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オリロワZ part3

353Z' ―永遠の山折― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:04:28 ID:fyYMDBK20

――――2012年初夏。

日差しも強くなり始めた夏
山折村は慌ただしい雰囲気に包まれていた。

今日は年に一度の鳥獣慰霊祭だ。
何もない小さな村で行われる唯一の大きなお祭りである。
都会(そと)から見れば打ち上げ花火のような派手な催しをするような予算もない小さな祭りでしかないのだろうけれど。
それでも村中が飾り付けられ、商店街には屋台が立ち並ぶ年に一度のお祭りである。
村の子供たちはその日ばかりは皆一様に心を躍らせていた。

「あれ、哉くん」

日も暮れてきた夕暮れ時。
友人たちとの待ち合わせに向かう途中、昼間の稽古でお小遣いの入った財布を道場に置きっぱなしにしていた事に気づいた哉太が八柳の道場に向かうと、そこで茶子と出会った。
茶子は一人で道場に座り込み、遠くに浮かぶ提灯の明かりをぼうと眺めていた。

「何してんの茶子姉? お祭り行かないの?」
「……ん。ちょっとね。哉くんこそどうしたの? お祭りに行ってたんじゃないの?」
「うん、今から行くところだよ。ちょっと忘れ物をして。茶子姉も一緒に行こうよ」

そう言って哉太は座っていた茶子に向かって小さな手を差し伸べた。
だが、茶子は視線を遠くから動かさなかった。
その手は取られることなく、茶子は拒否するようにゆるゆると首を振った。

「うーん。そっか」

茶子が手を取る気がない事を理解したのか、素直に哉太が手を引っ込める。
だが、哉太は剣道場から立ち去ることなく茶子の横まで移動するとその隣に腰を下ろした。

「じゃあ俺もここでいいよ」
「いいの? お友達と一緒に回るんじゃないの?」
「うーん。約束すっぽかしたら圭ちゃんは怒るかもだけど……。
 まあ今日は光ちゃんや珠ちゃんを案内するんだって張り切ってたみたいだし、俺が居なくても気にしないよ」

リーダーである圭介は引っ越してきたばかりの日野姉妹に初めての鳥獣慰霊祭を案内するんだと妙に張り切っている。
みかげや諒吾もいるだろうし、むしろ今は自分がいない方がいいまである。

圭介たちは自分が居なくても大丈夫だ。だけど、今の茶子はどうだろう。
なんとなく哉太はここにいないといけないような気がした。
遠くを見つめる茶子の瞳には大人びた達観と一抹の寂しさの様なものが混じっているように見えた。
何より、誰もが楽しい祭りの日なのに、一人でここにいるのは酷く悲しい事のように思えた。

何をするでもなく2人並んで遠くの祭りの明かりを見つめる。
時折吹き抜ける静かな風が頬を優しく撫でてゆく。
穏やかな時間、だが、哉太の心は妙にどぎまぎしていた。

この村の子供たちは一緒に生まれ育った家族のようなものだ。
だが、突然現れた年上のお姉さんである。
日野姉妹も同じような立場だが、彼は年上のお姉さんと言う存在に憧れのような感情を抱いていた。
そんな相手と2人きりと言う状況は少年心に落ち着かないものがある。

「知ってる? 屋台って木更津組の奴らがやってるんだよ」

沈黙を破るように、茶子がそんな事を言い出した。

「え、う、うん。木更津組って沙門さんの所でしょ?」
「そ、悪い人たち」

商店街に並ぶ的屋の殆どが木更津組のシノギだ。
都会ではもうあまり見かけなくなった光景だが、この山折村では未だにその手の輩が幅を利かせている。
その売り上げは反社会的活動の活動資金となる。

だが、それはお日様の匂いはダニの死体の匂いだとかと同じ知らなくてもいい話だ。
的屋に関してはシノギと言ってもアガリは大した額ではないし、荒事の起きやすい祭りに睨みを利かす治安維持の意味合いが強い。
この嫌悪感自体が、子供の浅慮に過ぎない。子供はそんな事を考えず無邪気にお祭りを楽しんでいればいいのだ。

だというのに無邪気に楽しむ気になれないのは茶子が子供ではないからなのか。
子供ではない、大人でもない。けれど、思春期で済ませるには少し行き過ぎた潔癖症である。

いずれにせよ、子供である哉太にはよくわからない話だった。
悪の組織が運営する悪いお店なんだと、朝の特撮番組に準えてそんな理解をした。
確かにそれはよくない気もしてきた。

354Z' ―永遠の山折― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:05:12 ID:fyYMDBK20
「そうだ…………!」

何かを思いついたように哉太が声を上げた。
突然の大声に、茶子は少しだけ驚いたようにビクリと肩を震わせたが、すぐにお姉さんらしく「どうしたの?」と問い返した。

「なら、来年から俺たちもやればいいんだよ! この道場のみんなでさ」
「有志の屋台ってこと?」
「ゆうし……? よくわかんないけど俺から圭ちゃんに話とくよ!
 大丈夫、圭ちゃんなら何とかしてくれるからさ!」

友人への無邪気な信頼を感じさせる言葉。
茶子からすれば生意気なガキだが、哉太からすれば何よりも信頼できるリーダーなのだ。
実際、彼に頼めばこの村の中では大抵の無茶は叶う。

薄暮の空に広がる微かな夕焼けが、静かに夜の帳へと移り変わてゆく。
遠くから聞こえてくる祭囃子の音が、村全体に賑やかさを届け始めた。
どうやら、神社の方で祭りの本番である慰霊祭の儀式が始まったようだ。

「お祭り、始まったみたいだね」
「そうね」

遠くの光に照らされて伸びた影が覆う剣道場。
祭りが騒がしければ騒がしい程、取り残されたような寂しさが訪れる。
そんな寂しさが嫌で、哉太は勢いよく立ち上がった。

「茶子姉、俺たちも踊ろうよ」
「ここで?」
「うん、祭囃子が聞こえるから、お祭りはここでもできるよ」

そう言って哉太は無邪気に踊り始めた。
拙い盆踊りのような作法も何もない踊り。

「……ぷ。ははは! へたっぴだなぁ。哉くん」

それが、あんまりにも下手くそで拙い踊りだから思わず茶子は笑ってしまった。
見てなさいと、彼に見本でも見せるように茶子も裸足のまま踊り始める。

「何だよ、茶子姉だって下手くそじゃん」
「何だとぉ〜?」

お祭りの夜。
遠い喧騒に包まれながら、たった2人の道場で拙い踊りを踊る。
メチャクチャなステップを踏む度、擦り傷だらけで色あせた木板の床が微かにきしむ音が響く。
オンボロ道場で踊ってるのがなんだかおかしくて2人して笑った。
提灯の揺れる明かりが2人を照らし、彼らの笑顔が輝いていた。

夏を目前にした水無月。
遠く祭囃子の聞こえる剣道場で。
そんなことがあった。



355Z' ―永遠の山折― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:06:03 ID:fyYMDBK20
あの夏の日のような夜の下、2人は踊る。
だが、あの時の拙い踊りとは違う、洗練された動き。
流麗なるそれはさながら美しい演舞である。

演奏に使用される楽器は真剣。鳴る音は八柳新陰流の剣術。
雀打ち、乱れ猩々、空蝉、鹿狩り、三重の舞、天雷。
歴史の刻まれた古い剣道場で、幾度も繰り返されてきた掛かり稽古。
哉太が村を離れるまで幾千、幾万と毎日のように打ち合ってきた。
違いと言えば一つだけ。それは稽古ではなく互いの命を奪いあう真剣勝負であるという事だ。

それは決別に向かう儀式のようでもあった。
彼女に人生で一番幸せだった、共に汗を流した輝かしい日々。
その在りし日の思い出が、剣がぶつかり合う度に火花と共に弾けて消える。

灼熱の様な刹那。
互いに愛し合いながら、互いの死を望む。
殺さねば止まらぬ相手、殺さねば前に行けぬ相手。
理由は違えど、もう殺すしかない。互いにそんな所まで来てしまった。

これは女王の声に促されていた時とは違う。
誰かに操られるでも誰に強制されるでもない、純粋なる己の意思で戦っている。
子供のように、歯を食いしばって泣き出しそうになりながら、されど決して譲れぬ何かのために。

山折村を存続させる
それが茶子の譲れぬ願い。

山折村さえ続くのならば、きっと全てがうまくいく。
山折村を存続させるためならば、現在(いま)を全て切り捨ててもいい。
それほどまでに茶子の山折村に対する信仰は深い。

だって、山折村には死者(終わったもの)を蘇らせる力があるのだから。
全てが砕けてバラバラになってとっくに終わってしまった茶子を、ここまで救ってくれた。
だからきっと、すべてうまくいく。

本来であればそれも終わるはずだった。
だが、願望機と言う都合のいい存在を知り、御守りと言う手段を手に入れた。
あの瞬間から茶子の心は決まっていた。

終わっても壊れても、叶うのならば動かなければ。
終わったものが空っぽのまま動く、それはまるでゾンビのようだ。
茶子はきっと――――山折村の生んだゾンビだったのだ。

カァンと、ひと際大きな火花が弾けた。
全ての思い出を打ち尽くし、名残のような火花が消える。
未来のために、己が過去と現在の全てを焼き尽くす。

焼き尽くした全てを糧とするように、茶子は動く。
全てが消え去った後、最後に残るのは決着と言う名の結晶だ。
――――恐らく次が、最後の攻防となるだろう。

月明かりが反射し、まるで一筋の涙の如く刃が煌めいた。
万感の想いを乗せ、最後の未練を断ち切るように哉太へ向かって刀を一閃する。

猛然と打ち込んできたその剣を、逃げることなく哉太は見つめる。
憧れに目を曇らせて自分が見てこなかったもの、目を背けてきたもの。
それらに正面から向き合うために、乗せられた想いごと受け止めるように哉太は剣を合わせた。

衝突する刃。
その力を哉太は巧みに八柳流『空蝉』にて受けとめる。
刀を受け止めた体勢から足を半歩引き、体重を微妙に後ろへ移動させると、自身の体を軽く回転させた。
まるで水が岩を回避するかのように茶子の剣が進行方向をずらされ、哉太の肩を僅かに掠める。

茶子の剣はまるで導かれるようにそのまま地面に向かい、刃が大地に深く突き立てられた。
瞬間。哉太の手は稲妻のように閃き即座に剣を逆手に持ち替えた。
そして、敵の握りと地面によって固定された刃の中心に向かって渾身の力で刃を叩きつける。

八柳藤次郎の刀は戦国時代より戦場を渡り歩き、この地においても最も多くを切り殺した妖刀である。
されど、その出自は聖剣でも魔剣でもないただの日本刀であることに変わりはない。
折れず曲がらずと称される日本刀も、手入れもなくここまで使い潰されればヒビの一つも入るだろう。

哉太が狙ったのはその切れ目。
その歪んだ理想ごと叩き折るように、小さなヒビに向かって哉太は正確無比の一撃を叩きこんだ。
乾いた音とともに、日本刀の刀身が絶ち切られる。

二刀『狗噛み』と並ぶ八柳哉太が開眼した武器破壊の極地。
山を描くように3点を利用し刃を断つ。
故に、その名は――――八柳新陰流・奥義、一刀『山折』

「茶子姉――――――――ッ!」

哉太は止まらず、身を捻る。
武器を失った茶子に向けて魔聖剣を振るう。
もはや茶子は殺さねば止まれない。
ならば、この一刀こそが救いである。

刃は迷いなく降りぬかれ、決着を告げる赤い飛沫が舞った。



356Z' ―永遠の山折― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:07:01 ID:fyYMDBK20

――――2017年初秋。

茹だるような暑さだった夏が終り、季節は秋の口に入った。
村を取り囲む山々は赤や黄、橙といった鮮やかな装飾に彩られ始めていた。

茶子が山折村の住民となって幾年かの時が過ぎ、彼女は高校生になった。
高校生になったと言っても、山折村の校舎は一つしかなく小中高一貫であるため、環境的には何が変わる訳でもないのだが。
変わらないのが田舎のいいところだ、なんていう人もいるが、ここまで変わらないのは流石の茶子もどうかと思う。

茶子はいつものように竹刀袋を肩にかけて、八柳の道場へと続く道を哉太と共に歩いていた。
学校から直接道場に向かう道すがら山々の紅葉を眺める。
その美しい景観に変わらぬ良さも感じられてしまうのだが。

その道すがら、前の方から複数名の作業着の男が歩いてくるのが見えた。
2人は会釈をしてその脇を通りすぎる。
しばらく歩いて、その背が遠ざかった所で言葉を交わし始めた。

「あれ。見ない顔だったね」
「工事の人でしょ? 外から来た」

こんな交通の弁が悪いだけの何もない小さな村に外から人が来ること自体が珍しいことである。
そんな時が止まったように何も変わらない山折村の時間は徐々に終りを迎えようとしていた。

村長が代替わりして村の開発計画が動き始めたのだ。
村には開発を嫌う派閥があって、すぐに大きな変化がある訳ではないだろうけど。
今は小学生である哉太と高校生である茶子が同じ校舎で授業を受けているが、噂では新しい校舎が建つなんて話もあるらしい。

「まあ、早くてもあたしが卒業した後の話だろうけど。哉くんが高校生になる頃には新校舎が出来てるかもねぇ」
「新しい校舎増やしたところで、生徒が居なきゃ意味ないんじゃねぇの。トラとタヌキのカワハギってやつ(?)だろ」
「捕らぬ狸の皮算用ね。これから村に人を呼び込んで学校に通う子供も増えるって事なんじゃない?」

開発に合わせて新しい住民の呼び込みも積極的に行われているようだ。
先ほどのように知らない人が村に足を運ぶことも増えてきた。

「こんな何にもない田舎に人が来る訳ないよ」

哉太は新村長の方針に否定的だ。
自分のテリトリーに知らない人間が土足で踏み込んでくるのが嫌と言う気持ちが半分。
閉鎖的で娯楽もない村に人が集まる気がないという諦め半分の擦れた意見だった。

だが、その意見にも一理ある。
仕事で訪れる人が増えたところで、居住となれば話が別だ。
確かに最近で言えば、浅葱碧と言う少女が転校してきたが山折村に住んでいる親族に引き取られてきたからだ。
そんな事情でもない限り、こんな何もない村にわざわざ引っ越してくる変わり者なんてそうそういるわけがない。

「あら、哉くんだって仲良くしてる日野さんたちが居るでしょ?」
「そうだけど、光ちゃんや珠ちゃんたちは圭ちゃんのおじさんが招いたって話だろ?」

日野家は現村長が未来を見据えて、事前に外部から招いた山折村移住者のモデルケースだ。
外の人間がこの村に溶け込み幸せに暮らすことが出来るかどうかを試す、いわば試金石である。
彼女たちこそ山折村の未来。外の世界との『融和の象徴』と言える存在である。

357Z' ―永遠の山折― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:08:04 ID:fyYMDBK20
「この村はいい所だよ。あたしは好きだなぁ山折村」

茶子はこの村を愛している。
季節によって色とりどりの顔を見る風景が好きだ。
漂う穏やかな空気が好きだ。
優しい人々が好きだ。

「なら、いいのかよ。山折村が変わっていくんだぜ?」
「いいんじゃない。より良くなるって言うんなら」

見慣れた光景も新しいモノに変わっていくのだろう。
より良くより便利に、よりよい未来を迎えるために。
変わっていくことは寂しいことだけど、在り続けるためには必要な事だ。

「それに、中身がどれだけ変わっても。山折村は山折村だから」

テセウスの船のように、その全てが入れ替わっても山折村はここにある。
彼女にとってはそれが重要で、それだけで十分だった。

「あたしはこの村に、返しきれないくらいの恩があるから。この村の為になるんならどんなことでしたいと思ってるよ。
 いつか、その恩を返せる人間になりたいなぁ」

この村を良くしたい。
それが茶子の願い。

将来はこの村でこの村を良くする仕事に就きたいと思っている。
この村の発展に寄与して、自分に幸せをくれたこの山折村に幸せを溢れさせたかった。
そうして、山折村の歴史の端にでも自分の名が刻まれるのなら、これほど嬉しいことはない。

「知ってる? あたし受けた恩は忘れない女なの」
「知ってるよ。茶子姉の執念深さは。昔のちょっとしたイタズラも絶対わすれないもんなぁ」
「そ。情の深い女なのよ、あたし」

愛も憎も誰よりも深い。
受けた恩も仇も必ず返す。
それが虎尾茶子という女だ。

「この村がずっと続くよう。きっと、よくするから」

小さく、誓いを口にする。
流れゆく何気ない日々。
学校から道場へ向かういつもの道で、愛(みらい)を語った。

そんなことがあった。



358Z' ―永遠の山折― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:09:10 ID:fyYMDBK20
温い風が吹いた。薄雲が月を覆い隠す。
月すらも見放されたように闇が包み、決着の時を覆い隠す。

2人の剣士は互いに攻撃を終えた体勢のまま固まっていた。
ただ血の滴る音だけが夜に響く。
まるで命が地面に吸い込まれてゆくように、濁った赤が黒い草に染み込んでいく。

薄雲が流れ、月光が差し込む。
露になった茶子の左腕から大量の血液が零れ落ちていた。
左腕は前腕部から完全に切り落とされており、切り捨てられた傷口から排水管みたいにドボドボと血が流れていた。
放って置けば確実に出血多量に至る致命傷である。

だが、その命運はまだ尽きてはいない。
茶子はまだ生きている。

更に雲が流れ、その先の哉太の姿を照らす。
次の瞬間、哉太の体がゆらりと揺らめいたかと思うと、その首がイチョウの葉のようにパクりと割れて大量の血が噴き出した。
頸動脈を切り裂かれたのだろう、噴水のように夥しいまでの赤が周囲を染め上げ、浮かぶ月すらも赤に染まる。
草原に冷たい夜風が吹き抜け、切り裂かれた肉と血の生々しい鉄臭さが漂っていた。

見届ける者もなく、誰にも知られることない勝負の決着。
届いたのは喉笛を食い破る虎の刃だった。
少年の正しさを女の妄念が上回ったのである。

哉太の放った斬撃には、ここまで積み重ねてきた彼の全て。鍛錬と経験そして想いが乗せられた間違いなく人生最高の一撃だった。
女の命を絶たんとするそこに一切の躊躇いはなく、何一つ曇りなく放たれた完璧なる一撃が破れる道理はなかったはずだ。

だが、茶子は防いだ。
武器破壊の直後と言う最大の隙を突かれたにもかかわらず。
まるでそう来ると分かっていたように、振るわれた刃を左腕を盾にして防ぐと、左腕を跳ね飛ばされながら敵を食らいつくす報復の刃で哉太の首を切り裂いた。

哉太の最高。哉太の全て。
故に――――――読みやすい。
知っているからこそ、愛しているからこそ、その一撃は彼女にとっての必然だった。

これぞ、茶子の至った奥義である。

それは技そのものではない。
無防備を晒して相手の油断と一瞬の隙を誘う。
この駆け引きこそが八柳新陰流・奥義、無刀『讐虎』の正体である。

相手の心理を読み取ることに長けた茶子の至った境地。
茶子はかつてこの奥義で藤次郎より一本を取り、皆伝を授かった。

剛力怪物――気喪杉 禿夫。
剣術無双――八柳 藤次郎。
狙撃手―――成田 三樹康。
魔王――――アルシェル。
戦鬼――――大田原源一郎。
女王――――日野珠。

この地において最も激しい戦闘を生き残ってきたのは間違いなく哉太だろう。
命を削るような実戦を潜り抜け、彼の剣士としての実力は大幅に成長し奥義の開眼にまで至った。
だが、そこには一つ大きな落とし穴があった。

この地においての戦闘は通常とは勝手が違う。
その成長は『異能』と言うあり得ない力を前提としたものだった。

確かに、勝負の機微を読み取る力や刀を操る技術は上昇しただろう。
だが、無意識に異能の回復力に頼り、避ける意識が紙一重の所で欠如するようになっていた。

359Z' ―永遠の山折― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:09:34 ID:fyYMDBK20
何より、この地で数多くの修羅場を潜り抜けたのは茶子とて同じである。
100以上のゾンビを相手にしたのだ、殺した数と戦闘回数で言えば間違いなくNo.1だ。

対して、茶子に与えられた異能は実戦において殆ど役に立たない精神攻撃を跳ね返すと言うごく限定的な異能である。
序盤で重傷を負い、常に死と隣り合わせの状態でも不屈の精神と己が実力のみでここまで切り抜け細い綱を渡り切った。
生死を分かつ嗅覚を磨いたのは間違いなく茶子の方だ。

その差は紙一重。
だが明暗を分けるには十分な紙一重だった。

「…………ごふっ!?」

裂かれた頸動脈から血を流した哉太が口から塊のような血を吐いた。
二人の血が混じり合ってできた血の海の中にその体は沈んで行った。
救いの剣は届かず、哉太の意識は深い奈落に墜ちる。

互いに、磨き上げてきた剣技と奥義が衝突した。
生きるため、生かすために剣を学んだ哉太の活人剣はその本分を果たし、殺すために剣を学んだ茶子の殺人剣はその本分を果たしたのだ。

【八柳 哉太 死亡】

「…………ごめんね。哉くん」

血だまりに沈む物言わぬ死体にそう告げて、最後の敵を切り捨て不要になった刀を投げ捨てた。
片腕になってしまった以上、刀でふさがっていては願望機が手に取れない。
茶子は血に濡れた手でポケットから御守りを取り出すと、地面に赤い一本線でも引く様に大量の血を零しながらゆらゆらと歩いて行く。
そして地面に転がる願望機の前にまで行くと、もはや誰の血なのかすらわからぬほどに薄汚れた願いの星を拾い上げた。

―――――成就の時だ。

師に売られ、全てが壊れたあの冬の日が脳裏をよぎる。
あの日に立てた誓いは、今ここに果たされる。

殆どの血液を失い紫かがった唇が深く吊り上がる。
願望の成就を目前としたその眼には熱狂と死に瀕した闇が入り交じっていた。
そうして、失われた片腕を気にせず、垂れ流す血液を振り乱しながら、彼女は勢いよく願望機を天に掲げた。

周囲には死と絶望しかない。
血と泥に塗れた世界の中心で――――願い星に希う。











「―――――――――あたしの山折村に、美しき永遠を―――――――――ッ!!」












360Z' ―永遠の山折― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:10:05 ID:fyYMDBK20
『そんな…………ッ!?』
『な、なんという』

厄溜まりの中から、その光景を見守っていた村の始祖たちは絶句していた。
捧げられた祈りは、終りではなく永遠。
山折の消滅を願う春陽たちとは対極の願いが捧げられた。

その願いに呼応するように、この厄溜まりにも変化が生じた。

厄溜まりの中心に巨大な白い渦が出現したのだ。
黒の中に浮かぶ異質な白。それは世界を穿つ特異点であった。
城を恐れるように、聖刀の生み出した結界の周囲に漂う厄が虫のように蠢く。
清廉潔白なる正しさの象徴のようであり、闇を許さぬ独善的な暴力のようでもあった。

穢れなき白だけが満ちた美しき世界。
茶子の望む山折村に災厄の居場所などない。

渦が蠢く。
漆黒の闇が飲み込まれるように白に堕ちる。
渦は奈落の底に存在する厄溜まりをさらなる深淵へと誘うように、漂う黒い靄と赤子の手を次々と飲み込んでいった。

女王や春陽たちのいる場所は聖刀による結界に守護られている。
だが、対厄に特化した結界ではこの渦の引力は防げないだろう。
ここも飲み込まれるのは時間の問題である。

自身の故郷の愁嘆場に、始祖たちは慌てふためく。
彼岸の手前に立つ女王は彼らとは対照的にどこか達観した表情でその光景を見ていた。
ただの人間でしかない一人の女の妄執によって世界が飲まれてゆく。
女王は何かに納得したようにふっと笑う。

「…………これが人の業か、敵わぬ訳だ」

渦の奔流を防いでいた結界が限界を迎え、音を立てて瓦解する。

全てが渦の中に飲み込まれていった。



361Z' ―永遠の山折― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:10:20 ID:fyYMDBK20
死と破壊の魔王の作成した願望機は願いの第一歩として厄溜まりの消滅という願いを果たした。
手始めの厄溜まりの消滅を果たしたのは、願望機の方向性が破壊に特化されているからである。

捧げられたのは村の永遠と言う真逆の願い。
運命の女神の加護を込めた御守りによってその方向性は捻じ曲げられたが、本来の機能から無理矢理に行っている事に変わりはない。
必然、そのために必要とする魔力も膨大になる。

本来であれば、願望機の発動には願望機自体に蓄積された魔力が消費されるため、使用者の魔力を必要としない。
だが、崩壊寸前の願望機の残存魔力のでは村の永遠と言う真逆の願いを叶えるにはリソースが足りなかった。

ならばどうするのか?
簡単な話だ。

――――――足りないものは他から補えばいい。

願望機が最初に求めたのは純粋な魔力だった。
だが、魔力を持った人間などこの山折村に居るはずもない。
高魔力体質のアニカも死亡した、それ以前に生きている人間などもういない。
一つの例外を除いて。

魔王と女神の娘『デセオ』。
白兎の願いによりその『肉体』だけは復活させられている。
完全復活が成し遂げられるまでの間は通常の方法では見つけられるはずがない安全圏に退避されている。

だが、願望機の創造主である魔王の血脈であったからだろう。
女王と終里の子との関係性に近いそれらは同じような繋がりを持っていた。
その繋がりを辿って願望機は『デセオ』の肉体をあっさりと発見した。

そうして、デセオの体がその魂である影法師のような幼神と共に、白い波に飲み込まれる。
魔王と女神から生まれたその存在は最高のリソースとして願望のために消費される。

だが、まだ足りない。
永劫の命を持つ魔王が生み出した超越者の玩具。
願望機は空腹の子供のように、貪欲なまでに次を求める。

願い星を掲げる茶子の体が、ふっと電源を落としたおもちゃのように力なく倒れた。

うさぎが干支時計の発動を魔力の代わりに生命力で補ったように、生命力は魔力の代替品になる。
全てが死に絶えたこの村の最後の命は、願望の成就のために捧げられた。

茶子の命は彼女の望み通り、村を永遠とする最後の礎となったのだ。

【虎尾 茶子 死亡】

白い渦が巻く。
血も肉も、光も闇も、生も死も。
呪いの杯はその全てを飲み込み。

そして、



――――全てを吐き出した。





362Z' ―永遠の山折― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:10:49 ID:fyYMDBK20
「なんだ………………?」

その異変に最初に気付いたのは、撤収を始めていたSSOGの隊員の一人だった。
オオサキの進言により事前に撤収準備を進めていたため、特殊部隊は迅速に行動を完了しており。
後はスケジューリングされたドローンの帰還を待つだけと言う段階になっていた。

だが、その帰還するドローンの最後の一台がそれを捕らえていた。
妙な雰囲気を感じて、隊員の一人がトラックに回収されたモニターに映し出された映像を見つめる。

そこに映し出されていたのは終焉した山折村の風景。
全ては死に絶え、生者など一人もいない。
死した村、終わった村の景色である。

最後の生き残りであった虎尾茶子も今は倒れ。
その手から零れ落ちた呪いの杯から汚濁のような白い液体が止めどなく溢れ出ていた。
汚泥は草原を埋め尽くし、あっというまに村全体を白く汚染するように広がっていった。
小さな人間の中に詰め込まれていた愛情と憎悪が吐き出され山折村(せかい)を満たす。

その汚泥は四方にある山の麓に差し掛かったところで流出をピタリと止める。
まるで山折村と世界を区切る境界線のように。

その光景は確かに異様である。
だが、異能に始まり、魔王の出現、女王の覚醒、光の巨人と、不可思議の連続であったこの村においては殊更驚くほどの事ではない。
危機でれば対処するし、命令であれば特攻も辞さない、それが彼らの仕事である。

それよりも隊員の目を引いたのは、その汚濁の中心で倒れ込んでいた茶子の死体が、むくりと立ち上がった事である。
上空からの監視では出血多量で死亡したと言う認識だった。
だが、そもそも上空の監視だけでは詳細な茶子の死因などわかるはずもない。
それだけなら、確認は間違いで生きていたのだろうという事で話は落ち着く。

だが、次にその脇で倒れていた八柳哉太の死体までもが立ち上がった。
流石にこれは無視できない異変である。
哉太は頸動脈を裂かれて確実に死亡したはずである。異能が消えた以上回復することもあり得ない。

そんな隊員の困惑をよそに、異変はそれだけにとどまらなかった。
更に、少し離れた位置で倒れていた小さな少女の首なし死体もむくりとその身を起こしたのだ。

隊員は慌てて撤退を始めていた周囲に異変を報告する。
その報告に周囲の隊員は迅速に動き、再度ドローンによる状況確認を再開した。

異変は村全体に発生していた。
いたるところで死体が起き上がり始めている。
何より異常だったのは、山のように積み上げられ、光の巨人の行進によってばらばらになったゾンビの死体たちまでもが動き始めた事だ。
無事だった部位同士が中に糸を通されたみたいに繋ぎ合わされ、継ぎはぎだらけの死者たちが起き上がる。

そうして、死体たちが動き始める。
舞台の中心で、空から吊るされた見えない糸で操られる人形のように茶子の死体が踊り始めた。
哉太とリンの死体もそれに応じるように楽しそうにカタカタと踊る。
動き始めた村の死体たちも、我先にと茶子たちの下に集うと彼女たち周囲を取り囲んで愉快な踊りを始めた。
王子さまとお姫さまを取り囲んで踊る様子はさながら眩い舞踏会のようである。

いつの間にか多くの隊員が目を奪われ食い入るように画面を見ていいた。
死体が動き、死体が踊る。余りにも悍ましい死者たちの宴。
そして、画面越しにその光景を見ていた、隊員の一人がぽつりと呟いた。


『――――――ゾンビだ』




363Z' ―永遠の山折― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:11:13 ID:fyYMDBK20
少女は踊る。
喜びを舞うように、くるくると。

少女は笑う。
夢見た世界の中心で、くるくると。

目の前には素敵な王子様。
手を取って、お姫様を優しく導くようにエスコートする。
ステップは軽やかに、ターンは華やかに。

いつだって、少女は誰かにそうしてほしかった。
だけど状況が、世界がそれを許さなかった。
少女が少女であるために、強くあることを強要していた。
けれど、そんなものはここではもう必要ない。

すぐ近くでは自分を慕う小さな少女が愛らしい花のような笑顔で笑っている。
何者にも汚されず子供が子供らしく居られる場所。
そうあってほしいと願い追い求めた理想の世界。
穢れのないその笑顔がここにある。

その周りでは大好きなお義父さんとお義母さんが優しい笑顔で見守ってくれている。
はすみや碧といった仲のいい友人たちの姿も見える。
役所の同僚、商店街の人々、多くの山折村の良き隣人たちが笑っている。
生意気な圭介やその子分たちは、ちょっと嫌いだけど存在することを許そう。

優しい大人たちに見守られ、大好きな男の子に、大好きな女の子と穢れのない白の世界で、少女は踊る。
嫌いを遠ざけ、穢れを消去し、好きだけを詰め込んだおもちゃ箱。
少女にとっての幸せの国。

星々が満たす夜空の輝きは、豪華なシャンデリアが会場を照らし出す光のように煌めいている。
その舞台を囲むように立ち並んでいる山の稜線に青々と茂る木々の影が会場を縁取る絹のカーテンのように優雅に揺れている。
草の上を滑る風の音は、会場に響く低く優雅なバイオリンの音色のようで、その調べに合わせて夜の影が舞い踊る。
そこは田舎の夜景ではなく、まるで壮麗な舞踏会の会場のようだ。

それは――――無垢で汚れを知らぬ少女(アリス)の夢。

終わることない永遠に続く、死者たちの踊る永遠の国(ネバーランド)。
ここには、つらい事もこわい事も何もない。
ただ、楽しくて愛にあふれた美しき世界。





山折村は永遠になった。

364 ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:11:48 ID:fyYMDBK20
蛇足戦の投下を終了します
続いてエピローグを投下します

365エピローグ ―new A― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:12:46 ID:fyYMDBK20
澄み渡る青空の下、海風が穏やかに吹き抜けていた。
巨大な船の甲板からは、広がる水平線が目に飛び込んでくる。
波は船の横腹に優しく寄せては返し、柔らかく白い泡を立てていた。

風と波の音が刻む心地よいリズムに目を閉じる。
大きく息を吸うと潮の香りが肺に満ち、べたついた風が頬を撫でる。
かつての激しい戦いの名残は、この清らかな波に浚われて消えていくようである。

――――山折村の騒動から7年の時が過ぎた。

僕、天原創は空と海に囲まれる青い世界に居た。
僕が立っているのは200mを超える巨大船の甲板である。
潮風に吹かれるたびに失われた小指の先が僅かに疼く。
誤解しないでいただきたいのだが、僕は別に優雅なバカンスに来ているわけではない。

では、何故僕がこんな青に囲まれた世界に居るのか?
それを説明するにはまずこの7年の世界情勢を語る必要がある。
この7年で世界の情勢は大きく変容していた。
まずはあの騒動から世界がどうなったかの話をしよう。

山折村の騒動が終息して一ヵ月ほど経過した頃の話だ。
未名崎錬による『Z計画』と『山折村の闇』に関する告発が行われた。

『Z計画』の自体が全世界的な機密事項である。
その告発ともなれば告発者が事前に消されてもおかしくはない事態である。
しかし、未名崎錬の行った告発は、どういう訳かどこからも差し止められることなく公表された。
それ自体がかなり不自然な出来事だが、何も知らない世間がそこに気づくはずもなかった。

この告発関して、ネット上では陰謀論に狂った男のよくある与太話と言う意見が大多数であり、そういった方向である程度の盛り上がりを見せたが。
あまり注目を集めることは出来ず、真に世間を動かすような大きな流れを作ることはなかった。

その折り目が変わったのはそれから程なくして。
山折村のバイオハザードを上空から映した動画がどこからか流出したのである。
動画はすぐさま削除されたようだが、今の時代、公開された情報はあっという間に拡散されるものだ。
むしろ、その迅速な削除が動画の信憑性を煽ったのか、動画は爆発的に拡散された。その情報がセンセーショナルであればなおさらだ。
はたから見れば、その動きまでが計算尽くのようでもある。

世論は大きく変わった。
すぐさま未名崎錬の告発と動画が照らしあわされ、どこからかそれを裏付けるような情報が次々と飛び出していった。
中には山折村の位置を調べあげ、突撃するものまで出てきた。そうして行方不明になる配信者が続出する事となり一種の社会問題にまで発展する事態となる。

国内の世論の波はもはや制御不可能な大きさまでに膨らみ、その余波は海を越え世界を巻き込んでいった。
世界の滅びを伝える『Z計画』の情報流出は世界に多くの混乱を生んだ。
滅びに絶望した人々や情報を秘匿していた不審により暴動にまで発展して流血沙汰に発展した国も少なくない。
その混乱で生じた負傷者は数え切れず、死者は8000万名以上とされている。

この事態に対する厳しいマスコミの追求に日本政府は追い詰められるように『Z計画』の存在を暗に認める事となった。
同時期、示し合わせたように日米間で共同研究に関する協定を表明。
日米地球保護協定(JU Earth Protection Pact 通称:JUEPP)が結ばれた。

暴動の広がる中、その他の国もこの流れを無視する事はできなくなり。
滅びと言う絶望に対して否定し続けるよりは、希望と言う特効薬を掲げる明確なヴィジョンを打ち出した方がいいと判断する国も出始めてきた。

EUではまずドイツとイタリアが『Z計画』の存在を認め、JUEPPへの参加を要請。
国民の世論に押されイギリスを始めとしたEU各国も追従する動きを見せ、その動きは中東、中南米にまで広がっていった。
これによりJUEPPから世界保存連盟(Global Preservation Alliance 通称:GPA)に名を改められる。
国連加盟国の半数以上がGPAへと参加した段階で、大国のなかでは最後まで『Z計画』の存在を否認していた中露も観念したようにGPAへの参加を表明した。

GPAは治安維持を目的とした国際連合軍を結成。
各国で行われる暴動の大半は治安維持部隊によって鎮圧され、維持活動が行われることとなった。
この動きに対する反発する動きや抵抗組織も生まれたが、結果として世界の治安はそれなりに落ち着いたようだ。

366エピローグ ―new A― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:14:02 ID:fyYMDBK20
そうして、研究所の思惑通り世界は滅びと言う共通の敵に対して手を取り合うことなった。
各国で秘密裏に行われていた研究も大半が表向きには公開される運びとなった。
それで表沙汰にできない非人道的な実験や研究がやりにくくなったというデメリットはあったのだろうが。
『Z計画』立ち上げから8年、既にその手の研究だけでは煮詰まっている段階であり、新たな風を呼び込むこの流れは各国の研究機関にとっても渡りに船だったようだ。
水面下で行われていた非人道的実験で得た裏のデータもふんだんに生かされているようで、最初から表で手を取り合うよりある意味ではいい状況だったようである、これも思惑通りなのだろうか。

当然の流れとして、その発端となった山折村で発生したバイオハザードの存在も世間に知られる所となった。
同時に、研究所の存在が公になった事により、第二の山折村になるのはごめんだと周辺住民から研究所に対する大規模な反対運動が巻き起こった。
流石に自分たちの命がかかった研究目的からして取り壊せとまでは言わなかったが、研究所は転居を余儀なくされた。

世論の後押しによって目論みが叶った代償に、世論の圧力によって移転を余儀なくされたのはままならないモノである。
そうして、騒動を受け研究所は拠点をいくつか転々と移し、最終的に落ち着いたのがこの青い海の上である。
つまり、この船こそが現在の研究所の活動拠点なのだ。

そして山折村から研究所に移送され、東京の研究所での軟禁生活が始まって1週間ほど経過した時の話だ。
上でどういうパワーゲームが行われたのか知らないが、研究所を通して所属する諜報局から研究所の警備及び協力員として働くよう辞令が下った。
そんな訳で現在の僕は研究所の協力員と言う名の立場で殆ど軟禁されているような状態であり。
蟹工船のような過酷な環境ではなく、太平洋のど真ん中で停留する豪華客船のような巨大な船舶での暮らしは快適であるのだが、ここ数年陸地を踏んだことがないと言う海の男もびっくりな生活をしている。

だが、ここに居るのはエージェントとしての仕事だけと言う訳ではない。
元女王である彼女が不当な扱いをされないかの監視と牽制と言う個人的な騎士(ナイト)の役割もあった。

研究所に運ばれた後も珠さんは意識を取り戻すことはなかった。
しばらく眠り続けた後、意識を取り戻したのは三日後の事だった。

状況を理解していない彼女に事情を説明する必要があった。
彼女の意識が女王に乗っ取られてからこれまでに起きた出来事は誤魔化せるような話でもない。
見知らぬ研究所の大人が行うよりも、顔見知りが行った方がいいだろうという判断もあり僕は自ら説明役を買って出た。
元女王の精神的負荷を考えてか、研究所側もこの提案を受け入れた。

研究者たちに退席願い、研究所の一室で僕は山折村で起きた出来事の顛末を彼女に説明した。
事情の説明を受けている間、彼女は取り乱すでもなく凜とした様子でその事実を受け入れていた。
女王に乗っ取られていた際の彼女の意識がどうなっていたのかは分からないが、もしかしたら最初から彼女は知っていたのかもしれない。

同じ経験をした人間として彼女に故郷の滅亡を伝えるのは心苦しかったが、同じ経験をした人間だから伝えられることもある。
少しだけ、自分の話をした。潜入調査員としての偽りの経歴ではなく、本当の自分の話を。

そして、研究所に軟禁された現在の状況、元女王として研究材料にされる未来も伝えた。
研究所には伝わらないよう、自由を望むのであれば絶対に何とかするとも伝えた。

彼女にとって研究所の連中は僕にとっての魔王と同じ恨むべき存在だ。
別派による犯行であり直接的な関与は否定しているが、世界を救うと言う大義の為に村を犠牲にしたことに変わりはない。
そんな相手に協力するなんて、耐えがたい精神的苦痛を被る行為だろう。

だが、彼女は恨み言一つ吐くことなく、自ら研究への協力を申し出た。
自分が世界を救う一助になるのであればと彼女は言った。
あの村で起きた出来事が意味のある事であったと、スヴィアに貰った命は意味があったのだとその価値を証明するために。
それこそが、喪われたモノを残す事だと、そう言っているようでもあった。

彼女の実際の心情までは慮れない。
だが、強い人だと、素直にそう思った。

367エピローグ ―new A― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:14:22 ID:fyYMDBK20
その後、元女王の体に念入りな身体検査が行われ、彼女の生命活動は人間とは違う法則で行われているという結果が出た。
これは女王になった後遺症と言うより、怪異によって命を蘇生された影響であるという事らしい。
その体を嘆くでもなく、彼女は怪異となってまで自分を生かした恩師に感謝をするように命を抱きしめていた。

それから、元女王の協力と山折村で獲得した多くの成果もあり、[HEウイルス]は数年で[HE-031]と言う完成品へと到達した。
そこにアメリカが行っていた遺伝子操作による極限環境でも生存可能な人類を作るという『超人計画』が合流され、[HEUウイルス]と名を改めより先へ向けた研究開発が現在も行われている。

その他の国の成果としては、アメリカとロシアが共同開発した宇宙壁によってガンマ線バーストの被害は4割減と言う予測が出ている。
中国の掲げる地下都市計画とバイオシールドの構築技術は各国に共有され、南米で行われるバイオプラントによる持続的なエネルギー開発と食料供給に生かされていた。
イギリスの進めていた遺伝子バンクとクローンによる人類再生計画は凍結されたが、そこで培われた遺伝子工学は[HEU計画]にも多大な影響を与えている。
オセアニアではガンマ線が海水に遮られる特性を利用して、海洋ベースとなる深海基地を作成して生態系維持に勤しんでいる。
インドの行う瞑想と意識進化による精神的防衛も、異能の実在が明らかになった今となってはバカにできない話である。

巨大な共通の敵に一致団結するのもまた人の本質だ。
一つでは足りなくても、多方面から相互作用を及ぼし、滅びの回避に向かって一致団結している。
多くの混乱あったけれど世界各国が手を取り合って、世界はいい方に回っているのだろう。

世界を巻き込む大きなうねりを前に、小さな村の行く末など気に留める者はいない。
あの地獄はきっと、人類史と言う大きな視点で見れば正義だったのだろう。



368エピローグ ―new A― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:14:48 ID:fyYMDBK20
海を眺めて物思いに耽っていると、海に照り返された日の光が目に入り、太陽が頂点に近い事に気づいた。
それでランチの約束があった事を思い出して僕は少しだけ足早に食堂に向かう。

ランチの時間にも関わらず食堂の席はまばらだった。
研究員と言う生き物が規則正しい生活を送る訳がない、と言うのを差し引いても今日は少ない。
食堂の外の廊下はバタバタとしており本日の研究者たちは特別忙しそうである。

世間がせわしなく働く平日に一人休日を楽しんでいるような不思議な気分である。
ガラガラの食堂を悠々とカウンターまで移動して、日替わりランチを2つ注文した。
本日のメニューは鮭のムニエルのようだ。

食事の乗ったプレートを両手に持って食堂のテーブルを通り過ぎ船の食堂から移動する。
待ち合わせ場所はここではなく海を望むバルコニーである。
待ち合わせ相手は周囲を一望できるそこでの食事を好んでいた。

「お食事ですか。天原さん」
「長谷川博士」

その途中でスーツの上から白衣を纏った妙齢の美人と鉢合った。
現在の研究責任者である長谷川真琴である。
慌ただしい様子からして食堂に向かう訳ではなさそうである。

「お忙しそうですね」
「ええ。いよいよ明日ですから」

明日。その言葉に僕も表情を引き締める。
来るべき日に向けて、研究所は忙しく働いているようだ。

「明日、ですか……」
「ええ。染木博士の悲願ですから。その人が誰よりも、この日を楽しみにしていたでしょうから」

そう思いを馳せるように長谷川博士は手にしていた書類の束を胸元で強く握りしめた。
[HEウイルス]開発の最高責任者、染木百之助博士。
染木博士は研究の完成を目前とした昨年、死亡した。
特に何の裏も陰謀もない老衰、つまりは寿命である。131歳だった。

旧日本軍が山折村にて行った不老不死実験の関係者である染木は祖母と同じように実験室で未完成の細菌を二次被害的に感染していた。
だが彼らは、人よりも老化が遅いというだけで彼らは不死ではない。
老化現象が常人の半分の速度だったとしても戦後から85年、常人だとしても90前後の肉体年齢という事になる。大往生である。
直接見たわけではないが、所長である終里も80年来の友人の死にすっかり気落ちしているという話だ。

そう言えば、山折村から研究所に連行された僕たちを出迎えたのも老研究者だった。
珠さんは目覚めることなく眠り続けていたが、彼女を背負ったまま研究所の門をくぐったところで食わせ者の老人と対峙する。
処遇に関して警戒心を全開にして応じていた僕に対して、老研究者は実にあっけらかんとした様子で額にある火傷の様な跡を掻いて。

『拷問? 人体実験? シナイシナイ。ナンか意味あるソレ?
 無駄なストレスかけても実験結果のノイズにしかならないヨ。ソリャ、スト耐実験も必要な時はヤルけどサ。
 ストレス反応に関してはアノ村で十分すぎるほどデータは採れたからネェ。暫くは必要ないかナァ』

暗に必要であれば非人道的行為も辞さないと言っているようなものだが。
少なくとも、当面はその手の実験は行なう気はないようであった。

『アァソウなの? キミ桜宮くんのお孫さん? 懐かしいナァ。ワタシねぇキミのお母さんのおしめ替えた事もあるんだヨ』

そして事情聴取なのか雑談なのかよくわからないやり取りをしている中で、こちらの出自を知った染木老人はそんな何とも微妙な情報を伝えてきた。
ともあれ老研究者の言葉に偽りはなく、定期的な投薬と問診、血液採取と全身検査を行うくらいのもので、少なくとも非人道的な扱いを受ける事はなかった。

「お忙しいところ足止めしても申し訳ないですし、それでは僕はこれで」
「ええ、珠ちゃんにもよろしくお伝えください」

簡単な挨拶を交わして分かれる。
研究員たちとの関係はこんなところだ。
相容れぬ相手でも、数年を同じ釜の飯を食って過ごせば少しは気安くもなるだろう。



369エピローグ ―new A― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:16:14 ID:fyYMDBK20
「あ、こっちこっち」

海を臨む船のデッキから元気よく手を振る少女が一人。
そこには、7年と言う歳月ですっかり伸びた髪を潮風に靡かせた少女――――日野珠が待っていた。

「お待たせしました。珠さん」
「いつも。ありがとうね、創くん」

すっかりこの呼び方にも慣れてしまった。
少女らしいかわいらしさは、成熟した女性の美しさに変わっていた。
外見は彼女のお姉さんに似てきたように思えるが活発な性格は相変わらずだ。

「また魚かぁ。お肉食べたいなぁ」
「それは次の補給がくるまで我慢ですね」

物資は2週間に1度ヘリで運ばれてくる。
補給の直前になると色々と不足する物資も出てくる。
海上での軟禁生活も慣れたものだが、食事環境に関しては不満があるようだ。

「それに、もうじきこの生活もおしまいですから」
「そっかぁ。別に名残惜しくはないけど。普通の生活に戻るのかぁ」

明日。全てが終わる運命の日。
研究員たちがバタバタと忙しそうにしているのもそれが原因だ。

世界崩壊の日『Zディ』を翌年に控えGPAは計画のマイルストーンを公開した。
その中で『Zディ』に備えるための『Xディ』として[HEUウイルス]の散布日が決定された。
国連の行った意思調査によって全世界の8割弱がGPAの計画を支持。
反対する過激派組織なんてのも生まれてしまったが、実施しなければ世界が滅ぶのだ、実質的に他の選択肢はなく計画は実施される運びとなった。

その『Xディ』が明日である。
今日は文字通り世界の変わる前夜だ。
それが完了すれば協力員である僕らはお役御免となる。

「珠さんは、どうするんですか?」
「どう、って言われてもなぁ、故郷もないわけだし」

彼女の故郷である山折村は滅んだ。
あの地で戦った者として、その結末に疑う余地はない。
少なくとも僕らを輸送した特殊部隊の男からそう聞いている。

特殊部隊の連中との接触はあれが最後だった。
山折村に派遣されていた特殊部隊の連中も同じく研究所と連携を取っているらしいが一度も接触はない。
船上に缶詰になっている自分の立場では知れる情報は少ないが、共に提携している研究所の本拠地という事もあり、風の噂を伝え聞く事もある。

その噂によると、あの事件を担当した隊長は独断専行の責任を取って辞任。
現場で成果を上げた男が新隊長として着任したという話だが、事実関係は定かではない。
詳細を確認するすべはないし、別段確認するつもりもない。
元より存在しない組織である。もう会うこともないだろう。

ともあれ故郷が滅び、それからの7年を研究所で過ごした彼女に帰る場所などない。
僕も同じ立場だが、エージェントとしての立場と師匠に叩き込まれた一人で生きる術がある。
残酷な質問だが、彼女の前途を思えば確認しない訳にもいかない。

「協力員として報酬は出ているはずですので当面の金銭面は心配いらないと思います。
 機関から住居の支援や生活の補助を受ける事も出来ますので、必要であれば僕に言っていただければ」

珠さんはため息をつく。
今後の身の振り方について真面目に離したつもりだったが、どういう訳か不満げだ。

「情緒がないなぁ、創くんは」
「?」
「ま、その辺は頼らなくても働き口くらいなんとかなるでしょ、これでも短大卒だかんね。通信教育だけど」

幸いと言うかなんというか、検査の時間以外は自由時間であり船内での行動の自由は認められていた。
もちろん外出は許されないが、そもそも海の上では逃げようもない。

船内には研究員の運動不足解消のためにジムと言った設備も充実している。
だが研究者は基本的に運動嫌いなのか普段は閑散としており、利用者は僕と珠さんくらいのものだった。

それ以外だと正直、勉強くらいしかすることがない。
様々な学術書が取り揃えられており、周囲には天才的な研究者だらけのこの船は学習環境としては最高と言っていい環境だった。
特に長谷川博士は意外に面倒見がよく、彼女の勉強をよく見てくれた。
そうして、船上からの通信教育で大学に通い見事昨年卒業を果たした。
彼女はこの状況にあってもしっかりと未来を見ている。

370エピローグ ―new A― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:16:38 ID:fyYMDBK20
「まさかいきなり一人で暮らすつもりですか? 世界がどうなるのかもわかりません、ある程度は機関の支援を受けた方がいいかと」
「こらこらマイナス思考はいかんよぉ、創くん」

[HEUウイルス]が散布されれば人類は異能と言う新しい力を得ることになる。
滅びを回避した所で、良い方に転がっていくのか、それとも悪い方に転がっていくのか。
世界がどう変化するのか、少なくとも僕には予測もつかない。

「きっと、いい未来が待ってるよ」

そう言って、水平線を望むバルコニーから世界を端まで眺める。
そう確信しているのではなく、そう彼女は信じているのだ。
それは願いのようでもあった。

「強いですね」
「まあ、信じるだけならタダだかんね」

そう言って、シシシとイタズラに笑う。
出会った時のまま、彼女らしい太陽のような笑顔で。
やはり彼女にはそのような顔が似合っている。

それから自然と山折村の話になった。
意識的に避けていたわけではないが、7年間この話題について殆ど話すことはかなった。
世界の犠牲になった悲劇の村の話ではなく、楽しかった思い出や仲の良かった友人たちの話。
そんな、どうでもいいような大切な話をした。

「そういえばさぁ」

珠さんが鮭のムニエルにナイフを入れながら、何気ない様子で、山折村に残された最後の謎に切り込んだ。

「春ちゃんは春陽さんと誰の子孫だったのかな?」

普通に考えれば後妻を取ってその間に生まれた子供というコトになるのだろうが。
伝え聞く春陽の人柄を思えば、妻である祈に操を立てて後妻などとらなかったという印象もわかる。
その疑問に、僕は自分なりの考えを述べた。

「それは、祈さんでしょう」
「けど、2人の子供は義理の娘であるうさぎさんだけだったんだよね?」

それでは血縁関係ある春姫は生まれない。
勝手な想像ですが、と前置きをして話始める。
語りは名探偵から諜報員にバントタッチして7年前にバスで語られた推理の続きを行おう。

「八尾比丘尼の肉で隠山祈は蘇らなかった。
 それは蘇生に失敗したのではなく、別の命を蘇らせたとは考えられないでしょうか?」
「どいうこと?」

珠さんは首をかしげる。
よくわかっていない彼女に向けて、はっきりと答えを告げた。

「彼女は春陽さんの子を妊娠していたのではないでしょうか?」
「つまり、蘇ったのはいのりさんじゃなくて、腹の中にいた子供だったって事?」

そんな事実はどこにも記録されていない。
つまり、自覚症状すらない妊娠初期であった可能性は高い。
その意見を受けて、珠さんは考え込むように腕を組んで、うーんと唸った後。

「…………ちょっと無理がない?」
「僕もそう思います。まあ、素人推理なんてこんなものですよ」

胎児が蘇ったところで、母体が死んでは助からないだろうとか。
その後の記録が一つも残っていないのはどうしたのだとか。
少しでも考えればボロボロと矛盾点がでてくる。

名探偵ではないのだ。快刀乱麻を断つ名推理とはいかない。
そうであったらいいな、と言う希望を語っただけである。

371エピローグ ―new A― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:16:52 ID:fyYMDBK20
「ごちそうさまでした、と」

昼食と一緒に話題も終り、珠さんが空になったプレートを持って立ち上がる。

「創くんのも片付けておくね」
「ありがとうございます」

一人取り残されて、彼女に倣って水平線を臨む。
山折村から続く物語もこれで本当にひと段落する。
これより先、古い世界は終わりを告げて、異能が当たり前の新しい世界が待っている。

結果だけ見ればあの女王が望んだ細菌との共存であるのだが。
皮肉にもあの女王の反乱が細菌の意思を明らかにし、人間はそれを制御する方法を生み出した。
細菌の自由意志と言う物は剥奪され、人間の都合のいい道具になった。それが本来の正しき形であるかのように。

その現状に、明確な意思を持った細菌と言葉を交わした唯一の人間として思うところはある。
だが、彼女を殺した自分に、何も語るべき資格はない。
そこに後悔などあるはずもないが、そうまでして手に入れた未来は素晴らしき未来になるのだろうか。

「終りの先に何があるのでしょうか?」

両手にプレートをもってバルコニーを後にしようとしていた彼女に問いかけていた。
彼女は足を止めて首だけで振り返り、当然のように言ってのける。

「次の何かが始まるんじゃない?」

世界の変わる前夜。
不安と希望を胸に抱いて僕ら眠る。
未来がより良いものであるといいと祈りながら、新しい世界を出迎える。



372エピローグ ―new A― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:17:11 ID:fyYMDBK20




































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.....
..........XX年後。

373エピローグ ―new A― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:17:36 ID:fyYMDBK20
とある小学校の朝。
授業前の教室の騒がしさはいつの時代も変わらない。
とりとめのないお喋りの声が教室の外まで響き渡り騒がしい空気に包まれていた。


     「ふぁ〜お〜っす」       「おはぁ〜」
                                     「おはようございます!!」

    「おはよう〜」            「ケンちゃんおはよう」

               「おはよう」
      「なんか顔青くね?」         「お〜す」

                        「あ、宿題忘れちゃった! ゆっくんの宿題コピーさせてよ!」
 「やべっ腹痛くなってきた」
                             「ダメだよ、って言うかコピーガードされてるしょ」
               「今度の休みどこいく?」
   「うんこマンじゃん」                   「実は3組にそれを突破できる異能をもってるやつがいてさ」

      「なぁ、昨日の配信見た?」
                    「俺ん家でよくね?」     「えぇ? そんなの異能検診で見つかるしょ?」

「ちげぇよ! うんこじゃねえよ! けど保健室行くわ」
                            「へっへ、実はさぁ、俺の異能と組み合わせればできちゃうんだよ、コンボだよコンボ」
  「見た見た、あの都市伝説ってマジなのかな?」
                       「お前んち飽きたわ」
     「バカだなぁ、ホントじゃないから都市伝説なんだろ?」            「マジぃ? 激アツじゃん」

                     「はぁ? 新しいゲーム落としたけどお前にはやらしてやんねぇ」
 「あれはマジっぽかったけど。山奥の川に居るって言うカッパ、動画もあったし」
                                         「昔は異能もなかったんでしょ?」
              「いや、嘘だって怒んなって」

「変身型の異能使ったどっか変態でしょそれ、1000年生きてる不老不死の研究者の方がマジっぽくね?」

       「よかった、ギリギリセーフ」                  「うっそ〜、どうやって暮らしてたの〜?」

 「1000年は流石に嘘でしょ、じゃあ悪名高い犯罪者だけが閉じ込められる秘密の刑務所があるとか」

      「せんせー、おそいねー」                  「なら最初に異能が確認されたのがどこか知ってる?」

  「それはあんじゃない? アルカなんとかってのも昔あったらしいし」        「知らない〜。アメリカのどっかじゃないの〜?」

 「あと、そう。山の奥深くにあるっていう、迷い込んだら二度と出られない村」       「ぶっぶー。日本なんだって」

   「あ〜。あれはマジっぽかったね、個人の異能って感じでもなかったし」     「へぇ〜。そぅなんだ〜」

         「村の名前も言ってたね、たしか……」   「なんか、なんかどこかの田舎らしいよ、名前はえっと……」



             「「――――――――山折村って言うんだって――――――――」」

374エピローグ ―new A― ◆H3bky6/SCY:2024/08/25(日) 19:17:59 ID:fyYMDBK20
投下終了です
これにてオリロワZは終了となります、ありがとうございました
改めまして、これまで作品を投稿してくださいました書き手の皆様、ここまでお付き合いくださいました読者の皆様に感謝を
この企画に関わった皆様が少しでも楽しんでいただけたなら幸いです、それでは!

375名無しさん:2024/08/25(日) 19:39:56 ID:66IbuOnY0
完結おめでとうございます!!
茶子が作り出した澱みの発生は残念で吐き気がするものだったけど、世界はちゃんと存続できたし生還者が少なからずいたのは安心しました。
オチのお約束も見事!
次回作がありましたら、また応援させていただきます。

376 ◆dxXqzZbxPY:2024/08/25(日) 21:31:48 ID:QHzxWZco0
世界的には存続していく平和になったみたいだし、巻き込まれた人達の中で生還者もいた

だけど山折村はZombieによる『永遠』が続く終焉...Zになったという...甘くて苦い終わり方...こういうのをビターエンドというのでしょうか...

今日最終回を迎えた仮面ライダーガッチャードのラスボスであるグリオンは、永遠の美しさに固執していた

だが彼のもたらそうとした黄金の永遠というのは事実上のその先...何も変わらない...終わりそのものだった

仮面ライダーガッチャードでも、このssでも気づかされましたね、永遠というのは終わりそのものであるという事を、茶子は永遠に気づかないのだろう、事実上彼女の世界での山折村は多くの人達に『終わり』と認識されている事を...まぁそれでも彼女にとっては続いているからどうでもいいかもしれないが...

...まさか私が彼女に与えたフリータイムがこうも影響を与えるとは予想外にも程がありました...あの頃も私に教えてあげたいですね、マジで

もし茶子が蛇足の行動を起こさなければ...何年か経ったら村に訪れる人がいて...村がどういうものだったのかを詳しく伝える人が現れたのかもしれない、アニカや哉太等が色々頑張ったかもしれない、そしてそれが繋がっていけば...多くの人達の中で...しっかりと様々なものが...続くはずだったんですけどね

生き残った2人の関係者や、タイミングよくたまたま村の外にいた...村に住んでいた人達が何を思ったのか、少し気になりますが...まぁこれは下手したら蛇足になるかもしれませんし、触れても触れなくても、どちらでもいいかもしれませんね

H3bky6/SCYさん、そして他の作品を執筆した皆さん、長きに渡る執筆、お疲れ様でした!!

377 ◆dxXqzZbxPY:2024/08/25(日) 21:33:26 ID:QHzxWZco0
永遠の美しさに固執していた→永遠に続く金の美しさに固執していた

でした、すみません


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