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☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説第100話

1名無しさん@魔法少女:2009/08/05(水) 20:14:08 ID:7A.0xa9.
魔法少女、続いてます。

 ここは、 魔法少女リリカルなのはシリーズ のエロパロスレ避難所の2スレ目です。


『ローカル ルール』
1.リリカルあぷろだ等、他所でのネタを持ち込まないようにしましょう。
2.エロは無くても大丈夫です。
3.特殊な嗜好の作品(18禁を含む)は投稿前に必ず確認又は注意書きをお願いします。
  あと可能な限り、カップリングについても投稿前に注意書きをお願いします。
【補記】
1.また、以下の事柄を含む作品の場合も、注意書きまたは事前の相談をした方が無難です。
  ・オリキャラ
  ・原作の設定の改変
2.以下の事柄を含む作品の場合は、特に注意書きを絶対忘れないようにお願いします。
  ・凌辱あるいは鬱エンド(過去に殺人予告があったそうです)

『マナー』
【書き手】
1.割込み等を予防するためにも投稿前のリロードをオススメします。
  投稿前に注意書きも兼ねて、これから投下する旨を予告すると安全です。
2.スレッドに書き込みを行いながらSSを執筆するのはやめましょう。
  SSはワードやメモ帳などできちんと書きあげてから投下してください。
3.名前欄にタイトルまたはハンドルネームを入れましょう。
4.投下終了時に「続く」「ここまでです」などの一言を入れたり、あとがきを入れるか、
   「1/10」「2/10」……「10/10」といった風に全体の投下レス数がわかるような配慮をお願いします。

【読み手 & 全員】
1.書き手側には創作する自由・書きこむ自由があるのと同様に、
  読み手側には読む自由・読まない自由があります。
  読みたくないと感じた場合は、迷わず「読まない自由」を選ぶ事が出来ます。
  書き手側・読み手側は双方の意思を尊重するよう心がけて下さい。
2.粗暴あるいは慇懃無礼な文体のレス、感情的・挑発的なレスは慎みましょう。
3.カプ・シチュ等の希望を出すのは構いませんが、度をわきまえましょう。
  頻度や書き方によっては「乞食」として嫌われます。
4.書き手が作品投下途中に、読み手が割り込んでコメントする事が多発しています。
  読み手もコメントする前に必ずリロードして確認しましょう。

『注意情報・臨時』(暫定)
 書き込みが反映されないトラブルが発生しています。
 特に、1行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えることがあるそうです。
 投下時はなるべく1レスごとにリロードし、ちゃんと書き込めているかどうか確認をしましょう。

前スレ
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説第99話
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12448/1243670352/

224こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:20:22 ID:h2bKYLkE
今の説明に、あたしを含めた全てのメンバーが一瞬ざわついた。

あの、いくらなんでもちょっと仰々しくないですか?
ゆりかご決戦でリイン曹長を現場に送り届けたときみたいな状況だったらまだしも。

「皆もマップを見て想像は付くと思うが、この地域は生い茂る植物や背の高い樹木の多い
 こともあって見通しが悪い。仮に地上ルートでゲリラ的に奇襲された場合、戦闘の局面
 次第では今回の護衛対象がドサクサに紛れて犯罪者達に拉致される可能性があるからだ」
シグナム二尉は脅すような論調で話したものの、突然フッと口元を緩めた。
「無論、犯罪者相手に遅れをとる我々ではないが、リスクは少ないに越した事はない」
一呼吸置いたシグナム二尉は、先程自分で書き込んだホワイトボードを前面まで動かした。
ホワイトボードには四角い物体から4本の棒が生えている図と、丸と棒線だけで描いた
人間っぽい落書きみたいなのが幾つかあった。
「判りにくくてすまない。私に絵心が無いゆえに、こういうポンチな絵しか描けなかった」
そう言って軽く頭を下げたシグナム二尉は、胸ポケットから伸縮可能な指示棒らしき物を
取りだ……そうとしてどこかで引っ掛かっているのか、取り出すのに苦戦していた。
「む……」
何度引っ張っても先っぽの部分がひたすらニョキニョキ伸びるだけで、グリップ部分が
なかなか出てこない状態になっている。
このちょっとしたハプニングに、周囲から笑いを堪える鼻息と感嘆の溜息が漏れた。
ちなみに、あたしは溜息派。

「ここに挿しておいたのは失敗だったな」
ようやくポケットから取り出せた安堵感からか、シグナム二尉は軽くため息をつくと
一度中途半端に伸びた棒を手の平で押し込んで縮め、改めて先っぽを摘んで引き伸ばした。
「とりあえず説明すると、これは隊形を下から見上げた仰瞰図だ。四角形に棒が生えた
 のは機動ヘリのつもりで、この丸と棒の絵は私を始めとする航空武装隊のつもりだ」

……あ、あの髭みたいなのってヘリのブレードなんだ。

シグナム二尉のその後の説明で、あたしはようやく隊形の概要が掴めてきた。
えっと、多分機動ヘリを中心として前方以外をすべてカバーする布陣。
「基本的には左右、後方、上側はツーマンセルで担当してもらう。下側は地対空砲撃で
 狙撃されることを想定している故、私を含めて6人以上で担当することになるだろう」
どんなに少なく見積もっても、総勢14人。
今この部屋には30人近い局員が詰めているから、交替要員やその他スタッフの人数を
考慮すると、だいたい16〜7人くらいの武装局員が護衛に当たる計算ってとこかな。
なのはさんやフェイトさんが付くぐらいだから、案外これくらいが妥当なのかも。

……でも、よくよく考えたらシグナム二尉も実力はなのはさん達と肉薄してるらしいし
こんな大所帯を引き連れなくても、お一人で充分のような気がします。
六課時代に誰が一番強いかで色々あったことを思い出し、あたしは内心苦笑いになった。



この後遅れてやって来た本局の人というのは、本局の次元航行隊に所属してる男性の
執務官さんで、フェイトさんやティアナとは違う部署の人だった。
てっきり企画した上層部の人が来ると思っていたあたしは、念のためにどういう事か
ミーティングが終わった後でこっそりシグナム二尉に聞いてみたものの、
「実は、彼はその方の代理なのだ。と言うのも、色々事情があってその方の名前が外に
 漏れると少々まずい事になる可能性があって明かせないのだ」
と言われてしまい、結局誰だったのか聞けずじまいになってしまった。
何か機密があるらしいミッションの事前ミーティングは、その全貌を明かされないまま
その執務官の男性から正式発表されたプランを元に粛々と進められていった。
当初の予定通り、シグナム二尉は護衛チームの班長兼部隊の総責任者という事になった
ため、今回のミッションにおいては部隊長という事になっている。
そしてコールサインはシグナム二尉……もとい、部隊長が『イージス000』になり、
あたしが『イージス100』に決まった。
3ケタ目の数字は自分が所属するチームを示す親番号で、下2ケタの数字は自分が所属
しているチームでの識別番号となる子番号、という比較的単純なルールで決まった。

225こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:22:42 ID:h2bKYLkE

部隊のトップたるシグナム部隊長が00っていうのは当然として、なぜか護送チームの
班長にされてしまったあたしの子番号もそれにならって00になっている。
まだまだぺーぺーに近い一等陸士のあたしが班長だなんて……くすぐったいなぁ。

まぁそれはおいといて、重要なところはここから。
本格的にミーティングが始まって護送する人の詳細を知り、あたしは今日ほど偶然って
恐ろしいってことを感じた日はなかった、と思いたくなるくらい驚いた。
これほどの絶好のチャンスってもう二度と来ないかもしれない。
だって、ミッションの大筋は先にシグナム二尉……もとい、部隊長が説明してた通りの
内容だったんだけど、その護衛をする相手っていうのがあの―――



 ◇



シグナム部隊長の率いる護衛・護送部隊は、今回の護衛対象の方一緒に次元航行隊の
パトロール船に同乗して、今日明日滞在予定の第3管理世界『ヴァイゼン』に着いた。
護衛対象の方が乗るモービルに同乗するシグナム部隊長以外の護衛チーム、あたしの
管轄の護送チーム、両チームの予備として控えている予備チームは、すぐさまチーム
ごとに人輸送用大型モービルに乗り込み、今回あたしがパイロットとして運用予定の
ヘリが待機しているはずの、現地常駐の地上部隊との合流地点に向かった。


「この辺りの景色って、こんなんだったかな……?」
窓から見える故郷の景色はあたしの中の記憶と幾ばくか食い違っていて、何となしに
感じた違和感は、もう5年以上帰省していないあたしに時間の経過を覚えさせる。
「……って、いけないいけない」
つい感傷に浸りそうになったあたしは頭を振り、気を取り直して今回あたしが運用する
予定になっている、機動ヘリのスペックシートに目を落とした。

今回の任務で使用する機動ヘリは『JF505式』という旧世代のもので、機動六課時代に
先輩とあたしが使ってた『JF704式』はこれの4世代くらい後の後継モデル。
実際に乗ってからその後で知ったことだけど、JF7シリーズが高性能と言われてる由縁は
その高い運動性能もさることながら、JF5シリーズと違って自動操縦をインテリジェント
デバイスの制御下に置くことが出来る機能が標準で備わっているからなんだって。
前に先輩がやってたみたいに空中で狙撃が出来たり、許可が出るかどうかはさておいて
やろうと思えば陸戦魔導師でも空戦魔導師との空中戦が可能らしいんだけど、あたしは
先輩と違ってデバイスなんて持って無いし、別になくてもいいけどね。
どちらかと言えば余計な機能だし。
でも、ヨーコントロール方式が704式と同じノーター型とはいえ、製造された世代の差
からかスペックを見る限り、数字上では機動性能が明らかに劣っている。
とはいえ、配備されてそこそこ年月が経ってることもあって保守部品や整備ノウハウが
たくさんあるみたいだし、メンテナンスがやりやすそうな点では助かるかな。

その他細かいところはJF704式とほぼ同じっぽいし、特に問題はないと思ったあたしは
今度はミッションのスケジュール確認を始めた。



そのまま30分くらい荷台の上で揺られ、現地常駐の地上部隊と合流する予定の地点に
着いたあたしは、向こうのメカニックの人との引き継ぎもそこそこに、エンジンの起動
キーを受け取るなり飛行前の最終点検を自分の視点で始めた。
やっぱ、わかる範囲内については自分で点検しておきたいからね。

ぐるっと見て回った感じ、とりあえず機体そのものに目立った損傷は無し。
「機体損傷確認よーし」
声出し、指差し確認は整備士として基本中の基本……今はパイロットだけど。

226こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:24:38 ID:h2bKYLkE

続けて機体に添えつけられているタラップをよじ登り、エンジン−ローター間のギア用
のオイルタンクをカバーを外し、フタを開けて中から確認用の試棒を引っ張りあげる。
「油量及びオイルの汚れ、問題なーし」
とりあえず油脂系の安全は確認出来たので、あたしはコックピットドアを開けて右側の
機長席に座り、コックピットの真ん中に設置されているコンソール群にぽつんと置かれた
鍵穴に起動キーを差し込んでヘリのメインシステムを起動させる。
『System Start.』
起動ボイスと共に全システムが立ち上がり、それに合わせて各計器類が反応し始めた。
電源投入時のセルフテストの結果は問題ないようなので、あたしは燃料計を見た。
「ほぼ……満タンって感じかな」
これだけ燃料があれば、今日明日の運行には問題ないと思う。
水素相手じゃさすがに直接見れないから、燃料の確認はメーターを信じるしかない。

今度は駆動系を見るため、窓越しに見えるメインローターのブレードをじっと見ながら
左手でピッチレバーをしっかり握り、そのまま何度も上げたり下げたりしてみる。
「……うん。おっけーおっけー」
あたしの動きに合わせてブレード角が真っ直ぐ(フルダウン)になったり、目一杯
傾いたり(フルアップ)してくれるし、操縦桿を倒せばその方向に追従して傾くのが
確認出来る。
ラダーペダルはヨーモーメントをコントロールするスラスターのスロットルとして
使われていて、エンジンが止まってる状態じゃ検証不可能だから後回し。

最後に後部キャビンに鎮座している座席のシートベルトの確認のため、コックピットを
立ったあたしは座席の前に立ち、ベルトを握って何回も素早くかつ強めに引っ張った。
「シートベルトも正常っと」
何回引っ張っても途中で引っかかって止まるし、手を離せばちゃんと巻き戻っていくから
ベルトのロック式巻き取り装置は問題なく動いてると思う。
ここの機構が死んでると安全装置のプリテンショナーやフォースリミッターはまともに
動いてくれないから、今日みたいな使用においては動作確認がかかせない。

「ま、こんなもんかなぁ」
とりあえず、現段階のチェックでは問題無さそうな感じ。
本来ならここで動力部や機構部をバラして、きちんと隅々まで機体の状態を点検して
おきたいんだけど、いくら人手があってもそこまでやると時間かかるんだよね。
「ミッション開始までにそこまでやれるほどの時間ないし、しょうがないかなぁ」
ひとまずこちらのメカニックの人の腕を信用することにしたあたしは、一息つこうと
いったんヘリから降りることにした。



「部隊長、護送ヘリの一般点検作業が終了しました」
あたしは直立不動の姿勢で礼を執り、一般点検が終わったことを報告した。
「……ああ、アルトか。ご苦労だった」
シグナム部隊長はいつでも現場に出られるように、といった具合に武装隊甲冑のアンダー
ウェアを着ていた。
でも、肝心の自身がどこか上の空というか……何か考え込んでいるような感じがする。
「あの……シグナム部隊長、考え事ですか?」
礼を解いて思い切って訊ねてみると、シグナム部隊長は意外そうな表情になった。
「む……そういう風に見えたか」
「はい」
あたしが正直に答えると、小さく苦笑いを漏らして、
「我々の家族にも関わる私事だ。仕事場に持ち込んでしまったか……すまなかった」
「あ、いえ……そんな」
ぺこりと頭を下げたシグナム部隊長に、あたしは思わず両手を振って慌てた。
だって、あたしも先輩の件があるから人のこと言えないし。

「ところで、ヘリはいつでも出られる状態なのか?」
「えっと……まだ燃料や油脂系や電装系とかの簡単な点検だけで、エンジンを動かした
 状態での動作とかは見てないです」
状況を説明すると、シグナム部隊長は急にあきれたような表情を見せた。

227こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:26:47 ID:h2bKYLkE
「一応ヘリ関連はお前がトップなのだから、点検くらい部下に任せても良いのだぞ?」
「……あ」
指摘された意味に気づき、あたしは今思い出したような声を出した。
いつもの癖で自然にやってたけど、あたしって一応それくらいの権限あるんだっけ。
「あ、でもあれは自分が操縦するわけですから、自分で確かめておきたいかなーって」
慌てて弁明をするあたしを、シグナム部隊長はため息と手で制した。
「出発の時刻までまだ時間はあるし、スケジュール通りに事が運ぶのならばそれでいい」
「すみませんでした」
「いや……そういうところがあるからこそ、私はお前を班長として据え置いたのだからな」
その意味深な言葉に、あたしは頭を下げるのを忘れて首をかしげた。
「確かに、今回の班長選抜に関して身内びいきがあることは否定しない。ついこの間まで
 機動六課で同じ釜の飯を食べ、あのヴァイスの元で色々なものを吸収してきたであろう
 お前になら安心してこの要人護送という仕事を任せられそうだ、と思ったのはある」
「でも、あたしは人を引っ張っていくとかそんな――」
「話は最後まで聞け」
そんな才能は無い、と言おうとしてシグナム部隊長に言葉を遮られた。
「これは私個人の考えであり、全てのケースに当てはまるわけではないのは承知してる」
シグナム部隊長はそう前置きすると、
「私としては、上に立つ者は部下に対して自らお手本を示してほしいと常に考えている。
 たとえそれがドライな仕事だけの仲間であっても、仲の良い友人同士であってもだ」
「はぁ」
あたしはまだ今ひとつ要領が飲み込めず、小さく生返事を返した。
「何せ六課の時とは違い、今日明日で解散することが決まっている急ごしらえの部隊だ。
 変に現役の者を連れて来ると、所属していた部署の日常業務に支障が出て問題になる
 可能性も有るし、裏方を統率した経験があるフリーの仕官というのはなかなかいない」
「裏方の統率経験者……って八神二佐のような方ですね」
パッと頭に浮かんだあたしの例えに、シグナム部隊長は『うむ』と頷いて、
「そこで私が出した結論が、部下を仕事で引っ張っていけるだけのスキルを持っている
 のに加えてなおかつ人当たりが良く、気がつくと仲間の輪の中心にいるような人物を
 班のリーダーとして据えてみたらどうか……というわけなのだ」
「それが先輩であり、あたしだって事なんですか?」
「ああ。最初はスキルを優先していて、かつ自分が良く知っていて信用に足る人物を……
 と考えてヴァイスを選んだが、私はどうやらアイツにフラレてしまったようだ」
そう言ってシグナム部隊長はフフッと自虐気味に笑った。
何気に出た『フラレてしまった』の言葉が、ズンとあたしの心に圧し掛かる。
「だが勘違いするなよ? 推薦があったとは言え、人選の基準で妥協したつもりはない。
 だからお前は何も気にせず、大手を振って自分の班を指揮すればいい」
多分さっきの言葉で心に負荷がかかった時に顔に出ちゃってたのを、シグナム部隊長に
実際に上に立った時の不安から来るものと勘違いされてしまったみたい。
でも、確かに今のとは別にあたしにはその手の不安もあった。
「仮にあたしに相応の能力があったとして、部下となっている皆はそれだけでついてきて
 くれるんでしょうか?」
自信の無さから生まれた言葉に、シグナム部隊長は少し考えるそぶりを見せると、
「ふむ……100%の保証は出来ないが、私の周りに一人それを実現出来た者がいるからな」
シグナム部隊長はそう口にすると、何かを決心したように頷いた。
「よし、この際良い機会だ。参考になるものがあるだろうし、彼をお前に紹介するとしよう」
未だに戸惑っているあたしをよそに、何かを確認するかのように後ろを振り返った。
その視線の先には、金髪系の栗色の長髪を薄緑色のリボンで束ねた特徴的な後姿があった。
「実は、今回の護送対象は私の古い友人でな……彼は全くの0から部署を構築して、今から
 数年ほど前に己の実力とその人当たりで全ての部下を纏め上げた、私が理想と考えている
 モデルケースを体現しきった男だ」
そう言って自身の副官と話をしている、今回の護衛対象で本局のロストロギア情報に関する
情報を管理する無限書庫の司書長さんである男性―――ユーノ・スクライア先生に声をかけた。

「あー、取り込み中済まない。今日明日乗ってもらうヘリのパイロットを紹介したいのだが」



 ◇

228こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:29:11 ID:h2bKYLkE
前を見渡せば、夕焼けでどこまでも紅く染められた雲一つない広い空。
下の地面を見下ろせば、青々と密林の如く生い茂っている木々。
耳を澄ませてみれば、聴こえてくるのは唸るエンジン音とブレードが空気を叩く音。

今回のミッションは要人護送という事もあり、機動ヘリの操縦桿を握りしめるあたしの
右手は緊張しているせいかいつも以上に力が入ってしまう。


輸送部でいつものようにしていた二人一組の訓練と違い、今日は一人で操縦している。
護送対象のユーノ先生を除いて、隣のコパイシートはおろか後部キャビンの座席にすら
余人はいない。
同じ班のチームメイトはこのヘリの整備が主な仕事なので、こうやって飛んで移動して
いる間は空港からの道のりと同じように大型輸送モービルで追いかけてきてるはず。
シグナム部隊長を始めとする航空武装隊の方々は、当初の予定通りヘリの周辺で隊形を
組んでついてきているから、事実上あたしとユーノ先生はこの狭い空間に二人っきりだ。

『イージス000よりイージス100へ。状況を報告されたし』
不意に、装着したインカムのスピーカーからシグナム部隊長の声が風切音と共に響いた。
定期報告の要請がきたみたいなので、あたしは思考を一時中断して計器に注目した。

高度、速力、共に予定通りのペースで巡航中。
メインローター用エンジンの回転数、前方後方共に異常無し。
油温、水温、タービン内部圧力、後部スラスター出力、共に正常範囲内。
ドップラーレーダー、特に反応は無し。
気象衛星からのデータ、低気圧や突風の情報無し。
制御システムのリアルタイムセルフテストは……今のところ、特に異常無し。
コンディション、オールグリーンっと。

「こちらイージス100。現在、特に異常ありません」
あたしは上にどけていたインカムマイクを口に近づけ、状況を報告した。
『こちらイージス000、了解した。そのまま安全運転で頼むぞ』
「イージス100からイージス000へ、任務了解しました。オーバー」
定期報告の通信の終了を告げてマイクを口元から遠ざけたあたしは、バックミラーを
調整して後部席に座っているユーノ先生をそっと見やった。
ユーノ先生は明日の仕事の準備に余念がないのか、資料と思われる紙の束をまるで
憎ったらしい相手を睨みつけるかのような表情で眺めている。


シグナム部隊長に紹介され、振り向いた先にあったあたしの顔を見て何だかもの凄く
気まずそうな渋い顔になったユーノ先生に対し『なんだ、知り合いか?』とシグナム
部隊長が不思議そうな表情で尋ねてきたので、あたしとユーノ先生はまるでお互いに
申合わせておいたかのように、ぎこちない挨拶を交わし合うことになった。

ユーノ先生がそんな顔をしちゃう原因は……多分アレ。
本人から聞いたわけじゃないから断定は出来ないんだけど、あたしが先週ユーノ先生が
失恋からくる傷心でブルーになってるということをダイレクトに突いちゃったから。
あたしが思うに、きっとユーノ先生はシャマル先生を始めとした身内の人達にも自分の
おかれている状況を隠していて、あたしとうっかり口を聞いたらその弾みで内緒にして
いることが他の人に漏れるかもって考えているんじゃないかな。

ヘリの中でユーノ先生とふたりっきりの状況下、あたしとしては話したいことが山ほど
あるんだけど、今は気軽に話を切り出せそうな雰囲気じゃなかった。
なんていうかこう……ユーノ先生におもいっきり避けられているっていうか。
何故そう思うのかってと言われると……たとえば今ユーノ先生が読んでいる資料の束。
時々自動操縦にしてチラチラ様子を伺っただけでしか見てないけど、それでも全く同じ
ページっぽいところを、さっきから二度三度どころかもう5回くらい読んでいるを確認
出来た。
誤字脱字のチェックにしてはしつこ過ぎる気がしなくもないし、熟読して内容の確認を
するにしては読むのが何か早過ぎる気がする。

229こんなはずじゃなかったふたり。第7話 ALTO View:2009/08/18(火) 02:32:02 ID:h2bKYLkE
もしかしたら、読むフリだけしてちゃんと読んでないんじゃないかなって。
可能性として考えられるのは、真剣に仕事しているフリをしていればあたしからの声を
遮ることが出来るからじゃないかなって思うんだけど、あたしが思い違いをしてるって
可能性も完全には否定出来ない。

……うーん、どうしよ?


結局、あたしは現地の宿泊先兼目的地であるホテルに到着するまでの間、何一つとして
ユーノ先生と言葉を交わすことは出来なかった。



 ◇



ヘリが現地に到着し、部隊のメンバーが全員合流したのを確認したあたしは、自分の管轄
である護送チームのメンバーを全員集め、いつでも飛べるよう総がかりでメンテナンスに
入った。
昼間のうちは不慣れな事もあってギクシャクしていたけど、手や顔が油まれになるうちに
皆とすっかり打ち解け合い、その流れで一緒に夕食を取ったり、同性のスタッフと一緒に
仮設のシャワールームでシャワーも浴びたりした。
「みんな、先に上がってるね」
『あ、はーい。お疲れ様でーす』
ようやくその日の汗や汚れを全部洗い流し終え、着替えを済ませて仮設シャワールームを
後にしたあたしは、気分転換と夕涼みを兼ねて外に散歩に出かけることにした。
ホテルの周辺で警備の任務に就いている護衛チームと違って、あたし含めた護送チームは
明日まで仕事がないため、キャンプ周辺を散歩する程度の自由行動は許されていた。
「あ……ここって結構涼しいかも」
クラナガンと違って自然が多く、初夏とは言えまだまだ気温が低いみたい。
おかげで、シャワー上がりの火照った身体を冷ますのにはちょうど良い冷房になった。


観光地だけあって街の灯かりが無いこともあって、満天の星空が広がっている。
しばらく歩き続けて、ようやくそのことに気がついたあたしは立ち止まって空を見上げた。
「わぁ……」
夜空に広がっている綺麗な光景に、あたしは思わず感嘆の息を漏らした。
地上本部周辺は基本的に夜でも明るく、なかなかこういったのは見られない。
今のうちに目に焼き付けておこうとしばらく見上げ続けていたものの、だんだん首が痛く
なったあたしは、首すじを揉みほぐそうと頭を真っ正面に戻した。
「……ん?」
視線が下がった刹那、あたしは視界に見覚えのある人影が通り過ぎていくのを捉えた。
「今通り過ぎてった人……ユーノ先生?」

230亜流:2009/08/18(火) 02:35:01 ID:h2bKYLkE
以上です。
次で話のヤマが一つ終わります

<チラシ裏>

宿題になってたユーノ×セイン×ヴィヴィオを完成させたいです

</チラシ裏>

231名無しさん@魔法少女:2009/08/18(火) 19:37:06 ID:OHssh1Zc
投下させていただきます。

・全4レス
・SS後日談、オリジナル色強め
・シグナム無双、バトルメイン
・エロなし
・ウーノ、トーレ、クアットロのファンの方、ごめんなさい

232紫炎剣客奇憚 ACT.01 2/4:2009/08/18(火) 19:37:58 ID:OHssh1Zc
「クアットロ、私が追っ手の足を止める。その隙に逃げろ……いいな?」
「トーレ姉様、でもそれでは……」
 歩み出た長身をシグナムは見上げた。見上げる距離まで無造作に近付いていた。
 脱走者が一人、ナンバーズのトーレがシグナムの前にそびえていた。そのしなやかな体躯が今は、シグナムには難攻不落の城砦にも感じる。彼女は相手に不退転の決意を読み取った。
 その背後で、よろよろと姉の背へ手を伸べるのが、同じくナンバーズのクワットロ。特徴的な丸眼鏡が形良い鼻からずり落ち、憔悴しきった顔で不安げに視線を彷徨わせいている。
 トーレは収監時の拘束具を着ていたが、魔法処理された拘束ベルトが無残にも引き千切られている。その背後で地面にへたりこむクアットロは、全身を毛布にくるんでいた。
「いいから逃げろ。逃げるんだ、クアットロ! ……ほう、強いな」
 腰に手を当て嘆息を零して、トーレがシグナムを前に目を細めた。
 はからずもシグナムは、全く同じ感想をトーレに対して抱いていた。報告にあったスペックよりも、眼前に佇む戦闘機人は強い……肌を粟立たせるプレッシャーが、無言でそう告げていた。
 シグナムは半ば無駄と知りつつ、警告を与えた。
「主はやての命により、お前達二人を保護する。悪いようにはしない、一緒に戻ろう」
 主を第一と奉じるシグナムには解る。解るつもりだった。ジェイル=スカリエッティの死が、目の前の二人にとってどれだけショックだったかを。悪いようにはしない……その言葉に偽りなく、持てる権限の全てを駆使して善処するつもりだった。
 だが、トーレは悟ったような寂しい笑みに唇を歪めた。
 シグナムは対峙するトーレの瞳を真っ直ぐ見詰めた。交差する視線が互いの念を相手へと伝える。激突は必定であると、悲痛なまでに清冽なトーレの目が訴えていた。
「二人? では駄目だ。やるしかない……走れっ、クアットロ!」
 言い終わらぬうちにトーレが光の羽根を纏う。それは明日へと舞い飛ぶ翼ではなく、眼前の敵を切り裂く刃。
 シグナムは意を決してレヴァンティンを構え直すと、胸の疼痛を心の手で押さえて言い放った。
「抵抗するのであれば、容赦はしない……剣の騎士シグナム、参る」
 凛として、清々と。静謐に燃え滾るシグナムの血潮に呼応して、レヴァンティンが刀身に注ぐ雨を蒸発させて水煙をあげる。
 ひとたび対すると決めれば、シグナムに迷いはなかった。ただ、しんしんと身を切り心を刻む……それは切なさ。眼前の敵は、トーレは覚悟を決めている。姉にならって命を賭し、捨石となって妹を逃がすつもりだ。
 そのことを悟らせぬよう、トーレが吼える。その気勢に気圧されることなくシグナムは地を蹴った。

233紫炎剣客奇憚 ACT.01 4/4:2009/08/18(火) 19:38:44 ID:OHssh1Zc
 降りしきる雨が、闘争の余熱をシグナムから奪ってゆく。闘いの愉悦も興奮も、全てが虚しさへと転じてゆく。それでも己の義務を果すため、シグナムは最後の一人へと歩を進める。強敵と書いて友と呼べる、トーレの身体を両手に抱きながら。
「もう逃げられんぞ。せめてお前だけでも無事に……むっ」
 半裸で尻を大地に擦りながら後ずさる、クアットロの身体の異変にシグナムは気付いた。
 下腹部が大きく膨らんでいる。
 シグナムの注視する目に気付くや、まるで己の命より大事な物を庇うようにクアットロが身を翻した。シグナムに背を向け両手で下腹部を覆い、肩越しに射るような視線を投じてくる。
 二人? では駄目だ。やるしかない……トーレの言葉をシグナムは理解した。
 二人ではなく、逃亡者は三人だったのだ。
 同時に、嘗て機動六課で轡を並べた仲間達の言葉が脳裏を過ぎる。今ではJS事件として語られる災厄の元凶、ジェイル=スカリエッティが戦闘機人達に残した悪夢の芽を。それは全て、母体に悪影響がないように処理された筈だった。
「……いつからだ?」
「ひっ! あ、あのお方が、ドクターが亡くなってからすぐお腹が急激に……」
「違う、いつからだと……私達の目を、いつからすり抜けていたのかと聞いている」
 怯えるクアットロが身を硬くして縮こまった。弱まる雨に混じる雷光が、シグナムの痩身を映し出す。姉を倒し我が子を脅かす、その姿はさぞかし恐ろしかろうとシグナムは思った。
 だが、それが手心を加える理由にはならない。
「ナンバーズが全員、堕胎処置を受けるときに……ウーノ姉様が管理局のデータを書き換えて」
 油断だったとシグナムは溜息を一つ。身重の体を考えれば、逃げ足の遅さにも説明がつく。
 JS事件はその規模故に誰もが解決に必死となり、その反動で事後処理が僅かに綻んだのだろう。僅かに、確かに。だが、ナンバーズの長姉にとって、その僅かな隙で充分だったのだ。針に糸を通すような緻密さで、ウーノは囚われの身で能力を制限されながら、情報操作をやってのけたのだった。
「それが……いや、その子がスカリエッティの」
「違うっ! 違うわ、違うの……最初はそうだった、ドクターそのものだった」
 襲い来る脱力感と戦いながら言葉を紡ぐ、シグナムの手にトーレが重かった。死して尚、最後の好敵手に訴えてくる思念を確かに感じる。
 震えながらクアットロは、切々と途切れ途切れに呟いた。
「最初は、あの方だった、けど……だんだん私の中で違うモノに、新しいモノに育っていったの」
 眼鏡の奥に大粒の涙を溜めながら、クアットロが身を切るような声を搾り出す。
「時々動くの……ここから出して、って。私、どうしていいか解らなくて、姉様に相談したら……」
 そこにもう、ナンバーズの四番体の姿はなかった。冷血で残忍なクアットロはいなかった。
「……思わぬ強敵に手こずり、逃がしてしまうとはな」
 シグナムはトーレを抱いたまま、踵を返してクアットロに背を向けた。
 何が起こったのか解らず、呆けたままボロボロと泣き出すクアットロ。
「恐らく辺境に逃げたか? 取り逃がした責は私が負うとしよう」
 雨が止んで、夜風が雲に切れ間を作った。差し込む月明かりが、剣の騎士の背中を照らす。
「どこかの片田舎で、新しい命が生まれる……我が主はやてが、それを許さぬ筈がない」
 それだけ言い残すと、シグナムは地を蹴った。颯爽と華奢な身が月夜へと舞い上がる。
 その手に抱かれたもの言わぬ好敵手が、空の夜気と妹の無事に安堵するように軽くなった。

 ――シグナムと《宿業の子》が再会するのは、これより三年後の初夏だった。

234紫炎剣客奇憚 ACT.01 1/4:2009/08/18(火) 19:40:10 ID:OHssh1Zc
 JS事件収束より時はうつろい季節はめぐり……冬。
 ジェイル=スカリエッティが軌道拘置所にて自殺した。
 ヴォルケンリッターが一人、剣の騎士シグナム。彼女が主はやてに、脱走したナンバーズを追うよう懇願されたのは、事件が発覚してより少し後だった。
 当局側は気付けなかった。JS事件の捜査に関して非協力的だった、三人のナンバーズ……一騎当千の戦闘機人達が、スカリエッティの死を契機に一致団結して脱走していたなどと。
 そう、脱走して"いた"のだ……今や過去形なのだと、シグナムは奥歯を噛み締める。
 ナンバーズ長姉、ウーノのIS(インヒューレントスキル)である《フローレス・セクレタリー》がもたらすロジックトラップが、事件に対する初動を鈍らせていた。己の全てを振り絞って妹達を逃がし、ウーノはスカリエッティの後を追い命を絶った。
 時空管理局は後手に回らざるを得ず、その対応は遅かった。だが……
 ――遅過ぎはしない。
 そう心に結んで、シグナムは雨天の闇夜を引き裂き空を馳せた。
 不思議と、圧倒的な時間的アドバンテージ――高レベルの魔導士や戦闘機人にとって、半日という時間は永遠にも等しい――があるにも関わらず、トーレとクアットロの逃げ足は遅く鈍かった。
 慌てて後を追うシグナムが、容易にその痕跡を発見し、隠れる場所を突き止められる程に。
 軌道拘置所の眼下に広がる大地の、深い森の海に脱走者は潜んでいた。シグナムはすぐに目標の潜伏する山小屋を見つけて中空に停止する。
「妙だ……何故逃げない? 半日あればもう、察知不能な距離に逃げ切れる筈だが」
 独りごちてシグナムは、足元の小さな建物を見下ろす。丸太で組んだ簡素な山小屋が、雨の夜に温かな明かりを灯している。それはおおよそ、人ならざる逃走者には似つかわしくない光景にも思えた。
 だが、その温もりは誰にでも許されるのだと、シグナムは己の分身を構える。そう、誰にでも安住の地が、安らげる場所が許される……例えば、自分のような守護騎士システムの産物でも。そしてそれは、戦闘機人でも同じだった。
 ただし、罪を償い贖って生きる意志があれば。
 シグナムは構えたレヴァンティンから剣気を解放し、自らの存在を周囲に発散した。追っ手として放たれた自分が、敵である二人の戦闘機人を捉えたことを夜空に静かに宣誓する。それは騎士としての彼女の流儀だった。
 雨音を時折雷鳴が遮る中、シグナムの闘気に応える様に山小屋の扉が開け放たれた。
 シグナムは油断無くレヴァンティンを構えながら、静かに大地へと降り立った。

235紫炎剣客奇憚 ACT.01 3/4:2009/08/18(火) 19:41:00 ID:OHssh1Zc
 自在に天を駆け、自由に宙を舞う二人が大地を踏み締める。まるで、互いに望まぬ戦いで空を汚さぬように。
 遠雷の音を聞きながらシグナムは、まるで輪舞を踊るようにトーレと斬り結んだ。
 斬り、払い、突く。その合間に無手の体術を捌き、いなし、避けてかわす。トーレは向けられる切っ先を紙一重で回避し、その何割かに身を引き裂かれながらも……蹴りを繰り出し、拳を突き出してくる。気迫に満ちたそれは何度もシグナムを掠め、ゆらめく光の羽根が剃刀のように騎士甲冑を溶断して肌を切った。
「これほどの腕を持ちながら……惜しい。何故に?」
 シグナムは問うた。その間もせわしく、繰り出される連撃をよけながらステップを踏む。
「既に我が身、我が命……惜しいとは思わない。言葉は不用っ」
 トーレの攻勢が加速する。二人は雨の闇夜に稲光で陰影を刻んで、常軌を逸したスピードでぶつかり合った。その身体を光が包み、接触の度に激しく火花を散らして血と汗を噴き上げる。
 トーレのIS、《ライドインパルス》が限界を超えて発動し、その負荷に全身から悲鳴を叫ばせて……それでもトーレは、静かに微笑んでいた。その顔にシグナムは、鏡写しの自分を見る。
 シグナムもまた、命を懸けた死合に言い知れぬ興奮と高揚感を自覚していた。
 直近に落雷が轟いた。その眩い光に互いの姿を見て、シグナムとトーレは全力で削り合い潰し合う。既に言葉を必要としない両者は、たった一つの単純で明快な理に支配されていた。
 ――すなわち、どちらがより強いか。とちらがより、強い想いを秘めているか。
「フッ、できるな……できれば空で会いたかった」
「同感だ。今なら間に合う、と言っても無駄か」
 トーレの全身に散りばめられた光の翼が、一瞬消失した。否、一箇所に集まった。爆光の十二翼を煌かせて、トーレが全身全霊で拳を繰り出す。その一撃をレヴァンティンで受け止める、シグナムの足が大地を大きく抉った。
 押されている。相手が切り札を切ってきた。そう察するや、シグナムは瞳を見開き勝負に出る。
「レヴァンティン! カートリッジ、リロードッ!」
「Jawohl Nachladen!」
 レヴァンティンが魔力を凝縮したカートリッジを立て続けに飲み込んだ。
 シグナムは両手で支える相棒から離した左手を翳す。魔力光が紫炎を漲らせて集束し、その手に剣の鞘を現出させた。
 驚愕に瞳孔を縮めるトーレを気迫で圧して押し返すと、シグナムは鞘をレヴァンティンの柄に接続する。次々と排莢されたカートリッジが宙を舞い、その最初の一つが地に転がるより速く……ボーゲンフォルムへと変形したレヴァンティンの零距離射撃がトーレを穿った。
 シグナムの思惟が、意思が、闘志が――哀しみがトーレを貫いた。
 身体の中心を貫き天へと昇る光に引っ張られて、トーレの長身が一瞬だけ空へと還った。闇夜で豪雨で、それでも空で……確かに空で命を散らして、やがて重力につかまる。シグナムはレヴァンティンを鞘から分離させるや納剣して、落下するトーレへ両手を広げた。
「……いい、勝負だった、な。シグナム」
 ああ、と短く応えてシグナムは好敵手を抱きしめる。その冷たい身体から、無情にも雨と死が体温を奪っていった。
「クアットロは……ちゃんと逃げたか? 腹黒ぶってても、あいつは臆病で弱虫だからな」
 ちらりとシグナムは視線を、トーレの背後へと放る。
 毛布をはだけさせた下着姿のクアットロは、地面にへたりこんで竦んでいた。
「まんまと逃げられたようだ。私一人での追跡は、これ以上は無理だな」
「そうか……そうか。では、私の、勝ちだ……ありがとう、シグナム」
 トーレが突然重くなった。その身を横に抱き上げ、シグナムは無言でクアットロへと歩み寄った。

236名無しさん@魔法少女:2009/08/18(火) 19:41:47 ID:OHssh1Zc
あわわ、順番に書き込んだはずが奇数話だけUPされなかった…
お目汚し申し訳ありませんです。

237名無しさん@魔法少女:2009/08/18(火) 22:53:42 ID:OcLEb67I
>>195
B・A氏乙です。
考えてみると、六課は敵役の重要人物を内部に引き入れてしまう格好になったような。
筋を通せとそれらしい事を言いながら、実はそれを意図していたと思うと、レジィも悪い奴やでぇ

>>236

シグさん主役でバトル物とかとっても楽しみだ。
弱気なクアも中々可愛い。

>>230
亜流氏GJ
アルト分を補給できて満足。
話もかなり練られているようでいい感じ。

238名無しさん@魔法少女:2009/08/19(水) 00:11:04 ID:fKndnGg2
亜流氏GJです
ユーノの鬱屈した感じがいいです

239名無しさん@魔法少女:2009/08/19(水) 01:11:34 ID:yR.hDpAU
GJ!!です。
保護か……テロに走った彼女らが正しいとは言わないが、
元はといえば管理局のTOPが諸悪の根源だからちょっと複雑。
そして、子供に関しては下手に情けをかけると平清盛のようにやられるぞw
ちゃんと、教育の過程で洗脳方面だろうが道徳観を植えつけなきゃ。

作品の感想とは別に気になった所を。
クアットロのISのシルバーカーテンならどうにかできるのではとちょっと思ってしまいました。

240名無しさん@魔法少女:2009/08/19(水) 17:17:36 ID:kmaM7gJw
>>239
GJ
綿密に組み立てられた話ってのはやっぱ読んでて面白いです。
未だに二人は自分の好きな人に引きずられている状態だけど、こっからどうやってユーノ×アルトに持っていけるのかが楽しみ。

241240:2009/08/19(水) 17:18:42 ID:kmaM7gJw
アンカミスったorz
>>239>>230

242名無しさん@魔法少女:2009/08/19(水) 21:41:16 ID:knWNF.qY
>>230
亜流氏良い仕事してるなぁ
次回も期待してますが、それ以上にミズハス祭りも期待してます。

243名無しさん@魔法少女:2009/08/20(木) 00:27:20 ID:LVB6g0oU
>>236
素晴らしい! 弱気気味なクアットロが可愛くて仕方ありません!
次回も楽しみにしています!

245シロクジラ ◆9mRPC.YYWA:2009/08/20(木) 16:50:52 ID:7WQpjzOQ
さて、お久しぶりの方すいません、初めての方こんにちは。
ユーノが実は女の子でクロノとくっつきました(超要約)の最終話、投下いたします。
NGはトリか「司書長は女の子」で。
鬱要素在ります。

246司書長は女の子 ◆9mRPC.YYWA:2009/08/20(木) 16:51:46 ID:7WQpjzOQ
「司書長は女の子 その5」

夢とは脳が見る記憶の整理――本人が望まぬ光景すらも、再生してしまうもの。
だから、そんな夢を見ることもあるのだろう。それは遠いようで近い過去。失われたセピア色の風景。
五感が覚えている恐怖と痛み、怠惰と脳で弾ける白い色、快楽という感覚。
はぁはぁ、と荒い息づかい――アルコールのすえた匂い。
ぱんぱん、と腰を打ち付ける際に生じる肉が肉を叩く音。
少女の幼い肢体を、獣のように男が犯す。

「んぅ……あ、あ、あ……」

薄汚れた男が、清楚な少女を犯す、侵す、冒す。
口に生えた無精髭、目の下に出来た大きな隈、酒臭い吐息。
まるで薬物中毒患者の末路のような酷い顔だった。

対して少女は何処までも無表情に――まるで卵の殻に閉じこもる雛鳥のように――感情も何もかも閉ざして、人形のように抱かれていた。
煮える。煮える。煮える。暖められず腐ってしまう雛鳥の風情――腐敗した感情を抱え、重く、重く、重く――沈んでいく檻に閉じ込められた自我。
蜂蜜に似た色の金髪は長く伸ばされ、汗でびっしょりと背中に張り付いている。びくり、と男の腰が震えた。
厭で厭で仕方がない行為――半ば強制的な性行為――にも関わらず、犯し抜かれた少女の肉体は早熟に芽吹き、男をくわえ込んで離さない。
これが自分なのだと、穢れてしまった身体、汚されてしまった淡い夢を想って、少女は深い闇の其処で泣き叫び続ける。
無表情は張り子の仮面。何が悲しかったのかすらわからない。ただ、もう二度と救われることなんて無いのだと、壊れた真っ白な脳味噌が思う。
腰の動きがピッチを増し、やがて男根が幼い未発達な肉を貫きながら、灼熱の精を放った。
男は何時もそうするように娘の細い腰を掴み、子宮口にぴったりと亀頭を擦り付ける。
そのせいで少女の子宮には男の精液が溢れかえり、小さなお腹が膨らんでいた。
熱い、熱い、熱い――胎内に侵入する“入ってはいけないもの”。
これはいけないものだ。吐いてしまいたいくらい、気持ち悪い。
でも吐くとまた悲しそうな顔をするから、されるがままの人形でいよう。
この人は少女を撲ったりしないけど、行為が引き延ばされるのは苦痛だから。

嬉しいのか。

悲しいのか。

寂しいのか。

わからない。

ただどうしようもない現実に、絶望に溺れきった女の子は、何も映さぬ空虚な瞳で天井を見つめ、
意味を成さない呻き声を上げながら、どくどく注がれ続ける男の――実の父親の精子を受け止め続けた。
暗い、暗い、暗い――目も耳も潰れしまえばいいのに。遠くから聞こえた「ユーノは何処だ?」という声に、この後起こるであろうことがわかってしまう。
きっと、何もかも終わる。今は亡き妻と重ねて娘を犯すこの人も、彼に為すがままにされていた自分すらも。
もう、どうでもいい――――――終わるのならば、せめてこの苦しみが無くなるように。
無表情を保っていた仮面が、ぐにゃり、と歪んだ。

「やだよ、もう――――」

父の顔も、ぐにゃり、と――歪んでいる気がした。
何もかも歪んでいく――思い出も、記憶も、感情も、身体も、心も。




247司書長は女の子 ◆9mRPC.YYWA:2009/08/20(木) 16:52:36 ID:7WQpjzOQ
何が現実で何が夢なのか――薄く儚い境界線。
悪夢という回廊から逃れる術はない――単純に目が醒めてしまう以外に。
深く閉じられていた目蓋を、一刻も早く悪夢から逃れたくて開きかけたけれど、
もしも、目を開けた先に、夢と代わり映えしない“現実”があったらどうしようと。


―――想像してしまった。


例えば、だ。今、ベッドの隣、背中をこっちに向けて寝息を立てている“彼”が、あの男だったら?
それは恐ろしい想像で、年相応に女性らしく成長した少女が泣いてしまうくらい、怖かった。
薄く灯が付いた寝室。ベッドの上に全裸で横たわる少女は、ただ恐怖に震えて涙を流した。
ポロポロと流れ続ける涙を、止める術なんて無いように思われ――

「ユーノ? どうしたんだ?」

少女、今年で十九歳になるユーノ・スクライアは、その声にひっ、と上擦った声を上げた。
もう何もかも恐ろしくて、どうしようもなく、これが悪夢の続きでないという確証が持てなくて、震える。
彼女の様子がおかしいことに気づいたのか、半裸の青年はユーノの肩に手を当てて、そっと顔を覗き込む。
塩辛く生温い雫で汚れた少女の顔は――ひどく脅えていた。視線は虚ろで、何か青年ではない誰かを見ているかのようだった。
彼に出来たのは、ユーノの身体をぎゅっと優しく抱き締めることだけだった。

「大丈夫だ……クロノ・ハラオウンは、此処にいるから」

「ク、ロ、ノ?」

「そうだ、僕だ。ずっと君を護るって誓ったから、君の側にずっと居る。
もう、怖い目にユーノを合わせたりなんかしないから、何も恐れなくて良いんだ――」

涙を流していた翡翠色の瞳が漸く、怯えの色を薄くしてクロノの顔を見た。
微笑みかけよう。少しでも長く彼女の傍にいよう。何故なら、クロノはユーノ・スクライアが大好きだから。
死が二人を別つまで。せめて、魂まで穢れていると、彼女が思わないように。
永遠というものが存在しなくても、愛し合ったことだけは死後に抱えていけると信じ、共に生きたい。

だから――力強くユーノを抱き締めて、翡翠の瞳を見つめた。照れくさいことなんて無いのに、ユーノが少し恥ずかしそうに呟いた。

「……キス、して。ボクに」

二人の唇はゆっくりと近づき――優しく触れ合った。
それだけが真実、そこに存在する証なのだと言わんばかり、甘く蕩かす接吻。
やがてそれは深い交わりとなり、舌と舌が絡む情熱的キスへ変わる。互いを求め合うが故の、切なさを埋めるが如き行為。
粘度の高い唾液と唾液がねちゃねちゃと口中で混ざり合い、二人の喉奥へ流れ込んで飲まれていく。
頭の中が真っ白になっていく感覚に、何処か惚けた表情で愛する人の顔を見た。
ぬちゃ、と舌が引き抜かれ、クロノは愛しそうに彼女の蜂蜜色の髪を梳き、ふっ、と表情を緩ませて言う。
同時に全裸のユーノの胸へ伸びる手が、最近、増量されて自己主張している乳房を撫でた。
敏感な性感帯の乳首を摘まれて、少女の声が上擦った。

「んぁっ!」

「しかしまあ、随分と育ったものだ」

火照り始めた肌。相変わらず感度も良いようで、少し触れただけでユーノは感じている。
これならば――と思ったクロノは、さらに乳肉を捏ねくり回し、いやらしく尖った乳首を抓り、引っ張る。

「んぅ……それ、は、クロノ、が、たくさん触るから……ひゃぅっ!」

蜜を溢れさせている秘所、その上部で充血し膨れている陰核を指で潰す。
青年は何処か黒い笑顔、愉悦を感じさせる笑みで、女性の性感帯を徹底的に責める。
その度にビクビクとユーノの身体は震え、「あぁ」と「うぅ」とも付かない喘ぎ声が上がった。

「僕のせい? 君がいやらしいだけだろう、こんな風に」

クロノが指を秘所へ伸ばすと、明らかな水音が立った。
少女の股ぐらは愛液で濡れ、太股は既にびしょびしょだ。ましてや二人の情事は一ヶ月ほどご無沙汰――クロノの仕事の都合だ――であり、
その間ユーノは貞淑に彼を待ち続け、クロノも溜めに溜めていたのだから、互いに幾ら交わっても足りると言うことはない。
ましてやふっくらと円熟した、雌の肢体を持った女性に成長したユーノにとって、クロノとの情交は肉欲を吐き出す数少ない機会だった。
だから、次に待っていた彼の言葉は、到底受け入れられるはずもない。

248司書長は女の子 ◆9mRPC.YYWA:2009/08/20(木) 16:53:10 ID:7WQpjzOQ
「それとも、僕とするのが嫌になった? なら金輪際しないけど、それでも良いの?」

少女の目に、明らかな情欲の炎が灯った。翡翠色の瞳に爛々と妖しい光が宿り、吐息は熱く粘つく。
豊満と言って差し支えない乳房を、青年の胸板に押しつけながら、雄を刺激するように色気を孕んだ声で、呟いた。

「……いぢわる……ボクの身体をこんな風にした責任、取ってよ……」

「元々の素質だと思うけどね……まったく、我が儘なお姫様だ」

そう言うと、クロノはもう一度少女の唇を奪った。
甘く囁く代わりに宝石のようなユーノの瞳を見つめ、かつての告白から経った月日に思いを馳せる。
深く、吸い込まれそうなくらい澄んだ翡翠色の瞳。彼女が自らの過去を語り、クロノが初めて愛を交わしてから、もう四年も経った。
その間に、ユーノの本当の性別を巡って色々なことが起きた。フェイトは義兄の相手がいきなり決まったことに吃驚していたし、はやてはすんなりと受け入れた。
なのはは……何か思うところがあるようだったが、二人の幸せを祈る、と言って微笑んでくれた。
一番驚いたのは、母であるリンディ・ハラオウンがあっさりと、ユーノとの交際を認めてくれたことだった。

曰く、

『ずっと前から気づいたわ』

とのことだった。これにはクロノも吃驚したが、ユーノは何故か逆に納得していた。
何でも、

「リンディさんだけは誤魔化せなかった」

と思っていたらしい。よくわからないが、彼女がそう言うならそうなんだろう。
一番大変というか、苦労したのはエイミィにこのことを知られたときだった。
そりゃあもう、酷いものだった。茶化されすぎて、その前後の記憶が曖昧になってしまうくらいに。
ただまあ、

「ユーノ君が女の子で本ッ当に良かったねー、ボーイズラブとかに成らなくて良かったよ、クロノ君」

という台詞は覚えている。人をなんだと思っているんだ。

「お幸せにー」と気楽に言っていた彼女は、先月辺りに確か寿退職した。
相手は……アースラ時代の正規クルー、アレックスと言ったか。


スクライア族の長老とは直接会って、話を付けた。
幼い彼女を虐待していた父親は部族から追放され、今ではもうユーノのことを探している様子はない、と風の便りで聞いたそうだ。
交際自体も二人の中が清いとわかったのか、割合すぐに認めてくれた。
とにかく、万事――丸く収まった、のだろうか。

ユーノとの接吻を終えると、唾液の橋が唇と唇の間に出来た。
それを舌で舐め取り、少女の面影を残しながら女性へ変わりつつある、ユーノ・スクライアへ言った。
きっと、彼女なら頷いてくれるんだろう、と思いながら。

「……その、して、いいか。君も疲れているとは思うが――」

くすり、と微笑んだユーノは、ハニーブラウン、金に近い髪を揺らして。

「いいよ。いっぱい、いっぱいボクの中に出して。クロノの気持ちが嬉しいから」

249司書長は女の子 ◆9mRPC.YYWA:2009/08/20(木) 16:53:56 ID:7WQpjzOQ
今度こそぎゅっと抱き締め、そそり立った肉の槍を、パクパクと男を心待ちにしている秘所へ一息に突き込んだ。
熱く絡みつく柔らかな膣壁、数の子天井の奥、快楽を引き出す腰の動き、愛液したたり男根に良く馴染む穴。
本当に――抱いてしまったら、これほど愛しくて淫らな雌はいない。

「んぁぁぁっ!」

「……くっ、相変わらず、すごい、な」

君の中は、と伝えると、真っ赤な顔でユーノは反論した。

「そ、んな、いきな、り突き入れる、なん……ふぁぁ!」

台詞では抗っているが、身体は正直。一息に突き込んだことで愛液が泡立ち、膣壁は雄を悦ばせようと収縮を繰り返す。
だからほんの少し腰を動かすだけで、その何倍もの力できゅうきゅうと少女の肉は男をくわえ込み、熱く反応する。
それでもクロノは腰を引き、一旦ピストンを止めてタメを作ると、疼く身体が切ないと顔で表している彼女の最深へ深く突き進む。
ずぶずぶと肉を蹂躙される感覚に、ユーノは切ない声を上げた。

「んひぃあぁぁぁ!」

「う、く……わかるか、ユーノ。お前の子宮口、下がって来てるぞ?」

何を言われているのかも理解出来ていないのか、彼女の横顔は惚けている。

「あ、あへぇ…………」

「子宮口も精子飲みたそうに開いてるじゃないか、いやらしい子宮だ」

ぴくぴくと快楽によって震え、蕩けていた表情が驚きに歪められる。
嗜虐の黒い悦びを灯したクロノの碧眼を見つめ、ちょっとした事実に気づいた。
そう、単純な事実――透視魔法の術式が、彼の両目に掛けられていることに。

「ぃやぁ! ボクの中見ないでぇ!」

きゅうっ、と肉の締まりが良くなる。その感覚にクロノは驚いたように呻き、高まる射精感に震えた。
ユーノの細い腰を掴み、指跡が付きそうな程の力引き寄せ、亀頭をぱっくりと開いた子宮口に打ち付ける。
食い付いてくる肉穴の感触が決定的だった。

「――出すぞ!」

「ん、まっ」

待てるはずもなく、下半身を突き出していた。
びゅるびゅると吐き出される白濁液、真っ白に染め上げられる子宮、収縮して精子を搾り取ろうとする雌の身体。
それを透視魔法でちょうど断面図の如く見ていたクロノは、通常のセックスでは得られない充実感、言い換えれば征服感を満たされていた。
己の子種を雌の胎内へ注ぎ込む様を直接見るのは、何とも言えない満足感を彼に与えたのだ。

250司書長は女の子 ◆9mRPC.YYWA:2009/08/20(木) 16:54:34 ID:7WQpjzOQ
「ぁぁああ……」

透視魔法を解除してユーノの白い肌を見れば、何時もにもなく赤く火照っている。
あるいは、彼女も見られて興奮していたのだろうか。その表情を確認したクロノは、悪戯っぽく微笑んだ。

「すごく良い表情になったね、ユーノ。そんなに良かった?」

「……え、ふぇ?」

蕩けきった表情を曝しているユーノの、ボリュームのある乳房がひどく蠱惑的で、堪らず彼はむしゃぶりついた。
敏感に尖ったそこを吸われ、次いで甘噛みされた少女は、何とも言えない甘やかな声を上げた。

「んんぅ、や、あ!」

この四年で何度となく身体を重ねた二人は、お互いの弱いところを熟知しているにも関わらず、
未だに“飽き”というものを知らない。だから、クロノの責めは濃厚で、逃げ場がなかった。
雌の歓喜の悲鳴が木霊する……。





「……結婚?」

喫茶店での突然の問い掛けに、クロノは間抜けな声で応じた。
向かいに座っているのは姉貴分のエイミィで、つい最近結婚したばかりのはずだ。
しかし二十七歳のはずなのに、未だ若々しい姿には驚くしかない。
向かいの席に座る彼女が、どうしてか溜息をついて珈琲のカップをスプーンで掻き混ぜた。

「あのねぇ、まさか四年間付き合ってユーノくんが嫌いなわけじゃないんでしょ?」

「そりゃあ、まあ好きだけど……」

「じゃあ、そろそろ覚悟も決めておかないと。クロノ君もいい加減、二十五歳で歳なんだから」

む、とクロノは黙り込むしかない。今まで考えたことはあっても、「まだ早い」と先延ばしにしてきたことだったからだ。
自分のことは良い。何時かは所謂“人生の墓場”に辿り着くことも漠然と了承している身だし、それほど高望みしているわけではない。
けれど、ユーノは違う。彼女はつい最近になって漸く素の自分になれたが、未だにかつてのトラウマを引き摺っているのだという。
少女がか細い身体をクロノと重ねているのは、あるいは依存の一種なのかも知れないと、そう青年が予測するのも無理からぬことだ。
そんな状態のユーノに「結婚」という人生において重要な儀式を突きつけるのは、ひどく酷なことのような気がした。
ユーノの過去は伏せつつ、しかし彼女が自分に依存して生きていることをエイミィに告げると、

「それじゃあ、なに? クロノ君は自分より良い相手がいるはずだって、そう思うわけ?」

何故か問い詰められた。微妙におっかないエイミィに戦々恐々としつつ、小声で言った。

「……それはそうだ。僕は彼女が好きだけど、ユーノくらいの美人なら、もっといい人が――」

「何その惚気。それにね、私はクロノ君も優良物件だと思うよ?」

「…………へ?」

青年が生真面目な顔に疑問符を浮かべると、エイミィは愉快そうに微笑む。

251司書長は女の子 ◆9mRPC.YYWA:2009/08/20(木) 16:55:20 ID:7WQpjzOQ
「だってクロノ君、エリート一家の長男でルックス良くて、人当たりも良いし、嫌われる要素無いよ?
そりゃあもう、“彼女さん”が出来なかったらエイミィお姉さんが付き合ってあげようかと思ったくらい」

「なっ……ば、バカ言うなって!」

顔を真っ赤にしてそう言うクロノが可愛らしく、彼女はクスクス笑った。
結局からかうのか、と青年が問うと、違うよ、とエイミィが言う。

「でもね、クロノ君は自分を過小評価しすぎ。ユーノさんのことだって、責任取ってあげなきゃダメでしょ?
男の子なんだからしっかりするの、いい?」

……結局のところ、クロノ・ハラオウンは彼女に頭が上がらないらしかった。
だから―――。





次の週明けまではクロノが一緒に居てくれる。それだけでユーノの心は安らいでいた。
であるからして、妙に緊張した顔でクロノが来訪したときは、何事かと思ったのだ。
どうしたのか、という問いにも彼は答えてくれないし、何故だかユーノまで妙に緊張してきた。
そうして居心地の悪い午後を過ごしていると、不意にクロノが言う。

「その、ユーノ」

珈琲を煎れていたユーノが不思議そうに顔を上げる。

「……なに?」

懐から取り出されるのは、漆黒の小箱。
小物を入れるのにちょうど良さそうなその中には、

「…………受け取って、くれないか」

――眩く輝いている指輪があった。
その輝きに見取れているユーノへ向けて、青年がぽつりぽつりと語る。

「ええと、一応僕の貯金で買える中では最上級のもののはずだ……受け取ってくれるなら――」

「く、ろ、の?」

すうっ、と息を吸い込む。
ああ、言えるよなクロノ・ハラオウン。
いいや、言わなきゃ嘘だ。
“だから”、

「―――“結婚しよう”」

その言葉には魔法が掛かっている。
これはきっと、あり得ない物語。
誰も望まない苦難と幸福の物語。
それでも、ハッピーエンドを望むなら、


「うん、―――ありがとう」


花開くような笑顔とともに。
願わくば、彼と彼女に幸福があることを。



終わり。

252 ◆9mRPC.YYWA:2009/08/20(木) 16:59:40 ID:7WQpjzOQ
後書き
というわけで、「司書長は女の子」本編はこれにて完結です。
完結するまでにたかだか五話のSSで時間かけ過ぎ……かもですが。
戦闘(バトルシーン)がない長編はこれが初めてだったりしますが、
もう少しラブコメっぽくしても良かったかなあ、などと思ったり。
少しでもお楽しみいただけたなら幸いです。

次は親父キャラと少年の激突とかやりたいなあ、と思ったり。
では。

253名無しさん@魔法少女:2009/08/20(木) 17:39:20 ID:RFZyanOo
完結おめええええええ!!! そして内容は甘ええええええ!!!

最初読んだ時は、ユーノの女体化という事象に若干引いたなんて事もあったのですが。
いやはや、その設定をするりと読ませる出来に感服です。
というか、金髪・眼鏡っ子の美少女で、さらに巨乳? 最高じゃないか? ええ、最高ですよ。
かつて実父から性的虐待を受けたという過去が、単純なイチャラブに終わらせない深みを生んでいる所も素晴らしかったです。
うん、可哀想な女の子は全力で幸せにするべきだよね!

まあ、ともあれ、エロいわ可愛いわ悶えるわ、本当に美味しゅうございました。
ご馳走様です。
GJ!


そして、他作品の続きも全力でお待ちしております。

254名無しさん@魔法少女:2009/08/20(木) 18:26:05 ID:QT9V3PBM
完結おめでとうです!!
イヤー、いい話だった。
最後までエロイし、ユーノきゅんが素晴らしい!!

次回作も期待してます!

255名無しさん@魔法少女:2009/08/21(金) 01:39:10 ID:tJWxYoWA
亜流さんの屈折したのも、 ◆9mRPC.YYWAの小心でエロいのもGJでしたー

256名無しさん@魔法少女:2009/08/21(金) 09:33:36 ID:dMduREJE
ユー子来てたあぁぁぁ!
GJ!&完結乙でした!
次回作も楽しみに待ってます!

257名無しさん@魔法少女:2009/08/21(金) 12:41:31 ID:VhzbYHNk
完結おめでとーございます、お疲れ様!
ユーノとクロノの絡みがド直球ストライクだった自分には神がかった作品だったぜ。
友情物ならともかく、恋愛物となるとやっぱTSしなきゃまずいからね、この二人はw
いやまあ、しなくてもいける人もいるんだろうけどもっ

>>253
>金髪・眼鏡っ子の美少女で、さらに巨乳? 最高じゃないか? ええ、最高ですよ。
その上ボクっ子なんだぜ?
完全無欠じゃないか。

258Foolish Form ◆UEcU7qAhfM:2009/08/21(金) 23:52:59 ID:.vFRfgc6
>◆9mRPC.YYWA氏
えいえんは あるよ… ここに あるよ…

というかKanonネタにAIRネタまで見えてしまったがこれは気のせいか?
いや、気のせいだな……
どちらにせよGJでした!
最初の方は震えが止まらないほど怖かったけど、
最後は甘々でカタルシスを感じたぜっ!
完結おめでとう!! 次回作も期待してますぜ。

***

という訳で完全陵辱タイムがやって参りました。
仕事の修羅場と夏コミの修羅場で2ヶ月放っておいたものが出来上がりました。

・ヴィヴィオ10歳
・公式+今まで作ったユーなの短編集の設定は全部ガン無視
・ガチエロ。保管庫搬入の際は「凌辱」タグをお願いします。
・耐性のない人は読まないで下さい(重要)

それでは、始まります。

259鏡の中の狂宴 第3話 1/10:2009/08/21(金) 23:53:44 ID:.vFRfgc6
──二階から落ちて怪我をするのと、三階から落ちて大怪我をするのと。
二階から落ちた方がマシに決まっている、その後『何もない』のなら──

ヴィヴィオの脳裏では、あらゆる堂々巡りが渦巻いていた。
母親のこと、魔法のこと、ここから逃げ出すありとあらゆる手段を。
だが、それら全てが封じられたものだということに思い当たっては、悲しい絶望に沈むのだった。
ママ、どこにいるの? ママ、何してるの?
ママ、ヴィヴィオを助けに来てよ。いつか、「ゆりかご」の時みたいに……

約束は守られ、ヴィヴィオの処女は純潔を保っている。だが、唇の方はそうもいかない。
毎日毎日、入れ代わり立ち代わりに何ダースという人間がやってきて、ヴィヴィオを犯していく。
最初の男――確か、シラーロスといっていたか――には容赦なく口中に子種の混じった汁を飲まされたが、
それからの連中はそうでもないのが少なからずいた。
手で擦ったり、髪を巻き付けたり、ソックスを履いた足でしごいたり、素足だったり。
脇や膝に挟むなんてのもいた。……が、それらの全ては射精の前に口へと挿入されるか、
床に飛び散った白濁を舐め取らされるかの二択だった。
「そうそう、ヴィヴィオちゃんは偉いねえ」
下卑た目を細められる屈辱すらも、次第に薄れていく。
一週間も経たずに、それは一種のルーチンワークと化していた。
当年10歳、初等部に在席しているヴィヴィオは、もう精液の味を理解し始めていた。
それはまるでカレーのようで、人によって微妙に違う味があった。
もっとも、そんなソムリエじみた真似をする気にはなれず、
むしろ脳天がグラグラする強烈な青臭さと生臭さの前では、
僅かな違いなどどうでもよかった。
こんな行為、未来永劫まで慣れたくはなかった……が、それも時の流れ。
いや、それは恐怖がなしえたことかもしれない。

男たちの精を飲み始めてからこの方、確実に待遇が悪くなった。
良くなったことといえば寝床があるくらいだ。
狭い空間に閉じ込められていた時との変化は、周りでせわしなく男や女が『無言で』動いていることだけだった。
食事は、一度豪華なものになまじっか触れてしまっただけ、質素なものの惨めさが増した。
一杯のジュース、一かけらのバター、それだけでも渇望したが、与えられることはなかった。
ところが、日に一度だけ「おやつ」の時間がある。
唯一の楽しみは、その瞬間だけだ。
「ほーらヴィヴィオ、おやつの時間だよ」
「おやつ」とは、ずばり蜂蜜。
極限状態に置かれた身体に、信じられないほど甘い一時をもたらしてくれる。
但し、この時間は朝食の後か、それとも昼か、夜か、特に一定していなかった。
「さあ、コイツも一緒に舐め舐めしようね」
「……はい」
蜂蜜は、いつも誰かの肉棒に垂らされてやってくる。
舐めたくはない。けれど舐めたい。
ヴィヴィオの葛藤は、いつも食欲に負けた。

260鏡の中の狂宴 第3話 2/10:2009/08/21(金) 23:54:46 ID:.vFRfgc6
「ははは、この娘本当に小学生か? 信じられねえ、むしゃぶりついてくるぜ」
嘲笑に近い笑い声を受けながらも、ヴィヴィオは男の怒張を舐め、一滴残らずしゃぶり尽くす。
運がよければ、蜂蜜のお代りを貰えた。
「出るぞっ、しっかり飲めっ!」
どぷっ、と空気に晒されないままの白濁が、口の中で跳ね回る。
口直しとして、これ以上酷い代物を思いつけなかった。
「これで初物だって言うんだから、カルマー中尉もよくやるぜ」

──そう、未だ誰にも秘所には触れられていないのだ。
運命の男の人に出逢う前に、唇を奪われてしまったけれど。
しかも、唇ではなく、固くそそり立った怒張で。
それも、初めてのキスだったのに、精液まで舌に打ち付けられて、飲まされた。
「私、汚れちゃったんだ……」
鏡へ映った自分の姿は、どこまでも惨めだった。

***

そんなある日、「パブロフの犬」という言葉を聞かされた。
犬に食事を与える時、一緒に時計のベルを鳴らす。
これをしばらく繰り返した後にベルだけを鳴らすと、
犬は食べ物にありつけるものと思って涎を垂らし始めるというものだ。
そしてもう一つ、興味深い実験結果があった。
ボタンを押すと餌が確実に出る機械と、ランダムに出たり出なかったりする機械。
餌の残量は外からは分からない。
これらを別々の檻に入れ、犬や猿で実験すると、
ランダムに出たり出なかったりの方は、餌がなくなっても延々ボタンを押し続けていたという。
同じことがヴィヴィオにも起きつつあった。
「はぁ、はぁ……」
男の一物を見ると、口の中に唾液が沸いてくるのだ。
萎びたままのそれであっても、懸命にねぶる。しごく。
覚え始めた上目遣い──これをやると男たちが優しくなるのだ──で見上げると、
「いい子だね」と頭さえ撫でてくれる。
蜂蜜を塗っていないと分かっていても、止められない。
男たちの肉棒を射精させて精を求める姿は、ボタンを押して餌を求める犬そのままだった。
「んっ……おおおおっ……」
強烈に吸い上げた鈴口からは、大量の粘液があふれ出す。
苦さと臭さだけの味が、ほんの僅かに甘みを帯び始めていた。

「ヴィヴィオ、良いニュースだよ。今日はビッグチャンスだ」
昼前──起きて、朝食を取って、そして二度目の食事が運ばれてきたタイミングだ──、
カルマーは憎々しいまでの笑顔を湛えたまま、姿を現した。
このところ、シラーロスを始めとした20人ほどの男たちに囲まれる生活を送っていたから、
監禁生活とも相まって危うく顔を忘れるとことだった。
「いい、ニュース?」
途切れ途切れに聞くと、ニコニコ顔を崩さずに彼は頷いた。
「そう。これだよ」
カルマーが指をパチンと鳴らすと、コック姿の男女が次々と研究室の中に入ってきた。
次々に取り出したるは、目も眩まんばかりの豪華豪勢を極めた料理の数々。
濃厚な香りが鼻に入った瞬間、ヴィヴィオの口の端からはダラダラと涎が出始めた。
拭うこともせずポタリと床に落ち、それが開始の合図だった。

261鏡の中の狂宴 第3話 3/10:2009/08/21(金) 23:55:27 ID:.vFRfgc6
「三日に一度の、ご奉仕大会〜!」
ヴィヴィオはキョトンとした。友達同士で映画を見に行くような気軽な乗り。
テンションの異常さに、ついていけなかった。
「さぁ、ヴィヴィオちゃん、今日は二つの選択肢を選べるよ!」
いつもの食事が乗った盆と、豪華な食事の乗った沢山の皿を指差して、カルマーは言った。
「そっちの、いつものご飯は無償だよ。何も対価はいらないし、リスクもない。スパッと今すぐあげるよ」
そしてもう一つのこっち……と、彼はフルコースの料理を指差した。
「これを貰えるか、それとも貰えないか? いざ、命運を賭けて勝負!」
ひとしきり叫んだあと、カルマーはヴィヴィオに向き直って聞いた。
「で、ヴィヴィオはどっちを選ぶ? 確実な50%か、それともオールオアナッシングか
負けた時はどうなるか、もちろん分かってるね?」
ヴィヴィオの答えは、最初から決まっていた。
スッ……と指を差した先は、フルコース。
「勝負を受けるんだね? 後戻りはできないよ?」
ヴィヴィオは、コクリと頷いた。
リスクなくして、見返りはありえない。
意思を確認したカルマーは後ろで控えている女に指示すると、彼女はドアの向こうに消えていった。
そうして戻ってきた時、色素の薄い、赤毛の女の子が連れてこられた。
ヴィヴィオと同い年か、あるいは一つ下か。
胸の膨らみはヴィヴィオよりも大きい。両目は青く、髪を軽くウェーブさせていた。
自分以上に怯え切っている姿を見て、ヴィヴィオは一瞬冷静に、そして冷酷になった。
――この子が相手なら、勝てるかもしれない。
屈辱を味わい、長く陽を見ない生活を送ってきたヴィヴィオにとって、処女とその証は最後の牙城だった。
絶対に、負ける訳にはいかない。
「さて、勝負を説明しよう。ここにいる5人の男に奉仕して、先に精液を全部飲んだ方が勝ちだ。
但し、手は使ってはいけない。口だけ。これはいつも通り」
カルマーは一人を見やり、にやりとヴィヴィオへ笑いかけた。
「強いて言うなら、その可愛いあんよだけかな?」
どういう意味か、と聞く必要もなかった。
既に何人もの男たちを、足で扱いてきたのだから。
赤毛の女の子とヴィヴィオの前に男が立った。
二人とも中肉中背。最初はどちらが特に有利ということもなさそうだった。
「それじゃ……スタート!」
ゴングが鳴らされ、非情の勝負が始まった。
だが、この時ヴィヴィオは軽視していた。相手の、名も知らぬ少女がその身に秘めている実力を……

我先にと、ヴィヴィオは先頭の男にしゃぶりついた。
小さいままだった肉棒が、力を得て急激に膨らんでいくのが分かる。
臭みが鼻を突くいつもの感触にも、いい加減麻痺してきた。
「もっときつく扱けんのか」
頭の上から命令が来る。
ヴィヴィオは素直に従い、口をきゅっと窄めてストロークを始めた。
舌全体と口蓋を使って亀頭を舐るが、彼はそれで満足しないようだった。
急に後頭部を掴まれ、グイと前に押し込まれる。
喉の奥まで汚らしいペニスが挿入され、呼吸が一瞬で苦しくなった。
「んむっ、んぐぅっ!!」
「これくらいじゃないといけないんだよ、分かるか?」

262鏡の中の狂宴 第3話 4/10:2009/08/21(金) 23:56:16 ID:.vFRfgc6
鼻から出る息と、肉棒のストロークが一致しない。
吸うのも吐くのもできない時間は、しかしすぐに終った。
一番奥の奥──もう気管支をも塞ぐ勢いだった──に
無言のまま、どくりと脈動。精液が舌にもどこにも触れることなく、
ヴィヴィオのことは、射精するための道具程度にしか考えていないかのような扱い。
味も臭いも分からぬまま、白濁だけが胃の中にぶちこまれていった。
呼吸とトレードオフではあったが、その分五感の一つは苦しまずに済んだ。
「ほら、まだ二人目だぞ。こんなところでへばってたらいつまでも終らねえぜ」
ゲホゲホ、と咽込むヴィヴィオの前に、更なるペニスが立ちはだかる。
一方、対戦相手の少女はまだ一人目だ。この勝負、一気に決められるかもしれない。
オッドアイに決意を込めて、ヴィヴィオは次なる戦いを始めた。

***

カルマーは間近で二人の対決を見ていた。
状況はヴィヴィオの方がやや優勢か。だがどちらに転ぶのか、誰にも分からない。
「面白い光景だとは思わないか? この勝負、受けなかった女は未だに一人もいない。
ヴィヴィオもまた例外ではなかったという訳だ」
まさに高みの見物。檻の外から淫らな奉仕を見ているカルマーは、そばの研究員に言った。
「ええ。私らも面白いデータが沢山集まるので、珍重しています」
「ほう? お前もいつかあの輪の中に入るかもしれないんだ、精々腹上死しないように鍛えておけよ」
「は、はい」
ヴィヴィオはキスすらも果たせぬまま、肉棒をひたすら舐め、精を飲み続けている。
一方、秘唇は男を受け入れたことがないまま、淫核だけをひたすらに弄っていた。
直に、あの敏感な突起を徹底的に凌辱する日も来よう。
「あるべきバランスではない。だが、それ故に美しい」
普通の人間に「三角形を描け」と言うと、ほとんどが底辺を下に描く。
一部の数学者は尖った場所を下にするという。
ヴィヴィオは丁度、そんな三角形だ。
カルマーという手を経て、どこにでもあるつまらない三角形は、数学者の手によって美しく生まれ変わる。
「俺も、生まれ変わっちまったよ。お前の『ママ』のせいでな……」
彼は椅子に深く座り込み、過去を思い出した。
忌まわしきものを振り払う手段ができた今では、それは格好の肴だった。

カルマーはなのはが来るまで、ずっと教導官を担当していた男だった。
物心ついたときから血反吐を吐くような、いや実際に何度も吐いてそれでも努力し続け、
ついに上り詰めた管理局職員の地位。
だが、キャリア組として入局した職場では競争なぞ終らず、ようやく落ち着いた頃には20を半分以上過ぎていた。
これでも当時は最速で勝ち上がったのだ。次々と取り残されていく同僚を、彼は冷めた目で見ていた。
彼らには努力が足りない。そう、ずっと思っていた。
それが、名も知れぬ管理外世界から突然かっさらわれた。まだ10代の小娘に、だ。
聞けば、提督クラスの人間と懇意にしていて、コネを使いあっという間にカルマーの地位を奪っていったのだという。
これが純粋な世代交代なら、或いはなのはが一番下から順当に上がってきたのなら、まだ納得もできよう。
だがそうではなかった。一度落ちれば二度と這い上がれない競争を、なのはは経由しなかった。
はらわたが煮え繰り返るほどの憎悪が心を支配し、カルマーは復讐を誓い、仲間を集めた。

263鏡の中の狂宴 第3話 5/10:2009/08/21(金) 23:56:54 ID:.vFRfgc6
結果、反ハラオウン同盟が出来上がった。現在は大提督にまで昇進したクロノはもちろん、
年寄り連中の中にはその父であるクライドに恨みを持つ者まで、派閥は膨れ上がった。
最上位の幹部にさえ、プレシア・テスタロッサへの類い稀なる反感を抱えている人間がいた。
高町なのはの失態と共に機は熟し、なのは、引いてはハラオウンの血筋を管理局から追放する手立てが整った――
「ま、まさか会議室のジジイどもが本当の目的に気づいてるとは思わないがな」
追放では飽き足らないとカルマーは考え、その結果がこの凌辱劇だった。
最近の食事も睡眠も、信じられないまでに甘美に感じられる。

ヴィヴィオを聖王陛下とは決して呼ばなかったのは、認めたくなかったからではない。
一人の少女と対等に向き合うことで、彼女の安心を買いたかったからだ。
そしてそれは成功し、ヴィヴィオを絶望の底へと叩き込むことができた。
今少女が抱いているのは、「あんなにいい人が悪いことをするはずがない、
何か特別な原因があるか、さもなくば黒幕がいるに違いない」とう臆面もない心だ。
笑いが止まらないとはまさにこのこと。
闇の中で生きさせ、光と引き換えに地獄を供する。
人の心はどこまでも脆い。一度崩れた場所に手を差し伸べると、それが何であっても掴んでしまう。
死んだ方がまだ救われるかもしれないのに、それでも生に執着する。
「あぁ、ヴィヴィオ、早く終るといいな」
誰にも聞こえないように、カルマーはそっと呟いた。
冷たくなった目をヴィヴィオに向ける。幼い聖王はオッドアイを煌かせながら、まだ見知らぬ男と闘っていた。

***

「んちゅ、じゅぷ、んくっ、ちゅっ、んーっ……」
ゴングが鳴ってから三十分が経過した。
勝負は既に四人目。この脂ぎって腹の飛び出したような中年男から精液を搾り取れば、
大体勝負は決まったようなものだ。
というのも、相手はまだ一人目のままだ。
これが僥倖かどうかは分からないが、とにかく優位に立っているのは確かだ。
「お、お嬢ちゃん、そろそろ出るよ」
至福そのものの下卑た顔でヴィヴィオを見下ろし、頬の裏を突くように抽送を強める。
程なくして、その体躯よろしく脂の多い白濁が、ヴィヴィオの口内を占めた。
「んむっ! ……んくっ、こくっ、じゅちゅっ……」
飲み下す時よりも、舌に触れる精液の感触が我慢できないほど不快だ。
汚されている。穢されている。我慢できないほど苦しいのに、逃げ出すことができない。
どろりと、おぞましい味と粘度が口内を満たした。
こくり、こくりと飲み下していくが、吐きそうなくらい気持ち悪かった。
いや、目の前にぶら下げられたご馳走が目の前になかったら、絶対に胃の中のものを残らずぶちまけていただろう。
「頑張れよ、お嬢ちゃん。儂の次で最後だからのう」
ぶよぶよした手で髪を撫でられ、後ろの人間と交代していく。
ちょっぴり自慢だった金色の束さえも、今は慰み物の一つと化してしまっている。
泣きたくなるのを堪えて、ヴィヴィオは最後の男に──
「え?」
ヴィヴィオは驚きに目を見張った。
五人目の男というのは、まだ年端も行かぬ少年だった。
概ね、ヴィヴィオと同い年だろう。
シルバーブロンドの髪に黒い瞳。びくびくと怯えながらも、その肉棒はガチガチに固まっていた。
これから何をされるのかまったく分からないけれど、身体だけは反応している。そんな少年だ。
「ほら、この少年で最後だぞ。しっかりやれよ」

264鏡の中の狂宴 第3話 6/10:2009/08/21(金) 23:57:31 ID:.vFRfgc6
ジャッジが冷酷にせっつく。ビクリと身体を縮ませた少年は、ヴィヴィオにおずおずと言った。
「よ、よろしくお願い、します……」
ヴィヴィオの方はといえば、まったくの拍子抜けだった。
いつもなら逆らえないような男たちに囲まれて、強制的に奉仕という名の凌辱をしてきたのに、
今度ばかりは違う、いかにも純真そうな少年だ。
もしかすると、ヴィヴィオと似たような理由でここに来たのかもしれない。
「お名前は?」
ただ、ただならぬ興味が沸いたのも事実だった。
びくびくおどおどと震えていた少年は、ぽつりと答えた。
「ク、クラウス……」
「クラウス君、か。いい名前だね」
ようやく相手は二人目に突入したばかりだ。
もう勝負は決まったようなもの、ゆっくりやったって勝てる。
ご褒美とばかり、ヴィヴィオはクラウスのペニスに口づけた。
まだ皮被りの肉竿に、ゆっくりと舌を這わせる。
だが、ヴィヴィオは知ることはない。
最後に一つでも与えられる救いがあれば、人はどんな運命にも抗わないということを……

「おっと、やっぱり来たようだな」
寸刻、カルマーが感慨深く言ったのも無理はない。
相手の少女が、猛烈な勢いで追い上げ始めたのだ。
赤毛を振り乱し、青い目を欲望に輝かせながら、じゅるじゅると美味そうに肉棒を啜る。
下手になってからが強くなるのだとは、ヴィヴィオは当然知らなかった。
あっという間に二人目を平らげ、三人目に取り掛かる。ペースとしては相当早い、下手を打つと負けてしまう。
「ぺろ、んちゅ、んんっ、んむぅ……」
クラウスの包皮を、舌先で剥きあげる。
ぺりぺりとはがれるような感覚の後、鼻に来たのは猛烈に濃厚な牡の匂い。
ペースト状の何かが舌先に触れ、匂いはそこから放たれていた。いわゆる、恥垢というやつだ。
よほど吐き出したくなったが、そんなことをした日にどんな目が待っているのか、
今のヴィヴィオには一瞬で想像できる。
必死の思いで唾液を分泌し、勢いに任せて飲み込んだ。
舌に残る嫌な嫌な感覚以外、何もない。胃がムカムカするような気がするが、気のせいだと思い込むことにした。
少年は初めての性的快感なのか、甲高い声で啼き喘ぐ姿は少女そのままだ。
今まで、奉仕という名の被虐を受け続けてきたヴィヴィオにとって、それはあまりにも新しすぎる刺激だった。
ちゅるり、と亀頭を舐る。くちゅくちゅ、じゅぷじゅぷと、
大きな飴玉を口いっぱいに頬張るがごとく、クラウスの肉棒に奉仕する。
「あっ、あっ、ああっ……」
少年の声は裏返り、明らかな性感を帯びて、もうすぐ勝負は決するものと思われた。
だが、そこで事件が起きた。
隣で頑張っていた少女が、いつの間にか四人目を飛び越えて最後の一人に到達してしまったのだ。
優しく、舌と唇で愛撫していたヴィヴィオは、時間の経過に気付かなかったのだ。
不味い、このままでは負けてしまうという焦りが、もう一つの事件を生んだ。
「痛ッ!!」
少年の肉茎に、誤って歯を立ててしまったのだ。
顔を歪める少年。零れ落ちる涙。誰だって一番の弱点に噛み付かれたら泣きたくもなる。
が、泣きたいのはヴィヴィオの方だった。

265鏡の中の狂宴 第3話 7/10:2009/08/21(金) 23:58:04 ID:.vFRfgc6
左右で色の違う目を上目遣いにしてクラウスを見上げ、『ごめんね』と労わるように優しくペニスを舐める。
だが、一度硬度を落とした怒張を再び勃起させるまでに、どれだけの時間がかかるだろう。
相手の少女は順調に進んでいる。アレは下になってからが強いと言うべきか、それとも勝利者の余裕と呼ぶべきか。
負けじと、ずずずと音を立てながら肉棒を吸い込み、口全体を使って全力でしごく。
すると、クラウスの肉棒が力を取り戻してきた。それでも、まだ半勃ちといったところだが。
「ありがとう」
クラウスは、言った言葉の意味が分からないかもしれない。でも構わない。
凄惨な凌辱劇に巻き込まれるか、それとも生き残るか。
文字通り生き死にを賭けた闘いに於いては、敵側の事情など一切構っていられないのだ。
じゅるり、じゅぷり。わざと音を立てて、なるべく少年の性欲を刺激するように動く。
これは、男たちへの奉仕で手馴れたものだ。
「手を使うな」とは言われたが、目線や鼻、喉まで使ってはならないと命じられた覚えはないし、
それらの行為で変な反則を取られたこともなかった。
だが、相手もまた熟知している。少女のストロークが強く、速くなっていき、相手ももう長くなさそうだ。
負けていられない、とヴィヴィオも強気に出た。ほとんどギャンブルになる。
さっき強く噛んでしまったところ──亀頭と裏筋の間を、今度は甘噛みし始めた。
やわやわと、傷口に軟膏を塗るかのような動きで、舌と歯を巧みに使って癒していく。
隣の男も、表情から見て射精が秒読みだ。いよいよのっぴきならない。
一度引いた苦い我慢汁が、もう一度ダラダラと流れてきた。
「んちゅ、じゅぷ、んぷっ、んくっ、ふぅっ、んんっ……」
休憩もへったくれもない。苦しい呼吸は全部鼻に任せて、ヴィヴィオの口はストロークを繰り返す。
もう、自分がどんな理由でフェラチオをしているのかなどということは忘れた。
この勝負に負ければ死よりもおぞましいことが待っている。それだけで十分だ。
「頑張って……クラウス、君……」
負ける訳にはいかない。絶対に負けられない闘いだ。
全身全霊、持てるだけの力を注ぎ込んで、少年の肉棒にむしゃぶりつく。
「あ、ああっ、ああああっ……あああああああああああああーっ!」
来た。これだ。ドロドロの精液、そう今まで今まで一度も射精したことがないかのような粘度だ。
匂いが恐ろしく強くなる。でも、それは男臭さというよりはまだ足りない。
これは、言うならば青臭さ。新鮮な野菜の匂い、今まさに土から引き抜いた野菜の匂いだ。
後から後から溢れ出てくる濃密な精は、舌に絡み付いて全く離れていく気配がない。
誰の唇にも触れず、ただ男性器だけに口づけを繰り返してきたヴィヴィオの口腔へ、
白濁は容赦なく流れ込んでくる。呼吸困難になるほど、口の中は少年の精液で一杯になった。
「んくっ、んぐっ、ごくっ……」
飲めば飲むほどに、頭が侵食され、冒されていく幻想。
『苦痛が霞み、消えて行く』という苦痛と戦いながらも、ヴィヴィオは精を飲み干した。
口の中が空いた段階で、すぐに鈴口から精液の残滓を吸い上げる。
これをやらないと痛い目に遭うことは、既に身体が──特に後頭部が知っていた。
ちゅぽん、と唇を離すと、ジャッジに肩を叩かれた。
口を開けて中を見せると、女のジャッジはヴィヴィオの手を高く掲げた。
「え? え?」
勝ったのか? 凌辱の宴で、敵を薙ぎ倒したのか?
隣の少女を見ると、まだ五人目と戦っていた。いや、もう彼は射精した後で、残りは飲み込むだけだったのだろう。
額に脂汗が浮かんでいる。敗北を認めたくない時の目だった。
喉が少し動いて、少女の口が男のペニスから離れた。
立ち上がってジャッジの許へ行き、口を開けるも、ジャッジは目を閉じて首を横に振るだけだった。
「ねえ、あの娘よりあたしの方が早かったでしょ!? どうなの、あたしの勝ちでしょう!!」
ジャッジはただ『違う』と首を振り、後ろを振り向いて手を挙げた。
すると、屈強な男たちが少女の身体を取り押さえ、手枷足枷に首輪までつけ始めた。
「あ、あの娘……どうなるの?」
恐る恐るヴィヴィオが聞くと、ジャッジの女はさもつまらなそうに言った。

266鏡の中の狂宴 第3話 8/10:2009/08/21(金) 23:58:44 ID:.vFRfgc6
「知ってるだろ? 死ぬまで男の慰み者になるか、でなきゃ何かの実験台になるか。どっちかだよ」
ということは、一歩間違えればヴィヴィオ自身がそうなっていたことになる。
人体実験の材料にされて切り刻まれる自分を想像して、身体をぶるりと震わせる。
しかし、次第に喜びが心を占めてきた。
私、勝ったんだ! 酷いことされずに済む、おいしいご飯が待ってる!
心神喪失にも等しい瞳をした少女が、まるで現行犯逮捕された強盗みたいに連行されていく。
一度、ヴィヴィオの方を振り向き、そして、大きく目を見開いた。
怯えた表情だった。少女が、幽霊か猛獣でも見た時の目をした。
「助けて、殺さないで」と、訴えかけているかのようだった。
それでも声は出ないらしく、彼女は口をパクパクしているだけだった。
「おい、行くぞ」
連れて行かれるその足に、一切力が入っていない。
やがて、チロチロと太ももに水が流れていった。
「や……いや……」
最初、少女はこれから起こる凌辱──今まで勝利し続けることで守ってきた、乙女の純潔を失うこと──への
恐怖から失禁したものだとばかり思っていたが、事実はそうではなかった。
ふと、何気なく、頬に手を当てた。顔の筋肉が引きつっているかのように強張っている。
両手で触れてみて、ようやく分かった。

ヴィヴィオは笑っていたのだ。
自分だけが助かり、相手を谷底に突き落としたことに、どこまでも喜んでいたのだ。

不気味だった。でも嬉しさと楽しさは後から後から湧き出て、止まらないのだ。
これから待つ快楽。相手を蹴落とした悦び。
その両方が、ヴィヴィオを高揚させてどうしようもさせなくなるのだった。
「あは、あはは、あはははははははははははははははははははは……」
高笑いはどこまでも止まらなかった。そう、その姿は気違いそのもの。
名も知らぬ赤毛の少女は、ヴィヴィオの顔を見て失禁したのだった。

勝利の後、娑婆でだって食べられないような豪勢な食事が、所狭しとテーブルに並べられた。
カルマーの宣言通り、一切合財が無条件で、だ。
その全てが麻薬のように美味で、ヴィヴィオは明らかに胃の容積を遥かに超える量を食べた。
腹が破裂するほど食べ尽くしたいところだったが、そんな欲求に反して身体は限界を迎えた。
何せ、食道まで食べ物で一杯に溢れかえっていたのだ。
あと一口でも……というラインをギリギリまで見極めて、ヴィヴィオはナイフとフォークを置いた。
「どうだい、この勝負。満足頂けたかな?」
ナプキンで口を拭うヴィヴィオに、カルマーが問いかける。
聖王は、薬物依存症患者そのままの顔で笑いかけた。
「うん、とっても」
この後、ヴィヴィオはことあるごとにこの『勝負』を受け、またことごとく勝利してゆくことになるのだが、
それはまた別の話。

***

ヴィヴィオは狭い檻の中で、王者に君臨していた。
一つ一つの「奉仕」は息を吸うこととと同化し、ファーストキスを奪われた想い出は遠くに消えかけていた。
三日に一度、提示される勝負をヴィヴィオは受け続け、そして連戦連勝だった。
が、しかし。
ヴィヴィオの頭には、強烈な二つの欲望が衝突を起こしていた。

267鏡の中の狂宴 第3話 9/10:2009/08/21(金) 23:59:25 ID:.vFRfgc6
『この辺りでそろそろ止めないと、そのうち負けちゃう。そうなったら……』
『でも、あのご飯は物凄く美味しい。麻薬とかが入ってる訳でもないのに。
ダメ、アレを食べられないままここで過ごすなんて、我慢できない……』
豪勢な食事への欲望に抗うだけの力は、とうの昔にヴィヴィオから消え去っていた。
でも、どこかで誰かが警告を続けている。「そのままではいけないのだ」と。
そんな声を無視し続けることも辛かったが、砂漠にたった一つ残されたオアシスを無視して先に進むなんて、
どうしても、どうやっても、どんなに努力しても、無理だった。
そういえば、とヴィヴィオは思い出す。
フィルムはあと何時間残っているのだろう。あとどれだけの苦痛を帯びればここから出られるのだろう。
答えは誰も教えてくれない。
確か、○○月××日だと教えると、その日まで気力を保とうとするらしいからだ──と無限書庫で読んだ記憶がある。
いや、逆か。期日を指定すれば、人はそれまで気を張り続ける。
試合の日がいつまでも来ないまま練習だけしていると、どうしてもモチベーションが落ちる。そんな話だった。
今のヴィヴィオは、いつ解放されるか分からない無期禁固の中で、それでもひたすら耐えている状態だった。
出られるという希望は、もう挫けていた。
たまに与えられる享楽から逃げ出すことのできない、餌に釣り上げられたモルモット。
『敵ながら天晴れ』という言葉が一番似合うくらいの、綺麗に決まった一本釣りだった。

「おはよう」
冷たく光る鉄の棒。外には忙しなく動き回る研究者たち。いつもの光景だ。
カルマーが来る時は、決まって悪いことが起きる。
けれど、彼は「勝負」と引き換えに、「享楽」を提供してくれる、唯一の人間だ。
現状を認め、受け入れる限り、彼はヴィヴィオにそう酷いことはしない。
……だが、ヴィヴィオはもう気付けない。
自分が現在置かれている状況そのものがまさに悪夢であり、常人には耐えられない凄惨さであるということに、
少女の侵食された頭ではもう思い出せなかった。
抵抗の意思をも、同じ光、同じ景色、同じ無音の世界の中でどんどん削られ風化し、今では雲散霧消していた。
「おはよう、ございます」
声色を失った、疲れきった響きで答えると、カルマーはにやりと笑った。
「どうしたの、そんな元気のない顔。……そうだ、今日は面白いところに連れて行ってあげるよ」
何とも白々しい。
「何、いつもヴィヴィオちゃんだけが気味の悪い思いをするというのは流石に酷いだろう?
だから、今日はヴィヴィオちゃんを気持ちよくさせてあげる日にしたのさ」
訳が分からない。そんな一瞬の混乱を突いて、カルマーはヴィヴィオの死線に入ってきた。
すっかり軽くなった身体をいとも簡単に持ち上げられて、
今まで謎のヴェールに包まれていた、部屋中央にある椅子へと座らせられる。
椅子には大量のベルトが仕舞いこんであった。
男の手で押さえつけられたまま、両手両足を動かないように固定される。自力で外すこともできない。
それが終ると、シートベルトみたいなものを腰にも結わえられる。
カルマーが手元のリモコンを押すと、ゆっくりと椅子は後ろに倒れていった。
同時に、両手と両足が少しずつ開いていく。これが寝ている姿なら、いわゆる「大の字」と呼ばれるものだ。
だが、足の方はそれで終らない。膝のところでカクリと曲がり、Mの字型に足を開かれる。
ほんの少しでも腰を落とせば、短めのスカートから、ショーツが見えるまでに大きく、股を割られた。
「え、何、これ……?」
手近なパイプ椅子を使って天井に手を伸ばし、カメラを括りつける。どうやらそれで完了のようだ。
全てが突然で、何一つ訳の分からぬまま唖然としていたヴィヴィオだったが、
ようやく自分が拘束されたことに思い至ると、途端に錯乱した。
「なに、これ!? ねえ、離して! お願い、これ取ってよぉ!
どうしてこんな酷いことするの、ねえ、早く取ってえええっ!!」
いつものニヤニヤ笑いを崩さないカルマーは、三月ウサギよりよっぽど性質が悪かった。

268鏡の中の狂宴 第3話 10/10:2009/08/21(金) 23:59:55 ID:.vFRfgc6
「勘違いはいけないよ、ヴィヴィオちゃん。僕は君に気持ち良くなって貰うためにコレを企画したんだ。
ま、ちょっとやり方は強引だったけどね。あと、例のフィルムもこれで埋めるから、
ヴィヴィオちゃんはちょっぴり楽をできるって訳だ。どうだい、魅力的な選択肢だろう?」
いつの間にか、部屋からはカルマーと一人の女研究員を除いては誰もいなくなっていた。
カルマーが話を終らせると、不気味なまでの重たい沈黙が部屋を支配した。
その直後、かすかに聞こえるコンピューター類の駆動音。全部水冷式なのか、ほとんど何も聞こえない。
「それじゃ、僕はこれでいなくなるよ。あとのことは、このメアリー・オーヴィル博士がやってくれるよ」
軽く会釈した縁なし眼鏡の女は、三十歳前後のいわゆる研究一筋な人間だった。
カルマーが立ち去った後、メアリーは眼鏡を無造作に外し、白衣の裾で軽く拭いた。
もう一度掛け直したその瞳で、ヴィヴィオの顔をまじまじと覗き込んでくる。あまりにも無遠慮な視線だった。
それから、手元にあるボードに目を落とし、「なるほど、この娘は……」と何事か呟いてから、
おもむろにしゃがみ込んで椅子の下に手を差し込んだ。そうして出てきたのは、どうやらキーボード。
数十秒間、メアリーは無言のままキーボードを叩き続けた後、それを元に戻した。
彼女はモニターを見ていたに違いないが、拘束された身体ではそこまで見えない。
すると、細いワーム状の触手が大量に椅子の側面から躍り出た。
それぞれの頭には、何に使うか分からないが、各々複雑な形に別れていた。
繊毛のようなもの、明らかに鋏のような鋭いもの、スポイトのような穴、指が十本もある奇妙な手。
後のは形容するのは無理だった。しかも、それぞれ何本もうねっていてとても数え切れない。
それらが突然、ヴィヴィオに襲い掛かった。
「きゃぁっ!」
霧吹きのようなものが顔の前で噴霧される。
アルコールでも入っているのか、それはあっという間に乾いていったが、それが何だかは分からない。
分からないまま、次のワームが迫る。それは、パチパチと制服のボタンを器用に外していった。
無機質な機械が服を脱がしていく光景に、ヴィヴィオは悲鳴を上げた。
けれど、無慈悲なワームへは決して祈りなど届かない。あっという間に、上半身は下着姿になった。
いっそ全部脱がしてしまえばいいのに、中途半端に肌蹴ているのが恥ずかしい。
すると、首元と裾から二本の触手が身体の中に入っていった。背筋に悪寒が走る。
ワームはヘソの辺りで握手をすると、突然上に向かって動き、シャツを押し上げた。
そのまま鋸のように引き抜くと、哀れにも下着は真っ二つに裂けてしまった。
サッ、サッと服をまとめて広げると、淡く膨らんだ二つの丘も、その先でちょんと尖っている蕾も、
全てが曝け出されてしまった。
「あ……あ……あ……」
予想できていたこととはいえ、言葉が麻痺して口から出てこない。
この後、何が起きるのか──二本のワームが出し抜けに乳首に食いついた。
「きゃぁっ!」
機械らしいごつごつした見た目の割には、先端部分だけは生体そのものだった。
イソギンチャクのような繊毛を大量に備えている触手からは、
潤滑液のようなぬるぬるしたものが、それはもう無意味だと感じるくらいにだらだらと分泌されている。
触手たちは、ヴィヴィオから乳を啜る気でもいるかのようだ。
きゅむきゅむと乳首を揉み、上下に扱く。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
おかしい。乳首をちょっと捏ねられただけなのに、身体が熱くなってきた。
吐息が甘い。ぷっくりと膨らんできた蕾が、自分でも分かる。
それでも尚、乳首だけを執拗に繊毛で撫で続ける触手たち。
粘液のぬめりも手伝って、一度突かれた性感は容易く異形の姿にもむず痒さを覚え始めていた。
「そろそろ頃合のようね……」
メアリーは手にしたリモコンを操作した。
その瞬間、更に多くの触手が沸いて出て、それらは全てヴィヴィオの股間へと迫った。

269Foolish Form ◆UEcU7qAhfM:2009/08/22(土) 00:01:01 ID:udfh2Ggc
次回、幼女に触手攻め。
凌辱OKな人はお楽しみに。

では。

270名無しさん@魔法少女:2009/08/22(土) 18:49:42 ID:lQJtvow2
うひょおおww 陵辱GJ!
なんとも素敵なヴィヴィオ攻め、良いですねぇ。
次回もお待ちしておりますよー。

271名無しさん@魔法少女:2009/08/22(土) 23:30:44 ID:XnU56Gvs
投下させていただきます。

・全4レス
・SS後日談、オリジナル色強め
・オリキャラ(男の娘)が出ます
・厨二病だと思う
・シグナム無双、バトルメイン
・エロなし

272紫炎剣客奇憚 ACT.02 1/4:2009/08/22(土) 23:33:58 ID:XnU56Gvs
 JS事件より三年が過ぎ、世界は一応の平和を享受していた。
 シグナム自身、この三年程は目だった動乱もなく、主はやてや仲間達との穏やかな日々を送っていた。多少は退屈もしたが、剣の騎士は己を戒める術を心得ていた。
 しかし"戒め"を"止める"と書いて、"武"……今、シグナムは久々に武人として腕を振るえる任務に悦びを感じている。
 ――筈だった。
「シグナム、元気ないぜー? 久々の出張なんだ、もっとシャバの空気を楽しまないと」
 頭上を飛び回る相棒、アギトの声もどこか上の空で、シグナムは少ない手荷物を片手に空港を歩く。辺境、静かな田舎の世界ゆえか人影は少ない。一週間に何本も無い定期便が、頭上で魔法陣の輝きに消えていった。
「それはそうと、そろそろ教えてくれよシグナムー! あたし達は今回、何を叩っ斬ればいいんだ?」
「……子供だ」
 アギトの無邪気な問いに、シグナムの心中は陰惨とした憂鬱な気持ちで澱んだ。
「子供? 危険なロストロギアとか、時空犯罪者の巣窟とかじゃなく……ガキかよー」
 アギトの羽ばたきから力が抜けていった。己の肩にへたりこむ相棒の姿に、僅かに頬を緩めるシグナム。
「だから付いてこなくてもいいと言った。こんな仕事は私一人で沢山だ」
「いーやっ! そりゃ駄目だねシグナム。大体アンタに子供が斬れるもんか」
 シグナムの肩にあぐらをかいて、アギトが頬を膨らませる。その不器用な信頼に感謝しつつ、シグナムは内心呟いた。主はやての命とあらば、子供でも斬れると。
 ただ、今回ばかりはシグナムも気が滅入っていた。自ら見逃した命を、己の手で刈り取るハメになるのだから。もしも主はやての危惧する通り、その子が世界の敵ならば尚更……よしんば、そうでなくても。
「あっ、シグナム副隊長。お待ちしておりました、お疲れ様です」
 不意に懐かしい名で呼ばれて、シグナムは視界の中央で口を押さえる少女を見つけた。上司と部下は三年前までだが、それでも少女は脱帽して身を正す。桃色の髪がふわりと揺れた。
「久しいな、ライトニング04……と、今は自然保護隊だったな、キャロ」
 うっかり自分まで間違えてしまい、キャロ・ル・ルシエの変わらぬ愛らしさにシグナムは懐かしさを感じた。僅かにだがキャロは背が伸びており、その身体は少しずつだが女性らしい曲線を帯びはじめている。何より魔導士としての成長が見るだけで感じ取れ、素直にシグナムは嬉しかった。
「バスでの移動になります。フリードリヒは今エリオくんが……」
「済まないな、キャロ。お前達辺境の魔導士達に、私の不始末を押し付ける形になってしまって」
「いえ、私達なら頻繁に顔も出せますし。副隊……シグナム二等空尉は中央でお忙しいですから」
「ライトニング03は……エリオは元気にしているか?」
 はい! と、元気な笑顔を見せるキャロにアギトが挨拶もそこそこに絡む。どうやら交際関係は健全かつ順調なようで、シグナムは何故か安心した自分を不思議に思った。
「フッ……パートナーか」
「あんだよシグナムー、シグナムにはあたしが居るじゃんかよー」
「そうだったな。ではキャロ、案内を頼む」
「はい、こちらへどうぞ」
 嘗ての部下に連れられて、シグナムは辺境の地へと踏み出した。嘗て己が見逃し、現在世界を脅かしているかもしれない《宿業の子》が生まれ育った土地へと。

273紫炎剣客奇憚 ACT.02 2/4:2009/08/22(土) 23:37:00 ID:XnU56Gvs
 それは時空管理局が辺境の各地に持つ、要人避難用施設の一つだった。この手の施設は特権階級が私物化して別荘になっているものがある反面、管理名簿に記載が忘れられた老巧施設も多い。
 目の前の山荘が正に後者で、それを三年前に素早く手配した主はやてに、シグナムは感服する他無い。
「わたしも時々、様子を見に来てるんです。この世界に来ること、意外と多いですから」
 そう言ってキャロがドアを開く。簡素な山荘は部屋数も少なく、すぐに台所に立つ女性が振り返った。その姿を視界に捉えるや、アギトが火の玉となって飛び込んでゆく。
「手前ぇ、4番目っ! こんなところで何やってやがる! 確か三年前脱走したって……おーし」
「ま、待ってアギトさん。これには深い訳が」
 驚き慌てて止めに入るキャロの前で、アギトの纏う空気が沸騰して炎熱化する。動じず静かにシグナムは手を伸べ、逸る相棒をむんずと右手に捕まえた。
「放せよシグナ……解った、ユニゾンだな! っしゃあ、ぶった斬ってやんぜ!」
「アギト、主はやてに許しを得て、私がこの地にかくまっているのだ」
「なるほど、シグナムがかくまっ……はぁ!?」
 どうにか炎を収めたアギトに、キャロが説明を始める。その姿越しにシグナムは、三年ぶりにクアットロと再会した。目と目が合うや、クアットロは深々と頭を下げる。
「御無沙汰しております、騎士シグナム。長年に渡る非礼をお許し下さい」
「そう畏まるな。……少し痩せたな」
 頭を上げたクアットロは、以前の刺々しさを感じさせぬ静かな笑みを僅かに浮かべた。少しどころかかなり痩せ細っており、時折苦しそうに咳き込む。
 何とかアギトを納得させたキャロが、崩れ落ちるクアットロを支えて寝室へと連れ立った。自然とシグナムも、むくれたアギトを伴い続く。
「クアットロさんは……戦闘機人としてのメンテナンスをずっと受けていないので」
 ベットに寝かしつけて、キャロが切なげに呟く。憔悴しきって衰弱したクアットロはしかし、気にした様子もなくシグナムの来訪を迎えた。その意味するところを察していた。
「あ、貴女が来たということは……最近中央で悪い、噂を聞き、ゴホゴホッ」
「流石は情報処理に特化したナンバーズ、耳が早いな」
 表情一つ変えぬものの、シグナムは胸の疼痛に奥歯を噛んだ。目の前にいるのは、嘗て自分が見逃したナンバーズ……それ以前に、病に臥せった一人の母親だった。
「ドクターのガジェットが現れた……今はまだ、当局は巧妙に事態を隠しているみたいですね」
 クアットロの言葉に、キャロとアギトは驚き互いを見合わせた。シグナムだけが黙って頷き、起き上がろうとするクアットロを手で制する。
「つまり、時空管理局は……ドクターの、生存を、疑ってる」
「率直に聞こう、クアットロ。お前の子は……ジェイル・スカリエッティだったのか?」
 クアットロは力なく、しかしはっきりと首を横に振った。
「あの子は……私の子です。ふふ、ガラにもなく懸命に育てました。僅か三年であんなに大きく」
「会わせて貰う。今、何処へ?」
 その問いに応えたのはキャロだった。
「空です、きっと……エリオくんがいつも、特訓してるんです」
 空と聞いてシグナムは、寝室の窓に目をやる。突如その時、ガラスがカタカタと揺れて空気が震えた。
 轟! と大気を沸騰させて、巨大な飛竜が上空を通過する。一目でキャロのフリードリヒだと知れたが……それを駆るエリオの後を追って、蒼穹を疾駆する小さな影があった。
「クアットロ、お前の身体のこともある。私を信用して貰えるか?」
 頷く気配を背中に感じて、シグナムは玄関へと静かに躍り出た。

274紫炎剣客奇憚 ACT.02 3/4:2009/08/22(土) 23:40:01 ID:XnU56Gvs
 吹き渡る風は強く、天空の雲脚は驚く程速い。穏やかな陽光に反して、空は荒れているとシグナムは見上げた。その晴れ渡る嵐の中、二人の魔導士が火花を散らしていた。
 片方はキャロのパートナーである竜騎士のエリオ。嘗ては部下で、珍しく戦技の手解きをした事もある少年だった。そしてもう片方が問題の……
「疾いが、軽いな」
 正式な魔導士ですらない、小さな影をエリオのアスラーダが捉えた。シグナムにはエリオの目覚しい成長が、手に取るように伝わった。同時に、相手の未熟さも。基礎がまるでできていない、ただスピードがあるだけの剣だった。
 その振るい手は空中でバランスを崩し、手放したアームドデバイスが落下してくる。それはまるで、狙い済ましたかのようにシグナムの足元に突き立った。
「よくぞ一人でここまで……やはり天才、血は争えぬか」
 大地に突き刺さるレイピアを引き抜き、軽く振ってみる。凍れる碧き刀身が僅かに撓って、剣の軌跡を霜が舞った。珍しい氷属性……それも、たった一人の子供が作ったハンドメイドのデバイス。
「カートリッジシステムは……搭載されていないな。やはり土地柄、部品も手に入らぬか」
「お怪我はありませんでしたか? ごめんなさい、それ僕のです」
 ふわりとシグナムの目の前に、一人の少女が舞い降りた。
 腰まで伸びたストレートの髪は紫色で、透ける様な白い肌とのコントラストが眩しい。整った顔立ちはあどけなさが残り、エリオやキャロと同年代に見える。しかし実年齢では、三歳に満たぬ筈……件の《宿業の子》であれば。
「……これは、お前が一人で?」
「は、はい。設計上はもっと色々盛り込める予定だったんですけど、部品が手に入らなくて」
 少女は黄昏色の瞳を輝かせた。その姿は無邪気だが、シグナムには良く知る時空犯罪者を髣髴とさせる。アンダーシャツにキュロットスカートという姿では無く、もし白衣を着ていたら……間違いなく、あの男の面影を誰もが感じ取るだろう。
「名は?」
「エリシオンです。挨拶して、エリシオン。お客様だよ」
「Buon giorno!」
「……デバイズの名ではない、お前の名だ」
「それは、ええと……困ります、あの、知らない人に名乗っちゃいけないって母様が」
 困ったように俯く少女へと、レイピアを……エリシオンを放って返すシグナム。彼女は相手が受け取るより早く、懐よりレヴァンティンを引っ張り出すや、高らかにその名をコールした。
 眩い光が紫炎となって集い、ヴォルケンリッターが一人、剣の騎士シグナムを象った。
「凄い、騎士だ……あ、あのっ」
「この方は騎士シグナム、私と貴方の命の恩人です」
 不意にシグナムの背後で扉が開いて、クアットロが現れた。ショールを羽織るその姿は弱々しいが、毅然とした瞳を眼鏡の奥に輝かせている。
「母様、ではこの方が……」
「名乗りなさい……貴方の真の名を。そして挑みなさい。貴方が目指す『真の騎士』を知るのです」
 それだけ言って咳き込み、クアットロは後から現れたキャロに支えられた。
 シグナムは警戒しつつ背後に寄り添うアギトに目配せし、降下してくるエリオにも無言で視線を放ると。静かにレヴァンティンを構えて少女へと突きつけた。
「僕は……僕はプリジオーネ。プリジオーネ・スカリエッティ」
 初夏の空に雪華が舞い、少女の纏う衣服が弾けて消え失せた。

275紫炎剣客奇憚 ACT.02 4/4:2009/08/22(土) 23:42:50 ID:XnU56Gvs
「エリシオン、バリアジャケット展開」
「Va bene!」
 冷たく光る細い刀身に、光の紋様が走る。刹那、氷の結晶が乱舞してプリジオーネの身体を覆った。それは瞬時にくびれた腰から下をスカートで包み、平坦な胸を覆ってネクタイをあしらう。翡翠色を基調とした着衣に、柑色のラインが走った。
「ふむ、素人がここまで……フッ、剣を交えれば解ること。来い、プリジオーネ」
「は、はいっ!」
 シグナムとプリジオーネが同時に地を蹴る。見守る者達の視線すら追いつけぬスピードで、瞬く間に二人は戦闘に支障のない空域へと躍り出た。
 シグナムは先ず、プリジオーネが間違いなくジェイル・スカリエッティの血筋だと断定した。三年でここまで成長し、あまつさえ辺境のド田舎でアームドデバイスを一人で組み立ててしまう……天才の再来を感じさせる神業だった。
 だが、同時に戦闘に関してはエリオが少し稽古をつけていたらしいが、稚拙の一言に尽きた。
「どうした? 来ないのなら私からゆくぞ」
 シグナムはレヴァンティンを引き気味に構えて空を裂く。空戦における基本は、相手の軌道を削ぐこと。常に先手を打ち、相手の動きをコントロールして追い詰める……プリジオーネにはまだ、その基礎が備わっていなかった。
「疾いだけではっ!」
「嘘っ、僕が追いつかれた!?」
 甲高い音を響かせて、中空で両者は斬り結んだ。プリジオーネは夢中で剣を振るい、時にみえみえのフェイントを混ぜて刺突を繰り出すが……シグナムは難なくそれを捌きながら、相手の実力を読む余裕があった。
 スピードはある。加速もトップスピードも申し分ない。しかし、その剣は余りにも軽かった。
「こ、これが騎士の剣……エリオさんには通じたのにっ!」
「自惚れるな、少年。竜騎士を相手に、それで闘えていたつもりか……甘いな」
 ――今、私は少年と言ったか?
 先程から感じる違和感に、シグナムは口をついて出た言葉を反芻した。先程から少女だと思っていたが、体格的にギリギリ……思惟を巡らせるシグナムの、その僅かな隙をプリジオーネが衝いて来た。
「届け、僕の剣っ!」
 凍気を纏った一突きがシグナムを掠める。意識を眼前の相手へと戻したシグナムはしかし、それを容易く回避するや、レヴァンティンの刃を返して峰で胴を薙いだ。
 身体をくの字に曲げて、失速したプリジオーネが落下してゆく。
 迷わずシグナムは後を追って声を張り上げた。
「何故、騎士を目指す……少年っ!」
 応えるプリジオーネが姿勢を制御し、震える切っ先をシグナムに向けてきた。そこには確かに、交戦の継続を求める意思があった。まだ、闘志があった。
「母様を助けたいから! 母様の話してくれた、大恩ある騎士に……貴女に憧れたからっ!」
「ならば見るがいい、全力で相手をしよう。――紫電一閃っ!」
 青空に鮮血が舞った。眼下に顔を覆うクアットロを、エリオやキャロを見た。
 シグナムはその日、主はやてにこう報告した……昨今世間を騒がせる『第二のジェイル・スカリエッティ』を処理した、と。

276名無しさん@魔法少女:2009/08/22(土) 23:43:59 ID:XnU56Gvs
以上、投下終了です。
お目汚し失礼いたしました。

277名無しさん@魔法少女:2009/08/22(土) 23:58:55 ID:XSJpyMA2
>>276
乙だが一つ突っ込みを 
× アスラーダ → ○ ストラーダ
うん。それじゃどこぞのモータースポーツアニメの車だw

278276:2009/08/23(日) 07:37:38 ID:MbzButF.
>>277
うわっ、やってしまいました…大失敗(汗)
何かストラーダの名前、いっつも間違えてしまいます。
エリオファンの方、すまぬ…すまぬ…

何はともあれ、ご指摘感謝!今後気をつけます。

279名無しさん@魔法少女:2009/08/23(日) 16:19:10 ID:TJJM3YzA
そこでロッソストラーダですよ

280名無しさん@魔法少女:2009/08/23(日) 16:52:59 ID:.mn3cyvU
乙!
なんかかっこいいな!
定型の話だけど面白いな!

あと一つ突っ込み。
戒を止めるじゃなくて、矛を止めると書いて武だよw

もっとも、昔は矛と盾の意だったらしいけど。

281名無しさん@魔法少女:2009/08/23(日) 19:03:21 ID:ZPiQGyAc
>>276
GJ!

282B・A:2009/08/23(日) 19:54:18 ID:pR2DO.I6
よし、日曜日に間に合った。
投下いきます。

注意事項
・sts再構成
・非エロ
・バトルあり
・オリ展開あり
・基本的に新人視点(例外あり)
・レジアスのはやて(と本局と教会)批判はまだまだ続く
・ライトニング分隊大活躍
・タイトルは「Lyrical StrikerS」

283Lyrical StrikerS 第5話①:2009/08/23(日) 19:55:28 ID:pR2DO.I6
第5話 「星と雷」



レジアス・ゲイズの一日は多忙である。
朝は送迎車の中でスケジュールを確認し、出勤するなり各部署から回ってきている山のような書類に目を通す。
定例会議では治安維持について各部署の代表者や陸士部隊の部隊長と議論を戦わせ、
必要とあらば各方面への電話や直接の訪問も怠らない。無論、自分を支援してくれている財界や政界の支援者への便宜も忘れない。
他にも陸士部隊や管理局の関連施設の視察、式典などの行事への参加、広報のための取材や会見など様々な仕事が待ち構えており、
腰を落ち着けている暇などほとんどないため、酷い時は満足に食事を取る暇もないことがある。
今日も先程まで会議に参加し、近年の検挙率上昇に関して熱弁してきたところである。
レジアスが愛娘にして副官であるオーリスから、機動六課に出動要請が入ったことを告げられたのは、
自身の執務室に戻って来てすぐのことであった。

「山岳レールウェイにガジェットだと? 何故、こちらに情報が入っていない? 
レリックがミッドに運び込まれていたことも、初耳だぞ」

「教会本部が独自に追っていたようです。同時に新型のガジェットも発見されたため、
慎重な対応を要するために報告を控えていたと」

「差し詰め、子飼いの機動六課に手柄を立てさせる魂胆なのだろう。忌々しい、聞けば六課の設立も、
聖王教会の小娘が主導で行っていたというではないか」

「カリム・グラシア少将です、中将。公式の場ではお控えください」

「わかっている」

融通の利かない愛娘の言葉に、レジアスは苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる。
カリム・グラシアは次元世界で最大規模を誇る宗教組織“聖王教会”教会騎士団に所属する騎士であり、
時空管理局にも理事官として在籍している。そのため、両組織において影響力が非常に強く、
機動六課の後見人としての顔も持っている。捜査官として多少の実績はあるとはいえ、
部隊長の経験がない八神はやてが自身の部隊を持つことができたのは、彼女の働きかけが大きいと言える。
また、彼女は他に類を見ない稀少技能の持ち主でもり、レアスキル嫌いのレジアスに取っては二重の意味で気に入らない相手であった。

「教会も本局も地上を軽く見過ぎている。その癖、こちらが行動を起こせば口を出して妨害し、
挙句、当てつけのように本局指揮下の地上部隊の設立だ。我々が泥と血に塗れて地上を守護してきたというのに、
あいつらはそれを鼻で笑うかのように好き放題をしてくる。勝手に部隊を作り上げ、潤沢な予算で人員を集め、
何をするにも事後報告。腹立たしいにもほどがある。今回も八神はやてが知らせて来なければ、
このことを我らが知ったのは事件が終わった後のはずだ」

「そこまで言うのでしたら、何故、機動六課の指揮権を放棄されたのですか? 形式的とはいえ、
あれだけの戦力をある程度自由に使えるのならば、引き込んでおいて損はないと思われますが?」

「犯罪者の部隊など必要ない。それに機動六課の目的がレリックやガジェットへの対応であるのならば、
間違いなくあの男へと辿り着く。それを最高評議会が黙認しているというのなら、
恐らくは牽制の意味合いがあるのだろう。泳がせておいて問題ない」

レジアスの口から最高評議会という言葉が出ると、オーリスは僅かに眉を釣り上がらせた。
最高評議会。
それは時空管理局設立の立役者である3人の人物が立ち上げた組織であり、次元の海と陸を守護する時空管理局の最高意思決定機関である。
退役した身であるため、平時は運営方針に対して口出しなどせず成り行きを見守るに徹しているが、
必要と判断した際は本局と地上本部の両方を動かすことのできる権限を有している。
レジアスは彼らからの信任を得ており、時空管理局の未来を左右するあるプロジェクトを一任されている。
地上軽視の風潮が強い本局を相手に豪気な態度で挑めるのは、レジアス自身の手腕もさることながら、
最高評議会の後ろ盾が影響していることも大きい。

「最高評議会は、あの男を御し切れていないというのですか?」

「或いは、対外的なパフォーマンスか。何れにしろ、小娘は生贄だ。見ろ」

そう言って、レジアスは仮想ディスプレイを愛娘の前に展開する。
そこには、オーリスが事前に集めてレジアスに報告した機動六課の事細かな情報が映し出されていた。
レジアスはその中から写真入りの組織図を呼び出すと、画面全体に拡大させて自らの推論を述べる。

284Lyrical StrikerS 第5話②:2009/08/23(日) 19:56:52 ID:pR2DO.I6
「指揮官としての実績は皆無の小娘が部隊長を務め、主力である2名の分隊長は移籍ではなく本局からの貸し出し扱い。
小娘の私的戦力たる闇の書の騎士どもを除けば、後は経歴の浅い新人や縁故者ばかり。更には期間限定の実験部隊扱い、
詰まりは切り捨てようと思えばいつでも切り捨てられる仕様だ」

それはつまり、部隊が想定していた成果を上げられなかったり、取り返しのつかないミスを仕出かした際は、
部隊長である八神はやてに全ての責任を押し付けて部隊を解散させることができるということだ。
無論、多少なりとも本局の責任問題として槍玉に上がることはあるだろうが、少数精鋭の特殊部隊のテストケースであったためと
押し通すこともそう難しくはない。

「奴を牽制できればそれで良し、駄目なら部隊を解散。責任は最高でも本局が負うため、彼らに不利益な点を一切ない。
ならば、これを利用しない手はないだろう。腹立たしいが、六課に捜査協力することで情報を得るつもりだ。
最近の奴は派手に動き過ぎていて、こちらでも対処し切れぬことがある。無論、それ以外にも使い道はあるがな。
情報を得れずとも、適当な理由をこしらえて本局や教会どもを黙らせることができればそれで良い。
これだけ違法スレスレのやり方で作り上げたのだ、材料には事欠かんだろう」

「では、機動六課の査察を?」

「日程の調整を頼む。査察は、わし自ら行おう」

背後の窓の向こうに広がるクラナガンの全景を振り返り、レジアスは皮肉めいた笑みを浮かべる。
自嘲しながらも何かを期待するような笑み。
彼はここにはいない誰かに語りかけるように、誰にも聞こえない小さな声で呟いた。

「精々、足掻け。狸めが…………どこに堕ちるか見届けてやる」







空を駆けるヘリの揺れが、お尻を伝って全身に響き渡る。
操縦手を務めるヴァイス・グランセニック陸曹の運転技術によるものか、速度の割に揺れは少なく、
気分を害するようなこともない。だが、初の実戦を前にしてキャロの緊張は最高潮に達しようとしていた。
繰り返してきた訓練を思い返し、今日まで必死で覚えた4人での連携を頭の中で反芻する。
明確に生まれるイメージは勝利。
なのに、上手くやれるという自信が持てない。
完璧なシュミレーションを何度も繰り返すが、その度に不安は折り重なるように比重を増していき、
気持ちが堕ち込んでいく。魔導師に取って基本といえる、魔力生成のための呼吸のリズムも崩れつつあった。

「わぁっ、何あれ!?」

ヘリの窓から外の様子を伺っていたスバルが、視界を埋め尽くすガジェットの群れを見て驚愕する。
隊列を組んで飛翔してくるのは、最近になって存在を確認されたばかりだという飛行型のガジェットⅡ型だ。
白い雲の浮かぶ青がガジェットの灰色で染められ、Ⅰ型に占領された列車へと迫っている。
ヴァイスも必死でヘリを飛ばしているが、ここからではⅡ型の方が先に列車へと辿り着いてしまう。
そうなってしまえば、レリックの確保は非常に難しくなるだろう。
成り行きを見守っていたなのはは、通信でグリフィスやフェイトと二、三言話をすると、
決意のこもった眦を上げてヴァイスが座る操縦席へ呼びかける。

「ヴァイスくん、わたしも出るよ。フェイト隊長と2人で空を抑える」

「うっす、なのはさん。お願いします」

ヴァイスの返答は短かった。
信頼しているからこその応答。
激励も声援もそこにはなく、ただ無言の信頼だけが2人の間にはあった。
なのははヴァイスのサムズアップに無言で頷き返し、くるりと踵を返して開き始めたハッチに向き直る。
彼女の手には、普段は胸元に下げられている深紅の宝石が握られていた。

「じゃ、ちょっと出てくるけど、みんなも頑張って、ズバッとやっつけちゃおう」

「「「はい」」」

「…はい」

緊張の余り、返事が他の3人よりも遅れてしまう。
すると、外に飛び出そうとしていたなのはが向き直り、こちらを安心させるように微笑みを浮かべる。
訓練では見せたことのない穏やかな笑みに、キャロだけでなく他の者もどこか意外な表情を浮かべていた。
唯一、スバルだけが彼女の笑みに覚えがあるかのように頷いているが、それに気づいた者はいなかった。

285Lyrical StrikerS 第5話③:2009/08/23(日) 19:59:02 ID:pR2DO.I6
「キャロ、大丈夫、そんなに緊張しなくても。離れていても、通信で繋がっている。1人じゃないから、
ピンチの時は助け合えるし、キャロの魔法はみんなを守ってあげられる、優しくて強い力なんだから」

緊急の事態でありながら、なのははゆっくりと噛み締める様に言葉を紡ぐ。
こちらを安心させるために。
緊張を解き解し、ベストを尽くさせるために。

「それじゃ、いってくるね」

最後に微笑んだなのはの姿が、フッと空へと堕ちていく。
直後、眩い桃色の閃光が迸り、強い魔力の波動がヘリの壁をビリビリと揺さぶった。
窓から覗くと、バリアジャケットに身を包んだなのはが一直線にガジェットⅡ型の群れへと飛翔している。
もの凄いスピードで迫るなのはの存在に気がついたガジェットの群れは、下部に設置された2門の砲塔を迫り来る敵へと向ける。
一方のなのはは、スピードを緩めることなく突撃を続け、左手で持っていたレイジングハートをまっすぐに構えていた。
刹那、雨のような熱線の弾幕を搔い潜りながら、なのはは桃色の閃光を放つ。
編隊を組んでいた数機のガジェットは、たったそれだけで跡形もなく焼き払われていく。
一瞬の内に陣形を崩されたガジェットは、それでも目の前の障害を排除しようと散発的な攻撃を続けている。
だが、なのはは砲撃の反動を利用して既にガジェットの射程距離外まで後退しており、カートリッジの消費と共に生み出した
無数の誘導操作弾をまるで手足のように操りながらガジェットを撃墜していく。
この間、僅か数分。
たったの数分で、敵の足並みは滅茶苦茶に乱されていた。
ここに至って、ガジェット達はなのはを最大の敵と認識して襲いかかって来る。
運の悪いことに、今のなのははアクセルシューターを発動していて動くことができない。
しかも、シューターは半分以上を攻撃に使ってしまったため、このままでは迎撃が間に合わない。
万事休すかと、キャロ達4人は息を呑む。
その時、一筋のきらめきが、なのはの背後に迫っていたガジェットを一刀に両断した。

「フェイトさん!」

回転する金色の刃がガジェットを一掃し、なのはの隣に黒と白のバリアジャケットを纏ったフェイトが並び立つ。
市街にいたため、出動の遅れたフェイトが間に合ったのだ。いや、ひょっとしたらなのはは、
フェイトからの援護があることをわかっていて、動かなかったのかもしれない。

(凄い…………何て息の合ったコンビネーション)

まるで一心同体であるかのように、2人は言葉も交わさぬまま背中合わせに立ってガジェットの群れを蹴散らしていく。
なのはの砲撃がガジェットをまとめて吹き飛ばし、フェイトの斬撃が確実に鉄の塊を生みだしていく。
正に一騎当千。4人の誰もがその戦いに見惚れ、言葉を失っていた。
そして、その隙にヴァイスはヘリを加速させ、一気に暴走する列車の上部へと機体を近づけていく。

「新人ども。隊長さんたちが空を抑えてくれているおかげで、安全無事に降下ポイントに到着だ!!」

ヴァイスの言葉で我に返り、4人はバリアジャケットに身を包んだリインへと向き直る。
彼女が語った作戦は、非常にシンプルなものだった。
全てのガジェットを破壊し、レリックを安全に確保する。
レリックは列車の真ん中辺りに位置する貨物室に保管されているため、分隊ごとに分かれて
車両の前後から貨物室へと向かう。
ガジェットⅡ型はなのはとフェイトが押さえてくれているため、今ならば安全に降下できるらしい。
まずはスターズ分隊の2人が支給されたばかりのデバイスを手に、力強く空へと躍り出る。

「スターズ03、スバル・ナカジマ!」

「スターズ04、ティアナ・ランスター」

「「いきます!!」」

2人の姿がヘリから消え、なのはの時と同じように閃光が空を染める。
2年間、レスキューで働いていただけあって、2人は高所からの飛び降りにも恐怖は感じていないようだった。
胸の内にある確固たる自信。
自分は上手くやれると、2人は強く信じているのだ。
羨ましいと、キャロは思った。
土壇場に来て、自分はまだ自身が持てていない。
列車の上に飛び置いて、戦う覚悟ができていない。

「次、ライトニング! チビども、気を付けてな!」

激励の込められたヴァイスの怒声が、ヘリの中を木霊する。
半ば促されるまま、キャロはヘリの後部へと移動した。
主の不安を敏感に感じ取ったフリードが、心配そうにこちらを見つめている。
しかし、今のキャロには彼を労わる余裕すらない。
急がなければ、急いで飛び下りなければと、気持ちばかりが焦って空回りしている。
その時だ。
傍らに立つ少年の言葉が、ほんの少しだけ恐怖を振り払ってくれたのは。

286Lyrical StrikerS 第5話④:2009/08/23(日) 20:01:56 ID:pR2DO.I6
「一緒に降りようか?」

ただ静かに、エリオは微笑みながら右手を差し出す。
言葉は短かったが、そこには強い思いが込められている気がした。
大丈夫だから。
何かあっても、僕が守るから。
フェイトのように抱きしめてくれたわけではない。
なのはのように、励ましてくれたわけでもない。
ただ実直に、無言で労わるだけ。けれど、他の人にはない無条件の信頼がそこにあった。
一緒にいられる、側にいてくれる。
自分が孤独ではないという実感。
自分は今、この世界で祝福されている。

「うん」

握り締めた手は暖かく、安堵が胸中に染み渡る。
今なら飛べると、キャロは強く思った。

「ライトニング03、エリオ・モンディアル」

「ライトニング04、キャロ・ル・ルシエとフリードリヒ」

「きゃふぅ」

「「いきます」」

飛び降りた。
力強く、はっきりと。
手はしっかりと繋いだまま。
繋がった場所から、勇気が伝わってくる。
澄み渡った心は、自分の体を一個の機械へと組み替えていく。
魔法という超常の力を振るうための、神秘の回路。
戦いの始まりが、高々に告げられる。

「セットアップ!」

そして、4人の魔法使いは戦場へと降り立った。







着地の衝撃を膝で吸収し、スバルは戒めを解くかのように姿勢を正す。
顔を上げると、列車の反対側にエリオとキャロが着地したのが見えた。
初めてのバリアジャケットの生成は、うまくいったようだ。
今まで使ってきた着脱式の簡易ジャケットとは違う、全身に薄い重りを巻きつ付けたかのような感覚。
重さは感じなかったが、一呼吸する間に魔力が消費されていき、負荷がリンカーコアを蝕んだ。
少し辛いが、きちんと魔力を錬れば問題ない。緊急時でも、呼吸のリズムは崩すなという戒めには丁度良い。
新しい相棒となるマッハキャリバーも、履き心地は自作したローラー以上だ。

「あれ、このジャケットって?」

ふと目に飛び込んだ自身のバリアジャケットの意匠に、スバルは目を丸くする。
青の色彩が施された白いジャケット。少し盛り上がったような肩のシルエットは、
今も空で戦っているなのはのバリアジャケットと非常によく似ている。

「デザインと性能は、各分隊の隊長さんのを参考にしているですよ。ちょっと癖はありますが、高性能です」

管制のために降りてきたリインが、茶目っ気を含んだ笑みを浮かべる。
なのはと同じデザインの防護服を着ているということが、スバルを強く感動させた。
防護服を通じて、憧れの人の力強さが伝わってくる。
彼女と一緒に戦っているのだという確かな実感が込み上げてくる。
彼女は空、自分は地上。
戦うフィールドは違うけれど、同じ場所で戦っている。

287Lyrical StrikerS 第5話⑤:2009/08/23(日) 20:02:45 ID:pR2DO.I6
「スバル、感激は後」

ティアナの言葉で、スバルは我に返る。
直後、車両の天井を不自然に盛り上がり、数本の光が金属の屋根を突き破る。
内部のガジェットが、こちらの存在を感知したようだ。
浮かれていた気持ちが一瞬の内に引き締まり、思考が光よりも早く疾走する。
まるでスイッチが入ったかのように精神が昂ぶり、2人は弾かれるように戦闘態勢を取った。
リンカーコアが活性化するままに、スバルが拳を作り、ティアナがクロスミラージュを構える。

《Drive ignition》

厳かに発せられたデバイスの音声が合図となった。
立て続けに放たれるティアナの魔力弾が、車体に取りついていたガジェットを葬り去る。
今までは生成に時間を要した対AMF弾も、新デバイスの補助によって連射が可能なほど素早く作り出すことができる。
それどころか、有り余る破壊力はガジェットの装甲を貫通しても尚止まらず、遙か後方の車両の天井にぶつかるまで消滅しなかった。
今までに使っていたアンカーガンとは段違いの性能に、ティアナは驚愕の表情を浮かべる。
だが、彼女はすぐに冷静さを取り戻すと、こちらが突入しやすいように弾幕を張ってガジェットを牽制する。
その隙にスバルは、いつものようにローラーのギアを最大にまで叩き上げ、視界の端に流れ弾を映しながら熱線によって開いた穴に飛び降りる。
雄叫びと共に右腕のリボルバーナックルが軋みを上げ、視界が眼下のガジェットを捉えた。
迎撃のために列車の制御を奪っていたケーブルを引き抜くが、スバルの拳は赤い鞭が振るわれるよりも早く、
ガジェットの固い装甲を粉砕する。
濛々と上がる黒煙の向こうから、空気が動く気配を感じ取る。
即座に後退しながら反転し、背後にいたガジェットの攻撃を回避、自身が破壊したガジェットの残骸を
力任せに投げつけてもう1機を破壊する。
視界に映るガジェットは残り3機。
やたら滅多に乱射させる熱線を搔い潜りながら、スバルはマルチタスクで次の一手を組み立てる。
その瞬間、こちらの意図を汲み取ったマッハキャリバーが、自身に登録されていた魔法を自動で詠唱する。

《Absorb Grip》

(えっ?)

戸惑いながらも、スバルは強化されたローラーのグリップを駆使して壁を疾走し、
ナックルスピナーに魔力を凝縮していく。
いつものように、相手を牽制するための射撃魔法。
だが、撃ち出されたのはこちらの想像を遙かに超えた破壊の嵐であった。
懐に潜り込むまで、相手の攻撃を防げればいい。そう思って放った風の弾丸は凄まじい風圧を巻き起こし、
車内のガジェットのみならず魔法を放った自分をも巻き込んで、列車の天井を破壊したのである。

「ううっ、わあぁぁぁぁぁっ!?」

何の前触れもなく空中に体が投げ出され、スバルの思考が乱れる。
列車はまだ暴走しており、左右は断崖絶壁。急いで足場を作らなければ地面に叩きつけられてしまう。
しかし、焦りで構成がまとまらず、慣れ親しんだはずの魔法をうまく詠唱できない。
すると、またしてもマッハキャリバーが自動詠唱を行い、見慣れた蒼いレールが生みだされる。
スバルは無我夢中でマッハキャリバーが造り上げたウィングロードを駆け抜けると、自分が放り出されたのとは別の車両に飛び降りた。
勢い余って倒れ込むと思ったが、マッハキャリバーは着地の慣性も見事に相殺してくれる。
こちらの予想を遙かに上回る出力と高性能AIによる魔法の自動詠唱、そして何より、自分と姉にしか使えないはずのウィングロードを
マッハキャリバーが詠唱したことに対し、スバルは驚愕を禁じ得なかった。

「マッハキャリバー、お前って、もしかしてかなり凄い? 加速とかグリップコントロールとか? 
それにウィングロードまで……………」

《私はあなたをより強く、より速く走らせるために造り出されましたから》

スバルの驚嘆に、マッハキャリバーは淡々と答える。
レイジングハートのような温かみとは違う、どこか無機質で冷たい合成音。
それだけが自分の役目だと言わんばかりの、身も蓋もない返答。
道具としてのアイデンティティは、正にデバイスの鑑なのだろう。
けれど、今の自分達の関係は主従のそれだ。
主である魔導師を補佐し、守るために力を振るう。
それは決して間違いではないけれど、自分の求めるものとは少し違っていた。
あの2人のように、深い部分で繋がった関係。
頼れる相棒であり、気の置けない友人であり、かけがえのない家族。
ただの主従で終わらせる気など、スバルにはなかった。

288Lyrical StrikerS 第5話⑥:2009/08/23(日) 20:03:18 ID:pR2DO.I6
《Master?》

「ああ、ごめん……………ありがとう。けど、ちょっと言い換えよう。マッハキャリバーには、AIとはいえ心があるんでしょう?」

リボルバーシュートの余波で破壊された車両を見ながら、スバルはどこか感慨深げに呟く。
これは自分1人の力でやったことでも、マッハキャリバーがやったことでもない。
自分とこの娘、2人で振るった力なのだ。
今はまだ危なっかしくて、うまく扱えないけれど。
いつか、この力をきちんと使えるようになりたい。
いや、なるんだ。

「お前はね、あたしと一緒に走るために、生まれてきたんだよ」

《同じ意味に感じます》

「違うんだよ、色々と」

いつか、空で戦うあの人のように。
彼女と戦うあのデバイスのように。
エースと呼ばれるあの2人のように。
想いをまっすぐに貫くことのできる魔法使いになるんだ。

《考えておきます》

「うん」

微笑みを返し、思考を切り替える。
なのはとフェイトが空を抑えてくれていることで、Ⅱ型の増援はない。
運転席を占拠していたガジェットもティアナが全て破壊しており、エリオとキャロも順調に貨物車両へ向かっている。
列車の中にはまだ多くのガジェットが残っているようだが、この調子ならば問題なく任務を完了できそうだ。

『スバル、車両の停止は私が引き受けるです。ティアナと合流して、レリックの確保を!』

「了解」

リインからの指示に従い、再びガジェットの待つ車内へと飛び降りる。
待ち構えていたかのような手厚い歓迎は、鋼の拳で以て返礼するつもりだ。

「いくよ、マッハキャリバー!」

《All right, my master》

頼もしい返事が、スバルに勇気を与えてくれる。
新型のガジェットが出現したと報告が入ったのは、その直後であった。







巨大なアームが振りかぶられ、エリオとキャロは弾かれるように床を蹴る。
2人が対峙しているのは、Ⅱ型と同じく発見されたばかりの大型ガジェット“Ⅲ型”だ。
目的地である貨物車両を前にして現われたこの新型は、その巨体とパワーを遺憾なく発揮してエリオとキャロを追い詰めていく。
エリオの斬撃もフリードの火球も通用せず、伸縮自在のアームが振るわれる度にキャロを庇うエリオの体に傷が増えていった。

「三士! フリード、ブラストフレア!」

無駄とわかりつつも、ブーストを施した火球をガジェットへと放つ。
だが、Ⅰ型をいとも容易く融解させた竜のブレスをⅢ型はアームの一閃で薙ぎ払い、
弾かれた火球が背後の崖にぶつかって轟音が轟く。
エリオも果敢に斬りかかるが、Ⅲ型の装甲は電流への耐性も強化されているようで、機能障害どころか
表面に傷一つ付けることができなかった。

289Lyrical StrikerS 第5話⑦:2009/08/23(日) 20:04:26 ID:pR2DO.I6
(攻撃が利かない……………今のままじゃ、今の力じゃ……………勝てない…………)

AMFの濃度が増していき、徐々に体への負担も大きくなってくる。
慌ててキャロは後退すると、ガジェットを抑え込んでいるエリオを援護しようと詠唱を始める。
だが、今の自分達の力で強力なAMFを誇るⅢ型を破壊できるであろうか?
エリオにしろフリードにしろ、生半可なブーストではあの装甲は破れないだろう。
攻撃手段を使役竜に依存している自分など以ての外だ。

(フリードなら…………竜魂召喚なら……………)

自身が保有する奥の手の1つ、竜魂召喚。
それは飛竜フリードリヒに施されているリミッターを解除し、真の力を引き出す魔法である。
しかし、真の力を取り戻したフリードの精神は非常に不安定であり、制御に失敗すれば周囲を見境なく攻撃する暴走状態に陥ってしまう。
そもそも、キャロはその強すぎる力故に故郷を追い出されたという過去を持っている。
彼女の故郷は第6管理世界アルザス地方。彼女の性である“ル・ルシエ”は一族の名であり、
使い手の少ない召喚魔法を伝える部族であった。
一族はみんな家族であり、誰もが何らかの形で召喚魔法に関わる集落。
召喚魔法を学ぶ者、召喚獣を育てる者、召喚魔法を理論化し残そうとする者、召喚師を育てる者。
その中でもキャロは、一際異質な存在であった。
彼女は生まれながらに“竜使役”の技能を有し、竜と心を通わせる能力を持っていた。
それ自体は決して珍しいことではない。キャロの才覚は些か突出していたが、
ル・ルシエは竜の使役を最も得意としていたため、才能溢れる彼女の誕生を大いに祝福していた。
彼女が真に異質であったのは、言い伝えに名を残すアルザスの巫女と同じ加護を受けていたからであった。
アルザスの森に生息する真竜クラスの稀少古代種。
黒き火竜と呼ばれる竜と、キャロは心を通わせることができたのである。
ル・ルシエ一族はその竜を神として称え、畏敬の念を抱いていた。
もしもアルザスの巫女が有り触れた存在ならば、キャロが故郷を追い出されることはなかったかもしれない。
だが、不運にもアルザスの巫女は言い伝えや昔話に登場すだけの存在であり、最年長である長老ですら実物を見たことがなかった。
それ故にキャロは伝説の復活と一族から褒め称えられ、そしてその強過ぎる力を恐れられた。
彼女が窮地に陥れば、火竜が全てを灰塵と化した。
森で大型動物に襲われた時、暗い洞窟で迷子になった時、鳴り響く雷鳴に恐怖を駆り立てられた時、
火竜は巫女を危機から守ろうと次元の壁すら引き裂き、周囲を火の海へと変えていった。

『僅か6歳にして白銀の飛竜を従え、黒き火竜の加護を受けた。お前は真に素晴らしき竜召喚師だ』

『じゃが、強過ぎる力は災いと争いしか呼ばん』

『すまんな、お前をこれ以上、この里に置く訳にはいかんのじゃ』

故郷を追われた夜のことは、今でもハッキリと覚えている。
里で一番の賢者である長老が見せた悲しい表情。
怯えているようにも悔やんでいるようにも見えた長老の眼差しが、今でも忘れられない。
見送ってくれる者は誰もいない。
引き留めてくれる者もいない。
魔法を教えてくれた両親すら、満足に口も利いてくれなかった。
災いを呼び寄せる呪われた竜召喚師。
フリードと共に世界を旅して周りながら、いつしかキャロは自分をそう思うようになった。
無論、竜召喚の力を人々のために役立てようと思ったことは何度かあった。
だが、その度にキャロはフリードの制御に失敗し、惨劇を目の当たりにしてきた。
燃え盛る劫火、砕かれる大地、鳴り響く悲鳴と絶望の怨嗟。
自らの怯えを敏感に感じ取ったフリードはこちらの命令すら無視して暴れ回り、この世に地獄を作り出すのだ。
その中心にいるのは、恐怖で震えているだけの自分。
フリードはどんなに破壊の限りを尽くそうと、主である自分だけは傷つけようとしない。
ただ守るために振るわれる暴力。それを延々と見せつけられるだけの弱い自分。
管理局に保護されてからもそれは変わらず、フェイトに引き取られるまでは心を凍てつかせた日々を送っていた。
だから、自分を受け入れてくれている機動六課を、今もこうして自分を守ろうとしてくれているエリオを傷つけてしまうかもしれないことが怖い。
また全てを破壊してしまうのではないのかという恐怖が、彼女の心を竦ませる。
その躊躇がガジェットに好機を与え、重圧として圧し掛かっていたAMFが糊のように四肢に纏わりついてくる。
同時に、足下に展開していた魔法陣も消えていった。AMFの濃度が更に増したのだ。

290Lyrical StrikerS 第5話⑧:2009/08/23(日) 20:05:03 ID:pR2DO.I6
「こんな遠くまで?」

「うわああぁぁぁぁぁあっ!!」

「三士!?」

魔法による肉体強化が消えたことで、力負けしたエリオの体が車体に叩きつけられる。
耳にこびり付くような苦悶の声。
騎士甲冑のおかげで致命傷は防げたようだが、かなりのダメージを負っているのは明らかだ。
助けなければと飛び出すが、思うように体が動いてくれない。
みんなを傷つけてしまうかもしれないという恐怖が彼女を縛っているのだ。
そして、戦場で震え上がる戦士は敵にとって格好の獲物であった。

「下がって!」

エリオが突き出した槍が、キャロ目がけて振り下ろされたアームをギリギリのところで防ぐ。

「大丈夫、任せて」

自分を押し潰そうとするアームを何とか受け流し、エリオは自らを囮にするかのように跳躍する。
すかさず、ガジェットは剃刀のような熱線で焼き殺そうとするが、エリオは紙一重でそれを回避して背後に着地、
そのまま攻撃せんとストラーダを振りかぶる。だが、ガジェットはその見た目よりも遙かに素早い動きで反転すると、
しなりの利いたアームでエリオを壁に叩きつける。
一瞬、エリオの纏っていた騎士甲冑が明滅する。
ダメージが大きくて呼吸ができず、魔力の生成が間に合っていないのだ。

『エリオ!?』

ケリュケイオンから、フェイトの悲鳴が聞こえる。
通信のために繋ぎっぱなしにしていたオープン回線で呼びかけているようだ。

「フェイトさん、三士が、モンディアルさんが!」

『待っていて、すぐに………くっ、このぉっ!!』

空の彼方で爆音が轟く。
金色の閃光の異名を持つ彼女でも、リミッターをかけられた状態ではガジェットⅡ型の群れを振り切るのは難しいらしい。
かと言って、なのはの砲撃ではレリックを巻き込む恐れがあるし、リインやスバル達も自分のことで手一杯のはず。
今、動けるのは自分だけだ。
自分の竜召喚だけが、エリオを救うことができる。
なのに、勇気が持てない。
ここへ飛び降りる時にあった力強さが、自分の中のどこを探しても見つからない。
手を繋いでいないから。
一人ぼっちだから、勇気が持てない。

「ううわぁぁぁぁぁぁぁっ!!! くはっ…………」

「っ!?」

アームに巻き上げられたエリオの体が動かなくなる。
抗う力を失った少年騎士は、子どもに飽きられた玩具のように投げ飛ばされ、崖下へと堕ちていく。
騎士甲冑があるとはいえ、この高さでは無事では済まない。
落下のダメージを防ぐことはできても、地面に叩きつけられた衝撃までは消せないからだ。
このままでは、間違いなくエリオは死ぬ。
小さな体がトマトみたいに潰れて、あの優しい笑みを二度と浮かべなくなる。

(モンディアル………三士…………)

キャロの脳裏に、ここ1ヶ月の間のエリオとの思い出が蘇る。
ターミナルでの出会い。
ベンチで交わした会話。
初めての模擬戦。
スピードだけが取り柄だと言った時の笑顔。
転んだ自分を労わってくれた優しさ。
嫌いなニンジンを、無言で食べてくれた不器用さ。
出動の前に分け与えてくれた勇気と、共に空を飛んだ時の安心感。

『キャロは、どこへ行って、何をしたい?』

フェイトに引き取られた時の問いかけが、脳裏を掠める。
いつだっていてはいけない場所がいて、してはいけないことがあった自分。
災厄を呼ぶだけだった竜召喚師としての自分。
けれど、そんな自分でも守れるものがあるのなら。
呪われた力でも、救える命があるのなら。
我が身の不幸を呪わず、胸を張って生きていける場所があるのなら。
いつかの問いかけに答えても良いのなら、自分はここにいたい。
機動六課で、大切な家族や友達と一緒に笑っていたい。

291Lyrical StrikerS 第5話⑨:2009/08/23(日) 20:05:38 ID:pR2DO.I6
「エリオくん………………エリオくーん!」

自分でも、どうしてそんな行動に出れたのか不思議でならなかった。
気がつくとキャロは、列車から飛び降りて落下していくエリオの後を追いかけていたのだ。
空を飛べぬ陸戦魔導師にとっては自殺行為としか言いようのない暴挙。
しかし、無我夢中のキャロはそこまで冷静な考えが及ばなかった。
ただ、このままエリオを一人ぼっちにしてはいけないという思いと、あの手の温もりをもう一度繋ぎたいという思いが、
彼女の内側から失敗に対する恐れを消し去っていた。そして、結果論ではあるがガジェットから距離が空いたことで、
魔法を無効化するAMFの効果範囲から逃れることができた。
それは、キャロがフルパフォーマンスの魔法が使えることを意味していた。

(守りたい。優しい人、わたしに笑いかけてくれる人達を、自分の力で……………守りたい!)

《Drive ignition》

ケリュケイオンがシステムの起動を告げ、キャロの体から膨大な魔力が迸る。
2人を包み込んだ桃色の魔力は球体のような形へと変化し、重力という鎖を引き千切って局地的な無重力空間を生み出した。
その中心に座するキャロは、抱きしめた少年の体を優しく労わると、傍らに降り立った自らの使役竜に目を向けた。

「フリード、不自由な思いさせててごめん。わたし、ちゃんと制御するから…………いくよ!」

腕の中で目を覚ましたエリオが、自身の置かれた状況に唖然とした表情を浮かべる。
厳かに紡がれる詠唱。
それは、フリードに秘められた真の力を解放する祝詞だ。

「蒼穹を走る白き閃光、我が翼となり天を駆けよ。来よ、我が竜フリードリヒ、竜魂召喚!」

魔力の渦が一際膨れ上がり、卵の殻が破れる様に1匹の巨大な竜が顕現する。
全長10メートルほどの赤き瞳の白竜。それこそ、白銀の飛竜と呼ばれたフリードの真の姿であった。







大気を震わせる魔力の波は、気を失っていたエリオの意識を覚醒させるほど凄まじいものであった。
信じられないことに、その中心点にいるのは自分を抱きしめている小さな少女なのだ。
戦うことに怯え、震えあがっていた少女。
どこか抜けていて、転んでばかりいる妹みたいな女の子。
実際に彼女が巨大化したフリードを使役している姿を垣間見ても、夢を見ているのではないのかと錯覚してしまう。
それほどまでに、目の前の出来事は現実離れしていた。

「フリード、ブラストレイ! ファイア!」

キャロの号令で、フリードの口から今までと比較にならないほどの強烈な炎が吐き出される。
空間ごと燃やし尽くさんと迫る飛竜のブレス。その破壊力たるや、平均的なAAランク魔導師の砲撃にも匹敵するだろう。
膨大な熱量は安全圏にいるはずのこちらにまで及んでおり、玉のような汗が額を伝う。
だが、炎の向こうから現れたガジェットは腕やケーブルが焼き切れてはいるが、健在であった。
Ⅰ型よりも強固な装甲と、丸い形状が幸いして攻撃を耐え抜いたようだ。

(何とか内部に電気を流せれば……………)

AMFは自然現象まで無効化できない。
エリオの持つ魔力変換資質「電気」はガジェットにとって正に天敵と呼べる能力ではあるが、
未熟なエリオでは直接相手に触れなければ電気を流し込むことができない。
AMFの効果範囲内にいては電気魔法も使えないため、今のエリオには打つ手がなかった。
だが、震えを必死で堪えながらフリードを使役するキャロを見て、弱気な考えを改める。
自分が何とかしなければならない。
キャロは恐怖と戦いながら、自分を危機から救ってくれた。
今度は、自分がキャロを守る番だ。

292Lyrical StrikerS 第5話⑩:2009/08/23(日) 20:06:12 ID:pR2DO.I6
「砲撃がダメなら物理攻撃だ。今度は僕とストラーダがやる」

「うん」

フリードの上に立ち上がり、ストラーダを両手で構える。
呼吸を整え、リンカーコアを静かに活性化させる。
背中に感じる温もりは、キャロが側にいることの安心感だ。
彼女からの支援が、今は何よりも心強い。

「我が乞うは、疾風の翼。若き槍騎士に、駆け抜ける力を」

《Enchanted Field Invalid》

「我が乞うは、清銀の剣。若き槍騎士の刃に、祝福の光を」

《Boost Up. Strike Power》

「いくよ、エリオくん!」

「了解、キャロ!」

力強くフリードの背を蹴り、列車の中から姿を現したガジェットⅢ型に向かって飛び降りる。

「ツインブースト、スラッシュ&ストライク!」

《Empfang》

一拍遅れてキャロの補助魔法がストラーダに吸い込まれ、金色の魔力刃が桃色へと染まる。
訓練の時と同じく、自分の中で膨れ上がる強い力のうねりにエリオは顔を歪ませながらも、
襲いかかるガジェットのアームとケーブル目がけて振り上げたストラーダを一閃する。
フリードの火炎から逃れた触手達はその一撃で細切れに千切れ飛び、爆発しながら崖下へと落ちていく。
丸裸となったガジェットの盾となるものは、もう何もない。
だが、AMFの効果圏内に入ったことで魔力結合が急速に失われていき、
ストラーダの先端の魔力刃も儚く明滅する。キャロにフィールド魔法を無効化するブーストを施してもらっているため、
今は辛うじて形作っているが、そう長くは保ちそうにない。

「一気に勝負をかけっ…………えぇっ!?」

ストラーダを振りかぶった瞬間、ガジェットの巨体が迫っていたことに気づいて大きく後退する。
攻撃手段を失ったガジェットは、あろうことかその巨大な胴体でエリオを押し潰そうとしているのだ。
エリオが必殺の一撃を放つためにはどうしても助走をつける間合いが必要なため、エリオは後退することを余儀なくされる。
そして、そうしている間にもキャロの補助魔法は加速度的に効果を失っている。
キャロが新たにブーストを施そうとするが、AMFが邪魔をしてストラーダに届く前にかき消されてしまうので、
後数十秒もすれば完全に魔法が消えてしまう状態にまで追い詰められていた。。

「エリオくん!」

「大丈夫、ヒントは君がくれた!」

不敵な笑みを浮かべ、エリオは槍投げの要領でストラーダを真上に放つ。
そして、自身はガジェットを踏み台にして跳躍し、AMFの効果圏内から飛び出たストラーダに手を伸ばした。

「キャロ!」

「エリオくん!」

再びブーストを施されたストラーダが、エリオの手の中に戻ってくる。
重力にストラーダの重みが加わり、落下の勢いが増す。
すかさずエリオは2発のカートリッジをロードし、魔力噴射を噴かせながら眼下のガジェットへと向き直った。

《Explosion》

「一閃、必中ッ!」

稲妻と化したエリオの一撃が、ガジェットの巨体に迫る。
その一撃は一直線。ほんの少しだけ前後に移動すれば、回避することは造作もない。
しかし、ガジェットは動くことができなかった。ボールのような球体の体が、金色の糸によって列車に縛りつけられていたからだ。

293Lyrical StrikerS 第5話⑪:2009/08/23(日) 20:12:22 ID:pR2DO.I6
「ライトニングバインド…………エリオ、とどめを!」

「うううおおおおおぉぉぉぉぉぉっ! ぶちぬけぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

一際輝きを増した魔力刃が、ガジェットの装甲を貫く。
刀身から放たれた電撃は、フェイトが施したライトニングバインドの副次効果によって威力を強化されており、
キャロのブーストと合間って凄まじい威力の斬撃を生み出していた。
エリオはその有り余る破壊力に導かれるように反転し、両断されたガジェットを真一文字に薙ぐ。
十字に切り捨てられたガジェットはそのまま機能を停止させて大爆発を起こし、エリオの矮躯が黒煙に飲み込まれる。
黒煙が晴れた時、手にしたストラーダは本来の蒼い槍へと戻っていた。

「やった、エリオくん!」

「エリオ、よくやったね」

いつの間にか戦闘が終わっていたのか、フェイトが列車の上へと降りてくる。
リインも列車のコントロールを取り戻せたようで、暴走していた列車は徐々に減速を始めていた。

「キャロもちゃんとフリードを制御できたんだね。2人とも偉いよ、本当によく頑張った
後でご褒美、あげないとね」

「えっと、フェイトさん…………その…………」

手放しで褒め称えるフェイトに照れ臭さを感じ、エリオを頬を赤く染めて視線を逸らす。
すると、回収対象であるケースを抱えたスバルとティアナがヘリへと機関する姿が目に入った。

(レリックはスバルさん達が回収したのか。ガジェット1機に手こずるなんて、僕達もまだまだだな。
けど、キャロが無事で良かった………………あれ?)

自分が今まで、ごく自然にキャロのことを名前で呼んでいたことに首を傾げる。
そういえば、キャロも自分のことを名前で呼んでいた。
いつの間に自分達は、互いを名前で呼び合うようになったのだろうか?
エリオはしばし首を捻った後、誰にも気づかれないように笑みを浮かべて考えるのを止める。

(まあ、良いか。家族なんだし、こっちの方が)

ちょっとだけ、自分達の距離が縮まった気がする。
多分、これが家族としての最初の一歩だったのだろう。
そんな風に、エリオは思っていた。







どことも知れぬ闇の中で、機動六課の戦いを観察していた者がいた。
その男はヨレヨレの白衣を纏った研究者風の人物で、眼前の巨大ディスプレイを見つめる瞳は狂気に彩られた金色だ。
ギラギラと熱のこもったその瞳に覗かれた者は、誰もが彼の正気を疑うだろう。
夜行性の動物を思わせるその風貌が端正なだけに、瞳に宿る狂気がより異様な気配を醸し出している。

『刻印ナンバーⅨ。護送体勢に入りました』

「ふぅむ」

『追撃戦力を送りますか?』

「やめておこう。レリックは惜しいが彼女達のデータが取れただけでも十分さ」

顔を向けることなく通信の向こうにいる女性に言い、男は映し出される映像を興味深げに見聞する。
機動六課。
手元の資料では本局の特殊部隊としか記載されていないが、その戦力は予想以上に大きなもののようだ。
しかも、ほとんどのメンバーが何らかの稀少技能を有しており、若い隊員の潜在能力も高い。
どれもが弄りがいのある素晴らしいサンプル達ばかりだ。

294Lyrical StrikerS 第5話⑫:2009/08/23(日) 20:12:52 ID:pR2DO.I6
「この案件はやはり素晴らしい。エース・オブ・エース、タイプゼロ、竜召喚師。
初の管理局製融合デバイスがいるということは、あの闇の書の主とヴォルケンリッターもいるはずだ。
みんな、私の研究にとって興味深い素材だよ。データがないこの娘が少し気になるが、まあ人数合わせのための凡人だろう。
非凡なものは持っているようだが、サンプルとしては役不足だな。良いさ、こんな馬の骨の存在など気にならないくらい、
稀少な存在がそこにいるのだから」

画面が切り替わり、金色の髪の魔導師と赤い髪の少年騎士が映し出される。
ガジェットを相手に奮戦する2人の映像を前にして、男は唇の端を吊り上げる。
三日月のように裂けた笑みは、まさに悪魔の微笑であった。

「この子達を、生きて動いているプロジェクトFの残滓を手に入れるチャンスがあるのだから」

薄暗い闇の中で、男の笑い声が木霊する。
一しきり笑った後、男は思い出したように通信の女に向けて問いかけた。

「そういえば、ルーテシアはどうしているかな? レリックがあったのなら、あの娘も動いているはずだ」

『いるよ』

最初からやり取りを聞いていたと言わんばかりに、紫紺の髪の少女が回線を割り込ませる。

「やあ、可愛いルーテシア。今回は残念だったね」

『あれは11番のレリックじゃないから、気にしてないよ』

「そうだったね。けれど、覚えておくと良い。君が間に合わなかったためにレリックを奪われてしまった。
これが意味することがなんなのか、賢い君にならわかるだろう?」

『私が戦わなきゃ、11番のレリックもあいつらに取られちゃうの?』

「君の頑張り次第だろうね。けど、あのピンクの女の子は君と同じ召喚師、色々と気を付けねばならないんじゃないかな?」

『大丈夫、私にはガリューがいる。だから…………あんな幸せそうな奴らに、負けたりしない』

無感情ながらもどこか迫力こもった呟きを最後に、少女からの通信が切れる。
面白いことになってきたと、男はほくそ笑んだ。
機動六課、レリック、ガジェット、そして自分達。
これは本当に、面白い祭りになりそうだ。






                                                              to be continued

295B・A:2009/08/23(日) 20:13:26 ID:pR2DO.I6
以上です。
タイトルは「星と雷」。けど、実質ライトニングが主役。
追放されるくらいだから、ヴォルちゃんはきっと手が付けられなかったんじゃないかなと。
如何にも生き字引ですって感じの長老が自分のところの巫女を追放なんて決断するくらいだから。
ちなみに、これを書くために5話を見返してキャロの回想で泣いちゃったのはここだけの秘密だ。

296名無しさん@魔法少女:2009/08/24(月) 17:57:19 ID:Q27xho7U
投下乙、次回も待ってます。

297名無しさん@魔法少女:2009/08/24(月) 21:17:31 ID:DEC4lrCI
乙です。
期待してまっせ

298シロクジラ ◆9mRPC.YYWA:2009/08/24(月) 21:28:04 ID:qghMEkD6
>>295
これは……エリキャロなのかエリルーなのかが気になるところです。
そしてドクターのティアナ評ひでぇw
陰謀渦巻いてますが、ゼストさんとかどういう立ち位置なのやら……と今後が気になります。
GJでしたー


さて、だいぶご無沙汰ですが、シリアス鬱長編「嘆きの中で」7話、いきます。

作品概要というかあらすじ
一部のメンバーを除いて死屍累々の機動六課。
STSバッドエンドからの分岐、IFアフターストーリー。
新暦79年、STSから四年後の時空です。

・生存者の相違点
スバル・ナカジマ=主人公で執務官。
ゼスト・グランガイツ=ルーテシア父。存命し捜査に協力。
エリオ・モンディアル=スカリエッティ側につく。家族の復活が望み。
高町なのは=海鳴市の数少ない生き残り。

スカリエッティ側
ナンバーズが一部裏切り、死者も出ている。
スカリエッティは逃げのびており、陰謀中。

NGは「嘆きの中で」かトリで。

299嘆きの中で ◆9mRPC.YYWA:2009/08/24(月) 21:29:18 ID:qghMEkD6
嘆きの中で 第7話


――嘆こうと思えば、何時でも出来た。
だが私達は既にそれすら許されないのだ。
殺し続けた記憶……新暦75年……四年前の地球で、私と妹達は殺戮を行った。
悲鳴を上げる人々がいた。家族を護るために剣を手にした者達がいた。
主を逃すために、捨て身で挑んできた人形があった。
娘の名を叫び続ける親が存在した。
そのすべてが――犠牲者だった。
いいや、虐殺される肉塊だった。

「……ノーヴェ。ドクター……いいや、スカリエッティに従うな。もうすべて終わったんだ……!」

「……あのさ、チンク姉。何言ってるんだよ貴方は――」

四年前がすべてを変えた。

私も、妹達も、なにもかも――変わってしまったのだ。
無垢なる者など記憶の中にしかない。誰もが手を穢し、血の臭いに溺れた。
目の前の妹――ノーヴェは、漆黒のプロテクターを泥で汚して、ギチギチと歯を鳴らした。
金色の瞳から零れる涙を拭おうともせず、呟いた。

「――たっくさんぶっ殺したじゃんか。タカマチの家族はバラバラに吹っ飛んで、ウミナリとか言う街は火の海。
ディエチとオットーはよく働いたよな……留守番してたあたしだって、データ共有で“何を殺したか”ぐらいはわかるっ!」

海鳴市殲滅戦――広域殺戮兵器ガジェットドローンⅤ型の初めて投入された作戦。
管理外世界への大儀なき武力行使、否、虐殺だった。
一般市民、無関係な管理外世界へ向けた攻撃。
火の海で死んでいく人々と、笑い転げる創造主……ジェイル・スカリエッティ。
自らが作りだした地獄の風景を見て、私は決めたのだ。
あの男からの離反を。

「……消せない罪だ。だが決めた、せめてお前達を止めてから死ぬと」

ノーヴェの顔に浮かぶものは悲哀、憎悪、歓喜。
唇から紡がれるのは、引き返せないという決意。

「遅いんだよ……何もかもっ! 今更戻れるかよっ!」

構えられるガンナックル――生成された粒子弾頭、二百七十発が射出されるも、私の身体はそのすべてを予測演算していた。
すべては想定したとおりだ。そう、ノーヴェの引き返せないという嘆きすらも、戦闘機人チンクにはわかっていたから。
体内のリンカーコアを活性化させると、私は防護コートの重力素子によって跳んだ。
跳躍――手の中に出現する投擲ナイフ=六本の電磁加速――レールガン。
ノーヴェの展開した積層シールドに深々と食い込んだそれら。

「そうか。ならば」

ISの発動――金属を爆発物とする異能の発現。

「せめて一撃で逝け」

銀色の閃光。

その中でノーヴェは、幽かに笑っていた。

300嘆きの中で ◆9mRPC.YYWA:2009/08/24(月) 21:29:51 ID:qghMEkD6
「……なに?」

否、“嗤っている”。
嘲るように暴力的に、されど一筋の悲しみを残して。

「なぁんにも知らねぇんだな、貴方は……アレが、アレがなんなのかを!」

爆発――。





理想は捨てた。
心に残るのは壊れた夢。
“英雄”に成るには、夢を捨てる必要があった。
自分はもう、憧れた存在になることは出来ないだろう。
夢を捨てることもせず、心に抱え込んだ結果、壊してしまった。

――ああ、でも僕は……キャロとフェイトさんが生きていれば、良かったんだ。
救いなどいらなかった。彼女達が生きてさえいれば、エリオ・モンディアルという存在は満足だ。
そう言う単純な構図、なのにどうして――“あの人”は道を阻む?
激情のままに叫ぶ。

「――邪魔をするなぁ、高町なのはァァァ!!」

あはは、と掠れた笑い声。かつて自分達の上官だった女性は、白い法衣を揺らして、おぞましい笑みを浮かべていた。
金色の魔杖たるレイジングハート・エクセリオンを構え、幾つもの障壁を展開、フリードリヒのブレスからエリオを護りながら。
彼女はこちらを一瞥すると、どうしようもなく掠れた声で言った。

「エリオ、想像してみて御覧? 家族が、ある日、どうしようもない悪意によって“壊された”瞬間を。
二度とその人達の顔を見ることが出来ないくらい、とっても、とっても酷い殺され方をして――」

ぐにゃり、と笑顔が歪む。
おおよそ形容しがたいもので満たされたその表情は――“憎悪”“悲哀”“狂気”。
燃え上がる負の感情。煉獄で鍛え上げられたようなそれに、エリオは恐怖した。

「――貴方は耐えられるの?」

「……う、ぁ」

彼の端正な顔が負け犬のように恐怖に歪む中、高町なのはは酷く透き通った表情で“微笑む”。
レイジングハートの先端を白龍フリードリヒの真っ正面へ突きつけ、カートリッジシステムの機構が排莢、排莢、排莢。
三発分の大口径カートリッジの魔力――バカ魔力と云うに相応しいオーバーSランクの魔力制御技能により、
重力制御で白い悪魔の身体が音速を超過して飛び立つ。エリオは何とか身体制御で跳ね起き、
その戦技舞踏に気圧されながら木立の中へ逃げ込んだ。
ガチガチと歯が鳴り続ける。

「怖い」

ぼそり、と呟くと、エリオの中でその感情は爆発しそうになっていた。
恐怖――戦うことへの、或いは命を奪うことへの恐れ。
そうだ。エリオ・モンディアルは臆病だ。
臆病だから魔法の行使には必ずリミッターを付けていたし、そうすることで“人殺し”という狂気から逃げていた。

301嘆きの中で ◆9mRPC.YYWA:2009/08/24(月) 21:30:58 ID:qghMEkD6
少なくとも、フェイト・テスタロッサやキャロ・ル・ルシエを殺されてなお――彼には“仇討ち”という選択肢がない。
ただ、二人の復活という望みだけが彼の希望で、生きる活力だった。
遠くで鳴り続ける巨竜と魔導師の激闘の音、それすらも怯えしか産まぬほどに――弱い。
木立を抜けた。山道にエリオは転がり出て――“だから”。

「時空管理局です……っ! エリオ?」

その紫の少女によって、闘志は掻き消された。
漆黒のドレスと紫の艶やかな髪、紅い瞳と白い肌。
人形じみた少女の姿が目に飛び込んだ瞬間、何もかも吹き飛んだ。

「……ルーテシア・アルピーノ……どうして、君が此処にいるっ!」

「どうし――」

その先に続くのは「どうして?」か「どうしたの?」か。
そんなこともどうでも良い。ただひたすらに世界が憎かった。
何故ならば、キャロが命を賭けて助け出したはずの女の子が、戦場にいるのだから。
脳裏を駆け巡る感情/情報の波――合致する事実の輪郭。
嗚呼――漸く理解出来た。

「……“そういうことか”」

「――て此処に――」

ガチリ、とエリオの中の大切なものが焼き切れる音。
何時だって世界は、こんなはずじゃなかったことばかりだ。
せめて君だけは、こんな血の臭いがする場所に居て欲しくなかった。
だというのに――現実は、彼女を争いに駆り出している。
しかもよりによって、時空管理局という敵として。

――それが世界の選択ならば、

「ガリューを喚んで、ルー。君と僕は敵同士だ」

――誰かを救うことなど、エリオ・モンディアルには許されていない。
抑えきれない脆い心の罅が、ビキビキと広がっていく。
何もかも、無駄だったんだ。

「でないと――」

ギ、ギギギギギギギギギ、ギ!
突撃槍ストラーダの嘶き。リンカーコアが軋みを上げるほどの過剰魔力。
心が甘くひび割れていく。この残酷な巡り合わせすらも、運命だというのなら。

「――僕は!」

―――呪われてやる!
ダークブルーの外殻槍、ストラーダが蒸気を吐き出して加速。
その無慈悲で暴力的で激情的な刺突は、確かに少女を穿とうとしていた。
だが、

「ならば世界に背くか、小僧」

刹那、凄まじい暴風とともに黒金の刃がエリオに向けて打ち込まれる。
エリオはこの刺突を突撃槍の腹で受け止め、弾き飛ばされることで受け身を成立させる。
そして対峙する敵の姿に、改めて吼えた。

「死人が今更! 土塊に還れぇ!」

その騎士は白銀を四肢に纏い、矛で少年の激情を受け止める。

「死んでばかりいられんさ――ゼスト・グランガイツ、受けて立つ」

302嘆きの中で ◆9mRPC.YYWA:2009/08/24(月) 21:31:43 ID:qghMEkD6



エリオ・モンディアルが去ったあとの高町なのはとフリードリヒの戦域。
戦場となった森林地帯の遙か上空に、それは存在した。
高々度輸送機――大型偵察機をベースにカーゴキャリアを取り付けた代物だ――の機内に在るモノ。
それは無数の兵器だった。無数の兵器達だった。無数の機械であり、人にあらざるものだった。
その中に、戦闘機人ナンバーズの投降者――No.10ディエチはいた。
技術復興部奇兵師団。超法規的に質量兵器の保持を認められた、時空管理局の暗部にしてカウンターフォース。
消せぬ罪の烙印に喘ぎ、心を焼く過去――既に何度となく反芻した行為だ。
砲撃。砲身より解き放たれる偉大な破壊の王。彼女に出来る唯一の償い。
殺して殺して殺して殺して殺して……その果てに許される永久の眠り。
カーゴキャリアのハッチが開放され、低空で暴風のように荒れ狂う白龍を見下ろす。
ディエチはイノーメスカノンⅡ――黒鉄の塊をゆっくりと構えると、機関部の外殻を展開しコネクターに外部冷却装置とパワーセルを接続、
速射砲の体を成した巨砲を全身の人工筋肉によって保持し、白龍フリードリヒの右翼へ狙いを定めた。

「……ごめんなさい」

引き金を引く。機関部が唸りを上げて砲弾を生成、砲身から連続で吐き出し、フリードリヒの翼を貫く。
着弾、着弾、着弾――バランスを崩した白龍の巨体が、地面へ落下し始め――代わって桜色の閃光。
それは業火の如き憎悪の刃。四年前、ディエチが恐怖を感じた女性の砲撃魔法。
飛行機を掠めたそれは物理破壊設定、確実に殺すための威力。
天へ向けて解き放たれた砲撃は、確かに“ディエチを狙っていた”。
ぞくり、と肌が泡立つのを感じながら、それでも戦闘機人たる少女は通信を試みた。

「投降してください――ナノハ・タカマチ」

通信ウィンドウが開く。現れたのは栗色の髪を纏めた女性。
かつての溌剌とした様子は無いが、未だ衰えぬ美貌の高町なのはだった。

「貴方の行動は上層部も問題視し始めています……これ以上は――」

《よく喋る人殺しだね。私の家族を殺しておいて》

「……四年前のことは――罪に問われようと問われまいと、いずれ償います」

高町なのは――何処か澄んだ笑顔。

《なら――死んで》

鳥肌が立つほどの殺意が乗った砲撃が膨れあがり、遙か彼方より光の槍が飛来する。
イノーメスカノンⅡの防御機構発動――数キロメートル先からの砲撃を予測、弾道算出を完了。
大容量パワーセルのエネルギーを使い、オーバーSランクの砲撃を弾く強固な半球状のシールドを形成。
光が障壁と衝突する中、ディエチは通信モニターへ向けて叫んだ。

「まだ死ねないっ! あの奈落の底で藻掻く妹達が居るから――!」

《文字通り、冥府へ逝ったお父さん達は! そんなことすら云えなかった!》

パワーセルの出力を上回らんとする砲撃に驚嘆しながらも、戦闘機人は抗う。
少なくとも死ねない――“あの化け物”を壊すまでは。
ガリガリガリガリガリ、と障壁が削れていく中、悪魔のような声が聞こえた。
それは呪いのようにディエチの心を蝕む、あの日の悪意そのものだ。

《あーあーあー、マイクテスト。うん、しっかり繋がっているね》

ザザザ、と空間モニターに砂嵐が走るが、そんなことはどうでもいいと思えるほど“悪意”に満ちていた。
モニターに映る高町なのはの顔が、どうしようもない感情に塗れ、憎々しげに声が吐かれる。

303嘆きの中で ◆9mRPC.YYWA:2009/08/24(月) 21:32:32 ID:qghMEkD6
《お前は……!》

紫の長髪に餓鬼のような笑顔、爛々と輝く金色の瞳――白衣の狂科学者(マッドサイエンティスト)の姿。
“彼”は踊るようにお辞儀をすると、ケラケラと甲高く笑う。

《ご機嫌ようミッドチルダ、いや全世界の諸君。私は世間ではテロリストなどと言われる身分だ。
世界中でガジェットドローンが観測されて何やら大騒ぎのようだが、悲嘆も恐怖も必要無い、何故なら――》

放送はありとあらゆる回線帯をジャックし、塗り潰そうと笑い続ける。

《――君たちは知るのだよ、真の“歓喜”を!》

砲撃が鳴り止み、

「ジェェエイルゥ、スカリエッティィィィ!!」

一人の女人の声が雷鳴の如く天を裂いた。





《いやはや、私が憎いかね? 怖いかね? 
ああいいぞいいぞ、もっとのたうって“彼女”の起動を早めてくれ。
私はオモチャが弄りたい性分でね。なに、怖いことはない》

ドクターの声。
ノーヴェは目を開いた。自身を粉微塵に砕いてくれるはずの爆撃は掠り傷も与えてくれず、
代わりと言わんばかりに他人の血臭と機械のスパークが五感を塗り潰した。
金色の瞳が映すのは白いコートを纏った影。
決して背が高いとは言えない女性が、痛みに痩せ我慢して歯を食い縛っている。
納得できない光景故に、ノーヴェは叫ぶ。

「セカンド、なんのつもりだ!」

「……せるもんか」

「あぁ?」

タイプゼロセカンド――スバル・ナカジマは魔法障壁で爆撃のダメージを防ぎ、その代償として左腕を失っていた。
バリアジャケットごともぎ取られた腕は駆動骨格を剥き出しにし、神経ケーブルを断裂させてぶら下げている。
人間ではない。紛れもない異形の証たる機械化された肉体は、しかし暖かな血の通う“ヒト”だった。
それを見てノーヴェは思う。なんだってあたしなんかを庇うんだ、と。
スバルが吼えた。

「死なせるもんか、もう誰もッ!」

ああ、こいつはバカなんだ。正真正銘のバカなんだと、ノーヴェは思い知った。
仲間を殺されてなお、こんなことを何故言っていられる? 普通ならぶち殺しても飽き足らないはずだ。
少なくとも自分はそうだった。ティアナ・ランスターは、ろくな状態ではなかったと思う。
だけど、こいつは。

チンクが虚を突くようにナイフを投擲する。電磁誘導によりレールガンの初速を持つ兵装である。
人間の反応速度ではどう足掻いても防御など不可能。故にチンクの意志はただ一つだ。

304嘆きの中で ◆9mRPC.YYWA:2009/08/24(月) 21:33:08 ID:qghMEkD6
―――スバルごとノーヴェを処理する。

なんと冷酷でわかりやすい方法だろう。
こっちのほうが理解出来るな、とノーヴェは嘆息した。
だがしかし、高初速のナイフ十数本よりも兇悪な光が奔った。

「……やっぱり死ねないなァ、迎えが来たよ、チンク姉」

そう彼女が呟いた刹那、すべてのナイフが砕け散る、否、――粉砕された。
電光石火の殺人機動を前にして、チンクは防護コートの機構を作動させる。
巨大な光刃が発生し、一迅の暴風――いや人影――が小柄な少女に襲いかかる。
銀髪が爆風に揺れ、その金色の隻眼が驚愕に見開かれ――幽かに驚きを浮かべた。

「……トーレ!」

対する影は無言だ。手足から蜻蛉の羽根にもブレードにも見える光翼を展開し、全身に強靱な装甲外骨格を装着した戦闘機人。
長身ながら女性らしいプロポーションを外骨格と仮面で覆ったその人は、紛れもなくナンバーズの戦闘部隊を束ねる者だった。
仮面から零れた青紫の髪が、さわりと揺れた。不意に言葉がチンクへ投げかけられる。

「退け。今宵はドクターの意向故、見逃そう――チンク」

チンクは咄嗟の判断で、腰のハードポイントから荷電粒子カッターを抜き放った。
触れたものを容赦なく焼き切る機甲刃を前に、トーレは嗤う。

「狗を演じてまで私たちを殺したいか。それほどの価値が――」

背が低いことを利用し、短刀ほどの大きさのカッターを突き出す――トーレのしなやかな美脚が蹴撃にてこれを迎え撃ち、
駆動骨格が軋むほどのダメージをチンクへ与えていた。痛み――右腕の骨格に深刻な損傷。
思わず低い悲鳴が洩れる。

「っ!」

「――“この世界”にあるのか?」

その表情を隠す漆黒の仮面故に、チンクはトーレの真意を量りかねた
ただ一つ理解出来たのは、自分は命を奪われないと言うこと、そして今の装備では決して勝てないと言うことだ。
身体もバリアジャケットもボロボロのスバル・ナカジマは、朽ちた左腕が握っていたクロスミラージュを右手で構え発砲するも、

「邪魔だ」

弾丸を超える加速――トーレの拳を腹へ打ち込まれ、血を吐きながら大木へ叩きつけられた。
咄嗟に腹筋部の筋肉と体術を駆使してインパクトの衝撃を殺すが、内臓へ浸透したダメージは深い。
吐き気を覚えながらも立ち上がろうと湿った土の上を這い、口中に広がる血に溺れかかるスバルはそれでも、ノーヴェへ手を伸ばしていた。

「……ダメ……ノーヴェ……あたしたちは、きっと……」

305嘆きの中で ◆9mRPC.YYWA:2009/08/24(月) 21:34:32 ID:qghMEkD6
まだ戻れる――そんな言葉/希望。

「……黙れよ。あたしは違う、ただの兵器だ」

その姿から目を逸らすと、ノーヴェはチンクへ視線を投げかけ、まるで餓鬼のように笑いながら言う。
チンクは視線を痛みに耐えながら受け止め、息を吐いた。

「なァ、チンク姉。貴方は知っているのかよ、ドクターたちの掘り起こしたロストロギアがなんなのかさ」

「……なに?」

ああ――何も知らないんだ、とノーヴェは笑う。
発色の良い赤毛を揺らして笑い、ガンナックルを嵌めた右腕で天を指さした。
スカリエッティの声が何処からか聞こえる。

《――さぁて、準備が出来た。先史人類アルハザード人が残せし命の卵――古代の叡智<アカシャ・コア>のお披露目だ!》

大地が爆ぜ、融解した隔壁がマグマのように噴き出し、メキメキと地面を割る機動兵器――ガジェットドローンⅤ型の群れが、何かを牽引している。
全長三十メートルの飛行船型の巨躯、全身に無数のレーザー発射口を備えた浮遊砲台三機が地下から引き摺るものは、

「なに、これ……?」

―――有機的に蠢き、無数の目蓋を持つ漆黒の心臓。
どれほどの巨獣の臓器だというのか、その直径は目視で五十メートルはあるだろう。

「……これが貴様の望みか」

―――それは黄金色の瞳を見開き、眼下の地上を見下ろした。
その瞳の色はアルハザードの遺児、ジェイル・スカリエッティと等しい。

「嘘だ……こんな、こんな!」

―――まるで神が降りたが如く、すべてを包み込む畏敬。
思わず拒絶したくなるような、禍々しい気配である。

スバルが、チンクが、ヴァイスが、ゼストが、エリオが、ルーテシアが、なのはが、ディエチが―――戦場の誰もが視認する悪夢。
それを首を傾げて眺め、蒼白の装甲を纏ったトーレが呟いた。

「刮目し待つがいい――祝祭の時を」


第7話 了。

306シロクジラ ◆9mRPC.YYWA:2009/08/24(月) 21:38:53 ID:qghMEkD6
と、以上でございます。
ここまでくるのに極めて個人的都合により一年……時間かけ過ぎた……

オリ展開バリバリになる&オリキャラも少数ですがご登場願うかも、ですが、
お付き合いいただければ幸いです。なお、鬱展開は仕様になる予定

307名無しさん@魔法少女:2009/08/24(月) 22:58:24 ID:2.tIJDnU
欝は大好物です。GJ!

308名無しさん@魔法少女:2009/08/24(月) 23:47:10 ID:mnEvTKCg
GJ

309名無しさん@魔法少女:2009/08/25(火) 20:29:24 ID:/yF2YA2E
おお久しぶりにこの作品きてたか。保管庫で読み直してくるぜ。

310ザ・シガー:2009/08/25(火) 23:09:32 ID:1xHvx2UM
おお、更新乙です。
ハードなストーリーは良いですねぇ、次回も楽しみにしてます。

しかし、氏のSSはギャグとシリアスの差が激しすぎるwww



そして私も投下するとしよう。
非エロ・長編・『偽りの恋人』、今回で最終回だ。

311偽りの恋人:2009/08/25(火) 23:11:20 ID:1xHvx2UM
偽りの恋人8


「んぅ……あ、あれ?」


 閉じた瞳に感じた眩しさに、ソフィアは身をよじり、目を覚ました。
 視線の先には白の一色がある。
 白色の電灯にが照らす、シミ一つ無い真っ白な天井。
 そして鼻腔をツンと突く消毒液の匂いに、身体を覆う純白のシーツの感触。
 考えるまでも無く、そこは医務室のベッドの上だった。
 痺れるような痛みがあり、体力と魔力を著しく消耗した肉体が重い。
 少女はその痛みを堪えながら、一度ベッドの上で身体を起こす。
 疲労で鈍る脳を懸命に働かせて記憶を探った。
 彼女の聡明な頭脳が自分の状況を理解するのに、そう時間はかからなかった。


「ああ……負けたんですね、私は」


 完敗だった。
 出せる技は出し尽くし、あらゆる力を使い尽くした。
 それでも負けた、完膚なきまでに。
 しかも、最後の一手は慢心から招いたものだった。
 あの時、自分は完全にヴァイスを舐めていた、見下していた。
 もしあそこでシグナムと対峙せず、彼の狙撃をもっと警戒していれば、あるいは状況は変わったかもしれない。
 だが、そうはならなかった。
 ティアナと自分を撃ち抜いた一弾も忘れて、自分は彼を否定した。
 それは理性的な帰結ではなく、感情的な拒絶だった。
 愚かだ。
 あまりにも、愚かだった。
 もはや取り返しなどつかない事を思い、少女は唇を噛み締める。


「あら、もう起きたの?」


 唐突に声がかけられ、ソフィアは視線をそちらに向けた。
 そこに立っていたのは白衣の美女。
 ふわりと舞う、短く切りそろえられたボブヘアの金髪。
 白衣とブラウンの制服に覆われたたおやかな肢体。
 そして、優しげな笑みを浮かべた美貌。
 機動六課の主任医務官、湖の騎士シャマルである。
 ソフィアも顔だけは知っている、故に、少女は問うた。


「シャマル先生、でよろしかったですよね?」

「ええ、初めましてルイーズさん。身体はどう? 大した傷はなかったけれど」

「大丈夫です……まだ少し調子が戻りませんけど」


 少女の答えに、美しい医務官は嬉しげに柔らかく笑んだ。


「良かった。純粋な魔力のダメージで昏倒しただけだから、これなら何も問題ないみたいね」


 心底安堵した、といった声でシャマルは言う。
 相手を心から労わり、肉体だけでなく心も癒す。それは正に慈母のようだった。
 まあ、母であるどころか伴侶や恋人もいない彼女にそんな事を言えば、機嫌を悪くするかもしれないが。
 そんな事を思考の片隅で思いながら、ソフィアは問いを口にする。


「あの……ティアナさんはどうなさいましたか?」

「ティアナなら、一足先に出て行ったわ。あの子も怪我はほとんどないから、心配いらないわよ」

「そうですか。良かった……」


 今度はソフィアが安堵の溶けた声を漏らす。
 短い付き合いとはいえ、ティアナはもう彼女にとって掛け替えのない親友だった。
 ティアナの無事を聞き、思わずソフィアの表情は綻ぶ。


「ねえ、ルイーズさん」


 そんな少女に、シャマルがそっと声を掛けた。

312偽りの恋人:2009/08/25(火) 23:12:58 ID:1xHvx2UM
 顔を俯かせ、どこか憂いを帯びたような残響で静かに。


「その……あまり気を落とさないでね? シグナムの事……残念だったけど……」


 と、告げた。
 模擬戦に敗れ、もはやソフィアの初恋は完全に潰えた。
 シャマルの言葉は、そんな少女を労わろうという優しさだろう。
 ソフィアを慰めようと白衣の美女は色々と言葉を重ねた。
 どこかたどたどしい口調で言葉を繋げる様は、純真な健気さを感じさせる。
 見ていて微笑ましく、思わずソフィアの口元に微笑が浮かんだ。


「お気になさらないでください。私は大丈夫ですから」


 答えた少女の言葉は、僅かに涙の残滓があった。





 医務室を後にしたソフィアは、力ない足取りで六課隊舎を歩いていた。
 全てが終わったという虚脱感が身体を支配し、心もまた空虚の中にある。
 フラフラと、まるで夢遊病者のように少女は歩く。
 夕焼けの、燃えるような茜色が眩い。
 郷愁を誘う赤色は心に染み入り、酷く寂しさをそそった。
 ぼんやりと空を見上げ、ぼんやりと歩く。
 ただ、歩く。
 物憂げな眼差しで美貌と黄金の髪を夕日の茜色に染めるソフィアのその様は、どこか浮世離れした影のある美しさをかもし出していた。
 見る者の心を、どこか遠い地平に誘うような儚げな美貌。
 そんな少女の美貌が表情を変えた、驚愕へと。


「隊長……」


 半ば自然に、少女の薄桃色の唇から残響が零れた。
 ソフィアの心に驚きをもたらした原因は、目の前の女性。
 ポニーテールに結われた緋色の髪を揺らす、艶めく美女、烈火の将と二つ名を持つ騎士がいた。
 二人の間に、沈黙が流れる。
 言葉もなく、動きもなく、ただ視線だけを交錯させた時間が場を支配した。
 それを最初に破ったのは、黄金の髪の少女だった。


「隊長……その……一つよろしいですか?」


 アイスブルーの瞳に不安を溶かし、声を震わせて、乙女は問う。
 ソフィアの問いに、シグナムは小さく首を立てに振り、答えた。
 了承の意だ。
 彼女の答えを受け、少女は言葉を紡ぎ続けた、切なげな残響で。


「私は負けました、もう……あなたへの想いを遂げる事は叶いません」


 酷く悲しみに満ちつつも、されど朗々と歌うような、甘くひび割れた響き。
 その響きを以って、少女は言葉を紡いだ、


「でも……もう一度だけ……もう一度だけ言わせてください、伝えさせてください」


 愛の言葉を。


「私はあなたを――愛しています」


 簡潔な言葉の中には、どこまでも果てしない恋慕の情が篭っていた。
 大気に響き、溶け行く音の名残が全て消え去るまで、数拍の間が生まれた。
 ソフィアの言葉を聞き届け、シグナムはその意味を深く噛み締める。
 そして、静かに答えた。


「すまない、私は……応えられない」


 いつもは凛然と輝く瞳をどこか憂いげに細め、シグナムの口から出でたのは拒絶の意。
 それはかつて、もう随分と昔に感じるほんの少し前に少女から告げられた恋慕の思いへ、ようやく出した返事だった。

313偽りの恋人:2009/08/25(火) 23:14:16 ID:1xHvx2UM
 自分を慕う少女を傷つけたくないが為に、偽りの恋人を用いて先延ばしにしてきた答え。
 拒まれると知りつつ、もう一度想いを伝えてきた少女の姿に将はこれ以上欺きを成す事ができなかったのだろう。
 もはや飾る事無く、シグナムの唇は言葉を吐き出した。


「ルイーズ、お前は私にとって大事な存在だ。でもそれは……やはり部下として、仲間としてだ。本当に……すまない」


 拒絶とは、それが決して悪意なくとも、告げる者にも告げられる者にも等しく心に痛みが訪れる。
 今のシグナムもまた然り、彼女の心には棘が刺さるような鋭い痛みがあった。
 告げられたソフィアの心はいかばかりか。
 だがしかし、少女の顔に浮かんだのは苦しみのそれではなかった。


「いえ、いいんです」


 ふわりと、まるで可憐な花が咲くように、


「ありがとうございます……お返事していただけて」


 笑っていた。
 愛らしく、美しく、そしてそれ以上に切なく。
 澄んだ青の瞳から一筋の涙を流しながら、乙女は失恋を受け入れた。





 ずっとそれが聞きたかった。
 本当は心の隅で、勝負なんかであの人と結ばれるとは思ってなかった。
 ただ、私は答えて欲しかったんだ。
 私の言葉に、私の想いに、あの人の声で答えて欲しかった。
 それが例え拒絶だったとしても。
 シグナム隊長の言葉を受けた私は機動六課の中庭で一人、暮れなずむ空を見上げながら、泣いていた。
 目尻から溢れ、頬を伝う水の感触、涙の感触。
 そっと拭うと、心地良い冷たさが指先を濡らす。
 こんなに泣くのは、いつ以来なのか。
 静かに流れる涙はなかなか止んでくれなかった。


「ソフィ、か?」


 掛けられた声は男性のそれだった。
 振り返れば、そこには長身の引き締まった男性、私を撃ち倒した狙撃手。
 ヴァイス・グランセニック陸曹が立っていた。
 みっともない姿を見せたくなくて、私は目尻と頬を濡らしていた涙を乱暴に拭い去る。
 

「な、なにか用ですか?」


 涙に濡れ、少しかすれた声で問う。
 彼は一拍の間を置いて、答えた。


「いや、まあ、用って程の事はないんだけどな。ただお前さんの姿を見かけたから」

「そう、ですか」


 私を見つめる、ヴァイス陸曹の澄んだ瞳。
 そこにあるのは、憐憫、同情の色だった。
 彼は、恋破れた私を哀れんでいるのだろうか。
 一瞬そう思ったが、少し違和感を感じた。
 向けられる眼差しの色は、ただ人を哀れむものではない。
 その眼はまるで、自身を相手に重ねるような……


「ヴァイス陸曹」


 ふと、私はある事実に気付いた。


「あなたも……あなたも私と同じなんですね?」


 それは気付いて然るべきものだった。

314偽りの恋人:2009/08/25(火) 23:15:40 ID:1xHvx2UM
 瞳から感じる、胸の内に秘めた淡い思いの鼓動が、私とよく似ていたから。


「あなたもあの人を愛しているんですね?」


 と、私は問うた。
 問い掛けの言葉に、彼は一瞬目を見開き、次いで顔を苦く歪める。
 そして帰ってきたのは小さく首を縦に振る、肯定の意を込めた首肯。


「やっぱり、そうなんですね」

「……分かるか?」

「ええ、私もあの人を愛してますから」

「そうか」

「そうですよ」


 ヴァイス陸曹はまるで悪戯が見つかった子供みたいに苦笑すると、もう一度だけ、そうか、と呟いた。
 なんでだろう、難い恋敵の筈なのに、私は彼のそんな表情がとても愛らしく思えた。


「ヴァイス陸曹」


 だから私は告げる、嘘偽りのない言葉を。


「想いは、ちゃんと告げた方が良いですよ。後悔しないように」


 言えば、また目尻から涙の水滴が滲むのを感じた。
 自分の初恋が破れた事が哀しい、でも不思議と口元は自然と笑む。
 その私に、ヴァイス陸曹が問いの言葉を掛けた。


「なあ、お前は後悔してねえのか? 結局、こういう風に終わっちまってさ」


 問う言葉の意は、私に後悔の有無を確かめるものだった。
 馬鹿馬鹿しいな、と思う。
 そんな質問に答える言葉は一つしかないのだから。


「もちろん、してないに決まってるでしょう?」


 言い切った。
 それ以外の言葉なんてありはしない。
 尽くせる事はして、そして終わった。
 だからもう後悔なんて欠片もない。
 私の言葉を聞き、彼の目が一瞬丸くなる。
 そしてすぐに表情は苦笑に変わり、瞳は優しげに細められた。


「……そうか」


 もう一度だけそう言うと、ヴァイス陸曹は踵を返す。
 そして彼は、それじゃあな、とだけ言い残すと淀みない足取りで、一度も振り返る事無く去って行った。
 立ち去る背中に何かもう一言くらい言葉を投げようと思ったけれど、上手く言葉が出てこない。
 やっと口が開いた時には、ヴァイス陸曹の背中は随分と遠くにあった。


「頑張ってください、ね」


 ただ一言、そう呟いた。





 夕日が半ばまで沈み、茜色が消え行き、星と月と共に艶やかな紫の残滓を空に描く。
 夕と夜との境目が織り成す夜空の情景は見る者の心を否応なく引きつけ、魅せる。
 だがそれをさらに超えるものがあった。

315偽りの恋人:2009/08/25(火) 23:16:51 ID:1xHvx2UM
 女だ。
 絶世の美女が、その夜景の下に佇んでいた。
 冷たく心地良い夜風に流れるのは、燃えるような艶のある緋色の髪。
 女性にしてはやや高い身長、抜群のプロポーションの肢体は凹凸の激しいラインを持ち、凄まじく扇情的だ。
 凛々しい美貌に輝く双眸、深いインディゴブルーの切れ長の瞳はどこか切なげな眼差し。
 それは一個の美の完成形だった。

 
「シグナム姐さん、こんな所にいたんですか?」


 名を呼ばれ、美女が振り向く。
 視線の先には、シグナム、と自分の名を呼んだ男が立っていた。
 今日一つの戦いを共に戦った相棒であり、数年来の部下、ヴァイス・グランセニックだ。


「まあな。少し空を見ていた」


 ここは機動六課隊舎の屋上、六課で一番空に近く、一番綺麗な空が見える場所だ。
 シグナムは屋上で一人佇み、静かに夜空を眺めていた。
 手すりに背を預けて立つ彼女の横に、ヴァイスはゆっくりと歩み寄り並ぶ。
 そしてただ、静かに夜空を見上げた。
 そよぐ風がときおり耳を撫でる以外に音はなく、静寂が場を支配する。
 美しい夜天の輝きの下で、涼やかな風を感じる、心地良い無音。
 それを最初に破ったのはシグナムだった。


「今日はすまなかったなヴァイス。礼を言うぞ」


 風が悪戯に弄ぶ髪を手で掻き揚げながら、そっと囁くように告げる。
 言葉を受け、ヴァイスの視線が夜空からシグナムへと下ろされた。
 彼は一度頬を掻くと、苦笑を浮かべた。


「気にしないでくださいよ、俺も久しぶりに良い運動になりましたから」

「スターライトブレイカーを受けるのが良い運動か? 随分激しいな」

「はは、そうっすね」


 シグナムの投げた冗談にヴァイスは小さな笑いを漏らした。
 二人の零した笑い声が、冷え始めた夜の空気を僅かに震わせる。
 しかしその余韻を、次いで紡がれた言葉が塗り替えた。


「ヴァイス」


 狙撃手の名を呼ぶ声は普段とは比べられないほど力ないものだった。
 どこか切なげな残響で、烈火の将は囁く。


「私は、酷い事をしたな」

「何がですか?」

「あの子を騙した」


 あの子、とは言うまでもなく、今日戦いを演じた少女ソフィア・ヴィクトリア・ルイーズの事だろう。
 ヴァイスの問いに、将は静かに言葉を紡ぐ。


「偽の恋人を仕立てて、あの子が向けた恋心から逃げようとした……酷い事だ、私はあの子から逃げたんだ」


 恋に不得手で、それも相手が同性という状況で、シグナムはどうして良いか分からずつい嘘を吐いてしまった。
 恋人がいる、と。

316偽りの恋人:2009/08/25(火) 23:18:11 ID:1xHvx2UM
 元はといえばそれが全ての原因で、最初からはっきりと断っておけば何も話はこじれなかっただろう。
 偽りの恋人を延命したとして結局は失恋を叩きつけねばならなかった。
 今にして思えば愚かであり滑稽である。
 それを、シグナムは悔やんでいた。
 だが、その悔やむ言葉を遮るものがあった。


「姐さん」


 いつもより少し低く、そしてどこか耳に心地良い残響、ヴァイスの囁く声だった。


「そんなに気にしなくても大丈夫っすよ。あいつは、そんな事で姐さんを恨んだりしませんから」


 先ほど出会ったソフィアの顔を思い出し、彼はそう告げる。
 ソフィアはヴァイスとシグナムの関係が偽りであると見抜きながらも、それを責めようとはしなかった。
 そして例え恋破れても、その果てに悲しみがあったとしても、少女はそれを受け入れていた。
 だからこそヴァイスは言い切る。
 その言葉に、シグナムは問いを投げた。


「やけに自信たっぷりだな?」

「まあ、俺とあいつは結構似た者同士、って事ですよ」


 似た者同士、と彼は言う。
 その言葉の意図を図りかね、シグナムは小首を傾げて疑問を浮かべた。
 まあ、同じ相手を好いた者同士の共感、などとは知る由もないだろう。
 そしてヴァイスは、ところで、と言葉を続ける。


「一個だけ頼みがあるんですけど、良いですかね?」


 今までにないほど、もしかしたら先の模擬戦時よりも真剣味を帯びた声でヴァイスが問うた。
 自分に向けられる、鋭くそれでいて暖かい眼差しに、シグナムは心臓の鼓動が僅かに高まるのを感じる。
 一体、何を頼もうというのか。
 思慮を数瞬巡らせるが答えは出ず、されど拒否する理由もない。
 将の口からはすぐさま了承の意が出た。


「ああ、良いぞ。今日は色々と助けられたからな、何でも聞いてやる」


 と。
 彼女の答えを聞き、ヴァイスは一度息を飲む。
 緊張の二文字が顔に張り付き、額を一筋の汗が流れた。
 今から始まるのは、出会ってからの数年間溜め込んだ想いの丈をぶちまける一世一代の正念場だった。
 だが彼は怯む事無く、進む。
 一歩を大きく詰め寄り、シグナムの正面、それこそ吐息のかかる距離まで近寄る。
 そして告げた。


「ちょっとだけ、目瞑ってもらえますか?」


 彼の要求に、シグナムはまた小首を傾げて疑問符を浮かべる。
 どういう意図があるのか、今度こそ図りかねた。

317偽りの恋人:2009/08/25(火) 23:19:39 ID:1xHvx2UM
 だが拒絶はなく、受け入れる。


「ああ、構わんぞ」


 言葉と共にそっと目を細め、瞑る。
 凛々しい美貌に輝いていた濃い寒色の瞳が閉じられ、目を瞑った彼女の表情は美の色彩を変えた。
 鮮烈な美しさがどこか儚さを帯び、見る者を惹き付けて止まない。
 そう瞳を閉じたまま、シグナムは問うた。


「で? これでなんだと?」

「ありがとうございます、姐さん。すぐ済みますから」

「済む? 済むとはいった」


 一体何だ? と、問おうとした。
 だが出来なかった。
 肩にそっと手が、狙撃手の固く大きな手が重ねられたかと思えば、口を塞がれた。
 唇に何かが触れる、それはヴァイスの唇だった。
 優しく甘いキスだった。

 昔から言われている、愛を告げる方法。
 何の複雑さもない、単純で完璧な方法。

 ――キスをして愛してると囁く――

 たったそれだけの事だった。





 ティアナ・ランスターは、手首に巻いたお気に入りの腕時計を見た。
 時刻は15時45分、約束の時間の15分前だった。
 場所はクラナガンでも有名な待ち合わせスポット、駅の銅像前。
 今日は休日で、ティアナは友人との待ち合わせの最中だ。
 そして、いつも通り相手は約束時間の15分前に現れる。


「お待たせ、ティア」


 涼やかな心地良い声がそう投げ掛けられた。
 ティアナが視線を向ければ、そこには金髪の少女、ソフィア・ヴィクトリア・ルイーズの姿。
 先日演じた模擬戦以来、二人はすっかり仲良くなった。
 今ではもう親友と呼んで差し支えない間柄。
 この日は、あの模擬戦での敗退の悔しさをショッピングで発散しようという意味合いでのお出かけだ。
 いつもの制服姿ではない、白いワンピースに紺のパーカーという落ち着いた私服姿だった。
 しかし、服装の事よりも大きな変化にティアナは気付く。


「ソフィあんた……髪、切ったの?」

「あ、えっと……うん」


 少し恥ずかしそうに、頬を淡く染めて頷く。
 以前は腰元まで伸ばされていた輝く金髪は、今はもう首のあたりまで切りそろえられていた。
 言わずもがな、そこにあるのは失恋の意である。


「私ふられてしまいましたから、昔の思いごとばっさり。と」

「もったいないわねぇ……凄く綺麗だったのに」

「また伸ばせば良いだけの事ですよ」


 残念がるティアナに答えた言葉にもはや悲しみはなく、表情は眩い笑顔だった。

318偽りの恋人:2009/08/25(火) 23:20:32 ID:1xHvx2UM
 恋破れた過去をもはや悔やまない、失恋を乗り越えた少女の顔は明るい。
 ソフィアのその表情に、ティアナは自分の髪にそっと触れる。


「ふーん。じゃあ、私も切れば良かったかな」

「え?」

「いや、私もさ……ふられちゃったし」


 誰に? と、問うまでもない。
 ティアナが恋した男はあの狙撃手で、ならば少女は彼に愛を告げたのだろう。
 だが、それは実らなかった。


「そう、ですか」

「そうよ。なんでも“惚れた女がいる”だって」


 少しだけ寂しそうに、ティアナはそう言う。
 しかし彼女もまた、恋を失った悲しみを吹っ切ったのだろうか、表情は苦笑だ。
 こんな美少女をふるなんて、と冗談を言うくらいには元気だった。
 そして、ティアナは悪戯っぽい口調でソフィアに問う。


「ねえ、ヴァイス陸曹の好きな相手って分かる?」

「ええ、たぶん」

「じゃあ、今二人がどうなってるかは?」

「うーん、それはどうでしょう」


 二人ともその答えは知っていた。
 戯れに、好きだった相手の事を語らいたいから出した質問であり答えだった。


「じゃあ、それはお茶でもしながら話しません?」


 ソフィアの唇から零れたのは、質問への答えではなく提案。
 その言葉に、ティアナもまた似たような言葉を紡いだ。


「それよりまずは服でも見に行かない? 話しながら」

「そうですね。じゃあそうしましょうか」


 ソフィアが了承を伝えると、決まりね、とティアナは呟く。
 そうして二人は歩き出した、楽しい休日の始まりだ。

 その日の二人の話題は、本当の恋人同士になったある男女の話だった。



終幕。

319ザ・シガー:2009/08/25(火) 23:24:08 ID:1xHvx2UM
はい、投下終了。

本当は前回投下と合わせて一度に投下しようと思ったのですが、予定より長くなって二分割しました。
ともあれ無事完結、今まで応援ありがとうございましたです。
この話はまだガチエロの番外編やら考えてるのですが、とりあえず今はここで終わらせておきます。

というか、そろそろ鉄拳をちゃんと進めますww

320名無しさん@魔法少女:2009/08/25(火) 23:56:18 ID:KUniBgbc
完結おめでとうございます!
狙撃手なのに真っ向勝負のヴァイスが格好良すぎました!
ソフィアとティアナがくっつくのではないかとこっそり予測してましたが、良い友人関係のようで安心しています。
ではでは、鉄拳の続きも楽しみしています、乙でした!

321名無しさん@魔法少女:2009/08/26(水) 19:42:46 ID:yCJp7ez6
この間のドラマCDで「伝説の司書長byなのは(クロノ経由)」という発言を見て
『穏やかな心を持ちながら、激しい怒りによって目覚めた伝説の司書長、スーパースクライア』
というネタがここにあったことを思い出した

322名無しさん@魔法少女:2009/08/27(木) 00:35:41 ID:lhaSpqdw
完結乙です
次回作も待ってます

323名無しさん@魔法少女:2009/08/27(木) 19:27:33 ID:3iOfN/cs
>>322
次回作より現在進行形の奴を完結させてもらうほうがいいんじゃね?




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