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決闘バトルロイヤル part4

721リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:46:02 ID:VQtoL8aQ0



或人がそれに気付いたのは偶然だった。
のっそりと体を起こした万丈の後方で、こちらをじっと見据える術師が視界に映った時。
猛烈な悪寒に急かされるまま、無我夢中で突き飛ばした。
自分のどこにまだこんな体力が残っていたのか、不思議でならない。
とはいえ、直に消え失せる些細な疑問に過ぎないだろう。

「がふ……げほっ……」

体の内側が燃え盛っているように熱い。
吐き出しても吐き出しても、血がせり上がるのが抑えられない。
ゼロワンとして戦い続け、時にはヒューマギア顔負けの打たれ強さで立ち上がって来た。
しかし或人はどこまでいっても、肉体的にはただの人間。
鬼やブラッド族、神ならば耐えられたろう呪符も命を刈り取るのに過剰な凶器。
内より腐らせ、溶かし、呪い殺される末路は避けられない。

「或人!おいしっかりしろ!」

大声で自分を呼ぶ青年を力無く見上げる。
朧気な視界の中でも、彼が焦燥を露わにしてるのが分かった。

「万丈、さん……」

悪い事をしたと、心から思う。
もしあのまま滅を破壊していたら。
きっと万丈が言うように、二度と仮面ライダーには戻れなかった。
イズを裏切り、本当の意味で取り返しが付かなくなっていた。
そうなる前に引き戻してくれたのに、こうも早く命を失ってしまうなんて。
万丈にも、自分と滅の争いを止めようとした天津にも、ただただ申し訳ない。

「ありがとう……俺を止めてくれて……」

伝えたい言葉を全部口にする時間も、もう残されていない。
だからせめて、感謝を告げたかった。
自分を二度もアークから引き戻した彼に。
決定的に道を踏み外すのを、止めてくれたヒーローに。

顔を動かし、呆然とこちらを見つめるヒューマギアと視線を合わす。
正直、完全に許す事は今も難しい。
けど天津が言った通り、自分の行いに後悔と罪悪感を抱いてるなら。
悪意から抜け出す方法が分からず、苦しんでいるなら。
彼の息子を未来で自分が奪ったなら、最後に放って置くのは出来ない。

「滅……お前の悪意を止められるのは……お前自身だけだ……」

復讐の連鎖は、悪意の支配は自分達で断ち切らねばならない。
どうか彼が恐怖した自身の心を受け入れ、間違った道をこれ以上行かないように。
強く願い、瞼が静かに閉じられる。

夢に向かってもう一度、高く跳んだ未来へ踏み出すことは叶わず。
己を蝕んだ悪意共々、異界の地で眠りに就いた。

722リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:46:53 ID:VQtoL8aQ0
「或人…?おい、或人……っ!」

命の熱さを失い、語る術を持たなくなったのが何を意味するか。
嫌という程覚えがあるから、万丈は強く悔やむ以外に出来ない。
悪意を振り切り、肩を並べて戦う仲間となれたかもしれない男を喪った。

「ンンン……これはちと予想外。或人殿にはまだ使い道を考えていたのですが…ま、過ぎた事を悔やんでも仕方ありますまい」
「ふざけんじゃねぇぞ……テメェ!!」
「まあまあ落ち着きなされ。やる気に溢れるのは結構ですが、随分とお疲れのご様子。折角拾った命を無駄にしては、或人殿も浮かばれないでしょうなぁ」
「うるせぇ!!テメェだけは、絶対に許さねぇ……!」

今殺した相手など、どうでもいいと言わんばかりの態度が逆鱗に触れる。
旧世界で人々の命を玩具同然に弄んだ、エボルトと同じ外道の類だ。
怒りに身を任せ再変身しようとするが、リンボの言うように体力的な余裕はない。
アナザーゼロワンから受けた傷が残る身体で戦うのは、無茶以外のなにものでもなかった。

『POISON』

「変…身……」

『FORCE RISE』

『STING SCORPION』

『BREAK DOWN』

負傷を無視し戦いを選ぶ万丈を諌めるように、暗く淀んだ電子音声が響く。
銀の体を持つサソリが現れ、尾の先端を滅に突き刺す。
広がるのは毒に非ず、対象を戦士に変えるエネルギーデータ。
バイオレットカラーのボディスーツで覆い隠し、拘束具状のアーマーを各部へ装着。
黄色く輝く瞳が術師を射抜き、豪快に左腕を振るう。

ひらりと跳び鋼鉄の鞭を躱すリンボから、まるで万丈を庇うかの姿で前へ出た。
天津のデイパックから転がり落ちたフォースライザーと、数時間前に戻って来たプログライズキー。
上気二つを使い変身した仮面ライダー滅は、振り返らずに自身の支給品を背後へ投げ渡す。

723リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:47:36 ID:VQtoL8aQ0
「天津垓を連れて去れ。足手纏いがいては満足に戦えん」
「は?お前何言って……」
「人類滅亡の結論を、間違いだったと言うつもりはない。だが、この場で真っ先に滅ぼさねばならないのは奴らだ」
「お前……」

何を言いたいのか、何をしようとしてるのか。
分かるからこそ反論を口に出しかけ、しかし口論を行える余裕がないと即座に察する。
気を失いピクリとも動かない男と、必死に呼びかける聞き覚えがあるような声。
まだ助けられる彼らを無視するのは、あの時と何が違う。
自分の事しか考えられなかった旧世界での過ちを繰り返し、馬渕由衣の前で言った全てを嘘に変える。
出来る筈がなく、故に不甲斐なさを押し殺してでも滅へ背を向けるしかなかった。

「……追い掛けて来いよ。或人が言ったこと、無意味にするんじゃねぇ」

無理だと分かっていても、そう言わずにいられない。
白スーツの男を背負い、奇妙な女が映っている機械を拾い上げDホイールに乗り込む。
気を失った相手を強引に後部へ乗せ、クローズドラゴンが小さな体を駆使し支える。
サイズに反しスマッシュを怯ませるパワーがあるだけに、振り落とされるのを防げる筈。

指を咥えて見ているリンボ達ではないが、滅が一歩も近付けさせない。
オーソライズバスターから毒針を乱射し牽制。
片や結界を展開し、もう一方はモンスターを盾に使いノーダメージで凌ぐ。
そうこうしてる内にDホイールが急発進。
ライディングデュエルでない以上、速度制限も掛からずあっという間に走り去って行った。

「なにそれ、一人で残ってヒーローごっこでもしたいの?それとも、データが完全におしゃかになっちゃった?」
「他者へ悪意を伝染させる大元の貴様らを、生かしてはおけん……!」

冷え切った目で問う灯花へ断言し、ドライバーに手を伸ばす。
トリガーを押し、高威力の技の待機状態へ入った。

724リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:48:22 ID:VQtoL8aQ0
『STING DYSTOPIA!』

プログライズキー内のデータを読み取り、エネルギーへと変換。
左腕の伸縮ユニットへ流し込み、先程と同じく鞭のように伸びる。
尤もそのまま攻撃に使うのではなく、右脚へ巻きつけた。
崩壊毒を蓄えた針を装着し高く跳ぶ。
標的を高く見下ろし蹴りを放てば、返り討ちにすべく悪魔の玩具が三又槍を振るう。

足底から伝わる衝撃は軽くない。
攻撃力3000のパワーに加え、滅自身もダメージが激しい。
押し返されスクラップに変えられる最期も、冗談では済ませらない。

「この程度がどうした……!」

力が足りないなら、強引に掻き集めてでも敵を滅ぼす。
制御ユニットの役割を持つ胸部パーツに指令を送り、パワー全てをこの一撃へ上乗せする。
安定性を捨て攻撃特化の代償が即座に襲い、各部が火花を散らす。
しかし滅が止まる理由にはならない。
三又槍を押し返すばかりか亀裂を生み、真っ向から砕いた。

「オオオオオオオオオオッ!!!」

足底がデストーイ・デアデビルの巨体を叩き、哀れ爆散。
召喚されて間を置かずに退場となったモンスターに、何の思いも浮かばない。
倒すべきはその先にまだ健在。
たとえ幼い人間だろうとここで滅ぼさねば、悪意が広まるのは間違いない。
奇怪な術を用いる男共々、自分が終わらせようと突き進み、

「……うっざ」

ボソリと、呟いたのを果たして滅が聞いたかどうか。
突如全身へ不可視の攻撃が襲い、血の雨の如く火花が散った。
止まる意志が無くとも、思わぬ衝撃へ強制的に勢いが落ちる。
それでも構うものかと蹴りを突き出し、滅は見た。
絶対零度の瞳で見上げる少女が、アークに勝るとも劣らないエネルギーを纏っているのを。

725リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:49:07 ID:VQtoL8aQ0
「バイバイ、ロボットさん」

吐き捨てた声は終わりの合図となって、滅へ終焉の刻が訪れる。
突き出した足から徐々に焼き潰され、胴体を熱が侵食。
頭部を飲み込み消し去るまで、一刻の猶予も無いだろう。
相手にとってではない、ここが自分にとっての果てだった。

(そうか……)

敗北を理解し、全く悔やんでないと言えば嘘になる。
己の足掻きは届かず、悪意を滅ぼせずに力尽きるのだから。
けれど不思議と、この結末に納得を抱く自分も存在した。
いいや何も不思議なんかじゃあない、至極当然の末路がようやく訪れたに過ぎない。

本当に滅ぶべきは或人でも天津でも、目の前の二人組でもない。
自分だ、他ならぬ滅自身が真っ先に滅びねばならなかった。
迅を奪った或人は許せない、だが根本的な原因を作ったのが誰かは言うまでもない。
奪われて初めて分かった。
いや若しかしたら目を背けて来ただけで、自分に心があると言われた時から分かっていたのかもしれない。
大切な存在を失う苦痛がどれ程か、或人に夢を捨てさせる程の絶望がどんなものかを。

或人と、それに、ああ、この地でも自分は奪ってしまった。
仲間を理不尽に奪われた環いろはと七海やちよへ、罪の重さを理解したと言っても今更だ。
届ける術はなく、仮に伝えられても全てが手遅れ。
あれだけ聞こえた迅の声も、いつまで待っても現れやしない。

己が心へ向き合うのが遅過ぎた、滅ぶべき悪が当然の如く消え去る。
抵抗の意志を示さず、自らの終わりを受け入れ、

(すまなかった……)

誰にも聞こえない懺悔を最後に、もう一つの悪意も眠りに就いた。

726リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:49:47 ID:VQtoL8aQ0



勝てた理由を説明するなら、何も難しいものはない。
デストーイ・デアデビルは戦闘で破壊された時、墓地のデストーイモンスターの数に応じて相手にダメージを与える。
効果を使って滅の勢いを削ぎ、後は灯花自身の力で消し飛ばした。
フリル付きのドレスを身に纏った、魔法少女としての姿。
これまで使わなかった力を解禁し、変換の固有魔法を使用。
周囲一帯の力を自身の魔力に変え固有武器の日傘へ収束、高威力の砲撃を先端から発射。
それで呆気なく片付いた。

「もー、あんまり無駄なことさせないでよねっ」

原型を留めていない、僅かに残った残骸へ愚痴をぶつける。
威力に反し低燃費なのが灯花の魔法だが、魔力を使わされたのは事実。
微量なれどソウルジェムに濁りを確認でき、全く最後までこちらの不快感を煽ってくれる。
ついでに首輪も砲撃に巻き込んだせいで、回収は不可能。
尤も、それは灯花の自業自得だが。

「ふぅ、一仕事した後に吹く風は心地良いものですな」

冷風を気持ち良さ気に浴びながら、いけしゃあしゃあと言ってのける。
逃げた連中が見たら、さぞ額に青筋を浮かべるだろうな。
そう内心で独り言ちる灯花の元へ、言葉通り仕事を終えたリンボが近付く。
放置されていた幾つかの支給品に加え、新たに首輪一つを入手。
リンボの後ろには、頭と胴体が別れた死体が転がっている。

倫理の面から抗議をぶつける気は一切ない。
役に立たないと判断すれば、桜田ネネのような幼稚園児でも殺す少女だ。
差し出された首輪を当然のように受け取り、デイパックへ放る。

殺し合いに乗った邪魔な輩の退場と、幾つかの支給品。
それに病院前で手に入れたのと合わせ、首輪が二つ。
収穫があったのは良いとして、ここからどう動くか。

727リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:50:23 ID:VQtoL8aQ0
「それにしても、いろは殿の現在位置は変わらず不明と。ですが運が良ければ、灯花殿のご友人であるねむ殿が先に見付けているやもしれませぬぞ」
「ふーん、ねむとお姉さまが……」

絶対ないとは言い切れない。
元々の知り合い同士である或人達が三人集まったように、他の者だってそういう事態は起こり得る。
きっとねむもいろはとの再会を望む気持ちと、同じく拒む気持ちの両方があるだろう。
いざ会えた時、コロッと考えを変え魔法少女救済を諦める。
そんな情けない事にはならない筈だ、ういとの間に誓ったいろはを救う約束を忘れるなんて有り得ないのだから

「ねむが、わたくしより先に……」

再会が叶ったら、いろはからはさぞ喜ばれるに違いない。
死に別れた相手ともう一度会える、夢や幻じゃなく現実で。
いろはがどれだけ自分達を想ってくれてるか分かるから、どう反応するかも予想は付く。
何もおかしくはない、いろはと自分達の関係を思えば当たり前の光景。

「……」

なのにどうしてだろうか。
涙を流し、もう二度と離すまいといろはに抱きしめられるねむを思い浮かべると。
こんなにも苦々しく感じるのは。
変わる事のないいろはからの愛が、自分より先にねむが受け取ると思うと。
どういう訳か胸が掻き乱されるのは。

理由は分からないけど、無性に気に食わなかった。





どこから道を間違えたのだろうか。

敵として出会い、時に理解し合い、肩を並べ共通の敵へ挑み、憎しみをぶつけ合って。

その果てに得たソレゾレの未来を、掴み取ることは終ぞ叶わず。

死という絶対の結末だけが、人とヒューマギアへ平等に与えられた。



善意と悪意の闘争に、終わりはない。



【飛電或人@仮面ライダーゼロワン 死亡】
【滅@仮面ライダーゼロワン 破壊】

728リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:51:13 ID:VQtoL8aQ0


【E-5/一日目/午前】

【里見灯花@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)、あり得ない思考に対する動揺(小)、リンボ(式神)による暗示の影響(中)、嫉妬と不快感(中)
[装備]:デュエルディスク+素良のデッキ@遊戯王ARC-V
[道具]:基本支給品一式×2、桜田ネネのランダム支給品×1〜3、首輪(ネネ、承太郎、或人)
[思考・状況]
基本方針:ハ・デスの力を奪い、魔法少女の救済を果たす。
1:使える人材は生かしておく。
2:首輪を外す。取り敢えずどこかで調べたい。並行してドッペルに関しても調べる。
3:出来ることならねむと合流。もしねむがわたくしより先にお姉さまと会っていたら……?
4:七海やちよは邪魔をしてくるなら容赦しない。
5:私は、いろはお姉さま、を――?
6:この陰陽師(リンボ)、信用はできないは実力はあるから今のところは保留。
7:六眼の侍(黒死牟)が気に入らない。なんであんな奴がお姉さまのお傍に……。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※首輪が爆発した時、ソウルジェムも同時に破壊されると考えています。
※リンボによる暗示の影響で、リンボに危害を加えることは不可能となっております。

【キャスター・リンボ(式神)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康(本体より弱体化)、魔力消費(中)
[装備]:
[道具]:小倉しおんの支給品袋及び支給品一式、タイムテレビ(残り使用回数3回)@ドラえもん、ノロの入ったアンプル×7@刀使ノ巫女(漫画版)、ポルターガイスト(6時間使用不可)@遊戯王OCG、オーソライズバスター@仮面ライダーゼロワン、アナザーゼロワンライドウォッチ@仮面ライダージオウ×ゼロワン 令和・ザ・ファーストジェネレーション
[思考]
基本:ただ、己の衝動と欲望の赴くままに
1:里見灯花に付き従う。何時彼女が爆発するか楽しみですぞ、ンンンンン―――。
2:あの侍達(黒死牟、縁壱)は……ンン。
3:飛電或人は少々期待外れでしたな。まあいいでしょう。
[備考]
『式神について』
※最大召喚数は1名
※他参加者から5メートル以上離れた場合自動的に消滅。
※性能は本体より著しく弱体化。
※自動消滅または撃破された場合、式神再召喚まで6時間のインターバルが必要。
※本体が撃破された場合、式神も同じく消滅する。
※式神が得た情報は本体に共有される。

※タイムテレビを使い黎明、朝の時間帯にD-6の病院前で起きた戦闘を見ました。

729リローデッド ―コレがカレらの選ぶ道─ ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:52:12 ID:VQtoL8aQ0


【万丈龍我@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、怒りと悔しさ、運転中
[装備]:エボルドライバー(複製)+エボルボトル(コブラ、ラビット、ライダーシステム)@仮面ライダービルド、グレートドラゴンエボルボトル+グレートクローズドラゴン@仮面ライダービルド、龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎、遊星のDホイール@遊戯王5D's
[道具]:基本支給品一式×3、フルボトルバスター@仮面ライダービルド、火炎剣烈火&聖剣ソードライバー@仮面ライダーセイバー、ガトリングフルボトル@仮面ライダービルド、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:主催の奴ら全員倒して殺し合いを潰す。
0:或人……チクショウ……
1:今はこいつら(天津、ポッピー)を連れて逃げる。
2:遊戯って奴が心配。
3:檀黎斗はもう絶対に許さねぇ。
4:戦兎ならクレヨンの腕も直せる筈だ。
5:戦兎、玄さん、絶対生きてろよ。
6:エボルト、滅、DIOを警戒、特にエボルトは一度共闘したからって信用出来るわけねぇ
7:爆発頭野郎(パラダイスキング)は次に会ったら絶対に倒す。
8:他にも仮面ライダーがいるのか知りてぇな
9:俺のフルボトル(ドラゴンフルボトル)はどこいったんだ?出来たら知りてぇな
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』以降。
※キャルと情報交換しました。
※ドラゴンエボルボトルをグレートドラゴンエボルボトルに再創造しました。それに伴いクローズドラゴンも進化を果たしました。
※どの方角へ向かっているかは後続の書き手に任せます。

【天津垓@仮面ライダーゼロワン】
[状態]:疲労(極大)、ダメージ(極大)、無力感(大)、気絶中、同乗中
[装備]:ザイアサウザンドライバー&アウェイキングアルシノゼツメライズキー&アメイジングコーカサスプログライズキー@仮面ライダーゼロワン、バグルドライバーⅡ&ときめきクライシスガシャット@仮面ライダーエグゼイド
[道具]:基本支給品×2、プログライズキーホルダー×7@仮面ライダーゼロワン、ゲネシスドライバー(破損)+チェリーエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、みーたんの抱き枕(破損)@仮面ライダービルド、パンドラパネル@仮面ライダービルド、スクラッシュドライバー+ロボットスクラッシュゼリー@仮面ライダービルド、オレンジロックシード@仮面ライダー鎧武、一海の首輪
[思考・状況]基本方針:檀黎斗とその部下を倒し、罪を償う
0:……
1:何処かへ飛ばされた仲間達を探す。彼らの元々の目的地へ向かうのも手か?
2:CRの関係者らしい花家大我とも合流しておきたい。
3:ポッピーから聞いたガシャットを見付ける。本当にあれば良いのだがな…。
4:出来る限り多くの人を病院に連れて来て治療したい。が、今戻るのは危険か
5:飛電或人と合流したい。もしアークに囚われていた時にこの場に来ていたのならば必ず止める。
6:滅は次に会えば必ず止める。たとえ力づくでも。
7:これ等のプログライズキーに映っている仮面ライダー達は誰なんだ?知っている人に会えたらいいが…
8:猿渡一海の仲間達を探し彼の最期を伝える。氷室幻徳とは随分離れているか…。
[備考]
※参戦時期は仮面ライダーゲンムズ スマートブレインと1000%のクライシス終了後
※ハイパームテキガシャットなど主催者撃破・会場からの脱出を安易にする強力なガシャットは、ゲームに乗っており尚且つ上位の力を持つ参加者の支給品にあると考えています。(現在の有力候補はポセイドンと縁壱)
※殺し合いの会場が仮想現実の可能性を考えています。
※現在バグルドライバーⅡにはポッピーピポパポが閉じ込められています。

※滅亡迅雷フォースライザー@仮面ライダーゼロワン、スティングスコーピオンプログライズキー@仮面ライダーゼロワンは破壊されました。


『支給品解説』

【ノロの入ったアンプル@刀使ノ巫女(漫画版)】
珠鋼を精製する際に砂鉄から出る不純物が結合したモノが収められたアンプル。10本セットで支給。
主に折神家親衛隊が体内に投与し、身体能力の強化を行っていた。
但し余り大量に取り込むと制御が利かず、暴走を招く。

【ポルターガイスト@遊戯王OCG】
通常魔法
(1):相手フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。
その相手のカードを持ち主の手札に戻す。
このカードの発動と効果は無効化されない。
一度の使用後、6時間使用不可。


『NPC解説』

【ハーピィ・レディ@遊戯王OCG】
通常モンスター
星4/風属性/鳥獣族/攻1300/守1400
人に羽のはえたけもの。
美しく華麗に舞い、鋭く攻撃する。

730 ◆ytUSxp038U:2025/05/08(木) 01:52:54 ID:VQtoL8aQ0
投下終了です

731 ◆ytUSxp038U:2025/05/11(日) 00:09:02 ID:p3hkfsYM0
環いろは、黒死牟、エボルト、武藤遊戯、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、蛇王院空也を予約します

732◆2fTKbH9/12:2025/05/11(日) 00:12:18 ID:???0
ゲリラ投下します。

733◆2fTKbH9/12:2025/05/11(日) 00:14:04 ID:???0
某空間にて、デュエルのペンデュラムとリンクの件を話し、リリスの処遇を施した後、少し、時刻が経過して、ハ・デスはある支給品の話題に触れる。

「では、そのような考えなら、マジカルルビーも口封じも決定したと」

ハ・デスはまたも疑問をぶつける。
キバットとリリスにこのような処置を取るなら、直ぐに実行せずに放置するのは可笑しいからだ。

「彼女もリリス同様に神の恵みを与えたに過ぎない。マジカルルビーも午前8時になった瞬間に言語は遮断する」
「二時間も何故猶予を?」
「本来、情けなど言語道断。だが、上げて落とすやり方も悪くないと考えたのだ。精々足掻くがいいイリヤスフィール・フォン・アインツベルン!」

リリスの件もそうだが、あくまでゲームの主役はプレイヤー。
リリスも大概であったが、ルビーも意思持ち支給品の分際であらすじを行うなど調子に乗り過ぎ。
あくまでルビーの言語を封印するだけでマジカルステッキの変身機能は当然ながら剥奪しない。
ルビーの情報とアドバイスなしのイリヤがどう藻掻くか見物だ。

「まだデイパックに入っている意思がある者達も全て口封じも実行済みだ」

最早、プレイヤーとNPC以外の第三者が口を挟むのを端っから黎斗は気に入らなかった。
最初は予選とあって一部の者は見逃していた。
それでも、自分の理想としたゲームではないのは確かだ。
言葉すら話せないクローズドラゴンは別だが。
ついでに他にも意思持ち支給品が存在するかは黎斗のみ知る秘密。
いてもとっくに黎斗によって誰も彼も言語能力を封印している。

「言葉を話すNPCは例外だ。彼らはゲームを盛り上がる存在だ」

意思持ち支給品と違い、NPCは面白い働きをしてくれる。
NPCなくてはこのゲームは語れない。
お助けキャラだったり、女性だけ守るキャラ、武器や情報など売り渡すキャラなど彼らの存在により、より一層テンションが高まるだろう。
グレートアイもNPCに組み込んだが、当然ながら、主催を倒す、殺し合いからの脱出等明らかにゲームにおけるルール違反を侵す願いは無効で対策済みだ。
NPCの存在がバトルロワイアルを興奮出来ると言っても過言ではない。

「それから、全体の調整の再チェックも行う」
「冥王が心意でカード化したのが、気に入らなかったと」
「当たり前だ。心意で現象が起きようが私は楽しませればそれで良い。だが、こんな事は私の望んだゲームではない。今回だけは神を興奮させたから見逃してやろう。遊びすぎたが、もう次はないと思え」

ハ・デスは冥王の結末にモヤモヤ感を残している。
冥王とは幾度もなく争い、互いに相容れぬ関係だ。
彼を参加者にすると提案し、支給品の没収の発案したのはハ・デス本人。
最初こそは保身第一だったはずなのに覚醒してからあそこまで活躍するとは思っても見なかった。
なら、彼が這い上がって来たら、決着を付けるつもりでいた。
カード化して、勝ち逃げ同然の結果に内心は苛立っている。

「全く少々、自由にしすぎたな。心意を含む参加者のカード化の防止をしておくか。君はもう部屋に戻れ」
「そうさせて貰う」

遊びさえなければこんな事にはとハ・デスは本心では愚痴を零しながらも再び某空間から出て行った。



【意思持ち支給品について】
以下の要因により、全ての意思持ち支給品の言語能力は封印or口封じするものとします。

※マジカルルビーの言語能力の封印は午前8時を過ぎれば起こるものとし、二度と話せません。
※今後は意思持ち支給品が登場しても言語能力は封印or口封じされるものとします。


【その他の事項】

※今後は心意を含めて正規の参加者である遊戯王OCG勢による深淵の冥王のようなカード化現象は二度と起こらないものとします。それでも、起こってしまう場合はその参加者は強制的に首輪を爆破するものとします。(対象は閃刀姫-レイ、閃刀姫-ロゼ)

734◆2fTKbH9/12:2025/05/11(日) 00:15:35 ID:???0
投下を終了します。
タイトルは閑話:神の整理PART2

735 ◆QUsdteUiKY:2025/05/11(日) 01:41:03 ID:pRhK714U0
ハデスについての解釈が完全に一致していたり、ルビーがあらすじを語っていたり面白い話の投下をありがとうございます

ですが◆2fTKbH9/1氏の閑話:神の整理PART2について質問があります。
閑話:神の整理PART2におけるルール変更について、どのような意図があるのでしょうか?
また檀黎斗のキャラ性を考えると、心意によるカード化現象という想定外の展開を楽しむことこそあれど、問題視する気はしないと思います

また今後、ルールなど全体に影響力がある話は一度、本スレで相談してください
またこの相談については、企画主以外の書き手も意見を書くことが可能とします

736◆2fTKbH9/12:2025/05/11(日) 02:33:44 ID:???0
>>735

先程の投下ですが、ルビーの口封じについてはリリスが口封じした回でゲームの主役はプレイヤーとハッキリと明言しています。
プレイヤー以外がいつまでも情報を話すのはフェアではないと断言までしています。
それならキバットとリリスが口封じしているのにルビーだけお咎めなしは不公平と思います。
今後も意思持ち支給品が出て来た場合も公平ではなくなってしまうのでこの処置を受けなければなりません。
確かに黎斗ならカード化現象は問題ないと考えますし、そこのくだりはカットして内容の一部を修正いたします。

737◆2fTKbH9/12:2025/05/11(日) 02:55:18 ID:???0
修正版を投下します。

738◆2fTKbH9/12:2025/05/11(日) 02:56:59 ID:???0
某空間にて、デュエルのペンデュラムとリンクの件を話し、リリスの処遇を施した後、少し、時刻が経過して、ハ・デスはある支給品の話題に触れる。

「では、そのような考えなら、マジカルルビーも口封じも決定したと」

ハ・デスはまたも疑問をぶつける。
キバットとリリスにこのような処置を取るなら、直ぐに実行せずに放置するのは可笑しいからだ。

「彼女もリリス同様に神の恵みを与えたに過ぎない。マジカルルビーも午前8時になった瞬間に言語は遮断する」
「二時間も何故猶予を?」
「本来、情けなど言語道断。だが、上げて落とすやり方も悪くないと考えたのだ。精々足掻くがいいイリヤスフィール・フォン・アインツベルン!」

リリスの件もそうだが、あくまでゲームの主役はプレイヤー。
リリスも大概であったが、ルビーも意思持ち支給品の分際であらすじを行うなど調子に乗り過ぎ。
あくまでルビーの言語を封印するだけでマジカルステッキの変身機能は当然ながら剥奪しない。
ルビーの情報とアドバイスなしのイリヤがどう藻掻くか見物だ。

「まだデイパックに入っている意思がある者達も全て口封じも実行済みだ」

最早、プレイヤーとNPC以外の第三者が口を挟むのを端っから黎斗は気に入らなかった。
最初は予選とあって一部の者は見逃していた。
それでも、自分の理想としたゲームではないのは確かだ。
言葉すら話せないクローズドラゴンは別だが。
ついでに他にも意思持ち支給品が存在するかは黎斗のみ知る秘密。
いてもとっくに黎斗によって誰も彼も言語能力を封印している。

「言葉を話すNPCは例外だ。彼らはゲームを盛り上がる存在だ」

意思持ち支給品と違い、NPCは面白い働きをしてくれる。
NPCなくてはこのゲームは語れない。
お助けキャラだったり、女性だけ守るキャラ、武器や情報など売り渡すキャラなど彼らの存在により、より一層テンションが高まるだろう。
グレートアイもNPCに組み込んだが、当然ながら、主催を倒す、殺し合いからの脱出等明らかにゲームにおけるルール違反を侵す願いは無効で対策済みだ。
NPCの存在がバトルロワイアルを興奮出来ると言っても過言ではない。

「折角、面白い物が見れたというのに面白くない顔をしてるな」
「何か。テンションが上がらない」

ハ・デスは冥王の結末にモヤモヤ感を残している。
冥王とは幾度もなく争い、互いに相容れぬ関係だ。
彼を参加者にすると提案し、支給品の没収の発案したのはハ・デス本人。
最初こそは保身第一だったはずなのに覚醒してからあそこまで活躍するとは思っても見なかった。
なら、彼が這い上がって来たら、決着を付けるつもりでいた。
カード化して、勝ち逃げ同然の結果に内心は苛立っている。

「君はもう、いい加減に部屋に戻れ」
「そうさせて貰う」

ハ・デスは本心では愚痴を零しながらも再び某空間から出て行った。



【意思持ち支給品について】
以下の要因により、全ての意思持ち支給品の言語能力は封印or口封じするものとします。

※マジカルルビーの言語能力の封印は午前8時を過ぎれば起こるものとし、二度と話せません。
※今後は意思持ち支給品が登場しても言語能力は封印or口封じされるものとします。

739◆2fTKbH9/12:2025/05/11(日) 02:59:10 ID:???0
投下を終了します。

反対意見や矛盾するルール変更がありましたら投下した話を破棄します。

740 ◆QUsdteUiKY:2025/05/11(日) 04:22:20 ID:pRhK714U0
ご修正ありがとうございます
ただ今後の展開にかなり関わってくるルール変更ではあるので、ひとまず保留にします
他の書き手さんの意見も気になるので、1週間ほどの期間、意見を募集したいと思います

741 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/11(日) 11:27:02 ID:eCpramF20
意見が募られてたので、
多少決闘ロワに書いてる書き手の意見を一つさせていただきますね
あ、因みに私はエグゼイドは一度全話見てますがキャラクターの解釈的に、
企画主様の方が説得力のある解釈がなされると思うので私はそこには言及しません
それと文章が滅茶苦茶長いのは私の悪癖ですので、すみませんがお付き合いください

いずれの制限も「そこまでやる必要性が余りにも薄い」と感じると言うのが個人的見解になります
意志持ち支給品は確かに主役ではありませんし、企画主様自身がリリスの言動を封じていたり、
リリスを書いた氏からすれば、納得できない扱いについては分からないわけではありません
特別問題はないはずなのに何故か封じられたわけですから

ただ、氏は自分で書いたキバットは意思疎通について殆ど封じられてる扱いでありながらも、
リリスは意思疎通ができたので、その不公平を自らが行ってしまってることにもなります
勿論これはまちカドまぞくは数人参戦、キバは見せしめポジションとしての退場ともあるため、
扱いの差が生まれるのは分かりますが、それって普通にロロワと言うところの特徴だと思います
全ての意志持ち支給品を均一に調整してまで得られるメリットが余りないというのもありますが、
一番個人的疑問として大きいのは「一書き手がルールに介入しすぎている」と言うのが少し気になります

特にルビーの場合は言動を封じられたら、解説は仕方ないにせよ戦闘時にも支障が出るレベルだと思います
(FGOで例えるならば、宝具ボイスでの疑似魔術回路変換の過程の確認ができないと同義なので)
そうなるとイリヤが一人であがくどころではなくなってしまい、かなり苦しい立場に置かれてしまいます
こういうイリヤが見たいか、と言われると個人的には漫才やってる方がよほど見たいという個人的理由もありますが
また、今後登場する可能性のある意志持ち支給品についても口出しできるほど、一書き手の権限ってそこまでないと思います
つかぶっちゃけ公平不公平なんていったら、マーダーに神器ばかり仕込む私の方がよほど不公平やってますがね(笑)

野獣先輩の話では確かにリンクモンスターの概念はおろか、エクストラモンスターゾーンについての言及は、
今まで何度もデュエルを書いていた癖に一切言及してなかった私の落ち度も結構あったりしますので、
そこについての調整の言及については特に何か言うことはないというか寧ろありがたいのですが、
(拙作のスカイ・ハンターで実はモンスターを合計で六体展開してた事実については、
 漆黒の闘龍はデュエルディスクに置かずに召喚してるつもりで書いてたので気にしないでください)
流石に今回のは一書き手がルールに介入するには踏み込みすぎた領域だと思っています
これを許諾、許容すると「〇〇も〇〇では?」が罷り通ってしまう可能性も出てくるので

また冥王を退場させた身としましては、
冥王に関係するカードの登場はあくまで心意による産物であり、
当人をカード化ではなく、当人の力をイメージした冥王結界波にしています
冥王自身のカード化は(性能の強弱は別として)それは違うものだと思ったからです
彼はあくまでカードとは無関係のモンスター。フィクションではなく生きた存在ですから
これはレイとロゼも同様で、個人の考えですが死亡、
或いは心意でもレイとロゼの当人をカード化はしないと思います
(今後の展開次第で何が起きるか分からないし、他の書き手がするかもしれないので断定はしません)

長々と話しましたが、以上が私の見解となります
あ、因みに私もハ・デスがもやもやしてるところについては、
「あんだけヘタレで個人の恨みで不利な状況に置いた癖に何か覚醒して、
 最終的に神殺しの一端を担ったのは、散々やりあった魔王としてはむかっ腹が立ってる」
と言うところに味が感じられてとてもいい解釈だと思ってるつもりです

742 ◆QUsdteUiKY:2025/05/11(日) 21:03:23 ID:pRhK714U0
橘朔也、鬼舞辻無惨で予約します

743 ◆ytUSxp038U:2025/05/11(日) 22:20:33 ID:p3hkfsYM0
投下&修正お疲れ様です
さらっとビルド風のあらすじを観測してる神に笑いました。本人らは大真面目で運営してるのに、どことなくシュールさが漂ってて面白い
ハ・デス、あんだけ嫌がらせした相手に勝ち逃げされたらそりゃね。イラッとする

意見を募集中とのことで自分も書かせて頂きますが、概ね◆EPyDv9DKJs氏と同意見です
私自身ポッピーや魔導雑貨商人をNPCで出した手前、どうこう言える立場でないのは重々承知しております
それを踏まえてもルビーを含めた意志持ち支給品の制限という、企画全体に影響を及ぼすルールを企画主以外の書き手が行うのは控えるべきじゃないかと思いました
事前に企画主である◆QUsdteUiKY氏に相談した上で書いたならともかく、独断でのルール変更は一書き手がやべるべきではないと考えています

氏が出したリリスに制限を掛けられ、不満を感じる気持ちは理解出来ます
ただそれならまず、ゲリラ投下を行う前に「何故リリスを制限したのかちゃんとした理由を直接聞かせて欲しい」と、◆QUsdteUiKY氏に質問をすべきだったのではと思いました
無論、氏の納得のいく返答が得られるかは分かりません
しかし俺ロワの企画の最終決定権が企画主にある以上、事前に◆QUsdteUiKY氏へ確認を取った方が良かったと言うのが私の意見となります

否定的な意見と思われたなら申し訳ありません
ですが同じ企画で書いてる書き手として、氏の作品も毎回楽しく読ませて頂いています
一緒に企画を盛り上げたいからこそ、こうした方が良いのではないかと思い意見させて頂きました

744 ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 10:52:49 ID:Zb77DTj.0
投下します

745 ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 10:53:40 ID:Zb77DTj.0
――橘朔也は皆で協力してポセイドンを討伐した後、リゼを殺した化け物を独り待ち構えていた。
 勝算はある。勝てる可能性は限りなく低いが、最悪でも相討ちには持ち込むつもりだ。

 (剣崎。――俺はお前のようになれないのかな)

 もしもあの場に居たのが橘ではなく、彼の後輩――剣崎一真だったなら。
 あのヒーローという存在を具現化したような男なら。
 誰よりも強く、誰よりも〝仮面ライダー〟に相応しい彼ならば。

 もしかしたらリゼの命を守れたかもしれない。
 リゼは死ななかったかもしれない。

 ふと、そんな弱気なことを橘は考えてしまった。
 しかしそれは同時に彼が剣崎をそれだけ信じる仲間だという証明でもある。

 (……剣崎の代わりに戦えない人々を守ると決めたのに情けないな、俺は)

 橘は殺し合いが始まってすぐ、剣崎の代わりに人々を守ると誓っていた。それが仮面ライダーだからだ。

「リゼ……」

 リゼ専用スピアーを眺めると、思わずリゼの名前が口から零れ出てしまう。
 ……なんとも情けなく、不甲斐ない声だ。

「リゼ……君には仮面ライダーは大切な人を守れないと言ったが……まさか君まで守れないとは思わなかった……!」

 小夜子、剣崎に続いてリゼまで失った。
 今まで仮面ライダーギャレンとして数々のアンデッドと戦ってきたが――それでもリゼを守れなかった。

 それにあの場には海馬や太我も居た。……だというのに、リゼという本来ならば戦う力を持たない少女に救われた。
 その事実があまりにも悔しくもあり、苦々しくもある。

「リゼ……君は本来なら平和な日常で過ごすべきだったんだ。それなのに神を自称する男のせいで殺し合いに、巻き込まれた。……そして君は勇気を振り絞って俺達を助けてくれたが、その結果……命を落とした」

 橘は檀黎斗と名前も知らない化け物――鬼舞辻無惨に怒りを抱いている。
 檀黎斗がいなければこんなふざけた殺し合いは開かれなかったし、鬼舞辻無惨が居なければリゼが死ぬことはなかった。
 ゆえにこの二人に対する怒りは凄まじい。
 だからこそ単独でも無惨に挑む道を選んだ。

746rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 10:54:49 ID:Zb77DTj.0
「とりあえずリゼの友人を殺した金髪の男――ポセイドンは倒したが……肝心のリゼを守れないなんて、俺は師匠失格だな……」

 もしもこの場にリゼや剣崎一真、上城睦月が居ればその言葉を否定していたかもしれない。
 だが今の橘は独りきり。ゆえにこの場に彼の言葉を否定する者は存在せず、怒りと悔しさ。哀しみと自責の念が波のように押し寄せてくる。

 橘朔也は仮面ライダーだ。
 仮面ライダーとは、ヒーローのようなものだ。
 剣崎一真がそうだったように。
 闇を振り払った上城睦月が最終的にそうなったように。
 橘とて立派な仮面ライダーだ。それは彼を知る誰もが認めることだろう。

 しかし今の橘の心境としては自分が剣崎達のような仮面ライダーだと胸を張って言える自信がない。
 そして自分は師匠としても不甲斐ないと考えてしまう。

 (弟子のリゼに命懸けで助けられて、何が師匠だ――)

 あの状況を乗り越えられたのは、間違いなくリゼの勇気のおかげだ。
 きっと死ぬのは怖かっただろう。共に殺し合いに巻き込まれた友達のことも心配だったろう。
 本当ならば――リゼがした役割は自分がするべきだった、と。橘は自分を責める。

 しかしそんなことをしても現実は変わらない。
 リゼが死んだという。化け物に殺されたという悲劇は何も変わらないのだ。

「リゼ……本当にすまない……」

 ――だから橘にはリゼに謝罪して、そしてリゼの仇を取ることしかもう出来ない。
 それしかもう、出来ないのだ。
 小夜子の時と同じように。

 リゼ専用スピアーを暫く眺めた後、仕舞う。
 相手はリゼの仇だ。せめてトドメはコレで刺したいが、どうしたものか。

 あの化け物は日光が弱点の可能性が非常に高い。
 そしてリゼは仮面ライダーに変身していた。……ということは日光を避けるためにリゼが変身していた仮面ライダーに変身してくる可能性が高い。
 そうなれば必然的に相手の攻撃手段は限られてくる。あの化け物染みた強さは発揮出来ないだろう。
 更に言えば日光が弱点ということは、バックルを破壊するか多大なダメージを与えて変身解除まで追い詰めれば勝機はある。

 リゼ専用スピアーは、槍だ。貫通力が高く、バックルを破壊するのに向いている。
 だから橘は師匠として弟子の形見もしっかりと使うつもりだ。……この槍は、リゼと自分が最初に邂逅した時のキッカケでもあり、何かと思い入れも深い。
 ……もっとも本来はリゼが使う予定だったのだが。

 そして――ギャレンの複眼は。
 橘朔也の目は、たしかに捉えた。

 こちらに向かってやってくる仮面ライダースナイプが。
 ゆえにギャレンは容赦なく仮面ライダースナイプに向けてギャレンラウザーで銃弾を連射する。
 仮面ライダースナイプは銃弾を被弾して、火花を散らしながらもギャレンに迫る!

747rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 10:56:34 ID:Zb77DTj.0

 運の良いことにスナイプもその名の通り、銃使いの仮面ライダーだ。ゆえに無惨もガシャコンマグナムを乱射するが――銃を使いこなすには当然、技術が必要だ。
 しかし無惨にそんな技術はなく、ゆえに走りながら雑に乱射するだけではなかなかギャレンに被弾しない。
 だが二人の距離は着実に近付いている。

 そしてスナイプとギャレンの距離が一定まで縮まった瞬間――橘はギャレンラウザーを連射して牽制しながら、拳を握り走り出した
 
「ウワアアァァアア――!」

『UPPER』 『FIRE』

――それは、魂の咆哮
 ギャレンの拳が燃え盛る
 
「ほう。この場にいるのはお前独りか」

 相手から距離を詰めてきたことは好都合。無惨は慣れないガシャコンマグナムで戦闘することをやめ、ギャレンに殴り掛かる。

 互いの腕が交差し、スナイプの拳がギャレンの仮面に。橘のファイアアッパーが無惨の腹に命中する。
 だがスナイプのみが、一方的に吹っ飛ぶ。

 何故、このような結果になっているのか。
 何故、鬼を統べる鬼舞辻無惨が。先程はギャレンなんて虫けら程度に思っていた無惨が不利な状況に立たされてるのか。

 その理由は至って単純。
 まず、仮面ライダーとして戦ってきた長さが違いすぎる。橘は元々仮面ライダーギャレンとしてアンデッドと戦ってきたが、無惨は鬼としては驚異的な強さを誇るものの仮面ライダーに変身したのは今回が初めてだ。ゆえにその技量の差は大きい。
 次に、橘の融合係数が非常に上昇していることがある。仮面ライダーギャレンは感情次第で融合係数が上下し、それによって強さが大きく変動する。そして――リゼの仇を前に、橘の融合係数は爆発的に上がっていた。
 この爆発力こそが橘の強みであり、何故か強化フォームであるジャックフォームよりも基本フォームで強敵を倒してきた原因もこれだ。

 次に、スナイプは普通のパンチだがギャレンはファイアアッパーという技を使ったこと。
 当然だが、ただ拳で殴るより技のほうが強い。

 そして無惨は仮面ライダーに変身していることもあり、本来の戦い方が出来ない。これがあまりにも大きすぎる。
 仮面ライダーに変身することで装甲を纏い、日光は克服出来たが鬼としての強みを失った。そんな無惨は大した脅威にならない。

 総じて言えることは、無惨はリゼを殺すことで日光の対策は出来たが、それが橘の逆鱗に触れてギャレンが先程よりも爆発的に強くなり。
 逆に無惨は仮面ライダーとしての戦い方を強いられることで大幅に弱体化したようなものだ。

「ぐっ……!何故、私がたかだか人間一匹に……!」

「人間を無礼(なめ)るな!リゼを殺した化け物――貴様はここで俺が倒す、生かしてはおけない!」

 言葉を互いに交わし、再び距離を詰めたギャレンは、今度はゲーマドライバーに向けて零距離で連射する。

748rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 10:58:22 ID:Zb77DTj.0

「お前はここで終わりだ!これ以上、リゼのような犠牲は出さない!きっとリゼもそれを望むはずだ!」

「グァァアアア!リゼリゼうるさいぞ、この異常者が!」

 ――異常者。
 無惨にとって橘はそれ以外のなんでもなかった。
 つい数時間前に数人掛かりで惨敗したというのに、今度は独りで挑もうとするなど狂っている。
 そしてそんな異常者に、鬼舞辻無惨は追い詰められている。しかも最悪なことに継国縁壱の時のように自身の細胞を分解して逃げ去ることも出来ない。変身を解除したら、死あるのみだ。

 そんな状況に無惨は苛立つ。

 (何故だ。何故、こんな異常者如きに私が殺されねばならん!!!)

 しかしどれだけ憤怒したところで、状況は変わらない。
 このままだとゲーマドライバーを破壊されて無惨の変身は解除されることだろう――。

 (!そういえばあの少女が、不思議な力を発揮していたな――)

 無惨が思い出したのは、ハイパームテキガシャットを使い自分に喰らいついてきたリゼの姿。
 あの時、何故か不思議と少女は一切の負傷を受けていなかった。
 ならば――

 無惨は零距離射撃を受けながらも、ハイパームテキガシャットを取り出し――ゲーマドライバーに挿入する。

『ガッチャーン!ムテキレベルアップ!バンバンシューティング!…アガッチャ!』

 そして――スナイプが黄金に輝き、無敵になる。

 (やはりこの道具が鍵だったか……)

 リゼが異様な強さを発揮していたことに納得しながら、ハイパームテキガシャットをキメワザホルダーに入れた。彼女がその効果を発揮していた時間もわかっている。非常に短時間だ。
 ゆえに無惨は慢心せず、安心して生き残れるように目の前の異常者をムテキの効果が切れる前に屠ることを迷わず選んだ。

『キメワザ!!ハイパークリティカルストライク!!!』

 黄金に光り輝くスナイプが渾身のキックを繰り出す。何度も、何度も、怒涛の嵐のように連撃を加える。

「ぐわぁあああああ――!」

 あまりもの激痛に橘が絶叫するが、それでも容赦なく連撃は続く。
 対抗する手段は残念ながら――ギャレンにはない。

 しかし地獄のような時間はほんの僅か。
 橘の体感時間では凄まじく感じたが、たったの10秒で終わった。

 そして無惨がギャレンを見ると――その仮面の半分が割れ、露出した顔から血を流し地に伏す橘が見えた。

 ――その光景はまるで、ギラファアンデッドと戦った時と同じ。
 強いて違いを上げるなら、橘が大地に伏していることか。

749rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 10:59:31 ID:Zb77DTj.0
「どうやらお前の悪足掻きもここまでのようだな」

(リゼ……。俺は――)

 スナイプは露出した橘の顔に向けて冷酷にもガシャコンマグナムの銃口を向けた。
 当然だが、装甲を纏っていない部分は生身同然だ。
 ゆえにこの一撃が決まれば橘は命を落とすだろう――

 (俺は――君のことが大切だった)

 不思議と橘に恐怖心はない。
 この絶体絶命の窮地で――されども橘はすぐに立ち上がり。

「ウワアアァァアアアアア!」

「何!?」

 左手でスナイプのガシャコンマグナムを叩き落とし、更に右手に握ったギャレンラウザーを無惨へゼロ距離で連射する。

「ぐぅぅうう!この異常者が!」

 スナイプからバチバチと火花が飛び散り、無惨に着実にダメージを与える。
 無惨は眼前の異常者(たちばな)に苛立ちを爆発させるが、このままではベルトが破壊されて日光を浴びてしまう。

 ゆえに無惨は痛みを堪えながらも橘に背を向け、逃走を図る。
 自分がピンチになればプライドも何もかなぐり捨て、逃走する。鬼舞辻無惨とはそういう男だ。
 しかしそれは橘にとってはあまりにも突然であり、対応が遅れる。
 ギラファアンデッド以上の化け物が逃げ出すなど、予想外過ぎる行動だった。

「待て!」

 僅かに遅れてリゼ専用スピアーをデイパックから取り出し、握り締めたギャレンがスナイプを追跡する。

 無惨は背後から迫る橘にガシャコンマグナムを乱射するが、その視線は前を向いたままなので素人であり、相手を見てもいない攻撃がまともに当たるはずもない。これはただの威嚇射撃だ。
 しかし下手な鉄砲も数打ちゃ当たるという諺通り、ギャレンに当たる可能性は十分にある。

 橘は弱点である露出した顔を片腕で隠しながら威嚇射撃を恐れることなく走る。無惨の銃撃がその腕に当たる。ギャレンの装甲がない生身の顔に命中していたら危険だっただろう。

750rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 10:59:58 ID:Zb77DTj.0
「しつこい異常者が……!」

「俺は貴様を倒す。リゼの仇は必ず取る!」

 ギャレンは走りながらもギャレンラウザーを連射し、正確にスナイプに当てる。
 スナイプの背中から火花が散り、無惨は痛みを受けるがそれでも止まらない。生に対する異様なまでの執着心が無惨の身体を突き動かしているのだ、痛みなど気にしている場合じゃない。

 (何故だ。何故、あれほど負傷してもこいつは戦える……!)

 橘はギャレンの仮面の半分が割れるほどの猛攻を受け、その負傷も大きいはずだ。
 なのに何故か彼は普通に動けている。鬼舞辻無惨という脅威に臆することなく、恐怖することなく追跡してくる。
 それは無惨からしたらあまりにも気が狂った異常者だ。

 (……虫唾が走るが。このままでは埒が明かんな。こいつはここで仕留める)

 このまま逃げ続けても、鬼ごっこのように橘は無惨を追い続けるだろう。
 そうしていると道中で他の人間と遭遇し、手を組む可能性がある。もしもそんな展開になったらあまりにも厄介だ。

 ゆえにこの異常者(たちばな)はここで潰す。
 幸いにも無惨と橘はそれなりに距離が開いている。
 無惨はガシャコンマグナムをライフルモードに変更。
 そしてくるりと橘の方を見て、ガシャコンマグナムを構える。

 (なんだ?急に逃げるのをやめた?)

 無惨の行動を不思議に思う橘だが、ガシャコンマグナムの銃撃程度ならばギャレンの装甲で負傷を軽く出来ることは実証済み。
 ゆえに走る足は止めず、無惨に接近する

 そして無惨は――ガシャコンマグナムにバンバンシューティングガシャットを挿入。

 『バンバンクリティカルフィニッシュ!』

 ――ガシャコンマグナムからエネルギーが一直線に放たれ、ギャレンのいる方向へ凄まじい速度で進む。

751rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 11:00:36 ID:Zb77DTj.0
 (……これでようやく死んだか?)

 攻撃の余波で砂埃が舞い、ギャレンの姿が見えないがこの一撃を受ければ流石に死ぬだろう。
 無惨は安心して再びギャレンに背を向ける、と――

「まだだ!そうだろ?橘さん」

 ――槍と盾を手にした紫髮の少女が、橘の前に立っていた。

「リゼ……。君はたしか――」

「ああ、私は死んだよ。でも橘さんの〝想い〟と私の槍が少しだけ私に時間をくれたんだ」

「そうか……。俺の想いが、君を……」

「とにかく急ごう、橘さん。あいつはかなり危険だ!」

 ――それは土壇場で橘とリゼに起きた奇跡。

 否。断じて、否。

 これは奇跡などじゃない。師匠と弟子の絆による、必然の結果。
 ――橘の想いがリゼ専用スピアーに反応し、心意を引き起こした。

 ちなみにリゼが盾でバンバンクリティカルフィニッシュを防げたのは、復活してすぐにスキル〝ここからが私の見せ場だな!〟を使っていたためだ。

「どうなっている!お前は私が喰ったはずだ!」

 コメカミに青筋を立て、怒り狂う無惨。
 なんなのだ、このわけのわからない展開は。死者が復活するなど有り得ない。

 (まさか――)

 無惨には一つだけ心当たりがあった。
 彼が思い返すのは、神を自称する異常者による放送だ。
 禁止エリアなど重要な情報を得るために無惨はこれをしっかり聞き、様々な情報を記憶していた。

『それと、だ。君達の中には既に奇妙な現象に遭遇した者もいることだろう。
 本来なら使えない力やアイテムを、死闘を経験し手に入れた者達が、だ。
 不安がる必要はない!それらも私が設定した、ゲームを盛り上げる要素の一つ!
 たとえ格上とぶつかっても腐るな!一発逆転のチャンスは平等に転がっているゥ!』

 (放送であの男が言っていた奇妙な現象とは、こういうことだったのか……!)

 無惨はリゼが蘇ったことに納得すると同時にあまりもの理不尽に苛立ちを募らせる。

 しかし無惨は、再び逃げ始めた。
 本来ならば苦も無く倒せる相手だというのに、今の状態では逃げるしかない。
 それが異様に腹正しいが、太陽さえ沈めば。夜になれば変身解除して、この異常者(たちばな)を瞬殺出来る自信がある。
 それに死者の蘇生なんて滅茶苦茶なことは、永続的じゃないだろう。そうでなければこの殺し合いは終わらないからだ。

「逃がすか!」

 リゼは自身のとっておきを使い、巨大な銃で仮面ライダースナイプこと無惨を撃ち抜く!
 無惨は光の奔流に飲み込まれ――かなりの負傷を負った。

「しつ、こいぞ……。この、異常者共が……」

 それでも無惨は一度倒れたものの、両手を地面に着けてゆっくりと立ち上がる。
 そしてなんとか身体を動かし、逃走を図った。

752rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 11:01:27 ID:Zb77DTj.0

「今だ、橘さん!」
 
「ああ。ありがとう、リゼ!」

『DROP』 『FIRE』『GEMINI』

『バーニングディバイド』

 電子音が鳴り響き――

「ウォォオオオオ!!」

 橘の雄叫びが木霊すると共に、逃げ出そうとゆっくり動く無惨の背後から、宙を舞う二人のギャレンによる炎を纏った蹴りが炸裂する!

「グ、ァアアアアアアア――!」

 立て続けに必殺技を受け、あまりもの激痛に無惨は絶叫する。
 そして無惨の近くに降り立った橘の元にリゼがやってきた。

「この異常者共が!どうして私がこんな仕打ちを受ける必要がある!!私はただ生きたいだけだ!!!」

「それは――貴様がリゼを殺したからだ!」

「生きたいだけ?それならどうして私達を襲ったんだ。異常者はお前だろ!」

 喚き散らす無惨に橘とリゼが一喝する。

「……それにしてもこいつかなりしぶといな、橘さん」
 
「ヤツの弱点はおそらく日光だ。アンデッドが封印しなければ不死身だったように、こいつも日光を浴びなければ不死身なのかもしれない」

「そのアンデッドっていうのはよくわからないけど、つまりベルトを壊せばいいのか?」
「そういうことだ」

「それなら――橘さん、私と一緒にこの槍を握ってくれ」
「……わかった」

 二人が会話している間にも無惨は逃げ出そうとするが、度重なる負傷でその速度はあまりにも鈍い。

「いくぞ、リゼ!」

「任せろ、橘さん!」

 そして二人は両手に槍を握ったまま走り出し――。

「橘さん、技名はダブルワイルドクラッシュなんてどうだ?」
「リゼと俺でダブルということか。いい技だな、リゼ」

 そして――

「くらえ、化け物!」
「リゼの仇、取らせてもらう!」

「「ダブルワイルドクラッシュ――!!」」
 
 二人で握り締めた槍を無惨の背後から腹を貫き、ベルトへ突き刺す。

「ガッ……!」

 無惨は腹を槍が貫通した痛みに、うめき声をあげて――やがて変身が解除される。

「ア……ア……ア……!アアアアアア!!」

 生身になった無惨は太陽に灼かれ、絶叫と共に無へと帰った。
 カラン、カラン――。

 無惨は肉体を失い、後に残った首輪の金属音と装着者を失ったベルトの音が鳴り響く。
 橘はその首輪とバンバンシューティングガシャット、ハイパームテキガシャットを拾う
 そして無惨のデイパックから基本支給品とボーちゃんの首輪を発見して、回収するのだった

753rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 11:02:00 ID:Zb77DTj.0

 ◯

「ふぅ……。終わったな、橘さん」

「ああ、そうだな……」

 戦闘が終わった後、リゼの身体が僅かに透き通る。

「リゼ……。君の身体に何か異常があるようだが、大丈夫か!?」

 「……ん?あぁ……そろそろお別れの時間なのかもな」

「……そうか。たしかにリゼは、少しだけ時間を与えられたと言ってたな……」

「そういうことだ。……私のためにがんばってくれてありがとな、橘さん」

「いや……感謝されるようなことはしない。むしろ俺を助けるためにリゼは命を落とした。俺は師匠として、君に何もやってあげられなかった……!」

「アレは私が選んだ道だ。橘さんやもぐもに死んでほしくなかったからな。それに橘さんは私の仇を取ろうと必死になってくれた」

 ――だから、さ。

「だから――橘さんは私にとって最高の師匠だったぞ!」

「ありがとう。……こんな俺にそんな言葉を掛けてくれるなんて優しいな、リゼは」

 ――橘さんは未だに暗い顔をしたままだった。まだ仮面ライダーに変身してるけど、マスクが割れてるから表情くらいわかるんだ。
 私は本心から橘さんを最高の師匠だと思ってる。マヤの仇を取ってくれたのも、あの世からしっかり見てたし――だから私にはあまり悔いがない……なんて言ったら嘘になるけどさ。

 ココアやチノやメグが心配だし、私が死んだらシャロや千夜も――みんな悲しむだろうし……。
 だけど橘さんやもぐもを助けられて良かったと思うし、橘さんにも言ったけどこれは私が選んだ道だ。

 だからそれで橘さんにこんな表情(かお)されたら――成仏してもしきれないじゃないか。

「別に優しさとかじゃないぞ。私は自分が選んだ道のせいで橘さんが落ち込むのが嫌なんだ――」

「……そうか。それは、すまない」

「だから、橘さんが謝る必要ないって。なんていうかさ――橘さんには笑顔でいてほしいんだよ。これが私の――弟子としての最期のお願いだ」

 そうじゃなきゃ、橘さんが心配で死んでも死に切れないからな。

「わかった。ありがとう、リゼ!君は俺の最初に出来た弟子と並んで――最高の弟子だ!」

 そんなことを言いながら、ぎこちなく笑う橘さん。
 まあいきなり気持ちの整理をして、心から笑えっていうのは無理があるよな。
 ……でもそんな表情(かお)になるくらい、私を大切にしてくれたかとは嬉しいとも思う。

 ――なんて考えたら、周りが光に包まれてきた。
 そろそろ本当にお別れ、か――。

「最高の弟子なんて嬉しい言葉をありがとな、橘さん。……そろそろ私にまたお迎えが来そうだ」

「……そうか。リゼは、また逝ってしまうのか……」

「ああ。でも私はいつまでも一緒だ、橘さん。最期に私の手を握ってくれ」

「……わかった」

 そうすると私は橘さんと握手をして――。

「短い間だったけど、楽しかったよ。本当に橘さんの弟子になれて良かったと思ってる」

「ああ、俺も楽しかった。リゼ……君に会えて本当に良かった」

 「……ありがとな」

 またあの世に行くのは悔しくて、涙が出そうになるけど――私は気合いでグッとそれを堪えて、笑顔で告げる。
 
「――じゃあな、橘さん」
「ああ……。さよなら、リゼ」

754rebirth ―魂の日々を、魂の意志を― ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 11:02:48 ID:Zb77DTj.0

 ◯

 橘はリゼが消滅するのを、見送った。
 その直後――ギャレンの変身を解除しようとする橘に変化が起きた。

「ぐ、ぅ……!?なんだこれは……!身体が……熱い!」

 唐突に全身を焦がすような熱が襲い、ギャレンを焔が包み込む。

「何が起こって――」

 そう口にして、変化に気付く。

「なんだこの声は?これは俺の声じゃない。まるでリゼの声だ!」

 そう、橘の声はリゼそっくりになっていた。
 そして焔から解き放たれると――そこで視線が低くなっていることに橘は気付いた。

「俺の身に何が起こっている……?」

 不思議な体験を果たした橘は、少し歩くと偶然にも民家があった。
 橘はそこへ入り、少し探索すると――目的のものはすぐに見つかった。鏡だ。
 そして橘は鏡の前に立ち、自分の姿を確認すると――

「なに!?俺がリゼになってるだと!?」

 そこには紫色のラビットハウスの制服を着用したツインテールの長身の美少女が映っていた。
 というより――その姿は誰がどう見ても、天々座理世そのものだった。
 橘は暫し困惑するが、元々研究者であった彼は意外と頭が良い。
 この現象に、1つ心当たりがあった――。

『それと、だ。君達の中には既に奇妙な現象に遭遇した者もいることだろう。
 本来なら使えない力やアイテムを、死闘を経験し手に入れた者達が、だ。
 不安がる必要はない!それらも私が設定した、ゲームを盛り上げる要素の一つ!
 たとえ格上とぶつかっても腐るな!一発逆転のチャンスは平等に転がっているゥ!』

 ――放送で神を名乗る男が話していたことを思い出す。
 リゼが一時的に生き返ったのも、自分がリゼと同じ姿になったのも彼の言っていた〝不思議な現象〟なのだと察する。

 つまり、これは橘の心意だ。
 リゼと再び出会い、別れを惜しみ――〝いつまでも一緒だ〟という言葉を掛けられた橘は、このような形でリゼと同じ姿になった。

 もっともこれはリゼが一時的に蘇った心意と同じく、橘だけでは発動しなかったであろう心意だ。
 リゼ専用スピアーとリゼに再び出会ったから起こった心意といえるだろう。

「……それにしても、見た目が変わってもギャレンラウザーとラウズカードはそのままなんだな」

 リゼの見た目になっても腰にホルダーがあり、そこにギャレンラウザーがある。ラウズカードも無事だった。
 どういうわけかギャレンバックルは失ったが、戦闘は可能だろう。

 なお橘は気付いていないがこの状態はギャレンの通常フォーム並のスペックを生身で誇り、融合係数によって強さが変動することも同じだ。

「俺がリゼになったということは……。試してみる価値はありそうだな」

 そして橘はリゼ専用スピアーを手に取り――

「変身!」

 ――その掛け声と共に〝ナイト〟のクラスへと変身し、服装が変わると共に槍だけでなく盾を手にする

「なるほど……。やはりこの武器で〝変身〟出来るようになったのか」

 確認を終えた橘は変身解除する。
 すると、服装もラビットハウスのものに変わっていた。

「リゼ……。君の意志は俺が引き継ぐ。リゼの友達を助け、戦えない人々を守りながら――この殺し合いを打破してみせる」

 その後、橘は民家を漁り包帯など治療に使えるものを発見。
 包帯を巻いたり、ガーゼで傷痕を止血すると余った分をデイパックに詰め込んだ

 【鬼舞辻無惨@鬼滅の刃 死亡】

【E-2(民家)/午前/一日目】
【橘朔也@仮面ライダー剣】
[状態]:ダメージ(大、包帯やガーゼにより止血済み)、疲労(大)、心意によりリゼの姿・声に変化
[装備]:ギャレンラウザー&ラウズカード@仮面ライダー剣、リゼ専用スピアー@きららファンタジア
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品×1、バンバンシューティングガシャット@仮面ライダーエグゼイド、ハイパームテキガシャット@仮面ライダーエグゼイド、首輪×2(ボーちゃん、鬼舞辻無惨)
[思考・状況]基本方針:剣崎とリゼの分まで人々やリゼの友達を助ける。ゲームマスターも倒す
1:ありがとう、リゼ。君は睦月と並んで最高の弟子だ
2:まさか俺自身がリゼになるとはな……
3:リゼの友達を探す。リゼの分まで俺が守る
[備考]
※参戦時期は最終回後。
※遊戯王OCGのルールを多少把握しました
※脚の負傷具合については少なくとも完治してます
※心意により見た目と声がリゼと同じになりました。生身でギャレンのスペックで、融合係数の変動で強さが変わるシステムを常に発揮しています。ギャレンラウザーを用いることでラウズカードやコンボ技も使えます
※リゼの姿になったことでリゼ専用スピアーで変身可能になりました

755 ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 11:03:38 ID:Zb77DTj.0
投下終了です

756 ◆QUsdteUiKY:2025/05/12(月) 13:06:06 ID:Zb77DTj.0
閑話:神の整理PART2の件についてご連絡です

まずは皆様、ご意見ありがとうございます
ふと思ったのですが、◆2fTKbH9/12氏がリリスが口封じされたことを不公平に思っているなら、リリスを口封じしない方向で『fortissimo-the WeiβFlügel crisis- side:YUKI』を修正しようと思っています
まだリリス達のグループはこれが最新話なので、まだ修正が出来ると判断し、それでこの提案に至りました

しかしキバットだけが口封じされている状況もまた歪なので、キバットの口封じも解禁する方向での修正になると思います
ご検討よろしくお願いします

757◆2fTKbH9/12:2025/05/12(月) 18:07:50 ID:???0
意見を頂いた皆さまにお手数をおかけしてすみません。

初めに誤解がないよう言います。決してリリスの扱いが不満で書いた訳ではありません。
今後がどうなろうが文句はないです。
ペンデュラムゾーンとエクストラモンスターゾーンのような放置して対応がいい加減にしない為です。
それらの戦闘シーンがないお陰でその場をしのいで来ましたが、手を打って無事に済みました。
また上記のように繰り返さないようまた管理が甘く曖昧さをなくすために全ての意思持ち支給品が口封じの方針で対応しようとしました。
報連相もしないで先走ってしまい皆さまに誤解を生んでしまい、本当に申し訳ございません。
今後のリリスとキバットの処遇は♦QUsdteUiKYさんの判断に委ねます。
一書き手が口出しする権利はないです。どのように下すかはお任せします。

758 ◆ytUSxp038U:2025/05/13(火) 00:35:02 ID:koWNE/hQ0
◆QUsdteUiKY氏投下お疲れ様です&◆2fTKbH9/12氏返答ありがとうございます

>>731の予約に橘朔也を追加します

759 ◆QUsdteUiKY:2025/05/14(水) 19:34:26 ID:IraaUs.c0
◆2fTKbH9/12氏、ご回答ありがとうございます。
とりあえず皆様の意見を見て、考えた結果として閑話:神の整理PART2は不採用ということにしておきます

またリリスとキバットの口封じですが、もしもリリスの扱いが不公平だと思ったのならば強引にでもなんとか修正するつもりでした。
しかしキバットだけが先に口封じされている理由付けを考えるのが困難であり、また◆2fTKbH9/12氏がリリスの扱いを不満に思っていないとのことで、ひとまず修正は無しということにします。

ですが◆2fTKbH9/12氏は様々な話を書いて、当企画に貢献していただけてる書き手さんなのでもしも〝本当は不満〟だと思っているならば、遠慮なく言ってくださいね。
その場合、なんとかキバットのみが口封じされていた理由付けを考えて修正致します

760 ◆ytUSxp038U:2025/05/17(土) 23:30:02 ID:9YHx6vdg0
延長します

761◆2fTKbH9/12:2025/05/18(日) 16:23:54 ID:???0
>>759

♦QUsdteUiKY氏のご決断をして頂き有難うございます。
こんなことでお手数をおかけして申し訳ありません。

教えろ!野獣先輩が学ぶデュエル教室 にて状態表の道具の欄に緑へものスタンガン@落ちこぼれフルーツタルト が書き忘れていたのでwikiで修正をお願います。

お詫びにキリト、空、宮川尊徳、ユキ、直見真嗣、クウカ、奈津恵、コッコロ、継国縁壱、肉体派おじゃる丸を予約と延長をします。

762 ◆QUsdteUiKY:2025/05/18(日) 18:31:17 ID:2lq4aURA0
>>761
ご予約ありがとうございます、該当箇所を修正致しました

763 ◆QUsdteUiKY:2025/05/19(月) 00:52:27 ID:W.NkZqAI0
投下します

764この残酷な世界の成り立ちを! ◆QUsdteUiKY:2025/05/19(月) 00:54:16 ID:W.NkZqAI0
――赤い装甲を身に着けた銀髪の男はジッとモニターを眺めていた。
 幾多ものモニターがある中、彼が特に注目しているのはキリトのグループと直見真嗣のグループ、そしてジャック・アトラスのグループだった。

「ジャック・アトラスが脱落したか……」

 ジャック・アトラス。
 このデスゲームの重要な要素――心意を誰よりも。現段階ではキリト以上に使いこなし、数多の激戦を繰り広げてきた男。
 そんな男の最期は、あまりにも呆気ないものだった。〝ボスクラスのレッドプレイヤー候補〟としてデスゲームに参加させたポセイドンを他の参加者と共に討ち取る姿には高揚したが――されどもジャック・アトラスは死んでしまった。彼の進化は、ここで止まってしまったのだ。

「これは、ゲームであっても遊びではない——。ジャック・アトラスの死亡は惜しいが、それを撤回することは出来ない……」

「その様子だと随分とジャック・アトラスを買っていたようようだなァ。ヒースクリフ。――いや、茅場晶彦ォ!」

「私は彼に期待していた。ラスボス戦まで辿り着くと確信すらしていたんだ。まさかの展開に動揺もするさ」

「だがジャック・アトラスは死んだァ。同じゲームクリエイターだからわかると思うが、このゲームでは基本的にコンテニューは出来ない!」

「そうだな。だが私にはまだ一戦を交えたいプレイヤーがいる」

「かつて君を一度倒したというキリトか?」

「ああ。それとあの時のキリト君と同じくシステムを上回る人間の意志を見せてくれる参加者――直見真嗣だな」

「直見真嗣か。彼には君と私が作り上げたMurder――〝マサツグ様〟もいるな。もっともマサツグ様の方はあまり上手くいってないようだが……」

「マサツグ様は単純に出会いが悪いのと、性格をあまりにも悪くし過ぎたようだ。だが彼は負の心意に目覚める可能性が高い。そういう意味では期待出来るさ」

「負の心意か。茅場晶彦、君が直見真嗣に注目しているのはオレイカルコスの結界に呑まれたプレイヤーをその呪縛から解き放ったからか?」

「そうだ。そういう意味ではコッコロ君やメグ君にも期待はしている。特にメグ君はコッコロ君の負の心意を振り払ったからな。それに罪と光を受け入れた彼女達がどういう行動をするかは、個人的に興味深い」

「……なるほど。やはり君は〝心意〟を重要視しているようだな」

765この残酷な世界の成り立ちを! ◆QUsdteUiKY:2025/05/19(月) 00:54:36 ID:W.NkZqAI0
「私はキリト君のシステムを上回る人間の意志――心意に敗北した。拘るのも当然だろう」

「茅場晶彦。まさか君はキリトやマサツグ達に負けるのを望んでいるのか?」

「そういうわけじゃない。どんな理不尽を前にしても、ゲームマスターを前にしても――屈服せずに立ち上がる。そんな彼らの姿が見たいだけだ」

「だがキリトは全く戦闘をしていない。それについては君の期待外れか?」

「いや――キリト君達もいずれ戦闘する時が来るだろう。このデスゲームはソードアート・オンラインとはまた違う。バトル・ロワイヤル形式の仮想現実だ。否が応でもキリト君は剣を握り、レッドプレイヤーと戦わなければならない時が来る。そのために彼と因縁が深い人物も招待した」

「PoHか。たしかに彼の心意や経歴はなかなか面白い。このバトルロワイヤルにはうってつけのものだァ!」

「そしてもう一人、気になるプレイヤーは居るが――」

 茅場はチラりと遊星が映されたモニターを眺める。

「――彼の相手は十代君に譲ろう。私より十代君が相手をする方が向いている」

「それは一理あるな。だから私は覇王の時代から遊城十代を連れてきたのだァ!だが茅場、君は武藤遊戯には興味がないのか?」

「今のところは武藤遊戯よりも心意で神のカードを再び手にした海馬瀬人に興味があるな。武藤遊戯にもこれから興味が湧くかもしれないが……現時点ではそれほど重要視していない」

 それだけ言うと、今度は茅場が質問する番だ。

「そして1つ質問だ。NPCにボスクラスのキャラが潜んでいることを私は聞いていない。天ヶ崎恋――ラヴリカバグスターは能力も経歴も明らかに私が想定しているNPCの範疇を超えている」

「そこについては問題ない。ラヴリカ本人は気付いていないようだが、大幅に弱体化している」

「……弱体化させてまでNPCとして召喚する意味があったのか?」

「彼はなかなか面白い性格をしている。今回は性能よりもそこを買った。まあ一種のギミックのようなものだ。今後はボスクラスのキャラがNPCとして出てくることもないから安心したまえ!」

「なるほど。そういうことなら、私も納得しよう」
  
 追加主催

【茅場晶彦(ヒースクリフ)@ソードアート・オンラインシリーズ(アニメ版)】

 ※この世界は茅場晶彦と檀黎斗が構築したものでした
 ※マーダー不足を懸念して、新たなマーダーがプレイヤーとして招かれる可能性があります。もしかしたらその関連人物も招かれる可能性もありますが、対主催とマーダーのバランスを考慮して茅場と檀黎斗が判断します
 ※茅場晶彦のアバターはヒースクリフです。キリト同様、ステータスなどもヒースクリフと同じです
 ※ルールに記載していなかったこちらの落ち度なのでラヴリカのみ特例ですが、今後は企画主以外は事前の相談なしにNPCでボスクラスのキャラが出ることを禁止します。ポッピーや魔導雑貨商人などのお助けNPCは大丈夫です
 ※ラヴリカバグスターは大幅に弱体化しています

766 ◆QUsdteUiKY:2025/05/19(月) 00:55:54 ID:W.NkZqAI0
投下終了です

767 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:46:31 ID:dyk1XPSI0
投下お疲れ様です。自分も投下します

768EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:48:27 ID:dyk1XPSI0
「強大なエネルギーを秘めたパンドラボックスを巡り…っていつの話だよこれ。台本チェンジだチェンジ」
『胡散臭さに手足が生えたような地球外生命体が去った後、わたしとイリヤさん達一行は仮面ライダー捜索の為に別行動を取りました。
 見てますか皆さん!何故か喋れなくなったような気がしましたけど、ご覧の通りいつものルビーちゃんですよー!』
「急に何の話をしてんだよ。一方俺ことエボルトは七海やちよのお気に入りの魔法少女、環いろはとの接触に成功。
 こいつを連れて行けば好感度アップも間違いなし。おいおいまさか、本当にハーレムルートに入っちまったか?」
『魔法少女に不埒な真似を目論む愚行、全ての可憐な女の子の味方であるこのわたしが許しませんよ!
 それにしても環いろはさん、あんなピッチリスケスケ衣装とはけしからんですねぇ。ウチのイリヤさんとの素敵なショット(意味深)を期待したいですねぇゲフフ(汚い笑い)』
「一行前と即座に矛盾してんぞ。さぁて、どうなりますやら」


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「しっかし分からねぇもんだな」

エーデルフェルト邸を後にし、徒歩で移動の最中。
暫し続いた無言を打ち破ったのは、蛇王院が発した一言だった。
前触れなく出たその言葉に、同行者二名と一本は視線で続きを促す。
分からないと急に言われても、一体何の事かがこっちはサッパリなのだから。

「遊戯や遊星は自分のデッキを取られてんのに、凌牙は本人のを渡されてんだぜ?それにイリヤだって、相棒と引き離されなかった。
 なんだってこうも支給品に差があるのか分からなくてよ」
「言われてみれば……そっか、わたしもルビーが一緒じゃなかったかもしれないんだ」

有り得た可能性を思い浮かべ、幼い肢体が微かに震える。
デイパックを開けたら真っ先に相棒のステッキが飛び出し、普段通りに戦えた。
しかし遊戯や遊星のみならず、イリヤもルビーの没収により戦闘手段を失う事態が起こらなかったとも限らない。
運が悪ければ、司共々斬り殺された末路があったかもしれないのだ。
平行世界への転移直後、ベアトリスから必死に逃げた時の事を嫌でも思い出す。
事情が重なり見逃され命拾いした、そういう幸運が二度も続くと楽観的には考えられない。

『うむむむ…むさ苦しくてあくどい男の手に渡った可能性もあるってことですねー……。何たる地獄!ルビーちゃんはイリヤさんに身も心も全て捧げ、染め上げられたと言うのに!』
「誤解を招くこと言わないでよ!?」
『えー事実じゃないですか。初めて会った晩、熱くてドロリとした液体をわたしに……』
「あ、あれは鼻血でしょ!」

半分事故、もう半分はこの面白ステッキが原因で義兄と入浴中バッタリになったのも今や懐かしい。
あの時見たモノが記憶から引っ張り出され、つい頬に朱が差す。

769EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:49:29 ID:dyk1XPSI0
「デッキを取られたのは確かに痛いが、コレが没収を免れたのは助かったぜ」

傍らの漫才染みたやり取りを尻目に、遊戯は首から下げた装飾品を見やる。
現代を生きる決闘者と名も無きファラオが人格交代を行うには、千年パズルが必要不可欠。
今こうして自分が表に出て話す事すら、現実に起こっていなかったのも有り得た。
主催者に感謝する気は微塵も無いが、没収を免れたのには安堵を抱く。
それはそれとして、デッキが他者の手に渡ったのはやはり頭の痛い問題だった。

「凌牙が最初から自分のデッキを持ってるってことは、別にデュエル自体を禁止してる訳じゃねぇんだろ?なら、遊戯達にだって支給しても問題ない筈なんだが」
「……若しかすれば、俺や遊星くんがデッキが無い状態でどう足掻くか見てみたい。なんてだけかもな」

険しい顔で立てた仮説はシンプルながら、絶対ないと否定も出来ない内容。
決闘都市準決勝の直前に巻き込まれた電脳空間での戦いが、一つの良い例になる。
首謀者の海馬乃亜はデュエルで勝てば肉体を与えると、BIG5をそそのかし遊戯達を襲わせた。
だが実際は最初から約束を守る気は無く、自身の娯楽に過ぎなかったのだ。
油断ならない強大な力の持ち主であっても、性根は傍迷惑な好奇心の悪童に等しい。
檀黎斗もそれに当て嵌まるなら、拍子抜けな動機であっても不思議はない。

『確かに、放送でのふんぞり返った態度を見ると逆に納得がいきますねー。ルビーちゃんに小細工までして、ふてぇ野郎ですよ!』
「あの人にとっては、本当に全部自分が楽しむ為なんだね……」

クラスカードの時間制限や治療魔術の効きの悪さなど、イリヤが不利になる為の細工を施された。
主催者にとってはバランス調整の一環であっても、こっちからすれば迷惑でしかない。
ふよふよ浮かぶ羽を拳に見立て振るい、魔術礼装なりに怒りを表す。

一方でイリヤは顔を曇らせ、怒りと悔しさを乗せ呟いた。
仲間である司と零、敵でも助けたい気持ちに嘘はなかった小さな魔女。
たった一つしかない命を失った彼らも、檀黎斗にはゲームを盛り上げたか否か以外に何も思わない。
ひょっとすれば自分達が知らないだけで、最初の想いは違ったのかもしれない。
ダリウスのように、長い年月の中で変わってしまったのが真実でないとも言い切れない。
だとしても、決闘と称し殺し合いを強要したのが許されるかは別。
司達の死を娯楽と扱い嘲笑ったのには怒りがあり、そのような男の元に親友が囚われているのは気が気でなかった。

770EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:50:03 ID:dyk1XPSI0
『おや、この反応は……皆さんどうやら追い付いたようです』

若干空気が重くなりかけたが、ルビーの声で切り替えを余儀なくされる。
移動中も常に網を張っていた為、他参加者の探知は正確だ。
言い方からして、自分達三人が追い掛けている者が見付かったらしい。
トラブルが起きず目的達成に近付いたのは良いが、イリヤの表情はどこか硬い。
件の相手の人を食ったような、根本的な部分で相容れない雰囲気を思えば当然だが。

「心配すんな。俺も話で聞いただけだが、ふざけた態度続けるようならガツンと言っとくからよ」
「ああ。イリヤだけに気負わせはしないから、頼ってくれて良いぜ」

緊張を察し、軽く頭を撫で蛇王院が不敵な笑みを見せる。
魔界孔の出現に端を発した、群雄割拠の日本で一勢力を纏め上げた男だ。
アクの強い連中相手と斬った張ったは珍しくなく、今更滅多な事で動じる弱腰にも非ず。
魔法少女とはいえまだ小学生のイリヤ一人に、負担を強いるつもりはない。
遊戯も同じだ、奇人悪人相手の舌戦はデュエルを通じて幾度となく経験済。
エーデルフェルト邸の時同様、毅然とした態度で臨むまで。

「…うん、二人共ありがとうございます」
『頼れる殿方で安心しちゃいました。ルビーちゃんも人間ならコロッと惚れちゃったかもしれませんよ』
「惚れんのは別に構わねぇがな。俺の女どもなら、杖相手でも仲良くやれんだろ」
『ま、まさかの公式ハーレム王!?一体どこのア○ススフトのキャラなんですか!?』
「は?何言ってんだ?」

心強い仲間の存在に、幾分緊張も解れる。
ルビーの案内に従い移動を続け、5分も経っていない頃。
付近の民家より大きく、一際目立つ建造物が目に映り込んだ。
外観からして学校、ただ三人の記憶にあるどれとも一致しない。
数時間前にイリヤを庇って力尽きた、白鳥司の通う中学校とは知る由もなく。
反応が近いとの言葉に気を引き締め直し、

「えっ」

この場にいる筈のない親友が視界に飛び込み、イリヤから平常心を奪い取った。

771EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:50:45 ID:dyk1XPSI0
◆◆◆


人の皮を被った蛇、と。
初対面の相手に対し大変失礼であり、うっかり口に出そうものなら怒りを買うこと確実である。
何かと突飛な神浜の魔法少女の中で常識人の部類に入るいろはが、分からない筈がなく。
理解した上で、そう思わずにはいられなかった。

少女、である。
年の頃は十を過ぎてまだ一年程度。
妹達と同年代で、ランドセルを背に登下校を繰り返すのが当たり前の日常を送っている筈。
同性のいろはをして、綺麗と言う他ないくらいには整った顔立ち。
黒い薄手のドレスで隠し切れない、剥き出しの素肌は透き通るような白さ。
病的な青白さとは違う、少女が本来持ち得る女としての魅力が体に表れていた。
その手の趣味嗜好の持ち主が見れば、己が欲棒を鎮めるのにさぞや苦労するだろう。

「まさか、やちよより先に俺が会っちまうとはねぇ。折角お空のデート中だったってのに、邪魔したのは恨まないでくれよ?」

異性同性問わず惹き付ける魅力を自らぶち壊す、軽薄な口調。
外見と中身がまるで一致していない、酷くアンバランスな態度である。
密かに片思い中の男子生徒が目撃したら、百年の恋も一瞬で冷めるだろう。
こんな状況で何だが、ふと水波レナを思い出す。
変身の固有魔法を持ち、他者の姿をしばしば無断で借りていた。
元の言葉遣いと変身中の姿とのギャップに面食らったのは、神浜に来て間もない頃だったか。
ここにいるのはレナではない、しかし他人の姿を偽る力の持ち主に違いない。
いろはのみならず、全プレイヤーが断言出来る。
何せ眼前の少女、美遊・エーデルフェルトは主催者に囚われの身。
会場で呑気に軽口を叩くのは有り得ない。

何故、美遊の姿を真似ているのか。
何を目的に動いているのか等、抱いて当然の疑問が泡のようにプカプカ浮かぶ。
しかし最も聞かずにいられないのは、先程から度々口にする名前。
神浜で最初に会った魔法少女であり、チームの纏め役であり、尊敬と信頼を向ける先輩であり、
一人にさせないと約束したあの人。

772EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:51:19 ID:dyk1XPSI0
「教えてください、やちよさんと会ったんですか?」
「でなきゃ、わざわざお前に付いて来たりはしてねぇさ」

別段誤魔化す意味も無い為、あっさり肯定。
次に気になるのは、どういった状況でやちよと会ったのか。
定時放送の前、それともフェントホープを訪れる直前。
行動を共にしていない理由をいろはが問うのを待たず、薄く色付いた唇が動く。

「折角顔を合わせたんだ。コーヒーでも飲みながら、ゆっくりお喋りといきたいんだがねぇ。生憎豆も機械も手元にないと来た。檀黎斗も神様を気取るなら気を利かせて欲しいもんだ、だろ?」
「え?えっと……」
「何だよ、女同士のトークは苦手だったか?やちよにもっとお前さんの好みなりを、聞いとけば良かったかもな」

返答に詰まるもお構いなしで、軽口が飛んで来る。
少なくともいろはの知る魔法少女達に、こういったタイプはいなかったように思う。
気さくな口調で心を開かせる、というのとも異なる。
冗談交じりの態度の裏にどことなく、値踏みするかの不躾な視線を宿らせている気がしてならない。
ちょっとした遊び心で揶揄う八雲みたまと違い、距離を感じる冷たいナニカがあった。

「痴れ事を垂れ流し……煙に巻く……それが貴様の目的か……?」

気圧され会話の主導権を奪われつつある中、鬼が蛇の独擅場へ待ったを掛ける。
魔族の王の鎧を纏い、素顔は仮面で隠れ見えない。
なれど発する威圧感は健在、サファイアブルーのレンズが小さき体を射抜く。
いろはを庇おうと前に出たつもりはない。
だが毒にも薬にもならない茶飲み話に耳を傾けてやる程、我が身を戦から完全に遠ざけた覚えも無し。
戯れに付き合う気は無いと、刃の如き視線を黒死牟が叩き付ける。

「おいおいそう凄むなって。今のご時世、いい大人がか弱いガキを脅しちゃ通報確定だろ?」
「戯けたことを……童の皮を被った化生が……何をほざく……」

神に囚われた少女の姿を模してるだけではない。
執念で辿り着いた武の境地、透き通る世界を取り繕った外見だけで欺くのは不可能。
小娘の形は見た目だけ、中身は人間どころか如何なる生物とも一致せず。
真紅の騎士や軍服の男と同じ、鬼とは別に人の理から外れた者。
或いは生まれながらに、人ならざる存在として産声を上げたか。

いずれにせよ、天津達のように持ち得る情報を開示するならともかく。
軽口でこちらを煙に巻く気であれば、律儀に相手をしてやる理由は皆無。
怪物同士の視線が交差し、魔法少女が場を宥めようと口を開き掛け、

773EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:52:03 ID:dyk1XPSI0
「美遊っ!」

駆け寄って来る白い少女へ、言葉を引っ込めざるを得なかった。

「あの子は……」
「思ったよりお早い再会になったな」

見知らぬ少女の登場にいろはが目を瞬かせる一方で、彼女を知っているような言葉を吐く。
後方へ視線を移せば、慌てて追いかける二人の参加者。
テンプレートな海賊スタイルの男はともかく、特徴的な髪型のもう一人は知っている。
プレイヤー全員が最初の場で慟哭する少年を目にし、自分は数時間前に直接会った。
白い少女共々、こうも早くにまた会うとは思わなかったが。

その白い少女ことイリヤは、一心不乱に親友の元へ走る。
ダリウスの救済に巻き込まれ、かと思えば神を名乗る狂人に囚われた親友。
どうして会場にいるのだという疑問はあれど、深く考え込むより先に体が動いた。
今だけは同行者達の声も、初対面の顔ぶれもイリヤを止めるには至らない。
目尻に涙を浮かべ堪らず手を伸ばす。

「おっと、ハグがお望みってんなら頼みを聞いてやっても良いが……俺相手で良いのか?本物のこいつに知られりゃ、浮気と思われるかもなァ?」
「っ!?」

触れる寸前で腕を跳ね除け、足に急ブレーキが掛かった。
姿形は自分の記憶にある美遊と、何一つ変わらない。
同じなのはそれだけだ。
美遊はこのような、人を小馬鹿にした話し方なんてしない。
嘲りを隠そうともしない笑みなど、絶対に浮かべない。
何より近付いてようやく分かった。
全身を蛇に巻き付かれ、舌先で首を舐められる捕食寸前に似たおぞましさ。
こんなものを感じさせる存在が、美遊であるなど有り得ない。

一体何者なのかの答えは、傍らの相棒が呆れと軽蔑を籠めた声で教えてくれた。

774EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:52:50 ID:dyk1XPSI0
『趣味は人それぞれと言いますが、限度があるでしょうに。無駄に敵を作るのがお好きなんですか?エボルトさん』
「そいつは心外ってやつだ。こいつの見た目になったのはお遊びだが、お前らの友達だってのは今初めて知ったからな」
「なっ……」

ルビーが言った名前を知らない筈がない。
エーデルフェルト邸での戦闘に介入し、魔女の頸を落とした地球外生命体。
一応自分達の恩人という立場であれど、信用出来る要素が一つもない男。
仮面ライダーに関する情報を聞く為追いかけたが、美遊の姿になってるのを誰が思い付けるという。
宇宙服に似た装甲とも、コブラのような頭部の異形でもない。
他者の姿を真似られる能力でも持っているからか。
混乱は長く続かず、すぐに怒りへ変わりキッと鋭い目をぶつける。
当の相手は怯む所かヘラヘラ笑い、美遊を馬鹿にされているようで我慢ならない。

「揶揄ったにしても笑えねぇな。胸糞悪いもん見せてくれたからには、相応の礼が返って来るのを知ってるか?」
「人を見下す態度をやめないなら、痛い目見るって忠告した筈だぜ!」

美遊とイリヤの関係を聞いた二人の男も、瞳を吊り上げ口々に言う。
片や冷静ながら不快さを隠さず、片や明確な怒りを露わにと違いはある。
しかし抱く思いは同じ。
これ以上イリヤの心を弄ぶなら、タダで済ませる気はない。

「分かった分かった、一旦落ち着けって。ったく、このお嬢ちゃんに関しちゃ冤罪なんだがねぇ」

美遊は士郎だけでなくイリヤの関係者。
初耳でありイリヤを惑わせる意図は無いのだが、言った所で納得しないだろう。
尤も、エボルトにとっては嬉しい誤算でもあった。
つい先程立てた仮説が真実か否か、答えを知ってるかもしれない者が向こうからやって来たのだ。
追々聞くとして、取り敢えず美遊の擬態を解かねば拳が飛ぶに違いない。
仕方ねぇなと呟き自身の細胞を変化、小さな体躯が一瞬で赤い粘液状に崩れる。
秒と掛けずに再構築、聖杯の少女は影も形も見当たらない。

「こいつなら文句は――」

瞬間、言葉を切り右腕を跳ね上げた。
電光石火と言うに相応しい、必要な動作を数段階すっ飛ばしたとしか思えぬ速さ。
右手に握るは短銃型の変身ツール、トランスチームガン。
単体でも武器として扱え、放つは対象を溶かし貫く高熱硬化弾。
西部劇のガンマン顔負けのクイックドローだがしかし、肝心の引き金を引く締めの動作は行わない。
銃口が睨む先には、イリヤが現れてから沈黙を保った白い鎧。
ステンドグラスを填め込んだ額へ、何故得物を突き付けているのか。
エボルトの首に添えられた、煌めく刀身が何よりの答え。

775EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:53:49 ID:dyk1XPSI0
「幾ら何でも気が短過ぎだろ。カルシウムが足りないなら、ミルクでも探してやろうか?」

美遊の擬態を解いた直後、間近で殺意の爆発が起きた。
肌を焼く激痛にも似た痛みへ、エボルトも無反応ではいられない。
数多の星を狩り培われた戦闘技術により、人外の速度で銃を引き抜いたのだ。
だが一手早く、黒死牟もまた得物へ手を掛けエボルトの頸へと走らせた。
指先すら触れず垂らしていた手を、一体いつ柄に置いたのか。
スタンド使いや仮面ライダーが有する時間停止ではない。
視認不可能と言っても過言でない速さで、魔剣を抜き放ったのである。

ザンバットソードと首の間の隙間は、紙切れ一枚が挟まるかも怪しい。
指の腹で蟻を潰す程度の、ほんのそれだけの力が加われば終わり。
限界寸前で斬首を留め、仮面越しに殺気立った瞳で睨み付ける。
黒死牟をこうも怒りで逸らせた理由は、誰の目にも明らか。

現代日本では滅多に見ない着物姿。
後ろで結び馬の尾のように垂らした黒の長髪。
両耳に付けた、日の出が描かれた耳飾り。
天界の寵愛を受けた人間(ばけもの)、この世でただ一人鬼の始祖を恐怖させた日輪。
神が掌で転がす操り人形、憎たらしくも断ち切れぬ血で結ばれた弟。
継国縁壱に擬態したエボルトの頸を、魔剣が今すぐ斬らせろと訴えていた。

「貴様が……童遊びにもならぬ戯れを……止める気が起きないなら……」

妬んだ。
憎んだ。
常に目障りだった。
幾度となく、死を願った。
心底嫌った。
負の念を両手足の指の数並べても、尚足りない。

なれど、忘れた事はただの一度もなく。
常に己が内を焼き続けた、永き時を経ても変わらぬ羨望の対象だからこそ。
指先が触れることすら叶わなくとも、背を追うのを止められなかった故に。

たとえ一時の悪巫山戯に過ぎなかろうと、弟を騙るその愚行に殺意が滾るのを抑えられない。

776EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:54:40 ID:dyk1XPSI0
「頸を落とし……黙らせれば良い……」

弟に姿を変えた化生を殺すのに、躊躇を抱く余地はない。
むしろ縁壱の顔で腐り切った軽口がほざかれるのを待たず、早々に死で以て終わらせたって構わない。
生前ならば、恐らくその通りにしただろう。
一刀で即座に黙らせた筈が、この場においては必要かも分からない警告を先に発した。
相手の口を割る前に殺すのが如何に愚策かを、僅かな理性が訴えているからか。
迷い全てを断ち切れぬ身なれど、自死を選ぶ気が無い以上情報の必要性は理解してるつもりだ。

或いはもう一つ。
自身と化生の発する殺気へ、息を呑む気配が周囲で複数。
今しがた現れた白い小娘の一団だろうが、知ったことではない。
だがそれとは別に、己の後方に立つソレは。
視界に収めずとも脳裏を掠め続ける桜色が、振り返った先にいる事実が。
花を編んで作った鎖となって、魔剣を握る手に絡み付く。
振り払えば散る脆き拘束に過ぎない、なのに引き千切れず捕らえられるがまま。
化生へ向ける殺意とは別に、例えようのない煩わしさで歯が音を立てた。

「エボルト、さん」

充満する剣鬼の怒りへ、喉に猛烈な痛みを感じる中。
怪物同士の睨み合いに割って入り、殺伐とした空気を鎮めんとする声があった。
喉を震わせ叫んだのではない、ただ一言名を読んだ。
横目で見やる星狩りから、いろはは目を逸らさない。

ああと、こうして近くでその顔を見たから思うのだ。
外見だけ真似た所で、やはりここにいるのは縁壱ではない。
彼について全てを知ってはいない。
怒気交じりに、ほんの少し教えてもらっただけ。
それでも、弟の事で兄が心を掻き毟る姿を見たから。

「もうやめてください。縁壱さんも美遊ちゃんも、あなたが誰かを傷付ける為にいるんじゃありません」

どれだけ手を伸ばしても届かない痛みを、いろはは知っている。
再会を強く願っても決して叶わない現実に、頬を濡らして来たから。
たとえ意図したものでなくても、心へ唾を吐きかける行為に黙ってはいられない。

777EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:56:07 ID:dyk1XPSI0
「……ま、おふざけも程々にしなきゃ困るのは俺の方か」
『自覚してるんなら、今からでも真面目になるのをオススメしますよー』
「性分なんでな。死んでも治らないもんだと思って、諦めてくれ」

人間の小娘の言葉に揺り動かされるなら、地球に潜伏した10年の間に心を入れ替えている。
お説教が利いたのでないが、おちょくるのも大概にせねばなるまい。
分かっていても皮肉や軽口が飛ぶのは、ルビーに言ったのが全て。
ともかく、詳しい関係は不明だが自分は黒死牟の地雷を踏んだらしい。
警告は最初で最後、いつ戦闘になってもおかしくない。
銃を下ろし、最も馴染み深い石動惣一に擬態。
桜ノ館中学前に集まった面々には、初めて見せる姿だ。

「これなら文句ねぇだろ?俺なりに多少は反省してるんだ、お前らの前じゃこいつの見た目のままでいるさ」
「……」

姿が変わろうと、神経を逆撫でする態度は健在。
いらぬ遊びでこちらを掻き回し、頭を沸騰させた化生をこのまま斬りたい気持ちが無いとは言わない。
されど向こうは縁壱ではない男の皮を新たに被り、得物を懐に納めた。
無駄な遊びを繰り返した挙句、膨れ上がった殺意をぶつける空気も削ぐとは。
まっこと不愉快極まる相手に低く唸り声を漏らし、ザンバットソードを首から離す。

「おっかないったらねぇな、まったく」

刀身が触れた箇所を擦りつつ、改めて集まった面々を見回す。
友好的なものが一つも存在しないのは、別に良い。
仲良しこよしで友情を築く気はない、だがいい加減真面目に話を進める頃合いか。

「さて、と。ちょっとしたアクシデントもあったが、お互いちゃんと話した方が良いだろ」
『なんか纏め役っぽいこと言ってますけど、そもそもあなたが原因ですからね?』
「それを言うなって。トラブルメーカー同士、少しは肩を持ってくれよ」
『失礼な!あなた程悪趣味じゃありません!一緒にナレーションやったくらいで心を許す軽い女と思ってるなら、そりゃ大間違いですよ!』
「冷たいねぇ。声の仕事が得意な仲だろ?」

話が拗れた10割の原因だと自覚しつつ、何でも無いようにあっさり切り替えた。
さしものルビーも呆れを隠せないが、当のエボルトはどこ吹く風。
彼らだけにしか伝わらない内容を話す両者へ、解けないパズルにぶち当たったような顔を作る。

778EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:57:14 ID:dyk1XPSI0
「二人共何のことを言ってるの……?」
「ルビーが素っ頓狂な事を言い出すのは珍しくないから、深く考えなくて良いと思います……」
「そ、そうなんだ」

どこか遠い目で言うイリヤに軽く困惑し、自己紹介もしないままつい言葉を交わした相手に向き合う。
インキュベーターとカレイドステッキ、異なる契約を結んだ魔法少女達。
妹と姉、半身をそれぞれ喪った両者だが現時点では互いの名前も知らない。
まずは基本的なことからと名乗り合う。

「嬢ちゃん同士打ち解けんのが早ぇな。俺らも倣って自己紹介くらいやっとくか?」
「……」

いろは達の様子を横目に、蛇王院が話しかけたのは白い鎧の参加者。
未だ素顔を見せぬ男は言葉無く、青いレンズを二人に向ける。
襲って来る気配は見られないが、相応に緊張感を抱く相手だ。
因縁深いホーリーフレイムとの抗争を始め、各勢力とぶつかり合った蛇王院。
ブルーアイズを巡る海馬とのデュエルに始まり、数多の強敵に打ち勝った遊戯。
戦いの舞台は異なるも歴戦の強者である彼らをして、今しがたの強烈な殺気に自然と身構えたのも無理からぬ反応。
とはいえそこはスカルサーペント総長と、初代決闘王。
及び腰の姿勢にはならず、堂々とした態度で相手との対話を望む。

男達の顔を仮面越しに見つめ、ややあって黒死牟は思い出す。
片方は一番最初の空間、磯野なる人間が屠り合いの宣言を行った場で発言を許された少年である。
頭を吹き飛ばされた別の少年が名を口にしており、自分のみならず全ての参加者の知るところ。
ついでに言うなら、本田以外の者からも遊戯の名は聞いている。

「不動が信を置く札使いとは……お前か……」
「遊星くんと会ったのか!?」
「こいつは流石に予想してなかったな……」

まさかその名が出るとは思わず、驚きを露わに聞き返す。
驚愕は蛇王院も同じだ、合流前に遊星の動向を知る者と接触が叶った。
行動を共にしていないのが気になるが、そこも含めて詳しく聞かねばなるまい。
とっつき辛い相手であるも、仲間と会ってる以上はキッチリ話してもらう。

「丁度良い場所の前に全員集まったんだ、お喋りの続きは中でやったの方が良いだろ」
「胡散臭いエイリアン野郎に同意するのは癪だが、ここで話し込んでも悪目立ちするだけだな」

正論だが余計なトラブルの元でもあるエボルトへ、蛇王院から辛辣な声が飛ぶ。
言われた当人はわざとらしく肩を竦め、全く懲りた様子がない。
ただ提案に反対する者はおらず、直ぐ近くの施設へ入って行く。
数時間前に覇瞳皇帝一行が訪れた桜ノ館中学は、新たな来訪者達を招き入れた。

779EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:58:56 ID:dyk1XPSI0
馬鹿正直に内履きを探し履き替える者はおらず、土足を咎める者も皆無。
生徒用の玄関を通り、廊下を進み数分。
見付けた図書室を情報開示の場に決め、先頭のエボルトが引き戸を開ける。
学校に置いてある本特有の、何とも言えぬ匂いが漂う。
殺し合いには何の意味も無い、こういった細部の再現まで拘ったらしい。
その情熱の向かう先がゲームと称する悪辣な殺戮では、素直に褒める者もいないが。

(懐かしい、な……)

自分の通っていた穂群原学園ではないが、図書室の空気はイリヤにも覚えがある。
特別な思い出じゃない、取るに足らない日常の一幕。
とっくに覚悟は決まっており、過去へ飛んだ選択に後悔はない。
僅かに漏れ出た心の雫を拭い、今やらなきゃならない戦いへ意識を戻す。

本棚の並ぶ空間へ足を踏み入れる中、振り向き一点を睨む者がいた。

「新手、か……」
「え、黒死牟さん?」

校内に参加者が訪れたと、即座に分かった。
竈門炭治郎や我妻善逸のような、先天性の優れた五感に非ず。
人間時代より戦の渦中に身を置き、数百年かけて研ぎ澄まされた感覚。
始祖の血が齎す、人の限界を容易く見下ろす五感機能。
此度はそれらに加え、サガの情報収集器官装置が稼働している。
一人分の足音が何処から響き、闘争を終えた証の血の臭いまでもを正確に捉えた。
尤も、サガの鎧を纏わずとも侵入を察するのは難しくない。

『むむ?』
「っと、タイミングが悪いな」

図書室前に集まった6人以外の者の気配に、他の数人も気付く。
幾つかの制限を課せられたが、ルビーの優れた探知機能は誤魔化せない。
特体生として超常の能力を持ち、尚且つ魔界孔出現後の日本で否応なしに危機察知能力が磨き上げられた蛇王院も同様。
中途半端に気配を隠したとて、気付かれないと思ったら大間違い。

「ルビー、誰か来たの?」
『みたいですねー。何やら変わった反応をお持ちのようですけど』
「ま、その辺の家よりは目立つからな。立ち寄ってもおかしくねぇか」

参加者の誰かに馴染みのある学校なのか。
そうでなくとも、保健室なりで物資調達をしに来る者がいても不思議はない。
問題は来訪者のスタンスが、自分達と相容れるか否か。

780EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 18:59:42 ID:dyk1XPSI0
さてどうするかと話し合う前に、黒死牟は一人踵を返す。

ファンガイアの王の鎧は相応の力と、日除けの加護を鬼に授ける。
しかし必要に迫られなければ、積極的に活用する気は無し。
慣れぬ着心地は、却って黒死牟を縛る拘束具にもなり兼ねない。
であれば、日の当たらぬ屋内での解除は至極当然。
資格者の意志に従い、サガークが離れ霞のように鎧は消え去った。

「っ!」

露わとなる、古風な着物を纏った侍。
人の形を保ちながらも、人では有り得ぬ三対六つの眼。
複数人の強張る気配を察するが、感じ入るものは毛先程もない。
背に声が掛けられるのを呑気に待たず、姿の見えぬ侵入者の元へ足早に向かって行く。

「行っちゃった…」
『まあパーティに一匹狼系の殿方が混じってるのも、ある意味お約束ですよ』
「それってフォローのつもりなの…?」

相棒の惚けた発言は置いておき、有無を言わさぬ口調にイリヤも何か言うタイミングを失った。
冥王やうさぎなど、人でない参加者とは既に顔を合わせている。
ルビーと(合意なしに)契約を結ぶ前ならまだしも、今更大概の事で動じる少女でもない。
とはいえやはり、抜き身の妖刀染みた威圧感には相応の緊張があるわけで。

「アイツに任せても良いが、あの口下手っぷりで誰彼構わずバッサリ!なんてならなきゃいいんだがなァ」
「黒死牟さんはそんなこと……」

冗談めかして言うエボルトに、いろはは思わずムッとして反論。
そんなことしないと言い切る筈が、ふと思い出す。
定時放送の前、病院で自分が寝ている間に何があったかを。
あっけらかんとする結芽と反対に、疲れたような姿のキャルを。
エボルトの言うような、見境なしに剣を向ける男ではない。
けれど万が一、あらぬ誤解を受けてしまうんじゃないかと言われたら――

「あ、あの!わたしも黒死牟さんを追い掛けます!」

大丈夫と信じたい反面、前例があるだけに一度浮かんだ心配はなくならず。
皆にそう言い、いろはもまた背を向け走り出した。

『めんどくさい年上に尽くすタイプな気がしますね、いろはさんって』
「急に何の話!?」

781EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:00:23 ID:dyk1XPSI0
◆◆◆


一人だった。
民家内の気配も、微かに耳を震わせる呼吸の音も。
自分自身以外に存在しない。
ゲーム開始直後以来二度目となる、一人きりの時間で橘朔也は身を休ませていた。

ガラスに映った姿をじっと見つめる。
つい昨日まで当たり前にあった己の体は、どこにも見当たらない。
アメジストの瞳と二つに結んだ長髪。
不死の生物との戦いを通じ鍛えられた体はなく、細身ながら少女特有の柔らかさも備えた肢体。
窓を挟んだ向こう側に立っているんじゃあない、正真正銘これが今の橘だ。

この世を去った少女をハッキリ見れるのに、本人はここにいない。
不思議な感覚へ、寂しさが全く無いと言えば嘘になる。
別れはとうに済ませた。
一度目は届かぬ手に嘆くしかなく、二度目は言えなかった「さよなら」を確かに伝えて。
天々座理世は橘の元を去ったが、想いは形として残り続ける。

「仇を討ったとしても……」

殺された人間が生き返る訳ではない。
恐怖心に惑い迷走の末に、小夜子を伊坂の手から守れなかった時と同じだ。
カテゴリージャックを封印しても、最愛の恋人が戻って来ないように。
リゼがひょっこり顔を出し、自分の名前をもう一度呼ぶ奇跡は起きない。

復讐を果たした後に訪れる虚しさは皆無に非ず、なれど思考放棄へ逃げるつもりは微塵もない。
他ならぬリゼ自身が言ったじゃあないか。
橘達を生かす為に命を散らす選択を、後悔してはいないと。
誰かに強要されのではない、自暴自棄でどうでもよくなったんじゃない。
あれで良かった、最高の師匠を守れた自身の選択で落ち込まないで欲しい。
慰めや誤魔化しとは違う弟子の本心を告げられて尚、後ろ向きで腐っている責任感を忘れた男にはなれなかった。

782EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:01:06 ID:dyk1XPSI0
(放送でリゼが言っていた友達は呼ばれなかったか……)

精神的な消耗に加え、間髪入れずに起こった海神との死闘。
目まぐるしく変化する戦場へ考える暇も無かったが、ようやっと落ち着き意識を回す余裕も生まれる。
何故か二つ名前が記載されたココアを含め、リゼの友人達は無事。
専用武器があるとはいえ元々一般人のリゼ同様、本来は戦う術を持たない少女達。
仮面ライダーの自分でさえ苦戦を免れない環境で、運良く6時間危機から逃れたとは考え辛い。
信頼出来る参加者と出会えたのだろうと、今更ながらにホッと胸を撫で下ろす。
可能ならば二回目の定時放送まで発見ないし、せめて何らかの情報が得られるのを願いたい。
手遅れとなり、リゼに誓った決意を嘘にする気はないのだから。

「…っ!あれは……」

考え込むのに俯いていた顔を上げ、何となしに窓の外へ目をやる。
丁度そのタイミングだ、奇妙な飛行物体が一瞬見えたのは。

心意システムの影響で橘に起きた変化は、リゼの姿になっただけではない。
外見こそ学生生活を謳歌する少女でも、秘め得る力は常人の枠には収まらない。
仮面ライダーギャレンと同等のスペックを、生身で発揮可能。
パワーや走力のみならず、五感もまた超人の領域へ押し上げられた。
元々橘はバッティングセンターのボールに書かれた数字を正確に見れる程、優れた動体視力の持ち主。
そこへ加えて、オーガンスコープと呼ばれる高機能な視覚センサーと同等の力を得ている。
通常肉眼では捉えられない存在も、微かだが見る事が出来たのだ。

「ドラゴン、か?海馬やジャックのカードにあったのとは違うようだが」

長い胴体で空中を泳ぐ、未知の巨大生物。
やれUMAだ軍の秘密兵器だとメディアが騒ぎ、白井虎太郎が見たら新作のネタとはしゃぐだろう。
残念ながらここは殺し合いの場であり、巨大な怪物も然して珍しくない。
おまけにハッキリと姿を確認出来てはいないが、巨大生物の背に人らしき者が乗っているようにも見えたのだ。

「まさか、さっきの俺達のように逃げているのか?」

触手を操る怪物の追跡を振り払う為に、列車型のモンスターに乗り込んだのは記憶に新しい。
そういった目的でドラゴン(仮)を駆る可能性も、絶対ないとは言い切れない。
ひょっとすればリゼの友人達が乗っているかもしれないのを、どうして否定出来ようか。

783EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:01:46 ID:dyk1XPSI0
再び橘は考え込む姿勢を取る。
腕組し難しい顔を作る姿はリゼそのものだと、見てそう思う彼女の友人達は民家におらず。
どう動くかに頭を悩ませた。
リゼの仇相手に最悪の場合は、相討ちに持ち込む覚悟だったが無事生き延びた。
但し流石に無傷とはいかず、コンディションを考えればもう少し体力回復に充てるのが正しい。
何が待ち受けているか分からないのに、考え無しに飛び込んで良いものか。

(だがこんな時剣崎なら、迷わず向かう筈だ)

合理的な考えを優先した結果、助けられた筈の手を掴めない。
そんな後悔をしない為に、後輩であり尊敬する仲間がどう動くかは分かり切ったものだ。
馬鹿になれと、一人の男が言い遺した言葉を思い出す。
考え無しに動き回る無鉄砲になる気はないが、ほんの少し無茶をやる馬鹿にはなって良いのかもしれない。

行き先を決めた以上、動くのに躊躇は必要無い。
頷き立ち上がると、民家を出てドラゴン(仮)が見えた方へ走る。
出発し数分、橘はすぐに自分の体が如何なる状態かを悟った。
リゼ専用の槍を使ってないにも関わらず、足が異様に速い。
試しに速度を数段上げてみれば、どう考えても普通の人間が出せないだろう速さを叩き出す。

(バックルが突然消えたのはこういう事だったのか…!)

詳しい原理は不明だが、生身でギャレンと同じ力を発揮出来るらしい。
考えてみれば動体視力に自信があるからといって、遠く離れた位置のドラゴン(仮)を見れるのも普通は有り得ない。
リゼが聞いたら、「今気付くのか」と天然加減へ呆れ笑いを浮かべたろう。

橋を渡って北上、隣接したエリアに到着。
暫く進むと見えたのは、点在する民家よりも目を引く建造物。
独自の佇まいから学び舎と即座に分かり、ご丁寧に学校名の書かれた校門まである。
モンスターに乗った者が近辺へ降りたとすれば、最も目立つ施設を無視するだろうか。
仮に負傷していたら手当の為に、保健室へ向かう可能性は低くない。

(行って確かめなければ始まらないな)

銃と槍、二つの得物を意識しながら校舎内へ入る。
念の為に不意打ちを警戒し、可能な限り気配を殺して進む。
少年少女が青春を送る場の賑やかさはなく、まるでホラー映画さながらの不気味さが漂う。
場合によってはいつ襲われてもおかしくない状況に、自然と表情も険しさを増す。

784EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:02:24 ID:dyk1XPSI0
「――――っ!?」

静寂は前触れなく終わりを告げ、橘の警戒心が一気に引き上げられた。
音もなく、しかし無視出来ない存在感を伴い現れる異形。
光の差し込まない寒々とした廊下の奥より、凡そ学び舎には釣り合いな者が顔を見せる。
嫌悪と恐怖を共に植え付ける、剣鬼の眼が橘を射抜く。
愚かにも腹を空かせた怪物の素巣へ、自ら飛び込んだとの錯覚を抱いた。

「お前、は……」

喉奥から這い出るここ数時間で聞き慣れた、喪った二人目の弟子の声。
酷く乾いて聞こえるのは、それだけ自身の緊張が大きい証拠。
何も相手が人間でないからというだけで、ここまで極端に警戒を強めない。
アンデッドとの戦いを思えば、今になって人ならざる存在を強く恐れる弱者に非ず。
加えて先の冥王のように人間以外との共闘も経た以上、人じゃない参加者と必ずしも敵対するとは限らない。
理解して尚戦慄を隠せない理由はただ一つ、相手の纏う気配に近しい者を知っているから。

外見は全く違う。
記憶に根付くソレは色を無くした髪だった、瞳の数は人間同様に二つだけ。
文字と漢数字を浮かばせてもいなかった。
似ても似つかない、しかし無関係と言い切るには己の中で待ったが掛かる。
積み上げた文化を気まぐれで蹂躙し素知らぬ顔で去って行く、天災もかくやの化け物。
バッティングセンターでの平和な時間に、望まぬ形で幕を下ろした男。
リゼの仇であり、今さっき討った名も知らぬ怪物をどういう訳か想起させるのだ。

「……」

互いに無言で相手を見据える中、施設を訪れた時以上に得物を意識せざるを得ない。
研究職であった橘がギャレンの適正者に選ばれたのは、人選の適当な穴埋めなんかじゃあない。
上級アンデッドや仮面ライダーレンゲル相手に、スペックで差を開けられても勝利を奪える強さ。
類稀なバトルセンスの持ち主だからに他ならない。
変身後と同等のスペックを発揮可能な今、培った技術をフルに活かし先手を取れる筈。
相手が刀を引き抜く速さを追い越し、ギャレンラウザーで撃ち落とせる。

785EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:03:15 ID:dyk1XPSI0
(……いや、難しいか)

事がこちらの有利で進む光景を、橘自身が否定し打ち消す。
自分と相手には距離が開き、向こうの剣が届くには十数歩足りない。
だというのに多少の有利を一瞬で覆し、瞬きを終えた直後に喉元を切っ先が突き刺したとておかしくはない。
剣崎も認める一流の戦士だからこそ分かる、男の前に立った時点で間合いに閉じ込められたも同然だと。

恐怖心をとっくに克服し、アンデッドとの戦いを終えた橘なら会話での戦闘回避も冷静に考えられたろう。
だがリゼの命を奪った怪物の脅威を、身を以て味合わされたが為に。
相手の反応を待たずして警戒心が上がり続け、思考は剣呑な方向へと向かったまま。
気付かぬ内に、戦いが起きる前提に傾かせる橘をどう思ったか。
沈黙を保った異形の侍が初めて口を開き掛け、

「待ってください!」

後方より発せられた少女の声に、爆発寸前の空気が鎮静化の兆しを見せた。
橘が驚く一方で、侍は心なしか不機嫌そうに口を噤む。

黒死牟を追い掛けて来たいろはが見たのは、穏やかじゃない様子で睨み合う男と少女。
変身せずとも魔力を操作し、身体能力を上げたのが功を為し間に合った。
夜中に水名神社を調査した時、高く聳える正門を一跳びで追い越したのと同じ方法だ。
それはともかく、まず先に言わねばならない事がある。
背に向けられる視線に気付きつつも、少女へ向けて口を開く。

「わたし達に殺し合いをする気はないです。少しだけ驚かせちゃったかもしれないけど、でも、黒死牟さんも自分からあなたを傷付けることはしません」

警戒されてるとは承知の上でハッキリと告げた。
見境なしに剣を振るい、血の河を生み出す為にいるんじゃない。
憐れみで庇い立てするのでなく、そう信じて疑わない言葉に顔を顰める

またしても頼んだ覚えのない気遣いに出て、自身の不快感を煽る気か。
背後から感情の揺らぎを察したのか、振り返って視線を合わせる。
眉を八の字に下げた困り顔で、苛立ちを臆さずに受け止めた。

786EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:04:20 ID:dyk1XPSI0
「だって、黒死牟さんのことを誤解して欲しくなかったから……」
「……」

人ではない貌をして、安易に人を寄せ付けない態度を取っていて。
過去の行いを知らないけど、許されざる罪を繰り返したと察しは付く。
誰かにとっての悲しみを生み出す側だったのを察せない程、いろはは鈍くない。
けど今ここにいる彼は、それだけが全部じゃないから。
彼の抱える傷を見て、彼に幾度も命を救われた。
ほんの少しでも痛みを癒したいと思えた相手だから、彼に向かう敵意の前へ飛び出せる。

人を喰らう鬼に向けてとは思えない、されどとうに見慣れた態度。
他者からどれ程敵愾心を向けられても、今更知った事ではない。
しかしこの娘にとっては、黙っていられるものに非ず。
口走り掛けた吐き捨てる言も、喉をせり上がる前に消え失せる。
結局返すのは無言、向こうにとっても慣れた反応へ困ったような笑みを浮かべられた。

「女相手にだんまり貫くってのは、良いやり方とは言えねえな」

自身のとは異なる声に、発すべき内容を改めて練る必要が無くなる。
気安く肩に手を置かれ、僅かに振り向けばいろは程の付き合いは無いが見知った顔。
海賊帽の下で浮かべたシニカルな表情は、野性味溢れる顔立ちも相俟って異性を虜にするだろう。
色を好む軟派な男、そう軽蔑を籠めて断言は出来まい。
実戦を知らねば身に付かない屈強な体と、人の特徴から逸脱した異形の右腕。
いろはに少々遅れる形でやって来た蛇王院である。

「腕は立つようだが、堅物過ぎんのも考えもんだぜ?」

友人へ接するかのような軽口へ、鬱陶し気に手を振り払い応える。
必要以上に慣れ合う気が無いとの態度にも、激昂した様子はない。
気難しい奴だと呆れ笑いを一つ返された。
病院で会った小娘達といいこの男といい、馴れ馴れしくする者がいろは以外にもまだ現れるのか。

787EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL①』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:05:06 ID:dyk1XPSI0
「人じゃないって言ったら、俺の右手もどうこう言えるもんじゃないからな。殺り合う気がなけりゃ、理由も無いのに喧嘩は売らねぇよ」

蛇王院の住まう日本では人外の存在は珍しくもない。
第一蛇王院自身、学聖ボタンの影響でジャンヌに斬られた腕が異形と化した身だ。
人じゃないからといって排除を選ぶ、ホーリーフレイム同様の所業に走る気はゼロ。
異形の特徴を持つ元ホーリーフレイム聖歌隊のマリーシアを、差別意識を抱かず勢力へ迎え入れたように。
人間かそうでないかで態度を変える男じゃないからこそ、部下達からの厚い信頼を得て来た。

加えて意外に見えるかもしれないが、蛇王院はワイルドな外見と裏腹に他者へ積極的に戦闘を仕掛ける性質でもない。
スカルサーペントにとっての戦いは基本的に、自分達の身を守る為のもの。
全国統一を掲げ学生連合を襲撃したのも、神威との取引を受けたが故。
蛇王院を知る者に「らしくない」と疑問を持たれた好戦さは全て、自分を慕う部下を死なせない為の苦渋の決断があったから。

それは舞台が魔界孔出現後の日本ではなく、神が作り上げた遊戯盤に移っても同じ。
鬼の始祖に最も近い上弦の壱だろうと、他者を害する意図を見せなければこちらも手出しはしない。

「あんたといろはが仲良しだってのは分かったが、続きは一旦後回しにしとけ。初対面の女を放置は頂けないからよ」
「贋物の目玉でも填めているのか貴様……」
「あ、ご、ごめんなさい!」

辛辣に返す黒死牟を余所に、蛇王院に言われいろはは慌てて頭を下げる。
謝罪を受けた当の橘は、三人のやり取りに少々困惑気味。
ついさっきまで張り詰めていた空気は霧散し、気付けば思考も幾分かの冷静さを取り戻す。
相手の雰囲気につられたが、戦わずに済むならそれに越した事はない。

「済まない、少しばかり熱くなっていた。言うのが遅れたが、檀黎斗の言い成りになる気がないのはこちらも同じだ」
「なら話は早ぇ。ついて来な、女を立たせたままにはしないからよ」

敵意の無さを伝えれば向こうも頷き、顎で自分達が来た道をクイと示す。
ファーストコンタクトこそ殺伐としたが、殺し合いに乗っていない参加者との接触には無事成功。
蛇王院の提案を断る理由はない、ただ一つだけ訂正しておかねばなるまい。

「勘違いさせてしまったようだが…俺は元々男だぞ」
「は?」

サラリと言われた内容に思わず聞き返し、頬が引き攣るのが蛇王院自身にも分かった。

788EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:06:43 ID:dyk1XPSI0



「橘朔也だ。ここには来たばかりだが、宜しく頼む」

橘が姿を変えたリゼは、元々こういった話し方をしていたからか。
うら若き十代の少女にあるまじき男口調も、不思議と違和感がない。

先んじて桜ノ館中学にやって来た者達と、遅れて現れた一人。
計7人が図書室に集まり、それぞれ適当な位置に腰を下ろしていた。
方針に細かな違いは有れど、共通し黎斗のゲームには否定的。
であれば各々が持ち寄った情報を提供し、擦り合わせを行うのは自然な流れ。
その前に名前くらいは教えようと、橘が自身の状態を含め簡潔に話ておく。

「蛇王院達にはもう伝えたが、元々男だ。こうなった経緯については後で詳しく話す」
「言われてみると橘さん、見た目以上に年上って感じがするかも……」
『これはあれですか、蛇王院さん痛恨の勘違いをしちゃいましたか?』
「言うなよそれを…」

揶揄い口調のステッキへ、バツが悪そうに頬を掻く。
シャイラが聞いたら、酒の席での笑い話確定だろう。
勘違いされた橘本人は、大して気にした様子もないが。

雑談もそこそこに、早速本題に入る。
時間は有限、こうしてる間も他のエリアでは戦闘が勃発中に違いない。
座って体力の回復に努める間も、必要な情報をお互い頭に入れておくに限る。

「異論が無いなら俺が最初に話そうと思う。構わないか?」

鬼とブラッド族の人外二名を抜かせば最年長の橘が、一番手に名乗りを上げる。
特に反対も飛ばなかった為、遠慮の必要無しと口火を切った。

剣崎を始め元々の仲間が不参加の為、プロフィールは簡潔且つ説明不足にならないよう努めて話す。
仮面ライダーギャレン、不死の生物アンデッドとの戦い。
探していた仮面ライダーが早くも見つかり驚くイリヤ達と、自身の知るライダーとは異なる戦士へ僅かな関心を見せるエボルト。
反応は様々だが話は中断させず、続きを聞く態勢を取る。

789EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:07:31 ID:dyk1XPSI0
「海馬がそんなことを……」
「厳しい言い方だったが、彼なりに殺し合いを現実的に見ていた。俺はデュエルモンスターズを深い所まで知ってはいないが、もぐもにとって意味のある経験だったと思う」

意外な所でライバルの動向を知り、静かな呟きが遊戯の口から出た。
実戦に慣れる意味でも、デュエリストとしてもぐもこと百雲龍之介をみっちりしごいたとのこと。
下手な慰めやフォローは不要とし、海馬らしい喝の入れ方も含めて。
名簿に載っている内、どちらの海馬かは分からない。
だが自他共に厳しく我が道を往く好敵手なら、そうするだろうなと納得があった。
海馬とのデュエルが結果的に、一人の決闘者の成長へ繋がったのは遊戯としても喜ばしくある。

しかし橘達が平和な時間を過ごせたのは、そこが最後だった。
ある日突然、大災害により日常が崩壊するように。
鬼の始祖という、生きた天災が全てを壊していった。
歴戦の決闘者と二人の仮面ライダー達が揃って尚、結果は敗走。
それも本来な非戦闘要員である少女の犠牲を経て、だ。

「海馬がいても歯が立たなかったのか…!?」
「…なんて名前だ?そのふざけた野郎はよ」
「それは分からない。奴は一度も自分の名を口にしなかった」

海馬の実力を誰よりも知る遊戯だからこそ、橘の話には戦慄を覚える。
驚愕し思わず立ち上がる一方で、冷静な顔のまま尋ねるのは蛇王院だ。
理不尽な死を撒き散らす、ホーリーフレイムのような胸糞悪い男に怒りがない訳がない。
一方でここで怒鳴り散らしても無意味だと分かっており、激昂を面に出さず問う。
とはいえ蛇王院の望む答えは返せず、男の特徴だけを伝える。
触手を操り、異様な再生能力があったことを。

790EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:08:13 ID:dyk1XPSI0
「……」

ピクリと、僅かな反応を見せた男には気付かず橘の話は続く。

放送の直前に出会った、ジャック・アトラス達の一団。
列車型モンスターを使った移動の最中、突如起きた海神の襲来。
耳飾りの侍と同じく、全参加者に存在を知られたポセイドン相手に繰り広げた死闘。
全滅へ陥ってもおかしくない、絶望的な戦いの果てに勝利を掴んだ。
と、そこで話を区切ればハッピーエンドだが現実は違う。

「アトラス様達が……」

犠牲者の名前に、口元に手を当てイリヤは声を震わせる。
放送で呼ばれたうさぎに続き、二人の王もこの世を去った。
本選が始まり最初に出会った一団は、これで全滅が確定。
生きてもう一度彼らと顔を合わせる機会は、永遠にやって来ない。

「結局、ジャックとのデュエルは叶わなかったな……」

デッキを取り戻した遊戯と、全力でデュエルする事は不可能。
殺し合いなんかじゃなかったら、決闘者同士デュエルを通じてもっとお互いを知れたのだろうか。
せめてもの慰めなどと言うつもりはないが、ジャックも冥王も『キング』と呼ぶに相応しい最期だったらしい。
かといってそれを聞き喜べる筈がなく、しんのすけという青年共々死んで欲しくなかった。
ジャックの友である遊星が知る時を思うと、ただただ胸が痛い。

ポセイドンとの戦闘後、橘はリゼを殺した触手の化け物との一騎打ちに挑み、結果は今こうして生きてるのが答え。
楽に勝てた戦いとは口が裂けても言えず、何より自分一人で掴んだ勝利ではない。

「おいおい、よくお前一人で勝てたな。聞く限りじゃ、都合の良いパワーアップアイテムなんて物も無かったんだろ?」

呆れ交じりに言うエボルトへ、口には出さないが内心はそれぞれ同意見だ。
複数人掛かりで逃げるしかなかった強敵に、単独で挑むなど普通は自殺行為。

「だが勝算が全く無い訳じゃなかった。あの男は太陽に当たると消滅する体質らしくて、だからわざわざ大我のベルトを奪って行ったんだ」
「え……」

聞かされた男の特徴に、小さく零れた声が自分のものと気付けたかどうか。
太陽を浴びれば死ぬ、御伽噺の吸血鬼のような特徴。
それに当て嵌まる参加者を、いろはは知っている。
思わず隣を見れば、思い浮かんだ予感は正しかったと理解せざるを得なかった。
弟が関わらなければ滅多に表情を崩さない彼が、六眼を見開き凍り付いているのだから。

791EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:09:07 ID:dyk1XPSI0
「お前はその者を……どうした……」
「急になにを…?」
「答えろ……お前が仇として追った男は……どうなった……」

耳をつんざく怒声を発してはいない、胸倉を掴まれ恫喝されてもいない。
静かに、しかし臓腑にまで届くだろう低く重い声。
有無を言わせぬ問いに、橘のみならず他の者も困惑や訝しさを表情に宿す。
これまで然したる反応を見せなかったのが、今になってどうしたというのか。
ただ一人、事情を察したいろはが口を開くより先に橘が答えを返す。

「勿論、それについても隠すつもりはない。今の俺がリゼの姿になってるのも、あの男との戦いがあったからだ」

やましい内容は一つも無く、嘘を並べ立てる気も皆無。
怪物との戦いで何が起きたかは、最初から余さず言うつもりだった。

散々こちらを異常者呼ばわりした男に、相討ちすら覚悟して食らい付き。
師弟として結んだ絆がリゼと橘をもう一度巡り合わせ、二人で勝利を手にした。
無論、死者であるリゼがそれ以上の時間を共に過ごす事は不可能。
必然的に二度目の別れとなり、直後橘の体に異変が起き今の姿になっていた。

「………………、………………」

茫然自失という言葉は、正に今の黒死牟の為にこそある。
度が過ぎた驚愕を抱き二の句が継げず、案山子のように立ち尽くす以外何もできない。
傍目には何も考えず阿呆同然に一歩も動かない、指先を微かに曲げもしない。
よもや屠り合いで二度、上弦の鬼らしからぬ致命的な隙を晒すとは予想だにしていなかった。
一度目は弟が傀儡と化したのを知らされた時。
そして現在、二度目の衝撃が頭部を打ち砕く鉄塊となり黒死牟を襲う。
鬼の始祖、千年に渡り数多の悲劇を生んだ最初の悪鬼。
上弦以下全ての鬼の頂点に君臨する、絶対的存在。
鬼舞辻無惨が異界の地にて、人間の手で討たれた。
長きに渡る鬼狩りとの因縁は、彼奴ら鬼殺隊が一切関わらぬ内に幕を閉じた。

792EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:10:32 ID:dyk1XPSI0
妄言と言い切るのは容易い。
真実は橘が無惨を相手取ってなどおらず、全く無関係の要因で天々座理世の現身となった。
嘘八百を連ね、あたかも無惨討伐の結果と言い張っているに過ぎない。
忌まわしくも最強の二文字を永遠に我がものとする、日輪の刃が与えた滅びならともかく。
鬼狩りですらない人間一人の力が届くなら、鬼との争いの歴史は遥か過去に終わっている。

そも、何故鬼殺隊は幾百年の時を経ても無惨を滅ぼせなかったのか。
何故己を含めた配下の鬼は、只の一度も無惨へ反逆を企てなかったのか。
徹底して自身の痕跡を残さない慎重さ。
絶対の隷属を確約する呪い。
それらも含まれているが最たる理由はもっと単純、強さ故にだ。
十二鬼月全員を束ねても、痣者や透き通る世界に至った柱を集結させても。
踝すら拝めぬ高き壁となって、始祖は君臨する。
風の一吹きで屋敷が更地となるように、波一つで漁村が飲み込まれるように。
無惨という天災を滅ぼせる存在など、鬼以上に理不尽極まる日輪を置いて他にいない。

しかし俄かには信じ難い一方で、そうなるだろうと納得を抱く己も確かにいる。
無惨の持ち得る力は今更疑いようもない。
だが橘と無惨の間に起きた闘争は、鬼狩りとの争いとは前提が異なる。
慣れぬ鎧一枚で太陽を遮断し、肉体変化や血鬼術も使用不可能となり、常時日の当たる場所での戦闘を強いられた。
付け加えるなら相手は奇妙な腰巻き、「仮面らいだあ」の力を完璧に使いこなす戦士。
ここまでの悪条件が揃って尚、無惨の勝利が揺るがないと言うには流石に躊躇が生じる。
更に屠り合いには無惨ですら把握していない、未知の能力や技術が数多く存在。
予期せぬ反撃を受け敗北へ繋がったのを、強く否定は出来ない。

「そうか……あのお方が……滅びたと……」

零れ出た声色に憤怒がなければ、嘆きもない。
純然たる事実を受け止め、波立たせず淡々と言う。
自分の中にあって当然と背負い続けたモノが外れ、居心地の悪い身軽さだけが残った。

主の敗死を余所におめおめと生を拾い、またしても我が身へ恥を塗りたくる始末。
情けなし、不甲斐なしとは思うも自ら腹を掻っ捌く気は起きない。
仇を討ち蘇生に全力を尽くす、屠り合いに招かれた唯一の配下としての責務に身を捧ぐ気概もない。
無惨の参加を知り、死を聞かされた今に至るまで終ぞ忠節が己を突き動かす事はなかった。
地の底へ堕ちた主が知れば、閻魔ですら目を覆う程の怒りが吹き荒れたろう。
そう分かった所で、使命感に火が付く気配は一向に表れない。

793EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:11:23 ID:dyk1XPSI0
ついでに言うと、無惨が滅びたとて円満解決と決めつけるのは早計であった。

「あのお方…?まさかお前は、奴に従っていたのか?」
「だとしたら……如何とする……」

目に見えて表情の強張る橘に対し、やはり感情の揺らぎを出さずに問い返す。
直接手を下した仇に非ずとも、鬼である以上自分に敵意が向けられるのは自然な流れだ。
「その鬼はお前の親兄弟を殺した奴じゃない。だから見逃してやれ」、と。
論され素直に剣を納めるような鬼狩りは、少なくとも黒死牟の記憶に一人も存在しない。
同じ例が橘に当て嵌まったとて、十分納得出来る。
大人しく頸を差し出すかは全く別の話だが。

張り詰めた空気は、先程廊下で対面した際の焼き直し。
但し此度は数十分前と違い、黒死牟を明確にリゼの仇の関係者と認識している。
いつ銃弾が放たれ、或いは刀が振り抜かれてもおかしくない。
闘争の予感に周囲の緊張感も自然と高まりを見せ、

ポスリと、橘が再び座り直した事で衝突は回避された。

「どういうつもりだ……」
「お前が奴と同じく殺し合いに乗っているなら、容赦する気は無い。リゼの友達が覆われる前に、ここで倒すつもりだ」

リゼを殺した男に従っていた。
否定されなかった事実へ、思う所が一つもないと言えば嘘になる。

「だがこの学校で見た限り、お前が集まった皆を襲う様子はなかった。それに、いろはだって何の根拠もなく俺にああ言ったんじゃないだろう」

人じゃない怪物でも、敵対以外の関係になれた者を橘は知っている。
上城睦月を闇から引き上げる為に力を貸した、二体の上級アンデッド。
そして、世界を滅ぼす鬼札であるも、人間の親子を守ろうとした男。
栗原親子や剣崎一真が影響を与えた、相川始を知っているから。
剣崎が我が身を犠牲にしてでも救おうとした程の友情が、ジョーカーとの間に結ばれたのを近くで見たのが橘だ。
無論、始達と黒死牟では背景からして異なる。
それでも人を襲う気が無く、人から信頼されるナニカがあるというなら。

794EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:12:11 ID:dyk1XPSI0
「話を一つも聞かない内に、お前と事を構えるつもりはない。俺が復讐心だけに駆られるのを、リゼもきっと望まない筈だからな」
「私に情けを……掛けたつもりか……」
「そうじゃない。俺にもお前を信じさせてくれと言ってるんだ」

キッパリと言い切った橘へ渋面を向けるも、言いたい事を言い切って口を閉じる。
数時間前、病院の地下での時と嫌になる程似た状況だ。
誰も彼もが鬼を鬼として排除せず、歩み寄ろうとする。
言い知れぬ不可解さへ苛立ちが湧き、だが激昂し刀を抜く恥の上塗りへ出る気も到底起きず。
仏頂面で腰を下ろせば、理解出来ない最たる例の娘と目が合う。
安堵と嬉しさの両方が宿った、鬼に向ける類ではない笑み。
訳の分からぬ煩わしさでいろはから目を逸らすのも、腹立たしい事に今に始まったものじゃなかった。

「見てるこっちも冷や冷やしたぜ。荒事になったら、俺なんざ真っ先にお陀仏だろうからなァ」
『口から出る内容全部が嘘って逆に凄いですね』

悪い意味が9割を占めるエボルトの空気の読めなさも、今回ばかりは良い方へ作用。
図書室内に燻る剣呑さをリセットし、改めて話の続きに移る。
橘の話す内容も各々驚きを与えたがまだ一人目。
次は自分の番と名乗り出たのは、白い魔法少女と決闘王。

「チノさん…リゼさんの友達とわたし達は会ってるんです」
「それにもう聞いてるだろうが、ジャック達ともな」

ゲーム開始早々ジャンヌと一戦交え、司共々危機へ陥った所を遊戯に助けられた。
それから時間を置かずにジャック達と出会い、その時は情報交換だけして別行動を取ったのである。
彼らと話を出来たのも、あの時が最初で最後。
キングと、どこかヘタレ気味の冥王と、なんか小さくて修羅場を潜ってそうなやつ。
共有した時間が短くとも、もう会えないと思うと寂しさが胸をよぎった。

少々移動に時間を要した後、現在位置から東側のエリアでロゼ達と遭遇。
エーデルフェルト邸で治療を受けていたのが、橘も探すリゼの友人の一人だった。
丸眼鏡の巨漢との戦闘で負傷したらしく、特徴はジャック達が戦った男と一致する。
思わぬ所で繋がりが出て来たのに驚くも、件の男こと野比のび太は既に退場済。
深くは触れずに続きを促す。

795EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:13:05 ID:dyk1XPSI0
殺し合いに抗う者同士の平和な時間は、衛宮士郎と犬吠崎風の襲撃に端を発した混戦で終わりを告げた。
そこへ加え蛇王院と因縁を持つジャンヌ、イリヤ達の方には幼い魔女まで襲って来たのだ。
最終的に襲撃者達は退けたが、仲間の犠牲は避けられない苦い形で幕を閉じる。

「それで、殺されそうになった時に……」
「間一髪俺が来たって訳だ。戦兎を差し置いてヒーローの真似事に出ちまうたぁ、人生何が起こるか分からねぇな」
『正確には人生じゃなく、エイリアン生じゃないですかねー』
「おいおい、ネタバレならせめて自分の口から言わせてくれよ」

結果だけ見ればイリヤ達の危機を救ったエボルトだが、当然真っ当な感謝を向けられるような男ではない。
本人からしてもパンドラパネル回収のついでだったので、礼を言われたい訳でもなかった。
魔女と渡り合いトドメを刺し、首輪を手に入れ間もなく始まったのは定時放送。
エボルトとは一旦別れ、現在桜ノ館中学で数時間ぶりの再会を果たした。

「ってことは、次は俺が話した方がスムーズにいくだろ」

エーデルフェルト邸の出発時から。遊戯達と行動を共にする蛇王院が続く。
と言っても定時放送前の6時間は負傷による気絶もあった為、話せる内容も多くはないが。
プランドールシップヤードを結成及びジャンヌの襲撃は、既に聞いた内容だがその先は初耳の情報。
水属性のモンスターを操る決闘者、神代凌牙の参戦もあって危機を脱した。
移動先で応急手当てを受けた後、偶然にも凌牙の友の亡骸を見付けたのである。

「九十九遊馬……?確か、ジャック達が会った少年のことか?」
「知ってるのか?」

定時放送やポセイドンの襲撃が立て続けに起き、深く考え込む余裕も無かったが遊馬の名には橘も聞き覚えがあった。
丸眼鏡の巨漢との戦闘後に起きた、苦い結果となった一人の少年の死。
実際に立ち会ったジャック一行ではなく、橘からの又聞きという形で遊馬に何が起きたかを知ることになる。

「……胸糞悪ぃな」

開口一番に蛇王院が吐き捨てるのも、無理からぬ内容だ。
事故同然とはいえ仲間を手に掛け、ヤケクソ同然の立ち回りの末にジャック達から離れた場所で息絶えた。
冥王を助けたのが後にポセイドン相手に勝ったのに繋がった、そう考えるとまだ救いがある。
だとしても「良かった」などとは口が裂けても言えない。
凌牙と再会したら当然伝えるつもりだが、苦いものが残るのは避けられないだろう。
遊馬の死体を見付けた時の荒れようを思えば、どうにもやり切れない。

796EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL②』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:13:40 ID:dyk1XPSI0
「あの娘が凌牙さんの友達を……」

遊馬を手に掛けたのは特徴からして、エーデルフェルト邸を襲った魔女。
自分達と会う前の彼女が何をやったのか知り、イリヤは内心複雑だ。
憎悪に囚われ、コローソという名を苦し気に言った少女を救いたかったのは今も変わっていない。
けれど少女が凌牙の友を、自分にとっての美遊やクロのようなかけがえのない存在を奪ったのもまた事実。
もしもっと早くに彼女と会い、止めることが出来ていたらと。
意味が無いと分かっても、IFの可能性を考えてしまう。

「つまり俺は、意図せず遊馬って奴の仇を討ったって事になるのかねぇ」

イリヤの心境などなんのそので言うエボルトには、誰もがあえて何かを言いはしない。
咎めた所で苛立ちを引き出す皮肉や軽口が返って来るだけだ。
尤も本人は全く懲りていないが、話を中断させる気はないらしくそれ以上特に言葉は出なかった。
色んな意味で凌牙には会わせない方が良いと、密かに蛇王院は思う。

放送後については特別大きな戦いなどもなく、エーデルフェルト邸でイリヤ達と会い行動を共にするに至った。

「ならチノとは別行動中なのか…」
「ああ、だがロゼ達のことは信じて良いぜ。二人なら、チノにとっても心強い仲間だからな」

ありきたりな言葉で誤魔化したんじゃなく、遊戯なりに確信があっての発言だ。
決闘者同士感じ入るものがあったのか、実力と人格面両方で凌牙は信じられる少年。
ロゼについても共に戦い、彼女が仲間の死を悼む場面をすぐ傍で見た。
チノとは一番最初に出会ったらしく、お互いに向ける信頼の強さは疑うまでもない。

リゼが守りたがっていた友達の一人は、出会いに恵まれたらしい。
安堵と共に、チノの支えとなった剣士達へ内心で感謝を伝える。
叶うことなら零にも、彼が生きている内に会いたかったが。

「そんじゃあ次はお待ちかねの俺の番か。まあ、気楽に聞いてくれりゃ何よりだよ」
『色んな意味で気を抜ける要素ないですよ、あたなの場合』
「ルビーが珍しく正論言ってる……」
『酷いですよイリヤさん!わたしはいつでも大真面目じゃないですか!』

少女とステッキのやり取りもそこそこに、緩みかけた空気が再び引き締まる。
校内に入る前の騒動を知らない橘も、周りの様子で迂闊に気を許して良い相手でないのを察する他ない。
必然的に集まる警戒もどこ吹く風、一切の緊張を面に出さずエボルトが口を開いた。

797EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:15:10 ID:dyk1XPSI0



「最初は軽い自己紹介といきたいが…俺が話すより適任がいるか。だろ?いろは?」
「え、わ、わたしですか?」

唐突に話を振られ、分かり易いくらいに困惑の表情を作る。
どうして自分がという疑問へ、相も変わらぬ軽薄な笑みで答えを返す。

「さっき、そこのスッテキが俺の名前を言った時だ。随分驚いてただろ?一体誰から聞いた?どこぞのアイドルじゃあるまいし、有名になった覚えは……ああまあ、ありゃ前の世界での話か」
「それは……」
「縮こまるなって。別に責めようってんじゃないぜ?」

10年もの間地球に潜伏し、人間達を思うがままに掌で転がして来たのだ。
感情の微妙な変化を察するのは容易い。
ルビーが自分の名を言った時、いろはから感じたのは驚きと警戒の二つ。
まだ名乗っていないにも関わらずあの反応、理由を難しく考える必要はない。

「戦兎は違うとして、だ。一体誰から俺のことを聞いたのかねぇ。だんまり貫いても良いが、お前が聞きたがってるやちよの話も始められなくるかもな?」
「っ……」
「ま、何を聞かされたのか予想は付く。気にせずそのまま言えば良いさ。お隣の侍殿がおっかない目つきになってきたしなァ」

癪に障る軽口を延々と吐き出すのを、六眼の鬼は許さなかったらしい。
睨みを利かされた手前、エボルトは一旦黙り待ちの姿勢に入った。
口籠るも自分が言わねば話は進まず、皆にも迷惑が掛かってしまう。
ややあって緊張の面持ちで、病院で聞いた内容をいろはが言う。

「わたしが直接聞いたわけじゃないです。天津さん達…ここに来る前に会った人達が、一海さんっていう人から聞いた内容で…」
「成程ねぇ、グリスの奴が……そんで?」
「……一海さん達のいる地球を滅ぼそうとしたのが、エボルトさんだって。そう聞きました」
「予想通りの内容で、逆に安心しちまったよ」

間違ってないけどな、とあっけらかんとした態度で笑う。
平然とするエボルトと反対に、当たり前だが他の者は和やかな様子とは言い難い。
既に危険性を天津と承太郎経由で知ったいろは達はもとより、初めて聞いた面々も警戒を抱かざるを得ない。
地球を滅ぼすという悪役のテンプレな目的も、実際にしでかす者がいたとあれば笑い事じゃないかった。

798EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:15:50 ID:dyk1XPSI0
「滅ぼすって…どうしてそんなことしたの!?」
「何でって言われてもねぇ?俺が“そういう種族”だからとしか答えようがないな」

星一つの崩壊は、イリヤにとっても他人事ではない。
ダリウスに見限られた世界がどうなったかを、ハッキリと思い出せる。
泥に塗り潰され、生存競争に負けた光景をヴィマーナの上から見た。
一人の魔術師が犯した禁忌を目の当たりにしたからこそ、問わずにはいられない。
だが返って来たのは納得とは程遠い答え。
壮大な背景も野望もない、エボルト…ブラッド族とは星を狩る生命体だから。
根本的に人間とは在り方が相容れないのを理解せざるを得ず、イリヤの背を嫌な汗が滴り落ちる。

「ならお前は、殺し合いでも人間を滅ぼすつもりなのか?」
「落ち着けよ橘、今はリゼだったか?そんな恐い顔じゃあ、チノ達だって怯えて逃げちまうだろ?」

息をするように苛立たせる言葉を吐き、険しい視線も涼しい顔で受け流す。
過去に地球滅亡を目論んだのを偽る気はない、全て本当のこと。
しかし殺し合いでもそのように動くかと問われれば、首を振るのは縦じゃなく横だ。

「確かにこの星を滅ぼそうとしたが、生憎見事に失敗しちまったよ。ラブアンドピースなんてのを掲げる、仮面ライダーどもに随分痛い目遭わされたもんさ」
「仮面ライダーがお前を…?」
「憎たらしいことに、な。おかげであいつらの大勝利、俺は新しい世界の素材にされちまったって訳だ」

そう言って細めた目は、この場にいない誰かへ向けているかのようで。
忌々しさと呆れと、他にも複数が綯い交ぜとなった一言では言い表せない表情。
エボルトにしては珍しい複雑な内面が見え隠れし、

799EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:16:45 ID:dyk1XPSI0
「……えっ?あの、何の話をしてるんですか?」

数秒の沈黙を挟んだいろはが、疑問符を浮かべ思わず聞き返す。

「何のもかんのも、どうせグリスの奴が戦兎と万丈の活躍を教えたんだろ?あんまり他人様の傷口をほじくり返すのは、俺でもどうかと思うがね」
「えっと、天津さん達はあなたが負けたって話はしませんでしたよ…?」
「……グリスの奴、ちょいと説明不足じゃねぇのか?」

いろはの様子から察するに、その天津や承太郎なる者に新世界やキルバスとの戦いに関しては言ってないのか。
或いは言ったものの、単に天津達がその辺の説明を端折ったのか。
どこか違和感を抱かないでもないが、エボルトの情報で嘘は言っていない。
一海本人はとっくに脱落しており、直接会って確かめるのは不可能。
不自然さを感じながらも、脱線し掛けた話を戻す。

「グリスの事はともかくだ、心配しなくてもゲームマスター様の言い成りにはならねぇよ。勝手にゲームの駒扱いは、俺も納得してないんでな」

コツコツと首輪を叩きながら自身のスタンスを伝える。
案の定、誰一人として信用の眼差しを向けないが別に構わない。
友達作りをするつもりはなく、自分の生還に利用出来れば文句もない。
警戒と不信感は変わらずとも、話を打ち切り戦闘を行う気がなければ上等だ。
何せ本選が始まってからの動きを、まだ一つも口にしてないのだから。

開始早々危機に陥った因縁のヒーロー、桐生戦兎との共闘に始まる。
間もなくしてNPCに襲われている女を発見、その人物こそいろはが最も聞きたがってるだろう情報。
七海やちよなのだが、再度いろはから疑問が飛ぶ。

「本当に……やちよさんがそう言ったんですか?」

話を中断させて悪いとは思うが、幾ら何でも問い質さずにはいられない。
やちよがいろは以外の魔法少女を強く警戒しているのは、明らかにおかしい。
灯花とねむのみならず、フェリシアとみふゆまでもその括りに入れている。
確かに二人共マギウスの翼に所属した事もあったが、過去の話だ。
鶴乃からウワサを引き剥がす戦いを経て、みふゆとの蟠りも解消されただろうに。
それに、まどかの名前を一度も出さなかったのも不自然。
まるでチーム解散を告げた時のような焦りを、やちよが抱いてる気がしてならない。

「内心じゃお気に入りのお前以外どうでも良いと思って、適当に吹かしただけかもな?」
「っ!やちよさんはそんな人じゃありません!」
「冗談だよ。しっかしこいつは……」

やちよといろはの間で生じる矛盾。
どちらかの話が間違ってるのでないとすれば、さてどういうことか。

800EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:17:26 ID:dyk1XPSI0
「…まさか、そういうことなのか?」
『遊戯さんも気付きましたか。いやはやあの自称神様、やりたい放題にも程があるでしょうに』

堪えにいち早く気付けたのは遊戯とルビー。
当然自分達だけの秘密にはせず、一同にも伝えておく。
恐らくだが、檀黎斗は平行世界のみならず異なる時間を行き来する術も有している。
嘗て未来の時間軸の決闘者達と共闘した遊戯だからこそ、すぐその可能性に思い至った。
加えてルビーもまた、放送前から薄々考えてはいたのだ。

参加者の中にはそれぞれ違う時間から招かれた者もいる。
それならいろはとやちよの話が食い違うのも納得だ。
いろはから見てやちよは過去の時間、記憶ミュージアムの崩壊から間もない頃に殺し合いへ連れて来られた。

「成程ねぇ……」

エボルトもまた合点がいったとばかりに独り言ちる。
遊戯達の仮説通りだとするなら、一海は旧世界での時間から参加していたのだろう。
道理で新世界を創造するに至った経緯を、何一つ言わなかったわけだ。
そして一海に限らず、万丈や幻徳も旧世界の彼らが参加してるとも考えられる。
二人に関しての情報は未だ得られず、現状確かめられないが。

無事疑問が解消され、エボルトの話にまた戻る。
明石が警戒し探索を断念した寺が実は、首輪の解析作業に持って来いの設備が整っていた。
そう聞き考え込む仕草の橘を尻目に、オーエド町での闘争を説明。
仮面ライダースペクターこと深海マコトはともかく、猛威を振るった紺色の剣士には微妙な空気が流れる。
橘や戦兎、天津といった善側のライダーだけじゃない。
殺し合いに乗り気且つ、人間性についてもコメントへ窮する者もライダーの力を得ているとは。

「あの人がわたしに凄く怒ってたのは……」
「ま、作戦の内ってことで大目に見てくれよ?」

自分の姿を勝手に擬態された挙句、悪びれる様子が全くない。
可愛くもないウインクと両手を合わせ頼む仕草に、何とも言えない顔となる。
紺色の剣士が如何に手強いかは理解しており、勝つ為の作戦の一環と言うなら仕方ないのかもと自分を納得させた。
流石にこの先も、特にやちよ達の前で擬態するのは止めさせたいが。

801EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:18:26 ID:dyk1XPSI0
ニノンという犠牲こそ生まれたが、紺色の剣士の撃退には成功。
尤も話はそこで終わらず、これまた少なからず衝撃が走る内容が語られる。

「キャルちゃんが言ってたカイザーインサイトって、あの人だったんだ…」
「ちょっと待って…司さんの友達がその人の所にいるの!?」

複雑な背景はあれど、キャルにとっても強く警戒せざるを得ない覇瞳皇帝。
フェントホープで強大な力の一端を見せた女が、まさかその本人なのは驚きだ。
いろはが息を呑む一方で、イリヤは思わず椅子から立ち上がり声を荒げる。
自分を庇って命を落とした司が生前、複雑そうにしつつも大事な友達と言っていた少女。
琴岡みかげはよりにもよって危険人物に同行中。
一応殺し合いには乗ってないらしいが、紺色の剣士への仕打ちを聞くに善人とは言い難い。

「陛下殿がお前らと仲良くするのは難しいだろうが、みかげに関しちゃ当分は無事だろうよ」
「理由はなんだ?まさか、女を囲って愛でる趣味でも持ってるのか?」
「えっ」
『それだと別の意味でみかげさんが危ないですねー』
「えっ」

女の子は女の子同士で恋愛すべきとは、とある夏の日に友人が言ったものだったか。
思考が凍り付くイリヤだが、当然そんな理由じゃない。
エボルトが見るに、カイザーインサイトには人手が余り足りていない。
元々ただの一般人のみかげを殺し、首輪を手に入れるのは容易い。
にも関わらず、実際は自分の部下としての運用を選んだ。
ランドソルなる場所へいた頃と違い、自由に動かせる駒が大いに不足してる証拠だ。
だから本来特別な力もないみかげだろうと、ここでは貴重な部下の一人。
少なくとも、今すぐ殺す程後先考えない真似はしない筈。

「一応アイツも立場的には打倒神様なんだ。いきなり喧嘩売る真似はなしにしようぜ?」

難しい顔で黙り込むイリヤは、どう見ても納得したとは言い難い。
すぐにみかげをどうこうされる可能性は高くない、だが絶対そうならないとも言い切れない。
これから先捨て駒として扱われ、命を落とすのも有り得る。
純粋な善意で保護した訳でない以上、不安は尽きなかった。

802EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:19:06 ID:dyk1XPSI0
(こりゃ、もう一人の方は黙って正解だったかもなァ)

カイザーインサイト本人の話に嘘はないが、みかげ以外に引き連れている参加者は別。
「放送前にはおらず、多分放送後に仲間へ引き入れたろう参加者なので自分は知らない」、とイリヤ達には言った。
無論嘘だ、少女の名前が保登心愛だとはオーエド町での騒動後に聞いている。
かといって馬鹿正直に伝えるつもりはない。
都合良く利用されてるとはいえ、意識を明確に保っているみかげはまだ誤魔化しも効く。
が、みかげ以上に強く暗示の影響を受けたココアは無理だ。
まず間違いなく、リゼの友人を守ろうと張り切ってる橘の反感を強く買う。
下手すればココアを助けるべく、フェントホープへ殴り込んだって不思議はない。
悪辣な面を聞かされても顔色一つ変えない黒死牟はともかく、他の面々はココア奪還に賛成するだろう。

別に、カイザーインサイトの身を案じてはいない。
ただ利用価値がまだある相手を、切り捨てるにはまだ早い。
フォローに感謝してくれよと内心苦笑いし、表向きは何でもない風を装う。

カイザーインサイト達とは一旦別れた後、エーデルフェルト邸での件はイリヤ達の説明通り。
D-1が禁止エリアになった関係で、戦兎達との合流を先回しにして単独での探索を続行。
フェントホープでの騒動に繋がった。

「シロウさん……」
「お、やっぱりあの坊主を知ってたか。美遊の見た目になったら、今にも殺されそうなくらい睨まれちまってな」
『的確に地雷をぶち抜くのが上手過ぎて、ルビーちゃんも流石に引いてますよ…』

遊戯達だけでなくエボルトの話で、ゲームにおける士郎の方針は最早確定と言っていい。
改めて現実を突き付けられ、唇を強く噛み締める。
本音を言うなら勿論止めたいが、士郎達がど何処へ行ったのか分からないのがもどかしい。
カイザーインサイトが振るった聖剣の巻き添えを受け死亡、とはなっていないとのこと。
退避寸前の一瞬だけだが士郎が協力者らしき少女共々、天高くへ飛び上がるのを見た。
肝心のどこまで飛んで行ったかは、残念ながら不明。

「じゃあ最後はわたし達、ですね」

おずおずと片手を上げる少女へ視線が集まる。
最後に番が回って来たいろは達の話が、病院での情報開示の際と然して変わらない。
但し天津達から聞いた内容も含み、そこへ加えて放送後に起きた戦闘も伝えるのだ。
情報量は必然的に多くなった。

803EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:19:59 ID:dyk1XPSI0
(城之内くんらしいね……)
「(ああ……)」

千年パズルを通し、相棒と共に親友へ思いを馳せる。
少女を庇って命を落とす、自分の身を案じる前に迷わず動く。
知らされた城之内の最期は、どちらの遊戯にとっても驚く内容じゃあない。
自分達の知る彼なら、固く友情を結んだ城之内克也なら。
そうするだろうと納得があり、本田の死でショックを受けても変わらない城之内らしさに寂し気な笑みが零れる。
城之内の取った行動を間違いと言う気はない、ただ親友に生きて欲しかったのも本音だ。

良いか悪いかの判別は難しいが、遊戯にとって驚くべき話が他にある。

「いろは、それは本当のことなのか…?」
「は、はい。直接戦ったのはキャルちゃん達だけど、わたし達にも見えましたから」
(ねえもう一人の僕、まさか本当に……)
「間違いないぜ。その男が変身したのは、オシリスだ……!」

放送後に病院を襲った者の一人、曰くどことなく不潔そうな感じの男の人。
なるべくオブラートに包んだ言い方であり、淫夢動画で笑ってるホモガキもIRHちゃんを見習って、どうぞ。

それはさておき、その汚い男が姿を変えた巨大な竜を遊戯が知らない訳がない。
決闘都市でマリクが繰り出し、圧倒的な力に一度は勝利を諦めかけた神。
三幻神の一体、オシリスの天空竜以外に有り得なかった。

「単にそいつが支給品を使って、オシリスだかってのを呼び出したんじゃないのか?凌牙みたいなデッキを持ってなくても、カード一枚で呼べるんだろ?」
「いや、ただ召喚するだけじゃない。おかしいのは、男自身がオシリスに姿を変えたってことだぜ」

遊戯が持つエアトスや、遊馬に支給されたカガリ等。
デッキが無くとも召喚条件を無視し、呼び出せるカードは複数存在する。
だがロード・オブ・ザ・レッドのように身に纏うならまだしも、参加者自身がモンスターに変身するのは初耳だ。
マリクと同じくラーの翼神竜を使い、一体化を果たすなら分かる。
しかし何度思い返してもオシリスにそういった効果はなく、益々疑問は深まるばかり。

804EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:20:40 ID:dyk1XPSI0
正体不明の男が持つのは、オシリスへの変身能力だけではない。
遊戯以外にもう一人、引っ掛かりを覚える者がいた。

「その男が変身したライダーについて、もっと詳しく教えてくれ」
「ええっと…最初は確か銀色と青色で、頭に一本の角?みたいなのがあって…」
「…金色の武具を纏い……大剣と札を得物とした……そう記憶している……」

直接対峙した天津と承太郎ならまだしも、遠目に見ただけな上にデェムシュとの戦闘に意識を割いた為注視してはいない。
思い出すのに苦戦中のいろはを見兼ねたのか、埒が明かないと呆れたのか。
淡々と黒死牟から告げられた特徴で、橘も正体を察し愕然とする他ない。

「何てことだ……本当にブレイドなのか……!」
「その様子じゃ、お前の知ってるライダーシステムで間違いないみてぇだな?」
「ああ、認めたくはないが……」

剣崎が参加していなくとも、ブレイバックルは支給品で利用されている。
それだけでも許し難いが、変身者の話を聞き橘の怒りは一層の激しさを増す。
戦えない全ての人々の代わりに戦う、剣崎の覚悟の証をただの暴力にまで貶めた。
永遠の孤独という代償を支払い、友と世界の両方を救った仲間の戦いへ唾を吐くに等しい。

(剣崎、ブレイバックルは俺が必ず取り返す。ブレイドの力で、これ以上誰かを泣かせる真似はさせない)

ここにはいない仲間へ一つの誓いを立てる。
身勝手な願いを叶える為に、他者へ理不尽な犠牲を強いる男を。
剣崎の魂を汚す外道を、決して許す気はなかった。

「にしても話を聞いた感じ、遊星は集めたカードを使いこなしてるんじゃねぇか?」
「それだけ遊星くんの実力が高いってことだぜ」

現地捕獲のモンスターと他者のデッキ。
不利な状態で強敵達と渡り合えるのは、遊星が非常に優れたデュエルタクティクスの持ち主だからに他ならない。
一度は肩を並べて戦った戦友の話に、どこか誇らしさがあった。
同時に城之内のデッキを遊星が持っているのに安堵を抱く。
良からぬ目的を持った参加者ではなく、信頼出来る決闘者なら決して間違った使い方はしないだろう。

予期せぬ形で仲間達と引き離され、辿り着いたのがフェントホープ。
紺色の剣士との戦闘以外は、エボルトの話と相違ない内容だった。
話はこれで終わり、と言うにはまだ早い。

805EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:21:20 ID:dyk1XPSI0
「敵キャラクターだかって侍を、前々から知ってるんだろ?でなきゃ、俺にあそこまでキレた理由が思い付かねぇな」
「……」

予想通りの問い掛けに睨み返すも、向こうが引き下がる様子はない。
言葉に出さないだけで、いろは以外の全員が同様に聞きたがっている様子。
縁壱に擬態したエボルトへ見せた反応に、無関係だと考える方がどうかしてる。

「あ、あの!そのことは…」
「やめろ……」

咄嗟に割って入ったいろはを制し、重々しく口を開く。
人間との関係を断つ機会を悉く、自ら潰して来たツケと言うのか。
参加者達と不要に関わり続けていれば、いずれは縁壱が見ず知らずの他人でないのに気付かれるのが自然。
自分で蒔いた種と理解しており、尚の事己への苛立ちが湧き上がる。
とはいえ、既に病院で会った者達にはいろはを含めて知られた。
各地へ散らばった連中が触れ回ったとて、何らおかしくない。
今知るか後で知るか、結局その程度の違いでしかないのなら。
幼き頃より燻らせた内面は決して明かさず、簡潔に告げる。
弟だ、と。

案の定、大なり小なり驚きが広まった。
主催者直々に用意した鬼札と、血縁関係を持つ。
詳しく話を聞きたいのが各々本音だろうが、生憎と当人が発する威圧感が安易な質問を拒む。
そんな空気の中、一つ思い出したように六眼が橘へ向けられた。

「日が昇らぬ内に……あのお方の襲撃を受けたと言ったな……」
「あ、ああ。それがどうかしたのか?」
「…あのお方を……敗死寸前に追い詰めたのが……奴だ……」
「なっ……!?」

無惨を殺した男へ、何か思う所がまだあったのか。
情報開示の場にいる最低限の義理のつもりか。
深い理由はない気まぐれか。
黒死牟にも理由は釈然としないまま、釘を刺すとも恐れを煽るとも取れる言を吐き出す。
昏い衝動に突き動かされ、いろはに苛立ちを吐露したのと同じ轍を踏む気はなく。
話はそれで終わりとばかりに、今度こそ黙り込む。

一歩間違えればリゼ一人の犠牲では済まなかった強さの無惨すら、縁壱には及ばない。
そのような男が自分達の敵として立ち塞がるだろう光景に、図書室内は自然と重苦しい雰囲気となる。

806EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:22:22 ID:dyk1XPSI0
「ま、そこそこ強い程度で敵キャラクターは務まらないからなァ。手に負えない力があるのはむしろ当然だろうよ」

元気付ける意図はないが、黙り込んで話が進まないのは望んでいない。
エボルトにしては非常に珍しく、余計な軽口抜きでやや強引に話を纏めた。
兄弟関係で頭を抱える羽目になったのは、全く持って不愉快ながらエボルトも経験者だ。
うんざりする程の異常者(キルバス)を思い出す、それは精神衛生上宜しくない。
全員が桜ノ館中学に来る経緯は話し終えたのもあり、ここいらで別の話題を切り出す。

「決闘者の遊戯くんに是非意見を伺いたくてな、取り敢えずは聞いてくれ」

殺し合いでデュエルを推したのは黎斗以外の者ではないか。
戦兎と移動中に立てた仮説を否定せず、神妙な顔つきで遊戯は頷く。

「その可能性は俺も低くないと思うぜ。デッキ以外の支給品を後から没収して、奴自身に関係が深い仮面ライダーじゃなくあえてデュエルを主軸に据えている。
 ゲームマスターを名乗る割には、どうもちぐはぐだ」
「だろ?単に殺し合わせたいだけなら、ライダーに変身する道具でもばら撒いた方が手っ取り早い。
 なのに自称神様は、自分でも扱い切れてない節があるデュエルを取り入れた。あいつ自身はそもそもデュエルとは無縁だってのに、だぜ?」

橘が会った花家大我や、いろは達が会ったポッピーピポパポ。
殺し合い以前から黎斗を知る者達の話で、デュエルに関しては一度も触れられていない。
元々デュエルモンスターズを一切知らない黎斗が、調整の甘さが目立つ結果となって尚ゲームに取り入れたのは何故か。
主催側にいる別の何者かに吹き込まれ、急遽デュエルの導入を決めたからでは。
仮説が正しいとする場合、それは一体誰なのかという疑問が新たに浮かび上がる。

「磯野かハ・デスって線は?」
「いや、磯野はあくまで海馬コーポレーションの一社員だ。デュエルの知識があるだけで、檀黎斗に強く意見できる思えないぜ」
「冥王は自分がカードのモンスターになってる事を知らなかった。ハ・デスも同じだとしたら、デュエルに深い知識を持つとは限らないんじゃないか?」
『ふーむ、ということは……遊戯さん達と同じ決闘者が檀黎斗に協力してるんでしょうかね?』
「殺し合いを起こすような奴か…」

パッと思い付くのはマリクや乃亜、ダーツと言った過去に戦った強敵達。
黎斗が時間を操れると分かった以上、遊戯に敗れる前の彼らが主催側にいる可能性は否定できない。
或いは遊星や遊馬に因縁を持つ決闘者が、黎斗の協力者とも考えられる。

「ま、デュエリスト以外にも参加者と関係ある奴が、檀黎斗に協力してるってのも有り得ない話じゃないかもな」
『或いは、檀黎斗ですら黒幕的な存在に操られてるってことも、なくはないですねぇ』
「まさか神威の野郎が……いや、魔界孔をもう一度開くのと関係があるのか?」
「天王寺なら関わっていてもおかしくはないが…」
「もし本当にいるならアリナさん、かな……?」

磯野、ハ・デス、黎斗、黒い鎧の男。
判明している面々以外にもまだ、運営側に参加者と関係する者がいるのかもしれない。
そういった「主催に協力してそうな人物」には、それぞれ心当たりがない訳でもなかった。
現状は可能性止まりに過ぎないが。

807EPISODE99.5『DUEL ROYALE SPECIAL③』 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:23:13 ID:dyk1XPSI0
「餅は餅屋って地球の言葉に倣って、決闘者の相手は遊戯くんに任せるとしてだ。美遊ってお嬢ちゃんの話をしても良いか?」
「っ、美遊がなに……?」

親友の名を出され表情が強張るのは無理からぬこと。
エーデルフェルト邸で仲間達に話したのと同じ内容を、エボルトに伝える気はない。
いろは達だけならともかく、この男に美遊の正体を知られるのは危険だ。
遊戯と蛇王院も分かってるようで、厳しい顔付きになる。
露骨な警戒もエボルトを怯ませるには至らない、何より『答え』はとっくに自分で出してる。

「まどろっこしいの抜きで聞くが、優勝した奴の願いを叶える方法ってのがズバリ美遊なんだろ?」
「っ!?」
「おっとォ?その反応は大正解って訳だな。教えてくれてありがとよ」

絶対に話すまいと決めた真実を、向こうは何故か知っていた。
自分は教えていない、士郎だって言う筈がない。
予想外の言葉に全身が跳ね、喉がヒュッと音を立てこれ以上ないくらいの反応を見せてしまった。

「な、なんで……」
「小難しく考えた訳じゃねぇさ。ただ人質って前提を外した時、こう思ったんだよ。
 元々殺し合いに必要不可欠だから確保したんであって、囚われのお姫様扱いは後から思い付いたなんじゃないかってな」
『くっ、いらんところで脳細胞をトップギアにしやがりましたね!』
「…で、それを知ってお前はどうする気だ?」

最悪の相手に美遊の情報を知られ青褪めるイリヤに代わり、蛇王院が問い掛ける。
瞳に宿すは仲間に見せた豪気さとは違う、因縁深い聖女相手にぶつけるのに劣らない殺気。
魔界孔を再び開く為に自分を利用した神威同様、ロクでもない目的を果たすつもりでイリヤの親友を狙うなら。
返答次第ではタダで済ましてはやらない。

「別にィ?俺はただ黎斗を始末して、生きて帰れりゃ文句はねぇよ。お前さんらといきなり事を構える程、余裕があるとも言えないんでな」
「それを信じろってか?」
「イリヤ達の命の恩人の言葉を、信じてもらえないのは悲しいね」

殺意を向けられるのなど、数多の星を滅ぼして来て飽きる程経験した。
今になって動じる素振りも見せず、涼しい顔で受け流す。

「……いいよ。わたしとチノさんがあなたに助けられたのは本当だから、今は何もしない」
「そいつは有難いこって」
「だけど!美遊には指一本触れさせない」

幼いながらに修羅場を潜り、年齢とは不釣り合いな気迫で以て応える。
人類最古の英雄王へ、身一つで立ち向かったように。
親友を犠牲に大望を掲げる魔術師へ、己が我儘(願い)を返したように。
一歩も退かず睨み付けるイリヤに、重なるのは自身へ敗北を刻んだヒーロー。
誰にも気付かせない一瞬、愛憎入り交じった顔を浮かべ。
すぐに元の飄々とした態度を取り戻す。

「了解だお姫様。肝に銘じといてやるよ。人間じゃない俺に肝なんてないがなァ。あ、今のは笑うとこだぜ?」
『笑ってるのあなたしかいなんですがそれは……』

808誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:25:17 ID:dyk1XPSI0



一通りの話が終わり、張り詰めた空気からも解放。
ある程度の休憩を挟み頃合いを見計らい、最初に桜ノ館中学を出たのは蛇王院。
橘からの情報で、明石達とはD-2で別れたと聞いた。
であれば当初の予定通りD-4へ向かうだろうし、自分も元々そちらへ行くつもりだったのだ。
本当なら遊星もそこで合流する手筈だが、残念ながら現在位置は不明。
いろは達と同じく、会場の何処かへランダムに転移させられたのだろう。
運良くD-4に近いエリアにいる、とは流石に期待し過ぎか。

「一旦お別れだな。海馬ってのにも俺から言っとく、お前らも気を付けろよ」

首尾よく遊星と合流出来た時の為にと、橘から首輪を一つ譲渡された。
リゼを殺した男のとは別に、デイパックに入っていたらしい。
誰のかは知らないが、打倒ゲームマスターの為にも使わせてもらう。

明石は凄腕のデュエリストである海馬が同行中。
遊星の方にも結芽という、ちびっ子ながらに優れた剣術の使い手が付いている。
どちらかというと、単独行動を取った蛇王院自身の方が危険だろう。
大抵の相手に後れを取る程軟じゃないが、大抵以上の怪物がゴロゴロ参加してるのが殺し合いなのだから。

(あいつらも絶対に大丈夫って保障はないけどな……)

ジャンヌを始め、脅威と呼べる参加者は未だ複数健在。
明石達を信じていない訳ではないが、万が一が起きないとは言い切れない。

記憶に焼き付く、苦い喪失の光景がリピートされる。
キュウシュウの裏切りに遭って、ホーリーフレイムに作戦が筒抜けとなったあの時。
自分の右腕だけならまだ良い、だが仲間を失うのだけは耐えられない。
恐いのはいつだって己の死ではなく、スカルサーペントの者達が殺されることだ。
だから望まぬ全国統一にも身を投じ、狼牙との一騎打ちでは人質を取るという卑劣な真似にすら出た。
自分の在り方を曲げてでも、守りたい連中がいたから。

「死ぬんじゃねえぞ、お前ら……」

無事を祈る言葉を仲間に届けてくれる、お優しい神様はいない。
間に合わせるには自力でどうにかする他なく、気付けば早足になっていた。


【D-2/一日目/午前】

【蛇王院空也@大番長 -Big Bang Age-】
[状態]:胸に真一文字の傷(治療済み)、疲労(中)
[装備]:ティアドロップ@Caligula2、
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(薄緑ほど使えないかつ回復系ではない)、ボーちゃんの首輪
[思考・状況]基本方針:普段どれだけキレても殺しはしないが、てめえらは別だ。
1:うちの傘下や同じ考えの奴がいるならなるべく優先する。
2:九時間後に指定されたエリアの一つに向かい、再度作戦会議。
3:仮面ライダーの参加者(駆紋戒斗、深海マコト、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳、天津垓)とチノ、遊戯、凌牙の仲間を探す
4:明石、いい女なんだが残念だな。
5:ジャンヌとは必ず決着をつけてやる。
6:明石の無事は分かったし合流に行く。
7:村雨を持った奴を警戒
8:遊馬に何が起こったかを、凌牙に言わない訳にはいかないよな…。
[備考]
※参戦時期は扇奈ルート、狼牙に敗北後。
※異形の腕はそのままです。そのためゲーム上の攻撃で使ってる砲撃も可能です。
 細い触手を切られてもダメージはありません。
※遊星、明石と情報交換しました。

809誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:26:21 ID:dyk1XPSI0
◆◆◆


『#&%$+#』
『何やら頭が高いですねぇ。登場話から出てるルビーちゃんが先輩だってのを、お忘れですか?』
『%$#&@@+#&』
『ひぎええええええ!?噛みやがりましたよこの円盤!』
「あっ、駄目だよそんなことしたら…!」

一人が抜けた後に起こったのは、正規参加者ではない支給品同士の小競り合い。
骨に齧りつく犬のように、サガークに牙を突き立てられルビーが悲鳴を上げる。
すかさずいろはが引き離し、両腕に閉じ込め事なきを得た。

「落ち着いて、ね?ルビーさんもごめんなさい、大丈夫ですか…?」
『どっかの元マスターのお陰で、バイオレンスには耐性がありますので』
「自慢気に言うことじゃないでしょ……」
「す、凄い人の所にいたんですね…」

人間であれば胸を張ってるだろう程に、堂々とした物言いである。
一体全体元マスターとやらは、どんな人だったんだろうか。
想像しか出来ないいろはの腕から、サガークが抜け出し現在の主の元へ飛ぶ。
旧ファンガイア語で語り掛ける人工生命体が、何を伝えたいのか黒死牟には分からない。
興味も抱かず、掴んでデイパックに放った。

「いろはさん達は、ここから南東の街に行くんだよね?」
「うん。やちよさんと、そこで会えるかもしれないから…」

思わぬ所で聞いた仲間の情報を、無視はできない。
恐らく、自分が記憶ミュージアムの崩壊に巻き込まれて間もない頃。
一人でマギウスの翼を追っていた時のやちよが、殺し合いに参加している。
そんな状態でフェリシア達の死を知ったら、更に心が追い詰められてしまう。
やちよを放って置く選択肢など、最初から存在しない。

「だから、黒死牟さん。わたしの我儘だけど、その、一緒に来て欲しいってお願いしても良いですか……?」
「……」

一刻も早く、やちよの元へ行きたいのに嘘はない。
しかし黒死牟を助けたい決意も、微塵も揺らいでいない。
彼を一人にしたくなくて、結果いろは自身の都合に付き合わせる形となり申し訳なさそうに頭を下げた。

言葉無く見下ろし、呆れと苛立ちのため息を小さく零す。
縁壱が何処へ転移させられたかは見当も付かず、無惨も既に永き生を終えた。
積極的に赴きたい場所は自分になく、いろはから離れ一人動き回ったとて何の問題もなし。
故に、お前だけで行けと返す事だって出来る。

810誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:27:00 ID:dyk1XPSI0
だけどこの娘はきっと、今別れても生きていれば自分を探し出してまた付いて回る。
一時別行動を取っただけで、鬼を助けるとの戯言を撤回しはしないと。
煩わしくも、そうだと分かってしまうから。
突き放し別れる選択ではなく、ソレを口にする己への不可解さで眉間に皺が寄った。

「勝手にしろと……言った筈だ……一々私の顔色を窺うな……」

吐き捨てた言葉へ、気遣いの類は欠片も宿っていない。
だというのに目の前の娘は、驚いた顔をした後すぐに表情を崩し。
微笑み礼を伝えて来る。

『めんどくさいですねー!めんどくさいが着物着て刀ぶら下げてるようなもんじゃないで――あっ冗談!ルビーちゃん流の小粋なジョークですので!』
「ちょっと!?言うだけ言って隠れないで…ひぃっ!?あ、あのウチのステッキがとんだ失礼を…!」
『現役JCのヒモみたいになってるとか、恥ずかしくないんですか♪(CV.エセ門○舞以)』
「ぎゃーっ!?違います!言ってません!言ったのわたしじゃありませんから!」
「お、落ち着いて二人とも。それにヒ……もう、黒死牟さんはそんなことしませんよ?わたしの方がずっと助けてもらって…」
「『えっ、自覚なし?』」

やいのやいの姦しく、絶妙に怒気を削ぐ連中に辟易し視線を外す。
硝子窓に映った自分の顔、人を捨てた日からとうに見慣れた異形の証。
瞳へ刻まれた十二鬼月の頂点も、主亡き今や何の意味があるという。

無惨の死とは即ち、人間達の完全勝利を意味する。
始祖が息絶えた瞬間に、血を与えられた配下も引き摺られ地獄へ落ちる。
最後の十二鬼月であった琵琶の弾き手は勿論、各地へ散らばった全員が消滅を免れない。
唯一の例外は自分だけ。
神の気まぐれで蘇生を受け、始祖の呪いを断たれた上弦の壱だけが生存を許された。

無惨が死んだとて、何かが大きく変わりはしない。
恥ずべき醜態と理解しつつ、黒死牟が終ぞ忠節の誓いを取り戻せなかったように。
縁壱もまた、操り人形の滅殺者として剣を振るうのだろう。
結局のところ、屠り合いの幕が開いた時とほとんど同じ。

それでも、他者へ命をくれてやることは。
生きながらに恥を晒す我が身を、弟に及ばぬ輩の手で滅ぼされるのは。
たとえ相手が神であっても、受け入れる気はなかった。


【D-2 桜ノ館中学校/一日目/午前】

【環いろは@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、魔力消費(大)、悲しみと怒り
[装備]:ストライクマーク@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
1:黒死牟さんを放って置けない、助けになりたい。
2:やちよさん達と病院で会った皆を探す。E-4へ行きやちよさんと合流する。
3:もし灯花ちゃんとねむちゃんがまた間違いを起こすのなら、絶対に止める。
4:フェリシアちゃんを殺した男の人(滅)には怒ってる。でも、我を忘れたりはしない。
5:真紅の騎士(デェムシュ)を警戒。
6:どうしてドッペルが使えたんだろう?
7:縁壱さんは、黒死牟さんの弟さん……。
8:キャルちゃんに渡したメダル、本当に良かったのかな…?
[備考]
※参戦時期はファイナルシーズン終了後。
※ドッペルは使用可能なようです。

【黒死牟@鬼滅の刃】
[状態]:魔皇力継承、精神的疲労、縁壱への形容し難い感情(大)、エボルトへの不快感(大)、黎斗への怒り、いろはへの…?
[装備]:虚哭神去@鬼滅の刃、木彫りの笛@鬼滅の刃、ザンバットソード@仮面ライダーキバ
[道具]:基本支給品一式、サガーク&ジャコーダー@仮面ライダーキバ、闇(1時間使用不可)@遊戯王OCG、ランダム支給品×0〜1
【思考・状況】
基本方針:分からない。……が、少なくとも縁壱以外の者に殺される気は失せた。
1:この娘は本当に何なのだろうか……。
2:縁壱……お前は…………。
3:無惨様が……そう、か…………。
4:日を避ける道具は手に入ったか……。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※無惨の呪いが切れていると考えています。
※魔皇力が使用可能になりました。キバット族のサポート無しで活性化出来るようです。
※サガークの資格者に認められました。ククルカンの召喚も可能なようです。

811誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:27:59 ID:dyk1XPSI0
◆◆◆


「良かったのか?蛇王院と一緒に行けば海馬と会える筈だが」
「デッキを持ってる海馬なら、そう簡単に倒れやしないさ。それに今は、他に気になることがあってな…」

明確に目的地を決めた者とは反対に、未だ決めあぐねる者もいた。
橘の言う通り、蛇王院に同行し明石達の元へ行くのも間違ってはいない。
海馬なら「デッキを持たない今の貴様など、凡骨にも劣るわ!」、と言いそうだが。
但し遊戯が海馬の元へすぐに行かなかったのは、怒声を浴びせられるのを嫌ったなんて理由じゃない。
好敵手(ライバル)へ一種の信頼を向けているが故、それも理由の一つ。
だが何より、先の情報交換で気にかかるものがあったから。

「司の友達を連れているカイザーインサイトを、放って置いて良いとは思えないぜ」

殺し合いに乗っていないとはいえ、真っ当な倫理観や善性を持ち合わせているとは言い難い。
エボルト同様、何の切っ掛けで牙を剥くか分からない危険人物。
そんなカイザーインサイトの所へ、このままみかげを預けて本当に大丈夫なのか。
遊戯とイリヤ共通の危惧であり、自分達の目で確かめに行くべきではと思い始めている。

しかし、カイザーインサイトが現在根城にしている場所はフェントホープ。
いろはの話では、魔法少女の巨大組織が拠点に使った廃ホテル。
オリジナルのフェントホープに近い形で機能を再現した場合、魔女やウワサ等が多数配置されてる可能性が高い。
こちらから出向くというのはつまり、敵の有利なフィールドへ飛び込むのに他ならない。
更にカイザーインサイト自身、相当な強さを発揮可能なライダーに変身出来る。
キャルから聞いた内容だけでも、強力な魔法の使い手らしい。
必ずしも戦闘に発展するとは言えないが、二人だけで行くにはリスクが低くない。

ただエボルト曰く、カイザーインサイトとは二回目の放送後に桜ノ館中学で合流を約束してるとのこと。
それならフェントホープには行かず、付近の探索を行った後時間を見計らいここへ戻って来るのも有りではないか。
運が良ければ近くのエリアで遊星達が見付かるかもしれない。
加えてもう一人、出来れば優先的に探したいのは天津垓だ。
仮面ライダーで尚且つ、檀黎斗を前々から知る参加者。
今現在天津と共にいるだろうポッピー共々、黎斗との因縁を持つ彼らとは接触を図っておきたい。
無論仮面ライダーの括りで言えば、万丈や戒斗達も捜索の対象だ。

「遊星くん達のようにどこかへ飛ばされたのか、それともいろは達がいた病院に残っているのか…」
「もし病院に残っていたとしても、仲間を探して出発した後じゃないか?」

天津達がどうなったかを知る前に、いろはも黒死牟もブラックホールに吸い込まれたのだ。
スタンド使いが命を落とし、日輪がまたしても罪を重ねたのを知る由もない。

812誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:28:40 ID:dyk1XPSI0
「橘さんこそどうするんだ?向こうにトラブルが起きてないなら、チノ達に追い付けるかもしれないぜ?」
「そうだな……」

どこへ行くかで悩むのは橘も同様である。
明石に待っていると言われた手前、直接会いに行って無事を知らせるのが正しい。
だというのに蛇王院へ同行しなかった訳は、選択肢が複数存在するが故。
単独でもぐも救出に向かった大我の加勢に行き、取り戻したガシャットを渡すのも手。
大我の実力を信じていない訳じゃないが、不安が全くないとも言い切れない。

もう一つ、遊戯達からチノの情報を得たのも橘を悩ませる。
今は亡き弟子へ誓ったように、リゼの友人達を守りたい。
リゼと交流し、彼女から託された者として、チノやココア達にもそれを伝えたい。
なので現在別行動中のチノを追う選択も、無視は出来なかった。

(さぁて、俺はどう動きますかねぇ)

人間達を眺めながらエボルトもまた考える。
イリヤ達がフェントホープに向かう気なら、同行の必要が出て来るかもしれない。
ココアの件も含めてある程度はフォローを入れ、利用出来る駒同士ぶつかり共倒れとなるのは回避したいところだ。
一方いい加減戦兎と合流すべく、いろは達と共にE-4へ行くべきではなかろうか。
流石にこれ以上の寄り道を繰り返せば、戦兎とて堪忍袋の緒が切れるに違いない。
一応いろはに伝言を頼み、今更過ぎるがモニカの回復用に手に入れた道具と、解析用の首輪を渡して自分はイリヤ達の方へ。
といった方法も取れないとは言わないが。

(美遊に関しても、面白いことになってきたからなァ)

推測は正しく、囚われのお姫様は生きた願望器。
自身の生還が最優先だとはいえ、あわよくば未知の力を手に入れたい方針も変わらない。
そこへ齎された美遊の真実に、一切手出ししませんと素直に引き下がるようなら地球滅亡など目論見はしなかった。
首輪解除も済んでいない状態では、当然何も出来ないが。

(それに、美遊の話で目の色を変える奴は必ず出て来るだろうよ)

人質の少女の正体に、驚きはあるだろう。
だが同じく願いを叶える力が本物と知れば、方針をガラリと変える者が現れても不思議じゃあない。
脱落になった者達を取り戻したがってるプレイヤーなど、正しくそれに該当する。

三都の戦争で幾度も見た人間の愚かさがきっと、神のゲームでも互いを蝕む。
そんな中でも、折れず曲がらず正しさを貫ける奴など――

「なんて、な」

嘗て自分が創造(ビルド)した人間(ヒーロー)くらいだろうと、そう余計なことまで考えてしまう前に。
皮肉気な、或いは自嘲するように誤魔化しを呟いた。

813誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:30:05 ID:dyk1XPSI0


【武藤遊戯@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)】
[状態]:疲労(小)、無力感、主催者への怒り
[装備]:千年パズル@遊戯王デュエルモンスターズ、ガーディアン・エアトス@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品一式、結束 UNITY@遊戯王OCG
[思考]
基本:ハ・デスを倒し、殺し合いを止める
0:ここからどう動くか…
1:仮面ライダーの参加者(駆紋戒斗、深海マコト、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳、天津垓)とチノ、凌牙の仲間を探す
2:仲間達との合流と、デッキも取り戻したい。
3:衛宮士郎は殺し合いに乗っているのか…?
4:ロゼはデュエルモンスターズが存在しない平行世界の人間なのかもしれない。
5:相棒の言うように、神(ゲームマスター)も完璧じゃない。そこに攻略法があるかもしれないぜ。
6:このカード…何で相棒や城之内くん達が描かれてるんだ?
[備考]
※参戦時期は最低でもドーマ編終了後。

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中・治療促進により回復中)、悲しみと悔しさ、エボルトへの警戒心(大)
[装備]:マジカルルビー@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード『セイバー』@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ、クラスカード『バーサーカー(マグニ)』@Fate/Kaleid Liner プリズマ☆イリヤ、光の主霊石@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。元の世界に帰ってやることがある
1:みかげさんのことが気掛かり。こっちから行くか、それともここで待つかどうしよう…。
2:仮面ライダーの参加者(駆紋戒斗、深海マコト、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳、天津垓)とチノ、遊戯、凌牙の仲間を探す
3:美遊を必ず助けに行く。
4:エボルトを警戒。美遊に手を出す気なら許さない。
5:シロウさん殺し合いに…?
6:ジャンヌを警戒。
[備考]
※参戦時期はドライ!!66話、6千年前に向かった直後
※心意システムによりバーサーカー(マグニ)のクラスカードを創造しました。

814誓いの螺旋と色褪せぬ想い ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:31:02 ID:dyk1XPSI0
【橘朔也@仮面ライダー剣】
[状態]:ダメージ(大、包帯やガーゼにより止血済み)、疲労(中)、心意によりリゼの姿・声に変化
[装備]:ギャレンラウザー&ラウズカード@仮面ライダー剣、リゼ専用スピアー@きららファンタジア
[道具]:基本支給品×2、バンバンシューティングガシャット@仮面ライダーエグゼイド、ハイパームテキガシャット@仮面ライダーエグゼイド、ランダム支給品×1、無惨の首輪、包帯やガーゼなどの治療道具@現地調達
[思考・状況]基本方針:剣崎とリゼの分まで人々やリゼの友達を助ける。ゲームマスターも倒す
0:チノを追い掛けるか、それとも……
1:ありがとう、リゼ。君は睦月と並んで最高の弟子だ
2:まさか俺自身がリゼになるとはな……
3:リゼの友達を探す。リゼの分まで俺が守る
[備考]
※参戦時期は最終回後。
※遊戯王OCGのルールを多少把握しました
※脚の負傷具合については少なくとも完治してます
※心意により見た目と声がリゼと同じになりました。生身でギャレンのスペックで、融合係数の変動で強さが変わるシステムを常に発揮しています。ギャレンラウザーを用いることでラウズカードやコンボ技も使えます
※リゼの姿になったことでリゼ専用スピアーで変身可能になりました

【エボルト@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、石動惣一に擬態中
[装備]:トランスチームガン(ワープ機能3時間使用不可)+ブラックコブラロストフルボトル@仮面ライダービルド、ラストパンドラパネルブラック+ブラックロストフルボトル×6@仮面ライダービルド、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
[道具]:基本支給品一式×3、じわじわキノコカン@スーパーペーパーマリオ、ブレイクスルー・スキル@遊戯王OCG((1)の効果3時間使用不可能)、ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト、呪い移し(現在使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ、ルナの首輪、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:生存優先。あわよくば未知の技術や檀黎斗の持つ力を手に入れる。
0:どうすっかなぁ俺もなァ。
1:戦兎達の元へ戻る。流石にそろそろ我慢の限界かねぇ。
2:戦兎と共闘しつつどこまで足掻くのか楽しむ。仲良くやろうぜ?
3:エボルドライバーを取り戻す。元は内海の?知らねぇなァ。
4:ロストボトルを回収しパンドラパネルを完成させる。手間を掛けさせないで欲しいんだがな。
5:正攻法じゃあ檀黎斗を倒すのは難しいか。
6:カイザーインサイトを利用。2回目の放送後に桜ノ館中学校で合流。戦兎には何て言おうかねぇ。
7:やちよの声はどうにも苦手。手土産でいろはを連れてきゃ機嫌も良くなるだろ。
8:猿渡死んじまったか。戦兎の奴どうなるかな。
9:美遊、ねぇ…………。
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』で地球を去った後。
※環いろはの姿を写真で確認した為、いろはに擬態可能となりました。
※トランスチームガンのワープ機能は一度の使用後、6時間経過しなければ再使用不可能になっています。

『全体備考』
※遊戯、イリヤ、橘、エボルトがそれぞれどこへ行くかは後続の書き手に任せます。

815 ◆ytUSxp038U:2025/05/19(月) 19:31:30 ID:dyk1XPSI0
投下終了です

816 ◆ytUSxp038U:2025/05/26(月) 00:30:26 ID:0BfwVKfc0
冴島鋼牙、柊ねむ、氷室幻徳を予約します

817 ◆EPyDv9DKJs:2025/05/26(月) 12:11:45 ID:oNudDAtg0
拙作「激瀧神 『王者の調和』」において凡ミスによる修正があったので報告しておきます
ポセイドンの遺体が幸いなことに後の作品で特に何も描写されてなかったので、
明石の乗るフライング・ペガサスに一緒に乗せたという感じで修正しています
(この描写には修正箇所が余りに少ないので修正内容は省いてます)
この件で問題がありましたら、再修正します

また、海馬の支給品に冥王の首輪が追加されてます
これは表記ミスなので前述の修正内容とは関係ありません

818 ◆QUsdteUiKY:2025/06/01(日) 16:38:34 ID:gMzOif3A0
>>761の予約から2週間が経ちましたので、破棄とさせていただきます
また破棄後にすぐ再予約を防ぐために◆2fTKbH9/12 氏の当該キャラの予約…つまりキリト、空、宮川尊徳、ユキ、直見真嗣、クウカ、奈津恵、コッコロ、継国縁壱、肉体派おじゃる丸の予約を1週間禁じさせていただきます

819◆2fTKbH9/12:2025/06/01(日) 16:51:32 ID:???0
♦QUsdteUiKY氏リアルが忙しくて自己申告が遅れてしまい、申し訳ありません。
もう少しで完成しますが、間に合わないので一旦、予約を破棄します。

820 ◆QUsdteUiKY:2025/06/01(日) 16:59:13 ID:gMzOif3A0
キャル、継国縁壱で予約します

821 ◆ytUSxp038U:2025/06/01(日) 19:25:53 ID:Z.O0shPU0
延長します

822コレが血を吐きながら続ける悲しいマラソン ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:28:32 ID:PsOMhbvg0
投下します

823コレが血を吐きながら続ける悲しいマラソン ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:28:49 ID:PsOMhbvg0
キャルが空中を飛行でき、破壊力もある怪獣ではなくE・HERO  Core(エレメンタルヒーロー コア)に変身したのには理由がある。
 単純に仲間を探すだけならば怪獣や飛行できるモンスターの方が簡単だが、この殺し合いの参加者はかなりの強豪がいることも熟知した。
 怪獣ならばその大きさも相俟って散り散りになった仲間たちが見つけてくれる可能性も高いが、あえてここは慎重に動くことに決めて守備向けの能力を持つCoreでひとまず活動することに決めた。

 この姿は散り散りになった仲間も知らない姿だから向こうから発見されて気付いてもらえる可能性は低いが、それでもやはりここは慎重にいきたい。正直、疲労も溜まってるし単独で誰かと戦うというのはかなりしんどいだろう。怪獣は大きいからこそ目に付きやすく、仲間からも発見されやすいが残念ながら危険人物に遭遇するリスクもある。
 新しい力を得たし、万全の状態ならば強敵が相手でもやり合えるとは思っているが今は妙に疲れている。身体が重い。
 ゆえにキャルは慎重な行動を取らざるを得ないのだ。

 (バンジョウに同行した方が良かったかしら……)

 当然のことながら、一人よりも二人で行動した方が良いに決まってる。
 万丈に同行しなかったことを若干惜しく思うが――

 (でもあの急ぎっぷりだと同行してもきっと足を引っ張るだけよね)

 万丈は飛電或人を探していた。
 もしも遭遇したら、止めるようにも言われている。
 ということは、相当焦っているだろうことは想像するに難しくない。

 (アルトに会ったら止めると言ったけど、この疲労なんとかならないかしら)

 誰かと戦い、止めるには体力は重要だ。
 この疲弊しきった肉体、それも単独で止めるというのは難しい可能性もある。
 万丈には〝分かったわ〟と言ったが正直、止められる自信があるかといえば微妙なところだ。

 しかし本当に身体が重い。
 Coreに変身して身体能力が上がってる。普通に走るよりは速く走れているが、万全の状態ならもっと速く走れるような気がする。

 そして当然、走るのを止めない限り疲労は減らない。本当は一休みしたいところだが、誰かと合流しなければ安心して休むことも出来ない。

 ゆえにキャルは止まらない。
 止まれない。

 本当は飛ぶ方が速いのだが、慎重に行動しなければいけないのはわかりきっている。

 だがその慎重に行動した結果が、裏目に出た。

 ――空気がズシリと、一変する。

 キャルが前方を眺めると、そこには見覚えがある剣士の姿。
 キャルは野獣先輩と戦っていたことで、彼とは戦っていないが――その威圧感は今でも忘れられない。

 キャルの足が恐怖で竦む。

 (どうしてよりによってあいつがいるのよ……!)

 手足が震え、あまりもの存在感に気圧されそうになる。
 しかし相手は大地に立っている。流石に飛ぶことは出来ないはずだ。
 ならばここは怪獣か他のモンスターに変身して――。
 キャルは咄嗟にメダルを取り出す。

――壱の型 円舞

 キャルが怪獣に変身するよりも速く、円を描くように振り下ろされた日輪刀がキャルを攻撃していた。

824コレが血を吐きながら続ける悲しいマラソン ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:29:27 ID:PsOMhbvg0
 「かかったわね!この瞬間、E・HERO  Coreの効果を発動するわ!」

E・HERO  Coreの (1)の効果。1ターンに1度、このカードが攻撃対象になった時に発動できる。
このカードの攻撃力はそのダメージステップ終了時まで倍になる。

 キャルはこの効果に期待して、あえて攻撃を誘っていたのだ。
 もっとも手足の震えはブラフではなく、本当に恐怖心に駆られていたのだが――。

「これで私の攻撃力は5400!これで――決めるわよ!エレクトロマグネティックインダクション!」

 Coreの拳と日輪刀がぶつかり合い――勢い良く縁壱がふっ飛ばされる。
 この攻撃力でも破壊されないのは、主催者の用意した駒であるゆえか。それとも只々、業物なのか。

 凄まじい勢いでぶっ飛ばされ、大地を二転三転した縁壱だが――勢いは止まらない。
眼前に居るのは鬼。それも途轍もない破壊力を持っている。
 それを逃すなど継国縁壱にとって有り得ないことで、どれだけ負傷しようとも狩らなければならない。

 しかしキャルとて相手がヤバいことは知っている。
 ゆえにキャルは咄嗟に変身解除。

<Momochi Access Granted!> 
 
 念のために用意していた3枚のメダルをセット。
 Coreの効果は強いが1ターンに一度というのがネック。ならばこれで倒せないならば、逃げるしか今は道がない。

 
<Golza. Melba. Super C.O.V!>

「チェンジ・テリブルモンスタ――がっ!?」

――壱の型 円舞
 
 ――刹那、キャルの首が跳ね飛ばされそうになる。
 咄嗟に重心を左にズラしたことで致命傷に留まったが、もしも直撃していたらあの世へ逝っていただろう。

 (危ないわね……っ!でも私はまだ死ぬわけにはいかないわ!そうよね、コロ助――!)

 瞬間――キャルの右手に何かの書物が現れる。それはケイオスグリモワール。
 キャルの力を万全に引き出すための専用装備だ。

「アーマーダウン!」

 ――次なる型を繰り出そうとする縁壱の動きが、僅かに止まる。
 専用装備を持てばアーマーダウンに麻痺効果が3秒間のみ、付与されるからだ。

「まだまだよ!サンダーボール!」

 縁壱は魔法というものを知らない。ゆえにこれを血鬼術だと認識するが、そう考えたところで策は思い浮かばない。
 ちなみにキャルの必殺技――ユニオンバーストは全体攻撃だが威力がサンダーボールより劣る。ゆえにキャルはサンダーボールを選んだ

(どうしていきなり出てきたのかわからないけど――このチャンスは逃さないわ!)

 サンダーボールを被弾して縁壱がダメージを受けてる今こそが好機。

「今度こそ――チェンジ・テリブルモンスターフォーム!」

 <Tri-King!>

 そしてトライキングに変身したキャルは翼をはためかせて――

 ――壱の型 円舞

 その翼の片方が縁壱の日輪刀によって豪快に切り裂かれ、バランスを失ったトライキングはその場に倒れてしまう。当然だが、片翼では飛べない。

 (ど……どうなってるのよ、この化け物!)

 化け物。
 今まで人々のために剣を振り続けた侍にはあまりにも似つかわしくない言葉だがキャルにとって縁壱は正真正銘の化け物だった。

 檀黎斗によって在り方を捻じ曲げられ、人を守るための日輪刀は殺戮を繰り返す剣に。
 なんとも皮肉なことだが、きっと檀黎斗はこの状況を楽しんでいることだろう。

 縁壱はもう何人もの善良な者を斬ってきた。
 その剣は純血に染まり、鬼から人間を救ってきた者の面影などない。

 されども縁壱は殺戮を続けるだろう。
 それが人々を鬼から守るためのものだと思い込んで。

「それなら……これはどう!?」

 トライキングが思い切り大地に拳を叩き付け、粉塵が舞う。
 この間、流石の縁壱でも相手の姿を視認出来ない。怪獣の身体の構造なんて透き通る世界でも理解出来ず、先読みも不可能。

 そしてキャルは変身を解除する。

825コレが血を吐きながら続ける悲しいマラソン ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:29:50 ID:PsOMhbvg0
『モモチ・アクセスグラッテド!』

「グリムフュージョン!」

『ギアソルジャー! ワイバーン! ギアボックス!』

「チェンジ・モンスターフォーム!」

『アンティーク・ギア・メガトン・ゴーレム!!』

 キャルは幾多もの腕を持つ巨大な機械族のモンスター――古代の機械超巨人(アンティーク・ギア・メガトン・ゴーレム)に変身した。

「あんたがどれだけ凄腕の剣士でも、これだけ腕があればなんとかなるはずよ!」

 古代の機械超巨人が幾多もの腕で縁壱を殴ろうとする。
 どれも変則的な動きで、軌道が読めない。モンスターゆえに透き通る世界も無意味。
 されども経験とその才能は素晴らしく、眼前に迫る剛腕を、難なく日輪刀で弾こうとする。
 しかし完全には弾き切れず、攻撃の余波で無様に吹っ飛び、ダメージも受ける。
 だが、この一撃で縁壱は完全に見切った。

 再び迫る剛腕に

 ――壱の型 円舞

 円を描くように日輪刀を振り下ろし、斬り裂く

「いぎゃああああ!」

 あまりもの激痛にキャルは絶叫するが、鬼がのたうち回ろうと縁壱からしたら自業自得。

 ――弐の型 碧羅の天

 そして縁壱は連撃で絡繰と化した鬼の頸にあたる部位を狙うが、古代の機械超巨人は全ての腕でその一撃を防ぐ――が大半の腕が千切れる

「きゃああああ――!」

 激痛に再び絶叫するキャルだが、まだ死ぬわけにはいかない。
 咄嗟に強靭な脚で縁壱を蹴ろうとするが、日輪刀で防がれた。だがその余波で縁壱が吹っ飛び、多少は距離を開けられた

 (――ッ!こんなやつ、どうしろっていうのよ!)

 相手はあまりにも強く、自分だけでは倒せそうにない。
 ならばキャルが取るべき行動は――。
 
 (アレを使うしかないっていうの……?)

 キャルは自分に支給されたカード――地縛神CcapacApuを脳裏に浮かべる。
 アレはどう見ても危険なカードだから使わないでいた。だがこの剣士を殺すためなら、大切なコッコロたち仲間を救うためなら――。

 (――ッ!なにをウジウジしてるのよ、私は!これ以上仲間の死体が増えるなら、悪魔に魂を売ったって構わないって決めたはずじゃない!)

 そうだ。
 この殺し合いには大切な仲間が――コロ助がいる。
 絶対に殺されたくない。こんな目にも遭わせたくない。だからコロ助を守るために――私がこいつを倒す!

 キャルが変身を解除して地縛神CcapacApuのカードを天に掲げる。
 どくん、どくん、どくん――。
 心臓のような歪な物体が現れるとこの地で散っていった者達の魂の一部を吸収して――地縛神CcapacApuが顕現した

「――ヒャハハハハ」

 ――瞬間、キャルの様子に変化が起こる。
 大切な仲間を守ろうとした少女は、巨人の地縛神の肩に乗って笑い狂っていた。
 この高さでは、流石の縁壱でも届かない。いや、それ以前に魂を吸い取られた者の悲痛の声が縁壱の心を大きく揺さぶる。

 この鬼だけは、必ず倒さねばならない――

 縁壱がそう決めると同時にCcapacApuはキャルを乗せてひとっ飛び。どこかへ姿を消した

「キャハハハ!私は強くなったわよ!さっきの男も、もっと強くなって殺してみせるわ!」

 今のままでは勝てない。そんなことはわかっている。
 だから更に強くなって、縁壱を殺すために逃げた。縁壱だけじゃない。野獣先輩も殺さなきよダメだ。

「――待ってなさい、コロ助。コロ助を危険な目に遭わせるような奴は全員、私が殺すわ!キャハハハ!」

 ――このゲームにおける地縛神の効果。
 それは召喚した者の負の感情と悪しき感情を増大させることだ。
 もしもキャルを危険人物だと思い込んで、対処しようとする者が現れたらキャルは容赦なく相手を殺そうとするだろう。それが不動遊星たち、散り散りになった仲間だとしてもだ。
 そして当然、コッコロに害を与えるような危険人物も殺す。

 地縛神の力に頼ったキャルは、もはや暴走状態に近かった。
 縁壱から受けた傷も大きいのに、彼女は止まるのをやめない

 キャルも、縁壱も。
 それはまるで血を吐きながら続ける悲しいマラソンのようで……彼らの道は、未だ続く。

826コレが血を吐きながら続ける悲しいマラソン ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:30:27 ID:PsOMhbvg0
【F-5/一日目/午前】

【キャル@プリンセスコネクト!Re:DIVE】
[状態]:疲労(絶大)、ダメージ(絶大)、首の左側に切り傷、地縛神CcapacApuの肩に乗っている、負の感情増幅中、悪しき感情増幅中、好戦的
[装備]:ウルトラゼットライザー+ウルトラアクセスカード@ウルトラマンZ、怪獣メダル(ゴルザ、メルバ、超コッヴ、ガンQ、レイキュバス)@ウルトラマンZ」、地縛神CcapacApu@遊戯王5D's、ケイオスグリモワール@プリンセスコネクト!Re:DIVE
[道具]:基本支給品、詳細地図アプリ@ロワオリジナル、ウルトラマンベリアルメダル@ウルトラマンZ、メダル(古代の機械兵士、古代の機械飛竜、古代の機械箱、月光???、月光???、月光???、E・HERO??? E・HERO??? E・HERO??? ???×6)
[思考・状況]
基本方針:クロトや覇瞳皇帝や縁壱からコッコロたちを守るために更なる力を求める。
0:キャハハハ!もっと強い力がほしいわ!
1:メダルは手に入った。あとはやるだけよ。でももっと強いメダルもあるかしら?
2:途中誰かに出会ったら、覇瞳皇帝に関して警告し、コロ助への伝言を頼む。
3:エボルト、里見灯花、柊ねむ、カイザーインサイトを警戒。場合によってはコロ助のためにぶっ殺すわよ
4:この力こそ強さよ!もっともっと強くなりたいわ!
5:あの茶色野郎(野獣先輩)ふざけんじゃないわよ、次会ったらぶっ殺すわ
6:強くなるために首輪を集める?
[備考]
※ウルトラゼットライザーは、アクセスカード、
 ファイブキングを構成する怪獣のメダル5枚で一個の支給品扱いです。
※ウルトラアクセスカードは、一番最初に支給された参加者の物のみ支給されています。
※ウルトラゼットライザーは変身の際に、
 インナースペース(安全圏)にいる時間が短くなる様に、
 怪獣の力が本来のスケールで出せない調整されています。
 恐らく、ウルトラマンに変身する際も、同様であると考えられます。
※回収したNPCの残骸の詳細は、後の書き手様にお任せします。
※万丈と情報交換しました。
※キャルの他の変身できるモンスター、怪人が何かは後続の書き手にお任せします
※地縛神を使ったことで負の感情や悪しき感情が増幅しています。地縛神を召喚してる時間が長いほど、更に増幅します
※心意で専用装備を獲得しました
※地縛神CcapacApuの大きさは原作より小さいです。詳細は後続の書き手さんにお任せします

【F-6/一日目/午前】

【継国縁壱@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(中)、胸部に裂傷(中)、肩に切り傷(微小)、頬に傷(微小)、ダメージ(小)
[装備]:継国縁壱の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:鬼狩り
1:鬼である(と縁壱には見えている)紅渡(名前未把握)が死ぬ寸前、柔らかな笑みを浮かべたことに違和感
2:兄上、あなたは鬼となって尚も……
3:死者すら苦しめる巨人を従える鬼(キャル)は絶対に許せない
[備考]
※首輪による制限が行われていません
※思考が矛盾を感じた場合、それを疑問に思わなくなるようプログラムを受けています。

『支給品紹介』
【地縛神CcapacApu@遊戯王5D's】
デュエルモンスターズのカード。

効果モンスター
星10/闇属性/悪魔族/攻3000/守2500
このカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、
「地縛神」と名のつくカードを召喚・反転召喚・特殊召喚する事ができない。
フィールド上にフィールド魔法が表側表示で存在しない場合、
このカードの以下の効果は無効となり、このカードはエンドフェイズ時に破壊される。
●このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
●相手モンスターはこのカードを攻撃対象にする事ができない。
●このカードは相手の魔法・罠カードの効果を受けない。
●このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊した場合、
破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

主催により細工を施され、フィールド魔法がなければ破壊される効果は無効になっている。
また召喚者は召喚してる限り負の感情や悪しき感情が増幅され、好戦的になる
●相手モンスターはこのカードを攻撃対象にする事ができない。効果は決闘者以外があまりにも不利になるので無効化されている
また元の世界(原作)のままだと巨大過ぎるのでサイズダウンしている

827 ◆QUsdteUiKY:2025/06/02(月) 01:31:03 ID:PsOMhbvg0
投下終了です

828インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:52:31 ID:CDerigb60
投下します

829インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:54:25 ID:CDerigb60
 空を駆け抜ける列車、フライング・ペガサス。
 それはまるで御伽噺や物語のような光景なのでしょう。
 海で戦う艦娘が、空を駆ける。駆逐艦の多くには羨ましがられるんだろうなぁ。
 なんて、此処が殺し合いである以上、そんな話をしても楽しくないのは間違いないけども。

 艦娘が海神を倒してしまうという、ある意味とんでもない罰当たりなことをした後、
 私こと、工作艦明石は海馬さんと共にフライング・ペガサスに乗車して現在移動中です。
 列車と言っても快速と言うわけではなく、速度が緩やかなのは、逃げを防ぐための速度制限なのでしょう。
 もっとも、それでも追いかけてくる少女(ルナ)やポセイドンがいたことを考えると、
 もうちょっと速度があってもいいんじゃあないかな、なんて思ってたりもしてます。
 ゆっくりな動きは殺し合いなんてものを忘れさせてくれる感じがしてしまい、
 安心感と同時に、殺し合いなんてないんじゃないかと思わせてくる不安感もあります。
 だから私はあえて見る。野原さんと、ジャックさん、そしてポセイドンの遺体を。
 これが殺し合いの中にいると、再認識するために。

「あの、差し支えなければでよろしいのですが。」

「何か用か。」

 相席ではなく向かいの席で周囲を見渡しながら哨戒する海馬さん。
 もし海馬さん達が戦った怪物(無惨)がこちらに来てる可能性もある以上、
 警戒するのは当然なことでしょうけど、視線を向けることがなかったり、
 どこか冷たい眼差し……なのは多分、彼だからなのでちょっと思い込みかも。
 そうは思いつつも、尋ねずにはいられませんでした。

「もしかして、私のこと避けられてます?」

 一瞬の沈黙。
 地雷を踏んでしまったのか、
 少しばかり不安になったものの、

「ただの偏見だ。俺は軍需産業には手を出さん主義だ。
 俺にとっての敵であった男の、忌まわしき遺物。それだけに過ぎん。」

 そういえば遊星さんが海馬コーポレーションは軍需産業には手を出してないとか、
 そういう話は先に聞いていたから納得はできた。人類を守る艦娘とは言え、
 軍事兵器と言われてしまえばそれを否定ができないから間違ってはないのかも。
 勿論、偏見だってことぐらいは分かっているようですし海馬さんは見たところ、
 随分棘と言うか癖のある人物のようなので、私も特に思うところはありませんでした。

「ジャックに冥王か……遊戯のことを、
 アテムのことを聞く機会を逃したのは痛いな。」

 リゼさんに対しての自責か、或いは敵に対して相当腹が立っていたのか、
 ポセイドンの戦いが終わって、ようやく知り合いの名を口にしました。
 一応最初の情報交換で話はある程度のことは伺ってこそいたものの、
 冥界に帰ってしまったアテムさんなる人を海馬さんは追いかけてるようです。
 死んだ人……と言うのとはちょっと違う複雑な事情を抱えてるみたいでして。

「遊戯さんのもう一人の人格、アテムさんに会ってどうするんですか?」

「決まっている。決着をつける。それだけだ。
 奴が帰還する前に俺とデュエルをさせればいいだけのことだ。
 たとえもう一つの世界の俺が認めたとしても、この俺は認めたわけではない。」

 複雑な事情を抱えているようですね。
 海馬さんは、どうしても再戦したいのでしょう。
 その為に元の世界では色々やっていたとのことですし。

「……さて、確認だけでもしておきましょうか。」

 此処は殺し合いの舞台。
 いつまでもこうやって雑談に興じているつもりはありません。
 一度目を閉じ、深呼吸をしてから私は席を立ち、死体と向き合います。
 今まで観察すらもできなかった首輪。偶然や、別れこそ色々あったものの、
 ついにこれを調べることができる状況にはなったのは紛れもない事実でしょう。

830インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:55:49 ID:CDerigb60
 常に進化と言う前を向き続けたジャックさん、
 自分の死すら厭わず勝利のために貢献した冥王さん、
 死ぬと分かっていても全力で戦い抜いていった野原さん。
 誰よりも一般人でありながら一歩を踏み出した百雲さん、
 彼を助けようと一人で謎の存在を追いかけていった大我さん。
 神を降臨させるという偉業を成し遂げて勝利に導いた海馬さん。
 そして、一人怪物に立ち向かうのを決意して残った橘さん。
 あの場にいた皆は散り散りに、別れたり亡くなったりしましたが、
 誰もが絶望的な状況の中でも抗い続けた、鎮守府の皆と同じような存在。
 私も立ち止まってはいられない。制海権を奪還すると決めたあの時のように、
 前に進まないと、今まで亡くなってしまった方達にも示しがつかない。
 冥王さん曰く凄まじい妖刀(村雨)があるので、首を絶つことは大丈夫だと思い、
 支給品から取り出そうとすると、柄を握ると同時に、ぞわりと来る悪寒が全身に駆け巡る。

(これ、何? こういうのに詳しくない私でもこれはダメだって思える……!)

 妖刀から『握るな』とでも言わんばかりの不穏な感じに背筋が凍る。
 これが帝具と知らない以上、帝具による相性問題と私は気づくことはなかった。
 斬られるだけで死を確定させるとされるとんでもない妖刀だと言うことがよく分かる。
 これは……こういう時には使えるとしても、あんまり使いたくはないとなるものだ。
 なんて言えばいいのかな。握ってるだけで蝕まれてるとでも言うべきなのかな。
 とにかく、早急にこの刀から手を放したい。そんな気分に襲われていた。

「海馬さん。別室で待機をお願いできますか?
 血が飛び散るでしょうし、その、余り見られたくないので。」

 殺した相手ではあるし、神なのはあの戦いで確定している。
 それでも、やはり参加者の首を絶つ行為には抵抗はあるし、覚悟も必要だ。
 人に見られるというのも気分がいいものではないので席を立つように促し、

「俺は哨戒でもしておく。早急に終わらせろと急かすことはせん。」

 冷たいものの気遣ってるのかどうかわからない発言と共に、
 海馬さんは席を立って後ろの車両へと移動してくれました。
 うーん、難しい。あの人との接し方は何が最適解なのでしょうか。
 アテムさん、基遊戯さんならわかるのかもしれないことですけども。

「……よし。」

 覚悟はできた。後は実行に移すだけである。
 自分を斬らないように、ゆっくりと狙いを定め、首を絶つ。
 人の首ってうまくやらないと中々切断できないって言うけれど、
 この妖刀が凄まじい業物だからなのか、私でも簡単に断つことができた。
 軍刀を持つ木曾とかが此処にいたのなら、もっと驚いていたのかもしれませんね。
 ゴロン、とポセイドンの何も見ていないその冷たい瞳がこちらを見るように転がっていく。
 凄く嫌な気分だ。敵だとしてこの気持ちなら、仲間だった人達ならどんな気分なんだろう。
 死体だからか、それとも大量に血液を流し終えてしまった後だったからか、血はそれほど出なかった。
 元々片足を喪って腕もあり得ない方向にぐちゃぐちゃの、あの状態で動けてたのが奇跡な程の状態だ。
 多分、その辺が理由なんじゃあないかなと考えるものの、それは今考える必要のないことなので隅に置きましょうか。
 敵ではあったのは間違いないし、人間なんかの私に触られるのも許されないとは思いつつも、
 そのままというのも忍びないので、私は目を閉じさせてから、首輪を回収することに成功しました。
 これで冥王さんと合わせて自由になってる首輪は二つ。首を遺体のところへと置いた後、
 海馬さんがいる別室の方へと向かうことに。

「明石、確か貴様の支給品に余っていたのがあったな。
 それが工具か何か……があれば、直ぐに使っているか。」

831インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:56:32 ID:CDerigb60
「はい。残念ながら工具とかそういう類ではありませんでした。」

 海馬さんもデュエルディスクを開発したりと、
 相当にメカニックとしての腕が立つようではあります。
 しかし、私達には肝心の解体して中身を確かめる手段がありません。
 最悪村雨とかで斬って中身を見てしまえばいいのかもしれませんが、
 サンプルがいくらジャックさんや野原さんのが余ってるとは言え貴重でしょう。
 放送では首輪をトレードできるNPCもいるとのことなので、無暗な破壊は厳禁だ。
 檀黎斗って人はゲームを、殺し合いをクリアすることも視野に入れてる発言が多かった。
 だから首輪の数は、この戦いで敵となる侍(縁壱)や倒したとはいえポセイドンのような、
 強力な敵と対抗できる武器になるかもしれない。だったら首輪の状態は間違いなく大事だ。

「んー……ん?」

 外れた首輪の内側とかを試しに調べてみる。
 裏側を凝視してみるけれど、出た答えは……普通の一言でした。
 サイズ的に考えて、爆薬が本田って人のを想定すれば人は殺せるでしょう。
 ……でも。これ───人しか殺せるだけの爆発が発生するとは思えなかった。
 これはただの爆弾付きの首輪。そうとしか言えないぐらい普通の出来でしかない。
 こんなもの作るつもりはないけど、作ろうと思えば私でも作れてしまうような代物だ。
 これで本当にポセイドンとか、それに比肩する参加者が殺せるのかと言う疑問は尽きなかった。

「海馬さん!」

 流石に気になったので、海馬さんにも伺います。
 冥王さんの首輪は彼が持ってるのでそれと比較したいと。
 止める理由もなかったのですぐに渡され、それを見比べてみます。
 首の大きさによるサイズ差はあれど、やはり構造はどちらでも同じに近い。
 同じく海馬さんに意見を伺おうと、逆にポセイドンの首輪を渡しておきます。

「……確かに、異様に簡素なつくりになっているな。何が入ってるか次第、だが。」

「そうですよね……神を殺すなら爆薬ではなく、もっと違う何かを使うと思いますし。」

「ヒュドラの毒でケイローンやヘラクレスが死ぬ神話もあるからな。
 仕込まれてるのが爆発だけでなく、毒とかであれば話は別なのだろう。」

「毒やウイルスですか……」

 少なくとも艦娘の世界、デュエルモンスターズの世界、仮面ライダーの世界。
 様々なものが混ざり合ったこの世界において未知の毒があるかどうかで言えば、あるはずだ。
 跡形も残らず消えてしまうような、特殊な毒素とかがあるとしても別におかしくはないはず。
 ……下手に壊そう、なんて発想に至らなくてよかったかも。私の世界だと毒とかあんまり縁がないから、
 海馬さんからの助言は中々に助かりました。

「となると、毒への耐性か毒に詳しい方……これだと、大我さんと別れたのは勿体ないですね。」

「同じ医者である宝生永夢が死んだ今、奴が現状把握できる唯一の医者だ。
 そういうのに詳しい奴が他にいない現状、奴の生存に賭けるしかあるまい。」

 百雲さんと大我さん、無事だといいんだけどなぁ。
 でもあのNPC、今まで見たのと雰囲気が違うっぽいし、
 なんだか大丈夫かなと不安にさせられてしまうところがある。

『悲観的だな、小娘よ。』

 ……もっと前向きにならないといけない。
 なんだか冥王さんにそういうつもりはなかったとしても、
 あの言葉は私にはそれなりに意味のある言葉だったと思ってます。
 後ろ向きでいるだけじゃだめだ。復讐とちょっと危ない目的だったけど、
 あの人(モンスター?)のようにもっと邁進するようにいかなくちゃ。

「当面必要なのは工具、それと中身が何かを知る手段ですね。
 参加者ごとに爆弾とも限りませんから、その辺も警戒しておかないと。」

「機械弄りができるモンスターがいれば安全策だろうが、
 そう簡単にいるわけもない、か。解析できる場所を探すのも視野に入れよう。」

 電車の中で二人きり。目的は次々と増えていきます。
 遊星さん達との合流、首輪の中身の解析、そして首輪の解除の手段。
 或いは、生きてる人にしか機能しないとかの可能性も視野に入れておきたいところかも。
 やることは本当に山積み……でも、慣れたものだ。鎮守府のショップに装備の改修に修理に、
 更に出撃も兼ねていたのがこの私、工作艦明石ですから。これぐらいのことは大丈夫ですよ。
 ですから、必ず戻りますので待っていてください───提督。

832インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:59:14 ID:CDerigb60
【D-3/午前手前 爆走軌道フライング・ペガサス内/1日目】

【海馬瀬人@遊☆戯☆王】
[状態]:心身の疲労(中)、リゼを見捨てた後悔、フライング・ペガサスに乗車中
[装備]:海馬瀬人のデッキ(オベリスク入り)&新型デュエルディスク@遊☆戯☆王THE DARK SIDE OF DIMENSIONS
[道具]:基本支給品×2(自分、無惨)、深淵の冥王の首輪
[思考・状況]基本方針:この決闘を粉砕したのち、アテムと決着をつける
1:檀黎斗と、あの異形(無惨)と闘うための方法を模索する。あの自称神はこのオレが粉砕してくれるわ!
2:首輪を解除したい。遊星とやらはどれほどのものか。
3:アテム及び共に存在しているであろう遊戯を探す。だが今は遊星とやらと合流だ。
  そうそう死ぬとも思えないが、凡骨共が死んで心に隙が生まれれば万が一があるかもしれない。
  器の遊戯の実力にも興味がある
4:残酷にも殺された少女(条河麻耶)のように闘う意志も牙も持たぬ参加者と遭遇した場合、保護も検討してやろう。
5:ジャック、冥王、貴様らを認めてやろう。貴様達も王だとな。
6:首輪の解析ができそうな場所を探しておきたい
[備考]
※参戦時期は本編終了後から映画本編開始前のどこか。
※心意でオベリスクの巨神兵@遊☆戯☆王を手に入れました
※首輪に毒素か何かが参加者次第であると思っています

【明石@艦隊これくしょん】
[状態]:ケッコンカッコカリによる強化(耐久や幸運以外意味なし)、両足に傷(走るのに少し苦労する程度に負傷)、疲労(大)、精神疲労(大)、フライング・ペガサスに乗車中
[装備]:指輪@艦隊これくしょん、大地鳴動『ヘヴィプレッシャー』@アカメが斬る!、神月アンナのデュエルディスクとデッキ@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品×5(自分・ジャック・しんのすけ・ポセイドン・うさぎ)、一斬必殺村雨@アカメが斬る!、454カスールカスタムオートマチック@HELLSING、オルタナティブ・ゼロのデッキ(サイコローグは消滅のためブランク状態)@仮面ライダー龍騎、ランダム支給品×0〜1(確認済み、治療系の類ではない)、ジャックのデュエルディスクとデッキ(心意カード+冥王結界波入り)@遊☆戯☆王5D’s
[思考・状況]基本方針:ハ・デスを倒して生きて提督の下(元の世界の方)へ帰る。
1 :蛇王院さん……無事でしたけど、素直に喜んでいいのかなぁ。
2 :九時間ほど散策して、指定の場所に遊星さんと合流。
3 :帝具、ちょっと調べたくなってしまいますねー。
4 :首輪を解除できるだけの装備や環境を整えないと。首輪は確保できましたが。
5 :特体生って艦娘余裕で超えてるじゃないですかやだー!
6 :ジャンヌには最大限警戒。あれがゴロゴロいたら艦娘ですらかませなりますよ!
7 :あの寺何怖いんだけど!?
8 :ジャックさん、冥王さん、野原さん……
9 :フライング・ペガサスで真っすぐ向かいましょう

[備考]
※改装後、ケッコンカッコカリ済み、所謂ジュウコンなし、轟沈経験ありの鎮守府の明石です。
※艤装はありませんが、水上スキーそのものは可能です。
 時間制限については特に設けてませんが長時間は無理かなと。
※指輪は没収されていませんが、偽装がないため耐久以外ほぼ意味がありません。
※蛇王院、遊星と情報交換しました。
※ジャックのデッキで心意システムで生成できるカードはレッド・デーモンズ(或いはレッド・デーモン)関係のみで、
 かつ必ずシンクロ素材にレッド・デーモンズ・ドラゴンを素材としたものでなければ発生しません。
 必要なものが指定されてる代わりに、心意の条件は他の参加者よりも緩い条件になってます。
 現在生成されたのは以下の通り
 レッド・デーモンズ・ドラゴン・タイラント@遊戯王ARC-V
 琰魔竜 レッド・デーモン@遊戯王OCG
 琰魔竜 レッド・デーモン・アビス@遊戯王OCG
 琰魔竜 レッド・デーモン・ベリアル@遊戯王OCG
 琰魔竜王 レッド・デーモン・カラミティ@遊戯王OCG
※シグナーの痣がないため現時点では赤き竜の由来カード、
 スカーレッド・ノヴァとセイヴァー・デモンは出せません。
※サイコローグはオベリスクの攻撃で消滅したため、
 ブランク状態になっています
※首輪に毒素か何かが参加者次第であると思っています

833インタールーダー ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 02:59:29 ID:CDerigb60
投下終了です

834 ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:00:50 ID:zKXIPIHA0
皆様投下お疲れ様です。自分も投下します

835それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:01:57 ID:zKXIPIHA0
敵に背を向け逃走に徹するのは、冴島鋼牙にとってあるまじき行動だった。
深追いを諫められたことはあれど、剣の届く距離に敵がいて尚戦闘の中断を選択。
しかも本来なら率先し盾となるべき己が、他者へその役目を押し付けたのだ。
魔戒騎士として恥ずべき失態と罵られても、当然である。
自らの不甲斐なさへ多大な怒りを燃やし、威圧感が狭い車内をたちまち満たす。

尤も、同乗者もまた鋼牙と似たり寄ったりの状態であった。
運転に集中する間、無力感と力への渇望に苛まれ気を抜けば爆発し兼ねない。
安易に話しかけるのを憚れる幻徳も鋼牙同様、無言を貫き早数十分。
重苦しい空気が一向に消えない中、静寂を木っ端微塵へ変える声が響き渡った。

「っ、あれは……!」

突如天空へ映し出された男へ、流石に猛スピードの運転を続けてはいられない。
定時放送を聞き逃せば後々困り果てるのは自分達だ。
急停車し聞く態勢を取らざるを得なかった。
相も変わらぬハイテンションぶりで参加者を苛立たせる神を、三者三様に見上げる。
怒りを籠めた瞳は前の席の二人から、眠た気で感情を読み取れないのは後部座席から。
必要不可欠な情報へ頼んでもいない挑発染みた言動をプラスし、傲慢さをこれでもかと表す高笑いで放送は終了。
今後も6時間毎にストレスを味合わされると思うと、非常に頭が痛むがともかく。

「そう、か…みふゆはやっぱり……」

明るい色の混じらない声が、意識しないままねむから零れ出る。
何もおかしくはない、むしろ呼ばれなければ不自然な名前だ。
異常と言う他ない金髪の偉丈夫の強さを考えれば、みふゆが助かる確率は1%あるかも怪しい。
最期を見ずとも、こうなると車内の全員が理解出来た。
運良く生き延び何食わぬ顔で合流、などと都合の良い展開が起きる筈もない。

836それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:02:43 ID:zKXIPIHA0
そう分かっていて、みふゆが足止め役を引き受けたのに反対もしなかった。
自分の選択に後悔はない。
なのに改めて死を告げられ、「そうだろうな」と簡単に流せないでいる。
痛みと呼ぶには小さく、けれど無視するには何故か躊躇が生じる感覚。
ドッペルの暴走を止める為に命を賭した時とは違う。
自分に後を託し逝った彼女へ、何一つ感じられない程心を冷たくは出来ず。
みふゆの最後の頼みを受け入れらないと、あっさり切り捨てるのに後ろめたさを隠せない。
いろはと灯花以外の参加者は皆、利用可排除の二択と既に覚悟を決めた。
だから一番初めに会った御伽龍児だって、魔力温存を理由に助けなかったのに。
今更になって罪悪感でも感じたのかと、自身へ内心吐き捨てる。

(後は、彼女も生き延びられなかったようだね)

少なからず波打った胸中を誤魔化すように、知っているもう一人の脱落者へ意識を傾けた。
フェリシアの死亡に強く動揺は抱かない。
自分とは接点が薄く、まして元々敵対関係にあった魔法少女。
他参加者にマギウスの警戒を触れて回る者が、一人減った事実は歓迎すべき。
灯花も同じように思うに違いない。
ただ前々からフェリシアと仲間だったいろはは、きっと深く悲しむ
ういと自分達を失い、また新たに喪失の痛みを刻み付けられ頬を濡らしているだろう。
よりにもよって自分と灯花が、いろはが最も望まない形で魔法少女の救済に動いてると。
傍にいて欲しいという願いを裏切り、悲しませる側になったのにはあえて深く考えずにおく。

「あいつが……」

脱落者の発表で、ねむ以上に動揺を引き出されたのは幻徳だ。
猿渡一海。パンドラタワーでの決戦で消滅した仲間は、殺し合いで二度目の死を迎えた。
既に喪失を味わった相手だからと、軽々しくは扱えない。
再会し、他愛のない軽口を叩き合い、肩を並べてもう一度戦う。
思い描いた光景が実現する、そう心のどこかで根拠もなく信じていたのだろう。
自身の知らぬ所で一海が死んだ事実へ、涙こそ流れずとも殴られたような衝撃が走る。

自分も一海も本来なら死んだ身。
新世界創造は戦兎達に託しており、この地で力尽きても構わない。
ただそれでも、叶うのであれば仲間達には生きて欲しかった。
野心に憑りつかれ、引き返せない程の罪に手を汚した自分とは違う。
本当だったら戦争とは無縁の、仲間に慕われる農場の気さくな兄貴分の一海は。
戦いの中で死んで良い人間じゃあなかった。

837それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:03:29 ID:zKXIPIHA0
「零……」

そして最後の一人、鋼牙にも喪失感は容赦なく襲い掛かる。
自身を仇として付け狙い、時に幾度も斬り結んだ銀牙騎士。
衝突の果てに無二の友情を結んだ涼邑零もまた、6時間を生き延びれられなかったらしい。
有り得ないと、親友の実力を知るが故の激しい否定は出来ない。
牙狼の鎧を纏って尚、勝ち目がまるで見えなかった存在と一戦交えているのだ。
魔戒騎士の命を奪う程の参加者が他に複数人いても、何らおかしくはない。

かといって、はいそうですかで簡単に割り切れはしない。
心からの信頼を置く友が、もうこの世にはいないと告げられた。
それも神を自称する狂人の口から、嘲笑うも同然にだ。
バラゴに父を侮蔑された時にも劣らない、猛烈な怒りが渦巻く。
同時に自身を形作る大切なものが一つ、零れ落ちて二度と戻らない喪失感が苛む。
広く大きな背を見続けた父、同じ釜の飯を食い強くなると誓い合った同胞(はらから)。
彼らと同じ場所へ零も旅立った。
決して慣れない痛みは、暗黒騎士や海神に斬られた以上に深く傷を残す。

檀黎斗に命じられるまま優勝を目指し、死者の蘇生に縋り付く気はない。
最期をこの目で見ずとも、共に戦った男達には分かる。
一海も零も、誰かを守る為に足掻き命を散らしたのだと。
守るべき者を理不尽に奪われた彼らが、自分達の蘇生の為に罪なき命が犠牲となるのを喜ぶ訳がない。
屍を積み上げた先の奇跡を望まないことを、幻徳と鋼牙は理解している。
なれば方針を変えるつもりもなし、必ずやゲームマスターを討つ。

尤も、それはそれとしてやはり仲間の死は精神的も堪える。
加えて十分予想が付いた事とはいえ、みふゆの死も放送で確定となった。
生き返った理由を見出せず悩み、もう少し頑張ろうと告げた彼女の顔を思い出す。
殺し合いから生きて帰り、失った筈の未来へやり直す機会があった筈。
彼女の犠牲により生かされた幻徳はただ、己の弱さを何度恨んでも恨み足りない。
もっと力さえあれば、強ければこうはならなかったんじゃないか。
そう悔やんだ所で後の祭り、失われた命が帰って来る奇跡は起きない。

838それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:04:56 ID:zKXIPIHA0
「……取り敢えず、どこか休める場所に行った方が良い。僕はともかく、お兄さん達は座ってるだけでもつらいだろう?」

重々しい沈黙が長続きする前に、抑揚のない声で休息を提案された。
言われた途端、思い出したように体中が痛みを訴える。
逃走に集中し意識が外れていたが、自分達は重症の身だ。
特に鋼牙の傷は深い、魔戒騎士の並外れた体力と気力で持ち堪えているが放置すれば死は時間の問題。
これ程の傷、医療機関で処置を行う以外どうにもならないのではないか。

「僕の、いや、正確に言うとみふゆの支給品に治せる道具があった。それを使うといいよ」
「それは……」
「まあ、僕の言葉が信じられない気持ちは分かるけどね」

ねむ自身、信頼を容易く勝ち取れるなど微塵も思っていない。
みふゆから自分と灯花の悪評を聞かされ、警戒心を抱くのは当たり前のこと。
助ける振りをして、実は弱り切った所へトドメを刺す気じゃあるまいか。
なんて疑念を幻徳が抱いたとしても、当然だろうなとしか思わない。
尚も信じようとする人間は、それこそいろはくらいだろう。

「いや……俺は信じる……」

助手席からの苦し気な声に、眠た気な瞳が僅かに揺らぐ。
額に汗を浮かばせ、迫りつつある死へ必死に抗う表情は最初に会った時以上に険しい。
けれどねむを見つめる瞳に、怒りや責める意志は宿っていない。
治療に必要な道具欲しさで、機嫌を取るのとも異なる。

「身を隠せる場所に向かってくれ……ねむなら大丈夫だ……」
「……分かった。どの道ここで議論を続けても、時間を無駄にするだけだな」

鋼牙の言葉を受け、多少の戸惑いを残し車を再発進。
今言った通りだ、行動に移さねば何も変わらない。
みふゆに生かされた命が無意味に尽きるのは、幻徳だって望んでないのだから

839それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:05:43 ID:zKXIPIHA0
雪がそこら中に積もった道を走らせ、やがて錆び付いたゲートの前に到着。
白井農場、塗装の剥がれた柵に貼り付けられた名前を三人は知らない。
耕作や牧畜目的の施設なれど、本来の用途で使われた痕跡は見当たらなかった。
一本道を進んだ先に一軒家がポツンと建ち、一先ずそこを休憩場所に決定。
玄関扉に手をかけ、開けた途端に冷えた空気が来訪者達を迎え入れる。

鋼牙に比べれば幾分消耗もマシな幻徳が先頭を行き、室内をざっと確認。
自分達以外の気配は感じられず、取り敢えずは多少警戒を緩めても問題無し。
一先ずの安全を確保し終えたなら、次にやるのは傷の治療。
ねむの言葉に嘘は無く、デイパックから件の道具を取り出した。

巨大な花の蕾、そうとしか表現できない奇妙な物体。
床に置くと花開き、上に乗るよう二人の男へ指示。
困惑を挟み言われた通りにしてみれば、すぐに効果が表れた。
一瞬で、とまではいかずとも傷が徐々に塞がり出す。
思考を鈍らせる痛みが引いていき、ふと疑問が声に出た。

「さっきの戦いでもしこれを使っていれば……」
「それは難しいと思うよ。この道具の上でじっとしてないと、傷も治らないからね」

回復が済むのを大人しく待ってくれる敵でなかったのは、三人全員理解している。
だからみふゆも、あの場で道具を呑気に使う選択を真っ先に外したのだろう。

やがて効果時間も切れ、展開した道具は跡形も無く消失。
完治まではいかずとも、重症からは復帰出来た。
後は残る負傷箇所へ処置を施し、休憩も兼ねて各々の持つ情報を改めて開示。
体力の回復を見計らって再度出発。

となる前に、ハッキリさせねばならない事がある。

840それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:06:26 ID:zKXIPIHA0
「さてと、そのままでいいから聞いて欲しい。いや、どちらかと言うとお兄さんの方が僕に聞きたいことがあるのかな」

切り出した声色はこれまでと同じ、緊張の類が宿らぬもの。
しかし他愛のない雑談でないとは鋼牙にも分かる。
聞きたいことがあるか否か、答えは勿論前者。
先の戦闘でねむが見せた奇妙な力一体何なのか、何故自分に力を隠していたのか。
至極当然の問い掛けを口に出すより早く、ねむの瞳がもう一人へ向けられる。

「みふゆから聞いた話を、お兄さんにも伝えてあげてくれないかい?」
「……良いのか?」
「構わないよ。何を言われたかは想像が付くし、間違ってもいないだろうからね」

自身の立場が危うくなるだろうに、問題ないと言う。
これには幻徳の方が却って戸惑いを覚えるも、ややあって口を開く。
みふゆから聞いたマギウスの二人について、危険性と元居た世界で何をやったのかを。

「俺が梓から聞いたのはこれが全部だ。それで、お前は本当に……」
「そうだね、みふゆの話に嘘はないよ」

あっけらかんと肯定すれば案の定、黙って聞いていた鋼牙の顔も険しさが増す。
争いを知らない少女なら怯えるだろう表情にも怯まず、眼鏡越しに視線を合わせる。
分かり切っていた反応だ、警戒するなと言う方がおかしい。
殺すまではしなくても、拘束と無力化くらいはされても不思議はない。
傍から見れば自分の方が良からぬ真似をされてそうだと、どこか能天気に思う。

「二つ程聞いておきたい。檀黎斗に従って殺し合いに乗る気はないんだな?」
「無いよ。彼の持つ願いを叶える力に興味はあるけどね」

嘘は言ってない。
魔法少女…最優先でいろはの救済を目的にしてはいるが、優勝を目指す気は皆無。
黎斗が素直に願いを叶える保障はどこにも無く。
何より、いろはと灯花が参加している以上プレイヤーの皆殺しを選ぶ筈もない。
主催者の持つ力を奪い取って、自分達の望みを叶える。
その過程で犠牲が必要なら、躊躇なく切り捨てるが。

841それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:08:00 ID:zKXIPIHA0
「それで、もう一つは何を聞きたいのかな?」
「環いろはを守って欲しいと言った事は、打算のない本心か?」
「…………」

今度はねむの方が言葉に詰まる番だった。
神に選ばれた駒の中で、最も心を掻き乱す存在。
己の幸福全てを投げ打ってでも、助けたいと心から望む魔法少女。
最愛の二文字が最も当て嵌まるいろはの話に、偽りを混ぜたのか。
尋問されている訳でなく、怒声を放たれてもいない。
だけど、この問いにだけは下手な誤魔化しを言う気になれなくて。

「……本当のことだよ。少なくともいろはお姉さんは、お兄さんに警戒されるような人じゃない。
 僕を敵と見なしても構わないけど、お姉さんだけは守ってあげて欲しい」

放送で名前が呼ばれなかった以上、先の6時間はいろはもどうにか生き延びたのだろう。
なれどこの先もずっと無事が保障される訳じゃない。
自分達や七海やちよよりも付き合いの浅い者を助けようと、無茶ばかりを繰り返してやいないか。
下手をすれば、自分と灯花が魔法少女の救済を果たす前に命を落とす可能性とてゼロに非ず。
鋼牙からすればムシの良い話と取られても、反論は出来ない。
それでも、いろはを守ってくれと伝えたのは嘘偽りない本心からだ。

「分かった。なら約束を違えるつもりはない。お前も、お前が大切に想う者も必ず守る」

だから迷わず返って来た言葉へ、訳も分からず動揺が走った。

「いろはお姉さんのことは感謝するけど、僕も、かい?」
「真実を隠していたとしても、それでお前を守らない理由にはならないだろう」
「都合良く利用されて、用が済んだら切り捨てられるかもしれないのに?」
「なら余計に、お前の手を汚させない為にも離れるつもりはない」

ねむが隠していた魔法少女の情報を知り、気を張っておくべきとは考えた。
だが彼女を見捨てる、或いは今後敵として扱うなど。
謂わばねむが予想したような行動に出るつもりはない。
たとえ打算込みの選択であっても、自分や幻徳達を助ける為に魔法少女の力を使ったのなら。
いろはを守って欲しいという願いに、偽りが宿らないなら。
それだけで鋼牙が戦う理由になる。
守りし者の使命を果たす事へ、一切の躊躇を必要としない。

842それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:08:50 ID:zKXIPIHA0
「……、……そうか。じゃあ、好意として有難く受け取らせてもらうよ」

本気で言ってるのかとか、どうしてそうまで自分を信じられるのかとか。
寸での所で疑問を飲み込み、動揺を隠し淡々と返す。
監視の目が厳しくなるとはいえ、今後も戦力として期待出来るのだ。
なら別に問題ないだろう。
一体全体何をムキになって、言い返そうとしたのか。
睨み付けてはいなくとも、力強い眼差しの鋼牙から瞳を逸らす。
話さなくても良い事まで言ってしまいそうな、自分の間違いと真正面から向き合わされるような。
後ろめたさにも似た居心地の悪さがあった。

「君も、お兄さんと同じ考えなのかな」
「お前が誰かを傷付けないよう、近くで見張っておくなら俺も賛成だ」

問われた幻徳の答えは、鋼牙同様ねむへ危害を齎す気はないというもの。
この目で力の一端や、小学生らしからぬ落ち着きようを見ても。
エボルト並に危険な少女とは、未だ実感が湧かない。
かといってみふゆが嘘を吐いたとも思えず、警戒は払うつもりだ。
ただそれとは別に、言っておきたい事があった。

「もし過去にやって来た事や、梓の死に少しでも思う所があるなら……それから目を逸らすな。
 罪の意識すら感じなくなった時は、本当の意味で手遅れになる」

パンドラボックスのエネルギーを浴びたせいと、言い訳する気はない。
禁断の箱が齎す悪影響で野心に憑りつかれ、どれだけの罪に手を汚して来たのか。
何人を実験で使い潰した、幾つの悲劇を生み出した。
今更になって過去の行いを悔いても、失った命は戻って来ない。
「お前の罪は消えない」、元凶である星狩りの言葉は何も間違いじゃあないのだ。

罪の意識に苦しまない自分であったら。
腕の中で息絶えた父に、涙を流さない己であったら。
戦兎達と共に、ヒーローとして戦う光景は実現しなかった。
最後の最後まで救いようのない悪党(ローグ)として終わる、有り得たかもしれない末路を。
ねむが辿るのを、幻徳も望んではいない。

843それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:09:47 ID:zKXIPIHA0
「……忠告は受け取っておくよ」

痛い所を突かれた自覚があるのか、僅かに言い淀んだ後。
結局返せたのは、そんな無難な一言だけだった。

鋼牙との決裂も覚悟していたが、そうならずに済んだ。
放送前よりも監視の目が強くなるとはいえ、荒事を押し付けられる人材としては今後も期待出来るだろう。

(悪くはない、筈なんだけどね……)

最悪の事態と悲観するにはまだ早過ぎる。
自分も灯花も、いろはも未だ生存中。
金髪の偉丈夫のような桁外れた参加者こそ存在すれど、立て直しは十分利く範疇内。
やることは変わらない、何を犠牲にしてでもいろはを救う。

だというのにどうしてか、心の何処が微かに軋むような錯覚を覚えた。


【B-2 白井農場/一日目/朝】

【冴島鋼牙@牙狼-GARO-シリーズ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、自分への強い怒り
[装備]:冴島鋼牙の魔戒剣@牙狼-GARO-、魔導火のライター@牙狼-GARO-、
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜4、首輪(星合翔李)
[思考・状況]
基本方針:守りし者として人々を守る。この決闘も終わらせる。
1:ねむを守り、彼女の友人を探す。約束を違える気はない。
2:逃げた男(野獣先輩)から必ず仮面ライダーの力を取り戻す。
3:首輪の解析が出来そうな参加者を探し、この首輪を託す。
4:零……
5:葛葉紘汰、あの男の事は忘れない。
6:あの黒い騎士(葉霧)は何者だ…?
[備考]
※参戦時期は牙狼-GARO- 〜MAKAISENKI〜終了後

【柊ねむ@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:健康、魔力消費(中)、いろはの存在へ動揺、黄金騎士への複雑な感情
[装備]:フリーザの小型ポッド@ドラゴンボール
[道具]:基本支給品一式×2、ガシャットギアデュアル@仮面ライダーエグゼイド、ランダム支給品×0〜3(みふゆの分含む)
[思考・状況]
基本方針:手段を問わずに主催者の力を奪って魔法少女を救済する。
1:これで良い、筈……。
2:鋼牙お兄さん達と行動。荒事に関しては彼らに任せよう。
3:魔法少女への変身はなるべく控える。つもりだったけど…。
4:灯花とも合流しておきたい。
5:七海やちよは邪魔になるなら排除。
6:もしいろはお姉さんと会ったら僕は……。
7:希望…馬鹿馬鹿しいよ……。
8:ドッペルが使えたのは何故だろう?
[備考]
※参戦時期は死亡後。

844それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:10:38 ID:zKXIPIHA0
【氷室幻徳@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、無力感と力への渇望(大)
[装備]:ロストドライバー+スカルメモリ@仮面ライダーW、軍刀@ゴールデンカムイ
[道具]:黒塗りの高級車@真夏の夜の淫夢
[思考・状況]
基本方針:黎斗達を倒して殺し合いを止める。
1:冴島達と行動。柊に警戒しておくが、間違いを犯す気なら止めたい。
2:梓…すまない……。
3:エルフの少女(コッコロ)とユウキを知る者にキャルの伝言を伝える。
4:エボルト、里見灯花、カイザーインサイトを警戒。
5:俺にもっと力があればこうならなかったのか…?
[備考]
※参戦時期はTV版で死亡後。


『支給品解説』

【回復フィールド@大乱闘スマッシュブラザーズシリーズ】
『スマブラSP』に登場する回復アイテム。
最初はつぼみのような形をした投擲アイテムで、投げて地形に付けるとフィールドが展開され中に入っている間だけ回復できる。
自分(味方)だけでなく相手も回復させるが、相手の回復量は自分よりも少ない。
相手にぶつけた時は然程威力はないものの、低い角度でふっとばせる。


『施設解説』

【白井農場@仮面ライダー剣】
B-2に設置。
白井虎太郎の親代わりの叔父が、虎太郎に遺した物件である農場。
広い敷地内に虎太郎の自宅である古い2階建ての一軒家があり、玄関先には『白鳥号』と呼ばれるクラシックカーが駐車されている。
第1話でアパートを追い出された剣崎が、第2話からBOARDを失った栞がそれぞれ居候を始めアンデッド対策の拠点となった。

845それから目を逸らすな ◆ytUSxp038U:2025/06/06(金) 16:11:20 ID:zKXIPIHA0
投下終了です

846 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/06(金) 16:35:12 ID:CDerigb60
拙作「Successor Soul」ですが、
MNRの首輪を回収した描写が抜けていたので修正しました
同時に、Lの支給品にMNRの首輪があります

847 ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:33:22 ID:JcD8bctM0
ゲリラ投下します

848百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:35:46 ID:JcD8bctM0
日常を謳歌していた二人の少女は、己が刃に想いを乗せる――
 
永遠の刹那。そんなありもしない幻想を懐くのは罪なのだろうか――?



 何かを考え込むように、チノの視線の様子がおかしい。
そう気付いた私だけど、なんて声を掛ければいいのかわからない。
 もしもここに零が居たら気さくに振る舞ったり、チノのメンタルケアをしてくれたかもしれないけど――零は死んだから。

 チノが何を考えてるのか、だいたい察しはついている。
 それはきっと檀黎斗が話していた〝願いを叶える権利〟について。
 マヤという友人に続いて、リゼという友人もチノは失っている。ここで僅かな時間とはいえ交流して、仲間になった零や司も殺されている。

『なんで私達がこんな目に遭わなきゃいけないんですか……!
 マヤさんが、リゼさんが、零さんが、司さんが……何か悪いことをしたんですか……!!
 私達が一体、あの檀黎斗って人に何をしたっていうんですか……!!』

 チノがあの時に叫んだ言葉は全くその通りで――だから私は何も答えられなかった。

 私は閃刀姫として戦い抜く過程で、たくさん殺したし喪った。それこそが、戦争だから。
 もしもレイに会う前にチノの問いを聞いていたら〝それが戦争〟なんてあまりにも残酷な真実を突き付けていたかもしれない。
 ……そう、これは戦争とほとんど変わらない。殺し合いだとか、デスゲームと言ってるけど――その残酷さや醜さは戦争と同じ。

 それはいつかチノにも自覚してもらう必要があるけど……二の足を踏んでしまうのは私がレイに出会って我ながら甘くなったから。レイはそんな私を〝好き〟と言ってくれるけど、この甘さはこういう時に困る……。本音を言えば、チノにこのデスゲームの過酷さを伝えたいけど――伝え切れない。

 それでもチノの薄暗くなった瞳はあまりにも哀しくて――私はチノを抱き寄せて、ぎこちなく彼女の頭を撫でる。

「ロゼ、さん……?急にどうしたんですか?」

 チノの少しダウナーな声。
 けれどもその声はいつもより暗くて、か細いように聞こえた。

「チノ。私はチノと――刃を交えたくない」

 だから私は単刀直入に言葉をハッキリと伝える。
 だってここでチノを手放したら、彼女は永遠に暗い道を歩むことになりそうで――それはまるで、過去の私みたいに。
 ……事情は違う。過去の私は列強国に騙されてた、ただの殺戮者で――チノはおそらく尊い願いのために闇が連なる道を歩もうとしている。

「……ロゼさんには、わかってたんですね」

 チノが申し訳なさそうな声音と表情で私を見る。
 そう。私はチノの迷いを、理解していた。出会ってまだ短いけど……チノとその友人。特にココアとの関係性はよく知っている。……チノがココアを特別、好きということも。
 そのココアの名前が放送で呼ばれなかったのは幸いだけど、チノはリゼを含めて多く取り零した。……司や零のことも考えられる優しい少女だから、余計にそう思う。
 
 「……お前が自称神の言葉で心が揺れてることくらい、俺にもわかるぜ」

 凌牙も私と同じで、チノの変化に気づいていたらしい。まだ子供なのに――随分と洞察力に長けてる。というか異常なくらい場数を踏んでるように見える。
 零みたいな明るい雰囲気じゃないけど、彼もまた頼りになる戦士。……あまり子供を戦場に巻き込むのは気が引けるけど、このデスゲームでは戦わなければ生き残れない。だから戦う手段を持つ凌牙は、そういう意味では有利。

 だけどその雰囲気は今、険しくて――チノを警戒してるのがわかる。
 ……きっと私と違って接近戦が得意じゃないから、余計に警戒してる。チノが剣を振るって、それが凌牙に当たれば凌牙が命を落とすか、致命傷を負うことになるから。

「私は……正直、わからないんです」

 必死に絞り出すような、チノの声。
 そこに込められた彼女の苦悶が、よく伝わる。

「それは優勝を狙うべきか、私達と抗うべきか?」

「はい。……優勝をしたら、死んだ人を生き返らせれると放送で言っていました。そしてきっと――そのために必要なのは、人質の美遊さんです」

「なるほど……。たしかにイリヤの話を聞く限り、そういうことになる」

「認めるのかよ。まあ俺も否定はしねぇけど――ロゼ、お前は敵か味方かどっちだ?」

「私は殺し合いに抗って、レイと再び日常を送る。……そこにはチノやここで出会った仲間も居ていいと思ってる」

「ロゼさんは……」

「?」

 チノが僅かに怒気を含んだ声で口を開く。

「ロゼさんはいいですよね!まだ帰るべき日常があって!レイさんが居て――!」

849百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:39:27 ID:JcD8bctM0

「チ、ノッ!」

 ダッ!

 チノが剣を片手に私に斬りかかる。

「私の日常はもうグチャグチャです!マヤさんもいなくて、リゼさんもいなくて――喪ってばかりです!」

「それはそう……。チノはあまりにも失い過ぎた……」

 私はチノの言葉を否定出来ない。

「だから私が優勝して、みんなを生き返らせます!変身!」

 ――瞬間、チノの服装が変わった。
 軽い力で受け止めていた刀が、金属音を鳴り響かせて鍔迫り合いする!

「ッチ!こうなったら――」

「凌牙はそこで見ていて。これは私とチノの問題……!」

「随分と余裕ですね、ロゼさん。その余裕はまだレイさんが生きてるからですか!?」

「……たしかにレイが死んだらどうなるかわからないけど――それは違う。冷静に戦わないと、今のチノは止められない」

「止める?このグチャグチャになった私をですか!?」

 ――たしかにチノの表情(かお)はグチャグチャだった。
 色々な感情が混ざって、すごくグチャグチャ。

 そしてチノが鍔迫り合いの状態から剣を弾いて、再び斬りかかる。
 私もまた剣で受け止める。
 そんなことを、何回も繰り返した。

「チノは私が止める。誰も、殺させない」

「ごちゃごちゃ綺麗事をうるさいですね……!」

「たしかに綺麗事かもしれない。でも、チノにだってまだココアが居る!」

「ココアさんが居ても、マヤさんやリゼさんはいないです!」

「それはそうかもしれない!だけど優勝を目指すには、ココアを殺す必要がある!」

 お互い剣戟に交えて言葉を語り合う。
 そして私の言葉に――チノは大きく目を開いた。

「え?私がココアさんを――」

「ロゼの言う通りだぜ、チノ。優勝を狙うなら皆殺しにする必要がある。――その覚悟がお前にはあんのか?」

「……そう。だからチノが優勝するには、ココアも殺さなければいけない。もちろん、他の友も」

「そんな……それだと私が日常を壊してるみたいじゃないですか……」

「……優勝を目指すなら、そうなる」

 その可能性を考慮してなかったのか、チノが一瞬だけ膠着する。

「それなら……!それならどうしたら私の日常は取り戻せるんですか!」

 ――ヒュンッ!
 チノが勢い良く剣を振るう

 ――ガキィィン!
 凄まじい金属音が鳴り響き、私が剣で受け止める。

「残念だけど、一度喪ったものは取り戻せない……」

「取り戻せます!優勝してみんなを生き返らせるのはどうですか!?」

 チノが激情に駆られたように激しく剣を振るい、私は剣でそれらを弾く。
 エンゲージするまでもない。技術の差で身体能力の差は埋められるし――今はこのチノの激情を受け止めてあげたい。荒波のように押し寄せる、チノの怒りを。そして哀しみを。
 そしてチノと対話して、分かり合いたい。
   
「……その過程でココアを殺すとしても?」

「ココアさんはたしかに一度、死ぬかもしれません。でもまた生き返らせれば、ココアさんはきっとまた笑ってくれるはずです!」

「……本気でそう思ってる?」

「当たり前です。ココアさんなら、ココアさんならきっとわかってくれるはずです!」

 ……嘘だ。
 チノは嘘をついて、自分の本心を誤魔化そうとしてる。
 そして私はそんな嘘偽りで覆い隠した心を放置したくない。チノはそんな子じゃないと思うから――助けたい。

「チノ。もう一度言う。喪ったものを――命を軽んじるのは良くない」

850百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:40:30 ID:JcD8bctM0
 チノの瞳を真っ直ぐと見て、そう言った。
 そう。命は軽いものじゃない。その重さは――皮肉にも、閃刀姫だからよく理解している。
 ――だから灰色(グリザイユ)の迷宮を彷徨うチノに容赦のない言葉を浴びせる。
 それは彼女を止めたいからでもあるし、しっかり本心と向き合ってほしいから。

 ――チノを殺すのも、制圧するのも。力で止めるのは難しくない。私には凌牙もいる。
 でもそれじゃダメ。そんなやり方は間違っている。
 力で勝つだけじゃ、何かが足りないから。
 時にはこうして剣を交えることも大事かもしれない。そうすることでチノの気持ちを受け止められるなら……。
 でもこれは殺し合いじゃない。私はチノを死なせる気がない。

『時には拳を、時には花を――ですよ、ロゼ』
 
 ――過去にレイが口にしていた言葉が脳裏に蘇る。

 『……よく、わからない』

 当時の私はそんなふうに返事をしていた。もしかしたら困惑気味の表情になっていたかもしれない。

 『いいですか?ロゼ。――闘いの場所は心の中なんですよ』

 ――レイは微笑みながらそう言っていた。
 そしてその言葉は――本当にその通りだと思う。私たちは――閃刀姫は殺戮兵器じゃないから。人間だから。
 殺して、制圧して、身動きを取れなくして――そうやって力で勝つだけだと、殺戮兵器と変わらない。
 だから自分にだけは決して負けない。それが私の誓い。

「……命を軽んじてなんて、ないですよ。むしろ重いです。マヤさんの分も、リゼさんの分も。すごく……重たいです。
 だから――」

「――それなら!」

 私が珍しく発する大きな声に、チノがビクリと怯える。
 でも私の目的はそれじゃない。
 私が言いたいのは――

「それなら、気軽に全員生き返らせるなんて言わない方がいい。それは死者への冒涜」

「……気軽に言ってなんか、ないですよ。ただ私はどうしたらいいのかわからなくて、またみんなで他愛もない話をして日常を過ごしたいだけです。そのために、覚悟を決めたんです!」

「それがココアやチノの友達や、私達ここで出来た仲間を殺すことになっても?」

851百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:41:15 ID:JcD8bctM0

「はい。だからみんな生き返らせるんです……!」

「……チノ。自分の言ってる意味がわかってる?」

「わかってますよ!もう私は奇跡に縋るしかないんです……!」

「何もわかってない。マヤやリゼを〝奇跡〟で生き返らせても、きっと彼女達は良く思わない」

「……!」

 チノが一瞬だけ大きく目を見開き――首を左右に振る。

「それはわからないじゃないですか!どうしてマヤさんやリゼさんを大して知らないロゼさんがそんなことを断言出来るんですか!」

 必死に現実を否定するように、チノは怒号と共に剣を何度も振るう。
 私はそれらを自分の剣で弾きながら、口を開いた。

「――それは、チノを信じてるから」

「そんなことマヤさんやリゼさんには無関係じゃないですか!」

「そんなことない。チノを信じてるから――チノの友も優しい心の持ち主だと信じられる」

 それは嘘偽りない私の本音だった。
 レイと深く関わるようになってから本当に考え方が変わった――と我ながら思う。
 以前の私なら、危険要素を秘めたチノは迅速に殺していた。説得なんてしなかった。
 でも今の私は、違う。
 チノを殺戮者にしたくない。チノを殺したくない。私と同じ気持ち――と言っても恋愛感情まではないけど。
 ココアのことをまるで家族のように話すチノを同志と思ってるから……余計にどうしても、肩入れしてしまう。
 
「……っ!」

 チノが言葉を詰まらせる。
 それでも剣は振り続けていた。まるで現実を否定するような、ヤケクソ気味に我武者羅な太刀筋で。
 そんなチノの気持ちを剣で受け止めながら、私は続ける。

「今のチノをココアが見たら、きっと悲しむ。ココアすら一度殺して元通りなんて――世界はそんなにも甘くない。チノに殺されたココアの心は変わり果てるかもしれない」
 
「それ、は……!」

「チノがやろうとしてることは、みんなの命を奪うと同時に魂の殺人。――それはわかってる?」

「それは……たしかにそうかもしれません。でも、じゃあどうしたらいいんですか!」

「悔いが残らねぇ選択をすることだな。ただしチノ、テメェが皆殺しにする覚悟を決めたなら俺やロゼが全力で止める」

 凌牙がそんなことを言う。
 その口調は重くて、彼も何かを背負ってるように見えた。

「俺はダチの遊馬を殺された。だが他人を殺し回ってあいつを生き返らせるつもりもねぇ。そんなことしても――あいつは喜ばねぇし、悲しむって信じてるからだ。――チノ、お前のダチは違うのか?」

 レイがまだ生きてる私と違って友を失った――チノと同じ境遇の凌牙の言葉。
 それはもしかしたら私の言葉よりもチノの心に届いてるかもしれない。

「マヤさんやリゼさんも同じですよ!でも私は日常を取り戻したくて――だから、そのために!」

「――チノ。元通りの日常には戻れないかもしれない。でもココアやメグの名前はまだ放送で呼ばれてない。つまりまだ生きてる可能性が高い」

「……そうですね。ココアさんやメグさんはまだ生きてます。でもリゼさんのいないラビットハウスやマヤさんのいないチマメ隊なんて、そんなの嫌です……!」

「……気持ちはわかる。私もレイを失いたくないから。でもココアやメグまで殺したら、チノは本当に日常に帰れなくなる。たとえ死者蘇生させたとしても……きっとチノの心は壊れて、戻らない」

「じゃあ、私はどうしたら……!」

「まだ生き残っているココアとメグを大切にしたら良い。マヤとリゼは失ったかもしれないけど――この二人とならまだ日常に戻れる可能性がある」

852百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:41:54 ID:JcD8bctM0
「……言ったじゃないですか。リゼさんがいないラビットハウス。マヤさんがいないチマメ隊なんて……嫌なんです。もうこうなったら自殺でもした方が――」

 ――パシンッ!
 私がチノをビンタした音が、鳴り響いた。

「な――何をするんですか!」

 チノが動揺気味になりながらも、声を荒げる。

「……チノ。言っていいことと、悪いことがある。チノが自殺なんてしたら、みんなが――私も、悲しむ。だから、やめてほしい」

「こんな地獄みたいな状況でまだ足掻けと、ロゼさんはそう言うんですか!?」

「そう。その代わり――チノやココアやメグは私が守る。約束する」

 そう言って、小指を差し出す。

 『いいですか?ロゼ。何かを約束する時はこうするんですよ。指切りげんまん……って!』

 過去にレイに教わった〝約束〟の方法。
 それを実行するために私は小指を差し出した。

「……わかりました」

 チノも剣を仕舞い、互いの小指と小指を組ませて――

「指切りげんまん。嘘をついたら針千本飲む」
「ありがとうございます。ロゼさん……」

 そうするとチノが瞳からまた雫を垂れ流したから――私は彼女を抱き締めて、ぎこちない手付きで撫でる。

「本当はココアにしてもらいたいだろうけど、今は私で我慢してほしい……」

「我慢なんて……そんなことありません。ロゼさんが優しい人で良かったです……」

 涙声になり、私に抱き締めながらチノはそんな言葉を口にした。

「私も……チノが強くて優しい子で良かった……」

 私や凌牙の言葉で誰かを殺す前に止まったチノは、強くて優しい子だと思った。
 もしもチノが止まらなかったら――本当にどうなっていたかわからない。
 平静を装ってたけど、本当は緊張していたし、不安だった。
 緊張から解放された身体が――思わずよろめきかけて。

「わわっ!大丈夫ですか!?ロゼさん」

「大丈夫。緊張感が抜けて、よろけただけ」

 よろけた私をチノが受け止めて、心配そうに声を掛けてくる。

「それなら良かったですが……ロゼさんも緊張してたんですね……」

「そう。少しだけ……」

「そうですか。本当にありがとうございます、ロゼさん」

 そんな私をチノは不器用な手付きで撫でてきた。
 よろけた態勢を受け止められた状態だったから私の頭はチノの手が届く範囲にもあって……チノのそのぎこちない撫でが、どことなく心地好い。

「でも……ロゼさん。私は、強くないですよ」

「いや……チノは強い。私と凌牙の言葉で止まったチノの心は……強い」

「……それは二人のおかげです。私一人では弱いです。……だからまた私に力を貸してくれないですか?私一人だと、ココアさんやメグさんを守ったりこの殺し合いから抜け出すのは難しいですから」

 チノの言葉に、私は微笑む。
 ……あまりこういう表情にはまだ自信がないから、上手く微笑めてるかはわからないけど。

「言われるまでもない。――さっき言った通り、チノとココアとメグは私が守る。そしてこの殺し合いは私が終わらせる」

「ッたく、しょうがねぇ奴らだな。俺もお前らに手を貸してやるよ。……遊馬でもそうするだろうからな」

 そう口にする凌牙は、言葉とは裏腹にそんなに嫌そうな表情や顰めっ面はしてない。

「ロゼさん、凌牙さん……ありがとうございます!」

 チノは涙を拭うと、私達に微笑んできた。
 そんな彼女を見て、ホッと胸を撫で下ろす。
 本当に強くて、優しい子だと思った。――だから私はチノの笑顔を守れたいと、改めて誓う。

 ◯

 やがて真上に太陽昇り、全てに影を作るように。
 君が不安を感じたとしても――1人きりじゃない。
 君の周りには想いが溢れ……。
 雨上がり虹、大空に青。
 君に自由な翼……。
 迷った時でも、常に前を見て。心届く声、こだまする木々。
 足音は響き……。――さぁ、始まりの君へ

853百四之巻 始まりの君へ ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:42:36 ID:JcD8bctM0
【D-3 エーデルフェルト邸/一日目/午前】
【閃刀姫-ロゼ@遊戯王OCG】
[状態]:疲労(大)、左肩に斬傷(治癒済み)
[装備]:閃刀姫-ロゼの剣@遊戯王OCG、
[道具]:基本支給品×2、涼邑零の魔戒剣@牙狼-GARO-、チームみかづき荘のロケット@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)
     モウヤンのカレー@遊戯王OCG、閃刀姫-カガリ(現在召喚不可能)@遊戯王OCG、ランダム支給品×0〜2(零の分含む。)
[思考・状況]
基本方針:檀黎斗やハ・デスを斬り、大切な人(レイ)の待つ平和な日常に帰る
1:零……司……。
2:仮面ライダーらしき参加者(駆紋戒斗、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳)とチノ、遊戯、凌牙の仲間を探す
3:レイを見つけて守る。
4:私やレイがカードに?どういうこと? それに彼女(カガリ)ってレイの……
5:チノとその友(ココア、メグ)は私が守る
[備考]
※遊戯王カードについての知識はありません。
※どの方角に向かったかは次の書き手氏にお任せします

【香風智乃@ご注文はうさぎですか?】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(小)
[装備]: チノ(せんし)の剣@きららファンタジア
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1、ご隠居の猛毒薬@遊戯王OCG(4時間発動不可)
[思考・状況]
基本方針:ハ・デスや檀黎斗達を倒して平和な日常に――ココアさんのいる場所に帰りたいです
1:仮面ライダーらしき参加者(駆紋戒斗、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳)と遊戯さん、凌牙さんの友人を探したいです
2:ロゼさんや凌牙さんに協力します。
3:ココアさんやみんなを探したいです
4:ティッピーはここにはいないんでしょうか……?
5:マヤさん……リゼさん……
6:平行世界のココアさん…私の知ってるココアさんとは違うんですか?
7:エボルトを警戒。何なんですかこの人……。
8:私はもう迷いません。ロゼさんや凌牙さんと一緒にこの殺し合いに抗います
[備考]
※どの方角に向かったかは次の書き手氏にお任せします

【神代凌牙@遊☆戯☆王ZEXAL】
[状態]:健康
[装備]:デュエルディスクとデッキ(神代凌牙)@遊☆戯☆王ZEXAL
[道具]:基本支給品×2(自分、遊馬)
[思考・状況]基本方針:遊馬の導いた希望の未来のために主催者を倒す
1:カイトは協力を頼んでおく。ベクターは……会ってから判断
2:不動遊星、仮面ライダーらしき参加者(駆紋戒斗、花家大我、桐生戦兎、万丈龍我、氷室幻徳)と遊戯、チノの友人を探す。
3:魔法を破壊出来る上にあの攻撃力……あの女(ジャンヌ)厄介だな。
4:こいつ(蛇王院)の怪我はもう大丈夫か
5:遊馬を殺した奴は気になるが、復讐心にはかられるな
6:村雨を持った奴を警戒
7:どうやらチノの迷いは晴れたようだな
[備考]
※参戦時期は最終回後。
※どの方角に向かったかは次の書き手氏にお任せします

854 ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 01:42:59 ID:JcD8bctM0
投下終了です

855 ◆QUsdteUiKY:2025/06/10(火) 07:36:34 ID:JcD8bctM0
拙作「切なさも、胸の痛みも全て秘めた勇気に変え」以降の肉体派おじゃる丸ですが所持品から異次元からの埋葬@遊戯王OCGが抜けていたので修正しました
また異次元からの埋葬@遊戯王OCGの説明文を追記しました

856 ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:53:37 ID:RGAcntrk0
投下お疲れ様です。自分もゲリラ投下します

857SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:54:46 ID:RGAcntrk0
桜ノ館中学に思う所があるかと聞かれ、首を縦に振る者はここにいない。
白鳥司は施設の存在を知る事なく、定時放送前に脱落。
琴岡みかげは覇瞳皇帝に心を委ね、今は廃ホテルへ身を潜ませている。
鷲尾撫子に至っては、本選出場の権利自体を与えられなかった。

数時間前に集まった面々からすると、神が戯れに再現した学び舎の一つに過ぎない。
出発準備を終え、正面出入り口へ向かう二人にとってもそう。
もし再びエリアへ来る機会があったら、目印になるかといった程度。
名残惜しさは抱かず、いろはの意識はこれより向かう場所へ。
正確に言うと、そこで待ってるだろう者に大きく割かれる。

少しだけ過去の時間から来たやちよは、今どうなっているのだろうか。
6時間を生き延びたがしかし、安堵を長続きさせられる環境ではない。
他の魔法少女の追随を許さぬ強さとはいえ、殺し合いのプレイヤーは油断ならない強者ばかり。
まして放送で親しい存在が二人も呼ばれたのだ。
打ちのめされ、澄んだ心に澱みが生まれてもおかしくない。

悲しみのぶつけ先に迷い、自分自身を傷付けてしまうようなら。
会いに行き、受け止めてあげたい。
生きている自分の姿を見せ、交わした約束が偽りじゃないと伝えたい。
たった一人でも強くあろうとし、その実孤独を嫌う不器用な優しい人。
時間軸が違えどいろはにとっては、大切で時に憧れ以上の想いを向ける相手で――

「そんじゃあ宜しく頼むぜお二人さん。暫くは三人旅になるんだ、これを機にお互い友情を深るのも良いかもなァ?」

海の色をした、青く輝く三日月へ馳せる時間は強引に幕を下ろされる。
慈悲や配慮の真逆に位置するモノを籠めた、赤い蛇の軽口がいろはの意識を引き戻す。
自分達を追い越し前に出た男が、ヘラリと笑うのが見えた。
男性モデルと言われても通用する長身は、あくまで仮の姿でしかなく。
顔を変え、体を変え、性別を変え。
どれだけ変えても背筋が寒くなる本性だけは、常に付き纏う。

858SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:55:31 ID:RGAcntrk0
「は、はい。よろしくお願いします」
「……」

緊張感を隠せずとも、生来のお人好しさ故かいろはは律儀に頭を下げる。
反対に言葉を発さぬまま、貼り付けた貌から殊更に気色を削ぎ落とすのが黒死牟だった。
人の皮を被り、隙あらば癪に障る戯言を垂れ流す男へ何を思うか。
説明するまでもなく、それでもあえて言うのならば。
屠り合いの参加者に向けた中で、最も冷え切った視線が答えだろう。

「おっかない顔すんなって。いろはとの二人きりを邪魔されて、不機嫌になる気持ちは分かるけどよ。
 俺もいい加減道草食うのは終わりにしなきゃ、戦兎から雷落とされちまうんでな」

何が原因で怒りを買ったか、理由を分からない筈はなく。
分かった上で見当違いも甚だしい、妄言を嫌悪の理由に当て嵌める。
まっこと不快極まる物言いに、しかし殺意を刃へ宿す真似には出ない。
首に剣を添えられたとて、黙る男でないとは情報開示の場でうんざりする程理解出来た。
戯言へ馬鹿正直に付き合って得るものといえば、無駄に蓄積される不快感のみ。
まともに相手をする方が損だと、結論へ辿り着くのに時間は掛からなかった。

思い浮かべるは嘗ての同胞、始祖に仕えた上弦の弐。
滅多な事が起きねば百年以上顔を合わせないが、招集が掛かればその空白を埋めるが如く馴れ馴れしく接する。
序列が一つ下であった上弦の参には特に、傍目にもうんざりする程纏わり付いていたか。
今更になって憐憫だ何だのを抱く気はない。
ただ似たような事が降り掛かり、これは確かに鬱陶しいとの納得はあった。

「ま、お喋りはこれくらいにしてだ。のんびりし過ぎて待たせちゃ悪いんで、そろそろ行きますかね」

自分から余計な会話を始めたと自覚しつつ、エボルトは出発を促す。
いろは達かイリヤ達、どちらに付くか悩むこと数分と十数秒。
選んだのは前者、当初の予定通りやちよとの合流場所へ向かう。
D-1が禁止エリアに指定される予想外の自体を含めても、流石に戦兎と別行動を取り過ぎた。
元々信頼関係など皆無に等しい間柄とはいえ、エボルトからすれば万丈と並んで利用価値の高い人間。
道草食ったせいで決裂となっては、こちらとしても少々頭が痛い。
イリヤ達がカイザーインサイトの元へ行き、衝突が起きやしないかとの懸念はある。
だが天秤に掛けた時、前々から能力の高さを知る戦兎が勝った。

859SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:56:30 ID:RGAcntrk0
戦兎に顔を見せに戻るついでに、いろはをやちよの元へ送り届ける。
そう決めた以上、長々と桜ノ館中学に居座っていられない。

「で、遠足気分で歩いて行くのか?あの馬鹿デカい鰻を使えば、楽出来そうなんだけどな」
「うな……えっ、蛇じゃないんですか…?」
「貴様が的を一手に引き受けるならば……呼び出すのも吝かではない……」
「ナイスアイディアだが、今回は却下にしといてくれ」

フェントホープから三人をここまで運んだ大蛇、ククルカンの再召喚は可能。
優秀な飛行速度を誇るサガの眷属だったら、移動時間の大幅な短縮になる。
巨体故に目立ち過ぎる欠点へ、目を瞑ればという前提が付くが。
地上から狙い撃たれたとしても、対処不可能と断じるつもりはない。
しかし身動きの制限された宙で、鎧を剥がされるもしもの可能性を黒死牟は低く見れなかった。

「鰻のタクシーは別の機会に持ち越しってか。そりゃ残念だ」

何故この男はさも当たり前のように、こちらが使役する大蛇へ次も乗れると思えるのか。
ロクな答えが返って来ないのは確実な為、あえて聞きはしない。

「バイクはこの人数じゃ無理か。どっかに都合良く車でも転がってりゃ、軽く飛ばして行けるってのになァ」
「運転、出来るんですか?」
「これでも地球暮らしが長かったんでね。家族サービスのドライブは、残念ながら一度もやれなかったが」

旧世界を懐かしむエボルトが本心から言ってるかはともかく。
車を走らせるのが可能というのは大きい。
何せ運転技術を発揮するのにお誂え向きな足が、どこにあるのか知っている。
遠慮がちに横を向くと、彼の六眼と目が合う。
言いたい内容を察したのだろう、どことなく機嫌の悪さが見て取れた。

「……」

別に、黒死牟とていろはの考えが間違いだとは思わない。
使い道の生まれた道具を死蔵する方が、遥かに愚行。
散々不快感を煽った化生へ譲渡しなければならない、その一点が気に食わないだけだ。

とはいえ童さながらの駄々を捏ねてまで、拒否を示す程の恥知らずに非ず。
仏頂面で支給品袋に手を突っ込み、望みの物を引き上げる。
外へ飛び出たソレへ向けた蛇の笑いは、当然のように黙殺した。

860SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:57:05 ID:RGAcntrk0



振背後で桜ノ館中学が見えなくなり早数分。
舗装も何もされていない砂利道を抜け、灰色のアスファルトを発見。
信号や標識のない一本道を、エボルトが運転する車が駆けていた。

軽自動車と言うにはサイズが違う。
トラックと言うには形が異なる。
現代社会で見かける瞬間はあれど、一般人が乗り回す機会は普通なら永遠にない。
犯罪者の移送目的に使われる大型車両。
囚人護送車が、上弦の壱に宛がわれた最後の支給品であった。

車がなにかを、黒死牟が知識で知らない訳ではない。
大正時代の日本でも、自動車は徐々に普及が始まった。
人力車や馬車に大きく取って代わる程ではなく、本格的な生産はまだ先の話。
けれどそういった乗り物があるとは、黒死牟が生きた日本においても事実として存在する。
人とは異なる世界、異なる時間を生きる身なれど。
時代と共に変化していく社会と文化を知らぬまま、年号を跨いで来たつもりも無し。
元々は武家の長男に生まれ、教養があり、文字の読み書きを正しく学んだ男なのだ。
そういった生来の生真面目さが少なからず影響したか、定かでなくとも。
人間の世は知識となり蓄えられた。

尤も、知っているのと実際に運転可能かは別の話。
檀黎斗が蘇生させる際、都合良く現代の自動車を操れる技術も授けた。
などと都合の良い展開は起きず、折角の移動手段も宝の持ち腐れ。
仮に聖都大学附属病院に留まっていれば、天津あたりに譲渡したかもしれない。
襲撃で散り散りになった以上、起こらなかったIFの話だ。

「しっかし、運転出来ない奴に渡してどうしたかったのかねぇ?神様と馬鹿は何とやらってか?」

ゲームマスターへの嘲りを独り言ちるも、不敬と咎める者は付近に不在。
単なる面白半分かどうかは不明だが、正解が何であれ然して興味はない。
丁度良い足が手に入ったなら、エボルトには十分だ。
護送車の運転は初めてといっても、少し走らせれば慣れたも同然。
鼻歌交じりにハンドル操作し、チラと金網越しの後部を見やる。

861SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:58:06 ID:RGAcntrk0
被疑者用の座席に、向かい合って座る少女と男。
あくまで支給品だと分かってはいるが、いろはは妙な緊張感を覚えた。
真っ当に生きていれば、一生乗る機会の無い空間なら無理もない。

正面に腰を下ろす黒死牟は動揺もなく、黙したままルーフを見上げる。
透明度が最も低いスモークフィルムに加え、全ての窓部分にカーテンが常備。
外から被疑者の顔を隠す為の措置は都合良く、鬼の天敵を遮断する役目を果たす。
日を避けたまま最短での移動が可能なら、付ける文句も見当たらない。
確固たる方針は見付けられぬ身、だが闘争に臨む牙を腐らせる気も無し。
鉄の箱に座り込みながらも気を張り、襲撃への警戒は怠らなかった。

「……」

ふと、視線を屋根から正面に移す。
視界に閉じ込められた娘は気付いておらず、閉じた膝に目を落としている。
これより向かう先で待つのは、いろはが信頼を置く仲間。
しかもエボルトの話を聞く限り、並々ならぬ重さの感情をいろはに抱く者。
知己の友と再会するなら、願ったり叶ったりだろう。
但しそこに鬼という異物が混ざれば、果たして何が起こるやら。

「にしてもやちよの奴、お気に入りのいろはが男同伴で来て荒れなきゃ良いけどな」
「…やちよさんは、そんなことしません」

心を読んだかのタイミングで、運転席から戯言が飛び出す。
偶然に過ぎなくとも良い気分にはならず、僅かに目を細める。
ムッと反論したいろはも黒死牟の様子に気付き、困ったような表情を作った。

「ちょっとだけ驚くかもしれないけど、でも、話も聞かないで黒死牟さんを傷付ける人じゃありませんよ?厳しい所もあるけど、優しくて…繊細な人だから」
「……」

何を勘違いしてか、やちよのことを伝えて来るいろはへ返すのは沈黙。
恐怖や嫌悪が己に集まったとて、何一つ感じ入るものはない。
鬼とはそういう存在と分かり切った上で、始祖に魂を売り渡したのだ。
今更掌を返し、受け入れてくれと願う訳がないだろうに。
仮にエボルトの言った通りになっても、当たり前だとしか思わない。

ただ、いろはの表情が和らぐのを見て。
宿るのが紛れもない、七海やちよという女へ向けた信頼の証明と察し。
そのような者と自分を引き合わせるのに、何の抵抗もないのかと。
一抹の疑念が浮かぶも、問いが口を突いて出はしなかった。
聞いた所で、返される言葉は安易に予想が付く。

862SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 19:59:06 ID:RGAcntrk0
予想が付くくらいには、環いろはへ思考を割き続けて今に至る。
という雑念に顔を顰めるより早く、意識が闘争へ飛び込むソレへ切り替わった。

鼻を衝く戦のにおい、複数の敵意が肌を裂く痛みとなって駆け巡る。
獣の唸りに近いようで異なる、腸まで揺さぶる低い音。

「おっと?呼んでもいないお客さんが来ちまったか?」

同じ感覚を味わったエボルトも、サイドミラーで後部を確認。
先程から響いて止まない重低音の正体は、現代に生きるが故に即座に分かった。
排気ガスを吐き散らすバイクのマフラー音、それも一台ではなく複数。
護送車を追って現れた一団をしかと目に入れ、浮かべたのは呆れ笑い。
見覚えは無い、しかしどういった存在かエボルトも良く知っている。

「冗談にしちゃ、気が利き過ぎだぜ?ゲームマスター様」

呟きを掻き消すように、一段とエンジンを吹かしソレらが迫り来る。
黄金色(こがねいろ)のグローブにブーツ、胸部装甲は日を浴び一層輝く。
ライダースジャケットに似た強化服が全身を覆い、微かに地肌が見え隠れするのは首部分のみ。
スピードを上げる度に黄色のマフラーが靡くが、ダークグリーンの瞳は獲物を捉えて離さない。
どこか飛蝗に似た仮面のデザインと、風車を思わせるベルトに知る者は口を揃え言うだろう。
仮面ライダーと。

尤も、正確に言うとコレらは仮面ライダーの括りに入らない。
名をショッカーライダー。
秘密結社SHOCKERが、裏切り者の改造人間をベースに開発した上級戦闘員。
仮面ライダー1号、否、ホッパー1号と酷似した外見なのはそれが理由だ。
更に付け加えるなら、ショッカーライダー達は参加者ですらなかった。

「どいつもこいつも首輪は無し、と。解除方法を知ってるなら是非教えて欲しいね」
「戯けるな……自我無き人形の群れが……仕掛けて来たのだろう……」
「ルールにあったNPCが襲って来た、ってことですか…?」

参加者同士の戦闘だけを経験し、NPCに襲われたのは今が初。
しかしそういった存在が会場に解き放たれてると、いろはと黒死牟も把握済。
起こり得ない事態ではなく、動揺で慌てふためく醜態は晒さない。

863SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:00:30 ID:RGAcntrk0
「うおっ…とォ!」

単にバイクで追走するだけなら、振り切るのは困難じゃない。
生憎煽り運転程度で済ます程、お優しい行動はプログラムされていないらしかった。
ショッカーライダーの一体が護送車目掛けて、ダーツを投擲。
当たった所で大きな破損は起きないが、爆弾付きなら話は別だ。
ハンドルを操作しどうにか回避、爆風が車体を撫でるも走行不可能には至らない。

最初の放送で既に言われたが、NPCは積極的に参加者を殺さない。
あくまで参加者同士の殺し合いこそがメインであって、主軸は外れていない。
最強の敵キャラクターと謳う縁壱はともかく、有象無象のNPCがプレイヤーを殺すのは黎斗が望むゲームに非ず。

但し、積極的に『殺さない』だけで『襲わない』とは一言も言っていない。
つまり対処せずに放って置けば、いらぬ傷ばかりを増やされる。
最悪の場合、護送車の爆発に巻き込まれたっておかしくはない。
戦わない選択肢は真っ先に外し、

立ち上がり掛けたいろはを、黒死牟が片手で制した。

「えっ、黒死牟さん?」
「無意味に体力を削る暇があれば……脆い肉体を万全に近付けるよう努め……次に備えておけ……」

魔法少女は常人を遥かに超えた能力を持つ。
最大の特徴として、ソウルジェムが破壊されない限りは死なない。
とはいえ、何もかも全てが人の枠組みを超えたかと言うなら違う。
動けば動いた分消耗し、汗を掻き、腹は減り、喉が乾き、眠気に襲われる。
傷付けられれば痛みを感じて、当然の如く出血だって起こる。

一方鬼は太陽を浴びるか日輪刀で頸を断たれなければ、あらゆる負傷も無意味。
再生の度合いによっては体力の消費が起きるが、その点も現在の黒死牟には問題無し。
屠り合いで受けた傷は、縁壱に頸を薄く斬られた一つのみ。
既に完治しており、この程度で疲労など感じよう筈もなかった。

いろはが不要に体力と魔力を奪われるよりは、黒死牟が蹴散らす方が手っ取り早い。
合理的に考えた末の結論を、ニコリともせずに告げる。

「要は面倒事は自分に任せて、いろはには休んでろって言いたいんだろ?お侍殿はお優しいこって」
「貴様の頭は……言葉一つすら歪曲する程に……腐り切っているのか……?」
「お堅い言い方をソフト表現にしてやった、俺なりの優しさと思って欲しいね。とにかく相手すんなら任せるぜ!こっちは手が放せないんでな!」

一体全体自分の話のどこを聞いていたのかと、睨み付けるも効果無し。
運転を放り投げてまで戯言を叩く程、現状を見れていないのではない。
であれば一々青筋を浮かべ、食って掛かるのは無駄の二文字に他ならなかった。
背を向け、意志に応じて人工生命体がデイパックから飛び出す。
必要に駆られなければ頼る気も起きないが、日を防ぐ鎧無くして屋外での戦闘は不可能。
慣れぬ力でどこまで戦えるか、試運転の良い機会でもある。

『HEN-SHIN』

縦笛に似た得物をサガークへ装填し、白い鎧で我が身を覆い隠す。
後は生身を晒す無様を避けつつ、人形達を斬るのみ。
戦場を移すべくドアに手を掛け、

「あの!ありがとうございます!」

飛び出す寸前で、そんな声を拾った。

864SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:01:34 ID:RGAcntrk0



機動性強化を施したバイクが4台、内2台には二体ずつが乗車。
計6体のショッカーライダーが護送車を襲撃。
屋根へ軽やかに飛び乗った黒死牟を、前後から挟むように敵も跳躍。
走行中の狭いスペースが、今宵の闘争の舞台となる。

運転手を失い道路を転がるマシンには目もくれず、ショッカーライダーが仕掛ける。
得物の類は握られておらずとも、拳一発蹴り一撃が過剰なまでの凶器と化す。
ホッパー1号をベースに開発されただけあって、徒手空拳特化の性能だ。
無駄のない、鋭く重い鉄拳が放たれた。

顔面狙いの拳は仮面を砕き、顔面すら突き破り兼ねない勢い。
わざと攻撃を受け入れる被虐趣味を持ち合わせない以上、対処は至極当然。
銀の鎖を巻き付けた腕を添え、力の向かう先を逸らす。
立て直しまでの数秒を、むざむざ許さない。
逆に一撃食らわせんとするが、もう一体が妨害に動く。
背後からの蹴りが脇腹を叩こうと走り、感じた手応えは苦痛を与えたのとは別物。
ザンバットソードの眩い刀身を翳し、己が身へは掠らせもしない。
続けて黒死牟が斬り掛かるのを待たず、前方から再度拳が振るわれた。

時に躱し、時に受け流し、時に防ぎながら敵の力を冷静に見極める。
十数の殴打から分かったのは、敵が連携に慣れているということ。
互いに隙を埋め合い、且つ足を引っ張り合わない猛攻を実現していた。

(絡繰り仕掛けの人形故に……乱れぬ動きを物とするか……)

サガの仮面越しに、透き通る世界で人形兵達を奥まで捉える。
臓器や筋肉、骨以外に複数の異物を確認。
人体に無機物が組み合わさり、運動能力を大きく引き上げている。
改造人間、ふいにその四文字が浮かんだ。

ショッカーライダーはホッパー1号をベースに開発されたが、性能はオリジナルに劣る。
数年に渡って組織の追手と戦い続けた本郷猛と、スペックだけ同じ量産型の兵士。
大きく開けた経験値の差を埋めるのが、計6体の集団戦法。
原典の世界でのナノマシンロボ散布計画時には、数回に渡ってホッパー1号と渡り合った
あくまで精巧なコピーに過ぎないNPCであっても、連携の巧さは健在。
標的が動けなくなるまで、拳と蹴りが浴びせられるだろう。

865SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:02:11 ID:RGAcntrk0
敵の力の程を租借し、同時に黒死牟が思考を割くのは自身の状態。
仮面ライダーサガ。
時に運命の鎧とも称された姿が、果たして如何程使い物になるか。
何が出来て出来ないかを、この機会に把握せねばなるまい。

鎧を纏い、単なる移動ではなく実戦に身を投じるのはこれが初めて。
率直な感想としては、違和感を拭えない。

甲冑を身に着けた最も新しい記憶と言えば、鬼の存在を知った夜。
弟との再会で己が魂が再び狂い始めた、あの時が最後。
頑強な鎧も鬼の膂力や牙の前には、書道紙と何ら変わりない。
却って機動力を削がれる枷を、無意味と知りつつ着込む気にはならなかった。

数百年越しに鎧を纏っての戦闘だが、予想していた動きにくさはほとんどない。
まるで、前々から装着を続けたような着心地がある。

不可思議な感覚の正体は、サガの四肢へ絡み付く鎖によって齎される恩恵。
この装飾はデュミナスカテナと呼ばれ、拘束目的で備わったのではない。
変身者の意志を先読みし伸縮、挙動に合わせた最適な運動能力強化を行う。
黒死牟が動き一つに出る毎に、サポート装置が効果を発揮しているのだ。

だから全く思い通りの動きが出来ない、といった事態は防げる。
その事実を加味した上で、使い心地の悪さを拭い切れない。
慣れぬ筈の力が、最初から慣れた感覚として使用可能。
違和感が無い事こそ、逆に大きな違和感になっていた。

サガの機能とは別に、現状は黒死牟本来の戦法も取れなかった。
愛刀たる虚哭神去は自身の血肉から生み出しており、鬼の体と同等の性質を持つ。
即ち、陽光を浴びれば瞬く間に燃え盛り消失。
血鬼術と組み合わせた月の呼吸も、必須となる刀無くして発動出来ず。
屠り合いで手に入れた、鎧と魔剣を要に変え戦う他ない。

敵の力と自身の戦力。
双方を驕り抜きにしかと見極め、間髪入れず襲い来るは鉄拳の嵐。
人形兵が繰り出す怒涛の連撃を前に、枷を付けられた鬼は――

866SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:02:59 ID:RGAcntrk0
「もう十分だ……児戯に付き合う理由も失せた……」

拳の間をすり抜けた魔剣が、両腕を斬り落とした。

標的を砕く得物を両方失い、ショッカーライダーの動きが硬直。
自ら死を受け入れるに等しい隙と、理解出来たかどうか。
一刀両断、頭部から股まで二つに断たれ終わりだ。
地面へ落下し数回のバウンドを経て爆散、悲鳴一つ聞こえて来ない。

そもそもの話、黒死牟はショッカーライダーを最初から脅威とは思っていない。
牙を剥く拳の何たる脆いことか。
同じ主に仕えた拳鬼の、足元にも及ばぬ弱さではないか。
連携に慣れているから何だと言う。
この身を滅ぼした柱達と鬼食いの小僧、彼奴等のが遥かに上等だった。
本来の戦法が封じられたとはいえ、この程度の輩に後れを取る程我が刃を錆び付かせた覚えも無し。

破壊された分の穴を埋めるように、二人乗りのバイクから一体が屋根へ飛び乗る。
更にはマシンを駆る者達がダーツを投擲し援護。
拙雑な狙いに非ずとも、鬼を射抜くにはまるで足りない。
魔剣の一振りで斬り落とし、爆発が起きるもそれすら無駄。
膂力を十全に乗せ薙ぎ払えば、途端に暴風か発生。
たちまち熱風が掻き消され、すかさず背後の標的へと駆け出す。

迎撃で蹴りを繰り出す、そんな指令を脳が与える暇もやらない。
強化服諸共、袈裟斬りの餌食に遭い機能停止。
先んじて道路を転がる上半身を追って、下半身も地面へダイブ。
木っ端微塵の末路を見届けずに、残る一体の元へ跳躍。

走行中の屋根で足を離せば、普通は落下確実なれど黒死牟には関係無い。
標的から目を離さぬまま、投擲されたダーツを叩き落とす。
援護一つ取っても、所詮は自我無き人形の児戯。
己へ付き纏う、あの娘の光矢の方が余程――

867SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:03:50 ID:RGAcntrk0
「……」

余計な事へ思考を沈ませ掛けた、己への苛立ちも籠め魔剣を突き刺す。
喉を貫かれ、流れる夥しい血がマフラーを濁った赤に染める。
貫通したままの剣を持ち上げ、振り回せばショッカーライダーは枯れ葉のように舞い飛んで行った。
空中に焼け付く花を咲かせ、これで三体目も撃破。

血鬼術が封じられ、日中の屋外故に鬼の生命力も無に等しい。
しかし培った剣技と、数百年に渡り得た経験。
これら二つが失われなかった事こそ、無惨との最大の違いなのだろう。

鬼殺が完遂された今となっては、何を言っても空しいだけだが。
上弦全てを束ねても、到底敵わぬ高みへ無惨は君臨した。
あらゆる武の極致、あらゆる洗練された術。
そのどれもが無惨にとって、吹けば消える塵芥に等しい。
ただの一度も時を鍛錬へ費やさず、絶対的な力を我が物とする。
故にこそ始祖はいつの時代も、鬼舞辻無惨という完成された一個体として在り続けた。

ならば全く持って、皮肉と言う以外にない。
強さに裏打ちされた始祖の在り方こそが、屠り合いの末路の原因の一つになったのだから。
日の遮断と引き換えに、己の持つ生物としての強さを悉く削がれ。
武を知らぬ為、後れを取る結果へ繋がった。

一方で黒死牟もまた血鬼術こそ封じられたが、培った剣技と経験は健在。
無慈悲で理不尽な半月の檻を生み出す、月の呼吸を抜きにしても。
剣士としての腕だけ見た場合、黒死牟は非常に高い実力の持ち主だ。
仮に無惨と同じく、血鬼術や身体機能のみへ頼る鬼であったら。
遠くない内に主の後を追う最期が訪れたとて、不思議はない。
鬼に成り果てても侍である事は捨て切れず、修練を重ねて来た。
物心ついた時に学んだ剣術の基礎を、人を捨てた後も絶えず伸ばし続けた。
根付いた執着がよもや、こういった形で意味を為すとは――

868SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:05:16 ID:RGAcntrk0



――『兄上の夢はこの国で一番強い侍になることですか?』



「…………」

浮かんだ言葉を払うように頭を振る。
何の意味がある、今更思い出した所で何も変わらない。
侍とは程遠い末路を引き寄せたのが誰かなど、吐き気がする程に理解している。
軋む痛みが内より湧き出るも、続く雑音に似た声が苦痛を薄れさせた。

発生源は鎧を纏わせた、円盤状の生命体。
相も変らぬ理解不能の言語なれど、この時ばかりは過去から目を逸らすのに一役買った。
ついでに鎧を装着中だからか、伝えたい内容も何となく察せる。
元よりこの状態でどこまで戦えるかを、試す意図もあったのだ。
指図されてるようで良い気分とは言い難いが、無視を決め込む選択もない。
装着時以外で使わなかった縦笛から、真紅の刀身が生えたちまち剣へ早変わり。
すかさず腹部の機械へ、笛に似た道具を差し込む。

『Wake Up』

不安を掻き立てる、不気味な音楽が鳴り響く。
仮面ライダーキバがそうしたように、フエッスルを吹き魔皇力を上昇。
鮮血色の刃が輝きを増し、必殺の準備が整ったと理解。
道路を疾走中のショッカーライダーへ向け、得物を振り被る。

獲物へ飛び掛かる蛇のように、刀身が鞭へ変化。
巻き付くや大量の魔皇力を流し込み、内部機器と生身の肉体の両方を蹂躙。
火花を散らし痙攣、やがて動かなくなると同時に爆発が起きた。

4体目も難なく撃破し、手元へ戻した鞭を見つめる。
こういった使い道があると知れたが、やはり慣れない得物だ。
これならばまだ、真紅の光剣のままで振るう方が手に馴染む。

と、技を終えたにも関わらず輝きが発せられているのに気付く。
不審に思うも、すぐ自身の勘違いと分かった。
紅い輝きは握り締めた得物、ジャコーダーとは別の所。
現在走行中の護送車が、血よりも濃い色へ包まれていた。

869SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:05:58 ID:RGAcntrk0
「こ、これどうなってるんですか!?」
「そんな驚くようなもんじゃねぇさ。ちょいとばかし、俺好みにペイントしてやっただけだ」

明らかな異常事態へ、いろはも聞かずにはいられない。
混乱を多大に含んだ声もなんのその。
軽い調子で返された内容は、答えてるようで微妙に答えになってなかった。

エボルトが何をしたか、種明かしすれば実に単純極まる。
自身が持つブラッド族のエネルギーを、護送車に流し込んだ。
旧世界で戦兎達を相手取った時にも、度々やった戦法だ。
合体状態のガーディアンを支配下に置いた事もあり、トランスチームガンを強化しスクラッシュドライバーを破壊した事だってある。
時にはエボルト自身にエネルギーを流し、能力の上昇を図ったのも一度や二度じゃない。

だが現在のエボルトは、嘗て石動惣一の体を乗っ取った時よりも力が上。
未完成とはいえ取り込んだパンドラパネルの影響し、当然並の強化じゃ収まらない。

「しっかり捕まっとけ!少しだけ荒れるぞ!」

警告もそこそこにハンドルを操作。
車体が大回転し、タイヤが擦れる音がいろはの悲鳴と重なる。
鮮血のエネルギー波を放射しながら、装甲車がショッカーライダーへ激突。
バイク共々一瞬でスクラップに変わり、原型を留めぬ部品となって道路に散らばった。

進路を戻しつつ、運転席の窓を開ける。
すると間を置かず、強引に侵入しようとする者が出現。
辛うじて破壊を免れた、最後の一体のショッカーライダーだ。
下半身はひしゃげ使い物にならなくなったが、死に物狂いでしがみ付いたらしい。

「大した根性だねぇ。それを見込んでとびっきりのプレゼントだ。遠慮しなくていいぜ?」

尤も、儚い悪足掻きで終わるが。

片手でハンドルを動かし、もう片方の手を頭部へ向ける。
握り締めた得物、トランスチームガンが吐き出す高熱硬化弾が全弾命中。
マスクを突き抜け脳まで破壊、意識の接続も瞬く間に途切れた。

「CIA〜O♪」

力無く道路へ横たわった個体に、その声は届かない。
背後で起こる爆発を、クラシック音楽のような気分で聞きながら護送車を走らせる。
ちょっとした退屈凌ぎが済み、やがて車体を覆う真紅も消え失せた。

870SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:06:42 ID:RGAcntrk0



エボルトの運転のせいで振り落とされ、空き缶のように道路を転がる羽目になった。
なんて事態にはならず、扉を開け黒死牟は屋根から悠々と帰還。
鎧を解除し、先程と同じ座席に腰を下ろす。
数だけ揃えた所で、所詮は参加者ですらないNPC。
殲滅へ追いやるのは、赤子の手を捻るより容易い。

戦闘に勝利したからといって、戦利品は手に入らない。
支給品や首輪など、プレイヤーならあって然るべき物もNPCには無関係。
残ったのは爆発の被害で焦げた地面と、ブラッド族のエネルギー波で薙ぎ払われた周囲の地面のみ。
だが全く意味のない戦いだったと言い切るのは違う。

(凡そは把握した……やはり必要が無ければ……使う気が起きるものでもない……)

サガの鎧に思う所はこれまで同様、必要に迫られない限り積極的に纏う気はなかった。
しかし日が沈む前に、屋外での戦闘がこの先いつ起こるか分からないのだ。
遊星から譲渡された闇を発生させる札とて、制限が課せられた為使い所は考える必要がある。
となれば、サガの力を把握して正解だったと言えるだろう。
慣れぬ力と慌てふためき、右往左往する事態は避けられた筈。
縁壱相手に通用するとは到底思えないが。

見方を変えれば、無惨の最期を反面教師にしたとも捉えられる。
始祖が地獄で知ったら、大災害の如き憤怒が巻き起こるに違いない。
気付いているのかいないのか、最後の鬼は黙して目的地への到着を待つ。

正面の黒死牟の様子に、ホッと安堵がいろはの中に広まる。
彼の強さは知っているし、信じてなかった訳じゃない。
それでも一度は太陽に炙られ、苦悶の声を上げる場面を見たのもあってか。
惨たらしく肉の焼けた痕は無く、無傷で戻って来た姿に心から良かったと思えた。

今回は彼の言葉に頷いたけど、毎回自分だけ休んではいられない。
来るべき時に備え、言われた通り少しでも万全に近付けておく。
何だか前に、やちよから無茶を諫められた時のようだと思い、

871SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:07:31 ID:RGAcntrk0
(あっ……)

これからの為に休めと言われたのは。
この先起きるだろう戦いに、いろはが加わる事は黒死牟にとって自然な認識になっていて。
余計な真似をせず引っ込んでろじゃなく、次に備えろと言ったのは。

ああつまり、邪魔な奴とか足手纏いとかじゃない。
真紅の騎士を相手にした時と同じ、一緒に戦っても構わないと思う程度に。
自分を認めてくれているのなら。

(そうだったら、嬉しいな……)

都合の良い解釈かもしれないけど、じんわりと胸が温かくなる。

「……」
「…えっと……」

じっと見つめられ、流石に向こうも気付いたのだろう。
六眼へ訝しさを宿し、言いたい事でもあるのかと問われた。
暫し目を泳がせた末に口を開き、

「何でもない、です」

困ったように、気恥ずかしさを浮かべ。
だけどどこか、嬉しそうに微笑み告げる。

神の遊戯盤の一画で、闘争とも言えない小競り合いを挟んで起きた。
移動中の、他愛のない一幕だった。

872SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:08:08 ID:RGAcntrk0
「めんどくせぇ年上ばっかり引き寄せる超能力でも持ってるんじゃねぇのか、お前」
「急に何の話ですか!?」


【E-2 道路上/一日目/昼】

【環いろは@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、魔力消費(大)、悲しみと怒り、乗車中
[装備]:ストライクマーク@テイルズオブアライズ
[道具]:基本支給品一式、グリーフシード@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める。
1:黒死牟さんを放って置けない、助けになりたい。
2:やちよさん達と病院で会った皆を探す。E-4へ行きやちよさんと合流する。
3:もし灯花ちゃんとねむちゃんがまた間違いを起こすのなら、絶対に止める。
4:フェリシアちゃんを殺した男の人(滅)には怒ってる。でも、我を忘れたりはしない。
5:真紅の騎士(デェムシュ)を警戒。
6:どうしてドッペルが使えたんだろう?
7:縁壱さんは、黒死牟さんの弟さん……。
8:キャルちゃんに渡したメダル、本当に良かったのかな…?
[備考]
※参戦時期はファイナルシーズン終了後。
※ドッペルは使用可能なようです。

【黒死牟@鬼滅の刃】
[状態]:魔皇力継承、精神的疲労、縁壱への形容し難い感情(大)、エボルトへの不快感(大)、黎斗への怒り、いろはへの…?、乗車中
[装備]:虚哭神去@鬼滅の刃、木彫りの笛@鬼滅の刃、ザンバットソード@仮面ライダーキバ
[道具]:基本支給品一式、サガーク&ジャコーダー@仮面ライダーキバ、闇@遊戯王OCG
【思考・状況】
基本方針:分からない。……が、少なくとも縁壱以外の者に殺される気は失せた。
1:この娘は本当に何なのだろうか……。
2:縁壱……お前は…………。
3:無惨様が……そう、か…………。
4:日を避ける道具は手に入ったか……。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※無惨の呪いが切れていると考えています。
※魔皇力が使用可能になりました。キバット族のサポート無しで活性化出来るようです。
※サガークの資格者に認められました。ククルカンの召喚も可能なようです。

873SNAKE PIT ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:09:15 ID:RGAcntrk0
【エボルト@仮面ライダービルド】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、石動惣一に擬態中、運転中
[装備]:トランスチームガン(ワープ機能2時間使用不可)+ブラックコブラロストフルボトル@仮面ライダービルド、ラストパンドラパネルブラック+ブラックロストフルボトル×6@仮面ライダービルド、パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト、大型護送車@DEATH NOTE
[道具]:基本支給品一式×3、じわじわキノコカン@スーパーペーパーマリオ、ブレイクスルー・スキル@遊戯王OCG((1)の効果2時間使用不可能)、ドレイクグリップ@仮面ライダーカブト、呪い移し(現在使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ、ルナの首輪、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:生存優先。あわよくば未知の技術や檀黎斗の持つ力を手に入れる。
1:戦兎達の元へ戻る。流石にそろそろ我慢の限界かねぇ。
2:戦兎と共闘しつつどこまで足掻くのか楽しむ。仲良くやろうぜ?
3:エボルドライバーを取り戻す。元は内海の?知らねぇなァ。
4:ロストボトルを回収しパンドラパネルを完成させる。手間を掛けさせないで欲しいんだがな。
5:正攻法じゃあ檀黎斗を倒すのは難しいか。
6:カイザーインサイトを利用。2回目の放送後に桜ノ館中学校で合流。戦兎には何て言おうかねぇ。
7:やちよの声はどうにも苦手。手土産でいろはを連れてきゃ機嫌も良くなるだろ。
8:猿渡死んじまったか。戦兎の奴どうなるかな。
9:美遊、ねぇ…………。
[備考]
※参戦時期は『ビルド NEW WORLD 仮面ライダークローズ』で地球を去った後。
※環いろはの姿を写真で確認した為、いろはに擬態可能となりました。
※トランスチームガンのワープ機能は一度の使用後、6時間経過しなければ再使用不可能になっています。


『支給品解説』

【大型護送車@DEATH NOTE】
日本の警察が被疑者を警察署や地方検察庁・区検察庁・裁判所・拘置所へ移送する為の特殊車両。
作中内では第二のキラのビデオテープを回収する為、夜神総一郎がさくらTVへの突入に使用。


『NPC解説』

【ショッカーライダー@仮面ライダー THE NEXT】
全員がナノロボットで改造されたバッタ型の改造人間。
ホッパー2号とは色違いの特殊強化服とマスクを着用。
邪魔者の抹殺が使命で、どの戦闘にも常に6人1チームで登場。
戦力の劣っていた戦闘員に代わって他の改造人間の戦闘を補佐する上級戦闘員のような役割を果たし、1人1人ではなく6人1組による集団戦法を得意とする。
能力は一般戦闘員を大きく上回り、強力な爆薬を仕込んだダーツ型爆弾といったオリジナルのホッパーにはない武器も装備する。
しかしオリジナルとの戦闘経験量の違いや量産化仕様に伴う性能劣化など、単体の戦闘力では1・2号に及ばず見劣りする。

874 ◆ytUSxp038U:2025/06/10(火) 20:09:46 ID:RGAcntrk0
投下終了です

875◆2fTKbH9/12:2025/06/13(金) 07:46:08 ID:???0
キリト、空、宮川尊徳、ユキ、肉体派おじゃる丸を予約と延長をします。

876 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/13(金) 21:16:03 ID:xfKg7IJs0
道満、Poh、戒斗、L、ベクター、カイト、ミカン、クレヨン予約します

877無情の抹殺 群雄割拠 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:42:23 ID:POawdWDU0
投下します

878無情の抹殺 群雄割拠 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:43:30 ID:POawdWDU0
 魔導雑貨商人との交渉だが、
 DIOと違ってカイトとミカンは水と食料が必需品になる。
 なのでDIOが消費したものから食料をを差し引いたものを消費し、
 ほどほどのものを手に入れるが、彼らが欲したのは情報を選ぶことにした。
 元々三者はクレヨンが現状かなり苦しい立場にあるのは事実ではあるものの、
 カイトもミカンもこれだけの材料で得られる武器で補強できるほどやわでもない。
 かといって、クレヨンの腕を治せるような支給品がこの程度では得られないだろう。

「桃やシャミ子の位置を知りたいところだけど……」

「提示しておいてなんですが、アタシはお勧めしやせんぜ?
 この程度だとあっちとかこっちとか、指差し程度にしかならないんで。」

 そう言いながら複腕であちらこちらを指して見せる魔導雑貨商人。
 ミカン達がいる場所は南東。大雑把な方角を示されても、
 探せる要素がはっきり言って皆無に等しいものになる状況だ。
 元々E-4辺りに向かうつもりだったが、そこで出会わなければまず方角が不明に近い。

「……他の戦闘を要求しないNPCの紹介はできるか?」

「え? 旦那珍しい選択をしやすね。」

『カイト なんで?』

「友好的なNPCならまずこのモンスターと同じで交渉が必要だ。
 つまり、出会っても必ずデメリットがある。デメリットのある存在なら、
 補正がかかってある程度の位置を示してくれる可能性を考えてみているが……」

「確かに、探してる人でなければ友好的かは選択次第、
 支給品や大事な首輪の消費……情報として売ってもいいですぜ。
 ただそうですなぁ……どれだけ多くてもこれだと二名が限界ですぜ。」

「ミカン、クレヨン、それでいいか。」

「確かに、カタログを見ても三人共そんなに利益はないし、
 かといって大雑把な情報で行けるほど近くもないならそれがいいのかも。」

『カイト まかせた!』

「ほいじゃ一度しか言わないんで聞いといてください。
 一人目は『物資調達員』。参加者の中には死体のまま、
 放置された参加者がちらほらいらっしゃるみたいでして、
 原型が残ってたり首輪や支給品を回収して、ある場所へ運ぶのが仕事のNPCです。
 やることはあっしと同じで物資の交換ですが、あっしと違って目新しいもんはございません。
 あくまで参加者の支給品等でありますから。」

 二人から確認をもらうと、魔導雑貨商人が、
 何処から用意したのかホワイトボードと画像を取り出す。
 大量の荷物と荷車を運ぶ中年の男性は古くから存在する、
 融合関係のモンスターであり、見覚えがあるとアプリで確認すれば、
 彼もまた魔導雑貨商人同様デュエルモンスターズの一枚であることが伺えた。
 死体や支給品の改修。それを妨害してくるのは事実かもしれないが、
 ある場所であれば、一か所に集まりやすくあてどなく探すよりましだろう。
 問題は、首輪を手に入れるにしても対価を支払う必要があるのが手痛いので、
 なるべく……と言うのも不謹慎だが、死体は自分達で見つけるのが先決だと考えた。
 なお死体が残ってると言った情報はいいのかと思ったが「まあサービス程度でいいでしょう」
 と軽く受け流されたので、特に何事もなく話が進んでいく。

「そしてもう一人は魔導闇商人(マジカル・ブローカー)。
 こちらはあっしと違って何処かのカードショップに常駐していて、
 レートも高いですがその分いいものが揃ってて中々便利ですぜ?
 あ、流石にどこのエリアにそのショップがあるかまでは教えれませんぜ。
 ただ、第一放送が来るまで開店しない決まりがあって時期開店と言ったところでしょうな。
 因みに物資調達員の行き先が魔導闇商人になりやすんで、うまく行けば一石二鳥かもしれませんな。」

 もう一人の画像は、
 マジカルと名がつくだけあって、
 魔法使いらしさが全面的に押し出されたデザインだ。
 ブローカーらしさは薄いが、それ言えば魔導雑貨商人も似たようなものである。

879無情の抹殺 群雄割拠 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:44:15 ID:POawdWDU0
 地味に物資調達員を追いかけ続ければ、
 いずれそのショップに辿り着ける情報も得られた。
 もっとも、どちらにせよ見つけなければ何も始まらないが。

「まあ情報はこんなとこですかね。」

 安い消耗で得られた情報としては悪くはないだろう。
 カードショップに常駐しているということはカードは確定である。
 場合によっては今手元にないフォトン、またはギャラクシーもある可能性は高い。
 レートについては悩ませることではあるが、優秀なのがあるのは間違いないだろう。

「カードショップか……カードショップだからと言って、
 街中にあるとも限らないだろう。だがおおよそ見当はつく。」

『けんとう?』

「少なくとも端にはない。
 手間のかかるNPCのことを考えると、
 参加者が利用できる機会が少ない場所は選ばない。
 参加者が砂漠や雪原を選ばず中央に集まるのを考えると、
 ある程度中央のエリアにいるとみていい。その方角で探すのがいいはずだ。」

「そうよね。誰も利用しない施設になったら勿体ないもの。」

『だれもつかわない さみしい』

 方針や考えを述べると先のときとは別のモンスター、
 光る光子の竜であるフォトン・ワイバーンを召喚する。
 先ほどのデルタ・ウィングと違い乗れる場所はあるのか、
 そう思う二人ではあったが乗ること自体は問題なく行えた。
 魔導雑貨商人と別れると、空へと飛翔して彼方へと消えていく。

「……あ。あんだけ女子がいたならラヴリカ紹介しても……まあいいや。」

 いなくなったこと相手のことを考えても仕方ないし、
 他に参加者の気配もないとのことで、昆虫族らしく身軽に走り出す。
 暫くすると戻ってきて、ホワイトボードを持った状態でその場を去った。
 結局は主催のNPCの一体に過ぎない。追いかけてまで教える義理もないのだから。





「ってなんかすごい派手なことになってるんだけど!?」

 空中を、しかし高所と言うよりは比較的低空で飛行するカイト達。
 だが空中では丁度海馬の猛攻と、それを避けるDIOよの戦いで熾烈を極めている。
 遠巻きにも見えるXYZのモンスターの巨大さから相当な戦いだと言うことは伺えた。

「敵か味方か分からないが介入はでできそうにないな。
 あれだけ激しい中。空中戦が苦手なお前たちを守りながら、
 俺一人でデュエルをするというのは、かなり至難の業になる。」

 いくらカイトが強いデュエリストだからと言って
 不安定な足場で二人を守りつつのデュエルの経験はない。
 全てが自分に依存してる状況であの戦いに介入するのは危険極まりない。
 猛烈な攻撃をしてるのが味方でなかった場合、最悪な状況にもなりかねなかった。
 その攻撃を受けているのが、彼らの知るDIOであると知れば駆け付けたことだろうが、
 残念ながらそれらについては、たらればの結果論に過ぎない。

『御機嫌ようプレイヤー諸君。』

 檀黎斗の放送が始まり、移動と哨戒はしつつもモニターを見やる。
 倒さなければならない、到達しなければならない存在が姿を見せた。
 未だ到達できるだけの材料はないが、必ず行かなければならないだろう。
 向こうの戦いがほぼ終わったのか、攻撃音は殆ど鳴りやみ空中は段々と静けさを取り戻す。

『小倉しおん』
『吉田清子』

 だがその名前を聞いた瞬間、フォトン・ワイバーンが破壊された。
 変な人ではあるが、彼女にとっては大事な学友の一人でもあるし、
 もう一人はシャミ子の母親であり、聖母のような優しい人物である。
 その彼女達が、開始早々に殺された事実。当然動揺するだろうが、
 最初は大丈夫だと思っていたが、そうはならなかった。
 DIOの時間停止能力が戻ったように、ウガルルの呪いも戻ってしまった。
 その影響か、破壊され墜落する神威の車輪がフォトン・ワイバーンを直撃し、破壊。
 全員が突如として空中に身を投げ出すことになってしまう。
 幸い高空飛行していたわけではないので、

「クッ、フォトン・デルタ・ウィングを召喚!」

 万丈たちと合流する前にやった時と同じだ。
 フォトン・デルタ・ウィングを召喚することで、
 更に追加で同名モンスターを召喚し、二人を一体に、
 もう一体をカイト自身が乗ることで対処しようとするのだが、
 召喚と着地と同時に、もう一体の神威の車輪の一頭の牛の遺体がモンスターを破壊する。

「何!?」

880無情の抹殺 群雄割拠 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:45:00 ID:POawdWDU0
 ミカンの呪いは続いている。
 学友だけではない。友人の母親である吉田清子までもが死亡した。
 ささやかな困難が降り注ぐとは言うが、それは魔法少女基準のものも多い。
 情報交換でミカンの呪いについては伺っていたが、実体験で起こるとなると、
 予測不能で回避も困難と、中々に厄介であり彼女が気を付けてるのも分かることが伺えた。
 幸い、直ぐにデルタ・ウィングが駆けつけてミカンが咄嗟に手を掴んだことで事なきを得る。

「ごめんなさい! 私の呪い、再び発動したみたい……」

「みたいだな。この戦いで要求することじゃないが、
 なるべく平静を……いや、長い付き合いなら分かっているか。」

 この呪いとは何年も関わっているということが分かっている。
 今更出会って六時間程度の人間に言われるまでもないだろう。
 そう思うと、今度は自分のことの方へと思考を割く。
 落ちてる間にもちゃんと聞こえた。あの男の名前が。

「……」

 分かってはいた。
 DIOの言葉が真偽は不明にせよ、
 遊馬が長生きできるとは思っていなかった。
 これは生き残ってる三人の共通認識なのは間違いない。
 どうしようもないことだ。デュエルを復讐の道具とするのを善しとせず、
 誰とでも手を繋ごうとして、改心させて行くその善性はっこの殺し合いでは無力に近しい。
 せめて、誰かがその善性を引き継いでくれるならばいいのだが……などとは思うものの、
 そう甘いことを期待することはせず、南東と言う人気のない場所から脱却出たことをよしとする。

「大分距離は稼げたはずだ。
 店を探すにしろ、NPCを探すにしろ、
 此処からは空よりも地上を優先して移動したい。」

「ええ、そうね。あんな事故二度とごめんだもの。」





「真月さん。死体です。」

「あー……こりゃさっきの奴(MNR)にやられた奴か。」

 町に続くアスファルトの道路の上。
 惨たらしく、割礼されている少女の遺体。
 女性器を切除されて血だまりの死体ならば、
 先ほど戦った青年が下手人なのは想像がつく。
 ベクターであってもこれについては流石にドン引きである。
 精神的に追い詰めることには定評のある男ではあるし、
 消滅という形で味方を殆ど殺し回った男ではあるが、
 流石にこの光景を前にして平然とするのは無理があった。
 裏切りはお手の物だが、猟奇趣味は別に持ち合わせていない。
 かっとビングも相まって、善性に寄ったベクターも顰めた顔になる。

「とりあえず、失礼するとして……」

 先の四人にも行った首輪のサンプル集め、
 或いは今後NPCとの遭遇で交換に必要になるかもしれない。
 せめて有効活用させてもらう。それが彼女への鎮魂となると願いたい。
 そう思いながら、ホープを使役してその首を切断して首輪を回収していく。

「真月さん。遊星のデッキと、一部のカードを私に譲っていただけませんか?
 一部と言うよりは、遊星のデッキから抜いたカードですが。」

 Lの体力は大分辛いものになっている。
 いくら仮面ライダーになれるとしても限度があるだろう。
 一応ある程度カードのルールは頭に入っている。麻耶のように、
 シンクロ召喚すらもできずに戦いが終わることはないだろう。
 仮面ライダーで防御しつつデュエルモンスターズで戦う。
 中々理にかなった行為であると残る二人も理解する。

「レベル4のカードはなるべく残させてもらうぜ。
 俺のデッキはホープが出せなきゃ困るからよ。」

「分かってます。」

 ジャンク・シンクロンなどのカードをデッキから引き抜いて、
 それを遊星のデッキに戻しながら持っていたデュエルディスクをLに渡す。
 マックス・ウォリアーなどはベクターとしては残しておきたいカードなので、
 できるだけこちらの手元に残しておくのがベストだと思っておきたくもある。

「……何かが追ってきているな。」

 空を裂く音が遠くから聞こえる。
 移動速度は速い。そして真っすぐ此方へ向かうかのように、
 次第に音が大きくなっていくことから対象は自分達だと理解する。

「敵か?」

「さて、どうでしょうね。」

881無情の抹殺 群雄割拠 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:45:30 ID:POawdWDU0
 デュエルディスクを腕に装備し、
 更に先にバロンに変身することでLは不意打ちの対策をしておく。
 音は陽動であり、既に来ている可能性もあることを視野に入れているからだ。
 首輪を回収し、全員が身構えながら相手の到着を待つことにする。
 照の遺体についてはどう説明したものかとベクターが内心考えていると、
 空飛ぶじゅうたんとともにPoHとキャスター・リンボこと蘆屋道満が到着する。

「おーより取り見取り……って随分悲惨な死に方してる奴がいるな。てめえらがやったのか?」

「違うな。俺達にこういった趣味はない。そしてその趣味の男もこいつが始末している。」

 あんな猟奇趣味の奴の罪を着せられる。
 同族でもない限り嫌と言うほかないだろう。
 特に戒斗はああいう弱者を生まないために行動した男だ。
 冤罪をかけられることそのものに嫌気がさしてるかのように顔を顰める。
 その視線だけで人を突き貫くのではないかと言う顔つきに口笛を鳴らすPoH。

「ぷー殿。どちらであっても油断はなりませぬぞ。
 腕のアレ、でゅえるでぃすくなる式神召喚の類にて間違いないかと。
 それと仮面らいだーなる人物を含めた人物相手するというのは、中々骨が折れますなぁ。」

「まーたやべえ奴かよ。此処にはまともな奴はいねえのかよ。」

「殺し合いなんですから当然でしょう。
 平和主義者だけで構成されていれば、此処まで40人も死にませんよ。」

「ハッ、ちげえねえ。」

 話し合いの内容から恐らく敵なのだということは分かっている。
 その割にはLはまるでティータイムの雑談のようにPoHとの会話に参加していた。
 こいつの感性はどうなっているんだとベクターが少しばかり呆れ顔をしていると、

「おい、そこのオレンジ頭の奴。」

「あ? 俺か?」

 PoHからの直接の指名をされるベクター。
 今のところ何か声をかけられるようなことはした覚えはないと思うが、

「お前さん、俺と同類だろ? どうせだ、
 そいつらを見限って俺達につく気はねえか?
 そいつらと同じ世界で親睦を深めあった親友ってわけじゃねえだろ?」

 デュエルディスクの構え方はよくは知らないが、
 少なくとも不格好と呼ぶには程遠く様になっている。
 何よりも、こいつもあの男、夜神月と同類の人殺しの類の顔だ。
 前世でドン・サウザンドによって歪められた王になり果て、
 バリアン世界でも仲間を何人も手にかけてきたのでそれは事実だ。
 紛れもないろくでなし。それを否定するつもりは彼は余りなかった。
 残る二人も大概だが、仮面ライダーとオーバーロードでは表情が読めない。
 結果、ベクターだけがそのお眼鏡にかなうこととなる。

「ん-、そうだな。悪かねえ相談だなぁ。」

 向こうの二人もこの六時間以上は生き残ってる。
 その上デュエリスト二名を相手に警戒はしつつも、
 臆することなく対峙している様は、間違いなく強者なのだろう。
 オーバーロードとどこまでやりあえるかまでは判断しかねるものの、
 何とか仮面ライダーになって取り繕ってるLの体力も無視はできない。
 このチームが瓦解するのを考えると、生存率を上げるなら鞍替えもありだ。

「けど、思ってより此処は居心地がいいみてぇだなぁ。
 そっちとつるむには、死ぬ前でなきゃありえねえみてえだわ。」

 と、もう少し前のベクターであれば考えていたのだろう。
 しかし今のベクターはあのベクターから変わりすぎている。
 友情ごっこを本物に昇華させ、かっとビングチャレンジをして、
 光の希望を手にした今のベクターとしては、その提案は受けいれる気はない。

「その答えの洗礼だ。ヘルウェイ・パトロールを召喚!」

 バイクの前面に悪魔の顔が施された、
 人型の悪魔が召喚されバイクを走らせていく。
 今回は先行からのスタートなので攻撃はできないので、
 二人の周囲を走ってただ牽制をするだけにとどまる。

「ああそうかい。そりゃ残念だなぁ!」

 パトロールの動きの合間を縫って、肉薄するPoH。
 デュエリストなんて本体を狙ってしまえばいいだけの話だ。
 いくら集団だとしてもリーダーを失えば後は散り散りになる。
 そういうパーティはいくらでもいた。自分達が下そうと下すまいと。
 とは言え、そう簡単にいかないのがこのバトル・ロワイアルである。
 Lが召喚していた緑色の身体が特徴的な白銀の翼のモンスターが守りに入った。
 デュエリストはそんな簡単に倒せるようならば、もっと楽に多くの参加者が倒している。

882無情の抹殺 群雄割拠 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:46:08 ID:POawdWDU0
「おいおい、エリュシデータで切れねえってなんだよそのモンスター。」

 シールド・ウィングは1ターンに2度までバトルで破壊されない。
 遊星の使用するモンスターでもとりわけ頑強で多くの守りに使われていた。
 三度殴らねばならぬ頑丈なモンスターではあるが、リンボの呪符が叩きつけられると、
 血飛沫を上げながら、容易く消滅してしまう。

「札遊びならば、拙僧もお手の物ですぞ?」

(攻撃、と言うよりはカード効果でのようなもの破壊された?
 異様な風貌だが。札の形状と服装も合わせ陰陽師……呪いの類か?
 私も随分とオカルトに染まってしまったようで……まあ、デスノートがオカルトですが。
 どちらにせよ、此処は不動遊星のような最適解は望めないでしょうがやってみましょう。)

 一応ベクターを守ることは成功した。
 相手の力量もある程度の理解はできたことだ。
 此処からやっていくのは予測できる範囲での対応をしつつ、
 自分ができる最大限のこの場における貢献、それだけだ。

「真月さんは私の援護を、戒斗さんはそちらの僧侶の相手を。難敵です。」

「あいよ。」

「分かっている。」

 言葉は必要なかった。
 既に呪符を投げたリンボに戒斗は肉薄していた。
 ギリギリ、しかし余裕そうな表情で戒斗の攻撃を避けていく。
 リンボの敏捷はサーヴァントとしてのステータス上ではE判定と極めて遅い。
 だが敏捷Bが敏捷Aを上回るように、ステータスが全ての決定づけるものにあらず。
 事実、リンボの黄緑色の爪が戒斗の攻撃をかいくぐりながらその身を切り刻んでいく。
 もっとも、その程度で傷つくようなものでもなく、あららとおどける程度にとどまった。

「ンンン、仮面らいだーなるものではないようですが、
 かといって魑魅魍魎の類にも非ず……色々と興味は尽きませぬな。」

「戦極みたいなことを口にするな。」

 極めて冷静に、しかし怒りは募っていく。
 性格は戦極凌馬、だが強さはオーバーロードに近しい存在。
 異星の使途の一人でありハイ・サーヴァントたるアルター・エゴのリンボの存在は、
 少なくとも並のアーマードライダーよりもずっと格上なのは間違いなかった。
 戒斗の攻撃は当たらず、しかしリンボの物理攻撃は通用することはない。
 となれば当然のことだが、キャスター・リンボの名にふさわしく呪符を使う。
 空舞う呪符から雷が降り注ぐが、オーバーロード・バロン持つ反射能力で雷を逆に空へと飛ばす。
 ンンン? といつもの口癖と疑念、どちらを意味するか不明な言葉を漏らしながらも、
 迫りくる夜空の剣の斬撃をのらりくらりと紙一重で躱していく。

 オーバーロードと異星の神の使途による、
 ハイレベルな戦いの横でも激闘は繰り広げられていく。
 ヘルウェイ・パトロールに相乗りしたベクターは、
 常人よりもはるかに速い動きで来るPoHの攻撃を躱していく。
 露骨に腕を狙ってくるあたり狙い目が分かりやすいのが救いなのだが、
 腕をやられればそれだけでデュエリストとしての生命線が失われかねない。
 ロボットがデュエリストだったことを考えるとそれほど重要かとも思うが、
 やはり回避しておくには越したことはない。

「俺のターン! チューナーモンスターのジュッテ・ナイトを召喚!
 レベル4のヘルウェイ・パトロールに、レベル2のジュッテ・ナイトをチューニング!
 今度こそミスのないシンクロ召喚だ! 行け、ゴヨウ・ガーディアン!」

 バイクで時間を稼ぎながら自分のターンへと持ち込み、
 召喚権やカードの発動の準備を整えるという、
 生身でのデュエルを経験したベクターだからこその発想での達真理をする。
 シンクロ召喚する際にバイクからジャンプで飛び出し、ショットオブザスターを放つ。
 もっともやはりエイムは絶望的であり、放たれた光弾は頬をかすめ取るだけにとどまる。

「こいつぁやばそうなのが出てきたなぁ!」

883無情の抹殺 群雄割拠 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:47:16 ID:POawdWDU0
 デモンストレーションでもシンクロ召喚はお披露目された。
 そのときのダーク・ダイブ・ボンバーの攻撃力は2600。
 それを上回る、2800の攻撃力の表示は警戒に値するものだ。

「カード三枚セットして、ゴヨウ・ガーディアンで攻撃!」

 紐のついた十手がPoHを襲う。
 首をそらし避けると、後方にあった木を十手が突き貫く。
 木が悲鳴を上げながら倒れていく様を見て少しだけだが焦りを見せる。
 あんなのが直撃、或いは捕縛されてしまえば、いくらPoHでも抜け出すのは容易ではない。

「なめてかかるとやばいなら、虎の子だなんだ言ってる場合じゃねえなぁ。」

 ライダーブレスにカブティックゼクターが装備され、
 形状こそ戦極ドライバーとは異なるものではあれども、
 仮面ライダーの類のものであると二人は警戒する。

「変身ッ!」

『HEN-SHIN』

『CHANGE BEETLE』

 おもちゃを手にしたような最高の笑みと共に、
 黄金の仮面ライダーの姿へと変貌していくPoH。
 仮面ライダーコーカサスに変身し、ゴヨウ・ガーディアンの十手とエリュシデータがぶつかり合う。
 本来ならばカブトとガタック、二人のライダーを徒手空拳のみで優位に立つことができるものだが、
 PoHの基本戦術は友切包丁(メイト・チョッパー)を使った剣術がメインとなっているのと、
 まだ仮面ライダーとしての初戦闘なのも相まって練度が低いのもことにによりまだ優位に戦えない。
 しかしもとより数々の人物をPKしてきたラフィン・コフィンのリーダーであるのは不変の事実。
 コーカサスの名に恥じぬ大立ち回りをするのも、いずれ時間の問題なのは、
 攻撃力の高いゴヨウ・ガーディアンでタメを張れてることから伺えることだ。

「まあ、こんなところでしょう。」

 何処か機械的で無機質な言葉と共に迫る、緑色の人型の拳。
 仮面ライダーに変身していなければ頭蓋を破壊されていそうな一撃を受け、吹き飛ばされるPoH。
 この程度の不測の事態別に大したものではなく、エリュシデータを地面に突き刺しダウンを回避。
 だがそこに高速で迫る赤と白に配色された人型のモンスターの機械的な足が迫り、跳躍して回避。
 更にそこへ、白く煌めくドラゴンが宙を舞ってることに気づくも、既に手遅れだった。
 ドラゴンから放たれる風のようなブレスを避けられる状況ではなく、直撃。
 地面に叩きつけられ、数度バウンドしながら受け身を取ってなんとか立ち上がる。

「おいおい、よそ見してる間に何したらそんなことになるんだよ。」

 攻撃力2500、ターボ・ウォリアー。
 攻撃力2800、ニトロ・ウォリアー。
 攻撃力2500、スターダスト・ドラゴン。
 ほんの数分よそ見していただけなのに、Lのフィールドはベクターとは別物の盤面を築いていた。





 時は少しばかり遡り、
 戒斗がリンボを、ベクターがPoHから逃げ回ってる時。
 バロンになったLは盤面と手札を一瞥しながら次の一手を模索する。

(時間がありません。此処はとにかく展開をしなければ。)

 ベクターがヘイトを買ってる間に、Lも動かなければならない。
 ベクターの使うホープ・ザ・ライトニングは強力ではあるものの、
 元々牛尾のデッキはレベル4が多いとはいえシンクロに重きを置いたデッキ。
 いくらレベル4モンスターを複数枚積んでも狙って出すには少々厳しくある。
 加えて戒斗の方もリンボとは実力伯仲。互いに決定打を与えられてない状況だ。
 だからLは両者のサポートをしつつ、遊星のデッキを回さなければならなくなっている。
 遊星のデッキは低レベルによるシンクロ召喚の複雑で難解なデッキあり、常人にはまず扱えない。
 はっきり言って、流石のLであっても初見のゲームで最適解が何かを見出すことはできなかった。
 加えて遊星のデッキはアクセル・シンクロによってさらなる大型モンスターを出すのがセオリーだが、
 それらのカードは当然Lは生み出す、基使用することはできない。必然的に単純な効果力を狙うなら、
 攻撃力2800のニトロ・ウォリアーか3000のロード・ウォリアーを出すのが吉と判断していた。

「まずはレベル・スティーラーを捨ててクイック・シンクロンを特殊召喚し、
 クイック・シンクロンのレベルを1つ下げ、墓地のレベル・スティーラーを特殊召喚。
 レベル1のレベル・スティーラーに、レベル4となったクイック・シンクロンをチューニング。」

884無情の抹殺 群雄割拠 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:48:56 ID:POawdWDU0
 ガンマンのようなモンスターと背中に星のついたてんとう虫。
 それらがシンクロ素材となって出てくるのは白いマフラーが目立つ白銀の戦士。
 ベクターが出そうとして失敗した、ジャンク・スピーダーを出すこと。これが最善の一手。
 ジャンク・スピーダーはシンクロ召喚に成功した場合の効果は余りにも破格の効果を持っており、
 デッキからレベルの異なるシンクロンと名のついたチューナーモンスターを、
 フィールドを埋め尽くす勢いで特殊召喚でき、これに伴い一気にモンスターが展開されていく。

「ジャンク・スピーダーをシンクロ召喚し、その効果でこれらのモンスターを特殊召喚。」

 遊星のDホイールに似た機械を乗りこなすモンスター、レベル5ホイール・シンクロン。
 スターダスト・ドラゴンを小型にしたようなモンスター、レベル4スターダスト・シンクロン。
 赤い筒に手足やメーターがついた機械のようなモンスター、レベル2ニトロ・シンクロン、
 背中にジェットパックのようなものを背負った緑の小型モンスター、レベル1ターボ・シンクロン。
 それぞれのモンスターが一気に場に召喚され、リンボはおもむろに呪符を適当に何枚か投げ込むが、
 庇うように戒斗の夜空の剣に全てが両断されてしまい、妨害には至らなかった。
 因みに、EXモンスターゾーンは遊星のデュエルディスクには当然ないので、
 野獣先輩のデュエルディスクと違って、チューナーを五体展開するという行為はできない。
 (この辺のルールの違いについては、ベクターの世界にシンクロがないことから察してはいる)

「それほどの強さを持ちながら臆しているのか?」

「ええ、ええ。拙僧、式神召喚は一通りこの通り得手なのですが、
 でゅえるもんすたーずとやらは拙僧にとっても未知の代物にて。
 使用者を先に仕留めてしまえばそれで済むやもと狙ってみたものの、
 いやはや。貴殿は並のサーヴァントかそれ以上の傑物にあられるようで。」

「当たり前だ。その程度の力なくして、世界を作り直そうなどと思わないからな!」

「なんと、世界を作り直すとは。
 そういう人物と拙僧は縁があるのやもしれませぬな。
 拙僧と貴殿、案外ご友人になれなくはない気がしますぞ?」

 異星の神が蘇らせたクリプターは、
 己が担当する世界を存続させようと、
 汎人類史を白紙化させるにまで至っている。
 言うなれば世界を作り変えると同義の行為である。
 
「黙れ。貴様のような輩と同類とみなされるだけで虫唾が走る!」

 人を己の悦楽の為にしか見ていない。
 やはり戦極凌馬と同類の類であるのが分かるし、
 こんな奴と同類など吐き気すら覚えるぐらいだ。

「スターダスト・シンクロンが特殊召喚されたことで、
 デッキからセイヴァー・アブソープションを手札に加え、
 レベル5のジャンク・スピーダーにレベル2のニトロ・シンクロンをチューニング。
 ニトロ・ウォリアーをシンクロ召喚し、ニトロ・シンクロンの効果でカードを一枚ドロー。
 ターボ・シンクロンをリリースしサルベージ・ウォリアーをアドバンス召喚。
 アドバンス召喚に成功したサルベージ・ウォリアーの効果で墓地のチューナー、
 ターボ・シンクロンを特殊召喚し、レベル5のサルベージ・ウォリアーに、
 レベル1のターボ・シンクロンをチューニング。ターボ・ウォリアーをシンクロ召喚。
 ホイール・シンクロンの効果で手札のレベル4以下のモンスター、ドリル・シンクロンを通常召喚。
 ホイール・シンクロンの効果でこのカードをチューナー以外として扱う効果を適用し、
 レベル5のホイール・シンクロンにレベル3のドリル・シンクロンをチューニング。
 スターダスト・ドラゴンをシンクロ召喚。更にレベル・スティーラーの効果で、
 再びニトロ・ウォリアーのレベルを下げることで復活、墓地のホイール・シンクロンの効果を発動。
 このカードを除外しフィールドのモンスターのレベルを4つまで下げる効果を適用することで、
 スターダスト・シンクロンのレベルを3に変更し、レベル1のレベル・スティーラーにチューニング。
 アームズ・エイドをシンクロ召喚。」

885無情の抹殺 群雄割拠 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:49:30 ID:POawdWDU0
 Lの思考の中をデュエリスト以外が見たら、
 脳が焼ききれそうなぐらい意味の分からない展開だろう。
 こんなものを一学生である麻耶に支給した、主催者の嫌がらせが伺える。
 これでさえも遊星の最適解ではないのだから、末恐ろしいデッキでもあった。
 不動遊星はどれだけこのデッキを使いこなし、信頼してきたのかがよく分かる。
 同時に、合理的な目線ばかりで見る自分には扱いきれないなともLは思えた。

「アームズ・エイドは……念のため、
 此処は戒斗さんに装備させておきましょう。受け取ってください。」

 先のように、モンスターではなく他人に装備させることを優先。
 夜空の剣を一時的に左手に持ち替えながら、アームズ・エイドを装備。
 今度はオーバーロード・バロン・アームズ・エイドスタイルと言ったところだろうか。
 攻撃力が上昇したことで拮抗が崩れたのか、リンボが力量を見誤ったのか。
 どちらにせよアームズ・エイドの赤い爪が、リンボの露出した肌に複数の裂傷を刻む。

「ンンン? なるほどなるほど。そのような使い方もあるのですなぁ。
 ですが!その腕の装飾そのものは貴殿の装甲程のものではないでしょう!」

 所詮は外部による援助あっての攻撃である。
 今の攻撃も受けこそしたが所詮は掠り傷程度だ。
 だから何も問題はなく、爪には爪て対抗せんと、
 一度距離を取ってから変わらず敏捷Eらしからぬ速度で肉薄。
 獣のような長い爪がアームズ・エイドが装填された右腕を狙う。
 それを夜空の剣の斬撃で拮抗に留めるが、生身の腕と拮抗すると言うのは、
 相手が規格外な存在であることを示しているかのようでもあった。

「ぷー殿、いささか数の利で不利なご様子。
 此処は拙僧の支給品を提供すると致しましょうぞ。」

 ゴヨウ、ターボ、ニトロ、スターダスト。
 これだけいてはいくらコーカサスであっても限度がある。
 クロックアップもあるが、一度使えば暫くは扱えなくなってしまう。
 此処にはリンボがいる。つまり、リンボが参加者として許されるだけの強い参加者の可能性。
 安易にクロックアップをすることは手の内を晒すことになるし、死に直結しかねない。
 それでは『つまらない』。たったそれだけの理由で、この男は奥の手を使わなかった。
 リンボから飛ばされたカードを手にし、それを見て下卑た笑みを浮かべながら掲げる。

「だったら、遠慮なく使わせてもらうぜ、来い!」

 PoHの眼前に現れたモンスターは、正統派な戦士と呼ぶべきだろう。
 青と黄金の鎧を纏った戦士は、少なくともPoHが使うべきカードでも、
 ましてやリンボが持つべきものでもなく、ベクター達で正直似合わないだろう。
 これを手にするのが相応しいのは、キリトや遊戯と言った人物が持ち主であるべきだ。
 そのモンスターの名を───

「カオス・ソルジャー -開闢の使者- 降臨!」

 降臨したカオス・ソルジャーはPoHの手足のように、
 彼の願った通りにゴヨウ・ガーディアンとニトロ・ウォリアーを切り裂いた。
 このカオス・ソルジャーはモンスターを戦闘で破壊した場合、
 続けてもう一度だけ攻撃することができる連続攻撃効果を持つ。
 そして攻撃力はブルーアイズ同様の3000。その攻撃性能は、
 少なくともこの場のどのモンスターよりも高いものだと伺えた。

「そーらもういっちょ!!」

 モンスターの力を借りたことで、
 手が空いたPoHによるベクターへのダイレクトアタック。
 デュエルモンスターズのルールは軽くしか目を通してないとはいえ、
 罠カードがあることは分かっている。だから不明瞭なままで置くのは危険だ。
 あの中に開闢の使者を倒しうるカードがあってはこちらとしても困りかねる。

「チッ、罠発動! ピンポイント・ガード!
 墓地のレベル4以下のヘルウェイ・パトロールを復活させる!」

886無情の抹殺 群雄割拠 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:49:55 ID:POawdWDU0
 格下のモンスターを召喚して何になるのか、
 そう思っていたところ、パンチを叩き込んでも手ごたえがなさすぎる。
 いや、どちらかと言えば硬すぎるに等しく、一度距離を取って様子を伺う。
 ピンポイント・ガードには蘇生したモンスターがそのターンバトルで破壊されない効果を持つ。
 いくら強くなっても、破壊できないのでは意味がない。

(クソッ、あいつが仮面ライダーの時点で守備力は高いだろうし、開闢も2500もありやがる!
 その上これは自他全員だ。ターボもズターダストも守備力が越えられねえ、
 だが大損覚悟でこれはやるしかねえ! 開闢を残すのは間違いなくやべえ!)

 開闢には攻撃宣言を放棄する代わりに場のモンスターを除外できる。
 それで参加者が除外されてしまったらどうなるか分かったものではない。
 だから此処は他者を巻き添えにするつもりでも、倒すことが先決だと理解する。

「永続罠リビングデッドの呼び声発動!
 俺の墓地のゴヨウ・ガーディアンを特殊召喚する効果にチェーンし、
 反転世界(リバーサル・ワールド)を発動! 俺たち全員、攻守が逆転する!」

 どの程度の弱体化か、或いは強化が発生するか全くわからない。
 ただ言えるのは、開闢の危険性を知ってるのはベクターただ一人のみ。
 ターボ・ウォリアーは1500、スターダストは2000、カオス・ソルジャーは2500
 しかしその効果を適用後に復活したゴヨウ・ガーディアンにはこの効果は適用されることはない。
 つまり、攻撃力は2800。開闢を殴り倒すことができる上に、更なる効果が期待できる。

「おっと。」

 何か嫌な予感がしたのもあり、
 リンボ達二名は距離を取り反転世界の射程の外へと逃げる。
 円形状に色彩が反転するフィールドが広がっており、
 何処まで逃げれば射程外かはおおよそ理解できるものになっていたからだ。
 無論、避けながらも互いの攻防は続くが、互いに決定打は与えられないままである。

「俺のターン! ゴヨウ・ガーディアンで開闢を攻撃しろ!」

 ゴヨウ・ラリアットによる捕縛がカオス・ソルジャーを締め上げる。
 破壊されて粒子のように砕け散るも、直ぐにベクターの場へと姿を現す。
 ゴヨウ・ガーディアンにはバトルで破壊したモンスターを守備表示で奪う効果を持つ。
 その上開闢の使者は反転世界のデメリットが消え、元に戻っている。
 あっという間に形勢逆転の状況へと追い込むことに成功し、歓喜の声を上げるベクター。

「うっしゃあ!!」

「何だと!?」

「ゴヨウ・ガーディアンは倒したモンスターを奪えるんだよ!
 さて開闢の使者には除外効果がある。これでテメエを除外してやるぜ!!」

 回避は不可能ではない。
 持っているシフトチェンジにクロックアップと手段はある。
 だがそれらは使用制限がある。下手に使えば自分を追い詰める材料になりうる。
 自分より格上だと分かっているリンボが実力伯仲であることが揺るがぬ証拠だ。
 こんな奴相手に使うには早すぎる。除外する効果を避けることへ専念しよう。










「破滅のフォトン・ストリーム!!」

887無情の抹殺 陰陽師 蘆屋道満 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:50:52 ID:POawdWDU0
 光のブレスが、その瞬間カオス・ソルジャーを消し飛ばした。
 今の声、今の攻撃。誰で、何が攻撃してきたかをベクターは予想する。
 視線の先にいたのはデュエルディスクを構えるカイト、
 クロスボウを構えるミカン、片手でナイフを持つクレヨンの三名。
 それを見た瞬間『最悪だ』と同じ舞台にいる科学者の口癖のような感想が出てきた。

「まさか貴様と会うことになるとはな、ベクター!」

 カイトとベクター因縁的にはあまり縁がない方だ。
 バリアン世界の住人とカイトの相手は基本ミザエル一人であり、
 あるとするならば父であるDr.フェイカーを乗っ取ったぐらいだ。
 しかも、それはベクターが一方的に知っているだけにすぎないことで、
 カイトからすれば遊馬を罠に陥れたバリアン以外の感想は出てこない。
 元々E-4に向かうところだったが、近くのエリアからスターダスト・ドラゴンが見えた。
 他の参加者がいると確定しているならば優先順位はそちらの方だということで北上して今に至る。

「てかこれ、どういう状況!?」

 ミカンからすれば、この状況は余りにも異質だった
 オーバーロードの戒斗も、リンボもどちらもまぞくに近しいものを感じる。
 当然シャミ子のものとは別の意味で比にならないような存在感を放つ。
 だからこの場の誰が敵で、誰が味方になりうるのか判断がつかない状況だ。
 精々、今目の前にいる男がカイトの言うベクターだということぐらいである。
 狡猾で、卑劣な手を使ってくると言うあの町にはいないタイプの、邪悪な存在。

「丁度助かったぜ! こいつらに襲われちまってたところでなぁ!」

「な、てめ……!!」

 PoHはそれに便乗してきた。
 何か言い返そうとするが、厄介なことに返す言葉がない。
 下手に返せば相手のペースに吞まれることを理解してるからだ。
 そう、散々自分が敵を煽って利用してきたことが返ってくる。
 まさに因果応報を形どった光景とも言えるだろう。

(まずい……此処には彼が味方と証明する材料がない。
 真月さんの予想通り天城カイトは彼を敵とみなしている。
 セイヴァー・アブソープションの効果で相手のどちらかを装備カード、
 もとい拘束させたかったものの、彼方に他に面識のある人物も関係者もいない。
 一応手段はあると言えばあるが、ちゃんと機能するかは賭けになってしまうのが厳しいか。)

「ああクソがッ! 月で死んだせいで俺の顛末知らねえのが厄介だな!
 信じねえだろうが、俺は殺し合いに乗るつもりなんざはなからねえんだよ!
 てめえが死んだあと、こっちもドン・サウザンドに裏切られて吸収されちまったよ!
 んであのかっとビング野郎に感化されちまって、今じゃ新たなホープが俺のエースだ!」

 進化したホープこと、ホープ・ザ・ライトニングを見せるベクター。
 あのベクターが、希望を進化させるなどいくら謎のシステムがあると聞いても、
 驚きが隠せなかった。

「ホープが進化だと……? だとして、貴様が乗らない理由は……」

「待ってください。私はL、探偵をやっています。
 此処は全員一時休戦として、話を聞いてはもらえないでしょうか。」

 これ以上ベクターと会話させると話が拗れかなかった。
 遮りつつ、会話の主導権を握ろうとするも、リンボが許さない。

「ンンン、そうはいきませぬぞ。える殿。
 申し遅れました。拙僧、名簿上ではキャスター・リンボと申します。
 吉田良子殿のことから陽夏木ミカン殿のことは伺っておりまする。
 そして、我々は吉田優子殿も近くで保護している……どちらが悪か決まってるのでは?」

「シャミ子達が近くにいるの!?」

 知人の二人の訃報はあれど、
 此処二きて二人の吉報も来てくれた。
 せめて二人を、桃を助けられればいい。
 そう願っていたので安堵の表情をするも、Lが水を差す。

「……おかしな話ですね。
 あなた方が殺し合いに乗ってないなら、
 保護対象は今、何故放置しているんですか?」

「勿論、拙僧の信頼する味方が、最上啓示殿が保護しておりますれば。
 と言っても伝わらないかと。知人の方は誰もいないとのことですので。」

「……なるほど。では此方は最後の手段と行きましょう。
 ミカンさんとPoHさん、でよろしいでしょうか。名前は。」

「え? 私?」

「あ? 俺?」

「ミカンさん。貴女にまず、ある支給品の説明書を渡します。
 そしてその後、PoHさん。貴方にはその支給品であるこの杖を渡します。」

 取り出したるは時計のように見えなくもない、形容しがたい杖。

888無情の抹殺 陰陽師 蘆屋道満 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:51:40 ID:POawdWDU0
「……何がしたいんだ?」

 展開が全く見えてこなかった。
 一触即発のこの状況において、
 支給品と説明書を別々に渡してくる。
 説明の意図が読めないし、罠の可能性もあると思い怪訝な顔を浮かべた。
 それはミカンも同様だ。相手は仮面ライダーであるのでいつでも変身可能だし、
 そもそもLがどういう人物かも分からない。桃みたいに生身で怪力の可能性もある。
 此処で下手に動いて何かを起こしてしまうわけにはいかず、平常心を保つ。

「それで誰が身の潔白かを証明できます。
 武器を持ってない証明として、一応この双眼鏡も捨てますか。
 私の支給品はベルトとロックシード、この双眼鏡と言う名の杖、最後がこれです。
 ああ、因みに私は一般人ですから生身で絶対に勝てないので、警戒はほどほどでお願いします。」

「……そのデュエルディスクは誰のものだ?」

「槍の男に殺された少女のを回収してお借りしています。
 不動遊星のデッキなので、可能なら彼に返したいところですが、
 それを今言ったところで、信用を得られるかどうかは怪しいところですね。」

 ベルトを外し、不健康そうで同時に疲弊しきった表情を全員に見せるL。
 ベルトとデュエルディスクはその場において、あおの杖もベクターに投げ渡す。

「おいおい、何するつもりだよ!?
 名探偵様と言えどこの状況の打開なんぞ……」

「すみません。今回真月さんは黙っていてください。
 貴方が喋ると今の状況においては話が拗れる可能性が非常に高いので。
 まずはミカンさんにこれを。危険物ではないことを証明になるでしょう。」

 何も武装してる様子もなく、両手に杖と説明書を持ったまま歩き出す。
 先にミカンに来るように言われ、その説明書を手に取り、読み取っていく。
 彼が何をしたいのかについて説明書を見て理解し、うんと静かに頷いた。

「……そうね。これは手にしても大丈夫よ。私も保障する。」

「ふーん、それがねえ……」

 乗ってない参加者からの信頼を得るため。
 そうして身内同士で内輪もめしているのを見届ける。
 彼のもっとも楽しい要素でもあり、笑える時の一つだ。
 だから早くこんなことを終えてしまえればいいのにと思い受け取る。
 Lから杖を受け取った時、カチリと何か鳴った気がしたが気にも留めず。
 オーバーロードも異星の使徒も下手に動けばそこで信用の均衡は崩れる。
 なので彼らとて動くことはなかった。

「ぷー殿。何か魔術的な要素があるようで。
 拙僧の見立てでは少なくともただの杖ではございませぬ。」

「それが分かったところで俺にどうしろって話だがな。」

 ゲームの世界と言うのを経験こそしているが、
 魔術的とか言われても、オカルト系についてはさっぱりだ。
 後に世に出るALOすらも未経験の彼の知るところではないのだから。

「ではPoHさん。貴方、殺し合いに乗ってませんね?」

「あ? 何意味わかんねえことを言ってるんだ。
 乗ってるに決まってんだろ。こんな楽しい祭りを楽しまないで一体何を───!?」

 ありえない言葉を紡いだことに、
 全員が何かしらの反応を示した表情で彼を見やる。
 PoHが貰ったものについて、厳密な杖の名前はない。
 とりあえず、此処では『マイナスの杖』と言う仮称とする。
 デュエルモンスターズの精霊世界にて、猿魔王ゼーマンの軍勢が用いていた杖は、
 自分が口にしようとしていた言葉と真逆の言葉が出てしまうと言うものではあるが、
 使い方によっては真実を口にしてしまう。事実、そのデュエルモンスターズの精霊世界では、
 トルンカと呼ばれる精霊がゼーマンに作戦の全てを暴露してしまう事態が発生してしまっている。
 何より、それを笑顔で答えるPoHの表情は、ミカン達からすれば余りにも似合いすぎるものだ。
 顔だけの印象で決めるべきものではないが、ミカンだけは説明書を見ていて真実を知っている。
 これは彼の本心から出ている言葉なのだと。故に距離を取りながらボウガンを彼へと構えた。

889無情の抹殺 陰陽師 蘆屋道満 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:52:19 ID:POawdWDU0
「ンンン、やはり何かしらの呪物か何かの類と思いましたが、
 まさか真意を喋らせる杖とは。中々面白い魔道具の類ですな。」

「ふざけてる場合か! 分かってたなら何故止めなかった!?」

「止めれば疑われるでしょう。それに、拙僧は愉しければよいので。貴殿もそうでしょう?」

 そうリンボに言われると、グヌヌと言った顔はするが反論はできなかった。
 自分でも分かっていたらやっていたかどうかで言えば、間違いなくやっていただろう。
 それを考えれば、リンボの考えや楽しみ方を否定する要素は皆無に等しい。

「チッ……だがバレちまったものは仕方ねえか。
 じゃあ仕方ねえ、この場で存分に蹴散らして───」

「ぷー殿。先のお詫びにこれを。」

 動き出そうとするPoHの背中に、ぺたりと貼られる何か。
 リンボが使う何かで貼られたものなど、想像するに難くない。
 思わずそれに対してぞわりと寒気が走るように鳥肌が立つ。

「てめえ! 俺に呪符を……」

「おっと、剥がしてしまうと……どうなっても知りませぬぞ?」

 三日月のような裂けた笑み。
 散々PKをしてきたPoHですら気圧される雰囲気。
 彼は外道ではあるが、所詮は対立煽り大好き人間に過ぎない。
 本物の巨悪や邪悪と言った存在とは、次元が違うのだ。

「まずいです。スターダスト・ドラゴン、ターボ・ウォリアー! 攻撃───」

 持てる全速力でデュエルディスクを手に取り、
 ロックシード付きの戦極ドライバーも装備して変身しつつ、
 反転世界でステータスが下がってるとは言え攻撃の優先順位を変更する。
 今まで多くの犯罪者と出会ってきたLだから分かる。何かを起こすときの顔だと。
 そしてそれは、Lの頭脳を遥かに超えた、史上最悪のものとなって顕現した。





 口と無数の瞳が浮かぶ暗黒の太陽。
 それを使役するかのように浮かぶ謎の存在。
 二つの何かが、リンボの頭上にて鎮座していた。
 キャスター・リンボの操る陰陽術の奥義が一つ。
 悪辣の極みにして、怖気のする悪逆非道の真骨頂。
 問答無用に命を歪める強制変換。同意も拒絶も不可能。
 人間を怪物へと書き換えるという、完全なる外道の術。
 此処には参加者が、モンスターが集いすぎた。最早、
 戦況は圧倒的に不利だ。最悪六対二に加え、三つのデュエルディスク。
 デュエルモンスターズによってもっと数を増やすだろうことは明白だ。
 ならば、さっさと終わらせるに限る。もっと楽しみたかったという点はあるものの、
 此処では異星の使徒と言えども、あくまで一参加者に過ぎないことを、忘れないがために。

「顕光殿、お目覚めを! 来たれ、暗黒の帳! 太陽は此処に生まれ変わる!」

 この術の何より恐ろしいのはその悪辣な男の性格を反映させるかの如く、
 全ての者にこの効果は作用せず、ある意味公平な確率によって変化していく。
 その博打に勝てば今まで通り人の姿を保ち、博打に負ければ悪鬼羅刹の魑魅魍魎と化す。
 隣人が、妻が、子が、友が、仲間が、この場で育んだ絆を奪う、最凶最悪の宝具。

「狂 乱 怒 濤 ・ 悪 霊 左 府 ! !」

 ただ変わり、ただ置き換わり、そして人を喰らい始める。それを行使するのが頭上に浮かぶ、
 藤原道長を呪殺せんとして仕掛けた、都市そのものを殺すに等しい驚天動地なる大呪術の再現。
 藤原顕光の怨霊、悪霊左府が黒き太陽から放たれた黒光を、周囲にいた参加者へと降り注いでいく。
 あらかじめ呪詛を防ぐ札を渡されたPoHだけはこの術においては一切関わらない。
 では、残った者達はどうなったかと言うと。

 戒斗はオーバーロードだ。もとより怪物であり、通じることはまずない。
 ベクターはバリアンではあるもののおおよそは人に近い。しかし変化はなかった。、
 クレヨンはHANOIであるため所謂ロボット。まず人間そのものですらないので無傷。
 ミカンは魔法少女だが、ウガルルの呪いの影響か、或いはベクター同様勝ち取ったのか。
 そうやって見ていけば、通用していない者達には何も変化がなくて困惑してしまう。
 そも、この宝具は『半数程度にしか効かない』呪詛なのである。
 それ即ち、全員が全員無事であるわけがなかった。

「さあさあ始まりますぞ! 阿鼻叫喚! 地獄絵図!
 陰惨極まれり光景が! 瞬間が! 此処展開されるううううう!!
 フハハハハハハハ、フゥーハハハハハハ!!」

890無情の抹殺 陰陽師 蘆屋道満 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:52:50 ID:POawdWDU0
 歓喜と狂喜乱舞の表情と笑みを浮かべながら、
 目を赤くするほど、怪物のような表情を浮かべるリンボ。
 隙を見て斬りかかる戒斗だったが、流石の彼とて隙だらけではない。
 彼がいることを忘れてはおらず、避けに徹していると戦況に変化が訪れる。
 漆黒の太陽光を浴びたLと、カイトの二名に。

 L、と言うよりも仮面ライダーバロンの姿が変わっていく。
 ボコボコと筋肉は風船のように膨らみ、ひょろひょろだったとは思えない程に筋肉質に、
 細身だったバロンは、最早怪物と言っても差し支えない状態へと至っている。

 カイトもバリアンの力を、フォトンを使ってるが根本は人間だ。
 だからリンボの呪詛に対して耐性はなく、耐えきれるものではなかった。
 カイトもまた最早天城カイトの姿ではなくなってしまっている。
 魑魅魍魎───否、これはモンスターと言うべきだろうか。
 人の姿ではある。だが、金色だった髪は黒く染まり果て、
 光子の翼や変貌したスーツは、最早別人と呼ぶべきである。
 もし、今の彼に名前を付けるとするならば───





 モンスターカード『ナンバーズハンター』と呼ぶべきだろう。

『カイ、ト?』

「おい名探偵、大丈夫か……」

「近づいちゃダメ!!」

 明らかに異質なことが起きているのだけは全員分かる。
 特に、呪いと向き合い続けてきたミカンにとってはなおさらだ。
 近づこうとした瞬間、バナスピアーを振るい、文字通り殺しにかかった。
 咄嗟に躱したことで無傷で済むようになったが、思わぬ行動に冷や汗が飛び出す。

「おい貴様!! 奴らを元に戻せ!!」

「ンンンンンン!! 水道の蛇口をひねった水を戻せとは、
 何とも無茶なことを強いてきますなぁ貴殿殿は! あれはもう、
 魑魅魍魎のやモンスターの類、もう既に『死んでおります』が故に!
 蘇生などと言う奇跡など拙僧にはとてもとても……クハハハ、ハハハハハ!!」

「貴様ああああ!!」

 リンボの言う通り、魑魅魍魎に変じた時点で既に死んでいる為、元に戻す手段はない。
 なので、殺す以外の選択肢などどこにもないが、当然これは当人しか知らないことだ。
 全部私のせいだと言って調子にのる戦極凌馬が可愛く思えるほどの所業に怒りを露わにする。

「畜生、やるしかねえか! 俺のターン! ゴヨウ・ガーディアンで攻撃!」

 ベクターもこれは普通の状況ではないと分かっている。
 だからゴヨウ・ガーディアンで直接Lを攻撃することを選んだ。
 幸い他のモンスターは攻撃力が下回っているので負けることはない。
 バナスピアーを振るったことから、デュエルもできない状態だとは分かった。

「俺のターン。手札から魔法カードトレード・インを発動。
 手札のフォトン・カイザーを捨て二枚ドローし、手札のフォトン・カイザーを魅せ、
 手札から銀河剣聖(ギャラクシー・ブレイバー)を特殊召喚。」

 一方で、カイトの方は別だった。
 魑魅魍魎と言うよりモンスターに変質したからか、
 耐性はなくとも強靭なデュエリストの本能故か。
 その状態になってもデュエルは可能だった。

 カイトの矛先はクレヨン。
 ギャラクシーアイズのブレスや、
 青と白銀の剣士の銀河剣聖の斬撃が次々と襲い掛かる。
 動き自体はそこまで複雑になってるわけではないので、
 クレヨンであっても避けることはそう難しくはなかった。

「カイト、何をしてるのよ!? 敵は向こうで……ッ!」

 変質したカイトが死んでいることには気づけず、
 ミカンは正気に戻るよう問いかけるものの、
 迫りくるエリュシデータの斬撃を華麗によけながら距離を取り、クロスボウを放つ。
 しかしミカンは近ければ近いほど矢を当てられないのもあり、エイムが絶望的だ。

「そのクロスボウは飾りか? 武器が泣くぜ?」

891無情の抹殺 陰陽師 蘆屋道満 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:53:54 ID:POawdWDU0
「貴方……ッ。この状況を、何故何とも思わないの?
 あの人はその気になれば貴方も何かされてたのかもしれないのよ!?」

「奴は今値踏みをしてるところさ。
 俺を使うか捨てるか利用するかの最中。
 最初は冷や汗をかいたが今思えば、値踏み中のところを、
 なんの理由もなく斬り捨てるほど、考えなしの奴じゃねえのさ。
 それに、見てみろよ。この戦場。俺の理想郷はここにあったんだよ!!」

 本当のところリンボは考えなしの男な部分もあるのだが、
 その部分を露呈させるには相応のモノがなければならないだろう。
 と言うより、それが原因で死亡してるので多分懲りてる説すらある。
 そしてPoHが見せつける光景は、リンボの言う通り地獄絵図に等しい。
 先ほどまで味方同士だったはずのLとベクターがデュエルに近い形で戦い、
 戒斗は未だリンボと斬り合いを、カイトは変貌した姿でクレヨンにモンスターを向けて仕掛けていく。
 なんだこれは。先ほどまで休戦状態だったはずの戦況は、彼女が望みたくない最悪の状態と化した。

「貴方だって巻き添えになるのかもしれないのよ!?」

「まあそこはいただけないが、此処は特等席じゃあねえか。
 味方同士で潰し合い、味方同士で殺し合う。最高以外にねえさ。」

「貴方、狂ってるわ……!!」

 その通りさと肯定すると程なくして、
 おっと、と口にしながらカイトの動きの隙をついて、
 クレヨンが嫌悪を露わにした表情でナイフで斬りかかる。
 HANOIにとって悪意のある人間と言うものは嫌と言うほど見てきた。
 TOWERにいた誰もが、そう思うだろう。監察官のコーラルだってそうだ。
 コーラルはHANOIがどのような経緯でTOWERに召集されたか知っている。
 軍事用が現代に不要共なり、ただの古い殺人兵器として見下されるようになったローランド。
 人によって使い倒され、犯罪にも手を染め人間を信用しなくなった名もなき男だったナナシ。
 仲間が暴力にさらされ、機能停止になるまで殴られたHANOIを知っているキャメロン。
 ほかにも様々な人間の悪意や、自身のせいで周囲の人間が狂わされたことにより、
 ストレスを抱えた者達が集っていた。だからPoHの言うことを理解したくない。
 しかし、いくら戦闘補正があるとはいえ攻撃力の低いペーパーナイフでは、
 とてもエリュシデータの相手にはならず、寧ろ損壊しかけてる右腕は一撃を入れるたびに、
 ミシミシと歪で嫌な音を立てていく。攻撃する側の方が傷ついてるかのような光景だ。

「その程度じゃまるで足りねえよ。」

 これなら月の方がまだましだ。
 そう言わんばかりに彼女の左足をエリュシデータが斬り落とす。
 血が出ず、明らかに人間の感触ではないそれに少しばかり面食らうも、
 そんなことを言ってる場合ではなくなった。

「手札ksts速攻魔法破滅のフォトン・ストリーム発動。
 ギャラクシーアイズが存在する場合、相手フィールドのカードを除外する。
 除外するのは───貴様だ。」

 静かに、死刑宣告のように指されるのはクレヨン。
 何故これほどまでに執拗にクレヨンを狙うのかは定かではない。
 単に、生前オービタルと言うロボットに縁があったからだけなのかも。
 いや、深い理由はないだろう。彼はもう死者だ。宝具を受けた時点で、
 彼と言う存在は既に死に絶えている。だから彼の考えを読み取るなど無意味だ。
 ギャラクシーアイズの口に光が集っていく。ただの攻撃ではなく専用に近い魔法カードの効果だ。

「カイト!  正気に戻って!!」

 攻撃に巻き込まれまいとPoHは距離を取るが、
 ミカンはカイトがまだ生きてると思い込み声をかけ続ける。
 だがその声は届くことはなく、死へのカウントダウンが迫っていた。
 ドン、と突き飛ばされてアスファルトの大地を転がるように倒れるミカン。
 片足と右腕だけで何とか立ち上がり、近くにいたミカンをクレヨンは思いきり突き飛ばした。
 ギャラクシーアイズの攻撃から、彼女を守るために。

「クレ、ヨン?」

 同時に、光のブレスが放たれた。
 誰が見てもこれを受ければまず死ぬ。
 彼女は、それをミカンから守りたかった。
 そして、声の出ないクレヨンはデイバックを彼女に投げ渡しながら口を動かす。

『ごめん えがお できない』

 出るはずのない声で、彼女はそう紡いだ。
 えがおで できないとは、自分ではなくミカンのことだ
 バイバイと手を振りながらもそれが伝わることなく、
 光の中へと彼女は飲み込まれ、光が収束すると残されたのは、
 彼女が伸ばしたことで偶然にも残された機械の右腕残骸だけだ。

「いや……嘘でしょ? クレヨン!! イヤアアアアアアアアアアアア!!!」」

892無情の抹殺 陰陽師 蘆屋道満 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:54:34 ID:POawdWDU0
 そして、大災害がこの場に訪れる。
 慟哭するミカンを中心に、凄まじい風が吹きすさぶ。

「な、なんだ!? 何が起き、うおおおおお!!!」

 ウガルルの呪い。
 それは桃の姉である桜によって鎮静化し、
 ささやかな呪い(魔法少女の視点で)にまで下がった。
 しかし。リンボの宝具によりウガルルの呪いにも悪影響が発生し、
 まるで嘗ての時のような、建物すら破壊しかねない暴風が巻き起こされる。
 最も近くにいたPoHはあっという間に巻き込まれ、彼方へと飛ばされていく。

「ンンン!? これは、拙僧に負けず劣らずの呪い!?
 これほどまでの呪いを持つとは! これは退避せねば拙僧とてただでは───」

 暢気なことを言ってるようでリンボも少しばかり焦り気味だ。
 ウガルルは古代メソポタミアのまぞく。英霊で言えば相当な歴史を持つ。
 いくら異星の使徒と言えども無事では済まないので逃げを選ぼうとするも、
 どさくさに紛れて夜空の剣が、吹き荒ぶ台風の中袈裟斬りをリンボへと刻む。

「カハッ!!」

「チッ、少し浅かったか……これだけの惨状を作り、
 背を向けるとは……貴様、どこまでも許さんぞ!!」

「おのれぇ!! 今それどころではないと……」

「おい名探偵! いい加減目を覚まし……やべえ、なんか来るぞ!!」

 口論も戦闘もする暇もない。
 オーバーロードも、サーヴァントも。
 バリアンも、魑魅魍魎も、そして死体も支給品も。
 彼女の中心にある右腕と形見の支給品以外は全てが吹き飛んでいく。
 まさに、大災害と言うほかなきものが街を包む様に巻き起こされていった。










「クレ、ヨン……」

 最後に振った右腕と投げ渡された支給品。
 それだけが残された台風の中心地で、彼女は一人孤独に泣いた。
 精神を安定させるなどできない。目の前で仲間を喪い、何人も魔族とは違う化け物に変えられた。
 もっと早く、リンボの悪辣さに気づいていればと思うが、後悔しても出てくるのは悲しみと、
 それに伴う呪いの影響による大雨だけだった。

【D-5/ 大雨の外 /一日目】

【陽夏木ミカン@まちカドまぞく】
[状態]:精神疲労(超極大)、魔法少女モード、ウガルルの呪いの強化或いは暴走
[装備]:クロスボウ、クレヨンの右腕
[道具]:基本支給品×2(自分とクレヨン、食べ物とタブレット以外は売却)、ランダム支給品×1〜5(解毒系のものはなし、自分×0〜2、クレヨン×1〜3)
[思考・状況]基本方針:???
1:???

[備考]
※参戦時期は、原作49話(アニメでは2丁目11話)で呪いが発動し、
 シャミ子・桃と別れた後、かつ再会する前からです。
※クレヨンとの会話からこの舞台が仮想世界TOWERの可能性を考えています。
※カイト、クレヨン、海馬(アニメ版)、万丈と情報交換してます。
 DIOの時を止める能力も把握してます。
※魔導雑貨商人から物資調達員、魔導闇商人の情報を得ました。
※キャスター・リンボの宝具の影響でウガルルの呪いが強化されています。
 普段よりも強い呪いや影響が周囲にかかります。










「空中でもデュエルする気かよ、名探偵様よぉ!?」

 台風で運よくか運悪くか、
 偶然にも同じ方向へ飛ばされ落下しながらデュエルを、
 殺し合いを続けていることになったLとベクターの二人。
 元々ライディングデュエルで空中にモンスターは浮くので、
 ゴヨウ・ガーディアンも空中を浮いているのは救いではあるが。

「……真月、サン。」

893無情の抹殺 陰陽師 蘆屋道満 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:55:16 ID:POawdWDU0
 台風で運よくか運悪くか、
 偶然にも同じ方向へ飛ばされ落下しながらデュエルを、
 殺し合いを続けていることになったLとベクターの二人。
 元々ライディングデュエルで空中にモンスターは浮くので、
 ゴヨウ・ガーディアンも空中を浮いているのは救いではあるが。

「……真月、サン。」

「やっと意識を取り戻しやがったか。おせーぞ名探偵……」

 ゆっくりと、言葉が紡がれる。
 それに安堵の息を吐くベクターだったが、

「イイ、エ 私 限界 ミタイ デス。
 仮面 ライダー ノ オ陰 デショウカ。
 辛ウジテ 少シダケ 理性 取リ戻セマシタ。」

 は? と間抜けな声が出てきた。
 助かったんじゃねえのかよ。そう思ったところを、
 叩き落とす。これが外道の術。キャスター・リンボの宝具である。

「デスガ モウ自我ハ 時期ニ消エルデショウ。後ハ 頼ミ マシタ。」

 後は頼む。殺し合いを打開する。
 最初に三人で出会った時のことを思い出す。
 ほんの六時間から八時間程度の間柄の関係だ。
 仲良しこよしの友情を育んだわけでもない。
 けれど、それがどこか彼にとっては居心地がよかったのだ。
 九十九遊馬の周りに仲間がいたように、ナッシュの周りに仲間がいたように。
 ドン・サウザンドやMr.ハートランドのように打算的な手を組む意味ではなく、
 本当の仲間のような関係が、彼とは築けていたような気がしてならなかったのだ。
 それこそ、打算目的であろうとヴォルカザウルスからホープを守ってくれたあの時のように。
 ベクターは今、それを自分の手ずから失わなければならないことを理解し、歯を食いしばる。

「……ッ!! 俺は!! ヘルウェイ・パトロールとマックス・ウォリアーでオーバーレイ!
 希望皇ホープをエクシーズ召喚! そして、そのまま重ねてランクアップ・エクシーズ!
 ホープ・ザ・ライトニングを召喚! そして───攻撃だ畜生がああああああああああ!!」

 ホープがLの身体を切り裂き、上半身と下半身を稲妻の如く両断する。
 同時にデュエルディスクを破壊し、機能を停止させるが同時にカードが大きく散らばっていく。
 そのままホープを乗り物として扱いながらLの上半身や壊れたデュエルディスクを回収する。
 辛うじてスターダストなどのシンクロモンスターを回収はできたが、全てのカードは不可能だろう。
 不動遊星には申し訳なく思うものの、もしLが死んでも命令が機能する可能性を危惧したら、
 念のためデュエルディスクを破壊するのが吉だと言うのがベクターの選んだ判断だった。
 正解かどうかは分からない。だが、万が一を考えての行動はするべきである。
 これは様々な憶測を吟味したうえで行動した名探偵から学んだ教訓である。

「すみ、ません……後を、任せっきりにしてしまって。」

 ああ、また私は最後まで辿り着けないのか。
 そんな後悔と共にLはゆっくりと瞳を閉じる。
 変身が解除されると、そこにはLとは程遠い、
 異形の怪物の姿があり、あの男の悪辣さをより思い出し、
 ホープの背中を強くたたきつけ、怒りの形相でベクターは誓う。

「名探偵様が、事件解決前に死んでんじゃねえよ……!!」

 やってやろうじゃねえか。
 嘗ての自分並に腐り切ったあの男をぶっ飛ばして、
 ついでと言うレベルではないが、神を倒して目的を果たそうと。

【L@DEATH NOTE 死亡】
【クレヨン@TOWER of HANOI 除外(死亡)】
【天城カイト@遊☆戯☆王ZEXAL 魑魅魍魎化(死亡)】

【???/ 午前 /一日目】

【駆紋戒斗@仮面ライダー鎧武】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:夜空の剣@ソードアート・オンライン
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを力で叩き潰す。
1:殺し合いに乗っている参加者は潰す。
2:首輪を外せる参加者を見つける。
3:L、ベクターと共に行動する。
4:槍の男、デェムシュは要警戒。
5:大我、遊星、ジャック、遊戯、海馬かその知人、或いは会った参加者と接触。必要なら知り合いを装う。
6:あの僧侶(リンボ)は絶対に許さん。この俺が叩き潰す。
[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※クラックを開き、インベスを呼び出すことは禁止されています。
※Lの考察については半信半疑です。
※攻撃の消滅、反射に制限がかかってます。
 どの程度の制限かは後続にお任せします。
※ミカンの台風で飛びました。オーバーロードのため死亡することはないでしょうが、
 何処へ飛んだかは後続にお任せします

894無情の抹殺 陰陽師 蘆屋道満 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:55:55 ID:POawdWDU0
【真月零(ベクター)@遊戯王ZEXAL】
[状態]:精神疲労(大)、かなりセンチな気分、疲労(中)、ダメージ(中)、ホープ・ザ・ライトニングに乗ってる
[装備]:ショット・オブ・ザ・スター@グランブルーファンタジー、九十九遊馬のデュエルディスク@遊戯王ZEXAL、No.39希望皇ホープ@遊戯王ZEXAL、牛尾デュエルディスクとデッキ@遊戯王5D’s
[道具]:基本支給品一式×4(牛尾、麻耶、自分、L)、不動遊星のデュエルディスクとデッキ@遊戯王5D’s(メインデッキの大半は消失。エクストラデッキはほぼすべて残ってる)、量産型戦極ドライバー@仮面ライダー鎧武、バナナロックシード@仮面ライダー鎧武、真中あおの杖@きららファンタジア
[思考・状況]基本方針:主催にとって良からぬことを始めようじゃねえか。
1 :……まったく、とんだお人よしだったぜ。てめえはよ。
2 :ナッシュがいることだし少しだけ協力は考えて……いややっぱやめとくか?
3 :帰宅部ねぇ。ま、いたら声はかけるか。
4 :Lに駆紋、アウトローで構成されてるねぇ。ま、俺らしく外道な手段でやってやるさ。
5 :ドン・サウザンドの復活ねぇ……どうだか。
6 :槍の男には要警戒。
7 :大我、遊星、ジャック、遊戯、海馬かその知人、或いは会った参加者と接触。必要なら知り合いを装う。
8 :エクシーズ召喚できるデッキをくれ。と言うかなんだよシンクロって。
9 :ホープ・ザ・ライトニングねぇ……まさか俺が新しいホープを手にするとはな。
10:あばよ、名探偵……これが、仲間って奴か。
11:不動遊星に謝っておく(デッキがほぼなくなってる)
12:あのクソ僧侶(リンボ)だけは許さねえ。
[備考]
※参戦時期はドン・サウザンドに吸収による消滅後。
※ドン・サウザンドの力、及びバリアン態等の行使は現状できません。
 力が残っていて、バリアンスフィアキューブがあれば別かも。
※Lの考察については半信半疑です。
※ミカンの台風で飛びました。ホープ・ザ・ライトニングに乗ってるため死亡することはないでしょうが、
 何処へ飛んだかは後続にお任せします
※魑魅魍魎と化したLの死体(上半身のみ)を乗せています。
 下半身は何処かへと落ちました。


【PoH@ソードアート・オンライン】
[状態]:ダメージ(中)、仮面ライダーコーカサスに変身中
[装備]:エリュシデータ@ソードアート・オンライン、カブティックゼクター(コーカサス)+ライダーブレス@仮面ライダーカブト、シフトチェンジ@遊戯王OCG
[道具]:基本支給品
[思考・状況]基本:この決闘を楽しむ。
1:陰陽師一味に手を組むはずがどうしてこうなった?。
2:あのアジア人(月)は今後どうなるやら。楽しみだ。
3:この剣でキリトだけなくその相棒或いは同行者も殺す。
4:アジア人は優先的に殺すか扇動していく。
5:手を組めた場合はメスガキ(良子)の姉(シャミ子)をレッドプレイヤー側にさせるのも悪くない考えだ。
6:主催も皆殺しにするのも視野に入れる。
7:猿共と手を組むのは癪だが、こいつら(リンボ)は化け物連中で悪くねえな。

[備考]
※参戦時期はラフィン・コフィン討伐戦より後です。
※コーカサスの資格者に選ばれました。
※アニメ版で披露した扇動の心意は問題なく作用します。
※ミカンの台風で飛びました。仮面ライダーなので死亡することはないでしょうが、
 何処へ飛んだかは後続にお任せします

895無情の抹殺 陰陽師 蘆屋道満 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:56:45 ID:POawdWDU0
【キャスター・リンボ@Fate/Grand order】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)、魔力消費(大)、上機嫌
[装備]:
[道具]:基本支給品一式×1、ランダム支給品×0〜2(シャミ子の分含む)、光の護封剣(ゴールドシリーズ)@遊戯王OCG、空飛ぶじゅうたん@ドラえもん、小倉しおんの首輪、フグ田タラオの首輪
[思考]
基本:ただ、己の衝動と欲望の赴くままに
1:最上啓示、悪霊の集合体であろうかの御方の行く末、見届けて差し上げましょう。
2:吉田良子、どう利用してやりましょうか……ンンンンン。
3:里見灯花、まあそちらは式神の方に任せておきましょう。
  それはそれとしてでゅえるもんすたーずの情報はありがたや。
4:吉田優子、こちらで目覚めを促してやるのもまた一興。
5:件の生物に乗った参加者に接触、或いは戦闘。
6:ええ、ええ。真に最高にて。
7:ところで拙僧、何処に?
[備考]
※参戦時期は地獄界曼荼羅、退場後
※ミカンの台風で飛びました。サーヴァントなので死亡することはないでしょうが、
 何処へ飛んだかは後続にお任せします

※D-5で大規模の台風が発生しました
 これはデェムシュ、移動ルート次第で万丈、天津、灯花もこれの巻き添えになります
 最上、優子、良子は離れた位置にいるため風が強いぐらいしか感じません。
 また、その後にミカンの周囲に大雨が降り注いでいます。
※クレヨンの身体は右腕以外全て除外され(消え)ました。
※天城カイトは死亡してますがナンバーズハンター@遊戯王OCGの姿になって、
 参加者を食らうため行動しています。いわゆるゾンビの状態に近いものになります。
 ただし、いかなる方法でも元に戻した時点で死亡して、完全に死体になります。
 また、デュエルはできます。カイトが所持しているものは以下の通りになります。
 デュエルディスクとデッキ(天城カイト)@遊☆戯☆王ZEXAL、NO.107 銀河眼の時空竜@遊☆戯☆王ZEXAL、基本支給品
 台風で吹き飛ばされてたため、現在位置は不明です。
※照の死体、及びマイナスの杖@遊戯王5D’sも巻き添えで何処かへ飛んだかもしれません。
 もしも何処へ飛んだかは後続の書き手にお任せします。

 支給品解説

【カオス・ソルジャー -開闢の使者-(ゴールドシリーズ)@遊戯王OCG】
キャスター・リンボに支給。ゴールドシリーズについては他参照、
テキストは以下の通り。ゴールドシリーズである為召喚条件は無視できるものとされる。
特殊召喚・効果モンスター
星8/光属性/戦士族/攻3000/守2500
このカードは通常召喚できない。
自分の墓地から光・闇属性モンスターを1体ずつ除外した場合に特殊召喚できる。
このカードの(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。
①:フィールドのモンスター1体を対象として発動できる
(この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない)。
そのモンスターを除外する。
②:このカードの攻撃で相手モンスターを破壊した時に発動できる。
このカードはもう1度だけ続けて攻撃できる。

【マイナスの杖@遊戯王5D’s】
Lに支給。正式名称は不明なので一先ずこの扱いで行く。
デュエルモンスターズの精霊世界を牛耳っていた猿魔王ゼーマン、
並びにその部下がほぼ常備していた杖。これの光線の効果の影響下に入ると、
言ってることがすべてマイナスになってしまう、聞こえてしまう。
制限として使用した場合対象の状態は一時間後に元に戻る。

896 ◆EPyDv9DKJs:2025/06/15(日) 18:57:14 ID:POawdWDU0
以上で投下終了になります

897 ◆ytUSxp038U:2025/06/22(日) 22:09:17 ID:833uIoXI0
投下お疲れ様です

カイザーインサイト、保登心愛(きらファン)、琴岡みかげ、里見灯花、キャスター・リンボ(式神)を予約します

898 ◆ytUSxp038U:2025/06/22(日) 22:10:59 ID:833uIoXI0
失礼、>>897にキャスター・リンボを追加します

899 ◆QUsdteUiKY:2025/06/26(木) 01:21:48 ID:m/NatcQY0
ゲリラ投下します

900溺れるサカナ、水槽(みず)の中の悪夢(ゆめ) ◆QUsdteUiKY:2025/06/26(木) 01:22:47 ID:m/NatcQY0
マサツグ様はある程度移動すると苛立ちながらも、デイパックを漁っていた。
 あまり認めたくないことだが、自分は卑劣な恥知らず共に負けて極めて大きなダメージを受けた。

901溺れるサカナ、水槽(みず)の中の悪夢(ゆめ) ◆QUsdteUiKY:2025/06/26(木) 01:23:09 ID:m/NatcQY0
 ゆえに何らかの手段で回復しなければ非常に危うい状態だ。
 もしも直見真嗣が並行世界のマサツグ様だとしたなら、そのスキルも同じ――つまり「守る」スキルを有している可能性がある。
 この強さのスキルの利便性や強さはマサツグ様自身が誰より理解している。ゆえに並行世界の自分と出会ったら。もしも虫唾が走るような存在ならば容赦なく殺してやりたいが、もしもスキルが自分と同じならばそれなりに強い可能性がある。
 もちろんマサツグ様ほど強いだなんて考えたくもないが、この殺し合いが始まって、偽りのエリンを殺してから連敗続きだ。まるであの偽物が呪っているかのように、忌々しい状況に追いやられている。
 ゆえにマサツグ様は慢心を捨て去り、油断もしない。卑劣な輩や気持ち悪い連中に再び遭遇して命を落とすのは勘弁だ。――コレはマサツグ様が無意識的に死への恐怖を抱いているからであるが、そのおかげでマサツグ様は慢心を捨て去り、まずは子の多大なるダメージをどうにかするべきだと冷静に考えることが出来た。
 マサツグ様は非常に強力な聖剣――刃王剣十聖刃を持っている。クロスセイバーは途轍もなく強いことはマサツグ様も感じている。
 だが並行世界の自分や他の参加者がどんな支給品やあの憎き女――カイザーインサイトのような卑劣な手段を用いてくるかわからない。
 それに度重なる傷の痛みも忌々しい。一歩、また一歩と歩くだけで肉体が悲鳴をあげている。
 それでもマサツグ様自身が自覚していない無意識の〝恐怖心〟が彼の身体を突き動かしたが、ある程度の距離を開けたら流石に大丈夫だろうとこれまた無意識的に安堵する。

 ゆえにデイパックを漁るという行為に出たのだ。
 そして目的の物はすぐに見つかった。

「グランポーションか。ふう、まるでゲームのアイテムのような説明文だが本当に効果があるんだろうな」

 説明書には大幅にダメージを回復させると書いてあるが、まるでゲームのアイテムのような文章だ。
 しかしマサツグ様は数時間前にコロッケパンという食べ物で実際にダメージを回復している。パン如きでもダメージが回復したのだし、説明書をあまり疑う必要はないだろう。
 この殺し合いの説明でも何かと〝ゲーム〟という単語を使っていたし、主催者のくだらない趣味だろうと考える。
 それにパン如きで体力が回復するより、異世界ではメジャーなアイテムであるポーションで回復する方がよっぽど自然だ。
 だからマサツグ様は躊躇なくグランポーションを使う。

「……!は、ははは……!」

 みるみるうちにマサツグ様の傷が塞がり、痛みも一気に減った。
 不思議と身体が軽くなったような錯覚さえ覚え、マサツグ様は声をあげて笑う。
 しかし整った女顔に似合わず、その笑みは邪悪さすら含まれていそうなもの。

「これで今度こそ気持ち悪い奴らや卑劣な輩を蹂躙出来る!!」

 死への恐怖も多少はマシになり、脳裏に思い浮かべるのはこれまで戦った者達。
 傷が回復したからといって彼らを倒せると考えるのはあまりにも楽観的だが、残念ながらマサツグ様は俺TUEEEのような要素も混ぜ込まれている。ゆえにこれだけのことで楽観的に考えてしまう。
 もちろん原因は檀黎斗と茅場晶彦にあるのだが、マサツグ様はそんなこと知らない。
 否。主催陣営によって自分がそういうふうに生み出されたとすら気付いてない彼は、さながら哀れな道化(ピエロ)。

 このマサツグ様に物語なんてない。
 このマサツグ様は神を称すると過去にもデスゲームのゲームマスターを務めたことのある男のただの興味本位によって生み出されたのに、自分が本物のナオミ・マサツグだと思い込む哀れで滑稽な生き物に他ならない。
 彼が過去に体験したと思っている苦い記憶の数々も、彼がリュシア達と出会い、トリタやミヤモトに仕返したのも――総て檀黎斗と茅場晶彦に植え付けられた――謂わば捏造された偽りの記憶。
 マサツグ様はこのデスゲームのためだけに生み出された主催者の駒。
 それこそがマサツグ様本人すら知らない彼の真実だ。

 何故、そんな非人道的なことが出来るのか。
 名前を剥奪された肉体派おじゃる丸のように、このデスゲームには主催者により酷い仕打ちを受けたプレイヤーもいる。
 だがマサツグ様は無から有を生み出し、挙句の果てに苦しくて悲しい記憶を植え付け、都合の良いハーレム要員と共にいじめっ子達に仕返しするという思い出まで捏造した。性格も悪いようにした。
 それこそ、他者から嫌われるような。ヘイト役になるような歪んだ性格に。
 過去にいじめっ子からイジメを受けてきた。その時、誰も助けてくれなかった、と。マサツグ様はそんな偽りの記憶を捏造されたせいで他者に攻撃的になり、絆や友情を嫌悪する。そして同時に羨ましくもある。

902溺れるサカナ、水槽(みず)の中の悪夢(ゆめ) ◆QUsdteUiKY:2025/06/26(木) 01:24:09 ID:m/NatcQY0
 もしも檀黎斗や茅場晶彦がこんな設定で生み出していなければ。
 いや、そもそもマサツグ様を生み出していなければ。
 こんなにも哀れな道化は存在しなかったことだろう。

 しかし檀黎斗も茅場晶彦も――倫理観が他者よりズレている。というより、あまり無いに等しいと言っても良い。
 そんな性格だから彼らは過去に悪辣な行いをしてきたし、それを未だに悪びれていないからまたしてもデスゲームを開いた。
 ゆえにマサツグ様を生み出すことに抵抗はなかったし、今も面白い存在としか思われていない。

 なんなら彼らの予定では二回目の放送時にマサツグ様の真実を伝えるつもりだ。
 もちろん、マサツグ様がどんな反応をするのか見たいという――ただの知的好奇心で。
 
 しかしマサツグ様は未だ真実を知らない。
 これから待ち受ける最悪の真実を何も知らないままに自分のダメージが回復して喜ぶ様はあまりにも滑稽極まりない。

 そしてそんなマサツグ様の前に全身を真っ黒なローブで包んだ――顔すら見えないNPCが突如として現れた。

 コレは檀黎斗と茅場晶彦による細工。つまりマサツグ様はただただ彼らの掌の上で踊っているだけだが、そんなこと知る由もない。

「やれやれ、雑魚NPCか?」

 マサツグ様は何も自分の置かれてる状況を理解しないままに、いきなり現れたNPC――異次元への案内人を見下す

 しかし次の瞬間――マサツグ様は見知らぬ場所に居た。
 異次元への案内人はその名の通り参加者をワープさせるNPCだ。
 ゆえにマサツグ様は何も知らないまま、いきなりワープしてしまった。

「やれやれ、なんだこれは?」
 
 流石のマサツグ様も困惑するが、それでも余裕の態度を崩さない。何故なら今のマサツグ様はダメージが回復したし、本人は自覚していないがカイザーインサイトという化け物から距離を更に開けて無意識的に安堵し、恐怖心も消えたからだ。
 流石にあんなプレイヤーが何人もいるわけないと思うのは、当然のことだろう。

 体力を回復する手段こそ失ったが、これで体調はかなり戻った。
 並行世界の自分や他のプレイヤーを殺すため、マサツグ様は我が道を歩む。


 そんなマサツグ様が衝撃の真実を知る放送まで、あと数分――

【???/一日目/昼】

【マサツグ様@コピペ】
[状態]:疲労(極大)、憎悪と嫉妬(極大)
[装備]:聖剣ソードライバー&刃王剣十聖刃&ブレイブドラゴンワンダーライドブック(全て複製)@仮面ライダーセイバー
[道具]:基本支給品一式、タイムコピー(残り使用回数1)@ドラえもん、量産型戦極ドライバー+ヨモツヘグリロックシード@仮面ライダー鎧武
[思考・状況]基本方針:他の参加者を殺して優勝する
1:並行世界の自分は必ず殺す。もし、お仲間だ絆だと抜かす奴なら…
2:何で俺がこんな目に遭わなきゃならない…どいつもこいつも許せない……
[備考]
※ミヤモトやトリタ戦など主にコピペになっている部分が元となって生み出された歪な存在です。
※「守る」スキルは制限により弱体化しています
※聖剣を手にしている時、感情次第では剣の技術が強化されます。
※タイムコピーを使いクロスセイバーの変身ツール一式を複製しました。機能はオリジナルと変わりありません。
※主催者の檀黎斗と茅場晶彦が作った生命体でした。本人はまだその真実に気付いてません。記憶なども全て捏造です

『支給品紹介』
【グランポーション@ソードアート・オンライン】
対象の傷をかなり治すポーション。ただし疲労までは治らない

『NPC紹介』
【異次元への案内人@遊戯王OCG】
ランダムに出現して対象を別の場所へワープさせる役割を担うNPC。どう足掻いても破壊は不可能

903 ◆QUsdteUiKY:2025/06/26(木) 01:24:41 ID:m/NatcQY0
投下終了です

904◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:00:13 ID:???0
投下します。

905◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:01:04 ID:???0
「平気か?リリス、キバット」

ユキがある程度は落ち着いた後、歩みを再開し、いい加減にエルキア大図書館に戻らないといけない。
空の此れからの考えはエルキア大図書館で着いてから吐き出すと簡単に話した。
理由としては何時までも外にいたら、危険人物は疎かNPCまで襲撃される可能性が高まってしまうからだ。
エルキア大図書館を調査して、情報も今後の方針も図書館の中で一気に行った方が手っ取り早い。
もしかしたら、誰か訪れているかもしれないので、その機会をあの車のようなチャンスを不意にさせない。
空とキリトの動向もユキの件で話す暇もなく、共有すらしていない。
ユキと尊徳は気を紛らすべく、いつも通りに漫才をしていた。

目的地に到着までの間、ユキと尊徳抜きで片付けるべき問題の解決。
それはリリスとキバットの現状だ。
ユキと尊徳にはリリスとキバットにも家族や仲間、友人が殺し合いに巻き込まれたことも話せていなかった。
それ所か尊徳とユキとは交流すら皆無。
特に放送でリリスの家族の清子、知り合いの小倉が呼ばれてしまったからだ。
それ故、信頼構築済みのキリトと空だけで彼らのフォローに回さないといけなくなった。

「リリス、キバット放っておいて、ごめん」
「俺も悪かった。お前らも辛いのに。っつっても、キバットは通常運転か」

キバットは何も心配はない。
既に渡の死を受け入れて、前に進み続けていて、胆力も戻っている。
キリトと空は仕方なかったとは言え、ユキに気を取られすぎて、二人をほったらかしにしたのを謝罪する。

(俺は原点に帰れたぜ)

言葉は封じられていながらも空黒に渡の死を完全に吹っ切れたのをアピールする。
切っ掛けを作ったのはユキだ。
嘗て深央を誤って自分の手で殺めて絶望に覆われた渡を今のユキの有様と少し似ていた。
過去に行って来た事で渡は立ち直ったが、またあの時の渡のような人が苦しむ姿をキバットも見たくなかった。
だからこそ、ユキのような悲しみを出さない為にも渡の想いや遺志を継いで自分のやるべき事を再確認して、完全に心に熱を再燃した。
黎斗の放送で渡が呼ばれても悲しみを抱かなかったが、黎斗は何時見ても聞いても相変わらずムカつくのは変わらなかった。
しかし、一つ非情に許せない事がある。

(また渡の残した物まで汚すのかよ!!!)

置いて来てしまった渡の遺品が黎斗に場所をバラされた挙句、下手すれば危険人物に渡って悪用される事実を。
キバットはかなり憤慨したが、ユキが取り乱す現状を見て、一旦は冷静になれた。
本当は今直ぐにでも、空達とモーターボート経由でF-7に戻って渡の遺品を危険人物より先に回収したい。
でも、そんな勝手許さないだろうし、独断行動は身を滅ぼす。
渡の遺品は諦めようとした矢先、

「キバットは渡のデイパックを回収したかったんだな」
(どうして!)
「あそこで一瞬の間に怒った表情をしたのを気付かないと思ったのか」

殆どの者がユキを落ち着かせる為に誰もが意識を向く状況ではなかった。
だが、空は一人一人の状況を把握して、キバットとリリスの様子を片隅に置いていた。
キバットの激怒は空以外の者から見れば渡の死を愚弄したと推測していただろう。
空は違った。上記は勿論、黎斗が支給品の放置の情報を口外したタイミングでキバットが滅茶苦茶怒っていた理由を察した。

906◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:01:57 ID:???0
実は空はキバットがどの方角から来たのかとうの昔に確信していた。
南東方面からだと確かな根拠がある。
継国縁壱との鉢合わせしないよう飛行の特権を活かし、海上の移動は不測の事態が起きない限り、デメリットはない。
かと言って最初に行動していた士とレイを闇雲に探し回るよりは北東に移動して来た方がはるかに効率は良い。
最大の理由は余程の物好きでないとこの場所に来ないだろう。

「時間があれば一緒に渡の遺品取りに行ってやるよ」

確かに北東から南東にモーターボートで移動すれば、あるなら渡の支給品の回収が可能だ。
とは言ったが、色々と手いっぱいでそんな暇がない。
近場にあるエルキア大図書館に戻り、中を調査して、情報の整理などすべき事があるし、一番の案件であるユキのメンタルケアを欠かす訳にもいかなくなった。
キバットもその事は理解していて、割り切っている。

「ただなあ、リリスがな」
「無理もない。口封じされただけでなく、家族と知人の名前を出されて平気なはずがない」

キリトと空が知る中では、放送で呼ばれた人はニノンだけでない。
吉田清子と小倉しおんと言う家族と知り合いの名が挙げられてしまった。
リリスの表情を見るにまだ動揺しているのが、見受けられた。
更に一回目の放送後にキバット同様に言語も封じられる理不尽な目に遭っている。
平然としているほうが可笑しい。

(清子、小倉................)

エルキア大図書館に一時、立った際、こんな嫌な胸騒ぎは清子と小倉の死を予感した悪兆だったと認めざるを得なかった。
それも、自分が寝ていた間に殺された現実も知る。
再序盤で呼ばれたのも、キリトと空のような保護してくれる人物にも巡り遭えなかったのが大体は想像が付く。
シャミ子同様に抜けている部分もあれど、テストで学年上位になる辺り、博識である為に察した。
清子は吉田家の母で一番権力を握っていて、自分が調子に乗ったり、小さな事でやらかした時は怒られたり、説教された。
それでもなお、自分やシャミ子、良子にとっては大切な家族の一員で、なくてはならない存在。
家族を支えてくれた大黒柱であった。
小倉はシャミ子達の友人で論理観がぶっ飛んだマッドサイエンテイスト。
シャミ子に対して、良からぬ事を考えるのを除けば有事の際は小倉がいなければ詰んでいた場面もあって、何だかんだで頼りにしていた。
二人はこんな殺し合いで死んでほしくなかった。
何より、自称神は予選落ちした雑魚だと言い放ち、二人の死を侮辱したのを許せない。

(今の余は役立たずで前に逆戻りだ)

本当は声に出して余裕をかましているだろう黎斗に鬱憤を晴らしたかったはずだった。
最悪な事に自称神によって口封じまでされて、キバットと同じ穴の貉となってしまった。
キバットの事情を知った際は他人事ないと思いつつ、ゾッとしていて仕方なかった。
今や全く笑えない現状でキバットの気持ちが分かる気がした。

止めを刺して来たのが、キリト達の手助けも至難の業という現実を突きつける。
遺体を発見する前のキリトと空との談笑でアドバイスくらいは試みようと思ったが、その役目すら叶わない。
そもそも、喋れなくなった時点でよりしろすら誰かのデイパックに入っているか怪しくなっていた。
仮に小倉が生きていたとしても、黎斗に妨害されて、等身大よりしろ作りも骨折り損のくたびれ儲けという結末だろう。
現時点のリリスの境遇はシャミ子がまぞくに覚醒する前のあの頃に戻ったとしか言いようのなさ。
シャミ子と再会出来たとしても、彼女にすら自分の声を聞けないよう余計な細工をしている。
封印空間は真っ暗でない分、幾分まだいい方だ。

907◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:02:48 ID:???0
ユキが馬鹿な事をしでかしかけた出来事で少しは冷静になれた。
参加者を脅してまで清子と小倉を生き返らせる気はこれっぽっちもないし、これからもない。
けれども、清子と小倉を失った喪失感があった。
こんな感情に浸るのは自分にとっての大切な日常だからだ。
だけど、立ち止まらないで突き進む。
停止してしまったら、シャミ子達と再会出来ず、清子と小倉が浮かばれないからだ

これより、どうするべきか。
キバットは飛べるし、偵察や見張りという大きな役割を果たせる。
彼と違って自分はまた役立たずになり、余計に苛立ち、焦りが出てしまう。

「リリス顔に出すぎだ。こんな仕打ちをされて、誰だってやるせないよな」

どうやら、清子と小倉の死を引きずらずに突き進むようだ。
しかし、リリスが無力感を抱き、虚しい気持ちになったのを表情に出しすぎて、二人は理解した。
同時に黎斗が余計な事をしたせいで問題が再浮上してしまった。

「よく聞け、可能性がまだ0じゃない限りはよりしろ探しを諦める気はない。喋れない分、より一層全力でお前をフォローしてやる」
「ひょっとしたら、家族はヴァイスフリューゲルのメンバーと合流出来たかもしれない」

キリトと空は結局、ユキの心を救えず、尊徳に任せっぱなしだった。
せめてリリスだけでもメンタルケアを決して忘れずに行う。

「何度も同じ事を言わせないでくれ。リリスの家族を保護すると約束する」

元々、リリスが封印中のごせん像を支給されたのはキリトである。
ユキ達と接触する前にリリスがあれだけ家族と知人の話題に談笑したと言うのに、故にニノンの死に悔やんでばかりで清子と小倉の死を気にも留めなかったのを反省する。
これをアスナ達が見たら叱責されても文句は言えない。
最低でもまだ生きている家族と知人を会わせる責任を果たす。

「お前がいたから吉田一家と二人の魔法少女を俺達に伝えてくれて、彼女らをより詳しく知った」
「キバットをNPCと誤解しなくて済めたのも、リリスがいたからこそだ」

キリトと空は打算も嘘もない。
キバットもそれに頷き、自分が勘違いしたままにならなかったのはその一つが彼女のお陰でもあるので、感謝している。

(余もまだまだだ)

二人の遺体を発見する前にキリトと空から頭を冷やしたばかりなのに、同じ事を繰り返してしまった。
黎斗のせいで更なる逆境に晒されて、何も出来ないと考えて、もどかしかしかった。
だが、あの二人とキバットに気を静めてくれて、見失いかけた自分を引き留めてくれた。
加えて一つ借りが増えたようだ。

(取り敢えず大丈夫だな)

空達の力強い説得と言葉でどうにかリリスは平常心を保てている。
正直、ユキに比べれば数十倍まだ可愛い方だ。
黎斗はいらない事をしたと空は内心、嫌悪感を抱く。

「話しは終わったようだな」
「美しいボクを差し置くなんてズルいな〜♪」
「聞いてたのか」
「二人の会話が聞こえたら、気にならない訳ないだろ」

908◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:03:48 ID:???0
尊徳とユキはキリト達の話し声が気になって仕方なく、漫才を中断して、キリトと空の会話を耳にする。
内容は意思持ち支給品のメンタルケアだった。
リリスとキバットにも仲間や家族、知人が殺し合いに巻き込まれて、挙句に放送で呼ばれた事実を尊徳は初めて知る。

「悪かったな。お前達だけで彼ら?の面倒を見させて」
「別にいいよ。俺とキリトの方がこいつらの付き合いが長いだけだ」

空はそう言うが、実際は自分にも気を使ってくれたと薄々気付いていた。
自分とユキの為に気を遣わせていた事も含めて。

(俺は彼らについても半分も分かってなかったな)

そういえば、自分はユキにかまけてばかりでリリスとキバットは疎かキリトと空も何一つ理解してない。
これから、殺し合いから脱出して、黎斗の打倒を共にやっていく上で重要な要素を欠けていた。
不本意な行為であるが、キリト達の盗み聞きした中身によるとリリスがその黎斗のせいで会話もままならなくなったらしい。
リリスとは一言も語り合う事なく、今後の彼女との最初の交流も永遠に断ち切られてしまった。

(海斗なら、悔しいがあいつことだから割り切っていただろうな)

おまけに今なお、自分は内心では影山の死に感傷にふけている。
短い付き合いながらもこんな自分なんかの為にホッパーゼクターの力を託してくれて、後を任された。
どうしても吹っ切れない自分が情けなかった。
リリスとキバットは親しい者達の死を伝えられても彼女らですら前を向いているというのに。

(いいなあ。あの二人)

ユキもキリト達の会話を聞き、どうやらリリスとキバットも仲間、友人、家族が来ていたらしい。
放送で告げられてもリリスとキバットは曲げる事はなかった。
参加者を脅し、利用してでも責められないのに、自分と違ってはなから親しい人達を生き返らせる考えも絶無。
ユキは参加者でない彼女らが黎斗の誘惑に負けない心の強さが羨ましかった。

「リリスは意思疎通が困難で折角の紅一点なのに残念だが、仕方あるまい」

話を切り替えて、尊徳は今いる面子の中で女性はリリスだけと思い出した。
憐桜学園に在籍する男子は全員が職業にボディガードを希望する者達が集まっている。
男子は三年間ボディガードを育成する簡単に言えば専門学校みたいな場所。
最初の一年間は実践などをこなし、男子専用の寮で過ごすのが決まり。
故に尊徳は同行者が男だらけでも、気楽で構わなかったが、リリスが喋れずに華がないと物足りなさを感じていた。

「まるでユキが男みたいな言い方じゃないか。尊徳も冗談を言えるんだ」
「そうだった。お前らには話してなかったな」

尊徳はユキのあの事実を話し忘れていた。
色々な出来事があって機会がなかったが、他者に誤解が広まる前に公表するべき。

「伝え損ねたがユキは男だ」
「またまた冗談を」
「タカノリ君の言っている事は本当だよ。生物学上、ボクは男だよ」
「マジ?」
「冗談なんかじゃない。本当だ」
「「ええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」」

ユキの実情にキリトと空は声をだして驚愕する。
リリスもキバットも声を出さずとも目を洗われる思いだ。

909◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:04:47 ID:???0
「待って、空すら気付かなかったの!?」
「はあああ、言動が強烈すぎて、全くもって盲点だった」

大きく溜め息を吐いて、これしきで見抜けない自分自身にガッカリする。
我が強すぎるのと口調が中性的で胸の膨らみがある事から流石の空も見過ごす要因となった。
後の未来の正史にて、空は吸血種(ダンピール)の全権代理者プラム・ストーカーとのゲームにて、強烈な性癖に目に行きがちで彼が男だと見抜けなかった程。
ただし、プラムが男と先に気付いたのは妹の白である。

「僕も最初は目を疑った」

実は黎斗の最初の放送が始まる以前に尊徳と影山には男と告白された。
当然ながら、二人は信じていなかったが、尊徳には強制的に性別確認して貰い、認めるに至る。
この出来事は黒歴史として葬る事にした。

「男と知っても、この美しいボクの事を守ってくれるよね♪」
「誰がナルシストで変態の貴様なんかに」

そう言いつつ、尊徳はユキが男と知っても、護衛すると誓っている。
ユキも尊徳は本心ではツンデレで優しいと理解しているからこそ、信頼を置いている。
馬鹿げた行動を起こしかけた際は彼が叱責して、止めてくれた。

(多少は明るくなったけど.........)

ユキの秘密に確かに仰天するも、完全とは言えないけどユキが若干落ち着いて来てはいる。
尊徳の説得が功を奏して、仲がいいのは微笑ましいが、前よりも依存気味になっているのが懸念している。
大丈夫だと思いたいが、それでもまだ不安の種が尽きない。

(流石に遅れているし、巻き返さねぇとな)

ユキと尊徳のペースに合わせて来たが、いい加減に移動しないと始まらない。
当初の予定では第一回放送前には、エルキア大図書館に戻って、放送後には調査するはずだった。
放送前にはその二人と接触したが、アユミと影山が殺されて、ユキの精神が参ってしまう寸前もあり、直ぐに行動の足止めを余儀なくされた。
尊徳のお陰で何とかユキが落ち着いたが、予定が大幅に遅滞しまったのは事実だ。
ユキのメンタルケアを欠かせないし、そろそろエルキア大図書館とD-6の狐島の調査を始めなければならない。
空としてはF-7に出向いて、渡の遺品を回収したい。
いつの間にか雁字搦めになってしまった現状では、絶望的で匙を投げるしかなかった。
その渡を実験台にしたであろうテストの謎が不明だったが、先程の放送でそれらしき内容が半分くらい発表されたけど、手掛かりを握るであろう士とレイと接触しないと詳細が判明しない。
肝心な情報戦も依然として出遅れており、これ以上の時間の浪費は良くない。
もし、あの車との合流が遅れていなかったら、役割分担してこんな事にならなかったと確信している。

「戻って来たな」

思考をあれこれ回す内にキリトの一言で空の馴染みのエルキア大図書館に帰って来た。
ユキと尊徳にとっては初めて目にする建物。

「二階堂家の屋敷といい勝負しそうだ」
「普通の図書館とは違うね。けど、ボクの美しさには敵わないけどね」

ユキと尊徳は初めて見るエルキア大図書館の大きさに驚きを露わにする。
金持ちの家柄に生まれた尊徳すら、二階堂彩の護衛役に指名されてからお世話になっている二階堂家の屋敷も負けないくらいの建物だ。
エルキア大図書館は一般の図書館とは入る前から違うと伝わって来る。

910◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:06:14 ID:???0
「ここを知っている俺が案内する」

エルキア大図書館を詳しく知る空を先頭に案内し、三人は付いていく。
中に入ると空間はかなり広く、上も下も無数の本が並べてある。

「普通の図書館とは訳が違うな」
「海斗が見たら夢中になってそうだ」

キリトは本の量に仰天するばかり。
尊徳も殺し合いにいない問題児の彼なら読書が趣味で無限にある本を読みふけるであろう。
三人は内部の空間でも驚きの連続だった。





「さて、情報交換や今後の方針について話しを進める。まずは俺達の経緯だ」
「そういえば、キリトと空の動向はまだ語ってなかったな」

4人で円陣を組んで情報の共有や色々な事柄を擦り合わせする。
特にユキは放送をやはり途中から殆ど頭に入って来なかったので、整理するには丁度良かった。
尊徳とユキはキリトと空が接触する前の行動を知らない。
それぞれ自分の事で頭が一杯で肝心の情報の共有も皆無。
黎斗の元に辿り着くには必要な情報も武器で取り入れなければならないのだ。

空はようやく尊徳達と出会う前の経緯は話し出した。
最初の位置が何とD-8の狐島という本島とは言い難い場所に配置された。
これには尊徳もユキも黎斗による嫌がらせ行為だと思う程、全く配慮されない事に同情を禁じ得ない。
偶然、島にいたキリトと遭遇するもこの後、パンツ一丁の露出魔の襲撃に遭うが、空の機転で追い詰める。
しかし、相手が持っていた支給品の効果で逃走した。
空の考えで、ほぼ全裸男は転移効果でほぼ確実に本島の何処かにいるとのこと。

その後、黎斗の放送を聞いた後は救済処置として用意されたモーターボートのお陰で本島に行けるようになった。
その前に海を渡る乗り物があるので地図の外の調査も可能になった。
会場外へ調査に乗り出すが、結果は外に出ると首輪の警告音が鳴った時点で到底出来ないのは想定内。
外の先に何があるかは不明のまま。

「まあ、奴らも普通に対策するよな」

地図外の調査報告を聞いた尊徳とユキはそう簡単に行かない事は想定済み。
それでも、調査をせずに見落としている部分があるのなら洒落にならない。
希望がなくとも確かめないと始まらない。

話しを切り替え、本島の北東に上陸し、参加者の捜索に東から進むと車を見つけてスタンスが不明でも接触出来ると思われたが、来た時には車は既にかなり豆粒みたいな遠い距離にいた故に間に合わなかった。
仮に追いかけても体力が無駄に消耗するだけなので断念した。

「もっと俺達が迅速に動けていれば・・・・・・」
「ごめんユキ。車に乗っている人と合流出来れば、いただろう仲間と再会が叶ったのに」
「美しいボクに免じて許してあげる。それに車に乗っている人がゲームに肯定派だったら、荒事に巻き込まれたくないしね」

スタート地点がD-8の狐島では仕方ない面もあり、責める理由も見当たらない。
万が一、殺し合いに乗っている側だったら、どの道戦闘は避けられなかったであろう。

911◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:07:08 ID:???0
あの後、エルキア大図書館を発見して、まだいるかもしれない参加者の捜索の為に後にする。
進み続けるとその途中でキバットと接触した。

「その後にボクらと遭遇したわけだね♪」
「ああ、それからキバットからの情報もな」
「キバットによるとーーーー」

キリトと空の動向を語り終えた後、直ぐにキバットの経緯を空が補足する。
キバットは最初からキリトと空と行動していたのではないのは情報交換で知った。
元々は渡、士、レイの三人の人物と一緒だったらしい。
しかし、継国縁壱の強襲によって、渡が殺されてしまったが、士とレイの二人は渡のお陰で撤退に成功したらしい。
運良く生き延びたキバットは大きく移動して、キリトと空と合流したとのこと。

「そうか。そんな事が..........」

空経由でキバットの事のあらましを聞いた尊徳は放送の最中に危険人物に襲われる理不尽さを知る。
半分違うがあたかも自分達と同じ立場になった感じがした。
同時に彼は渡と言う人物の想いを継いだだけでなく、前を向いて進み続けている事を再確認する。

「よく、その危険人物の名前を知れたね♪」
「何を言っているんだ?継国縁壱は放送で通達されていたじゃないか」
「そんなのあったか?」

縁壱をまるで存在すら知らない反応をする尊徳とユキ。
アユミが理不尽に殺されたショックで前回もユキがパニックになって頭に入らなかったであろう。
ユキはともかく、尊徳まで超重大な情報を取りこぼすとは思えない。

「うっかり聞き落としたなら、前回と今回の放送の情報を一斉に振り返るぞ」
「俺も賛成だ」

空がそう持ち掛けた直後にアイコンタクトが送られる。
内容は影山の死因の真実。
今回で自分も薄々察しており、ある程度は原因を絞り込んだ。
恐らく、キバットと同様に危険人物の襲撃或いは不快な運試しのどちらかだろう。
自分の場合はまだ確証が得られない故に断定できない。
だが、空は既に解答を導き出したであろう。
後で空と二人きりで順に追って話そう。
それから、影山に関する件はまだ本人達の口から話すのはまだお預けになりそう。
最悪、言いたくないのなら、仕方ない面もある。

(間違いねえ。影山って男が死んだ理由が)

キバットは影山の死の真相に行き着いた。
確実に渡共々、運試しに選ばれてしまい、命を散らした以外考えられない。
それが発端で自分は黎斗の放送の後半の内容を聞き逃している。
尊徳とユキの反応から決定的になった。
同じ目に遭った者同士だからこそ理解してしまったのだ。
ただし、渡と違い、影山は上げて落とされる事はなかっただろう。
この事を空に伝えたいがもどかしいのは言うまでもない。
それでも、空はとっくに真相に行き付いたのを信じている。

「まずは前の放送からだな」

912◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:08:00 ID:???0
空は後半部分の重要な要点を簡単に共有した。
運営のジョーカー的存在の継国縁壱と人質にされた少女の二点を話した。

「縁壱は一二を争う要警戒対象だ。キバットが身をもって俺達に教えてくれた」
「そんな奴らに僕達は勝つしかないか」

縁壱の強さはキリトと空の説明だけで尊徳は戦慄する。
青髪の少女を殺した金髪の男もアプリでの映像越しでは不明瞭だったが、空から絶対に遜色ないと断言された。
上記の二人は別格で、PoHと言う奴やパンツ一丁の全裸男、全貌が不明の気狂いの変態、美遊の関係者とヤバいのがいるのは明らか。
ついでに危険人物の情報も共有した。
憐桜学園では学年首席の肩書きを背負い、武術とパンチポッパーを合わせても決して弱くはないが、この場は一時的に捨てなければならなかった。
尊徳とユキは仲間と協力しないと勝ち目が上がらない猛者がいる。
だからと言って、諦めるのも希望を捨てる気も更々ない。

「こうして見るとボク達かなり出遅れているね」
「俺らも決して多くないけどな」

ユキはここで尊徳共々、情報は膠着状態と現実を知る。
しかしながら、友好的な参加者はヴァイスフリューゲルだけでなく、空達の情報を合わせるとリリスの家族と知り合い、キバットの前の同行者を含めると地味に少なくない。
尊徳は自分達がいかにもたついていたか痛感する。
彼らと合流していなかったら不用意な現状だっただろう。

「次に今回の放送の内容だ」
「ソラ君、ごめんね。ニノンさんが呼ばれてから後半部分を何も聞いてなくて」
「別にいいよ。どっちにしろ重要な情報量が多かったから俺の考えや皆の見解を聞く必要がある」

ユキはニノンの名を死亡者として上げてからの放送の内容を聞き漏らしていた。
何も聞いていない彼の為にも、そして、デスゲームを潰すこれからの事も加えて。

「最初に、死亡者の名を特定の奴だけ感情的に読み上げられた」
「そう言えば様子がおかしかったな。何故だ?」
「違和感を覚えたのは宝条永夢と言う人物だけだった。と言っても答えは一つだけだろうな」
「宝条永夢は檀黎斗を知る人物だったという事か」

空は宝条永夢の名が感情を込めて読み上げた事で一秒も見逃さずに永夢と言う人物は黎斗と深く関わっているのは明白だ。
敵か味方かは不明だが、黎斗に対抗する人物を死んだ事実に衝撃を受ける。
キリトも四十人も犠牲が出たのに気を取られていて、黎斗の引っ掛かりのある言葉を見落としてしまった。
並行して、その人も接触出来ずに目が届かない間に死なせた事に悔いがある。

「それじゃ、手掛かりは差し引きゼロか」
「いや、まだ宛てはある。檀黎斗が運営を仕切っている奴が関係のある人物を数人は招いているだろうな」
「確かにボク達のように関係者が全員来ているかもしれないね♪」
「その人達から洗いざらい聞くしかない」
「よって、檀黎斗の関わりを持つ人物も手当たり次第捜す。もしかするとモニカとクウカも吉田姉妹もそいつらと一緒だといいな」

まだ希望は潰えた訳ではない。
勿論、まだ生きている関係者もスタンスが乗っていないとは一括りにしない。
複数人の内、まともな人物なら黎斗に関する知っている情報を渡してくれる。
黎斗の打倒への足掛かりに諸悪の根源と関わる人物を追加で捜索対象を増やす。
しかし、肝心な居所は不明で今は虱潰しに捜し出して会うしかない。

913◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:08:58 ID:???0
最も、自分のような頭脳派や勘の鋭い人物は今回の件を受けて気付く人も少なくないかもしれない。
悟った者は注視をしているであろう。
それだけかなり目立つヒントを残したのだ。
これを機に優勝狙いの輩が脱出の根を断つべく、黎斗の関係を持つ者を優先して狙われる可能性も有り得る。

この話題が終えた後は特殊なNPCの存在について。
会場に放り出されたNPCはただ単に襲い掛かるだけではないらしい。
アイテムや情報の交易を経営する者も存在するとの事。
お互いそれらしいNPCとは遭遇していない。
他にも特殊なNPCがいるらしいので頭の片隅に入れるだけとなる。

次に放置された支給品の提供。
二つ内F-7にある一つは渡の物でキバットがかなり憤慨した最大の原因。

「本当に取りに行かなくていいのか?」
「今更向かっても、無駄足を踏むだけだしな」

モーターボートで向かえばギリギリ間に合うかもしれないが、ユキ達の事もあって別れて大きく動けないし、幾らエリアの端っこでも支給品を巡る危険人物同士の乱戦に巻き込まれるだけだ。
渡の遺品を取りに行きたいのは山々だが、今からでは無理だろう。
もう一つ放置されたE-5は激戦区となる時間帯で乗っていない参加者なら、まともな判断を下すだろう。
危険人物に戦力を増やしたくないけど、死に行くようなリスクを冒す必要はない。

「次はここからが本題だ」

いよいよ、例の話題に入る。
キバットにも残酷かもしれない事実を伝える必要がある。
あくまで推測だが、それでも、また辛いだろうが受け止めてくれると信じる。

「使えない力やアイテムを手に入れる現象が起こっているらしい。俺らはそういうのには遭遇していない」
「尊徳達は何か知らないのか?」
「僕らも右に同じだ」

参加者との戦闘が少ない4人+リリスはそういった事象が発生するはずがない。
ただ、一匹を除いて。

「ところがキバットはその現象を目撃した証人だ」
「何だと?」

この場にいる全員が驚くべき事実であろう。
確かにキバットの戦闘は縁壱のみで早々に謎の現象を眼前にしたというのか。
空はその事にも見抜いたようだ。
それが本当なら早い所、デスゲームを潰す為にも詳細を聞くべき。しかし・・・・・・

「残念ながら、口封じされて喋るのはままならないからなぁ」
「折角、キバットが重要な情報を持っているのにこれでは.........」

支給品扱いとは言え、この面子で唯一謎のシステムを知るキバットは発声が出来ずに共有が不可能。
またしても、振り出しに戻ってしまった。
しかし、空は二つの妙案を考え付く。

「まだ目当てはある。現象に立ち会っている奴らに聞いてみるか。或いは門矢士と閃刀姫ーレイに詳しく話して貰うしかないな。俺としては聞いて回るより、後者の方がお勧めだけどな」
「その二人がそんなに重大なの?」

914◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:09:53 ID:???0
ユキが疑問の声を上げる。
当然の反応で事の重要さを知らない者にとっては当たり前だ。
これから話す事はキバットとしては残酷で後味が悪い内容だから。

「そうだ。同時に今から話す事は胸糞悪いからだ。キバット辛いが覚悟はいいか」

空が嫌悪感を露わにする程の酷い物なのだろう。
この場にいる全員がこの先が恐いと思わせる不快感ある話なのは想像が付く。
キバットはどんな内容だろうと受け止める覚悟はある。

「最初に言っておくが、渡は運試しに選ばれてしまった」
「ばんなそかな!?」

空から発した事実はキバット以外の全員が衝撃を受けた。

(辻褄が合わないな。ん?待てよ..........)

ただ、キリトは疑問を抱く点がある。
だが、運試しに選ばれたのなら、何故、渡はあの後、縁壱と戦闘を行ったのだろうか?
余りにも矛盾が生じるのだが、考えれば考えるほど縁壱絡みとなると話しは別。
ただ一つだけの理不尽な答えが浮かんだ。

「まさか、選ばれたのは継国縁壱と戦わせる為だというのか」
「その通りだ。大方モルモット扱いとして渡を殺させるよう仕向けたのだろうな。間違いないな、キバット」
(空の言う通りだ)

キバットはそう頷いた。
尊徳とユキはキバットも本当に自分達と同じ目に遭い、ペクトルが違う方向での理不尽に仲間を失ったのを知り、何も言えなくなった。
影山は絶望一直線だったが、渡と言う人は希望から絶望に叩き落とされてしまった。
序列が最上位の者とやらせるなど強すぎて倒すのがほぼ詰みで戦わせた感じにしか見えない。

「ここで矛盾が起きたのは確実に戦闘の真っ只中だ」
「それが例の現象だね♪」
「キバットが見たと思われる現象。あれはただの偶然じゃねえ」
「偶然ではないだと?」

まるで『必然』と言わんばかりにキリトは新たな疑問が生まれた。
縁壱が渡と戦わせたのは間違いなく、必然と言える。
空が言いたいのはそれだけでは片付けられない気がした。
すると、空本人は表情には出さないが口にするのも嫌というくらいが伝わって来る。

「現象を生じたのが渡本人で確信している。しかし、これも全部仕組まれている可能性がかなり高い」
(あの奇跡がまやかしだと言うのか!?)

知らなかった奥底の真実にキバットは動揺を隠せないでいる。
エンペラーフォームへの強化変身は幻だと一ミリも思っていない。
システムによるものと理解しているが、あれは明らかに本物。
根本的な真実がまだ隠されているのか?

「真の目的は渡を利用して、謎のシステムの実験台にはなから故意で決めたのだろう。その上で中身は分からんが、継国縁壱相手に考えられないような大きな実験を行っただろうな。ただし、あの侍が勝つ前提でな」
「嘘だろ!?こんなことって」
(突然、エンペラーフォームに変身出来たのは.........クソッ!!あのヤロー!!!!!)

915◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:10:58 ID:???0
空の導き出された実態に全員が眉間にしわを寄せる。
特にキバットは真相を知り、怒りを露わにする。
全て茶番だったと考えると何もかも笑えない。
尊厳すら通り越して、見世物にしたような感じがして侮辱されていた。

(ぜってえ、許さねえぞ!!!檀黎斗!!!!!!)

渡を弄んだ黎斗の打破をより一層、強くする。
もう仮に奴が命乞いしても許しはしない。元からそのつもりはないが。
キバットは怒りに震えながらも皆の力になり、渡の想いと遺志を忘れないと決意を再確認させた。
全員がキバットを心配していたが、ユキの件を通して、完全に胆力が戻った彼にとってはあっさりすぎた。
尊徳は内心はキバットが受け入れるのが速すぎて困惑気味になったのは内緒だ。

士とレイと再度合流出来た際、空達からあの一連の出来事が意図的にされた物だと伝えられるのは辛い。
それでも、彼らも簡単に折れないと信じているから。

「悪いニュースばかりだったが、良いニュースもある」

先程までスッキリしない不愉快な内容のみで一気に朗報が上がって来る。

「謎の現象は士もレイも目撃者だ。言うまでもなく、二人もシステムの仕組み自体は知らねえ。だが、派手な行為を行ったお陰であの二人には手掛かりが残ったのは救いだ」
「士とレイって人達が例のシステムをよく知らないだろうし、そこはどうなの?」
「彼らが見当付かないのも織り込み済みだ。そうであっても、極僅かな足掛かりでも掴めば自ずと答えは出てくる」
「正にそうだな」

どちらにせよ謎のシステムの解明は士とレイが意図せずに情報を握っている。
彼らを捜して見ないと始まらない。
勿論、色々な人達に聞いて回るのも忘れない。

「聞いて回るのが早いだろうが、現時点での謎のシステムの情報量を一番持っているだろう士とレイの二人組も優先すべき捜索対象に追加。異論はないな」
「俺は空の意見に賛成する」
(俺も当然同じ)
(余もだぞ)
「僕も同意見だ」
「右に同じ♪」

新たに捜し人を増やし、今後の方針に加える。
やる事が山積みになって行くが今は一つ一つをこなすべき。

「キリトとリリスには事前に話してあるが、エルキア大図書館を調査した後にD-6の狐島に向かおうと考えている」
「北辺りじゃなくて?」

空は尊徳とユキには未だに話せていなかったもう一つの指針の話題を出す。
前のリリスと同様に疑問に思うのも当然なので根拠を語る。

「まだ推測にすぎないが、あの島には、主催を打倒に近づく為の何かがあると怪しんでいる」
「こんな小さな島に?そもそも、そんな物があるのか?」
「檀黎斗の最初の放送で『ラスボスとして君臨する』の発言で俺なりに色々と考えた末、カウンター的何かするかもしれねえ」
「俺も信憑性があると思う。檀黎斗もほんのちょっとくらいはハンデを与えてもおかしくない」

キリトは黎斗がヒースクリフこと茅場と同類と見抜いたからこそ言える。
茅場よりタチが悪いのは確実だが、その本質は同じ。
公平にするべく否定派にほんの少しだけ施すであろう。
役割が推定主催への多少のカウンターが本島は兎も角、D-6の狐島くらいに設置しても不思議に思わない。

916◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:12:32 ID:???0
「お前らがそう言うなら」
「それと島に行く目的は別にある。島に留まって拠点にしているだろう、参加者と接触する為だ」
「でも、あの島に行くのは労力がいるよ」

その話が現実なら、向かう価値は大いにある。
同時進行で殺し合いに否定的な者達と出会えれば、目当ての捜し人も見つけたら一石二鳥だ。
難があるとすればD-6の狐島に行くには地図の中央へ経由して、遠回りせざるを得ない。

「その様子を見るとお前らも気付けなかったか」
「地図を見てくれ」

如何やら、尊徳達『も』地図の引っ掛けに嵌っていた。
キリトは地図を取り出し、彼らに見せた。

「何処に見落としがあるんだ。ちゃんと確認したぞ」
「よく見て見ろ。北東からD-6の島に行ける橋がギリギリで描かれている。太い黒線で覆われて気付かないのも仕方ないが」

殺し合いが始まって直ぐに地図の把握は満遍なくした。
どの角度から見ても抜けている点はない。
そしたら、太い黒線で見え辛いが、凝視するとD-6の狐島に足を運ぶもう片方の橋をようやく確認出来た。

「あっ、本当だね♪」
(は、恥ずかしすぎる)

やってはいけない大失態に尊徳は悔いる。
こんな事でも気付けないようでは尊徳の二番目の兄である直人を始めとした兄弟達からまだ甘いと説教は確実にされる。
逆に空達は引っ掛からずに読み取っていた。

「これで理解したな。見落とさなかったのは俺だけか」
「実は俺も気付けなかったんだ」

実はキリトも人のことは言えなかったりする。
D-8の島に離れる以前に当初はキリトも尊徳達と同じミスを犯す。
ゲーマー失格と言葉を浴びせられても仕方なかった。
でも、空からの指摘で遂に北東にもD-6に渡る橋を認識したのだった。

「大多数の参加者は考えが及ばないと思われるので、あの島には数人は残るであろう」

D-6の狐島からのルートが2カ所確認出来ていない参加者が沢山いると完全に理解した。
北東から狐島のルートが地図からは黒線に際どい位置で包み隠されてしまったのだ。
橋が一方しかないと思い込み、拠点にする考え出す人も少なくないだろう。
しょうがない面もある・・・・・かもしれない。

「この話しはさておいて、俺達はもう一つの島で友好的な人達と接触を図ると共に何かの回収も行う」
「檀黎斗のからくりが用意されるだろうが、安全に確保するには苦労しそう」
「万が一、柄の悪い奴らが『あれ』の存在価値を知られたら、悪い方向へと進んでしまう前に先に手にする」

からくりと言っても、隠される程度の物であろうと思いたい。
それなりに工夫を凝らす必要があるが。
難しい問題はまだある。
推定主催のカウンター的な存在が危険人物に渡って、悪用する最悪な事態。
一部のデスゲームの肯定派も否定派でも害悪な連中も喉から手が出るのも言うまでもない。
危険人物が先に手にした場合は何をしでかすにしてもマイナスしか働かないだろう。

917◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:13:17 ID:???0
まあ、島に留まっている奴らが『あれ』を所有しているだろうが、念入りに突き止める」

現在の時刻を想像すると流石に条件を満たして、推定主催のカウンターを掴んでいると確信している。
まだ難航している可能性もあるかもしれないので、自分達も手伝う。
『あれ』が何なのか分からないので判明するまで『あれ』と呼ぶ事にした。

「『あれ』の存在自体が俺の思い違いだったとしても、もう一つの目的さえ達成すればいいんだ」

推測が間違いであっても、本来の目当ての優先捜索対象を見付け出さなければならない。
参加者の接触が叶えばそれはそれで問題ない。

「今後の予定はエルキア大図書館の調査した後は、D-6の島に行く」
「全部話し終わったしな」

先の方針を立てた空達は情報の整理を終える。
ユキが聞いていなかった内容も渡の死の真実もすべて。
更に時間を喰う訳にもいかないので、只今から『二人』だけで本腰の作業に移る。

「俺とキリトは今からエルキア大図書館の調査を始める。ユキと尊徳はその合間に休んで貰う」
「この量だと二人だけで大丈夫なのか?」
「空黒だけで充分。二人には無理はさせられないからな」

あくまでキリトと空だけで調査をすると言い張った。
尊徳はその意味を薄々、理解していた。
ユキは言うまでなく、自分も何時までも感傷に浸るせいで外れたのだと。
このような状態で調査の身に入らないのも頷ける。

「まだ話せていない事がある。確かキリトは剣、空はカードで戦うのだな」

ユキが馬鹿な真似を仕出かしかけた際、二人の武器を見て少しだけ理解している。
尊徳はまだ言いそびれた事があった。
自分の支給品にキリトと空には無くてはならない物だ。
自分では使わない或いは使えないからだ。
彼らなら、巧みに扱える。

「キリトと空に譲る。二人なら使いこなせる」

デイパックから漁り出し、尊徳が握られたのは黒い片手直剣とカードデッキの二つ。
一つ目はブラックプレートと言う剣であった。
元々は旧ALOでのキリトの愛用の剣でアスナを救出するまでも共に戦って来た得物。
二つ目は文字通り、デュエルモンスターズのカードデッキ。
エクストラデッキ付きでカードが紺色という事はリンク入りのデッキらしい。

(また使える日が来るとはな)

旧ALOでオベイロンの悪行を暴くまで使用し、片が付いた後は役目を終えたはずだった。
こんな形で自分の手元に戻るとは思ってもみなかった。
否、ALOアバターがチェンジ出来なかった時点でブラックプレートも誰かに支給された事は想定済み。
まさか、尊徳が所持していたようで彼には感謝しきれない。

「デッキだけなのか?デュエルディスクはないんだな?」
「何度も確認したが、あったのはデッキのみだ」
「そうか」

918◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:14:07 ID:???0
このリンク入りのデッキはデュエルディスクと一緒に渡されなかったらしい。
デュエルディスクとデッキの両方を配布された者は公平として、他の支給品を没収される。
逆に片方のどちらかに配布した場合は論外と見なされている。
現に尊徳の他の支給品は押収されていない。

実は元々はリンク入りの某テーマデッキを真月零に支給する予定だった。
しかし、会場にはリンクを知る決闘者は皆無。
故に真月では使いこなす可能性は不可能に近く、茅場のお情けで某デッキと一式にせずに遊馬のデュエルディスクのみになった原因。
本来であればデッキをセットにしないでデュエルディスクだけの支給は有り得ない話である。
黎斗は勿体ないと考えて、面白半分でこのデッキだけ『唯一』デュエルディスクなしで誰でも良かったのでランダムで配布するようにした。
その結果、尊徳のアプリには試運転も不要と判断されて、一切配られなかったのだ。
そういう事情から尊徳の支給品の没収は免れる。
因みに尊徳とユキもルールの時点で最初から頭がパンクして、お手上げだったのだ。
有効活用できずにそのままにしていくはずだった。
巡り巡って、天才ゲーマーの片割れの空の元に渡る。

「有難うな尊徳」

素直に尊徳に感謝し、彼が所持していたデッキを借りる事を決める。
蟲惑魔と某リンク入りデッキを組み込んで混合デッキにしたい。

キリトと空は尊徳から各々の道具を譲った。
すぐさま調査する者と休息を取る者に分かれて、一旦、解散した。

919◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:14:55 ID:???0
嘗て具象化しりとりと言うゲームを行った空間でキリトと空は立ち入る。

「ここでジブリールとゲームをやったな」

最近までの出来事を想起する。
しかし、思い出にふける場合ではなく、調査の為に訪れたのだ。

「では、あいつらには伏せてた事を話そうか」

その前に場所を移したのは尊徳とユキにはこれから話していない情報ばかり。
二人に会話を聞き耳立てないよう秘かに裏の情報交換してしまおう。
+αのリリスとキバットは同席しても差し障りがない。
キバットは外の入り口の見張りにつく前にしっかりと共有する。

「まず先に影山の事だ」

真っ先に先送りにせざるを得なかった影山の件。
尊徳とユキがいる前では死の真相を口に出せない。
キリトは原因を二つに限定するも裏付けが取れずに後一歩が足りない。
空なら既に真実に辿り着けただろうし、直ぐに聞いてみる。

「分かっているが、影山って人は恐らく・・・・・」
「ああ、影山は確実に運試しのせいで殺された」

空は言葉を発せないキバットの動向を代わりに話し、渡が縁壱に殺されたと語る途中で尊徳とユキは何故か他人事と思えない感情を抱いていたのを察した。
微かな違和感を感じて、気になって仕方なかったが、縁壱を知らない反応で確信した。
影山は渡と異なり、前触れもなく無惨に殺されたと推測する。
空は疎かキバットも察せたらしく、ウインクする仕草でアピールする。
下らない遊戯で仲間を奪われた同じ当事者で被害に遭った者同士だから見抜いたであろう。

920◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:15:52 ID:???0
「酷い!!」

キリトは薄々勘付き、衝撃が少なくて済んだ。
改めて、黎斗の運試しと言う悪辣な行為に憤慨を隠さない。
キバットが、士が、レイが、尊徳が、ユキが、彼らが仲間を殺されてどれだけ心を痛めたか。
茅場が開いたデスゲームが如何に生温いか錯覚したくなる。

「多分、運試しは表向きで本当の目的であるシステムの実験を悟らせないように余興でミスリードを誘っていただろうな」
「本当だとすると流石に尊徳達には言えないよな」

空の見解を聞いたキリトはそれが真実なら、運試しそのものが茶番という事になる。
これに巻き込まれた影山が気の毒すぎる。
いくら推測でも、尊徳達に共有出来る話しではない。
特に後を託された尊徳には伏せるのも無理はない。

「ちょっと待て、システムの取り入れは檀黎斗が出しゃばってからじゃないのか」
「俺もそれは気付いた。もっと前にな」

同時に謎のシステムのテストを行った時間帯が黎斗の放送中としたら、予選は導入していないと結論が出て来る。
渡に関するシステム絡みの時間を整理すると辻褄が合う。
黎斗が初めて姿を現すまでの間だけは自力で生き残れという事だろう。
一回目の放送でヒントを与えたのが切っ掛けで空にとってはキバットが伝えたかった意味も解き明かし始めていた。

「影山と渡の分まで一緒に背負っていくぞ」
「ああ、それも俺らがやれる事だしな」

キリトと空にとっては渡と影山は面識すらないただの赤の他人に過ぎない。
それでも、彼らの無念を絶対に忘れはしない。
渡が残したキバットとは巡りに巡ってゲーマーコンビの空黒と行動を共にしているので尚更。

「そう言えば空はデュエルのどのデッキを貰ったの?」
「リンク入りデッキだ。今はリンクモンスターと縁ができたようだな」

そう言いキリトに見せたのは植物や昆虫、爬虫類のカードデザインだ。
テーマデッキの名は蕾禍。
植物族、昆虫族、爬虫類族の三種族を兼ね備えたテーマのデッキ。
このデッキのもう一つのモチーフは鎧武者と妖怪を合わせ持っている。
共通点はモンスターの肉体が黒い蔓に覆われている。
同時に現在はリンクモンスターに力を貸してくれる事になった。

「蕾禍はリンクだけらしいな」

元から空本人に支給した蟲惑魔は罠カードを使いながらエクシーズとリンクの二つの召喚法を持つ。
逆に蕾禍はリンクモンスターを特化させたデッキだ。

「しっかし、尊徳が持っていたデッキも癖が強すぎる」
「空なら朝飯前だろ」
「説明書を見て、単体の回し方『も』理解した」

921◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:16:38 ID:???0
蟲惑魔は初心者が扱うには非常に難しい。
空のようなそれなりのプレイングが必要になる。
経験者もエクシーズは慣れてもリンクが無知では手に負えないだろう。

蕾禍の方はリンクモンスターを主軸にする展開型デッキ。
空は回し方を完全に理解したが、メインデッキはサポートか補助で展開力が高すぎて初心者では分かりにくいと言える。
加えて、リンクモンスターのみある効果の発動が可能。
その反面、欠点はコストの消費や前述のある効果を含めて三種族の縛りと制約などがある。
欠点を抜きにしても繰り返すが、初心者は勿論のこと経験者もリンクを知らない限り、このデッキを使いこなすのは無理があるだろう。

「蟲惑魔と蕾禍を組ませて混ぜ物デッキにする」
「いいんじゃない。備えあれば憂いなしだね」

D-8の狐島で出発前に空からデュエルの基礎的な要素と重要な五大召喚法+儀式召喚もある程度は叩き込んでいる。
召喚方法までは素人には優しくないが、敵対者がデュエルを使用したら、基礎固め位は覚えていても損はしない。
キリトは基礎知識が限界なのに、空はデュエルのルール等基礎のみならず、経験者も身に付けられないであろう全ての召喚の仕方も把握している。

「唐突に来る戦いに準備しないとな」

空は二つのテーマのデッキを混ぜて次々と組み込んでいく。
蟲惑魔は植物族と昆虫族の二種の種族で蕾禍とは相性も良く、制約のデメリットはない。
それに蟲惑魔は致命的に足りない物があり、それらを蕾禍が全部持っている。
互いを補ってくれて、展開も増えるらしく嚙み合わせも良い。
まるで空白のような関係性だと思った。
ただし、三種族以外を組んで召喚するには縛りの穴を付く上でそれすらも戦略も考えないといけなくなる。
そして、アプリにて試運転で再確認する。
試運転で蟲惑魔と蕾禍の混合デッキの回し方を終えて、準備も整った。

「後は二つのデッキの魂を信じ抜く」

己のカードを選び、信じる心を持つ。
それを一生忘れてはならない。

この地で遅れながら正式に新たなデュエリストが誕生した。

「ついでに空にあげるよ。仮面ライダーの変身装備」

キリトの最後の支給品は仮面ライダーに変身する為の装着アイテム。
その名は飛電ゼロワンドライバーとライジングホッパープログライズキーのセット。
本来は飛電の社長しか変身が許される代物で『ヒューマギアの関連企業の代表取締役』『是之助の持つヒューマギア及びゼロワンシステム関連のテクノロジーの特許権』『衛星ゼアの認証』の三つの条件が厳しく惑人以外は不可能だった。
ところが黎斗と茅場の合同で特別に厳重な使用条件を全て取り除き、他者にも装着可能になった。

空のデュエルでの後衛は有難い。
だが、キリトは此処に来て、今の今まで失念していており、敵はデュエルの攻撃を阻止するべく、狙われてしまうだろう。
リスクをできるだけ減らすためにゼロワンドライバーを空に渡す。

「俺が前衛で何とかするが、入念に身を守る物があれば生身での危険は減るし」
「いや、仮面ライダーらしきアイテムは既に手に入れてある。だよなキバット」
「え?」

922◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:17:30 ID:???0
キリトは間抜けな声を漏らす。
空はとうに仮面ライダーの変身アイテムを確保したらしい。
空の残りの支給品は黎斗によって没収されたのは、この目で確認しており、キリトは訳が分からずにいた。
一緒に行動して、余り参加者と会えず死体を発見しても、荷物は他者に回収されている。
いつ入手したか心当たりが全くない。

(もしや空はここまで知ってやがったのかよ!けどな・・・・・・)

一方のキバットは空に名を呼んだ意味を大体は理解した。
彼は自分が仮面ライダーキバに変身する力を与える事を察している。
キバットとしては少し、複雑な気持ちだ。
キバに変身する恩恵を受けるのはファンガイアのみ。
ところが人間が変身してしまうと疲労が蓄積する。
渡は人間とファンガイアのハーフなのでデメリットはない。
自分の父キバットバット二世よりはマシなのも明白。
ダークキバのマイナス面は上記の疲労に留まらず最悪、死に追いやる。
これが原因で渡の父、紅音也は三度の変身の末に死亡してしまった。

このような事情から渡以外はなるべくキバに変身して欲しくない。
伝えたくても相変わらず声を発せず悔しさしかない。

「どういう意味なんだ。全然分からん」
「キバット自身が他人に変身させる何かの能力を有しているんだ」
「な、なんだって!?」

キリトは驚愕を露わにする。
言われて見ればキバットが只の支給品として巻き込むとは考えにくい。
何かしらの力を貸し与えると考えるのが自然で盲点だった。

「どうしてそう思えたんだ?」
「決定的な根拠が士とレイと一緒に撤退しなかった事だ。あの場に残っても殺されるリスクが高いし、渡の想いと遺志を継いだなら、根負けしてでも二人と撤退する道を選ぶだろうな。しなかった理由は渡が変身を行うにはキバットが欠かせないのは勿論の事と彼の相棒として、最後まで一緒に戦う選択を尊重したからかな」
(全部正解だ)

空がその点を見抜けたのはキバットとの情報交換中。
情報の抜き取りで渡が仲間と行動を共にして、士とレイと違って逃げないで渡と一緒に居残る時点で疑問を抱いた。
よって、不可解な謎の推理は上記の通り、導き出す。
一方で変身する力を偶然で発見したのを意味していた。

「恐らく、予想は仮面ライダーと見ている」
「マジで!?仮面ライダーって、色々なタイプがいるな」

これまたキリトはビックリする。
キリトの中での仮面ライダーのイメージは自身に支給された物、葛葉紘汰が変身した形状、尊徳が所持する機械タイプの生き物と様々な種類があるようで、キバットみたいな力を与える部類も存在すると認識した。

「話しを戻して、今後は仮面ライダーに変身するけど、カードでキリトの援護は変わらない。」

キバットが力を貸し与えてくれるなら、空自身が変身しながら後衛でカードを使って戦う。
それ自体は永遠にブレる事はない。
ただ一つ懸念する問題があった。

「だが、キバットへの変身はリスクがあるらしいんだ」
「不味いじゃないか。じゃあ尚更、俺のあげる」

923◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:18:34 ID:???0
欠点を抱えているなら、メリットがあるゼロワンドライバーを使用した方が安全だ。
戦闘中に暴走などを冒してしまったら只事では済まない。

「キバット。少なくとも暴走や死に至るなんてないよな」

キバットはそう頷く。
キバは鎧の各々にカテナの鎖が絶大な力を抑制しているので、ダークキバと異なり、絶命はない。
疲労の蓄積が免れないのは残念すぎた。

「そうか。そこでだ、キバットへの変身とゼロワンの変身は俺とキリトと交互に使用して互いの負担を減らす。仮面ライダーの装備をもう一つ見つけるまではな。俺からの妥協案だ」
「それなら俺は反対しない。無茶したら承知しないからな」
「そのつもりは鼻からないし」

初めから危険を冒す気はない。
自分が変身すると言い出した際、キバットの羽が一瞬で動揺する瞬間を見逃さない。
始めから落としどころを考えた上で提案を出した。
ただし、自我を失ったり、命の危険がないのを踏まえてキバットに確認を取った。
余りに酷いと分かったら、ゼロワンドライバーを使用し続ける。
デメリットが不明であるが、判明した事は重い物でないだろう。
意見を擦り合わせて、今の案に落ち着いた。

キリトは空が無謀な行為をするのではとヒヤヒヤしたが、最初から危険な橋を渡る気も一切なかった。
確証を得てから案をとっくに考え抜いていただろう。
仮面ライダーの変身も一回ずつ交換しながら互いに軽減するのならあれこれ反論しない。
自分達の負担を引き受けて、より軽減する。

「飛電と言えばゼロワンドライバーの本来の持ち主もいるな」
「そうなの?じゃあ本人と会えたら返さないとね」

空はゼロワンドライバーの本当の所有者の名前を名簿で把握している。
本人の了承も得ずに勝手に使用するのは良くない。
状況が状況で仕方ない部分もある。
殺し合いに乗っていなければ必ず返却しよう。

「変身装備をもう一つ必要か」

いずれゼロワンドライバーを飛電惑人と言う人に返すとなると身を守る変身アイテムをさらに一つ必要になる。
キバットへの変身は負担が掛かるので正直、御免だ。

「それにキリトもあんま思い詰めるなよ。俺もあんなに犠牲が出て悔しいのは同じだ」

四割死者を出してしまう結論が出たとしても無念でならない。
配置場所が最悪でも言い訳していいはずなどない。
キリトが目に届かない場所で犠牲を防げずにかなり悔やんだのを察した。
空はこれ以上犠牲を増やしたくない気持ちはキリトと同等だ。
後の正史の未来では神霊種(オールドデウス)との双六ゲームで誰かが犠牲が出る理不尽さを強いられるが空白は良しとしなかったのは先の話しだ。

「やっぱり空は凄いよ。デュエルも全部把握しているし」
「凄くもないよ。俺はあの時、リリスの気持ちをないがしろにして、失言までした」

キバットと出会う前はあれほどリリスの家族や知り合いがどのような人物か談笑したにも関わらずにだ。
リリスは家族を早く保護したがっていたのに、ユキの心配で頭が一杯だったばかりに、『ユキ以外親しい人はいない』『ヴァイスフリューゲルを優先する』とリリスとの約束を白紙にするような不用意な発言でアウトだ。

924◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:19:29 ID:???0
「我ながら情けねえ」

これが白とステフ辺りだったら、適切な発言をして、上手く全体をフォローしていただろう。

「ごめん。それを言うなら俺もだよ」

もとより、ごせん像=リリスを渡されたのはキリトだ。
リリスがあんなに家族と知り合いの事を語って、空黒はシャミ子達の特徴や性格面などより詳しくなった。
桃とミカン以外は戦える力はなくて、優先的に保護すべきと把握していたはずだった。のに……

「内心はニノンに気を取られて、リリスの家族と知人を無視してしまった。俺って最低だ」

ユキの心配のしすぎでニノンの死だけを悲しんで清子と小倉の死を悔やまなかった。
薄情な自分に恥じる。
視野の狭さに怒りと不甲斐なさを自身に抱く。
渡された持ち主の責務を果たすべきなのに・・・・・

エルキア大図書館に再度、到着する前にもう一度約束を交わした。
だけど、無意識にリリスを傷つけてしまった過去は消えない。

罪悪感を払拭出来ずにお互いに黙ったまま重苦しい雰囲気が流れている。

(しっかりせんかお前らーーー!!)

その時、キバットがキリトと空の頭を体当たりする。

「「何するんだキバット」」

突然、キバットが本気でぶつけた事に困惑しそうになるが、

(リリスを傷付けたのは許されねえ。人として最低だ。既に反省しているなら、どんな理由があろうと反故にしないで義理を通しやがれ)

キバットは二人が他者の死を本気で悲しむ善人で最初に会った時に理解を示してから変わらない。
リリスに対して、悪いと思うなら、最低限の約束は守る。
渡が何度も悩みや苦悩があった時は余り力になれずに他者に解決させっぱなしだ。
せめて、今回こそはキリトと空の力になりたいと思ったのだ。伝わってくれるかは不明だけど。

「キバットしっかりと伝わったよ」

空は言葉を出さずともキバットからの説教を受けたのを見抜いている。
キリトもキバットが言いたい事が何となく伝わる。
彼は本気で叱責を受けて一瞬だけ逆転したように見えて、彼に怒られる日が来るとは。

「「リリスごめん」」

二人は謝罪し、もう一度だけ改めるが吉田姉妹を保護して、守ると心に誓う。
清子と小倉には冥福を祈った。

(もうよい)

リリスはとうの昔に気にはしない。
過ぎてしまつた行為は仕方ないのだ。
けど、二人が本気でシャミ子と良子を守ってくれるのなら、自分は安心するかもしれない。

925◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:20:23 ID:???0
この空間にいる者達の絆を上げながらも次の話題に移った。

「そのリリスを含めた意思を持つ支給品の扱いだ」
「リリスみたいにまだ野放しにする可能性もあるけどな」

これに関しては意思持ち支給品を所持する者に聞いて見るが、優先度はかなり低い。
空でさえ、望みはないだろうと諦めかけている。
喋れる支給品がいたとしても途中からリリスのような苦痛を味わう地獄しかない。
キバット、リリスらの身に起きた理不尽な扱いに同情の意を表した。
あれ以上語る事もなく、打ち切りとなる。

空はキバットの口封じは渡の現象の実験を隠蔽する為と推測していたが、放送で開示したのとリリスがキバットと同じ不遇を煽られた時点でその線はなくなった。
だから、この仮説はキリト達に話す事なく、遥か彼方に忘却する。
どっちしろ運試しで渡を故意で選定した可能性が消えないのは変わる事はない。

「後は・・・・・」

空はデイパックからデュエルディスクと蟲惑魔と蕾禍のデッキ、アプリを取り出す。
まず、アプリを起動して、デュエルのルールの各項目の再確認を行う。
ユキの取り乱しやリリスとキバットのメンタルケアをして、此処に至るまでてんてこ舞いで後回しにしていた。
項目を次々と読み終えたが、すると前に確認した時になかった項目が追加されている。

「なるほどな。そういうことか」
「不自然な点があるの?」

デュエルの再確認の中、キリトはずっと眺めていた。
いつ見ても素人に優しくない。
そしたら、空が違和感を覚えたらしいが、何かを把握したのだろう。

「ペンデュラムとリンク専用のフィールドが救済された。が、ペンデュラムとリンクのカードを片方でも一枚以上持っている奴だけらしい」
「放送で一言も告示していなかったな」
「恐らく、その二種類の召喚方法を経験者は知る奴がいないから伝える気はないだろう。その分、アプリに二種類のフィールドが表記されているが、自称神からの自力で調べろかな」
「檀黎斗らしいというか・・・・・・」

放送でペンデュラムとリンクの言及しない事には理解している。
経験者がそれを把握する者の不在で煽りを受けるのも致し方ない。
空はリンクを所持する故にこの時点ではしっくりしない感じだった。
まさかと一から調べると原因がアプリにある追加の項目で納得する。
最後尾に記載する辺り、意地が悪いのが伝わって来て、両者は呆れ果てた。
本物のデュエリストと接触した際はこの事を警告しないといけない。
大多数の経験者は全て把握した気になっているのだろうから。

「これで全部吐き出したか」
「まだ一つある。ユキの事だ。あれで解決したとは思っていない」

尊徳の説得のお陰で多少は落ち着きを見せた。
ところが不穏さを漂わせているのを察する。
ユキが以前にも増して尊徳に頼り切りになっている。
不都合はないと思われがちになるが、ユキの方が依存して来ているのだ。
空はそれが不気味で仕方ない。

「尊徳への重度のしがみつきを如何にかしたい。キリトもこれでいいと思うのか?」
「言われて見れば。それは・・・・・・・・・・・・良くは、ない」

926◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:21:14 ID:???0
仲が良いのは悪い事ではない。
きちんと考えるとベタベタしているようにも見えた。
空の言う通り、確かに一時凌ぎに過ぎない。
自分達ではユキの説得は不可能だ。
下手するとまだ生きているヴァイスフリューゲルの二人の説得も届かない可能性が高い。

「メンタルケアしてくれる大人と接触するのが第一だな」
「俺達では難しいからな」

精神をケアしてくれる人物を捜し出すしかない。
ユキのメンタルケアを先延ばしにするのもこれ以上は時間を無駄にする訳にもいかない。
参加者の接触も考察もこれ以上は遅らせる訳にはいかない。
動き出さないと本当に悔しいが、この時間帯だと更に十人以上も犠牲が増えてしまうだろう。
キリトと空が言い分を作って引っ張り出さないと現状が進展しないからだ。

裏の方針としてユキを預けてくれる頼れる大人を捜して見る。
キリトと空では入り込む余地がない。
その人物だと何とかしてくれそうだし。尊徳が一緒についていきそうになるが。

「それじゃあ始めようか。この中の調査をな」

裏の情報交換を終えてエルキア大図書館の調査を開始する。
中の空間は結構広いが二人だけで切り盛りしていくしかない。
キリトと空は行動に移し、キバットは外の入り口へと持ち場に行った。





あれから中を隈なく探索するも、如何やら仕掛け等はなかった。
次にこのバトルロワイアルに関する資料を見つけるべくあちこちに本を漁っていた。
調べるだけ調べた後は、成果の確認のため二人は集まっている。

「デスゲームに関連した資料はあったの?」
「微妙だ。まず見てくれ」

キリトは手掛かりはないらしい。
一方の空が見せたのは『デュエルモンスターズの歴史』と言う資料だ。

「その本って」
「非常に興味深い内容だ」

デュエルの歴史の資料の中身をキリトに拝見する。
ページを開くと素人の自分でも奥が深い物だ。

1999年2月に初めてデュエルモンスターズのカードが発売し、全てはここから始まった。
当初は公式ルールが整備されておらず、2000年にはチェーンの誕生で、ルールが成立したらしい。
日本での全国大会や国際大会を毎年行われている程、
スマホゲームでもリリースされ、手軽に対戦が可能になった。
2004年辺りから2008年まで融合召喚の全盛期で盛り上がっていたそうだ。
2008年4月以降から3年置きに新たな召喚法が次々と導入する事によってフィールドが何度も整備を変えていった。
2020年4月には追加項目に記載されていたデュエルフィールドに落ち着いたという。

※他にもぎっしりと書かれているが省略するものとする。

927◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:22:10 ID:???0
最後まで読了して、デュエルモンスターズは世界中で人気のカードゲームを知る。
自分が生まれる前から幅広く愛されている。

「この資料の元はカードゲームを利用する争いはなく、純粋にデュエルをする世界線とみた」
「それも奴は・・・・・・」

元からカードゲームを普通の遊戯で楽しむ命のやり取りとは無縁の世界だろう。
空が所持するデュエルディスクとデッキも資料にある世界線の物であろう。
他のデュエルの世界はどうなっているのか不明だけど、命の奪い合いが起きてしまった世界もあるのだろう。
最低でもあの世界だけはカードゲームを兵器に利用されていなかったのに黎斗によって干渉したせいで悪用している。
ゲーマーにとっては汚されているような物。

「カードゲームは本来なら争いに使われる道具じゃねえ。楽しい心と笑顔になれる遊戯だ」

この次元だけは悪い事に運用してほしくなかった。
だからこそ、あの世界のデュエルを汚す黎斗の打倒を強める。

「その資料を持って行くの?」
「当たり前だ。何かしら必要になるかもしれないからな」

例えデュエルモンスターズの別世界線であっても必須になる日が来るかもしれない。
一度拝見したらここに置いておくのは軽率。

続いて空はメモ帳を取り出して、ペンで白い紙に書き始める。

『殺し合いの根源に関わるかもしれないから暫くは筆談な』
『了解』

確実に主催陣営に会話を傍受しているのは確実。
駄々洩れしてしまえば脱出も水の泡になる。
本当に最重要な情報はメモ書きで済ませよう。

『まだ証拠が不十分過ぎるが、美遊についてだ』
『何で彼女が出て来るんだ?』

美遊は主催陣営に人質にされた被害者。
黎斗の最初の放送が原因で関係者が殺し合いに乗っているかもしれない危惧を抱いている。
何故、彼女の話題に筆談なのかキリトは疑問を持つ。

『俺なりに考えて見たんだ。ひょっとしたら、人質だけでは済まないかもしれねえ』
『関係者が全員殺されたら用済みで始末する事態か』
『俺も思案したが、そんな単純な話ではない』

前までは関係者に殺し合いの進行を促すだけと思っていた。
再度、考え出すようになったのはデュエルモンスターズの歴史の資料を拝見したのが切っ掛けで見直してみた。
どういう訳で美遊を公表したか密かに考察を巡らせていた。
何度も追想すると推しているようにも思える。
カードゲームが争いの道具に使われているなら、同じく美遊にも人質以外に利用価値を見出したのではないか。

『大体、放送で明かさずに裏で人質を理由に主催の二枚目のジョーカーに任命するはずだ』
『それが手っ取り早いが、その可能性は・・・』
『ほぼないだろうし、最上位の継国縁壱がいれば足りるしな』
『別の意図があるのか?』
『確証は持てねえ。最低でも良からぬ事は間違いないはず』

928◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:22:59 ID:???0
美遊を明らかにせずに最初から裏で餌を釣ってデスゲームを盛り上げるジョーカーに任名した方が早い。
美遊の関係者が主催陣営のジョーカーに役割を与えられていないのは確実。
最も、途中からの指名も否定できない。
その一方で美遊を利用して、碌でもないことを企んでいるのだろう。
それが何かは不明。

『美遊はデュエルモンスターズと同じかそれ以上の役割があるかもしれない』
『そんな.......ことが..........』
『どうしても、推しているように聞こえてしまう』

これはあくまで仮説だけど、キリトは衝撃を受ける。
空は今更ながら思い返してみるとデュエルモンスターズと同等に彼女にも推す事に引っ掛かっていた。

『美遊の件は尊徳とユキに口外するなよ』
『了解』

真相が見えるようで見えない以上言いふらすべきではない。
美遊の役割が万が一の場合、全体に影響を与える事態が起こったら面倒だ。
キリトもその意図を察して、この空間にいる者だけの機密にする。

『とは言え、あくまで個人的な考察だ。確証も持てないし、全部俺の思い違いかもしれねえからな』

キリトはALOでオベイロンの魔の手によって、アスナを捕らわれていたのを思い出す。
美遊はあの時のアスナの現状より、かなり酷いだろうと考慮する。
空の推測で捕らわれのお姫様では済まない良くない企みが起きてしまう。
依然として確証はなく、ただの人質で済めばいいが。
当然、それも良くないが。

(美遊の関係者から問い詰めたほうが早いか)

真実が本当か否かは関係者と接触すれば自ずと見えて来るかもしれない。
内容によっては取り返しの付かない事態になる前に口を割らないよう釘を刺しておきたい。
殺し合いに肯定或いは否定問わない。
ただの考え違いであればいいが。

『二つ目。このエルキア大図書館は作り物だろう』
『どこに違いがあったの?』
『ここの書物はディス・ボードの世界の文字で記述されている。だが、ここにあるのは全て日本語だ』

空の今いる世界の本は日本語とは別のイマニティ語で統一する。
異世界に召喚した直後の空白が避けて通れない壁が言葉だ。
直ぐに解読して、理解を示したのは白で、空は当初、戸惑うばかりであった。
このバトルロワイアルにあるエルキア大図書館は調べれば調べる程、全部イマニティ語ではない。

『大体、デュエルモンスターズの歴史の資料なんて物も混じっている時点でな』
『そうだね』

大方、黎斗によって面白みを増すべく投入したであろう。
大多数の参加者は日本人なので配慮したのを想像出来る。

『紛れもなく本物ではないが、原理は不明だ』
『もしかすると旧SAOの技術を盗んで一段と応用したとか』
『勿論、考えられる。加えてこの島自体が仮想現実かもな』

929◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:23:46 ID:???0
建物が鷹物なのは前々から認識している。
どのような仕組みで再現しているか現状ははっきりできない。
掠め取った技術を研究して、仮想現実も併せて発展したのを考慮する。
無論、殺し合いと言う悪い方向に向かってしまったが。

『俺はアバターだから納得だけど、空達はどう説明が付くんだ』

キリトはアバターでの参加なので、まだ分かる。
しかし、空達は生身でアバターではないので辻褄が合わない。

『まだはっきりできねえ。もっと情報が必要だ』

情報面が不足して、結論が出なかった。
多くの人達と接触して、一つずつピースを埋めて行こう。
この島の秘密と言い、美遊の件と言い、謎が沢山あるのだ。

『最後に葛葉紘汰の死は無駄じゃない』
『どういう事だ?』

キリトは訳が分からずに首を傾げて、空が続ける。

『葛葉紘汰が乱入して、可笑しいとは思わないか?』
『あっ。管理が徹底してないから何処かに隙があるのか』

空はこの件は最初の黎斗の放送直後に違和感を抱いていた。
キリトは空に言われて真剣に考えると穴があると言えなくもない。
本当の神とは言え、容易く主催のアジト(仮)に侵入していた。
つまり、鉄壁と思われた管理が攻略する希望が残されている。
何処かに脱出する隙が生まれている事を意味する。

『内部に裏切り者が手引きした線もあるだろうが無論、可能性は低い』
『いても派手な動きはできないだろうし』

主催側が一枚岩ではないにしても反逆する人物がいても監視の目もあるかもだし、下手な行動も制限されるだろう。
そもそも、存在するかすら怪しい。

『葛葉紘汰が残した手掛かりはこれだけだな』
『無駄には絶対にしない』

紘汰本人すら意図しない行動で糸口があるかもしれない。
アジトに単身乗り込めたのなら、自分達だって可能のはずだ。
彼の死が無意味ではないかは自分達が証明するしかない。

「一通り、終わったな」

筆談が終わりこれからの行動指針を考える。
エルキア大図書館の調査を終了して、D-6の狐島に直行すべき。
だけど、尊徳とユキの心の整理が着いておらず問題を先送りしっぱなしだ。
エルキア大図書館に誰かいるか僅かな願いも叶えられず仕舞い。

「自称神め。まさかとは思うが、空黒は遊ばれてんじゃねえよな」
「今までを振り返るとね」

930◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:25:16 ID:???0
出発地点が本島ではなくD-8の狐島で最悪の場所に配置され、本島に上陸したが人との接触を間に合わず、尊徳とユキを精神的に追い詰めて自分達が自力で引っ張らせるのもわざと考察や参加者の接触を遅らせる為に嫌がらせではないかと勘繰ってしまう。
悪い方面で想像しても仕方ない。
二人に調査を完了した事を伝えよう。

すると尊徳とユキがやってくる。
丁度いいタイミングで報告しようとした時、

「空とキリト、話しがある」

尊徳が吹っ切れた感じがしたのにキリトと空は察する。
図書館内を調査していた間に何があったのだろうか?

「それはね」

ユキが自慢げにその訳を語る。





図書館内を休みながら何時ものようなコントはあるにはある。
肝心の尊徳は少し元気がないのだ。
この場所に来てから様子が可笑しい。
なら、今度はユキが尊徳に叱責、励ます番だ。

「タカノリくんに可愛らしいボクにお悩み相談を受ける気ある〜♪」
「この僕に悩みなんてない」
「ひょっとするとカゲヤマさんかな」

ユキに正解を当てられて、図星だ。
自分の事ばかりで見落としていたが、尊徳も心の整理がついていなかった。
影山から託されてプレッシャーを感じないはずがない。

「貴様にはバレバレか」
「ボクの美しい目に魅了されて、隠し事も気付くよ」
「何処がだ」

漫才をしながらも尊徳は観念した。
ユキと長く行動したからか誤魔化せなくなっていたらしい。
尊徳は胸の内に仕舞っていた本音を語る。

「なるほどね。カゲヤマさんの死を踏ん切りがつかないのね」
「影山は僕なんかを信じて全てを託してくれた」

影山は殺し合いに巻き込まれる前は何をしていたか不明。
あの服装を見るに転落していった人生だったのだろう。
初めて出会った時はまるで禁止区域の住人みたいな印象だった。
話していく内に海斗と同等の問題児で悪人ではないのはよく分かる。
影山も下らない遊戯で死んでいい奴ではない。
後を託されたのは良いが、彼の死に吹っ切れないでいる。

「考え過ぎて、キリトと空に気を遣わせている事も自覚している」

931◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:26:20 ID:???0
図書館の調査から外れたのは自分とユキの配慮してくれたのだと。
二人が自分達のペースを合わせたり、渡の遺品を取りに行かないのも、大きく行動できないのも自分達が足を引っ張っているのも認めている。
事実、六時間以上C-8をウロウロしてしまい、時間を無駄にして人によっては反感を抱いても無理もない。
考え続ける度に時間だけが過ぎて、二人に心配させてしまった。

「キバット方が大人だと気付かされた」

同じような辛さを味わったキバットを見習ってあっさりと受け入れていたら、どれだけ良かったか。
渡と言う人物は影山より理不尽な目に遭われたのにキバットはぐずぐずせずに一歩踏み出している。

「僕は気持ちが晴れるのかな」
(ボクがここで言わないとね)

尊徳の心を晴れやかにするには自分しかない。
先程まで優勝狙いに切り替えようと皆に迷惑を掛けかけた所を尊徳に救われた。
今、ここで言わないと彼を気に入っている自分が困るし、調子が狂う。

「タカノリくんには堅物にならないでボクと一緒に突っ走るしかないね♪」
「え?」

ユキが真っ当な助言を吐く。
尊徳も驚いているが、元気を出させようとしているのが伝わる。

「カゲヤマさんに託されて、想いも継いだのなら、カゲヤマさんの分も背負って皆で突っ走る。そういうことだよ」

アユミ、ニノン、影山の分まで戦うのを決断したのだ。
先程までビンタしてまで叱責した人が、塞いだままでは駄目になってしまう。
ユキなりに一生懸命アドバイスをする。
効果はこの後、直ぐに返って来る。

「影山の分まで背負って皆で突っ走る、か。貴様のようなナルシストがいい言葉を言うとはな」

ユキからの言葉が尊徳の心が軽くなって行く
影山に後を託されたのなら、無駄にせず、全て背負って戦い抜く。
もしも、同期の薫や侑祈、そして、海斗も余計な事は考えずに背負っていくであろう。
ユキが言うまでこんな単純な答えが浮かばなかった。

(影山の意思を継ぐのは変わらないが、突っ走ろうか。気負う必要はない)

ユキに話したら、逆に心の整理が付いた。
相談してしまうだけでこうもあっさり解決した。
お陰で影山の死を引き摺らないで吹っ切れる。
その影山の想いも全て背負いながら主催の打倒を目指す。

(ユキ有難う。影山改めて、力を貸してくれ)

尊徳は内心はユキに感謝する。
口には出さないが、主催を打倒するまでユキを守ると固く誓う。
影山の事は絶対に忘れずに思い出す事もある。
ホッパーゼクターを眺めつつ、彼が託した物を使用するのは変わらない。
ボディーガードとして、落ち込んでいられない。
尊徳は気持ちが晴れて男らしい顔つきになる。

「ユキ。まさか、僕を立ち直らせる日が来るとはな」

932◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:27:00 ID:???0
先程は尊徳がユキの心を救い、立ち直った。
今度はユキが励ます言葉を貰い、引き摺る心を溶かした。
感謝のお返しで何時の間にか立場が逆転している。

「ボクだってタカノリくんの沈んだ心なんて見たくないからね」
「貴様のお陰だ」
「ついでに可愛いボクに今度こそ魅了されたでしょ♪」
「これとこれとは別だ」

ユキは尊徳がいつもの調子を取り戻せて何より。
しかも、気が晴れたからか男前になったように見えた。
中身は全然、変わらないが。
それはそれで良いかもしれない。
ユキは覚醒した姿にも一層気に入る。

「それとキリトと空に影山の死をちゃんと話す」

いい加減に影山の死の真実をキリトと空の前で口にするべきだ。
とは言え、同じ境遇故にキバットは確実に知られているだろう。
キリトと空も気付いても十分あり得る。
否、知っていて自分の口から話すのを待っている。
影山の話題に触れないのも二人の優しさ。
甘えない為にも一歩踏み出さないといけない。

(キックホッパーを使うのは最後の手段だ)

ホッパーゼクターのもう一つの機能が搭載されているキックホッパーの変身も視野に入れ始める。
影山は兄貴と呼ぶ人物を慕っていて多分、キックホッパーの方で使用しているのだろう。
兄貴と呼ぶ男は推測であるが、海斗や影山以上の問題児であるのは容易に想像できた。
仕方ないので影山の為にリスペクトもしてやろう。
それでもなお、基本的にはパンチホッパーの方の使用は永遠に変わる事はない。

(早くモニカさんとクウカさんに会いたい。そしたらタカノリくんを紹介してあげたい)

ユキはヴァイスフリューゲルの二人と合流して、尊徳と引き合わせたい思いがある。
彼に主催を打倒するまでの間だけ一時的にギルドのメンバーに入れていい。
二人なら反対意見はないだろうし、寧ろ賛成してくれる。

「そうと決まれば二人に言わないとな」

尊徳は早速、二人の元へ行く。
ユキからすれば面白い男だけど、前より活き活きしている。
解決して良かったとユキは嬉しく思うのだった。





「そうだったのか」

キリトと空はユキから事情を聞き終える。
ユキに悩みを打ち明けた事で尊徳は心の監獄から脱出した。
確かに尊徳は自分から相談を持ち掛けていない。
打ち明けたのは付き合いの長いユキだったからこそ。

933◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:27:49 ID:???0
「影山の事を正直に話そう」

尊徳は素直に影山の死の真相を言う。
予想した通り、影山は運試しの犠牲者になっていた。
若干、辛そうだったが、尊徳はありのままに話した。

「よく話してくれた」
「辛かったな」

尊徳は二人の優しさに身に染みる。
本当は自分が口を開くまで待っていてくれた。
もうキリトと空に気を遣わせないよう尊徳は決意する。

「心配かけてすまない。僕はもう大丈夫だ。影山に託されただけでなく、想いも背負って皆で突っ走る」

尊徳はキリトと空の前で覚悟を固める。
彼の目には辛い気持ちは残っていない。
前に進もうとしている。

(尊徳は安心だな)

空は尊徳の精神が強いものになったのに気付く。
影山の死に気持ちが晴れないままの彼は何処にもいない。
ユキのお陰で尊徳の悩みは解消したようだ。
今度はユキが借りを返して、尊徳を覚醒させる切っ掛けを作った。

「それよりも調査は終わったのか?」
「ああ、残念ながら手掛かりはなしだ」

館内を調査して、仕掛けはないのは本当だ。
ただし、キリトと筆談した情報は信憑性を上げるまで伏せておく。
特に機密情報でデュエルモンスターズ以上の役割の可能性が一段と高くなった美遊の件は言い触らしては駄目な案件だ。
まだメンタルが良くないユキには言うべきではない。

そしたら、見張りと偵察を任せていたキバットが全速力で戻って来た。
慌てた表情を作りながら。

「キバットどうしたんだ?」
(敵だ!あの全裸のムキムキマッチョが来る!)

キバットは外で見張りを任命し、役目をこなしている。
すると遠い距離で戦闘音が聞こえたのだ。
敵か味方か不明で偵察してから空に報告すると決める。
飛翔しながら進んでいくと誰かが近づいて来たので咄嗟に隠れる。
その正体は何と全裸で100%不審者と断定する男。
空達の情報からパンツ一丁の男と戦ったと聞いている。
パンツ一丁の男は何故かイライラしていて、右腕の傷が塞がっていくのを目撃した。
回復能力は二人の情報にない。
数時間で新たに身に付けたと推測するしかなかった。
方向先にこのまま行くとパンツ一丁の男はエルキア大図書館に辿り着いてしまう。
幸い、こちらには気づいていないので人知れずに空に知らせに行く。
例の戦闘音について、今は鳴りやんでいるが緊急事態で向こうに行く余裕はない。
気掛かりを残しつつ、急いで戻り、空に伝えて、今に至る。

934◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:28:34 ID:???0
因みに遠くの戦闘音をキリト達がエルキア大図書館内でも聞こえなかったのにキバットが何故、感知出来たのか?
その理由は両耳に機能するキバットソナーと言う能力で超音波によって相手の接近や周囲の情報を得る事が可能。
キバット族は特に耳が良く、父親のキバットバット二世も言える。

「敵がこっちに来るんだな。」

キバットは頷く。
来るのはパンツ一丁の男で回復能力を手に入れた事実も共有するべきだが、口封じのせいでできないでいた。
空はキバットの焦りから危険人物の接近を察した。

「俺らは急遽、ここを発つ」
「迎撃するんじゃないのか」

尊徳が疑問の声を上げるのも無理はない。
向こうからやってくるなら、放置は出来ないし、危険人物を撃退するチャンスのはずだ。

「迎え撃って戦って勝つだけじゃないぞ。キバットがこんなんでは情報が届かねえし。この場に金髪の男が襲って来たら、俺らは全滅だ」
「あっ、全体の事を考えているのか」

考えなしで逃げる訳ではなかった。
危険人物をどうにかするには情報戦だ。
金髪の男(ポセイドン)のような最強クラス相手に無策で挑んでいたら死は免れない。
力だけで勝利を収めるのは限界が来てしまう。
それを補うには情報戦が如何に重要か尊徳は再度も痛感する。

「無駄な血を流すよりは全員の安全を取る」

相手によっては犠牲が出てしまっては意味がない。
よって、逃げられるならそれに越したことはない。
わざわざ残って危険に晒す行為は言語道断。

「それでも、戦うとしても一切負けねえけどな」

現時点では不十分でも必ず倒す。
空は力強い言葉を断言する。

「逃走ルートは聞くまでもないな」

元からD-6の島に立ち寄る予定なのだ。
加えて、このチームのみ知る北東の橋に渡れる。
尊徳もユキも反対意見はない。

「あの島にもっと楽に行ける方法がある」
「モーターボートだな」
「情報交換の時に言ってたな」
「ボクの美しい顔に汗を流すのは似合わないから、賛成だね」

時間短縮するべく全員一致で歩きではなく、モーターボートで海を渡る最短ルートに決定する。
空の鋭い観察眼で地図の中央経由から行かずに済んで北東の橋の存在を確認できた。
さらにモーターボートの再利用で大幅に短縮するので活きてくる。

「全員、荷物の準備は終わったか?」
「忘れ物はないよ」

935◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:29:25 ID:???0
エルキア大図書館内で荷物をまとめて外に出て集合する。
まだ来訪者が現れる気配はない。

「それじゃ、海まで一直線で行くぞ」

空は内心は鷹物のエルキア大図書館に別れを告げる。
一同、同時に走り出す。
建物から距離が離れていく内に小さく見えていく。

走っている内に危険人物に遭遇せずに順調にD-7の砂浜に辿り着く。
空はモーターボートを海上に用意する。

「人数がピッタリ四人だな」

実は外国製の高級木材のモーターボートの定員は四人まで。
乗れる人数が今いる面子でギリギリ。
キリトと空、キバットは二度目で残りは初の航海である。

「D-6の狐島に直行するぞ」

操縦はキリトに任せて、前の座席に空、後ろに尊徳とユキが座る。
エンジンを掛けるとモーターボートを発進させる。
そのまま大海原に乗り出す。
男達による航海の旅が再び始まる。



【D-7 海上/一日目/午前】

【宮川尊徳@暁の護衛 トリニティ】
[状態]:健康
[装備]:ホッパーゼクター&ZECTバックル@仮面ライダーカブト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:僕たちがゲームマスターを倒す!
0:D-6の狐島に向かう
1:ユキ、キリト、空と一緒に影山とニノン、影山の仇を取る
2:影山……お前の意志は僕が引き継ぐ
3:モニカ、クウカ、吉田姉妹、士、レイ、宝条永夢の仲間を優先的に探す
4:ウジウジ悩んで全体の足を引っ張る事はもう二度としない
5:ユキのように誰かを生き返らせるのが目的になって優勝狙いになろうとする参加者が増えなければいいが……
[備考]
※パンチホッパーとしての戦い方がわかりました

【ユキ@プリンセスコネクトRe:Dive】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:ボクの美しさをクロトやハ・デスにも知らしめてあげる
0:D-6の狐島に向かう
1:タカノリくんはボクが応援してあげるよ♪
2:モニカさん、クウカさんを優先的に探す……無事でいてね
3:アユミ、ニノンさん、カゲヤマさん……
4:一応、吉田姉妹、士、レイ、宝条永夢の仲間も探して見る
5:ありがとうね、タカノリくん。タカノリくんのこと、気に入ったよ
[備考]
※参戦時期は少なくともイベント『ショーグン道中記 白翼のサムライ』を経験済みです。

936◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:30:17 ID:???0
【キリト@ソードアート・オンライン(アニメ版) 】
[状態]:疲労(小)
[装備]:ブラックプレート@ソードアート・オンライン、カゲミツG4@ソードアート・オンライン、ごせん像@まちカドまぞく
[道具]:基本支給品、飛電ゼロワンドライバー+ライジングホッパープログライズキー@仮面ライダーゼロワン、首輪×2(城之内、達也)
[思考・状況]基本方針:檀黎斗とハ・デスを倒す
0:D-6の狐島に向かう。ついでに『あれ』の存在を確認する
1:空、尊徳、ユキと共闘する
2:リリスのよりしろ探しと約束の為に吉田姉妹を捜索して必ず保護する
3:モニカ、クウカ、士、レイ、吉田姉妹、宝条永夢の仲間を優先的に探す
4:キバットとゼロワンの変身は空と互いの負担を減らすべく、一回の戦闘ごとに交換しながら装着する
5:ユキを預けてくれる大人を探して見る
6:変なおっさん(肉おじゃ)、PoH、謎の気狂いの変態、念のため美遊の関係者を警戒
7:金髪の男(ポセイドン)、継国縁壱を最大限に警戒
8:美遊の関係者を探しつつ、美遊の件の概要は口外しない
9:俺が探索してるうちに40人も死んだのか……
[備考]
※参戦時期はソードアート・オンライン
アリシゼーション War of Underworld終了後
※遊戯王OCGのルールをだいたい把握しました
※アバターはSAO時代の黒の剣士。
GGOアバターに変身することも出来ます。GGOアバターでは《着弾予測円(バレット・サークル) 》及び《弾道予測線(バレッド・ライン) 》が視認可能。
その他のアバターに変身するためには、そのアバターに縁の深い武器が必要です。SAOのアバターのみキリトを象微するものであるためエリュシデータやダークリバルサー無しでも使用出来ます。SAOアバター時以外は二刀流スキルを発揮出来ません。これらのことはキリトに説明書に記されおり、本人も把握済みです。
※主催陣営はSAO事件を参考にしたと推測しています。また、会場は仮想現実でその技術を発展したと考えています。
※空と空黒というコンビ名を結成しました。
※ブラックプレートが手元に戻ったのでALOアバターに変身が可能になりました。ALOアバターでは魔法スキル、妖精の翅による飛行が使用可能。

【空@ノーゲーム・ノーライフ(アニメ版) 】
[状態]:健康
[装備]:デュエルディスクとデッキ(蟲惑魔)@遊戯王OCG、デッキ(蕾禍)@遊戯王OCG、キバットバット三世@仮面ライダーキバ
[道具]:基本支給品、高級木材のモーターボート@現実、デュエルモンスターズの歴史の本、首輪×2(御伽、遠野)
[思考・状況]基本方針:檀黎斗とハ・デスを倒す。あまり人類ナメるんじゃねぇ
0:D-6の狐島に向かう。ついでに『あれ』の存在を確認する
1:キリト、尊徳、ユキと共闘する
2:主催者と関係ある人物と接触する。特に宝条永夢の仲間に会い、檀黎斗の情報を聞き出す
3:リリスのよりしろ探しを手伝う。吉田姉妹も必ず保護する。
4:謎のシステムの正体を探り、渡の殺害の件のきな臭さを解消する。そのためには多くの参加者に聞き込みか士とレイと接触する
5:キバットとゼロワンの変身はキリトと互いの負担を減らすべく、一回の戦闘ごとに交換しながら装着する
6:ユキを預けてくれる大人を探して見る
7:変なおっさん(肉おじゃ)、PoH、謎の気狂いの変態、念のため美遊の関係者を警戒
8:金髪の男(ポセイドン)、継国縁壱を最大限に警戒
9:ユニカ、クウカ、士、レイ、吉田姉妹、宝条永夢の仲間を優先的に探す
10:美遊の関係者に接触し、美遊を推す原因を聞き出しつつ、概要は口外しない
11:二つのデッキの魂を信じ抜く。一応、他のデッキも回収しておきたい
[備考]
※参戦時期はアニメ終了後
※遊戯王OCGのルール及び蟲惑魔デッキ、蕾禍デッキの回し方を把握しました。
 また、蟲惑魔と蕾禍を組み混合デッキの回し方と新旧のフィールドの存在も把握しました。
※主催陣営はSAO事件を参考にしたと推測しています。また、会場は仮想現実でその技術を発展したと考えています。
※キリトと空黒というコンビ名を結成しました。
※デュエルモンスターズの歴史の本を閲覧しました。内容は現実世界(リアル)関連です。

937◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:30:58 ID:???0
【リリス@まちカドまぞく】
[状態]:正常、自身への苛立ち
[思考・状況]基本方針:全員生きて脱出
0:D-6の狐島に向かう
1:空、キリト、尊徳、ユキと行動を共にする
2:吉田姉妹、モニカ、クウカを優先的に探す
3:清子、小倉……
4:桃とミカンの合流は後回し。合流したら挨拶はしたかったが……
5:よりしろを見つけ出す
6:何も出来なくなったことへの苛立ち
[備考]
※参戦時期は4巻(アニメ2期)終了後
※他者との肉体を入れ替える能力と他人の夢に入る能力は制限対象で黎斗によって不可にされています。
※黎斗によってよりしろで活動出来る時間は十分に制限されていて、二時間経過しないと活動出来ません。等身大よりしろも同様です。
※よりしろ状態でも並行世界――きららファンタジアで手にした力を引き出すことは可能とします。ただし、少なくともキリトの支給品にきらファンでのリリス専用武器はありません
※主催により口封じされました。今後は何かキッカケがない限り話せません。きらファンで手にした力も主催により剥奪されています。





「あのメスガキ共め!!!!!!!」

肉おじゃはマサツグ達から逃走した後、憤慨しっぱなしだ。
其れもその筈、手を組んだメスガキ二人が裏切った挙句、改心までしてしまうという肉おじゃからすれば全く笑えない展開。
おまけにマサツグというハーレム野郎をまた仕留め損なう始末。
あの三人が憎くて機嫌が悪くて仕方ない。

八つ当たりで目先の木々を殴り付ける。
マサツグ達への負の感情からメグとコッコロに負わせた右腕の傷が徐々に回復していく。
原理は不明だが、また願ったり叶ったり。

苛立っては良くないと言い聞かせて頭を冷やし、取り敢えず休むのが第一だ。
ぶっ続けで戦闘をこなして来た。
今後はどうするかは後で考えよう。
今だけは身を潜める場所を探す。

歩き続けると見えて来たのは建物だ。

「丁度いいっすね」

身を隠す最適な建物の発見は朗報だ。
早速、肉おじゃは建物の中に入っていった。

肉おじゃは知る由もないが、最初に対峙した黒の剣士と天才ゲーマーの片割れが数分前に滞在していた事を。
八つ当たりする時間を割かなければ彼らとの再戦が叶っていただろう。
よって、肉おじゃは僅か数分後にエルキア大図書館を発見して、彼らとすれ違う。

「物凄い本の量すね」

938◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:31:46 ID:???0
本に興味のない肉おじゃでも物凄い数の本が置かれていた。
そんな事はどうでもいい。
今は束の間の休息が大事だ。

肉おじゃは元から用意されたコンビニ弁当の豚カツ弁当を頬張り、体力を付ける。
水も飲んで喉もリフレッシュする。
食事を終えた肉おじゃはこれからどう動くか。

「一から立て直しっすね」

一旦、現状をリセットしたい気持ちが強い。
あのメスガキ共のせいで全て台無しにされた。
優勝を目指す為には再度、誰かと組み直したい。
利害関係で結べる者が残っているか怪しいが。

「探して見るっすね」

そう吐いて、デイバックを漁り始める。
中身が乱雑しすぎて確認を怠っていた。
肉おじゃは単独に逆戻りする由々しき事態。
追い詰められた獲物は強力な武器を求める。
すると何かを手に取る。
中身から取り出すと木組みの大きなドアを発見する。
説明書を拝見すると肉おじゃは笑みを浮かべる。

「良い機会すね」

北東に追いやられてしまったのでどこだかドア言う道具で再始動する。
異次元の埋葬は時間制限が解けずに現時点では使用は不可。
ここから行けるルートは北か地図の中心部の二カ所。
また高確率でマサツグ達と遭遇しかねない。
あの集団にはいずれ報復したいがそれは誰かと組んでから。
そうなると一からリスタートするには丁度いいアイテム。
ただし、異次元の埋葬と同様に一度使用すると六時間は待たないといけない。

兎にも角にもこれからの動き方を決める訳で真っ先に思い浮かぶのは憎くて仕方ないあの集団。

「勿論、マサツグとメスガキ共を報復してやるっすよ!!」

いずれマサツグ達は殺すがそれには、誰かと手を組むにしてもメスガキ共みたいな目的が中途半端な奴は御免だ。
優勝狙いに確固たる者が望ましい。
希望としてはマサツグ達に恨みを持つ者同士がいい。

「そんな都合のいい話ないっすね」

一時、組んでいたメグが漏らした情報によるとマサツグを知る参加者はいないらしい。
情報共有していないと言うものあるが、鵜呑みは良くない。
もし、マサツグと敵対する者がいれば暴れ馬でも交渉次第でマサツグを殺すまで一時的に手を組める価値はある。
いないならいないで別の奴で我慢するが。
兎に角、同じ優勝狙いと組むまでは多人数で戦うのは避ける。

939◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:33:04 ID:???0
出発前に武器のおさらいをしておく。
カードが四枚と戦力は微妙と言った所か。
仮面ライダーの装備はベルトしかないが、ホッパーゼクターの脚の欠片を所持している。
何故、肉おじゃの元にホッパーゼクターの脚の部分の欠片がある理由。
実はホッパーゼクターが破壊される際に爆殺した際に一欠けらだけが肉おじゃの髪の中に引っ掛かっていた。
その事に気付いたのは食事をした後に落ち着いてから知った。
一応、ホッパーゼクターの復元できるアイテムを探して見る。
都合よくそう簡単に見つかるとは思っていないが。
ゴット・ハンド・クラッシャーなんてD-8の狐島で黒の剣士とI♥人類の男との対峙以来、かなり前に時間制限が過ぎたのにマサツグ達に使用しなかったのは勿体なかった。
渋る事はせずに思い切るべきだった。
過ぎてしまったのは仕方ないと見るか。

そう考えた後に肉おじゃは目先のドアノブを回す。



【D-7 エルキア大図書館/一日目/午前】

【肉体派おじゃる丸@真夏の夜の淫夢】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、胴体に刺し傷、右胸から左脇腹までの切創、胴体に真横の浅い切創、淫夢ファミリーへの憎悪(極大)、マサツグ、メグ、コッコロへの憎悪
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×2(一つのタブレット破壊)、ゴット・ハンド・クラッシャー@遊戯王OCG、攻撃誘導アーマー@遊戯王OCG、デス・メテオ@遊☆戯☆王(二時間発動不可)、ZECTバックル、異次元からの埋葬@遊戯王OCG(四時間発動不可)、どこだかドア@ドラえもん、ホッパーゼクターの脚の部分の欠片
[思考・状況]基本方針:優勝して淫夢の歴史から自分の存在を抹消する
1:淫夢ファミリーだけは絶対にこの手で殺す。特に野獣先輩、野獣死すべし
2:黒の剣士とI♥人類の男は次に出会ったら絶対殺してやるっすからね……
3:遊戯王カードはこの決闘で大事すね……
4:できれば他の優勝狙いの参加者と組みたいすね。
5:マサツグも、あのメスガキ共(メグ、コッコロ)も許さないっすからね。
6:ホッパーゼクターを復元する道具を探して見る
[備考]
※遊戯王カードの存在を知っていますが決闘者じゃないのでルールなど詳しくありません
※本来の名前を思い出せません
※心意により憎しみなどの負の感情で身体能力と肉体強度が上がり、その間は自動的に徐々に回復します



『支給品紹介』

【ブラックプレート@ソードアート・オンライン】
宮川尊徳に支給。
旧ALOでキリトが使用していた巨大な片手直剣。
キリトが手にするとALOアバターへのチェンジが可能となる。

【飛電ゼロワンドライバー+ライジングホッパープログライズキー@仮面ライダーゼロワン】
キリトに支給。
プログライズキーとセットで支給。
本来の使用権限は飛電インテリジェンスの社長のみのはずだったが、黎斗と茅場の合同作業で全てを取り払い、誰でも仮面ライダーゼロワンに変身可能。

【蕾禍のデッキ@遊戯王OCG】
宮川尊徳に支給。
属するモンスターは昆虫族、植物族、爬虫類族の三種族に構成されている。
リンクモンスターには自己蘇生が可能。
ただし、上記の効果を使用すれば三種族のみの縛りが課せられる。
唯一、デュエルディスクとセットで支給されなかったデッキ。

【どこだかドア@ドラえもん】
ひでに支給。
あべこべ星の秘密道具でどこでもドアと異なり、ランダムな場所に行ける。
作中では断崖絶壁に出てしまったが、本ロワでは空中や断崖に出ないように調整されている。
一度の使用で六時間は制限される。

940◆2fTKbH9/12:2025/06/27(金) 01:37:46 ID:???0
投下終了します。
タイトルは>>905>>918まで 涙はみせない(前編)
     >>919>>939まで 涙はみせない(後編)
とします。

941 ◆ytUSxp038U:2025/06/28(土) 23:04:49 ID:77dkwOig0
投下お疲れ様です。自分も投下します

942呪胎戴天 ◆ytUSxp038U:2025/06/28(土) 23:08:24 ID:77dkwOig0
人間、生きていれば嘔吐を覚える程気持ちの悪い光景に出くわす事は多々ある。
乗用車に轢かれ内臓をぶち撒けた、猫の死骸だとか。
生きたまま大量の蟻に群がられ、捕食される哀れな蚯蚓だとか。
やけに凝った特殊メイクでグロテスクさを演出する、スプラッター映画の一場面だとか。
顔を顰め、消化前の飲食物がせり上がった。
そういった経験は誰にでもあるだろうし、かくいうみかげだって覚えがないとは言わない。

では今感じているのもそういった、日常生活で味わう不快感の一種だろうか。
そんな訳が無い。
『普通』じゃない事情を内心抱えていても、こんな『異常』に出くわすなんて有り得ない。

「ンンン、お初にお目にかかります。突然の無礼な訪問は寛大な心でご許し頂きたい。拙僧この通り重体身故に、落ち着ける場所を探し歩き辿り着いただけでして」

鳥肌が立つ程に気持ち悪く、喉が潰れる痛みを錯覚するくらいに恐ろしい男だった。
数千数万数億の毒虫が集まった如き醜悪さ。
異様な長身も、奇抜な衣装も、端正な甘い顔立ちも。
全て人のソレから逸脱していない。
星狩りや上弦の壱、一度見た怪物達と違い異形の特徴はどこにも見当たらない。
なのにこの男を人の枠に当て嵌める事へ、尋常ならざる抵抗感を抱く。

「うぁ……ひっ……」

後退り、目を逸らそうと努めるも出来ない。
脳が、或いは本能が強く訴えている。
コレから目を離したら最後、捕食され骨の髄まで溶かされるだけ。
無慈悲に噛み砕くのではない、時間を掛けてゆっくりと腐り果てる。
死へ希望を見出す程に凄惨な未来が待ち受けていると、みかげ自身の声がそう叫んでいた。

「無礼だって自覚してるなら、さっさと回れ右するべきじゃないかしらね?」

みかげ単独であれば棒立ちで怯えるままだったろうが、生憎そうはならない。
男の存在で蝕まれる空気を断ち切り、冷たく睨み返すは覇瞳皇帝。
ランドソルでの決戦において、王手を掛ける手前まで行った魔人。
得体の知れない侵入者だろうと、たじろぐ軟弱者に非ず。

943呪胎戴天 ◆ytUSxp038U:2025/06/28(土) 23:09:15 ID:77dkwOig0
見えぬ火花が散り、フェントホープの一室は緊張感の高まりを見せる。
言葉一つ、仕草一つで怒りを煽ればその時は。
夜空色の聖剣が電光石火の速さで以て、首を刎ねるに違いないと確信を抱かせる。

「これは手厳しい。ええ、ええ、確かに確かに最もな御言葉」

なれど、相対する男が浮かべる貌に恐怖は存在せず。
瞳を細め、口の端が弧を描く。
まるで自身の命が危ぶまれるこの状況すら、楽しんでいるかのように。

「ここへは単に一休みで訪れただけのつもりでしたが――やめました」
「やめたのね」
「はい、あなた方を見て。単刀直入に伺いますが、ンン、拙僧を使ってみる気はありませぬか?」

ピクリと、肩眉が動いたのを男は見逃さない。
あえて指摘はせず、誌を詠むようにスラスラ続ける。

「佇まいを見れば、無能な猿でも分かりましょうや。使われるのでなく使う側、従うのでなく従える側、見上げるのでなく見下ろす側。
 であるならば対等な同盟などとんでもない!この身を王の駒として捧げるのは、至極当然のこと」
「…そう、流石にそれくらいは理解してるのね」

長ったらしく芝居がかった内容はさておき。
掻い摘んで言えば、部下として己を売り込んでいる。
対等な同盟を持ち掛けて来るだとか、こちらを隷属させようだとか。
そう言い出すのであれば、返答は剣か魔法だった。
だが自ら首を垂れ従うのなら、一旦は耳を傾けるのも吝かではない。
どうせ建前に過ぎないとは分かっている、それを踏まえて見極めるのだ。
利用、静観、排除。
三つの内どれを選ぶかを。

944呪胎戴天 ◆ytUSxp038U:2025/06/28(土) 23:10:37 ID:77dkwOig0
「ではまず簡単に、拙僧の仕事ぶりをお見せすると致しましょう」

笑みを崩さぬまま、視線は皇帝から傍らに転がる獣へ。
プリンセスナイトの力で召喚・使役した魔獣。
侵入者の男を見付けるや襲い掛かったのが数分前。
引き裂く爪は掠めさせてももらえず、指先一つで躾けられ今や置物同然。
魔獣の額へ指先が当てられ、すぐさま異変は起きた。
山の如く盛り上がる四肢、より鋭利で研ぎ澄まされる爪と牙。
倍にまで膨れた体躯は巌を思わせる、強靭なモノへ変貌を遂げる。

「とまあこのように、少しばかり栄養を与えてやりました。貧相な飢え細った駄犬に、番犬は務まりますまい」

簡単に言ってのけた男が何をやったかは、皇帝にも即座に分かった。
魔力を流し込んだ強化、文字にするならそれだけで済む。
魔法に覚えのある者であれば、誰でも可能。
などと今の光景を見て言葉に出す人間がいたら、皇帝は無能と断じるだろう。

籠められた魔力の何たる邪悪さ、何たるおぞましさ。
栄養だなんてどの口が言える、呪いを掛けたに等しい。
魔獣を蝕み、尚且つ消滅しないギリギリを一瞬で見極めた上での術の行使。
並のギルドの者十数人を、これ一匹で10秒も掛けず餌に変えられる。
複雑な術式も長ったらしい呪文も必要としない、男にとっては会話の片手間で行えるのだ。

「成程ねぇ……」

少なくとも術師として、男の実力は非常に高い。
感心と、それ以上の警戒を密かに宿す。

945呪胎戴天 ◆ytUSxp038U:2025/06/28(土) 23:11:27 ID:77dkwOig0
「ンンンン、我ながら良き仕事ぶり。如何ですかな?貴殿が望むのであれば、足元へ眠らせた檻の中の獣達にも同様の活力を与えられますが」
「あら、気付いてたのね。いつの間にコソコソ嗅ぎ回ったのかしら」
「少々鼻が利くものでして。どうかお気を悪くせず、拙僧の優れた面の一つと受け入れて頂ければ何より」

一体何を指しての提案か、聞き返す必要も無い。
地下で飼育された複数の異形、魔法少女の成れの果て。
魔女の存在をいつ知ったのかという疑問も、男が秘めた力を考えれば不思議じゃない。
文字通り、感じ取ったのだろう。
分厚い床を幾枚重ねたとて無意味、漏れだす魔力を意図も容易く察知した。

「…一つ聞いても良いかしら。あなた、このゲームで何を望んでるの?」

男が本心から自分に忠誠を誓う気が無いのは、最初から分かり切っている。
それは別に構わない、自分だって信頼だ絆だのという類は求めてない。
こちらを利用し尽くす算段なら、逆に利用し使い潰す。
とはいえ最低限、ゲームにおける基本的なスタンスは把握しておきたい。
生存優先か、自称神の持つ力が望みか、優勝を目指し最終的には自分も手に掛ける気か。

「悪意の行くまま気の向くまま、衝動に逆らわず欲望に身を委ね、この地で産声を上げる地獄を見届けたい。ただそれだけでございます」
「…………」

猫のように細めた瞳、その奥へ爛々と輝く愉びを秘め。
口遊んだ内容に、皇帝は言葉無く理解した。
この男にとって意味があるのはゲームの結果に非ず、過程だ。
生きて帰る、或いは願いを叶えるというゴールを男は見ていない。
結末へ向けて伸びた道、そこでどれだけ悪を為すか。
産み落とした地獄がどこまで広がるか、それこそが望み。
利害で繋がった星狩りとは別の意味で、警戒を抱かざるを得ない男を――

「……良いわ。使われたいなら望み通り、仕事を幾つかあげる。但し、あなたの『お遊び』で思い通りに動かせると考えてるんだったら――言わなくても理解できるでしょう?」
「肝に銘じておきましょう。なに、損はさせませぬ。どうぞ大船に乗ったつもりで、ご期待くだされ」

提示された選択肢の内、選んだのは手を組むこと。
最もハイリスクハイリターンであり、付き纏う危険性を考えなかった訳ではない。
己の腸に毒虫を飼う、いつ中から腐らせられてもおかしくない。

だがそれを踏まえても、得られる旨みは少なくないだろう。
自分を以てして一筋縄でいかないと言える、術師の腕前。
人手不足が否めない現状を鑑みれば、引き入れるのは全くの悪手とも言い切れまい。
使えるものは使う。
心砕かれた人形でも、『普通』になり切れなかった少女でも。
星を喰らう地球外の種族や、辺獄を名乗る悪しき陰陽師だろうと。

食らえると思い込んでいるならば、高を括っていればいい。
愉悦を満たす肴に過ぎないと見下すならば、必ずや後悔を抱く事となる。
懐へ入れた毒虫すらも使い潰し、望みを叶えるまでだ。

946呪胎戴天 ◆ytUSxp038U:2025/06/28(土) 23:12:07 ID:77dkwOig0



大丈夫なのだろうか。
リンボと名乗った男との協力を決定し、粗方の情報を開示し終えた後。
今は別室へいる異様な風体の術師を思い浮かべ、同じ言葉が幾度も頭を掠める。

陛下の判断が間違いだとは思わない。
自分よりもずっと強く、頭も良い。
それでいてこちらを気遣い、『普通』じゃない事情を知っても寄り添ってくれる。
殺し合いで最も信頼を向ける『彼女』が決めた事へ、反対する気は起きない。
下手に異を唱え、落胆や失望を向けられたくないとの思いもあるが。

だとしても、リンボと手を組んで本当に良かったのかとの不安は尽きない。
エボルトの時と同じだ。
我が身で人ならざる存在感を感じ取り、根本的な相容れなさを心の内に抱いた故。
薄っぺらな関係だろうと、繋がりを得てしまったのは。
果たして正しいと言えるのかどうか、みかげは素直に頷けなかった。

(それにあいつ……)

情報開示が済み、去り際に放った一言がいやにへばり付く。
細めた瞳で、墨汁が溜まったように真っ黒な目で射抜き言った。
若人への助言と嘯き、心底楽し気に。

――『何一つ得る事の無い生還を望むなら、それも良いでしょう。ですが取り戻した上で帰還したいのであれば、餓狼の如き飢えを抱きなされ。為さずに帰った先があなたの救いというなら別ですが』

澄んだ水へ毒が垂らされるみたいに。
気味が悪いと感じる程、リンボの言葉が体中へ染みこむ。

このまま陛下に協力して、殺し合いも全部終わり自分の家に帰る。
それから何事も無かったように学校へ行って、退屈な授業を受けて。
新しくアタックしてくる男子と、付き合ってみたりだとか。
悪趣味なゲームなんていずれは忘れるような、変わらない日々を過ごす。

947呪胎戴天 ◆ytUSxp038U:2025/06/28(土) 23:13:04 ID:77dkwOig0
出来る訳がない、何食わぬ顔で日常に戻れるなんて有り得ない。
自分だけが帰って来て、司はいないのを撫子にどう説明すればいい。
神様が始めた殺し合いに巻き込まれ、運悪く死にました。
そんな説明で納得するか否か、どう考えたって後者だろう。
二度と司が戻らないのを知りながら、彼女の弟が必死に探し回るのを後ろめたい気持ちで見続けるのか。
三人組が最悪の形で壊れ、仕方ないで済ますのか。

司の死を背負って生きていく?
まだ死んでいない人達や、元の世界の家族と友人の事も考えろ?
間違った方法で司が戻って来ても、悲しませるだけ?

「……っ」

若しかしたら、そういうありきたりな説得を受け入れる者もいるのかもしれない。
けどみかげには無理だ、分かりましたとあっさり頷けない。
誰かを殺したり自分が殺されそうにならないだけで、生きて帰った場所も結局は地獄だ。
腹立たしい正論を翳し、永遠に一人が欠けた世界へ帰れと促され。
言った奴は正しさを貫いた気になって満足だろうが、自分にとっては堪ったもんじゃない。

未だ覚悟は決まらない。
騎士の少女と同じ迷いのない言葉など、言えそうもないがしかし。

壊れる前の三人組がずっと続く光景が、先程以上に胸を焦がしていた。

「……」

顔を歪ませるみかげを、光の宿らない瞳でココアは見つめる。
心配する素振りはない、声を掛けようとも思わない。
砕かれた心へ暗示を受けた彼女は、人形も同然。
カイザーインサイトの意のままに動く、都合の良い道具に過ぎない。

しかしほんの僅かに、壊れた心へ異物が触れた。
先の放送で告げられた、二人の友の名前。
暗示の影響下にある以上、特別大きな反応も見せない筈のソレらに瞳が微かに揺れ動いた。
意識を再び取り戻す効果はない、破片となった心を組み立て直すなど以ての外。
なれど大切な友達が自分の知らぬ所で命を落とした事実は、確かにココアへ届けられた。

これが彼女にとって、再起の切っ掛けになるのか。
或いは、同じく耳に残った悪しき陰陽師の言葉が更に彼女を堕とすのか。
太陽の如き煌めきを失った少女自身に、知る術はない。

948呪胎戴天 ◆ytUSxp038U:2025/06/28(土) 23:13:59 ID:77dkwOig0



「ンンン、禍を転じて福と為すとは正にこのこと。いやはや、ここまで運んだミカン殿には感謝してもし切れませぬなあ」

感謝の二文字が微塵も宿らない声色で、くつくつと笑う。
ミカンの呪いが予想以上の効果を発揮し、先のエリアからは大きく離された。
Phoは勿論、最上達との合流もすぐには叶うまい。
とはいえ結果的には良かったと言えるだろう。
また一つ、殺戮遊戯での楽しみが増えたのだから。

カイザーインサイトと手を組んだのに、深い理由はない。
ただ言葉を交わし、立ち振る舞いをこの目で見て。
何よりも、自我らしい自我を奪われ従わされる傀儡へ確信を抱いた。
殺し合いには乗っておらずとも、善意で動く者とは程遠い。
欲する物を手中に収め、自身にとっての望む未来を実現する為の犠牲を厭わない。
通り過ぎた道に無数の屍を転がし、地獄を生み出す者なのだろうと。

それは紛れもない、リンボが求める光景に他ならない。
故に協力を申し出たのだ。
同時にあの手の輩は対等な同盟ではなく、傘下に下った方が話がスムーズにいくと身に染みて理解してある。
下総国や異聞帯で、表向き妖術師や王に仕えた経験が活きた。

尤もカイザーインサイトと繋がりを持ったからといって、最上との関係を白紙に戻すつもりもない。
あの男の『世直し』の行く末はもとより、まぞくの少女が如何なる形で孵化したか。
己が目で見届ける方針は変わらず、頃合いを見て合流に動く気でいる。

「ですが拙僧と言えども、即座の合流はちと難しい。ここは次に備え、身を休めるのが吉と見ました。貴殿もそう思うでしょう?」

にこやかに話しかけられ、相手は無言。
怪しく輝く瞳をぶつけるのみで、一言どころか一文字も口にしない。
仮に口を開いたとて、会話になろう筈もないが。
リンボと同室にいるのは、ココアが召喚した魔獣。
別室にリンボを一人きりにし、よからぬ真似をされるのを防ぐための監視役。
無論、たかが魔獣一匹ではリンボ相手に足止めにすらならない。
カイザーインサイトも承知の上でここに置いた。
異変が起きれば即、召喚者であるココアが魔獣とリンクしている為に気付けるのだから。

949呪胎戴天 ◆ytUSxp038U:2025/06/28(土) 23:15:50 ID:77dkwOig0
魔獣との一方的な会話は早々に打ち切り、床へ手早く陣を描き座り込む。
フェントホープを訪れたのは興味本位だけでなく、傷を癒すのに最適な場所も理由の一つ。
施設そのものが一つの巨大なウワサな特性上、ホテル内部へ漂う魔力は少なくない。
加えて地下に飼育された魔女の存在もまた、非常に都合が良い。
ケージ越しに垂れ流す嘗て魔法少女だった者達の怨嗟、苦痛、絶望。
負の感情を煮詰めた瘴気とも言う力は、健常な感性を持つ人間からすれば毒。
しかし外法を以て悪を為す、辺獄を名乗る陰陽師には実に相性が良い。
陣が起動し瘴気を吸収、自らの魔力に変え消費した分を回復。
更には治癒の術式を己へ施し、深く裂かれた箇所を塞ぐ。

傷と魔力、両方を纏めて回復出来るのだから一石二鳥だ。
魔女を始め内部の仕組みも中々どうして悪くない、先に見付けていれば恰好の拠点になった。

「……ま、流石に何もかもとんとん拍子とはいきませんか」

傷を癒しながら自身の異変に肩を竦める。
治ってはいるがやけに遅い、本来に比べ術の効きが微妙に悪い。
ついでに言うと、消費される魔力が普段より幾分多いのも気のせいではあるまい。
異星の神との接続が断たれたと言っても、リンボは三体の悪神を喰らったハイサーヴァント。
内へ秘めた魔力の総量は、並のサーヴァントと一線を画す程に膨大。
複数の術の行使に宝具解放加えたとて、十分余裕があったろうに。

難しく頭を捻るまでもない。
式神に大きく制限を施されたのと同じ、いらぬ枷を付けられたということか。
余計な真似をと思わないでもないが、長々と引き摺っても仕方ない。
今は次なる舞台が始まるまでの準備期間、待ちに入り回復に専念すべきだろう。

ゲームにおいて、リンボは上位に食い込む強者であるが唯一無二の最強に非ず。
例えば、傀儡と成り果てた日輪。
例えば、人の身ながらオーバーロードへ進化した強者。
例えば、可能性を引き寄せ盤面を大きく覆す決闘者。
例えば、創世の剣士の力を得た覇瞳皇帝。
例えば、新たな絆を得て、守りたい者を守らんとする少年。

リンボであっても相応に手を焼き、二度目の敗北を刻み付けられる者が複数存在する。

950呪胎戴天 ◆ytUSxp038U:2025/06/28(土) 23:16:35 ID:77dkwOig0
しかし、だ。
そういった者達ならリンボを容易く倒せると断言するのは、否と言わざるを得ない。
アルターエゴ・リンボ…蘆屋道満を甘く見過ぎた、無知蒙昧の戯言に他ならない。

誇りを穢し、
信念を砕き、
慈愛を嗤い、
絆を陵辱し、
魂を堕とす。

下総国に血の河を流し、剣鬼荒ぶる地獄へ変えたのは誰か。
創世と滅亡の担い手を唆し、インド異聞帯を正しさを突き詰めたディストピアに変えたのは誰か。

事、内より蝕み腐らせるのにかけてリンボは随一。
逸る衝動を抑え、静かにその時を待つ。
新たな地獄が顕現する、遠くない昏き未来を。


【C-1 ホテルフェントホープ/一日目/昼】

【カイザーインサイト@プリンセスコネクトRe:Dive!】
[状態]:健康
[装備]:聖剣ソードライバー&刃王剣十聖刃&ブレイブドラゴンワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー
[道具]:基本支給品一式×2、シュークリームケーキ(少量消費)@ななしのアステリズム、キノコカンセット(キノコカン、スーパー、ウルトラ)@スーパーペーパーマリオ、ランダム支給品×0〜3
[思考]
基本:あの神を名乗る男は気に入らない、出し抜く手段を考える
1:壊れたこの子(保登心愛)は使い物にならなくなるまで利用する。
2:みかげも駒として利用。どこまで使い物になるかしらね。
3:なるべく使える駒を集める。
4:あの子(キャル)も連れ戻すべきか。
5:この忌々しい首輪もなんとかしたい。エボルトの同行者には期待し過ぎず、こっちでも解除方法を調べる。
6:エボルトを利用。2回目の放送後に桜ノ館中学校で合流。
7:リンボを利用。害になると判断したら排除。
8:美遊・エーデルフェルトを知る参加者を探してみるか否か。
9:フェントホープの地下にあったモノの使い道も考えておく。
[備考]
※参戦時期は第一部第13章第三話以降
※覇瞳天星に関する制限は後続の書き手にお任せします

【保登心愛@きららファンタジア】
[状態]:操り人形、忠誠(カイザーインサイト)、プリンセスナイト(カイザーインサイト)
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1、ラーの翼神竜@遊戯王デュエルモンスターズ
[思考]
基本:陛下に従う
1:―――
[備考]
※参戦時期は第二部五章第20節から
※カイザーインサイトによりプリンセスナイトとなりました。魔物の操作能力も使用可能です。

【琴岡みかげ@ななしのアステリズム】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大・暗示の効果である程度緩和)、焦燥、暗示の効果継続中、ニノンの死へ動揺
[装備]:聖剣ソードライバー&雷鳴剣黄雷&ランブドアランジーナワンダーライドブック@仮面ライダーセイバー
[道具]:
[思考]
基本:早く帰りたかったけど、でも……
1:司を生き返らせる……?。
2:陛下を手伝う。陛下に付いて行けば大丈夫、だよね…?
3:ニノン、本当に死んじゃったんだ……
4:このまま生きて帰ったって……
[備考]
※参戦時期は第五巻、鷲尾と喧嘩別れした後

951呪胎戴天 ◆ytUSxp038U:2025/06/28(土) 23:17:32 ID:77dkwOig0
【キャスター・リンボ@Fate/Grand Order】
[状態]:ダメージ(大・回復中)、疲労(中)、魔力消費(大・回復中)、上機嫌
[装備]:
[道具]:基本支給品一式×1、ランダム支給品×0〜2(シャミ子の分含む)、光の護封剣(ゴールドシリーズ)@遊戯王OCG、空飛ぶじゅうたん@ドラえもん、小倉しおんの首輪、フグ田タラオの首輪
[思考]
基本:ただ、己の衝動と欲望の赴くままに
1:最上啓示、悪霊の集合体であろうかの御方の行く末、見届けて差し上げましょう。
2:吉田良子、どう利用してやりましょうか……ンンンンン。
3:里見灯花、まあそちらは式神の方に任せておきましょう。
  それはそれとしてでゅえるもんすたーずの情報はありがたや。
4:吉田優子、こちらで目覚めを促してやるのもまた一興。
5:覇瞳皇帝、はてさて如何程の地獄を生み出すか。
6:ええ、ええ。真に最高にて。
7:果報は寝て待てと言います故、暫し休息に入らせて頂きます。
[備考]
※参戦時期は地獄界曼荼羅、退場後。


◆◆◆


死体一つと散乱した鉄屑。
支給品も首輪も回収済、生きてる参加者は自分達以外に見当たらない。
逃げた連中が戻って来る気配もなく、騒ぎを聞き付けやって来る者も同様。
待っていればその内現れるかもしれないが、限られた時間を浪費してまでやる意味がどこにあるのか。
留まり続ける理由より、さっさと移動する理由の方が遥かに多い。

一度は言葉を交わし、情報交換を行った青年。
自らの手でスクラップへ変えた機械生命体。
そのどちらも、灯花の中では既に気に掛ける価値のない存在。
路傍の小石同然に、視界の端に映ったとて何の反応も見せない。
あってもなくてもどうでもいい、その程度のモノとしれ背を向ける。

「お待ち下され灯花殿。そちらへ向かうのは控えた方がよろしいかと」
「なーに急に?」

移動開始の寸前で出鼻を挫かれた。
小首を傾げ振り返ると、見上げる程の長躯を持つ怪人物が一人。
リンボの瞳は自身の腰よりも低い灯花ではない、遠く離れた何処かへ向けられたまま。
笑みは崩さず、しかし思案を重ねるように顎を擦っている。
いらぬ軽口や揶揄いの類であれば切って捨てるも、様子を見るに違うらしい。
耳を傾ける姿勢になったのを察し、移動を止めた理由を口にする。

952呪胎戴天 ◆ytUSxp038U:2025/06/28(土) 23:18:21 ID:77dkwOig0
「ここより北上した場所では現在、大災害もかくやの天候となっておりまする。迂闊に近付こうものなら、行き先不明の空の旅を味わう羽目になるでしょう」
「何でそんなことが……あーそっか、『あなた』が直接見たのかにゃー?」

一つ離れたエリアの状況を何故知っているのか。
抱いた疑問は即座に解消され、リンボからも肯定が返って来る。
今この場にいるリンボではない、式神を操る本体のリンボがその大災害とやらに巻き込まれたのだろう。
式神が見聞きした情報は本体に伝わり、その逆もまた然り。
こういった面で非常に便利だと改めて思いつつ、より詳しく事情を聞く。

「幸か不幸か、灯花殿の知己の者はおりませぬ。今現在あの場に留まっているのは、暴風雨を巻き起こした娘が一人。
 ンンンンン!何とも恐ろしい!只人の身には有り余る呪いを秘め、災厄を吐き散らす様の何たる痛ましいことか!このリンボをして、憐憫の念を抱く他ありませぬぞ!」
「どうせあなたが原因なんでしょ?」
「まあそれは、はい」

オーバーなリアクションを取ってはいるが、口元には明らかに弧を描いてあった。
聞いてみれば案の定、あっさりと頷いたではないか。
予想できた答えとはいえ呆れ顔を作り、件の娘にご愁傷様とだけ胸中で伝えておく。
灯花も灯花で、心の底から気の毒に思っている訳ではないが。

「で?そのかわいそーな人以外は、あなたの言ったようにお空の旅の真っ最中ってこと?」
「そうなります。生者も死者も関係無く、はてさてどこまで飛ばされたのやら。こればかりは拙僧にも予想が付きませぬので。
 ああ、因みに良子殿と最上殿は一時的に別行動中故、心配は不要かと」
「ふーん……」

素っ気ない態度を取るも、内心では良子の無事に安堵が浮かぶ。
流石にいろはやねむとは比べるまでもないが、出来れば死んで欲しくないと思ってるのも本当。
今頃どうなってるか分からないけど、姉との再会が叶っていれば良子にとっても何よりだろう。

肝心の姉との再会が如何なるものか。
既に役目を終えたと見なしている事を、馬鹿正直に術師は教えない。
吉田優子の開花を促す贄に選ばれたなどと、知る由もなく。
わざわざ台風の被害地へ突っ込む物好きでない以上、ここはリンボの警告を素直に受け取る。
式神がこうして存在するのだから、どうせ本体もどこかでピンピンしてるに違いない。

953呪胎戴天 ◆ytUSxp038U:2025/06/28(土) 23:19:26 ID:77dkwOig0
回れ右して南下、E-5内の住宅地へ移動。
先程は戦闘で気を回す余裕も無かったが、現在位置は放送で未回収の支給品があると伝えられたエリア。
時間を考えると持ち去られた可能性が高いとはいえ、念の為調べても損はない筈。

「まーそこまで都合良くはいかないよねー」

収穫があったかどうかで言えば、つまらなそうに言う灯花の反応が答え。
年季の入ったアパートの前に転がる、首と胴体が泣き別れした死体。
支給品も首輪も見当たらず、先を越されたのは明らか。
殺された青年がどこの誰かとか、そういった情報には一切興味がない。
得る物が何一つ無いなら、留まる理由も皆無。

尤も、もう一人には違うようだった。

「ふぅむ……無駄足と肩を落とすには些か早計やもしれませぬ。この者の亡骸は、我々で有効に使って差し上げましょうぞ」
「えー?もしかしてあなた、死体さんで遊ぶ趣味でもあるのー?」

眉を顰める灯花へ気を悪くした風もなく、何をする気かを説明。
訝し気な顔をされたが、反対は口にしない。
成功すれば自身の役に立つのが事実故、リンボの好きにさせる。

異を唱える者がいないのであれば、躊躇を抱く必要も無し。
指先で五芒星を描き、青年の死体に術式を施す。
更には自身の術のみならず、二つの呪物を使用。
三つを掛け合わせ、死体を泥の孔の如き暗黒へ沈み込ませた。

ややあって闇が晴れ、横たわった死体へ即座に変化が起きる。
とうに命が抜け落ち、抜け殻と果てた筈が何という事か。
掌を地に付け起き上がり、自らの両足で冷えたアスファルトを踏みしめた。

独りでに動いただけでなく、つい数秒前までとは外見も異なっている。
青白い死人の肌はくすんだ灰色へ。
生前に失った左腕が生えるも、人のソレとは到底言い難い。
肉の突起が幾重にも絡み合った、正しく異形の部位。
端正な顔立ちは変わらずとも、空洞の如き瞳に光は永遠に宿らない。

954呪胎戴天 ◆ytUSxp038U:2025/06/28(土) 23:20:15 ID:77dkwOig0
「ンンンン、もう少し手を加えたかったのですが…今の拙僧ではこれが限界ですか」
「でもわたくし達の言う通りに動くんでしょー?とりあえず、使い物になるなら良いんじゃないの?」

仕上がりへ不満を零すリンボへ言葉を交わし、物言わぬソレを見上げる。
嘗て櫻井戒と呼ばれた青年は、今や忠実な屍兵と化し沈黙を保っていた。

そも、蘆屋道満とは平安の世にて名を知らしめた陰陽師。
多岐に渡り呪術や妖術を使いこなし、その悪辣さでカルデアとも決して浅くない因縁を生み出した。
死者の使役程度朝飯前、欠伸交じりにやってのける。

とは言うものの、異界の殺戮遊戯においては勝手も異なる。
膨大な魔力総量及び、術の出力への制限。
本体でさえこれ程の枷を付けられたなら、式神は更に弱体化が著しい。
死体に術を掛けた所で無意味だったろうが、当然リンボも分からない筈がない。
自分一人の術で足りないのであれば、補強可能な呪物を使えば良いだけのこと。

一つはノロ。
荒魂の正体であり負の神聖を帯びた物質と、リンボの相性は言わずもがな。
もう一つは灯花から譲渡された支給品。
戒の右腕に握られた巨大な戦斧、名を暗黒斬という。
闇に堕ちた魔戒騎士がホラーを喰う際に用いられる得物へ、蓄積された陰我は並大抵の量に非ず。
人間にとっては致死相当の猛毒すら、むしろ好都合と術式へ組み込んだ。

結果生まれたのが目の前にいる屍人。
聖遺物に食われた、櫻井の血筋の成れ果て程の力はない。
まして自我なき骸故に、この地で日輪を相手取った戦闘技術も当然の如く劣化。
なれど不足した分はノロと暗黒斬、それぞれ異なる呪いを授け形となった。
デュエルモンスターズを使う灯花の前衛をこなすくらいなら、問題無いだろう。

手に入れ損ねた支給品と首輪の代わりに、役立つ駒を一つ調達。
得られた成果は悪くない。
名も知らぬ青年の死体を道具同然に扱うのへ、今更罪悪感があろう筈もなし。
戒と殺し合いで縁を結んだ者が見れば何を思うかなど、心底どうでも良かった。

955呪胎戴天 ◆ytUSxp038U:2025/06/28(土) 23:20:51 ID:77dkwOig0
「ああ所で、ついさっき手に入れたばかりの情報なのですが」

ポンと掌を打ち、わざとらしく思い出したと言わんばかりの態度で告げる。

「いろは殿がどこへ行ったのか分かりました」
「――――――」

世間話でもするかの気軽さで、灯花が絶対に無視できない名前を口に出した。
弾かれたように振り向き、自身を見つめる幼子の瞳。
苛烈と言っても過言じゃあない執着が宿ってるのを、果たして本人は気付いているのか。
成人男性でも怯み兼ねない眼力を、涼しげな表情で受け流す。
自身の態度が灯花を無駄に焦らすと自覚した上で、ゆっくりと口を開いた。

灯花に語った内容は別のエリアで、本体のリンボがカイザーインサイトから聞いた情報。
フェントホープでの争乱と、どうにか逃げ延びた者達。
内の一人の特徴は間違いなく、環いろはと合致する。
マギウスの翼の拠点が施設として再現されたのも驚きだが、それ以上にいろはの行方が灯花の思考を染め上げた。
時間を考えても、フェントホープ周辺のエリアから大きくは離れていない筈。
運が良ければ向かう道中で、ばったり会う可能性だって低くない。
遠のいた再会が再び近付く予感が生まれ、意識せずとも肌が熱を帯び、

「それともう一つ。いろは殿のお傍には六眼の御仁……黒死牟殿もおられたと、そう聞きました」

忌々しい内容へ、自分のどこかが軋む音が聞こえた。

「何でも灯花殿の言う『ふぇんとほおぷ』なる建造物。そこから脱出する際、いろは殿の手を引き去って行ったと。何とも甲斐甲斐しいではありませぬか。灯花殿がご不在の間、かの者がいろは殿を――」
「誰もそこまで聞いてないんだけど」
「これは失礼」

延々と垂れ流される戯言を、温度の失った声で黙らせる。
自分がどう反応するか、分かり切った上でほざいたのは疑う余地がない。
一々本気で捉えるのは無駄、適当に聞き流せばいい。
これまでだってリンボの軽口にはそうして来たし、対応はこの先も変わらない。

956呪胎戴天 ◆ytUSxp038U:2025/06/28(土) 23:21:58 ID:77dkwOig0
だけど、覆せないその事実は。
今尚いろはの隣に、あの異形の侍が我が物顔で居座るのには。
自分以外の、魔法少女ですらない化け物がそこへ存在するのは。
掻き出したくなる程の不快感が渦巻くのだ。

(早く離れてよ……お姉さまのお傍は――)

お前なんかがいていい場所じゃない。
声に出さずとも、何処かを見据える瞳が強く訴える。
表情の抜け落ちた顔の裏で、淀んだ妬みが炎となって勢いを増す。
ともすれば、灯花自身をも飲み込み兼ねない。
そう気付いているのは、傍らへ佇む術師一人。

嫉妬という名の火炎を鎮火させる気も無く、リンボはただ嗤う。
丹念に薪をくべ、油を注いだ影響は確実に表れている。
なればこのまま突き進ませ、火炎地獄を実現させるのみ。

遠くない内に現実となるだろう地獄絵図を、今か今かと待ち侘び。
辺獄を名乗る男はただ、笑みを浮かべていた。


【E-5/一日目/昼】

【里見灯花@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】
[状態]:疲労(中)、あり得ない思考に対する動揺(小)、リンボ(式神)による暗示の影響(中〜大)、嫉妬と不快感(中〜大)
[装備]:デュエルディスク+素良のデッキ@遊戯王ARC-V
[道具]:基本支給品一式×2、桜田ネネのランダム支給品×0〜2、首輪(ネネ、承太郎、或人)
[思考・状況]
基本方針:ハ・デスの力を奪い、魔法少女の救済を果たす。
1:使える人材は生かしておく。
2:首輪を外す。取り敢えずどこかで調べたい。並行してドッペルに関しても調べる。
3:出来ることならねむと合流。もしねむがわたくしより先にお姉さまと会っていたら……?
4:七海やちよは邪魔をしてくるなら容赦しない。
5:私は、いろはお姉さま、を――?
6:この陰陽師(リンボ)、信用はできないは実力はあるから今のところは保留。
7:六眼の侍(黒死牟)が気に入らない。なんであんな奴がお姉さまのお傍に……。
[備考]
※参戦時期は死亡後。
※首輪が爆発した時、ソウルジェムも同時に破壊されると考えています。
※リンボによる暗示の影響で、リンボに危害を加えることは不可能となっております。
※タイムテレビを使い黎明、朝の時間帯にD-6の病院前で起きた戦闘を見ました。

957呪胎戴天 ◆ytUSxp038U:2025/06/28(土) 23:23:05 ID:77dkwOig0
【キャスター・リンボ(式神)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康(本体より弱体化)、魔力消費(中)
[装備]:
[道具]:小倉しおんの支給品袋及び支給品一式、タイムテレビ(残り使用回数3回)@ドラえもん、ノロの入ったアンプル×5@刀使ノ巫女(漫画版)、ポルターガイスト(4時間使用不可)@遊戯王OCG、オーソライズバスター@仮面ライダーゼロワン、アナザーゼロワンライドウォッチ@仮面ライダージオウ×ゼロワン 令和・ザ・ファーストジェネレーション
[思考]
基本:ただ、己の衝動と欲望の赴くままに
1:里見灯花に付き従う。何時彼女が爆発するか楽しみですぞ、ンンンンン―――。
2:あの侍達(黒死牟、縁壱)は……ンン。
3:飛電或人は少々期待外れでしたな。まあいいでしょう。
[備考]
『式神について』
※最大召喚数は1名
※他参加者から5メートル以上離れた場合自動的に消滅。
※性能は本体より著しく弱体化。
※自動消滅または撃破された場合、式神再召喚まで6時間のインターバルが必要。
※本体が撃破された場合、式神も同じく消滅する。
※式神が得た情報は本体に共有される。

【櫻井戒@Dies irae Verfaulen segen】
[状態]:屍兵、ノロによる強化及び左腕修復
[装備]:暗黒斬@牙狼 -GARO-シリーズ
[道具]:
[思考・状況]基本方針:リンボに従う
1:……
[備考]
※キャスター・リンボ(式神)の術により屍兵として使役されています。
※生前より劣化した分の力を、ノロで補っています。

『支給品解説』

【暗黒斬@牙狼 -GARO-シリーズ】
桜田ネネに支給。
暗黒騎士呀が使う長得物の戦斧。
ホラーを喰う儀式に用いられる。

958 ◆ytUSxp038U:2025/06/29(日) 00:25:16 ID:C9qdr6r60
投下終了宣言を忘れていました、すみません

959 ◆QUsdteUiKY:2025/07/03(木) 00:55:13 ID:qSNPbaIQ0
皆さん投下乙です
どれも非常に面白い話で本当にありがたいです。
さて、以下は書き手の皆様にご連絡です

色々と悩んだ末にルールの変更を致します。
遊戯王のデッキですが、今後出せるデッキは初代〜ZEXALまでのOCG化してるデッキ限定とさせていただきます。
OCGのテーマは非常に幅広く、それらを全て把握出来るわけじゃないので参加者が参戦しているZEXALまでに絞らせていただきます
なお、OCGのカード単体支給は今後も支給可能と致します

960 ◆QUsdteUiKY:2025/07/29(火) 02:43:51 ID:xBes9EUY0
ゲリラ投下します

961橘ギャレンの困惑 ◆QUsdteUiKY:2025/07/29(火) 02:45:39 ID:xBes9EUY0
橘は結局、悩んだ末にチノを追い掛けることにした。
 明石に無事を知らせられないのは悪いと思うが、橘は自分が無事であることなら次の放送で名前を呼ばれなければ明石や海馬ならば察するだろうと考える。
 問題はもぐもを追い掛けた大我だ。仮面ライダークロノスに変身する代償は、彼の状態から理解している。ならばより安全に変身出来る仮面ライダースナイプとして戦うのが一番だろう。そしてそのアイテム――バンバンシューティングガシャットは橘が持っている。
 ゆえにこれを一刻でも早く渡すべきはずだ。
 それに自分も駆け付ければ、より確実にもぐもを取り戻せる。
 しかし――

 (すまない、大我、もぐも。だが俺はリゼに誓ったんだ――)

 橘朔也とは、良くも悪くも何かと感情に突き動かされやすい男だ。
 そんな橘だからこそ融合係数が跳ね上がり、強敵を打ち破ってきた。このバトルファイトでも心意を引き起こし最強にして始祖の鬼、鬼舞辻無惨を殺すことが出来た。

 そんな橘だからこそ、今はリゼに誓ったことを優先してしまう。
 リゼと過ごした時間こそ短いが、彼女が橘に齎したモノは大きい。それは見えるけど、見えないもの。――絆だ。
 今、この世にリゼは居ない。彼女は死んでしまったのだから。
 だが――その繋がりは、師弟関係は。――絆は、未だに健在。

 ならばこそ、そんなリゼに誓ったことは実行したいというのが人情だ。
 橘はリゼに守られた。
 師匠であるのに、守られた。
 ゆえに今の橘に出来ることは、弟子のリゼが果たせなかったことをすること。
 
 それにリゼの話を聞いた限り、彼女の友達はリゼ以上に戦えない、非力な一般人。
 イリヤから聞いた話では今は戦う力があるらしいが、それでも所詮は一般人だ。技術面やメンタルなど心配なことに変わりない。

 それに対して同じ一般人でも、もぐもは大我が追い掛けているし、海馬から訓練も受けている。……大我には負担を強いるかもしれないが、彼も仮面ライダーだ。ゆえに橘は信じている。

 移動場所を決めてからの行動は早かった。
 遊戯達に己が意志を告げ、チノを追い掛けると伝えた。
 当然、遊戯達もこれを拒否することなく橘を見送る。

 それから橘は走っていた。ギャレンと同等のスペックを誇る橘は当然、走力が高い。それでも元の世界でよく使っていた愛車――レッドランバスがないことは少々残念だが、だからといって文句を垂れる気はない。常にギャレンのスペックが宿っているだけでも十分だ。

 (チノが移動してなければいいが……)

 チノが移動して、場所を見失うことが橘には気掛かりだった。
 遊戯達に教えられた場所に留まっていることを橘は願い――必然的に焦りから走る速さが上がる。

 しかし一歩、また一歩と走る度に違和感を覚え、どうにも走りづらい。

「スカートは、こんなにも走りづらいのか……」

 当然だが橘はスカートを身に着けるが初めてだ。彼に女装趣味はない。
 そして初めてスカートを身に着けて感じる、走りづらさ。
 これは橘自身がスカートの感覚に慣れてないというのもあるが、元来スカートとはズボンと比較して走りづらいものだ。
 ただでさえ走りづらいスカートで、更に慣れてないともなれば必然的にズボン型のスーツであったギャレンよりも多少だが走る速さが落ちる。
 ちなみにスカートの長さがロングスカートなので、ミニスカのようなスースーした感覚がない分、まだマシである。

 それに加えて、走る度に胸が揺れる。
 リゼは胸が豊満な方なのだから、必然的に一歩、また一歩と走る度に揺れてしまう。
 そしてブラジャーを着けていることに対する違和感。ブラジャーとは胸にフィットするように身体を締め付けるものであり、否が応でも意識してしまう。これが貧乳で、ブラジャーもスポブラなら話は違ったかもしれないが……。
 本当はブラジャーなど外したい気分だが、そんなことをしたら胸の揺れが大きくなることは必然。
 それに男としても、師匠としても弟子であり、女の子であるリゼの生乳を見ることには抵抗がある。しかしブラジャーを外せば、生乳が見えてしまうだろう。だから余計に外せない。
 その一線だけは、越えてはならない気がした。

962橘ギャレンの困惑 ◆QUsdteUiKY:2025/07/29(火) 02:46:08 ID:xBes9EUY0

「それにしても喉が渇いたな……」

 橘はこの殺し合いに巻き込まれてから数時間、まともに水分補給していない。
 それに加えてここ数時間は連戦続きだ。喉が渇くのも当然である。
 ゆえに橘は一度立ち止まって、デイパックから水を取り出した。

「これ飲んでいいかな?」

 当然だがその問いに答えるものはいない。
 だがそもそも、殺し合いの主催者がわざわざ水に毒を盛るはずもない。
 ゆえにその水を飲むと、数時間ぶりに喉が潤い、蘇った気分だ。

「よし。待ってろよ、チノ」

 橘は水を再びデイパックに仕舞い、走り始める。
 そうやって走り続けているうちに――

 (これは……まずいッ!)

 ――橘に悲劇が訪れる。
 それは、尿意。
 水を飲めば当然、小便が近くなる。ゆえに橘を尿意が襲ったのだ。

 とはいえ、普段の身体ならそんなに慌てる必要はない。
 適当な民家や公衆トイレを探して放尿したら良いだけだ。
 だが今は――生憎と弟子である少女、リゼと同じ身体。
 もちろん橘に生えていたものは綺麗さっぱり無くなっているし、股間を覆うのはトランクスではない布切れ1枚。

 (ギャレンと同スペックになってるから少し特殊な身体だと思っていたが、尿意は催すのか!)

 橘は元BORDの研究員で頭が良いはずなのだが、たまに天然なところがある。
 喉が渇くのだから尿意だって催す。そもそも喉が渇く時点でこの肉体はギャレンのスペックを秘めていること以外は普通の人間と同等だと考えても良いのに、見落としていた。
 もっともチノを探すために急いでいたので冷静な判断力を失っていたのもあるが……。

 それから橘は小便を我慢しながら走るが、先程以上に上手く走れない。
 当然だ。小便を我慢しながら走っているのだから。
 小便を我慢しているゆえに走る脚も少し内股気味になり、なんとも不格好。

 (くっ……!ダメだ、このままでは尿意が……!)

 必死に尿意と闘いながら、橘は歩き続ける。
 まさか弟子の少女の身体で小便するわけにはいかない。パンツを脱ぐわけにはいかない。
 そうやって必死に我慢している時――偶然にも民家を発見した。

「アレは……民家か!?」

 民家を発見した橘が目を見開く。
 当たり前だが、民家にはトイレが設置されているだろう。そもそも殺し合いの最中とはいえ、誰だって尿意や便意は催すものだ。ゆえにトイレがあるのは自然なこと。主催者が悪趣味なスカトロ趣味とかでない限り、トイレは存在するだろう。

 しかし橘はリゼの身体で小便をすることに抵抗がある。
 弟子の少女のパンツを脱がせて、女体で少女するなんて――師匠として。男としてそれでいいのか?

 しかし――

 (まずい……ッ!これ以上は我慢が……ッ!)

 女性は男性よりも小便を我慢出来ない。
 それは当然、リゼと同じ身体になった橘にも適用される。

「すまない、リゼ。だが、漏らすよりは……キミのためだ!」

 リゼの身体で漏らすなど、言語道断。
 それこそリゼに対する侮辱に他ならないだろう。
 ゆえに橘は民家にダッシュで駆け込み、トイレを探す。

「あったぞ!トイレだ!」

 トイレの扉を見つけた途端、橘は急いでトイレの部屋に駆け込んだ。そこにあるのは、洋式トイレ。

「……」

 パンツが見えないようにロングスカートをたくし上げる――が、長過ぎてトイレがしづらい。
 仕方なくスカートの一部をずり下げる。……股間を見るとそこには布切れ1枚――ショーツがあった。

963橘ギャレンの困惑 ◆QUsdteUiKY:2025/07/29(火) 02:48:29 ID:xBes9EUY0

「……すまない、リゼ」

 謝罪の言葉と共に、意を決してショーツを下げる。
 リゼの女体を見ないように、目を瞑り――ゆっくりと。
 しかしショーツが下がる感触が脚を伝い、恥ずかしくて頬を染めてしまう。顔が熱くなり、橘はそんな自分を不甲斐なく思った。

 そして――

 ちょろ、ちょろろ――

 橘の割れ目から。
 ――否。
 リゼの身体の割れ目からちょろちょろと聖水が流れる。
 今までに味わったことのない感触に羞恥心を更に煽られ、顔が真っ赤になる。リゼに対して申し訳なく思いながらも、やはり男として少女のこういう場面に何も思わないわけでもないし、女体で初めてするおしっこというだけに恥ずかしさも倍増だ。

橘にとってあまりにも長く感じられた、ほんの僅かな時間が過ぎ――おしっこの音が聞こえなくなった。

「……終わったのか?」

 これ以上、小便が出る気配がないことを悟った橘は目を瞑ったままパンツを上げようとする――が、途中でピタリと手を止めた。

「俺も詳しくは知らないが……女が小便をしたら、拭く必要があるんだったな……」

 おそるおそる、目を開く。
 そこには自分で下げたリゼのショーツと股間が映っていて、思わず目を丸くした。

 だが、小便を吹かずリゼの身体をはしたないものにしてはならない。
 橘はトイレットペーパーを千切ると、意を決して股間に手を当て――すり、すりと拭き始めた。
 どうやって拭けば良いのかもわからず、何回かトイレットペーパーを千切り、股間や割れ目を拭く。

「ん……っ!変な、感触だな」

 ――こうして橘がリゼの身体になってからの初めてのおしっこは終わった。

「リゼ……本当にすまない……」

 そんな言葉を口にしながら、橘が向かったのはリビング。
 いざという時のために水道水をペットボトルに補充して確保。

 (チノ達も喉が渇いてるかもしれないからな……)

 冷蔵庫を覗くと、幸いにも何本か水のペットボトルがあった。
 橘はそれらを雑にデイパックに詰め込み、民家を出発。
 橘も元BORDの研究員というだけあり、無惨の首輪で色々と試そうと軽く工具を探したが、残念ながら見つらなかった。もっともよく探せばある可能性も存在するが、今はチノが優先だ

 今度こそ尿意に惑わされることなく、先程までよりも軽やかな足取りでエーデルフェルト邸に向かう

【D-2/一日目/午前】
【橘朔也@仮面ライダー剣】
[状態]:ダメージ(大、包帯やガーゼにより止血済み)、疲労(中)、心意によりリゼの姿・声に変化
[装備]:ギャレンラウザー&ラウズカード@仮面ライダー剣、リゼ専用スピアー@きららファンタジア
[道具]:基本支給品×2、バンバンシューティングガシャット@仮面ライダーエグゼイド、ハイパームテキガシャット@仮面ライダーエグゼイド、ランダム支給品×1、無惨の首輪、包帯やガーゼなどの治療道具@現地調達、水が入ったペットボトル複数@現地調達
[思考・状況]基本方針:剣崎とリゼの分まで人々やリゼの友達を助ける。ゲームマスターも倒す
0:チノを追い掛ける
1:ありがとう、リゼ。君は睦月と並んで最高の弟子だ
2:まさか俺自身がリゼになるとはな……
3:リゼの友達を探す。リゼの分まで俺が守る
4:首輪を解除するための道具を探し、化け物(鬼舞辻無惨)の首輪を使って試行錯誤したい
[備考]
※参戦時期は最終回後。
※遊戯王OCGのルールを多少把握しました
※脚の負傷具合については少なくとも完治してます
※心意により見た目と声がリゼと同じになりました。生身でギャレンのスペックで、融合係数の変動で強さが変わるシステムを常に発揮しています。ギャレンラウザーを用いることでラウズカードやコンボ技も使えます
※リゼの姿になったことでリゼ専用スピアーで変身可能になりました

964 ◆QUsdteUiKY:2025/07/29(火) 02:48:58 ID:xBes9EUY0
投下終了です

965 ◆QUsdteUiKY:2025/07/29(火) 02:59:17 ID:xBes9EUY0
直見真嗣、クウカ、奈津恵、コッコロを予約します
念のために延長もしておきます

966 ◆QUsdteUiKY:2025/08/11(月) 23:56:21 ID:kugHiN/E0
予約を破棄します


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