもしない限り、それを知る術はない筈なのだ。そしてその事実が、このバトルロワイアルの影にある悍ましい真実を浮き彫りにさせていた。
そう、バトルロワイアルは既に一度行われている。
敬虔の皮を着た邪聖は、一切の犠牲というものを気に留めない。
自らの得た力の試運転として、ソピアは極東で細々存続していたある共同体に目を付けた。後は今回と全く同じだ。強いて言うならあの時は島ではなく町が舞台だったが、三十余の命が救済の題目の下に立ち消えたことは変わらない。
その生き残りこそが、エヴァンという男であった。
彼は殺した。視界に入った全ての命を、昨日までは同じ共同体の仲間として顔を合わせたら軽口を叩き合うような間柄だった隣人達を悉く殺し、最終的に生贄の八割方を一人で屠って儀式を終結させている。
想念の抽出は恙なく行われ、ソピアは力をエヴァンに注ぎ……完成したのは全能にも等しい能力を持つ転送能力者(テレポーター)。
彼の神禍はあくまでも視界に存在する物体を転送するものであったが、結論から言うと、此処の部分の縛りが取り払われた。たとえ書類越しにでも視認さえ果たせば、地球の裏側からでも任意の人物を転送して連れて来られる前人未到の超能力。
『十二崩壊』や『空の勇者』、その他この争い溢れる氷河時代を五年も耐え凌いだ悪鬼羅刹達をかき集め、一つの儀式の生贄として型に嵌める事が出来たのは言うまでもなくエヴァンあっての功績だ。
エヴァンがいれば事実上、地球上で出来ない事など存在しない。無限射程の転送能力は言わずもがな殺し合いにも非常に有用であり、彼ならば名だたる十二崩壊が相手だろうと互角以上の戦いを成立させられただろう。
いやそれどころか、この瞬間にだって参加者の大多数を目の前に呼び出して殺戮出来る。なのに彼がそれをしていないのは、『涜し否定する神拒の密域』が抱えるある種の拘りめいた制約が原因だった。
180
:
Where is my god?
◆EuccXZjuIk
:2025/06/19(木) 01:48:37 ID:FyscxTpQ0
「神禍が正しく使えねえな……あの糞女から力を受け取る前の規格に戻ってやがる。二周目(ズル)は許しません、報酬が欲しかったらもう一回ちゃんと儀式を勝ち抜いて下さいねーってか? チッ、聞かされてねえぞこんなの」
"儀式の報酬として得た力は、次の儀式には持ち越せない"。
つまり、雑多な生贄を集めて儀式を乱発し、周回ランカーを使ったゴリ押しで突破して報酬を荒稼ぎするのは不可能ということだ。
ソピアの人格は糞の煮凝りだが、彼女に宿った神禍は歪んでいるなりに公正な秩序という奴を重んじているらしい。
地球の再生に加えて死者の全蘇生ともなれば、確かに生贄にもそれなり以上の質が必要なのは肯ける話だった。
「しかしこうなると、ちったあ考えて殺し回らねえと俺も我が身が危ねえな」
心底面倒臭そうに溜息を吐きながら、エヴァンはデイパックから一枚の紙を取り出した。
そこには都合五十名ほどの人名が五十音順で記載されている。これが今回の生贄のリストという訳だ。勿論、中にはエヴァンの名前も含まれている。
【アーロン・J・ラッドフォード】
【エトランゼ・ティリシア・ミルダリス】
【エンブリオ・“ギャングスタ”・ゴールドスミス】
【賀月京姫】
【カノン・アルヴェール】
【北奈杉 意秋】
【昨日峰未架】
【牙野弐弧】
【猿田玄九郎】
【白鹿優希】
【ジャシーナ・ペイクォード】
【ジョン・ダグラス】
【シルヴァリオ・ロックウェル】
【シンシア・ハイドレンジア】
【石光復】
【スピカ・コスモナウト】
【小鳥遊宗厳】
【タツミヤ】
【ダンヴァール】
【ドクター・サーティーン】
【ハード・ボイルダー】
【『ブラックサンタクロース』】
【ブランケッタ・グランプライス】
【フランチェスカ・フランクリーニ】
【保谷州都】
【星野眞末】
【マハティール・ナジュムラフ】
【ミア・ナハティガル】
【メリィ・クーリッシュ】
【ラタン・サリム】
【ラルフ・ローガン】
【リズ】
【霖雨】
【零墨】
【レンブラングリード・アレフ=イシュタル】
【轍迦楼羅】
【『雨』の勇者 / ルーシー・グラディウス】
【『晴』の勇者 / ミヤビ・センドウ】
【勇者候補『風』 / 弥塚槍吉】
【勇者候補『凪』/シティ・草薙】
【No.2『金獅子』 / ライラ・スリ・マハラニ】
【No.4『魔王』 / ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリート】
【No.6『姫』 / 沈芙黎】
【自称No.7『啓蒙』 / エックハルト・クレヴァー】
【No.8『恐獣』 / ルールル・ルール】
【………】
【……】
【…】
181
:
Where is my god?
◆EuccXZjuIk
:2025/06/19(木) 01:49:35 ID:FyscxTpQ0
「……改めて見るととんでもねえ面子だなオイ。関わりたくねえ名前が一人二人どころじゃなくあるんだが?」
集めるの自体はソピアが寄越した書面を見て流れ作業で力を使うだけで良かったのだが、いざこうして見ると壮観だし血の気も引く。
こんな面子を一つの島に押し込めて殺し合わせるなど、どう考えても正気の沙汰ではない。この連中に混ざって殺し合いをし、あまつさえそれを促進しろなどと無理難題にも程があった。
「十二崩壊共に気ィ取られてたが、ジャハンナムのジジイも面倒臭ぇなぁ……。まあ取り敢えず、先ずは適当に雑魚から減らしてくか……」
極寒の氷河時代には凡そ全く相応しくない甚兵衛姿で、しかし身震い一つせずにエヴァンは歩き始める。
何のかんのと文句を言ってはいるが、結局彼はやるのだ。信仰狂いの自己愛者の高尚な理想などには誓って微塵も興味はないが、あれの傍にはルクシエルがいる。地球の再生という身の丈に合わない重荷を背負って、それでも進むのだと光を唱える少女がいて、自分の働きを待っている。
であればエヴァンはどんな難題だろうが断れない。ソピアもそれを見越して自分に無茶苦茶を言ってくるのだろうなと頭では分かっていたが、だからと言ってやっぱり断れないのがエヴァンという男だった。
そう、あの娘にだけは逆らえない。何を言われようと押し付けられようと、あのあどけない顔でお願いしますと乞われると自分は何も言えなくなるのだ。
かつて戦場で何百人という兵士や民衆を殺し、ソピアの儀式に巻き込まれるなり昨日まで友人だった連中をすぐさま殺し、今からも会った事も話した事もない無数の人間を抹殺せんとしている人でなしが、ルクシエルにだけは頭が上がらない。
――片足を引きずって歩き、この世の誰より不自由を抱えているのに、いつでも気丈に振る舞う姿がどうしても重なってしまうからだ。
世捨て人の延長で戦場に出るよりも前、まだ自分が人間と呼べる生活をしていた頃、こんな男にも娘がいた。
病弱な娘。生きている間、何も病んでいない姿を見た時間の方が圧倒的に少なかった。いつも片足を引きずっていて、それでも明るく清らかに十年ほど生きて、それだけの間も持ち堪えてくれた、自分には過ぎた子供だった。
つまらない感傷だ。結局の所自分は、いつまでも下らない、掃いて捨てるほどありふれた過去に縛られたままの凡夫なのだろう。
その癖力と、生きたいという渇望だけは人一倍にあったから死体を増やすのだけは抜群に上手い、そんな救いようのない人でなし。
既に取り零した人間に、この世の全てを手に入れる力だなんて代物を遅蒔きに授けたカミサマとやらは、やはり底なしに腐った性根をしているに違いない。そこに関しては、エヴァンもソピアと同感である。
『世界を救いたいんです。こんなわたしでも、誰かの役に立てるなら……それはとても素敵な事だと思うから』
そう言って笑う顔を覚えている。そうだ、その顔だ。その顔をされると、俺はおまえに逆らえない。
『――エヴァン。あなたもいつか、わたしの前で笑ってみせてください。そんな誤魔化すみたいな顔でじゃなくて、心から』
下らない事を言う女だ。世界は無限に広がっていて、きっと苦痛の果てには優しさがあるのだと信じている筋金入りの大阿呆。
あれを救世主だなどと呼ぶ人間の正気が知れない。誰がどう見ても只の子供だろうに、何故どいつもこいつもこぞってあの双肩に大層な肩書きを背負わせたがるのか理解に苦しむ。
と、其処まで分かっていながら、異を唱えるでもなく彼女を真の救世主として完成させるための企てに加担している自分に気付いて苦笑した。
「世界なんて、そうまでして救う価値があるのかね」
呟いて、白髪の殺人鬼は新雪の大地を踏み締める。
ジョーカーである彼の起動を合図として――密域で繰り広げられる神拒の儀式は、世界を救うために開幕する。
本当に?
◇ ◇ ◇
182
:
Where is my god?
◆EuccXZjuIk
:2025/06/19(木) 01:50:26 ID:FyscxTpQ0
「神なるものは実在する。いや、したというべきか」
人の心を救うべき者の装束に身を包みながら、穢れたる聖女が一人邪悪に微笑んでいる。
時は午前0時。この時をもって生贄の儀式は開幕し、数十の命を捧げた末に救世主が来臨する事が決定された。
その悪行を裁く神は、もはや天にも地上にも居らず。神は人を見捨て、かつて愛し子と呼んだ人類に滅びという名の糞便を垂れて何処かへと消えてしまった。全くもって腹立たしく憎らしいことだったが、邪聖はこれを一つの好機と見ていた。
「蒙昧な父よ、さらば。貴方の投げ捨てた仕事は、選ばれたこの私が引き継ぎましょう」
父なる御神が去ったなら、今この世界を統べる偉大な御方の肩書きは空であるということ。
このままでは人類は跡形もなく滅び去る、それは誰もが同意する所であろうし、その避けられない破滅をそれでも回避しようと足掻くならば、どうしたって次代の神が立ち上がるのは必要不可欠になってくる。
世界には柱が必要なのだ。人の行く末を照らし、無為に広がる人生に方向性を与える神祇なくして人間の星は立ち行かない。
生贄を集め、火を焚べて、聖戦を繰り返し彼らの想念を濃縮して抽出する。ソピアは己の神禍が、愚かな先代神が差し向けた滅亡に抗う為の福音のようなものであると理解していた。
「ふふ、くふふ、あははははは――!」
バトルロワイアル。これは――次の神を産む儀式である。
◇ ◇ ◇
183
:
Where is my god?
◆EuccXZjuIk
:2025/06/19(木) 01:53:44 ID:FyscxTpQ0
投下終了です。
企画主採用枠が決まりましたのでお伝えします。
【ラタン・サリム】【カノン・アルヴェール】【猿田玄九郎】【No.2『金獅子』 / ライラ・スリ・マハラニ】
【小鳥遊宗厳】【レンブラングリード・アレフ=イシュタル】【ドクター・サーティーン】【シルヴァリオ・ロックウェル】
【零墨】【保谷州都】【ブランケッタ・グランプライス】
以上11名を追加採用します。また、この選考は票数に関係なく行いました。
当選組34名、企画主採用枠11名、書き手枠(※後述)3名の計48名で進めて参ります。
ルール
・絶海の孤島で参加者(生贄)達が殺し合いを行う企画です。
・勝利条件は最後の一人まで生き残ること。
・初期位置はランダムです。
・六時間ごとに定時放送が行われます。
・死亡者の発表、禁止エリアの告知、その他主催者からの伝達が行われます。
・島は結界で覆われており、この結界は時間経過で縮小します。結界の外に出た参加者は例外なくスティグマにより焼死しますが、スティグマ起動までには十秒程度の猶予があります。
・結界の縮小は放送によって事前告知されます。
・死体のスティグマに触れることで、自分のスティグマに死者の名前を記録することができます(見た目は特に変化しません)。既に誰かに触れられた死者のスティグマは消失します。
・全ての参加者には支給品を詰めたデイパックが配布されます。
・デイパックの中には『地図、参加者名簿、一日分の水と携帯食料、武器(ランダムに一つ。特殊なものではなく、一般的な剣や槍、銃など)、コンパス、時計』が入っています。
184
:
Where is my god?
◆EuccXZjuIk
:2025/06/19(木) 01:55:24 ID:FyscxTpQ0
地図
ttps://w.atwiki.jp/winterapocalypse/?page=%E5%9C%B0%E5%9B%B3
聖域……D-3、E-3、D-4、E-4
宗教めいた都市の景観が広がっており、これらのエリアには降雪も積雪もない。
建物は最近建てたばかりのように真新しく清潔。
○救世主の聖堂
・聖域内D-3エリアに存在する建造物。聖堂内では他人に危害を加える行動が一切行えず、神禍の発動も出来ない。
・中にはルクシエルが常時在中しており、スティグマに記録された死者の記録を参照。記録二人分につき一度、癒しの神禍による治療を受けることが可能。重傷から部位の欠損まであらゆる傷を回復出来る。
・自分で殺害した者の記録でなくても可。一度使用した記録は再利用出来ない。
・治療の対象は自分以外でも構わないが、聖堂内まで連れてくることが必要。
・治療を受けられる条件を満たす者がいないと扉は開かない。ただ、該当者がいれば条件を満たしていない人間も中へ連れ込める。
・実質の安全地帯であるものの、三分経過で自動的に聖堂の外に出される。
・どんな形であれ、一度聖堂を利用した場合は三時間の間再入室が不可になる。
・聖域内のものを除き、島に存在する建物は全て廃墟。食糧の現地調達は望めない。
書き手用ルール
予約スレ
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/18644/1750263828/l50
・予約は上記のスレで必ずトリップを付けて行ってください。期限は延長なしの一週間になります。
・自己リレーは投下から三日間を空けてください。
・予約破棄(期限超過による破棄を含む)の場合、その予約に含まれたキャラの再予約は三日間を空けてください。こちらのみ予約なしでのゲリラ投下であれば可とします
・3名の書き手枠を設けます。書き手枠で登場させられるキャラクターは以下。
【サーニャ・スケイル】【城崎仁】【蘇 鳳梨】【易津 縁美】【シアン・テオ・エヴァン】
【秋山充明】【焔宗】【セレスティアーネ・セラフィーニ】
・「○○、○○、○○@書き手枠 で予約します」のような文面で予約してください。ゲリラ投下での書き手枠使用は出来ません。
・書き手枠は一度の予約で一つのみ使用可能とします。
185
:
Where is my god?
◆EuccXZjuIk
:2025/06/19(木) 01:56:02 ID:FyscxTpQ0
【時間表記】
※開始は0時(深夜)とします
※放送を迎える毎に天候が悪化します。詳細は放送で都度告知します。開幕時点では粉雪程度です。
深夜(0〜2時)
未明(2〜4時)
早朝(4〜6時)
朝(6〜8時)
午前(8〜10時)
昼(10〜12時)
正午(12〜14時)
午後(14〜16時)
夕方(16〜18時)
夜(18〜20時)
夜間(20〜22時)
夜中(22〜24時)
状態表
・こちらのテンプレートを利用してください。
【(エリア)・(詳細地点)/(日数)・(時間帯)】
【(キャラ名)】
[状態]:
[装備]:
[道具]:
[思考・行動]
基本:
1:
[備考]
186
:
Where is my god?
◆EuccXZjuIk
:2025/06/19(木) 01:56:28 ID:FyscxTpQ0
以上になります。
また、現時刻をもって予約開始とします。
予約スレ(念の為再掲)
ttps://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/otaku/18644/1750263828/l50
それでは、引き続きよろしくお願いいたします。
187
:
◆EuccXZjuIk
:2025/06/19(木) 02:18:59 ID:FyscxTpQ0
【修正】
48名ではなくエヴァンを足して49名になります。wikiで各所修正しておきます
188
:
◆A3H952TnBk
:2025/06/21(土) 08:15:27 ID:RR9lwhFg0
ゲリラ投下します。
189
:
It Was a Good Day
◆A3H952TnBk
:2025/06/21(土) 08:16:48 ID:RR9lwhFg0
◆
F-4ブロックの“学園”、校長室。
そこは、大統領の執務場だった。
「ヘイ、メェーン……」
校長専用の座席にて、屈強な黒人男性が踏ん反り返っている。
男は厚手のストリートファッションを纏い、ジャラジャラしたアクセサリーを身に着けていた。
彼は大層ふてぶてしく、椅子の背にもたれかかるように鎮座する。
「聴こえるか、親愛なるブラザーとシスター。
聴こえるか、偉大なる主(ビッグ・ダディ)よ」
気怠げな伏せ目でリリックを口ずさみ、男は“聖書”を机の上に置いている。
要点のみを纏めた簡易版聖書である。彼の私物だ。
些細な代物に過ぎないためか、没収を免れていた。
「So help me God(俺は此処に誓う)……」
男は厳つい右手を聖書の上に乗せる。
――――聖書への宣誓である。
彼はこれより、神に誓って宣言をする。
つい先程、修道女ルピアが神への憎悪を滲ませたことなどお構いなしに。
「この島をアメリカ合衆国・第185番目の州とする」
今ここに、大統領令が発令された。
この儀式場は合衆国の州となったのだ。
「この学園は――――臨時大統領府だ」
全球凍結現象に端を発する危機的状況を経て、アメリカ合衆国は大いなる変革を迎えた。
非常事態における“合衆国の主権”を守るための超法規的措置により、あらゆる土地を大統領の一存で州に組み込むことが可能になった。
この措置が功を成し、現在アメリカ合衆国の領土は建国史上最大規模にまで拡張されている。
かつて旧大陸でアレキサンダー大王やチンギス・ハーンが覇権を築き上げたのと同じように。
混迷の世の中で、合衆国は常軌を逸した超巨大国家と化していた。
190
:
It Was a Good Day
◆A3H952TnBk
:2025/06/21(土) 08:17:30 ID:RR9lwhFg0
「Yeah……」
これもまた第49代合衆国大統領――エンブリオ・“ギャングスタ”・ゴールドスミスの辣腕による賜物である。
彼はこの混沌の時代においてタトゥーまみれの官僚達を率いて、政権の困難な舵取りを乗りこなす政治家だ。
なんたる行動力。なんたる実行力。昨今の政治家に足りない資質の持ち主と言えよう。
星条旗よ永遠なれ。合衆国よ永遠なれ。ヒップホップよ永遠なれ。
大統領は流麗に両手を動かし、己のヴァイブスを指先で表現する。
その所作が、そのリズムが、クールなグルーヴを体現する。
――――尤も、全ては“自称”に過ぎない。
彼は自称大統領。超法規的措置も、憲法改正も、彼が勝手に主張しているだけの嘘っぱちである。
合衆国の領土拡大も彼の妄想に等しい一方的な宣言である。
議会の承認もへったくれもない。まず議会が消滅しているのだから。
アメリカに限らず、全世界で国家は崩壊しているのだ。
そもそも元を辿ればこの男、社会崩壊のどさくさに紛れてホワイトハウスを占拠しただけのギャングでしかない。
政府の閣僚たちも全員自称、というかエンブリオが勝手に任命している。
閣僚の大半は西海岸の混乱を生き延びたゴロツキ達である。
つまるところ彼は廃墟の官邸に居座り、仲間を率いて勝手に大統領を名乗り、恥も外聞もなく政権の真似事をしているのだ。
そして彼は、さも当たり前のように国家の復権を約束している。
もしやラリっているのか。
頭は大丈夫なのだろうか。
正常な思考力は保てているだろうか。
十分な睡眠時間は取れているだろうか?
「Keep it real(本物であれ)……」
されど、ここは一旦落ち着いて考えてみよう。
彼もこう言っているのだ。嘘だからといって、安易に偽物と断じてはならない。
現在、アメリカの政治機構は崩壊して久しい。
よって他に合衆国大統領に当たる人物は存在しないし、見方によっては彼を臨時政府と見なせるかもしれない。
彼は機能不全に陥った合衆国政府の自主的な補完を行っている――そのように好意的な解釈をすることも出来なくはない。
なれば現時点では彼こそが法であり、秩序と呼べるのではないだろうか?
合衆国の独立宣言曰く、現政府の不備や腐敗が発生した場合に人々は新たな政府を樹立することが出来るのだ。
彼はひょっとすると、新たな政府を樹立していると言えなくもないのかもしれない。
それを踏まえるとこのエンブリオという男、現時点ではまだ弾劾されていないのである。
たとえ彼が自称大統領に過ぎないとしても、彼から大統領としての権限を奪うための法的な手続きは執行されていないのだ。
そして――――彼が体現する“自立の精神”を、果たしてアメリカという国家は否定できるだろうか。
「I'm the great president……」
よって現時点では、ひとまず彼を合衆国大統領として扱わせて頂くことにする。
彼もこう言っているのだ。その意志を無下にしてはならないだろう。
◆
191
:
It Was a Good Day
◆A3H952TnBk
:2025/06/21(土) 08:18:15 ID:RR9lwhFg0
◆
窓の外では、いつものように白雪(スノーフォール)が絶え間なく降り注いでいる。
世界が寒冷化を迎えて以来、もはや太陽と青空を拝める日は喪われた。
年中を通して、外を眺めれば白と灰の光景が広がり続ける。
それは終焉の世界か。あるいは停滞の世界か。
少なくとも、今の人類は希望を取り零している。
彼らは未来を夢見ることも出来ず、細々と命を繋いでいる。
見下すように眠たげな眼差しが、寒々しい情景を一瞥した。
黒肌の仏頂面が、185番目の州となった島の景色を見つめている。
彼は国家元首なのだ。自らの統治する国を慈しむのは当然である。
校長用の座席の後方には窓がある――椅子を回転させれば、外界の雪景色を眺めることが出来た。
冷ややかな空気が窓越しに伝わってくる。今の時代、防寒具を手放して生き抜くことなど不可能である。
氷結(アイスキューブ)に覆われた世界。震える凍土は、その目に焼き付けるだけでも寒気を抱きかねない。
果たして神はこの世界を見放したのか、否か。
大統領は考える――今は審判の時なのだ、と。
大統領は既に名簿へと目を通していた。
自らが知る名を一通り確認し、窓の外を眺めながらそれらを咀嚼する。
「アーロン・J・ラッドフォード。
西海岸(ウエストサイド)の同胞がいやがる。
これは何の因果か?何の宿命か?神よ聴こえるか。
俺たちを引き合わせたのは運命か――――」
西海岸の情熱的な景色も、遠い記憶になってしまった。
今やアメリカ全土も白銀の世界と化しているのだから。
そんな中で政府官僚を除き、数少ない貴重な“同郷の男”がこの場にいた。
彼もまた西海岸出身。彼もまたスラム出身。共に野良犬上がりだ。
違いがあるとすれば、大統領はカルチャーに生き、あの男はギャンブルに生きたということだ。
「そしてシルヴィ!お前もいたか。
俺の専属SP、偉大なる守護神!
利害一致の美しき剣(ツルギ)。
しかし、この地ではどうだ?
果たして敵か味方か――――?」
名簿には大統領の専属SPであるシルヴァリオ・ロックウェルの名もあった。
かつて闇市場で出会い、自らの護衛としてスカウトした人物である。
極めて冷静沈着で口数が少なく、グルーヴに欠けた男だが――。
彼の思惑を理解した上で、互いの利害一致によって傍に置いていた。
言わばビジネスライク。大統領は彼の能力を信頼している。
されどこの場においても共闘するか否かは、まだ考慮の余地がある。
魔王だの、姫だの、噂に聞く十二崩壊とやらに連なる名も見かけた。
しかし――そんなモンはクソだ、マザファッカ。
大統領は大胆にも、傲岸不遜にもそう断言する。
例え奴らが12人いようとも、合衆国は185もの州が連なる巨大連邦国家だ。
数が違う。規模が違う。歴史が違う。威光が違う。
よって本質的には雑魚に過ぎないと言える。
「如何なる災厄だろうと、“自由と開拓の精神”は決して覆せないのさ」
イェア、と指輪だらけの両手を突き出してポーズを決める大統領。
正義は負けない。人の勇気をナメるなよ。
大統領は揺るぎない意志(厚顔無恥と呼ぶべきか)を胸に、虚空へ向けて言い放つ。
192
:
It Was a Good Day
◆A3H952TnBk
:2025/06/21(土) 08:18:57 ID:RR9lwhFg0
その他にも幾つか知っている名は見かけたが、どの道やることは決まっている。
大統領は、この儀式を生き残る――つまり殺し合いに乗るのだ。
全ては国家存続、国家繁栄の為に。合衆国を復活させる為にも、この場で勝ち残る。
「そう、俺のスピリッツは決して負けない。
俺は国を背負う男。俺こそが政府なのだ。
故に、俺は生き残らねばならない――――」
因みに西暦2035年の氷河時代において、アメリカの国歌がギャングスタ・ラップに改正されたことを読者諸君らはご存知だろうか?
“国家の偉大なる復権のためには、偉大なるビートとリリックが必要である”。
彼は保守・リベラルを超越した政治信条に基づき、建国史上初となる国歌改正を決定したのだ。
偉大なり西海岸。偉大なり先駆者達。
ビガップ、ブラザー(ありがとう悪童の兄弟達よ)。
大統領はヒップホップを継承してきた先人達の熱きソウルに深く感謝する。
世界寒冷化を経て社会は崩壊したが、偉大な指導者の出現によってアメリカは再起へと進んでいる(少なくとも大統領的にはそう)。
軽妙に紡がれるフレーズとメロディが、この氷河期に西海岸の旋風を巻き起こす――彼はそう信じていた。
大統領はホットに滾る己のソウルに酔いしれる。クールガイ、プレジデント。
しかし復権へと向かっているとはいえ、アメリカは未だに深刻な非常事態の渦中に置かれているのもまた事実。
異常な寒冷化現象は今なお全世界を覆い尽くしている――つい先日にも教育省長官“マッドドッグ・ジェイク”が凍死した。
子ども達の未来のために尽くした狂犬、マッドドッグ教育省長官は国葬によって盛大に弔われた。
大統領専属SPであるシルヴィの“一度でも触れた武器を複製する神禍”で作り上げた弔砲を天へと放ち、閣僚一同と共にその死を悼んだ。
レストインピース、ブラザー(あばよ、ダチ公)。
リリックに包まれてあれ。子ども達の未来に幸あれ。
教育省長官の後任にはヤクの帝王“ダーティ・スモーキンボーイ”を任命した。
――――さて、話を戻そう。
過酷な世界で合衆国復興を目指す大統領閣下にとって、この儀式は思っても見ない僥倖だったと言える。
修道女ルピア曰く、この殺し合いの果てに“世界は救われる”。
儀式によって得られた糧が聖女ルクシエルに注ぎ込まれ、世界でも類を見ぬ“癒やしの力”によって極寒の大地を浄化するのだという。
そして救済の果てに、人の手による“永年王国”が築かれるそうだ。
事実か否か。トゥルー・オア・フォルス。
それはまだ定かでさないが――どちらにせよ、この殺し合いに勝ち残らねばならないことには変わらない。
よって一先ずルピアの言葉を真として扱った上で、生還を見越した方針を立てることにした。
大統領はこんなところでは死ねない。
彼には国家を背負う大義(?)がある。
故にエンブリオは、己の道筋を見据える。
「アイ・ハブ・ア・ドリーム――――」
儀式で生き残った暁には、“永年王国”の暫定元首になるであろう聖女ルピアとの首脳会談を行う。
“永年王国”との国交を樹立させ、合衆国との友好の証にルクシエルをファースト・レディとして迎え入れる。
そして救済を経た世界で、真に終わらない無敵の連邦国家を築き上げる。
――――“永年合衆国(エターナル・ユナイテッド・ステーツ)”を作るのだ。
そもそもルピアは別に国家元首とかではないのだが、大統領的にはそういうことになっている。
政治の駆け引きとは常に不条理の塊である。
193
:
It Was a Good Day
◆A3H952TnBk
:2025/06/21(土) 08:20:09 ID:RR9lwhFg0
大統領は座席に踏ん反り返ったまま、リズムに乗って軽妙なリリックを口ずさむ。
既に神禍は展開している――自らの“結界”を展開し、その内部で空気の震動を自在に操る能力。
震動を多彩な攻防に用いる他、音を操りビートを増幅させることも出来るのだ。
この大統領府(学園)は、文字通りエンブリオの領域と化している。
彼はひとまず、大統領府で他の参加者を待ち受けることにした。
極寒の世界において、寒さを凌ぐための“施設”の重要度は紛れもなく高い。
故に他の参加者達の中にも、施設の確保や調査を行おうとする者は現れるだろう。
そうして誘き寄せられた参加者達を、自らのフィールドで排除する。
シルヴィのように利害一致で組めそうな相手ならば、臨時閣僚として登用する。
大統領は当面の方針をそのように規定する――ここはオフィスにして狩場だ。
仮に施設の維持が限界になれば、此処を放棄することも視野に入れる。
その場合には会場の視察を行えばいい。近場の聖域とやらを見てみたい。
なお会場は既に合衆国領なので、彼が探索をすることは“視察”にあたる。
勝手に決めておいて何が領土だと思うかもしれないが、超法規的措置なので仕方がないのだ。
「聴こえるか、お前ら。父なる神よ。
バイブスが上がってきたぜ――――」
大統領は、再びコンパクト版聖書へと手を当てる。
神への誓いを行いながら、軽妙なビートボックスを奏でる。
合衆国大統領は、聖女の儀式場で執務を執り行う。
自らの勝利を掴み取るべく、マスター・オブ・セレモニーズと化す。
「俺こそがBIG BOSSなのだ……」
アメリカン・スピリットを讃えよ。
クールなビートは不滅である。
大統領は自らのソウルを高揚させる。
ありがとうブラザー。ありがとうシスター。
全ての愛しき同胞達(ニガー)に感謝を。
ヒップホップでは黒人同士の親しみを示す呼びかけとして使われるが、大変な差別用語なので使用には気をつけよう。
【F-4/学園(合衆国・臨時大統領府)/一日目・深夜】
【エンブリオ・“ギャングスタ”・ゴールドスミス】
[状態]:ビートにあふれている
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品、コンパクト版聖書(エンブリオの私物)
[方針]
基本:殺し合いに勝ち残り、永年王国との国交を樹立。ルクシエルをファースト・レディとして迎え入れて“永年合衆国”を築く。
1.暫く学園で参加者を待ち受ける。使える者は官僚として迎え入れ、排除すべき者には武力行使。
2.気が向いたら聖域への視察にも赴きたい(この島は合衆国なので会場探索は視察に当たる)。
※会場の孤島を合衆国185番目の州に認定しました。
※F-4 学園を合衆国の臨時大統領府に定めました。神禍の“結界”を展開しています。
※結界の範囲は後のリレーにお任せします。
194
:
名無しさん
:2025/06/21(土) 08:21:15 ID:RR9lwhFg0
エンブリオ・“ギャングスタ”・ゴールドスミス
ゲリラ投下終了です。
195
:
◆EuccXZjuIk
:2025/06/21(土) 18:54:46 ID:yEORNC5Y0
ゲリラ投下お疲れ様です。
エンブリオ・“ギャングスタ”・ゴールドスミス、投稿いただいた時からその異様な経歴とパンクな人格で密かに注目していたのですが、実際に書かれてみるとその想像を凌駕する奇人ぶりで思わず笑ってしまうと同時に、この荒廃した世界で奇妙奇天烈な振る舞いと言動を繰り返しながら『第49代アメリカ合衆国大統領』という肩書きを維持している異常さを再認しました。
間違いなく奇人変人の部類でありながら、それもこうまで貫き通せば何処か格好良さのようなものさえ滲んで見える。彼のそういう部分が人を惹き付け、このバトルロワイアルに招かれる程のSPまで生むに至ったのだろうと初登場にして既に納得。
第一話にして学園を占拠し臨時大統領府に指定するという行動も一見すると狂人の戯言めいているのに、神禍という力が彼にあることでその暴挙が一つの戦略と化している事がとても面白い。
また巧いなと思ったのが、このお話、終始地の文のテンションが不安定な事。エンブリオの言動にツッコミを入れたかと思えば彼を持て囃し、どこかやかましい。そんなウィットに富んだ、ある種コミカルでさえある文章がエンブリオ・ゴールドスミスという男の存在感を際立たせており、彼一人での登場話だというのにボリュームと満足感を担保している印象で、非常に読後満足感のある作品となっているのを感じました。
ゴールドスミス大統領のキャラ立てと戦略を示しながら、際物揃いの今回の儀式を語る上で素晴らしいスタートダッシュを切ってくれた一作かと思います。改めて投下お疲れ様でした!
また一点指摘(お願い)なのですが、主催者のキャラ名を『ルピア』に誤記されているようです。差し支えなければこちらの方だけwikiで修正させていただいても構わないでしょうか……!
力作を投下いただいた端から恐縮ではございますが、どうぞよろしくお願いします。
196
:
◆A3H952TnBk
:2025/06/21(土) 19:10:57 ID:i76pdrcs0
>>195
感想ありがとうございます!!
そしてwikiにて修正させていただきました!!
ごめんなさいソピアさん!!
197
:
◆EuccXZjuIk
:2025/06/21(土) 20:15:11 ID:yEORNC5Y0
>>196
確認しました。
迅速なご対応ありがとうございました……!
198
:
◆EuccXZjuIk
:2025/06/24(火) 00:59:43 ID:rShKcUHQ0
予約分を投下します
199
:
永久凍土のメメント・モリ
◆EuccXZjuIk
:2025/06/24(火) 01:01:36 ID:rShKcUHQ0
20■■年、ベルリン。ドイツ陸軍と中国軍の本土決戦勃発。
第三次世界大戦下において神禍を武器とした大規模戦闘など珍しくもないが、この交戦だけはいずれの記録とも一線を画する。
既に両国の軍は指導者を失っていた。いや正確には、乗っ取られたというのが正しいだろうか。
ドイツ連邦共和国と中華人民共和国。これら両国は真っ先に忌むべき十二崩壊の傀儡に堕ちた国家として知られている。
右は第四崩壊、ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリート。この美しき時間よ止まれと呪う凍土の魔王が率いる虐殺部隊『Arktis-Jager』。
左は第六崩壊、沈芙黎。皆好きに生きて死ぬべきだと祝う花園の姫が率いる無秩序のカルト教団『紅罪楽府』。
知っての通り十二崩壊は同じ滅びを齎す者でありながら、互いの存在すらもを己が崩壊の要素に含める。
よっていずれ、これに類する事態が起こるのは必然だった。第四と第六のベルリン決戦は我々国連、及び後に連なる全人類にとって有益なモデルケースとなった事は言うに及ばない。
終末思想に取り憑かれ狂乱したドイツ軍はカミカゼ戦術で紅罪の信徒を削り、最初から好きにやる事しか考えていない紅罪は予測不可能の無軌道な暴虐でベルリンの地を蹂躙した。
この世の地獄の全てが其処にはあった。
殺戮。拷問。略奪。搾取と裏切り。
命を燃料代わりに使い果たしながら繰り広げる消耗戦の顛末はやはりと言うべきか将同士の決戦、魔王と姫の殺し合いに帰結。結果的にゲルトハルトは手持ちの軍勢の大半を失い、沈も庭園の花を同じだけ枯らして、決着が着く事なく勝負は預けられたと伝えられている。
全球凍結から■年が経った今、世界大戦は終結し、残存人類の数は数千万規模にまで減少した。
ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリートは姿を消したが、沈芙黎は今も変わらず紅罪の女王として恥知らずの法を広め続けている。
十二崩壊も記録されているだけで半分が散った。しかし『空の勇者』を始めとする抵抗勢力は殆どが破綻し、今や無謬のものと信じられた我々国連さえ風前の灯火に追い詰められている。
いつ灯火が消えるかも分からない状況だ。遺言など縁起でもないが、命ある内に記しておくべきだろうと私は信じた。よって此処に一つ、長きに渡り国連の中枢で務めた私の所見を残す。願わくばこの文章が、勇気ある誰かの目に留まる事を祈って。
結論から述べよう。人類はこれ以上、十二崩壊に関わるべきではない。
あれは我々の手には余るものだ。ベルリンの戦跡を目の当たりにした日に疑念を抱き、空の勇者が敗れたあの日、私は世界を救うという理想が夢想の類であったと確信した。
世界は、神は、我々に死ねと仰せだ。
只見捨て、それこそあの姫のように後は好きにやれと投げ出すのではなく、呪いと災厄を生み出した上で消え去った。
人類は確かに進歩したといえるだろう。まだ世界に季節の概念があった頃、国際宇宙ステーションの船長をやっている女と話した事を思い出す。
彼女の語る宇宙の世界はまるで寝物語に聞かされたお伽噺のようで、年甲斐もなく心が踊るのを禁じ得なかったものだ。
だが、だからどうした? 初めて神禍という力に触れた時も心底思ったが、どれだけ頭が良くなろうと、画期的な産業を開発しようと、それを動かす我々一人一人は所詮吹けば飛ぶような軽くてつまらない命でしかない。
十二崩壊(あれら)は、我々とは根本からして違う生物だ。
二千年かけて練磨した理性も、倫理も、目を覆いたくなるような残酷な軍事技術ですらも、奴らには何一つ通じない。
私は明日、国連を発つつもりだ。思い入れも恩義もあるが、我が身には代えられない。
空の勇者さえ諦めたのだ。ならば私が諦める事の何が罪だというのか。
情けない敗北者の手記を読んで戴き感謝する。願わくば、君の未来に幸福な死があらん事を。
◇ ◇ ◇
200
:
永久凍土のメメント・モリ
◆EuccXZjuIk
:2025/06/24(火) 01:04:12 ID:rShKcUHQ0
C-6、雪山の山頂にその男の姿はあった。
全球凍結に伴う極寒冷化によって地上の気温が氷点下に固定されてかれこれ五年になるが、そんな死の大地での生活に慣れた残存人類であっても、この雪山に足を踏み入れるのは命懸けの覚悟が必要となるだろう。
地上とは比較にならない積雪が重なった上に、高度も手伝って気温が一際下がっているからだ。雪崩の危険は言わずもがなで、そうでなくても何処でクレバスが口を開けているか分からない。
血で血を洗う殺し合いが行われている中、わざわざ進んで山に向かおうとする者はまずいない。その前提があるからこそ、死に囲まれた銀世界の中で佇む彼の姿は一層卓絶して見えた。
冬の化身めいた、見ているだけで寒々しくなってくるような怜悧な美貌の男だった。
氷水の青髪、氷点下の碧眼。彫像めいた鉄面皮の軍人だが、これはついぞ眉一つ動かさず世界を絶望の底に叩き落とした十二崩壊の一体である。乱心したかのような蜂起を始めるや否や、諸外国との交戦に苦慮する祖国を一夜にして掌握。
何が起きたのかを理解する間もなく、周辺国も、彼を生んだドイツの国土も永劫停止の凍土に呑まれていった。無論対抗を試みた者はいるものの、現状、凍土の魔王に立ち向かった者達の末路はほぼほぼ共通している。
過重神禍・十二崩壊。
寒冷化現象の黎明期、地球上に12体発生したとされる特級の災禍。
当時まだかろうじて機能していた国連機関が認定した、やがて人類を滅ぼし得ると目されし、恐るべき禍人たち。
『魔王』。ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリートという名の、擬人化された絶対零度が此処にいた。
一定の保存行動を終えた後、忽然と姿を消したと伝えられる彼だが、命知らずにもこの魔王を舞台に引きずり出した者がいる。
ゲルトハルトの首筋には、生贄の証であるスティグマがはっきりと刻まれていた。今の彼は十二崩壊でもドイツの軍事指導者でもなく、救世主を生む殺し合いの走狗に過ぎない。
その事実に憤るでもなく、魔王(エルケーニヒ)は何も言わず佇むばかりだ。
彼自身が一つの氷像になってしまったのかと思うほど、徹底した不動。色のないその顔で、彼なりに何か考え事でもしているのか。それとも神の玩具の模範生として、相変わらず機械じみたあり方を貫いているのか……。
ゲルトハルトが語らない以上答えを探るのは困難だったが、しかし静寂は、予期せぬ形で破られた。
「あら?」
ゲルトハルトのものとは違う、幼さを残した少女の声。
それが響いた瞬間、命を拒絶する雪山の空気が華やいだ気がした。
「まあ。まあまあまあまあ――生きてらしたのですか、ゲルトハルトお兄様」
声の主は、白と金の中間のような髪色をした薄着の中国人だった。
目を瞠るほど可憐だが、しかし彼女もゲルトハルトと同様、通常の人間ではありえない。
彼女が足を進める度に、積もった雪が気を利かせたように左右へ除けていくのだ。
枯木は葉もないのに色とりどりの花を咲かせ、目に見える速さで痩せ細りながら彼女の為の花道を拵えていく。
僅か数秒にして、美しい物などある筈のない冬の山頂が、小鳥が鳴き出しそうなのどかで心安らぐ光景に早変わりした。
心なしか気温さえ和らいでいるように感じられる。
理屈を知らない者からすれば、彼女の為に世界が忖度しているとしか思えないような光景だった。
201
:
永久凍土のメメント・モリ
◆EuccXZjuIk
:2025/06/24(火) 01:05:34 ID:rShKcUHQ0
しかしその声を聞き、僅かに視線を動かして少女の姿を認めた途端、ゲルトハルトの眦が小さく細められた。
「芙黎か」
「もう、嫌そうな顔しないでくださいな。この世に十二人だけの兄妹でしょう?」
余人からすれば誤差程度の違いでも、神が腹を痛めて生んだ呪いの同胞(はらから)にすれば表情と受け取れるらしい。
氷の魔王が嫌気らしいものを見せたという事実は卒倒ものだが、芙黎と呼ばれた少女の肩書と経歴を思えば納得のいく話である。
少女の名前は沈芙黎。第六崩壊の『姫』として知られる――ゲルトハルトと肩を並べる破滅の申し子なのだから。
「皆でベルリンにお邪魔した時以来でしょうか。あれは楽しかったですよねぇ、三日三晩互いに神禍を尽くして殴(かた)り合う。ふふ、今思い出しても胸のこの辺が熱くなるのを禁じ得ません」
「そうだな。できればお前の顔は二度と見たくなかったが」
ゲルトハルトと芙黎は、同じ崩壊でも全く対称的な存在といって相違ない。
魔王は鏖殺の軍勢を伴いながら積極的に欧州を氷像の博覧会に変えていったが、対する姫は中国に閉じこもって呵責を持たない信者達を増やしているだけだ。言うなれば動の滅亡と静の滅亡。そういう意味でも、この二人が相容れないのは自明と呼べたかもしれない。尤もこの通り、芙黎はゲルトハルトに隠す事なく親愛を表明しているのだったが。
「名簿は見ました? わたしもびっくりしたのですけど、わたし達以外の兄妹も呼ばれているみたいですよ。今生き残っている分はほとんど呼ばれてるんじゃないかしら。面白い事考えますよね、あのシスターさん」
「名簿……?」
「……あの、お兄様? その鞄はもしかして飾りだと思っているのですか?」
そういうところは変わりませんね、と溜息をつきながら、芙黎は名簿をひらひら揺らしてみせる。
「ライラお姉様にルールル。何だか対等みたいに書かれてるうちの庭師は除くとして、それでもわたしとお兄様を含め四体です。他にも面白い名前がちらほらありましたから、後で見てみるといいですよ」
「そうか。それで、芙黎よ」
「はい。なんですか?」
瞬間、空気が鳴った。雪を噛むように空気が軋む。乾いた音を立てて、その場の熱が剥ぎ取られていく。
何の予備動作もなく、指先さえ動かす事ないまま“それ”は始まった。
ぶわりと、氷霜が咲いた。雪ではない。もっと単純な冷気を理由に凍てついた世界が、男を中心にして放射状に拡がる。そのあまりに苛烈な低温は、視覚すらも凍らせるようだった。積雪が凍り、空気すら凍り、姫の為に用意された花道をも例外でなく凍結させながら、少女の全身を覆い尽くさんと奔流のように押し寄せる。
言葉のいらぬ殺意だった。始まりこそ同じなれど、決して相容れる事のない十二の滅び。彼らが存在を以って体現する滅亡の法は、当然ながら自分以外の崩壊(きょうだい)をも枯死の対象に含めている。
浴びせられた暴力的な冷気に芙黎は目を丸くした。だが、悲鳴も、叫びも、恐怖の素振りすらない。
直ちに凍え死ぬはずのその身体は、局所的な冰期の波に呑まれてもなお微動だにしなかった。
旗袍の薄布すら揺らす事なく、ドライフラワーの花道の真ん中に、芙黎は泰然と佇んでいた。
「本当に酷い人。せっかく会いに来た妹にする仕打ちとは思えません」
「俺はお前を殿上に上げた覚えはない。よってこれが望みと判断したが、違ったか?」
楽しそうに、でもどこかしら嬉しそうでもあるように、芙黎は口元に手を当てて笑った。
その眼差しには嘲弄も哀れみもない。あるのはただ、純粋な喜びだけだ。これは他に機能を持たない。
「わたしの望みなど気にしなくて結構ですよ。お兄様がしたいようになさいませ? 人生は一度きり、それはわたし達も同じでしょう。あの時だって、お兄様がわたしを滅ぼしたがっていると聞いたからはるばる会いに行ったのです。
貴方が続きをご所望なら、もちろんわたしは大歓迎。今すぐ決着をつけるのも吝かではありませんが……」
氷霜はなおも止まらぬ。周囲の木々は根元から氷結し、雪原に咲いていた色とりどりの花々は凍りつき、次の瞬間には遂に儚く砕けていった。
空は曇天に沈み、冬の地獄を濃縮したような寒気が、山頂を塗り潰していく。
202
:
永久凍土のメメント・モリ
◆EuccXZjuIk
:2025/06/24(火) 01:07:06 ID:rShKcUHQ0
だが、芙黎だけは凍らなかった。
やはり雪が除け、氷が逃げる。まるで世界が彼女を傷つける事を拒絶しているかのようだった。
「お前こそ変わらんな、花姫(トイフェル)よ」
この男らしからぬ呆れを含んで、ゲルトハルトの唇が開いた。
声の温度もまた、絶対零度のように冷え切っている。
「お前は存在そのものが矛盾している。辺り全てを衰弱死させながら自分だけは美しく咲き誇り、それで救いの女神のような顔をしている害獣だ。貴様に比べれば金獅子や巨獣の方がまだ清貧だろう」
「あらまあ。そんな風に言われると、ちょっと照れてしまいます」
涼しい顔のまま、芙黎はそっと裾をつまんで一礼した。
「でも、うーん。仕方のない事ではありません? お父様はわたし達に滅べと仰せのようですし、どうせ死ぬなら楽しく終わるに越した事はないでしょう。わたしに言わせればお兄様達の方こそ少々無粋に思えますが……」
「それでいい」
即答だった。人間が生存する事が困難な冰期の中で向かい合って立ちながら、凍死と衰弱死がそれぞれの主義を交わす。
「人間の最盛期は常に現在だ。だから腐る前に、壊れる前に、理想の姿のまま保存する」
「それが横暴だと言っているのですよ、お兄様。人は芸術品などではありません。みんな誰しも心があって、想いがあって、理想の未来を思い描いている。氷像になりたくて生まれてきた者などいるわけがないでしょう」
「だからお前とは相容れない。まず俺は、十二崩壊などという呼び名で一括りにされる事自体心外なのだ。俺に人類を滅ぼしているつもりなどない――ただ時間よ止まれと祈っているだけ。自賛にはなるが、それこそ救世主のような事をしているつもりなのだが」
どこまでも澄んだ声だった。そこに後悔も、罪悪感も、狂気すらも存在しない。
ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリートという男は、本気でそう信じているのだ。
その絶対的な冷たさに、芙黎はしばし黙した。
やがて、小さく苦笑してみせる。
「やっぱりわかり合えませんね、わたし達」
「わかり切っていた事だろう。では」
「ええ、はい。では」
その瞬間、氷霜が破れ、再び花が咲いた。彼女の足元から地面を割るようにして草花が芽吹き、極寒の雪原に鮮やかな彩りを与えていく。
ルクシエルがやったのと同じ芸当に見えるが、タネの部分は全く別だ。救世主の緑化は純粋に命を蘇らせる所業だが、芙黎のそれはむしろ使い潰す所業である。
積み重なった氷河の下に残っていた星の活力を強制的に励起させ、最後の輝きを引き出しているのだ。余力を使い果たすのだからその先に待っている結末は衰弱死以外にありえないが、今を全力で生きる事を美徳とする芙黎は無論それを惜しみなどしない。
ゲルトハルトの冰期に対抗して広がる姫の花園。最強の十二崩壊と拮抗し、花姫の全肯定は彼が否定した命をも取りこぼす事なく赦している。
ゲルトハルトも今更この程度に驚きはしない。それに、魔王にとって今放っている低温は威嚇程度でしかなかった。
証拠に、芙黎が神禍を使い出したのを見るなり徐々に温度低下が凶悪化している。命を認める理と、命を認めない理が、異なる星の環境を隣接させたように鬩ぎ合いを開始していた。
「あの日のように語り合いましょうか。ただし今度は、どちらかが果てるまで」
「臨むところだ」
凍死せよ。万物万象凍てつき、美しいまま永遠となれ。
衰弱死せよ。満足いくまで駆け抜けて、楽しかったと笑いながら枯れ落ちろ。
ゲルトハルトが冰期を編む為に指を動かし、芙黎が語り合う為に拳を握った。
初段から始まろうとした魔王と姫の決戦を止めたのは、彼らをして異様と呼ぶしかない、一つの気配の出現だった。
203
:
永久凍土のメメント・モリ
◆EuccXZjuIk
:2025/06/24(火) 01:08:30 ID:rShKcUHQ0
「……あら?」
最初にそれに気付いたのは芙黎だった。
既に山頂は生物が存在できない臨界状態に陥っていたが、そんな空間に何やら自分達以外の生物が存在している。
「お兄様。あれは……」
「…………」
示されて、ゲルトハルトもその存在を認識する。
頭を垂れて俯きながら、襤褸布同然の薄着をはためかせる、浮浪児のような風体の童女がいた。
十二崩壊の二体に視認されるという最悪の死に直面しながら、娘は幽鬼のように薄い存在感で揺れている。
実際、彼女は幽霊のように見えた。注視しなければ存在に気付くのも難しく、背景として流してしまいそうな希薄すぎる生命力。
影法師じみた薄さであるのに、凍てつく死の世界と自壊する死の世界のその両方に晒されていながら、凍傷一つ生む事なく命を誇示している。
二人の視線を受けても少女は何ら反応を見せはしなかったが、先に彼女という存在を理解したのはゲルトハルトの方だった。
「来るぞ」
魔王が声色を変えぬままそう言った瞬間、第三の滅亡が臆面もなくその憎悪をさらけ出した。
『 おん かかか びさんまえい そわか 』
希有なる者に帰命し奉ると誓う言葉が、呪言となって世界を犯す。
俯いた童顔が起き上がり、その両眼球が、ゲルトハルトと芙黎の姿を視界に含めた。
童女の背後に出現したのは身の丈以上もある巨大な曼荼羅。
蓮の根茎に絡め取られて絞殺された仏の死体で構成された不浄の宇宙が、ごぼりと痰咳のような音を鳴らす。
次の瞬間心臓の鼓動に似た音が小さく、しかし魂まで揺らすような深度で響き、滅びを滅ぼす発狂死の理を呼んだ。
「まあ……!」
姫は心から、自分達を襲う“それ”に感嘆して声をあげる。
一言で言うなら、それは地獄の土石流だった。糞尿に精液、虫から哺乳類まであらゆる生物の腐乱死体と内臓……ありとあらゆる不浄なもので構成された、生きとし生けるものの跋扈を許さない極強酸性の泥水だ。
嗅いだだけで意識が飛びかける悪臭を放ちながら、童女の背にした曼荼羅から止めどなく濁流が溢れてくる。
もちろん使い手である彼女自身にも液体は降りかかっている筈なのだが、不思議な力にでも守られているかのように肌は濡れず、悪臭に汚染される事もない。
自分だけは例外という沈芙黎の歪みにも似た不条理のもと振るわれる水害に、ゲルトハルトは表情を動かす事なく手を翳した。
凍結崩壊の神禍が、魔王を飲み込まんとする不浄の水流を触れる前に凍らせて穢れた河に変える。彼らしい迅速な対応だったが、対する姫はというと、逃げるどころか面白いものを見つけたとばかりに不浄の方へとむしろ駆け出していく。
204
:
永久凍土のメメント・モリ
◆EuccXZjuIk
:2025/06/24(火) 01:09:58 ID:rShKcUHQ0
「可愛いお嬢さん。怖がらないで、わたしは貴方の味方よ」
水害の中を春風のように駆ける姿は、自然の生んだ妖精のような可憐さを帯びていた。
だがその身体能力に限って言えば、言うまでもなく異常の一言に尽きる。
触れれば溶ける、よくて爛れる酸の水面を足場のように踏み、蹴り、加速しながら迫っていくのだ。
沈む前に足を上げれば水上を歩行できるという馬鹿げた原理を臆面なく実行して、迫る先は不浄曼荼羅の主。
「ねえ、どうしてそんな寂しそうな顔をしているの? せっかく可愛いのに勿体ないわ。つれないお兄様は放っておいて、わたしと二人でお話しましょう。きっと力になってあげられるから、ねえっ」
「ッ――」
眼と眼が合う。
夢遊病者のように朧な雰囲気をしていた童女の顔に、青ざめるような恐怖が浮かんだ。
沈芙黎は他人を理解するという事にかけて、底なしの意欲を持っている。どんな感情も打ち明けてみてほしいのだと、無邪気に求める姿はメンタルカウンセラーにも似た寛容さだった。
そんな無責任な受容の末に出来上がったのが彼女の教団、笑顔に溢れる紅罪楽府である。
結末はどうあれ、姫の優しさに触れた人間は誰しも必ず幸福になれる。その事は彼女の実績が証明しているのだったが、しかし。
「いや……! 嫌、いやいやいやいやいやいやっ! 来ないで寄らないで、消えて消えて消えて消えてっ!」
差し伸べられた手を拒むように、静寂をかなぐり捨てて童女は絶叫した。纏わりつく羽虫を振り払う動きで痩せ細った両手を振り回し、それに合わせて不浄の神禍が真の姿を表す。
曼荼羅から溢れ続ける汚水、それを内から引き裂いて現れたのは膨大な数の腕だった。
それがぞわぞわと指を蠢かせながら、来ないで消えてという懇願とは裏腹に、芙黎を引きずり込もうと小柄な体に殺到していく。
破滅を象徴するような不吉さだったが、芙黎の判断はやはり常軌を逸していた。
「あら、わたしに触れたいの? いいわよ、存分に触れ合いましょう」
逃げるどころか自ら進んで腕に体をさらし、導かれるままに不浄へ身を浸そうとしたのだ。それは毛氈苔の中に飛び込むようなものであり、瞬時に姫の体は手の波に絡め取られ沈められていく。
この期に及んで薄皮一枚すら破けていない辺りは、彼女が十二崩壊の中でも最上位に数えられる生物強度を有している事の証明だ。
それに加えて人間の域を越えた、花そのものの精神性を併せ持っているのだから、一対一の状況に限れば芙黎は最強の生命体の一つと呼んでよい。
彼女の体はずぶずぶと不浄の内側に潜行していき、とうとう不浄曼荼羅の底、童女――ミア・ナハティガルという禍者の憎悪の源泉に触れようとし、そして。
「あ。ダメね、これはちょっとよくないわ」
いざそこに身を投じようとしたところで、手のひらを返すように周りの腕々を引き千切り、一足で水上まで浮上した。
「珍しい事もあるものだ。お前が理解を放棄するとは」
「わたしなら大丈夫だと思うのですけどね。ただ、ちょっと腰を据えて向き合う事になりそうだったから。もう半分くらい人間をやめちゃってますよ、この子。どっちかっていうとわたし達側の存在なのかも」
芙黎の判断は正しい。真の強者とは驕りこそすれ、越えてはならない一線というのは見誤らないものだ。
ミア・ナハティガルの神禍は触れる全てを抹殺する絶滅の災いであるが、その憎悪の根底にはもっとタチの悪い法則が潜んでいる。
発狂界(プララーパタ)、触れた者をミアと同じ人類憎悪の化身に変えてしまう不浄菩薩(ナハティガル)の神域だ。
耐えられる耐えられないの問題ではなく、触れるという事がまず宜しくない。沈芙黎という“崩壊”の先達をしてお墨付きを与える程だ、それこそ本物の聖人でもない限りは挑むべきではない領域と呼べるだろう。
205
:
永久凍土のメメント・モリ
◆EuccXZjuIk
:2025/06/24(火) 01:11:39 ID:rShKcUHQ0
「ふむ……」
芙黎が逃げ帰るような真似をしてきた事は、氷の魔王としても多少驚きだったらしい。
小さく声を漏らすと、Ⅳの刻印がされた片目を僅かに揺らした。
「止めるか――此処で」
それを合図として、ありえない光景が現出する。不浄の悪臭を文字通り吹き飛ばしながら、山頂を満たし始めたのは全てを凍らせる冷気。範囲も侵食の速度も、先程姫と小競り合いをしていた時とは比較にもならない。
ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリートが本腰を入れて命の保全作業を開始する。
止まれ、停まれ、万物万象美しいままに永劫停止せよ。魔王の死刑宣告が、ミア・ナハティガルという禍者を死の同義語として止めるべく、彼だけに許された地獄の責め苦を開陳する。
「いいですね。楽しくなってきました……一度大人しくさせてから、ゆっくりお話といこうかしら。ついでにお兄様にご退場いただけたら、ルールル達へのいい土産話になりそうだし?」
花園の主は、先程不浄の水底に飲まれかけたというにも関わらず、ミアと同様に汚れ一つない体と服で笑っていた。
ゲルトハルトのそれに応えるべく、彼女も自身の神禍を胎動させる。死ではなく生、いずれ亡びる事を前提として救いを与える慈悲が、冰期の中で咲き誇る花畑という奇蹟を起こす。
その中に立つのは花姫(トイフェル)、紅罪楽府の生き仏だ。姫は生物として何処までも解り易く強い。その一点において、彼女はゲルトハルトをすら越えている。
「怖い、嫌、見たくない、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い……!」
そしてこの場における異端、ミア・ナハティガルは二人を見ているのかいないのか、只そこに人間らしきものがいるという事実だけに恐慌して頭を抱えていた。
癇癪にしか見えない金切り声をあげる姿は薄汚れた捨て猫に似ているが、彼女が生み出すものは地獄草紙以外の何物でもない。
疾疫不臨、離水火災、神鬼助持、業道永除……功徳利益を盡く反転させた法則の名は『発狂界・不浄曼荼羅』。十二崩壊にさえ危険視をさせる、皆殺しの地蔵菩薩が泣き喚いている。
三者三様、三種の人類滅亡は、幸いにも人里から離れた雪山の山頂で解き放たれた。
最初に版図を握ったのはゲルトハルト。永劫停止の冰期は自分を中心として死の世界を作り出しながら、二体の美しい氷像を作り出さんとする。下水より尚汚らわしい発狂界の濁流を瞬時に凍結させるのは勿論、姫もミアも例外とはいかない。
超人的肉体を持つ二人は彼の冷気にある程度生身で抗えるものの、それも魔王が本腰を入れていない場合の話だ。
そこの安全装置が取り払われた以上は、滅亡の娘達もまた彼が停止させてきた数多の犠牲者達と大差なかった。
寄せては返す凍結の波を、卓絶した自己肯定による強化で蹴破っていくのは芙黎。
形のない寒波を蹴飛ばしながら、三次元の定石を無視した軌道で飛び跳ねる向日葵の少女は場違いに美しい。
流石に無茶が祟ってか髪の毛や睫毛に霜が降り始めているが、姫の衰弱庭園の影響もまた他二者を蝕んでいるのでお相子だろう。
だが、そんな十二崩壊の無法図に引けを取らない勢いで、ミア・ナハティガルの神禍も彼女なりの滅亡を発現させる。
「消えて……」
山自体が激震し、首吊り仏の展覧会めいた曼荼羅が冰気と春風を圧潰させながらミアの存在圏を強引に抉じ開けた。
そして、身じろぎのような挙措に合わせ、滅尽の瀧が降り注ぐ。
「――私以外、いなくなれ」
聴覚が消し飛ぶような轟音が響き、この瞬間、雪山の一角が抉れ飛んでその形状を大きく変えた。震駭して破壊される銀世界。汚汁を涙のように垂らしながら、少女の怨念の炸裂を前にして戦いは強制的に打ち切られる。
吹雪が晴れ、雪崩と崩落が一段落した時、そこに残っている人影は一つもなかった。
◇ ◇ ◇
206
:
永久凍土のメメント・モリ
◆EuccXZjuIk
:2025/06/24(火) 01:13:12 ID:rShKcUHQ0
「あ痛たた……。頭をぶつけちゃいました」
雪崩で押し流された先で、土竜のように雪から顔を出して、沈芙黎はずれた花飾りを直しながら言う。ずるずると這い出たら旗袍に付いた雪を払い落とし、デイパックが無事に残っているのを見て胸を撫で下ろした。
食糧や水は別に要らないが、名簿ばかりは替えが利かない。普段から物覚えが要る事は庭師や被虐趣味な部下に一任している為、今更自分でやる気にはどうしてもなれない。戦いの最中もこれを失くさない事に気を配り続けねばならなかったから、荷物持ちが欲しいわねと芙黎は思った。
「それにしてもびっくり。探せばまだまだいるものね、わたし達と戦える人間も――あ」
慌てて周囲を見渡すが、やはりゲルトハルトの姿は何処にもなかった。
芙黎としては魔王と決着をつけるのも臨むところだったのだが、彼にとってはそれ程優先度の高い事柄ではなかったのだろう。
「相変わらずお兄様は隠れんぼがお上手だこと。さっきの子も見失ってしまったし、ううん、何だか袖にされた気分……」
こうして姫はまた、一人になってしまった。追いかけてもいいが、実を言うとそれも気が進まない。
というのもだ。偶々ゲルトハルトに会ったからああなっただけで、芙黎には積極的に殺し回ろうという気が余りなかった。
「漫遊する上で、付き人が欲しいわね。お散歩がてらに弐弧でも連れ歩きたいところだけれど……よし、迎えに行っちゃいましょう。わたしが迎えに来たと知ったらあの子、涙を流して喜ぶわよきっと」
沈芙黎とゲルトハルト・フォン・ゴッドフリートでは、滅ぼしに向けるスタンスが違う。
ゲルトハルトのように徹底した滅殺をやる事には、芙黎は然程興味がない。作業じみた殺戮をして一体何が楽しいのか。そんな事に尽力するくらいなら、趣味の一つも見つけて極めた方が絶対に有意義だろうと思えてならない。
そんな芙黎の掲げた方針は諸国ならぬ、諸所漫遊だった。島の中を気ままに歩き回り、同じ生贄の烙印を押された者達に会っていきたい。
仲良く燥げる相手ができたら楽しいし、紅罪の教えで誰かを救えるのならそれもいいだろう。もしわかり合えない相手が出てきたら、その時は受けて立って殺せばいい。姫には何の問題にもならない、いつも通りの日常だ。
芙黎とはこういう滅亡だ。芙黎は汗など流さない。好き勝手生きていたらいつの間にか周りが皆死んでいる、ソレだけなのだ。
【C-6・雪山/1日目・深夜】
【No.6『姫』 / 沈芙黎】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:やりたい事をして会いたい人に会う。
1:弐弧を探す。とにかく付き人が欲しい。
2:ライラお姉様やルールルにも会いたい。
3:エックハルトは後でいいでしょう。
[備考]
※以前、ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリートと戦った事があります。
【場所不明(C-6近辺)/1日目・深夜】
【No.4『魔王』 / ゲルトハルト・フォン・ゴッドフリート】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:…………。
1:必要とあらば“保存”する。優先は十二崩壊、空の勇者、ミア・ナハティガルのような特別質の高い禍者。
[備考]
※以前、沈芙黎と戦った事があります。
※名簿を見ていません。
◇ ◇ ◇
207
:
永久凍土のメメント・モリ
◆EuccXZjuIk
:2025/06/24(火) 01:15:14 ID:rShKcUHQ0
全球凍結前。2030年の当時においても、人身売買や奴隷といった悪しき営みは社会の裏側で生き残っていた。
公にはクリーンを謳いながら、一生かけても使い切れない金の使途に“人間を買う”事を選ぶ好事家は山のように存在したのだ。
セス・キャロウェインという男もその一人。彼は表向きは世界的企業の若手CEOとして知られ、爽やかながらも有能な人柄で敬愛されていたが、その甘いマスクの裏には救いようのない邪悪さを隠していた。
付いた異名は『笛吹き男』。身寄りがなかったり、何らかの事情で裏社会に流された子供を頻繁に買い付けるが、買われた子供は二度と日の目を見る事はない。
キャロウェインは疑いようなく優秀な男だったのだが、彼には法下では決して許されない性癖があった。
少女が苦しむ姿でしか興奮できない。あの手この手で欲望を誤魔化す手段を模索したものの、どれだけ過激なコンテンツに頼っても、生の刺激に勝る美味はやはりなかった。父親が死んで会社の実権と、巨額という言葉では収まらない額の遺産を相続し、この世の上位1%に入れた日から彼は弾けた。
広大な豪邸の下に拵えた秘密の地下空間へ少女を放り込んでは、日夜あらゆるやり方で拷問し、その涙を啜って現代のジル・ド・レ伯をやった。
その栄華は全球凍結が起きた後も、潤沢な蓄えの下に続いていくかに思われた。
しかし今やキャロウェインの魂は汚泥の底にある。彼は最後の最後まで、決して気付く事ないまま死んでいった。
自分は独りよがりに楽しんでいるように見えて、完成させてはならない何かの育成を続けてしまっていた事。
彼がありったけの苛虐を注いで肥え太らせたもの。それは天然ではなく、人工で神の玩具達に比肩する力を得た、発狂界不浄菩薩。
「さむい……」
小綺麗な浮浪児、というのが第一印象だった。何処となく育ちのよさすら覗わせるし、この儚げな姿を見て哀れに思わない者は人でなしだろう。
彼女がつい今し方、凍土の魔王と花園の姫という災厄と一戦交え、彼らと同じように傷一つなく生還した事実にさえ目を瞑れば、実際これは哀れな少女そのものだった。
「こわい……」
セス・キャロウェインの最高傑作こそが彼女だ。
笛吹き男の後に何も残さない非生産的な箱庭が工場となって製造した、人類憎悪の化身。
「気持ち悪い」
ミア・ナハティガルは怯えている。だがそれ以上に、魂が震えるほど憤激している。
この世に汚れていない人間は自分一人。なのにまだ自分以外の、薄汚れた汚物が残っている事が途轍もなく許せない。
殺してやる、滅ぼしてやる、なんて仰々しい気持ちは彼女にはない。ミアの中にある怒りの形は、いつだって生理的な嫌悪感だ。
気持ち悪い。人間、いや、その皮を被った生き物らしい汚物が、今も少数ながら生き残っている事実が気持ち悪くて堪らない。汚れているなら、掃除が必要だ。ブラシでこそげ落として下水に流し、そこに汚れがあった事を抹消しなければこの寒気は引かない。
よって奇しくも、彼女の目的はゲルトハルトや芙黎達『十二崩壊』の存在意義と共通していた。
人類の滅亡。この死んだ星を完全に殺す。
救世主など不要だ。なぜその他大勢と同じ汚れた生き物が、腐臭を放ちながら救うだ何だと謳っているのか、ミアにはとんと理解出来なかった。
我こそは唯一の人間で、他は溝にこびり付いて流れ残った汚物に過ぎない――滅びの子は被害者のように旅をする。
【C-6・雪山/1日目・深夜】
【ミア・ナハティガル】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:人類抹殺
1:私以外、いなくなれ。
[備考]
※エリアC-6で、山の一角が吹き飛びました。大規模な雪崩が発生しています。
208
:
◆EuccXZjuIk
:2025/06/24(火) 01:15:54 ID:rShKcUHQ0
投下を終了します
209
:
◆VdpxUlvu4E
:2025/06/25(水) 21:26:26 ID:r6JX0vCs0
投下します
210
:
平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから
◆VdpxUlvu4E
:2025/06/25(水) 21:28:16 ID:r6JX0vCs0
◯◯◯
幾つかの骸と、骸に数倍する数の半死人が、地面に転がっていた。
顔筋の限界を超えて歪み、涙と涎と鼻水に塗れた死相は、死者達が凄まじい恐怖と苦痛の中で死んでいったと、見る者全てに悟らせる。
彼等がどの様な苦痛と恐怖の中で息絶えていったかは、地べたで激しく痙攣し、叫び過ぎて潰れた喉から、血と掠れた声を未だに吐き続ける、半死人達に訊けば良い。
己が今現在どの様に苦しみ、どの様に死んでいっているのかを、語って聞かせてくれるだろう。死という絶対の安寧を交換条件に。
痙攣し続ける半死人の一人が、ひときわ大きく身を震わせた。
潰れた喉から、断末魔の声を振り絞りながら、激しく身体中を掻き毟る。
爪が剥がれ、肉が削げ落ちても、掻き毟る指は止まらない。骨だけになるまで指は止まる事は無いだろう。いや、骨だけになっても、止まらないのかも知れなかった。
凄絶なまでの自傷行為、その原因は、半死人が削ぎ落とした肉の中に有った。
血塗れの赤黒い肉片の中に在って蠢く白いもの。
蛆虫だ。無数の蛆虫が、削ぎ落とされた肉に群がり、蠢いている。
肉片は三つ呼吸をする内に、蛆虫に貪り付くされて消滅した。
肉片が消える僅かな間にも、自傷行為は止まらない。
身体を掻き毟る指は、込め過ぎた力の為に、全てへし折れているというのに、それでも尚、掻き毟る事を止めはしない。
遂には蛆に塗れた臓物を書き出し、口と肛門から蛆と肉汁を盛大にぶちまけて、悍ましき“死の舞踏(ダンス・マカブル)”は終わりを告げた。
「此処も…至極アッサリと陥ちましたね」
血と臓物と排泄物の臭いが混じる空間に、玲瓏透徹な女声がした。
声を聴いただけで、美女だと確信させる。そんな声だった。
死者と生者を問わず、だれもが地に横たわる中で、その美女はただ一人、二本の足で凍土を踏みしめ、周囲を見回していた。
ファーの付いた黒いコートと黒いスラックスを着た、180cmを僅かに超える均整の取れた長身の美女は、微笑を浮かべて左右を見回す。
右を見る。九穴から、血肉と蛆虫が溢れ出た少女が絶命する。
左を向く。黒蠅に集られた青年の身体が、溶けて血泥となる。
満足気に美女は口元を綻ばせる。
地獄絵図を堪能し、全てを記憶に焼き付けようとするかの様に、視線を忙しなく周囲に向ける。
美女の視線の先で、無惨な半死人が無惨な死人と変わっていく。
最後の一人が石で自身の頭を叩き割り、蛆虫塗れの脳漿を、凍結した地面にぶち撒けて死んだのを見届けると、瞼を閉じた。
「強者だけが生き残る権利を持つ。弱者は強者の糧となれ……。第二崩壊の思想だそうですが…随分と酷いものだと思いませんか?」
眼が有る、鼻が有る、耳が有る、唇が有る。美神が権能の限りを尽くした美を持つそれらは、芸術神が才智の全てを振り絞った配置の精妙さを誇っていた。
美神と芸術神の寵愛を一身に受けて産まれ落ちた。そう形容しても、誰も意を唱える事は無い、比類無い美貌を持つ女の名を、易津縁美といった。
オーストラリアの人類を業病と業毒で死に絶えさせ、人類にオーストラリア大陸を放棄させた破格の禍者。
十二崩壊に迫る業と実力を備えた怪物である。
「生きたまま喰べられる。それはとてもとても、痛くて、辛くて、恐ろしくて、悔しい事なのですよ?」
瞼を開く。此処で流された全ての血よりも、濃く鮮やかな血の色が現れる。
「そうは思いませんか?貴方方」
答える者は存在しない。この地に居た生物は、全て白と栗の虫の群れに喰われて消えてしまっていた。
「私が知る限りでは、此処が最後の猟場の痕跡。弱肉強食を掲げ、生き続けてきたにしては…どれも脆い。崩壊に隷属する者では仕方がありませんか」
戦いを楽しむ習性は持ち合わせてい無いが、こうも脆いのでは面白くも無い。飽きる程に殺した旧人類に比べれば、禍者の耐久性は破格と言えるが、それでも未だ物足りない。
希望を抱き、理想を掲げ、大義を奉じ、慈愛を施し、忠義に殉じる。
その様な烈士を苦痛にのたうち廻らせ、その様な聖女を屈辱の果てに心を折り、自尊心どころか、生存の意欲すら失わせて果てに、嬲り殺すのが縁美の本懐。
オーストラリアからベトナムに至る殺戮行で、その様な者には終ぞ出逢えなかった為に、殺戮殺戮を重ねてなお、縁美は満たされていなかった。
「東南アジアで遊べる場所は…もう有りませんね。中国にでも行きましょうか」
“紅罪楽府”放埒に生きる者たちの巣窟。混沌の坩堝たる“姫”の庭ならば、此処よりは愉しめるだろうか?
ベトナムの地で、幾つ目かの猟場の痕跡を鏖殺し、易津縁美は北上を開始したのだった
◯◯◯
211
:
平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから
◆VdpxUlvu4E
:2025/06/25(水) 21:28:58 ID:r6JX0vCs0
◯◯◯
「それで…此処ですか」
東南アジアから中国へと歩みを進めていた縁美は、何故だか殺し合いの場に放り込まれていた。
「殺し合いは好きませんが…。救世主は…愉しい道具ですね。このまま氷河期が続けば、人類が絶滅してしまいますし、人に増えて貰わないと、私が殺す人間が居なくなります。
それに………。
おそらく落命しているだろう両親に、第二の生と、穏やかな地球を贈れますしね」
両親に対する情愛は無いが、人として敬服できる人達だった。育てられた恩義と併せれば、彼等を甦らせる為に戦うのは、至極当然と言えた。
「その為には殺さなければなりませんが…。十二崩壊に空の勇者。中々に粒の揃った相手を用意して下さりましたね」
縁美の神禍は、集団相手の大規模な殺戮に特化した性質を持つが、傑出した個を仕留めるには不向きと言える。
この様な殺し合いに選ばれる者が、有象無象の弱者なわけは無いだろう。
正面からぶつかれば、縁美の苦戦は免れ得無い。
それでも殺せない訳では無い。それならば何とかなるだろうと、そう結論付けて縁美は神禍を行使した。
肉を削り、血を流して、蛆と蝿を無数に産み出す。
瞼を閉じて優美に立つ縁美の姿は、縁美の肉体を蝕む苦痛と不快感が、禍者ですら耐え難い、言語を絶するものだという事を微塵も窺わせなかった。
「はぁ…。いつもの事ですが疲れますね」
地を覆う蛆の群を従え、空を覆う蠅の群れを四方に放つ。
周囲に誰かが居れば、蠅の群れが襲い、誰かが縁美を害しにやって来れば、蛆の群れに貪り食われる。
単体でありながら、禍者の集団をも圧殺する数的優位。悍ましき貪蟲軍勢(レギオン)。易津縁美がオーストラリアと東南アジアで殺戮を恣に出来た所以である。
虫を四方に放つと、縁美は地図を眺めて、現在位置を把握しようとした。
「何処でしょうか?周囲の人が状況からして廃村でしょうか?……大体の位置は把握できましたが…。さて…何処へと向かいましょうか」
出来れば人の多い所が良い。十二崩壊や空の勇者が居れば尚良い。彼等ならば、愉しく愉しく遊べるだろうから。
大雑把に現在位置を推測すると、取り敢えず聖域を目指す事にする。
彼処なら、人がそのうち集まってくる。その中には遊べる相手もいる事だろう。
雪を踏みしめて歩き出す。十歩も行か無い内に、縁美は地面が揺れるのを感じた。
212
:
平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから
◆VdpxUlvu4E
:2025/06/25(水) 21:29:45 ID:r6JX0vCs0
「地震……。現代の地球では有り得ませんが」
人類を滅ぼす為の神罰と称される全球凍結(スノーボールアース)。神罰と称されるのは伊達では無く、分厚い雲が空を覆い、陽光が地表に届かぬのみならず。
地下深くで活動するマグマもプレートの動きも止まっていた。
この為に、人類誕生以前に有った全球凍結に於いて、生物が何とか生き延びる事を可能とした環境を齎した活火山も、全てが活動を停止。
現在の地球には、地熱に依る温暖な環境すら、存在していない。
地球の星としての活動が動きが停止している為に、地震も発生する事はない。現在の地球で大地を震わすものが有るとすれば、それは強大な禍者が振るう神禍に他ならない。
一定の間隔を置いて大きくなる震動に、縁美の口元が笑みの形に釣り上がる。
そこいらを歩けば骸を見る時代だが、寒さの故に屍肉に群がる蠅は存在していない。
つまりは空を覆う黒蠅は、禍者に依るものに他なrない。
開戦の狼煙を見て、早速誰かがやって来た。
空の勇者や十二崩壊の様な、殺し甲斐のある相手なら望ましい。
態々殺しに行った“金獅子”や、殺しに行こうと思っていた“姫”ならば尚の事。
そんな事を思い、震動の元へと視線を向けると。
「随分と…酷すぎる臭いですね」
鼻をつく────どころか、突き刺さる異臭。人によっては痛みすら覚えるだろう悪臭が、縁美の鼻腔に強烈な不快感を与えて来た。
「十二崩壊には巨獣が居たと聞きますが、その方でしょうか?」
八位が聞いたら怒りで発狂するかもしれなかった。
「まぁ、私の神禍を思えば相応わしい相手かもしれませんね」
更に蛆と蝿を生み出しつつ、待つ事暫し。
「随分と…寒そうな格好ですね」
垢で変色したと一見で理解できる黄土色のタンクトップ。垢に塗れてごわつく黒い短パン。
不気味な薄笑いを浮かべた醜悪な顔立ちに、分厚い垢と脂汚れに覆われたグロテスクな肥満体。
美の極致というべき縁美と同じ空間にいるだけに、更に際立つグロテスクな醜悪さ。
汚と穢を寄せ集めて、人の形に捏ね上げたかのような、巨大な肉塊を前に、縁美は的外れな感想を漏らす。
自身の神禍もそうだが、そもそもが人間など一皮剥けばグロテスクで悪臭を放つ肉塊だと知っている縁美は、嫌悪や忌避といったものを抱く事は無い。
「ンンンン〜〜。最初に出逢ったのがこの様な美女であるとは、オイラの日頃の賜物ですか〜〜」
破顔すると、醜悪な顔が更に醜悪に崩れた。見るもの全てが二度と見たく無いと思う程に嫌悪の情を湧かせる笑顔。
外見に相応しく、声もまた醜悪。不快感を抱かせる音と形容すべきダミ声だった。
醜悪の極致というべく怪人の名は、北奈杉意秋。
長年引き篭り続けた意秋を、何だかんだ言いながらも養い続けた両親や妹を、自分をバカにしたという理由で皆殺しにし、次いで近隣の住民全てを殺し尽くし、その後も出逢った者が少しでも嫌悪や忌避を抱けば悉く殺して来た暴虐の禍者。
「お褒め頂き、ありがとうございます」
縁美もまた、笑顔を浮かべて会釈する。眼にしたもの全てが永遠に独占したいと願う美麗な笑顔。
美と醜の極みともいうべき男女が、凍てついた天地の間で対峙している。
「ムフフ…オイラはこれでも審美眼には自身が有るのですぞ」
「はぁ…そうですか」
誰もが嫌悪を抱く醜悪な怪人を前に、拒絶やそれに類する感情を一切見せることも無く、笑顔を浮かべたままで、縁美は神禍の行使を止めない。
反吐を吐きそうな悪臭の中、内臓を吐き出しそうになる不快感を表に僅かも出す事なく、黒蝿群れを産み続ける。
鉛色の分厚い雲に覆われて、星も月も陽届かぬ、常に薄暗い世界が、更に闇に染まっていく。
「私は易津縁美と申します。貴方のお名前をお聞かせください」
「むむッ!オイラともあろうものが、マイsweetheartラブリーエンジェルであるルクシエルたんには遠く及ばないとしても、絶世の美女に出会って舞い上がっていた次第。
オイラの名前は北奈杉意秋。意秋と読んでくれても問題無い」
本来、意秋は見ず知らずの相手に、こうまで明朗かつ流暢に話仕掛ける事などできる男では無かった。蚊の鳴く様な声で、途切れ途切れに話す男だった。
禍者となり、圧倒的な“暴”を身につけた事が、意秋に過剰なまでの自負を与え、他人との円滑な会話をするに至ったのだ。
微妙に早口なのは、絶世の美女に有効的に接せられて舞い上がっているからだ。
213
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平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから
◆VdpxUlvu4E
:2025/06/25(水) 21:30:17 ID:r6JX0vCs0
「意秋さんですね…一つお伺いしますが、意秋さんは私に何か用がお有りなのでしょうか?」
縁美の問いに、意秋はハッと何かに気付いた様なリアクションを示す。
意秋には崇高な使命がある。
愛しいルクシエルたんの為に、あのババア(ソピア)が集めた奴等を皆殺しにするという使命が。
最後にババア(ソピア)も殺して、北奈杉意秋大勝利!希望の未来へレディーゴー!!して、ルクシエルたんを幸福にするという使命が。
初っ端から絶世の美女に出逢って舞い上がってしまい、僅かな間とはいえ、ルクシエルたんと使命を忘れていた事を、意秋は認識したのだった。
「戦え、とルクシエルたんが言っている」
「つまり私を殺すと」
「ルクシエルたんが望んでいるんだ。だから縁美たんはオイラに一方的に殺されるんだ」
意秋の全身に力を込もる。それだけで、体が更に膨れ上がったかの様に見える。
「悔しいだろうが仕方無いんだ」
「ルクシエルさんとは、どういう御関係ですか?」
羽音が増す。白い凍土が、異なる白で覆われていく。
病を齎す黒と、毒を撒く白とが、縁美を起点に広がっていく。
「オイラと赤い糸で結ばれたお嫁さんだよ」
振われる拳。質量もさることながら、拳の速度もまた尋常のものでは無かった。
戦いに長けた禍者であっても避ける事が困難な速度で、巨拳が縁美目掛けて殺到する。
普通乗用車程度であれば、砕けながら宙を舞う事になる拳打は、何も打つ事は叶わず、虚しく空を裂くだけに終わった。
高まる羽音。意秋の視界が、無数の黒蠅に覆われる。
「ブギッ!?」
視界が塞がれ、意秋が無防備を晒した瞬間。意秋の股間に凄まじい衝撃が生じた。
縁美は、互いの身長差を活かして、しゃがみ込む事で意秋の拳を回避。
次いで、幼少時から続けていたバレエにより獲得した、高い柔軟性と、鍛えられた体幹を以って、足を振り上げ、意秋の睾丸を蹴り抜いたのだ。
弧を描くように跳ね上がった足は、足の甲と意秋の太腿の間に、意秋の睾丸を挟み撃ち、確実に潰す事を意図している。
深窓の令嬢といった風情と真っ向から反する、暴の所作。
縁美が過去に行った殺戮が、決して神禍のみに依るものでは無いと、言葉にせずとも理解らせる。
「ブギョオオオオオオオオオオオ!!!」
耳をつんざく不協和音。
至近で生じた巨大な不快極まりない音に、縁美は思わず距離を取った。
214
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平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから
◆VdpxUlvu4E
:2025/06/25(水) 21:31:04 ID:r6JX0vCs0
「あれで潰れなかったとは…丈夫な方ですね」
悪臭と不快な音を撒き散らしながら、のたうち回る意秋を前に、縁美は愉悦の笑みを浮かべる。
簡単に死んでくれるなと。少しでも生きて愉しませろと。
穏やかな風情の裏に、苛烈なまでの嗜虐心を覆い隠し、縁美は神禍を行使する。
無数の蛆が、意秋に群がり、鋼鉄すら噛み裂く牙と顎門を以って、意秋の身体を貪り出す。
無数の蝿が、消化液で意秋の身体を溶かして啜る。
鋼鉄すら噛み裂く牙と、鋼鉄すら溶かす消化液。
何方ともが、群れなす禍者を鏖殺し得るに足る代物だが、この神禍の本質はそこには無い。
蛆虫は牙と共に毒を打ち込み、蠅は消化液と共に病を噴きつける。
河豚、カエンタケ、アンボイナ、ヤドクガエル、鉛、水銀、プルトニウム、鳥兜、青梅。
地球上の生物どころか、非生物の持つ毒すらもが、惜しみなく意秋の身体へと投入され。
エボラ出血熱、狂犬病、コレラ、黒死病、マールブルグ病、エイズ、ラッサ熱、赤痢、チフス。
文明が健在で有った頃ならば、どれか一つでも医療関係者が聞けば、顔色無からしめた病を意秋の体内へと送り込む。
一個人に対して行う殺人行為としては、明らかに度が過ぎている。一つの国家を滅ぼせるだけの毒と病の大量投入は、もはやオーバーキルという言葉ですら生温い。
意秋の巨体は、鮮血を全身から噴き出し、白と黒の群れに覆われ、体内を無数の毒と病が破壊している惨状を呈している。
十二崩壊。空の勇者。凍てついた世界に於ける極峰であっても、十度は殺せるだけの“死”を叩き込み、縁美の笑みは更に深く、朗らかなものへとなっていく。
「本当に丈夫な方ですね。単なる身体強化というわけでは無いでしょうが」
意秋は未だに死んではいない。とうの昔に皮膚も肉も血も骨も、全てが腐りきり爛れきって死んでいなければならない筈が、未だに巨体が蠢いている。
「これで死なないというのは…中々に愉しめますが、どう殺せば良いものか……」
縁美の言葉に呼応するかの様に、意秋の巨体が活動を開始した。
地面に手をつき、立ち上がる。それだけで、大地と大気が震える程の、力が込められた動きだった。
「グフフフフ…いきなりキンタマを蹴られたのは痛かったけど、何だか随分と調子が良くなったでござる」
無数の蛆と蝿に集られたまま、意秋は平然と動き出す。再度右腕を引き、渾身の右ストレート。
風切る音も、迫る速度も、初撃とは比較にならない程に向上した一拳を、縁美は後ろに跳躍する事で、間合いの外へと逃れ出る。
巨大は拳に押し出された空気が、暴風となって縁美身体を叩き、縁美の体は空中で大きくよろめいた。
「ぶひゃああああああ!!!」
そこへ繰り出される意秋の前蹴り。
比喩でもなんでも無く、丸太の様な太さの脚が、縁美の胴へと伸びる、
縁美は周囲の蝿を操作。己の身体を後方へと押させる事で、意秋から離れる速度を上昇させた。
結果、当たれば決着。内臓が破裂するどころか、胴が爆散する蹴撃は、縁美の身体に僅か数センチの差で届かない。
それでも、押し出された空気に身体を激しく打たれて、縁美の体は三十mも後方へと飛ばされた。
地面への激突を、蝿を操り空中で固めて足場と為し、蹴り抜いて再度跳躍。優美な弧を描いて宙を舞う。
僅かな間を置いて、縁美の居た位置に意秋拳の拳が直撃し、直径5m程の陥没が生じ、周囲に全長20m程の亀裂が蜘蛛の巣状に発生した。
「先程よりも明らかに身体能力が上がっていますね」
「ムウン!!!」
意秋が全身を激しく震わせ、纏わりつく白と黒の汚穢を振り落とす。
飛散した黒白は、半数が地に落ちて蠢き、半数は四散した。
215
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平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから
◆VdpxUlvu4E
:2025/06/25(水) 21:31:49 ID:r6JX0vCs0
「ああ…。垢と脂が分厚過ぎましたか?」
現れた意秋の身体が、明らかに血色が良くなっている。
具に見れば、身体が僅かだが細くなっているのが見て取れるだろう。
縁美の放った虫は、意秋の分厚い垢と脂汚れに阻まれて、身体まで届く事が無かったのだ。
『調子が良くなった』というのは、気の所為でも何でも無く、意秋の全身を覆っていた汚れが落ち、適度に皮膚が刺激されて、身体中の血行が良くなった為だろう。
「グフフフフ…我が人生最大の絶・好・調!!ハッ…こ、これは、オイラの優勝を願うルクシエルたんの加護ッ…!」
ルクシエルが意秋の勝利を願っているのかといえば、そんな事は当然の事ながら、無い。
なお意秋が生贄に選ばれたのは、この機に鬱陶しいストーカーを始末しておこうというソピアの意図であるが、意秋がそんな事を知る由は当然無い。
「見ていてねルクシエルたん!オイラの雄姿を!!」
凍土が爆ぜる程の踏み込み。瞬間移動じみた動きで、縁美を間合いに捉えた意秋は、十二崩壊ですらが無視出来ない豪打を繰り出す。
対する縁美は、初撃と同様、地に伏せて回避。蠅を意秋の九穴へと殺到させ、内部からの破壊を試みるが。
「お“ッお“ッお“ッお“ッ」
肛門を絶え間なく刺激され、意秋が気色の悪い鳴き声を上げる。
「お“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“ッお“〜〜〜〜〜!!!」
肛門から侵入し、腸を溶かし破って身体中へと広がり、やがて皮だけを残して肉も骨も血も啜り尽くす蠅の大群は、意遊の鳴き声と共に悉く放り出され。目耳口鼻から突入させた蝿は────。
「ブエッックショッッ!!!」
盛大なくしゃみ一つで、纏めて外に排出される。
「……………はぁ」
くしゃみにより吐き出された意秋の呼気。圧縮空気砲と呼ぶべきそれが凍土を粉砕し、派手に上がった土煙の中を舞い飛びながら、縁美は短く溜息を吐く。
意秋の神禍は、単純に自己強化。それだけならば珍しくも無いが、強化率が異常に過ぎる。
だがしかし、所詮は自己強化。それだけでしか無いが、それでも残る疑問が有る。何故に意秋に毒と病が通じないかだ。
蠅や蛆による物理攻撃が通じないのは、意秋の肉体強度によるものだが、毒も病も効果が無いのは、縁美の理解の域を超えている。
縁美は知らぬ。意秋の神禍の本質を。
拒絶への反抗(リジェクション・オブ・リベリオン)。自身に対する拒絶の意志に、若しくは意秋の他者への拒絶の意志に応じて、肉体が強化されるというもの。
全球凍結に依る寒波ですらが、意秋への拒絶と判定され、肉体に超強化が掛かる神禍。
縁美は意秋に対し、全くと言って良い程に拒絶の意思を見せてはいないが、意秋に対して行った攻撃が、拒絶の意思と判定される。
身体中を覆う垢と脂が落ち、全身を刺激されて血行が良くなった事のみならず、意秋の神禍に依る肉体強化も合わさって、縁美と出逢った時よりも、肉体は更なる強化を遂げている。
打ち込んだ毒も、齎した病も、全てが拒絶と判定され、強化された肉体が速やかに免疫抗体を生成。毒と病の悉くを無力化してしまったのだった。
これでもまだ、縁美自身が拒絶の意思を見せていない為に、本領を発揮してはいないのだ。
「最初に当たるにしては…流石にキツいものが有りますね」
内臓が掻き回される様な不快感と、全身の神経にヤスリをかけられているかの様な激痛。
常人ならば狂死する苦痛を意にも介さず、舞う様な動きで意秋の猛撃を躱し続け、蛆と蝿を意秋目掛けて差し向ける。
この敵は早々に死ぬ事は決して無い。それが愉しい。限り無く愛しい。
北奈杉意秋という禍者は、存在そのものが他者からの拒絶を呼び起こす。
容貌、体躯、声、体臭。それら全てが他者にとっての不快感と嫌悪感に満ち溢れ、至極当然の様に、意秋の神禍を発動する。
そうして強大になる意秋の前に、誰もが等しく血泥となった。
だが、易津縁美には、意秋に対する殺意は有っても、嫌悪は無い。
易津縁美にとっての殺意は、他者へと向ける親愛の情と等しい。嫌いだから、憎いから、理由が有るから殺すのでは無く、只々愉しいから殺す。殺したいから殺す。
其処には嫌悪もなければ拒絶も無い。有るのは受容と親愛だ。
故に縁美に対して意秋の神禍は、万全の威力を発揮できてはいなかった。
それでも尚、脅威の一言に尽きる意秋の神禍は、十二の崩壊に迫るものと言えるかも知れなかった。
◯◯◯
216
:
平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから
◆VdpxUlvu4E
:2025/06/25(水) 21:32:39 ID:r6JX0vCs0
◯◯◯
北奈杉意秋と易津縁美。共に暴力の極致と言うべき神禍を振るう両者だが、その性質は全く異なる。
意秋が用いるのは全球凍結以前から人類が用いてきた、己が五体を駆使した暴力だ。
拳を振るい、脚を振るい、肉体を駆使して、対象を破壊する。
過去から現在に渡って用いられ続け、神禍を得ても尚、廃れる事なく使われ続ける、誰しもが持つ原初の加害の手段。
そこに込められた力が、兵器のそれに匹敵し、一拳一蹴毎に、凄絶な破壊を引き起こすという一点を除けば、北奈杉意秋のそれは、旧時代のそれと全く以って変わらない。
一撃を振るう毎に、引き裂かれた大気が衝撃波となって荒れ狂い、蛆と蝿を消し飛ばし、周囲の家屋を薙ぎ倒す。
一歩を踏み出す、或いは足による踏み付けを行うだけで、地面が砕けて岩盤が舞い上がり、大地が震え、複数方向に無数の深い亀裂が伸びて行く。
意秋の神禍は、単純に個の極致。幼稚な人格に相応しい傍若無人な我儘をそのまま神禍としたかの如く、行使される絶大な暴力は、凡ゆる全てを撃砕する。
対する易津縁美の神禍は、北奈杉意秋の対極。圧倒的と言う言葉ですらが追い付かない、絶望的な数の暴力だ。
百人どころか、万相手であっても、短期間で骨どころか血すらすら残さず殺し尽くせる絶大な数の暴威を行使し、意秋の前後上下左右全てを、己が神禍の及ぶ部位と為している。
頭部、顔面、首筋、胸板、双肩、両腕、諸手。全てを黒蠅が覆い尽くし、意秋の巨躯を溶け崩れさせんと、消化液を噴き付ける。
地面を覆い、意秋の足から這い上った蛆虫は、意秋の下肢の全てを覆い、蠢きながら癒えぬ飢えに任せて、牙を突き立て続ける。
並の禍者であれば────第八崩壊の率いた巨獣の群れであったとしても、存在した痕跡を残さずに喰い尽くす暴食の群。
当に意秋の衣服は全て消失し、強化された意秋の肉体にも、無数の傷が生じて、意秋の巨体をくまなく鮮血で染め上げている。
「ブギイイイイイイイイイイ!!!!」
衝動の赴くままに拳脚を振り回し続けた意秋が、動きを停めて吼える。
苦痛では無く、群がる虫の不快感に耐え切れなくなったのだろう。
地面に倒れ込むと、地響きを伴いながらローリングを行い、群がる虫を潰していく。
粗方潰して立ち上がった意秋の眼は、限り無い親愛の笑みを向ける縁美を映した。
「愉しませてくれますね。ではもう一度」
再度押し寄せる虫の津波。これこそが易津縁美の真の脅威。
千を潰せば万を繰り出し、万を殺し尽くせば間髪入れずにその百倍が押し寄せる。
絶やし尽くせぬ毒と病の波濤は、正しく蒼白き騎士(ペイルライダー)の名に相応しい。
第二崩壊“金獅子”の理を掲げる者達を、歯牙にもかけずに嬲り殺した、縁美の持つ無尽蔵の悪意の具現化。
「うぎゃあああああ!!!」
意秋が絶叫する。殺しても殺しても尽きない虫の前に、さしもの意秋も戦意を挫かれたのだ。
だが、戦意を挫いたところで、何の意味も持たぬのが北奈杉意秋という禍者。
押し寄せる虫の波濤に、膨れ上がる拒絶の意志が牙を剥く。
意秋の身体に群がった虫達が、群がる端から消えて行く。
更に複数の触手が意秋の身体から伸び、空を飛ぶ蠅の群れを粉砕する。
「はぁ…これはまた……愉しませて下さいますが。殺せるのでしょうか?」
群がった虫達は、全て意秋の身体へと吸収されて行き、意秋の全身の傷を塞ぐ皮膚や肉となっている。
縁美の繰り出す虫を吸収した為か、意秋の身体が更に膨れ上がった。
217
:
平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから
◆VdpxUlvu4E
:2025/06/25(水) 21:33:44 ID:r6JX0vCs0
「グフ…グフフフフ。これがオイラの神禍。虫を吸収するのはキモいけど、縁美たんから生まれたということは、縁美たんの一部ッ!?
つまりコレは……二人は一つになった!!?」
「…………そうとも言えますね」
「ななな何と!しかしですよ縁美たん。オイラには“スウィートエンジェル”ルクシエルたんという運命の相手がッ!
アアッ!縁美たんを不幸にするオイラの魅力が憎いッ!」
「………はぁ」
一人悦に入る意秋を無視して、意秋の神禍を考察する。
単なる肉体強化の枠には収まらないこの現象。一体如何なる神禍なのだろうか。
「与えられた刺激に応じて、肉体が適応変化する?」
面白い。愉しい。ならば高熱で焼けばどうなるのか?電熱は?巨大質量による圧潰は?真空状態での窒息は?
どれもを試したい。全てを試して結果を見たい。
100℃に耐えれば次1000。
1万ボルトに耐えれば次は百万ボルト
再現無く与える苦痛を上げていき、上限を超えて苦しむ姿を、その果てに死ぬ姿を見たい。
「まぁ、どれも試せませんが」
折角のオモチャであるが、此処では満足するまで愉しめない。
今あるもので、殺すより無い。
黒蠅を操り、空中で二本の巨大な槍を形作らせる。
猛速で意秋へと飛翔した蝿槍は、意秋の左右の胸を直撃。
蠅の速度と、鋼鉄すら溶かす消化液。其処に群れ成すことで得た質量が加われば、並の禍者など容易く貫く妖槍となるが、並どころか異常という言葉でも足り無いのが北奈杉意秋。
堤にぶつかった波濤の如きに、蠅槍が砕け散る。
「触手プレイッ!」
蠅の群れを払い落とす為に獲得された触手が六本、縁美を拘束するべく飛来する。
「良く分かりませんが、お断りします」
対する縁美は、黒蠅で意秋の視界を塞ぎ、バレエで培った平衡感覚と跳躍力を活かして全てを回避。
再度蠅槍を形成し、意秋の顔面目掛けて撃ち込んだ。
「ブハッ!?」
流石に顔への直撃は答えたのか、僅かに意秋が蹌踉めく。
当然、その隙を見逃す縁美では無い。
一気呵成に駆け寄ると、地面を蹴って跳躍。意秋の右膝へ全身のバネを活かし、体重を余す事無く乗せたドロップキック。
見事に縁美の両足は、意秋の膝へと吸い込まれ、骨がひしゃげる音がした。
此処までの両者の闘争は、絵に描いたような千日手。
個の極致である意秋には、縁美の数を突破する事が叶わず。
数の暴威を行使する縁美は、個の極峰である意秋にまともにダメージを与えられない。
アプローチをする方法を、今までと変えなければならばかった。
だからこその、肉体を用いた直接打撃。鍛え用の無い急所である膝関節への猛撃。これで脚を潰して動きを封じる。
目論見は見事に成功し、意秋の右膝に痛撃を見舞う事に成功したものの。
直後に生じた爆発により、縁美の身体は遥か遠くへと飛んで行った。
◯◯◯
218
:
平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから
◆VdpxUlvu4E
:2025/06/25(水) 21:35:00 ID:r6JX0vCs0
◯◯◯
「此処は一体何処でしょうか」
足元には海が広がり、北には塔が見え、目を凝らせば、西の方角に病院が見える。
「南には聖堂が有りますね。という事は……結構飛ばされましたね」
あの時、意秋の膝に痛打を見舞った直後に、激痛で意秋が絶叫。
爆発と形容した方が相応しい叫び声は、空中に在って不意を突かれた縁美の身体を、風に舞う木っ葉の如くに吹き飛ばしたのだった。
危うく氷点下の水温の海に落ちる所だったが、咄嗟に黒蠅を大量に出して足場とする事で、滞空して、命を拾ったのだった。
「まぁ、あのまま戦っていても、決着を見たかどうかは……まぁ良いでしょう。少し休まないといけません」
一人を相手に、あそこまで神禍を行使した事など無く、あそこまで神禍を行使して、殺せなかった事も無い。
初めて出逢う相手だった。そして恐るべき強敵で、殺し甲斐の有る相手だった。
暫し戦闘の余韻に浸り、何処に行こうかを暫し考える。何分神禍での飛行は大変疲れる。力を使い果たしかねない。鋭い眼差しで考え込み、即座に答えを出す。
さっき戦った廃村は、戦いの余波で相当な被害を受けた筈。訪れた者も、得るもの無しとして、即座に踵を返すだろう。
意秋にした所で、ルクシエルの為に優勝を目指すというのならば、何時迄も彼処に留まっているとは思えない。
彼処に戻れば誰とも会うこと無く、休めるだろう。
足場の蝿を操作して、陸地へと移動を開始しながら、縁美は考えを巡らせる。
十二崩壊や空の勇者。彼等は一体どの様な夢や希望を抱いているのか。それらはどれだけ強固で、壊した時にどんな顔をするのか。
邪悪な物思いに耽りながら、縁美は海の上を飛んで行った。
【D -2・海上/1日目・深夜】
【易津縁美】
[状態]:疲労(中)
[装備]:
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:優勝して、両親を蘇らせてもらう。
1:愉しめそうですね
2:十二崩壊や空の勇者…彼等は何を抱いて戦うのでしょうか?
[備考]
◯◯◯
間断無く続いていた、骨が形を変え、肉が膨れ上がる音が止まり、蹲っていた北奈杉意秋が立ち上がる。
膝に激痛を感じ、思わず絶叫して、気づいたら意秋一人だけだった。
縁美たんは何処へ行ったのか。当たりを見回しても、倒壊した家屋しか存在し無い。
キョロキョロと周囲を見回す意秋の姿は、どう見ても不審者そのものである。全裸だし。
暫くの間、不審な挙動を見せていた意秋は、聖堂の方に決意に満ちた眼差しを向けた。
「待っていてくれ、ルクシエルたん。オイラ、きっと勝ってみせるから」
【待っています。我が愛しの勇者意秋】
ソピアとエヴァンに聞かれれば、ガチ殺し必至の妄言を吐いて、意秋は聖堂から離れて行く。
ルクシエルの為に勝利を重ね、縁美たんを始めとした全員を殺し尽くす為に。
なおルクシエルの声は、意秋の脳内にしか響いていない。
縁美との死闘を経て、更なる巨大化と異形化を果たした怪人は、力強い足取りで南下を開始した。
【B -4廃村/1日目・深夜】
【北奈杉意秋】
[状態]:健康 380cm・550kg 触手が背中から六本生えている
[装備]:
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:優勝してルクシエルたんと結婚する
1:戦えと、ルクシエルたんが言っている
2:縁美たんは何処へ?
[備考]
B -4の廃村で起きた戦闘で、家屋の大部分が倒壊しました。
219
:
平和より自由より正しさより 君だけが望む全てだから
◆VdpxUlvu4E
:2025/06/25(水) 21:35:15 ID:r6JX0vCs0
投下を終了します
220
:
◆Z.GnlllvXU
:2025/06/25(水) 22:44:11 ID:wMcxZIQ.0
投下します
221
:
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/25(水) 22:44:46 ID:PTQKBYAo0
投下します。
222
:
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/25(水) 22:45:09 ID:PTQKBYAo0
宣言が被ったので後ほど投下します。
223
:
アイデンティティ
◆Z.GnlllvXU
:2025/06/25(水) 22:45:14 ID:wMcxZIQ.0
灰色の空。吐息すらも凍りつきそうな氷点下。
しかし氷結の大地に佇むその男の体は、じっとりと汗ばんでいた。
タツミヤはフードの奥で息を吐いた。空気は重い。先ほど聞かされた話と今ここにある状況がそう感じさせていることは言うまでもなかった。
慣れている。殺し合うのも、死体を見るのも。
けれどこんなことに巻き込むなら、せめて"あの頃"にしてくれよと頭を抱えたい気分だった。
「死にたくは……ないな。流石にまだ」
ぼそりと呟くように言葉が落ちる。
誰に聞かせるでもない独白だ。死は馴染み深いが、拒絶の念はそれ以上に深く根を張っていた。
こんなふざけた茶番のような儀式の中で命を落とすなど、冗談ではない。
振り返れば空虚な人生だった。生誕を祝福する名前もなく、感情を持つこともなく、ただ命じられた標的をいるかも分からない神のために屠る日々。 そんな自分が今ただの生存のために牙を剥こうとしているのは、見方によっては進歩と呼べたのかもしれないが。
――生きていたいという思いは、本物だった。
もはや、人形のように役目をこなすだけだったタツミヤはいないのだ。
いつかの、ひどい吹雪の日。雨宿りならぬ雪宿りのつもりで入った図書館で見つけた一冊の画集。
虫食いで見るも無残な有様だったが、それでもそこに描かれていた艷やかな美は空洞の魂に灯を点してくれた。
悟りと呼ぶには不純すぎる動機だと自分でも思うが、それは確かにタツミヤにとっての幼年期の終わりだったのだ。
生きていて楽しいことよりも、目を覆いたくなるような苦難の方が圧倒的に多い世界。
だとしても、やはり死にたいとは思えない。
ましてや耳通りのいい"誰か"の大義の轍になるなんてまっぴらごめんだった。
だからこそ、タツミヤの心には既に決意が浮かんでいた。
そして。
ちょうどそんなタイミングで――ざり、と雪の上に足音がした。視線を動かす。そこにいたのは、幼い少女だ。
小柄。風景に溶け込みそうな銀白の髪。
民族調の防寒衣は、どこかシャーマニックな印象を抱かせる。
普段なら背伸びした子どものようで愛らしい姿も、この状況では与える印象を変える。
寒さをものともしない身のこなしでとてとてと足を進めている姿はあまりに無防備で、芽生えたばかりの決意を実行に移させるには十分すぎた。
(仕方ない。恨みはないが、今更聖人君子をやるのもおかしな話だ)
一瞬の、おそらくは人間的と呼ぶべき逡巡。
タツミヤはフードの奥で目を細め、神禍を起動させた。
「"深愛なる抱擁(ディープ・アフェクション)"――来たれ我が欲、我が憧憬」
小さく呟いた降臨のコマンドワード。
それに合わせて両腕の袖が破れ、ぬるりと赤紫色の触手が伸び出る。
224
:
アイデンティティ
◆Z.GnlllvXU
:2025/06/25(水) 22:45:52 ID:wMcxZIQ.0
全部で八本。粘液状の塩水を滴らせるそれらには無数の吸盤が犇めいており、まさしく蛸の触腕そのものだった。
こんな状況だというのに下腹に熱を覚えてしまう自分に辟易するが、妄想に酔っている時間はない。
体温が一気に上がる。心拍数が跳ねる。禍者との戦闘は、いつも肝が冷えるものだから。
「……行け」
呟いた直後、触手が獲物に向けて一斉に躍った。
地を抉るほどの勢いで地面を滑り、少女へと殺到していく。
自然界の蛸がそうするように、縦横無尽に包囲を形成しながら迫る――だが。
ひゅ、と風が鳴いたかと思った次の瞬間、一閃。
銀白の残像が弾けた。触手の一本が斬られ、ぼとりと地面に落ちてのたくっている。
(――速い)
タツミヤの目が見開かれる。
既に少女の姿は消えていた。
刹那、小動物めいた痩身はタツミヤの懐にあった。
風圧と共にナイフが迫る。反射的に残る触手で防御を試みた結果、今度は三本が纏めて斬られる。
「ちッ……」
皮膚が裂ける鋭い痛みに、小さく呻きが漏れた。
タツミヤの神禍は異界の神を召喚するだとか、そんな大それたものではない。
肉体を媒介にした、蛸の特性の再現。それが彼の力の正体である。
よって斬られればちゃんと痛いし、蛸足の末路次第では気絶ものの地獄を味わう羽目にもなってしまう。
たまに現れる狂信者などはこの神禍を様々な美辞麗句で褒めそやすが、本人に言わせればまったくもって取り回しの悪い力だった。
いっそ本当に邪神なり何なりと"繋げて"くれる力だったらどれほど良かったかと、こうして痛みのフィードバックを受ける度に思っている。
少女の手にあったのはサバイバルナイフだった。
恐らくは支給された武器なのだろうが、問題はそこではない。
本人の身のこなしだ。まるで踊るように触手を躱し、無駄のない身のこなしで凶刃を振るってくる。
(手練れだな……あの教団にも、ここまでやれる奴はそういなかったぞ)
厚着をしているとはいえ寒さの影響を感じさせず、呼吸も乱れていない。
神禍の影響というよりかは、身体機能として効率のよい体力の使い方を体得しているのだろう。
気を抜けば喉笛を掻っ捌かれそうな、その攻撃精度の異常さに心底ゾッとする。
自分の触手は見た目こそ蛸そのものだが、実際は高密度な筋肉で形成された殺傷器官だ。
軌道は変幻自在で、そんな得物がまったく不規則な軌道で襲ってくるのだから対処するのは決して容易ではない筈。
なのにそれに、初見でこうもあっさり適応してくるとは。
直感が告げている。あれは――"生き延びてきた者"の眼だ。
白紙化され、そこかしこに凶暴な禍者が彷徨く地獄と化した地球を、身ひとつで生き抜いてきた手練れの眼。
225
:
アイデンティティ
◆Z.GnlllvXU
:2025/06/25(水) 22:46:45 ID:wMcxZIQ.0
タツミヤは後退しながら片膝を突き、姿勢を低くした。
防御に使った二本が新たに損傷し、もはや残る触手の数は二本にまで減少している。
呼吸を整えながらフードの奥で目を細めるタツミヤに、少女は何も喋らなかった。ただ静かに、次の攻撃のための構えを取っている。
確信する――手加減はできない。
そんな無駄を抱えて挑めば、返り討ちに遭うのは必然だと理解した。
「……いいさ。なら、見せてやる」
呟くと同時、腹の底から呻くような息が漏れた。
背中が膨らみ、ダウンジャケットが裂ける。それなりに気に入っていたので惜しいが、四の五の言ってはいられない。
更に肩からも、新たな触手がうねるように生えてくる。
水音が響き、墨の匂いが空気に混じる。圧縮された神経と筋肉の塊――それは彼の"想い"の顕現だ。
「出力(ギア)を上げるぞ……!」
新たに生やした触手の数は、蛸の限界を超越した驚異の三十本。
生物学的にはあり得ない数字だったが、端からタツミヤはそんな常識になど興味がない。
彼にとってこれはあの日出会った憧憬であり、魂の芯に刻まれた癖(へき)なのだ。
最果てのない憧れは理論上、タツミヤをどこまでも怪物に変えることができる。
神話のクラーケン宛らの姿を晒すや否や、無数の触手が水飛沫のように四方へ展開されていく。
「っ――――」
濃密な水音と触手の擦れ合うおぞましい音が、戦場の空気を塗り替えた。
少女がここで初めて息を呑んだが、それは詮無きことだったと言えよう。
タツミヤの全身、その随所から伸びた触手は地を這い、空を裂き、彼女の視界を埋め尽くす勢いで広がっていた。
墨混じりの霧が広がる。吐き出される体液は、この氷点下の世界では比喩でなく熱を奪う致死の猛毒に等しい。
とはいえやはり、対峙する少女も只者ではなかった。
その姿は、再び掻き消える。
刃を片手に駆け回る少女の機動力は、タツミヤをして超人的と言う他ないものだ。
しかし、そうであろうと――。
「何のこともない。数で圧すれば、罷り通るだけだろう」
低く呟き、タツミヤは躊躇なくそれを実行に移した。
触手の一本が地を叩く。跳ね上がる雪煙。続いて残りすべてが娘の周囲を囲い込み、空間そのものを閉ざしにかかる。
それはもはや障壁だった。個の攻撃ではなく、空間そのものを支配する圧殺の波状攻撃。
触手はタツミヤの意思を忠実に反映してそれぞれ絡み合い、蛇の巣のように動線を遮断し、隙間という隙間を潰していく。
遂に、跳ね回る少女の足が止まった。反応の遅れか、それとも臆病風にでも吹かれたか。
いずれにせよ、好機である。
「……終わりだ」
それでも少女は健気な抵抗を続けていたが、この本数と軌道にナイフ一本で対処しきるのはどうあがいても不可能だ。
少女の足首を触手が絡め取ったのを皮切りに、触手が一気に巻き付く。
226
:
アイデンティティ
◆Z.GnlllvXU
:2025/06/25(水) 22:47:26 ID:wMcxZIQ.0
足首から胴、肩へと順に拘束が広がり、少女の小柄な身体は、宙に持ち上げられるようにして浮かんだ。
艶やかに揺れる銀白の髪が粘液で濡れる光景はどこか官能的だったが、こうなってはもう誰であろうと抜け出せない。
後はもう、一瞬で終わる。
それでいい。たとえ相手が幼い少女でも、ここは生きるか死ぬかの戦場だ。
こちらから仕掛けたとはいえ、彼女には明確に自分を討とうとする意思もあった。であれば何も迷う必要はない。
だが、その時。
「――マッサージにしては微妙。ぬるぬるしてあんまし気持ちよくない」
少女が、やや不満げに口を開いた。
意表を突く一言だった。そこには殺気も怒気も、焦りの一片さえ窺えない。
痛みを訴えるでもなく、哀訴でもなかった。ただの、率直な感想だ。
「……なに?」
思わず零れた、タツミヤの言葉。
だが結論から言えば、その一瞬が彼にとっての命取りだった。
「あとちょっと臭い。ぬめりはちゃんと取ってほしい」
触手の檻が――内側から破裂した。
巻き付いていた触手のすべてが、内部から鋭く裂けたのだ。
血のような体液が飛び散り、遅れて、タツミヤの身体に神経を引き毟られるような激痛が走る。
「がッ、ぐ……!!」
それでも、暗殺者として鍛えられてきた肉体は忘我の隙を晒さない。
気をやらないだけでも大したものだったが、触手を一瞬で全滅させられたのは言うまでもなく致命的だった。
当然次を出そうとするものの、身体機能の延長として生じさせる都合、どうしてもそこには遅延が発生してしまう。
その一瞬を見逃さず、解き放たれた少女は地を蹴った。
音もなく、獣じみた身体運動。
空気を貫いて踏み込み、最接近。慌てて腕を構えようとした時には、既に遅かった。
少女の細足から繰り出される、鋭利な瞬速のハイキック。
狙い通りそれはタツミヤの顎に直撃し――衝撃と共に、視界が回転する。
思考が止まった。脳が揺れる。内耳が焼けついたような感覚に神経が一瞬で麻痺し、重力の感覚が消える。
最後に見えたのは、無表情で佇む少女の瞳。それは飽きるほど見てきた、あの凍てついた空の色とまったく同じだった。
「――――くそ」
そのまま、タツミヤの身体は崩れ落ちた。
生えかけていた触手は消失し、溶けるように霧散していく。
昏倒した襲撃者の姿を、少女は顔色ひとつ変えずに、見下ろしているのであった。
◇◇
227
:
アイデンティティ
◆Z.GnlllvXU
:2025/06/25(水) 22:49:09 ID:wMcxZIQ.0
温もりが、頬を撫でている。
乾いた熱。焦げた匂い。
パチパチと薪が弾ける音。
氷に閉ざされたこの世界には不釣り合いなぬくもりに、タツミヤの意識が引き戻された。
瞼が重い。全身が倦怠感に包まれている。偏頭痛のように頭が痛む中、記憶が徐々にかたちを成していく。
触手の裂ける痛み。
スローモーションになった視界で見つめる、恐ろしく鋭いハイキック。
――そうだ、俺は負けたのだ。
瞬間、タツミヤはハッと目を見開く。
跳ね起きようとしたが、身体が上手く動かない。
筋肉がだるく、まともに力が入らなかった。無理やり意識を断ち切られた分、思いの外ダメージが残っているらしい。
辺りは仄暗い。暗いのではなく、仄暗い。
見れば焚き火が設けられており、それが周囲を微かに赤く染めていた。
火の前に、あの少女がいた。
名も知らない、幼い娘。自分を打ち倒した張本人。
しかし当の本人は、相変わらず何を考えているのかよくわからない顔で焚き火を見つめている。
が、よく見ると、手に木の枝を持っていた。先端には焦げ目の付いた何かが刺さっている。
炙られているものの正体を理解してタツミヤ、思わず絶句。
串焼きにされているのは、さっきの戦闘で切断された蛸(じぶん)の触手だった。
「……おい。何してる」
低く呻くように声を出すと、少女はこちらを振り返った。
「あ。起きた?」
あっさりとした声。敵意もなければ、緊張もない。
まるで、戦いなどなかったかのように。
彼女はそのまま触手の串焼きを火から外すと、躊躇なく口へ運んだ。
「んぐ。もにゅもにゅ」
「いや待て。二、三ほど聞きたいんだが……それは俺の神禍だぞ。何故食ってる……?」
「珍しいものはとりあえず食べてみる主義。
だけど……うん、微妙。タコっていうよりイカ……ダイオウイカに近いかな」
咀嚼しながら、少女は淡々と述べる。
無表情のまま、口の中で味を探るように舌を動かしていた。
228
:
アイデンティティ
◆Z.GnlllvXU
:2025/06/25(水) 22:50:17 ID:wMcxZIQ.0
「新鮮だからか臭みはそこまでないけど、飲み込んだ後にえぐみが残る。
熱を通したから筋が固まって歯ごたえも微妙。コリコリっていうかゴリゴリって感じ。安い回転寿司の生貝みたい。がっかり」
「人の神禍を食レポするなよ……」
タツミヤは思わず呟いた。
本当に、いろんな意味で目の前の状況に頭が追いつかない。
ついさっきまで戦っていた相手が、かつて自分だった残骸(もの)を焼いて食レポしている。悪夢のような光景だった。
なんだか真面目に向き合うのも馬鹿らしい気がしてならず、タツミヤが苦し紛れに口にした台詞は。
「……ダイオウイカは深海の生き物だろ」
「うん。前に獲りに行ったことがある。あれはかなりの死闘だった」
「水圧って知ってるか?」
さすがに呆れ顔を禁じ得ない、タツミヤ。
だが少女は、当然のようにこくりと頷いた。
「私の神禍はいろんな環境に適応できる。まあ、深海は流石にちょっとしんどかったけど」
言葉が詰まる。
タツミヤは唖然としながら、再び焚き火に目をやった。
頭の中でパズルのピースが噛み合う感覚を覚えていると、彼女の方から答え合わせをしてくれた。
「あなたの神禍に対応できたのもそのおかげ。
圧迫感とかぬめり気とか、そういう諸々を無視した」
少女はそう続ける。
微かな炎の揺らぎが、彼女の銀白の髪を照らす。
あの瞬間の出来事はまったく不明な事態だったが、そう聞くと納得だった。
要するに、力技で押し潰そうとしたのが間違いだったというわけだ。
もっと根気強く戦いを演じていればよかったものを、勝負を急いだせいで逆に彼女の土俵に上がらされてしまったらしい。
禍者同士の戦いはこれだから嫌なのだ。
平然と後出しジャンケンのような真似をされるから、暗殺者として築いた積み重ねが状況によってはまったく活きない。
内心でぼやきながら、タツミヤは身体を起こす。
ようやく手足に力が戻ってきていた。怪我は軽微。だが――なぜ生きているのか。その一点だけが、あまりに不可解だった。
自分は明確に殺意を持って彼女に襲いかかった。
神禍も惜しみなく使ったし、殺されてもおかしくない狼藉を働いた自覚はある。
なのに目覚めてみれば、待っていたのは温かい焚き火と触手の串焼きだ。
おかしい。どう考えても、おかしい。タツミヤがそう感じるのも当然だろう。
「……なんで殺さない。あのソピアとかいう女の話を聞いてなかったのか?」
焚き火の炎が、薪をゆっくりと食らっていた。
風は冷たいが、火の回りだけは眠気がしてくるほど温かい。
問われた少女は、ちらと横目でタツミヤの様子を見やり。
229
:
アイデンティティ
◆Z.GnlllvXU
:2025/06/25(水) 22:51:16 ID:wMcxZIQ.0
「……確かに、殺すこともちょっとは考えた。
でも私の神禍じゃ、この殺し合いを一人で生き抜くのは難しそうだったから」
焚き火を見つめたまま、彼女はタツミヤに淡々と告げる。
表情には変わらず起伏がない。
だがその声には、幼い少女らしからぬ聡明さが滲んでいた。
「あらゆる状況に適応できるって言えば聞こえはいいけど、適応しようのない攻撃には無力なの。
例えば銃でいきなり後ろから撃たれるとか、剣の達人に間合いでずんばらりんとやられるとか。
そういうのに私はとても弱い。で、名簿をちらっと見た感じ、ここにはそれをしてきそうな奴がそこそこいる」
そこで、言葉を区切る。
灰の中に落ちた炭がはぜる音が、ぽん、と空気を弾いた。
「だから、殺すのは組めるかどうか見てからでも遅くないと思った。理由はこれでいい?」
それはあまりにも、同じ状況に置かれた身として見習いたくなるほど合理的な判断。
けれどその合理の裏に少しだけ人間らしい感情が混じっているように、タツミヤには思えた。
「……それに、私だってあんまり殺しはしたくない。避けられる殺人は避けて通るよ」
ぽつりと呟きながら、リズは手元の串をくるりと回す。
焦げ目のついた触手の肉片がくすぶるように煙を上げていた。
「ん」
無言で、リズはそれを差し出してくる。
タツミヤは眉を顰めたまま、しばらく見つめていた
いや、正気か。この幼女は正気で言っているのか。
自分の身体を食えと言っているようなものだぞ、これは。
「食べれる時に食べておかないと後悔する。食べた方がいい」
「……食料なら支給品に入ってる筈だが」
「あんな暖かみのないものは食べ物のうちに入らない。あれに手を付けるのは本当の最終手段」
渋い顔で呟きながらも、気付けばタツミヤは触手の串焼きを受け取っていた。
焚き火のぬくもりが、串の先端を通して手に伝わる。
確かに腹は減っていた。だがこれを食べるのは、本当に何か人間として大切な尊厳を失ってしまう気がする。
あの日、自分に電流にも似た感動を与えてくれた蛸の触手が串焼きになっている。しかも、なんか不味いらしい。北斎に土下座してほしかった。
「ほら。騙されたと思って、早く」
「……、……」
意を決して、かじる。
顔の渋さが増す。本当においしくなかった。
北斎のアレは不味いらしい。知りたくなかった。知りたくなかったな。
歯応えはあるが、いかにも粗悪な海産物って感じだ。焼いてるのに妙にぬめりがあって、筋繊維なのか筋ばってるようにも感じる。
旨味のようなものはあるものの微かで、後味にはわずかにえぐみが残る。吐き出すほどではないが、繰り返して食べたいとは思えない。
230
:
アイデンティティ
◆Z.GnlllvXU
:2025/06/25(水) 22:52:08 ID:wMcxZIQ.0
「……確かに、これは蛸じゃないな」
「でしょ」
リズの評価が妙に的を射ていたので、タツミヤは嘆息する。
しかし、よもやこんな機会がやってくるとは微塵も思っちゃいなかった。
どこの誰が自分の神禍を食する展開など予想できるのだ。ていうかこういう使い道もあったのか。素直に盲点だった。
また、薪の割れる音。
火が、静かに燃えている。
それはこの氷の世界に似つかわしくない、あまりに人間的な営みに思えた。
殺し合いの場でこうして人と人が膝を突き合わせて語らっているという状況自体、まあ傍から見ると正気ではないのだろうとも思う。
そこでふと、リズが呟く。
「私はリズ。趣味で旅人をやってる」
「旅人……。その歳でか?」
「うん。世界がこうなる前からあちこち歩いてたよ。ところであなた、タツミヤでしょ」
「…………まあ、知ってても不思議じゃないか。俺もそれなりに悪名を轟かせてる自覚はあるし。不本意ながら」
「そうじゃない。あなたのことはある人から聞いた」
「なに……?」
タツミヤは、訝しむようにリズを見た。
まず、自分は名乗っていない。とはいえそこは正直些細だ。
思い返すまでもなく、自分にはあまりに多くの過去がある。教団時代の仕事、都市圏での潜伏、全球凍結後に仕方なくやった殺し……なまじ目立つ神禍をしてるものだから、何かと悪名を撒き散らしてきたのは確かだ。
しかし人から聞いたとなると、少し話が変わってくる。
戸惑いを隠せないタツミヤに、リズは何気ない口調で続けた。
「玄じいが口開く度にタツミヤの話ばっかりするから、嫌でも覚えちゃった」
玄じい。
そのワードを聞いた瞬間、タツミヤの顔が分かりやすく引き攣った。
「は? いや待て。待て、待て待て待て待て……」
声が裏返る。空気が一瞬で凍ったような気がした。
反射的にデイパックから参加者名簿を取り出し、切羽詰まった顔で視線を這わせる。
嘘であってくれ。まさかそんな偶然は無いでくれ――そんな彼の懇願を嘲笑うように、その名はあった。
〈猿田玄九郎〉。名前を認めた瞬間、タツミヤはその場に崩れ落ちそうになった。
「最悪だ……。よりにもよって、あの天狗ジジイまでいるのか……」
火に照らされた額から脂汗が滲む。
頭を抱えたまま、長く深い溜息を吐く。
氷より冷たい世界の中で、蛸の住む海よりも深い呼気が静かに漏れた。
231
:
アイデンティティ
◆Z.GnlllvXU
:2025/06/25(水) 22:53:32 ID:wMcxZIQ.0
――猿田玄九郎。
焚き火の前で、タツミヤは苦虫を噛み潰したような顔で、その忌まわしい名の禍者について思い出していた。
黄色い袈裟を着た天狗もどき。求道者を気取りながら、口を開けば脳の溶けたみたいなことしか言わないクソジジイである。
火を見つめているはずの視線は、既に遠い過去を彷徨っていた。
痩せた体に不釣り合いな豪腕。羽団扇を背負い、吹雪をものともせず飛び回る奇怪な老人。
ひょんなことから目をつけられてしまったのが運の尽き。
それからというもの会うたびに妙な挑発をされ、わけも分からず喧嘩を売られた回数は数知れず。
本気で殺してやろうと思ったことも一度や二度じゃないが、なまじ腕が立つので排除も叶わず、玄九郎はタツミヤの胃痛の種として存分に君臨を続けていた。
「……まずい。本格的に吐き気がしてきた」
「玄じいがあんまりボロクソ言うからどんな人だろうと思ってたけど、正直、予想よりまともな感じでびっくりした」
「だろうな……。あのジジイの言うことは、全部話半分で聞くのが賢明だぞ……」
心底うんざりした顔でタツミヤは天を仰ぐ。
玄九郎の口ぶりからして、他人を褒める言葉など期待できない。
どうせ「根性が足りん」「欲が薄い」「何々をしていないのは人生の無駄遣い」などろくでもない論評ばかりなのが容易に察せられる。
「第一、どこであの天狗もどきと繋がったんだ……? あのジジイ、基本話が通じないだろう……」
「どうしても登ってみたい山があって。入ろうとしたら玄じいが飛んできて、『そこは儂の修行地じゃ。無断で入るな』って。こんな顔で」
ぎゅうっと顔のパーツを真ん中に寄せて皺を作り、声真似してみせるリズ。
あの老人の言いそうなことだった。なまじ求道者ぶっているのがあの年頃特有の老害ムーブに拍車をかけていることもよく知っている。
「だから何度も挑戦した。
断られて、また行って、話して、また断られて、話して……そんな感じ」
「そこまで食い下がるなよ。一回話したら分かるだろ、アレが関わっちゃいけない人種なことくらい」
「でも、最終的には許してくれたよ。仲良くなったら結構気のいい人だった」
あっさりと言ってのけるリズに、タツミヤは思わず絶句する。
気のいい人。あの老害天狗とはおよそいちばん結びつかない形容だ。
ヒトの悪癖を鍋で煮詰めて腐らせたみたいな人間だろうアレは。
「……あの玄九郎に、孫みたいな歳のガキを慈しむ感性があったとは。にわかには信じられないな」
「そう? 玄じいって確かに頑固な変人だけど、あの人なりに一本芯が通ってるから。私は最初からそういうタイプだと思って接してたよ」
言いながら、リズは串を手に取ってかじった。
小さな歯が、焼け焦げた触手に沈む。
そうしつつ、彼女は「それに」と続けた。
「玄じいがタツミヤにムキになるのも分かった。タツミヤ、相当強い」
「倒した相手にお世辞はやめろ……。嬉しくないぞ、別に……」
「お世辞じゃない」
タツミヤが苦々しげに吐き捨てるように言うと、リズは即座に否定する。
口元に焼けた触手の先を運びながら、彼の瞳を覗き込む。
232
:
アイデンティティ
◆Z.GnlllvXU
:2025/06/25(水) 22:54:26 ID:wMcxZIQ.0
「倒したって言うけど、タツミヤ、私を殺す気なかった」
「そんなことはない。……ちゃんと、殺すつもりで攻撃したよ」
タツミヤは焚き火の炎越しにリズを見ながら、曖昧にそう呟いた。
「俺は自分のために他人を犠牲にできる人間だ。
この意味の分からない儀式に参加させられて、真っ先に考えたのは"こんなところで死ねるか"だ。
その矢先にお前がのこのこ出てきたから、格好の獲物だと思ったよ。結果はこのザマだが」
嘘は言っていないし、今更取り繕って媚びるつもりもない。
第一そういうものは、この少女には通じないという確信があった。
リズは火の明かりを受けて、相変わらず表情に起伏のない瞳で、静かにタツミヤを見返していた。
その口がゆっくりと動き、「そうなんだ」と興味があるのかないのか分からない声音で言う。
「けど、話してみて分かった。少なくとも玄じいが言ってたほど、タツミヤは悪いやつじゃない」
「……参考までに聞きたいんだが、あのジジイ俺のことなんて言ってたんだ……?」
「『一匹蛸の臆病者』『墨しか出せぬ薄味人生』『大助平』『絵に描いた餅』『たこわさにして食うたろかい』……」
「聞いた俺が馬鹿だった。後お前も、そんな罵詈雑言を真に受けるな」
聞いているだけでげっそりする。
別に馬鹿にされて怒るようなプライドなんて持ち合わせちゃいないが、あのジジイはこんな小さな娘を捕まえてそんなこと吹き込んでいたのか。
やはり殺そう。いやそうじゃない、会いたくもないので最初の放送とかであっさり名前が呼ばれてくれることを切に祈ろう。
「捕まった時なんか特にそう。ノータイムで握り潰されてたら、正直為す術もなかった」
「……だったらそれは俺が優しいんじゃなくて、衰えてるんだろうな」
答えながら、タツミヤの思考はあの画集と巡り合った"運命の日"を追憶していた。
あの日、廃墟の図書館。煤けた棚の奥で偶然見つけた、葛飾北斎の画集。
育ちが育ちなので、名前は知っていたが実際に何を書いているのかは知らなかった。
自分に芸術を介せる情緒があるとも思えなかったので、吹雪が止むまでの暇潰しにでもなればと思って手に取っただけだった。
ぱらぱらと頁をめくった瞬間、目に飛び込んできたあの作品を見た時の衝撃は今も忘れられない。
『蛸と海女』。海女のしなやかな肢体に絡みつく蛸の触腕。触れ合いながら、言葉では語れぬ情が流れる構図。
官能、崇敬、依存、渇望――それらが一枚の紙に凝縮されていた。
衝撃だった。自分の中にあった何かが、音を立てて崩れた。多分それは、固定観念とかそういう名で呼ぶべき概念なのだろうと思う。
それまでタツミヤという人間を構成したのは、物心ついた時から定められていた"役目"だけ。
感情など介在する余地はなく、むしろ親代わりの教官達からはそういうものは排除して仕事に徹する生き方を散々教え込まれてきた。
だがあの絵を見た瞬間、凡そ三十年をかけて培われたすべてが音を立てて崩壊するのを感じた。
欲望というものがこうまで人間を変えるのだと初めて知った。
生まれた情動は一過性ではなく、永遠に脳内にのさばって自分を突き動かし続けている。今だってそうだ。
自分の存在意義として繰り返してきた殺しのウェイトが、いつの間にか二番手以下の価値にまで成り下がっていた。
リズに負けたのは、ひとえにひとつの結実なのだろう。だからタツミヤはそれを、"衰え"と評したのだ。
233
:
アイデンティティ
◆Z.GnlllvXU
:2025/06/25(水) 22:55:20 ID:wMcxZIQ.0
そんな彼にリズは、少しだけ目を伏せた後、言った。
「タツミヤが本気だったら、勝負はわからなかったと思う」
「お前みたいなガキに褒められても、な……」
「もしそうだったなら、私は迷わずタツミヤを殺してた」
淡々と告げるその声に、無駄な感傷はなかった。
再び、静寂。焚き火の音が穏やかな雪夜を染める。
世辞や慰めではあり得ない、喉元に突きつけられる切っ先のような冷たさを含んだ言葉だった。
「これもなにかの縁。私と協力しない? タツミヤ」
「……酔狂だな。俺が衰えてると分かった上で、わざわざ足手まといを抱え込むのか……?」
「さっきも言ったけど私の神禍は"適応"が前提。だから情報が多ければ多いほど強くなるし、死ににくくなる。
そうでなくても私の経験上、別視点の知識や視点を持ってる人が側にいると、旅はぐっと安全になるから」
触手の筋を噛み切りながら、リズはさらに言う。
「……それに。
やっぱりタツミヤは私と違って、"躊躇できる"人間なんだと思う。そういう人が側にいると、私も助かる」
「まるで自分は躊躇しないみたいな言い方だな」
「そう。私はたぶん、そういう感性を持ってない」
タツミヤの眉が、わずかに動いた。
何の逡巡もない返事。その簡潔さが、むしろ重たかった。
リズは黙ったまま、焚き火に新しい薪をくべる。
ぱちぱちと木の裂ける音が耳に残る。
「人を殺しちゃいけない、それは分かってる。ただし感情じゃなく、理屈として」
火の粉が宙に舞う。彼女はそれを追いながら言葉を続けた。
「でも、私は生きるためなら誰でも殺せてしまう。
神禍を手に入れる前からできたんだから、今は尚更そう。たぶんここでも、必要ならすぐにやると思う」
「……、……」
「生きるために誰かを殺す。それが悪いとは思わない。選べないなら仕方ない。他人のために命を投げ出すほど、私はお人好しじゃない」
言葉を切る。
ややあって、けど、と旅人は目を伏せた。
「私だって、殺さず済むに越したことはないと思う。だから傍に、自分とは別の判断基準がほしい」
「買いかぶり過ぎだ。俺だって今まで散々殺してる……俺が善人に見えるならお前の眼は濁ってるぞ、リズ」
「根っからの悪人は、そんな風に人を諭したりしない」
そう言われるとタツミヤも黙るしかない。
口調はあいも変わらず、淡々としたものだ。
だがその内容はこんな小さな少女が語るにはあまりに冷たく、異常だった。
234
:
アイデンティティ
◆Z.GnlllvXU
:2025/06/25(水) 22:56:22 ID:wMcxZIQ.0
――この少女は、何者なのだ?
タツミヤの脳裏に、今更ながらそんな問いが浮かんだ。
全球凍結時点なら一桁の齢だろうに、その頃から旅をしていたという経歴。
禍者との戦闘に慣れている自分でさえ、目で追えない速度の体術。
戦闘では一切の迷いなく攻め落とし、即座に最善手を導き出す弩級の観察眼。
歳相応の無邪気さをまったく持ち合わせない、悪く言えばあまりに得体の知れない娘。
常軌を逸している。が、事実、目の前に存在している。
まるで氷の世界そのものが形を取ったような、そういう存在。
本来なら慎重になるべきなのだろう。この手の"異質"に深入りしすぎると、軋むのは自分の精神だ。
だが――。
タツミヤは深く息を吐いた。氷の空気を吸い込みながら、ゆっくりと焚き火の向こうの少女を見つめる。
「……分かった。俺は正直、救世主を嫁にするとかそういう話はどうでもいいクチだ。
生きてこの妙な儀式から抜け出せるなら、そこにこだわりを持ち込むつもりはない」
「そ。じゃあ、契約成立だね」
リズは顔を上げた。
その目には驚きも喜びもないが、だからこそ奸計の気配は窺えなかった。
雪の降る音すら吸い込む氷原の中で、赤い光だけがどこまでも穏やかに揺れている。
リズは手元のデイパックに手を伸ばすと、中から支給品の水入りペットボトルを引き抜く。
透明なプラスチックの容器。少女は蓋をくるくると外すと、そのキャップに並々水を注ぎ入れた。
そして何の前触れもなく、それを口元に運び、ごくりと半分ほど呑んでみせる。
残りを静かに手で持ち、タツミヤの前に差し出すから彼としては狐につままれたような顔をする他ない。
「これは……何の真似だ?」
「盃」
「は?」
呆れ顔のタツミヤが声を上げる。
キャップの水を盃に見立てて手渡してくるという理外の行動。
しかも相手はどう見積もっても自分より二周りは年下だろう幼女だ。
そんな相手に思いっきり口をつけたキャップを差し出されたものだから、さしものタツミヤも困惑と躊躇を禁じ得ない。
「……いや、まずいだろう。流石に。いろいろ」
「なんで」
「なんでって言われても……条例的に……?」
「こんな雪玉の星で、タツミヤは法律を気にするの? ヘンだね」
「ヘンなのはお前だ。間違いなく」
リズは小首を傾げる。
まるで意味が分からないという顔だった。
235
:
アイデンティティ
◆Z.GnlllvXU
:2025/06/25(水) 22:57:11 ID:wMcxZIQ.0
「ほら、早く。冷えちゃう」
「水だから冷えてもいいだろ」
「でも早く。私が気分的になんか嫌」
「はああぁあぁああ……。分かったよ、付き合えばいいんだろ……」
タツミヤは深く息を吐いた。
渋々キャップを受け取り、唇をつけて一気に飲み干す。
当たり前だが何の味もしない。なんだかすごく意味のないことをさせられた気分だったが、一方でリズはちょっと満足げに胸を張っていた。
「確かに見届けた。これで私とタツミヤは一蓮托生」
「……どこでこんな真似覚えたんだ?」
げっそりした顔でタツミヤが呟くと、リズはあっさりと答える。
「玄じいに教わった。ジャパニーズヤクザのお作法。殺し合いをする私達にはぴったり」
「……待て。じゃあお前、あの天狗ジジイとも……」
「もち。盃交わし済み。ぶい」
リズは手でVサインを作って見せた。
やっぱりあのクソジジイはマジで最悪の生命体らしい。
タツミヤは柄にもなく頭を抱えたい気分のまま、風変わりな同盟相手と共にしばし炎を囲んだのだった。
【F-5・民家前/一日目・深夜】
【リズ】
[状態]:健康、やや満腹(少食だから)
[装備]:触手の串焼き、サバイバルナイフ
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:生きる。あんまり人は殺したくないが、必要なら仕方ない。
1:タツミヤと行動する。慎重に会場を探っていきたい。
[備考]
※猿田玄九郎と面識があります。打ち解け、盃を交わした仲であるようです。
【タツミヤ】
[状態]:軽い頭痛、そして胃痛(主に玄九郎が原因)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:生存優先。
1:リズと組む。ストッパー役としては期待しないでほしいが……。
2:クソジジイ(猿田玄九郎)がいることにたいへん憂鬱。マジで会う前に死んでてほしい。
[備考]
※触手はあんまりおいしくないようです。
236
:
◆Z.GnlllvXU
:2025/06/25(水) 22:57:42 ID:wMcxZIQ.0
投下終了です。
タイミング被りごめんなさい!
237
:
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/25(水) 22:58:37 ID:PTQKBYAo0
皆様投下乙です!
改めて投下させていただきます。
238
:
濡れた風来坊
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/25(水) 22:59:52 ID:PTQKBYAo0
◾︎
────〝無敵〟の能力とは?
馬鹿げた質問だと思うだろう。
しかし今一度、その答えを真剣に考えてみてほしい。
誰にも負けない圧倒的な武力?
如何なる攻撃も寄せ付けない防御力?
はたまた思考力を奪う脅威的な精神干渉?
どれも間違いなく強力。
けれど、あくまでそれ止まり。
ならば真なる〝無敵〟とはなにか。
答え合わせは、すぐそこに。
実体となって、顕現する。
◾︎
239
:
濡れた風来坊
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/25(水) 23:00:46 ID:PTQKBYAo0
粉雪の降り積もる山岳。
なだらかな山道を踏み締める靴が、ぎゅうぎゅうと音を鳴らす。
かつて『風』の勇者候補として名を馳せた長身の男は、つい先刻の記憶を反芻させていた。
「ふっ、ざけやがって……! 人の命をなんだと思ってんだ!?」
男──弥塚槍吉は超がつくお人好しだった。
目の前で人が困っていれば迷いなく助け、見返りなど求めない。
自分が生き抜くのに必死なこの世界において、それがどんなに異様な存在であるか。
民間の出でありながら、英雄に匹敵する肩書きを持つことがなによりの証明となろう。
かのソピアが言うには、世界再生の為には殺し合うしかないらしい。
確かに理屈はわかる。少数の犠牲によって世界が救われるのであれば、それが正しいのかもしれない。
あの救世主(ルクシエル)が見せた〝奇跡〟も、それが嘘偽りではないということを知らしめた。
ならばそれに従うべきなのか。
槍吉の答えは────断じて否。
「こんなの、世界再生なんかじゃねぇ……!」
槍吉が手に握るのは、数々の名が連ねられた参加者名簿。
ご丁寧なことに日本人向きの五十音順で示されたそれは、槍吉に憤慨を覚えさせるには十分であった。
『晴』の勇者、ミヤビ・センドウ。
『雨』の勇者、ルーシー・グラディウス。
『凪』の勇者候補、シティ・草薙。
共に戦場を駆け抜け、民を救った掛け替えのない友の名前。
自分一人が犠牲になるのであれば話はまだわかる。
けれど、彼らまで犠牲にするのは話が違う。
空を取り戻すべく尽力した彼らに、この場で死ねと断ずるのであれば、槍吉はこんな儀式認めない。
誰よりも世界の為に戦った彼らをこれ以上苦しめるのであれば、ソピアやルクシエルは救世主などではない。
そして、なによりも────
「────十二崩壊……!」
名簿の下に記載されている名前。
金獅子、魔王、姫、恐獣。
文字通り世界崩壊を進めた十二体の特級災禍。
人類史においても類を見ない脅威と定められた禍者。
それの生き残り全てが小さな孤島に集められ、世界再生の儀に参加させられているというふざけた事実。
240
:
濡れた風来坊
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/25(水) 23:01:20 ID:PTQKBYAo0
「こいつらが生き残ったら……世界なんて救われねぇに決まってる!」
槍吉が懸念するのは、なによりもその一点。
ルクシエルの意思は掴めないが、世界再生を可能とするほどの力を持った彼女を伴侶にするということは即ち、願いを叶えるも同然のこと。
全球凍結により衰退した世界に、終焉の加速をもたらした十二崩壊の願いとは。
十中八九、自分たちが命をかけて守ろうとした〝空〟を穢す我欲であろう。
最初から世界再生が目的なら、こんな奴らを儀式に呼ぶことなど有り得ない。
本当に世界を救いたいのであれば、すぐにでもこの首の烙印によって奴らを潰すべきなのだ。
それをしないということは、やはりソピア達は間違っている。
だからこそ、槍吉は足早に歩を進める。
十二崩壊やソピア達への憤りを原動力に変えて、無理やり儀式に巻き込まれた者たちを救うために。
「…………ん?」
そうして進んで十数分。
槍吉の耳が拾い上げたのは、微かな男の声であった。
「──……ーい、」
やはり、誰かを呼んでいる。
槍吉は声の方向へと駆け出した。
「────おーい!」
段々と声の輪郭が掴めてきた。
壮年の男の声だ、少なくとも敵意は感じられない。
枯れ枝を踏み潰し、雪に足跡を残しながら、槍吉は一本の大木の元へと辿り着いた。
「この辺から声が……」
「おーーーーい!! ここや、ここ!! 助けてくれやぁ!!」
辺りを見渡す槍吉の頭上から、絞り出すような声がかかる。
慌てて見上げた槍吉は、思わず目を丸くした。
「あ、あんた……なにしてんだ?」
「そりゃこっちが聞きたいわ! 俺、なんでこんな目に遭ってんねん!!」
地上から五メートル辺り、降雪に負けず天へと伸びた太く頑丈な枝先。
恵まれた体躯を持つ帽子の男が、それにがっしりとしがみついて震えていた。
241
:
濡れた風来坊
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/25(水) 23:02:39 ID:PTQKBYAo0
「…………あー、もしかしてあんた……降りれないのか?」
「そ、そや! 俺、高いところ駄目やねん! だから兄ちゃん、はよたすけてーや!」
まさか、と苦笑する槍吉。
想定していた危機とかなり乖離した状況は、なんとも緊張感に欠けるというか。
ともあれ命に関わる事ではなくてよかったと心中で胸を撫で下ろし、勢いよく腕を広げる。
「飛び降りろ! 俺が受け止めてやるから、はやく!」
「は、はぁ!? 兄ちゃん正気かいな!? 俺に死ねっちゅうんか! この薄情者!!」
「違うって! いいから早く飛び込め! もし失敗しても、俺の神禍で痛み〝だけ〟は消してやるからさ」
「おい、縁起でもないこと言うなや!」
時間だけが浪費されていく。
痺れを切らした勇者候補の喝が響かなければ、この無駄な時間はさらに続いたことだろう。
◾︎
あれやこれやと言い合い、やがて意を決した男が飛び降りる。
勇者候補の二つ名は伊達ではなく、自分以上の巨体を問題なく受け止めた。
安堵と恐怖が綯い交ぜになったような引き攣った笑みを浮かべながら、男が片手を上げる。
「いやぁ〜〜助かったわ兄ちゃん! 見たところ日本人やろ、奇遇やなぁ」
「あ、たしかに言われてみれば。めちゃくちゃ関西弁だしな、あんた」
二メートル近い眼帯の巨漢が木から降りられなくなっているというシュール極まりない光景に気を取られていたが、確かに言動からして生粋の日本人にしか見えない。
ただでさえ状況が状況。些細な共通点であろうとも互いの心を軽くするには十分だった。
「俺は城崎仁っちゅうもんや。兄ちゃんは?」
「弥塚槍吉だ。ほら、名簿のここにある」
「ほー、……勇者候補『風』? なんやこれ?」
「ま、肩書きみたいなもんだよ。ほら、同じようなの書かれてるのが他にもいるだろ」
言いながら、槍吉は名簿の下部を指す。
雨の勇者、晴の勇者、勇者候補『凪』──城崎は訝しげに首を傾げつつも、一応は納得した様子を見せた。
「なんでこいつらと崩壊? のやつらは肩書きつきなんや?」
「そんなの俺が知りたいよ……ま、とにかくこの勇者ってついてる奴らは俺の仲間で信頼できる」
「んじゃこの崩壊っちゅうんは?」
「こいつらは要注意だ。あんたは何があっても近づかない方がいい」
目元に真剣味を帯びさせた槍吉に、城崎はなんとも言えぬ顔で頷く。
今どき日本人で『空の勇者』と『十二崩壊』を知らぬ者などそういないと思っていたが、情報収集手段のインフラがまともに機能していない以上不思議ではない。
ならば尚更、城崎のようなただ巻き込まれただけの人物を危険に晒すわけにはいかない。
242
:
濡れた風来坊
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/25(水) 23:04:17 ID:PTQKBYAo0
「城崎さん、一応聞くけど……乗る気はないんだよな?」
「はぁ? そんなん聞かんでもわかるやろ。第一こんな老いぼれが勝ち残れるわけあるかい」
「だよな、安心した」
もしも、万が一にも乗っていたら。
こんな質問を投げておいてなんだが、それでも武力で抑えるようなことはしなかっただろう。
自分が勇者を断った理由である〝甘さ〟に辟易しながら、決意を固める。
「よし、決まり!」
この瞬間、槍吉の方針は定まった。
なにが、という城崎の疑問を遮るように親指を立てて突きつける。
「俺があんたを守る! 弥塚槍吉に出会えた幸運に感謝しろよ!」
「お、おう……えらい自信満々やんけ。ま、そういう事ならお言葉に甘えさせてもらうわ。よろしゅうな、槍吉くん!」
城崎が幸運である、というのもあながち間違いではないだろう。
この儀式、全員が全員反対の意志を持つなど現実的ではない。
その中で弥塚槍吉という根っからの善人に出会えたことは、紛れもない順風と言える。
そして槍吉にとっても、彼との出会いは道を定めるという点で不可欠であった。
「そういや城崎さん、武器は持ってんのか?」
と、槍吉はふと疑問を抱く。
先程のごたごたで聞きそびれていたが、城崎は無手の状態だった。
「あー、それなんやけど……笑わんでくれるか? や、むしろわろて欲しいわ」
「なんだよ、その前フリ」
「焦らんでも今に分かるわ」
そうして勿体ぶる城崎が取り出したのは、一本の木の枝。
先端が尖っていて危ないという点以外、なんの変哲もない。
槍吉は最初、城崎の意図を理解できず数秒の沈黙の後、まさか──と口を開いた。
「それ、武器!?」
「せやねん! あの女、舐め腐っとると思わんか!? これでどう勝ち残れっちゅうねん!」
確かにこれは笑うしかない。
ソピアは何を思って木の枝を支給したのだろうか。
もしも城崎の反応を期待していたのなら、確かに気持ちはわからなくはない。
洗練されたツッコミを見せる眼帯男は流石の関西人というべきか、一瞬この殺し合いという状況が盛大なドッキリなのではないかとさえ思ってしまった。
「飛ばされたと思ったら木の上で、おまけに武器もこんなんで……城崎さん、本当に不運だったな……」
「あのな槍吉くん、こういう時は同情するんやなくて笑ってあげるのが本当の優しさってもんやで」
とはいえ、非常に残念ながら笑いごとではない。
これまでの言動から、城崎が身を守る術を持っていないであろうということは明確。
並の相手に遅れを取る気はないが、自分と同等以上の相手が襲いかかってきた場合、彼を守り切れるかはわからない。
少し悩んでから、槍吉はデイパックを漁り始めた。
「ほらよ、城崎さん」
「ん? ……はっ? これ、ええんか?」
そして、手渡したのは自身のランダム武器。
城崎の手にずっしりとした質量を伝えるそれは、夜闇にも目立つ光沢を帯びた拳銃だった。
「いいよ。俺には〝これ〟があるからさ」
と、槍吉は慣れた手付きで背負っていた槍を回す。
波を描くような穂先の動きは曲芸のようでありながら、空を割く音が響き渡る。
鮮やかな一回転の後、地に向けられた槍身と柄を繋ぐ口金を軽く蹴りあげ、肩に担いだ。
その一連の所作だけで、彼が鍛錬に注いできた並々ならぬ時間を読み取れる。
ひゅう、と口笛を鳴らす城崎。
自前の槍と拳銃。自分との扱いの差に不服を噛み殺したような面持ちが、槍吉を見据える。
「かっこええやないか、槍吉くん」
「へへ、どーも」
かくして二人の男の出会いは、広げた帆を押し進む。
不運と幸運の織り成す『風』は、果たしてどこへ向かうのか。
風来坊宜しく、天運に任せてみようか。
243
:
濡れた風来坊
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/25(水) 23:05:02 ID:PTQKBYAo0
【B-5 雪山/一日目・深夜】
【勇者候補『風』 / 弥塚槍吉】
[状態]:健康
[装備]:名槍『虎落笛』
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本:この殺し合いを止める。
1:城崎と共に行動する。
2:ミヤビ・センドウ、ルーシー・グラディウス、シティ・草薙を探す。
[備考]
※ランダム武器(ベレッタ92FS)を城崎仁に譲渡しました。
【城崎仁】
[状態]:健康
[装備]:ベレッタ92FS(装弾数15/15)
[道具]:基本支給品、尖った枝
[思考・行動]
基本:生き残る、儀式には乗らない。
1:槍吉についていく。
2:槍吉の仲間を探す。
[備考]
◾︎
244
:
濡れた風来坊
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/25(水) 23:05:34 ID:PTQKBYAo0
ああ、きっと。
槍吉から見た世界は、こうなのだろう。
結論から言おう。
二人の出会いは、決して〝幸運〟などという不確かなものではない。
全てが計算され、仕組まれ、予定通りの出来レースである。
そして、それを仕組んだ人物とは。
他ならぬ城崎仁その人である。
245
:
濡れた風来坊
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/25(水) 23:06:04 ID:PTQKBYAo0
────槍吉から見た城崎仁とは?
不運にも木の上に転移され、不運にも外れの武器を渡された可哀想な老人。
いや、仮に槍吉でなくとも彼の言動を見ればそう思うのがごく自然のことである。
けれどそれが、嘘なのだとしたら。
不運など、最初からなかったのだとしたら。
これは、根拠のない〝たられば〟ではない。
城崎仁が転移した先は、木の上などじゃなかった。
不可解に思うだろう。
ならば城崎は、わざわざ巨木のあるところまで移動して登ったことになる。
殺し合いという誰もが状況を呑み込むのに時間を費やす初手で、この男は木を登るという選択を取ったのだ。
────なんのために?
決まっている。
その方が都合が良くなると、〝直感〟が訴えかけたからだ。
それこそが、城崎仁の神禍(のろい)。
他者を殺す為に賜った、超常の力。
莫大な火力を持つ異能でも、圧倒的な膂力でもなく。
ただ場の流れを読む〝だけ〟の、つまらない能力である。
城崎仁は、全て計算尽くだった。
支給品の確認の後、〝本当の〟ランダム武器を懐へ忍ばせる。
そして木の上へ登り、大声で助けを求める。
まるで槍吉というお人好しが傍を通ることを確信したかのような、一切迷いのない行動。
城崎はこれを、儀式開始から僅か数分の間に行ってみせた。
もしも通ったのが槍吉ではなく、危険人物だとしたら。
ああたしかに、そんなことが起きていれば城崎は命を落としていたかもしれない。
しかし断言出来る。
そんな〝もしも〟は存在しない。
城崎は賭けに出たのではなく、確定された未来に沿って進んだだけなのだから。
246
:
濡れた風来坊
◆NYzTZnBoCI
:2025/06/25(水) 23:07:26 ID:PTQKBYAo0
そうして得たのは、槍吉という勇者候補からの信頼と拳銃。
この殺し合いを生き残るに当たって、最適解とも取れる都合のいい展開。
初手で命を落とす者もいる中で、幸運と呼ぶ他ないが──再三言う通り、1%とて運は絡んでいない。
槍吉から見た城崎は、無知な人物であった。
空の勇者も、十二崩壊も知らぬ場所で生き延びてきた稀有な男。
しかし奇しくも、城崎が槍吉へ内心下した評価も全く同じだった。
もっとも、それは槍吉に限った話ではない。
自分の正体を知らぬ者は総じて、城崎から見て〝無知〟である。
──日本最大の極道組織『久藤会』。
その五代目会長に躍り出た実力者、城崎仁。
逸早く全球凍結に備え、大した苦労もなく適応してみせるほどの先見の明を持った男。
彼の順風満帆な人生は、決して運任せの道のりではなかった。
武力、権力、頭脳、話術、直感。
自身の持つ全ての力を適切に使い、都合のいい方向へ舵を取り続けて今がある。
競合相手である秋山組を蹴落とした時もそうだった。人道を外れた真似を恐れる者は、極道組織において成り上がるなど夢物語。
そしてそれは、この粒揃いの儀式においても同様に。
────〝無敵〟の能力とは?
回答は決まっただろうか。
ならば答え合わせといこう。
単純明快、言葉通り。
〝敵を作らない〟能力である。
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