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アバッキオのビデオ棚

1とりあえず管理人★:2008/01/09(水) 19:33:56 ID:???

         _..  - ―‐ - ._
        , '"          \
      /"レ'/  /\_. へ、 ∧lヽ
     / /´ {/ノノ ,ィ爪Yハ`′  ',
   /  / // ノ´    ヽ ', l
   |  /   //   :    ', l |
   | l| l  /     .::     ,,l !l |     やあ ようこそ「アバッキオのビデオ棚」へ
   |l |l |  ド==、、::  ,r='"-| ! |    ここではあんたの持ち込んだ妄想をムーディーで映像化している
  ノ|| |l l  |t‐t・ッテ,  ィrt・ッラ|l  |        まずは>>2のガイドラインを見なよ
≦ノノll│ |  |. ´¨~〃 .,,_ ヾ~´ .|l lト、
_./ノ|l | |  l:.   ゙:. ′゙    ,'|l l|ヽヾニ=‐       さっそくあんたの妄想をリプレイしながら・・・
‐''"ノ| | |  ト、     `''"__  /:l  l\ー-`ニ=-       萌え話でもしようや・・・
:::´ノ,l li l  | ヽ、 '‐ニ-'' ,イ:::l  lヾミヽ::l
:::‐"/ / ハ l  | ヽ ヽ、._"_/ l:::! l`ヽ、`二>‐
:::::/ノ/ } i l― -、ヾ三/ __ll l::::::::::::::`>― ---- 、
::::"´:::::::;.' ノ、 ', ⊂) 〈フフ  _,l l::::::::::::r'´ /¨>'" )
:::::::::::::://::| ヽ ⊂⊃ノ7 '"´l _l. ― 、`='-、/( _,∠ヽ
:::::::::/´:::(cl=  ⊂二ノ   ,r'‐、  ‐= }   `ヽ |   }
:::::::::::::::::::::::`l   ⊆¨l  ハ __ノ} <l ,' ⊂) 〈フフ\-‐'´}
::::::⊂) 〈フフ:::l    ⊂ 」  { `¨´ l_> / ⊂⊃ノ7  ヽ/}
::::⊂⊃ノ7:(cl"´┌i 00 V ム Δ /   ⊂二ノ    l/}
::::⊂二ノ:::::::::l`⊂ ⊃   {` ー''"     ⊆¨l   l/
:::::::::::⊆¨l::::::::l (フl」<)=、‐-∨⌒ヽ     ⊂ 」   /
 ̄ ̄⊂ 」 ̄ ̄ ̄r'rブノ   `  ',   ┌i 00 // ̄ ̄
  ┌i 00'" ̄ ̄} }} ̄ ¨''‐、____ノ_  ⊂ ⊃ //
  ⊂ ⊃ |`` ========''"r==、ヽ-(フl.」<)‐'´
  (フl」<) ',          ノ   } }

2とりあえず管理人★:2008/01/09(水) 19:34:54 ID:???

モララーのビデオ棚ジョジョ版です。おおまかなガイドラインは以下の通りになります。

1.長時間に及ぶスレ占拠は迷惑になります。リアルタイムでの書き込みはひかえ、
  あらかじめメモ帳等テキストエディタに書いたものをコピペで投下してください。
2.投下開始・終了がわかりやすいように、名前欄にタイトルを入れてください。
  タイトルは他の方の作品とかぶらないように配慮願います。
3.作品のナンバリングは「タイトル1/7」〜「タイトル7/7」のように投下数の分数明記を推奨いたします。
4.シリーズ物・長編どんとこい。ただしスレ占拠を防ぐため投下ペースや分量に配慮して下さい。トリップのつけるつけないは自由。
5.感想レスに対するレス等の馴れ合いレス応酬はほどほどに。
6.エロ・グロ・パラレル分が過剰な場合、最初にひとこと注意書きがあると嬉しいですよ。
7.「公共の場」である事を念頭に置き、ジョジョ淑女の名に恥じぬ譲り合いの精神を忘れずにお願いします。
8.投稿本文の最大文字数4096 投稿本文の最大行数60 名前欄の最大文字数64 半角で以上のように設定しております。

ご意見・運営に関する相談・雑談は総合スレまで

3燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 1/9:2008/02/04(月) 20:06:52 ID:YJZMhoxw
 
スレ最初の投稿させて頂きます。
燃えスレのプロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴで仮想ガチバトルです。
 
ζ´・ω・`) < 残念だけど萌え要素は皆無に近いよ…
ζ´・ω・`) < ちなみにこれで全体の三分の一くらいだと思うんだ…

4燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 2/9:2008/02/04(月) 20:08:01 ID:YJZMhoxw
 
 1.
 
「見たな?」
「見ました」
「ベネ(よし)」
 
 プロシュートは振り返らずにうなずいた。常に傍らの誰かに語りかけるようにして喋るのが、この男の癖だった。視線は腕時計の文字盤に注がれている。
 彼は双眼鏡の革紐を、きれいに結い上げた髪を崩さぬよう丁寧に首から外し、渡すついでに今回の相棒をちらりと見遣った。
 
「さっき送迎車がやつらを乗っけてそこの交差点を西から東に横切ったのが三時四十二分五十一秒、今運転手だけ乗った車が戻っていったのが四十五分ゼロ二秒。その間二分ちょいだ、テメーの時計でも間違いねーな?」
「ああ、間違いない」 双眼鏡を受け取った彼、ティッツァーノは答えた。精妙で動きのない、裏稼業特有の謎めいた微笑みのままで。 「タイムラグと車の速度からして、やつらが降りたのはここからふたつ向こうのストリートと断定していいと思います」
「近いな。やはり俺たちの居場所を正確に掴んでいる」
「…正確には『正確に掴んでいると信じこんでいる』でしょう?」
 
 プロシュートは我が意を得たりというように頷いた。こちらは猛禽のような厳しい表情だが、時どき魅惑的な笑みも浮かべる。その変化に緩急があり、弟分のペッシには慕われている。彼自身も弟分をすこぶる愛しており、本当ならこの戦いにも連れてきたかったくらいだ。
 
(聡明な相棒ってのもたまにはいいが、少々調子が狂うんだな…)
 
 ティッツァーノには悪いが、プロシュートは内心そう思っていた。やはり自分はツメの甘いペッシをどやしつけて尻を叩きながら任務を遂行するのが性に合っているのかもしれない ――― おっと、今はそんな事を考えている場合ではなかった。
 
「しかしまあ、最初からブチ当たりに来ましたね。慎重な性格と聞いていましたが、なかなかどうして好戦的なやつだ」
「やつのスタンドは索敵に向いているからな。市街戦なら自分のゲームだと思って強気に出てるんだろう」
 
 プロシュートは呟いて肩をすくめた。
 花京院典明は油断のならないスタンド使いだ。そのスタンド能力という意味でも、本人の鋭い知性という意味でも。
 現に彼は不可視の糸状にしたハイエロファントグリーンの『触脚』の一端を、先に出発したプロシュートたちの送迎車にひっかけ、広いバトルフィールドのどのあたりで停車したかを事前に探知する策に出ていた。
 戦闘開始前のこうした裏工作は本来はルールで禁じられているのだが、スタンドバトルの世界においてはしばしば、より上位のルール『イカサマを見抜けない方が悪い』がものを言う。
 花京院にとっては不運な事に、午後の日射しが触脚を一瞬キラリと緑に光らせた。それでプロシュートたちは敵の作戦を知る事ができたのだ。
 
「まったく高校生のくせしてふてー野郎だぜ」
 二人はグチをこぼしつつ、自分たちを降ろした車が走り出した瞬間、その屋根によじ登った。そしてまるまる一ブロック来た道を戻り、今いる街路にさしかかったところで飛び降りたのだ。子供じみた攪乱工作だが、居所をダイレクトに突き止められるよりはよい。花京院たちは今ごろ、自分たちのいる街路と、プロシュートたちが実際にいる街路の間に平行に延びるもう一本のストリートを敵の居場所と信じこんで、襲撃計画を立てているところだろう。そこを間髪いれずに叩く。遠距離スタンド相手にぐずぐずしると、せっかくの情報的優位をふいにしてしまう。
 
「行くぞ。本職の怖さってやつを思い知らせてやろう」
 
 プロシュートは前歯を見せて獣のように笑った。普段ならこうしたキザな「決意表明」なんてものはやらないのだが(そういうのはその辺のアングラっぽいクラブでくだを巻いてるちんぴら連中のやる事だ)、今日はまあ、ほら、お祭りみたいなものですから。二人のイタリアン・ギャングは行動を開始した。

5燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 3/9:2008/02/04(月) 20:09:13 ID:YJZMhoxw
 
 2.
 
 花京院典明は新聞のスポーツ欄に目を落としていたが、実際はその集中力のほとんどをハイエロファントグリーンの触覚に注ぎこんで、ひとつ隣の街路を『走査』していた。
 
 かの無人のストリートにスタンド能力を持つ者がいたなら、ビルの壁面や舗道の上を毛細血管状に広がりのたうつ緑の触脚というグロテスクな光景を見られた事だろう。最初は発見されないよう糸状にした触脚でほそぼそと探っていたが、敵が見つからないので次第にやけになって、街路じゅう舐めまわすように触脚を這わせだした。この状態なら例えスタンドに攻撃を受けても、本体へのフィードバックは微々たるものだ。それにしてもプロシュートたちは見つからない。
 不可解だ。宙に浮いたか、それともどこかのビルに入ってしまったのか。
 
「あるいは、もう一つの可能性として………だな」
「なんだ、その可能性ってのは」
 
 不安げな表情で花京院の顔を覗きこんできたのは、今回の相棒オインゴだ。彼のスタンド能力はといえば顔を自在に変えられるだけで、正直なところヌケサクに毛の生えた程度である。たぶん年上だと思うのだが、花京院はさも当然の権利のようにあれこれ命令を下していた。オタクはそのあたりの社会性がなっていないので仕方がない。
 
 今オインゴは言いつけどおり、陽動のため顔を花京院のそれに変えている。無人の洋品店から無断拝借した緑色の学ランを身につけており、靴やピアスなど細かいところを見なければ違いはわからないだろう。しかし花京院は不機嫌だった。自分の顔が目の前でマヌケそうな表情を浮かべる、これほど嫌な事がそうそうあるだろうか。
(今日って解説で承太郎来てたよな……あんまり見られたくないなあ、もう!)
 
 すこぶる身勝手な悩みを抱えつつ、花京院は適当な返事を返した。
 
「ああ、ハン○チ王子はぜひとも巨人に来てほしいんだが、早稲田人脈でヤクルトに行ってしまう可能性もあるなあって思っただけさ」
「おいおい、怒るぞ」
「冗談だよ。やつらが隣の街路にいないようなんだ。僕が車につけた触脚に気づいて、すぐに移動した可能性がある。気を緩めないでくれ、どこから攻めてくるかわからないぞ」
 
 念のためスタンドを近くに戻しておくか。丁寧に畳んだ新聞をゴミ箱に向かってシュートし、ぼんやりとそんな事を考えた時、オインゴの声が突然切迫したものに変わった。
 
「…おい! おかしくないか…!? 何だかこう…霧がかかってきたというか…おかしくないか、これは?」
「霧だと?」
 
 花京院は怪訝な表情で、あたりに視線をめぐらした。
 なるほどオインゴが指さす方向から、狭い街路いっぱいに立ちこめるような、乳白色の霧がゆっくり押し寄せてきていた。
 すでに数百メートル向こうは白い闇に閉ざされ霞んで見える。これほどの速度で増大する霧は、都会ではまず発生し得ない。奇妙だ。そしてスタンド使い同士の戦いにおいて、『奇妙な』現象はそのまま敵の攻撃に直結する。ましてやガスを媒介に他人を老化させるというプロシュートのスタンド、ザ・グレイトフル・デッドが相手の場合には!
 
「…これは、老化攻撃ッ!」
 
 ――― そう判断してしかるべきである。

6燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 4/9:2008/02/04(月) 20:10:16 ID:YJZMhoxw
 
 3.
 
「まずいぞ。効果範囲外に逃げなくては…」
「お、おい! 走って体をあっためると老化が早く進んじまうぞッ」
「ここでじっとしているよりはましだ! 次の交差点まで走れば四車線の大通りに出る。そこならガスが拡散するからそうそう簡単には老化しないッ!」
 
 迅速な決断、さもなくば死だ。
 花京院は手を振って、相方に先に走るよう促した。逃げる背中を襲われるのが一番危険なのだ。火力を持っている自分が後ろを守るに限る。彼は毒づきながらハイエロファントを呼び戻し、背後を警戒させるため霧の中へ飛ばした。そして自分も走り出す。
 しかしどれほども行かないうちに、今度は後方からいやなエンジン音がとどろきはじめた。
 
「なんだーッ、あの音はッ!」
「立ち止まるな! 今ハイエロファントに探らせる!」
 
(みっともなく裏返った叫び声をあげるんじゃあないぞッ、負けフラグだろ!)
 花京院は心の中で相方に毒づいたが、いざ叫び返してみると自分の声もけっこう裏返っていた。どこにいるかわからない敵から一方的な攻撃を受け、反撃の手段がないという状況は心理的にキツいものがある。おそらくは白煙の向こう側にいる敵、そいつの居場所を早く突き止めなくては!
 しかしハイエロファントの視覚がエンジン音の正体を捉えた時、なかば予想していた事とはいえ、花京院は小さく呻かざるを得なかった。
 
「車だ。考えたな…」
「ええ!?」
 
 走る花京院の後方約八十メートル、緑のコードをたなびかせ宙をたゆたうハイエロファントグリーンから、さらに四百メートルほど後方の地点。灰色のクーペがやけにのろのろと、しかしはっきりとした意志と速度でもって、こちらへ突き進んでくる。その後部座席から、これでもかとばかりにもうもうと白煙が噴き出していた。ドアガラスの類は取り払われている模様だ。
 
 これはちょっとした老化ガス噴霧作業車ではないか。さしずめ自分たちは畑の害虫というわけだ。運転席の姿はまだはっきり見えないが、プロシュート以外に誰がこんな芸当をできよう?
 
「僕らを追っている。それも老化ガスをブチ撒きながらだッ!」
「な、なんだってーッ!」
 
(キバヤシか僕は。…ああクソ、こんな事を考えている場合じゃあないぞッ)
 花京院は心中吐き捨てた。
 ほんの数百メートルとはいえ全力疾走とは苦しいものだ。肺が熱く膨らみ、動悸がドラムのように鳴る。「自分はもうだいぶ老化しているんじゃあないのか?」という恐怖がそれにまた拍車をかける。交差点まであと百メートルばかり。九十メートル……八十メートル……。
 しかし自動車で追われている以上、いずれは追いつかれるだろう。大通りに出たところで状況はジリ貧のままだ。
 
(ならば攻撃するッ…!)
 
 スタンドエネルギーが老化で奪われないうちに、敵の本体を叩いてくれる。
 花京院はそう決断するや、再び後方のハイエロファントの操作に全精神力を集中した。エメラルドスプラッシュのエネルギーを両手に溜め、運転席に狙いを定め、じりじりと車に接近する。かつてDIOとの戦いでそうしたように ――― だが次の瞬間ハイエロファントの視界に飛び込んできたのは、意外な人物の顔だった。
 
「…ティッツァーノ、だと!?」
 
 日焼けサロンで張り切りすぎたような肌色とストレートの白髪、神妙な顔つきでハンドルを握るその姿は間違いなくやつだ。しかしなぜ老化ガスの発生点の間近にいて影響を受けない!?
(……老化…ガス?)
 
 もしやという疑念にかられ、ハイエロファントは後部座席を覗きこんだ。
 結論から言うと、そこにあったのはあまりにも子供だましなシロモノだった。へし折られた街路樹が一抱え、火をつけられてブスブスときなくさい白煙をあげている。スタンドでも何でもなかったのだ。
 呆然とするハイエロファントに冷たい一瞥を投げかけ、ティッツァーノは横顔で薄く笑った。数百メートル先で、花京院の口許が引きつった。
 
「こ…このガチホモがッ!」
 口にこそ出さないがクールな美形キャラを気取っている花京院にとって、まんまと欺かれた上に失笑まで受けたのは結構こたえた。ハイエロファントは発作的に運転席の窓に飛びつくや、ティッツァーノの頬桁に渾身の右ストレートをぶち込んだ。
 人間に毛の生えた程度の腕力とはいえ、運転中に横っ面を殴られてはただでは済まない。ハンドルがグルグルッと空しく回ったかと思うと、クーペは大きく進路を外れた。そのまま舗道に乗り上げ、ビル壁に突っ込む。ガリガリ、バキバキ…という嫌な音をひとしきり立てた後、車は動きを止めた。

7燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 5/9:2008/02/04(月) 20:11:04 ID:YJZMhoxw
 
 ぐしゃぐしゃになったボンネットの上に投げ出され、ピクリとも動かないティッツァーノの姿を確認して、花京院は少し溜飲を下げた。
 とはいえまだまだ事態は終息したわけではない。後ろから追ってきたのがティッツァーノだったのなら、本物のプロシュートはどこにいる? 連中が偽のザ・グレイトフル・デッドで自分たちを追い立てた目的は!? 

 ――― ひとつしかないではないか。

「ぐッ、グゥエエエエーッ!?」
「なッ…!?」

 数メートル先であがったオインゴの悲鳴に、花京院は我に返らざるを得なかった。
 しまった、後ろのティッツァーノに気を取られ過ぎた。前方に不注意すぎた。そしてそれこそがやつらの狙い…!

 そこはストリートと大通りの交差点、走り出した当初の目的地。
 立ち止まった花京院の目の前には、イタリアンスーツを着こなした色男のヤクザが立っていた。人殺しのためだけに訓練されたマスティフ犬のように気品のある表情を浮かべ、傍らに従えたグロテスクなスタンドにオインゴの首を掴ませ、宙に吊り下げて。

「…ハサミ討ちの形というわけか」

 花京院は苦々しく呟いた。
 強い後悔と狼狽の中で、相棒が正月の棒ダラのように干乾びねじくれて老いていくさまを、彼は見守っていた。
 
 
 
 
 
 
 4.
 
 ストリートとの交差点から飛び出してきた『最初の』花京院をザ・グレイトフル・デッドで拘束し、続いて現れた『二人目の』花京院を見た時、プロシュートは失望を禁じえなかった。
 用心深い男と聞いていたが、さすがだ。変身能力のあるパートナーをまずオトリに使うとは。プロシュートは根っからのギャングであるから、当然このような考え方をした。『直』で老化エネルギーを叩きこんでやったそいつは、やはり本来の顔に戻り、それから枯れ木のように老化した。プロシュートは唾を吐くようなそぶりをし、悪意に燃える目で花京院を睨んだ。
 
「偽者とはな! 仲間を捨石にしやがるたぁテメー、吐き気をもよおす外道ってやつだぜ。ギャングでもやらねーぞ、仁義ってもんがあるからなあ」
「捨石にはしないさ。信じてくれなくったって構わないが、僕ほど仲間思いの人間はそうはいない。ポルナレフのやつが僕の足を引っ張った事があるが、その時は顔面に友情の証の肘鉄を打ちこんでやった」
「どんだけ倒錯してんだテメーの友情とやらはッ!」
 
 プロシュートは怒鳴った。ついつい普段の癖で説教をかましたくなるが、ここはグッと我慢だ。あまり無駄な時間を使ってはいられない。やつらの後方から聞こえたクラッシュ音が気になる。ティッツァーノはすでにやられてしまったのかもしれない。それにこの男のスタンド ――― リゾットのステルス能力のように自在に姿を隠す事ができる ――― も、いつ戻ってくるかわからない。もしかしたら、もう戻ってきているのかもしれないのだ。自分を見る花京院の目もまた、研ぎ澄まされた闘志で燃えていた。
 
「よくも偽の煙で人を無駄に走らせてくれたな。それも滑車を回すハツカネズミのように無様に…。このお礼は必ずさせていただく」
「おいおい、感謝してもらいたいぐらいだぜ。食後のいいダイエットになったろ?」
「必要ない。僕はもともと脂っこい食べ物が嫌いなんで……ね!」
 
 言うなり花京院は、プロシュートに向けてさっと片手を突き出した。
 エメラルドスプラッシュが来る! プロシュートは咄嗟にザ・グレイトフル・デッドの両腕を交差させ、ガードに入る。しかしその直後に起こった事は、彼の予想の範疇を超えていた。ハイエロファントグリーンは花京院の背後ではなく、ザ・グレイトフル・デッドの真横に出現したのだ。
「何ィッ!?」
 
 ――― 意外! それはボディアタック!

8燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 6/9:2008/02/04(月) 20:11:53 ID:YJZMhoxw
 
 ザ・グレイトフル・デッドの腕力は、ハイエロファントグリーンのそれを大幅に上回る。
 だからプロシュートは、まさか花京院がスタンドの肉弾戦を挑んでこようとは想像だにしていなかった。だがザ・グレイトフル・デッドには下半身がない。足代わりの両腕も、今は防御に使っている。ゆえに地面を蹴ったハイエロファント渾身の体当たりを喰らった時、まったくといっていいほど『踏ん張り』が利かなかった。
「うおおおおおッ!?」
 
 果たして、ザ・グレイトフル・デッドはあっさりと転倒した。その衝撃で抱えこんでいたオインゴの身体を手放し、プロシュート本人も尻餅をついてしまう。彼が飛び起きた時、ハイエロファントグリーンはすでに緑のコードをたなびかせ、一番近くにあったビルの通用口へと姿を消していた。花京院とオインゴの姿もなかった。全ては一瞬の間の出来事である。プロシュートはしばらくあっけにとられ、それから荒々しく地面を蹴った。
 
(クソったれ! …確かに捨石にはしなかったな。いやマジに恐れいったよ花京院)
 怒りながらも彼の口許はどこか笑っている。相変わらずの獣の笑いだ。ひっかけあいはこれで一勝一敗というところだろうか? その時ティッツァーノが、足を引きずり引きずり姿を現した。パッショーネ親衛隊の白いユニフォームには煤と血がにじんでいる。象牙色の髪がほつれて、頬の腫れた血まみれの顔に貼りついていた。
 
「…カモメ」
「ウミネコ」
「ベネ」
 
 オインゴの変身作戦対策としてあらかじめ取り決めておいた合言葉を唱えると、二人の間の緊張は解けた。
 
「結構やられたなティッツァーノ。大丈夫なのか?」
「ええ、戦うのに支障はありません」
「そうか。こっちはオインゴを叩いたが、そこのビルに逃げこまれた」
 
 戦うのに支障がないならば、それ以上気にかける必要はない。自分たちはギャングなのだ。腕の一本や二本もがれようと、戦う事をやめたりなどしない。ティッツァーノは頬の髪の毛を払うと、気丈にも少し微笑んで見せた。
 
「ザ・グレイトフル・デッドではないとバレた瞬間にやられるのは想定内でしたからね。むしろエメラルド・スプラッシュを喰らわなかっただけでも儲けものというやつだ」
 
 花京院が激怒していなければ、今ごろティッツァーノは穴だらけになって東方仗助やジョルノ・ジョバァーナのお世話になっていたかもしれない。あるいは後十キロほど余分に車のスピードを上げていても、衝突のショックに耐え切れずに同様の事態になっていただろう。
 
 ハサミ討ちという作戦自体を考えたのはプロシュートだが、危険きわまりない追い込みの任務を自分から志願したのはティッツァーノである。
 少し危険な兆候だな、とプロシュートは考えていた。彼がスタンドの非力の分を、命を危険に晒す事で埋め合わせようと考えているなら、そんな考えは正さなければならない。卑下、自己犠牲、献身、そんなものはギャングの世界では犬のクソだ。生き残ろうという強い意志こそが、このプロシュートの相棒には相応しい。そうであるべきだ。
 
(…まあ、こいつはペッシと違って一人前のギャングだからな。差し出がましい説教は極力しないに限るぜ)
 
「で、どうする」
「知れた事。休む間などあたえませんよ」
「そうだな、今の花京院はお荷物を抱えているし、建物の中なら老化ガスも充満しやすいしな。…もっとも、それはやつも十分承知してるだろうが」
 
 いつまでもぐずぐずしていると逃げられる。二人は念のために拳銃を抜き、ここにチームの仲間たちがいれば「ギャング映画さながら」と揶揄したに違いない隙のない動きで、敵が姿を消した扉の奥へと足を踏み入れていった。

9燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 7/9:2008/02/04(月) 20:12:39 ID:YJZMhoxw
 
 5.
 
 だがそうそうオイシイ話はないと言うべきか、ご想像通りと言うべきか。
 ビル内に花京院たちの姿はなかった。しらみつぶしに調べたわけではないが、歴戦のギャングたるもの、ある程度は気配が読める。そこはすでに『がらんどう』だった。
 六階建てのこの雑居ビルには他に裏口がなく、左右と後ろの三面は、隣接するビルの壁面に阻まれ、窓を開けても逃げ場がない。屋上は設けられておらず、非常階段もなかった(違法建築? イタリア人の辞書にそんな概念はありませんよ、ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから)。
 
「こいつはあれか、俺たちが踏み込んだところを見計らって、正面の窓から逃げたっていうところかな? ハイエロファントの触手があれば、通りの向こうのビルに飛び移れるからな」
 
 一通りの探索が済んだところで、プロシュートは殺風景な階段の手すりにもたれて呟いた。そこへティッツァーノも降りてくる。
 
「…どうもそのようだ。五階の窓に埃が擦れた形跡がありましたよ」
「やっぱりか」
「おそらく花京院は、ザ・グレイトフル・デッドの射程距離外までオインゴを運び去ったんでしょう。そうすれば老化の効果は解除されるし、適度な距離をとって戦いを仕切りなおせる」
「仕切りなおし、か。そうだな。かくれんぼならやつのスタンドの優位は揺るがねえからな」
 
 プロシュートは溜息をつき、ようやっと気を抜いて、ポケットから嗅ぎ煙草入れとハンカチを出した。煙草は切れていた。普段はペッシが補充してくれるのだが。しかたがないのでハンカチだけを相方に放る。
 
「血が乾く前に拭いとけよ。きれいな顔なんだからなあ、ティッツァ」
「…………」
「…ティッツァ?」
 
 受け取ったハンカチで頬をおざなりに拭ったなり、ティッツァーノは動きを止めていた。軽口に機嫌を損ねたのだろうか。
(それともなんだ、その愛称はいつもの相方にしか呼ばせないってクチか?)
 だがプロシュートはすぐに自分の勘違いに気づいた。ティッツァーノはやや目を見開いて、プロシュートの背後の薄暗い空間を見つめているのだった。
 
「プロシュート…」 そのままの表情で彼は言った。 「ザ・グレイトフル・デッドを使っているんですか?」
「バカ言え、そんな必要がどこにある」
 
 プロシュートはぞんざいな口ぶりでそう言って振り返った。が、とたんに目をむいた。狭い空間を九十度に折れ曲がりながら螺旋状に延びる階段、その中心部の吹き抜けから、いつしか白い煙がもうもうと立ちのぼりはじめていたのだ。さながらザ・グレイトフル・デッドの老化ガスのように。
 
「こいつは……」
 プロシュートはたじろいだが、その時ティッツァーノが素早く階段を駆け降りはじめた。保養地で履くような革のサンダルがカツカツと足音を刻み、遠ざかったかと思うとすぐまた戻ってくる。
 
「火事です。地階にはもう降りられそうにない」
「あの野郎、火をつけやがったか!」
「車に残っていたガソリンを使ったんでしょう。うかつでしたよ。遠く離れて『仕切りなおし』なんていう悠長なタマじゃあなかったんだ」
 
 プロシュートは歯噛みしながら吹き抜けを見下ろした。焦げ臭く熱い煙が顔に当たる。暗闇の中で空気が陽炎のようにゆらゆら揺れて、最下部では炎の紅い舌がのたうっていた。
「しかたねえな、上に逃れるぞ」
 
(これだから「痛みを知らないゲーム世代」ってやつは怖えんだよ!)
 やらかしてきた数々の無差別テロ殺人の実績を棚に上げ、プロシュートは心中、ワイドショー受け売りの単語で毒づいた。

10燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 8/9:2008/02/04(月) 20:13:18 ID:YJZMhoxw
 
          ×         実況席         ×          
 
 
 
「車全壊、ビル炎上! 犯罪者VSゲーム脳のバトルは最初っからカッ飛ばした展開になってまいりました! 承太郎さん、いかがでしょうここまでの戦いをご覧になって」
「…………」
「…承太郎さん?」
「…別に」
「あの、花京院さんはエジプトの戦いでいっしょのお友達でしたよね? その辺でこう…何かコメントを」
「…そうだが、特にねえ」
「はあ……では次に本部モニターにて観戦中のみなさんにご感想をうかがいましょう」

「兄貴ィ、大丈夫かなあ」
「あぁぁあああぁあぁティッツァーノ! ティッツァーノォォォォォ! あのキモオタ野郎、俺のティッツァの顔にパンチ入れやがった! しかも今度は焼き殺そうとしてやがるゥゥゥゥうぅ! あとマツゲ出っ歯がさりげなくティッツァにコナかけてるゥゥゥゥ!」
「オインゴ兄ちゃんなら大丈夫……ぼくの『トト神』にはそれがわかる……」

「ありがとうございました。実況は僕、広瀬康一が担当させていただいております。では現場の方にカメラ戻しまーす」
 
 
 
          ×          ×          ×

11燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ 9/9:2008/02/04(月) 20:14:38 ID:YJZMhoxw
 
今回はここまで
ζ´・ω・`) < 次回は僕グレイトフルボッコのターン
そういやプロシュート兄貴とかの顔文字はないのかな・・・

12一巡後名無しさん:2008/02/04(月) 20:26:12 ID:3lS1JuuQ
GJGJGJッ!!
えげつなっ!花京院えげつなっ!!

13一巡後名無しさん:2008/02/04(月) 20:52:40 ID:xSnVeK.g
リプレイゴッドジョブ!
そうか、プロシュートにとっちゃ花京院はゆとり世代かwwww
続き超期待してる

14一巡後名無しさん:2008/02/04(月) 20:57:31 ID:4ct4Gtwc
ディモールトGJ!!!
燃えるわ萌えるわ小ネタに吹くわで大変だwwwww

15一巡後名無しさん:2008/02/04(月) 21:27:34 ID:ygMs1njc
花京院ひどすぎ噴いたw
そして燃えタァ!

16一巡後名無しさん:2008/02/04(月) 21:29:23 ID:khIVrwJI
うおおGJ!GJ!
花京院容赦ねぇw だがそこにシビレるあこがry
これで三分の一ってマジかwktk

17一巡後名無しさん:2008/02/04(月) 22:13:56 ID:5wwqXX3A
GJ!只管GJ!続き超期待
ゆとり京院が取るであろうえげつない戦法でも妄想して待つよ!
ティッツァ可愛いよティッツァ
オインゴ可哀想だよオインゴ
ってかスクアーロ五月蝿いww

18一巡後名無しさん:2008/02/10(日) 18:58:53 ID:jHdKwX2k
今日初めて避難所に来た者だがGJ!
文章面白すぎだろ常識的に考えて…承り沢尻化に吹いたw

19燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 1/9:2008/02/10(日) 20:16:39 ID:.0X8Hqjc
 
予想外に早く書けた!(これでも)
ので投下させていただきます。
 
前回のエラッタ
×遠距離スタンド相手にぐずぐずしると
○遠距離スタンド相手にぐずぐずしていると
 
ζ´・ω・`) < 完璧な校正なんてありませんよ、ファンタジーや(ry

20燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 2/9:2008/02/10(日) 20:17:28 ID:.0X8Hqjc
 
 6.
 
「どう見ても袋のネズミです、本当にありがとうございました」
「なんですそれは」
「メローネのやつがよく使ってる言い回しだ。いわゆるネットスラングってやつらしいな」
 
 深刻な状況においても飄々ととぼけたやりとりを交わしながら、しかし二人は確実に上階へ上階へと追い詰められていった。屋上のない、三方を隣のビル壁に囲まれたこの建物は、自分が追われる立場になってみるとほとんど棺桶のようなものだ。唯一の逃げ道は、舗道に面した正面の壁の窓からスタンドを使って飛び降りる事だろう。しかしそんな事は花京院だって承知しているに違いない。
 
「…いますね」
「…いやがるな」
 
 最上階に陣取り、換気のために壁にいくつか穴を開けた後、二人は窓から正面の街路をうかがい見た。
 案の定そこには花京院の姿があった。腕を緩く組み、背筋をしゃんと伸ばし、喜怒哀楽のはっきりしないオタク特有の無表情な顔で、二人のいるビルのてっぺんを見上げている。その背後にはハイエロファントグリーンがぴたりと寄り添い、仏像のように両手を構えている。エメラルド・スプラッシュを撃つ準備は万端。
 
 つまり蜘蛛は網を張り終わった、という按配だ。プロシュートは内心頭を抱えた。
 
「賭けてもいいがな、今飛び降りたら地面に着くまでの間に、トムとジェリーのマンガに出てくるチーズみてーに穴ボコ姿になれるぜ」
「かと言ってここにいたら、そのうち炭火で炙ったチーズみたいになる事は請け合いですよ」
「マンマミーア」
 
 プロシュートは天を仰いだが、真面目に聖母に祈ったわけではなかった。
 なるほど、あのガキはありがたくも俺たちに選択肢を与えてくれているようだ。穴あきチーズになるか、とろけるチーズになるかという選択肢を ――― このパッショーネのプロシュートとティッツァーノに!
「舐められたもんだ」
 この程度の逆境、これまで乗り越えてこなかったとでも?
 
「…プロシュート、あれを」 腹を括りなおしたプロシュートに、ティッツァーノがそっと囁いた。窓の下の花京院を指さしている。 「片手に何か持っているでしょう?」
「うん? …ああ、携帯電話だなありゃ」
「運営本部にでも電話したんでしょうか」
「そうだな、フィールド全体が類焼したらさすがに運営も困るだろうから…。それかアレだ、どこかに隠したオインゴと連絡を取ってるのかもしれねーな」
 
 言いながらプロシュートは、またティッツァーノが危険をおかすような作戦を考えついたのではないかと心配になってきた。
 ギャングたるもの、時には命を張る事もあるだろう。しかしそれには十分な勝算が必要だし、身を危険に晒すなら自分が一番最初だ。生来の親分気質から、プロシュートは常にそう考えていた。その考えを読んだかのように、ティッツァーノは笑って手を振った。彼はヘアバンドの下の血まで丁寧に拭った後、真っ赤になったハンカチを丁寧に畳んでポケットに入れた。
 
「プロシュート、大丈夫です。取るに足りないわたしの命ですが、安売りしようと思った事は一度もない。それどころかとても簡単に、あいつをここから追っ払える方法を思いついたのです」
 
 
 
 
 
 
 7.
 
 花京院は手中の携帯電話をパチンと閉じては開き、閉じては開きして、ギャング二人がこんがり燻しあがるのを待っていた。
 
「携帯電話か……。なかなかのコンパクトさと便利さだ。この花京院典明が生まれた時代には家電話しかなかった」
 どこぞの帝王のような重々しい口ぶりで、彼はそう呟いた。
(ああ懐かしいな。あの頃はアニメ雑誌に声優のメッセージを聞ける電話番号が載っていて、サルみたいに聞きまくって親に怒られたものだ…)
 
 オタク特有の感慨に浸っていると、その携帯電話が再びやかましい着メロ(※『ペガサス幻想』)を奏でながらガリガリ震えはじめる。着信を見るとオインゴだ。花京院は露骨に眉をひそめた。
 
「…もしもし、僕だ。まだ何か?」
「たッ助けてくれッ!」
 
 こいつの声って常時裏返っているんだな ――― というまるで場にそぐわぬ能天気な思考が、さっと花京院の脳裡を上滑りしていった。その後でやっと緊張感がせりあがってきた。 「…なんだと、おい何があった!?」
 
「ウガッ、うぐえッ、うううーッ……!」 通話口からは呻くような苦悶の声と、何かが暴れているみたいなドスンバタンという音が続けさまに響いた。胸中に不安の黒雲が湧きあがり、花京院はいそがしく思考を巡らせはじめた。
 
 オインゴが襲われている? そんな馬鹿な。敵二人はここで自分が釘付けにしている。後はナラの木の薪で焼いたマルガリータ・ピッツァのようにいい感じに焼けあがるのを待つだけのはずだ。そのはずなのだ。

21燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 3/9:2008/02/10(日) 20:18:29 ID:.0X8Hqjc
 
「おいしっかりしろ! 敵か!? 誰にやられてるんだ!? プロシュートたちか?」
「そうだ! いや、うぐぐッ……敵なんだ、すぐ来てくれ、ああそうだ! 助けてくれ! …ウグァーッ!」
 
 最後にひときわ搾り出すような悲痛な叫びをあげたかと思うと、そこでブツリと通話は打ち切られてしまった。
「ちょ…おい! もしもし!? オインゴ?」
 …くそ、と呟いて花京院は携帯電話をポケットにねじこんだ。しばらくのあいだ混乱が解けなかった。しかし混乱しながらも、その分析力はあくまで怜悧だった。殺されかけた時も実際に殺された時も、いつだってそうだったのだ。彼は炎上するビルを油断なく睨みすえつつ、こめかみに強く人差し指を押しつけた。
(九割九分…罠だ。おびき出しだ。やつらが何らかの手段を使って僕をここから動かそうとしているに違いない)
 
 そしてはたと手を打つ。
「…ああそうだ、見え透いてるじゃあないか。『トーキング・ヘッド』だ。やつのスタンドの射程距離なら、オインゴの居場所だって余裕だからな」
 
 大きく独り言を言って、花京院の口許に薄笑いが浮かんだ。
 トーキング・ヘッドに憑かれている者の言葉は正反対に解釈すればよい。つまりオインゴは『助け』を求めているわけでもないし、『敵』に襲われてはいないし、『すぐ来て』ほしいはずもないのだ。電話をかけたのは、舌を操作したトーキング・ヘッドの仕業だろう。やつらめ、苦し紛れに鯖な事…でも鯔な事…でもない、味な事を。
(そうさ、わかっているんだ。ここに留まって引き続きやつらが燻しあがるのを見張るのが正解であり、『賢い行い』だという事は…)
 
 わかっては、いるのだが。
 
 薄笑いがひっこみ、忌々しげな歯噛みに取って代わった。
「ハイエロファント!」
 緑のスタンドが本体の叫びに呼応してゆらゆらと宙を昇る。そして雑居ビルのまだ火に包まれていないフロアを絨毯爆撃するように、万遍なくエメラルド・スプラッシュを浴びせはじめた。
 バリバリバリ…という雷鳴のような音がとどろいた。たちまちガラスは粉々になり、建材は飛び散り、黒い煙と砂埃がもうもうと舞い上がる。安普請のビル全体が命乞いするように震え、最上階はドリフの楽屋崩壊よろしくガラガラと崩落した。そのすさまじい破壊のさまを、花京院は地獄の番鳥のごとき眼差しでじっと睨みすえていた。
 
 悲鳴のひとつでもあがりはしないかと。あのギャングども二人が、まだそこにいる証左をひとつでも見せはしないかと。
 しかし無駄だった。そんなヤワなやつらではない。そしてひょっとしたら ――― ひょっとしたらと言う他ないくらい僅かな確率だが ――― すでに何らかの手段で脱出し、オインゴに危害を加えているのかもしれなかった。この疑念は花京院の胸の中で次第に容積を増し、焦燥となって怜悧な判断をじわじわ圧迫した。
 花京院は仲間思いの少年だった。嘘ではなかった。
 
「…聞け、」
 一通り掃射した後、彼は心なしか根負けしたような声でハイエロファントを通して呟いた。
「『あの電話はワナだ』…それはわかっているんだ。だが万が一でも、オインゴのやつに危機が迫っているという可能性があるのなら、僕は助けに行かないわけにはいかないだろう…」
 
 そしてハイエロファントグリーンをするすると引っこめる。彼はワンフロア分低くなってしまったビルにくるりと背を向けると、ストリートを走りはじめた。
 
(まったく、プロの犯罪者というのは恐ろしい!)
 走りながら花京院は思った。先ほどはこちらをワナにかけ、今度はワナとわかっていながらそこに飛び込んでいかざるを得ないようしむけるとは。いやらしい心理戦には一日の長があるというわけだ。
「だがいい、この花京院典明がこれまで克服してきた恐怖の数々に比べればなんでもない事さ」
 
 ――― 最も恐ろしい事があるとすれば、それは『見捨てる』事だ。仲間を見捨てて恥じさえしなくなる事だ。
 そればかりはいかなる場合であれ正しい判断ではありえない。例え相手が、昨日今日コンビを組んだ、ポルナレフよりも役立たずなへぼスタンド使いであったとしてもだ。

22燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 4/9:2008/02/10(日) 20:19:35 ID:.0X8Hqjc
 
 8.
 
 次第に砂埃の晴れつつある雑居ビルの最上階で、大きな平行四辺形の瓦礫が下から持ち上げられて、ごろりと転がった。瓦礫の下の空間では四つの目がキョトキョトと動き、青空のまぶしさを堪能した。
 
「ほんのちょっぴり予定通りではなかったが…」 言いかけて、自分の声が埃のためにひどくしわがれているのをティッツァーノは悟った。
「我慢比べは俺たちの勝ちだ…!」
 続きはプロシュートが代わりに言った。彼らはモルタル片と石綿の剥落を頭からかぶってほとんど粉屋のようになり、白くないところは煤の黒さと血の赤さで汚れていた。フロア丸ごとひとつ下の階に転落し、崩れた壁の間仕切りが作った小さな間隙に落ちこんで、何とか重傷は負わずに済んだものの、正直なところもうダメかと思ったものだ。頭の上にガンガンと音を立ててコンクリ塊が崩落し、ザ・グレイトフル・デッドが拳を振るってこれを防ぎ続けた。本体であるプロシュートの手の甲にかかった負担は相当なものだった。
 
「プロシュート、手が…」
「構わねえよ」
 血の滴る拳をスーツの裾で拭いながら(いずれにせよこれはもう廃棄処分だ)、プロシュートは眉ひとつ動かさず言ってのけた。 「立てるか? 今度こそあのガキをケツから三秒でファックしてやるぜ」
 ティッツァーノは猫のように敏捷に跳ね起き、いやな凄味のある微笑みを浮かべた。
「そうでしょうとも」
 
 まったく、ギリギリの賭けだった。
「花京院が逃げてから火をつけに戻ってくるまでのタイムラグからいって、オインゴをザ・グレイトフル・デッドの効果範囲外まで運び出す時間の余裕はなかったはずです。つまり、このすぐ近くのビルのどれかに、老いたままのオインゴを隠している事でしょう。そいつにトーキング・ヘッドを憑かせて、電話で花京院をおびきださせれば……」
 そう提案したのはティッツァーノだ。リスクのある選択肢だった。花京院にこちらの「ビルの前から移動してほしい」という意図が筒抜けになるし、花京院が電話を無視すれば万事休すだろう。だがティッツァーノは、花京院は間違いなくオインゴを助けにいくだろう、と推測していた。
「花京院は素晴らしく頭の切れる男ですが、ひとつだけ弱点がある。意固地なまでに『仲間思い』であろうとする事です。過去に何があったかわかりませんが、きっと彼自身のコンプレックスに深く関係している事なんでしょう。仲間が危ない目にあっているかもしれないという可能性が一%でもあるのなら、彼は必ず助けにいきます。例えこのビルにいるわたしたちをみすみす逃す事になるとわかっていてもね」
 
 それはギャング一流の、すこぶる卑劣な、しかし実用的な考え方だった。
「そこにつけこむ…か、やれやれ因果な話だぜ」
 とは言ったものの、プロシュートとしても異存はなかった。他にこれといって策も思いつかなかったので、二人はトーキング・ヘッドに賭けた。果たして『山は動いた』。今や二人が燃え盛るビルから脱出するのには何の障害もない。今度はこちらから、やつの背中を匕首で刺す番だ。
 
「ザ・グレイトフル・デッドにくっついて飛び降りるぜ。しっかりつかまってろ」
「ああ」
 
 プロシュートがティッツァーノの胴をしっかりと抱えると、ザ・グレイトフル・デッドは下腹部から伸びる腸管状の触手で、二人を自分の背中に結わえつけた。力強い二本の腕が瓦礫を次々と押し退け、燃え盛るビルからの退路を切り拓く。
 
「やつが今…やっている事は確かに『賢い行い』じゃねーな」 飛び降りるまでの須臾の間、ティッツァーノは自分を抱きかかえている男が、誰に語りかけるでもなくそう呟くのを聞いた。 「だが…これがもしペッシやリゾットや、それにティッツァーノ、テメーだったら、俺だってそうしたぜ」

23燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 5/9:2008/02/10(日) 20:20:33 ID:.0X8Hqjc
 
 9.
 
 苔緑色のリノリュームの床の上で、安置された海難死体のように横になっていたオインゴは、息せき切ってかけつけてきた花京院の姿を見ると、ひどく悔やんだ、自分を責めるような顔をした。果たして彼は無事であり、老いている他は誰かに傷つけられた痕跡もなかった。
 
「…やっぱりか」 わかってはいたのだが、花京院は肩を落とした。
 オインゴは目に涙まで浮かべん様子で、口を指さし(もちろん実際は正反対の方向を指さしていた)、餅を喉につっかえさせた老人のように「ううう…」と呻いた。口を開けたいに違いないのだが、唇の方が頑として開いてくれないのだ。トーキング・ヘッドの虫けらのような力でも、今の老い果てたオインゴには抵抗し難い。おそらく口に這いずりこむのも簡単だった事だろう。
 
「…『うれしくない。これからまた、ずうっとドラえもんといっしょにくらさない』ってやつを思い出すよ。いやいいんだオインゴ、気にするな。これは僕自身の心にあと味のよくないものを残さないためにやった事なんだからな」
 
 そう言って花京院は、自分で立ち上がる力もない相棒に肩を貸した。
 やれ、そうは言うが戦況は一気に厳しくなったぞ。彼は内心ではいそがしく計算を巡らしていた。すでにトーキング・ヘッドによって突き止められた場所にノコノコ舞い戻ってきたという事は、連中に『僕らはここにいるぞ、襲ってくれ』と言っているようなものだ。ビルの入り口には不可視の糸状にしたハイエロファントの触脚を張っておいたが、早くもそれに触れる侵入者があった。感知できたのは一人、おそらくプロシュートだろう。ティッツァーノは外で待たせておいて、閉鎖空間に老化ガスを撒き散らす。単純だが最も効果のある攻撃だ。こちらは大きな荷物を抱えている。どこまで戦えるだろうか?
 
「まあいい、保険を用意してないわけじゃないさ」
 花京院は十七歳という若さにそぐわぬふてぶてしさで、そううそぶいた。裏口へ続く通路を慎重に歩む。道の前後には触脚を這わせ、警戒を怠らない。プロシュートの足取りは掴めなかった。どこで襲ってくる気だろう? 悠長に待ち構えてはいられない。老化ガスが充満してしまう。
 
(時間制限つきウィザードリィってとこかな? あ、敵もリアルタイムで動いてるからどっちかっていうとダンジョンマスターとかその辺か)
 
 大真面目ではあるのだが、発想は悲しいまでにオタクだった。足音に耳を澄ませ、触脚の送ってくる情報に精神を集中させながら、階段を降り、薄汚いカーペットの敷かれたフロアに出る。あと少しで出口だ…。
 ところが極限まで緊張を張りつめたその瞬間、予想もつかぬ、生温かいヌルリとした感触が、花京院の耳の裏から顎のラインにかけて走った。
「…ッうわあああぁッ!」
 
 全身に鳥肌が立ち、かん高い悲鳴をあげて、花京院は肩に担いだ相方を床に放り出した。彼の口から蛭のようにはみ出た、長い長い舌に嫌悪の眼差しを向けながら。
「ふッ……ざけるな!! このクソカスッ!」
「その通りだ! やりたくてやったんだ!(誤解だ! わざとじゃない!)」
「そこに直れ、舌ごとトーキング・ヘッドを吹っ飛ばしてくれる!」
「望むところだ!(勘弁してくれ!)」
 
 花京院は肩で息を切らした。ヌラヌラ濡れた頬に手を当て、自分に言い聞かせる。落ち着け、落ち着かなければ。今の悲鳴は敵にも聞こえたはずだ。
「はは、は、は……。わかっているさオインゴ、君は悪くないんだよな。あのガチホモが全部悪いんだ。見てろ、あいつには楽なリタイアはさせてやらないぞ」
 口の端を山岸由花子の眼輪筋よろしくピグピグさせながら、花京院は無理に笑いをつくった。まだ大丈夫。まだ大丈夫だ。ことさらに余裕のある仕草で、倒れたオインゴにもう一度手をさしのべる。しかしオインゴのちりめん皺だらけの顔は、さっと恐怖に彩られた。花京院の肩越しに背後を見て。
 
「かッ…花京院、右だァッ!」
 言うなりオインゴの手がブンと振られ、右を指さす。
「なッ……しまった!」
 花京院は無論、トーキング・ヘッドの性質をよく理解していたのだが、つられて思わず右方に身構えてしまった。この一瞬の隙はきわめて高くつくものだった。当然のごとく左側の壁を薄紙のように突き破って現れたザ・グレイトフル・デッドが、三本の鉤爪を持つ手で、花京院の肩から背筋にかけてを深々と抉り斬った。

24燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 6/9:2008/02/10(日) 20:21:43 ID:.0X8Hqjc
 
 10.
 
「ぐあああッ!」
 
 間欠泉のように噴き上がる血潮はスタンドバトルの華だ。――― ボロギレのように床に叩きつけられながら、まるで他人事じみた冷静さで、花京院は舞い散る血しぶきを眺めていた。
 大したダメージではない、とすでに見定めている。ポルナレフなら痛いとも言わずに跳ね起きて、再び戦いはじめる程度の傷だ。しかし打撃とともに叩きこまれた老化エネルギーは強烈だった。背筋におぞましいほどの悪寒が走り、全身からひどいだるさと虚脱感が抜けない。視界もこころなしか暗く、狭くなった。その視界の端っこで、プロシュートのイヤミなほど男前な顔が薄笑いを浮かべている。あいかわらずグロテスクなスタンドを従えて。
 花京院は口の端をゆがめ、犬歯を剥き出しにして不敵に笑い返した。
 
「形勢逆転…とでも言いたげだな」
 大きく喘ぎながら吐き捨てる。手に力が入らず、思うように上体が起こせない。
「花京院よォ…てめーなかなかカッコイイんじゃあねーかよ」
 プロシュートは大真面目な口ぶりでそう言った。馬鹿にした響きはなかった。
 
「そう思うなら、僕に対して言った暴言は取り消してくれないか?」
「そうだな。さっきお前の事『吐き気をもよおす外道』だなんて言ったが、撤回するぜ。無礼な事を言ったな。お前は仲間を捨石にしねー男だ」
「…だろう? みんななかなか信じてくれないんだ。日ごろの行いが悪いのかな」
 
 へらず口で時間を稼ぎつつ、花京院は油断ない目で相手の動きを見つめていた。埃と煤まみれでなかったらさぞかし小粋であろう、イタリアンスーツとミラノの革靴でキメた脚が、ゆっくりと間合いを縮めつつある。
「…いや、仲間を捨石にできねー男と言うべきかな?」
 その距離が、花京院の頭の中の計算で厳密に定められた一線を破った時、花京院は渾身の力で身を起こし、再び片手を突きつけた。ギャングの目を真っ向から睨みかえす、傷のある双眸。この花京院典明の闘志が、この程度の事で挫けるとでも?
 
「それ以上近づかない方がいい…。警告しておくが僕のハイエロファントは、すでに迎撃の用意を整えているぞ」
 ああなんとしわがれた、老いさらばえた声なのだろう。そして返ってきたのはハン、という嘲笑だ。
「強がるんじゃあねえぞッ小僧! ご自慢の前髪がきれェーに真っ白だぜ? スタンドを出す力も……もう残っちゃあいないだろうがッ!」
 
 プロシュートはせせら笑いながら、さっと指を突きつけ返した。と同時に、ザ・グレイトフル・デッドの巨体が猛然と距離を詰めてくる。だが計算通りだ。
 
「何ッ…!」
 老化と死をもたらす三本指の怪腕は、花京院の体に届く数十センチ手前で、縦に張り巡らされた不可視の触脚によって阻まれる。そう、スタンドは出せないわけではない。『見えなくした』だけだ、いつものように。
「まだそんなスタンドパワーがあったとはな。…だが貧弱貧弱ゥ!!」
 
 一瞬はひるんだザ・グレイトフル・デッドだが、すぐに触脚をつかんで猛然と引っぱり、密集地帯をかきわけはじめる。
(…そうそう、当然そうするだろうね?)
 だがそれも計算のうちだ。次の瞬間、プロシュートは足許をすくわれたようにつんのめり、前のめりに膝をついた。
 
「うおっと! これは……カーペットが!?」
「そうだ。その位置がよかった。すごくいい」
 
 花京院はにこりともせずに(そんな余裕はなかったので)答えた。
 ザ・グレイトフル・デッドが掴んだ触脚の先は、天井に剥きだしで設置された二本のダクトを滑車がわりに経由し、プロシュートの背後でカーペットの端に結び付けられていた。触脚が引っぱられれば、カーペットは後ろに引きずられ、その上に立っている者はバランスを崩す事になる。これぞジョセフ・ジョースター直伝ロープマジックの初歩の初歩。しかもこのロープは生きているのだ。
 
「だがこの程度、子供だましッ…!」
「誰が『この程度』で済ますと言った?」
 
 花京院はオインゴの腕を自分の肩に回し、逃げ支度を整えながら唇を歪めた。
 ザ・グレイトフル・デッドは身をよじり、別の角度から触脚をかきわけようとする。と、今度は逆の腕に引っかかった触脚が、カーペットの逆端をするすると吊り上げはじめた。退こうとすると、またその動きに連動した触脚がカーペットの別の端を引き上げる。たちまちプロシュートは四隅を吊られたカーペットにくるまれ、視界と行動を封じられてしまった。こうなると、そう簡単に抜け出せるものではない。ザ・グレイトフル・デッドはめくらめっぽう腕を振り回しているが、もとより小器用な作業にはまったく向かないスタンドだ。茶巾包み状態になった本体を救い出すには、しばらく時間がかかるだろう。

25燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 7/9:2008/02/10(日) 20:22:52 ID:.0X8Hqjc
 
「しばらくハイエロファントと遊んでいてくれ」
 花京院はくたびれ果てた老人の声でそう呻くと、相方を肩にかつぐようにしてヨタヨタと逃げ出した。膝が笑って力が入らず、全身の関節が痛む。これが社会問題にもなっている老老介護というやつだろうか。いやちょっと違うか。それにしても老化というのは恐ろしいハンディだ。六十八歳にしてあの壮健な身体能力を保っていたジョセフ・ジョースターには改めて敬服の念をいだくほかない。
 
(ジョースターさん、貴方の武勇伝をちゃんと真面目に聞いていたおかげで助かりましたよ。承太郎は「あんなのフカシだぜ」とか言って寝てましたけど!)
 
 そしてその教えに従うならば、今は『逃げるが勝ち』という事になる。裏口に続く道は封鎖されてしまったので、花京院は階上を目指していた。階段を上る足がなんとも重い。すでにビルじゅうに充満しつつある老化ガスが、弱った体からさらに若さを吸い取っていく。だがまだ歩ける。
「あの場所へ…あの場所へ行きさえすれば…」
 目的地までの最後の数メートルを、花京院はほとんどよろめき這いずるようにして歩いた。背負ったオインゴの体の、呪いの石のごとき重さよ。背後からダクトの折れるベキバキという音が聞こえてくる。敵はようやく「茶巾包み」から逃れたようだ。ハイエロファントも戻ってきた。体を支えさせ、歩行の助けとする。
 
(あと少し……僕はちゃんと理由があってこのビルをオインゴの隠し場所に選んでいたんだ。もっとも外国人のやつらには、どのビルも同じに見えるだろうがな…)
 テナントとして水産会社の入ったビル。冷凍貯蔵庫の位置は、すでに頭に叩きこんであった。強い冷気で体を冷やせば、老化は一気に解除される。そうなればこっちのものだ。
「あと…少し……」
 
 ――― だが、ついにたどりついた冷凍貯蔵庫の扉を押し開け、枯れ果てた肉体をひんやりと癒してくれるであろうその空間へと身を躍らせた時、花京院は呆然として呻かざるを得なかった。彼は生ぬるい水溜りの中に倒れこんだ。
 
「馬鹿、な……やり…やがった…!」
 
 
 
 
 
 
 11.
 
 髪の毛を梳き分けていく。絶妙な角度で額にかかるように、注意深く作業する事で冷静さを保てるように。
 ペッシには見せられない屈辱の「茶巾包み」状態を脱した後、怒りにまかせて敵を猛追しようとするプロシュートを押しとどめたのは、他ならぬ彼自身のギャングとしての「勘」だった。
 
(くせえな…やつの逃げ方には迷いがなさすぎる。逃げるというよりは、どこか確固とした目的地へ『向かっている』という感じだぜ…!)
 
 ハイエロファントにしても、触脚の大半をちぎられると、それ以上はさしたる抵抗もせず逃げ去った。足止めに全力をかけているとは到底思えない諦めのよさだ。これはまだ何かある。プロシュートはそう踏んだ。
 すなわち、花京院はまだ戦えるつもりでいるのだ。何らかの起死回生の策を用意しているのだ、それは何か?
 
 ――― 考えるまでもない。
 
「氷…冷気…。老化を解除する気だな。ハハハッ、だとしたら残念だったなァ…!」
 プロシュートの口許が獣の笑いを取り戻した。
 今度こそまったく笑いを禁じえなかった。禁じる必要もなかった。今ごろ花京院がどんなほえ面、いや絶望の表情を浮かべているか、考えるだけでも痛快だった。さんざん策を弄したこしゃくなガキに、完全なしっぺ返しを食らわしたのだ。
(…悪いな、花京院。戦いがはじまる前に小細工をしていたのはお前だけじゃあないんだぜ)
 
 ザ・グレイトフル・デッドの老化攻撃を防ぐ唯一の方法は『冷やす』事 ――― 弱点はすでに知られている。ならば、その知識を無意味にしてしまえばいい。
 
「このバトルフィールドへの送電線は、とっくにぶった斬ってあるんだぜ、花京院!」
 
 つまり、もはや通常の冷蔵庫や冷凍庫はこの街で機能し得ないのだ。老化ガスはそれ自体がムッとするような熱を持っており、スタンド能力であるからどんな保温壁にも阻害されない。今ごろは花京院のアテにしていた氷も、すっかり融けて流れてしまっているだろう。やつの計画もそこでご破算というわけだ。勝った!
「勝っ……」
 
 ズドォッ…!
 口に出してそう宣言しようとした瞬間、ビル全体を爆音と、小さな衝撃が揺るがした。
「な…なんだ。ガス爆発か!? それともあいつら、まだ動けるのか!?」
 
 プロシュートは唇を噛んだ。うろたえるな自分、イタリアンギャングはうろたえない。
 勝利の快感はまたも吹っ飛んでしまった。こちらの優位は揺るがないが、相手はあの花京院だ。最後の最後まで油断はできない。それこそ枯れ木のように干乾びて倒れている姿を見るまでは。

26燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 8/9:2008/02/10(日) 20:24:19 ID:.0X8Hqjc
 
「それなら直でもう一度叩きこんでやるまでだ!」
 
 ザ・グレイトフル・デッドを自分の正面に配置すると、プロシュートは猛然と花京院の後を追いはじめた。
 そうした点で彼は、まさしく勇猛果敢な生まれながらの戦士だった。だが一方で冷ややかな分析力も持ち合わせており、無人の廊下を走っているあいだ、その二つの顔が交互に表面化した。
 
(もしかして…一杯食わされてるのは俺の方じゃあないのか!?)
(そもそも花京院のやつがまだスタンドを操れるっていうのが『おかしい事』だったんだ。俺の老化エネルギーの配分に間違いはないはずだ。それこそも何十回、何百回となくやってきた計算だ。肌に感覚が染みついているはずなのに……。やつが『まだ動けるのは』太陽が西から昇らないのと同じようにおかしい事だったんだ…!)

 廊下に点々と滴っている、花京院の血の跡は容易に追う事ができた。二階の廊下の突き当たりへ、それは続いていた。分厚い金属扉を備えた冷凍貯蔵庫が見える。
(…ビンゴォ! だが花京院、そこはもう機能してないぜ…!)
 
 一気に畳みかけるべく、プロシュートは立ち止まらずに攻めこんだ。
 視界に入るやつは片っ端から引き裂く腹積もりで ――― しかし、彼のアテはまたも外れた。そこはすでに完全な無人であり、山ほどの魚の干物と、人間が入れそうもない小さなトロ箱がいくつか転がっているばかりの寒々しい空間だった。
「…………」
 やつらはどこへ行ったのか? その答えはあまりに明白だった。貯蔵室の最奥の壁には豪快な大穴が開いている。近づいてみると硝煙の臭いがツンとただよい、穴の向こうは外だ。
 真下の植えこみには人の飛び降りた形跡があった。おそらくはタッチの差だろう。
 
「そういえば……オインゴは爆破工作に長けたプロと聞いている、が……。だが! なぜ! やつまで動けるッ!?」
 憤懣遣る方なく、プロシュートは無人の空間に向かって吼えた。予想通り、冷気や氷は完全に失われていたというのに。自分の老化攻撃は「いつも通り」効果を発揮していたはずなのに。
(……いつも、通り?)
 
 プロシュートは血が出るほど強く下唇を噛み、心を落ち着け、それからゆっくりと腕時計に視線を落とした。
 時刻は四時半前。側面のボタンを押して、温度計を表示させる。
「…やはり、」
 彼は低く呟いた。機械の示す気温は、プロシュートの肌で感じた温度よりも五度ほど低かった。そのため老化攻撃は、思ったほどの効果をあげなかったのだ。そういえば聞いた事がある、日本はイタリアよりも湿度が高く、したがって体感温度も実際より高くなると。何の事はない、気候の違いがもたらしたイタズラだ。おそらく花京院自身も、なぜ自分が助かったか、まるでわかっていないだろう。悪運の強いやつめ。
 
「…ウミネコ」
 いつの間にか、大穴の真下にティッツァーノが来て、こちらを見上げていた。
「カモメ」
「ベネ(いいでしょう)」
「ミャアミャア」
 プロシュートはウミネコの鳴き声を真似、羽ばたくように両手をバタつかせて見せた。ティッツァーノは目を丸くして呟いた。
「珍しいですね、あなたがふざけるなんて」
「ふざけたくもなるぜティッツァ。済まねえ、でかい事言っておきながらこのザマだ。逃げられた」
 
 謝りながら大袈裟な身振りで額を覆った。 「…やつらを見たか?」
「ええ。爆音が聞こえたと思ったら、すごい勢いでオープンカーで走ってきましたよ。とんでもないフラフラ運転で、轢き殺されるかと思いました」
「車を用意してやがったか」
「今ごろはもう老化の射程距離外でしょう。追わない方が賢明ですね」
「そうだな」
 
 プロシュートはスタンドに手伝わせて、ひらりと外へ飛び降りた。まだ明るい時刻だったが、日はすでに大きく西空に傾き、雲はほんのりと赤く染まりだしている。湿度の高い国に相応しい、少しぼやけた優しい色だ。腹立たしいような、ホッとするような、なんとも複雑な気分になる。
 
「…どっかで休むか」
「そうですね」
 
 今日という日の戦いは終わった。その確信がなぜだかあった。今度という今度こそ、花京院は逃げ去ったのだ。今日中に仕掛けてくる事はもうありえない。ザ・グレイトフル・デッドの射程範囲から完全に逃れ、体を回復させて、明日の戦いに備える事だろう。おやすみおやすみ、よい夢を。プロシュートは肩の力を抜いた。明日はまた血煙の舞う戦いの逢瀬だ。
 
「おや、トーキング・ヘッドが帰ってきましたよ」 ティッツァーノが呟いて、掌上にうごめくヒルに似た肉色のスタンドを見せた。 「どうやら、連中に追い出されてしまったようですね」

27燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ2 9/9:2008/02/10(日) 20:26:34 ID:.0X8Hqjc
 
花京院「あの場所へ…あの場所へ行きさえすれば…」
プロ兄「ここは満員だ」
というコンボは自重した。実はやりたかった。反省はしていない。
 
ζ´・ω・`) < 背中痛いんだけど…
ζ´・ω・`) < 本格的な頭脳戦なんて書けませんよ。ファンタジーや(ry
 
前回はご感想どうもありがとうございました!

28一巡後名無しさん:2008/02/10(日) 22:13:50 ID:jHdKwX2k
おお、続きktkr
しょっぱなからいきなり吹いたw
普通に頭脳戦の連続で面白いんだぜ…!カーペットのくだりとか好きだ
次も楽しみにしてる。GJ!

29一巡後名無しさん:2008/02/10(日) 22:42:49 ID:NMEJimIQ
投下乙そしてGJ
仲間を見捨てられない花京院にキュンと来た
どっちが勝つのか、勝負の行方が楽しみだ

30一巡後名無しさん:2008/02/10(日) 22:59:10 ID:fMg8vGZM
GJGJ!!
やり取りが秀逸だなぁ
オタ…もとい花京院惚れ直したw

31一巡後名無しさん:2008/02/10(日) 23:07:13 ID:UlzYn04s
テラGJ!今までティッツァを好きでいた甲斐があったよ

>「…どっかで休むか」
>「そうですね」
スクアーロ「許可しない!同じ空間で一夜を明かす事は許可しないィィィ!!」

32一巡後名無しさん:2008/02/12(火) 23:04:42 ID:aSCgECmo
許可しないと言ったところで兄貴が言う事聞いてくれるとでも思ってるのかスクアーロ・・・

まあ実際アレだな、バラエティー番組の若手芸人のチャレンジ企画みたいなノリで
夜のキャンプの様子まで中継されてたらスクアーロ一睡もできないだろうなw

33一巡後名無しさん:2008/02/12(火) 23:59:47 ID:AaWtbRLo
すごい今更ながら承太郎のコメントがエ/リ/カ様だと気がついた

34一巡後名無しさん:2008/02/13(水) 00:47:56 ID:P4y9F7Ek
どっちが勝っても負けても
一番憔悴しているのはスクアーロということになりそうw

35一巡後名無しさん:2008/02/13(水) 01:14:57 ID:3lfPUHLo
>バラエティー番組の若手芸人のチャレンジ企画みたいなノリで夜のキャンプの様子まで中継されてたら

ティッツァの入浴シーン放映されてVTR担当のカリメロに飛び掛るところまで受信した
スタンドじゃ勝て・・・本体の性能的に負けるところしか浮かばない

36一巡後名無しさん:2008/02/13(水) 23:56:30 ID:o5CpgmFc
どっちのチームが勝つか予想がつかないな〜
あとかきょーんのガチホモは楽にリタイヤさせてやらない宣言が怖すぎるのは自分だけか?

37一巡後名無しさん:2008/03/06(木) 11:36:06 ID:aPeP2HRI
手加減無しの花京院もっと見たいw
承り。もう少し優しいコメントをお願いします・・・。

38一巡後名無しさん:2008/03/06(木) 21:51:47 ID:Ib/I/xIg
心からGJ!燃えと笑いのバランスが秀逸秀逸ゥw

>『うれしくない。これからまた、ずうっとドラえもんといっしょにくらさない。』
懐かしすぎてどら焼き噴いたw

しかし兄貴&ティッツァという新たな(且つ潰しの効かない)萌えに開眼してしまった訳だが…
畜生ッ!続き楽しみにしてるッ!

39一巡後名無しさん:2008/03/06(木) 22:23:54 ID:ggj/VX8k
>>38
ヘイ、ソウルシスター
この避難所では「潰しの効かない萌え」なんてないんだぜッ!

40一巡後名無しさん:2008/03/07(金) 23:08:20 ID:c6f0smJg
兄貴&ティッツァ萌えなら
ちょっと前の5部スレに来てたな。
二人とも「勝利のためならレねる」キャラなので
ガチバトルだと共倒れしそうで心配なんだが「試合」だからまあいいか・・・

41一巡後名無しさん:2008/03/19(水) 00:16:40 ID:cOAX3yls
GJ!超GJ!!
あっという間に2転3転するジョジョ特有の戦闘が面白かったんだぜ!
花京院のヲタネタとか各所に散りばめられたさりげないジョジョネタとかもすごいよかった!!
ベリッシモ読みやすかった!

42一巡後名無しさん:2008/03/19(水) 23:57:04 ID:6qRPXELo
正直、どっちが勝つと思う?

43一巡後名無しさん:2008/03/20(木) 01:43:50 ID:NSdmu6kY
予想は作者さんがやりづらくなるからやらない方がいい か も

44一巡後名無しさん:2008/03/20(木) 13:28:11 ID:NUP2xMU.
そうだな。すまん。

45燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 1/12:2008/03/30(日) 20:40:25 ID:nTYOisaI
 
ドジこいたァーッ! 「ミャアミャア」ではなく「ニャアニャア」だったッ! ウミネコはッ!

ζ´・ω・`) < やあ、こんにちは。ゆとりゆとりとみんなに大人気の花京院だよ!
ζ´・ω・`) < 1989年に17歳だからプロシュートより年上かもしれないのにね!(※2001年時生きてれば28〜29歳)
ζ´・ω・`) < まあ死んだ子の歳を数えたって仕方ないんだけどね!

すごく間が空きました。ちなみに三回で終わりませんでした。すみません。
同人的に人気のある御三方にくらべてオインゴ視点って難しいですね。

46燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 2/12:2008/03/30(日) 20:41:11 ID:nTYOisaI
 
 12.
 
 夜気の中に、パチパチと火の粉がはぜる。

 ドラム缶を切って作った即席の火桶の前で、プロシュートは立ち昇る炎の色を見つめていた。赤っぽく照らし出された顔にはまつ毛のぎざぎざした影が落ちており、表情は動きがなかった。
 無表情なのはティッツァーノの方も同様で、こちらは火から離れて立ち、携帯電話でだいぶ長い事話しこんでいる。最後に何回か「すみません、すみません」と謝ると、ようやく通話を終えた。火の側に戻ってくる時の顔つきは、依然としてすましたものだったが、目に少々げんなりした疲労の色が浮かんでいた。

「どうしたんだ、本部から何か言ってきたのか?」 プロシュートが聞けば、
「スクアーロがわめきちらして暴れたので『あて身』して亀の中に放り込んだそうです」
 ときたものだ。プロシュートはオーバーな動作で天を仰いだ。
「…そりゃまた始末に負えねーマンモーニだな、おい! オメーの相方を悪く言うようでなんだがよ」
「実際にマンモーニなんだから仕方ありませんよ」

 ティッツァーノは溜息をついた。なんならプロシュートみたいに年上の頼れる兄貴の方がよかったなあ、などと呟きながら、わざとらしい流し目をくれる。プロシュートは苦笑いを浮かべて肩をすくめた。
 今の相方に満足しているからこそ言える冗談だ。もっともイタリア男というのは、その手の冗談が時どき冗談でなくなってしまう困った人種なのだが。ティッツァーノは火の傍から、ほんのりきつね色に焦げたサーディン・サンドイッチを取って、お上品な所作で一口齧った。 「…あ、おいしい」
「だろ?」

 ささやかな仮の食卓に寛げられているのはパンと数種類の魚ばかりで、これはあのクソ忌々しい水産会社の倉庫からかっぱらってきたものだ。聖書のガリラヤ湖畔の奇跡を思わせるような質素な午餐だった。せめて白ワインがほしいところだが、贅沢は言えない。プロシュートはグラッパをスキットルに一本分持ちこんでいたが、これは明日に備えて控えめにしておいた。後々、傷の消毒や気付けに入り用になるかもしれない。
 二人は用心を重ね、缶詰や果物などある程度以上の『大きさ』を持つ食品には一切手をつけなかった。毒はともかく爆弾は怖い。陰険なオタクと破壊工作に長けたエージェントは色々な意味で危険な組み合わせである。食物に罠を仕掛けていない保証はどこにもない。

「こっちの魚もなかなかだったな。今度ペッシに釣らせるか」
「イタリアでも獲れますかね?」
「さあ? 見た事ねーしなあ…」

 いくぶん自信の無さそうな口調で、プロシュートは皿の上の魚のソテーをつっついた。脂が乗っていて、熱いうちに齧ると皮がパリパリとはじけるような美味い魚だ。ティッツァーノがトロ箱の下から伝票らしい紙切れをひっぱりだし、「SANMAというんだそうですよ」などと、どうでもいい事を言っている。秋の終わりの星空は綺麗だった。月は見えない。

「明日には決着をつけたいですね」
「おうよ、お前のスクアーロのためにもな」

 プロシュートは片目をつぶって笑ってみせた。ティッツァーノは笑い返し、猫のように唇についた脂を舐めた。
 同じ星空の下のどこかで、花京院とオインゴも短い休息をとっている事だろう。

47燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 3/12:2008/03/30(日) 20:41:53 ID:nTYOisaI
 
          ×         実況席2         ×          
 
 
 
「はい、手に汗握る緊迫したバトルが続く一日でしたね。みなさんお楽しみいただけましたでしょうか! さてスタジオには解説に暗殺チームリーダーのリゾットさんをお招きしています。こんばんは!」
「…おう」
「さっそくですが、この戦況をご覧になっていかがでしょうか」
「プロシュートたちはよく戦っているが、不利な事に変わりはないだろうな。敵のスタンド、とりわけハイエロファントグリーンの性能がやっかいすぎる。市街戦や暗殺にうってつけの能力だ。効きの遅い老化ガスや近接攻撃のみでいかに立ち向かうか、思案のしどころだろう」
「なるほど。ではプロシュートさんたちの『勝ち目』は何割くらいのお考えでしょう」
「三割だな。町の電力供給を絶った事で氷を使われる恐れはなくなったが、それはあくまでプロシュートのペースに乗せた後で抵抗されないための保険に過ぎん。今日の戦いで敵はより用心深くなったはずだ。おいそれとプロシュートの間合いには入ってこないだろう」
「厳しい見方ですね」
「そうでもない。俺たちギャングには、不利だからって『不利のままで押し切られちまう』ようなタマナシはいねえ。必ず敵のノドに食らいつく」
「なるほど。どうもありがとうございました」
 
 
「では今度は空条承太郎さんにお話をうかがってみましょう。承太郎さん、何かしゃべる事は考えてきてくれましたか?」
「…この週末に俺と花京院とでおふくろ連れて巣鴨に行ったんだが……」
「あ、そういう個人的エピソードは別に聞いてないです。野球中継の攻守交替時の雑談じゃないんですから」
「…そうか………」
「バトルについて何か一言お願いします」
「…ハイエロファントグリーンやザ・グレイトフル・デッドみたいな火力のでかいスタンドに目が行きがちだが、残る二人のスタンドも馬鹿にはできねーな。俺の経験上、くだらないと思えるスタンドほど思いもかけない奇策でこちらを驚かせてくるもんだぜ。シケたスタンドでここまで生き残ってこれたのは、それだけ知恵を働かせてきた証拠でもあるってわけだ」
「やればできるじゃないですか承太郎さん! もう一言くらいお願いできますか?」
「そうだな…花京院は性格的にもスタンドの性質的にも、本来は人のサポートに徹する戦い方が得意なやつだ。自分がメインウェポンを務めなきゃならん状況で、今後どれだけ動けるかってとこだな」
「ありがとうございました。明日も引き続き実況はこの僕、広瀬康一が担当させていただきます。今後両チームは就寝に入ると思われますが、何か動きがありましたら順次お伝えしていきたいと思います。それでは」
 
 
 
          ×          ×          ×          
 
 
 
 
 
 13.
 
 オインゴは乱暴に揺り起こされて、闇の中でしぶしぶ薄目を開けた。
 まぶたを刺すような朝の光は、ついぞ感ぜられなかった。埃っぽくどんよりとした薄暗がりの中に、知らない部屋の風景が広がっているばかりである。ここはどこだ?
 まばたきしたオインゴは、明かりの代わりに顔の真上でフワフワ揺れている茶色い動物の尻尾のようなものを見つけた。もうちょっと注視してみると、それが花京院の前髪である事がわかった。冷ややかな目をしたオタク野郎が、真上から彼の顔を覗きこんでいたのだ。オインゴは溜息をつき、昨夜までの事を思い出した。ここは弟と二人で暮らすアスワンのコンドミニアムの一室ではない。うんざりするような戦場の片隅のビルの一室、我らが『チーム』の仮の宿だ。

「目が覚めたか? 覚めてくれなきゃ困るんだ。ポルナレフのように肘鉄を入れなきゃならないから」
「何時だ? …まだ夜が明けてねえんじゃないのか。くそッ、なんでこんな時間に起こす!」

 オインゴは毒づきながら上体を起こし、枕(丸めた業務用タオル)の脇の蛍光時計に目をやった。 「…朝の四時前だと! 頭沸いてんのかオイ」
「何のために昨日十時過ぎに寝たと思っているんだ。それだけ眠れば十分だろ」 花京院は無感動に答え、ほつれた前髪をかき上げた。額の上端に穿たれた深い傷、双眸の上に刻まれた深い轍は、息のかかる近さで見ると何ともなまなましく、不気味な迫力がある。たじろいだオインゴに彼は笑いかけた。 「…朝食ができてる。さっさと食べて」
「朝食?」

 オインゴは首を傾げてあたりを見回し、薄闇の中に漂うまがいものっぽい香辛料の香りを嗅いだ。部屋の隅に設えられたアウトドア用ガス焜炉の上で、小さな手鍋が湯気を立てていた。カレーの匂いだ。

48燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 4/12:2008/03/30(日) 20:42:32 ID:nTYOisaI
 
「ボンカレーはどう作ってもうまいのだ」
 芝居がかった口調で花京院は宣言した。オインゴは肩をすくめた。
「どうせそれも漫画かなんかのセリフなんだろ?」
「よくわかったな。漫画っぽくないセリフなのに」

 昨日あれだけ『オタクの独演会』につき合わされればピンと来もするさ。オインゴは心の中だけで呟き、レトルトカレーを紙皿によそった。ちぎったバゲットを浸して食う。なるほど、そこそこ美味い。

「ああ、そうそう『隠し味』は入ってないから」
「ななな何の話だ!?」

 オインゴは食べていたものを噴き出しそうになった。よくわからないが、この男の口からそういう意味深な単語が出ると、何とも不穏な気分になる。落ち着け自分、カレーが茶色いのは元からだ。何か変な物が入っているからではない! 断じて!
(…ああボインゴ、お兄ちゃんめげそうだよ…)

「しかしなぜ明かりをつけない?」
 星明りの街を窓から見おろし、オインゴは呟いた。電気を絶たれた無人の街路には燈火の一つもなく、墨を流したような闇が宏漠と広がっている。夜空は割合に明るい濃紺で、やがて東の方角から白みはじめていくのだろう。花京院は答えた。
「ああ、こっそりと動きたいからな」
「動く? こんな時間からか?」
「こんな時間だからこそだよ。あのイタリア人たちはまだ眠っているだろうからね」
 ハイエロファントに包帯を巻き直させながら、彼は意味ありげに片目をつむってよこした。隆々たる背筋を斜めに裂いた傷は案外深く、右腕は相当動かしにくいようだ。痛くないはずがないのだが、苦痛の表情ひとつ見せずに彼は続けた。
「短期決戦で相手が眠っている時間に起きているっていうのは、それだけでアドバンテージなのさ」
「お前の言いたい事がわかってきたぞ。やつらがグースカ寝コケているうちに、あれこれ『下準備』をしておこうってわけだな」

 歴戦の破壊工作員の表情に戻ったオインゴは、我が意を得たりというようにうなずき返した。そうとわかれば話は早い。素人さんがあれこれ作戦を立てている時に、プロがポカンと口を開けてそれを眺めていてよいものか。彼はカレーの残りをガツガツと一気にかきこみ、スパイスくさい深呼吸をしてから、紙皿をフリスビーのように部屋の隅に投げ飛ばした。花京院が露骨に眉をひそめたのが見えたが、気にもならない。

「――― で、俺は何をすればいい?」
「そうだな。配線を繋いだり、車の盗難防止装置を壊したりっていう実際向きの作業は全部やってもらう事になるだろう。なんたって僕は世間知らずの学生に過ぎないからな」
「任せろ。具体的には?」
「まず必要なのはトラックの用意、保温容器を少々、あとは服屋と電気屋の襲撃だ」

 花京院はタウンマップを広げると、星空の淡い明かりをたよりに、あちこち指し示して説明をはじめた。それを聞いているうちにオインゴの目にもギラギラとした鋭い光が宿ってきた。

「なあ花京院、」 彼は悪党面に残忍な笑みを浮かべ、親指をピンと立ててみせた。 「今日の俺は足手まといのままじゃあいないぜ。まあ見てな」
「期待させてもらうよ。その発言は死亡フラグだと思うがな」

 気のない声で花京院は答える。だが目もとは穏やかに笑っており、どちらかというと楽しそうですらあった。
 ほどなく彼らは、未明の街に音もなく踏みだし、来るべき戦いに備えての爪と牙を静かに研ぎだした。

49燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 5/12:2008/03/30(日) 20:43:17 ID:nTYOisaI
 
 14.
 
 プロシュートが目を覚ました時には、すでに淡い早朝の光がさざ波のように彼の顔に降り注いでいた。
 仮宿に選んだオフィスビルの一室の、ベージュ色の安カーテンを通したぼやけた光。今は何時だ? プロシュートは普段の精悍さからは想像もつかぬ、眠たそうな眼差しでゆっくりと室内を見渡し、同時にのろのろとした手探りで、脱ぎ捨てたスーツを探した。その手先はティッツァーノの胴にぶち当たった。先に起きたらしい彼は、狭いマットレスの反対側に腰掛け、身づくろいに余念がない様子である。象牙色の髪が丁寧にくしけずられて、絹糸でできた東洋の御簾のように、プロシュートの目の前に垂れ下がっていた。

「ベッラ! …昨日の俺はどこで飲んだくれたあげく、こんな綺麗どころとベッドにしけこんだんだっけな?」
 ぴしゃっと自分の額を叩き、感嘆交じりにプロシュートは呟いた。
「あなたとどこかへしけこんだ覚えはありませんが」
 振り返りざま冷ややかな目つきで睨みはしたが、ティッツァーノも口ぶりからして悪い気はしなかったようだ。プロシュートは急いで枕もとのヘアバンドを拾い、彼に渡してやった。ヘアバンドの血痕はきれいに洗われていた。

「ここにはスチーム機も寝癖を直す電気ごてもないんですよ」 第一電気が通っていない、とティッツァーノは愚痴る。 「ギャングというのはつくづく都市文明に依存した生き物だと思います。…ああ、熱いシャワーを浴びたいな」

 プロシュートは苦笑した。実際シャワーはあるにはあるのだが、送電線を絶ってしまったおかげで冷水しか出なかったのだ。暖房も使えないので、室内はやたら肌寒い。二の腕を剥き出しにした服装のティッツァーノはなおの事だろう。

「俺は熱いコーヒーが飲みてーな。むろん、この町のジャッポーネどもがコーヒーと呼んでるヌルくて薄い液体じゃあなく、コールタールみたいに真っ黒で濃い本物のイタリアンコーヒーをだ」
「手に入らないでしょうね」
「だろうなあ」

 二人は同時に嘆息する。プロシュートは自分の髪を梳き、いつもの凝った髪型に結い上げる作業に専念しだした。その間ティッツァーノは、相棒のスーツについた埃と血をブラシで丹念に拭う。いかなる戦場においても、可能なかぎり男ぶりを良くしようと努めるのはイタリア男の心意気である。
 若干空腹だったが、プロシュートは何も口にしなかった。コーヒーがないなら朝食は要らない。ティッツァーノは昨夜の残りのパンを申し訳程度に齧り、残りはちぎって窓から小鳥に投げてやった。プロシュートはその様子を眺めながら、ペッシは今ごろどうしているだろうかと取り留めのない考えを巡らしていた。

「ぼちぼち出ましょうか。連中もそろそろ活動をはじめている事でしょうし」
「もうとっくに動き出してるかもしれねーぜ。ジャッポーネの勤勉さは馬鹿にできないからな」

 敵の目を避けるようにして、二人が注意深くビルを出たのは朝の八時半。案の定と言うべきか、外は寒かった。プロシュートは前夜に用意しておいた車をざっと調べ、妙な仕掛けがない事を確認した後でエンジンをかけた。青い排気が朝の冷たい大気の中に散っていく。唇を噛んでひとりごちた。
「…くそ、こう寒くっちゃザ・グレイトフル・デッドも効きが悪そうだぜ」
 
 
 
 
 
 14.5
 
「――― 十五番ストリートの西端に張っておいた触脚が切れた。感触からしてやつらは車に乗っているようだ」

 アーケード街のビル壁にもたれかかった姿勢で目を閉じたまま、花京院は呟いた。泰然としたその振る舞いは、かつてエジプトの戦いで彼の光を奪った相手、ンドゥールにもやや似ていた。もっともこれは独り言ではなく、携帯電話の通話相手に向けた情報伝達である。
「もう来たか。存外近くにいたもんだぜ」
 送話口の向こうからはオインゴの景気のよい声が聞こえてくる。BGMはバイクのエンジンの空ぶかしの音だ。

「準備はできているようだな、オインゴ」
「無論だ」

 花京院はわずかに目を細め、笑った。よろしい、ギャング狩りの時間だ。

50燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 6/12:2008/03/30(日) 20:44:16 ID:nTYOisaI
 
 15.
 
 プロシュートは車窓から唾を吐き捨て、どなった。
「クソッ、やっぱりさっきのはハイエロファントの触脚だったようだぜ!」
「ああそのようですね……バイクが見える。追ってきますよ」
 バックミラーを睨みながら、ティッツァーノも低く呻いた。

 個人商店が軒を並べる十五番ストリートに入った瞬間、何か軽いものを撥ねたような手ごたえが車体に伝わった。おそらくはスタンド使いにしか感知できないであろう微細な感覚。はっとした二人が背後を見れば、ちぎれた緑色の細糸が風に吹き流されてヒラヒラ舞っているのが見えた。そして ――― 案の定だ。ミラーに映ったライダーの姿は、速度を増してみるみる大きくなっていく。緑色の学ランのすそが風にはためいている。

「乗っているのは花京院です! エメラルドスプラッシュが来る!」
「いいやわからねえぜッ! 変身したオインゴかもしれねえッ!」
 ザ・グレイトフル・デッドを出現させながら、プロシュートは助手席のティッツァーノを見た。 「俺は後部座席に移る。運転、頼めるな」

 こちらも速度を全速力まで上げればおいそれとは追いつかれる事はないだろうが、意味もなく逃げるのは美意識に反する。基本的にはどこまでも好戦的なのがプロシュートの性格だ。

「背後に向けてガスを撒くぞ。余波でオメーも少々老化するかもしれねえが、アクセルだけベタ踏みしてろ。どうせここから数キロはずっと直線道路なんだ。地獄までな」
「イエッサー。聖母にお祈りでもしてましょう」
 ティッツァーノはウインクひとつして、プロシュートが退いた運転席に器用にすべりこんだ。

(マンマミーア! 頼もしいぜ、ティッツァ)
 プロシュートは心中で呟いた。後方をガッキと見据え、近づいてくる敵との距離を冷静に推し量りながら、下っ腹に力を入れてスタンドエネルギーを呼び起こす。

「フル稼働だッ! グレイトフル・デッド!」

 後部座席に陣取ったグロテスクなスタンドは、すぐさま主の命に従い、若さを奪う死の瘴気を吐き出しはじめる。逃げる車の白い尾のように一瞬たなびいた老化ガスは、じきに街路いっぱいに立ちこめ、乳白色の霧におおわれた山道のように風景を一変させた。後方百メートルほどに迫った緑のライダーも、たちまちこのガスに絡め取られ、姿は白くぼやけていく。プロシュートは肉食獣のように獰悪な笑みを浮かべた。

(カモォーン! これだけ濃いガスに晒されりゃ効きも早いぜ!)
 ましてや敵は速度を上げて、どんどんこちらに ――― ザ・グレイトフル・デッドに接近してくるのだ。老化が進んでハンドルを制御する力がなくなったところで転倒するだろう。速度はゆうに時速百キロを超えており、横転すれば脳漿と血でアスファルトを飾る事になる。…なるはずなのだが。

「……おかしい、なぜ倒れやがらねえッ!?」
 プロシュートは後部座席の背もたれを両の拳で強く叩いていた。
 白煙の空隙を裂いて、追っ手は確実に距離を詰めてくる。焦燥が胃にせり上がった。
 世の中そんなに甘くない事は暗黒のギャング稼業で重々承知していたが、この戦いは思い通りに運ばない事が多すぎる。敵のバイクの運転は、老化ガスを間近で浴びまくっているにも関わらず、何らフラついたところが見えない。八十メートル、六十メートルと肉薄され、もう敵の目鼻立ちまでがはっきりと判別できるようになっていた。端麗だが表情の掴みにくい東洋人の顔には、この距離にいたってもしわ一つ見受けられなかった。

「バカな……おかしい、ありえないぞッ!」
「落ち着いてください。花京院ならそろそろエメラルドスプラッシュを撃ってきますよ」
「わかってる!」

 アクセルを踏み、さらなる加速。風景は後ろに吹っ飛び、死の霧に包まれた光景の中で、焦りに早なる鼓動だけが奇妙にうるさくなっていく。
「寒いせいでガスが効いてないんじゃないですか?」
「ここまで効果がないってわけはないぜ。尋常じゃねえッ!」

 いっそ拳銃で撃った方が早いんじゃあないのか。プロシュートがそう思いはじめた時、バイク上の人影が変化を見せた。片手運転で器用にポケットに手を突っ込んだかと思うと、その手を大きく振りかぶったのだ。バックミラーから目を離さないまま、ティッツァーノが叫んだ。
「気をつけてッ! なにか飛んでくるッ!」

51燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 7/12:2008/03/30(日) 20:44:52 ID:nTYOisaI
 
 刹那、子供の頭大の黒い塊が風を切った。ガチャンという派手な音ともに、バックガラスが粉々に砕け散り、車内に雨あられと降り注ぐ。ザ・グレイトフル・デッドの三本爪は、この不愉快な事態をもたらした投擲物をしっかと受け止めていた。
(!!??)
 二人は凝然とその闖入者を見つめる。それはどこぞの上院議員の死骸などではなく、どちらかと言えばありふれた南国の果物だった。

「これは…」
「パイナップル…?」
 何やらひしひしと嫌な予感がする。二人は互いに顔を見合わせて呟いた。
「暗殺チームのパイナップルといえばペッシだが…」
「戦場のパイナップルといえば…!?」
「…うおおおああッ!」

 半分悲鳴に近いプロシュートの咆哮とともに、ザ・グレイトフル・デッドは手にしたパイナップルをあらん方向へブン投げた。
 まさしく間一髪のタイミング! ――― 次の瞬間には、この南国の果実を中心とした空間に小爆発が起こり、トロピカルな甘い香りと硝煙臭を伴った爆炎が一帯を吹き荒れていた。車体は左右に激しく揺さぶられ、二人は肌を灼く横殴りの熱風と、つぶてのように飛来する瓦礫の欠片に歯を食いしばって耐えた。

「やっぱり手榴弾入りかよ!」
「投げて使うんならわざわざ果物に仕込む意味はあるんでしょうか!」
「知らん!」

 もはや半分やけくそ気味に叫び交わす。とはいえ、爆発の直撃を避けられただけでもよしとしなければ。あと一瞬でもプロシュートの判断が遅かったなら、爆心地には車の残骸とギャング二人分のちょっとすごい肉片しか残らなかっただろう。

「爆弾を投げたっつーこたァ、あいつオインゴか。ナメたマネしやがってッ!」
 そもそもなんで老いねえんだ。割れた窓から顔を突き出し、焼け焦げの臭気に顔をしかめながらプロシュートは毒づいた。爆風にスタンドの霧を散らす力はなく、街路は依然、塗り込められたような白い闇の世界だ。オインゴのバイクは再び百五十メートル程度の距離まで遠ざかっていた。爆発の余波を避けるためだろう。ティッツァーノは前方から視線を逸らさないまま、窘めるようにささやいた。
「逆に考えるんですプロシュート。あれが花京院だったら今ごろわたしたち蜂の巣ですよ。そう考えるんです」
「ありがたすぎて涙が出るぜティッツァ! そういや花京院はどこにいるんだ? やつもいつどこから襲ってくるかわかったもんじゃあ……」

 『いい予感は外れるが、悪い予感はすぐに的中!』 ――― そんな格言めいた自虐がプロシュートの脳裡を去来したかどうかは不明だが、とにかくその直後に彼の言葉は現実化した。
 一、二秒のあいだ二人は、飛んできた新聞紙か何かがフロントガラスにへばりついたのかと考えていた。裏一面にスパイダーマンの映画広告が出ている新聞紙。しかしそのスパイダーマンはよく見ると毒々しい緑色で、スジがあってまるで光ったメロンのような風体をしており、己の手足でしっかと車のボンネットに取り付いていて ――― 要するに新聞の印刷などではなく、ハイエロファントグリーンそのものだった!
 
 
 
 
 
 16.
 
「ま、まずい…!」
 プロシュートは焦燥に凍りつく思いで呻いた。オインゴによる一連の襲撃は、ザ・グレイトフル・デッドを背面の守りに集中させるためのおとりだったのだ。昨日こちらが仕掛けた罠を、そっくりそのままやり返されるとは。

 ハイエロファントの仏像のように構えられた両手には、したたる新緑のエネルギーが充満し、運転席で凍りついたティッツァーノの頭部にピタリと狙いをつけている。ゼロ距離射撃だ。
(間に合わねえッ! このままではティッツァがやられる……いや、この狭い空間だ。二人まとめてコルクみてーに穴だらけだッ…!)
 ギャングどもの絶望を読み取ったのか、キチン質のマスクで覆われた無機質なスタンドの貌は、どこか冷笑したようにすら見えた。花京院の声が高らかに響きわたる。

「勝った! くらえエメラルドスプラ…」
「させるかァ―――ッ!!」

 癇に障る事はなはだしい勝利宣言を小気味よくぶった斬ったのは、予想外に野太く男らしいティッツァーノの咆哮だった。同時に彼は、思いっきりハンドルを切った。百キロオーバーの速度を全く落とす事なく。

52燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 8/12:2008/03/30(日) 20:46:04 ID:nTYOisaI
 
「うおおおおおッ!?」

 さすがのプロシュートも動転せざるを得なかった。
 当然ながら車体はとんでもない不協和音を立てつつ傾き、なかばコントロールを失ってピルエットを踊るように急旋回した。
 とはいえ、かろうじて横転はしない。ビル壁への正面衝突もなかった。ティッツァーノは単に、ちょうどそこにあった交差点を曲がったのだ。舗道に乗り上げた負担超過のタイヤから一瞬炎があがり、ゴムの焼ける悪臭が漂った。後部座席のプロシュートとザ・グレイトフル・デッドは横倒しにひっくり返り、曲がり角にかすめた助手席のドアが一枚ゴッソリと持っていかれたが ――― 被害と呼べる被害はそれだけだった。ティッツァーノはきわめて大胆不敵に、しかし沈着冷静にやってのけた。ボンネットの上に『乗っかって』いただけのハイエロファントは当然ながら車体にしがみつく事に必死になり、エメラルドスプラッシュを撃つ絶好のタイミングを逃してしまった。

「こ、このガチホモがッ…! 一度ならず二度までもッ!」 ――― 花京院の悪罵がとどろけば、
「プッツンしてるぜェーティッツァ! テメーのそのブッ飛んでる根性!」 ――― プロシュートは快哉を叫ぶ。

 何とか体勢を立て直したハイエロファントが、ティッツァーノに拳を見舞おうとした時には、すでにザ・グレイトフル・デッドが迎撃体勢を整えていた。緑のパンチは目標の顔に届く直前に、三本の鉤爪によって掴み止められる。砕けたフロントガラスが四方八方に舞い散る空間で、ハイエロファントの昆虫のような双眸と、ザ・グレイトフル・デッドの複数対の目が火花を散らしてぶつかり合う。ティッツァーノは不敵に微笑み、プロシュートは犬歯を剥き出しにした。

「単純な力較べならこっちが上だぜ?」
「…くッ」

(この機を逃さず老化エネルギーを叩き込んでやるッ!)
 鉤爪に力がこもる。しかしハイエロファントの拳は急速に弛緩したかと思うと、ゆですぎたスパゲッティーの束のようにバラバラッとほつれて、ザ・グレイトフル・デッドの手からすり抜けた。

「フフフ…危ない危ない。『直』は怖いからな」
 『紐状』のハイエロファントは本体にほとんどダメージを還元しない。プロシュートは歯噛みするしかなかった。緑のコードは風に吹き流されて新体操のリボンのようにたゆたい、車体の側面から二メートルほど離れた位置で人型をとる。祈る形に合わせられた両手の間では、再び緑の光が凝集しはじめていた。

「不意打ちで一気にカタをつけようと思っていたが……こうなったら単純なやり方でやらせてもらうよ。チート野郎のDIOには指一本で弾かれたが、生身の人間のお前らにそんな芸当ができるとは思えないしな」

 花京院の声は冷ややかにうそぶいた。
 プロシュートはガラスのない車窓から唾を吐き捨てた。オタク野郎の小生意気な笑みが眼前にありありと浮かぶようだ。ハイエロファントは宙に浮きつつ車と同じ速度で併走している。何をするつもりかは火を見るよりも明らかだった。一方的に攻撃できる安全な場所から、こちらが競り負けるまでひたすらエメラルドスプラッシュをぶっぱなすのだ。単純明快かつ合理的な戦法である。プロシュートは焦りを隠せなかった。ティッツァーノの褐色の頬にも、血に紛れてひとしずくの汗が伝うのが見える。

 突風吹き抜ける高速の車上で、再び睨みあう『法皇』と『偉大なる死』。激突は次の瞬間だった。

「…エメラルドスプラッシュ!」
「食い止めろグレイトフル・デッドォォォッ!」

 ガリガリ、バリバリと耳をつんざく機銃掃射、あるいは雷霆のごとき轟音が響きわたった。

 翠玉の散弾と拳の乱打が激突し、火花と緑光が飛び散る。唯一無事に残っていたサイドガラスは粉々に砕け散った。防ぎきれなかった数発はザ・グレイトフル・デッドを ――― つまりプロシュートを傷つけ、四方八方に跳弾したものは、座席のクッションや乗っている人間の皮膚を浅く切り裂いた。どうにか大きな被害もなく凌ぎ切った…と思う間もなく、

「ならばもう一発!」

 ほとんど『ため』の時間を置かずに二発目のエメラルドスプラッシュが来る。威力はともかく、費用対効果(コストパフォーマンス)と速射性にやたら優れているのがこの技の特徴だ。『法皇』などという慈悲深い名前を、どこの皮肉屋がつけたのだろう? ――― 今はそんな事を考えている余裕などない。
「うおおおおッ!」
 プロシュートは奥歯を噛みしめ、がむしゃらにスタンドの拳を振るった。だが先ほどのように多くは弾けなかった。血と汗が玉のように飛び散り、両手の骨が軋みをあげる。防ぎきれなかった緑の散弾はザ・グレイトフル・デッドの胴体に食い込む。きついボディーブローを喰らったような衝撃があり、プロシュートの口から血の泡がこぼれた。

53燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 9/12:2008/03/30(日) 20:47:10 ID:nTYOisaI
 
「プロシュート!」

 運転席から離れられないティッツァーノが叫ぶ。押し殺してはいるが、焦りを隠せない声だ。
 同時に彼は、再びハンドルを切っていた。今度は少し速度を落とした左折だ。先ほどまでの幹線道路とは打って変わって細い裏路地になった。車体ギリギリに両脇の側壁があり、余裕はほとんどない。位置取りに困ったのか、ハイエロファントは一時、上空に退いた。スペースができ次第すぐにまた襲ってくるだろうが、これで数十秒ほどは時間を稼げたわけだ。プロシュートは喘ぐように息を吐き、血に染まった口許に苦しい笑みを浮かべた。

「…気が利くじゃあねーか、ティッツァ」
「ほとんど意味はありませんがね」

 ティッツァーノは自嘲気味に呟き、それからバックミラー越しにプロシュートの目をじっと見た。
 言いたい事はわかる。二人まとめてかばうのは無理だ、自分の身だけ守ってほしい、と。しかしハンドルを握っている以上、それもかなわない。車は依然、高速で疾走中なのだ。運転手が倒れたら、このデコボコの車体は即座に走る棺桶に早変わりするだろう。希望は見えない。

「運転に集中してろティッツァ、それがオメーの仕事だろうがよ」
 つとめて穏やかな口調で、プロシュートは諭した。この狭い路地を抜ければ、三発目のエメラルドスプラッシュが来るだろう。背後のオインゴは今のところ何か仕掛けてくる気配はないが、やはり目は離せない。どこまで走れる? いつまで守り続けられる? ――― いずれにせよジリ貧だ。花京院のペースに乗せられっぱなしのままでは。

「…プロシュート、」
 ティッツァーノはまた彼の名を呼んだ。
「まだ何か!?」
 いささかの苛立ちを隠せない声で、プロシュートはぴしゃりと言った。生来あまり気が長い方ではない。側溝ぎりぎりに並べられた花の鉢植えをタイヤがリズミカルに撥ね飛ばす音が神経に障る。だがティッツァーノは首を振った。

「違うんです、花京院は…彼本人はどこにいるんでしょう?」
「オメー今はそれどころじゃ…」

 言いかけて、プロシュートは目を見開いた。
 花びらが何枚か、緊迫した場には不似合いにヒラヒラと舞い込んでくる。赤や黄色やピンク。

 『花京院はどこにいる?』 これは『奇妙な疑問』だった。
 ハイエロファントグリーンがいかに射程距離に優れたスタンドとはいえ、その遠隔操作には限界がある。車が最初にハイエロファントグリーンに襲われた地点から、すでに三、四キロは走っているのだ。となると花京院はその場にいつまでも留まってはいない。プロシュートたちを追って刻々と移動しているはずである。

「…そうだ、花京院は……どこに?」
 プロシュートは呟く。暗闇に一条の光が射した気がした。その時、車がついに狭い路地を出た。

 再び四車線の広いストリートだった。ティッツァーノがまたアクセルを踏んだ。ビルの谷間から降り注ぐ金色の光が目にしみ、街路樹の緑はまぶしい。だが逆光の街路にのんびりと視力を慣らしている暇などなかった。じきにハイエロファントが襲ってくるはずだ。プロシュートは眉をしかめながら忙しく左右を見渡した。

 ――― 敵の本体である花京院を叩く。それがただ一つ見つけた起死回生の一手だ。

 だが両側の舗道はもちろん、路上やビルの上にも怪しい人影は見受けられなかった。不自然なほど完璧に整備された日本の町並みは、走っても走っても果てしなく無人のまま背後に吹っ飛んでいく。プロシュートたちとオインゴのバイクを除けば。だがこの近くに、そう、とてもすぐ近くに花京院はいるはずなのだ。

「ビルの中に隠れているのかもしれません」
「それはねえ。俺たちが時速百キロで移動している以上、あいつも何か乗り物に乗っているはずだ。ビルからビルへスタンドで飛び移っていたんじゃ、俺たちに追いつけやしねえ」
「ではもしや、後ろから追ってくるあいつが本物の花京院という事は…」
「その線も薄いな。手榴弾の扱いは意外と難しいもんだぜ。バイクですっ飛ばしながら目標物に正確に投げつけるなんてマネは、よく訓練されたプロのテロリストでなきゃ無理だ」
「ではどこにいるというんです!? 近くにいる事は確かだが…!」

 ティッツァーノの声が珍しく急いた。宙を舞う緑のコードが再び車体に追いすがり、肉迫しはじめていた。雲のように一塊にわだかまったかと思うと、エメラルドグリーンに透き通った法皇が姿をあらわす。今度こそ神の恩寵なきギャングどもにトドメをさすべく、緑の破壊エネルギーを両掌に充満させて。だが。

54燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 10/12:2008/03/30(日) 20:47:51 ID:nTYOisaI
 
(――― 来るならきやがれ)
 プロシュートの心は平静だった。すでにエメラルドスプラッシュを防ごうとか避けようとか、そういった皮相的な戦局からは意識を切り離していた。花京院がお膳立てした筋書き通りに散弾と迎撃の応酬を演じ、疲れ果てて競り負けてやる趣味はない。今全ての力と意識を注ぐべきは、敵のノドを見つけ、食らいつく事。ただそれのみだ!

「プロシュート、エメラルドスプラッシュが来るッ!」
 額に汗を浮かべて、ティッツァーノははじめて振り返った。だがプロシュートは不敵な表情のまま言った。
「――― 『謎』はとけたぜティッツァ。『どこに』『どうやって』花京院が潜んでいるのかがなッ!」
「…本当に!?」
「探す発想を『4次元』的に…いや、そこまでしなくていい、ただ三次元的にすればよかったんだ。簡単な事だったぜ」

 ティッツァーノの目に、プロシュートの背後でゆらりと立ち上がったザ・グレイトフル・デッドが映る。対症療法的な防戦ではなく、敵の心臓に狙い済ました鉤爪の一撃を叩き込むために。『オレたちの』戦いのために。
「そこだッ、グレイトフル・デッドォォッ!!」

 次の瞬間、スタンドの拳は真上に向かって一直線に繰り出され、天井をボール紙のように突き破って粉砕した!

「ぐあああッ…!!!」
 果たして頭上から、低くくぐもった苦悶の叫びがあがる。花京院の声だった。

 ティッツァーノは凝然と目を見開き、プロシュートは獣じみた鋭い笑みを浮かべた。
 天井の穴からは金属片とともに血が滝のように流れ落ちはじめ、床の上でプロシュートやティッツァーノのそれと混じりあう。今しも渾身のエメラルドスプラッシュをもってギャングどもを八つ裂きにせんと迫っていたハイエロファントは、映画のコマ落としのように忽然と消え失せた。二人が背後を振り返ると、車上からはたき落とされた学ラン姿が、すごい速度で後方に吹っ飛んでいくところである。緑のコードを切れた凧の糸のようにたなびかせ、地面に叩きつけられたかどうかまではわからなかった。

 ティッツァーノは興奮と驚きの余韻をもてあましたように、しばらく黙って息を整えていた。車は徐々に速度を落としながら、幹線道路を無目的に南下していく。もはやオインゴも追ってはこないようだ。

「――― わたしたちの頭上にいたとは……盲点でした」
「きっと手榴弾の爆発で車が揺れたドサクサで飛び乗ったんだろうな。大胆なやつだぜ」
「殺りましたか」
「胸を抉ったつもりだったが、ちいっと手ごたえが悪かったな。老化エネルギーも送り込めなかった。…見ろ」

 プロシュートは後方に遠く過ぎ去りつつあるひとつのビルの屋上を指差した。そこには明確なエメラルドグリーンの光が見える。顔までは判別できないが人影もあった。

「地面に叩きつけられる寸前に触脚を伸ばしてビルに飛び移ったってとこか。くそったれ、高いビルのある場所じゃターザンみてーに飛び移れるやつに分があるに決まってる。郊外に逃げるぞ」
「戦略的撤退というやつですか」
「逃げる時ゃあ素直に逃げるって言やいいんだぜ。俺たちはギャングであってサムライじゃねーからな。さあ飛ばせ」

 プロシュートは後部座席にどっかと腰を降ろすと、兄貴風を最大風速に吹かせてえらそうに命令した。
 ティッツァーノは一瞬唇を尖らせたが、その後はもっぱら彼には珍しいにやにや笑いを浮かべ、ぐんとアクセルを踏んだ。ほとんど骨組みだけになってしまった車の中に、強烈な向かい風が吹き抜ける。だが今はこのくらいが心地よい。そういえばやつらに老化ガスが効かなかったのは気になるが、今はそんな事を考えても仕方がないだろう。まずは郊外だ。
 ティッツァーノが奇跡的に無事だったカーラジオをつけ、歌うように高らかに言った。

「プロシュート兄貴、あなたはなんて素敵な人なんだ!」

 グラッツェ。だがおい、サメ野郎が聞いてるのにいいのかよ? ――― プロシュートは内心で呟いた。

55燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 11/12:2008/03/30(日) 20:48:32 ID:nTYOisaI
 
 15.
 
「国道を…下っていくな。あの先には河川公園と住宅街があるはずだ」

 郊外に伸びる道を、次第に小さく遠ざかっていくギャングどもの車を眼で追いながら、花京院は唇を噛んだ。
 その右腕は付け根の部分から力無くダラリと垂れ下がっており、全く動かせないようだった。袖口からはどす黒い血が糸のように滴っている。口を開くたびに獣の喘ぎのような荒い息が漏れる。
(下腕のところで骨折したか……肩は脱臼だな)
 彼はそのように判断してからスタンドを呼び寄せ、数十メートル下の街路に飛び降りた。着地の瞬間、足から駆け上った衝撃が折れた骨に響き、またぞろ呻き声が漏れるほどの激痛を覚える。思わず片膝をついた。この負傷は、ザ・グレイトフル・デッドの攻撃から咄嗟に胴体をかばった結果だ。胸や腹を抉られていれば一撃で戦闘不能に追い込まれていただろうから、正しい判断だったと花京院は考えていた。だがその前が問題だった。油断しすぎていた。ギャング相手にこれは命取りだ。

「やはりプロシュートは怖いな。あの状況で怜悧な判断力を失わない。それにスタンドの純粋な破壊力もなかなかのものだ…」

(教訓として反省する事にしよう。この腕はその罰として受け入れよう)
 花京院は無傷な左手とスタンドの手を使い、胸元をくつろげる。念のために入れておいた週刊少年ジャンプは鉤爪でざっくりと抉られ、巻末の『アウターゾーン』とジャンプ放送局のページだけがかろうじて無傷で残っていた。腕で衝撃をやわらげていなければ、胸板までバターのように切り裂かれていた事だろう。

「承太郎の嘘つきめ。なにが『少年ジャンプは最強の防具だからナイフ投げられても大丈夫だぜ』だ、主人公補正のチートキャラが!」

 花京院は毒づきながら、雑誌を地面に叩きつけた。ゲーム用語をついつい現実に持ちこむのは彼の悪癖のひとつである。そこへバイクのエンジン音が聞こえ、どうやらオインゴが追いついてきたようだ。花京院は顔を上げもしなかったが、バタバタとこちらに走ってくる足音はわかった。

「おい花京院ッ、大丈夫なのか!? 花京院ンンン!」
「うるさい。ちっとも大丈夫じゃあないが……『まだ戦えるか』という意味においては『大丈夫』さ、まったくもって。だからあんまり騒がないでくれ」

 お得意のもってまわった言い方をして、花京院はよろよろと立ち上がった。オインゴは彼の無事な側の腕を掴み、脇の下から抱えあげるようにして素早く支える。花京院の片頬に苦い笑みが浮かんだ。

「…気が利かないな、こういうのは承太郎の顔でやってくれたらグラッとくるのに」
「やなこった。あの顔は俺にとってトラウマもいいとこなんだよ!」
「それがいいんじゃあないか。だが、まあいい。そのまま僕を支えておいてくれ、しっかり力を入れてな」
「おいおい、何をする気だ?」

 花京院はそれに答えず、ハイエロファントを呼び出す。そして自分の脱臼した腕を、骨接ぎ医者よろしく力押しで肩に嵌め込ませた。
 ゴリゴリ、ゴキン! という聞くだけでもゾッとするような音が花京院の体に響き、オインゴは震え上がった。花京院は小さく「う…」と呻いて背筋を震わせたきり、しばらく首を垂れてぐったりとオインゴにもたれかかっていたが、やがて顔をあげた時には、青ざめた額にねっとりと脂汗が浮いていた。
 実際、途轍もなく痛かったのだ。広い唇いっぱいに、三日月のような凄惨な笑いが宿った。

「フフ、フ…これでよし、と。うん、動く。動くぞ」
 元の形状に戻った肩をそろりそろりと回しながら、花京院は強がりを言った。 「言ったろ? 大丈夫だと。添え木になるものを探してきてくれ。折れた下腕に当てるからな。あと止血も頼むよ」
「…お、おう。任せとけ」

 オインゴはたじろぎながらも手早く手当てを行った。職業柄、そうした作業にはすこぶる慣れている。花京院の右手は肘のところから手首まで斜めに裂けていた。包帯は巻いた端から赤に染まった。
「…しかしなあ、ただの高坊にこんな根性見せられたんじゃあ、お兄ちゃんどこでイイカッコしていいかわからねーよ」
「弟さんから見れば戦っている君は十分カッコいいと思うよ」 おそろしく真心のこもっていない口ぶりで花京院は相槌を打った。 「それより、例の方はうまくいったのか?」
「ああ、バッチリさ」
 多少釈然としない面持ちながらも、オインゴは答えた。この男、割り合いお人よしである。 「お前の言うように、車のガソリンタンクに穴を開けてやったよ。小さな穴だが、すぐにガス欠で走れなくなるはずだ」
「グッド」

 花京院は短く呟き、それからもう相棒の肩は借りずに歩き出した。少し進んでから足を止め、学ランの裾に貼りついていた、赤や黄色の花びらをつまみ取った。

56燃えスレ・プロシュート&ティッツァーノVS花京院&オインゴ3 12/12:2008/03/30(日) 20:49:47 ID:nTYOisaI
 
今回はここまで。
幕間のシーンと翌日の戦闘少しでした。
文章のリズムのもたつきを直してくれるスタンド使いっていないもんかなあ。
ご感想ありがとうございました。

ζ´・ω・`) < 次回は大半が僕視点。
ζ´・ω・`) < 多分ね。

57一巡後名無しさん:2008/03/30(日) 20:52:08 ID:nTYOisaI
・・・あ、投稿直後にさっそくミス発見。
最後のチャプターは15じゃなくて17ですね。

ζ´・ω・`)カキョーン

58一巡後名無しさん:2008/03/30(日) 21:11:26 ID:I1vlIP9E
うおおおおきてるッ!ドキドキしながら読ませてもらうよ

59一巡後名無しさん:2008/03/30(日) 22:54:13 ID:S6/3DBqY
お兄ちゃんなかなかどうしてかっこよかったよ!
オタク怖いw

60一巡後名無しさん:2008/03/31(月) 01:04:23 ID:dGr4bZ56
投下乙そしてGJでしたーッ!
もう皆かっこいい!
プロティに萌えそうになりました
しかし、何をしに巣鴨に行ったんだ承太郎と花京院とホリィさんはw

61一巡後名無しさん:2008/03/31(月) 01:10:05 ID:VxwMOSsA
3話目来たぁあ乙乙!
みんながんばるなぁ…
そして花京院マジスパルタン
あとスクアーロはこのままいくと再起不能までいきそうだw

62一巡後名無しさん:2008/03/31(月) 01:39:17 ID:HVF/MOTw
乙です!
今回も熱かった…!
毎度のことですが、ちりばめられた小ネタ&翻訳モノのような言い回しも
すごく楽しいです。ボンカレー…!

大胆な戦法の花かっこええ…今後の作戦が気になるよー!
伊達男な兄貴&ティッツアが
ますますいいコンビになってきてwktk

63一巡後名無しさん:2008/03/31(月) 02:15:10 ID:3s8ADlPY
兄貴ティッツァ、どう見てもフラグが立っています本当に(ry
野太い声を出すティッツァ・・・嫌いじゃないぜ。
このパワーバランスいいね本当。続きが楽しみすぎる

64一巡後名無しさん:2008/03/31(月) 22:06:13 ID:pStYuxoE

「ボンカレーはどう作ってもうまいのだ」が
わからんかったのでググったらスープカリー噴いたw
ブラックジャックwwwテラ大塚食品の回し者www
あと康一くん個人的エピソードを遮るなよ! 聞かせろよ!

65一巡後名無しさん:2008/04/01(火) 14:10:18 ID:b0cZpeTI
乙!
どっちが勝ってもスクアーロ涙目は避けられないな
きっとティッツァは兄貴に傾いたりしないさ!
兄貴の色気と包容力と男前さを上回ればいい…ん……だ。

巣鴨エピソードをもっとkwsk

66一巡後名無しさん:2008/04/02(水) 00:29:50 ID:Y3hjEWp6
乙です!
どいつもこいつも男前で痺れるなぁ。ティッツァの野太い声とか熱すぎるw

67一巡後名無しさん:2008/04/03(木) 12:59:56 ID:XoUq9T1E
うおおおおおお!!
萌えていいんだか燃えていいんだかわかんねぇぇぇ!!
バトル熱すぎだろ!ティッツァと兄貴のコンビネーション良すぎだろ!
このままティッツァと兄貴に目覚めそうだ。
花京院が頑張りすぎて涙が出てきた。アウターゾーンとチート発言にワロタww
オインゴの人の良さになんだか和んだw

そして巣鴨エピソードkwsk

68耐用年数は1〜2年です0/3:2008/04/20(日) 03:51:35 ID:F6iSKBYM
熱い流れの中で申し訳ないのだがギャグを投下させてください。
以下3レス消費させていただきます。
…うん、眼鏡が似合うと思っただけなんだ、すまない。

69耐用年数は1〜2年です 1/3:2008/04/20(日) 03:52:20 ID:F6iSKBYM
 今日も与えられる任務は無く、相変わらずのトンチキ会話が繰り広げられるヴェネツィア郊外、暗殺チームのアジト。
 そのリビングに、チームの良識・リゾットが帰宅する。
「ただい」
 ま、と言い切る前に、ギアッチョがリゾットを怒鳴りつけた。
「ちょっと待てェーッ! 何だそりゃ俺へのイヤガラセかッ!?」
 掴み掛からんばかりのギアッチョに、リゾットが一歩退く。その格好はあのファンシー衣装ではなく、白いシャツに黒のスラックスというごく自然なものだった。
 ひとつを除いて。
「やっぱり、これは……相当変か?」
 シンプルなメタルフレームの眼鏡を指差し、リゾットが微妙な苦笑いで聞く。
「変とかそういう問題じゃねえ!キャラがカブるんだよッ!」
「コンタクトレンズは高かったんだ、買えるのは眼鏡のレンズが精一杯だ」
「眼鏡っ子のリーダーってやっぱりイイなッ、ベリッシモ!」
「お前は黙れ」
 口から大量のカミソリを吐くメローネをほったらかして、リゾットは朝の惨劇を説明し始めた。
「オレのコンタクト……騙し騙し3年半使ったコンタクトがな……」

70耐用年数は1〜2年です 2/3:2008/04/20(日) 03:52:41 ID:F6iSKBYM
 事のあらましはこのようなものだ。
 リゾットはいつものようにコンタクトレンズを入れようと、洗面台に保存液を捨てて、指にレンズを乗せていた。ところが何の拍子か、レンズは指から洗面台へダイブ。
 そこに鼻歌交じりにやってきたのがメローネだったから最悪だ。
「何やってんだいリゾット?使わないならどいてくれよ」
 そう言うなり蛇口をほぼMAXまで捻るのと、リゾットがここ数年出したことの無いような悲鳴を上げたのは、同時だった。
「え、何、どうしたのさ」
「水を止めろォーッ! レンズが流れるッ!!」
 慌てて蛇口を閉めるも時すでに遅し、どれだけ凝視してもレンズはすでに下水管の中。
 がっくりと肩を落とすリゾットに、悪びれもせずメローネはとてもいい笑顔で言った。
「コンタクトが無いならメガネをかければいいじゃない」
 お前はどこぞの王族かとツッコミを入れる余裕も、今のリゾットにはもう無かった。ただ一言、無い、そういうのが精一杯。
「無いって、眼鏡が?そんなのフレームはメタリカで作れるし、レンズだけ買えば済むよ」
 どこまでも空気を読まないメローネに、やっとリゾットがツッコミを入れる。
「そのレンズ代はどこから出るんだッ!?」
「……あれ、もしかして俺? 悪いのは、俺なの?」
 やっと少しは空気を読んだメローネだが、まだ半笑いだ。
 当然のごとくメタリカの攻撃を受けたメローネが口から吐いたのは、やはり当然のごとく眼鏡のフレームだった。

「そういう事だから、文句はメローネに言ってくれ。オレだって不本意なんだ……」
「ごめんなリゾット、次の報酬で買って返すから許してよ」
 よくその口で喋れるものだ、というくらい真っ赤に染まった唇で、メローネが言った直後。
「でもホントいい、ディ・モールト、ディ・モールト・ベネ! 一発お願いしていいかな?」
 ちょっといいことを言ったと思ったらもうこれか、とドン引きするメンバー達を尻目に、メローネはリゾットの両肩を真正面から掴んだ。
 低い、押し殺した返事が、リゾットの唇から漏れる。
「ああ、二発でも三発でもいいくらいだ」
「本当? じゃあベッドへ行こう、それとも他に希望は?」
「ここでいい」
「見られたいの? いや俺はぜんぜん構わないよ、でも皆はどうかなーってさあ」
「むしろ見せてやりたいよ」
「ええっ、リゾットって意外とイイ趣味なん」
「ここで一発くれてやる! メタリカァッ!!」
「そっちかーッ!?」
 メローネの左頬からハサミが突き出し、切れ味グンバツのそれは、メローネの左サイドの髪の毛までも切っていった。

71耐用年数は1〜2年です 3/3:2008/04/20(日) 03:53:01 ID:F6iSKBYM
 翌日、狙い済ましたかのように任務が与えられたチーム内では、この報酬はリゾットのコンタクト代にしよう派5名と眼鏡っ子リゾットいいじゃん派1名による、任務より壮絶なガチバトルが行われたという。
「……オレ、実家に帰っていいかな」
 もう帰れない故郷を思い出し、遠い目で不参加を決め込む派、1名。

72一巡後名無しさん:2008/04/20(日) 11:35:41 ID:Z176h6HU
メローネの髪型の秘密がw
メガネっ子いいよ、メガネっ子!
メロンとリゾット、良いかけあい漫才です。萌えましたw

73一巡後名無しさん:2008/04/20(日) 13:18:04 ID:xBM1IqN2
メローネwww
赤貧暗チ可愛いよ
だが自分も眼鏡っ子リゾットいいじゃん派ですがかまいませんね!

あれ、喉の奥がチクチクす(ry

74一巡後名無しさん:2008/04/21(月) 00:50:10 ID:qbvyijpk
良いじゃない!眼鏡でも良いじゃない!
寧ろチーム全員に掛けて欲しいくらいだw

75一巡後名無しさん:2008/04/21(月) 00:57:43 ID:CFI8lZ9c
ごめん…チーム全員にかけるで
別な方向へ連想がスライドした…
いやほらだってメガネときたらかけるのがデフォというか

76一巡後名無しさん:2008/04/21(月) 00:58:40 ID:UXIKeCXM
リーダーごめんなさい、「老眼にコンタクト使えたっけ」と本気で考えてしまいました

77一巡後名無しさん:2008/04/21(月) 22:44:54 ID:laEGaWiI
遠近両用のコンタクトはあるぞw

それはさておき、リゾットはマジオあたりに慰めてもらえばいいよ

78一巡後名無しさん:2008/04/22(火) 01:49:02 ID:JL0L8DSc
>>76
年寄り扱いすんなw

79一巡後名無しさん:2008/04/22(火) 22:50:06 ID:tamftyqU
>>47
よく読みなおしてみたらリーダーも大真面目にコメントしてんのなw
巣鴨のインパクトが強くて見逃してた私は
暗チファンとして軸がぶれている・・・

80終焉と帰趨 1/4:2008/04/23(水) 21:02:38 ID:y4TtVDe6
 
原作ではなくカプコン3部ゲーの無印花京院ENDに依拠した内容
ほんのり承花?でヤマなしオチなし意味なしです
ゲームネタバレ、死にネタ注意

81終焉と帰趨 2/4:2008/04/23(水) 21:05:15 ID:y4TtVDe6
 
 ――― さらばエジプト、さらば世界。

 飛行機が静かにカイロの冬空に飛びたち、成層圏に達してシートベルト装着義務のランプが消灯されたころから、側頭部の痛みは激しくなり、やがて麻痺したような白い虚脱感に取って代わられていった。頭蓋にかちかちの粘土を詰められたみたいな倦怠。空港でポルナレフに別れの手を振ったあたりまでは、別段なんともなかったのに。

 背筋に寒気が広がっていく。生命が抜け落ちていくような冷たさ。悪い予感というのは当たるものだ。旅の始まりから抱いていた死のヴィジョンが、ついにその青ざめ骨ばった手で僕を捕えた。残念な事に、僕は日本に着くまで生きていられそうもない。あの死闘の中でDIOに浴びせられた何発かの痛打、そのうちどれかが、後になってじわじわ効いてくるような致命傷だったのだ。毛布を被っていても、手足の先は凍ったように冷たく、石みたいに重い。息も苦しくなってきた。

( ――― これが結末か)

 運命の星に導かれた、長いようで短かったこの旅の。

 悲しみはなかった。十七年は短い生涯の部類だが、僕はなすべき使命を立派に果たしたのだから。
 我ながら達観した事だとうそぶいて、隣のシートの承太郎を横目で見る。悟られないようにしなくては、とこんな時までお利口さんな僕は考えていた。死にかけているのを知られたら、承太郎はコックピットを乗っ取ってでも機を引き返させようとするだろう。仲間のためならそのくらいの事はやりかねない男だ。しかしそうしたところで、どのみち僕はもう助からないのだ。ジョースターさん風に言うとコーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実なのだ。僕自身のからだだ、それはよくわかる。もう頭の上で、死の影が輪を描いて飛んでいる ――― それならば僕は、日本に少しでも近い座標でこの命を終えたい。

(ふふふ……さすがの君にビビるだろうな。映画みたいだよ。日本に着いてみたら隣の男が冷たくなってました、なんて)

 そんな事を考えて苦い笑みを浮かべていたら、承太郎は怪訝そうな表情でこっちを見た。何か不審に思ったのだろうか。あいかわらず鋭い男だ。だが自分を押し隠すという技術にかけては、スタンドともども僕に一日の長がある。最後の最後まで、華麗に君を欺ききってあげようじゃないか。

「そういえば…」
「うん?」
「てめーまた窓側の席を取りやがったな」

 心地よい響きのバリトンで、何を言い出すかと思えば実に下らない。僕は噴き出しそうになった。そうか、窓側の席っていうのは君にとってわりと価値のあるものだったのか。そうだね景色が見られるものね。退屈しないよね。意外と子供っぽいところがあるのは知っていた。帰ったら君のそんなところ、可愛いところもたくさん見つけてやろうと思っていた。もう叶いそうにないけれど ―――

「外が見たかった? 悪いけどもう足もとに手荷物置いちゃったんだ、また今度って事で諦めてくれ」

 本当はもう立ちあがる力もない。

「別にそこまでこだわってるわけじゃあねえ」

 若干バツの悪そうな表情で、この図体のでかい不良は言うのだ。彼が顔をそっぽ向けると(照れ隠しだね、この旅の間にわかるようになった)、学ランの襟飾りの金鎖がジャラリと鳴る。ああ、この音も好きだった。無骨なのにどこか涼やかな音。でももっと好きなのは凛々しい君の顔だから、もう少しの間だけこっちを向いていてほしいものだ、承太郎。できればいつまでもそんなふうに凛とあってくれと願う。前のシートではジョースターさんがウォークマンを聞いているようだ。小刻みにリズムを取って揺れる肩。この飛行機また墜ちたりしないだろうね?

「君も何か聞いたら? ラジオあるだろ」
「さっき試したが、すさまじく古い曲しかやってやがらねーぜ」
「今流れてるのは何?」
「こいつは……『Green,Green grass of Home』かな」

 僕は一瞬たじろぎ、それから鼻白む。今の僕にはタイムリーすぎる。魂(あるいは生命の抜けた亡骸)になって故郷に帰る僕には。
 そういえば親不孝だとか、自分の死を聞いた両親の嘆きぶりだとかは、とうに考え尽くし、シミュレートし尽くした。しかし承太郎はどうなのだろう。日本に帰ってから、彼の生活は、人生はどんなふうに続いていくものだろうか。それはもう僕には見る事がかなわないものだし、正直想像もつかない。

「ねえ承太郎、」
「なんだ」
「…君、日本に帰って一段落したらどうするの?」

 だから、すこし直截に訊いてみる。しかし彼はそれには答えず、ぶしつけにも質問に質問で返してきた。

82終焉と帰趨 3/4:2008/04/23(水) 21:06:09 ID:y4TtVDe6
 
「…花京院、てめー転校してきたと言ってたが、家も近くに越したのか?」
「ん? ああ、そうだけど…正直肉の芽のせいで、細かい事はぼんやりしているんだ。よく覚えていないな」
「すると、うちの近所についてはあまりわかっちゃいねーわけだ」

 そうなるね、と僕は少々うわのそらで返事をした。発言の意図が見えない。頭蓋の中に淀んだ血が満ちはじめたようで、意識がどうにもフワフワと遠くなる。眠るように死ねれば上出来だ。最愛の友の声を、末期の寝物語の代わりに。

「――― 学校の裏手の浜な、ちょっといったらすぐ国定公園になってる」
「へえ、じゃあさだめし景色がきれいなんだろうな」
「まあな。海岸まで松林が延びてる、砂が白くて水もきれいだ。海水浴シーズン以外には観光客も来ない。授業フケてごろごろするには絶好のポイントって按配だ」
「…不良の言う事は違うなあ」

 いつもの十倍くらいの饒舌さで、今更何を喋りだしたものやら。そもそも君、出席日数ヤバいんじゃあないのかい。ぎゅっと寄せられた眉根や泳ぐ視線は、彼がかなり頭を使ってものを言っているという証左だ。こんな他愛もない話題に? なぜ僕にそんな事を語る? おや?
 僕はもう一度、死力を尽くして首をもたげ、彼にいたずらっぽく笑いかけた。

「…あれ、その文脈はだね、帰ってまっさきに、僕をそこにご案内してくれるって事でいいのかな?」
「日がなヒトデを引っくり返したりヤドカリやカモメを観察したりしてると、わりあい退屈しねえ」
「僕もそれにつき合わされるのかい」
「てめーは自分のしたい話だけしてろ」

 あの俺にはよくわからねーPCのパーツだとかアマチュア無線とかの話をよ。そう言って承太郎は、学帽のふちをぐい、と押し下げた。これも照れ隠しだ。僕は知っている。一月の闇夜を往く飛行機の静寂の中で、僕は強く眼を見開いた。

「おい、どうした。機嫌でも悪くしたか」
「違う。違うよ…」

 いま眼を閉じたら、堪えきれずに涙が溢れてしまうだろう。凍土のように乾き冷えきりつつあるからだの中で、目頭と胸だけがしっとりと温かく、最後まで命を保っていた。
 うそだろ承太郎? 想定外だ。何という幸福な悲しみ。君は日本に帰ってからの計画に、わざわざ僕なんかを組み込んでくれていたというのか。君にとってそれくらいの存在に、僕はなれたのか。もうじき僕は君の前から永遠に去ってしまうというのに。そんな計画は金輪際ご破算で、叶いっこないと僕にはわかっているのに。

「…たぶん……君が傍にいるなら…何だって面白いよ。海…約束だよ」
「…おう」

 極度の疲労に似た、心地よい絶望の中で僕は力無く呟いた。守られる事のない約束だ。承太郎を悲しませるのだろうか。落胆させるだろうか、もしかして五年、十年と残る傷をつけてしまうのだろうか。二十年後まで引きずるだろうか。
 だとしたらそれだけが心残りだ。首がガクリと垂れると、もう持ち上げる力は残っていなかった。

「お前本当に大丈夫か。眠いなら寝とけよ」
「うん、大丈夫。大丈夫…すこし眠るから、気にしないで」

 僕は最後の網膜に彼の顔を焼きつけるべく、心配げに覗きこんでくる承太郎の顔を、すくいあげるように見つめた。これが最後に見るものなら、短いけれどきっと恵まれた部類の人生だ。彼の手が伸びて、僕のトレードマークの前髪に触れる。羽根で撫ぜるように軽く、優しく梳く手を僕は感じた。

 その手が離れた直後、脳の中で何かがドッとあふれ、急速に僕の思考領域と記憶と神経を押し流していった。
 ザーッという耳鳴りがはじまり、やがてそれも消失し、視界が真っ暗になっていく。まぶたが落ちる。これが死か。思ったほどの苦しみはない、胸の中心に、錐で突いたみたいな一点の穴が開いて、そこから涼やかに風が吹き通っていくようだ。五感は吹き流されるように飛散していく。

 不意に僕は、その風に乗っていこうと思った。霊魂の速さは時と空間を越えるという。日本までなど一ッ飛びだ。肉体の桎梏を離れ、エメラルド色に透き通ったハイエロファントと今こそ渾然一体に溶け合いながら、軽やかに、風のようにあの国へ、さわさわと鳴る松林と海の遠鳴りのある場所へ。僕にはそこを見る事はかなわなかったけれど、今は手に取るようにわかる、見えるよ。夜には星が見えるだろう。

 そうだ、君の帰る風景の中に僕はいる。
 もう触れる事はできないけれど、確かに、静かに君を待っている。君が好きだった。いっしょに潮騒を聞こう。ヒトデも見よう。そして夜には星を。君の悲しみが小さくて済みますように。

(…一足先に、帰るよ)
 
 
 
 
 
                                FIN.

83終焉と帰趨 4/4:2008/04/23(水) 21:06:51 ID:y4TtVDe6
 
ここまで。
海岸がどうとか適当ぶっこいたけど
3部で承太郎が住んでる町って場所が確定してないんですよね・・・
 
【参考】
Green,Green grass Of Home(想い出のグリーン・グラス)
ttp://d.hatena.ne.jp/komasafarina/20050125

84一巡後名無しさん:2008/04/23(水) 21:45:40 ID:31WWvhpg
すごい話に感動したのにgreen green grass of homeの曲は亜麻銀しか思い浮かばないこの脳が恨めしい

三部ゲーのジョースター一向の中で唯一エンディングが死にエンドでこれなんて差別?って思ってたが
こういう補完があると嬉しい。GJ!

85一巡後名無しさん:2008/04/23(水) 23:11:52 ID:E5CgUoM6
うぉぉ切ねぇ…泣きそう…
20年後、との表現がまたグッときた。
だって承太郎の20年後ってつまり6部の…orz
承太郎と花京院大好きだから嬉しかった。ありがとう!

86一巡後名無しさん:2008/04/23(水) 23:27:02 ID:5Aaver8s
電車の中で半泣き
家に着いたら思う存分メソメソするわ…
グッジョブでした…!



とりあえず海辺の学校ってことで、
弁当狙って滑空してくるトンビに
スタプラで対抗する太郎を妄想して
気を紛らわすことにします。

87一巡後名無しさん:2008/04/24(木) 23:34:11 ID:now60M1A
そのカプコン3部ゲーというのを持ってない私に
どうかkwsk・・・

88一巡後名無しさん:2008/04/25(金) 23:26:09 ID:OW4XIM9E
カプコン3部ゲーの事なら
私は詳しく知らないけど・・・
花京院だけバッドエンドとかそんなんだっけ

89一巡後名無しさん:2008/04/26(土) 00:10:37 ID:vJQ3pctM
フルで勝利してもζ´・ω・`)だけバッドエンドになるって話はどっかで読んだ。
本スレの過去ログだったかもしれん。

90一巡後名無しさん:2008/04/26(土) 23:59:46 ID:nHaaZkAM
全俺が泣いた……GJ!
ξ´・ω・`)のエンディングは某25にエンディング一覧動画がうpされているが張っていいものかわからないな。

91一巡後名無しさん:2008/04/27(日) 00:18:10 ID:YP1aku/.
25アカウント持ってりゃ自力でたぐれるだろう
手詰まりになった人からリクエストがあったら
推奨検索ワードだけ貼るというのも手

92チョコヴァニVSメロ形と聞いて:2008/07/01(火) 03:06:41 ID:Fatj3Pzo
不覚にもwktkが止まりません。

***
壁に凭れる俺を、猫背の男は品定めでもする様に隅々視線で嘗め回し、
不揃いな前髪で隠れそうな目の片方は最後にジッと俺の瞳にあわさる。
「何を・・・・言ったんだ?悪いな、いつもどっかがオカシイって言われるんだ。
頭とか、何でも・・・・耳だって自信は無いんだよなァァ〜〜、なんだって?
『もう一回言ってくれ。』流石に二度は聞き間違えない」
唇だけがニタリと釣り上がる作り物の表情が、俺の癇に障る。

「生け捕りだ。」
「アハッ」

男は『スタンド』であるノートPCのような物体を胸に抱え、ケタケタと笑いの発作を起こした。
「オカシイのは・・・アハハ、俺だけじゃあないなッ
あんたもか!マトモな顔して、正気じゃあねェーぜ・・・・みーんな頭が狂ってる」
「大真面目だ、黴の野郎は兎も角。あの長髪の男は『俺の探していたスタンド使い』だ。
そうかも知れないってだけだが・・・・億泰に・・・・弟に出来なかったことが出来るかも知れない」
歪んだ笑い顔の瞳は冷え切り、奴のスタンドは生き物とも機械ともつかない不気味な唸り声を上げる。
乱れた息を整えながら金属質の物体を「おおよしよし」と撫でて見せ、
一しきり『赤ん坊』をあやし終わると、さて次はお前だとばかりに俺に向き直る。
「ウフ、ウフフ、ジャッポーネの高校生ちゃん!小鳩ちゃん!
真面目だねェ、そうともこのバトルは生け捕りさ・・・殺しは無しだよ。
だがよォ・・・・無しって思う?んん?ルールとかは、別にしてね・・・・」
三つ四つの子供に話すように、優しく順を追って。

93チョコヴァニVSメロ形と聞いて:2008/07/01(火) 03:07:38 ID:Fatj3Pzo
「俺のスタンドは、殺しゃしないが・・・・似たようなもんさ、考えるのも動くのも出来なくなって
俺がやめた!と思うまでそのまま・・・・そんで俺は忘れっぽい。スッゴクね。
相手は?黴でグズグズにしちまうのと、食ったもんを消し去るスタンド?へえ?
死人を!『出さねえ方法はッ!』あるかなあァァ〜〜〜〜?思いつかないなァ?俺は」
「俺のスタンドはそもそも殺しには時間が掛かるんだ。手加減だって出来る」
「・・・・・・・・・・・・・・」
前髪の生え際まで視線で舐めとられて居るような気分だ。
判っている、この中で俺のスタンドは一番脆弱なスタンド。
無論やりようなら幾らでもあり、負ける気だって微塵も無いが、手加減する余裕なんか正直無い。
するんなら協力が必要だ。だが、目の前の男はそんなお人好しには―――

「・・・・気に入った!いや、凄く気に入ったよ」
「!」
「あんたが死ぬまで、付き合ってやんのも悪くない・・・・!ディモールト面白そうだ!
そんなことで何処までやれるか、見せてくれよォ・・・・フフ・・・・」

奴の後ろから、ずるりと。胎児のような塊が這い出して俺に手を振った。
奴そのものに温度の無い、しかし笑ったような目で俺を見る。
「俺と、俺の息子にさ。そんであんたの息子だ・・・・
あんたについてって、あんたを守るベリッシモいい子だぜ。
それでもし、あんたが『生け捕りなんか出来なくて』、死んじまいそーな事があったらさ」

お人好しじゃあなかった、『気違い』だ。

「俺のスタンドがあんたを始末する!どう?死ねない、死にたいとも思えないようになるんだぜッ
あんたの親父みたいになるんだぜェェ〜〜〜頑張れよッ!!俺はここで見てるからなァァァ?」

『気違い』で・・・・助かったッ!

「ケ、イ、チョウ・・・・ケイチョウ。ヒヒ。『生ケ捕リ』・・・・手伝ウゼ・・・・」
「そうだァベイビー!手伝うぜ!アハハハハハハ!」

***

試合全部書くような文章力ないから、書きたい所だけつまんで今後も投下する か も

94一巡後名無しさん:2008/07/01(火) 12:58:13 ID:Z0X6CmQQ
>>92
ディモールトベネです!!
まさかこの組み合わせにときめくとはww
是非続きを……!!

95東方さんと汐華さん 1/4:2008/07/02(水) 18:02:16 ID:vhc7ufIE
燃えスレと妄想スレを見ていたらつい書いてしまった。今は反省している。


-------------


幾つもの薬品が立ち並ぶ真っ白な部屋。
此処は試合を終えた選手達が足を運ぶ医務室である。
が、用意された医薬品がその役目を果たす事は殆んど――いや全く無かった。
その代わりにと響く無数の打撃音。そして、咆哮。

「ドララララララララララララララァッ!!」

しかし幾度となく打たれた体に傷はない。寧ろみるみるうちに癒え、傷はたちどころに塞がっていく。
やがて全てが元通りになったとき、咆哮の主――仗助はニィと笑みを見せた。

「よしっ、お前の怪我はクレイジー・ダイヤモンドが問題なく直したぜ」

彼のスタンドはどんな薬よりも確実に傷を癒す、この世の何より優しい能力。
クレイジー・ダイヤモンドがある限り、あらゆる薬は意味を為さない。それよりも決定的に傷を直してしまうからだ。
もっと、内科的な病や既に失われてしまったものを直すことは出来ないのだが。



「ふー……一息ついたな」

暫くすれば人も引き、大きく伸びをしながら壁に貼り付けたスケジュール表で次の試合を確認する。
どうやら次はポルナレフ&ペッシ VS 噴上&セッコ――噴上の試合だ。
これは応援に行かねばならない。ニィと口角を上げ、いそいそと支度を始める。

友や家族の試合を見守り、時たま自分もリングに立ちながら、合間には傷を負った仲間たちを癒す。
何と充実した日々だろう。仗助は今、こうして自分に与えられた役目を楽しんでいた。
それに、戦いに明け暮れるよりずっと有意義なスタンドの使い方だ。
少なくとも、仗助はそう考えていた。

「……こんな仕事、無駄過ぎる」

――医務室に居る、もう一人の少年とは裏腹に。


もう一人の少年。名をジョルノ・ジョバァーナと言う。
承太郎が言うには、彼もまた自分と同じジョースターの血を引くものらしい。康一もそう言っていた気がする。
ともあれ彼は何かをぶつぶつと呟きながら、己のスタンドを発現させていた。

96東方さんと汐華さん 2/4:2008/07/02(水) 18:04:28 ID:vhc7ufIE
「どうして僕がこんな作業をしなくちゃ行けないんですか……いえ、ブチャラティ達の治療は構いません。
 百歩譲って康一くんや同じジョースターの人間、その仲間も直すことも享受しましょう。
 でも……何故父親気取りのハイな男やかつて倒した敵まで直さなくちゃいけないんだ」

余程その事が気に食わないのだろう。
呟きと共に生み出されたツタは部屋を埋め尽くし、医務室は今やジャングル一歩手前となっていた。

「おいジョルノっ、早くこれ戻せ! お前の言い分も解らなくはねーけど」
「……」

しゅるしゅると形を変えていく植物を見て、仗助はふうと息をつく。
あいつは生意気だし腹が立つ相手だが、ああ見えて物分かりのいい奴なんだ。そう言い聞かせながら。
だが、次に続いた言葉に息を呑む。

「先程の試合で無残に負けた2人組を覚えていますよね。
 1人はかつて僕が制裁した男でしたが、もう1人……吉良とかいう男は貴方の友達を殺害したそうじゃないですか。
 友達の仇を癒す事を貴方は不快に思わなかったんですか? 少なくとも僕は嫌でしたが」

氷のように凍てついた2つの目が仗助を射抜く。嘘は許さないと瞳の奥で暗く輝く光。
見つめ返し、若干の空白のあとで、仗助はゆっくりと口を開いた。

「ここ、遊園地も併設されてるだろ」
「……意味が解りません」
「まぁまぁ、とにかく聞いてろって! でよー、億泰と康一と遊びに行った時にさ、あいつが居たんだ。吉良吉影が」

すぅ、と息を吸い込み。

「……奥さんと子供と3人で、仲良く」


ジョルノの小綺麗な顔が若干の歪みを見せた。
眉をしかめ、相変わらずの冷たい眼差しで此方を睨み付けながら、不思議そうに首を傾げる少年。
仗助は言葉を慎重に選びながら続けた。

「ああ、うちのジジィが倒したらしい究極生物とかお前の親父とかと仲良くやってるのも見たぜ。
 その時に思っちまったんだよ。ここならアイツも幸せになれるかも、オレもアイツと仲良くなれるかもって。
 まぁ、酷い目に合わされた相手だし鈴美さんや重ちー、彩さんの仇だからな。そりゃ憎くもあるけど……
 オレ、バカだからよ。アイツを直すことより、目の前で誰かが死ぬのを見る方が嫌みてーだ」

97東方さんと汐華さん 3/4:2008/07/02(水) 18:05:24 ID:vhc7ufIE
暫しの沈黙の後、聞こえてきたのは溜め息だった。

「……ええ、貴方はバカです」

ジョルノはふるふると首を振る。

「僕からしてみれば、あいつらは絶対な悪です。許してはいけない悪だ。
 あんな奴らには幸せになる権利などありませんよ。それなのに貴方はそんな生ぬるい事を言う。
 僕には到底理解出来ません。出来ませんが……『尊敬』します」

そう言った彼は、微笑みを浮かべていた。


「そのスタンド、貴方にお似合いですよ。色々な意味でね」
「どういう意味だこのヤローッ」
「ちょ、何するんですか! 頭を撫でないで下さい、僕のこれは貴方の妙な髪型と違って繊細なんだ!」
「……あ? てめー今なんつった?」
「妙な髪型と言ったんです。お望みでしたら何度でも言ってあげましょう、終わりなくッ!」





「兄貴ィ、勝てなくってごめんよ〜」

所変わって、会場廊下。
先程の試合でやられたのか、ペッシは足を引きずっていた。
プロシュートは自らの肩を貸すと、情けない声を上げる弟分の額をとんとこついた。

「馬鹿野郎、オレに謝ってどうする」
「そ、そうだね……後でまたポル兄ちゃんとこ行ってくるよ」
「ポル、兄ちゃん?」

随分仲良くなったみたいじゃねえか。沸々と込み上げてくる怒りを飲み込みながら、足を早める。
待ってくれよという弟分の喘ぎを耳の端に留めながら、プロシュートは医務室の扉を開け――

「ドラララララララララララララララァッ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!」

――何事もなかったかのように、その扉を閉めた。



「さっきボスと戦った女2人を探すぞペッシ」
「あ、兄貴……いいのかなほっといて」
「空条承太郎か岸辺露伴でも居ねーと止めれねーだろーが」


その後無事に止められた二人が、ジョナサン監督のもと廊下に正座させられるのはまた別の話である。

98東方さんと汐華さん 4/4:2008/07/02(水) 18:07:23 ID:vhc7ufIE
以上です。一部の試合結果捏造しててごめん。
お目汚し失礼しました。

99一巡後名無しさん:2008/07/02(水) 18:12:37 ID:lf3HbYe6
GJと言わざるを得ない

100一巡後名無しさん:2008/07/02(水) 20:51:37 ID:XrxEaesU
これは萌えた半端なく萌えた!
ドララも無駄無駄もいい子すぎて可愛いよ
燃えスレは応援席や裏方の妄想がたえない


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