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決闘バトルロイヤル part4

302刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:10:25 ID:LPbpj4TY0
「見とけよ見とけよ〜」

大先輩のイチモツを押し当てられるクッソ哀れな後輩を煽るように、クッソ腹立たしい口調で道具を取り出す。
デイパックには到底入り切らないだろうサイズの、ピンク色のドア。
この奇妙な物体の名はどこでもドア、複数人の参加者にも支給された22世紀のひみつ道具の一つ。
行きたい場所を告げて開けると、ドアの先が目的地へ繋がるという破格の移動手段だ。
殺し合いでは幾つかの制限こそ設けられているも、移動時間の大幅な短縮には持って来いである。

ドアを開けると予め指定した場所へ通じ、文字通り一瞬で到着。
見慣れぬ街並みが広がっており、異物とも取れるモノが転がっている。
既に乾いた血だまりに伏し、ピクリとも動ない青年。
命を賭し仲間達を逃がした櫻井戒の骸と、傍らへ落ちた幾つかの道具。
放送であった放置されたままの支給品を回収すべく、E-5へやって来た。

流石に放送から間もないだけあって、他の参加者は見当たらない。
自分達が一番に着き、支給品は全て頂く。
上機嫌で手を伸ばすと、横からヌッと赤い腕が現れ掻っ攫った。

「ホウ……猿に持たセルニは勿体ナい剣だナ」
「クゥーン…(子犬)」

勝手に取られ子犬みたいに嘆く小汚いホモを無視し、デェムシュは感心したように手元の剣を見やる。
戒の支給品であったザンバットソードは、ファンガイアの王の為に生み出された魔剣。
デェムシュからしても見事と言わざるを得ない力が宿っており、自分が振るうもう一つの得物として申し分ない。
現代のキングや戒が決して望まない使い方をする気だが、死人から文句は飛ばない。
仮にあっても聞く耳持たずだったろうが。

ついでにデイパックを開け中身を確認、今正に必要とする道具を見付けた。
説明書を読み終えるやカエルのイラストが描かれたシールを、迷わず自分に貼り付ける。
するとあれだけ圧し掛かっていた疲労が、あっという間に消えたではないか。
見た目はただの玩具に見えるも、これもまた22世紀のひみつ道具。
ケロンパスと言い、貼った者の疲れをシールに移し替える効果を持つ。

303刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:11:00 ID:LPbpj4TY0
上等な剣の入手と、疲労回復。
両方が叶い幾分機嫌も良くなり、ザンバットソードで戒の首を斬り落とす。
胴体から離れた顔に見上げられるも、感じるものは皆無。
同じように転がった金属製の首輪へ切っ先を向け、同行者の人間の屑に言う。

「猿、貴様にハこれデ十分ダロう」
「……しょうがねぇなぁ(GKU)」

武器も道具も総取りしておきながら、上から目線極まる態度。
さしもの野獣先輩もカチンと来たが、怒り散らして折角の協力関係が台無しになるのも勿体ない。
特殊個体のNPCに渡せば道具と交換出来るらしいし、首輪の手に入れるのは不満でもない。
よって寛大な心で妥協してやった。これはどう見ても人間の鑑じゃないか、たまげたなぁ。

必要な物は全て手に入れ、もうこのエリアは用済み。
では次は何処へ向かうかだが、既にデェムシュが決めてある。
放送前は中へ入らず終いだった、白く巨大な建造物。
少なくともあの施設の前で一戦交えた二人組は、高確率で立ち寄った筈。
まだいる可能性も低くなく、ならば行かない選択肢はない。
六眼の剣士と桜色の小娘、二人揃って今度こそ仕留める時だ。

「付いテ来イ猿!奴ラに地獄を見せル時ダ!」
「ウン、おかのした。ほら行くどー」

事情は知らないが参加者を殺せる場に赴くなら、野獣先輩も異論はない。
片や隠さぬ憤怒を撒き散らし、片やクッソ気の抜ける語録を発し足早に次なる目的地を目指す。

その姿を、見られているとは気付かずに。

304刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:11:40 ID:LPbpj4TY0
◆◆◆


怒りがあった。
聞かざるを得ない情報と、聞きたくもない挑発染みた神の言葉。
それら全てを映像越しに耳に入れ、病室へ静寂が戻った後。
キャルの中にはどうしようもない程の、怒りが生まれた。

ふざけているとしか思えない殺し合いに巻き込み、とことん参加者を舐め腐った檀黎斗への。
ユウキと絆を結んだヴァイスフリューゲルの少女を殺した、顔も知らないどこぞの悪党への。

何より、すぐ隣で仲間の死を知らされた少女がいるにも関わらず、コッコロ達の名が呼ばれず安堵してしまった自分自身への。

簡単に死ぬような奴でないとは分かっている。
美食殿のメンバーでは最年少なれど、あの年頃らしからぬ落ち着きがコッコロにはある。
幾つもの依頼や、ランドソルを襲った大事件をも生き延びたのだ。
だから大丈夫だとは思っていたが、それでも生存を確認出来れば感じ入るものが無いとは到底言えまい。
良かったと、ホッと胸を撫で下ろした。

同時にもう一人、陛下と呼ぶあの人もだ。
殺し合いに抗う者達の事を考えれば、カイザーインサイトが生存中なのは悪い話だろう。
高確率で殺し合いに乗っているか、仮に乗っていなくとも何らかの被害が出た可能性は低くない。
けど、自分とあの人の関係は昔の主人だとかそんな言葉で片付けられない。
向こうにとっては道具に過ぎなくとも、既に敵対してるのであっても。
カイザーインサイトは、嘗て間違いなく己の救いとなった人なのだから。

(最悪……)

別に悪い事ではない。
死んで欲しくない者の無事を知り、喜ぶのは罪にならない。
分かっていても、そう簡単に受け入れられるかは別。
脱落者の名前が発表された時、隣で凍り付く気配は確かに感じた。
明らかに動揺してると、ハッキリ分かったのに自分が第一に思ったのは「コロ助達が生きてて良かった」だ。
自分自身への嫌悪が苦みとなって口いっぱいに広がり、

305刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:12:33 ID:LPbpj4TY0
「キャルちゃん?大丈夫…?」

掛けられた声に思わず隣を見やる。
眉を八の字に下げ、心配気に自分を覗き込む顔。
表情を歪めた自分が気になり、放っては置けなかったのだろう。
いろはと視線が合い、黎斗達への怒りとは異なる苛立ちが湧く。

(何であんたの方が気を遣うのよ)

お人好しな少女だとは放送前の様子から察しは付く。
でなければ、常時抜き身の刃染みた空気を纏う男を何かと気に掛けようとはしない。
そういった性格を悪いと言う気はないし、嫌いだとも思わない。

でも、今やってるソレは違うだろう。
顔色を悪くし、僅かに手が震えているのを見れば分からない馬鹿はいない。
告げられた脱落者の名へ、浅くない傷を負っている。
なのにいろはは喪失に打ちのめされるよりも、キャルへの心配を優先した。

「そうじゃないでしょうが馬鹿」
「痛いっ!?キャルちゃん!痛いよ!」
「うっさいバーカ」

それがどうにもムカつたので、いろはの頬を抓ってやる。
痛みに悲鳴が飛ぶもお構いなしだ。
暫くは餅のように柔らかい頬を引っ張り、頃合いを見て解放。
ヒリヒリ痛む箇所を擦るいろはに顔を近付け、無愛想に言う。

306刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:13:31 ID:LPbpj4TY0
「あんたが超が付く程のお人好しなのは、別に良いわよ。けど、こんな時でも他人を優先しなきゃならない程なの?」
「え…?」
「仲間が、呼ばれたんでしょ。あんな自分を神様だとか言ってるキモい奴の言う事なんて、信じたくないけど」

嘘だったら良かったと、大半の参加者は言うだろう。
同時にただの現実逃避に過ぎない、神が告げた者達は本当に死んでしまったと、誰もが理解している。

「なのに我慢なんかしてんじゃないっての。溜め込んだって自分がぶっ壊れるだけよ、そんなの」
「……っ」

痛い所を突かれた自覚はあったのか、唇を噛み俯く。
正面からいろはを見続けるキャルはため息を一つ零し、そっと手を伸ばす。
自分の方が年下だというのに、全く世話が焼ける。
案外自分もお人好しな友人達に影響を受けたのかもしれない。
なんて小さく呆れ笑いを浮かべ、いろはの顔を自分の胸に押し当てた。

「わっ…」
「こうしてれば、あんたがどんな顔してるかも見えないわよ。それに、空気読まず部屋に入って来る奴がいたら蹴っ飛ばしてやるわ」

天井を見上げながら言うと、ビクリと震えるのが分かった。
自分自身の為に感情を吐き出すのが下手くそなのを見かねて、キャルなりに何とかしようとしてくれる。
どこか不器用だけど、決して冷たくない優しさを感じポツポツと言葉を紡ぐ。

「……まどかちゃんは一緒にいた時間は長くないけど、でも強い女の子なの。大事な先輩を助ける為に戦って、それでちゃんと助けられて…」
「うん」

キレーションランドでの戦いの後は別れたけど、もしかしたらまたいつか会えるかもしれなかった。
今度はお互いの事をもっと知って、友達になれるかもしれなかった。
そんな機会はもう二度とない。

307刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:14:07 ID:LPbpj4TY0
「みふゆさんはやちよさんの親友で、わたしの知らないやちよさんの事を沢山知ってて……会えたらきっと、やちよさんも喜ぶ筈で……」
「…うん」

やちよがみふゆをずっと、マギウスから取り戻したかったのを知っている。
ドッペルの暴走を止める為に力尽きたけど、でももう一度やちよに会えるかもしれなかった。
元の世界に帰れれば、鶴乃や天羽姉妹だって喜んだろう。
そんな未来は実現しない。

「フェリシアちゃんは……みかづき荘の大事な仲間で、わたしの作るご飯をよく薄いって言うけど、でも美味しそうに食べてくれて……」
「うん」
「鶴乃ちゃんとも仲が良くて、それで、それ、で……っ」

思い出すのは、フェリシアと会ってからの数々の記憶。
魔女への復讐心を抑えられなかった頃や、みかづき荘で共に過ごした日々。
助けられなかった絶望へ沈んだ自分を、やちよ達と共に引き上げてくれた瞬間。
けれど記憶にない新しい彼女の姿はもう二度と見れない。
無事に神浜へ帰れたとしても、そこにフェリシアはいない。

妹達を喪った時と同じ、引き裂かれるような痛みに涙が零れる。
押し当てたキャルの服が濡れてしまうと分かっても、止められなかった。
何度味わっても、喪失の苦痛だけは慣れない。
殺し合いを止める決意は揺るがないけど、今は少しだけ悲しみに身を委ねたかった。

308刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:15:28 ID:LPbpj4TY0
◆◆◆


大体が予想通りの内容だった。
脱落者の中に一海の名があったのは、直接自分達の目で死を見た故驚くに値しない。
飛電或人や滅が生存中なのも、DIOが未だ死んでいないのも。
信頼と敵対という異なる関係であれど、実力の高さを知っていれば何ら不思議ではなく。
最初の放送前の脱落者も含め、計40名が死んだ事実に多少の驚きこそあれど、出会った敵対者の強さを思えば有り得ない話でもない。
悪趣味極まる内容への怒りが無いとは言わないが、承太郎も天津も分かり易く感情を面には出さない。
あくまで内に留め、表面上は冷静さを保つ。

何より、『彼女』の様子を見れば自分達の怒りを優先したいとは思えなかった。

『嘘だよ……こんなの……エム……!なんで……!』

画面越しからでも伝わる悲痛な叫び。
喪失に流す涙は彼女が人ならざる存在であっても、人間と同じ感情の持ち主なのを伝えて来る。

定時放送が近いのを時計で確認し、一旦地上へ戻った時だ。
タイミングを合わせるように浮かび上がった巨大モニターを、病院内の窓越しに見たのは。
聞き終えた天津達は再び地下のCRへ戻り、筐体の中で待つ彼女へ伝えた。
宝生永夢もこの6時間で死亡したことを。

「……」

泣き腫らした顔で永夢の名を呼ぶポッピーを、天津は決して不快には思わない。
以前までの、ヒューマギアへ強い敵愾心を向けていた頃なら。
きっとバグスターであるポッピーにも、悪感情を抱いただろう。
今はもう違う、出会って数時間の関係だとて彼女も殺し合いに抗う仲間だ。
永夢の死を知った時の表情が強く頭に焼き付いている。
『嘘だよね…?』と震える声で聞き返す姿へ、真実を伝えるのが楽な役目だとは口が裂けても言えなかった。

309刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:16:30 ID:LPbpj4TY0
『エム……』

何度名前を呼んでも、自分の知る彼は現れてくれない。
小児科医になってからも昔と同じ、人懐っこい笑みを見せてはくれない。
ポッピーだってCRの一員として、医療に携わる者だ。
患者の死に立ち会う機会はゼロでなく、時には手の施しようの無い時があるとも理解してる。
でもこんな、大切な仲間が自分の見ていない場所で殺されたなんて到底受け入れられない。
全部黎斗のデタラメだと言い切れたら、どれ程良かったか。
檀黎斗を知るからこそ分かる、分かってしまう。
あの男は自分の作るゲームには妥協せず、本気で向き合っている。
だから放送に偽りは混ぜていない点だけは、黎斗を信じられるのだ。

永夢はもういない。
他の仲間に向けるのとは違う感情の意味を知る前に、彼は死んでしまった。
会場のどこかで放送を聞いた大我はどう思うだろうか、元の世界で帰りを待つ飛彩達に何て言えば良いのか。
分からないし、今は何も考えたくない。
耳を塞ぎ続けてれば傷は癒えずとも、それ以上痛みを味わいもしない。

(でも、それじゃあダメなんだよね…エム……)

悲しみを逃げ道に使うのは、ポッピー自身も望まない。
バグスターであれどCRの一因であり、看護師という顔を持つからこそ命の重さは理解している。
全てが手遅れだと言い切るには早過ぎる、助けられる命はゼロじゃあない。
だったら、戦うしかないのだ。
時に己の無力さを痛感して尚、患者と向き合い救いの手を差し伸べ続けるドクター達のように。

『二人共ごめんね。大丈夫…って簡単には言えないけど、でもずっと落ち込んでもいられないよね』
「もし時間が必要なら……」
『エムはきっと、誰かを助ける為に最後まで戦った筈だよ。だから私も、自分に出来ることをやりたいの」

気遣いは有難いが、強がりじゃなく本心からの言葉を返す。
永夢がどんな最期だったにしろ、命を守る為に戦ったのだと確信を持って言える。
それなら自分も仲間が守ろうとした者を守り、意志と命を繋いでいく。
きっともういない彼も、それを望んでるだろうから。

310刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:17:20 ID:LPbpj4TY0
『う〜…でもここから出られないのはやっぱり困るよ〜…ガシャットも取られちゃってるし……』
「ガシャット……というのはひょっとしてこれのことか?」
『へっ?あー!それ!』

悩む様子のポッピーへ、何かを思い出したように天津が支給品を見せる。
サウザーのドライバーやプログライズキーとは別に、見慣れぬ変身ツールらしき物がデイパックにあった。
使い慣れたライダーの力がある以上、特に取り出す場面もなかったが。
指を差しオーバーなリアクションを取るポッピーの様子から、彼女にとっては馴染み深い物らしい。

『それだよそれ!私のガシャット!』

天津が見せたのは、他でもないポッピーが元々所持していたアイテム。
バグルドライバーⅡと、ときめきクライシスガシャット。
仮面ライダーへの変身に必要な二つが揃っている。
まさか参加者、しかも天津の元に渡っていたのは予想外。
だがこうして再び自分の所へ戻って来たのは喜ばしい、となるにはいかない事情がある。

「ソイツが元々お前の物なのは分かるが、出て来れないならどうしようもないんじゃねぇのか?」
『うぐっ、そうなんだよねぇ……』

冷静に現実を突き付ける承太郎へ、ガックリと肩を落とす。
自分もライダーになって天津達と共に戦う。
といった光景が実現するにはまず、筐体から外に出なくては始まらない。
正式な参加者でない自分が自由に動き回るのを、黎斗は認めていない。
ドレミファビートの筐体という狭い空間が、唯一許された場所。
大きく制限された現状を嘆くも、打開策は見当たらず――

311刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:18:46 ID:LPbpj4TY0
『あ、もしかして……』

ふと、頭の中で閃きが生まれた。
外を好き放題歩き回れる、とはならないだろうけど。
しかし筐体から出て行くだけなら、どうにかなるかもしれない。

『ねえガイ、ちょっと試して欲しいことがあるの』

いきなりの頼みへ首を傾げつつ、断る理由は見当たらない。
ポッピーに言われるがまま、バグルドライバーⅡを向け操作。
何が起こるのか疑問に感じるのも束の間、すぐに変化は起きた。

『よっと!やった!成功!』
「これは…ポッピー?まさか君がこの中に?」
『そ!前にクロトにやったのと同じのが、できないかなーって思って!』
「檀黎斗も昔はこうやって閉じ込められてた、ってことか?」

男二人が見つめるのは、バグルドライバーⅡ中央のモニター部分。
装備中のガシャットに応じたグラフィック等を表示する画面に映るのは、今の今まで筐体に囚われていたポッピーの姿。
以前バグスターとなり復活した黎斗が目に余る行動に出た時、度々こうやって閉じ込めた。
ポッピー自身もバグスターであるのを利用し、今回は一つの脱出方法に使ったが無事成功。
後は天津の方で操作してもらえれば良いだけだが。

「フム…何度押しても反応は無い。やはりポッピーが自分で動くのは禁止されているか」
「まあ、病院の外に連れ出せるってだけでも収穫だろ」
『うん!これならガイ達と一緒に動けられるよ!……あれ?なんだろこれ、何か細工されてる?』

バグルドライバーⅡの中に入って違和感を覚えたのか、画面上であっちこっち動き回る。
外から見ていても何の事か分からないがともかく。
ポッピーの件は一先ず良しとして、今後の方針を改めて確認する必要がある。
行き先を決めているキャルや、仲間と合流するつもりの遊星も含め出発前に話しておきたい。

特に放送で黎斗が言った、『本来使えない力やアイテムを手に入れた者』に若き決闘者は恐らく該当。
もう一度詳しく話を聞いて損はない。
「殺し合いに抗う者だけが使える」と自称神の言葉にないのから察するに、優勝を狙う者もそういった強化の恩恵は受けられるのだろう。
出来れば発生条件などを正確に知り、対策なりを立てたい。

とにかく全員また集まってからだ。
地上へ向かうエレベーターに乗り込み、CRには人っ子一人いなくなった。

312刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:19:36 ID:LPbpj4TY0
◆◆◆


破壊の傷痕が深く刻まれた一階ロビー。
待合室も兼ねた拾い空間を見て、ここが病院だとすぐに受け入れられる者が果たして何人いるのやら。
腰を下ろす為の長椅子や、退屈を凌ぐテレビは破片となってそこかしこに散乱。
治療を訴える人間も、適切な診療科へ案内するスタッフも、清潔感を保つべく業務に勤しむ清掃員ですら不在。
変わりに佇むのは命を繋ぎ元の暮らしへ送り出す、ドクター達の戦場には到底相応しくない存在。
爆撃でも受けたような空間を無感動に見つめる顔には、人では有り得ない六つの眼。
大正時代にて朽ち果てた鬼からすれば、現代の技術が用いられた空間は神の国と言われても不思議は無いだろう。
なれど黒死牟は一切の関心を抱かず、冥府より迷い出た幽鬼の如き様でじっと立ち尽くす。

「……」

放送の内容は把握した。
天空へ己が身を出現させる奇怪な術への疑問も無く、ただ喧しく齎された情報を自身の内へ溶け込ませる。
生存の叶わなかった40人へ、感じ入るものは一つもなし。
病院内にいる者達の仲間が呼ばれたとて、特にどうとも思わない。
慰めるだとかそういった類は、傍らに付く連中がやる事であり己には無関係。

更に付け加えるなら、呼ばれなかった者達にも然して驚きは抱かない。
主も弟も、持ち得る力は自分以上。
生存への執着がこの世のどの生物よりも強い無惨ならば、四半日程度やり過ごすくらいやってのけるだろう。
縁壱に至っては、死ぬのを予想しろと言う方が難しい。
全盛期の体を取り戻した弟が、有象無象の者達に後れを取るか否か。
何とも下らない問いだ、どうやったら後者以外の答えを出せる。
軍服の男や真紅の騎士といった、先の数時間の間に戦った男達。
強いとは分かる、上弦の鬼にも匹敵する実力の怪物だと認めざるを得ない。
しかしあの者達でさえ、縁壱には及ばないのだ。
人でありながら化け物を超える力を持つ、神々の寵愛としか形容できぬ天賦の才を与えられた弟には。

そんな弟が、よりにもよって無辜の民相手に剣を振るっている。
鬼から人を守る為の刃が、神の愉悦を満たす人形の刃へと腐り落ちた。
荒唐無稽で脈絡のない悪夢染みた現実は、何を思おうと否定出来ない。
もし今の縁壱と出会った時、自分が何をすれば良いかも分からないまま、気付けばここまで生き延びてしまった。
仮に縁壱が元の人格から変わらず、鬼を滅ぼす剣を振るっていたならば。
自分も生前と何一つ変わらない、狂おしいまでの嫉妬と憎悪に身を焦がしたのだろうか。
或いは、こう考える時点で自分は既に何かがおかしくなっているのか。

313刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:20:38 ID:LPbpj4TY0
「あっ、黒死牟さん!」

今の自分自身と同じくらいに理解出来ない、春の訪れを思わせる声が鼓膜へ届く。
怨嗟と絶望に彩られた鬼狩りの叫びとは全く異なるソレに、小さくため息を零す。
相も変わらず自分への警戒心などまるで感じられない、飼い主を見付けた子犬のよう。
桜色の髪を揺らし駆け寄るいろはの頬には、薄っすらと涙の痕が見て取れる。
この娘と言えども、放送であった仲間の死は堪えたらしい。
しかしこちらを見つめる瞳に澱みは宿っておらず、悲しみこそすれど戦意をへし折るには至らなかった。

「……」

一瞬、口を開き掛けすぐに閉じる。
何を言うべきか見付からず、そもそも自分が言う意味がどこにあるのか。
大方隣へ並んだ獣の特徴を持つ娘が、あれこれ話しかけたと察しが付く。

「男ならもうちょっと、気の利いた言葉くらい言ってやりなさいよ」

その当人は猫耳を揺らしながら、呆れたとばかりにジト目を向けて来た。
数時間前は事ある毎に怯えていたにも関わらず、随分態度が変わったものである。

「馴れ合いなど……お前達だけでやれば良いだろう……私に無意味な期待をするな……」
「あーはいはい、そう言うんじゃないかとは思ったけどね」
「キャルちゃん?何だかさっきより黒死牟さんと仲良くなってるような…?」
「どこがよ、これで仲良いなら大半の奴が大親友になるっての。何て言うかアレよ、あんたに世話焼かれてるって分かったらビビるのも馬鹿らしくなったって感じ。顔恐いとは思うけど」

余計な一言を付け加えるキャルをジロリと睨めば、サッと顔を背けた。
いろはが勝手にやっている事であって、頼んだ覚えは微塵もない。
困ったように笑う娘の影響なのか、やけに馴れ馴れしく接する者が他にも増えるとは。

314刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:21:42 ID:LPbpj4TY0
「あっれー?お話し中だった?」

何かを言うより早く、更にロビーが姦しくなる。
動きに合わせて藤色の長髪を揺らし、トコトコと寄って来る少女。
後ろからは肩部プロテクター付の上着に、奇抜な髪型が特徴の青年が続く。
食堂にてデッキの構築を終えた遊星と、護衛を請け負った結芽。
二人も放送を確認し話を纏め、病院内にいる者達との合流に動いたのだった。

「皆で次は何処へ斬り込むかの相談?だったら結芽も混ぜてよー」
「そんな物騒な話で盛り上がれないわよ。…あんた達は大丈夫なの?」

何がとは聞き返さなくとも分かる。
放送で呼ばれた名前には、大尉相手に共闘した少年達もいた。
加えてもう一人、遊星の仲間も6時間を生き延びられなかったのが判明。
事実、CRで一旦解散となった時よりも表情に翳りが見えた。

「ああ、悲しくないと言ったら嘘になるが……」

牛尾の死を知り、動揺しなかった訳ではない。
ジャックや遊戯共々、仲間達なら大丈夫だと心のどこかで油断があったのかもしれない。
軍服の男のような桁外れな力の持ち主とぶつかれば、歴戦の決闘者だとて危険だというのに。

最悪のファーストコンタクトをした男だった。
あの頃の牛尾はサテライトの住人を露骨に見下していて、自分も権力を振りかざす奴は心底嫌っていて。
デュエルで白黒付けても、向こうを決闘者(デュエリスト)と認めたくなかった。
しかしダークシグナーを巡る事件の際、セキュリティの仕事に誇りを持つ男だと知った。
孤児院でマーサの尻に敷かれたりと意外な一面も見て。
向こうもサテライトの住人への偏見を正し、気付けば互いに信頼関係を結ぶに至ったのだ。

けどもう、牛尾の顔を見ることは二度と出来ない。
ブルーノの時と違い、どんな最期だったかも分からないまま脱落を告げられた。
たとえネオ富実野シティに帰れても、あの街で最も信頼出来るセキュリティの男はいない。
クロウ達に伝えねばならない時を思うと、今から気が重くなる。

315刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:22:35 ID:LPbpj4TY0
(だが牛尾…アンタはきっと、最後まで誰かを守ろうとしたんだろう?)

仲間だったからこそ、確信を持って言える。
牛尾哲という男は、きっとセキュリティの誇りを貫いて死んだのだろうと。
ここがネオ富実野シティでなくとも関係ない。
自分の命が脅かされる状況であっても守る為に立ち向かい、命を散らした。
そういう男だと分かっているから、喪失に胸を痛めても戦意までは失くさない。
悲しみを言い訳に戦いを投げ出せば、それこそあの世から牛尾に怒鳴られたっておかしくない。
命懸けで戦った城之内と達也にだって、合わせる顔がないだろう。

「皆が戦っているのに、俺一人だけ逃げるつもりはない」
「あの黎斗っておじさんに好き勝手言われたままなのも、ムカつくもんねー」

軽い調子で同意する結芽だが、これでも相応に不快感は抱いてる。
城之内や達也の名が呼ばれ、動揺があった訳ではない。
二人の最期は自分の目で見た、実は生きているだとか都合の良い期待は最初から考えてない。
御伽にしたって話でしか知らないのもあり、多少驚いた程度。
ただ黎斗が死んだ彼らの事を言いたい放題に貶したのは、率直に言ってムカついた。
死を深く嘆く程、長い付き合いだったとは言えない。
人目も憚らず涙を流せるような関係でもなかった。
けれど、肩を並べて戦った仲間なのは、結芽自身も認めている。
頼んだ覚えは無くとも、命を助けてもらったのだって本当。
その相手を悉くコケにされては、流石にカチンと来るというもの。

(いーよ、そうやって偉そうにしてれば。絶対そこまで上って行ってやるんだから)

ふんぞり返って今も自分達を嘲笑う自称神に向け、胸中で宣戦布告。
死者を蘇生させられるだろう技術を手に入れる前に、一発痛い目を見せてやる。
でないと自分の気は晴れない。
城之内と達也、後は本田の文も含めて計四発はキツいのを食らわせてやろう。

316刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:24:27 ID:LPbpj4TY0
(…何か不思議な感じ)

死んだ者達へ引き摺られてるとまではいかないけど、色々と考えてしまう。
一度死んで、二度目の生で誰かの死に立ち会ったから。
余裕のなかった生前とは違う、親しい者に置いて行かれる側になったから。
前は想像も出来なかった心境の変化に、戸惑いこそあれど不快には思わなかった。

内面を言葉には出さず、何と無しに吹き抜けとなった出入り口を見つめ、





殺意を振り撒く真紅が映り込んだ。





「――――っ」

敵襲と、脳が情報を受け取るのを待たず体が動く。
自身の愛刀とは違う御刀を引き抜き、写シを発動。
幾分か休めたお陰で戦闘に支障はなく、いつでも斬り合いに臨める状態。
相手の方からやって来たのであれば、望む所と言うやつだ。

が、結芽より数手早く抜刀するのは黒死牟。
視界に捉えるまで待つ必要もなし。
上弦の鬼にも引けを取らぬ血の臭いを風が運び、肌を突き刺す憤怒と共に接近を知らせる。
抜き放つは己が体内で作りし妖刀、真っ向より迫る真紅へ食らい付く。
獲物を噛み砕く感触はなく、なれど刃がかち合う感覚も未知に非ず。
襲撃者の正体も記憶したのと細部に違いはあるも、知らぬ者ではなかった。

317刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:25:01 ID:LPbpj4TY0
「やはり……生きていたか……」
「当たリ前ダ!猿如きノ剣で俺を殺セルト思ウなっ!!」

得物を挟み怒声をぶつける真紅の騎士、デェムシュ。
四肢は異様に太く、胴は更に頑強へと変貌を遂げてある。
頸を落とさぬ内は死んだと思えなかったが、何が起きたか力を増しているようだ。

警戒を強める黒死牟とは反対に、デェムシュは怒りと歓喜に打ち震える。
予想通り、自分に屈辱を味合わせた連中がいた。
こうなったらやる事は一つを置いて他にない、全員に借りを返す。
連中の血で猿共の建造物を赤く汚してやるまで。

まずは自分を斬り飛ばした男からと両腕に力を漲らせる。
が、顔面へ奔る煌めきに急遽標的を変更。
鍔競り合いを中断し、別方向からの剣を防御。
他に比べ脆い顔面部分を狙われようと、猿の剣では重症に程遠い。
ただ素直に受け止めるのも癪なので、得物を用いて阻む。

「わっ、と!」

そのまま押し返して吹き飛ばし、壁の染みに変えるつもりだったが失敗。
純粋な膂力では敵が上と理解しており、結芽はすかさず後退。
宙で一回転し黒死牟の隣へ着地、風船のように頬を膨らませる。

「このおにーさん、面倒であんまり戦いたくないんだけどなぁ」

尋常ならざる耐久力と、氷を操る異能。
城之内と共に戦った時は確実に倒す手段もなく、やる気を削がれたのもあり撤退したのは覚えてる。
今はより破壊力に優れたモンスターを操る遊星達もいるので、同じ結果にはならないだろうけど。

318刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:25:50 ID:LPbpj4TY0
「小賢しイ札使いノ猿はイナイか…フン!俺の手ニ掛カル前に野垂レ死ンだカ!」
「んー……前言撤回!やっぱりムカついたから、相手してあげる!」

気分次第で戦う気力が左右するが、今の一言で俄然やる気になった。
仮にやる気を出さずとも、デェムシュの知った事ではなく皆殺しに動いたろうが。

「結芽達が戦った赤い騎士はこいつのことか…!」
「は、はい!でもあの時よりもっと強くなってるみたい…」
「どっちにしたって敵なのは同じでしょ!」

剣士達に多少遅れる形で、残る三人も各々反応を見せる。
放送前の交戦時以上に手強くなっているようだが、キャルの言う通り。
敵であるのに変わりない以上、戦って切り抜ける他ない。
各々戦闘準備に入り、

「モタモタするナ猿!そコノ札使いヲ仕留めロ!」
「人使い荒過ぎィ!」

怒声を浴びせられたクッソ汚い男が妨害に出た。
事前に何の一言も無く病院へ飛び込んだデェムシュを追い、後からやって来た野獣先輩だ。
追い付いたと思えば強い口調で命令。
ホモビ制作会社がマシに思える程の扱いにボヤきながらも、参加者を殺すのに異論はなし。
迫真空手で鍛え上げた拳が狙うのは、デッキからカードを引こうと動きを見せた青年。
デュエルモンスターズの厄介さは身に染みているが故、デェムシュは遊星を優先的に殺すよう指示。
屈辱を与えた猿ではない為、自分以外の手で殺させても問題ない。

「死んで、どうぞ(無慈悲)」
「っ!」

優れたフィジカルを持つ決闘者とて、超人レベルの敵相手には分が悪い。
カードを使われるより先に殺し、遠野蘇生の生贄に加えてやる。
非常にあくどい笑みと共に突き出した拳は、遊星の心臓をも貫くだろう威力。

319刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:26:50 ID:LPbpj4TY0
「スタープラチナ!」

どこまでも汚い一撃を、青き拳闘士の鉄拳が弾く。
仕留める筈が邪魔をされた挙句、間髪入れずに殴打の嵐が放たれた。
モロに受けては敵わぬと慌てて後退、クッソ情けない野獣先輩と入れ替わりに黄金の戦士達が参戦。
仮面ライダーグリスと仮面ライダーサウザーにそれぞれ変身し、承太郎と天津が襲撃者達を睨む。

「承太郎?済まない、助かった」
「礼は良い。妙に騒がしいんで来てみりゃ、見覚えのある野郎がいやがるな」
「君と一海君が一戦交えた異形、か。放送が終わって間もないのに、血の気盛んな連中だ」

CRから地上に戻り仲間達を呼びに向かったは良いものの、激しい物音へ嫌な予感がし急行。
念の為先に変身を済ませ正解だった。
体中が強張る程の殺意を垂れ流す真紅の騎士を見れば、戦闘は確実と理解。

「調子こいてんじゃねぇぞオォン!?」

ついでに攻撃を妨害されたステハゲもご立腹。
そっちがライダーの力を使うなら、こっちも相応しい力で殺してやる。
四度目の戦闘だけあって、変身にもすっかり慣れた。
ブレイバックルを素早く装着、ハンドル部分を操作しカテゴリーAの力を解放。

「変身!(迫真)」

『TURN UP』

ヘラクレスオオカブトが浮かび上がった、カード状のエネルギーへ疾走。
潜り抜け白銀の装甲を纏えば、仮面ライダーブレイドへの変身が完了。
しかし此度はまだ続きがある、手に入れた新たな力を試す良い機会だ。
これまで野獣先輩が変身したブレイドには無かった、左腕の黒い装置。
引き抜いたカードをスロット部分へ読み込ませ、アンデットの力を更に解放。

320刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:27:59 ID:LPbpj4TY0
『Absorb Qeen』

『Evolution King』

内より湧き出る力へ逆らわず、全身へ行き渡らせる。
高揚感を裏付けるように、ブレイドの姿が一変。
纏う鎧は白銀から黄金へと大きく変わり、より重厚かつ絢爛なフォルムへ。
頭部の剣も鋭さを増し、まるで王冠を思わせる形状。
全身各部の意匠はスペードのラウズカードに封印された、13体の不死生物をあしらったもの。
アンデットの力をただ行使するだけではない、変身者と融合を果たした姿。
仮面ライダーブレイド・キングフォーム。
戦えない全ての人々に代わって戦う剣崎一真の決意を踏み躙る、最悪の形で降臨。

「Foo〜↑気持ちいい〜(力に溺れる屑)」
「輝いてるのは外見だけで、中身は醜悪な俗物に過ぎないようだな」

黄金で覆い隠しても、腐り切った性根は誤魔化せない。
それでいてライダーの力自体は油断出来ず、自分達を襲う威圧感が強くなったのを嫌でも察する。
容易く勝てる敵ではないと、戦う前から理解せざるを得なかった。

そして事態は更に混迷を極める。
ロビーの壁が吹き飛び、否が応でも全員注目。
太陽を背に瓦礫を踏み付け、堂々と侵入して来たのは真紅と金色の装甲を纏った戦士。
額に星座盤を填め込み、頭部から突き出たスキャンセンサーが悪魔の如き風貌を作る。
ブラッド族が用いる惑星破壊の兵器、仮面ライダーエボル。
なれど変身者は星狩りに非ず、滅亡迅雷.netのヒューマギア、滅。

冴島邸での戦闘から撤退後、ダメージを修復する施設を滅は探し歩いた。
苦労の甲斐あってか、見付けたのは自身の記憶にあるのと寸分違わぬ場所。
飛電製作所。一時期飛電インテリジェンス社長の座を追われた或人が、再出発の為に作り上げた新会社。
アークの襲撃で破壊させられたが、殺し合いでは無事だった頃の製作所を再現され設置。
施設内部には多数の機械用品のみならず、ヒューマギアを修理する設備もあった。
よりにもよって飛電に頼るのは抵抗があったが、ダメージは大きく意地を張ってられる状態でもない。
怒りを無理やりに飲み込み、修復へ利用したのだった。

直後に起こった放送に、思う所は特になし。
或人も、ついでに天津もまだ生き残ってるなら構わない。
人類滅亡、アークと同じ結論は依然として揺るがず参加者の捜索を再開。
近隣エリアを見て回る最中、偶然目に付いたのは赤い異形と遠目にも汚いと分かる人間。
こちらへ気付かず目的だろう場所へ向かう彼らを密かに追跡し、ここ聖都大学付属病院へ辿り着いたのだった。

321刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:28:37 ID:LPbpj4TY0
ゼロワンはいないが、知っているライダーはいた。
サウザーということは天津か、若しくは中身は違う者か。
本来の変身ツールを奪われた自分の例があるだけに、別人がサウザーの可能性もないとは言い切れなかった。
どちらにせよ殺すのに変わりはないが。

「まーたヤバそうな奴が来たわね……」

マナーの「マ」の字も知らないやり方で、病院に現れたライダー。
普通に入って来いと言いたいが、ひしひしと素肌を痛め付けるプレッシャーに常識を解いても無駄と早々に諦める。
カイザーインサイトが参加してる以上、他の参加者も一筋縄でいかないとは理解したつもりだ。
けどこうやって実際に現れると、うんざりする気持ちを抑えられない。

デェムシュは黒死牟達が、野獣先輩は承太郎達が相手取る。
となると、乱入者をどうするかは決まったも同然。
貧乏くじを引かされたと一瞬思うも、どれと戦っても大して違いはない。
危険なライダーを叩きのめし、コッコロ達の安全確保へ繋がると思えばやる気も出て来る。

「んじゃ、さっさと片付けるわよ!」

吹き抜けとなった場所を駆け、屋外へと移動。
逃げるのではない、戦う為の準備はこっちの方が良い。
何せ屋外で姿を変えようものなら、確実に周りを巻き込む。
エボルの視線が自分の方をチラと見た。
それで良い、どうせ今から相手をしてやるのだから。

322刃骸魔境(前編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:29:17 ID:LPbpj4TY0
『Golza.』

『Mleba.』

『Super C.O.V.』

ブレードを扇状に展開し、スロット部分へ三枚のメダルを装着。
闇の支配者の尖兵たる超古代怪獣の二体と、根源的破滅招来体に送り込まれた怪獣兵器。
ウルトラマンティガとウルトラマンガイアに撃破された怪獣たちのデータを、此度はキャルの力として纏う。
バラバラに扱うのではない、一つの融合しより強大な存在へと昇華。

「借りるわよアンタ達の力!チェンジ!テリブルモンスターフォーム!」

『Try-King!』

光に包まれ、少女のフォルムが巨大な異形へ変貌。
溶岩を彷彿とさせる硬質的な皮膚と、恐竜に酷似した頭部。
額を覆うように怪鳥の顔が存在し、背には赤茶色の巨大な翼。
腹部にも上記二つとは異なる顔が浮かび、鮮血色と金色の混ざり合った太い両脚がアスファルトに亀裂を生む。
名をトライキング。
寄生生物セレブロが、ウルトラマンZとの戦闘で変身した合体怪獣である。
本来よりも大幅にサイズダウンしてるとはいえ、掌に人間二人を乗せて運べる巨体だ。
ロビーで動き回ったら敵味方問わず巻き込んでしまう。

『この赤い奴はあたしがブチのめしてあげるから、そいつらは任せた!』
「チッ…!」

言いながら叩き付けた拳を、赤いオーラを纏いエボルが回避。
病院から離れるように移動するのは好都合、こっちも周りを気にせず力を振るえる。

定時放送が終わり、神のゲームは新たなステージへ進んだ。
聖都大学付属病院での死闘が、第二幕の合図となる。

323刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:30:50 ID:LPbpj4TY0



当然の話であるが、ウルトラゼットライザーには制限が加えられている。
最たる例はウルトラマン・怪獣共に変身後の大幅なサイズダウン。
本来のトライキングに比べればパワーもタフネスも、縮小に伴い低下は免れない。
では恐れるに足りない雑魚かと言うと、それもまた否。
あくまで元々に比べれば小さいだけで、三階建ての建造物を余裕で追い越す程度には巨大。
等身大サイズの参加者からすれば、十分な脅威に映るだろう。

トライキングが取った戦法は極めてシンプル。
拳を握って眼下の敵目掛け振り下ろす。
特別な異能も何もない、純粋なまでの暴力。
フォームだって格闘経験を学んだソレとは程遠い、力任せの一撃に過ぎない。
しかし単純な殴打も放つ存在が十代の少女ではなく、『怪獣』ならば脅威の度合いは何十倍にも引き上げられる。
ましてトライキングの両腕のパーツは古代怪獣ゴルザ。
マッシブな見た目は飾りに非ず、地底を高速で掘り進むのに適した剛腕。
そのような腕力を乗せたパンチを受け止めようものなら、地面の染みになる末路以外有り得ない。

だがエボルは哀れな犠牲者の枠に入らない、真っ向より迎え撃てるライダー。
片手に超硬合金製の斧を握り、頭上より飛来する拳を睨む。
避ける素振りは見せない、見せる必要も無い。
自身の体躯を超える拳へ得物を叩き付け、力任せに弾いた。

強化ボディスーツが運動能力を最大以上に高め、ヒューマギアの限界を超えたパワーを発揮。
更に物体を意のままに操る、赤いオーラを纏わせる。
接触した対象を押し返し、圧殺されるのを防いだ。
ドライバーこそ複製品でも、オリジナルのエボルに見劣りしないハイスペックである。

324刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:31:26 ID:LPbpj4TY0
まさか避けるのではなく、弾かれるとはキャルにも予想外。
とはいえ驚きは長続きせず、即座に気を引き締め直す。
忘れるなかれ、自分達が巻き込まれた殺し合いはカイザーインサイトでさえ参加者側にいる魔境。
怪獣相手に真正面から戦える者がいても、何ら不思議はない。

一撃防がれたからといって、勝負がお開きにはならない。
どちらか片方が力尽きねば終わらず、そちら側になるのは真っ平御免。
再度拳を振り下ろせば、エボルも得物を用いて対抗。
衛星ゼアが生成した武器は切れ味のみならず、強度も破壊困難な程。
対するゴルザの拳もまた、ウルトラマンティガと肉弾戦を繰り広げた凶器。
互いに僅かな亀裂すら生まれず、ならば次だと三撃目に移行。

『こんの…!』

殴る、殴る、殴る、殴り続ける。
地上へ降り注ぐ無慈悲な拳の雨を、甘んじて受け入れる趣味はない。
右拳を押し返し、左拳へ斧を叩き付け、次の攻撃も同様。
十を超えても双方受けたダメージはゼロ。

変化の見られない戦況維持をキャルは望まない。
殴るだけが能でない所を、そろそろ見せてやる頃合いか。
両腕の動きは止めず、額へエネルギーを収束。
紫に輝く超音波光線が、エボルを飲み込まんと迫り来る。

地球外の物質を利用した装甲は、並大抵の攻撃では傷一つ付かない。
しかし敵の巨大さに相応しい熱量の光線を、あえて浴びる意味もあるまい。
腕に纏わせたオーラを今度は脚部に流し込み、走力を大きく引き上げる。
残像を残し回避、光線はアスファルトを破壊し煙が立ち込めた。

先手は取られたが、今度は自分が仕掛ける番だ。
走力を落とさずにエボルが再接近、跳躍し顔面部分へ狙いを付ける。
肩部の装甲ユニット内で強化剤が生成され、瞬間的に能力が上昇。
ただの斬撃でありながら、必殺の威力を叩き出す。
自分以上の大きさがあろうと無事では済まない。

325刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:32:19 ID:LPbpj4TY0
『甘いのよ!』
「チィッ……!」

敵が今日初めて戦闘を行った、巨体を利用し暴れ回るだけの素人なら。
今の斬撃に何らかの反応が出来たかは怪しい。
なれどキャルは殺し合いより以前を、気楽に遊んで過ごした訳ではない。
美食殿の一員として魔物退治をこなし、ランドソルでの決戦といった修羅場も潜り抜けた。
今更この程度で慌てる少女じゃあない。

翼を思わせる形状の被膜を振るい、暴風を巻き起こす。
最大速度マッハ6の飛行を可能にする、メルバのパーツを動かしたのだ。
吹き飛ばされ壁に叩き付けられる寸前で、全身に赤いオーラを流しどうにか宙で安定。
地へ降り立つのと同じタイミングで再び超音波光線が放たれ、忌々し気に回避。

もう一度接近し斬り付けるか、より高威力の技を放つか。
それとも武器を遠距離形態に変え、移動しながら体力を削るか。
或いはボトルを変え、パワーを引き上げた上で接近戦を挑む手もある。
フェーズ1のエボルでも真正面からの打ち合いは可能、故に格闘戦特化のフェーズ2ならダメージに期待出来る。

(いや、ここは……)

敵の巨体は厄介と認めるが、小回りの利く動きは自分が勝る。
そこを活かさぬ手はなく、丁度良い道具が手元にはあった。
正確に言うなら、奪い取ってやったのだが。

326刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:33:02 ID:LPbpj4TY0
『RABBIT!RIDER SYSTEM!EVOLUTION!』

『Are You Ready?』

「変身」

『RABBIT…RABBIT…EVOL RABBIT!』

『フッハッハッハッハッハッ!』

邪悪な高笑いが響き、エボルの姿にも変化が起こる。
肩部装甲は鋭利な形状から、丸みを帯びシンプルなものへ。
頭部パーツも大きく変わり、レンズ部分には兎の耳を模したブレード。
桐生戦兎が変身するヒーロー、仮面ライダービルドと瓜二つな仮面を被る。

仮面ライダーエボル・ラビットフォーム。
加速ユニットを追加し高速戦闘へ特化したフェーズ3。
フェリシアの支給品から見付けたラビットエボルボトルを使い、更なる進化をここに果たす。

『変わった!?…って、そんな驚く程でもないわね!』

自分が怪獣メダルを使ってるのもあって、外見の変化に大きな驚きは見せない。
問題は新しい姿になった敵が、どんな能力を持ってるかだ。
警戒を強め、迂闊に近付くよりはと超音波光線を発射。
餌を吊り下げられた獣の如く迫る光へ、エボルは焦らず頭部パーツを指でなぞる。
飲み込まれる正にその時、真紅の装甲が消え去った。

『痛っ!?』

後頭部へ鈍い痛みが走り、何だと振り返るもそこに人影は見当たらず。
と、肩に異物のような感触を覚え見やる。
ほんの数秒前まで地上にいたエボルが立ち、片脚を振り被っていた。
頬を鈍痛が襲い、巨体が僅かに怯む。
片手を伸ばし振り落とそうとするも、既にエボルはいない。

327刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:33:40 ID:LPbpj4TY0
『ウロチョロすんなっての…!』

視線を落とし、見付けた先を踏み付ける。
潰れた蟻同然の末路を歓迎する気はない、軽やかに跳び回避。
ついでにオーソライズバスターを撃ち、胴体へ火花を散らす。
致命傷にはならないが痛みが無いとも言えず、連続で当たれば少しずつだが体力も削られる。
図体のデカい的扱いは御免被る、もう一度吹き飛ばすべく両の被膜を操作。
だが暴風に閉じ込められる前に背後を取り、無防備な背を斬り付けた。

『こいつ…!』

敵の狙いに嫌でも気付かされ、視線は険しさを増す。
サイズ差と高速移動を利用し、こっちの反応を待たず体力を削り取る気か。
セコい奴だと悪態を吐き捨てるも、実際有効なのが余計に腹立たしい。

ラビットフォームのエボルはパワーこそドラゴンフォームに劣るものの、敏捷性は上。
加えてカメラアイから伸びたパーツは飾りでなく、聴覚強化装置。
ほんの僅かな身動ぎすら正確に捉え、敵の動きを予測し常に先手を取る事が可能。
巨体故細かい動作の利かない今のキャルには、非常に相性の悪い力だった。

(デカい技で一気に勝負を着けてやれば良いんだろうけど……)

病院内で戦闘中の者達まで巻き込みやしないかと、危惧を抱き大技に躊躇が生じる。
しかも敵も察してるのか、時折病院を背に動きこっちの攻撃を牽制するのだから本当に腹が立つ。
内心で文句を言っても戦況に変化は齎さず、両刃の斧が命を刈り取らんと迫りつつあった。

328刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:34:32 ID:LPbpj4TY0



黄金の戦士が駆け出し、狙う標的もまた黄金を纏った男。
仲間を襲撃し、言動や態度からも善とは程遠い人間性と察した。
これでまだ対話を行い戦闘回避を望む程、天津も承太郎もお人好しではない。
訪れた危機を退ける方法はたった一つ、戦ってどうにかするのみ。
判断を間違えればツケを払うのは自分だけでは済まされない、仲間にも危害が及ぶ。
であれば攻撃に迷いは微塵も抱かず、揃って敵を自らの間合いに閉じ込める。
グリスの鉄拳が叩くか、サウザーの槍が貫くか。

「オォン!」

どちらでもない、耳が腐る喘ぎ声を発し振るった剣が阻む。
最初の一撃で即決着になるとは、この場の誰も思っていない。
予想出来た結果に一切の動揺を持ち込まず、男達は示し合わせたように次撃へ出る。

「24歳、学生です(自己紹介)」

殺す前の挨拶を礼儀とでも思い込んでるのか、単なる挑発のつもりか。
若しくは淫夢語録しかロクに喋れない、ホモガキの玩具故のクッソ哀れな習性か。
正確な理由をグリスは知らないし知る気も皆無。
敵を倒す、必要な考えは50日に及ぶ旅での戦いの頃から変わらない。
耐衝撃ボディスーツが腕力と運動能力を劇的に強化、喧嘩自慢の高校生を超人の領域まで引き上げる。
伸ばした腕にはツインブレイカーと呼ばれる、専用の可変型武器を装備。
杭型の打撃装置が回転数を速め、強固な装甲をも砕き貫通する威力をグリスへ付与。
自らが操るスタンドにも引けを取らないパワーに、敵の取る手は同じく打撃。
グローブに覆われただけの無手で以て迎え撃つ。
己の手を進んで使い物にならなくさせるとしか思えない、愚行の極み。
大多数がそう嗤うだろう光景は現実にならず、グリスの拳と打ち合った。

「オラァッ!」

敵の拳を砕いた感触は無く、自身も同様にダメージゼロ。
突き出した拳を一旦引き、もう片方で殴り掛かる。
ツインブレイカーは両腕に装着済みだ、威力の低下は起きない。
攻め立てるのはグリス単独ではない、サウザーもまた己が得物を操り勝利を狙う。
サウザンドジャッカーはZAIAの技術を結集させ作っただけあり、飛電の装備にも引けを取らない高性能。
金に輝く穂先に掛かれば、1000mmの特殊合金すら障子紙同然。
だが装甲は勿論、敵が翳す大剣には軋み一つ与えられない。
拳と得物を通じサウザー達の強さを感じ取ったのか、仮面の下でゲスい笑みを作る。

329刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:35:18 ID:LPbpj4TY0
「いきますよーイクイク(攻撃宣言)」

次いで響くは拳と刃が絶えず激突を繰り替えし、闘争が生み出す音色。
グリスが両拳で放つ殴打の嵐を、片腕のみで対処。
サウザーとも剣戟を展開し、己が身には一撃たりとも掠めさせない。
生半可な防御や回避は呆気なく崩す猛攻が、此度は二つ揃った。
にも関わらず敵は余裕の態度で凌ぎ、たった一人で相手取るのは悪い夢のよう。

サウザーとグリスの性能の高さは今更言うまでもない。
しかし野獣先輩が変身中の仮面ライダーブレイド・キングフォームもまた、引けを取らない強さを持つ。
単純なスペックだけなら上記二つが上であるも、最大の特徴は13体のアンデットの力をラウズカードのリード抜きで自在に操れる点。
パンチ力の加速と破壊力の強化を行い、更には高速移動能力も付与。
平時でさえ高周波振動による切れ味を誇る専用装備、キングラウザーも同様に斬撃の威力を引き上げた。
加えて言うなら変身者の野獣先輩は無限に等しいBB素材により、型に囚われない攻撃が可能。
グリス達を相手に一人で渡り合っても、何ら難しい話ではない。

「ジャンク・フォアードを手札から特殊召喚!」

モンスターが封じられたカードを使うのは、ブレイドの専売特許ではない。
仲間だけに戦闘を押し付けるつもりは最初からなく、遊星もデュエルモンスターズを駆使し参戦。
達也が遺した支給品を使い念の為ウィザードに変身したが、やはり本領発揮はカードを使ってこそ。

ホカクカードを使い手に入れたモンスター、ジャンク・フォアード。
自分の場にモンスターが存在しない時、手札から特殊召喚が可能になる。
参加者もモンスターとして扱われる為どうなるかは半ば賭けだったが、ある程度は都合都合で解釈出来るらしく成功。
アタッカーを任せるには攻守ともに頼りないが構わない。

330刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:36:19 ID:LPbpj4TY0
「更に俺は、レベル3のジャンク・フォアードにレベル2のシャドウ・ファイターをチューニング!」

通常召喚したレベル2のモンスターは、城之内のデッキから借りた一体だ。
新たに現れるのは白銀の装甲と包帯、名前の通り全身に傷痕を刻んだ戦士。
レベル5のスカー・ウォリアーに睨み付けられ、ブレイドは弾かれたように突撃。
大剣を振り下ろし一刀両断で終わらせる気だろうが、黙ってやられる自殺志願者じゃあない。
包帯に隠された刃を突き出し、キングラウザーと打ち合う。
トライアルシリーズですら薙ぎ払う斬撃を前に、スカー・ウォリアーは破壊されず拮抗。
仕留められなかったブレイドには苛立ちよりも、困惑の方が大きかった。

「これもう分かんねぇな…お前どう?」

日焼けに誘った後輩に対してのような気安さで問うも、遊星からの返事はない。
種明かしをするなら、スカー・ウォリアーは1ターンに一度だけ戦闘では破壊されない効果を持つ。
更に場に存在し続ける限り、相手は他の戦士族モンスターを攻撃対象に選べない。
仮面ライダーに変身している為か、グリス達は戦士族扱いされたようである。

スカー・ウォリアーしか攻撃出来ず、しかも今だけ破壊不可能。
となったらどう動くかは決まったも同然。

『スクラップフィニッシュ!』

『Progrise key comfirmed. Ready to break.』

ドライバーを操作し、グリスの腕部アーマーから黒い液体が噴射。
エネルギー源たるヴァリアブルゼリーを使い急加速し、勢いを乗せた拳を叩き込む。
サウザーも同様に得物へプログライズキーを装填、高威力の技を発動。
巨大な蠍の尾が出現、毒針の強烈な一突きが頭上より襲来。

331刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:37:02 ID:LPbpj4TY0
「これでもう勝った気とか甘過ぎィ!笑っちゃうぜ!ウッソだろお前!(ガンダム主人公)」

直撃を受ければタダで済まないと理解しつつ、余裕たっぷりに嘲笑うブレイド。
アンデットの力を引き出し磁力操作、スカー・ウォリアーを盾として翳す。
戦闘耐性が継続中なのが影響し、ブレイドへ一切の攻撃を寄せ付けない。
無傷で凌ぎ、結果的に万能の盾を手に入れた。
こうなれば何度攻撃を加えようとスカー・ウォリアーで防がれる為、ターンを終了する他ない。

「冷えてるか〜?」

大先輩の語録を無断で使うという人間の屑っぷりを見せ付けながら、効果の切れたモンスターを破壊。
スカー・ウォリアーを仕留めた大剣を遊星に向け、切っ先へ帯電。
アンデットの力を使えば斬るのみならず、電撃を浴びせ焼き殺す事だって可能だ。
変身中とはいえ直撃は危険、ましてデュエルディスクの故障やカードが焼かれるのも有り得る。

「スタープラチナ・ザ・ワールド」

故にグリスは迷わず己が力を行使。
一海から託された仮面ライダーの力ではない、承太郎が本来持つ異能。
宿敵である帝王との決戦にて開花した、時間停止。
時を支配下に置き、聖都大学付属病院一帯は完全なる静寂に包まれる。
唯一動けるのはグリスのみ、とはいえ永遠の静止は不可能。
僅かに得た猶予を無駄にせず、スタンドと本体の両方が拳を放つ。
ライダーの装甲相手には同じライダーのパワーで対抗していたが、時間停止中の無防備な状態なら有効打を与えられる筈。
強敵たる人狼相手にも大ダメージを食らわせたラッシュで以て、仲間の危機を遠ざけるのだ。
黄金の戦士と青き拳闘士、両者の拳がブレイドを――

「なっ…!?」

打ち抜く寸前で阻まれた。
ブレイドの前に突如出現し、自分達同様に拳を放った存在。
その姿をグリスは知っている。
知っているからこそ、有り得ない光景に目を見開く。

332刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:38:07 ID:LPbpj4TY0
青いボディを持つ拳闘士、スタープラチナ。
他でもない、承太郎のスタンドがもう一体現れたのだ。

「どういうことだ…何故テメーが俺のスタンドを…!?」

スタープラチナとザ・ワールドのように同じタイプのスタンドこそあれど、姿形や能力全てが同一は存在しない。
だというのにスタンド使いのルールを根底から覆す存在が、確かにいる。
相手のスタンドをコピーする能力だとか、そういった類なのか。

何故スタープラチナがもう一体現れたのか。
答えを明かすにはまず、野獣先輩とは如何なる存在なのかを説明せねばなるまい。
知っての通り、殺し合いに参加しているこの男は厳密には人間ではない。
24歳の学生や後輩をレイプした人間の屑を演じたホモビ男優が、ネットの世界で数多の逸話や冒険譚、喜劇に悲劇を付け足され生まれた情報集合体。
だからこそTDNホモビ男優が本来持ち得ない戦闘能力を発揮出来た。

殺し合いにおける野獣先輩の強さの元は大きく分けて二つ。
一つはBB素材。
俗にBB先輩シリーズとも言われる、ホモビ本編を切り抜き動画の素材に加工する正気の沙汰とは思えないホモガキのクッソ寒いお遊戯。

そしてもう一つ、野獣先輩を象徴する力こそスタンドを使えた理由。
ある意味BB先輩シリーズ以上に強力な為、殺し合い直後は睡眠薬入りアイスティーを飲まされた水泳部の後輩のように眠ったままだった。
しかし魔戒騎士や仮面ライダー、神との闘争を経て本能的に力の使い方を理解したのだろう(適当)。

333刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:38:44 ID:LPbpj4TY0
野獣先輩新説シリーズ。
国内のみならず国外にまで痴態を晒されて尚、一切の目撃証言や過去の経歴が明かされない。
今日に至るまで野獣先輩の正体は不明=不明ということはどんな存在も根拠さえあれば野獣先輩になるんじゃないか。
小学生でも考えないようなガバガバ理論により生まれたのが、この力の根源である。

此度の戦闘でも新説シリーズの力を引き出し、承太郎の時間停止を打ち破った。
名は野獣先輩空条承太郎説。
野獣先輩の正体はジョジョの奇妙な冒険の大人気キャラクター、空条承太郎であると提唱する説だ。
多くのジョジョラーからも、「んなわけねェだろこのタンカスがッ!」と好評を得ている。

「俺だけの世界に勝手に入って来ないでくれよな〜頼むよ〜」

野獣先輩でありながら承太郎でもある、だからスタープラチナを使える。
馬鹿げた理由を知る由もなく、ただ現実として敵は自分と同じスタンドを操ると理解。
素直に答えを返してくれるとは期待しておらず、野獣先輩もまた種明かしをする気は皆無。
時が再び動き出すまで残り僅か、仮面越しに互いの視線が交差し火花が散る。

「いくぜオイ!」
「良いよ!来いよ!」

同じ力を持っていようと関係無い。
仲間を襲いクソッタレなゲームに乗った悪党を、愛する後輩の蘇生を阻む邪魔者を。
彼らが認めるのは断じて有り得ないのだから。

334刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:40:02 ID:LPbpj4TY0
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」
「もっとスタンドパワー使って!使ってホラ!ホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラホラァッ!!!」

殴り合いと言うには苛烈極まる光景が繰り広げられる。
近接最強のスタンド、スタープラチナ同士の一歩も譲らぬ激戦。
宿す想いは正反対、黄金の精神と狂い落ちた歪愛。
相容れぬ両者共に勝利を奪い取る気概は十分、なれば勝負を決めるのはなにか。
スタンドの性能は全く同じ、幾度拳を叩き付けても砕けず、砕かれず、届かず、届かせない。
共通しているのは時間停止に課せられた制限もだ。
2秒を超える支配は現状不可能、凍てついた世界は熱を取り戻し一先ずの終わりが――

「ぐっ!?」
「がぁ…っ!?」

訪れた筈が、予期せぬ痛みに呻き声が上がる。
スタンドへ殴打を受け、本体のグリスにもフィードバックが襲う。
更には遊星も背後から斬られ、少なくない火花が散った。
唯一無傷のサウザーは困惑するも、仲間が攻撃されたのは瞬時に察知。
得物を振るいブレイドを引き離した。

「野郎……」

この程度の痛みなら押し殺せるが、問題なのはブレイドが何をやったか。
間違いない、間髪入れずに時間をもう一度止めた。

「気持ち良いか〜KMR〜?]

予選で人間の鑑っぷりを見せ脱落となった後輩の名を口にし、ここぞとばかりに煽る人間の屑。
グリスの考えた通り、今やったのは時間停止。
但しスタープラチナではなく、スカラベアンデットの力を使ってだ。
停止中は敵への攻撃も無効化されるが死角へ移動し、解除と同時に痛め付けた。
スタンドと同様に連続使用が不可能な制限こそあるも、時を止める手段を二つ持つのは大きな強みだろう。

「…っ、俺は手札から速攻魔法、ハイパーフレッシュを発動していた……!」

だが転んでもタダでは起きないのが決闘者。
ブレイドが自身に電撃を浴びせる予兆を見せた時、遊星は咄嗟に魔法カードを使用。
自分のライフポイントを予め倍にし、被害をなるべく最小限に抑えた。
何よりダメージを受けたからこそ、効果を発揮するカードが手札にがある。

「手札のBKベイルの効果発動!戦闘によるダメージを受けた時、このカードを特殊召喚しライフを回復する!」

あくまで今負った分のダメージのみ回復な為、放送前からの傷は変わらずとも幾分痛みが和らぐ。
大尉との戦闘時にも使ったモンスターを召喚、これで場ががら空きになるのは防げた。
ウィザードに変身中の恩恵もあるだろう、大尉に蹴り飛ばされ時と比べればスムーズな召喚だ。
そう簡単に倒されてはやらない、仲間と共に勝利を掴むべく戦意を滾らせる。

335刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:41:27 ID:LPbpj4TY0



対照的な剣を振るうは二体の化け物。
真紅の騎士、デェムシュが己が魔剣に宿すは憤怒。
1日にも満たない間に受けた数々の屈辱が、自身を闘争へ突き動かす燃料へ変える。
選ばれし種族、フェムシンムをコケにした猿を殺す。
自分達に跪き、慄き、ただ殺されるのを待つだけの弱者に過ぎないと教えてやらねばならない。

対するは十二鬼月・上弦の壱、黒死牟。
妖刀へ乗せる感情はデェムシュと正反対に、酷く冷め切ったもの。
強者との斬り合いへ高揚は抱かず、貪欲なまでに勝利を求めず、まして人間達のように他者を守りたいなど以ての外。
襲われた、だから殺す。
他に大きな理由を見付けられないまま、しかし大人しく死を受け入れる程殊勝にもなれない。

戦闘へ臨む心構えで言うなら、圧倒的にデェムシュが上。
人も鬼も、命を燃やさずして掴める勝利は存在しない。
と言い切るのは容易いが、黒死牟は精神の差を大きく埋められるだけの実力を持つ男。
顔面を叩き割らんと襲い来る大剣を見据え、言葉なく刀を振り上げる。
岩をも砕く刃を弾き、あっさりと死を跳ね除けた。

猿の分際で煩わしい抵抗に出た事実へ、デェムシュの苛立ちが上昇。
尤も、敵が全くの雑魚でないとは理解している。
一撃防ぐ事すら不可能なら、最初に会った時点でとっくにあの世行きだ。
大人しく死ぬ気がないのであれば、力尽きるまで得物を叩き付けるのみ。

336刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:42:08 ID:LPbpj4TY0
頭部目掛け大剣が振り下ろされる。
愛剣シュイムの強度と切れ味が如何程かは、長々と説明するまでもない。
アーマードライダーの装備と打ち合って尚も刃毀れ一つせず、装甲を削り取った。
そこへ劇的な強化が起きたパワーを乗せた以上、剣でありながら木っ端微塵に打ち砕く威力と化す。

されど黒死牟纏う空気に、僅かな乱れも生じない。
闘争への熱を抱けないだけが理由に非ず、身を震わせる程の脅威でないが故。
果実の如く脳漿と肉が散らばる光景は実現しない、両手で握った得物が大剣と激突。
刀身越しに伝わる力は、成程日の出前の戦闘時以上に重い。
嘗てこの身を滅ぼした岩柱をも超えていると、極めて冷静に判断を下す。

だが忘れるなかれ、膂力に優れるのは黒死牟も同様。
執念で研磨を重ねた肉体が、人の限界から解き放った鬼種の血が、火炎の如き痣の恩恵が、食らい続けた数多の鬼狩りの肉が。
オーバーロードとの斬り合いを可能にし、再び刃を弾き返す。
次に剣が迫るのを待ちはしない、こっちから仕掛け早々に終わらせる。
人も異形も頸を落とせば死ぬ、眼球の張り付いた刀身が頭部と胴を繋ぐ部位へ疾走。
死を運ぶ妖刀へ、デェムシュは首筋に冷たさを覚えた。
猿如きの剣で斬首されるなど断じて受け入れない、シュイムを翳し防御。
押し返し体勢を崩しに行くも、一手早く敵が得物を大剣から離し死角へ移動。
瞬間移動と見紛う速度と共に行う斬り付け、この動作だけで数十の隊士を纏めて葬れる。

「甘イわ!」

が、オーバーロードを仕留めるには至らない。
目で追わずとも、外皮を貫く殺気で居場所を察知。
巨体とは裏腹の俊敏な動きで迎撃、シュイムで薙ぎ払いを繰り出す。
互いの刃がかち合い重い金属音が響く中、次の手にはデェムシュの方が早く出た。
もう片方の得物をがら空きの脇腹へ突き立てる。

337刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:42:48 ID:LPbpj4TY0
「チッ!」

その寸前で狙いを急遽変更、背後からの斬撃を防ぐ。
瞳を動かせば案の定、憎たらしい笑みを浮かべた小娘が映り込む。
力任せに押し潰そうと力を籠めるも、膂力で叶わないとは向こうも理解してるのだろう。
打ち合いは避けパッと飛び退き、タイミングを同じくして桜色の矢が次々突き刺さった。

「小賢シいゾ脆弱なサルどモガァっ!!」

左手を豪快に振り回し、殺到する矢を吹き飛ばす。
一方で右腕は絶えず黒死牟との打ち合いを続け、切っ先が撫でるのも許さない。
とはいえ、僅かながら意識が外れたのを見逃さない。
呼吸により全身の血が煮え滾り、鬼の身体能力を更に引き上げる。

――月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月

振るう刀は一本、なれど放たれる斬撃は三つ。
前方へ巨大な三日月が現れ、同じく大量の刃がデェムシュを取り囲む。
不可視の刃で作り上げた檻は、迂闊に動こうものなら最後。
待ち受ける末路は生物の原型を留めぬ、肉片の山。

「コノ程度がどうシたッ!」

惨たらしい最期を覆すべく、デェムシュもまた得物を振り回す。
シュイムともう一本、新たに得た魔剣が竜巻の如き斬撃を発生。
回避などに出る必要はなし、小手先の技は力で打ち破るに限るのだから。
次は刃を放った本人の番と言わんばかりに、黒死牟を襲う二振りの剣。
左右から挟み込むように襲い来る刀身を、跳躍し躱した上で頭上からの一撃を見舞う。

338刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:43:33 ID:LPbpj4TY0
――月の呼吸 参ノ型 厭忌月・鞘

横薙ぎの刀から放つ三日月状の刃が、鋸を思わせる回転で飛来。
連続で放ち位置を変え、回避を更に困難なものへ変える。
尤も、デェムシュの対処法は同じく得物を用いた迎撃。
叩き付けるかのように振り下ろされ、刃は全て剣が食い潰す。

着地の瞬間を見極め襲い来る双剣を、黒死牟は刀一本で防ぐ。
癇癪を起こし暴れる童子さながらの動きに見えて、その実狙いは恐ろしいまでに正確。
自らを怒りに捕えながらも、編み上げた剣技の低下は引き起こさない。
むしろ怒れば怒る程、技のキレが増す気さえあった。
感情を剥き出しにし、尚且つ振り回されず糧にするとは実に厄介極まる。

「そっちから喧嘩売っといて、無視は酷くない?」

不満を垂れる口調は年相応の微笑ましさがあれど、我が身を矢に変えた速度は到底少女のソレではない。
頬を膨らませながら結芽が接近、迅移を使い加速の勢いを乗せた刺突を放つ。
加えて得物は破壊困難な御刀、鉄板を重ねても貫通は確実だろう。
尤も人間の常識を鼻で笑う耐久性のデェムシュには届かず、そもそも刃を体に当てさせてももらえない。
シュイムで黒死牟を相手取りつつ、二本目の得物を結芽へ突き出す。
切っ先同士の衝突が起こり、押し負け後方へとよろめく。

「かったい…!」

八幡力で筋力を強化したと言うのに、尚も力は敵が上。
既に分かり切ってるが、マトモな打ち合いでは自分が圧倒的に不利。
それならそれで戦い方はある、再度迅移を発動し疾走。
別方向から狙うも、オーバーロードは動体視力にも優れた存在。
のこのこ近付く姿をハッキリと捉え、反対に串刺しにせんと突きを放つ。

339刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:44:21 ID:LPbpj4TY0
そこへ動くのは三人目、桜色の矢を射る魔法少女。
装填の手間を必要とせず、意思一つで連射可能なクロスボウ。
固有装備でデェムシュを狙い撃ついろはが、仲間へ攻撃を当てさせない。
倒せるとは思っていない、少しでも気を逸らせれば良い。
現に背へ突き刺さり、鬱陶しい痛みにデェムシュがこちらを睨み付けた。

ナイスと言いながら剣を紙一重で躱し、真紅の胴体を斬り付ける。
これが人なら重症は確実、しかしデェムシュには痒いと感じたかも怪しい。
ただでさえ強固な体がロックシードの摂取の影響を受け、更に頑強な装甲と化したのだから。

厄介な敵がもっと厄介になって自分達の前に現れた。
直視せざるを得ない現実に、文句を付ける暇は存在しない。
上体を大きく反らし避け、結芽は次に斬るべき箇所を定める。

直後、傍らで膨れ上がった威圧感に幼い肢体が引き締まった。

「――っ!あはっ…やっば♪」

自身へ敵意を向けられたのではないが、急ぎ離れねば危険。
汗を垂らしつつも楽し気な笑みを浮かべ、黒死牟から距離を取る。
誤解から始まった戦闘時にも感じた技の予兆。
違うのは一点、本気で殺す為に放つ気だ。

――月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面

背中へ回した刀を前方に振り、頭上より複数の斬撃波が降り注ぐ。
流星群の如き勢いと、床を砕き地下深くまで削り取る威力。
鬼殺隊を苦しめた悪夢同然の光景が、此度は黒死牟と同じ人外を屠る為に放たれた。

「オノレ…!」

広範囲尚且つ、不規則な軌道故に読み辛い。
よってこの戦闘で初めて双剣の防御を選択肢から外し、回避を選ぶ。
全身を赤い霧に変えロビー内を飛行、斬撃波が当たろうともダメージにはならない。
首輪に衝撃が与えられる可能性は無視出来ない為、気は張っているが。

340刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:45:41 ID:LPbpj4TY0
「当たって!」

気体化を解除した瞬間を狙い、いろはがクロスボウを連射。
デェムシュにとっては微々たる違いだろうが、以前の交戦に比べ矢の威力も上がっている。
装備者の攻撃の貫通力を強化するアクセサリー、ストライクマークもいろはの支給品の一つ。
大型の魔女にも効果的なダメージを与えるだろうけれど、今回は相手が悪い。

しかしデェムシュの肉体を貫けないのは百も承知。
狙うのは左手に握る得物の刀身部分。
一点集中で命中させ、剣を持つ力が弱まった所へ動くのは結芽だ。
彼女もデェムシュの能力は初戦時にある程度把握しており、実体化のタイミングを見逃さない。

「あんなキラキラした剣、おにーさんに似合ってないよっ!」
「減らず口ヲ叩クな猿ガ!」

小馬鹿にするようにけらけらと笑う結芽へ、何度目になるかも分からない苛立ちを覚える。
挑発こそしないが、この機を逃さぬと黒死牟も接近。
離れた位置ではいろはもクロスボウの狙いを付け、反撃に打って出る気なのは明らか。

「貴様ラの勝利なド万に一ツも有リ得エん!」

剣一本を手放した程度が何だと言う、愛剣は未だ手元に存在する。
加えて両手が塞がっていた先程と違い、左手が開いたから使用可能な力があるのだ。
猿の道具を使う抵抗感などとっくに消え失せており、何の躊躇もない。
数度の使用で使い慣れた力を、此度は更に上位の術として引き出す。

「……」

表面上の変化が確認出来ない程小さく眉を顰め、黒死牟が脚を速める。
いろはと結芽も足元で力の収束が発生し、慌てて飛び退く。
水の主霊石を使った攻撃は、対象の凍結や氷柱の射出だけじゃない。
地面から次々氷が噴出し、天井へ届き兼ねない程の高さとなった。
直撃すれば人体など鑢にかけられたように、骨まで削り取られるに違いない。
足を止めず回避しながら距離を詰めた黒死牟は、斬り殺し強制的に術を止めんと動く。

接近に気付かないデェムシュではない、自前の能力である火球を生成し連射。
強化の恩恵を受け弾幕を張るも、面攻撃は敵の得意分野。
刀が生み出す無数の三日月に掻き消され、直に頸を落とすべく踏み込む。

341刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:46:28 ID:LPbpj4TY0
「……っ!」

だが直前で真横へ跳び、結果デェムシュから遠ざかる。
そうせざるを得ない理由は、破壊され見るも無残な床を照らす光。
氷の柱か火球の連射か、どちらが原因かはこの際重要ではない。
不死に等しい生命力の鬼が唯一恐れる、太陽の光がロビーを照らしていた。

「…ハハハハハハッ!ソうか!やはリ貴様は我ラに遥カに劣ル、下ラン猿に過ぎン!!」

悪い事にデェムシュも弱点を察したらしく、嘲笑と共に火球を放つ。
狙いは天井や壁、日の光を遮る物体を破壊するつもりなのは明白。
当然阻止に動き刀を振るうも、不意に自分を包む影に頭上からの脅威を見た。
火球を放つ間も主霊石を操作し、巨大な氷塊を生成。
参ノ型『厭忌月・鞘』で砕くが狙いは別にあった。
天井と自身の間に氷塊で壁を作り、一時的に視界を塞ぐ為だ。

「がっ……!?」

氷塊の破壊へ意識を割いた一瞬の内に、黒死牟の真上部分の天井を破壊。
細かに散った氷の欠片をも溶かす、太陽の光が降り注ぐ。
人間達には祝福の光も、鬼にとっては地獄の責め苦に等しい。
網の上で炙られるように皮膚が焼け爛れ、力を急激に削ぎ落す。

「黒死牟さん…!」

鬼の死。
大正の世にて僅か数体の例外を除き、人々が望んだソレをこの場においては認めない者がいた。
火球や氷柱が群れを為し襲う中、歯を食い縛りいろはは駆ける。
時折掠め純白のフードに赤色が滲むも、構っている場合じゃない。
奇跡的に無事な箇所の床を蹴り、黒死牟の元へ身を投げ出す。
渾身の力で飛び掛かった甲斐もあり、自分諸共日陰まで放り出された。

「ヌウエエエエエエエエエエエエイッ!!!」

巨大な竜巻に身を変えたデェムシュが、二人を纏めて吹き飛ばしたのは直後のこと。
運が良いのか、病院内の壁を突き破り奥へ奥へと転がる。
落ちて来た瓦礫がロビーへの道を塞いだ。

342刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:48:40 ID:LPbpj4TY0



「……」

何をしているのだろうかと、改めて無様な自分へ辟易する。
稚雑な策に翻弄され、地に背を付け倒れ伏す有様。
これでもまだ屈辱感を戦意に変える気さえ起きず、ため息を吐くのも億劫だ。
極め付けは、そう、

「黒死牟さん!大丈夫、ですか…?」

間近で自分の顔を覗き込む娘の存在が、余計に己を惨めにする。

突き飛ばした状態から然程変わらず吹き飛び転がった為、傍から見れば相手を押し倒す体勢。
自身の現状を気にする余裕もなく、いろはは心配気に尋ねる。
鬼が太陽に嫌われてると、黒死牟から直接聞いた。
最初から疑う気は微塵も無かったが、先の光景が嘘ではないとの証明。
業火へ包まれたように全身が焼け爛れ、骨も残らない消滅は時間の問題だった。

「見て理解出来ない程の……愚鈍ではないだろう……」

苛立ちを籠め、投げやり気味に吐き捨てる。
日の光から逃れたなら、鬼の生命力も即座に機能し再生。
惨たらしい火傷は消え失せ、傷一つない肉体がいろはの視線の先にあった。
ホッとしたのも束の間、ようやく自分の体勢に気付き慌てて退く。

「ご、ごめんなさい…でも、黒死牟さんが助かって良かったです」
「……」

恥ずかし気に頬を赤らめ、かと思えば心からの安堵で笑みを見せる。
これが鬼狩りなら「大人しく死ねば良いものを」と、憎悪を滾らせ言うだろうに。
今に始まったものではなくとも、やはりこの娘はどうかしている。
理解の到底及ばない狂人だと言う他ない。

343刃骸魔境(中編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:49:27 ID:LPbpj4TY0
だというのに、未だそう言い切らない自分もまたおかしくてならない。
思考を割く意味も価値も無しと断じれば、簡単に済む話だろうに。
何故、何故と馬鹿の一つ覚えで声に出さず問い続ける。
いろはも、自分自身も理解出来ないのは、二度目の生を受け間もない頃から変わらない。
ただ唯一、己を太陽から遠ざけたように。
この娘が「そういった行動へ躊躇せず出れる人間」とだけ、数時間の付き合いで分かった。
だから何だと言うものであり、本人へ伝える気は小指の先程もないが。

のっそりと体を起こし、ロビーと違って原型を保った床を踏みしめる。
と、自分達以外に転がる物へ気付き手を伸ばす。
暴風に巻き込まれ偶然ここまで飛ばされたのか、運が良いのか悪いのかよく分からない。
拾い上げたソレはただの人間には重く、だが鬼の膂力には軽い。

「それって……」

黒死牟が手にした物を、いろはも少々驚きつつ見つめる。
つい先程までデェムシュが振るい、結芽が弾き落とした剣だ。
前に戦った時には使ってなかったが、支給品で所持してたのか。
持ち主の手を離れ黒死牟の元へ渡った以上、わざわざ返す理由もあるまい。

眩い刀身と、黄金の蝙蝠の形の鍔。
特徴的な剣がただ豪奢な見た目だけではないと、二人共分かる。
魔法少女に変身中のいろはは、そこにあるだけで溢れる力をより深く感じ取った。

「もしかしたら……あの赤い人?に勝てるかもしれません」

剣を見つめたと思えば、考え込む仕草を取ること十数秒。
閃いたように顔を上げたいろはへ、訝し気な瞳を返す。
この剣が妖刀、否、魔剣の類だとは察しが付くも振り回せば勝てると言う気か。
疑問を視線に宿しぶつければ、逸らさず受け止め口を開いた。

344刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:50:55 ID:LPbpj4TY0



「弱い!弱過ギるぞ猿!所詮ハ滅び行クダケの脆き下等種族カ!」
「一々煽んないでよ!ほんっとに性格悪い!」

状況は悪化の一途を辿っている。
正面切って剣戟を展開可能な黒死牟、ベストタイミングでの援護を行ういろは。
両名が一時的に戦線離脱し、結芽単独でデェムシュを相手取る羽目になった。
どれ程分が悪いかを懇切丁寧に行うまでもなく、回避へ専念するので手一杯。
時折刀が胴を叩くも、ダメージらしいダメージは一切なし。
だったら胸部へ浮かぶ、恐らく自分や黒死牟が放送前に付けた傷痕を狙うも効果はイマイチ。
率直に言って、破壊力が大きく足りない。

「蒼炎の剣士の効果を発動!」

遊星の宣言通り、自身の攻撃力低下を代償に結目を強化。
600ポイントアップは少なくないが多くもない、しかし微量だろうと力を上げねば勝てない。
細い腰へ迫る大剣を防ぎ、歯を食い縛って押し返す。
体勢も崩せれば隙が生まれるのだが、巨体をグラつかせるには腕力が不足。
反対に太い足で蹴りが放たれ、全身を大きく反らしながら後退。

(マズいな……)

結芽一人でデェムシュと戦うのは無茶と、天津達もすぐに察したのだろう。
ブレイドを押さえ、遊星を援護に向かわせた。
なれど状況は芳しくない。
引いたカードによって戦況が左右されるとはいえ、今のままでは壁モンスターをチマチマ並べるのが精一杯だ。
少しでも結芽への脅威を肩代わりすべく、スケープゴートを発動したが気付けば既に一体のみの有様である。

345刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:52:15 ID:LPbpj4TY0
「猿ノ小細工ニモ期待できンか!ナらバ揃って死ヌがイイ!」
「勝手に終わりにしないで欲しいんだけど!」

城之内の時程のトリッキーな戦法は無く、デェムシュの中で決闘者への警戒度も多少低下。
見下し敗北を突き付けるが、そんなつまらない最期を共に戦う少女が否定する。

「こんな奴に好き勝手言われたままじゃ、おにーさんだってムカつくでしょ!」

刀身越しに走る痺れで得物を落としそうになるも、決して放すまいと握り締め背後へ叫ぶ。
最初はカードで戦うなんてピンと来なかったし、一緒に戦うのだって群れてるみたいで良い気分じゃなかった。
しかし一度はデェムシュへ食らい付かせてくれた城之内を、片腕が使い物にならなくなって尚大尉に勝利を収めた遊星を。
最後の最後まで降参(サレンダー)を跳ね除け、戦い抜いた決闘者(デュエリスト)達を見て来た結芽だから言える。
きっと此度も、強敵へ一泡吹かせられると。

「…ああ!ここからが、本当の勝負だ!」

仲間からこう言われ、彼女なりの信頼を向けられたなら応えない訳にはいかない。
戦意が燃え上がる、絆を信じる心が新たな可能性を引き寄せる。
覚えのある感覚に逆らわず、勝利への鍵(ピース)を掴み取るべく手を翳す。
これは自分一人の戦いではない。
結芽と、力を貸してくれるカード達と、デッキを遺していった戦友。
たとえ城之内自身はもうこの世にいなくても、決闘者にとって最大の相棒とも言えるデッキがあるならば。
己が魂の叫びに、必ずや応えてくれる。

346刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:54:22 ID:LPbpj4TY0
「――っ!?これは……」

そうして心意は、再び遊星へ微笑む。
無から生み出した、或いは引き寄せた可能性を実体に変えた。
現れたカードはホカクカードでもなければ、城之内のデッキにも存在しなかった一枚。
戦況を変えられるかもしれないが、デュエルモンスターズの宿命と言うべきか。
サテライト・ウォリアー同様、手札から出して即発動とはいかない。
必要なキーカードを揃える必要があり、現状ではただの紙同然。

「俺のターン!ドロー!」

だったら引き当てるまで。
絶体絶命の状況で、一度のドローに全てが懸かった場面は初めてじゃない。
これまでと同じ、デッキを信じるだけ。

「よし…!手札から運命の宝札を発動する!」

サイコロを振り出た目の数ドローを行い、その後同じ枚数をデッキから墓地へ送る。
運次第だが手札補充と墓地の環境調整を同時に行う、起死回生の一手。
出目は3、新たに手札を増やし――勝機を掴んだ。
黒き竜が遊星の元へ渡ったのだ。

「儀式魔法、レッドアイズ・トランスマイグレーションを発動!蒼炎の剣士と手札の真紅眼の黒竜をリリースして、ロード・オブ・ザ・レッドを召喚!結芽!受け取ってくれ!」
「うん!って、なにこれ!?」

先んじて結芽を強化したモンスターと、手札の黒竜を捧げ降臨させる。
但しフィールドにそのまま出すのではなく、仲間への装備としてだ。
結芽が驚くのも当然の反応だろう、てっきり剣を寄越すのかと思ったらまるで違う。
幼い肢体を覆い隠す、黒く輝く竜の装甲。
背には剣のように鋭利な翼を生やし、臀部からは太くうねる尾が出現。
加えて頭部は黒竜を模した兜を装着、両手と顔面以外は全て鋼鉄を纏った。
S装備とも大きく異なる鎧姿の結芽は、困惑を露わに全身を見回す。

別の世界線の城之内が、ドーマの三銃士の一人ヴァロンとのデュエルで召喚した儀式モンスター。
城之内自身がパワードスーツのように装備し、相手プレイヤーとの壮絶な死闘を繰り広げた。
デュエルでありながら、リアルファイトでもある特異性は殺し合いでも健在。
結芽に装備させる形で召喚を果たしたのだった。

347刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:55:09 ID:LPbpj4TY0
「もう!着させるなら先に言ってよね!でも、何かいけそうかも!」
「ガラクタを纏っタ所デ何だトイうのダ!」

予想してなかった為少々抗議を入れるも、切り替えデェムシュへ斬り掛かる。
黒い手袋と違い、仲間との協力があって齎された力だ。
なら抵抗感なしで戦える。
見た目が多少変わった程度で動じないデェムシュの大剣と、御刀が真っ向から激突。

先程までなら力負けし吹き飛んだろうが、もうそうはいなかない。
2400の攻撃力を結芽の元々の強さに上乗せし、大幅な強化が叶ったのだ。
押し負けず拮抗、刀身がギリギリと擦れ火花が散る。
互いに弾かれ、秒と掛けずに再度激突。
デェムシュの薙ぎ払いを劣らぬ膂力で叩き落とし、床を踏み砕きながら突きを繰り出す。

「猿ノ小娘がァッ!!」

切っ先が僅かに触れるのすら許さない、打ち払い反対に首目掛け大剣が駆ける。
甲冑を纏っていようと無関係、隠れた細い首共々粉砕するまで。
2000を超える守備力があっても、デェムシュ相手に慢心は抱けまい。

「猿猿猿って、同じことしか言えないおにーさんの方がお猿さんだと思うなっ♪」

ロード・オブ・ザ・レッドを装備しても、迫り来る死には背に冷たいモノが落ちる。
だが馬鹿正直に緊張を面に出し相手を調子付かせるのは、癪なのでお断り。
小生意気に笑い飛ばし跳躍、シュイムの刀身へと着地。
写シを使用中なのもあるが、鎧を纏っているのに身軽に動ける。
耐久性を犠牲に機動力が低下、といったデメリットは皆無らしい。
生身の時と謙遜ない戦闘が可能ならこっちのもの、刀身から更に跳び上がり頭上を確保。
落下の勢いを利用し刀を振り下ろせば、向こうも咄嗟に得物を翳して防ぐ。

348刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:56:03 ID:LPbpj4TY0
「ヌグ……!」

しかし容易く受け止めた数分前と同じと思ったら大間違い。
斬られはしないが衝撃が伝わり、堪らず後方へよろける。
チャンス到来に畳みかけるべく懐へ潜り込むが、後方へデェムシュが大きく跳び距離を離す。
逃げる為でないのは、周囲に発生した熱と冷気からも明白。
火球と氷柱を同時に連射、ドラゴンフルーツエナジーロックシードの強化を経て数も倍増。
火達磨か串刺しか、どちらであっても惨たらしい最期なのは同じ。

「今更そんなので止まらないよ!」

初戦の時なら厄介と感じたろう光景も、結芽を怯ませる効果は期待できない。
耐久性を過信する気はないけれど、仲間の支援に背中を押されれば後退は選ばない。
火炎と氷結の渦を突っ切れるだけの力がある。
それでも足りない分は結芽自身の技量で補えば良い話だ。

縦横無尽に戦場を駆け、二つの弾幕を斬り落とす。
時折多少の着弾を許すも、ダメージとしては致命傷に程遠く写シも剥がれない。
恐れるに足りないと距離を詰め、自らの刃の間合いへ到達。
いい加減強烈な一刀をお見舞いしてやりたいと、不満が高まっていた所なのだから。

「猿がドれだけ力を付けよウト無駄だ!己が身デ愚カサを知ルガイい!」

氷柱の射出だけが主霊石の全てでない事を、再び体へ教えてやる。
憤怒と共に念じ力を引き出す、先の氷の柱をも超える術が発動。
冷気が彼らの頭上高くへ収束し、絶望の具現化を果たす。
ただひたすらに巨大で無骨な、触れる全ての命を凍てつかせる大剣が出現。

「あそこまでの大きさを…!?」
「ちょっとやり過ぎじゃないのアレ!?」

これまで見せた主霊石の力を遥かに上回る秘奥義。
広範囲の地面凍結も面倒だったが、厄介度で言えば落ちて来る大剣が勝った。
軽く引きつつ文句を言う結芽を尻目に、遊星も目を見開き焦燥感を抱く。

余裕が剥がれ落ちる人間達をオーバーロードが嘲笑い、

349刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:57:15 ID:LPbpj4TY0
「あれって…!」
「ふむ……規模だけなら……童磨にも匹敵か……超えるやもしれん……」
「感心してる場合じゃないですよ!?」

魔法少女と鬼が、敗北の幕引きを打ち砕く。

瓦礫の山を細切れにした黒死牟に並び、いろはもまた一刻の猶予も無いと分かった。
ほんの少し戦場から離れた間に、何やらとんでもない事態になった様子。
単体でここまでの力を引き出す強敵へ身震いするも、慄く為に戻って来たんじゃあない。
気を引き締め、勝負に出るべく手を伸ばす。
自分と彼、凍てつく世界を共に消し去れる筈。

やる気に満ち溢れるいろはと反対に、黒死牟は喧騒をどこか遠くに感じつつ考える。
横に立つ娘からの提案を馬鹿正直に受け入れるのが、本当に己の在り方なのか。
人間と協力するなど、それが確実な勝利に繋がると本気で思っているのか。
もっと自分らしいやり方があるだろう。

食えば良い、肉を喰らって糧にし強くなれば良い。
始祖の血を受け入れ、激痛に悶え苦しんだ末に順応し早数百年。
鬼狩りを斬っては食らい、斬っては食らいの繰り返しで力を付けた。
今までと同じ方法で、人間共を己が勝利の為の礎にする事こそが正しい。
そう嘯く声は自分自身のにも、或いは主の声にも聞こえる。
逆らう理由はない、鬼とはそのような存在だと――

「お願いします!黒死牟さん!」
「……………」

沈んだ思考は、煩わしくも無視出来ない声で引き上げられた。
浮かべた鬼としての在り方は、視界へ映り込む桜色に取り払われた。
六眼を射抜く瞳は出会って間もない時と、自分を助けるとのたまった瞬間から何一つ変わっていない。
こちらが今正に食らおうかと考えていたなんて、微塵も思い付かないだろう。
打算も疑いもなく共に戦えば必ず勝てる、そう一切の澱みが宿らぬ顔で伝えて来る娘に。
己が内で傾き掛けた天秤の重しは崩れ、砂の城ように消える。
本当にこいつは一体何なのだろうか、数えるのも馬鹿らしくなったため息を零し、

350刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:58:17 ID:LPbpj4TY0
翳したいろはの掌に、自分のを重ねた。

コネクト、本来はソウルジェムが核となる魔法少女同士の術技。
一方の魔力をもう片方へ付与し、異なる属性を合わせ高位の力に変える。
インキュベーターとの契約を行った魔法少女、という条件がコネクトの大前提。
しかし檀黎斗のゲームでは、神浜市での前提が大きく覆る。
例を上げれば七海やちよと千代田桃。
冴島邸前で起きた戦闘で、彼女達は魔法体系が全く異なるにも関わらずコネクトを発動させた。
魔力か類する力があるなら、インキュベーターと契約した魔法少女でなくともコネクトは可能。
黎斗がそのように調整を行った証拠である。

いろはが黒死牟とのコネクトが可能となった要因は、主に二つ。
黒死牟に限らず無惨配下の鬼は、血鬼術と呼ばれる異能力を使う。
体内を流れる鬼の血、若しくは目に見えぬ形で溜め込まれたエネルギープールか。
いずれにしろ術の発動に必要不可欠な力の源が、魔力の代用となった。

もう一つはデェムシュの手から離れ、先程回収した武器。
ザンバットソード、ファンガイアの王の為に作られた『キバの世界』にただ一つの魔皇剣。
その刀身は魔皇石の結晶から削り出された為、剣自体が強大な魔皇力が宿っている。
異なる魔力を組み合わせれば暴走の危険性も無視出来ないが、鍔のように噛み付く巨大蝙蝠が問題をクリア。
幻影怪物ザンバットバットは元々、魔力のコントロールを目的に生まれた存在。
所持者が紅渡でなくとも役目を果たし、コネクトを成功させたのだった。

熱を帯びた魔力が流れ込む。
全集中の呼吸による、血液が沸騰する感覚とはまた違う。
自身を狂わせた弟の、魂までもを焼き尽くす日輪の熱さでもない。
暖かさと言った方が正しい熱は、人間ならばきっと心地よさを覚えるのだろう。
鬼である黒死牟にとっては相容れぬ、纏わり付くようで鬱陶しさがあった。

351刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:59:03 ID:LPbpj4TY0
されど、力を齎したのも事実。
地上の猿に終焉の刻を与える大剣を見上げ、魔皇剣が半月を描く。

桜が舞った。
死を運ぶ三日月は現れず、無数の花弁が氷の剣を覆う。
永遠に凍り付く世界を否定し、暖かき季節の到来を思わせる光景。
幻想的なれど、真紅の騎士には猿の三文芝居以外のなにものでもない。
そんなもので何が出来る、自分を笑わせるのが目的かと嘲る。

「ナん…だト……!?」

凍り付いたのは憎たらしい猿達ではなく、醜悪なデェムシュの笑い。
地上への到達を待たずして氷の大剣が砕け散る。
降り注ぐ凶器にすらなれず、破片も残さず切り刻まれた。
何が起きた、あれは何だと混乱が湧き上がるも長続きしない。

「ぬグオ!?」

桜吹雪はデェムシュにも殺到し、真紅の肉体を余す事無く隠す。
胴を、四肢を、首を、頭部を、得物を撫でられ嫌でも気付かされる。
花弁一枚一枚が、全て凶器なのだ。
三日月状の極小の刃を桜色の魔力が多い、舞い散る花弁を模った。
全身を絶えず斬撃が襲い、無数の細かな剣が外殻を削り取る。
シュイムを振るい叩き落としても終わりが見えない、氷の大剣と同じになるまで続くと言うのか。

「舐めルナ猿メェッ!!!」

気体化し回転、全身を赤い竜巻に変え花弁を吹き飛ばす。
範囲に優れる力が使えるのはこちらも同じ、対処出来ない道理はない。
桜吹雪が儚く消え去り、残ったのは無数の細かな傷こそ負ったが五体満足のデェムシュ。

352刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 18:59:43 ID:LPbpj4TY0
「下ラん!猿ノ茶番で俺を――っ!?」

言葉が途切れ膝を付く。
プライドの高いデェムシュらしからぬ醜態へ出る程の異変が、体内で起きている。
数百枚に及ぶ花弁を消し去ったが全てじゃない。
ロックシードを食らい進化しても消えなかった傷痕から入り込み、十数枚の刃が内側で暴れ狂っていた。

「う、ゴ、オぉオオオオオオオオオオオッ!?」

如何に進化体のデェムシュと言えども、体内の強度は変えられない。
鬼の刃が刻み、魔皇力が蝕み、魔法少女の魔力が焼く。
それぞれ異なる世界の力が合わさり、オーバーロードを勝利から引き摺り落とす。
胸部の傷痕は範囲を広げ続け、内側から深い裂け目を生み出した。

「こ…ノ……程度がどウした……!!」

人の体でなくとも重傷なのは、誰の目にも明らか。
だがデェムシュは激痛をも怒りで塗り替え、戦闘続行を選択。
フェムシンムである自分がこの島に来てから、未だ只の一人も殺せていない。
放送を超えても猿へ屈辱を味合わされ、沢芽市を襲った時以上の激情が湧き上がる。

だから撤退は選ばない、選べない。
戦士としての合理的判断を捻じ伏せ、殺意の二文字が脳内を支配。
殺す、今度こそ憎き猿共を一人残らず殺す。

「死ヌのハ貴様ラだ猿!!」

怒声を放ち向かって来る異形を前に、黒死牟は構えない。
妖刀と魔剣、己が手にある得物はどちらも下げたまま。
直に殺意を浴びせられたなら、同様に殺意で以て応えねば不作法。
だというのに刀を抜かない理由は、無限城の最期が後を引き未だ戦意を取り戻せないから。
或いは、自分以外の者が決着を付けると理解した為か。

353刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:00:31 ID:LPbpj4TY0
「だーかーらー、二回も言わせないでよ」

異形の前に躍り出たのは、黒竜の甲冑を纏いし刀使。
頬を膨らませ不満を露わにしつつも、発する空気は抜き身の刃の如き鋭さ。
細めた瞳は赤い強敵をしかと捉え、一挙一動を決して見逃さない。

「そっちから喧嘩売っといて、無視するのはマナー違反だよね?」
「知ルか猿がァっ!!!」

元より猿との会話は求めない。
多少順番が入れ替わっただけで、黒死牟も結芽も殺したい相手なのに変わりはない。
主霊石を砕けん程に握り締め、氷柱の剣山を足元に生成。

「さっきも言ったでしょ!今更この程度じゃ止まらないって!」

翼を広げ猛加速、立ち塞がる剣山を豪快に斬り砕く。
チマチマ小細工で勝って嬉しいのかと、そう言わんばかりに不敵な笑みを見せる。
舐められたと、デェムシュの怒りを引き摺り出す効果は抜群。
猿の驕り共々打ち砕く刃を振り下ろし幕引きだ。

(思い出せ――)

病ではなく怪物の手による死が迫るも、焦燥は抱かずじっと見据える。
脳裏へ浮かぶのは数時間前の、上弦の壱との斬り合い。
ほんの一瞬だけ到達した世界へ、今再び踏み込まんと臨む。
闘争への歓喜が灼熱となる心はそのままで、脳は波立たぬ水面のように。
五感全てを、目で見える以外の情報を余さずに受け入れる。

354刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:01:06 ID:LPbpj4TY0
剣が迫る、動かない。
剣が迫る、恐怖や焦りを排除。
剣が迫る、だけど心の火は絶対に絶やさない。
剣が迫る、

(――――――見えた)

1秒にも満たない、瞬きしたら終わってしまうくらいに短い。
六眼の侍の領域にはまだまだ遠く及ばないけど、でも。

「――――――ッ!!!!!!!???!!」

シュイムが食い破る筈の娘は、僅か数歩で位置を変え回避。
霞を払ったとしか思えぬ手応えの無さに、空振りの理解すら叶わない。
魔法少女と鬼が作り上げた裂け目へ、深く深く刃が捻じ込まれ。
逃れられない終わりを、確かに届けた。

「オ……オ…ォ…オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

死ぬ。
底抜けの器から水が溢れるように、デェムシュを生かす力が抜け落ちる。
ヘルヘイムの侵食に適応出来なかった弱き種族と同じ、死という結末が足音を立てやって来る。
認めない、何度突き付けられても認めはしない。
朽ち果てるのを待つ身のどこにまだ、抗えるだけの力が残っていたのか。
狂ったように火球をばら撒く。

壁や天井を片っ端から壊し、日の光で照らし尽くす気か。
許し難い鬼だけでも殺すつもりだろうが、望んだ展開にはさせない。
幾度も斬り合い、散々暴れ回ったのが原因でデェムシュのデイパックに切れ目があった。
そこから落ちて床に転がった支給品を、遊星が駆け出し掴む。
ウィザードに変身中なのもあって、生身以上の走力を発揮。
火球の巻き添えになる前に確保に成功、どんなアイテムかもシーブロックと呼ばれる視覚機能で遠目に確認済だ。

355刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:02:18 ID:LPbpj4TY0
「フィールド魔法、闇を発動!」

宣言と同時に病院を含めた付近一帯が闇に覆い尽くされる。
名前の通り、フィールドに闇を展開するデュエルモンスターズのカード。
特定種族へ微々たるものだが強化を行う、という効果以上の恩恵がこの状況。
ドームのように広まった闇は太陽光を遮断し、鬼の天敵を寄せ付けない。

「アンタが持ってた方が良い筈だ」

投げ渡されたカードを咄嗟に掴み、目を細め手元に視線を落とす。
こういった道具を主は強く欲するだろうに、よもや自分の方が先に手に入れるとは。
何とも言えぬ思いがよぎるのも束の間、黒死牟の意識を騎士の声が引き戻す。
消滅の時へ必死の抵抗を続け、未だ生へしがみ続けている。
頸を落とされ抗った末の崩壊を想起させ、苦々しさに頭蓋が軋んだ。

「死なン…!猿如キに俺が殺さレルもノか……!」

火球を放ち牽制しつつ、全身へ伸びる冥府からの手を振り解く。
人間達の足を止めた隙に、赤い霧へ変化し天高く飛び上がる。
今しがた開けたばかりの穴から脱出、脇目も振らずに遠ざかって行った。
眼下で起こる喧騒には最早、気を割く余裕がない。

「ふざけんな!(迫真) 一人だけ勝手に逃げるとか頭に来ますよ!」

協力相手の逃走は野獣先輩にも見え、勝手な行動へ憤りを隠せない。
しかも一人も殺せておらず、とんだ役立たずだと届かぬと分かっていながらも罵声を放った。
その間、戦闘の手は休めず二人のライダーと鎬を削る。
キングフォームの能力とスタープラチナを駆使し渡り合う、だが結芽達が加勢に来れば流石にこちらが不利。
自身も撤退を視野に入れつつ、ただせめて一人くらいは仕留めておきたい。

356刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:03:05 ID:LPbpj4TY0
「「スタープラチナ・ザ・ワールド」」

重なる声が合図となり、時は二人の男以外の侵入を阻む。
スタンド同士がラッシュを繰り広げる一方で、本体も得物を用いて激突。
打撃の嵐を黄金の大剣が捌き、至近距離で放った電撃をツインブレイカーが強引に薙ぎ払う。
2秒を超える時の支配は共に不可能、再び動き出した世界で野獣先輩が一手早く動き出し、

「ロード・オブ・ザ・レッドの効果発動!」
「りょーかいっ!」

決闘者の宣言が好き勝手に歯止めを掛けた。

自分以外のモンスター効果・魔法・罠の発動があった時、そのカードかフィールド上のモンスター一体を破壊する。
1ターンに一度という制約こそあれど、シンプルながら強力な効果だ。
スタープラチナの時間停止を遊星は正確に把握してないとはいえ、度々奇怪な現象を見れば凡その察しは付く。
今回は野獣先輩を対象に発動、ロード・オブ・ザ・レッドを纏った結芽が飛翔。
全身に火炎を纏い急降下、汚らしい身を包んだ黄金を叩っ斬る。

「アツゥイ!」

どこぞの日本ペイント社員のように、ゲスく汚い悲鳴を上げる。
重厚な鎧を着込んで尚も殺せぬダメージに悶えるも、ホモ特有のしぶとさで反撃に出る。
ただでさえ放送前からメスガキに余計な邪魔をされ、今もまた別のメスガキの妨害を受けた。
怒り向けるすメスガキの片方が、いろはの探す柊ねむだとは知る由もなく。
仮面の下で修羅の形相を作り、キングラウザーにラウズカードを装填。

357刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:04:15 ID:LPbpj4TY0
『SPADE 10』

『JACK』

『QUEEN』

『KING』

連続でスロットに読み込まれ、封印されたアンデットの力が刃に宿る。
トライアルシリーズを一刀の元に下した、必殺の剣を放つ時だ。
剣崎と同様の適合率を得た野獣先輩が振るえば、本来のブレイドにも並ぶ威力を叩き出す。
小賢しいメスガキを骨まで焼き尽くす光景を想像し、あくどいしたり顔が浮かんだ。
残り一枚の装填で以て、ロイヤルストレートフラッシュは完成。

『JACK RISE』

「ファッ!?」

しかし最後のエースを読み込む寸前、槍がカードに突き刺さり阻止。
決めの一手を装填出来なければ、必殺の光刃も生まれない。

「やられっ放しは性に合わないものでしてね。一泡吹かさせてあげましょう」

してやったりの笑みを仮面越しに浮かべ、ラウズカードのデータを抽出。
変身時にもカードを使った事から、プログライズキーのような力の核となる物だと天津は察知。
半分以上は賭けに近い形であれども、結果は成功だろう。
単なる紙ではなく、BOARD製のシステムに読み込ませる為のデータが組み込まれている。
であれば、データ抽出の機能を持つサウザンドジャッカーの出番という訳だ。

『JACKING BREAK』

奪ったデータを早速使い、青いエネルギーを武器に付与。
ヘラクレスオオカブトの顎を思わせる光剣に変え、ブレイドへ振り下ろす。
自身の力の源を利用した攻撃に怯み、機を逃さず承太郎が仕掛ける。
追撃はさせじとスタープラチナを出現、反対に殴り飛ばしてやろうと拳を放った。

358刃骸魔境 ─乱舞Escalation─ ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:05:11 ID:LPbpj4TY0
「オラァッ!」

が、ダメージに怯んだ為一手遅く相手の打撃を許してしまった。
スタンドの頬へ当たる、同じスタンドの拳。
本体へダメージが走り小さく呻くも、たった一発で勘弁してやるつもりはない。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」
「ンアッー!」

同性能のスタンドだろうと反撃もままならないなら、ほんのちょっぴり頑丈なサンドバッグに過ぎない。
敵スタンド使いを再起不能へ追いやったラッシュが打ち抜き、偽りの星を砕く。
派手に吹き飛び柱へ激突、バックルが外れ元のうんこの擬人化のような身を晒した。

「アーイキソキソ……」

ホモセックスの絶頂を訴えるように、痛みへ喘ぐ。
漏れ出す声は汚いが、暫くは動けまい。
これで残るは病院の外で戦闘中のライダーのみ。
全員でキャルの加勢に行けば、数の差で一気に終わらせられると考え、





空気が一変した。





傷一つ付けられていない、触れられてすらいない。
だというのにこれは何だ、何が起きている。
全身の皮を剥ぎ、健を断ち、骨を刻まれたに等しい痛みが。
ただそこにいるだけで死を予感させる怪物が、姿を現した。

「は…………?」

呆けた声を誰が発したのかを、探る様子は見られない。
脳の処理が追い付かない光景を受け入れるまで、待つ余裕すら与えない。

命を繋ぐ医師の戦場へ足を踏み入れ、継国縁壱は静かに見やる。
血を分けた、嘗ては己と同じ顔の兄を、その瞳は鮮明に映し出した。

359刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:07:06 ID:LPbpj4TY0



想定外の事態に陥れば凍り付くのは、人間も化け物も同じらしい。
思考の片隅へ浮かんだ雑念を、自分の考えながら他人事のように感じる。
闇が覆う空間でただ一人、生命を等しく焼き焦がす熱を放つ男。
ただ現れただけで戦場を支配下に置いたその者を、黒死牟が見間違える筈がない。

「縁壱……」

喉を震わせ、絞り出した声に宿るモノの正体が分からない。
自分が今、どんな顔を浮かべているのかも気付けない。
人を捨てた証である六つの眼が、瞬きを忘れたように男を捉える。
額と顎の、火炎の如き痣。
日の出を模した耳飾りも、己を真っ直ぐに射抜く瞳の色も。
何もかも全てが、記憶に焼き付く姿と変わっていない。
両親、妻子、仕えた部下や嘗ての同胞、糧に変えた鬼狩り達。
顔を削ぎ落とされた亡者が蠢く中で唯一、百年を超えても鮮明に映し出される弟が。
目の前に、いる。

四百年前、赤い月の下で果たした再会とは違う。
突けばへし折れる枯木のような老爺は、影も形も存在しない。
ただの人間だった頃、妻子との穏やかな生活で心を誤魔化した己を再び狂わせた時と同じ。
若く生命力に満ち溢れた肉体で、縁壱は現れた。
現実を生きるならば有り得ぬ再会、獄卒共が仕組んだ幻影の類。
そう断じる事が可能であればまだ慰めになったろう。
自分も弟も生きている、生きて神の作りし遊戯盤に招かれた。
荒唐無稽な夢現ではないと、どうしようもない程に理解している。
しているからこそ、受け入れるには多大な苦痛が伴った。

僅かに視線を逸らせば、血の滲んだ着物が映る。
ドクリと、心臓が鬱陶しい程に大きく跳ねた。
縁壱自身の血というなら、俄かには信じ難い。
たとえ異界の地に鬼とも違う魑魅魍魎が跋扈するとて、縁壱へ並ぶ存在など有り得ないだろう。
他者の血であれば、それもまた容易く受け入れられる類に非ず。

360刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:07:48 ID:LPbpj4TY0
「兄上」

たった二文字を口にし、その声もまた記憶の中の弟と変わらないと分かり。
やはり今、自分の前に立つのは縁壱なのだと突き付けられた気分だった。
周囲から息を呑む気配が複数感じるも、気を割くのは不可能。
同じ女に産み落とされた男以外に、何一つとして見れない。

自身を呼ぶ声と僅かに揺れる瞳に宿す、憐れみと嘆き。
嘗ての再会時にも味わったソレが、もう一度黒死牟へ届けられる。
弟からの憐憫など、本当なら憎悪を燃やす薪に等しい。
けれど、怒りを抱けないのもまたあの夜と同じだった。
涙こそ流れていないが、薄気味悪く思っていた弟が人間らしい感情を面に出す。
赤き月が見下ろす夜の再現とも言える光景へ、訳の分からない動揺に心が波打つ。

だが忘れるなかれ、再会を仕組んだのは慈悲深き神仏に非ず。
兄弟を中心に戦場は徐々に熱を取り戻し、周囲の者達も我に返る。
病院へ顔を出した男と黒死牟の関係は今の今まで知らずとも、明確な情報が一つ。
縁壱と呼ばれた剣士は間違っても手を取り合う為に来たのではない、神の傀儡に他ならない。

「――――――」

意識が切り替わった時にはもう遅い。
音もなく眼前へ立つ男へ、いろはが何かを思う暇も与えない。
フッと、体が軽くなった感覚を覚える。
同時に複数の物体が赤を撒き散らし宙へ舞い上がり、それが自分の両腕の成れの果てと気付き、

「あ……」

痛みすらも置き去りに、細く白い首へ刃が食い込む――

361刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:08:33 ID:LPbpj4TY0
「っ!!!」

正にその寸前、日輪刀が弾かれた。
余りにも馬鹿げた、鬼殺隊の者が見たら愕然とする他ない光景だろう。
鬼を滅ぼす刀が少女の命を刈り取らんとし、人を殺す鬼の刀が少女の命を繋いだ。
人間と鬼の在り方を根底から入れ替えた兄弟は、先程よりも距離を詰め互いを見やる。
僅かに目を見開くも、錯覚と抱き兼ねない速さで縁壱は元の表情を取り戻す。
生前幾度となく見た、鬼狩りに臨むのと寸分違わぬ殺意。
これぞ弟が檀黎斗の手に堕ちた確たる証であり、黒死牟の魂へ亀裂を生む。

「…っ!いろは!」

ウィザードの動体視力があっても、状況把握に遅れが生じた。
自分への叱咤も後回しにし、遊星は仲間の元へ急ぎ駆け寄る。
結芽もまた倒れたいろはへ急行し、彼女には珍しく焦った表情で覗き込む
肩から先を失い、流れ続ける血が純白のフードを赤く染める。
断たれてこそいないが首からも出血し、容赦なく体力を奪う。
誰がどう見ても、失血死は免れない有様だった。

「結芽、俺を治した道具は……」
「もう無いよ!あれ一個しか入ってなかったし……」

右腕を再び使えるようにしたアイテムは、生憎遊星に使った分のみ。
治療手段が手元にない、このまま仲間が力尽きるの見る以外に何も出来ない。
喪った戦友たちの顔が次々浮かび、彼らと同じ場所へ旅立つのは時間の問題。
かといって、はいそうですかと諦めるのはお断り。
ドローすると狙ったように、体力増強剤スーパーZを引き当てた。
本来の使用方法とは大きく異なり焼け石に水だが、使わない選択肢はない。
何より、無意味でもなかった。

362刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:09:08 ID:LPbpj4TY0
「ありがとう……ございます……」
「おねーさん大丈夫なの…!?」

驚く結芽へ弱々しく微笑みむも、嘘を告げてはいない。
意識が急激に薄れたが遊星のお陰で、どうにか持ち直せた。
後はいろは自身が死を跳ね除ける為に、己の持つ力を行使。
固有魔法で負傷箇所を治療し、元の形を取り戻さんとする。
本来は手を翳し発動していたが、両腕共に欠損中の為相応に集中力が要求された。
決して楽ではないが腕を取り戻さなくては、出来る事も大きく減る。

固有魔法の恩恵もあり、どうにか死は免れた。
尤も、ソウルジェムさえ無事なら魔法少女は死に至らないが。

但し状況は好転せず、むしろ更に悪化し始める。
縁壱の参戦やいろはの負傷へ天津達の気が逸れた瞬間、野獣先輩が痛みを押し殺し立ち上がったのだ。
如何なる時もホモセックスのタイミングを冷静に見極める、淫夢の住人らしい観察力と言えるだろう。

「待て貴様…!」
「おう、やだよ」

ブレイバックルを回収するも再変身はしない。
キングフォームは時間制限を設けられており、連続使用は不可能。
ではもう一度スタープラチナを使うのかと言うと違う。

野獣先輩新説シリーズの恐ろしさは、スタンド使いになれるだけではない。

363刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:09:50 ID:LPbpj4TY0
「いきますよー、いきますよーイクイク…ヌッ!(覚醒)」

自らに眠るより巨大な力を引き出し、ホモのクッソ汚い肉体をより高位の存在へ変える時だ。
放つ光はさながらGOを思わせ、まるで神にでもなるかのよう。
否、野獣先輩は本当に神になろうとしている。

「なっ…!?全員逃げろ…!」

急激に増すプレッシャーと膨れ上がる体躯へ、マズい事が起きると嫌でも分かった。
お互いのみへ意識を割き斬り合う継国兄弟は、とっくに場を屋外へ移している。
残る者達へ退避を促せば、全員天津同様に悪い予感を感じ取ったのか言う通りに行動。
自身の回復で動けないいろはを結芽が運び、急ぎ屋外へ出る。

「お ま た せ」

直後、ロビーを破壊しながら現れた影が天高くへ上昇。
最早そこに人らしい形は微塵も存在しなかった。
赤い胴体は大木よりも太く、神話の蛇の如き長大。
しかし人類史に刻まれた姿と違い、前脚と巨大な翼を兼ね備えた竜にも見える特徴。
頭部もまた西洋の竜や東洋の龍のどちらとも違う、上下二つの顎を持つ。
伝説上の凶悪なモンスター、と呼ぶには些か語弊がある。
モンスターではなく、神と言うのが相応しい。

野獣先輩オシリスの天空竜説。
その名の通り、野獣先輩の正体は三幻神の一体オシリスではないかと提唱する説。
ウルヴァリン説やメタモン説、情報生命体説と並ぶ最有力説だ。

決闘都市(バトルシティ)で遊戯の手に渡った神が、戦慄を抱き見上げる者達を嗤う。
一人残らず願いの為の生贄と見定め、咆哮が響き渡った。

364刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:10:50 ID:LPbpj4TY0
「いったいわねぇ…!あーもう!何かまたヤバいのが出て来てるし!」
「キャルおねーさん?もしかして苦戦中?」
「もしかしなくてもそうよ!あいつがちょこまかウザったいせいでね!」

オシリスの出現へ呆気に取られる最中、結芽達の傍へ少女が痛がる素振りを見せつつ後退。
どうにか滅を病院から引き離し戦っていたキャルだ。
巨体と頑強な皮膚で持ち堪えたものの、ラビットフォームのエボル相手に翻弄。
おまけに自分とは違う巨大生物が出て来た為、何事かと振り返った所へキツい一撃を貰った。
等身大サイズなら重症か死は確実だったろうが、トライキングの打たれ強さもあり致命傷にはなっていない。
変身解除で済んだとはいえ、痛いのは本当なのでこれっきりにしたい。

「あん馬鹿デカいのと戦える奴って言ったら、一人しかいないじゃないのよぉ……」

病院に集まった者達が弱いとは思わないけど、オシリスと戦うのに誰が適してるかは考えるまでもなかった。
うんざりしつつも、他の連中に押し付けて逃げる気にはなれない。
昔の自分ならそうしたろうけど、美食殿の仲間達に何だかんだ影響を受けた今は別。
見ればいろはは徐々に回復中であるも、両腕を失っていた。
結芽達も大なり小なり疲弊が確認でき、残る六眼の侍は斬り合いの真っ最中。
というか放送で紹介された敵キャラクターまでおり、何故こうなったのかを問い質したい。

「ま、生きてりゃ後で幾らでも文句言えるか」

ウルトラゼットライザーにメダル三枚をセット。
トライキングへの変身ならこれで問題ないが、今回は更に二枚を追加。

365刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:11:22 ID:LPbpj4TY0
『Gan-Q.』

『Reicubas.』

「全員あたしに力を貸してもらうわよ!」

『Five king.』

光が包み、獣人の少女は見上げる程の巨体へ変化。
トライキングの時と同じ特徴を持ち、尚且つ新たな力が発現。
右腕には巨大なハサミを、左腕には血走った眼球をそれぞれ融合。

三体の怪獣の融合体へ加わるは、嘗てウルトラ戦士を苦しめた力。
戦国時代の呪術師の成れの果て、ガンQ。
南極の海水温度上昇による地球水没工作を行った、レイキュバス。
上気二体を取り込んだ超合体怪獣、ファイブキングが天を睨み上げる。
ウルトラマンZを追い詰めた時とは変身者が違う、故に仲間を守る為の死闘に臨むのだ。

「悪いけど、そっちはお願いね!」

瞳は神に向けたまま言い放ち、被膜を広げ飛翔。
本来よりサイズダンしていても、巨体同士の激突に地上へ衝撃が走る。
と言っても揺れる大地へ慌てる場合じゃあない。
キャルが言った通り、天津達が戦うべき敵はまだ健在。
両刃の斧を振り被ったライダーが狙うはサウザー。
仮面諸共叩き割る勢いの斬撃へ、サウザンドジャッカーを翳し防ぐ。

366刃骸魔境(後編) ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:12:12 ID:LPbpj4TY0
「やはり貴様か、天津垓。丁度良い。新たなアークを生み出し兼ねない人間は、優先的に消すに限る」
「……滅。悪意の監視者である君は一体いつから、こうも乱暴なやり方になった?」
「何の話をしている?そもそも、貴様が俺のやり方をどうこう言えたクチじゃないだろう」

得物を挟んでの問い掛けに、返答は実ににべもない。
惚けてる様子も見られず、どうやら本当に天津の質問の意図を理解し兼ねている。
この滅は天津が知るよりも過去、まだ或人と和解する前の時間軸から連れて来られたと察しが付く。
当たって欲しくなかった予想が現実になり、原因を作った神の高笑いがありありと浮かぶ。
怒りをぶつけるのは直接対峙した時にだ、まずは現状をどうにかしなくては。

天津の言葉に疑問を抱くも、些事と切り捨て蹴りを叩き込む。
脇腹への衝撃に怯んだ所へ斬り込むが、させじともう一体の黄金のライダーが妨害。
回転数を速めた杭の一撃が斧を押し返し、互いに距離を取って仕切り直しだ。

「アンタの話じゃ、滅ってのは信用できる奴じゃあなかったか?」
「少なくとも、彼が死後に参加させられたならそう言えたよ。残念ながら、過去に色々あった時の彼らしい」
「ならブチのめして、動けなくするしかねぇんだな?」
「…もし私の知る限り最悪の時期の彼なら、言葉では止まらないだろうからね」

声色に含まれた敵意の鋭さには覚えがあった。
仮に最も憎悪に満ち溢れた、迅を或人に破壊された時の滅だとしたら。
迅の復活が可能だと伝えても、止まるかどうか自信は正直ない。
説得が不可能である時は、力づくで大人しくさせる野蛮な方法に出る他なかった。

憂鬱気ながらも構える天津に並び、承太郎もスタンドを傍らに出現。
自分の場合で言うなら、肉の芽を植え付けられた頃の花京院やポルナレフと再び戦うようなものか。
いずれにしろ、殺し合いに乗ってるなら天津の仲間だろうと容赦は出来ない。
人類滅亡を掲げる憎悪を、砕けぬ精神で迎え撃つ。

367Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:14:10 ID:LPbpj4TY0



男達が斬り合っていると視認できる者が、果たして何人いるのやら。
得物を握って振るう、単純な動作なれど極めれば只人が捉える事は不可能。
肘から先が消え、金属をぶつけたのに似た音が繰り返される。
与えられた時間全てを鍛錬に費やした達人でさえ、そう言うのが精一杯。
人でいられなかった鬼と、生まれながらに鬼を超えた人が刃を交わす。
兄弟共に、剣以外に語らう術を知らぬとばかりに。

得物を抜いた瞬間より、黒死牟は攻勢を保っていた。
一呼吸の間すら腕を休めず、ただひたすら何もさせじと振るい続ける。
斬撃一つの度に細かく狙いを調整し、一定方向からは刀を走らせない。
常に軌道が変化し四方八方から迫る刃は、複数人を相手取っているかのよう。
正面を凌げば既に次の剣が三つ四つ纏めて襲い来る。
躱す、防ぐ、受け流す以外に何一つ許しはしない猛攻であった。

縁壱は防戦一方で手も足も出ない。
と、楽観的に言う者がいれば黒死牟は心底の侮蔑を籠め、「節穴」と返す。
これだけの剣を振るっても届かない、未だ着物の端すら裂けない。
並の隊士であればとうに千を超え殺された刃の嵐も、吹けば消える霧雨に等しい。
その証拠に見るがいい、受けに徹した縁壱が動きに出る瞬間を。

するりと、僅かな裂け目を抜け一歩踏み込む。
眼球の浮かぶ鬼の刀は、熱に浮かされた宙を空しく斬って終わる。
手元へ引き寄せるまでの数秒にも満たなない中、六眼が捉えるは輝く刃。
灼熱を纏いし日輪刀が、死を運び己が頸へと疾走。

368Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:14:49 ID:LPbpj4TY0
――壱ノ型 円舞

両手持ちに変えた日輪刀で円を描き振り下ろす。
文字にすれば単純な技なれど、恐るべきは速さ。
たった一振りで爆発的な加速が発生、描いた円が太陽同然の高熱を帯び襲い来る。
頸を刀身が撫でたが最後、積み上げられた鬼の屍に実の兄も加わるだろう。

――月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮

瞬き一つ終えた直後に訪れる末路を、狂月が噛み砕き否と唱える。
月の呼吸の基本となる型にして、瞬間的な速度では随一。
居合斬りを異次元の速度で放つ事で、技の完成度を脅威となるまでに昇華した。
霞柱の片腕をも奪った剣を此度は弟へ放つ。

日と月が互いへ牙を突き立て、示し合わせたように揃って得物が弾かれた。
瞬き一つを終えるよりも早く、縁壱が片腕を引き戻す。
瞳に映らずとも周囲へ生み出された、三日月の大群。
鬼殺隊の呼吸法とは違う、血鬼術と組み合わせ発生させる刃の檻。
初見での回避は柱でさえ難関であるが、日輪にとっては宙を舞う葉も同然。
兄から視線を逸らさず、得物一振りで難なく打ち払う。

――月の呼吸 参ノ型 厭忌月・鞘

技を打ち破られたとて、身を強張らせる無駄な動きには出ない。
大量の三日月を引き連れた半月が二つ、回転しながら襲う。
片方への対処に意識を割けば、もう片方が臓物の雨を降らす。
名も顔も忘れた鬼狩り達同様の決着は、当然の如く訪れない。

369Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:15:46 ID:LPbpj4TY0
――弐の型 碧羅の天

どちらか一方のみへ意識を割くのが危険であるなら、両方纏めて消し去るだけ。
見えているかのように浮かぶ刃群を避け、刀が再び日を生み出した。
空へ描いた円は、月を飲み込む冥府への入り口と化す。
夜を終わらせる為の剣は勢いを落とさず、鬼の頸元へ死を運ぶ。

――肆ノ型 灼骨炎陽

渦を巻き走る火炎と見紛う斬撃が、前方広範囲へ放たれた。
退けば即座に追い付かれ、無謀にも挑めば自ら身を焼き焦がす自害行為に他ならない。
どちらにせよ待つのは地獄、しかし鬼に後ろへ下がる選択肢はない。

――月の呼吸 拾ノ型 穿面斬・蘿月

半月が複数重なり合い、参の型を超える巨大な刃を造る。
アスファルトで舗装された地面が、豆腐を崩すのにも等しく粉砕。
眼前より迫り肥大化する太陽を削り取らんとし、相手もまた叩き砕くべく前進。
打ち勝ち我が道を突き進むは日輪、阻む全てを薙ぎ払う勢いで黒死牟に接近。

飛び退き背を向けるか?いいや、しかと見えた。
こちらの技を捻じ伏せた太陽の勢いが、僅かであるも衰えたのを。

管が裂けんばかりに得物を握り、針の穴にも満たない一転狙いで振り被る。
鬼の膂力を十全に乗せ、尚且つ音を置き去りにする速さ。
太陽を真っ向から崩し、猶予は与えられず幾度目かの剣戟が再開。

自身の頸へ刃が添えられ、いつ骨まで断たれてもおかしくない緊張感。
付き纏う死の気配に蝕まれながらも、黒死牟の剣には揺らぎが一度も生じない。
意識全てを弟との闘争に割き、五感と直感から得られる情報を余さず拾い戦術を構築。
鬼殺隊指折りの柱ですら、無茶と言わざるを得ない動きで実行に移し続けた。

370Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:16:30 ID:LPbpj4TY0
縁壱相手に食らい付き、戦闘を展開出来ている。
産み落とされた瞬間から神の領域へ座す男相手に、未だ無傷で持ち堪える。
仮に数時間前の黒死牟が聞けば、戯言と一蹴するだろう。
幼き頃より日と月の差は絶望的なまでに開き、永遠の時を経たとて埋まらない。

しかし黒死牟が一太刀で全てに決着が付く程の塵芥かと言うと、それも否である。
四百年間、屈辱に身悶えしながら胡坐を掻き続けたのではない。
死に物狂いで鍛え抜いた、技を更に高位へと磨いた、多くの鬼狩りを斬った、柱を捻じ伏せ肉を喰らった。
勝利への執着が強さの獲得を一度たりとも忘れさせず、殺した何もかもを己の糧に変えた。
枯れ細った弟の剣を浴びた頃以上の強さを、今の黒死牟は確かに手に入れている。

だが最も大きな理由は肉体的な強さや技の手数ではなく、精神に由来するもの。
理由の分からぬままいろはを助けた一件を除き、常に受け身の姿勢だった。
襲われたから戦う、例えるなら決まった反応以外不可能な人形。
戦意を大きく欠いたままでは、勝てる戦闘も本来なら敗北以外ない。
上弦の壱として並の枠に収まらない力があったから、どうにか生き残って来ただけだ。

6時間が経っても暫くは変わらない状態が続いたが、弟の再会が遂に戦意へ火をつけた。
敵へ踏み込み、剣を振るい、時には最小限の動きで躱す。
動作全てが油を差し込んだようにキレを増し、これまでとは別人と疑い兼ねない力を発揮。
練り上げた呼吸の精度は、生前最後の無限城での決戦すら超える勢い。

では黒死牟をそうまで動かすモノとは、一体何なのか。
勝ち逃げ同然に先立たれた弟との、再戦の機会が巡った事への歓喜?
嫉妬に狂わせた元凶へ必ずや剣を届かせる、醜く膨れ上がった憎悪?
それとも、魔法少女に手を掛けられた怒りという、遥か過去へ捨てた人間らしい使命感?

どれも違う。
黒死牟を突き動かし、生前を超える力を齎す正体とは――

371Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:17:46 ID:LPbpj4TY0
(何故私は……こうも焦りを覚えている……?)

彼自身にすら理解不可能な、焦燥感。
戦闘の為に無駄を一切合切削ぎ落とした思考とは裏腹に、心は指でかき混ぜられたように荒れ狂う。
余裕の二文字など、縁壱の姿を見た瞬間に崩れ去った。

あの時、いろはが両腕を細切れに変えられたあの瞬間。
六眼が捉えた現実の光景に、猛烈なまでの拒否感を覚えた。
言動も行動もまるで理解出来ない娘だが、善性の強い人間だとは自分でも分かる。
本来なら、縁壱が剣を向けるなど天地がひっくり返っても有り得ない。
むしろ率先し守るような人間であり、鬼の自分と行動を共にする方が不自然。
そのいろはを斬り、殺す寸前までいった時の目が忘れられない。
人を喰らう鬼に向けた、存在してはならない者へ向ける目。

神の傀儡へ堕ちた以上、十分予想出来た展開だ。
自分や主のみならず、屠り合いの参加者全員が縁壱にとっては滅ぼすべき鬼。
分かっていても、受け入れられるかは全く別の話。
縁壱がいろはを、病院に集まった同じ善側の人間を殺す。
すぐにでも訪れるだろう未来に、己の内が軋み絶叫を上げた。
気付けば思考は焦燥に駆られ命令を下した、それだけは認めらないと。

(何故……)

答えに辿り着けないまま、頸へ駆ける刃を弾く。
縁壱の変わらぬ強さへの、五臓六腑が捩じ切れる憎悪は不思議と薄い。
縁壱が人間を殺す事への、激しい動揺が黒死牟を闘争へ駆り立てる。

372Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:18:21 ID:LPbpj4TY0
「……っ」

内心のざわめきを無視し、戦況に変化が現れた。
無論、黒死牟にとって悪い方のだ。
縁壱の剣捌きが目に見えて数段階速度を上げ、こちらの刃を悉く受け流す。
何が起きたかを察せられない訳がない。
振るう刀の一つ一つを正確に見極め、慣れた動きとして対処を更に安易に変えた。
数百年の足掻きをものの数分で埋められ、忌々しく歯を噛み絞めたい怒りも捨て置く。

刃から伝わる感触は、まるで幽体を斬ったかの薄さ。
速度を落とした覚えはない、単に縁壱が自分以上の速さで避けただけ。
次なる手を出させはせぬと日輪刀が走り、頸へ食らい付く。

「結芽もいーれーてっ!」

横から伸びた剣が無ければ、そうなっただろう。

黒死牟から日輪刀が離れ、別方向からの襲撃に対処。
刀を弾くや即座の二撃目を放ち、抵抗の隙を与えない。
黒い甲冑を着込んだ少女の「鬼」を討つ刃を、もう一体の鬼が阻む。
汗を流しつつも笑って少女は後退、黒死牟も一度距離を取って仕切り直す。

「あっぶな…写シがあるって分かってもヒヤヒヤしちゃった」
「退け……自分の手に負える者だけを……相手取るがいい……」
「うわっ、今のカッチーンって来ちゃうなー。あ、いろはおねーさんなら無事だよ。腕も治ってたし、大丈夫って本人も言ってたもん。おにーさんも一安心でしょ?」
「……」

聞いてもいない事をベラベラ喋る結芽を横目で睨むも、視線はすぐ弟へ戻す。
下らない雑談に興じる気もなければ、一々お守りをする余裕だって皆無。
縁壱を相手にしながら、他へ意識を回すなど頸を差し出すのも同義。
死んでも自業自得だと切り捨てたい。
なのに縁壱がこの小生意気な人間の娘を殺す光景を思い描くと、喉奥を掻き出されるような吐き気に襲われるのだ。

373Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:19:03 ID:LPbpj4TY0
(あははー…正面から見ると本当にヤバいなぁ……)

黒死牟へ軽口を叩く裏で、結芽も内心動揺を抑えられない。
強そうだとかじゃなく、心の底から恐いと思ったのは滅多にない経験だ。
放送でわざわざ紹介されたのだし、相応の力があると分かってはいた。
けれど実物をこの目で見てしまえば、全身の震えが止まらない。
天才的な剣の腕の刀使だからこそ理解出来る。
縁壱は人の身では有り得ない程に完成されている、いや完成され過ぎてると言った方が正しい。
殺し合いで戦った者達と違い、人を止めずにここまでの強さを持つのは乾いた笑いしか出なかった。

(でも、やっぱりじっとしてなんかいられないや)

恐怖を感じたのは誤魔化せないけど、戦ってみたいと思ったのも本当。
向こうが圧倒的に格上なのは疑いようもないが、見てるだけではこの衝動を止められない。
きっとここに可奈美がいても、同じことを思う筈。
生きて帰れたらこんなに凄い剣士と戦ったと、自慢してみるのも良いかもしれない。

(それに、黒死牟おにーさんにもちょっとムカついてるし!)

縁壱との斬り合いを見れば分からない筈がない。
放送前に自分と戦った時とは動きが全然違う、明らかに手を抜かれていた。
殺し合いに抗う者を手に掛けない為だとはいえ、ここまで露骨では流石に不満を抱く。
鬱憤晴らしと純粋に楽しみたいから、そんな理由二つも気分屋な結芽が戦うには十分である。

「ほらほら、あのおにーさんがもう来そうだよ?ってか弟なんだね、あの人」

黙っていろと今一度睨む暇もなく、迫り来る濃密な死の予感へ得物を振り被った。

374Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:19:59 ID:LPbpj4TY0



「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

パワーとスピード、両方が数あるスタンドの中でもトップクラス。
一度その身に拳を受けたら最後、再起不能は間違いなし。
だがしかし、DIOに匹敵する脅威が少なくない数揃えられてるのが神の遊戯盤。
最強のスタンドは異界の地において最強に非ず。
現在相対中の敵も、スタープラチナを真っ向から相手取る怪物也。

センサーモジュールが拳の来る位置を完璧に把握、合わせて蹴りを放つ。
高速戦闘特化のラビットエボルボトルが成分を多大に付与、文字通りの目にも止まらぬ連撃。
ラッシュにはラッシュを、数百本の手足が生えたとしか思えぬ勢いで互いを攻め立てる。
手数も威力も双方引けを取らないが、グリスはスタンドを操作しながら本体も攻撃可能な利点を活かす。

『おばけ!』『パーカー!』

『ツインフィニッシュ!』

ゲル状に構成されたパーカーゴーストを射出。
スタープラチナ相手に割かれた意識が弾かれたように反応を見せ、片手の得物で振り払った。
両刃の斧が二体のゴースト切り裂き、すかさずガンモードへ変形。
脚を止めないまま銃口を向けるも、攻撃に打って出たのはグリスだけじゃない。

『Progrise key comfirmed. Ready to break.』

タイヤが装着されたと思わせる勢いで回転し、サウザーが斬り付ける。
引き金を引く間に刃が装甲を撫でるだろう速さへ、銃撃は中断。
銃身を盾に防ぎ、武器を挟んで言葉を交わす。

375Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:20:46 ID:LPbpj4TY0
「聞け滅!君の怒りの理由が迅を破壊された事なら、手遅れではない!以前の記憶を保持したまま修復が可能だ!」
「何を……!?」
「私が口にすべきでないのは承知で言わせてもらおう!憎しみに囚われれば、人間のみならずヒューマギアを滅ぼすアークになるのは君の方じゃないのか!?」
「…っ!黙れ…!貴様の言葉が仮に真実でも、人類滅亡の結論は変わらん!」

一瞬口籠るも直ぐに憎悪を吐き捨て、力任せに銃身で薙ぎ払う。
よろけたサウザーへ至近距離で追撃のエネルギー弾を撃ち、盛大な火花を咲かせた。
今の衝撃でホルダーから落ちたプログライズキーを奪い、得物へ装填。

『Progrise key comfirmed. Ready to buster.』

「これは返してもらう」

自身のプログライズキー、スティングスコーピオンのデータを付与。
蠍の尾をエネルギー刃に変え振り回し、装甲越しにサウザーを痛め付け吹き飛ばす。
力尽きるまで叩き付けるのを、グリスが殴り掛かって妨害に動いた。

『ピプペポパニック〜〜〜〜〜〜〜!?』

エボルに斬られた時の衝撃で、サウザーのデイパックから支給品が飛び出た。
バグルドライバーⅡに収納されたポッピーは、突然の衝撃に目を回す。
直接的なダメージはなくとも振動が襲うらしく、地震に見舞われた気分だ。
頭部を鐘のように揺らされた感覚からどうにか復帰。
画面越しに様子を見ると、驚きドライバーを拾い上げる少女が一名。
固有魔法での回復を終えて、両腕を取り戻したいろはであった。

376Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:21:38 ID:LPbpj4TY0
『あれ?イロハちゃん?ガイは…っていうか何か凄いことになってない!?』
「は、はい。その、色々あって……」

CRから地上へ戻る際にデイパックへ入れられ、ようやっと出てみれば戦闘の真っ最中。
しかも敵らしき者達は全員、非常に手強いのが見て取れた。
どういった経緯で混戦に発展したかを説明する時間はない。
腕が治り再び戦えるようになった以上、仲間の加勢に向かわなくては。

『あ、でももしかすると今のドライバーなら……』
「どうかしたんですか?」

表示ディスプレイに映るポッピーが何やら呟いており、問い掛けると僅かに迷う素振りを見せ口を開く。
聞かされたのは現状に打って付けの、仲間への支えになる内容。
いろはからすれば迷う必要はなく、即座に実行に移すべきと答えた。

『良いの?いや何度も確認したから大丈夫だけど!でも、ホントはCRの関係者じゃない女の子にやらせちゃNGだし……』
「けど皆を助けられるなら、わたしはやります。だから……」

一度区切って画面の向こうのバグスターと視線を合わせる。
こんなに近くにいるのに、外には干渉できない彼女。
共に戦えない歯痒さを汲み取り、触れられない手を包むように告げた。

「わたしと一緒に戦ってください!お願いします!」
『うぅ〜〜〜……ちょっとでも変だと思ったら、すぐに中止してね!』

そんな言い方で真摯に頼まれては、やっぱり無しとも言えない。
後は黎斗が本当に確認した通りの仕様に細工を施してるのを、実際に試す他ない。
もし異変を感じればいろはに被害が及ぶ前に、自分がドライバー内部で阻止するまで。

『じゃあまず、私の言う手順通りにやってみて!』
「はい!」

ドライバーを装着し、傍らに転がるもう一つのアイテムを回収。
イラストの描かれた持ち手部分のトリガーを引き、開始の合図となる。

377Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:22:33 ID:LPbpj4TY0
『ときめきクライシス!』

ガシャットが己のゲームタイトルを響かせ起動。
いろはの背後に巨大なグラフィックが出現。
ピンクの髪の攻略キャラが目を惹くスタート画面が映り、複数の物体が飛び出す。
CRのメンバーやバグスターには珍しくもない、エナジーアイテムが配置完了。

『こっからが大事だよ!可愛らしいポーズで決めてね!』
「え?…わ、分かりました!変身!」

『ガシャット♪』

『BUGL UP!』

ポーズが本当に必要なのかと一瞬思うも、指示には素直に従う。
フードを靡かせターンを決めて、ガシャットを挿入。
電子音声が装填確認を伝え、続けてボタンを操作。
変身プログラムが作動し、いろはを魔法少女から新たな姿へ変える。

『ドリーミングガール♪恋のシュミレーション♪乙女はいつもときめきクライシス♪』

純白のフードは黒のボディスーツと、黄色のミニスカートへ早変わり。
編み上げ状のサイハイブーツから、ガードパーツを組み込んだニーソックスへ。
素顔を覆う仮面にはパッチリとした青の複眼。
ピンクの頭髪モチーフの色は濃い目であり、いろはではなく本来の変身者に近い。
仮面ライダーポッピー、名前が示す通りポッピーピポパポのライダーとしての姿である。

『やった!ちゃんと変身出来た!イロハちゃん体大丈夫!?痛い所ない!?』
「は、はい。何だか不思議な感じだけど、苦しくはないです」

まじまじと自身の体を見回し、やや戸惑い気味に言う。
仮面ライダーと言うからには天津達のと似たような外見と思ったが、色んな意味で違う。
所謂女の子らしさを前面に押し出しており、少々驚きだ。

378Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:23:44 ID:LPbpj4TY0
本来なら、バグルドライバーⅡをいろはに使わせる気は絶対になかった。
何せこれはゲーマドライバーと違い、バグスターの使用が大前提の変身ツール。
仮に人間が使用してしまったら、即座にバグスターウイルスに感染。
十年以上の時間を掛けて完全な抗体を得た檀正宗ならばともかく、そうでなければ即座に消滅は免れない。
たとえ肉体から魂を切り離した魔法少女であっても、非常に危険。

しかし神主催のゲームでは仕様も異なる。
ネビュラガスを投与される人体実験を受けておらずとも、承太郎がスクラッシュドライバーを使えたように。
仮面ライダーや類する存在への変身は、ある程度敷居を下げられている。
バグルドライバーⅡも同様であり、バグスターや抗体を持つ者以外でも変身可能に調整済。
CRで筐体から出た時ポッピーもそこへ気付き、だからこそいろはに許可を出した。

主催者に恩恵を受けたと思うと複雑だが、一々気にするのは後回し。
ドライバーを通じポッピーが変身後の機能を素早くチェック、頷きいろはへ指示を出す。

『いけるよイロハちゃん!後は皆のことを強く想って!』
「はい!やってみます!」

戦い続ける仲間達の力になりたい。
強く願い感情の力が、現実に皆の元へ届けられる。
恋愛ゲームのときめきクライシスガシャットで変身を行った為、好感度や感情の強弱が固有能力に深く関係するのが仮面ライダーポッピー。
ハートをあしらった肩部装甲の強化装置が起動。
ライダーを、スタンド使いを、決闘者を、獣人の少女を、刀使を。
そして鬼を、仲間達全員の能力を引き上げた。

この装置も元々は、ガシャットで変身したライダーにのみ作用する。
とはいえ仮面ライダークロニクルのように参加者全員がガシャットを持つゲームでない為、死蔵機能とならないよう調整。
細かい点にも神の手が伸びてると知らぬまま、仲間の助けになる。

379Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:24:38 ID:LPbpj4TY0
『へぇ、良い感じに動きやすくなったじゃない!そう言う訳だから、アンタはとっとと落っこちなさいっての!』
「黙れや猿ゥ!」

巨体を操る感覚が一段と精細さを増し、キャルは神へ殴打を叩き込む。
レイキュバスの顎はコンクリートも易々と切り裂くが、神に目立ったダメージは見られない。
尾を振り回し、時には自らの巨体をぶつけ相殺。
一歩も譲らぬ殴り合いは、強化を受けた事でキャルに天秤が傾く。
尾を挟んで引き寄せ、抜け出す前にガンQの頭部が顎へヒット。
視界がグラつく所へ二撃目が迫るも、神はその程度の児戯で倒れない。

「調子こいてんじゃねぇぞこの野郎(棒)!レズのくせによォオン!?(アニコネ限定)」

人間以外の姿になるなど、BB先輩シリーズでは最早お馴染み。
神の巨体だろうと呼吸と同じくらい簡単に動かせる。
回避と同時に全身を巻き付け、キャルの動きを封じた。
ファイブキングのパワーを駆使すれば拘束を脱するのは容易いが、オシリスは並の域に収まる存在に非ず。
体中の骨が砕けるまで決して放さないだろう。

「キャル…!」

地上からでもピンチがハッキリ見え、遊星はカードをドロー。
生半可な攻撃ではビクともしないと、言われるまでもなく分かってる。
それでも出来る事はある筈と手札を確認。

「このカードは……」

引いたのは城之内のデッキの中でも、特に強力な一枚。
通常のデュエルならば心強いと思えるが、果たして神にどれ程の効果が与えられるか。

(いや待て…)

険しい表情から一転、何かを思い付いたようにもう一度神を見上げる。
決闘者で知らぬ者はいない、デュエルモンスターズ界の伝説。
三幻神の一体、今自分の頭上に存在するアレはどういった存在か。
殺し合いという環境ではデュエルの解釈もある程度広がり、突ける隙も少なくない。
とにもかくにも試さない事には始まらない。

380Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:25:36 ID:LPbpj4TY0
「リバースカードオープン!クイズを発動!」

自分の墓地の一番下のモンスター名を相手に問い、正解か否かで異なる効果を齎す。
嘗てはマリク相手に使った、城之内らしいギャンブルカードの一種だ。
今回問い掛ける相手は一人しかいない。

「答えろ!俺の墓地の一番下にあるモンスターは何だ!?」
「え、何それは…(困惑)。多分変態だと思うんですけど(迷推理)」

いきなり問い掛けられ、案の定野獣先輩は困惑。
正規のデュエルならともかく、一々相手が何のモンスターを召喚したかなど覚えていない。
苦し紛れに淫夢語録で答えるも、これが正解な訳ないだろいい加減にしろ。

「不正解だ!シャドウ・ファイターを墓地から召喚!」

相手が外れた場合、対象のモンスターを特殊召喚する。
更に墓地からの召喚という条件を満たし、続けて効果を発動。

「墓地のモンスターが場に出た事で、手札からサテライト・シンクロンを特殊召喚する!」

人工衛星に手足が生えたようなモンスターが現れる。
既にフィールドに存在するスケープゴート一体と合わせ、計三体が場に揃った。

「フィールドのモンスター三体をリリースし、ギルフォード・ザ・ライトニングを召喚!」

筋骨隆々の肉体を白銀の鎧で覆い、大剣を背負った剣士。
城之内が操る中でも強力な戦士族モンスターだ。
だが場にモンスターが召喚された以上、オシリスの裁きからは逃れられない。
天から降り注ぐ雷が攻撃力を大きく削ぎ、余波が遊星にも襲い掛かる。

381Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:26:20 ID:LPbpj4TY0
「くっ…!だがギルフォード・ザ・ライトニングの効果発動!このカードがアドバンス召喚に成功した時、相手モンスターを全て破壊する!」

ウィザードに変身し、更にいろはの強化を受けたお陰で十分耐えられる。
遊星の宣言に従い、稲妻の剣士が得物を振り下ろす。
戦場へ迸る光刃は敵対者達を容赦なく狙った。
背後を見ぬまま縁壱が避けた一方で、エボルも高機能センサーを駆使しどうにか回避。
残る一体、野獣先輩は神の自分に雑魚モンスターの効果が効くはずないと嘲笑う。

「逝きすぎィ!?」

余裕の態度は即座に崩れ、神の長大な肉体を稲妻が焼く。
同時に拘束も弱まり、顔面をレイキュバスで思い切り叩き追い打ちを掛ける。
神とは思えないクッソ情けない悲鳴を上げ、野獣先輩は痛みに悶えるばかり。

もしこれがマリク・イシュタールの召喚した、正真正銘のオシリスであったら。
強力な除去効果とて、神のカードには無意味だったろう。
しかしここに存在するのは、ネットの玩具のホモビ男優が姿を変えた偽りの神。
見た目や能力が同じであっても、核となるのは神とは程遠い汚さの塊。
オシリスであり野獣先輩でもある二面性を孕むが故に、本物の神程の耐性は無かったのである。

「あ、そっか、あったま来た…(憤怒)」

自身に痛みを与えた決闘者への怒りを燃やし、口内へエネルギーを充填。
小癪な雑魚モンスター共々焼き払う、超電動波を発射。
稲妻の剣士はもとより、幾ら変身中の遊星であっても無事では済まない。

382Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:27:26 ID:LPbpj4TY0
命中すれば、という前提が付くが。

『あーあ、アンタ下手踏んじゃったわね?』
「ファッ!?ファッ!?ファッ!?(ビーストドライバー)」

不敵な笑みは強がりでないと、目の前の光景が証明する。
オシリスの放った光がファイブキングの左手に吸収され、遊星にはまるで届かない。
ウルトラ戦士達の光線技を悉く破ったガンQの能力は、神相手にも通用。
そっちが最大威力を放ったのは好都合、倍にして返してやろう。

「逝キスギィ!逝く逝く…ンアーッ! (≧Д≦)」

反射された超電動波だけじゃない、各怪獣パーツから一斉に光線や火炎を放射。
いろはが強化したのもあって、通常時のファイブキング以上の威力を叩き出す。
ラーのゴッドフェニックスがマシに思える程の大火力へ、野獣先輩は為す術なく集中砲火の的と化す。

やがて熱線が消えた時、そこに赤い巨体はなく地で悶える汚い男がいるのみだった。
神特有の耐久力とホモ特有の生命力で死は避けたが、ダメージは軽くない。
今の内に捕えておこうと、遊星はバインドのウィザードリングを使用。
水魔法により拘束され、一先ずこの男との戦闘は終わった筈。

なれど野獣先輩の目は未だ死んでいない。
日焼けに誘った後輩の体へ狙いを定めるが如く、野獣の眼光を浮かべていた。

383Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:28:03 ID:LPbpj4TY0



『Progrise key comfirmed. Ready to break.』

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」

火炎を纏った突きと、青い拳闘士の拳。
両方が絶え間なく襲い掛かり、エボルは持ち前の速さを活かし対処。
これまでと何ら変わりない戦況に見え、その実徐々に追い詰められている。
速さが、一撃一撃の重さが、明らかに数段階引き上げられた。
数発が自身の防御をすり抜け、胴を叩き四肢を切り裂く。
地球外の未知の物質製の装甲とて、連続でダメージを受ければ徐々に蓄積し捨て置けない。

とうとうサウザーの渾身の一突きでたたらを踏み、間髪入れずにグリスが鉄拳を放つ。
オーソライズバスターで防ぐも、柔な一撃なんかじゃあない。
更によろけ隙が生まれれば、ロケット二つがエボル目掛け射出。
斬り落とし防ぎ、原因を作った人間を視覚センサーが捉える。
自分の知るライダーらしからぬ見た目でも油断は出来ない、先に潰すべきだ。

『Progrise key comfirmed. Ready to buster.』

プログライズキーを装填し、毒針状の巨大針を連射。
弾幕を張りサウザー達が足を止めた所を見逃さず、ピンク頭のライダーの元へ急接近。
元々高い走力を持つが、ラビットフォームの恩恵でフェーズ1以上の速さを得た。
ハート型の装飾諸共叩き壊す勢いで、頭部目掛け斧を振り下ろす。

『腕に付けてイロハちゃん!武器になるから!』

魔法少女とバグスター共に死を望む気持ちは微塵もない。
指示を受け即座に実行、バグルドライバーⅡからバックル部分を分離し装着。
左サイドのパーツが高速回転し、チェーンソータイプの武器として機能。
バグルドライバーⅡ改めガシャコンバグヴァイザーⅡで、重厚な斧を防いだ。
刀身が伸び、回転刃が敵の得物を削り取るべく火花を散らす。

384Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:28:57 ID:LPbpj4TY0
「いろは……そうか、お前がか」

レンズ越しに火花を浴びつつ、対峙中の少女をじっと見やる。
まさかこうも立て続けに、聞き覚えのある名の者に遭遇するとは。

「わたしがどうかしたんですか…?」

少しばかりの驚きを含んだ呟きは、いろはにも聞き取れた。
当然ながらこのような男と知り合った覚えは、記憶の何処を探しても見付からない。
得物を挟んだ殺伐とした状況ながら、戸惑いを隠さずに問う。

「放送前に殺した子供が、お前を守ると言っていた。それだけだ」
「っ!?」

予想外の返答に目を見開き、ヒュッと喉が鳴る。
激しい動揺を抱いてると、仮面の上からでもハッキリ分かった。
定時放送の前に死に、いろはを守ると口にするだろう者
該当する少女はたった一人、みかづき荘の大切なメンバー。
もう二度と会えない、あの子しか思い浮かばない。

「あなたが……フェリシアちゃんを……?」

声を震わせた問い掛けに、相手は何も答えない。
答えるまでもないと、沈黙が嫌と言う程に伝えて来る。
動悸が急激に激しくなり、体中が寒くないのに震え出す。
画面越しに必死に自分を呼ぶバグスターの声すら、どこか遠くに感じた。
斧を防ぐ力が弱まってると、気付く余裕も流れ落ち消える。

385Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:29:35 ID:LPbpj4TY0
「きゃあっ!?」

防御を突破されたと理解した時にはもう遅い。
胸部プロテクターを刃が叩き、痛みと共に地面を転がる。
ダメージを半減し全身に分散する効果で、致命傷にはならずソウルジェムも無事。
なら確実に死ぬまで攻撃を続けると、再び斧が振り被られた。

『Progrise key comfirmed. Ready to break.』

いろはの仲間が健在な以上、エボルの思い通りにはならない。
電撃を纏った槍が突き、得物越しに腕へ痺れが襲う。
舌打ち交じりに後退しつつ、退いた先で待ち構えるはもう一体の黄金のライダー。
ツインブレイカーの猛攻を速さを武器に捌く。

「滅…彼女の仲間を手に掛けたのは本当なのか…?」
「だったらどうした。殺さない理由がどこにある」
「……そうか。では断言しよう。君は1000%、以前の私と同じく自分が悪意を振り撒いてると気付かない、最も度し難い存在になった…!」
「ほざくな!そもそもの元凶はお前だろう!」

怒声と得物で打ち合う男達から数十歩下がり、いろはは膝を付き動けない。
フェリシアが死んだのは放送で聞いたが、でも誰が殺したかは今初めて知った。
記憶の中で、八重歯を覗かせ無邪気に笑う姿がリピートされる。
魔女への復讐に燃えて、でも我慢する努力を続けて。
自分ややちよを悪く言った魔法少女へ怒り、喧嘩沙汰を起こした事もあった。
欠けて欲しくなんかない大切な友達を、殺した男がすぐ近くにいる。
殺し合いでも、自分を守ると言ってくれたらしいフェリシアを――

386Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:30:20 ID:LPbpj4TY0
「クッ…!?」

グリスと拳を叩きつけ合うも、背後からの脅威をセンサーが察知。
一手回避が遅れ肩部装甲に被弾、だが動きを止める程のダメージじゃない。
大きく跳びエネルギー弾を撃った相手を睨み付ければ、向こうも視線を返す。
ガシャコンバグヴァイザーⅡを遠距離形態に変え、銃口と共に瞳を逸らさない少女。
大方、仲間を殺され憎悪を燃やしてるのだろう。

「わたしは……凄く怒ってます!」

発した声には言葉通りの怒りが宿り、だけど憎しみは感じられない。
予想と違い、エボルは僅かに眉を顰める。

「フェリシアちゃんのことで、あなたに怒ってる……だけど…!」

どうして殺したんだと、問い詰めたい気持ちは当然ある。
仕方ないよねで済ませられる程、小さなことなんかじゃない。
けれど、恨みに身を任せて戦い、結果相手を殺すことが。
フェリシアが守りたいと言ってくれた、環いろはな筈がない。
自分が絶望に陥り掛けた時、希望を届けてくれた彼女を裏切りたくないから。

「だからわたしは……フェリシアちゃんが守りたいって思ってくれたわたしのままで、あなたを止めます」

――『そうやって繋いでいった先にあるのは破滅なんかじゃない、希望って言うんだよ』

苛立ちに顔が歪むのが、自分でも分かる。
マゼンタ色のライダーが目の前の娘に重なり、内部パーツの損傷とはまた違う掻き毟られる感触を味わう。
戯言と受け流せば良いのに出来ず、突き動かす衝動へ逆らわずドライバーを操作。
レバーの回転数を一気に速め、エボルボトルの成分を大量に引き出す。

387Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:31:35 ID:LPbpj4TY0
『Ready Go!』

『EVOLTEC FINISH!』

片脚にエネルギーを最大まで流し込み跳躍。
バネが付いていると疑う程の脚力で勢いを付け、破壊力を更に増幅。
ライダーの装甲を纏っていようと、当たれば無傷で済む保障はない。
この地で殺した少女と同じ場所へ送る時だ。

『キメワザ…』

こちらも高威力の技の出し所だ。
ボタン操作で低い電子音声が鳴り、二つの銃口へエネルギーが充填。
発射のタイミングを見極めトリガーを引く。

『CRITICAL CREWS-AID!』

武器内部で形状を変え、音符型のレーザーを発射。
真正面から撃ち落とさんとする光を、エボルも退く素振りを見せず突っ切る。
バグスターを焼き払う威力だろうと関係無い、消し去り蹴り砕く。

『大丈夫だよイロハちゃん!勝ちたいって想いが強ければ、それは本当になるんだから!』
「はい…!絶対に、負けません…!」

仲間の声は、勝ちを譲らぬ己の心は決して無意味なんかじゃあない。
仮面ライダーポッピーが好感度で強化するのは、味方だけに非ず。
自分自身の力をも引き上げ、レーザーが更に巨大化。
突っ切る筈だったエボルはそれ以上進めず、空中へ固定されやがて押し返された。

388Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:32:15 ID:LPbpj4TY0
「この程度がどうした…!」

『DRAGON…DRAGON…EVOL DRAGON!』

『フッハッハッハッハッハッ!』

地面へ投げ出されるも受け身を取り、ダメージを無視し別のエボルボトルを取り出す。
兎の耳を思わせるモジュールは消え、龍を模った意匠を装着。
格闘戦特化のドラゴンフォームへ変身し、すかさずドライバーを操作。

「スタープラチナ・ザ・ワールド」

だが寸前で時が止まる。
いろはが自分の意志を明確に告げ戦う気なら、男達も見物に徹してはいられない。

「テメーが何を思って殺し合いに乗ったのかは、知ったこっちゃねぇ」

天津からの説明だけでは理解しきれない、滅なりのどうしても譲れないものがあったのか。
いろはの仲間を殺すのも厭わない程に、人類滅亡とやらはさぞ大事に抱えたいものなのか。
何を言い訳されても、変えられない現実を迷わず見据える。
殺し合いを肯定し、この島で出会った仲間達に牙を剥いた。
故に自分がやるのは一つだけ、全力でブチのめす。

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!」

彫像の如く静止したエボルへ叩き込まれるラッシュ。
時が動き出す前に、グリス本体もドライバーへ手を伸ばす。
簡単に倒されない敵と分かっているなら、手札は惜しまず切るに限る。

389Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:32:45 ID:LPbpj4TY0
『ディスチャージクラッシュ!潰れな〜い!』

2秒が経過し、殴り飛ばされるエボルをすかさず捕える無数の鎖。
拘束は簡単に抜け出すだろうが、僅かなりとも隙が生まれるのは避けられない。
仲間が作ったチャンスを無視する者はおらず、サウザーが決着を付けに動く。

『THOUSAND DESTRUCTION!』

「滅…!申し訳ないが、力づくで君を止める!」

両足にエネルギーを収束させ、蹴りを叩き込む。
言葉で止まらないなら、こうする以外に方法はない。
善良な参加者をこれ以上手に掛けるのを、滅亡迅雷.netの同胞達だってきっと望まないのだから。

「天津垓…!貴様…!!」

散々ヒューマギア排他を目論んだ男が、今更ゼアの側に立つとでも言うのか。
ふざけるなと叫び鎖を壊すも、一手遅い。
悪意を砕き、囚われた心を引き上げる蹴りが――



届こうとした瞬間、世界は再び凍り付いた。

390Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:33:35 ID:LPbpj4TY0



首の皮一枚繋がった。
魔法少女が齎す恩恵は刀使と鬼にも届き、能力の強化に成功。
膂力、走力、耐久性、反射神経、思考速度等々。
一つでも上がれば戦闘を格段に有利に出来る要素が、複数纏めて上昇した。
そうまでしても、日輪相手には雀の涙程度かも怪しい慰めに過ぎない。

「あははは…!これもう笑うしかないよね……!」

楽しさの中に呆れとヤケクソを混ぜた、小娘の声が鼓膜を掠める。
彼女にしては珍しい反応も、黒死牟には構う理由も余裕もなし。
五十を超える半月の群れを得物一本で捌く弟へ、ひたすらに手札を切り続ける。

――月の呼吸 漆ノ型 厄鏡・月映え

虚哭神去を一閃、斬撃波が五つ纏めて襲来。
海中を泳ぐ鮫の背びれを思わせる様で迫り、着物を刻むのすら果たせず霧散。
合間を埋めるべく発生させた三日月をも、綿埃同然に散らされる。
驚きはない、既に一度見せた技で縁壱を阻める道理はないのだから。

剣を振るう先に標的はおらず、空しく空気を噛み切るのみ。
技の悉くを潰され、一度出せば次はもう見飽きた児戯にまで落ちぶれる。
数百年掛けた歩みは小指一本分あるかないかでしかなく、如何に無駄な努力だったかを思い知らされた。
だが分かっていた筈だ、骨の髄まで思い知らされて来ただろうに。
これこそが継国縁壱。
千年万年の時を費やしたとて、追い越すどころか並び立つ事すら不可能。
どこまでいっても月では日に手を届かせられない、幾年経とうと変えられない現実がそこにあった。

391Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:34:15 ID:LPbpj4TY0
――月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月

だとしても、剣を下ろす理由にはならない。
弟が善良な人間を殺す、鬼を斬るのと同じ目で命を刈り取る。
その光景が生み出されるのだけは、どうあっても受け入れられない。
未だ理由すら分からぬまま、されど剣筋は微塵も衰えず抗う。

「そこっ…!」

感化されてはいないが、結芽もまた実力差を知って尚果敢に挑む。
退いたって、誰からも文句は飛ばない。
むしろこれ程の強者相手に、よくここまで持ち堪えたと労わられるだろう。
でも、はいそうですかと引き下がるのはお断りだ。
デェムシュの時みたいに、決め手に欠けるから一旦退くのではない。
純粋な力量差で及ばないから諦めるのは、非常に腹立たしい。
子供らしい理由なれど、結芽を動かすには十分だった。

黒死牟が繰り出した三日月の群れを、突っ切りながら御刀を突き出す。
向こうは自分に配慮なんかしてないし、して欲しいとも思ってない。
だから感覚を総動員し、足りない分は黒竜の鎧で防ぎ同士討ちは避けられているも、
といっても遊星の援護が無かったら、写シを張り直す間もなく細切れになったと言えるくらいには苛烈だ。

鬼の技も刀使の剣も、大抵の相手なら逃れられない必中の刃。
但し縁壱は「大抵」の枠に括れない、別格の怪物。
気は一切緩めず、さりとて対処不可能に非ずと断定。

――漆の型 斜陽転身

沈み掛けた太陽が再び天へ昇るが様で跳躍。
宙返りし頭部は下に、恐れ多くも神々のおわす天空へ足を向ける。
不安定な体勢ながらも回避は完璧。
全てが見えているかのように斬撃の間を抜け、刀を水平に薙ぐ。
灼熱の刀身が迫っていると分かった時既に、結芽は餌食と化していた。

392Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:34:47 ID:LPbpj4TY0
「うあああっ!?」

一振りで鎧は砕け散り、写シすらも解除。
死の肩代わりが出来ない、年相応の生身を日輪の前に晒す。
疲労は軽くないが、再び身を霊体に変えねば屍へなるのは確実。
だが遅い、再使用までの片手で数えられる間すら致命的な隙。
死ぬと脳が現実を直視する、よりも早く襟首をむんずと掴まれた。

「ひゃっ!?」

後方へ大きく放り投げた娘の声は無視し、己が妖刀を走らせる。
死が口を開き迫りつつあるのは、黒死牟も同じだ。
老爺に首を断たれる寸前だったあの夜よりも、無限城で鬼狩りどもに刃を突き立てられた時よりも。
濃密な終わりの気配に蝕まれながら、刀を振るう事はだけは止めない。

「――――っ」

が、物理的な問題がここで立ち塞がる。
虚哭神去が打ち合いの果てに断たれ、眼球の浮かぶ刀身は見る影もない。
黒死牟自身の血肉や骨から作った妖刀は、岩柱に折られても即座の修復が可能。
しかし縁壱が振るう刀は他の日輪刀とは別物。
不死に近い生命力を持つ無惨にすら、百年以上消えない傷痕を残した赫刀。
今この瞬間、黒死牟の得物は再生不可で使い物にならなくなった。

再生成し構え直す時間は無い。
数秒と掛らず終える作業も、縁壱が相手では自殺行為以外の何ものでもない。
刀を再び手にするまでの猶予を与える、奇特な性質にも非ず。
鬼は斬る、たとえ実の兄であっても。
一切の迷いを捨てた殺意を前に取る手は――

393Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:35:32 ID:LPbpj4TY0
「……っ!」

残されている。
赫刀を防ぎ死を遠ざけるは、偶然手に入れた得物。
魔界最大勢力、ファンガイア族の王のみ所持を許された魔剣。
オーバーロードをも敗走へ追いやった力を手に、思考は焼き切れんばかりに働く。

どう足掻いても縁壱には届かない、それはもう自分でも嫌と言う程分かっている。
得物を変えた所でどうにか出来る相手ではあるまい。
既存の力では何も変えられないのなら、方法は一つ。
荒唐無稽で馬鹿げた発想、それを実行する己への呆れも今は頭から追い出す。

思考を重ねる間にも戦闘は続き、日輪刀は鬼の命へ狙いを澄ます。
四百年前には実現しなかった兄殺しが、神の遊戯盤にて果たされる。
そんな幕引きを横合いからの一閃が妨害、横目で見やり弾き続く刀で胴を真っ二つに。

「…っと!分かってたけど、届かないのってムカついちゃうなぁ!」

迅移を用いた突きも無意味と化し、張り直した写シも一瞬で解除。
結芽自身察していたが、やはりこの程度は何ら脅威になり得ない。
吹き飛ばされた先で大いに不満を吐き出す。

しかし意味はあった。
ほんの僅かに逸れた意識を兄へ戻した時、予想外の姿に瞳が揺らぐ。

394Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:36:09 ID:LPbpj4TY0
「ぐ……ガアアアアアア……!」

苦悶の声を上げる理由は、赫刀の餌食となったからじゃあない。
自らの手で魔剣を突き刺し、心臓を貫いたが為。
目的は至って単純、魔剣が秘める膨大な力を強引に引き出し己が内へ流し込むこと。

詳細を黒死牟は知らないが、ザンバットソードは使い手のライフエナジーへ過剰反応し自ら喰らう性質を持つ。
一方で刀身の素材や散りばめた意匠が高純度の魔皇石なのもあり、剣自体が強大な魔皇力の塊でもある。
つまり剣から強引に魔皇力を引き出すのは、絶対に不可能とも言い切れない。

とはいえ、だ。
魔皇力は元々ファンガイアのような魔族が扱う力。
人間にとっては猛毒に等しく、使用を試みれば自ら命を縮めるも同義。
闇のキバの鎧を纏った紅音也のように、消耗死は免れない。
加えてザンバットソードもまた、所持者の精神を蝕み見境なしの獣へ変える程のじゃじゃ馬。
力を強引に引き出すなど、消滅か暴走の二択以外有り得ない。

普通ならばそう。
しかし此度は前提が大きく違って来る。

上級クラスのファンガイアにも引けを取らない、十二鬼月最強の肉体を持つこと。
無惨の血を混入させられ鬼に変貌する激痛を、過去に乗り越え耐性があること。
いろはとのコネクトを経て、異なる力同士を纏め上げる感覚は得たこと。
刀身に噛み付くザンバットバットが、抑制を働きかけていること。
暴走を促す剣の誘惑を跳ね除ける程に、縁壱への形容し難き感情が強いこと。

複数の理由が重なり、しかし一瞬でも気を抜けば食らい尽くされるだろう力の濁流に見舞われる。
歯が砕けん程に噛み締め、ふいに内側で渦巻く苦痛が和らいだ。
自分の中で僅かに残留していた娘の力が、溶けるように消えていく。
この期に及んでも桜色の少女の顔を思い浮かべてしまう自分へ、忌々し気に思うのも束の間。
カッと六眼を見開き魔剣を引き抜いた。

395Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:36:52 ID:LPbpj4TY0
闘気が嵐を巻き起こす。
上弦の参がここにいれば、短時間での劇的な変化へ眩暈を覚えただろう。
再び弟を見据える黒死牟の頬に、痣とは異なる模様が浮かび上がる。
ステンドグラス状のソレは、ファンガイアの王族が鎧を纏う際と似た現象。
生命の核である心臓へ直に流し込んだ影響で、鬼は新たな力を我が身に宿す。
キバット族の力を借りずとも、意思一つで魔皇力を活性化。
ザンバットソード本体と、深く刻まれた歴代の王達の魔皇力が血のように全身を流れる。
これまで以上に濃厚となった異形の気配へ、縁壱も静かに構え直す。
多少の驚きはあれど、何をするかは分かっていた。

――陸ノ型 日暈の龍・頭舞い

描いた光輪が幾つも繋がり、やがて龍を象る斬撃へ変化。
牙を突き立てるべく駆け巡り、灼熱で以て頸を落とす。
回避、防御、迎撃のいずれも不可能に等しい、鬼にとっての悪夢。

「やはりお前は……」

これ程に技が冴えながら、魂は神の操るがまま。
受け入れざるを得ない事実へ何を抱いたか、黒死牟自身も分からぬままに疾走。
正しい使い方を理解したと言わんばかりに、ザンバットバットで刀身を研ぐ。
魔皇力を高め、宙へ描いた巨大な蝙蝠が龍と激突。
ファンガイアの紋章に酷似してると知ってか知らずか、弾かれ合い数歩後退。

――肆ノ型 灼骨炎陽

選ぶは戦闘続行。
鬼が生きている、頸を落とすまで刀は納められない。
渦巻く火炎を思わせる斬撃が放たれる。
地獄という相応しき場所へ、鬼を引き摺り降ろす魔の手が伸ばされた。

396Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:37:45 ID:LPbpj4TY0
否と唱えるは魔剣に非ず、鬼が体内より作りし妖刀。
再生成を終えた虚哭神去が長大化し、真紅に染め上げられる。
鬼の生命を否定する灼熱ではない、魔界の王が支配下に置く鮮血だ。
本来の得物に魔皇力を流し込み、赤い二振りの刀が喰らい合う。

――月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾

龍の尾に等しい極大の刃で薙ぎ払う。
火炎が月を焼く、龍が日を砕く。
日輪が龍を炙る、月が火炎を消す。
魔を討つ刃の暴風雨を、魔に浸した刀を振るい突き進む。
宿す力が駆ける速度をも急速に引き上げ、届かぬ筈の太陽へと送り届けた。

「縁壱……!」

赫刀と妖刀が、狙ったように同時に振るわれる。
傷は――浅い。
肩へ小さく触れた程度では、赤子だろうと人間は死なない。
頸を微かに裂いた程度など、再生が亀の歩みになったとてすぐに治る。
互いに剣を繰り出すも、振るった直後大きなブレが生じたのが原因。
縁壱は兄の声を聞き、黒死牟は弟の顔を見た。
だから決着への僅か数歩の距離へ、踏み込めなかった。

(何だ……その顔は……)

己を見つめる縁壱に、どうしてなのだろうか。
憐れみで構ってやった自分へ付いて来る、幼き日を重ねるのは。
目の前にいる弟は人形染みた真顔だというのに。
不安そうに自分を見上げる、まるで悪戯を咎められたような子供に見えたのは。

(何故……そんな目で私を……)

兄弟共に、時が止まった世界へ閉じ込められたかのよう。
動けないまま、言葉一つ出せずにお互いを見る。
ほんの数秒が永遠の静寂にも感じられる中、

397Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:38:46 ID:LPbpj4TY0
「っ!」

示し合わせたかのタイミングで、揃って飛び退き距離を取る。
お互いへの殺意を取り戻したのではなく、肌を尋常ならざる冷気が撫でたからだ。
地面に目を落とせば、立っていた箇所へ氷が張っているではないか。
病院へ集まった者の中に、このような術を持つ人間は皆無の筈。
唯一該当する異形はとっくに逃げ去っただろうに。
横槍を入れた輩をすぐさま探り当て、黒死牟は信じられぬ物を見た。

「ビール!ビール!冷えてるか〜?」

風呂上がりの飲酒を図々しく要求する、ステハゲこと野獣先輩。
姿は赤い巨体でも黄金の鎧でもなく、かといって元の服装とも違う。
大きめの帽子を被り、チリチリの黒髪は虹色の輝きを発す。
両手には鋭利な鉄扇が存在し、パタパタと扇ぐ真っ最中。
何より注目すべきは背後、二体の氷の巫女像が冷気を吐き出していた。

その外見に、その得物に、その術に、何より両の瞳に浮かんだ『弐』『上弦』の文字を知らない筈がない。

「馬鹿な……!何故貴様が童磨の血鬼術を……!?」

野獣先輩童磨説。
大人気漫画、鬼滅の刃に登場する上弦の弐・童磨こそ野獣先輩の正体の可能性が微レ存とする説だ。
多くのファンからも、「二人纏めてとっとと地獄に落ちろ」とお墨付きを頂いてる。

困惑を抱きつつ更に視線を張り巡らさせれば、凍結の被害に遭い身動きを封じられた者がチラホラ。
バインドの魔法で遊星にあえて捕まり、ほんのちょっぴり気が緩んだ隙を突いたのだろう。
怪獣の巨体故効果が薄いキャルが殴り掛かるも、童磨の血鬼術のみならず身体能力も手に入れ野獣先輩は身軽だ。
蝶のようにひらひらと避け、デイパックから取り出した物体を投擲。
ずんぐりとした脚部へ張り付くも痛みは皆無。
ファイブキングの肉体に生半可な攻撃は意味を為さない、その筈だった。

398Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:39:32 ID:LPbpj4TY0
「っ!?なによ…これ…この茶色野郎…!何したの…!?」
「大分溜まってんじゃんアゼルバイジャン」

怒り交じりの問い掛けには答えず、したり顔を浮かべ語録を吐き出す。
唐突に体中が重くなり、荒い呼吸を繰り返すキャルには何が何やらさっぱり。
野獣先輩が投げ付けたのは、病院を襲う前にデェムシュが使ったケロンパス。
疲れを抜き取れるのは一度だけでも、再度貼り付ければ疲労を別の者へ押し付ける事も可能。
放送前の連戦の多大な消耗を、全てキャルが背負う羽目になったのである。

「くっ…これは一体…!?」

凍結の被害に遭った者はまだいる。
滅と戦闘中のライダー達も体が凍り、身動きが取れない。
唯一、スタンドを操作できる承太郎がスタープラチナを出現させ脱出を試みる。
だが元の動きを取り戻したのは、滅の方が早い。
ドラゴンフォームは蒼炎を発生させる装置を搭載済、加えて感情の高まりによって出力は高まる。
融解寸前まで高温を発し、すかさずドライバーを操作。

『Ready Go!』

『EVOLTEC FINISH!』

「ぐぅ…!?」
「がっ…!」

叩き込んだ拳から蒼炎の龍が生み出され、サウザーのみならずグリスをも飲み込む。
盛大に殴り飛ばされた二人から視線を外し、続けてプログライズキーを得物に装填。
標的へ選ばれたのは残るもう一体のライダーだ。

399Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:40:36 ID:LPbpj4TY0
『Progrise key comfirmed. Ready to buster.』

「きゃああああああっ!?」
『イロハちゃ――ひょえええ!?』

片腕にオーラを纏わせ、いろはを拘束。
凍結を受けだされる前にこっちでも動きを封じ、確実に攻撃を当てる。
スティングスコーピオンのデータが刃を生成、斬り上げサウザー達同様に吹き飛ばす。
おまけにドライバーも外れ変身解除。
生身の魔法少女衣装を晒し、アスファルトの上で痛みに呻く。

「そうですねぇ……」

各々の状況を視界に捉えつつ、野獣先輩は冷静に次の行動を模索。
大半の者が消耗しており、かく言う自身も新説シリーズの連続使用で体力的な余裕はない。
負傷こそ童磨になり鬼の再生能力で回付中だが、疲労はどうにもならなかった。
氷の吐息に包まれるのを躱した剣士達もおり、見れば結芽とか呼ばれてたメスガキも凍結は避けた様子。

「やっぱり僕は…王道を往くブラックホールですか(エボルフェーズ4)」

このまま戦闘を続けても、生き残れるかは怪しい。
となったら長居は無用、貴重な手札を失うのは惜しいが使わずに死ぬよりはマシ。
公園の死体達から回収した支給品を掲げ、発動を宣言。
聖都大学附属病院を見下ろす位置に、巨大な黒い穴が生まれた。
デュエルモンスターズのゴールドシリーズ、ブラック・ホール。
フィールド上のモンスター全てを破壊する、強力無比な全体除去魔法カード。
殺し合いで吸い込まれた参加者を、ランダムに別エリアへ転移させる効果を持つ。

「じゃあ俺、ギャラもらって帰るから…」

言葉とは裏腹に得た物は一つもなく、野獣先輩はブラックホールへ飲まれた。
ホモ特有の大胆な逃走に文句を付けられる状況ではない。

400Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:41:06 ID:LPbpj4TY0
「マズい……!」

ウィザードに変身し重量がある状態ですら、踏ん張るのも困難な吸引力。
凍結から抜け出たのも一瞬、すぐに遊星は上空へ吸い上げられた。

「おにーさん!?」

遊星を追い掛けるように結芽も急上昇。
守ってあげると言った手前、一人放置させるのは少々バツが悪い。
単独で放り出されては危険度も高まるのもあり、どうにか腕を掴み分断を防ぐ。
揃って別エリアに飛ばされ、残る者達にも同様の被害が降り掛かる。

「だめ……もう……!きゃっ!?」

咄嗟に病院の壁にしがみ付くも、直前に受けたダメージもあり無駄な抵抗に終わった。
見えない手に摘ままれ引っ張られるように、いろはも地上から離れて行く。
純白の衣装と編んだ桜色の髪が激しく揺れる様は、鬼の六眼にも見えた。
刀を地面に突き刺しどうにか留まろうとした筈が、気付けば地を蹴り自ら空へ。
こちらへ気付いた娘が驚きの顔を浮かべるも、信じられないのは黒死牟自身も同じだ。

(私は……何をしている……)

黒い穴が何処へ通じてるのかは不明。
日の当たる場所が待ち構えている可能性とて低くはない。
自ら死にに向かうに等しいだろうに、何をしているのか。

「黒死牟さ――」

己自身へ愕然としたまま、いろはの腕を掴む。
共に姿が何処とも知れぬ場所へ飛ばされ、声は誰にも届かない。

401Destiny's Play♯君の知らない僕がいた ◆ytUSxp038U:2025/03/16(日) 19:41:38 ID:LPbpj4TY0
「おのれぇ…!」

怨嗟の声を吐きながら、滅は人間達から遠ざかる。
まただ、また一人も殺せず自分の内面を掻き乱される結果に終わった。
不甲斐ない己を恨んでも事態は変えられず、己の意志とは無関係に病院を去る。
因縁深いZAIAの人間を最後まで睨み付けたまま。

「く…ああああああ…!流石にヤバいかも……」

巨体で天津達に覆い被さり、吸い込まれるのを防ぐ。
しかしケロンパスの効果で押し付けられた疲労が枷となり、耐えるのにも限界だ。
本当に余計な事をしでかした薄汚い男へ怒りを燃やし、とうとうその時が来る。

「あんの茶色野郎…!次会ったらタダじゃ済まないわよ…!!」

怒声諸共吸収し、ファイブキングも消え去った。
残る天津達にも魔の手が迫り、フッと嘘のようにブラックホールは消失。
運が良いのか悪いのか、効果時間が切れたらしい。

「君達は無事か…?」
「どうにか、と言いてえ所だが…」
『皆いなくなっちゃったね……』

吸収を免れたのは天津と承太郎、それにドライバーの回収が間に合ったポッピー。
あれだけ他にいた参加者は、仲間も敵も全員消失。
悪い夢と思いたいが、破壊された周辺が無情にも現実を突き付けて来る。

放送から間もなく起こった襲撃に端を発した乱戦の、幕引きがこうなるとは予想外。
苦い結果に三人とも暫し言葉が出なかった。


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