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オリロワ F
732
:
花火の鳴らない夏
◆vV5.jnbCYw
:2024/04/25(木) 23:34:34 ID:7ssmQVas0
「今だッ!!」
地面から火山の噴火のように、炎が噴き出る。
剣での斬撃まで、珠李が蒔いていたブラフ。
これはハインリヒにとってのミス、いや、先程彼女がこの技で、笑止千万を攻撃した所を思い出せば、躱せたかもしれない。
「そこまで…考えていたのか……」
咄嗟に身を引いて、後方に飛び退く。
革靴のつま先が焼け、ズボンと服の裾は少し焦げたが、その程度の被害なら儲けものだ。
舛谷珠李という女は、対等の戦いを望むが、正面からぶつかり合う戦いだけを望むわけではない。
使えるものなら何でも使うし、覚えた技をあり得ないような使い方で使う。
己の力を研磨するのに全てを費やしただけではなく、己の一番得意な技を見せつけるためにも、あらゆる手段を用いるのが彼女だ。
「―――硝子は煙り、石は燃え、炭は砕ける。
―――灯るな爆ぜよ。照らさず焦がせ」
そして、先程の魔法さえも、フィナーレの為の布石に過ぎない。
彼女が雪見儀一との戦いで、魔力強化術を使ってから、たった今6時間が経過した。
今こそ、第一段階の強化に入る時だ。
「これは…まずいな……。」
この魔法では、先程のショックウェルで剥がすことは出来ない。
あの技で無効化できる強化魔法は、ありふれた物だけだ。
例え彼女の奥義を阻害させられたとしても、彼女の想いに応えることは出来ない。
「いいよ。僕は逃げも隠れもしない。来い!!珠李!!!!」
ハインリヒは、膝を曲げてどっしりと踏み込み、剣を天に構えた。
さらに雷銃を自分の剣に発砲。ドンナー・シュヴェルトが、更なる雷電を纏う。
剣は過剰なまでの魔法を浴び、倍近くのリーチを持つようになった。
その剣の姿は、まさに弱きを照らし、悪しきを浄化する聖剣。
掲げることが出来るハインリヒを、救世主なのだと改めて実感できる。
「いいね。でも、まだだよ。まだ終わってない。知ってるよね?ハインリヒ。」
さらに魔力が増して行く。
彼女の周囲を熱風が吹き荒れ、瓦礫が吹き飛んで行く。
これでは最早、災害か何かだ。彼女が爆炎の通り魔と言われていたのも、頷ける話だ。
『ルールに違反しています。以下の力を既定された時間を超えて使った場合、首輪を爆破します』
熱風が吹き荒れる音に混ざって、首輪のアラームが聞こえてくる。
この世界での制限だ。第二段階強化は、一度使ってから12時間の間禁止されている。
だが彼女の魔力は、留まることを知らない。
「ばぁか。最初に言ったでしょ。こんなチンケな首輪如きで私やハインリヒの魂を縛れると思ってるなら、甘いよって。」
ハインリヒは、もうやめろとは言わない。全身全霊、彼女の一撃を打ち返すことだけに力を注ぐ。
彼女が命をかけるというのなら、その盟友である自分も命を賭さなければならない。
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