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【第1回放送〜】平成漫画バトル・ロワイヤル【part.2】
303
:
『ゆりこん2』
◆UC8j8TfjHw
:2024/12/02(月) 21:08:37 ID:k02c0U/k0
◆
〜マイクのバトル・ロワイヤル講座〜
【チェンジリング】
田村さんが触れてしまったキノコの名前は『チェンジリング』といいます。
このキノコの特性として、踏んだり、輪の中に入ってしまえば、自分と近い種族に変わってしまうという効果があるのです。
分かりやすく説明すると、田村さんの種族は【トールマン(人間)】であるため、近い種族の【ハーフフット】──つまり見た目がずっと幼子な種族に変化したのでした。
もっとも、チェンジリングは普段こそはダンジョンでしか生息しない生物なのですが、どういう訳か渋谷にも度々現れるこの現状。
これはバトル・ロワイアル開催による影響が及ぼしているのか、今はまだ謎が深まるばかりです。
ともかく、見かけても絶対触れない食べない引き抜かないように心がけましょう。
304
:
『ゆりこん2』
◆UC8j8TfjHw
:2024/12/02(月) 21:08:51 ID:k02c0U/k0
◆
【1日目/A2/バー/AM.02:41】
【田村ゆり@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!!】
【状態】ハーフフット
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:どうしてこんなことに…。
2:ふじわらさんが、とにかくうっさい。
【藤原千花@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】健康
【装備】???
【道具】ワードバスケット@目玉焼きの黄身
【思考】基本:【対主催】
1:ちびっ子ゆりちゃんカワユイ♡
2:魂を、刈り取ります!!!
3:ゆりちゃんの鉄拳を、ガードしますっ!!
4:死は、…とにかくダメですっ!! きゃ〜〜っ!!
【マイク・フラナガン@弟の夫】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:フジワラさん、タムラさんを守る。
2:殺しは絶対にしたくない。
305
:
『ゆりこん2』
◆UC8j8TfjHw
:2024/12/02(月) 21:22:02 ID:k02c0U/k0
【第5回】シンアニロワコソコソ噂話!!
『自由を、つかみ取れ────。』
シンアニロワで書きたかった登場回その①はakiraの金田登場回です。
ワープ後の初期位置は『走行中のバイク』。つまり、目が覚めたら猛スピードのバイクを運転していたことに気付き、慌ててハンドルを正す金田。
もう一つ金田が気付いたことがあり、バイクには同乗者。──まだ目を覚ましていない三宅しのぶがいたことで、「うひょ〜女だぁ〜」と浮かれ気分で運転を続けます。
眠りから覚めたしのぶにボカボカ背中をぶん殴られながらも、彼女を半場拉致誘拐の形でバイクを走らせ続ける金田。
そんな二人の前に、『もう一人のバイク乗り参加者』アーロン・デイヴィスが迫ってくるのでした…。
ssタイトル『自由を、つかみ取れ────。』の元ネタは大友克洋のFreedom。
最後、アーロンと金田で一騎打ちするシーンが特に書きたかったものなんですがね……。
今回は以上です。
では、死ななかったらまた会いましょう。
次回→
90%…マルシル、飯田
5%…黒崎
2%…ほたる、小泉さん
1%…センシ、日高、なじみ
306
:
<削除>
:<削除>
<削除>
307
:
◆UC8j8TfjHw
:2024/12/05(木) 20:39:26 ID:f8CHdknw0
>>306
ご感想ありがとう…ってナンデスカアナタはっ?!
まぁ何であれ、このスレに書き込みありがとうございます!
よかったらこのロワのまとめwikiの方もいい機会だと思うのでご覧ください
ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/
308
:
◆UC8j8TfjHw
:2024/12/07(土) 23:18:57 ID:26ZUqUH.0
諸事情により2025年までエタります。
大変申し訳ございませんがご理解お願いします。
皆さん来年お会いしましょう。
309
:
【明日の天気は曇りのち】
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/21(火) 20:13:14 ID:qznXjTBc0
───────復活【revival】。
[登場人物] [[マルシル・ドナトー]]、[[飯沼]]
310
:
【明日の天気は曇りのち】
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/21(火) 20:13:38 ID:qznXjTBc0
この世の中、ありとあらゆる事柄が全て『魔術』で解決される。
私は今までそう信じて生きてきた。
例えば、小さい頃に聞かされ怖がっていた幽霊やホラーな話も、正体は魔物──もとを辿れば全てが魔術。
こういう感じで、どんな現象も因果は必ず魔術で結びつけられ、魔術が当たり前なこの世界。
そんな世界で生まれ、学校創設以来群を抜いての優等生だった私だから、非魔術的なんか一切信じていなかった。
ファリンにいつの日か聞かされた────『異世界』。ファンタジーの話なんて、軽くあしらうだけだった…。
…
……
………
──…あるんだろうなー。異世界。行ってみたいなぁー…。
────……。ほらファリン! そんな下らないこと考えている暇あったら勉強に集中!! また試験でやらかすかもしれないよ!
──あっ。ごめんごめん。……でも、異世界って本当にあると思わない?
────えっ? その話 続ける気なの??
──確かにこれは非魔術的な話かもしれないけどさ。きっと存在はするんだよね。魔術の代替として『何か』が発展した世界がさ。そんな私が世界にふと足を踏み込んじゃう可能性とかさー。絶対あると思うんだよ! 異世界!
────…えー。貴女ちょっと夢見がちすぎ……。
────あるわけないでしょ。そんなもの…。
………
……
…
でも…。
だけども…っ。
…………………。
……ごめんね。
そして、ファリンなら…きっとバカにせず信じて聞いてくれるだろうね…。
私が今から言う…話をさ。
ねえ、ファリン…。
『じどうはんばいき』って物体を、信じる………────?
「な、なにこれっ────────??!! ボタン押したらほんとにガコンッ、ってなんか落ちてきて……。この缶詰…ほんとに飲み物入ってるのっ────────────?????!」
「はあ、ちゃんと飲めますよ。十回以上振ってからプルタブ引いて飲む感じで」
「え、こう…?(ゴクゴク…」
「ナッ??!!! 甘ッ!!??? なにこれスライムゥ────────────────!!???? スライムみたいなプルプルした奴が口いっぱいに……──てか甘っ!!!! ほんとに甘くて美味しっ!!!? ぶどうみたいな味で…ナニコレェ────────────!!!!!!」
「はあ、(モグモグ」
311
:
【明日の天気は曇りのち】
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/21(火) 20:13:59 ID:qznXjTBc0
ねえ…。
『とうきょうどーむ』って建築物を、信じる………────?
「ちょ、ちょちょちょちょちょちょっと!!! イイヌマ、あの大きい建物……。あれ、なんか…怪しくないっ!!??」
「え、あぁ。あれは東京ドームですよ」
「い、いや名前とかどうでもよくて…、ほら…おかしくない?! あんな大きさの建物、維持するのには一般人の手じゃ到底無理…、膨大な魔術力が必要なはずじゃん……? 例えるなら……──『迷宮の主』クラスのっ…!!」
「はあ、つまりは…(モグモグ」
「あのトウキョウドームは魔物の住処である迷宮……っ!!! 私が言いたいのはあの中に主催者のトネガワがいるんじゃないのか…ってことなのっ……!!!」
「魔物が棲むのは甲子園じゃないですか(モグモグ」
ねえ……。
『てれび』って、信じる………────?
…
「あ〜っ! 美味しかった〜…!! ブタとウシのミンチ焼き!」
「独特なハンバーグの呼び方ですね…。まあとりあえず腹ごなしできて良かったです(モグモグ」
「ほんと久々にまともな食事(=非魔物飯)を食べれたよー…。ほんとに幸せ…」
「魔物…飯……ですか(モグモグ」
「そう! 魔物飯。私たちちょっとした事情で一文無しでダンジョンに入ったんだけどさー。それで…──」
「──あっ!!?? イイヌマ気をつけてっ!!!!」
「え。なん──…、」
「い、い『生きる絵画』がっ!!! しかもこんなにたくさんもっ…!!!」
「……え?」
「ほらあそこに!!! めちゃくちゃ動いてる絵画あるじゃん!!! あのイルカの絵画!!!! あれに近づいたら…絵の中に取り込まれるからっ!!!!! 遠回りするよ!!!!」
「……絵?? あぁ、あれテレビですよ」
「だから具体的名称とかどうでもいいんだって!!! とにかく…近寄ったら一生出てこられないんだから!!!! 私たちの仲間も危うく取り込まれそうになったんだからっ!!!」
「………?」
「…にしても訳が分からない…。なんでこんな所に魔物がいるわけ………? ほんとに、ここに来てずっと…ずっと……!! 分からないことばっかり………」
「え。あそこ電気屋だからテレビがあるのでは?(モグモグモグモグ」
本当に…。
………本当に何もかもが違和感しかないこの世界。
私が今いる、魔術が通用しないこの世界。
イイヌマが云うには『科学』というものが台頭した、『この世界』──────。
ファリン…。
科学の力なら…、貴方を元の姿に戻せるのかな。
この世界の常識の下なら、私たちはもっと平和かつ幸せに過ごせるのかな。
拝啓。
ねえ…、ファリン……。
今、私……。
『異世界』にいるっぽいんだ……────。
312
:
【明日の天気は曇りのち】
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/21(火) 20:14:26 ID:qznXjTBc0
「(モグモグモグモグ」
「って!!!! ゆーかイイヌマいつまで食べてるのっ!!?? もしかして…この世界じゃその食べる量が当たり前…だとか?」
「…あっ、すみません。でも、そんな人を大食漢みたいに言わないでくださいよ………」
(モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ…………──────
313
:
【明日の天気は曇りのち】
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/21(火) 20:14:39 ID:qznXjTBc0
◆
………
……
…
私達はあれから、『東●ホテル』という名前の宿に向かったんだけどさ。
その宿は、信じられないくらい綺麗で、信じられないくらい清潔で明るくて、
そして、魔術が信じられなくなるくらいな背丈の建物だったの──────。
314
:
【明日の天気は曇りのち】
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/21(火) 20:15:01 ID:qznXjTBc0
◆
…
……
………
『(次のニュースです)』
『(米国大統領は七月七日、国家安全保障上の懸念を理由に、日本製銀企業との取引を禁止する行政命令を発表しました。日本企業による米国企業の買収を米国大統領が禁止したのは今回が初めてです………──…、)』
ぼんやりと、薄明るい。
『ほてる』の一室にて、シャワーで身体を清める王子様・イイヌマ。
薄っぺらい壁のすぐ向こうで想い人が裸体を晒す現状だけども、対する私はドギマギ〜〜〜ッ……──とかそんな感情の乱れはなく冷静だった。
──…ううん。違うか。冷静っていうか、気が抜けてる…っていうのか。
フワフワしたベッドに腰を沈めて、私は今てれびを眺めている。
宝石みたいな夜景には目もくれず、ただボーーっと。てれびと睨めっこしていた……。
『(またアメリカ国防省は、先月に起きた橋爆発テロにおいて他国が関わったと見なし調査を始めるとのことです。五百人が死亡したこのテロでは──…、)』
……あっ、ファリン…。てれびって何なのか分からないよね。
これは、えーと………。
イイヌマの説明によると、生きる絵画の超進化系みたいなものでさ。──あっ、進化系と言っても魔物ではないらしいの。そもそも生きてないらしくて。
見た目は薄っぺらい板状なんだけども、いろんな国の情報とか、音楽とか、事件とかミュージカルが見れる物体なんだよね。
『でんぱ』という力を介して動いてる物体なんだけども、犬が歩いてるシーンが出てきたり、真面目そうな人が事件を読み上げるシーンが出たかと思えば、女装奴がふざけ踊ってるシーンが現れたり…。
はは…、ごめん。何いってんのって感じだよね。
でもそれが『てれび』って物体なんだからさ。…正直自分も何言ってるのか分かんなくなってきたし、脳みそがポップコーン状に弾け飛びそうな気分だよ……。
イイヌマ曰く、この世界の住民は皆てれびを持っていて何時間も眺めてるらしいけど。
──ただの板を何もせずずっと眺めてるとかバカみたい。信じられない世界だ、ほんとに……。
『(以上、深夜のニュースを柳町がお伝えしました。(終)』
『今日の天気』
『提供 ワンダードリームランド、SB』
『現在発令中の警報はございません』
『渋谷区は曇り。降水確率は10%。最低気温は25度』
『目黒区は曇り後晴れ。大田区は晴れのち曇り』
『江戸川区は雨。ところにより雷雨の可能性』
はぁ……。
もうっ…ギブアップ………。
お願いファリン……教えて…………。
いやファリンじゃなくても、ライオスでもセンシでもチルチャックでもシュローでもいいから…助けて……。…あっ、ナマリって今何してんだろ……──ってそんなことはどうだっていいや!!
とにかく誰でもいいから教えてよ…。
『この世界』…一体何なわけなの………??
はぁ………っ。
そりゃ私だってバカ正直にこの異様な世界を受け入れ、信じちゃってるわけじゃない……!
色々可能性は考えたよ。
幻覚説、集団催眠説、夢説、やばい魔物飯でラリっちゃった説…………。候補は枚挙にいとまがない……っ!!
特に、この中では幻覚説は最有力まで上り詰めている…。
噂にしか聞いたことがないけど、死体回収屋には幻術を使って、仲間同士で殺し合わせる──そんな悪どい金儲けをしてる奴がいるらしいし…!
そいつが仕組んだとなったら全てが説明つく。
夢説だってつい最近、なんたらかんたらって悪夢を見せる貝類(名前なんだっけ…? ライオスじゃないから一々覚えてらんないわっ!! 魔物の名前なんか!!)に遭遇したばかりだから可能性も大いにある…。
とにかくこの世界はありえない…。
『現実』なんかじゃない。
幻術なんだ、って……!
私はそう信じたかった──。
315
:
【明日の天気は曇りのち】
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/21(火) 20:15:23 ID:qznXjTBc0
『港区は雨のち晴れ』
『今日の天気(おわり)』
『(なんでも揃うー♪ スーパーマーケットーー♪)』
『(お肉も野菜ー♫ 新鮮な魚類ー、スーパーマーケットーー♪)』
だけども、結局はそんな現実逃避を許してくれなかった。
学校はじまって以来の才女である………、私が………っ。
幻覚魔術は至ってシンプルかつ単純魔術なことは言うまでもない…。
一見複雑に見えても必ず痕跡がある、──粗の多い魔術なんだけども、私の彗眼をもってしても痕跡が全く見つからなかった……っ。
どれだけ見渡し、すごい凝視をしても幻覚魔術特有の癖がない。なさすぎる……。
だから路線変更ってことで、今度は夢説立証のため頬をめいいっぱいつねってみた…。
跡が残るくらい、血の滲む思いでつねって、引っ張って、引っ叩いてビンタして…、頬はダメだと判断したら舌先もギュっと噛んで…。
そして、瞼を引っ張るところまで行動したとき、とうとう諦めた…………。
……はぁ。…ウソでしょ…………?──って。
夢でも、幻覚ですらも、ないの……………? この世界は………。──って。
これは…現実世界…………?
────痛みで涙がこぼれ落ちた一瞬。振り返ればさっきの『はんばーぐ』の美味しさは確かに現実のものだったな…って私は思った。
『(なんでも揃うー♪ スーパーマーケットーー♪)』
『(今だけポイント感謝デー五倍ー♪、スーパーマーケットーー♪)』
この世界を前にして、もう私の脳内はぐっちゃぐちゃミンチ肉のとろーり状態……。
夢説とかさっき言ったけど、今、夢見そうなくらい身体は疲れ果てて──…、
『(ハンバーグの由来は〜〜、ドイツの〜ハンブルク!!)』
『(へぇ〜そうなんだ〜〜。おじいちゃんハンバーグ買ってきて〜)』
『S●ハンバーグの素 新発売。エ●ラ!』
────だから、ただボーーっとテレビを眺めるに至っている。
イイヌマみたいな無気力かつ気だるげな目で。
…思えばイイヌマってよく見ればそんなかっこよくもないしパッともしないし、全く頼りがいなさそうなんだよなー…。なんで王子様に見えちゃったんだろ、あの人のこと。
はあーあ……。
『ワンダードリームランド』
『(ここは楽しい遊園地ーー♪ ワンダードリームラーンードー♪ 一度入れば夢見心地ー♫ ワンダードリームラーンドー♪)』
ゆうえんち…………。
それがなんなのか分からないけど、とりあえず両端で踊ってるマスコットキャラが可愛い…………!
羊っぽい動物だけど二本足で立ってて、それはともかくふわふわでつぶらな瞳で…。
このゆうえんちって所にこの魔物たちがいるのかな。
さしずめ、ゆうえんちはこの世界の迷宮みたいな場所と予想…。
316
:
【明日の天気は曇りのち】
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/21(火) 20:15:40 ID:qznXjTBc0
『(ここは楽しい遊園地ーー♪ ワンダードリームラーンードー♪ 一度入れば夢見心地ー♫ ワンダードリームラーンドー♪)』
『【お知らせ】』
『当遊園地は今月をもって閉園することが決まりました。これまでのご来訪誠にありがとうございます』
『また会おうね!』
って閉園すんのかい…っ!!
え?? もう誰かが迷宮の主倒したってことなの??!
やばっ!!!
この世界のかがくの力すごっ!!!
じゃあそのかがく力でこの殺し合いも崩壊してもらいたいとこなんだけどっ………! バリアーがめちゃくちゃ邪魔だし…。
『(〜♪)』
『JO●M-TV』
『映像周波数 77.54MHz』
『映像出力 5kW』
『音声出力 1.25kW』
『本日の放送は終了しました』
…あっ。
これまたよく分かんないけど何かが終了したみたい。『ほうそう』って……。
なんかどれもこれも矢継ぎ早に終わるなぁ。この世界……………。
『(〜♪)』
『お休みの前に火の元、戸締まりの確認をもう一度行ってください』
『おやすみなさい』
…あっ。生きる絵画にお休みとか言われちゃった。なんか変な気分……。
いや、これが魔物ではない『てれび』という物体なのは分かってるんだけどもさ。
なんていうか〜…。
人外にGood nightの挨拶されたの、初めてだから。…なんかもどかしいというか……。そんな感じ。
まあ、そんなこと本当にどうでもいいんだけどさ。
そもそも私いろんな意味で今寝れないし…。
『(〜♪)』
「……………はあー…。考えれば考えるほど知能が衰えそうな気分…………。早く帰りたいよぉ〜。グッスリ頭を休めたいぃ…………」
てれびから流れる民族音楽と、シャワー音の協演。
その二つの音で、わずかばかりに活気づく静寂の室内。
私はただひたすらに王子の帰り【風呂上がり】を待つばかりだった……………。
『(〜♪)』
317
:
【明日の天気は曇りのち】
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/21(火) 20:15:54 ID:qznXjTBc0
『NNN臨時速報』
『今日の死亡予報のお知らせ』
………
……
…
318
:
【明日の天気は曇りのち】
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/21(火) 20:16:18 ID:qznXjTBc0
◆
シャワーから出て、身体を拭き取り下着を身に付ける。
一瞬、バスローブを纏おうかと悩んだけど、万事に備えて、僕は汗臭いスーツに再度袖を通した。
脱衣場を出て、ひょんなことから僕と同行することになったマルシルさんに軽く会釈。
既にカラーバー状態のテレビにくぎ付けの彼女は、まるで映画ポルターガイストのワンシーンを彷彿とさせられたが、恐怖を感じえど興味は湧かず。
僕は飲み物かカップ麺を買う為、ドアを開けて廊下へと足を運んだ。
「………………」
あー。
お腹、空いたな…。
さて何を購買で買おうとするか……。
幼少期、父から「三食、バランスの良い食事を」とよく躾けられたけども、振り返れる限りでは、ここ数週間近く健康的食事は取ってない気がする。
残業に終電にトラブルの対応、パワハラ……。
数多の現代社会攻撃で傷ついた心を癒すべく、多くの社会人たちは暴食に手を染めるらしいが、例に漏れず僕もその一人。
元々食べることが好きな僕ではあるが、数週間前から大盛りが売りの食堂を憩いの場とし、毎晩通い詰めだ。
外食ばかりで健康に悪いのはわかっている。
自制しなくちゃならないことも承知だ。
それでも人は食べなきゃ生きていけない。
現代社会人は食べ過ぎなきゃ、やっていけないんだ──。
父さん、教えを破るようですみません…。
カップ麺二個、今のこの時間帯から頂きたいと思います………。
「あっ、三個だな………。マルシルさんの分も。きっと喜ぶだろう………」
…今気づいたが、ルームサービスを頼めばもしかして牛丼屋のとき同様いきなり料理が現れたのでは…?
わざわざ出歩かなくてもよかったのでは……? と今更ながらに思ってしまった。
現在、エレベーター前に僕はいて、自ルームへ戻るのもまた面倒な為、ほんとに『今更ながら』なんだけども。
「…ふぅー……」
…そういえば、と。
エレベーターを待つ間、この退屈な余り時間にて僕はふと軽い考え事をした。
というのも、部屋を出る直前、マルシルさんが妙なことを問いかけてきたので、真意は何なのかと気になってしまうのだ。
ドアノブに手をかけたとき、彼女はこちらを向いてヒッソリ話しかけてきた。
【ねえ……。い、イイヌマ……】
【この世界の『かがく』ってす…すごいねー。明日の天気とか分かるんだからさ……】
【未来予知ってわけでしょ……? ほんとにすごいよ、かがくは…………。な、なっ…なんでも『予知』できるんだから………】
僕はあの時「はあ」と返した。
そうしたら、彼女は最後にもう一言だけ、こう聞いてきた。
【イイヌマ……………。死なないでよね……。お願いだから。今日は……………】
これまた、僕は「はあ」としか返せなかった。
そういえば今現在、僕はトネガワさん主催の殺し合いだかに参加させられている身である。
なんの因果か分からないけどやたら僕になついてるマルシルさんは、本当に僕のことが心配だったのだろう。
ただ、あのときは特に深くは考えもせず、軽く感謝を抱いて僕は部屋を出てしまった。
「…………………………」
319
:
【明日の天気は曇りのち】
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/21(火) 20:16:32 ID:qznXjTBc0
以上の彼女の発言の中で、一つ不可解な点がある。
それは「死なないでよね……。お願いだから。今日は……………」という台詞だ。
『【今日は】』とは一体何を意味しているのだろうか。
…深い意味はないのかもしれないが、まるで僕が今日死ぬ運命にあるかのような言い様だ。
不可解と言えば、テレビを見続けるマルシルさんの表情。
あの時の顔は、信じられないものを見たという風に青ざめていた。
彼女は一体、テレビで何を目にしたのだろうか…………………………?
…なんだか妙な不安感が胸に巣食い始める中、エレベーターの扉がチーン…と開いた。
【1日目/F6/東●ホテル/7F/AM.03:04】
【マルシル・ドナトー@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】杖@ダンジョン飯
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:………。
2:飯沼と動く。
3:ここは…異世界……。
【飯沼@めしぬま。】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:さて、何を食べよう。
320
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/21(火) 20:25:47 ID:qznXjTBc0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ①】
①エピローグ投下後、エンディングMAD作ります
②曲はかぐや様のダディダディドゥーです
③こちらみたいなのを作りたかった感じです ttps://youtu.be/_WK3mehqIPs
残りの情報…それはまだ混沌の中。
それが………平成漫画ロワ…………!
【次回】
────戦い会え。混じれ。戦慄。
────もう、殺そうが殺さまいが、先がないのだから。
【40%完成】…『止まらない、止まれない、この勝負は譲れない』…野咲、マルタ、大野、池川
【20%完成】…『本当にあった怖いダガシ』…小泉さん、ほたる
【*5%完成】…『エスケープ フロム B.R.』…チルチャック、りこな、切絵、折口
321
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/21(火) 20:30:52 ID:qznXjTBc0
※ダン飯の描写、再現度に関して自信が乏しいので、問題点があったら気軽にご指摘お願いします!
322
:
名無しさん
:2025/01/22(水) 08:53:20 ID:XjblDbGI0
乙。
続き待ってました!
とりあえず飯沼さんも相方を悪く思ってない様で安心。
マンシルの心理描写からの豊富な反応、一方で変化のない外界とロワ会場に潜む仕込。
それらのギャップが出来のいいホラーの序章の不穏さが出ていい刺激でした。
323
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/22(水) 21:52:41 ID:8znpMi0c0
>>322
ご感想ありがとうございます!(それと新年ことよろ以下略です!)
アタフタ慌てまくるマルシルと全く関心なく接する飯沼の二人は個人的に気にいってるコンビだったり…
謎のcmチャンネル見て思いついたのがこの回なので、話の不気味さを感じて頂き筆者冥利に尽きます
324
:
『止まらないry』
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/28(火) 21:17:59 ID:Hrp5mMJI0
**『止まらない、止まれない、この勝負は譲れない』
[登場人物] [[野咲春花]]、[[マリア・マルタ・クウネル・グロソ]]、[[大野晶]]
---------------
325
:
『止まらないry』
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/28(火) 21:18:20 ID:Hrp5mMJI0
坂道にて。月光。
真っ白な満月をバックに、真っ赤なコートがコントラストとなる。
登り坂を沈みきった面持ちで歩く彼女の名は、野咲春花。その手には数日前、久賀秀利の口を掻っ捌いた包丁が握られていた。
古き邦画にて『青春残酷物語』なる題目の作品があるが、野咲の青春はまさしく残酷そのもの。
刃毀れから多少ギザギザが目立つその刃物。
────彼女の心はザックザクに抉られ傷だらけだった。
こんな気分の時に限ってなんで嫌な過去しか思い浮かばないんだろう、────と。
虚ろな目で地面を映しながら野咲は一歩、一歩、確実に踏みしめる。
「……………」
右足の靴底が着地し、一歩。
この時思い出したのが引っ越す二日前、家族で東京生活最後の夕食を楽しんだときのこと。
鴛鴦鍋にてグツグツ温まる麻辣スープを前に母が呟く。「祥ちゃんはよく冷ましてから食べるのよー」。
母から渡された小皿を片手に妹は微笑んだ。「辛いのは平気ー! 全然大した事ないもんー!」
バレバレな見栄を張る祥子に思わず苦笑する父。
三人に箸を渡しイスにやっと腰をかける、この温かな時間が野咲にとっては幸せだった。
────ガスコンロの青い『炎』が直立不動で燃え盛っていた。
「おっ、結構美味いモンだなぁー」
「そうねー。ほら、春花も早く食べなさい。美味しいわよー、『火鍋』!!」
「…うんっ!」
────────【火】。
………
……
…
左足の靴底が着地し、また一歩。
この時野咲が思い出したのが東京の頃。──今振り返ると東京最後の夏。夜。
虫の鳴き声が響く河川敷で、友達四人と遊んだ時のことだった。
友達の一人がスーパーで買ってきたという手持ちサイズの棒。バチバチッ、シューーと音を立てて彩るソレに、当時の野咲は純粋な心で酔いしれる。
どこからか祭り囃子の音が聞こえる中、立ち込める消炎の匂い。バケツに張られた揺れる水面。
──あの頃は、まだ楽しかった。
「…じゃ、そろそろラストに着けちゃおっか!! 『ロケット花火』!!」
────────【火】。
………
……
…
右足が再度地面に着き、また一歩。
この時脳裏によぎった過去も、まだ辛うじて楽しくはあった。
あの田舎に引っ越した後、級友となった──なりたかった小黒妙子の家に遊びに行った時。
ボンヤリうとうとと、眠気に誘われる野咲にピシャリっ。寝転んで美容雑誌を読む妙子が言葉を発した。
「…ちょっと野咲ぃー。話聞いてる? 今寝てたでしょうが!」
「──あっ、ごめん小黒さん。半寝してたかも…」
「もうーっ…。じゃもっかい言うわよー?」
野咲が眠気を催すのも無理はない、季節。
秋と冬の移り変わるやや直前のこの時。部屋は暖をとろうと温かさに包まれ、
ストーブがメラメラと燃え盛る────────【火】。
………
……
…
326
:
『止まらないry』
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/28(火) 21:18:30 ID:Hrp5mMJI0
“こんな時だけ、なんで嫌なことしか思い出せないんだろう。”
「……………………………………妙ちゃん」
──付け火して、──煙喜ぶ、────田舎者。
年はわずか十五歳にして、父はもういない。母もいない。妹はもはや包帯で全身を隠さなきゃいけないほどの姿になっている。
野咲の失いたくないものをすべて失った。──いや、奪われた。
一片に何もかもが燃やされてしまった。
辛うじて燃えているのは、野咲のか細い命の灯火のみ。
「………………………………………………………」
復讐の炎がメラメラと新鮮なこの機を逃さんとばかりに、彼女は主催者に刈り出され、今殺し合いの会場にいる。
殺害人数不明の鴨ノ目武、肉蝮を除いて、キルスコア七人は参加者の中でもトップの数。
わずか三日の内にクラスメイトを抹殺したという実績を踏まえて選出された野咲だが、主催者の目論見通り彼女は殺すことしかもう心にはない。
もう、失うものはなにもない。
そして、喜の感情も全くない。
あるのは可燃油のようにドロドロとした真っ黒な絶望のみだ。────今は。
「………………………………………………………妙ちゃん、お願い……」
殺し合いに優勝して、もう焼け失ったすべてを取り戻すために。
そして、自分の手で消し去ってしまった『友達』の想いを果たす為にも。野咲は淀みきった目をしながら坂を登りきった。
「………………………………………お願いッ…、力を……………、貸して…………………………………」
ギュ、っと強く握られる包丁。
────真っ黒な瞳が捉えたのは、青い目の女性と自分と同い年ぐらいの女子。いかにも人畜無害そうな二人組だった────────。
327
:
『止まらないry』
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/28(火) 21:18:48 ID:Hrp5mMJI0
◆
・ゲーマガ201x年6月号 二冊
・シャルル・ペローによる「ペロー童話集」や
・ラ・フォンテーヌによる「ラ・フォンテーヌのおはなし」
────計、5,600円相等のお買い上げ。
カウンターに値段きっちりの貨幣を置いて、マルタは相方に目を合わせた。
「…じゃ大野ちゃん! 準備しますヨ!」
「………………………………(こくりっ」
街外れにポツンと佇む本屋を出た二人組──内、大野晶は制服をめくり腹部を露わにしだすと、ゲーマガ雑誌を巻き付けてガムテープで固定。
マルタも同様の行動で、同様に本の表紙が皺くちゃとなる。
これらの本は決して読了の為に買われたのではない。
『防備』の為にである。
────by マルタ提案の元。
「…ほんとはシャルル・ペローの本をこんなことに使いたくないのですが〜……。事態が事態なので仕方ないですね……っ。…大野ちゃん、『ロバの皮』とか面白い童話ばかりなんですよ〜この本〜〜…!」
「………………………………(…ぺりぺりっ…」
制服を正して、マルタの言うことはさもどうでも良いかのように大野はアメを舐めだした。
「………………………………(ぺろーっ」
喧嘩の際、腹部に分厚い本を入れるという防御手段────。
軽い雑学となるが、この防御の発祥は昭和時代のヤクザだという。
ページが多い雑誌を腹や胸に入れ、サラシで固定。
密度の高い雑誌は厚さがわずか1cmでもあれば、それでナイフの刺突ぐらいはほぼ完全に無効化できるのだ。(それ系の雑誌を地面においてサバイバルナイフで突き立てれば分かるが、貫通させるのは至難)
こちらはあくまで確証はないものの、380ACP程度の小銃であれば停止させれる抵抗力もあるという。
妙に豊富な知識力があり、普段からその知識を発揮することの多いマルタだが、大野を連れて真っ先に移した行動がこれ。
成程。戦いを前にして『攻』──武器は既に支給されている為、『守』の補強に急いだということだろう。
となると、腹部以外にも頭部や四股のガードも欲してくるところだが、マルタが言うに次の目的地はスポーツ店らしい。
「野球のヘルメットは時速160km/hの硬球をも防ぐ実績があります! 今渋谷で集められる最大級の防具といったら…やはりスポーツ用品店にあるでしょう!! ちょうど近場なので大野ちゃん、さくさく行きますヨ!」
「………………………………」
「…まぁもっとも…ワタシの武器が袋一枚なんて惨状で……。バットとか欲しいという情けない理由が大きいですが〜……。ともかく! ハイレッツゴーですっ!!」
「………………………………──」
「──………………………………」
無表情。かつ、無反応。──傍から見たら大野に眼中なしとのマルタだが、一応のコミュニケーションは取れてる様子らしい。
普段の日常でも人まばらなこのファイヤー通りにて、二人は目的地へひたむきに歩いていった。
マルタの恵体な先頭に、高架線を抜けていく。
「…大野ちゃん、あまり怯えなくても大丈夫ですからネ!! 私が絶対に守りますからっ!」
「………………………………」
328
:
『止まらないry』
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/28(火) 21:19:05 ID:Hrp5mMJI0
「………はい!! …それにしても大野ちゃんとはなんだか会話が弾みますね〜!」
「………………………………──」
「──………………………………」
「…はいっ!! それは流石ですよ大野ちゃん!!」
「………………………………」
コツ、コツコツコツ…………。二つの足音と一つの声のみが響き渡る。
ここで一旦、大野晶──彼女について振り返るとする。
巨大財閥のお嬢様にして才色兼備。
成績優秀で勉強も運動もオールマイティ、学校では周囲から慕われる彼女はまさしく完璧な女子だった。
おまけに容姿もかなり良く、まるで高級リアルドール。──そのポーカーフェイスぷりとミュートっぷりからほぼほぼ人形の彼女だ。
家庭では財閥の令嬢として多くの稽古事を強いられており、その息抜きのために放課後はこっそりゲームセンターに通っている。
華道に茶道に書道、そして柔術、ピアノからバイオリンから美術まで、あらゆる教養や文学を身に着けさせられた彼女の、一番の趣味が──ゲームセンターだ。
それを踏まえたのであろう、主催者から大野へプレゼント《習得》されたのが、『リュウの技』。
格闘ゲーム『ストリートファイター』登場キャラの以下の技が使えるようになったのである。
・【背負い投げ】────←+強P
・【巴投げ】────←+強K
・【波動拳】────↓\→+P
・【昇龍拳】────→↓\+P
・【竜巻旋風脚】────↓/←+K
何故、架空のキャラの技をまんま発動できるのか。
どういう原理で技が出せるのか。
どういった過程でいつの間にやら技が習得されたのか。
──そもそも自分はザンギエフ使いだというのになぜリュウの技なのか。
成績優秀な大野とはいえ、ここまで荒唐無稽だと度し難いものだった。
ただ、理解できないとはいえ普段なら戦闘向きでない一般人の自分が、これほどまでの力を使いこなせていることは事実。
なにせ頭の中でコマンドを入力すれば、体がその通りに動くのだから、ゲーム感覚で敵と対峙できるのである。
「………………………………!」
「…あっ!!」
高架線を完全に通り抜けた直後、ここで交わる『もう一つの足音』。
前方にはこちらに気づいているのか否か。多少ふらつきながら近づく女子がいた。
大野と同年代──恐らくほとんど同じ歳であろう。そして、大野と同じロングヘアーで黒髪の女の子。
「お〜〜い!! そこのキミー! ワタシたちは殺し合いに乗ってないからー、安心してくださぁーーい!! 一緒に動きましょう!」
「………………………………」
無警戒…というか人を疑うことを知らないのであろう、マルタは笑顔で前方の女子に手を振った。
「子供だから殺し合いに乗ってるはずがない」──そんな思いで、徐々に徐々に迫りくる女子を暖かく迎える。
そんなマルタへ、赤いコートの女子から帰ってきた返事はこれまた大野同様『無言』だったのだが。
「…お〜い!! …大野ちゃん、言うまでもないでしょうけど…、あの子と仲良くしてくださいヨ!」
「………………………………」
──仲良くなんか、できる筈なかった────。
徐々に小走りとなりだし、俯きながらも右手を背中に隠す眼の前の女。
接近距離、残り三メートル、二メートル、一メートル。目と鼻のほぼ先。
329
:
『止まらないry』
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/28(火) 21:19:22 ID:Hrp5mMJI0
その女がマルタの眼の前まで来た時。
「大丈夫デスか? 怪我とかしてない?? ワタシはマルタで、こっちは大野ちゃ──…、」
いや、厳密に言えば、その少女がマルタにぶつかった時。
「………っ、……………え?」「……え」
さらに、厳密に言えば、少女が隠し持っていたナイフが、マルタの腹部────本で防備した箇所に吸い込まれ。
刺さりこみ…──と言っても身まで刺さることなく、カシュ…という力ない刺音が鳴り。
二つの「えっ」が重なった時。
その瞬間。1フレームの出来事だった。
「────………………………………ッ!」
────────→↓\+P
【昇龍拳】。
「…えっ!? いっきゃあああア──…、」
バンッ───────。
乾いた打撃音と共に少女────野咲春花は宙を舞わされた。
顎に襲いかかった、痛みをとっくに通り越す衝撃。揺れる顔全体の筋肉に、骨。
歪む表情。そして、吐き出される唾の粒。
此時、野咲はその宙舞う唾の動きが鮮明に見えるくらい──いわばスローモーションに感じ、地面に叩きつけられるまでの僅か一秒ほどが永遠のように感じた。
永遠のように──。
無重力空間にいるように──。
────ただし【永遠】など来ない。
「──ぐッ、っあぁぁああああああッ!!!!!!!!」
「………………………………」
勢いよく吹き飛び、硬いアスファルトに叩きつけられるは野咲。
対して、アッパー後華麗に着地し、細かな所作まで自然とお嬢様の風格表すは、大野晶。
この時大野は殴った手をグー→パー、グー→パーと閉じ開き。対人で技を使ったのは始めてな為、身体がついていけず痛みを生じたのであろう。
ただ、痛みを気にするのも僅かばかりの時間。
ぶっ飛ばした相手が「うぅ…っ」と再起する素振りを見せた瞬間、大野は眉間にシワを寄せ、前を思いっきりメンチ切る。
────AM 02:52。ステージはファイアー通り。
────タイムは無制限。ハンデ、共になし。
──────タイマン勝負の【ストリートファイト】。
通り魔的殺人者《Murder》との遭遇により、今、大野のファーストファイトが始まった……。
「えっ!!?? ちょ、ちょっと何してるんですか!! 大野ちゃんっ!!」
「………………………………」
330
:
『止まらないry』
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/28(火) 21:19:37 ID:Hrp5mMJI0
マルタの発す注意の声は当然無視。
──というより、聞いてられる余裕など大野の心にはない。
普段こそ喋らず、表情も変えず、そしてロボットのようにパーフェクトな大野のため、冷徹な人間だと思われるかもしれないが、実は人情深く、そして人思いである彼女。
それ故に、未遂で終わったとはいえ、自分に優しくしてくれたマルタを襲撃した──野咲には徹底的に叩きのめすことしか頭になかった。
初代『ストリートファイター2』のFPSは60だが、それを簡単に上回るスピードで野咲に急接近していく。
「……………………────あッ!」
驚愕の声をあげたのは野咲。
殴られ、ふっ飛ばされ、地面に転がり…、気がついた時には──襲撃予定だった相手に『蹴られる直前』なのだから驚きを隠し切れない。
華麗にスピンを始める大野の身体と、風を着るタイツ包の脚。
理解が追いつけなかった。
というか、何もかもが予想の範囲外だった。
野咲が大野orマルタの二択で、マルタを最初の闇討ち相手に選んだ理由は極めて単純。──マルタの方が強そうだからである。
外国人で長身、更にはその顔つきに似合わず肉付きは屈強なのだから、殺るには『不意打ち』が最適。
手ぶらかつ、パッと見強くもなさそうな大野は、マルタを始末してからでも余裕だろうと、判断したのだ。
誤算など到底考えてもいなかった。
──考えていないからこそ余計、血気迫る眼の前の大野が信じられなかった。
(…な、なに………ッ。なんなの……? なんなの…これはッ………!!)
もうすぐで目と鼻の先になるだろう、迫りくる大野の蹴り。
ただ、この危機的状態を文字通り前にして、野咲は右手の感覚──握っていた『奇跡』に歓びが沸き立った。
「……っ!!」
奇跡的にも、右手にはまだ包丁が握られていたのである。
さっきの強烈な昇龍拳を受けても、どういう幸運が作用したのか手放さずに持てていた包丁。
殴打による痛みの度合いは40del、大して鋭利なもので切られた痛みは120del。──この科学的成果が示す通り、包丁は打撃より強い。
このアッパー女がどんな柔術を使っているのか知らないが、とにかく武器の差で勝ち目はある。
…まだ、勝算はある……。と、野咲は一心不乱で包丁を薙振るった。
────↓/←+K。【竜巻旋風脚】。
────────ただ、『腱は剣より強し』。
「──あっッ!!!」
ポーーンッと、月光に照らされ反対歩道へと吹き飛ぶ包丁。
その刃先は大野相手に傷一つつけれることなく役目を終えると、回転蹴りを無防備に浴び続ける主人へただ哀れみの目を向けるだけだった。
腹部めがけて正確に衝撃が走る──一蹴り、二蹴り、三蹴り、四蹴り、五蹴り、六蹴り。────6 COMBOッ。
「──いッ!!? きゃッッ!!! あがっ…ッ!! ぐッ………! ゲホッ!!! うあああああぁぁっ!!!!!」
「………………………………っ」
最後の蹴りは渾身の一撃か、かなり重たく。
野咲は再び宙に浮かぶこととなる。
「………………………………ッ!」
「…ぇっ……!?」
ただし間髪などない。
大野は、宙ぶらりんの野咲の脚を瞬時に掴むと、容赦することなく地面に叩きつけ。──打撃。
「ッ、いっきゃっあああアアッッ!!!!!!」
格ゲーでは通常、ハメ技防止の為、攻撃を食らった相手は一瞬の無敵時間が発動するのだが、このバトルは生憎【リアル世界】。
攻撃を防いでくれる都合の良い現象など起きるはずもなく、待ったナシに大野は攻撃を与え。
──そして野咲は素直に連打を浴び続けた。
331
:
『止まらないry』
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/28(火) 21:19:51 ID:Hrp5mMJI0
「ちょっと大野ちゃん!! もう、もういいでしょ!! ねえ!!」
この時、マルタ《外野》からファイトストップの声があがるも、言わずもがなアンサーはスルー。
大野は大きく腕を引くと、糸を引くようにまっすぐ──、
「………………………………ッ」
────鋭い一発を繰り出す。
──野咲の肩へと吸い込まれるその拳は、小学生時代ハルオを殴った時の型とよく似ていた。
“…ど、どうだぁーっ!!! ざまぁみろ大野!!! 待ちガイルでお前の鼻をへし折ってやったぜ!!! ざっざまぁ──…、”
「………………………………ッ!!!」
BOWッ────────
「…いっ、あっあああ────────ッッ!!!!!」
もう二発目。
────今度は胸へと打点を伸ばす拳は、またもハルオを殴ったあのストレートに酷似だ。
“お前…、怖いの苦手なのかよっ。プッ、ぎゃはははは〜!!! ついに弱点見つけたり──…、”
「………………………………ッ!!!!!」
DOWッ────────
「ぐうっ、…やゃあぁあ…──────ッッ!!!」
もう三発目。
────竜巻旋風脚のとき同様、腹部目掛けて内蔵を抉るように突っ込まれる一発。
振り返ると、最初のアッパー以外顔への攻撃はないのだが、これは大野の僅かな優しさなのだろうか。
…そんなことはどうだってよいだろう。何にせよ、このパンチの痛みに優しさなんか全くない。
サンドバッグと化した野咲へ強烈な拳。──あの時、ハルオを殴った威力とほぼ同じそれは、同じくハルオとの想い出を、そして思いを乗せて伸びていく。
参加者名簿を読んで知った──同じく参加者として放り込まれた彼への思いを……。
“……………なぁ大野……………”
“今…、お前にあげれるものは…これくらいしかねぇ……。ゲーセンで取ったしょぼい指輪………”
“悪ぃな…。だが、…受け取って……くれるかっ…………? ──大野…っ”
「──………………………………ッッ!!!!!」
DOOWッ────────
「んっがっ!! いっぁあぁあぁぁあぁぁあァァ……──────ッッ!!!!!!」
──────…DOSUW、DOSUW、DOSUW…。
言葉にできないほどの凄まじい打撃ゆえに、二三回バウンドした後、蹲る野咲。
…強い、目の前の敵はあまりに強すぎる。
──というか土俵が違う。
凶器を使って陰鬱かつ凄惨に殺し合ってきた自分とは、そもそもにバトルフィールドが違う。
故に、勝てない。勝てなさすぎる。殺せなさすぎる。
相手が違いすぎる─────。
「……かはぁ………。はぁ、ゴホッ…!! ゲホッ………………。はぁ、はぁ………」
332
:
『止まらないry』
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/28(火) 21:20:04 ID:Hrp5mMJI0
込み上げる血反吐に、潰れかけで息苦しい肺。
全くテンションなんて高ぶっていないのにビートが激しく波打つ鼓動。
思えばこの戦闘でそんなにアクションを起こしていないというのに、疲れて疲れて全身が熱く痺れる。
返り討ちの代償があまりに大きすぎる。
アツアツのサウナ室でテキーラをピッチで飲んだかのような朦朧の中。地面に倒れ込む野咲は、かき消されそうな声で呟いた。
「…………はぁ、はぁ…………………。な、どうして………………わ………私………──…、」
──こんな目に遭っているのか。とでも言いたかったのかもしれない。
その声は最後の必殺技、【波動拳】────↓\→+Pであっさりかき消されたのだが。
野咲が最後に聞こえた声は、カタコトの悲痛な悲鳴だった。
「ちょっと!!! もうやめてっ!!!! 大野ちゃ────…、」
ZUBAAAAAM………………
──────KO.
333
:
『止まらないry』
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/28(火) 21:20:15 ID:Hrp5mMJI0
◆
野咲の意識は暗闇の中。
頭がかろうじて働くのみで、手も足も体全体が極度の疲労で動けない。
自分は何も動いてはいないというのに、自然と揺れ動く体。
──これは恐らく誰かに背負われている、ということなのだろう。
深い深い眠りの中で彼女はふと思う。
“……………何年ぶりだろう。誰かにおぶされたのは…………。小さい頃…以来かな。お父さんに背負われて、眠って……………………”
深くて深い、どこまでも深層な意識の中、頬が涙の感触を伝っていった…………。
“………お父さん……。お母さん、祥ちゃん…………………。ん、うっ…………………………”
【1日目/H1/ファイヤー通り/AM.02:55】
【野咲春花@ミスミソウ】
【状態】気絶、全身痣、精神状態(弱)
【装備】なし
【道具】???
【思考】基本:【マーダー】
1:皆殺し。
2:優勝して家族を生き返らせる。
3:妙ちゃんの思いを無駄にしない。
4:黒髪の格闘女子(大野)に恐怖。
334
:
『止まらないry』
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/28(火) 21:20:30 ID:Hrp5mMJI0
◆
まず初めに、「重くないの?」──と、大野は聞きたかった。
「…あぁ、大丈夫ですヨ〜このくらい! この子結構軽いし、正直ワタシ自身も背負えちゃってる自分に驚いてますが……。あと、大野ちゃん反省してくださいねっ!!!」
次に、「反省…って。仕方ないと思うけど」──と、大野は聞きたかった。
「いや仕方無くないですっ!!! 酷いですよこんな女の子をボコボコに………。言い訳は無用!! いじめカッコ悪い、ですよ!!!──」
「──この子が起きたら謝ってくださいね!!!」
…その答えに大野はかなり不服そうな面持ちである。
締めに、最大の疑問をマルタに投げ掛けた。
「──…で、何故この襲撃女をおぶさっているの?」────と。
「…まぁ確かに、大野ちゃんは納得いかないでしょう。…ですが、この子にも事情があったと思うんですっ!! 見捨てちゃいけない…絶対……って、ワタシ思って……。とにかく話せば分かると思うんですよ!!!」
「………………………………」
ファイアー通りにて、スポーツ用品店があるOI●Iが見えてきた道中。
大野とマルタ、そして気絶中背負われてる野咲の三人は道を歩く。
理解に…苦しい。
大野は全く解せなかった。
マルタが汗をこぼしながら大事そうに背負うその少女は、知人でも家族でも何でもない。ましてや善良の一般市民なんかじゃない。
自分たちを言葉交わさずして襲撃し、問答無用でナイフを突きつけてきた危険マシンなのである。
そもそも、この危険人物が手始めに襲いかかったターゲットら紛れもなくマルタ本人。
恨みはすれど、庇い仲間に入れるなんて普通は絶対しないというのに、なにが「話せばわかる子」なのだろうか。──と。
大野はマルタの極度なお人好しぶりに、この先未来を憂じるまでだった。
「………………………………(はぁー…」
「大野ちゃん、あんまりため息つかないでください! ため息一つで幸せが一つ逃げるんですから〜!!」
「………………………………」
何度も説得して、何度も「絶対連れてっちゃだめ」「そいつを縛って放置で、それでいいよね」と諭しても結局は無駄だった。
なら、せめて今はまだ眠るそいつが目を覚ましたとき、隙だらけのマルタに攻撃してこないよう警戒するか──が最終判断。
野咲を最大限に見張りつつ、大野は戦闘の疲労回復のためやや遅歩きでマルタについて行く。
335
:
『止まらないry』
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/28(火) 21:20:47 ID:Hrp5mMJI0
────そんな二人の頭、ちょうど間を、唐突に『矢』が飛んできて、真後ろの電柱に刺さった。
「──………………………………っ!!!」
「──えっ…」
────慌てて、背後。──矢の投擲方向を振り返ると、十数メートル後ろに、直立不動で立つ一匹の子ブタがボウガンを構えていた。
「………………………」
「あ、あの……………」
「ふふふっ…。やあベイベー。…我ながら僕のボウガンコントロール力は中々のものだろう?」
────メガネをクイッと整え、そのブタはボウガンをリロード。
────マルタにボウガンを向けて。──いや、その後ろ。
────────マルタが背負う野咲春花を矢で指さしながら、不敵に喋るのであった。
「…あぁ、勘違いしないでくれないかい。僕は別に君らとやり合おうってつもりじゃないんだ。…僕も色々あって、殺しには飽き飽きしててね。穏便にいきたい──」
「──外人さん。あなたが背負ってるその子…彼女は野咲くんというんだけども、まぁ僕の知人というか…『恋人』でね。ちょっと置いていってくれないかい? というか君らごときにその華麗な『三角草の花』は勿体無い──」
「──僕を怒らせるような真似はしないでもらいたいね。さっさと寄越せ。彼女を…。…………いや、」
「────────野咲閣下を。……ふふふふっ」
────自分の愚かだった人生一週目をリライトするため。そして、自分の人生に決着をつけるため。
────愛しの『三角草』を誰の手からも守るために、
今、池川努は実に二週間ぶりとなる野咲との再会を果たした───────。
336
:
『止まらないry』
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/28(火) 21:21:00 ID:Hrp5mMJI0
【次回ッ─────────】
【エピソードタイトル:『紅の豚』に続くッ─────────】
【1日目/H1/ファイヤー通り/AM.03:03】
【マリア・マルタ・クウネル・グロソ@くーねるまるた】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】童話本二冊(腹部に装着)
【思考】基本:【対主催】
1:大野ちゃんと行動。
2:子供たちを悪い大人から守る。
3:わ、私はどうすれば……。
【大野晶@HI SCORE GIRL】
【状態】疲労(軽)
【装備】なし
【道具】雑誌二冊(腹部に装着)
【思考】基本:【対主催】
1:マルタと行動
2:………………………………。
※大野は出展作品特権でリュウ@スト2の技が使えます。
【池川努@ミスミソウ】
【状態】健康
【装備】ボウガン@ミスミソウ
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰野咲春花】
1:野咲閣下を優勝させる。
2:野咲閣下にすべてを捧げる。
3:野咲閣下を愛する。
4:相場を殺害。基本皆殺し。
337
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/01/28(火) 21:27:40 ID:Hrp5mMJI0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ②】
①本ロワは非リレーなのをいいことに伏線を張りまくってます
②ただ、月日設定は七夕のはずなのに、第1話「あんたが客で、私がその髪をカットして、」が思いっきり冬なのは伏線でもなんでもありません。ミスです
③ところどころ三ケ月だったり満月だったりバラバラですがそれも伏線でもなんでもありません。ミスです
④センシが 『食うため。』で「島から出たことない」とかほざきましたがこれもミスです
⑤参戦時期が高校生編以降の新田が『自分のことを殺し屋だと思われている一般人』で小学生ヒナに何も触れていませんがこれもミスです
⑥その他山ほど矛盾点がありますが全部伏線ではありません。ミスです
残りの情報…それはまだ混沌の中。
それが………平成漫画ロワ…………!
【次回】
────大東京ビンボー生活マニュアルを読んだ。
────なんだよ、メントール1つ200円って。なんなんだ昭和は。こちとらヤニ吸わなきゃ文章も書けないっつーのに、昔の文豪先生たちはさぞ幸せですなっ
【23%完成】…『本当にあった怖いダガシ』…小泉さん、ほたる
【*5%完成】…『エスケープ フロム B.R.』…チルチャック、りこな、切絵、折口
【*1%完成】…『バトロワ最強は超能力少女?!』…ネモ、ヒナ、肉蝮、ウシジマの死体
338
:
『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/04(火) 20:36:13 ID:GoaNmR1M0
[登場人物] [[根元陽菜]]、[[ヒナ]]、[[肉蝮]]
339
:
『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/04(火) 20:36:34 ID:GoaNmR1M0
それは遥か未来。五十年後の世界の話。
長い月日を経て科学力は天元突破し、その行く末には核戦争が勃発。
聡明な賢者は虐殺兵器の開発をし、権力者は核シェルターに籠り、知も富もない凡人たちは携帯式レールガンを握る。──肉片と化す男達、春を売る女達、そして戦地の英雄になることを無邪気に憧れる子供達……。
時代の波と共に荒れ果てた未来の、ニホンのある研究所で────奴は産まれた。
テスト訓練と称し、奴を敵国の最前線に送り込んだ際、後に研究所主任はその青い髪の奴をこう評したという。────『最高傑作』と。
一方で、焼け果てた戦場跡にて、唯一生存していた敵国戦闘員はシンプルに一言。
その凄惨な戦闘風景をこう回想し、出血多量で息耐えた。
────『最強』、と。
……
…
「ちょっと閃いたんだけどさー、このでっかいバリアーあるでしょ? ヒナちゃん」
「え、あーうん。わたし達を取り囲むこの大きなバリアー。まるで、鳥籠の中にとらわれたかのような屈辱が込み上げる。いまいましい」
「…いやそのセリフ何のアニメからの引用? 賢ぶった言い回ししても別にヒナちゃん知的には見えないよ……?」
「………。この大きなバリアー、まるで丼ぶりの中に押し込められたイクラのような屈辱が込み上げる」
「……はいはい、ヒナちゃんらしいよそれが。…それはともかくとして、バリアー…ワンチャンもしかしてだけどさー」
「もしかして?」
「ヒナちゃんの『念動力』で壊せちゃうんじゃない?? って私思うんだけど…。どうー?」
「ほー」
…
……
最強傑作──奴はヒナと名付けられた。
対立国がAI技術を使った軍事侵攻を始めた時、対抗としてニホンはある事柄に科学技術を結集させた。
──それは、『超能力』。
開戦前から念動力を使う動物の生成に成功していたニホンは、さっそくこの叡智な力を軍事利用。
大戦最高出資者であるミシマコーポレーション主導の元、クローン技術を駆使して数体のエスパー・チルドレン【人造人間】を作ったわけだが。
その中の三体目が、ヒナ。
常に眠たげで覇気のないその瞳は、──後に125,646人の屍を目にし。
全体的に貧相で、ナヨナヨとしたその腕は、──12の国を存続不能に陥れ。
道の真ん中で能天気にあくびをしたその顔は、──『第八次中東戦争』、『日本海戦争』、『5.25連合国内戦』で暗躍した悪魔として、敵国では最大危険人物の手配写真で有名である。
…
……
「…じゃあーいくよー。成功したら陽菜、ご褒美わすれないでね」
「うんっ。イクラ瓶詰め一つで済むんだから安いもんだし。じゃ、ヒナちゃんやっちゃえ!! バリアーに向かって──『サイコキネシス』だっ!」
「わたしはガッ●ュベルかっ。おりゃ…おりゃうおおお〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」
「…私的には『ポケモンかっ』、ってツッコんで欲しかったんだけどなっ!! とにかく力の限り頑張って!!!」
「おっりゃぁぁああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ」
グラグラグラグラ…………
グラグラグラグラ…………
「…えっ凄っ!!? バリアーが…、バリアーが揺れてる………!! 念動力のパワーが、確実に効いてる!!」
グラグラグラグラ…………────ピシッ
「あっ!!! す、すごいよヒナちゃん!!! ヒビ入ったんだけど! ほら、あそこ!!」
…
……
そんなヒナであるが、ニホンに莫大な利益を与えた成果とは裏腹に、末路は自国からゴミ同然に捨てられることとなる。
不法投棄された先は、五十年前の過去。
軍は何故、英雄であるヒナをそのように蔑ろにしたのか。
【メリット】、【デメリット】という相反する二つの概念が存在するが、ヒナはその二つが『共通』している稀な生命体である。
ヒナのメリットは【強すぎること。】逆に、デメリットもまた──【強すぎること。】
つまり、ヒナが捨てられた理由。
それはもう誰にも制御できないくらいの『最強』だったからなのだ。
力が暴走しやすい体質で、暴走を防ぐため普段から適度に念動力を放出していたヒナ。
以前暴走した際に街をひとつ吹き飛ばしたこともあり、その甚大すぎる被害から裁判なしの即殺処分が決定したが、そもそもに死刑執行が誰にもできない。倒すことさえできなかった。
その為に過去の世界へ押し付ける形で、タイムマシンの元、未来から追い出されたのだが、ここで一つ質問を提起しておきたい。
【この地球上で最も戦闘力が高い生物は一体何か────?】
質問は以上であるが、どう答えるか。
340
:
『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/04(火) 20:37:22 ID:GoaNmR1M0
…
……
グラグラグラグラ…………────ピシッ、ピシピシ………
「あ〜〜。なんか思ったより余裕そー。わーい、これでイクラだ──…、」
ピ────────────────ッ
『違反行為を感知しました。詳細:【脱出行為】。辞さない場合、三十秒後に首輪が爆発します』
「…え」「……あっ、やっぱり。…もしかしたら…とは思ったんだけどさー……」
『今すぐ脱出行為を辞めてください。さもなくば首輪を爆破します。カウント、スタート。──対象者:【根元陽菜】』
「…え?」「──…え゛っ!!?? 私だけっ??!!」
29、28、27、26、25…………
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ…………
「どうして!!? 直接攻撃してるのヒナちゃんなのに、私だけ!!???」
「…ははは。主催者のボンクラ判断うける」
「ちょ!!? ちょっと!!! ひ、ヒナちゃん超能力中止!!! ストップ!!! 爆発しちゃうんだけど!!!!?」
「…え?? え、なんで?」
「グッバイしちゃうからに決まってるでしょっ!!! 私がっ!!! ねえほんとに作戦中止!!! 早くやめてっ!!!!」
「…え、でもやめたらご褒美が……」
「そのご褒美あげるの誰かなっ?!!!!」
グラグラグラグラ…………────ピシッ、バキバキバキ
21、20、19、18、17…………
ピ、ピ、ピ、ピ、ピ…………
「…………………………………う〜〜ん………──」
「──…そうだ。こうしよう。一つ言い忘れてたけど、いい機会だから言うよ」
「そんなの後ででいいでしょ!!!! 早くヒナちゃ…、ヒナ!!! こらっヒナァ───────…、」
「さっき陽菜寝てたじゃん? そのとき見えたんだけど、…パンチラの食い込みかなりえぐかったよ」
「……………は?」
……
…
地上最強の生物。
──陸限定とするなら、サバンナのアフリカゾウが走攻守完璧と言える。
海洋生物を連想したものは、食物連鎖のトップであるシャチ。空で例えればオオワシが挙がるだろう。
もしくは、人類から選出するならWWWFヘビー級王座保持数NO.1か、WBA・WBC・IBF世界ヘビー級統一王者か、昭和時代伝説の喧嘩師か。
しかし、断言するのならば、いずれも答えとしては不正解。
地球最強の生物、それは明確な回答が存在するものなのである。
…
……
「ほんとギリギリで。ガッパガッパで脚開いてたから丸見えだった。つまり、わたしが言いたいのは、これで陽菜は死にたい気分になったから心残りなく首輪爆発して──…、」
「…………」
……
…
その生物が現在拠点においている場所は東京都・渋谷区。
ドーム型の遥か大きいバリアーの元、奴は封じ込められ、──殺し合いをさせられている。
341
:
『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/04(火) 20:37:41 ID:GoaNmR1M0
最強生物の名は、すなわち新田ヒナ。
一見ぐーたらで弱々しくて、何の力もなさそうな奴こそが、『食う寝る原子爆弾』ヒナ。
つまり、バトル・ロワイアル下に置いて、ヒナを差し置いて優勝できるものなど──全七十人。誰一人も存在しないのである────。
…
……
────────ビチャンッ(通称 陽菜ビンタ)
「あっいっだぁぁああああ───────っっっ!!!!!!!!!」
「バカじゃないっ!!?? いやバカでしょ!! ……ほんとバカバカバカ!!! …謝らないからっ絶対!!!」
………
……
…
「『根元陽菜暴行記録──七月七日 目を殴られ腫れる。計三回』…っと」
「何書いてるのっ?! レ●ンマンかっ!!」
342
:
『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/04(火) 20:38:33 ID:GoaNmR1M0
◆
数分後。
舞台は、渋谷街の小さなラーメン店。『ラーメン愛沢』店内に移す。
内部構造──厨房を店内の半分を埋め尽くすカウンターテーブルが囲み、右サイドにはウォーターサーバーと宙吊りのテレビ。左サイドにはテーブル席が二つこじんまり。
サイドメニューは餃子とチャーシュー丼のみのようだが、味噌・醤油・辛醤油・煮干しetc…──ラーメンの種類はオールマイティにメニュー表に書き連ねられている。
今現在、この店内にいる客の人数は四名。
その内の一人。
カウンター席で連れと共に座る『怪物』が頼んだのは、チャーシュー麺大盛りだった。
「ホフホフッ…! ズルズル……。…旨っ!! 旨い旨い!! 旨ェーなァ、ウシジマッ!!!」
現在気温28℃。
真夏の最中だというのに、その怪物は分厚いジャケットを纏いフードで顔を隠す。
つい最近、「クレーンゲームで金使い果たしたから」という理由で強盗殺人を犯した噂が立つ────奴の名は、『肉蝮』。
小指一本で100kg超えの自身を腕立て伏せできるという、信じられない強靭的筋肉とパワーを兼ね備えた奴だが、その性格は極悪非道この上ない凶人。
強盗と拷問を稼業にし、地元では「100人斬りの強姦魔」や「女子高生をアナルレイプするのが趣味」と目を覆いたくなるような伝説を数多く語られている。
そんな異常者が『殺し合い』に放り込まれ、何もせずいられる訳もなく────。
「…オイッ、ウシジマァ!! あんま辛気臭い顔してンじゃねェゾ?! テメーが俺の腕折った件はさっきの拷問でもう許したんだからよォ………。元気出せやッ!!! オラッ!」
──丼ぶりに顔を突っ込み、グッタリしている『連れ』。既に死体と化した丑嶋馨へフレンドリーに話しかけていた。
宙ぶらりんの生気のない両腕、根性焼きまみれで十円禿のようになった頭、そして耳から流れる黄色い膿。──言うまでもなく、肉蝮に殺害されたのである。
数時間前、公園裏に引きずり出された丑嶋は拷問を一方的に受けた挙げ句、最期はスピリタス一気飲みをさせられた際、喉に突っ込まれた酒瓶で喉仏が折れ死亡。
心身両方ズタボロにされたというのに、死してもなお、死体を肉蝮に弄ばれ続けている。
「つか旨ぇなマジで!! ハフハフ……。そうだ。おいウシジマ、テメー俺と早食い勝負な!! 負けた方が奢り+スイッチ新型購入の刑! いいな!!! 根性出せよォ〜?!!」
厚切りのチャーシューを一口で飲み込み、肉蝮は唐突に提案を叫ぶ。
割り箸を新しい物に持ち替え、気合十分の態度で目を光らせる肉蝮であるが、無論その勝負の提案に連れからの反応はなし。──ジェスチャーひとつとてできる筈がない。
「テメェも頑張れよ!!」──と言いたげに、やたらフレンドリーな態度で肉蝮は丑嶋の肩を小突くと、
「…………あっ! …って…──」
「──勝負も何も…テメー絶対ェ勝てねぇか。…死んでンだもんな!」
バランスをなくした死体はフラッと傾き、そのまま床へと倒れ込んでいった。
──青痣だらけのその顔面には、「さよならは、カナしい言葉じゃない。バイバイ……(泣)────By.肉蝮」とポエムが書き殴られている。
「プッ!!! ぎゃはははははははははははハハハハハハハはははははッ!!!!!!!! ぎゃハハハハハははははハはハッ!!!!!!!!」
バンバンバンッと笑い叩かれる机。大口から飛んでいく唾。
ラーメン店内を気違いのような笑い声が響き走る。
赤く亀裂走る白目の眼球──。完全に糸の切れたマリオネットとなった丑嶋は、もう食べる事も、喋る事も無い。
身動き一つも絶対なく、ただ天井の回るシーリングファンを瞳に映し続けるのみ。
そんな様子の亡骸が滑稽に見えたのだろうか、肉蝮は執拗に笑い、転がり続けた。
「ぎゃははははは………はは、は……あ〜あ…。────………つーかよぉ…──」
「──人と食事してるっつうのに何寝てんだウシジマぁあァ────────ッ!!!!!! テメェ舐めてんのかゴラァあぁああ!!!!」
ただ、笑ったかと思うのもつかの間。
何が琴線に触れたのか、唐突に肉蝮は大激怒し始める。
怒りの矛先である死体へ、ゴスッ──と容赦なく突っ込まれる足蹴り。
「目ェ覚ませやテメェ────!!!!! オラッ!!!!!」
工場のピストンで押し潰されたかのような、その力強い踏み潰しを丑嶋の胸部はもろに浴びる。
無論、肉蝮の蹴りがどれだけの威力だろうと今更丑嶋にダメージなんかはない。ただ、衝撃でバウンドし無抵抗を維持するだけだ。
無抵抗に次ぐ、更なる無抵抗。────何発も何発も靴底が降り注いでくるが、アクションは寝返りのように転がされるのみである。
ただ、不意に蹴りが胸部の肺部分へモロ直撃し、丑嶋の鼻からブニュッ──と豆腐に似た何かが飛び出す。
────そのことが余計、肉蝮の精神異常な癪に触ったのだろう。
343
:
『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/04(火) 20:38:53 ID:GoaNmR1M0
「テメェッ!!! …ふざけやがって、もうっ許さんッ!!!!──」
「──そのムカつくメガネ顔…、髭男ディズムよりも『グッバイ!』してやるッ!!!!! 貴様ぁああぁァアアア!!!!!」
肉蝮は死体に馬乗りになると、割り箸を力強く握り、躊躇なく顔面へ振り下ろした。
ザスッ、ザスザスザスザスザスザスザスザスザスザス────────…
グチャッ、グチャグチャ、ベチャッベチャヌッタリ。
「畜生ッ!! 畜生畜生畜生畜生!!! 死ね死ね死ねしねしね死ね死ね死ね死ね死ねしねしねしね! オラッ!!!」
真っ二つにしたスイカをスプーンでほじり食べたかのような音が連続する。
乱雑なほじくられ方をした影響で、無造作に飛び散る果肉たち。充満する赤い汁。
割り箸が、剥き出しとなった赤黒い顔面骨格に硬度で負け、バキッと折れると肉蝮は「チィッ!」。一言のみ。
新しく隣の割り箸を手に取り、文字通り血の池と化した顔面に入刀をずっと。ずっとずっとずっと、満足行くまで続けていった。
「どうだぁ!!! 悔しいかッ?!!! テメェが大嫌いなこの俺に負けて悔しいかぁあッ!!! 答えろ!!! 話せるもんなら答えてみろ!! …ゲヒッ、ヒィーヒッヒ…!!!──」
「──はっははははははははハハハハハハハハハハハハハははは!!!!!!!!! だぁっはっははははっはっはっははははははァァァァァアアア!!!!!!!!!!」
────不幸にも、そんな凄惨な現場に現在、根元陽菜らは居合わせることとなる。
「……………………っ、……。…………」
「……………………」
彼女ら二人が身を潜めている場所は、カウンターテーブル奥。──肉蝮から見て反対の場所。
十数分前、「力使ったらお腹すいた」──とダダをこねたヒナを黙らせる為、近くにあった愛沢ラーメン店へ入ったのだが、タイミングが非常に悪かった。
券売機を押し、カウンターテーブルの席に腰を降ろした折で、入口から現れた不穏な人影。
万が一に備えて…と、根元はヒナの襟首を掴み咄嗟にテーブル下へ隠れたのだが、入ってきた人物はその『万が一』であった。
グチャグチャグチャグチャグチャグチャ──と嫌な音。時折、パキッ──と何かが折れる音。
一連が何をして発せられる音なのかは見ていない。ただ、想像してる通りの惨たらしいことを、対岸の大男はやってるに違いなかった。
たまたま訪れた店で唐突に現れた人生最大級の恐怖、そして危機。
連日最高気温が報じられる程の猛暑だというのに、根元の身体の震えが止まらず、顔も真っ白に青ざめていく。ただ、汗だけは季節に従順して流れが止まらない。
大男──肉蝮への恐怖を前に、根元は何も動けず、隠れることしかできなかった。
例え、太もも上をどこからか湧いた虫が這ってもなお、身動き取らずにじっと隠れる。
「………──っ!!! ……………………………」
「………………」
生理的嫌悪感のくすぐったさに耐えながらも、根元はヒナの袖をギュッと握って動かなかった。
──否、動かないというよりも待ち続けていた。
完璧に逃げられる『タイミング』の訪れ。言わば、肉蝮の隙をずっとずっと待つのみである。
「…………(…ねぇ、陽菜)」
「……!(ちょ、ちょっとヒナちゃん……! もう少し声抑えて話して…………)」
「……。……………(どうする? 今すぐ出た方がいいんじゃない?)」
「……………(……ダメ。100%逃れられる保証はないし…マズいから。……とにかく今はジッとしてよう。…ねっ………)」
もっとも、根元が待ち望んでいたのはこの悪夢が自ら立ち去ることなのだが。
344
:
『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/04(火) 20:39:16 ID:GoaNmR1M0
ただそんなか細い思いが伝わったのか、否か。
何の前触れもなく、グチュグチュ…と吐き気を催す音が止まりだした。
「………………っ!」
「……………………」
辺りを支配する不気味な静寂。──死体の血泡が弾ける音のみが聞こえる。
肉蝮は何を考えたのか──。この無音っぷりは一難去ったと捉えてよいものなのか──。
この静かさ故か、鼓音が目立つくらいに高鳴り出す。
バクンッッ、
ドクンバクンッッ、バクンッッ…。
根元の緊張感が一気にボルテージを昇っていく中、この静けさの『答え』がすぐさま解き明かされた。
「…さーて、かまちょウシジマの相手するのもこれくらいにして。…ところでよォー──」
「──おい二人組の女ァッ!!!」
「!!」「…ひっ…! …あ、…………っ!!!!」
「俺が気付かねェとでも思ってたかァアッ!!!! 隠れてないでさっさと出ろ!! つぅか犯させろオッ!!! やらせろッ!!!! どうせテメーらもアソコ濡れ果ててんだろッ?! あぁああッ!!??」
「……………っ、………」
静寂の答え────それは、『嵐の前の静けさ』である。
根元の心臓は、飛び跳ねるを通り越してクラッシュ寸前に達した。
過去に人に呼びかけられて、これ程までに心臓がバクついたことはあっただろうか。あったとしても、授業中ウトウトしてるときに先生に当てられた時が最大だ。──と。
それくらいに、平穏で一般庶民的な日常を送る根元にとって、今のこの恐怖はバッドトリップ級だった。
震える手、震える舌に、震えるハート。
ここから一体どうすればよいのか──、私たち二人は────、走馬灯の如く過去の体験から最善策を呼び起こそうとも、頭は怖さで一杯一杯だ。
そんな状態のため、当然肉蝮の声には静寂でしか返せなかった。
「……………………………………」
暫しの静まりで場は包まれる。
根元が唯一選択できた沈黙という答え。
その反応を受けて、痺れを切らしたのか悪魔は「チッ」と放った後、話し出す。
肉蝮の提案した『二択』はこれ以上もない最悪な内容であった。
「……一応、勘違いすンなよッ?! 女共」
「………………え?」
「俺はこのメガネザルを背負わされたせいで今…疲れてンだわ! その上今バトロワ中だろォ? 体力勝負だろォ?! 無駄なスタミナ消費は避けておきたいわけで」
「…………………」
「つまりぃは、テメーらのどっちかが俺のチンポコの相手しろッ!!! ンで、片方はどうでもいいから消えてよし。女共もそれで文句はねェよなァ〜?!! 分かったか!! オラッ!!!」
──『二択』と言っても根元には実質一択しか選択権がない。
それは『無視して逃げ出すこと』────なんて簡単にできるものなら縋りたかった。
自分が犠牲になるか、それともまだ小さなヒナを上納して逃げ通すか。
345
:
『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/04(火) 20:39:49 ID:GoaNmR1M0
(…そんなの、前者一択しか無いじゃん……っ。やれる訳がないし……。ヒナちゃんを差し出すなんか……………──…、)
「あっ、テメーらが処女か、それともガバマンかなんて俺はどうでもいいから! アナルをぶち犯して破き倒すッ!!! それが俺のポリシーだからよ、安心しとけ!!!」
(………っ──)
(──…………ヒナちゃんを………、さ、差し出す…なんて……………)
ニジ…、ニジ………。
蝮が這うような足音がにじり寄ってくる。もはや躊躇っている余裕など、鉄板上の溶けゆく氷よりもない。
本当は動きたくなかったし速攻逃げ出したかった。
性欲の知識などせいぜい黒木から借りた対魔忍が限度で、肉蝮にどう弄ばれるのか、そしてどう痛みつけられるのかも想像が絶して──それでいて恐ろしかった。
それでも、パッと見小学生のヒナを見捨てる事なんて、根元は出来る筈がなかった。
「………………………っ!」
──"煩いな…。分かったよ………"────と。
「…あァアッ?」
根元は震えまくる手にギュッ、と爪を立てて、カウンター下からゆっくり立ち上がっていった……。
「まって、陽菜」
「………。な、なに。…ヒナちゃん……」
「…陽菜といたら、すごい楽しかった」
「………………え、何。何が…………?」
「まぁ聞いて」
「…………うん」
「わたしが居た未来ではずっと…。ずっとロボットみたいに。命令をこなすことが存在意義だった」
「……………」
「いつも大人たちから指示されて、つらい毎日だった」
「………ヒ、ヒナちゃ……」
「でも陽菜はわたしが知ってる人間とは全然違う──」
「──戦闘命令もしないし、ご褒美もくれる。何もしてないのに食べ物を奢ってくれる。…ビンタは痛いけど…──」
「──……────でも、そんな陽菜といたこの数時間が何よりも幸せだった…」
「…………」
346
:
『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/04(火) 20:40:07 ID:GoaNmR1M0
「陽菜といたら………楽しかった。──」
「────だからここは、わたしがやる。陽菜は下がってて」
「………え。……え、ヒナちゃん…っ?!」
ポンッ、と根元の肩に伝わる感触。
肩を頼りにゆっくり立ち上がったヒナは何の恐れもなく、怪物のような大男の前へスタスタと歩み寄っていく。
呆気に取られて棒立ち。
根元はヒナの予想だにせぬ言動に暫し何もできずにいたが、脳が理解に追いついた途端、慌てて静止へと飛び出した。
待って、行かないで!!──と根元は激情を漏らす。
──これからあの狂人男が何をするか、ヒナちゃんは分かってるの…?
──まだ思春期の「し」の字にも満たないくせに、どんな目に遭わされるのか分かってて動いてるの………?!
──ヒナちゃんっ………!!
「待ってッ!!! ヒナちゃん!!!!──」
「──あっ…!」
根元がカウンター席を飛び出した時には、もう遅い。
眼の前に広がっていたのは、肉蝮の手にがっつりと肩を捕まれた直立不動の──ヒナ。
後ろ姿のヒナの表情は当然見えない。ただし、大男のボロボロで鋭利な歯を見せながらニヤつく、醜悪な顔だけは目に映る。────最悪中の最悪だった。
それでも根元は入口ではなく、ヒナの元へと駆けていく。
溢れる涙が震え上がる。
「陽菜といたら楽しかった」という一言がずっと頭の中でリフレインされる。
────"私もヒナちゃんといるの結構好きだよ?"、と。
根元は腕を懸命に伸ばした────。
「あァ?! ガキ、テメーが相手役だっつうのか!? お前なんか犯したら俺ロリコン扱いされンだろ!!? ざけンなッ!!!! ……まぁいいや。テメーにはたっぷり──…、」
「そしてえ〜、か〜がやぁ〜く……」
「…あ?」
肉蝮の言葉を遮って、前に出されたのはヒナの人差し指。
凶悪面を前にして何の震えもなく、その指はまっすぐ指されると。
「うるとら…──ソウルッ!!!」
「…………あぁ?!」
クイッ、と指は入口の方へと向きを変えた。
347
:
『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/04(火) 20:40:27 ID:GoaNmR1M0
────────HAIッッ❗️❗️❗️☆(ハイッッ!!!!!)
ビュンッ!!!
パッ!!!!
ズガアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ────────────ンッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!
異様な轟音が響いた。
閃光もなく、爆発音もない。
それだというのに、肉蝮の巨体が指の差した方向へと勢いよくぶっ飛ぶ。
吹き飛ばされたのは肉蝮だけじゃない。
店内のあらゆる品々が──、棚にずらりと並んだ漫画本、テレビ、木造りのテーブルに椅子、そして死体までもが、全てを洗い流すかのように放出され、空中を舞い、町中に散らばっていく。
時速百数十キロで弾ける肉蝮の身体を、入口のたかがガラス戸ごときが支えきれるはずなく派手に破損。
それでも勢い止まらず、ついには向かいのシャッター店までぶっ飛び、ガシャガシャバンガランッ!!──と、大破に次ぐ大破へ至った。
肉蝮にとってはワゴンに跳ね飛ばされたかのような衝撃だった。
彼がその全身の痛みに気付いたのは、意識を取り戻す数十分後のことだという────。
「ふー。一件落着。てかお腹すいたーー」
「え。えっ、え!!?? ……ヒ、ヒナちゃ……。えっ!!???」
再び棒立ちの静止画と化す根元。
そして、伸び切った自分のラーメンをすするヒナ。
「……ズルズル。うん、まずい。まずいな。でも食えなくはないな。でもまずいまずい。ズルズル…………」
さっきまでのピンチは一体何だったんだろう…──。
ヒナの強大過ぎる超能力を後にして、それしか考えられなくなった根元。
能天気にラーメンをすするヒナをただ見て、脱力からかただ膝をがっくり落とすしかもはやできない………。
【バトロワ最強はマイバーディっ?!!】──────完ッ。
348
:
『バトロワ最強はマイバーディっ?!!』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/04(火) 20:40:39 ID:GoaNmR1M0
◆
「とりあえずヒナちゃん……。う、ウェーイ! ( ; ^^)pグータッチ」コツッ
「…? うぇーい。q(=_= )」コツッ
【1日目/C2/ラーメン店・愛沢/AM.03:46】
【根元陽菜@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】ダーツ
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:バトロワに参加させられた私、チート級超能力少女が仲間なお陰で結構お気楽モードになれそうです。(なろうタイトル風〜^^;)
2:ヒナちゃんを守る。他の参加者は基本話し合いで解決。
3:田村さんたちが心配。
4:フードの男(肉蝮)に恐怖。
【ヒナ@ヒナまつり】
【状態】右目が腫れ(軽)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:陽菜はやさしい。なんでもおごってくれるから大好き。
2:ろりこん、って何だ?
【肉蝮@闇金ウシジマくん】
【状態】気絶、全身打撲
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【マーダー】
1:がぁっ……。ぐうっ…………。
2:あのクソガキ二人(ネモ、ヒナ)、絶対許さねぇ。絶対犯し殺してやる…ッ。
※C2・大破した店にて顔面が崩れた丑嶋の死体が転がっています。
349
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/04(火) 20:52:15 ID:GoaNmR1M0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ③】
①今回から毎週火曜日連載となりました
②どれだけ継続できるかは未定ですが、チューズデイ=平成漫画ロワと思っていただければ幸いでございます
③あと全く関係ありませんが、企画主はおさげの髪型がめちゃくちゃタイプです。エヴァで好きなキャラは?と聞かれて「委員長」と答えるのはわしくらいでしょう
④つまり、ヒナまつりでマミ、メムメムでオルルが参加できたのは完全にわしの好みのお陰。優遇するつもりはありませんが、描写が他参加者と比べて濃くなってることはお伝えしておきます
残りの情報…それはまだ混沌の中。
それが………平成漫画ロワ…………!
【次回】
────一匹の獣は、股座を行く。
【多分次これ】…『マイライフアズアドッグ』…ひろし、海老名、クンニーヌ、山井、うまる、マミ、デデル、マルシル、飯沼
【↑書けなかったらこれ】…『本当にあった怖いダガシ』
【↑書けなかったらこれ】…『クマとメガネとイヤホンとリボンとヤンキーと吸血少女(札)』
350
:
『十年ごのボクへ』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/07(金) 22:22:06 ID:sMvNuXUc0
[登場人物] [[鹿田ヨウ]]
351
:
『十年ごのボクへ』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/07(金) 22:22:25 ID:sMvNuXUc0
「ミュージアム♪ …ミュージアム♪ かけがっえの、な〜い〜♪──」
「──たいせつなみっらいを〜〜♪ なんたら、かんたら、ふふふふ〜〜〜ん♪………──」
「──……………──」
「──…なんだっけ────!?!! この曲────────────っ!!!!」
【答え:ド●えもんかなんかの映画(多分)】
……
…
オッス!
俺の名は鹿田ヨウ!! 好きなものは駄菓子と巨乳だ!!!
日夜オイシイ駄菓子を追い求め全力疾走しッ!!!──ふと、おっパイ姉ちゃんとすれ違ったら思わず立ち止まってしまう…!! そんな俺はまさしく『永遠の青春期』………。
サンデー的言い回しで「見た目は大人、頭は………」とは、────この俺のことだぜっっ!!!!(あっ、あとシカダ駄菓子店も経営してるよ!! ヨ・ロ・シ・クねっ☆)
そんなEccentric Shounen Boyな俺が、この度馳せ参じられたのが……バトルロワイヤルっ……!!
なんだかよく分かんないけど殺し合いをすることになっちまったんだ…。やぁ〜ねぇ、もう聞いてヨ〜奥さんっ!! 殺し合いですとよっ?!!!
この人生、毎日毎日駄菓子について切磋琢磨し、…時には妻に逃げられ、…時には売上低迷に頭を悩ませながらも………、それでも俺は男手一人でココノツを育て上げたんだが…。
四十五年間必死で生きてきた結果が……──これなのか……………?
…うまい棒めんたい味よりも塩辛い涙が頬を伝う俺だったぜ…………。
うぅっ…〜〜。
「………フッフフフ。──なーんちゃって…っ!!!」
──だなんて思っただろっ!!!
殺し合いを前にして俺が泣き上戸になってると思ったでしょ!!? ざ〜んねん!!!
違いまーーすっ!!!!
主催者のトネガワ先生!!
残念だが、バトルロワイヤル如きで俺の『駄菓子魂』は燃え尽きたりしねぇーぜっ!!!!
いや、むしろこの駄菓子魂でバトロワを終わらせようとか考えちゃっている!!!! 俺は!!!!
見てろよ────? 刮目しろよ────? そして味わう準備はできたか主催者くん────???!
俺の魂が発する、おやつカンパニーパワーで……、バトルロワイヤルを満腹に…。──いやっ、満腹とまでは行かないけど駄菓子を頬張った時のような微々たる幸福感に…っ!!!
──今、包みこませてやるぜっ!!!! うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!
「それにっ!!! 俺には今最高の相棒──佐野ちゃん《…とはあくまで仮の名。彼女の正式名称はヤングドーナツ星人!!!》がいるんだからなっ!!!! これもうフラグ立っちゃったねっ!!! HAPPYENDフラグが!!!! はーはっははは!!! はーはは、はは──……、」
……………。
「あ、佐野ちゃん見失ったんだった………………。は、はははㇵ………」
…というわけで。
どっかに行っちゃった佐野ちゃんを探しに、血眼になって走っていた俺は、気付いたらこの『渋●区美術館』の中にいたんだ。(…くぅっ〜!!! 美術館に佐野ちゃんがいるはずないっていうのに俺は……。この方向音痴めっ!!! めっ!!)
…ごめんよ。ヤングドーナツ佐野ちゃん………。おじさん、バカで………。
せめて彼女が怪しいオジサン達に惑わされないことを願うばかりだぜ………………。
ま、それは一旦置いといてっ!!!!(ホントは置いといちゃダメかもだけど話を進めるぞ!)
352
:
『十年ごのボクへ』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/07(金) 22:22:43 ID:sMvNuXUc0
世界各地から選りすぐりのアートを展示してるという、このナイトミュー●アム(またの名をib!!)…。
美術の成績はお世辞にも良くない俺だから、ほとんどの展示品の価値が分からず……。
佐野ちゃん探しという名目でプラプラ展示品を流し見してたんだがよ〜…。
そんな俺が食い入って見てしまった芸術品が、一つ存在したっ!!
────それが、この『甘美なる駿馬』!!!!
【作者】カンビィー・ウォーホース
【作品名】
『甘美なる駿馬』
何が凄ぇ、そして痺れるッ憧れるッ作品なのか…って──。
──この馬はマーブルチョコ数十万個を積み上げて模したものなんだっ!!!!!!
銅は黄色、顔は赤、蹄は青!!! カラフルな集合体が成す、この大きな馬はまさしく努力の結晶!!!!
作るの大変だったろうなぁ〜。何時間もかかったろなぁ〜。…俺は思えば思うほど、息を呑んだぜ………。
息をゴクリッ…ってな………。
──……あと、涎もゴクリッ…ってな。
「(キョロキョロ)…………………。……誰もいない…よね……?」
……誰もいない…な!
周りを入念にチラリズムした後、俺はこっそりと一粒。──プチッとマーブルチョコをつまみあげた。
「……これでよし、っと!!!」
…あぁ分かってるぜ。…やっちゃいけないってのは重々承知よ…。
だけども、一つ、言い訳させてくれ。
俺がつまんだこの青マーブルチョコは、黄色い胴体の中に一つ紛れ込んでいたやつなんだ。
まるでスイミーみたいな場違いっぷりだよ。…きっと作者のカンビィーさんも間違えて配置したんだろな。
違和感まみれで、ウズウズしちゃって。…つい! つい、取っちゃったんだよ………。
A型の人ならきっとこの気持ち分かるんじゃないかな…?! しかも何十万粒の中の一粒だし抜けてもバレないでしょっ!!
俺はスッキリした面持ちで、その一粒のチョコを口に放り込んだんだ─────…☆
──そんなことしたら次の瞬間。
────馬の模型はバランスを崩して、雪崩のごとくジャラジャラ崩壊しちまった。
──────僅か一粒消えただけで、原型なくスッカラカンに。
「……………あ」
……。
…制作者さん、ほんと申し訳ありません。
警備員さんもいたらボクを捕まえてください。
防犯カメラは……。いやん、見ないでエッチ……………。
俺は済まし顔しながら、この場を早足で去るのだった。
353
:
『十年ごのボクへ』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/07(金) 22:23:05 ID:sMvNuXUc0
◆
マ〜ジカル☆駄菓子!!
駄菓子といったら、うまいっ!!!
上手いといったら、絵画!
絵画といったら、なんでも●定団!
なん鑑といったら、価値が高い!
価値が高いといったら、ワイン!
──ワインといったら……ぶどう!!!
「あなた何ボサッとしてるの!! さっ、これを運んで!! まったく人手が足りないたらありゃしない…」
「あっ! い、今運びますので〜!! そんな怒らないでお姉さん〜〜!!!」
────そして、ぶどうといったら…今俺が運んでいる果物…………!
ようっ!! また会ったな!
俺、鹿田ヨウまたまた馳せ参じ…!!
Mr.駄菓子とのこの俺は今、洋風な部屋の中でアルバイト中!!!
果物やら料理やらを、よくわかんないけどメイドみたいなお姉さんと一緒に運んでるぜ!!!
小耳に挟んだところによると、ここはどうやら王様の持ち家らしく、祝福なことに赤ちゃんが産まれたらしいんだ。(Happy──Birthday ☆)
赤ちゃんの名前は確かデルガルって子!! いやぁ〜、良い名前だなぁ! そう思わない?!
ヒゲの王様に奥さん、そして耳の尖った子?に抱えあげられるデルガル坊の、その姿……。
部外者ながら、その幸せな光景に熱いものが込み上げてきちゃうぜ………。 いやぁ、おめでとう!!
「というわけで俺からもご祝儀さ! 果物カゴにハッピーターンを入れて、っと!! …ハッピーターンは厳密には駄菓子じゃないけど、俺からのせめてもの思いさ…。デルガルくん!!」
「こらっ!! 何ヘンな物を入れてるの!?」
「ヒッ!!! お、お姉さんすみません!!! こ、これは些細な粗品でございまして〜──…、」
「もう…っ!!! いいわ!! あなた邪魔になるから出ていきなさいっ!!!!」
バンッ
「ひぃ〜え〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!! すみませぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!!」
ご、ごごごご、ゴゴごめんなさいぃ〜〜〜!!!! 不機嫌になるくらい忙しいってのにふざけちゃって〜〜〜〜〜〜!!!!!
怒ったメイドさんは大きなほうきで俺をバーンッと!!
そのまま俺はゴミを掃かれるように、この『絵』から追い出されるのでありました……………。
これでバイトクビ!!! 『鹿田ヨウバイト編』、これにて完っ!!!!!
────────────────────────────
………
……
…
………ふふっ、さーて。
──聞こえるぜ?
隠さなくたっていい。君の心の声は、マインド駄菓シーカーである俺には筒抜けなのだからな……。
「そう!!! 諸君らは突っ込みたいわけだ──────っ!!!!」
「『絵から追い出された』、ってどういう意味だァあ!!??──ってな!!!」
「そりゃ意味不明もいいとこだろう…。ほかには『なんで唐突に美術館から王の家に場面転換したんだ』、とか『前触れもなく何故バイトを?』とか…。あぁ聞こえてくるぜ、疑問の鬼電が……」
──だがっ!! しかしっ!!!
「これらは、比喩表現でも突飛な展開でも何でもないっ!!!! …今から言う話を全部信じてくれよ? 信じないと話が進行しないからなぁ!!!」
この渋●美術館…………。なんと驚きっ!!!
「絵画や展示写真が…“動いて”っ、──しかもその中に…“入れ”ちまうんだァ─────────!!!!!!!!」
【作者】不詳
【作品名】
『ぶどうを持つ女性の肖像。〜王の誕生』
354
:
『十年ごのボクへ』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/07(金) 22:23:29 ID:sMvNuXUc0
………………ん? ────え゛っ!?
いやいやいやいや!! 別に俺はアヤしい粉やってラリってるわけじゃないよ!!?? 正真正銘シラフだから!!!
(そりゃ…俺は毎晩こっそり怪しい粉(ビンラムネ)ヤっちゃったりはしてるけども……。)
ともかく幻覚症状見たわけでないよっ!!??
(──あっ、これはさすがに岡田商店さん(ビンラムネ製造元)に怒られるかな………。ゴメンナサイッ!!!!)
「……まぁ、百聞は一見にしかず……。今から絵の中に入る様子をご覧させてやんよっ!!!」
【作者】秀知院学園校長
【作品名】
『記念撮影』
【被写体】四宮かぐや、白銀御行、藤原千花、石上優、伊井野ミコ
↑↑↑
とりあえず隣にあったこの写真に今から入らせてもらうぞ!!!
カメラ目線でにこやかに微笑む生徒の写真………。
この中へイッツ・ア・ダイバー──ヨウッ!!!!!!
ジャーンプ!!!!!!
…
……
………
────────────────────────────
「…えっ!!? わぁびっくりしましたっ!!!! い、いきなり誰ですかぁ〜オジサン!??」
「き、きゃぁあああっ!!!! …め、…名門ある、この秀知院学園に…………不審者っ…!? 誰か、誰か!!! 警備の者を!!!!」
………ふぅ!!!
輝く俺、黄色く眩しい太陽、そして黄色い悲鳴………。
歓迎ムードで出迎えられたみたいだなぁ〜!
「か、会長!!! どうすれば……。ど、どうします!!? ねえ!!」
「………落ち着け四宮。そういえば今日庭の噴水にある甘いリンゴとさくらんぼのレリーフの奥深くに蝸牛が……」
「見て見ぬふりをしろ、って言いたいんですかぁー!!? あの不審者を!!! …もうっ。ちょっと、石上くん! 貴方が何とかしてください…」
「……あっ、すみません今クエストいいとこなんで。てか、こういうのは伊井野が担当でしょう」
「「はぁっ!!????」」
俺の登場で一気に賑わいだしちまったみたいだ!
グッ、ここまで注目の的になるだなんて…。我ながらツライぜっ………!!
…と鼻をこすってたら、一番ちっちゃな女子生徒がヨロヨロ近寄ってきたぞ!!
さしずめ彼女は飛び級のエリート小学生かな?
おさげヘアーも子供っぽいしね!
「…あ、あなた!! 刑法第130条【建造物侵入罪】!! 今から警備の者が連行しに来ますので……、ぜ、絶対変な真似はしないでください!!!」
「ふふふっははははっ!!! この歳で高校入学とは流石だねっ!!! 勉強大変だったろ? …えーと……。君はたしか、…御行ちゃん!!」
「ヒッ!!! 気持ち悪いっ……。わ、私は伊井野!! 伊井野ミコですっ!!!」
「おっと…! 名前間違えてゴメン!! …とにかく、頑張ってるミコちゃんと友人四人にオジサンからプレゼントだよっ!!!」
懐から駄菓子を取り出し、俺は突き出すっ────!!!!
「ひぃいいっ!!! 気持ち悪い気持ち悪い!!!」
「い、伊井野さん。絶対それ受け取らないでくださいよ!!! 言うまでもないですが!!!」
「…ひぃい……。──…えっ?」
355
:
『十年ごのボクへ』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/07(金) 22:23:53 ID:sMvNuXUc0
俺の手に握られていたのは子供から女性まで大人気のお菓子──『トッポ』五袋だぁ!!!
…ほんとはビンラムネをあげたかったんだけども。……勉強疲れの子にはやっぱりコレだよね〜? ロッテのトッポ〜〜♪
(厳密にはこれも駄菓子じゃねぇーぜっ!!! セルフツッコミ!!! )
「…………………ごくりっ」
「いやゴクリッじゃないぞ伊井野────っ!!?」「この大食漢──────っ!!!!」
「…わぁ〜!! わたしちょうどお腹空いてたんですよぉ〜〜〜。優しいおじさん、ありがとうございま〜〜〜〜す!! ミコちゃん一緒に食べましょ〜」
「……あ、藤原先輩がそう言うのなら、…頂きますか………」
「あぁもう伊井野さんあっさり傾いちゃったしー!!!」「…だから藤原先輩をあっち行かせろって言ったでしょ僕!!!」
…ハハハッ。
マシュマロみたいな豊満ボディの子に手に渡ってトッポ(と俺)も幸せ者だなっ……。
じゃっ、役目を終えたことだし駄菓子サンタはクールに去るとするぜ……。
バイバイ!!! 秀知院学園のNEWフレンドたち!!!!
「あっ、逃げた!!!」
「…………ポリポリモグモグ。…あんな不埒な男。絶対捕らえてほしいものですね。モグモグ…」「もぐもぐ〜。ほんとですよ〜!」
「口ではそう言いつつも体は〜…って奴ですかッ!!?」
「…よもやよもやだな。………全く…」
────────────────────────────
………
……
…
さっきまでは普通の記念写真だった【作品名『記念撮影』】が、今では楽しげな菓子パーティに変わっている……。
ほれ、見たことか!!! 凄いだろっ!!?
この通り何でか知らないけど、展示絵画の中に入れちゃうんだよ!!!! スゲーねっスゴイです!!!! ス・ノーマン・パーもおったまげ〜!!
さしずめ、『生きる絵画』と言っていいこの展示コーナー…。
まだまだたくさん絵が飾られてるわけだから、童心思い出して遊び放題ってわけよッ!!!
これって例えばさ!! もしかして、俺が描いた絵をここに持ってくれば、オリジナルの世界で遊べるってことなのかな?!
別れた奥さんの写真とか持ってきたら、あの頃に戻った気分で懐かしめるってわけだろ?!!
うひゃー!! 最高じゃねーか!!!
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!! また会いたいぜ、また話したいぜ、俺のカミさん───────────!!!!!!!
「……………………」
「…あっ、ごめん。出ていかれた日のこと思い出してちょっと萎えてきた」
「…………………うわ、虚しっ……」
…………………。
…まァッー、そんなことは忘れといてっ!!!
このテーマパークで遊びに遊びまくろうじゃねーーか!!!!
356
:
『十年ごのボクへ』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/07(金) 22:24:12 ID:sMvNuXUc0
……
…
【作者】林あんず
【作品名】
『らーめん祭り』
【作者】城田
【作品名】
『夜景の写生』
【作者】黒木智子
【作品名】
『安藤の似顔絵とかテキトーにこんなもんでいいっしょ…』
「これらは幼児の部の入選作品かな? みんなイキイキ描けてて微笑ましいねっ!!!」
もし大人が描いた作品だとしたら、ピカソ級の独創的画風な絵達を俺は今眺めているぜ!!!
うん!! 本当に素晴らしい絵だなぁ〜!
特にこのあんずちゃんが描いたラーメンの絵なんか……、メンマやチャーシューが踊り騒いでてキュートっ!!!!
俺がこの絵の作者なら『ヤッターメン』のマスコットキャラを赤塚プロに訴訟覚悟で書き加えそうだぜ〜!!
…ま、俺の懐にある駄菓子も残りあと少ない現状。
幸せそうなこの絵のキャラクターたちにあげるのもまた別の機会…というわけで!
俺は安藤似顔絵の隣に飾られた──ひろ子さんの風景画に入ることにしたぜ!!
ホップ、ステップ、カールイス!!
ダイビーング、────鹿田ヨウ!!!!
【作者】
ひろ子
【作品名】
『コーラを飲むコースケくん』
…
……
………
────────────────────────────
「ぷはぁ〜〜〜〜〜〜〜〜。(ドンッ」
「(満点の桜のもと、オレは花見の場所取りをしていた)」
「(大家やカノジョ達を待ちながら飲む炭酸飲料はなかなかのモノだ)」
「(…ただ、花より団子という言葉がある通り、オレは今絶望級の空腹に襲われている。まだか、まだか…と待ちくたびれて力が出そーにない)」
「…あー。……………お腹すいたな………」
…そんなときに現れた救世主ってのがこの俺なわけよっ!!!
「…………え」
えーと……。コースケくんっ!!!
「………………あ、ども。……てゆーか、誰ですか」
…………フッフフッフ!!!
名乗るまでもないぜ…。
「俺の名前は正義のヒーロー『駄菓子マン』!!!! 空腹に苦しむコースケ君を救いにただいま参上だっ!!!!」
きらーんっ☆
「…………思いっきり名乗ってますよ」
357
:
『十年ごのボクへ』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/07(金) 22:24:28 ID:sMvNuXUc0
「まぁ細かいことは桜の木の下許してくれっ!! とにかくこの駄菓子を一粒味わってみな!!! 美味いよ! オイシイよ!!」
「……………。………(ぱくっ」
「(謎のオヤジから貰った飴のようなもの。噛んでみたら案外脆かったので、だとしたらガムなのかもしれない)」
「(まー、どちらにせよ美味いことは変わりない。グレープ味のそのお菓子は俺の空腹をいとも簡単に満たして魅せた……)」
「…………………(かむかむかむかむっ」
「どうだ美味いだろ!!? これはなぁ、俺の息子も小さい頃すごい好きでな………。だから色々思い出の駄菓子なんだ……!」
懐かしいあの頃…。十年ほど前…。
まだ「父さん父さん〜」と懐いていたココノツはこいつを見るたびによくせがんだものだった………。
今では顔を合わせるたびに軽蔑の目を浴びせてくるココノツだが……。…あの頃は可愛いヤツだったよ…………!
「ただァ────!!! 時がつれて早十年!! なんとこの菓子は今若者の間で再ブームとなってるんだ!!! コースケくん!!──」
「──その要因はSNS!! つまりは『YouTuber』!!! 分かるかな!? コースケくん!!!!──」
俺は近くにあったコーラの缶を手に取り、春一番の雄叫びをあげるのだった!!!!
「──この『メントス』をコーラに一粒入れると…なんと大噴水の大噴射をするってことで!!!! YouTuberたちが続々動画にし、真似する人が続出したのさ!!!!! 化学反応でこういう噴射が起きるらしいけど……スゴイよねっ!!!!──」
「──なぁコースケく…──……、」
「………………………………………あ」
………俺は無かったことにして、トボトボとこの絵画から逃げ出した。
────────────────────────────
………
……
…
358
:
『十年ごのボクへ』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/07(金) 22:24:47 ID:sMvNuXUc0
【撮影者】不明
【作品名】
『黒い巨塔』
「……〜〜?? 黒い……、黒いか??」
さてさて、お次は風景写真。
タイトルは黒い巨塔…とのことなんだが〜……、どう見てもごく普通のありふれたビルにしか俺は見えない…。
看板マークに「(帝)」とデカデカ乗ってる普通のビルなんだけども〜…。…これはあれか?
芸術的ブルジョア感性があれば黒く見えるってやつなのかなぁ???
…ごめんっ! 撮影者さん!! 俺にはただのビルにしか見えね〜〜〜…!!!
「…と、そんなコトはどうだってよし。………それよりも俺の目が引いちまう絵がありやがったぜ…………………」
……なんで、この絵が展示されてんだ……?──ってな。
俺はその素晴らしい絵画に思いっきり食い入ってしまったんだ。
その絵が……これだ………。
【作者】────
────────鹿田ココノツッ!!!!
【作品名】────
────────『少女漫画──“恋の港町”生原稿』ッ!!!!!!
「──ぶっ!!! だっはははははははははははははぁあ──────!!!!!!! へひっひっひひひひひひひひひ!!!!!!!!!!!!!」
ひぃーひひひひ!!!! おかしっおかしい!!! あーはははっはっはっは!!!!!!
なんで!!! なんでココノツの漫画が展示されてんだよっ!!!
なに???! ココノツの奴持ち込んできたってことなの??!!!
編集部ではなく美術館に!!????? ぶふっ!!!!
しかも、わざわざ豪華なフレームに入れられてさぁ!!!
しかもわざわざ生原稿でさぁ!!!!!
いとお菓子すぎて涙が出ちゃうよ!!! だはっはっははっはっは!!!!!!
「いやぁ〜、しかし悪くないけど相変わらず女キャラに理想入りすぎてて若干だが童帝くさいな!!! それとここのセリフなんだけどちょっと読者に伝わりにくい感じがしてもう少し分かりやすさを追求してほしいな!!! あははははははっ!!!!!──」
「──って、なに長々と息子の描いた漫画に真面目な審査コメントしてんだァアアアア!!!! この俺ぇエエエ!!!!!──」
「──だっははははははははははははっはぁあァアア──────!!!!!!!」
……。
しーん………。
「…う〜ん。やっぱりココノツ《ツッコミ役》がいないとどうにも締まらんな……………」
…これ、傍から見たら一人で大爆笑してるヤバいおじさんなわけだからなぁー……。
……トネガワ先生…。次からはココノツを頼むぜ〜……? 俺一人じゃ寂しくて虚しくて馬鹿みたいじゃんかよっ!! もうっ!!
(──あっ!!! ココノツ死んだら跡継ぎいなくなるからやっぱナシで!!! 撤回!!!!)
「…ふぅ。……さて、そろそろ出るか。一通り絵画も見終わったことだしな!!」
締めにまさかのココノツを見れたことは儲け物だったが、ちょっと疲れてきたしな……。
遊び疲れた夏のボウイ──俺は美術館を出ることに決めたぜ…。
…てかよく考えたら真夜中の暗い美術館とか怖っ!!!
今更だけど動く絵も心霊的な意味で怖っ!!? 一人ぼっちでこの体験とか怖すぎじゃん!!!!
…おいおい今になってゾワゾワしだすなよ背筋ちゃん…!! もう夏だっていうのに寒気が凄いんだけどぉっ!!!!
「………あー怖ぇ。……最後の菓子でも食べて紛らわすか…」
バリッ──と、『かっぱえびせん』の封を開けてバリバリもぐもぐ。
消灯した美術館管理者に恨みを抱きながら、俺はここを後にしたぜ………………。
359
:
『十年ごのボクへ』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/07(金) 22:25:06 ID:sMvNuXUc0
ビュウゥゥウウウ………
────ベラッ
「………おっ?」
…悪いな。ここを後にするのはもう少し先の話になるぜ………。
何処からともなく風が吹き、そして何処からともなく現れた──一枚の紙。
足元に落ちていたソイツは畳まれていて……。なんか面白そうって理由で、俺は紙を拾い開いたわけよ。
そしたらもうっ、驚き!!!!
──ってほどでもないか…。
その画用紙に描かれていたのは住宅街の風景画だったんだ!
多分作者さんは小学生なんだろうな…! クレヨンで描かれたその夕焼け街は子供特有の良い味わいがあったぜ………。
恐らく【幼児部】から外れたんであろうこの絵は、【作者: 作品名:『十年ごのボクへ』】と札付き!!!
俺が唯一見逃していた絵画がポツリと落ちていたんだ──。
「…ごめんよ、君のことを忘れていて。…わざわざ見てもらいに俺のとこまで来てくれたんだな…!!」
────というわけで予定変更!!!
美術館なんて怖くなんかないさ!! 怖いなんて嘘さっ〜♪
この最後の一枚に飛び込むことで【鹿田ヨウ ナイトミュージアム編】は幕引きとしようじゃないか!!!
「──行くぜ………っ」
「ダイバー…………………──ヨウッ!!!!! ──とうっ!!!!!!!!」
レトロなその街の風景へ、最後の旅だ!!!
俺はちっちゃな画用紙に向かって、体をまっすぐに飛び込んでいった!!!
スーパーシカダ64!!! ────イッツミー…YAHOOOOOOOOOゥゥゥゥゥッ!!!!!!!!!
(ふぁふぁんふぁんふぁふぁん、ふぁん♪)
…
……
………
────────────────────────────
360
:
『十年ごのボクへ』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/07(金) 22:25:26 ID:sMvNuXUc0
秋の風が冷たく頬を撫でる。夕焼けに染まった住宅街を、一人の少年が泣きながら歩いていた。
「……なんで、なんでだよ……」
肩を震わせ、小さな声でつぶやく。
制服の袖で涙を拭うが、すぐにまた溢れてくる。
電信柱の影が伸びて、少年の小さな背中を包み込んだ。
家々の窓には温かい光が灯り、晩ごはんの匂いが漂ってくる。
どこかから子どもの笑い声が聞こえた。
その音が少年の心を余計に締めつける。
「なんで、皆あの良さが分からないんだよ…。なんでボクを異常だって決めつけるんだよ………──」
「──悲しいよ…。辛いよ………。うぅっ……」
────そんな哀しき少年を、この俺がほっとけるわけなんか当然ないだろ…?
「…やっ!! まぁ元気出しなよ、おもしろボーイ!!!」
「わっ!! (…なんだよおもしろボーイって)…おじさん、誰? ボクになんの用だよ……っ」
「オジサンはヨウ・シカダ!!! 略してマスター・ヨーダとでも呼んでくれいっ!!!」
「……いや略せよっ!! …意味がわからない。早くどっか行けって…!!」
「まあまあ〜……。とりあえず何があったのか相談に乗るぜ? どんな悩みでも、オジサンに心の内を話してごらん………!!」
「なんでだよ。お前には関係ないだろ…」
「あぁ、たしかに関係ないな」
「は?」
「でも、もう二度と会わない他人相手だからこそ、心の底からのモヤモヤを好き放題話せるんじゃないのかな? おもしろボーイ!」
「………………………──」
「──じゃあ、話すよ……」
………
……
…
361
:
『十年ごのボクへ』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/07(金) 22:25:44 ID:sMvNuXUc0
「…でさぁ!! ボクがその『バトル・ロワイヤル』の良さを話したらみんな嫌な顔しだして………っ! 終いには、先生にチクられて「異常だな」とか言われたんだよっ……!!! まさしく理不尽、絶望だっ!! ありえないだろッ!!!」
「…………へ、へー。バ、バトロワねぇ…」
藤原●也「どうしてみんな簡単に殺しらうんあお゛お゛おおおおん!!!!」でお馴染みのあの映画…。
あれの良さを教室で熱弁したこの少年は、軽いイジメ…? ──というかドン引かれたらしく。
その悩み相談を受けた俺は、急激に居心地が悪くなってしまった……。
俺、…そのバトロワの当事者なんだからな………。
「…ちょっとマスター・ヨーダ聞いてんの?! ねえ、ボクおかしくないよね?!! あの映画面白いよね!!?」
「…ㇵは、…ごめん。知らぬが仏」
「はぁっ!!? おま…、どんな悩みでも聞くつったじゃん!!!!」
「…ごめん。…じゃあ知ってキリスト」
「ふざけんな不審者オヤジッ!!!」
だって…仕方ないじゃん……。
もうね、もう…。何を答えればいいんだよ……?!
…懺悔室で「神父様、私は人を殺してしまいました」とか言われたクラスの困惑さ………。
返す言葉がないんだよ…。ごめんな、おもしろボーイ……。
「…はぁ。なんで誰も理解してくれないんだ………。ボクを、あの映画を………。みんなボクをバカにして……。馬鹿にしやがって……っ」
「……………」
…ただ、強いてボーイに返す物があるとするのなら……。
────まぁ、俺にはこれくらいしかできないよな。
「……フフッ。あまり気にするな!! ほら、これを食べて元気出すのさっ!!!」
「…はぁ? なに、これ……」
〜〜〜〜〜
【かっぱえびせん】!!!
カルビーが販売するロングセラーのスナック菓子────っ!!!
主な原料は小麦粉とえびで、独特のサクサク食感が特徴。
もはや説明不要!! 実はカルシウムたっぷりで成長期にはかかせない菓子!!(…かも!!)
〜〜〜〜〜
「……。…………──」
「──…いただきます(ボリボリ」
「…俺もな。元気がない時や苦しい時があって、そういう場面では必ず『かっぱえびせんだぞ…っ!』って呟いたもんだ」
「………(ボリボリ、ゴックン」
「かっぱえびせんは不思議な力がある。俺はこの味を忘れられな──…、」
「は? いやまっず。要らないよこれっ。あとは全部あげるね……」
…えっ?
「へ? えっ!!?? エエェェェェエエエ工工工ッ!!?????? そ、そりゃないよ!!!! あんまりだよボーイ!!!!! ボーイボーイボーーイッ!!!」
「…ショックから『おもしろ』外しやがったなこのオヤジ……。美味しくないんだし仕方ないじゃん」
「いやいやいやいや!!!! もう一回食べてみて!!! キミえび大好きだろ?!! それと同じだからほら!!!! ほら!!!!」
「うわ!! うっざいなぁ……。えびは大抵の人間好きだろ!!! 絡んでくんなよ!!!!」
362
:
『十年ごのボクへ』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/07(金) 22:26:08 ID:sMvNuXUc0
いやいやいやいやいやいやいやいや引き下がれないよっ!!!!
駄菓子を否定すること=俺のアイデンティティも否定することになんだからっ!!!!!
これじゃあ「返す言葉が思いつかないから代わりに駄菓子で…」ってプレゼントした俺が馬鹿みたいじゃん!!!!!!
訂正してよ!!!!!!! うわぁぁぁおおおおおん────…、
「あっ!!! お母さん!!!」
「…えっ?」
少年に号泣しながら抱きつくという…極めて犯罪者スレスレだった俺だけども……。
ボーイは眼の前に現れた揺れる影を見て、一目散に走っていった………。
女性の影へ、抱きつくように…………。
「ねえお母さん聞いてよ!! 今日さー、映画のバトロワ見たって話たら皆に馬鹿にされたんだけど……。お母さんなら分かるよね!?」
「あらあら、どうしたの…もう」
「バトロワは傑作だよね!? ボクは間違ってないよねっ!! ねえ!!」
「………、──」
「──なにクヨクヨしてんのよ。自分が面白いと思えばそれでいいじゃない。…安心して、母さんもあの映画好きだから……っ!」
「…お母さんっ!!!」
…へへっ。
どうやら俺もかっぱえびせんも、出る幕じゃなかったみてぇ〜だな…!
ボーイに必要なのは、菓子でもなんでもない。──母の愛だったんだ…!!
夕焼け空が目に染みるぜ…。
二人は手をつなぎ、仲良しげに話しながら帰路へつく。
おもしろボーイよ、…バトロワが面白いかは一先ず置いといて。
その母との日常も今のうちの幸せだから……、後悔しないくらいに楽しんでおけよっ…!!
…じゃあなっ!
「あっ、おじさぁーーん!!!」
「えっ?」
「かっぱえびせん…ありがとねーー!! ボクの愚痴聞いてくれてありがとーー!!! またねーー!!!」
………振り向きざま、おもしろボーイは手を振ってくれた。
なんだアイツめっ…!! ちょっとは見直したぜ…おいおい……!
「あぁ!! またネッ☆ 次会う時はえびせん(高級味)でリベンジだぜ!!! おもしろボーイ!!!」
…君とかわしたこの五分間……。忘れないぜ、俺は。
夕焼けに照らされる中、男・鹿田ヨウ。元の美術館へ戻るのだった────。
ははっ…。
「…あっ、あとさぁー。おじさーーん!!」
…ん? なんだなんだい?
別れの挨拶が物足りないのかな…?
「お前参加者だろ。」
363
:
『十年ごのボクへ』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/07(金) 22:26:32 ID:sMvNuXUc0
………………え。
「お前はここで、見てはいけないものを見た。知りすぎた。──」
「────さらばだ。鹿田ヨウ。」
ピ──────────ッ
【三十秒後、首輪が爆発します。】
え。
えっ。
え?
─────ボンッ
364
:
『十年ごのボクへ』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/07(金) 22:27:12 ID:sMvNuXUc0
◆
………
……
…
「────はぅあっ!!!!!! なに急に?! 怖っ!!!! 怖っ!!!!!!!」
…俺、疲れてんのかな……。
めちゃくちゃ怖い夢見たんだけど……。なにあの夢…。急展開すぎないっ!??
…いやぁー。冷や汗がヤバい………。
落ち着け、落ち着くんだ鹿田ヨウ…。
とりあえず一服(ココアシガレット)で冷静になろう……………。
「……はぁ、ひぃ、…ふぅーー………」
辺りは真っ暗で人の気配一つない美術館…。
メディアギャラリーにたくさんの絵や写真が飾られているが、──一切動きを見せず、固まりきっている。
…まぁ、そりゃ当たり前だよな。絵が動いたり、中に入れたりなんてできるはずないんだもの。
…そんな絵空事、『夢』じゃあるまいに…………。
「…よいしょっと。ちょっとばかり眠りすぎたが…、まぁ体力回復はされたしいっか!!──」
「──さてそろそろ佐野ちゃん探し再開すっかぁ。美術館に長居なんてガラじゃないしな………」
汗をぬぐって俺はゆっくりと歩き出した。
…あばよ。作品たち。
名だたる絵画たちを横目に通り過ぎていく……。
『少女漫画──“恋の港町”生原稿』、『コーラを飲むコースケくん』、『安藤の似顔絵とかテキトーにこんなもんでいいっしょ…』、『夜景の写生』、『らーめん祭り』、『記念写真』に、『ぶどうを持つ女性』………。
君たちを眺めていたら変な夢を見ちゃったよ。
またいつか、会えたら良いな…。はははっ。
駄菓子マイスター鹿田ヨウ──。
俺が成す行動はもはや一つしかない。
月光眩しい出口をただ歩むのみ。
それだけさ……………。
「…あっ! 『馬』は夢じゃないんだな………。チクショウゥ!!!」
入口隣の、床に散らばったマーブルチョコを見て見ぬふりしながら────。
【1日目/C7/渋●美術館/AM.3:25】
【鹿田ヨウ@だがしかし】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:駄菓子レボリューションを起こす。
2:佐野ちゃん(改めヤングドーナツ星人)を探す。
365
:
『十年ごのボクへ』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/07(金) 22:28:07 ID:sMvNuXUc0
…
……
………
"お母さん"
"…お母さん、ボクね。"
"ボク…、大人になったらね。絶対やってみせるから…。絶対にこの夢を成し遂げようと思うんだ…っ。"
"…………えっ? どんな夢なの、って? …もう、そんなの聞くまでもないでしょ。"
「『殺し合い』だよ! 悪魔のゲーム・『バトルロワイヤル』の実現さっ!!! …絶対に主催者になって、あのいけ好かないクラスメイト共を見返してやるんだっ!!」
【作者】『』
【作品名】
『十年ごのボクへ』
366
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/07(金) 22:41:13 ID:sMvNuXUc0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ④】
①没主催者候補…新道@ウシジマ、見せしめ…カズヤ@ウシジマ。→元ネタが元ネタだけに色々アウトなので没。
②没主催者候補…翼獅子@ダンジョン飯、見せしめ…海老名。→殺し合い開催の動機が思いつかなかったので没。ちなみにこのOPでは海老名は復活しません。
③没主催者候補…本田華子@あそびあそばせ、見せしめ…参加者全員。→元々あそびあそばせを出す気満々でした。その後、華子がかぐやに若干見た目が似てるってことで白銀と組ませた話も書いたのですが色々破綻しだしたのでなかったことに。
④没主催者候補…兵藤和尊@トネガワ、見せしめ…参加者全員。→コレから主催者を影武者に変更してできたのが正OPです。ヤングロワ様と大被りしたので変えました。
残りの情報…それはまだ混沌の中。
それが………平成漫画ロワ…………!
【次回】
──今日を頑張ったものにのみ明日が来る。
──男は今日死ぬとわかっていて、それでいて今日を頑張る。
【100%これ】…『終活』…黒崎
367
:
『終活』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/11(火) 11:42:00 ID:LVgxKxtY0
[登場人物] [[黒崎義裕]]
368
:
『終活』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/11(火) 11:42:19 ID:LVgxKxtY0
────………。
────…あー、もしもし………っ。
『…あっ……! これはこれは………、黒崎さまっ………!!』
────うん。悪いね……。
────夜分遅くに………!
『い、いえっ…!! とんでもない………っ! ──…ところで私めにどういったご要件が………?』
────…それがなんだがな………。
────宮本くん…、悪いけどちょっと人数集めてくれるかな………?
────今すぐ……! 圧倒的大至急………!! 呼べれる奴ら全員を…用意さ。
『……と、仰いますと…?』
────あのーー………、今スゴイことになってるらしいだろう? …渋谷………っ!
『えぇ、確かに…。──深夜、渋谷に突如として出現した巨大ドーム型バリアー。警察は原因解明と住民の安否確認を急いでいる……。──大変な事態になってますね………』
────…その、渋谷の中にね。いるわけなんだよ………っ。
────………兵頭会長がさっ…! どうやら………。
『──えっ??! 会長がっ…!? そ、それは確かな情報ですか…!?』
────うん。
────情報源は明かせないけど、確かにいるんだわ………。会長………。
────だからさ、警護の連中とか…もう誰でも良いから、とにかく人集合させて、……壊しちゃってくれない? そのバリアー…………!
『…は、はい!! 畏まりました…!! では総動員で向かわさせていただきます……っ!!!』
────うん、じゃ頼んだよ。
『はいっ………!!』
────あっ。
────それと、もう一つ。…まぁこれは小さな頼み事なんだけどもな………。
『………あ、ご命令とあらば何とでも』
────わしの部下たちに、伝言頼むよ。
────『すまない』…………って。それだけでいいや。
『……………え? 黒崎さま………?』
────…ハハッ。わしからは以上だ。…悪いがこちらも急いでるんでね。…詳しいことはまたかけ直すよ。
『……あっ、畏まりました……』
────…うん。かけ直す、さ………。また……。
────それじゃあ失礼するよ。
[通話終了]
………
……
…
369
:
『終活』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/11(火) 11:42:41 ID:LVgxKxtY0
◆
廻る、廻るよ、時代は廻る。
(♪The times go around and around.)
──コインランドリーにて、控え目に響くラジオのリクエストBGM。
どくフラワーと名乗るふざけた着ぐるみに、川へ突き落とされて十数刻経った現在。
コインランドリーにて唯一、黒崎が使っている洗濯乾燥機だけが、低い唸り声をあげながら回転を続けている。
ガコン、ガコン──。乾燥機の中で貴高い衣類がもみくちゃになって回った。
家内と娘へ、軽い別れの挨拶をLINEした黒崎は、バスローブ姿で古びたベンチに座っている様子。
彼はスマホを懐にしまうと、代わりに二枚の紙を取り出し膝元に置いた。
一枚は──参加者名簿。──厳密にはその裏面にて、黒崎は文章を綴り始めた。
黒崎の足元にて、床に散らばるおつまみのゴミや空になったハイボール缶達。その酒缶の量たるや、常人なら既にへべれけ状態であろう数だったが、ペンを握る手は真っすぐで一切震えがなかった。
殺し合い中──。
──自分が死するその時だというのに、文字は歪むことなく。
慎重居士かつテキパキと。
数分後、黒崎は財布を文鎮代わりに、完成した『遺書』を畳んでベンチ隅に置く。
これを読んでくれた方へ。
もし、貴方様がバトル・ロワイヤルに怯え、不安で恐怖で潰されそうな思いなのだったら、利根川幸雄という参加者に頼ってください。
主催者のトネガワとハンを押したかのような男が渋谷にいますが、その瓜二つな彼に助けを求めるのです。
こちらが、『本物』の利根川さんなのですから。
信用できない気持ちは重々承知ですが、これも貴方様の為。──そして、利根川さんの為にも。
この遺書を信じて進んでみてください。
そして、もしこれを読んだ貴方が殺し合いに乗っているのだとするなら。
──勝手にすればいいんじゃないですか。私から伝えたいことはありません。
長々と失礼しました。
『プランA』が成功し、そしてこの醜悪な殺し合いが破綻で終わることを、私は天から見守っています。
…いや、『地』の底から見上げて願っています。
一参加者として以上を記す。 黒崎 義裕
「…………………。…遺書なんて初めてだったが…良く書けたな………っ。我ながら…! …はははっ」
一般論として、普通遺書を書くまでに至った者は、絶望…そして破滅しきった真っ青な顔をするものだが、黒崎は喜怒哀楽の『楽』が張り付いた表情。
一切とて心の動揺見られぬ様体で、そいつを無事書き上げた。
この落ち着きぶりも、長年帝愛に勤め続け、遂にはNo.2候補に登り詰めた彼にしか為せぬ技巧であろう。
続け様、余ったもう一枚の紙にも筆を走らせる。
罫線並ぶその紙に書かれた内容は、律儀にも弊社への退職届だった。
迅速かつ迷いなく文字を連ね、乾燥機が『ピーピー』と終わりを告げた折に書き終える。
「……おっ! もう乾いたか」
文書を丁寧に折りたたみ、封筒に入れるとそいつを片手に黒崎は腰を上げた。
向かう先は無論乾燥機。
バスローブを脱いでスーツに袖を通すと、乾燥機の温かさが鳥肌を包んでくれる。
封筒を懐にしまい、一瞬腕時計を確認した黒崎は「もう君は不要だよ」と言うように、バスローブをゴミ箱へ投げ捨てた。
宙を舞い、ヒラヒラと放物線を描いてシュートされる白上着。
綺麗に中へと捨てられたバスローブだったが、ゴミ箱は既にパンパンの状態でいる。
そのゴミの内訳としては大半──というか全てが黒崎の私物だ。厳密に言えばバカでかいデイバッグに支給品の数々。
捨てるのは勿体ない、と思ってしまうところだが、支給品はサイコロ三つにパチンコ玉に紙パックジュース(一日分の野菜)…と、何の役にも立たない物ばかりなので仕方ないだろう。
よって、黒崎は武器であるロケットランチャーと弾薬以外、今は何も持っていない状態だ。
「…。……ははっ。これももう必要ないな………っ!」
最大までに身軽となった黒崎は、最後にブランド物の腕時計を外し投げ捨てる。
ドサッ──とゴミにまみれる腕時計。電池は抜いていないので、不要と判断された今でも針は時計盤を周回し続けた。
370
:
『終活』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/11(火) 11:43:04 ID:LVgxKxtY0
「…今まで、共に…。感謝するよ。……わしの、時計…」
廻る時代。
そして、巡る回想。
「………………」
自動ドアが開く所まで足を進めた黒崎は、ふと立ち止まる。
────思えばこれまでの人生、ずっとずっと働き続け、邁進に身を捧げたものだった。
バブルの始まりが漂う時代に、黒スーツを着て望んだ帝愛の面接…。
無事面接が終わり、退室しようとした矢先「…それではあちらにお進みください……!」と促され、暗い部屋にポツンとあったサングラスをかけたら、『Congratulations…! Congratulations…!』と……。────合格通知…。
黒服デビュー以降、振り返れば弓矢の如く早い人生だった…。
拘束時間は漆黒に長く、残業の毎日だったというのに、若かりしあの日々は一瞬に感じる。気がついたら幹部候補に推薦され、気がついたら誰よりも権力者になっていた…。
同期は皆辞めたか、自分よりも下の役職で、上へ上へとトントン拍子に登っていく…。
別れと出会いをたくさん繰り返し、新元号『平成』を迎えて暫く経っても、会社を辞めず上昇し続け…。
そして、天皇退位が報道された現在──平成末期には帝愛次期会長候補にまでいる……。
「…はは、ははは………」
乾いた笑いが思わず漏れ出た。
これまでの長きに渡る人生、それに終止符を打つ場がこの渋谷なのだと、──黒崎は何を考えたか。
『自分のような悪役が生還など似合わない』と、律儀に遺書と退職届を書き、身辺整理を終えた黒崎は────何を思いに人を殺めるのだろうか。
「………悔いは、もうないさ。……さて、始めるとするかっ………!」
中年重役は、【マーダー】としての使命を全うする為、薄暗い町中へ歩を進めるのだった。
「…あっ!」
「そうだ、スマホスマホ〜っと。ちょっと嗜んでから事を起こすとしよう。…わしの趣味……、『裏アカ探し』を…………っ!!」
「………どれどれー。……ふーん……」
「…………」
「クク…クククッ、はははっ!! 人前じゃあんなに真面目ぶっても………。やっぱり裏アカじゃ年相応のツイートをするんだなっ………!! ──三嶋のお嬢さんは……!! はははは……!!」
「……はははは………」
「────よし。続きは後で、で…」
371
:
『終活』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/11(火) 11:43:23 ID:LVgxKxtY0
ブロロ、ブロロ…
ブオオオォォォォン────。荒い運転の車が目の前を通り過ぎていく。
一瞬ではあるものの同乗者の数を確認ができた。──ロン毛の運転手と男子学生、女子学生の、三名。
「さて、今度はちゃんと当たるかな…?」
ボウリング玉のような大きい弾薬をロケットランチャーにリロードし、肩に担ぐと、ホッと黒崎は一息。
もう、何のためらいも必要はない。
標準を暴走車に向けると、ゲーム開始宣言代わりの一言を吐き、簡単に引き金を引いた。
「…言っとくが………。『192』さっ……! ──わしのボウリング…ベストスコアは…………っ!」
ボンッ、シュウゥゥゥン…───────。
【1日目/D6/東京ミッ●タウン周辺街/AM.01:59】
【黒崎義裕@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】グレネードランチャー
【道具】なし
【思考】基本:【マーダー】
1:優勝を目指す。
2:その一方で、利根川幸雄と三嶋瞳には不殺でゲーム終了達成を願う。
3:車に向かってランチャーをぶち込む。
4:会長を保護したい。
5:わしはどうせ、死ぬのだろう………。
372
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/11(火) 11:50:55 ID:LVgxKxtY0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ⑤】
個人的お気に入り登場話BEST3
①『自分のことを殺し屋だと思われている一般人』…新田義史、野原ひろし
②『Chase the Light!』…利根川幸雄、黒崎義裕、三嶋瞳
③『(元)小日向くん』…小日向ひょう太、高木さん
残りの情報…それはまだ混沌の中。
それが………平成漫画ロワ…………!
【次回】
────わかるか四宮 これが俺の気持ちだ――
──ウルトラロマンティック砲。祝砲が奇跡を轟き鳴らす。
【100%これ、でも最悪締め切り遅れるかも】→『I will give you all my love…』…かぐや、会長、トラ、黒崎
373
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/16(日) 03:00:33 ID:xiXL.1JE0
【お知らせ】
・『作品把握』の一部雑感を書き直しました。全作品ポジポジな感想に仕上げたので、毒はかなり薄まったと思います。
ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/13.html
・『食うため。』のセンシのエミュ度を向上させました。ダンジョン飯再読、面白かったです!
ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/102.html
・一部キャラの口調を原作に寄せました。
・私事ですが、何だか物凄い「逆スランプ」中なので、投下頻度がかなり高くなると思います。目標は年内100話ノルマといったところでしょうか。とにかくよろしくお願いします。
それでは18日(火)の20時〜21時頃、死んでなかったらお会いしましょう。
お知らせ以上です。
374
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:25:05 ID:gIjiPh6Q0
[登場人物] [[四宮かぐや]]、[[白銀御行]]、[[島田虎信]]、[[黒崎義裕]]
375
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:25:21 ID:gIjiPh6Q0
夏。
コレでもかと肌を焦がす太陽と、アスファルトに揺蕩う陽炎が、恋心を後押ししてくれる。
そんな熱い季節。
私には夏の思い出なんて、十七年も生きて一回もなかった。
稽古に作法に堅苦しいしきたりばかり。
生まれながらにして《四宮家令嬢》という制約に雁字搦めだったから、夏休みの愉しさは全く記憶に無い。
ずっと、ずっと。真っ暗なだけの思い出が、私の夏を構成している。
暗い部屋で、窓から見えた小さな光〈花火〉だけが強いて挙げられる夏の思い出だった。
それが四宮かぐやという子女の決められた人生だというのに。
──会長…。酷いですよ。…貴方のせいなんですからね……。
周囲から『氷のかぐや姫』と蔑まれて孤立し、孤立される態度を取ってた私を生徒会に招待して。
──…酷いですよ。
一学期終了後の生徒会室で、不器用で遠回しながらも私を夏の予定に誘ってくれて。
──……あんまりですよ。
屋敷を飛び出して、何処にいるかも分からない私の居場所を、わざわざ探して声を掛けてくれて。
──……ほんとに……ひどい…ですよ……。
私なんかの為に、八時半までやってる千葉の花火大会まで連れて行ってくれて。
普段はどケチこの上ない守銭奴な癖して、あの時だけは花火会場に間に合わせようとタクシーを呼んでくれて。
後部座席で藤原さん、石上君と──皆で肩を並べながら……。夜空に溶け込む夏の光を私に見せてくれて。
それでもって、私は花火よりも、会長の横顔から目が離せなくいて────。
──会長…。…貴方のせいなんですから。
心臓の音が五月蝿くて、もう花火の音は聞こえなかったあの短夜。
人生で初めて浴衣姿で夜を通したあの夜を、私は忘れられなくなってしまったのだから。
…だから。
“不思議だ。花火を見ていると何もかも許せる。自由のない生活も、醜い裏切りも、こんなにも苦しい人生も。何もかも許していけるような気がする。(聖ヨハネ祭のアレクセイエフの言葉)”
──いつか…。『責任』。取ってくださいよね……?
──ねっ…………。
……………会長…────。
376
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:25:36 ID:gIjiPh6Q0
◆
「……………」
狭い密室で肩を並べ、小気味良いFMラジオに耳を傾け、喋りをしながら街を駆け抜ける──俺と四宮。二人きり。
このシチュエーション……、言うなれば『ドライブデート』という事になるんじゃないのか? …莫迦な考えがふと過る。
厳密には車内に運転手もいるのだから、二人きりなどではないのだが。
過去をいくら遡ろうとも、四宮と隣同士でドライブという経験は無かったのだから、不覚ながらも妙にソワソワしてぎこちない。
殺し合い中だというのに、全く俺は不埒な奴だ………。
…はは…。
『Déjà vu────ッ♪ I feel like I've been here beforeッ────♪』
『I feel ungroundedッ────────♪ It’s probably time to leave────────ッ♪』
「いやうっせぇ───────なァ?!!!! 小気味良いFMラジオ!!!!」
「…え? なんかゆうたか白銀!」
「……いや。きっと空耳ですよ。…島田さんは気にせず運転の方を…」
「………。おう。…デジャブ〜〜ッ♪ アイフィーンザセッセコー♪」
ブゥオオオオオオオォォォォォォォン………
ぐっ……。
あぁそうだ。全身がソワソワぎこちない理由は四宮なんかじゃない。──島田虎信とかいうゴロツキの荒れた運転が大いに原因だっ!!
よりにもよってカーラジオはイニ●ャルDがリクエストされたものだから、そのタイミングの悪さたるや……。
ハイテンションかつゲーム感覚で乗り回す島田某の運転で、かれこれ十五回は衝突寸前&タイヤ痕撒き散らしを繰り返している…っ。
──…これのどこがドライブデートだ!!?
──…俺が所有する普通自動車免許を見せつけても運転を代わらせてくれない、これのどこがデートなんだっ??!
…巫山戯るのも大概にしてくれっ………。
「あっつ〜〜!! しっかしなんでこうも日本の夏はバカ暑いねんな!! ジメジメもええとこやで。なぁ、姫」
「…姫………。年々気温が上昇してるものですから…。自然に抗えませんね」
「ほんまっな!! こうゆう暑い日はやっぱビールをクイッ…って。そしてクゥ〜ッ…!! ってしたい気分やで。今すぐな!」
「「…………」」
…クソッ。恐ろしい事を言い出す男め……。
普段の俺ならば今頃、最も迅速かつ、最も効率的たる対処法でこの島田某を亡き者にしたところだが…。生憎、カフェイン不足で慢性的な眠気《ナルコレプシー》に入っている。
脳は仕事を放棄し話にならない為……、仕方なく今は支給品をデイバッグに仕舞う作業中だ。
さて、ここで利根川センセーから頂戴したありがた〜い支給品の数々を紹介する。
──俺が天才であるが故のハンデだろう。支給物は見事なまでにゴミばかりであった。
主要武器のATハンドガンはまだ良いとして、『シュシュ』に『本』に『ティッシュ&ウェットティッシュ』と『ブレスケア用品』に『ハンドタオル』……。
この無作為ぶりは、もはや何か隠された暗号を模しているのか…と考察してしまう位だ。
全く以って莫迦莫迦しい……。愚の骨頂…。
こんな品々を手配して「サッ、これで殺し合いしましょう〜!」と考え至る主催者大センセーの低能ぶりは嘲笑せざるを得ない…。
──あ、笑うのは自重しておこう。ウケ狙いでこんな支給品にしてる可能性も捨て切れない。
「………あー、会長…話聞いてますか?」
「──あっ。これはすまない、四宮。…少し集中が逸れていてな…」
「…ところでさっきからやたら不自然な角度で首を曲げて……、私の顔見てこないですけど……。一体どうされたのですか?」
「…え。あぁ、あぁ。目にまつ毛が入ってしまってな。まぁ気にしないでくれ」
「……それは……。お気の毒に…」
377
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:25:54 ID:gIjiPh6Q0
そうそう、支給品が正月の福袋同然な事は四宮もまた同じく。
ゲームのカードやトランプがぎっしり、それにナイフ二本(──と言っても、一方は玩具のナイフ。刺さってもグニャっと曲がるダンボール製だ)…と。
そんな物…犬か藤原書記にでもくれてやれっ……!──口を大にしてツッコみたい位の有り様だった。…なんたる酷さだ………。
ツッコもうと思えば一番マシなアサシンナイフに対しても向けれる…。
銀色に鏡反射し、その鋭利さときたらどんな腱でも軽く掻っ捌けるであろうナイフ。──ただ、それを普通…女性参加者に渡すものか?! 男女格差を考えたら俺の銃こそ四宮に支給すべきだろうに……。
最後までチョコたっぷりの屑さだな…。凡骨利根川の頭を揺らせばきっと「カラン、カラン」と小気味よい音が聞こえるだろう。
はあ………。全く以って……………。
「くだらん。…本当にくだらんゲームに巻き込まれた物だ。…誇り高い秀知院学園の俺達がな……。そう思うよな、四み────…、」
「はい。……………………にゃあ」
「ィィぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいや──────ッ!!!!!」
「うわ!! ど、どうしたんですか会長!!」
「…しまった!! お、俺としたことが…つい四宮に顔を向けて……」
「は、はぁ??? まーたそうやって不自然に目線そらして!!!」
………くっ。…『猫耳』の、…四宮…………。
何故っ、何故あの時のコスプレグッズが四宮のデイバッグに紛れているのだっ…………!
──そして何故貴様はそれを被っているっ…………!! ──てかなんでニャアと鳴いたっ…?!
昔から猫好きで…、あのモフモフだが屈託のない耳が堪らず好みな俺だが………、それを四宮が付けるなんて……まさしく『奇跡的相性《マリアージュ》』。
今の四宮に顔なんて到底合わせられない。…何故なら優秀最美な俺らしからぬニヤケ顔を見せてしまうからだっ…。
くっ、罪深い女め…。四宮……。うっかり油断して見てしまったじゃないか…。
「…全くもうっ。どうしたんですか会長。らしくないですよ…」
「………あぁ、大丈夫。ダダダダダだだだダダダダイジョーブダカラ。…気にしないでくれ……」
「…………クッ、ハァアア〜〜〜〜っ!!! もう!! 賢ぶってても姫は察しが悪いねんな!」
「…え? なんですか島田さん。いきなり……」
「白銀はお前のその猫耳が愛おしゅうて愛おしゅうて仕方ないから顔見れへんのやろが。分かるか? お前そいつに好かれとんねん。そゆこっちゃろ。知らんけど」
「………は???」「……えっ」
「それを察して言わんのが普通女の役目やさかい。…おのれが気付かんから俺言うてもうたやないか。なぁ? 白銀!!」
…………。
この男…、まさしくカオス《不可解物体》……。
デリカシーも何も頭にない上、場の空気を混沌化させる発言をしておいてひょうひょうとした顔だ…………。
…どうするんだこの空気…。それを言われて俺はどう返せば良いというのだ……っ。
一刻も早く始末しなければ俺と四宮のメンタルが保ちそうにない…………っ。──というか島田某、何故貴様も猫耳を被っているっ…?!! 確かに二組セットだったが何故つけた………??
…頼む、四宮…。ここはどうにか話題転換を率先してくれ………。
「…あーあー、そんなことよりも……。島田さん、目的地はどこをお考えで……?」
ナイスッ!!! さすがは俺が見込んだだけある適応力だっ、四宮!!
「…あー? そんなん、…別にないで。行く先も分からぬままブラブラ走っとるんや」
「(…尾●豊かッ!!)え……。何ですか、それは…………」
「別にええやろ行き先なんか。ただ走りまくる、それに意味があんねんやから。知らんけど」
「全く解せません…。なんなんですか貴方は………」
378
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:26:11 ID:gIjiPh6Q0
「まぁまぁ四宮。…島田さんがヤバい《カオス》な事は俺も同意だが、このひたすらな運転。理には適っているぞ」
「……え? …意外ですね、こんな人の盾につくなんて。会長、その理とは一体…」
「いやおいっ。薄々感じ取ってはいたが…お前らやっぱ俺のこと見下しとんな!!!」
「簡単な事だ。猛スピードで走り回る車を襲撃できる者はいやしない。ましてや、この車は『ハマーH2』という高級車で防弾、衝撃対策もバッチリだ」
「……はあ」
「ほら見ろ、このウインドウなんかちょっとやそっとじゃ傷が付かん。これはな、水と片栗粉を混ぜた繊維複合流体(shear thickening fluid: STF)が由来で、こいつは衝撃が強ければ強いほど──…、」
──あっ、あっぶねェェェェェ!!!!
これ饒舌に語れば語るほど四宮からオタク扱いされるやつじゃねっ…?!
俺がこのまま好き放題、ハマーH2について語るとなれば…行く末は………。
“へぇ。会長って意外にもオタク系の方だったんですね。そんな石上くんみたいに……”
“…普段こそは真面目なのに、さしずめ部屋に帰れば車〜車〜…と子供のようにはしゃぐのでしょう。それが会長の本性…。まぁ、なんて──”
“────お可愛いこと。”
…あぁぁぁ、あぁあぁぁあ……。
「──ってなりそうだから雑学はこの辺にさせて貰う。勘違いするなよ? これはあくまで学園発刊の新聞から得た知識だ。…そこは勘違いするな」
「え? え?? 私何も言ってませんよ」
「…ともかくっ。車内に身を置く事は現状最大防衛となる。生存の術として、今は車の中にいた方が一番良い」
「……はあ、成程…──」
「──…。(…じゃあ尚更運転手の交代急がねばなりませんねっ会長!!ゴニョゴニョ)」
「……。(すまない…。今俺は寝不足との闘いで精一杯だ。四宮、どうにかして此奴を…ゴニョゴニョ)」
…フフッ。
まぁ生存の術とか言っておきながら、俺はあくまでゲーム優勝を目指す【マーダー】サイド。
莫迦共が潰し合い、ゲームが佳境になるまでの時間潰しとして車内にいるまでなのだがな。
…ほんの僅かな時間であるがせいぜい余生を愉しむと良い。俺に不意打ちで命落とすその時間までをな。島田某に、──そして四宮っ。
…しかしまぁ、僅かな時間といえど、参加者が小数まで絞られるタイムは十八時間…──いや、一日程要しそうだ。
この無駄な隙間時間を有効活用するべく、とりあえず俺はフランス語スピードラーニングでも聴くとしよう。
イヤホンに軽く息を吹きかけ装着…と。
…あー、コマンタレブー。
オーオー、アドモアゼル。ジュマペール…。
「まぁでもミサイルとか戦車ぶっ放されたら流石にお陀仏やけどなっ」
………………。
379
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:26:24 ID:gIjiPh6Q0
「え、…そりゃそうですけど…。島田さん?」
「いや、白銀さっき言うたやん。車ン中安全やて。でも全部が全部防げるわけちゃうで。例えば〜…、グレネードランチャーとか。あれいったらハマーH2も俺等も逝くやろ」
「……………」「…………」
「島田さん……。それって俗に言う『フラグ』って奴じゃないですか?」
「なっ! おい四宮……。それを言うな…っ!! マジに飛んでくるだろうが………」
「…あっ、すみません……」
「いや、アホかッ!! 漫画か!! そんなタイミング良くグレネードランチャー来てたまるかい!!! …大体なぁ────…、」
──大体なぁ、に続けて島田虎信が何を言おうとしたのか。今となってはもう分からない。
最初に気配を感じたのはこの俺だった。
気が付いた時にはもう、後ろ窓ギリギリに大きな『弾丸』が迫っていたのだから。
この時俺はもう熟考を諦めた────。
…回収早すぎんだろ。
ドッガガガバギャァァアアァアアアアアアアアアアアアア────────────ッッッ!!!!!!!
………
……
…
380
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:26:42 ID:gIjiPh6Q0
◆
────DIE HARD。
グレネードランチャーの雄叫びを直撃した車が、二度、三度──ゴムボールのように弾んで燃え盛る。
宙を舞い、そして地面に叩き付けられ……、メッキメキに大破してもなお最後は四輪で着地した様はさすが高級車・ハマーH2と言えようが、それでも炎に包まれてることには変わりない。
油煙の焦げ焦げしさ漂う街角。火の海と化すアスファルトに、車。静寂だった夜が地獄絵図でメラメラと照らされる。
火炎車から幾ばくか離れた場所に立っていた男────狙撃者張本人は、消炎昇る大砲にフッ…、と息衝き。
この惨状に似合わぬ落ち着いた表情と、殺人者らしからぬ格式高い背広の格好がまた不気味であった。
「お〜〜。結構燃えるなぁ…………──」
「──…これで三キル…か〜…。わしも……っ! ククッ……。若い参加者達にはまだまだ負けんぞぉ……………?」
推定年齢五十代ほどのその男は、目を擦りながら巫山戯た事をほざく。
続け様、奴は大口を開けてふわぁ〜、と欠伸を漏らした。奴にとっては、この一連の殺人など、つまらない仕事をこなしたかの如く単純作業なのだろう。
その表情からは奴の心がまったく窺えない。
一見にして昼間そこら辺にいそうな普通のリーマンであるが、今後も。──これからも、こうして人をつまらなそうに爆殺していくに違いない。
「…うーん……。ま、三十点ってとこかな………っ? クククッ……。派手さが…ちと足りんかったから…………。まぁもういいや──」
「──さっさと全員殺して……っ! ひとっ風呂浴びて帰ろう……………」
燃えゆく車内の死体はわざわざ確認するまでもない、と言うように。
中年リーマンは身体の向きを反対方向に変え、またつまらなそうにこの場を去っていった。
「…それは言い換えるのなら、『隙だらけの背中』……。フッ、誰だか知らんが哀れな男だ──」
「──そう思わないか? ────『四宮』」
「…えぇ。それよりも、この現状でその鎮まった態度……。流石ですよ…──」
「────『会長』は……。私なんて…もう、恐ろしくて……。震えが止まりを見せません………」
「心頭滅却の精神だ、四宮。この灼熱の如し煙も、そしてスリルも……。心を平静に保って、暫く俺について来い……っ」
「…ええ。了解」
────燃え盛るハマーH2から、ブロロロ…とアクセル音が鳴る。
381
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:27:02 ID:gIjiPh6Q0
「それじゃあ、────島田さん、お願いしますっ!!!! アクセル全開で、突き進んでくださいっ!!!!」
────こんなに大破し、辛うじて原型を留めているに過ぎない廃車だというのに。
「行けっ!!! 島田さん!!!!」
────かつて公道を走り回った高級車の『魂』は、まだ。
「命令すんなガキの癖になァ!!! ンなん、言われへんでも──」
────炎に負けないくらい燃え燥いでいた────。
運転手の島田某は、恨みを晴らすが如くアクセルを踏み倒し────、そして同じく前方を睨む後部座席の二人、俺と四宮。車は一気に加速するッ。
──ブゥオオオオオン────。
装甲は大火傷まみれだが、ハマーH2は最期の運転を遂行すべく、そして、誇りをかけて。
火炎車は、隙だらけのリーマン目掛けて、夜の街を110km/h限界突破で走り切る《Driv'ing High》──。
「──あのクソをぶっ潰すまでやァアアアアアアアッッ!!!!!! 喰らえェエやァアッッッ!!!!!!!」
“轢ッ”
【Night】ッッ──────────、
“逃ッ”
【of】ッッ──────────、
“炎ッ”
【Fire】ッッ──────────!!!!
──マフラーが炎を吹き散らした。
ドンッ────、
と俺自身生後以来初であろう、人を轢き飛ばした感触が伝わる。
窓ガラスが大破している故もれ聞こえたうめき声と、宙へ弾き飛ぶリーマン…。
…愚かな殺人者め。──値段にして12,000,000円。その重みある価値の高級車が、たかが豆鉄砲一発で機能停止すると思うか?
それに、此奴──ハマーH2は元々イタリアの軍用車を模して製造された物。
…闘う相手を見誤るとは、殺人者として全く情けない奴だ。
言っただろう?
この『ハマーH2は最大防衛』……とな────。
「まぁ全然安全じゃなかったですけどねっ!!! ゲホッ、ゲホ……。大破どころか爆発寸前ですから、この車!!!」
……………確かに、安全…ではない。
打撲と軽いムチウチで住んだ四宮と俺はまだいい方。島田某なんてどうして運転できるのか不思議なくらい頭から血を流したのだから、…防具としては失格の烙印だ。
………フッ。…その点は御愛嬌ということで片付けるとしよう。
382
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:27:14 ID:gIjiPh6Q0
──…キキィ──────ッ…
「おっしゃ、ほんじゃさっさと降りるで、白銀っ!! 姫っ!!」
「…はいっ。四宮、俺に掴まれ…!!」
「えっ…? あ、わ、私は一人でも大丈夫ですから…とにかく出ましょうっ!!」
熱した鉄板の如しドアを蹴り破り、無事外界へ。
この俺を殺めようなどという、莫迦な殺人者の面を一目拝もうと。島田某の後を追う形で、俺達はハマーH2の亡骸を後にした。
…………
………
……
…
383
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:27:30 ID:gIjiPh6Q0
「がっ………。ぐ……、…う……………。ぎ、ぎぎ…………………。ハァ…、ハ………………ァ………………。…ククク──」
「──クククッ………!! は、はは……はっ…! クククッ………………! …ク、ク………!!」
「…見るな、四宮」
「……………っ」
眼、鼻、耳。顔の穴という穴から血を垂らす中年リーマン。…何が可笑しいというのか、口部からは唯一笑い声が漏れ出す。
この一笑──轢かれた衝撃で前頭葉が損傷したのか、それとも自分が死に行く“今この時”をも楽しんでると言う訳か。…どちらにせよもう俺には関係ない事だ。
島田某、そしてしゃがむ俺と四宮の三人に囲まれて、ただ痙攣を続ける殺人者はまるで道端に落ちた蝉だった。──否、蝉ほど長生きできるのならもう御の字だろう。
既に虫の息となった奴は、もはやただ俺達に看取られるのみだ。
「ク…クッ…………。ク、クク……グッ………。ぎぎ……………………」
「おい、オッサン。…なに笑とんねん。あぁ? 言うてみいや、コラ」
「ちょ、ちょっと。島田さん…」
「……………………………………。…………クク、……………クッ………」
メンチを切りしゃがむ島田某と、彼に胸倉を掴まれ振り回される中年。
血痕が付着しながらも尚気高さが溢れるそのスーツからして、奴は重役か権力者と推察できるが。──まさか自分がこんな最期を迎えるとは思いもしなかったろうにな。
…仕方ない。こうして出逢ったのも何かの縁と考えるとして。惜別に俺からも最期、奴に言葉を贈るとしよう。
「…聴こえてるのか知らんが、まぁいい。良いか。これは神の憐れみだ。あれほどの事故なら貴様は普通、即死」
「………………ク、ク………………………」
「神が改心させる時間をチャンスとしてくれたのだ。この短い時間の中できちんと自戒できれば、極楽に行ける可能性も、…辛うじてだがあるだろう」
「か、会長…………………」
「………………。ふ、は…、はは………………」
「「……あっ」」
奴の震える手が、俺の胸元へとゆっくり、ゆっくり伸びて行く。
ピタッ──。皺目立つ指先の感触が伝わったのは、金の飾緒。
戦時中、戦没者の章飾から特殊な工程で金箔を集め作られた、この秀知院学園の飾りを握り──奴は何を考えたか。
スー…、と手を降ろしていき、俺との最初で最後となる会話を口にし出した。
「ク…………ク、クッ…………。まさしく……、──勝者…………っ! ……き、君は………人、生の……………勝者だ…………ね………」
「…なに?」
「この……飾緒……。…あの、…秀知院……学園、の…………。………生徒会長にしか………………与え、られぬ…。重みの……………飾り……だ」
「………それがどうしたと言う」
「………まさしく…人生の………勝者、じゃないか………………、君…は。…そんな……人間と、相まみえる…とは………………わしも運が……ない。……す、素晴らしい……………っ!! …おめでとう……っ!──」
「──Congratulations…………っ!! Cong…ratulations………っ………………!」
「………………」
「………下賤ね…。狂ってる…」
384
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:27:49 ID:gIjiPh6Q0
賛辞の言葉を送るその顔は──、──その目は、視力を失ったかのように死にきっていて、そして狂気だった。
「チッ、なにがおめでとうや? …ちゅうかオッサン。お前、視覚も聴覚も理解力もまだイカれてへんようやし、俺からも言わせてもらうわ」
「………………ク、ク………ッ……」
「自分、何十年生きとる思うねん? どこぞの馬の骨に「殺し合いしてください」ゆわれて、ほんで従うとか……。終わっとる思わんのか? 何歳やねんお前。やって善い事と悪い事の区別もできんのか」
「……………」
「親父くらい歳の奴にあんま言いたくないんやけどもなぁ………。ほんまお前屑やからなっ? 最低やぞ? ボゲッ──…、」
「……………………逆…さ…っ」
「…あぁ?」
「わしは……かれこれ…三十年近く………っ。働き…続け、たが…──」
「──……わしが……この国にしてきた…………、…その…発展の……礎……貢献……! その………圧倒的…貢献…貢献………──貢献っ……を考えれ…ば………!──」
「──若者《クズ》の……っ! 五人や六人………。…殺そう…と……問…題は無いっ……!──」
「──わしには…許される………はずだっ………。……若…造、…………違うかっ………………!!」
「……………」
「……此奴………っ」
「……………………クククッ…。はは、ははははっ…………! ハハハはははっ…! ははははははは──…、」
「もうええわ」
外道に掛ける言葉はもう無い──、と。島田某は強く握っていた胸倉を力無く離す。
ドンッ──と地面に後頭部が激突する音が響き。それが直接の死因となったか、それとも下賤同然の罵詈雑言はイタチの最後っ屁で言い終えたと同時に力尽きたのかは分からない。
どちらにせよ、リーマンは糸が切れたかのように全ての身動きを取らなくなり──。
「………お亡くなり、ですね」
「…………。けったくそ悪い……ッ…」
────不気味な笑みのまま絶命し切った。
「……………………」
「………。さて、弾丸が…四つ。…よいしょっと。結構重たいのですね、グレネードランチャーって…」
「……な?! お、おい四宮!!」
『氷のかぐや姫』──。とは、中等部時代の彼女を表す異称だが、…四宮は冷たい眼差しで、そして尚且つドライにも死体の武器を担ぎ始めた…………。
……何を……。血迷っているのか此奴は………?
385
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:28:05 ID:gIjiPh6Q0
「姫…!? お、お前なぁ……」
「…し、四宮。仮にも…人様の……。しかも今事切れたばかりの人間の武器だぞ……? お前らしくない…。も、モラルとかないのか…」
「…あら。お言葉を返すようですが、会長らしからぬ適切さに欠けた思考回路。これを誰かに拾われて、そしてまた撃たれでもしたら溜まった物じゃありませんよ」
「「………………………」」
「それとももう一度喰らいますか? この下賤な花火を」
「………。…すまない。俺とした事が」
…一応納得する素振りは見せたものだが、しかしやはり四宮…。侮れん、恐ろしい女だ。
合理性は強調する反面、倫理観は著しく欠けている……。見ろっ、ヤクザ者の島田某でさえ流石に引いてるぞ………。
この冷たさは死体を前にしたショックも含まれているのだろうが、奴は『氷のかぐや』から脱却した今でさえ恐るべき一面がある。
優秀かつ、何に対してでも常に万能で、それ故に一切の隙を見せない──小悪魔のような女。
難攻不落で、在りし日の風雲たけし城よりと付け入る隙がない。
まだ奴は牙を見せていない現状だが、この殺し合いで一番敵に回してはいけない人間はまさしく四宮。
バトル・ロワイヤル優勝も、四宮なら容易くやってのけることだろう。
末恐ろしい無惨さこの上無い。
────そんな女に、俺は惚れ。あまつさえ告白させようと四六時中策を練っているのだがな。
…………はぁ。…はは…………。
「…いやあり得へんって!! 捨てときやそんな──…、」
「さて長居は無用だ。そうだな? 四宮」
「ええ、会長」
「……おま…。お前らっちゃ、ほんま………」
後は腐り朽ち果てるだけの、中年の死体には目もくれず。
未だバチバチと熱気五月蝿いハマーH2をバックに、俺達は立ち上がり行動を開始した。
──存在意義は全くとて無い島田某がひっついてくるのは癪だが、…始末するのはまだ先としよう。
数歩進んで、涼しい風に吹かれる。
金の飾緒が揺れる中、上着のポケットに手を突っ込み、俺は今後の生存術について省察し続けた。
【黒崎義裕@中間管理録トネガワ 死亡確認】
【残り65名】
「…──────あっ!!」
──さて、『ポケットに手を突っ込んだ』俺であるが………。
その際生じた『気付き』たるや、吉なのか、凶なのか…………。
386
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:28:28 ID:gIjiPh6Q0
「? どうしたのですか? 会長」
「……拙い。…今引き返したらまだ間に合うものだろうか…………。クッ、面倒臭い……っ」
「はあ? なんやねん白銀」
「ポケットに入れた筈の…。俺の支給武器が……無いっ! 十中八九、あの車の中だ……」
「はぁ〜〜〜!?」「そんな、会長…。ドジキャラは…伊井野さんで十分ですよっ」
…無論、支給武器とはどんな莫迦でも使いこなせるあのハンドガンを指す。
そいつはポケットサイズだった為、いつ引き金を引いても良いように仕舞っておいたものだが……。──これも寝不足の限界が故かっ…。
クッ、屈辱だ………。
俺の周りには暴力奴の島田某に、ナイフ&ランチャー四宮がいる為、武器所持の必須性乏しいとも言えるが……。
ただ、それだとあまりに格好が付かないではないかっ! このっ、俺がっ!! 莫迦っ!!
……あんな小さなピストル一つにわざわざ数メートルも引き返すのは…煩わしさの極みであるが…………。
…ぐうっ、やむを得ないだろう。
「…不覚だ。……四宮、悪いが今銃を取ってくる。急いで戻るから少し待っていてくれ」
「あっ、会長!!」
…恐らく後部座席に置いてある所だろう。探す手間は無いものと考えられるが、…全く……寝不足の俺は情けない……。
来た道をUターン。──俺は忙しなく車へと身体を向けるのだった。
────その振り返った視線の先に、『俺のハンドガン』は在った。
「……………………………えっ?」
委しく言えば、『銃口』がこちらを向いていた────。
「………クククッ………!──」
「──上手いもんだったろう? 齢男の……っ、…『演技』も中々…………っ!」
────想像を驚嘆上回る光景を目にして、この時俺は考えることを完全に忘れていた。
387
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:28:48 ID:gIjiPh6Q0
────ハンカチで顔の血を拭い、ニタニタ不敵に笑う眼の前の男が。
────絶命した筈の男が、何事もなかったかのように直立し。
「だがなぁ…………、ダメじゃないか……っ!! …クククッ……。これだから……、これだから、敗者共は面白いっ…!! 滑稽で、淀みなくバカで………!! ククク──」
「──刮目…っ…………! 花火の再炎をっ…!!!」
────あの時。
────『奴』が俺の飾緒に触れたあの時、盗ったのであろうハンドガンが。
────一発だけ、放たれて。
──パァンッ
「…え? ……………………──えっ」
「……ぃっッッ!!!! 避けろッッ、白銀ぇえっ!!!!」
────中年リーマン。奴は恐ろしく狡猾で、卑怯で、そして何よりも計算高く。
────たった一発の弾丸でここにいる三人全員を滅ぼす手段を取ってみせた。
────速急、距離を詰めた島田に突き飛ばされる俺。
────やっと我に返った俺が見た『スローモーション』は。
真っすぐカミソリのように飛んでいく弾丸と──────。
狙いピッタシに『ランチャーの』黒い弾に直撃する様と──────。
「…会ち──…、」
火花。
太陽の様な眩しさと、悲鳴の様な爆轟が泣き喚き。
火花が盛大に咲き乱れる。
俺の目は熱く熱く、どこまでも焼き付かれた。
─────『今の』ランチャーの持ち主が、高く弾む光景に。
388
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:29:00 ID:gIjiPh6Q0
◆
かの奉る不死の藥の壺に、御文具して御使に賜はす。
勅使には調岩笠つきのいはかさといふ人を召して、駿河の國にあんなる山の巓いたゞきにもて行くべきよし仰せ給ふ。
峰にてすべきやう教へさせたもふ。
御文・不死の藥の壺ならべて、火をつけてもやすべきよし仰せ給ふ。
──────────(竹取物語 原文)
かぐや姫は月に連れ帰される歳、愛した男に不死の薬を残す。
だが彼女の居ない世界で生きながらえるつもりはないと、男は薬を燃やしたという美談で締められる。
でも、考えてみればあの性悪女が相手を想って不死の薬なんて渡すと思うか。
俺はいつも思うよ。
あの薬は「“いつか私を迎えに来て”」────そんなかぐや姫なりのメッセージだったと。
だけど男は言葉の裏も読まずに、美談めいた事を言って薬を燃やした。
……酷い話だ。
俺なら絶対かぐやを手放したりなんかしないのに────…。
389
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:29:17 ID:gIjiPh6Q0
◆
──ドクンッ──、バクンッ──、ドクンバクンッ、
──ドクンッ──、バクンッ──、ドクンバクンッ、
──バクンバクンバクンッバクンバクンバクンッ……
ビタンッ──────!!!
「痛っ!!! 〜〜〜っ……」
着地失敗した……っ。私とした事が…、いったくて立てないわ………。
──って!! そんな事ほざいてる場合じゃないっ!!!
拙い……っ。この事態は拙すぎるわっ…………。
──バクンバクンバクンッバクンバクンバクンッ
──バクンバクンバクンッバクンバクンバクンッ
何で死んだ筈のあの男が生きてるの……? ──とか今は推察してる余裕もない………!
アイツを見て「お亡くなりですね…」とか的外れな事を言ったのは…紛れもなくこの私。…つまりアイツの奇襲被弾は全て私の責任になる訳だけどもっ………。
不幸中の幸い…って訳かしら…。私は咄嗟にボーリング玉みたいな弾丸は投げ捨てたから外傷は特に無いし。──会長も、島田の奴も間一髪躱せたから無事みたい。
────ってそんなの本当に今は些事な訳でっ!!!!
今、最も拙く。そして今、最も迅速に対処しないといけない事……。
それが…………っ。
──バクン! バクン! バクンッ!! バクン! バクン! バクンッ!!!──バクン! バクン! バクンッ!! バクン! バクン! バクンッ!!!
──バクン! バクン! バクンッ!! バクン! バクン! バクンッ!!!──バクン! バクン! バクンッ!! バクン! バクン! バクンッ!!!
あの爆発の影響でっ……、心臓が『ショック状態』になっていること…………っ。
心臓のポンプ機能の障害…、血液量の減少……、 血管の過剰な拡張…………。
ショックを起こして私の心臓は物凄いBPMの数値を叩き出してるわっ……!
な、何よこの高鳴りぶりっ!! まるでフェスを彷彿とする騒がしさじゃない!!!
──バクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッ
──バクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッ
──バクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッ
…うぅっ………!
ほんとに拙い、拙すぎるったら…拙いの極致までまずい…!
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまず……ズイ、マズイマズイマズイマズイマズイっ!!!
【心原性ショック】……。心臓だけが不自然な位に跳びはねてて、──まずいっ!!!
このままの行く末だと、十秒後に臓器の機能不全、そしてまた十秒したら脳が停止し始め、…一分以内に死……。──死んじゃうじゃないのっ…………!!
名家に産まれて、庶民達とは遥か高く別世界を往く私が…………っ。こんな下らない所で………!
「会長を生き返らせて素直な性格にしてほしい」──だなんて、バトル・ロワイアル優勝の野望も叶わずして……っ。こんな莫迦げた死に方で……………!!
そんなの…、私の矜持が絶対許せないっ!!
ていうか、ゲーム開始最初期に死亡とか…、普通石上くんとか下賤(藤原さん)がされるものでしょおーーが…………!!
──バクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッ
──バクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッ
…冷静に…。普段らしく慎重に対処しなきゃ。
……ええ、この事態を対処するのよっ。──私…!! 四宮かぐや!!!
390
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:29:34 ID:gIjiPh6Q0
やる対処法は至ってシンプル、そして基本中の基本……!
手を心臓の位置より高く挙げて、目をゆっくり閉じた後に…深呼吸!
基本的止血法とやる事は一緒。この三パターンを意識すれば、鼓音を平静にするのも容易い…。──大丈夫だわっ………!!
──バクンバクンバクンバクンバクンッバクンバクンバクンバクンバクンッ
落ち着いて。落ち着くのよかぐや……。
鼻から大きく吸って、口からは軽くだけ吐いて………。
この繰り返しで落ち着くんだから…。だから、クールに……。
冷静にっ………。
──バクン、バクンバクンバクン。バクンッ、バクン、バクンバクンバクンバクンッ…
吸って……っ、
──バクン、バクン、バクンバクン。バクン、バクン、バクンバクン………
吐いて……ッ、
──バクン、バクン、バクン、バクン。バクン、バクン、バク………
また酸素を取り入れて………っ、
──バクン、バクン、バクン。バクン。
……二酸化炭素を透かしだけ吐き出すっ。
──バクン、バクン。バクン。バクン。
落ち着いて、落ち着いてったら…。
──バクン。バクン。バクン……。
私のっ……心臓………。
すぅ……。
──バクンっ。
──…どくん。ばくん。どくん。ばくん。どくん……
はぁ。…ハァハァ………。
やった…。
391
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:29:53 ID:gIjiPh6Q0
ようやく落ち着いてきたみたい…………。
良かったわ………。
爆破の衝撃でショック死とか……、絶対葬式で早坂が失笑する死因じゃない…。
…兎に角。
これでもう一安心ね…………。
さて、早く会長達の元に行かないといけないわ。
…足手まといとか思われたら心外も良いとこだから………。
──どくん。…ばくん。どくん。…ばくん。
…ハァハァ。もう疲れちゃうわ……。
──どくん。……………ばくん。…どくん。…………………ばくん。
……………。
あれ?
──どくん………………。……………ばくん…………………。…どく、ん……………。…………………ばく、ん……………。
…え、
…えぇ……。
──どくっ、ん…………………………………。……………ばくん…………………………。…………どく、ん……………。……………………ばく、ん………………。
落ち着いたら落ち着いたで…、今度は心拍数下がってきてるじゃないっ!!
これもこれで私死ぬんですけどっ!!! 何なのこの心臓……、まるで役立たずの…。能無しじゃないっ!!!
こ、こういう場合は……。確か…、どうすれば良いんだったかしら………………。
まずい、マズイマズイ!!
──どくっ、ん………………………………………。……………………………ばくん…………………………。
一体どうすれば良いんだっけ………。
も、もうっ……………………。
──どくっ、ん…………………………………………………………………。
…あ。
何で気付かなかったんだろ。私。
────どくん…………………………………………………………………。ばく…。
392
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:30:12 ID:gIjiPh6Q0
……フフッ。気付かなかった理由、って。
それはもう、『アドレナリン』の急分泌が原因ね。…これ。
右腕は骨も肉も滅茶苦茶に崩れてて。
右腹部から太腿にかけて大きな空洞が出来て、笑えるくらいに血が濁流してて。
顔も…。右半分は多分直視できないくらい爛れて。剥き出しの表情筋に、がん開きの眼球と、髪の毛が全焼して更地になった頭部。
焦げた肉の悪臭がキツくて。
唾液が、止まらなくて。
……心臓の音がスローペースになるのも妥当なわけね。
…………私、もう虫の息…。なんだから。
────どくん…………………………………………………………………。
……………。
…はぁ、あー…あ…。
……いざ自分が召される直前ともなると、腹が括ると言うか、案外リラックス状態になっちゃうものなのね。
右半身が凄惨になってるというのに、安らかで充足した境地にいる心地…。
不思議な安堵感に包まれて、眠気で身体が重たくて、眼の前で光る最大級のスーパームーンを見ても、何にも感じなくなる。
本当に、…この世のあらゆる事柄全てが取るに足らなく思えてくるわ。
……。
…けども。
……だけども。
393
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:30:34 ID:gIjiPh6Q0
見ないでっ…───────。
見ないでほしかった。
かつての面影もない、辛うじて原型を留めている程度の、私の顔を。
見られたくないっ───────。
特に『あの男』にだけは。
人体模型同然の容姿になった私を、構わないでほしかった。
そっとしておいてほしかった。
どうせ私はあと数十秒程の命なのだし、襲撃直後という事もあるから、さっさとこの場から逃げ去ってほしかった。
このまま。
一人でいたかった。
──そんな私の気持ちを汲み取りもしないで。
無神経にもあの男は。
白銀御行という男は。
満月を覆い隠すように私の視界いっぱいに映っていて──。
────らしくない表情で、その鋭い目付きを私の目に合わせていた。
…もう、やだったら…。
初めてですよ。…私。
会長が……。涙を流す所を見るのなんか。
……会長に膝枕されて横になるの……。初めて……ですよ。
“…や……っ!! …し…宮あぁッ…!!! …っ、ぁあ………ッ……。…………に……だったんだ……ッ。…………の、俺がぁ…………っ!”
…ちょっと……っ。
落ち着いて話してくださいよ…。
何を言ってるのか全く聞き取れないじゃないですか。
…キャラ崩壊してませんか……? 普段そんな叫んだり狼狽する人じゃないでしょうが…。
会長ったら。
“俺は………とお……が………ったっ…! ………な簡単な…………を、…っ!! ずっ…と……えな…………っ。………矜持が邪魔して………。ずっと…。ずっとっ………”
…え? 矜持が邪魔して〜……、何ですって?
あぁもう全然聞き取れないっ…!
…多分。──と言うか確実に鼓膜が破れたせいで半聞こえ状態なんでしょうけども……、会長が仮に、かなり重要な機密を話してるんだとしたら……もう最悪だわ……。
後、さっきから大粒の涙が凄い落ちてくるんですけど。
……少しは自重してくださいよ。会長らしくない。
“……はっ……………!! ……俺………………はぁっ!! …ソッ、クソクソッ……! ……………に、……………!!! …………っ!! …………しか、無いんだよっ……。四宮………………”
…はぁ。
何が無いんですか…。
394
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:30:53 ID:gIjiPh6Q0
“………れて……ない…。…まないっ………。風紀………………為だとは………あるがっ……! ………、許してくれ………”
だから何が無いんですか。…いや、あるんですか? アルナイアルナイ………って。
それでもって、何を許せば良いんですか、私は…。
“………まない。……が……の……気持ちだ……………。四宮…………、……………っ”
…あーもういいですよ。
喋らなくても結構です。──普通「もう喋るな」は死に掛けてない方が言う台詞ですがね。
“…………ら。────………かぐや……っ”
……だからもうっ。
私に構わなくて良いですよっ、会──…、
“─────────────────────…っ。”
──バクンっ。
あっ。
…絶対、私の火傷顔を見て何とも思ってない筈がないのに。
…早坂の調査曰く、グロテスクやスプラッターな物には全く耐性がない会長だというのに。
肉破けた右顔と、まだまともな左顔のちょうど半分の位置。
冷えた呼吸が漏れる、私の唇に向かって顔を近づけて…。
────会長は、勢いのままに口付けしてきた──────。
……………。
初めてと終わりを兼ね備えた、人生唯一で一度きりのキス。
初めて唇で味わったその感触は、なんだか暖かく…。イヤらしいとか、卑猥な考えは一切浮かばない純粋な柔らかさ。
それでいて、力か弱く派手さのないキスは、何処か寂しくて。哀しくて。
こんな状況。普段起こりうるものなら、考える事を忘れきるくらい脳は痺れて顔真っ赤になっちゃうと言うのに。
今はもう、眠気さが限界で、感情の乱れは起きなかった。
“…………だろう。…もう………、…にな…………”
相変わらず、会長が何を喋ったのか、読唇術に切り替えてみても把握出来なかった。
…勿体ない気もしますが、まぁもういいでしょう。
395
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:31:08 ID:gIjiPh6Q0
…………それよりも。
それよりも、会長。
お忘れですか。
恋愛関係に於いて、『好きになった方が【敗け】』は絶対のルール。
即ち、行為を認め、告白することは【敗北】を意味するのですよ。
…恋愛は、戦。
プライドが高くて、常に努力家の会長が、こんなチンケな所で隙を見せちゃうだなんて……。
フフッ………!
………………。
さて、そろそろ…時間……ですね…………。
会長……。
私は僅かながらの間…、天高くの敗者待機部屋で貴方がどう足掻くか見物してますから…………。
紅茶でも嗜みながらずっとずっと…、観戦を愉しむとします。
…ほんとに会長ったら…。多分お忘れなのでしょうけども……、この殺し合い…………………。
優勝したら『誰でも生き返らせる』褒美が与えられるのですよ…………。
貴方が利根川某に私の名前を挙げた、その瞬間。──最期だからって迫ってきた、あの接吻を散々な位に弄り倒してあげますから……………!
その来たる未来に怯えながら……、今のうちにメンタルを鋼化させておいてくださいよ。
いいですね…………………?
本当に……。
貴方という人は…────…、
“………すまない。………………………………四宮”
────お可愛い……………………──私だけの──…人……………っ!
396
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:31:24 ID:gIjiPh6Q0
◆
「……………………………四宮……」
四宮かぐや。
彼女の瞼を閉じさせたこの瞬間。
────俺の心中、何が壊れた。
壊れたと同時に、これまで隠れていた何かのスイッチが姿を表して。
俺は何の躊躇もなくそいつをONにした。
あぁ。…忘れる筈なんか、ないだろ。
利根川の魔力で、死亡した者を蘇生させられるということを──。
そして、あの日生徒会のメンバーで見た花火の美しさも──。すぐ隣にいたお前の浴衣姿も、笑顔も──。
──忘れてたまるものか…………。
「………………」
「……白銀ッ…。俺は……、俺はッ…! すぐ近くにいたお前が精一杯で……ッ。あんな屑親父にッ……。あの屑野郎にまんまとしてやられて、逃げられたッ…!!!」
「………島田…さん」
「…ほんますまない………ッ。申し訳…ありませんッ、白銀ッ…………! ほんま、ほんま…………ッ」
……いくら頭を下げようとも、四宮は生き返る訳がない。
……だが、だからと言って島田某。俺はお前に「謝るな」とは言わんぞ。
お前があの時バックで奴をしっかり踏み潰すなり、脈拍を確認さえすればこんな事にはならなかったのだからな。
…俺にも責任はあるが、お前に非が全く無い訳でもない。
……しっかりと、【禊】を償ってもらう。
四宮の形見であるアーミーナイフ。
握り拳に力を入れ、満月に反射させるかのように、その銀色のナイフを掲げ上げた。
「…顔は覚えたさかい……。俺が、…今まで屑共をぶち殺してきた俺がッ!! 絶対あの屑を敵討ちしたるんや──…、」
「…もう良い。……島田」
「……あ…? 何やねん…………ッ。白銀、お前──…、」
そして。
そのナイフを奴の顔手前まで突き魅せる。
島田某の言葉を遮るように────。
「復讐だ殺人だ等と野蛮で愚かな事をする暇があるなら、お前にやってもらいたいことがある」
「…あ? …何やねん。何言うてんねんなお前ッ……」
397
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:31:42 ID:gIjiPh6Q0
「────『俺を守護れ』。──この命令に従う義務が島田、お前にはある。みすみすリーマンを逃し、四宮を死に至らしめた責任としてな」
「……あぁ?」
──あの時、主催者はほざいた。『人を生き返らせることもできる』、と。
「さしずめ俺が脳。お前が肉体担当だ。…利根川某はどうやら蘇生術があるようだが、あんな低能…秀知院学園頂点であるこの俺が操れぬ筈がない──」
「──例えば、殺し合いに優勝せずとも、奴の力で……四宮…を生き返らせる。…とかな」
「……ッ!! お、お前…」
──また回想して。あの時、主催者はこうをもほざいた。『勝たなきゃいけないんだ』、と。
「…良いか。お前は肉体担当なんだ。さっきの親父のような小物と無闇矢鱈やり合って、体力を消耗させたくない。だから黙って俺の言う事を聞け。そして脳である俺を守れ」
「………チッ! そんなん言うて、お前…。勝算あんのかッ!? 勝つ秘策っちゃうモンが!! あるん言うんかッ!!」
「あるさ。…もう既にな」
「なら言うてみいやッ!!!」
──最後にもう一度だけ回想して。あの時、バス内での、俺の飾緒は一人でに震えていた。
──『武者震い』という奴だったのだろうか。絶対的自信からか、金の重みは、…いや俺は、確実に身震いしていた。
──そして、間違いなく笑っていた。
島田某にそっと耳打ちし、俺の推察並びに脱出プランを伝える。
「……。……──ッ!!! …お前、ほんまか………? それ……」
「…おいおい。疑う必要性はあるか?」
「………ッ……」
「兎に角、作戦遂行の為にも、お前にはボロ雑巾のように利用させてもらう。いいな」
「………おう。…ほんなら親父狩りは保留や。──…行くで、白銀」
「………あぁ。…お前には四宮死亡の責任を………。…俺と共に味わうまでだ………っ」
すまないな、四宮。
お前的には、俺の優勝の暁で生き返りたかったものだろうが、生憎俺は…チキンだ。
息吹短いお前に、キス一つするのさえ震えて仕方なかった俺が、──殺人に手を染められはできない。
計画ではゲーム崩壊までに最低三十六時間は用する。
長い待機となるだろうが、それまで放置することをどうか許してくれ。
…俺は、それほど迄にお前に生きていてもらいたいのだからな。
眠る四宮の頭から、焼け跡目立つ猫耳をそっと外し、頭へと被る。
現実を目の当たりにして、脳内のスイッチが【マーダー】等という楽観的かつ子供じみた選択肢から。
──現実主義派【対主催】へと切り替わった────あの死の瞬間。
俺は、絶対に忘れない。
天を見上げ『バリアー』を一睨みし、俺等二人は硝煙がキツイこの街から去っていく。
398
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:31:53 ID:gIjiPh6Q0
「………………………………」
…四宮。
お前の言いたいことは、今なら手に取るように分かる。
『優勝せずしてバトル・ロワイアル終了だなんて無理』……とでも言いたげの様子だろうな。
…………心配はいらないさ。
この程度のゲーム《殺し合い》。
『いつもの』に比べれば、百倍簡単だよ。
木更津で見せたあの夜の花火を、もう一度俺が見せてやる。
【本日の勝敗】
【四宮かぐや@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜 ────死亡】
【残り65人】
399
:
『空に消えてった 打ち上げ花火』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:32:05 ID:gIjiPh6Q0
【1日目/D6/東京ミッ●タウン周辺街/AM.02:58】
【白銀御行@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】悲哀、打撲(軽)、ムチウチ(軽)
【装備】アーミーナイフ@映画版かぐや様
【道具】猫耳@かぐや様
【思考】基本:【対主催】
1:主催者をおびき出し、四宮かぐやを生き返らせる。
2:ゲームを崩壊させる。
3:四宮の死に激しい悲しみ、自責の念。
4:四宮死亡の一因ともなった島田某を許せない。散々使い倒して、ボロ雑巾のように捨ててやる…っ。
【島田虎信@善悪の屑】
【状態】悲哀、頭部出血(軽)
【装備】なし
【道具】猫耳@かぐや様
【思考】基本:【対主催】
1:白銀の『策』を信じ、従う。
2:姫(四宮)……。ほんますまんッ……。
3:中年親父(黒崎)に復讐したい。…が、今は後回し。
【黒崎義裕@中間管理録トネガワ】
【状態】頭部出血(軽)、全身打撲(軽)
【装備】ATハンドガン
【道具】なし
【思考】基本:【マーダー】
1:どれだけ卑怯な手段を取ってでも殺しまくり、そして優勝する。
2:その一方で、利根川幸雄と三嶋瞳には不殺でゲーム終了達成を願う。
3:会長を保護したい。
4:わしはどうせ、死ぬのだろう………。
400
:
次回
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/18(火) 20:36:06 ID:gIjiPh6Q0
【次回】
────ロボットが嫌い。
──面白い陰口を喋り合えないから。
【次回】
美馬サチ、西片、ガイル
401
:
『そんなガキなら捨てちゃえば?』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/19(水) 21:51:38 ID:J31/VQ160
[登場人物] [[美馬サチ]]、[[西片]]、[[ガイル]]
402
:
『そんなガキなら捨てちゃえば?』
◆UC8j8TfjHw
:2025/02/19(水) 21:51:58 ID:J31/VQ160
出会ってまだ何時間も立ってないけどさぁー、そろそろ捨てちゃおっかな…。
この『ロボ』。
…はぁー……っ、うっぜ。
バス内見渡した限り、参加者はどれもこれもパッとしないダサい人間ばかりだったけども、──どうせ出会うなら女子の参加者が良かったわ、ほんと。
まー、女子つっても誰彼構わずウェルカムって訳じゃあないけどさ。
対象内は私よりカーストが若干下、それか同程度くらいの女子がいい。
あんまり陽キャな奴相手だと合わせるのが疲れるし、かといって腐女子()みたいなド陰キャならつるんでる私もダサい扱いされるからNGで。
まこっちみたいな毒にも薬にもならない凡な奴と、できるものなら組みたかった感じだわ。
あっ、あと願わくばおまけ要員として、陽キャで賢くて私達を守ってくれる男子とも組みたい。
顔もねー、高望みはしないけどさ、中の上くらいの男子を私は希望だわ。いくら性格が良かろうとも、不細工とかオタク系の奴はマジで無理だから。…ほんとに、無理すぎ。
あ、話変わるけどさぁー、ダセェ男子ってなんで皆揃って黒縁メガネかけてんだろね?
視力悪いにしても、シャレた眼鏡とか売ってんだからさー、自分磨きに意識すればいいのに。
そんなんだからオタク共はモテないし嫌われんだよ、って常に思うわ。女子からしたらマジあり得ないし。
ほんと、冴えない男子って何もかもダメだし気持ち悪いわぁー……。
「………高木さんっ…!! 頼む、電話に出てくれ!! 高木さん!」
──あっ。私、そのダサ男子と今つるんでんじゃん。眼鏡はかけてないけど。
…マジ最悪っしょ、私。
「………………」
「高木さん……。高木さん……っ。……………。ダメだ、何回掛けても出てこない……」
「………ハァ…」
えーと、西坂…だっけ。西村……だか、西田だか………。…どうでもいいか。
興味本位…っつーか。バトロワスタート後、何となく声を掛けてしまったのがチョー運の尽き。
この命名:『高木ロボ』は壊れたかのようにさっきから同じ人名をブツブツと喋り繰り返している。
…なんなの?
いや割と本気でなんなわけ?
「…美馬先輩…」
うわー、芋臭い顔でこっち向いてきたし。
何話したいわけ? 高木ロボさぁー。
「……もしかしてですけど…、高木さんって女子を見掛けたりしてませんか?」
はーい、これで二十二回目の『高木さん』。
んな奴知らねーし、バトロワ始まって移動なんてしてないから会うわけねーし。
普通考えりゃ分かると思うんだけど、高木ロボって案外思考回路欠陥品なんだね。
くだんないことで一々話しかけて来んなよ、っぜーな。
「……。…ごめんね。悪いけど西片君以外まだ誰とも会ってないからさ。分かんないや」
「…うぅっ、クソ……。…オレと同い年で、センター分けで茶髪の…。…とにかくその子…。──高木さんはオレとクラスメイトで探さなきゃいけないんですっ…!」
「…うん、…そう」
「オレ、いつも高木さんにからかわれてて…。その度に『次こそは見返してやろうっ!!』って意気込むんですけど、またからかわれて………。毎日毎日…。屈辱感でムカムカしながら、からかわれ続けるんですけど──」
「──そんな高木さんをっ! …そんな彼女だからこそ、今オレは守らなきゃダメなんです……。だから焦っちゃって……。本当にどこにいるか心配なんですよっ…!」
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