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【第1回放送〜】平成漫画バトル・ロワイヤル【part.2】
503
:
『Perfect Grilです。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/24(月) 20:46:33 ID:dhp0Q9MA0
ほぼ放心していた古見さんと、
「………ぁ、あ……………………」
殺人ニワトリと、
「ぁああ、ああっ……。アニキ………………アニキィイ…………………………」
────ゆっくりと、どこか満足げな笑みで倒れていった屍の。
バタンッ……………。
「…………………」
三人のみであった。
「…いや……待ってくれよォ………………。目開けろや…………──」
「──…ああああああぁぁぁっ!!!!! 堂下アニキィイイイイイ───────────ッッ!!!!!!!!!!!」
【1日目/G4/河川敷/AM.04:33】
【小宮山琴美@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】恐怖(大)
【装備】なし
【道具】スマホ
【思考】基本:【マーダー】
1:やばい『漢』(堂下)から逃げる…。
2:優勝の願い事でロッテを優勝させる。自分を黒木智樹くんが惚れるような女にさせる。
3:伊藤さんと通話しながら行動。
【エリア外】
【伊藤さん@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【思考】基本:【対危険人物→小宮山琴美】
1:コト(小宮山琴美)の暴走を止める。ついでに解説担当。
2:あの漢は一体……。
504
:
『Perfect Grilです。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/24(月) 20:46:49 ID:dhp0Q9MA0
◆
ドン、ドン、ドン、ドンッ
頭部損傷に寄る出血多量────具体的な死因は、以上の通り。
後頭部から血溜まりが伸び、血濡れの顔面と白目を青空に向ける“漢”堂下浩次。
見知らぬ美女を損得勘定抜きで助け、そして犠牲となった英雄は、こうして全身の機能を停止していった。
彼は、バットで頭を一撃され、死にいったのだ────。
「生きろッ!!! あぁあああっ!! 死ぬな、死ぬな死ぬな死ぬな……!!! 早く直れやこのクソがッ!!! アニキぃいい!!!!!」
「…………!! っ、ぁぁ………………」
だが、そんな死を認めてたまるものか──と。
漢の熱心な崇拝者である殺人ニワトリは、懸命な『心臓マッサージ』を続けていった。
ドン、ドン、ドン、ドンッ
スーツを破り、大きくはだけた胸筋に向かって行なわれる強打の幾多…。
人名蘇生の基礎すらも知らない、帝辺高校問題児のニワトリ故に、その心臓マッサージはメチャクチャな手法であったが、それでもニワトリは心臓圧迫を辞さなかった。
絶対死なせない、
死なせるわけにゃいかない、
と。
しかしニワトリの必死さも虚しく。彼を嘲笑うかのように後頭部からは流血が止まらない。
「あぁもうクソがっ!!! マジやべぇ、クソやべんだよバカ野郎ッッ!!!! 生き返れ、生き返れやッ!!!!!」
もはやマッサージ如きでは話にならないと思っただろうニワトリ。
手を止めた彼は、デイバッグからインシュリン注射を取り出し、天高く掲げる。
無論、針の行く先は胸部。
ブスリッ────と、もはや刺殺する勢いでめいいっぱい心臓を串刺し、内容液の注入を開始。
「………………ぇぅっ……………!!」
針が思いっきり肉に食い込むその光景は、憔悴しきった古見さんでさえ目を逸らすほどのものだった。
ドン、ドン、ドン、ドンッ
────心臓マッサージの再開。
「アニキ………、アニキィッ……。あんた言ったよな……。『もしもの時はこいつを使え』って……………!! 俺、忘れてねェからッ……。覚えてたからよッ……………!!!」
ドン、ドン、ドン、ドンッ
「そ、それにィッ………。あんた言っただろ…言っただろうがッ……!!! ここから出た後は………、参加者全員で草ラグビーをするって……………。ニワトリ、お前と汗を流したいって………………!!!!」
ドン、ドン、ドン、ドンッ
「だから死ぬんじゃねェよタコッ!!!! アニキ…アニキがいなくなったら、俺と…古見様はどうすりゃ……、ぐっ………!!! どうすりゃいいんだよォオオ───────ッ!!!!!」
ドン、ドン、ドン、ドンッ
「答えろ、答えろよッ!!!!──」
「──アニキィイイイイイ───────────ッッッ!!!!!!」
ドン、ドン、ドン………
505
:
『Perfect Grilです。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/24(月) 20:47:05 ID:dhp0Q9MA0
「……頼む。答えてくれよ………、アニキ………」
後頭部の血溜まりが、涙するニワトリの膝下を赤く染め上げていった。
「くっ……………。俺は…無力だ…………。一人じゃ何も出来ねぇチキンオアビーフだぜ…………。畜生ッ…、畜生ォッ………!!!!」
「…………………っ」
「うぅ…………。もう……仕方ねぇ……………。──おいっ古見様!!!!」
「……!!」
唐突に名指しされ飛び上がる古見さん。「本当は避けたかったが…仕方なかった」──と後にニワトリは語る。
というのも、堂下アニキの死を受けて、激しいパニックのニワトリ脳内はこの諺が支配していたのだ。
『二人集まれば文殊の知恵』。
今の状況にて要約するならば、「悪いがお前も救命に手伝え。つまりは、自分はマッサージしているから、古見様は『人工呼吸』をしろ」と。
ニワトリは色んな感情が籠もった震える声で、古見さんに命令した。
「…本当は、こんな可愛くてやべー美しさの古見様にやらせたくねんだがよ…………。あいにく…ッ、俺はホモじゃねェッ!!!」
「…………っ!?」
「……じんこーこきゅー、って要はキスじゃねェかよッ………。俺がもしアニキにそんな真似したら………、好きになっちまうッ…!! 男としてではなく、『一人の人間』として愛しちゃうんだよッ……………!!!!」
「……ーーっ…」
「そんなのアニキに失礼だから……。だから頼むッ!!! ホモを呼んでくるか、それとも力を貸してくれッ!!!!──」
「──ひっ、ぐぅ………!!! 堂下アニキに……じんこーこきゅーを………。頼む、してくれ……ッ。この通りだ古見様………………!!」
「……………………っ……。……」
古見さんとニワトリとで、面と面が向かうことは無かった。
何故なら、ニワトリが死体の胸上でズリズリズリィ──と土下座をしているのだから、合わせられる筈がないのである。
男同士でチュゥはしたくないと、殺マスクで口を覆う彼は話したが、それは女子である古見さんとて同じ。
断っても良かった上に、仮に人工呼吸をやろうと考えていても、こうも人工呼吸=キスを強調されてはやる気など削がれるものだった。
だが、断らない。
それは断る勇気がなかったとかそういう物ではなく、やらなきゃいけないという固い意志が古見さんにはあった。
──自分を助けてくれたこの人を、──見捨てられない…………。────そんな想い。
「……………っ!!」
──{{分かりました。}}
「…!! あ、ありがてぇ………っ!!! ありがてぇぜ、すまない古見さん…ッッ!!!!」
心優しく、他人の痛みは分かる気持ちの彼女だ。
何のためらいもなく、まずは一呼吸。
「…………………すぅ…」
死体のそばに跪き、長い髪をかきあげると古見さんは口元にチュっと。
「…………っ」
天使の息吹を堂下へ注いでいった────。
506
:
『Perfect Grilです。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/24(月) 20:47:21 ID:dhp0Q9MA0
…
……
“浩次。何やってるのよ。”
“あなたはまだここに来ちゃいけない。早く戻ってラグビーをしなさい。ね。”
「………………お袋……」
……
…
「はっ────────」
「「………………っ!!!」」
しかし流石は見る者全てを惚れさせる特性の古見さんというわけか。
その艷やかな唇が重なった次の一瞬。
まだ息一つも吹かずというのに、堂下は永い眠りから目を覚ました。
「……ッ!!!! あ、アニキ…………。アニキィイイ!!!!!」 「……っ!?」
「こ、ここは………………。──ぐっ!!!」
蘇生した先にて視界に広がったのは、驚きの表情を隠しきれない美女と、そして犬のように飛びついてくる弟分の姿。
感涙を撒き散らしながら抱き着くニワトリの感触と、ズキズキ鈍い頭部の痛覚を感じながらも、状況整理を試みる堂下だったが、
その点は流石帝愛の理不尽面接を通過した堂下だ。
自分が息絶えたこと、自分が蘇生を施されたことと、そして生き返らせた人物がかの二人であることを瞬時に理解し、そっとニワトリの頭を撫でた。
「……フフッ………。お前ら…………」
「アニキィィィイイ〜〜〜〜〜〜!!! うわああああんアニキィィィィ〜〜〜〜〜!!!!」
「…悪い。………迷惑、かけたなっ………、ニワトリ。そして、…う、美しすぎる貴方様もっ…………。…本当に有難う…………っ!! 有難う………っ!!」
「礼はこっちがしたいくらいだぜぇ〜〜!!! アニキぃ〜〜〜〜〜〜!!!!! おぉぉ〜〜〜〜ん………!!! おおん〜〜〜!!!!──」
「──あ、紹介するぜっ。この美女の名前は古見様っていうんだ…アニキ!! アニキは古見様のチュー一発でザオリクされたんだよっ!!! マジやべーだろ?! おい!!!」
「……あ? …古見、さま……………?」
「……!」
→{{古見硝子です。…本当に申し訳ありませんでした}}
「…………。………あぁ…、ああっ!! 気にしないでくれ、古見……様!!! とにかく古見様も…本当に有難う!!!! 有難う、みんな………………っ──」
「──…いや、待てよニワトリ。お前…、俺が死にかけてるときに済ませたのか…………? 彼女と、自己紹介を………」
「あ。…………………──」
「──まっ、いいじゃんそういうの!! なぁアニキ!!! ここで会ったのも縁ってヤツだぜ!!! 俺等で古見さんを守ろうじゃねぇか!! おい!!!」
「だなっ!!!」
ややギクシャク感は発生したが、ともかく。
古見硝子という存在が呼び寄せた破天荒二人組。
そして、現在殺し合い下に置いて新結成された『古見様親衛隊』。
彼ら凸凹三人組がこれから一体どんな運命を歩むというのか。
加えて、古見様親衛隊はどれだけ勢力を拡大していくのだろうか。
無論、新生古見様親衛隊の行く末は、今はまだ神のみぞ知る状態に留まっているものだが。
『一つ』だけ、はっきりと断言できることがある。
507
:
『Perfect Grilです。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/24(月) 20:47:36 ID:dhp0Q9MA0
「……あぁ〜〜〜っ!!! にしても鬱陶しいな……っ、頭の痛み……」
「あっやべぇ!!! だ、大丈夫かよ?! アニキ!!!」
「………。……面倒臭ぇけど……やるっきゃねぇよな………」
「……………?」
→{{な、何をですか?}}
────それは、堂下浩次という漢の『最強伝説』に1ページが加わったという事だ。
「…悪い、ニワトリ。そのナイフを貸してくれ」
「え? まぁいいけどよ………。一体何に…──…、」
「──なぁっ!?!????」 「!!????」
堂下は「ぐうっ…」と強く歯軋りをしたかと思えば、鋭利な刃先を自身の頭部へ滑らせる。
溢れ出る鮮血に、とんでもない激痛。
切れ味よくスーーッと頭皮に切れ込みを入れた彼は、頭髪を両手で力一杯握りしめると─────ブチブチメリメリメリメリィッ、ブチィッ。
己の頭皮を引き裂いて、赤黒い頭蓋骨を大胆に露出し始めた。
「T京ぉおお…ぉぉ……ッ、魂ぃいいぃい………………ッ」
「………うぷっ!!!? げえ…」 「……ぃぃぃ、……ぇ……………!!!」
「いぎぎぎぎぎぎぃいいっぎぎぎいいいいいいっがああああぁぁぁぁあああああっ」
鼻息荒く、歯から血が滲むほど『気合』のみで痛みに堪える堂下は、デイバッグからアロンアルファを取り出すと、ヒビ割れた部分に直接注入。
メリメリメリ………。接着剤が乾くのを待たずして、分断された頭皮にもアロンアルファを塗り込むと、無理矢理に繋ぎ合わせていった。
これで『応急措置完了』、と言いたげな様子でふぅ〜と息をつく漢・堂下。
さすがのニワトリとはいえこの漢っぷりはドン引き以上の大ゲロを吐くこととなったが、苦悶の二人なんか堂下の目には映っていない。
血濡れの顔をタオルで拭き取ると彼は二人に一喝。
「…フゥ、ハァハァ……。大丈夫だ、『身体に受けた傷はすぐ直るが、心の傷はずっと残る』……偉大なる名言だからな………っ!!」
「……あ、アニキ……………」 「…→{{…え。どういうことですか?}}」
「うっし行くぞ!!! ワンチーム…、古見様親衛隊活動の第一歩をな……!! 休んでる暇はないぞ! うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「……お、おお。おおお!!!!」 「………………〜っ」
ラガーマンとして特攻し続けた彼の強靭な肉体、そして精神を物語る────【堂下浩次最強伝説】の伝記。
その1ページがまた追記されるのであった。
508
:
『Perfect Grilです。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/24(月) 20:47:56 ID:dhp0Q9MA0
◆
………
……
…
「それでは………三、二、一……………──」
「──ミュージック、スタート…………っ!!」
サングラスをスチャッと。
堂下は上記の動きを見せた後、それを合図に音楽が鳴り響いた。
ニワトリのSpotifyから流れるは、まるでジムで流れているようなアップテンポの曲。
低音が地面を震わせ、ビルの窓ガラスが共鳴する。
♪ドゥンッ、ドゥクドゥクドゥンッ
♪ズンチャチャ、ズチャ…
「……クククッ」
「ははは、はははは…!! アニキ!!!」
「あぁ行くぞっ…! 弟よ!!」
「押忍ッッ!!!」
男二人はポキポキと指を鳴らし、一歩前へ踏み出す。
渋谷全体に響き渡るこの曲────。
この爆音の正体は何なのか────。
そして、今ここで何が始まるのか───。
荷車にて古見さんがワナワナと震える中、渋谷の朝に、ただならぬ空気が満ちていく。
唯一の常識人、古見さんがその手に持つ──いや、持たされた本のタイトルは────、
──────三嶋瞳著『私だから伝えたい ビジネスの極意』だった。
509
:
『Perfect Grilです。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/24(月) 20:48:18 ID:dhp0Q9MA0
…
……
………
♪ズンチャッチャ、チャチャチャ、ダダン
♪ズンチャッチャ、チャチャチャ、ダダン
♪ズンチャッチャ、チャチャチャ、ダダン
♫ズンチャチャン↑、ズンチャチャン↑
────【FIRST TAKE】
【♫『Perfect Girl Mishima 👁️ Hitomi』】
【堂下浩次 feat.殺人ニワトリ】
ttps://youtu.be/4Bh1nm7Ir8c
-------
510
:
『Perfect Grilです。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/24(月) 20:48:34 ID:dhp0Q9MA0
♫(三嶋書いた、情熱なくして仕事はなーしッ!!)
♫(三嶋書いた、仕事には必ず熱意と情熱が存在するゥッ!)
♫(三嶋言った、そのビジネスの頂点は自分自身ッ!! そうShow the Temple!!)
♫(彼女が法であり世界の支配者ッ、俺等はもはや三嶋先生にビビるしか無い愉快な心配者ッ)
♫(勝ち抜きたいな渋谷で死闘!! 君と見たいなお月見しよう!! 仲秋!! 郷愁!! 死臭?! I LOVE YOU!!)
♫(みんな持ってるコモンセンス!! 薬で打ってるバリーボンズ!! 俺達ゃ踊るぜコミダンス!!! 三嶋の本は神センス!!!)
♫(精神崩壊!! トネガワ新田マジ惨敗!! オーライ!! まだまだ諦めては無い!! イクラを食おうゼ、すしざんまいッッッ!!!)
♫(参加者全員崇める準備はいいか?) ♫(生還するため運気はほしいか?)
♫(さあみんな天に手を掲げて) ♫(そして今こそ読めよ、そして刮目、瞳の本ッッ!!!!)
♫(恐れるなぁ〜〜、驚くなぁ〜〜)
♫(三嶋ッ!!!)
\Three Island!!/
♫(瞳大先生ッ!!!)
\Great Teacher EYE!!! four〜!!/
♫(その気合と〜〜、魂を〜〜…──)
♫(──今ッ!!!!!)
♫(──ささげようぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお…!!!!!)
シン………。
「─────Hitomi, lolipop Perfect Girl」
511
:
『Perfect Grilです。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/24(月) 20:48:53 ID:dhp0Q9MA0
♫(MI・SHI・MAッッ!!!! MISHIMAッッ!!!!)
♫(MI・SHI・MAッッ!!!! MISHIMAッッ!!!!)
♫(MI・SHI・MAッッ!!!! MISHIMAッッ!!!!)
「─────Hitomi, lolipop Perfect Girl」
♫(We〜〜〜〜、Living 渋谷!!!!)
♫(MI・SHI・MAッッ!!!! MISHIMAッッ!!!!)
「─────Hitomi, lolipop Perfect Girl」
♫(We〜〜〜〜、beliving new world!!!!)
♫(MI・SHI・MAッッ!!!! MISHIMAッッ!!!!)
「─────Mishima Hitomi, 【Perfect Girl】」
「「…うひょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」
「「三嶋瞳大先生、バンザァァァァァァァァァァイイイイイイイッ!!!!!!! バンザァァァァァァァァァァァイ!!!!!!!」」
スラスラスラスラ…
「…………………………?」
→{{宗教…?}}
【1日目/E4/河川敷/AM.05:00】
【古見様親衛隊〜よっしゃあ漢唄〜】
【古見硝子@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】膝擦り傷(軽)、背中打撲(軽)
【装備】コルク入りバット
【道具】古見友人帳@古見さん
【思考】基本:【対主催?】
1:なんだか漢達に振り回されています……。
2:只野君たちに会いたい…。
3:小宮山さんに恐怖…。
【堂下浩次@中間管理禄トネガワ】
【状態】背中出血(大)、頭蓋骨損傷(大)
【装備】なし
【道具】どこかから盗んだ荷車、本『私だから伝えたい ビジネスの極意』
【思考】基本:【対主催】
1:三嶋瞳大先生にお会いして、忠誠を誓う。
2:殺し合いを終わらせる。
3:Never give up。ニワトリ、古見様と共に最後まで諦めない……っ!
【殺人ニワトリ(山中藤次郎)@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】サブマシンガン、100均ナイフ
【道具】拡声器
【思考】基本:【対主催】
1:堂下アニキに一生ついていく!!
2:新田…ぶっ殺すぞっ!!
3:古見様、お美しい…………。
4:みしまひとみって相変わらず誰だ??!!
512
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/24(月) 20:52:07 ID:dhp0Q9MA0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①平成漫画ロワではダンジョン飯を除いて全作品同一世界という設定です。
②大半の作品が現代日本を舞台にしているので、異世界設定にする意味はないと考えたためです。
③つまり、平成漫画ロワは『ダンジョン飯 異世界編』とも別名がつけられますね。
【次回】
『古見さん親衛隊の活動報告書です。』は明日20時から21時のどこかで投下。
513
:
『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/25(火) 20:01:54 ID:Lz7gUJNw0
[登場人物] [[古見硝子]]、[[堂下浩次]]、[[殺人ニワトリ]]
514
:
『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/25(火) 20:02:08 ID:Lz7gUJNw0
『バタフライエフェクト』……。
あの時、小宮山さんに襲われなければ、こうして二人と出逢うことはなかったでしょう。
只野くんへ。
この度、古見友人帳に新たな二つの記名が…!
バトル・ロワイヤル下において、私に友達が二人できました…!
一人は堂下浩次さん。【────堂下さんは、熱血男です】
もう一人は殺………、ニワトリくん。【────ニワトリくんは、殺マスクです】
二人とも、少し癖が強い方々なのですが、とても優しくて勇敢で、そして“夢”に向かって邁進を続ける──漢の鑑といった彼らでした。
その、堂下さん達が抱く“夢”…なんですが、参加者の三嶋瞳社長(?)に会うことを強く渇望しているそうで、私は今彼らに振り回されている……といった形です。
三嶋…瞳ちゃん……。
どのような方かはまだ分かりませんが、ここまで来ると私も会って友達になりたくなってきました。
──…もしかしたら、只野くんと一緒に行動しているの、かも…………?
…只野くん。
貴方が今どこに居て、何をしているのか。
それが分からないだなんて本当に辛くて、苦しくて、堪らない気持ちです。
友達がいなかった私に、最初に声をかけてくれて、──そして唯一無二の親友になった只野くん。貴方へ。
この広い街の中で貴方を見つけ、──それとも、見つけられることを切に願っています。
……お願いです。
只野くん………………。
助けてください……。
一体どうやったら、彼らを落ち着かせれるのか…。
私に教えてください……………………………。
「三嶋ァ!!!! 三嶋三嶋三嶋三嶋三嶋三嶋…三嶋瞳──────!!! いるんなら出てこいやっ!!!! アニキが貴方様にお会いしたいようだぜ〜───────っ!!!!!」
「三嶋大先生ェ───────!!!!! 私ですっ……!! 私っ…!!! 貴方様の熱烈な信者であるこの堂下めに………、どうかそのお姿をぉおお──────!!!!!!!!!」
「〜〜〜〜…………………っ!!!」
三嶋ちゃんの本で山積みの荷車にて。
…私は今や震えるしか行動できません…。
この状況…、会話が苦手じゃない一般の方なら、普通どう行動しているのですか……?
私は……どうすればいいのですか…………?
ヘルプ、ミー……。
…只野くんっ………………。
515
:
『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/25(火) 20:02:23 ID:Lz7gUJNw0
◆
『古見様親衛隊の活動報告内容です。 #057-A』
バババババババババンッ──────
コンビニの自動ドアガラスに走る、無数の銃弾跡。
その後、
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!」」
「………〜〜〜〜〜〜っ!!!!???」
──ガシャァァァアアアアンッッッ!!!!───────
ガラスを粉々にタックルして、ダイナミックに堂下さんらは入店。
荷車を激しく揺らし、商品棚をたくさん倒しながら、堂下さんはコピー機へと全力疾走するのでした……。
「よし……っ!!! ニワトリ、金は俺が担当する……!! とどのつまり、俺の百円玉が尽きるその時まで………、お前はコピーし続けろ………っ!!! 灰になるまで……!!!」
「押忍ッ、大蔵省ッ!!! 俺の力の見せ所だ!!! コピーしまくって…行く末は……、コピーしまくるぜぇ!!!!!!」
「あ、それと。古見様………!!!」
「……っ!??」
「貴方様も是非、お力を……っ!! 身を粉にして玉砕する我が弟に………。声援をどうかください…………!!」
「………っ!!!? ………………──」
「──………が…ん、…がんば………ががば…………──」
「──…がばばばばばばっ、ばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばばば…」
──ガーッ、シュバババババババババババババババババ…………
「おおっ!! 古見様の応援が通じてか、大量印刷が止まらねェ〜ぜ!!! まじやべぇ!! だははははっ!!!! ウケる!!!!」
「まるで確変……っ!! パチンコの…、確変………!! 喝采だっ!!! 沼が泣いてるぞ…っ!!!」
堂下さん主導のもと、ニワトリくんが印刷しているものは、…『新田義史さん』の顔写真です。
慌てた様子でカメラを遮ろうとしている、その表情の新田さん。写真下部には『この顔見たら110番。笑 こいつが新田だ!!!!』という赤い文字が……。
取り出し口から溢れ出てくるA4サイズの新田さんの波は、まさに大洪水級でした…。
「よしっ……!! もう十分だろう」
「ぁああ?!! アニキ、まだ足りねぇよ!!! もっともっと印刷して、参加者共に新田の恐ろしさを知らしめねェと……──…、」
「…いや聞け。…お前な…、どう思う………? この新田の山を見てさ……………」
「…あ? ………。……──」
516
:
『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/25(火) 20:02:34 ID:Lz7gUJNw0
「──確かにバリきめぇな!!! うしっ、ンじゃばら撒くぞぉ!!!!」
「ああ………っ!!!」
二人は手一杯に新田さん手配書を抱えると、たちまち外へ。
両手を大きく広げてバサッ──と。
不幸にもその時たまたま、ものすごい強風が吹き荒れたので、遠く広く。
何百枚にもなる新田さんは、渋谷中へと、夏空を舞い上がるのでした………………。
517
:
『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/25(火) 20:02:51 ID:Lz7gUJNw0
◆
『古見様親衛隊の活動報告内容です。 #057-B』
ガラガラガラガラ…。
荷車を手押しする熱血漢二人。
渋谷駅近くに来た折、堂下さんらは何を思いついたのか。唐突に服を脱ぎだすと……、
「………………っ!??」
「…クククッ……。さすが弟分。俺と考えることは一緒だなっ………!!」
「あたぼうだ!!! それが兄弟ってモンだぜ。一連たくしょー二人っきりの〜〜♫ 運命きょーど一体〜!!!」
「よし!!! 行くぞっ…!!」
唯一肌に身に着けている、パン……、…下着に……それぞれ『三』『嶋』と筆で書いて、線路内に侵入しました。
「「うぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!!──」」
「──古見様!! 俺等をスマホで撮ってくれや!!! あとでツイッターにあげるからよ!!!」
「はい……っ!! ピース………!!! にいっ!!」
「………………………〜〜〜〜〜…………!!(ガクガクガクガク」
────パシャッ
場面切り替わって次は吉野家。
ソースの入れ口を鼻穴に突っ込み、変顔をするニワトリさんの額には『三嶋瞳万歳』の文字が…。
「あっぷっぷ〜〜〜〜!!! はい古見様撮って撮って!!!」
「……〜〜〜〜……!!(ガクガクガクガク…」
────パシャッ
退店後。
燃え盛る電柱を見て……──というより、自ら放火し、文字通り炎柱と化したそれを見ながら……。
耳なし芳一のように全身『三嶋瞳』の文字で埋め尽くされたニワトリさんと、肉体美を魅せつけ汗を掻く堂下さんは先程同様ほぼ全裸……………。
ジッポライター(?)を持ちつつ、二人は満面の笑みでこちらにピースをしました…。
「渋谷の〜、」
「夏はぁ……、」
「「世界一熱いぜっ………!!」」
────パシャリッ……
518
:
『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/25(火) 20:03:03 ID:Lz7gUJNw0
……申し訳ありません…。
恐怖に負けて、言うことを従うしか私はできませんでした……。
注意をする勇気すらも出なかった自分が情けないです……。
「…ニワトリ。…俺の同僚に、海老谷ってヤツがいてな。そいつがかつて言っていたことを思い出したんだ──」
「──『悪名は無名より重い…………っ!』ってな。ヤツはツイッター運用に関してはプロだったよ…………」
「ぐうっ………。がぁ、ぐうっ………!! 感動するぜ…おいぃっ…!!!!」
……。
恐らく電柱よりも大炎上しているSNSの反響は、気が弱い私には見る勇気もありません…。
519
:
『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/25(火) 20:03:20 ID:Lz7gUJNw0
◆
『古見様親衛隊の活動報告内容です。 #057-C』
舞台は再びセンター街、私は荷車上。
シューッ、カランカランカラ……
──【ミシマヒトミ 最強】
──【秒速で四十億稼ぐミシマ最強伝説】
──【三嶋瞳ッッ】
…上記のような内容を、標識からアスファルト上から、建物のシャッターに至るまで……。
街中色んな箇所に、ニワトリさんはスプレーで落書きをしていました…。
「…あ? おいコラッ!! …何をやってるんだお前は………っ!! 犯罪行為は流石に感心しないぞ………っ」
「………………………………っ……」
「ぁあ? グラフィティアートだよ。れっきとした芸術だぞゴラ!!」
「……ったく。何をやってるんだお前は………………。…やった事はもう仕方ない…。この辺でやめるんだ、ニワトリ………っ!」
「……チッ!!! 報われねェ努力だぜ……」
「…まあ、ただ、気持ちは分からんでもないがな。…ハハッ。荒くれ者だったお前が……これ程までに三嶋先生を崇拝するなんて…………。やった事は褒められんが大したもんじゃないか………っ!」
「……アニキ…」
「だが、──another case………!! もっとやり方がある…………っ!! こういう風に、な?」
そう言って堂下さんが荷台から取り出したのは一冊の本。…あの、『私だから伝えたい ビジネスの極意』です。
本屋さんを数軒ハシゴして、『私だから伝えたい ビジネスの極意』のみを山程抱えた彼らは、それをドサッと荷台に………。
汗だくになりながら、本を一冊五万円で参加者達に売ろうとしていたのでした………。
…つまり、私は今、本の山に埋もれている現状です……………。
「〜〜〜〜〜〜〜〜…………っ!!!」
「つうかアニキよォ〜。一冊五万って流石にぼり過ぎじゃねェのか??? 誰が買うんだよそれをよぉ」
「………ハハッ。何も、利益が目的じゃないさ──」
「──ただ、三嶋大先生の執筆なさったこの本は…それだけの価値があるっ…………!! 美麗、癒心、感銘………! 一文字一文字がもはや光に見える………!! この御本は、五万でも失礼なくらいさっ……………!!!」
「おお!!! さすがアニキ、そして三嶋瞳先生!!! よくわかんねぇけどマジやべぇぜ!!!!!」
「…………………………………。…………」
グシャリッ──。
車輪がどこからか飛んできた新田さん手配書を踏み潰しました……。
520
:
『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/25(火) 20:03:33 ID:Lz7gUJNw0
◆
『古見様親衛隊の活動報告内容です。 #057-D』
「おいアニキ!!! ──“【悲報】まーたバカがツイッターで犯罪自慢!!! 『ミシマヒトミ』って誰よ?www”────だってよ!!! 俺達の三嶋先生布教がまとめニュースに載ったぜ!!! うっひょやべぇ〜〜!!」
「ん? どれどれ。…おぉ、こりゃすごい……っ!! おいニワトリ、お前の顔写真がモザイク無しで至るところに貼られてるぞっ!!」
「おいおい〜、それはアニキも同じだぜ!! 有名人じゃんかよ!! 三嶋先生のお陰で俺達神じゃねぇか!!!」
「これはまさしく……。圧倒的大草原……!! ってやつだな!!」
「「ははははははははははははははっ!!!!! はははははははははははははははははは!!!!!!!!」」
…………………………。
私もその登場人物の一人として晒されてるのでしょうか…。不安でもう涙が助けを求めてます……。
「………………〜っ(ガクガクガクガク」
本屋、コンビニ荒らしに窃盗、器物損壊に放火………。
そして盗んだ荷車を走り倒す現在に至るのですが、私のバトル・ロワイヤルフレンズはまだまだ暴走を止める兆しは見せません…。
確かに今は『殺人』という重罪を強いられている状況ですが、だからといって何をしても許されるという訳ではないのに………。
…一体、何が彼らをここまで駆り立てたのでしょうか。
────…と、そう聞かれるとしたら、どう考えても『私だから伝えたい ビジネスの極意』が原因でしょう。
……──『ドグラ・マグラ』…。
読む者の精神を狂わせることで有名な著書を、私は連想してしまいます。
三嶋ちゃんの本もそういった部類なのでしょうか…。…一見はごく普通のビジネス本なのですが。
ニワトリくんらをここまでさせる、この本の魔力……。
どういった内容なのか一読してみたい好奇心と、「読んだら後戻りできなくなるよ!!」という本能的危険心が、私の心中で五分五分に戦いあっていて………、
…とても心が重苦しかったです。
「……………………………」
──堂下さんたちを咎められない自分にも嫌気が差して、情けなくて……。
本当に心が潰れそうになりながら、荷車の元、私はただ揺れ動かされ続けました。
「なあ、ニワトリ…。このバトロワが終わったらよ、帝愛にでも──…、」
「あ? アニ──…、」
「「…………あっ」」
そんな折のこと。
荷車は唐突に静止…。
────『何か』を見つけた押し手二人によりブレーキがかけられたのです。
521
:
『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/25(火) 20:03:53 ID:Lz7gUJNw0
「……………おい。…………マジかよ……………」
「……ぐっ……。チッ、クソ……………」
「……────……っ!!!」
進路を妨げるかのように、道路上にて静かに『眠っていた』者。
………私たち三人の視界に入ったのは、名も知らない女の子の……………──亡骸でした。
「「「……………………………」」」
ビュゥゥ────。どこからか吹いた微風。
その風により、女の子の髪が、まだ比較的『原型を留めている』顔半分を静かに撫でます。
…恐らく私や只野くん達と同い年で、恐らくごく普通の優しい女生徒で、そして恐ろしく…身体が爛れていたその子………。
硝煙の臭いと、血肉の焦げた空気……。
彼女がいつ、命を落としてしまったのかは分かりません。
ただ、ある日平穏な日常が『殺し合い』で失われた時、彼女はどう感じたのか、と。
そして、その悲惨な中で惨たらしく殺められて、最期の瞬間、彼女思ったのか、と。
……そう考えた時、主催者への義憤と女の子のへの無念さで、胸がグッ…と苦しくなり……、
「……………………」
私は声を失いました。
…それはおちゃらけていたニワトリくんや、あの堂下さんも同様で、周囲は沈黙で押し潰されています。
私達と同じ、一人の参加者の『死』はそれ程までの衝撃と悲惨さがありました。
ニワトリくんは、暗い顔つきに変わり、黙って亡骸を眺め続け……、
「……………………」
そして堂下さんもまた静立………。
──いえ。よく見たら、彼の大きな背中は微弱に震えていました。
声は聞こえず…──恐らく歯を食いしばりつつも、堂下さんは涙を零していたのです。
志半ばに命を絶たれた────その女の子への、追悼の涙を………。
「…ぐうっ………。がぁ、ぐぐっ……………。うっ……………」
「あ、アニキ──……………、」
「ぐうぅっ、ぅうううううううううううううううううぅぅぅううっ…………!!!!!!──」
「…アニキ…?!」
522
:
『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/25(火) 20:04:14 ID:Lz7gUJNw0
涙を堪えきれなくなった堂下さんは、とうとう我慢出来ないといった様子で亡骸に急接近をすると。
「うぅがぁあああああああああァァァァァアアアアアアァアアアアアアアアッッ!!!!!!!!! ああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!!!!!」
タタタタタ………
────ペラッ──
「……あぁ!??」 「……ぇっ…………?!!」
──女の子のスカートをめくり上げ、…真っ白な下腹部の下着をマジマジと触り出したのです。
……。
……………すみません、嘘じゃないんです。
…本当に、彼はそんな信じられないかつ、想定する限り最悪な行動をしだしたのです………。
「テ、テメェッ?!! 三嶋の本読みすぎてイカれたか?! この腐れ外道がアアアアアァッ!!!!!! ボゲ──…、」
「俺はッ─────………!!!」
「あぁ??!」
「俺は、…彼女を……、『四宮かぐや』を知っている…………………」
「…え??」
「知り合いとか……。そういうのじゃないが………っ。ぐうっ…………!! あの時、バスで………、早坂と四宮とで………っ! 俺は話をしたんだ………」
「え?」
「………ぇ…?」
523
:
『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/25(火) 20:04:35 ID:Lz7gUJNw0
…『あの時のバス。』とは即ちゲーム説明中の、数時間前のこと。
以下は堂下さんが涙ながらに語った回想です。
…
……
………
────やっ! 俺は堂下浩次! 帝愛ってブラック会社あるだろ? そこで働いてるんだ…! 君らは高校生かい?
──………。
──………………。
────なーんちゃって!!
──……え、何が?
──…堂下さん、何が「なんちゃって」なのかはサッパリですけど………。一言も冗談は言ってないのに…。
────ところで君たちは何かスポーツはやってる? どこの高校なんだ?
──…………………。
──…申し訳ありません堂下さん。……もういいですかね…?
────はははっ……!! スポーツは良いぞ!! 最近は女性のラグビーファンも増えて来てるから…、君らもやりなよ!!
──……………。
────クククッ…!! ハハハハッ!!!!
………
……
…
「ぐうっ……!!! だからこそ……俺は、怒っている………っ!!! かつてないほど、怒り、激昂、憤慨………!!──」
「──四宮を殺した………あのクズめが《主催者野郎》をっ…絶対許さない…………!!!」
そう言って、堂下さんが懐から取り出したのは一本のマジックペン。
油性の漆黒を、…四宮ちゃん…? にペチャペチャ書き殴ると、彼女の下着には────『瞳』という一文字が…………。
「あ、ぁアニキ…………………」
「とどのつまりっ…………!!! 今こそ……!! 殺し合いを終わらせる程の圧倒的カリスマ……──三嶋大先生の布教を始める時だっ!!!──」
「──死んだ四宮や……。どこかで泣いている早坂………っ!!! …それだけじゃねぇ。もう命尽きてしまった者たちや、危機に瀕している参加者の想いを背負って………っ!! 皆を助けるためにっ!!!!──」
「──俺達は俺達のやり方でバトルに抗う………っ!! …違うか?! 違うかァアッッ!!? ニワトリぃ………っ!!!」
「あ、アニキ……………。う、うっす!!!!!」
524
:
『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/25(火) 20:04:52 ID:Lz7gUJNw0
「俺は……、猛烈にやる気に漲っている…………っ!! もうこれは遊びなんかじゃねぇっ…………!! …血と汗と涙を流してもまだ足りない…真剣モードだっ!!──」
「──やるぞっ!!! 弟よっ……!!」
「押忍ッッッ!!!!」
「──撮ってくれっ!!!! 古見様っ……!!」
「っ!!??」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!!!!」」
────パシャリ………。
こうしてアップロードされた──ニワトリくん、堂下さん、…痛々しい死体の三人で完成された『三・嶋・瞳』のパンツ文字ガッツポーズ写真は、
とんでもないハイパー大炎上を見せ、堂下さんのアカウントは削除されていきました………。
…只野くん………。
これを読む頃には私はもう既にこの世には居ないのかもしれません。
…現に、私は目眩で頭が真っ白になっているのですから……………。
その白さといえば、夏の陽射しよりも、轟く入道雲よりも、…この世の何よりも真っ白で、もはや夢見心地でさえありました……………。
バタリッ
「あっ!!! 古見様?!! どうしたんだ古見様ァアアアア!!!!!!!」
(以上、古見硝子所持。『古見ノート』六頁から十七頁までを一部抜粋)
525
:
『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/25(火) 20:05:06 ID:Lz7gUJNw0
◆
…
……
………
ボォォ………
ボロボロボロ……………
“…はぁ、はぁ……。その声……。お前……か…”
“……はい。…ハァハァ、ぐうっ………”
“……………お前が全て…やったんだな…………?”
“はい。…我が親愛なる…、三嶋閣下…………っ!! 古見様親衛隊隊長となる、この私は………。貴方様の書籍に、猛烈に感動…ハァハァ…………。致しました……っ!!”
“……いや、…もはや三嶋親衛隊でしょ…。はぁはぁ…。…………痛ぃ……ッ…”
“お会いできて光栄です…。三嶋閣下…。私が貴方様を全力で御守りします。────仰せのままに”
“………。……はぁ、はぁはぁ……──”
“──…………お前は一体誰なんだ?”
───────【再開】。
526
:
『古見様親衛隊の活動内容報告書です。』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/25(火) 20:05:23 ID:Lz7gUJNw0
◆
【1日目/D6/東京ミッ●タウン周辺街/AM.05:46】
【古見様親衛隊〜よっしゃあ漢唄〜】
【古見硝子@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】気絶、膝擦り傷(軽)、背中打撲(軽)
【装備】コルク入りバット
【道具】古見友人帳@古見さん
【思考】基本:【対主催?】
1:なんだか漢達に振り回されています……。
2:只野君たちに会いたい…。
3:小宮山さんに恐怖…。
【堂下浩次@中間管理禄トネガワ】
【状態】背中出血(大)、頭蓋骨損傷(大)
【装備】なし
【道具】どこかから盗んだ荷車、本『私だから伝えたい ビジネスの極意』
【思考】基本:【対主催】
1:三嶋瞳大先生にお会いして、忠誠を誓う。
2:三嶋先生の偉大さ、素晴らしさを全参加者、…いや世界中に知らしめる。
3:殺し合いを絶対に終わらせる…っ。
4:Never give up。ニワトリ、古見様と共に最後まで諦めない……っ!
5:四宮、すまないっ………!
【殺人ニワトリ(山中藤次郎)@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】サブマシンガン、100均ナイフ
【道具】拡声器
【思考】基本:【対主催】
1:堂下アニキに一生ついていく!!
2:新田…ぶっ殺すぞっ!!
3:古見様、お美しい…………。
4:大炎上しまくって照り焼きチキンみたいにコンガリなってやるぜぇ!!!うぇ〜〜〜い!!
527
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/25(火) 20:13:09 ID:Lz7gUJNw0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①『第〇回放送』タイトルでキャラが死んだロワってありますか?
②ヘマンでは、少なくとも『第3回放送』で参加者が死にます。
【次回】
──あの日、我々は随分大きなものを掘り当てた。
──そう。この迷宮だ。
『sora tob griffin.』…センシ、なじみ、日高
528
:
『sora tob horse』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/31(月) 21:12:37 ID:S3r/h/YE0
[登場人物] [[センシ]]、[[長名なじみ]]、[[日高小春]]
529
:
『sora tob horse』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/31(月) 21:12:58 ID:S3r/h/YE0
わしの名はイズガンダの…センシ。
小さな坑夫団の一員だった。
鉱夫と言っても鉱石が目当てだった訳では無い。
戦争前の遺跡を探し、一攫千金を夢見ていた。
とはいえ、主な収穫は鉱石で、稀に歯車やレンズなどの遺物が見つかれば上々だったが、あの日────。
我々は随分と大きな物を掘り当てた。
黄金に輝く古代の城………
そう、『迷宮』じゃった。
…
……
「………なじみく…ちゃん、スマホでずっと何見てるの? …一時間もスマホと睨めっ子してるけどさぁ」
「……『ボクは今渋谷肉横丁にいるよ!! 会えたら大歓迎ー!! 笑』…っと!!(ポチポチ) ──ん? 日高っち何か喋ったかい?」
「…いや、別に何だって良いんだけども………」
「あ〜メンゴメンゴ!! ほらっ、ボクってさぁ幼馴染ワールドレコーダーな訳だろう? だから、こうして『この渋谷にもいる幼馴染』達にもLINEしてるわけなんだよ!!──」
「──この多さたるや〜…もう長丁場っ!! 重労働この上なしだよ〜日高っちぃ〜〜〜」
「…(出た。なじみくん十八番の虚言癖……。)渋谷にいる幼馴染=参加者、ね〜………。…バカみたい…」
「おいおい〜ちょっと日高っち〜〜。ざっと数えただけでもボクの友達が五十人もここにいるんだよ〜? ホントだってさぁ〜!!」
「………………」
……
…
闇の中で両目を爛々と輝かせ、吸い寄せられるように奥へ…奥へ…と進んでいく仲間たち。
野心家が多かったわしの仲間たちとはいえ、あの時の様子はかなり異常じゃった。
だが、そんな彼等の顔も…。──例え、おぞましく異様な目つきだったとはいえ、今ではもう見ることはない。
深い迷宮内に取り込まれたわしら坑夫団は、気が付けば食糧が底をつき。
…そして、食糧の後を追うように、一人…そしてまた一人。
胴体に『深い裂傷』を負って、故郷へと永遠に去っていった……。
今、成長したわしならば、きっと仲間の死に嘆き果て、
きっと闘争本能と生存術を兼ねて、殺した相手に復讐を挑み、
そしてきっと、仲間を意味もなく殺戮した──忌々しき魔物『グリフィン』に斧を向けたことじゃろう。
じゃが、あの時のわしはまだ若かった。
鉱夫の中でも最年少。
成長していたとはいえ、仲間内からも子供扱いのわしだった。
それ故に、どれだけ仲間たちが息絶えようとも、何か不可解なことがあろうとも、心を支配した感情は常に──『恐怖』一色。
とにかく死への恐怖、自分の事だけしか考えれんかった。
そして、若かったが故に、『グリフィン』という魔物に関して、わしの心に今も巣食うほどのトラウマを植え付けられた────。
530
:
『sora tob horse』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/31(月) 21:13:14 ID:S3r/h/YE0
…
……
「──……じゃあ、この、『矢口春雄』……って男子も知ってるわけ?」
「おっ!! 数ある参加者名簿の中から彼を挙げるとは…日高っち渋いチョイスだね〜ーっ!!」
「…………何それ。………別に、だけど…」
「矢口ハルオ君。彼とは幼稚園からの幼馴染さ! 矢口君はアーケードゲームのマニアでね〜〜。マニア過ぎてスト2じゃ全く敵わなかったよボク〜〜! …彼、ハメ技ばっか使うからねぇ………」
「…………!!!──」
「──え、…じゃあ…さ。…その矢口くん…って、…す、好きなモノとかあったりするのかな?」
「え? 好きなもの………? 普通に超絶倫人ベラボーマンとかディグダグとかだっけな」
「…あ、いや!! そうじゃなくてぇ〜〜!!」
「?」
「……矢口くんの…………、好きな…、…女の子のタイプとか……。どんな子に惚れてるのかな〜とか……。そういう感じを聞きたいんだけど………………──」
「──…なに聞いてんだろ、私……。はははっ……。分かるわけ無いよね…………。バカみたい……」
「……………。フッフフ………!! おい〜日高っち……。このボクの…wikipediaにも勝る情報網の広さを、あまり舐め取ったらいかんぜよぉ〜〜〜?」
「………え!!」
「人には興味なさげな矢口くんとはいえ……ズバリッ!! ──…彼はショートカットの娘が好みで………、」
「…………えっ?」
「髪色は黒髪か……、いや、どちらかと言えばブロンドカラーの娘がタイプって言ってたかな………、」
「…………………!」
「あっ、あと大人しめな性格の娘がタイプでね。例えば、学校で委員会とかを卒無く熟してく真面目系な子がさ………、」
「…………………え、え………──」
「(────そ、それって…………………──…、)」
「あとは胸も比較的大きくて〜!! フルネームは『ひ』から始まって『る』で終わる六文字のぉ〜〜、『春』って漢字が入ってる子が好きって言ってたよ〜〜〜〜〜ん」
「………やっぱり。……呆れた──」
「──ちょっとなじみちゃんふざけないでよっ!! 本気で!!!」
「あれ? …ボクなりのサプライズなつもりだったのに〜……。心外だったかい〜?? メンゴって日高っち〜〜」
「………ぃっ!! …と、ともかく………!! 今私が質問したこと絶対口外しないでよねっ?!! 特に矢口って男子には!!!」
「ラジャー!! 理解・了解・妖怪道中記〜〜!!! あ、ちなみにだけど〜。この『白銀御行』君は目に隈がある努力家、野咲ちゃんは優しい綺麗な子。根元ちゃんはアニオタで、小日向君は楽天ファン、只野くんは普通すぎる男子だよ〜〜。フフフ…、恐れ入ったかい? ボクの情報網は〜!!」
「……私が知らないの良いことに絶対嘘言ってるでしょ?」
「おっ!! ピンポーン! 大当たり〜〜!! さーて、↑の中で一人、大嘘があります! …視聴者の皆さん、果たして分かるかな〜〜〜??」
「…誰に喋ってるのっ?!」
……
…
531
:
『sora tob horse』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/31(月) 21:13:34 ID:S3r/h/YE0
──食糧が完全に尽き、餓えで眠ることさえままならなくなった頃。
──生き残っていたのはわしを含め、ギリンとブリガンの三人のみ。
──特にブリガンは、遭難後一番役に立っていなかったわしを邪見に見ており、わしの些細な行動が原因で、あの時の彼は烈火の如く怒り出した。
──極限状態と言うこともあったろう。わしに対し面倒見の良かったギリンと、ブリガンとで激しい口論が発生し、二人はわしを置いて外へ。
──怒鳴り合う声が徐々に激しくなり、大きく争う物音と、悲鳴。
──彼らが何を口論していたか、その内容は分からない。
──ただ、……外から響く…血飛沫が飛び散る音に、わしは耳を塞いでただ縮こまって、涙と共に震えていた。
──暫くして、その喧騒は恐ろしいほどに静かになった。
──唐突なことじゃった。
ガチャッ……
『ギ、ギリンッ!? 一体何が……──…、』
“じっとしてろッ!!”
『っ!!!?』
“…外は見ないほうがいい。…今しがた、グリフィンに襲われたんだ。──”
“──グリフィンは俺が殺したが、ブリガンも即死した。──”
“──………それより。グリフィンを食っちまおうか。…【アイツ】を捌いて煮込んでもすりゃ、何日かは生きられるだろう”
“さ、食事としよう”
『……………』
──その時のギリンの目は、今までの冗談好きだが冷静で、そして穏やかな目つきでは全く無く。
──彼の兜をよく見ると、【何か】鈍器で殴られたような凹みがあった。
“ほれ、スープだ。──…いただきます”
『…………──ごくりっ…』
──水で煮ただけのグリフィンスープは、獣臭と肉の硬さでそれは酷い味だったが、
──…わしは手が止まらなかった。
──夢中で咀嚼し、ゆっくりと長い時間をかけて飲み込んだ。
──…そんなわしとは対象的に、箸が止まったままボーッと放心していたのはギリン。
──小便をする、と言ってふらり出ていった彼は、
──二度と戻らなかった。
…その後、残りの肉を食いつなぎながら、迷宮の規則性に気付いたわしは、放浪を続け。
オークに捕まりしばらくは捕虜として檻に閉じ込められた。
しかし、話してみると案外気のいい連中で、古代ドワーフ語や迷宮について講義をする代わりに、茸の見分け方や魔物のあしらい方を学んだ。
…こうしてわしは、地上へ出ることができたのだ。
────…ただ、
532
:
『sora tob horse』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/31(月) 21:13:52 ID:S3r/h/YE0
……
…
「にしても、いいなぁ〜日高っちは!! 大当たりじゃないか〜!」
「え、何が?」
「もう〜〜!! 武器の話さ〜支給武器! 方や日本刀で、方やただの黒い中華鍋って……。格差社会ぱないと思わないかい!」
「…そんなこと言われたって〜。私だって、この刀重すぎて使えないし…、というか使う機会訪れてほしくないし………──」
「──それになじみちゃんの鍋もさ。ほら、取説あるでしょ? 『材料を入れれば【召喚獣】を出せます』〜って。すごい武器じゃん?」
「ちょ〜〜〜っと〜〜! 冗談がキツイよ日高っち〜〜!! だってさ…召喚獣だよ?(笑) 全く馬鹿にして……。そんな非現実的なもの出せるわけ無いじゃないかぁ〜──」
「────とか言いつつ試しちゃうのがこのボクなんだけどなっ…………!! どれどれ……、髪の毛と適当な肉類を入れたら蓋をし、魔法陣を書いて、呪文〜〜と…」
「………………」
「…(ガチャガチャ)……よし! これで準備OK〜!! 残すとこはあと呪文のみ!! ──アブラカタブラ〜ヤサイマシマシ〜メンヌキデ〜〜〜〜………っ──」
「──ほいっ!!!」
──ポンッ…
「…わっ! え、嘘…。ほんとに成功したの?!」
シュウゥゥゥ……
「…どうやらその様だね…!! タネも仕掛もない非現実…ここにありさっ!! さて、中を覗こうじゃないか日高っち!!」
「………う、うん…」
「どれどれ〜。────さぁ、闇の炎と共に、主の前へ出でよっ!!! ボクの召喚獣よっ!!!」
「………………っ」
「…………」
パカッ………
『キョェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッ』
「「……………へっ?」」
……
…
ただ、気がかりだったのは、あの時飲んだ肉スープ。
本当にあれは『グリフィン』の肉だったのか………? ということだ。
なにか物を食べる度にスープの、あの味を思い出す。
どんな魔物の肉も、記憶の味からは程遠かった。
…
……
『キョェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッッッッ』
「ハァ、ハァハァ………!! ちょっ…、なじみちゃん!? 何…?! 何この『鳥の化物』はっ??!! 何で私達に襲いかかってくるの?!! ハァハァ…」
「ボ、ボクだって理解不能だよっ??!! ハァハァ…、うげぇっ……。しかも何かこの鳥と視界が重なって、具合悪いし…………」
「??? ど、どどどういう意味…?? ハァハァ……、ハァハァ…、と、とにかく早く逃げなきゃ!!!」
『キョェエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッッ』
533
:
『sora tob horse』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/31(月) 21:14:10 ID:S3r/h/YE0
…
……
………わしはあの魔物がトラウマだ。
……
…
『キョエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッッッッ』
──ッッッ、ズガンッッ
「…きゃっ?! ぃっ、ああぁぁあああああああああ!!!!!」
「ひ、日高っち!!! ハァハァ…、大丈夫かい!??」
「…………がぁ……………。うっ、うぅ…………………」
…
……
わしは真実を知るのがこれまで恐ろしかった。
……
…
「あ、あぁあ……………。なんてこったい……。使い魔の制御が効かないよ…っ!!! こ、このままじゃ………お陀仏…じゃあないか…………!! ゲホ、ハァハァ……」
「………………………な、なじみちゃ…………。逃…げ…………」
「……ひ、日高っち………。…クウッ、なんてモン支給すんだい…トネガワ大先生は……──」
「──ハァハァ……、このままじゃ本気でヤバい、ヤバすぎうわっ酔ってきた気持ち悪ぃうげえ…………オロロロ……………」
「………………ガハァッ………………。ハァ………ハァ………………」
…
……
髭をたくさん蓄え、そして幾多の知識を取り込み、人生経験が豊富になった今でも。
あの硬い肉の弾力が、
あの酷い匂いの油が、
そして、あんまりな出来ではあるが……、これまでの食事で一番『美味かった』あの味が……………、
年老いたわしを雁字搦めにし、いつまでも『恐怖』に抱かれ続けている。
……
…
『キョエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッ』
「……………ハァハァ…………………。ハァハァ………ど、どうしたら…──…、」
「──どうしたら…………、召喚獣のっ……コントロールを……………………」
…
……
だから、わしはこれまでグリフィンと出会すのが何よりも恐怖じゃった。
……
…
534
:
『sora tob horse』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/31(月) 21:14:46 ID:S3r/h/YE0
そう。
何よりも………。
───────ガキンッ──
「………………………え?」
そして、だからこそ──。
──わしはあの忌々しきトネガワとやら主催者に、感謝をしているわけだ。
ギギギギ、ギギッ………
『…ッ、キィィィィ……キエェエエエエッ………………』
「…相変わらずじゃな、グリフィン。……と言ってもお前はわしを知らんだろう。…いや、そもそもわしとてお前の生身を見るのは初めてだから…………。──……フッ、まぁいい」
「………え?」
斧から伝わる、かのグリフィンの力強い蹄……………。
ギリンに、ブリガン………。
…五人の仲間たちを引き裂き、頭に大穴を開けたそのパワーたるや、今までのどんな魔物と比べ物にならぬくらい尋常なまでだった。
黒い蹄は斧を殴り潰そうとばかりに揺れ動かし、…斧が、──そしてわしの腕が、震えて震えて仕方なかった。
わしの眼の前には、今まさに『恐怖』が争乱挑んでおるのだ。
──襲われ、慄いている女子二人を守る為に、と。
「……確か、出会いもこんな感じだった筈…。あの時、魔物《スライム》に襲われているお前らを見て、わしは助けた。────………そうじゃよな、ライオスよ……………」
「…………え、……え? お、おじさん…。誰……………?」
ギギギギギッ
「娘よ、一つ問おう。何故、わし等人間は『恐怖』を感じると思うか?」
「……え?? そ、そんな哲学チックなこと聞かれてもボクは…──…、」
「答えは『食べる為』じゃ」
「ふぇ??」
ギギッ、ギギギ…………………
「人間は感情を持つ唯一の生命体。今日一日を、そしてこれから将来、平穏に暮らしていきたいが故に、平穏の支障となる『恐怖』を避けて生きてゆく」
「……………………?」
「それは『食』も一緒じゃ。生きる為には食わねばならん。食わねば、…死のみが待つ。」
「……………」
「なんら接点のないと思われる『食』と『恐怖』は、実はイコールで結ばれる関係性だったのだ」
「…………………──」
535
:
『sora tob horse』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/31(月) 21:15:06 ID:S3r/h/YE0
ギギッ…ギギイイイイイィイイッ
『キョェェェェェッエエエエエ………………ッッッ』
「──…え、それって違うくない? とボクは思うんだけど……」
「…フッ。なに。考え方の違いじゃ。つまり、わしが言いたいことはだ…………」
「……………つ、つまり…?」
『…キョオオオオオ…………ッ、…ェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ──────ッッッ』
──ガキンッ──────
──────『恐怖』は、ただ味わうのみ…ッ。
斧を力一杯振り絞ったわしは────…その勢いのままグリフィンの両脚を斬り断つッ────!!!
スパンッ────
『ギュウッッ…、キアアアアッ─────ッッッ』
「…えっ?!」
怯んだグリフィンに構わずして、続け様高く飛びかかり────…翼を一振りで切り落とすッ────!!!
シュンッ────
─────ドサッ……
『ッッッァアアアアアアアアアアアアア────────』
「ちょ、ちょっと……!! お、おじさんっ!!!」
紙吹雪のように舞い散る奴の羽と、響く雄叫び。
脚、そして翼をも失い、もはや赤子同然の戦闘力と化したグリフィンは、成す術なくままに地面へ強く追堕された。
ドンッ──────
『ギィ……キョギエェェエ…………………ッッッ』
「あ、あっ………!! しょ、召喚獣が……!!」
──…正直なところわし自身、今、呆気には取られておる。
気が遠くなるような長い年月、あれだけわしにトラウマを焼き付け、…そしてあれだけの仲間達を葬り去ったグリフィンを、こうも簡単に捌けるだなんて────とな。
仮説として、もしや今闘っているこやつはグリフィンに酷似した亜種なのかもしれない。
…いいや、宿命ともいえる『恐怖』を前にして、アドレナリンという実力以上のパワーが漲っていたのかもしれない。
────……もしくは、坑夫団の仲間達が、わしに力をくれているから……とか、か。
……………フッ。
何も根拠のない考えは、よすべきか。
536
:
『sora tob horse』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/31(月) 21:15:22 ID:S3r/h/YE0
「…あぁ、そうじゃった。礼を言う事を忘れておったな、主催者よ」
「…………え??」
四股を捌かれてもなおこちらに向かって、身震いのする睨みと、鋭い嘴を突きつけるグリフィン。
奴の背中上にて、わしは最後の一撃を叩きつけることで、──一つ、ピリオドが打たれる。
「…グリフィン、奴の存在は、わしの人生そのものと言っても過言ではない」
「え、ちょ!! ちょっとおじさん…!!」
「…────その人生と決着を付ける場を、曲がりなりにも設けてくれたのだから。…唯一感謝はしておくぞ、主催者……!」
「…ね、ねえおじさんっ………!!!」
────この礼は、あとでタップリと返させてもらうから、覚悟を決めておくのじゃな。
主催者………。
『キョエ…ァァァ…ァァァアアアア────…、』
────ザシュンッ
グリフィンの首に振り下ろした、風を斬ろうとの斧の一撃。
…別に、わしは奴を長年食いたくて食いたくて愛おしく感じておった魔物とは思っていない。
ただ、この狩りを成した『一瞬』は、尋常なまでにスローに感じて、周囲の雑多音も全く聞こえず、
これまでの回想が、まるで走馬灯のようにわしの周りを流れ去っていった。
─────ドサリ…………
537
:
『sora tob horse』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/31(月) 21:15:33 ID:S3r/h/YE0
「………………あぁ…………」
「あぁ…………──」
「──じゃないよぉ〜〜っ!!! お、おじさんこれボクの召喚獣だよっ??! ボクの唯一の武器なんだよ!!?? …助けてくれた点はお礼言わなきゃだけどもぉ〜〜〜…」
「……む??」
「ボクは武器無しでこれからどうすりゃいいのさぁああああああ─────────────────っ!!!!!!!!!!!??????」
ああああ……、
ぁぁぁぁぁ、ぁぁぁぁぁ………………。
「………。……うむ──」
「──そうとなれば、まずは食事だな。自己紹介は後からじゃ。支度をするぞ」
「「なにが『そうとなれば〜』…だっ!!!!(…あ、日高っち生きてたんだっ?!)」」
538
:
『sora tob horse』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/31(月) 21:15:47 ID:S3r/h/YE0
◆
………
……
…
さ〜〜〜て!!
ちょいと、これまでを振り返りタイムだよ!!
ボク達を…うん、まぁ、助けてくれたこのスーパーマンは、イズガンダのセンシ。
小さな坑夫団の一員だったそうだ!!
鉱夫と言っても鉱石が目当てだった訳では無いらしいんだけど……、
戦争前の遺跡を探し、一攫千金を夢見ていたそうなんだよ……!
「いやなじみちゃん!! それさっき聞いたから………」
「あっ、失礼失礼〜。でもボクもこうやって語りとかやってみたいモンでさぁ〜〜〜。気持ちは分かるだろう〜? 日高っち〜」
「……全然分かんないし………。…ていうかさ……(モグモグ…」
「……うん。ボクが代わりに君の気持ちを語るよ…………(モグモグ」
「…………」
……。
すっごい、…不味くない……………?
…『これ』↓↓………………。
…
……
【ヒポグリフのスープ】
・ヒポグリフのもも肉────一塊
・水────────────適量
・塩────────────適量
1:塩をもも肉に擦り込み、よく揉む。
2:沸騰した鍋に肉を入れ煮込む。
3:灰汁を取りつつ、暫く煮込み、肉に火が通ったら完成。
[エネルギー]
[タンパク質]★★★
[脂 質]
[炭水化物 ]
[カルシウム]
[鉄 分]★★★★★★
[ビタミンA]
[ビタミンB2]★
[ビタミンC]
……
…
「…………(パクパク……」
「………お世辞にも食べ進めたい料理とはいえないよね……………」
「………う〜ん。……食べ手の技術が試される味ってとこだね〜〜〜〜…。……ボク、正直ギブアップ!!! イチ抜け!!」
「あっ、ズルいっ!! 『そもそもの話、なんで私たちセンシさんと食を共にしてるか〜』、って言おうとしたとこなのに!!!」
豚肉を食べてるのか、鶏肉を食べてるのか分からない……ただ、ケモノ臭さだけは確実に口いっぱい広がって……、ヤバすぎるスープだったよ。
…まぁボクとしては、あの鳥なのか馬なのか分からない召喚獣に蹴られて無事でいる日高っちの方が気になるトコだけども。
…………まっ。
それはともかく、だね。
539
:
『sora tob horse』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/31(月) 21:16:02 ID:S3r/h/YE0
「…うっ、うぅ…………。うっ………」
「…………」
「…………センシさん…」
「センシ………。…泣くほど美味いかい」
「……いや違う。違うんだっ……。酷い臭いに硬い肉…。あの時とまんま同じな料理じゃよ…………──」
「──ただ、ずっとずっと……………。この味を飲みたかった……………──」
「──…ありがとう…………。みんな…。………ありがとう………………。うっ…………」
「……センシさん……………!」
「…ははは。涙ってさ、塩っぱいよね。──……このスープに下手な味付けはいらない。その思い出の結晶粒が、…一番味を引き立たせてくれるのさ………」
「……。…………──」
「──…なじみちゃん。その謎ポエムは余計……」
「……某サンデー的名探偵ならこうオシャレに語るってことだよ。……フッ…………」
…涙ながらに器をかきこむセンシさん。
肉を捌いてる途中、ボクが召喚(=襲った)コイツがグリフィン? ではなく、『ヒポグリフ』…という動物に、彼は気付いたらしく……。
そこから、う〜〜〜〜ん…………。まぁいろいろあって今に至るわけだけども…!
とにかく彼の語る過去を聞けば、もう涙無しには食卓を囲めないよねっ………。
一つの蟠りが溶け消えた、この食事。
ボクら日高タッグは、新たな仲間を受け入れつつ、今はただアツアツの料理を食し続けていったのさ……………………。
「………なじみちゃん残してるけどね…」
「まぁボクらは女の子だから、こんな時間にモリモリ食べるのもまずいだろう!! 二重の意味で!!」
「……まぁ、私もギブだけどさ……………」
「………。…ところで、なじみとやら。…すまぬな」
「え? なんだいセンシ〜!」
「………(なじみちゃん、呼び捨てにした……!? やば〜………)」
「お前の、その召喚獣とやら…………。事情を知らぬとはいえ斬ってしまったものでな……………。わしは償いたい思いではち切れそうだ」
「いやいや、いいんだよ〜!! センシ〜〜!! ボクにはこうしているじゃないか! 君という、頼もしい……武器が!!」
「武器呼ばわりっ?!」
「…いや、よしてくれ。わしの身勝手な判断であることは事情。……そこでお詫びと言ったらなんなのじゃが………」
「え??」
540
:
『sora tob horse』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/31(月) 21:16:25 ID:S3r/h/YE0
箸を置いて、センシがリュックサックから取り出したのは…なんとビックリ!!
────『レーザー銃』だったのさ!!
…ほうほう、なるほどと〜!!
つまり、センシはボクの武器を肉にしてしまったお詫びとして、自分の支給武器をくれたわけなんだね………!!
貰っておくのもまた義理。
ボクは快く受け取ったよ!
「…あっ。そ、その銃………」
「ん? どしたんだい〜?? 日高っち」
「…え、それスペースガンの…………──」
「──いや、やっぱり何でもないや………。とにかく良かったね、なじみちゃん」
「……? う、うんっ!!」
…な〜んか、日高っちの反応が気になるとこではあるけど………まぁとにかく!!
かくして、銃使い&ドワーフ&……小春…のパーティが、ルイーダの酒場を経由せずして自然発生した現状であるが……、
パーティには必然的に立ちはだかる相手──『敵NPC』が出現するもの…………。
できることなら、その敵NPCとは出くわさずしてグッドエンドを迎えたいゆるゲーマーなボクだが、あいにく日高っちとセンシは色んな意味でガチガチなゲーマー……。
嗚呼、この運命よ………。
果たして、ボクら三人旅の行く末はどうなるものやら……。
バトル・ロワイヤルという空前絶後のダメRPGにて、「しんでしまうとは なさけない!」のメッセージが浮かばれぬことを、今はただ願うまでだ。
「………満足した?」
「────フフッ、この程度で満足するボクじゃないよ日高っち!!──」
「──そしてセンシ!! さあ行くよ!! Partyの始まりさ!!」
「…うむっ」
「………はぁ〜あ…………」
バトル・ロワイヤル………。
嗚呼、よもやよもや…。
バトル・ロワイヤル………………。
541
:
『sora tob horse』
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/31(月) 21:16:38 ID:S3r/h/YE0
【1日目/C5/渋●肉横丁/AM.03:56】
【センシ@ダンジョン飯】
【状態】健康
【装備】斧、料理セット一式
【道具】鍋、干しスライム@ダンジョン飯
【思考】基本:【対主催】
1:殺し合いから脱出。主催者を倒す。
2:あれはヒポグリフの肉だったのか…………。うぅ、みんな…。
3:日高・なじみとパーティを組む。
4:メガネの若者(丑嶋)が心配。
【長名なじみ@古見さんは、コミュ症です。】
【状態】健康
【装備】レーザー銃@ハイスコアガール(スペースガン)
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:センシ&日高っち&ボク!! 君のためのPartyさ〜〜♪^^
2:参加者の幼馴染たちと会う!! 僕はみんなの『幼馴染』だからね
3:にしてもあのスープだけは……………無理^^;。
【日高小春@HI SCORE GIRL】
【状態】健康
【装備】橘右京の居合刀@ハイスコアガール(サムライスピリッツ)
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:なじみちゃん、センシさんと行動。
2:矢口くん、大野さんと合流したい。
3:なんか私このパーティでツッコミポジションになってない〜?!
542
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/03/31(月) 21:24:39 ID:S3r/h/YE0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①残すところあと5話で参加者二巡となりました。
②あらかじめ宣言します。そのうちの一話、『北埼玉ブルース』は時系列シャッフルにしたので若干読みにくいです。
③今更ながらバッカーノのアニメにハマったので影響受けました。あらかじめご了承ください。
【次回】
──僕は、あの時チェンソーにばらばらにされ…死にました。
──悔いは正直かなりあります。いやない方がおかしいですよね……。はは………。
──次回はそんな僕…
瞳「あーもうお兄ちゃんうっさいから黙ってて!」
瞳「次回は私メイン回の『大好きがムシはタダノくんの』ですっ!参加者でも何でもない私がなんと主役に大抜擢!えっ?それってマジやばくない?どういう構成なの?いやヤバすぎてうける!あっ、ちなみに笑介は残念ながら出てこないよ〜」
瞳「ということで来週死ななかったらこうご期待!!」
その他
『TOKYO 卍 REVENGERS』…伊井野ミコ、鰐戸三蔵、鴨ノ目武、相場晄
『悪魔とメムメムちゃん」…メムメム、兵藤和尊、佐衛門三郎二朗、遠藤サヤ
『北埼玉ブルース』…山井恋、野原ひろし、海老名菜々、うまる、マミ、デデル、マルシル、飯沼
『らぁめん再遊記 第二話〜需要と供給…?〜』…アンズ、芹沢達也、早坂、うっちー
第三巡
『我が友よ冒険者よ』…ライオス、ハルオ、来生、オルル、早坂
『人畜無骸』…吉田茉咲、札月キョーコ、土間タイヘイ、ゆり、藤原、マイク
『ビンボー生活マニュアル ぬーぼ』…コースケ、マルタ、大野
543
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/02(水) 20:29:57 ID:Ex510fAA0
【お知らせ】
イラスト名簿、ミコ描き直し完了につき工事完了です…
くぅ〜疲れましたw
ttps://w.atwiki.jp/heiseirowa/pages/12.html
544
:
『大好きが瞳はタダノくんの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/07(月) 20:11:04 ID:puUwLcSo0
[登場人物] [[佐野]]
545
:
『大好きが瞳はタダノくんの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/07(月) 20:11:23 ID:puUwLcSo0
────朝、起きたら、
「もうなにやってんのお兄ちゃん………。鬼電も鬼LINEも一切無視………。ロンリーウルフ気取りかっ!!」
────私のお兄ちゃんが、
ドンドンドンッ!!
「お兄ちゃん!! 絶対起きてるでしょ! ねえLINE見たよねー? 早く私と一緒にコンビニ行こうよー」
シーン………
「…このっロンリーウルフめ!! 分からず屋っ!! ねえってば、こんな早朝に女子一人でコンビニ行かせるなぁっ! 正しく野に放たれた羊だよ私は!! ウルフ達に襲われちゃうってば!!」
シーン………
「もう!! 入るよ!!! お兄ちゃ──…、」
ガチャッ
「……………へ?」
────死んでいました。
「……いないし」
──…多分。
546
:
『大好きが瞳はタダノくんの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/07(月) 20:11:40 ID:puUwLcSo0
◆
…おかしい。
何かがおかしかった。
時刻は現段階、四時前……。──…午前のっ…。
いくらふつつかな我が兄──只野仁人とはいえ、奴は本当に普通すぎる人間。
友達との遊び付き合いという推理もできるけど、こんな夜遅くに家にいないとは、お兄ちゃんの性格上考えられない…。
自室、リビング中、お風呂にトイレ。鞄の中も机の中も探してみたけど見つからないこの現状は、如何に…。
……あっ。
言うまでもないけど、私は逆シスコンとかじゃない。
あんな頭のトサカ以外これといって特徴がなく、成績も性格も頭脳も頭身も、スマホの壁紙でさえチョ〜普通な兄には、愛着なんてなかった…。
…そう。────ない筈だったのに…。
何なんだろう、この妙な胸騒ぎは……。
縁起でもないことを言うと、まるでお兄ちゃんはもう二度と帰ってこないんじゃ………? というような。
…なまじ同じ親から産まれた血が繋がる者同士なだけ、私はそんな嫌な予感がビシビシ脈走るのでした…………。
私のお兄ちゃんはこんな時間に──一体何処へ?──────………。
「……ま、お兄ちゃんも羽目外したい時くらいあるか。どうせ昼間には帰ってくるでしょ──」
「──コンビニは〜〜…。…もういいやっ。寝直そっと」
心の何処かで蠢く予感…。
それを奥底にしまい、私は自室へと戻っていった。
「───────っというのは第一の仮説っ!!!!!!!──」
「──もう一つの仮説はぁ〜……、そうっ!!!! 只野仁人は不運にもっ──」
テレビ、ピッ!!
『引き続き速報です。渋谷区に発生した未確認巨大型ドーム。警察は住民の安否確認を急いでいます』
「──その渋谷の中でっ!!!」
7chチャンネル、ピッ!!
『今日から皆さんにはちょっと殺し合いをしてもらいます』
「────【バトル・ロワイヤル】をさせられているっ……というのが仮説2にして最有力説だぁぁぁぁいっ!!!!!!!!!!!」
547
:
『大好きが瞳はタダノくんの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/07(月) 20:12:02 ID:puUwLcSo0
テーテーテ、テレレテー♪
テー↑、テー〜〜〜っ…↓
申し遅れました!! メンゴ★
私の名前は『只野 瞳』!!!
名字は『ただの』だけど、只者じゃないってのが私のアピールポイントだよ!! ハイ、ヨロシクゥ!!!
勉強も運動もちょ〜〜〜っと…苦手な私だけどその分アグレッシブでハイ元気!!
持ち前のスーパーテンションを活かしてもう友達の数は山の如し!!! 今は、隣の席の古見笑介くんと大親友になることを目標としてまーーす!!!!
…あっ、ねえ聞いてよね〜? その笑介くんときたらさぁ、あの子コミュ症らしくて……。自己表現が苦手みたいなんだよ〜〜。だから私が彼をクラスに馴染めるよう悪戦苦闘してるんだけど、笑介くんったら私の努力なんて一切気付いてない様子で〜〜〜………、
「──あ、はいカット──」
「──話が逸れちゃった。まずいまずい。…私…、集中────っ!!!!──」
「──というわけでテイク2!!! (…あ、ココだけの話、FI●ST TAKEってあれ普通に撮り直しあるよね??)ゴニョゴニョ」
【テイク2】
テーテーテ、テレレテー♪
テー↑、テー〜〜〜っ…↓
…フッフフ。名乗るのを遅れてごめん!!
私の名前は────『只野 瞳』!!! (タタンッ!!)
名字は『ただの』だけど、只者じゃないってのが私のアピールポイントだよ!!
ハイ、ヨロシクゥ!!! 以下略!!
(元々存在感は湯気同然だったけど)突如として、湯気の如く消えてしまった私の兄──只野仁人…………。
本当にっっっ──ごく平凡な男子高校生、只野仁人は今、何処で何をしているのか…。
その事について頭を搾り取るように、ギュ〜〜〜ッと熟考…推理した時。
私はとうとう、とんでもない仮説にたどり着いてしまったのでした……。
「そう!!! バトル・ロワイヤル!!!──」
「──バトル・ロワイヤルと言ってもまだ主催側なら箔が付いたというのに……。私の兄は不幸にも参加者として招かれたのでした!!!!」
…勿論、根拠は0! ナッシング!!
イッツオーライ?!
Hey!!
そんな不幸ケッコーコケコッコーな兄だけども、時刻はもうすぐ朝焼けが昇りニワトリが鳴く頃合い。
渋谷にバリアーみたいなのが発生したのは昨日の夜十一時頃らしいから、バトロワ開始もその頃と仮定しよう……。
つまり、デスゲーム開始から五時間くらい経過している現在……。
不肖の兄・只野仁人は生き永らえているのかと考察すると………────。
「………………ま、おじゃんだよね〜………──」
「──…そりゃ私だって死んでほしくないって気持ちはあるけども……。こういうデスゲーム物は何も特徴ない人から片付けられるイメージだし? お兄ちゃんって変な人に絡まれて災難に遭うってイメージもあるしー?………──」
「──というわけでッッ!!! 『只野くんの、人生です。』、これにて完ッ────!!! うわ〜〜ん何してんのさー!! お兄ちゃぁ〜〜-ん!!!」
はいはい!! さてさて!!
こうしてお兄ちゃんの安否確認は無事(?)済ませれたものだけども、
──ここで気になるところは、…只野仁人。彼は一体どういった死に様を見せたのか……、というトコだねっ…………。
例えば、殺人者に襲われている女子参加者を助けて身代わり死…とか?
更に具体的に挙げれば、女子目掛けて放たれた銃弾を、我が身削って被弾した…とか……?
そういう感じで、ドラマティックかつ熱い最期だったとしたなら遺族代表の私として、この上ないくらい涙物なんだけどねっ………!
英雄に敬礼っ!! 勲章贈呈っ!! って感じで…。
誇り高い死だと思うよっ………。うぅっ…、ぐすん…。
「…でも、悲しきかなっ!! 神様はお兄ちゃんを常にごく普通平凡な人生しか歩ませてくれないっ─────…………」
…というわけで、お兄ちゃんの生き様は『なんとなく歩く→殺人者に遭遇→逃げるも追いつかれ普通にYOU DIE……』で決定!!!
ついでだし、死因も鋭利なもので背中を突かれYOU ARE SHOCKに決定!!
我兄ながら正しく凡すぎる死っ…! ゆーあしょっ!!!
勿論一ミリも一ミクロンも根拠は0。
…ふっ、ただ推理において必ずしも証拠は必要だとは言えない…ってわけかな?
名探偵と化した私の脳内には、一連の考察がまるで確定事項のようにフツフツと沸き立ってるのだよ……。ふふふっ…。
548
:
『大好きが瞳はタダノくんの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/07(月) 20:12:20 ID:puUwLcSo0
「…あ、でもさすがに普通すぎて気の毒だから死に方も大ハードなモノにしとこうかな。…じゃっ、チェーンソーで斬られて死亡に決定で!!!──」
「──もちろん根拠はナッシング!!」
…いや待てよー。
…チェーンソーでバラバラ死って……流石にさぁグロすぎない…? エグすぎないっ……? ドン引きだよね……。
勝手な推理とはいえ、そんな発想に至っちゃう自分に恐怖を覚えたんだよね…………。えっ?? 私ってもしかして隠れサイコパシー…っ?!!
「……【バラバラにならない程度に脚を斬られた後、胸をギュイィィンって一突き】、で妥協しますか…。さすがにお兄ちゃん可哀想だしね…!! ぐすんっ…!!」
…私だってギタギタのミートにされたお兄ちゃんを見るのは嫌だしねぇ…………。
葬式? か、警察の人が「身元確認お願いします…」って、差し出してきたのがブロック肉とかだったら大勘弁だし………?
…………はいっ!!
さてさて、…こうして亡き者となってしまったお兄ちゃんではありますが……。
彼のバトロワ活動はこれにて終了……………。
(まったく無事じゃないけど)無事THE END………………………。
────かと思ったらさにあらずっ!!
去る者あれば、残る者ありとはこの世の常…………。
凄惨なお兄ちゃんの遺体を見つける者が一人!!!
それは不幸か、それとも幸か……。たまたま通りかかった先で、『参加者』の一人は只野仁人だった物と出逢うのでした………。
「…と、私は勝手に考える……!!!」
その参加者の名前はズバリ………。
チャンネル、ピッ!
『佐野文吾を許さないぃっ……………』
────【佐野】さんっ!!!
そして、佐野さんの性別はズバリ………。
チャンネル、ピッ!
『男の人っていつもそうですねっ…!!』
────男っ!!!
「…と見せかけて【女】!!! 騙されたでしょ!! …フフフッ、探偵の推理にはこういう無意味なじらしテクニックも必要なのだよ〜…」
私は勝手に考える。
その佐野さんもまた、デスゲームに踊らされた変質者に襲われ、命からがら逃げてきた者の一人…。
彼女は奇跡的にも逃れることには成功したものの、逃れる者同士は惹かれ合うというわけか………。
既に事切れたお兄ちゃんを見つけてしまい、ショックで言葉が震えるのでした…………。
佐野さんは噛み締めます……。
死体を目に焼き付けて、思うは死への恐怖と、未来への懇願……。そして、自分の不運さの絶望視…………。
もう喋ることのないお兄ちゃんを前にして、彼女はブツブツとこう言うのだった…ってね。
549
:
『大好きが瞳はタダノくんの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/07(月) 20:12:39 ID:puUwLcSo0
「……ごほん。…『わっ。…脱落者……。…ううん、違う。自分の解放に成功した参加者だね…(裏声)』──」
「──『分かるかな? 彼らにコントロールされ本当にけしかけられかなり高価なプログラムまでけしかけられ買い込みだましたの。やつらが何か霊的な光をどろどろしたから
ね(裏声)』──」
「──『違和感がある内に止めさせてください停止の命令をあなたが聞けないのなら、とか信用できないのなら、それはあなたがコスリ感緩和膜を頭の裏に貼られているからだよ(裏声)』──」
「──とか言ってたり」
…うはっ!! 我ながら何言ってるか意味不明ー!!!
だけどもしかし!! さっき言った通り、お兄ちゃんの知り合いは一癖も二癖も強い人間達ばかり…………!! なじみ君ちゃんとか!!(あっ、硝子さんは除く!!)
だからこうして、佐野さんもまためちゃくちゃヤベー人なのであったわけだ!!
多分、見た目こそは普通の女子なんだろけどね!! 知らないけど!!!
わけのわからない電波な佐野さんを前にして、その場にいたお兄ちゃん(幽霊)も流石にドン引いたことでしょう〜…………。
ただし、かなり異常な佐野さんとはいえ…別に血も涙もない狂人というわけじゃない。
ぶつぶつイミフな一連の台詞達は、いわば彼女なりの追悼の意で……。
ちょびっと空いた心の穴を引きずりつつも、死体に一礼。
お兄ちゃんの魂が救われることを願いながら、彼女は後を去るのでした………。
────その折に、突如として鳴り出す、死体の携帯。
血濡れの胸ポケットから響く着信音に、佐野さんは一体何を考えたのでしょう…。
甲高く光る、スマホの画面に映るは妹・『只野瞳』の名前………。
そう、物語はこの鬼電ラインから急速に加速するのでした──────。
「…………と、まぁーこういった具合で上手く締めちゃったわけだけども」
…ふふふ。
これが深夜テンションってヤツなんだね…。
バカバカしくて厨二全開でおかしな推理(という名の妄想!!!)を、我ながらしちゃったもんだよ………!
言うなれば↑の妄想は全部、──【フィクションです。実在の人間、場所、団体は一切関係ありません】!!!
どうせお兄ちゃんはコンビニかどっかに行ってるし、殺し合いなんてあるわけない。
渋谷のバリアーも多分催し物かなにかだ。
…ほんとに、バカバカしい妄想ったらありゃしない。
……こんなお馬鹿な考え事を三十分近くもしてる私は、もうきっと逆ノーベル賞受賞に値するバカヤローだろう。
ほんと、バカだなぁ。私は……。
「でもそんなバカな私……。──…嫌いじゃないぜっ」
さて、時間もそろそろヤバい頃合い。
お母さんに怒られる前に…二度寝するとしますかー!!
幸いにも明日は土曜日。
おやすみっ!! Good night!!!
550
:
『大好きが瞳はタダノくんの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/07(月) 20:12:58 ID:puUwLcSo0
──ブーーブーーーッ
──『電話です』
──ブーーブーーーッ
──『電話です』
「うわビックリしたっ!!! タイミング悪っ!!!」
いやほんとタイミング悪すぎ!!
私リビング出て寝ようとしたところなんだけど?!!
ドアを開けようとした私を引き止めたLINEの着信………。
こんな時間に誰だよっ!! こんな夜更けにっ!! バナナかよっ!!! ──と思いつつ、スマホを見てみたら、…そこには不肖の兄・只野仁人の名前が…………。
(…それにしても我が兄。LINEのアイコンは自撮り(微笑にピースサイン)。……超普通である)
「はあーーあ……。今頃…?? なんなのさぁ〜………」
私の鬼電から三十分経って、やっと折り返してきたお兄ちゃん……。
仕方なし…と。私はスワイプして受話器を取るのでした〜〜…。
…あーあもうタイミング考えてよっ!!!
────スッ
「はいもしもしもしもし!!! 何お兄ちゃん今頃になって!! もういいよ私は寝るんだか──…、」
『……もしもし。……瞳さん、ですか?』
「へ?」
…私は虚を突かれた思いだった。
……言い換えたら不意打ちだった。あと予想打にしなかった。あとは寝耳に水だった。
…私の耳に入ってきたその声。
それはお兄ちゃんの声ではなく、水のように透き通った女子の声だったのです………。
…いや、いやいや、ちょっと待てい!!!
この夜に姿のないお兄ちゃん…。そして、お兄ちゃんの代わりに出た女の人………。
こ、これって……。い、いやお兄ちゃん本気で何してるわけっ??!!
あの比較的ビビリで度胸なしのお兄ちゃんが、よ、よ、夜遊び…??!!
これじゃあ不肖の兄じゃなく不埓な兄じゃん?!! もはや兄ですらなく『乙』っ!!!
お、乙よ……、卒業…しちゃったってわけ!?
この電話はどうやら顔を赤めないと聞いてられないようでござい────…、
『……瞳…………。…三嶋…瞳さん? ですか………?』
「…へ???──」
「──み、三嶋ぁ〜〜〜…??? 私は只野ですけど…? ただのっ、瞳っ!!」
『…ただの瞳………………? …貴方はこの方の…、知り合いですか?』
「…………〜っ?? この方…とは……。兄ですけど〜……。私のお兄ちゃん」
『……あ、はい。…すみません、電話が鳴ってたので…、迷ったのですが折り返して…』
「…は、はあ……………──」
551
:
『大好きが瞳はタダノくんの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/07(月) 20:14:00 ID:puUwLcSo0
「──………。………あ、あのっ!! わ、私も家族ですし…ちゃんと知っておきたいんですけども!!! いいですか? ズバリっ!!!」
『………え、何をですか………?』
「恥ずかしいかもですけど…ズバリっ!! 貴女とお兄ちゃんはどういった関係ですか?!! てか誰?? なりそめは?? 経緯は??! どこまでしました??!!」
『………。──』
『──…私は、この人を知りません。ただ出会っただけの、そんな関係です………』
「…うぇ??」
『────…あと、私は【佐野】と…いいます』
……。
……うぇ、え???
『瞳さん………。…気を落とさず、聞いてほしいんですが………』
「えっ???」
『…………………いや。すみません、何でもないです』
「…うぇへっ????!」
『ところで瞳さん、今、どこにいらっしゃいますか? ここで繋がったのも縁なので………、…私と落ち合ったりとか…しませんか……』
「え、え、え。…家ですけど。マンションの…」
『…マンション。…ということは、渋谷マンションですか…?』
「えっ???!」
『…今向かうので、…危険が来ない限り待っててください………』
「え、え???? ちょ、ちょっと……。え、どゆこ──…、」
『…それではっ………!』
────デデンッ…
──[通話終了]
「………………………………………」
552
:
『大好きが瞳はタダノくんの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/07(月) 20:14:27 ID:puUwLcSo0
………………。
……………………え、
………え…、
…えーー…………????
チリン、チリンと揺れる風鈴。
吹き抜ける風が私の素肌を通る…。
…とりあえず、……眠気…。
超消えちゃったんですけど……………っ??!
553
:
『大好きが瞳はタダノくんの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/07(月) 20:14:43 ID:puUwLcSo0
◆
『──続いて渋谷の天気です。曇りのち晴れ。最低気温は28℃。午後にかけて日差しが強まる予報です────』
気が付いた時、僕は自宅にいた。
朝焼けがカーテンの隙間から伸び、点けっぱなしのテレビ以外は無音の、いつもと変わりないリビング。
こんな朝早くだというのに、ダラダラ汗を掻きながら直立不動の妹には気になったものだけど、…それでも平穏そのものな自宅だった。
…これは、……最後に家族へ別れの言葉を残しておけ、…だなんて、神様の気遣いなんだろうか。
過程はどうあれ、僕はこうして渋谷から出ることに成功できている。
……その過程がとんでもない物だったわけだけども。
僕は妹の頭をそっと撫でて、天からの光が差すベランダへと向かった。
足取りが重い訳では決してない。
だけども、今居るこの世を噛みしめるように、ゆっくりゆっくりと、歩くスピードは遅めでいる。
…すみません。古見さん。
謝りきれなくても謝りたい思いです。
──あなたに会いたかった。
──…会えなかった。
──いや、会わなきゃ駄目だった。
……古見さん。
あなたは、男女問わず皆から無条件に好かれ、…いいや。好かれる以上に、物凄く愛される特性の持ち主です。
…あなたのその魅力で、悲惨なゲームを終わらせてくれることを、遠い空の上から願っています。
………どうか。
どうか古見さんの力で、闇を照らし光が圧勝しますように。
そしてどうか……、みんなに笑顔を届けますように。
…ごめんなさい。古見さん。
いつか友達として、また再会しましょう。
またいつか。
いや、『いつまでも』…────────。
-------
…………
………
……
…
554
:
『大好きが瞳はタダノくんの』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/07(月) 20:14:58 ID:puUwLcSo0
【1日目/D2/住宅街/AM.04:26】
【佐野@空が灰色だから】
【状態】健康(普通の姿)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:『三嶋瞳』がいる渋谷デイリーマンションに行く。
2:来生さんにもう一度会いたい。
555
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/07(月) 20:21:27 ID:puUwLcSo0
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①救急車にするか、
②マ●ックミラー号にするかで、
③迷っています。
【次回】
──惨劇の序章。
──敵は本能寺にあり。
──間もなく燃え盛るこの場にて、4人の命が奪われる。
──Baccano(バカ騒ぎの幕開け)。
『北埼玉ブルース』…ひろし、飯沼、マルシル、海老名、山井、うまる、マミ、デデル、???
556
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/11(金) 20:19:43 ID:epSE9bTo0
【お知らせ】
想像以上に長くなったので『北埼玉ブルース』保留です
【次回】
──人が人であることをやめた時。
──終焉にて待ち受けるのは。
『TOKYO 卍 REVENGERS』…ミコ、カモ、三蔵、相場
557
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:17:25 ID:Cj/PtNN60
[登場人物] 伊井野ミコ、鴨ノ目武、鰐戸三蔵、相場晄
558
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:17:39 ID:Cj/PtNN60
『Morte Alla Francia Italia Anela』────!!
(──全てのフランス人に死を、これはイタリアの叫び)
シチリア島を中心に組織するギャング集団『マフィア』は、上記の叫びが由来。(各単語の頭文字を並べてM・A・F・I・A)
マフィアは古来から『血は血でしか報われぬ』との掟のもと、身内が殺められた際は必ず報復を為す。
血の惨劇は血の惨劇で返す、爆殺には爆殺で返す、皮を剥がされれば生皮を剥ぐのみ。このような信条で、マフィアは止まらぬ負の連鎖を二百年以上続けていたという。
────言わば、『復讐』である。
血薔薇の乱れ咲きを以て、自分の叩き潰された尊厳、または殺された大事な人間の敵討ちをする──復讐という行為。
常々、復讐とは「そんな事やっても何も生まれない」と否定されがちではあるが。
──果たして、本当に『何も』生まない所作なのだろうか。
これは三つの『復讐』の物語。
例によって、舞台は都内の古本屋。
その店主、裏の顔は殺し屋。厳密に言えば、『復讐代行屋』である。
誰よりも愛し、何よりも大切だった妻子が外道に殺されて以降、復讐屋として稼業を立て始めた──その男。
彼が復讐完遂した死体の数は、一つの集団墓地が出来上がるほどだという。
あるいは、誠愛の家というタコ部屋を営む──その男。
動物や弱者を拷問し、幼女の首を絞めて射精するというサディストな男には、長年憎悪し、復讐を誓っている対象がいた。
自分の頭目掛けてバットをフルスイングし、惨めな現状に陥れた丑嶋馨と、自分の唇を切り落とした滑皮秀信の二人。
奴はその二人を徹底的に復讐すべくと、日夜日夜ドス黒い邪心が揺れ動く。
そして、あるいは雪積もる村での物語。
クラスメイトによる悲惨なイジメ、行く末には家族全員を焼き殺された少女は、刃物を片手に雪原を歩き回る。
放火事件を起こしてもなお、ヘラヘラと笑い続ける下衆達の抹殺。それが彼女の原動力であり、もはや唯一の生き甲斐であった。
いじめっ子六人を惨殺したその少女──…を付き纏う男子生徒の物語。
地域、復讐対象、復讐者の年齢。どれもバラバラな三つであるが、
──その三つの別種類がある日偶然、同じグラスに注がれ、絡み混ざった時。
────化学反応により、『予想せぬ』味を生みだしていく──。
#060 『TOKYO 卍 REVENGERS』
副題:"A vengeance that sticks like stubborn limescale."
───(洗い流されることのない、執念)
ただ、この復讐のワインには、一つのスパイス…──というよりも不純物が。
彼ら三人に交わるその少女は、不純を取り締まることがモットーの生真面目生徒で、そして刑法に触れる『復讐』【殺人罪 第199条】が何よりも嫌いだった────。
559
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:17:55 ID:Cj/PtNN60
◆
『とても頑張ってる。そのままの君で…いいんだ……』
「〜…♪」
「ほーーん。………………で?」
「『…で?』、……とは何だ」
「テメェは遺族に代わって犯罪者共をたくさん殺してきました…と。ンでテメェは頭のおかしな殺人鬼です…ってか? ………で? それがどうしたっつうンだ? あぁ??」
「………………」
「まさかと思うが、ンな脅し文句でこの俺がビビるとでも思ってねェよなァ〜? テメェのぼくはヤクザですアピールで、俺がコイツをレイプしたりぶっ殺すのやめると思ったかァ? グラサン坊主野郎」
「……グラサンはともかく。坊主はお互い様じゃないのかねえ………」
「………あぁっ?! ブッ…!! …ぎゃはははハハハハハ!!!! あははははははははははっ!!!!!!──」
「──くだらねェ冗談言ってる余裕なんかねェぞゴラ? 止めてみろよ、何もできねェ偽善者!」
「冗談じゃねェよ馬鹿野郎。…オレはジョークを言わないタチでねぇ……ッ」
『辛いよね。泣きたい時には泣いていいんだよ……』
「〜♪」
一触即発。
前方──鴨ノ目武、後方──鰐戸三蔵とで、殺闘前の睨み合いが繰り広げられていた。
互いに、これまでの人生山の数ほど人を殺め、蛆蝿集る肉片に変えてきた男同士。
平穏な日常生活じゃ決して見ることのない、悪漂う緊張感は、舞台である渋谷駅前を闇深きに染め上げていた。
大小凹み目立つパイプレンチを突き出す三蔵と、懐から何かを握り臨戦態勢に入るカモ。
戦闘のきっかけは比較的大したものではない。
カモの視点からすれば、この三蔵という異型な男。眼の前の少女を強姦したいだの、殺したいだのと言い放つ為、なんとか穏便に収めたい次第であったのだが──何せ相手が相手。
逸した凶悪思考を持つ奴には何を言っても無駄で、──三蔵もまた強姦行為を止めに入るカモが鬱陶しくて仕方なかった。
────“俺に指図すンのか?”──、と。
『大丈夫………。僕は君の味方だよ』
「〜〜っ!…♪」
「…お前さん、格ゲーのフィタリティって知ってるか?」
「あぁ?? 何言ってんだテメェ」
「…モータルコンバットとかで。戦闘終了後、敗者相手に勝者がグロテスクな処刑を行うシーンをフィタリティと言ってねえ。あれは二十秒くらい残虐な演出がされるんだよ」
「……なァにが言いてェつってンだよサル」
「だけどな、オレのフィタリティは二十秒なんかで終わらないよ──」
「────屑はたっぷり苦しませるからねえ…。たっぷりと」
「あ? 拷問椅子座るのお前だけどな? ひっさびさに釘まみれの自作チェアー誰かに座らせたかったンだわ〜──」
「────ンじゃやっか? 文字通りの椅子取りゲーム」
「……『やるか?』じゃない。……殺るんだよ、屑」
「……………ッ」
「……………ぃッ」
『君には僕がいるんだから………』
560
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:18:14 ID:Cj/PtNN60
言うなれば、この現状。
『善の外道』 対 『悪の屑』という対立構造となるのだろう。
人の道から外れた者同士の殺し合いは如何に。
惨殺合戦の火蓋は、今にも飛び出しそうなくらいに暴れ狂っていた────。
『今にも飛び出しそうな君を、僕は愛してる──…』
「…あはは…♪ キス、してみたいなぁ…………」
「「………………」」
「………オイッ!!!!? つかうっせェ───ッ!!!! なんなんだ女テメェッ??!! さっきからイヤホンダダ漏れだっつぅのッ!!!!!」
「…えっ?? あ、すいません鰐戸さん。どうしましたか?」
「……伊井野。取れてるんだけども。…イヤホンジャック」
「え゙ッ??! う、嘘ッ??!!! や、やだ…。ほ、本当ですか鴨ノ目さんッ??!!!」
「……………はァーー…………。何聴いてんだよコイツ………。おいッ保護者の鴨ノ目ェ!! このバカに何再生させてンだァ?!」
「……いや、曲セレクトは彼女自身だから……」
「つーか曲じゃねェーし……」
「…色々と困ったもんだねぇ………」
「〜〜〜〜〜っ!!!!」
────戦闘、中断。
思えばつい数十分前も、カモvs三蔵──復讐者同士の死闘が遮られたものだが、何という天丼ネタであろうことか。
殺意波打つ緊迫感は度々、ミコ一人によってぶち壊しとなっていく。
つまりは、二人にとって『伊井野ミコ』というノイズはそれほどまでに強烈な存在であった。
──これもまた、法の天秤の元、犯罪行為は絶対許さないというミコの信念が現れた元なのだろう。
ノイズ少女は赤っ恥をかきながら、『耳元ASMR キン●リ平野のゼロ距離囁き♡ 安らぎの温かい吐息、憩いの空間へ……』の再生をアタフタ停止した。
「…ごほんっ。勘違いなさらぬよう弁論しておきますが……、私普段からこういうの聴いてませんからねっ!! た、たまたまですから!! 勉学に日々励み、司法書士を夢とする私が…ジャ●ーズ系アイドルにウツツなんて……。し、してませんしっ!!! 本当ですよ!!」
「…………チッ!!」
「………………………うーん…」
「『うーん…』じゃねェよハゲ!!!」
「………いや、オレも悪かった。…オレの責任だよ、こればかりはねえ…」
「ったり前ェだゴラッ!!! だから言っただろうがよッ?! レイプとかぶっ殺し予定は抜きにして、このバカ女は超絶邪魔だから一旦どっか行かせろってなぁ?!!」
「………うーん…」
「それをテメェーが『女の子一人は危ないから〜』とか偽善ほざいたせいで全部ぶち壊しじゃねェか??!! テメェ自身だってコイツのことうるさく感じてるから、イヤホンでノイズジャックさせたンだろ?!──」
「──…テメェと、このクソガキのせいで………。色々全部ぶち壊しじゃねェかァッ!!!??!! どう落とし前つけンだ山猿がッ!!!」
「……………だから困ってるんだろうが。オレも『うーーん』って──…、」
ピュイ〜ッ────────────!!!
「……!!」 「…あぁもうッ!!! チッ!!!」
二人の喧騒を止めたかったのか、またもや『黄色のホイッスル』というノイズが会話を邪魔する。
たじろぐ二人を傍目に、風紀委員のミコは随分と忙しい人だ。
561
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:18:31 ID:Cj/PtNN60
「…鰐戸さんっ!! 今…。レ、レイ…プとかいう信じられないワードが聞こえましたが…………。…風紀委員として断じて許せない言動ですっ!!! 神聖なこのバトル・ロワイアルで…なんて破廉恥な………。恥を知りなさいよっ!!!」
「…神聖……ねぇ……」
「またかよコイツ…」
「いいですか? 確かに現代日本では言論の自由・発言の自由が許容されています。ですがっ!! 公共の場での卑猥な発言は、刑法175条・わいせつ物頒布等罪に該当します。親告罪ではありますが、被害届を受理されると逮捕。起訴後、懲役三年又は罰金刑が課せられる、立派な犯罪なんですよ!!」
「…ミコ、少し落ち着きなさい………」
「いや待て。一々ウザ過ぎて逆に面白くなってきたなコイツ…──」
「──おい伊井野!! テメェなぁ…風紀委員とかお固い自称してる割にゃあ、猥褻ワードに随分お詳しいじゃねェかよ〜?」
「………っ?!! えっ?」
「口では偉いことほざきつつも、どうせ頭ン中はエロスで一杯なんだろッ!! あぁそうだ!! じゃねェとあんな催眠音声なんか聴かねェもんな!!!」
「な?! ち、ち違いますよっ!!! 失礼過ぎます鰐戸さんっ!!! 撤回を要求します!!!」
「嘘こけ!!! これにて偽善者の皮破れたり!! それもそうだ、ンなデカい乳して性欲がねェとか御伽噺にも程あるぜッ!!! ぎゃはははははははハハハハハハッ!!!!! ぎゃははははははははははッ!!!!!!」
「……ちょ!! も、もうっ!! や、やめてくださ…──」
「──って、ひゃんっ………!!♡」
「………」
お手本のような嬌声がミコの口から漏れ出た。
馬鹿笑いを繰り返す三蔵が揉みくだすは、無論ミコの黒いベールに包まれし胸や太もも。
サディズムな三蔵故に、痛いぐらい握りしめられたのだが、割と満更で無さそうな嫌がり顔をするミコには困ったものであっただろう。
カモは呆れ半分怒り半分で、三蔵を静止にかかるが、奴は気付けばニヤニヤと。
カモの股間部分に視線を落とし、ヘラヘラほざき出した。
「…つまりは偽善者山猿。テメェも本心はヤりてェで一杯なんだろ? あ〜ッ??」
「…馬鹿か? …おい、あまりふざけるなよ屑。ミコもミコだけど、お前も調子乗りすぎじゃないのかねぇ」
「はぁ??!! 『私も私だけど…』ってなんですかぁっ?!!!」
「うっせェテメェは話入ンな伊井野ッ!!! …あのなァ、いい加減自分に正直になれや? 偽善の皮剥いでテメェも楽になれよ? な?? どうせカウパー滴ってる癖によォ〜??」
「…カ、カウパーっ??! …………鴨ノ目さん、貴方までそんな性的な……。嘘…ですよねっ………?」
「…黙りなさい。嫁入り前の女の子がそんな単語言うんじゃない。…あのねぇ、鰐戸や………」
「あっ、それとも皮は皮でもまだ剥いてねェとか?! そりゃ人前でチンコ出せねェよな?!! ぶっはははははははっはっはっはっはっはははは!!!!!! ぎゃはははははははははははははははははッ!!!!!!!!!」
「……………」
念の為補足するが、カモは別に三蔵の発言が「ズバリその通り」だった為、黙った訳ではない。彼は(死別済みとはいえ)既婚者である。
ただ、もう殺し合いとか戦慄だとか、そんな雰囲気はオサラバな現状下にて。
カモの目に映る──…一人で馬鹿笑いする三蔵と、
──…支給品である『クロミちゃん特大ぬいぐるみ@マイ●ロ』をギュッと抱きしめる──、
「……もう、私…世の中が…嫌になっちゃうよ……。この風紀の乱れ……、私いつも頑張ってるのに………。なんでいつもいつも報われないの………」
「…………」
──伊井野ミコには、流石のカモもある意味戦意喪失といった訳で。
勿論、それは比較的平穏。平和この上ない現状で、カモ自身も諦めて事の成り行きを見届ければ良いのだろうが。
行き場のない戦闘欲のもどかしさというか、消化不良に終わったむず痒さというか、──とにかく色々で。
彼は呆れ返り、ただ坊主頭を搔くしかできずにいた…………。
「……………全くもって困ったもんだよ…──」
「──……ふう…………………」
「は? 困ってんのはその子だろ。クズ共」
562
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:18:50 ID:Cj/PtNN60
「「「……………………っ!!!」」」
前触れもなくして。
ギクシャク三人一行に発せられたその一声は、当然ミコでもカモでも三蔵の物でもなく。
彼等の前方十メートル程離れて立っていたのは、恐らくミコと歳は離れていないであろう黒髪の男子であった。
「……あ? ンだよテメェ??」
「『あ?』じゃねえだろ。…っていいやもう。おまえらチンピラとは話しても無駄だしな」
「あぁッ?!」
端正で顔の整った少年の姿は、カモ&三蔵という凶悪面ばかりと接するミコに新鮮な思いを届けただろう。
先程までか弱くながらも抱きしめていたクロミちゃん人形から、すっ…と力が弱まっていた。
そんな彼女と目が合った少年は、ニコリと微笑。
シッ、シッ、とミコへ向けて手振りをしながら、彼は『カメラ』をそっと構える。
「…キミ」
「え、…わ、私ですか?」
「うん。ちょっとばっかり離れてくんないか? レンズに入っちゃうからさ」
「………。…は、はあ」
突如として現れては、自分の監視対象兼仲間をクズ呼ばわりし、そしてまた前触れもなく撮影を整えだす少年。
そんな彼にはミコとて違和感は感じていたが、何となく彼の言う通りには従ってみせた。
少年の視点にて──カメラのレンズからミコが消えた折、彼はゆっくりとシャッターレンズを押し込む。
「……おい鴨ノ目、なんなんだコイツ……?」
「…さあねぇ…」
「…チッ。おいクソガキ!! 誰の許可得て撮ろうとしてんだゴラッ!!!! 舐めとんのかキサ──…、」
「うるせえよ。会話する気ないつっただろ?」
レンズの被写体は、二人の男。
────鴨ノ目武と、鰐戸三蔵の姿──。
睨みながら近寄る三蔵ときたら、それは写真としてブレまくったのだろうが、少年にとってはそんなことどうだって良い。
彼は「はい、チーズ」と小声で呟くと、────刹那。パシャリッ。
───ドッガガガバギャァァアアァアアアアアアアアアアアアアッッッ
「…………………………えっ」
爆音と、光と共に乱れ咲いた彼岸花。
唐突に鳴り響く、鼓膜を刺激するほどの爆発音に、ミコが振り返ったその時にはもう。
二人の復讐者の姿は、灼熱の炎で完全消失していた。
「…『おもふひとはあなたひとり』。綺麗だよな。彼岸花の花言葉だ」
563
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:19:01 ID:Cj/PtNN60
「……………………え」
「…いや、守ってやったんだからお礼くらい言えよ……。……って、まぁ言葉失うのも無理はないか。悪い。──」
「──俺は相場晄。……ま、とりあえず自己紹介云々も兼ねて、そこで話そうか。な?」
クロミちゃん人形が、ボトッ…と地面にこぼれ落ちた。
564
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:19:16 ID:Cj/PtNN60
◆
…
……
………
伊井野ミコは、泣く時はいつも個室空間。一人の時のみだった。
風紀委員として我が強すぎる彼女は、時としては皆が恐れるヤンキーの先輩に、時としてはクラスで人気者の男子にさえ注意を躾ける。
場の空気感、人間関係、流れなど気にせず、校則違反があれば些細でもガミガミと叱責する──そんな彼女だった。
故に、ミコを良く思わないクラスメイトが(特に中等部時代は)大半で、陰口を囁かれたり、陰湿なイジメを受ける事が度々ある。
──ミコが泣く時は、誰もいない場所で。いつも隠れて、一人の時のみだった。
今までは。
「……っ、うっ………………。っ…、…ぐっ…………………」
「『はにかみや』…。三角草の花言葉さ。…はにかむと意外と可愛い『はにかみや』…ってな──」
「──…ははっ、笑うなよ? 俺、こう見えて花とかが好きでな。ガラじゃないんだろうが…花を慈しむのが密かな楽しみなんだ──」
「──…おいおい、女々しい趣味だな〜とか思ったりしてないよな? 厳密に言えばさ、俺は花が好きというより花の写真を撮るのが好きなんだ。…いや、つか写真がそもそも趣味って感じか。ほら見てくれよ。この、二人映るうちの…お姉ちゃんの方──」
「────『野咲春花』。この子がさっき説明した三角草の花。…俺らがこれから探すその人さ」
珈琲チェーン店二階。多人数用テーブルにて。
クロミちゃんぬいぐるみで顔を伏せ、肩を震わすミコへ。相場はポケットから『小黒妙子の死体写真』を取り出す。
「あっ! やばい間違った!! ………………ち、違うんだ…。…これは関係ないっていうか……、本当にどうでもいい写真だから…!! …き、気にすんなよ?──」
「──…ふぅー。……えーと、…あぁこれだこれ──」
ペラッ
「──この長い髪の女子が野咲。…美しいよな……。…彼女は俺が支えてやんなきゃいけない。俺と野咲は互いにな、…唯一の友達同士なんだ。…な、キミ」
「…っ…………、ぐっ……………うぅっ……………………」
「……………………。…あのさぁ……」
「………………っ…、…ぅ…………」
「普通、学校でもなんでも…挨拶くらいはまずするよな。常識的に。………キミいつになったら名乗るわけ? あんたの名前知らんワケだから、俺はいつまでもキミキミキミキミ…って。いい加減ウンザリなんだが………。いや、マジに」
「………………っ…………」
「……会話する気0…か。てかそもそもさぁ…、泣く要素………どこ? いや泣くのが癖ってんなら俺も深堀りはしないけどよ。何か事情あったんなら相談には乗るぞ?──」
「──キミには俺がいるんだから」
“────君には僕がいるんだから………”
「………っ!!!…」
優しい口調で、そして温かな掌で頭を撫でられるミコ。
傍のガラス窓を見下ろせば、今も尚、爆裂の焔が燃え盛っていた。
「…………………ふっ、ふざけないでよ…」
「…え? …あぁ悪い。俺的には冗談話してたつもりは一切ないんだが……。何か気に触ったのならそれは──…、」
「…人殺しッ!!! ふざけないでよ……ッ、…この人殺しがぁあアァッ!!!!!」
「…………………………は?」
565
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:19:31 ID:Cj/PtNN60
涙でグッショリと濡れるぬいぐるみ。
彼女の瞳に映る、面を喰らったといった相場の顔といったら、余計激情が堪らなかった事だろう。
ウィンクと微笑を維持するクロミちゃんとは対象的に、顔をあげたミコの表情は激しい怒りと悲しみで震えていた。
「……ぃぃッ!!」
「………いや、おまえさ……、ちょっとヤバくないか? ………人殺し呼ばわりとか………ないだろ」
「…うぐっ……うっ……、ッ……!! …ヤバいとかヤバくないとかッ………、法を遵守とかしてないとか…もう関係ないしッ…………!!」
「…は? まぁいいや。…正直俺さ、おまえが怒ってる様子見て少し安心したよ。何はどうあれ、やっとおまえは俺に意思表示したんだからな。………ははっ、いや、その──…、」
「アンタは命を奪ったッ……!! …罪のない……、二人を…………。理由もなく殺したッ…!!!」
「………ぁあ? ……おまえさぁ、人が話してるときに被せてくるの、やめ──…、」
「アンタの名前なんかどうでもいいしッ…知りたくもないッ!!! 私はアンタを絶対に許さないッ!!!! 許さないん…だからッ!!!!!」
「………………んだよそれ……──」
「──おまえなぁ、あの死んだクズ共に同情して俺を恨んでるならお門違いだからな? …あのまま野放しにしてたらおまえ今頃死んでっからな?? …いや、ただ死ぬだけならまだ不幸中の幸いだぜ…。──」
「──おまえの綺麗な顔も、貞操も。何もかもが徹底的に侮辱されて、苦しい思いさせられた後にやっと楽になれるんだぞ? 冷静に考えてくれよ、なあ?」
「クズ共って呼ばないで…ッ!!! あの人たちの名前は、…鰐戸さんに、鴨ノ目さん………ッ!!! アンタ如きが人をクズ呼ばわりできる人なんかじゃないんだからッ!!!!!」
「…………」
「……確かに私だって鰐戸さん達のことはよく知らないし…………。それに、正直…怖くて……何されるか分からないって…疑心になる節もあったわよ……………」
「……」
「…ィッ…!! でもッ…、それでも殺して良い人なんかでは決してないッ!!! 殺人は許されないッ!! 私が指導更生すれば、優しくなれる…そんな心を持つ人達だったのよ…ッ!!!」
「…」
「…それを……アンタは何も知らずして爆殺したッ!!! 蟻を踏み潰す感覚で…、適当に命を奪ったッ!!! 私はアンタと話すことなんかないわ…!!!──」
「──償ってよッ…。裁かれて…苦しんでよッ!!! この……人殺し…。人殺しがァああ──…、」
ミコが涙を撒き散らして叫ぶ時。──その時にはもう既に相場の瞳孔はどす黒く死にきっていた。
彼は熱々のブラックコーヒーを、彼女が話し終わるのを待たずして顔にぶっかけると、
「…ッ!! 熱っ…!!! い、いやぁあッ──」
「───あっ………!!!」
ミコが大事そうに抱いていたぬいぐるみを鷲掴みにし、力づくで引き奪う。
「……ごめんな、俺ビョーキなんだ。カッとなると見境なく暴力奮っちまう。…でも、自制してる方ではあるよな? おまえを殴ってはいないんだから………」
「…ちょ………。か、返して…。…返しなさいったら……、ねえっ…………!!」
「え、返さねぇよ? 何せおまえはコイツを抱けば言いたいことを言う勇気が湧くんだからな。…コイツさえいなけりゃ、おまえは正常な言動に戻れるんだッ…」
「返してったら…………。……あっ!!」
──ビリッ、ビリビリビリッ…バリッ。
首を引き裂かれ、綿が大きく飛び出すぬいぐるみ。
口調は淡々ながらも、眉間に皺を寄せ表情が歪む相場は、ミコ唯一の心の拠り所を力一杯引き裂いた。
無惨な姿にされてもなおコチラに微笑むぬいぐるみの姿は、か弱い心ミコのをグシャグシャに押し潰していく。
「…い、いや…。いやァぁあああああああぁあああああああああああああああああッ!!!!!!!!!」
「…うるさいよ……。大袈裟かっつうのッ。…おまえは……ッ…。………ハァ、ハァッ…」
566
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:19:47 ID:Cj/PtNN60
怒りのまま顔面の綿を毟り取っていく相場。
かつてズングリムックリで柔らかい心地だったぬいぐるみは、今やヘロヘロの皮のみとなる。
「やめてぇ…。やっ…やめて…ぇぇ………」
「…ハァア……ッ。うるせぇッ」
彼女の悲痛を作業用BGMのように聞き流す相場はビリビリビリビリッ──と。
ぬいぐるみの胴体から手足から、なんの見境もなく八つ当たりの引き裂きを続けた。
もはや原型を留めなくなってもなお。
「や…やめ…………」
「…………」
「やめてぇえええええええええええええええええええええええええッ──…、」
「……………ィッ!! うるせえッていっただろうがァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!」
そして、とうとう矛先はミコ自身に向けられる。
普通、どんな男であれ女子の顔を殴る事だけは御法度。──例え、怒りを堪えられなくとも最低平手打ちと。ダメージを与えるような事はしないもの。
ただし、相場晄という男は『普通』なんかでは到底無い。
──ゴシュッ…と。
白い綿を握り潰しつつ、その拳のままミコの右頬を容赦なく振るい放った。
「いッッ、きゃァアアッ──」
「──ィッ、いぃ……ッ!!」
間髪入れずして、ミコの頭皮に襲いかかる鈍い痛み。
ミコの前髪を引っ張り上げた相場は、その恐ろし狂った形相を一気に近付ける。
彼の手の甲に付着した、ミコの汗と涙の粒。
──そんな体液の生暖かさ、か細さなんてわれを忘れた狂人には、何ら罪悪感の揺れ動きなど無かった。
「……痛いかッ? あぁ痛いよなァッ?? 」
「……‥やっ……………、ぃたいっ……ッ。…やぁっ……やめ……。離して──…、」
「…俺は今までの人生その何倍も心をズタズタにされてきたんだよッ!!!!」
グッシャクシャに髪を揺り引っ張り、激昂を叫ぶその男。
「引っ越す前の…仙台の奴らも……ッ。小黒の野郎もッ、ばあちゃんもッ、…母さんでさえもッ……………、そしてテメェもッッ!!!!!!」
「ぃぃっ…ッ、…あぁっ………」
苦悶と恐怖で涙を流すミコ相手に、男は好き勝手に独りよがりな激怒を続ける。
奴は屑をも越えた完全なる外道。
相場は、鬼であった。
「この世の『女』って生き物は全員…ッ! 誰も俺の言うことを理解してくれないッ!!!──」
「──俺をいつまでも苦しめてッ……、いつもいつも…いつも、いつも、──」
「──いつも、いつも、いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもッいつもッいつもッいつもッいつもッッ!!!! 嫌われてばかりの人生だッッ!!!!!!」
「…………いぃっ…………。ぐっ…………」
「痛いのは俺の方なんだよッ!!!!! 俺ばかりがいつも苦痛なんだよオオオッッ!!!!!!!」
567
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:20:04 ID:Cj/PtNN60
相場という男は、完全に逸している。
圧倒的恐怖の存在であった。
────ただ、ミコの人格を形成した『信念』は。
──たかが恐怖ごときで、今更怯む物なんかではなかった。
「…嫌われて当然でしょうがッ………」
「………ハァハァ……。……あ? ………今なんつった」
「…嫌われて当たり前よッッ!!!! …こ…この人殺し…、人殺しがぁああああああああああッ!!!!!!!」
「………ぃ、ぃぃィイイ!!!!!!!!」
頬と前髪の痛みに、流れ出る口元の流血。
そんな心身的激痛を超越した、ミコの正義の心。──心からの叫び。
無論、彼女の発声は悪足掻きとほぼ同等。
ブレーキーの無いイカれた四輪駆動にガソリンを注いだ様なもので、相場の激情により一層火をつけたまで。
後先を考えれば、無抵抗でいた方が身の安全であったろう。
──だが、その場の安全が保証されて何になる。
──日和見。事なかれ主義で、『無念』は晴れるものなのか。
────カモと三蔵。ミコが背負った二つの『無念さ』を、暴力なんかで屈したくは無かった。
「ハァ…ハァ……、俺がッ……」
「…………!」
「俺がテメェを守るって言ったじゃねェエかよォオオオッッ!!!!!!! 女ぁああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!!!!」
「………ッッ!!!!」
──ただ、その強い信念を引き換えに、石直球の様な拳をひたすら浴びる迄であった────。
「あ? 男もテメェのこと大嫌いだがな?」
「…えっ」
「………あ?──…、」
「鳴けよ、ブタ。──むンばッッッ────────!!!!!」
──ガシャンッッッ────
────ボキッ
568
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:20:20 ID:Cj/PtNN60
ミコの鼻目掛けて放たれた筈の右ストレートが、フッ…と力無く落ちる。
相場でも、ミコでもない。──第三者の声が、喧騒を遮ったその時。
気が付けば、相場の腕はテーブルに叩きつけられ、そして骨が飛び出る程へし折れており、
その異形な腕を理解した時、相場は初めて強烈な痛みを感じ、絶叫をあげた────。
「いっ…ッ!!! ぎゃぁぁあああぁぁあぁああぁあぁぁああああああああああああああッッッ!!!!!!!!!!!!」
「あァッ?!! おいクソガキ、テメェは豚なんだよ!! ブタは『ぎゃあ〜』なんて鳴かねェだろうがッ?!! バカかテメェ!! ぎゃはははははははッ!!!!!!」
「…え…………………?」
激しい痛みに、腕を抑えてのたうち回る相場。
──そして、パイプレンチ片手にゲラゲラ嘲笑する『その男』。
ミコは信じられなかった。
脳の処理この時が全く追い付いていなかった。
一度無くなった物はもう二度と取り返せない。
死んだ者が生き返る事だなんてある訳がない。
錬金術が当たり前なアニメ的世界ならともかく、完全に消え果てた者が再来するなんて、現実主義者であるミコは全く信じてはいなかった。
そう。
信じていないからこそ、ミコは『その男』に目を丸くして驚き──、
──先程まで流した物とは、また別の感情の涙が零れ落ちた。
「…が、『鰐戸さん』っ……………!!?」
勿論、そこに立っていたのは幽霊ではない。
鰐戸三兄弟の極悪三男────。
──鰐戸三蔵は、微々たる火傷痕を擦りながら、ミコの元へまた、戻ってきた。
「……ぃぃいいいぎぎぎぎぎぎぃいいいいッ………!!!! ああああああッ………!!! な、なんで………ッ」
「ははは〜っ。痛そう〜、うけるわ(笑)──」
「──つーか伊井野!! 随分コイツとお楽しみの様じゃねェかよ。こんなヘニャチンよりも俺の方が楽しませてやれンのによォ〜?」
「…………あ、あ…………」
まるで何事もなかったかのようにヘラヘラ下衆な事をほざく三蔵。
その姿には、ミコは言葉が詰まりつつも歓喜を、一方で相場は脳がシェイクするほどの絶望を感じていたのだが。
二人揃って共通に思った事がある。
「何故、生きているのか」──と。
語気、声色は違えど、ミコと相場の声がハモリを見せた瞬間だった。
「…あぁッ??! 生きてちゃ悪ィかよッ!! ぁああ?!!」
「…え。いや!! 違いますよ…!! で、ですが………」
「いや…悪いに……決まってんだろ…がぁああ………………ぁああッ………いっぎゃぁあ……」
「…あ、あの時………。爆発に巻き込まれて…………。私、…それで死んじゃったと思ってて……。が、鰐戸さんっ……!!」
「あー、そっかそっか。ンまぁ普通死んだと思うよな。…テメェもすっかり殺した気になってたもんなァ〜?! ブタくん♪」
「ぎぃっいいいぃぃぃ……………………──がぁっ!!!」
豚──と罵られる程、相場は別に肥えてはいないのだが。
それはともかく、悶える彼を軽く足蹴りした後、三蔵は自らが生きている『理由』を語り始めた。
靴底で相場の頭をゴロゴロ撫でつつ語る三蔵。
──この時の彼は、先程までのおちゃらけた醜悪の表情と打って変わって、シミジミと真剣な面持ちであった。
569
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:20:38 ID:Cj/PtNN60
「………縁も絆もねェどころか、『絶対ぶっ殺してやる』って、いがみ合ってた野郎だっつうのによ。──カモ。…カモ…兄ちゃんがよ。……俺を助けてくれたんだ」
「………えっ?」
「…は、はぁ……………ッ?!」
「…爆発の直前、俺の襟首掴んで投げ飛ばしやがって。……『何すんだゴラッ?!』とか言おうとしたら、ボンッ…ってよ──」
「──笑えるよな? つーか意味分かんねェし。あの野郎の考える事は理解できねェよ。だが、とにかく奴は…、兄ちゃんは俺を救ってくれたんだ──」
「──自分はグッチャグチャに火だるま化したっつうのによ…………………」
「……………えっ……。………え、それって…………──…、」
「…それはつまりバカチンピラは犠牲になったんだろ………? コイツの枯草にも劣る命守ってさ……。…ははっ、ハハっ!! …ば、バカかよ……? ぐっ…、ははははッ…!!!」
「………………」
「……ィッ!!」
────鴨ノ目武。
屑を最も嫌い、そして幾多もの屑達を残虐に葬り去ってきた彼が、何故鰐戸三蔵という男を『生かした』のか。
当の本人はもういない以上、その真意を聞き出すことは無理だとミコはこの時思ったが、それと同時に、彼への畏敬の念が込み上げてきた。
カモを失った悲哀と同時に、──畏敬が一つ。
“あぁ…やっぱり私の見立て通り。”
“鴨ノ目さんは、『良い人』だった……。”
──と。
ミコはもう、涙が溢れて零れて、感情の揺さぶりが止まらなくなっていた。
「……チッ…!! 身代わりとか兄ちゃんとか……すごいどうでもいいんだよ…!! 俺はっ……! ギィッ…。良いからさっさと足どけろよチンピラ………ッ!! もう満足だろ……。な?」
「…………あァ?」
止まらぬのは、一方で相場の減らず口も同様。
腕を滅茶苦茶にされ、圧倒的不利な境地に陥っても尚、メンチを切り続ける彼は、流石サイコパシーの異常者と言えよう。
「仕方ねェなァ? おらよ、ブタ」
──ゲシッ…────
「ンギャッ……!!!」
そんな異常人間を称賛するかのように、言われるがまま彼を蹴り飛ばして『足をどかした』三蔵は、相場に向かってこう言葉を発した。
「……俺には兄ちゃんが二人いた。…血の繋がる兄弟が、…二人、な」
「…え、鰐戸さん…………」
いや。
彼が言葉を綴る相手は、下衆でイカれたカメラ少年向けてではなく。
──顔は向けずとも、ミコに話していたのかもしれない。
「…一兄ちゃんと二郎兄ちゃん。…固い絆で結ばれて、いつも一緒にいた俺ら兄弟は……──死ぬ時もほぼ同時だった」
「……えっ。え? …それは……。…つまり………」
「九九も五十音も言えねェような悶主陀亞連合のポン中共に散々拷問されてッ……。散々屈辱された挙げ句、歳の順でバラバラにされたんだッ…。生きたままッ……」
「……な、なんですか………?! そ、それは………」
「…二郎兄ちゃんが首チョンパされて、次は俺って時に。…気が付いたらあのバスの中にいた。………俺にはもう兄弟も家族もいねェ。失う物なんか一つもねェンだ」
「…………っ…。……」
570
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:21:26 ID:Cj/PtNN60
ふと、前方のガラス張りを見上げる三蔵。
──もしかしたら、この言葉は相場はおろか、ミコ相手に向けて話していないのかもしれない。
「だから。…だからよ。真意は知らねェが、俺を助けやがったあの野郎。──…カモの奴は、…偽善者のアイツに売り付けられた…『恩』ってのは…絶対果たさないといけねェ」
「………」
──坊主頭で、偽善煩くて、そしてサングラスで。
大嫌いだったアイツに。
三蔵はもしかしたら語りかけているのではないだろうか──。
「あの野郎こそが……。あのいけ好かねェ野郎こそが、…俺の兄ちゃん代わり。兄貴分なんだよッ……──」
「──伊井野。テメェは一々うぜェしさっさと犯してやりたいとしか思ってねェがよ………。カモ兄ちゃんはそんなテメェを大事にしていた……。…まるで本当の家族みたいに…──」
「──だからテメェは俺が守るッ……。野郎が兄貴分ならテメェは俺の妹分だッ…!!」
「へ…?! え、えっーー!!!?」
「チッ、うっせェ伊井野!! …俺だってガラじゃねェし…。こんなバカみたいなセリフ……恥ずくて馬鹿らしくておかしくなりそうなんだよッ!!!──」
「────だが俺にはもう失う物なんかねェ。恥もプライドも今更だ。……良いかァ? 伊井野。俺等が何故死なずに済んだか…」
「…は、はい」
「……答えは簡単だ。──失う物ねェ奴が一番【無敵】なんだよッッッ────!!!!──」
「──分かったか豚クソガキィィッッ!!!!」
「……………あ?!! は???」
三蔵が、らしからぬ【宣言】を送った相手は、ミコに向けてなのか、…それとも『兄貴分』へなのか。
──どちらにせよ、彼は再び相場へと睨みを飛ばした。
「…いや分かるかよ……ッ。………あー…見苦しいぜ…、異常者同士の家族ごっこ………。…つか…どうでもいいし、もう…………──」
「──んじゃ俺からも贈り物させてもらうからなッ…………!!! 太郎兄ちゃんだか何だか知らないが……、New兄妹セットであの世で再開させてやる…ッ!!!!」
「あっ!!!」
相場はそうほざくと、懐から隠し持っていたハサミ(──小黒の盗品)を取り出し、不意打ちに背後のミコの喉元へ突き付ける。
折れてない方の手で握ってるとはいえ、三蔵の気迫に恐れてかガクガクと震えていたが、彼は容赦なく力を込めた。
カメラで爆殺という手法も選択肢にはあるが、ミコ、三蔵共に射程距離として近すぎる上に、そもそも両手持ち必須な重さの為、今は不可能。
三蔵に殺される事は覚悟であるが、せめて彼の心に傷をつけようと、ミコ殺害に足掻き始めた。
──だが、何故だろうか。
「…あ? …あ、あ??」
こんな卑劣な行動を取ろうとも、三蔵には焦りの表情は見えず。
気の抜けるくらいに、平然と眺めていた。
「…って、…あぁっ?!」
──そして、また何故だろう。
いくら力を込めようとも、健全であるはずの左手は『ビクとも動かない』。
まるで凍りついたかのように。
──いや、誰かに手を強く抑えられたかのように、全くとて身動きが取れなかった。
「…………………いや、おい………。嘘だよな…これ………………」
「……………」
──本当に、何故なのだろうか。
些細な事ではあるが、相場の額には冷や汗。絶望の玉粒が、にじっ…にじっ…と湧き出てくる。
彼は「嘘だよな」──と、今ある現実を逃避するかのような弱音を漏らしたが、一体相場は何を察したというのか。
何が起きているというのか。
571
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:21:42 ID:Cj/PtNN60
──答えは簡単である。
──【背後の『誰か』に左手を強く抑えられているから】、だ────。
「オレにも家族がいてねぇ。……って、三蔵の話と引き合いにしたら、オレの妻子も屑みたいに思われそうで嫌だけども………。ともかく、二人はもう居ないんだ。この世にはねえ…。──」
「………んだよ……………」
「オレにとって、ミコと三蔵。…そしてここには居ないが、トラは新しくできた『家族』だ」
「…………ったく、…もう………」
「どんな理由があろうと──」
「──法に触れようと、道徳も正義も倫理も関係ない──」
「──オレの家族を傷つけるやつは誰だろうと決して許さない」
「…………………もう、訳わかんねぇよ……………」
三蔵、そして『ミコ』に注目を浴びる中。
相場はとうとう力なく項垂れていった──。
「昔の中東戦争時に、戦場カメラマンを装って『爆殺機能付きカメラ』を使った国があるんだよ。お前さんが丁度持ってるソレがさ。兵士はさぞ無念だったろうねえ。民間人かと思って攻撃を避けてたらボンッ──なのだから。卑劣極まりなくて、オレはイス●エルに強烈な不快感を抱いたよ──」
「────だから、屑は許さないよ。絶対にねえッ……」
──ゴスッ──────
「…か、………『鴨ノ目』さんっ!!!」
572
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:21:55 ID:Cj/PtNN60
◆
以降、相場晄がとんでもない目に遭った事は、野暮なくらいに言うまでもないだろう。
「ハァ……、がッ……。ハァハァハァ………、ハァア…………。ミスミソウ……三角草の…花っ……──」
「──冬を……耐え抜いてぇっ……ハァハァ……。雪を割るように…じてっ…………、小さな花が……咲ぐ………──」
「──今は…苦しくても…、ゴホッ…!! ………ハァハァ………未来が苦しいとは限らない……。そう…だよな…、野…咲…。……野咲…ぃい…………………」
片腕を抑え、そして片足を引きずり。
バッキバキに目を血走らせつつ、鼻息を荒くしながら、町中をフラフラ彷徨うは、相場の姿。
右目を大きく腫らし、止まらぬ鼻血をもう諦めて進み続ける彼は、もはや亡霊同然だった。
数分前。
顔面をテーブルに叩きつけられて以降、気絶から覚ました時には、目隠し状態で椅子に拘束されていた相場。
この時、何故か上半身半裸にひん剥かれており、近くではヤニ臭い煙がモクモク漂っている。
──自分は何をされてるんだ…?
──俺はこれからどんな目に遭うんだっ……?!
完全なる視界不良の中、不安と絶句で冷や汗が止まらなかった彼だが、微かに聞こえるのは恐ろしい話し声のみ。
「一生物のブラジャーとブルマの刑だ、ぎゃはは」など、「いや、ガスバーナーで…」などと、想像を(悪い意味で)掻き立てる男たちの会話。
これは復讐者x復讐者による『拷問のクロスオーバー』が話し合われていたのだが、相場が彼らの素性など知る由もない。
ただ、得体の知れぬ恐怖だけが、彼を暗闇とともに包みこんでいた。
──そんな算段も、「『拷問等禁止罪』!! 身体的または精神的な苦痛を故意に与える行為は憲法違反で云々…」という口煩い女子の一声で破談となったのだが。
「野咲………。ハァハァ、……絶対俺が助けるからな…………。ガッハッ………。野咲……」
結果的に、自分が『守ろうとした』ミコに助けられるという皮肉な救いで、彼は比較的無事で解放されている。
(──とはいえ、帰り際、復讐者二人に顔面グーパン一発ずつを浴びたのだが)
プライドも身体もメンタルも、全てがボロボロにされた相場。
彼は現実逃避するかの如く、無思考でただ歩き続け、
そして無思考で、思い寄せる『三角草の花』の名前をひたすら連呼し続けた。
「…野咲……ハァハァ………。野咲………」
【1日目/G7/街/AM.03:06】
【相場晄@ミスミソウ】
【状態】精神衰弱(軽)、顔殴打(右目、右頬腫れ)、右腕開放骨折、左足打撲
【装備】爆殺機能付き一眼レフカメラ
【道具】写真数枚(小黒妙子の死体写真他)
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象:野咲春花】
1:野咲にとにかく会いたい。
2:邪魔する奴は『写真』に納める。
3:絶対に死にたくない。
4:チンピラ共(カモ・ミコ・三蔵)を許さねぇ……。
573
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:22:17 ID:Cj/PtNN60
◆
「…わっ!! ひ、酷い火傷………っ。……鴨ノ目さん、良いですか…? 明らかに軽度のやけど以外は、皮膚科や形成外科を受診することが得策です。特に背中など広範囲に──…、」
「あ゙っ〜〜〜〜!!! 貴様は黙れゴラッ!!! ………にしても兄弟分、この火傷マジメにヤベェぞッ……。…グロ過ぎてもう俺焼肉食えねェクラスだわッ! …ぎゃはは……」
「うーーん…。…とりあえず、オレはもう二度と仰向けで寝れないねぇ…」
一方で、ズタボロの相場とは引けに劣らず。
命からがら助かったとはいえ、カモら一行もダメージは激しい物だった。
殴られ跡を氷袋で冷やすミコ、そして同じく腕や顔の軽火傷を冷却する三蔵はまだ良い方。
相場の奇襲時、三蔵の庇護を優先したカモは、背中上部と右太腿を大きく被爆しており、──どうやってそう平静を保っているのか聞きたい程であった。
「…取り敢えずは包帯と軟膏で済ませるけども、……やはり急冷スプレーとか欲しいもんだねえ」
「…きゅ〜れ〜…ですか?」
「あ? ねェモンはねェよッ。今はスタバにある医療道具で妥協しろっつうの」
「……………。………あの、…鰐戸さんっ!!」
「はいストップ!!! テメェの言いたいことは手に取るように分かるからなッ?! 『薬局まで薬取りに行きましょう』っつうつもりだろ??!! 俺に指図すんじゃねェぞクソガキ!!! こんだけボロボロで行けるかアホッ!!!」
「…っ?!! ………ごほんっ。確かに映画のミ●トでは薬を取りに行った結果沢山の犠牲が生まれました。ですがっ!! 見てくださいよこの大火傷!!! 事は万事…極まりないですよ!!!」
「あ??? 映画の話はしてねェんだよッ」
「……初対面の時から思ってたけど知識披露したいだけじゃないのかねぇ、この子…」
ただ、皮が剥き出し状態とはいえ割と問題無く接し、あまつさえクロミちゃんの修復裁縫をする余裕まで見せるのだから、カモはやはり百戦錬磨のアウトローという訳か。
致命傷者0人という結果で、ひとまずは終わりを迎えそうであった。
涼し気な空調が珈琲の薫りを運ぶ、スター●ックス二階にて。
ミコと実質用心棒二人は、些かな休息を取りつつも、次なる事態に備える。
────【復讐】。
────それは何も生まないとは、本当か。
「…ところで、カモ兄ちゃんよ」
「…ん? 何だ」
「……………。……あのよォ、────何故、俺を助けた。…おかしいだろ、普通に考えりゃよ」
「…あ、それ私も聞きたかったです。あれだけ喧嘩をしていたというのに、…何の心境が………?」
「……………………」
────否。
574
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:22:32 ID:Cj/PtNN60
「…おい黙るなよ?! 見ざる言わざる聞かざるってか? 山猿か貴様ッ!!!」
「鰐戸さん! 正しくは『見ざる言わざる聞かざる』ですっ!! ………って、合ってましたね…」
「アホ死ね。…んで、兄弟分よ。真意はどうなんだ? あ?」
「……………──」
「──さあねぇ〜……」
「うわキモッ」
「…素敵です…っ。鴨ノ目さんっ……」
「は? 何処が?」
────復讐は、【無】を生む。
────特に何も無く、それでいて争いや恨み、悲惨さが無い一日ほど、素晴らしい物はあるだろうか。
────空のペットボトルには、何でも詰め込める力がある。
────無こそが、無限大の可能性を引き込む、最大級の一流価値なのだ。
────…きっと──。
575
:
『TOKYO 卍 REVENGERS』
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:22:44 ID:Cj/PtNN60
【1日目/G7/ビル2階/ス●バ店内/AM.03:23】
【伊井野ミコ@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】精神衰弱(極軽)、頭部打撲(軽)、左頬殴打(軽)
【装備】???
【道具】ホイッスル、クロミちゃんの抱き枕
【思考】基本:【対主催】
1:殺し合いの風紀を正す。
2:鴨ノ目さん、鰐戸さんを信頼。
3:法律違反をする参加者を取り締まる。
4:カメラの少年(相場)がトラウマ。
【鴨ノ目武@善悪の屑】
【状態】背中火傷(大)、右足火傷(軽)
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:クズは殺す、一般人は守り抜く。
2:ミコ、三蔵と行動。
3:三蔵は屑と認識しつつも見直している様子。
【鰐戸三蔵@闇金ウシジマくん】
【状態】胴体、顔に微々たる火傷(軽)
【装備】パイプレンチ@ウシジマ
【道具】処した男達の写真@ウシジマ
【思考】基本:【静観】
1:伊井野、鴨ノ目を信頼。
2:自分に指図するクズ、生意気なブタ野郎は即拷問。
3:つか早くカモ兄ちゃんと拷問してぇなぁ〜〜。
※三蔵の参戦時期は死亡後(ただし本人は気づいていない様子)に確定しました。
576
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/14(月) 20:23:17 ID:Cj/PtNN60
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
今回はちょっと長くなります。
…といっても、内容としては大したものではいないので、ご安心ください。
私は平成漫画ロワ以前に、「シン・アニメキャラバトル・ロワイヤル:||」というリレー物を企画していたのですが全13話でエタりました。
打ち切り理由としては、週1ペースで書いたとしても計算上最低6年間の付き合いとなるシンアニロワにて、「6年後にはオワコンになってる水星や推しの子の小説書くのはキツイいなぁ…」という思いが込み上げてきたためです。
決して飽きたとかやる気が失せたという訳ではありません。
作品のせいにするつもりはないありませんが、ただ、作品チョイスが打ち切りの最大の原因となっていました。(いや作品にせいにしてるやんけ)
この打ち切りを機に、私自身もロワ界隈から離れる志でいたのですが、
その折に流行りだしたのが春アニメ『ダンジョン飯』の存在。
実はこのダン飯。連載初期からネットの某片隅(というかなんj)で話題にされていた漫画であり、なんJグルメ漫画部で「センシすこ」とか「食べ物を食べ物で例えるのがなぁ」と(まぁ比較的)好かれ気味だった印象です。
私自身、小中高とアフィチルで、なんjでネタ(=ス〇マ)されてた漫画達は、なんというか青春というか。馴染み深い存在でした。
この時。──ダン飯に懐古を感じたこの時。
私は閃きました。
「そうだステマ棚の漫画でバトロワやらせたら新感覚やん」と。
そして「参加作品全部時代過ぎたヤツにしたら逆に長続きするんじゃね??」──と。
かくして気付けば60話を突破した平成漫画ロワではありますが、あらかじめ宣言しておきます。
このロワは私の青春です。いや、もはや人生といっても過言ではありません。
羽生は『将棋』、野茂とイチローは『野球』のことばかり考えているのと同じく、私には『平成漫画ロワ』。この平成漫画ロワという独立したジャンルを磨き上げていく熱意と自信があります。
つまり、平成漫画ロワは絶対全350話完結させます。それととどのつまり、失踪したらリアルに死んだと思ってください。(←これが一番重要)
というのも、1日1時間の執筆には毎夜メビウス10本とレッドブル2缶の注入が必須と化しているのでワンチャン人生エタるんです。
さて、長々と全く必要性のない自己顕示欲ばっきばき駄文は以上となりますが、これからも皆様、どうかよろしくお願い致します。
このお気持ち表明(?)は恐らく今回限りとなるので、不満を持った方はその点ご安心ください。
では死ななかったら、また会いましょう。
【次回】
──悪魔と悪魔が出会った夜の話か。
──あるいは、畜生が少女2人を惑わす物語か。
──それとも、ホテル大惨事の序章か。
──『バトル・ロワイヤル in 渋谷』には主人公がいない。70人各々すべてに物語がある。
『悪魔とメムメムちゃん』…メムメム、会長、サヤ師、左衛門
577
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/20(日) 20:07:38 ID:GMBXlCQk0
【お知らせ】
仕事の諸事情により、4/22(火)の投下となります。
個人的事情で投下が遅れることを深くお詫び申し上げます。
578
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/04/21(月) 18:30:33 ID:k7y5XQbE0
【お知らせ】
#061『悪魔とメムメムちゃん』の出来が納得いかないモノだった為、書き直します。
従って、悪魔とメムメムちゃん改め#061『よふかしのうた』は来週月曜日の投下となります。
誠勝手ながらお詫びを申し上げますと共に、ご理解をお願いします。
579
:
名無しさん
:2025/04/28(月) 17:58:51 ID:AjveotCA0
【お知らせ】
「もう何度目のお知らせや」って感じですが申し訳ありません
完全にスランプに入りました
もう一文字も思いつきません、大した話でもないのに迷走で終わってます
というわけで書き上げるまで休止とします
どう見てもエタりフラグ立ちつつありますがご安心ください
今年中に絶対に戻ってきます、私は不死鳥の様に何度でも蘇ります
台所で詰まった油汚れのようなこのスランプが解消される、その時まで
どうか、どうかご理解下さい
【平成漫画ロワ バラしていい範囲のどうでもいいネタバレシリーズ】
①軽いネタバレです
②生き残るのは『実質5人』です、誰が生還するか五連単してみてください
580
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/01(日) 17:09:14 ID:.mAMloyw0
明日投下します。
581
:
名無しさん
:2025/06/01(日) 19:58:35 ID:Koxudk2Y0
お帰りなさい
新作楽しみにしてます
582
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:42:49 ID:cFeuEibI0
>>581
ありがとうございます。ただいま戻りました。
長々と失礼しますが、ぜひまたお読みください。
583
:
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:43:23 ID:cFeuEibI0
【お知らせ】
①お疲れ様です。1か月ぶりの浮上となります。
②スランプ期間中に書き溜めた全5話を一気投下するのでかなり長くなります。
③もちろん「長すぎ、読む側の気持ちを考えろ」というご指摘重々理解できます。
④…ただ、これだけ長い期間平成漫画ロワを放置していたため、それくらいやるのが企画主の務めだろう……という(私の独りよがりな)熱意アンド責任感をどうかご理解ください…。
584
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:44:08 ID:cFeuEibI0
**『らぁめん再遊記 第二話〜情報なんてウソ食らえ!〜』
[登場人物] [[芹沢達也]]、[[アンズ]]、[[早坂愛]]、[[うっちー]]
---------------
585
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:44:33 ID:cFeuEibI0
『チャララ〜ララ、チャラ、ララララ〜〜♪』
──1度聞いたら耳に残る、あのチャルメラの音色。
ラーメン屋台専用出囃子と言ってもいいその旋律は、まるで狙ったかのよーに、PM.10:00〜11:00の小腹が減るタイミングにて響く印象だ。
ボロいアパートで受験勉強中、「そろそろ休憩かな」と背伸びした折に、窓の外から届く『音の匂い』。
焼肉、カレー、中華……何だっていい。
料理は『香り』という五感で、我々生物の食欲を刺激するものだが。──屋台に限っては、刺激に使う五感は『音』。
チャルメラの音が、人々に空腹を思い出させ、店へ誘い込むのだ。
「こんな時間にラーメンは…」──だなんて罪悪感を抱えつつも、あの音色を耳にしたらもう振り切るのは難しい。
ついつい、足を運んでしまうものである。
時刻は深夜二時過ぎ。
ラーメン屋台『中華そば 来々軒』と共に足を運ぶ、若干十六歳の少女が一人。
彼女──アンズは我々と違い客ではない。
この若さながら、一つの店を構える、正真正銘の店主なのだ。
200kgの屋台を引いて二年。されども、味は昭和懐かしい中華そばで、しかも熟練の味。
額に汗をにじませながら、アンズは、渋谷のネオン光へと消えてゆく。
「…よしっと!」
スッ──。
木造りの引き出しを開けば、作り置きの細麺が目に入る。
黄色艷やかに、小麦粉でうっすらコーティングされた黄色い麺をひと束掴めば、待つのは寸胴鍋。
ゴトゴト、グツグツ……。
軽く手でほぐされた後、麺は熱い湯に向かってダイブしていく。
注文は『中華そば大、麺固めで』。
麺が鍋の中で愉快に踊る間、アンズは器に醤油ダレを投入。
ラーメンは麺と醤油スープの一体感で為す代物だ。故に、この醤油ダレも麺同様、熱湯に浸されるのもまた一体感の一つか。
じゅぅあっ……こととととと………。
別鍋から鶏ガラベースのスープが、手持ちザルに漉されつつ、器をどんどん満たしていく。
あれだけ黒かった醤油ダレは、今はもうまろやかで温かみのある茶色スープに変貌。
鶏油がラーメンの海をゆったりと漂い出す頃合いには、もうすっかり仕上げの段階である。
海苔、チャーシュー、半熟ゆで卵にナルト。
アクセントにネギともやしをあしらえば、主役の登場は間近。
ざっ、ざっ、ざっ。ざっざっ。
手際よく湯切られるは真打ち登場。縮れ麺だ。
余計な水分を振り落とした後、麺はアツアツのスープとご対面。
やたらと熱い湯に御縁たっぷりな彼ら──麺ではあるが、さっきまでの釜茹でと比べれば、スープの中は居心地が良さそうだった。
「はいよ、お待ち!! ラーメン大、麺固めね!!」
さて。
カウンター席にて、待望のラーメンとうとうお出ましだ。
小雨降りで肌寒い夜中である。これはお腹いっぱい間違いなしだろう。
ほわっ……。ずるずるずる。
「その味はいかに」──と綴るつもりであったが、気が付いたら麺を啜っていた。
鼻腔を満たす、しょっぱい湯気。
それを前にしては、もはや食欲には抗えないものである。
ウェーブがかかりつつもワシワシとした食感の細麺。
良い意味で無駄な主張がなく、あっさりとしたスープに良く馴染んでいる。
そうそう。このスープもあっさり目でありつつ、コクの深さが美しい。
胡椒が醸し出す、琥珀色のうま味。そして鳥と豚骨の美学たるハーモニー。喉を通す度に、腹が減ってゆく。
味こそはシンプルかつ王道系であるものの、『シンプル』と『王道』を両立させることこそ最も難しいのである。
ごくり。…ごくごく。
店主から出された水を一口。
何だかんだで、「この世で一番うまい飲み物とは何か」と問われたら、ラーメンを食べてる時の水と推したい。
どんなに高価な酒も、どんなに世界中で売れた飲料も、この一杯がくれるひんやりとした癒やしに勝るものは、きっとない。
586
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:44:44 ID:cFeuEibI0
梅雨明け間近の深夜。
駅裏の屋台で食べた、このラーメン『来々軒』。
実に実に普通で、そして実においしかった。
なんでこういう店が東京には無くなったのだろう。今は千円以上が当たり前の店ばかり。店長さんは腕組みして睨まなくていいから。
我々はこういうラーメンを求めているのだ。
こういうのが────。
………
……
…
「──的な感じでしょ! ね、美味しいわよねっ!! 芹沢さん!!」
「…………何がだっ!? おい、ラーメンに髪の毛が入っているぞ! お前ふざけてるのか!!」
「あっ。………………。…サービス」
「あ?! なんだとっ!?」
「サービスよ。ほら、サービスだからサービス!!」
「……………」
………奴のチラチラした視線は、俺のスキンヘッドに向けられている………っ。
…(学食のような)懐かしさのラーメンに、実に美味(くも不味くもな)いこの味。
なにが、「こういうのでいいんだよ」…だっ。
コイツは確実に舐めているだろう……。
ラーメンも世の中も俺のことも、何もかもを……………っ。
ラーメンオタクよりも何よりも、こういう輩が一番タチが悪い。
おい小娘。
一つ聞くぞ…。
こんなのが、『殺し合いを終わらせるほどのラーメン』…なのか…………っ?
587
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:44:57 ID:cFeuEibI0
◆
…これは…………、一体どこから説明すれば良いのか。
クソっ……。
「………はい、もしもし。芹沢です」
「ふんふふんふ〜〜ん♫」
辿る『元凶』が多すぎて…頭がおかしくなりそうだ………っ。
今日はクライアントとの打ち合わせ予定日。北海道へ出張する筈だった。
本来なら今頃、何処かのビジネスホテルで程よく酌を取りつつあるものを………。
「…ええ。はい。はい。…誠に恐れ入りますが、代わりまして部下の河上を伺わせますので、何卒ご理解賜りますよう…。…はい」
「困った困ったバトルロワイアル〜♪ アンズが助けてあげますよ〜〜♫」
「……………っ。…はい。…伺えない理由について、でございますか………。…それは……──」
俺は今、顧客に詫びの電話を入れる羽目となっている……。
──バカの歌声が響く中で、だ……っ!
「──………渋谷。…はい。大変な騒ぎになっている、渋谷のバリアーについて。…実は私、その事に巻き込まれている形でして…──…、」
ガチャッ!! ツーツーツー……
「………クソっ………。“ふざけるな”、か……………。これで一件依頼がパーだ……クソっ!!」
「お腹をすかしたおおかみさん〜〜♪ 子鹿を見つけてむしゃむしゃ〜〜♫」
「〜ぃっ……!!」
現時刻深夜の三時。
…こんな時間の、断り電話なもの故に、相手が怒るのも無理はない。
得意先から暖簾分けしたという、味噌専門の新規店舗。
先方には長い時間かけて、たっぷりとコンサル料をせしめた事もあり、「この金のなる木を無駄にしまい」と俺も意気込んではいたのだが…。
バトル・ロワイヤルという『ふざけた理由』のお陰で、何もかも全てが水の泡…失墜だ……っ。
俺の評判もっ…、清流企画の評価もっ……、信頼性も金も努力もっ………。
愚にも付かぬ理由で俺の矜持はズタボロだ…………っ!
…一体何故……俺は怒られ…、
そして一体何をさせられているんだ…? この俺は………っ。
「…………くっ……、ふざけるのも大概にしろ……………ッ」
「子豚を見つけてムシャムシャ〜〜♪ たまごさんからぴよぴよぴよ〜〜〜♫ お腹いっぱい〜〜〜♫」
「……………ぃぃっっ!!!!──」
「──おい黙れっ!!! お前が一番に大概にしろアンズ!! なんなんだそのふざけた歌は…。脳が破裂しそうだ…!」
「え? 別にいいじゃないの。──」
「──それよりも芹沢さん、試作品やっと完成したから、ほら食べて食べて! あなたのアドバイスに従ったら魔法みたいにどんどん上手くいくわ!!」
「いらんっ!!! あと何杯同じようなモンを食わせりゃ気が済むんだ、お前は」
「はぁ?! 何よっ!!! …私だって……おじさん達の変わらぬ味を守りたい、それでいて芹沢さんの言う至高の一杯に仕上げたい…。その思いで、頑張ってるんだから…!!! ほら、食べなさいよ!!!」
「………………こいつっ……。…まるで話にならん………」
588
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:45:11 ID:cFeuEibI0
…ズタボロ同然なのは何も俺のプライドに限った事ではない。──胃の調子も崩壊気味だっ…。
得体の知れないループに陥ってるのか知らんが、アンズという小娘にかれこれ十杯近くも、全く改善も進歩もないラーメンを食わされ続けている…。
…コイツはもしや…俺をアンチラーメンにさせたいのか? ──そう邪推してしまうほどだ。
ただでさえ学食のばぁさんが作るようなクオリティだと言うのに、これ以上しつこい試食を受けようものなら…──もはや恐怖症が植え付けられる。
これほどまでに我が強い上に、成長や期待も見込めない小娘…。普段の俺なら、こんな奴、即切り捨てたことだろう。
…当たり前だ。金の見込みができん店主の面倒など見れるものか。
おまけに、喧しく社会的常識もない小娘は、既に十分すぎるほど抱えている。
…ただでさえストレスの源である汐見のような女が、二人もいるとなれば、…酒がいくらあろうと足りないくらいだ……。
…だが。
…
……
………
──芹沢さんには、その殺し合いを参加者という身ながら食い止めてほしいんです。
────…俺が、か……?
──バトルロワイヤルには『アンズ』という超能力者がいるので、彼女を上手いこと頼りに、なんとかAの野望を崩壊してほしいんですよ。
………
……
…
奴。────数日前、未来から来た『ハル』という小僧の、忠告の元。
俺にとってこの小娘は、切りたくても切れない……、命綱のような存在と化している訳だ。
分かるか?
あの全裸の小僧が、俗に『全ての元凶』といった訳なのだ────…。
「…もう!! 食べないならいいわよ!! 私が食べるんだから!!! ……新田なら喜んで三杯は啜ってくれるのに…」
「馬鹿舌かそいつは……」
…ただ、奴一人が元凶ならまだ話は簡単だったものを。
ハルがわざわざ未来から飛んできて、そして数ある参加者の中から俺宛に忠告を伝えてきた理由……。
それは『全ての元凶の元凶』──『汐見ゆとり』が原因だからだ。
…
……
………
────汐見が、閣下だぁ…!?
──はい。『汐見ゆとり』閣下。──ならびにバトル・ロワイヤル終身名誉ゲームマスター『A』大統領。この二人が出会わさった結果が……この惨状なんです。
………
……
…
汐見ゆとり………。
基より、頭のネジが外れたパッパラパー女ではあったが、五十年後の未来ではテロ組織のリーダーとして政権奪回に成功した『英雄』とのことらしい…。
拉麺党党首だかタリメンだか知らんが、…奴の才能を見込んで入社させたのは紛れもなく俺自身。
別にラーメンの道を選ばずとも、他の料理業種で通用できた汐見を、このレールに敷いたのは俺……。
俺の選択が馬鹿で、俺が何もかもを間違えていたのだっ…………。
「(ズルズル)うん、美味しい!! …そうだ、ねえ芹沢さん聞いてくれる? 知り合いにヒナって奴がいるんだけど…、そいつ、私のラーメンにイクラ乗せて食べるのよっ!? 信じられないでしょ!!」
「乗せたところで台無しになるほどのラーメンじゃないだろ!」
「はぁ〜?!」
………信じられない。
いいや、『信じたくない』のは俺が一番だ。
589
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:45:24 ID:cFeuEibI0
つまりは、元を辿れば起源は…俺──。
──芹沢達也が『全ての元凶の元凶の元凶』という────…。
…
……
………
──ですから、健闘を祈ります。芹沢さん。あなたの麺の力で、誇りをかけて…。どうか。
────…お、お前………。
──では。
────ま、待て!! おいっ…!!!
………
……
…
「………………っ」
……いや、もう考えるのはよそう。
取引先の信用が一つ失われ、それどころか自分の命が危機に瀕している現在。
俺の身体中、至る所に元凶の大群が纏わりついて鬱陶しいものだが、『過去』に構ってる暇はない。
大切なのは『今』。
この元凶娘・アンズを利用し、俺は何としてでも生き抜かねばならないのだ。
無論、ラジコンとしての操縦は困難を極める上に、波長の合わない小娘ではあるが、奴の『力』は本物。
──ラーメン自体は贋作同然だが、『超能力』だけは頼もしい存在なのだ。
したがって、俺は今のみを見据えなくてはならない。
「………あ、芹沢さん!!」
「………」
無理やり背負わされた運命を、
同時に、狂った未来をも破壊するために………っ。
俺は………………。
「あ、…危ないっ!!!!」
「あ?──」
「────……あぁっ?!!!」
ドンッ────…………
────などと、本来なら響き渡る筈であっただろう、その音。
アンズの念動力により、俺は『ソイツ』からギリギリ回避できた訳だが。
……それにしてもハルの奴。
どこまで『殺し合いの内容』について知っていたかは分からんが、…予め説明はできなかったのか…………っ。
シャ────────ッ
──キキィッ
590
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:45:39 ID:cFeuEibI0
「…あーもうっ! …ごめん早坂、外した」
「謝る必要はありませんよ。ていうか凄い軌道で避けましたねこの人……。今の見ました?」
「……ちょっと!!! 危ないじゃないのっ!!! 気をつけなさいよ!!!」
「…え? 嘘、もう一人いるわけ?! キモっ」
「まあ避けようが攻撃外そうが、もう一人いようが関係ありません。内さん」
「はぁ?!! 何いってんの?! とにかく芹沢さんに謝りなさ──…、」
「────追撃あるのみ、ですから。」
──…俺が、キックボード乗りの小娘【マーダー】二人に襲われるという……っ。
未来の説明を…………。
「………殺る気なわけ? あんたら……ッ………」
「だろうな。…チッ、早速厄介事か……」
…これだから俺は電動キックボードが嫌いなんだっ。
591
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:45:52 ID:cFeuEibI0
◆
…
……
………
シャ────────ッ
海が盛況しだすこの季節。
この長い長い下り坂を、軽車両に二人乗りで。
操縦者の背中にぎゅっと抱きつきながら、夏の夜風を浴び進む。
ゆっくり、ゆっくり……、下ってゆく………。
…はあ。
願わくば、在学中一度はこういう青春を体験したかったものだ。
中々恋愛が発展していかないかぐや様とはいえ、一度や二度、絵に描いたような青春を味わっただろうに。あの方と。
本当に、私も、理想的な青春を送りたかった………。
「……誠にキモい……。早坂胸の弾力を感じながら…女子二人夏風を浴びる…。女子同士のイチャイチャであるこの現状………。まさしくキモさ堪らない青春だ…」
「…はい?」
「ただ、早坂はキモいか? ──となると話はまた別。早坂は確かにキモいっちゃキモいけども、あの黒木と比べたら段違い。……というよりも別ベクトルのキモさがある」
「………だから、…はいぃ?」
「つまりは早坂。アンタはキモいならぬ『グロい』っ!!!! そう、グロいこそが早坂を表すピンポイントな表現なんだよ!!」
「…また始まりましたか、それ………」
あと、…願わくば『男女間』でそういう青春を送りたかった………。
シャワーを浴びた後、私は目的の人物と会うため、キモい連呼女(以下:絵文字)の支給武器に乗せてもらっている。
絵文字に支給された武器というのが、この電動キックボード。
ただでさえ一人乗り様、おまけにバランス力が求められる物ゆえに、乗り心地は(…色んな意味で)悪かったが、まぁ歩くよりマシ。
これを走らせてでも迅速に再会したい人物が、私の中にはいた。
──金髪の除き魔。私たちの裸を見た、…あの忌々しいオヤジが……………。
「……って違う違う!! そうじゃないっ!!!」
訂正。
────私の仕える四宮家令嬢。かぐや様の姿が、…もうすぐそこに…………。
絵文字の腰を片手に、私はふと手中のスマホアプリに目を落とす。
『らくらく安心ナビ』──GPS連動で、家族の居場所を簡単に探せる見守りアプリだ。
かぐや様に襲い掛かる、ありとあらゆる脅威…凶悪から、彼女を護るのが私の使命であり、存在意義。
かぐや様にスマホを買い与えられたと同時に入れたこのナビによると、ここから1km範囲以内に確かにいるようだった。
ただ、このアプリ自体…決して性能が良い物とは言えない。
アプリ起動時、『GPS連動には多少の時差が生じます』という小さい注意書きがあった点から、嫌な予感は漂っていたけども。
超大雑把なマッピングに、かぐや様の位置ポインターがあっちに行ったりこっちに行ったり……そしてエラーでアプリが再起動したり…と。
verは最新版と表記されているにも関わらず、中国会社が作ったのか? ってぐらいに酷い出来だった。
…あとやたら胡散臭い広告も頻出するし。
それでも、私はこの安心ナビを唯一頼りに、彼女を探さなければならなかった。
何故なら、かぐや様のスマホは、この終わってるナビアプリが精一杯の安物泥スマホ。
…あの最低な父親が、娘に買い与えた……──チンケなスマホを唯一頼りにしなきゃいけない。
そんな彼女なのだから………………っ。
592
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:46:05 ID:cFeuEibI0
「…………………かぐや様」
うろちょろバグの様な挙動をしていたポインターは、ついさっき突如として全く動かなくなった。──この付近にて。
チカチカと点滅するポインターが、まるで危険信号の様に見えて……。
…………遅ばせながらお迎えに上がりますから、待っていてくださいね。
………かぐや様────と。
…嫌な想像で心臓が沸き立つ中、それでも可能性を信じて、私は今絵文字の運転に身を委ねている。
「………早坂…。そのかぐやって子に、そんなにも思い入れがあるんだね。グロテスクな思い入れが………」
「…私とかぐや様とでドロドロした変なのがあるみたいなニュアンスじゃないですか……──」
「──って、まぁ良いや一々……。…かぐや様とは物心付く前からの主従関係でしてね。軽い昔話になりますが聞きますか?」
「…うん、いいよ。早坂……」
……どうでもいい補足だけど、この絵文字女…。
話を聞く限り、どうやらヤバいとかスゴいを使う感覚で、『キモい』という言葉を発するらしく………。
かぐや様含め私は、さっきからコイツにキモい(=グロい)と散々に言われてきたけども、悪意的な意味は無いらしかった。
…いや、むしろ好意的に使っているというか………、つまりは私はグロいッグロいッと絵文字から大称賛を浴び続けているわけで……。
…なんの悪意もなく多用されるグロいに、苛立ちとむず痒さは感じるが、一々指摘するのも野暮ったい。というか面倒臭い。
絵文字は『そういう人』と受け入れつつ、私はスルーすることを決めていた。
住宅街を走り抜けるキックボードに、ノーヘルの女子二人。
吐息のような風を浴びる中、私はナビアプリをギュと見つめた。
かぐや様再開までの移動時間。余暇潰しとして、私が口を綴った昔の話。
それはまだ私達が六歳の頃の、ベッドでの体験だ。
「………就寝前、明かりを消そうとした時に、かぐや様が急に話しかけてきたんですよ。弱々しい声で、本を片手に」
「うん。……本?」
「ええ。今夜は寝付きが悪くなると彼女は予感したんでしょうね。私に読み聞かせをしろと差し出してきて──…、」
「あっ!! …ごめん、早坂。…ところでどうする………?」
「……何がですか………。──」
「──って、あっ……」
…話し始めも良いところだけども、かぐや様との幼少話はまた別の機会になりそうだ。
絵文字の視線の先。彼女が話を遮ってくるのも無理はない。
坂道を下った先にて、かぐや様とは全く関係ない────『参加者』が一人突っ立っていた。
出会うものならかぐや様一択であったが、そこにいたのは坊主の眼鏡リーマン、ただ一人。
「……どうする?、って。愚問じゃないですか、内さん」
「…ま、そうだよね。………キックボードでやれるかどうかは不安だけども」
私はそのサラリーマンに会った経験はない。
本当に見ず知らず。どんな名前かも、どんな声なのかも、どんなスタンスで殺し合いに望んでいるのかも知らない。
言ってしまえば、どうでもいい人間の一人でしかなかった。
593
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:46:20 ID:cFeuEibI0
「……やれるかどうかじゃないですよ」
「………やるんだよ、って言いたいわけ?」
「いえ違いますよ。ていうかあの人の生死は今眼中にありませんから。…何はどうあれ──」
いや、寧ろどうでもいい人間だからこそだった。
「──今轢いておけば、後々ゲーム展開的に楽でしょう」
「…………うん、分かった」
「では申し訳ありませんが、お願いしますね。…内さん」
急加速していくキックボード。
────私はあの男を奇襲《轢き逃げ》するつもりでいる。
運転者の絵文字とは何だかんだで意気投合した仲。
私の『ゲームのスタンス』を理解した上で、尚も付いてくる彼女は、ブレーキを完全に放棄し真っ直ぐ進み続ける。
急速に縮まる距離。
こちらの殺意に気付いてか否か、ボーーっとある意味では隙一つなく突っ立っているサラリーマン。
…別にこのサラリーマンには恨みとかそういう嫌な感情はない。
頭がつるっパゲだからといって、嫌悪感とかも特には生じていなかった。
それに、奴を無視して突っ走るという選択肢もあるにはある。
「行くよっ、早坂……!!」
「…ええ」
ただ、『四宮かぐや優勝』という完成図に他参加者たちは、────十分すぎる程に邪魔だった。
ドンッ────、と。
思いの外あっけない音と共に、サラリーマンは宙を舞う……。
スキンヘッドが満月と重なるほどに、高く……────。
…飛ぶ筈だった。
594
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:46:36 ID:cFeuEibI0
………
……
…
「ほう。『ライオン一頭 脱走か。渋谷区』………おいアンズ。仮に遭遇したとなっても、お前の力なら対処できるんだろうな?」
「……ちょっと話しかけないでよ!! 今集中してるんだからッ…………」
「あ? まあいい。話が通じる相手ならともかく、さすがの俺も猛獣と出くわしたのならくたびれるからな。その時は頼むぞ。──」
「──………それで、『お前ら』はどうなんだ。会話は可能なのか? おい」
ギギギギッ…
ギギギギッ…
「ぐっ…………」
「…なに……、これ…………っ。…キモっ………」
…なにが、ライオンだっ……。
私自身も、襲う参加者相手皆が皆、猛獣のように何の知性も感情もないNPCだったらどれほど良かったことか………っ。
始末する筈『だった』リーマン。
椅子に腰をこけ、呑気に新聞を広げるソイツの視線を感じながら、私と絵文字は今、跪いている……。
──いや、違う。
跪か『されて』いる感じだ………っ。
言葉に形容するのも難しい…見えない力で無理やり地につかされて、屈まされて……。
バカみたいなことを言うなれば、────『念動力』で、抑えつけられ………。
身動き一つ取ることさえできないでいる…………っ。
「…は、早坂…………っ…」
「なんな…っ……………。これは……」
「もう…呆れて怒る気もしないわ……。ねえアンタ達っ!!!」
「「……っ…」」
「危ないじゃないの!! 危うく芹沢さん怪我するとこだったでしょっ!!! …本当にっ、殺し合いに乗るなんて……反省しなさいよっ!!!!」
「…バリバリ怒ってるじゃねえか」
「ねえ芹沢さん! …私、これからどうすればいいのっ…? いつまでも『力』で抑えてるわけにもいかないし。…この子達、どうすればいいのかな……」
「知るか。この件に俺は関係がない。………ただ、独り言を呟くとするのならな……」
「……?」
「────とっとと始末した方が身のためではあるだろ。…これはあくまで独り言だからな? これからお前がどう行動し、結果的にどうなろうが俺は一切関与していない。以上」
「……は………? はぁ……っ?!! …き、キモっ……………」
「………っ」
「…芹沢さん。…始末…って……………」
屋台から身を乗り出し、こちらへ近づいてくる金髪女…。ソイツの困惑した目と、ふと合う。
どうやらこの訳の分からない『圧力』は、ソイツ──アンズという女によるものと察せるが………私的にはそんな事もうどうだっていい…っ。
595
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:46:55 ID:cFeuEibI0
奇襲を仕掛けるも即返り討ちにされ、…文字通り手も足も出せず屈しているこの現状。
何の意味もなくただ時間だけが浪費して……、成り行き次第では絵文字共々処刑される…この現状……。
……自分の誤判断で、再開以前の問題に………。
かぐや様とはもう二度と会えなくなるかもしれないという……──このっ……、現状…………っ。
…彼女のせいにするつもりは無いが、かぐや様という存在。
彼女の安否が、私をここまで判断ミスに狂わせたのかもしれない。
……それ程までにかぐや様というエナジーは、私の原動力だった。
私にとって、かぐや様はどれだけ輝く宝石よりもブランド品よりも四宮家の全財産よりも……。大切で護らなきゃいけない存在だった。
彼女のことで頭が一杯だった。
もはやかけがえのない存在……。絶対に手放したくない物、それが四宮かぐやだった。
…従って、生死がアンズの手中にある今、改めて冷静な判断をさせてもらう………っ。
この勝負………──私達の負け【敗北】だ。
…私は降りることにする。
…
……
………
──早坂ー…。これ、よみきかせてよ…。
────珍しいですね。あなたというお人が……。
────…仕方ありません。できるだけ迅速に…! 早く!! 寝てくださいよ………。
────かぐや様………。
………
……
…
“出来るだけ迅速”にっ…………。
「…………あの…………、…申し訳…ありません……でしたっ……。深くお詫び…申し上げます…」
「え?」
「は、早坂………っ!?」
「芹沢…様で宜しかった……ですよね………」
「……なんだ、小娘」
「…信じられない気持ちは…重々理解できますが……、私共、貴方様に敵わないことを身に沁みて………、もう襲撃も関与もせぬことを…心から誓います…………」
「ほう」
「……は、早坂?! な、何言ってるの…………!! こんな奴らに頭下げなくても………」
「…そうですよね………? 内さん…」
「いや…! おかしいって!! ね、ねぇ早さ──…、」
「ですよね………ッ」
「……! ………………………」
596
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:47:11 ID:cFeuEibI0
「…我々のだいそれた過ちを詫びるとともに………、お願いできますでしょうか……………──」
「──どうか私達にご容赦と、慈悲を………。力から解放され次第、即退散しますので…………………。どうか、この願いを承知できますでしょうか………………。芹沢様に、アンズ様…………」
「……何言ってるのよ! 『人を憎んで罪を憎まず』──おじさん達から習った教訓だわ! 芹沢さんの独り言なんか知ったこっちゃない!! 最初から許すつもりよ!!」
「…………真ですか……?…」
「ええ!!」
「…………」
正直なところ予測できた返しではあった。
徐々に身体を抑えつける力が弱まっていく中、ニコリと微笑んだアンズは、私達の前に丼を置く。
「…『人を憎んで罪を〜』じゃコイツらを許してない事になるだろうが……………」
眼の前に鎮座する、湯気立つそいつ。
……仲直りの証としてこれを食べろと言うのか、彼女は屈託のない笑顔で箸を差し出してきた。
言うまでもないがこれを食している暇はない。
──…かといって、芹沢達に申した謝罪や敗北の意思表明も嘘というわけではない。
絵文字は未だ闘争心が鎮火していない様子だけれども、私は彼らに構い、ここで道草を食う暇も余裕もなかった。
…そう、余裕がない。
……私はかぐや様に早く会わなければいけないのだ。
「……寛大な御心、感謝します。………私を信じてくださりありがとうございました、アンズ様………──」
「──行きますよ、内さん。…早く……」
「えっ……。いいの…? 早坂…」 「いや私のラーメン食べないの?!」
「……私の、いや私達の『最優先事項』を…お忘れですか。内さん」
「……………そう。早坂が良いならそれに従うよ」
「いや食べてから行きなさいよ!! 美味しいわよ?!」
アンズがバカ正直な純粋者で助かった面もある。
念動力が弱まった折、立ち上がった私は絵文字を起こし、ヨタヨタ、キックボードへと歩を進めた。
私は本当に……。
こんなことをしている場合じゃないんだっ……………………。
ペラっ──────
「おい待てメイド」
597
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:47:22 ID:cFeuEibI0
「…………。………ご心配なく。再度轢きにかかることは決して行いません…………。…決して」
「いや違う。その事に関してはどうだっていい。一つお前に聞こう。…なに、簡単な質問だ。時間は取らせん」
「…………なんなりと」
「お前は何故殺し合いに乗っているんだ? 返答次第ではこちらも態度を変える…だなんてするつもりはない。ただ、その真意を純粋に問いたいのだ」
「……え。は、早坂!!」
「…………畏まりました。真意…単刀直入に言えば奉仕です。…センター分けで、私と同い年の女子──…、」
「そいつは『四宮かぐや』の為か?」
……………………………………………え。
奴の。
芹沢の。
全く予測していなかったその発言で、足が急速冷凍されたかのように動けなくなる。
…奴は、
「えっ?」
…今、
「え?? 四宮??」
…何と言った……………………?
「え……………………」
「……御名答か、そいつは運が良い。お前も時間が無い様だからな、手短に説明するぞ」
598
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:47:35 ID:cFeuEibI0
…時間が…、確かに止まったかのような感覚だった。
静止して、何もかもが静寂に死にきっている中、
新聞の巡る音が異常に大きく感じた。
ペラっ────────────
何故…、
ヤツはその事を知っているんだ………………………?
「“何故知ってるか”……、か。答えは単純だ。十数分前、丁度この場所であたふためいた娘と出会してな。センター分けで、制服姿の。大した会話は交わさなかったが、妙に印象深い奴ではあったよ。四宮はな」
「………えっ」
「暫くして、その四宮は突拍子もなくバタバタ走り去っていった。恐らく奴にも考えがあってのことだろう。……いや、四宮が走り出したのにも明確な理由があった」
「…え」
「ほら、アレを見ろ」
「………アレ……………」
私は芹沢の方へと振り返る。
奴の指差す先には遠く向こう側、
ピンク色の小さなホテルが建っていた。
「ああアソコだ。…これは後になって解った事だが、四宮のお嬢が去った後、血相を抱えた連中が四人、その後を追ってきてな。従って、四宮は奴ら【マーダー集団】から逃げていたと推測立つわけだ」
「……………かぐや様が、…………追われて………………?」
「…え?? ちょっと待ってよ芹沢さん!! 確かにあのホテルには四人組がいたけど──…、」
「…ぃっ!!! 口を挟むなアンズ!! お前は食器洗いを済ませたのか?! 口より手を動かせ、手を!!!」
「……はぁ?! な、なによ。今やるところだったわよ!!!」
ガチャ、カチャ………
「…申し訳ないなメイド。事情を知っていたら俺も四宮を匿ったものだが。…巡り巡った運命は今重なり合ったというわけか。すまない」
「……………………………」
「まぁ、信じようと信じまいとお前の自由だがな。信じたくない気持ちは重々理解できる──」
「──ただ、信じて動いた所でお前にデメリットが無いと、俺は考えるがな」
「…………」
599
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:47:51 ID:cFeuEibI0
「想像してみろ。怒り狂った野郎共が、一人の幼娘を追い回して。しかも、逃げ込んだ先が『そういう』ホテルと来たものだ。これから何をされ、どんな目に四宮が遭うかはもう……。…すまん、これ以上言う必要はないな。──」
「──だが、そんな下衆な推測が立てられるほどの事態であることには間違いない。どうだメイド、信じるか信じないか。…いや、信用するか悩む程の暇はあるか? お前には」
「……なに、それ………。…ホテル…キモっ……」
「……………………」
…信じるも、なにもない。
芹沢。奴の発言を鵜呑みとするのならば、
──かぐや様は、
──ラブ………ホテルに逃げ込んで、
──取り敢えずの安否確認。生存の確認はできている。
但し、安否と同時に彼女は、
こうしてる間にも、
現状。
今、まさに。
──危機に瀕している。
「……うそ………。信じられない、キモ………」
…………………。
…私も『ウソ』だと思いたかった。
いや、嘘と決めつけて縋りたかった。
「手短に説明……とは言ったが随分長いこと話してしまったな。ついついお喋りが過ぎるのが俺の癖でね。…困った物だ、まったく…」
「…………………。…芹沢様」
「ん。なんだ」
ただ、その信じたくもない情報に縋っていた方が、まだ希望が見えていた。
少なくとも、何とかできるという可能性はあった。
…従わずにいるなど、それこそ愚の骨頂だった。
……それが、かぐや様の順従たる、…私の使命なのだから………。
「貴重な情報、誠に感謝します──」
「──…その一方で、貴方がかぐや様を保護しなかった責任について。身勝手ながら有事の際、徹底的に『追求』するつもりでおりますから──」
「────ご覚悟を。では、失礼します」
「……やれやれ、喋る必要のないことまで説明したようだな俺は。…全くこの悪癖は早治を検討せねばなるまいものだ………。──」
「──それじゃあ俺からも以上だ。『急がば回れ』、今度ばかりは安全運転を願うぞ。メイド」
「……飛ばしてくださいね、内さん」
「…う、うんっ。行くよ!!」
600
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:48:05 ID:cFeuEibI0
絵文字に引っ付き、目指すは離れのホテルまで。
キックボードを走らせ、私達はこの場を後にしていく。
時間を大幅ロスした芹沢襲撃タイムではあったが、その分何よりも欲しかった情報を得たので結果はオーライか。
…この失った分の時間は、絶対に取り戻してみせる。
かぐや様も……っ。何もかもをっ…全部…………………。
シャ────────ッ……………
不安と半端じゃない憂苦をグッと噛み殺しながら、私は再び夜風を浴びていく……。
「あぁそうだ。おい待て、絵文字の娘!!」
キキッ──
「え。私?! 何?」
「メイドはともかく。お前に是非とも渡したいものがある。…この割り箸なんだがな、一本五千円ってところでどうだ?」
「…はー??! いやキモ!! キモ高っ?! ただの割り箸でしょそれ!! 普通にいらないしキモっ!!!」
「…(キモキモ何だこいつは……。)あぁそうだ。これは何の変哲もないただの割り箸。五千円の値打ちに合うかで言えば、ボッタクリもいいところ。別に無理に買えとは言わないさ──」
「──だが、いいか? お前はバトル・ロワイアルについて『何も知らない』。お前も……、メイドも……、そしてお前らは『四人連中』の事さえも、何一つ情報がないわけだ」
「…………」
「買うか買わないかは自由だがな。もっとも、懐に収めておいて損だけは無いと言っておこうか」
「………………………わ、分かったって…!!」
去り際、割り箸と五千円札が夜空を交差。
それぞれの元へとトレードされていった。
「…くははっ! 毎度!」
【1日目/B2/ラブホテル前/AM.04:18】
【早坂愛@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】
【状態】精神不安定(軽)
【装備】チェンソー
【道具】???
【思考】基本:【奉仕型マーダー→対象︰四宮かぐや】
1:かぐや様、古見硝子以外の皆殺し。(主催者の利根川含む)
※:マーダー側の参加者とは協力したい。
→同盟:山井恋
2:ホテルにいるかぐやとのいち早い合流。
3:かぐや様が心配。
4:変態覗き男(新田)を警戒。
5:後々来るであろう『個室にてヤバイ女と出会う未来』に警戒…。
【うっちー@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
【状態】健康
【装備】電動キックボード@らーめん再遊記
【道具】割り箸
【思考】基本:【静観】
1:早坂についていく。
2:黒木が『キモい』なら、早坂は『グロい』!! グロメイド!!!
601
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:48:17 ID:cFeuEibI0
◆
………
……
…
暴走娘二人組が去って以降、幾ばくか刻が経つ。
情けないくらいに凡庸なラーメンの匂いが漂う中、俺は相変わらず新聞を読んでいた。
「…ねえ芹沢さん。あの割り箸さ、一体どんなすごい物なの?」
「なに? 割り箸に凄いもクソもあるか。本当にただの箸だアレは」
「はぁ?!!」
俺は夕刊新聞が好きだ。
「つまりはゴミで五千円をぼったくったわけ?!!!」
「ああ。人間ってのは想像深い生き物だからな。意味有りげに言えば、信じてしまうものだ。──」
「──なにはともあれ、軽い臨時ボーナスこれにて頂きだ…! ふふふっ、人の金で飲む酒が一番美味いってものよ!」
「詐欺じゃないのっ!!!! もう、信じられないっ…!!!!」
新聞という読み物は実に興味深い。
新聞記者という輩は、常に論客気取りで、一面に政治関係の罵詈雑言を掲げ、スポーツ面も悪意に満ちた記事を書くことが多い。
情報を判別せずそのまま掲載することから紙面の殆どは憶測記事とネタで大半。まるで個人アフィブログのようなレベルを平気で売り出す。
悪評。誤情報。印象操作のデパートだ。
「あっ。…そうだ、あのメイドさんがかぐや(?)って人追っていたの……なんで分かったの? 私たちそんな子と会ってないじゃない」
「あー。あれも適当だ。参加者名簿の中から目についた名前を話した。それだけだな」
「え、え、…はぁあっ?!! …たまたま当たったからいいものを………。外してたらどうする気だったのよ!!!」
「その時は『そいつがセンター分けの女生徒を追っかけていた』だとか言えばいいだけだ。…ただ、そのケースの場合、信憑性にやや欠けるものだから、今回は幸運が働いたな」
「……信じられない……っ。最低………」
「ほう。何が最低と感じた?」
「あんたが適当に大嘘こいたせいで、あの人達…迷惑に振り回されたじゃないっ!!!! メイドさん、改心する一歩手前だったのに……!! なんでそんな酷い嘘流すのよっ!!!!」
「……バカか。あの娘共は間違いなく再襲撃に掛かっただろう。メイドは知らんが、絵文字の変な女は間違いなく殺意が鎮まっていない。そんな危険な連中を、口八丁適当丁で退けられたのだから、感謝してほしいぐらいだ」
「そんなわけないしっ!!!! それに、あのホテルには確かに四人連れがいた…。──子供のよっ!!! 何も野蛮なんかじゃないちびっ子たちが!!! …メイドさんがあの人達を襲撃したら……どうすんのよっ!!!!!」
「知るか。俺達に幸運が作用した分、そのガキ共に不幸が渡る。そう考えろ」
「ぃっ!!!! もう、アンタって人は……もうっ──…、」
「お前こそ『もう〜』…だ。聞け」
「…えっ?!」
俺は新聞を愛してやまない。
こんなしょぼい紙切れで世論を動かせると勘違いしている、マヌケな記者共を想像するのが、何よりの笑いの肥やしとなるのだ──。
602
:
『らぁめん再遊記 第二話』
◆UC8j8TfjHw
:2025/06/02(月) 19:48:34 ID:cFeuEibI0
「────いいか? お前のお花畑脳はやたら悪を毛嫌っているが、ラーメン店において『悪』は時として強い味方となるのだ」
「……は?」
「悪は時として富を産む。お前の今後の…、殺し合い脱出後の経営についての話をしよう。──」
「──アンズ。お前の『来々軒』は食べログ評価星4の優良店らしいが、例えばこいつの評価を意図的に下げるとする。つまりは自演だ。自分や知人に協力してもらい、悪評を流したくって星1まで下げるのだ」
「いや絶対嫌よ!!! そんなの…馬鹿じゃないの!!」
「うるさいっ黙って聞け。…今はSNS最前線時代。星1の屋台ともあれば、頭の悪いインフルエンサーが店に集まり動画を撮る。バズり狙いに悪評を垂れ流すレビュー動画というわけだ──」
「──しかし、奴らYouTuberは無能ゆえにその職を選ばざるを得なかったバカばかり。一度麺を口にした途端、こう思うだろう。『あれ、悪評ほど不味くなくね』とな」
「……え?」
「その動画が拡散され再生される度に、同じく頭の悪い視聴者共が店に集まる。怖いもの見たさで来店し、その度『思ったより美味い!!』と勘違いし、次第に食べログ評価は元の高さまで戻っていく。売上も鰻登りになった上にな」
「………………………え、それ……」
「ラーメン作りにおいて一番重要な事は味であるが、『ラーメン店経営』においては別だ。味よりも、悪。悪を味方につけることこそ成功の秘訣……! 聞くぞ。お前にとっての成功とはなんだ? アンズ」
「…成功って。…それは、今は──…、」
「『殺し合いを終わらせるほどのラーメンを作ること』、だよな?」
「…………っ!」
「何事も綺麗事で済むほど、この世の中も、バトルロワイヤルも、人生も甘くない。『悪』こそが、お前の一杯に足りない最大の要因なのだ」
「………………」
…だとか、適当なことを言ってみたが。
──流石はハル曰く単細胞の小娘だ。
こんなめちゃくちゃな主張にぐうの音も出なくなったぞ。
俺の言った台詞。要約するならば、『つまり僕は何も悪くないよーん』という正当化でしかないのにな……。
「……ごめんなさい芹沢さん。私が間違っていたわ」
「なんだどうした」
「私、考え方を改めてみるわ!! 悪こそが大事!! 悪い奴らは大体トモダチ!! その考えで挑んでみるわね!!!」
「はいはい、そうかそうか」
…だが、これだからバカは堪らない。
しかも、コイツのような『実力あるバカ』は俺らからしたらこれ以上ないくらいの好都合なカモだ。
バカと何とかは使いよう、とよく言ったものだが。
俺はアンズのラーメン革命(笑)で絶対生き延びてみせる。
(行く末は、無許可営業に衛生法、未成年就労や殺し合いの件、超能力の件で、アンズの親から脅迫グレーに金をゲット。これでコンサルがパーになった件は埋め合わせだ!!)
ラーメン店で一番大切な物。
それは悪でも味でもない。バカな客の存在だ。
バカこそが俺を潤わせ、そして生存競争を勝ち抜かせる可能性を大いに沸かせるのだ…────。
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