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シン・チェンジロワイアル part2

321逃げたい逃げたい ◆4u4la75aI.:2023/09/20(水) 00:06:31 ID:Wnb0hQTw0

「(躱された――!?)」

 頭上から迫るキックは微かな隙を見、加速し回避。キノコの活かし方としては特殊な例。
 なら、最も簡単な活かし方は?

「――ぁッ!?」

 それは加速、キノコを二つ一気に使った、圧倒的な加速。
 もはや弾丸の様な速度で迫る機関車は、寸分の狂いなく咲夜の全身へ突き刺さった。
 もはや悲鳴すら上がらない唐突な破壊。一気にダメージを受けた装甲は解除される。高く浮かび上がった咲夜の肉体は、生身で地を這う事となる。

「ひ……っ!?」

 運悪くと言うべきか。突き飛ばされた肉体は偶然にもリョウの目の前にどさりと落ちた。ごふぅ、なんて音と共に咲夜の口元から血が吐き出される。仮面ライダーツクヨミの装甲を持ってしても、弾丸機関車のダメージは咲夜にしっかりと叩き込まれてしまった。

「あ、さく、咲夜さん――」
『ポッポ〜♪』

 ヒーローの敗北。リョウの絶望の前に迫る機関車、即ち『死』。
 咲夜の目は閉じている。頼れる人間は居ない。絶望、絶望。

「あ、ああ、ゴージャス真、ひっ」

 迫る大音量の絶望、精神もまともでない今ゴージャス真拳を放つことさえままならない。数枚放たれた紙幣が車輪に巻き込まれて散り散りになる様子が余計リョウの心を阻む始末。
 しかしタイラントに容赦などない。二人いるならば、丸ごと潰せば良いのみ。

 前輪が持ち上がる。二つの頭蓋が潰される――



「『ザ・ワールド』」



 ――事はなかった。
 寸前、咲夜の口からぽつりと出た言葉と共に、目の前の機関車は完全に動きを停止する。
 時が止まる、ここは咲夜の世界。スペルカードを扱った訳でもない、能力も細かくは違う。だが、敵を自分の世界へ引き込むならば、この言葉がちょうど良かった。

「あ……は?」
「……リョ、ウ。頼みがあるわ」
「!」

 咲夜の容態は紛れもなく重症。ツクヨミという人間の肉体は普段から弾幕ごっこを行う咲夜より脆く。しかし主の護衛すらせず、死ぬわけにはいかなかった。

「できるだけ私を、担いで、遠くまで逃げて」
「この時間も、長くは……はぁ、持たない、から」

 時を止めた咲夜を襲うものは、痛みに重ねがけされる疲労感。時を止める能力は無法も良い所、一切の制限無しに扱える訳もない。止めた時が重なる度、咲夜の肉体を疲労が襲う。

「急いで……っ!」
「……っ!」

322逃げたい逃げたい ◆4u4la75aI.:2023/09/20(水) 00:06:59 ID:Wnb0hQTw0

 リョウとて死にたくなどない。状況こそ理解出来ていないが、またも咲夜が作り出してくれた希望、恐怖に阻まれた身体に鞭を打ち、咲夜を抱え走りだす。ハレクラニの肉体はツクヨミの肉体をも簡単に持ち上げる。デイパックも四つ分回収してなお走るだけには問題ない。

「(……従者である自分が、こんな体たらく。お姫様抱っこまでされてしまって、ねぇ)」

 息を荒げながらも、咲夜は時を止め続ける。脳内は呑気の様に見えても、こちらも山田リョウという足――希望に縋るしかない。

「(相手を見誤ったわ、ね。あとこの身体は、強くもない、し…………あ、そろそろ限界かも……)」

 咲夜の視界が黒く染まっていく。暴走機関車の出発カウントダウンが始まる。

「(……お嬢様を護らなければいけないもの。リョウ、どうにか、どうにか逃げ切って)」

 祈りを最後。ぱちり、と咲夜の目が閉じる。

 遠くで轟音が響く。機関車と人間の追いかけっこが、始まった。



 何を間違えてこんな目に遭っているのか。わからないままも地面を踏み締め、逃避を続ける。
 腕の中の咲夜は意識を失って尚息をしている、死んだわけではない。だが、べったりとした血の感触がなんとも気持ち悪く、それを気持ち悪いと思ってしまったことへの罪悪感をも感じてしまい。

「……誰か」

 身体がいくら強くなろうとも、山田リョウはまだまだ単なる少女だ。死の恐怖にいきなり逆らえる筈もなく、そしてその恐怖から救い出してくれた咲夜へ心から感謝していた。
 自分だけではどうにも出来ない。しかし助けを呼ぼうと叫べば同じ様機関車を呼び寄せる事となってしまう。

シュッ シュッ シュッ シュッ 

「……は?」

 しかしタイラントの執念深さを舐めてはいけなかった。地面の草が踏まれた跡。その僅かな路を辿りタイラントはあたかも簡単にリョウへと辿り着いたのだ。
 リョウの頭の中にまたも陽気なBGMが流れ始める。表情がまたも絶望に染まる。だが、足を進めた先にひとつ、希望が見えた。

「あれ、って……」

 緑色の大きな筒、そしてその先にある巨大な池。

「池……!」

 いくら動きが化物染みていても、機関車が水没して動ける筈がない。なら、ここに飛び込んで誘導すればいい。

「……いや」

 だが、もし飛び込んだ先でも難なく動けたならば。運転室から出てきた人間が水中移動を得意であれば。
 リョウはインドア派、運動は得意でなく当然水泳も苦手。咲夜も抱えたまま、不利になるのは当然こちら。
 ならば、機関車だけを落とせばいい。

 普段、ニュースや学校で聞く列車の天敵。線路を辿らない化物相手だが、通じるならそれで良い。

323逃げたい逃げたい ◆4u4la75aI.:2023/09/20(水) 00:07:26 ID:Wnb0hQTw0

『ポッポ〜♪』
「……っ」

 後輪を浮かべ、ラリアットの様な体勢。咲夜に仕掛けた物と相違無い。ならば、片輪で不安定となっている今はチャンスだ。

「……ゴージャス真拳」

 小学生のいたずら。大事故に至る原因。列車の天敵。

「フォーリング・ジュエルズ!」

 すんでのところ。努力の賜物。機関車を転覆させる為、リョウは宝石を地面へとばら撒くことに成功した。
 まさかニュースで見た犯罪を行うことになるとは思わなかった。置き石、解釈を変えれば、敵となった機関車を唯一倒せる可能性。これで池へと落ちて欲しい。

 だが、その後の軌道はリョウの予想とは異なる物で。

「――え」

 大量の宝石の山を踏んづけた機関車は頭上、高く跳ね上がった。そしてそのまま。

ティウン ティウン ティウン

 緑の筒の中へと、入り込んでしまった。

「…………」

 明らかに機関車のサイズより小さな穴に入り込んでしまった。宝石の山が機関車をジャンプさせた事実も困惑の種だったが、偶然の幸運と呼ぶしかない。
 リョウは地図を見ていなかった、そのせいで目の前の筒が『ワープ土管』である事も知らなかった。

 だが、脳内で流れていたBGMも消える。脅威は一先ず去ったことは理解できた。

「……早く、逃げないと」

 しかし一息ついている暇はない。咲夜の容態は未だ悪いまま。

「さっきの建物……いや、他を当たった方が……」

 リョウは考えるも、足を再び動かす。

「(また出てきたらその時は終わり。逃げて、どこかで。咲夜さんを)」

 衝撃的な体験続き。ダメージがないとは到底言えない。
 だが今はとにかく助かった。走って、走って、何処かへ逃げて。その先で命の恩人を救わなければ。

 山田リョウは一生分と言ってもいい程の恐怖体験をした。
 しかし、まだ殺し合いも序章。その事をリョウは理解したくもなかった。


【A-7 森/深夜】

【山田リョウ@ぼっち・ざ・ろっく!】
[身体]:ハレクラニ@ボボボーボ・ボーボボ
[状態]:健康、疲労(中)、恐怖(大)、咲夜をお姫様抱っこ
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、真・ハイパーノート@ハイパーインフレーション、ゴージャス真拳で出した紙幣・宝石、ランダム支給品0〜2、さっきゅんの基本支給品とランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:死にたくない。殺しとか、ダメに決まってる。
1:逃げて、咲夜さんを治療できる場所を探す。
2:怖すぎる、早く帰りたい、助けて。
3:ぼっち達に会いたい、虹夏の身体は……会った方が良いけどさ
4:ゴージャス真拳はある程度出来る様になった気がする。
5:脱出方法とか、元の肉体の戻り方とかは、後で考えよ……
6:金持ちバンザーイ……とか言える気分じゃなくなったんだけど……
[備考]
※制限により、ハレクラニの肉体で操った金により一円硬貨にされる技は封印されています。

【十六夜咲夜@東方Project】
[身体]:ツクヨミ@仮面ライダージオウ
[状態]:気絶、疲労(大)、吐血、全身にダメージ、内臓損傷(小)、リョウに抱っこされ中
[装備]:ジクウドライバー&ツクヨミライドウォッチ@仮面ライダージオウ
[道具]:基本支給品、咲夜のナイフ@東方Project、ランダム支給品0〜1、スコップ@東方Project、涙目のルカの基本支給品とランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:今は殺し合いには乗らない、とりあえずは抗う方向で行かせてもらうわ。
1:リョウ、頼んだわよ。
2:何よ機関車って……。とにかく次会った時は対処しないと……。
3:お嬢様を探したいわね。
4:軽率に乗ったり殺す事はしない。お嬢様に会ってからちゃんと考えるわ。
5:姫虫百々世?誰なのかしら…?
6:あの顔のある月をなんとかする方法…あるといいんだけど…。
7:小悪魔……。
[備考]
※制限により時間停止を続ける程疲労感が襲いかかります。
※時間停止の対象は咲夜の裁量により選択可能です。
※咲夜の過去については色々な説が出ていますが、どれを採用するか等は後続にお任せします。
※精神名簿のみ確認しています。

324逃げたい逃げたい ◆4u4la75aI.:2023/09/20(水) 00:07:52 ID:Wnb0hQTw0

◇◇◇◇


 ワープ土管の先。さらさらと川が流れているすぐ側、タイラントは現れる。
 唐突に景色ががらりと変わった現状、流石のタイラントも対象が何処へ行ったかは見当もつかない。知能も一般的な人間よりは低い。自らが土管でワープして来た事実をも認識していない。

シュッ シュッ シュッ シュッ

 しかし任務を遂行するのがタイラント。機関車の身になろうとも変わらず。
 任務は参加者の皆殺し。順番が変わろうともどうせ殺す。現状もどうと言う事もない。
 新たな参加者を探し出す為、車輪は動き出す。じこはおこる。まだまだおこる。


【H-4 ワープ土管付近/深夜】

【タイラント@バイオハザードRE:2】
[身体]:トーマス@きかんしゃトーマス
[状態]:健康、返り血が付いている、タンク部分の損傷(小)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:全ての参加者の殺害
1:次の殺害対象を探す
[備考]
※トーマスのサイズは3メートルほどに縮小されています
※タイラントに補足された参加者は、きかんしゃトーマスのBGMが聞こえるようになります
※線路以外のあらゆる道で走ることが出来ます
※階段の上り下りや扉の開閉も出来ます
※デイバッグはトーマスの中に入っています
※デイバッグの操作も可能です。中身を取り出すことは可能ですが、タブレットを扱うことは流石に難しいでしょう


※崩壊したロッジの付近に丸太小屋が建てられています。中には山田リョウが取り逃がした紙幣が数枚そのままになっています。


【トリプルダッシュキノコ@スーパーマリオシリーズ】
タイラントに支給。マリオカートでおなじみのキノコ。
使用することで一時的に加速する事が可能。使用すると三つのキノコが身体の周囲をぐるぐると回転し始める。
タイラントが全て使用した為消滅。

325 ◆4u4la75aI.:2023/09/20(水) 00:08:37 ID:Wnb0hQTw0
投下終了です。制限等問題があれば修正致します。

326 ◆vV5.jnbCYw:2023/09/20(水) 00:35:07 ID:TckWVkC60
投下します。

327ミス・コンダクタ ◆vV5.jnbCYw:2023/09/20(水) 00:35:41 ID:TckWVkC60

禪院扇は、闇雲に会場を徘徊していた。
この殺し合いを壊すカギを探るために、歩き始めたはいい。
だが、行けども行けども人に会えないし、会える気がしない。
参加者を先導して救済しようにも、殺し合いに乗った者を殺そうにも、人に会えなければ意味が無い。


大して進展もなく、無駄に時間と体力を浪費させられた中、魘夢の放送が響いた。
その放送が終わり、彼の苛立ちは頂点に達していた。
自分の家の者が死んだことはどうでもいい。
だが、参加者の数が減ってしまえば、自分の業績を評価する者が減ってしまう。
そうすれば、次期当主の座を推薦してくれる者も少なくなり、偏屈な者達が考えを変えてくれなくなる。


ひとまず、名簿で知っている者がいないか、調べてみることにした。
苛立ちのあまり、タブレットをたたき割りたい衝動に駆られながら。
最初に目に入ったのは、夏油傑という名前。


「誰かと思えば…殺す手間が省けるから良いが……」


彼は当事者ではないにせよ知っている。
1年前に起こった事件、百鬼夜行の首謀者であることを。
そして死んだはずが、どういうわけか再び現れて渋谷事変にも関わっていたことを。



その後すぐに、五条悟の名前が見つかる。


「奴は封印されたはずだ……なぜこんな所にいるのだ……!!」

彼の名前を見て、さらに苛立ちが増すことになる。
人間離れした実力と、若者に未来を託したいという腹立たしい思想は、自分の道を阻むと思ったからだ。
今はただ、奴にも出来損ないの身体が支給されていることのみを願った。


そして次に見た名前は、同じ禪院家の名の者。


「お前のような若造に、次期当主の座はやらん……!!」


直哉もまた、次期当主の座を奪われた者。
だからと言って同情するつもりは露ほどもない。
当主の座を奪われた原因が実力ではなく、理不尽なのは自分だけだからだ。
自分だけは、娘が出来損ないだったという理不尽が原因だと思っていた。


その次の名前も、禪院家の者なのは分かった。
だが、下の名前を見た瞬間、地震が起こった。
あまりに大きな地震のせいで、タブレットを落としてしまった。


本当のことを書くと、それは地震ではない。
怒り、恐怖、そして己への憐憫。扇の胸の内で渦巻いた様々な感情による、震えだった。


「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!!
この世界でまで私の邪魔をしようとする気か!!!!!」


半ば八つ当たり気味に、地面に落ちたタブレットに蹴りを入れた。
液晶画面にひびが入り、二発目の蹴りで壊れてしまった。

328ミス・コンダクタ ◆vV5.jnbCYw:2023/09/20(水) 00:36:03 ID:TckWVkC60
このような場所で叫ぶことは、貴重な名簿を壊すことは、色々とデメリットがある。
そんなデメリットを無視した上で、己の感情を露わにする。
それは到底自分の娘に向ける感情ではない。
だが、自分の未来を閉ざしてきた人物への感情と考えれば、理にかなっている。
尤も、その理とは彼の中でしか完結しないものだが。


「それならそれで、此方にも方法はある。」


だが、ここで男は1つ考えた。
かつて考えていた通り、自分の娘を殺せばいい。
ただし、彼女を悪と仕立て上げた上で。
その上で殺すことが出来れば、足手まといを排除出来たついでに己の格も上がり、一石二鳥というものだからだ。
地図のデータに入ったタブレットを、愚かにも壊してしまったが、残骸を置いて先に進むことにした。


☆☆☆



「こう見えてぼくはねえ。何の力もないサラリーマンだったんだ。」


車の中で、句楽は話を始めた。
頼まれてもいないのに話したわけではなく、同じ車に乗っている少女から質問されたものだ。


「世の中にあふれるどす黒い不正を見るにつけ聞くにつけ、いきどおろしさに胸の塞がる日々を送っていたものだ。」


彼が得意げに語る様子を、少女は支給された水を飲みながら聞いていた。
その胸の内に、純粋さとは全く異なる感情を秘めて。
そんな彼女にとって、男の身の上話などどうでもいいものだった。
何しろ、アイシアヤノという少女が人として惹かれた男は、たとえ幾重の世界を渡っても一人だけだから。
問題は、ウルトラ・スーパー・デラックスマンがどのような力をもつのかだけだった。



「ある朝……X線、怪力、飛行力。おれは超人になったのだ!!
それこそこんな身体なんか下らないぐらい、とんでもなく強いぐらいのね。」


ここからが話の盛り上がり所だ、と言わんばかりに、彼の語調が強くなる。
話しているだけで、彼の気持ちが高揚しているのが伝わって来る。


「正義の味方として、おれの大活躍が始まった。
単なる犯罪者だけではなく、小は暴走族から大は財政界の黒幕や公害企業までもおれの鉄拳を浴びた」


「そんな凄い活躍をしていたんですね。」


彼女の言葉は、本心ではない。
自分とは関係ない正義など、心底どうでもいいからだ。彼女は正義を信奉するような倫理観とは無縁の人間だ。
ただ思うのは、句楽の肉体を承った者が、相当厄介な存在になるということだ。
彼の仮説通り悪人が持っていれば言うまでもなく。逆に善人だったとしても、優勝を狙っている彼女にとって手ごわい敵になるのは間違いない。

329ミス・コンダクタ ◆vV5.jnbCYw:2023/09/20(水) 00:36:25 ID:TckWVkC60

「ところで、こんな話を聞いても、やはりウルトラ・スーパー・デラックスマンのことに覚えはないんだね?」
「え?はい。そんなヒーローの話は聞いたこと無いです。」


2人が生まれ育ったのは、こんな殺し合いがなければ決してつながることのない別々の世界だ。
だからアヤノが句楽のことを知らないのも当然なのだが、そこに彼は別の間違った答えを見出した。


「やはり…報道管制だな。君がおれのことを知らないのも、それが原因だ。」


無精ひげが印象的な医者の顔が、歪み始める。
目つきが鋭くなり、ギリギリと歯ぎしりをし始める。


「犯罪のニュースを流すとおれが飛んで行くもんだから、隠していやがるんだ。」
「隠している?どういうことですか?」


今のは演技ではない。本心からの疑問だ。
当事者でもないアヤノは、話の繋がりが分からなかった。


「そうだな……こういう話は順を追って話していった方が良いだろう。
いつだったかはもう分からない。いつものように悪人どもを抹殺していた時のことだ。
警察が現れて、おれを逮捕するなんて言いやがった。」
「どうして逮捕されなきゃいけないんですか?」
「だよねえ。おれの力は世の不正を正せと神が与えたもうものなのに、悪を抹殺するのがなぜ悪い?」


もし話を聞いている者が、まともな倫理観を持っているのなら、目の前の男のしていることの恐ろしさが分かるだろう。
残念なことに、この場にまともとされる倫理観を持った者はいなかった。
いや、彼を怒らせずに済んだため、幸運なことにと言うのが正しいのかもしれないが。


「それからすぐに、マスコミも正義の味方をとやかく言うようになった。
奴等も黙らせたよ。最も、おれのことを褒めたたえることは終ぞ無かったがね。」


一通りウルトラ・スーパー・デラックスマンのことについて聞き終わった後、彼女は目の前の相手を厄介だと思った。
恐らく自分が何をしようとしているか分かれば、躊躇なく殺そうとするということは分かった。
だが、同時に御し易い相手だとも思った。
巧い事自分を悪に襲われた被害者のふりをする、あるいは厄介な相手を悪だと吹き込めば、相手を殺し合いの渦中に追い込むことも可能ははずだ。


「話を戻そう、おれを逮捕しようとした警察共を片っ端からひねっていくと、今度は自衛隊がやって来た。」


そしてもう一つ、句楽の話を聞きながらも、アヤノはしていたことがあった。
車の中に何かないか、物色していたのだ。
邪魔者を始末するのに、戦車や伝説の剣や魔法の杖はいらない。
身近にある物でも、急所を狙えば十分殺すことが出来る。
現在の句楽が持っている肉体が何なのか、未だ分からずじまいだが、1つでも武器になれるものは持っておいた方が良い。

330ミス・コンダクタ ◆vV5.jnbCYw:2023/09/20(水) 00:36:47 ID:TckWVkC60
そんな中、車の中の収納箱から、1枚の紙が見つかった。
何か重要なことが書いてあるのか気になり、覗いてみるも、てんで期待外れの内容だった。
なにしろ、それは何の変哲もない、ただの免許証だからだ。
だが、句楽にとっては関係のないものでは無かった。


「何か面白いものでも見つかったのかね?見せなさい。」


句楽は半ば引っ手繰る形でそれを手に取る。
すぐにそれは、知っている人物の名前が表記されていることに気付いた。
同時に、この車の持ち主が誰であるかも。


「あいつら!!」
「え?」
「くそったれ!!おれの友人まで巻き込みやがって!!」


車の持ち主である片山は、句楽の昔からの知り合いであり、今でも数少ない話し相手だ。
無理矢理話し相手にしたと言っても良いが、少なくとも彼はそう思っている。
彼は殺し合いに呼ばれていないと思っていたが、あろうことか財産の1つを奪われていたのだ。
改めて奴等を裁かねばならない理由が、また1つ増えた。


「ちょっとクラクさん!!ハンドル!!運転!!」


その感情の高ぶりは、彼の運転にも現れる。
ウルトラ・スーパー・デラックスマンになってから、己の肉体にのみ頼っており、長らく車を運転してなかったから猶更だ。
今までにないほどの速さで進む車が揺れる。どうにか事の重大さに気付いた句楽は、ブレーキを踏み始めた。




☆☆



「おお!?何だアレは!!」


辺りを伺いながら草原を歩いていると、鉄の怪物が向こうを走っているのを見えた。
あれも参加者の1人なのかと考えてしまう。
ドッスンが知っている乗り物と言えば、主のお気に入りのクッパクラウンや、レース用のカートぐらいだ。


「知らぬのか?自動車と言って、オレさまの世界ではありふれた乗り物だったぞ。」


それに対して答えるのはサタンだ。
彼は人間の世界のことを幾分かは知っているため、向こうにあるものが何なのか分かった。
そしてその車が、明らかに暴走していることも。
尤も、サタンにとってあの車が暴走していようとどうでもいいことなので、放っておこうとした。


「おい待て…何処へ行こうと言うのだ!!」
「ジドウシャの中にいる者と話をしたい。」


一度やられたというのに、なんという愚直さだ。
そんなドッスンの態度を、サタンは呆れながら見ていた。
勿論だが、人の足でトップスピードに近い車に追いつけるはずがない。
だが、突然車はバナナの皮でも踏んだかのようにスピンし、草原の真っただ中で止まった。

331ミス・コンダクタ ◆vV5.jnbCYw:2023/09/20(水) 00:37:14 ID:TckWVkC60
「おい!大丈夫か!!」


しばらく反応が無かったが、やがて車のドアが開いた。
出てきたのは、無精髭が印象的な医者のような男と、長い髪の女子高生。


「いたた……運転荒いですよ……。」
「いやあ、すまないね。おれとしたことが、ついカッとなってしまった……。」


2人は身体をしたたかに打ち付けたが、大けがしたりするようなことはなかった。
早速ドッスンに気づいて、声をかける。


「無事で何よりだ……。自己紹介が遅れた。ワシはドッスン。この殺し合いを壊そうとしている。」

「いやあ、見苦しい所を見せてすまないね。けれど、ぼくと会えたからには安心だ。
このウルトラ・スーパー・デラックスマンが悪い奴等を成敗してやるからな。」


ニコニコしながら、句楽はドッスンに話しかける。
自分達のことを慮ってくれる相手なのだから、殺し合いには乗っていないという考えだ。

「ウルトラ・スーパー・デラックスマン?」


聞き慣れぬ言葉に、ドッスンは眉を顰める。


「クラクさんは、悪い奴等を成敗するヒーローなんですよ。」


少女の言葉にあわせるかのように、句楽はエッヘン、と胸を張る。
そんな彼の態度に対し、ドッスンはあまり嬉しい気分を抱かなかった。
何しろ、今は殺し合いに乗っていないとは言え、自分は悪の組織に所属していた自分だ。
彼の世界でいうとマリオのようなヒーローの名を冠する者は、本来敵に該当する。


「ん?何だね?折角ヒーローが来たんだ。もっと喜びなさい。」


句楽は元の世界にいた時、同僚とも目が合えば、苦虫を噛み潰したような顔をされていた。
だからそんな顔をされるのは慣れている。
だが一たび美少女から、尊敬の眼差しを受けてしまうと、他の者もそのような態度で接して欲しいと思ってしまう。


「ああ。すまない。少し考え事をしていてな。ならワシはヒーローの仲間として、出来ることならなんでもしよう。」
「嬉しいこと言ってくれるねえ。」


ドッスンは自分の行いを省みるつもりは無いが、善悪の区別はついている。
もし自分が、悪の組織の一員だったと分かれば、このヒーローはどんな顔をするだろうか。

332ミス・コンダクタ ◆vV5.jnbCYw:2023/09/20(水) 00:37:30 ID:TckWVkC60

「ドッスン。お前は先を急ぎ過ぎだ。車に乗っていた者が悪人だったらどうする。」
「すまない。でもこの2人は悪人でない。結果的に問題ないだろう。」


ようやく遅れて、サタンが3人の場に現れる。
山岸由香子と同様、これまた美しい少女が現れたため、句楽の視線が釘付けになる。
彼の好みはフランのような10かそこらの少女より、彼の世界で言う星野スミレのような20前後の美女だ。
だが、その好みを差し置いてなお、フランの姿は目に余る美しさがあった。


「そうジロジロ見られても困る。俺様の中身は男なのでな。」
「ジ、ジロジロだなんて失礼な!!いや、見ていたのは本当だが…決してそんな気があった訳じゃ……。」


挙動不審な対応をする句楽に対し、その様子を余裕綽々と眺めるサタン。
どちらがヒーローで、どちらが悪役(サタン)なのか分かったもんじゃない。


「そ、そうだ!!君たちに一つ、聞きたいことがあるんだ!!」
「ほう?」
「あのエンムとかいう奴が言っていた、『肉体を取り換える施設』のことは知らないか?」「悪いが、知らないな。」


別の方向を歩いて来た2人なら、もしかすれば知っているかもという期待があった。
だが残念ながら、その期待は露と消える。


「何をしている……!!こんな所で……!!」


4人の空気に割って入ったのは、1人の金髪の男だった。
金髪と言うと明朗快活なイメージが強いが、この男はその逆だった。
1人いるだけで、場の空気がどんよりと淀むことになる。


何しろ、自分を邪魔する出来損ないが同じ場所にいると分かった上に、2時間ほどずっと人に会うことも無く延々と歩かされていたのだ。
彼の苛立ちは最高潮に達していた。


「何だねきみは。まあ安心したまえ。この正義のヒーローがいるのだから……」
「ヒーローだと?下らん。」


句楽の発言を、扇は一蹴した。
自分がこれほど苛々しているのに、言うに事を欠いてヒーローとは。
彼にとって、正義のヒーローなどは若者しか好まないもの。
大方承認欲求に飢えた馬鹿者か、はたまたドン・キホーテのような気狂いとしか思えなかった。
第一、この殺し合いを打破するのは自分だ。そんな自負がある扇にとって、正義の味方など無用の長物でしか無かった。


「な、何だとお!!」

333ミス・コンダクタ ◆vV5.jnbCYw:2023/09/20(水) 00:37:51 ID:TckWVkC60

その発言を聞いて黙っているほど、句楽は冷静でいられる人間ではない。
扇は彼に対して悪意を持って言ったわけではないが、そんなことは知ったこっちゃない。
顔を真っ赤にし、今にも金髪の男目掛けて、掴みかかりそうになる。


「ヒーローなど下らんから下らんと言った。」
「うぬーっ!!もう勘弁ならん!!」


句楽は瞬く間にヴァンパイヤに変身し、ヴィクティブレードを構える。
いくら元の力を奪われようと、人間にここまで言われる筋合いはない。
対して扇も、刀の鍔を握り締め、居合の姿勢を取っている。



「おれを怒らせたらどうなるか、思い知らせてやる!!」
「出来損ないが……。」


2人は睨み合っている。今にも殺し合いが始まろうという状況だ。


「ま、待て!何をしようと……」


それをいち早く制止しようとしたのは、ドッスンだった。
一体どうして目の前の2人が、一触即発という空気を作ったのか分からない彼だが、今の状況がまずいことは分かった。
自分1人でどうにか出来る相手なのかは定かではないが、止めるのは自分でしかないと考える。


「まあ、そう出しゃばることも無いだろう。」


しかし、サタンはあろうことか、彼の右肩を掴んで制止した。
その浮かべている不敵な笑みは、何の意図によるものなのか想定できない。

「なぜだ……」
「俺様達はウルトラ・スーパー・デラックスマンとやらのことを知らない。
ここで1つ、あの男の力を見届けるのも悪くないのではないか?」


サタンはドッスンに耳打ちする形でそう話した。


「あの二人の戦いを止めるなと?」
「ああ。不必要な戦いに関わることほどバカげたことは無かろう。それに奴が本当のヒーローか分かる良い機会だぞ?」

334ミス・コンダクタ ◆vV5.jnbCYw:2023/09/20(水) 00:38:08 ID:TckWVkC60

サタンの言うことは、意外と理にかなっている。
句楽兼人という男が、ヒーローと名乗るにふさわしい力を持っているか、はたまた見せかけなのかは判別できない。
もし実力があれば、目の前のうさん臭さしかない男を勝手に排除してくれる。
尤も、彼の胸の内には、争いを広げていきたいという想いが一番にあるのだが。


「それに、あの2人の戦いに巻き込まれて、お前が怪我をしたらどうするんだ?」
「だが……。」


サタンとしても「今は」ドッスンが不必要な争いに巻き込まれて欲しくはない。
彼は他の参加者から信頼を買うために必要な隠れ蓑として、利用する価値があるからだ。


この時、タケシの糸目とフランのきらきらした瞳が初めて合った。
間近でこのサタンという男が「行くな」と目で語っているのが分かった。


(お主の言いたいことは分かる。だが……)


上がって、落ちる。落ちては、上がる。
この世界はかつてのドッスンの生き方ほど、シンプルではない。




【一日目/黎明/E-6】

【句楽兼人@ウルトラ・スーパー・デラックスマン】
[身体]:堂島正@血と灰の女王
[状態]:ダメージ(小)背中に裂傷 疲労(小) アヤノへの好感 怒り(中)
[装備]:ヴィクティブレード@現地調達
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:この殺し合いに乗った者も、主催者も徹底的に殺す。
1:句楽邸へと向かう。
2:目の前の男(禪院扇)を黙らせ、ヒーローだと認めさせる
3:白い男(夏油)は今度会ったら絶対殺す
4:アヤノちゃんはとても良い子だ、それに可愛らしい
5:久しぶりだねえ、こういうの
[備考]
※参戦時期は本編で片山が家に来るまで。
※Dナイトは少なくとも今は使えません。



【禪院扇@呪術廻戦】
[身体]:煉獄杏寿郎@鬼滅の刃
[状態]:健康
[装備]:何らかの刀@出典不明
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:禪院家当主(候補)による迅速な殺し合いの終結
1:自らが旗頭となり、参加者達を導く。弱き者を救う、それが呪術師の責務だ…
2:解決不可能と判断した場合は優勝に切り替える。弱者が強者の足を引くなどあってはならない…
3:ヒーローだか何だか知らないが、この男を黙らせないとな。
[備考]
※参戦時期は禪院家忌庫にて真希を待ち伏せていた時からです。
※何の刀が支給されたかは、採用された場合後続の書き手様にお任せします
※タブレットを壊してしまったため、地図を確認してません。また、肉体側の名簿も読んでいません。


【サタン@ウソツキ!ゴクオーくん】
[身体]:フランドール・スカーレット@東方project
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、神楽の番傘@銀魂、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:この殺し合いの舞台を地獄にする。最終的には優勝狙い
1.善良な対主催グループに潜り込み、悪の心を植え付ける。
2.日光対策に一応昼間の拠点になりうる場所も探しておく。
3.ドッスンや他の対主催からの信頼を積み上げて、やがて壊す。
4.元々使う予定だった『左丹下炎(さたんげほむら)』という名前を使う
5.句楽と扇の戦い。どうなるか見ものだな
[備考]
※参戦時期は39話終了後
※スペルカードの類はどこまで使えるかは不明です。


【ドッスン@スーパーマリオシリーズ】
[身体]:タケシ@ポケットモンスターシリーズ
[状態]:顔面にダメージ(中)、鼻血(止血済み)
[装備]:ボコの棒@ゼルダの伝説風のタクト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2(少なくとも武器らしいものはない)
[思考・状況]基本方針:殺し合いを潰し、タケシに身体を返す
1:ヒトの力を使い、殺し合いを破綻させてみせる
2:同僚(多分)の身体が、あのような悪者(フラウィ)に使われるとは!!
3:サタンゲと共に対主催を集める。また、フラウィには注意する。
4:無理にでも止めるべきか?サタンゲの言う通りにすべきか?

335ミス・コンダクタ ◆vV5.jnbCYw:2023/09/20(水) 00:38:25 ID:TckWVkC60

場の空気を句楽と扇が牛耳っている中。
アイシアヤノだけは、一人別行動をとっていた。
彼女が今いるのは、片山の車の下。
そんな場所に潜り込んだりすれば、一目で行動を怪しまれるはずだが、誰も気づく者はいなかった。
勿論目的は、車のパーツではない。彼女の世界にもあった、特に揮発性の高い可燃物。
水の入ったペットボトルの中身を捨て、車の底辺のドレンコックを回し、零れた液体を受け止める。


ペットボトルにガソリンが溜まると、慌ててコックを締めた。
誰かと誰かが争っている間、話をしている間というのは、アヤノの独壇場。その間に一人で、必要な道具を1つでも集めることが出来る。


(これでよし……やはり人を殺せそうなものは一つでも用意しておかないとな……。)


撲殺や刺殺が出来ない相手でも、ガソリンをかけて焼殺することが出来るかもしれない。
数人が集まった建物に放火すれば、一度に多くの参加者も殺害可能だ。


(クラクをどうするかな……)


そんな間に悩んでいることは、この先も彼と共に行くかどうかだ。
あの男は、どうにもムキになりやすい所があるのはわかった。
仮に今の状況を切り抜けられたとしても、この先も他の参加者と波風を立たせる可能性がある。
それに関しては問題ないが、自分にまでとばっちりが及ぶ危険性は否定できない。
この場を離れるか、争いが終わるまで待つか。
少女はじっと、思考する。



かくして、ドッスンとサタン。扇と句楽、そしてアヤノは近づいて行く。
何処にあるとは分からない、爆弾の導火線へ。






【アイシ・アヤノ@Yandere Simulator】
[身体]:山岸由花子@ジョジョの奇妙な冒険Part4 ダイヤモンドは砕けない
[状態]:健康 片山の車の下にいる
[装備]:ガソリン入りペットボトル(現地調達) 片山の車(ガソリン1/2)@ウルトラ・スーパー・デラックスマン
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]基本方針:優勝し、センパイだけとの永遠を望む。
1:クラクを利用。と思っていたが、彼の性格に注意
2:異能力に注意。
3:この場に留まるべきか、逃げるべきか
4:センパイ……♡
[備考]
※スタンドはゲーム内でのイースターエッグにて扱っていた為難なく扱えます。

336ミス・コンダクタ ◆vV5.jnbCYw:2023/09/20(水) 00:48:30 ID:TckWVkC60
投下終了です

337 ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 17:55:54 ID:Mc.wm5VE0
投下します

338手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 17:58:08 ID:Mc.wm5VE0
医者は有能であっても万能ではない。
天才外科医だ何だと持て囃されたとて、人の身で起こせる奇跡以上の救済は土台無理な話。
知識を吸収し、経験を積み、腕を磨いた所で助けられない患者は存在する。
もし全ての命を一つも取り零さず救えるのなら、それは最早ドクターではなく神と呼ぶべきだ。
現実にそんなものがいれば恋人の消滅を防げただろう。
代償付きの奇跡に縋る必要もない。
生憎と飛彩の知る神は、崇高とは程遠い傲慢と狂気が服を着て歩いているような男だが。

鏡飛彩はドクターである。
しかし無限に手を伸ばし人々を救える神様ではない。
自分がいながら複数の死者を出してしまった事実、大多数の者は飛彩に責任は無いと口を揃えて言う。
飛彩自身、出来る事と出来ない事の分別は付けられる人間だ。
だから仕方のないとは分かっている。
もし自分がもっと迅速に動いていれば、そう考え込むのを堪えこれからどう動くかに頭を働かせた。
死者は二度と帰って来ない。
ゲーム病で消滅した患者と違い、いずれ復活させられる希望は持たせられない。
取り零した者を戻せないなら、もうこれ以上は失わない為に戦うだけだ。

主催者への怒りはあるが放送で伝えられたのは無視出来ない内容ばかり。
まず優先して確認を行うのは新たに見れるようになった名簿。
タブレットを操作し画面に表示、精神・身体・その他を隅々までチェックする。
CRの関係者は自分以外不参加。
残念、とは思わない。
確かに宝生永夢を始めとする仲間達がいれば心強かったが、元々自分達ドクターの戦場は患者の治療を行う病院。
必要な時に必要な医療スタッフがいないせいで、最悪の事態を招く可能性は十二分にある。
むしろ永夢達まで巻き込まれてCRがもぬけの殻とならずに済み、安堵感を抱いたくらいだ。

339手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 17:58:42 ID:Mc.wm5VE0
「浅倉だと…?」

ただ知っている名前が一つも見つからなかった訳ではない。
浅倉威、以前戦った凶暴極まりない仮面ライダー。
永夢が散々痛め付けられ、飛彩の助手も襲われたのは覚えている。
レベル4のブレイブで勝利し、浅倉は消滅した筈。
同姓同名の別人という線も無くは無いが、もし飛彩の知る浅倉ならまず間違いなく殺し合いに乗るだろう。
他に知っている名前と言えば、さやかのプロフィールで度々名前が出て来た佐倉杏子か。
尤もこちらは体のみ参加しているので、本人と話す機会はない。
さやか同様、魔法少女の運命に弄ばれた挙句に殺し合いへ利用したのには怒りが湧くが。

身体側の名簿でもう一つ無視できない名前があった。

「俺の体もか…」

どうやら殺し合いには精神のみならず、自分の体までもが利用されているらしい。
ふざけた真似をする主催者への苛立ちは後々直接ぶつけるとして。
自分の体が参加者の誰かに与えられたという事は恐らく、ゲーマドライバーとガシャットも所持していると睨む。
殺し合いで飛彩の体になり最も大きなメリット、それは適合手術を受けた肉体故にゲーマドライバーで変身が可能なこと。
飛彩の体を有効活用させる為に、ブレイブへの変身に必要な道具一式も支給された可能性は非常に大きい。
問題はどのような人物が自分の体に入っているかだ。
CRの仲間や以前共闘した仮面ライダーゴースト達のように、人格面で信用できるなら良い。
その反対、ゲーム病患者を治療するブレイブの力を他者の殺害に使う輩ならば蛮行を見過ごせない。
最悪あの浅倉が自分の体で暴れ回っているかもしれないと考えると、のんびり構えてはいられなかった。

とにかく動き回り他の参加者と接触しなくては始まらない。
地図を見ると、ここから最も近い場所に施設がある。
偶然にもさやかと関係のある場所。
取り敢えずはそこを目指そうと荷物を纏め歩き出す。
周囲への警戒を怠らない、女子中学生に似合わぬ剣呑な気配を纏って。

340手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 17:59:28 ID:Mc.wm5VE0
◆◆◆


「ま、そうなるだろうね」

主催者へ憤りを覚える者がいる一方で、その反対もまた存在する。
タブレットに目を落とし何でもないように呟く男、戦極凌馬は正にそれだ。
殺し合いなのだから、積極的に他者を殺す人材を参加させているのは当然の話。
一時間で8人が命を落としたのも、これといった驚きは無し。
知っている者はおらず、どう見ても人間じゃない画像には多少興味があったが、死んでしまっては凌馬の研究に付き合ってもらうのだって不可能。
死んだ連中はご愁傷様だと心にもない言葉一つで済まして、さっさと切り替えるに限る。

(身体の取り換えが可能、ねぇ…)

魘夢から齎された情報で特に興味を引かれたのは、会場の何処かに設置された特殊な施設。
既に主催者によって別人と取り換えられた体を、更に別の参加者のものへ変える。
「今の自分の身体に不満がある奴」、との言い方からして所謂救済措置。
元の体よりも圧倒的に弱い、使い辛い体となった参加者にも優勝の芽を出す為の調整と言った所か。

「ニャ…」

自分の肩に乗る小さな同行者を盗み見る。
凌馬と違い死者が出たのに少なからずショックを受けているのか、緊張している様子。
ポケモンなる不思議な生物の体にされ、元の体は凌馬のものとなったのがキャルだ。
彼女のタブレットも確認しニャオハのプロフィールを見たが、戦う為の力は持っているらしい。
が、いきなり人間とはかけ離れた生物の体にされれば何かと不便も多い。
こういった者にとっては新たに体を入れ替える施設は有難いだろう。

(けどまさか、魘夢直々に元の体に戻るのを問題無しにするとは思わなかったよ)

キャルのように精神・身体両方が参加させられた者は、魘夢の口振りからして一定数いる。
先程放送でも触れたように、場合によっては元の体を取り戻す状況も起こりかねない。
にも関わらず、一応見逃すと主催者側の口から飛び出したのは意外に感じられた。
滅多に起こり得ない事態だからと楽観視しているからか。
それにしたって凌馬には少しばかり奇妙に思えてならない。

341手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:01:08 ID:Mc.wm5VE0
(わざわざ他人の体に入れ替える手間を挟んだって事は、自分以外の体で殺し合うのがこのゲームの大事な部分だろう?)

だというのに殺し合いの途中で元の体を取り戻しても構わないとは。
主催者の狙いが読めず自然と眉間に皺が寄る。
施設の場所や名前は明かされなかったので、容易く元の体にはなれないと高を括っているだけかもしれないが。

(まぁ取り敢えず、その施設とやらが見付かってもキャルくんには使わせないようにしないとね)

脱出まで待てずに元の体を取り戻すべく、件の施設で勝手な真似をされたら堪ったものじゃない。
折角ゲネシスドライバーが手元にあっても体がニャオハでは宝の持ち腐れ。
こんなキーボードを打つのにも苦労する体にされるなどお断りだ。
ランドソルという未知の場所の情報と、ポケモンというこれまた興味深い生物の体。
それらを持ち合わせるので手頃な協力関係を結んだが、今後は監視も含めて一緒にいた方が良いだろう。
最悪の場合は始末するのにも躊躇は無いが、現段階でそれは早計。
必要ならば殺しも厭わない、逆に言うと必要が無ければわざわざ手を汚す気は無い。

極めて利己的な思考は決して面に出さず、名簿の確認に移る。
運が良い事に沢芽市の人間は誰一人としていない。
余計な悪評やら何やらを吹聴される心配は無く、懸念事項が一つ減った。

(彼もいない、か。オーケーオーケー、むしろいたらこっちとしても困るよ)

自分を殺した張本人、チームバロンのリーダー駆紋戒斗も不参加。
憎たらしいあの男へ借りを返してやりたい気持ちは勿論あるが、殺し合いで返すのは凌馬としても不本意だ。
何せ凌馬が屈辱を晴らしたいのは、「自分のゲネシスドライバーを用いずに進化を果たした戒斗」なのだから。
殺し合いでは戒斗も別人の体になり、オーバーロードにも変身不可能。
オーバーロードの力を失った戒斗を殺した所で、自分の技術の方が上だという証明にはならない。
戒斗への借りは殺し合いから脱出し、主催者達から手に入れた技術を元に更なる強化を施したデュークの力を以て返す。

342手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:02:00 ID:Mc.wm5VE0
『あいつらはいないんだ…』

凌馬の肩に乗り共に名簿を見たキャルも安堵のため息を零す。
美食殿の三人は元より、自分の知るランドソルの住人の名前は無し。
こんな悪趣味極まる催しにユウキ達が巻き込まれてないのは良い事だ。
何で自分だけを参加させたのか、理不尽への憤りはあるが。

『……』

そうだ、美食殿の皆がいないのは良い事に決まっている。
これまで四人で経験してきた冒険とは違う、僅かな間に死者が出るような場所に、あんな能天気でお人好しな連中は似合わない。
分かっていても、不意に心細さを覚えてしまう。
ユウキと、コッコロと、そしてペコリーヌも参加していれば。
勿論心配もしただろうけれど、自分一人ではない事に安心したのかもしれない。

(っ…、最低……)

身勝手な己への嫌悪に苦い味が口内へ広がる。
彼女の様子に気付いてか気付かずか、飄々とした声が掛けられた。

「さてと。お互い知り合いもいないようだし、これからの事を考えようか」
『そう、ね…。どうするのよ?』
「まっ、初めは情報収集に動くべきかな。我々は魘夢やバックに付いているだろう連中の事をほとんど知らない」

それはそうだとキャルも頷く。
魘夢も、その体になっている紅白髪の女も殺し合いで初めて知った存在だ。
殺し合いに乗らず脱出しようにも魘夢達が見逃す訳が無い。
第一脱出とは言うが具体的な方法があるでもない。
その辺りはどうするつもりなのか。

343手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:03:33 ID:Mc.wm5VE0
「そこも含めて足を使っての情報集めさ。私としてはまず…ここを調べておきたい」

画面に地図を映し、凌馬が指を置いた場所には海賊船と表示されていた。

『海から逃げようってこと?でもそれじゃあ…』
「ああ、妨害されるだろうしそもそも船が動くか分からない。ただ情報は拾えるだろう?」

海賊船は操縦可能なのか。
可能だとすれば動かして海からの脱出が出来るのか。
主催者に妨害されるとして、一体どのような方法を用いて来るのか。
物理的な方法で脱出しようとした場合、どうなるかを知っておくだけでも明確な脱出プランの役には立つ。

「それと、私としては接触したい参加者がいる」
『…?さっき知り合いはいないって言ったばっかりじゃないのよ』
「知人はいないよ。でも探したいのは我々二人とも知っている人間だ」

画面を名簿に戻し探したい人物の名に指を当てる。
キャルが目で追った先にあったのは「ウタ」の二文字。

『ウタって…あのエンムとかって奴の!?』
「偶然同じ名前って可能性もあるけどね。ただ本人なら会って話を聞く価値は十分あるよ」

主催者に体を奪われた本人も参加させられているならば、確かに凌馬の言う通りだ。
魘夢や殺し合いに関して何らかの情報を持っている可能性はある。
もし魘夢達のことを何も知らなくても、彼女自身の詳細だけでも聞いておいて損は無い。
例えば参加者の精神を別人の体に入れ替えたのは、ウタが持つ何らかの能力によるものだとしたら?
今は仮定の話に過ぎないが、真実なら主催者側の戦力を詳しく知る事が可能。
大掛かりな殺し合いを始めた主催者がわざわざ手に入れた体だ、単に容姿が優れているだとかのつまらない理由だけでは無い筈。

344手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:04:53 ID:Mc.wm5VE0
「大まかな動きはこんな感じだよ。何か意見はあるかい?」
『んー…ないわ。あんたの方が頭回りそうだし任せる』

言って自分の肩から降りようとしないキャルへ、「タクシーじゃないんだけどね」と呆れつつ移動を開始。
彼らがいるのは街であり、設置された街灯のお陰で明かりには困らない。

暫く進んだ先で、進行方向に異物を発見し足を止めた。
道路へ無造作に投げ捨てられ、ピクリとも動かないソレ。
青褪めるキャルとは正反対に涼しい顔で、されど警戒は怠らず近付く。

『し、死んでるの…?』
「見ての通りだよ」

屈みこんで死体を覗き込む。
大きな特徴も無い、平凡な顔付きの日本人男性。
ついさっきの放送で発表された死者の中に、これと同じ顔があったのを思い出す。

赤く染まった胸以外に外傷は見当たらず、周囲も男の乾いた血以外は綺麗なもの。
状況から察するに背後から心臓を一突きにされ、呆気なく退場となった。
この男の体に入っていた精神は、お世辞にも人が良さそうとは言えない風貌の者だった筈。
堅気でない男だろうと突然の殺し合いに動揺した隙を突かれた、そんなところか。

(まぁ運が悪かったね)

どう殺されたかが分かっても興味は無い。
葛葉紘汰のような人間なら殺害者への怒りを燃やすのだろうけれど、凌馬からしたらそんなものに思考を割くだけ時間の無駄。
支給品も持ち去られている以上、長々と留まる理由もない。
移動を再開すべくサッと立ち上がり、

345手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:05:51 ID:Mc.wm5VE0
『っ!待って、誰か来る…』

キャルの言葉に動きを止めた。
ポケモン故の探知能力の高さ故か、警戒し一点を睨む彼女と同じ方へと視線をやる。
もしもの事態に備えてドライバーは巻いたままだ。

一人と一匹が見つめる先で姿を見せたのは、水色の髪をした少女。
キャルと同じくらいの年頃だろうか。
但し中身まで年相応とは言えないらしい。
こちらを確認するや否や、目を細め警戒を露わにし纏う空気が鋭さを帯びる。
死体の傍で佇む一人と一匹、成程誤解されても文句は言えない状況だ。

「お前達は――」
「おっと、誤解しているようだが先に違うと言わせてもらうよ。我々が来た時には既にこの有様さ」

両手を上げ敵意はないとアピール。
年頃の少女の体だからか、口調も相俟ってどこか小生意気な仕草に見える。
本当に誤解を解く気があるのかとキャルが目で訴えようとし、少女の疑わし気な視線が自分にも向けられているのに気付いた。

「ニャ、ニャン!ニャーンニャ!」

首を横に振ってやっていないと伝える。
人語を話せないのが非常にもどかしいが、態度で相手にも意図は伝わったらしい。
警戒は解かないまま次に話すべき言葉を発し、





カランと、何かが転がった。

くすんだ緑の丸い物体。
卵のようにも見えるソレに全員の視線が集中。

「――――――」

どこから来たのかとか、至極当然の疑問は後回し。
ソレが視界に映った時点で正体を察知、考えるよりも先に体が動き出す。

346手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:06:39 ID:Mc.wm5VE0
「――っ!!」

「変身っ!」

『ロックオン!ソーダ!レモンエナジーアームズ!』

『ファイトパワー!ファイトパワー!ファイファイファイファイファファファファファイト!』

青の少女は指輪を光らせ、猫耳の少女はロックシードを装填。
ソウルジェムに内包された魔力を解放し、ヘルヘイムの果実のパワーを己が身に纏う。
与えられた僅かな猶予で互いに変身を完了。
マリンブルーのスカートにマントを靡かせた、美樹さやかの魔法少女姿。
ライドウェアの上からレモンの装甲を展開した、アーマードライダーデューク。

「ニャーッ!?」

それまで凌馬の肩に乗っていたものの、頭上から落ちて来るレモンに慌てて退避。
地面に下りたキャルを飛彩が引っ掴んで跳躍。
同時にデュークも飛び退いた直後、丸い物体…手榴弾が爆発。
とうに命が失われ、抜け殻と化した男の肉片があちらこちらに散らばった。
腿から上を失くした脚が放り投げられた先で、新たに姿を現わす者が一人。

「ちくしょう!しくじった!」

地団太を踏み、苛立たし気に吐き捨てるのは男。
と言っても声の低さから判断出来たのであって、外見だけでは性別も分からない。
装甲服、と言うのだろうか。
四肢と胸部を覆う白に、所々でエメラルドグリーンが鮮やかに光る。
企業のロゴがペイントされた近未来チックな存在は、この場の誰もが初めて見るもの。
ふと、男が手に持った剣へデュークが目を向ける。
刀身には赤い汚れが付着しており、元からあった装飾の類で無いのは誰の目にも明らかだった。

347手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:07:45 ID:Mc.wm5VE0
「一応聞いておくけど、ここにあった死体は君の仕業かい?」
「だったらなんだッ」

特にシラを切る様子も無く、あっさりと殺害を認めた。
仮面の下で嘲笑を浮かべつつ、誤解を解く手間が省けたのは都合が良い。

「とまぁ、真犯人が自ら出てきた訳だし私達は無罪というのが君にも分かっただろう?お互い敵意が無いなら落ち着いて話でも…と行きたいんだけどね」
「奇遇だな、俺もお前達にはその聞きたい事がある。だがまずは…」
「そうだねぇ、まずは邪魔者の掃除が先かな」

サーベルとソニックアロー、各々専用の武器を突き付ける相手は装甲服の男。
偶然にも体と同じ名前、モモンガと名簿に登録された存在は鼻を鳴らして剣を構える。
最初に一突きで殺した男と違い、今度の相手には避けられてしまった。
爆弾を一つ無駄にされたのもあって余計に苛立つ。
それなら直接剣で斬って殺すだけだ、可愛さの欠片も無い体だけど強さは本物なのだから。

「とっととくたばれッ!」

有無を言わさぬ怒声と共に襲い掛かった。
手にした得物はバロンソード、脳人のリーダー格であるソノイの愛剣。
ドンモモタロウとの死闘で幾度も火花を散らした刃が、此度は信念も何も無い身勝手な欲望を乗せ走る。
最初に標的は水色の髪の少女だ。

モモンガからの殺意を受け、迎え撃つべく飛彩も武器を振り被る。
ブレイブではない、魔法少女の能力でどこまで戦えるか。
試運転としても丁度良い機会である。

348手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:08:26 ID:Mc.wm5VE0
「どりゃッ!」

バロンソードとサーベルが激突。
少女の細腕で装甲服の男の猛攻を止める、普通では有り得ない光景がそこにはあった。
防いだままの体勢から受け流し、モモンガがよろけた所へ切っ先を突き立てる。
危うげな状態から左腕で防御、白い装甲に阻まれ血の一滴すら流れない。

身体能力。生身の時とは比べ物にならない、レベル2のブレイブとほぼ同じ動きが可能。
耐久性。多少打たれ強いがブレイブの時より大幅にダウン。回復魔法とやらが使えるらしいが多用するつもりは無い。
武器。ガシャコンブレイカーとは違うが使い慣れた刀剣類(メス)。
ゲームエリア。当然ながら展開されず。エナジーアイテムを使った戦法は不可能。

「はっ!」

さやかの体でやれる事と出来ない事を弾き出し、今度はこちらから踏み込む。
真正面から斬りかかるも防がれる、想定済み。
モモンガが攻撃に移るのを待たず転がるように横へ移動、サーベルを叩きつける。
慌てて防御に動き、危うげながら二撃目も防がれた。
押し返され飛彩の体が後方に倒れる、否、自ら地面に背中から倒れ込みサーベルを向ける。
振り下ろされるバロンソードにも慌てず、サーベルから刀身を射出。
肩を狙った一撃は見事に命中、火花が散らされ痛みに呻く声が飛彩にも届く。
全身を跳ね上げ刀身をキャッチ、グリップ部分へ戻し再び剣の形を取り戻す。

「ッ!?ぬがッ!」

怒り心頭で飛彩を斬り殺さんとするも叶わない。
バロンソードで飛来する光を防ぐ。
一発で終わってはくれずに二発、三発とモモンガを襲うのはエネルギー矢。
忌々しく睨んでもどこ吹く風で矢を射る騎士、デュークの仕業だ。
一対一の正々堂々としたスポーツでないなら援護射撃に出たって文句は言えないだろう。
何より最初に爆弾で皆殺しにしようとしたのはモモンガの方。
卑怯だ何だと言われようと、デュークは聞く耳持たず。

349手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:09:22 ID:Mc.wm5VE0
「ズルいぞッ!」
「君が言って良い台詞じゃないよね?」

モモンガの抗議を鼻で笑い照準を合わせる。
レーザーポインターによりいかなる状況だろうと精度は落ちない。
急所を狙い放った矢はまたしても防がれた。

「どこを見ている」

だが矢に意識を割き過ぎたのは間違いなく失敗だ。
背後から斬られ悲鳴が出るも相手はお構いなしで追撃を仕掛ける。

「こんにゃろッ!」

滅茶苦茶に剣が振り回され攻撃を中断、距離を取って躱す。
動きは技術もへったくれも無いが、それだけに少々読み辛い。
とはいえ大きな問題とも言えず、現に剣の合間を縫ってエネルギー矢が胸部へ命中。
出血代わりに火花が散り、ダメージで強制的に動きもストップ。
発射された次弾こそどうにか防いでも、片方へ気を取られれば当然もう片方が動く。
懐へ潜り込み繰り出す斬り上げ、またもやモモンガの悲鳴が上がった。

ここまでの攻防で飛彩と凌馬、それに巻き込まれないよう離れたキャルも気が付いた。
敵は身体能力こそ高いものの戦闘に関しては素人同然。
バグスターの切除や魔物退治、黄金の果実争奪戦など荒事を経験して来た三人からしたら、モモンガの動きはお粗末同然
モモンガも元の世界では摩訶不思議な体験をしたとはいえ、戦闘行為はゼロと言っていい。
同郷の参加者であるちいかわのように、討伐で日々の生計を立てているでも無い。
武器を手にして戦うという行為自体これが初めて。
肉体の身体能力を用いたごり押しだけでは勝てない現実が、ここで立ちはだかる。

しかし飛彩達の方も決定打を与えたとは言い難い。
モモンガが纏った装甲の恩恵か、ダメージこそあっても戦闘は未だ続行可能。
尤も、このまま我武者羅に剣を振り回したとて飛彩達の有利は変わらないが。

サーベルの突きを防いだ直後にエネルギー矢が飛来。
頭部を掠めるも命中には至らず、モモンガはデューク目掛けて片腕を向けた。
装甲服に搭載された武装、アンカーガンを発射。
常人であれば防ぎようのない勢いであっても、アーマードライダーなら問題無い。
軽く身を捻り躱し、癇癪を起した子供のように地団太を踏むモモンガへエネルギー矢を射る。

350手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:10:16 ID:Mc.wm5VE0
「なっ…」

だがここに来て敵は予想外の動きを見せた。
矢が射抜く正にそのタイミングで、モモンガの姿が消失したのである。
視覚センサー内からロストした敵の発見には数秒と掛らない。
あっちこっちへ視線を向ける必要は無かった。
何故なら消えたと驚愕した直後、モモンガはデュークの目と鼻の先に現れたのだから。

「っ!」

振り下ろされる刃を前に、呑気に弦を引いてはいられない。
ソニックアローのシャフト部分で防御。
アークリムとも呼ばれるこの箇所には、近接戦闘用にブレードが備わっている。
至近距離からの斬撃にも破壊されず受け止め鍔迫り合う。
改めて近くで観察、自分の開発したドライバーの類は装着していない。

(やっぱりアーマードライダーとは関係無い装甲服、ってとこかな?)
「抵抗するなッ、早く倒れろッ」

好き勝手言うモモンガに冷めた目を向け、肩越しに斬りかかる少女が見えた。
背後からの手痛い一撃を食らう、そんな予想は外れる事となる。

「脱出ッ!」

モモンガの姿が消え、今度は飛彩の背後へと現れたではないか。
刺し貫く敵意へ反射的に防御の構えを取り、サーベルへ衝撃が叩き込まれる。
横薙ぎに振るった剣の威力は馬鹿にならない。
構えた体勢のまま飛彩は宙へと吹き飛ばされた。

「おっと、行かせないよ」

追撃に出ようとしたモモンガを止めるのはデューク。
エネルギー矢を射られ対処に回らざるを得ず、飛彩へ振るう筈の剣で矢を霧散。
苛立ちを籠めた唸り声を発し、デュークへと急速接近。
やはり傍目には瞬間移動したとしか思えない。
バロンソードとアークリムで打ち合っている間に飛彩が復帰を果たす。
柄を操作しモモンガ目掛け刀身を射出した。

351手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:11:48 ID:Mc.wm5VE0
「ふんッ、当たるかッ」

これをモモンガ、跳躍して回避。
しかもただ跳んだだけではなく、何と空中を走り始めた。
まるで見えない足場があるかのような動きに、飛彩達も困惑を隠せない。

「あの装甲服の仕掛けか…?」
「知るかッ、何かやってみたら出来たんだッ!」

装甲服に特殊な機能が備わっているのを疑うが、素直に答えは返って来ない。
代わりに頭上からの斬り落としが繰り出される。
それぞれ飛び退き躱し、剣を叩きつけられたアスファルト部分は見るも無残に破壊。
元より油断するつもりは無かったとはいえ、この威力を見せ付けられては自然と身が引き締まる。

モモンガが見せた奇怪な動きの正体。
それは装甲服の機能では無く、肉体の持ち主であるモモンガ中将が身に着けた武術。
名を六式。
極限まで鍛え上げ人体を武器に匹敵させる武術の総称。
主にサイファーポールを始めとした、世界政府の直下機関に所属する者が扱う戦闘術である。

瞬間移動と見紛う動きは六式の一つ、剃。
地面を10回以上蹴り、反動で高速移動を可能とする移動技。
宙を走り回ったのは月歩、剃と同じく六式の移動技だ。
跳躍中に空を蹴り落下を防ぐ、強靭な脚力を用いてあたかも空中へ道があるかの動きを見せる。
肉体に焼き付いた記憶の恩恵故か、モモンガ中将が元々得意とするこれらの技をモモンガも使用できた。

「成程ねぇ」

しかしだ、超人的な能力を我が物とするのはモモンガだけの特権に非ず。
モモンガの動きをデータ解析し、デュークが奇妙な動きの正体に当たりを付ける。
剃を行使し剣を突き出すモモンガ、常人ならば一切の反応を許されずに串刺しの末路。
迫り来る死にデュークは余裕を崩さず、リラックスした姿勢のまま。
切っ先は装甲を掠めもせずに外れ、反対にアークリムで斬り付けられた。

352手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:14:21 ID:Mc.wm5VE0
一度怯めばどうぞ攻撃してくださいと言っているのと同じ。
流れるようにソニックアローを振るい、モモンガの装甲服にダメージが蓄積されていく。
どうにかバロンソードを翳すが、反撃は許されず防戦一方。
剃で距離を取ろうにも足を斬られて強制的に中断。
種の割れた手品などデュークにとっては恐れる必要も無い。

「このッ、痛いんだよッ!」

苦し紛れに跳び上がり、月歩でデュークから逃げようとする。
地上から放たれる矢を防ぎながら安全圏まで離れて行き、

「んなッ!?」

青い魔法少女が立ち塞がった。

真正面からの斬撃を防ぎ、反対に斬り付けるも既に姿はない。
真横、頭上、背後、再び真正面と絶えず移動しサーベルの猛攻を繰り出す。
多方向からの攻撃にとうとうモモンガの足が止まる。
空を蹴らねば月歩は発動せず、撃たれた海鳥のように地面へ真っ逆様だ。

「く、くそッ…」

アスファルトへ叩きつけられたモモンガを尻目に、飛彩は涼しい顔で降り立つ。
魔力で足場を作り空中移動を可能としたが、ぶっつけ本番でも案外上手くいくらしい。
モモンガへサーベルを向けると、刀身部分が連結状に変化し射出。
胴体に絡み付き動きを封じる。

353手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:15:17 ID:Mc.wm5VE0
「ニャアアアアアアア!!」

モモンガが拘束を抜け出すのを待たず、これまで静観していた三人目が仕掛けた。
ニャオハのわざを放ったのはキャルだ。
美食殿の一員として様々な冒険に繰り出し、ユウキ達との連携で魔物を退治した経験を持つ。
協力して敵を倒す場面でどう動くかには慣れており、ここぞというタイミングを見極めるのも今に始まった事ではない。

「ウワッ!!視界が乱れる!!!」

キャルが放ったのはニャオハが最も得意とするわざ、このは。
名前の通り木の葉を相手にぶつけて攻撃する、くさタイプのポケモンにとっては基本的なわざだ。
しかし、ニャオハの使うこのはは他のポケモンより規模が大きい特殊なもの。
威力こそ未熟な面が目立つものの、大質量の木の葉を巻き起こす程。
大量に発生した木の葉はモモンガを覆い隠し、視界を完全に眩ませた。
装甲服のお陰でダメージこそ無いとはいえ、突如発生した緑の壁に怯み隙を晒す羽目となる。

「良い仕事してくれるね、感謝するよ」

『ロックオン!レモンエナジー!』

絶好のチャンスをみすみす捨てる馬鹿でも、今になって攻撃を躊躇するお人好しでも無い。
ソニックアローにエナジーロックシードを装填、必殺のエネルギーを付与。
弦を引き絞り照準を合わせる、木の葉に覆い隠された標的もデュークのカメラアイの前には丸裸同然。
破壊力を倍に高めたエネルギー矢を発射、木の葉の旋風が晴れた時には既に手遅れ。

「のっぎゃあああ〜〜〜〜っ!?」

何とかサーベルを砕いたが、バロンソードの防御だけでは防ぎ切れずに吹き飛ばされる。
これまで以上に散らされる火花、出血だったら致命傷は確実だろう。
地面を転がり呻くモモンガ、装甲服がダメージを抑えたと言っても限度があるのは誰の目にも明らか。

354手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:16:02 ID:Mc.wm5VE0
「この……くらえッ…!」
「ニャッ!?」

それでもモモンガは自分の事に関して諦めと程遠い性根の持ち主。
手にした物を投げ付ける、対象に選ばれたのは運悪くキャルだ。
もしや最初に使った爆弾かと身構えるが、形状はどう見ても別物。
投げた正体は足、爆弾で四肢が千切れた死体の一部を偶然掴んだのである。
悪趣味な奴だと思うも爆弾に比べたら危険度は低い、必然的にキャルの中で警戒度は低下。

それは大きな間違いだったが。

散々な目に遭った死体、この人物は精神側の参加者だったジェイク・マルチネスのような超能力の類は持っていない。
身体能力だって平均的な成人男性の範疇に収まる程度。
大騒動に巻き込まれた際には火事場の馬鹿力を発揮するが、大半の理由は家族愛などの正しい心に突き動かされたから。
シュテルンビルトに混乱を巻き起こした犯罪者のジェイクでは、間違いなく起こせる筈も無い力だ。
ただもう一つ、他の人間にはない身体的特徴が彼にはある。

状況によっては武器にもなり得るその特異な体質を、不幸な事にキャルは身を以て味わう羽目となった。
くるくる宙を舞う足からすっぽ抜けた靴。
モモンガが意図したので無いが偶然にもキャルの顔へ、ぽすりと履き口が当たる。
ある者は全身を真っ青にして震え上がり、ある者は同情の念と同時に成仏を唱えるだろう。
ジェイクが終ぞ見る事の無かった体のプロフィール、男が持つ絶対の兵器。



――野原ひろしは絶望的なまでに足が臭い



「ウ゛ニャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア〜〜〜〜!!!??!」

ダミ声を発し引っ繰り返る。
白目を剥き泡を吹いて悶絶する有様は、可愛らしい容姿のポケモンとは思えない。
まるで毒ガスの被害にでも遭ったかのようだ。
ある意味毒に近いが。

355手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:16:52 ID:Mc.wm5VE0
「っ!どうした…!?」

尋常ではないキャルの様子に飛彩もモモンガから目を離す。
仮面越しとはいえ凌馬もまた、突然の事態には困惑気味。
まさか靴の臭いを嗅いだだけでこうなったとは流石の二人も予想外。
そしてこの状況はモモンガにとっての好都合に他ならない。

自分への注意が逸れたのを見逃さず、ひろしの足とは違う物を投擲。
カランと最初の時と同じ音を発し、地面を転がる物体。
緑色をした卵型の手榴弾、ではない。
縦に長く青いペイントが施されたソレが、数秒の間を置いて炸裂。
爆弾にも負けず劣らずの爆音が響き、飛彩達の視界を閃光が奪い去る。
見える景色が真っ白に染まり、聞こえるのは耳鳴りにも似た音一つ。

視界が鮮明になった時、モモンガの姿は見当たらなかった。
飛彩はふと自分の(というかさやかの)体に目をやり、外傷が一つも無い事に気が付く。
魔法で治療した覚えは無いし、この戦闘で負傷はしていない。
だが爆発を間近で受けたのにも関わらず、僅かな火傷も負っていないのは不自然。
残留する耳鳴りが酷く鬱陶しい、そこへ呆れにも似た声色が届いた。

「光と音だけの玩具だったようだね。全く小賢しい…」

変身を解除した凌馬はキャルの首根っこを掴み肩を竦める。
モモンガは自分達が怯んだ隙にまんまと逃げたのだろう。
無駄に体力だけを消費させて、ロクな収穫も無いとは何とも腹立たしい。
と言っても今回の戦闘データはデュークにしっかりと保存された。
次に戦う機会があってもまず遅れは取らないし、何ならキッチリ仕留める自信だってある。

(ま、今は彼女との話が先だ)

コスプレのような格好になったと思いきや、アーマードライダーにも引けを取らない戦いをしてみせた少女。
肉体の能力は当然として、精神側が持つ情報も詳しく聞いておきたい。
凌馬から見ても中々に戦い慣れているようだし、単なる一般人ではまずない。

356手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:17:40 ID:Mc.wm5VE0
「取り敢えずキャルくんがこの有様だし、中で休みがてら話でもしないかい?私としてもキャルくんの体を酷使して、後で彼女に怒られては困るんだ」
「…良いだろう。あの仮面ライダーの事も含めて聞きたい事は俺の方にもある」
「ふぅん…仮面ライダー、ねぇ」

アーマードライダーではなく仮面ライダー。
つまり自分が開発したライダーシステムとは別の存在を知っている、或いは元々それに変身していたのか。
益々以て興味が湧き、目を光らせる凌馬と並んで飛彩も歩き出す。
なし崩し的に共闘したのもあって、恐らく積極的に他者を襲うつもりがないのは分かった。
だが信用できるかどうかは別問題。
猫耳の少女、話し方からして中身は男なのだろうが性別はこの際置いておき。
どうにも言動や素振りの一つ一つに、自身の知る男の姿がチラついて離れない。
友好的に振舞いながらも見え隠れする冷酷な本性。
恋人が消滅する根本的な原因を作った、神を名乗るあの男と近しいものを感じるのはきっと気のせいでは無い。

(なら野放しにして余計な被害が広まるのはノーサンキューだ)

おかしな真似に出て参加者に危害が及ばないようにする為に、近くで監視しておく。
それにキャルという、今は猫のような生物の体に入った者も心配だ。
彼女の体でよからぬ行為をするつもりなら、見過ごす訳にはいかない。

肩を並べ、されど互いに決して隙は見せず。
少女の体を手に入れた男達のバトルロワイアルが改めてスタートを切った。


【一日目/深夜/F-8 見滝原中学校】

【鏡飛彩@仮面ライダーエグゼイド】
[身体]:美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ
[状態]:疲労(中)、魔力消費(小)
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ
[思考・状況]基本方針:さやかが果たせなかった“正義の味方”として、この殺し合いは俺が止める!
1:猫耳の少女(凌馬)と話をする。警戒しておいた方が良いだろう。
2:ドクターが他人の命を奪うなど言語道断だ。だが危険人物は切除しなければ被害が増す。……そういう輩は、俺が切る
3:俺の体に入っている精神が善人なら良いが…。
4:装甲服の男(モモンガ)を警戒。
[備考]
※参戦時期は少なくとも本編終了後。Vシネ以降かどうかは後続の書き手にお任せします
※ソウルジェムは支給品と扱われません。
※まどか☆マギカシリーズ原作と同じく、ソウルジェムは本体と扱い、一定距離を離されたら体を動かせず、破壊されたら死亡するものとします。
※ゲーマドライバーとガシャットは自分の体を与えられた参加者に支給されていると考えています。

【戦極凌馬@仮面ライダー鎧武】
[身体]:キャル@プリンセスコネクト!Re:Dive
[状態]:疲労(中)、キャルを運んでる
[装備]:ゲネシスドライバー+レモンロックシード@仮面ライダー鎧武
[道具]:基本支給品、動物語ヘッドホン@ドラえもん、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:脱出して主催者の力を手に入れる。
1:青髪の少女(飛彩)と話をする。興味深い話が聞けそうだね。
2:生存優先、手段は問わない。
3:キャルと共に行動する。
4:海賊船を調べ海上からの脱出が可能かどうか調べたい。
5:ウタに接触し主催者に関する情報と、彼女自身が持つ力を聞いておく。
6:体を入れ替える施設を見付けてもキャルくんには使わせないようにしよう。
[備考]
仮面ライダー鎧武43話、死亡後からの参戦です。

【キャル@プリンセスコネクト!Re:Dive】
[身体]:ニャオハ@ポケットモンスター(アニメ)
[状態]:精神的疲労(小)、悶絶、凌馬に運ばれてる
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:脱出して元の身体を取り戻す。
0:くしゃい〜……。
1:戦極凌馬と共に行動する。
2:殺し合いなんて乗りたくない……。
[備考]
参戦時期は少なくとも第一部終了後。

357手のひらで転がすMarionette ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:19:09 ID:Mc.wm5VE0
◆◆◆


「ちくしょうッ!失敗だッ!」

地面を踏み付け、何度剣を振り回しても苛立ちは消えやしない。
最初に殺した男のように簡単にはいかず、無駄に体力と爆弾を減らされただけに終わった。
せめてこの体が可愛らしい見た目なら油断を誘えたかもしれないが、現実はとことん厳しい。
モヒカン頭と髭面のいかつい中年が可愛い子ぶったところで、ただ単に気色悪いだけだ。

普段自分が何かと要求を突き付けている鎧さんとはまた違う装甲。
これを着ていなかったら本当に死んでいたかもしれない。
死ぬのは御免だ。
元の体を取り戻すのは勿論、優勝したら願いを叶えられるとあれば何が何でも生き残ってやる。
巻き込まれた当初は元の体に戻るので頭がいっぱいだったけれど、どんな願いも叶えてくれるというのに魅力を感じない方が無理な話。

一応名簿を見たが知り合いが巻き込まれているかは不明。
名前で呼び合う習慣が無い故か、当たり前だが。
仮にいたとしても殺さない理由にはならず、自分の願いの為に容赦なく斬るまで。

「欲しーよなッ、欲しーだろッ、全部全部、何もかも!」

小さくてかわいい体には収まりきらなかった、ドス黒い強欲さは健在。
絶対正義の白コートがこれ程に似合わない生物もいないだろう。
市民を守る海兵とは正反対の、海賊のような邪悪さで次の獲物を探し始めた。


【一日目/深夜/F-8 見滝原中学校】

【モモンガ@なんか小さくてかわいいやつ】
[身体]:モモンガ@ONE PIECE
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)
[装備]:一級剣バロンソード@暴太郎戦隊ドンブラザーズ、ワイルドタイガーのヒーロースーツ@TIGER&BUNNY、手榴弾セット(破片手榴弾×2、閃光手榴弾×2)@バイオハザードRE:2
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3(ジェイクの支給品)
[思考・状況]
基本方針:優勝して元の体に戻り、願いも叶える
1:参加者を探して殺す。もし知り合いがいても関係無い
[備考]
※参戦時期は食糧枯渇事件の最中

【ワイルドタイガーのヒーロースーツ@TIGER&BUNNY】
鏑木・T・虎徹がワイルドタイガーとしての活動時に装着するパワードスーツ。
両手首にアンカーガンが搭載。
非常に高い耐熱性と防弾性の他に、風船並みの柔軟性も併せ持つ。
クソスーツ(斎藤さん命名)の方ではない。

【手榴弾セット@バイオハザードRE:2】
ゲーム中に手に入る二種類の手榴弾、それぞれ三個ずつのセット。
破片手榴弾は爆発で敵を攻撃し、閃光手榴弾は爆音と強い光で敵を怯ませる。

358 ◆ytUSxp038U:2023/09/24(日) 18:20:43 ID:Mc.wm5VE0
投下終了です
あとすみません、モモンガの現在位置の見滝原中学校は誤りでした

359◆N9lPCBhaHQ:2023/09/28(木) 17:52:21 ID:???0
投下します

360◆N9lPCBhaHQ:2023/09/28(木) 17:54:52 ID:???0
結論から言えば、泉研は焦りすぎた。
出会ったばかりで、敵かどうかもわからないメトロン星人やゾーフィに襲い掛かるというのは、一見すると気狂いのように映るだろう。
しかし、研の立場から見れば何らおかしなことはない。
彼にとって、異星人とは攻撃的で危険な存在なのだ。警戒してしまうのも無理はないだろう。
偏見といえばそうなのだが、研は異星人との相手をジュラル星人としかしたことがない。
彼らへの対応について、殲滅と言う過激な方法しか知らないのだ。

ジュラル星人の地球侵略は少なくとも50年前から始まっている。10歳児である研が産まれるずっと昔からだ。
正義とはその時代や与えられた立場によって変わるもの。
一昔前は問題無かった事柄が、時が経ちタブーとなることもあれば、逆に緩和されるなんてことも珍しくない。
現代から見れば、過剰とも思えるチャージマン研の正義であるが、彼の生きた時代ではこれが普通である。
卑劣な手を使い、2074年の地球のさらに500年先の科学力を持つジュラル星人を相手にするうえでは、地球人としても強硬な対処手段をとるほか無い。
長年侵略という恐怖に脅かされた近未来の地球には、そういう文化や考え方が根付いてしまっているし、研もそんな環境の中で育ってきてしまった。
よって、他者を傷つけるかもしれない危険な存在は、即座に倒さねばいけないと普段通りの判断してしまったのだ。

もしも。
彼の隣に誰かが居れば、もう少し冷静で的確な判断も行えたかもしれない。
泉研は時に冷酷な判断を下すが、人の話は聞くし人間的な感情も持っている。
キャロンの言葉を聞いて暴れまわる大仏への攻撃を中止したこともある。

あるいは別世界の泉研が出会ったアポロ星人のリリーのように、異形の姿をしていても他人の身を案じる優しい心を持つ異星人を知っていたのなら、メトロン星人達と一時的な同盟を組むことも選べたのだろう。
かつてアイアン星という共通の敵を前に、ジュラルの魔王とのつかの間の握手を築きあげたように。

「……ガハッ」

だけど、過ぎ去りし時はもう戻らぬ。

血を吐き、地に伏せる。
こうしている間にも命が燃え尽きてゆく。
胃ガンとは自覚症状が少なく、症例が出たときには既に手遅れであるケースが多い。
そのため定期検診により早期発見が重要視される。早期がんあれば90%以上は治療により完治できるのだ。
しかし、自分が無敵だと思いこみ、数年間健康診断を受けずにいた句楽の身体は時すでに手遅れ。
吐血という症状が出てしまっている時点で、すでに末期段階だ。
胃付近の激痛のみならず、出血が続くことによる貧血、倦怠感、吐き気、胸やけといった症状。
加えて胃の周りにある肝臓や腸といった組織への浸潤もしている可能性が高い。
これ以上進行が進むとガン細胞が血液やリンパ液の流れに乗り、脳へと転移し死に至る場合もある。
気付いたときにはもう手遅れ、後悔したところで選択をやりなおすのは不可能。
その苦しさは過去に受けたキチガイレコードすらも上回る。
それが最高医学をもってしても治療不可能な、ウルトラ・スーパー・デラックスガン細胞による地獄の苦しみだった。

「……キャ、ロン……バリ、カン……ママ」

死を目前にして、脳に浮かぶのは家族のこと。
光の無い森の中、身体が自由に動かず、刻一刻とせまる死。
死の恐怖は誰にとっても共通だ。
どれだけ強い装備や肉体を持っていても関係ない。
10歳の子供にとってはあまりにも過酷すぎる状況。
この世界において、研は孤独だった。

「……パパ、たすけて」

それはチャージマン研ではなく、ただの泉研としての弱音。
医者である父がこの場にいるのであれば、治療法はあった。
句楽が生きた時代よりも遥かに医療が発達した近未来の科学ならば、ガン細胞を消滅させるアトスメヒによる光線治療も可能だっただろう。

「ム、死にぞこないか」

361◆N9lPCBhaHQ:2023/09/28(木) 17:56:53 ID:???0

がさり、と音を立てて人影が近づく。
懐中電灯の光りが見えたかと思えば、人と思えぬ7m近い巨漢がシルエットとして映る。
死人のような青白い肌に、アンバランスな体系。
その身体は七武海の一人、ゲッコー・モリア。
精神として宿る者はオマツリ男爵。

「……誰だ……お前は……ジュラル星人の仲間か」

その瓢箪のような細長い外見から、研はジュラルのような異星人だと判断した。
咄嗟にアルファガンを構えんと、立ち上がる。
病に犯された研にとってはそれだけで、体が震え、呼吸が不規則になり、視点が定まらず、真っ直ぐに立てなくなるほどの苦しみだった。
だけどその目にはまだ光が宿っている。
全てのジュラル星人を殲滅させるという、チャージマン研として地球のため、全人類のため戦うと決めた日から変わらないケツイの光だ。

「寝たままで構わん、どのみちすぐに永遠の眠りにつくだろうからな」

影法師(ドッペルマン)を傍らにおき、オマツリ男爵は思案する。
この場で研に出来るのは『殺してゾンビの肉体として確保』するか、『生かしたまま影を切り取り、自分の身体に取り込む』かだ。
どちらを選ぶにせよ相手が瀕死であるというのは、好都合だった。

これまでの一時間で死亡した参加者達は先の放送で顔が知られてしまった。
影を入れてゾンビとして仕立て上げても、死んだはずの参加者を連れているとなれば、どうしても注目を浴びてしまう。
手札は欲しいが、序盤から目立ちたくはない。
オマツリ島の秘密を何十年も隠し、幾多の海賊達を騙してきたほどのしたたかな男爵である、手の内が知られるような事は避けたい。
ここで『殺してゾンビの肉体として確保』してしまうのなら、影を入れたとしても次の放送までは怪しまれにくい。

一方の『生かしたまま影を切り取り、自分の身体に取り込む』だが、これには、残った本体を無力化する必要が出てくる。
影が存在するには、本体が生きていなければいけないというルールがあるためだ。
それに切り取った後の本体は太陽の光を浴びると消滅してしまい、合わせて影も消えてしまう。
その為、切り取った後の本体は生かさず殺さずの状態で日の当たらない場所に封じ込むことが望ましい。
本来のゲッコー・モリアが、抜け出すことが難しく日の当たらない”魔の三角地帯”に本体を流していたように。

(フム、ならばゾンビの実験といくか)

どのみち研の命は長くない。
持って数時間、長くても今日を超えられるかどうかといったところだろう。
影を切り取っても、すぐに死んでしまい無駄になる。
故にここで殺して死体として確保しておくことを選んだ。

「”欠片蝙蝠(ブリックバット)”」

影法師が砕け散り、一粒一粒が蝙蝠へと変化。
研の全身を噛みちぎらんと襲い掛かる。

「クッ、瀕死を……狙う、とは……卑劣な、やつめ」

震える標準を必死に抑えながら、研は駆除するように欠片蝙蝠を一体一体アルファガンで狙撃していく。
さながらジュラル星人に改造された蝶、サンダナパレス・アグリアスを相手にしたときのように。

「無駄なことよ」

どれだけ光線を撃ち込んでも欠片蝙蝠には通じない。
影とは光ある場所に生まれるもの、光線を浴びせたところで攻撃には繋がらない。
光線が当たった瞬間、欠片蝙蝠は飛沫となり受け流し、飛び散らせても即座に集まる。
ならば次はこれだとベルトが回り出す。

362◆N9lPCBhaHQ:2023/09/28(木) 17:57:43 ID:???0

「ビジュームベルト!」

広範囲を纏めて攻撃するベルトの回転。
周囲のジュラル星人を纏めて吹き飛ばす程の竜巻ならば、たちまち欠片蝙蝠も辺りに散らばってゆく。

「ほう、なかなか面白い道具ではないか」

盾となる影が居なくなった隙を付き、なけなしの体力でオマツリ男爵の胸元へと駆ける。
USDマンの拳はビルの壁をも破壊するほどの威力。
モリアほどの巨体であれ、当たれば致命傷となるだろう。

「何っ」

当たったはずの拳はゴムを殴ったようにボンと跳ね返される。
攻撃を受けたのは、先程散らばったはずの影法師だ。

「どこを見ている」

研は知らぬことだが、本体と影法師の位置はいつでも入れ替えられる。
攻撃の当たる直前、散らばった蝙蝠達を影法師へと戻し転移した。

「クッ……お前」

影法師 をどうにかせねば、オマツリ男爵に攻撃が届くことはない。
しかし、研がそれを理解しても対処は不可能。
USDマンの肉体は確かに最強であるが、影法師もまた最強の盾。
ルフィの銃乱打に対して全て反応し、受け止められたほど。
一対一であるならば、これほど厄介なものは無い。
研に備わったどんな武装や超能力も無意味だ。
結果として、何も有効打の無いままに体力だけが減っていく。

「ハァッ、ハァ……」
「どうした?さっきのように惨めにパパにで助けを求めるか?だれも来んだろうがな」

病とは恐ろしいもの。
かのピッコロ大魔王を倒した孫悟空でさえも、心臓病を背負っていた時期は敵に苦戦を強いられたのだ。
どれだけ強い肉体でも、その力を発揮できなければ持ち腐れとなる。

「お前達……ごとき、僕一人で……十分だ」
「とんだ強がりを……!」

ビルを壊せるパンチだろうと当たらなければ意味はない。
即座に影が盾となり、防がれる。
どれだけあがいても、その攻撃がオマツリ男爵に当たることは無い。

「ハァ……ハァ……ゲホッ」

戦いが長引くほど胃ガンによる苦しみは加速度的に増していく。
これまで研が経験してきた戦いはほとんど短期に終わるもの。早いときは1.5秒で終わる事すらもあった。
研は長期戦自体に慣れていない。
まさに最悪の相性である。
ついには手の握力すらも無くなっていき、アルファガンを落とす。
その隙を付き、飛び散った影が研の四方を囲んだ。

「”影箱(ブラックボックス)”」

箱のようになり、バタンと泉研を閉じ込める。
泉研がチャージマン研に変身するには光が必要だ。
どれだけ小さくてもいい。自然の光でなくてもいいし、刹那に消える火花程度の光でも構わない。
逆に言えば光が存在しない所では無力となるのだ。

「アッ!」

黄色い服が消滅し、USDと書かれた句楽健人の服へと戻る。
合わせてアルファガンとリジュームベルトもその機能を止める。
チャージマン研は、コスチュームの「V」の部分に光が当たらなくなると一切の機能が停止してしまう。
ジュラル星人との戦いでは一度も見ることの無かった弱点だが、今この瞬間に発生した。

「余計な手間をとらせおって」

ゲッコー・モリアの戦闘スタイルはゾンビを利用した他力本願であるが、素の戦闘能力も高い。
後の四皇たるカイドウやルフィと渡り合えるほどの力は持っている。
USDマンは世界一のヒーローではあるが、ゲッコー・モリアもまた世界に名を残したヴィランだ。
単純な実力で比較するならば、USDマンにも引けを取らない。
箱を抱えたまま、大きくジャンプ。
そのまま全体重を乗せ、蹴り飛ばすように地面へと研を叩きつける。

「ガ、ガハ……」

363◆N9lPCBhaHQ:2023/09/28(木) 17:58:38 ID:???0

箱が割れ、血を吐き、そのまま研は倒れる。
頭を強く打った際、目立った外傷が無くてもその頭の中にはダメージが入っていることがある。
率直に言えばいわゆる脳震盪だ。
USDマンは無敵ではない。女性に頭部をハンマーで強打された際は、思わず頭を抑えてしまっていた。
外傷は負わなくても、衝撃が身体に全く伝わらない訳では無い。
それを成人女性の何百倍もの力を持つ七武海の手で、地球と言う大質量の物質に勢いよく叩きつけたのならばどうなるか。
USD脳細胞が大きく揺さぶられる。その世界一頑丈なUSD骨細胞の中で。
いくら頑丈な身体といえど、その構造自体は人間と同じ。
酒を飲めば酔うし、腹が減れば好物のラーメンやスシの出前を取らねばいけないし、ガンになれば死ぬ。
人体の共通弱点はUSDマンといえど通用する。

「いい機会だ、試すとしよう」

研に止めを刺さんと、オマツリ男爵は電気が書かれた星型のオブジェを取り出す。
握りしめると、頭の上に青白い炎が沸き上がった。
それは『コピーのもと』と言い、本来は星の戦士に能力を与えるためのものだ。
『プラズマ』の能力を得たオマツリ男爵は、発電した電気を弓矢の形へと変え研へ向けて放つ。
影を取り込むことで相手の能力をコピー出来るゲッコー・モリアの肉体は、その道具と相性が良かった。

「第一の矢、第二の矢」

狙いは研の足。
オマツリ男爵の放つ弓矢は、飛び道具が効かないゴム人間すらも岩に貼り付けに出来るほどの技術だ。
そこにプラズマアローという形無き電気の弓が組み合わさる。
微量ではあるが、人間の身体には電気を流れている。それはUSDマンであっても例外ではない。
ゆえに頑丈な句楽の身体でも、人間である限りはじくことは不可能。

「第三の矢、第四の矢」

次に両腕。四肢は塞がれた。
普段のUSDマンの力ならこの程度は拘束のうちにも入らないだろう。
病により思うような力が出せない今、抜け出すのには時間がかかる。
かと言って時間をかけては命が尽きる。
詰みだ。
手も足も出ず、武装も使えず。口を塞ぐ血の塊は、変装に必要なチャージングGOを叫ぶことを禁止する。
研の敗北は決まった。

「もはや、その格好では何も出来まい」

泉研は確かに強い。変装する前でも殺人ボクサー・タイガーMを倒せるほどの強者だ。
そこにジュラル星人を一撃で殺せる武装と、USDマンの頑丈な身体が上乗せされるのだ。
最強の矛と盾を合わせもつ研は、本来ならばこの殺し合いにおける最強の一角に入っただろう。
その力も発揮できなければ何の意味もない。

ある海賊団の船長は言った、『決してオマツリ男爵に一人で挑んではいけない、それこそが男爵の思うつぼ』だと。
言ってしまえば、泉研の運命は仲間の手を借りずに一人孤独に挑んでしまった時点で決まっていたのだ。

「ほう、句楽健人。『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』か」

転がった研のタブレットを回収し、オマツリ男爵はその肉体のプロフィールを知る。
重火器や核ミサイルすらも通じない丈夫な体に加えて透視、怪力、飛行力といった多彩な能力を持つ。
核ミサイルというのは大海賊時代に生きる男爵には分からないが、頑丈な肉体なのはわかる。
ただしその代償か、末期がんに汚染され余命が非常に短い。

「……ふむ、丁度いいな」

肉体面の強さは先程までの戦いでおおよそわかっている。
病に犯されていようと、ゾンビの肉体とするならば何の問題もない。
すでに死んでいるゾンビであれば、むしろ唯一の弱点を顧みず全力で戦えるため相性は最高に良い。
影を取り込むよりは、死体として確保しておくのが良いだろう。
幸いオマツリ男爵の支給品には運搬用の道具があった。

「しかし、よくこんなものが入ったものだ」

取り出したのは、何人も乗り込めそうな大きな馬車だ。
明らかにデイバッグに入るわけがないサイズだが、悪魔の実という摩訶不思議な能力が知られている大海賊時代。そんなものもあるだろうと流す。
研の遺体は備品の棺桶の中に入れておけばいい。
誰かに怪しまれても、道中で見つけた遺体を元の世界で埋葬してやるつもりだったとでも言えば誤魔化しは効く。

「マ、マ……パ、パッ、キャロ……バリカ……ごめ……」

研の命は風前の灯火。
元々末期だったところに、過度の肉体負荷をかけたのだ、もう燃え尽きてゆく命だ。
急激な血圧の向上により強靭なUSD心臓から送り出される血液は、ボロボロの胃を自ら傷つける刃となる。
出血は収まらず、ポンプのように喉を込み上げる。
喉に絡み、気道を塞ぎ、持ち主を窒息させんとする。

「誰も来んと言ったら来ん。そのまま一人寂しく孤独に死んでいくがよい」

364◆N9lPCBhaHQ:2023/09/28(木) 18:01:09 ID:???0
仲間などという人同士の繋がりを憎むオマツリ男爵にとって、その姿は愉悦だった。
だから気が緩んでいた。
背後にいた存在にも気付かなかったほどに。

「なんだ、これは」

不意にオマツリ男爵の体が痺れた。合わせて影法師の動きも止まる。
振り返ると、女の姿があった。
真っ暗な森の中のはずなのに、誰もが目を奪われていくほどの輝きを放っている。

「こんばんは!いえ、この身体ならジェルばんは!と言うべきでしょうか?」

まさに『救世主』。正義の味方である研ですらそんな言葉が浮かぶほどの一筋の光。
ハニートラップに引っかかり続けた研ですら、かわいいと思ってしまうほどの美貌。
インターネットの光たる天使がそこにいた。

「何をした、貴様」
「お取り込み中のところ申し訳ありません、少々お話を聞かせていただいても宜しいですか?」
「ロト」

スマートフォンから抜け出し、カメラちゃんはオマツリ男爵の周りを飛びまわる。
身体であるロトムは豊富な補助技と高い素早さを合わせ持つポケモン。
戦いの起点を生み出すのはお手の物だ。
ポケモンにはゲンガーやマーシャドー、ダークライのように、影に干渉出来る種族や『かげうち』のように影を武器とする技もある。
先ほど放った『でんじは』の麻痺効果はそういった相手の行動や技も封じる事がある。
同様にカゲカゲの力も満足に発揮出来なくなる。

「オレちゃんはヨーチューバーのブラックです。ご存じないですか?あのピカキンぐらいには有名ですよ。」

見た目は天使だが、中身は悪魔。
ソフトクリームのバニラのような、こっくりと甘く怪しげな雰囲気。
雰囲気だけでなく匂いすらも感じ取れそうであった。

「知らんな」
「だ、めだ……にげ……て」
「ええ、撮影が終わればそうさせてもらいます」

興が削がれたオマツリ男爵は、怒りのまま拳をカメラちゃんへと振るう。

「忌々しい光だ!」

しかし、カメラちゃんには当たらなかった。
複数人で強者を相手にする戦闘、いわゆるレイドバトルにおいて、攻略の決め手となるのはバフデバフだ。
麻痺の状態異常は行動不能だけでなく、相手の素早さを大幅に下げる効果がある。
そこに『かげぶんしん』を積めば回避は容易となる。

「逃げるのに邪魔ですね。カメラちゃんちょっとこれ持ってもらえます?」
「ロト」

デイバックをカメラちゃんに預け、ブラックは回避に専念。木々を介して走り回る。
その合間にカメラちゃんがオマツリ男爵へと接近し周りを飛び回り電気を放つ。ときに体当たりも織り交ぜ、陽動する。
不意打ちならともかく、小手先の技ではダメージに繋がらない。

「有効打ではないですか。ちょっとこれお借りしますね」

そうしてブラックが回収に向かったのは研が落としたアルファガン。
光がなければ使えないが、エネルギー代わりならばここにある。

「カメラちゃん!」
「ロトッ」

呼びかけと同時にカメラちゃんが戻り、アルファガンへと一旦取り憑き先を変える。
ロトムは機械に宿る事のできるポケモン。
その身体をもって、エネルギーをチャージする。
ブラックは木々を隠れ蓑に攻撃を回避し、タイミングを伺いつつ、オマツリ男爵へと狙いを付ける。

「ディスイズ炎ターテイメントォ!」

365◆N9lPCBhaHQ:2023/09/28(木) 18:01:57 ID:???0

麻痺効果で影法師による防御が難しいタイミングを見計らい、アルファガンの光線がオマツリ男爵を包みこむ。
銃撃戦はブラックの得意分野だ。悪魔達が群雄割拠する魔界において、魔界フォトナランキング1位の座を取るほどに。

「やっ……たか?」
「死亡フラグを立てないでくださいね」

光線を浴びたオマツリ男爵は所々に焦げ跡が残っているが、まだ立っている。
七武海の一人が、光線一発程度で倒されるなどあり得ない。

「貴様……!」

男爵の身体からはバチバチと火花が上がっている。
最大まで高まったプラズマはシールド状となり身を包んでいる。
当たる直前に電気を纏ったことで光線の効果が弱まっていた。

「いくら小細工を尽くそうが、これで仕舞いだ」

お返しとばかりに、巨体を包んでいたシールドが巨大なエネルギーへと変わる。
ボール状に変え、回避出来ぬほど大きな『プラズマはどうだん』として放った。
回避しきれず、直撃したブラックを焼き尽くし、文字通り黒焦げの死体へと変えた。

「そん、な……!」

これで終わりだと、男爵は笑みを浮かべる。

「それ、シャドウちゃんです」

不意にオマツリ男爵の手足を鎖が縛り付けた。
デビルチェーン。ブラックが魔力で生み出す魔法の鎖である。

「実はオレちゃんも影使うのが得意なんですよね」

森の中から無傷のブラックが現れる。
焼け焦げた死体は、ブラックではなく偽物。
人呼んでシャドウちゃん。ブラックが自らの影から作り出した黒子である。
戦闘の合間に隙を見て入れ替わっていた。

「本当なら1000人ぐらい出せるんですけど、この身体で出せるのはたった"ひとり"が限界ってところです」

あらら困りましたもう使えませんwと、本来のインターネットエンジェルならば使うはずのない草まで生やして楽しげに笑う。
そうしてしばらく笑ったあと、スッと落ち着いた。
アルファガンによる射撃も通じず。シャドウちゃんによる身代わりも失った以上、不利なのはブラックだ。

「オレちゃんの見通しが甘かったみたいですね。君だけでも逃げてください」
「でも君が、モガッ」

ブラックは隠し持っていた仮面のようなものを取り出し、研の顔へと強引に被せた。

「君、一体何を!?」
「どうですか?多少は息がマシになったでょう?」

それは『モンゴルマンのマスク』。
どんな不治の病も完治する終点山に生えた、霊命木という木により作られた仮面。
被ってさえいれば、ゆっくりではあるがどんな病や外傷も回復していく効果がある。

「それを被っていれば一人で逃げるぐらいの力は出るでしょう。ここはオレちゃんが引き受けますから逃げて下さい」
「でも君は!」
「そんなこと言ってる場合ですか!助けでも呼んできてください!ほらもう持ちませんから!急いで」
「……ゴメン」

多少回復した力で、矢による手足の拘束を振り解き、研は背を向けて走り出す。
研にとって、初めての逃亡だった。
逃げた研を横目にブラックはニヤリと笑う。

「話は終わったか」
「ええ」

デビルチェーンを引き千切り、オマツリ男爵が再び動き出す。麻痺も時間経過により効果が切れた。
魔力による撹乱は出来るが、今のブラックは身体能力上はただの人間並みの強さしかない。
七武海を相手にするのは無謀といえる。
しかし、ブラックは勝ち負けで動くような者ではない。
行動原理は鬼ヤバなものが見れるかどうか。
研を助けたのも動画的にそっちのほうがバズると思ったからだ。

「出会ったばかりの男になぜそこまでできる!」
「いやあ、オレちゃん、ファンは大事にするほうなんですよ」
「ファンだと?貴様はそんなもの為に命を賭けられるというのか!」

ブラックは当然のようにヘラヘラと笑う。
そういった人間同士の『結束』を憎むオマツリ男爵にとっては、ブラックがそう笑えるのが妬ましい。
怒りがこみ上げてくる。バラバラにしたくなる。斬り刻みたくなる。
仲間を失ったワシと同じ気持ちを味合わせてやりたいと憤る。

「そうか、ならば代わりに死ね!」

欠片蝙蝠達がオマツリ男爵の足元に集まり、命を刈り取る形状へと変化していく。

「”角刀影(つのトカゲ)”」

頂上決戦にて、巨人族すらも一撃で貫通させた必殺の槍。
単なる人間に向けられては、避けることは不可能。
そんな状況の中、悪魔はカカカと最後まで笑いつづけた。

「では、後をよろしくお願いしま」

366◆N9lPCBhaHQ:2023/09/28(木) 18:03:46 ID:???0

その言葉が最期まで続くことはない。
エンタメにおいて赤は御法度。そこから先は映せない。
締めのチャンネル登録への呼びかけもないまま打ち切り。
悪魔はこの場所からBANされた。


〇〇〇


研は走り続けた。ただ無様に。
ぜえぜえと息を荒くして。
男爵が見えなくなるまで走ったあたりで立ち止まった。
ヒーロー失格、そんな言葉が頭によぎる。

「女の子一人に任せて逃げるなんて……僕は正義の味方失格だ」

あの場ではそうするしかなかった。
それは分かっている。だけど割り切れない思いだ。
気持ちの切り替えの早い研だが、目の前で命の恩人を犠牲にしてまで平気でいられるほど冷血ではない。

「もうこれ以上、君のような犠牲が出る前に宇宙人どもを倒すから……空の向こうから見ていておくれ」
「かわいそうな悪魔もいたものですね」
「ロト〜」

不意に声を掛けられ、振り向いた。
倒されたはずのブラック達が五体満足でそこにいた。

「そんな!貴方は殺されたんじゃ」
「ちょっとしたトリックですよ」

種明かしをしてしまえば、先ほど倒されたのもブラックが生み出したシャドウちゃんだった。

ロトムが使える技に『トリック』というものがある。
自分と相手の持つアイテムを交換する技だ。
カメラちゃんに一時的にデイバックを預けたのもその布石だ。
オマツリ男爵に体当たりさせた際に、どさくさに紛れてトリックを発動。ブラックとオマツリ男爵のデイバックが入れ替わった。
デイバックの外に出ていたアイテムは奪えなかったが問題ない。

銃撃戦の中、回収したデイバックに残っていた支給品を確認して、ブラックはもしもの時の撤退策を考えた。
木陰に隠れた隙を見て、シャドウちゃんを2体作っておき、一体を身代わりに。
もう一体にアイテムを持たせて避難させておく。
そうして奪った『スーパーワープブロック』を使わせ、角刀影が当たる寸前に場所を入れ替えさせた。
男爵が殺したのは入れ替わったシャドウちゃんだ。

「実はオレちゃん数え間違えてましてねw。『シャドウちゃん、二人いた!?』ってやつですよ」

“ひとり”しか作り出せないと言ったのもブラフ。
殺し合いにおいて、嘘は武器だ。

「巨人族のリトルオーズJr.さんを貫いたとされる角刀影。撮影成功です!ぶいっ」

ついでに手に入れたタブレットからゲッコー・モリアのプロフィールも確認していた。
代償に自分のタブレットを手放すことになったが、こちらのデータは消してあるので身バレする問題はない。

動画のためなら自らピンチを演じ、素材とするのがブラックという悪魔。
全ては鬼ヤバ動画を撮るための演出。
クロスオーバーバトルはバズりやすいのだ。

「まっ、オレちゃん悪魔ですからね」

テレーン♪

|&br()>新しい配信ネタを取得しました&br()&br()ロワはいしんLevel1&br()強マーダーと戦ってみた!&br()&br()|

どこかで小粋の良いSEが鳴った気がした。

「おっと、今は天使でしたか」

こつんと頭を叩き、わざとらしく舌を出してふるまう。
人を馬鹿にしたようなあざとい振る舞いだが、その美貌の前では可愛さが上回る。
確かにオマツリ男爵は何十年も海賊たちを騙してきただろう。
しかし、ブラックは神話の時代から動画クリエイターをやっているのだ。
相手の裏をかき、騙すことに関してはこちらの方が一枚上手だった。

367◆N9lPCBhaHQ:2023/09/28(木) 18:06:31 ID:???0

「君……いったい何が目的なんだ!」
「何って……撮影ですが?」

研としてはブラックの真意が掴めていない。
手鏡に姿が映ることからブラックが人間に化けたジュラルではないことは分かっている。
それを加味しても、研が今まで出会ったことのないタイプだ。
掴みどころのないブラックに困惑せざるをえない。

ブラックとしても殺し合い自体は反対である。
人間の予想外のおもしろさをまだまだ見ていたいブラックにとって、素材となる人間達が死んでしまうのは困るし、自分が消えるのも困る。
でも、それはそれとして、こうした極限空間での人間の本性には興味が湧いてしまうのがブラックというものだ。
研を助けたのも、そうした人間への好奇心によるものだ。

「助けてくれたのは嬉しいよ。……でも、僕は宇宙人どもを倒しに行かないと」
「ほう、宇宙人ですか……詳しく話を聞かせていただけますか?」

宇宙人という言葉に、ブラックの眼が光る。
ブラックが求めるのは人間の裏側だけではない。
都市伝説やSCPといったオカルトの裏側も好むのだ。


○○○


「なるほど、大体わかりました」
「わかっただろう?ジュラル星人は危険な存在なんだ!早くやつらを倒しに行かないと!」

慌てて駆け出そうとした研だが、すぐさま胸を抑えうずくまる。

「研君、まだ早いですよ」

モンゴルマンマスクの効果で胃ガンの進行はゆっくりと回復傾向にある。
それでも身体の不調が一瞬で治るわけではない。
病み上がりのまま戻っても先程のように返り討ちに会うだけだ。

「それに研君、宇宙人も全員が危険とは限りませんよ」

淡々と、だけど燦々と。語りかけるように呟く。
本来はインターネットの天使が、救世主として人々を照らすであろう言葉。
それが泉研ただ一人に向けられる。

「君だって見てただろう!この会場にはあんな危険なやつらがいるんだぞ!」
「しかし、最初に出会った二人の宇宙人の方達は研君に危害を加えたりしましたか?話を聞いていると、どうにも研君が先に手を出したように思えますが……」

ジュラル星人をただ倒してきた研にとって、その言葉は信じられなかった。

「そんなこと言ってもあいつらは危険な……」

言葉ではそう否定するが、研も内心わかっている。
これまで敵対したジュラル星人の中にも良い者はいた。
作戦と感情の中で揺らいだX-6号。
今もなお、お兄さんのように慕っている師範代、J-7号。
研は同胞に殺された彼らの為に、弔いまで上げたこともある。
出会い方さえ異なれば、仲良くなれたかもしれなかった。
だけど、そのやり方を知らない。これまでは殲滅と言う方法しかやってこなかったのだ。

「まあこうゆう状況ですからね、今度会ったらいきなり攻撃せずちゃんと話を聞いた方がいいですよ。それに普段のようにカメラでのファインダーで確認していない以上は、魘夢さんがジュラル星人だとも決まったわけではありません」
「ロト」

対話は大事だ。
助手であるカメラちゃんであるが当初は敵として排除するはずだった。
興味本位で悪魔側の事情を聞いたからこそ今の関係がある。

「相手の裏側も知っておいたほうが面白いですしね」

368◆N9lPCBhaHQ:2023/09/28(木) 18:08:07 ID:???0

様々な存在の裏側を長年見てきたブラックだからこそ言える言葉。
学校一の美少女の裏側も。
誰もが信仰する神様の裏側も。
インターネット・エンジェルの裏側も。
宇宙人も未来人も異世界人も超能力者も。
どんな清廉潔白な人物も裏側ではどんな本性を持っているかは分からない。
その逆も然りであり、一見怪しい存在が取材をすると実は善行を行っていたなんてこともあった。

「それに、人間と宇宙人が共に楽しく遊べる日だっていつか来ますから」

ブラックは知っている。というより先日動画にしている。
地球侵略と友情との板挟みの中で、地球を守ろうとした人間とエイリアンのことを。

「ああ、そうそう、名簿は見ましたか?アナタの身体の持ち主である句楽兼人さんはこの世界にも呼ばれていますよ」
「なんだって!?」

急いでタブレットを確認する研。
巻き込まれた身体を返さなくてはと使命感が沸き上がる。
その姿を見て、ブラックはどこかニヤリと笑っている。

「何がおかしい!」
「いやあ先程の放送を思い出しましてね、会場のどこかには身体を元に戻せる装置もあるみたいですよ」
「じゃあ早く探してみんなの身体を元に戻さないと!」
「ほう!研君は身体を返したいと!」

不意にブラックの笑みが深まる。
カメラちゃんはちゃっかりと真正面に向き合い、カメラアングルを調整する。
まさに、二人はその言葉を待っていたかのように。

「本当に句楽さんに『その身体』を返したいんですね?いいでしょう、撮影に協力頂けるならオレちゃんも存分にお手伝いしますよ」

わざとらしく。
煽るように。
もったいぶるように。
それでいて囁くような、かったるい甘い声。

「こうかいしませんね?」

あまりに甘美な悪魔の誘惑。
この誘いに乗れば研は病の苦しみから解放される。
しかし、それは句楽兼人に死の運命を押し付けることに他ならない。

「……それは」

研は地球のため、全人類のために命を懸けて戦う。人間は守るべき存在だ。
ジュラル星人には厳しい研だが、その一方で人間に対してはどれだけ危険な相手でも殺さない主義だ。
放火事件を起こした雄一少年や、人類を裏切ろうとした山村博士のような人物でさえもその身を守る。
正体がジュラル星人だと発覚するまでは、不良少年やタイガー・Mのような危険人物ですら手をかけない。
『いくら悪い奴らでも、人間にアルファガンは打てない』と自分から言っているように、人間相手にはチャージマンとしてもたらされた力を向けないし、アルファガンに備わった麻酔銃モードすらも使わないのが研だ。

過去に研は、ボルガ博士一人の命とレセプションに呼ばれた大勢の科学者達の命を天秤にかけ前者を選んだことがある。
博士の頭の中に仕掛けられた時限装置が作動し、残り数10分に迫った場面。
攻撃してきたジュラル星人に邪魔をされ、博士の頭に仕掛けられたダイナマイトを摘出することができなかった。
結果として、起爆間際に空中で放棄するという、非人道的とも呼ばれかねない手段をやむを得ず取ってしまったことを今も研は悔やんでいる。
あの時の苦渋の決断を思い出し、研の額にたらりと汗が流れた。

「カカカ!すぐに契約(ディール)しろとは言いませんよ。……ですが」

ブラックはしばらく笑ったあと、研に背を向けて。ただ一言呟く。

「後悔なき選択を選んでくださいね」


〇〇〇


(さて、研君はこれからどうするのか)

369◆N9lPCBhaHQ:2023/09/28(木) 18:11:41 ID:???0

光あるがぎり、闇もまたある。
逆に言えば、どれだけ闇が深くても、光とは消えないもの。
道を踏み外そうとした人間が、自分の失敗を自覚して新たな道へと進む姿も同じだけ見てきたのだ。

(『少年ヒーローが抱える正義の裏側、暴いてみた!』、なんて企画も面白そうしたがこっちは没ですかね)

タブレット状に変形したスマホロトムに映し出されたサムネイルを、慣れた手付きでゴミ箱へ。
自分にもたらされた力で、無抵抗の相手や本来守るべき相手を犠牲にする。そうなってしまえばヒーローではなくヴィランとなる。
もしも、ヒーローたる研が守るべき人間の命すら犠牲にする道を即座に選んでいたら。
それはそれで、ブラックの求める炎タメではあったのだ。

追い詰められた人々の心に不意に潜む邪な心。そんな"人間の本性"を"鬼ヤバ最強動画"としてお届けする。それがブラックチャンネルである。
元の世界であれば、「ディスイズ 炎ターテイメントォ!」の掛け声とともに魔界へと叩き落とす、いつもの流れとなっていたかもしれない。

(……あちらさんも気になりますしね)

句楽兼人のプロフィールを思い出し思案する。
正義の味方、ウルトラ・スーパー・デラックスマン。
突如として超人的な力に目覚め、善良な人、弱い人、困っている人びとを救うため日夜働いているヒーロー。
プロフィールにはそう書かれているが、どうにも胡散臭かった。

(カカカ、善良なヒーロー句楽兼人さん。もし出会う機会があれば、是非ともインタビューさせて頂きたいものです)

370◆N9lPCBhaHQ:2023/09/28(木) 18:13:17 ID:???0

【一日目/深夜/C-8】

【泉研@チャージマン研!】
[身体]:句楽兼人@ウルトラ・スーパー・デラックスマン
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、吐血、末期の胃癌、両手両足に弓傷、モンゴルマンマスクの効果による回復中
[装備]:モンゴルマンのマスク@キン肉マン、ビジュームベルト@チャージマン研!、アルファガン@チャージマン研!
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:ジュラル星人らの殲滅……だったけど
(自分がジュラル星人及び協力者と思った人物を倒す?)
1:しばらく安静にする
2:句楽さんに肉体を返したいけど、でも……
3:痛みが治まったら、あの二人(メトロン星人と鎧の人物)を追う?
4:あの宇宙人(オマツリ男爵)はどうにかしたい
[備考]
※参戦時期は64話「爆発!マンモスコントロールタワー」後です。
※殺し合いの首謀者を【ジュラル星人】・【ジュラルの魔王】と思い込んでいましたが、違う可能性も視野に入れました。
※プロフィールから句楽兼人のことを知りました。
※あらゆる攻撃を受け付けない身体を持っていますが、末期癌を患っています。
※癌の影響で本来のウルトラスーパーデラックスマンほどの力が発揮できなくなっています。
※手鏡に映ることを確認し、ブラックがジュラル星人ではないことを理解しました。

【ブラック@ブラックチャンネル】
[身体]:超絶最かわてんしちゃん@NEEDY GIRL OVERDOSE
[状態]:健康、魔力消費(小?中)
[装備]:ロトム+モンスターボール@ポケットモンスター
[道具]:基本支給品(オマツリ男爵)
[思考・状況]
基本方針:この殺し合いの闇を暴く
1:撮影開始といきましょうか。
2:面白そうな参加者がいればインタビューする。
3:句楽兼人さん……ちょっと、気になりますね。
4:さて、研君の後悔なき選択を撮影しましょうか。
5:帰ったら身体を元に戻したうえで改めて超てんちゃんに撮影を申し込む。
[備考]
※参戦時期は少なくとも原作漫画版8巻「B.T.」編までは経験しています。
※人間になったことで魔力が普段より抑えられています。時空を超える能力など殺し合いから抜け出す能力は使えません。
※肉体の参戦時期・到達エンディングはお任せします。
※タブレットから肉体のプロフィールが削除されました。
※シャドウちゃんは一度に2体まで作り出せます。ただしブラックの言うことなので実際はもう少し出せる可能性もあります。

[意思持ち支給品状態表]
【カメラちゃん@ブラックチャンネル】
[身体]:ロトム@ポケットモンスター
[状態]:正常、PP消費(小)、撮影中、スマホロトム
[思考・状況]基本方針:ブラックと共に行く
1:撮影する
2:ブラックをサポートする
[備考]
※参戦時期は少なくても原作漫画版8巻「B.T.」編までは経験しています。
※支給されたスマートフォンに入り、スマホロトムになっています。
※登場話〜現在までの光景がカメラちゃん目線で録画されています。
※現在、使えるわざに「でんじは」「かげぶんしん」「トリック」があります。麻痺を与えた場合一定時間経過で自然回復するものとします。

【モンゴルマンのマスク@キン肉マン】
ブラックに支給。
モンゴルマンが付けている木製マスク。
どんな不治の病も完治する終点山に生えている『霊命木』という木により作られている。
脳をえぐられる重体を負ったラーメン……モンゴルマンは、一年間この木から出るガスを吸い続けたことで徐々に回復していき完治した。
また、モンゴルマンはこの木で作ったマスクを被っていることで、山を下りても戦えるようになった。
ただし、効果は覆面を付けている間のみ有効。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

371◆N9lPCBhaHQ:2023/09/28(木) 18:14:25 ID:???0


「……偽物か」

シャドウちゃんの残骸を蹴り飛ばす。
オマツリ男爵はリリー・カーネーションという魔力が尽きると植物に戻る存在を知っている。
それと同じような能力で、自分に化けさせていたのだろうと察する。

『マ、マ……パ、パッ、キャロ……バリカ……ごめ……』

思い返しても、愛する家族の助けもないまま、孤独に死に向かう研の姿は心を踊らせた。
それなのにせっかくの良い気分が台無しとなった。
今となっては、遺体を手に入れることが出来なかった上に、まんまと踊らされた苛立ちが上回る。

「……それにしても……パパ、パパか」

連鎖して脳裏に過ぎったのは、お茶の間海賊団船長、お茶の間パパの姿。
男爵が妻を殺した後もみっともなく生き続けている無様な男。
肉親だろうと、仲間だろうと、いずれ別れの時は来る。
リリー・カーネーションの生贄としてきた幾多の海賊達と同じだ。
どれだけ大切でも家族だの仲間だのといった関係がいつまでも続かないのは、20年間見てきた光景で分かりきっている。

「下らん」

それが分かっていてもなお、孤独を嫌うのがオマツリ男爵という男であった。
表では海賊たちの仲間割れを愉しみつつも、その『裏側』で彼自身もまた、仲間を失うことを怖がっている。

【一日目/深夜/B-8】

【オマツリ男爵@ONE PIECE THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島】
[身体]:ゲッコー・モリア@ONE PIECE
[状態]:ダメージ(小)、コピー能力『プラズマ』
[装備]:馬車@ドラゴンクエストVI (影法師に引かせている)
[道具]:基本支給品(ブラック)、コピーのもと(プラズマ:残り2回)@星のカービィシリーズ
[思考・状況]基本方針:優勝して仲間を生き返らせる。
1:他参加者の影と、死体を集めてゾンビを作る。
2:死体を集めるために、今後の動向を考える
3:ウルトラ・スーパー・デラックスマンの死体が欲しい
[備考]
※参戦時期は少なくとも麦わらの一味の地獄の試練を始めてからです。
 そのため映画の時期の麦わらの一味とは面識があります。
※本ロワではカゲカゲの能力で影を入れて作ったゾンビは、精神側の人格が宿ります。

【馬車@ドラゴンクエストVI 幻の大地】
オマツリ男爵に支給。
歴代のレイドック王が乗りこなした由緒正しき馬車。
馬車馬であるファルシオンを仲間にしたあとは主人公達のものになる。
このロワでも馬は付属していないので、自分で押すか代わりの動力を探すしかない。
車内の備品として数人分の棺桶も付属する。

【コピーのもと(プラズマ)@星のカービィシリーズ】
オマツリ男爵に支給。
触ることで青緑に燃える帽子が装備され、プラズマの能力を得ることが出来るオブジェ。
外見はカービィwii以降の円形ケースの中に星が入ったデザイン。
あまりに強いダメージを受けると能力が解除される。
ゲーム上は無限に使えるが、このロワでは3回の使用で消滅するものとします。
北沢徹(カービィ)がこれを使ってヘルパーを生み出せるかはお任せします。

【スーパーワープブロック@スーパーマリオシリーズ(マリオパーティ スーパースターズ)】
オマツリ男爵に支給。
選んだライバルと自分の場所を交換できる。
所持しているアイテムも一緒にワープする。
普通のワープブロックと違い、アイテムショップで買えない地味にレアな道具。
一回きりの使い捨て。

372◆N9lPCBhaHQ:2023/09/28(木) 18:15:15 ID:???0
投下終了です
タイトルは「I'll Face Myself -孤独の唄-」で

373◆N9lPCBhaHQ:2023/09/28(木) 23:59:48 ID:???0
【コピーのもと(プラズマ)@星のカービィシリーズ】
の説明に以下を追記します。

※作中ではカゲカゲの実がカービィ同様に、能力を取り込める体質のため使用出来たという扱いにしていますが、
それとは関係なしに、他の参加者が使用できるかどうかはお任せします。

374 ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:05:22 ID:eezvUjc60
形兆、ユーリ予約します

375迷いは禁物だぜ 覚悟完了 ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:13:58 ID:eezvUjc60
投下します

376迷いは禁物だぜ 覚悟完了 ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:14:22 ID:eezvUjc60
「肉体、精神共に知り合いなし。運がいいやら悪いやら。」

 同じ声色。しかし姿形は人を離れたその状態でユーリはいつも通りごちる。
 知り合いがいないのは行幸。ザギと言った面倒な相手もいないようではある一方で、
 この容姿をいきなり信用してくれる参加者が一人もいないと言う事実の裏返しにもなる。
 幸い、玉壺の姿は一度死者として晒された以上『こういう奴はいる』と大体の人は認識している。
 人外もいるならば多少は受け入れる姿勢になってくれている人が多いことをなるべく願うしかない。
 玉壺としての知り合いは残念ながらプロフィール上からは判断できない為意味をなすことはない。
 まあ、いたところで鬼の可能性の方が高いのであてにならないが。

「にしてもどうするか……」

 現在位置がどこか分からなかったが、
 近くにみすぼらしい家と川の向こうが雪ともあり、
 おそらくめぐみんの家であるB-6周辺であるのは分かる。
 玉壺を沈めた場所も寒かった気がすることから間違いはない。
 となれば刀鍛冶の里は玉壺が襲った場所として遠くない場所にある。
 しかし、名前も知らない鬼殺隊が向かう可能性もある場所で、
 鬼の姿である自分が向かえば戦闘に発展する恐れはあるだろう。
 フレンの事でこじれた結果、ソディアに一度刺された記憶は新しい。
 人は状況を考えずに行動に出てしまう。鬼殺隊は危険な鬼を倒す存在だが、
 だからと言って話がすぐ通じるかどうかがわからない可能性は否定できない。

(行く当てがなさすぎるのも問題だな。)

 海賊船はバンエルティア号と表記されてないことから、
 恐らくこれはユーリが想定してる場所でもないと感じた。
 自分にとって何かメリットがあるものか、と言われると違うだろう。
 となると、今後の為に必要なことが何かを考えると当てはないように見えるが、
 一つだけ新しい方針は存在している。

(身体を入れ替える施設だな。)

 この身体は間違いなく強い。だが一方で危険なものだ。
 龍之介の血は魔術師の家系であるので、ある意味それは稀血の類だ。
 だから彼は反応したかもしれないが、説明にそこまで詳細に書かれてない以上、
 人の血を見ると我を忘れそうになると言う可能性を孕んでいるとユーリは感じていた。
 いずれやらかす可能性は否定できない。だから精神を入れ替えられる場所。
 それを探して倒さなければならない敵にこの身体を渡して仕留めておきたい。
 もっとも、殺し合いに乗った参加者を生きたままその施設に連れて行くなど、
 妄言と言ってもいいようなレベルの面倒くさいことになってることには変わりない。
 だからあくまで保険。中には元の身体と精神が両方の参加者もいることだ。
 善であればその施設を守る、悪であれば元に戻られる前に破壊しておく。
 態々説明すると言う事は、戻ったらとてつもない力を持つ可能性もありうる。
 ある意味、玉壺を先に仕留めることができたのは大きな利点ともなれた。
 規模は不明としても半天狗と二名だけで里を襲撃できるだけの力量があるなら、
 その力は慣れない身体が多い参加者の中でも指折りの強さになりかねない。

「置き手紙ぐらいはしておくか。」

 めぐみんは参加者にもいた。
 目的地として向かうする可能性はある。
 敵に見つかって処分される可能性もあるし、
 下手に名前を残しておくと手紙を改変されて変なことになりかねない。
 『カスカベ学園へ向かう。手紙の主より』と簡潔な手紙をテーブルに置いておく。
 カスカベ学園は単に場所が近いのと、天下統一なんて仰々しい名前もあることだ。
 精神の入れ替えに限らず、何かしら有益なものがあっても別におかしくはないとの判断。
 同じく遠くない施設なら天城屋旅館もあるが、この恰好で寒地へ行くのは少し怖くもある。
 なお、普段と目の位置が明らかに違うので筆跡が少し歪なものになってはいるが、
 元々知人がいない以上筆跡の違いはさして問題ないとして考えるのはやめた。

「さて、そろそろ移動でもすっか───」

 置き手紙も置いたことで向かうとする。
 その瞬間、ふすまの向こうからパラララと銃声が、
 ふすまを突き破って蜂の巣を描きながらユーリへ襲う。

「ッ!?」

 咄嗟に壺の中に全身を入れることで弾丸は回避。
 すぐに顔を出して背後を見れば、壁には小さくも当たれば洒落にならないであろう弾痕が目立つ。

377迷いは禁物だぜ 覚悟完了 ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:14:42 ID:eezvUjc60
「肉体、精神共に知り合いなし。運がいいやら悪いやら。」

 同じ声色。しかし姿形は人を離れたその状態でユーリはいつも通りごちる。
 知り合いがいないのは行幸。ザギと言った面倒な相手もいないようではある一方で、
 この容姿をいきなり信用してくれる参加者が一人もいないと言う事実の裏返しにもなる。
 幸い、玉壺の姿は一度死者として晒された以上『こういう奴はいる』と大体の人は認識している。
 人外もいるならば多少は受け入れる姿勢になってくれている人が多いことをなるべく願うしかない。
 玉壺としての知り合いは残念ながらプロフィール上からは判断できない為意味をなすことはない。
 まあ、いたところで鬼の可能性の方が高いのであてにならないが。

「にしてもどうするか……」

 現在位置がどこか分からなかったが、
 近くにみすぼらしい家と川の向こうが雪ともあり、
 おそらくめぐみんの家であるB-6周辺であるのは分かる。
 玉壺を沈めた場所も寒かった気がすることから間違いはない。
 となれば刀鍛冶の里は玉壺が襲った場所として遠くない場所にある。
 しかし、名前も知らない鬼殺隊が向かう可能性もある場所で、
 鬼の姿である自分が向かえば戦闘に発展する恐れはあるだろう。
 フレンの事でこじれた結果、ソディアに一度刺された記憶は新しい。
 人は状況を考えずに行動に出てしまう。鬼殺隊は危険な鬼を倒す存在だが、
 だからと言って話がすぐ通じるかどうかがわからない可能性は否定できない。

(行く当てがなさすぎるのも問題だな。)

 海賊船はバンエルティア号と表記されてないことから、
 恐らくこれはユーリが想定してる場所でもないと感じた。
 自分にとって何かメリットがあるものか、と言われると違うだろう。
 となると、今後の為に必要なことが何かを考えると当てはないように見えるが、
 一つだけ新しい方針は存在している。

(身体を入れ替える施設だな。)

 この身体は間違いなく強い。だが一方で危険なものだ。
 龍之介の血は魔術師の家系であるので、ある意味それは稀血の類だ。
 だから彼は反応したかもしれないが、説明にそこまで詳細に書かれてない以上、
 人の血を見ると我を忘れそうになると言う可能性を孕んでいるとユーリは感じていた。
 いずれやらかす可能性は否定できない。だから精神を入れ替えられる場所。
 それを探して倒さなければならない敵にこの身体を渡して仕留めておきたい。
 もっとも、殺し合いに乗った参加者を生きたままその施設に連れて行くなど、
 妄言と言ってもいいようなレベルの面倒くさいことになってることには変わりない。
 だからあくまで保険。中には元の身体と精神が両方の参加者もいることだ。
 善であればその施設を守る、悪であれば元に戻られる前に破壊しておく。
 態々説明すると言う事は、戻ったらとてつもない力を持つ可能性もありうる。
 ある意味、玉壺を先に仕留めることができたのは大きな利点ともなれた。
 規模は不明としても半天狗と二名だけで里を襲撃できるだけの力量があるなら、
 その力は慣れない身体が多い参加者の中でも指折りの強さになりかねない。

「置き手紙ぐらいはしておくか。」

 めぐみんは参加者にもいた。
 目的地として向かうする可能性はある。
 敵に見つかって処分される可能性もあるし、
 下手に名前を残しておくと手紙を改変されて変なことになりかねない。
 『カスカベ学園へ向かう。手紙の主より』と簡潔な手紙をテーブルに置いておく。
 カスカベ学園は単に場所が近いのと、天下統一なんて仰々しい名前もあることだ。
 精神の入れ替えに限らず、何かしら有益なものがあっても別におかしくはないとの判断。
 同じく遠くない施設なら天城屋旅館もあるが、この恰好で寒地へ行くのは少し怖くもある。
 なお、普段と目の位置が明らかに違うので筆跡が少し歪なものになってはいるが、
 元々知人がいない以上筆跡の違いはさして問題ないとして考えるのはやめた。

「さて、そろそろ移動でもすっか───」

 置き手紙も置いたことで向かうとする。
 その瞬間、ふすまの向こうからパラララと銃声が、
 ふすまを突き破って蜂の巣を描きながらユーリへ襲う。

「ッ!?」

 咄嗟に壺の中に全身を入れることで弾丸は回避。
 すぐに顔を出して背後を見れば、壁には小さくも当たれば洒落にならないであろう弾痕が目立つ。

378迷いは禁物だぜ 覚悟完了 ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:16:00 ID:eezvUjc60
(パティが使ってる銃の小型版か! 敵の姿気配は……いや足音がするな。
 鬼だから気付けてるのか、わざとなのか分からねえが複数いやがるのか?
 目立たないよう電気を付けなかったのが仇になったってところか。姿は見えないしやりづらいな。)

 焦って声や姿を出すような真似はしてこない。
 となればこれは分かってて殺し合いに乗った参加者だ。
 だったら余り容赦する理由はないと言ってもいいだろう。
 足音の小さくも複数あるが、余り体格が大きくないのは分かる。

「試しにやってみっか……蛸壺!」

 どこからともなく出てくる壺を肩に担ぎ、
 巨大な蛸の触手を放つ技、蛸壺地獄。
 文字通り壺から蛸の触手で敵を拘束や殴り飛ばす攻撃だ。
 (なおユーリは技名を省略する癖がある為これを蛸壺と呼ぶ)
 触手は本来ならばより多く出せるものの今の彼には一本だけである。
 しかしそれだけで問題なかった。と言うより一本でもやりすぎなのだ。
 なんせ制御がうまくできず、ふすまを突き破った後、天井を丸ごと吹き飛ばした。
 元々頑丈とは言い難いめぐみんの家は、容易く廃墟に変わってしまう。

「……あー、めぐみんって奴。悪い。俺の想像を越えてたわ。」

 一本でこれってどんな化け物火力してんだよ。そう思わずにはいられないユーリ。
 実際、時透無一郎が受けた際は複数の触手で家を損壊していたので一本でも大概である。
 月明かりで先ほどよりは見やすくなった一方で、破壊による煙が邪魔で周囲は見えない。
 どこから来るか警戒していると、空から変な音が聞こえて其方を見上げる。

「ってなんだありゃ!?」

 空を飛ぶ乗り物はいくらかあれども
 ユーリの世界にヘリコプターやアパッチと言う物はない。
 プロペラ音が響く中飛んでくるミサイルに咄嗟にワープするも、
 まだ遠くまで行けないユーリには爆風までは抑えられず軽く吹き飛ばされる。

「ッ! ってぇ……」

 鬼なんだから大して問題ではない。
 とは言え痛いものは痛いのは変わらない。
 或いは身体と精神が合わないから痛いだけの可能性もある。
 壺が音を立てながらゴロゴロと廊下を転がっていき、
 ワープで強引に起き上がることで態勢を整えていく。
 何にせよ今は此処から脱出が先決。すぐさままだ屋根が残っている玄関の方へとワープを続けていく。

(銃を撃ってたのとは別だ。ありゃ精霊を召喚とかそういう類なのか?
 それとも銃の奴が一人目で飛んでる奴は別の奴とかそういうことか?
 クソッ、情報が少なすぎるしまとも小さいんじゃ魚とか蛸じゃ狙えねえ!)

 ワープで玄関を飛び越えて、更にワープで距離を稼ぎ一時森の中へと逃げ込む。
 里は近いものの、森へ経由する形でカスカベ学園の方へと向かっていく。




「……地雷にかからなかっただと?」

 下手人である虹村形兆はめぐみんの家の周囲に地雷を設置していた。
 何処へ出ても地雷には引っかかるように、窓や玄関の近く全てに。
 だが避けられた。いや、避けたと言うほど相手は認識していなかった。
 瞬間移動の類。ザ・ハンドと言う危険物に触れることなく移動ができるスタンドを持つ弟がいる。
 しかしあれは瞬間移動とは言うが、空間を削って強引に移動しているに等しいものになる。
 地雷を踏んだと言う行為すらしていない。本当の意味での瞬間移動だ。

「……とりあえず参加者の基準は理解できたな。」

379迷いは禁物だぜ 覚悟完了 ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:16:22 ID:eezvUjc60
 彼の今回の目的は参加者の強さがどの程度かを図る為だ。
 八人の死者。想像以上に乗り気な参加者はいるのは間違いない。
 だったら積極的に参加者を殺さずとも事態は進展していくだろう。
 なので必要なのは参加者がどの程度の強さを持っているのかにある。
 スタンドは便利だからと言って油断はしない。制限もされているはず。
 結果情報は得られた。スタンドは他人にも見えるし反応もされるらしい。
 あれがスタンド使いであれば、と言う注釈は付くが用心深いのが形兆になる。
 言うなれば完璧主義者。CDケースをきちっとしまうように順番どおりに事を進めていく。
 だから甘く見ない。甘く見たから音石にやられてしまった、とも言えるのだから。
 何にせよ基準は低くないと見ていい。支給品はなるべく早く集めて後半に備えたいが、
 そううまくはいかないよう敵の強さはかなり厄介な方向を向いてるとみてよかった。

(……)

 音石を思い出しながら思い返すは見知ったシリアの名前。
 矢でスタンド使いにした由花子、露伴、敵対した仗助、そして───弟の億泰。
 別に予想はしていたことだ。いたっておかしくない。だから今更な話だ。
 弟がいようといなかろうと、答えは決まっている。親父を殺す為容赦はしない。
 だが、できれば自分の手で倒すべきと言う、非合理的な理由がどこかにあった。
 それは親父を殺す為の覚悟を決める為か、或いは弟だからこそ越えなければならな五試練か。
 弟を庇ったように、非合理的な理由を胸に形兆は歩き出す。

【B-6 めぐみんの家付近/黎明/1日目】

【虹村形兆@ジョジョの奇妙な冒険】
[身体]:ナナチ@メイドインアビス
[状態]:健康、複雑な感情
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:優勝し、おやじの魂を解放する
1:支給品を集めて後半に備える。それまでは積極的に動かない。
2:億泰は……
3:東方仗助。あの時みたいな油断はもうしない。

[備考]
※死亡後から参戦です。
※ナナチのプロフィールの経歴欄の情報は、ナナチハウスでのミーティ死亡までのものとします。
※どれだけ優位にあっても油断しなくなってます。

【ユーリ・ローウェル@テイルズオブヴェスペリア】
[身体]:玉壺@鬼滅の刃
[状態]:ダメージ(小)、身体の状態や人物に嫌悪感
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]基本方針:いつも通りにやるとしますか。
1:めぐみん、悪ぃ。家ぶっ壊しちまった。
2:カスカベ学園に向かってみる。
3:行くとこねえんだよなぁ。どうすっか。
4:精神と体を入れ替える施設を探しておきたい
5:あわよくばこの身体をできれば早めに捨てたい。
  が、うまくはいかないだろうなぁ。態々言うってことは。

[備考]
※参戦時期は少なくともザギ(タルカロン戦)より前。
 またPS3以降のヴェスペリアです。
※肉体の参戦時期は現時点では不明です。
※血鬼術は現時点では殆ど使えないor使っても貧弱です。
 (一万滑空粘魚で僅か十体しか飛ばせないとか、そんな感じ)
 壺から壺への転移は一応できますが慣れない限り短距離です。
 現時点で蛸壺地獄は一本だけですがそれでも大概強いです。

※B-5の川の何処かに玉壺(龍之介)の遺体が沈んでます。
 服に石が詰められてるため暫くは浮いてきません。

※B-6めぐみんの家が半壊しています。

380迷いは禁物だぜ 覚悟完了 ◆EPyDv9DKJs:2023/09/29(金) 18:23:39 ID:eezvUjc60
投下終了です

381 ◆OmtW54r7Tc:2023/09/30(土) 00:16:01 ID:7rXnyrhM0
ゲリラ投下します

382おやすみなどさせない ◆OmtW54r7Tc:2023/09/30(土) 00:16:48 ID:7rXnyrhM0
「嘴平伊之助…こんな被り物をしているが、人間なのだな」

自分とは異なる魔王との戦いから敗走した魔王タソガレは、充分距離を取ったことを確認しつつ、茂みでタブレットを見ていた。
そして、そこに書かれた肉体の人物…何故か猪の被り物をしている人間、嘴平伊之助の情報を読んでいた。
どうやら彼は、幼い頃に色々あって本来の親とは引き離され、猪に育てられたという特異な経歴を持った人間らしい。
そして、鬼と呼ばれる怪物を倒す剣士であるとも書かれている。

「猪に扮しているのに剣士なのか…先ほどの戦いで肉弾戦を仕掛けたのは失敗だったな」

あの時はまだ確認していなかった支給品を確認すると、確かに2本の剣があった。
…かなり刃こぼれの酷い剣だが。

「おのれ…吾輩にこんな酷い剣をよこすとは」

それが肉体である伊之助本人の武器とは知らず、タソガレは憤った。
とはいえ、いくら状態の酷い剣であっても、身を守るために必要な武器だ。
先ほど敗れた奴との再戦の為にも、今はこの剣を使いこなすしかないだろう。
タソガレは2本の剣で素振りをはじめ…放送が流れたのはそれからしばらく経っての事であった。

383おやすみなどさせない ◆OmtW54r7Tc:2023/09/30(土) 00:17:32 ID:7rXnyrhM0
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

「なっ…あれは…我が城の淫魔ではないか!?」

放送にて呼ばれた死者の中にあった知り合いの姿に、タソガレは驚く。
淫魔…同僚からはさっきゅんと呼ばれる彼女は、淫魔としては半人前であり、魔王軍の中ではかなりの下っ端である。
そんな彼女がまさか自分と共に呼ばれ、しかも死んでいるとは…

「まさか他の者も…!?」

タソガレは慌ててタブレットを開き、新たに追加された名簿を確認する。
隅から隅までじっくりと確認したが…他に知った名はなかった。
十傑衆も、他の配下も、人間の姫も、名簿にその名が記されていなかった。

「まあ玉壺やクラウンイマジンは、吾輩が知らないだけで我が魔王領の者かもしれないが…きりさきピエロという奴は、シザーマジシャン辺りの親戚かもしれない」

一応伊之助のプロフィールを見た後の為、異世界の住人という概念があることは理解しているので、「異形=自分の世界の魔物」とは限らないとは分かっているが。
ともかく名簿を見て分かったことは、少なくともタソガレが知る名は死んださっきゅん以外におらず、参加者の中にタソガレやさっきゅんの肉体を持つ者はいないということだ。

「ともかく、まずは淫魔の子の肉体…小悪魔という者の死体を見つけなければな」

魔王城には、あくましゅうどうしという蘇生の術に長けた幹部がいる。
週1で人質の人間の姫を生き返らせている彼ならば、きっと彼女を蘇らせることができるだろう。

「魘夢…吾輩の仲間に手を出したこと、後悔させてやろう。貴様に安眠などさせてなるものか。吾輩が貴様に見せる夢は…悪夢だ」

タブレットを閉じたタソガレは、早速出発しようとして、ふと気が付いたことがあって手鏡を取り出した。

「なんとなくそのまま被っていたが、こんなものをかぶっていては警戒されてしまうな」

タソガレが猪の被り物を脱ぐと、現れたのは綺麗な顔立ちをした人間の男性の顔であった。

「…意外なほどに美形だな」

とりあえず、見た目で警戒されるということはなさそうな顔立ちだ。
ただ、そこでタソガレはもう一つの問題に気づいた。

「名簿には吾輩の名前は『魔王タソガレ』とあったな…魔王などと名乗っては警戒されるかもしれない」

とはいえ、下手に偽名を名乗ってもバレた時が怖い。
タソガレとだけ名乗っても、名簿にある『魔王』に反応する者がいるだろう。
人質の姫やその母親などの例外はあれど、魔王という肩書を持つものが警戒されるのは避けられない。

「しかたない…人間に倣って、ファーストネームということでごまかすか」

魔族の世界に、ファーストネームという概念は基本的にはない。
故にタソガレは人間の名前を参考にすることにした。

「姫のフルネームは確かオーロラ・栖夜・リース・カイミーン。栖夜が名前だったか…『魔・王・タソ・ガレ』…名前は『王』…不自然か?」

よく考えてみれば姫は王族だからファーストネームが特別なのかもしれない。
名簿の中には「○○・△△」という名前の者がいくらかいたし、シンプルに「魔王」が名前で「タソガレ」がファーストネームということでいいかもしれない。
(魔王の方が名前なのはスヤリス姫の名前の影響で名前は和名、ファーストネームはカタカナという認識を無意識に刷り込まれた為である)

「…結局魔王を名乗ることになってしまうが、なんとか押し切るしかない。淫魔、待っていろ。お前をこのまま永遠に眠らせてなどやるものか。お前が眠るべき場所はこんな場所ではなく…我が魔王城なのだからな」

決意を胸に、魔王は動き出す。
騒がしくも楽しかったあの日々を、取り戻して見せると誓って。


【H-3 森/深夜】

【魔王タソガレ@魔王城でおやすみ】
[身体]:嘴平伊之助@鬼滅の刃
[状態]:ダメージ(大)、全身各所に凍傷
[装備]:伊之助の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品、チーターローション(残り2回分)@ドラえもん、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:さっきゅんの魂と肉体を取り戻し、元の世界に持ち帰り蘇生させる
1:さっきゅんの肉体である小悪魔の遺体を探す
2:魔王はそういう名前だということでごまかす
3:ピッコロへの借りは、いずれ返す


【伊之助の日輪刀@鬼滅の刃】
嘴平伊之助の扱う二本の刀。
本人の手により意図的に刃こぼれさせられており、普段温厚な担当の刀鍛冶もそれを見た時は激怒した。

384 ◆OmtW54r7Tc:2023/09/30(土) 00:18:12 ID:7rXnyrhM0
投下終了です

385 ◆5IjCIYVjCc:2023/10/06(金) 00:35:42 ID:iwIphgWU0
北沢徹、ジョン・ジェームズ・ランボー、首領・クリークで予約します。

386 ◆vV5.jnbCYw:2023/10/06(金) 19:38:03 ID:pT9FBHYQ0
パーズ、リンク予約します。

387 ◆vV5.jnbCYw:2023/10/07(土) 00:03:40 ID:AdLHhXqU0
一度議論スレの方に投下します。

388 ◆0ZMfbjv7Xk:2023/10/07(土) 00:48:43 ID:HKs/rWjc0
皆様、お疲れ様です。

遅くなりましたが、 ◆N9lPCBhaHQ様、研の初リレーありがとうございました。
研についてコンペ時に、いきなり襲い掛かったり、末期癌等の厳しい条件で書いたので、書いた後に後悔しましたが、あのように綺麗にまとめて下さって、気恥ずかしい思いでした。

また◆5IjCIYVjCc様、>>312での感想ありがとうございました。
他の掲示場でもさり気なく入れた玉壺ネタに反応してくれる方がいて、嬉しかったです。

改めてメトロン星人で予約を入れたいと思います。
時間はかかると思いますが、よろしくお願いします。

389 ◆5IjCIYVjCc:2023/10/07(土) 01:35:42 ID:DwUQRP7o0
専用したらばや別所の方で質問があったので、そこから新たに本ロワにおいて支給禁止の品を追記しておきます。
・トットムジカの楽譜@ONE PIECE FILM RED

390譜面上のジグソーパズル ◆vV5.jnbCYw:2023/10/07(土) 10:22:44 ID:AdLHhXqU0
投下します。

391譜面上のジグソーパズル ◆vV5.jnbCYw:2023/10/07(土) 10:23:09 ID:AdLHhXqU0
パズーの知り合いは、敵1人しかいなかった。
恐らく優勝を企んでいるであろうムスカ大佐に、警戒心が募る。
その反面、シータやドーラがいないことには安堵を覚えた。
彼女らが肉体として利用されていることも無い。
なので、隣にいるパートナーにタブレットを見せることにした。


「なあ。君が知っている人はいたのか?」


リンクは覚束ない手で、画面をスクロールさせる。
言葉を話せぬ獣と言え度、元の魂は人間であるため、文字を読むことは可能だ。
人ならざる手でタッチされた名前は『チャット』。
彼の元パートナーであり、共にタルミナを冒険した仲間だ。


「仲間なのか?」


コクリと首を縦に振る。人の言葉も理解できる以上、はいかいいえで答えられる質問なら返答可能だ。
パズーもそれを分かった上でポケモンになった人間と接している。


「じゃあ、支給品を確認したらチャットを探すことにする。それでいいな?」


コクリと頷いたのを確認すると、パズーは支給品を確認し始めた。
次に出てきたのは、青い色をしたオカリナだった。
形状でそれが楽器だと分かったが、演奏できそうにないし、ましてや護身用にもなりそうにない。
彼は炭鉱の町で働いていた時、朝を告げるトランペットを吹いていたが、それとこれとは別だ。
外れの支給品かと落胆するが、その瞬間何かが風のような速さで動いた。


「うわ!!……なんだ。驚かさないでくれよ。」


電光石火の速さに驚くが、その正体が分かってしまえばさほど恐ろしいものではない。
リンクが凄い勢いで動いただけだ。その口にはオカリナが咥えられている。


「…まさか、元の身体の持ち物だったのか?」


目の前の相手が、人の物を急に強奪するような粗暴な性格の持ち主でない。
出会ってからさほど時間の経っていない関係だが、パズーはリンクをそう思っていた。
尤も、リンクは元の世界では人の部屋のツボを叩き割り、宝箱の中身を盗んでいたのだが、それはナシにしておこう。
何の変哲もないオカリナだと思っていたそれが、リンクにとって馴染みのある物だとすぐに判断した。

392譜面上のジグソーパズル ◆vV5.jnbCYw:2023/10/07(土) 10:23:42 ID:AdLHhXqU0
事実、そのオカリナはリンクの冒険のカギになったアイテム。
ハイラル王家に伝わる秘宝は、ハイラルでもタルミナでも幾度となく彼を助けた。
時を巻き戻し、時を重ね、時を遅め。時には逝けぬ者を浄化し、そして道を切り開いてきた。


オカリナの先端を口に付け、演奏しようとする。
だが、音が鳴るだけで、楽曲にはならない。
それもそのはず。その楽器は人のためにデザインされたものであって、ポケモンが演奏できるようにはなってない。


仕方がなく、パズーにオカリナを返すことにした。
その様子が落ち込んでいるのだと、ポケモンの言葉が分からない彼にも分かる。


「そうだ。さっきエンムって奴が、『ある施設で身体を取り替えることができるかもしれない』って言ってたよな?
そこで人の身体を貰ったらどうだ?」

パズーの言うことが妥当だ。
勿論、素直にポケモンの身体になってくれる人がいるのかという疑問もあるが、今はそれに期待するしかない。
まあ、世界にはポケモンどころか、生き物ですらないなんとかバニアの人形になりたい奴もいるそうだが。


続けてパズーが中から出したのは、一冊の本だった。
武器じゃなかったことに落胆するも、何かに使えるかもしれないと思い、タイトルに注目する。


「ウタの歌?何だこれ、ダジャレじゃないよな……。」

一体なぜこんなものが入っているのか。
疑問を感じながらも、中身を開いてみる。


「新時代……私は最強……逆光……。」


中身は楽譜だった。恐らくウタという者が歌っていた曲なのだろう。
そこで、パズーは思い出した。
ウタというのは、エンムという者の肉体の名前だったと。
同名の別人という可能性も無くは無いが、明らかに何か関わっていると考えるのが妥当だ。
殺し合いをするついでに、自分の元の肉体が作っていた歌でも貰っていけというのか。
あまりに馬鹿馬鹿しくて捨てた所、またもリンクが咥えて拾って来た。

「……必要ってことか?」


彼の表情からして、それを捨ててはならない物だと判断したのだと、パズーにも理解できた。


リンクがウタの楽譜を拾って来たのも、当然の話だ。
彼の冒険の中で、オカリナの奏でる曲は、常に活路を開いて来た。
目覚めのソナタ、ゴロンのララバイ、潮騒のボサノバ、抜け殻のエレジー。そして、月を止めるカギになった誓いの号令。
主催者にムジュラの仮面が関わっている以上、ここでも時のオカリナが、そしてこの楽譜が何等かの役に立つと考えた。

393譜面上のジグソーパズル ◆vV5.jnbCYw:2023/10/07(土) 10:25:09 ID:AdLHhXqU0
そして、パズーがもう1つ思い出したことがあった。
ウタの身体こそは現在エンムが持っているが、その魂はこの殺し合いのどこかにいることを。
誰の肉体の中にいるのかは不明だが、この楽譜、もしかすればこのオカリナとウタを会わせれば何かが起こるかもしれない。


(意外と、探さなければならない人は多いのかもしれないな……)


パズーには誰も知らぬことだが、ウタが求めていた少年の肉体を持った者が、彼女を探している。
この奇妙な縁は、偶然か必然か。



【B-2/早朝/1日目】

【パズー@天空の城ラピュタ】
[身体]:モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE
[状態]:健康
[装備]:ヒスイ地方のモンスターボール@ポケットモンスターシリーズ(Pokémon LEGENDS アルセウス)
[道具]:基本支給品 時のオカリナ@ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 ウタの歌の楽譜@ONE PIECE Film RED 
[思考・状況]基本方針:殺し合いには乗らない。
1:リンクと共にウタ、チャットを探す
2:この楽譜とオカリナ、主催者は何か関係あるのか?
3:ムスカには警戒。
4:ルフィという海賊は危険な人物じゃなかったことには安心。
[備考]
※本編終了後から参戦とします。
※ルフィの肉体の細かい参戦時期は後続の書き手にお任せしますが、少なくとも新世界編以後のものとします。
※ルフィのプロフィールにウタと幼馴染であるといった情報が書かれてません。


[意思持ち支給品状態表]
【リンク@ゼルダの伝説ムジュラの仮面】
[身体]:コリンク@ポケットモンスターシリーズ(Pokémon LEGENDS アルセウス)
[状態]:健康
[思考・状況]基本方針:ムジュラの仮面を倒すために月に行く
1:オレを出した、目の前にいる人物(パズー)と共に行動
2:オレが知っている、月やムジュラの仮面についての情報を伝えたい
[備考]
※ゲームクリア後からの参戦とします。
※コリンクとしての性別はオスとします。
※技構成などは後続の書き手にお任せします。


【支給品紹介】


【ウタの歌の楽譜集@ONE PIECE Film RED 】

パズーに支給された曲集。『新時代』を始めとする、ウタが作中で歌っていた7つの曲の楽譜が載っている。
なお、作詞作曲はどちらもウタということになっている。


【時のオカリナ@ゼルダの伝説 ムジュラの仮面】


ハイラル王家に伝わるオカリナ。リンクがハイラル王国を発つ際にゼルダから渡された。
特別な力を秘めており、然るべき場所で然るべき曲を奏でれば、何かが起こる。
名の通り、時間を操ることに――――――――――――――――――ちょっと待てよ!?









ボールの中で、リンクは思考する。
時のオカリナが、『本当にこの場で救いとなる道具なのか』ということだ。

394譜面上のジグソーパズル ◆vV5.jnbCYw:2023/10/07(土) 10:25:57 ID:AdLHhXqU0
仮に自分が人間の肉体を手に入る、あるいは他の方法でオカリナを吹けることになったとする。
そこで『時の唄』を奏でた場合、時間を巻き戻せるのかということだ。


その疑問を裏付ける根拠も、2つある。
当たり前の話だが、ムジュラの仮面を含めてタルミナのほとんどの存在が、時間が巻き戻されている話は知らない。
知っているのは自分とチャット、ついでに幸せのお面屋だけのはずだ。
だが、時の唄1つで殺し合いをリセットすることが出来るのは、いくら何でもムシが良すぎではないか。
エンムあたりがその対策をしていてもおかしくはない。


そして、2つ目の根拠は『時の唄』は、常に時間を巻き戻すために使われていた曲ではないということだ。
確かにリンクがハイラルにいた時から知っていた曲だが、タルミナに来るまではその使い道は違っていた。
ハイラルでは奏でても時間の巻き戻しは出来ず、トライフォースの紋様の付いたブロックを出したり消したりすることしか効力が無い。


恐らくタルミナではないこの場所で、オカリナを奏でても、そのままの力を発揮するのだろうか。


そしてもう一つ。これはリンクにも知らないことがある。


パズーに支給されていたウタの曲集。
確かにその楽譜に記されている歌を彼女が歌うことで、超常的な力を発揮できる。
そこに時のオカリナの力、そして現在の彼女に備わっているリグレットの力が合わされば、音楽の域を超えた何かが作曲されるだろう。
だが、それが必ずしも未来へつながるとは限らない。


何しろ、彼女は未来を作ることを拒絶し、自身が作る楽園の中で生きることが至上の幸福だと考えているからだ。
その意味ではリンクが奏でて来た曲とは、真逆の存在である。
この世界で彼女の歌が、楽曲が作るのは、救いか破滅か。



今言えることは1つ。ジグソーパズルを解いたからと言って、問題がすべて解決するわけではないことだ。

395譜面上のジグソーパズル ◆vV5.jnbCYw:2023/10/07(土) 10:26:07 ID:AdLHhXqU0
投下終了です。

396譜面上のジグソーパズル ◆vV5.jnbCYw:2023/10/07(土) 15:13:43 ID:AdLHhXqU0
訂正です。


時間帯
早朝→深夜

レス395


恐らくタルミナではないこの場所で、オカリナを奏でても、そのままの力を発揮するのだろうか。

修正後
リンクの推測は当たっていた。
時のオカリナはハイラルとタルミナ。2つの世界で彼を支えてきた。
だが一部の例外を除き、ハイラルで力を発揮した曲は、タルミナでは同じ力を出すことは無い。
そしてこの地は、タルミナでもハイラルでもない。
従って、時の唄を奏でることでどのようなことが起こるのかは不明だが、とりあえず時間を巻き戻すことは不可能である。

397 ◆5IjCIYVjCc:2023/10/14(土) 00:01:41 ID:ib0PoEDI0
予約にパズー、リンクを追加します。
また、予約を延長しておきます。

398 ◆ytUSxp038U:2023/10/14(土) 00:50:47 ID:PGQ2V2XI0
継国縁壱、ピッコロ大魔王、伊地知星歌、虹村億泰、少佐を予約します

399 ◆ytUSxp038U:2023/10/19(木) 22:55:22 ID:uPT7tr9E0
すみません、予約を破棄します

400 ◆0ZMfbjv7Xk:2023/10/20(金) 21:22:46 ID:nHBh0F9E0
間もなく締め切りの時間ですが、予約していたメトロン星人の延長をお願いします。

一キャラだけですが、時間がかかって申し訳ありません。

401 ◆5IjCIYVjCc:2023/10/25(水) 22:15:47 ID:vjURQFR.0
投下します。

402 ◆5IjCIYVjCc:2023/10/25(水) 22:17:46 ID:vjURQFR.0
時刻は、午前1時になる少し前のこと。
それは、雪に囲まれた村の中の道でのことだった。
雪が積もるその道路の上に、ポツンと一人の少女の遺体が横たわっていた。
遺体の胸から流れ出る血が、下にある白い雪を赤く染めていた。

その遺体に、一つの影が近付いてきていた。
それは、人の姿をしていなかった。
ピンク色の球体から、丸みを帯びた手足が生えたかのような存在だった。

その姿は、カービィという星の戦士のもの。
そして、その中に精神を移されたのは、北沢徹という男だ。

徹は、雪の上にある少女の遺体の側に来て、状態を確かめる。
そしてそれが確かに死んでいること、吸血鬼等ではなく人間のものであることを確認する。


(誰かは知らないが、可哀想に…)

遺体の状態は、とても酷いものであった。
胸には何か巨大な刃で刺されたような痕があり、そこで血を流す大きな傷が痛々しく見える。
顔はまるで何か恐ろしいものでも見たかのような表情で固まっていた。
自分の知る、吸血鬼やアマルガム等にでも出くわしたのだろうかとも感じた。

本来ならばとても可愛らしい顔をした少女だったろうに、それが大きく歪められたかのような感じがした。
もしかしたら、アイドルとかをやっていたかもしれない。
もちろん、ここにおいてはその中身は別人になっていただろうが、それでも憤りを感じずにはいられない。
支給品はどうもこの状況を作り出した下手人が持ち去ったらしく、プロフィールで身体としては何者のものかを確認することはできなかった。


また、この遺体はこのままここで放ってはおけないとも感じた。
弔いもせずに放置してしまうのはより可哀想だ。

だが、今の徹では身体の小ささでは、運ぼうとしてもどうしても引きずる形になる。
何でも入るらしきデイパックの中に死体を入れられないかとも思ったが、それは何故かできなかった。
入れようとしても、見えない何かに阻まれているかのようになった。
引きずる以外に手段があるとすれば、今の身体に備わった力である『吸い込み』により、口の中に入れて運ぶという方法も思い付く。
だが、人間の死体を口の中に入れて運ぶだなんて、流石にどうかとも思う。
人道的にも、衛生的にも、問題だらけだ。
どうしたものか、やはり引きずるしかないのかなんてことを考えていた。

そんな時だった。


「おい、そこの…」
『♪〜』

北沢徹の目の前に新たな人物が現れた。
それと同時に、二人の持つタブレットからアラームが鳴り響いた。




ランボーがそいつを見つけた時、彼はまたもや自分は幻覚を見てるのかと感じた。

ピンク色の球体の体を持つ謎の生物、それも大きさは僅か子供の足くらいのもの。
それが、この殺し合いの参加者の資格とも言えるデイパックを背負っている。
これを発見し、一目見ただけでは自分の目と頭の方を疑った。
あんな生物があり得るのか、内臓とかは一体どうなっているんだ、そんなことも思った。

ランボーが相手を見つけた時、相手は既に死体の側にいた。
一瞬あのピンク玉がやったのかとも思ったが、よく見てみれば武器も持ってないし返り血を浴びているわけではもなく、やっていることもただ死体の状態を調べているだけのように見えた。

よくよく考えてみれば、この殺し合いの環境においては相手の見た目なんて内面の判断材料にはならない。
少し様子を伺った感じだと、相手もこの場所にはたどり着いたばかりであり、死体を作り出した犯人に関する情報が何か無いかと探っているようだった。
これだけでは相手が殺し合いに乗っているかどうかの判断はつかないが、少なくとも完全に無視する訳にもいかない。
とりあえず、一応は警戒しておきながらランボーは接触を試みた。


そんなタイミングで、主催陣営からの連絡が始まった。
相手もまた、ランボーの存在に気付くこたになった。


結論から言えば、ランボーはそこまで警戒する必要はなかったのだ。





放送が始まった時、ピンク玉…北沢徹とはとりあえず互いに殺し合いには乗っていないことの意思表示を軽くしておいた。
お互い、疑問に思っていること等について詳しい話はまた後でということになった。

そして二人は、一応互いに警戒心は少し残したまま、放送に集中した。

放送で出た最重要な情報、この一時間の内に八人の死者が出たことについては二人とも当然良い思いは全くしない。
そもそもで言えば、犠牲者の一人の死体が目の前にある。

ランボーとしても、こんな年若い少女が犠牲になることは許容できることではない。
服装からして、本来は学生だったように見える。
この肉体の少女…島村卯月は、戦場とは本来は縁は無かっただろう。
本人の精神の行方は不明だが、肉体だけでも殺されたのは確かだ。
それは、本来の平和な人生を壊されたということだ。

403 ◆5IjCIYVjCc:2023/10/25(水) 22:19:21 ID:vjURQFR.0
なお、先ほどの放送で見せられた写真においては、その中身は一般人には明らかに見えない人物だった。
あんな黒ずくめの服装をした上に本来の顔が分かりにくくなるサングラス、どこぞのマフィアの人間かと感じた。
北沢徹も、その黒ずくめの男…ウォッカのことは見た目からは反社会的な人物かと思った。

まあだからと言って、死んでよかったと言う訳にもいかない。
見た目が怪しすぎても、絶対に悪人だったとも限らないからだ。
※悪人なら死んで良かったという話ではない。


まあそのことについてさらに言えば、八人の死者達の中には明らかに人間ではない者もいた。
北沢徹からしてみれば、玉壺と呼ばれた者などは吸血鬼共の仲間にしか見えなかった。

まあだからと言って、彼らから殺し合いに対する怒りが消えるわけではない。
もう一般人が巻き込まれているだろうこの状況は、許すわけにはいかないのだ。



「…俺のところは幸い、家族や知人が巻き込まれていることはなかった。そっちはどうだ?」
「………俺の直接の知り合いはいない。だが、俺の身体の嬢ちゃんの精神が参加者にいるらしい」



ランボーと徹は放送後、それぞれ名簿を確認した。
徹の方は、彼が危惧したような自身の家族が巻き込まれている自体にはなっていなかった。
だが、ランボーとしては心穏やかにはいられなくなるような情報があった。

ランボーは自分の今の身体であるポプ子の精神も、この殺し合いの場にいることを把握した。
ランボーはまだタブレットの扱いはたどたどしかったが、自分よりはこのような感じの機械類に慣れている徹と一緒に使いながら確認した。

「……俺は、この身体も返してやりたいと考えている」
「ああ、ならばそのためにさっきの放送で言ってた施設とやらも探す必要があるな」
「…あいつらの言う通りになるのは気に食わないがな」

プロフィールにはポプ子はどこにでもいる14歳の女子中学生とあった。
そんな少女本人がまさかこの異常な戦場にいるとは思ってなかった。
主催陣営に対する怒りの感情が増える同時に、ここにいるだろう彼女のことを助けてやりたいとも感じる。
そのためにもまず、彼女の状態を元に戻してやる必要があるかもしれないという考えが浮かぶ。

先ほど発表された死亡者の中には、元々人間だったけれども化物の身体で殺された者もいたようだった。
ポプ子もまた、そんな人外の身体になっている可能性は否定できない。
現に、ランボーの目の前にいる人物も元は人間だったようだが今は違う。
ごく普通の少女が似たような状況になったら、精神的にかなりキツいことになるだろう。
絶対に人外になっていると決まったわけではないが、何にせよ本来の身体があるのならば本人もきっと戻りたいと思うはずだろう。
だから、ランボーはポプ子にこの身体を返してやりたいと思った。
この時は、どんなものだろうが自分が今のポプ子の身体を押し付けられても構わないと、感じていた。





その後、ランボーと北沢徹は互いに名簿に直接の知り合いの名前は精神・身体共に存在しないことを確認した。

そして、二人は自己紹介を軽く行った。
当然、そこでお互いの持つ情報の齟齬に気付くことになる。


「吸血鬼の支配だと…?未来の日本(ジャパン)がそんなことに…?」
「ああ…そしてそれに対し国連軍は、吸血鬼を日本から出さないために、大量のミサイルで攻撃してきた。俺は本来、そのミサイルによって死んだはずだった」
「……っ」
「だからと言って、アメリカ人のあんたを恨む気はこれっぽっちもないさ。時代も違うから無関係だし、それに国連軍もあくまで人類のためにやったことだからな」

目の前の相手が実は死人だということにも驚かされたが、その他にもとんでもない話を聞かされた。
自国とは遠く離れた外国のこととはいえ、未来世界の惨状にランボーは絶句する。
まず第一に吸血鬼なんてものが存在していること事態が簡単には信じられない。
話を聞く限りだと、自分も経験したベトナム戦争の戦場並に酷い場所に日本はなってしまったようだった。

そして、未来の日本がそんな状況らしいという事は、今の自身の身体のポプ子も同じ場所から来たのではないかという考えも浮かぶ。
アジア系っぽいポプ子は、日本人である可能性もある。
ランボーはてっきり、ポプ子は何の変哲もない平和な学生生活を送っていたと思っていたが、場合によってはそうではないという可能性があるのではないかと思えてきた。

けれども、実際のところは直接会ってみないと分からない。
念のため、会えた時の心構えを変えておいた方が良いかもしれないことになっただけだ。

まだ簡易的に聞いただけだが、北沢徹の境遇については複雑な気持ちもある。
だが、今はそればかりを気にするわけにもいかない。

何故なら無視してはいけないようなものが、他に目の前にあるからだ。

404 ◆5IjCIYVjCc:2023/10/25(水) 22:20:32 ID:vjURQFR.0


「おい、キタザワと言ったか…お前、こいつには気づいたか?」
「ああ、分かっている。どこかに続いているな…。足跡の大きさからして、犯人も女性の肉体でいるのか?」

ランボーは死体の横の雪の上を懐中電灯で照らしながら指差す。
そこには、ピンク色の水滴が落ちたかのような痕跡があった。
その跡は、点々と死体から離れていくように続いていっていた。

また、その隣には足跡も残っていた。
大きさは子供のものよりは大きく、大人の男性のものよりは細めに見える。
そのため、大人の女性の肉体のものではないかと推測した。

「こいつを辿っていけば、犯人の所に行けるかもしれん。俺は行くつもりだが、お前はどうする?」
「もちろん、俺も行くさ。この人を殺した相手を、どうにかしないといけない」

色付きの水滴と足の跡は、ウォッカを殺害した下手人が残したものと考えられる。
何故にこんなものが残っているのかは二人には分からない。
もしかしたら、発見した者をどこかに誘き寄せるための罠として残したのかもしれない。
それでも、そう簡単に無視はできなかった。

死体の表情から、犯人は何か恐ろしいものかもしれないという考えも浮かぶ。
だからと言って、怖じ気づいてはいられない。
そもそも、ここにいる二人はこれっぽちもそんな感情は抱いていない。
他人(人)の身体を傷付けてしまうのではという心配は無いわけではないが、そういったことを一々気にして状況を悪化させたら本末転倒だ。

戦う覚悟は、既にできている。
ランボーと徹は一旦自分たちについての話を切り上げ、発見した死体を作り出した犯人を探すために移動を開始した。

死体自体は、残念ながら一度置いていくことになった。
ランボーの身体もどちらかといえば子供なこともあり、協力しても運ぶのは余計な時間がかかると判断された。
それよりは、まだ遠くには行ってないだろう犯人をどうにかする方を優先するべきだという話になった。

(またいつかここに戻って、ちゃんと弔おう)

徹はそんなことを考えながら、ランボーと共に雪道の上を歩いていった。




やがて二人は、ある建物の前にまで辿り着いた。

それは、木造のホテルだった。
入口の上には「ルテホ界世幌札」と、看板に書かれていた。
こうなっているのは、この建物が日本の明治時代のもので、右から左に向かって読む形で書かれているためだ。
この建物は、地図上においては「札幌世界ホテル」と表示されているものだった。

ピンク色の水滴の跡は、そのホテルの入口にまで続いていた。
犯人は、この建物内に入っている可能性が高そうだった。

「……準備はいいか?」
「…いや、ちょっと待ってくれ。試したいことがある」

ランボーが突入の合図を出そうとした時、徹は一旦それを止めた。
そして、自身のデイパックをひっくり返し、中からあるものを出した。

出てきたのは、巨大な氷のキューブだった。

「…デイパックにはこんなものまで入るのか。これをどうするつもりだ?」
「こうするんだ」

徹はカービィとしての身体で大きく口を開き、『すいこみ』をした。
氷は口の中に吸い込まれ、徹はそれを頬張った後に飲み込んだ。

すると、徹の姿に変化が現れる。

まず、ピンクの体色が青・水色に変わる。
そして、頭にはクリスタルのような形の氷が付いた帽子が被らされる。

これぞ、カービィが氷の力をコピーした姿、アイスカービィだ。


「良かった、上手くいったか。これで俺は、氷の力を使えるようになったらしい」

徹は念のため、カービィが持つコピー能力を使用しておこうと考えた。
そのままでもカービィはある程度戦えるらしいが、まあやっておいて損は無いだろうと判断した。


「この状態は俺がダメージを受けると解除されるらしい。だが、さっきの氷はあと二つある。必要な時はそれを使う」

徹に支給された氷は合計三つだった。


実は、この氷は本当はかなり不可解な品でもあった。

今回はカービィのコピー能力に利用させてもらったこの氷だが、本来の効果は「持った人の髪を水色に変える」らしいのだ。
しかも持とうとすると何故だが、手のひらサイズに小さくなるらしい。
徹としては正直なところ、この辺りは説明書を読んでもよく分からなかった。
氷は元々ある列車の中にあったものらしいが、何でこんな効果のあるものになったのかは分からない。

けれども氷であることは確かなようなので、とりあえずその性質をコピーできるかどうかは試してみようと考えた。
その結果は一応、成功のようだった。
カービィは本来、特殊な敵対生命体を飲み込むことや、「コピーのもと」などと呼ばれる物体を使うことでコピー能力を発動する。
だがここにあった変な氷も一応コピーには使えるもののようだった。

405 ◆5IjCIYVjCc:2023/10/25(水) 22:21:55 ID:vjURQFR.0
「よし、それじゃあ今度こそ入ろう」
「ああ…気を引き締めておけ。あと、もしやばそうならすぐに撤退するぞ」
「ああ、分かった」

徹がアイスカービィへの変身を完了した後、二人は再びホテルの出入口扉に向き直る。
そして、緊張感を持ちながらその扉を開けて中に入っていった。





ホテルの中に入った後も、追跡するのは容易だった。
ピンク色の水滴の跡は、室内でも続いていた。
ランボーと徹はその水滴の跡も辿っていく。


「……何だかここ、妙に入り組んでいないか?」
「…確かに、そんな感じがするな。下手すれば迷いそうだ」

ホテル内の構造に二人は少し違和感を抱く。
ここは一応ホテルであるはずなのに、客に何か優しくないような造りをしているように感じた。


違和感を抱きながらも、二人は水滴の跡を追っていった。


そしてやがて、一つの部屋の前にまで辿り着いた。
その部屋にはドアが付けられていた。
しかしそれは、半開きの状態にあった。

「……おい、隠れながら確認するぞ」
「分かった」

二人はドアに身を潜めながら、部屋の中を確認しようとした。
おそらくこの中にいるであろう、殺人者に見つからずに相手の姿・状態を把握するために。


そして確かに、二人が探していた人物はそこにいた。




「「…………!?!?」




ランボーと徹の二人は、前にそいつを見たウォッカと同じく、それを見た瞬間思考が停止した。

そして二人にとっては知らぬことではあったが、それはウォッカが目撃した時よりは少しだけ前と変わっている所もあった。


ほとんど布を巻き付けているだけな、異常で卑猥過ぎる服を着た豊満な胸の女だ。

丸出しの乳房には、搾乳機のようなものが取り付けられている。

背中からは、二対で計四本の人造アームが出現している。
生身のものを含めれば、計六本とまさに阿修羅を彷彿とさせる数の腕を持つこととなる。


それらの内、生身の方の腕の一つには、血の付いた大剣が握られている。
これはランボーと徹は知らないことだが、以前はその剣は複数の腕でようやく持てたはずの剣だった。
それを今は、片手で軽々と持っていた。

もう片方の生身の腕には、これまた別な剣が握られていた。
それは何故だか、「♀」のマークを剣の形にしたような代物だった。

背中にある人造アームには、一つにはピンク色の液体の入った哺乳瓶が、それと対になる位置のものにはまるでタイヤのようなものが付いた白い銃が握られていた。
残る二本のアームには、どちらも黒い布団叩きが握られていた。

背中側からは、アームの他にも何かのチューブが二本繋がっていた。
一本は、先述の哺乳瓶に繋がっている。
もう一本は、重力に従って垂れ下がっており、その先には割れた哺乳瓶のようなものに繋がっている。
その割れた瓶からは、ピンク色の水滴がポタポタと落ちている。
ランボーと徹をここまで導いた水滴の跡は、それによってできたもののようだった。


女の目からは、数刻前と同じく血涙が流れている。
だが、それだけではない。
目の周りには、ひび割れのような線も走っていた。


そして、女のほぼ素肌を晒しているその肉体には、大量の血が付着していた。
女の肉体に傷は見当たらない。
その血はどう見ても、返り血としか思えないようなものだった。

それが、この場における首領・クリークの今の姿であった。

406 ◆5IjCIYVjCc:2023/10/25(水) 22:26:18 ID:vjURQFR.0



「………あれは絶対ヤバい、ここを離れるぞ!」
「あ、ああ…そうだ。ここは撤た


「! ア゛ア゛アアアアァァッ!!!」


ランボーと徹の意思が一致した瞬間、クリークが叫んだ。
二人は小声で会話していたが、動揺したことにより隠していた気配がブレてしまった。
それを、クリークに気付かれてしまった。

「俺はあぁ!!最強だあああァぁ!!!」


クリークは部屋の中で、左手に持った♀型の剣を出入口の方に向けて振るった。
すると、その剣の刃が急速に伸びていった。


「なっ!?『ドス』ガハッ……!!」

刃は、ただ真っ直ぐに伸びただけではなかった。
ドアの近くに差し掛かった時、刃が曲がった。
それにより半開きのドアから出た刃は、普通なら当たるはずのない、外側のドアに沿ってに身を潜めていたランボーに当たった。

この攻撃は、流石のランボーも予測することはできなかった。
不意を打たれる形になった。
曲がった刃は、ランボーの喉の辺りに突き刺さった。
その後、刃は収縮して元の場所・長さに戻っていった。


「お、おい!大丈夫か!?」

「ゲホッ、ゲホッ!あ、ああ…問題な…………は?」

鋭い刃で貫かれたはずにも関わらず、ランボーの喉から血が流れることはなかった。
傷一つも、ついていなかった。

けれども、完全に無事というわけでもなかった。
自分の身体に起きた変化に、ランボーは気付いた。
そしてそれは、徹にもすぐに分かるものでもあった。

「ラ、ランボー…その声は…」

「……嘘だろ」

ランボーの声は、ポプ子の肉体の少女の声から、男の声に変わっていた。
もう一度発声してみて、それが事実であることを再確認してしまった。


具体的に言えば、CV:花○香菜から、CV:山○勝平に変わってしまっていた。


変化が起きているのは、声だけではなかった。
本来は女性には無いはずの喉仏が出現していた。
股間からも、『アレ』が生えていた。

ポプ子としての肉体は、男体化してしまっていた。


今、ランボーに突き刺ささった剣は『魔剣バルムンク』。
『ニーベルンゲンの歌』に登場する伝説上の剣と名は同じだが、一応は別物だ。
この剣は、斬りつけた者に肉体を男にする呪いをかけてしまう。
しかも、これは剣であるはずなのにとても柔軟で、まるでゴムのように伸び縮みもする。
ランボーはそれにより不意を打たれ、呪いにかかってしまった。

なお、ここにおいては見た目の変化はほとんどなかった。
ずんぐりむっくりな、そのどこかムカつきを感じるポプ子としての外観に変わりはなかった。

407 ◆5IjCIYVjCc:2023/10/25(水) 22:29:04 ID:vjURQFR.0
そして、二人はここで、このことに一々驚いている暇もなかった。

「オオオオオオオォォォッ!!!」

クリークが部屋の中からずぎゅんどぎゅんと弾丸のように走り出す。


「こっちだ!」
「クッ!」

混沌としてきたこの状況の中、まだ混乱はしているもののランボーと徹は来た道筋を戻ろうとする。
ここで、徹はランボーの手をとってそれを引きながら進み始める。
アイスカービィの力で、廊下の上に薄い氷を張りながら滑走する。
これにより、普通に走るよりも少し速い速度で移動できるようになった。

「ガアアアアアァッ!!!」


二人が身を潜めていたドアから離れた直後、そこにクリークが突っ込んでくる。
持っていた大剣が、ほんの一瞬前まで二人のいた場所を破壊しながら通り過ぎる。
そしてクリーク自身は走り出す時に急につけた勢いが余って、部屋から出た後にちゃんと曲がり切れず、向こう側にあった壁に激突する。
壁に穴を開け、クリークはその中に転がり込んだ。


「俺ニ逆らウナアあアァァ!!!」

穴の中に倒れ込んだ状態になっても、クリークの攻撃は止まらない。
人造アームの一つが持っている、哺乳瓶の先端を二人に向けて中の液体…おりこうミルクを勢いよく発射した。

「ハーッ!」

それに気付き、対処するため徹が一旦止まりクリークの方に向き直る。
そして口を大きく開き、アイスの力で冷気の息を吐いた。
これは、アイスカービィが持つ「こちこちといき」と呼ばれる技だ。

その冷気により、向かってきたおりこうミルクが空中で凍らされる。
放出された息の押し返す力により、凍ったミルクの勢いも削がれる。
棒状に凍ったおりこうミルクは、二人の前に重力に従いながら落下し、砕かれた。


「アア゛アアァ!!」

今度は、これまた人造アームの一つが持つ小さなタイヤの付いた銃…ゼンリンシューターの銃口が二人に向けられる。
アームの指は、その銃の引き金にかかっていた。

『ヒュンッ』『カンッ』
「うアア゛アァッ!?」

それに対し、ランボー弓を引いてが矢を放った。
矢はゼンリンシューターの側面部分に当たった。
それにより、銃口の角度が変わり誰もいない方向にエネルギー弾が発射された。
エネルギー弾は壁に当たり、そこに小さな穴を作るだけの結果に終わる。


『ヒュンッ』

そしてランボーは、続け様に二本目の矢を放った。
その矢が向かう先は、クリークの眉間だ。

ランボーは、相手を殺すつもりで矢を放った。

自分たちを今襲ってきている相手は、どうも正気を失っているようだった。
言動もそうだし、何よりあんな売春婦でも着ないような常軌を逸した格好で暴れるだなんて、絶対にまともな頭でできる訳がない。
そもそもこんな雪に囲まれた建物の中、室内が暖められている訳でもないのにあんな格好で寒くないのかとも思う。
おそらくはあの格好のまま外を歩いていたであろうことも、正気じゃない・狂っていると感じる。
人外の肉体になっている北沢徹を差し置いて、この戦場に来てから最も幻覚・悪夢みたいな存在だとも思う。

しかも、意図的にやったかどうかも分からないが、人の肉体的性別を変えるだなんて能力まで見せてきた。
何のためにやったかなんて、その理由は全く思い付かない。
がむしゃらに支給された武器を振るったらたまたまこうなったとしか考えられない。
相手のやっていることは、無茶苦茶としか言いようがなかった。

交渉等も全くできそうにない。
この異常な戦場において、こんな存在はできる時に始末する他ない。
同行者に無断でやるのはどうなのだとか、身体側の女に悪いだとか、そんなことを気にしている暇もない。
下手をすればこちらがやられる。
これまで経験した戦場によって染み付いた感覚も、こうするべきだと判断していた。

自身が持つ弓矢の威力は既に確認済み。
そして、ランボーのいる場所から相手までの距離は、そこまで遠い訳でもない。
ほとんど咄嗟のことだったが、狙いを付けるのはランボーには簡単なことだ。
これらの条件から自分が放つ矢は、眉間から頭蓋骨を貫通して相手の脳に刺さり、死に至らしめることは可能だと判断した。

そして、本来ならばその通りのはずであった。




『ガンッ』
「くあっ……!」

「は?」

ランボーの放った矢は、確かに相手の眉間に命中した。
だが、そこに突き刺さることはなかった。
それどころか、傷一つも付けられなかった。
まるで、鋼鉄の板にでもぶつかったかのように弾かれてしまっていた。



408 ◆5IjCIYVjCc:2023/10/25(水) 22:30:36 ID:vjURQFR.0
『天国への回数券(ヘブンズ・クーポン)』と名付けられた麻薬(ヤク)がある。
これは、麻薬汁(ヤクじる)に紙を漬け込むことで生産され、その名の通り回数券(クーポン)の要領で一枚ずつ千切り取って使用するものだ。
これの効能は凄まじく、とてつもない快楽と依存性を引き起こす。

そんな天国への回数券(ヘブンズ・クーポン)を『改悪』した『地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)』というものもある。
これは、快楽よりも肉体の強化に重きを置いた薬物だ。
口に含んで服用(キメ)れば、ただ身体能力が上がるだけでなく、傷の再生能力、爆発にも耐えうる頑強な防御力等が得られ、感性も増幅され研ぎ澄まされる。
これの効果もまた凄まじく、たとえ鼠だろうと一片でも与えれば熊を倒す程の力を与えてしまう。
また他にも、目の周りにひび割れのような血走りが生じるという効果も出る。


そしてここにおいて、首領・クリークはこの『地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)』を服用(キメ)ていた。
これは元々はウォッカに支給されていた品であったが、クリークは奪ったデイパックの中からこれを見つけてしまっていた。

これにより、クリークのアイゼンとしての肉体は大幅に強化された。
ダ・イルオーマの大剣を片手で振り回せるようになっていたのもこのためだ。
矢が刺さらなかったのも、麻薬(ヤク)の効果で表皮が硬化されていたからだ。


本来の肉体でのクリークは、1tにもなる大戦槍という槍を扱える程の怪力を誇っていた。
しかしアイゼンの肉体ではいくらリビドークロスの力を纏っていても流石にそこまでの力は発揮できなかった。
だが、今は麻薬(ヤク)を服用(キメ)ている。
これにより増幅された力は、もしかしたら本来のクリークのものを超えているかもしれない。
今のクリークはまさに、クリークを超えたスーパークリ『言論弾圧』!

…まあ、とにもかくにも、今のクリークはかなり強化された状態にあるという訳であった。




「くっ!」
『キンッ』
「なっ!?」

ランボーは、今度はクリークの目の方に向かって矢を放った。
しかし、それも効かない。
目を閉じている瞼の皮膚も、地獄への回数券の効果で硬化されていて、それに弾かれた。

それでも、顔面に矢が勢いよく当たったことにより、クリークは少しのけ反る形になる。
しかしそれも、すぐに顔を上げた状態に戻る。

「俺ニ……甘エろおォ!!」
『バキッ』

リビドークロスとそれに付随する共振石の影響で、本来クリークになかったはずの母性欲が増幅される。
それと元々ここに来る直前にも暴走していた影響により、クリークの精神は滅茶苦茶に変容させられ、彼自身も自分が何を言っているのかも全く分からなくなる。
そんな状態のまま、再び彼は床を強く踏み込みながら駆け出して襲いかかろうとする。


「ハーッ!ハアーッ!!」
『カチン』
「グッ…!」

これに対抗できたのは徹の方だ。
前と同じくアイスカービィの氷の吐息、こちこちといきをクリークの全身にかかるように吹き掛けた。
結果、クリークは全身を氷漬けにされた。


「うおオおおォっ!!!」

しかし、クリークはそれを打ち破った。
全身を強引に動かしたことで、身体の周りの氷は砕かれた。
10秒くらいは止められたが、すぐに動きだされてしまった。

氷の拘束から逃れたクリークは、そのまま再び走り出す。

「がアアアああァ!!」

クリークは新たな攻撃を仕掛ける。
それは、これまでのような6本の腕に持った武器を使うものではなかった。
狙うは先ほど自分を凍らせてきた相手、徹だ。

そして今の徹は小さいカービィの肉体。
そんな相手を攻撃するために最も手っ取り早い武器、それは足だ。
クリークは、徹に向かって、まるでサッカーボール相手に行うような感じの蹴りを放った。

「くっ!」

それに対し徹は咄嗟に自身の身体全体に氷を纏って防御体勢になった。
これもアイスカービィの技、「こちこちガード」と呼ばれるものだ。

「うわああっ!?」

しかしそれもまた、麻薬(ヤク)で強化された肉体相手には敵わなかった。
自身に纏った氷も砕かれ、徹は後方へと蹴り飛ばされた。
吹っ飛んだ徹は壁へと叩き付けられた。
それどころか、壁には穴が空き、徹はその内側へと落ちていった。

けれどもこれは、致命的なダメージにはならなかった。
氷のガードは、徹本体に届く衝撃をある程度は和らげてくれた。
それでも、全くの無傷ではない。
ダメージを受けた結果、徹のコピーは解除されていた。

アイスのコピー能力は、能力星の結晶となって徹の肉体から排出された。
徹は、元のピンクの素のカービィの姿に戻っていた。
能力星は壁の穴の中から出てきて、廊下の床の上を跳ねながら離れた場所へと行ってしまった。
そして能力星は、短い時間でいずれ消えてしまうものだ。

「キタザワ!」
「ぐっ…」

409 ◆5IjCIYVjCc:2023/10/25(水) 22:32:48 ID:vjURQFR.0
ランボーが声をかけるが、徹はそれに応えられない。
壁の内側に隠れ、姿も見えなく、苦痛に悶える声が聞こえるだけだった。



「躾ダあアあぁぁっ!!」

(!しまっ…)


クリークの攻撃は止まらない。
手に持った大剣をランボーに向かって振り下ろそうとしていた。

そしてランボーはそれに対抗することはできなかった。
咄嗟に弓矢を構えようとしたが、それも間に合いそうになかった。
相手の、強化された肉体から繰り出されるスピードについていけなかった。


大剣が今すぐにでもランボーの頭に届きそうになった、その時だった。


「うおっ!?」

ランボーの背中が誰かの手に掴まれ、後ろに向かって強い力で引き寄せられた。
後方に移動させられたことで、先ほどまでランボーがいた場所の床の上に、大剣が叩きつけられた。
大剣が切り裂けたのは、床だけだった。


「君、大じょ…………何だアレ!?」

ランボーの後方から初めて聞く声がした。
その声の主が今ランボーを助けたようだった。

ただ、その相手はランボーのことを心配しようとしたが、その前にクリークの姿に驚く反応をしてしまっていた。

そんな声を聞いてから、ランボーは後方を振り向いて自分を片手で掴んでいる相手の姿を確認する。
そこにいたのは、赤い服に麦わら帽子を被った青年だ。
そしてその隣には、水色の毛並みを持つ猫並みのサイズの動物がいた。





パズーとリンクは支給品の確認を終えた後、自分たちがいたB-2の村の中に移動しそこの探索を行っていた。
ウタやチャット、その他に誰か協力関係を結べる人がいないかということを期待してのことだった。

しかし、彼らがそこで発見することになったのは、一つの死体だった。
見つけた時は驚いてしまったが、やがて人の痕跡が残っていることにも気づいた。


ピンク色の水滴の跡と足跡が死体横の雪の上にあった。
パズーとリンクも、死体は一旦そこに置いたままにして、痕跡を辿っていった。
足跡が複数人分あることから、もしかしたら自分達以外に先に発見・犯人の追跡をしている人がいるかもしれないことを考えた。
それがどんな人物達かの確認のためにも、二人もそこから追跡を始めた。

結果、パズーとリンクも札幌世界ホテルに辿り着いた。
彼らもホテル内に入り探索を開始しようとしたが、すぐ異常に気付くことになった。
建物内から、大きな音や人の叫ぶ声が聞こえて来た。


それらが聞こえて来た方に向かってみれば、そこでは一人の少女?が今にも大剣で斬られそうになっている場面があった。
大剣を振り下ろそうとしている相手が何者かを確認する暇もなく、パズーは殺されそうになっている相手に向かって手を伸ばした。
ゴムの肉体のおかげで、少し離れた位置からでも腕を伸ばして届かせることができた。
それに、ゴムの縮む性質のおかげで掴んだ相手を自分達のいる所に素早く引き寄せることができた。

そうしてその人…ランボーを助けられたことに安堵したのも束の間、今彼を襲っていた相手…クリークをパズーはしっかり視界に入れてしまった。
その異常な姿を見たことで、ランボーにちゃんと話しかける前に驚きの声を上げてしまった。


そして場面は、今に戻る。




「……………ア?」

この状況で、驚かされているのは何もランボーやパズー達だけではなかった。
クリークもまた、その場で呆然とした状態になっていた。

聞き覚えのある声に反応して、閉じていた目が見開かれた。
そうして見た、今この場に現れた者の顔に、覚えがあった。
それは、この舞台に来る直前、自分を頭から船の甲板に叩きつけた相手。
自分を、倒した男。

『ズキン』

「グッ…イ……ア゛ア゛ア゛ア゛ァァッ!!!」

「…?」
「な、何?どうしたんだ!?」

クリークは突如頭を抱えて苦しみだした。
これまで正気を失っていた彼に、敗北の記憶が脳を痛めつける。

そうなっていることを知る由もないランボー達は、急に苦しみ始めたことに対し困惑の反応しか出せない。

「オ、レ……俺は…!」

蘇っていく記憶が、クリークの狂っていた頭に自身が何者であるかを分からせてくる。

410 ◆5IjCIYVjCc:2023/10/25(水) 22:35:58 ID:vjURQFR.0
「麦わら、小僧ォ……ウアアアアアアアアァァッ!!!!」

苦しみながらも、クリークは再び襲いかかろうとする。
もう一度両手に剣を持って、ランボー達の方に向かおうとする。


「リンク、頼む!」
「!」

相手が何故かいきなり苦しみ出したことには驚かされた。
だが、再び襲いかかってくるなら対抗はする。

パズーは、それをリンクに任せた。
リンク自身も、その言葉に応えた。

相手は大量の武器を持っており、素手のパズーでは対処は難しい。
そして、リンクならばこれをどうにかできると判断した。
そのための手段を、リンクは持っていた。

「リュン!」
『バチッ!』
「ぐああああっ!?」

リンクはコリンクとして持つ技、でんきショックを放った。
電気ならば、相手が肉体を頑強にしていようと内側に効果が出る。
もっとも、パズーはそこまで分かっていてリンクに託した訳ではなかったが。

離れた位置から電気を浴びせられたクリークは、その場で麻痺になって動きを止められた。

「ギ、イイイイイィィ…!」

それでもクリークは身体を無理矢理動かそうと振るわせる。

「リィン!」
「グッ…」

そこにリンクが追撃を加える。
コリンクとしての技、「でんこうせっか」を繰り出した。

頑強になっている肉体相手には、でんこうせっかの物理的なダメージは通りにくい。
けれどもそもそもで言えば、でんこうせっかは威力よりもスピードに重きを置いた技だ。
それにより、クリークの麻痺が消える前にこの技を当てることができた。

リンクのでんこうせっかによる体当たり攻撃は、クリークの腹の辺りに当たった。
その結果、肉体へのダメージはなくとも、クリークは体勢を崩した。
クリークは今、リビドークロスのアームも使いながらたくさんの武器を持っている。
そのため、クリークは上半身がそれなりに重くなっている。
それに対し下半身はほとんど何も付けてない。
つまり元々、体幹バランスは通常よりも悪くなっていたのだ。
こうなったのは、電気による麻痺で体を思うように動かしにくかったこともあるだろう。

体勢を崩したクリークは、後方に向かって尻餅をつくように倒れ込んでいった。
そのまま床の上に、武装の分も含めて重くなった身体が叩き付けられた。




『バキッ!』
「ア゛ッ!?」

クリークの身体が倒れ込んだその時、その下にあった床が壊れた。
しかしただ、壊れただけではなかった。
その床には、大きな穴が開いた。
底が見えないほどの、深い穴が。



「あ゛ああァァー………………………」

クリークはその穴の中に、装備を壁に擦り付けながら、落下していった。



札幌世界ホテルは、普通のホテルではない。
網走監獄を脱獄した、金塊の在りかを示す刺青持ちの24人の囚人の一人、家永カノ(本名:家永親宣)が自らの目的のためにあらゆるところを改造した殺人ホテルだ。
そうして作られた罠の中に、落とし穴も存在した。
これは、レバースイッチを1つ引くだけで、床が開いてそこに立っていた者を下に落とすことができる仕掛けだ。

クリークは先ほど、その穴が下にある床を走るために強く踏み込んだ。
それにより、その部分の床が少し壊れた。
けれども、その時はまだ完全には穴は開かなかった。
だがそうだとしても、これによりその床は脆くなってしまっていた。

そして今、クリークはリンクの攻撃によりバランスを崩して後方に追いやられ、尻からどかりと座り込むように倒れた。
その倒れた場所も、その穴のある床だった。
結果、尻から全重量がかかったことで床が完全に壊され、隠されていた穴が開いてしまった。

クリークは重力に従って、そのままその穴の中の暗闇に消えていった。

411 ◆5IjCIYVjCc:2023/10/25(水) 22:37:56 ID:vjURQFR.0
◇◇◇◇

「あ痛た………あれ?さっきの変態女は?それに、その人は?」
「……あの女は、穴に落ちた。こいつは、俺を助けた」
「何だって?」
「え?その声…」

壁の中から、北沢徹がようやく出てきた。
壁の穴から這い出てきた徹は、状況をパッと見て、そこから生じる疑問点を述べた。
それに対してランボーは答えるが、彼の少女の姿から発声された『男性』の声に、今度はパズーが疑問を呈した。
それに、パズーからしてみれば壁の中から出てきたピンク色の球体の生命体も不可思議な存在だった。

また、パズーとしてはさっきの変態女…クリークが自分の顔を見て何か反応しているようだったことも気になっていた。
麦わら小僧と呼んでいたから、もしかしたらルフィのことを知っていたのかもしれない。
けれども、他に情報整理しなければならないこともあって、その話をすぐに切り出すことはできなかった。



先ほどまで戦っていた相手が、突如床に開いた穴の中に落ちて消えるだなんて結末は、彼らには予想がつかなかった。
その上、ランボー達とパズー達も初対面であり、お互いのことは全く知らない。
パズーはとりあえず状況から咄嗟にランボー達の手助けをしたが、信頼できるかどうかも本当はお互いにまだ不明な段階だ。
このままここではまともに話し合うことなんてできない。
その結論には、ここにいる全員が到達していた。

「とりあえず、話はこの建物から出てからにしよう。ここはどうも、やはり何かおかしい」

この提案は徹が先に出した。
徹は、先ほど壁の中に叩き込まれた際、奇妙なことに気付いた。
それは、客も通る廊下等では決してない、隠し通路のようなものが壁の中にあったのだ。
何故こんな通路があるのかといった点については不可解だったが、先ほどまで戦闘中だったこともあり気にしている暇はなかった。
けれども外に出てみれば、今度は突如開いた穴に先ほどまで自分たちを襲っていた相手が落ちたという。
ホテルの構造はやはり普通ではない、こんな場所で落ち着いて話し合うことなんてできない。

他の者達もそのことを分かってきており、提案にはすぐに乗った。

4人は、今回様々なことがあって疲れを感じながらも、外に出るために一緒に歩き出した。


【B-2 札幌世界ホテル/黎明/一日目】

【ジョン・ジェームズ・ランボー@ランボー】
[身体]:ポプ子@ポプテピピック
[状態]:男体化の呪い、疲労(小)
[装備]:勇者の弓(矢立、予備矢多数含む)@ゼルダの伝説 ムジュラの仮面
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2(ランボーから見て武器ではない)
[思考・状況]基本方針:生き残る
1:このホテル内から外に出て、北沢徹やさっき自分を助けた青年(パズー)と話をする。
2:他にも脱出プラン等の情報提供者、協力者になれそうな者を探す。
3:さっきの変態女(クリーク)はどうなったのか。転落死してくれていたらもう余計なことを考えずに済みそうだが。
4:こんな身体になったこと、嬢ちゃん本人に何て言えばいいんだ
[備考]
※参戦時期はラストシーン、トラウトマン大佐に連れられ逮捕された直後です。
※ポプ子のCVは元は花澤○菜でした。
※現在、男体化の呪いの影響でCVが山口○平になっています。外見の変化はほとんどないものとしておきます。
※服装はポプ子の着てるセーラ服です。クソダサくはないです。海兵スタイルのランボーだってありだろゥァア゛―ッ!!


【北沢徹@彼岸島 48日後…】
[身体]:カービィ@星のカービィシリーズ
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:
[道具]:基本支給品、フィレンツェ行き超特急内の氷×2@―パッショーネ24時―、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:殺し合いを打破する。
1:このホテルから外に出て、ランボーや青年(パズー)と話をする。
2:他にも殺し合いに乗っていない参加者と合流したい。
3:殺し合いに乗っている参加者は止める。
4:さっきの変態女(クリーク)はどうなったのか…
5:島村卯月と呼ばれた少女の身体の遺体を埋葬してあげたい。
[備考]
※参戦時期は死亡後です。

※ダメージを受けたことにより飛び出したアイスの能力星は、時間経過により消滅しました。

412 ◆5IjCIYVjCc:2023/10/25(水) 22:39:25 ID:vjURQFR.0
【パズー@天空の城ラピュタ】
[身体]:モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE
[状態]:健康
[装備]:ヒスイ地方のモンスターボール@ポケットモンスターシリーズ(Pokémon LEGENDS アルセウス)
[道具]:基本支給品 時のオカリナ@ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 ウタの歌の楽譜@ONE PIECE Film RED 
[思考・状況]基本方針:殺し合いには乗らない。
1:ホテルの外に出てこの人達(ランボー、北沢徹)と話をする。
2:リンクと共にウタ、チャットを探す
3:この楽譜とオカリナ、主催者は何か関係あるのか?
4:ムスカには警戒。
5:ルフィという海賊は危険な人物じゃなかったことには安心。
6:さっきの女の人(クリーク)は何だったんだ?殺し合いに乗っているみたいだったが…
7:さっきの女の人(クリーク)、反応からしてルフィを知っていたのか?
[備考]
※本編終了後から参戦とします。
※ルフィの肉体の細かい参戦時期は後続の書き手にお任せしますが、少なくとも新世界編以後のものとします。
※ルフィのプロフィールにウタと幼馴染であるといった情報が書かれてません。


[意思持ち支給品状態表]
【リンク@ゼルダの伝説ムジュラの仮面】
[身体]:コリンク@ポケットモンスターシリーズ(Pokémon LEGENDS アルセウス)
[状態]:健康
[思考・状況]基本方針:ムジュラの仮面を倒すために月に行く
1:オレを出した、目の前にいる人物(パズー)と共に行動
2:オレが知っている、月やムジュラの仮面についての情報を伝えたい
3:さっきの女の人(クリーク)は何だったんだ?
[備考]
※ゲームクリア後からの参戦とします。
※コリンクとしての性別はオスとします。
※現在判明している使える技は、「でんきショック」、「でんこうせっか」の二つです。
※他の技構成などは後続の書き手にお任せします。





家永カノが仕掛けた落とし穴の罠、その暗闇の中に落ちた首領・クリークは、まだ生きていた。
穴の底には、網状のハンモックのようなものが用意されており、それがクッションとなっていた。
これも元々、家永カノが用意したものだ。
落とし穴の先にあるものは拷問部屋であり、そこで拷問できるようにするために、落とした者を生かせるようにできていた。

「おレ…俺は…」

ハンモックからずり落ちた後、クリークは虚ろな目をして頭を手で押さえながら立ち上がる。
でんきショックによる麻痺はもう消えていた。

先ほどの出会いは、錯乱状態にあったクリークの精神に影響を与えていた。
自分を倒した男のことの記憶が、彼自身に自分が何者であったかを少しずつ思い出せてきていた。
この殺し合いで最初からあった大きな怒りの感情が、一周回って彼の中に冷静さを取り戻してきていた。

彼の中にあった狂気は、少しだけだが確かに鳴りを潜め始めてきていた。


【B-2 札幌世界ホテル 秘密の拷問部屋/黎明/一日目】

【首領・クリーク@ONE PIECE】
[身体]:アイゼン・ホノカ@淫獄団地
[状態]:狂乱、頭痛、記憶と理性が少しだけ回復、返り血を浴びている、地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)による肉体強化
[装備]:プレミアムリビドークロスGreat mother@淫獄団地、ダ・イルオーマの大剣@ゼルダの伝説スカイウォードソード、ゼンリンシューター@仮面ライダードライブ、魔剣バルムンク@ローゼンガーテン・サーガ、地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)(1枚分)@忍者と極道
[道具]:基本支給品、地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)(残り4枚分)@忍者と極道、ランダム支給品0〜1(ウォッカの分)
[思考・状況]基本方針:俺は最強だ!!!
1:俺は…
[備考]
※参戦時期はルフィからゴムゴムの大槌を喰らった直後とします。
※現在、共振石の影響もあって狂乱状態にあり、無差別に人を襲うようになっています。ですが、ルフィの顔を見た影響で感情が揺さぶられ、少しずつ正気を取り戻しかけてきています。
※リビドークロスの一部である哺乳瓶の左側の方が半壊しています。
※装備欄にある「地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)@忍者と極道」は口内に含んだ状態です。

413 ◆5IjCIYVjCc:2023/10/25(水) 22:40:41 ID:vjURQFR.0
[支給品紹介]

【フィレンツェ行き超特急内の氷@―パッショーネ24時―】
フィレンツェ行き特急の中でブチャラティが持った氷。
何故かかなり巨大化していたが、手に持とうとするとこれまた何故か通常サイズに戻る。
また、これを持ったブチャラティは髪が水色になった。
ここにおいては、他の人物が持っても髪が水色になる効果があるものとします。
また、普通の氷の性質も持っているものとします。
最初は3つ支給されていた。
北沢徹に支給。


【魔剣バルムンク@ローゼンガーテン・サーガ】
♀マークのような意匠をした魔剣。
斬った者に男体化の呪いをかける能力を持つ。
また、刀身はとても柔軟で自在に折れたり、伸び縮みしたり曲がったりする。
首領・クリークに支給。


【地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)@忍者と極道】
極道の闇医者・繰田孔富によって開発された麻薬の一種。
前身となる「天国への回数券(ヘブンズ・クーポン)」の改悪版。
名の通り、クーポンチケット状になっており、一枚ずつ千切って使用する。
口内に服用すると、強烈な身体能力、再生能力、防御力が得られ、感性も増幅される。
その効果は凄まじく、ネズミに与えれば熊を倒してしまうほどのものである。
基本的には口内に含んだままで使用するが、口内から無くなっても効果は90分は続く。
服用すると、目の周りにひび割れのような血走りも現れる。
ただし強化は完璧ではなく、頚椎の隙間を走る0.5mmのラインだけは強度が変わらず、そこを正確に狙えば、通常のナイフ等でも刃が通る。
また、酸にも弱く飲み込んでしまった場合は胃酸により本来の効果は発揮できなくなる。
忍者等、身体能力がカンストしてしまっている者には効果がない。
2枚同時に使用すれば効果は上昇するが、肉体は耐えられず命を5分に縮めてしまうか、1分も経たずに肉体を爆散させてしまうかになる。
この場においては、5枚分支給されている。
元はウォッカに支給。

414 ◆5IjCIYVjCc:2023/10/25(水) 22:41:22 ID:vjURQFR.0
投下終了です。
タイトルは「通常攻撃が状態異常付与攻撃で六回攻撃のお母さんは好きですか?」とします。

415 ◆0ZMfbjv7Xk:2023/10/28(土) 00:19:05 ID:JGnv1kCw0
遅くなりましたが、投下します。

416 ◆0ZMfbjv7Xk:2023/10/28(土) 00:20:15 ID:JGnv1kCw0
四十年―

幾度の侵略者が来たか
幾つの防衛隊が迎え撃ったか

幾らの―光の巨人が地球に来たか

とある恒点観測員に負けてから、文明監視員に会うまで、私は傍観者だった。

初めて地球に降り立った時から長い年月が立ち、
変わりゆく人類と文明に別れを告げ、

いつか地球が手に入ると予測し、迎えを待った。

地球で最後にかつてのような事件を起こし、
新たな光の戦士にも会えた。

もはや、地球に思い残す事もない―。

その筈だった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

417 ◆0ZMfbjv7Xk:2023/10/28(土) 00:22:01 ID:JGnv1kCw0
(全く…、後は母星に帰るだけだというのにとんだ横槍が入ったもんだ。)

光の星の使者を見送った後、赤い異星人―メトロン星人は愚痴をこぼした。

(しかし、ゾーフィの奴にも困ったものだ。
こんな原っぱに放り出して。)

光の使者は先程の天然パーマの男から助けてくれたものの、メトロン星人を草原に降ろし、先程の問答を行った。

結果、袂を分かった後は、この場に置き去りにされてしまった。

(はぁ…、てっきり話の分かる奴と思ったんだけどな。)
 
光の国の戦士と似たような雰囲気を持っていた為、協力してくれると思ったら別の方面で厄介な相手だった。

かつて出会った光の戦士―ウルトラセブンやウルトラマンマックスとは形は似ていても、内面までは似つかない。

彼らは、対峙した時、宇宙人ながら人間らしい感情を見せる所があった。
しかし、ゾーフィは違う。それらとは別物だ。
あの鎧の中の身体は恐らく人間だろうが、感情を見せない―機械のような冷たい感じを受けた。

強いていうなら、使命を果たすだけの人形だろうか。

『再び見合う事があれば…、排除すべき障害として…、敵として対峙しよう。』

その言葉通り、次に会えば命を奪う事も躊躇わないだろう。

(最初に見逃してくれただけでも儲けものか。)

そう思い直すと、改めて危険がないかどうか周囲を見渡す。

418 ◆0ZMfbjv7Xk:2023/10/28(土) 00:23:23 ID:JGnv1kCw0
―草原には人気もなく、冷たい風が吹いていた。
そして、空には大きな満月が浮かんでいる。

地球に馴染んだメトロン星人にとっては、月見でもしたい気持ちになるが、
その雰囲気を壊しているのは月に貼り付いている巨大な人面であった。

(アレは一体何だろうね。怪獣とは違うようだし…。まぁ、何にせよ、あれが落ちて来る前にどうにかしなくては。)

巨大化して受け止めるか、或いは両腕の兵装で撃ち落とすか―

どちらも今の段階では難しいだろう。

受け止めるにしても一人では無理だろうし、撃ち落とすにしても火力が足りない。

また、安易な巨大化はかえって、危険人物を呼び寄せるだけだ。

(仕方ない。先ずは協力出来そうな参加者を探すか…。さて、どう動こうか?)

        
先程、ゾーフィに抱えられて空中から逃げた時に月の明かりで周辺の景色が見えた。

遠くに見える街の様な建物の群れと、眼下に見えた湖―。

そしてゾーフィは建物の方向―恐らく市街地の方へ向かっていった。

(危険はあるが、人が集まるであろう市街地には行きたい…。
だが、すぐ近くにゾーフィもいるだろう。
会いたいとは言ったが、流石にすぐ会う訳にはいかないな。
……なら、今来た道を戻り湖を迂回し、時間を置いてから市街地に向かうか。)

通った道なら、隠れている危険人物がいる可能性が低く、ある程度安全だ。

懸念は先程襲って来た天然パーマの男だが…、吐血量から見て、直ぐには動けないだろう。

(『急がば回れ』とも言うし、先ずは湖に行くか…。)

メトロン星人はデイバッグを背負うと、先程通ったルートを辿り始めた。

419 ◆0ZMfbjv7Xk:2023/10/28(土) 00:24:37 ID:JGnv1kCw0
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


しばらく歩くと、思いのほか早く湖が見えて来た。

(何だか、何処ぞの変身怪人が宇宙怪獣でも飼ってそうな湖だね。
さて、流石に市街地まではまだ遠いか。)

月夜の下、再び動き出す赤い侵略者。

歩きながら気を紛らわす為、この殺し合いの会場について考えてみる事にした。

(さて…、我々にとっては不愉快なこの催しは何処でやってるんだろうね。どこかの無人島かな?
…なんて、いくら無人島でも人面の月が浮かんでいたら、外部の者に見つかってしまう。)

またこれだけの人々がいなくなったのに、光の国―宇宙警備隊や現行の防衛組織DASHは気付かない無能だろうか。
侵略する側にとってはその方が有り難いがそんな事はあるまい。

(“本物の月”がない時点で大体想像出来るが…、ここは『異空間』だろう。)


異空間―


それは怪獣、宇宙人が作り出した現実世界とは隔絶された空間の事である。

四次元空間、異次元空間等、種類や名称や微妙に違いもあるが、
作成者によって現実の自然に似せた空間や、全くの異世界を作り出す事が出来る。

大抵は光の戦士や防衛隊の介入を防ぐ為に作り、
四十年前―自分の世代ではイカルス星人、ベル星人らが作り出し、前者は侵略の前線基地を作る為、後者は獲物を狩る為に使用した。

それ以降も様々な怪獣・宇宙人が同じ様な用途で作り出している。

ベル星人の『擬似空間』は地球の森に似た空間という。作成者によっては、地球に似せた精巧な世界を作り出す事も可能だろう。

420 ◆0ZMfbjv7Xk:2023/10/28(土) 00:25:38 ID:JGnv1kCw0
(母星からの救援やDASH、宇宙警備隊等の助けは期待しない方がいいだろうな。
異空間は外部からの侵入は難しい。
これまでの防衛隊も手を焼いていた情報がある。
捜索はしているだろうが、彼らが異空間に突入する頃には、我々の多くは屍になっている可能性があるな。)

また異空間を脱出するには、作成者を倒すまたは作り出している道具を破壊する事だ。

(私の知っている“異空間”ではどちらかが、空間内に存在していた。
一番わかりやすいのは、主催の一味がこの会場内の何処かに潜伏している事だが…、流石に安直過ぎる。)

他に参加者の中に主催に協力する空間作成者がいるか、もしくは支給品内に空間を維持する道具を紛れ込ませている可能性も考えられる。

(まぁ、私の知らない異空間を維持する方法もあるかも知れない。結論を出すのは早いな。)

と、そこまで考えた所で、デイバッグの中で何か鳴り響く音が聞こえた。

足を止め、中を探ると魘夢が“たぶれっと”と呼んでいた電子端末が起動していた。

画面の中では可憐な美少女―魘夢が暗闇の空間にいた。

『やあ、お前たち、約束の連絡の時間だ。』

(あれま、もう一時間たったのか。
それにしても相方の仮面の小僧と違って、目立ちたがり屋なお嬢さんだね。いや、お坊ちゃんか。)

軽口を叩いたもののこの音が原因で、背後を取られて、御陀仏とは笑い話にもならない。

なんとか音が広まらない様に身体でタブレットを覆い、周囲に気を配りながら、放送に耳を傾けた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


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