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バトルロワイアル - Invented Hell – Part2
204
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:43:54 ID:A6IR5g3s0
◇
「――がはっ!!」
覚醒した漆黒の巨獣を取り巻く戦場。
『仮面の者』が繰り出した、巨大な拳撃を真正面から受けたクオンは、その身体を岩盤に叩きつけられ、苦悶を漏らす。
宙を駆けるうたわれるものは、その手に巨大な炎槍を顕現し、身動きの取れない彼女を葬り去るべく、投擲せんとする。
慌てて、早苗が援護に入らんとするも―――
『ヌゥウウン!!』
「きゃあ!?」
早苗の動きを察知したヴライは、投擲先を彼女に変更し、射出―――豪速で迫る巨大な炎塊を、早苗は翠色の髪を靡かせつつ、寸前で躱す。
的を外した炎槍は、大地に着弾。
業火に焼かれ、黒煙を上げる地上を一瞥し、早苗は冷や汗を浮かべる。
何とか今はやり過ごせたものの、その火力は桁違い―――直撃すれば、一たまりもない。
クオンの窮状を察して、駆けつけ加勢したのは良いが、北宇治高校で相対した破壊神に引けを取らぬ、圧倒的火力と相対する羽目になり、生きた心地がまるでしない。
例えるならば、死神に首筋に鎌を突き付けられているような、そんな感覚。
(――それでも、私は……!!)
仲間を助けたい―――その一心で、早苗は己の恐怖を押さえつけると、立て続けに迫り来る業火の塊を躱していく。
風を切り、豪炎の中を掻い潜りながらも、決して防戦一方というわけではない。
隙を見ては、ありったけの弾幕を叩き込んでいく。
205
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:44:19 ID:A6IR5g3s0
『……ッ……、羽蟲―――』
巨獣化したヴライにとって、早苗の存在など、ブンブンと耳障りな羽音を立てる蟲にも等しいだろう。
しかし、現人神たる巫女から降り注ぐ光の弾幕は、ヴライの巨体に容赦なく突き刺さると、その肉を抉っていき、決して無視することは出来ない威力を孕んでいた。
『早々ニ失セイッ!!』
「っ!?」
苛立ちと怒りに塗れた咆哮を轟かせると、ヴライの胸部からは、業火が間欠泉のごとく噴射。
早苗は咄嗟に、風の結界を展開し、焼き焦げることだけは防ぐ。
しかし、業火の勢いを殺すことは出来ずに、後方へと、勢いよく弾き飛ばされてしまう。
百戦錬磨の闘鬼は、大地を蹴り上げると、これを猛追。まさに、蟲を叩き潰さんとする勢いで、猛炎を帯びた剛腕を振るう。
刹那―――
「早苗はやらせねえ!!」
『ヌッ――!?』
疾走する黒い人影が、ヴライの眼前へと跳躍。
予期せぬ乱入者によって、否応なしに開かれた深紅の眼光―――そこを目掛けて、手にする銀の得物を横一閃に振り抜く。
ヴライも、即座に迎撃せんとするも―――
ザ シ ュ ッ!!
『グゥウウ……!!』
怪獣の唸り声が轟く。
ヴライの顔面に刻まれた斬線は、左の眼窩を深々と抉り、その視界を奪ったのだ。
206
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:44:41 ID:A6IR5g3s0
「ヴライっ!!」
『ッ!? 女ァ――』
片目を奪われ、瞬間的に動きが止まったヴライ。
それを好機と見たか、岩盤にめり込んでいたクオンが、戦線復帰。
自身が沈んでいた岩場を蹴り上げると、黄金の弾丸の如く、ヴライの元へと一直線に飛来してきたのだ。
「ハァァァァァァッ!!」
懐へ飛び込んできたクオンに、ヴライは反射的に左腕を振るい、裏拳の要領で殴り飛ばさんとする。
しかし、クオンの方が一瞬速く、拳が振るわれるより先に、巨獣の側頭部に痛烈な蹴撃を叩き込む。
『――ヌゥッ!!』
その巨体は、大きく傾ぐも、倒れることなく踏みとどまり、すぐに反撃せんと右掌に炎槍を顕現。そのまま、クオンに投擲せんとするも、すかさず早苗がこれに反応。風と光の弾幕を、巨獣の右手首へ連続掃射。
肉が爆ぜ削がれて、手元が狂うと、炎槍の投擲はクオンを捉えること叶わず、結果として、遠方の大地に火の柱を立ち昇らせるだけとなった。
再び生じた隙を、トゥスクルの天子は見逃すことなく、拳と蹴りを間断なく叩き込んでいき、巨躯を揺らしていく。
そして--
「てえああああっ!!」
『……ッ!!』
裂帛の気合いと共に、金色の闘気を全開にしたクオンが、渾身の右掌底を巨大な頭蓋に叩き込むと、ヤマト八柱の巨獣の躰は、後方へと大きく吹き飛び、大地に背を打ち付けた。
「――はぁはぁ……」
生身の身体で、城塞を彷彿させるような巨体を殴り飛ばすという、離れ業をやってのけたクオン。
ヴライが吹き飛んだ方向を見やりながらも、地面に着地すると、『力』の反動によって吐き出された口元の血を拭う。
207
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:45:12 ID:A6IR5g3s0
「やるじゃねえか、あんた」
「――貴方は……?」
そんな彼女に、乱入者たるロクロウは、好奇の眼差しを向けて、語り掛ける。
遠目から、怪物相手に奮戦していたのは窺えていたが、実際にアレを吹き飛ばすのを目の当たりにしてしまうと、その規格外の強さに感銘を受けると同時に、己が夜叉の血が滾るのを感じていた。
「ロクロウさん……!!」
「助太刀に来たぜ、早苗。
ったく、一人で突っ走りやがって……」
「ご、ごめんなさい……。でも、クオンさんが危なかったので……」
慌てて駆け寄る早苗に、ロクロウは呆れた様子で嘆息すると、彼女は申し訳なさげに頭を下げる。
「……味方と考えて良いのかな?」
「応……、ロクロウだ、宜しく頼むぜ」
「私はクオン……。ロクロウ、早速で悪いんだけど、手を貸してくれると助かるかな?」
既にクオンの視線は、吹き飛んだヴライの方に向いている。
地に背を預けていたヴライは、ゆっくりと起き上がると、三人を鋭く睨み据えていた。
「言われるまでもねぇ。俺はその為にここに来たんだからな」
蠢く山に向けて、ロクロウも眼光を光らせると、妖しく煌めく剣を構える。
早苗もまた、ゴクリと生唾を呑みつつ、お祓い棒を振り上げる。
『……我ヲ阻ム蟲ガ、マタ増エタカ……』
一体の怪物と、三人の男女――。
互いに一触即発の空気を放つ中、山の如き巨獣は、前傾の構えをより前屈みにして、両の手に炎槍を顕現。
『良カロウ……、ナレバ此度コソ、汝ラ総テ滅却シ、我ガ武ヲ……否、ヤマトノ武ヲ、示ソウゾ!!』
開戦の号砲が如く、ヴライは炎槍を投擲。
迫り来る業火の塊を前にクオン、早苗、ロクロウは、それぞれ散開---爆心点より退避する。
爆ぜる大地と、迸る火花の嵐の中で、ロクロウとクオンはその脚力を以って、ヴライに肉薄せんと疾駆。
208
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:45:30 ID:A6IR5g3s0
「「……っ!?」」
しかし、炎獄を掻い潜ったその先に、そこにいたはずの巨躯は存在せず――。
「なっ…!? 一体何処に……?」
宙へと退避していた早苗も、ヴライの消失に驚きを露にするも、すぐに、その答えに行き着く。
「っ!? クオンさん、ロクロウさん!!」
自身の更なる上空から伝播する熱量。
いつの間にか、頭上を覆うように跳躍していたヴライの両掌には、日輪の如く輝く炎球があった。
早苗は、咄嗟に二人の名を叫び、警鐘を鳴らす。
『ヌゥンッ!!』
しかし、その呼び掛けによって、ロクロウとクオンが、ヴライの所在に気付いた頃には、天より振り下ろされた業火球が猛然と差し迫っていた。
早苗は慌てて、光弾の弾幕を撃ち込んで、その勢いを殺さんとするが、如何せん質量が違い過ぎる。
炎球の速度は緩まることなく、瞬く間に、宙に浮かぶ早苗に達そうとする。
「たぁぁあああああああっ!!」
刹那、全開の闘気を纏ったクオンが、地を思いっきり蹴ると、ロケットの如く天高く飛翔。
早苗を吞み込まんとしていた炎球を突き破り、これを霧散させると、勢いそのままヴライに迫る。
ヴライもまた二発の炎槍を連続投擲し、これを撃ち落とさんとする。
しかし、クオンが纏う金色の闘気は、二度の爆撃を真正面から受けても、尚健在。
勢いを殺されることなく、ヴライに肉薄していく。
咄嗟に剛腕が振り下ろされるが、クオンはくるりと身を翻して、躱しきる。
やがて、高度が巨獣の頭上を越えるや否や、空中で一回転―――遠心力に勢いを乗せて、自身を見上げる怪物の頭蓋に、踵落としを叩き込んだ。
『グッ……!?』
爆発的な衝撃に、巨獣の頭蓋は軋みを上げ、その巨躯は地上へと、叩き落とされる。
隕石の如く、豪速で地面へと叩きつけられると、大地は円状に陥没。
その周囲は罅割れ、捲れ上がった土砂が天へと立ち昇った。
209
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:46:01 ID:A6IR5g3s0
「――そこぉっ!!」
ダダダダダダダン!!
人間(ヒト)の姿を保った者達の攻勢は、尚も続く。
地に倒れ伏すヴライに対して、流星の如く光弾を叩き込む早苗。
着弾とともに、肉体が削られていき、その巨体は揺れ動くものの、ヴライはその身を奮起させ、ゆっくりと起き上がらんとする。
ザシュッ!!
『――ヌゥッ……!?』
脚に灼熱が走り、思わず膝をつきそうになるヴライ。
ザシュッ!!
ザシュッ!!
ザシュッ!!
目をやると、自身の脚部に何重もの斬線を刻み込んでいく、隻腕の剣士の姿があった。
『小癪ナァ……!!』
上体を穿っていく早苗―――。
脚部を斬り付けてくるロクロウ―――。
二方向からの同時攻撃を、ヴライは剛腕を振るい、薙ぎ払わんとするも―――
ガ ゴ ン ォ !!
天より降ってきたクオンが、ヴライの側頭部に回し蹴りを叩き込んだ。
『ヌ……グゥッ!?』
頭の中で星が煌めくような衝撃が走り、ヴライの巨躯は水平に、二転三転―――地鳴りを轟かせながら、荒廃した大地を転がっていく。
黒と橙が混合した、うたわれるものの巨躯は、生々しい傷と土埃によって、すっかりと汚されてしまっている。
「早苗、ロクロウ、合わせて……!!」
地の味を噛み締めながら、上体を起こすヴライの視界が捉えたのは、猛然と自身に突貫する、クオンとロクロウの二人。
ダダダダダダダン!!
『……ッ!!』
迎撃の構えを取る前に、その視界は、天より降り注ぐ早苗の弾幕によって、遮られる。
顔面に殺到した爆撃を嫌って、右前腕で顔を庇うと、がら空きとなった胴体部に、クオンとロクロウが詰め寄る。
210
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:46:25 ID:A6IR5g3s0
「「おおおおおおおおおおおおおっ!!」」
ロクロウが左から、クオンが右から。
猛る強者二人から繰り出されるは、斬撃と拳打の雨あられ。
―――真向、袈裟、逆袈裟、左袈裟、左逆袈裟、刺突……。
隻腕の業魔が、一閃一閃に神速を宿して、ランゲツ流の剣技を叩き込んでいく一方で―――。
―――横打、斜打、突き、掌底、突蹴り、回し蹴り……。
金色を纏う天子は、その四肢を存分に活かして、その身を躍動させながら、連撃を撃ち込んでいく。
ヤマト最強はその巨躯を捻り、左前腕を振り回して、反撃を試みる。
しかし、二人は素早く跳び上がることで、これを躱すと、息つく間もなく、怒涛の勢いで、肉を切り裂く斬音と、内をも穿つ打刻音を、奏でていく。
ダダダダダダダン!!
無論、ヴライの巨躯にダメージを与えるのは、地上の二人の攻勢だけではない。
天より降り注ぐ早苗の弾幕もまた、ヴライの頭蓋に炸裂し、血肉を抉っていく。
『――オノレェ……』
三方向からの一斉攻撃を受けて、怪物の表情は、屈辱と憤怒に歪んでいく。
己は帝より『仮面』を賜った、ヤマトの矛。
その『仮面』を完全解放したからには、敬愛する帝の威光の元、最強であらねばならない。
しかし、今はどうだ。誉れある『仮面の者』は、オシュトルの側付きの女と、何処の馬の骨とも分からぬ者達によって、いいように痛めつけられているではないか。
このような恥辱が、許されるものか。
―――否ッ、断ジテ否ッ……!!
尚も猛攻仕掛ける連中を、忌々しげに見据えたヴライは、早苗からの弾幕の傘としている右腕―――その掌を開くと、そこに灼熱の炎を灯らせる。
早苗がいち早く異変を察するも、憤怒の猛炎は、既に膨張しきっており―――
『我ラ、ヤマトノ武ヲ、身ヲ以ッテ知レィッ!!』
怒声とともに、大地に叩きつけられると、直径数十メートル規模の爆炎が、盛大に弾けた。
「チィっ!!」
「きゃあっ!?」
風の障壁で身を護った早苗は、圧しきられる形で遥か上空へ。
ロクロウは身を焦がしながら、水平方向に吹き飛ばされる。
ただ唯一、金色の闘気を纏うクオンのみが爆炎の中では健在。
そのまま、燃え盛る炎を突っ切ると、跳躍―――ヴライの下顎目掛けて、アッパーカットを打ち込まんとする。
『図ニ―――』
しかし、再三クオンに苦杯を嘗めさせられたヴライは、この動きを読んでおり。
巨躯に似合わぬ俊敏さで身を捻り、彼女の拳打を躱すと―――
『乗ルナァッ!!』
カウンターとして、右の大振りを放ち、クオンの華奢な身体を地盤に叩きつける。
211
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:46:51 ID:A6IR5g3s0
「がはっ!!」
圧倒的な質量差、そして、無理矢理に引き起こされた『力』の酷使により、少女の肉体は悲鳴を上げ、血反吐を吐いてしまう。
ヴライは間髪入れず、炎槍を生成すると、クオンへと射出。
一撃目、二撃目と―――それが大地に着弾する度に、爆炎と地鳴りが連続していく。
まずは目下最大の戦力を排除せんと、クオンを徹底して狙い撃っているのだ。
「クオンさんっ!!」
爆風に吹き飛ばされながらも、直ぐに空中で体勢を立て直した早苗。
慌てて戦線に復帰すると、弾幕をヴライに浴びせ、懸命に妨害せんとする。
『目障リダ、羽蟲ッ……!!』
これを患しく思ったヴライは、早苗目掛けて炎槍を乱れ撃つ。
早苗は、風を纏いながら、俊敏に飛行し、これを躱していく。
炎槍が躱される度、ヴライの苛立ちは募っていき、必然とその意識は、早苗の方へと傾いていく。
--刹那。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
巨獣の背後より一つの影が跳び上がると、身体を何重にも回転させつつ、ヴライの首筋へと迫っていく。
影の正体は、戦線に復帰したロクロウ。
風に黒の長髪を靡かせる、獰猛な夜叉の紅き眼光が捉えるは、怪物のあまりにも太い首元。
これもμの力によるものなのか、そこには『仮面の者』の変身にも適応し、膨張した銀の首輪も見受けられる。
「その首、貰い受けるぜ!!」
恐らく、これに攻撃を加えれば、爆殺も狙えるだろう。
しかし、隻腕の業魔には関係ない。首輪ごと敵の首を斬り落とす---その一心で、巨獣の首元に、遠心力を乗せた刃を奔らせんとする。
212
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:47:21 ID:A6IR5g3s0
しかし――。
『ガアアアアアアアアッ!!』
「――何っ!?」
ロクロウが放つ殺気を、即座に感知したヴライは、咆哮と共に全身から爆炎を噴出。
その爆風の勢いに圧されて、渾身の刃は、ヴライの首に到達することなく、ロクロウの身体は、遥か上空へ。
「チィッ……!!」
ロクロウは舌打ちしながら、空中で身体を捻り、すぐに体勢を立て直そうとするも―――。
「っ!?」
真正面を向けば、宙へと舞い上がった黒の巨像が、追撃のために巨腕を振りかぶっていた。
咄嗟に手に握る剣で、防御せんとするが――――
『消エ果テヨ!!』
バ ゴ ォ ン !!
ロクロウの全身に、彼の人生でかつて体験したことがない程の、凄まじい衝撃が迸った。
盾代わりに構えた剣は、いとも簡単に粉砕され、自身の身体を大きく上回るサイズの剛拳を真正面より受けたロクロウは、矢の如く勢いで、彼方へと吹き飛ばされていった。
「ロクロウさんっ!?」
夜空の向こうへと消えていったロクロウに、悲鳴を上げる早苗。
しかし、次の瞬間には、その叫びに呼応するかのように、ヴライは宙にて反転。
ギロリと早苗を睨みつけると、間髪入れずに、炎槍を連続投擲。
「……っ!!」
超高速で飛来してくる二つの弾頭―――。
回避は間に合わず。早苗は咄嗟に風の障壁を展開して、身を護る。
ド ゴ ォ ン!!
ド ゴ ォ ン!!
鼓膜を突き破らんとばかりの轟音が、連続して響けば、黒と橙が入り混じる爆炎が、早苗の視界を埋め尽くしていく。
213
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:47:44 ID:A6IR5g3s0
「ぐ、ううう……!!」
一発でも被弾したら、あの世行きとなるのは必定だろう。
早苗は歯を食いしばり、障壁が砕けぬように、必死で耐え凌いだ。
しかし、爆炎が晴れて、視界が開けた時――。
「ぁ……っ!?」
早苗の目に飛び込んできたのは、ヴライが放ったであろう大火球が、目前に迫っていた光景であった。
今しがたの炎槍ほどの速さはない。しかし、あまりにも巨大なそれはもはや壁とさえ錯覚してしまうほど。
早苗に回避の猶予は与えられておらず、展開済みの障壁に、ありったけの風を纏わせ、これを受け止める他なかった――
バギバギバギバギ
だが。
「う、く……っ!?」
早苗を護る、風の障壁は軋み、今にも砕けそうな悲鳴を上げる。
ヴライの放った大火球は、その大きさと質量故に、風の障壁だけは止めきれず。
懸命に押し返そうと、早苗はありったけの風を込めて、障壁を満開にする。
しかし、そんな彼女の抵抗を嘲笑うかのように、大火球は容赦なく彼女を圧し迫る。
バギバギバギバギ
「ぐ、ぁああああああああっっ!!」
そして遂には、障壁ごと早苗を呑み込むと、勢いそのまま地上に激突。
大爆発とともに地は震え、天を衝く火柱が、夜天と荒廃した大地を繋ぎ合わせた。
「がはっ……ごほっ……、さ、早苗……」
血を吐きながらも、地に穿たれたクレーターより這い上がったクオンは、その惨状を目の当たりにして、言葉を失う。
豪ッ!!
「--っ!?」
だが、クオンに仲間の安否を気遣っている暇は与えられない。
早苗を片付けたヴライは、クオンを視界に捉えるや否や、急降下。
そのまま、炎を纏わせた拳を振りかぶり、クオンに殴りかかってきたのである。
214
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:48:06 ID:A6IR5g3s0
「このっ……!」
クオンは瞬時に、『力』を解放。
再び金色を全身から滾らせ、拳を繰り出してくるヴライに対し、自らも拳を放つ。
両者の拳は再度衝突し、大気が振動し、世界が軋むが、それは刹那の出来事。
「っう……!!」
当初よりも、纏う闘気が大分薄くなってしまったクオン。
『力』の出力も、大幅に弱まってしまったためか、ヴライの巨躯を僅かでも押し返すこと叶わず。
剛拳に押されると、大地にその躰を打ち付けられ、地盤に放射状の亀裂を走らせながら、めり込ませてしまう。
『ヌゥオオオオオオオオッッ!!』
地鳴りと震動を轟いた。
クオンは咄嗟に両の腕を交差させて、巨拳を受け止めた。
しかし、躰の負担が高まり、『力』の出力がままならない状況で、その威力を防ぎ切ることは叶わず。
『力』の反動と、外部からの圧倒的な膂力に、彼女の華奢な身体は絶叫を上げて、大地に埋没していく。
そして、尚もヴライは拳を振り下ろす。
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
右の拳、左の拳を交互にして。
何度も、何度も、執拗に叩き込む。
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
クオンの肉体のみならず、内包される魂魄すらも圧砕せんと。
容赦のない拳の嵐が、大地を揺らしていく。
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
「ぐっ、あ”あ“あああああああああああああああああっ―――」
クオンは防御の姿勢を崩さない。
しかし、止め処ない真正面からの猛打と、『力』の酷使によって生じる内部からの崩壊―――二つの激痛に挟まれて、苦悶の叫びとともに、その端正な顔を歪ませていく。
それに伴い、命綱たる『力』も、徐々に減衰していく。全身に帯びる金色が霞んでいくのが、その証左になりえるだろう。
215
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:49:04 ID:A6IR5g3s0
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
徹底して撃ち込まれていく巨拳の嵐によって身体が軋む音と、大地が陥没していく音を耳にしながら。
クオンの意識は、徐々に混濁し、薄れていく。
(わ、たくしは……、ま、だ---)
それでも、未だ闘志は潰えていない。故に戦える、と―――。
腕のガードを崩さずに起き上がろうとするも、結局は天からの鉄槌にて叩きつけられてしまい、磔からの脱出は叶わない。
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
無情にも迫り来る“終わりの刻”。
ヤマトの天子を内包するヒトとしての器は、既に限界を迎え、決壊寸前となっていることを、クオンは悟り始めていた。
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
--ピタリ。
その時だった。
(……え……?)
不意に、巨拳の嵐が止んだ。
訝しながら、巨獣の様子を窺うクオン。
ヴライは、振り下ろしていた拳を引き戻しつつ、彼方を見つめていた。
既に彼の注意は、クオンには一切向けられていない。
一体何が―――と、クオンが身を起こした、その瞬間。
『―――ウォオオオオオオオオオオオッッ!!』
猛々しい咆哮が轟いたかと思うと、どこからともなく現れた巨大な影が、ヴライへと猛進。
『ヌゥンッ!!』
ヴライは拳で迎撃せんとすると、その巨大な影もまた、拳を繰り出す。
拳と拳が激突し、大気を震わせると、その振動が、地上にいるクオンの髪を激しく揺らした。
『――……。』
『クッハハハハハハ……!! コノ時ヲ、待チ侘ビタゾ……!!
漸ク、汝モ《仮面》ノ枷ヲ外シタカ……!!』
視界が晴れてきたクオンの瞳が捉えたのは、対になる二体の巨獣。
黒と橙を基調とする巨獣は、言うまでもなくヴライだ。
そして、もう一体。そのヴライと拳を交錯させるのは、白と蒼を基調とすると巨獣―――そのサイズ感はヴライのそれと同等のものであった。
「――ハ、ク……?」
クオンを庇うようにして立ちはだかり、ヴライに負けじと張り合っているのは、初めて見る巨獣。
だけど、その背中から垣間見える、どことのない頼もしさと温かさは、姿形こそ違えど、確かに覚えがあるもので。
クオンはぽつりと、その名を呟いた。
『サァ、互イニ縛ルモノハ無クナッタ……!!
今コソ、己ガ力ヲ存分ニ振ルイ、死合ウ時ゾ、オシュトルッ……!!』
『アァ……貴様トノ因縁、今ココニ断チ切ッテクレヨウ、ヴライッ!!』
地上でクオンが呆然と見上げる中。
二体の巨獣は、同時に咆哮し、拳を振りかぶり、激突するのであった。
216
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:49:35 ID:A6IR5g3s0
◇
ド ォ ン !!
「――ぜぇはぁ……、皆……!!」
東風谷早苗の身体を吞み込んだ、大火球が地に激突し、大爆発する頃。
熱風吹き荒れる戦場にて、オシュトルは満身創痍の身体に鞭打ちながら、戦禍のど真ん中へと駆け付けんとしていた。
自身が参戦してしまえば、余計な混乱と負担を、味方に与えかねないとロクロウに諫められ、固唾を飲んで戦況を見守るしかできなかったが、そのロクロウが盤外に弾き出され、早苗もまた理不尽なまでの火力によって、排除されてしまった今、オシュトルが駆けつけぬ理由などありはしなかった。
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
焦燥に駆られるオシュトルの鼓膜に、断続的な轟音が突き刺さる。
巨獣が、大地に剛拳をうちつける音だ。
「――っ……、クオン……!!」
遠目にて確認できる、拳の集中砲火を浴びているのは、クオン。
亜人達の世界にて最初に出会い、右も左も分からなかった自分に「名前」を与えてくれて、世話をしてくれた少女。
怒ると怖いが、面倒見がよく、聡くて、強かで、そして、いつも傍にいてくれた、かけがえのない仲間だ。
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
ドゴォッ!!
そんな自分にとってかけがえのない、大切なヒトが蹂躙されている―――。
『仮面』の力を完全解放したヤマト最強は、たった一人のヒトを破壊するために、ひたすらにその剛拳を振るい落しているのだ。
217
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:50:02 ID:A6IR5g3s0
「止めよ、ヴライ!! 貴殿の狙いは某だろう。
某は、ここにいる!!」
クオンを見殺しには出来ない。
声を張り上げて、オシュトルはヴライの注意を引こうと試みる。
だが、その声がヴライに届くことはなく、苛烈な拳の嵐が止まることはなかった。
(くそっ……、今度ばかりは恨むぞ……。
己の無力さ、無能さ、不甲斐なさを……!!)
心の臓が張り裂けそうなまでに鼓動し、早鐘を打つのを感じながら、地を駆けていく。
「ぐっ、あ”あ“あああああああああああああああああっ―――」
接近するにつれて、轟く地鳴りは大きくなっていき、クオンの苦悶に満ちた悲鳴が鮮明に聞こえ始める。
(……クオン……!!)
オシュトルの脳裏に過るのは、彼女との最後の会話―――。
『……何でかな……。どうして、仮面(アクルカ)なんかを……』
『何故、貴方は、仮面を着けて、『オシュトル』の振りをしてるのかな……?』
『その……、私が戻ってきたら、包み隠さず話してほしいかな……。
貴方と《オシュトル》の間に、何があったのかを……』
自分の正体を悟り、しかし、それを頑なに否定する自分に対して見せた、寂しくて、悲しい表情。
着飾っている衣装は違えど、道中でいざこざはあれど、最後に自分を気遣い、面倒見良く接してくれたのは、間違いなく、いつものクオンで――。
『……それじゃあ、行ってくるから……』
寂しげな微笑みと共に去る彼女を、本当は呼び止めたかった。
自分のせいで、悲しむ彼女を見るのは、これ以上なく辛かった。
自分の口から真実を打ち明けて、隠していてすまなかったと、詫びを入れて、抱きしめてやりたかった。
218
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:50:20 ID:A6IR5g3s0
(……某は―――、自分は―――)
―――あの会話を以って、今生の別れとするものか。
―――クオンを失いたくない、救いたい。
オシュトルの中で、そんな"願い"が膨れ上がっていく。
「友よ、某に力を……!!」
息を切らせながらの疾走の中、気付けば、己が仮面に手を添えていた。
友より託された、揺るぎのない意思を宿した仮面。
その仮面に、祈るように、縋るように、"願い"を込めていく。
「仮面(アクルカ)よ―――」
ヴライとクオン達が交戦する中で、オシュトルは幾度となく、自身も同様に変身せんと試みていた。
しかしながら、主催が『仮面』に制限を掛けた影響か―――『仮面』の力を完全解放することは叶わなかった。
ヴライが如何にして、主催の制限を突破したのかは不明だ。
だが、クオンを救うためには、彼と同じくその制限を突破した上で挑まねばならない。
「扉となりて……根源への道を開け放てっ!!」
だからこそ、藁にも縋る思いで。
オシュトルは、ありったけの“願い”を込めて叫んだ。
根源につながる力を呼び覚まさんと、再び『仮面』に訴えかけた。
瞬間―――。
「……っ!?」
オシュトルの視界は眩い光に覆われた。
次に感じたのは、浮遊感。
全身を伝うは、灼熱を帯びた大いなる力の流れ。
白に塗りつぶされていた視界が晴れると、此方を見据えるヴライの姿が目に入る。
大地を揺らしていた、その巨腕は既に引っ込められている。
そして彼と交わす視線が、見上げるような形ではなく、同じ高さになっていたことを悟ると――。
『―――ウォオオオオオオオオオオオッッ!!』
白の巨獣と化したオシュトルは、大地に轟く咆哮と共に、地を踏み砕くと、黒の巨獣へと飛びかかったのであった。
219
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:50:43 ID:A6IR5g3s0
◇
本来であれば、『仮面』の力の完全開放―――すなわち、巨獣への変身は、殺し合いにおけるゲームバランスを崩壊させかねないものとして、主催からは細工(ストッパー)を施され、封じられていた。
しかし、ヤマト最強の武士は、その道中における破壊神との交戦、そして、『根源』への過剰アクセスを契機として、その抑止を突破。己が姿を、黒と橙を基調とした巨獣へと昇華させた。
それでは、オシュトルの『仮面』の完全開放は、如何にして発現に至ったのだろうか?
予め断っておくが、この殺し合いの監獄を管理している主催者は、支給品である『仮面』に対して、同等の制限を掛けていた。決して、オシュトルの『仮面』への細工だけ、手を抜いていた訳ではない。
ヴライの力の解放が、前述の通り、二つの事象が重なったことがきっかけであったように、オシュトルもまた、二つの大いなる力が併さった結果、『仮面』の完全開放に至ったのだ。
まず、一つ目。
これはヴライと同じく、『仮面』に施された制限装置―――これが『破壊』の力によって損壊したことが根幹にある。
きっかけは、ヴライの拳を仮面に受けた、あの瞬間にあった。
破壊神との交戦により、『破壊』の衝撃を受けたヴライは、仮面と、それに施された細工に損壊を与えられただけに留まらず、僅かながら、その躰の内に『破壊』の残滓を内包していた。
そして、その力の残滓は、ヴライの意識しないところで、彼が織り成す破壊行為に反応。それに力を貸し与えていたのだ。
こうして、ヴライの『破壊』の残滓を帯びた拳を受けたオシュトルの『仮面』は、亀裂が生じ、ヴライのそれと同様にして、内部の制限装置も損壊を受けることとなったのだ。
とは言え、破壊神の衝撃を直接受けたヴライの『仮面』を比べると、その損傷具合は微々たるものに過ぎなかった。
220
:
戦刃幻夢 ―君臨する白―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:51:02 ID:A6IR5g3s0
それでは、何故この微かな破壊から、制限装置の完全停止に至ったのだろうか?
こちらにも、『破壊』とはまた異なる、二つ目の大いなる力が深く関わることになる。
事は、激昂したクオンの蹴撃が、オシュトルに容赦なく叩きつけられた瞬間にまで遡る。
クオンは元々その躰の内に『願い』の神ウィツァルネミテアを宿していたが、知っての通り、北宇治高校での大戦を経て、それはクオンの元から消え去った。
しかし、完全に消失したという訳ではなく、その一部を、クオンの躰の内に残していた。
今でこそ、この残滓を制御し、『超常の力』発現のための歯車として活用しているクオンであるが、当初この『願い』の断片は、彼女の制御下にはなく、不定形且つ不安定なものであった。
例えるならば、器に収まっていない液体のようなものであり、クオンの意思とは無関係に、外部と激しい接触を行えば、その欠片は無作為に撒き散らされていた。
そして、クオンに無慈悲な蹴撃を叩き込まれたオシュトルもまた、激しい痛覚と同時に、図らずとも、微弱ながら『願い』の断片を身に宿すこととなった。
そして、時を経て、その『願い』の残滓が、「クオンを護りたい」というオシュトルの強い願いに呼応―――その力を以てして、オシュトルが装う『仮面』に干渉。
『仮面』の内にある制限装置の損壊箇所を拡張させ、最終的には機能停止へと追いやった。
その結果として、オシュトルは『仮面』の完全開放に至ったのである。
だが、ここで疑問が一つ残る。
『願い』の残滓が撒き散らかされていた間、オシュトル以外にも、クオンによる猛打を浴びた者はいた。
ヴァイオレットとヴライである。
しかし、現在のところ、彼女らに『願い』の力が発現する気配はない。
それでは、二人には『願い』の断片が宿らなかったということになるのだろうか――?
答えは否―――。ヴァイオレットもヴライもまた、その躰に、『願い』の神の残滓を宿したのには違いなかった。
では何故オシュトルのみ、“願い”に呼応したのだろうか?
それは残滓に込められた大いなる意志が、オシュトルの“願い”に共鳴したからだ。
オシュトルが「クオンを護りたい」と強く願ったのと同じくして、欠片となった『願い』の神の意思もまた、己が『同胞』になり得る元の宿主を失いたくないと同調したのだ。
故に、大いなる意思を味方につけたオシュトルだけが、『願い』の力を発現。
最終的に、『仮面』の完全開放に至ることが出来たのである。
『破壊』の神と『願い』の神―――。
この殺し合いの会場で、激闘を繰り広げた二つの神の残滓は、再び一人の漢の中で交錯し、『仮面』の完全開放による『根源』への到達という、奇跡を顕現させたのであった。
221
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/10(日) 12:51:23 ID:A6IR5g3s0
投下終了します。続きは後日投下します
222
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:36:57 ID:w7MuKjnQ0
投下します
223
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:37:51 ID:w7MuKjnQ0
◇
「おいおい、さっきの啖呵はどうしたよ、あかりちゃ〜ん♪
私に鉛をぶち込みまくって、懺悔させるんじゃねーのかよ?」
「……くっ……!?」
間宮あかりの怒りと、ウィキッドの悪意が交錯する戦場は、銃撃と爆撃の二重奏が絶え間なく響き渡り、元々散らばっていた火神(ヒムカミ)の残滓に付け足す形で、爆炎と土煙が彩りを与えていた。
「最初だけは良かったんだけどさぁ。
こんな、へなちょこ射撃じゃ、ピンクチビ先輩も浮かばれないわぁ―――」
爆炎と土煙の先で、わざわざ神経を逆撫でするような言葉で語り掛けてくる、“アリア”の声色。
「黙って……!!」
視界は遮られてはいるものの、あかりは、研ぎ澄まされた聴覚と、培われた勘を頼りに、声のする方へと銃火を返す。
しかし、視界の向こう側では、ほぼ同時に、魔女が素早くステップを刻んで、大きく跳躍。
数発の弾丸は、その小さな体躯を掠めて肉を抉るも、痛みに慣れた魔女の動きを殺すには至らず。
立て続けに、宙に躍動中のウィキッドの胴体目掛けて、弾丸を射出していくも、多くの弾丸が的を外れ、辛うじて二発ほどが腹部に穴を穿つ程度。それだけでは、ウィキッドの活動を停止することは叶わない。
「はい、残念〜!!」
「っ!?」
お返しとばかりに投擲される三つの手榴弾。
あかりは瞬発的に、後方へと飛び退きつつ、引き金を引いて、三発。
それぞれが空中で手榴弾に直撃し、爆ぜる。
撃墜に成功するも、再び爆発によって生じた爆炎と土煙が、あかりの視界を遮り、ターゲットたる魔女はせせら嗤う。
224
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:38:11 ID:w7MuKjnQ0
「あーあー、こんな出来の悪いのが、私の後輩だったなんて、興醒めだわぁ」
「――るさい……」
アリアと同じ声色で、アリアの口調を模倣して、アリアに成り切って、挑発してくるウィキッドに、あかりは苛立ちを弾丸に乗せて、放つ。
しかし、その悉くは魔女を捉えることは出来ず、反撃の爆弾を見舞われては、防戦および回避に専念せざるを得なくなってしまう。
開戦当初こそ、正確無比な速射を繰り出す、あかりが全面的に圧していたのだが、時間が経つにつれて、戦況は一変。あかりの狙撃が、精密さを失うにつれ、自身が巻き込まれることも省みない爆撃を繰り出す、ウィキッドに趨勢が傾くようになった。
――それでは、何があかりの射撃の精度を狂わせているのか?
傍から見れば、あかりの視界を遮り、立ち込める爆炎と土煙―――それこそが原因であるようにも思える。
しかし、その実、間宮の術を解禁したあかりにとってみれば、感覚を研ぎ澄ますことで、視覚情報に頼らずとも、聴覚と気配から、相手の位置取りを察知することは、そう難しいことではない。
事実、狙撃の際は、ウィキッドのおおよその位置情報は把握できていた。
にもかかわらず、何故あかりの狙撃は、魔女を捉えきれないのだろうか?
「うえーん、ママぁ……、あかりの射撃が下手くそすぎて、私の仇取ってくれそうにないよーん」
「――うるさい……!!」
根本の原因は、あかりの内で蓄積されていく、怒りと苛立ちにあった。
225
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:38:51 ID:w7MuKjnQ0
アリアの姿と声を借りて―――
アリアの口調を真似て―――
アリアの人格を貶める言動を織り交ぜての―――
度重なる挑発の類によって、引き起こされた激情は、あかりの手元を狂わし、弾道を逸らさせ、結果として、ウィキッドの被弾率を激減させていったのである。
「先輩は、そんな事言わない!!」
バババァンッ!!
怒声と銃声が重なった刹那、放たれる弾丸。
しかし、それらもまたウィキッドの身体を貫くには至らず。
「下手くそで、出来損ないで、お馬鹿さんのあかり。
あんたさぁ、才能ないんだから、武偵なんて、さっさと辞めちゃえば〜?」
偽のアリアは、更なる罵りを口添えして、またしても両の手に爆弾を顕現―――更なる爆撃に邁進せんとする。
瞬間――
「――鷹捲っ!!」
「っ……!?」
突風が正面より突風が吹き抜けたかと思えば、弾丸に勝るとも劣らぬ速度で、砲弾に近い”何か”が肉薄。
寸前で、身を捻ることで直撃を避けるものの、先の突風によって、付近に立ち込めていた爆炎や土煙は、吹き飛び、視界は明瞭になった。
即座に振り返り、今しがた突き抜けた“何か”を捉えようとするも―――
ババババババァンッ!!
ウィキッドは、思考を巡らせる間もなく、鼓膜を殴打する銃声と銃火に晒された。
「……ごほっ……!!」
全身に風穴を空けられ、苦悶の声を漏らしたウィキッド。
銃撃の主は勿論、あかりだ。
鷹捲自体は躱されてしまったが、その余波によって齎された、晴れた視界、縮まった射程、捉えた魔女の隙―――。
そんな好機を、“間宮の継承者“が逃す筈もなく、間髪入れずに、銃弾を装填すると、血反吐を吐くウィキッドに、容赦なく銃弾を浴びせていく。
226
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:39:25 ID:w7MuKjnQ0
ババァンッ!!
「……ぐがっ……!!」
ババァンッ!!
一発、二発と弾着を重ねる度に、血飛沫が弾けて、ウィキッドの身体が後方に仰け反っていく。
ババァンッ!!
ババァンッ!!
ババァンッ!!
「ぐ……ぎあ……!!」
執拗に、且つ、無慈悲に浴びせられる弾丸の雨霰。
全身に風穴を穿たれては、そこから生じる灼熱の痛みに、呻きを漏らす、ウィキッド。
あかりは、尚も冷徹に、銃の引き金に指を掛け、更なる弾丸を見舞おうとする。
「ま、待って……!! 私を撃たないで、あかり!!」
唐突に片手を突き出し、制止を呼び掛ける、憧れの先輩の紛い物。
そんな彼女の姿に、ピタリと、引き金を引かんとするあかりの指が一瞬止まった。
贋物だということは十二分に理解している。
しかし、大好きな先輩と同じ容姿で、同じ声色で、同じ口調を以って、懇願されてしまっては、あかりとて、反射的に手を止めてしまうのは、無理からぬこと。
「きゃは――」
その一瞬の躊躇いを、魔女は逃さない。
刹那、手に持つ爆弾を、あかり目掛けて投擲。
「っ……!!」
あかりは、咄嗟に後方に跳んで、爆弾を回避。
どかんっ!!!
と、爆弾が地面に着地するのと同時に、先程までのものよりも広範囲激しい爆炎と衝撃がまき散らされる。
どかんっ!!!
更に爆音の木霊が連続していき、辺り一面は瞬く間に、爆炎と煙によって覆われてしまう。
227
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:39:59 ID:w7MuKjnQ0
「……くっ……、ウィキッド……!!」
爆音は尚も続いているが、その発生源が徐々に遠のいていく。
この爆撃は、あかりの進行を牽制するためだけのものではなく、逃走の為の煙幕の役割も兼ねているのだろう。
「――逃がさない……!!」
あかりは、爆煙の中へと飛び込んで、逃走するウィキッドを追撃せんと、駆け出す。
炎と煙が視界を遮り、一寸先すらも見通すのは至難の業ではあるが、それでも飛来してくる爆弾を躱し、時に撃ち落としていく。
そして、投げ込まれる爆弾の方向、角度、タイミングから、投擲手の位置取りを推測すると―――
「そこっ!!」
あかりは、煙の向こう側に銃口を向け、引き金を引いた。
「――い”だい”っ!! い”だい”よぉ、ママぁあああああああああ!!」
「……っ!?」
銃声の木霊として返ってきたのは、大好きだった先輩の情けない悲鳴。
(……あの人、どこまでも、先輩を侮辱して……!!)
唇を嚙み締めると同時に、自分の頭に血が上り、カッと熱くなるのを感じる。
込み上げてくる激情を、引き金を引く力に変えて、容赦なく発砲を続ける。
「――あ“あ”あ“あああああああ、助けて、ママぁあああああ!!!
頭の悪い後輩が、私を虐めてくるよぉおおおお!!」
尚も、耳に飛び込んでくる、神経を逆撫でしてくるアリアの声。
その間も、爆炎は、絶えず生成されていく。
視界の向こうでは、あの悪女が、舌を出して嗤いながら、アリアを演じていることだろう。
「それ以上、アリア先輩を穢すなぁああああああああ!!」
気が付くと、自分自身でも驚くほどの怒号を張り上げ、激情に身を任せて銃火を乱射しながら、爆炎の中を駆け抜けていた。
もはや、狙いも、定めもあったものではない。
ただただ、怒りのままに、仇敵がいるであろう方角に弾丸を撒き散らしては、追走していく。
228
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:40:36 ID:w7MuKjnQ0
「――ひぃいいっ……!! 来ないで……、来ないでぇ……!!
……ママぁ……ママぁあああああっーー!!」
もう、うんざりだ。
可能であれば、自分の耳を千切って、聴覚を完全に遮断してしまうとさえ思った。
「あかりのくせにぃ……、あかりのくせにぃ……!!」
こんなにも、他人に対して、悪感情を抱いたのは、未だかつてなかった。
間宮の里を焼き討ちにされたときも、夾竹桃と再会したときでさえ、未だ冷静さを保つことが出来ていたのだと思う。
「――私に、こんな事して!!
絶対に、ママに言いつけてやるぅうう!!」
頭の中に灼熱を感じる。
もはや、何も考えることはできない。
ただ、感情に突き動かされるまま、銃の引き金を引いて、無我夢中に駆けていく。
「――ママぁ……ママぁ……!! 痛いよぉ……怖いよぉ!!」
駆けて、駆けて、炎と煙の中を突き進み―――
「――ママぁ……ママぁ……!! 何で助けてくれないのぉ!?」
駆けて、駆けて、茂みを突っ切り―――
「――ママぁ……ママぁ……!! お菓子買ってぇ!!」
駆けて、駆けて、ただひたすらに、銃を撃ち続けて―――
やがて、煙幕を突破して、視界が開けた場所へと辿り着くと―――
「――見つけた……!!」
「っ……!?」
目を見開き、自身を見据える、“アリア“の姿を認めた。
229
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:41:01 ID:w7MuKjnQ0
ババァンッ!!
すかさず、乾いた銃声を鳴らし、偽者の左脚と右脚に、一発ずつ弾丸を叩き込む。
「あ”っ……、がぁあっ……!!」
被弾した箇所から噴出する、紅色の花火。
“アリア“は苦痛に顔を歪めて、その場に倒れ込むが、銃の照準はそのまま。
一旦動きを殺すことは出来たが、超回復能力を保有しているが故、油断は許されない。
再び、立ち上がるような素振りを見せるようものなら、徹底的に銃弾を浴びせるつもりでいる。
「……あ”…が……、…り”ぃ……」
恐らく、先の炎煙越しの乱射によるものだろう。
偽のアリアの喉からは、血が垂れ出ており、銀色に煌めいていたはずの首輪が、紅く彩られている。
ヒューヒューと、苦しそうに呼吸する音が、彼女の口から漏れているのを耳で捉えつつ、あかりは銃口を向け続ける。
「その状態では、喋ることは出来ない……。
謝る気があるのなら、そのまま動かず、大人しくしてください」
冷酷且つ淡々と、言葉を紡いでいくあかり。
発声することが難しいのであれば、喉の損傷が回復するまで待つしかない。
幸いにして、ウィキッドは人智を超えた再生力を有している。
数分もすれば、その口から懺悔の言葉を吐き出すことが出来るだろう。
230
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:41:52 ID:w7MuKjnQ0
「……ま”っ……、…で……」
死刑執行人が如く、冷たく見下ろしてくる、あかり。
そんな彼女に対して、“アリア”は首を小さく左右に振り、先刻と同様に片手を突き出し、静止を呼びかけようとする。
バァン!!
「……ぎぃっ……!?」
瞬間、突き出された手の甲に赤黒い穴が穿たれた。
“アリア“は声にならない悲鳴をあげて、被弾した手を、もう片方の手で庇う。
「――動かないでって言いましたよね?
あたしは、あなたに、償い以外の言動は求めていないから…!!」
怨敵を前にした復讐の執行者―――今のあかりを言い表すなら、まさにそれに相応しかった。
少々天然なところこそあれど、人懐っこい笑顔の似合う、明朗快活な少女の姿は、ここにはない。
「……あ”……、が……」
そんなあかりの剣幕に圧倒されたのか、負傷した手を抑えながら、その場で静止する、“アリア“。
それでも、何かを伝えようと、懸命に言葉を紡がんとする。
―――不快だ。
あかりの手に握る銃が、震える。
憧れの先輩の面貌で、あえて惨めな姿を晒すそれは、あかりにとって不快以外の何ものではなかった。
故に、喉の傷が癒えるまでは、これを完全に黙らせるべく、更に圧をかけんとしたその時――。
「――首輪を狙って、あかりちゃん!!」
背後から響く叫び声に、振り返ると、そこにいたのは汗びっしょりのまま、肩で息をしている久美子であった。
非力ながらも、やはり戦局が気になったのであろう---息切れしつつも、あかり達の戦いを見届けんと、ここまで駆けつけてきたのが伺える。
231
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:42:16 ID:w7MuKjnQ0
「……黄前さん……?」
「首輪を狙って!! じゃないと、そいつは殺せない!!」
ウィキッドと同じく、鬼の力を得た親友の最期――。
それを目の当たりにしたからこそ、認知した、鬼に堕ちた者の殺し方を、久美子は反芻する。
だが、あかりとしても、首輪の作動こそが、現状ウィキッドを葬り去る唯一の手段であることは、実戦を通じて、認知していた。
しかし、あかりは、その手段を行使するつもりはない。
「――黄前さん、私はこの人に別の方法で償わせる……。だから――」
「あかりちゃんは、そんな奴が、心から謝罪すると思うの?
平然と他人を痛めつけて、弄んで、命を奪って……挙げ句の果てに、その人の人格まで汚すような奴が……!!」
「するか、しないかじゃないよ、黄前さん……!! させるの……!!
償いをする気がないのであれば、徹底的に風穴を空けて、分からせる……!!」
「私も、そいつを痛めつけて、苦しませることには、賛成だよ?
だけど、仮にそいつが、謝罪でもすれば、あかりちゃんは、そいつのやったことを許せるの……?
無罪放免で許せる訳……? あかりちゃんの大事な人を殺した、そいつを……!!」
「……っ……」
「少なくとも、私は、麗奈を奪ったこいつを絶対に許さない……!! 何があっても!!」
語気を荒げて、あかりの決意に異を唱える、久美子。
そんな久美子の剣幕に、あかりは思わず押し黙ってしまう。
久美子の言っていることは尤もだ。
仮に、ウィキッドから懺悔の言葉を引き出すことができたとしても、それで、あかりや久美子の心が晴れることは恐らくないだろう。
232
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:42:36 ID:w7MuKjnQ0
しかし、それでも――
「――武偵に、人は殺せない……」
『殺さない』ではなく、『殺せない』。
間宮あかりは、武偵であり続けるため、ウィキッドの首輪の作動を狙うことはない。
「それは、あかりちゃんのルールでしょ……!! 私に押し付けないで……!!
あかりちゃんのルールで裁いても、私は納得しないから!!」
「あたしは、黄前さんに、押し付けてなんか――」
「ううん、押し付けてるよ!!
あかりちゃんは、あかりちゃんの先輩のことも、麗奈のことも、一括りにして、あかりちゃんのルールで裁こうとしている」
しかし、久美子にとって、あかりの事情など、知ったことではない。
二人とも、魔女に対して、罰を与えるべきだという点では、一致はしている。
しかし、仮にあかりのやり方で、ウィキッドが、悔い改めることがあったとしても、受け入れるつもりは毛頭ない。
忌まわしき魔女への罰は、『死』以外にはありえないと確信しているからだ。
「――……。」
久美子の糾弾に、あかりは言葉を詰まらせた。
あかりは、武偵のまま、ウィキッドに激情をぶつけて、償わせるという道を選んだ。
しかし、その決意に至るにあたって、もう一人の被害者である久美子の心情を全く考慮に入れてなかったのは、事実であったからだ。
魔女の断罪を実行するのであれば、同じく、魔女の悪意に翻弄された者として、久美子の意思を無碍にすることはできない。
故に、あかりの内で固められていた決意は、揺るがされる。
233
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:43:06 ID:w7MuKjnQ0
「それに――」
言い淀むあかりに、久美子は更なる言葉を紡ぐ。
今尚も苦しそうに呼吸する偽者を指差して、あかりの決意を更に揺るがす、決定的な言葉を。
「あかりちゃんは、人は殺せないって言うけど、そいつは『人』なの……?」
「……っ!?」
自身の決意の根底を揺るがす指摘に、大きく目を見開く、あかり。
久美子は尚も、言葉を重ねていく。
「頭を撃っても、心臓を撃っても、死なない『鬼』なんだよ、あいつは……。
だから、あかりちゃんが言う『人』じゃない!!」
「――ぁ……」
久美子の言及に、あかりは、思い知らされる。
度重なるウィキッドの挑発により、頭に血が上り、冷静な思考を欠いていたため、失念していた。
そもそも、自分達の目の前にいる者は、姿形こそ、自分がよく知る人間であれど、その本質は、人間から逸脱してしまった存在―――つまり、武偵法の定める『人』には、そもそも該当しない可能性があることに。
「だから、例えあいつを殺しても、あかりちゃんは、ルールを破ることにはならないの!!
分かるでしょ!? あいつは、『人』じゃない、人間を食い物にする、化け物なの!!」
“特別”を奪われた少女は叫び、訴えかける。魔女への怒りを原動にして。
ウィキッドという存在は、既にあかりを縛る制約の対象外にあると。
故に、殺してしまえと。
「だから、首輪を狙って、あかりちゃん!!
あいつは、別に殺してしまっても、問題ないの!!」
「――あ、あたしは……」
殺害を促され、武偵の少女が握る銃は再び、揺れ動く。
ウィキッドを殺しても、武偵のままでいられる――そんな解釈をぶつけられたがため、己の内で抑えていたドス黒い感情が、再び湧き上がるのを感じた。
間宮の術を解禁した自分にとって、偽アリアの首輪を射抜くのは、造作もない。
故に殺せる―――そして、それを阻かんでいた制約はもはや存在しない。
234
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:43:58 ID:w7MuKjnQ0
「あかりちゃん、撃ってよ!! 殺してよ!!
そいつが動けない、今のうちに!!」
「……あたしは――」
久美子に煽られるがまま、溢れ出る殺意が全身に染み渡っていくのを感じる。
しかし、同時に、それを拒む理性も、確かに存在していた。
もはや『人』ではなくなったからという理由で、『人』を辞めたものを殺めてしまって、本当に良いのだろうか、と。
それを行なってしまった時、果たして、アリア達は自分を肯定してくれるのだろうか、と。
(アリア先輩……、あたし、どうすれば……?)
感情と理性がせめぎ合い、あかりは銃を構えたまま、もう片方の手で頭を抱える。
苦悩するあかりに対して、久美子は、尚も喚いている。
殺して……、早く殺してよ、と。
その時だった―――。
バ ン !!
「…っ!?」
「きゃあ!?」
突如として一帯に閃光が弾けると、あかりと久美子の視界は、真っ白に染め上げられる。
ガサガサ
目が眩んだ二人が次に知覚したのは、茂みを搔き分ける音。
「――ウィキッドっ!!」
いち早く視覚を回復したあかりの目に飛び込んできたのは、偽のアリアが自分たちに背を向けて、遠ざかろうとしている姿。
偽りの武偵は、あかりと久美子が揉めている隙に、フラッシュバンを顕現。
間髪入れずに投げつけて、二人の視覚を奪ったたうえで、逃走を図ったのだ。
しかし、両足の損傷が尾を引いて、身体を引き摺るよう様な形での歩行となってしまい、二人の視力が回復しきる頃になっても、まだその背は捉えられていた。
「――殺して、あかりちゃん!!」
「逃がさない……!!」
バババァン!!
久美子の号令に呼応するかのように、あかりの銃口が火を噴いた。
「……がはぁ……!!」
弾丸は全てその背中に着弾。
三点の赤黒い穴が穿たれると、”アリア”は、前のめりに倒れた。
235
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:44:39 ID:w7MuKjnQ0
「……ぁ……が……」
満身創痍となった、”アリア”。
しかし、それでも懸命に身を捩らせて、芋虫のように地を這い、尚も逃走を試みる。
「――まだ、そんな……!!」
尚も、憧れの先輩の姿で、醜態を披露せんとするその様に、あかりは再び、頭に血が上る感覚を覚えた。
怒りのままに、更に弾丸を叩きこむべく、銃の照準を、その背中に定める。
だが、そんな彼女の照準を遮る様に、一つの影が飛び出すと、一直線に”アリア”の元へと駆け出した。
「うああああああああああああああああああ!!」
「黄前さん……!?」
烈火の如き咆哮を上げながら、"アリア"の元に辿り着いた、久美子。
ふわりとした髪を揺らしながら、その両手を振り上げる。
両の手に握られているのは、漬物石くらいのサイズの岩。
勢いそのままに、それを、偽のアリアの後頭部へと叩きつけた。
ガゴン!!
「……がぁ……」
鈍い音と共に、偽のアリアの頭が地面に叩きつけられる。
そして、その身体が、びくんと大きく痙攣したかと思うと、それっきり動かなくなった。
「……はあっ! はあっ!」
完全に沈黙した"アリア"。
久美子は、荒れた自分の呼吸を整えると、血痕が付着した岩を、再び頭上に振り上げる。
狙うは、眼下の悪魔の首元に巻かれている、銀色の首枷―――これを作動させれば、麗奈の仇を討てる。
「待って、黄前さん!!」
「っ……!? 放してよ、あかりちゃん!!」
だが、振り下ろさんとしてたその腕は、寸前で、あかりの手によって引き止められる。
久美子は、キッとあかりを睨みつけて、自らの復讐を阻んだその腕を振り払わんとする。
しかし、あかりも譲らない。
「やっぱり、駄目……!!
例え、相手が人じゃなくなったとしても、殺すのだけは違う……」
結局、あかりは、ウィキッドへの不殺を選択した。
度重なるアリアへの侮辱で、あかり自身も、ウィキットに対しては、間違いなく憎悪を募らせている。
しかし、それでも、あかりは、敬愛するアリアの戦姉妹として、一線を越えることは避けた。
もしも、アリアが同じ状況に陥ったら、どんな決断をするのか―――それを考えたうえでの答えだった。
236
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:45:31 ID:w7MuKjnQ0
「いい加減にしてよ!! それは、あかりちゃんのルールでしょ!?
そんなの、私に押し付けないでよ!!」
しかし、そんな決断は、久美子にとって、無為なものでしかない。
久美子は、あかりの手を強引に振り払おうともがき、あかりは、それを制圧しようと身を乗り出す。
その瞬間―――
「はいはい、二人とも、喧嘩しないのー」
パンパンと手を叩く音と、聞き慣れた声が、響いた。
ハッと我に返った久美子とあかりが振り返ると、茂みの向こう側から、歩み寄って来る人影があった。
「「――えっ?」」
その姿を目の当たりにして、二人は言葉を失った。
それも無理はない。
何しろ、二人の眼前に現れたのは―――。
「……どうして……?」
緋色と白を基調とした制服を身に纏い、ピンク色のツインテールの長髪を靡かせた―――
「ア、アリア先輩……?」
自分達の眼下で沈黙している、『神崎・H・アリア』。
その人と、まったく同じ容姿をしていたのだから―――。
「きゃははは、何が何だか分からないって顔をしてるねえ、お二人さん」
同じ空間に、死んだはずのアリアが二人存在するという異常事態。
久美子とあかりは、混乱の極みに立たされ、唖然とする他ない。
そんな二人の反応を見て、その“アリア”は愉快そうに、口角を吊り上げる。
「まぁまぁ折角だし、種明かししてやんよ♪」
ケラケラと嗤いながら、懐から取り出されて、二人の前に掲げられたそれは、一本の杖。
237
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:46:02 ID:w7MuKjnQ0
「こいつは、『へんげのつえ』。
死んだピンクチビからパクったもんなんだけど、これが中々便利でさぁ。
こいつを使えば、あっという間に、他人に変身することができるんだよねぇ」
まるで、自慢の玩具をひけらかす子供の様に。
“アリア”は、『へんげのつえ』をクルクルと弄びながら、その効果を説明する。
「当然、変身を解除することだってできる、あっという間にね」
こんな風にね、と。
“アリア”は、その手に持った『へんげのつえ』を、自らの頭へと翳した。
瞬間、煙の様なものが“アリア”の全身を包み込み、その姿を覆い隠してしまう。
そして、数秒後――その煙は晴れて、再びその場に姿を現したのだが……。
「これが、本来の私―――」
そこにいたのは、アリアと似ても似つかない、別人。
薄い茶色の髪はボサボサで、無駄にはだけた制服とミリタリーベストを身に纏い、獰猛且つ好戦的な笑みを張り付かせている少女。
「アンタらが、憎くて憎くて仕方ないと思っていた、楽士ウィキッドの本来の姿ってわけよ。
宜しくねー!!」
「――待ってよ……」
「くすっ――、どうしたんですかぁ、間宮さん?」
ウィキッドの“種明かし”を、呆然と聞いていたあかりは問いかける。
顔を強張らせ、声を震わせながら。
「あなたが、ウィキッドだとしたら……。
こっちの“アリア先輩”は、一体……」
チラリと見下ろしたのは、動かなくなった“アリア”――。
アリアだけではない。久美子もまた、事の重大さを認識したようで、青ざめた顔で、「あ…ぁ…」と呻き声を上げていた。
動揺する二人を、ウィキッドはニヤニヤと眺めると、これが答えだと言わんばかりに、倒れ伏せる“アリア”に向けて、杖を振り下ろし、変身の解除を実行。
忽ち、“アリア”は煙に包まれるも、数秒の後、そこから本来の姿を露わにした。
「……そ、んな……」
露わになった、その人物の姿を目の当たりにして、あかりは言葉を失う。
予感はしていた――。
しかし、実際に現実を突きつけられると、あかりは絶望に打ちひしがれ、膝から崩れ落ちた。
そんな彼女に対して、魔女は口元を歪める。
「あーあー、カナメ君も可哀想にねぇ」
スドウカナメは、手脚や背中に穴を穿たれ、倒れたまま――。
うつ伏せで、その表情を伺うことはできないが、微動だにすることもなく、その活動を停止していた。
238
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:46:27 ID:w7MuKjnQ0
◇
「――い”だい”っ!! い”だい”よぉ、ママぁあああああああああ!!」
銃撃と爆撃が交差する戦場にて。
この会場で殺害したSランク武偵の姿を借りた魔女は、身体に幾つもの弾痕を刻まれながら、憎悪に駆られる後輩武偵の追撃を、捌いていた。
弾丸が身体を貫き、灼熱の痛みが生じる度に、馬鹿みたいな悲鳴を上げるが、実際にはこれしきの痛みで、魔女の心が折れることはない。
あくまでも、憎悪に駆られる後輩武偵を、揶揄うために、泣き喚いているに過ぎない。
(さぁて、どうしてやろうかなぁ)
頭の悪いマザコン女を演じながらも、魔女は、新しく見出した玩具をどのように虐めてやろうか、ほくそ笑む。
再三揶揄った甲斐もあり、あかりは既に激昂状態で、冷静さを欠いている。
他への注意力が散漫している今だからこそ、何かしらのトラップを仕掛ければ、安易に引っ掛かってくれるだろう。
(おっ、あそこに転がってんのは―――)
地面に倒れ伏せているカナメを発見したのは、そんな時であった。
先程蹴り飛ばした上、適当に爆撃を見舞ってやったが、どうやら原型は留めていたようだ。
炎煙の向こう側にいる、あかりを牽制しつつ、瞬時に首根っこを掴んで、これを回収。
「うぅ……」
尚も続く、あかりとの攻防にて、ウィキッドが高速で翔び交うことで、身体を激しく揺らされると、カナメは、呻き声を上げながら、苦し気に表情を歪める。
爆撃の影響で身体はズタボロとなり、意識を失ってはいるものの、どうやら、死んではないらしい。
239
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:46:43 ID:w7MuKjnQ0
「――ひぃいいっ……!! 来ないで……、来ないでぇ……!!
……ママぁ……ママぁあああああっーー!!」
あかりへの挑発を行いつつも、ウィキッドは、たった今生捕りにしたカナメをどのように有効活用するか思考を巡らした末、ふと思いつく。
『へんげのつえ』を利用しての、悪魔のような発想を。
これまでは、撹乱や不意打ちのため、自身に対して再三利用してきたが、付属していた説明書によれば、そもそも変身の対象は、限定されたものではなかった。
であれば、他者に対しても、問題なく行使できるはずだと、杖を取り出し、カナメに振ると、その姿は忽ちアリアへと変貌。
結果として、炎と煙に塗れた、夜天の森の中で、死んだはずのピンク髪の少女が、自分と同じ姿の少女を抱えながら、跳んで駆け回るという奇妙な光景が、展開されることとなった。
「――ママぁ……ママぁ……!! お菓子買ってぇ!!」
その後もウィキッドは、挑発を繰り返して、あかりを誘導。
頃合いを見計らうと、口止めの意味も込めて、変身したカナメの喉の肉を抉り取る。
カナメが、痛覚とともに意識を強制的に覚醒したのを確認すると、放り捨てた。
憤怒に染め上げられた、あかりが猛追する戦場の中へと―――。
240
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:47:14 ID:w7MuKjnQ0
◇
「――と、まあこんな感じで、私はカナメ君をピンクチビに変身させて、あんたらの前に差し出した訳よ。
いやぁ、まさか、こんなにも上手くハマってくれるとは思ってなかったわぁ」
物言わなくなったカナメを前にして、ウィキッドは、自身が仕掛けた悪意の全容を、悠々と語った。
明らかとなった残酷な現実に、久美子は、呆然と立ち尽くし、あかりは地面にへたり込んだまま。
魔女は、そんな二人に、悪意に満ちた眼差しを向けながら、更なる追い討ちをかける。
「それで、気分はどうよ、お二人さん?
罪のない人間を、よってたかってリンチして、ぶっ殺した気分はさぁ〜?」
「ち、違う……、これは、貴女が仕組んだから――」
「違わねえよ。確かに舞台を整えてやったのは、私だけどさ。
実行したのは、あんたらな訳。あんたらがカナメを殺したってのは、揺るぎない事実なんだよ」
「そ、それは……」
声を震わせながら、否定する久美子。
しかし、ウィキッドが、そんな久美子の言葉を遮り、再び現実を叩きつけると、言葉を詰まらせた。
「あたしが……、カナメさんを……。あたしが……――」
一方、あかりは、地面にへたり込んだまま。
呆然とした表情で、同じ言葉を何度も呟いている。
それはさながら、壊れかけのレコーダーのようで、その表情からは、先程までの鬼気迫るものはなくなり、ただ無気力と絶望が支配していた。
「わ、私は、中身が入れ替わってたなんて、知らなくて……。
でも、あかりちゃんが、その人のことを貴方だと、決めつけていたから……、そ、それで、わ、私……私は―――」
久美子は、尚も、声を震わせながらも、必死に弁明の言葉を紡ぎ出す。
自分の名前を出された瞬間、ピクリと、あかりの肩が、小さく震えた。
241
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:47:32 ID:w7MuKjnQ0
「おいおい、ここにきて、責任転嫁かよ。
再三、そいつに殺せ殺せって嗾けた上、トドメの一撃を加えたくせによぉ。
それを棚上げして、自分は悪くないってか? はッ、中々良い性格してんじゃねえか、黄前さん」
「そ、それは……!! そ、そもそも、貴女が麗奈を殺したから―――」
「はぁ〜? 高坂麗奈が殺されたから、赤の他人を殺しても許されるって言いたいのか、あんたは?
随分と都合の良い話じゃねえか」
「わ、私は、そんなつもりじゃ……!!」
久美子は、必死に弁解の言葉を口にしようとするが、思考が定まらない。
混乱と、絶望が、久美子の思考を泥沼へと引きずり込んでゆく。
「まぁ、結果だけ見れば、あんたらは、罪悪人でもない、善良な他人を殺しちゃったって訳。
その気があったかどうかは、問題じゃないんだよ。結局のところ―――」
「ち、違う……。わ、私……、私は悪くな―――」
「あんたらは、私と同じ穴の狢―――人殺しって訳だぁ!!」
ウィキッドは、久美子の弁明をぴしゃりと遮った。
さも愉快そうに、グサリと、決定的且つ鋭利な事実を突き刺して。
「……っ!!」
瞬間、久美子の目がギョッとしたように、大きく見開かれると。
「い、嫌あああああああああああああああああああ!!」
耳を塞ぎ、絶叫。
そして、脱兎の如く、明後日の方向へと駆け出した。
まさに、自分が犯してしまった過ちから、目を背けるようにして。
242
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:48:02 ID:w7MuKjnQ0
「あーあー、逃げちまったよ、あのヘタレ」
ウィキッドは、やれやれといった感じで、遠のいていく久美子の背中を見送る。
過剰強化された脚力を以ってすれば、すぐにでも追いつくことは出来るが、それをしようとは思わない。
あの玩具では散々遊びつくしたから。
今はあれにトドメを刺すよりかは、目の前に転がっている、もう一つの玩具で遊ぶほうが、愉しそうだったから。
「……黄前…、さん……」
取り残されたあかりは、尚も地面にへたり込んだまま。
ぼんやりとした眼差しで、久美子が駆けていった方向を見つめている。
その双眸は、まるで現実を直視することを拒むかのように虚ろで、その瞳に光はない。
「カナメ君も無念だったろうねぇ。味方だと思っていた相手、護ろうとしていた相手にボッコボコにされてさぁ。
カナメ君、射的の的にされた時も、あんたに必死に呼びかけてたよぉ。
だけど、あんたは聞く耳もたずで……。くっくっく……、あの時のカナメ君、どんな気持ちだったんだろうなぁ?」
呆然自失のあかりの胸倉を掴み上げて、魔女はその耳元に囁きかける。
瞬間、ビクリと、その小さな身体が揺れた。
「――う…ぁ……」
あかりの中で蠢くは、カナメに対する罪悪感と自責の念。
振り返ってみれば、カナメが化けていたアリアには、不審な点が多々あった。
喉の傷が、明らかに弾痕によるものではなかったし、超人的な傷の回復が、これっぽちも見受けられなかった。
そして、何より、偽アリアの処遇について、あかりと久美子の意見がぶつかった際、隙を見計らって、投擲したのが殺傷能力のない、フラッシュバンであったことも、あかり達を害さないよう、配慮があったように見て取れた。
自分さえ冷静さを保っていれば、それらの不審な点を見抜いて、気付いていたはず。
カナメが死ぬことには、ならなかったのだ。
243
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:48:25 ID:w7MuKjnQ0
「確か、あんたら『武偵』ってさぁ、人殺しちゃいけなかったんだよね?
だから、ピンクチビの仇である私にでさえ、殺し無しでの制裁に拘っていたんだよなぁ――」
失意に沈む、あかりの双瞼に映るは、悪意と嘲りに満ちた、歪みきった笑顔。
明らかに、これからあかりを甚振ろうとしている、サディスティックで醜悪な意志が、ありありと見て取れたが、あかりに抗う気力はもはやなかった。
「だけど、結局人殺しちゃったよねぇ、あかりちゃんは!!
きゃははは、あれだけ頑なに人殺しはしないって言ってたくせに、ざまあねえな!!」
「――……。」
「なぁなぁ、あれだけ拘っていた『武偵の掟』とやらを破って、護ろうとしていた味方もぶっ殺す羽目になってさぁ。今、どんな気持ちよぉ?」
ウィキッドは、あかりの細い首をミシミシと締め上げながら、ゲラゲラと哄笑した。
「……か、はぁ……」
あかりは、その圧迫に、苦しげな声を漏らすが、抵抗する素振りはなく、ただ一言、掠れた声で呟く。
「――ご、めん……なさい……」
「きゃははははは、結局、懺悔をするのはてめえの方だったな!!
謝っても、死んだやつは、戻ってこねえよ!! 死んで詫びろよ、クソチビ!!」
絶望と、自責と、後悔の色に染まった、あかりの表情。
満足したものを鑑賞できた魔女は、あかりの首を絞める手に、更なる力を込めて、終わらせにかかろうとする。
244
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:48:44 ID:w7MuKjnQ0
(ごめんなさい、カナメさん。
あたしが、もっとしっかりしていれば――)
徐々に霞んでゆく視界。
あかりは、ただひたすらに、心の中で謝罪の言葉を繰り返していく。
(ごめんなさい、アリア先輩、志乃ちゃん、高千穂さん。
あたし、もう『武偵』じゃなくなっちゃった――)
武偵としての矜持は、完全に砕け散り、武偵として生きる道は絶たれてしまった。
もはや、何のために、この殺し合いで生き抜いていくべきか、わからなくなってしまった。
(ごめんなさい、アンジュさん、ミカヅチさん、カタリナさん。
折角、命を繋いでもらったのに――)
生きる意味を失ってしまったが故、あかりには、現在の窮状から脱そうという意思は残されていない。
ただ、漠然と自分という存在が、消えていくのを感じるだけ。
(ごめんなさい、シアリーズさん。
あなたに託された約束、果たせそうにないです――)
あかりは、その瞼を閉ざして、自身の終焉を受け入れようとした―――
バ ァ ン !!
「……っ!?」
その矢先、突如として鳴り響いた銃声が、あかりの鼓膜を揺さぶった。
同時に、あかりの首を絞めていたウィキッドの手が離れ、その身体が地面に投げ出される。
「な……に……?」
突然の事態に、目を白黒させるあかり。
「てめえ―――」
一方で、ウィキッドはというと、側頭部から血を垂れ流しながら、戦慄の眼差しを、銃声の響いた方向へ向けている。
あかりもまた、その視線の先を追う。
「あ……あぁ……」
その正体を認めて、あかりは、思わず声を漏らした。
しかし、それも無理からぬこと。
何しろ、そこにいたのは―――
「ぜぇ……はぁ……」
つい先程まで、自身の手で沈められていたはずの青年―――。
「……カナメさん……」
肩で息をしながら、銃を構えて佇むカナメの姿であったのだから。
245
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:49:16 ID:w7MuKjnQ0
◇
『――と、まあこんな感じで、私はカナメ君をピンクチビに変身させて、あんたらの前に差し出した訳よ。
いやぁ、まさか、こんなにも上手くハマってくれるとは思ってなかったわぁ』
暗がりで、何も見えない世界の中で、薄らと声だけが聴こえてくる。
この声は、間違えねえ。
忘れもしない、魔理沙やStorkを殺した、あのクソッタレの声だ。
『――カナメ君も無念だったろうねぇ。味方だと思っていた相手、護ろうとしていた相手にボッコボコにされてさぁ。
カナメ君、射的の的にされた時も、あんたに必死に呼びかけてたよぉ。
だけど、あんたは聞く耳もたずで……。くっくっく……、あの時のカナメ君、どんな気持ちだったんだろうなぁ?』
あぁ…、こっちは最悪の気分だったぜ。
気が付いたら、知らない女の子の姿に、変えられちまって―――。
訳わかんねえ内に、あかりに撃たれちまって―――。
呼び掛けようにも、喉が抉れてるせいで、声は出ねえわ、また撃たれるわで、散々だった。
それもこれも、全部てめえの手回しだったわけか、ウィキッド……!!
『――確か、あんたら『武偵』ってさぁ、人殺しちゃいけなかったんだよね?
だから、ピンクチビの仇である私にでさえ、殺し無しでの制裁に拘っていたんだよなぁ――』
『なぁなぁ、あれだけ拘っていた『武偵の掟』とやらを破って、護ろうとしていた味方もぶっ殺す羽目になってさぁ。今、どんな気持ちよぉ?』
……クソっ、あかりの奴、そんな事情があったのかよ……。
ウィキッドの野郎、それを把握したうえで、あかりに俺を撃たせたのか、あいつを追い詰めるために。
246
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:49:47 ID:w7MuKjnQ0
『――ご、めん……なさい……』
駄目だ、あかり。
そんな奴の言うことに、耳を貸すな。
あの久美子って子も、俺に手をかけたことに耐えられず、去っちまったようだが、お前達が負い目を感じる必要はないんだ……。
――っ!! クソっ、身体が動かねえ……。
第一、俺はまだここにいる……。 死んじゃいねえんだよ……。
『きゃははははは、結局、懺悔をするのはてめえの方だったな!!
謝っても、死んだやつは、戻ってこねえよ!! 死んで詫びろよ、クソチビ!!』
黙って聞いてりゃ、あいつ……、勝手に人を殺したことにしやがって……。
畜生っ、動け……!! 動けよ、俺の身体……!!
すぐそこには、魔理沙達を殺した仇がいて―――。
てめえを、助けてくれた女の子が、泣いているんだぞ。
なのに、なんで身体が動かねえんだ……!! 動け……動いてくれよ!!
魔理沙、Stork、フレンダ、霊夢―――。
俺は、ここに来てからもずっと、助けられてばっかで、結局誰も護れちゃいねえ……。
そんなのはもう御免なんだよ!!
だから―――
動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け―――
(動きやがれ、須藤要ッ―――!!!)
バ ァ ン !!
瞬間、渇いた音を知覚したと同時に、俺の暗闇に染まっていた視界が、急に開けた。
247
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:50:11 ID:w7MuKjnQ0
「てめえ―――」
「あ……あぁ……」
視界に飛び込んできたのは、側頭部から血を垂れ流し、こちらを睨みつける水口と、まるで幽霊を目の当たりにしたような、驚愕の表情を浮かべる、あかりの姿。
そして、二人の視線を遮るように立ち上る硝煙から、俺はようやく、無意識の内に、ウィキッドの頭を撃ち抜いたを悟った。
「ぜぇ……はぁ……」
「……カナメさん……」
呼吸が苦しい。視界がぼやけて、全身が痛え―――。
察するに、あかりのピンチはどうにか凌げたみたいだが、これで終わるわけにはいかねえ。
ボロボロの身体を引き摺りながら、俺は這うようにして、ウィキッドににじり寄っていく。
「何で、まだ生きて―――」
未だに、信じられないといった様子で、狼狽えていたウィキッドの足元に辿り着くと、俺は片方の手で、その足首を掴んだ。
そして、ギョッとした様子で頭上から見下ろしてくる、あいつの首元―――正確には首輪を目掛けて、もう片方の手に握る拳銃を向けて―――
バ ァ ン !!
引き金を、引き絞った。
「――んの、死に損ないがぁあああああああああーーー!!!」
ふわりと身体が浮く感覚と共に、俺はウィキッドの放った蹴りによって、真上へと吹っ飛ばされていた。
嗚呼、しくじった―――。
引き金を引いた瞬間、ウィキッドは、めちゃくちゃ焦った様子で、上体を反らして、首輪への着弾を躱しやがった。
そして、怒鳴りながら、俺のことを蹴り上げてきやがった。
248
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:50:30 ID:w7MuKjnQ0
(ははっ……)
宙に舞い、上下が逆転した視界の中で、俺は水口を嗤ってやった。
俺みたいな死にかけに、殺されかけたのが、余程悔しかったんだろうな―――顔を真っ赤にして、怒号を飛ばしながら、俺を睨みつけてくるあいつは、とても滑稽に映った。
結果として、俺は、あいつに引導を渡すことは出来なかった。
だけど、勝ち誇ってやりたい放題していた、あいつの鼻っ柱をへし折ってやれただけでも、スカッとする。
最後にもう一つ。ブチぎれ状態のあいつを、更に煽ってやろうと思って、俺はボロボロの声帯を震わせて、言葉を紡ぎだす。
「ざ――」
あいつは、怒りのままに、その手に手榴弾を顕現させた。
「ま”――」
そのまま勢いよく、手榴弾のピンを引くと。
「ぁ”――」
野球選手のように、腕を大きく振り被って。
「み”――」
地面に墜落していく、俺を目掛けて、投げつけてきた。
「ろ”!!」
ド カ ン ! !
爆音が鼓膜を震わせると、俺の視界は、爆炎に塗り潰された。
249
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:50:57 ID:w7MuKjnQ0
◇
「―――ぜぇ……ぜぇ……。
雑魚が、調子に乗りやがって……」
「……カ、カナメさん……」
肩で息をして、怒りで身を震わせる、ウィキッド。
爆撃を胸部に受けて、焼き焦げた匂いを漂わせながら、夜天を仰ぐ形で、地面に横たわるカナメ。
先程まで失意と絶望に沈んでいた、あかりは、眼前で発生した予想だにしない展開を前に、呆然と立ち尽くしていた。
自分たちのせいで死んだと思っていたカナメが、実は生きていて―――
自分の窮地を救おうと、ボロボロの身体で、再び立ち上がってくれた―――
だけど、たった今、屍になり果ててしまった―――
「あ、あたしは……、また……」
そこまで、理解した時、あかりの目には再び涙が溢れ出していた。
救えなかった―――、また、救えなかった―――、と。
咄嗟に動くことが出来なかった自分の失態に、胸が張り裂けんばかりの不甲斐なさと、罪悪感を覚えて。
「―――ぁ”……」
「えっ?」
その時、ピクリと、カナメの右手が微かに動いたことに、あかりは思わず、素っ頓狂な声を漏らす。
そして、それに気づいたのは、彼女だけではなくて―――。
「いい加減、しぶてえんだよ! ゴキブリ野郎がぁ!!」
激昂したウィキッドは、ずかずかとカナメの元へと歩み寄っていくと、完全にその息の根を止めるべく、頭蓋目掛けて、大股でその足を振り上げんとした。
ギロチンの如く、これが振り下ろされれば、カナメの頭は果実のように潰れることになるだろう。
250
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:51:17 ID:w7MuKjnQ0
刹那―――。
「駄目ぇええええええっーーー!!!」
「なっ……!?」
白い閃光が迸ると同時に、その光は、ウィキッドの身体に衝突。
まるで、巨大なダンプカーに撥ねられたかのような凄まじい衝撃に、ウィキッドのか細い体躯は、砲弾のように吹き飛んだ。
勢いよく、宙に弾き出されたウィキッドは、一瞬、何が起こったか分からず、目を白黒させていた。
しかし、天地が逆転した視界の中―――猛スピードで自身に迫りくる、白い影を目視して、ようやく状況を悟る。
「なっ……!? てめえ、その力―――」
それは背中に光の翼を生やした、あかりだった。
ヴライとの激闘で枯渇していたリソースが回復し、カナメの危機を前に、再びその力を解放せしめたのだ。
「ああああぁああああああ!!!」
気合の咆哮と共に、あかりは両の手の掌を突き出すと、巨大な光弾をウィキッド目掛けて、解き放つ。
慌てて、空中で体勢を立て直すウィキッドだったが、時既に遅し。
光の槍の如く、猛然と突き進んだ光弾は、ウィキッドを捉えると、勢いそのまま、彼女の華奢な身体を圧し出していく。
その圧倒的な質量と熱量は、魔女の肉体を容赦なく焼き削っていき、彼女の腰にぶら下げられていた『へんげのつえ』は、バキバキと音を立て、砕け散った。
「がっ……、ぐっ……!!
てめえええ、間宮あかりぃいいいいいいっ―――!!!」
抵抗も虚しく、全身を光に包まれたウィキッドは、怒号を響かせると、そのまま、空の彼方へと吹き飛ばされていった。
「……カナメさん……!!」
夜空を渡る流星のように、彼方へと消えたウィキッド。
その行方を見届けることなく、あかりはすぐさま、地面に横たわるカナメの元へと舞い戻ると、既に虫の息である彼を抱き起したのであった。
251
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:51:42 ID:w7MuKjnQ0
◇
「……ひっぐ……、カナメさん……」
気が付くと、カナメの目の前には、あかりの顔があった。
酷い顔であった。涙と鼻水でグシャグシャになっており、折角の愛らしい顔が台無しになっている。
ウィキッドがいないということは、あかりが、どうにかしたということなのだろうか……。
「―――ぁ”……、ぁ………」
「……カナメさん……、ごめんなさい……、あ、あたしのせいで……」
微かに息はあるが、今にも消え入りそうな声で呻く、カナメ。
そんなカナメの弱弱しい姿に、あかりの目から止めどなく涙が溢れていく。
元はと言えば、自分がウィキッドの策略に嵌り、浅はかにもカナメに弾丸を撃ち込んでしまったことが、事の発端だった。
そんな自分の浅はかな行動の結果、カナメは死に瀕してしまっている。
自分が殺したも同然だと、止めどない後悔と罪悪感だけが、蜷局のように、あかりの心を締め付けていた。
「―――ぁ”……、が……り”……」
ひたすらに泣きじゃくる、あかりを見て、カナメは思った。
このままいくと、こいつは、自分のことを、いつまでも引き摺るんだろうな、と―――。
故に、カナメはズタボロになった声帯を震わせて、彼女に話し掛ける。
「カナメさん……?」
―――カナメが、声を絞り出して、何かを伝えようとしている。
あかりは、涙でぐしょぐしょになった顔を拭いながら、カナメの言葉を聞き取ろうとした。
そんな、あかりに対して、カナメは弱弱しくも、優しい微笑みを向けて――。
252
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:52:19 ID:w7MuKjnQ0
「……――」
絞り出すような声で、たった一言だけ、懸命に紡ぎ出す。
ありがとな、と―――。
本音を言えば、投げ掛けたい言葉は、たくさんあった。
最後に自分に致命傷を与えたのは、ウィキッドだ。自分を殺したのは、お前じゃないので、気にするな―――だとか。
まだ、戦場の何処かにいるであろう仲間達を頼む―――だとか。
このクソゲームを潰して、自分達の無念を晴らしてほしい―――だとか。
だけど、損壊した喉では多くを語れることも叶わず。
最終的にカナメが紡ぎ出したのは、自分の窮地を救ってくれた上、シュカの言伝を伝えてくれた、心優しい武偵の少女に対する、感謝の気持ちであった。
「カナメさん……」
あまりにも、か細くて、聞き取りづらく、不明瞭な声――。
しかし、恨み言でもなく、無念の言葉でもなく、ただ純粋に自分に対する謝意を紡いだその言葉には、純然たる想いが込められており、あかりの心を揺さぶった。
せめてものの謝意は、エールとなって、あかりの心に巣食っていた、後悔と罪悪感の鎖を、優しく解きほぐしてくれた。
「――あたし、頑張るから……。絶対、頑張るから……!!」
紡ぎ出された言の葉に込められた、温かな心遣い――。
その意図を汲んだあかりが、涙で濡れた顔を更にくしゃくしゃに歪めて、嗚咽を堪えながらも頷くと、カナメは、目を細める。
(――あぁ……、しっかりな……)
目の前で決意を固める少女に、カナメは心の中でエールを送る。
瞬間、強烈な眠気と共に、これまでの記憶が、ゆっくりと脳裏を駆け巡った。
253
:
戦刃幻夢 ―この真っ暗な闇を切り裂いて―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:52:47 ID:w7MuKjnQ0
(―――これが、走馬灯ってやつか……)
生と死の狭間の中で、掘り返された、己が軌跡―――。
振り返ってみると、Dゲームに巻き込まれてしまったあの日からは、激動の日々を歩んできたのだと痛感させられる。
ゲームに巻き込まれて早々、着ぐるみ野郎に、追い掛け回されたり―――。
植物園と化したホテルに、閉じ込められたり―――。
唐突に現れた、ランキング一位の最強プレイヤーに、拉致られたり―――。
反吐の出るクソ野郎に、友人を惨殺されたり―――。
何度も何度も、殺されかけ、何度も何度も、理不尽に翻弄されてきたか思ったら、また別のクソゲーに参加させられて、こっちでも、これでもかというくらいに、理不尽な目に合わされてきた。
本当に碌でもない日々であった。
だけど―――
『――愛してる……。例え、どんなに離れてしまっても、私達はずっと一緒……。
だって、私達は、最高の【家族】だから』
(ははっ……、クソったれな出来事ばっかだったけど、あいつらと出会えたことだけは、悪くなかったかもな……)
あかりから伝え聞いた、別世界のシュカの伝言を思い出すと、カナメは心の内で苦笑した。
あかりがいる手前、伝えられた時は、正直、胸の中がムズ痒くて堪らなかった。
だけど、悪い気はしなかった。
(――後は任せたぜ、レイン、リュージ……)
まだ会場の何処かにいるであろう、仲間たちに想いを馳せて、スドウカナメは、強烈な眠気に身を任し、その意識を手放したのであった。
254
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/12(火) 21:53:54 ID:w7MuKjnQ0
投下終了します。続きは後日投下します
255
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:39:13 ID:7gnuStw20
投下します
256
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:39:48 ID:7gnuStw20
◇
複数の意思と力が、代わる代わる交錯していく戦地。
今現在は二つの巨大な影が、互いの存在を叩き潰さんと、咆哮と衝突を繰り返している。
どすん、どすん、と。
その戦闘の余波により、大地は激しく揺さぶられるが―――
「……ぁ……、……がぁ……」
二体の巨像が殺し合う地帯から、少し距離を置いた地にて。
断続的に到来する振動によって、早苗の意識は無理矢理に呼び覚まれてしまった。
「ぐ、う……っ」
先刻、ヴライが放った大火球に、飲み込まれてしまった早苗。
瞬間、即興で全身に纏わせた風の防護にて、どうにか炭化は免れたものの、無傷とはいかなかった。
地面に叩きつけられた衝撃、そして爆圧によって、彼女の華奢な身体は押し潰される形となり、意識は刈り取られてしまっていた。
「ゴボッ……」
内臓が損傷したのか、呼吸の度に口の中が血で溢れかえる。
圧迫を受けていた全身は、まるで鉛を括り付けられたかのように重く、鈍い。
全身は、まるで鉛を括り付けられたかのように重く、鈍い。
致命傷とまではいかぬものの、決して軽傷とも呼べないダメージを負ってしまっている。
しかし、それでも―――
「……クオン、さん……」
伝搬する振動にて、未だ仲間が向こう側に留まり戦い続けていると、察した早苗は、5メートルほど宙に浮遊。
視界も聴覚もおぼつかないが、それでも懸命に、震源地へと向かうのであった。
257
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:40:12 ID:7gnuStw20
◇
『ハァアアアッ!!』
『フンッ!!』
二体の巨像が咆哮を上げては、互いに拳を振るい、衝突を繰り返していく。
ヤマト八柱が一人、剛腕のヴライは、黒の巨躯を豪快に振り回して―――
二重の『仮面』を装う右近衛大将オシュトルは、白の巨躯を機敏に駆って―――
『根源』から力を汲み上げた二人の『仮面の者』は、その身に宿した大いなる力を惜しみなく振るい、眼前の宿敵を討滅せんと、苛烈な肉弾戦を繰り広げる。
拳と拳が交錯する度に、大気が唸り、大地が軋み、天へと地鳴りの如き衝撃が昇っていく。
人智を超越した力と質量の激突――。
エリア内の空間そのものを揺るがす、両雄の闘争は、まさに神劇の世界を再現したかのような光景となっていた。
『ウハハハハハッ! 愉快! 愉快ゾ!
コレゾ戦! コレゾ死合! コレゾ我ガ望ム至高ノ瞬間ヨ!!』
拳を叩きこみ、その返しとして叩き込まれる中、ヴライは、己が内が沸るのを感じていた。
闘争の権化たる漢は、この地において、様々な難敵と相見えてきた。
しかし、如何に相手が強者であろうと、覚えるのはせいぜいが、苛立ちや怒りといった程度のもの。
武士の血が踊り、魂が震えるような、この高揚は、相手が同じ『仮面の者』であるからこそ―――そして、何よりも、己が認めた宿敵と全身全霊を賭して闘っているからこそ味わえるものであった。
『貴様モ、ソウハ思ワヌカ、オシュトルゥゥゥゥゥ!!』
猛るヴライは、オシュトルの突き刺すような拳打を掻い潜ると、渾身の力を込めた拳を叩き込む。
『グッ――!?』
オシュトルは、その一撃を真正面から受けてしまい、大地を削りながら吹き飛ばされるような形で後退する。
258
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:40:34 ID:7gnuStw20
『アア……。確カニ、心ガ踊ル……。
コレゾ《仮面ノ者》ノ闘争ーー」
しかし、それも一瞬のこと。
両脚に踏ん張りを効かせ、踏みとどまったオシュトルは、上空へと飛翔。
『ダガ、己ガ闘争欲ニ身ヲ捧ゲテ、貴様ト長々ト闘ウツモリハナイ!
早々ニ終ワラセテ貰ウゾ、ヴライ!!』
ヴライがそうであるように、オシュトルもまた仮面の力を解放した今、身体は高揚感を覚えていた。
身体を巡る血液が、内に宿る腑が、灼熱を呼び覚まし、訴えかける。
眼前の強者との闘争に興じよ、と―――。
しかし、オシュトルは、それを意志の力で捻じ伏せる。
『ウハハハハハハハ!!
吐カシタナァ、オシュトルゥ!!』
そんなオシュトルの葛藤を他所に、彼を追うため、地を蹴り上げて、飛翔するヴライ。
接近する黒の肉塊に、オシュトルは、右腕を銃口の如し構えると、その巨掌から巨大な水塊を怒涛の勢いで、射出していく。
地に向け、高速連射されるは、半径10メートルはゆうに超える超高速のウォーターカッター。
常人が直撃すれば、一瞬で挽肉と化すような水圧の散弾だが、ヴライは両掌を天へと掲げると、水塊を遥かに凌ぐ巨大な火球を展開。
それを盾にして、飛来する水の散弾を防ぎながら、オシュトルとの間合いを詰める。
五発目、六発目、七発目、八発目……。
オシュトルの放ったウォーターカッターが、火球に着弾し、水蒸気に帰す度に、火球の直径は徐々に小さくなっていく。
九発目、十発目―――、そして、十一発目が達して、火球は大きく弾け去った頃。
ヴライは、オシュトルの元に到達。
霧散する蒸気を吹き飛ばす勢いで、業火を纏った剛腕が、オシュトルを襲う。
しかし、それを紙一重で躱したオシュトルは、カウンター気味に水の大砲をヴライの胸部に撃ち込んだ。
259
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:40:58 ID:7gnuStw20
『ヌウッ!?』
至近距離の射撃に、思わず呻き声を上げるヴライは、数メールほど後方に吹き飛ばされる。
間髪入れず、オシュトルは、先ほどよりも二回り小さなウォーターカッターを連射。
『グヌォオオオオオオオ!?』
一発一発の出力を抑制した分、連射速度は機関銃の如し。
秒間数十発という速射でヴライの巨躯に炸裂し、進撃の巨像の肉を穿ちつつ、後退させていく。
『足リヌ―――』
しかし、ヴライはその全てを受け止めながらも、息を大きく吸い込むようにして、その身に宿した『力』を練り上げる。
そして――、
『コレシキデハ、我ヲ屠ルニ足リヌゾ、オシュトルゥゥゥゥゥ!!』
ヴライの咆哮が、空間そのものを震わせたかと思うと、彼の肉体から業火が溢れ出す。
それはまるで、火山の噴火の如く。
ヴライの全身は炎に包まれながら、オシュトルへと突進していく。
射出されるウォーターカッターの悉くは、炎の鎧の前に蒸発してしまい、その進撃を阻むことは叶わず。
瞬く間に、オシュトルの間合いにまで到達したヴライは、炎を纏った拳打を繰り出す。
咄嗟に身を捻って躱したオシュトルは、再びカウンター気味に水の大砲を放たんとするも―――
『我ニ同ジ手ハ、通用セヌ!』
発射口たる腕を、ヴライの剛腕に掴まれ、捻り上げられると、大砲は天に放たれる。
260
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:41:20 ID:7gnuStw20
『ガッ!?』
豪炎を宿すヴライの剛腕の灼熱に、苦悶を漏らすオシュトル。
ヴライはというと、捻じり上げた腕をそのまま、身動きが取れないオシュトルの頭蓋に、もう一方の拳を叩き込む。
ド ン ッ !!
まるで、大地が爆ぜたような殴打音。
瞬間オシュトルの頭の中では、星が煌めき、意識が明滅した。
しかし、それも束の間。すぐに意識を直したオシュトルは、追撃のために振り上げられたヴライの炎拳が迫る前に、四肢を全力で動かし、その拘束から脱する。
瞬時に、大きく後退し、距離を取らんとするオシュトルであったが―――
『――ッ!?』
刹那、眼前に迫るは巨大な火球。
無論、ヴライが間髪入れず放ったものである。
咄嗟に両掌を眼前に翳して、水の障壁を展開。
『グゥオオオオオオオオオ!!』
圧倒的質量を孕んだ炎塊に圧されつつも、水の障壁を維持し、完全に防ぎきるオシュトル。
炎球が消失した後、反撃のための水塊を放出せんと、その両掌に力を籠めんとする。
しかし、視界には既に黒の巨獣の姿はなく―――
『ヌゥン!!』
間髪入れず、オシュトルの頭上からヴライが降り立ち、剛腕を鉄槌の如く叩きつける。
ド ン ッ !!
オシュトルは、再び脳天に凄まじい鈍痛を味わうと、勢いそのまま、垂直方向へと叩き落とされる。
しかし、地面に衝突する寸前で、反転―――どうにか持ち堪えると、頭上を見上げ、改めてヴライに対峙する。
しかし、黒の巨像の猛攻は止まらない。
『ナッ―――!?』
目を見開くオシュトルに迫りくるは、炎槍の雨霰。
咄嗟に横方向へと滑空をしながら、これを躱していく。
261
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:41:48 ID:7gnuStw20
『ドウシタ、オシュトルゥゥゥゥ!!
汝ノ力ハ、ソノ程度カァア!!』
自身に二度も土をつけた漢の実力は、この程度ではない---。
そう言わんばかりに、ヴライは怒涛の勢いで炎槍を投擲。
大地は忽ちに爆撃に晒されていき、爆炎とともに、大規模なクレーターが穿たれていく。
(……強い……、流石は、剛腕のヴライ……。
兄貴が『ヤマトの矛』と讃えた漢……)
地を滑るように滑空し、どうにかして爆撃の雨を避けていくオシュトル。
引き続き炎槍を投擲しながらも追尾してくるヴライに向けて、ウォーターカッターを連射しつつも、その猛撃に、オシュトルは内心で舌を巻く。
この姿で、ヴライと相対するのは二度目となるが、こと一対一の闘いでは、前回同様、ヴライに分があると言わざるを得ない。
巨躯に刻まれたダメージも、オシュトルとは比ではなく、満身創痍であるはずだが、それをまるで感じさせない。
まさしく、ヤマト最強―――。亡き友に倣わんがため、武芸に研鑽を重ねて間もないオシュトルであったが、一人の武士として、ヴライの武勇には、脅威を感じるとともに、畏敬の念すら覚えるのであった。
(……だが、ここで圧し負ける訳にはいかない……!)
無数の炎弾と水弾が衝突し、高熱の蒸気が戦場を満たす中、オシュトルは自らを奮起させると、地を踏み抜き、突貫。
『ウォオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
『ヌゥウ!?』
それまで接近戦を嫌い、遠距離攻撃に徹していたオシュトルが、突如として反転―――己が懐へと飛び込んできたことに、虚を突かれるヴライ。
オシュトルはそんなヴライの心の臓目掛け、右掌に圧縮した水流を、ゼロ距離で叩きつけんとする。
しかし―――
『笑止ッ!!』
『ナッ!?』
ヴライが、咄嗟にその巨躯を捻転させると、オシュトル渾身の水撃は彼方へと逸れてしまう。
そして、そのまま身体の回転とともに繰り出されるは、必滅の炎槍握る剛腕。
262
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:42:23 ID:7gnuStw20
『コレデ終イダ、オシュトルゥゥ!!』
今度はオシュトルの胸元を穿つべく、炎槍が唸りを上げて迫る。
オシュトルもまたこれを躱さんと、身を捻らんとするが、時既に遅く―――
ド ガ ン!!
『ガハッ―――』
触れるものを灰燼にした上で、炸裂した炎槍。
ゼロ距離からのカウンターは、白の巨像の胴部に大穴を空けると同時に、その巨躯を吹き飛ばして、大地に仰向けに転がした。
ズシン ズシン
倒れたオシュトルの元へ、ヴライは歩を進めていく。
(……くそっ……しくじった……)
振動と共に、近づいてくるヴライの気配を感じながらも、オシュトルが起き上がることが出来ない。
もはや、勝敗は決した。
先の一撃は、致命傷だった。
胸元に穿たれた大穴からは、何か大事なものが溢れていく感覚を覚え、脳が身体を動かすための信号を送ったとしても、もはやこの巨躯がそれに応じることはない。
やがて、虚になりつつある視界に、黒い影が映り込む。
『先ニ逝ケ、オシュトル……。
地獄(ディネボクシリ)デモ、マタ闘リ合オウゾ……』
まるで、生気を感じさせない眼光で自身を見上げる宿敵。
ヴライはそんなオシュトルを見下すと、とどめを刺すべく、炎槍を振り上げた。
その時だった―――
「ハクーーーーッ!!」
『ッ!?』
絶叫が木霊すると同時に、金色の塊が、弾丸の如く、ヴライの懐に飛び込んできた。
眼下の宿敵に気をとられていたヴライは、咄嗟に反応できず、直撃。
ド ン!!
『グッ――!?』
予期せぬ衝撃に、ヴライの巨躯は大きく仰け反った。
咄嗟にギロリと、そんな自身の懐に飛び込んだ存在を睨みつける。
「―――絶対に、殺させないっ……!!」
視界に捉えたのは、金色の闘気を放つクオン。
この戦場で、幾度も拳を交わしてきた少女は、衝突の反動で、大きく後ろに空に吹っ飛ぶも、素早く空中で体勢を整える。
そして再び、ヴライの元へと降下すると、その頭蓋目掛けて回転蹴りを繰り出さんとした。
263
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:42:43 ID:7gnuStw20
『マタ、汝カ―――』
しかし、その蹴撃が顔面に叩き込まれる寸前。
怒れる怪獣が、その巨躯を再び起こすと―――
『漢ノ死合ニ、水ヲ差スカ、女ァアアアアアアアアッッッ!!!』
激情のままに、剛腕を振り下ろし、自身の数十分の一にも満たないサイズの躰を叩き落した。
「――ごほっ……!!」
地面に叩きつけられたクオンは、衝撃で、肺の中の空気を強制的に吐き出させられる。
それに続いて色鮮やかな鮮血が、口から溢れた。
ヴライの打撃自体は、発現している『力』によって緩衝されたが、その『力』の酷使によって、器たる彼女の身体は悲鳴を上げ、吐血という形で、その限界を知らせていた。
(……クオン……!!)
仰向けとなっていた首を横に動かした、オシュトル。
霞む視界の中で捉えたのは、ボロボロの状態でも、尚、全身を震わせながらも立たんとするクオンの姿。
このままでは、クオンが先に殺されてしまうのは明白だ。
(――せめて、クオンだけでも……)
どうにか、生き延びてほしい――。
その一念でオシュトルは奮起する。
だが、その想い虚しく、死体も同然の巨躯は最早動かず。
己が非力を恨みつつ、意識が途切れるのを待つ他なかった。
264
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:43:42 ID:7gnuStw20
【彼ノ者ヲ、護リタイカ……?】
その時だった。
(……っ!?)
突如として内より響く、何者かの声。
聴覚からというよりは、意識の奥底に、直接囁きかけてくる声は、無機質―――声色も分からぬため、声主が男性なのか、女性なのかも定かではない。
得体の知れないその囁きに、オシュトルは閉じかけていた瞼を、大きく見開いた。
(……誰だ……?)
死期が迫ったが故の幻聴か。
そう訝しみながら、オシュトルは問いを投げ返した。
【我ハ、汝ノ内ニ在リシ、願望ヲ叶エル断片ナリ】
(……願望を叶える断片だと?……)
答えが返ってきた。
しかし、突拍子のない返答にオシュトルは困惑を覚える。
そんなオシュトルを他所に、声は淡々と語り掛ける。
【然リ……。時ヲ渡リシ旅人ヨ、今一度、問オウ……。
汝ハ、アノ娘ヲ護リタクハナイノカ……?】
声に唆されるままに、今一度、視線をクオンに向けた。
辛うじて、立ち上がるクオン。
しかし、今一度その身に金色を宿すと、血反吐を吐いて、膝を地につけた。
ヴライはそんなクオンを見下し、巨拳を振り下ろす構えを取る。
265
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:44:16 ID:7gnuStw20
(――ああ……、護りたい……!!
自分は、クオンを護りたい……!!)
得体の知れない存在に、オシュトルは首肯した。
すると声は、その答えを待っていたかのように、再び語り掛ける。
【ナレバ、根源ニ『力』ヲ求メヨ。汝ガ求メレバ、我モ力ヲ貸ソウ。
シカシ、ユメ忘レルナ。汝ハ既ニ、十全ニ『力』ヲ引キ出シテイル。
コレ以上ノ『力』ノ捻出ハ、汝ノ身ニ破滅ヲ齎ソウ……】
(――構わない……!!
黙ってこのままクオンを見殺しにして、朽ち果てるくらいならば……!!)
本音を言えば、この声の主に対する疑念は晴れていない。
しかしながら、今この胡散臭い存在を訝しむ猶予など残されていはい。
万に一つでも、事態を打破する可能性があるのならば、それに賭けたい。縋りたい。
僅かな逡巡を経て、オシュトルはそのように結論づけ、己が覚悟を打ち明けた。
【良カロウ……ナラバ、求メヨ、彼ノ者ヲ救ウタメノ『力』ヲ……!!】
無機質な声からどことなく満足したような感情を感じ取ったと同時に、オシュトルは内より活力が湧き起こるのを感じた。
胸の奥底から湧き上がる、灼熱のような衝動。
それがオシュトルの全身に行き渡ると、
(……『仮面』よ、我は更に求む―――)
内なる声に唆されたままに、『力』を求めた。
(我が魂を全てを喰らいて、天元を超えし天外の力を示せっ――』
この窮地を脱するために。
そして、何よりも、自身を想う一人の女のために。
『我ヲ……チカラ深淵ヘト導キタマエ……!!』
死に体も同然だった白の巨躯が、大きく躍動し、立ち上がった。
胸に空いていたはずの大穴は瞬く間に、塞がっていく。
266
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:44:50 ID:7gnuStw20
『ナ、ニッ……!?』
「……ハ、ク……?」
再起したオシュトル。そして、癒えていく致命傷―――その異常事態を目の当たりにして、ヴライもクオンも、驚愕に目を見開く。
『更ナル深淵ヘト……我ヲ――』
白の巨像の全身が、煌めき始める。
同時に、オシュトルは心地の良さとともに、途方もない力が無制限に雪崩れ込んでくる感覚を覚えた。
そして―――
『ウォオオオオオオオオオオオオオオ!!』
空間を軋ませるかのような咆哮を上げると、オシュトルは、大地を蹴り上げた。
瞬間移動と見間違うばかりの速度で、ヴライの懐に飛び込んだ白の巨像。
黒の巨像も即座に、黒炎の豪腕を以って、これを迎撃せんとする。
ド ォ ン !!
だが、炎拳が振り降ろされるよりも先に、オシュトルの拳がヤマト最強の顎を突き上げた。
『……ガァッ!? オシュトル―――』
ド ォ ン !!
仰け反ったヴライが体勢を戻すよりも早く、もう一方の白の剛腕が容赦なく叩き込まれる。
拳打の速度は、先程までのそれを遥かに凌ぎ―――右拳、左拳が交互に、機関銃の弾丸の如き勢いで、その巨躯に叩き込まれていく。
空間が爆ぜるかのような衝突音が、怒涛の勢いで連続し、黒の巨像が前後に激しく揺れる。
『グッ、ガッ……!?』
一撃一撃に、黒の巨躯が軋みを上げていく。
『根源』の最後の扉を開いたオシュトルは、ものが違った。
身体能力、反応速度、出力、全てが別次元の領域に到達しており、もはやただの『仮面の者』では太刀打ちできない。
267
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:45:16 ID:7gnuStw20
『ヌゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
だが、しかし――
ド ォ ン !!
『――ガハッ!!』
ヤマト最強とうたわれるものは、ただの『仮面の者』にあらず。
オシュトルの打撃の嵐を浴び続け、仰け反りながらも、膝を屈することなく。
その拳を握り続け、渾身の一撃を、眼前の宿敵の顔面に叩き込んだ。
理不尽なまでに強大な力を前にしても、その闘志が折れることはない。
むしろ、それを更に燃え上がらせ、仰け反ったオシュトルへと、追撃の拳打を撃ち込んでいく。
『ウハハハハハハハハハハハハッ!! 愉快……愉快ゾォッ……!!
我ヲココマデ滾ラセルトハ、流石ヨ、オシュトルッ!!』
昂ぶる感情とともに、闘争を貪っていく、黒の巨獣。
己が磨き上げた武(ちから)のみを頼りとする、その姿こそ、まさに武頼(ヴライ)。まさしく、闘争の権化。
『ヴライィッーーー!!!』
しかし、オシュトルも地を踏みしめ堪えると、再びその拳を打ち放っていく。
やはり、その連打の速度は尋常ではないが、それに負けじと、ヴライもまたオシュトルの拳によって脳を揺らされながらも、重厚な連打を見舞っていく。
ド ォ ン !! ゴ ォ ン !! ガ ォ ン !! グ ォ ン !!
互いに防御を一切顧みない、愚直なまでの正面衝突。
爆音にも似た衝突音と同時に、両雄の肉片や血飛沫が、周囲に四散していく。
268
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:45:40 ID:7gnuStw20
『ウォオオオオオオッ、オシュトルゥゥゥゥゥッーーー!!』
だが、やはり根源の全ての扉を開いたオシュトルの地力は、ヴライのそれを遥かに上回っていることには変わらない。
徐々に、徐々に、黒の巨像は後退していき、その剛拳も、威力が弱まっていく。
気合いと共に、どうにか持ち堪えんとするが、やがてそれも限界に達し、頭の芯を捉えた正面打を以って、その巨躯は弾かれるように大きく後退。
『幕ヲ下ロソウゾ、ヴライッ!!』
その隙を見逃すまいと、オシュトルはその手にドリル状の水流を纏わせ、ヴライの胸部を穿たんと、疾駆。
『否ッ!! 我等ガ闘争ハ、コレカラゾォ、オシュトルゥゥッ!!』
ヴライも、即座に体勢を立て直し、これに反応。
その拳に炎球を宿らせ、オシュトルを迎え撃つべく、その剛腕を振りかぶると、炎拳と水拳が正面から衝突。
戦場に、二色の野太い咆哮が響き渡れば、全てを灰燼にする猛炎と、全てを穿つ水流が、互いに押し合い、鍔迫り合いの様相を呈する。
『グ……、ヌゥウウウウ……!!』
しかし、それも数瞬のこと。
水の拳が、炎の拳を押し返していき、地を削りながら、ヴライの巨躯を押し込んでいく。
今や、単純な力比べでさえも、オシュトルに軍配が上がる状況となっていた。
269
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:46:05 ID:7gnuStw20
『仮面(アクルカ)ヨ……、更ナル力ヲ、我ニ……!!』
だが、それでも尚、黒き巨獣は抗わんとする。
闘争心を滾らせ、歯を剥き出しにして、更なる力を求め、己が仮面に呼びかける。
『我ガ魂魄ヲ更ニ喰ライテ、更ナル力ヲ差シ出セッ!!』
不屈の闘志の根幹にあるのは、ただ一つ―――この死合において、眼前の宿敵を打ち負かせたいという、純粋な我儘だけ。その宿願を果たさんが為、更なる力を漢は欲した。
そして―――
『オオオオオオオオオオオオォォッーーー!!』
黒の拳が宿す火球は、たちまちに肥大化。
それとともに、水流を纏うオシュトルの拳を、圧倒的質量を以って押し返し始める。
『グゥ……!! ヴライ……貴様ハ……!?』
―――“窮死覚醒"。
この殺し合いの地で取得した、所謂『火事場の馬鹿力』の特性は、それまで劣勢に立たされていたヴライの出力を限界突破させ、根源の深淵へと至った『仮面の者』ですら凌駕する力を与えた。
今の今まで、圧倒していたはずのオシュトルは、その底力と自身の巨躯が後退しつつあるという事実に、目を見開く。
(……クオン……!!)
それも束の間。
地に膝をつき、呆然と此方を見上げるクオンの姿を視界の隅に捉えるや否や、オシュトルは脚に踏ん張りを効かせて、踏みとどまる。
『某ハ……、敗レル訳ニハイカヌノダァッ!!』
ボロボロの状態のクオン。見ているだけでも、痛々しい。
もうこれ以上、彼女を傷つけせたくない―――。
絶対に護ってみせる―――。
そんな想いと共に、己が拳に更なる力を込めると、拳に纏わる水流は、その体積と勢いを増大。
黒の拳と、それに宿る火球の質量を押し返すと、拮抗の状態に持ち直した。
270
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:47:08 ID:7gnuStw20
『フハハハハハハハッ!!
ヤハリ、ドコマデモ愉シマセテクレル漢ヨ……!!』
己が限界を越えた出力で押し切ろうとしても尚、押し通せない。
食らいつくオシュトルに、ヴライは喜悦を滲ませながら、その剛腕に全身全霊を込めていく。
『ヌゥオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!』
『ガァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!』
吼える両雄。巨拳による鍔迫り合いは、尚も続く。
二人の『仮面の者』が織り成す、圧倒的質量の豪炎と、螺旋を帯びた激流のせめぎ合い―――その衝動の余波は、周囲に散らされていき、地は揺れ動き、飛び散った炎と水の断片は、暴風の如く、破壊の爪痕を刻んでいく。
それは、さながら天地鳴動の光景であった。
ピシリピシリピシリ―――
しかし、その均衡は、長くはもたなかった。
『ヌゥウウッ!?』
突き立てる己が拳に生じる異変に、ヴライが唸る。
全身全霊を込めている剛腕は、蜘蛛の巣状に亀裂が走っていき、割れ目からは白い粒状のものが溢れ、大気へと霧散しているのだ。
―――“窮死覚醒"を基にした根源からの、限界を超越した『力』の入出力。
例えるならば、容量が定められた器を以ってして、爆発的に許容量を大幅に超過する水を流出入させる様なものだ。
己を顧みることなく、そのような過剰強化を、幾度も発現するようなことがあれば、当然決壊は免れない。
今まさに、その決壊の瞬間が、ヴライの身に訪れていた。
271
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:47:54 ID:7gnuStw20
『――マダダァッ……!! マダ……我ハ、闘エルゥッッッ!!』
怒号を張り上げ、尚も剛腕を押し込もうとするヴライ。
それに比例するかのように、火球も膨れ上がっていき、その質量を加速度的に増加させ、オシュトルを圧迫していく。
パリン―――
しかし、そんなヴライの執念も虚しく、剛腕はガラスが砕けるような音と共に、決壊。
大火球を宿したその拳は砕けたまま、天上と弾け飛んでいった。
『終ワリダ、ヴライィイイイイイッッーーー!!』
宙に舞い上がった大火球が爆発を起こし、夜天が白に染め上がり、天地が鳴動する中、オシュトルは勢いそのままに、ヴライの胸元に水流を纏った拳を叩き込んだ。
ドリル状の水流は、黒の巨塊に穴を穿っていく。
『グオオオオオオオオオッッッッ―――』
断末魔の咆哮を上げる、ヤマト最強。
白の巨腕は、その胸元に大穴を貫通させるや否や、ダメ押しとばかりに、大筋の水流を噴射。
黒の巨躯全てを飲み込まんとする勢いで、圧倒的な水圧を以ってして、吹き飛ばした。
『オシュトルゥゥゥゥゥゥッッーーー!!』
片腕を消失し、致命傷を負わされたヴライには、もはやなす術なく。
水流の勢いに飲まれたまま、夜の闇の向こう側へと、溶けて消えていくのであった。
『--ハァ…ハァ……』
やがて、戦場に訪れるは、夜の静寂。
肩で息をしていた白の巨像は、黒の再来に備えて、身構えていた。
しかし、その気配はもはやない。
(……終わったか……)
手応えはあった---巨躯が飲み込まれたであろう夜の闇の向こうを睨みつけながら、闘争の終焉を実感すると、オシュトルは肩の力を抜く。
途端に、その巨躯は眩い光に包まれる。
「――ハク……」
背後から、聞き慣れた声が聴こえてくる。
どこか安心感を覚える声色。
自分が、長い眠りから目覚める時に聴いた声。
(……そうだ……。もう一つ、ケリをつけないといけないことがあるんだよな……)
変身が解かれて、元の人間の姿へと戻った青年は、背後を振り返る。
そこには、こちらを心配そうな眼差しで窺う少女が佇んでいた。
272
:
戦刃幻夢 ―死闘の果てに―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:48:21 ID:7gnuStw20
◇
「……見事だ……、オ、シュトル……」
瓦礫に背を預け、座り込んだまま、血反吐とともに掠れた声で呟くは、剛腕のヴライ。
その姿形は、オシュトルと同様に、元のヒトの姿へと収まっていた。
オシュトルとの激闘の果て、全身に水流を浴び吹き飛ばされてしまった彼は、勢いそのまま、一エリアを跨いで、市街地に聳え立つビルへと激突。
大地に撒かれた瓦礫の上にて、変身もまた解除され、鎮座していた。
先の激闘の爪痕は、その肉体に深く刻まれており、片方の視界は奪われ、その片腕は消失し、胸元には大きな風穴が穿たれており、もはや立ち上がることは叶わない。
「……汝との、死合……、存分に、堪能したぞ……」
ヤマト最強の武士は、敗北した。
決定打は、自身の肉体の酷使による崩壊―――そこからの一撃であったが、この結末に対して悔恨はない。
己が認めた強者と、互いに全力以上を出し尽くし、戦い、そして、敗れた。
一人の武士として、充足感に満たされる、清々しさすらあった。
「……抜かるなよ……、オシュトル……」
あの“御方”が愛した國を統べるに相応しいのは、己かオシュトルの、何れかの勝者だ。
そして、勝ち残ったのはオシュトル。
力を以って全てを制すべきという、己が覇道とは決して相入れぬものではあるが、勝者であるが故、奴の在り方も認めざるを得ない。
故に、ヤマトの次代を託す。貴様は、貴様のやり方でヤマトを治めてみせよ、と。
そして、見事ヤマトを導き、己が生を全うしたその後は―――
「……地獄(ディネボクシリ)で、待つ……」
再び相見える、その瞬間を心待ちに。
ヤマト最強とうたわれた漢は、その生涯に幕を下ろした。
その死に顔は、目を見開いたままの能面。憤怒の色も、悔恨の色も、ましてや喜悦の色などもなく。
しかし、どことなく、微かな穏やかさを感じさせるものとなっていた。
273
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:49:32 ID:7gnuStw20
一旦ここで区切りとして、続けて投下します
274
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:50:22 ID:7gnuStw20
◇
「――……。」
物言わなくなったカナメを前にして、あかりは暫くの間涙を流していたが、やがて、嗚咽を堪えると、涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔を乱暴に拭った。
静かに息を引き取った、カナメ―――。
最期には、残されるあかりに負担を掛けまいと、安心したような表情を張りつかせていた――。
故に、その心遣いと想いに応えるためにも、いつまでも、メソメソとしている訳にはいかないのだ。
「――そんな……、カナメ様……」
そんな折、背後から、愕然としたような声が聞こえてきた。
振り返ると、そこには、茫然と佇む金髪の少女と、その隣で、じっと此方を見据えている黒髪の青年の姿があった。
恐らく、彼らも参加者で、相応の死線を潜ってきたのであろう。
少女が身に纏っているドレスは、元は色鮮やかなものであったのだろうが、焦げ目や土埃で汚れ、所々が破けている。
青年にいたっては、黒のコートが血で赤黒く染まり、左目付近には、ざっくりと切り裂かれたような痛々しい傷がある。
275
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:50:39 ID:7gnuStw20
「――初めまして、間宮あかりちゃん、だよね?」
あかりが口を開くより前に、黒髪の青年―――折原臨也が、表情を和らげ、やんわりとした口調でそう言った。
「俺は折原臨也。で、こっちがヴァイオレット・エヴァーガーデンちゃん……」
臨也が視線を移すが、ヴァイオレットは放心したような様子で、よたよたとカナメの側に歩み寄ると、その傍らにへたり込んでしまった。
二人は、琴子の亡骸と別れを済ませた後、カナメを初めとした他の仲間達を探していた。
その後、ようやく見つけたのが、事前情報から推察されるに、間宮あかりと思わしき少女。
そして、彼女の眼前で、既に変わり果てた姿となったカナメであった。
「あなたたちが、折原さんとヴァイオレットさん……」
事前にカナメから聞いていた情報と照らし合わせるように、その名前を反芻しながら、臨也達を見やる、あかり。
二人は殺し合いには乗っていない側であり、カナメとも共闘関係であったということは聞かされていた。
「うん、出会って早々悪いんだけど、聞かせてくれないかな?
此処で一体何があったのかを、さ……」
自身を見据えるあかり、そして、物言わなくなったカナメに、交互に視線を送りながら、臨也が問いかける。
まるで値踏みされているかのような、ねっとりとしたその視線に、あかりは若干の居心地の悪さを覚えるも、静かに頷いた。
「分かりました、お話しします……。あたし達に、何が起こったのかを―――」
そして、語り出す。
一つの悪意によって引き起こされた災禍と、それが齎した現実(じごく)の顛末を―――。
276
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:51:54 ID:7gnuStw20
【E-7/夜中/一日目】
【間宮あかり@緋弾のアリアAA】
[状態]:覚醒、白髪化、痛覚と疲労感の欠如、体温低下、情報の乖離撹拌(進行度63%)、全身のダメージ(大)、精神疲労(中)、左中指負傷(縦に切断、包帯が巻かれている)、深すぎる悲しみ、久美子たちの計画に対する迷い、ウィキッド対する憎悪
[服装]:いつもの武偵校制服(破損・中)
[装備]:スターム・ルガー・スーパーレッドホーク@緋弾のアリアAA
[道具]:基本支給品一色、不明支給品2つ
[思考]
基本:テミスは許してはおけない。
0:まずは目の前の二人と情報交換
1:ウィキッドは許せない
2:ヴライ、琵琶坂、魔王ベルセリア、夾竹桃を警戒。もう誰も死んでほしくない
3:『オスティナートの楽士』を警戒。
4:メアリさんと敵対することになったら……。
5:黄前さん達の計画については……。
6:カナメさん……。
[備考]
※アニメ第10話、ののかが倒れた直後からの参戦です
※覚醒したことによりシアリーズを大本とする炎の聖隷力及び「風を操る程度の能力」及びシュカの異能『荊棘の女王(クイーンオブソーン)』、そして土属性の魔術を習得しました。
※情報の乖離撹拌が始まっており。このまま行けば彼女は確実に命を落とします。
※殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。
※情報の乖離撹拌の進行に伴い、痛覚と疲労感が欠落しました。
【折原臨也@デュラララ!!】
[状態]:疲労(大)、全身強打、右拳骨折、言いようのない喪失感、全身に刺し傷、左眼失明
[服装]:普段の服装(濡れている)
[装備]:
[道具]:大量の投げナイフ@現実、病気平癒守@東方Projectシリーズ(残り利用可能回数0/10、使い切った状態)、まほうのたて@ドラゴンクエストビルダーズ2、マスターキー@うたわれるもの 二人の白皇、不明支給品0〜1(新羅)
[思考]
基本:人間を観察する。
0:まずは、あかりと情報交換する
1:レポートに記載されている『覚醒者』を確保する
2:首輪解除に向けて、首輪の緊急解除コードを探る
3:茉莉絵ちゃんは本当に面白い『人間』だったのに...残念だよ。
4:平和島静雄はこの機に殺す。
5:『月彦』は排除する。化け物風情が、俺の『人間』に手を出さないでくれるかな。
6:佐々木志乃の映像を見た本人と、他の参加者の反応が楽しみ。
7:主催者連中をどのように引きずり下ろすか、考える。
8:『帰宅部』、『オスティナートの楽士』、佐々木志乃、オシュトル、ヴァイオレットに興味。
9:オシュトルさんは『人間』のはずなのに、どうして亜人の振りをしてるんだろうね?
10:ロクロウに興味はないが、共闘できるのであれば、利用はするつもり。
[備考]
※ 少なくともアニメ一期以降の参戦。
※ 志乃のあかりちゃん行為を覗きました。
※ Storkと知り合いについて情報交換しました。
※ Storkの擬態能力について把握しました
※ ジオルドとウィキッドの会話の内容を全て聞いていました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読みました。
※ 無惨を『化け物』として認識しました。
277
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:53:06 ID:7gnuStw20
【ヴァイオレット・エヴァーガーデン@ヴァイオレット・エヴァーガーデン】
[状態]:全身ダメージ(大) 、肩口及び首負傷(止血及び回復済み)
[服装]:普段の服装
[装備]:手斧@現地調達品
[道具]:不明支給品0〜2、タイプライター@ヴァイオレット・エヴァーガーデン、高坂麗奈の手紙(完成間近)、岸谷新羅の手紙(書きかけ)、電子タブレット@現実
[思考]
基本:いつか、きっとを失わせない
0:まずは、あかりと情報交換する
1:レポートに記載されている『覚醒者』を確保する
2:お嬢様、久美子様……どうかご無事で...
3:主を失ってしまったオシュトルが心配。力になってあげたい。
4:麗奈と再合流後、代筆の続きを行う
5:手紙を望む者がいれば代筆する。
6:ゲッターロボ、ですか...なんだか嫌な気配がします。
7:ブチャラティ様が二人……?
8:「九郎先輩」に琴子の“想い”を届ける
9:カナメ様……
[備考]
※参戦時期は11話以降です。
※麗奈からの依頼で、滝先生への手紙を書きました。但し、まだ書きかけです。あと数行で完成します。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ アリア、新羅と知り合いの情報を交換しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読みましたが、「自分たちが作られた存在」という部分については懐疑的です。
※ 琴子から電子タブレットを託されました。琴子の電子タブレットにはこれまでの彼女の経緯、このゲームに対する考察、久美子達の計画等が記されています。
278
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:53:45 ID:7gnuStw20
◇
―――しかし、あんたらの絆とやらも、てんで大したことなかったよねぇ
私だって、人間だ。
十数年生きていれば、誰かと衝突して、その度に怒りを顕にすることは多々あった。
―――まぁ、結論としては、このクソ女は、あんたが友情を覚えるほどの価値はなかったってこと。
黄前さんも、友達はちゃんと選んだ方が良いですよ〜、きゃははははははははっ
だけど、生まれてこの方、他人に対して、ここまで憎しみという感情を覚えた事は、かつてなかった。
そういう感情を覚える場面に遭遇することなんて、平凡な人生を歩んでいた私には、一生ないと思っていた。
―――きゃはははははっ、やれるものなら、やってみろよ。
そしたら、あそこに散らばってるゴミ屑も、少しは浮かばれるってもんだよ!!
これが俗に言う「殺意」というものだろうか。
死んで欲しい。
ただ死ぬだけではなく、滅茶苦茶に苦しんで、自分の所業を後悔しながら、地獄に堕ちて欲しい。
私から麗奈を奪った、あの悪魔の存在が許せなかった。
―――あかりちゃん、撃ってよ!! 殺してよ!!
そいつが動けない、今のうちに!!
だから、感情のままに、あかりちゃんに嗾けた。
害虫を駆除するように、早くそいつを殺せと……。
―――うああああああああああああああああああ!!
―――黄前さん……!?
―――……がぁ……
そして遂には、私自身の手で、あの女の頭部に、大岩を叩きつけると、悪魔は沈黙した。
罪悪感は、これっぽっちも感じなかった。
だって、こいつは死んでもいい存在だから―――。
―――それで、気分はどうよ、お二人さん?
罪のない人間を、よってたかってリンチして、ぶっ殺した気分はさぁ〜?
だけど、実はそれは、悪魔が仕掛けた巧妙な罠で。
私が手を掛けたのが、罪もなく、むしろ私のことを護ろうとしてくれてた人だと明かされると、私は、我を取り戻して、自分のしでかした事の重大さを思い知った。
279
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:54:03 ID:7gnuStw20
―――わ、私は、中身が入れ替わってたなんて、知らなくて……。
でも、あかりちゃんが、その人のことを貴方だと、決めつけていたから……、そ、それで、わ、私……私は―――
ああもう、本当に最悪だ……。
湧き上がる後悔、罪悪感、そして恐怖。
恐慌状態の私は、罪を全て、あかりちゃんになすりつけようとした。
私は悪くない―――そんな酷く醜い自己保身に走ろうとした。
―――あんたらは、私と同じ穴の狢―――人殺しって訳だぁ!!
―――い、嫌あああああああああああああああああああ!!
だけど、悪魔によって、容赦なく現実を突きつけられると。
私は、その現実に耐え切れずに、その場から逃げ出した。
絶望に陥って、動けないでいるあかりちゃんを、その場に残したまま―――。
「……どうして……どうして、こんな事に―――」
あの場所から逃げ出した後は、とにかく無我夢中に走った。
どこに向かっていたとか、どれだけ走っただとか、そんな記憶は曖昧だ。
そして、いつの間にか、木の根っこかなんかに躓いて、私は無様に地面に転がり込んで、ぐちゃぐちゃの思考の中で、ただ嗚咽を漏らす事しかできなかった。
「……麗奈……麗奈ぁ……、う、うぅ……!!」
もう私に寄り添ってくれる“とくべつ”はいない。
それは分かっている。だけど、それでも、崖っぷちの私は麗奈を求めずにはいられなかった。
当然応えなど返ってくるはずもなく。
そんな残酷な現実を改めて認識すればするほど、私は絶望に沈んでいった。
「久美子か……?」
聞き覚えのある、だけどあまり良い印象のない声色が、私の聴覚に割り込んだのは、そんな時だった。
280
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:54:25 ID:7gnuStw20
◇
「――ゴホッ……、俺としたことが、不覚を取っちまった……」
闇夜に染まる森の中。
ロクロウは、軋む全身に鞭打ちながら、疾風の如く木々の間を駆け抜けていく。
あのヴライの巨拳を真正面から受け、エリアを跨ぐほどの吹き飛ばされたのもあって、当然、そのダメージは尋常ではなく、その屈強な肉体を構成する骨は多々砕け、内臓も多大な損傷を受けている。
それでもなお、血反吐を吐きながらも、満身創痍の肉体を動かし、恩人である早苗が残る戦場へと駆け戻らんとしていた。
しかし――。
「久美子か……?」
その道中にて、これまた、自分にとって恩義ある少女が土の上で突っ伏した状態でいるのを目にすると、その足の動きを止めてしまった。
「――何でなの……?」
ロクロウの呼び掛けに、久美子は鬱々とした顔で見上げると、恨みがましく、嗚咽を漏らしながら言葉を紡いでいく。
「……久美子……?」
「何で、あなたは肝心な時に、いなかったんですか!?
“借り”を返してくれるんじゃなかったんですか!?」
「おいっ、久美子……!?」
キッと、涙に濡れた瞳で睨みつけながら起き上がると、ロクロウの胸倉を摑む久美子。
その剣幕に戸惑いを隠せないロクロウであったが、構わず久美子はヒステリックに喚き散らしていく。
「あなたが道草食ってる間に、皆死んじゃったんですよ!! 岩永さんも、カナメさんも、麗奈も!!」
「何っ……? それはどういう――」
「あなたさえ、ちゃんとしていれば……、私達は……こんな目に遭わずに、済んだのにッ!!」
困惑するロクロウを余所に、久美子は彼の疑問に答えることなく、ただただ、一方的に捲し立て、泣き崩れる。
その一方で---
(ああ、本当に最悪だ、私……)
理不尽極まりない八つ当たりと、どうにかして自分の罪を薄めようとする醜い保身。
突きつけられた現実(じごく)に向き合おうとしない、自分自身に対して、久美子は心底嫌気が差していた。
281
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:54:45 ID:7gnuStw20
【F-6/夜中/一日目】
【ロクロウ・ランゲツ@テイルズオブベルセリア】
[状態]:全身に裂傷及び刺傷(止血及び回復済み)、疲労(極大)、全身ダメージ(極大)、反省、感傷、無惨の血混入、右腕欠損、言いようのない喪失感
[服装]:いつもの服装
[装備]: オボロの双剣(片一方は粉砕)@うたわれるもの 二人の白皇、ロクロウの號嵐(影打ち)@テイルズ オブ ベルセリア
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2
[思考]
基本:主催者の打倒
0:他の連中がどうなったか気になるが、一先ずは久美子が落ち着くのを待つ。
1:久美子達の計画に賛同するつもりはないが、久美子には借りがあるので、暫くは共闘するつもり
2:無惨を探しだして斬る。
3:シグレを殺したという魔王ベルセリア(ベルベット)は斬る。
4: 早苗が気掛かり。號嵐を譲ってくれた借りは返すつもりだが……
5: 殺し合いに乗るつもりはない。強い参加者と出会えば斬り合いたいが…
6: 久美子達には悪いことしちまったなぁ……
7: マギルゥ、まぁ、会えば仇くらい討ってはやるさ。
8: アヴ・カムゥに搭乗していた者(新羅)については……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくともキララウス火山での決戦前からとなります。
※ 早苗からロクロウの號嵐(影打ち)を譲り受けました。
※ オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※ 垣根によってマギルゥの死を知りました。
※ 無惨との戦闘での負傷により、無惨の血が体内に混入されました。
※ 更新されたレポートの内容により、ベルベットがシグレを殺害したことを知りました。
※ 久美子が作った解毒剤によって、毒は緩和されており、延命に成功しました。
※ 殺し合いの全てを無かったことにしようとする久美子達の計画を知りました。
【黄前久美子@響け!ユーフォニアム】
[状態]:全身に火傷(冷却治療済み)、右耳裂傷(小)、右肩に吸血痕、深い悲しみと喪失感、琴子とカナメに対する罪悪感、精神的疲労(絶大)
[役職]:ビルダー
[服装]:特製衣装・響鳴の巫女(共同制作)
[装備]:契りの指輪(共同制作)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1、デモンズバッシュ@テイルズオブベルセリア、セルティ・ストゥルルソンの遺体、シグレ・ランゲツの片腕、クロガネ征嵐@テイルズオブベルセリア、点滴セット複数@現実
[思考]
基本:歌姫(μ)に勝って、その力を利用して殺し合いの全てを無かったことにする。
0:麗奈……私は――。
1:ロクロウさんは嫌いだけど、利用はするつもり
2:ヴァイオレットさんには、改めて協力をお願いしたい
3:ウィキッドは絶対に許さない
4:例え隼人さん達を敵に回したって、もう私は迷わない。望みを叶えるまで逃げ切ってやる。
5:あかりちゃんも、仲間になってほしいけど……
6:魔王ベルセリアという存在には最大限の警戒
7:岩永さん、ごめん。必ず生き返らせるから……
※少なくとも自分がユーフォニアムを好きだと自覚した後からの参戦
※ロクロウと情報交換を行いました
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。現状は麗奈と一緒に衣装やら簡単なアイテムを作れる程度に収まっています。
※麗奈がビエンフーから読み取った記憶を共有し、ビエンフー視点からのロワの記録を入手しました。
※μの事を「楽器」で「願望器」だと独自の予想しました
282
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:55:10 ID:7gnuStw20
◇
『オシュトルゥゥゥゥゥゥッッーーー!!』
夜宵の戦場に轟くは、黒の巨像の断末魔。
白の巨像が放出した限界突破の水流に呑まれて、彼方へと消えていった。
『--ハァ…ハァ……』
勝者として君臨していた白の巨獣が、肩を揺らして、呼吸を整えている。
やがて、呼吸が落ち着き、その全身が眩い光に包まれると、それを見守っていたクオンは、その名を呼んだ。
―――ハク……?
記憶を失い、右も左も分からなかった彼に、自分が与えた、その名前を。
―――これからは、ハクと名乗るといいんじゃないかな。
―――この名前は、とても由緒正しい名前なんだよ。
―――伝承にまでうたわれし御方の名からいただいた名前なんだから。
―――そう、うたわれものから……
想起されるは、彼に名前を授けた日のこと。
その日から、『ハク』と自分の旅路が始まった。
それは、とても濃密で、波瀾万丈で……だけどかけがえのない日々だった。
―――……奴は、死んだ。
―――……すまぬ。
だけど、別れは唐突に訪れて。
―――お前と一緒に居た日々は、本当に楽しかった。
―――ありがとう。
―――ハク殿からの言葉だ。
当たり前のように側にいた彼と、もう肩を並べることも、語り合うことも、お説教することも出来ないのだと悟ると。
心にポッカリ穴が開いてしまって。
凄く苦しくて、胸が張り裂けそうになって。
―――そっ……か……
―――そう……だったんだ……
―――ハクのこと……すき……だったんだ……
ようやく、自分の想いに気付いて。
でも、その想いはもう叶わぬものだと、理解していて。
気付くのが遅すぎたと、ひたすらに後悔して。
―――……やれやれ、もはや追加労働手当だけでは割に合わんな……
でも、自分に彼の死を告げた漢が、実は彼で。
どういう訳か、ヤマトのうたわれる武士に為り変わってて。
『仮面の者』になって、あのヴライを退けて……。
283
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:55:50 ID:7gnuStw20
「――クオン……」
変身が解かれて、元の人の姿に収まったオシュトルは、クオンの呼び掛けに反応。
ゆっくりと背後を振り向くと、此方を見つめる彼女の姿を捉える。
ピシピシピシ―――
(……これが、『力』の代価か……)
揺らめくクオンの瞳を見据えながら、オシュトルは、自身の面貌を覆う仮面の亀裂が、音を立てて拡がるのを知覚し、悟る。
先の死闘にて仮面が限界に達したのだ、と。
そして――
パリン!!
「……ハ、ク――」
仮面が砕け散ったと同時に、顕になったその素顔に、クオンは息を呑む。
「……やっぱり、ハクだったんだね……」
「あぁ……」
視線の先には、かつて彼女の隣にいた青年の、陽だまりのような心地の良い微笑みがあって。
「……ハ、ク……。……ハクゥ……!!」
その懐かしくも、安心させられる想い人の姿に、クオンは胸が熱くなるのを感じた。
「……どうして、今まで隠していたのかな……?
私、ハクが死んだと告げられて、本当に悲しくて、落ち込んで、後悔して……。
凄く苦しかったんだよ……」
「……すまなかった……」
ポロポロと、クオンは大粒の涙を溢しながら、激戦の反動で覚束ない足取を以って、ハクの元に歩まんとする。
自分のために涙を流す彼女を安心させるべく、ハクもまた一歩踏み出すが――
(……っ!?)
唐突に生じた右腕の違和感に、ハクは足を止めた。
見れば、ヴライに決定打を浴びせた右腕部分がゆっくりと塩となり、風に運ばれて散っていく。
(……そうか……、自分もあいつのように……――)
かつて見届けた、親友の最期。
それが今まさに、自分の身に起こっていることを悟ると、やれやれといった感じで、ハクは嘆息した。
これが、願望を叶える断片とやらが、囁いていた『破滅』―――深淵の扉を開いた、代償なのか、と。
284
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:56:47 ID:7gnuStw20
「――ハ、ク……?」
不意に立ち止まったハクに、不安を覚えたクオン。
そこで気付いてしまった。
自分を悲しそうに見下ろす、ハクの―――。その顔が―――。
まるで陶器でできた仮面のように、ピキピキと罅割れているということに。
顔面だけではない。ふと視線を落とせば、彼の右腕からは、手首より先が無くなっていて。
真っ白な塩となって、風に運ばれている。
(――急がねば……)
硬直するクオンの元に、ハクは改めて、步を進めていく。
一歩、一歩と進んでいく度に、身体が徐々に塩が溢れて、大気へと還っていく。
その都度、自分という存在が、徐々に薄れていくことを認識しつつ、ようやく、クオンの元に辿り着く。
本当は抱きしめてやりたい。
彼女の温もりを感じながら、心配かけたなと謝りながら、全てを話してやりたい。
だけど、この身体では、もはやそれは叶わない。
今自分がやるべきことは、散りゆく自分の使命を―――。遺志を―――。
かつて、親友が自身に行ったように。信の置ける仲間に、託すことにあるのだから。
「クオン―――」
故に、オシュトルは、クオンの小さな肩に左手を乗せて、言葉を紡いでいく。
この殺し合いにおいて、己が目指していたことを、託すため―――。
そして、ヤマト帰還後に、成す遂べきことを、託すため―――。
285
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:57:39 ID:7gnuStw20
「自分は、お前に―――」
「クオンさんから、離れてくださいっ!!」
バ ァ ン !!
瞬間、ヒステリック気味の悲鳴が響くと同時に、閃光が走ったかと思うと―――
「……え……?」
ハクの顔は弾け、塩となって大気の中へと消えた。
ドサリ
「ハ、ク……?」
倒れ伏した、頭部のないヒトだったもの。
その残骸からは、首輪が分離されて。
残りの胴体部分も徐々に塩と化して、音もたてずに、風に運ばれていく。
「――ハァハァ……、クオンさん、無事ですか!?」
呆然とするクオンの視界には、緑髪を揺らす巫女が、息を切らせながら此方に駆け寄って来るのが映った。
「……う、嘘……だよね……?」
「―――クオンさん……?」
しかし、クオンが巫女に反応することはなく。
ガクリと膝を地面に付けて、虚空に消えつつある想い人の亡骸に縋りつく。
「い、や……。いやぁ……!! 何で……!?
折角、また逢えたのに―――」
まだ何も聞かされていない―――
まだ何も伝えられていない―――
今度こそ共に歩んでいけると、そう、思っていたのに――
「いやだよ……、こんなの……!! こんなのって――」
風に運ばれていく、ハクだったもの。
クオンは上から覆い被さるようにして、懸命にその消失を食い止めようとする。
しかし、そんなクオンをあざ笑うかのように、亡骸は全て塩の山へと変わり-――
「い、や……。待って……、待ってよぉ!!
ハク……、ハクゥゥゥゥゥゥゥゥッーーーーーーー!!!」
風に攫われて、宵の闇へと消えてしまった。
戦場の跡に残されたのは、あまりにも理不尽な現実(じごく)。
皇女は、生前の彼が纏っていた偽りの衣服を握り締めて、咽び泣き、巫女は、ただ呆然とその慟哭を眺めていた。
286
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:58:05 ID:7gnuStw20
◇
少女の奥に蠢く“その者”は、己が使命を全うした。
確かに、ヴァイオレットの手紙をきっかけとして、オシュトルと、彼を庇い立てる者達に関わる記憶の改竄に、綻びが生じてしまったのは、“その者”にとっては痛恨の極みだった。
これに対応するため、再び記憶の改竄を試みるも、早苗の深層心理は、これに抗戦。脳内における激しい攻防の末、“その者”は、宿主への身体的及び精神的負荷を鑑みて、記憶の改竄を断念した。
結果として、早苗の中では、矛盾する記憶が混在するようになり、ロクロウとヴァイオレットに対する不信は、彼らの言動を鑑みた上で、考えを改めるまでに至った。
しかし、それはあくまでも、ロクロウとヴァイオレットの二人に対してだけであって、“その者”は、決して、己が存在意義を放棄したわけではなかった。
早苗の深層心理が、過剰に拒絶反応を示していた、ヴァイオレット達に関連する記憶の工作―――それを断念する代わりに、オシュトルのみを対象とした記憶領域に対して、心象悪化の工作を徹底的に行なった。
彼一人のみ悪たらしめる、偽りの記憶をひたすらに刻み込んでいったのである。
その結果、早苗は、もはや自分自身の他の記憶との整合性を持ち合わせない状態にありながらも、オシュトルを悪として絶対視するようになってしまった。
人を喰らう害獣であれば、駆除しなければならない―――
人を死に追いやるウイルスであれば、滅菌しなければならない―――
早苗の記憶に根付いてしまった悪漢オシュトルの先入観は、まさにそれと同じ理屈で、彼を断罪する事を正当化するものであった。
元来、こういった周辺の記憶との整合性を無視した改竄は、周囲から不信を招いてしまい、最終的には宿主の破滅に繋がりかねないものである。
しかし、己が目的の達成のため、“その者”には、もはや手段を選ぶ余裕は残されていなかった。
287
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:58:41 ID:7gnuStw20
「クオンさんから、離れてくださいっ!!」
やがて、“その者”の工作は、実を結んだ。
バ ァ ン !!
駆け付けた早苗の目に飛び込んできたのは、絶対悪たるオシュトルが、クオンに掴みかかろんとしていた光景。
自身の仲間であるクオンを、その魔の手から護るため為、彼女は咄嗟に光弾を放った。
瞬間、オシュトルは断末魔を上げることもなく、その頭部は弾け飛んだ。
「――ハァハァ……、クオンさん、無事ですか!?」
何故、彼の頭が砂のように崩れ去ったかは、早苗には分からない。
だが、悪を葬り去り、大切な仲間を護ったことに変わりはなく、早苗はホッと胸を撫で下ろしつつも、クオンに駆け寄った。
「……う、嘘……だよね……?」
「―――クオンさん……?」
けれども、クオンは早苗に見向けもせず、放心状態。
そのまま、膝を落として、オシュトルの亡骸に縋り付くと、事もあろうに、泣き始めたではないか。
(……どうして?)
まるで、オシュトルの死を悲しんでいるような彼女の素振りに、早苗は、疑問を禁じえなかった。
オシュトルは断罪すべき悪人―――それは、クオンとの共通認識であったはず。
だというのに、このような反応をされてしまうと、あたかも、自分がいらぬ事を仕出かしてしまったようではないか、と。
「い、や……。待って……、待ってよぉ!!
ハク……、ハクゥゥゥゥゥゥゥゥッーーーーーーー!!!」
絶叫する、クオン。
まるで愛する人を失ったが如く、その慟哭を前にして、早苗は困惑して、立ち尽くしたまま。
288
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:59:00 ID:7gnuStw20
―――嗚呼、これでようやく眠れる……。
疑問符を浮かべたままの宿主を他所にして、“その者”は、己が使命を果たしたことを悟った。
自分は役目を全うした―――であれば、これ以上の活動に意味はない。
もはや自身の存在意義もなくなったので、これ以上、生き永らえるつもりもない。
故に、早苗の脳内に蠢く蟲は、後のことは知ったことではなく、宿主の好きにすればよいと、静かに眠りについて、その活動を停止した。
やがて、蟲の活動停止を機として。
「――あ、れ……?」
未だ泣き喚くクオンを見下ろしながら、早苗は、ふと疑問に思い始める。
「どうして、私はオシュトルさんを……?」
何故、あそこまで、彼を目の敵としてきたのだろうか。
何故、彼を悪として断罪することに、躍起になっていたのだろうか、と……。
「え、でも……、オシュトルさんは、許しがたい悪党で……。あ、あれ……?」
ここで、早苗は気付く。
先程までは明瞭に刻まれていたはずの、自身のオシュトル断罪を正当化する、彼を悪たらしめる記憶の数々―――それらが、時間が経つにつれ、まるで靄がかかるようにして、不確実性を帯びるようになっていくことに。
どちらかというと、現実で発生したものではなく、夢や空想の中での出来事を、あたかも事実として認識していたような―――そんな過ちを犯してしまったという感覚が、湧き上がってくる。
「……わ、私、もしかして――」
取り返しのつかないことを、仕出かしてしまったのではないのだろうか、と
そう悟った途端、足がガクガクと震え出し、全身から滝のような冷や汗が流れ落ちていく。
蟲の活動停止に伴って、引き起こされた、記憶と認知の修正―――。
刻まれたそれらが、偽りのものだと確信に変わったその瞬間。
東風谷早苗は、残酷なまでの現実(じごく)と向き合うこととなった。
289
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:59:17 ID:7gnuStw20
【E-6/更地/夜中/一日目】
【クオン@うたわれるもの 二人の白皇】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、疲労(極大)、出血(絶大)、精神的疲労(絶大)、オシュトルへの怒り及び不信(極大)、ウィツアルネミテアの力の消失、悲しみと絶望(極大)、喪失感(絶大)
[役職]:ビルダー
[服装]:皇女服
[装備]:
[道具]:基本支給品一色、薬用の葉っぱ@オリジナル、不明支給品0〜2、マロロの支給品3つ
[思考]
基本:???
0:ハク……、ハクゥ……!!
[備考]※ 参戦時期は皇女としてエンナカムイに乗りこみ、ヤマトに対しての宣戦布告後オシュトルに対して激昂した直後からとなります。オシュトルの正体には気付いておりません。
※マロロと情報交換をして、『いまのオシュトルはハクを守れなかったのではなく保身の為に見捨てた』という結論を出しました。
※ウィツアルネミテアの力が破壊神に破壊された為に消失しています。今後、休息次第で戻るかは後続の書き手にお任せします。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※早苗から、オシュトルに対する悪評を聞きました。
※ウィツァルネミテアは去りましたが、残された残滓を元に、『超常の力』を発動することは出来ます。但し身体には絶大な負荷が掛かります。
※ヴライとの戦闘によって、E-6を中心として、E-5の一部、E-7の一部、D-6の一部、F-6の一部に、破壊の痕跡及び火災が発生しております。
【東風谷早苗@東方Project】
[状態]:全身にダメージ(極大)、疲労(極大)、精神的疲労(絶大)、臓器損傷、悲しみ(極大)、脳内にウォシスの蟲が寄生(活動停止)、記憶改竄(修正済)、オシュトルへの不信(修正済)
[役職]:ビルダー
[服装]:いつもの服装
[装備]:早苗のお祓い棒@東方Project
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜1、早苗の手紙
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。この『異変』を止める
0:私……、何てことを―――
1:クオンさん……
2:ロクロウさん、ヴァイオレットさんは信じたい
3:さっきの人が、ヴライ……。霊夢さんの仇……。
4:ブチャラティ(ドッピオ)さん、信じていいんですよね……?
5:幻想郷の知り合いをはじめ、殺し合い脱出のための仲間を探す
6:ゲッターロボ、非常に堪能いたしました。
7:シミュレータにちょっぴり心残り。でも死ぬリスクを背負ってまでは...
8:魔理沙さん、霊夢さん……。
[備考]
※ 参戦時期は少なくとも東方風神録以降となります。
※ヴァイオレットに諏訪子と神奈子宛の手紙を代筆してもらいました。
※オシュトルからうたわれ世界の成り立ちについて、聞かされました。
※霊夢、カナメ、竜馬と情報交換してます。
※ビルドの『ものづくり』の力が継承されました。いまはこのロワでビルドがやったことが出来るだけですが、今後の展開次第ではもっとできることが増えるかもしれません。
※ブチャラティ、九郎、ライフィセット、梔子と情報交換をしました。
※ウォシスの蟲に寄生されております。その影響で、オシュトルにまつわる記憶が改竄され、オシュトルに対する心情はかなり悪くなっています。今後も、記憶の改竄が行われる可能性は起こりえます。
※記憶の改竄による影響で、オシュトル、ヴァイオレット、ロクロウが殺し合いに乗っていると認識しました。
※ウォシスの蟲が活動停止したため、改竄された記憶が全て偽りだったと認識しました。
290
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 10:59:46 ID:7gnuStw20
◇
――ぐじゅっぐじゅぐじゅ、じゅるるる……
崩落した瓦礫の上で、水気の多い果実を貪るような音が響いている。
月明かりに照らされつつ、食事に没頭しているのは、身体や衣服の至る所に焦げた跡が目立つ、一人の魔女。
鬼に堕ちた彼女が、口にしているのは、つい先ほどまで此の地にて、闘争に身を投じていた、一人の漢の屍肉―――。
「――はぁ……はぁ……」
食事を終え立ち上がったウィキッドは、口元に付着した血を拭い、食人本能によって興奮気味となっていた呼吸を落ち着かせていく。
複合異能の力を解放させたあかりに、苦杯を喫する形となった彼女は、損傷激しい身体を引き摺りながら、この場所に漂着。
そして、物言わなくなったヴライと対面。
当初こそ、目を見開いたまま佇ずむ、その威風堂々とした姿に、ビクリと跳びあがってしまったが、既に事切れていることを悟ると、食人衝動に促されるまま、その屍肉に喰らいついた。
「きゃはははははは、良いじゃん、良い感じじゃん!! ありがとなぁ、デカいのぉ!!
アンタのおかげで、力が漲ってきたわ!!」
骸を平らげてみせると、おんぼろだった身体の傷は、みるみるうちに回復。
続けて、身体の奥底から気力が溢れ返り、心身が研ぎ澄まされるのを感じると、己が糧となった名もわからぬ巨漢に、ウィキッドは、上機嫌に感謝の言葉を贈った。
291
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 11:00:34 ID:7gnuStw20
「さてと」
そして―――
「あの杖を壊されたのはムカついたけど、代わりの玩具も手に入ったことだし、逆襲タイムといきますかぁ!!」
漢が装っていた亀裂まみれの仮面を、自身の顔面に装った。
彼の支給品袋を漁った際に、目にした説明書。それによれば、この仮面を利用することで、飛躍的に戦闘力の向上が見込めるという。
鬼化の影響で、身体能力の向上と再生能力を得てはいるものの、それでも鬼舞辻無惨や間宮あかりらとの戦力差は、歴然。
直接手を合わせたことで、連中の強さは嫌という程実感している。
故に、ウィキッドは、新たに手に入れたこの仮面を用いて、更なる戦力の増強を図ることにした。
「待っとけよ、クソ共。今度こそきっちり、ぶっ殺してやるからなぁ!!」
次なる踊り場を求めて、夜の闇へと歩を進めていくウィキッド。
ヴライの屍肉と仮面を取り込むことで、溢れかえるは、マグマのような猛き活力と闘争本能。
そこに生粋の悪意が混ざり合うことで、魔女の精神は、より歪なものへと変貌していく。
彼女は、気付いていない。
この殺し合いの会場で膨張する憎悪の思念、及び外部から力の取り込みによって、自身の本質が徐々に徐々にと、本来の「水口茉莉絵」だったモノから逸しつつあることに―――。
滲み出る憎悪と悪意をまき散らすだけの、ただの怪物に成り果てつつあることに―――。
―――連中に地獄を味わせてやる……。
しかし、今は、湯水のごとく湧き上がる、他者への圧倒的害意のままに。
破壊衝動と狂気に染め上がった、絶望の魔女の舞踊は、尚も続く。
292
:
戦刃幻夢 ―お前に現実(じごく)を見せてやる―
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 11:01:44 ID:7gnuStw20
【D-7/市街地/夜中/一日目】
【ウィキッド@Caligula Overdose -カリギュラ オーバードーズ-】
[状態]:鬼化、食人衝動(小)、疲労(極大)、無惨への殺意(極大)、臨也とあかりへの苛立ち
[服装]:
[装備]:ヴライの仮面(罅割れ、修理しなければ近いうちに砕け散る)@うたわれるもの3
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2 、アリアの支給品(不明支給品0〜2)、キースの首輪(分解済み)、キースの支給品(不明支給品0〜1)、カタリナの布団@乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…、北宇治高等学校職員室の鍵、参加者の人肉(複製品)多数@現地調達、ヴライの支給品2つ
[思考]
基本:自らの欲望にしたがい、この殺し合いを楽しむ
0:次の目的地に向かう
1:無惨を探しだして、殺す
2:壊しがいのある参加者を探す。特に『愛』やら『仲間』といった絆を信じる連中。
3:参加者と出会った場合の立ち回りは臨機応変に。 最終的には蹂躙して殺す。
4:臨也がとにかく不快。最終的にはあのスカした表情を絶望に染め上げた上で殺す。
5:私を鬼にしただぁ? 元に戻せよ、クソワカメ。
6:覚えてろよ、間宮あかり。必ず殺してやるからな
7:人形女(ヴァイオレット)も殺す。
8:久美子に関しては、散々玩具にしてやったから、もうどうでも良いかな。ご馳走様〜♪
[備考]
※ 王の空間転移能力と空間切断能力に有効範囲があることを理解しました。
※ 森林地帯に紗季の支給品のデイパックと首輪が転がっております。
※ 王とウィキッドの戦闘により、大量の爆発音が響きました。
※ 無惨との情報交換で、第一回放送時の死亡者内容を把握しました。
※ 首輪の分解・解析により首輪の中身を知りました。
※ 首輪の説明文を読み、「自分たちが作られた存在」という可能性を認識しました。
※ 『覚醒者』について纏められたレポートを読んでおり、覚醒者『006』は麗奈、『007』は無惨が該当すると認識しております。
※ 麗奈との距離が離れたため、太陽に対する耐性を失いました(認識済み)
※ へんげのつえは破壊されました
※ 麗奈、ヴライの屍肉を食べました
※ どこに向かっているかは、次の書き手様にお任せします。
【岩永琴子@虚構推理 死亡】
【高坂麗奈@響け!ユーフォニアム 死亡】
【へんげのつえ@ドラゴンクエスト ビルダーズ2 破壊】
【カナメ@ダーウィンズゲーム 死亡】
【ヴライ@うたわれるもの 二人の白皇 死亡】
【オシュトル@うたわれるもの 二人の白皇 死亡】
【ウォシスの蟲@うたわれるもの 二人の白皇 活動停止】
【残り24名】
293
:
◆qvpO8h8YTg
:2024/11/16(土) 11:02:08 ID:7gnuStw20
以上で投下終了となります。
294
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/02(日) 23:50:52 ID:aKjWh2fw0
クオン、早苗、ロクロウ、久美子で予約します
295
:
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:51:26 ID:xjzPINJo0
投下します
296
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:52:44 ID:xjzPINJo0
さんざん泣きわめき、言葉で責め立てた少女は膝を折り、嗚咽と共に俯いている。
それを見届けた夜叉・ロクロウは無言のままに彼女を見下ろす。
だが、彼女に声をかけないのは、なにも彼が非情であるのを示す証左ではない。
巨大獣と化した武士の一撃をモロに受け、吹き飛ばされ、甚大なダメージを受けながらもどうにか戦場に戻る道中で遭遇した少女・久美子。
彼女に対しては、欲求に駆られて同行者を傷つけた負い目がある。撃ち込まれた毒を軽減してもらった恩もある。
そんな彼女が齎した「自分がいなかったせいで大勢の仲間が死んだ」という情報は、ロクロウの心に負荷をかけた。
だが、それは彼の心を縛る鎖までには成り得ない。
もしもこれが、ヴァイオレット・エヴァーガーデンや間宮あかりのように不殺を信念とする者たち、あるいは牧歌的な平和を愛する者であれば、その心に爪痕を残せただろう。
ロクロウは違う。
ロクロウの住んでいた世界は、人の理不尽な死などありふれていた。時には、自分たちが齎していた。
そしてなにより、彼自身が戦いを、血肉を好む戦闘狂。礼儀作法は心得ているため、平和や一般的道徳に理解は示せど、重視するのは己の欲求。
平和な現代世界で生きてきた久美子とは価値観が違う。世界が違う。
自分のあずかり知らぬところで少し話した程度の少女が、久美子の友達が、名前も知らぬ青年が死んだと聞かされても、悼む気持ちはあれど自罰には至らない。
よほど自分を占めるものでもなければ、終わってしまったものは、そういうものだと割り切ってしまえる。
(...嬢ちゃんの言う通り、うかうかしてられねえのは事実だが)
自分がいれば悲劇が収められた―――それは、この混沌とした戦場ではまだ潰えていない。
先ほどまで響き渡っていた轟音は既に途切れており、戦場を蹂躙していた巨大獣の姿も消え去った。
どういう形であれ、奴との戦いが終わっているのは察せられる。
残っているのは、奴が齎した戦火の痕、そして早苗とオシュトル。
早苗のオシュトルへの憎悪は要領をえないものだった。
一緒に行動していた時にはおくびも見せなかったのに、突然、オシュトルを悪しように吹聴し。
こちらがその否定や矛盾点を挙げれば、今までの言動を改竄・翻してでも己の主張を正そうとし。
挙句の果てには、同調していたはずのクオンですら困惑するほどに狼狽し、オシュトルに味方をするもの全てを否定するようになって。
どうにかして、自分やヴァイオレットへの否定は収まったものの、未だ、オシュトルへの嫌疑は晴れていない。
そして自分から見たオシュトルという漢が、早苗の言っていた人面獣心の大悪漢などではないことも相まって、自分かヴァイオレットが間に入り仲裁しつつ立ち回らなければ、ロクなことにならないのを確信している。
恩人の一人である早苗に、恩を返すこともなく死なれてしまえば寝覚めが悪いというもの。
「悪いが、こっちも先を急ぐ身でな。詳しい話はあとで聞かせて貰う」
「えっ、わっ」
ロクロウは久美子の身体を軽々と持ち上げ、肩に担ぐとすぐに駆け出す。
久美子がもがくも、ロクロウが止まることはない。
(何事もなけりゃあいいんだが...)
その願いが既に潰えているのを知るのは、ほんの数分後の話である。
297
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:53:37 ID:xjzPINJo0
☆
ゴッ
慟哭、そしてしばしの静寂の後に肉を打つ音が鳴った。
右頬を殴られ、地を舐める巫女・早苗は尻餅をついたまま細かに後ずさる。
その胸中を占めるのは、恐怖。
右頬に走る痛み。
己を殴った女傑―――クオンから迸る殺意と悲哀の気配。
取り返しのつかないことを犯した己の罪。
それら全てと直面させられ、早苗のぐちゃぐちゃになった心は、その身体から防衛以外の選択肢を奪い取る。
再び振り上げられる左拳に、ひぃと小さく悲鳴を漏らし、反射的に両手を盾にし。
その上から振るわれた拳に再び地を嘗めさせられ。
それでも怒ることも立ち上がることもできず。
ただ逃避するかのように縮こまることしかできない。
振るわれる右足。
来るとわかっているのに、避けられない。
アルマジロのように丸まろうとする身体を打ち上げるような襲撃に、身体こそ浮かないものの、ゴロゴロと蹴鞠のように転がされる。
距離が離れ、身体が仰向けになったところで顔を上げる。
クオンと目が合った。
そこにはもはや、己を気遣ってくれた優しい薬師の面影などなく。
涙を流しつつも、全ての感情を削ぎ落した能面のような表情が張り付いており。
それがいっそう、痛みと共に早苗の恐怖を掻き立てる。
なにもできない。
己の命を脅かす存在が目の前に迫っているというのに、ただ傷つけられるのを恐れる被虐待児のように、震え縮こまることしかできない。
ガチガチと歯の根が合わない早苗にも構わず、その緑の髪が掴み上げられ、無理やりに顔を持ち上げられる。
再び目が合う。
直視することができず、ヒイッと喉を鳴らして両手で顔を隠す早苗の顔面に、クオンの右拳が放たれる。
ゴッ、と鈍い音を響かせ、まだ端整さを保っていた早苗の鼻が歪む。
小さく悲鳴を漏らすも、クオンの拳は止まらない。
ゴッ ゴッ ゴッ
まるで壊れた人形のように振るわれる拳は、早苗の顔に幾度も降りかかり、肉を打ち、その奥にある骨を打ち。
痣を刻みつけ、唾が飛び、歯が欠け、顔の形状を変えていく。
美少女といっても過言ではなかった早苗の顔は、もはや見る影もない。
目。鼻。唇。頬。
至る箇所が膨れ上がり、まるで不出来な葡萄のように凹凸激しく無様極まりないものとなっていた。
298
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:54:16 ID:xjzPINJo0
はあ、はあ、はあと荒い息遣いだけが空気を支配し。
ありとあらゆる激痛が脳髄を支配する中、早苗の胸中を占めるのは、自分をこうしたクオンへの怒りや憎悪ではなく。
「ころ、ひて...ころひて、くだひゃい...」
贖罪と逃避、ただそれだけだった。
―――どうして、あんなことをしたんだろう。
クオンに嬲られている間、ずっと考えていた。
もともと、オシュトルと自分の関係は決して悪いものではなかった。
この殺し合いにおいて、最初に出会い、共に対主催を掲げる者同士。
首輪を調達するにあたる参加者の生死についての価値観の相違こそあれど、それがああも嫌悪と憎悪に繫がるものではなかったはずだ。
それからも、オシュトルになにかされたというわけではないというのに。
なぜか、オシュトルが悪しように記憶が塗り替えられていた。
一度、恐怖を抱けば火をつけた導火線のように憎悪と嫌悪が留まることを知らなかった。
いつからそうなったというのか―――ビルドたちの名前が連ねられた放送を聞いてからという、大雑把なことしかわからない。
なにか、妙な刺激があったような気もするが、その正体もわからない。
ただ、いまの早苗がわかるのは、勝手な思い込みでオシュトルを殺し、それがクオンを絶望に追いやったということだけ。
原因も。取り返す手段も。何もわからないというなら、せめて彼女の手で殺されよう。
そうすることで罪を償おう。それがきっと正しいのだ。
そんな逃避でしかない自己満足の自暴自棄―――諦観にはこれ以上なく相応しい、麻薬の如き事後犠牲の美徳に、身を任せようとする。
「......ッ!!」
クオンの目が見開かれ、感情が息を吹き返す。
掴んでいた早苗の髪を乱雑に地面に引き倒し、ぶちぶちと千切れる嫌な感触を掌から感じ取り、噛み締めた唇からは血が流れる。
仰向けに倒れ、視界いっぱいに映るのは、こちらを涙ながらに見下ろすクオン。
きっと、数秒後にはその拳で心臓を貫くのだろう。
その運命を受け入れるように、脱力感に身を任せるように、早苗は瞼を閉じる。
真っ暗になった視界の中、拳が迫るのを感じ取る。
ガキン、と金属を打ち付けるような甲高い音が鳴った。
「なにがあったかは知らんが...恩を返さないまま死なれては堪らん。ひとまず話だけは聞かせてくれねえか」
早苗が瞼を開けると、そこには、眼前にまで迫った拳を剣で受け止めていたロクロウの姿があった。
299
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:55:43 ID:xjzPINJo0
「っ...!」
ロクロウが剣を振り上げると、クオンは後方にたたらを踏み、距離を取らされる。
「ロク、ロウ、ひゃん...」
「おう。随分酷い有様になってるが...さっきのヴライって奴にやられた...わけじゃ、ねえなあ」
早苗の顔に刻まれた幾多の打撲痕から、殴打による怪我だと察することが出来る。
先の巨大獣・ヴライにやられたとすれば、あの巨大な拳を顔面に受ければ、もはや顔など存在すらしていないだろう。
となれば、やはり見間違いでもなんでもなく、先ほどまで共闘していたクオンが早苗を殺そうとしていたのは明白で。
「邪魔、しないでほしいかな...その娘は、ハクを...ハクを!!」
「ハク...?よくはわからんが、どうしても早苗を殺りたいんなら、俺を倒してからにしてもらおうか。久美子、早苗を看てやってくれ」
「ぅえ、えっと...ひっ」
送れて辿り着き、早苗の惨状を見た久美子の悲鳴がゴングとなり、ロクロウとクオンの戦闘が始まった。
駆け出すはクオン。
跳躍しての踵落としを、ロクロウは剣で受け、かかる衝撃をそのまま受け流せば、クオンはロクロウの手前に落下する。
その隙を突き、ロクロウは剣を逆手に持ち替え、柄の方でクオンのこめかみを殴りつける。
クオンは頭部に奔る痛みに怯むも、すぐに地面を蹴り抜き、右の拳を振るう。
ロクロウはそれを身を捩り回避。
躱された傍からクオンは左の拳を振るい、ロクロウはそれもまた回避。
クオンが拳を振るい、ロクロウが回避するというやり取りが数度続いたときだった。
「......」
ロクロウは動くのを止め、振るわれた拳をその腹で受け止める。
ドッ、と肉を打つ音がする―――が、しかし、ロクロウの上半身は微塵も動かない。
「...どうしたよ。そんな拳じゃ、早苗どころか猫だって殺せないぜ」
数度のやり取りでイヤでも理解させられた。
今のクオンの拳に、先ほどヴライとやり合っていた時ほどの威力や覇気は無い。
疲労で動かないだとか、技が使えないだとか、そんな次元ではなく。
拳が泣いている。力を振るっている本人が己の心を傷つけている。
今のクオンが、本当に早苗を殺そうとしているのかさえ疑問を抱くほどに。
まるでそよ風のようになびいているだけの軽い、軽い拳だった。
だから、あの巨大獣を怯ませるほどの威力を間近で見ておきながら、躱すこともなく受け止めることに躊躇いもなかった。
300
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:56:20 ID:xjzPINJo0
「......!」
クオンの唇を噤み、目元が歪んでいく。
身体が弛緩していくその隙に、ロクロウはクオンの伸ばされた腕を掴み取る。
「なんで...」
疑問の言葉が漏れる。
「なんで、早苗なの」
溢れ出した想いは止まらない。
「なんで、ハクが早苗に殺されなくちゃいけないの...!?」
ずっと会いたかった。
ずっと後悔していた。
また会えて嬉しかった。
今度こそ共に歩めると思っていた。
ずっと、ずっと大好きだった。
そんな想い人を殺されたのだ。
絶望せずにはいられない。
現実なんかじゃないと逃避せずにはいられない。
それでも、ハクがオシュトルに成り替わっていたのを知らなかった時は。
この殺し合いで仇を―――ヴライを討てると思えば、それも一つの活力とすることができた。
何故か。
自分の知る限りで、ヴライが冷徹で力を至上とする暴君だと認識していたからだ。
だから、最初にリゾットと出会い、問答した時も、復讐の是非はおいておいて『奴を斃す』ということ自体には忌避感すら湧かなかった。
そう。
もしも早苗が、他者の命を軽視し弄ぶような鬼畜外道であれば、悲しみに沈められようとも、躊躇わず拳を振り抜くことが出来た。
復讐という大義名分に酔うことができた。
彼女を殺した後に、命を断ち、この地獄から逃れハクのもとへ逝くことができた。
けれど、下手人が早苗であるがゆえに、そうはならなかった。
クオンとてわかっていた。
早苗が、オシュトル―――否、ハクを殺したのは、本意ではないと。
短い付き合いながらも、早苗がどういう人物かは理解している。
彼女は決して、デコポンポのように私欲で他者を害し悦に浸るような下衆ではない。
なにより、命を賭けて破壊神と戦い、その身を挺して皆を護ったのだ。彼女という人間を疑う余地はない。
ハクを撃ち抜いたのも、クオンを護ろうとしての行為だ。
だから、仮に本物のオシュトルに危害を加えられていたとしても、ハクの事情を知っていれば、決してそんなことはしないのだ。
もしも自分が早苗の豹変に気づき、安易に彼女に同意しなければ。
もしも皆で話し合う時間があれば。
もしも戦いが終わった時、自分と早苗が同じ場所にいることができていれば。
もしも早苗と合流した時に、オシュトルがハクであると伝えることができていれば。
もしもハクが自分と再会し、詰められた時にオシュトルではなくハクであると明かしてくれていれば。
もしもそれらを許さぬ程、ヴライが猛威を振るっていなければ。
決して、こんなことにはならなかった。
わかっている。
状況が、戦況が、時間が、そして誰もが悪かった。
早苗一人が悪いのではないことは、全部、わかっているのだ。
それでも止められなかった。
身体は勝手に動き、早苗を、己の心までを傷つける自傷行為に走るほかなかった。
ハクが戻るわけでもないのに、復讐という大義名分すらない、自慰行為に等しき最低最悪の児戯に身を任せるしかなかった。
「...もう、やだよ、こんなの...」
ガクリと膝を折り、涙に沈むクオン。
その嗚咽に、ロクロウも、早苗もかける声が見つからなかった。
「だったら、戦おうよ」
ただ一人、黄前久美子を除いて。
301
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:57:01 ID:xjzPINJo0
☆
みんなが悲しみと戸惑いに暮れる中、私の思考はイヤなほどに冷静だった。
きっとそれは、麗奈がいなくなってしまったからだろう。
麗奈。高坂麗奈。
麗奈はただの同じ部活の友達、なんてものじゃない。
彼女は誰の代わりにもならない『特別』だ。
同じ咎を背負い。
共に血を交わらせ。
禁忌と背徳に浸りながら共に墜ちると契りを交わし。
もはや私の番いと言っても過言ではない、半身とも言える存在だった。
それがなくなった。
二人で潜っていた暗い地の底に、私だけが取り残されてしまった。
だからだろう。
これからしようとしていることが最低だと理解していても。
本来なら私自身が忌避すべきものだとしても。
半身を失った私に、今さら恐怖なんてものはなく。
あとはもう生きるか死ぬか、それだけの世界でしかない。
踏み出すことでしか、光を掴むことができない。
そう、理解しているから。
悪魔が、背中を押すのを感じ取りつつも、その言葉に震えは微塵もなかったのだと思う。
302
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:57:29 ID:xjzPINJo0
☆
「こんなの、納得できないんだよね」
早苗の看病もそこそこに、久美子は涙ぐみながらクオンに投げかける。
「だったら、取り戻そうよ。なんで諦めようとするの?私たちにはその権利があるのに」
「ぇ...?」
その言葉に、思わずクオンは顔を上げる。
「だってこんなの、おかしいよ。やりたいことも、頑張ってたこともたくさんあるのに。無理やり殺し合いなんかに連れてこられて、本当ならしなかったこともさせられて...どうしてそんなもの、受け入れなくちゃいけないの?」
「おい、久美子。おまえ、まさか...」
「貴方は黙ってて!」
何を言おうとしているのか察したロクロウを、彼の強く出られない立場を利用し久美子は吐き捨てるように制する。
久美子の狙い通り、ロクロウは立場を顧みて一歩退き、久美子に場を譲った。
その実感に、彼女は、いま、この場の支配権は自分にあると言わんばかりの全能感に浸り、まるで逸材を見出した部活動の顧問のようにクオンの肩に手を置き問いかけた。
「本当に貴女はそれでいいの?建前なんか使わないで、ちゃんと、本音で言って」
「ほん、ね...?」
「こんなわけのわからない状況で、色んな人が死んじゃって、早苗さんがハクって人を殺しちゃって...それが、貴女の望んだ未来なの!?」
久美子の言葉にクオンは息を呑む。
自分はハクの死を―――否、ハクが死んだという事実自体を受け入れようとしていた。
だから束の間の誘惑に身を委ねようとしていた。死に逃げようとした。
「わた、くしは...」
でも。
本当に望んでいるのは、そんなのじゃなくて。
苦しいだけの地獄なんて微塵も望んでいなくて。
彼女が欲しいのは、たった一つの日常だけ。
「そんなの、望んでない...」
かつて過ごしたあの賑やかな日々。
ネコネ。
ルルティエ。
アンジュ。
マロロ。
アトゥイ。
ノスリ。
オウギ。
ムネチカ。
キウル。
シノノン。
ヤクトワルト。
ウルゥルにサラァナ。
ミカヅチ。
オシュトル。
共に戦った皆がいて。
「あの頃に、戻りたい...こんなの、受け入れられない!!」
なにより。
ハクがいた、あの愛おしき日々への回帰。
ただそれだけが、クオンが『本当にしたいこと』だ。
「...だったら、ぜんぶやり直そう?」
クオンの慟哭に報いるように、久美子の掌が差し出される。
「私は貴女の願いを否定しない...だって、私も、その為に戦ってるんだから」
彼女の言葉が、胸にストンと落ちてくる。
自分の醜く弱い部分を受け入れてくれるかのような、不思議な温もりさえ感じてしまう。
「...早苗さんも、聞いてほしいんだ。私と麗奈が目指した道しるべを」
そして、久美子は抑揚のついた、幼児に言い聞かせるような柔らかい口調で、ポツリポツリと語り始めた。
303
:
『01(ゼロイチ)』
◆ZbV3TMNKJw
:2025/02/08(土) 22:58:14 ID:xjzPINJo0
・
・
・
「μの力をうばって...全部なかったことにする...」
ロクロウより軽い応急処置を受けながら、早苗は久美子が語った目的を反芻する。
「そう。私と麗奈は、こんな殺し合いを否定して、全部無かったことにしようとしてるの。そうすれば、私たちだけじゃない...死んじゃった人たちも、みんなひっくるめて幸せになれるんだよ」
みんなが幸せになれる。
その誘惑に、早苗の頭が蕩けそうになる。
無かったことになる、ということはつまり、霊夢たち同郷の者、この殺し合いで関わり合い散っていった者たち、そして自分がオシュトル―――否、ハクを殺してしまったことをも取り返せるということで。
それは今の早苗にとって麻薬の如き甘言だ。
「ロクロウさんにはもう話は通してあって...二人も、手伝ってくれるよね」
同意前提の久美子の言葉に早苗の心境は一気に傾く。
確証はないものの、一応の理屈は整っていて。
金銀財宝の類のような私欲ではなく、かつての日常を取り戻したいという共感のできる目的であり。
なにより、この地獄のような現実から逃げ出すことができる。
否定する理由はどこにもない。
にべもなく、早苗は肯首しようとして―――
―――カラァン
不意に、脳裏に鐘の音が過る。
ビルドが己の全てをかけ高らかに打ち鳴らした鐘の音が。
(ぁ...)
躊躇いが生まれる。
久美子の言う通り、全てを無かったことにするということは。
あの破壊神との戦いで参加者たちが見せつけた覚悟やビルドの想いすらも否定するということ。
無論、散った者たちがそのままでいいなどと思っているわけではない。
しかし、彼らが生きた証を、ただ己が楽になりたいというだけで否定していいものか。
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