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【第1回放送〜】平成漫画バトル・ロワイヤル【part.2】

403『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:52:14 ID:J31/VQ160
はい、これで『高木さん』二十三、二十四、二十五回目ーー。
…って、私も私でなにコマメに数えちゃってんだ。…あーあ、アホらし。
まー、オタク特有の急に饒舌になる高木ロボに比べりゃアホらしさもそこまでだけどね。


「…あっ、そうだ! 今、高木さんの写真見せますから! ………………。…この子です…! 美馬先輩…、見覚えないですか?」


だから知らねーモンは知らねーっつうの。
無様な高木ロボ、安物のスマホ取り出して写真見せびらかしてきたけどさぁ…。


……はあ。

この高木って奴……、まぁまぁハイカーストそうな顔付きはしてるけど、…なーんか……田舎臭さあってダサくね?(笑)って感じ。
マジでしつけぇ奴だわ高木ロボ。この写真でシ●ってそう〜…(笑)。
…あっ。ロボの奴、ワンチャン「オレこんな可愛い子と仲良しなんですよぉ〜」って見せびらかしたいだけだったりして。
きっっしょ。


「……本当にごめんね、ロ……西片君。とりあえず今は落ち着いて様子見すべきだと私は思うんだけどさー。…ね? 落ち着かない?」

「……くっ………。うっ……──」

「──申し訳ないですが、到底落ち着けないですよっ…! 美馬先輩は参加者に知り合い居ない様ですが、高木さんは僕の……と、友達なんです…!」

「…………そうなの?」

「だ、だからっ! …無理強いはしないですが、お願いしますっ!! 僕と一緒に高木さん探しに協力してくださいっ!!! このビルから出て、彼女を探しましょう!!!」



…あ、ヤバい。なんかカチーンって来たかも。



──ちなみにいい忘れてたけど私が今いる場所、スタート地点のビルだから。
…変に動いたらやべー奴に襲われるかもだし、当然の行動だよねぇ? 普通。


…その私が冷静に見出した『普通の行動』を理解もせず、自分本位でグダグダ高木高木うっさく喚いて。


これだからカースト下層のフツメン野郎は嫌いなんだよっ……──。



「…あのさぁ、西片君。────何でそう自分中心に進めちゃうわけ? 何なの?」

「……え? み、美馬先輩………?」

「女子はさぁ、空気を読み合って協調性を保つんだけどもさ。さっきから高木さん高木さん〜って自分の事ばかり話すじゃん?」

「………………美馬、先輩……」

「西片君さ、空気読もうともしないから、私が行きたくないオーラ出してるの察せてないよねえ? どうして私に合わせてくれないのかなあ? これでプラプラ出歩いてさ、私殺されたら西片君の責任になっちゃうね。ねえー?」

「……………」


「…オレだって、自分が焦ってるのは分かってますよ」

「え、なに?」

「だけどもっ…!! オレは高木さんを探したいし、…かといって美馬先輩を一人放ったらかしなんかできないっ!!」

「…………え?」

「だから、だからっ……!! お願いします、お願いしますっ!! オレと一緒についてきてくださいっ!!! お願いしますっ!! 先輩!!」



「………………。…あっそう」

404『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:52:25 ID:J31/VQ160

………高木ロボってさー。
多分、普段の学校生活でも、優しい真っ直ぐな男『キャラ』で頑張ってやってってんだろね。
まじウケる………。


──こういう輩…、ぼっちやオタクよりたちが悪い。

──私が一番嫌いなタイプな、クズ……。


はあ……。
本気で、そろそろ捨てるタイミングかもしれないや。
この産業廃棄物《高木ロボ》。


死ねよ陰キャ。

405『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:52:38 ID:J31/VQ160


 …
 ……

 “みんなアァァァ────────!!!!!! 俺は殺人ニワトリだッ、聞いてくれエェェェェ────────ッッッ!!!!!!”



 “『新田義史』って男に気をつけろ──────────────────ッッッッ!!!!!!!!!!!!”

 ……
 …

406『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:52:53 ID:J31/VQ160



 真っ黒な夜空が青みがかってきた頃合い。

コ●ダ珈琲店のテーブル席にて、
──頼んだアイスティーに一切手を付けず、ただストローを回すのみの私と、

「………………………」


──能天気にカツパンセットをガツガツ燃料補給す《食べ》るウザロボットと、

「それにしてもスゴいですね…。その筋肉……! 一体どんな鍛錬を積んだのかオレには想像できないですよ………っ!」



──そして、筋肉質かつタンクトップのアメリカ人。

「…いや、大した事はしていない。ただ日々の訓練と業務で自然についただけだ、この肉体は。…俺なんかよりも西片。お前の方こそ中々の身体をしているじゃないか。その鍛えた腕に、腹筋。その歳にしては素晴らしい肉体美だ」

「え! い、いや! いやいやいや、いや〜!! そんなコト無いですよー! ──『ガイル』さん!」



「………………………ハァ」



────「お前は誰だよ」の境地だわッ。


 …遡れば十数分前。
バカカラスみたいに「タカギサーンタカギサーン」と鳴き続ける高木ロボに、もう私は限界寸前だった。
バトロワ中にボッチとか二重の意味で嫌だから、ロボの切り捨て時が見つかるまで同行してたんだけどさぁー。…ほんとにコイツ《ロボ》は生理的に無理過ぎる。
いつどこで頭のイカれた奴に遭遇するか分かんないっつーのに、……なんでコイツ、こんな大声出せるわけなの?
無警戒にウロウロ町中を行ったり来たり、探し続けてるし。
どんだけ頭が悪いの?? コイツ。

私が「声のボリューム控えて…」ってか〜なり優し〜く注意しても、一分後には鳥頭同然にまた鳴き続けやがるし。
…こんな奴さっさと殺せばいいじゃん、ってトコなんだろうけど、殺人とかクソ気持ち悪そうだから手 下したくないし。
もうどうすればいいわけ………? めちゃくちゃイライラして血管切れそうなんだけど、って感じで。


イッライラ。

イライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライライラ。

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね…───────って、私は眼の前のだらしない背中に呪いを飛ばしまくってたわ………。



────そんな爆発寸前の時に声をかけてきやがったのが、タンクトップの変態だった。


ガイルとか何とかって名乗るソイツは、「君達は俺が守るッ…!(一部省略)」とか偽善宣言してきたから、コ●ダで三人座る今に至るってわけ。

──一応言わなくても分かるよね? 偽善タンクトップ男を仲間に引き入れたの、当然私じゃなくてロボだから。
コイツが目輝かして「共二行動シマショウ。高木サーン」とかほざいたんだからさ。勘違いはしないでよねえ?




「……………はァ………………………」


…マジで、
……うっぜ……。

407『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:53:10 ID:J31/VQ160
「…あ、ところで美馬先輩…。もしかしてどこか具合悪いんですか?」


 ………は? なに。
どこも悪くないし。
あんたとは仲良くともなんとも無いんだから、一々こっちに絡んでくんなよ。


「……え。なんで? 西片君………」

「だって、今結構小腹空く時間帯じゃないですか。だから皆でコメダに着たのに…、先輩アイスティー一つ飲んですらいないから………。ちょっとオレ心配で…」

「……………」


また何も考えずに話してるよ…。
毒物入ってる可能性もあんのに無闇食えるかっての。
大体、私女子なんだけど。
こんな深夜にパンなんか食べたら太るでしょ。
そう言うちょっと考えなくてもできる気遣いできないから、ロボはモテないカースト三軍野郎なんだよ。
…コイツが自慢気に思ってる彼女の高木とかいう奴も、どうせビ●チでしょ。うちの学校の佐々木みたいなヤ●マンビッチ。
ちょっと顔良いからって調子乗ってそうだし。


「いや、西片。サチをそっとしといてやるんだ」


「…えっ、ガイルさん。で、でも……」

「この状況だ。彼女だって言葉には纏められない思う事が沢山あるのだろう。…それに、レディーに『食え食え』と迫るのも…。フッ、関心しないな」

「あ、そうか…。すみません! 美馬先輩……!」


いや変態タンクトップお前は良識あんのかよッ。うわぁキモッ…!
明らかに変人な服装のクセして、いっちょ前に気遣いはできてやがるし。
ロボと違ってコイツは陽キャ男子っぽいからまだ抵抗感は薄いけどさぁ…、それでもやっぱ無理だわーー…こいつ…。
(というか、今更だけどもロボの奴…完全に高木のこと忘れてるでしょ。なに呑気に飯食べてるの?……)


「あっ、いい機会だから聞いちゃおうかな…? ガイルさん!」

「…ん。なんだ、西片」

「オレ、高木さんにからかれる度に…──っというか毎日腹筋や腕立て伏せを百回してるんですけどー……。それだと言うのに誰に聞いても「全然変わってなくね(笑)」とか言われて………」

「…ふむ」

「どうやったらガイルさんみたいにムキムキの漢になれるんですかっ? …ウエートとか? オレ、もう分かんないんですよ〜っ」

「……フッ。簡単な事さ。筋肉は長年の努力で引き出していくもの。すぐ結果が出る訳じゃないんだ、西片。ただ、一つアドバイスをするのなら、まずは三角筋の鍛え上げから試せ。肩の力だ」

「……は〜、なるほど……。肩、ですか!」

「あぁ。成長期真っ只中の西片は腹筋よりも肩を重点的にした方が良い。…ましてや、ウエートトレーニングなどする価値はない。やめておけ。俺もそんな物一回もしたことはないからな」

「えぇ!? でも、テレビとかスポーツ選手は良くウエートって…」

「西片。トラやライオンはウェイトをするか? ──持って生まれた体のバランスがある。する意味などないのだ」

「あぁ〜!! 確かに! 勉強になります!」




「………………はァ」


オタクってさぁ、なんだろう。
やたら筋肉質になることに憧れてるよねぇー。
女子からしたら、許容できる範囲は細マッチョまで。全身筋肉づめなボディビルダーとかキモいしドン引くのに。

夢壊すようなこと言うようでほ〜んとごめん〜。──マッチョとかモテないから。
ウエートだか何だか知らないけど、女子から見向きされたいなら違うトコに努力しろっつーーの。

408『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:53:31 ID:J31/VQ160
まったく。
何なのコイツら………。
コイツらの会話は聞けば聞くほど、無様で、バカ全開で、ツッコミどころ満載。
一人とか絶対嫌だから無理にでもコイツらにつるんでるけど、何もしてないのに物凄い疲労感湧いてきてしょうがない。


…本当に色々終わってる二人組。



……かと言う私も。

ほんと、終わってんなー。


…性格……………。




「あ、うっ!!!!」



うわ…ビックリした。
いきなりうめき声あげないでよブスロボ。


「…え。西片君どうしたの?」

「…あ、えっと。……いや、何でもないですけど。──…って!! 何でもはあるか…!」

「は?」

「えーと……。何ていうかその…………──」

「──ちょっと、『花を摘みに』失礼したいなぁっ〜て…。………なんちゃって。 と、ととにかく行ってきます────っ!!!!!!」



「…………………」



…きっしょ。
腹を抱えながら猛ダッシュでトイレに向かうマヌケ面。
……あんな奴野垂れ死んで、ホームレスみたいに朽ち果てればいいのに。


「……緊張性胃痛か。…哀れな運命だな。俺はまだしも、闘いなんて無縁なあんな子供が……、──殺し合いをする羽目になっているのだから。………主催者…、許せんッ………」


「……………………──」





「──…はぁあ………………」

409『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:53:45 ID:J31/VQ160
 ……さて。
願うまでもなく現れたこの『高木ロボがいない』時間だけども。

アイツが戻ってくるまでのタイムリミットはせいぜい五分くらい。
その間、何の興味も関心もない、絶対に趣味も合わないこのガイルと二人きりなんて、なんて居心地の悪いこと。
間を保たす為に、コイツと何を話せばいいのかってわけだけど、会話なんて何も思いつかないし。…大体私、男と話したことなんかそんな無いし。
逃げ出したいくらい窮屈な無言の間になることは、簡単に想像できた。


「………………」

「………………………ふぅ」


かといって、本当にここから逃げるのも絶対嫌。
こんな都合の良い筋肉バカを引き連れてるというのに、一人になって殺されてたまるかって話。

私は絶対に死にたくないし、言っちゃえば最後の一人に私がなりたい。



『絶対優勝したい』っていう強い願望なんかないけど、死ぬわけにはいかないから優勝したい。



「………………」

「………………………」



──となればさ、私がコイツとする会話は。


──そんなの、一つしかなかった。



「………。…──ところで、サチ──…、」



ぶりっ子ぶって、私はガイルの胸元へとギュッと抱きついた────。



「……──ッ!? サチ、どうしたっ!! いきなり…」

「ガイルさんっ…! お願い…、…私を助けて……………」

「なっ!? どうしたと聞いているだろう!! サチっ!!」

「…さっき…言ったよね………。出会った時に、ガイルさん……。『美馬、君を守る。絶対に助ける』とか………………。…だから、だからさ…………」

「…あぁ、確かに言った。俺は力無き者を見捨てたりはせん。君も、そして西か──…、」




「だったら西片君を殺してくれない?」







「…………………………………なにっ?」

410『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:54:01 ID:J31/VQ160
 …ハァ…。

…コイツの体、汗臭…………。
やっぱ筋肉野郎のゴツゴツした体って耐えられないわ、無理過ぎ………。

……でも今はまだ我慢っと。演技に集中ー。



「…サチ。君は血迷っているのか? …自分が何を言ったのか、……分かっているのか」

「…………そら貴方には分からないでしょ…。会って……数分もしてないんだからさ…………。────西片、アイツの本性がっ…」

「………詳しく言え」

「私たちと……初めて会った…数分前を思い出してよ……。あの時の私、…どんな顔だった? ねえ、ガイルさん………」

「…………」

「…凄い絶望して、すっごく泣きそうで嫌な顔してたでしょっ………。私…………。…西片のやつに……、服破かれて……、ヘンなことされそうになって…………。拒んだら急に豹変して、殺されそうになって……………」

「…………さ、サチ…」

「あの時、ガイルさんが通りかかってなければ…、私殺されてたのっ…!! だから、アイツが善人のフリして貴方に近寄り……、何もなかったように食事してるのが…………。私、怖くて、たまらなくて……──」



「──だから西片をやっつけてよ。ね? ガイルさん…………」

「………。………………サチ…──」



「──君を疑うつもりは無い。…だが信じられん。信じられぬのだっ………」

「…………」

「あの真っ直ぐな瞳をした、殺しのこの字も知らん童にっ。……外道に堕ちた真似ができるとは……。………サチ」



…………チッ。めんどくせーな。
これ以上私にイタい芝居させないでよ。

…あと、さっきから私のこと『サチ』呼びってさぁ。……フランク過ぎるにも程があるでしょコイツ。


「………信じてくれないの? 私のこと」

「俺は、疑心暗鬼が苦手だ。……君のことも信じたいが、西片も同じく信じたい。…………どうすればいいか頭が痛いっ…」

「……証拠ならあるのに。…西片が、ヤバイ奴だって証拠は……………」

「…なにっ?」

「…一時くらいにさ、なんかスゴい放送聞こえなかった? ほら、『みんな、あの参加者に気をつけろ〜』……って……」

「……あぁ、聞こえたさ。それが何──…、」


「『【にしかた】って男は殺し合いに乗ってるぞ──』。──とか、………………言ってたよね?」


「……っ。………………………──」


「──いや違う。…俺もおぼろ気だが、西片ではなく【にった】と言っていたな。……サチ、君の勘違いだ」


…確かにそりゃ違うけども……。
頭使えないバカの癖に一々反論してこないでよ。
あぁもうっ…ほんとウザいわ。

411『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:54:16 ID:J31/VQ160
「…いいえ、違う。絶対に西片って言ったから」

「……さ、サチ。何故君はそんなに西片を──…、」

「あの放送の時、ガイルさん何してた?」

「……何とは。…俺は、泣いてる参加者を守るため街を走り回っていたが…」

「ほら、だからじゃん………。黙って聞いてないから…聞き間違いするんだって」

「…………………」

「聞こえてなかったのなら、改めて私から言い直してあげる。……【西片は危険人物】だって。……私を…信じて……、ガイルさん」

「……サチ……」


だから名前呼びしてくんなっての。呼ばれるたびに鳥肌たつわ………。
……はぁ、まっどうでもいいや。一々…。

分厚い胸筋に顔をうずめて、ギュッと力いっぱいに抱き着く。
鼻を閉じながら、私はトドメとして『泣き真似』をアイツにぶつけこんだ。



「────お願いだから、私を信じて…っ。…私だけを守って…っ。………助けて、──ガイルさん……………………………」


「…………………! ……サチ……………………」




…ちょっと目線を下に落として、確認。

……なーんだ。
私に抱かれてコイツ勃●でもしたかと信じてみたけど、全然じゃん………。
まあしてたらしてたでサブイボ全開なのは確かだけどもさ………。

どうでもいっか、そんなの。


「……サチ、…疑ってすまない。ここは俺に任せてくれ……ッ」

「え? ガイルさん…。じゃ、じゃあ………」



「君のことは俺が守る。……絶対に、……絶対にっ、だ………! ──西片から……」

「………っ! ガイルさん…………!」



──勃とうが勃たまいが、コイツを完全に『堕とせた』のは変わりないんだから。

…私のド大嘘で。
ぶふッ…!

ほんと私って性格終わってるわぁ〜〜。
なんかガイルの奴、殺意の波動に目覚めたって顔してるし。うわ、うける〜。

412『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:54:36 ID:J31/VQ160
 ──ガチャッ


「あ、美馬先輩にガイルさん〜…! すみません!! ほんと急にお腹が痛くなっちゃって〜…。ヤバかったですよ」

「…あっ」「………………西片…」


そうこうしてるうちに、何も知らないロボが登場〜。
能天気にヘラヘラ笑っちゃって、…めちゃくちゃ滑稽なんだけど……!


「……………」



「…あれ? な、なんだこの空気の悪さ……。み、皆さんどうかしましたかー??」


「………」


「…。…西片……」

「…はい?」

「西片………。話したい事がある。…表に出ろ。良いな」

「…え?? …良いですけど…………。……??」



「………………」





「………………………フフッ!」




あっ、やば。
つい吹き出しちゃったけどガイルにもロボにも聞かれてないよね……? …うん、聞かれてないな。ラッキー。



ほぼ羽交い絞めみたいな形で変態タンクトップに連れまわされる西片。
その背中を眺めていたら、ちょっと前の過去が頭によぎる。


 ……思い返せば、私は中学生の時からダサい男子が大嫌いだった。


私の人生史上一番ダサい男はあの時のコンビニ店員だ。
生理用品を買いにコンビニ行った時。
女の店員なら配慮で茶色い紙袋に包んで渡してくれるんだけど、男店員はそんなことしない。
だって、そんな『配慮』知る由もないんだから。するわけがないし、それに一々私は気にはしない。
それが普通だから。

でも、あの冬、会計を担当した男店員は違った。
紙袋に入れた上に「ご一緒にレジ袋に入れてもよろしいですか?」とかわざわざ聞いてきたんだって。

413『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:54:48 ID:J31/VQ160
分かる? めちゃくちゃ気持ち悪くない??
イケメンとかならまだしも、そいつ…何ていうかその、チー●牛丼食ってそうなのっぺり顔だったし。
その「誰も知らない女性への配慮を、俺しちゃってんだぜ。カッコいいだろ?」って透けるアピールがさぁ。
…私、思わず軽蔑の視線を刺しちゃったわ、ほんと…。



……で、そんなわけだから、私はお前が大嫌い。

バイバイ、高木ロボ。
お前さぁ、その店員と同じくらいに、生きてる価値ないからさ。


あっ。間違っても私を恨まないでよね〜?
ロボを殺す張本人はそのタンクトップ筋肉バカなんだから。

ハッハハ〜〜〜…!
うっける〜。





…あ、やば。
言い忘れてた。
ガイルのアホに、ちゃんと『即死』で殺すよう釘刺しておかないと。

下手に戦闘長引いてさ、西片と話したりでもして、矛盾とかボロ出てきたらこっちがマズくなるんだからさ…………。

414『そんなガキなら捨てちゃえば?』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:55:02 ID:J31/VQ160
【1日目/B5/コメ●珈琲店店内/AM.03:19】
【美馬サチ@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【優勝狙い】
1:筋肉バカ(ガイル)に引っ付く。場合によっては切り捨てる。
2:西片バイバ〜イ(笑)
3:自分とカースト同程度の女子の参加者と行動したい。
4:で、そいつと誰かの悪口言いたい。

【西片@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:ガイルさんについていく………。なんだ、何があったんだ…?
2:高木さんを探したい。
3:美馬先輩を守る。

【ガイル@HI SCORE GIRL】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:西片……………っ。
2:襲われている参加者・力なき者を助ける。
3:サチを助ける。
4:ハルオ…生きろよ……っ!

415次回 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/19(水) 21:57:23 ID:J31/VQ160
──ボウリングやる時、ガター狙って投げる奴アいない。

──ストライク狙って投げなきゃ、始まらねえ。


【次回】
『ボウリング・フォー・コロシアイ』
【出演】
『三嶋瞳、利根川幸雄』

416 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:42:58 ID:FhP9fNKw0
──次回、ボウリング・フォー・コロシアイと言ったな

──あれは嘘だ


『意味が分かると怖いダガシ』


[登場人物]  [[小泉さん]]、[[枝垂ほたる]]

417『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:43:28 ID:FhP9fNKw0
 あれは──、私が本当に体験した出来事だったのでしょうか。
それとも幻を見ただけだったのでしょうか──。
いずれにせよ、この目ではっきりと確認したことだけは事実。
夜更けの人淋しいはずれ町にて遭遇した、不思議かつ不気味な現象がそこにはあったのです。


ええ、『怪談』です。

418『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:43:44 ID:FhP9fNKw0



「うーん。…悩みますね。日高屋で良しとするか、五百メートル先の山岡家まで我慢するか。…悩ましい、悩ましい限りです」


 屋台『とんずラーメン』という隠れた普通店を完食後、私は数分間町中を歩き続けていました。
スマホのナビアプリに身を任せ、特に何も思考せずボーっと足を進めたところ、気がついたら路地裏に。
はぁ…お腹空いた……──と、胃袋の物恋しさに悶えるのでした。
このド深夜、そしてこの渋谷で私が目指すその目的地────それは言うまでもなくラーメン店。
趣味はラーメン、そして幸福はラーメン、人生こそがラーメン。──聖典は拉麺に在りき、との私はもはや啜ってなければ呼吸をしてないも同然なくらい。
だからこそ、最寄りにあったラーメン屋へ急がねば。そして、日高屋か山岡家のどちらにするか選ばねば…と、ただただ歩いていたのです。



……。


はて、どこからか謎のツッコミの嵐が聞こえた気がしましたが、…面倒なので一片に答えておきましょうか。

『えっまた食べるの?!』『屋台のラーメン食べたあとなのに?!』『てかまだ食べるの?!』『深夜に食べて大丈夫なの?!』『大食いなの?!』『大食漢?!』『どんだけ食べるの?!』


………。
────私からのアンサーは全部まとめて『はい。以上』のみ。
私はラーメン店を二、三軒──しかもスープを完飲してハシゴするのがほぼ日課なので、これが日常。これが普通なんです。
そして、これが私なので理解したいのならどうかご理解をお願いしたいところです。
…はい。では、ツッコミの皆様さようなら。



「……うーーん。日高屋か、山岡家か、……………困りました………」


 それにしてもこの二択、
実に困ったものでこの道中なんだか足取りが重くなってくるばかりです。
「ラーメンはあっさり派か、こってり派か」なんて論ずるつもりはありませんが、私は今人生の岐路ならぬ、ラーメンの岐路に立たされています。


 濃厚な豚骨スープと太めのストレート麺が特徴のこってりラーメン────『山岡家』。
当初こそは山岡家一択で、そこに向かってまっすぐ進むつもりでした。
ええ、なにしろ時間帯も時間帯で、深夜の今に開いているラーメン屋など必然的にチェーン店しかなく。
マップで調べたところ最寄りのラーメンチェーンは五百メートルも遠いここしかないので、距離の忍耐を覚悟しながら歩を始めたのですが…。

 万人受けするようなあっさりとした味付けの「こういうのでいいんだよ」系ラーメン────『日高屋』。
よくよくスマホに目を凝らすとちょっと角を曲がってすぐに、同じく二十四時間営業のチェーン店の名前が……。
五百メートル分も空腹に耐えなくても、すぐラーメンにありつけれるとはまさに現代のオアシス《Ramen》。ならば予定変更にここにしようと一瞬判断してしまいました。


 ………ただ、ここで思い出していただきたい──そして私が不意に思い出したのは先程の『ラーメンとんず』の味でして。
チャーシュー、メンマ、スープ、麺。──全てにおいて学食を思い出させる素朴な味の、あの一杯。
あれを食べた直後にまた連チャンであっさりを食べるのも「…うーん」という感じがありまして。
だったら日高屋にて中華そば(\420)ではなく、とんこつラーメン(\500)を頼もう…とも思いましたが、身体は山岡家のようなより脂っこい物を欲している気分…。


飢えに耐えてでも中太麺でパンチの効いたあの店を行こうか、
それとも妥協して近場で済ます──チャーハンをセットに鶏ガラの効いた一杯を啜ろうか………。

こんな小さなことで私はかつてないほど苦渋に悩まされていました。


「…あぁ、ひもじさが限界級…………。一体私はどちらにすれば……………」


…と、そんなこんなでこのとき目の前が見えていなかった私。
スマホナビに釘付けされながら歩いていたものですが、ナビアプリという物はどういう訳か普通ならあまり通りたがらないような道筋で常々案内してくるもの。
気がついた時、私は──………。





「……………あっ」





 まるで闇の中に街が生えたかのような────真っ暗な商店街の中に足を踏み込んでいたのでした。

419『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:44:02 ID:FhP9fNKw0
 …ええ、不気味な商店街です。
一見にしてどこにでもあるような普通のシャッター街、何も変わり映えない電柱に看板、アスファルト。…それなのに『何か』が違う。

目では分からない何か不穏なオーラ、言葉では上手く言い表せない異様感。
不自然なくらい静寂っぷりが目立ち、人の気配どころか人がいた形跡もない街。──それだというのにどこからか誰かの視線を感じる異様な空間。

空気が淀んで、生乾きのような臭いが鼻をついて。
風がぴゅーっ……と、夏だというのに鳥肌が立つほどの冷たさで。
私は何故だか胸騒ぎ…といいますか、直感的にここから逃げ去りたい感情に。



…いわば霊的な何かということでしょう。

私はそんな不気味の具現化ともいえる街の真ん中に一人立っていたのでした。



「……………………………」


骨まで染み渡ってくる寒気に、

闇に包みこまれたこの不安感。


普段、幽霊や怪談なんて全く信じていない私ですが、…そんな私でも「これ以上進んではいけない」と本能的に訴えてくる、……何かがありました。

スマホを暗転させ、ゆっくり静かに。
何事も無かったかのように、身体の向きをUターンし、ここから去るよう決意した私だったのですが。


後ろを振り返って、右脚を一歩進めたその時。



 ────ガシャン………



「……………えっ」




私のちょうど真横に建つ、古びた古民家から突然。


 ────ガシャンッガシャンッ、ガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャン



「……っ!!!」



 ガラス戸を激しく叩く音が響き渡ったのです。

──……古民家内に潜む、『何か』による…。



 ────ガシャンッガシャンッガシャンガシャンッガシャンッガシャンガシャンッガシャンッガシャンガシャンッガシャンッガシャン


「………っ、………………………!」


徐々に、徐々に、激しさを増していくガラス戸の音と、そして比例する私の心臓の爆音。
……ドクンッドクンッ、ドクン………。
心臓が、冷えていく血液を循環させ、頭の頂点から爪先まで巡る寒気が、私の動きを完全に止めます…。
その冷水を浴びたかのような悪寒ときたら、思わず息をするのを忘れさせるほど。

420『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:44:19 ID:FhP9fNKw0
ヘビに睨まれたカエルは、今際、こんなに冷え切った心地だったのでしょう。

私はガラス戸越しの『何か』に魅入られていたのでした……。



 ────ガシャンッガシャンッ、ガシャンッガシャンッ、


「…………………っ………」


 ────ガシャンッガシャンッ、ガシャンッガシャンッガシャンガシャンガシャン…………





 “お願い……………。………………”





「………えっ?」



 ────ガシャンッガシャンッ…………


 “……お願い…………………。…出し…て…………”



 …この怪異はまだ終わりを見せません。
延々と鳴り続ける打音の裏で、弱々しくも…確か、に。女性の『うめき声』が聞こえたのでした。
ガラス戸と共鳴するかのように、古民家の中から。………確実に……。



 “開…けて……………。ここを、開けて…。はや──…、”


 ────ガシャンッガシャンッ、ガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャンガシャンッガシャンッ、ガシャン



「……っ。……………」



今にも消えかかりそうな、…明らかにこの世の者ではない人間の声。
家内に封じ込められている『何か』は、明らかに私に向けて言葉を発していたのです。
「開けて。」「出して。」────言われるがまま従ったらどんな恐怖と対面することになるか…。
到底想像も出来ませんでしたが、確実にまずい事態になるのは確かです。


そんな『何か』の唸りに、私が取ったアンサーは…………、────……一つ。

421『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:44:35 ID:FhP9fNKw0
「………………行き、…行きますか……」




 
それは、────言われた通り助けに『行く』事です。

 ……ええ、意外な行動でしょう。
正直、当時の自分も何故、古民家へと吸い込まれていったのか解せませんでした。
普通なら意のまま、飛び出すように逃げるものでしょうし、それが最適解です。
わざわざ覚悟を決めて歩み寄るなど、二郎系店で残す行為と同じくらい愚の極み。愚かな考えです。



……ただ。


 ────ガシャンッガシャンッ、ガシャンッガシャンッガシャンガシャンガシャン…………



私はもう既に、未知たる『何か』に標準を合わせられている現状。
…逃げた所で、追手と化した奴から無事でいられるのか──。
…そう想定したら、私が取った行動もあながちバカなミステイクとは言えないのではないでしょうか。



…それに。
──正直言って、『うめき声』まで追加されたら、…胡散臭さというか。
──陳腐で嘘臭さもありましたから。



 ────…ガシャンガシャンガシャンガシャン

 ────…バクンバクンバクンバクン


「………………」


ガシャンガシャン………と崩れぬ打音。そしてうめき声。
両者揃って震えるその音の下、私は用心しながら静かに歩み寄って。──近づき。



 ────ガシャンガシャンガシャン…………

 ────バクンバクンバクン……


「………………」


今にも倒壊しそうな、まるで昭和中期の遺物とも言える古民家の前まで、立った時。
多少震える両手を引き戸まで伸ばして、取っ手に指をかけた私は一呼吸。



「…………すぅ…………。……………んっ!!」



 ────ガシャンッッ

 ────バクンッッ


常日頃使う機会など無い勇気を振り絞って、思いっきり力を込めるのでした……………。

422『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:44:48 ID:FhP9fNKw0
ガラガラガラ…と、
一気に開かれる扉。


引き戸から解放されると同時に、私に襲いかかってくる、黴臭さと湿気。

そして、家内の異様な『熱風』。





最後に、待ってましたとばかりに、ガラス戸にもたれ掛かっていたのでしょう──『何か』が、うめき声と共に勢いよく。




「あぁぁっあ〜〜〜〜〜〜っ!!! 暑かったわぁあああ〜〜〜〜〜〜っっ!!!! ばたんQぅぅえ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……」



「…え?」




「…げふぅ〜〜。ハァハァ……。誰かは存じ上げないけど……ハァハァ………、助かったわっ!! ありがとう!! ハァ…ハァ……、イッツ・ア・……パーフェクツ─────っ!!! アンサーよっ…!!!」



「…は?」



溶けかけのバターのように、ちゅるりんっと『彼女』は倒れ込んだのでした。


…勿論、生身の人間の。
彼女──、後に聞いた処の『枝垂ほたる』さんが。


「恐怖? なにそれおいしいのっ??!」ってくらい、幸せそうな表情かつ汗ビッショリな枝垂さん…。

…そして、古民家奥から充満してくる『豚骨』の匂いときたら……。
…ほんと……。





…何ですか…。これは。
すごいビビリ損だったじゃないですか…。

423『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:45:00 ID:FhP9fNKw0




────そうっ!! 今日のテーマはずばり……これよっ!!!!(By 枝垂ほたるっ!!)


 ●『ブタメン』●


…お湯を入れると『本物の』ラーメンに!!
…味の種類も豊富!!
…小腹がすいた子供達に絶大な人気の、ポピュラー駄菓子だ!!!

424『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:45:17 ID:FhP9fNKw0




 …ガラス戸の怪を前にして、本来の目的を完全に忘れていた私ですが、…思い返せばラーメンを求めて彷徨っていたのが始まりでした。
その起点を踏まえると、枝垂さんを助けたのも結果オーライ…というわけでしょう。


量は少なめながらも、こうしてブタメン《ラーメン》にありつけれたのですから………。



「…ずるずるずるずるずる」

「ッッ! プッハァ────────────ッ!!! 乾いた喉に瓶ラムネは〜〜っ……、最高にハイねっ!!!! 生き返るわぁ〜〜〜!!!」

「……。…ずるずるずるずる………」


 古民家…────いえ、正式には『駄菓子屋』外のベンチにて、私達は今つかの間の休息中。
夏の暑さを乗り越える、スタミナを付けるには最低の駄菓子……。そんなブタメンは、待ちに待ったラーメンだけに、それはそれは至高の味でした。
濃い目の味付けと、ミルキーな白濁スープが絡み合う温かなハーモニー…。
意外と低加水な麺は、そのワシワシした食感が結構楽しめ、満足度は非常に高かったです。

容器を傾け、最後のスープを一飲み。
…んっ、んっ。……ぷはっ!

ご馳走様でした。
古びた駄菓子屋の品ともあり、賞味期限に不安はありましたが、なんと新品で。しかもガスまで使えたので、驚き超満載です。

はー………! 美味しかった………。



「…でっ!! この真夏だというのに駄菓子屋に閉じこもって、ストーブ炊いて……。…汗だくになりながらブタメンを食べてたら、戸が壊れて出れなくなった────…ですか……。枝垂さん」

「フフッ! 説明繰り返しありがとう小泉ちゃん!!」


「………バカですか? …あっ、失礼。言い過ぎました」

「あらあら! よしてよ小泉ちゃん!! バカはバカでも究極の駄菓子バカとはこの私っ!!! ほら、よく言うじゃない? バカとマヌケは紙一重ってね!!!!」

「…そりゃ紙一重でしょう」


……そうそう。
驚きと言えばこの枝垂さんも、まさに奇天烈の域…。
信じられますか?
彼女がストーブを点けてブタメンすすった動機も、一人我慢大会とかそういうのじゃなくて、『ブタメンを美味しく食べる…ため……っ──』とかですよ。
あまり人の悪口を言う性分じゃないですが…、枝垂さんかなりどうかしてます。
全く何をやってるんでしょうか…。
……………はぁ。


ビー玉が瓶の中で転がる、清涼な音が隣から響く……。



「ブタメン………。やっぱりこの味は良い物よね〜小泉ちゃん!! 味もさることながら、七十円と比較的高価な駄菓子であるブタメンは、やっぱり特別感あるわよねっ」

「そうですか。私は駄菓子屋にはあまり…なので分かりませんけども」

「あら、そうなの? …勿体なぁ〜い……。じゃあ…仕方ないわ。小泉ちゃんにちょっとした昔話をしてあげるんだからっ!!! 以下、回想────!!!!! 遡るは、小学生時代の私…────!!!」

「いえ結構です。…あと何に託つけての『仕方ないわ』ですか………」


…って、言っても多分聞く耳持ちませんね…。

425『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:45:32 ID:FhP9fNKw0
 ………
 ……
 …
 
 ブタメンにも味の種類が豊富にあるわ……。(ナレーションは私よッ、ほたるッッ!!!!)

 百円玉を握りしめ、駄菓子屋へ行った私は、
 何個も買えないブタメンを前にして、別の味を試してみるなんてことはあまりにリスクが高かった………。

 「……ぅッ!!!」

 試したくてもついつい、安心の『とんこつ』を選んでしまいがち。…常にそうだったわ。

 今でこそ好きなように選んで食べられるけれど………。
 親しみ深いのは、やっぱりとんこつ味…。

 …
 ……
 ………



「…あっ、もう終わり?? 思いのほか回想短かったですね」

「フフッ…!! この感覚を共有できる人が日本中にいると思うと興奮するわねっ。ブタメンが作るとんこつの絆ってやつだわ!!」

「何を言ってるんですか?」

「いや、他愛もないただの雑談よっ小泉ちゃん!!! そんな私だけども、幼少期。一度だけ…、いや二度とんこつ以外を食べた記憶があるわ………」

「はあ」

「あれは、確か『しょうゆ』と………。え〜〜〜〜っと。あとは〜〜〜〜……思い出せないわぁ〜〜〜……──…、」


「…『タン塩』ですか?」

「えっ!!??」

「それか、『焼きそば』、『カレー』、『旨辛』、『シーフード』、『エビぱいたん』等等…。御当地限定の『味噌カレー牛乳味』や、二十周年記念の『スペシャルエディション味』なんかもありますね」

「………そ、そうっ!!! それよ、それ!!! 旨辛味よっ!!! こ、小泉ちゃん恐れ入ったわ……。凄すぎるじゃない〜〜っ!! こんなに沢山スラスラ言えて!!! 駄菓子興味ない、なんて下手なウソついちゃって、このっ!!」


…まぁ、というのも、小学生時代の私もブタメンは沢山啜りましたからね。
「駄菓子屋はあまり行ったことない」は嘘でないですが、…ブタメンに関しては網羅済みですから。
これくらいは言えて当然なんです。


「…そうね……。さしずめ……、これはもう小泉ちゃんならぬ、──『ブタ王』といったところかしら…?」

「いや違いますよ。てかしないでくださいよ?? …その呼び方。絶対断固拒否ですから……っ」


………うわ。
危ない危ない…。
危うく最悪な渾名を付けられるところでした。豚王って……M●THER3ですかッ。


「ふんふふん〜〜〜♪ これで、我が駄菓子軍団にブタメンマイスター──小泉ちゃんも加入〜〜〜♪♪ この調子で団員を増やせばバトロワも、終わらせれるわねっ!!!!」

「………。え、他にその、団員…いるんですか?」

「モチのロンッ!!!! 小泉ちゃんが記念すべき第一弾────────っ!!! おめでとう!!!!」


…………。
本当に、常に想定を超えてくる人というか…。
枝垂さんは掴みどころの全くない人でした。………全く。

426『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:45:55 ID:FhP9fNKw0
「…………ふう」


さて、こうして勝手に『駄菓子軍団』とやらに入れられた私ですが。
つまりは、暫定で枝垂さんと今後、この殺し合い下を共に行動することになった次第です。
枝垂さんはキャラが濃い上に、そもそも私はソロ行動をしたいスタンスなので、正直かなりの困惑と窮屈感はありますが……。

…別に気にすることはないでしょう。


「…さて!! こうしてはおれないわ小泉ちゃん!!! 行きましょう!!! 私たちと駄菓子を布教して、今こそ見せる時よっ!!!」

「……」


「駄菓子の────底力を!!! そしてブタメンの熱い情熱をっ!!!! 準備はいいわね!!! 小泉ちゃん!!!!!」


「……はい、はい」



枝垂さんが例えどう無茶に振り回してきても、何をしでかそうとも、──私は構わず、我を通す。
命尽きる最期の時まで、素晴らしい渋谷のラーメン店達を巡り……、知らない薫りに吸い込まれては、足を運ぶ。


ラーメンを求めるのが、私の『生き様』なのですから────。



空になったカップと箸をゴミ箱に投げ捨て、カランっ…────と。
ゴミ箱に着地した音が鳴ると共に、私は腰を上げるのでした……。













“お分かりいただけただろうか。”

427『意味が分かると怖いダガシ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:46:08 ID:FhP9fNKw0
【1日目/F4/センター街/AM.4:00】
【駄菓子軍団】
【小泉さん@ラーメン大好き小泉さん】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:殺し合いとかどうでもいい。とにかくラーメンを食べる。

【枝垂ほたる@だがしかし】
【状態】健康
【装備】???
【道具】すっぱいガムx4
【思考】基本:【対主催】
1:駄菓子の力でバトロワを終わらせるわっ!!
2:というわけで駄菓子同盟第一弾は小泉ちゃん!! 一緒に行動よっ!!!

428次回 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/22(土) 20:50:38 ID:FhP9fNKw0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ⑥】

①最終回では9人死にます。
②第5回放送では9人死にます。
③そして、第1回放送では12人死にます。

残りの情報…それはまだ混沌の中。
それが………平成漫画ロワ…………!


──ボウリングやる時、ガター狙って投げるry


【次回】
『ボウリング・フォー・コロシアイ』
【出演】
『三嶋瞳、利根川幸雄』

429『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:51:00 ID:Et9.Y5BI0
[登場人物]  [[利根川幸雄]]、[[三嶋瞳]]

430『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:51:19 ID:Et9.Y5BI0
 西部劇に出てくる………──アレ…………。


風に吹かれて荒野をコロコロ転がる、ボール状の干草。
正式名称は『タンブルウィード(回転草』との事らしい。

タンブルウィードは通常、アメリカ西部の乾燥した地域にしかその姿を確認出来ぬ物だが。
どういう訳か、奴は渋谷区東部の東京湾。──西でもアメリカでもない、湿地帯にて登場し、誰に言われずとも浜辺を転がり始めた。


「………チッ! 出やせん……、誰も…、電話に………っ!! …確かに時間帯も時間帯……。山崎や権田らが応答できぬのも致し方はない…………っ──」

「──ただっ……………!! 左衛門…、堂下………。どうしたっ……?! お前らなら出れる筈だろう……………!! お前らは……、『参加者』なのだから………!!」


「………うぅー〜〜……。…ダメだ。利根川さん、こっちも繋がらないですよ…。新田さんにヒナちゃんにアンズちゃん…。社員の誰一人どころか110番さえ出ません」

「………チッ、使えんゴミ共がっ……………」

「これ…もしかして、電波妨害とかされてるんじゃないですかね? これじゃあ助けを呼ぼうにも何も役に立ちませんよ〜…」

「…クゥッ………。だとするなら、意気揚々と三本指を立てるな…………っ! スマホの電波アンテナの奴……………っ!!」


タンブルウィードは、風に動かされ海岸沿いを抜ける。
峠を転がり続け、カーブが見えても難なく進み、歩を止めない。
何処までも何処までも。どこかへ向かって回り続けた。


「…はぁ。本当にダメな人達……。特に私の社員なんか、四六時中何かある度に私に頼って来るのに……。…私がヤバい時は誰も助けてくれないわけ? 一人も……」

「……もう良いっ……。時間が経ったらまた掛け直すまでだ…………」

「その時間が経つ間に殺される可能性もあるじゃないですかぁ〜っ!! …もうっ、本当にピンチなのに〜……──」


「──…はァ。お互い、使えない部下を持つ身として大変ですよね〜〜……。利根川さん」

「……クッ、まだ子供の癖して………いっちょ前に同意を求めるな…………っ! …それにわしの部下達はお前のとは違って有能揃い………っ」

「…。………はぁ〜あ〜〜あ…」



「…さて。……もう良いだろう。お嬢、行くぞっ……………! そろそろ…………」

「…へ? 利根川さん、どちらに……?」


真夏の大冒険──。
旅するタンブルウィードは、遂には町中まで到達し転がった。
信号機が赤だろうが、青に光ろうが、ただの干草には交通法など気にも留めない。
街の灯に声援を送られながら、干草は自由に転がり巡った。


「………どちらに、か。………そんなもの、愚問中の愚問…………っ」

「え??」

「………お嬢。ボーリングは好きか…………?」

「へ、ボーリングですか? ……う〜ん…。そもそもやった事無いですねぇー………。私〜」

「んっ? やった事ない、だと……………っ? ただの一度たりともかっ…?!」

「はい。…あっ、大雑把なルールとかは普通に分かりますよ? 重い球投げて、ピン倒して〜って。でも本当経験はないですね…」

「……ほう………っ。…ならば、結構いい機会と言うわけだな………。お嬢…………」

「はあ。…。…………………──」



「────……『どこへ』っ!! 行こうとしてるんですかっ…? …利根川さんっ」


「────…言ったろう、お嬢………。『圧倒的愚問』、とな………!」

431『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:51:33 ID:Et9.Y5BI0
転がること、早20km。
この広大な渋谷の大地を、タンブルウィードは自由に駆け回った。
誰の視線も気にせず、そして誰にも気にされず、長い距離を転がり続けた。
ただ、旅は必ず終着点。──終わりというのがあるもの。

丸くて柔らかい草ボールは、名の知れぬ現代アート家が作った『十本の立つ枝』へ。
──たまたま路上に立っていた枝の群れへ、勢いを増し転がると────。



「行くぞっ………! 『スポ●チャ』へ……………!! ボーリングをっ………………!」


「…え? いや、え??? は…?? …えっ、なんで!??」

「…クックク。…shut up──!! 理由は後で話す。とにかく黙ってついてこい……っ! お嬢めがっ……………!」



──バランッバラン…、と一本も残さず倒し、排水溝へと落ちていった。




「…………えー、…えぇ〜〜〜〜〜……???」



──────────────────────────────────────
     ★作品No.050☆

☆『ボウリング・フォー・コロシアイ』★
 ★(原題: Bowling for BattleRoyale)☆

       ★出演★
      ☆三嶋 瞳★
     ★利根川 幸雄☆
       ☆???★


       〜Wait.〜
〜 If you wait, the opportunity will surely come... someday.〜
──────────────────────────────────────





……
………

 …という訳で、殺すか殺されるかの極限状態にいるというのに、ボーリングを遊びに娯楽施設に来たこの私。

…………。
…何してんだろ。


私…。

432『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:51:48 ID:Et9.Y5BI0





……
………

 拝啓。


──…とりあえず差宛はヒナちゃんへ。



 ヒナちゃん、この前仁志君とボーリング場で擬似デートみたいな事したって言ってたよね。覚えてるかなー。
今、私もラウン●ワンでボウリングさせられてるんだけども…。
ヒナちゃんが行った店も、室内はナイトモードで薄暗く、ワックスがけの床と電光掲示板のみが輝いて、そしてテーブルやら専用シューズ置き場がレトロに鎮座……。そんな感じの雰囲気なのかな。
とりあえず以下、具体的なボーリング場内の詳細〜…。

彼方先にて、十本の白いピンが舞い降り、直立不動で処刑の時間を待ち続ける…。
ガコンッ──と、ボール排出所から登場して、私の隣でゆっくり立ち止まる貸出ボール…。
そのボールの、穴の空いた三つの目とちょうど目が合った。貸出ボールは私の指を愛おしそうに見つめながら呟く。──「You、早く投げちゃいな」、と…。
電光掲示板に刻名される『H.MISHIMA』の名前。…その横にはズラーッと『▶◀』が並んでたけど、……ボウリングは詳しくないから詳しい意味は不明。

ラウン●ワンに足を踏み入れて数十分が経過。
ベンチに座る利根川さんの「早く投げろっ」というギスギスした視線を浴びる中。

私の第九球目となるボウリングが、始まりを告げた────……。





…。

……。

……いや……もう、さ……。




はぁ、ぁぁぁ…………………。



ぁぁ、ぁ……………。

………。





本当に私……。


何で………?!




こんなことやらせてるの…………………………………?




意味が…。

意味が分かんないよ………………………。




「…………ィッ。…絶対こんな事してる場合じゃないのに………」

「チッ!! どうしたお嬢………っ!! 早くしろっ………!」


「………………」

433『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:52:05 ID:Et9.Y5BI0

私がボソッと吐いた正論は、EDM調のBGMで完全にかき消された…………。



「…………はァ……」


 私は、顧問が勝手に企画した寺合宿に、無理矢理連れてこられた気分だった。
…やり場のない煩わしさと、激しい倦怠感。
……本当に堪らない。

不貞腐れた目付きで視線を伸ばす先には、十本のピンがある。


────形も色も大きさも、何もかも揃っているそのピンは、利根川さんの部下達を彷彿とさせられた。



……
………

 ……回想。
 数分前の会話の事。
 店内に入るや否や、利根川さんは私に趣味について尋ねてきた。


 『…え?? うーん……。やっぱ【仕事】…ですかね』

 『あぁ………? 趣味が、仕事………? くっ、なんて小娘だっ……』

 『…………えー…。何ですか…?! その反応〜……っ』


 私の答えを聞いて、利根川さんは一瞬虚を突かれたみたいな顔をしたけど、直ぐ様、実につまらなそうな表情に変わっていく。
 …そりゃ、自分でも「あ、変な事言っちゃったかも」とは思ったけども、…この利根川って叔父様。何とも分かりやすく表情に出る傾向がある気がする。
 ただ、後々解ったことだけども、利根川さんがそういうリアクションを取ったのも理由があって。
 なにしろ、彼の部下は全員揃って、趣味を聞かれたら『ボウリング』と答えるそうだった。


 『………だから、わしはあの時思わずツッコんだ……っ!! 揃いも揃ってお前ら……、高校生かッ…、と…………!』

 『……はあ』

 『その事が効いとるから………、お嬢……! お前の趣味を聞いて不意を突かれたのだ…………。余計な………』


 利根川さんの勤める帝愛の規定上、社員は全員黒スーツにサングラスの清掃が義務付けられていて、
 彼らの仕事風景は映画のマト●ックスまんまみたいらしいんだけども。
 私はこの時、二つツッコミをしたい気分だった。


 “全員見た目同じで趣味も統一って……────クローンなのっ!??”

 と、

 “ていうかラウ●ドワンで何するわけっ?! ──そこがまずツッコミポイントなんだけどっ!!!”


 ……の、二つ。
 
 もっとも、後者である「ていうかラウ●ドワンで何するわけっ?!」は口に出してツッコんだため、すぐに答えが判明する事となる。
 ………全く腑に落ちない、その『答え』が。

………
……


434『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:52:18 ID:Et9.Y5BI0
「…はぁ…………………。…よいしょっと……」


 傷一つない新品のボールを持ち上げて、一呼吸。
…噂には聞いていたけど正直こんなに重たい物だとは思っていなかった。
ただでさえ右腕が重たくしんどいというのに、今はもう見るだけで嗚咽が催すくらいうんざりだった。

バーテンダー時代の腱鞘炎を思い出させるその重量…。


────私の心中はボーリング球よりも重苦しく、ドンヨリしていた。



……
………


 『…いや…………』

 『ん? どうしたお嬢』


 『…どうしたもこーしたも…無いでしょうっ────────?! 利根川さんっ────!!!』

 『…………あ〜?』


 『今どんな緊急事態に置かれてるのか分かってますかっ!!? 殺し合い中ですよっ?!! 呑気にボーリングしてる暇じゃないでしょうが!!!──』

 『──こうして玉転がししてる間にも……、罪のない人達が何の理由もなく殺されていくんですって!!!! それが分からないんですかっ!!??──』

 『──それに、託されたじゃないですか…!! 黒崎さんから…、…プランAを!!!! だから早くここから出てゲームを終わらせましょうよっ!!!! ねえ!!!』


 『…………………』


 また回想…。
 ハァ、ハァ…と、正論の三連単一気飛ばしに息が上がった。…ねえ、私が言ったこと正論だよね??

 ボウリング球を片手に、直立不動で固まってしまう利根川さん…。
 私はてっきりこのラウン●ワンで。──いや、ラウ●ドワンに在る『何か』が殺し合い崩壊の鍵になり、それを求めて利根川さんは動いたのかと思っていた。
 ボウリングとバトル・ロワイアル。
 接点なんて見つからないその二つだけども、利根川さんなら、きっと何か考えがあるのでは……? って。そう信じて付いてきたわけだけど。
 ……結局のところ、彼の真意はただ遊びたいだけだった。

 ……全く以って理解ができない……っ。
 何なの………?
 もしかして、ゲーム脱出とかハナから諦めていて、「どうせ死ぬんだし最後は自分のやりたいことして終わりたい」とか考えてるわけ………?
 イライライライラ、イライライライライライラ……っ。
 利根川さんの内たる胸中を考察する度に、沸き立つムカムカが抑えきれなかった。
 

 そんな私の正論に、言われた利根川さんもすっかりと怯んで──……、


 『…………ククク………』

 『…な、何がおかしいんで──…、』

 『お嬢、追いすぎだ…………! 『理』をっ…………………!!』


 『……え?』


 ──しまう事なんて全くなく。
 蛇は、私にその鋭い牙を向けてきた……。

435『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:52:32 ID:Et9.Y5BI0
 『ククク…なるほどなるほど。確かにかなっている……。理には……! たかが小娘とはいえ、その主張にはわしも出んよ……………。ぐうの音もなっ………………!!──』


 『──なら、聞こうじゃないか………! お前はボーリング場を出て以降、何をするつもりなんだ? …具体的にな………………!!』

 『……えっ?』

 『何を、どう行動して、誰に会うつもりで……っ、そう動こうとする…………? 是非聞きたいものだなっ………! お前の…【策】とやらを…………!!』



 『……………え。…え、えっと……………──』


 『──………。……そ、そんなの〜……。簡単に思いつくものでもないですけども………』


 『クククッ………。案の定………っ!!』

 『い、いやっ!!! 違いま──…、』

 『否定しなくて良いっ……!! 簡単に打破できる代物ではないのだっ………!!! …いいか、舐めるなよ………? このバトル・ロワイアルを……………!』


 『……お、お言葉を返すようですがっ! だからって遊んでるのも酷く冒涜的行為でしょう!! …何人も命の危機に晒されてる……この現状下で………。そう思いませんか!!』

 『…悪いが、死なせておけ。そんな奴ら……………』

 『はぁっ!!?』

 『逆に聞こう………。お前は七十人近く……、この全員無傷で救えると…本当に思うのか? あれだけの大人数……、広いエリアで……、好き勝手に動く参加者共全員を…………っ!! あ〜〜……?』

 『…………それは…。そうですけども………』


 パンパンッ──って、参加者名簿シートを叩きながら利根川さんは続けた。


 『無論、インポッシブル………! そんな絵空事…………。合法ロリ社長だか知らんが……、キサマもなまじ経営者なのだから……。リアリストに考えるべきだろうっ………………』

 『……………』

 『今こうして死にゆく奴らに関しては………、もう諦めろ。…運命だ……、もはやなっ………』

 『…………………………』


 『……。…さて、とは言いつつも、わしは決してゲーム崩壊策を諦めてるつもりではない。……とどのつまり、頭にある計画上、第一行動としてやっているのが………これっ……! ──ボーリングなのだ………!!』


 『…は…?』


 『現状……、今はどうする事もできない………、対主催策を掲げるわしらは泥濘にハマったも同然……………!! 圧倒的無力だっ……──』

 『──だから……!! 何か、事が起こるその時まで【待機】っ…………! 待命、待構、我慢……っ!──』

 『──ただし…っ、時が来るまで何もせずボーっとするのもそれでよろしくない…………。だからこその時間潰し………《Bowling Time》なんだっ………………!──』



 『──クククッ、クク………。一番の疑問を解消できてスッキリしたか? ………お嬢…!』


 『…い、いや。そんなの…………。理屈とかそういうの抜きで……………。納得なんて、できないですよ……』

 『フンッ、お嬢。キサマはどうせ心中…《頭の固くて通じない老人》だとか…、舌を出して蔑視しとるのだろう……』

 『えっ。…そ、そ、ち、違いますけど…!!』

 『確かに……。年寄りは新しいものに馴染めず……、頭ごなしにモノを言う傾向がある…………っ。そう思われても仕方ないだろう……──』

436『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:52:53 ID:Et9.Y5BI0
 『──だがっ……、その頭ごなしは長年の人生経験から積み重ねて出来た産物なのだっ……!! わしは…分かっている……! もう暫く…、あと数十分後に【機】が来るとなっ………!! 根拠はない…、だが確実にっ……!──』



 『────だから、待つのだ……! 今はまだなっ………!』

 『……………』


 …私は、何も言い返せなかった。
 大手企業にその歴三十年の利根川さん…。彼と、たかがベンチャー企業の私で、遥か彼方すぎる差を見せつけられたようですごく悔しかった。

 利根川さんを説得どころか、逆に丸め込まれてボーリングをする羽目となったのだから。
 私は自分が嫌で、憎たらしくて、辛くて……。


 『よし、早速だ……っ。まずはボールの構え方から教えるぞ………? Lecture────っ。いいな、お嬢!!』


 『……はい、お願いします…』



 それで、気が重くてペラッペラになりそうだった…………。


………
……



「…すぅ……………。…………………はァー…」


 一呼吸置いて、吸った二酸化炭素をため息として出す…。


親指を十時の方向に向け、親指にあまり力をかけない。
ボールから親指が抜けてから、残りの二本の指で少しボールを回すように意識する。
腕の振り抜いた先の軌道上に、スパットが来るように、腕を真っ直ぐ振り、投じる。
────全部、この短時間の間で利根川さんから叩き込まれた『ボーリングの基本』だ。


………
……



 『スピードよりもコントロールだ…! 中腰になって下から投げるんだ…! 言うなれば、アンダースロー………っ!! 里中の様な姿勢で……、まずはやってみろ………』

 『は、はい………………』


 …あっ、あとは『片手で下げているときには、手首を曲げないようにする』とか指導してきたっけ。

 とにかく私は仕方なさそうに、言われた通りボールを投げてみせた。
 私のボーリングヴァージンが破られた、その第一球目…。
 なんか知らないけど軌道が大きく変化しながらボールはピン集団へと吸い込まれていく。

 …記念すべき……ボーリングデビューは如何なる成績となったか。
 …それはというと、


 『がぁっ………!!?』


 ────ガランッ、ガラガラガラン……

 

 ……え〜〜っと。何だっけ。
 …『ストライク』だっけ?

437『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:53:08 ID:Et9.Y5BI0
 ピン全倒しで私のボウリング戦績は幕を上げた……。

 唖然とする利根川さんの、顎の開きっぷり…。
 表情から察するに何か凄いことやっちゃった感じなんだけども、…私は嬉しさなんて全く沸かなかった。

 …だって、それどころじゃないんだし………。


 『ほう……。デビューとしては華々しい結果じゃないか………』

 『…お褒めに預かり光栄です。はぁ……』

 『………だがっ!! ククク、勘違いするなよお嬢………! 所詮は【ビギナーズラック】なのだからな…………?』

 『………はい』


 欠伸の出るような戯言を吐いた後、出番を迎えた利根川は、お手本が如くボールを投げてみせた。
 彼が倒したピンの数は…というと……。──………全然覚えてないや。
 …ほんの数十分前の出来事の筈が、遠い記憶の様に私は感じた…。


 ────ガラガラン………


 『ほれ、出番だっ………! 言っておくが、お嬢はさっき若干引けていたぞ…。腰がな……! そこを意識して……。望むと良い』

 『……………』


 はぁーーあ…………。

 教えたがりおじさんのアドバイスを背に、間髪も入れず私の第二球がスタート。
 …まるで、永遠のようなボーリング時間だった。


 ていうか、アドバイスおじさんって何で一々事細かに忠告してくるんだろ…。


 ジャンボ尾崎のホールインワンかよ………。


 ────ガランッ、ガラガラガラン……

………
……



 気怠げ限界な私の思いを乗せて転がるボール。
油濡れの道を転がる先には、何度倒されてもまた定位置に立ち上がるピンの群れがある。…無論。

…もしかして。
『このピン達のように不屈な精神で耐え抜き、立ち上がる精神が、バトロワを生きるうえで必要なんだ』…とか何とか、メッセージ性含みで利根川さんはボーリングに誘ったのかな。
…いや、…それはないかな。だとしたら陳腐で薄っぺらすぎるし、本当にバカげてるよ。


────バックで鳴り続けてるテンポの高いBGMが、背後で歯軋りをしてる利根川さんによくマッチしている…。

………
……


 …第四球目───────ストライク『▶◀』。

 …第五球目───────ストライク『▶◀』。

 …第六球目───────ストライク『▶◀』。


 そして、第七球目も……。

 ────ガランッ、ガラガラガラン……

 ────ストライクッ、『▶◀』……


 『………』

438『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:53:26 ID:Et9.Y5BI0
 どうしようもないボーリングの才能があったお陰で、完全にストライクマシンと化した私だけども、…驚嘆や歓喜なんて未だ皆無。
 というか、寧ろ絶望に近い居心地の悪さだけが増していった……。


 『チッ…………』

 『………。……』


 既に利根川さんとはダブルスコアで点差が開いている。
 連続ストライクも四回目になってきた頃合い、徐々に徐々にと口数が減ってきたアドバイスおじさんだけども……。煩わしさが失せた反面、険悪なムードがどんどん立ち込めてくる……。

 もう、私だって……。 
 私だって、好きでストライク取り続けてるわけじゃないのに………。
 ものすごい力感なく投げたり、ガーターに方向向けたりと忖度の限りを尽くしてるつもりなのに、…結果は必ずストライク……。
 地獄だった。


 …いや、ていうか…………。


 そもそもボーリングやり始めたの利根川さんだよね??
 目上である利根川さんがやるっていうから付き合ってるだけなのに……。
 なんで私…こんな憎悪を浴びなきゃいけないの……??? おかしくないっ?!

 自分が「ボーリングをやろう」とか言い出さなきゃ、イライラすることも無かったのに…。


 『チッ、血も涙もない……。機械のような……小娘っ………。楽しいか……? それで…』

 『…………………………』


 なんで私は怒られているわけなの………?




………
……



 ものすごく嫌な空気感で満ちたるボーリング場内。
もはや普通に殺し合いしてる方がマシなくらいに陰鬱とした雰囲気だった。
なんか一人勝手にギスギスイライラしている利根川さんだけど、……私だってモヤモヤな思いで一杯だしっ………。
最初は利根川さんのヤな視線にビビってた私も、…今はもうムカムカと不貞腐れ状態…。
その為、八つ当たり気味で投げたこのボールは、凄まじいスピン量と加速をしながら転がっていった。


 ────ガランッッッ、ガラガシャガラガランッッ


「……はァ」


派手にぶち撒けて、空中を舞うピン達。


────前述の通り、私はピンを帝愛の社員たちに見立てている。
────最前線に立つ一本のピンは、角張った顔の白髪オヤジに見立ててっ。


……
………


 『あぁ…………。また……ストライク………』

 『…………………。…羽生は、根暗。野茂は………うすのろ…』

 『え?』


 『ならば…、いけ好かないボーリング野郎はァ〜〜〜? あぁ〜〜〜〜〜〜〜?』


 『……………』


………
……


439『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:53:37 ID:Et9.Y5BI0
────ねえ、ボーリングって何が楽しいスポーツなの?




「チッ………! 残すところ後1フレーム……。これでラストか……」

「…………そーですね」

「…おい、お嬢……。…あまり言いたくないのだがな………、普通するだろっ…! 忖度とかっ………!! あぁ〜? キサマはビジネスでもそうなのか……?! 自分さえ目立てば後はどうでもいいと……………。そうなのかっ………!?」

「…………………」

「チッ! まぁいい…………っ。これで最後の投球だ…………。お互いに……、思い残しのないボーリングを──…、」


「……ちょっとトイレ行ってきます」

「あぁ? ……なんだと…………?」

「…いやトイレくらいいいでしょ。すぐ戻るんで。んじゃ」

「………………クッ」


利根川さんの顔を一切見ずして、私は足早にトイレへと向かった。
…まぁ、別にトイレじゃなくても。一人になれる場所なら何処だって良いんだけども……。



────私が今一番声に出して叫びたい言葉は、ad●のデビュー曲のタイトルだった…。

440『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:54:48 ID:Et9.Y5BI0




『♪…っっはぁ〜〜────────────────────────────────────ッッ!!!!!!』



『♪うっぜぇ────ッ!! うっぜぇ────ッ!! うっぜぇ──────わアッ!!』

『♪貴様が思うより健全でぇ────すッ!!!!』

『♪一切伐採凡人な〜〜──────、お前ぇじゃ分からないかもねぇ──────!!!!』



「……………………ィッッ」


個室トイレでっ………。
Bluetoothを大音量にしてっ…………。
ストレス発散するためにっ…………。

私は縮こまってお気に入りの音楽を聞いた……………。


『♪あぁよく似合う───────っ!!!』


…本気でアイツ、なんなの…………っ。
うっせんだよ……。
何が「機が来るのを待つ」だよ。
そんなの絶対来るわけ無いし、ふざけんなよっ。
マジで……──Seriously...!!
just die already. You've been rambling on and on...!!!!!


『♪カモ不可もないメロディズム〜〜───────っ!!!!』


Don't act so high and mighty...!!
You're just a useless old man who’s lived a little longer…!!!
You really piss me off.!!!!!


『♪うっぜぇ────ッ!! うっぜぇ────ッ!! うっぜぇ──────わアッ!!』

『♪脳みその出来がッ!!! 、違うからッ!!!!』


You're seriously driving me insane...!
How much more do you want to piss me off?

Ahh...
fuck,fuck,fuck,fuck...
fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,
fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,
fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck
fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck,fuck...


『♪問題はナーシ───────────っ!!!!!!!』



I feel like putting a pig's ass in that dirty and shutting it upッッッ!!!!!

────fuckッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!

441『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:55:09 ID:Et9.Y5BI0


………
……


「……………」

「お嬢、遅かったじゃないか………。早くやるぞ………っ」


「………機なんか来ねぇよ」

「あぁっ…?!」


ピカピカの床、暗い室内、ボールにピン、備え付けの自動販売機まで……。
もはや何もかもが鬱陶しい。

何が「早くやるぞ」だよ、ジジイ…。
…もうっ、私はうんざりだ────っ。


「飽きました。疲れたし、ていうか全く面白くないです。はぁ………。──もうさっさと殺し合いを止める準備しましょうよっ!!!! いい加減にしてください!!!!!」

「…………」

「そら私も策なんかないですけど、ただ待つくらいなら動いた方がいいでしょっ!!? ましてやこんなつまらないスポーツやるくらいならっ!!!!! ねえっ!!!! 利根川さん!!!!!」

「……」

「ねえっ!!!!!!!!!」



「…クククッ。…楽しかったか? ボーリング………」

「はぁっ!!!!??」


楽しくなんかないしっ!!!!
そっちから楽しい雰囲気出させなかったでしょ!!!!!!


「いい加減にしてくださいよっ!!!! ほんとにっ!!!」

「…あぁ。勿論、いい加減にするさ。…これくらいになっ………!」

「え?? は、はぁあぁぁっ!!???」


うわ、急にあっさり引き下がってきたし……。
引き下がったら引き下がったで逆にその態度がムカつくんですけどっ…………!!


「お嬢……。今までは、いわばテストだ……っ。わしからのテストにキサマは無事合格したのだからっ………! もうこれで終わり……! そういうわけだな」

「て、テスト……………? なんのっ??! ボーリングのテストですかっ………??」

「………クク。いや違う……っ!! …いいか? これは──…、」

「いや良くないですからっ!!!! 『いいか?』って聞かれてももう聞きませんよ!!! ほんとにっ………」


ほんとにっ、この『とどのつまりジジイ』は…………!
──いや、元はといえばコイツと組む羽目になったのは、コイツの同僚の黒崎さんのせいだしっ…。

さすが悪評誇り高い帝愛の連中だっ…………。
帝愛のボンクラ連中……、ブラック企業の奴らは揃いも揃って………………っ。
もう、もう……爆発寸前だっ……。…もうっ……。


もうっ!!!!!



「私の言う事だけを黙って聞いて────…、」


『三嶋大先生ェッ───────────────────!!!!』



「──うわっ!!?」 「──………なっ!!?」

442『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:55:46 ID:Et9.Y5BI0
 ……爆発直前の私の声は、突如して現れた馬鹿でかい雄叫びで掻き消された。
若い成人男性って感じの、その大声。
店内放送のアナウンスか何かと、一瞬私は見回したけど………。……多分違う。
恐らく、殺し合いに参加させられてる誰かの……。拡声器を使った雄叫びなのだと推察できた。

…って、今私の名前…思いっきり叫んでなかった!!!??


『三嶋先生ぇ!!!!! 貴方様のことは───、私堂下浩次と、殺人ニワトリが絶対に救いますッ──────!!!! ノックオッ─────────ンッ!!!!』

「は??! やっぱ聞き間違いじゃなかったし…。誰????!!!」 「…ど、堂下…………!?」


『それと新田さん…、いや新田義史ッ────!!!! この殺人鬼野郎が!!! 覚悟しろやゴラァッ────!!!!』

「えっ!!!??」 「……新田??」


今度は比較的若い、別人の大声が響いた。
…いや、何これっ!??? 何話してるの!!??
新田さんが…。さ、殺人鬼って………。めちゃくちゃ誤解じゃんっ!!!!
こんだけバカでかい声量だから、間違いなく渋谷全体に広がってるんだろうけど……。
それだと新田さんものすごく大ピンチじゃんかっ!!!! なにこの放送!!???
いや黙ってよ!!!! ほんとに!!!!!!


『そうだッ────!!!! 新田ァッ────!!!! ニワトリから聞いたぞっ…!! 金髪にオールバックでヤクザみたいな風貌のお前ッ────!!!! お前には絶対負けない、負けないからなぁッ────!!!!』

「……あ、あわわ…あっ……」 「な、何を馬鹿なことを……………? 堂下………」


しかも新田さんのメチャクチャ詳細な容姿まで喋りだしたし……!??
何考えてるわけ?!! 拡声器の主は!???
今すぐにでも止めないとマズすぎるっ…!! 新田さんが危ないよ!!!!?



『『うおっ…うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!』』



『『三嶋瞳大先生、バンザァァァァァァァァァァァイイイイイイイッ!!!!!!! バンザァァァァァァァァァァァイ!!!!!!!』』





『───────プツンッ』




「……」 「…がっ…………」





………なんなの。
これ………………。



────止めなきゃ、メチャクチャまずい。


まずい放送だった────………。




誰だか知らない奴に…、私がいかに素晴らしい人物かを崇拝され、新田さんが意味不明に窮地と化した……。そんな放送…………。


…わけが、分からなすぎる……………。

開いた口が、塞がらない…………。

わなわなと震えちゃう………。

耳が熱くなる……ぅ…………。顔の真っ赤さが、…止まらない……………ぃぃぃ…………。


「…ククク……! クククッ!! とうとう来たな…………!!」

「………え?」

443『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:56:04 ID:Et9.Y5BI0
「『期』が熟した………! 重い腰を上げるその時がっ……………! バカのお陰でっ…!」


…利根川さんは、見ないでほしいくらい赤くなってる私の顔に向き始めた。


「…先に詫びを入れておくか……。三嶋お嬢、ボウリングでの、わしの無礼……。すまなかったな」

「…………………へ??」

「あの態度はな。実はわざと……っ、言わば『耐久テスト』だ…………!」

「……ふぇ????」

「このバトル・ロワイヤル………。わしの見立てでは相当な理不尽…、憤慨…、絶望に…疑心暗鬼………っ!! それらが激流の如し、襲い掛かってくるものだと推察している………──」


「──とどのつまり、キサマがどれだけ耐久できるか……。わざとわしは理不尽かつイラつかせる素振りで接したのだ………!! 結果、お嬢は合格ライン……! 第九フレームまで耐えてみせた…………!! …すまないな、勝手に測るような真似をして」



え、
え…………………?



「…え、演技?」

「クククッ、圧倒的愚問…!! わしがあんな小物じみた、器の小さいクズなんかだと………! まさか思うまいな? お嬢………!」

「うぇっ!!?? え、え、も、勿論………」


「…そして、今の信じられない放送に関してだが…………。…あれはわしの部下の声だ。間違いないっ………」


え?
はっ????


「え、いやどうしてくれるんですか!!?? ──って、利根川さんに言うのもお門違いですけども…………。あ、あれのせいで……、私と…新田さんが…………」

「あぁ。間違いないな……。キサマらが大変なことになってるのは………………──」


「──だから、行くぞっ………! 声の音源……、恐らく北東に進んで1km………、渋谷公園周辺方面にっ……………!!」

「えっ!!?」


え、嘘!?
具体的な発声場所とか今ので分かっちゃったの!???



…と、利根川さん。

…なんなのこの人は……。

良い意味で……。

444『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:56:17 ID:Et9.Y5BI0
「安心しろっ…! 無論、わしはバカの発言なんかは信じていないっ………!! 新田という奴も完全に風評被害…………!! …信じるまでもないっ」

「…と、利根川さん………」


「だがっ…………!! …クククッ…、『使える』っ………! 拡声器の主は、バカが故に使える……………!! 実に優秀な駒だっ……!──」



利根川さん…………。
ほんとこの人は…────、





「────ゲーム崩壊の、『プランA』にっ…………!!」

「…利根川さんっ!!」


「だから──Chase the light……!!! 長々待ったこの鬱憤を晴らしに………。行くぞっ…………!!」

「は、はい!!」



───…さすがです!! 利根川さん……!

445『ボウリング・フォー・コロシアイ』 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 20:56:30 ID:Et9.Y5BI0
【1日目/F5/ラウンド●ン/AM.03:50】
【三嶋瞳@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:仲間を集ってゲームを終わらせる。
2:利根川さんについていく。
3:新田さんがピンチすぎる……。

【利根川幸雄@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】回転式拳銃
【道具】タバコ
【思考】基本:【対主催】
1:拡声器の主(堂下)に会うため渋谷公園まで急ぐ。
2:自身指揮の元、『プランA』でゲームを終わらせる。
3:お嬢(三嶋)をお守り。
4:会長が少し気がかり。
5:黒崎っ…。

446 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/25(火) 21:01:14 ID:Et9.Y5BI0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】

①やっっっっっっと、50話行きました。
②とどのつまり漫画ロワ1/4分、新漫画ロワ1/3分といったところです
③……もしかして、これって結構テンポ悪い感じ??

【次回】
『脱出の可能性』、『言わないけどね。』、『TOKYO 卍 REVENGERS』のどれか

447 ◆UC8j8TfjHw:2025/02/27(木) 19:57:14 ID:K/piMhMo0
──きこりの泉から出てきたのは。

──男と、悪魔と、悪魔。

【次回】
『言わないけどね。』

【お知らせ】
イラスト風名簿の特定のキャラを描き直します。

448『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:05:11 ID:tYEe6xyE0
[登場人物]  [[小日向ひょう太]]、[[高木さん]]、[[メムメム]]、[[兵藤和尊]]

449『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:05:43 ID:tYEe6xyE0
「わあー、すごい…。この場所…」

「……あ、うん。そだね〜………」


 Girl and “Girl”。 高木さんが驚嘆の声をあげるのも無理はない。
二人が自転車から降りた先には、狂騒とオシャレな渋谷のイメージとは程遠い──大自然の湖畔があった。
周囲は木々が環境良く立ち並び、その中心にて黒曜石のように深く、それでいて透きとおる水面が切り開かれている。
その湖の清純さときたら、服を脱ぎ散らかして飛び込み、泳ぎ疲れたらその水を躊躇なく飲もうかというくらい、美しかった。
東京都の中心地として大開発が発展する渋谷に、まさかこんな穏やかな森林湿地帯があろうとは。
知る人ぞ知る秘境地を前に、二人の女子はただ湖の前で直立不動。清らかな景色を受け続けた。

二人の『女子』は。


「まさか渋谷に湖畔があるなんて思ってなかったよ」

「…オレ………わ、私も〜。なんなんだろね、ここ」

「…ハハっ。私、なんだか懐かしい気分になるかも」

「え?? …なんで?」

「前にさ、西片と釣りに行ったんだけども。その場所もこんな感じで大自然の中ポツンと湖! …ちょっとそれを思い出した感じでさ」

「…にしかた?? っていうと、高木……ちゃんの友達?」


「うん」。その次に、「あっ」と。
高木さんは思い出したかのように、スマホから短髪の少年の画像を見せてきた。


「あ、そうだ。小日向ちゃん。もしかしてだけどさ、この男子とすれ違ったりしなかった? 西片って言うんだけど、…ゲームに参加されててさ」

「え? あっ、どれどれ……。高木…ちゃん。悪いけどスマホ貸してくれる? …み、見えづらくてさ〜……」

「うん。いいよー」


滑らかな指から差し出される、西片という少年の画像。
全く見覚えなんかない男子の顔を見て、小日向は何を思っただろうか。

────否。何も感じていない。
────それは、この広大な自然も同じ。今のひょう太にとっては、何の関心も眼中さえない。


「………………」


先程からやたら高木さんの太腿──魅惑の領域部分ばかり視線を落としている彼女。
──いや、“彼”。小日向ひょう太は、湖よりも西片よりも、隣に立つ高木さんの事しか頭には無かった。
これは恋心とか、高木さんを見ているとドキドキする…だとかピュアな思いでは断じてない。

完全なるゲスでイヤらしい目付きだった。


「…………に、西片くんねぇ〜ー…」



(………。……ヤバいっ! ど、どうなっちまったんだ、オレ………! 全く集中できない……っ──)


(──高木さんの脚に……、XXXなコトやXXXに至ることしか考えられなくなってるよ…………っ!!!!)


ひょう太のおさげ髪と柔らかそうな胸が、ワナワナ震えた。
もはや高木さんにさえ伝わるほど、挙動不審なひょう太だったが、彼がやたら欲情を放出寸前となっているのにも理由がある。
数十分前、魔茸『チェンジリング』の作用で淫魔♀と化してしまった彼だが、淫魔という生き物は淫靡な誘惑で魂を狩り、それで生業を為す。
【性】を全面に出し、そして【性】が前提。【性】が性(さが)の悪魔な為、Hが脳を埋め尽くす割合は常人の何倍以上だ。
その為、元より脚フェチだったひょう太が、容姿整う高木さんにスケベ心が働かない筈もなく。

──彼は心を悪魔に完全掌握されていた。

450『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:06:00 ID:tYEe6xyE0
(クソ、クソっ………! 高木さんの指……、高木さんの膝、ふともも…、高木さんの靴下…ぁ…………)

(お、女の子ってなんで全身あらゆる箇所がエロいんだよぉっ…………。一番エロい筈の…おま………陰部が比較的グロいってくらいに………。何もかもが刺激的すぎるぅ………)

(高木さんにXXXしたいぃっ……! XXXして、無理矢理にでもXXXして、XXXを見せつけたいっー、舐めたいぃぃ…………!!! 魂を奪いたいぃぃいい…………)


(──嗚呼……。頭の中はそんなことで一杯でっ…………!!! 高木さん以外目に入らないよっ、オレーー……………!!)


そんなわんやで、吐き気が込み上げるくらいの興奮をし続ける淫魔、ひょう太。
震える小柄な身体と、火照りあがる頭の中。スマホをただ見るだけという、単純な行動さえままならなくなった彼だが、──それ故──。


────ツルン、と。


「あ」

「あっ!!!!」


高木さんから借りたスマホが滑り落ち、湖へとダイブ。
──流石にヤバいと思ったのであろう、ここで初めて意識が高木さん以外へと向いたひょう太は、慌てて手を伸ばしていき、


「あっ! こ、小日向ちゃん!!」


────大きな水飛沫。
そのままスマホごと湖へと転び落ちていった。


割と水深があるのか、着水から暫くたってもゴボゴボと顔をあげない小日向。
幸いにも、高木さんのスマホはギリ耐水性の為そちらの心配は無用なのだが、彼女は中腰になって心配そうに湖を見つめ続ける。
こんな物凄いくだらない事で、バトルロワイアルパートナーが溺死………。
…そんなこと、高木さんは考えたくもなかった。


「──ぶはっ!!!! …ぜぇ、ぜえ………!!!」

「わっ、ビックリしたぁ…」


無論、ひょう太の方だってそんな末路まっぴら御免である。
全身ぐしょ濡れの彼は、湖に落ちてちょうど一分後、やっと顔を上げだした。
息苦しそうに掲げるは高木さんのスマホ。恐らく、それを探しに暫く潜っていたのだろうと。窶れ切ったひょう太の表情が伺える。


「はぁ、はぁ………。ご、ごめん高木ちゃん………。落としちゃって………」


「…………………。──」



「──え?」



「………? 『え?』とは……? 高木さん………」


軽いハプニングとは言え、何とか事なきを得た、助かった。──と、この時のひょう太は思っていたのだったが。


────『木こりの泉』。
もはや説明不要のこの童話は、今回のケース同様、何か物を泉に落としたら女神様が登場するというストーリー。


「……………え、」

「? …ど、どうしたの高木ちゃん? あっ、スマホなら大丈夫〜…だよ? ほら電源つくし……。…ま、とにかくごめ──…、」

「……誰?」


「へっ?」

451『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:06:16 ID:tYEe6xyE0
────スマホを泉に落としてしまった高木さんの前に現れたのは、女神ではなく。
────むしろ逆。



「…………誰なの。……」


「えっ」



────見知らぬ男。

────『小日向ひょう太(♂)』が、水面から現れてきた。


…………………
………………
……………
ヤパパ〜
ヤパパ〜
インシャンテン〜〜♪
…………
………
……




「…ふーん。つまり小日向……くんは冷水をかけられたら男になって………」

「…………はい……」


 靴、靴下の一式を脱いで、ひんやりとした水辺に生脚をちゃぷちゃぷ。
高木さんは『あったか〜い』おしるこ缶を小日向に手渡す。
プルタブを取ったひょう太はそいつをクイッと飲むと、──────PON!!


「温かい水がかかったら、……女子になるわけなんだね」

「………そゆことらしいです………」


「………。…まんまだね」

「うん、まんま1/2だよ………。いや何なのこれぇ────────っ!!?? 全く原理が分かんねーよォ──────!!!」


 厳密には本家とは真逆なのであるが。
冷たい湖でひょう太はバシャッ、と洗顔。
顔を拭いた後、水面に映る【男の顔】に若干彼は憂いていた。


「ところでさー小日向…くん。じゃあなんでさっきまでずっと女子なフリしてたの? ナヨナヨした口調でさ」

「えっ!!? …そ、そりゃ………変なキノコ踏んでこうなっちゃいました〜だなんて言っても信じてもらえないだろうし…………」

「それはそうだけども。正体がバレた今振り返ったら、恥ずかしいことやっちゃったな…とか思うでしょ?」

「ちょ!!! や、やめてよ──────っ!!! 高木さん──────っ!!! それ言う必要あるっ??!!」

「…あはは〜〜」


笑い声と突っ込み声が湿地帯にて飽和する。
『性転換♂♀』とは、かなり非科学的かつ信じられない現象であるが高木さんはそれなりに順応している様子。
──というか、西片代替品であるひょう太をイジるのに夢中で特に気にしていないのだろう。
けらけら笑う彼女だが、対してひょうた1/2は焦りの気持ちしか無かった。
淫欲抑えきれない悪魔から、そこそこな下心で留まってる人間に戻れただけでも良きであろうが、彼は頭を抱え続ける。

452『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:06:29 ID:tYEe6xyE0
魔茸『チェンジリング』の効果から戻れる方法は知れたが。
────なら、尚更これからの日常どうしていけば良いのか………、──と。

胸元のスカスカ具合に、制服の着心地の悪さを感じながら、ひょう太はボソボソ呟き始めた。


「……いやもう〜……。本気でこれからどうすりゃいいんだよ……」

「ははは〜〜……。──え? どうすりゃいい、って??」


「オレ…、これ…汗かく度に女の姿になるのかよ〜………」

「あー確かに。残念だね、体育やれなくて」

「ていうか温度の境界線は何なんだ……………。何度までが女で何度までが男判定なんだよ…………。ぬるい水かぶったらどうなるんだ…………」

「とりあえず温泉の時は女湯入れるって喜べばいいんじゃない?」

「……冬になったらマジでどうすりゃいんだよぉ…………。あの季節に冷たい食べ物縛りとか…涙無しには過ごせないって……………」

「年中冷やし中華だね」


「…オレ結構マジな感じで悩んでるのにからかってこないでよ───っ!! 高木さん!!!」

「えー。私だって真剣に対策法考えてるんだよ。そんな言われ様は心外かなー…。…あははっ」

「……〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」


バシャバシャと水面を蹴る高木さんの生脚。
それにあのバひょう太が見向きもしない現状なのだから、彼にとっては相当深刻な悩みの様子だ。
自由自在、自分の思ったタイミングで好きなように性転換できるのならばここまで頭を下げなかったのだろうが。
これもまた神のいたずらなのか、悪魔の罠なのか。


「はぁーー…………………………」

「…小日向ちゃ、…くん。ほら、元気だしてさ。ここの湖冷たくて気持ちいいよ」

「……………うん…」

高木さんと交わされた『温水使用禁止例』を前に、ひょう太は人生最大級の生きづらさを味わうまでだった。



そんな折。

座る二人の間をちょうど通り過ぎていった『物』がある。



「……えっ?!」

「わっ」


チャポン、

チャポンッ、チャポンッ、チャポンッ、チャポンッ、チャポンッ、チャポンッ………と。
水切り石の要領で、対岸から飛んできた物は、なんと光り輝くダイヤ。
高木さん、ひょう太の二人はほぼ同タイミングで息を呑み、そして互いの顔を見合わせた。


「……」

「………」


草むらで毅然月明かりを反射するそのダイヤは【LAZARE DIAMOND】。
時価にして十億円も越すブランド物の頂点である。
色(Color)・カラット(Carat)・透明度(Clarity)の『3C』を満たしたその輝きは、ダイヤに無縁なひょう太たちでさえ魅了してしまう程だったが、────そんな物の価値なんて今はどうだっていい。

453『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:06:42 ID:tYEe6xyE0
「……た、高木さん…………」

「………うん」


緑豊かな湖地帯で自然発生する訳が無い物が──、
誰かに投げられでもしない限り絶対する筈のない挙動で──、
二人の間を狙ったかのように飛んできた────。
──この現象。


「………っ」

「……………」


二人がまん丸な目を合わせたのも一瞬のこと。
『渋谷での殺し合い』という現状下もあり、緊迫した面持ちで対岸に視線を移した。

半径五メートルほどの湖を挟み向こう岸にて。
月明かりに照らされる二つの影を確認。
出来ることならもう誰とも出くわしたくなかった……──とこの時ひょう太は絶望していたのだが。


「…────あっ!!!」


そこにいた二つの内、一つのプカプカ浮かぶ参加者の姿が確認できた時。

心の何処かで掬っていた『心配』と、
そして絶望と緊張感が、ひょう太から溶け消えていった。


言うまでもないが、彼の心に訪れた感情は、────『安堵』である。



「クズと……クズが…互いに陥れ合い…出し抜く……!! ククク……、生命の取り合い……バトル・ロワイヤル………!! どうじゃ……っ!! そのゲームの始球式に相応しい………、ワシのダイヤ石水切りをっ……………!!」

「さ、さすがっす!!! 兵藤さま〜!!! あたし素直に歓迎っす! マジリスペクトっすよ!! 素晴らしい!! 素晴らしい!!!」

「ククク……。のう、──メムメムよっ………!!」

「はいっ!!!! さすがは全参加者の頂点に君臨する兵藤さま!!! あたし、一生あなた様に付いていきま──……、」




「────…あっ」


「メ、メムメムッ!!!!?」

454『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:06:52 ID:tYEe6xyE0


 『再会』───────


 With you,

 I can escape this town.

 Take me away right now.


 my sweet sweet darling……

455『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:07:06 ID:tYEe6xyE0



……
………

「へぇーー…………。存在感無いからってパクリで個性出してきた感じっすかバヒョ」

「いやオレだって好きで女になってるわけじゃないしぃっ─────!!?? そんな物言いするなぁあ─────!!!!!」

「まあまあメムちゃん。そういう訳だから小日向くんの前で温水はNGね」

「うしゃーす。了解っす!」


「ヒソヒソ…(それにしてもバヒョ)」

「…ヒソヒソ(いい加減名前覚えろよ二十七歳!!! …で、なに…?)」

「ヒソヒソ…(趣向変わったんすか? こんなあまりおっぱいでかくない子を連れ回して……)」

「ッ!?? ヒソヒソ…(だ、黙れ!!! エロ目的で高木さんと行動してないわっ!!!)」

「ヒソヒソ……(まぁ巨乳見たらひきつけ起こしちゃうあたしからしたらGood jobなチョイスですがね)」

「………ヒソ(お前それほぼ死に設定だろ!!)」


「……二人して何の話してるの? こうも堂々と人前でヒソヒソ話」

「あっ!!! い、いや別に何でもないよ高木さん〜! メムメムのやつ、なんか腹減ったみたいでさ……。はははー………」

「いや減ってるのは胸の話っすよ〜〜バヒョ──…、──ゴボッ!!!!」



「………はは〜……。なんでもないなんでもない〜……」

「…ふーーん」


「もがふがもがーっ!!!」



 Girl,Boy, Girl and Oldmen.

メムメムの減らず口を慌てて抑えるバひょう太と、
口を塞がれても尚モガモガうるさい悪魔──メムメムと、
自転車を押して歩く高木さん。そして、──おじいちゃん。

軽い自己紹介と状況説明を終えた四人は湖地帯を出て、町中にて歩を進め続けた。
時刻もそろそろ朝焼けが顔を覗き始める頃合い。
疲れからか、やや眠気が襲いかかるものの、それでも高木さん達は目的地に向かって歩きを停めない。

 ──自己紹介時、ひょう太が口にした『再会』という言葉について。
 ──和気あいあいと接するメムメムと彼に、高木さんも『会いたい』という思いが一層強まった。

 ──あの春、ハンカチを拾ってくれた。
 ──隣の席の男子に、早く再会したい、と。


「………………」


本心は、西片のいる何処かを『目的地』にしたかった。
ただ、今はその気持ちもグッと奥底に沈め、指定された場所へと歩いていく。


悪魔と、元悪魔と、小悪魔と、────『圧倒的悪魔』……………っ。

456『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:07:19 ID:tYEe6xyE0
『圧倒的悪魔』の指示の元、面々が向かう先は────、


「……ちっ!! くだらぬ………。やれらんまだの……、やれ西片だの……、やれパクリだの悪魔だのダーリンダーリンだのっ…………!! つまらぬ会話をしおって、小童共が………っ!!!」


「…………」 「……」 「……ひっ! じいさ…兵藤さまいきなり喋りだした………!!」


「どれもこれも下らん内容………っ!! さっさと展望台まで目指すぞっ……………!! ゴミがっ…!!!」


「……は、はい……。兵藤さん……」



────最寄りのスイートホテル。
殺し合いの様子をのんびり眺められる、屋上が目的地だ。




「…………」

「…おい、メムメム………。なんだよ…この爺さん………。いつ出会ったんだよ………」

「…あ、あたしに文句は言わないでくださいよ!? 兵藤のヤローは魂集めに最適な道具なんすから」

「…魂集め…ってなに? メムちゃん」

「………その道具(兵藤さん)にお前さっきめちゃくちゃ低姿勢でペコペコしてたなっ!!」

「…。…うっう〜〜〜〜…。あたしにも事情があるんすよ!! こんなジジイにも媚売らなきゃいけない事情が!!!」

「…どうせろくでもない事情だろ!!」

「そんなメムちゃんのこと責めないでよ小日向くん。………ね、メムちゃん。私まだ聞いてないからさ、何があったか教えて欲しいかな」


「…………。…はぁー……。仕方ないっすね…………。これは遡ること数十分前なんですけどもー……」




 (^ ๑°< °๑^)  ...。。。。ooOOOOOOO(   )

  ぽわんぽわん、ぽわんぽわんぽわん………

 ……………
 …………
 ………
 ……
 …



◆遡ルハ、一時間前◆


457『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:07:32 ID:tYEe6xyE0
【1日目/F6/東●ホテル周辺/AM.03:53】
【高木さん@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】自転車@高木さん
【道具】限定じゃんけんカード@トネガワ
【思考】基本:【静観】
1:↑えっ? メムちゃんの頭からぽわんぽわんって何か出てきたけど…。これなに?
2:小日向くん、メムちゃん、兵藤さんと行動。
3:最寄りの東●ホテルまで目指す。
4:西片が心配。

【小日向ひょう太@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】健康、人間(←→サキュバス)
【装備】ドッキリ用電流棒@トネガワ
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:↑メムメムの奴、頭から回想出せるんだよ高木さん。ぽわんぽわんって煙みたいに。
2:高木さん、メムメム、兵藤のお爺さんと行動する。
3:なんでオレはこんなことに………。

※ひょう太は水をかけられると男、温かい水なら女(淫魔)になります

【メムメム@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→魂集め】
1:アホそうな参加者をマーダーに誘導して、魂を集める。
2:てかバヒョの奴生きてたのか……。
3:兵頭さまにご奉仕。

【兵藤和尊@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】杖
【道具】???、懐にはウォンだのドルだのユーロだの山ほど
【思考】基本:【観戦】
1:展望台の頂上から愚民共の潰し合いを眺める。

458『Darling,Darling,心の扉を』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/04(火) 20:07:50 ID:tYEe6xyE0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①実は没にした『ステマ棚ロワイヤル(仮)』というのがありました。当ロワの原型です。
②参加者はたしか90人。色々あって(書き溜めてたスマホが水死した)、15話書いた時点でリスタートすることに。
③以下が、そのステマロワに出ていた作品たちです。


7/7【女子高生の無駄づかい】→とみー繋がりでヤマイと伊井野タッグにするつもりでした。
 〇バカ(田中望)/〇ヲタ(菊池茜)/〇ロボ(鷺宮しおり)/〇ロリ(百井咲久)/〇ヤマイ(山本美波)/〇ワセダ(佐渡正敬)

6/6【聲の形】→ステマロワではゴッリゴリにゆずる依怙贔屓してました。この作品なーんでロワ人気ないんスかね…?植野と川井は簡単にギスギス出せるし真柴は名マーダーいけるのに…
 〇西宮硝子/〇植野直花/〇川井みき/〇永束友宏/〇真柴智/〇西宮結絃

5/5【1日外出録ハンチョウ】→平成漫画ロワでも継続予定でしたが、今もバリバリ連載中で話題にもよく上がるため、『平成感』があまりないと判断し除外。
 〇大槻太郎/〇沼川拓也/〇石和薫/〇宮本一/〇大刻屋のオムレツ大将

4/4【異世界居酒屋「のぶ」】→参加者数を70人きっかりにしたかったので除外。
 〇タイショー/〇千家しのぶ/〇ハンス/〇ゲーアノート

3/3【あそびあそばせ】→オリヴィア精神崩壊回書いて以降収拾つかなくなったため除外。
 〇本田華子/〇オリヴィア/〇野村香純

3/3【うずまき(伊藤潤二)】→超好きな漫画です。なんj夜の漫画部でアホほど話題にされました。今からでも出したいくらい好き。でも軌道修正だるい。
 〇五島桐絵/〇斎藤秀一/〇山口満

3/3【おとりよせ王子 飯田好実】→飯田が内輪弁慶過ぎて動かしづらく泣く泣く除外。
 〇飯田好実/〇主任/〇盛田

2/2【お酒は夫婦になってから】→酒を絡めた文章表現するのがめんどくさくなってきたため。千里は10行で死んで旦那がサイコキラーに。
 〇水沢千里/〇水沢壮良

2/2【食の軍師】→タマリマセブン定期
 〇軍師/〇本郷播

1/1【酒のほそ道】→70人きっかりにしたいので除外。クズで自分勝手で人を簡単に切り捨てるキャラとして動かしたかったです(只野くん喉仏へし折り回は本来宗達がkill役でした)
 〇岩間宗達

1/1【テコンダー朴】→買うのが面倒になってきたのでやめました。ハルオ登場回で襲撃者は本来ならパクの予定。
 〇朴星日

1/1【僕と野原ひろし】→ひろしを狙うサイコキラーとして出す予定が「漫画ちゃうやん」との脳内ダメ出しが。
 〇僕

1/1【ワカコ酒】→動かし方が全く思いつきませんでした
 〇村崎ワカコ

1/1【手品先輩】→動かし方が全く思いつきませんでした
 〇先輩


ちなみに平成漫画ロワ参戦作品でもつばめと石上(かぐや様)、もこっちと加藤さん(わたモテ)、園田(善悪の屑)、家庭教師(ハイスコアガール)等をリストラしました。
これらを除外して代わりに出したのが【闇金ウシジマくん】【ミスミソウ】【空が灰色だから】【古見さんは、コミュ症です。】【ダンジョン飯】【目玉焼きの黄身いつ潰す?】【悪魔のメムメムちゃん】。
果たしてこの選択が正解だったかは今はまだ闇の中…。


【次回】
『Perfect Girl(古見さん親衛隊の活動内容報告書)』、『クマとメガネとロリとヤンキーとリボンと吸血少女(札)』、『悪魔とメムメムちゃん』のどれか

459 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/08(土) 00:41:21 ID:TY79Nue20
【お知らせ】
イラスト風名簿修正にパワーを持っていかれてるので多分来週火曜日予定通り投下できません。
誠勝手ながらご理解おなしゃす。

【ステマ】
今更ながら参加者紹介MADを作りました。再生してくれたら少なくとも俺は喜びます。
ジジイキャベツ様リスペクトの動画なのでこの場を借りて感謝を申し上げます。ありゃしゃす!
『【参加者紹介MAD】平成漫画バトル・ロワイヤル』
ttps://www.nicovideo.jp/watch/sm44731686

460『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:50:00 ID:xEF573ek0
[登場人物]  [[チルチャック・ティムズ]]、[[本場切絵]]、[[折口夏菜]]、[[璃瑚奈]]

461『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:50:14 ID:xEF573ek0
マンションの屋上でリコナがギャータラ騒ぎ立てて………、

それが原因でキリエとカナの二人に出くわして…………、

んで、屋上から適当な部屋へと下り、今の俺に至る………………。


 …まあ、聞け。
家族、チーム、冒険パーティ、職場仲間………、なんだっていい。
世の中、『団体』にいる以上必ず何かしらの『役割』というものが全員に与えられる。
例えば俺の普段のパーティだと、センシは調理兼戦闘担当、マルシルは魔法・治癒全般担当、ライオスは戦闘。
──そして俺はトラップ等解除担当と。
それぞれの得意分野から振り当てられたアイデンティティ──役割が必ずあった。
足手まとい、何もしない役立たずはいちゃあいけない。つか、そいつにも何かしら役割を与えるのが団体に属するということ。
全員が各々の役目を理解し、ピンチのときは行動して皆を助けるからこそ、団体【パーティ】はより固く強硬になっていくわけだ。


………。


……然るにだ…、



 『本場切絵』ッ!!!──────役割→ただのガキンチョA!!!!

「じゃ、じゃあ夏菜師匠なにか飲み物持ってきますね〜〜!!」

「はーーい」



 『折口夏菜』ッ!!!──────役割→ただのガキンチョB!!!!

「………。ねえ璃瑚奈おねいちゃん〜。切絵おねいちゃんが描いたこの絵本、読みきかせてよ!」

「…あーー??」



 そして『和田璃瑚奈』…ッ!!!!──────役割→ただのガキC!!!(コイツが断トツに役立たず!!!)

「は? やだよ。んな面倒臭いことするかよー……。大体、お前もう小学生だろーが。一人で字くらい読めんだろ。読み聞かせとか幼稚園で卒業モンだぜ普通〜」

「なにそれ!? ねえお願いだからさあ」

「あーあーうるせーなぁ…。だったらその絵本が読んでられないくらい血塗れにグロテスクで、聞いてられないくらいレイプ描写満載で、暗いくらいダークな胸糞露悪趣味本でも最後まで聞けよな? 聞きたくなくても聞く耳は立てて聞いて聴いて効きまくれよなっ?!」

「…? れいぷ……? …そんなタッチの絵本じゃないじゃん。てゆうか、どんな本であっても璃瑚奈おねいちゃん読み聞かせる気ないでしょ!」

「おっ理解力いいな。こりゃ神童だぜ。…というわけで私はやる気が出ない。じゃ、」

「…〜〜〜〜っ」



で、俺─────役割→罠解除担当……。



…俺が言いたいこと。
もう、分かるよな?
……悪いが声を大にして言わせてもらうぜ。



「って何だこのお荷物だらけのパーティッ──────?!!!! どいつもこいつも…俺含めて戦闘で全く役に立たないひ弱な役立たずばかり───────────!!!!!!」

「わっ!!! び、びっくりした〜…!!」 「なんだよチルチャックうるせーぞ!!」


「こんなので……──」


「──こんな役立たず大集合パーティでバトル・ロワイヤルが生き残れるかぁあああああああ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼AAAAAAAA!!!!!!!!!!!!」



嗚呼あぁ……。

ah〜ӒӔ〜〜〜ぁぁぁぁ…………あぁ…………………。


ぁぁぁ………………。

462『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:50:32 ID:xEF573ek0
「…………………ハァ、ハァ…………」



「あっ、チルチャックくん絶叫もう終わり?」

「……へッ。ガキは元気だな。その元気ハツラツぶりじゃあオロナミンC要らずで良いもんだぜ、風の子チルチャック!!」

「だーから俺はガキじゃねーつうの!!! ハーフフット!!! 何回言えやあ分かるんだよ!」

「…………またでた」 「ハーフフット…(笑)」


「……ちっ!!」



 はぁ……………。
はぁーああーぁぁぁぁぁあっ、ぁぁぁああ……………………。
んだよこれ……。マジなんなの、これ…………。

俺は神が大嫌いだ…。故に無神論者だよ……。
神ってヤツはいつまで俺をボロ雑巾のように扱って、臭い牛乳を浴びせ続けるんだ…。
いつもいつも俺は不安しか無い運命ばかりだよ…………。

………言っとくがっ!! 本当にっ俺は子供じゃないからなっ……!
当たり前だが、この絶望最弱チルドレンの中じゃ俺が一番年上!! 一番オヤジなんだよっ!!



……
………

 ──え〜? でも切絵おねいちゃん達みんな同じような身長だから…みんな小学生にしか見えないよー!!

 ──ち、違いますよ師匠〜〜!! 私は十六!! 高校生です!!!

 ──えっマジ? じゃあ私とタメかよ切絵………。…んじゃ、お前は?


 ────あ? 俺? …こ、今年で二十九………。


 ──………。
 ──……。


 ──は、あはは〜〜……。う、うん! チルチャック君は大人びいてて、かっカッコイイですねー……!!

 ──はいはいチルチャックの面白いギャグ(笑)が聞けたことだし出ようぜー。

………
……



 …………っ! ………。
と、ともかくっ………。
俺ァこいつらと違って成人な訳だが、それ故にこの軍団のお守り役──リーダーとして……。
率先して最前線に立たなきゃならない。

──バトるなんて専門外なこの俺がだよっ…!!

……クソぉ……………。
常日頃のライオスが実質リーダー係で、俺は戦闘を陰から見守るあの美しい構図が………。
今じゃあ涙ぐむほど恋しいよ……。


ほんとに………。クソがっ……………。


「…ハァ………。叫んだら喉乾いちまった…………。…行くか……」

「え? 台所に? 今切絵おねいちゃんがジュースもってくるってよ」

「んなガキの飲み物俺には合わねーよ……。酒だ、酒。どうせあんだろ………」


「…………ふふっ!」「ぷっ!!」


「チルチャックくんはおさけの味知っててオトナだねえ〜〜〜〜!!」

「苦かったら砂糖とミルクたっぷり入れてもいいからな〜〜〜〜〜!!!」

「うっせぇストレートだわいっ!!!!」


あーもうっ………!!
本当に…『クソだっ!!!』──だわ!!! (特にリコナの奴の減らず口!!)

463『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:50:46 ID:xEF573ek0
成り行きで組むことになった雑魚パーティーとはいえ…………。


この中で唯一いつでも頼りになれるのは……。

お前だけだよ…………。


俺の愛しい酒ちゃんよぉー……………………。

464『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:51:01 ID:xEF573ek0



んぐっ、

ぐびぐび…………。


「……ぷはー……。おっ! 中々イケるじゃねえか、この『やまざき』って酒。…支給品のエールときたらありゃ不味いったらありゃしない。酒つったらやっぱこれよ、これ」


──ガチャッ
 
「………あっ。…え、ええ、え?? ち、ちちチル……くんっ………?」

「お。……なんだよその顔……、キリエ」

「そ、そそそれ………。お酒…ですよっ………?! ま、まずいですって………」

「あー平気平気。全然不味くないし、俺もこの程度の度数じゃ酔わねえからよ。コイツの旨さが分かるようになって一端の大人ってもんだ」

「そ、そそ……そういう事じゃなくてぇ〜〜〜〜〜…」


 ……はいはい。
どうせこいつも「子供が飲酒は〜〜…!!」とかふざけたことヌカすんだろ。
…もういいから。そういうのっゴリゴリじゃい!!

薄暗い台所で、冷蔵庫に寄りかかりながら呑む俺と、コップを持つツントゲガール・キリエの二人並び。
こいつは何が哀しいんだか、看護師の格好でさっきからうろついてる変な奴だ。
コスプレ娼婦みたいなギリギリゾーンのスカート履いて、そのクセ常に自信なさげでオドオドしてんだから掴み所のない女だぜ……。

んぐ、んぐ、ごく………。


「……ぷはぁあぁぁーー……。はぁーあ…………」

「あ、あわわ……。あっ、〜〜〜〜!!!」



「…………………。──はァー……………」


……やっぱり…。
酒に頼ってみたもんだが、コイツの力をしてもどうしようもねぇもんだな…………。
はぁ……。
(あ、あとここに住んでた元の住民。勝手に私物飲んで悪ぃ〜なーー)


 …いや、そりゃ俺だってよ?
言われるまでもなく、こんな女子集団さっさと切り捨ててよ。別の強そうな奴につるめばいいってのは承知しているし。
戦闘力皆無な種族である俺もそれが最適解っつうのは重々理解してるさ。
金の払い具合と勝算の高さで人を見てる俺だ。その点は抜かりねぇーよ。


「──けどもだっ…!!」

「え、ええぇ、え?? け、毛玉??」


例えによっちゃ、飢え死にしそうな我が子を前に、お供え物があってソレを取らない親がいるか? って話よ。
そんなことするやつ、極楽浄土に行けることを信じてるヤツだけだ。
──さっき言った通り俺は神だの仏だのは全く信じちゃいない。

そろばんづくの俺だが、コイツらガキを見捨てるほど人情は薄くねぇ…。
カナやツントゲガール、憎たらしいリコナでさえ、死亡者放送だかでその名前を呼ばれたら……俺、絶対引きずるだろうし。
……何よりそんな真似をお天道様よりも俺ァまず許さねえよ。


「だからこそっ!! だからこそ………っ。悩ましいんだよなぁ〜……………」

「な、悩んでるからってお酒は、ま、NGですよっ!! NG!!」


 ガキ共を捨てちまうのは俺の心情に反する……。
だが、コイツらと行動したら自分の命を捨てることになる……。
…俺は今どちらにも踏み出せない、帰路のど真ん中にいるわけだ。
くっそ…、どっちつかずってのが一番嫌いだぜ…………。おい………。

 …そりゃよお。
出来るもんならコイツらを引き連れつつ、新しく強そうなメンバーを迎え入れる──とかな。
そんな絵空事カンタンにできるんならまた話は別だ。よろこんでその策に飛び込んで頂くよ俺は。
けども、それはまさに絵に描いた餅だ。…絵の中の餅を食えるのはライオスくらいなもんだぜ。
参加者七十人近く──大半が疑心暗鬼で今にも行動に移しそうな中、こんなシマウマの群れを目にした獣共はどう思うよ?
よっぽどのお人好し野郎か、陰で何考えてるか分からない異常者以外俺らを引き受けたりはしないのさ。
……引き受ける奴としたら、これもまた数多くの参加者の中でライオスくらいだわなっ…。

465『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:51:18 ID:xEF573ek0
だから、もう現状手も足も出ないよ………。
俺はもう…。


何を、
どうして、
どういう風にすりゃ………いいってんだ。


俺は、これから……………。


「嗚呼………。あ〜、やまざきぃぃー……………。どうすればいんだよぉ、やまざき〜〜〜〜っ!!!!」

「も、本場ですっ!! 私は本場!! や、ややっ山崎って………誰、ですか…………」

「って、おのれはさっきからうるさいわ──────っ!!! お前ぇには何も言ってないわい!!」

「ひ、ひぃっ!!! そ、そ、…そんなこと…いっ言ったって…………」


 あとツントゲガール!!
お前は初対面の頃からずっと睨んでて……、…怖いわっ!!!
恐ろし過ぎんだろ!? 何考えてんだ?!
…陰気なやつかと思えば、うまるさん? だのカナの話は早口になるし……。
ぶっちゃけ三人娘の中で一番接しづらい奴だよこいつっ!!


「と、ともかく!!! お酒は辞めてください!!」

「いらねー心配だな! だから俺はイんだよ酒に強いんだし」

「えっ、…せ、せせ、せ、成長期なんですから。チルくん、しっ身長…止まりますよ………」

「チッ!!! また出た!!! 好きだよなぁお前ら俺を子供扱いネタ!!! 看板ギャグにするつもりだろうがそうはいかねーぞ!!!」


ほんとに雁首揃えて〜っ……お前らはセンシかっ!!!
…なに? なんなわけ………。
トールマンとドワーフは種族について全く習わないのか???
あんまりしつこいと…俺だって堪忍の尾ってのがあるぜ?!!


「ゆ、ゆゆ……。はぁ……。こ、こまる師匠……、私に勇気をください………」

「はあ?」

「…ゆ、言っときます…けどっ!! わ、私がこの中では一番お姉さん…なんですから…………!! ゎ、私の言うことをチルくんは…聞くべき…でしょうっ………」

「ざけんな!! 二十九!! 十六!!! どっちに『>』が傾く?!」

「な、七歳の子供が……ワガママ言わないでくださいっ!」

「なっ?!!! な、なななななななななななナナナナナナナナナナナナなな…七っ────────!????????」


七はねぇーだろ!!? 七歳はっ?!!
どういう勘定してんだ!!? チクショー!!!


ほんとに、ほんとにっ……!!
どいつもこいつもアホでバカで大間抜けだ………!!!
うんざりだ!!!


もうっ、喰らえっ!!!


 ──ジュッ、ボワ………

 ──スパァーー。モクモクモク…………


「わっ!!?? チルくん何吸ってるんですか?!! さ、さそっ…さすがに冗談じゃないですよ!!!」


 ゲホッゲホゴホ!!!
あ、やべー…。久々すぎてむせちまった。格好付かね〜……。


「……ハァーーーー〜〜………。それは俺の台詞だ、ガキ扱いの冗談はもうやめろ。飽きたし執拗過ぎんだろ。スゥーー〜ー……」

「煙草は辞めてください!!! 本当に!!! ち、ちびっ子ギャングですか!!!」

466『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:51:33 ID:xEF573ek0
あっ!!! ムカついたわ!
マルシルですらそこまでしつこく擦らないってのに…………。
限度の知らなさエルフ以下かよっ!?
このっ!!!


「ぷはぁーーー〜〜〜〜〜〜ーー〜〜〜」

「げ、ゲホッ!! ゴホゴホ…!! や、やめてください〜!! 人の顔に向かって……ふっ吹き掛けて……………」

「あー? 自業自得だろ。どうだ恐れ入ったか? 子供がこんな大量にケムリ肺に入れて、大量に吹き掛けれるわけねーだろ」

「じゅ、じゅ受動喫煙!!! 言っておきますが……、吸う人より吸わない人のほうが肺癌率た、た高いんですからねっ!!!」

「おーおーそりゃそうかい。ひでェ喫煙者迫害思想だな。こりゃタバコーストだよ。ま、かく言う俺も娘出来て以降長らく禁煙中だったがよ…──」


「──今は別だっ!! ほれ思い知ったか! スパァーー〜〜〜〜〜〜、…はぁあぁぁぁぁぁ〜〜ーーー〜〜〜ー!!!!」

「や、やめてくだ──ゲホンッゲホ!!!」


へへへーー。ざまーみろ。
…って、なにエルフ共でもせん外道な事してんだ俺…………、とはなるが…。
まあ、仕方ないってもんだろ…。
俺も人間さ。腹が立つこともあるし、憂さ晴らしの欲が抑えきれん時もある。
こうもしつこく半ばコンプレックスをいじられりゃ、やる時はやんだよ。



ざまぁーみろ。ざまぁだぜ。
ガキ共よぉーー…────……、



『ピギィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイ─────────ッッッ』


「え?!」 「ゲホ……えっ!!??」



 …だなんてスカッと気分に愉悦浸っていた中。
台所中を、唐突に『奇獣』のような悲鳴が木霊した。


「………」

「………………え?」


……俺は最初、限度が来たツントゲガールが発狂したもんかと思ったんだが。
──キリエの奴もその『奇声』に反応した様子から、どうやら第三者の声らしかった。

俺と、キリエしかいないこの間での。
第三者の声が。


「………………」


首をひねられる直前の怪鳥みたいな奇声は、思いの外一瞬で止んだ。
声の出どころは、……間違いなくキリエから。
だが小娘の悲鳴なんかではない。


奇声の張本人は、キリエの首。
──ギンギラに光るその首輪型爆弾からニョロニョロニョロ………って。
その赤黒くてグロテスクで、口しかない。昆虫の様なソイツが、息苦しそうに這い出てくると…………。


「うわ気持ち悪っ!???」

「え、え、え????」


────ビチャンッと、冷たい床に落ちて。



 パチン。

 ボト…………。

467『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:51:45 ID:xEF573ek0
「「え?」」



そのキモい生き物が恐らく息絶えたその瞬間。


キリエの『首輪』が静かに外れて落ちていった…………。







え?

468『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:52:01 ID:xEF573ek0



………
……


「…ところで璃瑚奈おねいちゃん。れいぷ、ってなに?」

「……っ?! ……あのなぁー………………。夏菜…、忘れろ。つか察しろ。おかあさんといっしょでその言葉が発せられるの見たことあるか? ないよな? つまりはお前にはまだ早いんだわ」

「カナおかいつ卒業したんだけどっ! いいじゃん教えてくれてもさー!」

「おかいつ……………。おい忘れたか? 私は何事にもやる気が出ない人間なんだぞ。一々説明してられっかよ面倒臭い…………」

「また、そうごまかして!! カナ諦めないからねっ!! ねえねえれいぷってなにー? ねえ〜〜!!」

「…あーーもう〜っ──…、」



 ガチャッッッ──────
 バタンッッッ──────



「おいカナ!! リコナ!!! ははっ!! よく聞け、今から外に出るぞっ!!!」

「ハハ…!! あははは!!! そうですよ皆さん!! 行きますよ!!!!」

「うわびっくりしたぁー!!!」 「は? んだよいきなり…………」


 ドアを開けりゃ対面する二人のガキンチョ面。
…フッ、…ハハハハ!!!
リコナの癪に障るやる気0フェイスも、この興奮と歓喜を前じゃあどうにも気にならねぇ!!!
……いや本気でマジかよこれっ?!
ハハハハハハハ!!!! 笑いが止まらねぇよ!!! こりゃ発作だわ!!! ハハハハーーッ!!!!


「…え? お前ら二人してテンション高すぎねぇーか。キャラ変わりすぎだろ。何が琴線に触れてそうポジティバーになったんだよおいー」

「い、いやだって!!! ねえー! チルさん!!!」

「おうキリエ!!! 『これ』を目にして興奮しねぇ奴なんかねーよ!! ハハハハ、ハッハ────────!!!」


「…引くぜ」

「てゆうかキリエおねいちゃんジュースはぁ〜?? 持ってくるんじゃなかったの??」

「まぁまぁ夏菜師匠〜!! あ、そうだ。チルさん、師匠にも『やって』あげてください!!!」

「おっ! それもそうだな!! おいカナ、こっち来い!!!」

「………?? ヘンなの。…なに〜?」


「バカ、行くなっ!! あいつらクスリしてるぞ!!!」──とか何とか。
あたふた萌え袖をブラブラしてるリコナの野郎は無視して、近づいてきたカナの肩に俺はそっと手を置いた。
おうおう〜!
リコナの奴、「何をする気だ!!」とか言いたげに汗撒き散らしやがって!!
何をすんだ、つわれたらよぉー?
そりゃ勿論…………、


「な!!」 「はいっチルさん!!!」


──スパァーーー〜〜〜〜〜〜〜…………。


「!?? げほげほ!!! く、くさっ!!!? な、何を──…、」


『ピギィイイイイイッッッ』

 パチン。→ボト…………。



「………え?」 「…あっ?!」

469『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:52:16 ID:xEF573ek0

煙草の吹き掛け。
ただ一つに決まってんだろ?



「え?? あー?! 夏菜?! お、おま……。首輪が…外れて…………………」

「え、あれぇ〜〜〜〜〜?!! てかなにこの虫っ?!! ゾワッてするんだけどぉ!!?」


「…………ふっふふふ……!!」

「お、お前…チルチャック!!! なんだよこれ?! おい!!!」

「す、スゴイですよねっ!! 璃瑚奈さん!! ささ、さっきチルさんが見つけたんですよ!!──」



「────『首輪の解除方法』が、ですっ!!!!」



「………………え」 「………………──」



「──いや切絵お前には聞いてねー」

「あ、あぅ…ぁ……。す、すみません……………」


「なに六歳児が煙草吸ってんだとか……、なにこの遊星からの物体Xはとか…、ガキの顔に煙草吹き掛けるとかイキりすぎだろとか……。山程産まれた突っ込み卵はこいつの前じゃあどうでも良しだぜ……。おいチルチャック!」

「あ〜? ふっふ〜〜ん!!」

「何なんだよこれ?!! 説明しろよっ!!?? こいつら一体全体何が起きてやがんだ!!!??」


 …ったく! リコナめ、凄まじい勢いで詰め寄ってきやがってな!!
ま、仕方ないから説明してやんよ。

ここで脳裏に浮かんだのは、ファリンが食われてまだ幾ばくも月日が経たぬ頃。
地下深くでの、ライオスの会話だ。

以下、迴想〜。


……
………

 ──ははは。『動く鎧』…か…。


 ────…まーた始まるよ、ライオスの早口で独りよがりな魔物説明。

 ──よしなよチルチャック…。


 ──産卵…。孵化…。体長わずか5mmほどの貝類『動く鎧』は、成長と共に外郭を形成し、ある程度成長すると群れ始め、徐々に鎧の形に成体。動けるようになると他の群個体を探し移動する。…というのは俺の仮説だ。

 ──ほう。


 ──実は、コイツを見て俺、そういう類似生物がいたな…って思い出したんだ。…名前は分からない。ただ、動く鎧同様、色んな物体に似た殻を作る魔物がいるんだって、迷宮ガイドに書いてたのさ!!!

 ────あの信憑性乏しい同人本ねぇ。

 ──ライオスほんと好きだねそれ……。


 ──例えば、銅像!! 例えば、────『爆弾』!! …ただ、彼ら貝類は少し弱点があってね………。

 ──…いや銅像型や爆弾型のからは話広げないんかい!! ライオス…。

 ──まぁ聞こうではないか。…ふむ。その弱点とはなんなのじゃ。



 ──それがなんだが………。


………
……


470『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:52:35 ID:xEF573ek0

「────奴らはニコチン、タールを0.5mg以上含んだ『煙』に弱いっ!!! つまりコイツをかなりの至近距離で喰らわばよ…」


スパァーーー〜〜〜〜〜〜〜…………。


『ピギィイッッッ』

 パチン。→ボト…………。


「イチコロ、って訳だぜ。リコナちゃんよお!!!」




「…………………………マジかよ」

「主さい者ってばかなの?」


 かハッ〜!! おいおいカナちゃん〜!
バカに決まってんだろ?!
あのオープニングセレモニーだぜ?
バカが陣取ってるゲームなんだから、こんなもん楽勝すぎるわ!!!


「と、まぁ首輪解除法はあっけなく見つかったわけだが。それを踏まえて、俺らはこれからあることをしなきゃなんねぇんだわ」

「ある、こと…………?」

「はい師匠!! 私たち四人組は悲しいですが最弱もいいところ…。敵に出会ったら瞬殺即ENDが約束されてる……よわよわな集まりじゃないですか」

「うん…」


「例えばリコナ。お前、バス内でレイプ魔のヤバイ奴が隣つっただろ? そいつに会った日にゃ俺らは色々な意味で終わり、完封だよな」

「お、おう。つか思い出させんなよお前…………」 「………っ!(また出た…れいぷ)」


────だがっ!!!


「もし、ソイツが『仲間』に付けるとしたら?」

「え?」

「…いや別にレイプ魔に限った話じゃないぞ? 殺し合いに乗った野郎にさ、首輪解除をエサに無理矢理ボディガードにしてな! 『ゲーム終盤に外してやるから俺達を守れ』とか言ったらよお!!」

「……………っ!!」




「────この戦……。生還を諦めるのもまだ早いんじゃねぇのか? なぁ、リコナ」




「……………」 「………」



「…スカウトってわけか。それもかなり勝算の高い………。面白ぇ。面倒事は嫌いな私だが乗らせてもらうぜ………──」




「──だがあのレイプ魔だけはやめろよなっ??! アイツ絶対話なんか通じねーから!! 弁が立つ私でさえアイツを丸め込むのは無理だよ!! 難題だよしんどいよ死罪だよっ!!!」

「ま、まあまあ璃瑚奈さん! 一つの例え話じゃないですか!! そっそ、その点はチルさんも理解してますよ〜!!」

「ったりめェーだろ。勿論最低限人は選ぶぜ。ゲームに乗ってるか乗ってないかは問わず。とにかく外出て参加者をスカウトだ!!」

「そうしろ!! マジでレイプ魔だけは勘弁だ!!! レイプなんかされたくなーい!!!」

「レイプレイプうっせーよ!! てかお前その言葉言いたいだけ説あるだろ」

「んな説あるかっ!!! いいか、レイプ魔だけはやめろ!!! 釘何十本でも刺して言うからな!!! レイプ魔だけはヤ・メ・ロー!!!!!」

471『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:52:52 ID:xEF573ek0
「ちょっと皆さん……。子供の前なんですからぁ〜…」

「…………〜〜〜〜っ?」


レープレープと、お年頃なお嬢ちゃんはともかく。
偶然ながら、これにて俺らは『ゲーム生還の糸口』に針を通すことができたわけだ………。

勿論、まだまだ課題はある。
圧倒的武器不足だとか、バリアー問題だとか、ライオス達の安否確認だとか…、マルシルはまだ生きてるのかだとか。
無駄に奥深さあるこの殺し合いではあるが、…幸運にも主催者は浅いところで舐めていやがってのさ!!



 なあ、神様よ……。

あんたが存在するんだとしたら、トネガワをバカに作ってくれて感謝するぜっ。

そして、『動く鎧の亜種』という生物を生み出してくれたことも、心からお礼言いたいぜっ……!!



 首輪を四人一斉にゴミ箱へ放り投げ、この一室を後にする……。
俺達ガキ帝国の創設が、今歴史の始まりを刻むのだった────────。





「……で、れいぷって何!! チルチャックくん、切絵おねいちゃん!!」



「…は?」 「ひ?」 「…ふ? ──とは言わねーぞ私はよぉ〜…」


「皆ばっかり知ってて…。カナだけ知らなくて、仲間はずれでっ!!! カナかなしいんだけど!!! もうおしえてよ!!!」


「…………し、師匠……。ま、まだ早いですよ〜………?」

「なぁ、さっきからこればっかなんだぜ? この放送禁止用語乱射口を誰か黙らせてくれよー。おい〜〜」

「…………」


「おしえてくれない限りカナ動かないから!! ねっ!!!!」


「…」 「……」 「………」



 …いやいや、もう……………。



まぁ……、仕方ねぇかもう…………。

かなりなくらい早いけど、コイツにも正しい知識を教えてやんないと……ダメか…な………。


あー面倒臭え………。


「…はぁ、分かったよカナ」


「え?! ち、チルさん!!??」 「バカ!! 黙れよチルチャック!!!」




「花、あんだろ?」

「うん」



「…それには雌しべと雄しべがあってだな………………」

472『ゲーム生還の糸口♂♀』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:53:10 ID:xEF573ek0
【1日目/G5/マンション/6F/AM.03:27】
【平成少年団】
【チルチャック・ティムズ@ダンジョン飯】
【状態】健康、首輪解除
【装備】???
【道具】メビウス@煙草
【思考】基本:【対主催】
1:誰か強そうな参加者を誘う。首輪解除をエサに仲間に引き入れる。
2:リコナ、キリエ、カナを守る。
3:リコナはうぜー、キリエは常人ぶった変人、カナは問題児!!

【璃瑚奈@空が灰色だから】
【状態】健康、首輪解除
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:ガキンチョ一行と行動する。
2:レイプ魔(肉蝮)には会いたくない…。

【本場切絵@干物妹!うまるちゃん】
【状態】健康、ナース服@うまるちゃん、首輪解除
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:チルさんたちについていく。
2:夏菜師匠をお守り。
3:うまるさんと海老名さんが心配…。

【折口夏菜@弟の夫】
【状態】健康、首輪解除
【装備】???
【道具】???(一式ランドセルに梱包)
【思考】基本:【静観】
1:チルチャックたちくんについていく。
2:『死』だけは絶対…ダメ!!
3:めしべとおしべ…?


※ナゾ1【首輪型爆弾の謎】…続報。

「参加者全員に嵌められた首輪型爆弾。この物体は一体何なのか?」
→正体は生物。『自爆型の魔物』。(※1)
 動く鎧@ダンジョン飯の亜種で、赤黒く口のみの生物。(※2)
 市販されているタバコの煙が弱点で、至近距離から吸い込むと即死してしまう。

 (※1)ライオス・トーデンが#020『[[少女と異常な冒険者]]』にて解明。
 (※2)チルチャック・ティムズ、本場切絵が#053『ゲーム生還の糸口♂♀』にて解明。

473 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/11(火) 20:53:40 ID:xEF573ek0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①首輪解除RTA更新です。多分これがパロロワ史上一番早いと思います。(ゲーム開始3時間27分で解除)
②まぁ平成漫画ロワは会場を包む強大なバリアーがありますから脱出も無問題ですが。
③そのバリアーについては白銀会長が何か策がある様子…。その詳細はまた十数話後、『いけない太陽(仮題)』にて……。


【次回】
──幽幻道士。キョンシー。

──獣が、ヴァンパイアが、殺人鬼が血を欲する満月の今宵。二人のキョンシーが、『対峙』する。


…『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』
(※ゆりちゃんの格好の元ネタはわたモテ個展でのグッズと二年生の時の七夕回)

474『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:10:43 ID:kWnGcn6U0
[登場人物]  [[札月キョーコ]]、[[土間タイヘイ]]、[[吉田茉咲]]、[[田村ゆり]]、[[藤原千花]]、[[マイク・フラナガン]]

475『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:10:59 ID:kWnGcn6U0
──幽幻道士(キョンシー)──────!!

 それは言わば中華ゾンビ。
月の光る真夜中にのみ行動を開始し、生血を求めて人々に襲いかかる屍。
中国古来から伝聞される、日本で言うところのぬらりひょんや河童並みにポピュラーな物の怪だ。

ただ、ゾンビといえど奴等には人並みの知能がある。
そして、どの人間の鮮血が美味いかを見定める悪どい邪心がある。
吸血の為ならどれだけの実力行使も遂行する──殺人的本能があった。


今宵。
七夕真っ最中の土曜日。サタデームーンの渋谷横丁にて。
『二人』のキョンシーは吸い寄せられたとでもいうのか。
偶然にも巡り合うのであった─────。


……

「…くそォーー………。うまるの奴…何してんだ? さっきから全然電話に出てくれない………」

「あー? つーか眼鏡くんよぉ。そのうまるってヤローは知り合いなんか」

「……。(眼鏡くんって……、ヤローって………)知り合いも何も、俺の妹だよ。…たった一人だけの大切な家族さ。……うまるのヤツ、面倒事起こすタイプだから色んな意味で心配でね」

「妹? お前マジか………。そりゃ鬼電も仕方ねーわな。なぁ、札つ──…、」


「死んでんじゃないの。今頃」


「……………っ」 「……………ッ、てめぇ…………」



「うっそ〜。冗談だってば。………そんな睨みつけないでよっ吉田」


 紹介しよう。
──東側にて。

三人一列で歩く右端──真っ赤なリボンと白髪がチャームポイントの、洒落にならない発言をした彼女は、正真正銘のキョンシー。札月 キョーコだ。
見た目こそは華奢で小柄な女子生徒なのだが、キョンシー《吸血鬼》であるが故、その潜在的力は世界最高峰のボディビルダーにも勝る。
倒木した樹木を片手で受け止める、分速二千メートルで走る事が可能、一軒家をものの一瞬で廃屋化させる……等。
力加減をしてかなり慎重に行わなければ、体育の技能テストで人間離れな成績を残してしまうとの、キョーコの逸話は枚挙に暇がない。

それに何より彼女は、『血の味』が好物であった。


「……きょ、キョーコちゃん。…聞かなかった事にはする。だから吉田さんもいい加減彼女の胸倉掴むのやめなさい!!」

「あ? …………チッ!!」

「「(いや…チッ、ってさぁ……………)」」


「………ごめんタイヘイさん。…私、ちょっとイライラしててヤバいこと言っちゃったわね。……言い訳するつもりじゃないけど、血足りなかったから。…それもあって」

「…あ? …てめー、あの日か?」

「はアぁッ?! バカじゃないのッ?!!! 吉田黙れ!!!──」


「──…ともかく、いつもはお兄ちゃんの血吸って事を収めてるんだけど、生憎いないわけだし。……ほんとにごめん……」

「いやいやだからもう良いからさ。俺の方こそ、ずっとしつこく電話してたし。多少イラってくる気持ちも分かりはするよ」

「…………んん、ごめん」

「…おい、辛気臭え。無理矢理にでも話変えるぞ」

「あ、うん…」 「………」

476『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:11:13 ID:kWnGcn6U0
「眼鏡くんよぉー。さっきからずっと私は思ってたんだが。いいか?」

「…何なりとどうぞ」

「おめー絶対シスコンだろ!」

「…はァッ!!??」 「いやいやいや……。話題変えたら変えたで嫌な質問だなぁ吉田さん〜………」


そんな史上最強の吸血鬼────キョーコと。


「いやバトロワの心配云々は抜きにしてよぉ。妹のことやたら心配でこんだけ電話連打するとか、普段の日常生活なら即シスコンヤロー認定じゃあねーか」

「…まぁそりゃそうだけども。でもッ!! 一番肝心な部分抜きにはするなよなぁーー!! 吉田さんーー!!!」

「タイヘイさん、あのバカに構わないで。覚えたての『シスコン』って言葉使いたいだけわよどうせ」

「アぁあっ!?? てめーさっきから私のこと舐め腐ってんだろゴラァ!!!」

「誰が舐めるのよアンタなんか!!! アンタのドラッグと乱酒で濁ってそうな血……1ccも舐める気しないわっ!!! カルシウムでも摂って清純な血液にしなさいよこのイラチ!!!」

「てめー表出ろバケモノ女が!!!」

「いやもう表出てるし吉田さん……──…、」




「「「───って、…あっ」」」


「「「あっ」」」



もう一人のキョンシー。
────田村 ゆりと、が。



「…………」

「………」



眼と眼が遭ったこの瞬間。

不幸にも、彼女ら二人とそれぞれ同行していた一般人四名は、惨状の巻き添えとして血肉の薔薇に咲き乱れるのであった────。


…………
………
……


477『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:11:57 ID:kWnGcn6U0
「…………………………(〜♪」



「…ハァ…。タムラさん、言うこと聞いてくれない………」

「そうですよぉ〜! ねーマイク!! マイクがあれだけ『自分の後ろに隠れて歩いて』って注意したのに〜〜!! ゆりちゃんは反抗期真っ只中で、マイペース過ぎますよ〜〜〜!!!」



 紹介しよう。
──西側にて。

力強そうな大男(&リボン娘)をバックに、大胆にも一人先陣を切る──無表情でイヤホンの彼女は、田村ゆり。彼女が行きたい先は他でもない『ユニ●ロ』である。
大きく太腿が露出したチャイナドレスに、中華帽子、そして額には御札と。見た目はまんまキョンシーなのだが、あくまでこれはコスプレ。
陰キャの鏡であるゆりなら普段「智子なら似合うと思うよ。こんなバカなファッション」と蔑むくらい、性格に似合わぬ服装をしているのだがこれにも訳がある。
というのも、数十分前、魔茸『チェンジリング』にやられて以降、急激に身体がロリ化《縮んだ》彼女。
当然、普段着などダボダボで着れるはずなく、仕方無しにバーで探した小児衣服がこのバカなファッション一着だったのだ。

スカートの丈が短くて鬱陶しい、と。彼女は『まともな服屋』を求めて、辺りを見回す。


「…………………………(〜♪」


「ねぇ〜〜マイク」

「なんデスかフジワラさん」

「私分かっちゃいましたよ…っ!! ゆりちゃんがやたら私たちから離れて前を歩く理由……っ!!!」

「理由…とは??」

「それはズッバ〜〜〜リ!!! あのイヤホンです!!!」

「…………?」

「ゆりちゃんめ、もしかしたら私たちに聴かれたら恥ずかしいぃ〜っ…ような何かを聴いてるんですよ!!! 例えば〜〜動物の鳴き声集.mp3とかぁ〜、ジャ●ーズアイドル生越の癒しASMRだったりとかぁ〜〜〜!!! あははは〜!!!──」

「──いや、ヒーリングミュージックだとか?? あるいはお教とか砂嵐だったりして〜!!! 説立証ズバリあると思いませんかぁ!!!」

「タムラさんがそんな病んだ子に見えないデスがー……」

「あっ、そんなぁ〜〜!! うちの可愛い後輩であるミコちゃんをヘラってるみたいに言って〜〜〜〜!!!」

「フジワラさんの後輩を勝手に引き合いにしてたんデスか……!? …私、時々アナタの垣間見える毒がコワいデース…」


「ということで!!! おしゃれ♡探偵団切り込み隊長──藤原千花っ!!! チカっと真実を確認にいって参りま〜〜〜〜す!!!!」

「…あっ!! フジワラさーん!?!! またアザが増えるだけデスヨォーー!!!!!」


「…………(〜♪」

「ゆ〜りちゃん!!! 何聴いてるんですか〜〜!!」

「…。………何もきいてないんだけど」

「うわ!! 嘘の付き方も小学生レベルに退化してます?!! …もう〜〜っ、可愛んだからゆりちゃんは〜〜〜〜!! おねえさんにちょっとイヤホン貸しなさぁ〜〜〜〜──…、」



そんな似非キョンシーの根暗少女────ゆりと。


……

「……………最悪…です…ぅ……。あんなの、聴かなきゃ良かった……………。ゆりちゃん絶対普段あんな酷い物…聴いてないですよぉ……………………」

「何聴かされたのデスかっ??!!」

「いやもう小悪魔どころか悪魔そのものですよぉ…………。デビルマンレディーゆりですぅ………。あんなの聴いたらもう──…、」




「「「───って、…あっ!!!」」」


「「「あっ」」」

478『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:12:15 ID:kWnGcn6U0
キョンシー。────札月 キョーコと、が。



「…………」

「………」



眼と眼が遭ったこの瞬間。

吉田茉咲の鋭い睨みに藤原が臆し、
マイク・フラナガンの圧倒的威圧感にタイヘイが警戒心を高めたこの瞬間。

バトル・ロワイヤルという緊迫した空気感もあってか、キョーコの瞳孔が赤く見開き、ゆりもまたポーカーフェイスがやや崩れる。


血への欲と、

本能と、

幽幻道士としての矜持が、『非日常』の訪れを告げる。


「…………ちょっと、あんた……」


「…………」



──────両者、向顔。

戦慄と緊張感、行く末は絶望…か。
血を血で争う、キョンシー同士の『殺し合い』が。
そう、お手本通りの『殺し合い』が今初めて、この渋谷で行われようとしていた─────…。




「って、お前……田村か?!」

「え? 吉田さん?!」



「「「「………え?」」」」





────……………行われるかもだった。

吉田は何の警戒心もなく、友人であるキョンシーの元へと近寄る。
帽子越しにて、愛犬を愛でるようにワシャワシャとゆりの頭を撫でると、


「おいどうしたんだよ田村〜〜! なんだ〜? そんなちっさくなってよぉ!! いやそれよりもお前が元気そうで良かったよ! おいっ!!!」

「ちょっと…! 吉田さん、やめてよ…。はずかしいから…」

「ははっ〜〜!!! 田村ぁ〜〜!!!」



「…え? 吉田の知り合い??」

「いやゆりちゃん…、そのヤン……、人と…友達なんですか〜………?!」


渋谷横丁を覆った紅い緊張感など、綺麗さっぱり消え失せた。

479『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:12:26 ID:kWnGcn6U0

……
………
「うっし、おめーら。取り敢えず休憩とすっぞ。あの『UFO型の建物』で色々積もった話解消するからな」

「はぁあぁっ!!??? 馬鹿!! 却下よ!!! あの建物絶対なんなのか知らないでしょ!!! いややっぱりバカじゃん吉田!!!!」
「…。………………………」
「てゆうか『休憩』ですか〜…………」


「………は、ハハ…。困りマシタね…………」

「……まぁとりあえず動くとしますか…………。ね、マイクさん………」

480『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:12:40 ID:kWnGcn6U0


………
……

 一泊OKのデイリーマンション。
ホテルとは違いマンションには無論、キッチンや流し、そして必要最低限の調理器具が用意されている。
『男子厨房に入らず』──とは、昭和生まれ親父の決まり文句だが、キッチンに立つ二人はいずれも男。

バトルロワイヤル開始から早くも四時間が経過。
朝方近くな為、真っ暗だった街も日の出を予感させる薄暗さになっている。


「それにしてもタイヘイさん。その若さで料理もできるとは………。何とも頼もしい方デースネ」

「はははっ。うちは未成年の妹と二人暮らしですから、必然的にやれてるだけですよ」


とどのつまり、タイヘイ&マイクが作るのは少しばかり早めの朝食。
これからの行動に備え、リビングで待つ四人娘の為に何かを調理するのだった。


「いや、しかし………。やっぱり…何だろう、罪悪感はありますよね…。人ん家の冷蔵庫から勝手に拝借するわけですから…」

「……う〜ん確かにデス。マンションの元の住民サンには悪いことをしマス……──」

「──…デスが腹に背は変えられない…と言いマスか。戦に備えて腹ごなしは欠かせまセン。コンビニやスーパーで買い出す手もありマスが矢鱈な行動は危険デスし──」


「──という訳で、料理のテーマは『最低限』デスヨっ!!」

「最低限ですか。と言うとマイクさんつまり………」

「えぇ! ちょびっとの具材を使って、それでいて皆を大いに満足させられる料理!! …タイヘイさん、アナタさっき何を作るつもりと言ってましたカナ?」

「あ、カレーです。カレー。簡単に作れて大人数用も容易いですから」


「フフフっ……!! ならちょうど良いデス!! さぁ、今から作りマスよ!! ────私の母国『カナダ式カレー』をっ!!!」

「おお!! カナダ式…ですか!」


まな板上には食パン、鶏もも肉、そして植木鉢に咲く謎の野菜一つと。
カナダ式カレーに欠かせない最低限の食材が並ぶ…………。

………
……


「…ほうほう〜〜〜。つまりは怪奇!! キョーコちゃんはそのリボンを取られたら…かっなぁ〜〜りマズイんですね〜〜〜! …例えるなら──」

「──奇しくも同じくリボン娘の私ですが……。それを今ここで外して見せたらぁ〜〜〜〜……。(ポロッ)…ふっふふ…。がおおあぁ〜血をよこせぇ〜〜!!!!」

「…え。…あっ!!! まさかアンタもっ…」

「て、てめぇーもかこの野郎ッッ!!!!」


───ゴシュッ!!!

≡〇)🎀`Д゚)グハッ

【よしだ の がんめん ストレート!!】
【ふじわらしょきは、250のダメージ。こうか は ばつぐんだ!】


「ぐへぇやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!! …い、いだっ???!!!! 何でいきなり殴ってくるんですかっ?!!? 冗談に決まってるじゃあないですか!!」

「あ? …んだよ。じゃあ書記、てめぇーは普通の人間なんだな? 吸血鬼なんかじゃねぇんだな? あー?」

「当たり前でしょおっ??! もう〜〜っ!! なんで原幕高校の生徒は皆すぐ手出してくるんですかぁ〜!!」

「…いや冗談にならないから仕方ないじゃない。ほら、藤原謝りなさいって」

「……ったくよ…」

「ふっへっへ〜〜〜〜〜〜…………。被害者が謝罪しなきゃならないこの事態こそが怪奇現象ですよぉ〜〜〜〜〜〜〜〜……………。しかもキョーコちゃんナチュラルに呼び捨てしましたよね〜〜〜〜…………。うえ〜〜〜〜ん…………」

481『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:12:57 ID:kWnGcn6U0
「…………………(〜♪」


 一方で、残りの女子四名はソファで寛ぎ中。
テーブル上には支給品確認の痕跡として、シュローの刀(@キョーコ支給武器)、熱した鉄の棒(@ゆり)、エアガン(@タイヘイ)にさくら棒(@マイク)…と、武器達が散らばっている。
彼女ら四人は、────いや三人は武器には目もくれず和気あいあい(?)と駄弁り続けた。


…それにしても、しかしだ。
エアガンやらただの鉄棒やらはともかくとして、『さくら棒』の何に殺傷能力を感じて主催者は支給武器としたのだろうか。
長さ、太さはそれなりにあるとして、このさくら棒。武器でも何でもなくただのお菓子。
静岡伝統のピンク色なただの麩菓子である。これで撲殺できるとしたら、『豆腐の角で頭ぶつけて死ぬ人間くらいだろう。
やや狙ってる感はある、酷い武器チョイス。
これには流石の表情筋10gゆりでも失笑するほどであった。


「………ふふっ…(〜♪」

「あっ! ほら見なさいって吉田!! 田村笑ったよ!! 今!!!」

「……っ?!(〜♪」


「…あ?」 「あ、あちゃあ〜〜〜……………」


「今絶対笑ったわよね? 田村、そのさくら棒見てさ。変なとこで急に初笑いとかなんなのさ〜、もうったら〜〜〜!」


「…全然わらってないんだけど………………」

「てゆーか、田村もさー。そりゃ私らと歳離れてるから接しづらい気持ちも分かるけど。…そうロンリーウルフ気取ってないでなんか話そうじゃないの」

「………気どってないから。接しづらくもないし。藤原さんはともかく、吉田さんとなら話せるから、見透かしたかのようにいわないでほしんだけど」

「結局内弁慶じゃない!! もう田村ったら〜〜〜」



「キッズ相手だからってデリカシー0発言乱射しますね〜〜………。キョーコちゃん…」

「悪意がない分タチが悪いってヤツだな」

「それはそうですけど〜…。悪そのものの吉田さんがそれ言いますかっ?!! ──あ、怒らないで〜!!!? 殴らないで?!! 千葉はともかく東京じゃ暴力は犯罪なんですよぉ〜〜〜〜!!!!!!」



「…………はあ……(〜♪」



「私は今話せませんよ」とアピールするが如く、中華ロリゆりちゃんは中華まんをパクリっ。
もぐもぐ&曲の音量爆上げで、キョーコをひたすら構わず関せずの態度を貫くのであった。



キッチンから徐々に立ちこめてくるカレーの匂い。
ほのかに苦みの隠し味が混じったその香りに、どこか懐かしさが感じる。

出来上がるカレーを前に、敵意など皆無で(──四人全員が互いに信頼しあってるかはともかく)、話に花を咲かせる四人娘。
笑い声が飽和し続けるキョーコ藤原ら四人を見て、部屋の時計は何を思うか。

時刻はAM.04:30丁度。

バトル・ロワイヤルという『非日常下』にて行なわれる、普段の日常生活と変わりない和やかな雰囲気。
額のお札が揺れる中、マンションの一室は束の間の休憩で、楽しげなムードに包まれていた。

482『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:13:07 ID:kWnGcn6U0



────この安らぎのムードが、『嵐の前の静けさ』であることを、六人誰一人として知らずに。


──外を見渡せば立ち込める曇り空の陰。


────あと少し経てば『惨劇』が始まる。










二日後、ふと、このカレーを待っていたときの事を思い出して。


今思えば、──あの時はまだ楽しかった。

そして、──あの時はまだ知る由もなかった。


…と。

ふと彼女は回想する。

483『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:13:25 ID:kWnGcn6U0



 ドクン、
  ドクン────────


 いや。
知る由もないと言うか、知る訳もなかった。



 ドクン、
  ドクン────────

 …『非日常』の始まりを告げる、『あの叫び声』のことも。


 “ぁぁあ………あ…”
 “あぁぁああアアアアアアああぁぁぁああぁぁああァぁぁぁァァァ───────ッッッ”



 ドクン、
  ドクン────────

 …後々、自分を救ってくれた『仮面ライダー』のことも。


 “俺はもう二人殺した。一人はこの手で、もう一人はこの目で。…見殺しだ”
 “もう。俺は人が死ぬ瞬間を目にはしたくない………”



 ドクン、
  ドクン────────


 …変わり果てた『アイツ』の姿も。


 “ハハッ……。だからさ、生きてよ。つか生かさせるから………。私が…………”
 “絶対に…………。絶対に絶対に絶対にっ……。うっぅ………うぇっ…………”
 “もう、全部……………。────ミコちゃんのせいなんだから……………。私を置いてかないでよ、ミコちゃん………”

484『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:13:40 ID:kWnGcn6U0

 ドクン、
  ドクン────────


 ──…そして、美術館での『血闘』…も────。



 “はぁぁ…はぁ……ハァハァ…、”


 “………ハァ? 何言って…んだ…テメェ……?”


 “ハァハァ…。…何が…トップよ……ッ。何が……パンケーキだっつうの……………ッ”



 ドクンッ…────────



 “つうか何…泣いてんだよテメェッ………? ……被害者ぶってんじゃねぇぞ………ぶっさい泣き面晒しやがって…ゲホッ………! ハァハァ…………。…テメェのせいで……吉田もタイヘイも…死んだッ………!! 優しかったみんなが…皆………糞みたいな理由で……………殺されたッ!!!!!”



 ドクンッ…────────



 “ハァハァ……ァアアア……ッッッ!!!! …ふざけんなッ…マジでふざけんなよテメェ…………ッ!!! ………絶対許さないッ……! テメェだけは絶対殺してッ…、負けてでもぶち殺しきってやる──────ッッッ!!!!!!”



 
 バクンッ────────


 “ァあの世で喉潰れるまで詫び続けろァアアアアアアッッッ─────!!!!!!!!!!! この人殺しがァアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!!!!!!!!!!”



『Vampire - The Night Warriors』


 プツン…………………─────







────────…

……最後に、

『プランA』の実態、も。



 ────“…………いいや、花火だ。”


 ────“あれは花火……”


 ────“鎮魂代わりの。…一夏の、大天火だな…………”

485『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:13:51 ID:kWnGcn6U0
今はまだ。

何もかも、まだ知らなかった。

知らないからこそ、まだ幸せだった。


幸せで、それでいて『不幸』だった。




焦土と化した渋谷の街を、車窓から眺めながら。
彼女は回想を終える。




 ドクン、


  ドクン────────、


………
……


486『熊と眼鏡と書記と不良と幽幻道士と吸血少女(札)』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:14:19 ID:kWnGcn6U0
【1日目/F1/渋谷センター街・パチンコ店/4F/AM.02:31】
【チーム・キョンシーズ】
【札月キョーコ@ふだつきのキョーコちゃん】
【状態】健康
【装備】シュローの刀@ダンジョン飯
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:↓以下のメンツと同行。
2:ちゃんゆりがちょっと可愛い…。
3:吉田とは犬猿の仲!!

【田村ゆり@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!!】
【状態】ハーフフット(ロリ化)、キョンシーの服装
【装備】熱した鉄の棒@善悪の屑
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:ひとりで行動したい。
2:吉田さんと会えてよかった。
3:藤原&札月とは波長があわなく苦痛…。

【吉田茉咲@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】木刀
【道具】タイムマシンボール@ヒナまつり
【思考】基本:【対主催】
1:つか田村なんでちびっこになってんだ?
2:藤原とキョーコ、あぶねぇやつだ………。
3:うまるを探すタイヘイに同情。

【藤原千花@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】健康
【装備】護身用ペン@ウシジマ
【道具】ワードバスケット@目玉焼きの黄身
【思考】基本:【対主催】
1:カレーまだかなぁ〜〜♪
2:…私、暴力娘x2に吸血娘と囲まれてるとかピンチではっ……………?

【土間タイヘイ@干物妹!うまるちゃん】
【状態】背中に痣(軽)
【装備】池川のエアガン@ミスミソウ
【道具】ボイスレコーダー
【思考】基本:【静観】
1:カナダ式カレーをマイクさんと作る。
2:うまる、大丈夫か…………?
3:なんだかリビングが騒がしいな…。

【マイク・フラナガン@弟の夫】
【状態】健康
【装備】さくら棒@だがしかし
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:全員を守る。
2:カレーをふるまう。
3:ところでこの『謎野菜』は一体…………?

487 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/13(木) 21:19:04 ID:kWnGcn6U0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①ぶっちゃけ一部の作品キャラの動かし方・最期が全く思いつかないでいます。…やっぱり飯漫画とバトロワはミスマッチですね。これ、教訓。


【次回】
未定。
とにかく、以下の話のどれか。これら全てを終えたら参加者二巡完了です……。

『Perfect Girlです。』…小宮山琴美、古見硝子、堂下、殺人ニワトリ
『古見さん親衛隊の活動内容報告書です。』…古見硝子、堂下、殺人ニワトリ
『TOKYO 卍 REVENGERS』…伊井野ミコ、鰐戸三蔵、鴨ノ目武、相場晄
『悪魔とメムメムちゃん」…メムメム、兵藤和尊、佐衛門三郎二朗、遠藤サヤ
『野原ひろしと僕たち(仮)』…山井恋、野原ひろし、海老名菜々、クンニーヌ、うまる、マミ、デデル、マルシル、飯沼
『大好きはムシがタダノくんの』…只野、佐野
『鳥貴族』…センシ、長名なじみ、日高小春
『らぁめん再遊記 第二話〜需要と供給…?〜(仮)』…アンズ、芹沢達也、早坂、うっちー

488 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/14(金) 20:46:08 ID:7ORhDVZ20
──ふと、あの日のうまい棒の味を思い出す。

──彼は私と同じく、駄菓子が好きだった。


【次回】
『枝垂ほたるのメタルギア』…小泉さん、ほたる、???


────新キャラ、参戦。

489『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:38:01 ID:WB4mfFLo0
[登場人物]  [[枝垂ほたる]]、[[小泉さん]]、???

490『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:38:17 ID:WB4mfFLo0

 小泉さんには、『大澤悠』という女子の知り合いがいた。

もっとも、小泉さんサイドからしたら、(接する頻度はかなりなものの)彼女を友達だとは思っていない。


あれはいつの日かの、春の事だったろうか。
二郎系ラーメン店に小泉さんが並んでいる時、不意に話しかけてきたクラスメイトの──大澤悠。
その会話の中で、何かが悠の琴線に触れてしまったのだろうか。その日をキッカケにやたら彼女は付き纏うようになった。
廊下を一人歩いていたら「やっ! 小泉さん〜」とベタベタと絡み、放課後になると「小泉さんどこのラーメン行くの? 私もご一緒いいかな?! あははーっ」等と、常に常に存在してくる悠。
その度に小泉さんは、────嫌です。──お断りします。──と、ドライかつ丁重に断っているのだが、悠という女はいつまでも執着深かった。

そのストーカーぶりに嫌気が込み上げるのも早一年。
あいも変わらず、悠は飼い犬のように小泉さん一筋で愛で続け、一方で小泉さんもやや受け入れつつはあるこの頃。
その長い月日が積み重ねるに連れ、小泉さんにも『特殊能力』のような何かが身に付いた。


それは一言に、────『大澤アレルギー』というものか。


「………………──っ!!」


(……この寒気。……まさか、『来る』んですか………っ?)



 つまりは、大澤悠の気配に敏感になってしまったのである。

無論、今はバリアーに囲まれての殺し合い中。
周囲を見渡しても悠の姿はおろか、声すらも確認できない。
この渋谷に彼女が来れる筈がなかった。


だが。──だが、しかし。
確かに前進を走り抜けたこの寒気…。そして予感…。
生暖かい夏の空気に混じる、悠のラッブラブな吐息感……。


参加者でも何でもない大澤悠が、今この渋谷に降り立った。────何となくだが、そんな予感。



「……………………。寒気が酷い………」


どこからか聞こえた気がする「小泉さぁーーん……」の声に。
身体中を支配した寒気を取り払うため、彼女はひたむきに温かいラーメンのスープをすすり続けた……………。



────ただでさえジェネリック悠のような、『やたら絡んでくる』『やたらフレンドリー』『やたらしつこい』の3Yな人が隣りにいると言うのに。
────それが二人に増えるとはまっぴら御免である。



「すごい…!! すごい食欲ね……小泉ちゃんっ!!! これでもう早くも三軒目のラーメン屋ハシゴだわっ────!!! これぞまさにハイ・ヌーン…。私の駄菓子愛に匹敵するほど、あなたのラーメン愛は本物よっ!!!!──」

「──Hey! カロリーQueenっ!!! …これはもう私も負けじとベビースタードカ食いに行くしかないようね………!! 行くわよっ!! 受けて立つわ!!!」

「…………そうですか(ズルズルズル」


小泉さん feat. 枝垂ほたる────。
二人がいるこの場所は、新店なのか年季が入った店なのかよく分からない『ラーメン店・愛沢』。
町中華らしい鶏ガラベースのラーメンを啜りながら、小泉さんは一つため息を付いた。


「……はぁ………」


「……あっ。……今、『Hey! カロリーQueenっ!!!』って喋ったの………。どっちかしら、小泉ちゃん…」

491『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:38:47 ID:WB4mfFLo0
「……はい? …枝垂さんに決まってるでしょう」

「…フフ。いやはや面目ないわ。というのも私たち二人。何だか声が…、どことなく似てるじゃない?? だから、時々私が喋ったのか、小泉ちゃんが話しかけてきたのか分からなくなるのよね〜〜〜!!!!」

「…流石ですね。色んな意味で」

「そうっ────!!!! つまるところ、私たちは声が似てる者同士引き合った…ってことね。この出会いは偶然ではなく運命!!! 私たち駄菓子軍団が結成されるのは約束されてたことなのよー!!!!!!」

「……………はあ」



 ため息混じりの相槌が漏れ出た。

悠とは別ベクトルにヤバい枝垂ほたるに、小泉さんが鬱陶しさを感じていたのは確かであるが。
それとは別に、彼女がため息を漏らしてしまった理由が実はある。


殺し合い開始からかれこれもう四時間は経過。
その長いようで短い過程の中で、恐らく何人かは既に殺された現状なのだが。

──刻々と屍が積み重ねられる間、自分は殺し合いに置かれてるとは思えない『日常』を送り続けている。
──というより、殺し合いを打破・生還するための術を何も講じていない。


最初こそは、バトロワなんかに流されず我が道《拉麺道》を行こうとの考えだった小泉さんも、これだけ時間が経てば心中重かった。

自分には当然何も出来ない。
ただ、やらなきゃいけない。動かなければ死んでしまった参加者達に申し訳ない。…こんなことしてる場合じゃない、と。
積りに積もっていく、この『罪悪感』に似た感情は、もはやラーメンハシゴでは誤魔化せなかった。

それ故、どうすべきか──と、ため息が止まらない小泉さんであったが、隣りに居座るほたるは生憎これっぽちも『生死の緊張感』は持ち合わせていない様子。


(…………どうすればいいのでしょう)

(………私はっ……………。どうすれば……………っ)


思わず箸を置いてしまうくらい、彼女はモヤモヤで一杯だった。




 ────ピロロンッ♪ ピロロンッ♪



「…………えっ?」



 そんな中、我先にと先じて行動を始めた者がいる。

その彼女は携帯を耳に当てると、目的である『誰か』の応答を待ち中。
────彼女だって、バトル・ロワイヤルが遊びだとかふざけて良いものだとは一切思っていなかった。


「…………小泉ちゃん。アナタの気持ちはうんと分かるわ。…でも下手に動けないのも仕方ないことなのよ。今はね」

「………え。…枝垂、さん………」


携帯を使い始めたのは我等が駄菓子軍団隊長────枝垂ほたる。
これまでと打って変わってシリアスな面持ちをするほたるは、小泉さんに向けて言葉を続けた。

492『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:39:03 ID:WB4mfFLo0
「だって、このバトル・ロワイヤル……。分からない事だらけだもの。大小様々な謎が蠢き合い、もはやカオス《混沌》にすら達している殺し合い…………。あまりにも情報が足りなすぎるわ」

「………それで、何を………………?」

「だからこそっ…。今私達に必要なのはズバリッ『情報』よ!! この鳥籠の外にいる、外部からの客観的な情報が欲しいわけ」

「…………………」


「────私が今電話する相手は、最も信頼できる…非参加者の、あの人……………!! 『情報屋』ってやつねっ…!」

「…『情報屋』………………?」



 ────ピロロンッ♪ ピロロンッ♪

その音が、プツッ────と、『応答音』で途切れた時。
最後にほたるはニヤリと笑みを向けた。



「情報が一通り手に入れたら。…動くわよっ、…モチのロン、殺し合いを終わらせるために…………。ね、小泉ちゃん…!!」


「…枝垂…さん……………っ」



電話口から雑音混じりの男の声が聞こえだした──────。






「…いや、その携帯…。おもちゃですよね。ていうか駄菓子ですよね。……なんで鳴るんですか?」


「…フフフッ!!! イッツ・ァ・企業秘密────!!!!」



 ●【わくわくスマートフォン】●

 タッチパネル風画面をスライドさせて当たりが出るとラッキー!!
 中に入ってるお菓子を出して食べられるぞ!!
 もちろん電話はできないぞ!!!

493『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:39:20 ID:WB4mfFLo0
………………
……………
…………
………
……



──【某所。】


──【某マンション。】



──【寝室にて。】



 ────ブブブブブブブッ

  ────ブブブブブブブッ
 

「うおわッ……!? …なンだよビックリさせやがって…………。ふわぁ〜あ………」

「……ヤクザ者は時間帯なんてお構い無しだからな……。俺が寝てると知らずに…」



「……はァ…、仕方ないか…………」



「はい、もしもし…────…、」


『もしもし!!! 私よ!!! あのしだれカンパニーのっ、あの枝垂ほたる!!!!!』



「……えっ??! ほ、ほたるちゃん…………?!」


『こんな時間帯にごめんなさいね。……分かるかしら? つまりはよっぽどの急用ってわけなのよ』

「……一体なんの御用で?」

『あなたの力…。是非とも情報を貸してほしいわ──』

「…うちは情報料高いよ」

『モチのロン、そんなこと重々承知済みだわ。………私も大盤振る舞い、うまい棒明太味、百五十本ってとこで良いかしら?』



「…いや逆に拷問じゃねェーのそれ? …まぁ、いいよ……。俺とキミの仲だからね。キミが納得行くまで遊びに付き合ってやるよ」


『……フフッ。あいにく、これは遊びではないのよ。……ともかく、久しぶりね──』





『────────────────戌亥くん』

494『ほたるさんと、メタルギアと…』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:40:42 ID:WB4mfFLo0
※この話に限っては、続きはwikiからお読みください。

ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/150.html


【1日目/F4/センター街/AM.05:01】
【駄菓子軍団】
【枝垂ほたる@だがしかし】
【状態】健康
【装備】わくわくスマートフォン@だがしかし
【道具】すっぱいガムx4@だがしかし
【思考】基本:【対主催】
1:駄菓子の力でバトロワを終わらせるわっ!!
2:小泉ちゃんの思い人…(?)『芹沢達也』さんに会う!!
3:戌亥くんありがとー!! また連絡ちょうだいね!!

【小泉さん@ラーメン大好き小泉さん】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:芹沢さんと合流したい。
2:戌亥さんを信頼。

495 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/18(火) 20:49:17 ID:WB4mfFLo0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①今更ながら宣言しておきます。
②ヒナまつり、わたモテ、トネガワ、ウシジマくん、ハイスコアガール。この5作は私が中学のころから愛読している本当に好きな漫画なので、キャラ再現度はかなりの自信があります。
③つまりは、この5作のファンなら間違いなく楽しんで読めると思います。自分で言うのもなんですが。

④さらにつまりは、それ以外の漫画キャラのエミュ度はもしかしたら低いのかもしれません。
⑤その為このロワを読んで頂けた皆様。「このキャラ口調おかしくない?」や、「こんな行動するわけないだろ!」と少しでも感じたら気兼ねなくご指摘お願いします。
⑥どれだけ前の話でも一切構いません。指摘後、即訂正に参ります。些細な訂正案でも構いませんので、違和感がございましたらお願いします。


【次回】
──彼女は書いた。『世界は必ずしもみんな平等とは限らない』

──彼女は書いた。『敗者と勝者が存在する』

──Perfect Girl Mishima Hitomi.


『Perfect Girlです。』
『古見さん親衛隊の活動報告書です。』…古見さん、堂下、ニワトリ、小宮山、伊藤光
の二本立て

496『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:44:26 ID:dhp0Q9MA0
[登場人物]  [[古見硝子]]、[[小宮山琴美]]、伊藤さん、[[殺人ニワトリ]]、[[堂下浩次]]

497『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:44:48 ID:dhp0Q9MA0

も・じょ【喪女】(名)[mojo]

「もおんな」とも。定義として、

①男性との交流経験が皆無。
②告白されたことがない人。
③純血であること。


ネガティブ思考で自虐的なことが多い。


「We love love love〜〜〜〜♪ マリーンズ♪!!!!──」

「──古見さん待てぇぇえええええっ!!!!!! 逃げられると思うなよぉおおおお!!!!! ストップ、ストップ───────!!!!!!!」


────一方で、喪女の対義語は、『美女』。


『本当にうちのコトがごめんなさい。古見さんもっと早く逃げて。お願い逃げて…』

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!???!?!?!!??」




 走る度に振り撒かれる髪の匂い。そして汗。
全力疾走で駆けぬける美女と、追い走る喪女(?)。
朝日が昇る河川敷にて、二人の女子高生による爽やかな青春の風が、そこにはあった────。

──……古見さんからしたら、そんな青春真っ平御免であろう。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」
(だ、だだ誰か助けてください〜!!! ハァ、ハァ……。誰か〜…………………)

「いやていうか古見さん意外にも脚速いなおいっ! 是非にでもロッテの代走で契約してほしいくらいだよ……──」

「──でも、だからといって私は絶対逃さないからなぁあああああ!!!!! …代走がなんだっ、…俊足がなんだっ、うちの強肩田村捕手は捕殺率リーグNo.1なんだぞぉおおおおお!!!!!! うおおおおおおおおお!!!!!!」

「っ??!! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」


この度行なわれている青春は、『捕まれば→即DEATH』という極限の鬼ごっこ。
ギコギコギコギコ…と自転車を飛ばす小宮山の片手には木製バットが。──言わずもがな、追いつかれた暁にはソイツで頭をグシャッ…である。
背後のチェーンの走る音に恐怖を感じながら、過呼吸気味に走るは古見さん。
何もかもが完璧すらも超越している彼女故に、流石は自転車でも追いつけない脚力で逃げ続けるものだが──…。
文字通りの【鬼ごっこ】開始から早くも三十分が経過。
彼女は身も心も、圧力鍋にかけたアイスクリームの様にベッチャベチャであった。



────姫(笑)は呟く。

「…すごい、今までにない何か熱い風を感じる…。なんだろ、プリ●ュアみたいなさ。魔法少女というか……、私、今主人公になってる気分だよ……っ! 伊藤さん………」


────そして姫は妖精さん(笑)に語りかける。

「全員参加者をやっつけたらさ、…智樹くんと…念願の……──rendez♡vous……!! そう思うと、ワクワクが止まらないんだよっ!! 最高の気持ちだよ!!!」

『(…rendez♡vousにかなりドン引きした。)コト、ふざけるのはもうよして。最低なことしてるよ』

「もう〜っ!! 妖精さんったら!! 私は『コト』じゃないってば〜〜!!! 私の本来の名前は『シンデレラ・オブ・5103・ナイト《闘うお姫様^^》』!! 普通の少女じゃもうないんだよ〜!! うおおおおおおおおお!!!!!!!」

『(……どうしよう、全く面白くない。真顔になっちゃう。引き笑いすらも起きない。これはもう素直に『ドン引き』だ。)…………コト…』


────最後に姫は、自身が乗る白馬(笑)をチラリ。爽やかな笑みを浮かべた。

「まぁでも私一人の力じゃここまで全力疾走はできなかったけどね。……全ては君のおかげだよ……、私の白馬…………!」

『馬? 自転車だよそれ。他人の』

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!」

498『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:45:10 ID:dhp0Q9MA0
「…〜〜もうっ!! 伊藤さん私の世界観ぶち壊す発言しないでっ!!!──」

「──ほらよく見てよ!! 綺麗なユニコーンでしょ!! …脚も長くて……、目つきもどことなく智樹くんの鋭い目に似ていて……。おいおい、君は智樹くんの生まれ変わりかっ!!! ──…ってね!」

『(…いや死んでないから、智樹さん。)…ごめんなさい、コト係の私が責任持って謝ります。本当にごめんなさい古見さん………』

「〜〜〜〜〜〜〜∆∌∆∌∈√∃∑∌∬∏‰∈∂∈√∃∑∆∌∈√∃∑∌∬∏‰∈∂∌∬∏‰∈∂〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!」
(もう…やだ…………。疲れた…きつい……〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!)


────そして、姫(笑)は敵を追いかけて行く……………。


【理想】
→『素敵な…笑顔!』
私は夢見がちな普通の女の子っ♪
だけど今日で冴えない自分は卒業だねっ!!♪
何せ、その『夢』が叶うのかもしれないから……………。
王子様《智樹くん》と誓う夢を果たすため、魔法少女になった私は敵を全員倒すのっ!!


【現実】
→『鬼の形相』
「うおおおおおおおおおおおっ!!!!!! 待て古゛見゛さ゛んんンんんんんんっ!!!!!!!!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!!!!!!!」


……


 小宮山琴美…───。
若干変人な部分はあったものの、出会い当初は優しかった彼女が何故【マーダー】に豹変したのか。
──そんなこと今の古見さんは考える余裕もなくどうだって良かったのだが、とにかく彼女は必死に逃げ続けた。
「ハァ…ハァ…」……破裂寸前の肺に、頭のてっぺんから爪先まで真っ赤な全身、そして息切れ。
スタミナが擦り切れる中、古見さんは思い続け、そして願い続けた。
────只野くん………、只野くん………。とヘルプコールが心中何周も駆け巡る。

ただし、マラソンには必ずしもゴールというものがある。


「………〜〜…。…ぁあ、あぁぁ〜〜〜〜っ!!!!! もういいっ!!!! ──これでオシマイっ、喰らえ古見さん!!!!」

『──あっ!』


 痺れを切らした鬼が、ぶん投げた物は、支給武器であるイチローのバット。
大リーガー直筆サイン付きの逸品は贅沢にも投げ飛ばされると、


 ドボォッ

「〜〜〜〜!!! ────きゃっ!???!」


ミット────と言うよりもミート《肉体》。
古見さんの背中目掛けてきれいに吸い込まれていった。
その硬いアオダモが頭部に当たらなかったことに関しては幸と言えるだろうが、衝撃故に古見さんは転倒を余儀なくされる。


「…………いッ…………………………………──」


「──…………ぁっ…………!!!」


「…ハァハァ──」


「──やっと…ゼェハァ………。やっと追い付いたよ古見さん…………。『バット投げとか早●のリスペクトかっ!!』 ってツッコミは禁止カードだからね…………。ハァハァ、あのプレイはロッテファンからもタブーみたいなものだからさ………………」



そして、古見さん同様静止する一つの影。
真夏の日差しで、その妖影が揺れる中、自転車から降りた鬼はバットを拾い上げる。

499『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:45:33 ID:dhp0Q9MA0
『(まるで皆知ってて当然のようにロッテネタを振ってきた。さすがコト。言動揃ってドン引きだ。)……………あぁ、こ、古見さん…──』

『──コト…。いい加減にしないと私も怒るよ。人に迷惑だけはかけない優しいコトだったのに…(…あ、普段から迷惑者の部類だった…。)…どうしてこんなことしてるの……』

「……ハァハァ…………。ハァ……、その迷惑が、……正義だったりすることもあるんだよ伊藤さん………………」

『(……あ、これ多分「例えるなら〜」に続いて、過去の迷惑かけた偉人の知識披露するパターンかも。)………………そんなわけないでしょ。怒るよ、ねえ』

「……ハァ、………例えるなら……、1997年の伊良部のメジャー挑戦に、そして例えるなら早川あおいのプロ入り──……パワプ●のね。後例えるなら…………──…、」

『(やっぱり。)…………』


 何だか有名人の名を挙げるのが止まらなくなった小宮山だが、彼女の言葉は一切古見さんには入ってこなかった。
綺麗な膝に生じた擦り傷に、打撲痕がにじむ背中………。一歩、また二歩と眼鏡が白く光る鬼の姿。

気がつけば、鬼は自分の目の前にて金棒を振り掲げている。
今にも振り下ろされそうなそのバットは、ペラペラと夢中で喋る「例えば〜〇〇」の乱射により辛うじて静止されていたのだが、
──圧倒的絶望と、未知たる『死』という体験を前にしたゾワゾワ感が古見さんを支配していた。


「………………っ………………………」


(なじみちゃん……。只野、くん………………)



「ハァハァ…古見さん」

「………ひっ!!」

「…小便は済ませたかい? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタ…、…………あーもう忘れた。とにかく、もういいよね?」

『……コトッ』

「じゃ、いくよ………。ハァハァ…、全てはロッテと智樹くんの為にっ………。………夢の為には犠牲がつきものだよ…」

『コトッ!!』


「おやすみなさいませ、古見さん」


ビュッ────と、無慈悲にも風を切るバット。
直前、今際の古見さんはノートとペンを手に取り何かを書こうとした様子だが、──これは命乞いを伝えたかったのか。
──それともダイイングメッセージか、────只野への遺書か──。


白球を弾き返す為だけに作られた硬いバットは、ガキンッ────と一発。

頭蓋骨を力いっぱい粉砕して、一人の参加者の命は尽きていった──…………。







古見さんノートには一言。
シンプルにこう書かれてあった。





────────{{えっ…}}

、と。





「…えっ」

「え?」


『……えっ(…なに…──)』

500『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:45:47 ID:dhp0Q9MA0
 Sun glasses…。
バットが振り下ろされた先に居たのは、決して古見さんではない。


彼女の声にならない叫びが聞こえた──とでもいうのか。
振り下ろされる直前、古見さんの前に立ち塞がり、──そして打撃音を自身の頭で受け止めた参加者が一人。



古見さんも、小宮山も。
そして当然ながらスマホ越しの伊藤もが知らない、その彼……──いや、その『漢』の名は、



『(──この人《漢》………っ!! 誰…!?)………』



 ギギギ………

  グギギ……………



「ぐぅっ………!!!! があっ………!! …ぎぃいいいっ……………………!!!!!」



「「『えっ?!!!』」」




──────男。オトコ。漢が燃える。
──────それが運命(さだめ)よ、【漢-otoko-】。


T京大学ラグビー部元主将・『堂下浩次』。その人であった。




「……いや………。いやいやいや……、おかしいって………………。なんなの……。いや誰だよっお前はァアっ!!!!?」

「ぐうっ……………!!! うぅ、うぐっ…………!! くう………………………っ!!!」

「はぁあっ??!!!」


 突拍子もなく現れた救世主に声を荒げる小宮山。無理もなかった。
ただ、彼女のアタフタ震えるツッコミは堂下という漢には一切届いていない。
頭蓋骨にはヒビが入り、急速な脳出血。
外傷からツーーッ、ダクダク…と鮮血がこぼれ落ちる堂下の顔は見たままに真っ赤っか。
ワナワナと震えながらと堪える歯の動きは、それはもう想像も絶する激痛であっただろう。

────だが、しかし。
堂下という『漢』が小宮山の言葉を無視した理由は痛みなんかではない。
漢の血走る目からは、熱い結晶液が漏れ出ていた。


「…………白刃取り…………っ。それを…やるつもり…………だったが………、…ぐうっ…………………!! ミスっち………まったな…………………」

「は、はぁ??!!」

「はぁ…はぁ……………。ぐうっ…………。お、お前…………っ。メ、メガネ娘……………。聞かせてくれ……っ。──『スポーツ』は………好きか…………?」

「ヒッ!!? す、スポーツ…………?! わわ、わ、私は野球が好き…だけど………」

「…野球………だとっ──────?! はぁ、はぁ…………──」

「──うっ…、うう………、ぐうぅうっ…ぃぎぎぎいっ……!!!!!!」

「ひ、ひぃい!!!!」

501『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:46:02 ID:dhp0Q9MA0
『野球』という単語が漢には逆鱗だったのか。
小宮山の言葉を聞いた途端、堂下の目つきが鋭くなり始めた。
見ず知らずの男、とはいえ、奴の尋常じゃない睨みと、圧。そして「な、何で倒れてすらいないんだ…」という不可思議さ故に、小宮山はビビり散らすしかもうできなくなっている。

無論、堂下の圧に圧倒されたのは、この場に居合わせた他の者達も同じ。
膠着状態の古見さんと、「(…あのコトを借りてきた猫みたいにするだなんて………。この人、すごい…)」──だなんて開いた口が塞がらない伊藤と。

そして、遅れて駆け付けてきた殺人ニワトリと。


「あ、アニキっ??!! …テメェー何しやがるんだこのアマァァッッ!!!!! ぶち殺すぞゴラッ!!!!」

「ひいっ!!!!!!」


ナイフを振り回しながら接近してくる殺マスクの男……。
そのパッと見で分かる超危険人物の乱入に、小宮山はすっかり戦意喪失をしていたのだが、──殺人ニワトリに構わずと、堂下は怒りの言葉を発した。

バットをギュッと握りしめて────。


「ひ、ひぃいっ??!!!」


「ふざけるなよお前………………っ。野球の……どこ…が……っ、スポーツなんだ……………」


「へ?? は、はひぃ…??!!」

「あ、アニキっ……………?!」


「…あんな……二時間も……試合を…して、選手の……………大半…がっ………ただ立ってるか座ってるかだけの…………。何が…スポーツなんだっ………………!! あんなのは………スポーツなんかじゃないぃっ……………………!!!」

「へ、ひっひぃぃ…………。論点………ソ、ソコでふか…………?!」


「俺は……はぁ、はぁ、…最大に怒っている…っ。過去一番に…キレてると言っても…………過言じゃねぇ……………っ!!!」

「ひいっ!!!!!!!!」

『(す、すごい。コトが…臆している…っ!!)…』


ジリジリと交代していく小宮山。
戦況的絶望と、堂下からの圧迫感からすっかり手からはバットがこぼれ落ちていたのだが、──地面にバットが着地する音は聞こえない。
漢が握りしめる木製バット。
そいつはミシミシと音を立てていき、やがてヒビが生じる。


 ──ピシッ


「ひひゃあぁ…っ!!???」

「……いいか。スポーツっていう概念は……………、チーム全員が…互いにっ…!! 汗を流しぶつかり合い…、相手にリスペクトを持ちつつ……全力を出す……………競技のことだ……………っ──」

「──それこそがスポーツ……………!! 熱き魂のぶつかり合い…なんだっ……………!!!」


ちなみに、木製バットの硬度は公式に5,500kgf/mm2。
これは身近なもので例えると、iPhoneやリンゴと同等の硬さなのだが、『怒れる筋肉漢』にそんな細かい事は関係ない。


「分かるかっ…………!! 分かるかっ、メガネ………………!!!」

「え、ええ、ぇぇわ、まったく分からないす…………」


「そしてスマホ画面の二つ結い娘も………っ!!!」

『え、私もっ?!』

502『Perfect Grilです。』 ◆UC8j8TfjHw:2025/03/24(月) 20:46:18 ID:dhp0Q9MA0
五本指と掌の鍛え上げられた毛細筋肉繊維が急激に膨張し、強靭な握力へと変換される。
憤慨と、悲哀と、そして何処か満足気さと。

色々な物が籠もったその手の圧力を前に、握りつぶせる筈のないバットはとうとう──、


「つまりはラグビーだっ────…………………!!! ラグビーをすればお前も……、変われたんだっっっ────……!!!!──」

「──…うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!!!」


 ────バキッイイイッッッ、バキバキバキバキ…


「ひいいいいいやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!???!??!!!!!!」



 ──バキンッッッッ────。



──男気注入。


──とうとう、バットはただの木片と化し、

──それを合図に、小宮山は猛ダッシュで敗走へと勤しんでいった。


「…うわあああああああああ!!!! ぁぁぁぁぁぁぁ…………ひゃぁぁぁぁ………………」

『コ、コト!?』



「…あ?!! 待てやコラ!! アマァッ!!!!!」


隙だらけの背中を見せ逃げる小宮山に、負けじとニワトリも追う素振りを見せたが、単純思考な彼には珍しく行動を一旦止めた。


「…って、ンなことしてる場合じゃねぇ………!!!──」




「──あ、アニキ…………。堂下アニキ………!!!」




渋谷河川敷で発生した、地獄の鬼ごっこ。

朝焼けが包み込む中、あとに残されたのは。


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