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魔界都市新宿 ―聖杯血譚― 第3幕
45
:
Wiping All Out
◆zzpohGTsas
:2016/10/09(日) 21:20:56 ID:BeeZboF20
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「みん……な……っ、プロ、デューサー……!!」
先程までメインステージに、プロジェクトクローネの面々であるアナスタシアは、メインステージから離れ、自分達の楽屋まで避難した瞬間に、堰を切った様に泣いた。
ステージにいる間は涙を堪えていたが、楽屋につき、先程までメンバー全員が此処で、打ち合わせを行ったり他愛もない会話をしていたと言う事実が残っていたのを見て、
皆は泣いた。死んだ塩見周子、速水奏、大槻唯、神谷奈緒の荷物やスマートフォンが、そのまま楽屋の真ん中のロングテーブルに置かれていた。
彼女らが飲みかけていたドリンクも、そのまま置かれていた。ほんの十分前まで、彼女らが此処にいて、彼女らと会話をしていたと言う事実を認識した瞬間、アナスタシアは泣いた。二度と戻ってはこない、無惨に殺された友達の事を思って、皆は泣いた。
「どうして、こんな事に……」
涙を隠せぬ鷺沢が、呟いた。
その疑問は、誰しもが思う所だった。346プロダクションのアイドルに限らず、観客達も、そう思っているに相違ない。
自分達が、何をしたと言うのだろうか。何の権利があって、大切な友人達の命を、自分達の晴れ舞台を見に来た罪のない人々を殺すのだろうか。
友を失った事による哀しみと、何故失わねばならないのかと言う理不尽に、彼女らは、身が捩じ切れんばかりに泣いていた。
黒贄礼太郎に扮した10世に、脇腹を貫かれた加蓮も、今は痛みよりも悲しみの方が勝っているらしい。彼女から流れ出る涙は、痛みからではなく哀しみからだった。
「……ねぇ」
今まで不気味な程沈黙を保っていた、宮本フレデリカ、と言う名前をした金髪の少女――今回のライブコンサートの事実上の目玉と言っても過言ではなかったアイドルが。
今この瞬間になって口を開いた。啜り泣く声が部屋に響く中にあって、奇妙な程平静を保ったフレデリカの声は、よく目立つ。皆が、彼女の方に顔を向け始めた。
「もしも、だけどさ〜……皆を酷い目に遭わせた、あの殺人鬼を、如何にか出来るって方法があったら……どう、する?」
何㎞も走り込んだ後のような、荒い息遣いを抑えながら、フレデリカが口にした。
そしてそれは、驚愕に値する内容だった。あの殺人鬼を、倒す、と来た。誰だって不可能に思うだろう。
相手は息を吸うように雷を落とし、謎の力で人間を粉々に爆散させる超能力の持ち主。とてもではないが、人間の身体能力では倒せる便もないであろう。
それを、打倒する術を知っていると言うのだ。そう、普段ならばクローネのムードメーカーとして、時は空気を弛緩させ皆をリラックスさせたりする、と言う緩いキャラクターがウリの、フレデリカが、である。
「じょ、冗談では……い、言ってない、よ……?」
皆も、流石にこんな局面で、フレデリカが冗談を言う様なキャラクターだとは認識していない。
本当に、倒せる術が、或いはそうでなくとも、付け入る隙の様なものを、理解しているのかもしれない。
「でも……どうやって?」
文香が、恐る恐ると言った様子で訊ねて来る。そう、やはり方法が問題になって来るのだ。
「……余り、皆に言いたくなかったんだけど……アタシね、あ、あの怪物と、同じ力が奮えるんだ」
言ってフレデリカは、右腕にそれまで巻かれていた包帯を解いた。
皆は、擦り傷か何かでも負っていたから、フレデリカはそこに包帯を巻いていたのではと考えていた。
――実態は違った。彼女が包帯で隠していた位置には、黒い、痣の様なものが刻まれていたのだ。
否、それはただの痣ではない。よくよく目を凝らして見ればそれは、独特の紋様をしたタトゥーではないか。
とてもではないが、フレデリカにそんな物を刻む趣味があるとは思えない。それ程までに悪趣味なタトゥーなのだった。
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