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辺獄バトル・ロワイヤル【第3節】
1
:
◆2dNHP51a3Y
:2021/06/25(金) 21:22:55 ID:riCoyL6w0
―――ソラを見よ、血染めの月が、世界を侵食(おか)す
2
:
灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー
◆ZbV3TMNKJw
:2021/06/25(金) 23:29:25 ID:4rGGmn7.0
★
「止めておけよ」
僕をよびとめる声がきこえた。
そこには僕がいた。灰色のかいぶつになった僕が、かつて見た時と同じように壁に背をあずけて座っていた。
「ソレが本当に彼女の声なのか?お前が都合よく受け取ってるだけじゃないのか?」
「何にも見えないこんな世界でどうしてソレが彼女だと言い切れる」
かつての『僕』は問いかけ警告するだけだった。
けれど、今回は何かが違う気がする。
「もう一度言うよ。止めておけ。きっとまた見間違える。深くなっていく不安から目を逸らして善意に流されれば、また誰かの命を海に沈めることになる」
『僕』ははっきりと僕を止めている。
その言葉に僕の不安は増していき、それでも僕は口にした。
―――僕はもう見間違えない!
3
:
灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー
◆ZbV3TMNKJw
:2021/06/25(金) 23:29:59 ID:4rGGmn7.0
☆
鳴り響く轟音、轟音、轟音。
激しい戦闘痕に怯えつつもまどかは戦場へと向かった。
(あの人を止めなくちゃ)
自分を斬った男、堂島が未だに怯え、誰かを手にかけようとしているならば必ず止める。
その意志を胸に秘め、彼女はやがて戦場へとたどり着く。
そこで見たものは、堂島が剣を投げ黒ゴスロリ服の少女を殺そうとした場面。
少女は間一髪回避したものの、第三者の目線で戦場を見ていたまどかは気が付いた。
地面に落ちた剣が宙に浮かんだことに。
そこから先の光景は戦闘経験が豊富とはいえない彼女でもわかる。
理屈はわからないが、あの剣は少女を斬るのだろう。
そう判断した瞬間、まどかは自然と弓を構えていた。
―――武器の軌道と位置を読め。
その英吾の教えを頼りに、意識を剣のみに集中し、矢を放つ。
果たして矢は剣の腹にあたり、少女の眼前にまで迫っていた剣は軌道がそれて主のもとへと帰る。
「大丈夫ですか!?」
成功にホッと胸を撫で下ろすよりも早く、まどかは少女へ駆け寄り安否を確かめる。
「―――る、―げろっ!」
「助けてくれてありがとぉ!」
堂島の叫びをかき消すように、ミスティがまどかに抱き着き礼をする。
突然の抱擁にまどかは困惑し慌てふためく。
「えっ、ちょ、あの」
「あなたがいなかったらきっとあの怖い男に殺されていたわぁ。だからこれは...お礼のチュー♡」
ちゅるっ
4
:
灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー
◆ZbV3TMNKJw
:2021/06/25(金) 23:30:25 ID:4rGGmn7.0
「!!??」
突如口内に侵入した甘い感触に思考が止まり、一拍置いて己がされていることに理解が追い付くと瞬く間に顔が真っ赤に茹で上がる。
魔法少女は魔力さえ込めれば身体能力が高くなる。常人であれば逆立ちしても勝てないほどにだ。
そのはずなのに、拒絶の意思を抱いていてもなぜかミスティを突き飛ばすことができない。魔力は乱れ、ただの女子中学生としてでしか抗えない。
嫌がる思考と与えられる快楽に従う身体が正しく直列反応していないのだ。
首筋に軽い刺激が走ると共に、ようやく唇が離されまどかは息を荒げつつミスティを突き飛ばし距離をとる。
「なっ、ななななにをするんですか!?」
「その反応、ひょっとして大人のキスは初めてだったかしらぁ?ごめんなさいねぇ、お礼のつもりがあなたの"初めて"奪っちゃったみたぁい」
口角が吊り上がり、細められるミスティの目にまどかの背筋がゾクリと粟立つ。
茹で上がった顔から一気に血の気が引くほどの悪寒。
捕食対象を見つけた爬虫類のような、冷たく見下ろす瞳。
咄嗟に弓を構えようとするまどか。
しかし、突如身体を奔った甘い稲妻に照準が定められなくなる。
「ふわっ!?」
「初めて与えられた快楽を求めて身体が嫌でも疼いてしまう...初心な子の反応は可愛いわねぇ」
鼻歌でもひとつ歌いだしそうなほど軽やかな足取りでミスティはまどかへと歩み寄る。
「こ、こないでくだ...ひゃあっ!?」
「安心しなさぁい。あなたは命の恩人だものぉ。エスデスちゃんたちみたいな無茶な改造はせずに優しく愛して快楽漬けに堕としてあげるわぁ」
改造。
その無害とは無縁な単語にまどかの喉が鳴る。
―――なにしてる、逃げろっ!
先ほどの堂島の叫びが脳内で補完され訴えかける。
危険なのは堂島ではなく、ミスティだったということ。
自分はまた間違えてしまったということを。
離れなくてはいけない。なのに動こうとするだけで身体に甘い稲津が走り、けん制することすらできない。
捕食者に頬を撫でられる感触すらもまどかの身体は快感に変換される。
「可愛い顔は好きよぉ。何度も、何度も味わいたく―――」
再び唇を重ねようとしたミスティは、しかし飛び退き距離をとる。
「シッ!」
5
:
灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー
◆ZbV3TMNKJw
:2021/06/25(金) 23:31:05 ID:4rGGmn7.0
微かに遅れて、彼女のいた空間に拳が放たれた。
後からまどかを追っていた真島が到着し、状況からまどかが危険だと判断したのだ。
「だいじょうぶか鹿目」
「ひゃひっ!?」
「!?」
真島の手が肩に触れた途端、まどかは嬌声を上げ背筋がピンと伸びる。
「どうした鹿目...っ!?」
真島はまどかに比べて身長が高い。それ故にすぐに気が付けた。
まどかの首筋に細い針が刺さっていたことに。
真島が咄嗟にそれを引き抜くと、まどかの身体の疼きは消え、体力の消耗に伴いがくりと崩れ落ちる。
「あらあらもうバレちゃったのねぇ」
「鹿目になにをした?」
「ちょっと感度を弄っただけよぉ。命を助けてくれたお礼を兼ねて。針が身体に馴染む前にとられちゃったから打ち切りだけどぉ」
その言葉に真島が鋭い目でミスティを睨みつける。
命を救われた礼がこのような悪辣なことではミスティに対して嫌悪感しか抱けない。
とん、とん、とん、と一定の間隔で地を蹴りボクシング特有の足取りで戦闘態勢に入る。
「悪いが女相手とはいえ容赦はしない」
「ふぅん、ボクサーねぇ。スポーツ選手は性欲が強い人が多いと聞くけどあなたはどうかしらぁ?」
ミスティが掌をかざすと同時、地面から真島目掛けて三本の水の槍が襲い掛かる。
真島はボクシングで鍛え上げたフットワークで迫る二本を躱し。
「シッ!」
残る1本を右のジャブで破壊した。
次いで放たれる水の槍も同様に躱し、ジャブで破壊し対処していく。
「ふぅん、中々やるわねえ。ならこれならどうかしらぁ?」
ミスティが号令をかけると水の槍に変わり、今度は津波が真島目掛けて押し寄せる。
(点が駄目なら面でということか!)
この面の広さで攻められれば真島のフットワークでも避けきれない。
一か八か、全力のストレートで波を破れる可能性に賭ける。
「真島さん!」
真島の横に復帰したまどかが並び波を見据える。
「鹿目、なぜ逃げなかった!?」
ミスティの狙いは真島一人だ。復帰できたのならまどかがこの場を離れることはできたはずだ。
「真島さんを置いていけませんよ!」
だが彼女に、鹿目まどかに大切な者が傷つくのを合理的に眺めていることなどできるはずもなかった。
6
:
灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー
◆ZbV3TMNKJw
:2021/06/25(金) 23:31:38 ID:4rGGmn7.0
「―――ああそうか、ならいくぞっ!」
「はいっ!」
もはや説得も警告もままならない切羽詰まった状況だ。
ならば打ち破るしかない。共に信じあい、共に呼吸を合わせて。
「「はああああああああ!!」」
眼前にまで波が迫ったその刹那、二人の叫びが重なる。
繰り出された拳と弓が一点に集中し波へと放たれる。
パァン、と小気味いい音と共に、波は弾かれまどかと真島の視界が広くなる。
「すごいすごい、よくできましたぁ。これはとっておきのご褒美よぉ」
その先で視界に飛び込んできたのは更なる絶望。
小馬鹿にするように嗤うミスティの頭上に溜まる、半径5メートルはある巨大な水の弾。
その圧力を身に受ければただでは済まないだろう。
「ほう、中々見事に使いこなしているではないか私のご主人は」
「くっ!」
「そう急くな。こちらはこちらで楽しもうじゃないか」
まどか達のもとへと向かおうとする堂島だが、エスデスに進路を塞がれ足止めされる。
(クソッ!回避が間に合わない!)
全力の攻撃を放った直後の真島とまどかに水球を避ける余裕はなく。
ならばせめてと真島はまどかを抱きしめ、水球に背を向け己の身体を盾にする。
「真島さん!」
「衝撃に備えろ鹿目!!」
真島はまどかを抱きしめる力を強め、歯を食いしばり来る激痛に備える。
バチリ、と激しく肉を打つような音が響く。
人が津波に打たれたらこんな音がするのだろうかと真島はなんとなく思った。
7
:
灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー
◆ZbV3TMNKJw
:2021/06/25(金) 23:32:15 ID:4rGGmn7.0
「......」
だが、来ると思っていた痛みが来ない。疑問のままに真島は瞼を開ける。
「怪我はありませんか」
バサリ、とたなびく漆黒のマントが真島とまどかの視界いっぱいに広がる。
周囲には真島たちを護るかのように小魚のような形の影が蠢いている。
「これ、は...!」
信じられぬものを見たかのようにミスティは目を見開き。
「ふふっ、まったく貴様という男は...!」
既視感ある光景にエスデスはこれ以上なく口角を釣り上げ。
「ハッハッハッ」
いつもの乾いたような、しかしどこか喜色の混じった笑い声を堂島があげる。
「ようやく目を覚ましたようだね、佐神くん」
佐神善。その瞳に宿る信念は微塵も揺らぐことなく、救える命を救うため、再び戦場へと帰還した。
8
:
灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー
◆ZbV3TMNKJw
:2021/06/25(金) 23:32:59 ID:4rGGmn7.0
★
目を覚ます。
見知らぬ少年が益子さんを介抱しつつこちらを覗き込んでいた。
彼が何者か。いま自分はどうなっているのか。なぜこんなことになっているのか。
『まだ戦う意思はあるか』
疑問がぐちゃぐちゃに渦巻く中、真っ先に思い出したのは、斬る前にあの人が僕に問いかけてくれたその言葉だった。
☆
「あり得ないわぁ...善くんは殺したとあの男が...」
困惑するミスティだが、しかし己で口にして気が付く。
『情報収集は複数人と照らし合わせなければ正確性は増さない』
まさしく堂島自身が言っていたことだ。
それはつまり。
疲弊しきった吸血鬼は脳を斬られれば死ぬというのも。
善がもうじき死ぬと言ったのも。
なにもかもが堂島のでっちあげた嘘だということ。
最初のミスティの予想通り、堂島は善が復活するための時間稼ぎをしているにすぎなかったのだ。
「エスデスちゃん、堂島を殺しなさぁい」
「言われるまでもない。闘争の果てにあるのはどちらかの死のみだ!」
エスデスの掌が地面に触れ、足元から巨大な氷柱が堂島の足元から生やされる。
確実に心臓部を狙った一撃。しかし、ミスティが命じたからといってすぐに殺せるほど、堂島とエスデスの実力差は無い。
氷柱を捌きつつ、逆にそれを足場にして跳躍し善のもとへと降り立つ。
9
:
灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー
◆ZbV3TMNKJw
:2021/06/25(金) 23:33:54 ID:4rGGmn7.0
「...先生」
善は隣に並び立つ堂島をジッと見据える。
いまの二人はかつて相談事を持ち掛けたり昼食を共にとったり、そんな和やかな時間を過ごせるような間柄ではない。
堂島は善を戦いから降ろすために遠ざけ、善は堂島の正義に狂った犯行を止める為に斃すことすら考えている。
敵対関係としか言いようがない間柄だ。
「ありがとうございました」
それでも善は礼をする。
堂島正という男が二度も自分の命を救ってくれたヒーローであることに変わりはないのだから。
「まったく、あんな形で君を斬ることになるとは思わなかったよ」
吸血鬼の再生はそのすべてが切り離された箇所を着けるのではなく、イチから組織を作り上げる場合もある。
後者の再生の場合は、当然ながら再生させられるのはミスティの黒針で変化させられた肉体ではなく、健全な善の肉体である。
堂島はミスティの黒針を刺された箇所、脳の一部と局部を再生に使えないほど重点的に切り刻み、カモフラージュの為にその他の箇所を再生が可能な程度に切り刻んだ。
無論賭けだ。
善の吸血鬼としてのポテンシャル、なにより彼自身の生存への意思が必要不可欠だった。
堂島はずっと善を吸血鬼の抗争から降ろしたかった。
彼の命を守るために。彼には守るべきものを護ってもらいたいために。
その堂島が、吸血鬼としての能力と善の信念を信頼して斬ることになるとはなんたる皮肉だろう。
「この際に戦いから降りてくれれば肩の荷が下りるというものだがね」
「降りませんよ。少なくともあなたを止めるまでは」
「そういうと思ってたよ」
仮面の下からも苦笑しため息を吐くさまがありありと想像がつく堂島。
まどかは、彼が自分を斬った者と同じだとは思えなかった。
「あの...堂島さん、でいいですか?」
「...ああ」
おずおずと話しかけるまどかと堂島の間に張り詰めた緊張感が走るのを善と真島は肌で感じ取る。
「そのっ、ごめんなさい!」
10
:
灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー
◆ZbV3TMNKJw
:2021/06/25(金) 23:34:28 ID:4rGGmn7.0
真っ先に頭を下げたのはまどかだった。
糾弾されるかと思っていた堂島は思わず面を食らう。
「わたし、勘違いしてて、堂島さんの邪魔をしちゃって...!」
もしもあの場面でまどかが邪魔をせずミスティを倒せていれば事態はかなり良い方向へと進んでいたはずだ。
それがわからぬほどまどかは己の正義に盲目的ではない。
「...参ったな。先に謝られると立つ瀬がないというかなんというか...」
「あんたは俺たちの味方になった、ということでいいんだな?」
「事情が変わってね。まあ、私が信じられないというのも無理な話だが」
「信じますよ。その為に私たちはここまで来たんですから」
「...だ、そうだ。俺も鹿目と同じだ。尤も、俺は鹿目ほど寛容じゃないからなにか一言あるべきだと思うがな」
「そうだね。...先ほどはすまなかった」
善には三人の間になにがあったはまだ知らない。
しかし、後で事情は聞かせてもらうにせよ、これで堂島は確かに自分の味方だと強く確信する。
「ハァァァァ...」
そんな彼らを見て、ミスティはこれみよがしに深いため息を吐く。
「バカな子...大人しく従ってれば痛い目にも怖い目にも遭わずにすんだのにぃ」
「聞くわけがないだろ、あの子をあんな目に遭わせた奴のいうことなんて...!」
「あなた彼女とは初対面でしょう?あっ、ひょっとしてたくさんまぐわってる内に情が湧いちゃったのかしらぁ」
「ッ!」
「見え見えの挑発に乗るなよ佐神くん」
「...大丈夫ですよ。あの手の挑発はもう身内で慣れてますから」
「善くん。あなたは優秀なザーメンタンクだったわぁ。でもね、ご主人様に逆らう奴隷は要らないの。
戦闘員はエスデスちゃんにお父様で十分。あなたと堂島さん以外の子を目の前でたっぷり調教してあげるから覚悟をなさぁい。
先に逃げた女の子も、そこにいる二人も。―――そこに隠れて隙を伺っている誰かさんも」
ミスティが掌を校舎の方角へと翳すと、水流が勢いよく湧きだし傍にある壁を破壊する。
11
:
灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー
◆ZbV3TMNKJw
:2021/06/25(金) 23:35:18 ID:4rGGmn7.0
その破壊の痕から赤い月光を背に浮かび上がる影が一つ。
ミスティはその存在を予め知っていたわけではない。
堂島が一芝居打って善の再生時間を稼いだのを考慮しても、彼の復帰は早すぎた。
しかし、堂島が斬ってからすぐに戦闘に移行したため、遺灰物を使うような余裕はなかった。
つまりは第三者。何者かが弱り切った善に遺灰物かそれに類するものを提供した―――そう推理したのだ。
「...いまのぼくはジョルノ・ジョバーナに最も近い存在。ワザップじゃあないが...しかし、敢えてこの言葉を言わせてもらう」
〜〜〜〜♪(ジョルノが無駄無駄する時のBGM。ワザップジョルノの動画でも流れている)
影―――ジョルノは己の存在が暴かれたことにも微塵も動揺せずに凛として言い放つ。
「貴女を強制性交等罪及び名誉毀損罪で訴えます。理由はもちろんお分かりですね?」
犯した罪状を確かめるように静かなトーンで語り掛けるように。
「あなたが純朴な青少年たちの純潔を奪い、心身を傷つけたからです!」
罪を犯した愚者への怒りを解き放つように力強く。
「覚悟の準備をしておいて下さい!ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい!貴女は性犯罪者です!刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!!」
決して許されないことをした者への怒りをぶつけるように、烈火のごとく激しく。
ワザップジョルノはいまここにミスティたちへと宣戦を振りかざした。
12
:
灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー
◆ZbV3TMNKJw
:2021/06/25(金) 23:36:35 ID:4rGGmn7.0
☆
「グワバア"ア"ア"ア"ア"ア"!!」
「ていっ!」
梨花が杖を振ると、累の父は遥か後方へと吹き飛ばされる。
「便利なもんだなその杖」
「そうは言ってもあと一回しか触れないけれどね...あなたのこのインパスの指輪があって助かったわ」
英吾と梨花は共に移動しながら累の父を引き付けている。
生命エネルギーを生み出すことの出来るジョルノが善の再生をサポートし、その後、増援を連れてくるまで杖を活用し英吾と梨花の二人で粘る。
それが梨花の考えた作戦だった。
「...三島。あなたはジョルノの方へ向かってもよかったのよ?」
「ハッ、子供一人にこんなこと押し付けられねえさ」
「...そう。仮に死んでも後悔しないことね。あなたが死んでも涙は流せないから」
「冷たい嬢ちゃんだな...ま、そんだけの口が聞けりゃあもう自殺しようなんて思わねえだろうな」
「ええ。私にはやることがあるもの。それまでそう簡単にこの命をくれてやるわけにはいかないわ」
梨花の目的は目下沙都子の保護である。
その為には善や堂島のように強力で全量な参加者が必要不可欠だ。
そして、彼らのもとに累の父を向かわせれば戦況は悪化するのみだ。
絶対にミスティたちのもとへ向かわせてはならない。
梨花と英吾は決意と共に、文字通りの命がけの鬼ごっこへと挑む。
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に 業】
[状態] 精神復調、後頭部にたんこぶ
[装備] いつもの服、インパスの指輪@トルネコの大冒険3(英吾の支給品)
[道具] 基本支給品、不思議な杖三本セット(封印の杖[3]、ボミオスの杖[3]、ふきとばしの杖[1])@ドラゴンクエスト外伝 トルネコの大冒険 不思議のダンジョン
ランダム支給品(0〜1)
[行動方針]
基本方針:繰り返しを脱する手がかりを掴む
0:累の父を止める/倒す
1:沙都子を保護する。ジョルノの推察により僅かな疑念
2:頑張れるだけ、頑張る。
[備考]
※参戦時期は16話で沙都子に腹を割かれている最中(完治はしています)
※ワザップジョルノ、プロシュート、三島英吾を危険人物と認識しています
【インパスの指輪@トルネコの大冒険3】
装備している者は如何な道具の正体も見破ることができるようになる。
このロワにおいては触れた支給品の杖の回数のような支給品説明書に記載されていない情報がPDAのフォルダに送られる。
【三島英吾@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]顔面に激痛(傷はGEにより完治)
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜1、拳銃@現実、ライフル銃@現実(梨花の支給品)
[行動方針]
基本方針:殺し合いを止める。
0:累の父を止める/倒す
1:彰、悠奈との合流。
2:貴真には要警戒。
[備考]
※参戦時期は死亡後
【累の父@鬼滅の刃】
[状態]:満腹
[装備]:
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:家族を守る
0:家族(ミスティたち)を守るために眼前の連中をつぶす。
1:オ゛レの家族...イダヨ!!!!!!
2:あの人間、うまがったあ゛あ゛あ゛
[備考]
※参戦時期は36話伊之助との戦闘中、脱皮する前
※ホワイトの精神操作はドレミーによって解かれました。
※しかし、ドレミーに何か”しこまれている”かもしれません。詳細は後続の書き手様に委ねます。
※ドレミーと夢の世界で出会いました。
※殺し合いのルールを理解できておりません。
※一般・ランダム支給品はドレミーに奪われました。空のデイバッグは捨てられています。
※夢の中での啓示により、ホワイトの首輪を所持しましたがミスティに回収されました。
13
:
灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー
◆ZbV3TMNKJw
:2021/06/25(金) 23:37:42 ID:4rGGmn7.0
☆
「なるほど...こいつが益子ってやつを甚振ってたやつか」
「そのようですねェ。荻原さんの夢で見た男は彼ですね」
プロシュートたちが結衣の案内でたどり着いた先にいたのは地面に転がる鷲鼻の男。精力を使い果たし力尽きた村田勉の遺体である。
「で、ゴスロリ娘とやらはどこに行った?」
「仲間割れですかねェ。益子さんをどうするかでモメてゴスロリさんがズドン!と」
「あり得る話だな。益子って娘をわざわざ連れ去ってるならなおさらだ」
「それで、益子さんはどこに行ったんですかあ?」
結衣の間延びした声が疑問を投じ、プロシュートたちは考える。
益子にしてもあそこまで派手にやられていれば体力の消耗はかなりのモノのはず。
ならばそんな女を連れ歩くならばどこかの施設で休息をとるはずだ。
地図上、近場にある主な施設は
「学校か」
その答えに相槌を打つかのように、轟音がプロシュートたちのもとへと届いた。
【プロシュート@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:負傷(中) 疲労(中)
[装備]:ニューナンブ@ひぐらしのなく頃に 業
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:?????
1:益子とかいう女を助ける。...賭けに負けちまったからには文句は言わねえ。
2:ユイ・オギハラ……兄貴……か
3:レオーネの知り合い(アカメ)を探す。あったら言伝を伝える。※C3の貸本屋のこと
4:オレは死んでるのか?それとも、まだ生きているのか?
5:ワザップジョルノ……オメーは一体何者だ……
[備考]
※参戦時期はブチャラティVSペッシを見届けてる最中です。
※此処が死者、特にロクデナシの連中を集めたものだと思っていましたが、結衣の存在やドレミーとの情報交換から今は生者死者入り交えていると推測しています。
また、自分はまだ死んではいないのかとも思い始めています。
※ドレミーとの会話で幻想郷について簡単に知りました。
※ワザップジョルノが護衛チームのジョルノなのか結論を下せず、半信半疑中です。
【ニューナンブ@ひぐらしのなく頃に 業】
雛見沢の謎を追っている刑事大石に支給されている銃。
日本のお巡りさんのほとんどが、この拳銃を携帯している。
「この村のせいじゃぁぁぁ!!」by大石蔵人
【荻原結衣@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:疲労(小)、後悔、睡眠中、プロシュートに黄金の希望を見出している
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜3、氷
[思考・状況]
基本:益子さんのためにもまずは生き延びる(可能なら益子さんとお買い物をしたい)
1:益子さんを助けに行く。
2:益子さん、ごめんなさい……!
3:兄貴にドレミーさんと私……これが続いてほしいな
[備考]
※参戦時期はepisode Cから 小屋の地下で黒河と心が通じ合う前
※プロシュートが裏の世界の人間だと理解はしています。
※スタンドなどはまだきちんと理解できていません。(なんか、よくわからないけど凄い程度)
※ドレミーの世界(幻想郷)について簡単に知りました。
※この殺し合いが終わったら、益子薫と買い物をする約束をしています。
【ドレミー・スイート@東方project 】
[状態]:疲労(極小)
[装備]:夢日記@ 東方project
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜5 氷
[思考・状況]
基本方針:この殺し合いと言う酔夢が導く結末を見届ける
1:とりあえず、プロシュートの後をついていく(襲い掛かってきた者には対処する)
2:参加者が寝たとき、夢の世界へ介入する
3:妖怪とは気まぐれな者ですよ
[備考]
※参戦時期は東方紺珠伝ED後
※メフィスとフェレスも管理者であると気付きました(何の管理者かは、まだつかめていません)
※リリア―ナの刻を止める能力を知りました。
※夢日記より、サーヴァント達や第一部での顛末、・鬼滅の刃の鬼の体の構造・リベリオンズの首輪の解除方法、ギース・ハワードを知りました。
※プロシュートとの情報交換でプロシュートの世界について簡単に知りました。(スタンドの存在など)
※プロシュートのグレイトフル・デッドの能力を理解しています。
※累の父から基本・ランダム支給品を奪いました。
14
:
灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー
◆ZbV3TMNKJw
:2021/06/25(金) 23:38:16 ID:4rGGmn7.0
☆
決死の戦い。
いま、傍にドミノ達がいない初めての戦い。
それでも、こんなにも共に戦ってくれる者たちがいる。そして、あの先生と肩を並べている。
だから信じていた。
誰も欠けることなく、この殺し合いそのものを終焉まで導けると。
―――けど、そうはならなかった。
15
:
灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー
◆ZbV3TMNKJw
:2021/06/25(金) 23:40:47 ID:4rGGmn7.0
【真島彰則@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:疲労(小)
[装備]:Jのメリケンサック(両拳)@魁!男塾
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:正しき道を歩む。
0:状況に対処する。
1:堂島からは後で話を聞く。
2:荻原結衣との合流。
3:蒔岡彰に興味。やはり玲の弟のようだな
[備考]
※参戦時期はBルート死亡後より
※魔法少女やまどかについて大雑把に聞きました。
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:腹部にダメージ(大、魔法で治療中)、出血(中〜大、止血済)、疲労(中)、魔力消費
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:誰も死なせず殺し合いを止める。
0:状況に対処する。
1:堂島とは後で話をする。
2:荻原結衣という人を探す。
[備考]
※参戦時期は3週目でマミを殺した後。
【佐神善@血と灰の女王】
[状態]:負傷(大) 疲労(絶大) 脱童貞 闘争心
[装備]:闇征拳アジェルノッカー@ファンタシースターオンライン2
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜2
[思考・状況]
基本方針:もう、見失わない。
0:ミスティを倒し薫を助ける。いま、この時だけは先生とも協力する。
1:ドミノや明との合流
2:沙都子と鉄平が心配。早急に合流を。
[備考]
※参戦時期は燦然党決戦前。
※初めての相手はミスティで脱童貞しました。
※名簿によりドミノ達がいることを知りました。
※ゴールドエクスペリエンスの生命エネルギーで身体が補填されています。
※再生の際に益子薫の血を取り入れたことで彼女の【本音】を聞きました
【ワザップジョルノ@ワザップ!】
[状態]:主催者への怒り(極大)、ミスティへの怒り(絶大)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[行動方針]
基本方針:主催者を訴え、刑務所にぶち込む
0:善たちと共に性犯罪者(ミスティ)を刑務所にぶち込み訴える。
[備考]
※外見はジョルノ・ジョバァーナ@ジョジョの奇妙な冒険 です。記憶も五部完結まで保持しているようです。
※ゴールド・エクスペリエンスも使えますが、矢をスタンドに刺してもレクイエム化はしないと思われます。
※CVは想像にお任せします。
※古手梨花、北条鉄平、プロシュート、三島英吾を犯罪者と認定しています。
※犯罪者の認定は完全な主観です。罪が重いほど対象に対する怒りは大きくなります。
※犯罪者対応は拘束が目的ですが、対応時に手加減はあまりしないようです。
※ワザップ状態が完全に解けてもジョルノ・ジョバーナ@ジョジョの奇妙な冒険にはならないようです。
【堂島正@血と灰の女王】
[状態]:精神的な疲労(大)、まどかを斬った罪悪感、善とともに戦う高揚感(?)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:生き残り正義のヒーローになる。
0:善たちと協力しミスティたちを討つ。いま、この時だけは....
1:日ノ元士郎を討つ。そのあとは...?
2:善を死なせたくはない
[備考]
※参戦時期は101話より。
16
:
灰色の世界の下で ーAwake and Aliveー
◆ZbV3TMNKJw
:2021/06/25(金) 23:42:03 ID:4rGGmn7.0
【ミスティ@変幻装姫シャインミラージュ】
[状態]:疲労(中〜大) お肌つやつや
[装備]:帝具『ブラックマリン』@アカメが斬る!(エスデスの支給品)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜1、ホワイトの首輪、電撃蟲@対魔忍アサギシリーズ ハイグレ光線@クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王
[思考・状況]
基本:殺し合いの状況を見極める(今のところ、反逆・優勝共に半々)
0:服従する者には蜜を...反逆するものには死を...
1:奴隷候補のおもちゃがこんなにもたくさん...ふふっ♪
2:糸見沙耶香と古波蔵エレン、その子達も手に入れたい
3:この首輪を何とかしたい所
4:あの双子の関係者と接触したい
5:おチンポミルク奴隷にできなさそうな参加者とは同盟を組む
6:ハイグレ光線は奥の手としましょうか……
[備考]
※参戦時期はノベル版から『ゴスロリ少女の魔の手』終了後より
※シャインミラージュがいないことを名簿で知りました。
※エスデスから帝具やアカメなどについて知りました。
※佐神善からヴァンパイアについて理解しました。(日ノ元士郎、日ノ元明、ドミノ・ザザ―ランドについても)
【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:ハイグレ人間 自我消失(半) 負傷(大) 疲労(大) 内臓損傷(治療済) 乳首母乳化 アナル拡張済み ふたなり化 処女喪失 自我喪失
[装備]:はかぶさのけん@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島 中長ナス(タツミ)@現実
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:ミスティ様の命令に従う ハイグレ!ハイグレ!
0:ミスティの指示のもと堂島たちと戦う。
1:私はハイグレおチンポミルク奴隷エスデスだ!
2:タツミ(ナス)もうお前を二度とはなさないぞ!野菜オ○ニーだ
3:タツミ(ナス)もうお前を二度とはなさないぞ!野菜オ○ニーだ
4:タツミ(ナス)もうお前を二度とはなさないぞ!野菜オ○ニーだ
5:タツミ(ナス)もうお前を二度とはなさないぞ!野菜オ○ニーだ
6:タツミ(ナス)もうお前を二度とはなさないぞ!野菜オ○ニーだ
7:タツミ(ナス)もうお前を二度とはなさないぞ!野菜オ○ニーだ
8:タツミ(ナス)もうお前を二度とはなさないぞ!野菜オ○ニーだ
9:タツミ(ナス)もうお前を二度とはなさないぞ!野菜オ○ニーだ
10:そろそろ飽きてきたな、これ。
[備考]
※参戦時期は漫画版死亡後より。
※ナスで処女喪失しました。
※ハイグレ光線銃によりハイグレ人間となりました。
※摩訶鉢特摩は使用したため、2日目以降でないと使用できません。
※戦闘は支障なく行えます。
※デモンズエキス本来の効果により自我が戻ってきています。
【校舎内】
【益子薫@刀使ノ巫女】
[状態]:精神崩壊、性感倍増、白濁液塗れ、衣服の乱れ、ノーパン ふたなり化、頭部出血(止血済み)、気絶。
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜2(支給品の一つである遺灰物@血と灰の女王を消費しました。
[思考・状況]
基本:ミスティ様に従う
1:沙耶香とエレン達を見つけたら自分と同じくミスティ様のペットにしてもらう
2:あのビリビリ気持ちよかった、もう一度味わいたい
3:あのビリビリ気持ちよかった、もう一度味わいたい
4:あのビリビリ気持ちよかった、もう一度味わいたい
5:あのビリビリ気持ちよかった、もう一度味わいたい
6:あのビリビリ気持ちよかった、もう一度味わいたい
7:あのビリビリ気持ちよかった、もう一度味わいたい
8:あのビリビリ気持ちよかった、もう一度味わいたい
9:あのビリビリ気持ちよかった、もう一度味わいたい
10:善のザーメンもっと!もっとくれ!!
11:だれかおれをとめてくれ
[備考]
※精神崩壊によりミスティの命令に従うだけの狗と化しています
※御刀がないので写シ等の能力は使えません
※名簿にエレン達、顔なじみの刀使がいることを知りました。
※善のおチンポに夢中になっております。
17
:
◆ZbV3TMNKJw
:2021/06/25(金) 23:43:01 ID:4rGGmn7.0
ここまでで投下を中断します。
予約を延長して後半はまた来週中には投下します
18
:
◆s5tC4j7VZY
:2021/06/29(火) 21:28:19 ID:dvgEaJBw0
途中までの投下お疲れ様です。
結衣の覚悟にそれに応える兄貴がカッコイイ……!
そして、ドレミーも実にらしくて3人のやり取りにニヤニヤしちゃいました。
また、助けてくれたまどかの唇をお礼に奪ったり、累の父の一物を手さぐりしたりとミスティが輝いて個人的には嬉しいですね。
そして、大人数を相手にエスデスのサポートもありながらも対峙するミスティの風格がまた良いですね。
ワザップの言動には笑いとカッコよさが入り混じっていて正に”ワザップジョルノ”ですね!
とりあえず、保護観察になった英吾さんにはホッとしますし、ジョルノに出会った瞬間にふういんをするのにも笑っちゃいました。
真島さんの「シッ!」にワザップに敬意をはらわせたまどかの行動に感動しました。
意識を取り戻した善君に必死に彼を救おうとした先生はやはり良いですね。
ですが、最後の後編に繋がる善君のモノローグにはマジか……と思いました。
後半がとても楽しみです。
針目縫、服部静夏、植木耕助で予約します
19
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/01(木) 19:13:15 ID:jyLOBDo.0
投下します
20
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/01(木) 19:14:01 ID:jyLOBDo.0
「ライム、ユズ……」
放送の後、即座に日菜子は名簿を確認した。
記憶を取り戻した今なら二人のこともわかる。
だからショックだ。こんな形で再会できるかもしれない可能性に。
此処で二人が誰と出会ってるか、敵と出会ってるかも分からない。
二人も簡単にやられるほど弱くはないが、先程の紫の女性は危険だ。
三人揃っていれば彼女にも勝てたかもしれないが、一人では難しい。
できるなら合流したいところなのだが、
(でも、流石に起こせないよね。)
隣でスヤスヤと眠っている沙耶香の寝顔。
モノメイトで回復してこそいるものの、それでも重傷だ。
無理に起こすわけにはいかないし、一先ず動かずともできることを、
そして何よりも考えなければならないことがある。
(なぜ指輪が使えるの?)
指輪を窓から見える赤い空へ翳しながら思う。
リフレクターに変身することは指輪も必要だが、
何よりコモンの中か、原種が現実に出現したときの二択になる。
先ほどは戦いもあって殺し合いに調整しただけで済ませてしまったが、
これを調整するなんて早々できるものではないはずだ。
とは言え、その二つの条件も満たしているようには思えない。
(此処がコモンじゃないのはほぼ確定だよね。)
前者のコモンとは、人の集合的無意識でできた世界になる。
本来は特異点となる場所からリープする必要があるが、
それについては考えようがない現状一先ず考えないでおく。
人によってはこういう禍々しい世界もなくはないものの、
怒りの感情に近いようで違うし、誰の世界かもわからない。
そも沙耶香も指輪をつけてない以上、リフレクターではない。
リフレクターでもないのに生身の人間が入れるとは思えないし、
それに魔物の類が一匹もいないと、今までのコモンと状況が違いすぎる。
コモンと言う可能性は低い……と言うのが彼女の結論ではあるのだが、
同時にそれはリフレクターの力となるフラグメントの回収も難しくなる事実。
先ほど逃がした彼女がいる中で相手に力をつけにくいとは、厄介な問題だ。
(かといって、原種がいるわけでもなさそう。)
もう一つの可能性となる原種がこの場にいる。
これは前提に、この舞台のどこに原種が存在してると言うこと。
此処はG-7と東南。全体を見渡せないので見えないとも限らないが、
原種ほどのサイズを参加者に見つからないよう隠すのは容易ではない。
百十九名の参加者を集わせて、自分にも変身できる環境まで整えている現状。
その点で行けば少なくとも相当な力を有していることは分かるので、
最悪何処かに原種を見えない形で隠す技術があったとしても不思議ではないが。
(と言っても、原種を制御なんてどうしてるんだろ。)
今一つ現実味がなかった。
手間暇かけてするとも思えないし、
そもそも原種をどうやって制御してるのか。
なにより、原種を倒したのは紛れもなく自分達だ。
他に原種が残ってるとも、復活させる手段がある可能性も低いと思えた。
……どちらかと言えば『復活しないで欲しい』と言う願望でもあったりするが。
特に原種がメフィスたちの切り札の一つだったら、倒すのも骨が折れる。
(こういうのは、ライムや有理が頼れるんだけど。)
日菜子は頭が悪いわけではないが特別いいわけでもない。
現実的思考を持つライムや、頭のいい有理の方が結論を出しやすいか。
此処がコモンか、或いは原種がいる。精々その程度の考えしか浮かばない。
身も蓋もなく、此処ではリフレクターの力が使えるの方が解決しやすいことだ。
(地下に原種がいるなんてこと、ないよね。)
突拍子もないことを考えつくが、
逆に地下にいないと言う確証も存在しないのは事実。
冗談交じりに地下空間でもないかと調べてみようと考えた瞬間。
家の戸が開かれる音と人の足音。
(参加者! なんでピンポイントでこの家に!?)
此処を選んだのは偶然なのか意図的か。
もしアナムネシスのような乗った人物であれば、
寝ている沙耶香を守りながら戦わなければならない。
仮に起きたとしても、彼女の負傷では無茶をさせるのは酷な話だ。
足音を殺しながら、静かに玄関を覗く。
(ぐ、軍人?)
所謂迷彩柄ではなく、旧日本軍における服装。
最初こそコスプレイヤーか何かかと思いかけたが、
自分もリフレクターで変身中は所謂魔法少女みたいなものだ。
リフレクターではないにせよ、何かしら理由があるのかもしれない。
「どうやら手負いの参加者を連れているか、負傷者らしいな。」
(え、なんで───)
独り言か、此方の存在に気付いているのか。
此方の状況を理解してるような発言に戸惑うが、
考えてみれば当たり前のことではある。
彼が見ていたのは足元、
(血痕……!)
21
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/01(木) 19:15:49 ID:jyLOBDo.0
点々と続く血の雫。
民家に入ってから本格的に沙耶香の止血をした。
だったら当然、血は相応に流れているのだから当然道中に残る。
元々助けるのが理由だった以上、そこまで気を回す余裕はない。
「血はまだ濡れている上に、負傷者を助ける行動。
となれば、連れ回して容態を悪化させるとも思えない。
複数いるならばこの血痕にも気づくはず。此処には二人か。
さて、出てきてもらおうか。こちらは聞こえるように言っている。」
出てこないならば踏み込んでくる。
なら日菜子は素直に物陰から姿を見せた。
長引かせても退却する状況に持ち込めないし、
沙耶香と距離を取らねば、最悪戦闘の時に危険に晒す。
入り口で話を進める方が戦闘が起きてもリスクは少なく済む。
だからリフレクターの姿の状態のままでいる。
「貴方は殺し合いに乗ってる人、ですか。」
「それを私が証明する手段がないな。武器を捨てれば認めるとでも?」
「……いいえ。多分ですけど、乗ってないと思うので。」
「理由は。」
「負傷者がいるのに踏み込まないから。」
負傷者がいるとすでに認識済み。
相手からすれば足手纏いがいる状況と分かる。
最悪、負傷してる側を人質として取られる手段もあるのだから。
数の利がかえって不利にさせている状況下で、敵が利用しない手はないだろう。
「では最初かあ聞く必要はなかっただろう。」
「変に誤魔化そうとするなら、戦うつもりだったから。」
「……なるほど。客観的に物事は見れるし覚悟もしてるな。
私はムラクモ、話し合いに応じてもらえると助かるのだが。」
「わかりました。私は白井日菜子って言います。」
◇ ◇ ◇
二人は机を挟む形で席に向かい合って情報を交換し合う。
沙耶香がこの場にいないのもあって、まずは敵の情報の共有を優先とする。
「紫の衣装と髪に、眼を隠した女か。」
「はい。なんでも、魂を集めてるとか。」
「……突拍子のないことを尋ねるが、君は別世界を信じるか?」
「え? えっと、質問の意図がよく分からないんですが。」
いきなりの質問ではあったが余り戸惑わない。
別に信じる信じないかで言えば、日菜子は信じる。
コモンの世界を知ってる以上別の世界は見慣れたのだから。
ただ、それを尋ねる理由が今の彼女には理解できない。
まだ彼のことは名前以外殆ど分からない現状では。
疑問に思ってる中、村雨がテーブルへと置かれる。
「例えばこの刀は帝具と呼ばれているものだ。
私は初めて聞くが、君に聞き覚えはないだろうか。」
「いえ、特には。」
「このように此処にはそういう私達が知らない、
或いは技術的に再現不可能なものも支給されている。」
「ひょっとしてこれも……?」
ムラクモが村雨を置いたように、
日菜子もモノメイトを机に置く。
「このモノメイト、アークスって場所で使われるみたいですけど私にはわからなくて。」
「私にも覚えがないな……とりあえず、別の世界があることは確実だ。
数は見当もつかないが、少なくとも魂を集めた女も異なるだろうから、
帝具、アークス、そして私達を合わせれば、少なくとも四つはあるな。」
「えっと、ムラクモさんはリフレクターについては?」
22
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/01(木) 19:16:49 ID:jyLOBDo.0
そう言いながら、変身を解く日菜子。
普段のセーラー服へと姿を戻すものの、
ムラクモにはその知識はなく、だよねとごちる。
元々表立って事を解決してるわけではないリフレクターでは、
二人が違う世界なのかどうかを証明する手段としても難しい。
(ムラクモの恰好から過去の人間では、と言う説も無きにしも非ずだが)
とりあえず、軽くリフレクターのことを説明しておくだけに留める。
「それで、複数の世界をがある場合どうするんですか?」
「首輪の解析が進められる可能性がある、というわけだ。」
ムラクモの発言に日菜子は強く反応する。
殺し合いをどんな理由であれ強制せざるを得ないのは、
何よりもこの首輪と言う存在があるからだ。
それに対抗しうる存在がいるのは心強い。
「私は軍で多くの技術開発に携わった。
機械を弄ることなどそう難しいことではない。
だが、それを許さないのが紋章と言う概念になる。」
ルールにも書かれている。
『紋章への干渉を行えば首輪が爆破される』と言うもの。
この紋章が科学的要素であることはまずありえない。
もっと超自然的な、それこそ魔法とかそういう類になる。
「あの、こんなこと言って大丈夫なんですか?
ルールには『主催の意思一つで爆破できる』みたいですけど。」
「解除の目途すら立ってない現状で、
連中が慌てふためくとでも思うのか?」
これだけの計画をしておきながら、
工具もなければ確証すら得られない机上の空論。
その程度の物に怯えるような器も、構造でもないはず。
『生憎と、先に私は殺し合いに乗る宣言をした。
恐らくだが首輪には声ぐらい拾えるようにしてるはずだ。
言うなれば、私は獅子身中の虫の役を演じていることになる。
無論、盗聴以外の手段を確立してるならこの認識は別だろうが。』
口にはできないことは紙に記して提出しておく。
優勝を狙うが積極的には動かない役割ともなれば、
殺し合いに抵抗する陣営に取り入って潜むのは当然の帰結。
口八丁で丸め込んでいる行動、そう受け取られても違和感はない。
「もっとも、首輪も超自然的な要素のみの可能性もないわけではないが。
表面だけ機械で覆いながら、中は謎の物質と言う可能性もある。」
「確かに……」
「白井。私は手を組むつもりはあるが、甘い人間ではない。
技術開発をした以上、ある程度非人道的な開発も進めていた。
必要であれば君の知人の死体すら利用する。それに納得できるか?」
首輪を解除するならぶっつけ本番はまずありえない。
必ず試行錯誤の為のサンプルが必要となる。
即ち他の参加者を殺すか、死体から回収する必要がある。
同時にこれは首にある。首を切断しなければ回収もできない。
死者の冒涜……人によっては他の参加者との衝突も絶対あるだろうし、
それがユズやライムなら日菜子も割り切れるかどうかと言われると、
絶対に納得は出来ないことだ。
「……善処はしてみます。」
全てに同意はできないが、
首輪を解除しなければ全滅は確実。
殺し合いをする理由の筆頭の芽を摘むのは大事だ。
最悪のことだけは覚悟しつつそのことに同意する。
「さて、脱線しすぎたな。
元々これは危険な敵の情報共有、
私が出会った敵の説明に戻るとしよう。」
彼が平安京に入る直前の道で、
ある二人の参加者……呼び合ってたお陰で誰かは分かる。
スキャッターとオフェンダーに襲われていたところを、
別の乱入者によって手にかけられたことを彼は語る。
「あれは、助けられたわけではない。
私も逃げなければ恐らく命はなかっただろうな。
容姿については黒のストレートでロングヘアー、緑色の制服で刀剣を───」
話の途中、何か重いものが落ちる音。
二人は即座に立ち上がって臨戦態勢に入りながら音の方を見やる。
大きな物音から隠れる気がない様子で二人は訝るも、
「姫、和……?」
そこにあるのは床に転がる村正、その傍に立つ沙耶香。
感情があまり表に出ない彼女が驚嘆な表情で立ち尽くす。
「沙耶香ちゃん、起きて大丈夫なの?」
無言でコクリと頷く。
だが今の彼女にとって問題は自分ではない。
「姫和……十条姫和のことだな。知り合いか?」
「大事な、友達。」
23
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/01(木) 19:17:30 ID:jyLOBDo.0
沙耶香から姫和についての情報を得る。
……コミュニケーションが下手な為得るのには時間はかかったが。
似た人物の可能性もあったものの、情報の一致から彼女だと確定。
本来であれば殺し合いに乗る性格ではないはずなのだが、
タギツヒメにより不安定な状態であって話は変わっている。
「厄介な話だな。」
「暴走してるけど本来は味方……」
「それもだが、もっと根本的なことだ。」
「え?」
「彼女の性格や情報を纏めるに、
そうなりかければ自決を選ぶと思っただけだ。
又聞きの情報による客観的な意見で、実際は違うのかもしれないが。」
「姫和なら、そうしようとしてた。」
殺し合いへ来る以前の話。
姫和がタギツヒメと融合した後、
それはとても抑えきれるものではなかった。
辛うじて保てたが、本人も今にも決壊しかねなかった程だ。
だから隠世へ、自分ごと消える道を選ぼうとしていたのだから。
もし彼女がその状態であれば、すぐにでも決めていたかもしれない。
「しなかったかできなかったか……性格の悪そうな双子のことだ。
暴走させた状態にして参加者として紛れ込まれた、そう考えてもいいか。」
「そんな……」
無理矢理参加させられたどころか、
暴走するように意図的に調整された。
殺し合いを盛り上げるための要因として使われる。
ただ巻き込まれた自分やライム達の比ではない行為に、
手へとに力がこもる。
「だが、止められる参加者がいるのか?」
沙耶香のいた世界で起きた相模湾大災厄。
曰く死者は三千人以上の被害を出したとされていて、
それ以上の被害すら懸念されるほどの状態だった彼女だ。
まともに太刀打ちできる人間なんて存在するとは思えない。
沙耶香も優れた刀使だが、それでも彼女には勝てると言えない程に。
「普通は、いない……でも、可奈美なら。」
ただ一人だけ。
折神紫に憑依してた大荒魂を相手に、一人で戦えていた可奈美なら。
彼女なら勝てる可能性はあるかもしれない。
一応、現状候補はもう一人いる。
もう一人、沙耶香が戦った相手───アナムネシス。
少なくとも自分では勝てなかった彼女なら分からなくはないが、
協力関係を結べる相手でなもないし、暴走を止めるではなく確実に殺す。
そういう意味もあって彼女を頼ると言うのは除外する。
「衛藤可奈美か。では一先ず、彼女を捜索が主な方針になるな。」
「可奈美、いるの?」
「そっか。寝てたから名簿見てないんだっけ……これ見て。」
名簿を見ている沙耶香を尻目に、二人は話を進めていく。
「我々の目的は主に四つ。
一つ、衛藤可奈美の捜索ならびに保護。
そして彼女を保護してからの十条との戦闘が望ましい。
二つ、他の世界の情報を取り入れる。
敵以外の参加者と接触が必要な以上、少々厄介になる。
できることなら帝具の調査もしておきたいところだ。
三つ、和解不可能の敵の排除すること。
だが排除とは、即ち殺すこと。そこだけは留意するように。
全員が殺し合いに否定的ではない。先の二人の男のようにな。
四つ、道中で首輪のサンプルを確保。
三つ目、或いは二つ目と並行可能だが数は一つや二つでは済まないと思うべきだ。
参加者の制限云々をあの二人は謳っていた。特殊な首輪のある可能性もあるとみていいはず。
そうなると五つは持っておくのが望ましい……一先ずは、こんなところか。」
「あの。余裕があれば、ユズやライムを探したいんですけど。」
「断るとまではいかないが、あくまで余裕があればだ。
確証を持てる情報があれば、向かう程度にとどめておくように。」
格好に違わぬ軍人らしい冷静な判断を下す。
合理的で事態の解決を優先してるところはライムと似ている。
同時にそういうドライな思考は余り好きではないが、
此方の意も汲んでくれてる相手に余り無理は言えない。
24
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/01(木) 19:18:26 ID:jyLOBDo.0
「分かりました……ところで沙耶香ちゃんの知り合いは何人いるの?」
「六人。」
「えっ。」
予想をはるかに上回る知り合いの数に思わず声が出る。
沙耶香にとってあの場に居合わせた折神紫以外の全員、
そして可奈美の友人で、時折任務でそれなりに縁のある安桜美炎。
少なくとも七人の刀使がこの舞台の何処かにいる事実。
「ちょっと、流石に多くない?」
「確かに、合計で七人は多すぎるな。」
ムラクモの見解では知り合いは多くて二人、自身を含めて三人が目安だ。
自分と日菜子の知り合いがそれぐらいだと想定していたのだが、想像以上に多い。
姫和は暴走状態だ。殺し合いを加速させると言う意味においては最適だろうが、
他の刀使のことを聞いても、殺し合いに乗るような性格ではないと言う答えが出た。
並の人間ではなく刀使を七人。下手をすれば殺し合いが停滞しかねない可能性もある。
それだけ他の参加者に強力なのがいるのか、ということは十分にありうるが。
当てれば殺せる村雨が支給されると言うことは、その裏付けなのだろう。
「刀使が多く必要だった可能性もあるか?」
荒魂を祓う巫女、つまり神聖な力を持ち神秘そのものになる。
メフィスとフェレス、或いはそれに協力してる関係者の誰か。
それらがその力を必要か、何かしらに利用したいのではないか。
であればある程度人数を多く含んでいてもおかしくはない。
「荒魂を祓う巫女、その力が必要か研究してる人物がいる可能性ね……」
「或いは、此処で有力な刀使を一掃しようと目論んでる奴か。」
二人が理由を考えていると、
沙耶香の脳裏に一人の人物が思い浮かぶ。
「高津学長……?」
「心当たりはあるか。」
嘗て袂を分かった鎌府女学院の学長、高津雪那。
今はタギツヒメをリーダーとした刀剣類管理局維新派として活動。
タギツヒメの復活を目論んでいる人物ならば納得ではある。
「だが十条はタギツヒメと融合している。
タギツヒメの復活を目論むにしても既に討伐済みだ。
仮にその人物が関わってるならば、最早呼ぶこと自体に意味はないだろう。」
「姫和が融合したの、此処に来る数分前。」
あの場にいたのは自分含む七人だけだ。
タギツヒメが倒されていることを知らないまま、
タギツヒメの為にと七人を殺し合いへと引きずり込んだ可能性。
言葉が足りないが、彼女はそう言いたいのだと察する。
……参加者が別々の時間軸から招かれてる情報はない都合、
このような結論に至ってしまうのは仕方ないことではあるが。
「流石にそれはちょっと、間抜けに感じるんだけど。」
タギツヒメ復活の為邪魔な刀使を引きずり込んだ。
その結果、参加させた十条姫和がタギツヒメそのものでした。
なんてものを想像すると、随分間抜けな話になる。
彼女が執着してた折神紫だけいないのは私怨を晴らす為あえて残した、
と考えれば別段おかしいものでもないが……他と比べると今一つだ。
「否定できる要素もないが……一説程度にはとどめておこう。」
刀使そのものを目的にしているのではなく、
十条ことタギツヒメが討伐されることに意味があるのかもしれない。
タギツヒメの力を手に入れる、なんて可能性も無きにしも非ずだ。
要するにタギツヒメは神なのだから、その力は計り知れない。
「さて。話は変わるが、名簿に完全者……ペルフェクティがいる。
私の知人だが奴は乗るか乗らないか、どちらを選ぶか分からない女だ。
味方であれば頼もしいだろうが、敵であれば厄介だ。用心に越したことはない。」
「どういった関係なんですか?」
「利害の一致で技術開発の提携の関係を築いていたが、
所詮はそれだけだ。奴からすれば私は用済みで利用価値もない。」
「軍ってドライですね……」
「同胞ではなく利害の一致だからな。
薄氷の上の協力関係は存外そんなものだ。
……さて、情報交換に時間を割きすぎたな。」
席を立ち、そろそろ移動することにする。
情報交換に時間を食ってしまった。
動くにしては大分遅れた状態だ。
「衛藤が何処へ向かうかの判断がつかない。
今は外方面を徘徊し、端のエリアからくる参加者との接触だ。」
25
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/01(木) 19:19:24 ID:jyLOBDo.0
物資の調達、隠れられる場所、人と出会う確率。
それらを吟味すれば端の森等に潜む理由は少ない。
勿論それを理由に向かう敵となる参加者もいるだろうが、
多少リスクを背負ってでも平安京へ向かう方が安全だ。
「私はG-6にて十条と接触、紫の女も遠くない場所で遭遇。
それらを吟味すると、西ではなく北上するのがいいだろう。」
戦力は十分ではあるが、
それでもアナムネシスを相手するには面倒だ。
確実に勝てる戦力を用意してから挑みたい。
ムラクモの持つ村雨があれば勝てそうなものではあるが、
集めた魂が、村雨の一斬必殺を妨害する可能性もある。
「移動手段となりうる支給品は二人にはあるか?」
現状は平安京の外を回る形で移動する。
しかし歩いて移動するにしてもまともな移動手段なしでは、
時間がまるで足りない。
「私にはなかったかな……」
「車なら、ある。」
沙耶香が外へ出てからデイパックから出したのは何かのカード。
それを空へ翳すと、目の前の空間に一人の道化師が姿を現す。
「ボンジュ〜ル! お初に御目にかかるかな?」
初めて見る顔だが三人には誰かは分かった。
その声は、放送で全参加者に行き届いていた声なのだから。
「貴方、放送の!」
「ディメーン……!」
「ほう、貴様が運営の一人か。」
三人が臨戦態勢に入る。
突然主催者陣営が現れたのでは、
身構えるのは当然の行動だ。
「ンッフッフ。覚えていてくれて光栄だね。
でも、今回は支給品を持ってきただけさ。
別に君達とは戦うつもりはないよ?」
戦うつもりはないと言うが、油断してるわけではない。
特にムラクモへの注意を強く、それが何かは分かっている。
村雨の殺傷能力を考えれば一番厄介なのは間違いなくムラクモだ。
とは言え、三人は首輪と言う生殺与奪の権利を握られている状況。
抵抗したところで意味はなく、ムラクモが構えを解けば二人も続く。
「素直でよろしい。じゃ、支給品を贈るとしよう。
流石に大容量だと、デイバックに入れられないからね。
こういう時シャンバラがあれば便利だったのに、参加者に支給されて残念だ。」
ごちりつつ指を振るうと、四人の間に突如現れる黒塗りの車。
いや、確かに形は車なのだが、その上に乗っかってるものが異様だ。
黒塗りの車体の上に鎮座しているのは、刀のような黒く長い何か。
霊柩車で言う金色の煌びやかな屋根と言ったような代物になる。
(なにこれ。)
奇抜なデザインに日菜子は複雑な表情だ。
「じゃ、存分に堪能したまえ。アデュ〜。」
本当にただ支給品の提供をしただけで、
何事もなくディメーンは何処かへと消えてしまう。
ついでに、沙耶香が翳したカードが粒子となって消える。
「見た目は奇抜だが最大二百キロは出る……移動手段としては最適だな。」
説明書を沙耶香から受け取りつつ先に乗り込む。
運転手は二人が運転できないので当然ムラクモになる。
二人は有事の際に即座に動けるよう後部座席のほうで待機して、
支給された家紋タクシーは走り出す。
平安京を駆ける家紋タクシー。
見事に場違い極まりない光景だが、
殺し合いを打破すると言う願いを乗せる。
(ユズ、ライム……待ってて。)
大事な親友の安否を願う日菜子。
(皆……)
親友の暴走に不安を募らせる沙耶香。
───そして。
(一先ずは潜り込めたか。)
26
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/01(木) 19:19:45 ID:jyLOBDo.0
唯一向いている方角が同じようで違う男、ムラクモ。
殺し合いをしない参加者との遭遇、戦力の確保、情報網の拡大。
一度にそれらを得られたのは大きく、既に一割の参加者の情報がある。
(リフレクター、刀使……空回りではないと思うが、どうだろうか。)
リフレクターがこの舞台に密接な関係の可能性は否定できない。
刀使がこの殺し合いに意味を持たせてる可能性はあるかもしれない。
まだわからない。いくつの世界が関わってるか分からない現状では、
事態の解決へとつなげるのは難しいと言わざるを得ない。
他の参加者との接触なくしては首輪解除はおろか、
この殺し合いの目的すら見つけられないのだから。
『こういう時シャンバラがあれば便利だったのに、参加者に支給されて残念だよ。』
(探してみる価値はあるか?)
ディメーンがいったシャンバラと呼ばれるもの。
状況と発言から察するに、何かの移動用の支給品とみていい。
もしかしたら主催の拠点へ移動できる可能性もなくはないものだ。
無論、そんなものを支給してるなら制約をかけられてそうなもので、
余りに当てにはせず、記憶の片隅程度にとどめておく。
(後は奴の存在か。)
完全者。一応二人にはどっちに転ぶか分からないとぼかしたが、
転生の法を手に入れた今となっては、此方としても最早用済みの関係。
元々利害の一致で協力関係を築いていたにすぎない以上、彼女は障害だ。
(だが奴がどちらかを選んだかで話が変わってくる。)
奴とて双子の悪魔を信用していないだろう。
だが、自分と同じ力の奪取を目的とした立場の場合は厄介だ。
自分と同じように自分の立場が危うくなるようにするはず。
故に完全者を完全な黒と言わずグレーな人物として紹介した。
味方にも足りうるが要注意……嘘ではないし判断はある程度委ねている。
完全な敵と刷り込めば情報の齟齬で最悪自分が孤立しかねなくなるが、
『信用できるかもしれない』と言う中途半端な方が孤立する可能性は低い。
(奴は此処で始末する。)
完全者の目的は旧人類の肉体的死亡、即ち抹殺による救済。
ムラクモ同様の人類救済を掲げてはいるが、あくまで彼は間引くだけ。
全員殺されては困る。この場ならば転生の法も無力化されてる可能性は高い。
此処でならば確実に殺せるだろう。特に、人体ではなく魂を殺す村雨ならばより確実に。
(さあ勝負だ完全者。私か、貴様か。人類を救う神はどちらかを決めよう。)
首輪の解除と言う、ある意味では誰よりも殺し合いの舞台で抗おうとする男。
だがその胸中は、誰よりも身勝手の善意で人類を救済する現人神の心を持つ。
さながらその思想は、日菜子が倒した原種にしてコモンの化身『ダアト』の如く。
【G-7 家紋タクシー/一日目/黎明】
【白井日菜子@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣】
[状態]:健康
[装備]:リフレクターの指輪@BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣
[道具]:基本支給品一式、モノメイト(3/5)@ファンタシースターオンライン2、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]
基本方針:殺し合いになんて乗らない。こんなふざけた事は止めてみせる。
1:ユズ、ライム……
2:衛藤さんの捜索。そこから十条さんを止める。
3:それとあの人(アナムネシス)は止めないと。
4:此処はコモン? もしかして原種がいる? 後者はいやかな……
[備考]
※参戦時期は第12章「最後の一歩 the First Step」で、
ユズとライムとの最後の別れをしてリフレクター絡みの記憶を全て忘れた後から。
※忘れていた記憶は思い出しました。
※帝具や刀使について知識を得ました(ただし帝具は浅く、村雨の性能も知りません)
【糸見沙耶香@刀使ノ巫女】
[状態]:不安、ダメージ(大・止血済み)、疲労(大)
[装備]:妙法村正@刀使ノ巫女
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:みんなが心配。特に姫和。
2:今は二人(ムラクモ・日菜子)と一緒にいる。
3:もっと、強くなりたい。
4:高津学長……?
[備考]
※参戦時期は21話、可奈美が姫和に勝負を持ちかける前から。
※帝具、リフレクターについて知識を得ました。(ただし帝具は浅く、村雨の性能も知りません)
27
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/01(木) 19:24:06 ID:jyLOBDo.0
【ムラクモ@アカツキ電光戦記】
[状態]:健康、家紋タクシー運転中
[装備]:ブラッディピアース@グランブルーファンタジー、一斬必殺村雨@アカメが斬る! 六〇式電光被服+六〇式電光機関@アカツキ電光戦記、家紋タクシー@ニンジャスレイヤー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み)
[思考・状況]
基本方針:メフィス達を始末して願いの力を手にし、悪用を避ける。すべては人類救済の為だ。
1 :北上しつつ衛藤可奈美の捜索。そこから十条姫和の制圧、或いは討伐。
3 :司城夕月、司城来夢、益子薫、古波蔵エレン、柳瀬舞衣、安桜美炎の捜索。
4 :電光機関の無駄遣いは避けなければならない。
5 :紋章を知る、或いは他の世界の住人を探して首輪解除の手段を模索。
6 :完全者は此処で確実に始末したいが、徹底するのは控える。
7 :紫の女(アナムネシス)に要警戒。
8 :高津と言う女については多少は懸念しておくか。
9 :シャンバラ、探してみる価値はあるか?
[備考]
※参戦時期は不明。(少なくとも完全者を一度殺害後でエヌアイン完全世界ED前)
※六〇式電光機関をそのままの代わりに支給品の枠を使ってます。
※村雨がアニメ版か漫画版かは後続の書き手にお任せします。
(どちらか次第で奥の手の内容が変わります)
※刀使、リフレクターの知識を得ました。
【家紋タクシー@ニンジャスレイヤー】
日本の霊柩車めいたタクシー。
ソウカイヤに限らずヤクザクランの移動の足としても使われる。
上に長い刀のような装飾があったりと存在感は異様な外見だが、
市民の足、文字通りタクシーとしても使われるとか。ナンデ!?
運転席、助手席含めて六人は乗れる。最速200キロは出る。ハヤイ!
サイズの都合直で渡すと事故の恐れもある為ディメーンのカードを翳し、
直接渡すと言う形で支給することになっている。
ディメーンのカードは原作におけるのカードショップで手に入るデザイン
≪三者の考察≫
・リフレクターの変身について
①コモンの可能性:フラグメントも魔物もいない為低い。
②原種が存在する:現状ではなんとも。移動ついででいるかどうかを調べてみる。
・刀使の多さについて
①刀使の力をメフィス達か関係者が必要としている。
②タギツヒメを倒せる刀使が必要だったから(タギツヒメの力を手に入れる為)。
③高津雪那が運営関係者で、タギツヒメの障害となる刀使を参加者にした。
(折神紫はいないが、私怨を晴らす為か?)
・他
①首輪が科学と魔術ではなく魔術のみの可能性。
念には念を入れて紋章を知る参加者を探しておく。
②シャンバラと呼ばれるものが使えるかもしれないが、現状はついで。
28
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/01(木) 19:28:02 ID:jyLOBDo.0
以上で『束の間の遭遇と新たなる道筋』投下終了です
29
:
◆s5tC4j7VZY
:2021/07/04(日) 19:09:09 ID:oNoR3MM20
投下お疲れ様です。
束の間の遭遇と新たなる道筋
血痕から潜む参加者に気付くのは流石は軍人のムラクモですね!
そして首輪の解除を目指すが思想は正しく危険といってもいいのがもどかしい……
日菜子や沙耶香もそれぞれ考えたりして様々な考察から目的を決めるなど考察組としての活躍が期待できますね。
車のような巨大な物は入らないから支給品を手渡すのに現れる主催者は、なるほどたしかに!と感心すると同時に今後の展開にも活かせそうな気がします。
まさかの高津学長の名が出たのには笑っちゃいました。
それでは、投下します。
30
:
一緒にできること
◆s5tC4j7VZY
:2021/07/04(日) 19:10:40 ID:oNoR3MM20
染みーーーー液体などが部分的にしみついて汚れること。また、その汚れ。
:デジタル大辞泉(小学館)より引用。
『じゃあ、第一回放送の時にでもまた会おう、ボン・ボヤージュ!』
ディメーンによる放送が終わると、静夏と植木は直ぐに名簿のチェックをした。※静夏はまだ操作がいまいち理解できず、植木のタブレットをのぞいた
結果は―――
「そんな!?宮藤さんまでいるなんて!」
「……」
静夏には知り合いがいて、植木にはいないという結果だった。
「宮藤さん……」
静夏は敬愛する宮藤芳桂が同じくこの殺し合いに呼ばれていることにショックを隠し切れない。
両手をギュッと握りしめ、体を震わせる。
「よし、まずは服部のいう宮藤と合流しよう」
静夏の関係者がいることを知った植木は迷いなく行動指針を定める。
「植木さん……いいんですか」
「ん?当たり前だろ。オレの知り合いは一人もいねぇし。それに、大切な奴と会えなくなるってことが……どんだけ辛い事かオレはわかってるからな」
植木の顔が真剣になっている。
その脳裏に浮かんでいるのは、自分を庇ったことで地獄に落とされた恩師の姿か―――――
「ありがとうございます」
静夏はそんな植木にお辞儀を行う。
「気にすんな。それよりも、放送で中断していた支給品の確認をしておこうぜ」
植木は静夏に支給品の中身を確認することを促す。
「そうでしたね……はい!至急、確認しましょう!」
2人は中断していた支給品の確認を始めた―――
☆彡 ☆彡 ☆彡
31
:
一緒にできること
◆s5tC4j7VZY
:2021/07/04(日) 19:11:18 ID:oNoR3MM20
「そ、それは震電!?」
「うお!?」
植木の支給品に震電があることに静夏は驚きの声を上げ、植木はその声に体をビクッと震わせる。
「ど、どうした?」
「す、すみません。大きな声を上げて!でも……どうしてここに震電が!?」
静夏が驚くのも無理はない。
なぜなら、その震電は自らが決死の覚悟で宮藤さんに届けたはずなのだから。
「おそらく、オレらに関係する道具などは支給品として回収されているみたいだな」
「……くッ!ウィッチの道具をこんなことに利用するなんて!」
静夏の反応から、支給品には自分達に関わりがあるのを選ばれていると植木は推測し、静夏は利き手を固く握りしめる。
「なぁ……これ、両足にはめれば使用できるのか?」
植木は震電の使用方法を静夏に尋ねる。
「いえ、無理です。ストライカーユニットは魔法力がないと起動することはできません。起動できるのは私のように魔法力を持ち、ウィッチといわれる者達だけです」
静夏は植木の質問に答える。
「さらにいうと、その震電は起動するのに膨大な魔法力が必要です。……おそらく私の知る限りでは、宮藤さんでしか起動できないでしょう」
そう、故に震電は、実質”宮藤芳桂”専用のストライカーユニットとなっている。
しかし―――
「おお!?空に浮かんだぞ!」
なんと、両足にはめ込んだ植木は宙に浮かび始めたのだ。
「そんな!?ありえません!魔法力を持たない民間人の植木さんが使えるなんて……」
静夏は魔力力を持たない植木がストライカーユニットを操作できていることに絶句している。
「おー!すげー!花鳥風月(セイクー)みたいだな!」
(服部の反応からすると、支給品とされたものは、本来の使い手じゃなくても、使うことができるみたいだな。……すると神器もか?それに……”空白の才”が勝手に支給されていたらマズいな)
植木は宙に浮きながらいくつか推測する。
☆彡 ☆彡 ☆彡
「これは、服部が持っていたほうが良いな」
宙に浮いていた植木は地面に降り立つと装備していた震電を脱ぎ、静夏に渡す。
「え?よろしいのですか?植木さんも使用することができますし……何より植木さんに支給されたんですよ」
渡された静夏は戸惑う。
しかし、理由が”支給”されたのは自分ではなく植木であるということを指摘するところは真面目で実直な静夏らしいが―――
「ああ。オレも使用できるけど、服部の方がもっと上手にこれを使いこなせるだろうからな。それに……大切な人のなんだろ?だったら、その人に早く渡してあげたほうがいいだろ」
植木はニコッと静夏に笑顔を向けて話す。
「……植木さん。そのご配慮ありがたく頂戴します!」
植木の言葉に静夏は感動に目が涙で溢れると敬礼をした。
「それでしたら、こちらの支給品をどうぞ!」
静夏は自身の支給品の一つを植木に手渡す。
「これは?」
「なんでも、立体起動装置といって、ガスの力を利用して扱う道具のようです!」
手渡された支給品に首をかしげた植木に静夏は説明を付け加える。
「へー……」
「その付属しているブレードを上手く使うことで空間を利用した攻撃ができるみたいなのですが……私にはいまいち使いこなせそうにありませんし、代わりにこんぼうがあります。よろしければ植木さんが持っていた方が有効に使えるかと思いまして……」
静夏に支給された残りは、食事用なのかキノコが入っている缶にぶっそうな棍棒。しかも、その棍棒は重火器としても使えるようで、銃を扱う静夏にはピッタリで、逆に剣が主体の立体起動装置は静夏の手に余るらしい。
「……」
(オレの残りの支給品は人形に変わった色のカレー。神器が上手く使用できるかも分からねぇ今、武器は装備しておいた方がいいよな)
そう、植木に支給された残りの2つは正義のヒーローの人形に食料扱いの変わったカレーだった。
魔王を使い切った状態でここに呼ばれた現状、闘える武器は必要不可欠と判断した植木は―――
「サンキュ。じゃあ、ありがたく使わせてもらうわ」
静夏の気遣いに感謝した。
「はい!仲間なんですから協力していきましょう!」
植木が受けったことに喜びの色を隠せない静夏。
☆彡 ☆彡 ☆彡
32
:
一緒にできること
◆s5tC4j7VZY
:2021/07/04(日) 19:11:49 ID:oNoR3MM20
ーーー静夏と植木が名簿のチェック及び支給品の確認をしていた頃ーーー
『じゃあ、第一回放送の時にでもまた会おう、ボン・ボヤージュ!』
ディメーンによる空からの放送が終わり―――
「へぇ〜。てっきり皐月様か流子ちゃんぐらいは、いるのかなと思っていたんだけどな〜」
名簿の確認を終え、そう呟くと生命戦維を解除して縫は明から元の自分の姿に戻る。
「ボクのことを知っている人がいないなら、明ちゃんの姿で参加者と接触してもないよねー」
そう、針目縫が先ほど相対していた日ノ元明の姿でいたのは、あくまで自分を知っている関係者に対する対策だったからだ。
「でも……ま♪、明ちゃんには悪役にもってもらおうかな」
縫はそう呟くと邪悪な笑みを浮かべる。
(名簿を見る限りだと、……日ノ元士郎。おさらく、名前からいってお父さんかな?つまり、明ちゃんはボクと違って一人ではないことは確か。なら、殺すときは”明ちゃん”の姿で行えば明ちゃんは勿論、お父さんにも悪評が広まるよね☆)
そう―――
縫が立てた作戦はこうだ。
利用できそうな参加者の集団に混ざりこみ、殺し合いに乗った敵対する参加者との戦闘中に”明の姿”で一人殺す。
そして、明とその関係者を危険人物だと集団に思い込ませるというものだ。
そんな吐き気を催す邪悪な計画が練られていたら―――
「あれあれ☆さっそく利用できそうな参加者を発見できたよ!」
目の前に男女のペアを発見した縫はスキップしながら近づくのであった―――
☆彡 ☆彡 ☆彡
「へぇー、静夏ちゃんに耕介ちゃんね。よろしくね☆」
縫は2人と自己紹介を交わす―――
「糸目さんも災難でしたね。いきなり乗った人物と遭遇するなんて」
あれから、互いの状況を交換した後、縫が危険人物に襲われたと聴き、静夏は同情する。
「ほんとほんと、明ちゃんっていう子なんだけど、ひどいよねー。……ところで、なんで静夏ちゃんはパンツ姿なの?露出狂なの?」
静夏からの心配に応えると同時に縫は静夏の格好にツッコむ。
「ですから、これは”ズボン”で”パンツ”とやらではありません!」
静夏は耕介に続いて縫にもパンツと誤解されることに顔を赤らめると否定する。
「ふーん?けど、まぁ耕介ちゃんのいう別々の世界から集められたってのは間違ってないと思うなー。だって私の世界では、静夏ちゃんの”ソレ”はパンツだもん☆……でも、新しいファッションとして取り入れるのもアリかな♪」
「糸目さん!!」
茶化す縫に静夏は少し声を荒げつつ嗜める。
「ごめんごめん☆……」
縫は舌をペロッとだすと静夏に謝罪する。
「もう!……それでは、行きましょう!植木さんに糸目さん!」
静夏は2人に声をかけると先頭を歩きだす。
「……おう」
「はいはーい☆」
縫と静夏のやり取りを黙って聞いていてかつ先ほどのまじめの顔が嘘に見える、けだるそうな声の植木にハイテンションの声の縫はそれぞれ返事を返すと歩きはじめる。
スタスタ―――
(静夏ちゃんと耕介ちゃん……殺すなら耕介ちゃんかな?)
縫は先ほどの2人とのやり取りを通じて2人の内、先に始末する標的を植木耕介に定めた。
(静夏ちゃんは典型的な頭カチカチの真面目ちゃん。だから簡単に騙せそう♪一方、耕介ちゃんはボケーッとしている様子に見えるけど、私の事を疑っているような目をみせてるからねー。あぶないあぶない☆)
そう、縫は植木耕介の冷静に敵を分析できる能力に気づいていた。
故に先に静夏を始末すると、厄介なことになると察した縫は植木耕介に狙いを定めたのだ。
こうして静夏に植木のペアに縫が加わった
2人から3人になり一見、団結が強固になったかに見えるが、縫という染みがジワリジワリと広がる―――
このトリオの行く末は如何に―――
【G-6 /一日目/深夜】
33
:
一緒にできること
◆s5tC4j7VZY
:2021/07/04(日) 19:12:29 ID:oNoR3MM20
【針目縫@キルラキル】
[状態]:健康
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル
[道具]:基本支給品一色、不明支給品0〜2
[状態・思考]
基本方針:優勝して元の世界に帰還する
1:とりあえず静夏ちゃん。そして耕介ちゃんと行動を共にする。
2:利用できそうな参加者は利用する。そうでない参加者については明の姿で殺していく。
3 : アーナスちゃんに関しては要注意だね☆
4 :静夏ちゃんと耕介ちゃん。先に始末するなら耕介ちゃんかな☆
※参戦時期は少なくとも鬼龍院皐月と敵対した後からとなります。
※名簿に関係者がいないことを把握しました。
※静夏・植木の世界について簡単に知りました。
【服部静夏@ストライクウィッチーズシリーズ】
[状態]:健康、決意
[装備]:特殊棍棒(エクスカリバー)@ドキュンサーガ
[道具]:基本支給品、ストライカーユニット震電@ストライクウィッチーズシリーズ じわじわキノコカン×5@スーパーペーパーマリオ
[思考・状況]
基本方針:殺し合いを止める
1:宮藤さんなら…きっとこうします!
2:まず、やるべきことは宮藤さんと合流ですね!
3:植木さんは…何というか…不思議な人、という感じがします。
4:縫さんは…何というか…独特な喋り方をする人、という感じがします。
5:植木さんや縫さんといい、これは”パンツ”とやらではありません!
[備考]
※参戦時期は「RtB」ことストライクウィッチーズ ROAD to BERLINの最終話「それでも私は守りたい」にて、宮藤芳佳にユニットを届けた後意識を失った直後からです。
※作中にて舞台になっている年代が1945年な為、それ以降に出来た物についての知識は原則ありません。
※「うえきの法則」世界についてある程度の知識を得ました。
※「キラルキル」世界についてある程度の知識を得ました。
※互いが別々の世界もしくは別々の時代から会場に呼ばれたと推測から確信になりました。
※自分が死亡後参戦だと勘違いしています。
※縫から日ノ元明は危険人物だと伝えられています。
【特殊棍棒(エクスカリバー)@ドキュンサーガ】
王都ザイダーマに店を構えている武器屋喫茶キャッツアイにて売られている特殊棍棒。
装備するとただの棍棒で攻撃力は20程度。しかし、”アイテム”として使用すると棍棒の先端からマシンガンのように弾を発射する銃器になり敵を粉々に粉砕する。
ちなみに値段は200万G(ガバス)
「特殊棍棒はただ今キャンペーン中でな。通常なら200万Gだが、今ならなんと…同じく200万Gする鋼の鎧(オリハルコンアーマー)とセットで300万G!!!」by店主
【筑紫飛行機 震電@ストライクウィッチーズシリーズ】
最新鋭ストライカーユニット。植木耕介に支給されていたが、現在は服部静夏が所有している。起動には膨大な魔法力が必要であり、魔法力の消費も激しいため、事実上芳佳の専用機であるが、この平安京においては悪魔の双子たちの手によるものか、魔法力がない者でも装着すれば起動することは可能となるように改造された。
【じわじわキノコカン@スーパーペーパーマリオ】
しばらくの間、HPがじわじわとかいふくするかわったキノコ。
34
:
一緒にできること
◆s5tC4j7VZY
:2021/07/04(日) 19:13:25 ID:oNoR3MM20
【植木耕助@うえきの法則】
[状態]:健康
[装備]:立体起動装置@進撃の巨人(ガス満タン)
[道具]:基本支給品、アクション仮面人形@クレヨンしんちゃん 優木せつ菜のカレー@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会
[思考・状況]
基本方針:自分の正義を貫く
1:森達のところに戻りたい…とは思うけど、殺し合いには乗らねぇ。
2:服部、糸目と行動を共にする。
3:服部の知り合いの宮藤を探す
3:空白の才が支給されていたらヤバイな……。
4:糸目の奴……目の奥が笑ってねぇ。
[備考]
※参戦時期は16巻の第153話「最終決戦!!」にて、アノン相手に最後の魔王を撃った直後からです。
※「ワールドウィッチーズ」世界についてある程度の知識を得ました。
※互いが別々の世界もしくは別々の時代から会場に呼ばれたと推測から確信になりました。
※自分が死亡後参戦だと勘違いしています。
※神器やゴミを木に変える能力のレベル2にはある程度制限がかけられていますが、どれぐらいの制限がかかっているかは後続にお任せします。
※「キラルキル」世界についてある程度の知識を得ました。
※糸目縫を少しだけ警戒しています。(確たる証拠がないため、静夏には伝えていません)
※縫から日ノ元明は危険人物だと伝えられています。(半信半疑)
【立体起動装置@進撃の巨人】
立体機動を再現する機器。服部静夏に支給されていたが、現在は植木耕介が装備している。ワイヤーを射出して巻き取り引き上げる動作と高圧のガス噴射による推進力で装着者に高低差を無視した立体的な機動力を与える。
本来は同時に装備される着脱式の刃を用いて体格差のある巨人に白兵戦を行うものである立体機動の衝撃に立体機動装置が耐えられず破損する場合があったり、またガスを補給できる環境と補給ラインが整っていなければガス切れを起こした時点で戦闘能力が事実上消失するなど欠点も見られる。
ガスの補給はこの平安京に存在している可能性があります。
ブレードの予備は左右3本の計6本。
【アクション仮面人形@クレヨンしんちゃん】
嵐をよぶ5歳児が憧れる正義のヒーロー。……の人形。この世には子供に正義を教えてくれるヒーローがいる。
植木に幼い頃、正義を教えたのは……
「私も火事になるかもしれんが、アクションビームをつかわせてくれ!」byアクション仮面
【優木せつ菜のカレー@ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会】
優木せつ菜が調理したカレー。紫色のルーは独創的な香りがする。
味ですが”せつ菜そのまま”か”近江彼方による手が加えられた方”かは後続の書き手様に委ねます。
35
:
一緒にできること
◆s5tC4j7VZY
:2021/07/04(日) 19:13:37 ID:oNoR3MM20
投下終了します。
36
:
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:18:16 ID:yt90KjCk0
すみません、まだ途中までですが投下します
37
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:19:38 ID:yt90KjCk0
「さあ、始めましょうか」
ミスティが掌をかざし水の槍を作り、その背後でエスデスが氷柱を精製し宙に滞在させる。
それに対抗して、堂島、まどか、真島の三人が迎撃態勢に入る。
しかしその一方で、善とジョルノは頷き合い、互いに掌を地面に着ける。
ゴールドエクスペリエンスの能力で急成長した木が5人の前に聳え立ち、それを中心として善の『影』が円形に回り五人を囲む。
「木と影の二重の壁...ふぅん、勢いのままくるかと思ったのに冷静ねぇ」
戦場には場の『流れ』というものがある。この『流れ』が存外にも馬鹿にできたものではなく、これを掴むことも勝利への一歩だ。
増援に次ぐ増援に善の復帰。流れとしては完全に五人の方にある。しかし、だからこそ彼らは踏みとどまった。
流れに身を任せるのではなく、掴まなければならないと彼らは知っていた。
「時間がないので手短にいいます。真島さんとまどか、あなたたちはこの場を離れ古手さんたちへの増援に向かってもらいたい」
「どういうことだ?ここで一斉にかかって奴らを叩いてしまった方がいいんじゃないか?」
「向こうにも奴らの手駒の怪物がいるんですよ。物理攻撃の効果が薄い、特別に厄介な怪物がね」
ジョルノが梨花の『あの鬼を相手に英吾と二人で時間を稼ぐ』という一見無茶な提案を承諾したのには理由がある。
エスデスやミスティと違い、傷を負わせようがすぐに完治する再生能力にほとんどの状態異常の無力化。
自分が累の父との相性が悪いのもあるが、相手の陣営で最も厄介なのがあの鬼だと理解しているからだ。
「奴がこの戦場に来てしまえば恐らく僕らはおしまいです。奴が誰かを抑えて性犯罪者(ミスティ)たちが能力で丸ごと押しつぶす。たったそれだけの力押しで僕らは壊滅してしまう」
「それを俺たちが引き止めつつ、お前たち三人であの女たちを倒すということか」
「ええ。数の利は僕らにある。その利を活かして僕らが『栄光』を掴むッ!」
「......」
真島とジョルノが話を纏めている最中、まどかは唇を噛み締め俯いていた。
堂島がミスティを倒そうとしたあの時の横やり。あれさえなければこんな状況にはなっていなかった。
ジョルノはひょっとして自分が足手まといだからそれらしい理由をつけてこの場から離そうとしているんじゃないか?
こんな事態を引き起こしてしまった己の愚かさにとめどなく後悔が胸の内にあふれだしてくる。
38
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:19:56 ID:yt90KjCk0
「まどかちゃん...でいいかな」
そんな彼女を見ていた善は、目線をまどかに合わせて声をかける。
「失敗をまるで気にしないなんてことはたぶん僕にもできない。いいや、きっとこの中のみんながそうさ。でも時間は止まってくれない。
状況は絶えず動き続けている。だったらもう、自分の役割を全うすることだけに集中するしかない。それに―――僕らの中に足手まといなんかいない。こんな異様な状況でも抗い続ける君たちを信じるからこの作戦を任せるんだ」
「......!」
善がまどかという人間を観たように、まどかもまた善の瞳を見る。
強い意志が宿っていた。かけた言葉がまどかへの同情や気休めの慰めではなく、本当にそう思っていると訴えかける強い意志が。
その期待と信頼は重荷以上に応えたいという気持ちをかき立たせる。
「わかりました。佐神さん、ワザップさん、堂島さん」
まどかは湧き出る後悔を仕舞い込み、ここに残る三人を見渡し強く言い放つ。
「ここは任せます。絶対に生きてください!」
三人の微笑みすら浮かべる強い相槌を受け、まどかと真島は背を向け梨花たちのもとへと駆け出していく。
(まるで三流の戦隊ヒーローショーだな)
一連の流れを見ていた堂島はふとそんな感想を抱いていた。
堂島の憧れた『ヴィクティマン』は常に孤独でありそれでいいと思っていた。
ヒーローは増えすぎれば安っぽくなり輝きを損ねてしまう。だから堂島は戦隊モノよりも独りでも戦い続けるヴィクティマンの方が好きだった。
なのに。
互いに信頼し、励ましあうという行為に肩を軽くしている自分がいる。
零れた微笑みが取り繕ったウソではないと自覚している自分がいる。
「佐神くん、ワザップくん。作戦は?」
「僕の生命を生み出す能力は氷点下の中では使いにくい。それにあの身体能力の前では僕は無力に近いでしょう。なのでハイグレ女は佐神くんと堂島さんに任せて、僕は性犯罪者をブチのめします」
「私と佐神くんで、か...ハハッ」
「?」
「いや、あれだけ降りろと言った私が君と手を組む...こんなこともあるもんだなと思ってね」
「僕も同じ気持ちですよ、先生」
こういうのも悪くないと思っている自分が、確かにここにいる。
「さて。そろそろヤツらも痺れを切らす頃でしょう。改めて問いますが...覚悟はできていますか?僕は出来ている」
「「当然だ!」」
堂島と善の叫びが重なると同時。
氷柱と水槍が影を貫き戦いの狼煙があがった。
39
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:20:29 ID:yt90KjCk0
☆
「オ"レ"の家族に手を出すナア"ア"ア"ア"ア"!!」
ドッ
累の父の剛腕が英吾の腹部を捉える。
「三島!」
梨花の悲痛な叫びがあがるのと同時。
「ヴア"ア"ア"ア"ア"ア"!!」
累の父が英吾を殴りつけた腕を抑えてもがき始める。
その腕は鈍器か何かで殴りつけたかのように凹んでいた。
「心配無用。コロネからもらったこいつをちゃんと挟んだ...本当に効くんだなこのカエル」
英吾と梨花はジョルノからそれぞれカエルを1匹ずつ受け取っていた。
ゴールドエクスペリエンスが生み出した生物には攻撃を反射する特性が備えられている。
英吾はこのカエルを盾に使い累の父へとダメージを反射したのだ。
「だが、こいつは良心が痛むぜ...」
英吾の掌の中のカエルは爆裂四散し息絶えていた。
このロワにおいてはダメージを反射できる許容量が設けられており、累の父の剛腕によりそこまで達してしまったのだ。
あの雑な大振りでも当たれば瀕死は確定。
その攻撃力だけでなく、ジョルノが累の父との相性が最悪と評したのは彼の特性にある。
「ブウ"ウ"ウ"ウ"」
累の父の腕の凹みが瞬く間に戻り、彼自身ももがくのを止める。
これがジョルノにとって最悪の特性。反射ダメージも即座に回復してしまうほどの自己再生能力。
「くそったれ、これじゃあジリ貧だ」
(もうこれ以上杖は使えない...どうする...!?)
このままでは数分ともたず累の父に捉えられてしまう。
梨花と英吾に焦燥と絶望が燻りだす。
そんな彼らにまさに救いの一矢が訪れる。
40
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:20:53 ID:yt90KjCk0
ドドッ
「ガ!?」
桃色の矢が累の父の双肩にそれぞれ突き刺さり、微かによろける。
「真島さん!」
「ああ!」
その叫びと共に真島が累の父の懐に入り込む。
「シッ!!」
左右のジャブが累の父の腕を弾き、顎への道をがら空きにする。
放たれるは渾身のアッパーカット。
正確に急所を捉えられた累の父はたまらずたたらを踏む。
「来たか増援ッ!」
現れた真島とまどかに英吾は顔を綻ばせる。
「ようやくこれで終わらせられる。どきなさい真島っ!」
梨花の合図と共に真島は累の父から離れる。
それを追おうとする累の父へと梨花がボミオスの杖を振るい動きを遅くする。
「ガ ア ア ア アッ!?」
己の身体の不調を感じながらも累の父は傍にいる真島へと殴り掛かるも、真島はそれをフットワークで避け続ける。
「やっぱり遅くなった割には普通に早いわね」
ボミオスの杖は行動を遅くするものであり、一般人以下までに落とすものではない。
今までこれを受けたワザップとミスティは身体能力が人間の範囲であったためかなりの遅さになったが、累の父は素が超人的な身体能力を有している。
そのため、ボミオスを受けた状態であっても常人以上には早く動けるのだ。
「...けどあんたもこれでおしまいよ。時間は15分、それまでに決着を着けるわよ!」
「「おうっ!」」
「はい!」
梨花の叫びと返事と共に真島が累の父への懐へと入り込み、まどかと英吾が散会し距離を置いて累の父を囲い込む。
41
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:21:24 ID:yt90KjCk0
「オレの家族ニィィ」
「その程度の速さならば問題ない」
ボクシングは距離感の支配力を強要される格闘技である。
相手の拳の速度。リーチ。それらを見極め己の力を最も振るえる距離まで持ち込む。
故に必然的に養われるのは動体視力。
敵の攻撃を死線で躱し最速で己の拳を叩き込むための基礎にして最大要素。
累の父の拳は確かに強力である。
しかし、今の早さでは真島が相手どってきたボクサーの誰よりも劣る。
「シッシッ」
当たれば致命的な拳にも怖気づかず、己にとって最適な距離で最速の拳を振るう。
「ガヴァッ」
ならば足、と言わんばかりに放たれる蹴りは、真島の後方にいるまどかの弓で弾かれる。
(パンチへの援護は要らない...必要なのはそれ以外の攻撃だけ...!)
真島から頼まれた援護を反芻しながらまどかは狙いを定め続ける。
いくらまどかの弓が残弾が無いとしても魔力が尽きれば撃てなくなり、なにより即座に連射できるわけではない。
加えて、累の父にはいくら撃ち込んでもダメージはほとんどない。
だからまどかは必要最低限の援護に絞らざるをえなかった。
本当ならば今すぐにでも撃って援護したい衝動を抑え、腕だけならば躱し続けて見せるという真島を信じながら。
(よーし、そのまま抑えてろよ...)
累の父と真島が交戦する最中、英吾は息を潜めてゆっくり、ゆっくりと距離を詰めていた。
いま、累の父の意識は真島とまどかに向けられている。
(ここで外すわけにはいかねえ...焦るんじゃねえぞ、俺)
その手には拳銃。狙うは累の父の首輪。
(首輪が爆発すりゃあこいつは死ぬ。それは間違いねえ)
もしも首輪が爆発しても生きていられるというなら殺し合いが成立せず、主催側も参加者を確実に縛れる鎖を持っていないことになる。恐らくそれは無いはずだ。
当然、ここで焦って外せば累の父はその枷を狙わせるようなことはしなくなるだろう。
ボミオスで動きを制限され、真島たちに気をとられ、英吾の存在が頭から消えているであろう今だからこそ狙えるチャンス。
射程距離まで残り5歩、4歩、3歩...
累の父はまだ気づいていない。緊張と重圧に英吾の鼓動が耳に響くほどに大きくなる。
2歩、1歩...
鼓動が失せ、意識を己の腕と目標だけに集中する。
0歩。
侵入。真島が飛び退くのを合図に、英吾が銃を構える。
2歩、3歩とバックし真島は累の父から距離を置く。これで首輪が爆発しても被害は避けられるだろう。
瞬間。
それを見ていたまどかの背筋がゾワリとささくれ立つ。
経験値。
人間相手の戦闘経験しかない真島と英吾とは違い、魔女という異形と戦ってきた彼女だからこそ感じ取れた違和感。
累の父は離れようとする真島を追わなかった。
拳と矢のダメージが想像以上に溜まっていた―――そう捉えることもできるかもしれない。
だがまどかの経験は別の解を出していた。
累の父は追わなかったのではなく、追えなかったのではないか?
ダメージの蓄積などではなく次の攻撃に入るための準備をしていたために。
その悪寒が正しいと証明するかのように。ズルリ、と累の父の頭部から身体にかけての皮がずり落ちる。
構わず放たれた英吾の銃弾は、しかし空を切った。
42
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:22:26 ID:yt90KjCk0
(バカな、あいつは動きがノロくなってるはずだ!)
仮に英吾の奇襲に気づいたとしても既に遅い距離だったはずだ。
だが累の父は跳躍し躱した。
そして英吾の眼前に着地した時、その異変は誰の目から見ても明らかだった。
ただでさえ大きかった身体は更に一回り大きくなり、両腕の文様からは突起が生え。
なによりただでさえ蜘蛛のようだった異形の頭部は巨大な牙と細かく立ち並ぶ歯が際立ち更に蜘蛛そのものに近づいていた。
(脱皮した!?)
脱皮。累の父がしたのは蜘蛛や爬虫類が成長する際のソレである。
そして累の父の脱皮はただ成長するだけではなく身体能力が飛躍的に増す技でもある。
故に、累の父はボミオスの杖がかかった状態でありながら常人以上のパフォーマンスを披露できるのだ。
メキメキと腕に筋を張らせて振りかぶられる拳にも英吾は全く動けない。
それは生物としての『格』。累の父が放つ"圧"。
常に身を前線に置き、『鬼』という異形たちを相手取ってきた鬼殺隊の隊士ですら動けなくなるほどのソレに英吾の本能が敗北を認めたのだ。
それは真島と梨花も同じだ。
彼らも戦いを、惨劇を乗り越えてきた者たちではあるが、その相手はあくまでも人間。
野生動物以上の圧倒的な『暴』の前には蛇に睨まれた蛙のように立ち尽くす他なかった。
「バニエロケット!!」
ただ一人、魔女と戦ってきたまどかを除いて。
身体を風船のように膨らませ高速で飛行するまどかの体当たりが累の父の頭部へと当たり、意識がまどかの方へと逸れる。
瞬間、放たれていた"圧"が英吾から離れ、本能に支配されていた身体は自由を取り戻す。
「ッ、ふきとばしっ!!」
それは梨花と真島も同じだ。
まどかへと追撃をかけようとする累の父へと梨花はふきとばしの杖を振るい、真島は空に投げ出されたまどかを両腕で受け止めダメージを減らす。
「助かったぜ嬢ちゃん。よく動いてくれた」
「なんとなく嫌な予感がしてたんです。うまく言えないけど...」
「まさか一番弱いと思っていたふきとばしの杖が最適解だったなんて...誤算だったわ」
「古手、まだその杖は使えるか?もしくはまた動きを遅くするか...」
「ふきとばしの杖はもう打ち止めよ。ボミオスも重ね掛けはできないと説明書に書いてあったわ」
累の父はほどなくして戻ってくるだろう。
新たな作戦を考えている暇はない。
43
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:24:27 ID:yt90KjCk0
(この作戦は最終手段だったんがな...!)
「古手、『ゾンビ鬼の時間』だ!」
「ゾンビ鬼...っ!!」
ゾンビ鬼。雛見沢の『部活』で行われている遊戯の一つ。
一人の鬼から始まり、その鬼が参加者に触れることで鬼が増えていくというその名の通りにゾンビ映画のような鬼ごっこ。
しかしこのゲームにはある種禁じ手が存在している。
それは『相手が鬼であるかどうかを確かめる術はない』ということ。
つまり、鬼になっていない者でも自分が『鬼である』と噓をつきそれをバレずに貫き通せば鬼から逃れることができるのだ。
ここで騙す『鬼』は累の父ではなくミスティたち。
真島とまどかを増援に向かわせたことで梨花と英吾を含めた四人への意識が逸れている隙に、ボミオスの杖とふういんの杖という一発逆転の支給品を持った梨花を投入するという作戦だ。
その為に梨花はギリギリまでボミオスの杖とふういんの杖を使わなかった。
ゾンビ鬼という名称は梨花がジョルノへとその作戦を伝える時につけたものであり、ジョルノは別れる際に真島にその旨を伝えたのだ。
「でもそれだと誰があいつを止めるのよ?」
だが、この作戦ができるのは累の父を止めるか倒すことができるのが前提である。
脱皮前ならまだしも今の累の父はもはや敵なし。残るものが誰であれ、この中の四人では早々に食い散らかされてしまうだろう。
「殿は俺と鹿目が務める。三島、あんたも古手について行ってくれ」
「無茶言ってんじゃねえよ。あの化け物相手に二人でどうするつもりだ」
「大丈夫です。わたしたちにはまだ奥の手があります。ただ、それは二人じゃないと使えないんです」
「そうは言うがよ」
「行くわよ三島」
残ろうとする二人を説得しようとする英吾の手を引き梨花は背を向ける。
「言い争っている時間はない。あの怪物には無力同然な私たちが、ワザップや堂島たちの決着を着けさせてここまで戻ってくるのが理想...そうでしょう?」
「クソッ...おいお前ら、死ぬんじゃねえぞ。絶対だからな!」
「あんたらもだ。向こうは向こうで気は休めれないからな」
遠ざかっていく気配を背中で感じながら真島とまどかは戻って来る累の父へと向かい合う。
「来るぞ。用意はいいな?」
「はい」
まどかが真島の背中に掌を当てる。
すると掌から淡い光が放たれ真島の両手と両足からも淡い光が零れ始める。
「オレの家族ニィィィ!!」
「シッ!」
累の父の腕が振り下ろされるその間際に、真島の拳が累の父の顎を捉える。
それにとどまらず、次いで放たれるジャブとストレートのコンビネーションが次々に炸裂する。
まどかの流した魔力が真島の両手足を強化し、累の父の拳の速度を凌駕したのだ。
これが彼らの奥の手。魔力の強化による一時的な身体能力の強化である。
(わたしの魔力があとどれだけ持つかわからない...それでも...!)
「止まる訳にはいかん!」
このまま続ければ、ほどなくしてまどかの魔力は尽き、最悪魔女になってしまうだろう。
それでも彼らは諦めない。絶望しかない運命にも抗い続ける。
たった一つの揺るぎない信念を胸に、戦い続ける。
44
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:25:07 ID:yt90KjCk0
☆
「さっき面白いことを言ってたわよねえ。私が性犯罪者だから刑務所にぶちこむだとかなんとか」
「それがなにか」
「別にィ。ただあなたのような正義漢ぶってる子が情けなく腰振ってる姿を思い浮かべたら面白くてしょうがなくてぇ」
水と氷の槍を凌ぎ、ミスティの前へと転がり出てきたジョルノは幾分か傷つき地に片膝を着きながらもその眼光だけは決して衰えず。
嘲り嗤うミスティを真っすぐに見据えている。
「残念だったわねぇ。善くんか堂島さんと一緒に私のところに来ていたらどうにかなったかもしれないのにぃ」
「問題ありませんよ。同じことを言うのは嫌いですが、『貴女は僕がぶちのめし刑務所にぶち込む』。その結末は揺るぎませんから」
「そぅ。ならどうやって私にお仕置きするのか見せてもらおうかしらぁ」
ミスティの足元から水流が噴き出し水の槍がジョルノに襲い掛かる。
「そう何度も見せられれば対策も思いつく。『ゴールドエクスペリエンス』!」」
ゴールドエクスペリエンスが、ミスティの水流により生じた地面の瓦礫に触れ水流目掛けて投擲する。
「僕のゴールドエクスペリエンスは物質に命を与え変化させることができる。僕の与えた魚!その中でも突出した突進力を持つ魚とは...」
生命を得た瓦礫は瞬く間に姿を変えていく。
槍のように尖った鼻。魚特有のつぶらな瞳。
「ご存じ『カジキマグロ』だッッ!!」
生み出されたカジキマグロたちは水流を辿り泳いでいく。
カジキマグロは最大速時速110kgほどまで出せるという。
その速度で貫かれたモノがどうなるかは考えるまでもない。
ビィン、とカジキマグロが地面に刺さり直立する。
「...ふぅん。この敵意の塊...本気ってことかしらねえ」
ミスティがカジキマグロの破壊力に感心している最中にも、ジョルノは次々に瓦礫に命を与えカジキマグロを生み出していく。
「水流を魚で支配する。中々イイ考えねぇ。けれど」
ブラックマリンが仄かに輝くと、水流はピタリと止み速度に乗り切れなかったカジキマグロたちがぼとぼとと地面に落ちていく。
ミスティがそのマグロに近づき、脳の部位と下腹部に黒針を刺す。
するとピチピチと暴れていたカジキマグロはピタリと動きを止め、下腹部からは二本の美脚が生える。
呆気にとられるジョルノを他所に、計五体のカジキマグロに同様の処置を施していく。
「ウフフ、私の黒針はこんなこともできるのよぉ。さぁマグロさんたちぃ、貴方を身勝手に産んだ親御さんへと反撃の時間よぉ」
ミスティの号令に従いカジキたちはジョルノへと突進していく。
速度こそ水中の比ではないが、頭部の硬く鋭い鼻は健在であるため、ジョルノもそれを無視はできない。
45
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:25:31 ID:yt90KjCk0
『無駄ァ!!』
ゴールドエクスペリエンスが殴りつけたマグロ兵は生命を失い瓦礫へと姿を戻す。
残る四体のマグロ兵は先方がやられたと見るや否や、直線に向かっていた軌道を変えジョルノの周囲を取り囲むように陣形を組む。
「生命は死を突きつけられる度に学び強く進化する...己の生み出したモノに小賢しく反逆される気分はどうかしらぁ?」
「悪趣味な女だ...そうやって意趣返しのような口ぶりで相手の尊厳を傷つけようとするのがお前のやり方か」
「命を好き勝手に弄ぶ貴方に悪趣味だなんて言われたくないわねぇ」
ミスティがパチンと指を鳴らし、マグロ兵が一斉にジョルノへと襲い掛かる。
同時に。
ジョルノの足元から噴水が湧き出て、マグロ兵ごとジョルノを取り込み水牢の如く宙に浮かぶ。
「これは...溺れるっ!」
浮かぶ水球に閉じ込められたジョルノはマグロ兵たちに四方を囲まれ、ミスティは帝具の連続使用による疲労を回復するために突き刺さっていたカジキマグロの脳に黒針を刺しその場に硬直させ背もたれにする。
『無駄無駄ァ!』
ゴールドエクスペリエンスが傍にいるマグロ兵を殴ろうとするも、マグロ兵は容易く回避し代わりに肩を切り裂き通り過ぎていく。
「水牢マグロ責めの刑...その中ではロクに動けないでしょう?でもマグロちゃんたちは違う。その中を縦横無尽に泳ぎ回り貴方をジワジワと追いつめる。失血死、酸欠、一思いに刺殺...生殺与奪は彼らが握っているぅ」
「......!」
「でも貴方の能力は惜しいわぁ。その生命を生み出す能力は私の黒針ととても相性がいい...今からでも貴方が私に傅くなら特別待遇で迎え入れてあげてもいいわよぉ」
ミスティはベロを出しながら挑発するように己の唇の前で手で作った輪をシュッ、シュッと前後させる。
決死の状況に置いての勧誘―――俯くジョルノは、しかしすぐに顔を上げ目で訴える。
『何度も同じことを言わせるな性犯罪者。貴様は僕がぶちのめし刑務所にぶち込む』と。
「..そう。残念だわぁ」
ミスティがパチンと指を鳴らし、マグロ兵を一斉に襲い掛からせる。
四方八方を囲まれた状況でもジョルノは微塵も恐怖を抱かない。
なぜなら避ける必要もないのだから。
(ゴールドエクスペリエンス)
ゴッ。
「ガッ...!?」
水中でのつぶやきと共にマグロ兵たちが一斉に瓦礫へと戻り、ミスティの頭部に痛みが走る。
ジョルノは浮かぶ四つの瓦礫を抱え、その重さで沈み込み水球から脱出する。
「ゴールドエクスペリエンスの解除は殴らなくてもできる。きみが呑気に背もたれにしていたカジキも例外じゃあない...ようやく一撃ってところかな」
「クッ...フフッ、やってくれるじゃない」
頭部から流れる血を抑えながらミスティはジョルノを睨みつけた。
46
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:26:15 ID:yt90KjCk0
「ふむ。私の相手はお前たち二人か」
エスデスは腕を組み善と堂島を迎える。
「しかもよりにもよって貴様らとはな...私をそこまで高く買ってくれるか」
くつくつと笑みをこぼすエスデスに反して善は顔を強張らせる。
「手心なんて加えれませんよ、貴女には」
「佐神くん。きみ、彼女に勝ったんだろ?実際どうなんだい」
「僕よりも数段格上ですよ。もう一度勝てと言われても厳しいかもしれません」
「ほう、君にしては珍しい弱音を吐くな。だが引くつもりはないんだろう?」
「当然です」
「ハハハ、だと思ったよ」
「さあ、おしゃべりはここまでだ。私とて貴様ら相手に遊び心を交えるつもりはない」
エスデスは組んでいた手を解くと、掌を合わせ指で正方形を作りフゥ、と息を吹きかける。
指の合間から漏れる氷の結晶がエスデスの眼前に瞬く間に積み上がり人の形を象る。
「氷騎兵―――これは私の能力で生み出した兵隊でな。即興であるため一万の兵力とはいかないが、代わりに精度を高めさせてもらった」
氷の結晶が象るのは女体。表情のないエスデスそのものである。
「もうなんでもありだな...」
「時間も止められるんです。なにをやってきても驚きませんよ」
「安心しろ、摩訶鉢特摩は今日はもう使えん。ここからは死力を尽くした殺し合いだ」
エスデスが地を蹴るのと共に氷騎兵エスデスも駆け出す。
エスデスの氷を伴う蹴りを善は腕で受け止め、氷騎兵の剣を堂島が剣で受け止める。
思っていたよりも重い。
氷騎兵の攻撃を受け止めた堂島はそう評価する。
ただの操り人形かと思えば剣筋はしっかりとしているし、動きも身軽。
先ほど戦った本体ほどではないがすんなりと勝てる相手でも無さそうだ。
(グッ...やっぱり重い。相変わらずどうなってるんだこの人は!?)
数時間前にも受けた攻撃だが、彼女の攻撃は依然衰えることもなく。
吸血鬼顔負けのパワーで善の身体に負荷を刻んでいく。
剣と剣、徒手と徒手が暴風のように荒れ狂い周囲に衝撃が波及する。
47
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:26:43 ID:yt90KjCk0
だが戦況は拮抗せず。先んじて有利を取ったのは、一番消耗の少ない堂島だ。
カッ
堂島の剣が袈裟懸けに振り下ろされ氷騎兵が切裂かれる。
その勢いのまま善のもとへと向かおうとする堂島だが、しかし剣に纏わりつく重さに足を止める。
パキ、パキ、と音を鳴らしつつ、氷騎兵が剣をその身に取り込んでいた。
(最初からこれが狙いか)
堂島の強さの大本は真祖をも断てる剣にある。
堂島の戦闘センスは確かに優れているが、剣が使えなければ攻撃力は善やエスデスに比べて大幅に下がる。
氷騎兵はその為の駒だ。
いくら何物をも両断する剣といえど、腹を抑えられればその真価を発揮することはできないからだ。
(ならば)
「佐神くん!」
善の名前を呼ぶのと同時、堂島は氷の纏わりつく剣を善目掛けて振るう。
善はその気配を察し、アジェルノッカーを振るい剣に纏わりつく氷を殴りつける。
粉砕された氷は再び元の形に戻るも、善が首元を掴み地面にたたきつけ、剣が解放された堂島はそのままエスデスへと切りかかる。
エスデスは反射的に一歩退き、頭頂へと振り下ろされる剣を間一髪避ける。
が、避けきれなかった部位へと袈裟懸けに一筋の線が走り血化粧が舞う。
浅い。
手ごたえから察し、与えた傷にも油断せず追撃を放つもエスデスの氷の壁が眼前に聳え立ち進路を妨害される。
「向かい合う相手の切り替えをこの早さで為すとはな...その状況判断力の早さには敬服すらするぞ」
エスデスが掌を身体に刻まれた傷に合わせてなぞれば、氷が纏わりつき出血が収まる。
彼女の敬服に限らず、善と堂島も彼ら自身に驚いていた。
堂島はなぜか解っていた。善ならばこの早さで解凍を頼んでも成し遂げてくれるだろうと。
善はなぜか解っていた。堂島ならばこのタイミングで相手を切り替えてもすぐ対応してくれるだろうと。
「このまま押し切るぞ佐神くん」
「はい!」
善にとって初めてだった。
かつて自分を救ってくれて、その真似をしたいと背中を追っているヒーロー。
今も倒すしかないと思っている彼に背中を預け、なのに微塵も疑わず戦えるこの気持ちを抱くのは。
堂島にとって初めてだった。
戦いから遠ざけたくて様々な手段を考えていたというのに。
尊厳を破壊されて。心が折れかけて。それでもなお立ち上がる姿に安堵すら覚えて。
そして今は彼に背中を預けられることに心が奮い立っている。そんな奇妙な気持ちは。
救ってくれた命と救われてくれた命。
善も堂島も。
互いに手を組んで戦い、面白いほどに噛み合うことに紛うことなき喜びを感じている。
―――この瞬間が、ずっと続くといいなあ。
どちらが言ったのか、思ったのかはわからない。
けれど、そんな淡い喜びを、二人は確かに共有していた。
48
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:28:07 ID:yt90KjCk0
☆
「オレの家族ニイイイィィィ!!!」
「うおおおおおお!!」
互いの叫びが、肉を撃つ音が周囲に響き渡る。
真島の身体には未だに目立った外傷はなく、一方的に攻撃を与え続けている。
しかしその心中は全く穏やかではない。
累の父はいくら拳を受けようともすぐに傷を癒し休息もなしに即座に反撃してくる。
なにより最大の敵は時間だ。
今はまだまどかに分けられた魔力で凌いでいるが、果たしてこの強化があとどれくらい保てるのだろう。
保てたとして、累の父にかけられているボミオスの杖の効果が切れた時にどれほど抵抗できるのだろう。
その緊張感と不安感に、いま、自分がどれほどの時間を稼げているのかも不明瞭だった。
「ジャアッ!!」
放たれたジャブに対する累の父の大振りの拳。
この僅かな時間で幾度となく交わされてきた攻防。
しかし、鼻先に走る灼熱と共に真島の眼前に血しぶきが舞う。
(クソッ、掠めたか!)
外傷としては大したことではない。
しかし、これはまぐれではなく、徐々に真島の攻撃に適応してきているという証左である。
魔力の時間切れ。
ボミオスの時間切れ。
更に加えて累の父の適応力。
カウントダウンのようにどんどんと塞がれていく真島は崖際に追い詰められたような錯覚に陥る。
退けば死。引かずとも死。
ちら、と横目で木に背を預けるまどかを見る。
彼女は荒い息遣いで、しかし、決して戦闘から目をそらさずに見据えている。
そんな彼女に真島はふっと口元を緩め、迫る死への脅威へと改めて向き合う。
(どの道引くわけにはいかんな)
魔力も尽きかけているであろう彼女がまだ折れていないのだ。
ならば自分が諦める訳にもいかない。
「家族に手を...出すなァァァァァ!!」
「俺にも護りたいものがある...そいつは譲れんっ!!」
振り下ろされる右こぶしを避け、素早いフットワークで回り込み空いた右側頭部へと左ストレートを放つ。
が。瞬間、時間が止まっているかのような錯覚に陥る。
アドレナリン。死を感じ取った脳が真島の目に映る光景をひどくスローモーションにしていた。
真島がストレートを放つその直前。累の父の左拳は既に右の脇を通して放たれていた。
腰も入っていない無茶苦茶な体勢からの拳。しかし、累の父の身体能力を考えればそれだけでも致命傷になりうる。
(すまん、みんな、鹿目)
いくら動きがゆっくりに見えても身体が動かなければ意味がない。
累の父の左拳が真島の腹部へと吸い込まれていき―――
「その人は『味方』です!思う存分助けちゃってくださぁい!!」
「命令してんじゃあねーぞオギワラ!『ザ・グレイトフル・デッド』!!」
49
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:30:08 ID:yt90KjCk0
直撃の寸前、飛び出してきた影が真島を突き飛ばし累の父の拳は空を切る。
まどかは見た。累の父と真島の横合いから飛び出してきたスーツの男を。
その男が、ジョルノのように奇妙な異形の像を操り真島を救ったのを。
「間一髪でしたね真島さん」
「荻原、無事だったか!」
「はい、兄貴たちが助けてくれたので♪」
「オギワラ。オメーはソイツ連れて下がってな」
「はぁい」
「待て、その化け物はただものじゃない!俺も戦うぞ!」
「大丈夫ですよぉ、さっきもドレミーさんがやっつけたばかりですしぃ」
結衣は疲労する真島をぐいぐいと押しながら息を切らすまどかのもとへと運んでいく。
「あのぉ、大丈夫ですかぁ?」
「なっ、なんとか...あの、あなたが荻原結衣さんですか?」
「はい。あたしが荻原結衣です!あなたのお名前は?」
「鹿目、まどかです」
「まどかちゃん!可愛い名前ですねぇ。そうだ、氷あるんでよかったら使ってください」
呑気な自己紹介をしながら、氷をまどかの額に当て、彼女なりに休ませようとする結衣。
そんな若干の苛立ちすら覚えそうな結衣の調子に、真島はむしろ安堵する。
彼女は変わっていない。新たに巻き込まれた殺し合いでも相変わらずの能天気なお人よしでいてくれる。
それが真島にとっては喜びであり、同時に『兄貴』と呼ばれているスーツの男にきっと苦労しているだろうなと微かな同情も抱く。
「邪魔ずるナ"ア"ア"ア"ア"ア"!!!」
「ちょっと見ねえうちにデカくなりやがって」
「ここは私にお任せを...先ほどぶりですねぇまがい物の鬼さん」
プロシュートの背後からのそりと現れたドレミーが累の父へと向かい合う。
「約束通り首輪を受け取りに来たのですが」
「シャア"ア"ア"ア"ア"!!」
「お持ちではないですか。残念ですね。ではさようならといきましょう」
ドレミーが手を翳すと同時、大小さまざまな弾幕が累の父へと襲い掛かる。
それにも怯まず累の父は拳を振り下ろす―――が、ドレミーは既におらず。
頭上へと跳びあがったドレミーは掌を累の父に向け、すれ違いざまに艶めかしくささやく。
50
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:31:25 ID:yt90KjCk0
「今は眠りなさい。貴方の槐安は今作られる」
ドレミーの掌から黒色の靄が放たれ累の父に纏わりつく。
これがドレミーの能力。
対象を眠りに落とし夢の世界へともぐりこむ程度の能力だ。
「ジャア"ア"ア"ア"ア"ア"!!」
「あらぁ?」
全く眠りに落ちる気配のない累の父にドレミーは首を傾げる。
鬼舞辻無惨に作られた鬼は基本的に気絶することはあっても眠ることはない。
先刻の戦いではホワイトの完全なる洗脳下にあったため、『鬼』としての性質に隙間が生まれていたが今はそうではない。
ミスティが齎したのはあくまでも自分たちを家族に見せるという認識のみであり、鬼としての思考や性質には一切手を加えていない。
故に、ドレミーの催眠にも鬼としての耐性が勝り、その効力を鈍くしたのだ。
「ごめんなさいプロシュートさん。私では無理みたいです」
「問題ねえ。仕込みはもう終わってる。―――おい、化け物」
ドレミーにそっと耳打ちをした後、プロシュートはそっと三歩下がって累の父へと人差し指を突きつける。
「オメーに俺の能力が大して効かねえのもわかってる。身体能力じゃあ勝ち目なんざ猶更ねえ。恐らくまともにやりあえば俺もドレミーもあっさりやられちまうだろうよ」
プロシュートの言葉を無視して累の父は勢いのままに殴り掛かる。
「そんだけのパワーを出すにはどうしても『体重』が必要だ...体重があるってことはよぉ」
プロシュートへと拳が振り下ろされる刹那、累の父の視界がガクリと傾く。
「柔らかい地面なら容易く沈んじまうってことだぁ!『グレイトフル・デッド』はここに来てからずっと地面に触れていた...地面を支えてる木の根や葉を腐らせるためになあ!」
プロシュートのスタンド『グレイトフル・デッド』は能力の周囲への細かい調整はできない。
しかし、ばら撒くのではなく範囲を両腕にのみに絞ることは可能。『グレイトフル・デッド』の両腕から放たれた老化ガスは土の中に眠る木や散らばり埋もれる葉にまで届き老化させ腐らせた。
結果、生じるのは隙間ができたことによる地面の陥没。決して大規模ではないが、踏み込めばつま先が沈み込む簡易的な落とし穴。
「俺が作ったのは『腐葉土』だ!農家みてェに手が込んでねえからガーデニングには使えねえが、てめえを躓かせるくれえなら充分...そしてぇ!」
プロシュートは飛び退き『グレイトフル・デッド』は左右の木に触れ能力を発動する。
「木の重さってのは案外馬鹿にできねえんだぜ!木が老いて腐るには時間がかかるが...「直」ざわりなら問題ねえ!」
ボロリ、と気が根元から折れ、体勢を崩す累の父へと降り注ぐ。
その重量に累の父の身体が押されますます地面に沈んでいく。
「ガアアアアア!!」
「まあたかだか一本や二本でオメーを抑えられるとは思ってねえさ。だからよぉ...何本でも叩き込む!」
プロシュートは移動した先の木に手をかけ同じように累の父へと木を倒していく。
「そして軌道修正は私の出番ですね」
ドレミーが微かに逸れかけた木へと弾幕を放ち、正確に累の父の背中へと落ちるように軌道を直す。
そして計10本の大木が累の父にのしかかり身体を埋め動きを固定した。
(できればここで殺しておきてえが...チッ、木で隠れて首輪が狙えねえ)
累の父の身体は木で隠れてしまっており、しかしこれ以上減らせば拘束が解け再び襲い掛かってくるだろう。
とりあえずはこの場を凌げただけでもよしとするしかない。
プロシュートとドレミーは、累の父へと背を向け結衣たちのもとへと振り返る。
51
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:31:46 ID:yt90KjCk0
「す、すごい...」
「ふふん、兄貴たちは凄いんですよぅ♪」
累の父を拘束したプロシュートたちの手腕を見て、まどかは思わずポカンと開口し、結衣は自慢げに胸を張った。
「では改めまして。私はドレミー・スイートです」
「か、鹿目まどかです」
「真島彰則だ。荻原を護ってくれたこと、礼を言う」
「...プロシュートだ。礼は必要ねえ。コイツが勝手についてきてるだけだ」
「もう、兄貴はすぐにそういうこと言うんですからぁ。あたし、兄貴が励ましてくれたことすごく嬉しかったんですからね!」
「イチイチ言いふらすんじゃあねえオメーはよお―――!」
こめかみに一つの筋を浮かべながら結衣の額に指をグリグリと押し付けるプロシュートを見て、やはり苦労しているんだなと真島は妙な親近感を抱いた。
「さてさて。気を抜くのはまだ早いですよ皆様方」
ドレミーがパン、と掌を打ち鳴らし、結衣に乱された場の空気を立て直す。
「私たちはまだ目標を達していません。この辺りで探している人がいるんですが、あなたたちは知りませんか?黒いゴスロリ娘と益子薫という小さな女の子です」
『黒いゴスロリ娘』『益子薫』。
その二つの単語に真島は目を見開く。
「どうやらご存じのようですねぇ。それでは聞かせていただきたいのですが―――」
ドレミーが真島から答えを聞き出そうとしたその時だった。
耳をつんざくほどの轟音が鳴り響いたのは。
52
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:32:46 ID:yt90KjCk0
☆
「クッ...ハハハハ...」
地面に這いつくばるエスデスは血反吐を吐きながらも口角を釣り上げる。
「かつては幾万もの兵を蹂躙したエスデスとあろうものがたった二人にここまで圧倒されるとはな...」
「過去の栄光に縋るかい?その姿も合わせて惨めなものだね」
「惨めか...ふふっ、構わんさ。むしろ新鮮だ...初めて私が挑む側になれたのだからな」
自嘲の笑みすら浮かべるエスデスに対し、堂島は侮蔑の感情すら視線に込めて見下ろす。
しかし一方で、善はエスデスに対して違和感を抱いていた。
(戦況は僕たちが有利だ。なのになんだこの不安感は..!?)
善はエスデスを観て思考を巡らせる。
今の状況。これまでの状況。エスデスの人間性。この目で観たものすべてを総動員して推測する。
そして違和感の正体に気が付いたその時。
「―――この、サイコ女...!!」
善の怒りは殺意へと変わるほどに沸き上がった。
53
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:34:01 ID:yt90KjCk0
「ハアッ、ハアッ」
ミスティは胸を抑え、息を切らしよろめきながらもどうにか体勢を立て直す。
「どうやらその道具、体力と引き換えに力を発揮するもののようだな」
対するジョルノは多少の手傷はあれど、ミスティほどには息が上がっておらずどこか余裕さえ滲ませている。
ジョルノの推測は正しく、ブラックマリンは使えば使うほどに使用者の体力を削っていく。
ミスティ以上に適正を持ち、ナイトレイド最強のブラートと肩を並べるほどの猛者であるリヴァですらその制約からは逃れられなかった。
故に体力も体格も劣り、頭部にもダメージを受けたミスティではここまでの疲労が出るのも当然である。
「うふふっ。もともと私は直接戦闘向きじゃない...それに、あなたたちに容易くは勝てないことくらいは私も弁えているわぁ」
口から出る弱音とは裏腹に、ミスティの顔からは笑みが消えていない。
ジョルノは油断なく構え、しかし早々に勝負を決めるために徐々に距離を詰めていく。
(もうすぐ古手さんのふういんの杖の効果が切れる...それまでに決めなければ!)
このままふういんの効果が切れワザップが表面化してきた時にはどうなるかは彼自身にもわからない。
故にこれ以上は時間をかけられない。最低限、ミスティだけでも始末しておかなくてはならない。
不敵な笑みを絶やさぬミスティに不安要素を抱くも勝負を決めるためにジョルノは駆ける。
ミスティは力を振り絞り、両手で印を結びジョルノへと見せつける。
幾度となく繰り返された湧き出る水流。しかし今までと違い、ジョルノを無視して上空へと舞い上がる。
「......!?」
「ねぇ。あなたは不思議に思わないかしらぁ。こんな状況でなぜ私がこんなに余裕を保ててるのかぁ」
突如、ゴロゴロと空気を震わすほどの轟音が鳴り響く。
「雷...バカな!?」
この会場にも雲はある。しかし、雨は降っておらず前兆もなかった。
なのになぜこんなタイミングで!?
「ふふっ、なぜ私が馬鹿みたいな一つ覚えでブラックマリンを使っていたかわかるぅ?」
ミスティの言葉にジョルノは咄嗟に足元を確認する。
「濡れている...いつの間にか、地面に乾いた場所がほとんどないほどに!」
「それと、今まで隠してたけど私は闇のエナジーで属性を付加できるのよぉ。炎や氷...電気」
「...!」
「もちろん特別な道具がないととってもちっぽけなものだわぁ。多少火傷をつけたり痺れさせたりが限度。エスデスちゃんみたいに実戦で使えるようなものじゃないわぁ。でも条件さえ整えればそれなりの武器になる」
「―――佐神くん!堂島さん!すぐにエスデスから離れて防御態勢をとれ!」
ミスティの狙いに気づいたジョルノは声を張り上げる。
「奴らは"雷"を作るつもりだあああああ!!!」
54
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:38:36 ID:yt90KjCk0
「もう遅いわぁ。さっきの電撃属性を付加させた水流でスイッチは入っているの。仮に私を殺せてももう止まらないわぁ」
雷とは積乱雲の中の氷の粒がぶつかり合うことで起きる放電現象である。
エスデスの氷による寒暖差と放電素材。
闇のエナジーにより属性を付加させたブラックマリンによる、温水と冷水により生じる気温調整。
そして、両者の能力で水浸しになった地面。
条件は全て整っている。
ジョルノの叫びを聞いた善と堂島はすぐに退避の姿勢に入る。
二人とも電撃を操る吸血鬼は知っている。
狩野京児。彼の操る電撃は強力ではあるものの、善や堂島のような強い力を持つ吸血鬼を殺せるほどの威力は有さない。
だが自然発生する雷を受けたことは無く、それがどれほどの被害を及ぼすかは想像もつかない。
「今更逃がすわけないでしょおう?」
ミスティが指を動かすと、校舎から水流が飛び出し渦巻くように善たちの眼前へと立ちはだかる。
邪魔だ―――善と堂島は同時に波を攻撃しようとするが、その腕がピタリと止まる。
「優しい貴方たちなら彼女を見捨てて逃げ出さないわよねえ?」
「あいつ...!」
水流の中に囚われた益子薫の姿に、善と堂島の表情は怒りに歪む。
その一瞬の間が彼らの運命をわけ―――雷は遂に降り注ぐ。
「受けなさい、私とエスデスちゃんの合体技(あいのけっしょう)...『建御雷神(タケミカヅチ)』!」
まさに一瞬の出来事だった。
ジョルノも。善も。堂島も。薫も。ミスティも。エスデスも。
光は存在する者すべてを飲み込み雷が荒れ狂う。
轟音が鳴り響き、水を伝い草木を焼き切り、地面を抉り取る。
55
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:39:20 ID:yt90KjCk0
夥しいほどの硝煙の中、ゆらりと影が蠢く。
「...ゲホ、ゲホ...」
「無事かご主人」
「えぇ。なんとかねぇ」
立ち上がったのはミスティとエスデス。
彼女は善とジョルノが影で姿を隠した隙に、自分とエスデスの身体を黒針で改造し電撃耐性を付与しておき雷を凌いだのだ。
「どうやら今のが奥の手だったようだね」
その声にミスティは目を見開く。
煙が晴れ、浮かび上がるは四つの影。
小さな呻き声を上げつつもほとんど外相のない薫、目を瞑り、身体に刻まれた焦げ跡が痛ましくも未だ息のあるジョルノ。
その二人を庇うように被さり、全身に火傷が刻まれ片目を失いながらも微塵も揺らがぬ闘争心を瞳に宿す善。
そして、白の装甲を土気色に汚し、左腕を失いながらもその三人を庇うように立ちはだかる堂島。
雷が降り注ぐその寸前、善は薫を水流から掬いだすと共に、ジョルノへと分裂体を放ち、すぐに戻すことでジョルノを回収。
堂島は剣で地面を穿ち土をカーテンを作るように巻き上げ、三人を庇うように来る雷へと向き合う。
その背に隠れた善がジョルノと薫を抱え込み二人への衝撃を引き受け、しかし無防備のままに雷を受ける薫が一番危険だと判断したジョルノが己にもまわされる防御を薫へと向けさせるために彼女を押し付け、己はスタンドによる防御に賭けた。
あまりにも足りない時間と備え。しかし、各々ができる範囲で抗った結果、可能な限りダメージを抑えることができたのだ。
「...驚いたわぁ。まさかこれまで防がれるなんて」
「悪の必殺技を打ち破るのはヒーローの役目だからね」
「惜しいわぁ...ほんとうに貴方たちを失うのが惜しい...ねぇ。最後に提案させてもらうけどぉ、貴方たち、私と組むつもりはないかしらぁ?」
56
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:39:58 ID:yt90KjCk0
己の首元に手を這わせながらミスティは続ける。
「このまま戦えば終焉はどちらかの死でしかありえない...私には技術力がある。闇のエナジーに精通する超能力の造詣がある。この枷を外すのに一役買えると思うけれどぉ?」
それはあまりにも魅力的に思える提案だった。
ミスティはあくまでも優勝よりも脱出によるゲームクリアを重視している。
加えて、機械に強いという点も善たちにはない強みだ。
黒針による調教と洗脳も、エスデスのような強く殺し合いに乗る参加者相手に限れば善たちにも得しかない。
堂島と善は互いに目を合わせ、相槌を打ち言葉を返す。
「「お断りだ!!」」
その益を足蹴にしてでも譲れないモノがある。
彼女は薫を蹂躙し傷つけた。ジョルノを傷つけた。
意味もなく。理不尽に。己の欲を満たすためだけに。そのことに関しても微塵も反省や後悔をしていない。
そんな彼女を信用も信頼もできるはずがない。許せるはずもない。
これ以上の被害者を増やさないためにも彼女はここで倒す。
ぶつけられる二人の殺意にミスティは心底残念そうに眼を伏せる。
「そう...残念。ならあなたたちとはこれでさようならねえ」
「ハイ、ミスティ様ぁ♡」
57
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:41:12 ID:yt90KjCk0
―――まさに刹那の出来事だった。
伸ばされた手が善の首元にかかる。
その攻撃が善は見えなかった。
片目を潰され視界が狭まっていたから。それはあり得ないはずの攻撃だったから。
彼女―――益子薫は助けてほしいと叫んでいたのを聞いていたから。
己になにが起きるかを察した時にはもう遅い。
彼女を突き飛ばす暇もなく。なにか言葉を遺すこともなく。
薫の指は善の首輪を掴み、全力で引き抜き―――爆発。
セレモニーで見せしめとされた少女のように善の首と胴体が泣き別れる。
落ちていく視界に映るのは、こちらを見つめて放心するヒーロー、爆発に巻き込まれた両手を無くし、涙を流しながらも歓喜に満ち溢れる薫。
―――だから言ったじゃないか。
最期に届いたのは、どこかで聞いたような、そんな声。
58
:
灰色の世界の下で ―所詮、感情の生き物―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:43:04 ID:yt90KjCk0
なにが起きた。
ミスティが首輪を引くような動作をしたと思った瞬間、背後から小さな爆発音が響いた。
咄嗟に振り返れば、目に映るのは頭部と胴体が泣き別れた善と、両腕を無くしながらも歓喜する薫。
「アハ、アハハハハハ!!ミッ、ミスティ様ぁ!オレやったぞ!またいっぱいご褒美くれよぉ!ビリビリするやつくれよぉ!」
爆発に巻き込まれた影響で顔は半分以上焼けただれ、両手を肘から先を無くし、涙を流しながらも。
薫は歓喜する。奉仕と褒美という信頼で繋がれた快楽を求め続ける。
堂島はわかっている。彼女もまた被害者であり、これが本心でないことは。
彼女が善を××したのも、洗脳され自意識を奪われていたからにすぎない。
精神分析に則っても法律に則っても、彼女が悪いと判断する者はいないだろう。
そんな者がいれば、その者こそが人の痛みが解らぬ悪党だ。
けれど。気が付いた時には生首が増えていた。
堂島が吸血鬼となった時と同じだ。
頭が真っ白になり、剣が血に濡れていた。
悲しむでもなく。怒るでもなく。
ただどうしようもなく空っぽだった。
だからドスリ、となにかが腕の切断面から入り込む感触がしてもなにもできず。
ミスティが自慢げに「私の熱属性を付与した水流があなたの心臓目掛けて昇っている」とのたまっても何も感傷を抱けず。
ボン、という音と共に心臓部が弾け、激痛と共に身体が前のめりに倒れこむ。
―――今、私が殺さずとも戦いを続ければ必ず誰かに殺される。君は死ぬ。必ず死ぬ。
かつて善へ向けた言葉が脳髄で反芻される。
―――激痛の中で、後悔し、血をまき散らし、死ぬんだよ。灰だけを残してね。
灰になっていく彼の身体に手を伸ばし、残骸を握りしめる。
―――先生。
閉じていく視界に映るのは、穏やかな日差しの下でシスカの乗る車椅子を押し微笑み合う善と、それを微笑み見つめる自分の背中。
そんな、あまりに穏やかだったかつての記憶。
【佐神善@血と灰の女王 死亡】
【益子薫@刀使ノ巫女 死亡】
【堂島正@血と灰の女王
59
:
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/05(月) 00:43:53 ID:yt90KjCk0
何度も投下をわけて申し訳ありません。
次の投下で最後になります。
60
:
名無しさん
:2021/07/05(月) 06:16:18 ID:/JA/7wqU0
征史郎、はるな予約します
61
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/05(月) 22:25:28 ID:/JA/7wqU0
あ、すいません自分です。はるなと征史郎予約します
62
:
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/07(水) 23:56:16 ID:ZKQm6gF20
投下します
63
:
灰色の世界の下で ―敗者の刑―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/07(水) 23:57:24 ID:ZKQm6gF20
梨花と英吾がたどり着いた時には全てが終わっていた。
灰と化していく善と堂島。倒れ伏すジョルノ。首と胴体が泣き別れになった益子薫。
そんな彼らを嘲笑うミスティと、傍に付き添うエスデス。
彼らは負けた。それは一目瞭然の事実だった。
(...潮時ね)
梨花はこの場からの逃走を視野に入れる。
沙都子が無事であるのは確認できた。
貴重な杖をほとんど使いつぶして時間も稼いだ。
ならばこれでもう自分の役割は充分に果たしたと言える。
今ならミスティたちに気づかれず離れることも可能だろう。
鬼の元に残した真島たちにしても、あそこで引き受けた以上は犠牲になるのも覚悟しているはず。
(知り合って間もない彼らの為に命を捨てるなんて非合理にもほどがある)
梨花はまだ死ぬわけにはいかない。
死ぬにしても可能な限り『次』への情報を持ち帰らなければならない。
ここで余計なリスクを背負う必要は一切ない。
善にも。堂島にも。ジョルノにも。大した情なんてない。
ただ、見ず知らずのはずの沙都子を助けてくれて。
自分を気遣い逃がしてくれて。
自分を信頼して場を預けてくれただけの男たちだ。
「...ハァ」
ため息とともに、杖を握る力を強く籠める。
(そんなふうになにもかもを割り切れたら楽だったのにね)
百年の繰り返しで精神を摩耗しきっていた時も。
繰り返しを終えた後に再び巻き込まれた惨劇の数々の時にも。
もはや手遅れなほどに進行した雛見沢症候群患者にも、無駄だと諦めながらも救いの手を伸ばそうとした。
彼らに自分が幾度となく殺されようとも、それが彼らの本性なんかじゃないと信じ続けてきた。
結局のところ、梨花は人間としての情を捨て去ることができなかった。
64
:
灰色の世界の下で ―敗者の刑―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/07(水) 23:57:51 ID:ZKQm6gF20
(どの道、ミスティとは対峙することになる。なら消耗している今のうちに叩いてしまった方がいい)
ミスティの改造や性技による洗脳は非常に厄介だ。
放置しておけばこれからもどんどん駒が増え手が付けられなくなっていくだろう。
「三島」
「言われねえでもわかってる。このライフル銃ならこの距離でも届く」
梨花がなにかを言う前に英吾はライフル銃を構え了承の意を示す。
累の父と違いミスティは生身だ。
無理に首輪を狙わずとも体に当てれば次につなげられる。
なによりも、英吾自身許せなかった。
貴真のように己の悦楽の為に人を弄ぶ外道の存在が。
(ミスティ)
地面に転がる者たちの末路を目に焼き付ける。
涙は流せない。流すにはかかわった時間が短すぎる。
代わりに怒りを胸の奥で燃やし杖を握る力をさらに籠める。
ミスティを明確な"敵"だと認識し梨花はボミオスの杖を振り、英吾は狙いを定める。
(今度はあんたが失う番よ!)
放たれた光がミスティへと迫るも、疲弊しきったミスティでは躱せない。
だが、光がミスティへと着弾するその瞬間―――光は裏返った。
「なっ!?」
驚愕に目を見開き光に撃たれ、ボミオスの効果はミスティではなく梨花に発揮される。
「ざぁんねん。もう少し来るのが早ければ狙い通りにいったかもしれないのにねぇ」
「なぁぁぁ」
「『どうしてここにいるのがバレた』『どうやって杖を跳ね返した』って顔してるわねえ。あれだけ派手な雷を落としたんだもの。誰かしらは不意打ちを狙いに来ると予想していたのよぉ」
ミスティは掌に収められた氷の破片をチラつかせる。
それを見た梨花と英吾は察した。
光は鏡で反射する。手鏡サイズのエスデスの氷の破片は見事に鏡の役割を果たし、ボミオスの杖は跳ね返されたのだ。
65
:
灰色の世界の下で ―敗者の刑―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/07(水) 23:58:54 ID:ZKQm6gF20
「みいぃぃぃぃぃ」
「嬢ちゃん、おい!?...クソッタレ!」
動きが遅くなった梨花に呼びかけるも、このまま連れて逃げるのは無理だと判断した英吾はライフル銃の引き金を引く。
放たれた弾丸はミスティの肩を撃ち抜き上体をぐらつかせる。
「カハッ...ゲホッ、ゲホッ」
肩を抑え咳き込むミスティを見て英吾は確信する。
ミスティはもう限界に近い。ロクに動かないところをみるに、エスデスもそうなのだろう。
ならば―――ここで決着を着ける。
ミスティを確保する、なんて選択肢はもう存在しない。
ミスティとエスデスの両者を斃し、今も戦っているであろう真島たちの応援に向かう。
それが英吾の決断だった。
距離を保ったままライフル銃を再び構える英吾。
「―――血針殺」
ミスティが指輪をかざすと、背後にある薫の死体から血が競り上がり幾多もの針と化す。
これが最後、と言わんばかりにミスティは両腕を前方へと突き出し、それを合図に血の針の群れが英吾へと高速で迫る。
なにかわからないが、これはマズイと判断する英吾。
しかし、退こうとした視界に入り込むのはボミオスの杖で動けなくなった梨花。
(クソッ、嬢ちゃんを連れて避ける暇なんざねえ!)
梨花の前に壁のように立ち、英吾は降り注ぐ針の嵐に立ち向かう。
「ぐっ、オオオオオオオ!!!」
「にいいいいぃぃ」
雄たけびと共に傷ついていく英吾へと逃げろと訴えかけようとするも、たった三文字すらい言えない現状をひどく恨めしく思う。
また自分を護ろうとしてくれた者が傷ついている。死のうとしている。
それでも、舞台が村から変わろうとも、結局自分は無力な存在でしかない。
「心配すんな嬢ちゃん」
己の非力さに嘆く梨花の視線を感じ取った英吾は前を見据えたまま声を張り上げる。
「こんなチンケな注射をいくら打たれたところで大したことはねえ。現役刑事を舐めんじゃねえぞ!」
英吾は針の雨に撃たれながらも、シャツを素手で破り、突き刺さる血の針を包み込み地面に叩きつける。
地面にぶちまけられた血の針は染みを作り動きを完全に停止した。
「どうだ嬢ちゃん。おっさんもまだまだ捨てたもんじゃねえだろ」
振り返り、笑みを向けてくる英吾に梨花は安堵する。
ミスティはもう尻餅すら着き、エスデスは今もなおこちらに攻撃する気配を見せず。
今度こそチャンスだ。
自分のことはいいから彼女にトドメを。
―――ゴポリ。
突如、英吾の口から血が溢れ、胸を抑え激痛に悶え苦しむ。
ミスティはフラつきながらもその様をみて口角を邪悪に釣り上げる。
66
:
灰色の世界の下で ―敗者の刑―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/07(水) 23:59:34 ID:ZKQm6gF20
「あんな風に針を潰したのは驚いたわぁ。でもそれじゃあ駄目なのよぉ。薫ちゃんの血でできた針はブラックマリンの力で貴方の心臓へと巡り、大きな傷をつけたぁ。
頑張ったけれどざぁんねん。貴方はどう足掻いてもここでおしまいよぉ。もう聞こえていないでしょうけれど」
「ガ、ア、ア、ア」
倒れこみ、地面を悶え狂う英吾に梨花はなにもできない。
ふういんの杖で処置を試みることも。慰めの言葉をかけることも。気休めに頭を撫でることも。
自殺からも。ここでも。自分を護ってくれた男に対して、梨花はなにもできない。
ゆっくりと梨花の目じりに涙が溜まっていく。
やがて英吾の呼吸はか細いものとなっていき悶え狂う動きも収まっていく。
そのタイミングに合わせてエスデスが歩み寄り、梨花を抱え上げるとミスティのもとへと運んでいく。
「さすがに...力の使い過ぎで死ぬかとおもったわぁ...」
「うううぅぅ...ぅううううう...」
「そんな怖い目で睨まれたら困るじゃなあい。屈服させたくなっちゃぅわぁ」
ミスティは震える手で黒針を生み出し、梨花の舌に突き刺した。
「ぁがぁ...!?」
「ちょっとびっくりしたわよねぇ。でも大丈夫よぉ。痛みはないどころか甘くなってきたでしょぉ?」
ミスティの言葉の通り、梨花の口内に甘い感覚が走り唾液がトロトロとあふれ始める。
「なぁぁぁぁにぃぃぃぃ」
「ウフッ、たくさん溢れてきたわぁ。それじゃぁ...いただきまぁす」
ちゅっ
「...!?」
徐にミスティが梨花の唇を塞ぎ、舌を蛇のようにからめ、余すことなく唾液を掬いとっていく。
「むぅぅぅぅぅ...!?」
「...ぷはっ、ん、おいし...♡」
唇を離したミスティは梨花の唾液を咀嚼するように堪能しゴクリと飲み込む。
するとどうだろう。先ほどまで疲弊しきっていた彼女の顔色がみるみるうちに回復していくではないか。
67
:
灰色の世界の下で ―敗者の刑―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/07(水) 23:59:59 ID:ZKQm6gF20
「ふふっ。あなたの舌を改造して、分泌される唾液が体力を回復できるドリンクになるようにさせてもらったわぁ。
流石に全回復とはいかないけれどぉ、即興の回復薬としてみれば充分なの」
「なぁぁぁぁ」
「なぜって?決まってるじゃなぁい。あなたを薫ちゃんと善君の代わりのタンク奴隷にするためよぉ」
体力がある程度回復したため、ミスティの機嫌は目に見えてよくなる。
「エスデスちゃんも頂きなさぁい」
ミスティの指示のもと、エスデスもまた梨花の唇を蹂躙し始める。
「ほんとはエスデスちゃんや薫ちゃんみたいにふたなりか豊乳化してもよかったんだけれどぉ、その未発達な絶壁を開拓するのは骨が折れそうだったから口から改造したのよぉ、ふふっ」
自慢げに語るミスティの説明も梨花には半分も入っていない。
沙都子を甚振り。
善や堂島を殺し。
英吾やジョルノを傷つけた女たち。
殺したいほど憎んでいる奴らなのに、口内を蹂躙される快楽に身体は反応してしまう。
「感度も頭がおかしくならない程度に弄ってあげたのよぉ。あんまり発情されて勝手に死なれても困るものぉ」
体力の補給を堪能したエスデスが梨花から口を離す。
「あなたの唾液は体力と引き換えに抽出されてるのよぉ。だからあんまり発情されてどろどろ出されちゃうと無駄打ちになっちゃうのよぉ。
そんなのごめんですってぇ?いいじゃない、どうせか弱い貴女は放っておいても無様に殺されてしまうだけだしぃ、だったら気持ちいい内に死ねる方がうれしいでしょぉ?」
クスクスと笑みを零すミスティとこちらなど興味もないかのように彼方を向くエスデスに梨花は己の末路を見てしまう。
きっとこのまま自分は慰み者として命の一滴まで吸われ尽くすのだろう。
こんな異様な世界に来ても結局こんな最期か。
誰も救うことができず。何を変えることもできず。
「さてもう一回補給したらお父様を探しに行こうかしらぁ。ボクサーさん達を殺してないといいけれどぉ」
顎を掴み無理やり口を開けられ再び舌が絡みついてくる。
あらゆるものを吸われ、吸われ、吸われ。
梨花の頭の中は真っ白になっていく。
(どうせ死ぬなら気持ちいいうちに、ね...)
ミスティの言葉が麻薬のように梨花の意識に入り込む。
今までの惨劇では一度たりとも心地よい死などなかった。
いつの間にか眠らされ殺されているか虐めぬかれた先に殺されるか絶望に沈んだ果てに殺されるか。
眠った状態での死以外のどれもに苦痛が伴い決して受け入れられるものではなかった。
ならば、彼女の言う通り、どうせ死ぬならば苦しまない方がいいのではないか。
そんな与えられる不幸に堕落する気持ちすら抑えられない。
(沙都子、せめて貴女だけでも救いたかった...)
瞼が閉じられ、涙が頬を伝い落ちた。
ビシャリ、と生暖かいモノが梨花の顔面にへばりつく。
その不快な感触と鉄くさい臭いにに梨花は目を開く。
「か、ハ...ッ」
梨花の眼前には、ミスティの胸元から突き出した剣先が突きつけられていた。
その剣先が高速で引っ込むと、ミスティは梨花から手を離し後方へとたたらを踏む。
「そん、な、ありえない。この、剣は...」
梨花と、振り返ったミスティは驚愕に目を見開く。
そこにはいるはずのない者がいたから。
「知らないのかい?ヒーローは悪党を殺すまでは何度だって蘇ると」
灰と化していた筈の堂島正が、ミスティの血に濡れた剣を手にそこに立っていた。
68
:
灰色の世界の下で ―敗者の刑―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/08(木) 00:01:33 ID:Dnc/6Ljo0
☆
「ガ...ゴホッ、ゲホッ」
喉元からこみ上げる血反吐をまき散らし、胸元から流れる夥しい量の血液が地面を瞬く間に赤く染める。
「どう、してあなた、が」
「今から死ぬ君に答えは必要ないだろう」
カツ、カツ、と靴の音を響かせ堂島はミスティのもとへと歩み寄る。
(これは、致命傷ね...)
背中から胸まで貫通する激痛に耐えながらも思考は冷静にまわす。
なぜ堂島が生きているのか。
今はそれどころではなく、とにかく己の生命をつなぐのが第一優先だ。
彼の剣は心臓を的確に捉え、甚大な傷跡をつけた。
このまままともな処置を続けてももって五分といったところだろう。
(けれど私にはまだ奥の手がある)
心臓が壊れて使い物にならないというのなら、新しく適合する心臓を移植すればいい。
性技と人体改造に精通しているということは人体に精通しているということである。
エスデスに堂島の相手をさせて時間を稼ぎ、その間に梨花の心臓をミスティの心臓と同じものに改造し交換すればいい。
無論賭けではあるが、手術という工程を省く黒針改造であれば成功率は決して低くはない。
「エスデスちゃん...あの男をしばらく私に近づけないでちょうだぁい」
ミスティの指示にエスデスは薄く微笑み返事を返す。
「断る」
「...は?」
69
:
灰色の世界の下で ―敗者の刑―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/08(木) 00:02:26 ID:Dnc/6Ljo0
その予想外の返答に、ミスティも敵である堂島も思わず放心する。
「耳が遠くて聞こえなかったか?ならばもう一度、老人でもわかるようにゆっくりと言ってやろう。『こ・と・わ・る』と言ったのだ」
エスデスの口角が嗜虐的に吊り上がる。
馬鹿な。あり得ない。
ミスティの思考がそんな否定的感情で占められる。
ハイグレ光線銃の効果は確かだったはず。
現に、今の今まで指示に従い戦っていたではないか。
(...けど、待って。なら、どうして)
もしもエスデスが従順だったならば。なぜ堂島の復活になにも言及がなかった?
種が解らなかったにせよ、彼女が剣による投擲すらも触れなかったのが不可解だ。
堂島にしてもそうだ。不意打ちにわざわざ外す可能性のある剣の投擲を選んだのはなぜだ?
エスデスに見られていたから、接近戦では止められる可能性を考慮して投擲を選択したのではないか?
つまり、彼女は堂島に気づいていながらそれを見逃したのではないか?
それをするならば考えられるのは一つ。
洗脳が解けている―――そう察したミスティは咄嗟にハイグレ光線銃を抜き放つ。
「そんなものが何度も通用すると思うな」
だが、瀕死のミスティではエスデスの速さに追いつけず、掌を叩かれ光線銃は地に落ちる。
「堂島!」
エスデスは動けない梨花を堂島へと投げつけ、堂島はそれを難なくキャッチする。
「向こうで倒れている男はまだ息があるぞ。一応見てやったらどうだ」
「きみは...」
「心配するな。背後から撃つようなつまらん真似はせんさ」
「......」
70
:
灰色の世界の下で ―敗者の刑―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/08(木) 00:02:52 ID:Dnc/6Ljo0
堂島は仮面の下からエスデスを不信の眼差しで見つめるも、梨花を抱えたまま英吾のもとへと跳躍する。
「まだ意識はあるかい?」
既に虫の息となっている英吾に堂島は呼びかける。
「...嬢ちゃんは無事みてぇだな」
「ああ。すまない、私の復帰が遅れたばかりにこんな目に」
「ハッ、一般市民を護るために身体を使えたなら刑事の勲章もんだろ...」
これから死ぬというのに他者を気遣って微笑みすら浮かべる英吾に堂島は敬意すら示し仮面の下の表情は更に暗くなる。
「古手くんに言葉をかけてやってくれ」
動けない梨花を英吾の視界に入るよう置き、堂島はミスティたちへと警戒と共に向き直る。
「...わりぃなぁ。おっさんの死に際看取らせるようなことさせちまって」
ボミオスの効果により梨花は会話ができない。したくても何拍も遅れてしまう。
それでも、梨花のその表情から心境を読み取るよう努め、英吾は言葉を紡ぐ。
「...なあ、嬢ちゃん。百年も頑張ってきたやつにいうことでもねえのかもしれねえがよ...最後まで抗ってやれ。
ずっと、ずっと抗って...最後にゃあの主催連中も、嬢ちゃんの件の黒幕とやらも、全員ぶちのめして笑ってやろうぜ」
上手く言葉が纏まっていたかはわからない。
けれど、言いたいことは伝わっている。梨花はもう自殺なんて真似はしないだろう。不思議と、そんな確信が英吾の中にはあった。
(彰...悠奈...真島...まどか...コロネ...ヒーロー...俺はここでリタイアだ...嬢ちゃんのことを頼む...)
かつてと今、共に戦った者たちへと内心で託すのと共に、瞼が徐々に閉じていく。
瞼が落ちきるその寸前、彼は見た。
梨花の目尻から涙がこぼれていたこと。
―――仮に死んでも後悔しないことね。あなたが死んでも涙は流せないから
そんな憎まれ口を叩く彼女の言葉が脳裏を過る。
(...ははっ、なんだ、泣いてくれるんじゃねえかよ)
瞼が落ちきるその時まで、英吾の心中はとても穏やかなものだった。
彼の心中を知る者がいればその死は救いあるものだったと評するだろう。
けれど梨花には知りえない。
古手梨花にとって、自身はただの無力な踊り手でしかなかった。
71
:
灰色の世界の下で ―敗者の刑―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/08(木) 00:03:58 ID:Dnc/6Ljo0
「どういう...つもりかしらぁ...」
絶え間なく押し寄せる激痛に耐えながらミスティは苦痛と怒りで顔を歪ませる。
そんな彼女とは対照的に、エスデスはニタニタと挑発的な笑みを浮かべている。
「洗脳が解けたのが不思議か?お前には言っていなかったが、私の帝具『デモンズエキス』には使用者の精神を蝕む危険種の血が潜んでいる。普段は飼いならしているそいつがあの光線銃を食らったのだ」
ハイグレ光線銃は確かに強力な洗脳武器である。
しかし、だからこそこの事態を引き起こしてしまった。
エスデスの自我と精神を崩壊させてしまったがゆえにデモンズエキスは正当な適合から外れ本来の効果を取り戻し、ハイグレ光線銃の洗脳を上書きし、そのデモンズエキスをエスデスは再びねじ伏せたのだ。
「なかなかの演技だっただろう?善には途中でバレてしまったがな。まったくあいつは本当に私のことをよく見てくれる男だったよ」
善が抱き、怒りを沸かせた違和感の正体。
それは、エスデスがあまりにも笑みを浮かべていたこと。
もしも本当にエスデスが洗脳されミスティを護るために戦っていたなら、己が不利な場面であれば笑うのではなく焦り怒るところである。
己が敗北すればミスティに危害が及ぶのは火を見るよりも明らかなのにエスデスは戦いを楽しむように笑っていた。
つまり導き出される答えは、『エスデスの洗脳は既に解けており、彼女は己の意思で善たちと戦っている』という解。
そこに思い至ったからこそ、善は殺意に変わるほどの怒りを燃やしたのだ。
「なぜ...そんな真似を...」
ミスティは困惑する。
洗脳が解けたエスデスが自分を殺しに来るならわかる。
決着に横やりを入れ、前と後ろの穴を犯し尽くし、身体を無意味に改造したのだ。殺しに来ない理由がない。
もしそうなればジョルノや善たちを含めた4対1で囲み、彼女の好きな虐殺拷問ができたはずだ。
だがエスデスはわざわざ善や堂島と戦いミスティと合体技まで披露して見せた。
洗脳が解けていたというのならなぜそんな真似をする必要があったというのか。
「勘違いしているようだが、別に私は貴様を恨んでいるわけではないぞ。最後まで消耗しきったところを狙うのは狩りの基本だし屈服させるためなら如何な手段をも行使するのは当然のことだ」
エスデスの返答にますますミスティの困惑は深まるばかりだ。
「少々気になったんだ...私に新たな悦びを刻んだ女が信頼を裏切られたときどんな顔をするのかがな」
疲弊していくミスティの頬に両手を添えながら、エスデスは妖艶な眼差しで見つめる。
「あの時、貴様は殺しておくべきだったのだ。私の意思をはく奪しなければ手中に収められぬと理解した時点でな。だから自我が戻ればこんな裏切りにあうことになる」
「......!」
「なかなかいい顔だ...なるほどこういう顔も中々に趣深い」
その己を観察するようなエスデスの目に、ミスティは思い知らされる。
振り返れば、いつの間にか自分はエスデスを居て当たり前のものとして扱っていた。
それこそ合体技に組み込むほどに。
支配するつもりが、いつの間にか彼女に支配されていたのだ。
72
:
灰色の世界の下で ―敗者の刑―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/08(木) 00:04:17 ID:Dnc/6Ljo0
「イイものを見せてくれた礼だ。チャンスをくれてやる」
エスデスは己のはかぶさの剣をミスティに手渡す。
「私の主人たろうとするならばその証を示せ。その剣で堂島相手に意地の一つでも見せてみろ。そうすれば私の心臓でもなんでもくれてやるさ」
ミスティの背筋に怖気が走る。
彼女は決して肉弾戦を得意とするタイプではない。それを知ったうえでやれといっている。
近接戦においては誰よりも優れる堂島正と戦い、残り少ない時間を必死に足掻いてみせろと。
「ふ、ふふふふふ」
笑う。嗤う。哂う。
ミスティはまるで壊れた玩具のように剣を握りしめ、カタカタと剣先が震える。
どれだけ絶望的でも。現状を嘆いても。この剣を振らなければ生き残れない。
たとえ勝率が零でも戦わなければ生き残りの芽すら出てこない。
「ごめんよぉ、そんなの」
けれど、彼女は己の生を切り開くためのものを放り捨てた。
「今の私が彼にいい勝負もできるわけないし...仮にあなたに認められてもそれは支配されてるのと同じじゃない...」
エスデスはきっと彼女の告げた条件をこなせば約束通りに力を貸してくれるだろう。
けれどそれでは生殺与奪を彼女に委ねる、つまりは奴隷になるも同然だ。
そんな生など彼女は必要としない。
「この痛みも...敗北も...死も...すべて受け入れて...私はミスティ(わたし)として死に...あの世で見届けてあげるわぁ」
ゴポリ、と口から血塊がこみ上げ地面に落ちる。
そろそろ限界のようだと自覚する。
自分はなんて怪物を産んでしまったのだろうと笑みを浮かべ、最期の力を振り絞り、エスデスの頬に両手を添える。
「行きなさい...私の可愛い『究極の変態ちゃん(さいこうけっさく)』」
ずるり、とミスティの手が力なく落ち、かくりと首を垂れエスデスへともたれかかる。
「...最期まで誇りを捨てずに逝ったか」
穏やかな顔で眠るミスティの身体を氷で閉じ込める。
その姿はまさにアート。美しささえ感じられるその姿を目に焼き付け、かつて己が散った時のように粉みじんに粉砕した。
「見事―――お前の勝ちだミスティ」
エスデスはミスティの首輪を拾いハイグレの中へと仕舞い込む。
「この場はお前たちの勝ちだ。勝負は預けるぞ堂島」
「このまま逃げられると思っているのかい?」
踵を返すエスデスに堂島は剣の切っ先を向けるが、エスデスは意にも介さず歩いていく。
「逃げられるさ。貴様とて全快ではなかろう。それに、せっかく守った小娘の命を失うわけにはいかんのだろう?」
「......」
「貴様とは互いに傷を癒した後で決着をつけたい。また会おう、堂島正」
梨花にも堂島にも一瞥もせず、エスデスは歩き去っていく。
「―――ああ、そうだ」
ふと、なにかを思い出したかのように足を止める。
「善のやつに伝えようとしていたことがあったのを思い出した。実はだな―――」
73
:
灰色の世界の下で ―敗者の刑―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/08(木) 00:04:37 ID:Dnc/6Ljo0
☆
「俺ニ家族ヲ守護ラセロオ"オ"オ"ォ"ォ"ォ"!!!」
累の父はどんどん沈み込んでいく地面を利用し、空いた隙間を縫ってどうにか脱出をしようと試みている。
彼には明確な知識や知性がない。
故に敵を見失おうとも怒りに満ち溢れることはない。
ただひたすらに『家族を護る』という一念のみで彼は動き続ける。
たとえその家族が偽りだとしても。偽りの家族がいなくなったとしても。
ただひたすらに家族の為に戦い続ける。
【C-3/一日目/早朝】
【累の父@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(小、回復中)、黒針による認識改ざん、木にのしかかられ地面にうずまっている。
[装備]:
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:家族を守る
0:家族(ミスティたち)を守るためにとにかくここから脱出する。
1:オ゛レの家族...イダヨ!!!!!!
2:あの人間、うまがったあ゛あ゛あ゛
[備考]
※参戦時期は36話伊之助との戦闘中、脱皮する前
※ホワイトの精神操作はドレミーによって解かれました。
※しかし、ドレミーに何か”しこまれている”かもしれません。詳細は後続の書き手様に委ねます。
※ドレミーと夢の世界で出会いました。
※殺し合いのルールを理解できておりません。
※一般・ランダム支給品はドレミーに奪われました。空のデイバッグは捨てられています。
※黒針の効果でエスデス、ミスティ、善、薫が家族の面々に見えています。
※夢の中での啓示により、ホワイトの首輪を所持しましたがミスティに回収されました。。
74
:
灰色の世界の下で ―敗者の刑―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/08(木) 00:05:10 ID:Dnc/6Ljo0
☆
「クククッ....ハハハハハハハハ!!!!」
凶悪に大口を開けてエスデスは笑う。
「私は全てを失った...ここに連れてこられる前に持っていた全てをだ!」
帝国最強という肩書は善に敗北したことで失った。
護ってきた純潔は前も後ろもミスティに奪われた。
女の尊厳も改造により破壊された。
築き上げてきた将軍という肩書も威厳もすべてをハイグレと共に穢された。
初めて己に単独で土をつけた男へリベンジする機会ももう手に入らない。
「だがなミスティ。私はお前に感謝するぞ!今までのように蹂躙するだけではこの愉しみは味わえなかった!」
今までは蹂躙し己のモノにし飽きたら壊すだけだった。
しかしミスティから受けた仕打ちにより傷つけられ奪われる快感を得てしまった。
「元の世界では頂点を極めたつもりだったが...なんだ、世界はこんなにも広いではないか!」
支配しかしなかった今までの自分は間違いなく井の中の蛙大海を知らずという言葉が相応しい。
こうしてどん底まで落ちてしまえば世界はいくらでも広がって見えるではないか。
失って。手に入れて。また失って。また手に入れて。
そうしてかつての己を超えれば、そこにはどれほどの快感が待っているだろうか。
それを思い浮かべるだけでエスデスの胸は高鳴ってしょうがなかった。
―――極端に嗜虐性の強い者をドS、極端に被虐性の強い者をドMという。
両社とも突き詰めれば変態志向と呼ばれるが、しかし最も位の高い変態と呼ばれることはない。
なぜか。理由は単純。ドSの者は打たれる側になれば攻撃性を発揮できずあまりにも脆く、ドMの者はいざ攻撃側に回ろうにも嗜虐への牙を持たぬため温く単調な攻めになってしまう。
ならば。
その両方を愛し使いこなすものがいればそれはまごうことなき究極の変態であろう。
生来の嗜虐性と残虐性を備えたドS、そしてミスティがレイプによって付加したドM。
その両方を極めた今のエスデスは誰もが疑うことなき最強の変態といえよう。
赤く輝く月に照らされる氷の女傑。
しかし、もはや彼女は帝国の女将軍エスデスに非ず。
言うなれば危険種。
ドSとドMを極め貪り尽くす真正の怪物(へんたい)。
悪食ハイグレおチンポミルク獣ドHデスの誕生である。
【C-3/一日目/早朝】
【エスデス@アカメが斬る!】
[状態]:ハイグレ人間 負傷(大) 疲労(大) 内臓損傷(治療済) 乳首母乳化 アナル拡張済み ふたなり化 処女喪失
[装備]:はかぶさのけん@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島 中長ナス@現実
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1
[思考・状況]:ドSもドMも愉しみ尽くす
0:殺し合いという名のSMプレイを愉しみ尽くす。
1:堂島とは再戦したい。が、仮に再戦できなくてもその虚しさを堪能できればそれはそれで...
2:優勝出来たら善かミスティでも蘇らせるとしよう。
3:北条沙都子と北条鉄平は別にどうでもいいが見つけたら狩る。
4:せっかくふたなりになったことだし帰ったらタツミに使ってみるか。
[備考]
※参戦時期は漫画版死亡後より。
※ナスで処女喪失しました。
※ハイグレ光線銃によりハイグレ人間となりました。
※摩訶鉢特摩は使用したため、2日目以降でないと使用できません。
※戦闘は支障なく行えます。
※デモンズエキス本来の効果によりハイグレ光線の洗脳効果を食らいつくしました。
75
:
灰色の世界の下で ―敗者の刑―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/08(木) 00:05:58 ID:Dnc/6Ljo0
☆
堂島正には奥の手がある。
心臓部である遺灰物を吹き飛ばされても特定の条件下であれば復活できるという、彼しか知らない奥の手が。
それはこの殺し合いにおいても『一日一回、首輪の爆破以外の死亡』という制約のもとに発揮したのだ。
「...そろそろ起きろよ佐神くん」
かつて佐神善と呼ばれた灰の山に呼びかける。
堂島正は知っている。
佐神善はどれだけ苦境に陥ろうとも、心を抉られようとも、その命が尽きるまで立ち上がり続ける男であることを。
「きみは守れる命を護るために戦うんだろ?この会場にはきみを必要とするものはまだ大勢いるんだぞ。ワザップくんに古手くん。さっき別れた二人に...ドミノ達もだ」
この殺し合いでもそうだった。
その身を穢され尊厳を破壊されても、闘志を問えば再び燃え上がり迷わず立ち上がった。
「彼女は...どうなる...シスカ君は、ずっと、ずっと君を待っているだろう...!」
けれど、佐神善はもう立ち上がらない。その身体と命が灰になった以上、二度と戻ることはない。
「......」
いつものことだ、と己の中で言い聞かせる。
生きてほしいと願った命がほどなくして消える、なんてことは医者であれば日常茶飯事だ。
それをすべて背負い込んでいては心身がもたない。だから救える時もあれば救えない時もあると割り切った。
今回もそうだ。
善も自分も必死に頑張った。けれど、現実にはかなわなかった。ただ、それだけのこと―――
「納得できるわけ、ないだろ...!」
歯を食いしばり、血が滴り落ちるほどに拳が握りしめられ、ブルブルとその手が震える。
『善が助けた金髪の小娘...沙都子とか言ったか。最初に仕掛けたのは私ではなく、奴だ』
別れ際にエスデスが言い残した言葉を思い返す。
あんな女の言葉を信じたいわけではないが、しかしもし真実であれば沙都子は殺し合いに乗った者ということになる。
それを知った上でも善のやることは変わらなかっただろう。
そんな彼がどうしてあんな最期を遂げなければならない。
あんな、あんな惨めな――――!!
「益子さん!!」
突如響いてきた声に堂島は振り返る。
栗色の髪をした見知らぬ少女が泣いていた。
善を殺した少女の遺体を抱きしめなくその姿が、堂島にはひどく煩わしく思えてしょうがなかった。
(そいつは佐神くんを殺したんだぞ...!自分の欲望の為に!)
黙らせたいと思った時には、気が付けば剣を握りしめる手に力が籠っていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい...あたしを助けたばっかりに!!」
「な、に...」
少女の涙の入り混じる叫びを聞いた途端、堂島の目が見開かれる。
(彼女も、護ろうとしていた...!?)
あり得ない。あってはならない。
だってそうだとしたら彼女は―――
「...なにが、あったんですか」
震えながら問いかけられる声。
「教えてください...堂島さん...!」
振り返った先にあったのは、様々な感情を孕む、己を見つめる幾多もの目。
76
:
灰色の世界の下で ―敗者の刑―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/08(木) 00:06:26 ID:Dnc/6Ljo0
☆
『善が助けた金髪の小娘...沙都子とか言ったか。最初に仕掛けたのは私ではなく、奴だ』
あんな女の言葉なんて信じない、信じられないと梨花は思いつつもどこか否定しきれずにいた。
沙都子は一定時間以内に治療薬を注射しなければ、無差別に他者を疑う雛見沢症候群のLv.5に達してしまう。
もしも彼女が症候群を発症していればエスデスに攻撃を仕掛けていてもおかしなことではない。
けれど、それでは見ず知らずの善に助けを求めた理由の説明がつかない。
エスデスが嘘をついていると考えるのが妥当だろうが、しかしそれ以上に引っかかるのはジョルノが触れた考察だ。
『梨花を惨劇に陥れている黒幕は鉄平か沙都子である』
仮に正解だとしたら鉄平が黒幕だと思いたいが、彼とははっきりいって接点が薄すぎる。
となれば、己の意思でエスデスを殺そうとした沙都子が暗躍していたと考える方がしっくりくる。
(そんなわけない...沙都子が...私をあんな地獄に陥れたなんて...!)
仲間を信じたいのに、状況全てが彼女への疑心暗鬼を募らせていく。
(っ...なんにせよいまはこの状況を...ああもう、早く解けなさいよ、ボミオスの杖!)
☆
一人の少女の殺意から始まった戦いは多くの犠牲を出しひとまずの終焉を迎えた。
けれど、この戦いに勝者などいないと嘲笑うかのように、赤き月光に照らされた学校の廃墟は三日月状の影を映し出していた。
【三島英吾@リベリオンズ Secret Game 2nd stage 死亡】
【ミスティ@変幻装姫シャインミラージュ 死亡】
77
:
灰色の世界の下で ―敗者の刑―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/08(木) 00:06:53 ID:Dnc/6Ljo0
【B-3/一日目/早朝】
【古手梨花@ひぐらしのなく頃に 業】
[状態] 精神復調、後頭部にたんこぶ、精神的疲労(大)、疲労(大)、ボミオス状態、舌を改造
[装備] いつもの服、インパスの指輪@トルネコの大冒険3(英吾の支給品)
[道具] 基本支給品、不思議な杖三本セット(封印の杖[3]、ボミオスの杖[1]、ふきとばしの杖[0])@ドラゴンクエスト外伝 トルネコの大冒険 不思議のダンジョン
ランダム支給品(0〜1)
[行動方針]
基本方針:繰り返しを脱する手がかりを掴む
0:この状況をどうにかしたいが...早く解けなさいよボミオス!
1:沙都子と会って真実を確かめる。
2:頑張れるだけ、頑張る。
3:三島...ごめんなさい
[備考]
※参戦時期は16話で沙都子に腹を割かれている最中(完治はしています)
※ワザップジョルノ、プロシュートを危険人物と認識しています
※ミスティの黒針の効果で興奮すると感度が増して体力と引き換えに他者の体力を回復させる唾液が分泌されるようになりました。
【ワザップジョルノ@ワザップ!】
[状態]:主催者への怒り(極大)、ミスティへの怒り(絶大)、全身にダメージ(絶大)、全身やけど、疲労(絶大)、気絶
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[行動方針]
基本方針:主催者を訴え、刑務所にぶち込む
0:気絶中
[備考]
※外見はジョルノ・ジョバァーナ@ジョジョの奇妙な冒険 です。記憶も五部完結まで保持しているようです。
※ゴールド・エクスペリエンスも使えますが、矢をスタンドに刺してもレクイエム化はしないと思われます。
※CVは想像にお任せします。
※古手梨花、北条鉄平、プロシュートを犯罪者と認定しています。
※犯罪者の認定は完全な主観です。罪が重いほど対象に対する怒りは大きくなります。
※犯罪者対応は拘束が目的ですが、対応時に手加減はあまりしないようです。
※ワザップ状態が完全に解けてもジョルノ・ジョバーナ@ジョジョの奇妙な冒険にはならないようです。
【堂島正@血と灰の女王】
[状態]:精神的な疲労(絶大)、疲労(絶大)、まどかを斬った罪悪感、左腕破壊(再生中)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1〜3
[思考・状況]
基本方針:生き残り正義のヒーローになる。
0:???
1:日ノ元士郎を討つ。そのあとは...?
[備考]
※参戦時期は101話より。
78
:
灰色の世界の下で ―敗者の刑―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/08(木) 00:07:15 ID:Dnc/6Ljo0
【真島彰則@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:疲労(大)、鼻血(止血済み)
[装備]:Jのメリケンサック(両拳)@魁!男塾
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2
[思考・状況]
基本方針:正しき道を歩む。
0:現状を把握する。
1:堂島からは後で話を聞く。
2:蒔岡彰に興味。やはり玲の弟のようだな
[備考]
※参戦時期はBルート死亡後より
※魔法少女やまどかについて大雑把に聞きました。
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:腹部にダメージ(大、魔法で治療中)、出血(中〜大、止血済)、疲労(大)、魔力消費(大)
[装備]:
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜3
[思考・状況]
基本方針:誰も死なせず殺し合いを止める。
0:現状を把握する。
1:堂島とは後で話をする。
[備考]
※参戦時期は3週目でマミを殺した後。
79
:
灰色の世界の下で ―敗者の刑―
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/08(木) 00:07:41 ID:Dnc/6Ljo0
【荻原結衣@リベリオンズ Secret Game 2nd stage】
[状態]:疲労(小)、後悔、プロシュートに黄金の希望を見出している、悲しみ
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0〜3、氷
[思考・状況]
基本:益子さんのためにもまずは生き延びる(可能なら益子さんとお買い物をしたい)
1:益子さん...!
2:兄貴にドレミーさんと私……これが続いてほしいな
[備考]
※参戦時期はepisode Cから 小屋の地下で黒河と心が通じ合う前
※プロシュートが裏の世界の人間だと理解はしています。
※スタンドなどはまだきちんと理解できていません。(なんか、よくわからないけど凄い程度)
※ドレミーの世界(幻想郷)について簡単に知りました。
※この殺し合いが終わったら、益子薫と買い物をする約束をしています。
【プロシュート@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:負傷(中) 疲労(中)
[装備]:ニューナンブ@ひぐらしのなく頃に 業
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2
[思考・状況]
基本方針:ひとまずゲームには乗らずやれるところまでやる。
0:現状を把握する。
1:益子とかいう女を助ける。...賭けに負けちまったからには文句は言わねえ。
2:ユイ・オギハラ……兄貴……か
3:レオーネの知り合い(アカメ)を探す。あったら言伝を伝える。※C3の貸本屋のこと
4:オレは死んでるのか?それとも、まだ生きているのか?
5:ワザップジョルノ……オメーは一体何者だ……
[備考]
※参戦時期はブチャラティVSペッシを見届けてる最中です。
※此処が死者、特にロクデナシの連中を集めたものだと思っていましたが、結衣の存在やドレミーとの情報交換から今は生者死者入り交えていると推測しています。
また、自分はまだ死んではいないのかとも思い始めています。
※ドレミーとの会話で幻想郷について簡単に知りました。
※ワザップジョルノが護衛チームのジョルノなのか結論を下せず、半信半疑中です。
【ドレミー・スイート@東方project 】
[状態]:疲労(極小)
[装備]:夢日記@ 東方project
[道具]:基本支給品×2、ランダム支給品0〜5 氷
[思考・状況]
基本方針:この殺し合いと言う酔夢が導く結末を見届ける
0:現状を把握する。
1:とりあえず、プロシュートの後をついていく(襲い掛かってきた者には対処する)
2:参加者が寝たとき、夢の世界へ介入する
3:妖怪とは気まぐれな者ですよ
[備考]
※参戦時期は東方紺珠伝ED後
※メフィスとフェレスも管理者であると気付きました(何の管理者かは、まだつかめていません)
※リリア―ナの刻を止める能力を知りました。
※夢日記より、サーヴァント達や第一部での顛末、・鬼滅の刃の鬼の体の構造・リベリオンズの首輪の解除方法、ギース・ハワードを知りました。
※プロシュートとの情報交換でプロシュートの世界について簡単に知りました。(スタンドの存在など)
※プロシュートのグレイトフル・デッドの能力を理解しています。
※累の父から基本・ランダム支給品を奪いました。
80
:
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/08(木) 00:08:29 ID:Dnc/6Ljo0
投下終了です
ここまで長らくかかってしまい申し訳ありませんでした
81
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/08(木) 05:31:19 ID:f/Z7Gb.o0
長編投下お疲れさまでした
第一回放送前なのにもう終盤戦レベルの密度で驚かされました
具体的な感想は、また纏めてさせていただきます
それはそれとして、投下します
82
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/08(木) 05:31:52 ID:f/Z7Gb.o0
お互いに死者同士。
恐らくは死んだであろう大祐もいることは問題ではなく、
それよりも関係者の有無……征史郎とはるなの知り合いの極端な差。
瞳たち、残りのシークレットゲームの五人が参加してないことが逆に違和感になる程の数。
「蒔岡彰も面識はないけど知った名前だから、
私含めて合計十人、シークレットゲームの参加者になるわ。」
「運営にシークレットゲーム関係者がいる可能性は……怪しいか。
蘇らせてまでエンターテイメントに拘る意味も薄いだろうしな。
まさか、僕ら男女をを引き合わせることで成立するブライダルゲームか?」
「流石にそれはないと思うけど。」
飛躍しすぎではとは思うが、
短い会話で征史郎と言う人物の性格は察した。
大祐以上に珍妙なことを口にすることはあるものの、
一方で思考は司や修平のように物事はしっかりと捉えていて、
話を進める気がないのか、とまで至ることにはならなかった。
なので適当にあしらいつつ、会話そのものはスムーズに進む。
元々口数が多くない彼女故、と言ったところでもあるか。
「殺し合いは奴らの趣味としても手間暇をかけすぎだ。
コスパは絶対に悪い。相応のメリットなくしてやってられん。」
プリズナーゲームの比較ではないレベルの労力なのは間違いない。
殺し合いを眺めるのが趣味にしても、此処までやるには目的があるはず。
「情報が足りないから、その辺は考えても仕方ないかも。」
異能とかとは一切無縁の世界の二人だ。
考えようにも相手は超常的な存在であり、
目的の意図を今の状態では大して思いつかない。
精々蟲毒のような儀式的目的、そんな程度のものだ。
「話を戻すけど、私達一部を知り合いで固めて、征史郎はその他の枠って可能性は?」
「ふむ……確かに、幡田や野原と言った複数の同姓がいるところを見るに、
一定の人数はグループで参加させて、僕は関係者がいないポジションか。」
明らかに浮いた名前もいくつか見受けられる。
一人だけ参加は征史郎に限った話ではないとみていい。
管弦部は問答無用の殺し合いで頼れる人材がいるかと言われると怪しいし、
独り身であることについてはさしたる問題でもないのが救いか。
身も蓋もないことを言うが、自分を参加させる理由も薄い、
とはちょっぴり思ってたりもする。
「どちらにしても、情報収集が大変だな。」
はるなのお陰でほぼ一割の参加者は分かった。
一方で残り九割、双子の演説から超能力の類を使う参加者もいるはず。
認めたくはないが、二人はこの殺し合いで下から数えた方が早い程に非力。
超能力が入り乱れる可能性もある中、参加者との接触は中々に骨が折れる。
『ところで、この首輪なんとかできる奴心当たりあるか?』
超能力の前では意味はないとは思うが、
念のため盗聴に警戒して紙に記しておく。
この殺し合いでの全参加者が持つ最低限の勝利条件。
『僕自身多少心得はあるが、
一人で引き受けられるものでもない。』
征史郎はマニア(狂人)だ。
自分のしたいことを好きにやってしまう。
だから疑似的な火炎放射器も作れてしまうわけだ。
高校生らしからぬ変な知識も十分に取り込んでいて、
中学時代から和馬を支えるブレインとしての役割を担っていた。
故に多少の知識はあるものの、同じ管弦部の七緒程の知識でもない。
専門家に任せる方が幾分かは安心できると言うものだ。
『城咲充が有力になるわ。勿論、人間レベルの話だけど。』
シークレットゲームで従わざるを得ない状況を、
切り返すことができたのは機械に強い彼がいたからこそ。
紋章と言ったものに関しては現状不明ではあるものの、
逆に紋章がはったりの可能性も視野に入れておく。
『一先ず充とやらを探すとして。』
「大祐だったか、あいつは探した方がいいよな。」
「余計なことしてそうで、もう頭痛いけどね……」
83
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/08(木) 05:32:42 ID:f/Z7Gb.o0
仮にも琴美達の命を救う形になったと言えども、
初音に強姦未遂をした大祐はこの場でも理不尽に抗うかどうかは怪しい。
運営からも刹那的快楽主義者と呼ばれるほどに今を楽しんでしまう男だ。
なのでこの場で彼が女性に手を出そうとしてない、と言う保障ができない。
人のことを言えない立場だが、彼の行動は一般人からすれば目に余る。
彼と知り合い、と言うだけで変な目で見られそうだ。
「変人ならば管弦部に歓迎したいところだな。
あの部ならば曲者揃いでそんなに違和感はない。」
「どんな部なの……」
「音楽をやらない吹奏楽部、とでも言っておこう。」
「それ、本当に管弦部なの?」
「プリズナーゲームで楽器を使ったから紛れもなく管弦部だ。」
本来であれば強姦未遂はどうかと思ってしまう部分も、
自覚の有無の関係なしに自分がやってしまった咎を思えば、
そこまで彼が目くじらを立てることはできないものになる。
人は咎を背負う。知らないだけでプリズナーゲームの全員が、
何かしらの咎を背負っていたのかもしれない。
「それと、人探しの前にこれを処分してもいいか?」
「それは?」
「やばい薬とだけ。」
その一言で何かを察する。
精神的に参った参加者への束の間の幸福、
とでも言いたいかのような嫌がらせ(サービス)だ。
「ただ捨てても、万が一拾われたりでもしたら最悪だ。
とりあえず埋めるとしたいのだが、スコップもないのは困った。」
下手に放流して何かあったでは困る。
嘗ての咎も相まって、雑な処分はしたくない。
かといって酸と言った、本来この手のものを処分する手段もなく。
「そっちにスコップか何かないか?」
「私の方はないけど……これ、使ってみる?」
デイバックから取り出したのは、一枚のCDディスク。
野ざらしのまま取り出されたそれと説明書を彼へと渡す。
「これを頭に挿し込むと『スタンド』って名前の力が使えるみたい。」
「手ごろに得られる超能力か。安売りされては超能力者が泣くぞ。」
半信半疑に言葉通りに従えば、
DVDプレーヤーのようにすんなりとディスクが脳へと入っていく。
頭に入っていく光景は何とも不気味ではあるものの、本人は興味深そうに眺める。
「出来ると思えば出てくるんだな。
よし、では鬼くびれ大羅漢を召喚してみせよう。」
いや、スタンドの名前も書いてあるでしょ。
突っ込みたくなるような珍妙な名前と謎の構え共に出てきたのは、
当然そのような名前とは無縁の、手足などにジッパーがあしらわれてた人の像。
本来の持ち主が付けたそれの名前は───スティッキィ・フィンガーズ。
「しかしスティッキィ・フィンガーズとは、因果なものだな。」
スティッキィ・フィンガーズ。
『粘着した指』から転じて『手癖が悪い』と言う意味とされる言葉。
嘗て作ってしまったこの薬物を強奪された時を思うと、
どことなく皮肉を感じさせてくるものがある。
「……すんなりと終わったな。」
スタンド能力はジッパーを付けて開閉する能力。
開いた地面の穴へと例の薬を投げ入れて、ジッパーを閉じる……それで終わり。
埋めた跡は存在せず、変わらぬ姿である為埋めたと外見での認識は困難だ。
ある意味彼にとっては極めて理想的な形での処分になるだろう。
何もない場所を掘る奴など、まずいないのだから。
「あっさり解決するのは、自分の抱えてるものが小さく見えてしまうな。」
自分が背負うことになった咎を思うと、
驚くほど簡単に終わった状況に少しごちる。
超能力の前では小さいこと、とでもいうのか。
「いや、ある意味これでいいのかもしれないな。」
これは語られなかった物語。
彼女と自分、二人の咎人のみが知ること。
知られることなくひっそりとそれが終わる。
きっと、それでいいのかもしれない。
84
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/08(木) 05:35:41 ID:f/Z7Gb.o0
「何の話?」
「いや、此方の事情だ。大したものではない。
助かった。それでディスクはどう外すんだ?」
「頭に衝撃を加えれば出るけど、それはあげるわ。」
「ん、いいのか?」
「皮肉にも、経験だけはあるから。」
九回もシークレットゲームに参加した身だ。
ある意味地獄のような経験をしてきたはるなと、
狂人と言えどもどちらかと言えば日常を過ごした征史郎。
二人を比較すれば彼女の方がよく立ち回れる方だ。
であるならば、彼に持たせた方がいいと思えた。
ボウガンと言った飛び道具の方が性に合う、
と言うのも少なからず存在はするが。
「嫌な経験豊富だな。」
「そうね、本当に……」
「だが、ありがたく受け取ろう。
スタンドをもっと知りたかったしな。」
譲り受けたのならば早速使い込んでみるかと、
さも当然のように自分の腕をジッパーで取り外す。
何をしてるのかと流石にはるなも突っ込んでしまうが、
スタンドでできることを調べておくのは大事なことだ。
この男はマニア(狂人)。本来の所有者である男のような、
多種多様な使い方を理解するのにそう時間はかからない筈だ。
「……移動の邪魔にならない程度にお願いね。」
「無論それは分かっているとも。
それはそれとしてスタンドを使う奴にも気を付けよう。
これは外見だけでは判断できないと相手にすると中々に厄介だぞ。」
戦える力を把握するのは大事だが、
それ以上に仲間を探すのが先決になる。
足止めにならない程度の範囲で能力を確認しつつ、
赤き空の平安京を舞台とした殺し合いに二人は叛逆する。
彼が処分した同類となる麻薬を忌み嫌い、
邪悪に叛逆した男の像(ヴィジョン)と共に。
二人は困難に立ち向かう(Stand up to)。
【E-2/一日目/深夜】
【城本征史郎@トガビトノセンリツ】
[状態]:健康
[装備]:スティッキィ・フィンガーズのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜2(確認済み)、シンナーズ・チル@トガビトノセンリツ
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに反抗する
1:はるなを支える。
2:彼女の知り合いを探す。城咲充優先で、伊藤大祐には少し気を付けておく。
3:スタンドでできることをためそう。できて当然と言う認知が大事だ。
4:ついでにスタンドを使える奴がいるか探す。それと警戒も必要か。
5:あっさりと終わったが、これでいい。語られなかった物語とは、そういうもので。
[備考]
※参戦時期は死亡後です。
※はるな死亡時までのリベリオンズ勢の情報を聞きました。
【細谷はるな@リベリオンズ Secret Game 2nd Stage】
[状態]:健康
[装備]:からっぽのピストル@Undertale
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×0〜1(確認済み・武器になりうるものはない)
[思考・状況]
基本方針:殺し合いに反抗する。
1:征史郎と行動する。
2:シークレットゲームの仲間を探す。特に修平、琴美、充……それと大祐。
3:武器が欲しい。できればボウガンとかの飛び道具。
[備考]
※参戦時期はepisode Dで死亡した後です。
※シンナーズ・チル@トガビトノセンリツはF-2の地面に埋められてます。
スティッキィ・フィンガーズの能力で埋めた為、通常の手段では発見そのものが困難です。
【スティッキィ・フィンガーズのDISC@ジョジョの奇妙な冒険】
細谷はるなの支給品。頭にDISCを差し込む形でスタンド『スティッキィ・フィンガーズ』を行使できる
DISCの破壊は基本不可能なほどに頑丈。頭に挿したまま対象の死亡による消滅が唯一処理できる手段。
頭に強い衝撃を与えられた場合DISCが外れることもある。相性次第で弾かれて装備すらできない。
ステータスは破壊力:A スピード:A 射程距離:E 持続力:E 精密動作性:C 成長性:D
※射程はEだがジッパーを使う形で五メートル近くは伸ばすことが可能
手で触れたものにジッパーをつける能力。移動、分解、傷の接合、壁抜け等多彩な使い道がある。
能力抜きにしても車を平然と破壊できる破壊力A、その力を弾丸レベルに叩き込むスピードAと高水準。
逆に言えば手で触れる必要がある為、触れられない相手は苦戦を強いられる。
85
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/08(木) 05:36:12 ID:f/Z7Gb.o0
以上で『悪魔に背くと誓った時から』投下終了です
86
:
◆2dNHP51a3Y
:2021/07/11(日) 23:30:18 ID:RqYWhUYw0
蒔岡彰、日ノ元士郎、オフィエル・ハーバード、ジャギ、アルーシェ・アナトリア、司城夕月で予約します
87
:
◆ZbV3TMNKJw
:2021/07/20(火) 00:27:51 ID:hEdKv4F60
まずは感想から
ムラクモ、刀使の多さに着目して考察を進めるあたりが冷静な知能派の面目躍如といったところでしょうか
デイバックにデカすぎるものは入らないことが判明したり色々と進みましたね。
しかし彼は安全な対主催ではなくどちらかといえば危険人物寄り、果たして少女二人は彼の心を読み取ることができるのでしょうか。
素直な植木が頼もしく静香さんもほっこり。しかしそこに猫被って接触してくる針目が恐ろしい。
自身が強いのは理解したうえで油断のないムーブしてくるから対主催からしたらほんとに驚異的すぎる。
怖いやつに付きまとわれているが頑張れ植木
はるなちゃん常連リピーターだけあって一般人枠でもかなり冷静。
征史郎は大祐のことが気に入ったらしいですが、たぶん大祐は征史郎のことを嫌いそうではある。
手に入れたステッキィ・フィンガーズで理不尽に反抗するリベリオンたちは果たしてどこまで立ち向かえるのだろうか。
日ノ元明、佐藤マサオで予約します
88
:
◆s5tC4j7VZY
:2021/07/20(火) 19:28:56 ID:T3QE84y20
投下お疲れ様です!
灰色の世界の下で
後半戦!
「その人は『味方』です!思う存分助けちゃってくださぁい!!」
「命令してんじゃあねーぞオギワラ!『ザ・グレイトフル・デッド』!!」
↑いや〜、兄貴と結衣のやり取り良いですね……自分は好きです。
真島さんも変わらぬ結衣の姿を見れて嬉しく感じている姿は読んでるこちらも嬉しくなりました。
累の父はやはり、一般人にとっては脅威ですね。なんとか動きを封じることはできましたが、予断は許さないといったところですね。
「受けなさい、私とエスデスちゃんの合体技(あいのけっしょう)...『建御雷神(タケミカヅチ)』!」
「ほんとはエスデスちゃんや薫ちゃんみたいにふたなりか豊乳化してもよかったんだけれどぉ、その未発達な絶壁を開拓するのは骨が折れそうだったから口から改造したのよぉ、ふふっ」
↑ミスティが生き生きとしていて嬉しいです。
善君……!!正直、この展開は予想していなかったので衝撃でした!!!
薫は終始救いがなかったですが、壊れた精神の姿でエレナや結衣と会わないですんだのは、有る意味幸せではないかと……
英吾さん……!!カッコイイ生き様でした!
沙都子を信じたいが疑念が生まれた梨花。沙都子にとっては大誤算でしょうね。
悪食ハイグレおチンポミルク獣ドHデスの誕生である。
↑ミスティは大変な者を残していきました(笑)
性犯罪者(ミスティ)を討伐できましたが、これは……不穏を感じさせる引き。
この集団の次話が注目です!
各キャラ達の魅力を最大限に広げた長編の大バトルお疲れ様でした!
悪魔に背くと誓った時から
征史郎のノリをあしらうはるかとコンビの読んでて凄くいいな〜と思いました。
2人の反逆応援したいです!
フェザー、衛藤可奈美、絶鬼、ロック・ハワード、有間都古、(Zルートでソフィアに返り討ちにされた)軍服の男、藤田修平で予約します。
89
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/21(水) 16:03:59 ID:Y33LMEvM0
投下します
90
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/21(水) 16:09:12 ID:Y33LMEvM0
「アハハハハハッ! これは傑作ではないか!」
完全者は歩きながら嗤う。
これは嗤わずにはいられないことだ。
先程の放送主であるディメーンはなんとノワール伯爵の部下であり、
つまり彼は所謂謀反や叛逆されてしまったと言うことに他ならない。
「まったく、私の周りは反旗を翻すのが常識か?」
これが嗤わずにいられるか。
ムラクモもアドラーにエレクトロゾルダートと叛逆されたり、
ついでに言えばアカツキもムラクモの元部下であることを考えれば、
これで何度目の叛逆を彼女は目にしてきたか分かったものではない。
此処まで人望がない連中ばかりだと、嗤わずにはいられなかった。
「しかも残りの腹心も総動員で参加とは、
余程ディメーンとやらは貴様が気に食わんらしいな。」
煽り散らすかのような発言にノワールは言葉を返さない。
元々ディメーンは謎めいた行動は数多く存在している。
とは言え、此処まで反旗を翻す行為は今までになかった。
彼は何を求めてこのような行為をするに至ったかを考えるが、
元々素性を晒さなかった以上、理由を探るのは不可能に近い。
(ディメーン……少なくとも、此処で全員仕留めるつもりか。)
とりあえずわかるのは伯爵ズと自身を此処で根絶やしにする。
そしてあわよくばコントンのラブパワーを手に入れる算段か。
でなければ全員が揃っていることに対しての理由がつかない。
マリオ達を全滅させ、残る敵はこちら側になったと言ったところだろう。
この様子だとあの時のミスターLの死亡報告も、自分で仕留めた可能性すらある。
もっとも、そのミスターLも名前を連ねてるのは少々疑問ではあったが。
「さて、嗤うのも程々にするとして。」
すぐに熱が冷めたように表情が戻る。
確かにディメーンは謀反こそあったものの、それ以外の部下は全員いる。
既に四人が味方に対して、此方には味方となりうる人物は一人もいない。
この時点で自分の立場は不利になっている。数の差は大事なのは、
電光戦車にエレクトロゾルダートで散々理解している。
(そして貴様もいるとは、因果よなぁ。)
加えて本当に奴が、ムラクモがいた。
智慧のある男だ。まっとうに優勝など狙うはずもなし。
此方と同様にあの双子達を信用しているわけではないだろう。
既に友好的な参加者の中に潜り込んでるとみてよさそうだ。
(始まって間もない以上、材料も考察も進んではおるまい。
早々に始末すべき相手と促したいところではあるが……)
殺し合いを破綻させる可能性がある、
そういえばノワールは協力するかもしれない。
だが、互いに出し抜くつもりであろうこの状況下。
此処で自分にとって敵になりうるムラクモの情報を渡しても、
自分の陣営に奴を引き込んでおく可能性だってあるだろう。
ムラクモもこちらを確実に仕留める為に行動してくるはず。
利害の一致は十分にありうる話であり、故にこのことを伝えてはいない。
都合よく部下の名前が多数あったことで話を逸らせたのは幸いか。
「してどうする黒き伯爵。腹心探しにでも勤しむか?」
「合流は考慮しておくべきことだが、
逆にこれだけいるのであればある意味問題ないでワール。」
ディメーンの裏切りはあったことだが、
ナスタシアを筆頭に全員信用のおける部下だ。
各々で此方にとって利のある行動をするだろう。
もっとも、それは嘘の理由を信じているからでもあるが。
「ならば……ん?」
平安京を歩けば、奇妙な場所へ辿り着く。
いや、此処は平安京なのかと疑いたくなる光景。
周囲の建物はおろか、土すらもぐずぐずに崩れた場所。
戦いの跡にしたって、このような有様は普通見かけない。
「随分と酷い有様だな。これは硫酸か?」
念のため触れて大丈夫かを軽く基本支給品の水を掛ける。
特に何も変哲はないようだが、なるべく素肌で触れずに歩く。
なおノワールは浮いて移動しており、地面を一切気にしない。
「犠牲者か。」
藤原美奈都と呼ばれていた人の遺体。
だが酸性雨でどろどろに溶けてしまい、
人型で何かを握っていたか以外のまともな判断は付かない。
「支給品も、何もかも手遅れとみていいか……貴様の部下か?」
91
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/21(水) 16:10:36 ID:Y33LMEvM0
「一応、マネーラならありうるか?」
体格は全員該当することはないものの、
肉体を変化させるマネーラなら話は別か。
問題は死ぬとき変身が解けるかどうかだが、
そんなもの当然検証したことがないのでわかるはずもなく。
「いや、流石にないか。」
変身するのはあくまで騙す為。
戦闘時は変身を解いて戦うのだから、
彼女が変身したまま武器を握って死ぬことはない。
此処に来て得られた情報は、精々硫酸を武器にした参加者がいて、
殺し合いに乗ったとみていい参加者が近くにいることぐらいか。
「伯爵様!」
歓喜の声に二人が先に反応する。
人型ではあるものの人と呼ぶには憚れる組み合わせに、
完全者は最初こそ訝るが、伯爵の方は別だ。
「ナスタシアか。息災でワールな。」
(奴の部下か。想像以上に人間離れしているな。)
話には聞いてたが、随分異形の姿をしているようだ。
自分が魔女と言うのもあるので、さして異質さは感じられない。
「この身は伯爵様に捧げるものですから。ですが、ドドンタスは……」
先ほど見てたことの顛末を語るナスタシア。
ドドンタスは何者かに殺害されており、
童磨と言う氷使いに襲撃を受けていたことを。
「……そうか。」
顛末を聞き終えて、帽子を深くかぶる。
世界を滅ぼす為に嘘で利用してるのは事実だが、
ノワール伯爵は基本的には部下を評価する人物だ。
それにドドンタスも忠義に熱い男であり同時に力も相当。
これほど早く退場するとは予想していなかった。
「ドドンタスは確か力自慢の持ち主だったか。
どうやら、侮れない参加者もいるようだな。」
「……そちらの方は?」
「奴は完全者、協力関係を築いている者だ。」
協力者とは意外な話だった。
ディメーンはともかく他は伯爵に忠誠を誓った身。
つまり世界が滅ぶことに肯定的なものであると言うこと。
(厳密にはナスタシア以外には世界を再構築すると言う建前があるのだが)
適当な理由で誤魔化しているのか思えてしまうが、眼を見れば軽く察した。
チョーサイミンジュツの都合色んな人物を見てきたので人を見る目はある。
だからわかる。あれはまっとう人間の瞳をしていないものだ。
世界の崩壊を望んだところで、なんらおかしくない。
「返すようで悪いが、後ろの奴は誰だ?
部下の誰とも一致しなさそうな外見だが。」
「ビバ! 伯爵!」
「……こいつは痴呆か?」
挨拶どころか名前すらまともに名乗れない異形。
エレクトロゾルダートだってまともな意思疎通ができるぞと、
その光景に冷め切った表情で伯爵を見やる。
「ナスタシアのチョーサイミンジュツでワール。
洗脳して間もないなら、割とこうなるものと言っておこう。」
「そうか……なんにせよ、
色々と情報が得られたようで何よりだな。
部下を喪ったことについては、同情するが。」
ナスタシアから得た情報。
どちらかと言えば僥倖な話だった。
ドドンタスは真正面から戦うのは賢い選択ではない。
首輪解除の手段を模索する要因としても役に立たないだろうし、
最悪機械技術に長けたミスターLさえ生きてればそれでよい。
頭の悪さは言い換えれば伯爵の為と言えば懐柔できそうではあったので、
少しもったいない気もするが。
(とは言え、良いことばかりではないな。)
どのような手段や展開で死んだかは別として、殺されたのは事実。
ついでに童磨と言う氷使いや、それと戦っていた目の前の桐生。
使える能力から近くの場所で戦っていたのも、恐らく彼の筈だ。
元々完全者の戦術は魔剣ダインスレイヴと言う銃剣を用いつつ、
自分の間合いに入れることなく遠距離から狙う戦術が得意になる。
飛び道具が優秀な相手には苦戦を強いられるし、少なくとも両者も飛び道具は強い。
余り相手にしたくない厄介さを持つ。
「黒き伯爵。一先ず武器の確認でもしておかないか?」
「そうでワールな。無手で行くほど容易くもない。」
92
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/21(水) 16:12:08 ID:Y33LMEvM0
名簿以外に興味がなかった二人だが、
武器が入ってるともなれば流石に話は別だ。
しかし、自分と伯爵のみ全てを開示することを完全者は禁じた。
表向きは『すべて出して、高性能な支給品の奪い合いに発展しては叶わん』とのことだが、
要するに『不確定要素を互いに持つことで攻撃を仕掛けられないようにする』暗黙の了解。
中には『対象の死亡をトリガーとする支給品』の可能性も無きにしも非ずなのだから、
なので双方からは一つだけで、ナスタシアと桐生の支給品のみの開示となる。
(ダインスレイヴはないか。)
合計四人分の支給品と言う潤沢ではあるものの、
機械に傘と多彩ではあるが、魔剣ダインスレイヴはなかった。
もしかしたら開示してない支給品の可能性はあるものの、
これ以上の追及はできないので放っておくこととする。
「この傘は貰うがいいか?」
銃剣と呼ぶには大分違うが、銃の機構と突きができる。
であれば、代替品としては他の品よりはましになるだろう。
「ならば代わりにこの杖を貰うでワール。」
杖と呼ぶには東洋寄り……彼の世界で言えばモノノフ王国寄りではあるが、
性能としては十分高いものであり、彼女も別段困らないので特に言うことはない。
「ナスタシアに武器は渡さんのか?」
「私はそもそも力仕事は向いてないので。
そして桐生は徒手空拳と能力があるため事足ります。」
あの惨状を起こせる桐生は、
確実にこの殺し合いにおける上位の存在。
戦力としては余りあるものであるのは間違いなく、
武器の取り合いをしてる此方よりもずっと大当たりとも言える。
だからこそ、そのチョーサイミンジュツは制限されてるらしいが。
「ならば選別にこれと……ついでにこれも渡す方がいいか。」
彼女に投げ渡される、手に持てるサイズのレーダーと二枚の紙。
「機械は『首輪探知機ら』しい。上のスイッチを押せば参加者の位置がわかる。
この紙は記載されている参加者の位置がわかる紙だ。敵を探すには打ってつけだろう。
残り半分は此方が受け持つことにする。」
「……礼は言わせてもらいます。」
暗に『桐生をもっと使え』と言わんばかりではあるものの、
単純な戦いに使える武器を渡されるより、こういうものの方が助かる。
他の参加者からの奇襲を受けにくいと言うのは、不意打ちも少なくなるのだから。
何より怖いのは奇襲。されては彼女の身体能力ではまともな抵抗も難しい。
とは言え、それを完全者から率先して渡されたことは少し訝るが。
「残りはどうする?」
「それは伯爵様にお渡しします。」
世界が滅ぼすと言う彼の事情を一番知る以上、
伯爵が生き残ることが何より優先するべきこと。
何かしらの理由で洗脳が解けて桐生の手に渡るのであれば、
伯爵の生存に繋がることの方が大事だ。
「伯爵に身を捧げる覚悟は中々見上げたものだが、
些か極端だぞ。自己の生存が伯爵の生存に繋がることを少しは考えろ。」
人を気遣うような人物と言う認識はなかったのもあって、
先程から生存を尊重する完全者の発言に内心ナスタシアは戸惑う。
勿論そんなわけがなく、此処で伯爵に支給品が渡ればバランスが崩れる。
ただでさえ部下が多いのに支給品でも差をつけられては、終盤で対処が困難になりかねない。
「それにこの中で足が遅いのは恐らく貴様だ。
この風火輪は移動時の負担を軽減できて便利ではないか?」
「そういうのであれば……」
無論ノワールも今の発言の意図はなんとなく察してはいた。
だが此処で受け取ると言う選択肢を選ぶことはしない。
ドドンタス亡き今、他のメンバーも無事かどうかは怪しい状況。
既に雲行きが怪しくなってる中完全者との協力は切るわけにはいかない。
絶対的有利ではない現状、無用な戦いは避けたいところだ。
それにいずれ滅びる世界であろうとも部下は部下。
ナスタシアを無碍に扱うようなことはしない。
「ですが、此方の杖だけでも。」
先ほどは使う機会があったものの、
本来戦闘は不得手であるナスタシアよりも、
戦闘することが多い伯爵の方が祝福の杖を使うべきものだ。
桐生は最悪使い捨てても問題はないのもある。
念のため完全者へと視線を向けると、
「需要を考えれば、必要だな。」
完全者からしても回復アイテムは希少だ。
この先どれだけ戦うかを考えれば必須となる。
特に断る理由もないため、これについては彼に任せることにした。
最初の武器で杖を優先したことから、自分同様魔法に長けてる。
任せても左程問題はないだろう。
93
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/21(水) 16:12:32 ID:Y33LMEvM0
「支給品の振り分けも終わったことだ。
このまま四人纏まって戦うのは得策だが、
効率や集団形成のデメリットを考えると話は別だ。」
舞台の広さと言うのも確かにあるものの、
桐生の戦い方は普通にいては確実に巻き添えを受ける。
集団戦闘を不向きなことを考えれば人数は極力少なく、
洗脳が解ける可能性を考慮してナスタシアは離せない。
つまるところ、お互い同じペアのままでの行動と言うことだ。
伯爵も完全者も揃って単独行動での効率重視もいいが、
予想だにしていない参加者の可能性は少々否定しきれない。
ある程度情勢を理解するまで、単独での行動は避けたい。
此処では今までの安全は通じないとみておく方がいいのだから。
「ワタクシ達は紙のとおり、南へ向かうことにします。
東にはまだ童磨もいるでしょう、気を付けてください。」
「こちらの紙は西に向いているが、警戒はしておこう。」
移動先は互いに決まった。
特に憂うこともなく、ナスタシアは風火輪で空を舞う。
それを追うように桐生も機敏な動きで彼女を追いかける。
二人を見届けた後、伯爵たちも西へと向かって移動を始めた。
(悪くない展開だな。)
西へ向かう中、完全者は内心でほくそ笑む。
彼女に渡すように仕向けた支給品となる紙、ビブルカード。
合計で四枚あったが、そのうちの一枚はあのムラクモのもの。
説明通りであれば、確実に桐生とムラクモをぶつけられる。
どれほど南にいるかは知らないが、態々首輪探知機も渡した。
此処までお膳立てすれば大分すんなりと出会えるはずだ。
まだ武装や集団が形成しきれてない中で奴を宛てれば、
運が悪くとも集団を崩してムラクモにも被害が出せる。
途中のアクシデントはあるかもしれないが、
それはそれで桐生が消えれば御の字だ。
(しかし桐生と言ったか。)
エヌアインどころか、
そもそも器と呼べることはないだろう。
しかし中々の存在なことには変わりはない。
あれほどの力を有した参加者がいるのだ、
これなら神の器足りえる人物にも期待がかかる。
(一歩と呼べるほどでもないが、
此方の方が有利に進めているぞ、黒き伯爵よ。)
チェスでいう駒を奪ったと言うよりは、
先攻か後攻かを決めた程度のもの。
ゲームが始まる前の段階でしかない。
巻き返すどうこう以前のものではあるが、
幸先としては部下を喪った向こうよりは大分いい。
(もっとも、チェスと言うものは先攻が圧倒的有利だがな。
後手に回った貴様が勝つのは中々厳しいぞ?)
見えることのない盤面を二人は立ち回る。
白を纏った者達が、黒き理想を目指す為。
【B-5/一日目/黎明】
【ナスタシア@スーパーペーパーマリオ】
[状態]:顔にかすり傷
[装備]:首輪探知機@オリジナル、ビブルカード×2(針目縫、ムラクモ)@ONEPEACE、風火輪@封神演義
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
基本:伯爵様の為に参加者を減らしていく。
1:ビブルカードの方角へ行動する。
2:桐生はドドンタスの穴を埋める役割を担ってもらう。
3:直接戦闘は必要な敵以外は避ける。
4:童磨はまた会ったら殺す。
5:ディメーンは裏切り者として生かしておけない。
6:完全者は信用はしてないが、戦力であることには変わらない。
7:他の部下も一応探しておく。特にミスターLは本物? 洗脳の状態も確認が必須。
[備考]
※参戦時期は最低でもステージ7以降。
※チョーサイミンジュツに制限が課せられています
『以下チョーサイミンジュツの制約についての説明』
・洗脳可能な上限は一人まで
・絶対に洗脳できるわけではなく、相手の意志力自体では洗脳を解除されるか不完全な洗脳になる
・何か道具や技があれば、跳ね返すことが出来る
【桐生@ドキュンサーガ】
[状態]:ダメージ(大)、消費(中)、催眠状態
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜1(ナスタシアも確認済み)
[思考・状況]
基本:強い人間と出会い、戦う
1:ビバ! 伯爵!
2:ナスタシア、ノワール伯爵に仕える
[備考]
※参戦時期は第九話④から
※ナスタシアによって操られています
94
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/21(水) 16:12:59 ID:Y33LMEvM0
【ノワール伯爵@スーパーペーパーマリオ】
[状態]:健康
[装備]:祝福の杖@ドラゴンクエスト7、第六天魔王の錫杖@御城project:Re
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2(確認済)
[思考・状況]
基本情報:世界を滅ぼす。考慮の憂いを断つためにメフィスとフェレスは始末しその力を手に入れる
1:ペルフェクティとは手を組むことにはしたが、先にどちらが出し抜くかの戦いになりそうだ。
2:ビブルカードに従い西へ向かう。
3:他の伯爵ズの面々の様子は確認しておく。特にミスターL。
4:首輪の解除手段を模索。
5:……ドドンタス。
6:童磨に警戒。
[備考]
※参戦時期は最低でもマリオ達がディメーンに殺された後(ワールド7前後)
※コントンのラブパワーに制限が課せられています。最低でも無敵バリアは貼れません。
【完全者@エヌアイン完全世界】
[状態]:健康
[装備]:神楽の番傘@銀魂、ビブルカード×2(モッコス、プロシュート)@ONEPEACE
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0〜2(確認済み)
[思考・状況]
基本情報:プネウマ計画の邪魔はさせん。メフィスとフェレスの扱いは対策が出来上がるまで保留
1:ノワール伯爵とは何れ水面下の出し抜き合いに成りうる。他に利用できる連中を手に入れておくか
2:ビブルカードに従い西へ行く。
3:エヌアイン以上に適した器の捜索。期待値は上がった。
4:首輪の解除手段の模索。
5:ムラクモを首輪を解除される前に始末しておく。
6:童磨に警戒。
7:はぐれた際は伯爵の部下でも探しておくか。
[備考]
※参戦時期は不明。
【首輪探知機@オリジナル】
完全者の支給品。本家バトロワでもお馴染み、参加者の存在を示すレーダー
①:参加者が画面内に点で表示される。数に上限はない
②:死亡者の表記はなし。高低差も表記されない
③:範囲は原作と違い、対象のいるエリアのみ
見た目はドラゴンレーダー@ドラゴンボール
【神楽の傘@銀魂】
桐生の支給品。夜兎族が所持している番傘。
弾丸や大砲を防げる丈夫さに加え、中にガトリングも仕込まれている。
【ビブルカード@ONEPEACE】
ノワール伯爵の支給品。別名命の紙。
爪の切れ端を混ぜたことでできる特殊な紙で、
燃えないし濡れることもなく、混ぜた爪の元となる対象の方角へと動く。
本当に僅かで力もないので紙がひとりでに逃げる、なんてことはない。
この性質を利用して対象を探すことができ、ちぎっても性質は残る。
対象が弱まると縮んでいき、死亡すると燃え尽きるように消滅。
一応紙としても使えて、裏には混ぜた対象の名前が書かれている。
対象の紙はモッコス、針目縫、プロシュート、ムラクモの四人分セット。
うち二枚(縫とムラクモ)はナスタシアへ、残り二枚は完全者が所持。
【第六天魔王の錫杖@御城project:Re】
ナスタシアの支給品。ゲーム上では法術に分類される安土城イメージ武器。
大六天魔王の名を冠する錫杖で、その音で滅せぬものは存在しない。
攻撃力は法術でトップクラスに高く、攻撃時に敵を短時間鈍化させる効果が他の法術より強い。
ノワール伯爵の場合は自分の魔法に鈍化が付与された形になる。
【風火輪@封神演義】
桐生の支給品。哪吒が所持する円盤状の宝貝(パオペエ)の一つで、
脚に装備(装備とは言うが、靴と繋がるものではない)することで空の飛行が可能。
なお見た目はタイヤのホイールで装備時はさながらローラースケートではあるものの、
高速移動する際は足元からロボットアニメで言うバーニアのような炎が噴出する
95
:
◆EPyDv9DKJs
:2021/07/21(水) 16:13:28 ID:Y33LMEvM0
以上で『ホワイトアウト』投下終了です
96
:
名無しさん
:2021/07/24(土) 16:08:54 ID:MiFZyWss0
乙です
真意はまだしも頼もしいリーダー達ですね
完全者の言動は打算ありきであるものの戦略的によく練られていて先が読みたくなるような魅力がありました
伯爵もミステリアスな穏やかさが底知れ無さを想像させ、同盟者との駆け引きの行方の不透明さを象徴させてるようでした
97
:
◆s5tC4j7VZY
:2021/07/25(日) 11:27:11 ID:VSdW3HwM0
投下お疲れ様です!
ホワイトアウト
伯爵と完全者の駆け引きに息をのむほどの構成の上手さを感じました。
そして、タイトルも凄くお洒落でいいなと率直に思いました。
チェスの攻防……果たしてチェックメイトを仕掛けるのはどちらなのか!
この2人の今後も楽しみです。
「ビバ! 伯爵!」
「……こいつは痴呆か?」
↑このやり取り最高で笑っちゃいました(笑)
投下します。
98
:
辺獄平安討鬼伝
◆s5tC4j7VZY
:2021/07/25(日) 11:28:49 ID:VSdW3HwM0
鬼-----人に危害を加える空想上の怪物や妖怪変化。
歴史民俗用語辞典より引用。
G-4内に設置されている公園に男女4人が情報交換していた―――
公園の名は”童守公園”
男女の名はフェザー、衛藤可奈美、ロック・ハワード、有間都古。
平安京を駆け抜けていたフェザーと可奈美は向こう側から走ってきたロック、都古と出会い、情報交換を兼ねて近くの童守公園に立ち寄った。
「騎空士……か。悪いが聞いたことは一度もないな」
「私もないよ!」
フェザーと都古はフェザーの騎空士の単語に首を傾げる。
一方―――
「ロックさんは、アメリカ出身で、都古ちゃんは、私と同じ日本なんだね」
可奈美はロックのアメリカに都古の日本という国名に反応する。
「ってことは、カナミ、ロック、ミヤコは同じ世界なんだな!」
「そういうことになるね」
「おいおい……まさか本当にコミックみたいな世界があるなんてな」
ロックはフェザーの住む空の世界の存在に嘘だろといった風にボヤク。
「ロックさんと都古ちゃんの対峙した鬼……殺し合いにのっているんですね……)
可奈美は殺し合いに乗っている鬼の話を聞くと、顔に陰りが見える―――
先ほどの親友の死が頭をよぎるからだ。
「がおーっ!て、とってもきょうぼうだった!」
都古は両手を怪獣のようにモノマネをする。
「それで、2人の支給品には何か抵抗できそうなのがあるか?」
ロックは対抗できる支給品があるか尋ねる。
残念ながらロックと都古には対抗できそうな支給品はないからだ。
「俺の支給品はさっき食べちまったケーキとこのPADという機械と……よくわからん誰かの靴下だ」
「ハァ!?おい、マジかよ!外れも外れじゃねーか……」
ロックはまさかの”靴下”に開いた口が塞がらない。
「私は、武器だけど……あ、そうだ!都古ちゃんにこれあげるね。私の得物は刀だから」
可奈美は最後の支給品の手甲を手渡す。
「いいの!?わーい、ありがと可奈美お姉ちゃん♪」
都古は可奈美の申し出に喜び、抱き着く。
どうやら、可奈美は都古に姉と認定されたようだ。
「もう一つの武器はハンマーなんですが……」
可奈美は申し訳なさそうにウォーハンマーをロックに提示するが―――
「いや……俺も都古と同じく拳で闘うスタイルだ。遠慮しておく」
ロックは、可奈美の申し出を断る。
(あと……舞衣ちゃんの支給品だけど……)
そういえば、まだ確認を済ませてはいなかった。
本当ならここで確認するべきだが、舞衣の死をまだ引き摺っているため躊躇してしまう。
「そういえばフェザーの世界には、鬼はいるのか?」
「ああ、だけど人の姿から鬼に変形するのは見かけたことはないな。どちらかというとタンジローたち、鬼殺隊が対峙している鬼に近いと思う」
フェザー達の世界にもゴブリンといった鬼は存在するが、流石に人の姿から鬼に変化するのはフェザーは心当たりがない。
「ちなみにその鬼殺隊が追っている鬼の倒し方ってなんだ?」
「えーと、確か日輪刀という刀で頸を斬りおとすっていってたな……」
「おいおい、刀で頸を斬りおとすだと!?オレとすこぶる相性が悪いな」
「私もー……」
フェザーから聞いた鬼の倒し方は、格闘家である自分のスタイルと真逆であることに肩を落とすロックと都古。
「だけど、その鬼がタンジロー達の鬼とはまだわからねぇし、最悪、拳でなんとかなるだろ!」
「どうして?」
「……へっ!どうしてかって?たいていのことは拳で片付くってわかるからだ!」
都古の疑問にフェザーは力こぶを作りながら快活に答える。
☆彡 ☆彡 ☆彡
99
:
辺獄平安討鬼伝
◆s5tC4j7VZY
:2021/07/25(日) 11:30:46 ID:VSdW3HwM0
それからも情報をいくつか交換していく最中―――
「?どうした、オレの顔になんかついてるのか?」
ロックはフェザーの様子に気づくと話しかける。
「ん?あ、ああ……なんでもない」
(ロックと手合わせしてぇな。拳と拳で語り合いたいぜ……)
メロメロケーキで体の傷が癒えたのもあり、フェザーの体はうずうずしている。
だが、可奈美の知り合いの死を間近に見て弔ったのもあり、手合わせを申し込むのを自重している。
「ふふ、ロックおにーちゃん。きっとフェザーさんはロックおにーちゃんと手合わせしたいと思ってるんだよ」
都古は公園のブランコを漕ぎながら指摘する。
―――ドキリ。
都古の指摘にフェザーは驚く顔を見せる。
「そうなのか?」
「……ああ。俺ってさ、強い相手を見ると拳で心を通じ合いたくなる性質なんだ。それにロックとなら拳を極められるのではないかなと思ってさ」
フェザーは恥ずかしいのか、ほんのり顔を赤くして頭をポリポリとかく。
「フッ……OK!このクソッたれな催しを開いた主催共をとっとめた後なら、相手してやるぜ!」
ロックは快くフェザーとのファイトを引き受ける。
実は、かくいうロックもフェザーから溢れる闘気を当てられ、ストリートファイトの血が疼き高まっている。
「本当か!よし……男と男の約束だぜ!」
ロックの承諾にフェザーは笑顔を浮かべると2人は拳をゴッ!とぶつけ合う。
「ふふ……」
可奈美はそんなフェザーとロックのやり取りを微笑ましく眺めている。
可奈美は剣術の立ち合いが好きで、剣を通じて相手を理解しようとする考えを持つ。
それは、フェザーのように拳と拳の会話と気質が似ている。
これが、日常のやり取りなら可奈美も喜んでその中に混ざっていただろう。
だが―――
(舞衣ちゃん……)
やはり、柳瀬舞衣の死は可奈美にとても暗い影を落とす―――
今の可奈美の胸中には焦燥、やり場のない感情が渦巻いている。
「……ねー。可奈美お姉ちゃん。無理してない?」
「……え?」
都古の言葉に可奈美はピクリと体を震わす。
「別に無理してなんかないよ」
可奈美は動揺を隠すようにその指摘を否定するが―――
「その……可奈美お姉ちゃん。仲の良かった友達を亡くしちゃたんだよね?そんな直ぐ気持ちを切り替えられるなんて無理に決まってるよ……それに悲しいときは思いっきり悲しんだ方がスッキリするんだよ」
可奈美は自分自身のネガティブな感情は殆ど漏らさず、悲しい時も明るく振る舞う癖があるいわゆる”言わない子”なのだが、感情を素直に出す小学生には見破られた―――
「都古の言う通りだな……」
「……カナミ」
(……くそッ!)
都古の指摘にフェザーとロックは自分の不明を恥じる。
特にフェザーは先ほどの可奈美の明るさ表情に気づくことができなかった己に怒る。
「むー。ロックお兄ちゃんとフェザーさんは、もっと”おとめ心”を理解しなきゃ駄目だよ!女の子は繊細なんだから!」
都古は可奈美が抱えている感情に鈍感な男2人を軽く諫める。
「可奈美、I'm sorry。空気を読まないで盛り上がって」
「わりぃカナミ……俺……」
「う、ううん。ロックさんとフェザーさんが謝ることじゃないよ!」
頭を下げるロックとフェザーに可奈美は手をブンブン振りながら気にしないで!と伝える。
(悪いことしちゃったな……そうだ……舞衣ちゃんの支給品を確認しなきゃ!)
可奈美は2人に申し訳ないという気持ちと都古に慰められたことで、舞衣の支給品を確認しようとする。
だが―――
それは中断することとなる―――
「見つけだぞッ!!!虫けらがぁぁああ!」
―――ズドン!
突如、上空から降りてきた怒りの形相の鬼。
―――絶鬼。
☆彡 ☆彡 ☆彡
100
:
辺獄平安討鬼伝
◆s5tC4j7VZY
:2021/07/25(日) 11:31:51 ID:VSdW3HwM0
―――ゴゴゴゴゴ!!!!!
(これが……ロックさんと都古ちゃんがいっていた鬼。タギツヒメ以上に禍々しいオーラを放ってる……)
可奈美は目の前の鬼の放つ禍々しいオーラから感じ取る。
「ッ!?お前……!!」
(クソッ!気絶から覚めるのが早すぎるだろッ!)
ロックは再び出現した絶鬼から一旦、距離を置こうとするが―――
―――バッ!
バリバリバリィィィ!!!
「ぐあああッ!?」
(コイツ……こんなこともできるのか!?)
絶鬼の鬼の手が奇怪な形に変化すると雷が発生してロックの体を痺れさせる。
「コンサートの途中で席をたつのは、マナー違反だァァ〜!覚悟しろよォォ!」
人間に気絶させられたという屈辱からか、絶鬼は怒りのパンチを動けないロックにお見舞いする。
「ぅううあああああああ!!」
絶鬼のパンチを腹からモロに喰らい吹き飛ばされる。
―――ミシミシぃぃぃ!!!
(あ……あばら骨が!!)
吹き飛ばされた先には公園内の樹木があり、激突すると倒れる―――
「ロックお兄ちゃん!?」
都古はロックに急ぎ駆け寄ろうとするが―――
「行かせないよ!!!」
ビュッ―――
「あ゛う゛う゛!?」
絶鬼の伸びた人差し指が都古の左肩を貫く―――
―――ゲボッ!
「都古ちゃん!」
「そぉぉおら!」
―――ドガッッッ!!!
「あ゛ぐぅぅぅう!!!」
可奈美の声も空しく、都古はそのまま遠心力の勢いで投げ飛ばされると、ロックと同じく木に激突して倒れる―――
「ふぅ……。やっぱり虫けらがもがき苦しむ断末魔のメロディは、僕の心に安らぎを与えてくれる」
激昂していた絶鬼だが、怒りの根源であるロックをズタボロにしたことや都古の絶叫を聞いて冷静さを多少取り戻す。
「ロックとミヤコに何しやがるッ!!!」
フェザーは2人に対する絶鬼の蛮行に怒りを抑えきれない。
「許さねぇ……許さねぇぞおおお!」
フェザーの拳が絶鬼の体全体に打ち込む!
「君も拳で闘うのかい?やめなよ、僕の肉体を傷つけることなんて不可能だ」
絶鬼は真正面からフェザーのパンチを受ける。
「そんなこと……そんなことしったこっちゃねぇ!」
鬼がどんなに強固な体を有してようが、自分の拳を信じて叩き込むだけ!
フェザーの目標は晶星獣と拳で語り合う事。
絶鬼の言葉を到底容認することはできない!
「現実を直視できないのは愚かだよ」
絶鬼は先ほどのロックに行ったように鬼の手を変形させて電撃を放つ。
雷がフェザーの肉体を焦がす―――
しかし―――
「効かねぇ!!!」
「何ッ!?」
フェザーの持つ雷の力がフェザーを後退させない!
もちろん、ダメージは通っているはずだが、そこはフェザーの持つ根性だろう。
「この一撃で教えてやるぜ!ビリーブ・ブロー!」
猛打のラッシュを絶鬼のボディに叩き込む!
「う゛ぐ゛ッ!?」
強烈なブローにさしもの絶鬼も顔をゆがめる。
(オレの拳が効いている!……よし!)
フェザーは己の拳が通用していると確信する。
だが―――
「……ッ!ちょっと、暑苦しいよ君」
フェザーの両肩を掴むと―――
ゴバアアッ!!!
「ぐああああぁぁぁあああ!!」
絶鬼の吐く炎のブレスがフェザーの顔面を焼く―――
―――ブンッ!
絶鬼の太い上腕2等筋を有する腕がフェザーをぶん投げる。
「がっああ!」
フェザーは童守公園の入り口付近まで転げまわる―――
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