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悪魔憑きバトルロワイアル

275 ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:39:47 ID:1xboIOo60
投下します

276僕の善意が壊れてゆく前に ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:40:35 ID:1xboIOo60

夜のとばりに包まれた世界を、ほんの一筋の光が照らした。
その光は、悪鬼羅刹から人を守るには、余りにも弱い火だった。
だがそれでも、ある人間の生きる実感にはなった。
小さな火の行きつく先は、タバコの先端だった。


「はーーーー。」


タバコが似合いそうな、悪く言えば柄の悪い中年、芭藤哲也は口から煙を吐き出す。
身体に悪い物質が肺に満ちていくその感覚は、ニコチンが身体の中を循環する死者には味わえないものだ。
一度死んだその男は、生者にしか味わえないであろう感覚を噛み締めると、幾分か安堵を覚える。
自分が生きていることを知ると、今度は思考を始める。


なぜ死んだはずなのに、こうして生きているのか。
名簿を探ってみると、自分の知っている名前があった。
自分を殺した佐神善と狩野京児に、その2人が従っているドミノ・サザーランド。
同じ燦然党のメンバーで、自分と同じように死んだはずの加納クレタ、その燦然党に加入したばかりの堂島正。
そして、自分が同じ道に進むように勧誘した七原健。


知り合いがいないわけではないが、だからといってなんだという感情を抱いたわけではなかった。
自分を殺した相手に報復を加えようという気もない。
自分と同じチームにいた者達を探して協力しようという気もない。
七原だけは僅かながら、会ったらどうするか考えたが、すぐにその考えを捨てた。
覆水盆に返らずというが、一度あの関係になってしまった以上は、ここでも同じように殺し合うしかない。

「はーーーー。」


二本目のタバコを吸い始める。
自分は死んだ。それでおしまい。
生き返ったからと言って、自分の人生をやり直そうなんて気はさらさら無かった。
この世界でも、誰かが不幸になれば良いとは思うが、進んで50人以上を不幸にすることは出来ない。
たとえ右腕の銃を撃ったとしても、これだけ広い場所だと殺せるのは多くて3,4人。
中にはその力を受け止める者もいるかもしれない。



何かをしようにも、人が集まっていないんじゃ何をする気にもならない。
3本目のタバコに指をかけようとした、その時だった。
つかつかつかつかと、一人の少女が芭藤の前を横切って行った。


「おい、冷たいじゃねえか。」
「………。」


芭藤は一瞬、彼女が盲目で、自分のことをそもそも見えないのではないかと思った。
だが目の前の少女は、黙って静かに自分をじっと見据えていた。
何とも言えず、付き合い辛い奴を呼び寄せちまったな。
少女の物憂げな眼を見て思った言葉はそれだった。

277僕の善意が壊れてゆく前に ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:40:52 ID:1xboIOo60

「人が座っているのに、挨拶もせずに素通りするなんてよ。」


まるでヤクザのような恫喝のかけ方。
実際に彼はヤクザなのだが。
芭藤が少女、栗花落カナヲを呼びかけたのは、彼女を殺そうとするつもりではない。
彼女の外からの光を閉ざしているような瞳に、思い出すものがあったからだ。


カナヲは芭藤の前に近づく。その足取りは物憂げな雰囲気に似つかわしくない、大地をしっかりと踏みしめた歩き方だ。
だが、歩いて近付くだけだ。その後に何かの言葉を話すわけでも、何かしらのアクションを取る訳でもない。


「隣、座れよ。俺が見上げっぱなしじゃ首が痛くてかなわねえ。」


いやに素直に、カナヲは芭藤の隣に座った。
抵抗の態度も見せず、かといって恐れる訳でもない。
あまりに素直過ぎて、言い出した芭藤でさえ罠かと思ったほどだった。
座った後は、何もしない。
芭藤が吐き出した煙が、たまたま彼女の顔にかかった際、一瞬顔を歪めただけ。
静かな時間が続いていた。


「なあ、お前はこの殺し合いをどうするつもりだ?」
「……分からない。」


栗花落カナヲは、心を閉ざした少女だ。
同じ心を閉ざした者同士、この場で惹かれ合ったのだろうか。


「それなら、俺と一緒に周りを不幸にしていかねえか?」


言葉を聞かずとも、目を見て分かった。
カナヲも自分と同様に、光のない世界で生きていたのだと。


「……!」


その言葉を聞いて、彼女は反射的に身構える。
先程まで座っていたというのに、瞬時に立ち上がり、臨戦態勢に入る。
表情は変わらない。だがその姿勢は、死地へと向かう戦士の物だった。
この殺し合いに乗るつもりが無かったように、善悪の判断も最低限は出来る。
そして今の言葉で、目の前の男が悪なのだと分かった。

278僕の善意が壊れてゆく前に ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:41:10 ID:1xboIOo60

「ひでえな。俺がまるで人殺しみてえな態度じゃねえか。まあ、俺がお前を殺すかは態度次第なんだがな。」


そして今のカナヲの挙動で、芭藤がはっきりと分かったことがあった。
目の前の少女は、少なくとも燦然党の下っ端よりかは力を持っていることだ。
ヴァンパイアにはなれないにしろ、自分と共に行けばさぞかし役に立つだろうとは思った。


「……!!」
「その目を見りゃ分かる。お前も俺と同じで、糞共に理不尽を押し付けられてきたんだろ?」


芭藤の言うことは当たっている。
栗花落カナヲは幼少期、愛というものを与えられずに育った。
覚えているのは、動かなくなった兄弟の冷たい感触と、父親の怒声と殴打。
そして、二束三文で売りに出されそうになった。


だから、それをカナヲは否定しない。
それでも、肯定もしない。
肯定すれば最後、自分の心は目の前の男に飲まれて行ってしまうと、脳ではなく心が思ったからだ。


「だからだ。俺達が今度は奪う側になればいい。目をきらめかせて、希望だの何だの語っている奴等を、片っ端から不幸にしてやればいいんだよ。」


世の闇を湛えている瞳を覗き込む。
世の闇を湛えている瞳から見つめられる。


(この人……悪い人?斬らなきゃいけない?でも鬼じゃない。……不幸にするって?どうすれば……
指示。指令。命令……しのぶ姉さん……。アオイ姉さん……。)


芭藤が一方的にカナヲに興味を抱いていただけではない。
カナヲもまた、彼と話をしているうちに、どこか放っておけなくなっていた。

既に彼女は気づいていた。
芭藤哲也という男が、自分が斬って来た鬼とは違う。少なくとも悪だと断定しきれる相手ではないということに。
彼女の並外れていた視力を以てすれば、彼の闇を知ることなど難しい事ではない。
そんなことは、彼の長髪に隠された傷痕を見ずとも分かる。
彼の同期である炭治郎が匂いで人の感情を知ることが出来たように。
善逸が音で人の胸の内を探ることが出来たように。
彼女もまた、神経の動きや表情筋の動きで人や鬼の奥を見抜くことが出来る。


「何が何だか分かんねえって面持ちだな。
気持ちいいぞ。自分を正しいと思っていた奴等が絶望する瞬間を見るのは。なのに何でお前は嫌がるの?」

「……したくない……から。」


カナヲの心は、凍土のようなものだ。
幼い頃に理不尽という名の吹雪に、荒らし尽くされてしまった。
心という名の種を植えても、それが芽吹くことは無い。
芽吹くことは無いはずだった。

だが、それでも胡蝶カナエという柱が、善意という種をまき続けた。
その剣士は不幸にも、カナヲの行く末を知る前に帰らぬ人となったが、その妹が、同じ弟子がその芽を育て続けた。
その甲斐があり、花の力を持つ剣士の植えた種は、ほんの小さな芽を出した。

279僕の善意が壊れてゆく前に ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:41:28 ID:1xboIOo60

「初めはそうやって嫌がるんだ。みんなで幸せにありたいってな。でも、一度やってみりゃスッキリするぞ。
この殺し合いを壊して皆で生きて帰ろうって、理想ばかり吐いている奴等を殺してやるんだ。」

芭藤は言葉を続ける。
だが、その言葉を言い切る前に、カナヲは脱兎のごとく駆け出した。


目の前の男は、育ての親がくれた物を摘み取ろうとしている。
それを背筋で分かったカナヲは、そうなる前に彼の言葉が聞こえなくなる場所まで走ろうとした。


「おい。」


その動きは、実力者が闊歩する燦然党幹部の芭藤から見ても俊敏だった。
だが、拘束力を持つヴァンパイアに変身すれば、捕まえることも難しくない。


「!?」


彼がカナヲの目の前に投げたのは、獲物を拘束する体の一部―――ではなかった。
芭藤には知らぬことだが、一本の刀だった。
殺すつもりで投げたのではないことは、鞘に入っていた時点でカナヲにも伝わった。


「好きなように使えよ。俺としてはそいつで正義面した奴等を不幸にしてくれればうれしいことこの上ないがな。」

剣だけ受け取ると、カナヲはさらに走り出した。
あの男は殺すべき相手ではないかもしれない。
それでも、手を取るべき相手ではないかもしれない。
どうすべきか全くわからない相手を、彼女は置き去りにするしか出来なかった。



【E-4北西/1日目・深夜】

【栗花落カナヲ@鬼滅の刃】
[状態]健康
[装備]日輪刀@鬼滅の刃
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2(武器の類は無し) カナヲのコイン@鬼滅の刃
[行動方針]
基本方針:コインで決める(殺し合いには乗らない)
1:西へ進む
2:あの人(芭藤哲也)は何だったんだろう…いい人?悪い人?







カナヲの姿が見えなくなると、彼はまたタバコを吸い始めた。
自分の手を振り払った相手を殺さず、よりによって武器まで与えるとはどういうことだろうか。

「らしくねえことをしたもんだ。」


紫煙と共に、独り言が虚空へと消える。
とりあえず名も知れぬ少女のことは頭の片隅に追いやり、これからどうするか決める。
とはいえ、結局彼の回答は1つしかない。
殺し合いを打破し、あの老婆を殺そうという、正義に身を委ねた者達を殺して行く。
最早彼にとって、他者の不幸でしか満たされる物は無い。


それを見た瞬間、あの少女はどんな顔をするだろうか。



「あばよ。」


彼女が走って行った方向へそう告げると、逆の方向に歩き始めた。




【芭藤哲也@血と灰の女王】

[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品0〜2
[行動方針]
基本方針:正義面した対主催の者達を不幸にする。
1:次に会った相手は殺すべきか泳がせるか。
2:あのガキ(栗花落カナヲ)はどうなるんだろうな。
※参戦時期は死亡後

280僕の善意が壊れてゆく前に ◆vV5.jnbCYw:2023/08/10(木) 22:43:31 ID:1xboIOo60
投下終了です

281名無し:2023/10/12(木) 23:25:20 ID:aF4jyD2o0
予約します。


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