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闘争バトルロワイアル【二章】

1 ◆ZbV3TMNKJw:2018/12/30(日) 01:01:02 ID:yJx.nQLY0

7/7【真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
○『野獣先輩』/○『MUR大先輩』/●『ゆうさく』/○『虐待おじさん』/○『ひで』/●『スズメバチ』/●『ありくん』


5/6【ジョジョの奇妙な冒険】
○空条承太郎/○『DIO』/○吉良吉影/○ブローノ・ブチャラティ/●「リンゴォ・ロードアゲイン/○ホル・ホース


4/6【魔法少女まどか☆マギカ】
○鹿目まどか/○『暁美ほむら』/●『巴マミ』/○『美樹さやか』/○『佐倉杏子』/●志筑仁美


5/6【ミスミソウ】
○野咲春花/○野咲祥子/○小黒妙子/○佐山流美/○相葉晄 /●南京子


4/6【GANTZ】
○玄野計/○加藤勝/○西丈一郎/●岡八郎/●『ぬらりひょん』/○『千手観音』


5/5【バジリスク〜甲賀忍法帖〜】
○甲賀弦之介/ ○朧 /○薬師寺天膳/○陽炎/●如月左衛門


5/5【ベルセルク】
○ガッツ/○『ロシーヌ』/○『モズグス』/○『ワイアルド』/○『ゾッド』


3/4【とある魔術の禁書目録】
○上条当麻/○御坂美琴/○白井黒子/●一方通行


3/4【BLACK LAGOON】
○岡島緑郎/●レヴィ/○シェンホア/○バラライカ


4/4【魔法少女育成計画】
○『スノーホワイト』/○『ラ・ピュセル』/○『森の音楽家クラムベリー』/○『ハードゴア・アリス』


3/3【彼岸島】
○宮本明/○『雅』/○『隊長』


3/3【ターミネーター2】
○『T-1000』/○『T-800』/○ジョン・コナー

47/59

※『』がついているのは赤い首輪の参加者

【生還条件】
 最後の一人になるまで殺し合うか、赤い首輪の参加者を殺せば、即ゲームクリア。ゲームから解放される。
 ちなみに、自分の意思で残留するかどうかを選ぶこともできる
 その場合は、特典として本人の希望するある程度の要望を叶えてもらえる
 例:参加者の詳細情報、強力な武器や装備の支給など
 
【会場】
ttp://www20.atpages.jp/r0109/uploader/src/up0284.jpg
【まとめwiki】
ttps://www65.atwiki.jp/20161115

※NPCが存在し普通に生活していますが、どう扱うかは書き手の自由です

【支給品】
地図:上の地図の印刷された紙
食料:うまい棒が3本と無糖のコーヒー缶だけ。あとは現地調達。
ランダムアイテム:現実出展か参加者の世界のアイテム。1〜2個

22知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 01:51:15 ID:HdPfynu.0
「!」

茂みを掻き分ける音を聞いた明は、咄嗟にドラゴンころしに両手を添え、警戒心を露にする。

「...俺はいつでも準備はいいぜ、旦那」

その傍らで、ホル・ホースはまどかを背負ったまま、片手に『皇帝』のスタンドを発現させる。

シン...とあたりは静寂に包まれる。

均衡するこの状況に、明とホル・ホースは、相手もまた警戒しているのであろうことを察した。

「...俺たちはこのゲームには乗っていない。そちらも戦う気がなければ構えを解いてくれ」

明の呼びかけから数秒、静寂が訪れたかと思えば、再び茂みをかきわける音がした。
ほどなくして現れたのは、こげ茶色の肉体を惜しみなくさらした青年を背負う、厳つい顔をしたおじさんというなんとも『濃い』二人だった。

「......」
「......」

睨みあう明とおじさん。
その眼の鋭さと漂わせる雰囲気から、二人は互いに確信する。

この男、ただものではないと。

「......」
「......」

続くにらみ合い。張り詰める空気。
先に動いたのは明だった。

「よかったのかい、旦那」
「ああ。危険人物ならば、赤い首輪の参加者を背負って動くこともないだろう。同じ赤首輪ならなおさらな」

明がドラゴンころしを手放したのを見て、おじさんは小田○正を思わせる綺麗な笑みを浮かべた。

23知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 01:51:45 ID:HdPfynu.0




「そうか、あんたたちも病院に向かうのか」
「おじさんのツレが矢に刺されちゃってね」

明とおじさんこと、葛城蓮は、病院へ向かう道すがら、歩きながらの情報交換にシャレ込んでいた。
明はおじさんが野獣先輩を背負っていることから、おじさんは見るからに無力そうな少女を背負っているホルホースのことから、互いに敵意がないと判断。
そこからは特にいがみ合いも無く、驚くほどスムーズに情報交換を進めていた。

「ホル・ホースくんだったか。わざわざ女の子を背負っている辺り、きみは優しいんだな」
「女には敬意を払うべしってのが俺のモットーなんでね。そういうあんたも大概だと思うぜ」
「おじさんは殺しが好きなわけじゃないからね」

友好的に話しかけてくるおじさんのお陰か、赤首輪の参加者がいる状況にも関わらず、一行は和やかな雰囲気で歩みを進めていた。
尤も、ホル・ホースは穏やかな笑顔の下に、己の生存手段を確保したという黒い歓喜を隠しているのだが。

(ツイてるぜ、まさかこんな最高のチャンスに巡りあえるとはよぉ〜!!)

ホル・ホースのこの殺し合いにおける目的はあくまでも生存。
主催の言うとおりに最後まで他者を全て殺しまわることでなければ、雅とかいう吸血鬼を殺すことでもない。
そして、この殺し合いでは、赤首輪の参加者を一人殺せばそれで晴れて自由となるというのだから、いまのこの状況はこれ以上とない好機だろう。

目下、彼が狙うターゲットは、おじさんの背で眠る野獣先輩だ。

いまここで、二人の達人を掻い潜りエンペラーで射殺するのはリスクが高い。
ならば、野獣先輩と二人きりになった時に撃てばいい。
そのタイミングも、いま一同が目指している病院であれば掴みやすい。
適当なベッドで寝かせ、『俺が看病するから二人は見張りを頼む』とか言っておけばいい。

己の命惜しさに憎しみも無い相手を殺す。そんなものは殺し屋として日常茶飯事だ。
ここまで同行した明やまどかへの情もほとんどない。せいぜい、頑張って生き残るんだぜと心の中で激励をかけるかもという程度だ。

ホル・ホースは、確かに己にツキがまわってきたことを実感していた。
そう。彼はガラにもなく浮かれていたのだ。

だから、彼は気づけなかったのかもしれない。
目前にまで迫った病院。その一室から、彼らを見据えるひとつの視線があったことに。

24知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 01:52:13 ID:HdPfynu.0



病院にたどり着いた明たちは、目に付いた病室を片っ端から捜索していた。、
治療をするにも、他の参加者がいないことを確認してからの方がいいという考えからだ。

そんな折のこと。

ガタン。

ある一室から、椅子を動かすような音が聞こえた。
明とおじさんは互いの得物に手をかけ、警戒心を高める。
彼らから放たれる威圧感は、素人がまともに受ければ身がすくむほどの迫力を醸し出していた。
それが伝わったのか、音の鳴った部屋からは、それ以降なんの音も鳴らなくなった。

互いに沈黙して数分。このままでは拉致があかないと判断した明が口を開いた。

「俺たちは殺し合いに乗るつもりはない。ただ、仲間の治療をするためにここに寄っただけだ」
「なにか証拠はあるのかよ」

明への返答はすぐに返ってきた。

「腕に怪我をした男が一人、こん睡状態の女の子と男が一人ずつだ。完全な治療はできなくても応急処置くらいはしてやりたいと思っている」
「ハッ、そのこん睡状態の奴らが死体かもしれねえだろ」

声の感じからしてまだ若い少年だと明たちは判断する。

「...あんたが警戒心が高いのはわかった。なら、せめてどこかの部屋のベッドだけでも貸してくれないか」
「イヤだね。ここは俺たちが...あ?まあそうだけどよ...ッわかッたよ。おい、お前らからこっちに来るなら話くらいは聞いてやるよ」

随分と上から目線なガキだと思いつつ、何事か相談するかのような口ぶりから、複数人があの部屋に留まっているのだろうかと推測する。
明とおじさんは目配せしつつ、慎重に距離を詰めていく。

扉の閉められた部屋に踏み込むなどどんな罠が待ち受けているかわかったものじゃない。
歴戦の戦士である明とホル・ホース、数多のAVに出演してきたおじさんもそのことを解っているが故に、口に出さずとも自然と足並みを揃えることができた。

扉に手をかける明が振り返り、おじさんとホル・ホースに目配せし、三人でコクリと頷き合うと、おじさんは刀に手をかけ、ホルホースは銃を構える。
そして、明はドキドキと高鳴る鼓動を堪え、扉を開いた。

25知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 01:52:54 ID:HdPfynu.0

「よお。わざわざこんなところまでご苦労さんなこッた」

先ほどの返答の主と思える少年が、大げさに両手を挙げヘラヘラと笑みを浮かべ明たちを迎え入れた。
一足先に部屋に足を踏み入れた明は、目線だけを動かし部屋の人間を確認する。

おろおろと戸惑いを見せる着物の美少女が一人。
こちらを心配げな眼で見つめる少女が一人。
その少女の肩を抱き寄せ、へらへらと笑う少年を不快気に見る少年が一人。
そして、こちらに背を向けたまま窓の外を見つめる学ランの巨漢が一人。
何れもまどかの知り合いにも当てはまらない者たちだ。

次いで、部屋になにか仕掛けがないかを確認しようとしたその時だ。

「どうしたんだい、ホル・ホースくん」
「い、いや、チョイと忘れ物しちまってよ。ちょっくら行ってくるぜ」

ホル・ホースは青ざめ、まどかをそっと床におろし、額に脂汗を滲ませながら、おじさんに断りをいれ、早々に場から離れようと捲くし立てる。
どうしたのかと問おうとする明に、しかし他の声が被せられる。

「そうか。ソイツは災難だったな。だがこんな得体の知れねえ場所でたかだか忘れ物の為に一人で行動するなんざてめーらしくねえじゃねえか...なあ、ホル・ホース」

その声に、ホル・ホースの身体がビクリと跳ね、その場に縫い付けられたかのように静止した。

「ホル・ホース、あんたの知り合いなのか?」
「い、いや、その...」

今回ばかりはさしものホル・ホースも冷や汗が止まらなかった。
なぜこのタイミングで、この施設に、よりにもよって空条承太郎がいるのか。
数分前までの浮かれていた自分にエンペラーをぶち込んで成り代わりたいとさえ思えるほどの不運だ。

26知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 01:54:38 ID:HdPfynu.0

どうにか誤魔化せないかと必死に模索するが...

「大した仲じゃあねえさ。俺の仲間がソイツに撃たれたってだけの関係だ」

ふんだんに敵意を塗りたくられた言葉に、ホル・ホースは思わずグッと言葉を詰まらせる。
やはりというべきか、承太郎は自分を相当に警戒し敵視している。
そしてそれを知られるということは...

「...それは本当なのか」

当然、味方だと思っていた奴からは懐疑の眼で見られてしまうわけだ。

カチャリ、と鍔鳴りの音がした。ホル・ホースの背後でおじさんが刀を構えた音だ。

ホル・ホースは己の置かれた状況を顧みる。
恐らく、ここにいた面子は承太郎から自分の情報を聞いているだろう。
そして、こちらの手の内にあった明からは疑われ、おじさんは既に臨戦態勢に入っている。
残るはおじさんの背で眠る男と眠るまどか。
当然、かかわりのない男は除外し、残るはまどか一人だ。
だが、彼女一人が味方になってくれたところでどうする?いや、そもそも、彼女も彼女で承太郎の仲間を撃ったと聞かされればこちらから離れてしまうだろう。

(ヤベエぜチクショー!!この状況、日本じゃ四面楚歌っつったか?どう切り抜けりゃあいいんだよぉ〜〜!!)

ダラダラと冷や汗を流し言葉を詰まらせるホル・ホース。
必死にベストな回答を模索するも、時間は有限だ。誰も彼もが律儀に待ってくれるわけではない。

27知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 01:55:04 ID:HdPfynu.0

「答えられないってことは、そういうことなんだな?お前、おじさんに嘘ついたのか」

背中越しにも伝わるおじさんの殺気がホル・ホースの背中を射抜く。
それにつられ、ホル・ホースは咄嗟に口を開いてしまった。

「た、たしかに俺は承太郎の仲間のアヴドゥルを撃ったぜ。だが、あいつは生きてたし後遺症もなくピンピンしてたんだぜ!?いまだって承太郎がここに連れてこられなけりゃあ一緒に旅をしてるくらいだ!」
「撃ったのは本当なんだな」
「う、ぐ...」

明からの追求により、ますますホル・ホースの立場は無くなっていく。
これで味方はいなくなった。もしもこの立場に置かれたのが元相棒のJ・ガイルのような奴なら本性を現して戦うなり逃げるなりするだろう。
だが、ホル・ホースは常に№2の男。誰かと組んでこそ力を発揮するとかけば聞こえはいいが、言い方を変えれば一人でできることなどたかがしれている。
絶体絶命のこの状況においても、リアリストである彼には、やぶれかぶれの特攻に踏み切ることはできなかった。

だが、そんな臆病に思えるほどの慎重さが、生への道を示すこともある。

「―――だ、だめっ!!」

甲高い声が響き渡った。
いつの間にか眼を覚ましていたまどかは、寝起きで覚束ない足取りで立ち上がろうとし、力が入りきらず転んでしまう。
何故、ホル・ホースが追い立てられるように孤立しているのか。何故、見知らぬ人たちが皆ホルホースに敵意を向けているのか。
彼女は事の顛末をなにも理解していない。
ただ、自分を助けてくれた彼がこのままでは危ないこと。それだけは辛うじて理解できた。

どうにか立ち上がったまどかは、ホル・ホースを庇うかのように、両手を左右に広げ彼の前に立った。

「やめて...ホル・ホースさんを虐めないで...!」

普段は優柔不断な彼女がこうも積極的に動けたのは、放送で呼ばれた巴マミと志筑仁美の存在が大きい。
大切な存在である彼女達の死は、まどかから喪失の恐怖を刻み込んだ。
その恐怖は、止める言葉を捜すよりも先に行動を選択した。

28知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 01:55:27 ID:HdPfynu.0

「......」

無言で見下ろしてくる承太郎の視線にまどかの足が震えあがる。
恐い。承太郎から向けられるのが殺意や怒りではないのはわかるにせよ、ただでさえ激しい身長差や彼生来の目の鋭さのせいもあり、必要以上の威圧感を覚えてしまう。
けれど、ここで折れればホル・ホースが危ないかもしれない。
まどかはくだけそうになる腰をどうにか奮いあがらせ、承太郎の視線に正面から向き合った。

「...すまないが、俺もまどかと同意見だ」

明が振り返り、まどかの隣にずいっと並び立つ。

「あんたの仲間が撃たれたというのは事実だろうし、それに怒ることを咎めることはできない。
だが、この男は曲がりなりにも俺やまどかを身体を張って助けてくれた。そんな男を見捨てるような真似はできない」

明は目を瞑り、頭を下げる。

「どういうつもりだ」
「この人数の女子供を守っているあたり、恐らくあんたも殺し合いには賛同していないのだろう。
だが、ホル・ホースを殺すつもりなら、俺はあんたや葛城と戦わなければならなくなる。俺はあんたたちとは戦いたくはない。だから頼む。この殺し合いの場だけでもホル・ホースを見逃してくれないか」
「......」

承太郎の返答はなく、おじさんも現在の状況を見極める為に静観に徹し、沈黙の時間が訪れる。
その間も、まどかと明はホル・ホースの前から動こうとしない。
そんな彼らの姿を見て、ホル・ホースは感極まり震えていた。

(や...やった!ようやく信頼という種が芽吹いてくれたぜぇ〜〜ッ!!)

彼のソレは感動とは程遠い保身というエゴ丸出しのものであったが。

29知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 01:56:05 ID:HdPfynu.0

(やっぱりもつべきものは女だぜ。ここで手を出しゃ男が廃るってもんだろ、承太郎ォ)

もしも最初に出会ったのが明だけなら彼も承太郎側についただろう。
だが、不慮の事態とはいえ、自分が傷ついても無力な少女を助けようとしていたホル・ホースの姿は、明にとってはそれだけでも好評価に繋がった。
だから、ホル・ホースを見捨てることが出来ない。だから、戦ってでも止めようとしてくれる。
面倒ごとは優秀なコマに押し付け自分は安全にふんぞり返る。まさしく傍若無人な『皇帝』のカードに相応しい振る舞いだろう。

ホル・ホースはそんな歓喜の入り混じった黒い考えを表に出さず、ただ戸惑うように、冷や汗すらかきつつ状況を見守っていた。

「...名前は何だ」

沈黙の中、口を開いたのは承太郎だった。

「...宮本明」
「明、俺も無駄な争いをするつもりはねえ。お前がホル・ホースの味方をしようが、俺に敵対しないならそれでいい」
「それは、ホル・ホースを殺すつもりもないと捉えていいのか」
「好きにとりな」
「恩に着るよ」

明が微笑みを浮かべ、ホル・ホースを警戒する承太郎が構わないなら、とおじさんも構えを解く。
その背後、ホル・ホースは内心でガッツポーズを決めていた。

(や、やりぃ!これで当面の危機は脱したぜ。あとはこの息苦しい場所からさっさとトンズラしちまえばこっちのもんよ)
「あの、ホル・ホースさん...なにがあったんですか?」
「...ま、ちょいと複雑な事情ってもんがあったのさァ」

状況説明を求めてきたまどかをあしらい、どう逃げ出そうかと算段を立てようとしたときだ。

「だが」

そう区切った承太郎に、ホル・ホースは思わず「えっ」と聞き返しかける。

「そいつにはそれなりのケジメって奴をつけさせてもらうぜ。...なに、そんな堅苦しいことじゃねえ。少しばかり聞きたいことがあるだけだ」

30知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 01:57:07 ID:HdPfynu.0




カチッ。カチッ。


時計の針が刻む音が耳に染みる。

いま、室内にいるのは承太郎とホル・ホースの二人だけ。

机を挟み椅子に座らされるホル・ホースと、その側に立ち見下ろす承太郎。
まるで取り調べのような状況に、ホル・ホースの内心は穏やかであるはずがなかった。

(あ、明のヤロォ〜、話をするだけならってあっさりと引き下がりやがって〜〜!!)

先ほどまではホル・ホースを庇っていた明とまどかだが、二人で話をしたいという承太郎の要望をあっさりと受理し、これまた要望どおり、他の者達と共に部屋を離れてしまった。
承太郎の仲間を撃っていたというディスアドバンテージがあり、承太郎と争いたいわけでもない二人からすれば当然なのだろうが、残された本人からしたらたまったものではない。

(だからってコイツと二人きりにして俺が無事な保障はねえだろうが!)

無論、承太郎にとっては、ここで二人との約束を無視してホルホースを殺すことは容易い。
いまこの状況ならば、ホル・ホースを殺した後は窓からでも逃げ出せば明やおじさんと戦うようなこともない。
が、それは承太郎が万全であると前提した上でだ。
目だった傷こそはないにせよ、彼にしては珍しく湿布や絆創膏を身体の至る箇所に貼っており、衣類もそこそこに汚れ傷ついている。
誰と戦ったのかはしらないが、さしもの彼一人では手に余ると判断したのだろう。
彼からしても、明とおじさんは仲間に引き入れ戦力として手においておきたいはずだ。
ならばこそ、彼らとの約束を自ら破るような真似はしない。

(って考えもあるが、絶対とは言い切れねえ...心臓に悪すぎるぜ、この距離感はよぉ)

31知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 01:57:34 ID:HdPfynu.0

「ホル・ホース」

ついに発せられた承太郎の言葉に、ビクリと身体が震え上がる。

「いまオメーに聞きたいことはひとつだけだ。たったひとつ答えればそれで終わりだ」

たったひとつだけに答えればいい。そんな言葉を救いとは受け取れない。
なぜならそのひとつはもう察しがついているし、その答え如何にしても自分がタダではすまないと解り切っているからだ。

「DIOのスタンド能力はなんだ」

やっぱりだ。ホル・ホースの冷や汗が再びドッと湧き出した。

スタンド使いは己の能力を知られることを嫌う。
当然だ。いくら強力な能力をもっていようともタネが知られればいくらでも対策をうつことができる。
そして、DIOは一層、その能力の秘匿を重視し、限られた認めた者にしか能力を明かしておらず、口封じのためならば、エンヤ婆のような筋金入りの忠臣ですら平然と殺すほどだ。
それを、よりにもよって空条承太郎に話したと知られれば、間違いなくDIOに殺されることだろう。

(だが、俺はそもそもあいつの能力を知らねえ。知らねえが、それで承太郎が納得するとも思えねえ!)

当然、金の繋がりでしかない自分が知るはずも無く、もしうっかりDIOの能力を知ってしまえば間違いなく殺される。
だが、ここで知らないと突き通しそれで承太郎が納得するはずもない。かといって、適当な嘘でごまかせる相手でもない。
そして、いつまでも考える時間をくれる相手でもない。

「...なるほど。見上げた忠誠心だな、ホル・ホース」
「ち、ちげえ!俺は知らねえ!本当にDIOの能力なんざ知らねえんだ!!」

結局、本当のことを話すほかないのだ。

32知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 01:58:38 ID:HdPfynu.0

「考えてもみろよ。あのエンヤ婆でさえ口封じの為に殺すような奴だぜ、俺みたいな金で雇われた殺し屋に教えるはずもねえ」
「......」
「仮にジョセフ・ジョースターのハーミット・パープルに頭を覗かれてもヒントもなんにもでやしねえ。本当だ!」

一気に捲くし立てたホルホースの口が止まり、静寂が訪れる。
その静寂が、ホルホースにはとても重苦しくて仕方がない。
イヤに己の心臓の鼓動が響く。
裁判所に立つ被告人とはこんな気分なのかと思わざるをえなかった。

「...だろうな。オメーの言うことは尤もだ」

静寂を破り、承太郎の口から出た言葉は、ホル・ホースの顔を驚愕と歓喜に染め上げ

「奴は慎重な男だ。奴の『時間を止める能力』を知られようものなら、オメーのような忠誠心の低い男はタダじゃあすまねえだろうな」
「そ、そうだぜ承太郎!俺がDIOの能力を知った日にゃ...ぁ...」

一瞬で硬直させた。

33知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 01:59:01 ID:HdPfynu.0

まるでがら空きの顎にプロボクサーのアッパーを受けた気分だった。

いま、こいつはなんと?

「て、テメー承太郎、いま...なんて...」
「...奴の能力は」
「言うんじゃねえええええええ!!テメー、なんてことしやがるんだ!!!」

コレまででも散々冷や汗をかいてきたというのに、まだ吹き出る余裕があったのか。
滝のように流れる汗は、まるで失禁したかのように衣類を湿らせていく。

(ふ、ふざけんじゃねえ!いま、俺は確かにDIOの能力を知っちまった!奴にバレたら俺は間違いなく殺される!!)

先ほどまで"もし知っていたら"という仮定も思い浮かべていたため、余計に息は乱れ鼓動は更に波打ってしまう。
もし、DIOと遭遇したとき、自分は今まで通り『何も知らないままの服従者』でいられるのか。
それとも『無知を演じる道化』を気取られないようにビクビクと怯え続けなければならないのか。

(い、いや、それ以上に...)

「オメー...なんで奴の能力を知って、まだ無事でいやがる」
「...ソイツはテメーで考えな」

自分がDIOに体験させられた摩訶不思議な出来事も、時間を止められるなら辻褄が合う。
つまり、承太郎は確信を持って時間を止められる能力だと断言したのだ。
承太郎がDIOの能力を知っておきながら五体満足な理由はなんだ―――ホルホースは考える。

34知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 01:59:22 ID:HdPfynu.0

①DIOの能力を知っている者から教わった。
単純に考えるならこうだろう。
金で雇われた者は勿論、比較的忠誠心の強いエジプト九栄神の連中でも何人がDIOの能力を知っているのやら。
その九栄神も既にほとんどを承太郎たちに倒されている上に、能力を知られたという報告はあがっていない。
なら誰に教わったというのか...皆目検討がつかない。

②承太郎はDIOの能力を知った段階でこの殺し合いに連れてこられた。
ハッキリ言ってこの可能性はないだろう。
自分は確かにボインゴと組んで承太郎一行を追跡していたが、連中はDIOの館に近づいてはいたものの、確証は得ていないという段階だった。
そんな折に、気がつけばこの殺し合いのセレモニーに連れて来られていたのだから、連中がその段階でDIOの能力を知っていたとは考えにくい。

(い、いや、待てよ。確かに俺は気がついたときに巻き込まれていたが...果たして本当にその認識であっているか?本当は数日間程度は眠らされていたんじゃあねえか?)

もしも自分が数日間眠らされており、時間の感覚が狂わされていたとしたら。
その数日間のうちに承太郎たちがDIOの手がかりを掴み、何らかの拍子で能力を知ったのかもしれない。
となれば、この可能性が最も高い。



(まさか...まさかとは思うがよ...)

ありえない。しかし、広がりだした仮定はもう止まらない。
ホル・ホースの脳内は、第三の理由を既に作り上げていた。

③承太郎一行がDIOに勝利した

あのDIOを、しかも時を止めるなどというトンデモ能力を持った怪物を、ジョースター一行が倒せるなどと到底思えない。
第一、DIOも名簿に載っている以上、奴の生存はほぼ確実だ。
だが、もしも、万が一、なにかの奇跡が起こり、奴に勝利寸前まで持ち込んでいたとしたら。
確たる勝算があるからこそ、承太郎は、なおも絶望せずにDIOに立ち向かおうとしているのなら。

(お...俺は...どう動くべきだ!?DIOにつくか...承太郎につくか...)

DIOにつけば、暗殺をしくじらない限りは金は手に入る。...その代わり、奴に恐怖で支配され続けることになる。
承太郎につけば、明のような奴がいる限りは奴は手出しできず、殺し合いから抜け出しあとはトンズラこけば二度と会うこともないだろう。

支配か、自由か。

ホル・ホースの天秤が傾き始める。

35知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 02:00:07 ID:HdPfynu.0



明は入り口で見張りを、おじさんは棟内の警備に出ていた。
医務室にはベッドで眠る野獣先輩と、それを看る春花、相場、朧、まどかの四人、それに写真と会話する西の計6人が集っていた。

さて。看病をしようとしている四人だが、いきなりある問題に躓いていた。

「クゥーン...(子犬)」
「えっと...お尻の中に矢が入ったんだっけ...」
「...俺たちのすることはないんじゃないか?」

そう。特に外傷も見当たらない野獣先輩をどう看病すればいいのかという問題である。

野獣先輩の身体は至って健康的。しかも、苦しむどころかご満悦な表情を浮かべながら暢気に寝息を立てている。
尻から入った矢があるというが、外科医でもない彼らに矢を取り出すことなどできず。
現状、彼らに出来ることは特にないのだ。

「へー、幽霊ね。腹とかは減るの?」
『いや、そういった生理現象は無いのう。特に寿命などもないし、案外楽じゃぞ』

一方の西は、野獣先輩の看病などはそっちのけで、写真の親父、吉良吉鷹との会話に夢中になっていた。
ガンツのこともあり、死者が蘇るという事実事態は誰よりも早く受け止められたが、実際に死んでいる者と話すのはこれが初めてである。
そんな未知との遭遇が、彼の興味を煽ったのだ。

(世界の全てを知り尽くしてると思ってたが...俺の知らないことがどんどん湧いてきやがる)

やはりこの会場は面白い。
たった数時間でスタンド能力に幽霊に異能力を消す目なんて超常現象にお目にかかれたのだから。

36知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 02:01:22 ID:HdPfynu.0

(それに明の話じゃあ、あのホスト侍とはまた違う吸血鬼なんてのもいるらしいからな...ヤベェ、らしくなくわくわくしてきやがッたぜ)

彼ら超能力者は自分達人間と身体の構造は違うのか。
死に瀕した時、どんな悲鳴を挙げるのか。
幽霊を物理的に殺したらどうなるのか。

(っ、ヤベ、勃ちそう)

そんな一種の期待への恍惚に、西の下半身が微かに反応する。

(今回ばかりは気をつけねえェとな。空条承太郎だけじゃねえ、宮本明と葛城相手に下手にボロを出すのは悪手だ)

彼の属している東京のガンツチームは底なしのお人よしばかりだから遠慮なしに振舞えたが、あの三人は違う。
承太郎も明も、無力な者を見捨てられないお人よしな面こそあるものの、それ以上に敵に対しての冷酷さを持ち合わせている。
近い人物でいえば玄野計だが、実力は彼の比ではない。あのメンバーの中で最も近接戦に優れる風大左衛門でようやく彼らの領域だろう。
そして、葛城蓮。彼も赤首輪の参加者であることから、承太郎たちとほぼ同等の実力者であると伺える。
更に、彼からは承太郎たちとも自分とも違う、未だ体験したことのない異様ななにかを感じ取っていた。
それがなにかはわからないが、少なくともただの剣の達人ではないことは確かだ。

(俺や玄野ばりの冷静さに筋肉ダルマ並の戦闘力...敵にまわせば面倒だが、手綱を握れればカタストロフィに向けての戦力になる)

毀れそうになる笑みを掌で隠しつつ、ちら、と朧たちに目を向ける。
承太郎たちを制御するには彼らのようなお人よしの弱者が必要だろう。
でなければ、あの三人はそれぞれ赤首輪の参加者を狩って脱出して終わりになってしまう。

(しかしそうなるとあいつは邪魔だな)
「あの...」

おずおずと話しかけてきたまどかに、西はジロリと目を向けた。
その視線の鋭さに恐れを抱きつつも、まどかは意を決して口を開いた。

37知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 02:02:13 ID:HdPfynu.0

「わたしも写真のお爺さんと話をしてもいいですか?」
「あ?なんで?」
「き...聞きたいことがあるんです」
「...チッ」

西は舌打ちと共に写真をまどかに渡した。

『お嬢ちゃん、ワシに聞きたいこととはなんじゃ?』
「...お爺さんは、死んだ人と会話をすることはできるんですか?」
『ムッ?』
「マミさんと仁美ちゃん...わたしの友達が、放送で呼ばれたんです。もしもお爺さんが死んだ人たちと会話ができるなら、二人と会わせて欲しいんです」

まどかは、二人が死んでしまったことは理解はしているものの、まだ納得はできていなかった。
だから、たとえ更なる苦しみが待っていても、確かめられるなら確かめたいと思った。
いや、それ以上に、彼女達の声が聞きたかったのだ。
話す内容なんてまだ決めていないけれど、当たり障りのないことでもなんでもいい。
ただ、彼女達の声を聞きたかったのだ。

『あ〜...すまんがそれは無理じゃ。ワシはたまたま現世に留まれただけで、他者の魂に干渉できるわけじゃないんじゃ』
「...そうですか...」
『力になれなくてすまんの』
「いえ...ありがとうございました」

二人に会えないことで意気消沈するまどか。
そんな彼女を見かねて、朧が両肩にそっと毛布をかけた。

38知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 02:02:32 ID:HdPfynu.0

「朧さん...?」
「無理はなさらずともよいのですよ」

朧の打算無き微笑みと与えられた温もりに、曇りかかっていたまどかの心が少しだけ晴れる。
お茶を淹れてきますね、と朧は離れる。
少し遅れて、まどかは立ち上がり朧のあとに続く。

「まどか殿?」
「わたしも手伝います」

まどかは決して吹っ切れたわけではない。
未だに悲しみを引きずっているし、ふとした拍子ですぐに沈んでしまう。
しかし、だからといって座り込んだままでなにか変わるかといえばそうでもない。
なにかしら動かなかればやっていられない。そんな想いだった。

そんな彼女の姿を見て、朧は微笑む。
いつもは伊賀の者たちに世話を焼かれ、大切に守られ、苦労をかけばかりだ。
けれど、いまはこうして自分よりも小さな子を引き連れている。
伊賀の者たちから見た自分はこんな風なのか。妹でもいたらこんな感じなのだろうか。

(私がしっかりせねば)

承太郎たちを除けば、おそらく自分が最年長だろう。
普段は守られてばかりだが、今回は自分が守らなければならない。
朧は、より一層張り切ろうと気を引き締めた。

39知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 02:03:23 ID:HdPfynu.0

「...強いね、鹿目さんは」
「そうだな」

春花と相場は、それぞれの感情を込めた眼差しでまどかを見つめる。

春花は、大切な者を失った悲しみの共感者として。
相場は、まるで興味がないかのような冷ややかな目で。

(ああいうタイプは野崎には毒だな。変な影響を受けなきゃいいけど)

相場から見て、鹿目まどかといいう少女は自己犠牲心の強い少女だ。
傷心中なら大人しくしていればいいものの、ああして自分がお荷物になるまいと、心配をかけまいと外面だけを取り繕っている。
燃え盛る炎の中、春花の父が己の身を顧みず祥子を庇い続けたのには感銘を受けたが、まどかは別だ。
肉親や恋人のような関係が深い者ならまだしも、会って数十分の人間相手に自分を蔑ろにしてまでの献身は、尊敬を通り越して薄気味悪い。

それだけならば勝手にやっていればいいと放っておくだけだが、問題はここにいまの春花がいることだ。
彼女は、真宮たち殺害の件の負い目から、自分の命を軽視している節がある。朧を庇った際の耳の怪我がいい例だ。
そんな彼女がまどかと関わり、万が一にも自己犠牲に酔いしれるようなことがあれば目も当てられない。
彼女が愛を注ぐのは万人ではなく、この相場晄だけで充分だ。

それを防ぐには、まどかを殺してしまえばいいのだが、それで自分が下手人だと判明すれば春花の立場も怪しくなるかもしれないし、
まどかがいなくなったところで、第二、第三と別の者が現れるかもしれない。

ならばこそ優先されるのは、一刻も早い春花の脱出である。

そしてその方法は、いま手中に収めている。

40知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 02:04:18 ID:HdPfynu.0

「スゥー....ハァー...」

野獣先輩と呼ばれるこの赤首輪の男の殺害による脱出だ。

彼が、尻に不思議な矢が入ったという信じ難い理由で目を覚まさないでいるのは非常に好都合だ。
誰にも見られず、且つ目立つ外傷でなければ、尻に入った不思議な矢がなんらかの効果をもたらしたということで処理できる。

その為の道具は、ある。
相場の右手に握られている粒錠の毒薬。
彼がボウガン以外に支給された道具である。

(飲ませないと効果がないから、特に使い道はないと思ってたけど運が良かった)

本当にこれで死ぬかはわからないが、わざわざ殺し合いの場で支給するというのだから、本物で間違いないだろう。

(ただ殺すだけじゃ意味がない。真宮の放送を信じるなら、こいつの側に春花がいないと駄目だ)

彼の殺人計画はこうだ。
まずは眠る野獣にこっそりと毒薬を飲ませる。
苦しみ始めたところで春花を呼び、野獣に呼びかけさせる。
承太郎、ホル・ホース、おじさん、明は別の場所にいるため異変に気づいたところで駆けつけるのには時間がかかる。
残る三人だが、西はまず警戒して近寄らないだろう。
そして、朧とまどか。
この二人は春花を手伝うために駆け寄ってくるだろうが、その前に水を持ってきてほしいだの、タオルを用意してくれだのと自分が指示を出してやればいい。
写真の親父は参加者でもなければ所詮は写真なので脱出の権利はどう足掻いても手に入らないだろう。
時間を稼ぎ、その間に野獣が死ねば、計画は成功だ。

春花を含む皆はショックを受けるだろうが、『彼の死を無駄にしてはいけない』とでも言えば、否が応でも一番近くにいた春花を脱出させることになるはずだ。

(承太郎とホル・ホースがいつ戻ってくるかわからない...やるならいまだ)

春花がまどか達を見ているこの隙しかチャンスはないだろう。
相場は、そっと野獣に寄り添い、彼の口元に掌がかざされ

「お二方、お茶が入りm」

同時に、朧が己の脚に躓き、倒れた上体と共に盆と湯のみが宙を舞った。
そして、熱湯は―――野獣の脚にぶちまけられた。

41知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 02:05:20 ID:HdPfynu.0


「ヌゥン!ヘッ!ヘッ!ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!!!」

あまりの熱さに野獣は目を見開き、我慢もできず限界まで開口し、絶叫と共に床から天井へと所狭しと跳びまわった。
その騒音のごとき声量に、皆は各々の思考すら停止させられ、ただ己の耳をふさぐことしかできなかった。

「フ ウ゛ウ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ン!!!!フ ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥン!!!!...ハァ」

ひとしきり叫び終えスッキリした野獣は、涅槃の如き表情を浮かべ、数秒沈黙。

「ふざけんな!!人が気持ちよく寝てたのに頭にキますよ!!」

そして、鬼のような形相で咆えた。

「ドッキリにしてもやりすぎだってはっきりわかんだね。犯人は早く名乗り出てホラホラホラホラ」

寝起きだというのにペラペラと捲くし立てる野獣に圧され、一同は呆然としてしまう。

42知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 02:06:20 ID:HdPfynu.0

「なんだよドッキリ仕掛けといて怒られるの初めてかよ。責任(ケツ)もたれたことしかねえのかよ誰かによ」

バ ァ ン!!(大破)

ドアを蹴飛ばし部屋に転がり込むのは、騒ぎを聞きつけやってきたのはおじさんと明だった。

「なに騒いでんだオイオラァ!!」
「!...あんたの仕業っすか。女子供にあんな危ないドッキリ仕掛けさせといて自分は高みの見物とはACceedの器もたかがしれますね」
「アァ!?」

野獣の冷ややかな視線と言葉に、おじさんのこめかみに青筋が走る。
彼の殺気を感じ取った明は、慌てておじさんを羽交い絞めにして動きを止めた。

「ウ゛ゥ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!ウ゛ゥ゛ゥ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!」
「落ち着け葛城!」

火花を散らしあう野獣と葛城に、自然と場の空気も張り詰めたものとなる。
今は明が押さえ込んでいるが、もし拘束が解ければどうなるかわかったものではない。
そんな重圧の中、朧が震える手を掲げた。

「お...お茶を零したのは...私でございます」
「は?(威圧)」
「自分の足に躓き...どうか...お許しを...」
「ふぁっ!?」

目に涙を溜めながら土下座をする朧に、野獣は思わず面を食らいかけよった。

43知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 02:07:05 ID:HdPfynu.0

「泣かないでくれよな〜頼むよ〜」

野獣は肩膝をつき己の目線を相手に合わせたうえで、慰めるように熟練の手つきで朧の頭を撫でる。

「ちょっとビックリしたけど大したことはないからホラホラホラホラ」

野獣は立ち上がり朧の頭から手を離し、両手を頭の後ろで組み腰を左右に振り始めた。
自分は健在であるという、彼なりのアピールだった。

「人間は失敗してなんぼだし、このくらいのミスならまあ多少はね?」

息もつかせぬ程の早さで繰出される慰めの言葉に朧の涙も引き、それを確認した野獣も王者の風格を漂わせる微笑を浮かべ頷いた。

「...落ち着いたか、葛城」
「フゥー、フゥー...もういい歳だからね、おじさんも」

ひとしきり吼えて気が紛れたおじさんは、引き止めてくれた明に軽く頭を下げ、小田○正のような笑顔を見せた。

「な、なにがあったってんだ?」

騒ぎを聞きつけやってきたホル・ホースと承太郎。
前者はただ困惑し、後者は一筋縄ではいかなさそうなこの面子に小さくため息をついた。

「...やれやれだぜ」

44知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 02:08:08 ID:HdPfynu.0




(間違いない...この男、空条承太郎じゃ)

吉鷹は、写真の中からチラチラと様子をうかがい、ゴクリと唾を飲み込んだ。

西丈一郎達と会話をしている最中、承太郎の名前は出ていたが、それが本物かどうかは己の目で確かめるまでは判断できずにいた。
そしてその目で見てわかった。この男は確かに空条承太郎だと。
だが、それにしては若い。己の知る承太郎も三十歳近くにしては若々しい顔立ちではあるが、それにしても若いのだ。
その上で、この男は己の知る空条承太郎と同一人物であるという、奇妙な感覚に陥っていた。

(何より奇妙なのは、ここの連中が誰一人として吉影の名に反応を示さなかったことじゃ)

もしも、承太郎が、この会場の誰もを傷つかせることなく殺し合いを破壊しようという聖人染みたことをのたまうならばわかる。
が、ホル・ホースへの対応を見る限り、とてもそうとは思えない。
敵対している者には容赦はしない。そんな純粋なスタンド使いらしい思考の持ち主だ。
ならば、吉影については多少なりとも言及してしかるべきだが、なにも話した様子はない。
なにか企んでいるのか?それとも主催に記憶でも消されているのか。あるいはなにかもっと別の...?

(空条承太郎...敵に回せば恐ろしいことこの上ないが、味方につければこれほど頼もしい存在もいない...どうにか吉影の力になるよう誘導できんものか)

全ては愛する息子のために。
父親は独り静かな戦いへと臨む。

45知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 02:08:35 ID:HdPfynu.0

【H-3/一日目/早朝/病院】




【野獣先輩@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:背中の皮膚に少し炎症、疲労(大)、身体の中に矢@ジョジョの奇妙な冒険が入っている。気絶
[装備]:吉良吉廣の写真@ジョジョの奇妙な冒険、
[道具]:基本支給品×1、不明支給品×0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:気の向く(性欲を満たす)ままに動く
1:状況を把握する
2:吉良と左衛門犯したい...犯したくない?
[備考]


※毒物をぶち込まれると即死性ではないかぎり消化・排出することができる。排出場所は勿論シリ。
※殺し合いを認識しました。
※吉良(川尻の顔)と左衛門の顔をそれぞれKMR、遠野に似てると思い込んでいます。
※吉鷹の持っていた矢@ジョジョの奇妙な冒険が野獣先輩の尻の中へ吸収されました。異変があるかはヨクワカンナイケドネ




【虐待おじさん@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]興奮、頬にダメージ(小) 疲労(小)
[装備]日本刀詰め合わせ@彼岸島
[道具]基本的支給品、鞭と竹刀とその他SMセット(現地調達品)、吉良吉廣の写真@ジョジョの奇妙な冒険。
[思考]
基本:可愛い男の子の悶絶する顔が見たい。殺しはしないよ。おじさんは殺人鬼じゃないから。
0:情報交換をする。
1:殺し合いが進んでいるようなので、なるべく主催を倒すために行動する。
2:また会ったらラ・ピュセルを調教する。 元の世界で平野店長やタクヤさん(KBTIT)と共に調教したい。
3:あのウニ頭の少年(上条)も可愛い顔をしているので調教する。
4:気合を入れ直すためにひでを見つけたらひでを虐待する。
[備考]
※参戦時期はひでを虐待し終わって以降
※ラ・ピュセルを女装した少年だと思っています


【吉良吉鷹の写真@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]健康
[思考]
基本:息子(吉良吉影)の有利になるように動く。
0:情報交換をする。
1:眼前の承太郎が自分の知る承太郎かどうかを確かめる。もしも吉影の力になるのなら...?

46知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 02:09:14 ID:HdPfynu.0

【宮本明@彼岸島】
[状態]:雅への殺意、右頬に傷。
[装備]:ドラゴンころし@ベルセルク
[道具]: 不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針: 雅を殺す。
0:情報交換をする。
1:吸血鬼を根絶やしにする。
2:ホル・ホース及びまどかとしばらく同行する(雅との戦いに巻き込むつもりはない)
3:邪魔をする者には容赦はしない。
4:隊長...まさかな


※参戦時期は47日間13巻付近です。
※シェンホアと情報交換をしました。



【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、精神的疲労(大)、失禁
[装備]: 女吸血鬼の服@現地調達品、破れかけた見滝原中学の制服
[道具]: 不明支給品0〜1、小黒妙子の写真@ミスミソウ
[思考・行動]
基本方針: みんなと会いたい。
0:情報交換をする。
1:ほむらとの合流。さやか、杏子が生きているのを確かめたい。
2:明とホル・ホースと同行する。
3:あの子(ロシーヌ)の雰囲気、どこかで...?
4:マミさん...仁美ちゃん...そんな...


※参戦時期はTVアニメ本編11話でほむらから時間遡航のことを聞いた後です。
※吸血鬼感染はしませんでした。
※シェンホアと情報交換をしました。


【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労 (大)、精神的疲労(絶大)、失禁、額に軽傷、スズメバチの毒液による腫れ
[装備]:吸血鬼の服@現地調達品、いつもの服、ポッチャマ...のヌイグルミ@真夏の夜の淫夢派生シリーズ、
[道具]:不明支給品0〜1、大きめの葉っぱ×5
[思考・行動]
基本方針: 脱出でも優勝でもいいのでどうにかして生き残る。できれば女は殺したくない。
0:嬢交換をする。
1:しばらく明を『相棒』とする。
2:DIOには絶対に会いたくない。
3:まどかを保護することによっていまの自分が無害であることをアピールする(承太郎対策)。
4:そういやこいつら、スタンドが見えているのか
5:DIOと承太郎...いざという時にはどっちにつきゃあいいんだ!?


※参戦時期はDIOの暗殺失敗後です。
※赤い首輪以外にも危険な奴はいると認識を改めました。
※吸血鬼感染はしませんでした。
※シェンホアと情報交換をしました。
※DIOの能力を知りました。

47知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 02:09:36 ID:HdPfynu.0
【西丈一郎@GANTZ】
[状態]:健康
[装備]:ポンの兄の拳銃@彼岸島
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:赤首輪の参加者を狙い景品を稼ぐ。装備が充実したら赤首輪の参加者を殺すなり優勝なりして脱出する。邪魔する者には容赦しない。
0:嬢交換をする。
1:相場は利用できるだけ利用したいが、戦力にあてができれば捨てる。
2:いまは準備を整える。
3:岡が死んだので使えそうな手ごまを探したい。現状の有力候補は承太郎、明、葛城(虐待おじさん)。


※参戦時期は大阪篇終了後。
※承太郎、春花、朧と情報交換をしました。


【相場晄@ミスミソウ】
[状態]:右肩にダメージ、承太郎への嫉妬と春花がなびく可能性への不安
[装備]:真宮愛用のボウガン@ミスミソウ ボウガンの矢×1
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針: 春花と共に赤い首輪の参加者を殺し生還する。もしも赤い首輪の参加者が全滅すれば共に生還する方法を探し、それでもダメなら春花を優勝させて彼女を救ったのは自分であることを思い出に残させる。
0:情報交換をする。
1:春花を守れるのは自分だけであり他にはなにもいらないことを証明する。そのために、祥子を見つけたら春花にバレないように始末しておきたい。
2:赤い首輪の参加者には要警戒且つ殺して春花の居場所を聞き出したい。
3:俺と春花が生き残る上で邪魔な参加者は殺す。
4:青い髪の女(美樹さやか)には要注意。悪評を流して追い詰めることも考える。
5:カメラがあれば欲しい。
6:西はなにかこの殺し合いについて関与しているのか?
7:空条承太郎と鹿目まどかは始末したい。最低でも、春花とは切り離したい。


※参戦時期は18話付近です。
※承太郎、春花、朧と情報交換をしました。

48知らぬが仏 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 02:10:06 ID:HdPfynu.0


【朧@バジリスク〜甲賀忍法帳〜】
[状態]:腹部にダメージ(中)、疲労(中〜大)
[装備]:リアカー(現地調達品)
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:弦之介様と会いたい
0:情報交換をする。
1:脱出の協力者を探す。
2:陽炎には要注意。天膳にも心は許さない。
3:天膳が呼ばれたが...正直信じられない。


※参戦時期は原作三巻、霞刑部死亡付近。
※春花、承太郎と情報を交換しました。
※天膳はまた蘇るのだろうと思っています。
※西、相場と情報交換をしました。



【野崎春花@ミスミソウ】
[状態]:右頬に切り傷・右耳損傷・出血(中)、頭部から消毒の匂い
[装備]:ベヘリット@ベルセルク
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:祥子を救い、佐山流美を殺す。その後に自分も死ぬ。
0:情報交換をする。
1:祥子、相葉の安全を確保する。
2:小黒さんは保留。



※参戦時期は原作14話で相場と口付けを交わした後。
※朧の眼が破幻の瞳であることを知りました。
※朧、承太郎と情報を交換しました。
※西、相場と情報交換をしました。


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ、出血(止血処置済み)、帽子から消毒の匂い
[装備]:
[道具]: 不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを破壊する。主催者の言いなりにならない。
0:情報交換をする。
1:ある程度休憩をとったら行動を開始する。
2:DIO・先程の化け物(ゾッド)には要警戒。
3:相場には警戒。西にも要注意。
4:ホル・ホースは監視する。

※参戦時期は三部終了後。
※朧の眼が破幻の瞳であることを知りました。
※春花、朧と情報を交換しました。
※西、相場と情報交換をしました。

49 ◆ZbV3TMNKJw:2019/04/11(木) 02:10:36 ID:HdPfynu.0
投下終了です

50名無しさん:2019/04/11(木) 05:35:18 ID:2fI49EJ60
投下乙です。掘る・ホースは承ォォン!太郎との因縁を一応は清算できてラッキーですね。写真の親父も含めた三者で時系列の違いが大きく出てますねコォレハ‥‥
病院組はまどかや朧の癒し組に対して西や相場みたいなやべー奴もいて全然シリアスなのに野獣とおじさんのやり取りで腹筋が崩壊しました。目力先輩は卑怯

51名無しさん:2019/04/11(木) 14:17:12 ID:yv0jc3Qs0
投下乙です
ホル・ホースや写真親父と承りが組む時が来たのか?とはいえ明さんと承太郎という対主催最強クラスの二人が出会えたのは頼もしい。
前半は緊張感溢れる展開なのに後半はBB劇場みたいなギャグ空間になって草。

52 ◆ZbV3TMNKJw:2019/06/06(木) 22:30:48 ID:YngMiVUM0
投下します

53アルピニスタ ◆ZbV3TMNKJw:2019/06/06(木) 22:32:29 ID:YngMiVUM0
メキリ。

雅の拳がクラムベリーの頬を捉え、クラムベリーの蹴りが雅の腹部を捉える。
互いの威力に互いの身体が弾かれ、地を舐める。

先に体勢を立て直したクラムベリーが、宙回しながら足を突き出し、断頭台の如く落下し雅の頭を潰さんとする。

ぐしゃり。

雅の目が潰れ、血が撒き散らされ、脳天が地面に転がる。
瞬間、雅の下半身が跳ね、両足でクラムベリーの首を締め上げ、地面に叩きつけた。

「ごっ」

多少吐血するも、しかしクラムベリーは地面に掌底を打ち、その反動で立ち上がる。
そして雅の両足を力で強引に引き剥がし、遠くへと投げ捨てた。

回転する中で、雅は両掌に握り締めていた石を投擲。
雅を投げた直後のクラムベリーに防ぐ手は無し。
頭部を逸らすもかわし切れず、額を掠めた小石は彼女の皮膚を裂き血を滲ませた。

「ハハハ、楽しませてくれるじゃないかクラムベリー!」

ウネウネと肉片が蠢き、破壊された筈の頭部が復活していく雅は、重傷を負ったと思えないほどに笑みを浮かべ賞賛した。


対するクラムベリーも笑みを浮かべる。
使命も何もない、ただの力試し。それが楽しくて仕方ない。
それほどまでに雅は強い。

互いの戦闘欲求が、力試しの範疇を超えつつあるのを自覚しつつも、二人は笑いあい、歯止めがきかなくなりつつある。

狂人の宴は、まだ終わりそうにない。

54アルピニスタ ◆ZbV3TMNKJw:2019/06/06(木) 22:33:08 ID:YngMiVUM0




「―――あたしはあんたとは行けない。あたしは守りたいものを守る為に戦う」

美樹さやかはそう結論を述べた。

マミが『人間』に裏切られたと言うのならそれは許せないことだ。
仁美を殺した相場共々、見つけることができれば、殺すことも考えている。
けれど、まどかや仁美も『人間』だ。
さやかに救いの手を差し伸べてくれたのもまた『人間』なのだ。
だから、さやかは人間そのものを敵視することは出来なかった。

まどかを助ける。彼女のような存在を犠牲にしない。
復讐以上に、それが今のさやかの生きる理由だった。

そんなさやかの答えを聞いた杏子は、ふっと口元を緩めた。

「そうか、それがあんたの答えなんだな」
「...ごめん、杏子」
「あんたが決めたことに口出しするつもりはないさ。あんたはあんたの道を進めばいい」

微笑む杏子に、さやかはいつになく優し気な印象を受けた。
自分は杏子の誘いを蹴ったというのに。
マミの仇よりも友達を優先すると宣言したのに。
かつての勧誘のように、杏子は苛立ちも敵意も向けてこなかった。

そんな彼女にさやかは後ろめたさを感じ、思わず目を伏せかけてしまう。

「だからあんたはここで死ね」

だからさやかは全身を駆け抜けた激痛と言い放たれた言葉の意味が解らないまま吹き飛ばされてしまった。

木に打ち付けられ、激痛による眩暈でふらふらと立ち上がり、さやかが目にしたのは、槍を多節根に変化させ手で弄ぶ杏子の姿だった。

55アルピニスタ ◆ZbV3TMNKJw:2019/06/06(木) 22:33:33 ID:YngMiVUM0

「きょう...こ...?」
「なに驚いてんのさ。あんたが自分で言い出したことじゃないか」
「あたし...そんなつもりじゃ...」

さやかは確かに杏子と共に行けないと言った。
けれど、彼女がまどかを狙わない以上、敵対するつもりはなかった。
彼女と剣を交えるつもりは毛頭なかった。

杏子は舌打ちと共にさやかを木に叩き付け、右手で首を締め上げながら囁いた。

「あたしのまどかを殺すつもりはないって言葉を信じたか?馬鹿が。あんたが守る為に戦うなら、あたしはあんたの敵だろうが。
敵の言葉をあっさり信じるな。本当に護る気あるのかあんたは」
「が...ぁ...」

首を圧迫する力が強くなっていく。さやかの手が杏子の手首を抑えるも、気休めにもならない。
さやかの口から唾液が漏れ出しはじめる。
このままでは窒息するより早く首の骨が折れるだろう。

「あんたみたいなのがこっちに来なくてよかったよ。...じゃあな、正義の味方」
(きょう...)

呼吸とは力だ。呼吸を遮られ続ければ、魔法少女とて力を発揮することはできない。
さやかの身体から力が抜けていく。杏子の手首を掴んでいたさやかの手も、ぶらりと垂れ下がった。

「......」

いま己の掌で力尽きようとするさやかの姿に杏子は目を細め、最後のトドメとばかりに力を込めた。

「っ!」

瞬間、爪先に走る激痛。
痛みの出所に視線を向ければ、そこにあったのは小さなサーベルの刀身。
さやかの手に握られているのは、刀身のない柄。
さやかの創り出すサーベルには仕掛けがある。柄のトリガーを引けば、刀身が射出されるという単純な仕掛けが。
そして、トリガーを引くだけなら力もさして必要ではなかった。

痛みで力が緩んだ瞬間を狙い、さやかは右ひざで杏子の腹部を蹴り上げる。
杏子は瞬間的に左手を挟み込みダメージを軽減。
さやかは全力で喉にかけられた腕を振り払い、右方に跳躍し距離をとる。
そのまま休む間もなく足元に魔方陣を展開し、サーベルを精製し直し、高速で杏子へと斬りかかる。

振り下ろされる刃に、杏子も槍で迎え撃つ。

「ふん、ようやくやる気になったか」

槍を振るい、さやかを弾き飛ばせば、さやかは再び高速で駆ける。
その逆にさやかが刃を振り切れば杏子は弾かれ、彼女もまた駆ける。
あるいは、二人の力が拮抗するように鍔迫り合い。
そんな金属音が鳴り響き、剣戟は更に苛烈になっていく。

56アルピニスタ ◆ZbV3TMNKJw:2019/06/06(木) 22:33:53 ID:YngMiVUM0

「あのバカ...なんでこんなことになっちまったんだよ」

そんなさやかたちを遠巻きに見つめながら隊長は呟く。
せっかくさやかも自分も知り合いに会えたというのに、いま繰り広げられているのは闘争だ。
誰も脱出の話し合いの席にすらついていない。
雅達の方は楽しむだけ楽しめば気が済むだろうが、さやか達は違う。
あれは本気で斬りあっている。
あのままではどちらかが死ぬまで止まらないだろう。

「そうだ...あいつが悪ィんだ。嘘でも協力するって言っておけばこんなことには...」

雅とクラムベリーはともかく、さやか達に関しては避けられた戦いだ。
さやかが嘘でも杏子たちに協力すると答えればそれだけで済んだ話だ。
なのにさやかは護ると断言してしまった。本人に敵対する意思がなくとも、そうなる可能性は考えられたはずなのに。

「...ワシはもう知らんぞ。協力もここまでじゃ」

そうだ。よくよく考えれば、さやかは吸血鬼ではない上に明以上に付き合いが短い。
そりゃあ確かにワイアルドから護ってくれたことや傷を治してくれたことには感謝している。
けれどこちらとしてもワイアルドを突き落としたりさやかと共闘したりとそれに見合うだけの働きはしたつもりだ。
だからこれ以上彼女に構う義理はない。さやかも隊長に助けを求めない以上、そこは割り切っているだろう。

「ワシは沈む船には乗らん。...恨むんじゃねぇぞ、さやか」

隊長は、ぷいとそっぽを向いて、雅たちへと視線を向けた。

57アルピニスタ ◆ZbV3TMNKJw:2019/06/06(木) 22:34:16 ID:YngMiVUM0




ギリ、ギリ、ギリと槍とサーベルの鍔迫り合いの最中、杏子とさやかの視線が交わる。

「こ、のぉ!」
「ふんっ、さっきまでよりはだいぶマシな目になったじゃん」

さやかが息を荒げているのに対し、杏子の疲労は目に見えて少ない。
それは実力の差。
まだ新米の魔法少女であるさやかとベテランで経験豊富な魔法少女である杏子との、一朝一夕では埋められない確かな差だ。
それはさやかもわかっている。
けれど彼女は剣を振るうしかなかった。

それは杏子が戦いを仕掛けてきたから、というだけではない。
たとえ嘘でも、杏子たちと組むことはできなかった。

(だって、それはまどかと仁美への裏切りになるから。あたしはもう、嘘でもあの子達を裏切らない!)

もはや理屈を超えたただの意地だ。その意地が、さやかの脚を前へと動かす。
抜け殻である身体に力を宿す。

「ッ」

さやかの執念が影響したのか、杏子の身体が次第に押されていき、槍にも皹が入り始める。


「負ける...もんかあああああ!!」

吼える。ただがむしゃらに。
負けちゃいけない。あの子の為に。自分の為に。

さやかの雄たけびと同時、槍が砕け、杏子の身体もその衝撃で大きく仰け反った。

58アルピニスタ ◆ZbV3TMNKJw:2019/06/06(木) 22:34:41 ID:YngMiVUM0

「はああああああああ!!!」

トドメを刺す。さやかのサーベルが突き出され、杏子の身体に到達する寸前。
さやかは見た。杏子が笑っているのを。
そして、さやかの左右のこめかみに、微かにタイミングのずれた衝撃が走った。

「――――――ッ」

痛みに叫ぶ間もなく、全身を打ち付ける強い衝撃が幾度も襲う。
眩暈の中さやかが見たのは、割れたはずの槍の柄が多節根に変化しており、その柄が同時に襲い掛かってきていたこと。

それを理解したところでもう遅い。
さやかの身体は宙を舞い、背後に流れていた川に着水した。

「......」

杏子は水面を見つめる。
ただただジィッと。なにかを期待するかのように。

それも数分が経過したところで、ぷいとそっぽを向いた。

「よろしかったのですか?」

そう杏子に問いかけたのはクラムベリーだ。
血に塗れ、至る所に傷を作りながらもその顔は充足としたものを浮かべていた。

59アルピニスタ ◆ZbV3TMNKJw:2019/06/06(木) 22:35:08 ID:YngMiVUM0

「構いやしないさ。死んだならそれまでだし、生きてるならまた現れるだろうしな。あんたの方はもういいのか」
「ああ。もう充分だ。存分に愉しませてもらったよ」

ぬっ、と二人の会話に割って入ってきた雅もまた、血に塗れながらもクラムベリー同様の笑みを浮かべていた。

「思ったよりも早く終わったな」
「なに。可愛い部下にせがまれたのでな。奴の顔を立ててやったまでのことだ。そういうわけでテストは終わりだ。お前達には価値があると認めよう」
「では、私達はこれより同盟を組み、人間を排除するまでは互いに手を出さない...それで構いませんね?」
「それで構わんよ。そっちの赤い娘はどう思うかはわからんがな」
「別にあたしもそれでいいさ。利用できるものは利用する主義なんでね。あんたと一緒に行動するのは御免だけど」
「ハッ。嫌われたものだな」

雅はくるり、と踵を返し杏子たちに背を向けた。
雅の気配を察知したひでは昼寝から目覚め、スキップしながら雅の後を追った。

「雅」

クラムベリーの呼びかけに雅はピタリと足を止めた。

「あなたと本気で戦える時を心待ちにしております」
「ハッ。その時まで精精生き残ることだ」

二人は心底愉快気に笑みを交わし合い、クラムベリーもまた雅へと背を向け歩みを進め始めた。

「しかし佐倉杏子。あなたも存外甘いところがありますね」
「は?」
「先ほどの戦い、本気ではなかったでしょう」

クラムベリーの指摘に、杏子はムッとした表情を作る。

「まるであたしが知り合いには手が出せません...って言い草だな」
「実際、どうなんですか?」
「殺す気はあったさ。ただ、あいつ相手に全力を出すのはアホらしいとおもっただけだ」
「...そういうことにしておきましょうか」

クラムベリーに並び、杏子もまた歩みを進める。

(さやか。あたしとあんたは水と油だ。あんたとはやっぱり隣よりもこの立ち居地がちょうどいい。もし生きてまた現れたら教えてやるよ。『誰かの為に』なんて無意味で無様を晒すだけだってな)

もう、杏子は振り向かなかった。

60アルピニスタ ◆ZbV3TMNKJw:2019/06/06(木) 22:35:27 ID:YngMiVUM0

【G-6/一日目/朝】


【ひで@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
[状態]:疲労(大)、全身打撲(再生中)、出血(極大、再生中)、イカ臭い。
[装備]:?
[道具]:三叉槍
[思考・行動]
基本方針:虐待してくる相手は殺す
0:雅についていく
1:このおじさんおかしい...(小声)、でも好き



【雅@彼岸島】
[状態]:身体の至る箇所の欠損(再生中)、頭部出血(再生中)、疲労(大)、弾丸が幾つか身体の中に入っている。
[装備]:鉄製ブーメラン
[道具]:不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:この状況を愉しむ。
0:バトルロワイアルのスリルを愉しむ
1:主催者に興味はあるが、もしも会えたら奴等から主催の権利を奪い殺し合いに放り込んで楽しみたい。
2:明が自分の目の前に現れるまでは脱出(他の赤首輪の参加者の殺害も含む)しない
3:他の赤首輪の参加者に興味。だが、自分が一番上であることは証明しておきたい。
4:あのMURとかいう男はよくわからん。
5:丸太の剣士(ガッツ)、暁美ほむらに期待。楽しませて欲しい。

※参戦時期は日本本土出発前です。
※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。
※魔法少女・キュゥべえの情報を共有しました
※首輪が爆発すれば死ぬことを認識しました。
※ぬらりひょんの残骸を捕食しましたが、身体に変化はありません。


【森の音楽家クラムベリー@魔法少女育成計画】
[状態]疲労(中〜大)、全身にかすり傷、全身及び腹部にダメージ(中〜大) 、出血(中)、両掌に水膨れ、静かな怒り、右拳損傷(戦いにあまり支障なし)
[装備]なし
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜2 巴マミの赤首輪(使用済み)
[行動方針]
基本方針:赤い首輪持ち以外を一人残らず殺す。
1:杏子と組む。共に行動するかは状況によって考える。
2:一応赤い首輪持ちとの交戦は控える。が、状況によっては容赦なく交戦する。
3:ハードゴア・アリスは惜しかったか…
4:巴マミの顔を忘れない。
5:佐山流美は見つけ次第殺す。




【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(中)、雅への不快感
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品0〜1、鮫島精二のホッケーマスク@彼岸島
[思考・行動]
基本方針:どんな手段を使ってでも生き残る。そのためには殺人も厭わない。
1:クラムベリーと協定し『人間』を狩る。共に行動するかは状況によって考える。
2:鹿目まどか、暁美ほむらを探すつもりはない。
3:さやかは敵と認定する


※TVアニメ7話近辺の参戦。魔法少女の魂がソウルジェムにあることは認識済み。
※魔法少女の魔女化を知りましたが精神的には影響はありません。

61アルピニスタ ◆ZbV3TMNKJw:2019/06/06(木) 22:35:56 ID:YngMiVUM0

「ぷはっ、ハァッ」

川から引き上げられたさやかは、空気を必死に取り込んだ。
吸うことで逆に肺が締め付けられるが吸わないわけにもいかない。

呼吸困難に苦しみながらのたうちまわり、数十秒してようやくおさまった。

落ち着きを取り戻したさやかは、チラと横目で見る。

「ハァー、ハァー、人間引っ張って泳ぐのは流石にキツイ...」

隊長。
彼がさやかを引っ張りながら川を泳いだお陰で、さやかは杏子たちから離れることができたのだ。

「隊長...あんたなんで」
「勝手に連れてきたのは悪いと思うが、あそこは逃げなきゃ赤毛の奴に殺されてただろ」
「いやそうじゃなくて、あの雅ってヤツと会いたかったんじゃないの?」

隊長は雅に会うなり偽りなく歓喜していた。
さやかは雅のことが苦手だったが、隊長が望むのならと口を出さずにいた。
その為、彼とはここでお別れになると思っていた。
その隊長が、雅と別れて助けに来てくれたのだから困惑するなと言う方が無理がある。

「し...仕方ねェだろ!情が移っちまったんだよ!」
「へ?」
「そりゃ俺達はまだ会って数時間だけどよ、一緒に命賭けたせいで生きてて欲しくなっちまったんだよ!お前が悪ィんだぞ!素直に協力するって言わねェから!」


隊長の叫びはシンプルだった。
裏もなにもありゃしない。
単に自分を心配してここまで連れてきてくれたのだ。

その事実に、さやかは嬉しく思わず頬を緩ませた。

「...隊長ってさ、ほんとお人よしだね」
「なんじゃバカにしてるのか?」
「ううん。感謝してる。心配してくれてありがとね」
「フフン、ようやく俺の有り難味に気がつけたか。さあ、では背負ってもらおうか!」
「はいはい」

さやかが隊長の入った鞄を背負うと、彼の顔が綻んだ。

「でも本当によかったの?隊長まであの雅ってヤツと敵対することになるけど」
「ん?雅様と敵対はしとらんぞ。あの方たちの戦いを止めるついでにお前と一緒に行っていいかお伺いを立てたら快く承諾してくれた。
雅様は寛大なお方じゃ。俺と明の仲を知っていても咎めることすらないからな」

さやかは、雅を部下思いな一面もあるのかなと認識を改めようとしたが、しかしテストと称して遊ばれた経緯を思い返せばやはり好印象には結びつかなかった。

62アルピニスタ ◆ZbV3TMNKJw:2019/06/06(木) 22:36:17 ID:YngMiVUM0

杏子たちのいるであろう方角へと振り返る。

(杏子。あたし、以前に言ったよね。あたしは自分のやり方で戦い続けるし、邪魔になるなら殺しに来ればいいって。
マミさんのことで怒ってるあんたになら殺されてもたぶん恨まないけど、それでもあたしはあんたに負けないよ)

杏子への不信感は既に薄くなっている。
が、敵対するしかないのならもう容赦はできない。

(あんたはもうあたしの敵だ。もしも邪魔をするつもりなら今度こそ叩き切ってやる)

少しでも出会いが違えば、あるいは出会った時間が違えば、もしかしたら友達になれたのかもしれない。
けれどそんな未来はもうこない。道を違えることを決めてしまったから。
そう選択したのは自分だから。


だから、美樹さやかはもう振り返らない。

【G-5/一日目/朝】


【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)、精神的疲労(絶大)、仁美を喪った悲しみ(絶大)、相場晄への殺意、モズグスへの警戒心(中)
[装備]:ソウルジェム(9割浄化)、ボウガンの矢
[道具]:使用済みのグリーフシード×1@魔法少女まどか☆マギカ(仁美の支給品)、不明支給品1〜2
[思考・行動]
基本方針:危険人物を排除する。
1:護るために戦う
2:仁美を殺した少年(相場晄)は見つけたら必ず殺す。
3:マミさん...
4:杏子を味方とは思わない

※参戦時期は本編8話でホスト達の会話を聞いた後。
※スノーホワイトが自分とは別の種の魔法少女であることを聞きました。
※朧・陽炎の名前を聞きました。
※マミが死んだ理由をなんとなく察しました。

【隊長@彼岸島】
[状態]:疲労(大)、出血(小)、全身にダメージ(大)、全身打撲(大)、頭部に火傷
[装備]:
[道具]:基本支給品、仁美の基本支給品、黒塗りの高級車(大破、運転使用不可)@真夏の夜の淫夢
[思考・行動]
基本方針:明を探す。
1:さやかは悪い奴ではなさそうなので放っておけない。
2:雅様と会えたので明とも会えたら嬉しい。


※参戦時期は最後の47日間14巻付近です。
※朧・陽炎の名前を聞きました。

63 ◆ZbV3TMNKJw:2019/06/06(木) 22:37:00 ID:YngMiVUM0
投下終了です

64名無しさん:2019/06/06(木) 23:55:51 ID:0eL1uT2A0
投下乙です
さやかと杏子は完全に決別したか。再戦の時は来るのだろうか
相変わらずのツンデレな隊長はやっぱり彼岸島のメインヒロインだってはっきり分かんだね

65 ◆ZbV3TMNKJw:2019/11/02(土) 00:28:16 ID:rT4vcn460
投下します

66汚れちまった悲しみに... ◆ZbV3TMNKJw:2019/11/02(土) 00:29:08 ID:rT4vcn460
どれほど泣いただろうか。
どれほど無力にうちのめされただろうか。

男の躯に縋りつき、少女―――小雪はただただ喚き続けた。

返事などない。わかっている。
それでも散っていった者たちの名前を呼ぶのは、呼ばずにはいられないのは理屈ではないのだ。

―――私のせいだ。私が、戦えなかったから。

己への自責と不甲斐なさと嫌悪感と、様々な悪感情が湧き上がってはまた増していく。

(リンゴォさんも、ゆうさくさんも私が戦っていれば死ぬことなんてなかった。私が戦ってさえいれば...)

リンゴォもゆうさくも、自分を助けるためにあのスズメバチと相対し、命を落とした。
もしも自分が戦っていれば、違う結末が待っていたかもしれない。

(...ここに来てからじゃない。私は護ってもらってばかりだった。ずっと...)

魔法少女に選ばれて、密かに夢見てた正義の味方みたいなことをして、魔法少女同士の理不尽なデスゲームに巻き込まれて...

そんな時、いつも隣にいてくれたのは、戦ってくれたのは、魔法少女ラ・ピュセル―――岸部颯太だった。
基本的に、魔法少女は互いの正体を知らない。
けれど、そんな中で、彼が『スノーホワイト』を小雪だとすぐに見抜いたのは驚いたし、なにより彼が魔法少女になっていることには更に驚いた。

互いに正体を明かしてから、魔法少女として活動する時にはいつも一緒にいてくれた。
ルーラ達に襲われた時も、戦えなかった自分に代わってその剣を振るってくれた。
そして―――自分の知らないところで死んでしまった。

ファヴは死因は事故だと言っていた気がするけれど、車ですら平然と止められ銃撃されても死ぬかも怪しい魔法少女がどんな事故で死ぬというのだろうか。
きっと、彼は誰かと戦って死んだに違いない。
小雪に内緒で、自分独りで。

67汚れちまった悲しみに... ◆ZbV3TMNKJw:2019/11/02(土) 00:29:41 ID:rT4vcn460

そして、そんな彼が殺し合いに巻き込まれているということは、再び彼が死ぬ可能性があるということ。
リンゴォやゆうさくのように動かぬ肉塊となってしまうということ。

「嫌...嫌だよそうちゃん」

死んで欲しくない。また会いたい。またお話したい。また一緒にいたい。
言い知れぬ不安が、恐怖が、彼女の脳髄を麻痺させていく。

会わなければいけない。彼を死なせない為に。今度こそは、自分が彼を護るために。
でないと、リンゴォやゆうさくに護って貰った意味が―――

「ぁ...」

思わず声が漏れた。
小雪の眼に入ったのは、男達の躯―――その片方の首に巻かれた赤色の首輪。

小雪の脳裏に、名簿と共に記載された条件が過ぎる。

【生還条件】
最後の一人になるまで殺し合うか、赤い首輪の参加者を殺せば、即ゲームクリア。ゲームから解放される。
赤い首輪の参加者が全滅した場合は、通常のロワのように優勝者は一人となる。
ちなみに、自分の意思で残留するかどうかを選ぶこともできる
その場合は、特典として本人の希望するある程度の要望を叶えてもらえる
例:参加者の詳細情報、強力な武器や装備の支給など

赤い首輪の参加者を殺せば、生還もしくは情報などの要望を叶えてもらえる。

小雪自身はゆうさくを殺していない。けれど、主催側はどうやって殺した者を判断するのか―――少し考えればわかる。

(ゆうさくさんの、首輪をもらう...)

首輪を貰うということは、即ち彼から首輪を外すということ。
どうやって?首輪を引きちぎる?魔法少女ならば可能だろう。だが、果たして壊れた首輪で要望を叶えてもらうことができるのだろうか。
解体するか?いや、機器に対してのロクな技術も知識も持っていない彼女が徒に触れればどうなるかは明白だ。
首輪を傷つけずに外す方法。それは―――

「首、を」

ドクン、と小雪の心臓が跳ねた。

68汚れちまった悲しみに... ◆ZbV3TMNKJw:2019/11/02(土) 00:30:13 ID:rT4vcn460

ハッ、ハッ、と小さく息が漏れる。

自分はいま恐ろしいことを考えている。

颯太に会うために、ゆうさくの首を千切ろうなどという、残酷な考えだ。

(嫌...そんなことしたくない...!)

身体が震え、生理的嫌悪感が腕を痺れさせる。
できるはずもない。
出会ってまだ数時間とはいえ、ずっと励まし続け、支えてくれ、護るために命を張った彼の亡骸を辱めるようなことを。
そう。できるなら、このまま埋葬するべきなのだ。けれど...

(でも...手がかりが無いとそうちゃんを探すなんて...)

この会場は決して狭いとは言えない。
一周するだけでも最低半日はかかるかもしれない。
そんな中でなんの情報もなく個人を捜し当てられる確立が果たしてどれほどのものか。

(私は...)

滲む視界で、ゆうさくの亡骸を見つめる。
選ばなければならないのだ。まだ生きているかもしれない颯太か、既に死んでいるゆうさくか。

小雪はゆっくりと立ち上がり、その歩を進める。
足に鉄枷を嵌められたかのように重い。一歩一歩が、容赦なく彼女の心を削っていく。
そして小雪は膝からへたり込んだ。ゆうさくの亡骸、その厚い胸板の上に。


彼女は選んだ。
既に死んでしまったゆうさくではなく、まだ生きているかもしれない颯太を。

変身し、ゆうさくの首にそっと手をかける。

(ごめんなさい...)

心の中で何度も何度も謝罪する。
それでも罪悪感なんて消せやしない。
きっと、生きている限りこの感情は引きづり続ける。

唇を噛み締め、指に力を入れる。

そして―――



『...恐いときは恐いっていえばいい』
『子供は大人に頼ればいいんだ』
『乳首感じるんでしたよね?』
『あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ・ああああ↑↑↑』



「だめ...できない...」

69汚れちまった悲しみに... ◆ZbV3TMNKJw:2019/11/02(土) 00:32:17 ID:rT4vcn460

ゆうさくの向けてくれた笑顔が、自分を気遣ってくれた言葉が脳裏をよぎった途端、彼女の指から力が抜けた。
駄目だった。
いくら魔法少女になったとはいえ、彼女の本質は平凡な日常で生きてきた夢見る少女だ。
頭の中では決意したつもりでも、それがすぐに実行できるほど彼女は強くない。
きっと、近い将来にはそうなったかもしれないが、しかしいまの彼女には無理だった。

自分と関わった人に傷ついてほしくない。
そんな普遍的な彼女の性質が、決意ひとつで変われるはずもなかった。








ふらふら、ふらふらと覚束ない足取りで、小雪は進む。

「待ってて...リンゴォさん、ゆうさくさん」

倒れ伏していた男たちの遺体は、小雪のデイバックに収納されていた。

このデイバックが人が入れるような不思議なデイバックでよかったと心底思う。

おかげで、これ以上二人を傷つけずに運ぶことができるのだから。

「こんなところじゃない...お日様のあたるような、もっと気持ちいいところに連れていきますから...」

詭弁だ。

どこに埋葬しようが死体は喜ばないし不満も漏らさない。いま彼女が背負っているのは既に命を失った抜け殻に過ぎないのだから。

わかっている。彼女もそんなことはわかっているのだ。

けれど、現実から逃れるように、理想の果てにある清く正しく美しい姿に依存するように。

勝手な約束をとりつけ、償いという言い訳をつくり、己の悲しみを紛らわそうとしてしまう。

ふらふら、ふらふら。

少女は行く。あてもなく、しかし止まることなく亡霊のように。

その歩みが正されるかは、いまはまだわからない。


【F-3/一日目/朝】

【スノーホワイト(姫河小雪)@魔法少女育成計画】
【状態】死への恐怖(絶大)、ゆうさくやリンゴォを喪った悲しみ(極大)
【道具】基本支給品、ランダム支給品1、発煙弾×1(使用済み)
【行動方針】
基本:殺し合いなんてしたくない…
0:リンゴォとゆうさくの遺体をどこかいい場所に埋葬したい。
1:同じ魔法少女(クラムベリー、ハードゴアリス、ラ・ピュセル)と合流したい
2:そうちゃん…
※参戦時期はアニメ版第8話の後から
※一方通行の声を聴きました。
※死への恐怖を刻まれました。
※変身が解かれている状況です。
※時間経過により、赤首輪殺害における権利を失いました。

70 ◆ZbV3TMNKJw:2019/11/02(土) 00:32:50 ID:rT4vcn460
投下終了です

71名無しさん:2019/11/02(土) 03:28:44 ID:OdNAn43o0
投下乙です
疲弊してるスノーホワイトがかわいそうなのに、ゆうさくの回想の言葉が淫夢語録なせいで草生える

72名無しさん:2019/12/13(金) 18:59:24 ID:UWVkFZok0
投下乙です
対応者のままではあるけどスノーホワイトの黄金の精神が濁らなくてよかった

73 ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/11(月) 21:59:34 ID:oRx9MZT20
久しぶりに投下します

74教祖爆発!私がやらねば誰がやる! ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/11(月) 22:00:12 ID:oRx9MZT20
放送の声が木霊する。

しかし、彼らは死者を意に介さない。

彼らにとって大切な者などこの会場には存在しないのだから。

「とおりゃあ!」

気合一徹、ワイアルドの金属バットが振り下ろされる。
対するモズグスは、防御の構えをとることもなくそれを頭部で受け止める。
無傷。モズグスの岩石と化した頭部にはかすり傷すらもつけられない。

「ほあああああああ!!」

一撃で足りぬのならば、と、ワイアルドは己の身体を独楽のように回しながらバットを振るう。
絶え間なく振るわれる凶器は、モズグスに反撃の目を許さない。
ダメージこそは微小ながらも、その腕力そのものは殺しきれず、モズグスの身体は徐々に後退していく。

「新必殺技!ワイアルドトルネード!!」

最大にまで高まった遠心力のまま叩きつけられるワイアルドの腕が、モズグスの喉へと極まる。
そのパワーとスピードから放たれるラリアットはモズグスの岩石の身体にすら衝撃を通す。

「ヌゥッ!」

しかし、痛みと向き合い行く候。モズグスはこれしきの痛みで怯む教祖ではなし。

「神・千手砲(ゴッド・センジュカノン)!!」

翼が岩石の拳に変化する。
暴風のように振るわれる岩石の拳にさしものワイアルドも怖気づく。
対処できる速さではある。が、しかし、一撃でも受ければただでは済まないだろう。
ビビッて防御に入るのも癪、反撃も割に合わないとなれば避けるのみ。
しかし、周囲は炎に巻かれているため派手な動きもとりにくい。

75教祖爆発!私がやらねば誰がやる! ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/11(月) 22:00:39 ID:oRx9MZT20
(メンドくせえなぁ〜、俺はこういう戦いは嫌いなんだよ)

ワイアルドの好きな戦いはあくまでも蹂躙であり、自分が気持ちよく戦えない戦などクソくらえである。

(それにコイツの身体...気のせいか、段々硬くなっていってねえか?)

ワイアルドの心配は杞憂ではなかった。
モズグスの身体は徐々に岩石に染まっていっている。それだけでなく、数多の戦場を経験しているワイアルドとは違い、モズグスは戦闘においてはまだ発展途上。
いわば未知数。成長の伸びしろを見ればワイアルドの才能を上回っている。

「こりゃワリに合わねえや」

そう呟き、ワイアルドはあっさりと踵を返し走り去っていく。
もともと、雑魚を相手に遊び余裕があればゾッドを殺す、程度の戦闘スタンスだ。
敗けるつもりはないがここで正面衝突し深手を負うようなリスクはとりたくない彼がここで走り去るのも当然のことだ。

「愚か者!私が罪人を逃がすとでも思うてか!!」

モズグスもまた叫び、走り出す。
普段ならば足の痛みで走れないが、岩石で象られた今ならそれも可能。
ましてや、なるべく炎を避けつつ走らなければならないワイアルドと、炎を突っ切ってでもとにかく彼を追えばいいモズグス。
その距離が縮まっていくのは必然といえよう。

こりゃたまらん、といわんばかりにワイアルドは眼前の教会へと駆けこんだ。

「ムムッ!」

教会。それはモズグスにも馴染みのある、神の声を授かる神聖な場所である。
よもやこんなところにも建っているとはわからないものだ。
そんな感慨に浸るも、なればこそ早急にあの不届きものを追い出さねばならない。

扉を破壊、するようなことはなく懇切丁寧に開き、一礼一拝と共に淑やかに足を踏み入れる。
立ち並ぶ長椅子や長机を検めるも、ワイアルドの姿は見えない。
どこに隠れたというのか...

カッ カッ カッ

足音をモズグスの耳はとらえ、出所へと振り返る。
階段だ。
ワイアルドは階段を登ったのだ。

76教祖爆発!私がやらねば誰がやる! ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/11(月) 22:01:02 ID:oRx9MZT20

「逃がさん...神に許しを請いなさい。そして、心を改めるのならば罪を受け入れ神の与えし試練を乗り越えなさい!」

ズン、ズン、と重厚な足音を立て、モズグスもまたワイアルドの後を追う。

「!」

降り注ぐ石造りの彫像を、モズグスはその石頭で破壊する。
足こそは一旦止まるものの、怪我はなくダメージもさほどない。

「味な真似を!」

一定の間隔を置き投げつけられる彫像や瓦礫などを砕き、徐々に距離を詰めていく。
やがて、さしかかる最上階への梯子。
それに手をかけのぼるも、モズグスの背中の巨大な石の拳が邪魔をし、出口から出られない。

「...神よ。お許しを」

拳で屋根を撃ち、穴を広げて登る。

「おーおー、ご苦労さんなこって」

巨大な十字架に背を預けたワイアルドが、モズグスを嗤って迎えた。
モズグスは、煽りに苛立つことも憤ることもなく、淡々と告げる。

「観念なさい...神のお膝元にて、邪教徒が幅を利かせられることはなし」
「へっ、使途の身体を手に入れてずいぶんご機嫌なことだな教祖様よ。いや実際、その硬さは大したもんだぜぇ」

言いながら、ワイアルドは己の胸当てを外し、デイバックへとしまい込む。
まだ抵抗の意思があるのか、とモズグスは身構え、気づく。
煙。ワイアルドの身体から、煙が漏れ出していた。

「だがなぁ。所詮てめぇは使途擬き。本物の使途様には勝てねえってこと、教えてやるぜ!」

ゴウッ。
ワイアルドの煙がモズグスの視界一帯を覆う。

「小癪な...このようなまやかしが私に通じるとでも」

炎を吐き周囲を纏めて攻撃しようとした矢先。彼の足元が、崩れ落ちた。

「ムオ!?」

モズグスの身体が浮遊感と共に宙に投げ出される。
視界から煙が遠ざかるのを認識し、彼は自分の足元が崩れ落ちたのを理解した。

この教会は屋根から地面まで直線の吹き抜けとなっている。
このまま落ちれば少なくないダメージを受けてしまう。だが、翼は石の腕に変わってしまったため飛ぶことはできない。
ならば壁にでも腕を突きさして落下を防ぐ。伸ばされた手は、しかし壁に届かず。
巨獣に変身したワイアルドの太く毛深く逞しい腕がモズグスを捉えていた。

77教祖爆発!私がやらねば誰がやる! ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/11(月) 22:01:32 ID:oRx9MZT20
「行かせるワケねーだろ...そらっ!」

ワイアルドの巨腕が振り下ろされ、モズグスを地面へと叩き落とす。
いかに岩石の如き頑丈さといえど、高所からの落下とワイアルドの剛腕による投げ飛ばしのダメージは防ぎきれない。
バァン、と一際大きい衝突音と共に地面と共にモズグスの身体が欠け、彼の吐血さえ隠れるほどの砂ぼこりが舞い上がった。
一方のワイアルドは、壁に腕を突きさし落下を防ぎ、使徒の姿を解くことで質量を減らすことで腕にかかる負担を軽くした。
これならば、飛び降りてダメージを負うようなことはなく、安全な場所まで壁を伝うことができる。

「ごっ...ごっ...」

モズグスは咳き込みながら、ふらふらと立ち上がり、しかし眩暈と共に倒れそうになる。
その身体がなにかに支えられた。
眩暈から回復した彼の視界に入るのは華奢な腕。その身を包む黒服と、不健康そうな眼の下の隈。

「おぉ...あなたでしたか。よくぞご無事で」

モズグスは彼女、ハードゴア・アリスが己を支えてくれたことを認識し柔らかにほほ笑んだ。

「他の方々は何処へ?」
「......」
「...そうですか。無事であればよいのですが」

アリスの反応でさやか達とは逸れたことを察し、モズグスは彼女たちの無事を祈る。
名前も知らぬ少女たちではあるが、罪人でなければ無事を願うのは当然のこと。
また再会し、共に神の示す職務を説いていきたいものだ。

「さて。あの罪人への刑を執行せねば。お嬢さん、しばし離れていなさい」
「......」

モズグスの呼びかけに答えず、自分を見つめるアリスに、モズグスは疑問符を浮かべる。
なぜ彼女は逃げないのか。なぜ自分を見つめているのか。

「...スノーホワイト」

ポツリ、とアリスの口から小さく漏れる。

「白い魔法少女...スノーホワイトを知りませんか?」

78教祖爆発!私がやらねば誰がやる! ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/11(月) 22:02:04 ID:oRx9MZT20
問いかけられたのは、一人の少女の名前だった。

「スノーホワイト...白い魔法少女...?」

モズグスは、彼女の探し人を、己の記憶に照会するために呟かれた名前を反芻する。

「白い魔法少女...白い...」

その特徴に当てはまる者を探し出す為に、もう一度。

「魔法少女...魔法...少女...」

その反芻により、彼は解答を得た。

「魔女...!」

彼にとって、災厄を齎す悲劇の種を。

「魔女!魔女!まあじょぉ!!許すまあじ!!」

ビキビキと顔面の至る箇所に青筋が走り、モズグスの叫びが教会に木霊する。
魔女、それは彼にとって忌むべき存在、邪教徒の象徴である。
神々の齎した教典にも語り継がれており、現に彼が連れてこられる前も、魔女は異形の怪物を塔に放った。
スノーホワイトとやらがあの魔女と同一のものかはわからぬが、もしもあのような事態を起こせる可能性を秘めた者ならばやはり断罪すべきである。

「やはりこの島には異教徒が蔓延っておるか!!いいでしょう、私は何物の挑戦も受け付けます。かかってきなさぁい!!」

彼の信仰はただ己の保身や安全を保証するためのものではない。
浄も不浄も、神の要求であればその身を捧げる覚悟で答え、やり遂げる信念である。
神が異教徒を滅ぼせと言えば、己が如何な状況に陥ろうとも疑わず遂行する。
盲目的なほどのそれこそが、彼の信仰の強さであり、使徒擬きでありながら、それに劣らぬ強さを発揮できる礎になっている。

だからこそ。

「...させない」

彼は不覚をとることになる。

前方からの不意打ちに反応する間もなく、ドズリ、と、彼の左胸を細腕が貫いた。


岩石染みた彼の身体を貫くのは、使徒といえども困難である。
ならば、その頑強さを超える力があればいい。

魔法少女のただでさえ強力な力に、超常的な力を齎すなにかが加わればそれも可能である。

「がふっ...不覚」

モズグスの口から血が零れる。
スノーホワイトの名前を口にした時から、真っ先に疑うべきは、アリスの立ち位置だった。
彼女が魔女を探しているのはなぜか。なぜ魔法少女などという遠回しな言い方をしたのか。
だが、彼はそれに気づけなかった。
邪教徒がその名の知られた『血の教典のモズグス』に存在を知られるリスクを冒してまで、あんなにも平静に魔女の存在を訪ねるはずがない。
皮肉にも、彼の強さの証である盲目的な信仰こそが、アリスへの疑念を遠ざけてしまったのだ。

「よもや...私が見誤るとは...神よ、今より御許に参ります」

モズグスは、己の体内で心臓が握りつぶされるのを実感し、死を悟った。

「しかし」

だが、それで彼の信仰が終わることはない。
『信仰とは死ぬことと見つけたり』。
そんな彼が、己の命が尽きる程度で、神の意思に背くことはない。

「せめて、この神敵を道連れに、我、最期の命の炎で邪悪を焼き尽くさん!!」

モズグスの口元に炎が溜め込まれていく。
察したアリスが、彼の胸から腕を引き抜こうとするも、しかし胸の筋肉と掴まれた両腕に阻まれる。

「ゴォォォォォォォッド!!!ブレェェェェェェェェェェス!!!!!」

吐き出された炎が、モズグスとアリスを包み、椅子や壁に燃え移り、瞬く間に教会は浄化の炎に包まれた。

79教祖爆発!私がやらねば誰がやる! ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/11(月) 22:02:37 ID:oRx9MZT20




「ッア―――ッ、エライ目こいたぜたっくよぉ!」

身体のところどころに焦げ目がついたワイアルドが、毒づきながら教会から離れていく。
壁を伝いながら、モズグス達の様子を伺っていたワイアルドは、いち早くその異変に気が付き、壁を破壊し咄嗟に逃げる判断を下した。
それが幸いし、炎が回りきる前に脱出し、軽傷にとどまった。

「あの火の勢いじゃあ2匹とも死んじまっただろうが...どうにも気に入らねえ。エンジョイ&エキサイティングが俺の主義だってのによォ」

ボリボリ、と不満げに眉を潜めながらこめかみをかく。

犯すのを邪魔され。
ムカつく牛バカには返り討ちにされて。
オイシイところを横取りされて。

この殺し合いに招かれてから、どうにもスッキリとした気分になれない。
好きに殺り好きに犯る。
それが使徒の、なにより自分のモットーのはずなのに。

「まあ、コイツは俺の虐殺ショーじゃなく殺し合いなんだ。使徒が圧倒的な強者じゃつまらねえってことかい」

仮に自分が主催ならばそう思う。殺し合いだというのに使徒が一人勝ちしている姿など面白くもなんともない。
だから、この殺し合いには使徒にも張り合える者たちが多く、それゆえにスッキリしきれないのだ。

「よーし決めた。俺はもう遊ばねえ。赤首輪見つけたらとっととオサラバしてやるぜ」

こんな戦いはワリに合わない。使徒ならもっと欲望のままに振舞う方が性に合う。
ゾッドへの復讐もガッツとの闘いも、奴らが脱出できたらやればいい。もし脱出する前に死ぬのならその程度の奴らだったというだけだ。

ぼうぼうと燃え盛る教会を眺めつつ、まあこの火ならあの二人も死ぬだろうと見切りをつけ、ワイアルドは新たなる獲物を求めて歩き出した。




ゴ オ オ オ オ オ ォ ォ ォ ォ

燃え盛る教会をワイアルドが後にしてから30分ほどが経過した頃。
教会が崩れ落ち、炎は更に勢いを増した。

その炎の中で、蠢く影が一つ。

「......」

ハードゴア・アリス。
モズグスの炎の直撃を受けた彼女は一度は黒炭になるほど身体が焼かれたものの、彼女の魔法により再生し、再び万全な身体に戻った。

「......」

燃え盛る炎が改めて己の身体を焼くのも構わず、彼女は無言のまま歩を進める。

彼女の手に握られるのは、モズグスの赤首輪。その感触が、否が応でも自分の行いを思い知らされる。
ハードゴア・アリスは人を殺したのだと。

80教祖爆発!私がやらねば誰がやる! ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/11(月) 22:03:18 ID:oRx9MZT20

殺し自体は初めてではない。殺し合いの前にも、スノーホワイトを助けるためとはいえマジカロイド44を殺害したし、不死に準ずる能力者の男も、実質はアリスが殺したようなものだ。
だから嫌悪感などはなく、むしろスノーホワイトの為には正しいことだと思っている。

本来ならば、モズグスに加勢しワイアルドを共に倒す予定だった。
しかし、なにが琴線に触れたのか、彼はスノーホワイトを害する旨のことを叫び始めた。
この瞬間、アリスの予定は大幅に変わった。
ワイアルドはあからさまな危険人物であり、あのままでも多くの参加者に警戒されることは間違いなく、スノーホワイトも遭遇すれば逃げることを考えられるだろう。
だが、モズグスは違う。普段が温厚だからこそ、急な豹変が非常にやっかいだ。加えて、アリスの目から見ても、彼は戦闘中にどんどん変化し力を増していた。
このままワイアルドと戦っている最中に更なる成長を遂げれば、自分どころか、さやか達や幻之介らの手を借りても手に負えなくなるかもしれない。

以上の点から、スノーホワイトにとって危険なのは、ワイアルドよりもモズグスだと判断した。
だから殺した。彼が成長しきる前に殺す判断を下した。

「......」

焼かれながらも再生を続けながら、アリスは教会から出た。
炎の届かぬ場所まで向かった彼女は、そこでようやくモズグスの赤首輪を起動した。

『おめでとうございます!あなたは見事赤首輪赤い首輪を手に入れました!』

鳴り響く陽気なファンファーレ。そして浮かび上がってくる巨大な黒球。

『くろうさぎ。

めにゅ〜
1.元の世界に帰る。
2.武器を手に入れる
3.情報をひとつ手に入れる。
4.その他(参加者の蘇生は駄目よ)』

その画面に浮かび上がるメニューをアリスは注視する。

1番。スノーホワイトがいない世界に帰る意味はない。却下。
2番。自分にはまともに武器を扱うような技量はない。振り回すだけならそこらの標識でも充分だ。却下。
3番。スノーホワイトの現在地は知りたい。保留。
4番。参加者の蘇生以外のなにか。欲しいのは一つだけ。

モニターに触れる。
アリスが選んだのは4番だった。

欲するモノと書かれた画面に切り替わったので、アリスは躊躇うことなく望みを口にした。

「スノーホワイトを今すぐ元の場所に帰してください」

『えらー』

「スノーホワイトを今すぐ元の場所に帰してください」

『えらー』

「スノーホワイトを今すぐ元の場所に帰してください」

『えらー』

「...スノーホワイトをこの特典で帰すのは無理ですか?」

『【すのーほわいとをこのとくてんでかえすのはむりですか?】このしつもんへのこたえでよいですか?』

「......」

アリスは『いいえ』のボタンを押した。

再び元のめにゅー画面に戻る。
アリスは考える。4番の選択肢ではスノーホワイトを帰すことはできなかった。
つまり、彼女が生きて帰るにはやはり彼女自身が首輪を手に入れなければならない。
自分が代わりに赤首輪を倒すだけでは駄目なのだ。

やはり使うのは自分の首輪が最適だ。ちょうど、完全な人殺しになってしまったのだ。
恐らくスノーホワイトは嫌がるだろうが、こんな自分の首ならば多少は彼女の罪悪感も紛らわせるだろう。

ならば、この特典の使い道はひとつ。

「スノーホワイトの居場所を教えてください」

3番に触れ、望みを告げる。

すると、黒球からか細い光線が放たれ、ジジジ、という電子音と共に小さな球が徐々に姿を現していく。
現れたソレを、アリスは手に取った。
球には小さなモニターがついており、テレビ番組や漫画で見るようなレーダーのように、円形状の線が上方向から流れ始めた。
説明書でもないものか、と黒球に目を向けた瞬間、それは音もなくあっという間に消え去ってしまった。

モニターを見て、アリスは考える。このレーダーは恐らくスノーホワイトの居場所を教えてくれている。
これを信じるのならば、彼女がいるのは北の方角。
音波の間隔が広いのは、いまはそこまで近くにいないからで、近づけば恐らく音波の感覚も狭まっていくのだろう。

それを認識したアリスは、すぐに駆け出し燃え盛る教会を後にした。

【モズグス@ベルセルク 死亡】

81教祖爆発!私がやらねば誰がやる! ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/11(月) 22:04:11 ID:oRx9MZT20

【H-5/一日目/朝】

※H-5に生えてきた教会@彼岸島が燃えて倒壊しました。



【ワイアルド@ベルセルク】
[状態]:全身にダメージ(大)、疲労(大)、ボコボコ、全身に軽い火傷
[装備]:
[道具]:金属バット@現実、基本支給品、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針: エンジョイ&エキサイティング!
0:そろそろスッキリしたい
1:鷹の団の男(ガッツ)を見つけたら殺し合う。
2:ゾッドはどうにか殺したい。
3:さっきのガキ共を見つけたら殺してこの殺し合いから脱出する。

※参戦時期は本性を表す前にガッツと斬り合っている最中です。
※自分が既に死んでいる存在である仮説を受け入れました。

【H-5/一日目/朝】

【ハードゴア・アリス(鳩田亜子)@魔法少女育成計画】
[状態]全身にダメージ(中、再生中)
[装備]なし
[道具]基本支給品×2、ランダム支給品1、元気が出る薬(残り2粒)@魔法少女育成計画。薬師寺天膳の首輪、モズグスの首輪(使用済み)
スノーホワイトの居場所がわかる小型レーダー(赤首輪の特典)
[行動方針]
基本方針:スノーホワイトを探し、自身の命と引き換えに彼女を脱出させる。
0:スノーホワイトのいる方角へ向かう
1:「スノーホワイトに会えないと困る」という強い感情を持ちながら会場を回る。
2:襲撃者は迎撃する。ただしスノーホワイトとの遭遇優先のため深追いはしない。
3:自身の脱出はほぼ諦めた。
4:ワイアルドは始末しておきたい

※蘇生制限を知りました。致命傷を受けても蘇生自体は行えますが蘇生中に首輪を失えば絶命するものだと捉えています。あるいは、首輪の爆発も死ぬと考察しています。

【元気が出る薬@魔法少女育成計画】
怪我とかは治らないけどテンションがマックスになる薬だよ。
平たく言えばドーピングのようなもの。
本編では寿命を3年先払いすることで手に入れることが出来る。
このロワでは3粒支給されており、寿命の先払いの代わりに、3粒飲んだ場合1時間以内にその参加者は死ぬ代償がある。

82 ◆ZbV3TMNKJw:2020/05/11(月) 22:04:44 ID:oRx9MZT20
投下終了です

83名無しさん:2020/05/13(水) 13:34:13 ID:Uk6HOSKc0
乙です
実力で劣るワイアルドが残るとは……
生き汚さも強みと思わせるモズグスに負けない存在感を出したのは面白かったです
アリスは原作以上に危うい面が強まってる感じ
それだけにスノーホワイトとの精神面でのすれ違いも大きくなりそう
それにしてもどっかのアニメの劇場版を思わせるタイトルw

84名無しさん:2020/10/10(土) 12:59:15 ID:kJ9ImCXI0
もう待ちきれないよ!早く書いてくれ!

85名無しさん:2020/10/10(土) 13:14:06 ID:vobK6EB60
自分で続きを書こうと言う意思も無いの?そんなんじゃ甘いよ(棒)

86名無しさん:2020/10/11(日) 10:16:06 ID:RInhvJRc0
パロロワは、いやそりゃ他の人にリレーされるのは気持ちええっすよそりゃねえ
あの人が来ると企画が止まるとか言われますけどもね
筆力が弱いんですかね?やる気は大きいですよ

87名無しさん:2020/10/11(日) 11:12:57 ID:RInhvJRc0
一度止まるとどの話もリレーしにくく見えるんでしたよね?

88名無しさん:2020/10/12(月) 01:13:05 ID:Qpq12NTU0
何だこのレス!?(驚愕)

89名無しさん:2020/10/18(日) 17:23:44 ID:vkJ5GQMo0
>>82
投下乙

90TNOK:2021/03/20(土) 19:46:28 ID:Fl8a3GWE0
あくしろよ

91関西クレイマー:2021/04/07(水) 10:10:13 ID:VSy3Vgis0
これはな、だれでもそうなるんや……

92名無しさん:2021/05/05(水) 16:17:46 ID:v8.JXD2o0
止まったね

93 ◆ZbV3TMNKJw:2021/08/06(金) 22:27:15 ID:9xB6Sjr20
久しぶりに投下します

94分離 ◆ZbV3TMNKJw:2021/08/06(金) 22:30:17 ID:9xB6Sjr20
「ちょ、ちょっと本当に行くの!?」

佐山流美は引き留めるように慌ててT-800の後を追う。
放送を聞き、主催に真宮が関わっていると知った時は心底苛立った。
しかし、T-800が千手観音のもとへ行くと言い出せばもうそんな怒りもどこへやら。

「ノープロブレム」
「いや、でも、マジの怪物だよ?もう少し装備とかあった方がいいんじゃない?」

この機械的な反応しかしない男がどの程度強いかはわからない。
しかし、マミを失った今、自分に敵対しない参加者はどうしても確保しておきたい。
無碍に戦力を消費したくない一心で引き留めようとするも、ジョンコナーの障害に成りえるものは排除しておかねばならないと聞く耳を持たず。

歩きながら移動していれば、気づけば町中に。ここはE-5。流美が千手観音と遭遇したB-5とは逆の方角である。


(...念のために逆側を示しておいてよかったよ)

流美はこの頑固一徹男を引き留められない可能性を考慮し、E-5で出会ったと嘘の情報を流した。
これならば千手観音との遭遇も後回しに出来るし、他の参加者とも交流できるかもしれないという一石二鳥な選択肢だった。

ピタリ。

己の策の成功に安堵しかけていた流美を他所に、突如、T-800はその足を止める。

「ど、どうしたの?」
「生体反応を発見した。これより接触を開始する」

彼らの見つめる先は、ジョッキの絵が描かれた壁掛けのある扉。つまりはバーであった。

T-800は躊躇いなく扉を開け、ずんずんと階段を上がっていく。
流美は遅れて、周囲に最大限警戒しながらT-800の後ろを着いていく。

階段を上り切った先に待っていたのは、大剣を構えて警戒心を露わにする少女と、各々がそれぞれの構えをとりやはり警戒をしている三人の男。
T-800は一同を見回すと、無表情のまま野太い声で一言を発した。

「ハァイ」

95分離 ◆ZbV3TMNKJw:2021/08/06(金) 22:30:52 ID:9xB6Sjr20







「つまり佐山はクラムベリーって奴と先生みたいな口調で喋る怪物に襲われたんだな?」
「そっ、そうそう」

バーにいたのは吉良、上条、ラ・ピュセル、左衛門の四人。
T-800の挨拶で困惑していた一同に、遅れて到着した流美が身振り手振りを加えながら自分たちに敵意はないと訴えかけ、どうにか情報交換へと持ち込むことが出来た。

「巴さんもあいつに、クラムベリーに襲われて、それで...」
「なあ、岸部。クラムベリーって...」
「...ああ。やっぱりあいつは...!!」

ラ・ピュセルの拳が握り絞められる。
彼の中では未だに消えていない。あの女に痛めつけられた苦痛を、刷り込まれた死への恐怖を。

「上条さん。僕は行きます。あいつは絶対に止めなくちゃ...!」
「待てよ岸部。それなら俺も行く」
「上条さんはここの皆を護っていてください。あいつとの戦いに一般人は割り込めない」
「じゃあ、お前は確実に勝てるのか?」
「それは...」
「なら俺も連れて行けって」
「ダメだって言ってるだろ!あいつの危険性をその目で見てないからそんなことが言えるんだ!」

「ちょっといいかな?」

熱くなっていくラ・ピュセルと当麻の口論に、静観していた吉良が口を挟む。

「ラ・ピュセルはクラムベリーとやらを止めたいし、上条くんは単身で向かう彼女が心配だ。君たちの言い分はとてもわかる。
しかしね、わたし達の目的は一つじゃあないんだ」

吉良は二人に目線でT-800へと意識をやるように促す。

「彼はジョン・コナーという少年を探したい」

次いで、左衛門へと目を向ける。

「彼は弦之介と陽炎という仲間を探したい」

流美へと目を向ける。

「彼女は友達である小黒妙子ちゃんを探したい」

そして、最後に己の首輪に指を指す。

「そして共通の目的であるのは、皆が首輪を外したいということだ」

なにが言いたいのかを測りかね、眉を潜めるラ・ピュセル。
そんな彼の態度に、吉良はフゥ、とため息を吐く。

「こういう時は個人の感情だけで動くのではなく、互いの目的を擦り合わせて最適な案を出すのが大切だ。
君たちが抜けたことで私たちがそのクラムベリーや怪物に襲われたらどうする?その逆も然り。クラムベリーを追っていた筈なのに怪物とクラムベリーに挟まれたらどうする?」

96分離 ◆ZbV3TMNKJw:2021/08/06(金) 22:31:19 ID:9xB6Sjr20

吉良の言葉に、ラ・ピュセルはハッと目を見開く。
個人の我を押し通すのではなく、周囲の皆と相談して物事を決める。その際に、周囲に耳を貸さず我を通すだけでは周囲を不安に晒してしまう。
それは学校でも幾度となく経験してきたことだ。
魔法少女という特別性をはき違えてしまったのかと、ラ・ピュセルはしょんぼりと肩を落とす。

「...すみません吉良さん」
「いや、思い留まってくれたならいいんだ。こんな異様な状況でも私たちを護ろうとしてくれるその気概はとても嬉しいからね」

優しい声音で宥められたラ・ピュセルは気恥ずかしさにほんのりと頬を染め、「ど、どうも」と小さく零す。
その様子を見た当麻は吉良に軽く会釈し礼をすると、吉良も小さく頷き返す。

「さて。わたし達の目的をスムーズに進行させる為には」
「人手を分けるのはどうじゃ」

真っ先に声を挙げたのは左衛門だった。

「確かに六人で行動しておれば護りは盤石じゃ。しかし、籠城戦ならいざ知らずこれは期限付きの戦。数日の間に情報を集め決着を測るのならば多少の危険は受け入れるべきではないか」

人数分け。確かにこれでは戦力を分けて分散してしまうとはいえ、順調に進めば探索範囲が広がり情報も得やすくなる。
いま、ラ・ピュセルを除けば身内の情報が欲しいのは上条・左衛門・流美・T-800の四人。となれば、優先されるのは情報の収集だろう。

「ふむ。別れて行動か...私は構わないが、皆はどうかな?」
「俺はどちらでも構わない」
「あ...あたしもいいよ」
「...まあ、仕方ないよな」
「...わかりました」

上条とラ・ピュセルはあまり乗り気ではないとはいえ、どのみち、過半数が賛成しているのだ。
ならば、チームを分けるという流れに決まるのも当然の結果だ。

「人数はどう分ける?儂は二人三組でわければ良いと思うが」
「それでは戦力を絞りすぎではないか?半分、三人二組ではどうだろうか」

左衛門の三組と吉良の二組。
異なる意見が出たが、しかし争いはしない。二人は、またも残る四人に意見を求める。

「なんだっていい」
「...あたしは三人二組で」
「俺も佐山と同じだ」
「僕も二人と同じ意見だ。やっぱりある程度の安全性は確保しておくべきだ」

議論は白熱することもなく、あまりにもスムーズに滞りなく進んでいく。
多数決。それは少数の意見は封殺し多数派の意見を通す合理的解決方法である。

「さて。人数の配分も決まったところで、肝心のチーム分けだが...この二組の肝をそれぞれ赤首輪であるラ・ピュセルとT-800に任せようと思う」
「OK」
「了解した」

即答するT-800とラ・ピュセル。
この二人を中枢としたチーム分けを吉良は振り分けていく。

97分離 ◆ZbV3TMNKJw:2021/08/06(金) 22:31:42 ID:9xB6Sjr20

「分ける基準としては腕っぷしの強さにするべきだろう。となれば、ただのサラリーマンである私と少女である流美ちゃんは別れた方が良いだろう」
「...じゃあ、あたしはこっちの岸部...?さんに着いていくよ。巴さんを殺したクラムベリーを探すなら手伝いたいし」
「む、そうか。なら私はT-800だな。残るは左衛門と上条くんだが...」
「左衛門さん、俺が岸部に着いていく」
「いや、儂もこちらを希望させてもらう。主の術、幻想殺しと言ったか。ソレはあやつにも影響してしまうのじゃろう。儂の方があやつも気兼ねなく戦えるはずじゃ」
「けど...」
「上条さん。僕は大丈夫だから、あなたは吉良さん達を護ってくれ」
「岸部...わかった、あまり無茶はするなよ」

滞りなくチーム分けが進んでいく様相を眺めながら吉良は思う。

(狙い通りだ...これで私にとって非常に都合が良くなったよ)

目立つことを嫌う自分が、らしくなくまとめ役を買って出た甲斐があった。
吉良にとって上条当麻の神の如き右手とラ・ピュセルの天使のように綺麗で美しい手は目の保養を通り越して性癖の好みに合致しすぎたポルノ雑誌のようなものだった。
一つならまだちょうどいいが二つとなると常に竿を擦られているようなものである。
事実、吉良はその手を見た途端に一度発射し、放送が終わって元気を取り戻したと思った途端にまた出してしまった。
天国的な快楽ではあるがこのままでは身が持たないと思っていた矢先に現れたのがT-800と流美である。
T-800の手は決して汚くはなく、むしろサイボーグだけあって整った部類ではあるが、それはあくまで好感度が抱ける、というだけのこと。
少年が実物大ロボを見て目を輝かせるのと同じで、そこに性的な意思は介在しない。
流美の手は論外だ。傷だらけで、形も良くない。普通どころか醜い部類である。
それがかえって吉良に賢者の如き冷静さを与え、興奮のし過ぎは良くないという自制心を働かせる余裕を生じさせた。
その為、吉良はそれとなくチームを分散する流れになるよう取り計らい、且つ都合のいいチーム分けをすることができた。

(懸念としては左衛門が私の能力を知っていることだが...その為に赤首輪のラ・ピュセルと組ませたんだ)

赤首輪の参加者であるT-800とラ・ピュセル。
このうち、左衛門の毒針が通用するのはあくまでも生身のラ・ピュセルのみである。
もしもラ・ピュセルと組んだのが吉良であれば、左衛門は脱出の権利を渡すわけにはいかんと吉良が能力を隠していたことを明かす危険性がある。
しかし、T-800と組むということは、左衛門の視点から見れば自分では殺せない相手と組んでいるということ。
つまりは手放しても問題はない駒を吉良に渡し、且つ己は使い勝手のいい駒を所持しているというだけだ。
ならば吉良の能力を公表し無暗に敵対する可能性をわざわざしょい込むような真似は控えるはず。

(まあこれでラ・ピュセルの手を失ってしまうリスクは抱えてしまったわけだが、そこは受け入れよう)

ラ・ピュセルの手を拝めなくなるかもしれないのは残念だが、テ〇ノブレイクで死ぬよりはマシである。
当麻の右手を神と評するならばラ・ピュセルの手は天使。
神と天使、どちらを残すかと百人に問えば百人が神だと答えるだろう。

「では三度目の放送を合図にここに戻るとしよう。それで異論はないか?」

左衛門の案に一同は頷き合い、互いに一時の別れと労いの言葉をかけSMバーを後にする。


これ以上誰の犠牲もなく平穏に殺し合いを終わらせたいという幻想を殺せぬ幻想殺し。
与えられた任務を達成する為に戦うサイボーグ。
己の欲望に正直に生きるシリアルキラー。


愛する者を救いたいと願う魔法少女(少年)。
己の里の為に身を削る日陰者。
復讐に怯え己の業から目を背ける哀れな少女。

彼らの行く先がどうなるかは、今は誰もわからない。

98分離 ◆ZbV3TMNKJw:2021/08/06(金) 22:32:41 ID:9xB6Sjr20

【E-5/街(下北沢、SMバー平野)/一日目/早朝】

【T-800@ターミネーター2】
[状態]:異常なし
[装備]:
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:ジョン・コナーを守る
0:一時的に当麻、吉良と行動する。シェンホアと合流した後、第三回放送までにここに戻ってくる
1:T-1000は破壊する。


※参戦時期はサラ・コナーを病棟から救出した後です。



【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:軽度の疲労
[装備]:
[道具]:基本支給品、淫夢くん@真夏の夜の淫夢、不明支給品0〜1
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを止める。
0:一時的にT-800、吉良と行動する。第三回放送までにここに戻ってくる
1:御坂、白井と合流できれば合流したい。
2:一方通行を斃した奴には警戒する。
3:他者を殺そうとする者を止めてまわる。

※淫夢くんは周囲1919㎝圏内にいるホモ及びレズの匂いをかぎ取るとガッツポーズを掲げます。以下は淫夢くんの反応のおおまかな基準。
ガッツポーズ→淫夢勢、白井黒子、暁美ほむら、ハードゴアアリス、佐山流美のような同性への愛情及び執着が強く異性への興味が薄い者。別名淫夢ファミリー(風評被害込み)。
アイーン→巴マミ、DIO、ロシーヌのような、ガチではないにしろそれっぽい雰囲気のある者たち(風評被害込み)。
クソザコナメクジ→その他ノンケ共(妻子や彼女持ち込み)。
判定はガバガバです。また、参加者はこの判定を知らされていないため、参加者間ではただの参加者探知機という認識になっています。
※吉良がガッツポーズに分類された可能性があります。

【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康、スッキリ、ラ・ピュセルと上条当麻の手に心酔に近い好意、新しいパンツ(白ブリーフ)。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×1、ココ・ジャンボ@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
基本行動方針:赤い首輪の奴を殺して即脱出...したいが...ここは天国だ...抜け出すべきなのだろうか...?
0:一時的に当麻、T-800と行動する。第三回放送までにここに戻ってくる
1:少女(ラ・ピュセル)の手はこの世のものとは思えないほど美しい。上条当麻(少年)の右手は私が触れることすらおこがましく思えるほど神秘的だ。
2:こんなゲームを企画した奴はキラークイーンで始末したい所だ…
3:野獣の扱いは親父に任せる。できればあまり関わりたくない。
4:左衛門の手も結構キレイじゃないか?
5:最優先ではないが、空条承太郎はできれば始末しておきたい。

[備考]
※参戦時期はアニメ31話「1999年7月15日その1」の出勤途中です。
※自分の首輪が赤くない事を知りました。
※絶頂したことで冷静さを取り戻しました。

99分離 ◆ZbV3TMNKJw:2021/08/06(金) 22:33:03 ID:9xB6Sjr20

【ラ・ピュセル(岸部颯太)@魔法少女育成計画】
[状態]全身に竹刀と鞭による殴打痕、虐待おじさん及び男性からの肉体的接触への恐怖、同性愛者への生理的嫌悪感(極大)、水で濡れた痕、精神的疲労(大)、上条への好意
[装備]
[道具]基本支給品、だんびら@ベルセルク
[行動方針]
基本方針:スノーホワイトを探す
0:一時的に流美、左衛門と行動する。第三回放送までにここに戻ってくる
1:虐待おじさんこわい。
2:クラムベリーを倒す
3:襲撃者は迎撃する

※虐待おじさんの調教により少し艶かしくなったかもしれません。



【如月左衛門@バジリスク〜甲賀忍法帖〜】
[状態]:特筆点無し
[装備]:甲賀弾正の毒針(30/30)@バジリスク〜甲賀忍法帖〜
[道具]:基本支給品×1、不明支給品×0〜1
[思考・状況]
基本行動方針:弦之介や陽炎と合流してから赤首輪の参加者を殺して脱出。
0:一時的に流美、ラ・ピュセルと行動する。第三回放送までにここに戻ってくる
1:甲賀弦之介、陽炎と会ったら同行する。
2:野獣先輩からは妙な気配を感じるのであまり関わりたくはない。
3:ラ・ピュセルは現状では狙わない。
[備考]
※参戦時期はアニメ第二十話「仁慈流々」で朱絹を討ち取った直後です。
※今は平常時の格好・姿です。
※自分の首輪が赤くない事を知りました。


【佐山流美@ミスミソウ】
[状態]:疲労(中)、野崎春花と祥子への不安と敵意。 マミを刺したことへの罪悪感、クラムベリーへの恐怖。
[装備]:ガンツスーツ@GANTZ(ダメージ60%)、DIOのナイフセット×9@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:不明支給品0〜1、基本支給品×2
[思考・行動]
基本方針:生き残る。
0:一時的に流美、ラ・ピュセルと行動する。第三回放送までにここに戻ってくる
1:自分の悪評が出回る前に野崎春花と野崎祥子を殺す。
2:ラ・ピュセルにクラムベリーを倒して貰いたいが...出来るのか?
3:赤首輪を殺してさっさと脱出したい。
4:たえちゃんはできれば助けてあげたいが、最優先は自分の命。
5:あの先生の声の仏像キモイ、怖い。
6:また赤首輪かよ...

※参戦時期は橘たちの遺体を発見してから小黒妙子に電話をかけるまでの間。
※本来のガンツスーツは支給者専用となっていますが、このガンツスーツは着用者に合うようにサイズが変わるので誰でも着ることができます。

100 ◆ZbV3TMNKJw:2021/08/06(金) 22:33:28 ID:9xB6Sjr20
投下終了です

101名無しさん:2021/08/07(土) 06:08:15 ID:2wr4XROI0
乙です
吉良が役に立ってて薄気味悪い心地良さを感じて思わず苦笑してしまいました
忌むべき種別の変態でもここまで意思と行動力が伴ってると強みですねえ
ラピュセルも青臭さから来る無謀さがとても彼らしかったです
他の登場人物もみんな目的に全力なのが伝わって実に読み応えがありました

102名無しさん:2021/08/09(月) 23:04:43 ID:Mf/M9oEs0
ちょっと待って、投下があるやん!
停滞していた企画を参加者の交流とチーム分けのシャッフルで活性化を図りに行くとかおお〜ええやん気に入ったわ
でもJCをSMバーに連れ込むあのターミネーターは親方に連絡させてもらうね?

103名無しさん:2022/01/09(日) 00:50:28 ID:NQh5WWK.0
保守

104名無しさん:2022/01/09(日) 10:47:53 ID:WUielR2g0
>>103
ちょっと遅かったんちゃう?

105名無しさん:2022/01/23(日) 00:19:51 ID:d9FVcifE0
悲しいなぁ・・・

106名無しさん:2022/12/10(土) 19:08:26 ID:7HkzRTOs0
(早く続きがm)痛いんだよおおおおおおおお

107名無しさん:2022/12/18(日) 21:15:10 ID:JMp48Q1Y0
(スレが)止まっ───て見えるのは、私だけでしょうか?

108名無しさん:2022/12/25(日) 13:55:16 ID:PcGMyLD60
まぁ〜だ時間かかりそうですかね〜?

109名無しさん:2023/03/05(日) 13:36:41 ID:rQHvKukw0
保守

110名無しさん:2023/07/05(水) 20:36:02 ID:FiClwT6I0
流行らせコラ!

111名無しさん:2023/10/24(火) 20:04:34 ID:/2UJpCQ60
(このロワの進行はもう)ダメみたいですね(諦め)


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