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辺獄バトル・ロワイヤル【第3節】

1 ◆2dNHP51a3Y:2021/06/25(金) 21:22:55 ID:riCoyL6w0
―――ソラを見よ、血染めの月が、世界を侵食(おか)す

314モノクローム・ファクター ◆EPyDv9DKJs:2021/11/04(木) 05:03:40 ID:S.cBx8qs0
【アーナス(歳刑神)@よるのないくに2 〜新月の花嫁〜】
[状態]:魔力消耗(小)、吸血衝動、人間への激しい憎悪、顔面打撲(軽微)
[装備]:魔剣ヨルド
[道具]:基本支給品一色、不明支給品×1〜3
[思考・状況]
基本方針:『夜の君』としての本能に従い、人間を殺していく
1:この場にいる人間とアルーシェを殺す。返してもらうぞ、私の血を。
2:『人間』を見つけて殺す。移動方向は北。
3:小夜達(傘下)を利用する。
4:『人間』以外の参加者と出会えば、利用できそうなものであれば使役する
[備考]
※参戦時期は暴走状態の頃からとなりますが、
 主催者からの改竄により「夜の君」としての理性だけは取り戻しております。
※また主催者の改竄により「大切なもの」を奪いとったものは、
 「人間」であったと認識させられております。
※人間だった頃の記憶及び半妖だった頃の記憶については、欠落したままの状態です。



※E-5はバアルの影響で周囲はかなり荒れていて、火災も起きてます。



【細谷はるなのPDA@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
赤城みりあの支給品。元々は細谷はるながシークレットゲームに用いてたPDAでナンバーは3
シークレットゲームで主軸となる機械。本ロワでは改造されている。
クリア条件を満たすと支給品が貰えるボーナスアイテム。満たせなければ特殊機能だけのアイテム。
他のプレイヤーに対して三回以上、相手から認識されずに危害を加えることがクリア条件。
なお2ndは『プレイヤーを殺害した他プレイヤー全員の死亡』である為、
極めてクリア条件が厳しい為実質クリア不可能。ないものと思った方がいい。
特殊機能は元々『プレイヤー同士の接触情報を閲覧出来る』と言うものだったが、
本ロワではメタ的に『対象のプレイヤーがその時間帯に登場した話で接触した人物』が表示される。
作中で言えば『神戸しお』を対象にした結果、深夜に登場した『女の子の体って何でできてる?』で神戸しおが接触した人物の名前が表示。
なお行動を共にした場合は『共にする』、殺害した場合は『殺害』と大雑把だが多少の内容はあるが、
運営が手動で入れてるものであるらしく、かなりいい加減だったりする(流石に原作程沈黙はしないだろうが)
使用回数は二時間に一回使用回数が増える。原作と違い所有者がこれを手放しても死ぬことはない。

315 ◆EPyDv9DKJs:2021/11/04(木) 05:05:11 ID:S.cBx8qs0
以上で投下終了です
人数が多い為何か不備があったらすみません

316 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:28:47 ID:WC5iqTOQ0
投下します

317 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:30:23 ID:WC5iqTOQ0
 戦闘開始の合図は一人のリフレクターによる変身だった。
 フリルが多分に盛られた服装と少女アニメのような桃色のバトンは、さながら魔法少女のような格好だ。
 来夢や日菜子よりも優れた素早さを持つ夕月は、一刻を争う戦況おいて先手を取りやすい。
 バトンを二つに折って両手で回転させると、多数の魔力の球が軌道を描いてギースに迫る。

「フン!」

 一発一発丁寧に弾丸を打ち払うか、回避しながら迫ってくる。
 確かに数は脅威かもしれないが、それは質より量と言ったところのもの。
 若かりし頃に相対した男、リョウ・サカザキの虎皇拳の威力とは比べるまでもない。
 加えて彼女が放つストリベリーコメットは防御が意味をなさない攻撃でもある。
 ある意味ではその行動は最適解とも言えるだろう。攻撃こそが最大の防御なのだと。

 此処に黒鍵を眼前でクロスさせながらはるなが肉薄。
 人数差を利用した、シンプルな波状攻撃。
 通常の銃と違い夕月の攻撃は彼女が制御するもの、
 つまり流れ弾が当たることは基本的には存在しない。
 殺し合いの経験から、彼女も十全にこの状況で立ち回れる。
 弾丸を次々と弾いてるギースへと迫り、足を狙っての一閃。
 仲間がいる以上、自分が率先してとどめを狙う必要はない。
 皮肉にも二桁近く殺し合いに参加したことで鍛えられた健脚は、
 少なくともギースとしても見るものはあった。

「疾風拳!」

 だからどうした。
 彼女が殺し合いで鍛えられたと言っても、
 ギースは餓えた連中が集いしサウスタウンを裏で牛耳る首領。
 常日頃から死と隣り合わせ、常日頃から鍛えてるギースと対等のはずがない。
 刃が迫る寸前には後方へ跳躍しながら青い波動が数発ほど迫る。
 もしこれが蒔岡玲であれば両断と言う道を選べただろうが、
 剣術の経験は素人レベルのはるなにそれはできない。
 空振りに終わった攻撃の隙で満足に動くことは出来ず、

「ふむ、それは困る。」

 スティッキィ・フィンガーズが腕にジッパーを取り付けて伸ばす。
 本来射程距離2mと言うスタンドのルールを無視できる特殊な例だ。
 射出された腕がはるなを掴んで、征史郎のところへ引き戻される形で大事には至らない。
 しかし、それは征史郎としてはやりたくなかったことではあった。

(手の内を知られたくはなかったんだがな。)

 スタンドは己の意志一つ出し入れ自由、
 動作も自分がする必要がないため怪しまれることもない、
 言うなれば武器を持たない無力な人間を装うことができる。
 暗殺、不意打ちにおいてはとてつもない性能を持っていた。
 隙を狙うには最も適していたし、何よりこのスタンドは殺傷力が段違いだ。
 純粋な破壊力もスピードもこの舞台で判明しているスタンド二種とほぼ同等のステータスを誇り、
 攻撃も当ててしまえば相手をばらばらにして再起不能も、殺害も容易にできるスタンド。
 だから伏せたかった。乗った参加者から首輪を外せるかどうか実験の為にも。

「タン・フー・ルーがやっていた奴の亜種か? 自由度は高そうだな。」

 出さざるを得なかった。あれが一撃即死の可能性だってあるし、
 そうでなくとも此処で三人と言う優位を崩すわけにもいかない。
 仕方ないとは言え見られた。せっかくの貴重なカードを切らざるを得なかった。
 無論はるなを責めはしない。相手もスタンドに匹敵する何かを持つ可能性は十二分にあったのだ。

「だが貴様も、所詮は餓えを知らぬ人間だな。」

 出し渋っていたと言うことは相応の切り札。
 あの状況で救援が間に合う速度から察するに、
 不意打ちで拳を受ければギースであっても直撃は免れない。
 だからそれを優先すればよかったと言うのに救出を選んだ。
 ただの一般人に殺意がない奴、更には不殺を掲げている二人組。
 甘い連中ばかりにしか出会わない。今の期待値が高いのは先程の金髪の女ぐらいだろう。
 別に求道者のような強者を求める性分ではないが、出会う奴は揃って期待外ればかり。
 満足に戦える相手がろくにいないと言うのは、双子の姉妹に物申したくなる。

318 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:31:23 ID:WC5iqTOQ0
「烈風拳!」

 着地しながら腕を振り上げ、大地を裂く文字通りの烈風。
 すぐさま離れると二人の間を分かつかの如く、烈風が駆け抜ける。
 二人が分かれればその攻撃は当然後方にいた夕月へと向かうも、
 此方は跳躍しながら回避し、魔力を込めたバトンを振るい魔力の塊を飛ばす。
 今度は量より質の攻撃になるグレグレーン、払うことはせず回避を優先とする。

「!」

 サイドステップで横へ飛ぶ形で回避を優先としたが、
 スタンドを出しながら全力疾走で肉薄する征史郎と、
 はるなが投擲した黒鍵によるダブルアタックが迫る。
 黒鍵を投げナイフの要領でできるものではないが、
 運よく真っすぐに飛ばせたし速度も十分早い。

(前衛が僕とはな。)

 先ほどのジッパーをつけて飛ばすところを見られた以上、
 不意打ち以外で攻撃したところで当たることは期待できない。
 射程距離を限界まで縮めてスタンドのパワーを十全に発揮させる方がまだましだ。
 何よりこの面子で安定した前衛の役割ができるのは、自分になるだろうと。
 サイドステップと同時に放ったことで、僅かといえど空中にいるギースでは黒鍵は回避は困難だ。
 先ほどの魔力の塊と違い防ごうと払おうとも、刃物である以上ただでは済まない。
 疾風拳で逃げる可能性もあるが、その隙を自分が補えば問題なかった。
 だからと油断をしないで警戒を高めながらスタンドが右ストレートを準備する。

「惰弱!」

 まさか、そうしてくるとは。なんて彼は一瞬思ってしまった。
 異能だとか人間離れした動きでの対処ではなく、
 飛んできた黒鍵を『素手で刃の部分を掴む』を選んだ。
 勿論無事ではない。素手で握ろうものなら容易に出血する。
 刃を血に染めながら掴んだ黒鍵を、そのままスティッキィ・フィンガーズの拳へ突き刺す。

「───ッ!!」

 スタンドはダメージを受ければフィードバックを起こす。
 説明にはあったので驚くものではないが、痛みは壮絶なものだ。
 鋭い痛みと共に中指が薄皮一枚でぶら下がる程に斬られ、手の甲を貫くように突き抜ける。
 当然痛いどころではない。澄ました、或いは仏頂面であった表情は、
 一瞬にして苦痛に歪んだものへと変わっていた。

「こっちは……四度も刺されてるんだ。」

 一瞬にして思考を切り替えて、黒鍵が突き刺さってままで左手で拳を作り振るう。
 死ぬ時と比べればどうと言うことはない。命尽きるのと中指一本どっちが大切だろうか。
 むかつく奴に向かって中指を立てられないなら、左手でやればいいだけの話である。
 楽器が色々弾けなくなるのは、管弦部としては致命的かもしれないが。

「少しはやるらしいな。」

 しかし、だ。それだけの覚悟を以てしてもまだ足りない。
 腕を掴まれ、そのままギースの後方へと投げ飛ばされる。
 拳を防がれてたらそれで攻撃は成功だったが、腕では別だ。
 どれだけ一撃必殺の力であろうとも、当たらなければ意味がない。
 多少の捨て身でも拳を当てに来たのが見えていたギースにとって、
 『拳に絶対的な自信を感じた行動』と感じた反射的な行動でもあった。
 相手が格闘家として卓越された人物、と言う不幸が招いた結果でもある。

(此処!)

 まだ終わらなかった。
 征史郎の攻撃が、ではない。
 ギースが彼を投げ飛ばしてみれば、
 いつの間にかはるなが接近していたから。
 既に黒鍵の刃が刺さる間合いに入り、再び足元を狙う。

「遅い、Razing Storm!!」

 刃が触れるよりも早く、
 両手を交差させながら掲げて地面に叩きつける。
 牙のようなオーラの波が前方に噴出し、はるなを吹き飛ばす。
 そして波を立てることで空中にいる夕月からの攻撃も防ぐ、
 攻防において優れた一手を選んでいた。

「チッ!」

 全てがギースになすすべもなく、と言うわけではなかった。
 夕月が使った相手のいる場所に直接影の球体を出すシャドウゲインは、
 純粋な飛び道具ではないのでレイジングストームをすり抜けてダメージを与える。
 彼が技を先に出したことで、夕月は他の攻撃方法を変えることを選んだ。
 とは言え、これは自分の体力を犠牲にして使う技。おいそれと乱用はできない。

319 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:32:29 ID:WC5iqTOQ0
 二人を一瞥した後、後方の上空を見上げるギース。
 そこにはジッパーを取り付けて伸ばしたスタンドの拳が迫っていた。
 射程を伸ばした攻撃をしていたのでしてくると予見し、それが的中する。
 風切り音が耳に届くぐらいぎりぎり首を傾けることで回避し、間のジッパーを思いっきり引く。
 引けば当然空中にいたスタンドごと征史郎を引き寄せて迎撃を図るが、
 スタンドに刺さっていた黒鍵を自分の手で引き抜いてブーメランの要領で投げる。
 はるなほど卓越されてはないが、ギースと言えど生身で刃を受けるわけにはいかない。
 早々に手を離し、征史郎の着地点に疾風拳を使いその反動で軽く距離も取る。
 地面に強引に叩きつけられる征史郎だが、代わりに疾風拳はスタンドのガードで防ぐほうに回し追撃を防ぐ。

「このギース・ハワードも知らぬ力がまだまだあるらしいな。
 周囲に気を配る戦いをすれども、その上を行く可能性は考慮するべきか。」

 着地した後、後方の夕月を見やる。
 ダメージを受けて右胸に手を当てているが、まだ余裕の表情だ。
 この舞台とは別の世界線を辿った彼はオロチの力やデビル因子と、
 数々の特殊な力に興味を持った。故にスタンドやリフレクターも興味深い。
 あわよくば手に入れたいと言うのが、あくなき欲求を持つ彼らしいとも言える。

「……ハワードって、ロック・ハワードは家族なの?」

 名簿には同じファーストネームの名前があった。
 この殺し合いには自分と来夢に限らず、家族絡みの参加もあると。
 彼もそうなのかと、同じように地面に着地してから夕月は尋ねる。

「同姓同名でもなければ、息子だろうな。」

「家族がいるのに、殺し合いをするの?」

 自分と同じく家族が殺し合いに巻き込まれている。
 会えるなら会いたいし、心配だって今も尽きない。
 現実的で合理的、こういうので生き残るなら来夢の方だとしても。
 家族と言う存在が大切だからこそ、夕月は目の前の男を理解したくなかった。
 息子を放っておいて殺し合いを加速させる父親など、誰が望むものか。 

「なるほど。家族同士で殺し合うなどはやめろ、と言うことか。
 大方貴様も身内がいるらしいな。ハタダかノハラか……まあ、どうでもいいな。」

 あくまでそれは一般的な倫理からくるもの。
 相対するのはその基本的な倫理など、とうに捨てた男。
 でなければ、数々の悪行を平然となせるものではない。
 己の欲が為に人を何人も殺め、最終的にその怨恨が死へと繋がったが、
 死んだところでそのありようは変わらない。誰かの悪夢、それがギース・ハワード。
 一応ロックに思うところがないかと言われると多少は気にかけている。
 現に評価が下がりきったホワイトよりは期待してるのだから。
 もっとも、そこに親子の愛情と言うものはまずないだろうが。

「貴様が思い描くような家族など、私とロックにはないと言うことだ。
 それで、時間稼ぎはあと何分かけるつもりだ。後ろの奴ですら使い物になるか怪しいぞ。」

 敵と悠長に会話をするなど時間稼ぎ以外にないことは分かっている。
 レイジングストームで吹き飛ばされたはるなは三本目の黒鍵を杖代わりに夕月の後ろで立ち上がり、
 征史郎も右手の負傷をジッパーで強引に止血させながら、なんとか立ち上がっている。

「全く、出鱈目な強さだ。本当の鬼くびれ大羅漢かお前は。」

「オニクビ……なんだそれは?」

 いつもの戯けたことを口にする征史郎だが、半分愚痴に近い。
 数分にも満たない程の攻防を繰り広げたが、結果はどうだ。
 三対一で戦ったのに多少のダメージと手に傷を与えただけで、
 こちら側の損失はそのダメージにとても見合ったものではない。
 恐ろしいのが、気やオーラの類を使うがそれ以上のことはしてこないのだ。
 それ以外はほぼすべてが生身の人間の立ち回り。同じ人間かと疑いたくなる。

「ただの愚痴だ。きにしなくてもいいぞ。
 一先ず此処はこの手で行こう。若干賭けだが仕方ないとする。」

 征史郎がポケットから出したのは何かの翼のようなもの。
 鳥類の翼ではない。例えるならばドラゴンのようなものになるか。
 一体どんな効力があるのかと思って眺めれば、征史郎の姿が瞬時に消える。
 背後や頭上などの死角を警戒して辺りを見渡すが、辺りには人の姿はない。

「……なるほど、超能力の類か。」

 そう、人の姿はない。それははるなも夕月も同様にいなくなっている。
 あるのは征史郎が投げ返したまだ無事な黒鍵と、レイジングストームで破壊したほぼ柄だけの黒鍵。
 この手の転移には覚えがある。秘伝書争奪戦の中心にいた秦兄弟も似たようなものを持つ。
 兄弟と違い戦闘の為に使ったのではなく、逃走の為に使ったと言うことはこの静けさから察する。

(恐らくだが遠くには行ってないはずだ。あれを試してから探すとしよう。)

320 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:34:02 ID:WC5iqTOQ0
 転移の類があっては殺し合いが滞る可能性がある。
 そうギースは推測して周囲を徘徊して探すことを選ぶ。
 ついでに、別の目的もかねて。



 ◇ ◇ ◇



「うまくはいったか。『仲間』も判定とは融通が利く。」

 見覚えのある家屋の壁にもたれながら、小さな声で征史郎が呟く。
 普段通りの彼ではあるが、ほぼ指がちぎれかかった状態に脂汗が顔中に浮かぶ。
 殺された分だけ何度も支えた包丁の痛みの方がましにすら感じてくる。
 自分ですらよく気を失わないで保っていられるなと自分で褒めたくなっていた。
 見上げる天井には穴が開いており、血染めの空を眺めることができる欠陥住宅。
 今いる場所は覚えがある、伊藤大祐が遺体として発見された殺人現場だ。
 征史郎の支給品である『りゅうのつばさ』によって行ったことのある場所へ三人は飛ばされている。
 アルーシェ達と出会った際に別の場所で情報交換をしたと言えども、ギースのいる位置とはかなり近い位置。
 余り大声を出さない方がいいと判断して、小声で会話をすることに専念していた。

「せー君、右手見せて。治すから。」

「治せるのか?」

「ユズは回復もできるんだよ。」

 手に魔力を込めて、差し出された右手にかざす。
 指はほぼギリギリ切り落とされてなかった状態にジッパーでつないでたが、、
 無事に接合して右手の風穴も瞬時にふさがっていき、痛みも引いていく。

「全国の医者に謝罪したほうがいいレベルのものだ。」

「褒められてるの?」

「一応誉め言葉だ。気にせず受け取るがよい。」

 指を軽く動かすと中指はまだうまく動かせないが、
 手のダメージが実質なかったことに出来たのは大きい。
 ジッパーを消しても出血することもなかった。

「そっか、ありがと。次は───ッ。」

 回復を終えると、大きな魔力の消耗に一瞬だがふらつく。
 消費が普段よりもかなり激しい。元々夕月の魔力の総量は、
 日菜子や来夢よりも劣っているのに加えて、首輪による回復に関する制約。
 予想はしてた。これだけの傷を治せるものがあっては殺し合いにはならない。
 回復量が少ないのかと思って一瞬安堵しかけたが、消耗を上げる形で設けられていた。
 元より瀕死の状態からでも十分回復できるリーフセイヴァーだ。乱発は当然できない。
 これ以上使えば、今度は戦うだけの力が残るかどうかが怪しくなってしまう。
 三対一でも優勢とはとても言える状況ではない中で自分が戦力外になれば、
 いよいよこのチームは瓦解するであろうことも十分に理解していた。
 だからはるなに対して使うべきかを躊躇ってしまう。
 困ってる人がいたら助けるのがリフレクターなのに、
 手を伸ばさないと言う選択肢が出て軽く嫌悪する。

 ではアルーシェの下へ向かって逃げるべきか。
 はるなを治そうと治すまいと、それは困難だろう。
 治せば戦力外になりかける自分を守りながらの逃げ、
 治さなければ負傷したはるなを抱えての逃げ……どちらも厳しいものだ。
 征史郎か自分のどちらかに殿を任せて、残る一人がアルーシェを呼んでもらう。
 勿論それは論外だ。三対一でこの状態、一人にすれば確実に殺される。
 誰かを犠牲にする……来夢だったら少し考えてた可能性はあるだろう。
 効率的にフラグメントを集めようとする彼女とは何度か衝突したことを思い出す。
 (とは言え死なせるつもりはなかったので、この状況でも犠牲にはしないだろうが。)
 それで衝突した夕月も当然、そんな選択肢を取れるわけがなかった。
 かといって自分が殿を務めても生身の征史郎では移動速度に限界がある。
 長時間はるなをかばいながら戦うことなど、とてもできるものではない。

「私には、使わなくていいわ。」

321 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:35:34 ID:WC5iqTOQ0
 それを察してか、はるなは壁に手を当てながら立ち上がる。
 確かにダメージが大きいが征史郎と違い欠損はしてるわけではなく、
 見た目こそ攻撃を受けたことで腹部を中心に制服がそれなりに破けていて痛々しい。
 しかし、骨折と言った行動に致命的な支障がでている状態でもない。
 内臓へのダメージの方で血反吐を吐きそうにもなってたが。

「でも───」

「此処で三対一の数の利がなくなったら終わりよ。」

 多勢に無勢は本来有利であるはずだ。
 あの叛逆で最も殺しの経験があったはるなと瞳でも、
 生き残ることはできなかったのは武装もあるが数の差も一因する。
 相手はどうしても手数が少ない。その利を捨ててまで自分を治すのは、
 対価やデメリットを考えればしないのが現状最良になるだろう。

「でも前線は難しいわ……征史郎、多分投擲もうまくできないから返すわ。」

 まだ余っていた黒鍵四本を返却しておく。
 投擲はともかく、剣として使うなら征史郎の方がまだ使えるだろう。
 スタンドの都合二刀流を二人でやるなど、一応戦術の幅は広がると言えば広がる。
 経験は皆無なので付け焼き刃でしかないが。

「夕月の方に銃とかボウガンってない?」

 やはり銃と言った遠距離武器の方が性に合う。
 出来れば負担の少ない代物を願いたいが、二人の支給品にはない。
 支給品を共有してない夕月の方にならあるかもしれないので尋ねておく。

「そういえば一度も確認してなかったかも……」

 元々リフレクターで変身できていた身だ。
 アルーシェと違い武器が必要と言うわけではなく、
 特に確認を促されたわけでもなかったので初めて手を付ける。

「まだ、勝てる見込みはあるだろうな。」

 確認したいくつかを見て、征史郎は思案する。
 あれだけの怪物のような人間をどう攻略するのかを。





 周囲を散策すれども、まだ相手は見つからない。
 長距離移動できないと言うのはあくまで推測だ。
 このエリアにはいないのではと思いながら、三人が見てた方角を見やる。

(向こうに仲間がいるようなことを言っていたな。)

 運よく距離を取れたことで、そっちへ向かったのか。
 仲間はかなりのスピードを持つ。となれば強敵の可能性はある。
 仕留め損ねた得物も探しにそっちへ向かおうと歩を進めるが、
 一つの家を通り過ぎたあたりで、そこから出てくる夕月とはるな。
 足音に気付き、ギースが振り向く。

 変わったことは二つ一つだけだ。
 はるなが持っているのは黒鍵ではなく、
 紅色と水色のコントラストが美しいボウガンと思しきもの。
 芸術品としても一見の価値があるようではあるが、此処では武器の類だ。
 もう一つは、征史郎の姿がないことぐらい。

「ほう、姿を見せてきたと言うことは策があるのか。
 眼鏡の小僧は……まあ、大方この塀の向こうだな。負傷した身でよくやる。」

 一人だけいない征史郎だが、
 近くで隠しきれなかった足音ですでに気付いている。
 今、自分の隣にある塀のすぐ向こう側にその姿があることぐらい。

「む、やっぱり気付いてるか。
 素人では不意打ちは通用しないと言うことか。」

 ばれてるなら隠す意味もないだろう。
 そう言わんばかりにさも当たり前のように声を出す。

「それで、私をどう攻略するつもりだ?」

「……ヘイルローズ!」

 バトンを二つに折ると、魔力で構成されたリボンがうっすらと浮かぶ。
 それを鞭のように振るい、リボンの乱舞がギースを襲う。

「TooEasy! 先程と同じで芸がないな!」

322 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:36:37 ID:WC5iqTOQ0
 ストロベリーコメットと同様に、
 攻撃をいなすか避けるかと変わらない行動。
 大した違いを感じ津、落胆気味の表情をしていた。
 攻撃方法が違うだけの展開だが、勿論そこから先は違いがある。

 彼女から少し距離を取り、はるながボウガンを構えて矢を数発放つ。
 矢がリボンに当たらないように変わらず足を狙った攻撃だが、
 たかが複数のボウガンの矢。ギースならば止めることは容易であり、それを掴む。
 しかし───

「何!?」

 はるなが放ったのは確かに矢の類だ。だが、全てが掴むことを許さない。
 正確には、掴んでも矢の一部がすり抜けて紅の袴を裂いて膝の肉を削ぐ。
 掴んだ部分も肉が抉れるような痛みが感じるだけだ。

 矢の正体は───水。そう、はるなが使ってるのはつまるところ水鉄砲だ。
 勿論、ただの水鉄砲が人間の肉を削ぐだけの威力など撃てるはずがない。
 ある少女達が敵との戦いに使うためのれっきとした石弓である六花の水弩は、
 人を殺すには十分な殺傷力を持つ。

「ヌゥ……!」

 膝をやられたことで先程よりも前進できる距離は短い。
 ギースと言えども足のダメージを無視できるものではないが、

「追撃だ。」

 音を頼りに征史郎が空へと黒鍵を四本すべてを投げる。
 ぐるぐると回転しながら、血染めの空へと飛んでいく。
 言わなければ風切り音だけを頼らなければならないが、
 宣言されたことで空にもギースは注視せざるを得なかった。
 宣言通りに空には黒鍵が乱雑に宙を舞っているが、

(いや、罠だ!)

 ヘイルローズで黒鍵を弾かれる可能性がある中、
 これが決定打になりうるわけがなかった。
 警戒させる為の注意を逸らす囮だと気付き、
 視線は塀の上からの征史郎の奇襲に備えるが、

「上だと思ったか。」

 当然違う。
 ギースにはまだスタンドの能力が明確に把握されてない。
 だから壁にジッパーを付けてそこからくることは想定できなかった。
 上を見やるギースを皮肉るような言葉と共に壁の中から姿を見せる。
 いくら柔軟な思考をと身構えたところで、限界はあるもの。
 特に、一つの能力で多彩すぎるスティッキィ・フィンガーズ相手では。
 これでもまだ使用者である征史郎でさえ全容を把握してないのだから恐ろしいものだ。
 加えて、まだはるなが石弓をもって文字通り湯水のように矢を飛ばしてくる。
 三者全員の攻撃をそれぞれ相手していた先程と違い今度は一斉。
 ギースでも反応しきれるものではない。

「チィ!!」

 此処は距離を取らねばならない。
 黒鍵は囮だとしても『当たるかもしれない』は拭えないので、
 実質四つの攻撃が迫ってる中で攻めに入るのは不可能なことだ。
 リボンを払い、疾風拳を征史郎に狙いを定めながらその反動で距離を取る。

「させない!」

 ヘイルローズで疾風拳を相殺。
 そのまま空中のギースを狙い、追い詰める。

「侮るな小娘!!」

 リボンを無数の疾風拳が防いでいく。
 元々阿修羅疾風拳で大量の疾風拳は出来る。
 とは言えそれは大技の為であって、防御策には非ず。
 一応攻撃には繋がっているがヘイルローズで次々と防がれている。
 そのまま反動でさらに距離を取ってリボンの射程から離れたところで一旦打ち止め、

「逃げるのはなしだ。」

 した瞬間、スティッキィ・フィンガーズの右腕に足を掴まれる。
 距離が遠いので威力は殆どなく殴るのは無理だったが、辛うじて掴むことはできた。
 このまま引き寄せて、夕月の攻撃の間合いに強引に引きずり込む。
 いつの間にか右腕が回復してることに、ギースもこの場でようやく気付く。

「身の程をわきまえろ! 小僧に何ができる───!!」

 再び無数の疾風拳で引き戻されんと踏ん張る。
 スピード、パワー共に優れたスタンドと言えども、
 降り注ぐ攻撃を片手だけの状態で回避は困難だし、役割の都合動くのも難しい。
 なので防ぎきれず顔面に直撃して出血を起こすことにもなるが、掴む手は維持して踏みとどまる。

(ならば再び引き寄せるまでだ。)

 一切の隙がないとまでは言えなくとも、
 片手でも疾風拳を連発するぐらいはできる。
 残った片手は足の腕を繋ぐジッパーを掴もうとするも、
 視界の隅にはるなが六花の水弩による射撃が邪魔をする。

「種が分かれば矢など……!」

323 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:37:16 ID:WC5iqTOQ0
 水の弾丸では掴んで投げ返すことはできない。
 だったら同じように攻撃で相殺すればいいだけの話。
 初見殺しの能力でしかないが、問題は別の所にあった。
 この一瞬の攻防の間に、夕月がダッシュでギースへと向かっているから。

「此処だアアアアアァッ!!」

 バトンを持った両手を広げ、きりもみ回転しながら空を舞う。
 彼女を覆うようにリボンが螺旋を描いた状態でギースへと迫る。
 彼女が用いる技でも大技の一つである、スターライトウィロウだ。

(小僧を対処には間に合わん、ガードに徹するが最善か!)

 もう疾風拳でどうこうできる段階ではない。
 空中での技のバリエーションも確かにあるが、
 あくまであるだけで空中戦が得意と言うことにはならない。
 ガードでしのぐことが正解だと両腕を交差させガードをするも、
 それを許さないかのように右腕ごしから肩ごと貫通して貫く水の矢。
 疾風拳で防がれてたのだから、当然それがなくなればはるなも攻撃できる。

「───小娘ェェェッ!!!」

 腕の筋でもやられたのか、右腕が思うように上がらなくなる。
 半端なガードでこの攻撃を凌ぎきれるはずがなく、断末魔のような叫び声を上げた。
 叫び声をかき消すように、リボンの乱打がギースへと襲い掛かり、征史郎も手放す。
 リボンではあるがその痛みは最早鞭と相違がないものを無数に受け、
 回転を終えれば派手に吹き飛ばされ、大地へと満足な受け身も取れずに叩きつけられる。

「夕月、お願い!」

「……うん!」

 コモンや現実世界の原種と何度も戦ったことはあれど、
 こうして直接人を手にかけることについては初めてだ。
 躊躇いこそあったが、放置すれば確実に多くの人を殺める。
 いつか日菜子や来夢へと降りかかる災禍。それだけは避けねばならない。
 意を決して空中でバトンを一つに戻すと、リボンで巨大な魔力の塊を描いていく。
 反撃されないように、最大の技グレイプウェイブでとどめを狙う。

(できれば生きたままで捉えたかったが、仕方なかろ。)

 征史郎としては実験の為に必要ではあった。
 とは言えこれを野放しにすることができないのも事実。
 此処で異議を唱えることなく素直に倒すことを優先とする。
 捕縛する手段はスタンドがあれども、捕縛の瞬間何をされるか分かったものではない。





 ある意味、その予感は的中した。
 三人にとって、最悪な展開によって。

「───え?」

 全員揃って、変な声が出た。
 余りにも予想外な展開が起きたからだ。
 ギースは人間離れした動きをする人間。
 共通の認識として存在していたと言うのに。
 なんだそれは。お前は人間ではなかったのかと。
 全員がそんな風に疑いたくなるような、信じられないような光景。
 ギースを知ってる人物だとしても、驚きを隠せなかっただろう。




 ギースの背中に突如として翼が現れたのだ。

324 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:37:48 ID:WC5iqTOQ0
 辺獄の空に近しい、紅茶のような色合いの翼が。
 翼だけでもそうだが、それだけではない。彼の身体が段々と変化を始めていた。
 紅白の道着はスーツのようなシックな黒を基調とした色合いに染まっていく───否、
 ライダースーツのような体格をはっきりとさせるようなものに包まれていく。
 ところどころに鳥類の面影を残すかのような毛並みが生える。
 最早変身と言うより、変態に近い姿の変え方。

「征史郎!!」

 絶対に嫌な予感がする。全員がそう認識し、
 はるなは名を呼びながらも冷静に水の矢を放ち、征史郎も接近し、夕月も準備を急ぐ。
 少なくとも夕月の準備が終わるまで動かさせない。その為に動くも、間に合わない。
 ギースは起き上がると同時に、さも自分が鳥であるかと証明するかのように空を舞ったからだ。
 高さ六メートル以上。腕を伸ばせる射程どころか、夕月の位置よりも高く舞い、月をバックに彼は空に立つ。
 見た目も鳥と言う人交じりの異形となり、最早人間と呼ぶことすら烏滸がましい姿となり果てていた。
 紅茶のような翼を広げて血染めの空を舞う姿は、例えるならばそれは鳥───雁(Geese)だろうか。

「ハハハハハ……ハハハハハハハハハハ!!」

 辺獄の空にて大笑いするギースの声が響く。
 ギースは強いが人間。人間らしい致命傷を負えば死に至る。
 でなければ、疾風拳を使ってビルの落下ダメージを回避するものか。
 そのはずだった。だって彼は何処まで行っても人間なのだから。
 だがもうそれは通用しない。彼はもう『人ではなくなった』のだから。

「そうか、適合していたか……!!」

 自分の変化した腕を見て、笑みを浮かべる。
 最初はその支給品を見たときは、荒唐無稽だと思って無視した。
 ギースも気やオーラを形にして攻撃する、一般人にとっては随分無茶苦茶ではあるが、
 別の世界でギースが興味を示した地球意思オロチのようなファンタジーと縁が深いわけではない。
 サウスタウンはアメリカに存在し、山崎竜二がオロチの血を引いてもない。比較的現代に近い存在だ。
 (後に異世界で無双するギース、なんてのもあったりするが……そこは割愛とする。それに異世界だし)
 何より、エレンもレオーネも基本異能を使った戦い方をしていないのもあり、真実味を感じなかった。
 だから使う気すら起きなかったが、スタンドにリフレクターとこの短時間でいくつも遭遇している。
 これだけ多種多様なものを見て、それが本物だと理解するにはそう時間はかからなかったし、
 あくなき欲求を持つギースが、人をやめると言う行為に躊躇いなどあるはずもなく。









 だから彼は浴びた。かの世界における、力の根幹とされる火山灰を。
 ギース・ハワードは『人』ではない。今や彼は『ヴァンパイア』となった。

「これがヴァンパイアか!! 力が滾るぞ!」

 右腕を軽く回し、歓喜の表情だ。
 肩の筋を斬られたはずの腕が治っていた。

「ッグレイブ───」

 未完成だがこれ以上待たせてくれるわけがない。
 地上の月とも言わんばかりの魔力の塊を飛ばすも、

「遅い!!」

 放つ前にギースの掌底。
 弾丸のような速度で迫ってきた攻撃を、
 防ぐことは出来ず内臓を抉られるような痛みが襲いながら地面に激突する。

「カハッ……!」

325 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:40:11 ID:WC5iqTOQ0
 地面に軽いクレーターを作り、
 肺に溜まっていた空気と共に血を吐きだす。
 決して無視できないダメージを負ったものの彼女とてリフレクター。
 ギースに負けず劣らずの経験があり、負傷だってざらだ。
 ついでに言えば、戦う前の準備で口にしたもののお陰でまだ十分受ける
 だから早急に起き上がってギースの迎撃を狙うが───

「Razing Storm!!」

 空から急降下するギースによる、レイジングストーム。
 はるなも矢を放つがその速度を前にかすることすらできない。
 無論夕月の攻撃も始まる前に相手の攻撃が成立する。
 夕月の目の前で、二度目のレイジングストームが放たれた。

 レイジングストームの色は、先程の青色ではなくなっていた。
 血染めの辺獄の空と同様の、赤黒いオーラの柱が彼の周囲に並び立つ。
 レイジングストームにも基本的に二種類のタイプが存在する。
 前後左右を囲むように牙の柱が出る場合と、前方限定で波しぶきのように舞うタイプ、
 今回は牙の柱が出るタイプで、ギースを覆うような先程とは比べるまでもない攻撃範囲だ。
 ギースが急降下による攻撃もあって、隕石でも落ちたのではないか見まがう一撃。
 唯一距離があった征史郎だけが難を逃れた───否、逃れてしまったと言うべきだろうか。
 近くに何かが落ちる音がしてそちらを見やる。

(なん、だと。)

 頭にキていても普段の平静さを崩さない彼も、崩れるときはある。
 突発的に顧問である千鶴先生がタブレット越しに死を予感した時のように。
 落ちてきたのは、腹部に大きな風穴が開いた状態で横たわっているはるなの姿。
 瞳に生気はない。誰がどう見ても致命傷だし、夥しい量の血が流れていく。
 夕月に頼まなければとてもではないが治せないような深手の傷。
 いや、もう間に合わない。脳ではそう理解はしているし、
 中心にいた夕月も無事では済まないことぐらい分かっている。

 ほんの数秒程度の赤黒い柱が消えるまでが、異様に長く感じた。
 柱が収束し、二人の姿が其処に映し出される。

 フリルのついた衣装は赤黒い血に染まりながら伏せる夕月、
 そしてそれを見下ろしている人の形を辛うじて保った鳥獣の怪物。
 悪夢とは、こういう光景を指すのだろうかととさえ感じる凄惨な光景。

「せー君、ゴホッ……逃げて!!」

 顔を起こし、吐血しながら促す。
 夕月はまだ、かろうじて生きていた。
 三人がギースに姿を晒す前に口にした洋菓子は、
 辺獄の商人が売っている、一種のドーピングアイテム。
 だから征史郎も疾風拳を受けてもある程度は無事だったし、
 こうして夕月が重症だがまだ生きていられるのもそれである。
 生身の人間であるはるなには、とても耐えきれたものではないが。

(逃げるしか、ない。)

 三対一は崩れた。夕月もほぼ再起不能の状態。
 助けに入れば確実に死ぬ。勝ち目など万に一つとしてない。
 もう逃げる以外は敗北だ。征史郎は迅速に走り逃げ出す。
 地面にジッパーを付けて移動ができると理解してない彼の逃走手段は、
 生身の人間による足のみ。ヴァンパイア相手にそれで逃げ切れるわけがなかった。

「逃がすと思うのか!」

 ギースにとって死に体の夕月など眼中にない。
 逃げに徹する弱者を早々に葬るべく翼をはばたかせる。
 しかし、うまく飛ぶことができなかった。
 何の変哲もない理由、翼が生えたばかりで飛び慣れてないだけだ。
 先ほども軽い滞空はしていたが殆ど自身の跳躍と急降下。コツなど掴めるはずもなく。
 なら足で移動すればいいだけのこと。

「ペタル、メテオォッ!!!」

 ギースが移動にあぐねていた間に、
 後方で倒れていた夕月が魔力を込めた掌底を叩き込む。
 全身が痛みで悲鳴を上げている。腹部から血もとめどなく溢れている。
 自分の命は秒読み。それでも、誰かのために戦う。自分が消滅すると分かっていても、
 日菜子の為に行動すると自分で決めていた彼女がそう行動するのは、おかしくないことだ。
 隙だらけなのもあって、近くの塀やその奥の家屋を破壊しながら吹き飛ばされる。
 無事に逃がすことには成功したと同時に、彼女も限界を迎えていた。

(ヒナちゃん、来夢……ゴメン、ね……)

 命尽き、倒れる最期に想起するのはこの場に招かれた大事な親友と家族。

326 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:42:28 ID:WC5iqTOQ0
 無事であることを願いながら、彼女は二度目の生に幕を下ろす。





 壁をいくつも破壊しながら吹き飛んだギースは、すぐに態勢を整えて地面を蹴る。
 地面にクレーターを作るような轟音と共に空高く飛び上がり、周囲を見渡す。
 ギースと言えども高所からの落下は命の危険が(一応は)伴っていたが、
 ヴァンパイアとなった今や、そんなことを考える必要は一切なかった。
 空から周囲を見渡してみれば、ある程度離れた位置に征史郎の姿を捉える。
 轟音により空にギースがいると気付いた征史郎は、近くの平安京らしい屋敷へと逃げ込む。
 逃げきれないと分かっての苦肉の策。だが今のギースでは家など紙切れに等しかった。
 再び急降下によるダイブで天井を突き破り、床を突き抜けて放つレイジングストーム。
 家一軒を倒壊させることなど容易い、一種の災害のような一撃だ。



 崩れ切った屋敷の瓦礫を吹き飛ばしながらギースは立ち上がる。
 周囲の残骸を破壊して遺体を確認してみるも、血だまりも遺体はない。

「跡形もなく消し飛んだかもこれではわからんな。」

 死んでるならそれでよし。
 生きてるならここから追跡のしようがない。
 いつまでも執着することをせず、次の行動に移そうとするも足が覚束ない。
 ヴァンパイアになったと言えども、短時間に何発も大技を使っている。
 彼はなりたてのビギナーヴァンパイア。この場にいる真祖は勿論のこと、他のヴァンパイアと比べても非力だ。
 (あくまでヴァンパイアとしては、の話であるため素が高い力を持つギースがビギナーレベルかは不明だが)

「……少し休むとしよう。」

 再生能力もまだそこまで向上してるわけではなく、
 ダメージが蓄積した現状すぐに次の戦いは難しいだろう。
 東に向かうことは諦め、一先ず休憩を挟むことにする。
 しかし、休んだ後向かう頃にはその相手も何処かへと行ってしまうはず。
 となれば徒労に終わるかもしれない。故にギースは今後の行き先を東だけには考えない。

 暗黒街の支配者は更なる災厄の悪夢を生む。
 辺獄の悪夢は、覚めることなし。

【E-4/1日目/黎明】

【ギース・ハワード@餓狼伝説シリーズ】
[状態]:ダメージ(大・再生中)、不快、ヴァンパイア化(現在は人間態)、ハイ
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1(確認済み)、スモークボール@大貝獣物語2×4
[思考・状態]
基本:殺し合いに乗り優勝する。あわよくば主催すら越えて最強を示す
1:暫くは休む。
2:カインにはそれなりの期待
3:ロックは少し程度は期待。
4:ホワイトはどうでもいい。
5:緑達には付き合ってられない。
6:東に行くべきか、他の方へ向かうべきか。
7:ヴァンパイア、実によき力だ。

[備考]
※参戦時期はリアルバウト餓狼伝説での死亡後です。
※火山灰を浴びたことでヴァンパイアになりました。
 ヴァンパイア態は原作の阿久津潤に近い鳥を模した姿で、飛行能力もあります。
 (ただしなりたてなので安定した飛行ができるかどうかは別)
 現時点では能力は不明、D・ナイトは現時点では使用できません。
 またヴァンパイア態時はレイジングストームは餓狼伝説3潜在版のように常に赤くなります。










(生きた心地がしなかったな。)

327 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:42:56 ID:WC5iqTOQ0
 征史郎はまだ生きていた。
 りゅうのつばさは、もう一枚あったがゆえに。
 アルーシェ達と情報交換の際に別の家へ向かった家へとワープルしていたのだ。
 当然ギースと戦った場所のすぐそば。一部のランダム支給品だけ持ち去り、再びその家に戻って座り込む。
 いつ戻ってくるか分からない以上、必要最低限の物だけを優先とした結果である。
 安全ならすべての支給品をかっぱらって、二人の首輪も遠慮なく確保していただろう。
 合理的にプリズナーゲームを進めようと考えていた彼からすれば、かなり消極的になる。
 一歩間違えれば即死の可能性と、生き残った手前簡単に死なないよう慎重に動く必要があった。
 プリズナーゲームの時とは違う。後を託せる相手も仲間も、今自分しかいないのだから。

「……やりきれんな。」

 柱にもたれかかりながら小さくごちる。
 自分が生き残った側になるとは、あまり思わなかった。
 千鶴先生に続いて彩音先輩が殺された時のようなやるせなさ。
 変人揃いの管弦部きっての変人と違って、はるなとのやり取りはありふれたもの。
 だからと言って、楽しくないわけではなかった。
 管弦部の面々と比べれば癖がなさすぎるものの、
 それはある意味突っ込み要因の和馬といたときのような時間だ。
 彼よりもクールで、少しは見習うべきな気がする女性。

 異性としての好意、と言う意味はない。
 彼は愛した人物の為にその命を差し出した。
 だから、そういうのとは違う。管弦部の日常のように、
 しょうもないことを言ったり言われたりする、いつものような。
 そう、あの日ソラが晴れていた場合にあったであろうカオスな部活動の日々を。

(僕が生き残った以上、責任は取ろう。)

 去ってしまった者達から受け継いだ遺志。
 それを置いていくわけにはいかない。生き残ったなら抗おう。
 三日目の和馬のような抵抗と言う名の思考放棄だけは避ける。
 意地汚く生きろ。それが今の状況における最低限の勝利条件だ。

 これは今から語られる物語。
 悪夢から敗走する、青年の物語。
 咎人の旋律は、まだ奏でられる。

【細谷はるな@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage 死亡】
【司城夕月@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣 死亡】


【E-4/1日目/黎明】

【城本征史郎@トガビトノセンリツ】
[状態]:精神疲労(中)、ダメージ(中)、頭から出血、防御力アップ(時期に解除)
[装備]:スティッキィ・フィンガーズのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(夕月×0〜1確認済み、はるな×0〜1確認済み、武器になりうるものではない)、黒鍵×4@MELTY BLOOD、スフォリアテッレ(箱入り)@クライスタ、伊藤大祐の首輪
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに反抗する。
1:はるなの遺志を継ぐ。
2:アルーシェを探すが、敵といる可能性も高い。どうするべきだ?
3:はるな、夕月、アルーシェの知り合いを探す。特に城咲充優先かつ、前者二名の知り合いには謝っておきたい。
4:スタンドでできることを試そう。できて当然と言う認知が大事だ。
5:ついでにスタンドを使える奴がいるか探す、或いは警戒をしておく。
6:あっさりと終わったが、これでいい。語られなかった物語とは、そういうもので。
7:生きたまま首輪が外せるかを乗った参加者で試す。できないとは思うが。
8:首輪について調べておく。
9:ギース・ハワードから逃げる。

[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※リベリオンズ、ブルーリフレクション、よるのないくに2の情報を得ました。
 ただしリベリオンズはDルートの為充、琴美以外の人物とは話が合いません。
※おおよそスタンドでできることを把握しています。





※E-4に以下のアイテムが落ちています
 火山灰@血と灰の女王(それを収納していた空の袋)
 柄のみの黒鍵@MELTY BLOOD
 血のついた黒鍵×1@MELTY BLOODが落ちています
 からっぽのピストル@Undertale
 六花の水弩の残骸@御城project:Re

328 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:43:23 ID:WC5iqTOQ0
【りゅうのつばさ@大貝獣物語Ⅱ】
城本征史郎に支給。原作では来訪済みの街にワープル(ポケモンで言うそらをとぶ)ができるアイテム。
行ったことのある家や施設の何処かに転移するが、指定の場所に行けるかは運次第。消耗品二枚セット。

【火山灰@血と灰の女王】
ギース・ハワードに支給。
血と灰の女王の世界における富士山の噴火により高頻度で降るようになった火山灰。
この灰を浴びて適合する人物であれば、ヴァンパイアへと変貌することができる。

【六花の水弩@御城project:Re】
司城夕月に支給された、水着古河城モチーフの石弓。
身も蓋もないことを言えば石弓型水鉄砲だが、城娘に撃ってはいけない注意喚起がされており、
水を凝縮させ勢いよく発射する特殊な弩であるため殺傷能力は相応に高いものになっている。
水さえあれば機能するのでかなりローコストな弩。残骸なのでちょっとやそっとの修理では使えない。

【スフォリアテッレ@クライスタ】
司城夕月に支給。世間一般的にはスフォリアテッラと呼ばれる。
ナポリの名物焼き菓子ではあるが、クライスタにおいては辺獄の商人から購入できるアイテム。
一時的に防御力を強化することができる。一度に食べても重ね掛けはできない。
消耗品の四個入りで、ギースとの戦いの際に三人で三つ消費している。

329 ◆EPyDv9DKJs:2021/12/16(木) 22:43:52 ID:WC5iqTOQ0
以上で『ナイトメアパーティ』投下終了です。
結構な魔改造なので、問題ありましたら破棄でお願いします(修正できる気がしないので)

330 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/09(日) 13:26:03 ID:F6JjEsFg0
投下します

331胎動編『開戦 ウドガルド城』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/09(日) 13:29:07 ID:F6JjEsFg0
 艱難の先に、少女たちの進むべき道は───
 血染めの空が照らし出す、未踏の物語。





「嬢ちゃん。そったら歩いてっと、
 いざって言うときばてんね。少しは休んどき。」

 定期的にたずね人ステッキを倒しては道を進む三人。
 あゆりがステッキを使っては先行して走っている中、鉄平が声をかける。
 出会ってからと言うもの、ずっとそんな調子で動いているのでは体力がもたない。
 彼としては沙都子を探してくれるのは嬉しいが、無理をさせたくもない。

「大丈夫、こう見えて足は鍛えられたんで。」

 膝に手を打ちながら小走りするあゆりを二人は見やる。
 簡単な自己紹介しかしてないので知らないが、あゆりは城址巡りをする身だ。
 城址、城の遺構と言うものは東京都内でもかなりの数が存在していて、
 自分達が何気なく通ってる場所の近くも、城が建ってた場所だと言うこともある。
 だが中には深沢山にあった八王子城は標高四百メートル以上の場所に位置する城址もあり、
 城址巡りに慣れた友人や顧問も、登山服でなければ気軽に行けるものではないと称するほどだ。
 (なんだかんだあゆりは普段通りの格好で行けてしまったのは、あゆりも鍛えられたと言うことだろう)
 一時期飲んだくれだったのと、スクーターで移動する鉄平より足腰は年齢も合わさりずっと上になる。

「それに、助けに入った人を振り切って、
 エスデスって人が追いかけてくる可能性もあるでしょ。」

 鉄平からすれば、助けに入った善の強さは全く測れない。
 判断できる材料があるとするなら、エスデスを前に割って入れる度胸や移動速度。
 それだけでしかなく、一方でエスデスとは一応戦ったが常人ではとても叶わないものだ。
 技術や鍛錬でどうこうで覆せるものではない。銃があっても決して当たらない、
 そう確信できるだけの、文字通りの化け物や怪物と呼ぶほかなかった。
 善が相手にできるのかどうかという不安自体は存在している。

(あの兄ちゃんはきっと無事や。わしが信じなくてどないするんや。)

 確証はない。でも無事だと思う。
 正確には無事だと思いたいと言う希望混じりだ。
 北条鉄平と言う男は死んでも仕方ない人間、それは彼自身が自覚している。
 そんな自分を逃がしたら死んだ、なんてことはしてほしくなかった。
 殺し合いの中で子供の言うことを信じてやって来てくれた人物。
 こんな場所で死んでいいような青年ではないのだけはわかる。
 だから信じたい。彼はきっと無事でまたどこかで再会できると。
 沙都子に信じてもらいたいように、鉄平も彼を信じたかった。

「……さっきから感じてはいたけど、景観ガン無視すぎでしょ。」

 歩いていると見かけた存在に、あゆりが目を細める。
 先ほどからもずっと塔のようなものが平安京に見えていた。
 近づけば朧気だったものもはっきりとわかるようになるが、
 平安京と言う場においては余りにも景観を無視した、西洋の城跡。
 一部の壁が崩れてこそいるが、倒壊の心配はすぐにはない保存状態だ。

「……どこの言葉だろ。」

 近くの看板に記された謎の文字と思しき羅列を注視する。
 アルファベットの文字に近いようではあるが、近いだけで同じではない。
 その文字の下には他の人でも読めるようにしてるのかいくつかの言語があり、
 一つはあゆりでも読める日本語で『ウドガルド城跡』と記載されていた。
 少なくとも日本ではないし、あゆりも特別地理に明るくはなかった。
 これが彼女の世界には存在しない城跡だと言うことも判断ができない。

「誰かと関係がある施設なのかな。」

 明らかに景観が浮きすぎている。
 元々平安京を再現した殺し合いの舞台だ。
 どこかから持ってきた、或いは模倣したとも受け取れる。
 人の築いた残滓たる遺構となる城址を巡るだけの女子高生。
 異能とは無縁な人生ではあるが、リリアーナや手に持つひみつ道具の存在から、
 随分異能慣れしたもんだと我ながら若干呆れた気分になる。

「あ、そうだ。この塔登ってそこから探してみない?」

332胎動編『開戦 ウドガルド城』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/09(日) 13:30:56 ID:F6JjEsFg0
 平安京はその都合開けた道が非常に多い。
 細い路地は流石に見落とすにしても、大まかな場所は把握できる。
 高さも十メートル程度。程よい高さのお陰で肉眼でも多少はましだろう。

「あゆり、だったらこれを使って。」

 あゆりの提案を聞くと、
 デイバックからリリアーナはあるものを取り出す。
 赤色を基調とした小型の望遠鏡で、それを二人に見せる。

「私の支給品の『手に取り望遠鏡』って言って、
 望遠鏡の中の物とか人を引き寄せたり、自分がその場所に行けるみたい。」

「ナイスタイミング!」

 人探しとしてはたずね人ステッキが有効なのと、
 平安京は建物以外は殆どが平地で構成されている。
 高い場所がないためこれを使う機会がないまま放置されていた。
 望遠鏡を受け取り、一足先にあゆりが塔の方へと向かう。
 浮き足立つ彼女を追うように、二人も塔の中へと入る。

「レッツ登城っと。」

 普段なら友人の美音が言っている言葉だが、此処にはいない。
 ムカついたから殺し合いに抗うといっても、一介の女子高生だ。
 知り合いはいないし、不安になって何処かゲン担ぎ感覚で呟いた。
 ひょんなことから美音と城址巡りするのが今の日常とも言えるものだ。
 だからいつもの日常のように、怪我がないまま終わることを願う。
 そんな風にも思いながら口にしつつ、年季の入った古びた扉を押す。
 見た目通りの軋んだ音を奏でながら開かれた扉の先にあるは、
 城跡と言う外見通りとも言うべきな、質素な内装になっている。
 同じく年季の入ったテーブルや木製の扉、上へと続く階段。
 焚火の跡があるが、元々此処に誰かがいたものかの判断はつくことはない。
 壁にあるのは精々壁掛け松明ぐらいなもの。辺獄の月明りで解決される今、
 使い道が存在しないと言うのはあゆりであっても理解はできることだろう。
 屋上への道は螺旋階段のように壁に沿って続いているので、
 入ってそのまま転ばないように壁に手を当てながら登っていく。

(城に入るのは松本城以来か。)

 城址散策は城の石垣や堀、櫓に石碑などがあった場所だったりと言ったもの。
 城としての形を留めてるものを巡ることは基本的にはない。
 (城の原形をとどめるものがそもそも多くはないのもあるが)
 合宿の際に長野の松本城へ行ったことはあるが、それぐらいだ。
 国宝指定されてる城と比べてはいけないのは分かってるものの、
 随分と寂れている場所と思うと同時に、

(可哀そうに感じるな。)

 僅かながら憐む。
 この城がどんな目的で、
 どんな歴史を経験したかは知らない。
 城と言うものは戦の為に築かれてきたものだ。
 『殺し合いの為に用意された』のは確かにお誂え向きだが、
 決して『この殺し合いの為に用意された城』ではない。
 メフィス達の勝手で呼ばれた城に、僅かながら憐れみを感じた。
 『此処に城があったなんてロマンとかある』といった考えを持つ田辺や美音とかなら、
 もっと憤ったかもしれないがあゆりにとってはその程度の感想だ。

「到着っと。」

 鋸壁に囲まれた屋上にジャンプするかのように着地する。
 屋上も焚火ができる環境があること以外は特に特筆すべきことはない。
 後から来た二人も到着し、三人でそれぞれ別の方角をみやる。
 平安京の街並みらしい、整然されすぎてる建物の並びや等間隔の道。
 中には此処と同じように景観を無視したような建物がいくつかあるが、
 重要なのは人の存在であって、建物のことについてはスルーしておく。

(いないなぁ。)

 軽く数分の時間が経過する。
 結局のところ探してるのは、百人以上の中の一人。
 外見の特徴は把握してると言ってもこの広さでたった一人。
 それに望遠鏡を使ってるのは自分だけで他は肉眼で見つけにくい。
 同じ方角に逃げたかもわからないのでは仕方ないとは思うが、

「じょ、嬢ちゃん! あっこにおるん、沙都子か確認してくれんね!?」

 鉄平の声に反応し、二人も鉄平のいた方角へと向かう。
 望遠鏡を持ってるのはあゆりだけなので、鉄平の指示で確認する。
 スコープの中に捉えることができたのは三人の男女。

「沙都子ちゃんって金髪でヘアバンドしてる女の子でしたよね!」

「それだったら間違いなく沙都子や!」

「リリアーナ、さっき引き寄せたり移動できるって言ってたけどどう使うの?」

333胎動編『開戦 ウドガルド城』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/09(日) 13:33:37 ID:F6JjEsFg0
「えっと、望遠鏡に手を映すようにして掴めばいいみたい。
 でも待って、いきなりそんなことしたら一緒の人を誤解させちゃうわ。」

「じゃあ、私が行って説明してくる!」

 説明書を片手に手に取り望遠鏡のため適当な家屋を見る。
 固定されてるものであれば自分が向こう側へ行くことができるので、
 塔を下りずとも即座に三人の所へと向かうことが可能だ。
 殺し合いで戦いの際困るであろう子供を武器を持ちながら連れており、
 二人といる沙都子の表情がいやいや従ってる風にも見えないことから、
 殺し合いに乗ってないと言うことを判断して手を伸ばす。

「後はこうしてつまめば───」










 つまもうとしていた手は何も掴むことをしなかった。
 その寸前に、一発の銃声が轟くと同時に彼女に激痛が走ったから。

「───ッ!!!」

 悲鳴を上げながら、左手が痛みを抑えるように右腕をあるだけの力で握りしめる。
 手に取り望遠鏡は同時に破壊されて、その残骸が塔の下へと落ちていく、
 下で落ちた音を聞くが、三人はそれどころではなかった。

「今の音、まさか撃たれとるんか!?」

 あゆりが抑えてる右手へ視線を向ければ、
 そこにあるのは人間の手であってはならない光景だ。
 右手は口でもできたかのような風穴が赤く染めた地面を見せる。
 見え隠れする骨や肉を外気に晒しながら、多量の血を流してさらに血の水たまりを広げていく。

「鉄平さん! 何か回復できる支給品とかは!?」

 リリアーナは回復できる術はあるにはあるがこの状況では解決できない。
 彼女の秋服は厳密には回復促進。回復する道具を用いた上で本人の治癒力に依存するもの。
 もっとも、あったところでリリアーナはアルーシェと再会したばかりの頃の彼女。
 治癒促進の能力も特別高いものではないので、気休め程度にしかならないが。
 それはそれとして、腰のベルトをあゆりの腕に巻きつけて止血をしておく。
 薬とかも没収されてる今、何もないベルトを装備する意味もない。

「あんまし、勧められんね……」

 あるにはある。
 まだ残ってるヘルズクーポンを使えばこの傷も治せるだろう。
 だがこれはドーピングアイテム。しかも材料は複数の麻薬も混入される。
 先ほどは沙都子を守るためだったし、元々老い先短い身体でもあるから使ったが、
 目の前の彼女は酒を飲みすぎたわけでも、ましてやタバコを吸い続けたわけでもない普通の子だ。
 自分が使う分には躊躇うことはないが、彼女にこれを使ってその後大丈夫なのかと思えてしまう。
 タバコや酒が子供の方が悪影響があるように、麻薬もそういうのがあるのかもしれない。
 そのことを伝えると鉄平が言い淀んだ理由を察して、複雑な表情へと変わる。

「ただ、使えば身体はあり得へん速度で治るんや。
 わしも姉ちゃんと戦って腕ぇ切り落とされちょるが、ほれ。」

 腕をかるく振り回して、その回復力を示す。
 効果自体は絶大だ。元々忍者を殺す為極道が研究を重ねたもの。
 尋常じゃない再生力なのは確かであり、使えば一瞬なのもわかる。

「……あゆりは、使いたい?」

 ずるい逃げ道だとリリアーナ自身も思う。
 本人の意思確認という、体のいい逃げ道だ。
 もっとも、内容を知ってもすぐ飲ませようとする、
 と言うのも少し考え物な気はするが。

「正直、本音を言うとめっちゃ使ってほしい。
 やばい薬だけど、死ぬかもって思うよりずっといいし……」

 涙と脂汗で自分でも酷い顔してそうだと思いながら震えた声で返す。
 当たり前だ。こんな傷、城址巡りでなくとも絶対にあり得ない傷だ。
 銃で風穴が開くとしても、指数本は余裕で入る弾丸なんてないのは素人でもわかる。
 何が言いたいかと言うと滅茶苦茶痛い。おどけてる感じがあるが、本気で痛い。

「でも、貴重な支給品だし、敵も此処へ来るし……」

 撃たれたと言うことは、つまり敵がいると言うことだ。
 痛みで思考は纏まらないが、とにかくそれだけは分かる。
 此処は屋上。下から昇られてはこの高さでは飛び降りて逃げるのは難しい。
 それは邪妖と戦ってきたリリアーナも同じことだ。今の彼女に経験はないが、
 基本的に危ない場所はアルーシェに抱きかかえられた状態で飛んでいるので、
 運動神経が人間離れしてるわけではない(これはアルーシェが半妖だからなのもあるが)。
 このまま居座っていては逃げ場のない場所で銃撃を受ける可能性だってある。
 ドラッグであることはともかく、それがないと対処できないかもしれない。

334胎動編『開戦 ウドガルド城』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/09(日) 13:35:03 ID:F6JjEsFg0
「今すぐ死ぬってわけじゃないし、そっちなんとかしない……ッ?」

 そのためにヘルズクーポンを無駄に使わせるわけにはいかない。
 彼女の言うとおり、今すぐ死ぬかどうかとはまだ別のレベルだ。
 事が解決してから使うかどうか、それを考えても遅くはないと。
 死ぬほど痛いと思って宇ので本当に使ってほしいと言えば、それも本音だ。

「……私が先行します! 鉄平さんもきてください!」

「お、おう! 嬢ちゃんには指一本触れさせんね!」

 時間がない現状、此処で敵を待ち受けるわけにはいかない。
 あゆりを一人にさせるのは危険だが、敵も近くの負傷者ならまだしも、
 屋上にいる彼女を優先して二人を放置する、と言うこともしないだろう。
 可能なら自分一人で何とかしたかったが、一人だと刻を遅くしても防御も回避もできない。
 対処できるが一人でもいることが彼女の戦いでは重要になる。
 鉄平も意図を理解して、急いで彼女の後に続く。
 風だけが耳に届く中、一人残されたあゆりは涙が零れる。

(やばい。なんか痛みとは別の涙出てきた。)

 痛みとか、手が使い物にならなくなったのが理由と言うのはある。
 一方で別の理由、殺し合いを侮りすぎてた自分に対しての後悔だ。
 殺し合いが始まる前は怒りやすい性格が災いして彼氏には振られるし、
 時には美音の機嫌を損ねたり、生徒会長とも対立し合うこともあった。
 でも最終的には和解するし、暴力に出ることは一度としてなかった。
 (寧ろやるなら自分からで、現にリリアーナとの出会いも怒ったのが原因だし)
 要するに、彼女は此処が殺し合いの場という認識が甘かったのだと。

(考えれば、当然じゃん。)

 仕方ないと言えば仕方ないことだ。
 鉄平はエスデスと戦うことになって、元より邪妖と戦ってるリリアーナと違って、
 彼女は此処まで異能と触れ合う機会があったが、それはリリアーナの能力とひみつ道具だけ。
 しかも前者は直接的な戦闘向けではないし、ひみつ道具も直接的な結果か視覚には反映されにくい。
 気が緩んでもおかしくなければ、一方的に攻撃する容赦ない参加者が最初の敵だ。
 こればかりは仕方ないとも言える。

「でもやっぱ……ムカついたなぁ。」

 身を起こして、痛みにこらえながら立ち上がる。
 一介の女子高生に出来ることなんて高が知れたものだ。
 それでも何かやってやる。あの銃の犯人を殴ってやりたいと。



 ◆ ◆ ◆



「撃たれる可能性もありますから、盾に隠れてください。」

「そ、そうやな……炙り出すっちゅーのもあるけん。」

 支給品である紅葉が描かれた白い盾を構え、
 窓際からの狙撃を警戒しながら階段を下っていくリリアーナと鉄平。
 時に先読みで弾丸が窓際を狙った一撃がとんでくるが、
 あくまで牽制程度。当てるつもりがないことはわかる。
 特に何事もなく一階まで降りて、リリアーナが扉に手を掛けるが、

「待っとくれ嬢ちゃん。わしがそん盾持って先行く、」

 寝覚めの悪い夢を何度も見続けたことで、
 その中で誰かに待ち伏せされたような記憶があった。
 誰に待ち伏せされたのかは朧気だし思い出したくもないが、
 そんな悪夢の経験……否、別の世界における彼の記憶が安易な行動を避けさせる。
 ヘルズクーポンを手にしながら、右手を出して盾を渡すように促す。

「鉄平さん、それは……」

「元々酒にたばこで身体悪ぅなっとるんや、わしのことはええ。
 タバコも材料は麻薬と言うやろ。それとあんまし変わらんけ。
 それに、嬢ちゃんたちにこんな危険なもの安易に飲ませるわけにはいかんね。」

 タバコと違いこれがあれば沙都子を助けられる。
 老い先短いであろう自分の人生できる、精一杯の贖罪だ。
 沙都子を守る。嫌われても、せめてそれだけはしなければ、死んでも死にきれない。

「……分かりました。でも無理はしないでください。」

 時間がないし、他の有効打があるとは言えない。
 無駄に時間を割くわけにもいかず、折れる形で盾を渡す。
 鉄平の言う、誰かのために命を賭して挑むと言う点は彼女も同じだ。
 世界を救うため自分が犠牲になる。花のように誰かを喜ばせてから散りたい。
 故に、その考えを否定することはできなかった。

 盾を渡すと、そのまま前へと構えながらヘルズクーポンを口にして突進する。
 人間離れした身体能力で体当たりすれば、扉は簡単に壊されながらそのまま直進、

「!?」

 した瞬間、鉄平は一瞬全身がつぶれるような感覚に襲われた。



 ◆ ◆ ◆



「当たったか。」

335胎動編『開戦 ウドガルド城』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/09(日) 13:36:18 ID:F6JjEsFg0
 塔から轟く悲鳴からして、
 弾が当たったことを確信する完全者達。
 正直、当たったところで嬉しいとは思わない。
 この殺し合いで位置を示すように月明かりが反射するものを持ち、
 その上で壁と言う安全地帯から身を乗り出していたような相手だ。
 殺し合いの経験も乏しい一般人か、ただの莫迦以外にないだろう。
 たかだかその程度の連中相手に一喜一憂するほど、彼女も長生きしてない。
 これでおびき寄せるための罠としてるなら、逆に賞賛するものだが。

「ヨが先行しておくでワール。」

 制限こそされてるがある程度の距離は転移ができるノワール伯爵にとって、
 足並みを揃えない状況であれば完全者よりも速い速度で移動ができる。
 相手が負傷しても逃げられないように先に釘づけにしておくことは大事だ。

「私は牽制して足止めしておくが、気をつけておけ。
 どうやら近くに他の参加者もいるとみてよさそうだからな。」

 高い所から軽く身を乗り出すのと月明かりが反射するものが見えた。
 場所からして、双眼鏡とかそういう類を持っていたと言うことはわかる。
 動きが止まっていたところから参加者がいて注視してたと仮定しておく。
 夜兎の番傘の銃声は決して小さくはないし、悲鳴から向こうも気付いてるはず。
 合流される前に支給品を確保して、盤石になったところを迎撃するのが理想的だろう。

「無論、心得てるとも。」

 さっきまでふざけてた口調をしていたと思えば、
 突然普通の喋り方になりながら軽く一回転すると同時に姿を消す。

「さて、黒の伯爵の実力はいかほどか……ん?」

 手元に残しておいたビブルカードの内の、一枚が燃え尽きる。
 燃え尽きたと言うことは該当する参加者が死亡したと言うことだが、大して興味はない。
 たかが数時間で死ぬ参加者で、名前しか知らない奴に抱く感想など彼女には何もなかった。
 ……なお、死んだ相手はその世界においてある意味では彼女の求めるものに近いとも言えるが。

(ふむ、二人以上いたのか。)

 窓から覗く盾を見て、軽く一発か二発程度牽制だけに留める。
 撃たれたはずの相手にしては動きが早いことからあれは仲間だ。
 すぐに降りてくることもあり、目的の場所へと赴きたいところだが、
 複数の参加者で二人が挟み撃ちに合う形になるのは好ましいことではなかった。

「仕方があるまい。奴もいない今、此処が文字通りカードの使い時だ。」

 余り支給品をすぐ消耗するものではないのだが、
 死ぬことや同盟が破棄されるような行為も困る。
 必要経費と割り切り、デイバックに眠っていたカードを掲げる。
 カードは消滅すると共にディメーンが姿を現す。

「ボンジュ〜ル……おや、これはこれは。伯爵がお世話になってるようで。」

「ほう、貴様がディメーンか。黒き伯爵を裏切った気分はどうだ?」

 時間が惜しい所ではあるが、
 一方で主催陣営と話せる機会は希少だ。
 使えるものは何でも使おう。少なくとも、
 使った支給品はそれをリカバリーは出来るはずだから。

「ンッフッフ〜、何の感慨もないかな。
 これで裏切ったのは二度目───おっと、
 彼は僕が裏切る前の伯爵だったかな? 知らないか。
 何にせよ、元々僕はこういう奴だからね。何もないさ。」

「だろうな。元々裏切る奴なんぞに何の感慨もあるまい。して、支給品は何処だ?」

 彼女もムラクモとの関係は所謂ビジネスパートナー。
 人類救済の為の手伝いをするされるだけの関係であり、
 裏切ることになっても当たり前のことでしかない。

「そう焦らない。ドドンタ君みたいに急いて死んだら元も子もないよ? ま、今からパパッと出すから。」

 ドドンタスの死についてもやはり把握しているらしい。
 まだ首輪解除の算段も何もないので特に言及はしてないので、
 出し抜くことは(性格で気づくことはあっても行動で)感づかれてはないはずだ。

「ドドンタスを殺した奴は強かったのか?」

「おっと、それ以上は尋ねることはなしだ。
 君が殺し合いを盛り上げる側であったとしても、
 一人だけ有利にするような発言をするつもりはないからね。」

 見た目の道化からして遠慮なく話すと思ったが、
 運営の一人として任せられるだけあって割と慎重だ。

「はい、お届け完了。後は好きにそれに命令してね。」

 発言と共に彼女達を覆うような黒い影が背後に降りたつ。
 背後を見やれば、彼が贈ってきたものが鎮座している。
 二つ目の支給品は、今の状況においてはとても都合がいいものだ。

336胎動編『開戦 ウドガルド城』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/09(日) 13:36:43 ID:F6JjEsFg0
「そう易々とはいかんか。」

「そういうこと。まあ、もう少し生き延びてくれるのなら、
 少しぐらいは君とお話してもいいかもね。それじゃ、ボン・ボヤージュ〜。」

 おどけた態度を取りながらも、
 攻撃する隙を見せないままディメーンは姿を消す。
 大した情報はなかったが、進展自体はあった。

(奴が監視役を担っているようだな。)

 盗聴されてる可能性があるのに、
 自分の目的のための行動をしてる様子。
 少なくとも監視してるであろうはずなのに、
 それを公言するのはメフィス達が承知の上で任せたか、
 彼自身がその監視役の立場を担ってるかの二つになる。
 後者であれば、いくら自由にやろうとバレることはない。

(もし後者であればこれは重畳だが、
 果たしてそんな都合がいいものか判断しがたいな。)

 後者であるならば、ディメーンは支給品を届ける間は監視ができない。
 その隙に首輪解除をすることも難しくはない……と言いたいところなのだが、
 ディメーンが分身魔法を使うことができることを伯爵から聞いている。
 分身を監視役において情報共有してる、と言う可能性はあり得る話だ。
 代役を置いている可能性だけは彼の行動からないと判断できるが。
 (参加者との過度な接触の約束は、いかに受け入れてるとしても度が過ぎているだろうから)

「まあ良い。魔女らしく『魔』を『従』える……いい使い魔となってもらおうか?」

337 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/09(日) 13:38:02 ID:F6JjEsFg0
前編終了です。続きはもう暫くお待ちください

338 ◆s5tC4j7VZY:2022/01/09(日) 16:47:57 ID:TSzg9lUU0
投下お疲れさまです!

モノクローム・ファクター
ザ・ワールドを支給された故にエスデスの摩訶鉢特摩に気づくさとうには、思わず唸りました。
災の塊がばらけたのは幸か不幸になるのかは正に神のみぞ知る!ですね〜
八将神と化したアーナスとついに邂逅したアルーシェ!
しかし、場にはさとうもいるこの状況下、緊迫感が尋常ではないですね。

ナイトメアパーティ
ギースまさかのヴァンパイア化にうそぉ!?と目を見開きました!
巧みな戦闘描写はいつも読んでいて、勉強になります。
そして、最後の言葉を残すことなく息絶えたはるなにロワの無常さを読んでいて肌で感じました。
これは今から語られる物語。
悪夢から敗走する、青年の物語。
咎人の旋律は、まだ奏でられる。
↑征史郎………個人的に応援したいですね。

胎動編『開戦 ウドガルド城』
台詞の一つひとつがあゆりで読んでいて胸にジーンと込み上げてきました。
ウドガルド城の内装の描写は読んでいて本当にその場にいるかの如く感じられるとともに城址散策部という作品風が生かされていると個人的に思いました。
キヨスもそうなのですが、あゆりが自分以外の書き手様の手で読める日がきたことに嬉しさしかありません。
前から思っていることなのですが、◆EPyDv9DKJs様には本当に頭が上がりません。
(あの兄ちゃんはきっと無事や。わしが信じなくてどないするんや。)
↑既に学校での死闘の結末を知っている読み手の立場としてこの鉄平の想いには読んでいて胸が引き裂かれますね……
「あんまし、勧められんね……」
↑わかってはいたんですが、本当に綺麗な鉄平で当時のゲスい鉄平を知っている身としては感慨深いです。
「でもやっぱ……ムカついたなぁ。」

 身を起こして、痛みにこらえながら立ち上がる。
 一介の女子高生に出来ることなんて高が知れたものだ。
 それでも何かやってやる。あの銃の犯人を殴ってやりたいと。
↑自分が一女子高生でしかないことを自覚しつつもこう思うのがあゆりで上手いな〜とただひたすら読みました。
あゆりの想いは果たせるのか……
した瞬間、鉄平は一瞬全身がつぶれるような感覚に襲われた。
↑てっ鉄平――――!!??
彼は僕が裏切る前の伯爵だったかな? 知らないか。
↑意味深なディメーンの台詞……

後編楽しみに待っています!!!

339胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:30:51 ID:RZqyRIVk0
感想ありがとうございます

続きができたので投下します

340胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:31:40 ID:RZqyRIVk0
 全身が一瞬プレスされたかのような圧迫感に、口から血反吐をぶちまける鉄平。
 ヘルズクーポンがなければ確実に此処で既に致命傷であったのは彼自身が理解する。
 言い換えれば、リリアーナにダメージがなかったことを救いだとも思う。

「ゴホッゴホッ!!」

「鉄平さん! 大丈夫ですか!?」

「盾を持って出たのは正しいでワール。しかし、ヨの暗黒魔法には無駄な努力だ。」

 扉を開けた数メートル先にノワール伯爵は立つ。
 バックの平安京はともかく、西洋の城跡のこの場では中々にマッチする。
 ノワールが使う魔法は対象の身体をバネのように伸び縮みさせるもの。
 傘や盾を構えたところで防ぐことはできない。

「……何故、貴方は殺し合いに乗るの?」

 乗ってる相手なのは分かる。だができることなら説得はしたい。
 話が通じない邪妖とは違う、意志を持った存在なのだから。
 鉄平を気にかけながら、ノワール伯爵と向かい合う。

「この世の全ては無意味だ。価値のあるものなど一つもない。
 ヨにはそんな世界が我慢ならぬ。だから全てを浄化するだけでワール!」

 エマと言う光を喪ってしまった男にとって、
 光なき世界に意味など見出すことはない。消えた愛する彼女に世界を捧げよう。
 その為に世界を滅ぼす。その為に人を殺す。その為に双子の力を手に入れて成し遂げる。
 それが、ノワール伯爵───否、光の名を持つルミエールの願い。

「……ごちゃごちゃ、うるさいんじゃこのダラズ!」

「おっと。」

 鉄平が盾を捨ててやぶれかぶれのように拳を振るう。
 いかに素人の動きでもヘルズクーポンで強化された身体。
 ノワールでも受け止めるようなことはせず軽く浮遊しながら避け、
 近くの鋸壁の上にストンと降りる。

「浄化だなんだ難しい言葉ならべよって、
 要するにおめえは殺すつもりってことやろが!
 沙都子の敵ならわしの敵や、それだけで十分じゃボケが!!」

「……理解されるつもりもないからな。」

 沙都子がどういう人物かは知らないが、彼にとっての光となる存在なのだろう。
 自分と違いその光が残っている時点で共感など得られるはずもないし、得たいとも思わない。
 いや、もしかしたら勇者と共にある七色の蝶は自分が探し求めていた彼女の可能性がある。
 だがそうだとしても滅びの執行人としての役割を、世界の消滅を望む者としての役割を受け入れる。

「ヨはノワール伯爵! 滅びのヨゲンの執行人にして、
 全てを滅ぼし消し去るものなり! ヨを打ち倒す覚悟を見せてもらおう!」

 再び浮遊しながら距離を取り、第六天魔王の錫杖から黒紫の集合体を放つ。
 先ほどは鉄平を攻撃したものは小規模だったが、今度のは別物だ。
 塔を超える程ではないにしても巨大な暗黒の渦が周囲の瓦礫や鉄平を引き寄せる。
 いかに踏ん張るとしても、立ってるだけではどうにもならない。

「させない!」

 足が浮きかけてた鉄平に手をかざし、刻を遅らせる能力を行使。
 殆ど時が止まったに近しく、固定されたもののように鉄平は吸い込まれず動かない。
 当然近くにいたリリアーナも引き込まれるが、鉄平が文字通りの壁になるお陰で吸い込まれることはない。
 巨大な渦は次第に収束していき、瓦礫と盾が近くへと放り出されて、周囲が掃除されただけに留まる。
 極大暗黒魔法は使う際移動ができないので、追撃ができないのは一つの欠点ではあった。

「ヨと僅かに似通った空間に作用する魔法か。しかし、ヨと違ってその身では余るようだ。」

 コントンのラブパワーと言う外部の力がある為、
 ノワールにとって消耗と言うものとは縁が余りない。
 一方でリリアーナは以前よりも負担が減ってると言えども、
 一度の使用で息を荒げるぐらいの疲労が襲い、胸に手をあてる。

「嬢ちゃん、無理せんね!」

「でも、鉄平さん一人では……!」

「遅い。」

 一瞬気を逸らした間に背後に転移で移動しており、
 錫杖が鳴らす音色を奏でながら、鉄平の顔面を潰す勢いて叩き込まれる。

「ア、ガッ……!!」

 再生能力のお陰で死ぬことはなく、痛みももろくでもない死の夢の経験から、
 皮肉にもある程度慣れたお陰で、身動きが取れなくなるわけではない。
 見えずとも怯むことはなくミドルキックを返す。

「遅いと言っている。」

 すぐさまバックステップのように空中を浮遊し回避。
 リリアーナが手を翳し、刻を遅らせて固定しようとするも、
 それも間に合わないかのように速度を上げて距離を取る。

(見られたから警戒されてる……!)

 間合いに入れば相手を固定させ、倒すことはできる。
 問題は先程見たからか、遅らせる射程を見極めての距離を取られた。
 逃げる相手を止めるために使ったことがないので慣れないのを差し引いても、
 警戒されていては決めることは難しいだろう。

341胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:32:37 ID:RZqyRIVk0
 他に倒す手段はあるにはある。
 光の柱、アルーシェとの連携ではリリィバーストと呼ばれるそれならば。
 あれなら一撃で沈められる可能性はあるが、使うのには時間がかかる。
 その上確実に当てられる保証もない。詠唱の猶予と足止めする手段、
 どちらも鉄平と自分だけではどうすることもできない。

(それに……)

 不安要素はまだ残っている。
 彼は銃となるものを持ってない、あるいはまだ使ってないのだ。
 つまり狙撃手がもう一人いる。此処にいるかもわからない相手に不安は募っていく。

(ふむ、あの男は驚異的な回復をする。)

 短時間で二度も大きなダメージを与えたはずだが、
 どちらの傷もすでにふさがっている状態だ。
 細切れにすれば殺せるかもしれないが、
 残念ながらノワールの基本戦術は魔法による攻撃。
 相手の人体を物理的に破壊する攻撃においての手段は乏しい。
 何よりその再生力。じわじわキノコカンの比ではないレベルだ。
 故に仕留めるべきは、捕まれば確実にとどめを刺されるリリアーナ一択。

「ならばこれで行こう。」

 錫杖を頭上へと投げて回転させる。
 二人が再び身構えるも、それは意味をなさない。
 彼を中心に青緑の光が周囲へと広がっていき、それを浴びる。

(な───)

 鉄平が動き出そうとするも動きが鈍い。
 リリアーナも同じで、彼の防衛に回ろうにも動きが遅すぎる。

「ヨも似たようなものは使える。回避に徹しようとしたのが運の尽きだ。」

 自身以外を鈍化させる魔法。
 城娘が使う法術に分類するものは、大半が相手の移動速度を低下させる力を持つ。
 第六天魔王の錫杖はその効果がさらに増しており、より強いものとなった。
 あと一歩でリリアーナに匹敵するレベルの遅延をおこしているだろう。

「とどめだ。」

 とは言え万が一のことがある。ワープして背後へと回りこみ、
 リリアーナの能力で防がれないようにした状態で錫杖を構え暗黒魔法の準備にかかる。
 気付いた二人も動き出すが、振り向くだけで間に合うことはない。

「させるかああああああああああッ!!」

 気配と掛け声。
 咄嗟に気付いて浮遊するように移動して回避。
 回避すれば、先程までいた位置に刃を振り下ろす一人───否、二人の少女。

「大丈夫ですか!?」

 姿を現したのはリリアーナとは別の形となる巫女、安桜美炎。
 そして───

「お、叔父様!?」

「───沙都子!!」

 鉄平が探していた少女───北条沙都子だ。



 ◆ ◆ ◆



「俺一人で学校へ行くが、美炎達は俺を待たず他の参加者と接触してくれ。」

 零児が出した結論は選択肢においての①に近いが少し事情が違う。
 本来ならば美炎と一緒に沙都子をこの辺りで待機させるつもりだったが、
 今の提案においては美炎達に待機させないものだった。

「あの、理由って聞いても大丈夫ですか?」

「俺は、学校の戦いは既に終わってると踏んでいる。」

 同じエリアならまだしも別のエリアだ。
 沙都子もそれなりの距離を走って逃げてきたことを考えれば距離もある。
 今から向かったところで、どちらかの勝敗で決着がついている可能性は高い。
 或いは決着がつくところを目の当たりにする、それぐらいのギリギリのものだ。

「無駄足の可能性が出てきてる以上、美炎に待機させるのは無意味になりかねない。
 特にお前は知り合いが多い。仲間と合流をしておく方が、沙都子も安全になるはずだ。」

「零児さんもお強いんですの?」

342胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:33:42 ID:RZqyRIVk0
 エスデスの強さは多少誇張、いや寧ろそれが事実とも言うべきか。
 少なくとも銃を練習しつくして、優秀な銃器があっても殺せる気がしない、
 それぐらいの理不尽が形になったような人物と言うのが相手の印象にある。
 実力があるとは思うが、エスデスに対抗できるだけの強さかと言う気掛かりがあった。

「あくまで確認に行くだけだ。俺はこれでもこういう事態にはなれている。」

 レプリロイド、ヴァンパイア、ソーディアン、ゾンビ、その他もろもろ。
 ゆらぎの世界のアリスと呼ばれる彼にとってはほぼ普段通りの仕事だ。

「引き際も見極める、だから二人はその間に───」

 言葉を遮るような悲鳴。
 あゆりの声は、勿論此方にも届いている。
 こればかりは話を中断せざるを得ない。

「悲鳴!?」

「学校ではありませんわね。もっと近い場所から?」

「美炎、沙都子、予定変更だ。近くの戦場へ俺達は向かう。
 時間から察するにエスデスがいるとは思えないが……難しいか?」

 B-3ではないにしても位置的に西寄り。B-3に近づくことになる。
 演技臭いところは確かにあったが、エスデスから離れたい、
 と言うのも子供である彼女からすれば至極当然のものだ。

「いえ、離れるより傍にいる方が安全ですわ。」

 表向きにはそういうが、

(と、言った方が都合がいいでしょうし。)

 今すぐ美炎に自分のことを伝えることはないとしてもだ。
 此処で離脱したことで二人の状況が把握できていなかったら、
 いつの間にか沙都子は敵と言う認識をされてたら詰みになる。
 確かに演技をしたが、少なくとも殺し合いに乗るつもりは(今は)ないのだから、
 あらぬ疑いをかけられて余計な敵を作る可能性はなるべく減らしておきたい。
 特に美炎は知り合いが多いと言うのなら、敵ではないと認識されておけば、
 後はとんとん拍子で同じ認識を持ってくれると考えれば恩恵もかなり大きい。
 現状支給品も満足に確認してない自分に、近くで守ってくれる人材が欲しいのもあるが。

「それに、私は殺し合いの経験はありませんが、
 修羅場の経験自体はそれなりに豊富でございますことよ。」

 経験と言うのは部活動だけではなく、
 梨花が経験したカケラの中には時に山狗部隊との交戦もあったし、
 他者を攻撃できる躊躇のなさだけで言えば、美炎よりも躊躇いがない。
 でなければ、平然と心中を筆頭に何度もリセットをできるはずがないのだから。

「わかった、なら───!」

 視界に捉えた影を見て、咄嗟に二人を押し倒す零児。
 何が起きたか一瞬理解が及ばなかった二人ではあるが、
 三人の立っていた場所を攻撃するそれの姿を見て理解する。
 すぐに全員起き上がり、二人は武器を構えながら空を見上げた。





 空にいるのは、例えるならばプテラノドンと言うべきだろうか。
 サイズ自体は全長二、三メートル程度とそこまで巨大ではない。
 翼は骨から青い炎が出てるようにも見える綺麗な飛膜を有しており、
 刺々しい尾や牙は、石のような灰色に染まった姿も合わさり化石のようでもある。 

「荒魂!? いや、ちょっと違う……? って、あれも参加者なの!?」

「いや、参加者ではない。あいつには首輪がない。」

 殺し合いの為のギミックと一瞬思ったが、それはないと考える零児。
 メフィス達が殺し合いを望むのであれば共闘を前提とする存在を参加者以外に用意する意味がない。
 もしするのであれば、嘗て出会って殺意の波動によって暴走してしまったリュウのように、
 殺すのを躊躇する……参加者にとって知り合いと言った相手を出す方が奴らの性格的に合う。
 誰だって討伐したくなるような存在に任せるようなものではない。

 ではあれはなんなのか。何故ここにいるのか。その答えはすぐに導き出される。

「美炎! 沙都子を連れていくか、避難させた後件の場所に向かえ!
 こいつのさっきのスピード、沙都子を守りながら戦うのは厳しい!」

「でも、私と零児さんで戦った方が!」

343胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:34:12 ID:RZqyRIVk0
 飛行する荒魂との交戦経験もある。
 千鳥は加州清光の半分ぐらいの刀身しかないが、
 少なくとも足手纏いになるつもりはないし、二人なら沙都子も守りやすい。

「銃声とタイミングから察するに、
 これは俺達をそっちへ行かせないためのものだろう!
 此処で俺とお前、両方が足止めを受けたらそいつの思うつぼだ!
 迅移とやらで移動できるお前なら、沙都子を抱えて離脱も容易なはずだ!」

 此方に使用者が支給品の生物と共に攻め入らないと言うことは、
 あの生物の使用者は先程の悲鳴の元凶である可能性は十分にある。
 此方を優先しないのは、先に始末できる参加者を優先してのことだと。
 どうやってこちらを把握したのかについては判断はできないが、
 今ここで全員が足止めされるわけにはいかない。

「……分かりました! 沙都子ちゃん、しっかり掴まって!」

「ええ、分かってますわ!」

 もしさっきの場所に可奈美たちがいるのなら。
 手遅れになるなんてことはしたくないので、指示に従い沙都子を背負う。
 後は迅移と八幡力を使えば、人を背負ってもあっという間の移動が可能となる。
 とは言え手にする御刀が加州清光ではないからか、後の時間で可奈美も経験することだが、
 本来の御刀でない以上普段通りの迅移や八幡力のような強化はなく、途中彼女は戸惑ったが。
 翼竜は逃げる美炎を狙いを定めるも、目の前に投げられたものが爆発し妨害される。

「悪いが、こっちの相手をしてもらうぞ。」

 片手にひものついた卵と言うシュールなものを持ちながら零児は雪走を構える。
 空中の敵を狙える唯一の手段であり、限りもある。なるべく消耗せずに戦えわなければならない。
 かの明けない世界で従魔(セルヴァン)と呼ばれた一体、ヴォルは零児へと狙いを定めた。



 ◆ ◆ ◆



 本来は沙都子をどこかで降ろそうとしていたのだが、
 巨大な暗黒魔法を視認したのと謎の鈍化現象もあり、
 降ろす時間がないまま美炎は沙都子を背負って来ざるを得なかった。

「……沙都子! あの塔の屋上に怪我人がおるんや!
 何か手当できるもんあるんやったら、その子に使ってやってくれんね!?」

 動きが鈍くなる効果が消えたことでまともに喋れるようになったので、
 此処へやってきた沙都子を避難させるついでに、あゆりの救助を求める。

「わ、分かりましたわ!」

 正直沙都子にとって叔父がいるのは想定外ではあった。
 彼が死なずに時間を稼いだことはこの際放っておく。
 なんとか時間を稼いで、善にバトンを渡したのだろう。
 何があったか知らないが、本当に憑き物が落ちたかのような変わりようだ。
 最初は自分に何か利用価値を見出したから助けたのかとも少し思っていたが、
 此処にいない時点で戦闘ができない状況にある怪我人の救援要請は、
 流石に鉄平らしからぬ発言であり、少し声にも戸惑いが混じっている。
 一先ず彼の言うとおりに従い、塔へと向かう。

「先程周囲の動きを鈍らせる魔法をしたはずでワール。
 何故、先程の影響下でも機敏に動くことができたのか。」

 鈍化の影響は起きている、それは二人が証明していた。
 にも拘わらず今の動きは、普段とさほど変わらないものだ。
 普段よりも効果時間が短いことについては、コントンのラブパワーの弱体化から既に察してるが、
 個人が鈍化を一切受け付けてないことについては疑問があった。

「ふっふーん! 迅移なら問題なく動けるからね!」

 どや顔を決めながら美炎が時間稼ぎついでに語っておく。
 要するに、迅移でスロウになったが人並みの速度に戻っただけだ。
 問題なくと彼女は言うが、迅移なしの人並みの速度とさして変わらない。
 それを言えば不利になることぐらいは彼女だってわかっており深くは語らない。

(完全者の到着はまだか……いや、私が原因か。)

 彼女が素早く動けた例外と言うことはだ。
 自分の鈍化により遅れていると言うことに他ならない。

「さっきの悲鳴、原因はそっちだよね?」

 沙都子の叔父がいるのであれば、
 隣の女性も殺し合いに乗ってない。
 必然的に誰が敵かは判断がつく。

「いかにも。」

344胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:34:53 ID:RZqyRIVk0
 肯定する相手に、少し顔をしかめる。
 美炎は、できれば悲鳴の元凶が荒魂であればよかったと思った。
 幾度と多くの刀使と刃を交えた身ではあるが、決して命の奪い合いにはならなかった。
 殺さずに制する場であったが、今度の相手は写シを使う刀使でも、ましてや荒魂でもない。
 荒魂ならば自分達人間のせいでもあるので、ある程度の責任を持つことができた。
 相手は顔色から異形で人間離れはしてこそいるものの、意志の疎通ができる相手を今から斬る。
 人を斬らないと決めた、可奈美の千鳥を血に染める覚悟をしなければならない。

「武器を捨てて投降して。命までは取らないから。」

「得物を手にしてると思えば、随分と甘いことを言うな。
 話し合いで通じる相手とだけ戦ってきたとでもいうのか?」

「ッ……」

 還す言葉もない美炎。
 話し合いが通じない相手はいた。
 荒魂や嘗て敵対してた折神親衛隊もだったが、
 タギツヒメの近衛隊となった調査隊の葉菜や由依もそうだった。
 解決しようがない相手とは刃を交えるしかないのだと。
 『取らない』とは言ったが『取りたくない』が本音でもある。

「ワ〜ルワルワルワルワルワル!
 そんな覚悟でヨの相手など、片腹痛いでワール!」

 再び距離を取りながら杖を頭上で回転させる。

「また鈍化が来るわ!」

「させない!」

 思惑に気付いたリリアーナが美炎へ促す。
 鉄平も気づいて動くも、やはり迅移の加速は別格だ。
 普段より速度が出ないとしても常人以上の加速ができる。
 鉄平より先に間合いに入るも、祓うではなく殺すの境界線を越えられない結果、
 行動不能にするために足へとめがけて横薙ぎに千鳥の一閃。

「え!?」

 マントを裂いて足を斬るはずだった。
 間合いの差もしっかり判断したうえでの攻撃。
 だがマントを裂いてみれば、予想だにしない結果が待っている。

「私は人の形ではない。」

 マントで隠されてたので美炎は気づいてなかったが、
 ノワール伯爵は下半身が存在せず、上半身のみだと言うことを。
 彼は常に浮いている。足音が一度もないまま浮遊しての移動はそういうことだ。
 ないものを斬ることはできない。虚空を斬れるのは英霊に昇華した剣豪ぐらいなものだ。
 伸びしろのある成長途中ではあるが、同時に未熟な美炎が虚空を断つことなどできるはずもなし。
 空振りでもそこから切り上げるも、突如背後の塔の中から響く銃声に反応が遅れてしまう。

「銃声!?」

「何?」

 塔には沙都子と怪我人だけのはず。
 そこに誰かがいたとは思えないが、ノワールも想定していない。
 今の銃声、恐らく完全者だとは思うが一体どこから入ったのか。
 確率は低いが完全者を二人が制して、少女が傘を奪った可能性もある。
 伯爵にとっても想定外の出来事で鈍化には成功こそしたものの
 美炎同様に行動に遅れたことで、先に復帰した美炎の切り上げが迫り、
 隙のある彼女を攻撃し損ねてしまい、逃げる形で距離を取る。

(四人の勇者、人数的には間違いではないか。)

 ヨゲンしょに書かれていた勇者の人数は四人。
 もっとも人数だけの話だ。マリオ達とは似ても似つかないし、
 命運を握る緑に至っては此処にはどこにもない、数だけのもの。
 だがこの状況でその人数と、戦うのがマリオと同じ赤色が目立つ相手なのは何の偶然か。
 
「近づかれるのは好ましくない。一先ず此処は……」

 再び空間転移で姿を消す。
 あたりを見渡して姿を探すが姿を見せない。

(落ち着いて……あの人は私には近づかない筈。)

 先ほど彼は近づかれるのは好ましくないと言った。
 鈍化を受けてない以上、不意打ちでも反撃される可能性がある。
 そして塔の中へ逃げることもない。彼自身想定してない何かがあるからだ。
 つまり狙いは美炎ではないと分かった瞬間、彼女の行動は早い。
 この状況で一番仕留めやすい、先程狙っていた女性、リリアーナの背後を目指す。

「そこっ!」

345胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:36:11 ID:RZqyRIVk0
 彼女の背後の何もない場所へと袈裟斬りにかかる。
 その予想通りと言うべきか、予想したほぼ同じ位置に姿を現す。
 塔の中から届く爆発音にも反応したが、それに構うことはしない。
 次気を逸らせば、今度こそやられてしまう。

「フン!」

 咄嗟に錫杖を両手で構えることで一撃をぎりぎりで防ぐ。
 神力を引き出すための御刀と、神娘によって造られた錫杖。
 神聖さに溢れた武具のぶつかり合いの甲高い音が響くのは、
 本来の持ち主以外に酷使されることに対する嘆き、或いは悲鳴のようだ。

(今はこっちに集中して!)

 塔の事は一先ず沙都子を信じて彼を何とかする。
 もし狙いが違ったらと思って八幡力を使用しなかったことで、
 押し切ることこそできなかったが、リカバリーはその分なんとかなる。
 防がれた反動でそのまま八幡力を乗せた横薙ぎの一撃は重く、素早い。
 距離を取って回避するも完全に避けきれず、肉の一部を削ぐ。

(集中を切らさないで!!)

 最近は成長して以前よりも集中力が切れなくはなったが、
 あくまで万全の場合の話。千鳥では刀使の力を全力で発揮できないし、
 間合いの短さから距離を詰める必要もあるので、立ち回りも違う。
 いつも以上に気を使う戦い方をする必要があり、その上で無力化を目指す。
 非常に困難な状況下で彼女は戦っている。集中しなければ死を招く。

(チャンス!)

 周囲の鈍化が切れた。
 スピードであれば負けることはない。
 一方で御刀をハイスピードな動きで振り回すのでは、
 二人が援護しようにもそれをする暇を与えてくれないし、
 塔の近くで攻防を繰り広げてるせいで、塔に近づくのも危険だ。
 お陰で塔の中でさっきから物々しい音がしていても其方へ行けない。

(小柄な少女のはずが、重い!)

 いくら劣化してる八幡力と言えども、常人を超える膂力。
 接近戦が不得手となる伯爵にとってどの一撃も油断ができない。

「だが、いつまでも防戦一方ではないぞ!」

 隙を見て紅いオーラを纏っての突進。
 禍々しい赤黒い色ともあって美炎は回避を優先し、
 背後を斬りかかったところを、再び錫杖で防がれる。

「嬢ちゃん避けんね!!」

 鈍化から解放されたことで、
 先程暗黒魔法で放り出された瓦礫を投げる鉄平。
 強化された身体能力で投げられる瓦礫は洒落にならない一撃。
 なんとか攻撃をいなしながら空へ飛ぶように伯爵は逃げる。
 美炎は迅移があるので難なく回避して特に問題は起きない。

(やはり完全者か。)

 五、六メートルほど上昇して塔の中の様子を軽く伺う。
 窓から見える範囲だけだが、長い銀髪……完全者が中にいたことだけはわかる。
 どうやら既に塔の中には既に入っていたらしい。援護をしなかったところを見るに、
 優先順位は支給品の確保なのだろう。つまり自分は時間を稼ぐ、或いは仕留めればいい。

(となると、鈍化は避けた方がいいな。)

 爆発もあったことから鈍化の魔法はまずい。
 あくまで受けるのは生物だけで、他は変わらない速度で動く。
 射程は制限でどこまでかは不明だが、自分以外無差別に影響を受ける。
 最悪逃げられない、防げないまま爆発を受ける可能性がある。
 空中へ逃げたのは鈍化抜きではスピードで勝てない美炎対策でもあった。

(こっちも空中って!)

 先の翼竜といいまたも空中の敵。
 しかも問題なのは、

「さあこれをどう突破する!」

 相手が荒魂と違って攻撃時に地上に降りてこないと言うことだ。
 空の上から暗黒魔法による一方的な攻撃を可能としてくる。
 極大暗黒魔法でなければ直線的な攻撃だし弾速自体は早くない。
 迅移で回避は容易ではあるものの、それは決して勝てるわけではない。
 コントンのラブパワーのバックアップがある以上、最終的に伯爵が持久力で勝つ。

「そっだらとこおらんで降りてこんか、このダラズ!!」

346胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:36:43 ID:RZqyRIVk0
 本当なら沙都子が心配ではあるが此処で伯爵を足止めしなければ、
 空を飛べる相手は自分より沙都子の場所へ向かうのは非常に容易いこと。
 それだけはさせないと言わんばかりに、手ごろな瓦礫を投擲する。
 これは避けなければならないのでスライドするような移動で攻撃を回避していく。
 まるで玉当てでもしてるかのような光景ではあるが、本人らは命の奪い合いの領域だ。

「太陽の意思───」

「!」

 五度か六度か。それを繰り返して美炎と鉄平の攻撃にかまけている間に、
 いつの間にか距離を取っていたリリアーナが手を組んで何かを詠唱し、手に光が収束していく。
 この場面でする行動、明らかに止めなければならない要因だとは気付く。
 しかし暗黒魔法の弾速自体は早くなく、止めるなら接近が必須だ。
 リリィバーストがどういう攻撃手段か知らない。
 その差がノワール伯爵が取る選択肢を阻める要因となる。
 ワープをしても防がれるのは明白。となればできる手段は一つ。

(塔へ逃げ込むしかないな。)

 怪我人がいるなら巻き添えはさせない。
 何処にいても個人を狙うのだとしたら意味のない行動だが、
 それならば最初からそれを狙って攻撃してるはずだ。
 此処まで出し惜しむ理由はないので、恐らくそれはない。
 回転しながら消えて空間を移動し、塔の窓へと向かう。
 何が起きてるか分からないが、今よりは安全だと。










 そのはずだった。

「何!?」

 移動しようとした考えた瞬間、少し上の上階で大爆発が起きる。
 降り注ぐ瓦礫は、逃げ込むどうこう以前の問題が起きていた。
 塔は最早安全ではない。下手をすれば此処以上に巻き添えを食う。
 降り注ぐ瓦礫を、距離の取ってるリリアーナ以外は避けに専念せざるを得ない。

「我が胸に正義を与えたまえ!」

 避けてる間に詠唱はほぼ終わりを迎える。
 瓦礫の回避を優先してた以上、これはどうにもならない。

(当たる寸前に避けるしかないか。)

 瓦礫を避け終え、タイミングを見計らって転移で避ける。
 その瞬間を警戒するも、

「!?」

「逃げるなんぞ、ワシがさせん!!」

 鉄平が跳躍して背後から羽交い締めで掴む。
 ヘルズクーポンさまさま、と言うべきか。
 転移は一人でなければできない制限が課せられてる。
 暗黒魔法は鉄平の回復力から無意味。
 つまり───逃げられない。

「嬢ちゃん! 今や!!」

 確実に巻き添えになる程の至近距離。
 しかしこうでもしなければとても止められない。
 だから鉄平は何度も見た転移を警戒して掴んだ。
 今の状態ではできない。反応からそれは察した。
 ヘルズクーポンの再生力に、賭けるしかない。
 此処まで来てギャンブルをするなんて、と少し自嘲したくもなるが。

「光よッ!!!」

 手に込めた光を空へと放つ。
 投げたそれは空高く舞い上がり、伯爵と鉄平の頭上へ到達した瞬間。

「こんなところで私は───ッ!!」

347胎動編『クロスゾーン』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:37:12 ID:RZqyRIVk0
 ノワール伯爵の悲痛な叫びと共に、
 極太の光の柱が、二人を包むように落ちた───



















 リリィバーストの威力のあまり、吹き飛ばされた美炎。
 ダメージはないので写シは剥がれることはなかったが、
 そんなのは二の次で、二人の状態を見る為立ち上がる。
 鉄平もノワールも、ボロボロの状態で地に伏せている。
 互いの血が周囲を赤く染めてる中、先に立ち上がるのは───





「グ、ゥ……まだ、だ。」

 ノワール伯爵だった。
 祝福の杖を取り出し、辛うじてつないだ命に回復を続ける。
 鉄平は命こそ失ってはないがダメージの大きさで気絶したままだ。

「光など、ない。世界に……価値など……!」

 モノクルが割れ、息も絶え絶えに近しい表情。
 そうまでして誰かを殺さないといけない願い。
 そんな気迫に美炎は気圧されて軽く後ずさりする。
 これが、殺すか殺さないかの覚悟の違いだと。

(武器だけでも奪わないと!)

 だが殺戮を止める。その為に真っすぐにこの刃を振るおう。
 駆け抜けて、持っていた二つの杖を奪う。それはとても容易なことだ。
 意識が朦朧とした状態、とても転移などできるものではないのだから。










 彼女が杖に触れる寸前。身体を貫く無数の弾丸。
 写シがなければ、間違いなく致命傷の弾丸が背後から突き抜ける。
 ノワール伯爵は咄嗟にそれに気づいたことで回避をして、辛うじて無事だ。

(撃た、れた……!?)

 写シで身体的損傷はないものの、痛みはある程度は残る。
 写シが解除され、その場で膝をついて背後へ振り返る。
 背後は塔。あれだけ爆発に銃声のあった塔から姿を見せたのは、

「ッ……手こずっているようだな、黒の伯爵よ。」

 左目を抑えながら傘を構える、完全者の姿だ。

348 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/10(月) 01:38:17 ID:RZqyRIVk0
一旦投下終了です
もう暫しの間おつきあいください

349胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 17:58:17 ID:UznlAlnQ0
投下します

350胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 17:59:52 ID:UznlAlnQ0
(一階につき窓が一つ、多分後二階か三階先に───)

 沙都子は塔へと入り、迷うことなく階段を昇る。
 三階へと到達して扉をくぐった瞬間、鈍化の魔法が襲う。
 だからというべきか。視界の隅に入ったものに気付いて終わると同時に数歩退く。
 先ほど沙都子がいた場所に銃弾が無数に飛び交い、壁が抉られる。

「運のいい奴だな。」

 動きがスローモーションになっていたせいで、
 動く前に気付かれてしまったことについて外を睨む。
 あれがノワール伯爵のやったことと言うのは、おおよそ予想がつく。
 此方も手の内を隠してる以上、余り責めることはしないが。
 顔を合わせてはないものの、異なる世界の二人の魔女が邂逅する。

「いつの間に入ったんですの?」

 叔父が嘘を吐いていたようには見えない。
 あれは決して演技ではないと言うことはわかる。
 戦いに集中してたから気付かれずに塔に入った? 否、それはおかしい。
 外の戦闘を見ながら一切加勢せず、態々ここで待ち伏せする意味が分からなかった。
 もし伯爵と無関係の人物でも、漁夫の利を狙うのであればそちらの方が利益も多いはず。

「お前が私の立場ならば、それに返答する必要はないだろう?」

 鉄平の発言を聞いて先に乗り込んで、伯爵より先に支給品を回収しておく、
 その目的があってうまくいけば二人分の確保ができると言う算段で此処にいる。
 何故気付かれることなくは入れたのかは、最後の支給品が理由だ。
 できることなら屋上で待ち伏せしたかったがそれを初めて使ったので、
 慣れない結果四階あたりで彼女に追い抜かれそうで、三階にて待ち伏せを選んだわけだが。

「ええ……そうですわね!」

 会話の最中にしっかりと支給品を確認してた沙都子はあるものを投げる。
 空中に投げられたのは、なんとも出来の悪い人形だった。
 円筒状の体に、棒の腕と、死んだ目の顔。悪い言い方をするならば、
 子供の工作で作った何かとしか言えないような代物になる。

「なんだ? そのガラクタは。」

 これを投げて注意を逸らすのかと思ったが、
 沙都子が一向に出てこない様子から何かがやばいと察した。
 近くの倉庫の扉を傘で破壊しながら逃げ込むと同時に人形が地面に衝突。
 即座に爆発し、ギリギリ倉庫の壁へ滑り込めたので大事には至らない。

(ふざけた見た目でダイナマイトか……あの小娘、躊躇がないとは意外だな。)

 子供なのに殺す行為に躊躇いのなさ。
 見た目は子供だが奴も転生の法を使う魔女の類なのか。
 早々に相手の性格に気付くことができたのは幸いと思うべきだと理解する。

(爆発に紛れて上へ逃げたな。)

 爆発音の中に紛れて上へ向かう足音。
 一応銃を向けるが煙で狙いが音頼みであり当てられそうにない。
 早々に追って階段を駆け上がるが、四階へ入る寸前に投げ込まれる例の人形。

「チッ、まだあるのか!」

 このまま進んでも物陰へ隠れる暇がなく、
 タイムロスになるが仕方なく階段を飛び降りざるを得なかった。



 ◆ ◆ ◆



(痛い。)

 たずね人ステッキを文字通り杖代わりにゆっくりと階段を降りるあゆり。
 右手から伝わる痛みに意識が持ってかれそうなのを耐え続けているが、
 そのせいで時間は経てど屋上から一階降りただけである。

(撃った奴、一発ぶん殴ってやりたい。)

 抉れた手の風穴を見て下手人への怒りが募っていく。
 この手、果たして人間の治癒力で治るのか? 治っても後遺症は残るんじゃないのか?
 もし治らなかったらどうしてくれるんだ? なんて怒りが。
 命懸けの殺し合いにおいても、何処か普段通りの気の強さがにじみ出る。

「ウェ!?」

 下の階から銃声、続けて爆発。
 軽く揺れたのも相まって踏みとどまることを優先する。
 今の銃声に覚えがあるが、今はそれどころではない。

351胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:00:56 ID:UznlAlnQ0
(嘘でしょ!? 私、今まともに使える武器も逃げる手段ないんだけど!?)

 彼女の支給品は彼女に使いこなせないか、直接的な戦闘に向いたものではない。
 一応、隣の塔へと移動できる通路はこの階にある。しかし痛みでまともに歩くのにも難儀する以上困難だ。
 更に逃がさんと言わんばかりの十メートル近い高さ。飛び降りても無事では済まない。

(どうしろって言うのよ〜〜〜!!)

 以前、生徒会長に身だしなみにダメだしされたかのような状況。
 彼女であればこういう時も、ある程度冷静に物事を見極められるのだろうが、
 残念ながらテストの点も酷いし怒りっぽい彼女では打開策は見つけられない。
 近づく足音に踵を返すぐらいしかなかったが、出てきたのが沙都子で足を止める。

「あれ、沙都子ちゃん!?」

 美炎の能力を把握してない都合、
 この短時間であの距離から来れたことに驚きを隠せない。

「叔父さまが言ってた怪我人とは、貴女の事でして?」

「多分そうだけど、まさかさっきの爆発───」

「時間がありませんわ! なにか私にも使える武器は!?」

 怪我の状態は相当ひどいものだ。
 これでは戦う以前に戦力外である。
 元より怪我人だし、高望みしたわけでもないが。
 先程から投げてるジャスタウェイのストックも限りがある。
 沙都子の支給品にはこの状況をなんとかできるものはない。
 ついでに言うと、彼女の傷を何とかできるものもなかったが、
 これは先程自分の支給品を確認したばかりだし、
 下にいても役に立たないので結果は変わらないだろう。

「私のって腕力上げれるこの腕輪とか、
 或いは使えない武器とかで、銃とか相手に無理。」

 引きつり気味の顔で手をブンブンと振るあゆり。
 どうするべきか。時期に階段を上ってくるので、
 とりあえず乱雑にもう一つジャスタウェイを投げておいて時間を稼ぐ。

(そういえばこの階段……)

 疑問ではあった。
 何故この階段は両端だけ段差ではない坂になっているのか。
 トラップマスターである以上、場の地形と言うものは気にする部分だ。
 車椅子用? こんな寂れた場所に車椅子の人を気遣うとは思えない。

「そういえばそちらの名前、なんでございますの?」

「え? 広瀬あゆりだけど……」

「あゆりさん、急いで手伝ってもらいますわよ。」





(『アレ』を使って上る方が早いか? いやしかし、
 手の内を晒せば思いもよらぬ反撃と言うものがある。)

 階段をのぼりながら爆弾に警戒しつつ安全に昇る完全者。
 別の塔へ移動できる通路は直線だけ。そこへ逃げればガトリングで撃たれて終わりだ。
 だから此処で迎え撃つ方が、相手が取れる唯一の勝利への道となる。

(あれは多彩すぎて私ですら使いこなせない。
 まったく、これを使用していた奴は一体何者だ?
 あんなもの、常人ではろくな使い方すらできんぞ。)

 完全者ですら完全に御せない支給品にごちりつつ、
 四階から五階へと上る階段を駆け上がる。

「こ、んのやろぉ!!!」

 あゆりの掛け声と共に、五階へ続く扉がぶち破られる。
 だが出てきたのは彼女でも、沙都子でもない。

(何!?)

 蜘蛛の糸がついていて、随分と放置された大砲。
 輸送や運搬用の何かがあると沙都子は踏んで、
 近くの倉庫から車輪つきの大砲を見つけて、それを蹴り飛ばす。
 怪我人と少女一人の膂力では押すのに時間はかかってたが、
 そこはあゆりがつけていた『ちからの腕輪』のお陰でなんとかギリギリ間に合わせた。
 完全者が慎重になりすぎて時間をかけすぎたのと言うところはあったので運は絡むも、
 二人が現状出来る、唯一の逆転の一撃は速度を上げて階段を下り、完全者へと襲い掛かった。

「チィッ!! オアシ───」

 迫る大砲を何とかしようとするも、衝突して下へと一緒に階段を下る完全者。
 少なくとも相当な重量だ。轢殺か、壁と衝突して全身が潰れるだろう。
 下へと行った完全者の姿を見届けた後、あゆりは階段付近の壁にもたれかかる。
 それと同時に、壁に大砲でも激突したかのような音が一階から轟く。

「あー……やっちゃった。」

 人、殺しちゃったなぁ。
 何とも言えない複雑な気分になり溜息をつく。
 仮に生きてたとしてもかなりの重傷は間違いない。
 怒りっぽいことはあれど殺すに至るまではなかったのが、
 ついに一線を越えてしまったことに落ち込まずにはいられない。

352胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:02:22 ID:UznlAlnQ0
「襲ってきた相手に罪悪感があるんですの?」

 殺さなかったら殺されている。
 仕方ないと言えば仕方のないこと、
 沙都子は簡単にそれと割り切ることができた。

「え、いやでしょ人殺しになるの。
 しかもこんなわけもわからない殺し合いで。
 メフィス達の思惑通りに行動したってならない?」

「……確かに、そうですわね。」

 沙都子としてはあゆりの発言に少し間をおいて言葉を紡ぐ。
 梨花とずっと一緒にいる。その為にやり直せるとは言え、
 人を死なせる、殺す行為に対して何処か薄れていた気がしてならなかった。
 だって死ねばやり直せる。そうすれば梨花も部活メンバーもまた生きているんだから。
 やりなおしこそ経験しているものの、彼女はまだアレに精神を完全に乗っ取られる前に来た。
 ゆえに、そのことに納得できるし自分の考えがおかしいとも認識ができた。

「とはいえ、正当な防衛ではございませんこと?」

「……ま、そう割り切るしかないか。」

 過剰防衛と言われればそうだが、こっちは手を抉られてる。
 後ろ髪が引かれこそするが、仕方ないともある程度は納得できた。

「と言うか、小学生なのに凄い行動力なんだけど。」

「オーッホッホ! 私これでもトラップマスターでございますことよ。
 数々の非人道的なトラップで圭一さんを筆頭に何人も餌食にしてますの。」

「そりゃ、頼もしい限りで。」

 この行動力からなんとなくえげつないトラップなのだと分かり、
 餌食となった圭一と言う人物について僅かながら同情したくなる。

「一先ず、隣の塔へ行って───」















 沙都子の言葉を遮るような無数の銃声。
 黙らせるかのように彼女の体中から血が噴き出し、倒れる。
 あゆりには理解が及ばなかったし、沙都子も理解できなかった。

「嘘……なん、で……」

 射線の方へあゆりが視線を向ける。
 そこに立っているのは───完全者の姿。
 下に叩きつけたはずの彼女が、五階の倉庫から姿を見せたのだ。

「え、え? どうして、あんたさっき下に落ちたでしょ!?」

 自分がみた幻覚だったのかと疑うが、
 扉のは間違いなく壊れてるし、右手の痛みも現実だ。
 何故倉庫から出てくる。どうやってもあり得ないと。

「私も、肝を冷やしたぞ。これがなければ、私は確実に死んでいた。」

 指を鳴らすと、彼女の姿が変わっていく。
 泥のような茶色い、ダイブスーツのようなものに覆われる。
 端麗な姿をした彼女と比べるとは酷く不釣り合いな姿だ。

「何、そのスーツ……」

「スタンド、と言うものらしい。
 これを使えば地面や物を泥にして泳げる。
 これで壁を泳いで登ったと言うわけだ。
 まあ、使うのにかなり難儀したがな。」

 これが彼女が人知れず塔へと入り、
 今奇襲ができた原因。彼女は事前に最後の支給品である、
 オアシスのスタンドDISCを用いて行動をしてたというわけだ。
 破壊力Aとされるスティッキィ・フィンガーズをスーツで覆われただけでありながらも、
 拳のラッシュを致命傷に至らない防御性能を誇っており、物質を泥にできる能力がある。
 一階まで大砲と巻き添えに突き落とされても壁に衝突することもないし、
 大砲に挟まれることに対するダメージは何処にもなかった。
 ただ、衝撃自体はあるので一度塔から追い出されたことで戻るのに時間は食ったし、
 最初の大砲との衝突については少し遅れたことで、
 鎖骨の辺りが砕けたことで首元を抑えてるが。

「してやられたぞ。電光機関もない、剣術も武術を極めてもない。
 脆弱な人類共に、これほどの手傷を負わせられるとは。だが終わりだ。」

 この距離だ。逃げたところで撃たれるし、
 何かしようとしても即座に撃たれて終わる。
 完全な詰みに陥り、抵抗する気力すらなくなっていた。

「あま、いですわ……」

353胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:03:20 ID:UznlAlnQ0
 あゆりの方は、だが。
 沙都子は震えた声で顔を上げて、身を起こす。
 死に体の状態でありながらも完全者を睨みつける。

「知って、ますの? 私はトラップマスターと呼ばれてましてよ。」

「……だからなんだ? 今から罠を仕掛けるとでもいうのか?
 倉庫からくると想定していなかった私に、どこに仕掛けたと?」

「大砲以外にも、五階へ来た時を想定して、仕掛けたのでございますのよ。」

 え、そうだっけ。
 あの時は急いでたのもあって、
 あゆりは彼女が何かをしたかも全く思い出せない。
 だから嘘なのか真実なのか、それすら判断できなかった。

「……ジャスタウェイ、爆破ですわ!」

 目を張りながら出せる限りの声で完全者の後方を見ながら叫ぶ。

(まさか、音声入力でも起爆するのか!?)

 あれの威力は嫌と言う程に知っている。
 だから一番に警戒したのは彼女がそれを投げること。
 その影響もあってか即座に振り向いたが、
 そこにジャスタウェイなどどこにもなかった。

 気を取られた隙に走り出す沙都子。
 しかしダメージが大きいからか、僅か数歩程度で盛大に転ぶ。
 ジャスタウェイを手軽に取り出す為に開いた状態にしていたので、
 デイバックの中身の支給品も派手にぶちまけた。

「なんだ、ただのはったりか───」

 はったりだと気付き嘲笑ったが、
 視線を戻した瞬間目を張らざるを得なかった。
 ぶちまけて空中に放り出された支給品。
 水や食料にタブレット、そして───複数のジャスタウェイ。
 軽い衝撃で壁も破壊できる威力を誇るものが、合計で七つも空中に浮かんでいる光景を。

「あゆりさん。先に謝っておきますわ……ごめんあそばせ。」

 此処で自分が死ぬ。死んで戻ることができたから、
 自分が死ぬと言う感覚について恐怖感は余りなかった。
 薄れる意識の中で分かることは一つ。自分は今度こそ死ぬ。
 指を鳴らそうにも鳴らす力はなく、鳴らしたところで戻らないのはすでに証明済み。

(───だったら。)

 するべきことは何か。
 梨花には生きて戻ってもらわねばならない。
 生きて戻れば、梨花は自分が救えなかったことでループをするはず。
 ループすればどの程度前かは不明だが、そのときに自分も生きてるはずだ。
 この殺し合いがイレギュラーなことだと言うのは既に察してはいる。
、梨花が生き残り、その果てに時間を巻き戻したところで、恐らくそこに自分はいないことも。
 仮に彼女の前に立つことになるとしても、それは今の沙都子とは極めて酷似しただけで別の沙都子だと。

(それで構いませんわ。)

 だが、それでもいい。極めて酷似した自分であるのならば、同じ結論に至るはず。
 自分を放置してお嬢様生活を楽しんだ彼女を、必ずその沙都子も許さないだろう。
 別の自分が、それを成し遂げてくれる。梨花と沙都子が永遠に一緒となる日々を。
 平行世界だとか、そういうのに疎い彼女にはこの朧げな中で推測しかできない。
 確実性も何もないし何一つの保障もない。死ぬが故の縋りつきたいだけの妄想でしかなかった。




 しかし。
 妄想だとしても。
 未来へ縋るそれは原動力となる。
 だからわざとこけて、この状況へと持ち込んだ。

(ああ、でも。)

 どうしようもないろくでなしであるあの北条鉄平が、
 自分を助けて、あまつさえ他人を気遣うような素振りを見せた。
 たった一回か二回の行動で彼の認識を全て改められる程、
 彼女が受けてきた虐待の数々や彼の悪行は甘いものではない。
 それは未来で鉄平と出会った際に言ったようにムシが良すぎると。

(叔父様には、少しだけ申し訳ないですわね。)

 こんな場所による吊り橋効果の類なのだろうか。
 エスデスを相手にするなどと言うただの自殺行為を、
 彼は沙都子を守ると言う目的だけでそれを実行できた。
 命懸けで自分を守ろうとしたその後ろ姿が、脳裏に焼き付いて離れない。
 もし一緒に生きるような未来があったなら。酌ぐらいは注いで上げよう。
 なんとなくそう思った。

354胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:06:21 ID:UznlAlnQ0
(こいつ、まさか……!!)

 爆発寸前に完全者は思惑に気付く。
 彼女が選んだ行為───それは自爆だった。
 残っていたジャスタウェイ、全てを使うことによる最後の自爆特攻。
 梨花が生き残ることを想定するなら、完全者だけでも殺しておきたい。
 もうすぐ死ぬ自分ができる精一杯の抵抗は、彼女を道連れにすることだけ。
 或いはこれで彼女が倒しきれなかったときに、支給品が渡らないよう消し去る。
 それを実行するだけだった。

 無論、それは近くにいたあゆりも巻き込まれることになる。
 どの道あの状況から二人ではどうあがいても助かる手段はなかった。
 逃げても、立ち向かっても。傘のマシンガンで死ぬ……それだけだ。
 だから彼女には巻き添えで死なせることには申し訳ないが故の謝罪だ。
 奇しくも心中とは、何の因果だろうか。

(あ、死んだわこれ。)

 ありゆはその光景を眺めた瞬間に自分の死が直感で悟った。
 なんとも間抜けな感想だと思った。死ぬ寸前に思うことかと。
 こんな場所で死ぬ。友人はおろか、家族も知ることはないのだろう。

(いや、知ったところで困るか。)

 『文化祭で城址題材にしてたら、平安京を舞台の殺し合いに巻き込まれて最終的に爆死しました』なんて、
 普通に考えてとても家族に伝えられないし、伝えたところでそいつが頭がおかしい奴にしか見えない。
 それなら、心配かけることになるとしても。行方不明としてわからないままの方がいいだろう。

(打ち上げ、行きたかったな───)

 爆発の光に飲まれながら、友人との記憶を振り返りながら彼女は散る。
 城址と違い、形に残るものを元の世界に残すことなどなく。

 そして起きたのがあの大爆発。
 美炎達が瓦礫を避ける事態に陥ったのはこれだ。
 五階には生きた参加者の姿はない。あってもそれは残骸だけ。
 生きた人間などどこにもいない。









「グッ、あの小娘ェ……!
 最後の悪あがきと言うことか……やって、くれたなッ……!!」

 左目を抑えながら、二階程下の階で蹲る完全者。
 抑える手の隙間から煉瓦の床へと鮮血が零れていく。
 オアシスで潜ってはいたが僅かに遅れた結果、左目に破片が突き刺さって失明している。
 オアシスは同じスーツを纏うスタンド、イエロー・テンバランスやホワイト・アルバムと違い、
 顔をフルフェイスで覆うことができるスタンドのヴィジョンではないが故に起きた負傷だ。
 自分の支給品を消費してでも伯爵より先に支給品を奪取するはずだったが、
 今の爆発で支給品ごと消滅してるか、残骸しか残ってないだろう。
 ヴォルを使ってでも得ようとしたのに、左目を喪うだけとは悲惨な結果だ。

「左目は伯爵が持つ杖でなんとかできる……! 加勢に行くしか、あるまい。」

 痛むが別の身体でムラクモに殺されている。
 その経験もあるし今更眼球一つで狼狽えるな。
 自分の身体に鞭を打ちながら、一階へと降りて美炎を撃つに至ったのだ。



 ◆ ◆ ◆



 一方、その頃。
 激戦になる少し前のことだ。
 空中から飛来するヴォルの突進を、
 すんでのところで横へ飛んで回避しながら雪走を振るう零児。
 しかし回避を優先した都合、刃を振るころには殆ど間合いの外で文字通りのかすり傷。
 続けて卵を投げて爆破させて辛うじてダメージを与えるも、微々たるものでしかない。

「厄介だな……」

 美炎と別れてから零児はヴォルと交戦を続けるが、殆ど千日手に近かった。
 零児の使う護業抜刀法は刀一本では成立しないが、普通の剣術も十分に扱える。
 一方でヴォルも見た目通りの素早さと攻撃力を兼ね備えた優秀な従魔。
 その上で零児の対空手段はタマゴバクダンと心許ないのもあって、
 基本的にカウンターだけが頼りになり、受け身になりがちだ。

(美炎を向かわせなければすぐ倒せただろうが、
 さっきからかなり熾烈な戦いになってるのは分かる。)

 極大暗黒魔法の視認、鈍化現象。
 それらを考えれば美炎を向かわせたのは正解だと思っている。
 一方で早々に倒して援護に向かいたいと言うのも本音だ。

 視線を件の場所を向けてたのを戻せば、
 ヴォルが何度目か分からない突進を仕掛ける。
 今度は零児が後方へ飛びながら跳躍して刺突で迎え撃つが、
 旋回して空を裂くだけに留まる。

「おまけに知能も高いか。」

355胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:06:59 ID:UznlAlnQ0
 たった一度の攻撃だけで切れ味を理解したか、
 或いは優れた剣士を見てきたのかもしれない。
 なんにせよ易々と当たってくれそうにはなく、
 背後に回られることで逆に待ち構えられるが、
 後方へタマゴバクダンを投げてうまく視界を妨害し、その隙に振り向いて三段突き。
 胴体に三ヒット、漸くまともに攻撃を決めることができ、
 足の爪による斬撃を雪走で防ぎながら、その反動で地上へと降りる。

「爆弾は小牟の方が手馴れてるが、
 こうして使ってみるとあいつが使うのもわかるな。」

 彼女が使うものより低性能ではあるが、
 使ってみると思いのほか小回りが利く代物だ。
 卵なのは気掛かりだが、擬装用なのだろうか。

(さて、そろそろ決着と行こうか。)

 彼とて、ただ千日手を繰り返していたわけではない。
 避けながら零児はあるものを探しており、今しがたそれを見つけた。
 ヴォルが空へと舞い上がり、此方を視認して狙いを定めた後その場所へ向かう。
 逃げる零児へと急降下するが、ジャンプをすることで回避。
 そのまま旋回しようと空へ舞い上がろうとする。

「!?」

 しかし、それをすることは叶わない。
 目の前には建物があり、旋回しても間に合わないからだ。
 零児が向かっていたのは、平安京の雰囲気にあった趣のある和風の茶屋。
 茶屋へと衝突し、様々な音を立てながら茶屋は倒壊する。
 彼の一撃で倒壊する建物を、彼は探していたのだ。
 これでとどめをさせるとは思っていないし、事実その通り。
 だが高速で動くヴォルにとって、建物に挟まれるだけで大幅な減速となる。

「お前も俺達と同じ被害者なのはわかる。
 だが、お前を何とかできる手段は現状はない……悪く思うな。」

 崩れた建物に一度着地した後、
 そのまま突き出た頭部へと斬撃を決める。
 岩のような見た目でありながらも、簡単に首を断つことに成功する。
 かなりの業物であることは分かっていたが、これほどとは想定しなかった。

「さて、なんとかなったか。」

 ヴォルの動きと軌道、程よい建物。
 それらを気付かせないで立ち回った都合、
 時間を食うことになってしまったが早急に塔へと向かう。
 疲労は蓄積するが、それを理由に休む暇など今はない。
 建物から建物へとジャンプしながらダッシュで向かっていると、
 見えてきた塔から大爆発を視認する。

(かなり大きい爆発だ!)

 大爆発によって飛来する瓦礫。
 当たれば洒落にならないので移動を中断して、近くの家屋で身を隠す。

(美炎と沙都子は無事なのか?)

 これだけの激戦が起きてるのでは、
 彼女どころか、そこに居合わせた人物も無事か怪しい。
 不安にはなるが焦って負傷して動けないでは本末転倒だ。
 もどかしく思っていると、明らかに瓦礫が落ちる音とは違う音に反応する。

(何の音だ?)

356胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:07:21 ID:UznlAlnQ0
 家屋から顔を出せば近くの路地に転がっている、原形をとどめてるとは言えない一人の遺体。
 これが広瀬あゆりと言う少女の遺体と言われても、知り合いですら判断がつかない程の損壊だ。
 ジャスタウェイの爆発で、彼女の身体は原形をとどめるものではなかったものの、
 自身が壁になった結果辛うじてデイバックだけは消滅を免れなかった。

「……君が誰かは分からない。
 助けてやれなかったことも済まないと思う。」

 謝罪と共に、彼女のデイバックを回収する。
 出来れば首輪も回収したいが、今度は光の柱が落ちた。
 あまり時間を取りすぎるものではなく、一度後回しとする。

「せめて、君を元の世界の墓に眠らせることを約束する。」

 あまり見れるものではない顔の開いた瞳を閉じるようにして、再び零児は走り出す。



 ◆ ◆ ◆



「完全者……結果はどうだ?」

「悪いな黒の伯爵。これだけ派手にやっておいて、
 最後は小娘の自爆で支給品の回収は不可能だ。
 もう一人の女も死体がないことから、恐らくは消滅している。」

「そんな……!」

「嘘……」

 リリアーナと美炎、
 それぞれの仲間の死を知らされる二人。
 此処で初めて出会う、まだ数時間程度の関係。
 仲良くなれたかと言われるとそこまでの関係ではないが、
 こんな場所で、他者の欲の犠牲になっていいような存在ではない。

「まだ動けるな。私の支給品が戻ってこないことから、
 恐らくまだ別に参加者がいる。此処の敵を殲滅して迎え撃つぞ。」

 美炎はなんとか立ち上がるが、
 リリアーナはリリィバースト使用直後。
 披露で膝をついてまともに動くことは出来ず、
 援護することも叶わないまま二人を相手にしながら、
 倒れてる鉄平とリリアーナを守らなければならない。

(私に、もっと力があれば……!!)

 武器が加州清光ではないからとか、相手が荒魂ではないからとか、
 此処へ来る以前にあった大荒魂の時とは違う。取り返しのつかない命の喪失。
 いつも口にしてきた『なせばなる』では、もうどうにもならないことだ、

(せめて二人だけでも、守らないと───!!)

 二人を守れるのは自分だけだ。
 零児が救援に来るなんて都合のいい希望に縋るな。
 できるできないではない、やるしかない。
 写シを張り、千鳥を構えて美炎は叫ぶ。
 信じたこの刃を、人の為に振るえ。









 瞬間、美炎が赤いオーラを纏う。
 揺らめく赤いオーラは、さながら炎の如く。
 瞳の色も赤く変わっているが、美炎は気づくことはない。
 彼女がその力を自覚するのは、本来よりももう少し先のことだから。

(雰囲気が変わった!?)

 大荒魂、カナヤマヒメの力。
 この殺し合いに巻き込まれる直前から発現し始めた、彼女の覚醒とも言える力。

「たああああああああああッ!!!」

 先ほどより段違いの迅移。
 一瞬にして塔の中にいた完全者を間合いにまで迫る。
 傘をぶつけることで所撃破防ぐが、腕に重い一撃が襲う。

(早い上に重い……!!)

 これは剣劇で相手するものではない。
 元より近づかれることが完全者にとって不得手なこと。
 同じ剣客となるであろう人物に心当たりはあるにはあるが、
 その男に電光機関でも持たせたのではないかと疑うレベルの間合いの詰め方だ。
 中距離から遠距離で一方的に戦う彼女にとって、まともに戦うどころの話ではない。

「オアシスッ!」

357胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:08:02 ID:UznlAlnQ0
 だから最優先で距離を取ること。
 スタンドを纏い、再び地面へと潜る。
 一先ずここは伯爵を回収して立て直しが必要だ。
 今のいる方角は覚えている。伯爵を地面に引きずり込んで、一度距離を取る。

「ッ!」

 完全者が消えた瞬間、即座に狙いを伯爵へと変える美炎。
 幾ら地面では素早い動きができるオアシスと言えども間に合わない。
 地面に引きずることこそしたものの、その寸前に千鳥の一閃が伯爵の身体に刻まれる。

「ガッ、グッ……!」

「地面に潜るぞ!」

 ダメージ回復の為祝福の杖だけは手放さない。
 錫杖の方は落としてしまったが、回収の余裕はなかった。





 下手人が立ち去ったウドガルド城。
 訪れた静寂の中、美炎の荒い息遣いだけが響く。

「逃げ、られた……」

 さっきの伯爵と呼ばれた男に与えた傷、
 咄嗟だったとは言え手ごたえのある攻撃になってしまった。
 殺すつもりはなくてあくまで無力化に留めたかったが、
 その結果を知ることは、今は少なくとも不可能だろう。

「ッ……!!」

 崩落しかけた塔を眺めながら、美炎は拳を握り締める。
 守れなかった。あんなに小さい無力な子供を守れなかった。
 更に中にいた人物も殺された。気絶した鉄平になんていえばいいのか。

「美炎! 無事か!」

 ウドガルド城へようやく到着する零児。
 周囲には瓦礫や散らばる武具に複数の人物、
 どれだけ熾烈な戦いだったかは語るに及ばずだ。

「零児、さん……」

 後ろにいた零児へと振り返る。
 自分なら守れる、そう信じて彼は沙都子を任せた。
 託されたのに結果は真逆。歯を食いしばり、今にも泣き崩れそうな表情だ。
 瓦礫の散らばる地面をバックに立つ彼女の姿は、痛ましいと言うほかにないだろう。

「私、駄目だった───」

 その一言と共に、彼女は意識を手放した。
 純粋な疲労、精神的疲労、カナヤマヒメの力。
 様々なものが蓄積した結果、限界を迎えて美炎は倒れる。

「美炎!」

 倒れる彼女を、何とか零児が抱きとめる。
 大事には至らなかったが、その様子から何があったかは少し察した。
 時間をかけすぎたのはあるが、かといって容易い相手ではなかった。
 相当に鍛えられてたであろう知能のある翼竜。無傷ではあったが一筋縄でいくわけがない。

(今はまず、味方らしい彼女に話を聞くしかない。)

 倒れる北条鉄平を見た後、彼女をそっと降ろして状況の確認の為リリアーナへと向き合う。
 今の状況を語れるのは、彼女以外にはいないのだから。





 ウドガルド城の攻防は、これにて終わりを迎えた。
 此処に残る生存者はあれど、勝者は一人もいない。

【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に 業 死亡】
【広瀬あゆり@東京城址女子高生 死亡】

【B-4/一日目/黎明】

【北条鉄平@ひぐらしのなく頃に 業】
[状態]:気絶、疲労(大)、精神的疲労(中)、身体にダメージ(極大、ヘルズクーポンで治癒中)
[装備]:ヘルズクーポン(半数以上使用及び廃棄)@忍者と極道
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:沙都子を助ける。
0:……
1:沙都子、無事なんね……?
2:沙都子、ワシを信じて……

[備考]
※参戦時期は本編23話より。
※リリア―ナ、あゆりと簡単な自己紹介だけしました。(名前のみ)
※あゆりとの年代の違いはまだ知りません。
※ヘルズクーポンの強化時間は大幅に制限されてます

358胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:10:40 ID:UznlAlnQ0
【リリア―ナ・セルフィン@よるのないくに2 】
[状態]:疲労(大)、悲しみ
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:元の世界へ戻り、刻の花嫁として生贄となる……
1:鉄平と行動を共にする。
2:アル……あなたに会いたい……
3:あゆりの住んでいるトーキョー……少し興味あるな
4:そんな、あゆり……!
[備考]
※参戦時期は序章、刻の花嫁に選ばれ、馬車での移動中
※刻を遅らせる能力は連続で使用することができません。また、疲労が蓄積します。
※あゆりの世界について多少、知識を得ました。
※自身が刻の花嫁として選ばれ、月の女王への生贄となることは伝えていません。
※名簿にアルーシェ(アル)がいることを確認しました。
※北条鉄平と簡単な自己紹介を交わしました。

【安桜美炎@刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火】
[状態]:疲労(中)、精神疲労(大)、自責の念、気絶
[装備]:千鳥@刀使ノ巫女
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本:殺し合いを止める。
1:……
2:今は使うしか無いけど、可奈美に出会えたら千鳥を返さないと
3:みんなの事が心配。
4:十条さん……私が救う!
5:清光、どこかなぁ……
6:沙都子ちゃん……!!

[備考]
※参戦時期は第四部第二章終了後〜第四部第三章開始前
※ゆらぎや特務機関森羅、逢魔に関する情報を知りました
※本来は刀使でもその御刀に選ばれないと写シ等はできませんが、
 この場では御刀を持てば種類を問わずに使用可能です(性能は劣化)
※大荒魂カナヤマヒメの力は美炎が『力を求めたとき』発動します。
※カナヤマヒメは美炎の生存を第一に考えています。(優勝してでも)
※カナヤマヒメは沙都子の本性に気づいていました。
※何度もカナヤマヒメの力が発動、及び美炎の身に死の危険が訪れると、
 カグツチに意識を完全に乗っ取られる可能性があるかもしれません。
※参戦時期の関係から美炎は自分の体内にカナヤマヒメが封じられていることは知りません。
 また、カナヤマヒメとカグツチとの関係も然りです。
※名簿から巻き込まれている知り合いを確認しました。
※十条姫和はタギツヒメに取り込まれている状態だと思っています。
※零児には、姫和の状況についてはまだ知らせていません。
※首輪に関する話は筆談で行います。
※沙都子からエスデスの危険性を聞きました。

【有栖零児@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD】
[状態]:疲労(小)
[装備]:雪走@ONE PIECE、タマゴバクダン@スーパーペーパーマリオ×7
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1、あゆりデイバック(基本支給品、ランダム支給品×0〜1)
[思考・状況]
基本:殺し合いの裏に潜む陰謀を阻止し、元凶を討ち滅ぼす。
1:すでに遅かったか……!
2:美炎と共に施設を周り、目的に賛同してくれる参加者を探す。
3:沙都子の一瞬見せた表情に疑念だが、それもわかることはないのか。
4:沙夜……これも宿命か。最悪共闘も考えるべきだが……
5:出来れば銃も欲しいが
6:彼女(あゆり)には悪いが、支給品を貰っていく。
[備考]
※参戦時期は不明。
※刀使や荒魂に関する情報を知りました。
※美炎の知り合いを把握しましたが、
 十条姫和がタギツヒメに取り込まれていることは知りません。
※沙都子に若干の疑念を抱いています。
※美炎と沙都子に首輪に関する話は筆談で行うよう伝えました。










 地面から這い上がる完全者とノワール伯爵。
 本来の持ち主、セッコと違って彼女の聴力は人並み。どの方角へ進んだかさえ不明だ。
 使い慣れた能力でもないので、具体的な方角は分からないまま地面を突き進んだ。
 少なくとも極端に距離は取ってないが、B-4にいないと言うことだけは察している。

「黒の伯爵、地上だ。肩を貸すのはこれぐらいにして自分で立て。」

 成人男性のような見た目とは裏腹に、
 上半身だけなので驚くほど軽い伯爵へと見やる。
 誰も殺せてないとは少し期待しすぎたか、などと思うも人のことは言えない。
 少なくとも光の柱は相当なものだ。あれを受けて耐えきった胆力は評価できるし、
 あの遅延の魔法も見てはないが彼のものだとわかる。実に有力な共犯者だ。

359胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:11:47 ID:UznlAlnQ0
「……ああ、なんだ───」










「死んだのか。」

 だが、その赤い瞳は青く染まり、何も映さず言葉も返さない。
 元よりギリギリつないだ命に美炎の最後の攻撃は致命傷だった。
 斬らないと決めた少女の刀は、たった今一つの命を絶ち切ったのだ。
 黒を望んだ伯爵は、光に再会を果たすことなくその燈火を喪う。



【ノワール伯爵@スーパーペーパーマリオ 死亡】



「……謝罪はしておこうか。あの小娘の自爆特攻を考えると、
 塔の上の連中を後回しにしてれば生きながらえただろうからな。」

 地上の面々ならオアシスのある自分と伯爵で制圧できた。
 自分が先走ったことでなってしまった結果とも言える。
 しかし、謝罪こそしているものの、今彼女は伯爵の顔面を溶かしていた。
 オアシスの力は人体も溶かす。生きてる相手に使えるかはともかく、
 少なくとも死体には可能なことは死体だったブチャラティがすでに証明済みだ。
 顔面を溶解させ、首輪を回収する。

「さらばだ黒の伯爵。お前の死は存分に利用させてもらうぞ。」

 協力者を早々に失ってしまったことは手痛い。
 支給品もヴォルが戻ってこないことから総数だけで言えば完全にマイナスだ。
 まだ残ったナスタシア、マネーラ、ミスターL。こいつらを存分に利用する。
 特にミスターLは重要だ。これを形見と言えば涙を流しながら協力するかもしれない。
 伯爵の支給品を回収し、立ち去ろうと思ったその時。

「……? なんだこれは。」

 何かが輝きを放っていることに気付き、遺体の方へ振り向く。
 遺体から浮き上がるのは、黒く濁ったハートの形をした何か。





 コントンのラブパワー。
 ある種の理念(イデア)とも言えるそれは、
 新たな持ち主の手へと渡ろうとしていた。

【???/一日目/黎明】

【完全者@エヌアイン完全世界】
[状態]:左目失明(回復中)、ダメージ(大)、魔力消耗(大)、疲労(中)
[装備]:神楽の番傘@銀魂、ビブルカード×1(プロシュート)@ONEPEACE、祝福の杖@ドラゴンクエスト7、オアシスのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2(確認済み)、コントンのラブパワー@スーパーペーパーマリオ、ノワール伯爵のデイバック(基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2(確認済))、ノワール伯爵の首輪
[思考・状況]
基本情報:プネウマ計画の邪魔はさせん。メフィスとフェレスの扱いは対策が出来上がるまで保留
 1:なんだ? これは。
 2:ビブルカードに従い……今、私はどこにいる?
 3:エヌアイン以上に適した器の捜索。期待値は上がった。
 4:首輪の解除手段の模索。
 5:ムラクモを首輪を解除される前に始末しておく。
 6:童磨に警戒。
 7:伯爵の部下でも探しておくか。特にミスターLは必須。
 8:他に利用できる連中を手に入れておく。
 9:あの小娘(美炎)、まさかエヌアインのような存在か?
10:ディメーン……信用は出来ないが、利用はできるな。
[備考]
※参戦時期は不明。
※B-3以外のB-4周囲のエリアまで移動してます。
 何処に行ったのかは後続の書き手にお任せします。
※モッコス死亡により、完全者の所持するビブルカードが消滅しています。
※ある程度生き延びたらディメーンから接触することがあるかもしれません。



※ジャスタウェイの爆発により、
 北条沙都子のデイバック(内容全て)、たずね人ステッキ、
 ちからの腕輪@少年ヤンガスと不思議なダンジョンは消滅してます。
※B-4ウッドガルド城跡に以下のアイテムが落ちてます。
 第六天魔王の錫杖@御城project:Re
 椛の盾@東方project
 手に取り望遠鏡の残骸@ドラえもん
※B-4の倒壊した建物にヴォル@よるのないくに2の死体があります。
※沙都子の死体が原形をとどめて残ってるかは不明です。
 あゆりの死体は辛うじて人型の形を留めて、近くに落ちてます。
※B-3以外の何処かのエリアに、ノワール伯爵の死体があります。
※ディメーンの参戦時期は死亡後です。

360胎動編『一筋の揺るがない情動』 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:13:36 ID:UznlAlnQ0
≪ウドガルド城跡@進撃の巨人≫
いつ建築されたかも不明の古い城塞砦。
内部に大砲なども備えられており高い防御力を誇ったものと思われるが、
何と戦うことを想定したいたかさえ分かっていないとされている謎の砦。
作中でウォールローゼの穴について調査の後、夜を過ごす際に訪れた場所。
廃城である為ボロボロではあるが、人が住めない程致命的でもない。
箱の中にはニシンの缶詰や酒、大砲等がある。

【手に取り望遠鏡@ドラえもん】
リリアーナに支給されたドラえもんのひみつ道具。
赤色の望遠鏡で、スコープの中のものを引き寄せることができる。
重量、サイズ一切問わず星であろうとも引き寄せることが可能で、
固定されて動かせないものを引き寄せることはできないが、
その場合は自分がそっちの方へと移動することができる。
壊れたため具体的な制限は不明。

【椛の盾@東方project】
リリアーナに支給された犬走椛が所持している紅葉が描かれた白い盾。
媒体や公認ゲーム、フィギュア等によってサイズも形状も変わり、篭手レベルの小さいときもある。
本ロワでは形状は主にアプリのキャノンボールやダンマクカグラ等で見られる円盾で、
サイズは手楯・手盾・楯・盾辺り(30〜60cmのもの)として扱う。
性能は不明だが天狗である椛が使うので、それなりに優秀なはず。

【ヴォル@よるのないくに2】
完全者に支給された従魔(セルヴァン)と呼ばれる使い魔。
ディメーンのカードを使った使用者の命令に従うようにされている。
ヴォルは突進によるスピードと攻撃力が高く、一対一において強い性能を発揮する翼竜。
制限として使用者と同じエリアから出ることはできない。アルーシェと違い意思疎通は不可能。
長い間化石として眠ってたため現代のおしゃれには疎くて、服にも理解が浅い。
因みに究極進化ずみである(飛膜が青いので)

【バクハツタマゴ@スーパーペーパーマリオ】
零児に支給された、ジェシーの料理。一応料理である。
ひもがついた卵で、爆発することで相手にダメージを与える攻撃アイテム。
威力は非常に低く、これで殺すのはかなり難しい。(スパペパの持ち物上限の)十個セット。

【ジャスタウェイ@銀魂】
沙都子に支給されたジャスタウェイ。それ以上でもそれ以下でもそれ以外でもない。
円筒状の体に、棒の腕と、死んだ目の顔と言う子供の工作めいた見た目の物だが、
中味はこの見た目からは想像できない程度に性能のある爆弾
(近藤さんが抱えてた分)十個セット

【ちからの腕輪@少年ヤンガスと不思議なダンジョン】
あゆりの支給品。ゲームにおいてちから(攻撃力ではない)をプラスする。
ジャスタウェイの爆発により消滅している。

【オアシスのDISC@ジョジョの奇妙な冒険】
完全者の支給品。DISCについてはスティッキィ・フィンガーズのDISC参照。
原作ではセッコが使用したスタンドで、茶色いダイブスーツのようなものがヴィジョン。
ステータスは破壊力:A スピード:A 射程距離:B 持続力:A 精密動作性:E 成長性:C
周囲の物質を泥にすることができ、地面を泥にすることで上の地形を沈める、触れた部分を液状化させる、
地中を泳ぐように移動、液状化したものを空へ投げてから解除させて固体にして武器にする、
泥の弾力とハンドウを利用したパンチのラッシュなどかなりの多様性と攻撃性能を誇る。
これはあくまで使い慣れたセッコが使って発揮できるものである為、完全者が全て使いこなすことは難しい。
制限として地中に長時間いると消耗が激しくなる(短時間程度なら問題はない)

361 ◆EPyDv9DKJs:2022/01/11(火) 18:15:15 ID:UznlAlnQ0
投下終了です
ノワールの魔法等、いちぶ個人の解釈多分に含んでます

遅ればせながら新年あけましておめでとうございます
2022年もよしなに

362 ◆s5tC4j7VZY:2022/01/19(水) 00:32:39 ID:KzEdMEB60
投下お疲れ様です!
ヴォルを引き受ける零児はやはりカッコよく、男ですが惚れますね。
一方で
「私、駄目だった───」
↑この美炎の台詞にはくるものがきました。
美炎……
また、再開したのもつかの間。沙都子を失った鉄平……鉄平に同情する日がくるとは、思いませんでした。

爆発の光に飲まれながら、友人との記憶を振り返りながら彼女は散る。
城址と違い、形に残るものを元の世界に残すことなどなく。
↑あゆりのこの最後の散った者への文はロワの無常さも加わり、上手いな……としんみりしながらも勉強になりました。
そして、最後の伯爵の死は予想外でおお!と衝撃が大きかったです。
3部作にわたる胎動編読みごたえがあり、感服いたしました。
改めて大作お疲れ様です。
今年も◆EPyDv9DKJs様の作品を読むのを楽しみにしております。

363邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:35:49 ID:i4Wwbhok0
投下します

364邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:38:10 ID:i4Wwbhok0
 件の場所と思しき河へと到着すれば、
 河に流れる血を見て、目的の人物が其処にいた。
 オフィエルが向かった先にあったのは、全てが終わった後だ。
 容態を見るまでもない。頭を撃ち抜かれて死んでいるのは彼でなくともわかる。
 道着姿の男は、彰が伝えていた助けてもらった人物の情報と一致する。

「人を救う間に人は死ぬ。」

 自分達が彰から話を聞いてる間に彼は命を落とした。
 彼が憂いだように、人を救えばその間に人は死んでいく。
 この殺し合いはまさに世界の縮図だ。権力争いが物理になっただけ。
 今もこうしている間により多くの命が、争いによって消えていく。
 何も変わらない。こういう犠牲を出さないために彼は人類再編(パラダイムシフト)を望んだ。
 人は人である以上争いを繰り返す。人間はさらにその先へ行かなければならない。

(首輪だけでも回収しておこうか。)

 彰の性格を考えるに首輪の為と言えども、
 切断などと言う死者の尊厳がない行為を忌避するはず。
 なので今の内に斬撃を飛ばし、カンフーマンの首を刎ねる。
 何かあってもヘルメットの男がやったと主張すれば何も問題はない。
 鮮血をまき散らしながら首は河へと転がっていき、首輪を取り外す。
 機械に関しては特別明るくはないが、解除には何かと必要になるだろう。
 必要なものを回収し終えたので後は彰たちを迎えに来るだけ───とは思わなかった。

 背後へと振り向いたのと同時に銃声が放たれる。
 迫りくる弾丸。当たれば肉体を抉るのは容易な一撃だが、
 同時に青い箱状のものに覆われたオフィエルは数メートル横へと移動する。
 彼が使う具現武装『隔離術式』による空間転移の類であり、故に無傷だ。
 弾丸は地面と死体を撃つだけでダメージには至らない。

「チッ、気付いていやがったか。」

 近くの茂みから出てくるヘルメットの男───ジャギ。
 カンフーマンとの激闘を繰り広げたが、彼はダメージが大きかった。
 故に彼は隠れながら休息を図っていたら、続けてオフィエルの登場。
 短い休息で確認唯一確認したカンフーマンの支給品である、
 黒を基調とした篭手を装備したうえで構えていた。
 指の先端が怪物の如き紅い爪により、外見の凶暴さを増していく。

「人間は時に、本人とはあり得ない反応をすることも多い。
 医者は想定外の出来事にも対応する……反省と言う面もあるがな。」

 再度振り返りながら、オフィエルは冷静に語る。
 心臓は止まってから十分を過ぎれば確実に死に至るのが常識。
 一分につき10%死亡率が上がる。故に事実上十分がリミットとなる。
 だが。世の中には十五分以上の心臓マッサージで息を吹き返した例も存在していた。
 想定外のことに対応するのは茶飯事であり、隔離術式もあって不意打ちには相応に強い。
 もっとも、これは僅かながら以前マザー・クラスタに属してい時期に、
 同じくマザー・クラスタの火の使徒ファレグに襲われたと言う過去の経験もあるのだが。
 あの不意打ちは隔離術式もできず、冗談抜きで殺されていたかもしれない一撃。回避できたのは奇跡に近い。
 来ると分かっている身構えた攻撃であれば、冷静に行動がある程度できるようにはなっている。
 再教育される未来に至ってない彼が魔人から受けた、数少ない教訓だ。

「彼を殺したのは君か。」

「あ? ってことはてめぇ、あの長髪のガキの仲間か?」

 なるほど、疑ったつもりはないが情報通りの存在だ。
 この世界における奪う側の人物。世界を腐らせる病巣の一部。
 どれだけ救おうともこんな輩がいるから争いは未だ続いている。

「質問を質問で返すものではないな。言葉を返すと、
 彼はまだ仲間とは限らないが……此処では都合が悪い。
 三対一をされるのは君にとっても望ましくないことだろう。
 私にも個人の事情がある。特別に一対一で話させてもらおうか。」

 ここで三人で相手すれば余裕で蹂躙できるのは間違いない。
 オフィエルは医療器具がなくとも相手の脈拍や心拍を把握できる。
 見た目の古傷以上に疲弊してる姿がよくわかり、それならなおさら蹂躙が可能だろう。
 だがそれだけでは意味がない。ある程度自分にとっての有利な状況へと持ち込む必要がある。
 故に彼はジャギと自身を隔離術式で、数メートルその場から離れた。
 さらに数メートル、少ししたらもう一度数メートル。隔離術式では首輪による制限で、
 超長距離移動も短時間の連発も不可能になってるが回数が制限されてるわけではない。

365邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:38:54 ID:i4Wwbhok0
 どんどん離れていき、二人はその場から姿を消した。





「そんな……」

 戻ってみればこの有様に、彰は膝をつく。
 首のないカンフーマンの死体を前に、妖刀村正を握る手を強める。
 あの時感じた予感が的中してしまった。あの時無理にでも加勢すれば、
 彼は無事だったかもしれない可能性はあったのだから。

「……オフィエルは何処へ行ったのか。先程聞こえた銃声から、
 交戦か追走して何処かへ行ってしまったとみるべきだろうか。」

 彼を余所に、日ノ元は近くに転がる首を拾う。
 話によればバトルジャンキーで狂人な面は伺えるものの、
 野心に満ちた北ノ城や下衆な風見のような男でもなさそうだ。
 少し惜しくもあるが、死んでしまったのでは仕方がないと割り切る。

「蒔岡君。このような言い方は酷ではあるが、
 目的である彼の救援は果たせず、その敵も現状は見当たらない。
 なので此処は一先ず、タブレットで名簿を見てもらいたいが、大丈夫だろうか?」

「……はい、わかりました。」

 自分の信念を貫き通す。
 彼の死を無駄にしない為にも、彰はタブレットを開く。
 名簿を確認している間に、首を本来あるべき位置へと戻しておく。
 首を戻すころには名簿の確認は終わっていたが、余り芳しくない様子だ。

「知り合いがいるのだな?」

「はい。間違いでなければ、四人。」

 シークレットゲームに関わる(恐らく)四人の知り合い。
 もしかしたら此処に来てるとは思っていたが、ソフィア以外がいるとは思わなかった。
 ひょっとしたら、ソフィアにやられた軍服の男と言うのがあの時の彼かもしれないので、
 一先ずは四人と言うことで彰は話しを進めていた。

「殺し合いのゲームか。それは災難だったな。」

 まさに愚民のやる滑稽な催しであり、
 オフィエルが聞けばさぞ憤慨するだろう内容になる。
 燦然党で言えば、先ほど挙げた二名や死亡した芭藤は嬉々として楽しみそうだ。
 日ノ元にとって四人の中でとりわけ惹かれる部分があるとするなら、三島英吾になる。
 市民を守る警察官ではあるが、必要とあらば躊躇せず銃で相手を撃てるところは、
 彼がこの場で欲しい人材としてみるなら、それなりに水準があると言えるものだ。

「君が答えた以上、私も言わなければならないな!
 私の知り合いは名前で気づいてるやもしれぬが、娘の───」

 念のため名簿を見返していると、
 日ノ元が急に喋らなくなって不審に思って顔を向ける。
 視線は彰へと向けられておらず、別の方角を見ていた。

「……いや、まっこと早い! 早すぎる!」

 何処を見てるのかと、自身の背後である方角を見やる。
 視線の先には、自分達と同じ首輪をつけた参加者の姿。
 だが何が早いのか。彼には分かりかねる。

「久しいと言うべきか、もうと言うべきか───」










「出会ってしまったか───ドミノ・サザーランド!!」

 現王ゴアにより、富士山の噴火以前より存在する、
 三人のヴァンパイアたる『真祖』が一人、ドミノ。
 戦う寸前だったはずの相手と箱根以来の久方ぶりにして、
 わずか数時間程度でこの舞台にて邂逅を果たすことになる。

「……まさか、こんな早く鉢合わせするとはね。日ノ元士郎。」

 ヴァンパイアの姿で腕を組んで立つ、威風堂々の姿。
 奇抜な恰好に、子連れに、全裸の青年を背負ってると、
 酷く不格好ではあるが異様な殺気を彰は気取って村正を構える。
 ピリピリとした感覚。シークレットゲームでも感じたそれらとは比にならない。
 『仕方ないから殺し合いをする』で纏っている殺気を持っていなかった。
 先のヘルメットの男の殺気などとは、比べるまでもないようなものだ。

「おじちゃんと、おねーちゃん?」

「うむ! 七原君達に劣らぬ珍妙な仲間を連れているではないか!
 しかしその様子、どうやら随分とダメージを受けているようだな!」

(やはり虚勢になるか。)

366邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:41:24 ID:i4Wwbhok0
 今の状態は燦然党の介入により、堂島を仕留め損ねた時と同じ。
 見た目だけ取り繕ってはいるもののダメージは洒落にならない。
 以前よりもずっと成長してるのでどうしようもないとは思わないが、
 流石に同じ真祖を相手にして勝てるかどうかと言われたら、厳しいものになる。
 しかも厳しいのは一人で戦う場合。気絶した充、連れてるしおを守るのは容易ではない。
 あの怪物が戻ってきたら厄介だと、少し無理をしてでも南下し続けたが、
 まさかこんなところで鉢合わせになるとは思わなかった。

(あの男が私と同じ考えならまだ殺しには来ないはず。
 一方で私を殺すだけに留めると言う選択肢もある……此処からは賭けよ。)

 負けるつもりはないが、二人の身の安全を考えるとそれは難しく、
 可能ならば穏便に済ませられるルートを考えたいところだが、それは最早運だ。
 一触即発。互いの視線が火花を散らせて今にもこの舞台の最強格がぶつかり合う。










 グゥ〜〜〜……

「あのー……一先ず此処は食事にしませんか?」

 気の抜けるような空腹の音と共に、彰が申し訳なさそうに手を挙げる。
 カンフーマンの死を目の当たりにして言うことではないし殺気も感じた。
 勿論こればかりについては空気が読めていないと言う自覚はあるが、
 死後の世界で待ってた時と違い、肉体があるし腹は空くものだ。
 久々の空腹は慣れないのと、腹の虫はどうやっても止められない。
 張りつめていた空気の中に響いた音と発言に、思わず二人の真祖も困惑する。

「ハッハッハ! 真祖を前にしてそれが言えるとは、やるではないか!」

 背中をバシバシと叩かれ、威力の強さに思わず彰が前のめりになる。

「ドミノ、元より交戦する気はその様子を見てないと決めていたが、
 此処は蒔岡君の提案に乗って、食事による会談と行こうではないか!」

「───そうね。同じ意見なら断る理由もないでしょうし。」

 彰のお陰、と言うわけではないが何とか賭けは乗り越えれた。
 死体のそばに書き置きを残して、五人は近くにある教会のようなホテルへと向かう。
 充はドミノが寝室へと連れて行き、彰はドミノに頼まれてしおを風呂場へ連れていくよう頼んでおく。
 日ノ元は彰と同様に風呂場が何処かの捜索へと駆り出され、捜索が終わって一階のフロアにてドミノを待つ。
 ほどなくしてドミノが戻り、互いに基本支給品の飲み物を片手に言葉を交わす。

「お互い同じことを思ってるでしょうけど念の為聞いておくわ。殺さないの?」

「うむ、本当はそうしたいところではあるが理由は二つ。
 一つは殺し合いの中で争うことは余り賢くない……これは同じ意見のはずだ。」

 互いが思ってること。
 真祖同士が戦えばどうなるか。
 勝敗の結果の話ではない。誰が一番利益を得るか。

「三人目の真祖、奴が一番利益を得るからよ。」

 この殺し合いには真祖が関わってると言う考えを二人は持つ。
 現王ゴアはまずありえない。次代の王を選ぶための真祖を一人にする、
 そういう目的であれば三人目の真祖がいるべきだが此処にはいない。
 となれば、残る最後の真祖。此処でドミノと日ノ元が共倒れになってしまえば、
 ゴアに挑戦できる真祖は一人だけになる。何より真祖二人を罠に嵌めるなど、
 それぐらいの格を持った相手でもなければ、まず不可能と言うのが二人の推察。

(でも、あのユーベンが此処でするのかどうかよ。)

 ゴールデン・パーム社長、ユーベン・ペンバートン。
 財力もあるしドミノとは共闘を持ち込んでも後で争う間柄。
 もしユーベンがメフィス達と共謀するのならばあり得る話だ。
 此方の方が真祖二人を確実に仕留められると思えば、社員も残せて楽になる。
 とは言え、その割には燦然党は日ノ元だけと言うのは少々気になるが。
 燦然党の何人かを巻き添えにしてしまえばより有利になるはず。
 そこまでの権限がないから、この人数になったのだろうか。

「三人目の真祖が一番得をする状況で、
 争うのは思うツボ。まあ、此処は同じようね。」

367邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:43:01 ID:i4Wwbhok0
 互いに三人目の真祖が関わってると言う推察。
 確かに同じで違和感なく会話を続けているが、
 実は二人の想像している人物は、別々の存在だ。
 ドミノにとって三人の真祖とはドミノ、ユーベン、日ノ元の三人。
 日ノ元にとっての三人はドミノ、日ノ元、もう一人の構図になっている。
 日ノ元はユーベンを知らない。ならば何も問題ないのでは? と思われるが、
 日ノ元は『ユーベン以外に存在する真祖』の存在をすでに知っていた。
 真祖は四人いる。この事実を燦然党との戦いの前で推測していたのは三人だとユーベンだけで、
 確信を持ったのもあるべき未来にてユーベンが日ノ元と相対したときだけのことだ。
 二人とも四人目の真祖がいると言う事実を、まだ知らないのだ。

(奴が何かするとも思えんが。)

 奴は何もしない。そう思ってるので、
 正直なところ真祖が関与してるのはドミノ程考えてはいない。
 だが真祖以外にいるとも思えないため、一先ずとして仮定していた。

「遺灰物(クレイメン)だけでも手にしておく、その可能性もあったけど……」

 確かに利益を得るのは三人目の可能性はある。
 だがドミノを倒すだけであれば可能だったはずだ。
 首輪の制限がある中で真祖の遺灰物など取り込めば、
 どうなるか分かったものではないのも理由としては十分。
 だが、そうだとしても殺すだけに留めて首輪を何とかした後に、
 安全な状況で遺灰物を取り込めばいいだけの話でもある。

「真祖を以てしても互角に戦える存在がいては別だからな!」

『ドミノ、元より交戦する気はその様子を見てないと決めていたが───』

 先ほど、彼は食事を誘った際に『様子を見てから』判断した。
 真祖と戦えると言うことは、自分とも戦える可能性が十分にある。
 真祖をヴァンパイアか、或いはそれ以外の存在でも殺せる可能性がある中、
 それと同じく敵対する間柄であるドミノを先に潰すのは良しとすることはできない。

「アンタも同じでしょ。真祖を、相手陣営を使い倒す。」

「その通りだ!」

 ゲスい顔と、虚構の熱血漢の笑顔を浮かべる。
 ならば存分に使い倒してから最終的に奪えばいい。
 今は余計な敵を作らず、一時の共闘ができる人材がいるのも大事だ。
 これを無視されれば戦うしかない状況だったが、相手もその考えを持っていた。
 お陰で何とか共闘の関係を持ち込むことができるに至る。

「……殺し合いが成立しなくなるまで、
 その間だけなら私は共闘を視野に入れるわ。
 でも、善と明がどうするかは当人に委ねるから。」

 委ねるとは言うが、はっきり言ってほぼ無理だろう。
 親殺しを目的とした明は当然受け入れるわけがないし、
 善も燦然党の情報を伝えた。最も多くの人を死なせてると知っている。
 口伝だけではなく、芭藤との戦いで既に一般人の虐殺も目にしていた。
 はっきり言って、これは論外に近い。

「そこは本人次第だな! だが佐神善は来るならば迎え撃つ!」

「ま、それでいいわ。堂島は……ほっといてもいいか。」

 あの男はヒーローを気取っているのであれば、
 此処でも無関係な市民相手なら助けるつもりはあるはずだ。
 もっとも、背後から狙われる可能性もあるのでお互い信頼はしないが。

「ドミちゃーん!」

 話が一区切り終わると、
 しおの元気な声と共に足音が響く。
 彰としお、そして意識を取り戻した充が戻ってくる。

「あ、おかえりしお。えーっと蒔岡彰だっけ?
 悪かったわね、子守りさせ──ブッ!?」

 振り返って階段を下りる三人を見やれば、ドミノは口に含んでた飲み物を全部吹き出す。
 充は全裸ではなくなって服を調達していたのだが、その格好に問題があったからだ。

 黒を基調としたシックな色合いは充には余り似合わないが、
 その程度の事でドミノが吹くわけがない。問題は下半身にある。
 短くはないが長くもないスカートに、黒く長いニーソックス。
 そう、これは女性用の服だ。

「ゲホッゲホッ……あの、待ちなさい。どういうこと?」

(またこの視線だ〜〜〜!!)

 むせたドミノが顔を上げれば、
 しおに襲われていたあの時のような視線を向ける。
 いきなりこんな格好で出てこられてそうなるなと言う方が無理な話だが。

「僕の支給品にあったんですよ、この制服。」

「……制服が、支給品? アンタ男でしょ? なんで入ってるの?」

「それはさっぱり。僕に女装が似合うと思われてたとかでしょうか。」

368邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:44:28 ID:i4Wwbhok0
「あきちゃん、おにーちゃんだった!」

 日ノ元と一緒にいたこの学生。
 先の件であの空気を壊せた時点で思っていたが、
 中々に能天気な性格をしている人物だと察する。
 真面目な明から、真面目を引っこ抜いたかのような。つまり天然。
 支給品を似合うから入れたとは、何ともツッコミどころ満載な解答だ。
 この天然さから察するに日ノ元を理解しないでついている様子ではある。

「ところで、しお何か変なことしてきた?」

「? 特に何かしてきてはいませんが……何か?」

「何もないならいいわ、忘れて。」

 強姦魔の言いつけについては、守らなくはなったようだ。
 後は彼女次第だ。灰色の世界を自分で白黒決めるのは自分自身。
 一先ず最低限の問題は安定したようで、安堵の息を吐く。

「さて、一先ず集まったところで情報の共有と行こうか!」

 食事をしながらの情報共有……と言いたいところだが、
 しおは服こそ洗ったが短時間。乾いたわけではないので、
 乾かす為必要な情報だけ教えてもらった後は彰と共に再び離脱。
 彰の方は元々大体の情報を日ノ元に提供しているのでいなくても多少は話が進む。
 途中で二人も戻っていき、食事片手に五人は情報を纏めていく。

「僕たち含めて二十七人、結構な人数だね。」

 既に死亡した人物もいるのと、
 彼女らが知らない死者も少なからずもいるが、
 六人が関連する人物は参加者の二割以上を占めている。
 情報としてはかなりありがたいものであるのは間違いない。

「全員の情報を纏めると……」

 頭の整理の為、ドミノが紙に今の人物の扱いを纏めておく。
 死者:道着の男(カンフーマン)
 危険:貴真、強姦魔(モッコス)、ヘルメットの男(ジャギ)、怪物(不動明)
 不明:軍服、大祐、伯爵(多分ノワール)、さとう、堂島
 安全:修平、琴美、悠奈、はるな、初音、結衣、真島、英吾、善、明、ドドンタス
 ついでにしおからドドンタスがディメーンに言及しているので、
 事実上二十八人の情報が得られたと言う結果に終わっている。
 また、ドドンタスは充の説明から生きてるかは怪しいとのことだが、
 しおを気遣って一先ずは生きてると言う扱いで話を進めた。
 因みにドミノが怪物の容姿だけは絵に描いててみるも、
 大体がそれを見た反応は何とも言えないものであった。
 彰だけは『個性的な絵ですね』と(多分)褒めてたが。

「さとちゃんは、えっと……ふめーなの、なんで?」

「……さとうって子はしおをすごく大事にしているから、
 怖いおじさんに襲われたのを守れなかったから、怒るかもって思っただけよ。」

 疑問を浮かべるしおの頭を撫でつつ答える。
 誘拐犯である可能性が高いさとうはかなりグレーだ。
 誘拐が露呈して殺しに来る……そういう可能性もあるにはある。
 別にしおをどうこうするつもりはないので、余り事を荒立てたくはない。
 (彼女は知らないが)七原が関わったスリの少年の父親に対しては言うことは言ったが、
 さとうと言う人物はしおに対して酷いことはしておらず、寧ろ大事にすらしている。
 性的行為も強要してなければ虐待もされてない。まるで恋人や夫婦のような傷がない身体。
 外出こそ許さなかったが、それ以外はやつれた子供の父親の最低さと並ぶことはまずない。
 だから後のことについてはしお次第。彼女が攻撃してくるなら対応はするがそれだけだ。
 なお、しお不在の際にいなかった彰以外にはこのことは伝えてある。

「さとちゃん、とっても優しい人だからだいじょうぶだよ?」

「優しさの度が過ぎちゃうと、道を踏み外すこともあるのよ。覚えておくことね。」

 優しすぎる善、趣味が他者にとって行きすぎた狩野。
 イカれた奴がヴァンパイアになる。だからそれがある意味普通だ。
 ドミノにとってそういう行きすぎた奴を沢山見てきたからこそ言える。
 善意だろうと、何処か頭のネジが外れた連中。それがヴァンパイア。

「わかった!」

「それにしても……まさか君があの子の弟だったんだね。」

 ドミノがしおと話してる間、
 隣の席で充が向かいの彰へと会話を切り出す。
 十四人が団結した後は持久戦のような状況になった。
 娯楽もなく自給自足の生活ではやることが少なかったので、
 時折会話しながら過ごしていたので、多少だが彼女の姉である蒔岡玲とも交流がある。
 玲と多く時間を過ごした司や悠奈程の交流はなかったので、本当に断片的だが。

「姉さんがお世話になったようで……ありがとうございます。」

「いや、寧ろ僕こそ君にお礼を言わなくちゃ。
 君がいたから彼女が生き残ることができて、
 僕達はあの殺し合いでも諦めず立ち向かえたと思うと、ね。
 まあ全員生還は叶わなかったし、此処にかなり巻き込まれちゃったけど……」

369邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:47:25 ID:i4Wwbhok0
 修平が悠奈と出会ってから叛逆の物語が始まった。
 悠奈と言う理不尽に抗い続けた少女がいたからこそ。
 集わされた十四人は団結して、立ち向かうことができたのは事実。
 彼女が彰から貰った命は、少なくとも死んだ自分を除く他の十二人を救おうとした。
 彼のお陰であの時殺し合わずに済んだと思えば、寧ろ初音ちゃんを救った恩人に近い。
 であれば、礼を言うべきで相手であることは間違いなかった。

「この軍服が合ってれば、知り合い含めて十三人。
 流石にちょっと多すぎない? 私達ですら五人よ。」

「僕達のゲームから着想を得たとか?」

「それにしたってバランス崩壊してると思うよ……僕から見ると。」

 まさに天災とも言うべきあの戦いを見た以上、
 あれに匹敵する参加者など充の知り合いにはいない。
 ボクシング? 剣術? 銃の扱い? それが何の役に立つのか、
 とでも言わんばかりの暴威。支給品でどうこうできるわけがない。
 (メガンテの腕輪なんてものはあるが、あれは勝つためのアイテムではない)
 戦えばまず100%敗北することが約束されているような参加者に、
 一体どこに需要があったのか謎ではあるが、そのおかげで参加者の質は問わない、
 或いは特定の参加者の存在に注力されてる可能性があると言う結論には行きついてはいる。

「司君ならもっといい考察ができてたと思うけどね。」

 工学面では同じゲームに参加してた司には勝っていたが、
 基本的には冷静に物事を見れる彼の方に軍配がある。

「真祖のヴァンパイアの視点があるならば、
 人から見える視点もある! それに、現状は君が打破の鍵だ。
 投げ出せば君の言う阿刀田君も悲しむのだから、大事にしておくんだ!」

「は、はい。」

 勢いの強い日ノ元に思わず委縮する。
 得られた情報の中で現状首輪を何とかできる可能性は、
 二十七人の情報がありながら充、或いは知識だけなら英吾と限られている。
 状況が状況だったのもあるが、今後は大事にしなければならないと自覚を持つ。
 そういう意味もあるが、ドミノからも詳細はないが十分な情報を伝えられた。
 所謂選民思想。その為なら犠牲を払ってでも成し遂げんとする冷酷さ。
 この熱血漢の裏にそういうことを考えてるとは思えないのもあるが故だ。
 気圧されてると言うよりは恐怖。奴隷で済ませてた黒河がかわいく思える。

(城咲充か……)

 下衆、屑物、保身、恩義、憎悪、野心。
 燦然党に集まった者は取るに足らぬ愚民ばかりだったが、
 ドミノについていった七原健。彼だけがひかりをはなっていた。
 彼程のものは期待できないが、彼にも光るものを感じた。
 己が理を以って、この殺し合いを打破しようと言うその理想。
 誰かに頼ると言うところは誰かが何とかすると思う愚民と同じだが、
 一方で自分の目的の為ならば自分の命も惜しまず、初音が生きる世界を望む。
 彰と同じく、最初から最後まで一貫してその理想を曲げないところは共通するが、
 彼の場合は彼女を守る為ならば、知り合いであっても引き金が引けると言う確信がある。

(欲しい人材ではあったな。)

 綺麗事が過ぎるわけではない、
 と言うところを見ると日ノ元が最初に必要とした人材、
 その条件としてはかなりいい具合に揃っていただけに残念だ。
 先に出会っていればこちら側に引き込めていたであろうに、余計に思う。

「にしても富士山の噴火も知らないって言うなら、完全に別世界ってことかしら。」

 あれだけ有名なものを知らないで済まされるわけがない。
 しおは家から出たことがないので外部の情報はテレビだけで分からないものの、
 残る二人は日常を過ごしていながら知らないのであれば、此処にいないオフィエルの存在もあり、
 別々の世界の人間であると言うことは少なくともはっきりとしていた。
 もっとも、オフィエル抜きにしても戦ったあの怪物はヴァンパイアとは少し違う。
 弱体化してもなお真祖に匹敵するその力、あの世界にいればまず耳に入る。
 それがないと言うことは、そういうところに答えが行きつくものだ。
 原理とか過程とかはない。問いを見た瞬時に答えるような、所謂直感。
 事実それが当たりだ。

「ドミノさんと日ノ元さんは火山を経験していて、
 僕と充さんがあのゲームを知っていて、この子は……」

「大事にされすぎてたから、分からないわね、」

 監禁や誘拐とは言わないように、
 一先ずそれっぽいことを言って適当に誤魔化す。
 外界の情報は殆どテレビだけでは仕方がないだろう。

「戻ってみれば、ホテルにいるとはどういうことかと思いましたが、
 なるほど……彼女がドミノ・サザーランドですか。納得しましたよ。」

370邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:48:59 ID:i4Wwbhok0
 ホテルの扉を開けながら、
 オフィエルが足音と共にやってくる。
 広々としたホテルなので声は響き多少だが外に漏れてたので、
 話は少しだけ理解していたが、よもや相手がドミノだとは思わなかった。
 人使いが荒いかと思えば、とんでもない組み合わせには驚かされる。

 具体的な内容は把握できてないので、
 軽くではあるがオフィエルにも共有した情報を伝えておく。
 日ノ元明と余計な敵対をする可能性が下がるかもしれない、
 と言う意味ではこの状況は悪くはないものだと彼は感じる。

「なるほど、一時的な共闘関係ですか……心得ました。」



「それで、件の男は?」

「逃走中の所を追跡、交戦しましたが逃げられました。
 方角は北西は分かりましたが、私の術式も制限のせいで……いや、
 力の制限を言い訳せずに気丈に振る舞う貴女の前でそれは失礼でしたね。」

(日ノ元なら分かるのは当然だとしても、この男も見抜いてきた。
 医者とだけあって、些細なものでも見破るのは気をつけておくか。)

 初対面で疲弊してるのを見破られるとは思わなかった。
 日ノ元が傘下に入れる人材だけあって、かなり厄介な人物だ。

(……にしても、医者って言う職業は拗らせるのが好きなのかしら。)

 堂島といいこの男といい、
 医者が持つにはスケールがでかい理想を持つ。
 人の命を預かるストレスが拗らせていくのだろうか。
 医者と言う職業に不信感を持ちたくなってくる。

「とにかく、申し訳ないことに逃がしました。
 一応彼の物は奪うことには成功しましたが……それと、道着の男の首輪です。」

 ジャギが所持していた銃、それとカンフーマンのデイバックと首輪がおかれる。
 ランダム支給品は既に自分の方へと移していたから入ってはいないそうだ。
 首輪については、元々オフィエル自身が切り落として回収したものではあるのだが。

「殺し合いに乗った奴が首輪を奪うって変なことをするわね。」

 首輪一つで何か景品とかもらえるとか、
 そういう情報があるならまだしも支給品はともかく、
 首輪を手に入れる意図が今一つ分からない。

「脅迫による解除目的か、スコア気分か……なんにせよ、
 殺し合いに乗った輩の考えなど理解できかねますが。
 徒に人を殺め、徒に災禍を撒き、徒に争いを起こす。
 最早処置なし、手遅れだ。あれこそがこの争いの病巣の一つ。」

「そうね。そのとおりか。」

 彰の情報とオフィエルの情報が一致する。
 であれば相手は自我をなくした怪物と違ってただの三下だ。
 彼女にとって排除するべき敵である事実は揺るがない。

「ただ、アンタの言い方はむかつくけど。」

 別にジャギに肩入れする余地などないが、
 それはそれとして人を莫迦にしたお前の態度は気に入らない。
 オフィエルに向けられるのは侮蔑の眼差しだ。

「……今のは失言でした。医者ゆえの愚痴と聞き流していたければ。
 お詫びと言ってはなんですが、これらは其方が受け取っていただければと。」

 日ノ元側の陣営に銃を扱える者はいないか、
 銃を使うまでもない実力を持った人物ばかりだ。
 別に必要と言うわけではないので日ノ元も咎めるつもりはないし、
 首輪も解析のサンプルとして渡しておくのは正解であり、
 そもそも強姦魔に充のデイバックも持ってかれてしまった。
 ドミノも武器は不要なので、最終的にすべて充へと渡る。

「それで、ヘルメットの男への対処はいかほどに。」

「うむ! 追うしかあるまい!」

 明が後れを取ることはないだろうが、
 災禍を振りまく相手を放置するわけにはいかないし、
 彰もその方針で行きたいだろうし、何より現状行くあてがない。
 ともなれば、やることが事実上決まってないならそれで行く。

「改めてドミノ・サザーランド。
 一時ではあるが停戦協定と行こうではないか!」

「……ええ。でも覚えておきなさい日ノ元士郎───」










「玉座を掴むのは私よ。」

371邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:49:49 ID:i4Wwbhok0
 立ち上がりながら、日ノ元を見下すように宣誓する。
 絶対女王制。彼女の掲げる揺るがぬ理想。

「……フハハハハハ! 己が理を以って、世を変えんとする想い!
 まっこと強き者だ! 陰無き世界の為にはやはり越えねばなるまい!
 さて行くぞオフィエル、蒔岡君! オフィエルを煙に巻いた相手だ!
 時間をかければかける程に逃げられ、探すのが困難になるだろうからな!」

「仰せのままに。」

「はい、わかりました!」

「あ、ちょっとアンタだけは待ちなさい。」

 二人が席を立ちそれを追うように彰も席を立つが、
 少しだけドミノに引き留められて振り向く。

「アンタ、あいつから私の事どれぐらい聞いたわけ?」

「いえ、それを聞く前にドミノさんと会いましたから。」

「そう。信じるかどうかはアンタの勝手だし、
 知ったとしてどうするかのアンタの自由だけど、
 日ノ元には気をつけておきなさい。最悪死ぬから。」

 しおが服を乾かす都合、明は唯一オフィエルの理想も、
 日ノ元の本性も明確に理解しているわけではなかった。
 あの男は目的の為であるなら犠牲を厭わない奴だが、
 少なくとも今すぐに彰を殺したりすることはしないだろう。
 事実、今の彼は彰の味方として振る舞っているので、
 日ノ元がそういう奴だと伝えても伝わらないはずだ。
 此処には彼の所業を糾弾できる材料がないのだから。

「……ドミノさんって、いい人なんですね。」

「へ?」

 思わぬ返答に、変な声が出る。
 恩人を悪く言ってる相手に返す言葉ではない。
 寧ろいい人と言えるのであれば、善の方だろう。

「政敵、でいいんしょうか? お二人の関係は。」

「まあ……一応合ってるけども。」

 手段が闘争に置き換わってるだけで、ある意味では政敵か。
 誰が人の上に立つか、そういったところが真祖の特徴とも言える。

「僕は政治については疎いですが、一応日ノ元さんの側にいる僕に、
 態々忠告なんてしてくれる人はいい人に決まってるじゃないですか。」

 どういう意味で死ぬのかについては理解してるわけでないが、
 彼女が悪意によってそういう風に言ってるとは感じられなかった。
 少なくとも彰の中では、日ノ元はいい人と言うところはまだ揺るがないが、
 同時にドミノが日ノ元にとっての敵であっても、悪い人とも思えなかった。

「……呆れた。アンタ何処まで天然なのよ。」

 溜息すらつきたくなるような、
 天然と言うかボケてると言うか。
 双方の真祖をいい人扱いした奴は、
 いくら知らないとしても恐らく後にも先にも初めてだ。

「悠奈さんにも呆れられましたね。」

「でも、嫌いじゃないわよそういうの。」

 綺麗事が過ぎるような人物ではある。
 だが強い眼だ。自分には信じるものがある、
 理不尽のゲームの中でも決して諦めない気高さ。
 責任感があっていい人でバカで扱いやすいと言う、
 さながら善と七原のハイブリットかのような存在。
 先に出会っていればに下僕だったろうに、少しばかり残念だ。

「……あいつに嫌気がさしたら来なさい。
 下僕六号の席は、特別に空けておいてあげるから。」

 彰がこのまま日ノ元につくか、
 それともドミノへつくのかは彼次第だ。
 彼自身が白か黒かを選ぶ権利がある。

「下僕と言うのはちょっと……あ、僕行きます!
 充さんとしおちゃんも、気をつけてくださいね!」

 二人の後を追うように、彰も駆け足で向かう。
 三人の背中を見送ったあと、扉が閉じて静寂が訪れる。

「ドミちゃん。下僕って何?」

「私と肩を並んで戦う対等な奴よ。因みに充は五号。」

「ええ!?」

372邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:51:02 ID:i4Wwbhok0
 気を失ってる間にあった出来事なので、
 今更下僕扱いされてると言う事実に声を挙げる。
 奴隷の次は下僕。人権がないのかとすら思えてしまうが、
 意味合いからするに、こき使うは含まれていても奴隷よりはましだ。

「ほら、私もアンタも怪我してるから、
 此処に治療できそうなものあったら使うわよ。」

 此処はホテルとは言うが、
 内装は少し奇妙なものがいくつかある。
 調べれば何かあるかもしれないし、そも今は休息も必要だ。
 一度休んで、次の備えにすることとする。


【E-7/一日目 ホテルエレルナ/黎明】
【ドミノ・サザーランド@血と灰の女王】
[状態]:全身にダメージ(絶大)、疲労(絶大)、身体を再生中(外面だけは取り繕えています)主催に対する強い怒り
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2、応急手当セット@現実
[思考・状況]
基本方針:メフィスとフェレスとかいうクソ野郎二人は必ず叩き潰す
1 :自分と充を治療できるかどうかホテルを漁ってみる。なければ休息。
2 :下僕たち(佐神善、日ノ元明)に充や彰の知り合いを探す。
3 :首輪及び紋章を何とかするために、あの主催を知ってそうな参加者を探す。今は伯爵が有力。
4 :充としおを誰か安全な者に預けたい。日ノ元にオフィエル? 論外。
5 :あの悪魔(不動明)がまた挑んでくるようなら迎え撃つ。
6 :日ノ元士郎はここで斃しておきたいけど今は待つ。堂島は信用しない。
7 :しおが『下僕』になるかは彼女次第。
8 :日ノ元とは何とか協定を結べたけど、下僕たちはどうするのやら。
9 :強姦魔(モッコス)とヘルメット(ジャギ)は出会ったら潰す。
10:蒔岡彰、先に出会ってたら下僕だったんだけどねぇ……
11:伯爵の関係者も漁ってみる。
12:ユーベン……まさか?

[備考]
※参戦時期は88話から。
※真祖の能力に制限が課せられています
※主催者の関係者にユーベンが関係してる可能性を考えてます。
※ドミノ、しお、日ノ元、彰、オフィエルと情報交換をしました。
 充はDルートなのではるなと彼女から話を聞いた人物、
 途中までならCルートと同一なので途中までは結衣と話が嚙み合います。

【神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]:疲労(中) 服に湿気(小、時期に乾く)、不安(大)、男性に恐怖心(大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:とりあえず、さとちゃんと会う。
1:ひとまずドミちゃんに着いていく。
2:休憩したらドミちゃんと一緒にさとちゃんとドンくんを探しに行く。
3:さとちゃんともじゃもじゃおじさん、どっちがしろくてどっちがくろいかをちゃんと考える。
4:もじゃもじゃ―――男の人―――怖い!怖い!!怖い!!!
5:さとちゃんさとちゃんさとちゃん
6:あきちゃん、おねーちゃんじゃなかった。
7:すごくむずかしいお話してた。

[備考]
※参戦時期は1巻でさとうを探して外へ出る前です。
※モッコスの社会勉強で性について知りました。(手○キ、〇ェラは技法マスター。S○Xはやり方のみ)
※モッコスから教えられた事柄への関心が薄れました。



【城咲充@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:顔面腫れ、貧血(傷は止血済み)
[装備]:アークス研修生女制服 影@ファンタシースターオンライン2、柊樹@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD
[道具]:カンフーマンの首輪、カンフーマンのデイバック
[行動方針]
基本方針:初音ちゃんとしおを殺し合いから脱出させる。
1 :とりあえずホテルで休む。
2 :しおを女の子を安全な場所へ連れていく。
3 :男物の服はないのか?
4 :初音ちゃんを探し、護る。無論、他の仲間たち(悠奈、修平、琴美、結衣、真島、はるな、大祐)も。
5 :脱出の協力者を探す。
6 :日ノ元さんとドミノさんの関係、余り聞けてないけど黒河君と真島君みたいなものなのかな。
7 :ドミノさんに初音ちゃんを護ってもらう。
8 :初音ちゃん、強姦魔(モッコス)とかヘルメットの人(ジャギ)に襲われないといいなぁ‥…
9 :蒔岡君に出会えたのはちょっと嬉しいかも。
10:奴隷の次は下僕って何!?
11:工具あれば首輪を弄れるかも。

[備考]
※参戦時期はDルート死亡後。
※メガンテのうでわの説明書を読みました。
※ドミノ、しお、日ノ元、彰、オフィエルと情報交換をしました。

373邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:51:21 ID:i4Wwbhok0
【蒔岡彰@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
[状態]:顔に含み針の傷(目に支障なし、針は捨てた)、攻撃速度強化
[装備]:妖刀村正[改]@御城プロジェクト:Re
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:悠奈さんのところへと戻る。クリアせずともいい脱出方法で。
1:同じ考えの人を探す。
2:悠奈さんや英吾さん、それに姉さんが関わった人達に会いたい。
3:僕があの人(カンフーマン)の分も生きないと。
4:ドミノさんもいい人だ。
5:貴真さんは止める、絶対に。軍服の人は……もしかしてあの人?
6:ヘルメットの人(ジャギ)を追って北西へ。

[備考]
※参戦時期はZルートラスト、死後に悠奈と再会後です。
※ドミノ、充、しお、日ノ元、オフィエルと情報交換をしました。
 充はDルートなのではるなと彼女から話を聞いた人物、
 および途中までならCルートと同一なので途中までは結衣と話が嚙み合います。
 オフィエル、日ノ元の具体的な本性については教えられていません。

【日ノ元士郎@血と灰の女王】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
基本:立ち塞がる主催の面々は打ち倒す。
1:『主催を打倒する』という目的を持った者たちを集める。
2:今はドミノと戦う時ではないようだ。だが佐神善は出来れば始末。
3:日ノ元明は見つけ次第保護する。
4:先生には念の為警戒。
5:オフィエルの言っていた男の為北西へ向かう。
6:蒔岡彰、まっこと素晴らしくも、惜しい愚民だ。
7:城咲充の方もより惜しいが、七原君に近いので相容れない気もするな。
8:オフィエルも何かしら行動はしてそうではあるな。
9:三人目の真祖、奴は何もせんだろうが気をつけてはおこう。
[備考]
※参戦時期は最低でもドミノ組との開戦前
※真祖としての力に制限が課せられています
※三人目の真祖(ユーベンではなく原作で言う四人目)が主催に関わってると考えてます。















 さて、ジャギはどうなったのか。
 実はあのホテルに彼も居合わせてはいた。
 ただ一人、オフィエル以外に知られることなく。
 時は遡り、日ノ元がドミノと相対していたころ。
 二人は河を越えて森の奥にて二人で相対していた。

「此処なら君にとっても都合がいいだろう。さて、話を───」

 言葉を終える前に銃声が轟く。
 先ほどと同じように術式の転移で回避する。

「話は最後まで聞くべきだ。君にとっても悪い話ではない。」

「うるせぇ。てめえのその声にイラつくんだよ。
 その声……その声がよぉ! 弟に似てんだよ!!」

 この覚えのある声はあのケンシロウと近い。
 ただでさえ苛立ってるのにケンシロウの声で語るなど、
 聞く耳を持ち続けることなどとてもできそうになかった。

「……現状を見ず、未来を見ようともしない。
 その思考、その考え。まさに! 病巣と言うほかないだろう。」

 こうしてる間にもこの殺し合いで人が芥へと消えていく。
 約束を守る保障もないのに、ただ一時の感情で殺し合いに乗る。
 彼の思考については、最早手遅れと言うしかなかった。

「その病巣、取り除かせててもらう。これより───術式を開始する。」

 両手をオペを始めるときのように構えると、
 青い箱状の空間がジャギを、周囲を覆っていく。
 領域展開。薄くエーテルで周囲を覆うことで壁を作ることで展開するオフィエルの能力。
 脱出は(ファレグに壊される前の時期から此処にいるので)事実上不可能だ。

「我が領域は我が意のままに繋がる。故に!」

 右手を挙げると同時に、上空から大量のナイフがジャギへと降り注ぐ。
 この空間内であれば座標を移動させることができるのは自分だけではない。
 本来ならメスを投げれたが、この殺し合いの舞台の座標が分からない以上、
 現在は支給品であるナイフを代わりとして攻撃している。

「な……北斗羅漢撃!!」

374邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:52:18 ID:i4Wwbhok0
 降り注ぐナイフを早い突きで次々と蹴散らしていく。
 カンフーマンの支給品である篭手の強化効果も相まって、
 疲弊した割にはすさまじい勢いで、そして無傷で処理できる。
 雨の如く迫る攻撃に怖気づくことなく対処できるのは、
 腐っても伝承者争いの候補者だけの実力はあると言える。

 ナイフを対処しきった後、そのままオフィエルへと突っ込む。
 だが、不意打ちですら対処してきたオフィエルに対して、
 正面から攻撃を仕掛けたところで隔離術式で避けられるだけだ。

「グエッ!」

 攻撃を盛大に外した背後から、ジャギを蹴り飛ばす。
 無防備な背中へとダイレクトに決まり地面へと転がる。
 起き上がろうとするも、それを妨害するように背中を踏みつけられて釘付けにされた。
 はっきり言おう、ジャギが逃げなかった時点でこの戦いは結果が決まったことだ。
 方や疲弊しきったジャギ、方や無傷で有利なフィールドに持ち込めたオフィエル。
 何方が勝つかどうかなど、語るに及ばず。もっとも、万全であっても苦しすぎるが。
 オフィエルは遠距離攻撃がメイン。近接攻撃が殆どなジャギは圧倒的不利だから。
 ケンシロウの天破活殺、或いはラオウの北斗剛掌波でも体得してればまだ勝ち目はあっただろう。
 そのような技ができないからこそ、こうなってしまったのだが。

「畜生ッ! 俺は、北斗神拳伝承者ジャギ様だぞ……!
 こんな、拳法もなんもねえ野郎に負けるって言うのかよ……!
 二千年の、北斗の歴史が、こんな……!!」

 才能あるやつらばかりが周りにいた。
 誰を超えることもできず、ただどんどんと差を付けられるだけ。
 極めつけにはこの場で見知ったばかりの相手からさえ酷評された。
 既に彼のプライドはズタボロだ。

「……マザーであれば、きっとお前も救っていただろうな。」

 どうやら自分が使う拳法に関して誇りを持っているらしい。
 周りがそれを認めなかったとか、そういったものだとオフィエルは察した。
 周りが認めたがらなかったと言えば、以前のマザー・クラスタの同志オークゥを思い出す。
 もっとも、ジャギの場合は周りが凄すぎたから相対的に潰れかけていたところなので、
 オークゥが才覚があるのに周りから認められずに潰されかけたので厳密には違う。
 あくまでなんとなくオークゥに似た境遇の奴、と言う風にしか思わない。
 もし彼女が生きていれば、彼を仲間に誘っていた可能性はある。
 もっとも、そのマザーを裏切って殺したのはこの男なのだが、

「私は殺す気などない。
 最初から話を聞けば此方も取り計らったが、
 最初から殺し合いに乗る争いしか考えない奴には無駄か。」

 倒れてるジャギのヘルメットを強引に奪う。
 様々な患者を診てきたが、これほどまでの傷は中々になく、
 流石のオフィエルでも僅かながらに顔を強張らせてしまう。

「てめ、何しやがる……!」

「何、容態の確認だ。医者がクランケに服を着せたままオペなどしない。
 それと同じようなものだ。私の術式が失敗しないよう想定しての行動だ。」

 彼の目を塞ぐように右手を翳す。
 青白い、エーテルの輝きがジャギの視界へと映り込む。

『それ以上考える必要はない』
『心静かに目を瞑れ』
『無理をするなジャギ』
『私は君の願いを後押しする者だ』
『余計なことを考えなくてもいい』
『私と共に戦おうではないか』

 ケンシロウのような、耳障りな声。
 だと言うのに何故だ。心が落ち着かされる。
 落ち着いてるではない。意識が朧げになっていく。
 自我を保とうと暴れるが疲弊した身体は鉛のように重たく、
 時間が経てば経つほど抵抗する力は弱弱しくなり、ジャギの意識は闇へと落ちた。

「……随分と時間がかかるな。」

 オフィエルのできる、エーテルを用いた洗脳。
 数分もあればできたがそこそこ時間を費やされた。
 一方で、いくつか命令をしてみると以前洗脳した鷲宮氷莉とほぼ同じだ。
 口調は悪いが従順だ。悪いと言っても元々の喋り方は反映されるもので、
 氷莉も狂気こそ孕んではいたが、元々の喋り方のままで他者と接していている。
 情報を引き出してみるが他の参加者の知り合いはなく、彰と道着の男以外の情報はない。

「駒としては今一つだが、今後役立ってもらおうか。」

 支給品の武具も回収し終えると、
 背負ったデイバックからカードを取り出し、それをジャギへと翳す。
 翳せば一瞬でジャギの姿は消失し、代わりに一枚のカードが宙を舞う。

「私にとって実に便利なものだ。」

375邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:54:27 ID:i4Wwbhok0
 宙を舞うカードを、指で挟む。
 手に握られたそれに映っていたのは───ジャギだ。
 オフィエルに支給されたカードは『ホカクカードSP』。
 参加者をカードにすることができると言うアイテムだが、
 破くなりすると参加者が解放されてしまうデメリットがある。
 普通に考えれば、誰の手にも回収できないよう禁止エリアに放り込む、
 と言う形で使ったりするしかないが、彼の使い道はそこではない。

(使い方次第で今後を左右する。)

 生きたまま参加者を持ち歩くことができる、と言う点だ。
 洗脳したはいいが日ノ元たちに彼を見せるわけにはいかないし、
 真祖相手に隠れるようについて行かせてもそのうちバレる。
 故に洗脳した参加者を気付かれず連れていける、この点に注目していた。
 これならば日ノ元明をホカクカードで手元に残すこともできる。
 いざと言うとき日ノ元明が重要になれば交渉材料に使えるのも強みだ。
 無論、参加者問わず捕まえられるわけではない。ちゃんと限界は存在する。

「ふむ、簡単なヒストリーも確認できるのか。」

 カードのテキスト蘭には彼の生い立ちが断片的だが記されていた。
 北斗四兄弟、その中で最も実力の劣った北斗の暴君としての経歴。
 読んで特に思うことはない。オークゥと似たようなものと言う評価は変わらず、
 何より外道である彼に対して思うところなど、争いの火種を撒く存在なのも変わらない。

「所詮は、未来を考えもしない凡庸な俗人か。」

 カードをしまって、オフィエルは領域を解除し、
 ナイフを回収して先ほどいた場所へと戻った後は知っての通りだ。
 これが誰に知られることもなかった、オフィエルだけが知る戦い。
 そう、あの場には意識はないがジャギはそこにいた。彼のデイバックの中で。
 目的の為ならば仲間やマザーを手にかけ、人の友情を利用だってする卑劣な男だ。
 使い倒すことに何ら躊躇はない。寧ろ争いを繰り返す愚民そのものならば、
 むしろ使い倒すことの方がよほど世界にとってもありがたいこととすら思う。

 ジャギを解放する手段は三つある。
 一つはオフィエルの死亡と言う至って単純なものだが、
 彼が死亡するような状況において、ダメージのあるジャギが助かるなど皆無だ。

 一つは八坂火継が持っていた具現武装『天叢雲』の浄化の力により斬ること。
 術式だけを切断できる彼女のそれであれば、ひょっとしたら可能かもしれない。
 だが、それが誰に支給されてるかもわからないような刀を当てにするのは怪しいし、
 そもそもこの舞台にそれがあるのかどうかさえ分からないのだから当てにはならない。

 一つは強い矛盾に遭遇すること。鷲宮氷莉の洗脳が解けそうになったときは、
 火継と一緒に過ごしたいのに、思い出のある学園を壊すと言う矛盾があったからだ。
 その時は再度洗脳を施せばどうとでもなったので他の手段よりも簡単ではないし、
 この男はこの場に知り合いはいない。その矛盾に出くわす可能性もまた皆無。
 ───つまるところ、彼は事実上この戦いにおいて生きながらにして脱落した。

 世界を救うための戦いは、水面下で静かに行われている。
 真祖も跋扈する中、北斗の暴君程度の存在が入る余地などどこにもない。

【ジャギ@北斗の拳】
[状態]:ダメージ(大)、ずぶぬれ、苛立ち(特大、特にオフィエル>彰)、顎並びに両膝に痛み 右足腫れ、オフィエルの洗脳、カード化
[装備]:間久部緑郎の靴@ バンパイヤ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:優勝して今度こそ返り咲く。
1:……
[備考]
※参戦時期は少なくとも死亡前、極悪の華も反映されてます。
※カンフーマンを不意打ちで斃したため、ディメーンの放送はきちんと聴いてはいません。
※オフィエルに洗脳されています。
 オフィエルの死亡、または記憶の齟齬等により洗脳は解除されます。
※ホカクカードSP@スーパーペーパーマリオによってカード化されてます。
 カードが破かれたりされない限り限り一切の行動ができません。
 また、体力も回復しません

376邂逅、紅陽の祖 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:54:43 ID:i4Wwbhok0
【オフィエル・ハーバート@ファンタシースターオンライン2】
[状態]:疲労(中)
[装備]:ホカクカードSP×4@スーパーペーパーマリオ、咲夜のナイフ×大量@東方project
[道具]:基本支給品×2(自身、ジャギ)、ランダム支給品×1〜3(カンフーマン×0〜2、自身×0〜1、前者は未確認)、ジャギのカード、針×8@アカメが斬る!、黒銀の滅爪@グランブルーファンタジー
[思考・状況]
基本方針:願望を果たすまで死ぬわけにはいかない。場合によっては主催側へつくことも検討
1:日ノ元士郎に同行し、彼を見極める。
2:念の為に色々と仕込みを済ませておく。ホカクカードもそれに関して有用だ。
3:ジャギは体よく使い倒す。文字通りカードの使い時が大事だな。
4:あれがドミノか……余り敵視されないようにしておこう。
5:意味はないが北西へ向かう。
[備考]
※参戦時期はEP4-8「壊れた進化」から
※隔離術式による対象の隔離及び空間接合による転移に制限が課せられています
※洗脳は初回は至近距離でのみ可能、洗脳にも時間を有します
 解けかけの相手であれば、コオリの時のように数メートル離れてても可能です
 精神的に脆かったり弱い相手であれば特に滞りなく可能ですが、
 洗脳に対する抵抗や洗脳できる人数の制限等は後続の書き手にお任せします
※彰、充、ドミノ、しおから参加者の情報を得ました。
 但し充の参戦時期はDルートなので、
 彼以外でははるなから話を聞いた人物、
 途中までであればCルートの結衣は話が通じます
※咲夜のナイフの本数は少なくとも五十本以上ですが、
 具体的な数は後続の書き手にお任せします。



【黒銀の滅爪@グランブルーファンタジー】
カンフーマンの支給品。無間の闇は至りし者を呑む一切の災禍を祓う。
創世の破壊を宿す鉤爪は、その威によってあらゆる暴虐を生み、永劫の静寂に君臨する。
アストラルウェポンと呼ばれるゲーム中において最上位の性能を持つ武器で、
スキル『禍滅の支配者』は闇属性に該当する人物の攻撃力を上昇させる。
ジャギの場合は性格上闇属性として扱えるため、彼自身の攻撃性能が向上した。
オフィエルは水の使徒であるため使ってもただの爪付きの篭手
スキル『アストラル・クロ-』については、ロワ中で再現が難しいので、
あるかどうかについては後続の書き手にお任せします。
因みにパズドラコラボにおけるジャギは闇属性。

【アークス研修生女制服 影@ファンタシースターオンライン2】
彰の支給品。文字通りアークスの研修生の女性が着る制服。
影は他の制服より黒に寄っている。特別な性能は多分ない。

【咲夜のナイフ@東方project】
オフィエルに支給。十六夜咲夜が用いていたナイフ。
銀のナイフだが、血と灰の女王のヴァンパイアに通じるかは不明。
頑丈になった天子に刺さらないことから恐らく銀であること以外の特別な性能はない。
少なくともオフィエル領域展開中に湯水の如く使えるだけの数は支給されてる。

【ホカクカードSP×5@スーパーペーパーマリオ】
オフィエルの支給品。作中ではコレクション兼特効アイテム。SPは通常よりも成功率が高い
一定確率で生物をカードにするアイテム。所持してるだけで対象に二倍のダメージを与えるが、
分身とかの能力でもない限りこの効果はロワでは意味がないので主に参加者を持ち運ぶアイテム。
レベル差があるとより成功しやすくなるのがゲーム上での扱いだが、本ロワでは体力差で判定される。
カードにされた参加者は死亡した扱いではなく、破いたり燃やせば元の状態へと戻る。
ぶっちゃければ参加者に使えるモンスターボール、ないしエニグマの紙。出す際は使い切りが主に相違点。
但しカード化の際は相手が視界に入ってる必要があり、成否問わず使用したら消耗するので無暗に使えない。
また断片的だが、カードにした相手のヒストリーが書かれる。内容は細かくはないが。

≪ホテル『エレルナ』@よるのないくに2≫
教皇庁が管理していたホテル。カミラに管理が任されており、
作中ではアルーシェ達の活動の拠点となっている場所。
西洋風のホテルにプールと、一通りの設備は揃っている。
アーナスにとって助かることがあるかも?

377 ◆EPyDv9DKJs:2022/02/04(金) 09:55:52 ID:i4Wwbhok0
以上で投下終了です
オフィエルのメスについてですが、彼の具現化武装のものではないと判断してます

378 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/05(土) 17:19:56 ID:5KzBnQZw0
投下お疲れ様です!

邂逅、紅陽の祖
題名通りにドミノと日ノ元がついに邂逅……!
参戦時期が互いに決戦前だからこそ成立した同盟。
ですが、暗躍するオフィエルがいるので、緊張感はありますね。
ジャギ……弟に似ている声の主にいいようにされるのは、哀れですが、まぁジャギだしねと思ってしまう自分もいます。
何気に二人の真祖に評価される充にグッとガッツポーズを思わずしてしました。
それと、ついに全裸状態から脱却からのまさかのアークス研修生女制服に吹いちゃいました(笑)
しかし、彰にそれが支給されていたのはまた(笑)

城本征史郎、清棲あかり、パンドラボックス、立花特平/トッペイ、レオーネ、ミスターL、藤堂悠奈、松坂さとう、赤城みりあ、ベルトルト・フーバー、アルーシェ・アナトリア、アーナス、で予約します。

379戻りたい場所、明確な景色 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/06(日) 05:43:53 ID:Afe.j7020
投下します

380戻りたい場所、明確な景色 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/06(日) 05:45:19 ID:Afe.j7020
 みすぼらしいアパートが一つある。
 チャイムやドアホンなんてない。雨露凌げれば、
 それでいいかのような実に安っぽいアパートだ。
 気の利いたものがない代わりにノックが三回鳴り響く。
 応答はなく、もう三回ノックをすると中から人が出てくる。

「さっきからやかましいんね! このクソボケ……」

 またうるさ大家が難癖付けにがやってきたのか。
 そう思って開けてみれば、そこに嫌気のさす大家の顔はない。
 視線を下に向ければ、同じ髪の色を持った見知った少女が立つ。

「さ、沙都子!?」

「こんにちは、叔父様。」

「ち、違うんね! ワシははてっきりクソボケの大家が、
 また難癖につけに来たんかと……怒鳴って悪かったと。」

「もういいですわ。許して差し上げますのよ。」

 相手が残された唯一の家族であったことが分かると、手を合わせながら謝罪する。
 もう見慣れた光景であり、沙都子の表情は虚ろ目で少し呆れ気味だ。

「ほんまか? こんなところに立たせとくわけにもいかんね。中で茶を……」

 そう言って室内を見やるが、ものの見事にゴミ屋敷だ。
 足の踏み場どころか、衛生面的にもとてもよろしくない。
 その光景に、沙都子は更に溜息を零す。

「全く信じられませんわ。どうして男の人は、
 こんな状態になっても気にならないのでございましょ。」

「めんぼくないんね。」

「まずは掃除にいたしますわよ。
 叔父様は部屋のごみを集めてくださいまし。」

「は、は、はい……」

 近くにあったはたき棒をビシッ、と向けられ鉄平はたじろぐ。
 年下の子供と言えども、言ってることは至極正論であり、
 返す言葉もないので素直に部屋の掃除を手伝い始めた。
 ゴミと言うゴミは外へと出されて布団もしまわれて、
 狭かったはずの家が、広く感じられるような状態だ。
 テーブルに出された数々の家庭料理を前に、鉄平は瞳を輝かせる。
 不摂生を形にしたような食生活ばかりを続けていた彼にとって、
 ごく普通の家庭料理ですら、高級料亭に勝るとも劣らない、
 いや沙都子が作ったと言う観点からそれ以上のものになる。

「ワシは幸せ者なんね……可愛い姪っ子にこんなにしてもらって。」

 共に食事をとりながら、
 今の環境に鉄平は涙を流す。

「なのにワシはあんなに酷いことばっかりすまんな……! 沙都子許してくれぇ!!

「昔の事ですのよ、いいんですのよ叔父様。」

「よくないんね! 沙都子のことは絶対ワシが守って見せるんね!」

 自分の唯一のよりどころだ。
 クズの権化とも言えた過去を持つ自分を、
 もう一度家族として受け入れてくれた沙都子には感謝してもしきれない。

「頼もしい限りですわね……さて、
 そろそろ暗くなることですし戻りませんと。では叔父様また■■───」

「え?」

 ありふれた日常。
 姪っ子が時折来ては料理を振る舞って、
 自分を励まして夕方には家へと帰る。
 これが自分の知る、ありふれた光景のはずだ。
 でもおかしい。何かがおかしいと彼女の服の袖を掴もうとする。

「さ、沙都子。少しだけ───」

 待って。
 そう言おうとした瞬間、アパートの扉は沙都子によって開かれた。
 狭い通路はなく、見慣れた光景もない。ただ広がるのは───暗黒。

381戻りたい場所、明確な景色 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/06(日) 05:46:53 ID:Afe.j7020
「!?」

 その光景に袖ではなく、手を引っ張って距離を取ろうとするが、
 ブラックホールのように彼女は吸い込まれて、手は届かない。

『ワ〜ルワルワルワルワル!! 
 この世の全ては無意味だ。価値のあるものなど一つもない。
 ヨにはそんな世界が我慢ならぬ。だから全てを浄化するだけでワール!』

 どこかで聞いたような声が背後から聞こえるが、
 そんなことはどうでもよかった。沙都子を守らないと。
 空間に飲まれた彼女は潰れていく。腕が、足が、顔が。
 全てがばねのように潰されて───

「沙都子───ッ!!!」

 上半身を勢いよく起こしながら目を覚ます。
 汗がシャツ染み付いて、気持ち悪い感覚がする。
 今見ていたのが夢であると言うことを認識すると、
 先ほどまで塔にて戦っていた記憶を思い出す。
 なのだが、今は別の場所にて寝かされていた。
 平安京と言う舞台ではそう珍しいものではない和風建築の建物で、
 畳の上に布団と、随分と丁寧な扱いをされて此処にいたことが伺える。
 襖の開いた縁側から見える紅の空は、悪夢は続いてると言わんばかりに広がっていた。

「ワシは、まだ生きとるんか。」

 死後の世界なのか、まだ殺し合いの舞台なのか。
 それを知るべく首に手を当てて、その証明たる存在に触れる。
 あらゆる参加者が生殺与奪の権を握っているそれは未だ健在だ。

「そうだ、沙都子に嬢ちゃん達!」

 布団で寝てる場合か。
 気付くとすぐさま布団から出て、縁側から回り込んで玄関へと向かう。
 平安京らしく白い塀に囲まれているので、出るには玄関の門しかない。
 庭に敷き詰められた小石を踏み音を立てながら、玄関口へと向かった。

「目が覚めたのか。」

 門を見つけた時、
 音を聞いてか零児が玄関から顔を出す。
 気絶していたので零児とは面識はなく、
 警戒を強めて鉄平は数歩後ろへと下がる。

「兄ちゃんは……」

「沙都子ちゃんを保護してた人です。」

 零児の後ろからリリアーナも姿を見せる。
 彼女が無事であったことに安堵の息を吐く。
 あれだけの攻撃をして、疲れを見せないのは流石聖女だと感じた。

「そうか、兄ちゃんが……ところで、沙都子は何処におるねん?」

 心配そうに彼女の後ろを見たりして沙都子を探す鉄平。
 何も知らない姿に、リリアーナは申し訳なさそうに目を逸らす。
 彼女を尻目に、零児は無慈悲にリリアーナから聞いた顛末を告げた。
 遠からずディメーンが言っていた定時放送と言うものが始まる。
 定時放送は殺し合いをするしかないと言う状況へ持ち込むはず。
 となれば、自分の知り合いや自分が危険な状況を煽るだろう。
 今嘘を吐いたところで、すぐにばれるような嘘など意味がない。
 だから告げる。彼が探した少女は、もうこの世にいないと。
 遺体だけでもと思って向かったが、それは告げないで置いた。
 大切に想ってる相手が、腕しか見つからないなどと言えたものではない。
 いや、それが彼女の腕かさえ彼には判断がつかなかったが。
 飛んできた遺体の腕があったかも、今思えば確認してないのだから。

 告げられた内容を前に、鉄平は膝をつく。
 小石がじゃらじゃらと鳴り響くその光景は、
 鉄平の心も崩れ落ちた瞬間とでも言えるかもしれない。

「沙都子は、まだ普通の子やったんね。」

 膝をつき、手をついて四つん這いに項垂れる鉄平。

「まだランドセル背負って、友達と学校行く年だったんね……」

 表情は伺えないがわかる。
 震えた声と身体で告げられる言葉は、
 彼がどれだけこの状況に悲痛な思いを抱いているのか。

「なんでや! なんでワシやのーて沙都子が死なないかんね!?
 こんなクズでどうしようもない、ワシだけがのうのうと生きとるんね!?」

 涙を零しながら泣き叫ぶ。
 魔女の姿など露知らずな彼にとっては、
 沙都子とは自分を変えてくれた唯一残された家族だった。
 自分が死ぬようなことになっても、沙都子だけは助けたい。
 どうしようもない自分が、最後にできる贖罪とも言える彼女を守る。
 なのに、なんだこれは。彼女が一体何をしたと言うのか。
 こんな意味の分からない殺し合いの犠牲者にされたなど、
 信じたくなかった。

「ごめん、なさい。」

 泣き崩れる鉄平の前に、美炎も姿を見せる。
 彼女も気を失っていたが、彼の叫びで目が覚めた。
 沙都子を連れてきたのは自分だ。自分が連れてこなければ、
 あんなことにはならなかったのだから。

382戻りたい場所、明確な景色 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/06(日) 05:48:01 ID:Afe.j7020
「美炎さん……」

「美炎のせいじゃない。普通に、銀髪の軍服の女と伯爵の二人が原因だ。」

 完全に殺し合いに乗った参加者だ。
 和解はできないし、敵も頭も実力も十分に備わっていた。
 口伝なのでしっかりそその姿を見てないので判断はつかないが、
 仕方ないと言うつもりはないものの難しかったとも思えている。

「でも……」

 原因は彼女達だとしても、
 零児に任されたことは事実だ。
 人を守れず、その上血縁者がそこにいる。
 自分だけしか守ることができず沙都子を守れずに、
 更に目の前に守れなかった結果をこうして見せつけられている。

 刀使をしていると、出くわすことは少なからずある。
 警察同様、いつだって荒魂相手には後手に出回るのが刀使だ。
 どれだけ強くてもどれだけ鍛えられても。
 その刃は現場にいなければ決して届かない。

「最善は尽くした方だ。合理的に見れないのは分かるが、
 彼女がいなかったら軍服の女は速やかにあゆりを殺害し、
 そのまま美炎を無傷の状態で応戦してたはずだ。」

 沙都子どころかリリアーナも鉄平も、
 全滅の危機だってあり得たかもしれない。
 少しの些細な違いが、全てを変えることはままあることだ。

「お互いに彼女を死なせてしまったではなく、
 彼女に守ってもらったと思う……と言うのは難しいか。」

 零児は冷静に物事を見れるが、
 一方で冷酷というわけではない。
 癖の強いメンバーの常識人をしてれば、
 必然的に配慮のある言葉を投げかけれる。
 結果論ではあるが、彼女がいたから被害は減った。
 そうとも十分に受け取れるだろうが、方や肉親で方や中学生。
 簡単に割り切れるものでもないだろう。

「なあ、兄ちゃん……」

 泣き止んで顔を挙げた鉄平の姿は痛ましいものだ。
 もはや引きつった笑みのような、疲れ切った姿。
 女性陣もその光景に胸が締め付けられる。

「ワシは、どうしたらええんね。」

 虐待は絶対しない。悪い人との付き合いも縁を切る。
 酒は……まだやめられないが、程々にするつもりだ。
 博打も程々にと、自分でも驚くほどにそう考えていた。
 生きる意味を沙都子に見出した以上、そうなるのは必然だ。

「沙都子の為に、ワシは生きようとしてたんや。
 その沙都子がおらんなら、生きる意味もないんね……」

 抜け殻。言うなれば鉄平はそんな状態だ。
 沙都子を生き返らせるために戦う? できるわけがない。
 エスデスと言う逆立ちしても勝ち目のないような化け物、
 彼女を相手した善。さらに伯爵に美炎と戦える参加者を何人も見た。
 ヘルズクーポン頼みでようやくしがみつける程度の強さで、
 一体どうやって彼らを倒して勝ち上がれと言うのだろうか。

(それだけやない。)

 何より、善やリリアーナと彼はいい人に出会いすぎた。
 彼らを殺してでも沙都子を生き返らせるなんてことをして、
 その時に沙都子は笑ってくれるか? そんなわけがない。
 今度こそやり直したいと言ったのに、人を殺してでもみろ。
 もう二度と、未来永劫沙都子と和解できる機会などないだろう。
 仮に隠して生きると? そんな器用なことができる程、
 北条鉄平は自分を優れた人間だとは思っていない。

「殺し合いで優勝して生き返らせたところで、
 沙都子は絶対認めてくれんね……兄ちゃん、ワシはどうしたら───」

「賭けてみるか? 願いを叶える力とやらに。」

「だからワシは……」

「何も、優勝するだけが道とも限らない。」

 矛盾としか言えない内容。
 零児の言ってることに三人は疑問符を浮かべざるを得ない。

「あの双子がどのような手段で願いを叶えるのか。
 それがもし俺達が扱うことができるものであったなら、
 優勝を目指さずとも沙都子を生き返らせることはできるのではないか?」

 要するに脱出ついでに力を奪うと言うこと。
 そうすれば沙都子どころか、あゆりだって生き返ることができるはずだ。
 こんな殺し合いに巻き込まれた一般人は、何も鉄平や沙都子だけではない。
 (沙都子は一般人ではないが、鉄平からすれば彼女は一般人である。)
 そう言った人たちも纏めて助けられる、最善の手段だ。

「元々俺達の目的自体は変わってない。寄り道が増えるだけだ。」

383戻りたい場所、明確な景色 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/06(日) 05:51:02 ID:Afe.j7020
 そうは言うが、
 零児はそもそも願いを叶えるなどないと思っていた。
 あったとしても、それが奪えるような代物ではないかもしれない。
 願いを叶える力があったなら、既に零児達から記憶を消すなどして、
 殺し合いに乗らないと言う方針を潰すことだってできるからだ。
 単純に双子の甘言。人を弄ぶまさに悪魔の所業になる。
 
 しかし。
 妄想だとしても。
 未来へ縋るそれは原動力となる。

「こんな腑抜けたワシでも、ええんか。」

「人手が多くいるのは事実だ。
 それに、彼女の為と奔走した姿を俺は見てないが、
 彼女達が証明している。足手纏いだなんだと思うことはない。」

 鉄平自らがリリアーナの盾になり、
 美炎の戦いを支援し、伯爵を逃がさなかった。
 ヘルズクーポンありきとは言え、一般人では身に余る結果だ。

「私は、鉄平さんのお陰でこうして生きてます。
 此処にいる皆さんは、腑抜けだとは思いません。」

 特に最初の暗黒魔法は、
 リリアーナが先行してたら確実に致命傷だった。
 そういった面でも鉄平は命の恩人とも言える相手を、
 非難などできるはずもないし、するつもりもない。

「其方がいいのであれば、
 出来ることなら協力してほしい。」

「わ、私からもお願いします。
 こんなこと、言える立場じゃないけど……」

 負い目を感じてる都合、
 どうしても目を合わせることはできない。
 どう接するべきかもわからないものの、
 だからと言って放っておくことはできなかった。

「こんなワシでええなら、いくらでも協力するんね!!」

 先ほどまでの絶望しきってた表情とさほど変わらないが、
 一方で先程よりかはましな表情になって、鉄平は立ち上がる。

「二度手間になるから二人が起きるまではしていなかった
 とりあえず二人とも起きたことだ、情報を纏めたいがいいか?」

「は、はい!」

 鉄平は乗り越えた。
 いや、乗り越えたとは違うが、
 少なくとも再起することはできた。
 細い細い、蜘蛛の糸よりも細い糸を掴もうとする。
 博打の方がよっぽどな確率だと言うことは彼も理解してる。
 所詮淡い希望でも、そんな存在がなければ死んでも死にきれない。

 次は美炎に関門がやってくる。
 斬らないと決めた少女の刃を血に染め、
 守るための刃は、敵と言えど一人の命を奪った。
 その事実を知るまで、そう時間はかからない。

【B-4/一日目/早朝】

【北条鉄平@ひぐらしのなく頃に 業】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(絶大)、身体にダメージ(大)
[装備]:ヘルズクーポン(半数以上使用及び廃棄)@忍者と極道
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:双子から願いを叶える力を手に入れて沙都子を生き返らせる。
0:ワシにできるのは、それぐらいや。
1:兄ちゃん(零児)達と行動する。
2:沙都子や嬢ちゃん(あゆり)の為にも生きにゃいかんね。

[備考]
※参戦時期は本編23話より。
※リリア―ナ、あゆりと簡単な自己紹介だけしました。(名前のみ)
※あゆりとの年代の違いはまだ知りません。
※ヘルズクーポンの強化時間は大幅に制限されてます
※零児、美炎と情報交換しました。

【リリア―ナ・セルフィン@よるのないくに2 】
[状態]:疲労(中)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1
[思考・状況]
基本方針:元の世界へ戻り、刻の花嫁として生贄となる……
1:鉄平さん、零児さんと行動を共にする。
2:アル……あなたに会いたい……
3:あゆりの住んでいるトーキョー……少し興味あるな
4:あゆり……
[備考]
※参戦時期は序章、刻の花嫁に選ばれ、馬車での移動中
※刻を遅らせる能力は連続で使用することができません。また、疲労が蓄積します。
※あゆりの世界について多少、知識を得ました。
※自身が刻の花嫁として選ばれ、月の女王への生贄となることは伝えていません。
※名簿にアルーシェ(アル)がいることを確認しました。
※北条鉄平と簡単な自己紹介を交わしました。
※零児、美炎と情報交換をしました。

384戻りたい場所、明確な景色 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/06(日) 05:52:02 ID:Afe.j7020
【安桜美炎@刀使ノ巫女 刻みし一閃の燈火】
[状態]:疲労(中)、精神疲労(絶大)、自責の念、複雑(鉄平に対して)
[装備]:千鳥@刀使ノ巫女
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本:殺し合いを止める。
1:今は使うしか無いけど、可奈美に出会えたら千鳥を返さないと
2:みんなの事が心配。
3:十条さん……私が救う!
4:清光、どこかなぁ……
5:沙都子ちゃん……

[備考]
※参戦時期は第四部第二章終了後〜第四部第三章開始前
※ゆらぎや特務機関森羅、逢魔に関する情報を知りました
※本来は刀使でもその御刀に選ばれないと写シ等はできませんが、
 この場では御刀を持てば種類を問わずに使用可能です(性能は劣化)
※大荒魂カナヤマヒメの力は美炎が『力を求めたとき』発動します。
※カナヤマヒメは美炎の生存を第一に考えています。(優勝してでも)
※カナヤマヒメは沙都子の本性に気づいていました。
※何度もカナヤマヒメの力が発動、及び美炎の身に死の危険が訪れると、
 カグツチに意識を完全に乗っ取られる可能性があるかもしれません。
※参戦時期の関係から美炎は自分の体内にカナヤマヒメが封じられていることは知りません。
 また、カナヤマヒメとカグツチとの関係も然りです。
※名簿から巻き込まれている知り合いを確認しました。
※十条姫和はタギツヒメに取り込まれている状態だと思っています。
※零児には、姫和の状況についてはまだ知らせていません。
※首輪に関する話は筆談で行います。
※沙都子からエスデスの危険性を聞きました。
※リリアーナ、鉄平と情報交換しました。

【有栖零児@PROJECT X ZONE2 BRAVE NEW WORLD】
[状態]:疲労(小)
[装備]:雪走@ONE PIECE、タマゴバクダン@スーパーペーパーマリオ×7
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1、あゆりデイバック(基本支給品、ランダム支給品×0〜1)、第六天魔王の錫杖@御城project:Re、椛の盾@東方project
[思考・状況]
基本:殺し合いの裏に潜む陰謀を阻止し、元凶を討ち滅ぼす。
1:三人と行動。今はこうしておくのが一番か。
2:美炎と共に施設を周り、目的に賛同してくれる参加者を探す。
3:沙都子の一瞬見せた表情に疑念だが、それもわかることはもうないのか。
4:沙夜……これも宿命か。最悪共闘も考えるべきだが……
5:出来れば銃も欲しい。
6:彼女(あゆり)には悪いが、支給品を貰っていく。
[備考]
※参戦時期は不明。
※刀使や荒魂に関する情報を知りました。
※美炎の知り合いを把握しましたが、
 十条姫和がタギツヒメに取り込まれていることは知りません。
※沙都子に若干の疑念を抱いています。
※美炎と沙都子に首輪に関する話は筆談で行うよう伝えました。
※鉄平、リリアーナと情報交換しました。

385 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/06(日) 05:52:52 ID:Afe.j7020
以上で投下終了です

386名無しさん:2022/03/06(日) 07:58:11 ID:xJvYs2r20
乙です
零児ナイスフォロー
鉄平は限界を知っていたからこその生き方をしてきて、沙都子の死とロワの困難さから改めて無力感に打ちひしがれたのが哀しく印象に残りました
ラストの美炎の下りも未知なる関門への期待に繋がってて良かったです

387 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/07(月) 15:26:02 ID:PAVwATDU0
修正の報告です

・いっそ無情になれたならよかった
此方における十条姫和の状態表を
修正前:基本支給品(食料と水のみ大祐、千、トッペイ含む四人分)
修正後:基本支給品×4(大祐、千、トッペイ、自分)
に修正します
これに伴って少しだけ描写を書き換えてますが、後続リレー致命的な影響はありません。
「LiarMask」でも同様の修正、都合「モノクローム・ファクター」までのトッペイの状態表も修正してます。

・モノクローム・ファクター
アルーシェの装備を
修正前:[装備]:刀剣類@不明(少なくとも御刀レベルの頑丈さはない)
修正後:[装備]:刀剣類@不明
に修正します。
こちらは単純に消し忘れです

また「不戦の契り、林檎の種」において、
以下の点がきがつくになったので「モノクローム・ファクター」では個人の解釈にあわせた修正をしました。
・みりあが作中でさとうに対して包帯を用いていたものの特に表記がなかったので、
 これをランダム支給品として扱い、包帯の説明も特に表記されてなかったため、
 『包帯@詳細不明』とさせていただいてます。
・ベルトルトは作中では『右腕が骨折してる』描写がありましたが、
 状態表にはそれがなかったので『右腕骨折(処置済み)』を追加した状態で、
 かつ拙作「モノクローム・ファクター」における状態表も修正させていただきました。
此方を書かれた◆4Bl62HIpdE氏からこの解釈について問題ありましたら、連絡をお願いします。

どちらも修正したらすぐ報告するべきでしたが、遅れてしまい申し訳ありません。
(当分トッペイ達予約されないだろうなと思ってたと言う怠慢もありますが)
また、リレー済みの作品でこういう修正することになってしまいすみません。
以後このようなことがないように気をつけさせていただきます。

報告は以上となります。

アカメ、十条姫和で予約します。

388 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:03:43 ID:VigE1wbI0
先日の予約にキャラを追加したものを投下します

389 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:04:28 ID:VigE1wbI0
 初音を待たせていた周辺をアカメは探す。
 しかし、何処の家を調べても初音の姿はない。
 場所は間違ってないし、かといって血痕や遺体もなく。
 殺されたと言う状況でもない。

(逃げたのか?)

 そうだとしても、何故だ。
 パニック状態だから彼女は琴美を襲った、
 そういう解釈で良かったはずだし、出会った際に諭している。
 自分が琴美の仲間であることは、別れる際に名前を呼んで気付いてるだろう。
 警戒されていないはずなのに逃げる、それは何故なのか。

(パニックを起こしたのが嘘だった可能性が出ている。)

 琴美にとっての初音の評価と、今の初音の評価が微妙に合わない。
 当然だ。別のルートを辿っている初音とは全く別の側面なのだから。
 琴美の知る初音とは、彼女は大祐の被害者で守られる立場の少女。
 一方で此処に参加した初音は、ファンの充に成り行きでも殺しをさせていた方だ。
 評価が合わないことで辿り着くのは、彼女が表向きは本性を隠してたと言うこと。
 アイドルと言う仕事はアカメの世界にはないが、似たような仕事か何かだとは理解した。
 演技力も試される仕事であると聞いた以上は、彼女がそういうのに長けてない、
 とは否定できないし、何よりアカメはそういう人を見すぎているのも影響していた。
 非力な一般人を装って殺すと言う戦術も、チェルシーがいた手前想像しやすい。
 価値観と言うより、見てきたものが違いすぎたことによるすれ違いと言うべきか。
 琴美は博愛主義者。それでも初音を許そうとしてしまうのかもしれないが、

(琴美、すまない。)

 彼女を再び黒と判断して行動することにする。
 もしこれで誰かを手にかけていたのであれば、葬ることを選ぶ。

(人を探せる道具があればいいが。)

 あまり時間をかけてる暇はない。
 支給品を回収した際にいくつかは見て装備したが、
 まだ確認してない支給品に何かあるかもしれない。
 近くの建物の塀を壁を背に、モッコスの支給品を漁る。

(巻物か。)

 出てきた巻物を開けば、エリアを跨ぐまでの間参加者が地図上で確認できる。
 帝具のような便利なものだと思いながら巻物を開いて、地図を見やる。
 タブレットを見れば先ほどまでなかったD-6に黄色い点があり、
 場所から自分であることを示しているのが分かる。

 自分以外に動いている赤い点は二つある。
 一つは恐らく初音だ。移動ペースが緩やかだ。
 敵に見つかって逃げてる、と言う可能性もなくなった。
 もう一つは今さっきエリアに入ったばかりだが。

「!」

 入った瞬間に加速し始めた。
 尋常ではない速度のまま真っすぐアカメへと向かっている。
 すぐに武器を構え、荷物を手に高速で動き出す。
 動いて移動してみれば、明らかに自分を補足している動き。

(向こうも同じようなものを持っている!)

 すぐに敵が来る。
 タブレットをしまって日輪等を構えると、
 後方の曲がり角から当人が刃を向けてくる。

「!」

 迫る攻撃を咄嗟にアカメは転がりつつ跳躍。
 しかし距離を取っても即座に追いつかれ、無数の剣戟が空中で繰り広げられる。
 襲撃者は自分と同じで、長く黒い髪を靡かせている一人の少女───八将神、十条姫和。
 弾丸を避けれるだけの反応速度を持つアカメならば、迅移の速度にも十分対応可能だ。
 仕留めきれない、と言うより仕留められるビジョンを龍眼で見れなかったので一度距離を取る。
 二人は近くの家の屋根へと降り立って、互いに刀を構えた。
 アカメは無形の位に近い構えを、姫和は斜の構えをしながら。

「敵か。」

「───ああ、そうだ。私は八将神、十条姫和。
 お前達を葬る為だけに、メフィスに選ばれた災禍の化身だ。」

 偽物の仮面を被った彼女は演じ続ける。
 たとえそれが双子の悪魔たちにとっては滑稽でも、
 少しでも自分を倒してくれる人が増えるようにと願って。
 禍神として、偽悪として散るために。

(折神紫も、こんな風に抗っていたんだな。)

 二十年も大荒魂を抑え続けていた彼女も、
 自分を見失いそうになりながらも抗い続けてきた。
 彼女に対しては複雑な心境ではあるものの、苦労を重ねた人物だと少し同情する。
 同時に、自分にはできそうにもないとあるべき未来で同じように思ったことを感じた。

「そうか───葬る。」

390 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:05:19 ID:VigE1wbI0
 敵と自ら宣言しているのであれば関係ない。
 彼女がどういう人物かの認識もできない以上、
 ウェイブのように殺害対象から外すこともしない。
 電光石火の如くアカメが一瞬にして間合いを詰める。
 常人では対処以前、熟練の剣士でも間に合わせるのは難しい。

(速い!)

 間に合わせられる、と言うより事前に動くことができる龍眼だからこその対応。
 意図的に刃毀れされた日輪刀の横薙ぎは斬撃すら飛びそうな鋭さは容易に止められる。
 そこから刀を払われ、逆袈裟斬りのカウンターが返しをバックステップで避けるも、
 更に間合いを詰めての突きを身を屈むことで回避しつつ今度は逆にアカメの逆袈裟斬り。
 本来突きは隙の多い技となることも多いが迅移による加速で隙についてはほぼなくなる。
 直ぐに小烏丸によって防がれた。

「どうした! 私の力でお前の次の攻撃が読めるぞ!
 ただ闇雲に向かったところで、私に勝つなどできるものか!」

 これらも難なく対処される。
 とは言え単純に未来予知の類であれば、
 アカメは既に未来視ができる帝具使いのザンクと戦った経験がある。
 その時の決め手は、反応速度を上回り膂力による武器破壊からのとどめ。
 アカメはたとえ村雨がなくても、帝国に属していた時代から鍛えた身体能力は別格だ。
 だから彼女の攻撃を予測はできるとしても、結局のところ必要なものはフィジカルだ。
 なので龍眼に頼り切った強さではなく、姫和自身の母の無念を晴らそうと続けた努力の結晶か。
 それを、殺し合いの道具として利用されてるのだから皮肉でしかないのだが。

(こいつも相当な鍛錬を積んでいるな。
 速度だけでなく腕力も八幡力を使ってるかのようだ。これなら私を……)

(相当優れた剣術を学んでいるらしい。
 洗練された一撃は無駄がない。気を抜けば一瞬だ!)

 双方卓越された剣術。
 互いに人を守るために覚えた剣技。
 本来姫和が守るためでアカメの方が汚れた剣になるはずが、
 今となっては逆転した状態とも言えるものになってしまった。

 小烏丸の唐竹の縦からの斬撃。
 八幡力で上乗せされた腕力はアカメでも表情を歪ませる重さ。
 よって攻撃を受け流せるようにしたら逆に力を抜いてあえて刀を下ろさせる。
 力を入れてることで隙を生じさせるものだが、すぐさまそれを演算された。
 途中で八幡力を解除と共に迅移で距離を取り隙は事実上消える。
 すぐさま刀を振り上げれば、眼前にはアカメの持つ日輪刀。
 あの一瞬にして既に刃の間合いにまで詰められていた。

(武器を葬りたいところだが、難しいか。)

 ザンクとの戦いでは反応速度を超えて武器を破壊したが、
 今回はそうはいかない。常時高速移動ができる迅移を前に、
 相手に上回り続けるだけの速度を常に維持できるほどアカメは人間をやめてない。
 一方で武器の破壊を狙ってもいるのだが、御刀はそこらの鉄の比にならない硬さだ。
 いくら人並外れた強さを持つアカメと言えども、小烏丸を折るのは至難になる。

(第三段階迅移は……しないのか。)

 第三段階の迅移を無暗に使えば致命的な隙を晒すことになる。
 それは八将神の役割として、多くの参加者を殺すことは出来なくなるので、
 必要に迫られた時のみに使うようにされてるのもあってそこは控えていた。
 死ぬことを望む彼女にとっては、その方が都合が悪いことにはなってるが。
 一応、もう一つ理由としてこのD-6には姫和が見た時点で別の参加者がいた。
 初音ではあるが、それが脅威になるかどうかの認識などできるわけがない。
 だから三段階を使うことしない。と言うよりも使うわけにはいかなかった。

 アカメは武器を折れないし、
 姫和は切り札を使うことをしない。
 そして互いに攻撃が当てられない。
 ではどうなるのかと言うと、だ。

(粘って勝つしかない。)

(体力勝負に持ち込むのか。)

 もう持久戦、それしかなかった。
 互いに疲弊するまで戦い続ける。これ以外にないのだ。
 実力伯仲である以上は、こうなるのは必然とも言える。
 何十、何百と言う途方もない剣戟を続けるのが最善と言う、
 とてつもないごり押しとも言える戦術を、刀使と暗殺者が行う。

 迅移は高速で剣技を振るえるが、
 何も正面から攻撃する必要はない。
 跳躍と同時に相手の背後へ回り込むと言う、
 禍神たう彼女だからできる落雷のような迅移。
 しかしなおも対処が間に合い身をかがめながらの足払い、
 横薙ぎの攻撃は髪の毛数本散らすだけでダメージには足りえず、
 再び跳躍かあの迅移で距離を取って、同時に肉薄して互いの刃が交わる。
 何度目か数えらえない互いの得物がぶつかり続けていた。

391 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:07:26 ID:VigE1wbI0
 優れた剣客同士による剣技の押収だ。
 姫和の流派となる鹿島新當流の突きは届かず、
 アカメの刃は写シを剥がすことすら叶わない。
 迅移がなければ、龍眼の演算に追いつかない可能性すら感じる。
 何度も何度も人を守るための御刀と日輪等が振るわれ派手に音を散らしていく。

「無駄だ! 八将神はあいつらから加護を受けている!
 体力が尽きるまで続けるならば、私の勝利は確実だ!」

 持久戦は何方が有利かと言ったら、それは当然姫和に分がある。
 互いに目的のために肉体を鍛えてるのであれば体力勝負は五分だが、
 此処に八将神と言うバックアップが姫和にはある。同じく八将神との戦いで、
 ドミノ・サザーランドと不動明による激突も五分ではあるが体力差が響いていた。
 いくらアカメも人並外れたところで、コンディションは常に維持できない。

(……この違和感は何だ?)

 彼女とは初対面だから完全に察したわけではない。
 ただ、まるで『だから別の事をしろ』と言わんばかりの発言。
 それがまさか、死ぬためにしているなどとは思うはずがない。

(嘘を言ってるようには思えないし、この状況では私に分が悪い。)

 戦いのコンディションとは最初の少ししか最高潮を維持できない。
 次第に落ちていくのが普通だ。大切なのはその時にどうするかだ。
 落ちてからでは遅い。一度距離をとって地上へと降りながら、
 アカメは懐にしまっていたものを左手に用意する。
 無論、八将神たる姫和がそれを使わせる隙を与えるつもりはない。
 アカメはそれを空へと投げたが、見た目から何か即座に察する。
 咄嗟に腕で眼を覆い、周囲に強い光を放つ。
 琴美が持っていた、最後の閃光手榴弾になる。

 このチャンスを逃さないと言いたいが、閃光手榴弾の威力は強い。
 人間どころか鬼にだって通用するそれを考えれば当然であり、
 アカメも多少ではあるもんお、視界が狭まってるのは事実。
 一瞬のミスが命取りになるのであれば、そのミスを出す前に決着をつけたい。
 デイバックから栄養ドリンクと思しきものを手にし、それを一気飲みする。

「葬る!」

 瓶を投げ捨てながらの肉薄。
 彼女が飲んだのはツヨツヨドリンク。
 安直なネーミングではあるが力を短時間倍化させると言う、
 ドーピングも真っ青なとんでもない効力を秘めた代物だ。
 これでリスクも何もないと言うのだから恐ろしいものである。

 だが、それは相手も同じことだ。
 アカメが準備した際に、姫和も同じく行動を取った。
 同じようにデイバックから取り出したのは───剣。
 彼女の流派である鹿島新當流は突き技を主とするもので、
 折神紫の二天一流のような二刀流をメインとはしてないし、
 ましてや片方は比較的細身と言えども、西洋剣に近しい太めの武器。
 二刀流をやるにしても不格好ではあるが、それは最早関係がない。
 この剣は斬るために使うこともできるが、その目的ではないから。
 剣を取り出して地面へと突き刺す。

「その剣……まさかお前!」

 接近しながらその件に目を張る。
 少し前にスサノオと言うあるはずがないものを見たばかりなので、
 決してないと思ってはいなかったが、こんなところで彼女が持つとは。
 修羅となることを決意した彼女へと渡った、千が持ってた皮肉の支給品。
 その大剣たる鍵と、それから出るものの名は修羅化身───



「グラン───シャリオッ!!!」



 高らかにその名を叫び、彼女は姿を変えた。
 長い黒髪も、年不相応な運命を背負ったことでできた仏頂面も。
 さながら鉱石のような、つややかな黒紫色の鎧を彼女は身に纏っていく。
 帝具『グランシャリオ』はイェーガーズのウェイブが使っていたもので、
 インクルシオの後継機。戦ったことがあるからその力は分かっている。
 純粋な身体強化と、素材に鉱石を使ったことで強固な装甲を持つ。

(まずい!)

392 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:07:59 ID:VigE1wbI0
 普段クールなアカメであっても流石にこれは焦りを感じる。
 持久戦と言う形に持ち込むからこそドリンクを飲んだが、
 相手もまた一気に仕留めるつもりでグランシャリオを起動させた。
 帝具相手に帝具なしで挑むと言うのは、かなり厳しいものであるからだ。
 グランシャリオは彼女の膂力と村雨を以てしても、装甲を破壊するのには難儀する。
 ドリンクの補正あるので流石にそこまでの労力入らないかもしれないが、それでもだ。
 しかも鎧とは言うがあれは最早パワードスーツだ。関節と言う鎧における隙間がない。
 駄目押しにこちらは短時間しか持たないが、グランシャリオなら数分は余裕で活動可能。
 肉薄した後一撃を叩き込むが、直ぐに対応されてしまい装甲が破壊できるかも確認できない。
 では逃げるか? 当然不可能だ。元より高い機動力だったのに、
 更にグランシャリオの背中にあるブースターによる加速。
 逃げるどころか、逃がしてくれることすら許されない。

(支給品を全部確認してなかったのは痛いが、なんとかするしかない!)

 村雨があるかもしれない、モッコスから手にした他の支給品。
 数が明らかに多くて他の参加者から奪ったのは容易に想像つくが、
 初音と合流することに優先したため、あまり多くの物は調べなかった。
 もっとも、探したところで村雨はムラクモが持ってるので絶対にないのだが。

(ああ、そういうことか。)

 これは危険な代物だ。
 鎧を纏ったことで漲る力に姫和は察した。
 死なせてくれない。もっと殺せと言われている。
 文字通り、修羅の化身になれと示してるかのような。

「先の反応、知ってるならばわかるだろう。
 死力を尽くして、私を殺さなければお前が死ぬぞ!」

 迅移に身体能力強化にブースター。
 これでもかと言うぐらい理不尽な加速でもまだアカメはついてこれる。
 だがついて来れると言えども先程の互角の戦いから一変して、防戦一方。

 迫る袈裟斬りは此方の刃を押し込められ、
 此方の切り上げは空中へ跳躍して、ブースターで加速して更に重くしてくる。
 いなしても龍眼で演算で導きだされたことで対応されてしまう。

 前後左右に加え上からの攻撃のダメージを受けずに済んでるのが奇跡に等しい。
 同じ個所を集中的に攻撃すると言う行為も元々簡単なことではなかったが、
 今度はそれ以上に攻撃を当てることそのものが困難な状況へと持ち込まれる。

(メフィス達の手駒となる八将神。
 名前から彼女一人とは思えないが、今は考える暇がない!)

 一撃の重さはドリンクの都合でアカメに分があり、
 その一撃の重さで辛うじて相手の攻撃の手が鈍くなってるがそれだけ。
 戦局を変えれてるわけではなく、じり貧であることに変わりはない。

(スーさん……)

 スサノオを使えば恐らくは何とかなるかもしれないが、
 元からこの舞台における数々の帝具の使用者はリスクを知らないから、
 誰もが帝具を平然と使っているし事実相性の悪さに悲鳴を上げた人もいる。
 アカメの場合はその帝具のある世界の人間。故に誰よりも帝具の使用のリスクを考える。
 相性のいいかどうかと言う疑念は失敗すれば多大な消耗だけで、
 確実にとどめを刺される可能性も出てきてしまうので使うに使えない。

(私に扱えるかは怪しいし、何よりスーさんは仲間だ。)

 先ほど強引に戻ったばかりだ。このまま連戦させてしまえば、
 今度こそ、エスデスとの戦いの時のように死別することになるだろう。
 スサノオは帝具だが仲間だ。帝具故同じ火であぶった肉を食ったわけではないが、
 彼がいたから山奥でも安全に生活できたし、美味しい料理も食べることができた。
 彼がいたからボリックのところで全滅しかねない中、生き残ることもできている。
 帝具が支給品と言う扱いであったとしても。アカメにとっては彼は仲間だ。
 仲間を道具のように酷使するような真似はしたくない。

393 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:08:46 ID:VigE1wbI0
 仲間に頼らないではなく、仲間だからこそ頼りたくない。
 だからアカメは考える。短い時間でできる最適解を。

 突破口を見出す為、試しに距離を取る。
 単純に態勢を整える目的でするが、すぐに追いつかれる。
 追いつかれてもなお防戦しながら移動し近くの建物の屋内へと逃げ込む。
 比較的狭い廊下は小烏丸が長くないと言えども、狭い場所では振り回せない。
 そう考えてのことだが、これについては正直無理だとも感じていた。
 予想通り、龍眼による未来視があるので天井や壁にぶつかって動きが鈍る、
 そういう事故が絶対にないので、寧ろ満足に振れないアカメの方が不利だ。
 早急に抜け出して、外へと逃げながらの剣戟が続く。
 迫りくる横薙ぎを屈んでジャンプと共に突きを放つ。
 回避をした後空へと逃げたアカメを追いかけるように飛び、
 突きの隙などないとでも言わんばかりに身を翻して回避。
 顔面を叩き割るかのような兜割りも特に苦も無く防がれた。

 他の支給品に頼るのが一番よかったが、
 確認できてるものはあるのは腕輪とそれにつけたものだけ。
 腕輪も装飾品もこの状況を確実に打開できるものではない。
 解決策が見てないものにあったとしてもとても見る暇がない。

(装甲を破壊する以外にないが、回数は望めない。
 一回で装甲を剝がせるかどうかに賭けるしかない!)

 遠からずツヨツヨドリンクの効果が切れる。
 早々に決着をつけなければ敗北が確定してしまう。
 だが、ついに均衡が崩れた。アカメの縦に振るった一閃を空振りにされ、
 アカメの首を狙わんと、鹿島新當流の得意技たる突き技が迫った。
 咄嗟の判断で腕を挟むが、それだけで止まることはない。
 龍眼で見える。腕を貫通し、彼女の首も貫くと言う嫌な光景が。

「───バリアッ!!」

 刃が腕に触れた瞬間、アカメはありったけの声で叫ぶ。
 彼女の細い腕の肉を断ち切りながら小烏丸が迫るも、
 半分ほどのところで、刃が急に通らなくなってしまう。

「何だと!?」

 アカメが付けた腕輪自身ではこの光景にはならないが、
 彼女の腕輪の穴にはまってる、緑色の宝玉には意味がある。
 ある世界では古代種の知識が蓄積されたものを用いることで、
 一般人でも魔法が使えるようになった。この存在を人は『マテリア』と呼ぶ。
 これに記録されているのは『バリア』。受けるダメージを一時的に半分にする。
 だから容易に腕を貫くであおう一撃も、骨で引っかかるかのように抑えられた。
 マテリアと言う知らないものである以上は龍眼で演算することもできない。
 それでも重症。だがこの一瞬を逃すわけにはいかない。
 これほど接近し、刃の間合いにいる以上最初で最後のチャンス。

「葬る!!」

 姫和が得意とする突きのように、
 伊之助の日輪刀が彼女の首を狙う。
 腕を犠牲にしてでも、彼女を倒さなければならない。
 自分と同じようにレオーネがライオネルがない可能性もある。
 これを相手にできるなら、それこそエスデスレベルだろう。
 二の太刀は認められない。一の太刀で仕留めるしかない。
 龍眼で見れなかったことによる演算の不具合で、
 動きが一瞬止まってる今、姫和もまた防御も回避もできない。
 ついにその一撃を叩き込み、甲高い音が周囲へと響いた───















「とある流派では突きは死に太刀、と言う話があったな。」

394 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:10:04 ID:VigE1wbI0
 ───だめだった。
 確かに一撃の意欲は強く、あっという間に首元にひびは入った。
 パラパラと装甲が零れて喉元と首輪を晒すが、それだけだ。
 喉を貫通するには至らない。当然、葬ることはできない。

(どうにもならない、か。)

 自分一人ではできることはこれ以上はなかった。
 これで仕留められないならば、自分は死ぬだけだ。
 一瞬の出来事だが偉く長く感じる。腕で止まっていた刃は突き進み、
 紅い雫を垂らしながら頭へめがけて刃が迫り始めていた。

(レオーネ、ボス、タツミ……クロメ、すまない。)

 ラバックが死に、マインも再起不能になった。
 エスデスを倒すことはおろか、妹を救うこともできない。

(また、私は殺すのか。)

 亡き母の御刀であり、自分を刀使として選んだ小烏丸を。
 殺し合いを是としない参加者を次々と殺め血を吸わせた妖刀へ果てさせる。
 どれだけ尊厳が踏みにじられるのか。双子の悪魔へ憎悪を募らせるが、
 結局彼女は傀儡であり、主催の連中にとってのお人形でしかない。
 八将神と言う服を着せられ、殺し合いを加速させるため動かされる。
 鎧の中で誰に気付かれることもなく、涙を流す。

(任務、未完───)

 首を絶たれて終わり。
 その結末は変わらなくとも、
 諦めることなく左手を強引に動かし刃を首から逸らす。
 しかしその影響で肉を裂かれ左腕の肉が余計に刃を通すことになる。
 とどめが刺せないと分かって刀は引き抜かれたが、アカメの腕には多量の血が流れていく。
 ドリンクの効果も恐らく既にキレた。腕も力をうまく入れることができなくなっている。
 片手で相手できる程、グランシャリオの性能が甘くはないのは分かっていた。
 それでもやるだけはやる。折れて諦めるなど、アカメではないから。










 そこに、希望の光が射す。

「!」

 二人の間を駆け抜ける眩い何か。
 突然の出来事を前に姫和は距離を取る。

「新手か!」

 互いが視線を向ければ、そこに立つのは人ではない。
 橙色を基調とした仁王の如き姿をした、人型の何か。

 遍く照らす光。
 理想に根した姿は伏するには向かない。
 例えるならば───そう。それは燦然たる光。

「して、何方が敵だ?」

 真祖、日ノ元士郎。

 互いに言葉が出てこなかった。
 帝具、危険種、荒魂。どれであったとしても、
 その光のような化身を形作るのは無理ではないか。
 見とれてると言うよりも、眼がくらんでるに近しい感想だ。

「フハハハハハハ! 眩しかろう。我が現し身は。」

395 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:10:57 ID:VigE1wbI0
 太陽でも見ているのか、
 とでも言わんばかりの表情の二名に仁王立ちする日ノ元。
 北西から進んでみれば、新たな参加者と出会うとは思わなかった。
 ヴァンパイアのような恰好をした相手に生身で応戦している。
 ドミノを見た時に抱いた想像通り、生身でヴァンパイアと対抗できる相手がいるようだ。
 やはりドミノと停戦協定を結んだのは正解だ。一方で使い倒す算段が、
 自分が偶然にもその使われる側になるとは思いもしなかったが。

 ※帝具の姿のせいで彼女をヴァンパイアと勘違いしてます

「八将神、十条姫和だ。私を止めて見せろッ!!」

 アカメは腕の都合最早相手にならない。
 脅威は此方と判断して身体は日ノ元へと向かう。
 接近する彼女に対し、日ノ元は仁王立ちのまま動かない。

 と言うより、動く必要がない。
 彼を覆うような太陽の如き光のバリア。
 それに阻まれて彼女の突きは届くことがない。
 凄まじい熱量は優れたヴァンパイアですら近づくだけで消耗する。
 グランシャリオがなければ、写シを即剥がして燃やし尽くしていただろう。

「勇ましいな。」

 これを前に接近できるだけでも相当なものだ。
 ドミノでも難儀するだろうと言う確信を持っていたが、
 よもや見たこともないヴァンパイアに止められようとは。

(超硬度の物質を生成した姿、さして珍しいものではない。)

 死亡した芭藤や娘の明にも発現しているタイプのものだ。
 なので厄介とは思わない。ありふれたものであるのだから。
 一方で武の技量は声の幼さとは裏腹に優れている。
 何十年の修練と言う人外の領域ではないものの、
 センスは別物だ。これは凡才とは呼べるものではない。

「だが、それだけだ。」

 それで突破されるのであれば、真祖など勤まりはしない。
 指二本を彼女へと指して、そこから光線を放つ。
 至近距離からの光線でありながらも即座に回避。
 龍眼で一度あの攻撃を見てなければ演算すらできなかったが、
 逆に見たことでそれができると言う認識を得られている。

(速いな。)

 芭藤のような硬度の物質で身を覆い、
 七原に似たような加速能力を持って動き、
 堂島と同様に刃を振るう既視感のある立ち回り。
 姿を消した日ノ元は彼女を瞬時には見つけられない。
 と言うのも、日ノ元はゲーム風の能力値で言えば索敵は低い方だ。
 更に真祖の力は控え気味。だから気づくと同時に、背中から轟音が鳴り響いた。

 姫和は背後の上空へと回り込みながらブースターで加速。
 斬撃が届かない以上やるのは障壁の破壊。斬撃ではなく衝撃が必要。
 それを目的とした加速した飛び蹴り、ウェイブがグランフォールと名付けだ動き。
 帝具が記憶しているのか、それとも八将神としての役割かは知らないが、
 奇しくも同じ技を用いることで、障壁をぶち破ることに成功する。

(障壁の強度も弱まっているな!)

 真祖の力の制限は最初から察してはいたが、
 真祖でも突破は厳しいと見ていた障壁を蹴り一つで割られた。
 蹴り破ったらそこから即座に小烏丸で兜割りだが難なく回避。
 背中ら生えた触手が障壁を張ることもでき、再び展開。

「む。」

 出来なかった。
 触手が潰されてない限り問題なく展開できるはずだ。
 これについても予想は簡単だ。あんな障壁があっては、
 ほぼ全員蹂躙されることを考えれば当然である。
 一定時間あればまた展開できるだろうが、待つのも煩わしい。
 触手から多量の光線を放つが、それも容易く避けられ、
 近くの壁や建物を破壊するだけだ。

「光線も役に立たない。ならば───やるとしよう。」

 日ノ元が腕を組んだ姿勢からついに拳を構える。
 周囲を揺らすかのような音と共に着地し、迫る刃を拳で対応。
 光線が雑に強いので忘れがちだが、日ノ元の本領は見た目通り接近戦だ。
 燦然と輝く拳と刃によって、金属のような甲高い音が鳴り響く。
 演算による未来を視た一撃をそれ以上の高速で対処する。
 互いに移動しながら、高速の拳と高速の剣がぶつかり合う。
 アカメも追うことはできてるが、負傷した今ではついていくのは難しい。

396 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:12:18 ID:VigE1wbI0
 演算する龍眼を使ってもなお対処ができない、
 それを三度もやっている姫和を弱いと断じる人もいるだろう。
 だが千の場合は三対一で、疾風のレイピアでの恩恵があったからこそ。
 アカメの場合は生身の人間の基準が高すぎて、その上アカメが優れた暗殺者だからこそ。
 日ノ元の場合はそもそも真祖。二人は勿論姫和とすら格が違う、参加者最強格だ。
 寧ろ龍眼に対応できるだけの動きを持っている三人がおかしいと言うべきだろうし、
 多数のバックアップを受けて真祖に喰らいつけてる姫和も大概だ。
 真祖以外で真祖に対抗できるヴァンパイアが、極々一部しかいない。
 そこを鑑みれば、真祖相手に戦えるだけでも相当なものである。

「ぬん!」

 一方で攻撃が当たらないかいなされる。
 攻撃が成立しないと言うのはある意味厄介だ。
 戦いとは生き残った者が勝者であるのが鉄則。
 では、攻撃を受けなければ事実上負けることはない。
 即座に負けることはないが、勝てると言うわけでも非ず。

(かといって本気を出そうものなら……)

 一瞬だけアカメを一瞥する。
 腕から多量の血を流しながら、デイバックを漁っている。
 彼女が敵ではない可能性がある現状において、
 無暗に本気を出して辺りを吹き飛ばすわけにもいかない。
 強ければいいものではない。嘗ての過去を思い出すことだ。

「!?」

 いつまで続くのか分からない応酬は終わりを迎える。
 突如として、姫和の周囲を正方形の水色の結界に覆われたからだ。

「真祖である以上必要ないとは思いますが、
 怪我人もいる手前、此処は効率を優先とさせてもらいましょう。」

 アカメの背後から空間移動しながら現れるオフィエル。
 彼の隔離術式であれば、相手を拘束するのは難しいことではない。

「真祖が手助けされるとはな。だが! それは事実だ! 礼を言おう!」

 身動きが取れなくなった彼女の左胸、
 ヴァンパイアであれば弱点の心臓へと叩き込まれる拳。
 ゴウッ、轟音が轟きながらグランシャリオの装甲をぶち破る。

「ガッ……」

「さらばだ。」

 さらに拳から光線を放って、双方の二つの衝撃で彼方へと吹き飛ばす。
 元の世界であれば同じ真祖のユーベンですら回避を優先する打撃一撃。
 普通に考えれば即死ものではあるが、そうはならなかった。

「仕留め損ねたか。」

 胴体を貫通させたのに、血の一滴すら降ってこない。
 何かしらのからくりでダメージを防がれたようだが、
 今となっては追跡するのは難しいだろう。

「……よしとするか。蒔岡君! 出ても大丈夫だ!」

 人の姿へと戻り、その姿に違わぬ張りのある声を上げる。
 すこししたら、近くの建物から彰も姿を見せた。

「流石と言うべきでしょうね。これが真祖の力。
 世界を照らす光……理想を掲げるだけの力はあるようで。」

「凄い戦いでした……」

 オフィエルは賞賛、彰は半ば呆然だ。
 確かに、妖刀村正やオフィエルの転移を見てきたが、
 今の日ノ元のインパクトに比べれば大したことはない。
 人間では成し得ない超次元の領域。彼を敵とするドミノも、
 恐らくはこれに比肩する実力を持っていると言う証左でもある。
 彼女に下僕としての席を空けて貰ったのは中々の事なのではと思えてきた。
 とは言え、意味合いは違えど下僕のワードから、なりたいかは悩むが。

「さて、見てのとおり我々は徒党を組む者だ!
 君が望むのであれば、我々と組まないか! 私は日ノ元士郎だ!」

「……アカメだ。さっきは助かった。」

397 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:13:27 ID:VigE1wbI0
 地図を見れば既に初音はこのエリアにいない。
 どの方角へ進んだか分からない以上追跡は無理と判断した。
 四人は一度適当な建物へと入り、テーブルを囲んだ状態で話を伺う。
 アカメの腕の傷は彼女が回収した支給品の中にあった、
 塗り薬のようなものでたちまち治って大事には至らない。
 驚異的な回復力でアカメも戸惑ってたが、そういうものと割り切る。
 とは言え、決して少なくない出血をした以上少しは休む必要があるが。

「そうですか、琴美さんは……」

 アカメから得た情報に、彰は影を落とした。
 会ったことはないが、ゲームから悠奈が救おうとした一人。
 誰よりも優しく、問題のある大祐でさえも割と普通に接してた。
 まさに博愛主義者の化身とも言える彼女は、既にいないのだと。
 同時に初音の情報の不一致さ。琴美か初音が嘘の可能性はあるが、
 充と琴美は同じルートを辿った都合、情報の齟齬がないまま話が進む。
 その結果、初音が不安のある人物のままであることは維持されてしまった。
 別の世界の、更にIFの世界と言う部分があるなどと一体だれが気付けようか。
 気付ける可能性があるならば、早朝にて合流を果たした真島と結衣ぐらいだ。

「城咲充の情報から襲った人物は同一。その強姦魔も既に倒されたと。」

 一先ず敵が減ったこととしては僥倖だ。
 病巣たる連中など取り除いてしかるべきだ。

「エスデス、当面はその女が難敵と判断しておくか。」

 帝国最強。一人相手に何万もの軍勢をけしかけて、
 ようやく勝てると言う見込みをしている程の化け物。
 強敵である可能性は高く、警戒するに値する人物だとしておく。

「……アカメさん。初音さんと出会ったらどうするんですか?」

 彰の一言で、二人の間に張りつめた空気が漂う。
 充にとってはまさに偶像たる彼女を黒として断定している。
 正直どうするつもりか、と言われたらもう答えは出ていた。

「琴美の情報が嘘の可能性も少しあったが、充の言う情報とも一致する。
 初音は琴美を知っていることから『知らない頃』の可能性もない。
 だから彼には悪いが───彼女が誰かを手にかける前に殺すつもりだ。」

 淡々としたまま告げられる言葉に、彰は言葉が詰まる。
 彼はそこまで頭がよくないし、何より彼女の言うことももっともだ。
 充がファンだから、と言う補正があったとしても今一つ人物像が噛み合わない。

「ほぼ黒であるなら、まだ白である可能性もありますよね?」

「限りなく黒に近い状態だ。彼女が何か事を起こす前に止めたい。」

「それでもすぐに殺さなくてもいいじゃないですか!
 充さんに会わせてあげれば、きっと初音さんだって何も───」

「その初音が望んだらどうする?」

「え?」

「充は彼女の為なら命を投げ出すぐらいの覚悟を持っている。
 初音が乗った参加者で『優勝したい』と願ったらそれを選びかねない。」

「そんなことは……ッ。」

 ないと言いたかったが、彼はすでに聞いている。
 ドミノが死なないよう、初音が死なないように自分の血を差し出した。
 狂気とも受け取れるような、覚悟を決めすぎている行動だ。
 たしかに彰も悠奈の為に自分の命を彼女にあげたものの、
 あれは自分が死ぬしかないから行っただけだ。まだ参加者を全然知らない中、
 ドミノが希望だと確信を持って自分の命を差し出す行動は早々できるものではない。

「二人を引き合わせたら寧ろ危険だ。
 だからその前に、私は終わらせないといけない。
 もし充も踏み外せば、そいつも私が斬る必要のある人間になる。」

 最愛の妹だって殺すことを考えていた彼女だ。
 どうしようもない、暗殺者と一学生の価値基準の違い。
 一概にどちらが正解か、と言われるとどちらとも言えないだろう。
 初音は少なくとも今のところ誰かを手にかけてはいないので彰の意見は正しく、
 同時に一歩踏み外せば何をしでかすか分からない状態である以上アカメの意見も正しい。
 特に彼女が白であるならば、逃げる必要がないのだから。

「……日ノ元さん。」

「なんだね、蒔岡君。」

「すみません。アカメさんと一緒に初音さんを探してもいいですか?」

398 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:14:15 ID:VigE1wbI0
 此処で別行動。
 何をしたいかは分かり切っている。

「多分、僕がいてもいなくても余り変わりはなさそうですし……」

 あれだけ無茶苦茶な戦いができる存在だ。
 自分がいたところで簡単に制圧できると言う判断もある。
 道着の彼の仇を人任せにするのはどうかとは思うも、
 まだ絶対的な黒でもない彼女を死なせるわけにはいかない。
 彼女のファンである充と出会ったからこそ、余計にそう思う。

「……アカメ君! 彼は見てのとおり抗う参加者だ
 私としては、臣民たる彼を危険に晒したくはない。
 彼を初音君の障害になるからと、殺めるつもりがあるか?」

 彼女は乗る人間ではないと分かった。
 だから此処で敵対するつもりはないものの、
 殺すような奴に彰を任せた場合、最悪人材を減らすことになる。
 ドミノと停戦したと言えども、人材が多いに越したことはない。
 無論アカメを彼は買っている。綺麗事を言わず敵を斬れるのだから。

「ない。私は先ほども言ったが腐敗した帝都を終わらせ、
 誰もが平和に生きられる時代を願う。村雨ではないが、
 この刃を振るうのはあくまで民の為だ。世界は違えど、
 彰も私達の世界の民と同じ守るべき存在だと思っている。」

 アカメのいた世界はなんとも酷いありさまだ。
 オネスト大臣が皇帝を牛耳り、息のかかったものだけが甘い蜜を吸う。
 少なくともそんなものは王の在り方ではない。認める部分など欠片もない。

「異なる世界であれど同じ国を憂い!
 誰しも光の当たる世界を望むならば!
 君を信頼できる人物として、彼を任せよう!」

「!」

「蒔岡君、行くといい!
 ヘルメットの男は此方に任せればいい!
 ただし、リミットは九時を目安としよう!
 時間になり次第結果を問わず、D-5周辺で合流をするッ!」

 サムズアップと共に笑顔と共に肩を組む。
 此処で甘いことを、とか言われても仕方がないことで、
 余り許されるものだとは思っていなかった。

「……分かりました! ありがとうございます!」

「彼の身の安全は私が保障する。
 レオーネに会ったらよろしく頼む。」

 アカメは休憩が必要のため此処に残り、
 日ノ元とオフィエルは外へと出て北西へと向かう。

「よろしいのですか?」

 手放すには少々惜しい、
 使える人材だっただろうに。
 手元に置かず任せることに少し訝る。

「彼が、彼女が此方の同志を増やすはずだ。
 であれば別れて行動するのも手ではある。違うか?」

「一理ありますね。」

 ドミノが動けない今、
 此処でこちら側に引き込める人物を増やすチャンスだ。
 勢力を増やせば、おのずとドミノとの戦いでも有利になる。

「それに、オフィエル。私の歩幅にある程度合わせらえるだろう?」

「なるほど、効率優先……と言うわけですか。」

 意趣返しをされた。
 彰は人あるためどうしても速度の限界があるが、
 隔離術式を使うオフィエルなら早く移動できる。

「では行こうかオフィエル!」

 燦然たる存在は突き進む。
 目的の男は既に手中にいると気付いてるかどうかは、
 少なくともオフィエルからは分からないままで。

399 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:15:22 ID:VigE1wbI0
【D-6/一日目/早朝】

【日ノ元士郎@血と灰の女王】
[状態]:疲労(小)、障壁使用不可能
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1〜3
[思考・状況]
基本:立ち塞がる主催の面々は打ち倒す。
1 :『主催を打倒する』という目的を持った者たちを集める。
2 :今はドミノと戦う時ではないようだ。だが佐神善は出来れば始末。
3 :日ノ元明は見つけ次第保護する。
4 :先生には念の為警戒。
5 :オフィエルの言っていた男の為北西へ向かう。
6 :蒔岡彰、まっこと素晴らしくも、惜しい愚民だ。
7 :城咲充の方もより惜しいが、七原君に近いので相容れない気もするな。
8 :オフィエルも何かしら行動はしてそうではあるな。
9 :三人目の真祖、奴は何もせんだろうが気をつけてはおこう。
10:エスデスと怪物(不動明)と八将神が当面の敵か。

[備考]
※参戦時期は最低でもドミノ組との開戦前
※真祖としての力に制限が課せられています
※三人目の真祖(ユーベンではなく原作で言う四人目)が主催に関わってると考えてます。
※バリアは背中の触手が無事でもいちどはがされたらしばらくは使えません
※八将神を知りました

【オフィエル・ハーバート@ファンタシースターオンライン2】
[状態]:疲労(中)
[装備]:ホカクカードSP×4@スーパーペーパーマリオ、咲夜のナイフ×大量@東方project
[道具]:基本支給品×2(自身、ジャギ)、ランダム支給品×1〜3(カンフーマン×0〜2、自身×0〜1、前者は未確認)、ジャギのカード、針×8@アカメが斬る!、黒銀の滅爪@グランブルーファンタジー
[思考・状況]
基本方針:願望を果たすまで死ぬわけにはいかない。場合によっては主催側へつくことも検討
1:日ノ元士郎に同行し、彼を見極める。
2:念の為に色々と仕込みを済ませておく。ホカクカードもそれに関して有用だ。
3:ジャギは体よく使い倒す。文字通りカードの使い時が大事だな。
4:あれがドミノか……余り敵視されないようにしておこう。
5:意味はないが北西へ向かう。
6:エスデスに八将神……この舞台の病巣か。

[備考]
※参戦時期はEP4-8「壊れた進化」から
※隔離術式による対象の隔離及び空間接合による転移に制限が課せられています
※洗脳は初回は至近距離でのみ可能、洗脳にも時間を有します
 解けかけの相手であれば、コオリの時のように数メートル離れてても可能です
 精神的に脆かったり弱い相手であれば特に滞りなく可能ですが、
 洗脳に対する抵抗や洗脳できる人数の制限等は後続の書き手にお任せします
※彰、充、ドミノ、しおから参加者の情報を得ました。
 但し充の参戦時期はDルートなので、
 彼以外でははるなから話を聞いた人物、
 途中までであればCルートの結衣は話が通じます
※咲夜のナイフの本数は少なくとも五十本以上ですが、
 具体的な数は後続の書き手にお任せします。

【ジャギ@北斗の拳】
[状態]:ダメージ(大)、ずぶぬれ、苛立ち(特大、特にオフィエル>彰)、顎並びに両膝に痛み 右足腫れ、オフィエルの洗脳、カード化
[装備]:間久部緑郎の靴@ バンパイヤ
[道具]:なし
[思考・状況]
基本方針:優勝して今度こそ返り咲く。
1:……

[備考]
※参戦時期は少なくとも死亡前、極悪の華も反映されてます。
※カンフーマンを不意打ちで斃したため、ディメーンの放送はきちんと聴いてはいません。
※オフィエルに洗脳されています。
 オフィエルの死亡、または記憶の齟齬等により洗脳は解除されます。
※ホカクカードSP@スーパーペーパーマリオによってカード化されてます。
 カードが破かれたりされない限り限り一切の行動ができません。
 また、体力も回復しません





「先程の戦いで血を流しすぎた。
 少し休んでから向かうことにする。」

「はい。」

 アカメは腕の状態を確認しながら、
 デイバックから食料を取り出して食事にする。
 互いに初音に対する見解が相容れない考えではあるが、
 どちらもこの舞台では抗う側であることには変わらない。

「先に謝っておく。私はずっと殺しの仕事をしてきた。
 仲良くなった相手でも、元同僚でも、顔見知りでも。
 私は人を殺し殺される、そういう世界でずっと生きてきた。
 お前との価値基準が違うから、初音に対する見解も合わない。」

「気にしないでください。合わせるのは難しいとは思ってますから。」

400 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:17:25 ID:VigE1wbI0
 『自分が理不尽な存在になりたい』と言う、
 もっと理解できない価値観の貴真を思えば、
 彼女の言うことは十分はっきりとしてるところがある。
 だから彼女を非難するようなことは言うつもりはない。

「だが、私とついてきて良かったのか?
 日ノ元は強い。少なくともエスデスに近しい程に。
 彼のいた場所は安全に仲間を集められると思うが。」

「初音さんは、悠奈さんが助けようとした人です。」

 充同様、彼女も悠奈は救おうとしていた人物。
 だから黙ってアカメと別行動することはできなかった。
 諦めるなんて、悠奈さんに絶対顔向けできないから。

「彼女があげた命を、失わせたくないんです。」

「……優しいな、お前は。」

 私とは違う道を歩んでいる人間だ。
 無辜の民。自分達が守り、繋げなければならない存在。

「……初音の事だが、少しだけは考えよう。」

「!」

「ただ、私が譲れる限界は『何もしてない』ならだ。
 いない間に、初音が誰かを殺そうとしてた際は覚悟してもらう。」

 彼が託した命から、更に託した命だ。
 危険だからと言う理由だけで失わせたくないのもわかる。
 ただこれ以上の譲渡は無理だ。相手にどんな理由があったとしても、
 任務は遂行する。帝国に狂わされた処刑人でも、マッドサイエンティストでも、
 家族を思う人でも、帝国に属した時代に助けてくれた相手でも、妹であろうとも。

「元々私は殺し屋、汚れ仕事が専門になる。
 それが理解できないなら私についてこない方がいい。」

「いいえ、ついていきます。僕が決めたことですから。」

 優しくも強い覚悟を持っている。
 どちらかと言えばウェイブのような部類になる。
 ナイトレイドには誘いたくないような人柄だ。

「分かった。」

 食事の準備を進めながら、アカメは思う。
 今度は日ノ元のことだ。

(燦然党か。)

 日ノ元の掲げた理想。
 あれは悪いものではないと感じた。
 帝国は常に貧富の格差は激しく、
 いつも上流階級の人間が私腹を肥やす。
 彼の言う誰にも陰無き、遍く光を照らす理想。
 アカメ達が求めてやまないような理想でもあった。

(だが、先程の戦いは……)

 ヴァンパイアになってるのだから人と感性が変わるものだ。
 人間味を感じない遠慮のない攻撃。少々引っかかるところも大きい。
 何より熱血漢のような性格なのに、どこか空虚さを感じてならなかった。

(彼女といい、謎だ。)

 まるで自分から倒されたいと願うかのように振る舞う八将神。
 疑問はいくつも増えていくが、ひとまず置いて取り出した食料を手にする。

「……アカメさん。一食ですよ?」

「ああ、一食だ。」

 本来なら節約するべきところではあるが、
 アカメの基本支給品は実に六人分に相当する。
 なので多少の余裕はあるが、彰かあすれば自分の数倍は出された食料に、
 少し苦笑を浮かべていた。

【D-6/一日目 どこかの家/早朝】

【蒔岡彰@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
[状態]:顔に含み針の傷(目に支障なし、針は捨てた)、攻撃速度強化
[装備]:妖刀村正[改]@御城プロジェクト:Re
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:悠奈さんのところへと戻る。クリアせずともいい脱出方法で。
1:同じ考えの人を探す。
2:悠奈さんや英吾さん、それに姉さんが関わった人達に会いたい。
3:僕があの人(カンフーマン)の分も生きないと。
4:ドミノさんもいい人だ。
5:貴真さんは止める、絶対に。軍服の人は……もしかしてあの人?
6:ヘルメットの人(ジャギ)を追いたいけど初音さんをなんとかしたい。
7:エスデスさん、凄い人なんですね……
8:初音さんを死なせたくない。
[備考]
※参戦時期はZルートラスト、死後に悠奈と再会後です。
※ドミノ、充、しお、日ノ元、オフィエル、アカメと情報交換をしました。
 充、琴美はDルートなのではるなと彼女から話を聞いた人物、
 および途中までならCルートと同一なので途中までは結衣と話が嚙み合います。
 オフィエル、日ノ元の具体的な本性については教えられていません。

401 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:18:17 ID:VigE1wbI0
【アカメ@アカメが斬る!】
[状態]:貧血、疲労(大)
[装備]:嘴平伊之助の日輪刀@鬼滅の刃、灰皿×2@現実、スサノオの核@アカメが斬る!、空白の才@うえきの法則、ミネルバブレス@ファイナルファンタジー7(バリアのマテリア@ファイナルファンタジー7装備)
〔道具]:基本支給品×6(自分、モッコス、琴美、充、ドドンタス、しお)、スサノオの槌@アカメが斬る! ランダム支給品×0〜9(琴美0〜1、ドドンタス0〜1、モッコス0〜1、充0〜1、一部未確認)、M93R@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage(弾薬まだ余裕あり)、空白の才@うえきの法則、ツヨツヨドリンク@スーパーペーパーマリオ、地獄耳の巻物×2@トルネコの大冒険、河童の秘薬(残り七割)@東方project

[思考・状況]
基本方針:主催を悪と見なして斬る。
0:初音のところへ戻る。
1:殺し合い阻止の為の仲間を募る。
2:エスデスを斬る。
3:あのおにぎり頭と初音を探し出し、悪ならば斬る。
4:レオーネと合流する。
5:琴美の関係者を探す。それと謝らなければならない。
6:主催はスーさんを復元できるのか……
7:参加者に縁のある場所があるのか。
8:軍服の男やヘルメットの男に警戒。
9:八将神……だが彼女(姫和)は一体?
※参戦時期は漫画版、マイン廃人〜クロメと決着つける前の間
※琴美、充、彰視点でのリベリオンズ勢の関係を把握しました
 ただしDルート基準の為、他ルートとは齟齬があります
 (話が完全に一致するのは春菜、充のみ)
※雌豚調教の才はモッコス死亡により空白の才に戻りました
 少なくとも現時点でアカメは書いていません
※スサノオが無理な禍魂顕現をしたことで、性能が落ちてるかもしれません
※日ノ元、オフィエル、彰と情報交換しました
※D-6早朝時点で初音は別のエリアに行きました
 どこへ行ったかは後続の書き手にお任せします
※バリアマテリアによりバリアが使えます
 回数を重ねれば強くなるかも
※八将神を知りました



















「まだ、生きているんだな……」

 血染めの空を眺めながら、か細い声が虚しく響く。
 姫和は吹き飛ばされた後、何処かの家屋へと墜落していた。
 日ノ元の見立て通りだ。写シのお陰で胴体は貫通してないし、
 地面への衝突もグランシャリオで防いでいて肉体損傷はほぼない。
 だから全身が重くのしかかる疲労感があることぐらいだろう。

「……こんな形で、希望と思うんだな。」

 日ノ元は明らかに別格の強さを持っていた。
 グランシャリオなしで戦ってれば、確実に。
 彼にまた会えれば今度こそ……とは思うも、
 今の状態で勝てないのに八将神の役割で再戦しに行くか、
 と言われたら絶対にしないことが目に見えている。
 今は身体を休ませる段階として、消極的になるだろう。
 彼女が修羅として生きる地獄は、まだ続く。

402 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:18:57 ID:VigE1wbI0
【十条姫和(豹尾神)@刀使ノ巫女】
[状態]:禍神、疲労(極大・再生中)、混濁した意識、狂気度低下、龍眼の暴走、精神疲労(絶大)、自殺願望
[装備]:小烏丸@刀使ノ巫女、召喚石バアル@グランブルーファンタジー(現在使用不可能)、タブレット(スペクトラムファインダー@刀使ノ巫女のアプリ起動)、修羅化身『グランシャリオ』@アカメが斬る!(現在鍵のみ)
[道具]:基本支給品×4(大祐、千、トッペイ、自分)、ランダム支給品(トッペイ×0〜1、大祐×0〜1、千×0〜1)、麻痺の杖(残り1)@少年ヤンガスと不思議なダンジョン、疾風のレイピア@ドラゴンクエスト8、ピオリムの杖(残り3)@トルネコの大冒険
[思考・状況]
基本方針:殺■/■したくない。
1:■す。■す。■す。■す。■したくない。
2:■でもいい、■を■してくれ───
3:私は……禍神だ。
4:可奈美……
5:ダメ、だったか。
[備考]
※参戦時期はアニメ版二十一話。タギツヒメと融合直後です。
※魂の状況により意思の疎通については普段と変わりませんが、
 身体は八将神としての役割を全うする立場にあります。
 ただ、自意識を保つ為で普段の時ほどまともな会話は望めません。
※タギツヒメと融合した影響により周囲に雷光が勝手に放出されます。
 龍眼も使えるようになってますが暴走状態で、本人の意思とは関係なく行います。
 死亡時、或いは彼女の抑えが限界を迎えた際にタギツヒメが肉体を乗っ取るかは不明です。
 (同時にタギツヒメがそのまま八将神を引き継ぐかも不明です。)
※迅移(主に三、四段階)の負担が大幅に減ってます。
 ある程度の時間を置けば動けるレベルに回復できますが、
 デメリットが完全緩和ではないので無暗には使いません。
※名簿は見ていませんが、刀使ノ巫女の参加者は把握しました。
※スペクトラムファインダーの表示に参加者が含まれていることに気付いていません。

403 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:19:37 ID:VigE1wbI0
【地獄耳の巻物@トルネコの大冒険】
ドドンタスに支給。使用後別のエリアへ行くまでの間、
地図上の参加者の位置が分かるようになる。消耗品で三個セット。
使うと消えて荷物が減る以外は首輪探知機、スペクトラムファインダーのほぼ下位互換。

【ツヨツヨドリンク@スーパーペーパーマリオ】
神戸しおに支給。二本支給されており、飲むことで数十秒だが攻撃が二倍になる。

【修羅化身『グランシャリオ』@アカメが斬る!】
恵羽千に支給。帝具の詳細は他参照。
原作でウェイブが使用した、帝具インクルシオを原型とした後継機。
普段は「鍵」と呼ばれる大剣で、使用者が名前を呼べば青黒の鎧を召喚して身にまとう。
鎧と言うよりもどっちかと言うとパワードスーツ。インクルシオ同様に身体能力の強化、
それを使った格闘技もできるが姫和なので使うのは稀。背中にはブースターのような機能上がり、
機動力もインクルシオよりも上回っている。これを用いたグランフォールと言う飛び蹴りの技もある。
素材には危険種に加え鉱石が多く含まれており、得物を破壊する膂力のあるアカメの刃が通らないぐらい頑丈。
ただし一部の所に集中すると鎧が破壊される、鎧と言えども使用者本人が耐えられないなど弱点もある。
インクルシオの副武装ノインテーターのような槍はある。名前は不明。奥の手も不明。
鍵は普通に剣としても使える。青龍刀よりの片刃の剣で、帝具なので頑丈。

【バリアのマテリア@ファイナルファンタジー7】
城咲充に支給。魔晄(ライフストリーム)が凝縮され結晶化したもの。
一般人でも様々な魔法や戦闘技術を使用する事ができる。
使う場合は武器や防具などにマテリア穴があり、五種類の内これは緑マテリア。
魔法マテリアは文字通り魔法が使え、物理ダメージを一定時間だけ2分の1に軽減する。
アカメは魔力がないので精神力、或いは体力を消耗する。
何度か使用していくとマバリア、リフレクと強化される。

【河童の秘薬@東方project】
モッコスに支給。東方茨歌仙にて登場した、壺に入ってる薬
運松翁という職漁師が河童からもらったもの(経緯は割愛)。
人間の魔理沙が傷口塗ったところを瞬時に治せるほどの回復力があり、
もし腕が取れていても元通りに付け直せる。恐らく軟膏で、手のひらに乗る程度には小さい。
華扇曰く「河童が腕を切られた時に生み出される秘薬」らしいが、実際は不明。

【ミネルバブレス@ファイナルファンタジー7】
神戸しおに支給。炎、雷、冷気、聖属性のダメージを無効にする効果がある腕輪。
女性にしか装備できず、男性が装備した場合はただの腕輪として扱われる。
マテリア穴(後述)は紫(独立)2、緑(魔法)2、黄(コマンド)2

404 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 02:20:12 ID:VigE1wbI0
以上で『SAMURAIGIRLS,SUN KILL!KILL!KILL!』 投下終了です

405 ◆EPyDv9DKJs:2022/03/09(水) 04:47:45 ID:VigE1wbI0
姫和の現在位置忘れてました
【C-4/一日目 どこかの家/早朝】

406 ◆s5tC4j7VZY:2022/03/19(土) 06:11:48 ID:wyXFP2jM0
投下お疲れ様です!

SAMURAIGIRLS,SUN KILL!KILL!KILL!
アカメと姫和の剣戟は一文一文ごくりと喉を鳴らしながら読みました。
巧みな一進一退の攻防は凄いなと読みながら改めて実感しました。
後、グランシャリオを身にまとった姫和には、驚きました!
士郎は、現段階のスタンスだとやはり頼もしい。
※帝具の姿のせいで彼女をヴァンパイアと勘違いしてます
↑確かに勘違いしてもおかしくないな!と笑っちゃいました。

アカメの世界の生死観は現代の一般人には合わせるのは難しい一面もありますが、貴真を知っているからこそ、受け入れる彰がいいですし、また、そんな彰に対して譲歩を見せるアカメもいいな〜と。
「……アカメさん。一食ですよ?」

「ああ、一食だ。」

 本来なら節約するべきところではあるが、
 アカメの基本支給品は実に六人分に相当する。
 なので多少の余裕はあるが、彰かあすれば自分の数倍は出された食料に、
 少し苦笑を浮かべていた。
↑情景が直ぐに思い浮かべられ、笑っちゃいました!

また、修正報告ありがとうございますとお疲れ様です。

それと予約の延長をします。

407dread answerまで後僅か ◆EPyDv9DKJs:2022/03/20(日) 04:52:08 ID:4yxKQsiY0
投下します

408dread answerまで後僅か ◆EPyDv9DKJs:2022/03/20(日) 04:54:20 ID:4yxKQsiY0
 定時放送が近づきつつある辺獄の舞台。
 もっとも、参加者にとって定時が何時頃かは知らされてないので、
 参加者の誰もが不意を突かれることになるであろうことは間違いないが。
 二人、軍服の男と修平は放送が近づく中それをじっと眺めていた。

 鬼門。本来の物語であれば、
 開いた絶鬼が同じくこの童森公園で作り出したもの。
 二人は仏教に詳しくはないので、絶鬼が説明したことぐらいでしか分からない。
 もう一つ理解してるのは、あらゆる参加者を此処へと叩き込めば確実に殺せる代物の点。
 絶鬼からは出てきそうにない機械の音がした。あれは間違いなく首輪の爆発した音だ。
 この中へ入れられたら、問答無用で首輪爆破されるらしい。それが誰であろうとも。

(問題はどう使うかだな。)

 鬼門を眺めながら軍服の男は改めてこの鬼門の利用について考えた。
 最強の矛とも言えるものだが、致命的な欠点が二つある。

 一つは支給品の回収が不可能なこと。
 今回は可奈美が運よく絶鬼の身体を斬ったお陰で、
 ギリギリ回収できてはいるものの、次もそうとは限らない。
 強い相手程奪うのは困難であり、弱い相手ではそも鬼門が必要ない。
 絶鬼のような怪物はフェザー達の活躍により倒すことはできたものの、
 もしあれと同等、それ以上の怪物が此処にいれば勝ち目は薄くなる。
 だから今後必要なのは支給品を潤沢にし、負けの芽を摘んでいくこと。
 そういう意味では、この鬼門は下手をすれば邪魔な代物とも思えてくる。
 他の参加者がこれを利用して参加者を減らすようなことをしてしまえば、
 当然支給品の総数が減り、ただでさえ必要な物資の可能性を潰されては困る。

(何より、現状で誘導できるのか?)

 もう一つは誘導の問題。
 単純に乗った人並みの参加者なら容易だが、
 此方には今相手を押し込めるのはガッツの義手の砲撃ぐらいだ。
 相手の実力次第ではいくら二人でも誘導することすらままならない。
 下手をすれば自分達が鬼門へ突っ込まれる可能性だって存在している。
 人間離れしたその力を見た都合で少し浮き足立ってしまっていたが、
 いざ振り返ってみると、これを使うのは中々至難なのではないかと。

「敵を押し込むのに向いたアイテムはないか?」

「……分かった、探しておく。」

 この殺し合いは自分達が知る一般的な殺し合いの更に上にある。
 コミックやアニメのような超能力や異能、超人も含まれるような世界だと。
 人が闘気を放ち、人が高速で加速し、人が異形の怪物へと変わっていく。
 ならばこのまま銃を使うだけでは勝てるような甘い戦いはそうは来ない。
 木刀の政のときも隣の彼が協力したからこそ、撤退に追い込めたのも事実。
 自分の力は銃を含めたとしても、下から数えた方が早いぐらいなのだと。
 だからここらで今一度自衛できるだけの力を、琴美を守れる力が必要だ。
 軍服の言葉に修平は頷いてデイバックを漁り始めるが、
 それで最初に出てくるのがお菓子では正直期待はできない。

(一応、役立つか。)

 ただのチョコではないのは分かったので、
 回復目的で一つだけ開封して口にしながらもう一度漁る。

「うふふ……がんばってるねー。」

 だがそれをするどころではなくなった。
 哨戒してた軍服の目を搔い潜って一人姿を現したから。
 いや、掻い潜るとかそういう問題ではなかった。
 相手はパッと姿を見せ、けだるげな声を出す。

「お前は……!」

 ゴシックなドレスに身を包んだ薄茶色の髪の少女。
 人形のような可愛さはあるが、彼女を可愛いとは思わない。
 二人は知っている。この殺し合いで最初に出会った相手だから。
 主催者の一人、フェレスと呼ばれた少女だった。

 相手は主催者。無暗に刺激すればろくなことにならない。
 そうはいってもいきなり主催者が姿を見せてきた上に、
 此方には鬼門を悪用しようと考えていたので後ろ暗いこともある。
 だから咄嗟の出来事とは言え、二人はそれぞれの武器を構えてしまう。

「二人とも必死に武器を構えちゃって……怖い怖い。うふふ。」

 怯えたような挙動をしてるが、
 言葉とは裏腹に表情は一切怯えてない。
 勝てる、と思い込める雰囲気すら軍服の男は感じられなかった。

「……主催者が一体何しに来た?」

 先に修平が武器を降ろして、同じように軍服の男も降ろす。
 確かに後ろ暗いことはあれど、今は二人は殺し合いを加速させる要因。
 盛り上げる要因相手に、ペナルティを課せるとは考えにくいと判断した。

「警告しに来たか、鬼門の封鎖が目的だな。」

「封鎖の予定なんだけどねー……ディメーンがいないと、
 ちょっと処理が面倒だから、僕が一先ず言いに来たんだよ?」

409dread answerまで後僅か ◆EPyDv9DKJs:2022/03/20(日) 04:54:53 ID:4yxKQsiY0
 定時放送を担当する主催者の一人。
 これを埋めれるとはどんな能力を持っているのか。

「でもでもー、ただで封鎖されると二人とも困るよね。」

「ああ、困るな。俺達は確実に殺し合いでは格下になる。」

 帝具、スタンドなどを筆頭に大半は様々な力を手にしている。
 刀使や拳法家等、元より磨かれた技術を培った参加者だって多い。
 その中で彼らが得たものはガッツの義手と言う少々規格外はあれど、
 基本的には超能力やオーバーテクノロジーに該当するものはまだない。
 絶鬼の支給品の中になら、もしかしたらあるかもしれないが今は未確認。
 どうあっても、彼等は殺し合いで生き残るには力不足と言えるだろう。

「俺達に鬼門を失うのに見合ったものを教えてもらう。」

 強くなれれば戦える相手だって増える。
 それは殺し合いを望む主催者にとっても美味しいはずだ。
 特に修平の目的は、相手からすれば実に滑稽に見えるだろう。
 大事な幼馴染を守るため必死に奔走する姿は、ドラマになるものだと。
 乗ってやるつもりはないが、その演出欲しさに提供してくれることを願う。

「じゃあー……E-4の灰を被りに行くといいかも。」

「灰?」

「人をヴァンパイアに変えちゃう、とーっても怖い灰だよ。
 でもでも……人によってはなれないから、なれなくても知らないけど。」

 ギース・ハワードが使ったヴァンパイアになる火山灰。
 ギースからすれば持っていても意味はない代物であり、
 他者からすればただの灰。被る発想がないので放置されていた。
 修平達は北から南下している形から、また北上することになるものの、
 今のうちに力を付けておける手っ取り早い手段としては大きい。

「E-4のどの辺だ?」

「行けばすぐにわかるよ。死体だってあるし。」

 ヴァンパイアになった奴が暴れた、
 そう受け取っていいような回答が来る。
 その死体が琴美でないことを願うだけだ。

「確証が得られないものだけでは困る。確実性なのはないのか?」

 軍服の男にとってはもう少し現実的なものを狙いたい。
 修平と違って彼は自分自身が死んでいる。死を回避するにおいて、
 博打めいたものに頼ると言うのは余り優先したくなかった。

「犬のように吠えて頑張ってるねー……わんわん。
 ソフィアちゃんに殺されたのがそんなにトラウマなのかな?」

「……あるのか、ないのかを聞いてるんだが。」

 眉間にしわが寄ったものの特に表情を崩すことはしない。
 棒切れでボウガンの矢を弾く彰を見て撤退したように、
 冷静な判断力を以て尋ねる。

「せっかちさんだねー……じゃあ、ムラクモって人を探してみるといいよ。
 その人が持ってる刀はねぇ、ちょっと傷ついただけで即死しちゃうんだ。」

「!」

「それと比べたら、鬼門なんてゴミだよゴミ。」

 かすり傷でも当たれば即死。
 入れただけで即死の鬼門と同じでありつつ、
 刀と言う持ち運べるものが存在してるとは思わなかった。
 使い慣れてるわけではないにしても、当てにできる代物だ。
 特に『刀』と言うところは軍服の男にとっては先に奪取しておきたい。
 生前悠奈と呼ばれた赤髪の少女が独り言の際口にした名前が名簿に入っている。
 PDAの存在も修平は知っていたことから、ゲームの関係者が多めなのは確実。
 となれば、あの時棒切れでボウガンを弾いたあの少年(彰)だっているだろう。
 常人がボウガンを棒切れで弾けるわけがない。相当な剣術を経験してるはずだ。
 棒きれであの腕なのだからそんな刀持たせたらどうなるか分かったものではない。
 そういう他人に、それも剣術にたけた人物に渡らせたくない意味でも手にしたかった。

410dread answerまで後僅か ◆EPyDv9DKJs:2022/03/20(日) 04:55:47 ID:4yxKQsiY0
「ムラクモ、という男の特徴は?」

「茶色い軍服で白髪の男性だよ……他に該当する人はいないよ。今のところは。」

「今のところ?」

「遊びで洋服とか入れちゃったりしたし、
 中には人の服を奪うこわーい人もいるから……」

 要するに最初の恰好から変わってる可能性があると。
 似たようなものが支給されてるとは考えにくいし、
 男性に絞ればある程度は減るだろうから左程問題ではない。
 そのムラクモとやらが着替えてるような事態であれば別だが。

「ところで、琴美はどうしてる?」

 武器の情報もいいが、こうして主催者が此処にいる。
 となれば自分達よりはるかに多い情報を持つはず。
 引き出せるものはなるべく引き出しておけば、今後に繋がる。

「琴美ちゃんかぁ……うふふ。
 琴美ちゃん、琴美ちゃん、琴美ちゃん、
 琴美ちゃん琴美ちゃん……可愛かったなぁ。」

「琴美に何かあったのか!?」

 恍惚とした表情で語る彼女に、嫌な予感が過り手を掴む修平。
 可愛『かった』と過去形のような言い方は、不安を煽る材料でしかない。

「すっごい強い人と一緒だったから大丈夫かもしれないよぉ。
 とーっても、恐ろしいケダモノと出会ってたみたいだけど……うふふ。」

 聞けば聞く程嫌な予感しかしてこなくなる。
 一方で人をおちょくるのを楽しんでるので、
 ただの虚言とも思えなくもないのが厄介なところだ。
 本当かどうかが妙に判断しづらい。

「君達が琴美ちゃんの事、守ってあげないとね。」

「……言われるまでもない。」

 琴美が唯一のよりどころとなった存在だ。
 たとえ自分が手を汚すことになってでも、彼女を守る。
 そう決意して完全な善人であるフェザーすら手にかけた。
 後戻りはできないし、後悔するつもりもない。
 彼女は、こんなところで死んでいい奴じゃないと。

「ボンジュ〜ル……おっと、先に相手してくれてたのかい?」

 会話がひと段落ついたところ、
 ディメーンが空中に浮いた状態で姿を見せる。

「いやはや、激戦区に支給品を届けるのも大変だったよ。
 特に今回のは大型。リアルタイムで見たいのに事後処理とは多忙だね。」

 大変とは口にしつつ着地するが、
 此方も余り大変そうには見えない。
 道化らしい姿をしてると言うのもあるだろうが、
 声色と言う意味でもそうとは余り受け取れなかった。

「おや、これはこれは……藤田修平君じゃないか。」

「? 俺がどうかしたのか。」

「ンッフッフ、いいや? ただ君達に興味を持っているだけだとも。
 刀使でも、リフレクターでも、半妖でもヴァンパイアでも代行者でもない。
 何一つ特殊な力も持ち合わせてない中、殺し合いに乗ろうと掲げた参加者だよ?」

 ギースや桐生のように、最初から力を持ち合わせたわけではない。
 緑郎や貴真のように、支給品で特殊な能力や力を得たわけでもない。
 ジャギやホワイトのように、人間離れした戦闘技術を持ってすらいない。
 彼らは人間の範疇から欠片たりとも逸脱してない状況下でありながら、
 数々の異能を前にしても方針を転換せずに続けていると言う、稀有な存在だ。
 洸のように、何方に転がるか分からない一般人の範疇を出ない参加者はいるが、
 彼らと同じ殺し合いを加速させる参加者では死者を含めても他に存在しなかった。
 (村田はミスティのバックアップがあったので除外とする)

「そういう意味だと君達は希少なのさ。
 君達の活躍を期待してるよ。ボン・ボヤ〜ジュ!」

 四角い枠が二人や鬼門を囲むと、
 枠が縮んでいき、囲まれていた相手は全員姿を消す。
 適当なものを鬼門があった場所へ投げても何も起きない。
 どうやら本当に閉じられたか、鬼門の場所を変更されたようだ。

「……どうする。E-4へ向かうか?」

「それが一番だろうな。」

411dread answerまで後僅か ◆EPyDv9DKJs:2022/03/20(日) 04:56:08 ID:4yxKQsiY0
 軍服の男に促されたのもあるが、
 ムラクモの行方は分からない以上、灰を調べるしかない。
 今絶鬼のような参加者と出会えば即座に壊滅するだろう。
 特にどこかでは激戦区もあるようだし、その上大型の支給品も存在する。
 なので、少しの間参加者との接触は控えておくようにしたい。
 ディメーンは人のままでであることを評価したが、評価などどうでもいい。
 琴美の為なら、人間をやめるぐらいはするつもりだ。

「それはそうと、そっちの支給品は確認しないのか?」

「自分のを確認するよう言っておいて、
 此方で確認してなかったな……悪かった。」

 支給品の総数で言えば絶鬼の分軍服の男の方が多いのだから、
 自分の方が確認しておくべきことで、絶鬼の支給品を確認し始める。
 なんてことはない行為だが、彼等にとっては此処が重要な瞬間でもあった。

 既に、修平が目的とした琴美はモッコスとの戦いで死亡した。
 つまり、修平は『不要な存在の排除』から『全参加者の排除』に転換する。
 修平にとって村雨と火山灰の情報を持っている軍服の男は厄介な存在だ。
 先にそれを手にされる可能性もあるし、彼はまだ特殊な力がない。
 今が一番簡単に殺せる瞬間でもあると言うことだが、
 もし、支給品で返り討ちに出来るものがあれば別だ。
 修平が今から確認する最後の支給品にも可能性はあるが。
 ビターチョコを嚙み砕きながら迎える放送は、
 何よりも苦い結果を報告してくるだろう。



 第一回目の放送は何方か、或いは双方の弔いの鐘となるや否や。

【(Zルートでソフィアに返り討ちにされた)軍服の男@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:健康
[装備]:ガッツの義手(ボウガン、大砲付き)、クロスボウ@現実
[道具]:基本支給品×3(フェザー・絶鬼)、ランダム支給品0〜4(自分×0〜1、絶鬼×1〜3)、神戸しおの靴下@ハッピーシュガーライフ
[思考・状況]
基本方針:生き残る。
1:参加者を襲撃し装備を増やす。
2:修平と組んで不要な参加者を減らしていく。
3:E-4灰、それとムラクモと言う男が持つ刀(村雨)を手に入れる。

[備考]
※参戦時期は死亡後です。

【藤田修平@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
[状態]:ダメージ(小)、不安(大)
[装備]:コルトM1911A1@サタノファニ、食べかけのビター・チョコレート@クライスタ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜3、ビター・チョコレート×3@クライスタ
[思考]
基本:琴美を生還させる。琴美が死んだ場合は優勝して彼女を蘇らせる。
0:琴美の生還に不必要な存在を排除していく。
1:軍服と組んで不要な参加者を減らしていく。
2:一体何だったんだあの女(零)は……
3:木刀政には要注意。
4:あのPDA……もしかして他にも支給されているのか?
5:E-4の灰、それとムラクモと言う男が持つ刀(村雨)を手に入れる。
6:琴美、無事なのか?

[備考]
※エピソードA、琴美死亡後からの参戦です。










「ねえディメーン……楽しそうだけど、どうしたの?」

412dread answerまで後僅か ◆EPyDv9DKJs:2022/03/20(日) 04:56:26 ID:4yxKQsiY0
 多数のモニターが並ぶ部屋へと戻ってくると、
 何処か浮き足立ってるディメーンに疑問を浮かべるフェレス。
 正直彼が何を考えてるかについてはどうでもいいことだ。
 そもそも主催者陣営が胡散臭い連中しかいないし、双子もそに該当する。
 彼女にとって興味があるのは、殺せないまま悩み続ける零のことぐらいだ。
 見ていて滑稽で、愉快で、愉しくて仕方がない玩具一つだけ。

「ンッフッフ、ちょっと面白そうな参加者がいたから、今後が楽しみなだけさ。」

 誰が予想できたか。自分だって伯爵の隙を狙って漸く致命傷を負わせたのに、
 まさかこんなにも伯爵が早く死亡すると言う思いもよらない結末を迎えているとは。
 ナスタシアは涙を流すだろうか。ミスターLは悠奈と共にいられるのだろうか。
 マネーラは伯爵と戻ることを願った。その伯爵がいなくなった今どうなるのか。
 嘗ての仲間であった三人の放送後の反応を楽しみで浮かれたくもなるが、
 彼が関心を持ってるのは何よりも完全者。あの戦いを生き延びた上に、
 コントンのラブパワーを得る結果もこれまた予想していないことだ。

(これは、早い再会になるかな?)

 目を盗んで出会う算段を思案しながら、ディメーンは一人楽しむ。
 特にそんな彼に大した興味を示すこともなく、
 フェレスはその場を去っていった。

【ビター・チョコレート@クライスタ】
藤田修平に支給。辺獄の商人から買える回復アイテム。
体力の三割程を回復できる。四個セット。

413dread answerまで後僅か ◆EPyDv9DKJs:2022/03/20(日) 04:56:45 ID:4yxKQsiY0
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