[
板情報
|
R18ランキング
]
したらばTOP
■掲示板に戻る■
全部
1-100
最新50
|
1-
101-
201-
301-
401-
501-
この機能を使うにはJavaScriptを有効にしてください
|
シン・チェンジロワイアル part2
221
:
戦いの時 解き放たれた心に宿した火よ
◆vV5.jnbCYw
:2023/09/01(金) 23:54:33 ID:dLqvtdMM0
「お前たちにはこれをやろう。マヒャド。」
再び魔力が弾け、氷の雨が降り注ぐ。
真希と佩狼はすぐにでもナギを助けに行こうとする。
彼に恩などあるわけではないが、それでも魔王相手に見捨てる訳にはいかない。
だが、超低温により動きを制限され、迫り来る氷の刃に動きを止められ、助けに行けない。
「くそ……ベギラマ!!」
真希は未知の力の相手に良く動き、必要とあらば魔法も使っている。
だが、それは膨れ上がっていく利息のみを払い続けるような行為。
その場しのぎにはなれど、根本的な解決にはならない。
「おのれ………」
思うように攻撃が出来ず、佩狼の胸の中に苛立ちを覚える。
銃で自分の頭を打ち抜いてしまいたくなるが、そんなものはないし、この場この身で行うなどただの自殺行為だ。
そもそも銃など無くとも、敵の力のせいで痛いほど頭は冷えている。
(落ち着け……戦いは常に冷静であらねば……。)
あの時の戦いも、行動を尽く潰された末に終わった。
蘇っても同じ結果で終わってしまうのか。
そう思った瞬間、複数の鋭い氷が佩狼に襲い来る。
222
:
戦いの時 悲しみが世界を何度打ち負かしても
◆vV5.jnbCYw
:2023/09/01(金) 23:55:17 ID:dLqvtdMM0
彼の3度目の命が途絶えかけた刹那。
何かが弾けた。
一瞬で吹雪が吹き飛ばされ、無数の氷塊が砕かれた。
佩狼の長い腕で、これまた長い刀を外側に大きく振り回し、マヒャドから身を護る。
それは土方歳三の太刀筋に非ず。
(煉獄よ。技を貸してもらうぞ。)
その動きは、かつて自分を討った者の技。鬼だった時の自分が放った銃弾を、吹き飛ばした技。
彼はその技を、『肆の型 盛炎のうねり』と呼んでいた。
「ほう……足掻くか……」
確かに彼が時代を渡る剣豪、土方歳三の肉体を持っている。
だが、それだけで炎の呼吸の技は使いこなせる代物ではない。
それでも、煉獄杏寿郎は持っていないもの、彼の世界には無かったものがそこにはあった。即ち、真希が放った炎魔法を剣に纏わせて、違う形で『炎』の呼吸の技を撃ったのだ。
日輪刀が魔法の炎を纏ったのも、なんらおかしい話ではない。
ある鬼狩りは、鬼になった妹の、燃え盛る血を刀に付けて鬼の首を焼き切ったことがある。
「ありがたい!!行くぜ!!」
今度に攻撃を仕掛けるのは真希の方だ。
邪魔な氷と吹雪が無くなった瞬間、槍を右手で前面に番えて、真っすぐピッコロ目掛けて突進する。
とにかく、捕まっているナギをどうにか助けないと、勝負にもならない。
「いい動きだ。だが人間が正面から魔王に勝てると思っているのか。」
「強いけど浅はかなのは分かったよ。」
「何!?」
ピッコロの右腕には、矢が刺さっていた。
さしもの魔王も、僅かながら痛みを感じ、ナギを手放す。
槍を前面に構えていたのは、またもブラフ。
ナギが撃ち損ね、地面に転がった矢を拾い、魔王の腕目掛けて投げつけたのだ。
「よくやったぞ!!」
佩狼はザックに手を突っ込み、ピッコロ目掛けて黒いボールのような物を投げる。
こんなものなど襲るるに足らんと笑みを浮かべる魔王だが、それが間違いだったと気付いた。
とある国の集団の総長が愛用していた、鉄の扉をも壊す爆弾だ。
彼が鬼だった時は、刀のみならず重火器を使って人間を殺していた。
耳をつんざくような轟音と、派手に上がった爆風が、魔王の身体を焼く。
まだ攻撃が終わりではない。
爆風で視界が悪くなっている中、真希が突っ込んでくる。
それに続くように、佩狼も剣を持って斬りかかる。
223
:
戦いの時 悲しみが世界を何度打ち負かしても
◆vV5.jnbCYw
:2023/09/01(金) 23:55:36 ID:dLqvtdMM0
「黄泉送り!!」
――炎の呼吸 壱の型 不知火
疾風迅雷の斬撃と刺突が、魔王の腹に刺さる。
「おのれぇ………。」
殺せないにしろ、初めて攻撃が魔王に当たった瞬間だった。
ゆえに3人は考えてしまった。
これはもしかすれば、勝てるのではないかと。
「まだだ!!畳みかけろ!!」
「言われなくても分かってるよ!!」
(ぼやぼやするな!おれも戦え!!)
解放されたナギも、矢を手に握りしめ、直接魔王に突き刺そうとする。
だが、彼らは知らなかった。今まで魔王が見せていたのは、ほんの一面のみということを。
「かあーーーーーーっ!!!」
3人の第六感が警鐘を鳴らし、武器を持った腕に鳥肌が立った。
ピッコロが大声を上げたと思いきや、口から真っ白な息を吐き出された。
それには、吸えば死に至る猛毒が含まれているわけではない。
ただ、恐ろしいほど低温なだけだ。
「なんだ……これ………」
別の世界では凍える吹雪と言われたその力は、マヒャド以上のものだった。
至近距離にいた3人は強風の前に吹き飛ばされ、その後も超低温の氷を受け続けることになる。
ナギも佩狼も、圧倒的な吹雪の前に抵抗すらできない。
いくら身体を鍛えても、何を犠牲にしようと、人間が雪崩に勝てないのと同じだ。
その人間より大きく、力を持っていた恐竜が、氷河期を生き延びられなかったのと同じだ。
目を開ければ眼球が凍り付くことが分かっていたため、ピッコロを見据えることさえ出来ない。
「ちくしょう……メラゾーマ!!」
あと数秒もすれば、3人共凍死は免れないだろう。
吹雪の中で、赤い光が煌めく。
上級魔法は体力をかなり消耗する。禪院真希のように慣れていない者なら猶更だ。
だが、この場では出し惜しみしている状況ではない。
使えそうなものは全部使わないと、勝つどころか、全滅さえおかしくない状況だ。
大きな炎の弾は、吹雪の中でも消えることなく進んでいく。
メラゾーマの炎は消え無い炎だ。消すならば、同じように魔法を使うか、魔法の力を秘めた力で打ち払うかだ。
だが、ピッコロはどちらもしなかった。
何故なら、消す必要はないからだ。
224
:
戦いの時 悲しみが世界を何度打ち負かしても
◆vV5.jnbCYw
:2023/09/01(金) 23:56:02 ID:dLqvtdMM0
「反射魔法(マホカンタ)とは……これまた面白い力だ。」
魔王の前に、光の壁が現れる。
その輝きは、メラゾーマと同様、吹雪の中でもはっきり見えた。
魔法で作られた鏡に当たった炎魔法は、術者の方向に戻って来た。
「くそ……避けるしかねえ!!」
誰が予想出来るだろうか。頼みの綱の魔法が、一転して自分たちの脅威になるなど。
一度マホカンタにより跳ね返された魔法は、二度は反射できない。マホカンタで跳ね返された魔法の餌食にならない方法は3つ。
もう1度同じ魔法を撃って相殺するか、魔法の力を込めた防具でその身を護る。あるいは飛んで来たそれを躱すしかない。
高く跳躍することで、飛んでくる炎の弾から逃れる。
だが、地面に着地した真希が、ガクリと膝を付いた。
理由は単純にして明快。使い慣れてもいない強力な魔法を使い過ぎたからである。
今まで真希は、乏しい呪力の代償に得られた、無尽蔵に近い体力と筋力で戦って来た。
だが、体力は仲間の中でも少ないセーニャの身体では、体力にモノを言わせた戦いは出来ない。
「がああああっっ!!」
佩狼が真希に出来た隙をカバーしようと斬りかかる。
彼女のことを守ろうなんて気は更々ないが、今1人崩れることが、いかに危機的状況か分からぬほど、彼は愚かではない。
そもそも、彼は鬼の頃から影の狼を使った集団戦を得意としていた。
――炎の呼吸 壱の型 不知火
「ひょおおおおーーーっ!!」
だが、正面から魔王と戦うことなど、聖なる武具を身にまとった勇者でもない限り、無理な話だ。
大声を上げた大魔王が、拳を放つ。剣の腹でその身を守ろうとするが、その身体ごと吹き飛ばされる。
「実に下らぬ。真似事の剣術でこのピッコロ大魔王に勝てるはずが無かろう。」
ピッコロ大魔王は封印されるまで、何人もの戦士を殺してきた。
なので鬼を滅する呼吸のことは知らずとも、格闘家を強さを見極める審美眼は備わっている。
目の前の相手が、自分を電子ジャーに封印した武泰斗のように、本当に力を持った者か。
はたまたその真似事をして強くなった気になっているかなど、少し拳を交わしてみれば分かることだ。
「ぎいいいいいいいいい!!!!」
怒りのまま、魔王に斬りかかる。技の構えも作らないまま、粗雑に剣を振る。
肉体が変わっても、性格というのは変えることが出来ない。
真似事の剣術。真似事の剣術。真似事の剣術。
そんなことは無いと言い聞かせながらも、その通りのことだ。
225
:
戦いの時 悲しみが世界を何度打ち負かしても
◆vV5.jnbCYw
:2023/09/01(金) 23:56:19 ID:dLqvtdMM0
「うあああああああああ!!!!!」
それでも、剣を振り続ける。生き返ってまで否定されたくない。
早くこの男を殺さねば、憤死してしまいそうだったからだ。
「ふん。このわしも甘く見られたものだ。」
それをピッコロは余裕を持って迎え撃つ。
彼の安直極まりない攻撃を、それに混じって矢が飛んでくるが、全て容易に躱していく。
勿論、ただ躱すだけではない。指先に、どす黒い光が溜まっていく。
「ぬううん!!」
それはゾーマではなく、ピッコロが得意としていた技。
魔族特有の力を指一点に集め、銃のように放出する技だ。
彼がもしこの殺し合いに招かれていなければ、悟空に対してかめはめ波の意趣返しに撃っていた。
「くそ……間に合え……メラミ!!」
ようやく立ち上がった真希が、魔法を飛ばす。
だがもう遅い。佩狼は攻めすぎていた反面、回避に出ることはもう出来なかった。
真っ黒な光が、彼の心臓へと迫り来る。
2度目の死が、すぐそこに迫り来る。
鬼の姿から人間に戻れたからと言って、物事が好転するわけではない。
彼がやっているのは、ただの強者の真似事。そんなもので魔王を討てるわけがない。
人間の時に、新政府の人間に敗れ。
鬼になっても、炎の呼吸を使う者達に敗れ。
そして今もまた、敗北しようとしていた。
魔王の魔力の塊は、真っすぐに佩狼の心臓へと飛ぶ。
真希が放った中級魔法で、威力を殺しきれることはない。
彼が魔力の餌食になる瞬間、脇腹に何かがぶつかる衝撃が走った。
そして、爆音が響く。
「何を……している!!」
倒れているのは佩狼だけではない。ナギもまた同じ場所に倒れていた。
魔法弾は咄嗟にナギが体当たりしたおかげで、急所からは外れた。
あくまで即死しなかっただけだ。そして、ナギもまたその力に巻き込まれてしまった。
226
:
戦いの時 悲しみが世界を何度打ち負かしても
◆vV5.jnbCYw
:2023/09/01(金) 23:56:42 ID:dLqvtdMM0
「おれは死にたくないだけなんだ!!」
叫ぶ。
その反動で爆風で焼けた箇所がいっそう痛む。
「だから、皆殺しにしようとする奴を、みんなで倒さなきゃいけないんだ!!」
彼は失って来た。故郷のクマソをヤマタイ国に滅ぼされ、それからヤマタイ国を心の底から憎んだ。
だが、そのヤマタイ国の猿田彦や、そのスパイと協力するうちに、その憎しみは薄れた。
いや、薄れた訳ではない。それよりも死にたくないという想いが勝り始めたのだ。
「くだらぬ三文芝居を見せつけおって。そろそろ死ぬか?」
魔王は余裕を持って構えている。
目の前の相手は強い。佩狼を鬼にした鬼舞辻無惨以上かもしれない。
赤アリを蹂躙していく黒アリの集団ではなく、たった一人で破滅を齎していく災害のような存在だ。
そんな相手に、佩狼は。
ただ、静かに斬り付けた。
「ぬ!?」
薄いが、それでも衣に裂け目が走る。オレンジの衣に、青い血が染みる。
ひどく静かな、横薙ぎの一撃だった。
奇跡が起こった訳ではない。魔力の弾丸を撃たれた腹が憎らしいほど痛く、剣を振るう腕は半分ぐらい麻痺している。
数時間前会ったばかりのナギの想いに答えという訳でもない。
ただ、この場では誰かのためではなく、皆が己を通すために戦っている。
そんな中、煉獄の刀を持ちながら、自分だけ見苦しい真似は出来ないと気付いただけだ。
「ふん。死にぞこないが……。」
一撃とは言わず、追加の攻撃を加えようとする。
だが、彼は先程とは異なり、冷静だった。
一歩退き、2つ目の爆弾を投げる。
それはただの爆弾に非ず。魔王という名の岩戸を開き、勝利という財宝を手にするための武器だ。
「下らんわ!!」
爆風に焼けるのも恐れず、魔王は凍える吹雪を吐き出し、熱風と飛び散る鉄片を吹き飛ばす。
だが、爆弾のみが彼の武器ではない。
高くあがった煙に紛れ、吹雪が当たらない方向に逃れた。
227
:
戦いの時 悲しみが世界を何度打ち負かしても
◆vV5.jnbCYw
:2023/09/01(金) 23:57:13 ID:dLqvtdMM0
誰が言ったか。心を燃やせと。
今、佩狼の心の内は冷静でありながら、誰よりも熱く炎が燃え上がっていた。
魔王に対し一瞬生まれた隙を利用し、佩狼は強く地面を踏み込む。
剣を上段に構え、大きく息を吸い込む。
身体の痛みは、気にならなかった。
「………!!」
ピッコロの背筋に、怖気が走った。
あの時、自分を電子ジャーに封印された時の記憶が蘇る。
目の前の相手が取っているのは、魔封波の構えとは全く異なる。
だというのに、あの時と同じ感情を胸に抱くことになった。
――玖の型 煉獄
「最後の魔法だ!受け取れ!!メラミ!!」
神速のごとき勢いで地面を蹴り、呼吸を吐き出し、魔王に斬りかかる。
自分が受けたあの斬撃を思い出す。どんな一撃かは、教えてもらわずとも、その身で覚えている。
「おのれ……!!だが、その程度の速さでわしに敵うと思うな!!」
ピッコロは剣が肉体を走るより先に、佩狼の腕を握りつぶそうとした。
だが、彼の腕に、ナギが放った矢が刺さる。
魔王の懐に飛び込み、身体に刃を突き立てる。
咄嗟に身を捩られたため、心臓を突き刺すことは能わなかった。それでも問題ない。
玖の型 煉獄は一瞬で出来るだけ多くの面積を根こそぎ抉り斬る、炎の呼吸の最終奥義。
真似であろうが関係ない。みっともなかろうがどうでもいい。
自分は、ただ目の前の敵を倒すだけだ。
228
:
戦いの時 悲しみが世界を何度打ち負かしても
◆vV5.jnbCYw
:2023/09/01(金) 23:57:43 ID:dLqvtdMM0
魔族の身体を構成する筋肉に、刃を止められる。それでも刀を振るい続ける。
勿論、煉獄家の者が使う炎の呼吸の最終奥義とは、天と地ほどの差がある。
だが、その穴を真希の炎魔法がカバーする。
このやり方ならばマホカンタで跳ね返されることもない。
炎の呼吸の技は本当の意味で炎の力を持ち、吹雪を吹き飛ばす。
そして、佩狼の生前の刀を振るった経験、そして、明治の世を生きた土方歳三の剣の腕。
彼を作る、彼を取り巻くすべてが、佩狼の背中を押した。
爆音が、闇夜に響いた。
「おい…佩狼はどうなった?」
激しい煙がもうもうと上がり、辺りは見えない。
真希の声だけが、妙にうるさく響いた。
やがて、煙が晴れた。その先では戦いの結果が映っていた。
「佩狼……そんな!!」
「驚かしおって。所詮は、こんなものか。」
魔王の手刀が、老剣士の心臓を貫いていた。
あの一撃は確かに魔王に通用した。だが、手傷を負わせただけだ。あと一歩の所で、殺すには至らなかった。
「この力が無ければ、死んでいたのはわしのほうだったかもしれぬな。」
佩狼の肉体を、ぽいと投げ捨てた。ぐちゃ、という音がして、地面に血だまりが出来る。
彼の奥義が刺さる寸前に、魔王はある技を撃った。
それは『凍てつく波動』と呼ばれる物。この力で、真希が佩狼に対して放った魔法を無力化した。
万策尽きたとはまさにこのことだ。
ナギは動かない。動くことが出来ない。
自分一人に、今の佩狼の技以上の攻撃をすることは出来ない。
「さて。残った二匹も殺してやるとするかな。」
「抱いてやるよ。それともゲテモノは人間じゃなくてゲテモノの方が好みか?」
真希は槍を捨て、そんな魔王相手に構えを取った。
相撲取りの蹲踞のような体勢で構え、敵を迎え撃つ。
良家のお嬢様として育ったセーニャらしからぬ姿だ。
それは不知火型と呼ばれ、敵の攻撃を捨て身で受けて反撃を行うカウンター技だ。
だが、魔王はそんな彼女の覚悟を、簡単に蹂躙する。
「捨て身ならば勝てると思うのが間違いというものだな。」
魔王は受けて立つことはしない。
勝負に乗る必要などないからだ。
遠くからマヒャドで、ナギと真希の二人を殺そうとする。
そろそろ魔法の使い方にも慣れ、コントロールが上がって来た。
魔力も切れ、氷の刃を打ち払える仲間も倒れ、最早どうにもならない。
「死んで……たまるか……。」
氷の雨が目の前まで迫り来る。
それをナギは見つめていた。
だが、氷があまりにも残酷に輝いていたため、眩しくて目を閉じてしまった。
229
:
戦いの時 悲しみが世界を何度打ち負かしても
◆vV5.jnbCYw
:2023/09/01(金) 23:58:01 ID:dLqvtdMM0
音が止んだ。
目を開ける。
彼らは死んでいなかった。
それが夢だったという訳ではない。
いや、目を開けた先に映った光景は、ある意味夢のようにおかしな光景だった。
「な?わしの魔法を……。」
敵味方問わず、その光景に驚く。すぐ近くに、筋骨隆々で赤銅色の肌の男がいたからだ。
いや、驚いたのはそれだけではない。
初めはナギは、男が持っているそれを丸太か何かだと思った。
だが、それは違った。ナギさえも持っている物。
すなわち、陰茎だ。それもとてつもなく大きい陰茎だった。それでマヒャドを撃ち返したのだ。
「どうして……」
「爆音が聞こえて、ここへ来た。」
佩狼の攻撃では魔王を倒すことは出来なかった。
だが、彼の生きることへの想いは、確かに縁壱に伝わったのだ。
それを知った男の死に顔は、どこか安らかだった。
「すまない。」
老剣士が静かに目を閉じたのを見ると、彼は静かに呟いた。
その言葉は静かながら、はっきりと聞こえた。
優しさと強さを併せ持つ、彼を体現したかのような言葉だった。
「ふん。そんなゴミのために戦おうというのか。愚かな。」
その言葉が、鬼狩りの剣士になるはずだった男の心を燃やした。
「何が楽しい?何が面白い?命を何だと思っている?」
この世界にいる縁壱は、鬼舞辻無惨のことは知らない。
だが、それでも正義感はしっかりと持っていた。
そして目が合ってすぐに気づいた。このピッコロという男は、倒さねばならないことを。
自分の肉体は、ピッコロのような男を倒すためにあるのだと。
「君たちは逃げて欲しい。」
縁壱は2人を見て、そう告げた。
「え?おれは……ちょっと待ってくれ!!」
戸惑うナギに対し、真希は彼を引っ張って走る。
そのまま、魔王の目が届かない所まで走った。
【佩狼@鬼滅の刃外伝(身体:土方歳三@ゴールデンカムイ) 死亡】
【残り 72名】
【継国縁壱@鬼滅の刃】
[身体]:キンターマン@キン肉マン
[状態]:静かな怒り
[装備]:煉獄杏寿郎の日輪刀@鬼滅の刃
[道具]:基本支給品(本人、佩狼)ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:殺し合いと厭夢を止める
1:目の前の邪悪を倒す
2:殺し合いにのった参加者は説得か強行手段で無力化する。
3:2の状況になっても命を殺めたくはない。
[備考]
※継国家を出て空の下を走りぬけた後に
うたに会う間からの参戦です。
【ピッコロ大魔王@ドラゴンボール】
[身体]:ゾーマ@ドラゴンクエストIII
[状態]:ダメージ(中) MP消費(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(自分、佩狼)、ランダム支給品1〜4 爆弾×3
[思考・状況]基本方針:優勝を目指す
[備考]
1:目の前の男を殺す。
2:殺し合いの会場を恐怖で覆い尽くす
3:ゾーマの出来ることをもっと試したい
※参戦時期は封印が解かれてから、悟空と最初に戦うまでの間
230
:
戦いの時 悲しみが世界を何度打ち負かしても
◆vV5.jnbCYw
:2023/09/01(金) 23:58:37 ID:dLqvtdMM0
「ふざけるな!どうしてあいつを倒すのを邪魔した!!」
ピッコロと縁壱が戦っている場所から、大分離れた場所。
そこまで来て、真希は初めて彼を投げ飛ばした
「私達じゃ足手まといになるんだ。分かんねえのか?」
「分からないよ!!仲間を殺されたんだから、あいつを殺さなきゃいけないだろ!?
彼は涙ながらに話をした。
故郷の国が滅ぼされた後、猿田彦に対して殺意を向けた時に似ていた。
あれから弓の腕を上げ、ヤマタイ国を守る弓兵にまでなった。
だというのに、圧倒的な力を持つ魔王の前に敗れ、友を失ってしまった。
そんな打ちひしがれた少年の胸倉を、真希はぐっと掴んだ
「ナギ。お前、この世界で何がしたい。何を叶えたい!!」
「おれは……しにたくない!!」
彼は叫んだ。殺し合いの会場でそんなことをするのは間違っている。
それでも声の続く限り叫んだ。
「じゃあ。戦え。死にに行こうとするんじゃなくて、闘え!!!!命ってのはその後について来るもんなんだよ!!
あのナメクジ野郎を倒せるようになるまで、戦い抜け!!」
2人は痛む身体を無視して、ただ叫んだ。
そうしないと、更なる喪失に押しつぶされそうになったから。
【ナギ@火の鳥 黎明編】
[身体]:西園寺右京@Dr.Stone
[状態]:ダメージ(大)体のあちこちに打撲 凍傷 悲しみ(大)
[装備]:勇者の弓@ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス(矢20本)
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1 猿田彦の剣@火の鳥 黎明編
[思考・状況]基本方針:生還し、今度こそ火の鳥の血を飲む。
1:真希と共に行く
2:殺し合いに乗るつもりは無い。
3:鬼の血には興味がある。
【禪院真希@呪術廻戦】
[身体]:セーニャ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[状態]: ダメージ(大)MP ほぼ0
[装備]:メタスラのやり@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない、さっさと元の世界へ帰らせてもらう
1:自由にやりますか。呪術師らしく、あたしらしく。
2:魔王だろうと理不尽だろうと生きてやるよ。
[備考]
※参戦時期は17巻『葦を啣む』以降
【猿田彦の剣@火の鳥 黎明編】
禪院真希に支給された大剣。ヤマタイ国の将軍、猿田彦が使っていた。
時代の技術故に戦国時代で作られた刀よりは劣るも、それでも優れた大きさと切れ味を持っている。
【メタスラの槍@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
ナギに支給された槍。メタスラの欠片を使っているため軽くて頑丈だが、メタル系、獣系にダメージが増え、さらにスライム系を一定確立で魅了させる。
【爆弾@ローゼンガーテンサーガ】
阿羅火暗那威斗(あらびあんないと)の総長、アリババが持っていた爆弾。
未来視の出来るモルジアナの力で作られた近代兵器。
鉄の扉を爆破することも出来る。
231
:
戦いの時 悲しみが世界を何度打ち負かしても
◆vV5.jnbCYw
:2023/09/01(金) 23:58:47 ID:dLqvtdMM0
投下終了です
232
:
戦いの時 悲しみが世界を何度打ち負かしても
◆vV5.jnbCYw
:2023/09/02(土) 00:18:02 ID:RCGlFDh60
すいません。現在地忘れてました。
ナギ、禪院真希がいるのが【E-3】、ピッコロ、縁壱がいるのが【F-3】です。
233
:
◆TruULbUYro
:2023/09/03(日) 17:53:13 ID:rwAMptcY0
予約を破棄致します。長期間に渡るキャラ拘束大変申し訳ありませんでした。
キャラが未予約だった場合に限り、ゲリラ投下の形で投下させて頂きます。
234
:
◆ytUSxp038U
:2023/09/03(日) 21:11:24 ID:DHur9PjM0
ウタ、東方仗助、喜多郁代、黒死牟、辺見和雄を予約します
235
:
◆kLJfcedqlU
:2023/09/03(日) 22:38:04 ID:bxlhd2wE0
投下します
236
:
情ある者たちのプレリュード
◆kLJfcedqlU
:2023/09/03(日) 22:41:37 ID:bxlhd2wE0
『よりにもよって辺見和雄だと!』
魘夢の放送を終え、名簿を確認する後藤ひとり。彼女と肉体を共有している杉本は、数少ない知った名前に頭を抱えた。
辺見和雄 100人以上を殺してきた殺人鬼 彼が知る中で最も危険な人間の一人。
殺し合いの場において、もっとも見たくなかった名前ともいえる。
『だが...こいつはとっくに死んでいる筈。』
そして、杉本佐一が殺したはずの人間の名前である。
その眼で死体を確認し、皮まで剥いだのだ。万が一生きているということもないだろう。
『ひとりちゃんは俺よりずっと未来から来ていると言っていた、もしかしてここにいる人間は時間や時代を関係なく集められているのか?』
そんな疑問が頭に浮かび、仮説について相談しようと後藤ひとりに意識を向ける。
言葉を掛けようとするその前に、杉本の頭に後藤ひとりの感情が流れ込んだ。
『死ぬのが怖い。』
不死身の杉本の頭に流れ込んだのは、久しく彼が言葉にしていなかった思いであった。
「なんで....なんで.......」
三鷹アサの体で、後藤ひとりは今にも崩れそうなほどにガタガタと音を立てて震えていた。滝のように汗が吹き出し、全身に寒気が走る。
後藤ひとりの視線の先には、後藤ひとりの所属する『結束バンド』の仲間や、ライブハウス『STARRY』の店長の名前がある。
杉本の話、そして魘夢の放送。頭はいい方ではない後藤ひとりだが、名簿に名前が載っている意味が分からないほど、耄碌しておらず。
友人が巻き込まれた状況を楽観視できるほど、軽薄な人間にはなれなかった。
「リョウ先輩....喜多ちゃん.....店長さん......」
『...そうか、友達が参加させられていたのか。虹夏ちゃんって子の体もか。』
杉本の頭に響く想いは、初めて会った時のような他人に過剰におびえるものではない。
自分の命が危機にあるという実感。数少ない友人も殺し合いの場に呼び寄せられたという恐怖。自分や友達が死ぬのが怖いという、ありふれた感情。
後藤ひとりの人生に、心を震わせることはあっても命を奪う瞬間はない。
杉本佐一は、戦場を生きてきた。人を殺したことも、殺されそうになったこともある。
だからこそ、後藤ひとりの恐怖はよく理解できた。
『やっぱり。この子の手を穢すわけには、いかない。』
杉本佐一は決意する。それが彼の基本方針だ。
殺し合いには不参加。後藤ひとりも杉本佐一もその点に関しては同意していたが、2人の肉体は無策で勝ち残れるほど強力なものではない。
それに、辺見和雄やひとりの友人たちがどんな姿なのかも分からない状態で、当てもなく策も無く動くのは危険だ。
後藤ひとりが他者とのコミュニケーションを苦手としていても、一時的に協力できる仲間の存在は必要であった。
『なあひとりちゃん。これからのことなんだが』
「え?」
ひとりが少し落ち着いたところを見計らって、杉本が提案のために声をかける。
二人が今後のために話を詰めようとした、その時だ。
「あああああああああああああ!!!!殺してやる!殺してやる!」
狂ったように叫ぶ男と、覆面越しに目が合った。
237
:
情ある者たちのプレリュード
◆kLJfcedqlU
:2023/09/03(日) 22:43:36 ID:bxlhd2wE0
◆◇◆◇◆
「お....俺....俺がし....死んでる!!」
小さな池の傍でタブレットを確認していたリョースケの顔が、恐怖に歪む。
魘夢の放送の後、送られた死亡者リストに自分の名前があったからだ。
涙目のルカ。この一時間で死んだ参加者。
その体に割り当てられたのは、他でもないリョースケ自身だった。
生気を失ったように、リョースケは力なくへたりこむ。
自分の体が死んだ。 誰かがその体を持っていた涙目のルカを殺害した。
タブレット上に無慈悲に浮かぶ事実を、彼は受け入れられずにいた。
知らない男に、推していたアイドル『アイ』には二人の子供がいるという話を聞かされた。
信じていたアイドルに裏切られ、見下されて、騙されて。花束とナイフを手に教えられた住所に向かう。明確な殺意を持ち、人を殺すという覚悟を持って街を行く。
彼が魘夢によって殺し合いに参加させられたのはその矢先の出来事だった。
初めは訳も分からず困惑。暫く惨めに泣き叫んだ後は、自身に与えられた体である「バトル・キング」の肉体が持つ、元の自分とは桁外れのフィジカルに興奮。
国際格闘大会『ハイパーバトル』の頂点に立つその体は、リョースケに伝説の武器を手にしたような安心感と優越感を与えた。
木に正拳突きで抉れるような跡を残し、「いける!いけるぞ!!」声高に叫ぶようになるころには。この殺し合いにも乗り気であったし、その中でも余裕で勝てるとリョースケは確信していた。
魘夢の放送を見るまでは。
「あああああああああああああああああ!!!!!!!」
リョースケの精神を保っていたものが音を立てて崩れ去った。
リョースケはアイドルが好きなだけの一般人だ。
好きなアイドルに子供がいるという情報を聞いただけで殺意を覚えるほど、矮小な精神しか持っていない人間だ。
人を殺す意志を持っていながら、自分が死ぬかも知れない環境に耐えられるほど。彼は強くはなかった。
「殺される.....殺される......殺さなきゃ俺が殺される!!!!!」
恐怖と殺意だけが本能を突き動かし、青年は走る。
そんな彼に運悪く出会ってしまった参加者が、後藤ひとりだった。
238
:
情ある者たちのプレリュード
◆kLJfcedqlU
:2023/09/03(日) 22:47:16 ID:bxlhd2wE0
◆◇◆◇◆
「お...お前も俺を殺す気なんだろ!!!そうなんだろ!!!!!!」
「ひっ...」
『ひとりちゃん!俺と変われ!』
杉本の叫びと呼応して、学生服を着た少女の顔に傷ができ、目が夜鷹のように渦巻いた。
肉体の人格が三鷹アサからヨルへ。後藤ひとりから杉本佐一へ。
陽が落ちるように切り替わる。
戦争の悪魔が三鷹アサの体を任意で乗っ取れるように、杉本佐一も後藤ひとりと任意で入れ替わることができる。
もっとも、杉本佐一はごく普通の女の子をないがしろにして表に出ようと考える人間ではない。
そのため彼が表に出るときは強制的に入れ替わった場合を除いて“後藤ひとりが了承した時”か“のっぴきならない非常事態の時”に限られる。
無論、今回は後者である。
「うああああああ!!!」
「ちょっとおい!落ち着けって!」
『ひぃ.......』
目元を覆面で隠した筋骨隆々の男が泣き叫びながら、その鍛え上げられた腕をぶんぶんと振るう。
風を切る音を響かせるその剛腕は、三鷹アサの腕より倍は大きい。
その腕が目の前にいる女子高生に向けて振るわれていた。
恐怖に歪み涙を流すその様子から、相手が錯乱しているということは杉本どころか後藤ひとりにさえも理解できた。
杉本佐一は何とか宥めようと声を掛けるが、残念ながら効果はない。
「おらぁ!」
「あっぶねぇ!」
男が勢いづけて撃ちだした拳を、杉本は上体をずらして素早く躱す。
背後にあった木が少女の代わりに正拳突きを受け、表面の皮が雷の落ちたような轟音とともに抉れた。
「何で避けるんだよ!」
「避けるに決まってるだろ!」
至極当然の反応を返しつつ、杉本は少しずつ距離を取っていく。
錯乱し正常な判断が出来ないリョースケは、本能的に距離を詰め、なおも杉本を殴り殺さんと迫る。
239
:
情ある者たちのプレリュード
◆kLJfcedqlU
:2023/09/03(日) 22:50:42 ID:bxlhd2wE0
体の主導権を自分に切り替えることが出来て良かったと、杉本は思う。
眼前に居る男の筋力は、『牛山辰馬』や『岩息舞治』といった自身が知る最高峰の筋肉(マッスル)に勝るとも劣らない。
体を同じにする後藤ひとりが戦いに慣れていないことは、初めの一時間でよく知っていた。
彼女が主導権を握ったままだったのなら、今の一撃で顎を殴り飛ばされそのまま死んでいただろう。
そんな筋力には似つかないほど、相手の動きは素人そのものだ。喧嘩もしたことがないように思える。
おそらく、精神にいるのは後藤ひとりのように戦闘や殺し合いとは縁遠い参加者だ。
杉本はそう予想し、それは事実当たっていた。
ただの青年であるリョースケの技術では、歴戦の兵士である杉本佐一に当てるには技術が数段不足している。
ぶんぶんと振り回されるリョースケの腕。そのほとんどが杉本の影さえ捕えず、当たりそうな攻撃も杉本にいなされ続けている。
彼らのいる場所は草原だ。周囲には数本の木や岩があるくらいで、障害になりそうなものはない。
男と向き合いながらも杉本は一定の距離を取り続けていた。
(..だが、いつまでだ。避け続けるだけだとジリ貧だぞ!)
大振りで遅く錯乱した状態の攻撃。避け続けるのなら容易だ。
だがそれだけでは決着がつかないのが、殺し合いというものだ。
ちらりと、杉本は腰に下げた武器を見る。
支給されたアイテムの中で、最も実用に長けた武器。ひとりに護身用として持たせていたものだ。
屠坐魔と呼ばれる呪いを込めた短剣が、腰のケースに収められていた。
リョースケの隙だらけの攻撃をかいくぐり、短剣を刺す。
杉本の技術をもってすれば容易いことだ。それでこの場は勝利を収められる。
だがそうすれば、彼は間違いなく死ぬだろう。
殺して勝つことは容易だが。殺さないように加減するには、目の前の肉体は屈強すぎた。
(どうすればいい...避け続けてもどうしようもない。かといって殺さず制圧するには...あの筋力は強すぎる!)
確実に逃げるには、三鷹アサの体では四肢の長さもスタミナも不利。
殺さずに制圧できるほど、今の両者に実力の差はない。
隠れ逃げるには、今いる草原は広く障害物にも乏しい。
杉茂の手元にある武器は、短剣だ。刺し殺すには十分だが、殺さず止めるには適さない。
仮にここに居る体が杉本佐一のものだったのなら。さしものバトル・キングの体だとしても隙だらけのリョースケを抑え込むのは容易かっただろう。
だが、ここにあるのは三鷹アサの肉体。
運動に特別優れたわけではない、女子高生の体。
“女子高生の体の達人”では、“世界チャンピオンの体の素人”相手に、勝つことは出来ても止めるには一手不足していた。
240
:
情ある者たちのプレリュード
◆kLJfcedqlU
:2023/09/03(日) 22:56:49 ID:bxlhd2wE0
「騒音(うっせ)えわ。夜に騒ぐな。」
ふと、杉本の耳にそんな声が聞こえた。
声の主がいる場所、リョースケよりさらに後ろに、変わらず振るわれる腕を避けつつ杉本は意識を向ける。
暗がりに声の主の姿が見える。
女子高生だ。年は後藤ひとりや三鷹アサとそう変わらないだろう。
岩陰から姿を見せた彼女が、拳を振るうリョースケに向かって駆けていく。
夜の草原を走る少女の胸のあたりから、ぱちりと光が走ったように見えた。
「錯乱(パニク)っとるなら。すこし寝ろ」
いつの間にか女子高生はリョースケのすぐ後ろの間で迫っていた。
ひとりと杉本の目の前で、ヒュンと風を切る音とともに男が膝をつく。
巨体が白目をむいて崩れ落ち、草原の上に倒れ込んだ。
『な...なな...なにが...』
「手刀だ。あの女子高生、あの筋肉男の首に勢いよく手刀を振り下ろして気絶させたんだ。」
ひとりには何が起きたのか全く分からなかったが。杉本は目の前で起きたことをはっきりと認識していた。
女子高生の肉体を胸元の光...悪刀・鐚と呼ばれる武器の力で活性化させた。忍者の手刀。
背後ががら空きだったリョースケを気絶させるには、十分な一撃だった。
一息つく青髪の女子高生と、ひとり・杉本の目が合った。
四つ葉ような目をした彼女には、さっきまでの錯乱していた男とは違い敵意も無いことが見て取れた。
「恐ろしく早い手刀だな...俺じゃなきゃ見逃してたぜ。」
「ほう、見切っておったか。さっきまでの立ち回りと言い、見た目に寄らず中々の戦闘(ケンカ)慣れしているか。」
「残らず体が入れ替わっているのに、見た目が何かの参考になるのか?」
「それもそうだ喃。」
ハッハッハと目の前の少女は笑う。女子高生らしくない年季を感じる言葉づかいに、杉本の中で後藤ひとりが『や...ヤンキーだ』と警戒心をあらわにする。
誰に対してもこんな感じなのだろう、この一時間で後藤ひとりに慣れつつあった杉本は、警戒してビクついている姿に、安心感を覚えていた。
「ともかく助かった。礼を言うよ。俺は杉本佐一。アンタは?」
「神賽惨蔵。互いに聞きたいこともあるだろうし、そこで情報交換(じょしかい)としゃれこむか?」
神賽は池沿いにある小さな小屋を指さす。4,5人なら入れるだろう木造の小屋、一息つくにはもってこいだ。
「有難い。一息付ける場所が欲しかったんだ。」
「それとこの男。どうする?お主らが殺したくないなら儂が代わりに対処するが」
神賽が視線を落とした先には、気絶している巨体の男。
先ほどまで自分たちを襲った相手だ。神賽の言う“対処”という言葉の意味も、杉本にはわかる。
杉本は少し考え。神賽に返答した。
「それなんだが...少しでもこいつから情報を聞き出せないかな?」
「ふむ。まあいいじゃろ。一対一(サシ)なら今の儂でも骨の折れる相手、聞けるうちに聞き出すのは良案(アリ)かもな。」
◆◇◆◇◆
「ハッ!」
リョースケが目覚めると、そこは小さな小屋の中だった。
椅子の上で気絶したまま座っていたリョースケが見回すと。テーブルを挟んで両側に、女子高生らしき人が、一人ずつ。
右手側には黒い髪を一つに束ねた女子高生、「ひっ」と悲鳴をあげ、怯えた眼を向ける。
左手側には青い髪をショートに切り揃えた女子高生、鋭い目つきをリョースケに向ける。
「起きたか。意外と早い。頑健(マッチョ)な肉体に感謝しろよ喃。」
青髪の女子高生...神賽が言った。女子高生らしくない言葉遣いと見透かすような鋭い視線にリョースケは腰を抜かす。
椅子から転げ落ち足をテーブルにぶつけたが、体が頑丈だからか痛みは無かった。
241
:
情ある者たちのプレリュード
◆kLJfcedqlU
:2023/09/03(日) 23:07:33 ID:bxlhd2wE0
「なんだお前!俺に何をした!」
「忘却(すっとぼけ)てるのか?さっきまで自分が何してたか思い出せるか?」
神賽の言葉を受け、リョースケは記憶をたどる。
魘夢の放送を聞いて、涙目のルカという人がリョースケの体で死んで。その後....
「あ。」
錯乱した状態で、黒髪の女子高生に殴りかかったことを思い出す。
雰囲気が随分違うが、リョースケの記憶の姿は、右側に座る女子高生と一致した。
黒髪の女子高生に視線を向けると、あわあわと定まらない視線をしている。
怯えさせてしまったことは、間違いなかった。
「あ、あの時はおれもどうにかしてたんだ!すまなかった!」
「だだだ...だいじょ...大丈夫です」
『いや全然大丈夫じゃないんだけどな。ひとりちゃんだったら死んでたぞ。』
コミュ障な後藤ひとりは、相手に言葉に反対できない。
内心で杉本が反論したように、ひとりの本心ではリョースケへの警戒や敵愾心は高いままだ。
『だが.....』
(謝罪の言葉が出るだけ、まだましかの)
一方の杉本と神賽は、少しだけリョースケを見直した。
彼は自分の行動を“悪いこと”だと認知できる程度には、真っ当な感性をしている。
だからと言って二人の警戒が緩むわけでも、信頼を勝ち得たわけでもなかったが。『目覚めた瞬間即ブッ殺すべき相手』ではなくなっていた。
「自己紹介がまだだったの儂は神賽惨蔵。」
「あばばばばば「俺は杉本佐一。と言っても俺は副人格って奴で、本来は後藤ひとりって子だ。」
限界だったひとりに代わって、杉本が表に出る。
副人格という話を聞いて、記憶の中との雰囲気のズレはこれが原因だと。リョースケは納得する。
「名簿にはリョースケって書いてある。なんで本名じゃないのか分かんないけど...」
「ならばリョースケ。単刀直入に聞くが、お前が知っとること。全部吐露(は)け」
自己紹介もそこそこに、情報交換。
杉本と神賽がリョースケを中に連れてきたのは、ひとえに彼の持つ情報が欲しかったからだ。
結論から言えば、リョースケの持つ情報は多くない。
名簿に知っている人はいない。正確には、『星野アクア』は彼と同じ世界の人間だし、神賽が体を使っている『黒川あかね』もそうであるが。時期の関係でリョースケは二人の事を知らない。
彼が知っているのは、都市部にある『苺プロダクション』くらいのものだった。
(辺見和雄...そんなやべえ奴が来ているのかよ!)
一方のリョースケは、もたらされた情報にひどく怯えていた。
後藤ひとりの知り合いや、肉体だけの伊地知虹夏や土方歳三はまだいい。
もっとも衝撃だったのは、辺見和雄だ。
100人以上殺した殺人鬼。このデスゲームには、そんな奴まで参加している。
さらにここにいる人は、その体であるアーカードなる人物の事を知らない。
殺人鬼が、未知の体で暗躍する場所。
世界チャンピオンの肉体を得たからと一介の青年が圧勝できる環境ではないと、リョースケは心の底から理解した。
「これが、お主の元の顔か。元の面の方が美男(いけ)とるぞ。」
「...まあ、もう死んだんだけどな」
神賽の軽口を、軽く流す。
彼はもう、死んだ自身の体について考えるのを止めていた。
242
:
情ある者たちのプレリュード
◆kLJfcedqlU
:2023/09/03(日) 23:10:56 ID:bxlhd2wE0
「それで。これからどうする?」
「...なら。俺は苺プロダクションに行きたい。」
居心地が悪そうにリョースケは答える。
「...この場所に建物があるってことは。多分、参加者に関係のある場所ってことだろ。そこの後藤ひとりって子のいるライブハウスがあるみたいにさ。」
「まあ、それはそうだな。めぐみんや禪院って家がある名前もここにはあるし。」
「だろ。だったらさ、苺プロダクションの関係者もいるはずなんだよ。例えば、『アイ』!」
「確か...お主の推している偶像(アイドル)だったか。名簿に名前が無いのも、芸名ではなく本名が乗ってるとすれば、無い話ではないか。」
「そうそう。少しでも知ってる奴に会いたいってのは、自然な事だろ?な?な?」
リョースケの話は筋が通っている、概ね嘘ではない。
だが、彼の目的は『アイ』を殺すこと。
他の参加者を殺すことは無くても、自分たちファンに嘘をついて子どもをつくった『アイ』だけは、今をもっても許せないでいた。
もしそのことが、殺し合いに反対している杉本や人を殺す悪人をブッ殺す神賽に気づかれたらどうなるかなど、今のリョースケは考えてはいない。
リョースケの提案は本音と打算の入り混じった、言ってしまえば取り繕った言葉ではあった。
だが。
『知ってる人に...会いたいって思うのは。自然なこと。』
動けなかった後藤ひとりに、動く原動力を与えたのは。その言葉だった。
「わ....わたしは。STARRYに行く!」
黒髪の女子高生が、震えた口を開く。
顔に傷はなく、目は泳いではいたが確かに神賽とリョースケを向いていた。
いきなり大声を出した姿にリョースケはびくつき。神賽も面食らったようにめをぱちくりさせる。
体を同じくする杉本でさえ、後藤ひとりが自分から肉体の主導権を得ることに驚いてた。
「...ここには、私の友達が居ます。リョウ先輩に喜多ちゃん。あと店長さんも。多分、STARRYがあることを知ったら。来ると思う...ます。」
必死に言葉を紡ぐ後藤ひとりは、正面に座る神賽に目が合った。
興味深そうに話を聞く彼は、うっすらと笑顔を浮かべていた。
「わ...私には杉本さんが居てくれるけど....他のみんなには全然戦えないままかもしれない!だから.......」
「....助けたい。か」
「大事な...友達なので。」
―――山さん!また―――逢ったなァ!
神賽の脳内に、親友にして宿敵である始祖の極道の顔が浮かぶ。
―――帰りたいよ。佐一・・・
杉本の脳内に、戦場で命を失った親友の顔が浮かぶ。
友を助けたいという思いは、友が死んでもなおその顔が心にあり続ける者達にとって。大きく、だからこそ汚してはいけないと思える。
「そうか...ひとりちゃん。」
いつの間にかひとりと入れ替わった(長時間知らない人の前で喋ったので、ひとりの精神は限界だった)杉本は、父親のように優しい目で自分の中のひとりを見た。
体を同じくするのが後藤ひとりでよかったと、心から彼は思った。
この時まで、神賽惨蔵にとって後藤ひとりは、『杉本佐一のオマケ あるいは庇護対象』くらいの認識であった。
(その認識、改めねばならんか。)
喋るのが苦手な少女が、『友人の為』と言った言葉を、ないがしろにはできない。
――情に揺れた忍者は、いとも容易く誤断(ミス)って死ぬ。
神賽の知る限り、最も多い忍者の死因。
神賽は決して情に絆されない男だ。
もし仮に今後後藤ひとりが誰かを殺そうとしても、その前に冷静にブッ殺すだろう。
(だからといってこの情(おもい)を無視する気には、なぜかなれん喃。)
神賽は、ふうと一呼吸つく。どことなく満足そうな、笑顔で。
243
:
情ある者たちのプレリュード
◆kLJfcedqlU
:2023/09/03(日) 23:22:05 ID:bxlhd2wE0
「なら、儂は“後藤ひとり”に着いていこう」
神賽の言葉に、「えー!」と不本意な声を上げるのはリョースケだ。
「なんだよ!俺だけ別方向じゃねえか。着いてきてくれないのか!?」
「着いていく理由がない。お主の言葉は一理あるが。『アイドルを守りたい』とも『助けたい』とも言わなかったじゃろ。」
「それは....」
「想いに貴賤(ランク)をつけたりはせんが、儂は後藤ひとりに協力する。」
冷淡に返す神賽の言葉に、リョースケは言い返せない。
神賽は後藤ひとりと杉本佐一には最低限の信用を向けてはいるが。リョースケに対する信用は、積極的に協力するほどのものではなかった。
「幸い、苺プロダクションもSTARRYもここから南側だ。そこまで同行って形ならいいんじゃないか?」
「......わかったよ。」
案を出す杉本の言葉。
そこにわずかながら不信と警戒の色が見てとれることは、リョースケにも分かった。
先に謝罪の言葉が出たことで、杉本・神賽両名はリョースケが『素直』な人間であることは認めている。
だがしかし、リョースケは、恐怖で錯乱しながらも。力で相手をねじ伏せ、殺される前に殺すという選択をした。
バトル・キングの力に酔いしれていたというのもあるだろうが。そもそも“他者を傷つけ、攻撃できる人間”だと神賽は判断していた。
(おそらくこいつは『耐えられる』かどうかは別にしても“人を殺せる人間”。今回は後藤ひとりと杉本佐一に免じるが、怪しい動きをすれば即対処できるよう警戒は必須!)
同じ懸念は、杉本も感じていた。
殺し合いに積極的に乗るつもりもなく、自主的に人を殺すつもりもないが。
天秤が少し傾けば、良くも悪くも素直なこの男は、殺人を犯せる。
杉本と神賽から見たリョースケの性質であり、事実である。
提案にも扱いにも不服だと思うリョースケだが、それを気にしてくれる人はいない。
アイがいる可能性がある苺プロダクションに行きたい。
戦闘に長ける神賽か杉本に苺プロダクションまで同行して欲しい。
リョースケはそう希望しているが、それを実現する交渉材料も無ければ、行動を共にしてもらえるほどの信頼も無い。
ついさっきまで、彼がひとりと杉本を襲ったのは、紛れもない事実だ。
むしろ殺さずにいてくれるだけ、リョースケは間違いなく幸運だったといえる。
それらのことを、リョースケは頭では理解してはいたが。
「...なんでだよ。」
そのことを幸運だと飲み込めるほど、彼は出来た人間ではなかった。
三人は夜の街に向けて、南に進む。
女優の体をした忍者は、警戒をしながらすたすたと。
女子高生の体をしたギタリストと兵士は、隠しきれない不安を抱えてかつかつと。
格闘家の体をしたただの青年は、思いつめるようにとぼとぼと。
――大事な友達だから。
「そんな奴。俺にはいねえよ」
ぽつりとつぶやく青年の言葉は、前を行く人たちには届かない。
この場で最も強い体を持ちながら、最も自分を惨めに思っていたのは。
ほかならぬ、リョースケ自身であった。
244
:
情ある者たちのプレリュード
◆kLJfcedqlU
:2023/09/03(日) 23:22:53 ID:bxlhd2wE0
【一日目/深夜/D―8】
【後藤ひとり@ぼっち・ざ・ろっく!】
[身体]:三鷹アサ@チェンソーマン
[状態]:精神的疲労、羞恥心、混乱(小) 神賽・リョースケへの警戒(大)
[装備]:屠坐魔@呪術廻戦
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:STARRYに行って、みんなと合流する
1:やだやだやだやだ恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいムリムリア゛ア゛ーーッ!!
2:筋肉と陽キャが増えた...たすけて.....
3:リョウ先輩に喜多ちゃんに店長さんも...
[備考]
※参戦時期は少なくとも文化祭ライブ以降
【リョースケ@推しの子】
[身体]:バトル・キング@タフ・シリーズ
[状態]:不安(中) 恐怖(大) 劣等感
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]基本方針:元の世界に戻って星野アイを殺害する
1.俺の体が死んでる!なんでだよ!!!なんで俺だけがこんな目に!
2.苺プロダクション.....。ひょっとしたら関係者もここにきているのか?
3.友達なんて....俺には
[備考]
※アイを殺す前からの参戦です。アイの本名および『星野アクア』については知りません。
【神賽惨蔵@忍者と極道】
[身体]:黒川あかね@推しの子
[状態]:健康 悪刀に対する警戒 リョースケに対する警戒
[装備]:悪刀 鐚@刀語
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]基本方針:主催者と殺し合いに乗り気な悪人は殺す それ以外は生かして帰す
1:儂とこの少女(黒川あかね)をこんな悪夢(クソゲー)に巻き込んだこと。悔いてもらおうぞ!!
2:後藤ひとり。友人(ダチ)のために動くとは、意外と見どころがあるかもしれん喃
3:リョースケはおそらく”人を殺せる人間”。次怪しい動きをすればその時は....
[備考]
※参戦時期は情愛大暴葬より後です
[副人格キャラ状態表]
【杉元佐一@ゴールデンカムイ】
[身体]:ヨル@チェンソーマン
[状態]:健康 ひとりに対する心配 リョースケへの警戒
[思考・状況]基本方針:殺し合いには乗らないし、こいつ(ひとり)にも乗らせない。
1:殺す必要がある時はどうするか…
2:俺の方が副人格ってやつで…参加者にはならないってことなのか?
3:こいつ(リョースケ)、大丈夫か?
[備考]
※細かい参戦時期は後続の書き手にお任せしますが、少なくとも原作第221話「ヒグマ男」終了以降のどこかとします。
【屠坐魔@呪術廻戦】
後藤ひとりに支給された短剣 『呪具』と呼ばれる呪いを込めた武器
245
:
◆kLJfcedqlU
:2023/09/03(日) 23:23:25 ID:bxlhd2wE0
投下終了です
246
:
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:23:01 ID:nMl6FYh.0
前半投下します
247
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:24:00 ID:nMl6FYh.0
叩きつけるは殴打の嵐。
迎え撃つはそそり立つ剛直の猛威。
戦場へ響くは歌姫のハーモニー。
平穏の二文字へ唾を吐き捨てる光景、最後に待つは生か死かの二択以外に有りえぬ戦場がそこにあった。
「ドラララララララララララララララァッ!!!」
「ぬぅ…!」
歌声に負けじと声を張り上げる拳闘士。
東方仗助のスタンド、クレイジー・ダイヤモンドが此度も悪を打ち倒すべくラッシュを放つ。
数多の敵スタンド使いを撃破した半身は、今宵一味違うと仗助自身もはっきり分かった。
拳一発一発のキレが杜王町での戦闘時よりも増している。
元々破壊力とスピードは空条承太郎のスタープラチナにも引けを取らないが、今ならば冗談抜きに渡り合えると思ってしまう程。
後輩スタンド使いとしては少々生意気な事を思いつつも、攻撃の勢いは決して緩めさせない。
頭部、四肢、胴体、そして猛々しい男の象徴。
それら全てを余すことなく狙い打ち、再起不能へと持って行く。
スタンド使いでもない只の人間が生身でクレイジー・ダイヤモンドと戦り合うのは不可能。
そんな常識が通用する相手ではないのだから。
「気迫は見事だが…まだ足りぬ…」
「こんだけ殴ってそれかよ…タフ過ぎるんじゃあねぇのか?」
重装甲の如き筋肉と、天を突きあげる巨大なペニスは決して見せかけに非ず。
イェーターランドの国王ベオウルフ、例え肉体のみであろうとも圧倒的な力に翳りは無し。
自らの男根を目にも止まらぬとしか形容できない速度で突き出し、クレイジー・ダイヤモンドの拳を全て防いだ。
その暴力的な腰使いは女を悦ばせ絶頂へと導く紳士とは程遠い。
性欲発散の為だけに穢れを知らぬ少女を壊す、外道の所業に他ならない。
自国の民ならず敵をも魅了し心火を滾らせた益荒男はここにおらず。
英雄の体を我が物とするは、千年を生きる悪鬼に魂を売り渡した異形の剣士。
上弦の壱・黒死牟。股間の聖剣を邪悪な魔剣へと変え、血を求める鬼である。
248
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:24:38 ID:nMl6FYh.0
スタンドだけで倒し切れないのなら手数を増やせば良い。
仗助とクレイジー・ダイヤモンドが黒死牟の左右に移動し、挟み撃ちの形で攻撃を仕掛ける。
完全再生の使用に支障が出る為、なるべく両腕を痛め付ける真似は控えたかったがそれはさっきまでの話。
ただでさえ超人的なアンチョビの身体能力がより上昇した今ならば問題無い。
己のスタンドにも劣らぬスピードで手刀を繰り出した。
「ちょいと卑怯かもしんねえけどよ、フルチンで女の子を襲う変態が相手なら心も痛まねぇってもんだぜぇ〜〜!!」
二方向からの猛攻をも股間の剣一本を豪快に、それでいて精密に振るい対処。
多対一の状況など鬼狩りを相手に飽きる程相手にして来た。
だが現在戦っているのは上弦という肩書に何の反応も見せなかったように、鬼殺隊の隊士ではない。
こうして急激に身体機能を強化したのも、呼吸でもなければ、まして痣を発現させたのとも違う。
理由は深く考えるまでも無い、原因を作ったのはこの珍妙な体の小僧とは別にいる。
死闘には場違いな歌声を響かせ続ける少女を睨んだ。
――カミサマどうか背界で寄り添わせて
警戒交じりの視線も意に介さず、歌姫は仗助へと歌を届ける。
助けを求められたならば、手を差し伸べ力とならねばならない。
救世主として当然の行為。
呪いのように自分の奥底へ根付き、時には精神をすり減らした日も少なくはない。
しかし自分の歌を必要としてくれる者が、彼女にとっての救いとなったのもまた変えられない事実。
故にウタは歌い続ける事をやめない、やめられない。
――サカサマの祈りを叩きつけて歌え!
頭に浮かんでくるのは知らない筈の歌詞。
ウタ自らが作詞作曲したのとは違う、なのに不思議と前から知っているような気がしてならない歌。
フレーズの一つ一つに想いを乗せて歌う。
助けてくれと縋り付いた少女へ応える様に、今も戦っている小さな彼を支えられるように。
249
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:25:44 ID:nMl6FYh.0
「凄い……」
近くで見ていた郁代が思わず感嘆の言葉を呟く。
結束バンドでギターボーカルを担当し、まだまだプロには及ばずとも音楽の世界へ足を踏み入れたからこそ余計に魅せられた。
自分達が巻き込まれたのは正真正銘の殺し合いで、呑気な考えを抱いている余裕でないとは理解しつつも。
ウタの歌に感動する気持ちを抑えられない。
心が熱を帯び視線を逸らせない感覚には覚えがある。
台風の日に行われた結束バンドの初ライブ、大ピンチの空気を塗り替えた後藤ひとりのギター演奏。
間近で見たひとりのかっこよさとは違うけど、魂を揺さぶられたのは一緒。
まるでここら一帯がウタの為のライブステージと化したと錯覚してしまいそうだ。
弾かれたよう視線を仗助の方に移す。
さっきまではフルチンの危険人物相手に叩きのめされるばかりだったのが、今ではどうだ。
互角に渡り合い、浮かべる笑みには余裕と力強さがハッキリ表れているではないか。
「これなら…!」
勝てるかもしれない。
ヒーローを応援する幼児の気分で拳を握り締め、郁代は食い入るように戦いを見つめる。
少女達の声援と期待へ応えんと、クレイジー・ダイヤモンドがラッシュの勢いを更に増し、
『やあお前たち、約束の連絡の時間だ』
水を差す声が響いた。
空気を読めとブーイングを口にする観客はいない。
忘れてはならない、ここはライブ会場では無く殺し合いの地だ。
冷水を浴びせられ強張る郁代とは反対に、他三名が放送へ反応した様子は見当たらない。
男二人は眼前の敵へと意識を裂き、歌姫は自らの世界へと入り歌う事へ集中している。
タブレットの入ったデイパックから流れるくぐもった音声も、それぞれの動きを止める理由にはならず。
結局この場でタブレットを取り出したのは郁代一人だけだった。
250
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:26:47 ID:nMl6FYh.0
『前に伝えた通り、お前たちに支給した"タブレット"に名簿と地図の"データファイル"というものを送った』
スタンドとスタンド使いによる二刀流のラッシュ。
敵が只の人間ならば既に数十回は殺されている殴打を、手加減抜きで打ち放つ。
『それから名簿についてはもう一つ、精神と身体の組み合わせ名簿の配布を予定している』
歴戦のスタンド使い渡り合うは十二鬼月最強の鬼。
得物の数は敵に劣れど何のハンデにもなりはしない。
体中から男根を生やしたとしか思えない速度で拳と打ち合い、余波が周囲を破壊する。
『ああ、そうだ。今言った通り、この一時間でもう既に誰かの殺害に成功した者も存在する』
「そ、そんな…!?」
何でもないように告げられた内容に、郁代は戦慄するばかり。
人が死んだ、それもたった一時間の間に。
仗助と陽キャらしく会話に花を咲かせている間にも、別の場所では平然と他者の命を奪う者が現れた。
今一度、これが悪ふざけの類では無いと思い知らされる。
――背中合わせのハレルヤが飛んで行かないように!
無数のスピーカーとウタ本人の口から歌が響く中、もう一つの歌が流れる。
残酷で楽し気に、歌姫の体を得た鬼はそれを口遊む。
知らない名前と知らない人達の顔。
どう見ても人間でじゃあない者もいたけど、そんな存在も発表されたという事は既にこの世にはいない。
ニュース番組で事件が報道されるのとは違う、いつ自分がこの中に名を追加されてもおかしくはない恐怖。
ごくりと唾を飲みこむ郁代を無視し、死者の名が次から次へと呼ばれていく。
仗助と郁代の知っている者は一人もいない。
玉壺の名が聞こえても黒死牟が気を割く気配は皆無。
半天狗共々鬼狩りに敗れた上弦へ今更深く考え込む理由もない。
ここにいるのが三人だけなら、死者の名前に動揺する事は無かっただろう。
251
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:27:46 ID:nMl6FYh.0
『シャンクス…その身体の名はじゃんけんするやつ』
「――――――――――――――――――――――――――――――――――――え?」
あっさりと。
呆気なく。
笑ってしまうくらい簡単に。
ウタの世界は壊れた。
歌声が止まる。
音楽も鳴り止み、スピーカーは煙みたいに消える。
コンセントを引き抜き無理やり電源を落としたように、歌は切れてしまった。
戦場の空気を支配した歌姫のステージはもうどこにもない。
男達の怒声と叩きつける音だけが響き、全てが元に戻ってしまう。
「シャンクス……?」
視界が郁代の持つタブレットを捉える。
そこに映った一枚の画像。
他の見知らぬ連中よりもいやにハッキリ見えた男を、ウタが知らない筈が無い。
自分の髪の毛の片方と同じ、綺麗な赤髪の彼を見間違えるなんて有り得ないのだから。
画像が切り替わり、自分と同じ顔をした奴が何かを言っても。
ウタの耳には最早届かない。
タブレットを持つ禿げた老人も、真っ向からぶつかり合う男達すらいないもののように感じられた。
252
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:28:25 ID:nMl6FYh.0
「シャンクスが、死んだ…………」
自分で言って、悪い冗談としか思えなかった。
あのシャンクスが、赤髪海賊団を率いる船長が、誰よりも強い父親が。
こんな意味の分からない場所で、ウタの知らない所で命を落とした。
どこの誰とも知れない輩に殺されたなど、ジョークにしたって笑えない。
「そん、なの……!」
嘘だと言いたいのに、言葉は口から出てくれない。
エンムがデタラメを言っているだけだと鼻で笑えもしない。
そもそも自分はどうしてこんなに動揺しているのか。
シャンクスは悪い海賊だ。
自分を捨てて、エレジアの人々を殺し金銀財宝を奪った大悪党。
むしろ死んで清々する程の――
「ちが、ちがう…だって……ああ違う…!」
違う、シャンクスは自分の為に罪を被った。
エレジアを滅ぼしたなんてやってもいない汚名を自ら被り、自分を守ろうとしてくれた。
本当に殺されるべきは、エレジアを火の海に変えた自分の方で――
「あたしは…ちが…シャンクスは……」
考えが纏まらない。
頭の中に指を突っ込まれかき混ぜられてるように、ぐちゃぐちゃして気持ちが悪い。
253
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:29:09 ID:nMl6FYh.0
シャンクスは自分を守ってくれた、大好きな家族
いや違う、海賊嫌いの歌姫がシャンクスを好きだなんて言って良い筈が無い
ファンの皆を失望させてしまう、でもシャンクスはライブに来てくれた
そうだ都合が良い、最後に決着をつけたかったんだ。向こうから来たなら好都合
あたしの新時代を否定するルフィを助けるような奴だ、きっとアイツも本当は悪い海賊で
違う本当は違う、信じ切れなくて謝りたかったもう一度あたしの歌を聞いて欲しい、なのに本当に言いたかったことは一つも言えずにシャンクスは
「違う…!シャンクスは…あ、あたし……う…うああああああああああああああ……!!!」
「ちょ、ちょっと、どうしたの…!?」
自分が何をしたかったのか。
本当はシャンクスに何を言いたかったのか。
それすら答えを出せず、ただシャンクスが死んだという事実だけが圧し掛かる。
心配気に声を掛ける郁代に言葉を返す余裕は無く、蹲って絶叫するしかなかった。
254
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:29:44 ID:nMl6FYh.0
「ぐああああああああああっ!!」
ウタをどうすれば良いのか郁代へ考えさせる暇は与えられない。
吹き飛ばされ目の前に叩きつけられた水色の小さな体。
傷だらけで転がる仗助の姿に息を呑む。
「奇怪な力を持っていようと…所詮は未熟な娘に過ぎぬか…」
魔剣を勃起させ悠々と近付く。
呆れと失望を口にする威圧感は、自分達の前に姿を見せてから全く衰えない。
仗助が黒死牟と互角に渡り合えたのはウタの、正確に言うと肉体であるリグレットの能力の恩恵。
当然歌が止まれば仗助のデジヘッド化も消え、強化された能力は元に戻る。
そうなってしまえばさっきまでの光景の焼き直しだ。
襲い来る巨根への対処が追い付かず、殴打をその身に受けこの様である。
「ひ、東方くん…!」
「もっと下がってろ郁代…!このおっさんにゃあ『女の子に優しく』なんざ期待できねぇからよッ!」
背後を見ぬまま叫び、完全再生で皮を脱ぎ去る。
傷は癒えても状況は何一つとして良くならない。
詳しい原理は分からなくとも、急に自分の体の調子が良くなったのがウタの歌声による影響とは仗助も気付いた。
だが今の彼女にもう一度歌ってくれと頼んだ所で、承諾出来る精神状態では無いだろう。
仗助に言われ郁代はウタを無理矢理引っ張って距離を取る。
抵抗する様子も無くされるがままのウタへ、気を遣っていられる場面でもない。
255
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:30:26 ID:nMl6FYh.0
離れて行く二人を視界に納めつつ、黒死牟は興味無さ気にチラと視線をくれてやるのみ。
歌声を媒介にして他者を強化するという、血鬼術とは別の異能。
多少の興味もあったが蓋を開けてみれば何とも落胆せざるを得ない。
大方、親しい者が死者として名を呼ばれ戦意を喪失したのだろう。
これが鬼狩りであったなら無念も悲しみも刃に乗せ、死ぬまで戦いを投げ出さないというのに。
脆弱な心構えの娘など自分がいつでも殺せる、何だったら自分が手を下すまでもなく野垂れ死ぬ可能性だって高い。
よって優先するのは依然変わらず水色の奇妙な参加者。
「折れぬ心意気は認めるが…いい加減に幕を引くとしよう…」
ここが殺し合いの地ではなく、自身も元の肉体ならば鬼に勧誘する選択もあった。
だが無惨が参加しているかは分からず、仮にいても他者の肉体では鬼に変える事は不可能。
少々惜しい気もするが、この辺りで命を刈り取らせてもらう。
「ぬぅん…!!!」
傍らの人形で殴り掛かる隙は与えない。
巨体に見合わぬスピードで急接近し巨根を振り下ろす。
かの四皇、百獣の名を知らしめる大海賊にも引けを取らぬ迫力である。
男根の下には原型を留めぬ死体が――無い。
「しぶとい小僧だ…」
「チ○ポに潰されて死ぬなんざ、あの世で爺ちゃんに笑われちまうからな…流石に御免だぜ」
自力での回避は難しいと判断。
クレイジー・ダイヤモンドで自らを蹴り飛ばし強引に脱出。
紙一重ながら避けられたものの、危機的状況であるのに変わりはない。
一度躱されたから何だと言う、死ぬまで男根を振るえば良いだけの話だろうに。
だというのに仗助が浮かべるのは不敵な笑み。
悪戯の成功を喜ぶ悪童のようなしてやったりと言いたげな、しかし不思議と心強さを感じずにはいられない。
まるで彼の父、二代目『ジョジョ』を思わせる顔だ。
256
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:31:07 ID:nMl6FYh.0
「散々そのデカチンを振り回してくれたお陰でよぉ〜〜…ここら一帯モグラが出たみてぇにボロボロだよな?」
仗助に言われずとも見れば分かる。
木々がへし折れているのは言うまでも無く、地面はもっと酷い有様だ。
ただでさえ巨人の如き体躯のベオウルフと比べ、アンチョビの体は子どものように小さい。
必然的に攻撃は下向きで行われ、その度に地面はあちこちが大きく削られている。
そしてこの状況こそ仗助にとっては都合が良い。
「ドラララララララララララァッ!」
クレイジー・ダイヤモンドが地面を叩く。
勝てないと悟り自棄に出たのか?
否、荒れた地面が元の形を取り戻そうとする。
単に打撃を繰り出す人形としか見ていなかった黒死牟は目を見開き、地面と、何より自身に襲い来る変化を目撃した。
「あんたは俺らをハメる気でいたんだろうが、逆にハメさせてもらうぜおっさんよッ!!」
叩きつけたままの巨根を巻き込み、地面が元の形へ修復される。
土や草に覆い隠された男根は最初から地面の一部だったかのように固定。
大地との意図せぬ融合を果たすも黒死牟に焦りは皆無。
男根に力を籠め引き抜けばそれで済む。
だがしかし、動きを止められたのには変わらない。
この戦闘において黒死牟は初めて、明確な隙を仗助に晒したのだ。
「ドララララララララララララララララララララララララララララララァーーーーーッ!!!!!」
「ぬぅううううう…!!!」
咄嗟に両腕を交差し防御の構えを取った。
分厚い筋肉の装甲を覆うラッシュに、ダメージは最小限に抑えるも痛みは殺せない。
人の体でしか味わえない久しい感触。
殴っている仗助も敵の頑丈さには歯噛みする。
自慢のスタンドによる拳を受けて尚も耐えられるとは、全く敵ながら天晴というもの。
ならば、もう一つの武器を使わせてもらう。
257
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:31:57 ID:nMl6FYh.0
「光剣滅殺(デスライトニング)!」
手刀を作った右手から、名前の通り光の剣を出現させる。
完全再生だけがアンチョビの使える技ではない。
普段の姿の時の主力技は究極体になろうと変わらず使用可能。
(つくづくビックリ箱みたいだぜアンチョビ君の体は!)
手から光り輝く剣を出す芸当まで出来る。
漫画の主人公のような力には、仗助も高校生とはいえ「男の子」の部分がつい反応してしまう。
尤もすぐに切り替え、光剣を眼前の敵へ振るわんと動く。
殴って駄目なら斬ってみろというやつだ。
「成程…」
敵への関心を籠めた呟きは、口にした黒死牟本人にしか聞き取れない。
力で及ばずとも頭を使い戦闘を有利に動かさんとする。
己の能力を熟知していなくては不可能、こちらが思った以上に戦い慣れているらしい。
してやられた事実を噛み締め、こちらも相応しき技で返してやらねば無礼に他ならない。
「っ、なんだ…?」
空気が震える。
天変地異の前触れを予期させる不吉さは、対峙する大男が発する呼吸の音。
人の身でありながらも、柱や鬼にすら引けを取らぬ肺活量。
振動を起こし折れた木々を震わせる呼吸が齎すは、更なる活力を与えられた雄の象徴。
女の膣を掻き回し、男の菊門を嬲る。
最早性行為の域では到底収まらぬ、敵を屠る正真正銘の剣としての真髄が発揮されようとした。
258
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:32:45 ID:nMl6FYh.0
――月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月
地面が弾け飛び、眠れる怪物が再び目を覚ます。
振り上げられる男根の一撃、否、三撃。
本来、月の呼吸とは黒死牟の血鬼術と組み合わせて放つ、鬼殺隊の呼吸法とは違う技である。
刀を振るい不可視の斬撃を飛ばし、周囲にも三日月状の斬撃を纏わせる広範囲への攻撃。
ベオウルフがどれだけ優れた肉体であろうと、黒死牟本人で無い限り血鬼術は使えない。
まして振るう得物も己の能力で作った虚哭神去に非ず。
されど、元の月の呼吸とは違えども近付ける事は可能。
男根が三つ同時に放たれたと思わせる程の速さで腰を振った、今しがたの型のように
「う、おおおおおおおおおおおおおっ!?」
僅か一瞬で重みを増した威圧感に急かされ、攻撃を中断。
光剣を盾にしながら後退した仗助の判断は間違っていない。
但し、それだけでやり過ごせる甘い相手では無いのだが。
直撃は避けつつも男根の完全回避とまではいかず、ワイヤーで引っ張られる勢いで吹き飛ばされた。
地面へ叩きつけられる痛みは、数えるのも嫌になる。
(クソッタレ…チ○ポ振り回して出来る芸当じゃねぇだろうがよォ〜〜〜!!!)
今更過ぎるが真っ当なツッコミを胸中で吐きながら、痛む体に鞭を打って立ち上がる。
黒死牟も、天を見上げる魔剣も不動。
エベレストよりも遥か高くへそびえる巨根は、一向に萎える様子が見当たらない。
あんだけ立派なモノをぶら下げているなら、体を使う当人もそれに相応しい性根であって欲しいと愚痴る。
「まぁ、言ったところでどうにもならねぇけどな…」
苦笑いと共に光剣を構え、傍らのクレイジー・ダイヤモンドも拳を握る。
未だ諦めを見せない敵へ容赦は無用、熱を増した亀頭を突き付け、鈴口が睨む。
「こんばんわ皆さん。良い夜ですね」
声がした。
戦場を更なる混沌へと引き摺り込む乱入者が、満面の笑みと共に現れた。
259
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:33:21 ID:nMl6FYh.0
◆◆◆
全身が歓喜で打ち震える。
頬は初恋にときめく少女のように紅潮し、口の端からは涎が垂れそうだ。
抑え切れぬ興奮が逸物へ熱を送り、股座がいきり立つ様は繁殖行為に励む直前の如し。
説明書を片手に四苦八苦しつつ、名簿を開き直ぐの事だ。
刺青囚人の辺見和雄がその名前を見付けたのは。
見間違いでは無い。
何度も何度も画面を穴が開くくらいに凝視して、求めて止まない「彼」がここいると確信を抱いた。
「ああ――やっぱりあなたもいるんですね、杉元さん!」
杉元佐一。
自分と同じ刺青囚人の白石と行動を共にし、金塊を狙う元軍人。
忘れもしない、鰊漁師として潜伏中に運命の出会いを果たした男。
杉元も殺し合いに参加している。
辺見と同じ地で、同じ月を見ている。
自分と彼を結ぶ糸は一度死しても断ち切れなかった、これを運命と呼ばずに何と言う。
喜びに酔いしれるのも束の間、ふと顔色が曇る。
名簿によると杉元は正式な参加者では無く、「その他」に分類されるらしい。
二重人格や意思持ち支給品など、ある意味参加者以上にどんな体なのか予想が付かない。
もしかすると、自力では動けず喋る事しか出来ないような体になっているんじゃあないのか。
絶対にあり得ないとは言い切れない予想に、辺見の不安は加速する。
幾ら何でもあんまりだ、折角杉元がいてもまともに動けないのでは台無しも良いところ。
260
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:33:57 ID:nMl6FYh.0
「…いえ、殺し合いを開いたのなら杉元さんの素晴らしさは理解しているはず」
魘夢だって杉元の情報を何も知らず、参加させた訳ではあるまい。
正式な参加者でなくとも、『不死身の杉元』としての本領が発揮出来るだけの体は与えたに違いない。
そうでなければ勿体ないじゃあないか。
あれ程に自分の命を煌めかせてくれた杉元を、無粋極まる身体に閉じ込める真似はしてくれるなと強く願う。
杉元以外にも興味を引く名前はあった。
殺し合いにて辺見に与えられた体の持ち主、吸血鬼のアーカード。
アーカードと因縁深い戦争狂の少佐。
彼らも参加者として会場の何処かにいるらしい。
自分の体が勝手に使われてると知り、アーカードはどうするのだろうか。
怒り狂うか?或いはそれもまた面白いと手を叩くのか?
どちらにしても殺しに来るなら、それは間違いなく素敵だ。
それなら早速死を振り撒きに行かねばなるまい。
参加者を片っ端から惨たらしく殺し、理不尽の権化として君臨し、恐怖と警戒を集める。
きっと杉元を始め、怪物相手にも勇敢に立ち向かう人々が自分を殺しに来る筈。
人間を超えた化け物たちも興味を引かれ、我こそが勝者となるべく闘争に臨むだろう。
素晴らしい、人も化け物も死力を尽くして辺見を殺そうとする。
きっと生前以上の煌めきと出会え、これ以上無い程の幸福に包まれ死ねるんだ。
そうと決まればグズグズしていられない。
意気揚々と出発しようとし、おやと首を傾げた。
261
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:34:41 ID:nMl6FYh.0
「いつの間にか歌が止まった…?」
魘夢が放送を行う少し前。
適当な参加者を求め歩いていた辺見の耳に届いたのは、少女の歌声。
音楽にさして興味を持たない辺見からしても、つい足を止め聞き惚れてしまうくらいには惹かれる声だった。
誰が歌っているのかは知らないが、自分のように歌声を聞き付けた者達が集まるかもしれない。
歌が聞こえる方へと小走りで近付き、放送が始まったのはその数分後のこと。
杉元の名前に興奮し気付くのが遅れたが、ウタは既に聞こえなくなっている。
流石に放送を無視してまで歌いはしないのだろうと結論付け移動を再開。
代わりに聞こえて来たのは明らかに争い合う音。
隠れながら慎重に覗いてみた途端、辺見は興奮で逸物から先走り汁を溢れさせた。
殺し合っていたのは男と異形。
水色の小さな体躯で、伝承に登場する小鬼にも見える者。
奇妙な人形を操る姿には驚きだが、もっと驚愕するのは相手の方だ。
大きい、刺青囚人の牛山辰馬をも凌駕し兼ねない巨体の大男。
何より注目すべきは下半身、天へと昇り雲を突き破る龍の如き迫力。
古来の神々が手にする神器もかくやと言わんばかりの神々しさ、あの部分にだけ神が降臨したと言われても納得するしかない。
(な、なんて人達なんだ……)
やはり持った通りだ。
この殺し合いではアーカードの体を持つ辺見の蹂躙劇にはならない。
彼らのような参加者がゴロゴロ存在するのなら、怪物相手にも殺し合いを成立させられる。
まさかいきなり自分を強く煌めかせてくれるだろう者を見付けられるとは思わなかった。
気体と下半身を膨らませ、待ち切れずに戦場へ姿を現わす。
生前のように潜伏しながら殺して回る必要は無い。
何故なら今の自分は化け物、人間に殺されるべき不死の王。
堂々と己の存在を見せつけてこそ意味がある。
(ああ、本当に――良い夜だ)
これより始まる闘争へ思いを馳せ、心の底からの笑みを浮かべた。
262
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:35:19 ID:nMl6FYh.0
○
「お前は…」
唐突に現れた乱入者へ、黒死牟は目を細めた。
鬼狩りと同じ正義感の持ち主が助太刀に現れる。
若しくは漁夫の利を狙う姑息な輩が、ここぞという場面での介入を目論む。
そういった可能性は想定の内だがこの男はどちらでもない。
歓喜の笑みは真っ当な感性の持ち主とは程遠く、人が発して良いものとはかけ離れた気配。
姿形は人間のソレに相違なくとも、黒死牟には分かった。
「コレ」を人に当て嵌めるのは大間違いだと。
「なァあんた…」
仗助もまた突然出て来た男へどう対応すべきか悩む。
コートも帽子も、ついでにサングラスも赤という全身赤尽くしの怪しさはさておき。
自分達が行っていたのは命懸けの戦闘。
どう見ても気安く挨拶して登場する場面では無いだろうに、男は平然とやってのけた。
呑気を通り越し異常としか思えない。
何より仗助もまた、赤い男の纏う血の気の凍り付くような気配を感じるのだ。
今はもういない連続殺人鬼の薄気味悪さとはまた違う、ありきたりな言葉で言うなら嫌な予感。
仮に承太郎やジョセフがいたならば、ジョースター家の宿敵である帝王の姿を重ねただろう。
「一応言っとくけどよ、そこのフルチンのおっさんは『乗ってる』側なんで逃げた方が良いんスけどね」
「ご忠告ありがとうございます。でも逃げるなんてとんでもない」
念の為に促した警告もにニコニコ笑いながら受け流される。
仗助の中で男への警戒が猛烈に跳ね上がり、黒死牟に至っては股間を振るい仗助諸共仕留める気だ。
両者の瞳が突き刺さるのをさぞ嬉しそうに受け止め、辺見の右腕が跳ね上がった。
263
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:36:02 ID:nMl6FYh.0
「だって僕は、煌めき合い(ころしあい)に来たんですからぁ!!」
右手に握られた物が何なのか、理解と同時に仗助の頬が引き攣る。
銃だ、引き金を引けば弾を発射する、日本では限られた職種の人間しか携行を許可されない武器。
尤も辺見が手にしたのは、仗助の祖父も持っていたような警察官の拳銃とはどう見ても別物。
回転式のマズルを六つ備えた巨大なフォルム。
俗にガトリングガンと呼ばれるソレの正式名称はGX-05〈ケルベロス〉。
対未確認生命体・アンノウン用に開発された主力武器である。
「さぁ!僕を殺してください皆さん!」
熱の籠った叫びはけたたましい銃声に掻き消され、誰の耳にも届かない。
青い小鬼と下半身丸出しの巨漢へ大量の銃弾がばら撒かれる。
アンノウンの強固な外骨格をも破壊する特殊弾を、暴風もかくやの勢いで発射。
G3-Xという強化装甲服を装着した者ですら、両手でしっかりと構え撃つのを想定したのがケルベロスだ。
だというのに辺見はあろうことか、片手で棒切れのように振り回しながら乱射している。
生身でそんな扱い方をすれば腕が吹き飛ぶのは確実だが、アーカードの体が無茶な撃ち方を可能にした。
吸血鬼の中でも最上級の能力を持つアーカードは、当然桁外れの怪力の持ち主。
ケルベロス以上に凶悪な性能の銃を平然と連射した事もある故に、この程度は欠伸が出るくらいに容易い。
「イカレてんのかこのオッサンはよォ〜〜〜!?」
慌ててまだ倒れていない気の後ろに隠れ、仗助は頭を抱える。
巨根を振り回して暴れる大男の次は、不気味な笑みと共に銃をぶっ放す赤男。
参加している男は自分以外こんなのばっかりなのか。
一方黒死牟の対処法は変わらず、ベオウルフの持つ最大の武器を活かした防御。
逃げ隠れする選択は無視し、真っ向から魔剣を振るい叩きのめす。
突風を受けた風車のように男根を高速回転させ、銃弾を叩き落としながら接近を試みる。
264
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:36:48 ID:nMl6FYh.0
「来て!来てください!それを僕の中に突っ込んで!」
明治時代には存在しないオーバースペックの銃火器。
それを真正面から防ぎ斬りかかる巨漢へ股間を濡らしつつ、しかし大人しく殺されてはやらない。
この程度では辺見が求める煌めきには程遠い。
全力で殺しに行く、すると向こうも全力で殺しに来る。
弟がヒグマに食われる瞬間に見せた、無意味ながらも決死の抵抗と同じ、いやそれ以上の煌めきこそが辺見の目的なのだから。
「むっ…!?」
銃撃を止め、跳躍した辺見が放つは顔面狙いの蹴り。
回転する男根の間を縫い、杭打機よりも鋭い一撃が黒死牟に迫る。
速度を緩めず回転させた魔剣の間を掻い潜るとは、蟻の尻穴に糸を通すよりも困難だろうに。
異様な雰囲気に違わず、発揮する能力もまた人間の限界を容易く凌駕しているらしい。
元より油断はしていなかったが、脅威の度合いをより高めた。
「だが甘い…」
されど黒死牟もまた、並の枠では決して収まらぬ怪物。
扱う体は怪物以上に怪物らしい人間。
たとえ不死の王(ノー・ライフ・キング)が相手であっても、簡単に勝利は譲ってやれない。
上体を後方に大きく倒し、下半身を突きあげた体勢となる。
所謂逆さブリッジのポーズ。
辺見の蹴りを避け、真下から男根による突き上げを繰り出したのだ。
「ああ!僕の足が!?」
蹴りを放ち伸ばしたままの脚は、男根に貫かれ引き千切られた。
片足が使い物にならなくなり、敵の機動力は自然と低下。
そういった展開は相手が常識の範囲内で計れる存在だったらの話。
撒き散らされた血が傷口へと戻り、ビデオの逆再生を見ているように足が元の形を取り戻す。
時間にすれば5秒と掛けずに完治。
上弦の鬼にも匹敵する再生速度、敵が人では無いと分かってはいたがやはりこの程度の傷は無意味。
ならば両断してはどうだ、立ち上がり男根を横薙ぎに振るう。
265
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:37:47 ID:nMl6FYh.0
「おおっと!?」
落下の瞬間を狙い振るわれた男根は、辺見へ傷一つ付けられない。
再生したばかりの足で男根を踏み付け土台代わりにし跳躍。
僅かにでもタイミングがズレれば再び片足を失う羽目になる行動も余裕でこなした。
黒死牟の顔の位置まで跳び上がり、先程は届かなかった蹴りを放つ。
靴底に当たる硬い感触、交差した両腕でガードされたのだ。
筋肉が盛り上がり血管が脈動、男根ばかりが注目されがちだが鍛えられた全身もベオウルフの武器。
ガードを解除し剛腕を振るい辺見を吹き飛ばす。
何もしなければ大木に激突、運が悪ければ枝に心臓を貫かれて死亡。
そんなつまらな過ぎる死に方は御免だ、まだまだ己の欲する煌めきには程遠いのだから。
「せはぁっ!」
ケルベロスを持つのとは反対の手で手刀を振るう。
大木を一刀両断にし激突を回避、ついでに陰に隠れていた小鬼も発見。
「君も遠慮しないで、僕を煌めかせて!」
トチ狂ったとしか思えない言葉を吐き、真下へ踵落としを繰り出す。
踵の下には陥没した地面があるばかり、青い体は見当たらない。
真横からの敵意を察知、横目で見ると光り輝く右手を振り被る小鬼がいた。
各地で殺人を繰り返しながらの生活を続けていたのもあって、辺見は自分に向けられる敵意へ敏感だ。
体を大きく逸らし剣を避け、反対にケルベロスを突き付ける。
「ドララララララララララララララァッ!!」
しかし弾は発射されなかった。
光剣を躱される事くらい仗助には十分予想の範囲内。
避けた体勢から復帰される前にクレイジー・ダイヤモンドを出現、ラッシュを叩き込む。
これ程に接近してくれているのなら、射程距離の短さも問題にはならない。
殴り飛ばされ血を撒き散らしつつも、倒れはせずに二本足で踏み止まった。
266
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(前編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:38:40 ID:nMl6FYh.0
「グレートどころかクレイジーも良いとこだぜ、このおっさん…」
顔面からの出血も意に介さず、むしろ気持ちが良いとばかりに辺見は笑う。
こんな奴と対峙する真っ最中の仗助からしたら堪ったもんじゃあない。
片桐安十郎や吉良吉影とは別ベクトルで異常である。
とはいえげんなりし続けるのも程々にしなくては。
辺見はもとより、黒死牟も巨根を揺らし今この瞬間にも殺そうとしているのだから。
「素敵です…やっぱり僕は殺し合いに参加して本当に良かった…!」
圧倒的な力を持つ怪物の蹂躙劇。
そんな安っぽい展開にはならず、抗い傷を付ける者達と殺し合う。
巻き込まれた当初は無粋極まると辟易したが、今となっては魘夢に感謝の念すらあった。
生前以上の煌めきも実現不可能なんかじゃない。
「でもまだ足りない…もっともっと本気で殺しに来てもらわないと、あの時の煌めきは越えられないじゃあないですか!」
黒死牟も仗助も強いのは分かった。
だが自分が最高の煌めきを発するには足りない、だってこっちはまだまだ余力を残している。
こちらの全力をぶつけ、それすらも上回る程の執念で相手が食らい付いてこそ、自分は煌めく事が出来る。
大きな銃を撃つ、怪力や再生能力を見せ付ける。
それだけじゃあ駄目だ、アーカードの力はそれっぽっちじゃないだろう。
彼らにはもっと本気を出してもらわねばならない。
だから辺見がソレを口にするのに、何の躊躇も無かった。
「拘束制御術式
第3号
第2号
第1号
解放」
凍り付く。
その場に集まった全員が総毛立ち、空気が悲鳴を上げる。
脳が叫ぶ、肉体の司令塔が全力で警鐘を鳴らす。
恐ろしい事が起きる。
この化け物を放置すれば、恐ろしい事が起きてしまうと。
闇が溢れる。
アーカードと言う名の化け物が支配する。
辺見和雄と言う名の人間が混沌を引き起こす。
「さぁ、僕と一緒に煌めき合いましょう」
『本当の吸血鬼の闘争』の幕開けだ。
267
:
◆ytUSxp038U
:2023/09/07(木) 00:39:39 ID:nMl6FYh.0
投下終了です。残りはもう暫くお待ちください
268
:
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 13:53:14 ID:4/96RJSs0
残りを投下します
269
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 13:54:31 ID:4/96RJSs0
◆
帳が下りる。
獲物を捕らえ、自らの狩場を作り上げる。
夜の闇よりも尚濃い暗闇が覆い隠し、無数の眼が睥睨するは二匹の餌。
しかし甘く見るなかれ。
彼らは黙って食われる事を良しとはしない、油断すれば反対にこちらが喰い殺されてもおかしくはない。
「なんだ、こりゃ……」
息を呑み、ようやっと吐き出した少年の言葉へ答えを返す者はいない。
イカレた言動を繰り返す赤い男が何を始めたのか。
具体的な解答は弾け出せずとも、仗助が理解したのは一つ。
マズい事態が起きてしまった。
スタンド攻撃だとか最早そういう次元では無い。
人間の根本的な部分を震わせる、人ならざる脅威と対峙した恐怖。
嘗て、吸血鬼や柱の男と死闘を繰り広げた戦士たちのように、仗助もまた怪物と戦わねばならない運命へと導かれたのだ。
「……」
闇そのものに睨み付けられ、黒死牟は不動の姿勢で睨み返す。
赤い男が姿を変えてから明確な攻撃はされていない。
しかしこの光景を目の当たりにし、上弦の壱たる自分をしても戦慄を抱かざるを得ない存在感と対峙すれば理解する他無い。
敵は人を超えた怪物として間違いなく最上位、自らの主にも引けを取らない強者。
分かった所で怯え逃げ出すつもりは毛頭ない。
誰が相手だろうと勝たねばならぬ、敗北だけは決して許されぬ。
四百年前のあの日、赤い月夜に味わった屈辱が黒死牟を勝利への執着へ縛り付けて離さないのだ。
「さぁ――煌めき合いましょう」
闇が蠢き、波打ち、押し寄せる。
数百か、下手をすれば数千にも届きかねない牙、牙、牙。
顎を打ち鳴らし、我先にとばかりに獲物へ食らい付かんと迫る百足と蝙蝠の群れ。
闇が産み落としたと証明するように、全身を染め上げる黒。
唯一、血よりも赤い目を爛々と光らせ鬼と人間へ襲い掛かった。
これらは使い魔、自らが使える王に歯向かう不届き者へ死を与える役目を任された軍隊。
270
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 13:55:30 ID:4/96RJSs0
「っ!!ドララララララララララララララァッ!」
既に脅威は間近に迫りつつあった。
であれば何時までも呆けていられる余裕は微塵も無い。
急ぎ攻撃に移らねば待ち受ける末路は一つ、骨まで食い散らかされる惨めな餌。
自らの精神象が本体の意思を受け取り拳を放つ。
「ドラララララララララララララララ」
近付いた端から拳を振り落とし叩き潰す。
近接パワータイプのスタンドでは間違いなく上位に位置する性能。
1秒間が過ぎる間に数十匹を纏めて葬る事だって難しくは無い。
だがそれでも圧倒的に手数が足りなかった。
「クソッ!むしむしぴょんぴょん鬱陶しいんだよォ〜〜!!」
使い魔の数が多過ぎるのだ。
こちらがどれだけ潰してもまるで終わりが見えない。
とてもじゃないが、クレイジー・ダイヤモンドだけでは手が足りなかった。
仗助本人も対処に回らなければスタンド諸共食い潰されるに違いない。
光剣を振り回し、クレイジー・ダイヤモンドが打ち漏らした使い魔を切り裂く。
悲鳴すら上げずに焼き潰される蝙蝠へは目もくれず、まだ息のある方へと片っ端から光剣を振るう。
(チクショ〜〜〜!!なんだって俺はこう動物って奴にゃロクでもない目にばっかり遭うんだよ!?)
以前、承太郎と二人でハンティングに行った時の光景が嫌でも思い起こされる。
あの時はネズミ、今度はムカデとコウモリ。
動物関係で災難にばかり遭遇しているのを偶然で片付けて良いのだろうか。
ひょっとして自分の先祖が動物に何かをやらかして、とばっちりを受けてるんじゃあないか。
271
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 13:56:16 ID:4/96RJSs0
「っ!?があっ!」
などと能天気な悪態を吐いている間にも使い魔は止まらない。
蝙蝠と百足の波を掻き分け、一際巨大な顎が出現。
複数の目を持つ黒い犬(ブラックドッグ)が涎を垂らし、クレイジー・ダイヤモンドに牙を突き立てる。
歯が食い込む度にスタンド使い本体である仗助にも、フィードバックにより激痛が襲う。
一般人の郁代にクレイジー・ダイヤモンドが見えていた時点で察するべきだった。
殺し合いではスタンド使いでなくとも、スタンドが見えるだけでなく干渉も可能。
魘夢が何らかの細工を施したのだと、気付く機会は十分あったはず。
痛みに怯めば敵へ付け入る隙を与える事へ繋がる。
ここぞとばかりに殺到する使い魔達と、一気に噛み千切らんと顎に力を籠める犬。
形勢は瞬く間に絶体絶命の危機へ一直線。
「ざっけんじゃあねぇぞワン公コラァァァーーーッ!!俺はテメェらのおやつじゃあねェぞォォォーーーーーッ!!!」
しつこく食らい付く犬へ怒りと焦りを露わにラッシュを放つ。
顔面をタコ殴りにされては流石に堪えたらしく、ぎゃんと悲鳴を上げ口を離せばこっちのもの。
痛みに構う暇すら今は命取りだ、再びスタンドと光剣で使い魔どもを蹴散らす。
時折噛み付かれ体のそこかしこから血が噴き出るも、歯を食い縛り迎撃に集中。
(埒が明かねぇ!)
潰せども潰せども一向に終わりが見えない。
さりとて別の手に出ようにも動きを止めればどうなるかは言うまでも無く、これでは完全再生を行う隙すら見当たらない。
せめて時間でも止まってくれればと、無敵のスタンドを持つ男を思い浮かべるのも致し方無い事だろう。
272
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 13:57:24 ID:4/96RJSs0
使い魔に襲われているのは仗助一人ではない。
黒死牟へも等しく、蠢く蝙蝠と百足の津波が覆い被さった。
ベオウルフの巨体を喰らい尽くすには相応の数が必須と判断したらしい。
故にか、使い魔の量は仗助に殺到するのよりも多い。
力無き人間は勿論のこと。
歴戦の柱や人を多く喰らった鬼であっても、背筋が凍り付くのを抑えられない悪夢の如き光景。
黒死牟に恐怖はない。
そちらが圧倒的な物量で攻めるならば、それ以上の力を以て捻じ伏せるのみ。
――月の呼吸 陸ノ型 常夜孤月・無間
呼吸を練り上げ全身の筋肉が張り詰め、猛々しい魔剣が脈動する。
本来は刀の一振りで広範囲に斬撃を放つ技。
全方向へ一瞬の内に縦横無尽な攻撃を行う攻防一体の型も、鬼の体と虚哭神去が無ければ再現不可能。
だが近づける事は難しくない。
ベオウルフという人の身でありながら、黒死牟をして感心する程の肉体を持ち。
古今東西、ありとあらゆる名剣名刀をも凌駕する男根を振るう男の体ならば。
カッと目を見開き、暗黒の津波を真正面から打ち破るべく動く。
股間の魔剣だけではない。
体中の筋肉を余すことなく総動員し、渦を巻くかの如く全身をうねらせる。
360度全方位からの脅威を暴れ狂う男根が粉砕。
肉体には掠り傷の一つすら付けさせず、使い魔を蹴散らし相も変らぬ魔人の風格を漂わす。
しかし戦いは未だ継続中。
闇から這い出るは混沌を巻き起こした張本人。
赤い外套から黒を纏った姿となり、より一層死の気配を漂わせる。
上半身を生やした辺見がケルベロスの照準を合わせ、引き金に指を掛けた。
使い魔の津波を凌いだばかりの黒死牟へ、今度は銃弾の暴風雨が牙を剥く。
273
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 13:58:48 ID:4/96RJSs0
尤もそれは黒死牟にとって既に見た攻撃。
恐れるに足りない豆鉄砲の掃射に過ぎない。
男根が台風の日の風車を思わせる速度で高速回転、対アンノウン用の特殊弾も魔剣の前には無力。
一発残らず叩き落とし、そっちから顔を見せたなら好都合と急接近。
頸を落として尚も生きていられるか試そうと魔剣を振るう。
「ああ…素敵だぁ…」
頸を斬り落とした手応えは無く、代わりに硬いモノを叩きつけられた感触。
視線の先では全身を這い出した辺見、その手には禍々しい装飾の大剣が握られていた。
大きさからしても確実に両手で振るうのを想定し生み出された得物。
だというのに片手で振り回した事実へ驚くのは今更だ。
むしろ己の魔剣を止め、刃こぼれの一つすら起こさない剣へ少しばかり関心を抱く。
「得物には恵まれたようだな…」
無数の弾を吐き出す銃のみならず、剣もまた相当な業物。
ならばそれを使って打ち破ってみろと、言葉では無く股間で伝える。
鍛えに鍛えた腰使いに物を言わせ魔剣が乱舞のメロディを奏で、辺見は笑みを深め迎え撃つ。
竿と刀身を叩き付け合い、音楽と呼ぶには無骨なハーモニーが響き渡った。
(何とも…噛み合わぬ男よ…)
腰を突き出しながら、黒死牟は冷静に敵の力量を見極める。
数度の打ち合いで察せられたのは、辺見は剣術に関しては素人同然。
恐らく殺し自体には慣れているのだろう、だが武芸を極めた者の動きとは程遠い。
しかし、技術の未熟さを補って有り余るだけの力が敵の体には宿っている。
滅茶苦茶に剣を振り回す、ただそれだけの動作すら脅威と化す膂力と速度。
何より今の状態になってから身体能力が更に強化されたのを、打ち合いを通じ感じ取れた。
僅かながら力で押し負け、黒死牟の方がよろけかけた程。
もし自身の体のような戦士が敵の体に入っていれば果たしてどうなったかと、ほんの少しだけどうでもいい事を考えた。
274
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 13:59:42 ID:4/96RJSs0
魔剣と魔剣の激突の度に発生する衝撃波がエリアを破壊する。
一度の衝突で発生する余波が地面を引っぺがし、木々を切株すら残さず切り刻む。
使い手の力が桁外れな為に、最早剣でありながら対軍兵器と読んでも過言ではない。
長々と打ち合うのは黒死牟の望む所に非ず。
技を用いて勝負を決めに行く。
――月の呼吸 拾陸ノ型 月虹・片割れ月
月の呼吸の十番台の型。
鬼殺隊最強の岩柱をして、技が尽きぬと戦慄させた手数の豊富さは健在。
跳躍し真下の標的目掛け目にも止まらぬとしか形容できない速度で腰を振った。
流星群もかくやという怒涛の勢いで降り注ぐ男根。
出鱈目に打ち放っているのではない、辺見と蠢く使い魔の位置を正確に捉えた上で魔剣を突き刺す。
「良いです…良いですよ…!もっと激しく僕を殺しに来てください!」
なれど、容易く滅ぼせないからアーカードは強大な化け物として君臨し続けた。
生前以上の煌めきを欲するが故に、辺見も抵抗を決して諦めない。
黒死牟の技が激しさを増すのならば、相応の力で以て迎え撃つ。
殺し合いが苛烈になればなる程に、自分は煌めけるのだから。
降り注ぐ魔剣相手に逃げも隠れもせず、大剣を叩きつけて相殺。
一撃でも打ち漏らせば直撃は免れず亀頭が心臓を串刺し、それは甘美で輝かしい最期だろう。
275
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:00:18 ID:4/96RJSs0
「だけどまだ足りない…!もっともっと僕を煌めかせてぇん!」
絶頂寸前に似た蕩け切った顔ながら、剣を振るう動きは研ぎ澄まされたもの。
一挙一動が徐々にキレを増し、黒死牟は内心で首を傾げた。
先程までは素人同然だった筈が、段々と洗練された剣士のソレへ近付いているではないか。
よく分からない現象に困惑するのは一瞬に留める。
相手にとって不足はなし、むしろこうでなくてはと俄然戦意を燃え上がらせた。
アーカードが使い慣れた武器は言うまでも無く、特別なカスタムを施した対吸血鬼・食屍鬼・アンデルセン神父用の二丁拳銃。
しかし近接戦闘においても無類の強さを誇り、剣の扱いだって心得ている。
ヘルシング機関のジョーカーになるずっとずっと前、まだ彼が『伯爵』だった頃。
戦場で無数の敵兵の首を撥ねた腕前は衰えを知らない。
ロンドンでの大戦争ではアンデルセンと互角の剣戟を繰り広げたくらいだ。
肉体に根付いた剣を用いた闘争の記憶を、辺見自身も気付かぬ内に引き出した。
辺見の精神がアーカードの体へ馴染んで来たと言うべきか。
と、詳しい事情が何であれ辺見にも黒死牟にも関係無い。
目的は違えど昂る心は同じ、殺意を剣に乗せ闘争の快感へと身を委ねる。
「好き勝手やってんじゃねぇよチクショォ〜〜〜!!!」
化け物同士のぶつかり合いで生じる余波に巻き込まれた、少年の悲鳴を無視して。
276
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:01:22 ID:4/96RJSs0
◆◆◆
「なに…これ……」
正気を疑う闘争の場より少し離れた位置。
自分の目に映る光景が現実のものとは思えず、郁代は乾いた呟きを漏らす。
ここに来てから常識とはかけ離れたものは嫌と言う程見て来た。
別人の体に変えられた自分、スタンドなる超能力を使う宇宙人のような体になった少年、異常なサイズのペニスを振り回す巨漢、不思議な歌を響かせる少女。
リョウ風に言うとロックな世界観なのかもしれないが、STARYでのバイト中につい居眠りをして夢を見たと言う方が納得できる。
紛れも無い現実だとは分かっているが。
視線の先で巻き起こる戦いだってそう。
悪い夢だと思い込むには聞こえる音も、肌を叩く空気の揺れも余りに生々しい。
何より体の奥底、他者の体ではない郁代本人の心を蝕む恐怖が、現実逃避を許してくれなかった。
下半身丸出しの大男に仗助が負けそうになり、次は自分も男性器の餌食になるのではと恐怖を抱いたのはつい数分前のこと。
今感じている恐怖はあの時の比では無い。
原因を作ったのは赤いコートの男。
どこからともなく現れ銃を乱射し、訳も分からぬ内に恐ろしい光景を生み出したのだ。
アレは一体何だ、アレは人なのか?
いいや違う。
あんなに恐ろしいものが人である筈がない。
277
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:02:29 ID:4/96RJSs0
「ひっ、やっ…いや……」
寒くないのに体中が震える。
膝が笑いまともに立っていられない。
見えるもの、感じるもの全てが恐くて堪らない。
どうして自分がこんな恐い場所にいるのかも分からないし、分かりたくない。
何か悪い事をしたから罰を受けたとでも言うのか。
学校で友人達と談笑して、イソスタやトゥイッターを更新して、放課後は階段下のスペースで二人でギターの練習をして。
普通の女子高生らしい日常に、バンド活動というほんのちょっぴりのスパイスを加えた生活を送っていただけなのに。
何でこんなものに巻き込まれなきゃならない。
「ひとりちゃん…リョウ先輩…伊地知先輩…誰か、助けて……」
嬉しそうに笑う化け物が恐い。
楽し気に殺し合う大男が恐い。
大きな銃で撃ち殺されるかもしれない。
沢山のムカデとコウモリに喰い殺されるかもしれない。
冗談みたいな大きさの男性器で叩き潰されるかもしれない。
直接殺気を向けられていなくとも感じずにはいられない死の予感へ、堪らずバンドメンバーの名を口にした。
「……」
のそりと、郁代のすぐ傍で動く気配が一つ。
届く筈の無い結束バンドへの声を聞き届けた訳ではない。
放送が終わってからずっと蹲り、引き摺られても抵抗しなかった少女。
天使のような翼を揺らし、ゆっくりと顔を上げる。
見つめるのは郁代が見ているのと同じ、おぞましい闘争。
言葉を発さず小さな呼吸音だけを漏らしながら、少女はふらふら頼りない足取りで戦場へ近付く。
278
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:03:28 ID:4/96RJSs0
「え、ちょ、ちょっと…!」
恐怖でとても意識を割ける精神状態でなかった郁代も、ようやく少女の異変に気付いた。
何を考えているのか知らないが、あの場所へ行くのは自殺行為に等しい。
もしかしたらまた不思議な歌で何とかするのかもしれないけど、今となってはあんな恐ろしい連中をどうにか出来るのか分かったもんじゃない。
咄嗟に止めようと手を伸ばし、彼女がどんな顔をしているかが見えた。
「っ…!」
鬼がいた。
女の子相手に抱くような感想じゃないと理解していても、そう思わずにはいられない。
幸薄な美少女の面影は鳴りを潜め、憎々し気に戦場を睨み付ける彼女は郁代に目もくれない。
ただ一歩一歩、今度は確固とした意思に従い近付いて行く。
放送が終わった後、起きた全てはウタの耳にも届き、視界から情報が伝えられた。
下半身丸出しの大男だけじゃなく、別の危ない奴も乱入。
自分には目もくれずに殺し合い、さも嬉しそうな笑い声を上げている。
真っ当な倫理観をゴミと共に投げ捨てた連中を見ている内に、ウタの中へ沸々と湧き上がる思いがあった。
シャンクスは死んだのに、どうしてあいつらは生きているんだろう。
ウタという少女は基本的に人を傷付けるのを好まない。
大切なファンを苦しめる海賊たちへの嫌悪から来るものであり、生来の優しさでもある。
ライブを邪魔した海賊、自分勝手に市民を苦しめる天竜人、天竜人の言い成りと化す海軍。
そういった者達への怒りや苛立ちはあれど、殺そうとは全く思わなかった。
事実、天竜人の命令で自分を捕らえようとした男達が撃たれれば、血相を変えて治療するくらいには誰かが傷付くのを嫌う。
279
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:04:05 ID:4/96RJSs0
しかし、その優しさに亀裂が刻み付けられた。
シャンクスの死亡。
あれ程憎み、けれど心の底では憎み切れなかった父親。
自分の為に汚名を被った男へ謝り、聞いて欲しかった歌声を届かせる機会は永遠にやって来ない。
ウタウタの実の能力でファンを操り、一方的に殴り続けたエレジアでの記憶が最後となってしまった。
感情の整理もままならずに心へ深い傷を負い、目に入ったのは笑いながら命の奪い合いに興じる怪物達。
誰かを思いやる気持ちなんてこれっぽっちも感じられない悪党。
ファンの皆を苦しめる悪い海賊と同じ連中。
鳴り止まない闘争の音が鼓膜を刺激し、ウタの中にドス黒いモノが溢れ出した。
どうして死んだのがシャンクスで、誰かを平然と傷付けるあいつらじゃないんだろう。
あんな連中がいるから、シャンクスだって殺されてしまったのではないのか。
ひょっとすると、あいつらがシャンクスを殺した?
根拠なんてない。
事実を言ってしまえばシャンクスの死に彼らは一切関わっていない。
これはただの八つ当たりに過ぎず、さりとてウタ自身にもこの衝動を止める気は無かった。
「なんでアンタ達が生きてて…なんでシャンクスは……!」
怨嗟の声がトリガーとなり、背後へ巨大なスピーカーボックスが出現。
但し届けるのは天使の歌声では無い。
その証拠に、スピーカーボックスに取り付けられたのは複数の砲口。
リグレットの能力は何もデジヘッド化による支配だけではない。
現実から逃げた者達の楽園、リドゥの崩壊を目論む侵入者を武力で排除する事だって可能。
ウタのただならぬ気配へ男達が気付いた時にはもう遅い。
「アンタ達みたいな奴がいるから…だから…!うあああああああああああああああっ!!!」
スピーカーボックスが火を吹き、爆炎が広まる。
子供の癇癪で片付けるには凶悪極まりない暴力が降り注いだ。
280
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:04:44 ID:4/96RJSs0
○
――月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満繊月
油断できない威力の攻撃が来る。
察したならば指を咥えて黙って見ている阿保はおらず、即座に対処へと移行。
再び三刀流の構えを取り、呼吸を練り上げ技を放つ。
本来は渦上の斬撃を発生させ広範囲の敵を斬り刻むが、此度は黒死牟自身が三本の剣を前左右に伸ばし回転。
斬撃を伴った竜巻を巻き起こし来たる砲撃を斬り伏せる。
股間の魔剣は言うまでも無く、両手に握るはアマルガムと魔法少女の武器。
使う得物としては文句なしの強度と切れ味だ。
生きた災害と化しエリアの破壊へ拍車が掛かる。
「ああ熱い!でもまだ温いですよ!もっと熱く!激しく!煌めかせてください!」
大人しく殺されてやらないのは辺見も同じ。
圧倒的な火力で消し飛ばされる末路、それもまた煌めけるのに良いかもしれない。
但し生半可な火力では駄目だ、アーカードの全力でも叶わない程の威力でなければ自分の望む煌めきへは届かないだろう。
大剣を振り回し、時にはケルベロスで弾幕を張る。
加えて無数の黒い手を地面から発生させ砲撃を凌いだ。
(やっぱりだ…参加している皆さんは僕の期待通りの方達ばかりだ…)
戦場へ乱入した時は項垂れており、正直ほとんど興味は抱かなかった少女。
それがどうだ、彼女もただの人間では有り得ない力で自分を殺そうとするではないか。
男とか女は関係無い、誰もがアーカードへ届くかもしれない力の持ち主。
生前の、人間の体だった時には予想もしなかっただろう最高の煌めきがここにはきっとある。
ともすれば、杉元との殺し合いで感じた幸福感をも凌駕する煌めきが見つかるかもしれない。
281
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:06:38 ID:4/96RJSs0
(ああ…ごめんなさい杉元さん…こんなふしだらな僕を許してください……)
杉元に殺されたいと心の底から思ったのは嘘じゃない。
杉元との出会いに運命を感じたのだって、間違いなんかじゃあない。
けれど自分は今、杉元以外の相手から与えられるだろう死にまでときめいてしまっている。
心は夫を愛しているのに、体は間男の性戯で快楽に堕とされる人妻の気分だ。
申し訳ないと思いながらも、逸物がそそり立つのを抑えられなかった。
互いに考える事は微塵も似つかないとはいえ、黙って死を受け入れる気が無いのは変わらない。
各々武器と能力、技を駆使し死をあっという間に遠ざける。
「っ!!」
それがウタには酷く憎たらしい。
何でシャンクスは死んだのに、こいつらは死なない。
そんなのはおかしいだろう、ふざけるのも大概にしろ。
冷静さを取っ払い、複数の感情が何重にも絡み合った形容し難さに、ウタ自身も振り回される。
「消えて…消えてよ…!!」
半狂乱で叫べばスピーカーボックスだけでなく、複数の砲台や銃口が出現。
目の前にいる連中が生きたままなのが許せない。
シャンクスは死んだのにあいつらが生きてるのは認められない。
正しさも優しさもない八つ当たりを叶えるべく銃口が一斉に火を――
282
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:07:18 ID:4/96RJSs0
「もうやめてぇっ!!!」
吹く前にウタへ縋り付く者がいた。
飛び掛かり、標的へ伸ばした腕を強引に降ろさせようとする。
完全に不意打ちを受けた形となり、ウタは縋り付いた人物諸共地面に倒れ込んだ。
体への鈍い痛みも今は気にならない。
訳も分からず目を瞬かせ、すぐにキッと吊り上げ怒鳴り返す。
「いきなり何…!?どうして邪魔するの!?」
怒声を間近で浴びせられた当人は必死にウタを抑え込もうとしたまま。
目尻に涙が溜まった顔は小汚い禿げ頭の老人のもの。
なのにどうしてか、ウタには一瞬知らない筈の少女の顔が重なって見えた。
ウタからの文句を真っ向から受けて尚も一切怯まない。
苛立ちと困惑でささくれ立つウタへ、負けじと言い返す。
「東方くんまで死んじゃうから…!だからもう…!」
「――――えっ」
冷水を浴びせられるとは正にこの事か。
あれだけ熱くなっていた頭から熱があっという間に消え去った。
マーブル模様にかき混ぜられぐちゃぐちゃになっていたのが、不思議と綺麗に片付いた気さえする。
どうして彼女がここまで必死に止めようとしたのか。
自分が八つ当たりに身を任せてばかすか撃てばどうなるか、そんなの誰が見たって答えは同じだ。
砲撃が止み、煙が晴れた戦場ですぐに見つかった。
吹き飛ばされた地面に横たわる、体のあちこちが焼け焦げた水色の小さな彼を。
283
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:08:27 ID:4/96RJSs0
「あ……」
下半身を露出した巨漢と赤い服の化け物は、殺し合いに乗っている悪党。
それは間違いない。
では彼は?水色の可愛らしい体をした彼も許されざる悪人か?
違う、彼は会ったばかりのウタを助け、逃がしてくれた。
自分がショックを受け歌えなくなっても、たった一人で戦った命の恩人とも言うべき相手だ。
断じて死んで良い訳がない。
「あ……あたし、は……」
攻撃する時、自分は彼に何かしたか?
今から強烈なのを撃つから避けてと、先に警告はしていない。
彼に当たらないように調整してもいない。
自分の中のドス黒い怒り促されるまま攻撃を行った。
彼が巻き込まれるかなんて考えもしないで。
「あたし…ち、ちが…そんな…つもりじゃ……あ、あああ…!あたし、いや、なんで……こんな、ちがう…!だって、うそ、ち、ちが…」
息苦しい。
何を言えば良い、何を考えれば良い、何をすれば良い。
一つも正しい答えが出せない。
分かるのは、自分が大きな間違いを犯してしまった事だけ。
そんなつもりじゃなかった、自分でも頭が滅茶苦茶になってて考えが回らなかった。
言い訳にすらならない言葉が渦を巻き、震えが止まらない。
『ほら、言った通りじゃないの』
声が聞こえた。
この世で最も聞き覚えのある、少しだけ幼い声。
目の前に知っている女の子が立ち、こちらを見上げていた。
丸い瞳は信じられないくらいに冷たくて、吐き捨てる声にはこれでもかと侮蔑が込められていて。
馬鹿みたいに立ち竦む自分へ向け、女の子は淡々と言う。
『あんたなんか歌姫でも救世主でもない、ただの人殺しでしょ』
284
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:09:30 ID:4/96RJSs0
「―――――――」
人殺し。
どんなナイフよりも鋭い言葉が突き刺さる。
あの日見つけた、知りたくなかった真実の映像。
燃える国、逃げ遅れて殺される人達。
自分の歌は世界を滅ぼすと警告する誰かの声。
12年前、炎の海に沈んだ音楽の島が、倒れ伏した水色の少年と重なって。
バキリと何かが折れる音がした。
「ああああああああああ…!!!あ、あたし…ごめんなさ…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい……」
顔をくしゃくしゃに歪めて嗚咽する歌姫の泣き声が空しく響く。
(やはり…所詮は脆弱な娘に過ぎぬか…)
涙を流すウタも黒死牟の目には下らない光景としか映らなかった。
歌声で他者を強化するだけでなく、火力に物を言わせ焼き払う術も手にしている。
油断ならない能力だとて、使う本人がこの様では宝の持ち腐れとしか言いようがない。
せめて鬼狩りや人形を操る少年のような正義感や使命感を持ち合わせるなら、幾らか楽しめたかもしれないがそれを期待するだけ無駄。
しかもあの娘は一応味方である筈の少年を巻き添えにした挙句、それが原因で戦意を失う始末。
何とも締まりのない末路へ、僅かだが少年へ憐憫を抱かざるを得ない。
(うーん…仕方ない、僕を煌めかせてくれるのは別の人に期待しよう)
悪い意味で予想できなかった結末には、辺見も些か肩透かしを食らう。
人形を操る小鬼と砲撃を行った少女にも自分へ抗って欲しかったが、こうなっては無理だろう。
ならせめて、自分の存在を他者へ知らしめるのに役立ってもらう事とする。
禿げ頭の老人を殺し、少女を生き証人として逃がす。
そうすれば参加者達の間で自分の話が広まり、杉元を始めとして多くの者が殺しに来る筈だ。
煌めきを探す以外にも口封じなど、必要とあれば人を殺すのに躊躇はない。
「っ…!」
「きゃっ…」
無表情で剣を振り被る辺見に気付き、ウタは咄嗟に郁代を突き飛ばした。
ウタの意図を郁代が察した時には既に手遅れ。
大剣は振り下ろされ、少女の命を一刀の下に断つ。
標的と逃がす対象が逆となったが、さしたる問題もないのでこのまま殺す。
罪悪感も良心の呵責も何も無い、ただ必要だからとの理由のみで少女の命が散らされようとした。
285
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:10:31 ID:4/96RJSs0
だが、来るべき瞬間は訪れない。
「グレート……間一髪ってやつだぜこいつぁ…」
大剣の一撃を受け止めたハートの装飾の拳闘士。
傍らで傷だらけと化しつつも、不敵な笑みを浮かべる水色の少年。
まさかの復活劇に辺見の動きも止まり、次の手を許す羽目となった。
「こいつは礼だおっさん!遠慮しないで受け取れッ!!」
大剣を受け止めた手を今度は辺見へ伸ばす。
殴るつもりでは無い、掌は開いたままだ。
何かが握られていると気付いた辺見の脳天からつま先までを電流が駆け巡る。
これ程の傷を負いながらも、自分の勝利を確信しているかの力強い笑み。
追い詰められ、必死の抵抗を見せてこそ鮮烈な輝きを発する煌めき。
ああ、ああ、これこそ正しく――
「君が僕を――」
「衝撃貝(インパクトダイアル)!!!」
最後まで言わせはしない。
何を言いたかったのかは誰にも伝わらず、辺見の体は地面から引き離される。
砲弾のように夜空の彼方へと姿を消し、やがて小さなシルエットすら見えなくなった。
突然現れ猛威を振るった化け物の、一瞬ながら派手な退場を見届け仗助はどっと息を吐く。
辺見の撃退成功に安堵し気が抜けたからではない。
全身に襲う倦怠感と、骨が吹き飛ぶような痛みが原因だ。
「痛ぇ〜〜〜〜っ!!二度目は御免ぜこいつは……」
クレイジー・ダイヤモンドの掌から落ちた貝殻を拾いボヤく。
説明書に記された通りの効果は確かめられたが、反動も洒落にならない。
考え無しに連発しては冗談抜きに死にかねない代物だ。
念の為スタンドに装備させて使ってみたものの、本体にも反動による痛みが容赦なく襲う。
二度と使いたくは無い。
286
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:11:51 ID:4/96RJSs0
「東方くんっ!」
「無事、だったの…?」
慌てて駆け寄る郁代と、呆然と見つめるウタ。
反応の違う二人へ言葉は無く、自分のデイパックを郁代へ投げ渡した。
咄嗟に受け取るも意図が読めず困惑する彼女達へ、背を向けたまま言う。
「郁代、予定変更だ。俺の鞄に入ってるアレを使ってそっちの子と一緒に逃げろ」
「なっ…」
言われた内容に理解が追い付かず、混乱が強まる。
いや、仗助がどう動けと言っているかが分からない訳ではない。
まだ主催者の放送が始まる前、二人で体のプロフィールや支給品を確認していた時のこと。
仗助のデイパックから出て来たのは奇妙なデザインの乗り物。
もしもの時はこれを使って逃げるのも有りだ、なんて話をしていた直後に何かが倒れる音が聞こえ、今に至る。
「ま、待って…!それじゃあ東方くんも一緒に…」
逃走には郁代も賛成だ。
だがそれは三人で一緒に逃げるものだろうに。
仗助の言い方では彼を置いて二人だけで逃げろと言っている様にしか聞こえない。
そんなの納得出来ない。
会って少ししか経っていないけど、仗助はいきなり引っ叩いた自分へ怒りもせず一緒に行動してくれて、危ない連中から守ってくれた少年。
そんな彼を置き去りにして逃げるなど、恩知らずな真似に出るような性悪になったつもりはない。
「ちょ、ちょっと、ねえ、待ってよ…。だってあたしのせいでそんなにボロボロで…だったらあたしも残ってもう一回歌って…」
「申し出は有難いんだけどな、あのおっさんがそれを許しちゃあくれねえだろうぜ」
満身創痍の仗助と、見るからに憔悴しているウタ。
二人に対し黒死牟が負った傷は雀の涙程度、魔剣から放たれる強烈なプレッシャーも依然変わらず。
ドクリドクリと血管が揺れ、異様なまでの熱気は獲物を求めて止まない野獣そのもの。
女の膣を貫くのでは到底満足できない。
命を刈り取り我こそが捕食者であると証明しなければ、勃起は治まりそうもなかった。
287
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:12:49 ID:4/96RJSs0
「ま、心配いらねースよお二人さん。あんな丸出しの変態オヤジなんぞに負ける仗助くんじゃあねぇからよ」
「東方くん…でも…!」
「悪い郁代。……もう行ってくれ」
あえて安心させるような軽い口調でも納得いかず食い下がり、それでも尚こちらを見ずに口にした言葉。
郁代は仗助の事を詳しく知ってはいない。
杜王町の住人でなければ、スタンド使いのような非日常を生きる人間でもない。
だけど、こうまで言われて察しが付かない少女ではなかった。
「……っ!」
「あ、ま、待って…」
唇から血が出る程に噛み締め、ウタの手を無理矢理引っ張る。
抗議の声も今は無視だ、渡されたデイパックから目当ての乗り物を引っ張り出す。
壺を逆さまにしたような形状に、ピエロに似た顔の付いた物体が浮遊している。
見れば見る程不思議な形の中へウタを押し込み、郁代も乗り込めば空高くへと浮上。
「東方くん…!」
地上の彼の名前を呼ぶ。
自分達の方へは目もくれない、徐々に小さくなる仗助に。
きっとこれが最後になると分かっていても、諦め切れずに叫んだ。
「待ってるから…!遅れても良いから、ちゃんと来て…!」
やっぱり彼はこっちを見ない。
それでも、米粒のように小さくなる後ろ姿だというのに、片手を上げて反応してくれたのは分かった。
288
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:14:15 ID:4/96RJSs0
「よう、また律儀に待ってくれたんだな」
「二度も言わせるな…弱者が逃げたとて…私が手を下さずとも野垂れ死ぬだろう…」
「…あんたのことは好きになれそうもねぇなおっさんよ」
「何より…私との一騎打ちにて果てるのを望むならば…応じてやるのも吝かではない…」
お見通しかと苦笑いし肩を竦める。
ウタが砲撃を始めた時、黒死牟や辺見の陰に隠れる形でやり過ごそうとした。
彼らに仗助を守る意図は存在せずとも、盾として利用し死を免れるのには成功。
だからといって無傷で済んでいない。
あの場で最も負傷が重かったのは仗助だ。
ダメージの大きさはそのまま移動の足を引っ張り、結果として数発は被弾。
皮が焼け焦げた影響で完全再生はもう使えない。
体の持ち主、アンチョビが裏バンカーサバイバルでニガリの猛攻を受けた時と同じ。
追い打ちをかけるように、クレイジー・ダイヤモンドで負傷を治せるのは自分以外の者のみ。
郁代達と共に逃げれば回復手段が見付かったかもしれない。
しかし黒死牟が撤退を見逃してくれないのは嫌でも分かる。
敵はウタや郁代を弱者と見なし、逃げても積極的に追う気は無いだろうが仗助は別。
自分が彼女達と共に逃げようとすれば黒死牟は高確率で追跡し、下手をすれば三人とも殺されるだろう。
郁代達を生かすには仗助が残るしかなかった。
だが率直に言って現状は詰みだ。
満身創痍の体を治すアテは何も無く、敵へ勝てるイメージは全く浮かばない。
それに気付かぬ黒死牟ではない。
勝てぬと理解しながらも闘争の中で果てるのを選んだなら、汲み取るくらいはしてやる。
我欲で鬼殺隊を裏切り悪鬼に魂を売り渡した男でも、本来は生真面目な武人。
無粋な真似には出ず、逃げた娘と老人には構わなかった。
289
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:15:41 ID:4/96RJSs0
「勘違いするなよおっさん。俺はあんたを廃棄寸前のパンチングマシーンみたいになるまでブチのめして、それから郁代達のとこに戻るつもりでいるんだからよぉ〜〜」
「口の減らぬ奴だ…」
素直に認めるのも癪なので精一杯の虚勢を張る。
なるべく考えないようにしていたが、未練というやつからはどうしたって逃げられないらしい。
康一達まで巻き込まれていなければ良いが、由花子の暴走も心配だ。
露伴の奴が参加してるなら、まぁどうせ最後だし少しくらいは無事を祈ってやる。
祖父に続き自分までいなくなり、母には申し訳が立たない。
それに、体の持ち主にも悪いことをしてしまう。
プロフィールを読む限り、ロクな性格じゃあないとは分かった。
悪ガキなんてもんじゃない、ゲスな悪党と吐き捨てられても擁護できない。
だけど、家族への愛は本物だった。
兄を本心から大切に想う、まるでどっかの誰かのように。
馬鹿な親友(ダチ)とどこか重なる部分もあったせいか、アンチョビの体を本人に返してやれないのは心残りだ。
空気が激しく振動、敵を葬る魔剣を呼吸により研ぎ澄ます。
やっぱりソレかよと呆れつつ、スタンド使いもまた最後の戦いに臨む。
自分が助からないのは確定だとしても、何も出来ずにくたばるなんて真っ平御免。
最後に一泡吹かすくらいはやってやらないと、死んでも死に切れない。
「クレイジー・ダイヤモンド…!」
出現させたスタンドは本体同様に傷だらけ。
だが戦意は俄然燃え上がり、打ち倒すべき邪悪をしかと見据える。
放つのは自慢の拳ではなく仗助自身。
アンチョビの小さな体を持ち上げ、まるで砲丸投げの選手のようにポージングを取った。
290
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:16:22 ID:4/96RJSs0
(散々こき使って悪いけどよ、どうせなら最後は一緒にカマしてやろうぜッ!!)
標的は外さない、本体の意思に従い投擲。
満身創痍なれど決して失われる事の無い輝きは、ジョースターの人間が持つ黄金の意思。
悪鬼を滅ぼす誇りのバレットが打ち込まれる。
「火球爆獄(ヘルロケッティア)!!!」
――月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮
撃ち貫くは爆熱の弾丸。
斬り伏せるは凶月の刃。
バンカーの肉体と、スタンド使いの最後の一手。
英雄の肉体と、日輪への執着が生んだ鬼の技。
閃光と化した両者の交差は一瞬。
互いへ背を向け、身動ぎ一つしないまま時間だけが過ぎて行く。
何も語らない、背後の敵へ視線の一つもくれてはやらない。
戦いの結果はもう、分かり切っているのだから。
「チクショウ……」
崩れ落ちる小さな体。
自らが流した血の海に沈み、双眸は閉じられる。
ダイヤモンドは砕け散り、二度と動く事はなかった。
291
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:17:54 ID:4/96RJSs0
◆◆◆
「ねえ待ってよ!降ろしてってば…!」
戦場から離れた上空、浮遊する物体でウタは焦りを露わに要求を伝える。
同じ事を口にするのはこれで何度目になるだろうか。
どれだけ頼み込んでも聞き入れて貰えず、焦燥は加速するばかり。
「戻らないと、あの仗助って子は本当に……」
本当に、死んでしまう。
自分が考え無しに攻撃し巻き込んだ傷が彼の足を引っ張っている。
覆せない事実がウタの精神に重荷となり、余計に戻るべきだとの訴えが強まった。
なのに一向に戻る気配は無い。
どうしてだ、彼女は仗助の事が心配じゃあないのか。
困惑と苛立ちに後押しされ、肩を掴み激しく揺さぶる。
「ねえ!戻ってよ!そうしたらあたしがまた歌って…」
「無理よ!!」
掴んだ腕を振り払われ怒鳴り返された。
思わず鼻白むウタへお構いなしに、郁代もまた絞り出すように言葉を続ける。
292
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:20:58 ID:4/96RJSs0
「戻っても、今のあなたは歌えないでしょ!?」
「なっ!?決めつけないでよ!そんなのあんたに分かる訳――」
「分かるわよ!!」
反論の言葉も最後まで言わせてもらえず、ぴしゃりと黙らされた。
精神は少女でも体は老人とはいえ大人の男性。
怒声に思わず怯み、叱られた猫のように縮こまる。
大人に怒られた記憶など、まだレッドフォース号に乗っていた頃と、フーシャ村でヤンチャした時くらいのもの。
ゴードンにだって怒鳴り付けられた事は無いのに、体が竦んでしまった。
「あなたみたいに凄い歌は歌えないし、ギターの腕だってまだ全然だけど…でも、私にだってそれくらい分かるわよ…。今のあなた、ちゃんと歌える状態じゃないでしょ?」
結束バンドに加入して、活動をこなしていれば自ずと分かって来る。
例えば学校での失敗が響き、練習でも演奏が揃わなかったりだとか。
極度の緊張や観客の空気が悪く、本番で失敗するだとか。
自分達の経験や、他のバンドメンバーの様子を見て来たから察せられるようになったのだと思う。
今のウタはステージに上がる為の及第点すら与えられない程に、コンディションは最悪だ。
STARRYだったら店長とPAさんの両方からNGを食らい、ステージに上がらせてもらえないだろう。
「そんなの…!っ……」
そんなもの、本当はウタだって分かってる。
シャンクスの死から立ち直れず、助けてくれた男の子を傷付け、精神的に参った状態。
こんな有様で最初の時のように歌えるとは口が裂けても言えない。
仮に歌詞を口に出しても、仗助を支えられたような力が発揮されるかだって定かではない。
もし戻って何の役に立たなければ、仗助が自分達だけでも逃がしたのが無意味となってしまう。
音楽の島の国王から長年に渡り教育を受けて来たのだ、こんなメンタルで歌を歌える筈が無いことくらい理解している。
293
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:21:43 ID:4/96RJSs0
「だって、あたしの、あたしが悪くて……ごめんなさ…ごめんなさい…ごめんなさい……」
それ以上は郁代への言葉を返せず、涙と共に後悔が溢れ出す。
もしシャンクスの死から立ち直っていれば、歌で助けとなれたかもしれない。
或いはせめて彼を攻撃に巻き込みさえしなかったら、今頃は悪党を撃退できたか、三人で逃げる事だって出来た筈。
だが現実にはそうならなかった。
仗助きっとあの大男に殺されたろうけど、原因を作ったのは紛れも無く自分。
結局自分がやったのは助けてくれた優しい男の子を死に追いやっただけ。
人殺しと、幻覚の幼い自分に言われた言葉が楔として胸に突き刺さる。
これを抜き傷を癒す術が何なのかは分からなかった。
「……」
項垂れる少女を郁代は複雑な面持ちで見つめる。
ウタを責めたい気持ちが全くない訳ではない。
あなたのせいで東方くんがと怒りを叩きつければ楽だ。
でもこんな風に後悔の涙を流し、罪悪感に打ちひしがれる姿を見てしまえば何も言えない。
喉奥まで出かかった言葉を無理矢理飲み込み、口を噤む。
郁代だってウタが望んで仗助を傷付けたんじゃあない事くらいは理解している。
放送の直後に様子がおかしくなったのを思い出せば、理由も察しは付く。
何より、ウタは助けてと縋った自分の言葉に応えてくれた。
冷静に考えると自己紹介もしてない相手からいきなりああ言われたら、突っ撥ねてもおかしくはない。
自分の無茶を聞いてくれたのだし、本当は優しい女の子なんだろう。
なら、本当に責められるのは何の役にも立っていない自分の方じゃないのか。
そんな風に考えてしまう自分もいて、表情に影が差す。
(ひとりちゃん…先輩…みんな……)
結束バンドの皆に、友人達に、両親に、知ってる人に傍にいて欲しかった。
こんな危険な場所にはいない方が良い、殺し合いに巻き込まれてないのを願うべき。
そう分かっていても、最低な事を考えているのだとしても。
自分の日常を彩る人達に会いたくて堪らなかった。
294
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:22:34 ID:4/96RJSs0
幸か不幸か郁代の願いは叶っている。
結束バンドのメンバーとバイト先の店長も参加者に登録され、向こうも郁代を探す真っ最中。
名簿を見てひとり達の存在を知った彼女が喜ぶか否か、どんな反応をするにせよ遠くない内にその瞬間が訪れるのはほぼ間違いない。
それはウタも同じ。
彼女の父親と幼馴染が精神と身体でそれぞれ巻き込まれたのを知る機会も時間の問題。
尤も、真実に辿り着けるかどうかは別だ
放送で名前を呼ばれたのはウタの知るシャンクスとは全く違う存在であること。
もう一人のシャンクスは今も会場のどこかにいること。
そもそも、殺し合いに「本物の」シャンクスは最初から参加していないこと。
果たしてこれらに気付けるのかどうか。
取り返しの付かない過ちに打ちひしがれる歌姫の苦難は、まだ序章に過ぎない。
【一日目/深夜/G-4(上空)】
【ウタ@ONE PIECE FILM RED】
[身体]:リグレット@Caligula2
[状態]:精神的疲労(大)、シャンクスの死に言い表せない感情(大)、仗助への罪悪感(大)、空を移動中
[装備]:ウタのアームカバー@ONE PIECE FILM RED
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:エンムから体を取り戻す。
1:あたしのせいで…ごめんなさい…。
2:体を取り戻す方法を探す。その後は…。
3:シャンクスが死んだ……?
[備考]
※参戦時期はライブ会場に赤髪海賊団到着後〜トットムジカを歌う前。
※殺し合いの会場がウタウタの実の能力により創られた世界ではないかと考えています。
※放送で名前が呼ばれたの自分の知るシャンクスだと思っています。
【喜多郁代@ぼっち・ざ・ろっく!】
[身体]:アドバーグ・エルドル@魔法陣グルグル
[状態]:健康、悲しみ、ウタヘの複雑な想い、殺し合いへの恐怖、空を移動中
[装備]:アンチョビ究極体の皮@コロッケ!、クッパクラウン@スーパーマリオシリーズ
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜4(仗助の分含む)
[思考・状況]基本方針:元の世界に帰りたい
1:東方くん…。
2:とりあえずまともな服が欲しい。
3:キタキタおやじってなによ…いくら私が『キタ』だからってあんまりじゃない?
[備考]
※「郁代」呼びよりも「喜多」呼びへの忌避感の方が強くなっています。
※どちらもまだ名簿を確認していません。
※どこへ向かうかは後続の書き手に任せます。
295
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:24:00 ID:4/96RJSs0
◆◆◆
惜しかった。
動かなくなった仗助と散らばった自身の支給品を見やり、黒死牟は独り言ちる。
最後に繰り出した頭突きが黒死牟へ傷を付けるのは叶わず、精々デイパックを掠め中身を散乱させた程度。
もし万全の状態で放っていれば、狙いも威力も今の比では無かっただろうに。
とはいえ自分相手にここまで戦い抜いたのも事実。
赤い男程ではないが、初戦の相手としては歯応えのある敵だった。
鬼となっていればさらに上を目指し、猗窩座共々武を極めんとする未来があったかもしれない。
そういう意味でも惜しい少年を亡くしたと思う。
状況が状況だけに致し方なし。
「これ程に楽しめたのは…いつ以来か…見事であった…」
もう聞こえないだろうが賛辞を送り、暫しの沈黙を挟み背を向ける。
仗助が持っていた貝殻と散らばったデイパックの中身を放り入れ、最後に手にした物の異変に気付いた。
参加者共通のデバイス、タブレット。
黒死牟の生きた時代には無い未来の技術品。
同封された説明書と睨めっこしながらどうにか使い方を把握し、ベオウルフのプロフィールを確認出来たのは一時間と数十分前のこと。
そのタブレットはデイパックから落ちた際、運悪く石にでもぶつかったのか。
或いは強く叩きつけられたのか画面に亀裂が入り、うんともすんとも言わない。
プロフィールはとっくに確認済みだが名簿と地図が見れないのは少々困る。
「まぁ良い…殺して奪えば済む話だ…」
どうせこの先も出会う者と殺し合うのだから、勝利し相手の支給品からタブレットを再入手すれば良い。
何にしても殺し合いは始まったばかり。
次に遭遇する者もまた、魔剣を勃たせるに相応しい強者と期待し揚々と歩き出す。
彼の心を唯一掻き乱す日輪も、この地で剣を振るっている。
血を分けた双子の弟が時を超えて参加しているとは、夢にも思わなかった。
【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険(身体:アンチョビ(究極体)@コロッケ!) 死亡】
【一日目/深夜/G-4】
【黒死牟@鬼滅の刃】
[身体]:ベオウルフ@ローゼンガーテンサーガ
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)、フルチン
[装備]:姑獲鳥の三叉矛@彼岸島 48日後...、十咎ももこの大剣@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝
[道具]:基本支給品(タブレット故障)、衝撃貝@ONE PIECE、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:生還し元の肉体を取り戻す。
1:闘争を愉しみ、斬る。
2:無惨がいないか確かめたい。
3:他の参加者から支給品を奪い名簿を確認する。
4:赤い男(辺見)とはいずれ決着を付ける。
5:逃げた娘達(ウタ、郁代)を積極的に追う気は無い。
[備考]
※タブレットが壊れた為名簿を確認出来ていません。
296
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:24:47 ID:4/96RJSs0
◆◆◆
「ふぅ…」
宝石を散りばめた夜空と、それを台無しにする月を見上げうっとりと息を吐く。
何も星の輝きに目を奪われたのではない。
大の字に転がりながら、辺見は改めて幸福に酔いしれる。
さっき出会った者達は皆素晴らしかった。
巨根を武器にする大男と、強烈な砲撃を繰り出す少女は言うまでもなく。
何より自分をここまで吹き飛ばした小鬼。
絶望的な力を持つ化け物相手に一歩も引かず、死の危機に瀕して尚も決死の抵抗に打って出る。
心から羨ましいと思った。
自分も彼と同じ、いやそれ以上に煌めいて殺されたい。
その為にもより大勢の参加者を殺し、自らの恐怖を知らしめなければならない。
先程の少女と老人がどうなったのかは知らないが、もし揃って巨根の大男に殺されたのなら別の宣伝役が必要だ。
男も女も子供も老人も、誰であろうと容赦せず殺し理不尽の権現として君臨する。
そうすればきっと、多くの者が自分を殺しに集まるだろう。
当然杉元も。
「杉元さん…あなたはどんな風に僕を殺してくれるんですか?早く、早く会いたい…!」
全身の骨が粉砕される程の傷も既に再生完了済み。
逸る心のままに立ち上がり、煌めき探しの旅を再開する。
不死身の兵士との再会を夢見て駆け出す姿は、まるで恋焦がれる乙女のようだった。
【辺見和雄@ゴールデンカムイ】
[身体]:アーカード@HELLSING
[状態]:疲労(中)、高揚感、下半身がぐしょ濡れ
[装備]:GX-05ケルベロス(エネルギーマガジン×10)@仮面ライダーアギト、魔王の剣@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:生前以上の最高の煌めきを探しに。
1:自分の存在を喧伝出来る様に、参加者を殺していく。
2:化物と殺し合える強い人を見つけたら、煌めかせてもらう
3:杉元さんとの再会が待ち遠しい。もう一度僕と煌めき合いましょう!
[備考]
※死亡後から参戦。
※現状命の残機は1。この状態で心臓を破壊されれば復活せず死亡します。
※拘束制御術式の解放は1号まで可。零号は制限により(というより残機1なので)使用不可。
297
:
眠れ赤子のように、消えよ数多の塵のように(後編)
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:25:30 ID:4/96RJSs0
【衝撃貝@ONE PIECE】
空島に存在する特殊な貝の一つ。
衝撃を蓄え、殻頂を押す事でそれまでに溜め込んだエネルギーを自在に放出する。
攻撃と防御の両方に使えるが反動は大きく、使用者もダメージを受ける可能性がある。
【クッパクラウン@スーパーマリオシリーズ】
クッパが乗る小型の飛行船。初出はスーパーマリオワールド。
茶碗型で、下方に小さなプロペラが1つだけ付いているという非常にシンプルな構造。
名前の通りピエロの顔が描かれている。
クッパ7人衆とピーチ姫が乗っても大丈夫なくらいには、重量にも耐えられる。
【GX-05ケルベロス@仮面ライダーアギト】
警視庁が開発した対未確認生命体用特殊強化装甲、G3-X専用の携行型重火器。
運版形態から番号を入力し攻撃形態へ解除するが本ロワでは最初から攻撃形態で支給された。
特殊徹甲弾を1秒間に30発発射可能。
設定上の装弾数は120発だが、劇中では明らかにそれ以上の数をリロード無しで撃っている。
【魔王の剣@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
強い闇のチカラで全てを切り裂く魔王が創りし凶剣。
ゲーム中ではイレブン(主人公)が装備可能。
武器ガード率3%の特殊効果あり。
298
:
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 14:26:12 ID:4/96RJSs0
投下終了です
299
:
◆ytUSxp038U
:2023/09/08(金) 15:05:33 ID:4/96RJSs0
すみません。辺見の状態表の備考欄に以下の文を追加します
※どこまで吹き飛ばされたかは後続の書き手に任せます。
300
:
◆NIKUcB1AGw
:2023/09/09(土) 10:57:24 ID:cKCtHDaQ0
浅倉、シャンクス予約します
301
:
◆4u4la75aI.
:2023/09/09(土) 15:32:21 ID:VREUHgTg0
山田リョウ、タイラント、十六夜咲夜で予約します
302
:
◆ytUSxp038U
:2023/09/12(火) 21:10:02 ID:SaXNa5J.0
鏡飛彩、戦極凌馬、キャル、モモンガを予約します
303
:
◆N9lPCBhaHQ
:2023/09/14(木) 18:16:19 ID:???0
オマツリ男爵、ブラック、泉研予約します
304
:
◆vV5.jnbCYw
:2023/09/14(木) 21:18:04 ID:UxGrfMxc0
句楽、アヤノ、ドッスン、サタン、扇予約します。
305
:
◆NIKUcB1AGw
:2023/09/16(土) 18:38:41 ID:uy4z/p.60
投下します
306
:
1シャンク去ってまた1シャンク
◆NIKUcB1AGw
:2023/09/16(土) 18:39:40 ID:uy4z/p.60
なぜかジャンケンを挑んでくる化物を殺害した浅倉は、回収した支給品を確認していた。
すでに、肉体の能力により生み出せる槍が武器として充分使えるのは確認済みだが、手札は多いに越したことはない。
その方が、より面白い戦いができるのだから。
「あぁ? なんだ、このヌメヌメした感触は……」
突如手を襲った不快な感覚に、思わず浅倉は顔をしかめる。
だがその不快感に耐え、その物体をデイパックの外に引きずり出した。
全貌があらわになり、その正体が判明する。
それは、魚だった。
大きさは、本来の浅倉の身長ほどもある。
そして何より、象のような長い鼻と牙が生えているのが特徴的だった。
少なくとも浅倉にとっては、未知の魚だ。
「何だかわからんが、とりあえず……鯖じゃねえ!!」
妙に大きな声で、浅倉は叫ぶ。
なぜか、少し胸がすっとした浅倉であった。
「エレファントホンマグロ……か。やっぱり、知らない魚だな。
というか、これマグロか?
鼻を抜きにしても、あんまりそれっぽくないような……」
説明書を見つけた浅倉は、それに目を通す。
とはいっても、わかったのはこの魚が食用であることくらいだ。
「まあ生魚持ち歩いても腐りそうだし、さっさと喰っちまうか……。
腹もそれなりに空いてるしな。
いちおう火とか通した方がいいのか、これ」
火を使うのにどこかいい場所はないかと、周囲を見渡す浅倉。
その時彼の目に入ったのは、「喫茶どんぶら」というのれんだった。
「喫茶店……。ちょうどいいな。
喫茶店なら厨房くらいあるだろ」
エレファントホンマグロを引きずり、意気揚々と浅倉はその建物に入っていった。
◆ ◆ ◆
「鼻が美味いな、エレファントホンマグロ……」
しばらく後。浅倉は喫茶店のカウンター席で適当に切って焼いたエレファントホンマグロをかじりながら、タブレットを操作していた。
すでに、放送は流れている。
伝えられた死者の中に、特に浅倉が気になるものはいなかった。
強いて言うなら、自分が殺した相手の名前が「シャンクス」だと判明したくらいだ。
「参加者名簿も……知ってる名前はほとんどないな」
忌々しげに、浅倉が呟く。
彼に覚えのある名前と言えば、「城戸真司」くらいのもの。
遊び相手として悪くはないが、それも彼が「龍騎」であることが前提の話。
「その他」の欄に名前が掲載されている城戸は、まともな肉体が与えられていないことになる。
戦闘力があるかどうかも怪しい状態の城戸に、浅倉が魅力を感じるはずもない。
「まあ、強いて言うならこの名前か」
浅倉の視線が向かうのは、「浅倉威」の文字。
彼が参加者である以上、本来名簿に自分の名前があるのは当たり前だ。
だが今回の殺し合いにおいては、一概にそう言い切れない。
「精神」と「肉体」の両方に名前のある参加者は、ごく一部なのだから。
「俺の体を与えられた参加者が、どこかにいる……」
はっきり言えば、それ自体に浅倉が感じることはあまりない。
彼は自分の肉体に対して常人以上に執着しているわけではないし、逆に嫌悪しているわけでもない。
現在与えられている魔法少女の肉体も充分に強いし、少なくとも殺し合いの間は元の肉体に戻る理由はない。
戻りたくなったら、優勝した時の願いで戻してもらえばいい。
その程度の認識だ。
だが浅倉は、その肉体に付随しているであろうものに興味を抱いていた。
浅倉の指が、タブレットの画面を切り替える。
新たに表示された名簿には、「ベノスネーカー」の名前があった。
このミラーモンスターの名がその他の名簿に記載されているということは、支給品に王蛇のデッキが存在しているということ。
そして、自分の支給品にデッキがないのは確認済み。
ならば、肉体の方に支給されている可能性が高い。
307
:
1シャンク去ってまた1シャンク
◆NIKUcB1AGw
:2023/09/16(土) 18:40:41 ID:uy4z/p.60
「いくらこの体なら、道具なしで戦えるっていっても……。
やっぱり、使い慣れた武器はほしいよなあ」
かすかに笑うと、浅倉はまた一口エレファントホンマグロを口の中に放り込む。
そしてそれを水で流し込むと、タブレットの表示を地図に切り替えた。
「しかし、どこに行くべきかねえ……」
浅倉の目が、様々な施設の間で泳ぐ。
施設の中には宿敵といっていい存在である北岡秀一の事務所もあったが、本人がいないことがわかっているのに行っても仕方がない。
嫌がらせで荒らしに行くのも一興だが、おそらくこの場にはそれよりもっと楽しませてくれる相手がたくさんいることだろう。
「闘技場とかあれば、わかりやすかったんだがな……。
国立競技場でも行ってみるかあ?」
考えを巡らす浅倉。
そんなとき、新たな来客が店に現れた。
「あのー、なんかおいしそうなにおいがするんで来ちゃったんですけど……」
入り口から顔をのぞかせたのは、スポーツタイプのジャケットを身に纏った女性だった。
芸能界でもやっていけそうな美貌に、媚びた笑顔を貼り付けている。
「なんだ、あんたも食うかい?」
浅倉は切り身を一つ手に取ると、それを無造作に放り投げる。
女性の目をそちらに向けさせておいて、浅倉は隠し持っていた銃の引き金を引いた。
「っ!」
女性の頬を、エネルギーの弾丸がかすめていく。
その凄まじい速さに、女性は反応できなかった。
もっと浅倉に銃の腕があれば、弾丸は顔面を直撃していただろう。
「い、いきなり何するんですか!」
「だまし討ちのつもりなら、もう少し上手くやれよ、バカが。
殺気がダダ漏れなんだよ」
抗議に対し、浅倉は憮然とした表情で言い放つ。
その瞬間、女性の顔から感情が消えた。
そして数秒後には、この世のありったけの闇をかき集めたような醜悪な表情が浮かんでいた。
「人をだますのは得意のつもりだったんだがな……。
いやあ、いかん。この状況に、気持ちが高ぶりすぎているようだ」
女性……否、シャンクスは、並の人間ならそれだけですくむような冷たい声で言い放つ。
「ならば、正面から殺させてもらおう」
シャンクスはどこからともなくドライバーを取り出し、それを腰に当てた。
「そりゃまさか……ライダーのベルトか?」
シャンクスの取り出したものを見て、浅倉は怪訝な表情を浮かべる。
それはどこかの未来で、浅倉自身も対峙することになる仮面ライダーのベルト。
だが今ここにいる彼にとっては、完全に未知の代物だ。
『ENTRY』
「冥土の土産に、たっぷり味わっていくといい。
現実などという矮小な枠に囚われない、虚構の力を」
『SET』
続いて、シャンクスは藍色と金に彩られたバックルをドライバーにセットする。
ファンタジーレイズバックル。
おのれが生み出してしまった虚構の娘を、それでも愛することを決意した父親の思いが生みだしたアイテムだ。
「変身……!」
『FANTASY』
シャンクスの宣言と共に、複数の魔法陣が彼を取り囲む。
そして、バックルと同じカラーリングの装甲が装着されていく。
やがて完成するのは、希望あふれる魔術師を連想させるデザインの仮面ライダー。
仮面ライダナーゴ・ファンタジーフォームだ。
『REDY FIGHT』
「待たせたな。
準備に時間がかかった分、ここからは手早く済ませてやるよ」
「はっ、上等だ」
浅倉もまた槍を出現させ、戦闘態勢を取る。
「猫のライダーは初めて見るな……。
どれほどのものか、お手並み拝見といこうか!」
狂気の笑みを浮かべながら、浅倉はシャンクスに襲いかかった。
308
:
1シャンク去ってまた1シャンク
◆NIKUcB1AGw
:2023/09/16(土) 18:41:28 ID:uy4z/p.60
◆ ◆ ◆
二人の戦いはすぐに、店内から路上へと移行した。
シャンクスが生成した光のサーベルと、浅倉の槍が何度もぶつかり合う。
「そういえばこの近くで、手の化物が死んでいたが……。
あいつをやったのはおまえか?」
「ああ? たしかにそいつを殺したのは俺だが……。
それがどうしたぁ!」
戦闘中に突然話しかけられ、いぶかしげに思いつつも浅倉は律儀に答える。
「そうか、よくやった。そいつは俺であって俺じゃない。
俺が一番死んでほしかった男だ」
「はあ?」
シャンクスの口が紡ぐ支離滅裂な言葉に、さすがの浅倉も困惑を隠せない。
その隙を突き、大振りの一撃が放たれる。
なんとか槍で受け止めた浅倉だったが大きくバランスを崩され、急いでサーベルの届かない位置まで後退した。
「ああ、思い出したぜ。
名簿を見た時、妙だとは思ったんだ。
シャンクスって名前が、二つあったからな。
おまえ、あいつの影武者か何かか?」
「さて、どうだろうな。あるいは、あいつもまがい物だったのかもしれん」
「わけのわからねえことばっかり……言ってるんじゃねえ!」
叫び声と共に、浅倉が突っ込む。
だがシャンクスはその突撃を軽やかに回避し、カウンターを放った。
浅倉の脇腹に、赤い線が引かれる。
「くっ……」
「いちいち動揺するなよ。
俺はおまえの敵だぞ。おまえが望むような返答ばかりするわけがないだろう。
聖者でも相手にしてるつもりか?」
「うるせえ……。イライラさせるんじゃねえーっ!」
苛立ちに任せ、がむしゃらに槍を振り回す浅倉。
だがそんな雑な攻撃が、シャンクスに通用するはずもない。
虚構の存在であっても、その戦闘力はオリジナルのシャンクスを基準に設定されているのだから。
「まるでかんしゃくを起こしたガキだな」
冷静に浅倉の攻撃を見極めたシャンクスは、槍の柄をめがけて蹴りを繰り出す。
狙いどおりの場所に命中した蹴りは、槍を浅倉の手から弾き飛ばした。
「詰みだ」
浅倉の首を切り落とそうと、シャンクスがサーベルを振るう。
だがその刃が浅倉に届くより早く、シャンクスの腕を強い衝撃が襲った。
電光を纏った、浅倉の右足。それがシャンクスの腕を捉えていたのだ。
「そっちこそ、聖者でも相手にしてるつもりか!
武器が槍だけのはずがないだろうが!」
獰猛な笑みを浮かべながら、浅倉が叫ぶ。
彼の足に装備されたのは、「キック力増強シューズ」。
使用者の脚力を大幅に増強し、サッカーボールで大木をうがつことも可能とする危険物である。
その威力を直接叩き込めば、いかに仮面ライダーといってもダメージは避けられない。
「次は顔面叩き潰してやるぜ!」
相手の腕を足場にして、浅倉は跳躍する。
そこから繰り出すのは、反対の足で放つ回し蹴り。
シャンクスに、防御の動きはない。
浅倉の足はそのままシャンクスの頭部に向かっていき……それを砕くことなくすり抜けた。
309
:
1シャンク去ってまた1シャンク
◆NIKUcB1AGw
:2023/09/16(土) 18:42:57 ID:uy4z/p.60
「は……?」
「切り札というのは、ここぞという時まで取っておくものだぜ」
仮面ライダーナーゴ・ファンタジーフォームが持つ、唯一無二にして強力すぎる能力。
それが、あらゆるものを透過できる力だ。
使いようによっては無敵となるこの能力は、この殺し合いにおいては主催者によって「連続使用は不可能」という制限を課せられていた。
ゆえにシャンクスは、ここぞという時までこの能力を温存していたのだ。
「こいつはお返しだ」
『FANTASY STRIKE』
攻撃を空振りし隙だらけの浅倉に対し、今度はシャンクスが蹴りを放つ。
青いオーラを放ちながらの跳び蹴り。
ファンタジーフォーム最強の大技、ファンタジーストライクである。
「があああああああ!!」
背中に強烈な一撃を受けた浅倉は、絶叫と共に吹き飛ぶ。
その体は、近くにあった川へと転落した。
「ちっ、面倒な……。
さすがにこの暗さで、川に入って死体を確認するのは手間に見合わん。
まあいい。あれだけの一撃を食らったんだ。
生きていたとしてもまともに動けず、溺れ死ぬだろう」
浅倉が消えた川を見つめながら、シャンクスは変身を解除する。
「まだまだ、殺さなければならないやつはいる……。
ウタの精神もルフィの肉体も殺して……俺が優勝してやる」
「本物」が言うはずのない言葉と共に、シャンクスは邪悪に笑った。
◆ ◆ ◆
「ぷはあっ!」
だいぶ下流に流された場所で、浅倉は川から顔を出した。
彼にとって、背後から攻撃されたのが幸運だった。
デイパックが盾となり、ファンタジーストライクの威力を吸収してくれたのだ。
だが、それでも浅倉自身が受けたダメージは決して小さくない。
それに盾となったデイパックは吹き飛び、支給品も四散してしまった。
残っているのは身につけていたキック力増強シューズと、他の荷物とは別に持っていたソウルジェムだけだ。
「やってくれたな、猫野郎……。
この借りは必ず返すぜ……!」
冷たい水の中、手負いの蛇は静かに憎悪の炎を燃やしていた。
【F-6 街/深夜】
【シャンクス@ネットミーム】
[身体]:鞍馬祢音@仮面ライダーギーツ
[状態]:ダメージ(小)
[装備]:デザイアドライバー&ナーゴのIDコア@仮面ライダーギーツ
[道具]:基本支給品、ファンタジーレイズバックル@仮面ライダーギーツ、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]基本方針:優勝して本物のシャンクスになる。
0:この殺し合いを、(俺の優勝で)終わらせに来た!!
1:ルフィに会えたらその時は…帽子の他にも返すものがあるだろ?ゴムゴムの実を返して貰う。
2:優勝するためには手段を問わない。卑怯?聖者でも相手にしているつもりか、麦わらのルフィ。
3:よくやった!これは俺の身体じゃない。だが赤髪が男の時代はこの殺し合いの間は終わるんだ。
4:お前(祢音)の紛い物の身体、俺とファンタジーレイズバックルによく馴染むぜ。
5:優勝したら願いを叶えて貰った上で主催者達を背後から一突きする。殺し合いを勝手に開いて巻き込んだからには命をかけろよ。
6:I can swim.
7:なぁウタ、この殺し合いに平等なんてものは存在しない…。
[備考]
※この身体で覇気を使えるかどうかは後続にお任せします。覇王化は制限により使えない扱いになります。基本的には誰かに教える事も出来ません。
※このシャンク(単数形)は主に「MONSTERsJOHN TV」のONE PIECE考察動画のサムネネタが元になっています。
※ファンタジーフォームの透過能力は、制限により1回使用するごとに1分のインターバルが必要です。
310
:
1シャンク去ってまた1シャンク
◆NIKUcB1AGw
:2023/09/16(土) 18:44:11 ID:uy4z/p.60
【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
[身体]:佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ
[状態]:ダメージ(中)、魔法少女に変身中、デイパックなし
[装備]:ソウルジェム@魔法少女まどか☆マギカ、キック力増強シューズ@名探偵コナン
[道具]:なし
[思考・状況]基本方針:戦いを続ける
1:シャンクスにリベンジする。
2:戦う相手を探す。
[備考]
※参戦時期は後続の書き手にお任せします。
※ソウルジェムは支給品に含まれず、破壊されると死亡するものとします。
※槍は魔法で出したものであるため、支給品に含まれません。
[備考(共通)]
※喫茶どんぶらの店内に、エレファントホンマグロ(可食部分残り8割)@ONE PIECEが放置されています。
※F-6にレイガン@大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL、浅倉の不明支給品0〜1、シャンクスの不明支給品0〜2が散乱しています。
ただし、ファンタジーストライクの衝撃で破損している可能性があります。
【エレファントホンマグロ@ONE PIECE】
ローグタウンでサンジが食材として仕入れた魚。
偉大なる航路突入直後に調理されて振る舞われたが、真面目な話をしている間にルフィが一人でほぼ食べ尽くしてしまったため一悶着起こることに。
ルフィいわく、鼻が美味いらしい。
【レイガン@大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL】
シリーズ皆勤賞の、射撃系アイテム。
威力は低いが弾速が速く、射程も非常に長い。
かつて任天堂が発売していた「光線銃」がモチーフと言われているが、公式で明言されてはいない。
【キック力増強シューズ@名探偵コナン】
電気と磁力でツボを刺激することで、キック力を大幅に高めることができるスニーカー。
小学生の肉体になってしまったコナン(新一)の自衛手段として阿笠博士が制作したが、
自衛には明らかに過剰な破壊力を持ち、初使用時はコナンもドン引きしていた。
311
:
◆NIKUcB1AGw
:2023/09/16(土) 18:45:05 ID:uy4z/p.60
投下終了です
問題点などありましたら、指摘お願いします
312
:
◆5IjCIYVjCc
:2023/09/18(月) 21:08:33 ID:cAZ/NNhM0
突然なことですみません。
私のTwitterを見ているかどうか不明な書き手の方に向けての感想を一つ投下しようと思います。
なお、これはTwitterに書いたもののコピペ・改訂・追記したものとなります。
>光の星から宇宙の為に
ちゃうねん。玉壺は元々は地球人なのねん。まああの見た目でそうだと言われても信じがたいかもしれないが。
ウルトラマンや内海だけでなく、ユーリにも会えるかどうかも気になってきました。
313
:
◆4u4la75aI.
:2023/09/20(水) 00:01:50 ID:Wnb0hQTw0
投下します
314
:
逃げたい逃げたい
◆4u4la75aI.
:2023/09/20(水) 00:02:19 ID:Wnb0hQTw0
金に溺れること一時間、山田リョウは夢心地であった。
ハレクラニの能力は強大である。ゴージャス真拳は紙幣を生み出すものだけでなく、殺し合いという場に確かに向いている宝石を撃ち出す技、更には紙幣に描かれていた騎士を実体化するなんて芸当まで出来てしまった。
ゴージャス真拳については全てプロフィールに記されていたものの、1時間で多くの技を習得できたのは山田リョウという人物の天才肌な一面が発揮されたからであろう、代わりにベースの技術か学力が失われただろうが。
「綺麗……」
自ら生み出した宝石を眺める。裕福な家庭で育った故、宝石は特に珍しいものではなかった。ただ、自分が作ったなんていう満足感やら紙幣の海に埋もれている多幸感も重なり、それは普段の何倍も美しく見えた。この宝石をずっと眺めていたい、そんな心地よさ。
ただその夢心地に水を差すものあり。
『やあお前たち、約束の連絡の時間だ』
「…………!うわ、これ、さっきの」
いくら現状を楽しんでいたとはいえ魘夢の事を忘れていた訳ではない。一応は殺し合いなんて言われているのだ。確かにここまでハレクラニの身体を試し、最悪人を殺しかねない力がある事も知ったがリョウの常識は変わらない。殺し合いなんて、絶対にやっちゃダメだ。
しかし放送を無視する訳にもいかない。パーリータイムを一旦中断し、リョウは紙幣に囲まれた床へと座り込んだ。
◇
「……」
意味がわからない、というよりかは実感が湧かないという表現が正しいのであろう。おそらく今回の放送の目玉であった死者の発表に対しても、普段テレビ越しに聞く事件程度の感動しかなかった。
山田リョウはただの一般人なのだ。人殺しなんてものは当然無縁、現状も未だにテレビのドッキリだとか、オーチューブの企画みたいなものだろうと、心のどこかで思っていた。
「ぼっちに郁代……店長もいる」
タブレットの名簿をスライドしていくと親しい人物の名が並ぶ。流石に同姓同名の別人ということはないだろう、出来れば出会いたいがこの姿のままで大丈夫だろうか、なんて呑気に考える。ここまで揃って虹夏だけいない事が少し気がかりだったが、次に見たページでその不安はまた別のものとなる。
「虹夏……」
肉体側のプロフィール。その中に伊地知虹夏の名はしっかりと書かれていた。ハレクラニの名もある以上、自らと同じ様知らない人間に虹夏の身体が与えられているのだろう。
「……やだな」
虹夏が知らない身体になってるならまだ良かった。虹夏は虹夏。身体が変わろうとも精神は変わらず。
ただ、虹夏の姿をした虹夏でない人物。それを想像するだけでなんとなく、気持ち悪かった。
しかしどんな人物に与えられたなんて確かめる方法はない。店長の身体が虹夏になってたらまだ良いか、なんて思いながらタブレットを別のページへと操作した。
そこでもやはり、気持ち悪い現象。
「STARRY……」
地図の中の街にポツリと記されている、虹夏達のライブハウス。
「……いや、こんな所にある筈ないけど」
最初に目を覚ました部屋の中から一歳動かずにいた為周りの景色を確かめていないが、少なくとも下北沢の地図はこんなにカオスなものではない。
ここは下北沢ではない、しかしSTARRYはある。
「……確かめに、いくか」
たまたま同じ名前の施設なのかもしれない、そっくりそのまま再現された偽物かもしれない、ただSTARRYは虹夏が、店長が、そして自らも愛するライブハウス。そこに名前がある以上気にせずにはいられなかった。
それにぼっち達も同じ考えであろう、そこで合流できる可能性も高い。部屋に散らばった紙幣と宝石を丁寧に回収し、リョウは扉を開け部屋を出た。
「……暗」
ポツリと感想を漏らす。振り向けば、どうやら今まだ自分がいた場所は一つの丸太小屋だった様だ。
まずリョウは空を見上げた。一度見たら頭から離れない様なビジュアルの月がこちらを睨む様に宙に浮いている、ついうわあと小さく声を出してしまった。あまり長く見たいものではなかった為すぐに視線を変えた。
まずは周りを見渡そうとデイパックから懐中電灯を取り出し、辺りを照らす。
「……?」
そこで一つ目に入ったものは、バラバラに崩された建物の様なもの。
状況故少し恐怖を感じるも、疑問は浮かぶばかり、何があったのだろうか、誰かが居るのだろうか。
ほとんど無意識に、リョウの足はそちらへと向かいはじめた。
おそらくここまでが、彼女の幸福の最高点であっただろう。
315
:
逃げたい逃げたい
◆4u4la75aI.
:2023/09/20(水) 00:02:57 ID:Wnb0hQTw0
「……何これ」
辿り着いた、木造建築の跡。地震等で倒壊したというよりは、まさしく巨人が暴れ回った後の様な悲惨さ。
リョウの中の恐怖が増加していく。この場は、普通ではない。
「……?何、この」
途端、鼻に入ってくる錆びの様な匂い。
それが何の匂いなのか、リョウは知らない。知るわけがない。
ぴちゃり、突然地面の音色が変わる。
疑問に思った、だから懐中電灯を足元へと向けた。
“それ”が何なのかを認識するまでには、少しタイムラグがあった。
靴に赤色がべったりと塗り付いている。
赤色の水面にはどろりとした何かが浮いている。
それに染まった様な赤い糸が、ぱらぱらと地面に張り付いている。
すぐ側、デイパックが置いてあった。
「――――!?」
“それ”が“そうなった”ものであると理解できた脳を、リョウは恨んだ。
深夜、崩壊したロッジ。とある淫魔の圧死体を前にし、声ならぬ悲鳴が上がる。
山田リョウはこの瞬間、殺し合いへ足を踏み入れた。
◇
「……小悪魔」
山田リョウが死体を目撃するほんの少し前。十六夜咲夜は放送を聞き終わり、ポツリと一言溢した。
放送で名を挙げられた知り合いの肉体。同じ紅魔館に務める者という一点以外ではあまり接点が無い彼女であったが、仲間の肉体の死を宣言され一切動じない程咲夜は冷酷でない。
「(……見つけたら、埋葬でもしようかしら)」
精神にはまた違う悪魔が入れられていたとはいえ、身体が小悪魔である事は事実。死体を見つけたら埋葬しよう、と決めた後はきっぱりと負の感情を断ち切った。
「……!」
その後咲夜はタブレットの名簿を眺め、一つの名前に意識を引きつけられる。
レミリア・スカーレット。紛れもない自らの主の名。
だが特に驚きはしなかった。そもそもこの場で目覚めた時から既に、主も巻き込まれている前提で方針を決めていた。
『お嬢様を見つける』。その方針をより強固なものとし、咲夜は気を引き締める。いくら強大な力を持つ主とはいえ、この場ではその力が全て奪われ力無き人間の幼児の身体に精神を入れられようともおかしくはない。幸運にも自らは『仮面ライダー』なる力を与えられている。メイドとして、従者として、主を守ることは何よりも最優先だ。
「(あら、これは……)」
もう一つ、目に入った精神の名。
『リョースケ』。先程自分が殺した狂人の肉体とされていた人間。おそらく同一人物、つまり先ほどの放送も聞いていただろう。
「つくづく哀れね……」
316
:
逃げたい逃げたい
◆4u4la75aI.
:2023/09/20(水) 00:03:31 ID:Wnb0hQTw0
プロフィールに書かれていた事柄を経験した挙句、今この場では肉体が殺された事を告げられるあんまりな運命。その肉体を殺した者こそ自分であるがそこに関しては仕方ないと割り切る。心の中、詫びの心をほんの少しリョースケに捧げておいた。
次に肉体の名簿へと移動しようとした、その時であった。
「!」
森の中、男の叫び声が聞こえる。叫び声というにも、悲鳴と形容するのが正しい声。
おそらく何者かの襲撃に遭っているのだろう。助けに行く、という訳ではないが主に訪れるかもしれない危険を減らす為にも向かった方が良い。
森の中、タブレットを仕舞い咲夜は駆け出した。
◇
「(襲撃というよりかは、ただ驚いた様に見えるわね)」
咲夜が目撃したのは、口を手で押さえ腰を抜かす男。その目の前には肉と骨片が散らばった血溜まりが出来ている、衣服だったと思わしき散り散りの布も血に沈み赤色に。相当酷い殺し方をされたのであろう。目の前の男がその下手人であるとは死体の状況やこの怯え方を見るに到底思えない。金の鎧を纏った派手な外見には似合わないその格好、精神は至って普通の人間なのだろう。
「……うわあっ!?はっ、あ、いや」
「落ち着きなさい。貴方が“やった”んじゃない事くらいわかるわよ」
自身の姿を認識した途端後退りする彼、簡単に追いつけるとはいえ逃げられては困る。今後の行動の手数を増やす為にも、人員は増やした方が良い。男は見る限り積極的に人殺しなど出来るような者だとは思えない。
「私は十六夜咲夜。少なくとも危害を与えるつもりはないわ、名前を教えて頂戴」
「…………山田リョウ、です」
「山田リョウ……あら、もしかして女だったかしら。大変ね、そんな変な格好させられて、動きづらいでしょう?」
少なくとも山田リョウは取り乱し会話もままならない様な状態ではなかった。会話が可能と判断し、咲夜は続ける。
317
:
逃げたい逃げたい
◆4u4la75aI.
:2023/09/20(水) 00:04:04 ID:Wnb0hQTw0
「さっきの叫び声は貴方?」
「……はい」
「まあ……気持ちはわからなくないけれども。結構遠くまで聞こえてたのよ、変質者に気付かれるかもしれないし今後気をつけなさい」
「はい……」
「それで、これは今見つけたの?」
「……」
「そう……」
頷くか小さく返答するだけの姿はまるで幼児の様で。しかし普通の人間がいきなり死体を見せつけられ平常を保てというのも無茶だ。返答してくれるだけありがたい。
咲夜はしゃがみ混み地面を眺める。吸血鬼である主に仕える身、血は見慣れているというレベルでなく日常の一部。目の前の血溜まりは確かに人間だったもので、しかしここまでミンチみたくぐちゃぐちゃにされているものは見たことがない。
「(岩でも落とされなきゃこうならないわよ)」
具体的な死に様がイメージできない。自らの身分や死者の放送を見てもこの場には人間以外の参加者も多い筈。幻想郷で言えば……鬼の様な種族が明確な恨みを持ちながら徹底的に叩き潰しでもしない限りこうはならない。
「(というか、これ……)」
途端、何かに気付いた咲夜は血に浮かんだ破片を掬い取る。衣服の切れ端だと思っていたそれ。ただ、この感触は布ではない。
それに咲夜は、この感触を知っている。
「羽……」
羽、黒い布切れ、そこらに散らばっている赤髪。
『さっきゅん…その身体の名は小悪魔』
咲夜の中で、全てが繋がってしまった。
「(…………埋めることすらできないじゃない)」
中身は他人とて、小悪魔は小悪魔。
その亡骸の人物にすぐに気付く事すらできなかった自分へ、そこまで彼女を崩した下手人へ、割り切った筈の感情が沸々と湧いてきた。
「(…………落ち着きなさい、情報を整理するのが先)」
ふう、と一息吐き。まずはここから離れる事を考える。血は全くと言って良いほど乾いていない、つまり殺されてから長くは時間が立っていない。下手人がそこらを彷徨いている可能性は高い。
318
:
逃げたい逃げたい
◆4u4la75aI.
:2023/09/20(水) 00:04:38 ID:Wnb0hQTw0
「貴方、取り敢えずここから離れましょう」
ならば一先ず自らが辿った道へと戻り、タブレットの確認とリョウから情報を引き出す方が良いだろう。
すぐ側にあった小悪魔、即ちさっきゅんのデイパックを回収し、リョウの方面を向く。
「……リョウ?」
しかしリョウの異変に彼女は気付く。
ただ一点、ある方角を向き困惑の表情を浮かべている。
「……何か、音が」
「音?」
リョウの言う通り、辺りの音に注意を向ける。
しばらく後、確かに地響きの様な音が聞こえてきた。
山田リョウがその低音に真っ先に気付く事が出来たのはバンドの作曲という立場、あらゆる音に普段から耳を傾けていたからか。
しかし彼女達の間違いはひとつ、その時点ですぐに逃避の選択を選ばなかったことだ。
シュッ シュッ シュッ シュッ
ゴウン、ゴウンと揺れが近づく。
シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ
響く蒸気音が森を支配する。
シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ
山田リョウが発した叫びは、彼への呼び鈴となった。
じこだ、じこだ
じこがおきるよ、ほらいきなり
もうそこに、“機関車”が来る
『ポッポ〜♪』
◇
319
:
逃げたい逃げたい
◆4u4la75aI.
:2023/09/20(水) 00:05:13 ID:Wnb0hQTw0
現れるは、張り付いた笑みに血痕を上塗りした顔面機関車――タイラント。
地響きがする程の相手、さっきゅんを殺した敵が迫っている事を咲夜は確信していたが、まさか機関車が来るとは思いもしなかった。脳に響く音楽は能力か何かか。
「……リョウ、下がってなさい」
交戦は確定事項。ナイフが得物の普段の戦い方では機関車の装甲には一切通じないだろう。だが、『仮面ライダー』の力ならば。
『ツクヨミ!』
「(つくづく、さっき試せなかったのが残念だわ)」
流れる様な動作で、ライドウォッチをジクウドライバーへ装着させる。概要は確認している。力が手に入るのならば、どの様なものでも良い。
小悪魔の肉体を殺した仇を取りに動こうとは思っていなかった、何より優先すべきは主。だが、こう目の前に仇が現れたならば。
彼女の選択肢はただ一つとなる。
「変身」
『ライダータイム!』
『仮面ライダー ツクヨミ』
『ツ・ク・ヨ・ミ!』
『ツクヨミ』の四文字が仮面へと貼り付けられる。
軽快なBGMが脳に響く中、煌びやかな音楽がそれを裂いた。
「(成程、ね)」
神秘の鎧に包まれた肉体、明らかな強化を身を持って感じ取れる。その上ツクヨミの肉体が持っていた時間停止能力も使用可能。機関車を相手にしたとて、十分にやり合える。
「もう一度言うわ、危ないから下がってなさい」
その一言と共に、咲夜は翔ぶ。
仮面ライダーと機関車、遥か先の未来交わる存在であった二つは、この場にて戦火を交える事となった。
◇
戻りたかった。
何処に?さっきの夢心地に?違う。
日常に、戻りたかった。
山田リョウの目前で行われている事柄は、もはや人智をとうに超えたもの。ハレクラニの特殊な肉体を得たとて、人間のバラバラ死体を目撃した事も、人面機関車が襲いかかってくる事も、助けてくれた女性――咲夜が突然ニチアサみたく姿を変えた事も、あらゆる情報の洪水。脳はパンク寸前だ。
320
:
逃げたい逃げたい
◆4u4la75aI.
:2023/09/20(水) 00:05:53 ID:Wnb0hQTw0
咲夜は跳び上ると、機関車の顔面に蹴りを入れる。機関車はまるで怯まぬ様子でそれを受け止め、ゴウンと強引にボディを叩きつける。
途端、咲夜の姿が消える。驚くも束の間、背後に現れた咲夜は腕から光の剣の様なものを生み出し、思い切り突き刺した。
「止まりなさい、今なら遺言くらいは聞いてあげるわよ」
タンク部分に剣を突き刺されたタイラントは汽笛を鳴らしながらブンブンと体を振り回す。咲夜は一切のバランスを崩さず運転室へ語りかける。
ここで一つ、咲夜は勘違いをしていた。この機関車らしき物に対し、咲夜は未だ『乗り物』という認識でいる。
当然も当然。誰が即座に機関車の肉体そのものが参加者と理解出来るものか。タイラントは主催の手によって生まれた暴走機関車。止めるならば、機関車を丸ごと破壊するしかない。
「聞く耳はない様ね」
しかし咲夜の目的は最初から破壊のみ。一撃で仕留める為、空いている左手をドライバーへと移す。
「なら貴方も、おしまいよ」
『タイムジャック!』
タイラントから剣を引き抜き、軽く跳び上る。
タイムジャック、即ち仮面ライダーの必殺技、ライダーキック。
咲夜の背面に三日月が浮かぶ。この一瞬は、咲夜《ツクヨミ》の世界。
蹴りが叩き込まれる。
「……」
もはや唖然とするばかり。リョウの目の前で開幕されたヒーローバトル。スピーカー越しでない爆発音を初めて耳にし、思わず目をも塞ぐ。
助かった、少なくともリョウはそう思っていた。爆発音に紛れた、蒸気の音に気づかなかったから。
「……え?」
巻き上がった砂、やがて視界が晴れる。
見えたのは、脚を地面に突き刺す仮面。一切変わらぬ様子の機関車。
その機関車の周囲には、二つ、赤白の傘のキノコがぐるぐると回っていた。
ある世界、レースゲームが行われていた。
ある者はバナナの皮を放り、ある者はカメの甲羅を投げつける。なんでもありのカオスなゲーム。
その世界には、車両を加速させるキノコが存在していた。
今、タイラントに支給されたアイテムはまさしくそのキノコ。しかも三つ入りの、『トリプルダッシュキノコ』。
新着レスの表示
名前:
E-mail
(省略可)
:
※書き込む際の注意事項は
こちら
※画像アップローダーは
こちら
(画像を表示できるのは「画像リンクのサムネイル表示」がオンの掲示板に限ります)
スマートフォン版
掲示板管理者へ連絡
無料レンタル掲示板