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魔法少女リリカルなのは総合エロ小説第99話

1名無しさん@魔法少女:2009/05/30(土) 16:59:12 ID:ypqjhtEM
魔法少女、続いてます。

 ここは、 魔法少女リリカルなのはシリーズ のエロパロスレ避難所の2スレ目です。


『ローカル ルール』
1.リリカルあぷろだ等、他所でのネタを持ち込まないようにしましょう。
2.エロは無くても大丈夫です。
3.特殊な嗜好の作品(18禁を含む)は投稿前に必ず確認又は注意書きをお願いします。
  あと可能な限り、カップリングについても投稿前に注意書きをお願いします。
【補記】
1.また、以下の事柄を含む作品の場合も、注意書きまたは事前の相談をした方が無難です。
  ・オリキャラ
  ・原作の設定の改変
2.以下の事柄を含む作品の場合は、特に注意書きを絶対忘れないようにお願いします。
  ・凌辱あるいは鬱エンド(過去に殺人予告があったそうです)

『マナー』
【書き手】
1.割込み等を予防するためにも投稿前のリロードをオススメします。
  投稿前に注意書きも兼ねて、これから投下する旨を予告すると安全です。
2.スレッドに書き込みを行いながらSSを執筆するのはやめましょう。
  SSはワードやメモ帳などできちんと書きあげてから投下してください。
3.名前欄にタイトルまたはハンドルネームを入れましょう。
4.投下終了時に「続く」「ここまでです」などの一言を入れたり、あとがきを入れるか、
   「1/10」「2/10」……「10/10」といった風に全体の投下レス数がわかるような配慮をお願いします。

【読み手 & 全員】
1.書き手側には創作する自由・書きこむ自由があるのと同様に、
  読み手側には読む自由・読まない自由があります。
  読みたくないと感じた場合は、迷わず「読まない自由」を選ぶ事が出来ます。
  書き手側・読み手側は双方の意思を尊重するよう心がけて下さい。
2.粗暴あるいは慇懃無礼な文体のレス、感情的・挑発的なレスは慎みましょう。
3.カプ・シチュ等の希望を出すのは構いませんが、度をわきまえましょう。
  頻度や書き方によっては「乞食」として嫌われます。
4.書き手が作品投下途中に、読み手が割り込んでコメントする事が多発しています。
  読み手もコメントする前に必ずリロードして確認しましょう。

『注意情報・臨時』(暫定)
 書き込みが反映されないトラブルが発生しています。
 特に、1行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えることがあるそうです。
 投下時はなるべく1レスごとにリロードし、ちゃんと書き込めているかどうか確認をしましょう。

前スレ
☆魔法少女リリカルなのは総合エロ小説第98話
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/12448/1238819144/

649鉄拳の老拳士:2009/07/12(日) 00:38:52 ID:s1gUtgCI
鉄拳の老拳士 拳の系譜 9


「ただいまー」


 自宅へと帰り着き、少女はドアを開けると共に元気良くそう言った。
 だが、そこで少女は疑問符を交え首を傾げる。
 せっかく帰ってきたというのに、愛しの我が家は真っ暗だった。
 玄関も、そこから続く廊下も居間も、全部電気が消えている。
 おかしい。
 と、疑問を思う。
 今の時間帯ならいつもは母がいるし、今日は父も兄も家にいる筈なのに。
 真っ暗闇の我が家に違和感を覚えつつ、少女は靴を脱いだ。


「誰もいないのかな?」


 一人呟きながら、うら若き乙女はポニーテールに結った母譲りの青い髪を揺らして廊下を歩く。
 居間の扉を開けて壁に手を這わせ、電灯のスイッチを探りつつもう一度声をかけようとした。
 その瞬間、突然その場に光が満ち溢れ、パンッパンッ、と何かを炸裂させるような大きな音が幾重にも木霊する。


「誕生日おめでとう〜!」


 聞き慣れた母の声も次いで響けば、もう何が起こったかなんて考えるまでも無い。


「お母さん、それにお父さんにお兄ちゃんも」


 居間に訪れた少女を迎えたのは、彼女の家族だった。
 手にクラッカーを持ち、ニコニコと嬉しそうに微笑む母。
 その母の隣りには寄り添うように父と兄が立っている。
 テーブルの上にはご馳走、きっと母が腕を振るったであろう豪勢な料理の数々が並んでおり、漂う香りが食欲を誘う。
 どうやら今日の、自分の誕生日の為に用意しておいてくれたようだ。
 正直、気恥ずかしくてしょうがない。
 もう17歳になったというのに、こうやって家族揃って誕生日を祝われるだなんて。
 小さい頃からずっとそうだった。
 父も兄も、管理局のどんな仕事があってもこうやって誕生日には祝ってくれた。
 去年なんて大掛かりな捕り物から直行で帰り、バリアジャケットのまま家に上がったりしていた。
 ふと思い出して、口元に笑み浮かぶ。
 そんな少女を、母は手を引いてテーブルに引き寄せる。
 テーブルには彼女の為に用意された大きな大きなケーキ、真っ白な生クリームと真っ赤な苺をたっぷり乗せた美味しそうなもの。
 そして、そんなケーキに負けないくらい大きな箱があった。
 一体なんだろう、と思うと同時に兄の手が箱を持ち上げる。
 父譲りの黒髪の合間からどこか恥ずかしそうな瞳を覗かせて、彼はおずおずと少女の前に歩み寄った。


「まあ、なんだ……ほれ、俺からの誕生日プレゼントだ」


 と、言葉と共に差し出される大きな箱。
 少女は受け取ると同時に満面の笑みとなって、ありがとう、と兄に頭を下げた。
 まずは料理に手をつけてからプレゼントの中身を見ようかとも思ったが、どうにも好奇心が勝る。
 開けても良い? と首を傾げれば、彼は小さく頷いて返した。
 ゆっくりと、包み紙もリボンも傷つけないように丁寧に少しずつ開ける。
 ダンボール製の箱を開けば、そこには一対の鉄拳が静かに佇んでいた。
 鋼鉄、強固な魔力合金で形成されたストレージのアームドデバイス。
 父が自分と兄に伝えた魔法格闘戦技法、シューティングアーツ独特の得物である。
 これに、少女はヒマワリみたいな輝く笑みを見せた。


「うわぁ〜! これデバイス? 私に!?」


 問えば、兄は少しだけ恥ずかしそうな顔で、ああ、と小さく返事。
 恐る恐るそっと持ち上げて、少女は表面処理の美しさと手にかかる重量に嬉しげに目を細めた。
 そして、咲き誇る笑顔の花をより華やかに咲かせて言う。


「ありがとう、お兄ちゃん」


 クイント・ナカジマは、兄ギルバートにプレゼントとして贈られたリボルルバーナックルのお返しとばかりに、最高の笑顔を見せた。





 あちこちが破壊された施設の中を、黒衣を翻した男は駆ける。

650鉄拳の老拳士:2009/07/12(日) 00:42:10 ID:s1gUtgCI
 脚部に装着したデバイス、膝まで装甲が覆うような大型のローラーブーツが鋼鉄の唸りを上げて男の巨躯を風と運ぶ。
 愛する家族の、妹クイントの仇を討つ為に疾駆するのは復讐の黒き狂犬、ギルバート・ゴードン。
 復讐鬼と化した男が向かうのは拘置施設内の一角、戦闘機人ナンバーズがいるであろう場所だ。
 そう、今ここにいるのだ、愛しい家族を無残に奪った憎い仇が。
 一見静かに引き締まった表情の底には、地獄の業火の如き憤怒が燃え盛っている。
 奥歯を砕きそうなほどに歯を食いしばり、男は憎む、心の限りに。
 あの日、もう取り戻せないあの過去の日々に自分に笑いかけた妹を永遠に奪った仇、それをようやく狩れるのだ。
 どす黒い衝動が胸の内で例え様のない鼓動を刻む。
 それはさながら快楽の悦びだった。
 クイントの死を知ってからの今までの日々、復讐すべき相手を選別して計画を練り続けた。
 今日がその記念すべき最初の狩猟である。
 ナンバーズ、クイントの死んだ、ゼスト隊全滅に直接関わったサイボーグ集団。
 最近生まれた者は関係ないかもしれないが、しかしここには確実にあの日あの場所にいたであろう古いナンバーも確実にいる。
 詳しい固体データはあまり入手できなかったが、そんな事は構わない。
 何なら全員殺してやったって良い。
 煮え滾る憎悪が思考を焼き付かせ、復讐鬼を狂おしいほどに走らせる。
 目的へ、目的へ、目的へ。
 ギルバートは胸中で負の感情を燃やしながら、施設内の通路をウイングロードで駆け抜けた。
 と、もうじきナンバーズの収容されているだろう区画に近づいた時、目の前に一つの影を見る。
 通路のど真ん中に立つ一人の男、白髪交じりの壮年。
 忘れもしない、かつての義理の兄弟、ゲンヤ・ナカジマの姿だった。
 高速の疾走に急制動をかけ、脚部のローラーブーツで火花と轟音を立てながらギルバートは急停止する。
 数歩で詰められる程の距離で立ち止まれば、かつての義兄弟同士が刃の如き視線を交錯させた。
 張り詰めた、濃密な気迫に満ちた空気が場を支配する。
 気の弱いものならば失禁でもしてしまいかねない、凄絶なにらみ合い。
 最初に口を開いたのは黒衣の復讐鬼。


「ゲンヤか、久しぶりだな」


 静かで低いギルバートの言葉に、ゲンヤもまた同じく静かな声で返す。


「ああ、そうだなギル。久しぶりだ」


 言うと同時、ゲンヤの手が動く。
 素早い動作で上着の懐へと滑り込み、彼の右手は鉄を得物を取り出した。
 それは大口径、44口径はあろうかという回転式拳銃(リボルバー)、俗にマグナムと呼称される拳銃。
 魔法を使えない局員が限定的に持つ事を許される質量兵器だ。
 流れるような動きでその拳銃を取り出すや、同じく淀みない操作で撃鉄が起こされる。
 瞬く間に戦闘態勢を整え、ゲンヤは即座に発射可能な銃をギルバートの眉間に突きつけた。


「随分な挨拶だな、ゲンヤ」

「そりゃこっちの台詞だ。ここに来るまで俺の部下を……何人殺した?」


 語尾に明確な殺意と怒りを込め、ゲンヤが問う。
 彼はここの、収容されたナンバーズの護衛と更正を担当した陸士108部隊の隊長である。
 ギルバートらの強襲により哀れな屍の山へと変わった陸士隊員は彼の部下だった。
 故に叩きつける、腹の底から怒気を込めた眼差しを。
 されど、その強烈な気迫と突きつけられた銃口を前にギルバートは少しも揺るがない。
 ただ静かにゲンヤを、彼に負けぬほど鋭い眼差しで見つめた。
 しばしの沈黙が場を支配して、形容し難い静寂が流れる。
 そして、それを破ったのは黒衣の狂犬。
 ギルバートの端正な顔が地獄のような怒気に歪み、告げる。


「じゃあ、てめえはどうなんだゲンヤ。クイントを殺した奴らを守って正義の味方面か?」


 冷たい、まるで極寒の凍気のような殺意を孕んだ。
 熱い、まるで灼熱の熱気のような憤怒を孕んだ。
 そんな言葉だった。
 ギルバートの放った言葉にゲンヤは一瞬目を見開き、何か言おうとするが、しかし言えず沈黙。
 そんな彼に、黒衣の復讐鬼の顔が憤怒と歪む。
 今までの静かな容貌が嘘のように、ギルバートの目は釣り上がり、口は牙を剥き――吼えた。


「ゲンヤ、てめえクイントの事愛してたんじゃねえのかッ! なら、どうしてあいつを殺した連中を守るッ!!?」


 声が、そして鋼の如く鍛え抜かれた五体から発せられる気迫が空気を振るわせた。

651鉄拳の老拳士:2009/07/12(日) 00:43:40 ID:s1gUtgCI
 視線に至っては人を屠れるのではないかと思うほどに鋭く、ゲンヤの背筋を凍らせる。
 だがそれだけではなく、問われた言葉もまた彼の心を冷たく突き刺した。
 クイントを、妻を死に追いやった者を何故守るのか。
 その問いはあまりにも痛烈で、肉体ではなく心を蝕む痛みにゲンヤは歯噛みする。
 銃を持つ手が震え、金属質な音を小刻みに立てた。
 何か言おうとするが、何も言えない、答えられない。
 あの少女らを救おうとするのは、守ろうとするのは、何故なのか。
 理由はもちろんあった。
 娘達と同じ境遇の、改造された肉体を持つ子供らを放ってはおけなかったから。と。
 しかし、ギルバートを前にその言葉は吐けなかった。
 ナンバーズを救うという事、それは確かにギルバートの言う通り、クイントへの裏切りに他ならない。
 眼前で燃え盛るギルバートの怒りは、本来ならば自分が燃やすべきものだったろう。
 されど、ゲンヤはその灼熱に浸る事が出来なかった。
 彼が選んだのは妻の為の憎悪より、娘達や彼女らと同じ境遇の少女への憐憫。
 ギンガもスバルも、ナンバーズも、皆守りたいと思う。
 それは彼の強さでもあり、そして弱さでもあった。
 故に答えられない、ギルバートの憎悪に満ちた問いに。
 言い淀むゲンヤの姿に、黒き狂犬は目を鋭く細める。


「まあ、どうでもいい。てめえが何を思おうが、何をしようが俺には関係ねえ……」


 言いながら、彼の巨躯が動く。
 ゆっくりと歩を進め、黒いコートを翻してゲンヤの横を通り過ぎる。
 そして、繋げるように言葉を紡いだ。


「俺はただ、連中を殺す。それだけだ」


 と、次げた。
 それはゲンヤに語りかけるようであって、同時に自分自身への宣誓でもあった。
 滾る殺意を、燃える憎悪を、全ての怒りに連なる感情を込めての誓いである。
 ギルバートの言葉に、混濁としていたゲンヤの意識が覚醒。
 黒衣の復讐鬼に銃を向けた。


「待てッ!」


 言葉と共に、44口径を誇る大口径の銃口がギルバートの背に向けられる。
 ゲンヤの手に握られた巨銃は、既に撃鉄を起こされていた。
 あとほんの少し、数ミリもない距離を動けば、強大な破壊力を孕んだ鉛の弾が飛ぶだろう。
 一触即発の銃火を前に、されど黒衣の男は動じない。
 顔を僅かに振り返らせ、氷のように冷たい眼差しをゲンヤへと向け、そして告げる。


「止めろゲンヤ。てめえは仮にもクイントの愛した男だ、正直傷つけたくはねえ」


 自分が殺されるかもしれないという懸念ではなく、自分が相手を滅する事を案じ、ギルバートは言う。
 至近距離での大口径拳銃の射撃、魔道師といえど普通ならば危険な状況だ。
 だがこの男には恐怖など微塵もなく、ただ怒りと悲しみに淀む瞳だけがある。
 決してはったりなどではない。
 彼の、ギルバート・ゴードンの戦闘力とは、至近距離のマグナムを前にしても怯まぬものなのだ。
 ゲンヤもそれはよく知っている。
 目の前の男が類稀なる戦闘力を持つ、最強クラスの魔導師であると。
 だが、ゲンヤの指はそっと引き金に触れる。


「確かに俺は、仇も討てない腰抜けかもしれねえ……」


 銃把(グリップ)をしっかりと握り締められたリボルバーから震えが消え去り、照準がギルバートをしっかりと捉える。


「でもな、だからこそ譲れねえんだよ……クイントを裏切るような真似してまで選んだ……“守る”って、道は」


 もはや迷いはなく、そこには憎い筈の仇でさえ守ろうという、愚直なまでの男があった。
 覇気を帯びたゲンヤの力強い眼光に、ギルバートの眉根が怒りと歪む。
 かつては義兄弟として、血は繋がらぬといえど家族だった者同士がこうして修羅場を築くとは、なんという皮肉な様だろうか。
 大気が一触即発と張り詰める中、黒衣の男は問うた。
 今までの裂帛の怒気が嘘のように、静かに澄んだ残響で。


「それが……てめえの選んだ道、か」

「ああ」

「そうか」


 もう言葉はいらなかった。

652鉄拳の老拳士:2009/07/12(日) 00:45:41 ID:s1gUtgCI
 これ以上そんなもので語らったところで意味は無い。
 次なる刹那、ゲンヤの手に握られた巨銃が鮮やかな火を噴いた。
 無煙火薬の燃焼ガス、オレンジ色のマズルフラッシュが銅合金の被甲を施された鉛の弾を飛ばす。
 秒速にして約448メートル、音速の領域に足を踏み込んだ強烈な銃弾がギルバートの五体を狙う。
 まず人間ならば反応できぬ、超速の攻撃。
 されど黒き復讐鬼にそのような常識は通じない。
 音速超過の銃弾を視認、手に纏った鉄拳をその軌道上に翻し、火花と金属音を伴い弾き落とす。
 魔力で強化された反射速度と鍛え抜かれた肉体が成す常人を超越した反応だ。
 二発目、三発目と次々に射出される弾丸を防御。
 そして同時に脚部ローラーブーツが加速、距離を爆発的な勢いで詰める。
 六発目の最終弾を防がれ、金色の焼け付く薬莢を排出してリロードを行おうとしたゲンヤは成す術もなく接近を許してしまう。
 目と鼻の先に迫るギルバートの、黒髪を揺らした端正な顔、そして巻き起こる旋風。
 巨大な鉄拳、ナックル型アームドデバイスが風を蹂躙して暴力を成す。
 振るわれた拳は吸い込まれるようにゲンヤの腹部へと命中、凄まじい破壊力をもたらして彼の肉体を冗談のように吹き飛ばす。


「がはぁッ!!」


 背骨まで軋みそうな拳撃に中空で二度回転、着地すると同時にその慣性で床を転がり、ゲンヤは血飛沫を吐いて呻いた。
 既に手に銃は衝撃と痛みで手放し、丸腰だ。
 そんな彼に、対面の黒衣は悠然と歩み寄る。
 苦痛に呻くゲンヤを、ギルバートは冷たく鋭い眼差しで見下ろした。
 どこか寂しげに、哀しげに、沈痛そうな面持ちで。


「安心しろ、殺しゃしねえ。少しだけ眠ってろ」


 そう言い、拳を振り上げる。
 シューティングアーツを極めた男の行う、熟練の力加減で行使される打撃だ。
 それは容易くゲンヤを殺す事無く意識だけを刈り取るだろう。
 その筈だった。
 一つの声が遮らなければ。


「止めなさい! お父さんから離れてッ!!」


 よく澄んだ、凛とした声を発して。
 青い、艶を持つ長い髪を揺らして。
 爛熟と実った、豊満な女体をバリアジャケットに包んで。
 そして何より、かつて自分が妹に贈ったあのデバイスを構えて。
 少女が現れた。
 クイントの、亡き妹のクローン、彼女の残滓――ギンガ・ナカジマという少女が。





 広き次元世界の中心地ミッドチルダ、その首都であるクラナガンを夜の闇色が包み、その闇を幾重もの轟音が刻む。
 音の源は鋼鉄の骨格を持つ空駆ける猛禽、JF704式の名を持つヘリコプターである。
 管理局に採用されている人員輸送用の大型ヘリは群れを成し、敵の索敵を逃れるような低空を駆け抜けて群れを成す。
 ヘリに乗るのは機動六課所属の若きエースとストライカー達。
 向かう先は更正組ナンバーズの収監されている収容施設だ。
 事の始まりは、今から30分ほど前に発令された緊急招集だった。
 収容所を護衛していた陸士部隊が発した救援要請の報に、地上本部から応援部隊が出動された。
 しかし、待てども待てども、彼らからの連絡は途絶したまま回復しない。
 地方本部管制室がデバイスデータや通信から解析した結果、出た結論は“全滅”の二文字。
 その結論に至った指揮官は一瞬自失した。
 ありえない。
 武装した陸士部隊が総勢で150人以上、それが1時間も掛けずに全滅したというのか。
 ありえる筈のない事態だった。
 これに、現状の武装隊だけでは戦力不足と判断した地上本部首都防衛隊は、緊急で本局所属部隊への援護要請を発令。
 そうして、機動六課の隊員も対処に駆り出されたのが事の顛末だった。
 ヘリに乗るのはライトニング分隊の隊長陣、フェイトとシグナム。
 そしてスバル、ティアナ、エリオ、キャロのフォワードメンバー四人。
 教導隊関係の業務で本局に出向しているなのはとヴィータを除く、機動六課の前線メンバーである。
 狙撃手も兼任したヘリパイロットのヴァイスと、副操縦士のアルトの繰るヘリに揺られる中、各員は防護服を着用して各々が自身のデバイスを手に状況説明を受けていた。


『フランクモリス収容所に最初の救援隊が駆けつけたのが1時間前、そしてそれからすぐに通信が絶たれ、上は全滅と判断しました。ライトニング及びスターズ分隊の任務は、現場に到着し次第敵戦力の無力化をしてください』


 ディスプレイ越しに機動六課隊舎の管制室から状況の説明をするのは、眼鏡を掛けた少女、シャリオ・フィニーノ。

653鉄拳の老拳士:2009/07/12(日) 00:47:09 ID:s1gUtgCI
 シャーリーの愛称を持つ、後方支援部隊ロングアーチのメンバーだ。
 彼女の語る内容から事態の異常性が伺え、ヘリの内部は張り詰めた嫌な空気が立ち込めた。
 特にスバルは不安そうな面持ちだった。
 なにせ件の収容所の護衛にあたっているのは陸士108部隊、彼女の父や姉がいる部隊である。
 二人の安否を思い、少女の顔は不安に沈む。
 だが、今は感情的になっている場合ではない。
 愛剣レヴァンティンの柄を撫ぜつつ、ライトニング分隊副隊長、シグナムがシャーリーに問い掛けた。


「敵の具体的な数や素性は分からないのか?」

『今のところは……まだ何も。ただ魔力残滓などの状況から見て敵戦力はかなりの少数、下手をしたら数人という事だけは分かっています』

「たった数人で護衛部隊を全滅か。どうやら一筋縄では行かないようだな」


 瞳を鋭く細めて言いながら、シグナムはフェイトに目配せ。
 彼女もまた、常の温和そうな瞳とは違う真剣な眼差しを返す。
 なのはとヴィータを欠く戦力で未知の敵と戦うというのは、この二人をしても不安を感じずにはいられない。
 フォーワードメンバーはこの一年で大きく成長したとは言えども、だ。
 家族の事を案じているだろうスバルのメンタル面もまた、大きな不安要素の一つ。
 自然、美女二人の顔は緊張を帯びた鋭いものを纏う。
 そんな中、前方の操縦席からヴァイスの声が響いた。


「収容所まであと10キロ、もうちょいで到着しますぜ」


 その言葉に、そうか、と答えるシグナム。
 同時、外からヘリの回転翼の作る轟音が響く。
 サイドに設けられた窓から覗けば、彼女らの乗るヘリと平行するように飛ぶ新たなヘリがいた。
 機動六課と同じく召集を受けた地上本部の部隊、よく見ればシグナムやヴァイスの古巣である首都航空隊のヘリだ。
 コクピットのパイロットがそれを知ってか、こちらに手だけで軽く敬礼をしてくる。
 それにシグナムもまた返礼として手を翳した。

 瞬間、それは起こる。

 紅い、血よりも紅い鮮やかな光だった。
 シャーリーが通信で“高魔力反応を確認”という、叫ぶような警告が聞こえたのは真っ赤な光と同時だ。
 夜空の闇色を魔力で練られた紅の光、20〜30センチほどの太さを持つ光の奔流が蹂躙。
 それがヘリを、六課の隣りを平行に飛んでいたその機体を穿った。
 閃光に貫通された瞬間、次いで魔力の紅い光とは違う光が生まれる。
 爆音を伴った大爆発の炎。
 炎に飲み込まれ、ヘリが哀れな鉄の残骸に変わるまで、全ては1秒にも満たぬ間の顛末だった。
 闇夜に落ち行く炎の光を見るや、烈火の将が怒号を放つ。


「狙撃だ! 高度を下げろッッ!!」


 その残響が言い終わるより早く、ヴァイスは操縦桿を動かしていた。
 ヘリの機首は思い切り地表へと傾き、中に乗った人間全てに強烈なGを叩きつけながら急下降。
 眼下にそびえるビル群の合間に滑り込む。
 クロムとチタンが軋みを上げて耳障りな金属音を奏でる中、熟練の操縦技術が繰るヘリは砲撃の射軸を逃れる。
 上空、先ほどまでヘリの存在していた空間を鮮血色の砲撃の残滓が消え行く様に、シグナムは柄にもなく頬に冷たい汗が流れたのを感じた。
 そして、一拍の間を置いて付近から轟音と爆音が喝采のように響き渡る。
 おそらくは、収容所への救援要請に向かっている他の部隊のヘリが落とされたのだろう。
 表情に苦いものを浮かべながら、シグナムは操縦席のヴァイスに問うた。


「ヴァイス、収容所までの距離は?」

「9キロと少しくらい……ですね」


 ヘリの管制デバイスとして搭載されているヴァイスの愛銃、ストームレイダーの表示した目的地までの距離に場の空気が張り詰める。
 9キロ以上離れていた場所からこれだけ正確で圧倒的な砲撃を行える敵の懐に飛び込むのに、まだそれだけの距離があるのだ。
 ビル群の合間を縫うように飛び続けるのは難しいだろう。

654鉄拳の老拳士:2009/07/12(日) 00:48:21 ID:s1gUtgCI
 冷や汗を流す彼の横顔に、シグナムは続けて問う。


「このまま行けるか?」


 問われ、一瞬彼女に振り返ったヴァイスの顔は苦々しげながらも笑みであった。


「難しいっすね。でも……やってみます」

「そうか、出来るだけ近づいてくれ。あとは降下して接近ルートを探す」

「了解しました。しっかし、信じられねえ。この距離、この高度のヘリを見つけ出して落としやがるなんて……」


 憎々しげに、そして隠し切れぬ怖気を孕ませてヴァイスは呟く。
 彼は遠距離狙撃を得意とする、否、遠距離での射撃しかできない、それのみに特化した魔導師である。
 そのヴァイスをして、この狙撃攻撃は異常な程の性能だった。
 対索敵魔法用表面塗装を施された、9キロ以上の距離を飛ぶヘリ。
 しかも時間帯は闇色の支配する夜だというのに、寸分の狂いもなく、たった一撃で沈めた。
 有効射程距離は元より、正確性も威力も連射性も半端ではなかった。
 あんな狙撃が出来る魔導師、それも犯罪者ならばそう多くはない。
 いや、むしろ彼にはその心当たりがあった。
 紅い魔力光、そして最高クラスの射撃魔法の使い手となれば……
 と、そこまで考えた時、通信音声として介されたシャーリーの声が場に響く。


『先ほどの砲撃から魔力波動パターンを割り出しました! 相手はテッド・バンディ、先日脱獄したSランク級の指名手配反です!』


 瞬間、脳髄の奥底、記憶を司る海馬がざわめく。
 テッド・バンディ、その名を忘れる事など出来る訳がない。
 かつて幾人もの友を殺した悪鬼、最高の才能を持つ最悪の犯罪者、人の皮を被った獣、魔銃。
 彼を、あの親友を殺された晩の事は今も忘れない。
 操縦桿を握る手に抑制しきれぬ感情の力を込めながら、ヴァイスは僅かに首を反らし振り返る。
 居並ぶ六課隊員の中にオレンジ色の髪を二つに結った少女、ティアナの顔があった。
 少女の顔に浮かぶ相は、常の凛とした愛らしさは打って変わった怒気。
 眉根を歪め、唇を噛み切りそうなほど噛み締めている。
 普段の彼女を知る者ならば、己が眼を疑う様だろう。
 だがそれは無理もない。
 テッド・バンディ、その名が意味するものとは即ち六年前のティーダ・ランスターの殉職した事件の犯人だった。





「ああ、クソ! 何機か撃ち漏らしちまったぞ」


 フランクモリス収容所の周囲、囚人の逃亡を防ぐ為に築かれた巨大な塀の上で男はそう吐き捨てる。
 両手に十字架を刻まれた巨大な拳銃型デバイスを持ち、真っ赤なレザー調のバリアジャケットを纏い、黄金の髪を揺らした美青年。
 テッド・バンディ、Sランクオーバーの戦闘力を持つ最悪の犯罪者である。
 悪鬼の如き男が今宵受けた仕事は、ギルバート・ゴードンの依頼によるナンバーズの収監された収容所への襲撃。
 収容所の護衛に当たっていた108部隊の陸士、そして他部隊の救援・増援を含む都合153人を、彼らは苦もなく殲滅した。
 一片の容赦も躊躇もなく、むしろ歓喜と狂気を以って。
 そうして築かれたのは屍肉の山と血潮の河、おぞましい虐殺のアート。
 だが殺戮の宴はそれだけでは終わらない。
 収容所の緊急事態に駆けつけてくる増援を、また“掃除”する作業の始まりだ。
 高く設計された塀の上に立ち、金髪の悪鬼はその天才的な狙撃砲撃の腕を垣間見せる。
 通常のものを遥かに超えた射程距離を持つ砲撃は、接近するヘリや魔導師を次々と落とした。
 が、相手とて木石ではないのだ、全てを一方的に滅する事は叶わない。


「それは残念ですねぇ」


 そう言うのは、横に立つもう一人の男だ。
 雑に結われた長いざんばらの黒髪、ややこけた頬に長身痩躯、そして左腕を欠いた隻腕と右腕に握った長剣が印象的な男。
 ジャック・スパーダという、バンディと共にこの件に雇われた筋金入りの戦闘狂だ。

655鉄拳の老拳士:2009/07/12(日) 00:49:12 ID:s1gUtgCI
 彼の言葉に、金髪の美貌は憎々しげに歪む。


「うっせえ、んな事ぁ分かってるっつうの。これくらい十分想定の範囲内だよ」


 彼がそう言うや、空中に立体映像が展開される。
 両の手に握られた二丁銃型デバイス、ディセイクレイター、冒涜者の名を冠するそれが見せる映像だ。
 映るのは収容所周辺の地形図。
 その各所にはマーキングされた赤い光点が規則的な速度で以って明滅を繰り返している。
 光の点を指差し、バンディは言う。


「これが敵の予測侵入ポイントだ、てめえのデバイスにも通信使って送ったから確認しろ」

「了解しました。で、どうしますか?」

「どうするも糞もねえだろ、今までと同じだよバァカ。ここに来る管理局の豚共を殺しまくる、それだけだ」


 口汚く言うと、バンディは手のデバイスを振りかざしながら嗜虐に満ちた暗黒の笑みを浮かべた。
 同時に響く甲高い金属音、輝く金光を発して空薬莢が宙を飛ぶ。
 装填された大口径魔力カートリッジが薬室で炸裂、濃密極まる魔力がデバイスを満たし、大気を焼く。
 悪意と魔力に猛る愛銃を指先で器用に回し、金髪美貌の悪鬼は白い歯を見せつけるように笑った。


「さ、じゃあ楽しくお仕事(ワーキング)と行こうぜ殺人鬼くん。今日は楽しい豚狩りだ」


 まるで放課後の帰り道、友達と遊びに行くジュニアハイの子供のような気軽さでバンディは言う。
 対する剣鬼、狂った斬殺魔もまた然り。
 柔らかくにこやかな笑みを浮かべ、真っ赤な鮮血に濡れる手の愛剣を翻し答えた。


「言われずとも楽しませていただきますよ。今夜は楽しい戦いになりそうだ」


 さらなる陵辱に、さらなる殺戮に、さらなる闘争に、さらなる地獄に、二匹の鬼は心躍らせる。
 さあさあ、夜はこれからだ、パーティーはこれからだ。
 瑞々しい乙女の肉体が屍肉と血潮の織り成す死の宴で、血に餓えた狂人共とダンスを興じる。
 激しく、卑しく、美しく、そして最高に楽しい暴力の坩堝。
 もはやそこは現世である事を疑うような、冥府の狭間となるだろう。
 機動六課の美しき戦士がこの地獄に訪れるまであと20分。
 場にはただ、狂気と悪意が混ざり合った濃密な夜気が漂っていた。



続く。

656ザ・シガー:2009/07/12(日) 00:55:15 ID:s1gUtgCI
投下終了。
まさかの叔父と姪の邂逅。
目の前に立ちはだかる可愛い妹の忘れ形見を前に、ギルおじさんは戦えるのか。
そして外道コンビVS六課陣営。
なのはとヴィータは、アレ、ヴィータの教導隊入りとかなんとかでいない。 という脳内設定でお送りしております。
スピンオフと違って、キャロが陵辱される事はない、たぶん。
しかし他のキャラの保障はしないw

で、やっぱりというかなんと言うか、ティーダの仇はバンディでした。
そしてヴァイスとティーダの親友説の設立。
もう憎しみと復讐だらけ。

ええ、趣味です♪

657名無しさん@魔法少女:2009/07/12(日) 10:07:07 ID:KfYVDYVc
完結が多いな〜。みんな乙

658B・A:2009/07/12(日) 21:16:00 ID:PvZP/z2s
>>657
じゃ、新しい長編を初めて良いですか?

659名無しさん@魔法少女:2009/07/12(日) 21:37:51 ID:ndFiDdIA
>>658
ばっちこーい。

660B・A:2009/07/12(日) 21:44:52 ID:PvZP/z2s
わかりました。
でも、その前に謝らせてください。

>ザ・シガー氏
許可を頂いたタッグ戦SSのネタがうまくまとまらず(主にオチで)、お蔵入りとなってしまいました。
折角ネタ被りを了承してくださったのに、本当にすみません。




やっぱり、狙ったギャグSSは書けないみたいです。
これからは非エロバトルとエロとパロディで生きていくぞ。

注意事項
・sts再構成
・非エロ
・途中から(原作5話以降)オリ展開あり
・基本的に新人視点
・タイトルは「Lyrical StrikerS」

661Lyrical StrikerS 第1話①:2009/07/12(日) 21:46:53 ID:PvZP/z2s
第1話 「空への翼」



世界が燃えていた。
数十分前まで、ここは活気に満ち溢れた空港であった。
ロビーでは旅行者が行き交い、出立を告げるアナウンスが陽気な音楽に混じって流れていたのを、
スバルはハッキリと覚えている。なのに、今、目の前に広がっているのは燃え盛る炎と焼け爛れた空間だけであった。
記憶に残る空港の光景はどこにもない。一瞬の内に染め上げられた深紅の世界は、黒煙をまき散らしながらこちらを焼き殺さんと迫ってくる。
スバルは必死で迫る炎から逃れた。
拙い足取りで瓦礫をよじ登り、嗚咽を漏らしながら逸れてしまった姉を呼ぶ。
だが、どこを探しても姉の姿はなく、それどころか旅行者や空港のスタッフの姿もない。
いったい、この場所で何があったのかはわからない。だが、幼いながらもスバルは、自分が炎の中に取り残されたことは理解していた。
そして、このまま誰とも出会うことができなければ、炎に焼かれて死んでしまうことも。

「お父さん…………お姉ちゃん………………」

何度目かもわからない呼びかけに、答える者はいない。
炎とは別の痛みがスバルの心を侵食していく。
それは炎の熱さとも火傷の痛みとも転んだ痛みとも違う。
真っ暗で冷たくて、生きようという意思を根こそぎ食らい尽くしてしまうような孤独という名の絶望であった。
痛いのも苦しいのも嫌だったが、何よりも1人でいることが怖かった。
誰にも守ってもらえない。
誰にも慰めてもらえない。
1人では何もできないから、誰かに頼るしかない弱い自分。
自分はこんなにも弱かったのだろうか?
誰かに縋らねば生きていけないくらい、弱い生き物だったのだろうか?

「痛いよ……………熱いよ……………こんなの嫌だよ………………帰りたいよぉ……………」

とうとう力尽きて、スバルはその場に倒れ込んでしまう。
起き上がれるだけの力は残っていた。
死力を振り絞れば、まだ手足を動かして地面を這うだけの力は残っていた。
だが、スバルはそうしようとしなかった。
自分は死んだ母や母の遺志を受け継いだ姉のように強くはない。
泣き虫で弱虫だから、こんなにも無力なのだ。
スバルの心を支配しているのは孤独な死に対する恐怖。
それがスバルから理不尽に抗う意思を奪い、生きようとする心を死なせてしまったのだ。
故に、スバルにできるのはただ嘆き、助けを乞うことだけであった。

「誰か……………助けて…………………」

見上げた先には、この空港のシンボルと言える女神像があった。
だが、偶像の神は救いの手を差し伸べてはくれない。
スバルがどんなに懇願しても、この苦痛を取り除き、大好きな家族のもとへと帰してはくれない。
いや、彼女もまた嘆いていた。偶像故に自らが動くことはできないということを。
少なくとも、スバルには炎に焼かれている女神像が泣いているように見えたのだ。
すると、胸に巣食っていた孤独感が僅かに安らいだ。
自分だけが怖い思いをしているのではないのだ。
偶像の女神に対する奇妙な親近感が、彼女の心に安堵の念を抱かせたのだ。
それがほんの少しだけではあったが、スバルにとっては救いであった。
自分は、1人ぼっちで逝くのではないと知ることができたのだから。

(……………………寒い、なぁ)

炎で脆くなった台座が壊れ、女神像がスバルを押し潰さんと倒れ込んでくる。
それはまるで、震えるスバルを抱きしめようとしているかのようだった。

「はぅぁっ………………」

女神像が間近に迫り、スバルは声にならない声を漏らす。
その時、温かい風がロビーに吹き込んだ。
炎の熱さとは違う。母が我が子を抱き締めるかのような温かさがスバルの体を包み込み、
優しい桃色の光が幾本もの帯となって倒れる女神像を空中に固定していた。
そして、その後ろには、金色の杖を携えた白衣の魔法使いが浮遊していた。

662Lyrical StrikerS 第1話②:2009/07/12(日) 21:47:32 ID:PvZP/z2s
「良かった、間に合った…………助けに来たよ」

魔法使いの少女はスバルの前に着地すると、そっと震える肩に手を置いた。
その優しい笑顔が嬉しくて、スバルの目尻から涙が零れる。
よく見れば、彼女の純白の衣装は所々が焼け焦げていて、黒く汚れている。
黄色い肌からはたくさんの汗が伝っていて、呼吸も荒々しかった。
とてもじゃないが、華麗とは言い難い。
けれど彼女は、そんな自分の姿など意にも介さずに笑顔を浮かべ、こちらを安心させようと言葉を投げかけてくる。

「よく頑張ったね、偉いよ。もう大丈夫だからね、安全な場所まで一直線だから」

魔法使いの少女が数歩離れると、桃色の壁が周囲に張り巡らされた。
自分を炎の熱と煙から守るために、バリアを張ったのだ。

《Upward clearance confirmation.A firing lock is cancelled》

少女の手にしている金色の杖が言葉を発し、彼女の足下に桃色の魔法陣が展開する。
すると、その小さな体からは想像もできないほどの膨大な魔力が迸り、大気を震わせた。
バリア越しにも伝わる魔力量に当てられたスバルは、乗り物に酔ったかのような錯覚を覚えた。
少女が何をしようとしているのかわからない。
ただ、凄まじい魔力の迸りから、彼女がこれから大魔法を行使しようとしているのだけは何となくだが察することができた。

「一撃で地上まで抜くよ」

《All right. Load cartridge》

耳をつんざくほどの炸裂音と共に杖が跳ね上がり、空薬莢が宙を舞う。
魔導師が魔力を増強するために用いるカートリッジだ。
だが、その形状はスバルが知っているものとは少し違う。
生前に母が使っていたものよりもずっと大きい。
あれだけの魔力量に加えて大型のカートリッジを2発。
そこから繰り出される魔法がどんなものなのか、無知なスバルには想像もできなかった。

《Buster set》

「ディバイイィィィンバスタァァァァァァッ!!!」

刹那、閃光が空を撃ち抜いた。
赤く染められた天井が砕け散り、ぽっかりと空いた穴から星の煌く夜空が見える。
彼女が撃ち抜いたのだ。
泣いてばかりいる自分を、安全な夜空へと助け出すために。

「飛ぶよ、しっかり掴まっていて」

抱きしめられた体が、ふわりと宙に浮かぶ。
彼女は不安がるこちらを安心させようと微笑むと、そのまま一気に夜空へと駆け上がった。
僅かに見えた両足の羽根が羽ばたく度に桃色の羽根吹雪が舞い、息をするのも辛かった熱さが急速に遠のいていく。
そこは無音の世界だった。
聞こえるのは風を切る音と自分達の鼓動だけ。
空は高く、輝く星は眩しくて、身を切る夜風が冷たくて、抱きしめられた腕がとても温かかった。
星をバックに飛ぶ少女の頬笑みは眩しく、まるで女神のようであった。
燃え盛る炎の恐怖から自分を助け出してくれた女神。偶像とは違う、現実にハッキリと存在する天使。
優しく微笑みかけられると、何だかとても安心できた。

「お姉ちゃん……………天使様?」

「うん?」

「温かい……………」

甘えるように、その胸に縋りつく。
すると、女神はそっと抱きしめる腕の力を強めると、耳元で小さく呟いた。

663Lyrical StrikerS 第1話③:2009/07/12(日) 21:48:18 ID:PvZP/z2s
「なのは」

「え?」

「高町なのは……………なのはだよ」

「なの……は………さん?」

「うん。ねえ、君の名前は?」

「あたしは…………………」

擦れるような声で、自分の名を紡ぐ。
そこから先のことは、よく覚えていない。
気がつくと病院のベッドの上で眠っていて、隣には心配そうに自分を見つめている父親の姿があった。
けれど、炎の中から自分を助け出してくれた魔法使いはそこにはいなかった。
当然だ。彼女にとって、自分はあの火事の中から助け出した大勢の子どもの内の1人でしかないのだから。
自分は何ら特別な存在ではない。それが少しだけ悲しくて、もう彼女と会うことができないという事実が寂しかった。
そんな考え方をすること自体が、自分の弱さなのだと気づくのに時間はかからなかった。
自分は彼女の甘えているのだ。あの強くて優しくて格好良い女神様に守ってもらいたいと、心のどこかで依存しているのだ。
そんな自分がとても情けなかった。
泣いてばかりで何もできないことが悔しかった。
だから、スバルは生まれて初めて、心の底から思った。
泣いているだけなのも、何もできないのも嫌だと。
強くなりたいと。







衝撃が全身を襲い、重力という名の重りが自分を床に叩きつけんと絡みついてくる。
慣れ親しんだ体の重さが、逆に自身の好調さを証明していた。
頭で思い描いたように足が動き、念じるままに拳を振り上げる。
リンカーコアもいつになく好調で、生み出された魔力が全身を駆け巡って嬉しい悲鳴を上げていた。

「はぁっ!!」

ガラスを破った勢いのまま、スバル・ナカジマは浮遊する球体へと殴りかかる。
こちらの存在を感知した3つの球体は無数のエネルギー弾を乱射してくるが、スバルは装着しているローラーの機動力を活かしてそれを回避、
そのまま垂直の壁を駆け上がって加速をつけ、手近な球体に右腕の手甲を叩きつける。
破壊された球体は小爆発と共に黒煙をまき散らし、スバルの視界を覆う。
しかし、スバルはそれを意に介さずに体を反転、強烈な後ろ回し蹴りで黒煙ごと球体を粉々に蹴り砕く。
残った球体は己の不利を悟ったかのようにエネルギー弾を連射しながら距離を取り、物陰へと隠れようとする。
どんなに優れた体術も、間合いの外にいる標的には無力だ。
拳も蹴りも射程外。逃走を図る球体を破壊するためには、強い意思の込められた魔法の力が必要だ。

「ロードカートリッジ!」

スバルの叫びに呼応して、右腕の手甲リボルバーナックルが搭載されたシリンダーを回転させ、
薬室内で魔力が充填されたカートリッジを炸裂させる。すると、暴力的なまでの魔力が
スバルの全身を駆け抜け、激痛で筋肉が軋みを上げる。
焼けつく様な痛みで眉間に皺が寄るが、スバルはそのまま詠唱を続行。リボルバーナックルの螺旋機構ナックルスピナーが高速で回転し、
周辺の大気を巻き込んで小さな渦を拳に纏わせる。

「リボルバァァァッ、シュゥゥゥトッ!!」

振り抜いた拳から、大気の渦を纏った魔力弾が撃ち出される。
放たれた水色の弾丸は数メートルも飛ばぬ内に消滅するが、纏っていた渦は凶悪な竜巻と化して球体に襲いかかる。
本来ならば、突風如きに破壊されるような装甲ではない。だが、リボルバーシュートが纏う竜巻は魔力によって編みあげられたもので、
自然発生する竜巻とは比にならぬほどの風圧を誇る。その破壊力たるや、鋼の球体を跡形もなく砕け散らすほどだ。

664Lyrical StrikerS 第1話④:2009/07/12(日) 21:49:16 ID:PvZP/z2s
(よし)

障害が他にないことを確認し、スバルは建物の外へと走る。
すると、ほぼ同じタイミングで橙色の髪の少女が角から飛び出し、自分の横を並走する。
自信に満ちたその表情から察するに、満足のいく結果を残せたのだろう。

「良いタイム」

「当然!」

スバルの言葉に、少女は短く答える。
どことなく固い言葉に、スバルは「集中しているのだから話しかけるな」という暗黙の訴えを感じ取った。

(この試験に賭けてるからなぁ、ティアは)

心の中で呟きながら、スバルは訓練校時代からの親友であるティアナの横顔を見やる。
彼女は執務官になるという大きな夢があり、そのために昇進と魔導師ランクのアップに並々ならぬ熱意を注いでいる。
魔導師ランクとは、言うまでもなく魔導師の能力を客観的に表すための数値であり、FランクからSSSランクまでの
11ランクが存在する。それらは保有資質や魔力量、そして魔法の運用技術を総合して決められるのだが、
それを認定するのが魔導師ランク認定試験である。

(そっか、もうBランクか)

4年という歳月を思い返し、胸の内に感傷が込み上げてくる。
あの空港火災の一件以来、スバルは魔導師を志すようになった。
憧れのあの人に少しでも近づきたい、弱くて泣いているだけの自分を変えたい。
そんな思いからの進路変更であり、スタートの遅れを少しでも取り戻そうと猛勉強を重ねて陸士訓練校に入学した。
そこで出会ったのが、隣にいるティアナ・ランスターだ。
魔法学校出身で執務官志望の射手。自分とは何から何まで正反対であり、出会った当初は迷惑もかけたし喧嘩もたくさんした。
だが、長い時間をかけて信頼関係を育み、訓練校を卒業した後もかけがえのないパートナーとして同じ職場で働いている。
今もこうして、陸戦魔導師Bランク昇格を目指して共に廃棄都市区画を疾走しているほどだ。

「ティア、次は?」

「このまま上、上ったら最初に集中砲火が来るわ。オプティックハイドを使って、クロスシフトでスフィアを瞬殺………やるわよ」

「了解」

サムズアップで応え、スバルは使い尽くした弾倉を放り捨て、カートリッジの込められた新しい弾倉をリボルバーナックルへと装填する。
今回の試験内容は「時間内に障害となるスフィアを突破し、ターゲットを全て破壊してゴールに辿り着く」というもので、
試験突破の鍵を握るのは個々の能力よりも受験生同士のコンビネーションである。
短所は互いの長所で補い、緻密な作戦を立てて障害をクリアする。
今日までの予習は完璧で、模擬演習では満足のいく高評価を叩きだしていた。
落第する要素はどこにもない。

(いける………今度の試験も一発合格)

拳を握り締め、、スバルは頼れる相棒と共に次なるターゲットを目指す。
その先に立ち塞がるものが何かも知らずに。







その頃、上空を飛ぶヘリ内ではスバル達が懸命に試験に挑む姿を観察している者達がいた。
その少女の名は八神はやてとフェイト・T・ハラオウン。どちらも時空管理局本局が誇る若手執務官と特別捜査官だ。
本来ならば次元の海で凶悪犯罪者と戦うはずの彼女達がここにいるのには理由がある。
それは、近々設立される新しい部隊に引き抜けそうな若手陸士を探すためであった。
実は、スバルが4年前に巻き込まれた空港火災で、はやてとフェイト、そしてもう1人の親友の3人が
臨時の応援として救助活動に当たっていたのだ。その際、はやては地上の治安を守護する管理局地上本部の部隊が
通報があったにも関わらず即座に応援を寄こさなかったことに強い憤りを感じ、同時に組織の規模が大き過ぎるが故に
小回りが利かないという管理局の問題を痛感した。その問題を何とかして解決しようとはやてが考えたのが、
少数精鋭の特殊部隊で成果を上げて管理局の体質を改善していくことであった。

665Lyrical StrikerS 第1話⑤:2009/07/12(日) 21:50:22 ID:PvZP/z2s
「どや、フェイトちゃん?」

「うん、良いコンビだね。息もピッタリだし、役割分担もきちんとできている。
カートリッジも率なく使いこなしているし、なかなかに伸び白がありそうだね」

「そやろ。けど、難関はまだまだこれからや」

空間に指を走らせ、仮想ディスプレイに大型のオートスフィアの画像を映し出す。
それは今回の試験の目玉ともいえる、中距離狙撃オートスフィアであった。

「これが出てくると、受験者の半分以上は脱落することになる最終関門………大型オートスフィア」

通常のスフィアの10倍近い大きさを誇るそのスフィアは装甲が厚く、攻撃の射程距離も標準的なBランク魔導師を上回っている。
単純な力量だけでは突破できない、文字通りの最終関門。2人の魔導師としての資質を試す、言わば踏み絵であった。

(これくらいはやってくれな、アレには対抗でけへん。どうやって切り抜けるか、知恵と勇気の見せどころやで)

画面の向こうでは、幻術で透明化したスバルとティアナがスフィアの群れを破壊して回っている。
ここまでは大した消耗もなく、経過時間も想定の範囲内だ。
近接戦闘だけでなく射撃魔法も使いこなす前衛と、マルチショットと幻術で敵を翻弄する後衛。
若手でこれだけの技能を有しているとなると、やはり2人を戦力として引き込みたいところだ。
無論、彼女達と同じランクでより高度な魔力行使が可能な者もいるが、はやてが欲しいのは即戦力かつ成長の見込める逸材である。
スバル・ナカジマとティアナ・ランスターはそんな稀有な条件を併せ持つ、正に理想の魔導師であった。
この2人と既に引き抜いているもう一組を組み合わせれば、自分が設立しようとしている新部隊の戦力の穴を塞ぐことができるはずだ。

「あっ!?」

不意を突く様なフェイトの呟きに、はやては我に返る。
見ると、先程までスバル達の活躍を映し出していた映像が黒い砂嵐となっていた。
観察用のサーチャーが流れ弾で破壊されたのだ。

「これは…………嫌な予感が……………」

後頭部の辺りを撫でるような感覚に、はやては苦言にも似た呟きを漏らす。
気のせいで済めば良いと思えるほど、彼女は楽観的な人間ではなかった。







「スバル、防御!」

ティアナの叫びが弛緩した空気を引き裂き、胸を襲う衝撃にスバルは仰け反った。
直後、鼻先を水色のエネルギー弾が掠めていく。振り返ると、破壊を免れたスフィアの一機がエネルギー弾を乱射していた。
ティアナが突き飛ばしてくれなければ、あのまま直撃を受けて昏倒していたかもしれない。

「ティア!」

「ぐぅっ!!」

木材を叩き折るかのような不吉な音を立てて転んだティアナが、顔をしかめながら魔力弾でスフィアを迎撃する。
慌てて駆け寄ると、ティアナは辛そうな表情を浮かべながら立ち上がろうとしていた。
だが、右足を痛めたのか、立ち上がることは叶わずに再び地に足を着けてしまう。

「騒がないで、何でもないから」

「嘘だ、捻挫したでしょう」

「だから何でもな………痛ぅっ!!」

かなり深刻の痛みなのか、ティアナは立ち上がらずにそのまま地面に腰を下ろす。
治癒魔法が使えれば応急処置もできるのだが、生憎どちらも習得していない。
訓練校で学んだ教本に従ってプログラムを組めば使えるようになるかもしれないが、
そんなことをしていては制限時間が過ぎてしまう。

「ティア、ごめん…………油断してた」

「あたしの不注意よ。あんたに謝られると、却ってムカつくわ」

苛立ちながら吐き捨て、ティアナは自作のアンカーガンに替えのカートリッジを装填していく。
慰めを拒絶しているかのような頑なな態度に、スバルは言葉を投げかけることができなかった。

「走るのは無理そうね…………最終関門は抜けられない。あたしが離れた位置からサポートするわ。
そうすれば、あんた1人だけでもゴールできる」

「ティア!」

自暴自棄とも取れる発言に、スバルは思わず叫んでしまう。
この3年間、ティアナが自分の夢を追いかけてどれだけ努力してきたのかを知っているだけに、
彼女の弱気とも取れる発言が我慢できなかった。
確かに、客観的に見ればティアナはここで落第だ。
如何に好成績を残そうと、ゴールできないのならば話にならない。
だが、それは全部、油断し切っていた自分のせいであり、ティアナには何の落ち度もない。
それではまるで、自分が彼女を蹴落としてしまったかのようではないか。
ここでそんな選択をすれば、自分はきっと後悔する。
そんなことでは、目指すべきあの空に昇ることもできない。

666Lyrical StrikerS 第1話⑥:2009/07/12(日) 21:51:04 ID:PvZP/z2s
「ダメだよ、そんなの。あたし1人でなんて、ゴールできない」

「うっさい! ツベコベ言わずにとっとと行く! 次の受験の時はあたし1人で受けるから、
あんたは先に行けって言ってんのよ!」

「嫌だ。一緒に昇格しようって約束したじゃない。なのに……………」

「迷惑な足手まといがいなくなれば、あたしはそのほうが気楽なのよ。わかったらさっさと行く……………ほら、早く!」

壁を支えに立ち上がりながら、ティアナは急かす。
だが、スバルは首を縦には振らなかった。

「ティア…………あたし、前に言ったよね? 弱くて、情けなくて、誰かに助けられっぱなしの自分が嫌だったから、管理局の陸士部隊に入った。
魔導師を目指して、魔法とシューティングアーツを習って、人助けの仕事についた」

「知ってるわよ。聞きたくもないのに、何度も聞かされたんだから」

「ティアとはずっとコンビだったから、ティアがどんな夢を見てるか、魔導師ランクのアップと昇進にどれくらい一生懸命かもよく知ってる。
だから! こんなとこで、私の目の前で、ティアの夢をちょっとでも躓かせるのなんて嫌だ! 一人で行くのなんて、絶対嫌だ!!」

「じゃあどうすんのよ!? 走れないバックスを抱えて、残りちょっとの時間で、どうやってゴールすんのよ!?」

「裏技…………反則、取られちゃうかもしれないし、ちゃんとできるかも、分からないけど……………うまくいけば2人でゴールできる!」

今回の試験は二人一組のツーマンセル枠。互いのスキルを使って連携すれば、最後の難関を突破することもできる。
そのためにはティアナの幻術と、自分が先天的に有している魔法を使ったショートカットが必要となる。
バレれば2人そろって落第。だが、うまく立ち回ることができれば2人で陸戦Bランクに昇格することができる。

「本当?」

「うぅ…………ちょっと難しいかもなんだけど………ティアにもちょっと、無理してもらうことになるし…………よく考えると、
やっぱ無茶っぽくはあるんだけど……………なんて言うか、ティアがもし良ければって…………」

先程までとは打って変わって、スバルは弱気な態度を見せる。
土壇場で躊躇して第一歩を踏み出せないのはスバルの悪い癖だ。
物事を感覚的に捉える性格なため、論理的な説明や自信に対する根拠を求められると途端に脆くなるのだ。
そして、そんな優柔不断なスバルに発破をかけるのは、いつだってティアナの役目であった。

「あぁっ! イライラする! グチグチ言っても、どうせあんたは自分のわがままを通すんでしょ!? 
どうせあたしはあんたのわがままに付き合わされるんでしょ!? だったら、はっきり言いなさいよ」

苛立たしげに、しかしまっすぐな瞳でティアナは問いかける。
その問いに対する返事を、スバルは1つしか持ち合わせていなかった。
最高の相棒が自分を信じてくれているのだ。なら、答えるべき言葉はこれしかない。

「2人でやれば、きっとできる。信じて、ティア」







最終関門である大型スフィアの射程外ギリギリの位置に陣取ったティアナは、呼吸を整えてゆっくりと意識を集中させる。
念じるのは自身が得意とする数少ない魔法。
生みだすは虚構の像、眩ますは現世の理。
虚を実に、実を虚に。
機械仕掛けの眼を惑わすまやかしの輪舞をここに。

「…………さあ、いきなさい」

いつの間にそこにいたのか、1人の少女がティアナの背後に立っていた。
その少女の姿は、その場で蹲っているティアナと寸分変わらない。
彼女が幻術で生み出した虚構、実態を持たない幻だ。

667Lyrical StrikerS 第1話⑦:2009/07/12(日) 21:51:50 ID:PvZP/z2s
「フェイクシルエット。これ滅茶苦茶魔力食うのよ」

生みだした幻影がハイウェイを走りだすと、どこからともなく発射された誘導弾の直撃を受けて消滅する。
想定の範囲内だ。ティアナは更に魔力を消費して2体の幻影を生み出し、先ほどと同じように突撃させる。
元より自分は囮。残った魔力の全てを注ぎ込んで大型スフィアを惑わし、スバルが接近するまでの時間を稼がねばならない。
スバルから作戦の概要を聞いた時は、とんでもなく無茶な行為だと息を呑んだ。
限界を超えた幻術の行使と反則スレスレのショートカット。それも限りなく黒に近い灰色だ。
それでも、自分はこの無謀な作戦で賭けに出た。
夢を躓かせたくないという理由もある。だが、それ以上にミスを仕出かした自分のために
無茶をやらかそうとする相棒の思いに応えたかったのだ。

「あんまり長く保たないんだから一撃で決めなさいよ。でないと、二人で落第なんだから」

遙か頭上のビルの屋上に陣取る相棒に向けて、ティアナは念話を飛ばす。
後は、彼女に任せるしかない。







『…………でないと、二人で落第なんだから』

「うん」

相棒の念話に力強い頷きで返し、スバルは前方のビルの奥に潜む最終ターゲットを睨みつける。
距離も魔力もギリギリ、届いたとしても大型スフィアを破壊できるかは未知数。
そして、自分の体に秘められたもう1つの奥の手は使用できない。
これは純粋な魔法の試験だ。禁じ手を使う訳にはいかないし、自分の正体が局に知れ渡って父や姉に迷惑をかけるのも困る。
だから、この一撃に全てを賭けるしかない。
あの人が示してくれたように。
全力全開で、目標まで一直線に。

「あたしは空も飛べないし、ティアみたいに器用じゃない。遠くまで届く攻撃も無い。出来るのは全力で走ることとクロスレンジの一発だけ。
だけど決めたんだ! あの人みたいに強くなるって! 誰かを、何かを守れる自分になるって!」

覚悟がスバルの体を突き動かす。
活性化したリンカーコアが燃えるような熱量を汲み上げているのに、心はどこまでも澄み渡っている。
まるで全知全能になったかのような錯覚。意識は肉体から乖離し、第六感を含む6つの感覚が総動員となって
この世界の在り方を教えてくれる。
そして、これから自分はその理を捻じ曲げるのだ。
物理法則を無視し、常識を裏返し、立ち塞がる条理を覆す。
この空を駆けるための翼を、この身で以て造り上げる。

「ウイングロード!」

固めた拳を床に叩きつけると、爆発的な勢いで魔力が形を成し、一本の水色の道が最終ターゲットの潜むビルへと伸びる。
インヒューレント魔法“ウィングロード”。
スバルと姉、そして死んだ母が使うことのできる先天固有魔法。
それは空中に質量を伴う魔力の道を作り出す魔法であり、陸戦魔導師であるスバルが自力で空中を移動するための唯一の手段である。
だが、空中を歩くという特性上、陸戦魔導師ランク試験においては反則か有効かで意見が割れるため、
スバルは昇格試験ではこの魔法を封印していた。そして、このウィングロードで大型スフィアに奇襲をしかけ、
反撃の隙を与えることなく殲滅するのがスバルのアイディアであった。

(失敗は許されない……………行くんだ、全力全開で)

全身から溢れる魔力の全てを両足のローラーへと注ぎ込み、スバルは短距離走の態勢を取る。
そうしなければ、暴発寸前のローラーを押さえることができないからだ。
この状態では保って十数秒。
急がなければ、踏ん張りが利かなくなって自滅してしまう。
そして、両足が限界寸前に至ったところで、ティアナからの合図が届いた。

『行って!』

「………行っくぞぉっ!」

溜めに溜めた魔力を解放し、スバルは一筋の矢と化してウィングロードを疾走する。
防護服程度ではとても防ぎ切れない風圧で眼が霞み、全身が引き千切れるかのような激痛が襲いかかってくる。
痛みで脳が焼け、意識までもが沸騰して暗闇に堕ちそうになる。
スバルはそれらを一切無視し、更にローラー加速させる。
あんなにも遠かったビルが目前に迫り、砕けた外壁から破片が舞っているのが見える。
その亀裂目がけて、スバルはリボルバーナックルを叩きつけた。

668Lyrical StrikerS 第1話⑧:2009/07/12(日) 21:53:01 ID:PvZP/z2s
「でやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

ガラスなんかとは比較にならない衝撃が全身を走り、防御し切れなかった破片が露出した肌を切り刻む。
痛みは鋭く、筋肉や骨が軋みを上げる。勢いが付き過ぎて、着地の際にバランスが崩れてしまう。
一瞬、床の上に叩きつけられる自分の姿が脳裏を掠め、スバルは全力でローラーのグリップを制御して拳を振りかぶる。
その先には、こちらの存在に気がついた大型スフィアがバリアを展開している姿があった。

「ううううおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

ぶつけられたリボルバーンナックルがナックルスピナーを激しく回転させ、バリアとの摩擦で赤い火花が飛び散る。
予想通り、大型スフィアのバリアは固かった。まるで鋼鉄を生身で殴っているかのようで、
気を抜けば腕が砕け散ってしまいそうになる。
だが、スバルの強い意志は、機械仕掛けの障壁程度で怯むことはなかった。
打撃力が足りないのならば、魔力で水増しだと言わんばかりにカートリッジをロード。
増幅された魔力が破壊の渦となってリボルバーナックルに纏わりつき、スバルの拳を少しずつ障壁へと飲み込ませていく。

(届け…………届け、届け……………届けぇぇぇっ!!!)

半ば障壁へとめり込んだ拳を握り締め、強引にバリアを破壊する。
砕け散る桃色の障壁。その反動でスバルは後ずさってしまい、大型スフィアの射程圏内に入ってしまう。

(来る!)

撃ち出されたエネルギー弾を両腕で防御し、吹っ飛ばされながら魔法の詠唱を開始する。
幸いにも、流れ弾が天井を撃ち抜いた衝撃で舞った黒煙が大型スフィアの視界を塞いでいる。
チャンスは今しかない。

「一撃……必倒ッ!」

カートリッジを続け様に2発ロードし、足下にベルカ式魔法陣を出現させる。
すると、スバルの眼前に水色のスフィアが生み出され、環状魔法陣がリボルバーナックルを取り巻いていく。
それは魔力を目標に向けて放出するという、極めてシンプルな魔法。
だが、極めればその破壊力は一撃必殺となりえる脅威の魔法。
そして、スバルの憧れの人が最も得意とした、あの空港火災の恐怖から自分を救い出してくれた思い出の魔法。

「ディバィィンバスタアァァァァァァァッ!!!」

撃発音声と共にリボルバーナックルをスフィアに叩きつけ、編み上げた魔力を解放する。
迸る水色の砲撃は周辺の瓦礫を飲み込み、大型スフィアだけに飽き足らず、背後にあった壁すらも撃ち抜いて消滅する。
さながら嵐のような砲撃が消え去ると、そこに残されたのは破壊の跡と息を荒げるスバルだけだった。
その手のリボルバーナックルは限界ギリギリの魔力行使で煙が噴き出ており、体も鉛のように重かった。

「ハァ、ハァ……………」

『やった?』

「何とか」

『残り、後1分ちょい。スバル!』

「うん!」

疲労困憊しているスバルは、それでも無理を押してティアナの回収に走る。
残された時間は後僅か。その短い時間でティアナを背負い、残ったターゲットを破壊してゴールしなければならない。
やれるのかという問いかけは無意味だった。
残された時間が1分だろうと10秒だろうとゴールする。
自分達にならできるという、確固たる自信がスバルにはあった。
それが、何の根拠もない自信でしかないことに彼女が気づくことはなかったが。







起こった事象をまとめると、スバルとティアナは無事にゴールすることができた。
時間ギリギリではあるものの、全てのターゲットを破壊してゴールラインを突破することはできた。
見落とされたのかそれどころではなかったのかはわからないが、2人が行った反則も咎められることはなかった。
だが、最後の最後でスバルがラストスパートをかけ、そのままブレーキをかけられずにゴールの先にある壁へと激突しかかったため、
2人は試験管から大目玉を食らっていた。

669Lyrical StrikerS 第1話⑨:2009/07/12(日) 21:53:46 ID:PvZP/z2s
「もう! 二人とも、危険行為で減点です! 頑張るのは良いいいですが、
怪我をしては元も子もないですよ! そんなんじゃ魔導師としてはダメダメです!」

魔力で編まれた網の上で横たわる2人の頭上で、小さな少女が頬を膨らませる。
妖精のように見えるが、彼女は魔法と科学の融合によって生み出された人工の産物であり、
時空管理局が史上で初めて開発に成功した融合型デバイス“リインフォースⅡ”空曹長である。
そして、今回の試験の試験官でもあった。

「小っさ……………」

「むぅ?」

ティアナの素直な感想に対して、リインは益々頬を膨らませる。
一方のスバルは、不自由な網の上でケガなどしていないか全身を弄ってた。
その光景は一種異様とも取れるが、幸いなことにそれに気づいた者はいなかった。

(参ったなぁ。背中の皮膚とか、抉れてないと良いけど)

こんなことになったのも全て自分の責任なのだが、今のスバルはそれどころではなかった。
自分の秘密がリイン空曹長にバレていないか、それだけが心配だった。

(良かった、出血だけだ……………えっ?)

ふと見上げた空に、懐かしい羽根吹雪が舞う。
忘れもしない、あの天使の羽根だ。
純白の防護服と金色の杖、その強い眼差しと優しい笑顔をスバルは一時も忘れたことがない。
高町なのは。
本局戦技教導隊の若手ナンバーワン。“エース・オブ・エース”の異名を持つ女神。
憧れのあの人が、桃色の羽根を散らしながらゆっくりと降りてきている。

「ちょっとびっくりしたけど、無事で良かった。とりあえず試験は終了ね、お疲れ様」

着地したその女性が指をかざすと、自分達を受け止めてくれた魔力の網が消えていく。
いったい何が起きているのか、スバルには理解できなかった。
本局にいるはずの憧れの人が、どうして自分の目の前にいるか、訳もわからずに頭が混乱する。

「まあ、細かいことは後回しにして。ランスター二等陸士」

魔力で編んだ防護服“バリアジャケット”を解除して制服姿となったなのはが、ティアナの名前を呼ぶ。
自分と同じように呆然としていたティアナも、どこか気の抜けたような間抜けな声で返答した。

「あ、はい」

「ケガは足だね。治療するからブーツ脱いで」

「あ、治療なら私がやるですよ」

ここが見せ場だと言わんばかりに、名乗り出たリインがティアナのもとへと飛んでいく。
自然と、2人っきりの構図が出来上がった。
だが、スバルは呆然としたまま立ち尽くすことしかできなかった。
言いたいことも聞きたいこともたくさんあった。
再会できたら、まずはお礼が言いたいとずっと思っていた。
なのい、いざ彼女を目の前にすると、何の言葉も出てこない。
辛うじて、彼女の名を呟くことしかできなかった。

「なのは……………さん?」

「うん?」

「あ、いえ、あの………高町教導官、一等空尉」

「なのはさんで良いよ……………って、言わなかったかな?」

「えっ………」

どこか拗ねたように、なのはがスバルの額を小突く。

670Lyrical StrikerS 第1話⑩:2009/07/12(日) 21:54:30 ID:PvZP/z2s
「また会えて嬉しいよ……………背伸びたね、スバルちゃん」

「えっと、あの……………なのはさん…………ううぅ、ううあぁぁっ」

堪え切れずに、スバルは涙ぐみながらなのはの胸に飛び込む。
そんなスバルを、なのはは優しくあやす様に抱きしめ、小さな手で彼女の蒼い髪を撫でる。

「わたしのこと、覚えていてくれたんだ」

「あの、覚えているというか、あたし…………ずっと、なのはさんに憧れていて……………」

そう、ずっと憧れていた。
憧れて、目標にして、いつかこの人が飛んでいる空に往くんだと魔導師の道を志した。
自分が4年前に、この人に助けられたように、今度は自分が誰かを助けたいと。

「嬉しいなぁ……………バスター見た時、びっくりしちゃった」

「……っ!?」

なのはの一言で、スバルの表情が凍りつく。
勝手に名前を拝借したディバインバスターのことだ。
本家とは似ても似つかない拙い砲撃魔法。
ハッキリ言って、とても見れたものじゃないはずだ。

「すみません、勝手に!」

「良いよ、そんなの。それに、それくらいの気概がないと誘う甲斐がないかな」

意味深な言葉に、スバルは首を傾げる。
ティアナの捻挫した足首を治療していたリインも楽しそうに微笑んでおり、戸惑うスバルとティアナを見上げていた。

「あの、なのはさん?」

不安げになのはの顔を見上げると、彼女はどこか嬉しそうにこちらを見つめて言った。

「ねえ、2人とも一緒に働いてみる気はない? わたし達の部隊、機動六課で」

「機動………六課…………」

何気ない呟きではあったが、何故だか耳に残ってしまった。
機動六課。
そこでどんな出来事が待っているのか。
それは自分の夢への近道となるのか、遠回りとなるのか。
少なくとも、今のスバルには考えが及ばぬことであった。






                                                        to be continued

671B・A:2009/07/12(日) 21:55:52 ID:PvZP/z2s
以上です。
前々から書きたいなぁっと思っていた再構成。
ずっとあるキャラの扱いに困っていてお蔵入りしていましたが、
この度めでたく見せ場が思いついたので書き始めることができました。
うん、やっぱり慣れないギャグよりこっちの方が書きやすい。
ただ、今まで散々長編でお世話になったユーノやクロノの出番が激減するのが忍びない。
この2人はエロでフォローするしかないな。エロノ神様が降臨してくれさえすれば。

672名無しさん@魔法少女:2009/07/12(日) 22:33:28 ID:0UvvnakQ
>>671
おおっ、B・A氏版のStSですか。
途中から本編とどう異なった展開のしかたをするのか楽しみにしてます。

>>ユーノやクロノの出番、エロでフォロー
こちらも楽しみにしてます。

673名無しさん@魔法少女:2009/07/13(月) 01:42:58 ID:GSf8xW6c
>>671
GJ!
今のところ原作から流れが変わってないからか、二次創作というよりノベライズに見えるw
今後も期待してます

674亜流:2009/07/13(月) 04:14:40 ID:5zS9rWoY
・・・・・・投下します。
本当は7/10に投下したかったのですが、親知らずが疼いて七転八倒しておりました。
痛くて寝れないorz


注意事項
・ユーノ×アリサのちょっとした小話。思いつき且つパロディの全力全開
・付き合い始めた年の七夕前後のお話(時系列はクリスマスSSより前)
・この作品は◆kd.2f.1cKc氏の世界観とはまったく異なってますが
 二人とも魔法はガンガン使ってます
・話運びが滅茶苦茶
・非エロ/NATTO
・せやけどそれは(ry
・ユノアリSSのシリーズとしては4.1話に当たります


タイトルコール

『 お嬢様特急バーニングアリサ
  Part 4 1/3 『ナットウノカケラ』  』

始まります。

(NGワードは『お嬢様特急バーニングアリサ』です)

675お嬢様特急バーニングアリサ 01/10:2009/07/13(月) 04:16:14 ID:5zS9rWoY
かつて風芽丘と呼ばれた町を中心に、新たな地方中心都市として制定された『海鳴市』は
自由と平和に満ち溢れた住みやすい地域として、都市圏の住人から定評のある街である。
そんな穏やかな時間が流れていくる、ここ海鳴市にはとある一組の夫婦がいた。

奥さまの名前はアリサ。
強気な性格でハッキリと何でも言うけど、本当は情に篤くてとても優しい女の子。

旦那さまの名前はユーノ。
真面目で誰にでも優しい性格だが、結構奥手で恥ずかしがり屋な女の子っぽい男の子。

子供の頃にちょっと変わった出会い方をした二人は、ごく普通の幼なじみだったのが
いつしか恋人同士になり、色々悶着はあったもののごく普通に結婚をしました。
でもただひとつ違っていたのは……二人とも、いわゆる『魔法使い』だったのです。




湿気と薄暗さで何かとじめじめした梅雨がようやく開け、ようやく夏の色が見え始めた
海鳴市の空は、綿菓子のような積雲で一面を覆い尽くされていた。
蝉時雨はまだ聞こえないものの、アスファルトで照り返される太陽の熱は空からカンカンと
照りつける強烈な日光と相まって地上を歩く者全てに真夏を感じさせる。

海鳴臨海公園から国守山へ続く小径を、特徴的な風貌をした一組の若い男女が歩いていた。
鈍く輝くブラウンゴールドに染まった豊かな髪を奢り、強い意志を感じさせる碧眼の女性。
流れるようにサラサラとした蜂蜜色の髪に、慈愛に溢れた翡翠色の目をした男性。
男と女は互いが離れないように、指を絡ませ合うようにしてギュッと手を繋いでいる。
肩と肩を寄り添わせながら歩くその姿は、恋人同士かはたまた新婚夫婦か。
その答えは、二人の左手の薬指で銀色に光っている真新しい結婚指輪が示している。

夫の名はユーノ=スクライア、孤児のため推定23歳。
妻の名はアリサ=スクライア、満年齢23歳。
結婚間もない二人は、今まさにラブラブモード絶好調だった。



山へ続く小径をのんびりと歩く二人だったが、特に山に用があるわけではない。
目的もなく一緒にブラブラ歩きまわり、公園や広場など適当に開けた場所を見つけたら
お弁当を広げるというデートがこの若い新婚夫婦の楽しみでもある。
無限書庫司書長という立場にあるユーノは管理職という立場ゆえに休みを取るのも
なかなか難しく、こうして丸一日のんびり出来る時間はとても貴重なものだった。

「ねぇアリサ……やっぱりそれもボクが持つよ」
「ううん、あたしが持ってる。それに、重さがわかったら楽しみが減るわよ?」
そう言ってアリサは手に持った大き目のバスケットを掲げ、ユーノの前でちらつかせた。
どこか申し訳なさそうな声色になるユーノだが、自身も手ぶらではなく紅茶が入った
重たい魔法瓶とレジャーシートの入ったカバンを左右の肩に掛けている。
「そういえば、今日は何を作ってきたの?」
「んもう……だから、それは開けてからのお楽しみ」
お弁当が入ったバスケットの中身が気になってしょうがないといったユーノに対して
アリサは『しょうがないわね』といった表情で苦笑する。
「う〜ん……お願い、せめてヒント」
左手がアリサの手を握ることで塞がっているため、ユーノはなおも食い下がるように
開いた右手だけで手を合わせるようなポーズを作って懇願する。
それはまるで遠足や体育祭で母親が用意してくれたお弁当の中身にワクワクしている
子供のようで、アリサは思わずクスクスッと噴出した。

676お嬢様特急バーニングアリサ 02/10:2009/07/13(月) 04:17:57 ID:5zS9rWoY
「仕方ないわね……それじゃあ特別大ヒント。今日のメインはおにぎりじゃないわよ」
主食がおにぎりじゃなければ、消去法で考えると答えは一つ。
解を導き出して中身を想像したユーノは、喜色を顔面いっぱいに湛えた。
「……楽しみだなぁ」
「たくさん作ったんだから、お腹いっぱい食べてね?」
「もちろん」



そんな幸せいっぱいカップルの会話をしていると、ユーノはふと道の向こう側から
よく知っている微弱な『何か』を感じ取り、足を止めた。
「どうしたの?」
急に夫の様子がおかしくなったのを訝しがるアリサだったが、ユーノの視線の先を
追いかけてみて、ようやく『それ』に気がついた。
「結界?」
「うん、ミッド式の封絶結界。しかも、そこそこ広範囲に張られたみたいだね」
自分にはどんな結界が展開されているのか見当も付かなかったが、フィールド系の魔法を
得意とする結界魔導師のユーノがそう言うのであれば、多分そうなのだろう。
アリサはそう考えることにした。
「でも、どうしてあんなところに……」
「ちょっと待って。ケータイで調べてみるわ」
そう言ってアリサはポケットからスライド式の携帯を取り出し、地図アプリを起動させた。
最新の高速通信規格に対応した携帯は、瞬時に画像データを受信して画面内に展開していく。
「今あたし達がいるのがこの辺で……あの辺りは多分ここよ」
アリサの指が液晶画面の上を滑ると、それに合わせて画面内の地図もスクロールされる。
それを何度か繰り返し、当たりをつけたアリサは画面から指を離した。
「……何もないね」
特に何かがあるような情報は描いてないことに、ユーノは思わず拍子抜けした。
「多分縮尺が小さ過ぎるのよ。もう少し大きくしてみるわね」
キーを叩いて地図の縮尺を上げていくと、
「出てきたわ」
何度目かの拡大処理が終わった地図には工場のマークらしき記号が載っていた。
アリサとユーノは頬を重ねつつ一緒に画面を覗き込み、書かれた情報を目で追っていく。
「どれどれ……」
二人はそこに書いてある単語に、お互いに狐に摘まれたような顔で見合った。


 ◇


「ボス、市場出荷分の回収が終了しました」
「ご苦労。残るはこの熟成中の在庫を頂くだけ……これでまた野望に一歩近づいたな」
破壊工作員のような服装をした男から報告を受け、指揮官然とした壮年の男は
口元を歪めながら後ろを振り返り、自分の元へにじり寄ってくる巨大建造物を見上げた。

否。
それに建造物という言葉は少々不適当だった。
強いて単語を当てはめるなら―――



「鋼鉄製の巨大カタツムリ……ってとこかしら」
「だね」
工場といった感じの建物を、巨大なカタツムリの形をしたロボットが蹂躙していくのを
ひそかに結界を突破してきたアリサとユーノが物陰から伺っていた。
「ああいった機械って、地球でも作ってるんだ」
「んな……わけないでしょ。あんな液体状の金属なんて映画の中だけよ」
アリサはユーノの漏らしたボケに思わず声を荒げかけたが、どうにか声を小さく
抑え込んでから改めてツッコんだ。
事実、彼女の言うとおり巨大カタツムリロボはどう見ても金属のボディなのだが
ウネウネぜん動しながらずりずりと前進していく様は、まるで本物のカタツムリ。

677お嬢様特急バーニングアリサ 03/10:2009/07/13(月) 04:19:17 ID:5zS9rWoY
「見て。一定時間経つ毎に、ボディを構成する金属の液相と固相が入れ替わってる」
不意にユーノが放った言葉に従って、アリサはロボットのボディの一点を凝視した。
「嘘でしょ……?」
自分の視界に入った目を疑うような信じ難い光景に、アリサは辟易とした声を漏らした。
ユーノの言うとおり、巨大カタツムリロボの金属ボディは瞬きする間も許さない程の
ごく短い時間の間に固まったり溶けたりを繰り返している。
アリサでなくても生理的嫌悪を呼び起こしそうな、一種異様なものだった。
「こんな精密かつ短時間で物質の状態をマクロ的にコントロールできるなんて、今の地球の
 科学じゃどう頑張っても無理ね……でも、管理世界の技術にこんなものあったかしら?」
「無いと思う」
「それじゃあ、ロストロギア(遺失技術)かしら」
「多分ね。それを悪用する時空犯罪者の集団ってところかな」
そう言うとユーノは表情を引き締め、ゆっくりと立ち上がった。
「どうするつもりよ?」
表情を強張らせるアリサに、ユーノはニッコリ微笑むと、
「心配しないで。近くにいる適当な次元航行隊に連絡を取ってくるだけだから」
「それじゃあ、あたしは……」
アリサも意を決して立ち上がろうとするが、ユーノに肩を押さえられてしまった。
出端を挫かれたアリサは眉を顰めたままユーノを見上げたが、その目が悲しみの
色を湛えているのに気づき、すぐに愁眉を開いた。
「ここには二重の結界が張ってあるから、動かなければ誰にも見つからない。
 アリサには、ここでお人形さんのようにしていて欲しいんだ」
「ユーノ……」
「ボクのエゴだって言われてもいい……アリサにはもう戦ってほしくないんだ。
 大切な人が傷つくのは、あの事件だけでたくさんだから」


しろいゆき。
あかいち。
おんなのこのなきさけぶこえ。


大切な友人が傷ついた、ユーノが背負っている最も重いトラウマ。
この話を持ち出されてしまったら、アリサとしては黙っているしかない。
「すぐ戻るよ。ついでにアレはボクが何とかしてみるから」
静かに腰を下ろしたアリサに柔らかく微笑んだユーノは、颯爽と飛び出して
自分が張った擬装用の結界から出て行った。


ひとり取り残された結界の中で、アリサは考えていた。
ユーノは結界展開など防御方面は優秀だったが、攻撃に関しては些か不得手があった。
戦闘になった場合、相手の捕獲は出来ても戦闘に勝つのは非常に難しい。
下手すれば、攻撃を受けてユーノが大怪我をする可能性だってある。
このままとっとと相手を逃がしてしまうのも手だが、野望と言って何か大きな犯罪を
企てていると分かっている連中をそのままにしておくのも、アリサとしては後味が悪い。

「ユーノ……」
思いつめた表情でポツリと呟いたアリサは、携帯のストラップにぶら下がっている
『T』の字の形になっているアクセサリー状のものを手に取った。
「ユーノはあたしに戦って欲しくないって言ってくれたけど……それはあたしも同じなんだからね?」
そう言ってアリサは改めて立ち上がり、アクセサリーをストラップから引きちぎった。

「やるわよ、デルフィ」
『Roger.』

アリサの言葉に応え、デルフィと呼ばれたアクセサリーはまばゆい光を発した。

678お嬢様特急バーニングアリサ 04/10:2009/07/13(月) 04:21:45 ID:5zS9rWoY
 ◇


「よーし、扉を開けろ」
指揮官の命令で部下達が倉庫と思しき大きな扉を開けると、その奥から一種独特な
臭いがする生暖かい風がむわぁっと噴出してきた。
その場にいた全員が、その強烈な臭いに耐えかねてぐっと鼻を摘んだ。
「おおぅ……まさかこんなに用意してあるとは思わなんだ」
「この世界の住人は食品として摂取すると聞いています。だから大量に蓄えておく必要があるのでしょう」
指揮官の男の隣に立っていた、副官と思われる男が鼻を摘んだまま口を開いた。
「ふむ。しかし、そのほうが我らにとっては好都合。数が多ければ多いほど野望達成の近道になる」
「その通りでございます」
副官の男の言葉に満足げに頷いた指揮官は、命令を出すべく前に指を突き出した。
「さあ行け、マイマイン2626! ここにある納豆を全て奪い取るのだ!」
男の指令を実行すべく、巨大カタツムリロボは一度止めた歩みを再び実行して
熟成中の納豆が収められている倉庫に向かってジリジリと動き始めた。
「さぁ食らえ食らえ! 我らが野望のために!」

巨大カタツムリの頭が倉庫の扉をくぐろうとした時、どこからともなく飛来してきた光弾が
轟音と共に鋼鉄のボディを激しく叩いた。
「何事だ!?」
「指令、あそこです!」
副官の言葉に指揮官の男が光弾の射線上に目を向けると、そこには朱色で縁取られている
白いワンピース型のジャケットに、炎で出来た翼を背負っている金髪の女性が立っていた。
その手には一本の長い諸刃剣が握られていて、切先はロボットに向けられている。
「ぬぅ……何奴かは分からんが、我らのジャマ立てをするなら容赦はせんぞ!」
「相手は一人だ! 総員、パターンBで迎撃せよ!」
激昂する指揮官とは対照的に状況を冷静に分析した副官の男は、すぐさま近くで控えていた
部下達に指令を発した。
『りょ、了解!』
彼らの部下である戦闘員達は不意を突かれてしばらく思考が止まっていたが、上司である副官の
一喝でハッと我に返ると、慌ててデバイスを構え、目標に向かって作戦行動を展開し始めた。
上下左右に襲い掛かる戦闘員に対し、剣を構えた女性はにやりと笑みを浮かべた。
「!?」
その表情に戦闘員の一人が気づいたときには時既に遅く、彼らの視界からその女性は消えていた。
「高速移動っ……どこに消えた!?」
「ここよっ!」
声のした方向に振り向いた瞬間、戦闘員の男は自分の眼前に何かが迫っているのに気づく前に
頭に強い衝撃を受け、意識を失って地面に落下していった。
仲間の男を気絶させたのは女性が構えていた剣の腹である事に他の戦闘員が気づいた時、指揮官及び
副官を含めた全員がある一つの認識を持った。
「つ、強い!」
「悪いけど、あんた達には少し眠っててもらうわよ!」
認識を代弁するかのように指揮官が叫んだ刹那、宙に浮かんでいた金髪の女性はまるで地面から
跳躍するかのように空中を蹴り、立て続けに戦闘員達を一人二人と叩き落していく。
「くっ……総員、いったん引いてパターンCで対応しろ!」
「ちょっ、逃げるんじゃないわよ!」
女性の怒号も虚しく、戦闘員達はロボットの周りに集まって体勢を整えていく。
「不意をついて各個撃破すれば楽勝だと思ったけど、これじゃもう無理ね」
地面に降り立った女性は豊かな目を閉じ、金髪をふぁさっと掻き上げてぼやくように呟いた。

「我らの野望の邪魔をしおって……一体何者だ!」
「そんなに知りたいなら……教えてあげるわ!」
憎憎しく叫ぶ指揮官の男の言葉に、金髪の女性魔導師は閉じていた目を見開いた。


「炎の翼に愛をのせて、灯せ正義の誘導灯!
 お嬢様特急バーニングアリサ、期待に応えて只今参上!」


口上を読み上げ、金髪の女性―――アリサはポーズを決めた。

679お嬢様特急バーニングアリサ 05/10:2009/07/13(月) 04:24:02 ID:5zS9rWoY
「貴様が……かつて幾多の凶悪テロを単独で鎮圧した、陸のAOAと呼ばれるあの魔導師か!?」
「しかし、噂では管理局を引退したと聞いたが……?」
副官の男の漏らした言葉に、アリサはフフッと不敵な笑みを浮かべる。
「寿退社ってやつよ。今のあたしは管理局の正式な武装局員じゃないわ」
アリサはその証と言わんばかりに、左手の薬指に填めた結婚指輪を見せ付ける。
「ならば、なぜ管理局の人間ではない貴様がこんなところにいるのだ!?」
「それはこっちが言う台詞よ! 人がこれから残りの人生を自分の生まれた世界で夫と一緒に幸せで平和に
 過ごそうって思ってたのに……勝手にそっちからやってきて、しかも納豆工場襲うなんて何考えてんのよ!?」
「ふん、そんなの決まっておる! 我らの野望を叶える為に納豆が必要なのだ!」
「なによそれ! わけわかんないわよ!」
口角泡を飛ばして言い合いを続けるアリサと指揮官の男。
しかし副官の男は努めて冷静に、
「教えて差し上げればよいではありませんか。我々の計画を話したところで、特に支障は無いでしょう」
「遠大な計画?」
胡散臭い単語に眉を顰めるアリサとは対照的に、指揮官の男はその言葉に鼻を膨らませると、
「ふむ……今の内に管理局の連中に、我らの計画の恐ろしさを思い知らせておくのも乙だな」
そう独りごちた指揮官の男は記憶に想いをはせるように腕を組み、口を開いた。
「あれはそう、1ヶ月前の話だ……」


 ***


クラナガン中心部の一角にある、とある生活区画は様々な世界の食材が集まる雑多な市場になっているのは
かなり有名な話だが、同時に各管理世界の情報屋もこの界隈を根城にしているのも裏の世界では有名だ。
それゆえ情報が集まり易いというのを利用して、私は部下と共に諜報活動のため街に出ていた。
そして、私はたまたまそこで男とぶつかった弾みで納豆に出会ったのだ。

「けっ! 気をつけろジジイ!」
「口の利き方に気をつけないか若造が!」

私は走ってきた若者を避けたせいで出店の棚にぶつかってしまったのだが、向こうは謝るどころか
毒を吐いてきたのだ。
まあ、とりあえずそのことはよい。
問題はその後だ。
一歩踏み出した私は何かを踏んづけたのを足の裏の感触で気づいた。
しかしそのときにはもう遅く、足を取られた私は盛大にすっ転んだのだよ。
おまけにさっきぶつかった出店の棚から、やたら悪臭が立ち込める豆が私の身に降りかかってきたのだ。

「なんだこの臭いぁ! 臭い臭いぃぃぃぃぃぃ!」

私の身体に大量に降りかかったその豆の臭いは、数日間洗い続けても取れなかったのだ。
周りにいた者はその豆のあまりの悪臭に誰も近寄ろうとせず、私はひどく孤独を味わった。
だが、私はそこで気がついたのだ。
この悪臭のする豆をうまく使えば管理局恐れるに足らず、ということに。


****


「ということだ。お分かりかな? お嬢さん」
「んな事言われても訳わかんないわよ!」
滅茶苦茶なことを得意げに話す指揮官の男に、切れたアリサは声を荒げた。
「では私が噛み砕いて説明しましょう。この納豆をあらかじめばら撒いておけば……このあまりの悪臭ゆえに
 大半がミッド人で構成されている管理局の武装局員は、たちどころに無力化されるということなのです」
副官の男の説明にようやく意図は掴めたものの、あまりの滅茶苦茶な話にアリサは思わず脱力した。
「ったく何考えてんのよ……ついていけないわ」
『 I think so, too. 』
深くため息をつくアリサの言葉に、彼女の剣型デバイスであるデルフィも追従する。

680お嬢様特急バーニングアリサ 06/10:2009/07/13(月) 04:26:18 ID:5zS9rWoY
「でもね……あんた達に一つ言っておくわ」
アリサはそう呟くと、改めて剣の切先を指揮官と副官の男二人に向けた。
「納豆は安くて栄養価の高い庶民の宝よ! そんなくだらない事に使うような奴に、勝手なマネはさせないわ!」
『 Exactly. 』
「来るぞ! 陣形を維持したまま迎え撃て!」
啖呵と同時にフライアーフィンを展開したアリサが跳躍すると、状況にいち早く気がついた副官が
本職の指揮官を差し置いて迎撃命令を発した。

パターンBと呼んでいた各個で包囲する陣形と違い、面展開で集中的に対応してくる今の陣形では
フェイト並みのスピードで動き回ってヒット&ウェイし続けないと叩き落とされてしまう。
「こういう展開の時は……あの3人が羨ましいわねっ」
幼なじみの3人に比べて絶対的な火力が低いというハンデを背負っていることもあり、長期戦もしくは苦戦を
予感したアリサは半ば吐き捨てるように叫びつつ、自らの前面にラウンドシールドを展開する。
「砲撃ダメ、剣での接近戦ダメ……だったらユーノのように、盾でぶつかって叩き落とせばいいのよ!!」
ありったけの魔力を飛行と防御に回し、ひたすら戦闘員に盾を使った体当たりを繰り返していく。
「なかなか素早っこい……各員、パターンDへ移行する! マイマイン2626、火力牽制を!」
「こら、指揮官は私なのだぞ!」
指揮官役の男が叫ぶが、先ほどから現場の隊員達は務めて冷静な副官の命令に従っていた。
「各員はマイマインの火線上から退避しつつ、シューターを一定範囲内でランダムにばら撒け!
 奴に加速のための時間を与えるな!」
号令と共に、戦闘員及びカタツムリロボットの触角から弾幕が展開され、アリサは回避のタイミングを
読まれないように気を使いながらジグザグに飛び回り、どうにかそれを必死に回避していく。
「流石噂だけあるな……この濃密な弾幕を避けきっていくか」
「あのオッサンの横にいる奴、結構いい指揮やってんじゃない……このままじゃ」
手数で圧倒され、アリサが弱音を吐きかけたところで、
「……よし、マイマイン2626! 3秒後に射角を座標(2、0、π/2)に向けろ!」
巨大カタツムリロボットが指示に従い、触角の部分を指定の座標に向けて弾丸を射出すると
ちょうど回避行動の真っ最中だったアリサがその射線上に入ってきた。
「しまっ……!」
『 Protection. 』
危うくロボットの弾丸がヒットしそうになったところでオートガードが働き、被弾を免れたアリサは
バリアに着弾したときの勢いを利用して一度距離をとった。
「デル、あんがとねっ」
『 Don't worry. 』
アリサは自分のデバイスにお礼を言うと、一度ため息をついた。
「回避アルゴリズムが読まれちゃったか……敵も然る者って言いたいけど、このままじゃジリ貧じゃない」
明らかに肩で息をするアリサの様子に、副官の男は口元に勝利を確信した笑みを浮かべた。
「よし、相手は疲弊している。そのまま一気に畳み掛けろ!」
自分に向かって殺到してくる戦闘員達を見て、アリサは疲れた体をおして剣を構えなおした。
「あたし、このままやられるのかしら……落ちたら、きっとただじゃ済まないわよね」

もうまもなく自分めがけ、大多数の攻撃が飛んでくるだろう。
魔力が切れかけたこの身体じゃ、そう長くは捌けない。
この状態では、きっと逃げることも叶わない。

そう遠くない絶望の未来を予測したアリサは、覚悟を決めた。
「ユーノ……ごめん。もしかしたらあなたの赤ちゃん、産んであげられないかも知れないわ。
 もしあたしの身に何かあったら……来世まで待っててね。そのときはきっと……」
せめて気力が続くまで抵抗しようと、アリサが前に踏み出した瞬間だった。

「チェーンバインド!!」

掛け声と共に翡翠色の鎖が四方八方から飛来し、アリサに迫り来る戦闘員を尽く捕縛した。
「何事だ!?」
「ユーノ!」
声がした方向を見上げ、アリサは嬉しさいっぱいに叫んだ。
視線の先には工場の天井にはめ込んである窓枠に掴まったユーノがいたからだ。
「よかった、間に合って」
アリサの無事を確認したユーノは、その他戦闘員を捕縛するバインドの術式を構築したまま
飛翔魔法を展開して彼女の傍へゆっくりと降下していく。

681お嬢様特急バーニングアリサ 07/10:2009/07/13(月) 04:28:40 ID:5zS9rWoY
「ユーノ……その、あたし……」
非常にバツが悪いといった表情で口篭るアリサに、ユーノは苦笑して、
「アリサ、その話は後。クロノ達が応援に来てくれるらしいから、それまで時間稼がないとね」
「……うん!」
『 Thanks, Master partner. 』
一度弱気に陥っていたアリサだったが、ユーノが戻ってきたことですっかり立ち直ったのか
デバイスを構える手には確固たる力が戻っていた。
「怯むな! 一人が二人になったところで早々戦況は変わらん、パターンDで作戦続行だ!」
ようやくバインドブレイクを済ませて戦況を立て直した戦闘員達は、命令を実行すべく
アリサとユーノめがけて面展開を開始した。
迫り来る多勢に無勢に対し、アリサは静かな笑みを浮かべる。
「ユーノ……アレ、やるわよ」
「……OK、防御方面は任せて」
ユーノが言葉を言い終わる前に術式を展開すると、そこには一匹のフェレットに良く似た
動物が宙に浮いていた。
この姿のせいで友人から『フェレットもどき』と言われるため、ユーノとしてはこの姿に
変身するのは気が進まなかったものの、状況が状況なので渋々了解したのだ。
「よっ……と。アリサ!」
ユーノは飛行魔法の術式を制御してアリサの肩に掴まり、彼女を促した。
「OKAY……あたし達に、あんた達を迎撃する用意あり!」
「ボクのほうも、クロノにからかわれる覚悟完了!」
気合充分に飛び出したアリサは、全ての魔力を飛行に傾けて特攻を開始する。
「サークルプロテクション!」
幾多の光弾が飛来してきたところで、ユーノは進行方向に半球状のバリアを高速展開した。
強固な翡翠のバリアは、戦闘員の魔法弾はもちろん巨大カタツムリの魔法攻撃から
アリサを護り、なおかつスピードの乗った障壁として接触した相手を叩き落していく。
「いけるわっ!」
「アリサ、気を抜かないで!」
注意を促しきる前に、アリサの左側からシューターの集中砲火が殺到するが
いち早く状況を察知したユーノがラウンドシールドで全て受け止める。
「そこねっ!」
アリサは回避行動をとりつつ、自分に飛んできた火線の方角に切先を向けて
パステルオレンジの魔力光で彩られた高速シューターを立て続けに放った。

射撃の目標にされた戦闘員達は回避するか防御するか一瞬迷ったが、下手に防御して
身体が硬直すると体当たりの的になりかねないと判断し、回避行動に移る。
しかし、アリサの狙い目はそこにあった。
「少しでもバラけてしまえばこっちのものよ!」
その一言と共にアリサはデバイスを振り抜き、剣の腹を頭に当てて各個に叩き落とす。
スコップで殴られたような衝撃を受けた戦闘員達は、たまらず意識を手放していく。
「ぐっ……さっきまでは噂ほどの戦闘力ではなかったはずだ! それがたった一人応援が
 増えたくらいで、三分も経たず全滅まで追い込まれるとは……」
焦る副官の男の言葉と同時に、アリサは最後の戦闘員を叩き落とし終えていた。
アリサにはそれが耳に届いていたのか、地面に降り立つと剣を副官の男に向けた。
「あんたがどんな噂を聞いてたのか知らないけど、ここでハッキリさせておくわ」
そう言って肩に乗っているユーノにウィンクで目配せすると、意図を知ったユーノは
肩から降りて変身を解き、何も持っていないアリサの手をギュッと握り締めた。
「あたしが向こうで色々戦果を挙げられたのは、隣にいるユーノが忙しい中で何度も
 助けてくれたからであって、あたし一人の功績じゃないわ……でもね」
「ボク達は2人で1人……愛し合うことでどこまでも戦える、愛の戦士なんだ!」
臆面も無く恥ずかしい台詞を言い放つ二人に、何だかバカにされたような気分になった
副官の男は怒り心頭の気分になっていく。
「ええい、そこまでコケにされたのでは我々の沽券に関わる!
 指令、マイマイン2626の奥の手を使わせてください!」
「あー……好きにしろ」
すっかり場を持っていかれたことに毒気を抜かれたのか、指揮官の男は投げやり気味に
答えた。
「ありがとうございます……マイマイン2626、バトルモードに変形しろ!」
副官の男が高らかに叫ぶと、巨大カタツムリロボットの体幹から手足が生えて
巨大な殻を背負った人型のロボットへと変形していき、身を起こしたときには
全高が工場の天井越えてしまい、そのまま突き破ってしまった。

682お嬢様特急バーニングアリサ 08/10:2009/07/13(月) 04:31:32 ID:5zS9rWoY
「さあやれ! そこの二人をひねりつぶしてしまえ!!」
攻撃命令と同時に動き出した巨大ロボットは、背負った巨大な殻をものともせず
素早い動きでアリサとユーノを殴りかかりにきた。
「アリサ、散開!」
「うん!」
合図と共に二手に分かれると、アリサはシューターを何発か放ったが
液体金属のボディは器用に穴を開けて攻撃を回避していく。
「ああもう! どっかの緑色仮面みたいにヤケに器用ね!」
子供の頃に見た映画の内容を比喩に持ち出し、アリサが吐き捨てた。
「しかもデカいだけあってパワーあるし、図体に反して意外と素早いわ」
「この様子なら、多分バインドもすり抜けられてしまうね。これがもしも魔法生物なら
 レストリクトロックを試してみるんだけど……どうみても工業技術だから無理だよ」
悲観的に分析するユーノだったが、アリサは気合を入れなおすように剣を構えた。
「万事休すね……でも、ここで引くわけには行かないでしょ!」
アリサは掛け声一閃と共に跳躍すると、ロボットに向けて射撃を開始した。
負けじとユーノも飛翔魔法を展開、アリサのバックアップに移る。
「くっ、ちょこまかと!」
「パワーでダメならスピードで勝負よ!」
「この手のお約束としてどこかに制御コアがあって、それを打ち抜けばいいはずだよ!」
「わかったわ!」
跳躍から飛行体勢に移ったアリサはユーノの助言どおり、シューターを乱れ打ちして
コアのある場所を探りにかかった。
ユーノは探索魔法を使ってコアを探しつつ、出来るだけアリサめがけて攻撃を
させないようにチェーンバインドを駆使して動きを牽制していく。

「そこっ!!」
不自然にボディの組成が集中する場所を見つけたアリサは、制御できる精一杯の数の
シューターを呼び出し、一気に射出する。
しかしそれは相手にも読まれてたのか、背中に背負った殻を使って防がれてしまう。
「ああもう! 防ぐんじゃないわよ!」
アリサは不条理とは分かっていても文句を叫び、再びコアを探るべく射撃を再開する。
それを2度3度繰り返すうちに、ユーノはあることに気がついた。
「アリサ! 相手の殻のあちこちに亀裂が入ってるから、そこを狙って!」
ユーノの言葉に、殻に注目したアリサは確かに亀裂があることを確認した。
殆どは小さなヒビ程度だったが、中には割れてしまいそうなほど大きなものがある。
「まずは外堀……そういうことね!」
意図を理解したアリサはシールドを展開し、亀裂のある場所めがけて体当たりを
仕掛けるべく加速を開始した。
「これでっ……どうよ!」
叫ぶと同時にガツンとシールドぶつかった反動でアリサの身体銃の骨が軋んだ。
その痛みはアリサにとって相当なものだったが、その甲斐あって亀裂が大きくなって
いき、まもなく一部が割れたショックで殻の中身が飛び出してきた。

『納豆が!』

3人の声が一度にハモった。
殻の中に溜め込んだ納豆がもの凄い勢いで飛び出していき、重量配分が変わって
バランスを崩した巨大ロボットは立て直す暇も無くよろめいていく。
「あ、待て! そっちに行くな!」
副官の男が止めるまもなく、巨大ロボットは納豆が流れ出した方向にヨタヨタと
歩いていき、やがて床に散らばった納豆に足を取られて激しく横転した。

「………ハッ! アリサ、今だ!」
一瞬思考が止まった3人だったが、いち早く復帰したユーノがアリサを促した。
「あ、えと……う、うん。わかったわ! 行くわよ、デル!」
『 All Right, Load Cartridge. 』
アリサの言葉とデバイスが応え、柄の部分の根元からカートリッジを撃発した。

「自分達の私利私欲で納豆を盗み、人々から食べ物を奪った悪事……許しはしないわ!」

アリサは高らかに啖呵を切ると剣を大上段に構え、必殺技である魔法の構成にかかった。

683お嬢様特急バーニングアリサ 09/10:2009/07/13(月) 04:33:54 ID:5zS9rWoY

『 Sealing Mode Active, EWB final slash. 』

デバイスの声と共に束の部分が横に広がり、一対の円盤が高速回転を始める。
回転の加速が進むにつれ、アリサの背中にあった炎の翼が急激に輝きを失っていくが、
それとは対照的に剣の刀身は灼熱を帯びたかのように光り輝いていく。
「ユーノ!」
「OK!」
アリサの合図と共にユーノはアリサのジャケットを掴み、アリサを上空に運びあげる。


EWB。
―――Ezekiel Wheel Blade。

神の玉座の動輪と呼ばれる天使エゼキエルの名を関したこの魔法は、彼女の親友である
高町なのはは得意とするスターライトブレイカーのように収束した残存魔力を全て
かき集め、全てを熱エネルギーに変換したものを剣の刀身から放熱して、切れ味と
破壊力を増した状態で対象を斬りつけるという、対物攻撃の超大技である。

この魔法を使用するときのアリサは、ジャケットを構成する魔力も含めて全ての魔力を
デバイスに込めているため、空を飛ぶことはおろか防御もおぼつかない状態である。
行動が不自由なアリサをサポートするためユーノが防御と飛行を担当、相手の頭上高くまで
運び上げ、相手めがけてラウンチすることで威力を増す、三位一体の攻撃だった。


「縦、一文字斬りぃ!!」


気合充分に振りぬいた、数千度という超高熱のエネルギーを纏った刀身はいともたやすく
巨大ロボットの金属ボディを蒸発させ、制御コアを打ち砕いた。
「くそっ、退却だ!!」
「おーっとそこまでだ」
「あなた方を時空管理法違反で逮捕します」
「誰だ!?」
副官の男は逃走を図ろうと試みようとしたが、突如聞こえてきた声に阻まれる。
物陰から歩いて出てきたのは、アリサもユーノも知った顔の黒尽くめ兄妹。
「クラウディア艦長、クロノ・ハラオウン」
「同艦勤務で法務担当執務官、フェイト・T・ハラオウン」
共にバリアジャケットに身を包んだクロノとフェイトは、共にデバイスを構えた状態で
副官の男と、諦めの表情のなっていた進路に立ち塞がっている。
「……さすが納豆、扱いを誤れば己に害を為すか」
逃げ場がないことを早々に悟っていた指揮官の男の言葉に、副官の男は観念して膝をついた。


「ユーノ……ごめん。あたし、その……」
一団をあらかたしょっ引いたクロノ達クラウディアクルーが工場の職員を助けに
向かってる間、とりあえずジャケットを解除したアリサとユーノは工場から
少し離れたところに立っていた。

約束を破ったのだから嫌われるかもしれないという恐怖からか、アリサは口の中で
モゴモゴしながら異常なまでに恐縮していた。
普段怒らない人が怒るときはもの凄く怖いということを、身をもって知っている。
怒られることへの恐怖と、嫌われるかもしれないという恐怖。

だが、ユーノは怯えるアリサに声をかけることなく、ただそっと抱きしめた。
「何も言わなくていいよ。ただ、アリサに怪我が無くてよかった……」
身体を強く抱きしめられるアリサは、自分の肩に水滴が落ちたのを感じた。
「ユーノ……泣いてるの?」

684お嬢様特急バーニングアリサ 10/10:2009/07/13(月) 04:36:26 ID:5zS9rWoY
「当たり前じゃないか……大好きなアリサが無事だったんだから」
「……ごめん、なさい」
アリサはそれだけを言うと、手に持っていた待機状態のデバイスを地面に
落とし、ひしっとユーノに抱きついた。



 ◇



「うううう……ん……あふ、んにゅ………あれ?」
不意に目が覚めた感覚を覚えたあたしは、重いまぶたをこすって状況を確認した。

抱きしめていたはずの、大好きなユーノの身体は何処にも無い。
ここはあたしの部屋の天井で、いつも寝ているベッド。
あたしが今着ているのは、ユーノが似合うって言ってくれた最近お気に入りのパジャマ。
傍においてあった目覚まし時計は7時を指していて、起床まであと30分はある。
「えっと、つまり……今のって」


 THE Dream!

(つまり、これはただの夢や)


「何か今はやての声が聞こえてきたような気がするわ……」
幻覚が聞こえてくるようじゃ、あたしもどうかしてるわね。


―――昔に比べたら、最近のあたしおかしいのよね。
1日に一回はユーノの声を聞かないと、不安で心が締め付けられる。
今日だって、こうしてありえない夢見ちゃうくらい……あたしはユーノが大好き。

昔のあたしだったら、ここまで人を好きになれるなんて絶対に想像出来なかったと思う。
きっとそれだけ、あたしの中でユーノの存在が大きかったんだと思う。
こうやってユーノのことを考えるだけで、あたしの心は―――

「って、もうやめやめ! ユーノのこと思ってたら1日時間があっても足りないわよ!」
あいつのことを想ってフラストレーションが溜まるなら、とっとと解消すればいい。
そのために一番早いのは―――ユーノと話をすること。

あたしはユーノから貰った古いPHSもどきの機械を手に取り、コールボタンを押した。
ユーノのことだから、きっととっくの昔に起きてて仕事を始めてるはず。

「せっかくだから……今日見た夢の話、しちゃおっかな」
滅茶苦茶で荒唐無稽な内容だけど、あたしとユーノが一緒になって敵を倒すという話。
もしこの世に並行世界っていうのがあるなら、きっとこんなあたし達がいてもいいはず。

ユーノは賛同してくれるかな?
してくれるわよね?
だってその世界ではあたし達、夫婦なんだもん。

『もしもし、アリサ? おはよう』

―――繋がった。

「うん! グッモーニン、ユーノ!」


あたしの大好きな彦星様へのホットラインは、たとえ相手が誰でも切らせない。
それが七夕伝説で二人の間を天の川で裂いた神様が相手でも―――

685亜流:2009/07/13(月) 04:39:39 ID:5zS9rWoY
投下終了です。

とりあえず戦闘シーンはダメダメな私です。
でも、この中にちりばめられたネタが全部わかる人はもっとダメな人だと重います(嘘

686名無しさん@魔法少女:2009/07/13(月) 09:29:27 ID:3vRB1CE.
ネタはわかんなかったけど面白かったぜ! GJ!

687名無しさん@魔法少女:2009/07/13(月) 17:33:19 ID:Sg2kXlSA
投下乙です。
動輪剣はわざわざ英語にしているのに必殺技は正々堂々潔くそのまま使用ですか。
せっかくだから皆で一つにつながって炎の龍になって突っ込む展開も希望。

688名無しさん@魔法少女:2009/07/13(月) 19:31:19 ID:UwN2MIoc
投下乙w
ユーノはドリルで突っ込むのか?
そういやアレってホントに納豆ネタあったよな…

689名無しさん@魔法少女:2009/07/13(月) 21:55:02 ID:FLNKfarU
>>688
恭ちゃんの出番を取らないであげて

690名無しさん@魔法少女:2009/07/13(月) 22:01:16 ID:dgIodxJc
>>656
GJです。
ヴァイス&ティアナにまでフラグが立った!
あと、シグナムは間違いなく間違いなくスパーダの獲物。殺人鬼狂喜。

691名無しさん@魔法少女:2009/07/14(火) 23:49:20 ID:ViSSlafA
>>689
スレちかもしれんけど、そっちじゃなくてマグマを物ともせず地球をぶち抜いて帰ってきた方のつもりだった。。。

692名無しさん@魔法少女:2009/07/15(水) 08:49:13 ID:nQ6J/SWc
そろそろゲンヤ物語の続きが見たいな

693名無しさん@魔法少女:2009/07/15(水) 08:54:08 ID:LDvF6y/E
たしかにておあー氏最近投下ないね。
キシャーの続きが読みたいとです。

694( ゚Д゚) ◆kd.2f.1cKc:2009/07/15(水) 15:41:00 ID:mafCntSQ
投下します。

注意事項
・ユノキャロ。
・今回は非エロ
・ユーノがキャラ崩壊気味です。
・NGワードは『蟻地獄』

695蟻地獄 完結編 01/07 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/15(水) 15:41:49 ID:mafCntSQ
『2人の仲は認めているつもりだったよ、けどまさか、ユーノがキャロにそんな事してる
だなんて思わなかった』
「それは……」
 フェイトは非実体ディスプレィ越しに、険しい表情で睨んでくる。睨まれているユーノ
は、困惑して言い訳しかけるが、言葉が見つからない。
『見損なったよ。まさかユーノがあんな小さい子にそういうことする人だったなんて』
「…………ごめん」
 ユーノは、頭を下げて小さくそう言うしかなかった。
 フェイトの自分に対する信頼を裏切ったのは事実だ。いや、フェイトはまだ知らない事
実さえある。
 ────終わった……
 ユーノは、気持ちが底なし沼に沈んでいくような感覚に陥っていた。これでキャロとの
付き合いも終わりだ。保護者が、つまりフェイトが許すはずが無い。
 それにキャロ自身にも深い心の傷を負わせてしまうだろう、なぜなら────────
───────からだ。
 いっそ関係に至った経緯もばらしてしまおうか。自棄気味にそう思った。激昂したフェ
イトが何をするかわからない。だがむしろそれを望んでいる。罰されたい。
 皮肉だな、とユーノは思った。最初の頃はそれが露見する事をあんなに恐れていたのに。
「ねぇ、フェイト……」
『本気で怒ってるよ』
 ユーノが、自分でも何を伝えたいのか漠然としたまま、フェイトに声をかけようとする
と、フェイトはそれを遮った。
『怒ってるけど……でも、許すしかないみたいだね』
「え?」
 決して表情を緩めたわけでもなく、しかしそう言ったフェイトの言葉に、ユーノは一瞬、
目を円くして、間の抜けた声を出してしまった。
『あまり口にしたくないことだけど……私も当然そうすべきだと思った。でも、キャロが
嫌がるんだ。すごく。堕ろしたくないって。絶対に産むって』
「…………そう、なんだ」
 それを聞いて、ユーノは逆に自分の浅はかさを呪った。
 ────キャロの気持ちを確かめる前に僕が折れてどうする! あんなに大切に思って
いたのに、確かにきっかけはあれだったけど、そんな事はどうでも良くなって──いるっ
て事ではないけど、それより今が大切なんだと本気で思っていたのに。
『私に向かってフリードをけしかけてきたんだよ。今まで、特に6課に来てからは暴走事
態無かったのに』
「そ、そこまで……」
 険しいままのフェイトの言葉に、ユーノはごくりと喉を鳴らした。
「キャロは……僕の事を……」

696蟻地獄 完結編 02/07 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/15(水) 15:42:22 ID:mafCntSQ
『そういう、ユーノだって』
 重い表情をするユーノに、しかしフェイトはそう声をかける。
『さっき、キャロがどうにかしたって言いかけたときに、すごい剣幕で問いただしてきた
よ』
「え……あ……そ、そりゃ、だって……」
『だから私の本音としては怒ってる。でも、2人の態度を見せられたら一方的に認めない
なんて出来ない。だから後は、2人で話し合って欲しい』
 フェイトは決して態度を緩めるわけではなく、ただ静かな口調でそう言った。
「……解った。ありがとう」
 ユーノがそう言うと、フェイトは返事もせずに回線を切った。

697蟻地獄 完結編 03/07 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/15(水) 15:42:56 ID:mafCntSQ

 ユーノは、無理を言って無限書庫を早退すると、そのまま最速達の便でミッドチルダに
向かった。ユーノの身分であればトランスポーターを使うことも出来たが、さすがに彼は
その手の公私混同はできなかった。
 キャロは機動6課にいた。まぁ経緯からして市井の病院や管理局の医療施設に預けるわ
けには行かなかっただろう。
「キャロ、キャロは?」
 機動6課の医務室に行き、ノックもせずに入るなり、その部屋の主に向かって切羽詰っ
たような表情と口調で迫った。
「大丈夫ですよ、別に命に関わる状況と言うわけじゃないんですから」
 シャマルは苦笑気味に微笑みながらそう言った。彼女には、ユーノに対する蔑みや呆れ
と言った感情は感じられなかった。
 そして、シャマルはカーテンで仕切られたパーティションの、一番奥にユーノを案内し
た。
「あ、ユーノさん……」
 ベッドに横たわっているキャロは、その姿を見るなり、か細い声を出しつつ、ユーノに
向かって縋るような視線を向けた。
「キャロ……大丈夫?」
「あ、は、はい、大丈夫です……私は」
 ユーノが心配げに訊ねると、キャロはどこか申し訳なさそうに。目を伏せがちにして答
えた。
「私は、席を外していますね」
「え、?」
 気を利かせたつもりなのか、シャマルはくすくすっと笑ってそう言うと、ユーノが呆気
に取られている間に、扉で仕切られた薬剤室に入っていった。
「ごめんなさい……ユーノさん」
 キャロはしょぼん、とした様子のまま、小さいながらもはっきりと聞き取れる声でそう
言った。
「謝る必要はないよ……聞きたい事はあるけど……謝らなくていい。むしろ僕が謝らなく
ちゃならないのかもしれない」
 ユーノがやはり困惑気な表情で言った。
「!」
 すると、キャロがはっとして顔を上げる。
「そんな! ユーノさんが謝ることなんて何もありません!!」
 驚いたような声を上げた。
「いや、謝らなくちゃならない。僕は、その……キャロが、まだだと思ってたんだ」
 ユーノは険しい表情で言った。
「まだ、……って?」

698蟻地獄 完結編 04/07 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/15(水) 15:43:30 ID:mafCntSQ
 キャロはユーノの言葉を、最初理解できず、キョトンとして聞き返す。
「だから……つまり」
 ユーノはさすがに、言いづらそうに顔を赤くして、視線を無意識に逸らしてしまう。
「生理」
「あ…………」
 キャロもそれを聞いて、顔を真っ赤にして視線を伏せる。
「え、えっと、その、ユーノさんはそうだったんですね」
 キャロは真っ赤な顔のまま、気まずそうに口元で引きつった笑みを浮かべつつ、そう言
う。
「その、私の方にも勘違いがあったみたいで」
「勘違い?」
 キャロの言葉に、ユーノは小首をかしげながら聞き返す。
「その、ユーノさんも少数部族の出身だって聞いてましたから……」
「…………」
 キャロの言葉を聞いて、ユーノは僅かに間をおいてから、
「あ、あああっ、そ、そうか!」
 と、素っ頓狂な声を上げた。

699蟻地獄 完結編 05/07 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/15(水) 15:44:04 ID:mafCntSQ

 キャロは基本的に避妊をしなかった。というより、キャロの方が積極的に嫌がった。
 しかも、セックス中も極端に膣内射精を望む。口淫や手淫はしても、フィニッシュは膣
内で、という有様だった。
 これはある意味自然であった。
 ル・ルシエ一族は、管理世界とは言っても、近代文明よりも旧くからの信仰を重んじ、
昔ながらの生活スタイルを由としている民族である。
 そのような一族にとって、セックスは子供を授かるという大切な儀式であるという側面
がある。
 場合によっては、性交が婚約申し込みの手段であるという民族もある。ル・ルシエは、
そこまでは極端ではなかったが。
 キャロは幼い頃に一族から離れてしまっている為、近代的な生活に慣れきってしまって
いるが、幼いうちに刷り込まれた価値観というものは、そうそう変わるわけでもない。
 ついでに言うなら、性行為どころか恋愛感情さえまだ自立していないフェイトが、キャ
ロに正しい性教育と性倫理教育を出来るはずもなく。
 その為キャロは近代文明的な恋愛感と、前近代的な儀礼的な性行為がごっちゃになって
しまっているのである。
 したがって、“愛するユーノさん”の精液を外に出すなんて有り得ないし、ましてや積
極的な避妊など言語道断、ということになるのである。

 そこで両者の勘違いが生じた。
 キャロにとって、ユーノは自分と同じ流れの少数民族の出身という親近感があった。
 ところが、同じ流れの一族でも、スクライア一族は、基本的に管理局とつながりが強く、
その関係で近代文明の恩恵を十二分に受けている。
 だからユーノは、キャロが避妊をしない理由を、別の理由、つまりまだ妊娠可能ではな
いからだ、と勘違いしてたのである。

700蟻地獄 完結編 06/07 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/15(水) 15:44:50 ID:mafCntSQ

「そうだったんだ……気付かなかった……ごめん」
 ユーノは落胆したように肩を落とす。
「ゆ、ユーノさんが謝る必要なんてないです! わ、私が勝手に勘違いしてただけですか
らっ!!」
 キャロは慌てたように、跳ねるように上半身を起してそう言った。
「いや、年上の僕が気付くべきだったんだよ。それに、最初の時にはそんな事も構わずに
しちゃったわけだからね」
「関係ないです、例えユーノさんが気付いたとしても……私は無理にでも、その、してた
と思いますから」
 キャロはユーノをまっすぐ見つめて言い返し、だんだんと顔を赤くして俯いてしまう。
「キャロ……」
 縋りつくような様子のキャロに、ユーノはしばらく見下ろす姿勢で見つめてから、
「一度、見つめなおした方が良いのかな。逃げないで」
 と、困惑気な表情で、呟くように言った。
「えっ……」
 キャロは、否定的な意味を連想させるユーノの言葉と態度に、不安で今にも泣き出しそ
うな表情で見上げる。
「キャロが悪いんじゃないんだ、いや、僕が悪いんだ。僕は……最初は……」
 ユーノは、さすがに躊躇いがちに言いよどみかけてから、振り払うように首を左右に振
る。
「キャロを、自分の欲望の捌け口として使った。そのつもりだった」
「え……」
 キャロが言葉の意味を理解できなかったのか、目を点にして絶句する。
「だから、君を一方的に襲ったんだよ、僕は……キャロをレイ──」
「ユーノさん!」
 ユーノが躊躇っていたその単語を口にしかけた時、キャロがそれを遮るように声を上げ
た。
「ユーノさん……私にも言わせてください……」
「え……」
 キャロの言葉に、今度はユーノの方が一瞬呆気に取られた。
「目的はどうあれ……私を選んだんですよね? 女性として……」
「でも、それはキャロが小さい女の子だから……」
 慌てて言い返しかけたユーノだったが、キャロはそれを遮って続ける。
「私ほど小さい女の子はいっぱいいますよ? それに、魔導師じゃない……え、と、私ほ
ど、強くない、私より年上の女の人だっていっぱいいます」
 さすがに自賛する言葉に恥ずかしさを感じて、キャロは若干どもりながらも言う。
「それは……」
 ユーノは答えに困窮した。

701蟻地獄 完結編 07/07 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/15(水) 15:46:17 ID:mafCntSQ
 キャロの言うことがある意味正論だったからだ。たまたま雑誌で目に入ったのが動機だ
ったが、それだけが目的ならキャロの言う方が正しい。リスクも少ない。
「敢えて私を選んだんですよ。そこらへんの女の子じゃなくて、スバルさんでもティアナ
さんでもなくて……」
 キャロはそこまで言って、口元で微笑んだ。
「それに、ユーノさんはそういうつもりだったのかもしれないですけど……私は……あの
時はびっくりしたのと怖かったので混乱してましたけど、後から考えたら嫌じゃなかった
んだ、って」
「っ…………」
「それとも、その後の事も全部ウソですか? デートしたり、お食事したり……その時の
ユーノさんも?」
「…………」
 ウソなんかじゃない、ユーノはそう答えたくて答えられなかった。本当に? 悪事が露
見するのを恐れていただけじゃなくて?
「……よく考えたら、そんなの関係ないですね」
 キャロはそう言って、視線を下ろした。
「私はこの子を産みます。ユーノさんに迷惑はかけません。フェイトさんから捨てられて
も譲れません。私の大切な思い出……」
 悲痛な内容の独白だと言うのに、キャロの顔はむしろ穏やかだった。
「キャロ!」
 ユーノは堰を切ったように声を出すと、キャロの上半身を抱き締める。
 キャロは驚いて、目を真ん円くした。
「無理だ……無理だよそんなの……」
 ユーノは一瞬硬直したキャロを抱き締めたまま、うわ言の様に言った。
「無理なんかじゃありません! 私はまだ子供だけど」
「そうじゃなくて」
 キャロは半ばムキになったように言い返しかけたが、ユーノは首を左右に振った。
「僕はキャロが好きだ……大好きだ……愛してる。だから……無理だよ、堪えられない、
そんなの……」
「ユーノ、さん?」
「キャロが悪いんだ……僕はもうキャロを放せないから!」
「ユーノさん……」
 キャロも穏やかな表情になると、ユーのに抱きつき返す。
 キャロがそっと目を閉じると、ユーノは軽く腕を緩めて、その唇にキスをした。
「ちゅ……」
「ん……っ」
 うっとりとしたキャロの表情に、ユーノはさらに愛しさを感じて、もう一度ぎゅっと抱
き締めた。
「もう、放さないからね……」
「はい……よろしくお願いします」

702蟻地獄 完結編 おまけ/07 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/15(水) 15:46:55 ID:mafCntSQ

「それでフェイトちゃんとしては、2人を認めるんですね?」
「認めるよ。許せないけど認める」
 薬剤室の粗末なスツールに腰掛けたフェイトが、憮然とした表情で言う。
「それならハッピーエンドって事でいいんじゃないですか?」
 シャマルはそう言った。
 その笑顔はいつもの様に穏やかだったが、どことなく血色が悪い。足元もどこかふらつ
いているように見える。
「シグナムもそうだったけど、シャマルもズレてるよね」
「そうでしょうか? 私達に言わせると現代の方が非合理的だと思いますが……まぁ、生
めよ増やせよを美徳とした乱世に生きた私達とは、今の人達はどうしても価値観は異なる
んじゃありませんか?」
「それじゃあ、キャロの今後もシャマルにお願いしていい?」
「お願いされるまでもないですよ」
 シャマルは笑顔のまま言ったが、フェイトの表情は険しいままだ。
「とりあえず、昨日お願いしたものは出来てる?」
「ええ……はい……カートリッジ300発……」
 言いつつ、シャマルは管理局の官給品ではない、木箱に入った手製のカートリッジを差
し出した。
 どうやら生彩を欠くのは、これのせいらしい。
「ありがとう」
「でも……なんに使うんです? それも官給のカートリッジが使えないようなことって…
…」
「決まってる」
 カートリッジを受け取ったフェイトは、立ち上がると、ゾクゾクッと身震いした。
「ちょっと、10年ぶりに決着をつけることになるだけ」

703蟻地獄 完結編 08/07 ◆kd.2f.1cKc:2009/07/15(水) 15:50:53 ID:mafCntSQ
>>695-702
以上です。

だいぶ経ちましたが、某所で某氏が

 「ロリ受胎続きマダー」

とか電波を飛ばしてくださったので、書き上げました。
と言っても非エロですが。

しかししばらくぶりに書いたせいか、この話のへたれユーノが上手く書けなかった……
間空けてはダメですね。

完結編とは銘打ちましたが、このカップリングも結構好きなので、
また機会があったら口から砂糖吐きそうなのを書くと思います。

704名無しさん@魔法少女:2009/07/15(水) 16:23:09 ID:ITblosfc
投下乙です

そうか、最後の障害がまだ残ってるか……

705名無しさん@魔法少女:2009/07/15(水) 17:49:38 ID:nxqrXMG.
投下乙!
待ってましたよ、この話の続きを。
意外なほどすんなり二人が結ばれるようで、なんだか嬉しいです。
完結乙っした。 ロリ受胎最高!


しっかし、フェイトさんがこええw

706名無しさん@魔法少女:2009/07/15(水) 19:34:40 ID:CP9ncR.U
>>703
乙!!
って、ぇええぇ?ここで終わり?
フェイトさんと誰かさん(誰かなー)の闘争シーンは?
血で血を洗う狂気と狂喜のお祈りシーンはなしですかー?
てかそれを見たユーノの反応が見たいw

707名無しさん@魔法少女:2009/07/15(水) 23:08:35 ID:KW9d1azM
なのはさんの方はともかく、このユノキャロはまだ終わらないで欲しいです!
結婚初夜とか、おっきいお腹の状態で(もしくはそうならない内に)のデートとか
赤ちゃん用品を買う二人とか
もっと続いて欲しいです!

708名無しさん@魔法少女:2009/07/16(木) 01:31:52 ID:KYJhbkgE
>「それじゃあ、キャロの今後もシャマルにお願いしていい?」
ゆ、遺言?w

709名無しさん@魔法少女:2009/07/16(木) 02:48:54 ID:WjCtJUyI
皆さんにお聞きしたいのですが……
最強オリキャラってありなんでしょうか?

710名無しさん@魔法少女:2009/07/16(木) 03:40:01 ID:tTjmkaxQ
>>709
それが面白ければね。
でも自分が面白いと思ったものが、他人も面白いと感じるとは限らないってことは気をつけたほうがいいと思う。
ここら辺はホント微妙。
ちなみにその最強オリキャラはどんな位置にいるの?

711名無しさん@魔法少女:2009/07/16(木) 04:41:23 ID:iobPb/.o
棒役ならいんじゃね?
15年間管理局に滅私報告してきたなのはさんやフェイトそんを奴隷にできるようなチートキャラでも
エリオのアナルバージン奪うよな奴でも

712名無しさん@魔法少女:2009/07/16(木) 04:56:29 ID:qnhxyDKM
>>711
なんでそこでエリオきゅんが。

713名無しさん@魔法少女:2009/07/16(木) 05:04:27 ID:iobPb/.o
×滅私報告
○滅私奉公

エリオは受けだろ
野太いイチモツでアナル貫かれて、苦痛と屈辱と快楽に塗れ、
前立腺刺激されてトロトロと小枝みたいなちんこから精を零すのがよく似合う

714名無しさん@魔法少女:2009/07/16(木) 07:56:23 ID:msYjxk66
>>709
無難なのは敵キャラにすることかね。
味方にすると戦闘シーンでなのはキャラの出番食うことになって、なのはファンが読んでも面白くないものに仕上がりかねない。
さらになのはやフェイトに惚れられるハーレム要素とかまで入れると完全アウトw

敵にしたらしたで、そんな強い奴どうやって倒すんだよという点に説得力持たすのが難しくなるけど。

>>713
昔はなのはやフェイトを堕としまくる鬼畜王エリオとかいたんだぜ……。
今やすっかりエロパロの総受けヒロイン化しちゃって。

715709:2009/07/16(木) 11:05:38 ID:WjCtJUyI
今細々と書いているのはストライカーズ後半のifストーリーで
ジェイル側に最強オリキャラが加わった事で戦局が変化し管理局敗北
哀れ六課の女性達が……

こんなの書いてます

716名無しさん@魔法少女:2009/07/16(木) 11:47:07 ID:tnaEyhi6
投下するだけなら何でもありよ?ただ、どんな反応がくるかは保障できねえ
>>715のだと3行目の陵辱?メインで、抜かせてくれるエロいSSなら、一定の需要はある
でも、最強オリによるバトルやら戦略やらのif要素部分をメインにすると、地雷の悪寒が・・・
参考程度に

717名無しさん@魔法少女:2009/07/16(木) 12:33:11 ID:w5giSVs.
そのオリキャラが感情が薄く、兵器のような人間だったらどうだろう?
性格的な個性が薄ければ、問題ないんじゃない?異様さが個性にもなりそうだし。
冒険だけど、六課の女性の誰かに執着するとかにすればナンバーズとももめられそうだよね。
例えば、クアットロが捕虜にしたなのはを辱めようとしたら、
両腕を切り飛ばして頭を掴み壁に叩きつけるなどの行動を一切、表情を変えずに行うとか。

718名無しさん@魔法少女:2009/07/16(木) 14:01:04 ID:KwUtN5pU
>>714
>>エリオはエロパロの総受けヒロイン

前に誰かが書いた、パロ内での男女キャラ説明みたいのを書いたら、昔とはまた違うんだろうな。
最近はヴァイスメインのが増えて、グリフィスはどんどん鬼畜化が進み、クロノは相変わらず尻。
とか。

719名無しさん@魔法少女:2009/07/16(木) 17:54:58 ID:msYjxk66
>>718
前に誰かが書いた、パロ内での男女キャラ説明

男性キャラ説明の一部を引っ張ってきてみた。
投下された当時は51スレ(約一年半前)
エリオ・ゲンヤ・グリフィスあたりの扱いが今と凄まじく違うなw


・ユーノ
無印時代からの不滅のエース。
出番が無かったのを逆手に取って妄想しろ。
魔王から数の子までなんでもござれ。でもヤンデレだけは勘弁な。

・エリオ
二代目淫獣。
メインは義母とキャロだが、初代と同じく無限の可能性を胸に今日も誰かとフラグ立て。
年末年始は出番が減っていたが、エロオではなく燃えエリオとして復活しつつある。

・ゲンヤ
はやてとくっついてる設定のものが多いが、本格的なエロはまだ無かったりする。
むしろ血の繋がらない長女とのエロをちょこちょこ見る。
ある意味一番禁忌性が高い。

・クロノ
結婚したのが響き出番は減った。
それでも別時空で義妹の尻を掘ったり縛ったりと今日も提督は元気です。
ちなみに最後にエイミィさんとのエロが投下されたのは34スレ。

・ヴァイス
はっきりとしたフラグならティアナ・シグナム・アルトとこいつが一番多い。
無茶すればラグナもいける。
エリオと同じく最近ちょっと出番が減り気味。

・グリフィス
こいつの登場頻度を見てると「出番は大事」という言葉がひしひしと伝わってくる。
はやてにシャーリーにルキノと相手候補は多いんだが……。

720名無しさん@魔法少女:2009/07/16(木) 21:44:30 ID:KwUtN5pU
グリフィスwww

この頃はまだキレイだったんだねwww

721名無しさん@魔法少女:2009/07/16(木) 23:36:30 ID:w5giSVs.
スバルと綺麗なグリフィスがオフィスでちょいエロの続きが読みたいな。

722名無しさん@魔法少女:2009/07/16(木) 23:42:14 ID:EVhj705k
グリフィスはシガー氏の鬼畜眼鏡が原因でいい印象がない
印象が悪いどころか嫌いになったんだがな。二次創作の影響って結構強いよね

723名無しさん@魔法少女:2009/07/16(木) 23:53:39 ID:n7EsJBpQ
二次創作が原因でそのキャラ嫌いになるとかアホみたいな理由だな

724名無しさん@魔法少女:2009/07/16(木) 23:57:49 ID:4egEwW4s
>>722
原作は原作。二次は二次だよ君。
構図や色づかいが違う贋作を見て、それで真作そのものを嫌うのはナンセンスだと思わんか?

725名無しさん@魔法少女:2009/07/17(金) 00:12:29 ID:nZrgAyAA
二次創作の影響でユーノ嫌いになったなんて奴も大勢いるしな
本当バカばっか

726シロクジラ ◆9mRPC.YYWA:2009/07/17(金) 00:27:05 ID:D2mGVw26
ここで空気を読まず投下。
まあそういうこともあります。

注意事項
・短編、壊れギャグ、パロディ
・ユーノが凄い壊れキャラです。原型留めてない
・そしてギャグという理由で理不尽な展開が多いです
・某仮面ヒーローの悪質かつ劣悪なパロディです
・すごく下品なのです
・そういうの許せない人は、「オナニー仮面」でNG

727オナニー仮面 ◆9mRPC.YYWA:2009/07/17(金) 00:28:03 ID:D2mGVw26
「オナニー仮面」

――某日某所、某時空。
無限書庫司書長、ユーノ・スクライアは男である。誰がなんと言おうと男である。
十九年間、彼女無しで生きてきたユーノにとって、性欲の発散方法とはすなわち、自家発電こと“オナニー”だった。
自慰とも云うがユーノの祖父曰く「男なら、オナニーと云うべき」なのだそうだ。
ひとえにオナニーと云っても色々ある。所謂、妄想をおかずに一心不乱に扱き続けるトランス型、エロ本やエロビデオによって抜くシミュレーション型、
エロスなイラストレーション――すなわち二次元によって抜くファンタジー型などが一般的なオナニーの方法である。
しかし、我らがオナニー無双流継承者ユーノ・スクライアには、一つの秘伝があった。

『……右腕はマス掻きのために存在する』

『おじいちゃん、もしぼくが好きな人と一つになれそうになったらどうするの……?』

ユーノの祖父、フェラーリ・スクライアは素晴らしい笑顔でこういった。

『抜け、ザーメンを自らを好く女の全身へ浴びせ掛けろ! 汚せ、穢せ、しかし犯すな、よいかユーノ!』

目を煌々と輝かせる祖父は狂気に満ちていた。
それはこの世すべての女人への憎悪。孫へと呪詛を受け継がせる儀式。
具体的には若作りな妻が近所の元気な若者と盛ってたために、フェラーリの自我は崩壊し掛かっていたのだ。
この老人が抱く妄執は、純粋無垢な少年の心へ深く刻み込まれた。

『女はケガレておる、ワシらオナニー無双流の聖液によって浄化するのだ、浅ましい淫獣(けだもの)どもを!!』

『うん、将来はお爺ちゃんみたいになるー!!』

ちなみにこの爺さん、この直後に嫁と寄りを戻した。
今でもガッツンガッツン嫁とエロ性交し、子供を産ませているそうな。
ただ老人の一時の狂乱だけが、ユーノの心に受け継がれたのだ……!
今年で十九歳のユーノは、今や立派なオナニー野郎だった。
彼が修めた流派は『オナニー無双流・お預け型』。
未だ青年が童貞の事情だった。
くん、と鼻を動かし、スクライア一族の青年は笑う。

「……ふっ、生挿入派閥が動き始めたか……」

この世に生挿入あるとき、自慰マイスター『オナニー仮面』は覚醒する。
バッタを模した仮面を被り、ライダースーツに着替えると、そこにはどう見ても某変身ヒーローな青年が居た。

『悪しき風習は、僕の代で根絶する……!』

どうでもいいが人類の子孫も根絶されそうである。
武力介入を開始すべく、愛用のバイクに跨り走り出す。


――盗んだバイクで、走り出す。




728オナニー仮面 ◆9mRPC.YYWA:2009/07/17(金) 00:29:04 ID:D2mGVw26
ミッドチルダ、機動六課隊舎――そこで催されるのは、絶対確実生挿入の性の宴ぇ!
今日も挿入が日課、男の名前は“鬼畜眼鏡”グリフィス・ロウラン!
アニメでは居たかどうかも定かではないぜ、流石グリフィス!
奴は性病が怖くないのか!? おっとぉ、男は華麗な指捌きで乳首を弾いたぁぁぁ!!

「はぁん!」

甘く呻くのは僕らの部隊長、八神はやてぇぇぇ!
関西弁キャラで“変身シーンが存在しない”十九歳の魔法少女!
最早死んだも同然の扱い! 所詮この世界はなのフェイ百合なのかぁ〜!!
否、断じて否! 若く燃えるグリフィスの闘魂(こころ)は、出番という不幸な境遇に熱く滾る!!!

ちなみに二人とも半裸で抱き合い、熱い交尾の真っ最中――恐るべきことに、まだ朝の十時である。
盛った犬猫並みである。このために仕事を、鬼のような速さで片付けたと言うから始末に負えない。

これは酷い、酷すぎるぅぅぅぅぅ!!
不意にはやての膣がきゅっ、と締まり、溜まらずグリフィスの剛直は膨らむッッ!!
堪らず浅黒い肉槍も射精感を訴えたのだぁ〜〜〜!!

「くぅっ、だすよはやて!」

「はぅっ……! ええよぉ、グリフィス!」

二人が今日も絶好調中出しファックに走ろうとした瞬間。
謎のテーマソングが聞こえた。邪スラックも怖くないオリジナル歌詞である。

――光の加護を身に纏い、僕は戦う影になる!

――争うことを恐れるな、この星のため!

次元の壁を突き破り現れたサイクロン号が、まるで猛牛のような勢いでグリフィスを跳ね飛ばした。
掛け声は「ウワオ!!」であり、何処か在りし日の石○賢を思わせる作画だ。

ドッッグシャアアアアアアァァァ!!

『オナニィィィブレェェェイク!』

――勃起アップ、ニューオナニスト!!

ただの衝突事故ではない。どちらかというとただの計画殺人である。
その速度は時速三百六十キロ、重量も半端ではない。破壊力たるや並みの人間なら即死するほどだ。
窓硝子に頭から突っ込み、ドクドクと三十ガロンくらい血飛沫を噴き上げ、グリフィスは動かなくなった。
キキキ、と甲高いブレーキ音を鳴らし、オナニー仮面は一息ついた。

『やったか……?』

「な、な、な……」

『八神はやて、聖液(アーク・ザーメン)はオナニストのための体液。
君達、淫獣(けだもの)の胎内にだすためのものじゃない……』

どう見ても児童向けヒーロー番組っぽい仮面のライダーを前に、彼女は声を荒げた。

「じゃあ、精液はなんのための――」

『テッシュを孕ませるためだッッ!!』

729オナニー仮面 ◆9mRPC.YYWA:2009/07/17(金) 00:30:06 ID:D2mGVw26
力強く叫ぶと、仮面の戦士はマフラーを揺らしてスーパーバイクから降りる。
ドン引きのはやてを尻目に、ぴくりとも動かないグリフィスに静かに近寄り、丸出しの逸物をしげしげと眺める。

『これは……』

赤い瞳を輝かせ、仮面の男……“オナニー仮面”は拳を構える。
ぽたぽたと愛液と先走りが垂れる剛直は張り詰め、赤黒い皮膚色を曝しているが、その睾丸には異常があった。
所謂、玉袋と呼ばれる部分が肥大化し、金色に輝いているのだ。

『文字通り金の玉……親父ダジャレか』

<無限書庫>司書長――もっとも今は仮面で正体不明だ――がそう呟くと、奇怪な現象が起こった。
突如としてグリフィスの男性器から白濁液が吐き出され、床にとろりと零れたのだ。
それだけなら生理現象だが、怪異はこのあとにあった。
吐き出された精液が喋ったのだ。

【フフフ……やるな、オナニー仮面】

『お前は――秘密結社《ナマハメ》の幹部怪人、中田氏三佐!』

ちなみに本体は亡き妻を思う良夫である。

【糞長い説明台詞ありがとう。俺の憑依したグリフィスを一撃……だが、次もこういくとは思うなよ!】

『待て、中田氏三佐!』

【ではまた会おう、オナニー仮面!】

【お父さん……?】

【ああいや、ギンガ、なんでもないぞ】

オナニー仮面は悔しそうにサイクロンに乗ると、走り出した。
具体的には機動六課の美少女たちに捕まる前に逃げるために。
ちなみにグリフィスの心臓は、はやての懸命な心臓マッサージで動き始めたとか。





(夕日をバックにビルの屋上に佇む、ユーノ・スクライア)
――こうして悪しき変態の野望を砕いたオナニー仮面。
だが彼が戦う悪の組織《ナマハメ》は強大、明日もオナニーの普及を目指して戦士は戦う。
よい子のみんなも精液は大切にな!

730名無しさん@魔法少女:2009/07/17(金) 00:30:22 ID:3FkoalaU
二次創作でキャラの印象が変わるなんてことは結構あるだろ。
明言する必要は確かにないだろうが、そこまで寄ってたかって叩くほどのことでもない

731シロクジラ ◆9mRPC.YYWA:2009/07/17(金) 00:33:02 ID:D2mGVw26
後書き
…………すべて女が悪い。そう言ったら当代の才女たちは怒るだろうか。
by隆慶一郎。


いや、なんか発作的に思い付いた。色々とすいません。

732名無しさん@魔法少女:2009/07/17(金) 00:43:11 ID:5c3rjmYg
>>731
投下乙ですた。電波っつーか色々ヒドスwwww

733名無しさん@魔法少女:2009/07/17(金) 01:55:37 ID:IB8Ncenc
>>731
なんつー壊れたユーノ………。こんなのユーノじゃねぇ……。




だがそれがいい(ニヤリ
このユーノは本当の意味での魔法使いになりそうだw

>>719
ユーノでヤンデレ勘弁ってのはなんでだろ?
ここのユーノのヤンデレが濃いからか?

734名無しさん@魔法少女:2009/07/17(金) 06:09:44 ID:Lcl9MwYQ
>>731
あんた頭悪い時はとことん頭悪いなwwww
だがそれがいい。GJ!

>>733
たしか当時はスレ内でなのはやフェイトが病むのがけっこう流行ってて、
被害にあうのがたいていユーノだったような。

735名無しさん@魔法少女:2009/07/17(金) 06:37:29 ID:BB617fms
>>734
フェイトに刺されたりなのはに拉致されたりとかか。

736名無しさん@魔法少女:2009/07/17(金) 10:38:51 ID:OZHoZg9o
ひっでえww
シロクジラ氏はシリアスとギャグの落差が激しすぎるww
GJでした、他の連載も待ってます
具体的にはトーレ姉さんとか

737名無しさん@魔法少女:2009/07/17(金) 12:26:46 ID:c03kje7g
>>735
『交差点』と『名無し』か…
今後の展開次第では『呪われた百合』も…

738野狗 ◆NOC.S1z/i2:2009/07/17(金) 21:44:38 ID:EcKB8bqo
あーい、次行きまーす。

 タイトル「大空の死闘! ライドインパルスVSソニックフォーム」

 タイトルを裏切った馬鹿話です。
 レス数は6
 あぼんはコテか鳥で。
 フェイトファンは注意。

739野狗 ◆NOC.S1z/i2:2009/07/17(金) 21:45:21 ID:EcKB8bqo
     1

 古来、自由に空を飛ぶのは人類共通の憧れでもあった。それは次元世界の中心地とも言えるここ、ミッドチルダでも例外ではない。
 幼い子供たちが無邪気に口ずさむ戯れ歌にも、こうあるではないか。

 ♪ 空を自由に飛びたいな
 ♪ あぁ? んなもん、おどれの裁量で好きに飛べや

 少々ノイズが混ざったが、まあ言いたい事は伝わっているだろう。

 そして、美貌と実力を兼ね備えた魔道師の一人、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンもまた、空駆ける戦女神として人々の尊敬と憧憬を一心に受けている。
 例えばミッドチルダで発行されている大衆週刊誌を数冊選び、巻頭特集を覗いてみよう。

 〈管理局、美人魔道師大特集〉
 〈この夏、空駆ける貴方に彼氏も夢中?〉
 〈初歩から始める飛行魔法〉
 〈魔道師だって恋したい!〉
 〈ちっちゃい上司に蹴られ隊〉
 〈気になるあの人に念話でアタック!〉
 〈空戦魔道師のスカート覗きマル秘スポット〉
 〈本誌独占取材! 私はスカリエッティの秘書だった!〉
 〈スクープ! 無限書庫の闇を追え〉
 〈タヌキ、悪魔、露出狂、貴方はどのタイプ?〉

 妙なものもあるが、グラビア系にすら特集があるのだ。
 大空を自在に駆ける魔道師は、 人々の憧れの的なのだ。

「空を飛ぶのは大変だよ」
「わかっています、それでも、私は飛びたいんです」

 私ことティアナ・ランスターは、六課解散後に久しぶりに会った二人の上司に誘われて、お茶を飲んでいた。

「痛いよ?」
「特訓は平気です」
「ううん。そうじゃなくて。飛ぶ事自体が痛いの」
「え?」

 意味がわからない。
 
「痛いんだよ」
「あ、わかる。痛いよね、結構」

 なのはさんも雑談に参加した。

「えっと、なのはさん、痛いって?」

740野狗 ◆NOC.S1z/i2:2009/07/17(金) 21:46:06 ID:EcKB8bqo
        2

「飛んでいるとね、空には結構障害物があるんだよ」
「避けて飛んでますよね?」
「建物とか、大きいものならね」
「え」

 それ以外にどんな障害物があるのかと。

「鳥とか、結構ぶつかるんだよ」
「避けないんですか?」
「スピードが全然違うからね。ぶつかるというか巻き込むというか」

 そういえば、航空機が鳥にぶつかるという話は聞いた事がある。空戦魔道師にも同じ悩みがあるのだろう。
 しかし、航空機と鳥ならば、質量比を考えれば大したことにはならないと思える。人間と鳥では、質量比を考えると結構なダメージではないだろうか。

「一応、バリアジャケットもあるし、致命的な衝突にはならないんだけどね。まったく無痛というわけでもないから」
「大変ですね。そんなのは考えた事もありませんでした」
「ただ、もう少し上手くやらないと、歯の寿命が縮むような気がして。あと、場所によっては手間が大変だね」
「あー、やっぱりフェイトちゃんもそう思う?」
「なのはもなんだ」

 突然意気投合する二人。私はやっぱり訳がわからない。

「アルトセイムのほうに行くと、小骨が多いんだ」
「工業地帯の近くはちょっと苦くて身体に悪そうだし」
「あのお二人ともごめんなさい、何の話ですか?」
「空を飛ぶ話だよ」
「鳥がぶつかってくるから」
「よくわかりません」
「食べるの」
「は?」
「貴重なタンパク源だからね」
「こう、口を開けて飛んで……」
「口の中に入ってくる鳥をがぶりと」
「はぁあああああ?!」
「慣れるまでは大変だったよ……」

 遠い目のなのはさん。って、食べてるんですか、なのはさんも。

「うちは、母さんがあまりご飯をくれなかったから、本気で貴重なタンパク源だったよ」

 どこか病んだ遠い目のフェイトさん。
 食べてるんだ……二人とも、食べてるんだ……
 そこへ、聞き覚えのある声が。

「偶然ッスね」

741野狗 ◆NOC.S1z/i2:2009/07/17(金) 21:46:38 ID:EcKB8bqo
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 そこにはウェンディをはじめとするナカジマ家の元ナンバーズ組が。どうやら本部に出頭した帰りらしい。

「話は聞かせてもらったが、やはり空戦は皆苦労しているのだな」

 チンクがしみじみと

「うちでもトーレが苦労していた」 

 フェイトさんは、興味ありげに目を向けた。それはそうだろう。トーレと言えば、フェイトさんと直接闘った相手である。

「トーレもやっぱり食べてたの」
「無論だ。空戦戦闘機人としては当然の礼儀だな」

 当然の礼儀らしい。
 鳥喰いが。
 私は初めて、空を飛びたいという自分の気持ちに懐疑心を抱いた。というか、鳥食いは必須なんだろうか。嫌だな、それは。

「トーレは本当に苦労していた、なんと言っても、鳥が嫌いだったからな。生など論外だった」
「それは……空戦としては致命的な欠陥だね」

 それが!? 鳥が嫌いなのが致命的って、空戦って一体……

「しかし、トーレはもう少しでそれを克服するところだったのだ。残念ながら、克服前に六課との本格的な戦いが始まってしまったのだが」
「どうやって、克服するつもりだったの?」
「ふっ……本来なら敵に話す事ではないのだが、もはやお前たちは敵でもないしな。いいだろう」

 チンクは、一歩前に出る。姉の武勇伝を話すのがとても嬉しそうだ。

「トーレのIS、ライドインパルスは知っているな」
「知ってるよ。全身の加速機能と、四肢に発生するインパルスブレードによって可能となる超高速機動」
「そう。しかしトーレとドクターは、そこからさらに一段階上のISを準備していたのだ」
「一段階上?」

 確か、ライドインパルスでフェイトさんの真ソニックフォームとは互角だったはず。つまり、ライドインパルスを越えるという事は真ソニックフォームを越えるという事でもあるのだ。

「興味有るね、チンク。それはどんなものだったの?」

 フェイトさんの言葉には妙な迫力があった。

742野狗 ◆NOC.S1z/i2:2009/07/17(金) 21:47:38 ID:EcKB8bqo
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 ライドインパルスの弱点、それはやはり空戦の弱点でもあった。
 飛んでくる鳥の処理である。鶏肉を好まないトーレにとって、それは致命的とも言える弱点だった。
 しかしある日、夕食の席でディエチが気付いたのだ。
 トーレが美味しそうに食べているのは…………唐揚げ丼!

「トーレ、それ、鶏肉だよ」
「なん……だと……」

 自らが口に運んでいたものの正体に愕然とするトーレ。

「鶏肉がこれほどジューシーで旨いというのか……」
「わかった。トーレが食べているのは唐揚げだから。空で食べているのは料理していないものだから」
「そうか……料理によってこれほど味が変わるというのか……なるほど」

 そしてトーレは知ったのだ、苦手な鶏肉であろうと料理の仕方によって美味しく生まれ変わるのだと。
 トーレにとってそれが「唐揚げ」なのだとっ!
 唐揚げとの出会い、トーレ・ミーツ・フライドチキン。それこそがトーレのライドインパルスの最大の力を発揮させるもの!
 空中で激突する鳥が全て唐揚げならば、トーレはなんの憂いもなく空戦機動を全開にできるのだ!
 それが、トーレの真のライドインパルス!

 名付けて、「フライドインパルス」 トーレ進行方向に力場を展開、近づく鳥を全てフライドチキンとして調理する!

 そこまで聞いて、あたしは頭痛を覚えた。
 ナンバーズって一体……
 フェイトさんも呆れているんじゃないだろうかと思っていると……

「フライド……インパルス……」

 なんで愕然としてますか? 真面目な顔で。

「そんな発展計画があったなんて」
 
 なのはさんまで。

「危ないところだった。フライドインパルスが完成していれば、私はトーレに勝てなかったかも知れない……」
「勝負は時の運。我々に運がなかった、それだけの事だ」

 チンク、何まとめようとしてますか?

743野狗 ◆NOC.S1z/i2:2009/07/17(金) 21:48:22 ID:EcKB8bqo
      5

 かなりどうでも良くなってきたのだけれど。
 なのはさんフェイトさん、ナンバーズは真面目の顔のままだ。

「大丈夫だよ、フェイトちゃんにだって、新しいフォームがあったじゃない」
「なんだって!?」

 チンクが叫んでいた。

「トーレのフライドインパルスを越えるフォームがあるというのか!」
「あるよ。フェイトちゃんの隠しフォームが」
「しかし、フライドインパルスを越えるなどと!」
「フライドインパルスには大きな弱点がある!」
「……なん……だと……わずかこれだけでもう弱点を見つけたというのか!」
「ふふふふ。たしかにフライドインパルスは凄い。さすがトーレ、さすがドクターだと思う。だけど、肝心な事を忘れているわ」

 とっても嬉しそうななのはさんと、悔しそうなチンク。
 別にイイじゃない、フライドチキンくらい。

「フライドインパルスがどれほど完璧でも、フライドチキンが元来持つ弱点はどうしようもないの!」
「……くっ……さすがは高町なのは……すぐにその点に気付いたか……」

 フライドチキンの弱点……それは、油分の取りすぎ。それによるカロリー過多。
 うーん、スバルは気にしないような気がするけれど。

「しかし、フライドチキンによって鳥が食べやすくなるのは事実! そして、簡易な料理としてフライドチキンを越えるモノがあるというのか!」
「私たちを……いえ、フェイトちゃんを舐めないで」
「なのは……」

 フェイトさん、感謝の気持ちはわかりますが、その眼差しはどう見ても性的です。色々拙いです。自重してください。

「フライドチキンをこえるもの、それは、鳥刺し!」
「鳥刺しだとっ!?」

 つまり、鳥の刺身。ってフェイトさん、鳥の刺身って……要は生ですか。

「ソニックフォームを越えるフォーム、それが、フェイトちゃんの削ぎ肉フォーム!」

 ああ、つまり、鳥の肉を削いで食べると。
 単なる原始人のような気がしますが。

744野狗 ◆NOC.S1z/i2:2009/07/17(金) 21:49:02 ID:EcKB8bqo
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 私は、疲れ果てて宿舎に戻った。
 フライドインパルス……削ぎ肉フォーム……なんなんだあの人たちは……

「あ、お帰りティア。勝手に上がってるよ」
「スバル、どうしたの?」

 ベタ降りだったテンションが、スバルで戻ってしまう私も大概かも知れない。

「ティアに見て欲しいモノがあって」
「なに?」
「あたしの新技だよ」
「開発したの?」
「うん。ウィングロードで地面すれすれに走ってね、あ、畑の近くだよ」

 畑?

「振動破砕で地面を揺らして、野菜を収穫するの」

 勝手に収穫……それって……

「名付けて、振動破砕ならぬ窃盗野菜」
「あんたもかーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
「え、なに、なに、ティア、何で怒ってるの? ちょ、ちょっと、ダメ、ティア、あ、あ……そこは………ああああっ!」

745野狗 ◆NOC.S1z/i2:2009/07/17(金) 21:49:37 ID:EcKB8bqo
以上、お粗末様でした。




すまん。

746名無しさん@魔法少女:2009/07/17(金) 21:59:25 ID:RoiaK0E6
ああもうww あなたって人はwww

バカギャグ乙でした、こりゃあ面白い。

747名無しさん@魔法少女:2009/07/17(金) 23:05:11 ID:rZjIjUG2
あんたバカだろ(最大級の賛辞

フライドインパルスで腹筋崩壊したw

748アルカディア ◆vyCuygcBYc:2009/07/17(金) 23:13:15 ID:9sOzbzEE
次投下いきますー

「伊達眼鏡と狙撃銃」


 注意事項
・ザ・シガー氏原案の短編連作『ソープ・ナンバーズ』シリーズからのスピンアウトです。
ttp://wiki.livedoor.jp/raisingheartexcelion/d/%a5%bd%a1%bc%a5%d7%a1%a6%a5%ca%a5%f3%a5%d0%a1%bc%a5%ba
・長編。一部、微エロ描写有り。シリアス気味。クアットロメインのSSです。
・ネトラレ気味な描写とかも有るので、苦手な方はご注意を。
・NGワードはトリップでお願いします。
・原作『ソープ・ナンバーズ』からの設定改変、こじつけ解釈の部分も存在します。
・原作者のザ・シガー氏に最高の敬意を表して―――

*エロ描写は、このスレの普通のエロSSが普通のエロ漫画位だとすると、レディコミ位だと考えて下さい。
*カップリングは基本不定。どう変遷するのかを昼ドラのように楽しんで頂ければと思っています。




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