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魔界都市新宿 ―聖杯血譚― 第3幕

253明日晴れるかな ◆zzpohGTsas:2017/02/08(水) 02:01:57 ID:oq.mIL1I0
「大したもんじゃないかヴァルゼライドくん。いとも簡単に、千、いや、万か? それだけの命を簡単に奪っちゃうんだからさ。中々出来る事じゃないぜ。もっと胸を張れよ」

「俺は俺の――」

「やった事を十分理解している。NPCと呼ばれる人間の犠牲も痛ましく思う」

 ヴァルゼライドの言葉を途中で遮るばかりか、途中でこの男が何を言おうとしたのか、その言葉を予想し、ヴァルゼライドの声音を真似てタカジョーが言った。
其処でヴァルゼライドは緘黙した。言おうとしていた事そのままを、タカジョーに言われてしまったからである。

「反省して全部チャラになるなら、神も天使もいるもんかよ。そしてこの後、お前はこう続ける。『だが殺す』と。自分の行った所業、その罪深さを知っているフリをお前はしてるだけだ」

 小柄な身体からは想像も出来ない程の濃密な殺意を放射し続けながら、なおもタカジョーは続ける。

「お前は自分の信じた道しか歩ける所がないと勘違いしている、強迫症の患者そのものだ。それ以外の道を模索する事が出来ない、そりゃそうだ。だってお前の信じる道以外には悪がいて、そしてそいつらの存在を認めなきゃいけないからな。それが、お前は恐ろしいのさ」
 
 ――

「底が割れたなヴァルゼライド。お前は、世界で一番の臆病者だ。人の世が人の世である以上無視出来ない、滅ぼせない悪の存在が、お前は許せないんじゃない。怖いだけだ。だから虚勢を張ろうとするのさ。全ての悪を滅ぼす光になるだなどと抜かしてな!!」

「貴様――!!」

「理想の邁進の為により多くの死と破壊を振り撒くお前のその姿。まるで、魔王そのものじゃないか。ハハ、生粋の魔王たる僕のお墨付きだぜ? もっと誇れよヒーロー」

 ヴァルゼライドを小馬鹿にするタカジョーは、声音こそ軽い調子のものがあるが、その表情は何処までも笑っていない。瞳に至っては、ガラス球の方がまだ温かみがあると思わせる程、何の感情も込められていなかった。

「英雄……か」

 タカジョーの事を睨みながら、ヴァルゼライドが呟く。魔王の口にしたヒーローと言う単語に、思う所があるらしい。

「生前も言われたよ、底辺からのし上がった英雄、公明正大・滅私奉公の名君、至高にして究極の人だとな。過大評価にも程がある。彼らがそう評価している人間は、エゴイストの極致にいるような屑でしかないと言うのに、な」

「そう自覚してるのならとっとと自殺なりしろよ」 

「するさ。皆が俺を、不要だと言うのなら」

 予想に反し、ヴァルゼライドの反論は、余りにも速かった。

「民は、人はそれでも、俺を求めた。屑の所業でしかない俺の行いを、英雄の行う正当な行為だと礼賛してな。彼らの声が愛おしくもあったからこそ、俺は戦い続けた。その愛と希望と、光とを育む土壌の為に俺は、彼らの幸福を奪い取ろうとする悪の敵になると嘗て誓った。その誓いが、人によっては正しく、俺が嫌悪する悪そのものに映ると、知った上でだ」

 尚も語る。

「誰に何を言われようとも、俺は悪を灼き尽くす光になり続けよう。俺の道を歩み続けよう。そして、地上から悪が消え去った暁には、『この地上に最後に残った悪』である俺も果てよう」

 「それが――」

「他人とは違う力と使命を授かって生まれた、『英雄(クズ)』の仕事、と言うものだろう? 魔王よ。英雄譚を締め括るのはいつだって、英雄自身の死なのだからな」

「大衆は今すぐにでもお前に死んで欲しいと望んでるぜ」

「俺のマスターが望んでいないのでな。悪いがこの命、貴様にはくれてやれん」

 一拍間を置く、ヴァルゼライド。

「俺の考えに異を唱える者も、貴様の如くいるだろう。全否定する者だって、いるだろう。そしてその考えは、何処までも正しい。彼ら自身が正しいと言えば、考えは無限大に正しくなり続ける」

 「だがな」

「俺は俺の意見も正しいと思っている。俺の夢は何処までも正当な物だと考えている。今後誰に俺の理想を間違っていると問われても、俺は、相手の理想の貴びながら、俺の正しさの下に相手を斬る。俺は――俺の理想の方が正しいと、絶対に信じているからだ」

「……オーケー。其処までの覚悟か。クリストファー・ヴァルゼライド」


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